小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第139話 『Successful or failed all treasure/初めまして、ほたると申します』
ラン・ミキ・スゥ『しゅごしゅごー♪』
ラン「ドキッとスタートドキたまタイムー♪ さて、今回は」
ミキ「りっかのたまごに×が付いちゃったっ! これどうするのー!?」
スゥ「こんな時こそ、やっぱりあむちゃんの出番ですぅ」
(立ち上がる画面に映るのは――お日様は温かい)
ラン「ドキたま/じゃんぷもついに最終クールに突入っ! さー、ここから……どうなるの?」
ミキ「光編レベルでイベント盛りだくさんな最終クール、みんな期待しててね。それじゃあせーの」
ラン・ミキ・スゥ『じゃんぷっ!』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
前回、柊りっかが方向オンチになった。もしくは人生の迷い子になってしまった。ある意味×たま・なぞたま化だよ。
ただそんな現状を放置するわけにもいかないので、僕達ガーディアンは緊急会議を開く事になった。
「――それでは今から、柊りっかの方向オンチを直すための会議を始めたいと思います」
りっかは今日、ロイヤルガーデンの方にも顔を出していない。それが無性に気になったので、2年の子に聞き込みをした。
するとりっかは昨日……まぁその、あの努力の方向オンチをダメ出しされたせいで相当ヘコんでいるという証言を聞けた。
しかも今日も学校には来ていたものの、いつもと違って暗く沈んだ様子だったとか。だからダメ出しした子達もかなり気にしてる。
りっかが本気で考えてあれなのは付き合いの浅い僕達でもまぁまぁ分かるところ。
ヘコんでいるのもそのせいだと思うので、まずは会議で簡単にフォローの方針を決めようというわけである。
「まぁ方向オンチもなにももうないけど。ここをあむが対応するのは決まってるんだから」
「そうだね、僕も恭文君に賛成。その方がこじれないと思うし」
「え、あたしっ!?」
「なに驚いてるのよ。元々りっかがあんな事やっちゃったのは、あむの外キャラに騙されて」
「それは言わないでー! あたし周囲から見てあんなバカだったのかってヘコんでるんだからっ!」
あむ、大丈夫。あそこまでひどくはないから。あむはツンデレで充分通るレベルだから。
「そこはややも意義なーし。でもでも、どうするのー?」
「とりあえず柊さんから見たあむちゃんがこう……完璧超人かなにかに見えてるのは分かったけど」
「うーん、ここはやっぱりどうしてりっかちゃんがあむさんになりたいって思ったのか聞いた方が早くないですか?」
≪そこを抜いた上であれこれ言ってもあの人思い込み激しいですからまた暴走しそうですし、それでいきましょうか≫
というわけなので……やっぱり全員の視線があむの方に向くわけですよ。あむ、頬を引きつらせないで。
「あむ、言いたい事はすっごく分かる。でもね、なぎひこが言ったみたいにおのれが出た方が一番早いから。というわけで、頑張ろうか」
「で、でも頑張るってなにやるの?」
「とりあえずりっかと話してみるとこからだよ。僕達もサポートはするからさ」
「……分かった。でもマジサポートは頼むよ? あたしこういうのはどうすればいいかさっぱりだし」
そこはもちろんなので、全員で頷いた。あむはそれで少し安心したような顔になる。
「でもあたし、りっかに憧れ持たれてたの?」
「持たれてたね。ほれ、最初の時にりっかに声かけたのも気づいたのもあむだし」
「落ちたりっかちゃん助けたのもあむさんですしね」
「いやいや、あれ恭文と一緒に」
「僕はただ落ちてきた木を払っただけだよ。あむ、重要なのはりっかの中での重要度だよ?」
僕はあむの方を見ながら右手人差し指をビッと立てる。
「ここは多分に憶測が含まれるけど、りっかの中では僕より自分と子猫を受け止めてくれたあむの印象の方が強いと思うの。
あとはあむの学校内での評判だよ。未だにあむの外キャラに騙されてるのが多いから、そういうのも耳に入ってくる」
「あ、それはあるね。あむちゃんの人気はガーディアンの中でも高い方だし……あと、柊さんは低学年くらいでしょ?
僕にも覚えがあるんだけど、あれくらいだと上級生って大人っぽくてどうしても憧れちゃうんだよ」
「でもりっかはあたしの実際知ってるのに」
「そうだね。でも柊さんだけじゃないとしたらどうする?」
あむが唯世を見ながら首を傾げる。
「柊さんの周囲の子達も、あむちゃんの外キャラ云々を抜いてもやっぱり憧れに近いものを持ってるんじゃないかな。
そんな子達にあむちゃんの話をかなり聞いてると思うんだ。ここは柊さんが転校生でまだ学校に慣れてないからなのもある」
「なるほどね。この学校に関しての知識が欠けているりっかが、周囲にあむや私達の事を聞いたりしてると」
「だからあむちーへの憧れが強くなっちゃうのかなー」
「そうじゃないかなと僕は思うんだけど」
「そっかぁ」
あむは腕を組んで少し唸るけど、次の瞬間には両手で頭をかいて立ち上がる。
「だめだ、こうしてても全然分かんない。ごめん、あたしちょっと行ってくる」
「あむ、りっか探すの手伝おうか? サーチすればかなり楽に出来るけど」
「あ、お願い。なんか早めにしないとだめかなーって思うんだ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
一昨日あの由香ちゃんが座ってたベンチに座って、あたしはずーっと沈んだ気分のまま……はぁ。
昨日一生懸命あの子達の中からあたしのたまごを探したけど、全然だった。全然分からなくて、さっぱりだった。
あたしのたまごなのに――あたしの夢であたしの『なりたい自分』なのに、分からないの。
それが悲しくて辛くて、ボロボロ泣いちゃう。何度涙を拭っても全然止まらない。どうしよう……どうしよう。
ガーディアンなのにたまごに×付けるなんてありえないよ。あむ先輩達に嫌われちゃう。
でもなんでなの? なんであたしのたまごに×が付いちゃうの? あたし、ちゃんとあむ先輩になろうとしたのに。
あたしの『なりたい自分』はあむ先輩なのに。なのに……分かんないよぉ。
「どうしたらいいの。どうやったら」
「なにが分かんないのかな」
その声で身体が震えて、慌てて右を見るとあむ先輩が……あたしは咄嗟に顔を背けちゃった。
「りっか、どうしたの? なんかすっごい落ち込んでるって聞いたけど」
「な、なんでもないですっ!」
「そんな事ないよね。りっか泣いてるし」
「ないんですっ! ……あの、先輩」
あたしは胸元で両手をぎゅーって握り締めて、身体を震わせて……また涙を零していく。
「もしあたしが……たまごに×付けたりしたら、そこまでいかなくても『なりたい自分』が分からなかったら、やっぱり嫌いになりますよね」
あたしなに聞いてるの? そんなの決まってる。先輩は絶対にあたしを嫌いに。
「……ならないよ」
あたしはその言葉が信じられなくて、あむ先輩の方を振り返ってしまう。先輩は呆れたような感じだったけど、笑っていた。
「嫌いになるわけないじゃん。だってあたしも自分のたまごに×付けた事あるし、『なりたい自分』なんてよく分からないし」
「えぇっ! う、嘘ですよねっ! だってあむ先輩カッコ良いし、優しいしっ!」
「ホントだよ」
あむ先輩はそのままあたしの隣に座って、両手を上に伸して大きく伸びをする。
「ねぇりっか、アンタがあたしに憧れてくれるのは……まぁ嬉しいんだ。
悪い気持ちはしない。でもりっかはあたしには絶対なれないよ」
「でもあたし、先輩が『なりたい自分』で」
「いいから聞いて。……同じように、あたしもしっかには絶対になれない」
あむ先輩はあたしを真剣な目で見ながらそう言ってから、静かに頷いた。
「りっかは良いとこたくさんあるじゃん。あたしにならなくても、りっかはキラキラに輝いてるとこたくさんある」
「そうだよー。例えば花に自分の水筒のお水あげたり」
ランが言ったのは……初めてあむ先輩達に会った時のだ。
「降りられなくなった猫を助けてあげようとしたり……ボクはあの時ビクビクだったなぁ」
ミキが言ってるのもそれ。あと、初めて恭文先輩に叱られちゃったりティアナさんに叩かれたりしたっけ。
「×たまさんがちゃんと帰られるかどうか、お見送りしようとした事もありましたねぇ」
スゥが言ってるのは……うん、あった。×たまがホントに帰られるかどうか分からなくて、追いかけた。
「恭文君達から聞いたけど、空海君に遊戯王で勝ったのよね。
前の学校でもデュエルを練習してて……集中したら勤勉家」
ダイヤが言っているのはつい最近の事。なんだろ、さっきまで気持ち悪いくらいに落ち込んでたのにおかしいよ。
そういうの思い出してくと、だんだんと気持ち悪いのが治ってく。気持ち、どんどん温かくなる。
「それはあたしには出来ない事だよ。ううん、きっとやろうともしなかった。
あたしね、りっかを見て見習わなきゃいけないなーって思ってたんだ」
「え?」
「りっかはほら、×たまの言葉が分かるじゃん?」
あむ先輩がなんでそういう事言うかよく分かんないけど、とにかくここは頷いた。
「あたし達ね、りっかが転校してくる前に……まぁちょっと色々あって、たくさんの×たまを浄化した事があるんだ。
でもあたし達が×の付いたこころを助けていくなら、そんな状況でも×たまの声を聞く事を忘れちゃだめだなって。
×たまの事を――その人のこころを知ろうとする気持ち、どっかで忘れてたんじゃないかって反省しちゃったんだ」
「あむ先輩でも、反省するんですか?」
「するよ。あたしなんて失敗ばっかドジばっか。りっかが思ってるほどカッコ良いキャラじゃないしさ」
あむ先輩はあたしの方を見てから左手を伸ばして、頭をくしゃくしゃって撫でてくれた。
「もう一度よーく考えてみようか。ホントにあたしにならなきゃ、りっかは『なりたい自分』になれないのかどうか。
もしかしたらあたしの真似じゃない、りっかだけのキラキラした輝きがあるかも知れないから。ううん、きっとあるよ」
「……あたしの、キラキラ」
「うん、キラキラだよ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そのままあたしは家に戻って、夜になってご飯を食べてお風呂に入ってパジャマに着替えて……ベッドにゴロン。
あたしのたまごとうちの子達を見ながらあむ先輩の言ってた事を何度も考えてみる。けど、よく分かんない。
あむ先輩になろうとすると、あたしのキラキラがなくなっちゃうのかなぁ。だから×が付いちゃうの? なら……うぅ。
「やっぱりよく分かんない。あむ先輩になれないならあたしは『なりたい自分』になれないの?
でも……あたしはあむ先輩じゃなくてもキラキラしてるって言ってくれた」
あむ先輩とラン達が言ってくれた事を思い出すとドキドキして、なんか自分が勘違いしてたような気がする。
あたしは分かんない事だらけで……だけど気分が悪くなったりはもうしない。あたし、笑ってる。
「あたしはあたしのまんまでいいのかなぁ。あむ先輩にならなくていいのかなぁ。
でもあたしが分かんないままだったらこのままたまごも×が付いたままなのかなぁ」
それは嫌だなーと思ったけど、でも……あたしは笑いながらベッドの上でうーんと伸びをした。
「でもま、いいかぁ。それが今のあたしなんだし」
あたしは身体を起こして、両腕を上げてうちの子達を――あたしの今に手を伸ばす。
「×が付いているのも分かんないのもあたしなんだ。だからあたしは……あたしのまんまでいいんだ」
それでちょっとずつ考えてみようっと。あたしはあたしのまんまでいい理由とか……あれ、なんだろう。
たまごの一個がキラキラしてる。それであたしの前に来て、色が変わった。
×が付いていて黒かったたまごは一瞬で淡い黄色のたまごになって、真ん中にオレンジのお日様が描いてる。
えっと、大きいマルの周りに10個くらいのマルが付いてるんだ。そのたまごをジッと見てると、ギザギザーってヒビが入った。
ヒビが入って真ん中から二つに割れて、中から紫の長い髪をした女の子が出てきた。
髪の先が左右にカールしてて、前髪もその子から見て左に流れてる。あ、頭にしてる白いヘアバンドにお日様マークがついてる。
黄色いワンピースの上に白くて長いケープを着ていて、首元には淡い黄色のリボン。あと両足は紫のブーツを履いてる。
お尻に紫の尻尾みたいなのがあって、その先にキラキラしてるお日様マークがある。
両手を腰の前で握っているその子は目を開いて、くりくりとした薄紫色の瞳であたしを見る。
「初めまして、りっかちゃん。ほたると申します」
「……へ?」
あたしはハッとしながら慌てて正座になって頭を下げる。
「いえいえ、これはその、ご丁寧にっ!」
あれ、なんかおかしい。あたしは改めて頭を上げてその子を見る。
「ほたる? え、誰かな」
「りっかちゃんのしゅごキャラです」
「あぁ、それで」
ようやく納得出来たのであたしは笑って……絶叫しました。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「はい」
All kids have an egg in my soul
Heart Egg――The invisible I want my
『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説
とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/じゃんぷっ!!!
第139話 『Successful or failed all treasure/初めまして、ほたると申します』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
今日も今日とて学校である。まずはフェイトとお互いにおはようのキスをする。
その後はご飯を作って食べて、制服に着替えてからフェイトと行って来ますと行ってらっしゃいのキスを交わす。
毎朝してもドキドキで幸せで、ついディープにしちゃうキスが嬉しくて……あぁ、今日も良い日になりそう。
なのにどうしてなのかな。どうしてあむとりまとリインとティアナが僕を微妙な目で見るのかな。
「ねぇアンタ、やっぱフェイトさんとイチャつき過ぎだって」
「ですですっ! リインにはなにもなしなのにそれはありえないのですっ!」
「リインちゃん、ツッコむとこそこじゃないからっ! てゆうかね、むしろなにもしなくていいのっ!
マジ自分の年齢を鑑みていこうかっ! ……でもさ、マジで毎朝飽きない?」
「恭文、そろそろ自重するべきじゃないかしら。朝から甘ったるいんだけど」
それでこんな事を言うので、僕は大きくため息を吐きつつ首を横に振る。
「みんなも大人になれば分かるよ。幸せはここにあるんだから。
てーか……8年スルーされたんだからこれくらいいんじゃないかなっ!」
「そこ言われたら確かに反論出来ないけど、アンタの場合やり過ぎじゃんっ! 夏休みも凄い勢いで」
「みなさんー!」
後ろからかかった声の方を見ると、坂道を駆け上がりつつりっかがこちらに突撃していた。
それで止まろうとするけどりっかは地面を滑り……僕は慌てて前に出て、りっかの頭を右手でアイアンクロー。
「ふぎゃっ!」
りっかは僕によって動きを止められて、なぜか痛そうに息を吐く。でも気にする必要ないか。
「せ、先輩ヒドいですー! 暴力反対ー!」
「そう。だったら……いきなり突撃して体当たりかましてきたバカにはなにを禁止するべきなんだろうねぇ。
この間も妊婦なフェイトに突撃してくれようとしたし、さすがに優しくも出来ないんだよ」
更に力を強めると、なぜかりっかの身体が震え出した。
「ちょ、ギブー! 締めつけるのはやめてー! 反省してますからー!」
「ほらほら、やめてあげなさいよ。女の子相手なんだから」
「大丈夫、僕は男女平等だから」
「それは平等とは程遠いわよっ! ほらほら、離しなさいってっ!」
ティアナが朝から怒りながらそう言うので手を離すと、りっかは安心した様子で息を吐く。
「それでりっか、どうしたの? なんか昨日と全然様子違うけど」
「あ、そうよね。アンタなんかヘコんでたとか聞いてたけど」
「それならもう大丈夫ですー。だって……ほたるー」
りっかの後ろからひょっこり出てきたのは……しゅごキャラ? それも見た事ない子だけど。
「りっかちゃん、その子どうしたですか」
「見た事ない子だけど」
「あたしのしゅごキャラですー」
『……はぁっ!?』
僕達は驚きながらもその子をまじまじと見てしまう。
「なんか昨日生まれちゃって……えへへー」
「えへへじゃないしっ! アンタ突然過ぎ……あ、まさか悩んでたのってそれ関連っ!?」
「はいー。あ、ほたるー」
「大丈夫よ、りっかちゃん」
その子はりっかに微笑みながら僕達の前へ出て、ぺこりとお辞儀した。
「初めまして。あむちゃん、恭文君、リインちゃん、りまちゃん、ティアナさん。
りっかちゃんからお噂はかねがね。私、りっかちゃんのしゅごキャラのほたると申します」
『え?』
「今後はりっかちゃん共々よろしくお願いいたします」
『……え?』
りっかのしゅごキャラはアニメで『アナ(キンキンキンッ!)浄は大事よ』ってのたまわったキャラの声優さんと同じ声だった。
ううん、そこはいいか。問題はなんかこう、りっかとは全然違って落ち着いている雰囲気の子ってとこだよ。
ただその落ち着きっぷりが半端じゃなかったので、全員が驚いてしまって……ごらんの有様だよ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ! この子がりっかちゃん(柊さん・りっか)のしゅごキャラっ!?』
朝一番でこの大ニュースを共有すべく僕達はロイヤルガーデンに集まり、そして報告して……ごらんの有様だよ。
唯一冷静なのがひかるだけってのはどういう事だろうか。でもきっと、ここから更に驚く事になる。
「初めましてー、ややはりっかちゃんの頼れる先輩でゆくゆくはガーディアンのボス――Kチェアに就任予定のややちゃんでーす♪」
「そしてぺぺちゃんでちー」
「おのれらなに勝手な事言いながら胸張ってんだよっ! てーか初対面の人間に間違った知識を吹きこむなっ!」
「――いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
いきなり隣で唯世が叫びながら両手で頭を抱え、崩れ落ちてしまった。
「ガーディアンが……ガーディアンが崩壊するぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!
やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ! みんなが、みんながぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
おぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ! なんか一人凄い未来想像して恐怖に怯えてるんですけどっ!
「唯世、しっかりしてっ! 大丈夫、そんな未来は来ないからっ!
ガンダムSEEDの劇場版が放映される未来と同じレベルで来ないからっ!
なんだったらシェンムーの3でもいいよっ!? もうドリキャスないしさっ!」
「恭文、それは小学生相手に振るにはレベルが高いネタだろう」
「でもひかる君分かってるですよねっ!」
「――初めまして。ややちゃんさん、ぺぺちゃんさん」
僕達の喧騒は気にせずにほたるはあの落ち着いた表情をややとぺぺに向け、頭を下げる。
「りっかちゃんのしゅごキャラのほたると申します。りっかちゃん共々、よろしくしますね」
すると二人はなぜか困ったように視線を泳がせ始め……ほたるに土下座をした。
「は、はははー! これはその、ご丁寧にー!」
「でちー!」
「こらこら、態度変わり過ぎじゃんっ! てゆうかなんでいきなり土下座っ!?」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
新キャラ優遇状態だとオレ達の影が薄くなるのは辛いが、りっかもいつもの調子に戻った事は喜ぶべきだろ。
とにかくオレ達先輩も新キャラに触れていく事にしよう。ヤスフミから少し離れて、ほたるに近づいていく。
「ほたるさん、突然ですが私達はあなたの先輩です。肩を揉みなさい」
「そしてこの肉まんを食え、美味いぞ。その後でお使いに行ってもらう。ものはポテトチップスとペプシと」
「……って、待てよコラっ! お前らなにいきなり新人コキ使おうとすんだよっ! それでヒカリ、お前はまた食ってたのかよっ!」
おいおい、なんでオレがKYみたいに見られんだよ。おかしいだろうが、なんでコイツらおかしい行動を平然と取れるんだよ。
「初めまして、ほたると申します。あ、これありがとうございます。……ん、ホントに美味しいですね」
「お前も平然ともらうなよっ! そしてかじるなよっ! コイツらの行動に対してツッコむべきところがかなりあるだろっ!」
「「それでこっちがショウタロス先輩。適当な時に使いっぱしりに出来る素晴らしい先輩」」
「お前らも黙れよっ! あとそれは先輩扱いしてねぇだろうがっ!」
ちくしょー! なんかオレこっちに出てきてからこんな事が多くなってると思うんだが気のせいかっ!?
てーか扱い悪いぞっ! お前ら全体的にオレへの扱いが悪いぞっ! ……よし、落ち着けオレ。コイツらは無視だ。
「でもお前、マジでりっかのしゅごキャラなんだよな。でもなんつうか」
オレは首を傾げながら、自信満々な表情で笑っているりっかの方を見る。
「イメージ違うような」
まぁしゅごキャラがもう一人の自分つっても、本人とどんかぶりな方が少な……いや、そうでもないか?
ヤスフミとか歌唄とか見てるとこう、あのフリーダムさがなぁ。確実にあの四人には受け継がれてる。
「あ、それややも思ったー。りっかちゃんと違ってすっごい落ち着いてるよねー」
「ふふ、ありがとうございます」
「ねーねー、あとそれなに?」
「ぺぺも気になるでち」
ややとぺぺがジッと見るのは、紫色の尻尾とその先についてるキラキラと輝くお日様マーク。
あぁ、確かにオレも気になる。だがほたるはそこでクスリと笑い、右人差し指を口元に当てる。
「これは……ないしょ」
「えー、やだやだー。教えてー」
「やや、甘いな。知りたければ自分で手を伸ばせという事だろう」
「ですね」
おーいっ! なんでお前ら極々普通にほたるの後ろ取ってんだよっ! ほれ、ほたるもびっくり……してねぇっ!
二人に後ろ取られて尻尾をいじいじされ始めてるのに動じてねぇっ! どんだけ落ち着いてんだよ、コイツっ!
「これ……はっ!」
「なん……だと……!」
「二人共、どうしたでちかっ!」
「なんかすっごい驚いてるけどっ! 尻尾の秘密が分かったのっ!?」
二人は尻尾から手を離したかと思うと、なぜか両手をお日様マークにかざした。
「「温かい」」
『……は?』
「いえ、ですから温かいんです。尻尾を中心にぽかぽかとした熱量が」
「今の季節にはちょうどいいぞ。これはどうなっているんだ」
『えぇっ!』
その言葉でオレを除く全しゅごキャラがほたるに集結。ややもそれに倣って全員でほたるのお日様マークに手をかざす。
『はぁ……温かい。ぽかぽかする。ほっとする』
「お前ら今どうやってこっち来たっ!? 瞬間移動でもしたのかよっ!
あとほたる、お前もっとツッコめっ! コイツらにはツッコみどころが満載だろっ!」
「ショウタロス先輩、落ち着いて? ほら、リラックスリラックス」
「ショウタロウだっ! あと先輩はいらないんだよっ!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ほたる、早速大人気みたいだね。りっかの様子も元に戻ったっぽいし」
「そうだな。これもあむちゃんのお話のおかげかな」
「そこは僕には分かりかねるが、一安心と言ったところだな。ただその前に」
「その前に?」
「こういう時には、おめでとうと言うべきなのだろうな。そう勉強した」
ひかるがそう言ったのに驚いてそちらを見ると、ひかるはどこか嬉しそうに笑っていた。
その様子を見て、ここに来てからの積み重ねが多少は影響しているのかなと……少し安心。
「それよりも恭文」
「なに、ひかる」
「あのひたすらに未来に怯え続けるキングはどうするつもりだ」
ひかるが振り返って見るのは、未だにややがキングになったらどうしようと怯え続ける唯世。
唯世は床に崩れ落ちて頭を両手で抱えて、まるで生まれたての子鹿のように身体を震わせていた。
「放置でいいわよ。嫌でもそういう未来と向き合わなきゃいけないって気づいたらきっと立ち上がれるから」
「そうだね。しかしそこまで不安に」
不安……そうだそうだ。りっかがバカやったりで置いてけぼりだったけど、あの話があったじゃないのさ。
僕は未来を憂う唯世の姿を見ながら両手で拍手を打ってから、りっかの方を見る。
「りっかー、しゅごキャラ生まれて嬉しいのは分かるけど一旦こっち来てー」
「ほえ? 先輩、どうしたんですかー」
「いや、おのれとひかるにやってもらいたい事があるのよ」
一旦あの焚き火みたいな体勢を解除して、全員がこっちに来る。
「ひかるにはもう話してたんだけど」
「……あぁ、あれか。そう言えば忘れていたな」
「え、なになに? ひかるだけなんてずるいー。りっかにも教えてー」
「そう。でも」
僕はりっかを見ながら表情を歪め、不敵に笑う。
「本当にいいの? りっか、好奇心は猫をも殺すという言葉が」
「先輩、りっかもりっかもー!」
「はいはい、僕の制服掴むのはやめようねー。そして人の話は聞こうねー」
僕に突撃してきたバカは右手のアイアンクローでしっかり止めて、もうめんどいのでこのまま話を続ける事にした。
「実はりっかとひかるの二人がメインで2月頭のガーディアン総会をやってもらおうって話が出てさ」
りっかが僕の言葉で動きを止めたので、アイアンクローを解除して僕の事を見るりっかに頷きを返す。
「ガーディアン総会? え、それって」
「ほら、ガーディアンって活動報告が必要じゃない? りっかが先月と今月に見た感じで総会を定期的に行う。
でも私達はもうすぐ卒業だし、そろそろ後に残る人に任せていく方がいいんじゃないかって話になったのよ」
「その総会を今度僕と君が主導でやろうという話だ」
「えぇー! そ、それってすっごく大変なんじゃっ! だって」
りっかが今不安げな顔をするのは、先月と今月の集会の準備を全員総がかりで頑張っていた僕達の姿を思い出しているせいだと思う。
あれを自分達だけでやるのは無理だと顔で言っているのが分かる。ほたるは……やっぱり落ち着きながらにこにこしている。
「さすがにいきなり全部をあなたとひかるだけにやれとは言わないわよ。
というか、それをやっちゃったら集会に間に合わないもの。
だからあなた達がメインでやるのは、当日生徒の前に出て報告をするだけ」
≪ひかる君が補佐で、歳上なりっかちゃんがメインなの。あ、もちろん下準備もしっかり手伝ってもらうの。
そうじゃないときっと後々とっても困る事になっちゃうの。それでやり方を実地で覚えてもらうの≫
「でもやや先輩やリイン先輩は」
≪リインちゃん達はもう何度もやってるの。だからりっかちゃん達なの≫
「……あ、そっか。先輩達はずっと前からガーディアンだったんですよね。それじゃあしょうがないかぁ」
りっかは納得してくれたけど、すぐに両手で頭を抱えて唸り始めた。
「でもあたし……出来るかなぁ。だって全校生徒の前でこう、報告するんですよね?
お喋りするんですよね? それだとあの……うぅ、失敗したらどうしよー!
ううん、失敗するっ! 絶対に失敗するっ! それでとんでもない事になって……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「あぁ、失敗するだろうな」
「ひかるー! そこはお願いだからあたしを励ましてー!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
というわけで、早速練習開始。そりゃあいきなり全校生徒の前に出て喋れとか言われたら泣きたくもなるだろ。
現在出来ている分の報告書をりっかにもってもらって、ロイヤルガーデン中心を講堂の壇上と見立てる。
その上でややとひかるとリイン以外の全員が階段から降りて入口側に行って……これで擬似会場は完成。
上・右側に視線を向けると、そちらに待機していたややが頷いて右手を上げる。
「それじゃあ練習始めー」
「は、はひっ!」
りっかは報告書を持ってゆっくりと僕達の前に出てくるけど、その動きがぎこちない。
まるで油を差していない機械のようにぎしぎしで……あ、前のめりにコケた。
そこから素早く立ち上がって僕達に向き直るけど、それでも身体はガチガチで足は震えててしかも猫背。
視線は報告書を凝視しているけど、その原稿用紙すらも激しく震えて紙がこすれる音がこちらにまで聴こえてくる。
「そ、そひべが……ごごんべるとーばっとうのべんべんくさーべっとるだ」
「何語っ!? りっか、アンタ落ち着きなってっ! ちょっとテンパり過ぎだからっ!」
「○○○○○○○○ー○○○○○○○○○!」
それでもりっかはもはや言葉として認識出来ない報告を続けていく。ごめん、この解読は僕には無理だわ。
「りっか、あがり症だったのね。ちょっと意外だわ」
「僕もりまちゃんと同感。物怖じしない子だと思って……え、なんで睨むのっ!?」
「なぎひこ、あなたには個性が足りないわ。でも私の後をいちいち追うのはやめて欲しいの」
「いきなりなんの話かなっ! そんなつもりないんだけどっ!」
「あーんっ! 出来ないよー! 誰か助けてー!」
困り果てて涙目なりっかの前に、ほたるが現れる。
「大丈夫よ、りっかちゃん。――ふんわり、ぽかぽか」
そしてりっかの前で両腕を広げながら、反時計回りに一回転。
「キャラチェンジ」
するとりっかの頭のお団子二つに、ほたると同じお日様マークのアクセサリー二つが装着された。
その途端にりっかは背筋を伸ばし、崩れていた姿勢を正して堂々と胸を張り出した。
「それでは、先月行った制服に関しての」
『おぉー!』
凄い、さっきまでとは全然違……あ、キャラチェンジしてるから当然か。
とにかくりっかは普段よりずっと落ち着いた様子ですらすらと今出来上がっている分だけ報告書を読み上げた。
「――凄い凄いっ! りっかちゃん完璧ー! ややもそこまで出来ないのにー!」
ややが目を輝かせながらりっかに近づくと、りっかの頭に装着されていたお日様マークが消えた。
するとりっかは目を見開き、驚いた様子でややの方を見る。
「あ、あたしも初めてですっ! これなら出来るかもー!」
「うんうん、ばっちりだよー!」
「いや、だめだよ」
「「え?」」
ダメ出ししたのは、当然僕。ちなみに表情からあむとりまとなぎひことリインも同意見っぽいのが分かる。
「りっか、キャラチェンジに頼るの禁止。まだ時間もあるし練習していこうか」
僕がそう言うと、ほたるが少し意外そうな目でこちらを見た。でもそれだけで……特になにも言ったりはしない。
すぐに今まで僕達やりっかに見せてきたような穏やかな表情に戻る。でも、少しだけ表情を崩した。
「えー! どうしてですかー!? だってだって、ほたるが居ればうまくいくのにー!」
「うん、いくね。でもダメなんだよ」
「だからどうしてですかー! 失敗するよりずっといいのにー!」
「そう。だったら逆に聞こうか。失敗する事のなにがいけないの?」
りっかはそう言うと視線を泳がせ始めて、また背を縮めながら報告書で口元を隠す。
「だって、カッコ悪いし」
「……あのねぇりっか、分かってないみたいだから言っておくけど、これは失敗してもいいから出来るように頑張ろうって場なんだよ?」
「嫌ですー。だって失敗したらカッコ悪いし、みんなの前なのにー」
「それでいいのよ。今ここでなんの努力もなしで失敗しない方がかえって不安なんだから」
僕は腕を組み、改めてりっかとひかる達を見てみる。
「りっかやひかる、ややとリインがなにかポカやっても、今は僕達が助けていける。でも、春からはそれは無理。
これだってこの間×たまを追っかけたのと同じだよ。とにかく自分の力でやって見て、どうしたらダメなのかとか良いのかとかを知っていく。
そのためには今はキャラチェンジの力を借りちゃだめなんだよ。そうじゃないと本当に失敗出来ない時に失敗する。なにより」
「なにより?」
「キャラチェンジはほたるが居る事で使える力だけど、完全にりっかの力ってわけじゃないんだよ」
腕を解いて左手を上げると、そこにシオン達三人が素早く乗ってくれる。
「キャラチェンジとキャラなりは自分が元々持っている未来への可能性。
だからりっかには、確かに今みたいに落ち着いてなにかを出来る可能性があるんだよ」
「え、ほたるが居なくてもですか? でもあたし、今までそんな事出来てないし」
「出来たじゃないのさ。空海とデュエルモンスターズしてた時のりっかは、今と同じレベルで落ち着いてた」
りっかが驚きながら自分を指差すので、僕は少し表情を緩めながら頷いた。
……実は今回の事、僕が唯世に『やらせてみよう』って進言したんだよね。
今のうちからっていうのもあるけど、あの様子を見てたら出来る確信もあったから。
例え100点満点とはいかなくても、りっかとひかるなら……ってね。
「でも可能性は確定的なものじゃない。出来る可能性もあれば出来ない可能性もある。
りっか自身が自分の可能性をちゃんと形にするために努力しなかったら、それは簡単に消える。
……あんまりキャラチェンジやキャラなりに頼るのはよくないんだよ」
「りっか、一応言っとくけどあたし達も恭文と同じなんだ。てゆうか、あたしも同じ事をミキに言われた事があるの」
「あむ先輩もなんですか?」
「うん。あたしの場合は……前にみんなでやったスノーアートが全然出来なくて、ミキにキャラチェンしてもらって作ろうとしてね。
あ、ミキにキャラチェンジしてもらうと、あたし絵とか図画工作みたいな美術系がめちゃくちゃ出来るようになるんだ」
あー、前に話してた空海のおじいさんのとこに遊びに行った時の事か。うんうん、よく覚えてるよ。
僕とリインがこっちに来る前の話だから、もう1年以上前だね。写真見せてもらったけど、あの雪像は中々の出来だった。
「でもそれ、ズルしてるみたいだって言われちゃったんだ。……ね」
「うん、言った。りっか、確かにほたるとキャラチェンジしたらちゃんと出来るよね。
でもそれはほたるが居たから出来たんであって、りっかが自分で出来たわけじゃない」
ミキは優しい表情でそう言ってからあむから離れ、飛び上がってりっかの目の前に移動する。
「だからあの時のあむちゃんに言った言葉をそのままりっかにも言うね。
――キャラチェンジがなきゃ出来ないって言い訳しちゃう自分が、りっかは好き?」
りっかはなにも答えない。でもあむとミキが言いたい事は分かるらしく、静かに首を横に振った。
「大丈夫だよ。一生懸命練習すれば、ちゃんと出来るようになるから。あたし達も付き合うよ」
「……はい」
というわけで、ここから報告書も作りつつりっかは毎日練習を続けていく事になった。
まぁ少々キツい道のりだとは思うけど、頑張れりっか。これもガーディアンであるなら必要な事だよ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「うー、疲れたー」
ベッドに崩れ落ちて、あたしは大きく息を吐く。うちの子達が心配そうに見てくるけど……ごめん、かまってる余裕ないかも。
「というか、恭文先輩やっぱり苦手ー。しかもあむ先輩まで同じなんてー。
なんでキャラチェンジしちゃだめなのかなー。ちゃんと出来た方がいいのにー」
「りっかちゃん、恭文君とあむちゃん達のお話聞いてなかったの? みんな」
「ごめーん。ちょっと疲れちゃったからー。あ、もちろん分かってるよ」
あたしはにこにこしながら、がばーって起きてほたるの方を見る。
「あたしなら出来るーって思ってくれて、応援してくれてるんだよね。
キャラチェンジなんてしなくても、頑張ればなんとかなるんだーって」
「……えぇ、そうよ」
「でもね、分かんないんだ」
「なにがかしら」
「キャラチェンジやキャラなりがズルみたいになっちゃうなら、ほたる達はどうするの?」
ほたるは少し首を傾げながら、クスリと笑った。
「それは難しい質問ね。でも逆に考えれば分かるんじゃないかしら」
「逆?」
「えぇ。キャラチェンジやキャラなりがなかったら、私達はいらないのかって考えるの」
「そんな事ないよっ!」
……あ、そっか。なんか分かった。キャラチェンジやキャラなりは絶対しなくちゃいけないーってものじゃないんだ。
それも出来るけど、しなくても一緒に居てもよくて……ほたるはあたしの事見ながら、ニコニコ笑う。
「どうやら分かったみたいね」
「うん。あの、変な事聞いてごめんー」
「大丈夫よ。……それにね、失敗を恐れる必要もないの」
ほたるはあたしの方を見ながら、笑ってくれる。それを見てると気持ちがぽかぽかしてくる。
「だって成功も失敗も、りっかちゃんにとって大切な経験だから。だから怖がらなくていいの。
何度でもやり直しは利く。そしてそれは……全部りっかちゃんの宝物になる」
「あたしの、宝物」
「ほら、デュエルモンスターズだって最初から成功してばっかりじゃないでしょ?」
「……うん」
最初はモンスターカードばっか入れて勝てなかったり、逆に魔法や罠が多過ぎて手札事故起こしまくったりしたなぁ。
でもでも、本読んだり友達のデッキ参考にしたりして、ちょっとずつ今の形にしたんだー。今ではみんなあたしのお気に入りー。
「それだけじゃなくて、他の事も。例えばあの子のお世話も」
ほたるがあたしの部屋の奥に居るなまずを見た。……あー、確かになぁ。
水槽のお掃除の時に手が滑って割れちゃってだめにして……あれも大変だったなぁ。
「あ、そっか。だからもったいないのかな。失敗してダメな時もあって……でもいっぱい頑張ろうって気持ちになって」
「えぇ」
「失敗したからダメだーって分かる事があって……そうだそうだ。恭文先輩の言う通りだ。
失敗しなかったらあたしきっと、うちの子もちゃんと飼えなかったし空海先輩にも勝てなかった」
そうしたら可能性っていうのが消えちゃうのかな。ううん、あたしなんか分かった。
失敗しなかったからこそ消えちゃう可能性ってあるんだ。成功だけじゃだめなんだ。
だったら……うん、そうなんだよね。失敗する事も、可能性を作るための宝物なんだ。
なんかあたし、かなり遅いかもだけど先輩達の言ってた意味がよく分かった。
だってよーく考えたら、あたしはその宝物を今までもたくさん手に入れちゃってるんだから。
そうだ、あたしは失敗してもいいんだ。あたし、なんかどきどきしながらずーっと笑ってる。
「りっかちゃんが助けてーって言ったら、私はいつでもキャラチェンジするわ。
……私はずーっとりっかちゃんと一緒。だから怖がらなくていいの」
「ほんとに?」
「えぇ。でも今回はだめよ? りっかちゃんは自分で頑張るって決めたんだから」
「うん、そこは大丈夫ー」
さすがにここで頼ったりはしないってー。その、なんか不安だけど……でもあたしはほたると一緒に笑える。
ほたるが一緒だーって思うと、なんか怖いのも平気。しゅごキャラが居るってなんか凄いと思いつつ、あたしは天井を見上げる。
「あたしもキャラチェンジしなくても、落ち着いた子になれるかなぁ。自分の可能性、形に出来るかなぁ」
「えぇ、きっとなれるわ。りっかちゃんは今、少しだけどそんな自分の形の一つを掴んでいるもの。だから大丈夫」
「うん」
『……ムリィ』
横からうちの子達の声がかかって、あたしはそっちを見る。みんなあたしの方を見てた。
「ごめん、放ったらかしに……あ、そうだー。ねね、みんなも手伝って欲しいんだー」
『ムリ?』
「あのねあのね、あたし今度」
というわけで、あたしは頑張って家でも練習する事にした。うちの子達にも協力してもらって……これならなんとかなるかも。
いっぱい時間もあるし、いっぱい失敗していくんだ。それでそれで……あ、キャラチェンジせずに出来たら結構楽しいかも。よし、やるぞー。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
夕飯前に少しお出かけさせてもらって、私はセンター街の方に出てきた。なおランニングしてきたので、軽く汗をかいていたりする。
ただ格好は白のジャージ姿なので、スカートを気にしたりする必要もない。ここに来たのは、買い物のため。
まずは本屋へ立ち寄り転入試験対策に必要と思われる参考書や文房具を買って、次は音楽関係のコーナーへ行く。
『初心者でも弾けるギター』などのいわゆるハウトゥ本もあるし、楽譜関係にその手の雑誌……かなりあるわね。
ただ私は初心者以前の問題なので、ここの辺りはもっと優しくバンドの基礎知識なんかを載せてる本を探す事にする。
あの時音を奏でた感覚が忘れられなくて、ドキドキしながらそれらしい本を探していく。右手人差し指を伸ばし、本棚を指す。
そのまま右に動かして指を目印というか区切りのようにして、私なりに不器用でも気持ちの向くままにまだ見えないなにかを探していく。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「――へぇ、りっかちゃん今度総会でお話するんだ」
「はいー」
りっかに重要項目を伝えた翌日の事、フェイトがシャーリーを伴ってロイヤルガーデンにやって来た。
ここはティアナの進学手続きの関係もあるんだけど、会議してるところに来てくれたんだー。あー、一緒にお茶は嬉しいなぁ。
「でもみんなの前でお話かぁ」
シャーリーがにやにやしながらフェイトの方を見るので、紅茶を美味しそうに飲んでいたフェイトが首を傾げる。
「りっかちゃん、よく人の前で話す時は『人の顔をかぼちゃと思え』って言うじゃない?」
「あ、言いますよねー。あたしもそれやろうかなーって考えてて」
「それはやめた方がいいよー。とんでもない失敗するから」
「え?」
「……あ、シャーリーだめっ! その話は」
シャーリーを止めようとするフェイトの顔を掴んで、僕の方に優しく向ける。フェイトは驚いた様子で目を見開いていた。
「フェイト、よそ見はだめだよ。僕の事ずっと見てて? ほら、旦那様なんだし」
「そ、それは……って、違うよ−! そういう事じゃないからー! その話はほんとにやめてっ!?」
「え、なんですかなんですかー! やや聞きたいー!」
「まぁ簡単な話だよ」
僕はフェイトの顔から手を離して、興味津々なりっかとややの方を見ながらお手上げポーズを取る。
「フェイトね、妊娠する前は警備組織関係の仕事に就いてたんだ」
「え、それじゃあ刑事さんとかだったんですかっ!? 凄い凄いー!」
「まぁそっちよりは自衛隊に近……って、そうじゃないからー! 話をやめてー!」
「それでその時に、そこの養成学校の生徒の前でお話して欲しいって依頼が来たんだ」
もうあむ達には分かってると思うけど、ここは管理局の訓練校だね。フェイト、なんだかんだで有名人だから。
そういう有名人のお話を聞いて、今後に活かそうという趣旨でその話が来た。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「――へー、それ凄いじゃないのさ。さすがに有名魔導師だけはあるねぇ」
「え、えっと……棒読みやめて? なにか突き刺さるから」
そう、あれは2008年の2月頃。フェイトに突然呼び出されたのでミッド市街の喫茶店で落ちあって……あ、このケーキ美味しいな。
「でもね、断るつもりなんだ」
「なんで? 滅多に出来る事じゃないんだし受けてもいいと思うんだけど。てゆうか、それだとリンディさんがうるさいでしょ」
「……うん。母さんもアルフも絶対やれって言うんだけど私はその……ヤスフミ知ってるよねっ!?
私そういうの苦手なのっ! し、しかも訓練校の生徒の前でって……確実に100人単位だしー!」
フェイトは向かい側に座る僕の肩を掴んで揺らしてくる。とりあえずショートケーキと紅茶に被害が出ないように僕は必死に抵抗する。
「いやいや、そこは仕事してる時のように冷徹な表情で」
「無理無理無理無理ー! 捜査会議とかでそういうのやるだけでも凄く緊張するのに、100人単位の人達に講釈垂れるなんて無理だよー!」
フェイト、涙目やめて。そんなに……あー、苦手だったね。フェイト基本緊張するし天然だしでそこまでスーパーキャラじゃないしね。
しょうがないので右手でフェイトの頭を撫でて落ち着かせていくと、フェイトは安心したように息を吐いて動きを止めた。
「じゃあ断るしかないでしょ。ちゃんとそういうのが苦手で、当日どんな事故やらかすか分からないからーって」
「それで大丈夫かな」
「別に任務とかでもなんでもないんでしょ? だったら大丈夫でしょ。学校側だってそれでなにかあっても困るわけだしさ。
あ、でもフェイトが自分でやらなきゃだめだよ? あと声かけてもらったお礼もちゃんとしないと。でも」
「でも?」
「改めてどうするか考えてみたら? さっきも言ったけど滅多にある事じゃないし、それくらいはOKだって」
フェイトは少し考えるように視線を泳がせて……首を縦に振る。
「そうだね。キチンと考えて……ちゃんとお返事する事にする。ヤスフミ、ありがと。話聞いてもらってだいぶ楽になった」
「ううん、これくらいならお安いごようだよ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そして数日後――フェイトはキチンと考えた末に訓練校に断りの連絡を入れたらしい。
ここは自分の緊張症どうこうではなく、万が一の事を考えた末の事。
てゆうか、改めて考えたら話せる事がなにもないという現状に気づいてしまったと……言ってたのに。
なのにどうしてそんな自分の引き出しの少なさを痛感したはずのフェイトは、僕の自宅に来てるんだろうねぇ。
「リンディさんに無理矢理話受けさせられたと」
「……うん」
「断ったんじゃないの?」
「断ったよ。そのはずなのに今日いきなり日程表が届いて、慌てて確認したら」
リンディさんが裏で手を回して、フェイトが講演会に出るようにしたと。なんつう事を……あの人バカじゃないの?
「母さんに抗議したんだけど全然聞いてくれなくて、その上正式な任務の一つとして通達されちゃったから」
「もう抵抗は出来ない……あの人はホントに。アルトー」
≪はい≫
「この話、リーク出来るように準備しといて? それであの人にはちょっと痛い目見てもらおうか」
フェイトが僕の方を驚きながら見るけど、僕は絶対に表情を崩さない。だってさすがにムカつくし。
フェイトはちゃんと自分で考えて、力不足だと思って断ったのに……去年のアレでも思ったけど、あの人信用出来ないわ。
「フェイト、本気で嫌ならクロノさんとかに言って断るって手もあるけど」
「確かに、そうなんだよね。でも」
「でも?」
「なんか逆にこう、腹が決まった。私、やってみるよ」
フェイトは驚く僕に構わずそこでガッツポーズを取ってしまう。
「というかね、ちょっと思ったんだ。苦手な事だからって逃げてたらこう……ずっとそのままだよね。それって良いのかなって」
「え、なんでそんないきなり心変わりっ!? さすがに転換早過ぎるでしょっ!」
「……実は」
でもまた落ち込んだ様子で俯いてしまう。
「話を断ってからキャロに会いに行ったんだ」
「あー、辺境世界に居る方だっけ」
「うん。キャロって人参が嫌いなんだけど、好き嫌いはダメだよーって注意したら」
俯いていたフェイトはそこで更に背を曲げて、口から嗚咽を漏らす。
「フェイトさんには嫌いだったり苦手なものはないんですかって極々自然に聞かれて、凄く突き刺さって」
「……納得した」
ここで話を断るのが、その嫌いだったり苦手な事から逃げてるんじゃないかーって思っちゃったのか。
確かにそういう側面がなくはないからなぁ。フェイトはその子の保護者でもあるから、余計にダメージが深いと。
「あれ、じゃあこっちに今日来たのって」
「うん、実はその」
フェイトは顔を上げて視線を泳がせてから、また頭を下げて両手をパンと合わせる。
「お願いっ! スピーチに協力して欲しいんだっ! ヤスフミこういうの詳しいよねっ!」
「やっぱりそういう方向っ!? ……別にいいけど、埋め合わせはしてよ?」
「うん、必ずするっ!」
「じゃあキスとバストタッチね。ほら、去年骨折ってくれた時のがまだ放置だし」
「分かったよ。それで……ダメー! だ、だからダメなのっ!
そういうエッチな事は禁止っ! 本当にヤスフミは変態さんだよねっ!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
それで数日しか余裕がなかったけど、ヤスフミの協力を得て必死に練習して……いよいよ本番。
場所は本局にある訓練校内の講堂。作った原稿もちゃんと両手で持ってるし、トイレもばっちり。
身だしなみチェックもさっき隣に居るヤスフミにしてもらったから大丈夫。……一緒に来てくれたんだよね。
やっぱり優しいなと思って、私は私の前で色々お話してる学校の校長さんを見ながらついニコニコしちゃう。
でもたまにエッチになっちゃうのは、しょうがないのかな。ヤスフミだって男の子だもんね。
でもあの、そういうの禁止。ヤスフミの好きな人だって誤解しちゃうし、そこはちゃんとお仕置きして修正しないと。
……どうしよう、なんかまた緊張してきた。ううん、落ち着け。ちゃんと原稿はあるんだし、この通りで大丈夫だから。
これはその、私なりの経験とそこからの教訓を形にしているし、読む練習もヤスフミと一緒にたくさんした。
だけど意外と私、引き出しあるんだね。母さんの言う通りにしなくても良かったんだ。というか、出来るはずがない。
ヤスフミには言ってないけど母さんは最初に私が抗議した時――去年『私達が』アイアンサイズを止めた事を話せと言って来た。
今回の話もその関係から来たものだから、そうするのが当然。だからその時の事を必ず話すようにと命令してきた。
ううん、それだけじゃなくて役に立たなかったGPOを悪例として取り上げた方が効果的かも知れないとまで言った。
それで胸を張って自分を誇ってと笑顔で……さすがに我慢出来なくて、通信叩き切ったよ。母さん、どうしてそうなっちゃうのかな。
私は母さんの事を信じたいのに。母さんは口ではどう言っても、あの判断にきっと不満を持っているんだって信じたいのに。
ヤスフミだってそうだよ。だからヤスフミも事件後に母さんにうるさく言うような事はしない。なのに母さんは、そんな気持ちを裏切り続ける。
本当にあの時の局の判断が正しい事だって思っているみたいで……私、本当に悲しかった。
これじゃあ母さんを信じたくても信じられないよ。家族だから信じたいのに……それなのに。
「フェイト、大丈夫?」
隣のヤスフミの声にハッとして、私は慌てて首を横に振る。
「うん、大丈夫だよ。あ、えっと……ありがと」
「なんでいきなりお礼?」
「だって練習、付き合ってくれたから。原稿もヤスフミが居なかったらちゃんと出来上がらなかっただろうし」
悲しい気持ちはヤスフミとの時間を思い出したら自然と消えていって、私は微笑みながら両手の中の原稿を見せる。
「そんな事ないよ。それはフェイトが自分で作ったんだし」
「私だけじゃないよ。私と、ヤスフミで作ったんだよ。だから、ありがとう」
「……ん」
ヤスフミが照れくさそうに笑っているのがなんだか可愛くて表情を緩めていると、壇上の方から拍手が聴こえて来た。
それで今まで話をしていた校長がこちらの方へ来て、私にお辞儀してくる。私は慌てて背筋を正して頭を下げる。
すぐにヤスフミに寄る形で校長さんに道を譲って、改めて人の居ない壇上を見る。壇上はライトアップされていて、とても明るい。
緊張をごまかすように深呼吸して、左手を胸に当てる。――落ち着け、落ち着け。
ヤスフミが教えてくれたあれがあるんだから、大丈夫。緊張したらかぼちゃを思い出せばいい。
「ヤスフミ、行ってくるね」
「うん。あ、緊張したら」
「人をかぼちゃと思えだよね。今ちょうど考えてたから。……よし」
会場に居る生徒達に聴こえないように小さく声をあげてガッツポーズを取ってから、私は足を進め始める。
壇上に出るとまた拍手が……や、やっぱり100人以上居るよっ! たくさんの人が私を見てるよー!
お、落ち着いて。こういう時こそかぼちゃだよ。あそこに居るのはかぼちゃなんだ。ここはかぼちゃ畑なんだ。
かぼちゃかぼちゃかぼちゃかぼちゃかぼちゃかぼちゃかぼちゃかぼちゃ――あぁ、目の前にかぼちゃ畑が広がっている。
そうだ、私はかぼちゃにお話を聞いてもらうんだ。これなら出来ると思いつつ、壇上に設置してある机の前に来る。
その机は普通の勉強机などと違って、スピーチなどをする時に使う小さく幅の狭い机。その上に銀色のマイクとマイクスタンドがある。
マイクのスイッチはOFFになってるからONにして……よし、落ち着いてる。ちゃんと余裕がある。
これならやれると内心嬉しくなりながら原稿に目を向けて、私は呼吸を整えてまず挨拶をする事にした。
『かぼちゃのみなさん、こんにちは』
あれ、なんで場がシンとなるの? 私特におかしい事……あれ、手が震え出してる。
ほら、ここはかぼちゃ畑でみんなかぼちゃだよね。だからあの、おかしくないよね。
そうだよ、おかしく――いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『――えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!』
僕も心配だったから一緒についていったんだけど、そうしたらその問題発言でしょ? もうびっくりだったよ。
当然のように場は凍りついて、フェイトはそれに気づいて慌てふためいて涙目で……僕は逃げたかったよ。
「そ、それ問題じゃんっ! てゆうか大丈夫だったんですかっ!?」
「まぁ会場の空気は微妙になったけど、学校関係者は事情を聞いて納得してくれたしね。でも……なぎ君は大変だったよね」
「大変だったねぇ。僕のせいでこうなったとまで言われたから。当然そんな反論は全部潰したけど」
それを誰が言ったとかは、ご想像にお任せする。それより今は、涙目で僕をぽかぽか叩き始めたフェイトだよ。
「ばかばかばかばかばかー! ヤスフミのばかー! 私あの時本当に恥ずかしかったのに、どうしてバラしちゃうのかなー!」
「これもりっかの成長の糧とするためだよ。フェイト、大丈夫。僕はそんなフェイトも愛していけるから」
「そ、それはあの……って、騙されないよっ!? うん、騙されないからっ!」
「フェイトさん、騙されかけた時点で言う権利ないわよ。あとシャーリーさんノータッチはおかしいから」
まぁ叩かれているけど軽めなので問題ないとしようか。それより今はりっかの事だよ。
「でもかぼちゃはだめかぁ。うーん、どうしよう」
「いや、フェイトさんのは極端な例だから気にしなくていいと思うんだけど。あたしもさすがにそれはないし」
「でも根本的な解決にはなってない感じですね。りっかちゃん、大勢の前でお話した事ってありますか?」
「ないですー。あたし生徒会とかクラス委員長とか……そういう事するのとかやってないし。あ、先輩達はどうしてますか?」
まずりっかの視線があむに向くけど、全員がそこでため息を吐いてしまう。
「りっか、あむは参考にならないわよ」
「そうそう。あむちーは緊張したら外キャラ発動してクール&スパイシーになっちゃうから」
「アンタ達うっさいっ! あたしだって好きでやってるわけじゃないんですけどっ!?」
次にりっかは唯世を見るけど、そこでも全員揃ってため息を吐く。というか、フェイトが僕を叩く手を止めた。
「りっかちゃん、唯世君は更に参考にならないよ。キャラチェンジした上で総会に出てたから」
「えー! そうなんですかっ!? そんなのだめじゃないですかー! キャラチェンジに頼り過ぎちゃうと可能性が消えちゃうーってっ!」
「ご、ごめんなさい。あ、でも今はやってないよ? うん、そこは本当に。僕も色々反省してて」
そこは事実なので、フェイトもそれ以上は。
「でも逆にそこを克服したから参考に出来るのかな」
それ以上はなにも言わないと思ったけど、持ち上げる方向で話を進めた。
「確かに……辺里君、そこは」
「えっと、実はその」
唯世はなぜか申し訳無さげにフェイトの方をちらほら見ながら、なぜか机に突っ伏した。
「人をかぼちゃと思いながらなんとか」
『……あー』
「お願いだから私を見ないでっ!? 私はもう大丈夫なのっ! もうかぼちゃとは思ってないからー!」
「でももうやめよう。さすがに人をかぼちゃ扱いは」
「私を反面教師にしないでー! すっごく傷つくからっ!」
なので当然のようにりっかはフェイトとあむと唯世以外のみんなを見るわけだよ。
「なぎひこ、君はどうだ。僕はイースターの仕事の経験のせいからかそういうのは平気なんだが」
「僕は前に話しただろうけど、日本舞踊してるから。舞台の上でなにかするっていうのは慣れてるんだよね。
そういう点ではひかる君と同じかも。そういう意識をする前から出ていったから、舞台の上で緊張っていうのはあまり」
「私もあんまり緊張はしないわね。だって舞台に慣れるのはお笑いの基本だもの」
「ややは……目立つの好きだから、前に出るの好きー」
「リインもですね。それでリインは夜の女王様なのですよ♪」
はい、若干一名おかしいのが居るけどスルーしていこうか。ただ困ったなぁ。
僕も似たような感じなので、今腕を組んで首を傾げてるりっかの参考にはならないと思う。
「恭文先輩も同じ感じですか?」
「残念ながらね。ただ全員の話を統合すると、一つ確実な解決策は提示されたんじゃないかな」
「え?」
「だよね、シャーリー」
シャーリーの方に視線を向けると、僕の言いたい事が分かったらしくシャーリーは頷いた。
「そうだね。まぁ性格的にOKな人は除くとして、それ以外だとやっぱり練習なんだよね。
練習に関してはフェイトさんと唯世君のも入ると思う。そこは意識の問題だし。
あとは経験数? ここはなぎひこ君や私が入るかな。私もフェイトさんの部下やってたから」
「あ、じゃあそういうお話とかも」
「うん。だから私も分かる。既に出来上がっているレポートを読むだけでも緊張しちゃうよね」
シャーリーの方を見ながらりっかは何度も頷きを返す。そんなりっかが微笑ましいのかシャーリーは表情を崩した。
「だからまぁ、最初からうまくいくわけないんだよね。やっぱり必要なのは練習だよ。
ここは単純に聞いてもらうだけじゃなくて、報告するお話の中身をちゃんと覚えるって意味もある。
ほら、そうしたら途中でなにかトラブルがあっても、お話は続けられるじゃない?」
「えっと……書類がこんがらがってなに話したらいいか分からなくなっても大丈夫とかですか?」
「そうそう。フェイトさんだってかぼちゃで失敗こそしたけど、そこはちゃんとしてたもの」
「練習……うん、分かりました。あたし頑張ってみます。あの、ありがとうございました」
「いえいえ、どうしたいまして。りっかちゃん、頑張ってね。私もフェイトさんも応援してるから」
フェイトもいつもの微笑みを浮かべてりっかを見ながら頷いた。りっかは二人の視線を受けて、照れたように笑う。
ほたるはただ静かにいつものように落ち着いた態度を見せながら、そんなりっかを優しく見守っていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そして当日――1月が終わるまでは総会の準備でみんな大忙し。あ、もちろんあたしとひかるも手伝った。
それであの、講堂の壇上の上手側でめちゃくちゃ緊張してる。いっぱい練習したけど、そこは変わんないみたい。
『はいはーい。今日のガーディアン総会の司会はAチェアの結木ややとー』
『ジョーカーUの蒼凪リインでお送りするですよー』
あー、みんなが拍手をー。てゆうか総会ってこんな感じでいいのかなー。一応学校行事のはずなのにー。
「ややもリインちゃんも、ノリが軽いなぁ」
「結木さん達らしくていいんじゃないかな」
『それじゃあ最初は、この間みんなに協力してもらった制服についてのアンケートの報告ですよー』
あ、あたしの番だ。あたしは深呼吸して、かぼちゃかぼちゃ……あ、これ違った。とにかく呼吸を整えて……よし。
「りっか、しっかりね」
「はい」
あむ先輩に背中を押してもらって一歩踏み出して、ゆっくりと壇上に出る。両手には当然だけど報告書の束。
それを強く握り締めながら講堂の中を見ると……わぁ、人がいっぱい居る。やばい、やっぱり緊張してきた。
みんなを見ながら歩いていると、足がなにかに引っかかってコケちゃった。あたしは痛くて呻いちゃう。
しかもなんか笑い声が……うぅ、失敗したー。頑張ったのにそれ以外のとこで失敗したー。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「あぁもう……見てらんない」
コケた上に笑われてるりっかを見て、慌てたあむが飛び出そうとしたので、それを首根っこ掴んで止める。
「ぐぇっ!」
「はいストップだよ」
あむはなぜか僕の方を見ながら険しい表情を浮かべる。
「恭文、アンタいきなりなにするわけっ!? てーか落ち着き過ぎだからっ!」
「バカ、よく見てみなよ。……りっかは折れてなんてない」
あむが僕からりっかに視線を戻すと、息を飲む。だってりっかがとっくに立ち上がってたんだから。
りっかはコケても離していなかった報告書を両手にしっかりと持って、壇上に設置した机とマイクの前に行く。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
大丈夫、あたしにはほたるが居る。失敗してもいい、何度でもやり直せばいい。これもあたしの宝物だ。
あたし、なんか分かった。これはあの時と――×の付いたあたしもあたしなんだーって思った時と同じなんだ。
あたしはやっぱり慌てんぼうのおっちょこちょいで、でもそれもあたしなんだ。だから怖がっちゃだめ。
失敗する事を怖がってたら、分かんない事を怖がってたら、あたしは変われない。あたしはなんにも出来ない。
今のあたしの事全部認めて、全部宝物にするために頑張ればいいんだ。だから……よしっ!
「りっかちゃん」
ほたるがあたしの前に来るけど、あたしはなにも言わずに首を横に振る。そうしたらほたるは笑って、あたしの右肩に乗ってくれる。
それが嬉しくてなんか心強くて……そんな気持ちをいっぱい感じながら、あたしは大きく息を吸ってみんなを見た。
『それでは、先月行った制服に関してのアンケートの結果を報告します。お手元のプリント一枚目をごらんください』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「りっか……凄い落ち着いてる。今キャラチェンジしてないよね?」
「あのお日様マークはついてないし、大丈夫っぽいね。ほたるもなにもしてない」
あむと唯世が感心した様子でりっかの事を見てる。そこは壇上に居る三人や僕となぎひことりまも同じく。
いや、さすがにコケた時は心配しちゃったけど、あの様子ならあとは大丈夫かな。
「蒼凪君、相馬君と遊戯王してた時の柊さんって」
「うん、アレに近いよ。ピンチ続きでも慌てたりしないで、ちゃんとプレイしてた。
……あのりっかを見て欲しかったんだよね。唯世、あれなら」
「うん、安心出来るよ。ほたるも柊さんと良いコンビみたいだし」
唯世もようやくここ最近感じていた不安が払拭出来たらしく、報告を続けるりっかを見ながらキセキ共々満足そうに笑った。
「しかし……こうなると僕達もデュエルモンスターズが出来るようになった方がよくはないか?
いつでもあのりっかが見られるぞ。そして唯世が不安で潰れるような事もなくなる」
「あ、それは確かに。ならそこも教えるか」
「えぇっ! で、でももう遅くないかなっ! ほら、僕達あと2ヶ月足らずで卒業するしっ!」
季節は2月へ突入し、僕とフェイトがこの街に来て1年が経過。
この1年色々あったけど、やっぱり聖夜市に来て良かったと痛感してしまった。
ここには今まで見えなかったものや触れられなかった事がたくさんあるから。
しゅごキャラの事もそうだし、僕自身の夢もそうだし、たくさんの出会いもそうだし……だから寂しくもある。
そんな1年に渡る日々の締めがもうすぐ来ようとしているんだから。だから僕だって、センチになったりはする。
(第140話へ続く)
あとがき
恭文「はい、そういうわけで今回でりっかのしゅごキャラほたるが本格登場。
いよいよ第4クール突入のドキたま/じゃんぷです。お相手は蒼凪恭文と」
フェイト「フェイト・T・蒼凪です。……あのかぼちゃって拍手ネタだよねっ!」
恭文「うん。ちょうどこの話と絡むところだからやっちゃった♪」
フェイト「やっちゃったじゃないよー! また私がドジっ子キャラって思われるのにー!」
(ぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽか)
恭文「さて、恒例な今回からのイメージOPはUNISON SQUARE GARDENさんで『センチメンタルピリオド』。
イメージEDはBuono!さんの『Our Songs』です。うん、これでドキたまだとようやく振り切れたね」
フェイト「そ、そうだね。というわけで今回は……結構失敗絡みの話が多いよね。りっかちゃんだけじゃなくて、あむや私とか」
恭文「うん。それで僕はサブキャラな感じで……徐々に徐々に世代交代の準備が」
フェイト「まぁヤスフミが主人公としてのお話は光編で終わってる感じだしね」
(なのでここからは恭文は……まぁ頑張って。大丈夫、まだ主人公だから)
恭文「うん、頑張るよ。ちゃんと世代交代出来るように頑張るよ。ここはあむに対してだけじゃなくてりっかとかもさ」
フェイト「ガーディアンもかなり大幅な世代交代になるんだよね。
しゅごキャラ開始当初からガーディアンに居た唯世君にややとなぎひこ君が居なくなるから」
恭文「だねぇ。さて、ここでかなり怖い可能性が出たのに多分みんな気づいてると思う」
フェイト「……ややのKチェア就任だね」
(『えっへんっ! ややがKチェアだよー♪』
『でちー♪』)
恭文「というわけでそういうのは一切無視して」
フェイト「そうだね。私達も触れるの怖いし」
(『ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ! 恭文もフェイトさんもヒドいー!』
『そうでちっ! どうしてぺぺ達に期待しないでちかー!』)
恭文「なんか9月の22日にPSPで遊戯王タッグフォースの6が出るとか。もう作者は購入決めたわけですけど」
(だって最新カードとか出るし、オンラインとかでは中々入手出来ないカードとかも手に入るし、これでデッキ実験とかかなり楽に出来るし)
フェイト「あぁ、だからなんだ。確かにこう、コンシューマのソフトの中だと無駄遣いしなくて済むよね」
恭文「基本そういうのに課金は今のところないしね。それで今オンラインで作成途中のシューティングスタードラゴンを組み込んだドラグニティデッキを作らないと」
(フォーミュラー・シンクロンは手に入ったけどシューティングスターが未だにだめという謎仕様)
恭文「あとはHEROデッキ? オンラインだと1から集めるの大変だしなぁ。
あ、それで読者が提供してくれたデッキレシピもここで試せるから」
フェイト「むしろ創作活動の道具としての比重が高いっ!?」
恭文「フェイト、世の中そういうもんだって。……というわけで、次回もやっぱりりっかがメイン。
僕は世代交代に備えてサブキャラに格下げを受けつつりっかのあれを見守っていこうかなと」
フェイト「あれって……あぁ、拍手でも来ているあの話だね」
恭文「アニメ三期見ていた人はもう丸分かりなあれだね。それでは本日はここまで。お相手は蒼凪恭文と」
フェイト「そんなヤスフミの奥さんなフェイト・T・蒼凪です。それじゃあみんな、また次回に」
恭文「かぼちゃかぼちゃかぼちゃー」
フェイト「うー、またいじめるっ! そんな子にはお仕置きなんだからっ!」
(そしてぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽか。
本日のED:UNISON SQUARE GARDEN『センチメンタルピリオド』)
恭文「光差ーす方へー見上げーて誓ったー♪ 僕ら−だけの未来」
ティアナ「アンタなにいきなりうたってるのっ!?」
恭文「いや、CROSS GAMEって名曲だから」
ティアナ「マジでどっぷりハマってるわね。でもアンタ、いつになったら私を娶ってくれるの?」
恭文「そうだねぇ、ティアナが本気で僕の事を好きになってくれたらOKかな」
ティアナ「なんでよっ! 今すぐ娶ればいいでしょっ!?」
恭文「おのれバカじゃないのっ!?」
フェイト「そうだよっ! そこって基本だよねっ! そこにダメ出しするってかなりおかしいからっ!」
(おしまい)
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