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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第12話 『未だ知らぬN/オーシャンズ・イレブン』



ラウラの方はおそらくはあれで……大丈夫じゃなかった。予想の斜め上を飛び越して更にバカになってしまった。

まさか自分のクラスでいきなりあのような淫行が行われるとは思わなかった。正直泣いてしまいたくなった。

……いや、落ち着け。ラウラと織斑にはしっかり説教をしたし、あれでいいんだ。あれが完成形で大丈夫なんだ。



とにかく昨日の騒動で教職員はゴタゴタしている。特にあの黒尽くめの仮面の男の事もあるからな。



そのために私もまたまた山田先生とラボの端末前で、二人だけの会議を行うハメになっているわけだ。





「織斑先生、彼らはその」

「分からん。肝心の映像がこれな上に、織斑達の証言だけではな。
だがあえて推測するとしたら……八神とヒメラモンだろう」

「そう、なりますよね。あのゴタゴタの中で二人姿を消してもいるそうですし」





以前なぜ八神達が究極体への進化が出来るのかと、山田先生共々聞いた事がある。

その時に学園側へはオフレコという条件で、八神が3年前の異変を解決した選ばれし子どもの一人だと教えてもらった。

世間一般では3年前の異変以後デジモンのパートナーになった人間のデジヴァイスは、D-3と呼ばれるタイプのもだ。



例えばラウラやオルコット、布仏もそれに入る。だがそのD-3にはオリジナルとされているものがあると噂されていた。

そのオリジナルは3年前の異変を解決した子ども達だけが所有しているとも言われていた。その噂もどうやら事実だったようだ。

だが八神曰く、本当のオリジナルは一人だけでそれは語弊があるそうだが……この話も中々に興味深かった。



とにかく八神が紋章を持っているのも、デジモン達があそこまでの力を持っているのも、そのせいらしい。

3年前の異変を止めるために旅をし、その中で強さを得た結果が今日の八神だ。

それでどうやらヒメラモンだけではなく、八神自身にも少し特殊な能力があるようだな。今回の事で確信が持てた。



その話を聞いた時にはなにも言っていなかったが……奴は本当に魔法使いらしい。

だがそれも特に珍しい事ではない。HGSや退魔師と呼ばれる異能力者は世間一般でも認知されているし、おそらく八神もその類なのだろう。

……そこをツッコむような事はしないでおくか。そういう力を持つがゆえの悩みもあると聞く。



八神自身がそこについて話してくれるのを待つのが妥当なのだろう。まぁテンプレ通りに『いつでも聞く』とか言ってな。





「だがこれでようやく納得出来た」

「八神くんの戦闘能力の高さについてですか?」

「あぁ。潜って来た修羅場の量が違うのだろう。あとは奴がその手の能力持ちなのも理由か?」

「確かに……例えばHGSなどは、人によっては空を飛ぶ事も出来るそうですし。
でも私、八神くんを見てるとたまに怖くなる時があるんです」



表情を曇らせてそう言った山田先生の方をついジト目で見てしまった。

すると山田先生は慌てた様子で、両手を顔の前でぶんぶんと横に振る。



「あ、いえ。もちろん能力があるからなんて事はないんです。八神くんは本当に良い子ですから。
少々キツいところもありますけど、基本的には優しいし人の気持ちも思いやれるし」

「……惚れたか」

「違いますっ! そうじゃなくて……八神くんはなにかあると、躊躇いなく手を伸ばします」





山田先生は息を整えながら、私達の目の前に映る画面を見る。

だが画面に映るデジモンと黒い仮面の男の影は……ノイズ混じりでよく認識出来ない。

このノイズは除去自体が不可能らしく、私達も直接仮面の男は見ていない。



全ては織斑やデュノアの証言だけだ。その時はまだ教師部隊も到着していなかったからな。





「私を助けた時もそう。今回の事だって……みんなにバレないようにはしていましたけど、それでも手を伸ばした。
そのために自分の危険とか立場の悪化とか、そういう事を気にしている様子もなくて……怖いというよりは、心配ですね。
えぇ、心配なんです。どうしてそこまで出来るのか分からなくて、心配になってしまう」



ノイズ混じりの画面を見ながら山田先生の表情は更に曇り、大きく息を吐く。



「もしかしたらこの子は自分にそういう能力があるからそうしなきゃいけないと考えてるんじゃないかって……不安なんです」

「なるほど。要約すると……山田先生、私は応援するぞ」

「だから違うって言ってますよねっ! 織斑先生、私怒りますよっ!?」





これは改めて八神から話を聞いた方が良さそうだ。うちの副担任の精神衛生上よくない。



あとは釘も刺す事にしよう。やるならやるで、山田先生に心配かけずバレないように上手くやれとな。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



薄暗く赤い照明だけが点いている部屋の中、端末をカタカタカタカタ――これでも逃亡中なので、こそこそと研究中。



もうすぐ出来上がる『コレ』の活躍する姿が待ち遠しくて、つい口元がニヤニヤしちゃう。そんな時、部屋の中で着メロが鳴った。



頭に装着している機械式なウサギの耳がひくひくし、ニヤニヤしていた口元が一気に破顔する。





「むむむ、この着メロは」



この琴の音のような『ぽんぽろぽんぽんー♪ ぽろぽろろん♪』って着メロは、昔から変えていないあの子専用。

私は素早く右手で傍らの折り畳み式でピンク色の携帯を取り出して、開いて通話ボタンをプチっと押す。



「もしもしひるもすー?」



つい嬉しくて、左手でピースサインを作って、頭の上で横にして構える。



「みんなのアイドル、束さんだよー♪」



すると受話器から軽い舌打ちの音が聴こえて、沈黙――ちょっと待ってっ!



「わわ、待って待ってっ! 切らないで箒ちゃんー! もう今日はそのパターンは嫌なのー!」



さっきもちぃちゃんがVTシステムっていうまがい物の話をする時にちょっと冗談言ったら、電話切られてショックだったのー!

だからやめてー! 私はあの一件には本当に関わってないし、なによりそういう事した連中は全員叩き潰した正義のヒーローなのにー!



『……姉さん』



あ、切られなかった。やっりー♪ やっぱり姉妹だから気持ちが伝わるんだねー。



「うんうん、久しぶりだね箒ちゃんっ! 言いたい事はよーく分かってるよっ!」



また切られても困るので、声を弾ませるけど……うぅ、電話の向こうで箒ちゃんが苛立ってるのが分かるー。



「欲しいんだよねー。君だけの専用機が」



でもその一言で、電話の向こうの箒ちゃんが息を飲んだのが分かった。それが嬉しくて、自然と頬を緩める。



「そして八神恭文を筆頭とした強力なライバル達に勝ちたい。うんうん、分かるよー。
箒ちゃんは今力が欲しいっ! 箒ちゃんが描いている強さを具現化する力が欲しいっ!」

『姉さん、なぜ』

「この天才束さんに分からない事なんてないないー♪」

『そうですか。では一つ質問が。……私に辱めを与えた黒い仮面を着けた者と異形のデジモンについては』

「うーん、それは分からない」



あれ、受話口から凄い音が……あー、箒ちゃんがずっこけたんだね。分かります。



『姉さんっ!』

「だってそれだけじゃあ該当者が居過ぎるもの。ほらほら、異形って言うけど、デジモンは基本みんなそうなるし」

『異形は異形です。四つの腕に複数の翼……奴は化け物そのものだった。そうだ、奴は化け物だ』



箒ちゃんの声に黒い感情がどんどんこもっていく。お姉ちゃんとしては、そういう箒ちゃんに触れるのはあまり気分が良くない。特に今は。



『デジモンという存在の醜悪さを全て集めたような害悪。思い出すだけでもおぞましい。
私は奴とそのパートナーに辱めを受けた。だからこそ探し出して』

「あー、はいはい。落ち着いて。でも……四つの腕に複数の翼?」



私は右手で目の前の端末のコンソールを叩いて……お、出た出た。



「あー、それなら分かるかも」

『本当ですか。姉さん、教えてください』

「でも分かるのはその子達がどういう存在かって事だけだよ? 名前や素性はさっぱり。
唯一分かるのは……彼らは『オリジナル』のD-3を持っているという事だけ」



箒ちゃんがまた受話器の向こうで息を飲む。どうやら言っている意味は分かるみたい。



『では、奴らは』

「そうっ! 3年前に世界を救った選ばれし子ども達とそのパートナーデジモンの集団の一人っ!」



デジモンは今でもカメラやレーダーの類に引っかかりにくいけど、目視ならちゃんと存在は認識出来る。

今私が見ているネットの中の目撃情報をまとめたファイルで、それっぽい存在が出てるんだよね。うん、だから間違いないと思う。



「箒ちゃん、そんな子達に会えたのは物凄くラッキーだったよー! 私も是非会いたいくらいだしー!」

『なんの冗談ですか、それは。しょせん侵略者に尻尾を振った裏切り者ではないですか。
そもそもそんな連中が世界を救ったなどデマでしょう。いや、むしろ世界を滅ぼしかけたと見るべきだ』

「どうしてそう思うの?」

『デジモンのパートナーだからです。ただそれだけで充分だ』



あらら、つれないお答え。やっぱり箒ちゃんはデジモン……私は困りながら左手を膝上で動かす。



「そっかぁ。なら箒ちゃんはこの話も知らないんだぁ」

『なんですか』

「いっくんはその四つ腕のデジモンとそのパートナーに助けられたんだよ?」

『それは聞いていますが……だが一夏は白と黒の二対の翼を持つデジモンだと。あのような化け物ではない』



膝上に伸ばしていた左手をまたコンソールに持っていてかたかたーっと。えっと……あー、まぁこれでいいか。



「まぁ確定情報はなに一つないってのを踏まえた上で聞いて欲しいんだけど」

『なんでしょう』

「多分箒ちゃんが言う『化け物』は進化したんだよ。それが白と黒の二対の翼と剣を持つデジモンになるって感じ?」



察するにいっくんはそのデジモンが四つ腕の状態の時に接触。助けられている途中で進化してーって感じかなぁ。

ここはまたいっくんに話聞かないとさっぱりだろうけど、まぁ大体合っていればいいかー。



『では、奴が……奴が一夏を歪めた張本人。だったらなおの事探し出して叩きのめさなくては』

「え、いっくん歪んでるの」

『歪んでいます。奴らはこの世界を喰い潰す侵略者なのに……奴らと仲良くしている。
慣れ合って笑い合って、裏切り者であるパートナー共とも仲良くする。それは歪んでいる。
でも一夏にそれが間違っていると説いても、届かないんです。私に……私に力があれば』



きっと箒ちゃんにとってはデジモンが敵で駆逐するべき存在というのが真実。

箒ちゃんは本当にデジモンの事が嫌いみたい。うーん、お姉さんは悲しいなぁ。



「だから力が余計に欲しいと」

『はい』

「でも箒ちゃん、本当にいいのかなー」



意思確認というか念のためというか……私は明るい声のままそう聞いてみる。



「スパイダーマンのおじさんだって言ってるよー? 大いなる力には、大いなる責任が伴うーって。
箒ちゃんがそういう力を手にするなら、箒ちゃんは嫌でも力に見合う責任と向き合っちゃうんだよねー。
それって箒ちゃんが嫌っているデジモンのパートナー達と同じでもあるんだよ?」

『ふざけないでくださいっ! 私は奴らとは違うっ!』

「ううん、違わないよ。そういう強い力を持つーって意味では」

『いいえ、違うっ! 私は奴らとは違い、真の強さを追い求め理解しているっ!
そんな私に足りないのは力だけだっ! 心すらも未熟な裏切り者達と一緒にするなっ!
そうだ、未熟だから強い力を持つ侵略者に尻尾を振るっ! そんな事は決して許されないっ!』

「そう。なら力さえあれば……箒ちゃんは本当に強くなれるのかな」





箒ちゃんは答えないけど、きっといつもみたいに自己完結で『その通り』って言ってるのはよーく分かった。



うん、箒ちゃんって昔からそうなんだー。一直線というか一途というか、自分が決めたらひたすらに突撃あるのみ?



これでもお姉ちゃんだから、よーく分かるの。だから……これからの事を考えて笑っちゃう。





「分かった。それならすぐに箒ちゃんの望みは叶えられるよ。だってもう用意してるもん」

『え?』



後ろへ振り返り、今私が座っている一人用のソファーの背後にある『アレ』に目を向ける。



「さすがにデジモンには勝てないんだけど……それでもいい?」

『それは困ります。私は学園に蔓延る悪と戦い、あの化け物とそのパートナーを粛清するという使命があります』

「なら渡せない。天才束さんでも、そこの段階に行くにはあと10年は欲しいところなんだー」

『なぜですかっ! 姉さん、なんとかしてくださいっ! 私はそこまで待つ事など出来ないっ!』



箒ちゃんの叫びは完全無視で、また画面に目を向けながら左手でコンソールをかたかたーと叩いて……次のデータを出す。



「箒ちゃん、どうしてデジモン達に既存のミサイルや機銃の効果が薄いか分かる?
それはね、彼らが私達とは違う身体の作りをしているからだよ」

『そんなのは見れば分かる事でしょう。奴らは異形の侵略者』

「そういう意味じゃないよ。彼らはデータの集合体――それが動植物として存在出来る世界からやって来た。
だからね、デジモン達は私達から殴ったり蹴ったり斬ったりしても、干渉の影響が薄いんだ」





まぁ私もデジモンに興味があって、ちょこちょこ調べて……つい最近ようやく分かったんだ。



だってほら、私が作ったISより強いのはしょうがないとして、その理由も分からないのはなんか悔しいじゃない?



これでも天才自称してるしさー。なので目の前の画面に映るのは、そのデータだよ。





「箒ちゃんの言う『強い力を持つ』っていうのは正確じゃないよ。私達とデジモンが戦ったら相性が悪いだけ。
RPGとかで言うなら、常にダメージ半減状態に近いんだよ。ううん、それよりもっと上かも。
それでもしデジモンに完全な殴り合いで勝とうと思ったら……方法は一つ。データの集合体を作ってそれで叩く」

『ならばそれが出来る装備を作ってください。私には時間がない』

「だーかーらー、それは既存の技術じゃ無理なの」





うぅ、箒ちゃんがお姉ちゃんの実力を買ってくれるのは嬉しいけど、強情なのは困り者だよ。

私は困った顔で画面を見ながら、天才って言葉を返上しようかなと考えちゃう。

――私達の世界にある武器や武装は、全部物理や化学を用いた『現象』を起こすもの。



でもそれはこの世界で蓄積された道理に基づくもの。それによって起こる『現象』では、デジモンは倒せない。

それはどんなにオーバーテクノロジーと言われようと、その枠の中に収まっているISも同じなの。

あ、ここで一つ補足だね。そういうわけでデジモンが使う必殺技とかも、厳密にはこの世界の『現象』じゃない。



例えば口から炎を吐いても、それはこの世界の炎じゃない。データが集まって炎という形を取ったに過ぎない。

もちろん現象の基本法則やなんかは変わらないんだ。火に水をかければ一応は消えたりする。

けど、その成り立ち方から違うから対処が難しくなる。特にデジモンの肉体はそこが顕著。データの密集度が高いせいで余計にね。



……そう言えばスレイヤーズの魔族も同じ感じだっけ。特殊な魔法じゃないとダメージが与えられないって話だから。

うん、あれと同じだね。つまり今の私達には、ダイナスト・ブラスもラ・ティルトもドラグ・スレイブもない状態なんだ。

デジモンとの本格的な交流が始まってから3年近く経つのに、各国が強気な対策を取れない根本的な原因はここ。



そういう意味では箒ちゃんの危惧は正しいんだよねー。だってこの世界だとデジモンは、絶対的なアドバンテージを持ってるわけだし。

同時に箒ちゃんの危惧は勘違いに等しい。彼らが侵略者なら、こんなめんどくさい手を使う必要はない。

私だったら一気にデジモン達を送り込んで各国の中枢や軍隊を破壊しているよ。デジモンはそれくらいの事が出来る。



でも実際はデジモンやデジタルワールドが私達と共存したいという意志を持っているから、一種の宥和政策止まり。

あとはほら、3年前と6年前の異変を止めた子ども達みたいに、デジモンと協力し合って問題に対処しようって動きがかなりある。

というか……その異変があるからこそ、その子達に続く形でパートナーになった人達は考えるの。



自分の心の分身とまで言われるこの子達と仲良く平和に生きていく道がきっとあるーって。うん、そういうのは私も分かる。



まぁ箒ちゃんにそこを言っても『それこそが奴らの手』とか言うだろうから……黙ってようっと。うぅ、胸がちくちく痛いよ。





「はっきり言うけど、デジモンを倒したかったら箒ちゃんもデジモンのパートナーになるしかないよ」

『なにをバカな事を……私に裏切り者になれとっ!?』

「そうだよ。それが嫌なら我慢して」

『出来るわけがないっ! いいからなんとかしろっ! 早く一夏を歪んだ道から助け出さなくてはいけないんだっ!
そのためには力が必要っ! 姉さんとてこの世界が奴らに侵略されて悔しいはずだっ! だから』

「それも嫌なら、束さんは箒ちゃんに『力』を渡せないよ」



箒ちゃんの叫びは完全無視で少し声のトーンを落としてそう告げると……箒ちゃんは私に聴こえるように舌打ちをした。



「どうする、箒ちゃん」

『それで、構いません』

「よし、商談成立だねー。まぁデジモンには勝てないけどISとしては凄いから期待しててよ。
現状の最高性能にして規格外。そして白と並び立つもの。――その名は」





その名は『疫病神・悪魔・災厄』――箒ちゃんにとっては色んな言い方が出来ると思う。

箒ちゃん、ごめんね。お姉ちゃん、さすがにさっきの発言と舌打ちはちょっとカチンと来ちゃったんだー。

膝の上ですやすやと眠る子を左手で撫でながら、私はお姉ちゃんとして涙ながらに鉄槌を下していく。



でもしょうがないよね。これは箒ちゃんが望んだ事なんだから。さて、箒ちゃんはどういう道に進むかなぁ。



責任に押し潰されるかな。それとも……まぁ潰されたら潰されたで別にいいか。それも箒ちゃんの選択なんだし。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



使えない。姉さんは私からたくさんのものを奪いながら、肝心なところで使えない。

私は八神恭文達だけでなく、あの仮面の愚者と異形のデジモンも駆逐しなければならないというのに。

しかも意味の分からない話で私を煙に巻こうとしているのが許せん。それでは意味がないんだ。



私は悪と戦わなければならない。そしてあの侵略者共を一匹残らずこの世界から消し去らなければならない。

手始めに私の鼻をへし折ってくれたあの裏切り者共を斬り捨ててやりたいとうのに……本当に使えない。

ISを開発した天才科学者が聞いて呆れる。姉でなければとっくに縁を切っていたところだ。だが、ここは我慢だ。



これで姉さんが自分の分も弁えずにへそを曲げて、私に力を渡してくれなくなっては困るのだ。

私には力が必須。力があれば私は胸に燃える真実の炎を守り通す事が出来る。

そのために私はいくつになっても聞き分けのない子どものような姉にも媚びへつらう必要がある。



これも屈辱だが、全ては真実の炎を守るため。そしてそれを広げていくため。

その炎は浄化の炎。私が奪われた時間から学んだ唯一無二の真実。それは絶やしてはいけない。

私は改めて決意を固めながら空を見上げ、丸く輝く月を睨みつける。一夏、待っていてくれ。



私は力を手にして、必ずお前を助ける。お前は私と共に進み、私と同じ強さを目指すべきなのだ。










『とまとシリーズ』×『IS』 クロス小説


とある魔導師と閃光の女神のえ〜すな日常/いんふぃにっと


第12話 『未だ知らぬN/オーシャンズ・イレブン』










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



――だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!



あなたは目が覚めて、隣に裸の少女が居たらどう思うだろうか。とりあえずオレは見ての通り叫びました。

その上でベッドの枕元に後ずさりながら距離を取り、一糸まとわぬその姿を見て身体に震えが走る。



「ん……なんだ。もう朝か」



眠たそうに右手で目をこすりながら奴は起き上がり、オレの目の前で裸体を晒す。



「お前、なにやってんだっ! というか、なんで裸……とりあえず隠せっ!」



オレが目の前に居る奴を指差すと、奴はムカつく事に疑問の表情を向けてきやがった。



「夫婦とは包み隠さぬものと聞いたぞ」



ベッドの上で膝を崩し、甘い猫のような声を出すのはラウラ・ボーデヴィッヒ。

つい先日まですっげーつんつんしていたドイツの代表候補生。だから目の前の光景が余計に信じられない。



「まして私とお前は夫婦」

「それは違うっ! 包み隠さずってのは精神的なものなんだっ! 肉体的なとこは包み隠すんだよっ!
あと嫁ってなんだよっ! オレはお前が知っての通り男なんだがっ!」

「日本では気に入った異性を『俺の嫁』と言うのだろう。だから」

「お前に間違った日本知識を吹きこんだのは誰だっ!?」



オレはこの学園に来てから、ふやけたパスタとか増えるワカメとか散々言われてる。

だがそんなオレでもそれは間違いだと分かる。なのになぜコイツが分からないのだろう。これが異文化交流の難しさだろうか。



「いや、それ以前にお前性格変わり過ぎだろっ! この間までオレや周囲に対して敵意向けてたのはなんだったんだっ!」

「……私も色々反省したんだ」



あれ、なんか急にしおらしくなった。というか、瞳に涙溜めて落ち込み始めた。



「教官に憧れる余り、その姿を教官に押しつけていた。同時に教官を堕落させている存在を疎んでいた。
私はこの学園全体が憎かった。こんなところに――お前達と関わっているから教官はダメになると思っていた」



それで……じゃあオレ達の読みって、的外れもいいとこだったのかよ。コイツは最初から、IS学園潰すくらいの気持ちで来てたのか。



「ただ強くなれば教官のようになれると驕り高ぶり……その結果がお前の知っての通りだ」

「……VTシステム、だっけか」

「あぁ。既に八神恭文やセシリア・オルコット達にも謝罪している」

「そうなのかっ!?」



驚くオレの方を見て、ラウラは静かに頷いた。



「ただまぁ、八神恭文と篠ノ之箒は納得してくれなかったが」

「そうなのか? でも箒はともかく、八神なら」



箒のあれこれも見ると、そこまで引きずるような奴には見えなかったんだが。



「本当に私が自分を省みているかどうか、疑われているようだ。だから……まずはケジメをつけると」

「つまり、模擬戦?」

「そうなる。もちろんこれは私が望んだ事ではあるので、OKはした。それと」

「なんだ」



ラウラはまた視線を落として一瞬悲しげな顔を浮かべるが、それでもすぐに嬉しそうな顔になった。



「罪は――私が驕り高ぶっていた時間は消えない。私の手で誰かに痛みを与えた事実も消えない。
だが変わっていく事は出来る。過去を踏まえた上で本気でそうしたいと私が望むなら……どんな風にも。
だからその本気を模擬戦の中で自分や見ている人間全てに見せつけろと」

「八神の奴が、そんな事を」

「あぁ」



じゃあアイツ、マジで怒ってるわけじゃないんだろうな。ただラウラが本気かどうか、模擬戦の中でちゃんと見たいって感じか。

てーかそれで周囲に対してのケジメもつけさせるつもりなんだろうな。そこは、きっとラウラにも伝わってる。



「それでその、信じられない事に……逆に謝られた」

「え、なんで……いや、もう言わなくていい。大体分かった」

「そうか」



おそらくあのレーゲン初登場回のアレだと思う。すっげーブーイングだったから、さすがの八神も反省したのか。



「でもお前のISは」

「コアは無事だったので、修復は予備パーツでなんとかなりそうだ。
ただ少し時間がかかるので……もうすぐあるという臨海学校の後になるが」

「そうか。なら、頑張らないといけないな」

「あぁ。――つまり、そういう事なのだ」



ラウラは頬を赤らめ、オレに近づきながら潤んだ瞳でジッと……だから隠せー!



「だからこそお前は、私の嫁だ」

「悪い、それはさっぱり意味が分からねぇっ! 頼むからちゃんと日本語で話してくれっ!」



するとラウラはオレの右腕を取り、素早く自分の身体を絡ませながらオレを倒し……う、腕十字ひしぎっ!?



「な、なんでこんなあっさり」



いや、当然か。コイツ元々軍人なわけだし、オレとかとは基礎経験値に違いが……でも痛いんですけどっ!



「お前はもう少し寝技の訓練をするべきだな。寝技を磨きたいというのなら……私が教えてやらん事もないが」

「なぜそこで照れるっ! お前、絶対性格変わってるだろっ! てーかあれだ、二重人格とかかっ!」

「違う。私がお前を変えてしまったのだ。私はお前の強さに、お前の言葉に」

「一夏、入るぞっ!」



その声に寒気がした。自然とオレの視線は部屋の入口の方へ向けられる。



「朝稽古の時間だっ! 休みだからと言っていつまでも寝てないで」



すると入り口の方から、白い道着姿の箒が木刀を肩に担ぎながらやって来た。



「無作法な奴だな、夫婦の寝室に」





箒がラウラの言葉やこの状況を見てどう思うかは……察してくれ。



そしてオレの日曜の朝は、地獄の色――朱に染まる事になった。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



なぜだ。なぜまた一夏にまとわりつく雌犬が増えるのだ。これ以上は不必要だと言うのに。

しかもよりにもよってあのボーデヴィッヒ……これではだめだ。これでは私の知っている一夏が更にだめになってしまう。

結局今日の朝稽古も流れてしまった。なぜか私から一夏が逃げてしまうんだ。どうしてこうなる。



いや、考えるまでもない。私と一夏との距離がどんどん開いていくのは、あの卑しい雌犬共のせいだ。

姉さんにはまた連絡してツツかなくてはいけないな。子どもなあの人の機嫌を損ねないように注意していかなくては。

とにかく早く力を手にしよう。そうすれば私は一夏と並び立つ者になれるんだ。



早くその力で、私の一夏を汚す愚か者共を全て一掃したい。そうすれば私と一夏は共に同じ道を歩めるんだ。



そして未だガーゼの取れないこの鼻をへし折った奴らを斬り捨てる。力があれば――力があれば。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



IS学園にもモノレールのような交通施設……というか、駅がある。そこからぼくはイチカと制服姿でお買い物のために街に出る。



それでぼくの隣に座るイチカは、頭に包帯を巻いて頬にもガーゼを貼っているような状態。ぼくは頬を引きつらせる事しか出来ません。





「なぁシャルロット、お前ラウラと同室だったよな? なんとか言ってくれよ。もう生命の危険を感じるし」

「あ、あははは……それはその、ごめん。ぼくもまだボーデヴィッヒさんとはコミュニケーションの最中で。
あ、でもファンビーモンとルゴモン……じゃなかった。ロップモンとは仲良くなったよ? 可愛いよねー、あの子達」

「そうか。ならその調子でラウラとも頼む。オレの身体が完全に壊れないうちにな」



あ、それでぼくことシャルロット・デュノアは女の子になったため、イチカとの共同生活を解消。

新しく割り当てられた部屋は、なんとボーデヴィッヒさんと同室で……びっくりだよねぇ。



「というかアイツ、キャラ変わり過ぎだろ。逆に怖いんだが」

「やっぱりこの間のトーナメントのあれこれが引き金っぽいよ? 織斑先生に憧れてた話は」

「あぁ、聞いた。それで千冬姉のようになりたかったともさ」

「そういうのがね、多分ボーデヴィッヒさんの中では重さというか義務感みたいになってたんだよ」



ぼくも未だに素直に謝って来た事が信じられないクチなので、困り顔のイチカに同意しつつも苦笑。



「それが外れたから、多分今のボーデヴィッヒさんが素に近いんじゃないかな」

「重さで、あの不敵なキャラになってたと」

「そうじゃないかな。僕もそういうのは、少し分かる」



そう言って少し俯くと、頭の上に手が乗っかった。その感触が心地良くて視線を上に上げると、イチカがぼくの事を撫でてくれていた。



「ありがと」

「いいさ。でもシャルロット、なんか悪いな。付き合わせちゃって」

「ううん、大丈夫。というか、おあいこだよ」



ぼくはなんでイチカが謝るのか分からなくて、左手で口元を押さえて軽く笑う。



「ぼくの水着、選んでくれるわけだし」

「いや、まぁオレの水着もあるからな。ついでだよついで」



あはは、その言葉がちょっと突き刺さるけど……まぁいいか。ついででも二人っきりで居られるのは嬉しいし。



「……いや、ついでじゃないな。シャルロットが居てくれてかなり助かるかも。
そのための対価と考えたら、ついでなんて言うのは失礼だな」

「え?」



困った笑いを浮かべつつもイチカの方を見ると、イチカは深刻そうな顔をしながら左手で口元を押さえていた。



「ほら、女子と一緒だろ? 変なものを選ぶと場の空気が壊れたりとか」

「あぁ、それはあるかも」



真剣に考えているイチカが可愛くて、ちょっと意地悪するように煽ってみる。



「女の子でも水着選びがダメだと、他のとこが100点でも全部ダメーって言うしねー」

「そ、そうなのか? シャルロット、すまないが力を貸してくれるか」

「うーん、どうしようかなー」

「た、頼む。マジでそこが気になって眠れないんだ」

「不眠症の原因になってるのっ!?」





――ぼくの選択は、今この瞬間にあるもの全て。デュノア社と縁を切って、元の名前で暮らしていく事。



その中にはちょっと気になる男の子と過ごす事も含まれていて……だから今、イチカと笑い合える瞬間が嬉しい。



まぁその、本当にイチカの言うように父に感謝してもいいかな。イチカもあんな風に言ってくれた事だし。





「でもイチカ、篠ノ之さんって前々からあんな感じなの?」

「……なんだよなぁ」



さすがに生身に斬撃して怪我させるなんてありえないので、そこは心配で……医務室でちゃんと見てもらいはしたそうだけど。

でもイチカ自身も篠ノ之さんのあれこれには困惑しているようで、表情を曇らせて左手で頭を抱えた。



「確かに意地っ張りというか、強がりなところは昔からあったんだよ。ここは実家が剣道場してる関係かな。
小学生の頃からかなり強くて、自分は武士になるんだーって公言してはばからないくらいで。でも」

「あんな感じではなかった?」

「あぁ。少なくともこう……言い方は悪いかも知れないが空気は読める奴だった。
デジモン嫌いだとしても、それを表立って言うとあの保健室に居た子達みたいに思う子だって居る」

「うん」



あの悪口のコンボも相当だったよなぁ。まだ男の子状態で聞いてて驚愕したのを思い出して、曖昧な笑いをイチカに向ける。



「そういうのが分からない奴じゃないんだよ。いや、むしろそういうのを嫌ってる方だと思ってた。なのに」

「その原因については」

「さっぱりだ。前に八神とセシリアにもツツかれてチャンスを見て聞いてるんだが、いつも同じなんだ。
『私を信じろ・奴らは侵略者だ・共存など出来るはずがない・このバカ者』……もう全然話が出来ない」



最後の関係ない発言をどういう状況で言うかはもう分かってしまったので、触れない事にする。

でもこれ、イチカ自身も相当困ってるみたい。どんどん表情暗くなってるし。



「実は八神が昨日オレの部屋に来てさ」

「話の流れから察するに、篠ノ之さんの事?」

「あぁ。それで箒の評判が更に悪くなってるって教えてもらった。
というか……確認されたよ。でもさっき言った通りで、オレ謝る事しか出来なかったし」

「いや、イチカが謝る必要は……でもそれ、困っちゃったね」



ぼくはため息を吐きながら、座席に体重を全部かけて息を吐く。



「でもちょっと意外。先生達はちゃんと篠ノ之さんの事情に配慮しようとしてるんだね」

「あぁ。なんか箒の危機感みたいなもの自体は理解してくれてるそうなんだよ。
だからもしそうならざるを得ない原因があるなら、配慮はしていきたいって……なのにアイツ」





あー、そういう事情なら分かるかも。デジモンそのものの能力の高さや異変関係の事とかがあるしね。

日本はその中心地となっていたそうだし、もしもこう……デジモンに襲われて怖い思いをしたーとかならしょうがないのかも。

でも肝心要の篠ノ之さんがなにも話さないのは困るよね。それじゃあこっちも配慮しようがないもの。



それも幼馴染で学校の中で一番親しいはずのイチカにこれ。うーん、出来ればぼくも力になりたいなぁ。



この間は頭に来てキツい事言っちゃったけど、イチカの大事な幼馴染だもの。イチカが篠ノ之さんの事を放っておけないなら、手伝いくらいはしたいの。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


臨海学校――まぁ演習も込みとは言え、水着が必要になる。なので私はファンビーモン達と一緒に街に出て水着を選びに来た。



うん、ここまではいい。問題はその……水着ショップというのは見つけたのだが、色とりどりでデザイン豊富で……分からん。





「世の中にはこんなに水着があるのか」

「綺麗だぶ〜ん」

「るごるごー」



ロップモン、勝手に水着を手に取るな。店員に怒られるぞ。

あと、楽しそうに合わせるな。腰をくねらせるな。お前にはそれいらないだろ。



「それでラウラ、どんな水着を選ぶぶ〜ん」

「……分からん。もう学校用の共用水着でいいのではないだろうか」

「既に諦めてるぶ〜んっ!? あ、ならシャルロットと一緒に」

「だめだ。シャルロットはシャルロットで所用だからな。それの邪魔をするわけには」

「――水着選びって、毎年迷っちゃうよねー」



もう寮に戻ろうと思っていると、近くの客の声が……大きいな。だが楽しそうだ。

そちらに視線を向けると、声の印象通りに楽しそうな女性が一人、連れ合いの女性に水着を見せていた。



「これがだめだと、彼氏に振られちゃう可能性大だしねー」

「だよねー。水着がだめだと他が100点でもアウトだしねー」

「な……!」

「ほへー、そうなのかぶ〜ん」

「るごーるごー」





とりあえず寝そべってウィンクしているロップモンは無視で、私は……こうなったら仕方ない。



右手で素早く黒い長方形型の通信機を取り出し、専用回線のチャンネルにかけて……よし、繋がった。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ドイツ国内軍の中にあるここ――IS特殊部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ』の司令室は今日も通常営業。

少々薄暗くも広い部屋は四方が端末に囲まれ、前方と天井と足元には巨大モニター完備。

そして部隊員は隊長と同じ疑似ハイパーセンサー『ヴォーダン・オージェ』が埋め込まれ、全員眼帯装備。



私達は隊長のように機能が暴走しているわけではないので、本来は着用不要。

だがここは隊長を倣い、部隊の統一意識を高めるために着用している。なお、私の趣味。

日本では眼帯を着けた少女は強さの象徴という。例えば相手を簡単にスクラップに出来るとか。



そんな私達通称『黒ウサギ隊』の司令部に、通信が入った。これは……隊長?



私は迷いなく通信を繋ぎ、左耳に装着しているインカムのスイッチを入れる。





「受諾、クラリッサ・ハルフォーク大尉です」

『わ、私だ』



あれ、隊長の声がおかしい。いつもの隊長ならきっちりとした感じで……なるほど、分かりました。



「ボーデヴィッヒ隊長、どうなされましたか?」

『あぁ、とても重大な問題が……いや、部隊を向かわせる必要はない。そちらになにかを調べてもらうという事もない』

「ではなんでしょう」

『その……織斑一夏の事だが』



やはり。隊長がここ最近でこういう状態になる時は、必ず……私は冷静を装っていく事にする。



「織斑教官の弟で、隊長が好意を寄せているという織斑一夏氏ですね」

『そうだ。お前が言うところの……私の嫁だ』





司令室に居る10数人が一気にざわめき、楽しげに笑う。……一昔前なら考えられなかった事だ。

隊長は……まぁ言い方が悪いのを承知で言うと、一度ドイツ軍内部で落ちぶれた事が原因で周囲に心を閉ざしていた。

それは私達同じ部隊の人間に対しても同じで、唯一の例外はファンビーモンとロップモンだった。



二人はパートナーという事もあるし、隊長が本当に辛かった時期を支えてくれた友でもあるから当然なのだが。

とにかくそのせいで隊長は部隊員とも距離が微妙。だがそれも、隊長が恋に落ちた事で緩和された。

やはり年頃の女性というものは、そういう話が好き……いや、隊長が『隙』を見せた事で、距離が縮んだと言った方が正解だろう。



それは今までそこをなんとかしたいと思っていた私にとっては嬉しい事で……つい目頭が熱くなってしまう。





「それで織斑氏の事でなにか」

『実は今度臨海学校へ行く事になったのだが、水着の選択基準が分からない。そちらの指示を仰ぎたいのだが』

「なるほど……隊長、一つ確認です。隊長が水着を選ぶという事は、学校からそこに関しての制限はないと」

『あぁ。それでその』



む、いきなり口ごもり出した。隊員達はこういう隊長が新鮮なのか笑顔を浮かべているが、私はそうもいかない。



『日本ではどうも、水着に失敗すると他が100点でも男性から振られるそうだ』



私が感じていた嫌な予感通りに、とんでもない爆弾が投下された。当然のように場がざわめく。

まさかそこまで……いや、落ち着け。東洋のオリエンタルと考えれば納得出来なくもないだろう。



「分かりました、隊長。この任務……全力を持って当たらせていただきます」

『助かる』

「いえ。この黒ウサギ隊はいつでも隊長と共にありますから。……して、現在所有なさっている水着は」

『学校指定の水着が一着だ。これでもよいかと考えていたのだが』

「なりませんっ! 隊長、早まらないでくださいっ!」



あ、危なかった。隊長は世俗の事に疎いから、ファンビーモン達が止めてもおそらくそれで……なんたる悲劇っ!

私は右拳を握り締め、胸のうちで隊長が地獄を味わう寸前で止められた事を感謝した。



「確かIS学園は旧型スクール水着だったはずです。それも悪くはないと思います。ですがそれでは……完全にイロモノですっ!」

『な……なん、だと』

「もしこれが全員同じ――ようは学校から制限が出ているなら、大丈夫です。
ですが先ほどの日本文化を鑑みるに、そちらに留学している生徒も日本出身の生徒も力を入れるはず。
そこに隊長だけがスクール水着なのですよ? 確かに隊長はそれが似合うでしょう。ですがいけません」

『つまりその、どういう事だ』

「隊長一人だけが『小学生』と思われます」





あれ、なんか向こうからドサって音が……ファンビーモンの『しっかりするぶ〜ん』という声が聴こえるのだが。

いや、これも仕方あるまい。確かに高校生は小学生を恋愛対象にするものとは思う。

私が所有している日本のサブカルチャー的なコミックではそうだった。それが日本では普通らしい。



だがそれも周囲との温度差次第だ。隊長一人がそっちに走っては、隊長の夏は……終わる。





「ですが安心してくださいっ!」



おそらくは崩れ落ちて呆然としているであろう隊長を励ますように、私は司令室全体に響くような大きな声をあげる。



「先程も言ったように、黒ウサギ隊は隊長達と共にありますっ! 私が……いえ、私達が全力で隊長の夏をサポートしますっ!」

『クラ、リッサ』



すると電話の向こうから、嗚咽が聴こえ……隊長、泣いている?



『すまない。私はお前にも、部隊員にも迷惑をかけてばかりだというのに』



その言葉で今度は私が嗚咽を漏らす番だった。いや、私だけではない。司令室に居る全員が、涙を零し始めている。



「なにを仰ります隊長っ! それでも私は、隊長のお側におりますっ! なぁみんなっ!」

『はいっ!』





こうして私達黒ウサギ隊の結束は更に強くなった。さぁ、次は隊長の水着選びだ。



遠い島国で人としても女性としても一回り大きくなられた隊長のために私は、全力を尽くそう。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



学園近くの駅に降り立ち、学園近郊という事もあってかかなり綺麗な街並みをぶらぶら歩いている途中。



まぁ目的ありなんだけど……予約出来て良かったなぁ。そうじゃなかったら朝一番で数時間並んでたし。





「あれ、八神くん」



後ろから慣れ親しんだ声がかかったのでそちらを見ると、黄色い胸元の開いたスーツを着た山田先生がこっちに近づいてきた。



「あらま、山田先生。どうしたんですか」

「いえ、少し買い物に。でも八神くんはどうしたんですか?
恒例の里帰り……あ、臨海学校に備えて水着でも」

「それは向こうの方で用意しますし。というか……特別新調する必要もないですから。だって数年前から体型ほとんど変わってないし



あれ、山田先生はどうして右手で口元を押さえて嗚咽を漏らすんですか? やめてくださいよ、僕可哀想な子になっちゃうし。



「と、とにかくお買い物なんですね。でもなにを」

「いや、このセンター街に限定のロールケーキがあるんですよ。それ買ってから戻る事になってて」

「オレ達も含めて四本分だな」

「全く……一人一本までとはどういう事だ。腹の足しにもならんぞ」

「ヘイアグモン、そろそろお前の食欲に対応出来る店は少数だと気づけっ! 私達に常時バイキング生活を送れとっ!?」



ダガーレオモン、いいツッコミだよ。だから予約して……みんなには心配もかけてるし、たまにはこういう事もしたいなーと。

右手で店のある方を指差すとなぜか山田先生は驚いた顔をして、また口元を右手で押さえた。



「もしかしてベルフェーヌですか?」

「はい」

「それは偶然ですね。実は私も買いに来たんです」

「あらま、そうだったんですか」

「はい。あそこのロールケーキ、本当に美味しいんですよ」



僕達は自然とまた同じ方向に足を進め始め、山田先生は僕の右隣に来る。



「でも先生一人で食べるんですか?」

「……太りませんからっ! あと、胸が大きくなったりもしないですからっ!」

「アンタいきなりなんの話してるっ!? あと、両手で胸隠すのやめてくださいよっ! 僕がいやらしい事考えたみたいだしっ!」

「す、すみません。実はその」



山田先生は両手のガードを外して、少し落ち込んだ様子で俯く。それから両手でメガネを軽く正した。



「甘いものは基本的に大好きで……それでその、級友とかによくそういうからかわれ方をして」

「えっと……太るとか、胸が大きくなるぞーとか」

「はい。うぅ、ヒドいですよね。女の子がロールケーキ一本丸々食べる事のなにがおかしいんでしょうか」



いや、僕はおかしいとは一言も言っていない。それにまぁそれくらいなら……フェイトやリインフォース達もやるしなぁ。



「えっと……なんかすみません。僕はてっきり山田先生が織斑先生や他の先生達とお茶でもするのかなーと」

「あぁ、そうだったんですか。うぅ、思い込みが激しくてすみません。私、先生失格ですよね」



いやいや、だからそこまで……お願いだから落ち込まないでっ! なんでそんなテンションおかしいのっ!?



「なぁ、少し思ったんだが」



他の人の邪魔にならないように僕達の後ろをついて来ているヘイアグモンの方を見ると、腕を組んで僕と山田先生を交互に見比べてた。



「学校の外で先生呼びはいいのか? 目立つと思うのだが」

「いや、問題はないと思うけど……じゃあ名前呼び? 真耶さんとか」



軽く冗談っぽいく言って山田真耶の方を見ると、山田真耶はなぜか顔を赤くしていた。



「真耶……だ、だめです。いきなりそんな」

「え、なんですかその反応。なんでそんな顔赤いんですか」

「私、男の人に名前で呼ばれた事がほとんどなくて……大体は『山田』で済みますし、楽だそうですし」





あぁ、それでなんだ。この人マジで男性に触れる経験とか0なんだなぁ。

まぁIS学園通ってたくらいだし女子多めな生活が基本だったんでしょ。

僕は照れてる様子の山田先生が可愛くて、ちょっとからかいたくなってしまう。



いたずらっぽく笑いながら改めて山田先生を見上げると、山田先生は僕の方を見て首を傾げた。





「じゃあこれからは真耶先生って呼びましょうか」

「そう、ですね。でも今は学校の外ですから」



山田先生――真耶先生は足を進めながら呼吸を整え、右手を自分の胸元に当てて僕と同じ笑いを返してくれる。



「真耶で、かまいませんよ? あ、これだと私も名前で呼ばなくてはいけませんね。では……恭文くん」

「はい、真耶さん」

「あ、呼び捨てじゃありませんね」

「いや、さすがにそれは躊躇っちゃって。ほら、年上ですし」

「そうですか。それは……うん、合格です」





そのまま二人で意味もなく名前を呼び合いながらお目当てのお店に到着。



一緒に合計五本のロールケーキを買って、また僕達は笑い合いながら歩き出した。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「人間……またか? またなのか?」



ダガーレオモン、泣くのはおやめなさい。まだ大丈夫です。まだ仲良くなっただけで済みますから、大丈夫です。

山田先生は良識的な方ですし、まさかお兄様と……あぁ、でもあの笑顔に女の勘がびびっと走ります。



「アイツ……フェイト居るのになんでまた」

「なぁ、俺達はアイツに大奥を作る事を進めるべきじゃないだろうか」

「そうかも知れんな。ただその場合の障害は……やはりフェイトのフォークだが。アレ相手だと究極体でも勝てない」

「しかも現在成長中ですしね。もうどんな敵が出てもフェイトさん一人だけでOKな勢いです」





まさか山田先生、先日のあれでお兄様にフラグを立てられたとか? いえ、まだ判断は出来ませんね。



山田先生は教職に就く方で男性経験に乏しい方ですし、距離感の縮め方が若干おかしくても……やはり問題でしょうか。



私、泣いているダガーレオモンとショウタロス達共々今目の前を歩く山田先生がとんでもない爆弾になりそうで、不安です。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



真耶さんに連れられる形でちょっと寄り道。二人で談笑しつつ入ったのは、水着ショップ……あれ、ちょっと待って。



これはその、なんかやばくないかい? ちょっと頬を引きつらせて僕は真耶さんの方を見上げた。





「えっと……真耶さん」

「はい、なんですか」

「さすがに先生と生徒で一緒に水着を選ぶのはマズいんじゃ」

「あ、それなら大丈夫です」



真耶さんは僕の方を見ながらクスリと笑って、店内に足を進めていく。



「実は水着はもう決めてあるんです。ただ欲しかった色がなくて……取り寄せてもらっていて」

「あ、そうなんですか」

「はい。なので今日は受け取りだけですね。少し待っていてください」





真耶さんは僕が頷くのを見てから更にお店の中に足を進め、店員さんに話しかける。



それで店員さんはすぐにお店の奥に引っ込んで、四角い40センチ程度の箱を真耶さんに渡した。



本当にすぐ終わったのにちょっとビックリしていると、真耶さんがこっちに戻って来る。





「お待たせしました。さ、行きましょうか」

「えっと、試着は」

「それはこの間測ってもらっていますから大丈夫です」





笑顔で自信ありげにそういうので……まぁだめだった時はなんとかするでしょ。

とにかく右手にロールケーキの袋を持ち、左手で箱を抱える真耶さんについて行く形でまた外に出た。

やっぱり夏も近い事もあって、外と中とだと気温差が激しい。もう外出たらむあーってきたし。



それでも僕達は駅の方にまた足を進め始める。それで真耶さんが左手の箱を持ち直した。





「真耶さん、持ちにくいなら僕が持ちますけど」

「え?」



隣を歩く真耶さんが呆けた顔をこっちに向けて来た。でもすぐに僕の行っている意味が分かったらしく、表情を綻ばせた。



「恭文くん、ありがとうございます。でも大丈夫ですから」

「分かりました」



まぁ駅まで10分もかからないしなぁ。それまでなら……いや、この人の事だから派手にコケたりとかありそうで。



「あー! 恭文くん、今失礼な事考えましたねっ! いけませんよっ! 先生には敬意を持って接してくださいっ!」

「だからなんで分かるんですかっ! ……いや、でもしょうがないじゃないですか。あなたラファール装着して大暴走して」

「そこには触れないでくださいっ! あ、あれはその……弘法も筆の誤りなんですっ!」

「自分でそこ口にするってどうなんですかっ!?」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



生まれて初めて男の子と名前を呼び合いながら歩いていく時間が楽しくて、自然と距離も縮まって……だめだめ。

私は教師だもの。ここでその、誤解をされるような事をしてしまったら恭文くんにも学園にも迷惑をかけてしまう。

今はプライベートだけど、それでも線引きはしっかりしておかないと。でも……こうして話しているとこの子は普通の子なんだよね。



話しやすいし穏やかで、そういう姿を見ていると私の心配はただの杞憂なのかなとも思ったりする。



でも……あぁだめ、やっぱり心配。この子があまり無茶をしないように、出来る限り力になっていきたいんだけど。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



7月の6日――僕達1年は臨海学校にやってきた。空は青く、砂浜は白く……そして広がる入道雲は果てしなく大きい。



眼前に広がる海の大きさに僕達は歓声をあげて、自然とあの『青』目指して足を進めていく。



そして僕は一人水着ばかりの集団の中を突っ切り、海に向かって全力全開で叫ぶ。





――僕の影が薄いぞバカヤロォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!

「八神くん、一体なにやってるんですかー!」



後ろから聴こえる真耶先生の声は無視して、僕は更に声をあげる。



叫びたくもなるわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! なんか知らん間にローゼンメイデンデレてるし、僕なんか最近話に置いてけぼりだしっ!

「意味が分かりませんよそれー!」

僕に出番をぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!

「恭文くん、落ち着いてくださいー!」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ねぇ、セシリア」

「なんですの、凰さん」

「なんで山田先生までわざわざ声張り上げてアイツとコミュニケーションしてるのかしら」

「さぁ、わたくしにも分かりません」



あー、やっぱりかー。それでその、もっと分からない事があるんだ。例えば先生がさっき一回だけ、教官を名前呼びしているのとか?

あとはね、なんでか一夏が恭文に近づいて左隣陣取ったって事よ。



IS学園にもっと男ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! やっぱ肩身が狭いんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!

「織斑くんも叫ばないでくださいー!」

「ねぇセシリア、アイツバカよね。普通そこ、『ハーレムだー♪』とか言って喜ばない?」

「否定は出来ませんわね。でも、そこまでだったんですか」



我ながらこの冷め具合がちょっと怖くなってると、恭文の左隣から凄い勢いで誰かが……あの、砂煙上がってるんだけど。

とにかく誰かが全力疾走してきて、恭文はそれに気づいてそちらを見た。



「ヤスフミィィィィィィィィィィィィィッ!」



その人は金髪で黒ビキニ着用で……すっごい見覚えのある人が、恭文に抱きついた。

恭文はその人を全力で受け止めて、この暑いのに抱擁しつつその顔を見て驚いた表情を浮かべる。



「……フェイトっ!?」

「うんっ! あ、それと」



それでその人は一目は気にせずに少し頬を赤く染めて、恭文の唇にキスをした。



『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』





全員がその光景に唖然とし、セシリアに至っては口を開けて右手で二人を指差しながら震えてる。

かく言う私も引きつった笑い浮かべてるわよ。知り合いだけどさすがに引きつるわよ。

まぁまぁバカップルだバカップルだと思ってたけど……って、アンタも目閉じて受け入れるなっ! あとディープにやるなっ!



あと極々普通に右手をバストに当てるなっ! なにやんわりと……いやらしいからやめてっ!



――とにかく少しだけねっとりとしたキスを私達に見せつけてから、二人は顔を離して嬉しそうに微笑む。





「えっと、おはようのキス。ここは家じゃないからただいまじゃないけど……うん、おはよう」

「そ、そっか」





アンタ、ツッコミがなっちゃいないからっ! そこ違うでしょっ!? もっとツッコむべき要素があるじゃないのよっ!



いつものキレの良いツッコミはどうしたのよっ! この話アンタがツッコまなきゃ進まないって事忘れてるしっ!





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「おいおい、いきなりキスって……なんだアレっ!」

「ぼくに聞かれても困るよっ!」

「なるほど、そういう事か」



それで左隣からラウラの声がしたのでそちらを見ると……うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!

な、なんか銀髪ツインテールで眼帯つけた全身ミイラな奴が居るんだがっ!



「お前誰っ!?」

「一夏、なにを言っている。私の嫁としての自覚が足りんだろ」

「だったらそのミイラ状態はやめろよっ! しかもその状態でどうやって眼帯つけたっ!」

「細かい事は気にするなっ! ……とにかく、あの女の事だが分かったぞ」

「マジかよっ!」



あ、でもコイツドイツの黒うさぎ部隊ってとこに居るから、その関係か。

オレとシャルは感心しながらも改めてラウラの顔……まぁ全然見えないが。



「ねぇボーデヴィッヒさん、あの人って」

「奴は八神恭文に接吻をした。その上胸部への接触まで許している。すなわち」

「すなわち?」

「奴は八神恭文を自らの嫁としているんだ。もしくはあれだ、インスピレーションという奴だな。
海で出会った男女は炎のように燃え上がってくんずほぐれつすると聞く。だからこそ二人は」

「「その間違った常識を捨てようかっ! うん、まずそこからだからっ!」」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「でもいきなり胸って……ヤスフミ、エッチだよ」

「それ言うならフェイトの方がエッチだよ。いきなりキスだし」

「ううん、ヤスフミの方がずっとエッチだよ。だって……15歳になってから私の事、たくさんいじめてくるし」

「ううん、フェイトの方がエッチだ。だってあれとかそれとか……うん、エッチだ」



だからツッコめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ! あとまたイチャつくんじゃないわよっ! そしてなんの話をしてんのよっ!



「私はエッチじゃないよ。ヤスフミがエッチだからエッチなの」

「違うよ。フェイトがエッチなんだって」

「ヤスフミだよ」

「フェイトだよ」



それで二人は頬を膨らませながら睨み合って……それでも胸から手を離さないのがミソ。



「ヤスフミ」

「フェイト」

「……ヤスフミだよ」

「……フェイトだよ」

「だからヤスフミなんだからっ!」

「フェイトだって言ってるよねっ!」



そこでどうしてキレるのか意味分かんないんですけどっ! というかさ、マジでバカップル振りが治ってないのはおかしいからっ!



「それじゃあいいよ。今から勝負だから。それで負けた方がエッチって事でいいよね」

「うん。いつものように……二人で、だよね」



それでまた二人して瞳を閉じるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 一体なんの勝負するつもりよっ!



「やめんか、バカ者共が」





でもそんな二人の頭頂部に出席簿を……そう、海に来て黒ビキニ着用してるのになぜか出席簿を持った織斑先生が鉄槌を下す。



そこの辺りに不思議はあるけど、あたしは心の中で先生はやっぱ良いツッコミするなと感心した。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



現在、僕とフェイトはなぜか砂浜で織斑先生の目の前で正座させられてます。



というか、そうするしか選択肢がなか……だからちょっと待ってっ!





「フェイト、なんでこんなとこに居るのっ!?」

「八神、お前もっと早くツッコめ。お前からツッコミを無くしたらなにが残る」

「残りますよっ! というか、僕の価値をツッコミだけに限定するのやめてもらえますっ!?」

「気にするな。……それで、この方はやはりお前の知り合いか」

「はい。というか、婚約者です」



織斑先生は予想はしていたらしく、『やっぱりか』という顔をした。



『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』



でもなぜか後ろで凄い悲鳴が上がって、女子共がまた騒ぎ出した。



「八神くんの婚約者って、あんな美人だったのっ!? しかもスタイル凄く良いしっ!」

「どこかのアイドルでも通用するよねっ!」

「あれじゃあ勝てないよー! しかもさっきも……ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」



なぜか泣いている人間が多数で、フェイトがちょっと頬を膨らませてるけど……僕は気にしない。



「なぜそんな婚約者がここに来ているんだ。今回は遊び目的ではないんだが」

「いやいや、僕も知りませんってっ! どこ行くのかとかも教えてないですしっ!」





織斑先生が疑わしく僕を見るので、それはもう何度も頷いたさ。……今回の臨海学校は、実はISの演習も込み。

その主題は『ISの非限定空間に置ける稼働試験』。簡単に言えば『閉鎖されてない屋外でIS動かしましょ』って事だね。

例えばいつも使っているアリーナや練習場も、一応その閉鎖空間に入るの。ほら、天井はないけど広さに限界はあるから。



もちろん演習の際には国や周囲の自治体の許可も取ってあるから、そこは問題ない。影響が少ない地域も選んでいるらしい。

あと、こういう時は各国から代表候補生宛てに新型装備が送られてくるのが恒例だとか。

普段とはシチュが違う状況でのデータ取りのためだね。元々そのための代表候補生であり、専用機だから。



僕宛てに送られたガンナーパックも、一応それに入るのよ。……今の今まで出番0だけど。





「本当か? お前、影が薄いのを気にして自分がツッコむ状況を作るために」

「なんでそんな命張ったマッチポンプ仕掛ける必要があるんですかっ! それともうツッコミから離れてっ!」

「八神、正直に吐け。そうすれば反省文と懲罰用の特別講習だけで済ませてやる」



なんかすっごい疑われてるっ!? しかもなんでこの人凄い確信持ってるのよっ!



「婚約者が居るのに散々言い寄られていたお前は」



やめてー! フェイトの前でそういう事――いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!

フェイトがどこからともなくフォークを左右の両手に三本ずつ持ち出したぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!



「うちのバカ共を振り払うために実際に婚約者と会わせる事を計画した。その上で先ほどのような淫行に走った。
あれだけ濃厚にやれば、さすがのバカ共でも無理だと思うからなぁ。八神、正直に吐け。そういう事なんだろう」

「待って待ってっ! どこが淫行っ!? 婚約者同士ならキスくらい普通でしょっ!
普通におはようのキスとおやすみのキスと行ってきますのキスと行ってらっしゃいのキスするでしょっ!
もちろんただいまのキスとおかえりのキスもするし、それくらいは普通でしょっ!」



すると再び海の近くなのに出席簿が飛んで来たので、僕は頭頂部に打ち下ろされたそれを真剣白刃取りで受け止める。



「それだけやれば充分な淫行だ。あとはツッコミがなっとらん。このバカ者が」

「なに、その理不尽な理由っ! ホントに僕はなにも知らないのにっ!
あ、先生には婚約者が居ないから……力加えるのやめてっ! なんで殺気全開にしてるんですかっ!」

「八神、地獄のその先を見たくはないか? そうか見たいか。ならば今すぐ送ってやろう」

「僕はなにも言ってないからー! 脳内会話で処罰を決めるのやめてくださいよっ!」

「えっと、そこは本当です。えぇ、たまたまなんです」



嘘つけっ! さっきはフェイトに会えたのが嬉しくてにこにこしちゃったけど、さすがにそれおかしいでしょっ!



「ほう、ではあなたはたまたま水着を着ていてたまたま八神と遭遇して、たまたま公衆の面前でディープキスとバストタッチを披露したと」

「はい。だって私、婚約者ですし」

「それはまた……面白い冗談ですね」



ほらほら、先生だって気づいてるしー! てーか殺し屋の目発動しちゃってるしー! ねぇ、もしかして歌唄と知り合いっ!?



「えぇ、たまたまです」



それでなんでフェイトもそこで笑顔で対抗しちゃうのっ! 相手が悪過ぎるからっ! フォークも構えなくていいのよっ!

あと、背中に虎のオーラとか出さなくていいのっ! タイガースファンなのはもう知ってるからっ!



「だって……ほら」



フェイトはそう言って笑顔で左手を上げて、9時方向を指差す。僕も織斑先生も波の音を聴きながらもそちらに目を向けた。

指差す方角のだいたい500メートル先には僕達とはまた別の一団が大きめのビーチパラソルの下に居て……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!



「今日は家族と日帰り旅行に来ていて……だからたまたまなんです」



そこに居るのはもう言うまでもないけど、うちの家族だった。まずリインフォースとシャマルさんが居る。

アルフさんも際どいビキニ姿で居るし、リーゼさん達まで……僕は頭抱えて震えるしかなかった。



「八神」

「ごめんなさい、なんとも出来ません。先生、お願いします。ブリュンヒルデの力でなんとかしてください。
というか先生権力者じゃないですか。こういう時に備えての教職でしょ? だから頑張って」

「そうか。ではお前の責任でなんとかしろ」

「なんとも出来ないって言ってるじゃないですかっ!」



この押しを見てなお僕になんとかしろとっ!? というか、こういうのは生徒の仕事じゃないしっ!

それでなんで僕の方を見ていきなりキャラ崩壊な良い笑顔浮かべるのっ! 気持ち悪いからそれやめろっ!



「大丈夫だ、八神。お前ならなんとか出来る。私はそう信じている」

「無理言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」





海に着いたら11時――そんな中、僕の叫びが辺りに響き渡った。



こうして臨海学校は初っ端から大波乱の予感を出しつつスタートした。





(第13話へ続く)




















あとがき



恭文「さてさて、最近作者は」



※メイン


光と闇の竜(1)

ドラグニティ・ドゥクス(3)

ドラグニティ・レギオン(3)

ドラグニティ・ファランクス(3)

ドラグニティアームズ・レヴァンティン(2)

ドラグニティアームズ・ミスティル(1)

ドラグニティ・アキュリス(3)


光の護封剣(1)

手札抹殺(1)

死者蘇生(1)

サイクロン(2)

おろかな埋葬(1)

テラ・フォーミング(2)

死者転生(1)

貪欲な壺(2)

調和の宝札(1)

竜の渓谷(3)


時の機械ータイム・マシーン(1)

攻撃の無力化(1)

神の宣告(1)

盗賊の七つ道具(1)

聖なるバリア・ミラーフォース(1)

奈落の落とし穴(1)

ゴッドバードアタック(1)

くず鉄のかかし(1)

神の警告(1)



※エクストラ


氷結界の竜 ブリューナク(1)

A・O・J カタストル(1)

スターダスト・ドラゴン(2)

レッドデーモンズドラゴン(1)

ゴヨウ・ガーディアン(オンラインだと禁止じゃないので1)

マジカル・アンドロイド(1)

ブラックローズドラゴン(1)

エクスプロード・ウィング・ドラゴン(1)

神海竜ギシルノドン(2)

ドラグニティ・ヴァジュランダ(1)

氷結界の竜 トリーシュラ(1)



恭文「――というデッキでなんとか勝ち越せるようになったそうです。そんなわけでみなさんこんばんみ、蒼凪恭文と」

フェイト「いきなりデッキレシピ公開っ!? と、とにかくフェイト・T・蒼凪です。でもヤスフミ、オンラインだと普通には手に入らないっていうカードが」

恭文「そこはやり方があるのよ。やり方がね。ちなみにテラ・フォーミングが二つもあるのは……察してください。
貪欲な壺が二つもあるのは……察してください。長期戦になった時はこれで墓地のドラグニティ引っ張り出すためです。
あと攻撃や召喚無効のトラップが多いのは、竜の渓谷が壊されたりモンスター居なくなった時のため。
まぁまだ調整中ですけどね。光の護封剣の代わりにブラックホールがいいじゃないかとか考えたり」



(なぜブラックホールか。そんなの……激流葬(罠)がサイコショッカー(罠)のせいで使えなかったからだよっ!
それもランダム対戦のはずなのに三連続でっ! そりゃあ罠カードの採用率も下がるさっ!)



恭文「そんなこの作者のフェイバリットカードは」

フェイト「ちょっと待ってっ! あの、話の内容に触れなくていいのっ!?
ほら、新キャラとか出たし、山田先生がA's・Remixのヤスフミと仲良くなったりしたのにっ!」

恭文「大丈夫だよ。次回からぶっ飛ばすから」

フェイト「あ、そうだね。よくよく考えたら特に特筆すべきとこもないしね。ほら、私の登場とかも普通だし」



(……え?)



恭文「それで作者はスターダスト・ドラゴンがフェイバリットカード。フィニッシャー(とどめ)の事多いんだっけ」



(一応。というか、場に出しておくと安心感が半端なくてついつい出しちゃう。それに遊星のカードだし、スターダストは綺麗だし)



恭文「まぁヴァジュランダとかはカウンター取られたらそれまでだしなぁ。結構使うタイミング限られるんだよねー」

フェイト「基本は罠で相手の攻撃をしのぎつつ墓地を肥やして削るんだっけ。
レギオンとアキュリスでマジックカードやモンスターを排除しつつ、速攻でシンクロしまくって数で圧す」

恭文「そんな感じっぽい。あとはゴヨウ・ガーディアンでモンスター奪取? 例え次倒されても壁役とかにも出来るし。
それでね、相手のモンスターを奪取してシンクロしたりとどめ刺したりすると……楽しいよね」


(あぁ、それは分かる。こう……背徳感が)



恭文「まぁそんなデッキで近々行われるオンラインの公式大会に出ようとした作者」

フェイト「あ、そんなのあるんだね」

恭文「うん。でも出られないの」

フェイト「え、どうして? なにか予定があるとか」

恭文「ううん。出場条件が最低でも250戦以上しないとだめって決まってるから」

フェイト「……足りないんだね」

恭文「200近くね」





(今年の夏は……観戦に徹しよう。でも、いいんだ。まだ100戦クラスの人との勝率悪いし。
本日のED:ゴールデンボンバー『僕クエスト』)










恭文「さて、ついにISクロスも最終章だよ」

りま「そう言えばアニメでやったところまでしかやらない予定だったわね」

恭文「うん。これで原作がどうなっても問題ナッシング」

りま「その前にアニメ第二期やるのかしら。OVAは出るそうだけど……でも篠ノ之箒、ヒドいわね。
というか、嫌ってるお姉さんに泣きついて新型機もらうのってどうなのよ。プライドなさ過ぎでしょ」

恭文「大丈夫、原作通りだから。まぁ原作といくつか違うとこもあるけど……果たしてどうなる事やら」





(おしまい)




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