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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第9話 『羨望のV/憧れ求めるからこそ降り続ける雨』



その日の夕方――性能確認とか機体バランスとか煮詰めてたら結局一日仕事。

うん、一日仕事だったんだ。だから今、医務室で包帯巻いてるセシリアとリンを見て少し頬を引きつらせてる。

結論から言おう。二人は今日あのローゼンメイデンとバトった結果リンチにされかけた。



その上なんか、あのローゼンメイデンは僕関連で二人に相当な暴言を吐いたらしく……だから自然と笑顔になっていた。





「二人とも、ちょっと休んでて」

「恭文、アンタ……落ち着きなさいよ。一応言っておくけど織斑先生から大会までボーデヴィッヒとの模擬戦は禁止って」

「そうですわ。それなのにそんな事をしたら恭文さんの立場が」

「関係あるか。あぁ、関係ない。IS使わなきゃいいだけだしさぁ



殺気と共に言い放つと、どうしてか同席してる織斑一夏や篠ノ之箒、山田先生とシャルルまでが僕から一歩下がる。



「アンタマジなにするつもりっ!? というか、大丈夫だからっ! 一応大会前だし、念の為に検査してるだけだからっ!」

「そうですわっ! あとその笑顔はストップですっ! とっても怖いんですがっ!」

「大丈夫、証拠は残さない」

「「だからなにするつもりっ!?」」



二人が心配そうなので安心させるために笑うけど、二人の視線が厳しいのは変わらない。うーん、どういう事だろ。



≪そうしないとダメなようですね。話を聞くに二人はあなたと親しいからケンカを売られたところもありますし≫

「それでアンタもあたしの話をスルーってどういう事っ!?」

≪公式の場できっちり決着をつけて、もう二度とこんな事をしないようにしなきゃいけないなの≫



リンがなんか騒いでるけど、僕は一切気にしない。てーかね、もうホントムカついてんのよ。だから拳がわなわな震えてるし。



「あとリン、あとでちょっと話あるから」

「……え」

「なんかいきなり織斑先生から『凰の教育方針について聞きたい』ってすっごい真剣な顔で聞かれてさぁ。
しかもそれもこれが関係してるっぽいし……おかしいよねぇ。おのれ中国の代表候補生なのに」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」



リン、頭を抱えて泣くほど嬉しいんだね。いや、僕は嬉しいよ。織斑先生にやられた勢いでじっくり問い詰めてあげようっと。



「あ……酢豚っ! 酢豚また作るからそれで許してっ!」

「ありがとう。なら酢豚を受け取った上でお話しようか」

「鬼ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」

「失礼な事言うな。僕は天使のように清らかで心広いってみんな言ってるのに」



リンが顔を青冷めて落ち込んでくれたところで、僕は笑顔を浮かべながら拳をボキボキと鳴らし始める。



「八神くん、落ち着いてください」

「これは師弟の間の事ですから」

「そっちじゃありませんっ! ボーデヴィッヒさんには先生方から厳重注意を行いますからっ!」



ち、話逸らせたと思ったのに……山田先生は何気に頭が働くなぁ。



「あと証拠残ってますからねっ!? あなたがそういう発言した事で証拠残ってますからっ!」

「先生、今度美味しいケーキを」

「教師を買収しないでくださいー!」

「貴様、何を考えているっ!」



不満そうに僕に向かって、厳しい声をあげた篠ノ之箒は一切無視。



「ISはお前の憂さ晴らしの道具ではないのだぞっ!? それではボーデヴィッヒと同じだっ!
そんな弱く卑劣な道などもう歩むなっ! そうやってお前を友と思っている一夏を裏切るなっ!
そもそも貴様がそういう卑劣な奴だからこそ、コイツらもあんな目に遭ったという事を」

「さてアルト、そこの頭悪いバカは無視で一つ質問。次はどういう手に出てくると思う?」

≪当然攻撃は続きますね。この場合あの人の攻撃対象には一夏さんやシャルルさん、そこの単細胞ポニーテールも入っています≫



アルトの言葉で、篠ノ之箒が信じられないと言いたげな顔をする。



≪この人が原因でコレだから忘れがちですけど、あの人は一夏さんにも敵意を向けていますから。
この人達が襲われたのは、間違いなくそこも理由ですよ。二人とも織斑さんと親しいですし≫

≪主様はあくまで勘違いでこれだし、やっぱりそこに行き着くの。
というか、今後なにかしてくるならそっち絡みもあると考えられるの。
山田先生、あのローゼンメイデンちゃんは反省してる様子なの?≫

「……それは」

≪お願い、答えてなの。もし反省しているのなら、主様だってここは抑えるの≫



山田先生は真剣にジガンに問われて、少し悲しげに首を横に振った。それで気持ちを固めた。



「やっぱケジメをつける必要はありそうだね。織斑先生も大会の中で公平にやるならOKとも言ってるんだし」

「え、八神的にはアレはそういう解釈なのかよっ!」

≪なのなの。……でもちょっと気になるの。山田先生には悪いけど、あの子の性格に問題があるのは明白なの。
どうしてそんな子を専用機持ちにしたの? いくら能力があると言っても、これじゃあドイツの評判が悪くなるの≫

「それに関してはわたくしがお答えしましょう。ジガン、あなたは少し勘違いをなさっているようですね」



空中に浮いているクインマンサは首を傾げつつ、ベッドの上のセシリアを見る。



「実力があるという一点だけで充分なのですわ。対外的な評判などは気にする必要がありません。
ここはIS学園――超法規的な場でもありますから。その中でなら、生徒同士のいざこざで済ませられる」

「あー、それはあるわね。もちろんそれだって限度はあるけどさ」



リンは納得しながらも右手を胸元まで上げる。それで人差し指をビッと立てた。



「代表候補生の目的は大きく分けて二つ。一つは自他関係なくISの実運用データ取り」



次に中指を立てる。



「もう一つは――成果を出して自分とこの国の技術が凄いーってアピールする事だもの」





ここがドイツ政府があの調子こいてるバカを止めない理由だね。うん、止める理由がないの。

性格に問題はあっても、アイツが派手に暴れて機体の性能を見せつけてデータを取ってくれる事は向こうにとってはメリットしかない。

あくまでも向こうは人じゃなくて機体を推す方向で話を進めていくだろうね。



言うなら奴はそのためのピエロだよ。それも自覚した上で派手に……ありえるなぁ。





「そこは恭文だって同じよ。代表候補ではないけど、月村工業とバニングス社の次の開発に繋がるようなデータが必要。
そこにスポンサーの技術力のアピールもあるから、何気に背負ってる責任は重いのよね」

「……えっと、オレは? ほら、オレだって一応専用機持ちだしよ。オレもそういう責任とかが」

「アンタは単純にデータ取りだもの。そういうスポンサーのあれこれに絡む話はない。そういうの言われた事もないでしょ?」

「ない……な。スポンサーとかと会った事もないし」

「アンタの場合は、白式使って戦うだけで目的達成してるようなもんだからそうなるの。
それでアピールのためには、特に今度行われるトーナメントで成果をきっちり出したりするのも重要」



リンはそこで言葉を止めて少し視線を落とし、右手を口元に当てて納得したように頷いた。



「あぁそっか。だから今なんだ」

「どうやらわたくし達、単純に恭文さんと織斑さんの事だけでケンカを売られたわけじゃないようですわね」



二人の表情からなんとなく考えてる事が分かって……あぁ、それで今なのか。



「え、それってどういう事だよ」

「簡単だよ、織斑一夏。トーナメント前にライバルとなる専用機持ちを潰そうとしたんだよ」



どうやら先生達任せもダメだと思いつつ、僕は両腕を組む。



「そうしたら他は技量的にもまだ未熟な1年でのトーナメントの中で、間違いなくアイツは一人勝ちする。
当然事情を知らないでトーナメントを見る関係各所はアイツとドイツ政府への評価を高める。
だってトーナメントは各所が開発した専用機の技術力を、公の場でお披露目する場でもあるんだから」



それと同時に、専用機があるのにトーナメントに不参加になったセシリア達の評価は下がる。

外だけでなく、二人のスポンサーでもあるそれぞれの国からもだよ。うん、妨害する価値はあるね。



「ぼく、単純にそういう私怨だけかなと思ってたんだけど……うん、彼女の暴走も頷ける」

「えっと、つまりその……ラウラはそういう国の事情も込みでコレって事か?」

「そうだよイチカ。これは他の国のIS開発の妨害工作になる可能性もある」

「でも妨害工作って……あ、そっか。オレ達みたいな専用機持ちを大会に出られなくなるようにして、自分だけ誉められようとしたんだな。
それでドイツの方もラウラがそういうやり方をするのを承知の上で、アイツのあれこれを黙認してるのか」





これが正解だとすると織斑先生が私闘を禁止したのは、そこが理由だろうね。

学園側としては、やっぱり生徒を守る必要がある。そこには必要行事への出席も当然の事ながら入っている。

というか、それが出来ないような状態に誰かが陥ると面倒な事になるのは明白だしなぁ。



山田先生の方を見ると、先生は肯定も否定もしないけど表情を重くしてた。どうやらそこの辺りはとっくに考えついていたらしい。



さて、どうする? これが事実なると……結構厄介な話になりそうだけど。てーか僕と織斑一夏ぶっ潰して終わる話とは思えない。





「あとは単純に勝ち抜くためのデータが欲しかったとも考えられる。ほら、やっぱISは操縦者が動かして始めて本領を発揮するし」

≪そうなると……さっきとあまり変わらないってどういう事でしょ。
不幸な事にあの人からすると気に食わない人間のほとんどが専用機持ちですし≫



狙わない理由がないって事か。一石三鳥どころか四鳥くらい取ってるんじゃないの?



「あれ、でも4組は? 確かオレ、4組も専用機持ちが居るって聞いたぞ。
専用機持ちを優先に狙うなら、ソイツも危ないんじゃ」

「更識(さらしき)さんですね。彼女はまだ専用機が完成していないので……それが事実としても、除かれるかと」

「あぁ、だから凰さん達からなんですね。それにイチカ、君とボーデヴィッヒさんってなにかあったんでしょ?」



困った顔のシャルルにそう問われてイチカは……静かに頷いた。



「あぁ。千冬姉絡みで少しな。そこに関しては後で話す」

「いや、さすがにそれは」

「織斑一夏、僕達は本気で話したくない事なら無理には聞かないよ? 人それぞれ事情もあるだろうし」

「ありがとな。でもセシリア達がコレだし、黙ってるわけにもいかないだろ。
……あー、そこまで重い話ってわけじゃないから、心配しないでくれ」



表情を和らげた織斑一夏の言葉にまぁ、一応納得しつつ僕はシャルル共々頷いた。



「それでシャルル、そこはマジでアリ……なんだよな」

「うん。だからボーデヴィッヒさんとしては、やらない理由がない。ここはさっきアルトアイゼンが言った通りだね。
二人への私怨も晴らせて、なおかつ国の利益にもなる。もし断ったらそのチャンスがなくなるかも知れないし、それなら」

「引き受けるしかない――いや、引き受けて当然って事か」

「確証はないけどね。ただ、ドイツは第3世代型の実用が遅れてたから。
そこは前に話したイグニッション・プランでの遅れにも繋がってる。
それを取り戻して自国をアピールしようと思ったら、これくらいはやるかも」



あー、そういやドイツは第3世代型の開発が遅れてたっけ。それでイギリスがそこの辺りで一歩リードしてるとか。

こういうのは早い物勝ちなところがあるしなぁ。しかしそれでこれだとするとまた強引な。



「バカな、ありえんっ!」



そしてまた篠ノ之箒は声を張り上げ、首を横に振りポニーテールを揺らす。



「そんな事を命令するバカなど居るわけがないっ! 完全な協定違反ではないかっ! お前達いい加減にしろっ! 全ては」



あー、はいはい。そこで僕を指差すわけね。うん、分かってたわ。



「コイツのせいだっ! コイツが卑劣な道を進み続けるからこそ、こんな事になったんだっ! なぜそれが分からぬっ!」

「分かってないのはアンタよ。そんなの建前だけに決まってるじゃないのよ」

「なんだとっ!」



呆れながらため息を吐き首を横に振るリンを篠ノ之箒は睨みつける。でもリンが自分に向けてきた視線の厳しさに……たじろいだ。



「実際はどの国や企業も、ここでのあれこれを通して覇権争いしてるわ。
自分達のとこが開発したISが学園のイベントなんかで優秀なところを見せれば、さっきも話に出たように評判も上がる。
代表候補生や専用機持ちは、そういう国や企業の都合に利用されてる駒でもある」

「もちろんその処置は実際には存在していますし、力もあります。だからこそ表面に出ないところで争う。
織斑さんや恭文さんはまた違う立ち位置ですけど、わたくし達はそれを自覚してここに居ますから」

「不純な……! お前達はそれで納得しているのかっ! なぜそれで専用機持ちなど続けるっ!」

「そうね。でもその上でやりたい事やるためにここに居るんだもの。利用してるのはお互い様よ。
例えばあたしは……IS乗るのが楽しいからとか? 単純に面白いもの」



リンが僕の方を見て苦笑するのは、その話を前に僕にしてくれた事があるから。僕も今、丁度その話を思い出してた。



「セシリアやシャルルにも二人の事情がある。その更識さんって人もきっとそう。
不純だろうがなんだろうが、そういう目的のために国を利用しているのがあたし達よ。
ま、専用機持ちじゃなくて一般生徒なアンタには分かんない話だろうけどね」



それは痛烈な皮肉であり嫌味。リンがお手上げポーズで突きつけた言葉に、篠ノ之箒は……苛立ちの表情を浮かべた。



「あと、これは教官のせいじゃない。ジガンもさっき言ってたじゃないのよ。
いの一番に恨み持ってたのは一夏の方だって。今日はたまたま教官絡みだったってだけよ」

「たまたまなどあるものかっ! 一夏が人に恨まれるような事をするわけが」

「いや、してる」



織斑一夏が困り顔でそう言うと、篠ノ之箒は信じられないという顔をふやけたパスタに向ける。



「少なくともアイツがオレに対して敵意を持つ理由は……ある」

「お前……なぜこんな奴を庇うっ! コイツのせいでお前まで巻き込まれているんだぞっ!」

「いいや、逆だ。オレのせいで八神やセシリア達まで巻き込んだ。だって考えてみろよ。
もしオレがアイツの恨みを買ってなかったら、八神は初日に殴られたりしなかった」

「一夏っ! いいから私の話を聞けっ! お前は悪くなどないんだっ! 悪いのは全部コイツら」

「お前こそオレの話を聞けよっ!」



織斑一夏が鋭く声をあげると、篠ノ之箒は身体を震わせた。



「箒、頼むから今はちゃんと聞いてくれ。八神は悪くない。だからもう二度とそんな事を言うな」



よし、なんか不満そうに俯いた篠ノ之箒は無視だ。てーかこのバカ絡むと話脱線し過ぎてワケ分かんなくなるから意味ないし。



「とにかく……ボーデヴィッヒさんが大暴れする事は、ドイツ政府にとっては得が多いです」

「特にイギリスやフランス相手だとそうなるわよね。ライバル国だし、優先的にケンカ売れとか言われてるかも。
さすがに『IS壊せ』なんて命令はしてなくても、普通に優劣つけるだけでイグニッション・プランに影響するだろうし」

≪とりあえずそういう事を直接言ってなくても、ラウラちゃんが暴れるのを止める理由……ないっぽいの≫





こうなると教師陣が止めても無駄かも。アレが言う事聞く可能性は本当に低くなった。

仮にこれで退学処置でも受けたとしても……いや、実際はそこまでやらないんだろうね。

向こうの狙いは他の国を貶めつつ自分の国の技術力をアピールする事なわけだしさ。



だから退学になるまで暴れたら意味がないし、少なくとも現状ではそういう形になっている。



ドイツ政府にとっては本当に都合の良い方向にね。だったらまずは、その状況を覆すとこからか。





「うし、改めて決めた。トーナメントでアイツには……無様に負けてもらう事にする」

≪その上であの人にもドイツ政府にも、赤っ恥をかいてもらうわけですか≫

「うん。でも」



それだけで止まらなかった場合の事も考えて、僕は困り顔で右手で頭をかく。



「あとは事情次第かなぁ。僕はもう明白だけど、なんで織斑一夏がアレの恨み買ってるのかがさっぱりだし。
いやね、実を言うとそこの辺りを話してくれるのはかなり助かるのよ。なんかあるなら配慮も出来るし」

「なんだよなぁ。実はオレもよく分かんなくて」

「え、なんでっ!? さっきと言ってる事違うでしょっ!」

「そこはまた」

失礼しますっ!



織斑一夏の言葉を止める形で、入り口から大挙して……あれ、女子達が数十人一気に入って来た。しかもなんか慌てた顔してる。



「あれ、みなさんどうしました? あ、というかお静かに。ここは医務室ですよ?」

『いえ、その……これっ!』



そうして全員が出した書類は……僕はそのうちの一枚をひったくって中身を確認。



「なになに――学年別トーナメントはより実戦的な演習を行うため、ペアでの参加を必須とする?」

≪ペアの相手が見つからなかった者は抽選でペアを決めると≫





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ペアでの参加と聞いて、今まで立てていた計画のあれこれが一気に吹き飛んだ。というか、これはマズい。

もし私が誰かと組んで優勝したらその相手も一夏と……不純なっ! それはありえないだろうっ!

こうなるとパートナーを組む相手は限られる。まずは一夏に妙な色香を使わない相手でなければならない。



そうなるとこの中では……まず凰は削られる。八神を教官と呼ぶような下種とは組めん。

当然オルコットもだ。デジモンのパートナーとなどと組めるわけがない。

デュノアも一夏との距離を見るに今ひとつ好かん。奴は一夏を教え導くという私の役割を奪った悪魔だ。



八神など当然例外。奴と組んで私までが卑劣な道を進んでいると思われても困る。

そうなると、残りは一夏という事になる。というか……あぁ、そうではないか。

私は思い当たった名案に感動すら覚えつつ、誰にも気づかれないように両拳を握る。



一夏と組んだ上で優勝すれば、私が一夏と付き合えるしなにも問題はないではないか。

その上一夏とタッグを組む事で一緒に居られる時間が――もとい、練習する時間が増えて良い事尽くめではないか。

しかも余計な事をし続けるこの邪魔者共も排除出来て一石二鳥。私は早速呼吸を整え、一夏を見上げる。



少し胸が高鳴って呼吸が苦しくなるが、これも全ては私達のため。私は呼吸を整えて一夏を見る。





「あの、一夏。タッグなら私と」

とにかく私と組もうっ!? 織斑くんっ!





私の出した声は無駄に大きい叫びにかき消され、一気に気概も削がれてしまう。



というかコイツら……そうかっ! タッグ戦と知りハイエナしに来たのかっ! えぇい、姑息なっ!










『とまとシリーズ』×『IS』 クロス小説


とある魔導師と閃光の女神のえ〜すな日常/いんふぃにっと


第9話 『羨望のV/憧れ求めるからこそ降り続ける雨』










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「デュノア君は私とー!」

「八神くん、お願いっ! 婚約者が居るのは分かるけどこういう事態ならしょうがないよねっ!
とにかく個人練習だよっ! それで二人っきりで夜遅くまで……ねっ!?」



とりあえず僕に迫ってきた一人はアイアンクローで黙らせて……ペアかぁ。

僕がペア組むとしたらやっぱり――僕は自然にセシリアとリンを見ていた。



「いいえっ! 恭文さんとペアを組むのはわたくしですわっ!」

「なに言ってるのよっ! コイツと付き合い長いのはあたしなんだから当然あたしでしょっ!」

「ダメですよ。二人の出場は認められません」

『はぁっ!?』



二人だけじゃなく僕も一緒に声をあげて、厳しい表情の山田先生を見た。



「ここに来る前に整備部に運び込まれたブルーティアーズと甲龍の状態を確認しましたけど」

「あ、そう言えば山田先生は恭文さん共々そちらへ伺っていらしたんですわね」

「えぇ。それで二機のダメージレベル、まだ結果が出てませんから。
それなりの損傷はしているようですし、これでは出場は許可出来ません」





先生はあいかわらず厳しい表情だったけど、不満そうだった二人も一応は納得したらしく下がった。



山田先生が結果が出てからじゃないとダメって言ってるのが分かったのよ。



二人は僕の方を気にしているのか視線を向けるので、僕は軽く右手を振った。さて、そうなると。





「八神くん、だったら私と組もうっ!?」

「婚約者の事はここは忘れていいと思うんだっ! こういう状況なんだものっ!」

「忘れられるかボケっ! お前ら、本気で僕はよそ見するつもりないから落ち着けっ!
ごめんね、僕は優勝のために山田先生とペアを組んで楽しく練習を」

『えぇっ!?』

「それはダメですっ! 私は先生ですよっ!?」



僕は涙目になりつつも山田先生の右手を取って必死にお願いする。



「先生、お願いしますっ! てゆうかこうでも言わないとコイツら納得しないしー!
婚約者居るのに浮気推進してくる生徒達に一発現実の厳しさを伝えてくださいー!」

「その気持ちは分かりますけどダメですっ! 私が織斑先生達に怒られちゃいますからー!」

「じゃあこの下心満載なバカ共と組めとっ!? それで婚約解消されたらどうすんですかっ!
山田先生、教師辞めましょうっ! それでIS学園に転入しましょうっ! そうすれば」

「それは無理ですからっ! 私これでも大人ですよっ!?」



山田先生はそこで息を整え、右手で軽くメガネを整える。



「もちろん八神くんが私を信頼してくれた上でそう言ってくれるのは、嬉しいです。
高校生に充分見えると言ってもらえたのも……かなり嬉しいです」



そう言いながら山田先生はどんどん顔を赤くして……あれ、これはなに。あと僕、そんな事言ってないんだけど。



「確かに助けてあげたいのはやまやまですけど、さすがに無理があって……というか、ダメですよ。
婚約者が居るなら居るでちゃんと線引きはしないと。八神くんがしっかりすれば婚約者の方だって」

「セシリア、リン、僕と組もうかー」

「え、わたくし達ですのっ!? でも」

「八神くんは見てると少し押しに弱いフシがありますよね。でもダメですよ。女の子はそういうところを見て不安になるんですから」



セシリアはそこで未だにエンジンかかってる山田先生を気にする。それに関してはリンも同じく。



「てゆうか、ペアなのにあたしもって」

「いいのよ。もち出場が可能だったらだし……ほら、さっき申し込んでくれたでしょ?」



二人はなぜか顔を見合わせるけど、すぐに僕の方を見て頷く。



「だったらちゃんと考えたいし、どちらにするか協議もしたいなと。まぁ他にやりたい相手が居るなら無理言わないけど」

「他にやりたい相手」

「恭文以外で」



すると二人はまた顔を見合わせて、瞳を燃やし始める。



「凰さん、元々はわたくし達が始めた事ですし」

「恭文頼るのもちょっとシャクよね。だったら」

「ケジメはわたくし達二人できっちりつけましょうか。それでは凰さん、よろしくお願いします」

「こちらこそ。あー、そういうわけだから八神教官」



どうやらこっちは決定らしいので、僕は申し訳なさそうな二人に首を横に振る。



「大丈夫だよ。二人とも、頑張ってね。それで……叩きのめしてあげるから」

「いやいやっ! アンタそのドSな笑顔やめなさいよっ! てゆうか、なんでいきなり宣戦布告っ!?」

「理不尽ですわっ!」

「二人とも、世の中は理不尽なものなのよ? 知らなかったのかな。特にリン、おのれはじっくりしっかり」

「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ! アレは違うのっ! 本当に違うからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」



そうなると……僕は自然と織斑一夏の方を見た。



「ねぇ織斑くんっ! 私と組もうっ!?」

「えぇい、お前ら黙れっ! 一夏は私と」

「いや、オレもシャルルと組むし」

「そうそうデュノアと……えぇっ!?」

『えぇっ!』



さすがにそこは予想してなかったので全員が驚いた顔をすると、なぜか織斑一夏はとっても良い笑顔だった。



「ほら、シャルルって転校してきたばかりだし、パートナー探して連携取れるように息合わせるのも大変だろ?
その点オレはコイツと同室でそれなりに仲も良いし、だったらってな」



シャルルは感激した様子で織斑一夏を見上げ、両手を胸元で握り締め瞳を潤ませる。



「イチカ……あの、ありがと」

「いいさ、別に」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



一夏に対して手を伸ばせず、ただ状況に戸惑うだけだった。これは、ありえない。

私が一夏にパートナーを申し込もうとしていたのに、一夏は……また置いていかれてしまう。

一夏は私ではなく、デュノアやオルコットに凰――専用機持ちとだけ親しくしていく。



私と一緒ではトーナメントを勝ち抜く事が出来ないと考えているのだろうか。私が専用機持ちではないから。

私が力がないために、本当の強さを持っていないと勘違いしているのだろうか。いや、一夏はそのような男ではない。

だが現実に一夏は力ある者とだけ仲良くする。専用機持ちではない私の方になど、見向きもしない。



だからデュノアと……私はただ、唇を噛み締める事しか出来なかった。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「――なーんだ。織斑君とデュノア君も組むんだ。だったら」

「しょうがないかぁ。そういう事情じゃあねー。というわけで八神くん」





あはは……コイツら、僕の婚約者発言には納得しないわけですか。どんだけ図太いんだよ、おのれら。

でも困った。不用意に無関係な人間巻き込みたくないのに。専用機持ちだけで組むのは、ローゼンメイデン対策もあるのよ。

ここで第三者が入ると、あのバカがソイツまで標的にする可能性があるもの。そこは全員分かっている。



……はず。シャルルはやたら感激顔で織斑一夏の事、ずっと見てるけど。





「あ、もしかして」



女子全員の視線が篠ノ之箒に移る。その意味が分かって、篠ノ之箒は表情を険しくした。



「ふざけるなっ! 誰がこんな卑劣な奴とっ!」

「まぁないよね。八神くんが篠ノ之さんみたいな人をパートナーに選ぶとは思えないし」

「だよねー。篠ノ之さん、友達居ないっぽいしねー」



女とは残酷なものだ。さり気無く篠ノ之箒に対して攻撃仕掛けてきたし。



「てゆうか、性格悪いよねー。デジモンの事もボロクソ言ったり」

「ほんとほんとー。あんなに可愛くてみんな優しいのに……心が痛まないのかなー」

「痛まないんじゃない? だから友達居ないんだよ」

「それに暴力的だもんねー。仲良くしたい人なんて居るわけないない」



それで調子に乗ってるし。本人居る前でそこまでいいますか。むしろ感動すら覚えるわ。

織斑一夏が表情を険しくするけど……はぁ、しょうがない。



「悪いけどここに居るみんなとはパートナー組めない」

「えぇっ!? 八神くん、どうしてかなっ!」

「当たり前でしょうが。織斑一夏の目の前でさっきみたいな事言う奴らに、背中は預けられない」



全員がそこで固まり、申し訳なさ気に未だ険しい表情をしていた織斑一夏の方を見る。



「なにより」



なんか恥ずかしくなってきたので、歌唄から盗んだ殺し屋の目で全員を睨みつける。するとみんな揃って、僕を見ながら顔を青くした。



僕のパートナーやろうって言うならそれなりの地獄をくぐってもらうけど……覚悟はあるんだろうね

『え?』

「アンタ達、言っておくけど教官の本気の指導は……マジで地獄だから。まずは生身でジープに追っかけられるわ」



そこでリンが涙目で僕の言葉を後押しすると、全員が顔を真っ青にする。

うん、当然だよね。リンと僕がいわゆるなんちゃって師弟関係だったってのは、もう周知の事実だし。



「あとは鉄のブーメランを連続で投げつけられ、滝を斬れと言われ、目隠しで全力投球の野球ボールをキャッチ。
そういう精神的な鍛錬を平然とやらかす鬼教官だから、それなりに気持ち固めないと」

『し――失礼しましたっ!』



そして全員、足早に医務室から立ち去った。やけに静かになった医務室の中で、僕は大きくため息を吐く。



「八神、悪い」

「なんの話さ。僕にはさっぱりだよ」



軽くお手上げポーズを取ると、織斑一夏は困った顔をして……なんでだろうね。



「てゆうかあの、さっきの話って……嘘だよな」

「ホントだけどなにか? 僕も兄弟子姉弟子にやられたし」

「八神教官の師匠直伝の修行法なのよねー。だからあたしは教官と生徒っていうよりは、妹弟子に近いんだー」

「マジでやったのかよっ! お前らよく生きてるなっ!」



それはそれとして、険しい表情のままの篠ノ之箒の方を見る。



「篠ノ之箒」

「……なんだ」

「僕と組め」



全員が信じられない様子で僕を見る。いや、一番そういう目で僕を見ているのは……篠ノ之箒だ。

夕焼けの赤が窓から差し込む世界の中、この場の空気は完全に凍りついた。、



「断る。貴様のような卑劣な奴と組む事など出来ん」

「篠ノ之さん、落ち着きなさいって。ここは恭文と組んだ方がいいわ」

「そうした方がいいよ、篠ノ之さん」



リンとシャルルはさすがに僕がどうしてこう言い出したか分かったらしく、困り顔で篠ノ之箒を見る。



「というか、忘れてない? パートナーが決まらない場合は抽選だよ。だったら」

「だったら……なんだと言うのだっ! 私はコイツのような歪んだ奴とは組めんっ!
しかもコイツはあの侵略者共のパートナーだぞっ! 背中など預けられるかっ!」

「篠ノ之さん、以前私はお話したはずですが」

「いいえ、聞けませんっ! 私は間違ってなどいないっ! 間違っていない事をなぜ黙らなければならないっ!」



その場の空気が固まり、僕とリンは静かに――だけど深く大きなため息を吐いた。それで二人して驚きながら顔を見合わせてしまう。



「よーく分かったわ。アンタが自分の現状を全く把握してない奴だっていうのはね。あと、お子ちゃまだってのもだ」

「それはどういう意味だっ!」

「アンタは自分の事しか考えてないって意味よ。そんなバカと教官は組ませられない。なので教官、コイツとはあたしが組むから」



いきなりリンがそう言い出したのに驚いていると、リンは僕の方を見て苦笑を浮かべてから、改めて険しい表情で篠ノ之箒を見る。



「あたしはオルコットと違ってデジモンのパートナーでもなんでもないし、問題ないでしょ。……オルコット、悪いんだけど」

「その方が良いかも知れませんわね。篠ノ之さんがこの調子ですし」

「断るっ! コイツを教官などと呼ぶお前の施しなど受けんっ! 私と組みたければ奴との師弟関係を破棄しろっ!」

「箒、落ち着けって。いいからまずみんなの話を」

「……篠ノ之箒、もう一度だけ言う。僕と組め。それが嫌ならリンと組め」



リンが背中を押してくれた事に感謝しつつ、僕は伸ばした手を下ろさずに篠ノ之箒に向け続ける。

……一応もう二つ選択肢があるんだけど、それはなぁ。多分織斑一夏が拒否反応示すだろうし。



「二度も同じ事を言わせるなっ! お前達のような奴と組めるわけがないっ!」

「そう。ならローゼンメイデンと――ラウラ・ボーデヴィッヒと組め」



でも一応そのうちの一つを出してみる事にした。すると全員が驚いた顔で僕を見る。



「ふざけるなっ! なぜ私があんな奴と組まなければならないのだっ!」

「じゃあパートナーとなる人間をローゼンメイデンから守れるんだな」



鋭く言い放つと、僕を睨みつけていた篠ノ之箒が僅かにたじろいだ。



「リンとシャルルや僕がそうして欲しいのは、それが理由だよ。お前も向こうからすれば、立派なターゲットだ。
お前、篠ノ之束の妹なんだからな。しかも自分でそれ誇張もしちゃってるし、そんなのを叩きのめせばポイント高いだろうね。
いや、向こうはそれを理由に相当強引に絡むと思われる。お前はもしかしたら姉の行方を知ってるんじゃないかーってさ」

「私とあの人とはなんの関係もないと言ったはずだっ!」

「そう。だったらどうして上級生にわざわざ『篠ノ之束の妹です』って言っちゃったのかなぁ」



あれ、なんで織斑一夏共々驚くの? この女子が大半な学校の中でそんな真似したら、そりゃあ噂にもなるってのに。



≪同時にヘタに部外者とパートナーを組むと、試合中にあの人が『敵』と判断して目をつける可能性もあります≫



で、その部外者がまぐれでも実力でもローゼンメイデンに痛烈な一撃を与えたら?

その目をつけるが今後永続的になる可能性もあるのよ。だから普通の生徒は巻き込みにくい。



「なるほど、そういう事か。でも八神、なんでそこでラウラと組むって選択肢が」

「理由は簡単。アレが公式戦でパートナーを蔑ろにしたり、今日みたいな真似をする可能性は低い。
さっきも言ったけど、向こうはこっちにケンカ売るためにいくつか最低条件がある。
そのうちの一つが代表候補生として成果を出す事。だから性格云々は見過ごされてると思われる。つまり」

「あ、分かったぞ。それでラフな事したり今日みたいに相手を罵倒するような事したら、その条件が満たされないかもって事か」

「そうだよ」



それで代表候補生から外されたら大問題だし、なにより……織斑先生のストップがかかってる。

だから逆にローゼンメイデンのパートナーやる方が安全ってわけだよ。



「でもそりゃあ無理だろ。箒がこんな調子じゃ……それにお前やリンだって」

「織斑一夏、甘く見ないで欲しいね。僕はコイツがパートナーでもやれる」



はっきり言い切ると、なぜか織斑一夏や他のみんなが全員驚いた顔をする。



「いや、違う」



でも僕はそこで首を横に振り、自分なりの決意と挟持を込めて篠ノ之箒を見た。



「僕はコイツがパートナーだからこそ、しっかりやらなきゃいけないのよ。
……僕は3秒前まで殺し合いしてた奴だろうと、パートナー組むなら忌避は持ち込まない。
僕はそんなもの持ち込んで負ける方が、なにも出来ない方がずっと嫌だから」

「あたしだって同じよ。正直コイツの言い草はムカつく。でも、これ以上誰かを巻き込んじゃいけない。
関係ない誰かを巻き込んで、守れる自信が全くない。だから、これしか出来ない。
もしそんな事になってその子がここでの生活を嫌になったら、どう責任取るの? 取りようがないじゃない」

「……お前ら」

「篠ノ之箒、お前はどうだ。敵の敵は味方って言葉もあるよ? ここはお互い、良い感じに利用し合うべきでしょ」



篠ノ之箒は瞳を揺らし、僕達……うん、僕達だよ。僕とセシリアとシャルルとリンの厳しい視線を一身に受ける。



「それにまぁ、そのキレやすい性格さえなければおのれはそこそこ出来る方だとも思ってるしね。
セシリアやリンと同じくパートナー候補としては挙げてたのよ」

「ふざ……けるな」

「あいにく、ふざけてない」

「そうそう。この状況で冗談言うほど不抜けてないわよ」



二人揃って軽く言い返すと篠ノ之箒はポニーテールを左右に揺らしながら首を横に振り、僕達を睨み返した。



「いいや、ふざけているっ! それならばパートナーも守ればいいだけの話っ!
貴様ら、私にそれが出来ないと見くびっているのかっ! 私には……なにも守れないとっ!
お前達のように専用機持ちでない私は非力で、そうするしかないとっ!」

「そう。だったらお前はどうやってアレに勝つつもりよ。そこまで言うなら具体的なプランはあるんだろうね。
僕と違ってちゃんと相手を見てるわけだし。それがあった上でそうするっていうなら、僕はもうなにも言わないよ。で、プランは?」

「うるさいっ! ……もういい、貴様らと話していても時間の無駄だっ!」



篠ノ之箒はそのまま苛立ち気味に織斑一夏の方を一瞥する。



「一夏、行くぞっ! もうこんな奴らとは付き合うなっ! お前は私と」

「箒、落ち着け。さっきも言ったろ? ちゃんとオレ達の話を聞いてくれ。お前はそういうところがだめだと」




その瞬間、篠ノ之箒の右拳が織斑一夏の左頬に迫る。僕は素早く踏み込んでその手を掴み捻り上げ、右足で胸元を蹴り飛ばす。

篠ノ之箒は入口側へ大きく吹き飛び音を立てて医務室の床を転がり、忌々しげに僕と織斑一夏を睨みつけ……涙を零した。



「八神くん、だめですよっ! ここは医務室ですよっ!?」

「正当防衛です。あと加減はしましたから。……全く、また自分の都合が悪くなったら暴力ですか。ほんと独りよがりが好きだね」



もうどうにもなりそうもないので、篠ノ之箒を見下しながらぶっちゃける事にした。



「自覚なしに勢い任せに力を振るうお前は、非力を通り越して害悪だよ。人どうこうの前に自分に負けてる。
さっきの子達の言う通りじゃないのさ。誰も今のお前を信用なんてしない。今のお前に背中を預けるバカは一人しか居ない」

「八神くん待ってください。もうそこで」

「でもお前は誰も守れない。別に僕達はいいさ。お前にとっては敵みたいなもんだろうしね。
でもお前みたいなバカを信じて、手を伸ばそうとする相手すら傷つける。今だって……最初の時だってそうだ。
お前はただ自分以外の人間を傷つけて壊して……泣かせるだけだ。そんな奴が偉そうに抜かしてんじゃないよ」



篠ノ之箒はなにも言わずに立ち上がり僕達に背中を向けて、足音を響かせながら部屋の外に出た。

僕はまた大きくて深いため息を吐きながら、後ろに居る織斑一夏の方を見る。



「大丈夫?」

「なんとかな。八神、悪い。アイツ意固地になってて」

「謝らなくていいよ。僕も蹴っちゃったし、喧嘩両成敗でいいでしょ」



お手上げポーズでそう言うと、なぜかみんなが険しい表情をし出した。



「教官、まさかとは思うけど……篠ノ之さん一人が悪い事にしないために暴力振るったんじゃ」

「そんなわけないでしょ。僕は人を足蹴にして笑うのが大好きなだけだし」

「どれだけドSですのっ!? ……でもどうしましょう。
篠ノ之さんはそれとしても、恭文さんのパートナーが」

「大丈夫だよ。いざとなったらローゼンメイデンと組むから」



あれ、なんでみんなそんなに怖い顔をするの? ほら、ジョークだって。さすがに僕はそれないって。



「もしくは山田先生に突然転入してきた一生徒に化けてもらって」

「だからそれは無理ですー!」

「そこについては今は置いておくよ。時間無いしさ」

「八神、それじゃあ今の問題発言ははぐらかせないかと」

「気にするな」



僕は気持ちを入れ替えて、改めてベッドに座るセシリアとリンの方を見る。



「セシリア、リン、向こうのISの能力教えて。二人と相性悪いってなに?」

「……えぇ、実は」

「AIC――アクティブ・イナーシャル・キャンセラー。慣性停止結界持ちなのよ、アイツ。
アレの前だと全ての射撃・近接攻撃が無効化されちゃうの。いくら教官でも単独じゃあ危ない」





……なんつうタイミングの悪い。ちょうど今日、疾風古鉄をガンナーバージョンにしたばっかなのに。



とりあえず練習は忍さんに元に戻していいか確認してからかなーと、僕は胸の内の焦りを静かに収めた。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



どうして……どうしてこうなるのだ。なぜ私が悪いという風にならなければならない。私はなにも悪くない。

八神恭文のような奴と組んでは、私が理想とする強さに近づく事など出来ん。もちろんそれを教官などと言う凰も同じ。

なのにどうして……私は奴らに見下されなければならないんだ。そうだ、私は見下された。



力がないから、守ってやらなければならないと見下されたんだ。そういう存在だと断定されたんだ。

そして先ほど砂糖に群がる蟻の如くやってきた雌犬共からも見下され、侮辱された。

私は間違った事は言っていない。真実も知らない連中が偉そうに……許せない。本当に許せない。



私はそれが悔しく、足早にあの不愉快な空間から離れながら涙を零す。

どうして一夏は……私ではなく奴らを選ぶのだ。私は一夏の幼馴染だというのに。

なぜ私を選んでくれないのだ。私に力が――専用機がないからなのか?



一夏は力がない私になど興味がないのか。悔しい、力がない事が本当に悔しい。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



学年別トーナメントで不都合が起きてしまった。それもかなり重大な不都合だ。



タッグ――困った。私一人ならなんとかなると思っていたんだが、少し計算が狂った。



私は一人自室のベッドに座り、ルール変更の用紙を見て渋い顔をする。





「るごー」

「ラウラ、どうするぶ〜ん?」

「言うな」





当然だが私とパートナーを組む人間など居ない。というより、1年でパートナーを組める程の実力者など……まぁアテはあるが。

そのアテは……八神恭文。『あの』香港警防隊の関係者で、フィジカル戦闘でも相当な実力者。

現に先日のアレで、私の砲撃をいとも簡単に斬り払った。あの言い草は本当に腹立たしいが、力はある。



あぁ腹立たしいな。うちの軍の鬼教官の顔を思い出して歯ぎしりしてしまう程に腹立たしい。

だがもし私が1年でタッグを組みたい相手が居るとすれば、それは奴だ。いや、奴以外にはありえない。

奴と私が組めば優勝も間違いなく出来る。こういう状況でなければ真っ先に声をかけていたのだが。





「るごるご……るごー」



私の隣で寝転がるロップモンはこう言っている。『ラウラのレーゲン、タイマンなら強いけど対複数だと雑魚だよねー』と。

コイツは口が悪いと思っていたが、ここまでとは思っていなかった。事実だから余計に腹が立つ。



「ラウラー、やっぱりみんなに謝って仲良くするぶ〜ん」

「出来るか」



そうだ、奴らに迎合する事など私には出来ん。奴らは教官を……えぇい、虫唾が走る。

そこだけは変わらない事を確信して私は、右手で持っている用紙の形が変わるまで強く握り締める。



「そもそもそれをやってもタッグ戦である事は変わらんぞ。非効率的だ」

「それはそうだけど……ぶ〜ん」

「るごるご」

「二人とも、安心しろ。私とてバカではない」



心配そうに私を見る二人に不敵な笑いを返し、私は左手で着けていた眼帯を外す。



「これでも軍属だからな。これが作戦ならば、誰であろうと協力体制は作る。そうだ、それは譲れない」





ゆっくりと開いた眼帯の中の瞳は金色――忌々しい輝きの色。外した瞬間に、強烈な眩みが生まれる。

これにも大分慣れたもので、当初よりはずっとマシだ。ジッとしているだけならこのままでもいい。

しかし、覚悟は決めなくてはいけないな。これにはパートナーが見つからない場合は抽選と出ている。



当然私には見つけようもないのだから、見も知らぬ三流と組む事になるだろう。正直適当に排除したい。

だがそれはだめだ。それは……あの人の教えに背く事になる。あの人は私にこう教えてくれた。

共に作戦に望むなら、例え1秒前まで殺し合いをしていた相手とも戦友になれるものだと。



そんな相手とも完璧に連携し、作戦を遂行するのがプロだと。そうだ、これは私一人の戦いではなくなった。

もしパートナーが居るなら私は、それがどんな役立たずでもそう扱う必要がある。

パートナーを守り、パートナーと力を合わせ、この困難を打破する。それに今日の事でもう既に相手方にバレてもいるだろう。



レーゲンは一対一の戦闘では相手の武装次第だが、反則的な強さを発揮する。だが複数戦だとその優位が崩れる。

このタイミングで奴らにケンカを吹っかけたのは失敗だったと思うが、逆に今それが分かって良かったとも感謝する。

おかげで私はこのトーナメントに、油断も迷いも隙もなく挑めるからだ。そして自らの目的のために、自分を律する時間が得られた。



状況は決して悪くはないんだ。むしろ私の望むままに動いていると言ってもいい。





「ラウラ、それなら優勝のために専用機持ちの子達と組むぶ〜ん。というかというか、ぼく達も肩身が狭いぶ〜ん」

「るごるごっ!」

「……だが断る」

「軍属どうこうはどうしたぶ〜ん」

「それはそれ、これはこれだ」





教官の教えは――教官のあの姿は、私にとって絶対。私は教官の教えを守った上で、奴らを叩きのめすんだ。



私は教官のように強くありたい。だから教官ならどうすると考え、この道を選ぶ。そうだ、これが私だ。



教官ならきっとこうする。あんな脆弱な奴らに頭を下げて迎合などしない。そんな事をしては……教官になれない。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「さて、早速連携強化のための会議……あ、ガオモン。お茶ありがと。とっても美味しい」

「いえ。お嬢様、凰さん、頑張ってください。応援しておりますので」

「もちろん」

「ありがとう、ガオモン」



オルコットの部屋に来て、開いているベッドに腰かけさせてもらって……てゆうか、この天蓋はなに? どこのお姫様ですか。



「とりあえずあたしの甲龍とアンタのブルーティアーズは相性良いのよね」

「えぇ。物理系とエネルギー系と得意とする攻撃にそのレンジも分かれていますし、基本戦術はあれで良いかと」

「あとはもうちょい連携パターンとか考えないとだめかぁ。ほら、ボーデヴィッヒには通用したけど」

「山田先生には……ですね」



向かい側の天蓋付きベッドに座るオルコットは、膝下のティーカップを持ちながら苦笑する。

それでそのまま紅茶を一口飲んで、ゆっくりと息を吐いた。



「でも恭文さんは」

「あー、教官は気にしなくていいって。きっと自分でなんとかするでしょ。てーかなんとかするって言ってたし」



そこまでしてあたし達のコンビ成立を尊重してくれてるのは……まぁ嬉しかったり。

でもそのために貧乏くじ引いた形になっているけど、なんとなく大丈夫かなーと思うんだよね。



「凰さんは、恭文さんの事……信頼なさっているのですね」

「まぁ一応ね。でも」



香港で味わった地獄という名の修行の日々を思い出し、私は視線を落としながら膝上のティーカップを揺らしまくってしまう。



「同時に恐怖の対象でもあるわ。だって私……いや、マジやめて。勝てない仮想敵とかただのいじめだから。それただのいじめだから」

「ファ、凰さんっ!? あの、落ち着いてくださいっ! 深呼吸をっ!」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



涙を振り払い、私は人気のない中庭の中で竹刀の素振りを続ける。どんなに汗が流れても、呼吸が荒くなっても気にしない。

胴着が汗で濡れて肌にくっつき、その感触がどんなに気持ち悪かろうと私は絶対に素振りをやめない。

全ては学年別トーナメント優勝のためだ。いかなる邪魔が入ろうと全てを叩き潰し、私は一夏に証を立てる。



私は決して弱くなどない。パートナーをしっかりと守り通し、あの卑劣な連中と違う強さがあると見せつけるんだ。

その時こそ私と一夏は、本当の意味で繋がる事が出来る。力――そう、力だ。力があれば私は本当の強さを手に出来る。

本当の強さを理解している私に足りないのは力だけだ。力があれば、奴らなどあっさり追い抜ける。



その力を手に入れるために、ひたすらに踏み込みながらの唐竹の打ち込みを続ける。汗と涙が混じろうと、私は研鑚を止めない。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



夜――自室に山田先生が困り果てた顔でやって来たので、応接用の椅子に座らせた上で今日の事について報告を受けた。



それで私もまぁ、表情は変わらないが困ってしまった。今日もまた気分良く眠れそうもなくて嬉しい。





「――そうか、篠ノ之がまた」

「えぇ。それで織斑先生」

「八神の悪だくみに乗って、アイツだけを厳重注意する事にしよう。山田先生」

「はい、それじゃあ明日早速」



まぁ女性の胸を蹴り飛ばすなど言語道断だしな。それで……しかし篠ノ之、そこまでか。

まさか本人の前で直接的に嫌味を言う生徒が現れるとは思っていなかったぞ。



「でも織斑先生、どうして急にトーナメントの形式変更なんて話に? 私も聞いた時はびっくりしてしまって」

「原因はこの間の無人機騒ぎらしい」



これでもそれなりの権限を貰っている身なので、向かい側に座る山田先生の疑問にもすぐに答えられた。



「上はまた同じような事が起こる可能性を危惧している。今年は例年にないイレギュラーが多いからな」

「織斑くんと、八神くんですね」

「あぁ。それで……それに備えて実は一つ考えている事があってだな」

「なんでしょう」

「八神とボーデヴィッヒをリーダーとした専用機持ちのチームを作ろうと思う」



山田先生が息を飲みながら右手で口元を押さえるので、私は静かに頷く。



「正確には1年の専用機持ちを集めた小隊か? 特別なにかを命令したりするわけではないがな。
ただ、あの六人での連携戦がいついかなる状況でも取れるように準備しておきたい」

「……まさか、そのためにうちのクラスに五人も専用機持ちの子が」

「いや、ただ単に手のかかりそうなガキ共を押しつけられただけだ。それとこの話は私だけではない。
2年と3年の学年主任とも相談して、学年毎に率先して動ける代表を作ろうという話になっているんだ」

「そうですか。じゃああの子達にその、有事の際には対処させると? それは危険では」

「万が一に備えてだ。この間のように教師陣の介入が遅れる場合も考えられるからな」





二人をリーダーと考えている理由は、二人がプロだからだ。ラウラの事はよく知ってもいるし、八神も信用出来る。

この場合、二人の経験値の高さが指揮に説得力を持たせるからな。それはリーダーシップへと変換されると思う。

問題は今のラウラの状態だが……アレに関しては私が下手な介入をしても更にこじれる。八神達に任せるしかない。



もしそれが上手くいった場合、計画発動だ。もちろんなにかあった場合に一番に動くのは教師陣だが……必要、だろうな。

もし誰かしらがこの学園にちょっかいを出してくる場合、真っ先に狙われる可能性が高いのは八神と織斑だ。

現にこの間の襲撃もそれだと考えられている。そして次に可能性が高いのは、各国の技術の粋を集めた専用機だ。



専用機持ちも警戒する理由は当然のようにある。嘘のようだが世界にはISを使って悪い事をする悪の組織もどきが居る。

そういう連中がイレギュラー要素を狙って介入してくる事も学園上層部は考え、恐れてる。

そうだ、これは専用機持ち達の自衛のためだ。だから避ける事は出来ないし……本当に今年は、厄介な事ばかり起こる。



うちのバカ共に静かに学園生活を送らせてやりたいというのに、それとは真逆の事をさせなければならないとは……私は既に教師ではないな。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



夜、頭を抱えながらもダガーレオモンの毛づくろいをしてると……あぁ、癒される。これは癒しの時間だ。



でもそんな癒しの時間を邪魔するように着信音が響いたので、毛づくろいを中断して端末を手に取る。





「はい、もしもし」

『恭文君? 調子はどうかな』

「あ、美沙斗さん……最悪です」

『どうしたの。また珍しく疲れてる様子だけど』

「いえ、『かくかくしかじか』ーという感じでして」



美沙斗さん、笑わないでください。僕はオリ主なのにぼっちなんですよ? おかしい展開にさらされて泣きそうなんですから。



『それは大変そうだね。でも……ごめん、更に大変な話をしなきゃいけない』

「なんでしょ」

『君に頼まれてこっちでも色々調べてるんだけど……君、結構厄介なのに目つけられてるよ』



確かに大変な話だった。これで更に僕に敵を作れとか……おかし過ぎるから。



『いや、それはそっちに居る織斑一夏君って子もかな』

「今度はどこの国ですか。もう世界中にケンカ売れと?」

『ヘタな国家よりもずっと厄介だと思う。『亡国機業(ファントム・タスク)』って連中が居てね』



どうもそれが僕と織斑一夏に目をつけてる相手らしい。その理由は……もう聞くまでもないか。



『いわゆる秘密結社の類なんだよ。分かりやすいように言えば、悪の組織の類』

「それってシンジケートとかとは違うんですよね。ほら、龍(ロン)とか」



龍というのは、中華系の巨大犯罪シンジケート。結構規模の大きい組織だったんだけど、警防が徹底攻撃してるおかげで今は潰されかけてる。



『いや、それとはまた違う。もう50年以上前――第二次世界大戦中から存在してるんだけど、不明点がかなり多いんだ。
組織の目的や存在理由に規模の詳細……でもここ最近、連中らしき人員がかなり活発に動いてる』

「その狙いが僕と織斑一夏ですか」

『そうだよ。それで連中はよその国を襲撃して、開発中のISを強奪したりしてる。
表立っては話に出てないけどね。……これは私の予測なんだけど、そこはかなり危ない。
連中は白騎士事件が起きてしばらくしてから、ISをそういう形でちょくちょく確保してるんだ』





あ、一つ説明。白騎士事件とは、IS発表直後に起きたお台場ミサイル事件を超えるとんでも騒ぎ。

各国のコンピュータが突然ハッキングを受け、4000発以上のミサイルが日本へ襲来。

それを白い甲冑を思わせるISを装備した女性が全て撃墜したという事件なんだ。



ただここで話は終わらなかった。そのアンノウンなISに対して、当然ながら各国は攻撃を仕掛けた。

その目的は現在では『白騎士』と呼ばれているISの撃墜もしくは捕縛のため。でもね……返り討ちに遭っちゃったのよ。

戦闘機も戦艦も――その当時最新鋭とされていた大量の兵器が見事に撃破されてしまった。



考えてみればそれも当然の事で、ISは小型の人型であるためにそこら辺の戦闘機や戦艦とは比べ物にならないレベルで小回りが利く。

その上火力も結構あって、資料だと当時は実用化されていない荷電粒子砲――ビーム兵器なんかも持ち出してたんだっけ。

あとはほら、絶対防御があるでしょ? その上死者が0という事は、現行兵器と違ってそういう手加減も操縦者の技量次第だけど出来る。



そのために世界は認めるしかなかったのよ。ISが、世界最強の『兵器』と成り得る存在だってさ。





『今年は君達の存在もあるし、専用機持ちの子も多いだろ? だから』

「……マジで失踪したくなってきた。てーかソイツらぶっ潰したい」

『それはこっちでやるからいいよ。だから恭文君、君のIS共々うちの所属になるつもりはないかな』

「はいっ!?」

『まだあやふやな君の所在というか、預かり所をはっきりさせるためって考えて欲しい。
うちで働けというのじゃないんだ。万が一の時に各国の横槍が入らないようにする』



あー、そっか。僕の進路もかなり暗くなってるしなぁ。警防隊所属にする事で、そこの不安を取り除こうって事か。



「いや、でもそれ……大丈夫なんですか?」

『大丈夫だよ。それに別に私情だけで話してるわけじゃない。これは取引に近いと思う。
君はうちの所属になる事で、ある程度の独立権限が得られる。
私達は亡国機業や無人機の操り手がなにかして来た場合、君を通じて奴らを追う事が出来る』



なるほど、警防的にも亡国機業って奴らの尻尾を掴みたいと。それでなにかあった時に備えて……だめだな。

僕だけならうまみのある話だけど、悲しいかな僕だけじゃない。ちょっと決めかねてしまう。



「少し考えさせてもらっていいですか? フェイト達に相談します」

『うん、その方がいいだろうね。じゃあ返事はいつでもいいから。でも……気をつけるように』

「はい、ありがとうございます」



そこで僕は電話を終了して、背を伸ばしながら大きくため息を吐く。みんなはそんな僕を見て、心配そうに尻尾を揺らす



「ヤスフミ、なんか厄介な話になってるな」

「だねぇ。てーかここを中心に面倒事が起き続けるフラグ立っちゃったよ」

「どうしますか、お兄様」

「とりあえず、フェイトとみんなと相談する。警防の助力を得られるのは確かに得だしね」





それにあそこのみんななら大丈夫かなーとも思うし……でも、不安要素が次々と飛び出してきて頭が痛い。



てーかアレだ。誰か出てくるなら確実に捕まえて徹底的に尋問して全部吐かせてやる。……IS乗るの、せっかく楽しくなったのになぁ。



そうだそうだ、それの邪魔するなら徹底的に叩き潰してやる。魔法使えるようなら使って粉砕だ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「イチカ、その……ごめん」



二人で部屋に戻って少しして……もう寝ようかと思っている時、ジャージに着替えたシャルルがいきなり申し訳無さげに謝って来た。



「なんで謝るんだよ。というか、いきなりどうした」

「タッグトーナメントでのコンビ、解消したいんだ」

「はぁっ!? なんでだよっ!」

「あのね、篠ノ之さんを納得させる方法が一つだけあるんだ」



いきなりな発言だが、シャルルが真剣に話しているのは分かったので茶々は入れずに続きを聞く事にした。



「コンビ解消するのは、それ絡みと考えて欲しいの。篠ノ之さんは……イチカと組めばいいと思うんだ」



その言葉に驚きながら右手で自分を指差すと、シャルルは真剣な顔で頷いた。



「篠ノ之さんは多分、イチカと組んで優勝を目指したかったんじゃないかな。だからあんなに拒否反応を起こした」

「え、なんでだ? 実力的な事で言うなら八神や鈴と組んだ方が」

「……幼馴染だからと考えて。このトーナメントは1年に一回のようだし、そんなイチカとタッグで出たかったとしても不思議じゃない」

「あぁ、そっか」



そこでなぜか勉強机に座るシャルルが困ったようにため息を吐く。オレはその意味が分からなくて、首を傾げてしまった。



「ならお前は」

「ヤスフミと組むよ。そうしたら収まりはよくなるし」

「確かに……あぁ、いや。ダメだ」



納得仕掛けたが、オレは首を横に振ってその考えを否定した。



「お前が女だってバレたらどうするんだ? お前、まだ進路関係考え中だし」



八神なら大丈夫だとは思うんだ。ただ、大丈夫でもシャルルの心情に妙なプレッシャーをかける事になりそうで怖い。

現に今、シャルルはそういうリスクがあるのも承知で箒のためにこういう話をしてるんだ。オレとしてはそこは拒否したい。



「でも」

「箒の事は気にしなくていい。というか、アレだな」



少し困り顔でシャルルを見ると、シャルルは不安そうに目を開きながら首を傾げる。



「シャルルは人に気遣い過ぎだ。もうちょっとわがままになっていいんだぞ?」

「わがまま?」

「あぁ。なぁシャルル、お前は誰とタッグを組みたいんだ」



シャルルは困った顔をするけど、それでもオレは視線を逸らさずにジッとコイツの目を見る。



「……教えてくれ、シャルル。お前は誰と組みたい? それがオレじゃないなら、そう言ってくれていい」



シャルルは少しだけ視線を泳がせるが、それても口元に右拳を当てながらオレの目を見返してくれる。



「ぼくは……イチカと組みたい。イチカが誘ってくれた時、本当に嬉しかったんだ」

「うん」

「それでね、出来たらなんだけど」



シャルルは少し早口になりながらも、オレの方に顔を近づける。



「イチカと一緒に、トーナメント優勝出来たらいいなって……考えてる」

「だったら決まりだ」



オレはその返事が嬉しくて、右手をそっとシャルルの頭に乗せる。するとシャルルは頬を赤らめて嬉しそうに息を吐いた。



「オレも同じだ。お前の事情どうこうは抜きに、お前とトーナメント出て一緒に戦えたら楽しいなって思ったんだ」

「ホントに?」

「あぁ。だから胸張ってくれ。お前のパートナーは、オレだ。
もちろんオレのパートナーはお前……まぁ、頼りないだろうけどな」

「ううん、そんな事ないよ。……ありがと、イチカ」



シャルルは腹が決まったらしく、両手でガッツポーズをしながらオレを見上げてくる。



「トーナメント、頑張ろうね。目指すは優勝」

「あぁ。ラウラもそうだが、鈴とセシリア、八神や箒……他の連中にも負けないように頑張ろうな」

「うん」





改めてオレ達二人のタッグは結成され、オレとシャルルは笑顔で拳を軽くぶつけ合った。



不安要素は確かに多いが……それでも頑張ろう。だってこれは1年に一回の大勝負。



そんな時間をコイツと一緒に思いっ切り楽しんで、それで成果が出せたら最高だと思うしな。





(第10話へ続く)





















あとがき



恭文「嬉しい時ー! やっとテラ・フォーミングが活用出来た時ー!」

フェイト「りゅ、竜の渓谷をテラ・フォーミングで使えたー!」

恭文「悲しい時ー! なのに次のデュエルではやっぱり竜の渓谷が先に来た時ー!」

フェイト「しかもテラ・フォーミングが来ないから捨札にも出来なかったー!」

恭文「というわけで、おはこんばんみ。テラ・フォーミングをデッキに入れる必要性を考え始めた蒼凪恭文です」

フェイト「フェイト・T・蒼凪です。……ヤスフミ、今回の話はまた揉めてるね」

恭文「それはしょうがないよ。だって揉めなきゃ話にならない」

フェイト「それはメタじゃないかなっ! と、とにかく今回はクラス対抗戦で突然のルール変更。あとは新しいワードがいくつも出たりして」

恭文「まぁこれらのワード関係の話は、予定されてる範囲内ではやらないけどね」



(だってアニメでやってないしねー)



恭文「てーかアレだ。もうブレイクハウトで解決しよう」

フェイト「それだめだよねっ!? 大問題になっちゃうよっ! ……と、とりあえずヤスフミはその」

恭文「フェイト、なにも言わないで。てーかおかしくない? ほら、普通オリ主があのふやけたパスタと組むはずなのに」



(……それも考えたけど、ちょっとねぇ。てゆうかそれで書いたんだけど、今一つだったのでボツにした)



フェイト「というわけで次回は、ヤスフミがパートナーを見つける話に……ねぇ、大丈夫?」

恭文「ヤバい……ヤバいよ僕。篠ノ之、箒よりヤバい事になってるよ。僕、ぼっちで終わりそうだよ。どうしようこれ」





(次回、蒼い古き鉄は……お察しください。
本日のED:Kimeru『overlap』)










空海「なぁ恭文、シンクロ召喚の口上言うのって痛いのか?」

恭文「大丈夫、架空デュエルとかではよくやってるから。僕も拍手でアイディア来たからやるしさ。
――疾風纏いし龍の騎士、今伝説の力奮い敵を討てっ!
シンクロ召喚――渓谷よりいでよっ! ドラグニティ・ヴァジュランダッ!」

空海「おー! かっけー! てーかそれどうした……って、拍手で来たんだよな」

恭文「うん。だから空海、気にする事なんてないよ。相手や周りの迷惑のかからないようにすれば問題ないって」

唯世「あははは……蒼凪君も相馬君も楽しそうだなぁ」

りま「そうね。というわけで唯世、やりなさい」

唯世「どうして僕っ!?」





(おしまい)





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