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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第11話 『羨望のV/例え雨が降り止まなくても』



重たい気持ちを切り替えて戦闘に集中――左右のヴェントでイチカと斬り合っていたボーデヴィッヒさんを狙い撃つ。



ボーデヴィッヒさんはそれに気づいて、慌てて7時方向へ退避。その間にぼくはイチカの側に到着。





「お待たせっ!」

「箒はっ!?」

「あそこでお休み中っ! ……それじゃあイチカ」

「あぁ」



イチカはぼくに頷きつつ、雪片弐型を展開状態にする。そして……白い機体が黄金色の光に包まれた。これが零落白夜100%状態らしい。



「予定通りにいくよっ!」



イチカはこちらから数十メートル距離を取ったローゼンメイデンに突撃。



「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」





もちろんぼくも相手側面に回り込むように移動。それを見てボーデヴィッヒさんは、イチカに狙いを定める。

目を閉じて自分の前に展開した結界で突っ込んで来たイチカを受け止め、その動きを停止させる。

またレールガンでの零距離射撃を行うのは目に見えているので、僕は素早くガルム二丁を取り出す。



しっかり狙いを定めた上でトリガーを引くと2発の砲弾が発射。一発はレールガンの砲身に直撃。



もう1発はボーデヴィッヒさんの右サイドに直撃。二つの爆発を発生させ、それに耐え切れずレールガンの砲身は砕けた。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「織斑一夏とシャルル、やっぱりいいコンビネーションだね」

「ボーデヴィッヒにAICを使わせるために、あえて零落白夜を最大出力にしたわけね」





見てるとボーデヴィッヒは強力――ダメージが大きいと思われる攻撃を防御する際、かなりの確率でAICを使っている。

あとは対処が厄介な攻撃? セシリアのブルーティアーズとかも、確実に対処してる。……そう、確実なのよ。

結界に捉えた相手をあのレールガンで狙い撃つのもそうだけど、行動がパターン化されてる部分があるのよ。



強力な攻撃はAICで確実に防いでカウンターを取る。うん、確かに効率的な戦法ね。でも相手が複数だとそれも辛い。



二人の今後の作戦としては今までとは逆にAICをバンバン使わせて、空いている方が攻撃って形みたい。





「ですがいささか単純では? ボーデヴィッヒさんがAICに頼らない戦闘をする可能性も」

「だろうね。だからシャルルがレールガンを破壊したんだよ」

「……あぁ、なるほど。相手の射程距離を武装破壊で短くして、こちらのレンジに持ち込もうと。あとは行動の選択肢を少なくするのですね」

「そういう事」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



AICから解放されたイチカは一旦距離を取り、そのかわりに僕が前に出る。



ガルムを爆煙に向かって発射しつつ距離を詰めると、いきなりぼくの身体の動きが止まった。



というか、ガルムの砲口から放たれた砲弾二つも空中で停止。





「ナメるな、量産機が」





彼女は声を張り上げながら、両肩からまたまたワイヤーブレードを射出。それでぼくを両サイドから責め立てるつもりらしい。



でも射出した左のブレードが、青白い閃光によって断ち切られ楔部分はぼくの足元に転がるようにして落ちる。



咄嗟にボーデヴィッヒさんが左の方を見た瞬間にはもう遅かった。彼女は零落白夜に貫かれてたんだから。





「が……ぁ」





彼女は大きく吹き飛ばされ、地面を跳ねながらも転がっていく。……さすがに凶悪だ。

僕はガルムをヴェントに切り替えて、ボーデヴィッヒさんの方へ向き直りながら一気に加速。

というか、イグニッションブーストで地面を滑りながらヴェントのトリガーを引く。



地面を転がるボーデヴィッヒさんは弾丸の雨に撃ち抜かれ、それでも起き上がろうとした。

同時に残ったワイヤーブレードをぼくの方に射出して……ぼくは右のヴェントを収納して、スライサーを取り出す。

加速しながらも刃を右薙に打ち込んでブレードを払いつつ、起き上がったボーデヴィッヒさんの懐に入り込む。





「この距離なら」



シールド先のパーツをパージすると、そこには鉛色の杭とリボルバーが設置されていた。

ぼくはその杭の先を驚愕の表情でこちらを見つめるボーデヴィッヒさんの腹に突きつける。



「バリアは張れないよね」

「……シールド、ピアス」





意識でトリガーを引いて、杭でボーデヴィッヒさんの腹を打ち抜いていた。



衝撃によって彼女のの身体はくの字に折れて100メートル以上吹き飛び、正面の壁に激突。



ぼくは再びイグニッションブーストで加速しつつ左腕を引き、距離を詰めたところで動けない彼女に杭を突き立てる。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「シールドピアスッ!?」

「セシリア・オルコット、シールドピアスとはなんだ」

「あ、ヒメラモン達はご存知ないのですね。簡単に言えば杭打ち機ですわ。
第2世代型の武装としては最高火力のものになります」



話している間に第二撃が打ち込まれ、観客席にも響くほどの衝撃が撒き散らされる。

壁に押さえつけられた彼女の身体が再び折れ曲がり、口から胃液混じりの唾液が吐き出される。



「シールドの中に隠してたとこを見ると、奥の手って感じだろうね。
というか、シャルルってイグニッションブースト使えたんだ」

「あ、そう言えばそうよね。練習の時はそういうの見てなかったけど」





そして三撃目。それでもシャルルは止まらずに、冷酷なまでにラウラ・ボーデヴィッヒを責め立てる。

四撃目・五撃目……打ち込まれる度に壁がヘコんで、クレーターとなる。

その大きさと深さも一撃ごとに増していき、ラウラ・ボーデヴィッヒの表情も虚ろになる。



そして六撃目を打ち込もうと、シャルルが一瞬だけ呼吸を整え大きく目を見開いた。



これで、終わる。全てを停止させる黒い雨も、たった一人では勝ち抜く事など出来なかった。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



――私は軍による遺伝子操作によって生み出され、戦うための兵器として育て上げられた。そして最強となった。

あぁ、最強だったさ。あの日、ISというオーバースペックな兵器が生まれるまではな。

そしてISの適合性向上のために私には、ナノマシンによる擬似ハイパーセンサー埋め込み手術が行われた。



本来なら失敗する可能性は極めて低い手術だった。だが私の身体はセンサーに適応しきれず、暴走した。

そのために私はこれまで積み上げて来た全てのものを失った。私は、最強の座から引きずり下ろされた。

射撃を撃っても外れまくり、格闘戦では感覚が暴走してまともに戦えず……眼帯をしてようやくまともというところだ。



ハイパーセンサーというのも便利なようで不便だ。感覚が余りに過敏になり過ぎると、人間の身体はそれに簡単に振り回される。

元々イメージ・インターフェースに基づいた思想から出来ている装置だからな。私の培った経験はそれで全て無に還った。

いや、皮肉な事に今まで培った経験があったからこそセンサーの暴走の影響を強く受けてしまった。私にそれは過ぎた感覚となった。



センサーなどない時に培った経験や感覚が、自分のコントロール出来ないなにかに乱されるんだ。

貴様らにその辛さが分かるか? 眼帯をつけなければずっとそんな状態が続いて、当初は歩く事すら辛くて仕方なかった。

そんな私に向けられる侮蔑の視線がそれほど痛いか分かるか? 奴らは手の平を返したように私に失敗作の烙印を押した。



私に求められたのは力と強さ。どれだけ努力しようと、どんな理由があろうと、それが無い人間はいらないらしい。

だがそんな時、どん底だった私はIS教官として軍に出向してきた一人の女性と出会った。その女性は限りなく強く気高く、そして美しかった。

私は彼女に憧れ、彼女の指導を受けて強くなり……再び最強の座に返り咲いた。自分の力とのそれなりの付き合い方を知った。



本当に……本当に嬉しかった。そして私は私を見下した奴らを踏みつけた。それは当然の事だ。

どんなに努力しようと、どんな理由があろうと、私より弱いのだから奴らは不必要なものと確定されてもしょうがない。

それを成せたのはあの人――教官のおかげ。だがそんな教官に汚点を、弱さを植えつける奴が居る。



以前『なぜそこまで強いのですか』と聞いた私に教官は、『私には弟が居る』と答えた事がある。

その時教官の目はとても優しく穏やかで……私の知っている最強と言う美しさに満ち溢れた教官ではなかった。

私はそれが許せない。その愚かしい罪を重ねる男の名は、織斑一夏。私は奴を許せない。



それだけではなく、今こうやって負けてしまう自分自身が許せない。篠ノ之箒としっかりとした連携が取れなかった自分が許せない。



だが力が足りないんだっ! 私には力が……私の努力は無駄だったのかっ!? 私はこんなに非力だったのかっ!





力が欲しいか



突然薄れ行く意識の中ではっきり響いた声に、私は……手を伸ばしてしまっていた。



比類なき最強の力が





あぁ、欲しい。力が欲しい。私は最強でなくてはいけないんだ。



だからよこせ。力を……よこせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



六撃目を打ち込もうとしたその瞬間、ボーデヴィッヒさんのISが気味悪く液状化し、青い火花を走らせていく。

ぼくが後ろに下がっている間に黒い液体は彼女を飲み込み、一気に2メートルほどの大きさに膨張。

それは火花をまき散らしながら変形を始めた。そしてそれは、さほど経たずにある一つの形状を取った。



その姿は全身黒いISをまとった女性の彫像。デザイン的には打鉄に近い形になっている。



右手には白式の雪片弐型に似た形状の剣を持っていた。





「な、なにこれっ!」















『とまとシリーズ』×『IS』 クロス小説


とある魔導師と閃光の女神のえ〜すな日常/いんふぃにっと


第11話 『羨望のV/例え雨が降り止まなくても』










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



――避難勧告の声と非常事態を知らせるアラームの音が周囲に響き渡る中、その影はぼくに向かって踏み込んだ。

振るわれた左薙の斬撃をシールドで防御しつつ後ろに大きく下がると、黒い刃はシールドを両断した。

両断されたシールドが地面に落ちる音が響く前に、猛烈に嫌な予感を感じて右に大きく跳ぶ。



次の瞬間、鋭く返され打ち込まれた袈裟の刃が、ぼくのそれまで居た空間を斬り裂きながら地面を捉え砕いた。





「な……!」



ぼくはそのまま地面を滑りながら、衝撃によって大きな土煙があがるのを見ていた。



「シャルルっ!」

「だい、じょうぶ」





シールド一つで済んだからまだなんとか。ぼくは追撃を恐れて素早く立ち上がるけど……あれ、動かない。



追撃くるかなーと思ってたのに、あの黒い人形……あぁそうだ、あれは人形だ。人形は微動だせずに僕達を見ていた。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



閉ざされた隔壁を見て、僕は舌打ちしてしまう。それで外から嫌な気配が三つ感じ……三つ?



そうだ、三つだ。ローゼンメイデンのビットの方からもう二つ、嫌な気配が感じる。それで懐から強い光が漏れた。



慌ててそれを左手で取り出すと、僕のD-3が強く光り輝いていた。あーうん、そういう事ですか。





「恭文さん、それは」

「あー、ちょっとこう……やる事出来たっぽい。ヒメラモン、行くよ」

「分か……まさか恭文」

「バレないようにはする」



僕は懐にD-3を入れて、大きく深呼吸。さて、しっかり注意して……ぶっ飛ばしていくか。



「みんなはここに居て。リン、セシリアをお願い」

「……分かった。気をつけてね」

「うん」



僕はそのままみんなに背を向けて。



「お待ちくださいっ! どこへ行くおつもりですかっ!?」





僕の手を掴んだセシリアの手を優しく解いて……改めて全力疾走。



人の波をかき分けながらヒメラモン共々非常口へ向かう。



それで人気のないところに入り込んで、ヒメラモンと頷き合ってから意識を集中。





「――変身っ!」




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



今のシャルルに対してのアレは、間違いない。というか忘れるはずがない。あれは、千冬姉の技だ。



オレが千冬姉から最初に教わった剣技の……オレは怒りに震えてあの黒いISに突っ込む。





「このぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」





雪片弐型を展開し零落白夜もフル出力にした上で前に出ようとすると、その前にあのISが動いてた。

素早く踏み込んでまずは左薙の一閃。こっちが刃を打ち込む前に振るわれたそれは、雪片弐型を打ち抜き弾く。

伝わる衝撃に耐え切れず雪片弐型を手放したオレは、その場で動きを止めてしまう。



続けてくる袈裟の斬撃を避けられずに固まっていると、黒いISが左横からいきなり蹴られた。



それにより刃はオレの頭上を通り過ぎる形で横に振られ、黒いISもバランスを崩して僅かにたたらを踏む。





「イチカ、距離を取ってっ!」



オレはハッとしながら黒いISを蹴り飛ばしたシャルルの指示通りに距離を取り、右の方に飛ばされた雪片弐型を回収。

シャルルも反撃で振るわれた逆袈裟の斬撃を右に動いて回避、素早く距離を取ってオレの横に来る。



「イチカのバカっ! 不用意に突っ込んでどうするのかなっ! ヤスフミが言ってた事、忘れちゃったのっ!?」



その言葉で血が上っていた頭が一気に冷めていくのが分かった。それで……オレは項垂れる。



「わ、悪い。でもアイツ、千冬姉と同じ技使ってんだよっ! てーかアレ、千冬姉の現役の時の姿そのままなんだっ!」

「はぁっ!?」



シャルルは驚きながらも、改めてISを見て……ハッとした表情になる。



「あぁっ! そ、そう言えば資料で見た織斑先生と格好が同じっ! あれ、先生が乗ってた暮桜(くれざくら)だよねっ!」

「あぁそうだ。だからアイツはオレが」

「だからダメだってっ!」



飛び出そうとするオレをシャルルは左手で制する。



「アレはこちらへの攻撃行動に反応してカウンターするタイプっぽいし、まずは落ち着いてっ!」



……確かにオレ達に対して追撃をしてこない。でもさっきシャルル……いや、シャルルもそうか。

シャルルは最後の一撃を打ち込もうとしていた。あれに反応して攻撃したんだな。



「だが」

「いいから。それに忘れた? 中にあのボーデヴィッヒさんも居る」

「いや、忘れてない」



オレは――オレ達は改めてあの千冬姉の偽物を見上げた。

偽物は動きを止めてオレ達を見下ろすだけ。マジでこっちが攻撃しなきゃ接近もしないらしい。



「だからオレがやる」

「こら、ふやけたパスタ」

「それは言うな。……分かってるさ。冷静にはなる。だからオレにやらせて――いいや、違うか」



一度深呼吸して、隣に居るシャルルを見下ろして不敵に笑ってやった。



「これはオレがやりたい事だ。オレはもっと、アイツを知りたい。だから、邪魔するな」



シャルルは少し驚いたように目を開いて、それから苦笑しつつ両手でお手上げポーズを取って下がってくれた。



「分かった。だったら約束」

「なんだ」

「絶対に負けない事。ぼくに止めなかった事を後悔させない事。
……破ったら、女装してもらうから。異性に化けるのは結構キツいよ?」

「安心しろ。絶対に後悔なんざさせ」



後悔なんざさせるつもりはない――そう言おうとした。だがその俺の言葉を、突然響いたアラーム音が邪魔をする。

これはラウラのビットの方? そちらに視線を向けると、俺達に向かって大量の弾丸が降り注いでいた。



るごるごっ!



俺達は咄嗟に左に大きく飛び、あの千冬姉のバッタもんから遠ざかるようにして弾丸の雨を回避。だが次の攻撃が来る。



ターボスティンガー!





次は頭上からの赤いレーザー攻撃。オレ達が散開して連射されるそれを避けると、地面にいくつもの穴が開く。

するとシャルルの背後に3メートル前後のでかいハチみたいなのが現れて、肥大化して球体状になっている尾を向ける。

そこから先ほど撃ち込まれたレーザーが連射され、シャルルは咄嗟に左に大きく跳びながらそれを避けた。



オレはシャルルの方へ近づき、背中を合わせながら二体のデジモン……そうだよ、コイツらデジモンだ。



デジモン達とバッタもんを見比べて、少し頬を引きつらせる。





「イチカ、これって」





箒の方は……とりあえず大丈夫だ。撃墜場所は隅の方だし、こっちに近づかなきゃ問題はないだろ。

連中の注意はあくまでもオレ達に向けられている。そうだ、オレ達にだけ敵意を向けてる。

それでラウラのビットに居た奴が大きく跳躍して、頭の大きな耳を広げて……あれ、滑空してる?



とにかくそこそこ速い速度で空中を移動し、あの蜂型デジモンの向かい側に着地。奴らはオレ達を挟んで来やがる。

大きな耳の奴は黒い体色に垂れ耳で、左肩から弾薬ベルトをかけて二足歩行で緑色のアーミーパンツを履いてる。

犬顔で2メートル前後のソイツの一番の印象は……リボルバーの形をした両腕だ。肘から下がそういう形の砲門みたいになってる。



その砲門から、さっきの弾丸を撃ち込んだっぽい。だがコイツら、いったいなんなんだ? 二体とも目が赤くて殺気立ってるが。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ワスプモン <成熟期><サイボーグ型><ウィルス種>

謎の“空中秘密基地『ローヤルベース』”を守るサイボーグ型デジモン。

頭部の触角パーツは索敵能力が高く、基地に近づくデジモンを警戒して常に周辺をパトロールしている。



そのためベースに近づくだけで襲い掛かって来る。肩の推進器と背中のスタビライザーにより、上下前後左右とあらゆる方向に急速に移動が可能。

近づいて来る敵をディフェンスして、強力なレーザー砲で追い払ってしまう。

必殺技は大口径のレーザー砲を連射して放つ『ターボスティンガー』と、大型のデジモンをも一撃で仕留めてしまう『ベアバスター{熊蜂より}』。



なおこのベアバスターはエネルギーを貯めてから放つために素早い敵には当たり難く、主に地上の敵に対して有効である。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ブラックガルゴモン <成熟期><獣人型><ワクチン種>

狩猟が得意なハンターデジモンでもある。見た目の姿に反して、素早い動きで確実に敵を仕留める正確無比な攻撃をする。

脚力が強く空高く飛び上がり、耳を広げて滑空する事も出来る。



普段は陽気な性格だが、一旦怒ると手が付けられなくなるところがある。愛用のジーンズ「D−VI'S503xx」はこだわりの一品である。

必殺技は両腕のリボルバー型拳銃の弾倉に似た形状のバルカンで敵を撃つ『ガトリングアーム』。

敵の懐に入り込んで下からガトリングアームで突き上げる『ダムダムアッパー』。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「イチカ、知り合い? ちなみに僕は知らない」

「オレもだ。こんな奴ら……ちょっと待て。さっき『るご』って」

「……あ」



シャルルと改めて二体のデジモンを見て、それから自然とラウラのピットの方に視線を向けた。



「蜂にたれ耳……この子達っ!」

「ラウラのファンビーモンとロップモンかっ!」





でもなんでいきなり……いや、待て。確かそこは前に勉強した事があるぞ。



デジモンはパートナーの心の力で進化するってあの無人機騒ぎの時に聞いて、調べたんだ。



その心の力が悪い方に暴走すると、デジモンを進化させた時に見境なく暴れる事があるとか。





「まさかこれ、暗黒進化?」



そうだ、シャルルが今言ったのがその現象の名前だ。まさかラウラがアレだからこれなのか。

じゃあラウラがコイツらを暴走させちまうほどになにかこう、感情的になったとかか? だとしたらラウラを止めないと……!



「イチカ、どうする? さすがに三人相手は……それにISの装備だと」

「分かってる」





ISの装備ではデジモン相手には勝てない。これはもはや世界の基本常識と言ってもいい。

オレ達じゃあコイツらを止めるのは無理なんだよ。しかも千冬姉のバッタもんも……でもアイツ、マジで動かないな。

攻撃行動に反応するのは、オレ達に対してだけって事か? つまりこの二体は仲間と認識している。



だからさっきもコイツらに襲いかからなかったとすると……やっぱラウラを止めてなんとかする方が早いのか?

でも仮にも千冬姉のバッタもん相手で、囲まれた状態だ。これでどうやって戦えって言うんだよ。

仮にこのファンビーモン達が進化したと思われる二体を止めようとしたら、バッタもんが確実に介入してくるだろうな。



ここは教師部隊が到着するまで待つのが正しいんだろうな。でもそれだと……くそ、どうすりゃいいんだ。



オレはアイツをもっと知りたい。アイツもコイツらの事ももっと知って。





「一夏……なにを躊躇っているっ!」



オレがシャルルと肩を並べながらどうしたものかと思っていると、いきなり叫び声が響いた。



「そんな奴らなど斬り捨てろっ! ソイツらは憎むべき侵略者っ! 迷う必要はないっ!」



その怒り混じりの声の方を向くとそこには箒が……ヤバい。



「箒、喋るなっ!」

「いいから聞けっ! その甘さを捨てろっ! その歪んだ優しさを振り切れっ!」

「だから黙れっ! 状況分かってんのかよっ!」

「その先にお前と私が目指すべき強さがあるっ! いい加減に目を覚ませっ!
男なら……その程度の敵に勝てずしてなんとするっ!」





そして二人は、箒に銃口を向けた。オレ達から声をあげる箒に注意を引かれてしまった。

オレ達は慌てて箒の方へ近づこうとする。だってアイツ、ついさっき撃墜されたばっかだぞ?

ISの絶対防御も限界がある。SEが尽きている状態で強力な攻撃を喰らったら操縦者の生命に関わる。



授業の最初の段階で教わった『絶対防御は絶対ではない』という講義が頭の中で瞬間的に何度もリピートする。



でももう遅かった。赤いレーザーと連射される弾丸が、動けない箒の元へ放たれた。





「箒っ!」

「篠ノ之さんっ!」





最大加速で突っ込もうとする前に放たれた弾丸に追い抜く事なんて出来ない。

オレは箒に左手を伸ばしながら箒が撃ち抜かれるのを見る事しか出来ない。

……そう思っていたオレの目の前で、信じられない光景が広がった。



箒の目の前の地面がせり上がって、でかい壁が生まれたんだ。レーザーとガトリングはそれに着弾し、僅かな穴を開ける。

そう、穴を開けただけだ。ただの長方形の土の壁は、二人の攻撃に耐えた。

オレは足を止めその光景に呆然としていると、壁のてっぺんに黒い影が降り立った。その影を見てオレは固まってしまう。



黒いコートにロングパンツに黒い仮面、両手を包む銀色のガントレットの手首部分がコートの袖から見える。

腰に携えた蒼い宝玉を埋め込んだ刀に風になびく栗色の髪と、ソイツの傍らに降りてくる四つ手で複数の翼を持つ巨大なデジモン。

そうだ、忘れるはずない。あの姿をオレは知っている。オレはアイツらの事を……でもどうして。





「イチカ?」

「なんで、ここに」





仮面の男が乗った壁は一瞬で粒子に還り、奴は地面に降り立って右手を軽くスナップさせる。

そして次の瞬間、箒の顔面目がけて拳を叩き込んだ。箒は奴の拳に打ち抜かれ、鼻と口から血を流して崩れ落ちる。

絶対防御があるならあんな拳は簡単に防げる。それもなかったという事は……察して欲しい。



オレがその行動と結果に唖然としていると、バッタもんが刃を右に振りかぶり突撃。

おそらく拳での一撃に反応したんだろう。だがアイツらはそこから一気に上に飛ぶ。

『跳ぶ』のではなく『飛ぶ』――四つ手のデジモンが箒を抱え、アイツもそれに続くように飛び上がる。





「箒っ!」





オレの声には答えずにソイツらはそれでバッタモンの突撃を避け、オレとシャルルのピットに着地。



ちょうど奴らの近くにあったんだよ。とにかくそこ箒を置くと、その姿がかき消えた。



いや、アイツらと同時にファンビーモン達の姿も消えた。オレとシャルルは慌てて周囲を見渡すが……おいおい、こりゃ一体なんだよ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



展開した結界魔法の中にブラックガルゴモンとワスプモンを閉じ込めて、一応は問題解決。

僕の姿に関しても問題ない。キメラモンの近くに居るから、カメラやレーダーの類じゃあ捉えられていない。

ついでに魔法でジャミングもしてある。僕を捉えたかったら、直接見るしかないのよ。



これでもあの二人はもう織斑一夏達の邪魔は出来ない。篠ノ之箒も顔面撃ち抜いて気絶させたから問題なし。

まぁその代償として鼻の骨が折れたりしてるだろうけど、命には変えられないでしょ。

しかしバカだよねぇ。もうバリアすら張れないような状態なのにあんな事言うんだもの。笑うしかないわ。



まぁ人の足を引っ張りまくりなバカの事を気にしている余裕はない。まずはブラックガルゴモンとワスプモンだよ。



二人は僕と傍らのキメラモンを敵と見なし、それぞれの銃口を向けてくる。……まさかIS学園内部で魔法使って戦うとは思わなかった。





「キメラモン、ワスプモンの方任せても」

大丈夫だ



僕達は改めて結界内のアリーナに飛び降りる。



だが恭文、いいのか? 一応ギャラリーが多数居るが

「いいよ。バレなきゃ問題ない」



そのまま僕達は改めて着地して、目の前の二体を見据える。僕は左手から改めてD-3を取り出す。

D-3はやっぱり輝いていて……二体はその光に圧されるように後退りした。



「時間稼ぎが出来ればいいのよ。あれは織斑一夏達や教師部隊がカタをつけてくれる」

そうだな

「さ、それじゃあ」





左手を鞘の鯉口に当て、右手をアルトの柄に当てて身を軽く伏せる。それで仮面の下で呼吸を整え……一気に突撃。



僕はこちらへ両手のガトリング砲を向けてくるブラックガルゴモンへと踏み込み、アルトを抜き放つ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「イチカ、今のうちにボーデヴィッヒさんを」

「あ、あぁ」





オレは状況がよく飲み込めないが、呼吸を整えながら改めて今までじっとしていた千冬姉のバッタもんに向き直る。

改めて目の前のアレに意識を集中。そして雪片弐型を展開状態に移行。

同時に零落白夜もフル稼働させ、再び金色の光に身を包みながら一気に踏み込む。



――千冬姉は小さいオレに真剣を持たせた上でこの技を見せてくれて、『重いだろう』と優しい顔で言った。

オレが持っている剣の重さは、人を傷つけ命を奪う武器の重さ。あの時感じた重さを雪片弐型に乗せていく。

刀は振るうもの。振るわれるようでは剣術とは言わない。だからオレはこの力を『振るう』。



あぁ、怖いな。人を傷つけ命を奪う力を振るうんだ。だからそれに振るわれちゃいけない。力に負けちゃいけない。

なによりそれを持って恐れて迷う自分の心に負けちゃいけない。負けたら、大事なものまで傷つける。

恐れも迷いも全てを抱き締めるように雪片弐型の柄を握り締め……力に負けない自分をイメージしていく。



その姿が千冬姉の背中にかぶるが、それすらも振り切ってオレはその先へと足を進める。

偽物もオレへと踏み込み、刃を右に振りかぶる。オレも同じように動き、雪片弐型を鋭く左薙に打ち込む。

だが見ているものは違う。オレはお前なんざ見ていない。オレはお前の中にある斬りたいものを見ている。



身体に力が漲り、ほんの一瞬だけオレは――零落白夜は、全てを斬り裂く閃光となった。

刃と刃の衝突とそれに伴って衝撃が弾けるのも全ては一瞬。オレの打ち込みは偽物の斬撃を大きく弾いた。

偽物はそのデカい刃を右に弾かれ体勢を崩し、上半身を大きく前に逸らす。



そこを狙って更に踏み込み、逆袈裟に二撃目。





「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」





偽物の胴体に打ち込んだ斬撃によって、その黒く光るボディにやや斜めの線を刻み込まれた。そしてその身体に火花が走る。

青いそれが大きく全身に迸ると、オレがつけた傷が大きく開いてそこからラウラが前のめりになりながら出てきた。

その時ラウラの左目の眼帯が外れて、やや開かれた瞳から……オッドアイ? てか、左目金色なのか。



また液状化したかのように崩れゆく偽物から解放されたラウラを、白式の展開を解除した上でゆっくりと受け止め抱き締める。



そのままだと痛いだろうなとか、そういう事を考えてしまって自然とそうしていた。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



オレに向かってワスプモンが赤いレーザーを連射しつつ後退し、アリーナ壁際に近づいて一気に飛び上がる。

レーザーを右に動きながら回避していたオレはアリーナを蹴り上げワスプモンを追いかけるために翼を羽ばたかせる。

ワスプモンとの数十メートルほどの距離を詰めようと加速していると、ワスプモンの身体が大きく右に動く。



その場からワスプモンが姿を消したと思うと、右側から衝撃が走りオレは空中でたたらを踏む。

痛みに耐えながら衝撃が襲ってきた方を見ると、オレから10メートルほどの距離にワスプモンが……いつの間に。

それに驚いている間にワスプモンはまた姿を消した。オレはその場で足を止めて周囲を見渡す。



次は上から衝撃が襲ってきて、オレの翼や腕に兜の表面に小さな爆炎が生まれる。

威力はこちらが完全体のために大した事はないが……速い。完全についていけていない。

舌打ちしつつ上を見ても既に姿はなく、今度は背後からいくつもの衝撃が走る。



そして周囲から空気を斬り裂く音が響き渡る。おそらくはオレの周囲を高速移動でもしているのだろう。

落ち着け。焦れば焦るほどワスプモンの思うつぼだ。まずスピードに関しては向こうが上。

向こうの方が身体が小さい分小回りも利くし、そこで勝負しても勝てない。だが相手を捉える事すら……待て。



捉える事すら出来ない? よし、ならば……賭けてみるか。オレは呼吸を整え、空気を斬り裂く音に意識を集中。

その音はよく聴かなければ分からないが、音の出ている方向に波がある。まぁ発生源が移動しているから当然だが。

その波を辿りつつも両腕と翼をたたみ、降り注ぐ赤いレーザーによって与えられる痛みに耐える。



この音は……時計回りだ。そして距離からすると、さほど遠くはない。なおかつ今撃ち込まれるレーザーは全てオレの死角外から。

セシリアのブルー・ティアーズと同じだ。スピードを活かして確実に攻撃を当てるために、そこからしか攻撃を撃っていない。

オレは『波』の速度とこれまでオレの身体を叩き続けた攻撃のパターンを考え……咄嗟に8時方向を見る。



完全なヤマカンだったが、ワスプモンはそこからレーザーを放っていた。

オレは身体を反時計回りに捻ってそのレーザーを避け、次の瞬間には翼を羽ばたかせて突撃。

オレの上の左腕の表面をレーザーが掠るが、それに構わずに二つの左拳を奴に叩きつける。



だがワスプモンはそこで慌てて姿を消した。オレの拳は虚空を突き抜けるが、それに構わずまた翼を羽ばたかせる。

羽音は上へと移動していたので、オレは視線を上に向けながら左腕を身体の前へかざす。

オレの頭上を取った奴が撃ち込んだレーザーを腕で防ぎつつ、上の右腕を伸ばして……奴を掴んだ。



ワスプモンは呻き声をあげながら身体を震わせるが、その程度ではオレの手からは逃げられない。オレは手に力を集中。





ヒートバイパー!





次の瞬間、ワスプモンはオレの手から生まれた高熱度の赤い閃光によって大きく吹き飛ばせる。



幾何学色の空に赤い閃光が上がっていき、空中で爆発が起こった。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



襲い来る弾丸をかいくぐりブラックガルゴモンの右サイドを取って、アルトの刃を右切上に打ち込む。

するとブラックガルゴモンは咄嗟に僕の方へ振り向いて、左のバルカンを盾にして斬撃を受け止めた。

鉛色のバルカンと蒼いクリアカラーの刃が接触して生まれた火花に構わずに、奴は僕に向かって踏み込む。



そうして僕の上半身に右腕でアッパーを打ち込んできたので、僕は咄嗟に身体を逸らしバク転。

三度バク転して奴から距離を取ってから右に走り、再び両腕から放たれた弾丸を回避。

奴は身体を反時計回りに回転させて僕を狙い撃つけど、弾丸は僕の移動速度に追いつけずにアリーナの土や壁を撃ち抜き続ける。



すると奴は一旦射撃をやめ、僕の進行方向に向かって跳躍。それから大きく耳を広げて滑空体勢に入った。



結構な速度で空を跳びながら僕の方に再びバルカンで弾丸を放ち……僕は咄嗟に右に移動して、10時方向から襲ってくる弾丸を避ける。





≪Blitz Rash≫





そこで術式発動。地面を踏み砕きながら全速力で走り抜いて、ブラックガルゴモンに接近。

僕の頭上を弾丸の雨が通り過ぎ、地面にいくつもの穴を開けていく。それから軽めに跳躍。

空中を跳びながら身体を横に倒して反時計回りに捻り、そのまま左腕を左薙に振るう。



そうしてジガンのワイヤーを投擲して、奴の右足に巻きつける。僕はそのまま奴の下を抜けて地面を転がる。

転がりながらも素早く起き上がって、術式発動。ブラックガルゴモンの身体を蒼い電撃で焼く。

奴はその痛みで身体を震わせ、右肩から地面に鈍い音を立てて着地――いや、墜落した。





「る……るごぉっ!」





立ち上がりながらも怒り・悲しみ・寂しさ――色んな形で例えられる黒い感情がこもった叫び声をブラックガルゴモンがあげる。

震える両腕をまた僕に向けてこようとするけど、そこで電撃をストップして次の術式発動。

奴の周囲の地面から大人の腕くらいの太さの柱が連続で八本生まれ、その四肢を一気に戒める。



銃口は外側を向き、既に僕を狙えない。足も動かす事が出来ず、奴は頭を振り回して必死にその柱を外そうとする。



そんな奴に向かって僕は飛び込み、アルトを正眼に構えながら鉄輝を打ち上げる。





「飛天御剣流」



――壱(唐竹)・弐(袈裟)・参(左薙)・四(左切上)・伍(逆風)・陸(右切上)・漆(右薙)・捌(逆袈裟)・玖(刺突)っ!



「九頭龍閃もどきっ!」





そして僕達は交差――ブラックガルゴモンへ同時に九つの斬撃を打ち込む。

奴の四肢を戒めていた柱は交差の衝撃に耐え切れず、派手に砕き散って破片を撒き散らす。

僕はアリーナの土の上を少し滑って停止。奴は空中へその身体を投げ出した。



そして右肩から派手に墜落。ブラックガルゴモンは仰向けに倒れて……そのまま動かなくなった。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ラウラを抱き締めて呼吸とか体温とか身体の状態も見て……怪我はしてるが、息はある。



でもこのイミフ現象の影響もあるだろうし、すぐに医務室に運ばないと。





”――お前はなぜ、強くあろうとする”



だが腕の中で小さく、掠れた声でラウラがそう呟いた。というか……なんだ、コレ。声が頭の中に直接響いてくる。



”なぜ、強い”



声が続く度に頭の中で映像が走る。それは訓練の風景で……ラウラが撃つ銃弾があらぬ方向に逸れる風景。

その中で悔し気なラウラが、千冬姉と会って笑顔になっていく。でもこれ、なんだ。



”……強くなんてねぇよ。オレは、全然強くない”



それでもオレはラウラの声に答えていた。――実際さっきだってシャルルが止めてくれなかったら大怪我してたかも知れないしな。

それに技術も知識も未熟そのもので、千冬姉の顔に泥塗りまくり……思わず頭を抱えそうになる。



”だがもしも、万が一にもそんなオレが強いとしたら……それは”

”それ……は”

”強くなりたいから強いのさ。力に、弱さに負けたくないと思うから、強い”



自分でもイミフな答えと思い、軽く口元を歪める。



”それに強くなったら、やってみたい事があるんだ”

”やってみたい……事?”

”強くなったら、誰かを守りたい。自分の全てを使って……誰かを守ってみたい。
誰かの涙や痛みを止めるために立ち上がって、手を伸ばせる自分でありたい。
そういう奴らの姿を、ずっと前に見たんだ。ソイツらは無茶苦茶強かった”





そこまで言って思い出すのは、やっぱり3年前のクリスマスに見たあの姿。

ボロボロになりながら立ち上がって、あんな恐ろしい奴相手でも諦めなかった黒コートの子ども。

そして白と黒の体色を持つ剣士のデジモン。あの背中に、オレの理想がある。



まるで夢をそのまま語っているような感じがして、どこか照れくさくてオレは苦笑を浮かべる。





”ソイツらは『これしかない』っていう絶望を、『これもある』っていう希望に変えたんだ。
だからオレはここに居る。オレはアイツらみたいに、それが出来る奴になりたい”

”それはまるで、あの人のようだ”

”かも知れないな”



ラウラの身体から力が完全に抜ける。まるで安心したかのようにオレに身体を預け……だからオレは、コイツの全てを受け止める。



”だから”



黒く液状化した何かとそれに塗れた丸い何かがアリーナの土の上に広がる中、オレは右手でラウラの頭を撫でる。



”お前の事も守りたいんだ、ラウラ・ボーデヴィッヒ。
だから教えてくれ。お前は……どうしてずっと泣いているんだ?”





八神の教えてくれた事を今日、戦っている間ずっと思い出していた。それでオレは、コイツを知りたいって思った。

そうしたら伝わってきたんだ。コイツの心の中には、ずっと黒い雨が降っている。コイツはずっと、その雨の中で泣いてた。

だから力に負けて、振るわれて……オレはラウラの細い身体を壊さないように優しく抱き締めながら、何度も呟く。



――教えてくれ、ラウラ。オレはお前を放っておけないっぽい。お前がもう雨に打たれないように、傘を……差し出したいんだ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「終わりっぽい……かな」



ただ疑問はあるので、怪訝な顔で液状化したISだったもの(仮定)とその中のコア(多分)をジッと見る。

まぁまぁ異常事態なのは明白だけど、これは……うーんさっぱりだ。というわけで、通信をチョチョイと繋いで……よしっと。



「あー、織斑先生も山田先生も聴こえます? というか見えます?」

『えぇ、大丈夫ですよ。それでデュノアくん、お怪我は』

「大丈夫です。シールド一つパーにしただけですから。……それであの、アレなんですか」



一応ぼくの攻撃がトリガーっぽくはあったので、さすがに気になって展開している画面に映る管制室の二人に顔を近づける。



「ぼくは少なくともあんなの意識的に起こすような攻撃はしてないんですけど。それにあの仮面の子とデジモンは」

『……まずその仮面の某については、こちらでは確認出来ない』

「デジモンが居たから……ですか」

『そのようだ』





デジモンは電子機器の動作を狂わせる性質がある。ただまぁ、デジモンが居るせいで機械が壊れるなんて事は滅多にないんだけど。



例えばデジタル的なカメラやレーダーにはノイズが入るなり反応がないなりで捉えられないって、本で読んだ事がある。



ここには三体のデジモンが密集していたし、暗黒進化もしていたし……そのせいでここの映像や音声が向こうに届かなかったって事か。





『それとレーゲンの変化についてだが、こちらはお前に非はないだろう。
おそらくレーゲンの方に仕込まれていたと思われる』

『でも織斑先生、そこは分かりますけどあれは』

『映像が途切れる前のあれこれから察するに……あれはVTシステムだ』



VTシステム? あれ、それってどこかで……よし、ちょっと思い出せ。

確かIS関連の書籍で見た覚えがある。えっと、あれは……あぁ、思い出したっ!



『「まさか、ヴァルキリートレースシステムッ!?」』



山田先生も同時に思い出したらしく、画面の中で驚愕の表情を浮かべていた。



「それって確か条件付きのISの自動制御プログラムじゃ……あ、そっかっ!
だから織斑先生の姿してたんだっ! 確か織斑先生もヴァルキリーでブリュンヒルデだしっ!」

『そういう事になるな。レーゲンはドイツ軍預かりのISだ。私のデータを使うのなど、たやすかっただろう』





さて、ここで説明。ISの世界大会にはいくつかの部門に分かれている。

例えば射撃部門とか格闘部門とか、そういう形に思ってもらえれば問題ない。

その各部門の優勝者を『ヴァルキリー』と呼び、大会総合優勝者を『ブリュンヒルデ』と呼ぶ。



織斑先生は過去の大会で格闘部門で優勝して、なおかつ総合優勝ももぎ取っている。

……ここがこのシステムの前振りであり、一番重要なとこだよ。このシステムはヴァルキリーをトレースするものなの。

過去の世界大会優勝者の稼働パターンと戦闘方法を機体にコンバートし、そのまま再現するシステムなんだ。



どんな設定の機体でどんな未熟な操縦者でも、大会優勝者の能力そのままを再現出来れば強い。

だからーって事で開発考案されていたシステムになるんだ。うん、だから織斑先生の姿を取ったんだよ。

だって織斑先生はさっき言ったようにそのトレース元――ヴァルキリーの一人なんだから。





『でもそれ、完全な条約違反ですよねっ! アレは条約でISへの搭載と使用はもちろん、開発・研究も禁止されてるのにっ!』

「でもイチカは……あれを織斑先生そのままだと言っていました」

『そうか。……デュノア、喜べ。織斑共々機密保持のための書類を書く事になるぞ。もう一度タッグ戦だ』

「先生、それはなにをどう喜べばいいのか教えてもらえませんか? 出来れば日本語で。ぼくにはその言語はさっぱりです」

『それは奇遇だな。私も同じくだ』





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



目が覚めるとそこは医務室で、既に夕方――陽が落ちようとしているような時刻だった。

ベッドに寝ていた私の傍らには教官がついてくれていて、まず私は何が起こったかを教官に聞いた。

……言い訳がましいとは思うが、私もなにが起こったのかさっぱり分からないんだ。



なぜいきなりレーゲンがあんな風になってしまったのかも、さっぱりだった。



そんな私の様子を見て教官は、『機密事項な上に重要案件だ』と前置きした上でVTシステムの事を教えてくれた。





「――レーゲンにそれが搭載されていたようだ。ラウラ、一応聞くがお前は」

「いえ……知りません。私はそんなもの、知りません。なにより教官、それは」

「あぁ、完全な条約違反だ。現在ドイツ政府の方に事の真意を問いただしているところだ。
おそらくお前にもなんらかの聴取があると思われるが、まぁさほど厳しい事にはならないだろう」

「どうしてですか。それならば私は」



条約違反のシステムを使って暴れたんだ。それなりの処罰が下ってもおかしくはないというのに。



「あの、ファンビーモン達は」

「安心しろ。どういうわけかアリーナの外で気を失っているところを発見された。
少々怪我はしているが、命に別状はないらしい。あとでお前のところに向かわせる」

「ありがとう……ございます」



ファンビーモン達が暴走していたのも……よく覚えている。だから無事なのは安心しているが、やはり……胸が痛い。



「それで話を戻すが、お前が寝ている間にレーゲンの残骸やコアを調べて分かったが、VTシステムには発動条件が設定されていた」

「発動条件?」

「お前の精神状態にISの蓄積ダメージ、なにより操縦者の意志と願望」



操縦者の意志と願望――私はレーゲンに身体の全てを乗っ取られる前に聞こえた声を思い出して、寒気を感じていた。



「ようするにぎりぎりまで追い込まれてお前が『力が欲しい・勝ちたい』と欲した瞬間に発動するようになっていた。
そのために普段の状態で自由発動は不可に近いのではないかというのが、IS学園整備部の検証結果だ」

「私が……望んだから、ですね」

「そうなるな」



知っていても知らなくても、私は力を望んだ。望んで……うっすらとだが、私がなにをしたか覚えてる。

私は力に振るわれた。奴が力を振るっていたのに私は……情けなくて、涙すら出てくる。



「ラウラ・ボーデヴィッヒ」



だがそんな私に教官から厳しい声がかかる。それは叱責と失望の言葉だと思い、私は覚悟を決めた。



「お前は誰だ」



続いた言葉は、そんな私の覚悟を砕いた。夕焼けの空の色が差し込む医務室の中で私は……おそらくとても呆けた顔をしていたと思う。

そしてなにも答えられない。その問いかけはあまりに単純で、でも複雑でもあって、答えを見失っていた。



「分からないのならそれでいい。お前は今から、ラウラ・ボーデヴィッヒだ」



それだけ言って教官は立ち上がり、私に背を向けて医務室の入り口へ歩き出す。だが少し歩いて、足を止めた。



「そうそう」



それから教官は振り返り、私を見て笑った。



「お前は私にはなれないぞ」



そして教官はまた視線を前に向けて足を進める。



「同じように、私もお前にはなれない。……よく覚えておけ」





教官はそのまま部屋を出て……一人残された部屋の中で、私は笑った。



なんだか私という人間があまりに滑稽に思えてきて……いや、理由など分からない。



ただなにかが教官の言葉で糸が切れた事だけは分かって、私は一人医務室のベッドで寝ながら笑っていた。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あー、疲れた。てーかもうグダグダじゃない? ほら、ローゼンメイデンに対してのケジメとかそういうのさ。



僕はまぁ……セシリアとリン、ヒメラモン達とご飯食べつつため息を吐く。



時刻は既に夜。そしてあの騒ぎで学年別トーナメントは見事に中止になりました。あはは、面白いでしょ。





「トーナメントで最強の座をゲットしたかったのに」

「残念でしたわね」

「てゆうかアンタ、ボーデヴィッヒを叩き潰した上でそこ狙ってたわけですか」

「まぁねぇ。狙えないわけじゃないし。なにより」



もうなんか辛くて悲しくて僕は両拳をテーブルの上で強く握り締めてしまう。



「僕の苦労は一体なんだったのっ!? なんのために必死でパートナー探ししたんだよっ!」



一体なんのために必死に頭下げたのっ!? さすがにあれでこれはないでしょうがっ! もうイライラするー!



「くそ、あのローゼンメイデン今度ボロ雑巾にしてやるっ! てーか試合前にぶっ潰せばよかったっ!」

「落ち着きなさいってっ! 話通りならボーデヴィッヒにはどうしようも……殺し屋の目はやめようっ! ねっ!?」

「恭文さん、えっと……あぁ、こういうのは日本だと『骨折り損の草臥れ儲け』と」

「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「そう言えばトーナメントの方はどうなるんだ。1回戦の第1試合でアレだったが」



足元でご飯ガツガツ食べてるダガーレオモンの疑問ももっともで、僕はまぁ……自然とセシリア達の方を見ていた。



「1回戦だけは夏休み入るまでにやるらしいわよ?
ここはトーナメントが学習の成果を披露するための場でもあるせいね」

「そこだけはちゃんとやらなければ、今後の運営にも差し障りがあるという事ですわね。
ただトーナメントを全試合消化する余裕は無いそうなので、それだけで終わるとか」

「それはまた……中途半端だな」

「ヘイアグモン、言うな。あぁもう、本気でVTシステムなんて積んだバカをぶっ潰してやりたいんですけど」

「やめときなさい。アンタだったら半日かからず出来そうなのが怖いし。で、どうするよ」



リンがラーメンを一口すすってから、僕の方を見る。



「アンタ曰くのローゼンメイデン、確かにうやむやになってる感じだけど」

「……そこに関しては問題ないかも」



箸でトンカツを掴んで、一口食べてしっかりと咀嚼。



「当初の『公然で正攻法で叩き潰す』ってのは一応成されたし、それにVTシステムの事もあるしね。
まぁ事情はあるけど、これで今までみたいな大きな顔は出来ないでしょ。
だって自分のとこの国のせいで学園に大きな迷惑かけちゃってるし。これでなにかやろうもんなら」

「アウトと――それもそっか。公共の場でドイツ軍の黒さをバラしたようなもんだし」

≪というか、その前にあの人のIS修理出来るんですか? 妙なシステムも入ってたわけですし≫

「あ、それも疑問ですわね。まぁ今後の動向に注意しましょうか」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



山田先生曰く、男子用の大浴場が出来たらしい。それで早速入りに行こうとうきうきしながら準備中。

……あぁ、いきなりで意味分かんないだろ? なので補足だ。まず女子用の大浴場というのが元々あった。

それぞれの部屋や部室にアリーナや練習場にも確かに風呂などがあるが、普通はこっちを使うらしい。



あれだよ、みんなで一緒に風呂入ってワイワイガヤガヤって感じか? でも当然ながら男子にはなかった。



それでせっかくだし八神も誘って入りに行こうかなと思い、部屋でニコニコ準備中ってわけだ。やっぱ日本人は風呂好きだしなぁ。





「イチカ、楽しそうだね」



隣のベッドに腰かけながらシャルルは、両手を頬に当ててオレを温かく見守っている。



「まぁな。てゆうか、アレだ、日本人はやっぱデカい風呂が大好きでなぁ。
……あ、そういやフランス人ってお風呂とか好きなのか?」

「うん。ただフランスだと、お風呂って単純に身体を洗うところじゃないんだ」



シャルルはそこで曲げていた背を伸ばして、右手を上げて人差し指をピンと立てる。



「というと?」

「イギリスとかも含めた欧米諸国では、お風呂はリラックス出来る場って考えられてるの。
だからベッドとか横に置いてある家とかもあるし、そのまま風呂場にカーペット置いてたり」

「マジかよっ! それアリなのかっ!?」

「うん、アリだね。まぁそういうのはあくまで一例だし、日本の人とはまた違う形だけど……ぼく達もお風呂は大好きって事かな」



なんというか、これがカルチャーショックってやつか? もうすっげー意外。



「でもお風呂が気持ちいいってのは万国共通なんだな」

「うん。あと大衆浴場とかもあるところにはあるし……あー、ぼくも入ってみたいかも」

「じゃあ入ればいいだろ」



そう言うと、シャルルは顔を真っ赤にした。それで右手を拳にして口元を押さえながら、オレの方をチラチラ……おい。



「……あ、もちろんオレと一緒とかじゃないぞ? 空いている時間を見つけてだ」

「あ……そ、そうだよね。あははは、さすがにないよね」

「当たり前だ。てゆうか、それだと凄い事になるぞ。広いお風呂を独り占めだ。
男風呂だから先生達も滅多な事じゃ入らないだろうし、安全だろ」

「ふふ、それは楽しそうだね。でも」



シャルルは一端笑顔を収めて、少しだけ目を細めた。



「その前に、ぼくなりに決めた事を通さないとダメかなとは思ってる」

「決めた事?」

「うん。まぁその、家のあれこれ絡み?」



……オレはベッドの上で居住まいを正して、シャルルと向き直る。これはちゃんと聞いた方が良い話だしな。



「ぼくね、トーナメントの事もそうだけどここに来てから色々考えて……決めた。ぼく、ここに居たい。
イチカやみんなと一緒に、ここに居て……ぼくのこれからを選んでいく準備がしたい」

「それが、シャルルの決断か?」

「うん。まぁ父にはちょっと申し訳なくあるけどね」





そこで『そんな事思う必要はない』と言おうとしたが……その言葉は恥じるべきものと思い、飲み込む。

例えどんなに最低な事をしていても、シャルルの親父さんなんだ。それを安易に否定していいわけがない。

そこで八神にここに入学して二日目に言われた事を思い出した。オレは、シャルルの親父さんがどんな人か知らない。



今知ろうとすらしていないオレが否定したって、きっと表面的な事ばかりで……だからこれでいい。





「だけど、あれだな」

「なにかな」

「もしかしたら親父さん、このためにお前をここによこしたのかも知れないな」



だから自然とこんな事を……シャルルの表情が険しくなるが、オレは気にせずに表情を緩める。



「オレも色々考えたが、どう考えても女を男に仕立て上げるのは無理があるだろ。
現にオレにバレたし、フランス政府だってお前の事調べてたりしてただろうし」

「……うん」

「そういうの全部踏まえた上で、お前が『これから』を選べるようにこうしたんじゃないかって、ちょっと考えたんだ」

「どうして、そう思うの? だって僕……愛人の子なのに」

「だからとは考えられないか? 親父さんの側に居る家族は、経営破綻したって親父さんが直接守れる。
でもお前はどうしてもそれが無理で、逆にお前に辛い想いをさせるんじゃないかって」



もちろん根拠なんてない。実際は……だがさっき感じた妙な虚しさがオレにこう思わせてしまう。……あとはアレだ。



「あと、オレはお前の親父さんを嫌いになりたくなんてない。親父さんが本当は良い奴だって信じたい」

「え?」

「だって理由や経緯はどうあれ、親父さんが居なかったらお前と友達になれなかったんだから。
それでお前にも、親父さんを嫌って欲しくない。……そういうのは、オレや千冬姉だけでいい」



オレの両親の事とすぐに思い当たったのか、シャルルはハッとした様子を浮かべつつ視線を下に落とす。

それを見てオレは……今更なんでこんな話したんだと反省しつつ、首を横に振る。



「悪い。オレ、空気読めない話しちまったな。忘れてくれ」

「ううん、そんな事ないよ。……ありがと」



顔を上げると、シャルルは笑顔でオレの方を見て……頷いてくれた。

それが申し訳ないやら嬉しいやらで、『ありがとう』の気持ちを込めてシャルルに頭を下げる。



「なら、ここからは一つお願い」

「なんだ?」

「ぼくの事、これからは……シャルロットって呼んで欲しいんだ」



少し照れた笑いを浮かべながらシャルル……シャルロット? 少し考えてその意味が分かって、息を飲んだ。



「それが、もしかして」

「うん、本当の名前。ぼくの女の子としての」



本当の名前。それがシャルル……って、ちょっと待て。



「やっぱそれ、すぐバレるフラグだろ。もうちょっと変えないか? 普通」

「あははは、そこにはツッコまないで欲しいな。……だからイチカ」

「あぁ」



オレ達はどちらからともなく、自然と互いの右手を伸ばし……強く握り締め合った。



「初めまして、織斑一夏です」

「初めまして、シャルロット・デュノアです」





オレ達は結構な時間がかかっちまったが、それでもようやく『初めまして』を言う事が出来た。



そしてここから、オレの目の前で優しい笑顔を浮かべる女の子の『これから』を探す旅が始まっていく。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



食事を終えて頭を抱えながらも部屋に戻る。というかもう、泣きたい。でも僕、こういうの多い気がするんだけど。



とにかくあのローゼンメイデンはやっぱぶちのめしてやると気持ちを固めた上で。





「あ、やすみー」



目の前から聴こえた声の方を見ると、部屋の玄関の前で布仏本音が手を振ってた。

僕は首を傾げ……ううん、用件が分かったので、僕は左手を軽く上げつつ布仏本音の方に歩いていく。



「今日はお疲れ……じゃなかったねー」

「そうだね」

「それでね、やすみー」

「約束なら守るよ?」



少し表情を緩めると、申し訳無さげな顔の布仏本音が驚いた顔をした。



「え、でもでも」

「さっき聞いたけど、試合は1回戦だけでもちゃんとするっぽいしね。だから守る。というわけで」



右手を胸元まで上げて、僕は人差し指をビッと立てる。



「事情、聞かせてもらうよ? どうして僕に力になって欲しいって言ったのかな」

「――やすみー!」



感激したと言わんばかりに破顔した布仏本音が、僕にまた抱きついてくる。



「やすみー好きー! ありがとー!」

「こら、だから離れろっ! なんでいちいち抱きつくのかなっ!」

「感謝の気持ちだから良いのー!」

「良いわけあるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「――えー、みなさんにお知らせがあります。というか、転校生を紹介します」



布仏本音の対処が大変だった翌日――教壇に立つ山田先生が頬を引きつらせるのには理由がある。

その隣に居るミニスカ金髪な『女の子』のせいだよ。そのために場も騒然となっている。



「シャルロット・デュノアです。みなさん、改めてよろしくお願いします」

「えー、デュノアくんは『くん』ではなくデュノアさんだったようです」

『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』



目の前に居るのは昨日まで『シャルル』だった子。それがいきなり女の子になったもんだから、全員驚愕の余り……教室が揺れた。



「あー、やっぱりかぁ」

「えぇ、やっぱり」



山田先生はそこで固まり、驚きながら僕の方を見る。



「ちょっと待ってくださいっ! 八神くん、知ってたんですかっ!?」

「いや、仕草とか歩き方を見て女性的だなーっと前々から気になってて」

「ヤスフミ、そうなの?」



山田先生と同じく驚いた様子のシャルル――シャルロットが僕の方を見るので、頷く。



「最初から違和感があったんだけど、確信を持ったのはここ最近かな」

「そ、そうだった……って、それならどうして教えてくれなかったんですかっ!」

「いや、なにか事情があるのかと思って。現に」



僕は首だけ動かして振り向き、なんだか嬉しそうなあの朴念仁に目を向ける。



「織斑一夏は黙ってたわけだし」



それで女子達が『そう言えば』という顔をし始めた。



「そう言えば同室だから気づいてないなんて事は……ないわよね」

「というかちょっと待って。昨日って男子が大浴場使った日じゃ」



大浴場……あぁ、女子用のはあるから男子用のも作ってるって言ってたっけ。僕は布仏本音の話聞いてたから行ってないけど。



「じゃあ八神くん、やっぱりデュノア君……じゃなくて、デュノア『さん』の事っ!」

「それはないよー! やすみーは昨日ずっとわたしとお部屋の中で一緒に居たんだからー!」

『はぁっ!?』



そうそう、それでなんで僕にあんな事頼んだのかも詳しく聞かせてもらって……あれれ、なんか全員の視線が厳しい。



「布仏さん待ってっ! それどういう事かなっ!」

「どういう事もなにもー、わたし達すっごく仲良しになっただけだよー。ねー、やすみー」

『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』



布仏本音が燃料投下してくれた事で、織斑一夏だけじゃなく僕の方にまで……って、待てー! 誤解を招くような事言うなー!

というか、なんでセシリアが視線厳しくしてるのかなっ! すっごい笑顔で僕の事威圧してきてんだけどっ!



一夏



でもそれを気にするより前に、冷たく重い声が教室内に響いた。その原因は、なぜか鼻にガーゼつけてる篠ノ之箒。

篠ノ之箒は窓際から立ち上がってどこからともなく木刀を取り出し、織斑一夏に向かって一気に踏み込んでいた。



「天誅ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」

「ちょ、箒待てっ! さすがにそれは死ぬっ!」



僕が舌打ちしながらも立ち上がると、それよりも早く走る影が生まれ篠ノ之箒の前に立ちふさがった。

それは打ち込まれた木刀の根本――それを持つ手をいとも簡単に取って篠ノ之箒の腕の関節を固める。



「な」

「弱過ぎる」



なおかつそこからあの暴力娘の身体を、黒板近くまで投げ飛ばす。

篠ノ之箒は黒板に突撃し、右肩から床に落ちた。……うわ、痛そう。



「稚拙且つ単純且つ理性が一切感じられない攻撃だな。その程度では人は倒せんぞ」



それでそんな荒い対処を行ったのは、ローゼンメイデンだった。というか、いつの間に教室に入って来てた。



「怪我はないか、一夏」

「あ、あぁ。というかお前、なんで」





ローゼンメイデンはなにも答えずに織斑一夏の方へ振り返りながら、右手を襟首に伸ばしてそれを掴む。

そこから一気に織斑一夏を引き寄せ、その唇を奪った。その光景に全員が固まり沈黙する。

艶めかしい水音が響き、長いキスが終わると織斑一夏は怯えたように身体を後ろに逸らし、椅子から転げ落ちる。



地面に尻餅をつきながらローゼンメイデンを見上げ……というかあの、おかしい。ローゼンメイデンの顔が、赤い。





「お前、いきなりなにすんだっ!」

「お前は私の嫁にする」

『はぁっ!?』



ローゼンメイデン――ラウラ・ボーデヴィッヒは顔を真っ赤にして、震える右手で織斑一夏を指差した。



「決定事項だっ! 異論は認めんっ!」

「――はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」





こうして僕達のクラスは更にカオスに……納得出来るかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! マジでちょっと待てっ!



なんでアイツいきなりデレてんのっ!? 一体なにがどうしてこうなったのよっ! なんで僕置いてけぼり食らってるのっ!





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



一夏の唇が奪われる光景を見て、身体に走っていた痛みなど一気に吹き飛んだ。いや、今は悔しさと悲しさで涙が出てくる。

力が――私にボーデヴィッヒやデュノアやオルコット、凰……そして八神恭文のような力がないから、こんなにも嘲られる。

正しさを貫く事も出来ないのは、力がないから。一夏に今ひとつ踏み込めないのも、力がないから。私は無力感に打ちひしがれた。



力が――力が欲しい。一夏に並び立つ事が出来るほどの強い力が欲しい。そうすれば、私は。





(第12話へ続く)




















あとがき



恭文「はい、今週の篠ノ之箒は原作第1巻のラスト――アニメだと第4話のラストのあれをやらかしました。
そんなわけで原作2巻&アニメ8話までのお話は終了。次回はいよいよ原作3巻のお話に突入でわくわくな蒼凪恭文と」

フェイト「ラストシーン途中まで書き上がっていると聞いているフェイト・T・蒼凪です。えっと、一応15話の予定なんだよね」

恭文「うん。もしかしたらそこから追加でシーンが入って話数増えるかもだけど、基本それ」



(いや、このクロスは結構いじり甲斐があって楽しい)



恭文「それで今回はブラックガルゴモンとワスプモンが大暴れ……じゃないよね」

フェイト「まぁあっさりとした感じだよね。どっちかっていうとメインは織斑一夏君だし」

恭文「そもそも今回の『羨望のV』自体が織斑一夏の話だしね。だからシャルロットの話はA's・Remixの僕は一切絡まなかったし」

フェイト「そこもバランス取りのためだよね」

恭文「うん。やっぱ僕が全部のイベントかっさらうとアレが居る意味ないしね。むしろ目立っていかなきゃどうするのかと」



(何気に織斑一夏、面白いキャラです。そして……どんどん原作から外れていく)



フェイト「でもヤスフミ、私疑問があるんだけど」

恭文「なに?」

フェイト「ほら、あの……最後にラウラちゃんとテレパシーみたいなのをしてたよね。あれって」

恭文「あれはねぇ……アニメのあれを表現しようとした結果なのよ。
なお、そこの設定については次の第3巻の範囲内で関係してるのが出てくるのでそれをお楽しみに」

フェイト「ここでは解説しないんだ」

恭文「うん。まぁそこについてはすぐ分かると思うけど……それで次回からはいよいよISクロス最終章。
原作と基本ラインは同じだけどちょっぴし違う関係性で結ばれたメンバーが、最後の大騒動に挑みます」

フェイト「そこもお楽しみに……だよね。それでは本日はここまで。お相手はフェイト・T・蒼凪と」

恭文「蒼凪恭文でした。それじゃあみんな、またねー」





(最終章……結構色んなキャラがぶっ飛ばしてます。
本日のED:アリス九號『CROSS GAME』)










恭文「本日の遊戯王オンラインの報告――BFデッキに勝ちました。剣闘獣デッキにぼろ負けしました。
色々あってライトロードデッキの主要カードを一揃え手に入れてしまいました。
特に剣闘獣デッキは初対戦で、ぼろ負けでアキュリスやファランクス除外されまくって……ちくしょー!」

空海「あれマジ強いよな。インチキ効果も大概にしろって言いたいぞ」

恭文「いや、それ空海が言う権利ないから。BFだって相当じゃないのさ」

空海「いやいや、BFはまだ大丈夫だぞっ!? そのせいで制限・純制限されまくりだしよっ!」

恭文「あー、そういやそうだよね。ゴヨウ・ガーディアンとか」

空海「それBFじゃねぇしっ! てーかなんでいきなり15枚近くも取り出してんだよっ!」

恭文「……前にパック買った時、15連続で入ってたから」

空海「……泣くなよ。俺まで泣きたくなるじゃねぇかよ」





(おしまい)




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