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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第134話 『EPISODE AIZEN/加速し、全てを振り切る強さ』



ラン・ミキ・スゥ『しゅごしゅごー♪』

ラン「ドキッとスタートドキたまタイムー♪ さー、強敵が出てきてピンチな超・電王……って、ダメだよねっ!」

スゥ「でも、みんなだって負けてません。今まで辛かったり苦しい戦いを乗り越えて来たんですからぁ」

ミキ「凄い『能力』があるから強いんじゃない。みんなはその事を知ってる。そんなみんなだから出来る戦い方なら……きっと」



(立ち上がる画面に映るのは、突撃する兵隊達と――トライアルッ!)



ミキ「みんな、頑張ってっ! ここが正念場だよっ!」

スゥ「スゥ達も一生懸命応援するですぅっ! それでは今回も」

ラン・ミキ・スゥ『じゃんぷっ!』





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



恭文くんのお願いでわたしは全力疾走中ー。それでサビ臭いとこからは抜けだして……くんかくんかー。

うーん、やっぱりあのサビ臭いとこからしかイマジンの匂いがしない。でもでも、もうちょい探さないとダメか。

恭文くんの指示通りにわたしは人気がすっかり無くなった街の中を全速力で疾走。



足音を響かせ土煙を撒き散らしながら、わたしは任されたお仕事をきっちりする事に集中した。



うん、これだって蹴ったり殴ったりはないけど大事な戦いなんだ。わたし、頑張れっ!





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「全員、一時撤退っ!」





声をあげると同時に周囲に魔力弾を生成して、クイーンとジャックの前に合計15発の弾丸を撃ち込む。



ただしそれは決して攻撃用ではなく、あの二人を狙ってもいない。……弾丸の着弾地点から煙幕が発生。



アイツの魔法を参考にして作った目眩まし用の煙幕弾よ。まずはこれで動きを止めて……私はアイツらに背を向けて走る。





「お、おいおいっ!」

「いいからついて来てっ!」



ディードも照井竜の手を引く形で私達に近づいてくる。私は走りながらもまた同じ数だけ弾丸を生成。

それを連中の周囲に打ち込んで、あの周囲を更に白い煙幕で包み込んで……ビルの影に隠れた。



「ティアナちゃん、どうするつもりだ。前に出なくては奴らは」

「その前に確かめる事があるのよ。あと照井竜、さっきみたいな突撃はタイミングが来るまで絶対禁止」

「どういう事だ」



私は全員を引き連れて必死に走りつつ、右のクロスミラージュを顔の近くまで持ち上げて見つめる。



「最悪アイツと良太郎さん達が王様イマジン倒す時間が稼げればいいのよ。
今怖いのは、ここで下手に正面衝突してこっちの戦力が削られる事」





それも相手の能力についての冷静な考察もなにも出来ずによ。今は幸いな事に、相手は戦力を分散してる。

あの手の特化能力持ち相手に一番怖いのは、集団を組まれる事。ここはJS事件やこの街に来てから嫌ってほど痛感した。

特化能力持ちっていうのは、基本的にはとんがってる部分以外は平均的だったり穴だらけなのが普通なのよ。



ここは特化部分を鍛えるために、他のところを鍛える時間を取れなかった場合もある。

もしくは特化部分を用いての戦い方に慣れ過ぎてしまって、他の戦法が不得意に――鈍ってしまった場合もある。

それで今回の場合、現時点で特殊防御に怪力、戦力増強とバリエーションが揃ってる。



もしかしたらまだ他にも能力持ってるかも知れないけど、これらが一箇所に全て集まるとかなり対処がめんどい。



特にあの特殊防御持ち……まずあれから潰しておきたい。それでただ倒すだけじゃあだめ。





「あのクイーンは王様イマジンが呼び出したものと見ていいし、他に居る可能性もある。
アイツら倒すのに全力使うような戦い方だけは絶対しちゃだめ」

「余力を残しつつ対処しろという事か。面倒だな」

「それでもやるのよ。アイツと良太郎さん達の方の救援も出来なくなっちゃうしさ。
そうなったら数で不利なこちらが一気に押し切られる」





それで避けるべき事態はもう一つあって、こちらのメンバーが戦闘不能になる事よ。

ここは倒される事だけじゃなくて、体力や魔力が底をついて動けなくなるのも含まれてる。

だから出来るだけ相手の札を無傷で引き出しつつ、潰していく戦術が必要。



こういう場合、やっぱ私の手札は有効よね。さて、集中しましょ。





「……クロスミラージュ」

≪はい≫

「リインさんに連絡。捜索は打ち切ってこっちにすぐに戻ってくるようにって伝えて」

≪了解しました≫



イマジン探知能力に優れたモモタロスが自由に動けるから、ぶっちゃけ二人を遊撃隊にする意味はない。

ここは私達の方をなんとかして、その後よ。まずは相手の盾を砕き、その上で矛をへし折る。



「今から逃げつつ作戦説明するから聞いて。クロスミラージュ、早速行くわよ。手順は分かるわよね」

≪Yes Sir≫

「うん、お願い」





まずあの二人の中で現時点って条件が付くけど、厄介なのはクイーンの方。

まさか近接攻撃まで跳ね返すとは思ってなかったし。そういうのって普通無理って制限つかない?

とにかく私は距離を取ったので、ビルとビルの間で足を止めて意識を集中――術式発動。



私の足元にオレンジ色のミッド式魔法陣が展開してから、クロスミラージュのカートリッジをまず1発ロード。

その魔力も用いて連中の周囲に幻影を10数体連続生成。同時に魔力弾も幻影の側に生成して、奴らを取り囲む。

ここの辺りはもう慣れっこだから問題なし。連中はまだ煙幕の中だし、物陰にもかなりの数配置して……と。



だから一気に殲滅させられる心配はまずない。でも、バージョンアップして正解だったかも。

素の状態でも以前よりカートリッジの装弾数も増えたし、制御もかなり楽になってるのがありがたい。

その様子は……あ、モニター展開してくれた。奴らの前にたくさんの『私達』が居る。



煙幕はあのジャックが鉄球振り回して発生させた風で一気に吹き飛ばしたけど、その途端にコレだから全員で驚いた顔をする。





「おいおい、なんだこりゃっ! なんか俺達が居るんだがっ!」

「幻術ですね」

「幻術?」

【魔法の一種だよ。幻を作り出して相手を惑わせる魔法。ティアナ・ランスターの関連項目で確認済みだ】



奴らが何事かと辺りを見渡すのには構わずに、攻撃……開始。



「まず確かめるべきは範囲」





私が意識でトリガーを引くと、クイーンの前面に居るたくさんの私の銃口から弾丸が放たれる。

弾丸は放物線を描いて前衛となっている兵隊達を飛び越え、クイーンとジャックに接近。

それに対してクイーンは前に出て、またステッキをかざしてあのバリアを展開。



ジャックは鉄球を右の手元で回転させてから、左薙に振るう。そしてオレンジ色の弾幕は障壁と鉄球に触れる。

でもそれらに触れた直後に弾丸は霧散して粒子になる。障壁に触れたのもさっきのように反射はされない。

その様子にクイーンとジャックが訝し気にするのと同時に、二人の後頭部に弾丸が命中。そこで小さな爆発が起こる。



連中が忌々しげに後ろを振り向いた。そこにはまた多数の私が存在していて……さっきの弾丸は幻影よ。

まずこれでタネを一つ撒いた。まぁそんなわけで、もう一度っと。今度は連中の背後に生成していた幻影の私から弾丸が放たれる。

ジャックはともかく、クイーンは再び反射しようかどうか迷った。だから兵隊達に指示を飛ばして前に出す。



奴らは私の弾丸にまともに飛び込んで貫かれ、数体が爆散。それでクイーンは素早く背後へ振り向いて障壁を展開。

すると一回目と同じように弾丸が放たれていて、クイーンの障壁はその全てを防ぐ。……幻影の弾丸達をね。

その間に兵隊達が撃ち抜かれた事で発生した爆煙をなにかが突っ切り、クイーン背後に命中。



クイーンが呻きながらたたらを踏んでいる間にカートリッジをもう1発ロード。その魔力で更に弾丸を生成。

舌打ち気味に弾丸が襲って来た方を見ると、今度はクイーンの頭上から雨のように降り注ぐ。

これは近くのビルの屋上からの狙撃ね。クイーンは素早くステッキの先を頭上に向け、障壁を展開。



ジャックは頭上で振り回していた鉄球を、左薙に振るい投擲。そうして幻影達に攻撃を仕掛ける。

私は幻影を操作してその攻撃を左右に別れて回避しつつ、弾丸を連射。……これもタネの一つよ。

回避行動を取る事で本物がこの中に居るんじゃないかと思わせておく。ここは相手の足を止めるために絶対必要。



ここで全部幻影なのがあっさりバレたら意味ないのよ。それでアイツらが王様のところに行かれたら目も当てられない。

その場合、ここで尾行して王様の位置が分かるというメリットがある。でも合流されて戦力強化されるというデメリットもある。

しかもまた王様が姿消すという選択肢もあるし、ここでそのメリットを追求しても私達に旨みは少ないと判断する。



――クイーンが頭上から降り注ぐ弾丸を跳ね返している隙を狙って攻撃。

センター街の車道に陣取る奴らの周囲には当然ながらビルが立ち並ぶ。

そのビルの屋上には、複数体の私の影。その幻影達から、弾丸が一斉に放たれる。



周囲360度からの攻撃に対してクイーンは……躊躇わずにさきほどと同じように兵隊を盾に使った。

まだ数の多い兵隊達はクイーンが左手の指を鳴らすと、弾丸に向かって一目散に突撃していく。

でも全ての弾丸は霧散して消えてしまう。奴の周辺ががら空きになったところでカートリッジを1発ロード。



クイーンの前面に幻影のアクセルを生成して、そのアクセルを操作してエンジンブレードで刺突を撃ち込む。

クイーンから見るとまるで瞬間移動でもしたように見えるでしょ。でもクイーンは咄嗟に距離を……えぇ、距離を取ったわ。

距離を取りつつその刺突を左に身を捻って避けようとした。それでステッキをかざして障壁を生成。



私は幻影を操作してエンジンブレードを袈裟に打ち込む。すると幻影は弾丸と同じように霧散。

それと同時にまたクイーンの背後に弾丸が着弾して、爆発が起こる。でも……やっぱしぶといなぁ。

ジャックは苛立ちながらも幻影の方に走り込み、鉄球を放り投げた。鉄球は鎖で尾を描きながらまっすぐに飛ぶ。



ある程度飛んだところでジャックは手元でどんどん鉄球に引っ張られていく鎖を掴み、左に引く。

その途端にビルの壁に激突しかけた鉄球は動きを止め、反時計回りの薙ぎ払いを打ち込んでくる。

それは幻影な私を潰しながらも近くのビルの壁を砕いて削り、辺りに轟音を響かせる。



でも幻影はまだ現れる。まだよ。まだ……早い。正直パパっとなんとかしちゃいたいけど、さすがに危険過ぎる。



タネはもう撒いている。あとはリインさん達がこっち来るまでに、どれだけ相手の底を引き出せるかだ。





「おいおい、なんか攻撃通りまくってんだがっ!」

【翔太郎、それは当然だよ。彼らは本物と幻影の見分けがつかないらしいしね】



えぇ、その通りよ。でも油断は禁物。実は全部分かってて、こっち油断させるためってのもあるし。

だから自分の力を過信しそうな感情を、呼吸を整える事で抑えていく。



「範囲が分かったら、押し方を考える」



画面の中で幻影と弾丸を使って連中を振り回しながら、私は独り言のように呟く。



「押し方は二つに一つ。速度か……数か」

「……なるほど、そういう事か。なら、速さは俺がやろう」



驚きながらその声の主を見上げると、ヘルメットのような形の仮面を着けた赤い男は私を見下ろしながら頷く。



「というより、数はリスクが高い」

「まぁ、それはね」





数というのは、相手の障壁の最大攻撃反射数。ようするに一度に障壁で受け止めて反射出来る最大数よ。

ここは『たくさんの攻撃を一度に受け止めたら障壁が壊れるかも』って考えればOKだから。

だからインフィニティ・ガンモード発動して、弾丸が同時に障壁に着弾するように一斉発射してやろうと思ってたの。



でも問題が一つあって……それはこっちがもし、相手の障壁の最大攻撃反射数を私が超えられなかった場合の事。

その場合、全ての弾丸がカウンターで襲ってくる。そうなったら相手にこっちの攻撃手段を無条件で渡したのと同じよ。

あとは一度破れたからそこで終わりになるとも思えない。また障壁を生成されても結局は元の木阿弥になっちゃうのよね。



なので、これだけじゃあ相手は倒せない。出来るのはあくまで障壁を破って相手の隙を作る事だけ。



だからこれはもう一つの『速さ』が通用しない時の、最後の最後の手段だと考えていた。





「というか、アンタは速さって」



……そこまで言いかけて、アイツに付き合う形でずっと見てたWのあれこれを思い出して苦笑する。

というか、聞くまでもなかったわね。私はその答えをとっくに知ってるんだから。だから照井竜引っ張ってきたし。



「じゃあお願い」

「任された。左、お前は電王と蒼凪恭文達を追え。ここは俺達でなんとかする」

「お前……ティアナちゃんと同じ事言うなよ。だが頼むぜ」

【みんな、気をつけて】





拳をぶつけ合う二人……てーか三人を見つつ、私はまた呼吸を整え意識を集中。カートリッジを1発ロードする。

――『範囲』というのは、あの能力の防御範囲の事よ。どうもアレ、ステッキをかざした先にしか展開出来ないっぽいわね。

もしくは全面からの攻撃をガード出来るような展開は出来るけど、なんらかの制限がある?



例えば時間がかかるとか、消耗が激しいとかさ。そう思う根拠は、この四方八方からの攻撃に対して簡単な対処しかしてないから。

私なら最初の攻め方された段階で回避行動を取るなりするわ。足を止めて受けて立つなんて真似はしない。

まずここは私みたいなガンナーからすると、距離さえ取れば射撃し放題な素晴らしい環境よ。特に高い建物があるのが嬉しい。



遠距離からの射撃――狙撃なんかが高所から行われる事が多いのは、上から下の攻撃へは遮蔽物となるものが少ないから。

例えばこれが木の上でも同じ。分からないという人は、普段街の中を歩いてる時を思い出して欲しい。

自分の横や後ろ、前に人なり建造物なりがあるのはよくあっても、頭上にそんなものが存在する場合はあんまないと思う。



そういうのは例えば……地下街とか、雨で傘を差してるとか。基本屋外ではそういうのの方がイレギュラー。

だからビルの上にも幻影を設置した。ここは相手の『縦の』射程範囲を確かめる意味もある。

上からの分かりやすい攻撃とガンナーに対してどういう対処をするか、ちゃんと見ておきたかったのよね。



例えば兵隊を送るとか、鉄球投げつけるとか射撃跳ね返すとか……なんでもいいのよ。どれも貴重なデータだから。

もちろんここは場所を移動するという現状の選択も同じ。これで奴らの思考や戦い方を読み切る事が出来る。

それで話を戻すけど、私がこの場で足を止めるなら周囲に障壁を展開して、全面からの攻撃を防いでドヤ顔で笑うわ。



そうする方が効率的だもの。そうすれば、少なくとも遠距離で死角からの攻撃は通用しないって事がアピール出来る。

出し惜しみしてもあんま意味ない……いや、そうとも言い切れないか。

別の兵隊達に私達の捜索をさせてるとかもありえるしさ。それで対処するつもりとか? そこは警戒しとくか。



とにかくアイツは死角からの攻撃の時、必ず兵隊達に対処させてる。そこが周囲への展開に制限がかかってると思う理由。

あとは本当に至近距離だと障壁を展開出来ないっぽいわね。さっきのアクセルでの攻撃、アイツは回避しようとしたもの。

これを……これを確かめたかったの。あとは幻影でのタネ撒きよ。マジックってね、虚実のバランスが大事なの。



虚と思えば実が来るから、マジックは人を驚かせる。もちろんその逆も然り。今やってるのは、それを活用しているだけ。

幻惑と虚実、そして科学――私やアイツみたいに力押しが出来ない魔導師が活用するべき三大柱。

トリックスターは別にアイツだけの専売特許じゃないのよ。私だって、それなりには鍛えてるんだから。



それで私見だけどこういうのは、自分の能力に自信を持ってる奴ほど引っかかりやすい。

自信を持っているから、目眩ましや単なるセコい手段と思いがちになる。虚実を単純な力で押し潰そうとする。

でもそこに隙が出来る。力を信じるがために、力を疑い――知って上手く使おうとする思考がなくなる。



『能力』という鎧がある事は、その鎧が強い事は、自身に弱さと隙を生むもの。

2年と少し前に美由希さんが言っていた事を反芻しながら、また呼吸を整える。

確かにイマジンが持っている鎧は強い。普通にやったら魔導師は相手にならない。



でもだからこそ隙が出来る。でもだからこそ油断してはいけない。『能力』があるのは私も同じだもの。

自分もそうならないように、呼吸を整えながら更に意識を研ぎ澄ます。さぁ、集中しなさい。

この数年で覚えて感じたものを、この場でフルに活用するの。それで状況を引っくり返して、アイツに追いつく。



それで私がフェイトさんの代わりに、身長伸びたからってあんなバカ受け入れてたアイツをぶん殴ってやるんだから。










All kids have an egg in my soul


Heart Egg――The invisible I want my




『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/じゃんぷっ!!!


第134話 『EPISODE AIZEN/加速し、全てを振り切る強さ』











◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



街中を必死に走り、周囲を見渡しつつ捜索してくけど……くそ、マジで姿見えないな。



モモタロスさんもやっぱ反応掴み切れないっぽいし、簡単には見つからないか。でも、近くには居ると思うんだけど。





「くそー! やっぱサビ臭くてワケ分かんねぇしっ!」

【でも早く見つけないと、ティアナちゃん達も持たないよ】

「ですよねぇ。ねぇアルト、リイン達は」

≪さっき連絡を取りましたけど、まだのようです≫

「くそ……こういう状況だと普通は」



アレなんだけど……なぁ。伏撃とかの可能性も考えると、一番手っ取り早い。

ただ過去のものを派手に壊すのも躊躇われるし、これは却下か。



【なにか良い手があるの?】

「いや、全く。まぁ普通なら絨毯爆撃でもするんでしょうけど」

【……はい?】



少し足を止めビルが立ち並ぶ街並みを見渡すけど……集中しろ、僕。

こういう時のために鍛えてるんだから。感覚を研ぎ澄まして、僅かな変化も感じ取るんだ。



「この周囲一帯をデンライナーで砲撃しまくって焼け野原に」

「オメェなにとんでもない事考えてんだよっ!」

【ダメだよねっ! そんなの絶対ダメだよねっ!】

「いやいや、やりませんって。だから『普通なら』って言いましたよね?」

【あ……ご、ごめん】



というか、おかしいよね。なんかこう……モモタロスさんが僕を疑わしく見てる感じがするのよ。マジでそこはやらないって言うのに。



「とにかくこういう相手が身を隠すところが多い場所で戦闘する場合、普通はそういうのが有効なんです。
戦闘地域を航空支援で焼け野原にして、相手が設置しているであろうトラップも伏兵ごと焼き払って」

「それで隠れるとこもなくして、あとは生き残ってる奴とタイマンってわけか」

「そうですそうです。でも当然そんな手は取れない」



どっかの戦争の話じゃないけど、今危惧しなきゃいけないのは伏撃や隠れている間に兵隊の数を増やされる事。

僕が相手の立場に居る場合、匂いの中に隠れながら数を……あ、そっか。なんで気づかなかったんだろ。



「モモタロスさん、この中で一番匂いの強いとこって分かります?」

「はぁ? いや、この辺全部が」

「その中でも一番匂いが強いとこです。もちろんティアナ達が残ってるとこ以外で。
奴は自分の兵隊を隠れながら生成している。だったら」

【……そっか。作った兵隊で自分を守ってるかも知れないから、イマジンの匂いが余計に強くなるんだね】





良太郎さんに頷きつつ、改めて周囲を見渡してみる。どこか……どこかに居るはずなのよ。

もし僕が奴なら、万が一見つかった時に備えてそれなりの数の兵隊を周囲に配置する。

用意していたそれで素早くこっちの足止めを行えば、姿を消すのはたやすい。ちょうど今みたいにさ。



だったらその周囲には兵隊達が大量に居るはずで……匂いも強くなるはず。





【モモタロス、さっきのも含めてちょっと探してみて】

「いや、探してみてってお前……あぁもう、分かったよっ! けどすっげーサビ臭」





モモタロスさんは言葉を止めて、この先の道に視線を向けた。それは僕も同じ。

今右手の中に居るバカの中から感じた妙にデカい気配を、この先に感じたから。

ううん、奴は気配を消そうなんてしていない。瓦礫を踏み締め、派手に足音を鳴らしながらこちらに近づく。



そこには……もう探す必要ないんかい。





「ふん、小うるさいねずみが。我の道を邪魔するな」

「おいおい、なんか普通に居やがったしっ!」

【やっぱり匂いの中に隠れてたんだ。でも、一人?】

≪あなたの読み、ぴったりですね≫



まぁね。でも、まさかいきなり出てくるとは思わなかったけど。僕は改めて黙りこくってるバカを強く握り締めた。



「また……随分余裕こいてるね」



警戒しつつも100メートルほど先に居る王様イマジンに向かって声を張り上げる。



「こそこそ隠れて兵隊出してれば良かったのに」

「あぁそうらしいな。我の駒共がそうしろとうるさかったが……そんな必要は」



王様イマジンがなにも持っていない左手を前にかざすと、奴の背後の空間が歪んだ。

その空間から銀色のブロードソードが現れ、奴はその柄を右手で掴んで一気に引き抜く。



「ないっ! 我は王っ! 王は常に威風堂々としていなければならないっ!
なのになぜ隠れる必要があるっ! お前達如きに背を向ける我ではないっ!」

「そう。お前、王様なんだ。……だからターミナルで暴れたとか?」

「そうだ、よく分かったなっ! 我は王っ! 人を使う事があっても使われるわけがないっ!」



そう言って奴は両腕を広げて、この笑顔が消えた寂しい街に笑い声を響かせる。



「我はこの世界の王となるっ! 人間共は我に跪きっ! 我に尽くしっ! 懸命に生きるっ! どうだ、素晴らしいだろうっ!」

「へ、ご苦労なこったっ! その結果俺達に負けるんだからよっ!」



そう声を張り上げながらモモタロスさんが突撃。僕もそれに続く。でも、奴の背後の空間が更に歪んだ。

それを見て猛烈に嫌な予感がして、僕はモモタロスさんの左手を握って一気に左に走る。



「砕け散れっ!」



円形に歪んだ空間から槍を持った兵隊達が次々と『射出』される。それらは僕達に向かって迫り、地面に突き刺さり……爆発。

僕達はその爆発を背にビルの影に入り込んだ上で動きを止め……られるはずもなく、そのまま左に直進。



「王とは強き者っ! そして強き者は驕り高ぶらなくてはならんっ! 不尊の姿勢を示せずしてなにが王かっ!」



ビルのコンクリの壁を砕き、貫通しながら兵隊達が僕達に襲って来て、爆発していく。……なんつう無茶苦茶な事するんだっ!



「おいおい、なんだよありゃっ!」

【自分の部下を、特攻させてるっ!?】

「召喚能力の有効活用かいっ! どんだけ乱暴なんだよっ!」

≪いや、どこの大ショッカーですか。アレは≫





ビルとビルの合間の路地を抜けて、モモタロスさん共々僕は右に走る。

すると路地の間からあの兵隊達が突き抜けて、近くの木やガードレールにぶつかって破裂する。

次々と起こる爆発を背にしながら振り返ると、路地の裏から颯爽と……爆炎を突っ切りながら奴が出てくる。



その姿は確かに王。確固たる自信と揺らぎない驕りで満ち溢れたバカの姿がそこにあった。





「くそ、逃げててもどうしようもねぇっ! 青坊主っ!」

「はいっ! アルト、みんなに連絡お願いっ! それで僕の側を絶対離れないようにっ!」

≪了解しました。というか≫



傍らのアルトは一瞬でストフリから日本刀形態に変化。僕は空中に浮かぶそれを前に、まずデンガッシャーを右の脇で挟む。

それから左手で鍔元を掴み、そのままアルトを腰の後ろにくっつけて装着。……あ、適当にやったのに出来た。



≪それならこっちの方がいいでしょ≫

「助かる。それじゃ」

「おうっ!」



僕達は踵を返し、右足で地面を蹴りながら王様イマジンに向かって加速。

僕も左の脇に挟んでいたデンガッシャーを改めて左手に取った。



「「行くぜ行くぜ行くぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



≪むむむ……ちょっとストップなのー!≫



腕の中のジガンちゃんがそう言うので、わたしは両足を前に突き出して地面を滑る。

さっきまで加速してた関係で数メートル滑って、私はなんとか停止。



「どうしたの? あ、酔っちゃったとかかな」

≪そうじゃないのっ! お姉様から連絡があって……主様達があの王様イマジン見つけたのっ!≫

「ホントにっ!?」



じゃあじゃあ、恭文くんの読み通りに中に居たんだ。それなら……よしっ!



「ならわたし達も」

≪なのなのっ! 戻るのー!≫



私はすぐに振り向いて恭文くん達が居る方へ視線を向けて……また加速。土煙をあげながらコンクリの地面の上を走っていく。



「ジガンちゃん、案内よろしくー!」

≪任せるのー!≫





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



≪――Sir、アルトアイゼンから連絡です。王様イマジンを発見したとか≫



それで丁寧にも向こうの映像を送ってくれたらしく、私の前に新しいモニターが展開。

それに目を向け……え、なによコレ。なんで普通に槍持ちを特攻させてるのよ。



「これは……ヒドいな」

「完全に道具扱いですか」

「まぁ知ってたけどさ」





でもこれだけ派手にやってるなら、Wの二人もすぐに気づいて合流出来るでしょ。

あー、でもアイツが電王に変身してて今は助かったかも。こんな攻撃、生身で食らったら確実に死ぬしさ。

電王になってれば防御能力は生身の時やバリアジャケット装備してる時より上だし、ここは安心。



クロスミラージュにはアイツに『今回は絶対変身を解くな』とメッセージを送ってもらう事にして……あともうちょっとかな。



リインさんならなにも言わずに行き先変更なんてするわけがないから、もうちょっとよ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



モモタロスさんと横並びで走りながら、左手のデンガッシャーの銃口を奴に向ける。

狙いをしっかりと定めた上で引き金を引き、王は銃口から連射される弾丸を右手で持った剣でなんなく斬り払いつつ、左手をかざした。

すると背後の空間にまた歪みが生まれて……僕達は急いで右に回り込み、次の瞬間に射出された兵隊達を回避。



背後で聴こえる爆音は気にせずに、僕がモモタロスさんの前に出て王様イマジンを見据えながらバカの刀を左に振りかぶる。

王様イマジンはそのまま身体を僕達に向き直り、兵隊達を背後の歪んだ空間から射出しようとする。

そこを狙って僕は右手の刀を振るい、王様イマジンに向かって投擲。白の切っ先が王様イマジンの左手に突き刺さる。





≪がぁ≫



でも情けない声を出しながら刀は地面に落ちて、王様イマジンは僕を鼻で笑いながら兵隊達を射出。僕は咄嗟に足を止め。



「モモタロスさんっ!」

「おっしゃっ!」





両腕を大きく広げた上で、後ろから跳んでこっちに迫ってきたモモタロスさんの踏み台になる。

モモタロスさんは僕の右肩を足場にして、高く跳躍。兵隊の射出を飛び越えて王様イマジンに迫る。

僕はそれから右に転がるように兵隊達を避けて、後ろの爆発は気にせずに前に走り出す。



その間に王様イマジンは、自分に向かって唐竹に刃を打ち込んで来たモモタロスさんを迎え打つ。





「おりゃっ!」





ブロードソードでモモタロスさん斬撃を受けて、乱暴にその刃を右に振るってモモタロスさんを払う。

モモタロスさんは地面を転がるけど、すぐに起き上がってイマジンに踏み込みまたデンガッシャーを袈裟に打ち込む。

そこから右薙・袈裟・袈裟・逆袈裟・唐竹・右切上と乱暴に押しこみつつ赤い刃を振るうけど、奴はそれを下がりながら全て剣で受ける。



そんな奴の背後に回り込んだ僕はあのバカを回収しつつ、デンガッシャーで奴の背中を狙い撃つ。

でも奴の背後の地面から砂が噴き出した。それが兵隊の形を取って弾丸を防ぎ……爆発。ち、そういう手も使えるのか。

奴はモモタロスさんの唐竹の斬撃を受け止め、左手を伸ばしてモモタロスさんの右肩を掴みその場で回転。



そうしてモモタロスさんとの位置関係を入れ替えて、モモタロスさんを盾にした。

奴は肩を掴んでいた手を離して僕にかざし、再び背後の空間を歪めて兵隊を撃ち出してくる。

でも僕はそこから踏み込んで左から回り込み兵隊の射出を避けた上で、刃を袈裟に振るう。





「しゃがんでっ!」



モモタロスさんが一気に顔を伏せたところで、僕は王様イマジンにバカの刀を打ち込む。



≪が……がが≫



でも刃は王様イマジンの顔面を斬り裂いたりはしなかった。ただ顔の前で動きを止め、峰の方から砂が勢い良く噴き出しただけ。

それに舌打ちしながらも刃を引きつつ左に跳ぼうとすると、王様イマジンがブロードソードを下に動かす。



「温いわっ!」





奴はそのまま身体を時計回りに捻り、モモタロスさんの腹部目がけて右薙の斬撃を叩き込む。

モモタロスさんは身体から火花が走らせて、地面を転がる。その斬撃は同時に僕にも打ち込まれていた。

下がりつつその斬撃を避けて距離を取り、同時にデンガッシャーの銃口を奴に向けて引き金を引く。



でも奴は僕へと向き直りながら。また地面から兵隊の盾を召喚して、僕の攻撃を全て受け止めた。

『盾』が爆発して攻撃を無効化すると、その白い爆煙を突き抜けてまた兵隊達が……僕は左に走ってそれを回避。

兵隊達は後ろのビルや車道に激突してまた爆発を起こし、ちょっとしか交戦してないのに辺りは地獄絵図になった。





「滅せよっ!」





奴はそう叫びながら僕に向かって右薙に刃を振るう。でもそれは僕から10数メートル離れた距離で……ヤバい。

僕は感じた予感に従いながら足を止めて跳躍すると、刃が黒い光に包まれた。その光の中には金色の粒子が見える。

その光は王様イマジンが刃を振り切ると、1メートル弱で横一線の巨大な斬撃波に変化。



それは地面に撒き散らされた瓦礫を吹き飛ばしながら僕の方へ迫り……跳躍していた僕はそれをなんとか飛び越えた。

斬撃波は背後の街路樹を斬り裂き、ビルの壁を砕く。僕は着地しつつ、刃をまた振り上げる奴の姿を見る。

そうして唐竹に打ち込んだそれからまた同じように斬撃波が放たれ、今度は地面を大きく削りながらこちらに迫る。



左に跳んでなんとかそれを回避して……くそ、あんな攻撃も出来るのか。



どんだけ火力重視なんだよ。後ろでまた大爆発起こしてるし、アレは横馬の親戚かい。





【モモタロスっ!】

「大丈夫だっ!」



モモタロスさんの方を見ると、素早く起き上がりながら両足を広げつつ細かくステップを踏む。

それで奴の後ろに回り込もうとするけど……ヤバい。アレ、押し込まれてる時のモモタロスさんの癖だし。



「ふん、まだやるというのか。貴様らでは我には勝てん」

【そんなの、まだ分からないよ。……キンタロス、来て】

「おいおい良太郎、ここは俺が」

「おっしゃっ! 任しとけっ!」



そう言いかけたモモタロスさんの動きが止まり、スーツの上から装着されていたアーマーと仮面が一端解除。



≪Ax Form≫





アーマーは前後の位置関係を入れ替えた上で再装着された。同時にデンガッシャーも自動で分割され、アックスモードへ変化。



消えた桃の仮面に変わって頭部レールの上から降りて来たのは金色の斧の仮面。



ベルトのバックルの色もそれと同じになり、どこからともなく降り注ぐ懐紙吹雪の中で電王は左の親指で顎を押し込み首を鳴らす。





「俺の強さに……お前が泣いたっ!」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「――あたっ!」



キンタロスがいきなり立ち上がって消えたかと思うと、それと入れ替わりでモモタロスが戻って来た。

車両の真ん中に飛び込んだように倒れて、右手で頭を押さえながらすぐに立ち上がる。



「あの野郎、いきなり出番横取りしやがってっ!」

「まぁしょうがないよ。先輩には荷が重過ぎるし」

「なんだとっ! テメェに言われたくねぇんだよっ! この空気亀っ!」

「ちょっとちょっと、誰が空気だってっ!? 僕はこんなに存在感たっぷりなのにっ!」



そこでウラタロスは、たまたま近くに居たりまの両肩を掴んで顔を寄せる。



「ねぇ、りまちゃん」

「うるさい」



りまは左手を振り上げ――躊躇い無く裏拳っ!?



「はぅっ!」





りまの裏拳を顔面に食らったウラタロスはそのまま崩れ落ちて……あたしは改めて窓の外の景色に目を向ける。



てーか恭文、マジでそのまま戦うつもり? いつものアンタだったら魔法使ってどうこうするのに。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「キンタロスさん、ソイツから絶対離れないでっ! とにかく押し込んでっ!」

「おっしゃっ!」





キンタロスさんは左手で腹をパンと叩いてから、足早に王様イマジンに近づく。

王様イマジンがまた左手をかざして兵隊を射出しようとするので、僕はその腕をデンガッシャーで狙い撃つ。

でも兵隊がまた地面から噴き上がって盾になって……いや、これでいい。



その間にキンタロスさんが距離を詰めて、唐竹にデンガッシャーの刃を叩き込んだ。





「ふんっ!」





キンタロスさんの刃を王様イマジンはブロードソードで受け止め、そこで鍔迫り合いになる。

一旦刃を引いた上でキンタロスさんは、さっきのモモタロスさんとは違う重さを持った乱撃を奴に打ち込み続ける。

王様イマジンがその重さに圧されて後ずさるけど、それでも負けじと刃をキンタロスに打ち込む。



唐竹に打ち込まれた斬撃を左薙の打ち込みで払い、奴はキンタロスさんの右肩に刃を打ち込んだ。



アーマーから火花が走りキンタロスさんの動きが一瞬止まるけど、それでもキンタロスさんはアックスを振り上げ。





「効かへん」

「この」



奴の右肩にその刃を当て、一気に斬りつける。



「なぁっ!」

「糞虫共がっ!」






同じタイミングで互いの刃は振り抜かれ、派手に二つの火花が撒き散らされる。

それでも二人は引かずに袈裟に刃を打ち込み、鍔迫り合い。そこでまた奴の背後の空間が歪む。

そうして射出された兵隊達は今度は散弾のようで……僕は舌打ちしつつも右に走る。



デンガッシャーの銃口を前に向け、引き金を引いてこちらに迫ってくる兵隊達の一部を撃ち抜く。

先ほどのように局所的に射出しているわけではないので、ある程度攻撃を防いで急いで散弾の範囲外に逃げる。

なんとか距離を取った上で改めて奴に向き直り……キンタロスさんがまた押し込んでくれている間に状況整理。





≪ティアナさんもジガン達も、了解だそうです。あと、ティアナさんから伝言です≫

「なに」

≪今回は絶対に変身を解除するなと≫

「……分かってるって返しといて」





ティアナがどうしてそういう事言ったのかは分かるし、僕も今この状況でそれをやるつもりはないから問題ない。

それでまず……あの射出攻撃はヤバい。火力もそうだけど、恐ろしいのは連射力だよ。

一発でも食らって動きを止めたら、そこから連鎖的に撃ち抜かれ続ける。遠距離から撃ち合ってても、絶対に勝てない。



マジでデンライナーで爆撃とかしない限りは火力負けするよ。それと同時に防御能力も高い。

ここは兵隊による防御だね。完全に仲間を捨て駒扱いして……相当だわ。自信持つだけの能力なのは確かか。

ただ、今のとこれまでの戦闘である程度能力の制限みたいなのが見えてきた。



まずあの空間の歪みを発生させるトリガーは、手をかざす事。ここは意識の集中とも言えるかも。

手をかざして射出範囲に意識を向けて兵隊達を発射って感じかな。そこは防御も同じく。

まだ確定するのは危険だけど、あの防御と射出攻撃を併用するのは難しいのかも。



だから射出攻撃の時に接近を許すと、どうしても近接戦闘を強いられる。

あとは……モモタロスさんに近づかれたのに、近距離では兵隊を呼ばない事が引っかかる。

すぐに召喚して羽交い絞めにするなりすればいいのに。多分だけど、そこに穴がある。



アイツが兵隊を呼ぶのには、やっぱりなんらかの制限やトリガーの引き方が必要になる。

あと、あの斬撃波もそうかな。そこが意識の集中だと思うのは、奴が斬り合っている時には絶対にその手の能力を使わないから。

近接戦闘の最中に使うのは、さっきみたいに鍔迫り合い――相手と自分の動きが止まった時だけ。



モモタロスさんを盾にしてきた時もそうだ。だから……呼吸を整えろ。仮面とスーツの外の気配にもっと集中しろ。

まともなぶつかり合いをしたら、現状では絶対に勝てない。だから頭を働かせろ。感覚を研ぎ澄ませ。

そして見出すんだ。勝つために――今を覆すために必要な布石を。それでこんな事……あぁ、そうだ。





「とっとと覚悟決めろよ、三流」



打つべき布石はもう一つある。まずそれを打たないと、ハッピーエンドには程遠い。

だから向こうを観察しながらも、僕は右手の中の刀に声をかける。



≪なにを……これ以上、どうしろっていうんだよ。もう、どうにも……助けて、助けてくれ≫

「ダメだ。お前はもう、謝って許されるような状況には居ない」

≪じゃあ……じゃあどうしろって言うんだよっ! こんなんじゃどうにも出来ないだろっ!≫

「それは誰が決めた」



そんな泣き言がおかしくて、僕は仮面の下でこのバカの戯言を鼻で笑う。



「僕はまだそんな事決めてない。お前の限界を、僕達に押しつけるな。
……もう一度言うぞ、僕に跪け。そして覚悟を決めろ。お前にはそうして、数えるべき罪がある」

≪なん、だよそれ≫



僕は再び斬り合っているところに突撃して、奴の背中に刺突を打ち込む。でも……刃はやっぱり奴の身体を貫けない。



≪あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!≫





打ち込んだ刺突の衝撃をそのまま表すように、白い刃の柄尻から砂が激しく噴き出した。



同時に刀身の切っ先から僅かな亀裂が入り……それでも僕は一歩も引かない。



王様イマジンがキンタロスさんの腹を左足で蹴って転がせた上で、僕に向かって振り向きながら右薙の斬撃を打ち込む。





「ふんっ!」





僕は刃を左に引いて、素早く相手の剣に向かってこのバカを打ち込む。でもまた刃から砂が噴き出し、亀裂が深くなった。



それには構わず斬撃の衝撃を、地面を踏み締めながら耐えつつ至近距離でデンガッシャーの銃口を奴の胸元に押しつける。



次の瞬間、奴の身体は連続的な射撃に撃ち抜かれ、火花を身体から走らせながらたたらを踏む。





「キンタロスさんっ!」



キンタロスさんが立ち上がりながらも左手で握ったパスを、ベルトのバックルにセタッチ。



【今だよっ!】

「おうっ!」

≪Full Charge≫



そのパスを左に放り投げる、キンタロスさんはバックルからの火花を受けて金色に輝く刃も頭上高く放り投げた。

それから腰を落としながら右手を地面に当て、一気に跳躍。回転しながら頭上を跳んでいたアックスの柄を掴む。



「どりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」





そのまま王様イマジンに向かって飛び込み、その背に向かって全体重を乗せた斬撃を叩き込む。



僕は続けて弾丸を連射していて、王様イマジンは二つの攻撃に挟まれ……これで決まるかと思った。



でも咄嗟に兵隊達を10体以上出現させて盾を構築し、その斬撃を受け止めた。結果、兵隊達は爆発。





「うわっ!」





キンタロスさんは爆発に吹き飛ばされて地面を転がる。……くそ、もうちょっとだったのに。

舌打ちしながらも王様イマジンが僕に向かって左手をかざしたので、素早く右に走り込んで兵隊射出を回避。

そうしながらもデンガッシャーで奴を狙い撃ち、回り込みながら立ち上がったキンタロスさんの方を見る。



キンタロスさんは奴が僕の射撃を兵隊の盾で防いでいる間に再び走り込み、袈裟の斬撃を打ち込んだ。

奴はそれをブロードソードで受け止め……もうちょい押し方を考えないと、対処されるな。

一番いいのはやっぱ僕も必殺攻撃ってパターンだけど……ちょっとそれは避けたい。



出来ればなんとかして攻撃を確実に当てたいのよ。これで逃げられたらまた元の木阿弥だし。

先程の躊躇いのない手駒の使い捨ての様子を見るに、呼び出せる兵隊の数も基本無限っぽいしなぁ。

消耗戦になったらこっちが不利なのは明白だから……一番手っ取り早いのは、こっちの攻撃要員を増やす事。



あとは変身を解除して魔法を使用? でも今はまだだめだ。右手の中のバカが覚悟決めてないし。

でもこのままやり合ってても、向こうがどんなにバカでもこっちへの対処を始められる。

……強い相手に隙が出来やすいのは、自分の能力が強力だと知っているから。その強さを知っているから。



だから能力が強い人間は、どんなに本気で戦おうとしても『本気』には成り得ない。だってその隙があるから。

でもその力がもし相手に通用しないものだと知ったら? 少なくとも今目の前に居る相手にはだよ。

そうしたら隙がなくなる。結果それは……相手の本気を引き出す事になる。だから今なんだ。



今、相手が隙を出しっぱでこっちを格下の『糞虫』だと罵っている間に勝負をつけたい。



……万が一の場合は、変身解除か。正直チンタラ待っている余裕はない。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



覚悟って、なんだよ。跪けって、なんだよ。オレのなにが足りないんだ? もう謝ってるじゃないか。

それで罪が――オレがコイツらにやった事がどうして許されないんだ。なんでそれじゃあダメなんだ。

謝って謝って……もう怖くてしょうがないんだ。オレは、生命を賭ける事がこんなに怖いなんて知らなかった。



どうせ元々消えるかも知れなかった身だし、別に大した事ないってタカをくくっていた。

自分の中から生命が零れ落ちる事がこんなにも怖くて苦しい事だって知らなかった。

もう、もう嫌だ。頼む、許してくれ。もう絶対こんな事はしない。だから……またオレは奴の身体に叩きつけられる。



オレじゃあダメージを与えられないってコイツは知っているはずなのに、まだオレを使う。



だが今度は少し違った。肩口に叩き込まれたオレの身体は妙な風に包まれて、その風が奴の身体に傷をつける。





「くぅ……!」

「纏飯綱」



アイツは反撃であの王様が袈裟に打ち込んだ刃を身を伏せ避けつつ、返す刃での薙ぎ払いをさっきと同じようにオレで受ける。



「もどきっ!」





今度は奴の刃を押し返して、奴の体勢を崩した。奴は忌々しく少し下がりながらも刃を右に引き、光を灯す。

その光に包まれた刃を反時計回りに身を捻りながら打ち込んで、周囲に斬撃波を撒き散らす。

サークル状になっている斬撃波を二人は揃って飛びながら回避し……そこを狙って奴が左手をこちらにかざす。



コイツは跳躍しながらまたオレを奴に向かって右薙に振るう。でも刃は当然ながら届かない。

だから無意味な攻撃だと思っていたら、奴の手が火花を放ちながら大きく上に弾かれた。

また……まただ。またオレの身体が妙な風に包まれた。コイツが刃を振るいながら手首をスナップさせると、その風が生まれる。



さっきのはその風を射出して、奴を斬りつけたんだ。それで相手の射出を止めた。





「飛飯綱もどき」





そのままコイツは奴に飛び込みながら、また風を纏わせてオレを左の肩口に袈裟に打ち込む。

オレを振り切ると、奴は肩と身体の前から火花を散らす。同時にオレの身体からまた砂が噴き出す。

奴はたたらを踏んで後ろに下がりながら左手をかざし、また空間を歪めて兵隊を射出。



コイツは右に動いてその射出を回避。あの金色の電王がその間に背後から飛び込んで斬りかかった。



奴はその唐竹の斬撃を、振り向いてブロードソードで受け止め……ダメだ、マジで怖い。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



今使っているのは、るろうに剣心で雷十太が使っていた飯綱――かまいたちを発生させる技。

先生が前に漫画で読んだのにアレンジを加えたのを教えてくれて、僕も使えるのよ。

ただまぁ、非殺傷設定とかすっ飛ばす攻撃だから普段は使わないけど。あと斬撃波って……ワンパターンになりがちだし。



でも今のコイツはナマクラ以下の駄犬ならぬ駄剣だし、これくらいしないと効率的にダメージを与えられないもの。



さて、そうなると……くそ、こうなったらイチかバチかこのメンバーで決めるしかないか?





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



風を纏ってもオレの生命が砂となって撒き散らされるのは変わらない。コイツが刃を振るう度にオレの生命が溢れる。

その時また身体中にあの嫌な痛みが走り、それが恐怖になる。

そしてとうとう切っ先から入ったヒビが刃の中ほどにまで到達した。もうすぐオレは、消える。



怖くて辛くて苦しい感情に支配されながらオレは、もう……そこで一つ気づいた。

オレは確かにコレを知らなかった。知らずにコイツの身体を使っていた。タカをくくっていた。

勝てば問題ない。すぐに返すから問題ない。そう言って笑って得意げに戦っていた。



それだけじゃなくオレは……オレは痛みから生み出されるのとはまた違う恐怖を、感じ始めていた。



まさか……まさかコイツの言っている覚悟って、アイツが言ってた足りないものって……マジかよ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『あぁもうじれってぇっ! おい、ちょっとしゃがんでろっ!』





そう言ってジャックは鉄球を持ったまま身体を反時計回りに振り回し、それで周囲を薙ぎ払い始めた。

鉄球の回転速度と範囲は徐々に広がり、辺り一帯を薙ぎ払う台風と化す。

その風とそれによって舞い散る小石、もちろん鉄球自身にも衝突して、私の幻影が消えていく。



自分達を囲んでいた幻影を消したら、今度はクイーンが身体を動かしつつステッキの先を頭上に掲げる。



それで障壁を展開してから、杖を右に振るってそこからエネルギー弾を射出。ビルの上に居る幻影達を撃ち貫く。





『本当にうざったいわね。こんな事で』

『俺らがやられるかよっ!』





でも残念ながら、そうもいかないのよねぇ。……私は改めて意識を集中。クロスミラージュのカートリッジも更にロード。

幻影がまたまた先ほどと同じように……いいえ、先ほどよりも多く出現した。

その中にはディードとアクセルも居て、その様子を見て奴らは『うんざり』という空気を出す。



それはこちらも同じで、息が多少荒くなってきてる。さすがにカートリッジ使いまくってるとは言え、キツいなぁ。

ただまぁ、奴らが調子乗っているうちに……私は幻影を操作して、アクセルとディード達を二人に突っ込ませる。

連中はまた私達の周囲に居るのが幻影かと思うわよね。だったらここから離れて王と合流した方が得よ。



そうなればこれは完全な足止め。それに付き合っている理由はない。だけど二人は、それでいいかどうか少しだけ迷ってしまう。

その原因は、さっきから私が手間がかかるのに幻影に回避行動を取らせているから。言ったでしょ?

タネは撒いてるって。マジックはまず一度使う事そのものが、次のマジックの布石になるのよ。



あとは弾丸に実際に本物が紛れ込んでいるからよ。そのために思考に選択が生まれてしまう。

『弾丸と同じように本物が居るんじゃないか。だったらソイツを潰せばこんなめんどくさい事も終わる』……ってね。

あとは自分達の力への自負もあるっぽい。そこは見ていて感じた。そういう驕りと甘えが……隙になる。



ジャックは再び頭上で鉄球を回転させ、自分達に迫ってくる幻影を薙ぎ払い、幻影が鉄球にかき消されていく。

でもそんな中、自分の右から襲い来る鉄球の下をかいくぐるディード達が居る。

三人のディード達は素早くジャックに接近。刃を広げながら自分の方に来るそれらをジャックは素早く対処。



まずは右手で持っている鉄球の鎖を持ち上げるようにして頭上に振り上げ。





『邪魔なんだよっ!』





その鎖を唐竹に振るい、鉄球を上から打ち下ろす。頭上から襲い来る鉄球をディード達は散開して回避。

鉄球は轟音を響かせながら地面を砕き、それを背に三人のディードがジャックに斬りかかる。

ジャックは空いている一番目に突撃してきたディードの攻撃を気にせず、そのまま身を時計回りに捻る。



どうやら一発目では攻撃は来ないと判断したらしい。えぇ、良い読みよ。普通ならそうする。



別に難しい理屈じゃなくて、幻影に対処させてその隙を突くとかさ。でも、ちょっと甘いわ。





『邪魔なのは』



ディードは翼を広げるように振りかぶっていた二刀を右から袈裟・逆袈裟と打ち込んでジャックの背中を斬る。



『あなたの方です』





ジャックは呻きながらもその場でたたらを踏み、忌々しげにディードの方へ振り向きながら右で裏拳を叩き込む。

ディードは素早く下がってそれを回避してから、両足を地面につけ一気に加速。続けてくる鉄球での薙ぎ払いを跳躍して回避。

奴は左手で鎖を掴んだまま身を捻り、その薙ぎ払いでディードの幻影を消し去った。



ディードは素早く奴の背後に回り込んで、左のツインブレイズを逆手に持ったまま身体を時計回りに回転。

ツインブレイズを展開して二刀で描いた蒼と赤の螺旋で奴の身体を削り斬って吹き飛ばす。

アレでも元々はパワータイプ。ディードの斬撃は何気に重く、螺旋と言う名の連続攻撃はあの巨体を地面に転がせた。



……これも布石よ。ディードの今の攻撃は、別にアイツを倒すためのものじゃない。

もちろんそうしてくれた方が助かるけど、大事なのは『本物が居る』と思わせる事。

なので私はビルの屋上の幻影から弾丸を数発発射。その弾丸は幻影や奴らの合間の地面に着弾して、白い煙を発生させる。



そこで素早く幻影を更に追加して……マジでファンタズムにバージョンアップしてよかったわ。



単に射撃能力どうこうだけじゃなくて、幻影を用いての心理戦もかなり好きに仕掛けられる。だから照井竜、一気にやりなさい。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ティアナちゃんの指示通りに幻影の中に紛れ込んだ俺は、素早く左手でアクセルメモリをドライバーから抜き出す。

代わりに白い煙幕の中で右手で取り出すのは、長方形のストップウォッチ形状のメモリ。

メモリ上部は銀色の円形状のカウンターが設置されて、その横にはまた別のパーツがつけられている。



その名は――トライアル。左手でメモリ上部のパーツに触れて、メモリを捻るように変形。



ストップウォッチの表示が上に向き、正面には信号機を模した三つの小型ランプが向く形になった。





≪Trial≫



トライアルメモリをドライバーに挿し込み、最初に変身した時同様に右手でアクセルを捻る。



≪Trial≫





ランプが正面から見て右から点滅。まず赤に輝き、次に真ん中――黄色のランプが点滅。

同時にアクセルの装甲がランプと同じ色になり、次は青色に変化。

その瞬間、甲高い電子音が鳴り響き俺の姿は変わっていた。まず全体の装甲形状が丸くなっている。



一番目立っているのは肩パーツだろうか。全体的に小型化してシェイプアップしていると思って欲しい。

背中と脚部のタイヤとその基部パーツもそれは変わらず、胸元とバイザー近くの装甲が銀色へ変化。

両肩と両腕、両足の横には黒のタイヤの跡のようなモールドが刻まれる。



青かったバイザーもオレンジ色になり、口元にエアダクトのようなものがつけられている。

全体的な印象は……先ほどのが普通のヘルメットなら、こちらはオフロードのヘルメットだろうか。

俺は身体を時計回りに捻り、右腕を大きく伸ばしながらその場で素早く回転。



瞬間的な回転によって生まれた風圧が、俺の周囲の煙幕を吹き飛ばす。

クイーンとその周囲の兵隊数体は、そんな俺『達』を見て迷いを見せた。

俺の周囲には――先ほどとは違い、トライアル状態での幻影が大量に出ているからな。



だからだからどれが本物かなども分からず、奴は障壁をとりあえず展開。兵隊達も槍を突き出しながら俺達に突撃する。



俺は幻影と速度を合わせる形で踏み込みながらメモリを再び取り出し、挿入前の形状に戻す。





「さぁ」



その上で表示右上のカウンタースイッチを押して、トライアルメモリを放り投げる。



「振り切るぜっ!」

≪Trial――Maximum Drive≫



トライアルは『挑戦』の力を持つメモリ。その効果は――超加速。俺の身体は幻影達を追い抜き一気に一団に迫る。

突き出される槍を左右の拳で払いながらも兵隊達の脇をすり抜け、ただ標的を見据え拳を握る。



≪1≫



クイーンはそんな俺に向かってまずは障壁から散弾を発射。だが俺は素早く左に回り込んで散弾を回避。

散弾は俺のそれまで居た場所を通り過ぎ、背後から兵隊達を撃ち抜き砂に返して……フレンドリファイアか。



≪2≫



それを気には止めずに奴は自分の背後に回り込む俺の方へ向き直ろうとするが、その前に俺は左フックを奴の頭部に打ち込む。

その一撃で奴の動きを一瞬止めてから、素早くステッキを持っている腕をそのまま左手で掴んで捻り上げる。



≪3≫



そこから右足を上げて、素早く奴の胸元に蹴り。続けて足を引いて右薙に蹴り。

次は左薙・唐竹・右薙・唐竹・左薙――連続的にひたすらに蹴りを叩き込んでいく。



≪4……5……7≫

「が」





トライアル状態のアクセルはスピードには自信があるが、パワーが赤いアクセルより低下している。

そのため相手を一撃で仕留める事が出来ない。仕留めるのであれば、超加速による連続的な攻撃しかない。

一撃で足りないなら十撃――それで足りないなら百撃。ひたすらに攻撃を叩き込んで奴に力を注ぎ込む。



10秒だけの最大加速の時間に、俺はありったけを注ぎ込む。





≪6……7……8≫

「がぁ」



俺の蹴りの軌道が青い閃光を生み、それが奴の身体に『T』の字を刻み込む。

揺れる半透明状のTの字は蹴りを叩き込む度にその揺れを止め、確かな形へと変わる。



≪9≫





その形を奴の奥底に叩き込むように、奴の手を放しながら止めに回し蹴りを打ち込む。

奴はその衝撃でたたらを踏みながら後ろに下がり、俺はそんな奴に蹴りの勢いのまま振り向き背を向ける。

同時に俺の目の前に落ちてきたトライアルメモリを右手でキャッチし、カウンターをストップ。



トライアルメモリのマキシマムドライブには一つ弱点があり、最大加速は10秒までしか出来ない。

それまでにマキシマムドライブを今のように停止させなければ、強制的に変身が解除される。

だからこそこの10秒に全てを叩き込んだ。だからこそ奴はそれを受け止めきれず……仰向けに倒れる。





「――9.4秒」

「旦那、様」

「それがお前の、絶望までのタイムだ」

「なぜ、私達の言う事……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」





俺の背後で爆発が起こり、赤い炎が舞い上がる。それは周囲の兵隊達も巻き込み砂へ返した。



まずは、これで一人。ティアナちゃんの予測通りに『速さ』で奴を仕留められて本当に助かった。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『速さ』は……もう説明するまでもなくそのままよ。相手の反応速度や障壁の展開速度を超える速さでクイーンを討つ。

だからアクセルの幻影でクイーンの近接戦闘能力を確かめたの。あれでクロスレンジならやれると確信を持てた。

つまりよ、障壁を展開させる間もなく攻撃するか、展開させてもそこから死角に素早く回り込んで攻撃すればOKってわけ。



こっちをナメ切っているからこうなるのよ。ただ、まだ油断は出来ない。またまた再生ーとかされるかも知れないし。



私は幻術を停止した上で立ち上がり、改めて呼吸を整え両手のクロスミラージュをしっかりと握り締める。





「クロスミラージュ、行くわよ」

≪Yes Sir≫





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「姐さんっ! ……クソ、テメェら」

『よそ見は感心しないな』





ジャックの背後から走り込んでいたのは、BY。黒いマントをなびかせながら……なんというか、今ひとつ私は慣れない。



ただジャックはそれでも冷静にBYへ振り向きつつ、まだ10メートル以上の距離がある彼に鉄球を投げつけようとする。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



不思議だ。あぁ、私は機械で人ではないのに『不思議』という言葉を現状で当てはめてしまう。

なぜなら私は……今までこうやって誰かと一緒に戦った事がない。いつも一人で、命令のままに戦っていた。

だが今は違う。敵だった私を味方と認識し、信頼して指示を送る存在が居る。なにより、私は命令のために動いていない。



ただあの状況を……あの少年が消えた今の時間を変えたいと考えている。おかしいだろうか、この私が考えて答えを出すなど。



だがそれでもいい。それでも私は……この身を黒い光に包んで加速する。





≪Black Sonic≫





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



でもジャックが手元の鉄球を動かそうとしても、鉄球は動かない。



それが疑問に思ったのか、ジャックが右側に置かれている鉄球に目を向けると……鉄球は凍りついていた。



鉄球の下から氷の柱が生まれていて、それが鉄球と鎖を戒めていた。





「な……なんだよコレっ!」



疑問に答えるものなど誰も居ない。私も二刀に力を込めつつ再度突撃。



「BY、合わせてっ!」

『心得た』





BYは今までほとんで戦闘に参加していなかったから、その分やはりいきなり出てくると驚くもの。

同時に例え時間稼ぎにしかならなかったとしても、武器を戒める事も驚き――隙になる。

私達はその隙を突くために最大加速で突撃。刃を振りかぶり、それぞれの相棒を左薙に打ち込み斬り抜ける。



黒と蒼の閃光は前後からジャックを挟み込み、鉄球を戒めた氷を砕きつつも奴の装甲を斬り裂く。





「デュアリティ」



奴の前で足を止めて素早く振り返り、私は再びツインブレイズを展開。

先ほどと同じように左の刃だけ逆手持ちにして……再び奴に飛び込む。



『鉄輝』



BYも同様に奴に向かって再度踏み込んで、両手で柄をしっかりと握り締める。ジャックは鉄球を振り上げようとするけど、もう遅い。



「サイクロンッ!」

『繚乱っ!』





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



私の目の前で蒼と赤の二色の螺旋が生まれ、それがこの怪物の身体に斬撃として打ち込まれ削り斬る。

その斬撃の中へ押し込むように私は黒い光に打ち込まれた刃を袈裟に打ち込み、奴の巨大な体躯を押す。

次に右薙・左切上・逆袈裟・左薙・右切上・唐竹と打ち込み、再び右薙に刃を打ち込み奴に背を向ける。



ダメ押しで背後にエネルギースフィアを生成して、ブラッククレイモアを連続発射。



1発撃ってすぐに次のスフィアを生成して、奴を散弾の雨にさらしてその身体を撃ち抜き続ける。





『ブラッククレイモア――フルバースト』





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



黒の乱撃と蒼と赤の旋風――三色の斬撃が奴を前後から挟み斬り、鉄球を繋ぐ鎖を微塵に断ち斬る。



私はその場で回転しながらも足を止め、奴に背を向けつつツインブレイズを元の片刃の二刀に戻す。





「な……んで」



背後から重いなにかが落ちる音が聴こえた。そしてその声は……先ほどとは全く違う悔し気な声。



「あのバカ、なんで……だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」





そして後ろで爆発が起こり、私は攻撃の間ずっと止めていた息を吐いて、周囲を警戒。



ゆっくりと刃を下ろしながら振り向く。爆炎の向こうでBYは険しい表情をしながらも……どこか満足気に頬を緩めていた。





(第135話へ続く)




















あとがき



恭文「はい、久々になってしまったドキたま/じゃんぷ超・電王編です。いやぁ、難産だった」

あむ「確かに時間かかったよね」

恭文「まぁそれもこれも作者が相手の能力を強くし過ぎて打破の方法が思いつかなかったという悲しい現象が」

あむ「いやいや、それダメじゃんっ! てーか自分で考えてアウトってどういう事っ!?」



(いやぁ、考えてたのに穴があるのが分かって再構築……難産だったなぁ)



恭文「とにかく本日のお相手は、作者が『やっぱ超高速とか小説で再現無理』とヘコんでいるのを見て楽しい蒼凪恭文と」

あむ「日奈森あむです。……え、なんで?」

恭文「いやね、なんかアクセルのトライアル使用映像とか見まくったわけですよ。某所で」

あむ「あー、今回使うしね。それで?」

恭文「なんかね、一応それっぽく書いたんだけど今ひとつこう、テレビの感じが出てるか不安なんだって。
ここも難産だった理由だよ。だってほら、やっぱり小説だと『速い』って再現するのかなり難しいし」



(それを一言『速い』で済ませるんじゃなく、色んな形で表現するのが表現力だって小説講座サイトで言ってた)



あむ「でもほら、神速とかは」

恭文「アレは相手との時間感覚に差が出るし、スイッチが入ると景色そのものが変わるしねぇ。やりやすいんだって。
でもそういうのじゃないとコレが中々。小説って……やっぱり難しいね。作者は最近その難しさを痛感しているそうだよ」

あむ「またなんかあった?」

恭文「いや、単純にもっと勉強したいなって思ってる感じらしい。雑学的なとこも含めて」



(なので最近、昔だったら絶対見なかった野球の試合とかもニコ動で見るようになっていたり。
あとは相撲とか格闘技とか……そういうのも見て、小説のこやしに……出来たらいいなぁ)



恭文「まぁそんな作者の近況はさておく形で、今回はクイーンとジャックが……やっぱり使い捨てなんだね」

あむ「あと能力は強いけど、戦い方がヘタで負けるって……まぁいつものパターンだよね」

恭文「パターンだねぇ」



(ここの辺りはやっぱりDTBの影響かも。単純にインフレ防止としてはあれは良い感じ)



恭文「それと戦い方がヘタなのは王様イマジンにも言える事なんだよね。ほら、兵隊召喚に制限があるから」

あむ「あー、あったね。クイーンとジャックはそこ分かってたから隠れてろって言ったっぽいのに……バカだねぇ」

恭文「あれだよ、やっぱ強い能力があると足元お留守になるんだよ。ほら、フェイトとなのはも結局それだし」



(『うぅ、なのははともかく私は反論出来ない』『そんな事ないよー! なのはだって頑張ってるんだからー!』)



恭文「だからとまとで能力在りきで中堅どころを突破しようと思ったら……そりゃあアイアンサイズくらいやらないとなぁ」

あむ「それなしで超えてるのは……やっぱアンタとか?」

恭文「いや、僕も瞬間詠唱・処理能力があるからあえて外す。それに自分持ち上げても意味ないし。
ここで言うのは……ティアナとか。今回はティアナすっごい活躍してたし」

あむ「あ、そうだね。相手振り回して時間稼ぎして……煙幕使ったりとか」



(実際SLBとか使わなくてもかなりの良キャラなのに……原作ではどうしてなのは2世に)



あむ「作者さん的にもやっぱティアナさんって書きやすいキャラなのかな。
ほら、StSのキャラの中ではオリジナル武装とかあってかなりパワーアップしてるし」

恭文「あー、それはあるっぽい」



(逆になのはとかスバルとか……基本力押しで一直線なキャラは戦闘書くのもちと苦労したり。
だって奴ら、基本突撃して殴るか砲撃・誘導弾・バインドの三点突破しかしないし)



恭文「まぁそんなティアナもインフィニティ・ガンモードで大艦巨砲主義に走りかけていたのが、テクニカルキャラに戻ったわけだけど」

あむ「走りかけてたのっ!? と、とにかく次だよね。次はいよいよ決着かな」

恭文「多分ね。というわけで、最後どうなるかに是非ご期待を。
もう無理ゲーじゃないからきっとなんとかなるでしょ。それでは本日のお相手は蒼凪恭文と」

あむ「日奈森あむでした。それじゃあみんな、またね」




(ちょっと恥ずかしかったのか、軽くそっぽを向く現・魔法少女。照れ屋なところは変わらないらしい。
本日のED:仮面ライダーWのBGM『トライアル』)










ティアナ「私、このままテクニカルキャラとして頑張るわ。絶対大艦巨砲主義には走らない」

恭文「うん、そっか。でもさ、そう言いながらなんで僕を艶っぽい目で見るの?」

ティアナ「そんなの、アンタに第4夫人にしてもらうために」

恭文「そっかぁ。ねぇティアナ、とりあえず地獄へ落ちてよ」

ティアナ「はぁっ!? アンタ、なんでそうなんのよっ!」

恭文「あのね、何度も言わなかったっ!? おのれはただIKIOKUREたくないから僕とそうなりたいんだよねっ!
本編で特に相手居なくてIKIOKUREたくないからだよねっ! そんな理由で付き合えるかっ!
僕の事好きとかなら真剣に答えるけど、そんな理由じゃこういう答え方しか出来ないっつーのっ!」

フェイト「そうだよティアナ。あのね、もうちょっと落ち着いて探してみたらどうかな。
私だってヤスフミとお付き合い始めたのは20歳からだし、まだ遅くないよ」

ティアナ「でも原作見てたらなんか夢も希望もなくなって……そのうちウェンディやスバルと夫婦扱いにされそうで」

恭文・フェイト「「泣かないでいいからっ! というか、そんな危機感持ってたのっ!?」」





(おしまい)





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あきゅろす。
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