小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説) 第133話 『EPISODE AIZEN/荒れまくりな決戦スタートッ!?』 ラン・ミキ・スゥ『しゅごしゅごー♪』 ラン「ドキッとスタートドキたまタイムー♪ さてさて、今回は――えぇぇぇぇぇっ! 恭文が電王にー!」 ミキ「本人、嬉しがるよね」 スゥ「でもでも、そんな場合じゃないですよぉっ! このままじゃあ恭文さんがぁ……!」 (立ち上がる画面に映るのは、大暴れなみんなとなんか強敵っぽいあれ) スゥ「恭文さん、待っててくださいー! スゥが今行きますぅっ!」 ミキ「とってもマズい感じのする超・電王編第3話、さっそくいくよー。せぇの」 ラン・ミキ・スゥ『じゃんぷっ!』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「アンタ、それ」 「恭文さん……まさか」 【電王っ!? そんなバカなっ! 彼は電王への変身は不可能だったはずだっ!】 「へへ……はははははははははははっ! 見たかバカ共っ!」 アイツは笑いながら――ううん、アイツの声じゃない。とにかく蒼い電王は笑いながら両手を広げて笑う。 「これでオレは無敵だっ! 正真正銘の正義のヒーローなんだよっ!」 「テメェ……青坊主の変身途中を狙ってたのかっ!」 「あぁそうだよっ! そうすりゃいくら特異点だろうが問題なく身体を横取り出来るからなっ! お前だって同じようにしてんだから、そこ考えるに決まってるだろっ! ばーかっ!」 コイツ……確かに自分の行動が責められまくってたのに不満持ってたけど、ここまでするなんて。 完全に目的のために手段がアレってパターンだし。というかこれ、ヤバいかも。 『貴様、懲りてないようだな。今すぐに蒼凪恭文の身体から出て行け』 「それは無理だっ! ほれ、子分ども動けっ! そうじゃなきゃコイツもろともオレは死ぬぞっ!」 「アンタ、ほんといい加減に……!」 「そうだそうだっ! 虫臭いクセに生意気だー!」 『それは勘違いだ』 コイツに向かって反射的にクロスミラージュを向けようとした私を、BYが左手で制する。 『お前は蒼凪恭文という男を――私の元となった男を甘く見過ぎている。貴様、地獄を見るぞ』 「へ、見せたきゃ見せてみろっ! その代わりコイツの身体が」 「よく分かったよ」 「――へ?」 いきなりアイツの声がすっごいクリアに聴こえて、素早く右手が前に突き出される。その腕を左手がいきなり掴んで下げようとした。 でも右手は下がらず、まるで左手に抵抗するみたいに……あれ? いやいや、なんで自分の身体なのにこんな事に。 「お前……なんで」 「よく分かったよ、クソ虫」 右手は左手を振り払い、思いっきり前に伸ばした。 「僕はイマジンじゃないけど、お前の望みを叶えてあげるよ。だから……僕に跪け」 「テメェ……!」 その声と共にアイツの胸元のアーマーから蒼く半透明なあのイマジンの姿が現れ、それが光の玉に戻ってアイツの右手に収まる。 それは一瞬で鍔も柄も刃も真っ白な刀に変わった。そして次に、黒かった仮面の瞳が今度は空色に変わる。 「さてこれで……あらま、ちょうどいい」 刀を下ろして、アイツは首を回し息を吐く。 「恭文さん……ですか?」 「うん。ディード、嫌だなぁ。僕の事忘れちゃったの? うぅ、兄として悲しいよ」 はい、そこで左手で口元押さえてしくしく泣くなっ! マジ行動おかしいからそれはやめて欲しいわっ! 「いや、『うん』って……アンタなにやったのよっ!」 「そうだぞっ! 青坊主、お前……なんじゃそりゃっ!」 「いや、気合いで跳ね除けようとしたらこうなって。とりあえずコイツ追い出せば変身解けるかなと思ったんだけど」 「いや、追い出すってアンタ」 あ、そっか。パスの力でそういう事出来るんだっけか。 でもそれならなんで変身解けないの? てゆうかその刀は……まさか。 ≪くそ、なんでオレこんなんなんだよっ! テメェ、元に戻せっ!≫ 「刀から声――おいおい蒼凪恭文、あのイマジンそれなのかよっ!」 【なるほど、武器化したわけだね。実に興味深い】 「そして弱っちそうなのです」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「ちょ、アレ幸太郎や俺と同じじゃねぇかっ!」 「恭文も電王になったらイマジン武器化するのかよっ!」 あぁ、そう言えばイマジン武器にしたり……って、空海もそうなわけですか。 あたしそこは知らなかったなぁ。てゆうかあの夏に怪我したあれで変身してたわけですか。 「でもでも、これでもう身体好き勝手にされたりはないよねー!」 「電王になって取り憑いてもあれで、普通に取り憑いてもあれでちゅちね。恭文にこれ以上は手出し出来ないでちよ」 「そして良太郎さんも同じ特異点だから、二人に取り憑いてどうこうはもう無理。 ティアナさん達が不安だけど……恭文がそこを許すわけがないわ。これで一応は安心」 りまはそこまで言って固まって、食堂車の窓の外から恭文を見て……一筋の汗を垂らした。 「じゃないかも」 「そうかもー。クスクス震えが来てるよー」 「りまちゃん、それってどういう」 なぎひこも言いかけて同じように固まり、頬を引きつらせた。それに関してはあたしと唯世くんも同じ。 デンライナーに残ってる他のみんなもそれは変わらなくて、あのオーナーでさえ困り顔。 「あぁそっか。うん、言いたい事は分かる」 「ナギナギ……やっぱりだよなぁ」 「むしろここまでされてそうならぬ理由が分からん。せっかくの元旦が潰されているからな」 「うん、僕も分かったよ。というか蒼凪君、これを読んでたね」 「え、読んでたって……唯世君、まさかとは思うけど恭文君」 ハナさんが頬を引きつらせながら唯世くんの方を見ると、唯世くんは……困り顔で頷いた。 「えぇ。だからあのイマジンを拘束しなかったのではないかと。 蒼凪君ならそれくらいしてもいいのに、おかしいなとは思ってたんですけど……ね、あむちゃん」 唯世くんがハナさんから視線をあたしに移してきたので、その……頷きました。 「だと思う。てゆうかあれだよね。アイツ、ただじゃ済まないだろうなぁ」 「恭文、完全にキレてるしね」 「恭文さんの口調が荒くなる時は、大体プンプンな時ですからぁ」 「そしてその場合、原因となった相手は」 「こてんぱんにされちゃうんだよねー」 恭文がここまで好き勝手にされてキレてないわけないと思うんだよね。うん、間違い無くね。 だから今までの行動パターンを踏まえた場合、アイツは死んだ方がマシってレベルの目に……南無。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「左、フィリップ、お前達も話はあとだ。……来るぞ」 確かに照井竜の言う通り、あのイマジン達がわらわらとやって来て……さて、どうしましょうかね。 まぁどっちにしても攻撃しかないんだろうなと思っていると、アイツがいきなり一人で飛び出した。 「ちょ、アンタっ!」 そして先頭に居た槍を持った兵隊イマジンの突きを左に動いてかわし、あの刀でイマジンを斬る。 それでおかしい事が起こった。アイツの腕ならイマジンくらい両断出来るはずなのに、刃が通らないのよ。 それどころか刀から打ち込んだ衝撃をそのまま表すように砂が大量に噴き出した。 ≪がぁっ!≫ 私達もアイツに近づき刀をよーく見ると……ちょ、あのえっと……アレはなに? 刀どうこうじゃなくて、アイツの身体からとんでもない量の殺気が出てる。 もうね、近づきたくないってレベル。てゆうかここまでブチギレ状態なアイツ、結構久々に見るかも。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「おやおや、予想以上に」 右足を上げて刀を引きつつイマジンを蹴り飛ばすと、イマジンは大きく吹き飛び仲間を倒していく。 続けて2時方向から撃ち込まれた槍を右薙に刀を打ち込んで払うと、また刀から砂が噴き出す。 「なまくらだねぇ」 ≪ぐ、ぐぅ……テメェ、やめろっ!≫ 「やめろ? なんでかな」 払って11時方向からまた突き出されてきた槍を左に身を逸らしてかわし、その槍の柄を左手で掴んで引き寄せる。 そうして胸元目がけて刀の切っ先を突き立てると、今度は柄尻から砂が噴き出した。 ≪がはっ! ……さっきまでのゴタゴタで大分消耗してるんだよっ! いいから身体貸せっ! テメェがやるより俺の方が勝率高いだろうがっ!≫ 「そう、でもダメだよ」 刃を引いて刀を握ったまま踏み込み右拳で兵隊を殴り飛ばす。 その勢いも活かし振り向いて、背後から突き出された槍三本を左後ろ回し蹴りで払う。 「だってさっきのゴタゴタで身体ボロボロなんでしょ?」 踏み込んで刃を峰側に返した上で、コイツを乱暴に唐竹に打ち込む。すると兵隊達は後ろに下がってそれを避けた。 うん、当然だよね。当てるつもりもなかったし。とにかく地面に当たった刀から、また勢い良く砂が噴き出す。 「だから僕はお前が死ぬまで一緒に戦ってあげるから」 ≪な……!≫ 「なにを驚いてるの。お前も僕に同じ事をしたじゃないのさ」 ≪違うっ! オレはこんな事はしてねぇっ!≫ そんな事を言うので右足を上げて、全力で刀を踏んでやる。すると砂が接触箇所から勢い良く噴き出した。 ≪がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!≫ 「またまた」 おまけにもう一発踏みつけて、再び砂噴きさせる。あれ、この言い方はちょっと……気のせいだね。うんうん。 「僕が戦っても勝率低いから、僕の代わりに戦ってくれたんでしょ? これがヒーローなんでしょ? 僕はお前を見習ってそうするの。だから笑って受け入れろよ」 おまけに再び刀を踏みつけ、コイツを構築する砂をコイツの中から叩き出す。 ≪がぶっ!≫ 「さぁ、笑えよ」 手本を示すように仮面の下から笑いかけると、なぜか手の中の刀が震え出した。 「お前は僕を利用して目的を達成出来る。そうして正義の味方になれるんだから笑えよ。……さぁ」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ コイツ、ヤベェ。マジでオレを殺そうとしてやがる。いや、逃げられないようにいたぶるつもりだ。 しかもイマジン連中蹴散らしながらじわじわと……なんで、こんな奴に憑いちまったんだよ。 コイツは電王の関係者でも、ただの人間だろ? なんで平然と息をするかのようにオレを殺そうと出来るんだ。 さっきから寒気が収まらねぇ。仮面の下で見えないコイツの顔がもう恐ろしいものとしか思えねぇ。 オレはただ、ターミナルのみんなを――オレの同類達を助けたくて、なのになんでこんな目に。 それで他の奴に憑こうとしても、全然ダメなんだ。どういうわけかコイツから離れられなくなっちまってる。 コイツは電王になれないって言ってたし、それなのに無理矢理取り憑いたせいか? じゃあオレは……嫌だ。 そんなの、嫌だ。オレが考えていたシナリオじゃねぇ。オレはこんな痛くてカッコ悪い事は望んでねぇ。 ≪助け……お前ら、助けてくれっ! コイツからオレを離してく≫ その瞬間、また俺の身体は右薙に振るわれ後ろから襲いかかってきた兵隊の身体に叩きつけられ――オレの命が砂となって噴き出す。 ≪ごぶっ!≫ 「あー、悪いけど無理だわー。まぁその、頑張れー?」 「というか、今更過ぎるのですよー。しばらく地獄を味わうのですー」 ≪そ、そんな……嫌だっ! オレはもうコイツと居るのは嫌だっ!≫ 「自分からそれを選んだんじゃんー。わたし達を頼るなー」 コイツの身体から――スーツと仮面の下から溢れて突き刺さる殺気が恐ろしくて仕方ねぇ。 イマジンの攻撃に対処しながらオレをいたぶるその冷酷さが恐怖をかき立てる。 そうだ、コイツは冷酷なんだ。そこら辺のバカなイマジン共よりもずっとイカレてやがる。 オレは……オレはただカッコ良いヒーローみたいに暴れたかっただけなんだよっ! ただそれだけなのになんで……頼むっ! 誰か――誰か助けてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ! All kids have an egg in my soul Heart Egg――The invisible I want my 『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説 とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/じゃんぷっ!!! 第133話 『EPISODE AIZEN/荒れまくりな決戦スタートッ!?』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ここまでのあらすじ、恭文君がキレました。――あのね、キレた恭文君が本気で怖いのはよく知ってるんだ。 それで止められないのもよーく知ってるんだ。勢いがあんまりに凄過ぎるし。 これでもほら、付き合いもなんだかんだでもうすぐ3年目突入でしょ? その間色々あったしね。 だけどその……今回は極めつけじゃないかなっ!? 無双しながらあのイマジンいたぶるのはやり過ぎだってっ! 【ど、どうしよっ! さすがにアレはマズいよねっ! 早く止めないとっ!】 「ほっとけ、良太郎」 【でもモモタロスっ!】 「いいんだよ。てーかよ、青坊主の奴が考えも無しにあんな事すると本気で思ってんのか?」 それで改めて暴れ続ける恭文君を見て――モモタロスの言葉に一応は納得。 「キレてんのは事実だが、このままマジでアイツをなぶり殺しにするような奴じゃない事くらい俺でも分かるさ。だからアレでいいんだよ」 【それは……うん、そうだね。でも】 「分かってるよ。マジでやり過ぎるようなら俺達で止めるぞ。ま、ちっとおっかねぇけどよ」 言いたい事を分かってくれてるのに安心している間にモモタロスは、暴れる恭文君へ近づきながら腰両サイドのデンガッシャーを手に取って組み立てていく。 「とにかく連中の方だ。パパっと片づけるぞ」 【うん】 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 飛び込んでいく良太郎さん達のサポートのために弾丸を周囲に10数発生成して発射。こちらに迫っているイマジンを撃ち抜く。 それは隣のリインさんも同じくで……アイツが電王になっちゃったからサポート役です。 私達は砂に還るイマジン達を気にせずに突っ込むみんなの姿に安心し、更に弾丸を生成。 「でもアイツ、新年早々本気モードだし」 「もう止められないからそこは放置なのです。それよりもティア、考える事があるですよ」 「えぇ」 飛び込んだみんなを迂回するように再び同じ数だけ弾丸と短剣を生成してシュート。 それが的確に相手の陣営に着弾したのを確認しつつ、意識をまた集中。 「これ、どれだけ出せるかって事ですよね」 「ですです。明治時代のアレみたいに無限生成だと厄介なのですよ」 「やっぱ早めに……ボスキャラ捕まえてかぁ」 数で押されたら確実に私達が潰される。だから速攻でなんとかするならそこが必須なのよね。 とりあえずまたさっきと同じ数魔力弾を生成して、リインさん共々一斉発射。それで連中の布陣の真ん中に弾丸の雨を降らせる。 確実な手応えを感じながらも更に頭を働かせる。……前線が連中の布陣を突破するのを期待するだけじゃダメよね。 後衛も後衛で手を考えないと。でもイマジンはサーチ関係アウトだし、足で相手を探す必要が。 『なら、そこは私に任せてくれ』 いきなりそう言って来たのは、私の左に居たBY。というか、さっきから動いてなかったっぽい。 「BY、どうするですか」 『別行動でそれらしいイマジンを探す。蒼凪恭文とライダー達が派手に目を引いてくれているならそれも可能だ』 「却下、危険過ぎるわよ」 『問題ない。最悪身体が破壊されてもAIが無事なら私は再生出来る』 ……そういう問題じゃないってのに。それで身体壊されたら結局任務失敗じゃないのよ。 やっぱアレだ。アイツ元にしてるから今ひとつ頭抜けてるし。ちょっと変わった感じっぽいけどそれでもこれはなぁ。 「ならなら、リインも行くですよ。ティア、後任せても」 「お願いします」 『私一人で充分だが』 「ダメです。連絡手段もないのにどうするですか。連携するならここは必須なのですよ」 『……分かった。よろしく頼む』 また弾丸を生成して一斉発射し、左側へ走って物陰に消えたリインさん達を見送る。 さて、インフィニティ・ガンモードの使用タイミングも考えといた方がいいわよね。 確かにこの状況だと使えるけど……今のところ制限時間の制限は消えてないし、うかつな使用は出来ない。 だから使用に関しては最低条件がついてしまう。まず王様イマジンを捕捉している事。 そしてこちらの攻撃が確実に相手に届く事。もしくはインフィニティ・ガンモードの使用でその状況が作れる事。 ここかなり重要なのよね。実際アイツの能力考えたら、私だったら姿出したりしないわよ。 姿隠して兵隊達を適度に出してる方がずっと効率が良いわ。……あ、さっき姿を見たのにこういう話してるのには理由があるの。 もうアイツ、姿消してるのよ。それなりに頭が働く奴っぽいわね。こっちが揉めてる間にあっさりと逃げたわ。 「クロスミラージュ、周辺のサーチはしっかりしといて」 ≪ですがイマジンは≫ 「本体は察知出来ないのはもういいのよ。目を配りたいのは、アイツが行動した事で起こる『影響』の方」 去年の春にサリエルさんに模擬戦でやられた幻影看破を思い出し、しっかり頭を働かせる。 本体が分からないのなら、やっぱりその周辺の変化を捉えるしか……私は自然と口元を歪めた。 「ちょっとした事でもいいの。もしかしたらそれが」 ≪逆転の切り札になると≫ 「そういう事。だから」 私は呼吸を整え、こちらに向かってきた数体のイマジンに向かってクロスミラージュの銃口を向ける。 「お願いね」 ≪Yes Sir≫ 引き金を引き、連中の胸元へオレンジ色の弾丸を数発連射。それらは全て狙い通りに胸元へ命中し、奴らを砂へ還す。 ……さぁ、頭をしっかり使え。こういうのは私の仕事だ。前に出てるみんなが潰れない内に、絶対に親玉を引きずり出す。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 私と並ぶ形で突撃した白い子は連中の槍での刺突を跳躍して避けて、一番前に居る二人の肩に足を乗せた。 そのまま連中の肩の上を足場に白い子は走りまくると、肩を蹴られる形になった兵隊達は次々と倒れていく。 「はいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」 白い子が楽しそう――もとい、あの子が居るのでツインブレイズの蛇腹剣展開は気をつけないと。 そこを意識しながら突撃し、まず槍での刺突を避けながら逆手に持った右の刃で顔面を打ち抜く。 左薙に振るわれた刃の衝撃とその斬撃の鋭さに耐え切れず、兵隊は仰向け――頭から地面に倒れた。 素早くその刃を返し順手に持ち替え、続けて正面から突き出された槍を右薙の斬撃で払い、左の刃で胴体に刺突を打ち込む。 そこから刃を捻って左薙の斬撃を打ち込み身を捻り、左からの唐竹の打ち込みを払う。 それから後ろを横目で見つつ僅かに左を移動し、背後からの刺突を避けて右の刃を右薙に振るう。 兵隊の一体を斬り裂き左の刃を逆手に持ち、私はその場で身を捻って回転。 「はぁっ!」 髪をなびかせながらも同時にツインブレイズを展開して、私の周囲に居た兵隊10数体を一瞬で一刀両断にする。 まるで渦を巻くように展開された二色の刃は更に広がり、外敵を全て砂に還す。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「よっとっ!」 肩を足場にして跳躍してディードちゃんの範囲攻撃を余裕で回避し、わたしは空中に身を投げ出す。 下で広がる蒼と赤の二色の渦が綺麗だけど、そこは気にせずに膝を抱えて身体を縦に回転。 ボール状になったわたしが更に回転を強めると、ギュルギュルーって音が聴こえてきてつい頬が緩んじゃう。 そのまま地面に落ちていき、兵隊達に向かってとっつげきー♪ わたしは兵隊達を薙ぎ倒しながら地面を派手に転がっていく。 「それそれそれそれー!」 途中で槍を突き出してくるのもいるけど、ソイツらもわたしの回転の勢いに圧されて槍ごと弾き飛ばされちゃう。 とりあえず適当に走り回って数十体を吹き飛ばしたら軽く地面から跳ね上がって、ボール体勢を解除しつつ着地ー。 そんなわたしの背後から突き出された槍達を一気に左に走って避け、今攻撃してくれた連中の後ろに回り込む。 「遅い遅いー!」 わたしはまた飛び上がって左端の奴にドロップキック。でもそこから一気に『右に走る』。 並んでいた連中の背中を足場にして走り抜けつつ全力で蹴飛ばしてやると、みんな面白いように吹き飛んで地面に転がる。 最後の奴を吹き飛ばしたわたしは身を捻って地面に伏せ気味に着地ー。 ……ふ、決まったー。というかというか、あの程度でわたしを捕まえようなんて甘い甘いー♪ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 連中に突っ込んで、剣を右から斜めに打ち込んで手近なのを斬り捨てる。 次に槍ごと突っ込んできたのは、左に動いて突撃避けてから背中に向かって剣を右に打ち込んでぶった斬る。 それで振り返って前を見ると、七人ほど……ち、また数が多いな。てーかウゼェぞ。 前から襲って来るのは、右から斜めに剣を打ち込んで斬り捨てから、次は左に斜めに剣を打ち込む。 それを連続で繰り返して斬り抜けて、最後に右から兵隊の腹に向かって剣を打ち込んで雑魚をぶっ飛ばす。 【モモタロス、イマジンの匂いは】 中に居る良太郎の言いたい事が分かって、俺は右から突き出された槍に目を向ける。 剣を右に打ち込んで槍を払ってから一気にソイツに近づいて、左肩に剣を叩き込んで一気にぶった斬る。 「ダメだっ!」 振り返って上から打ち込まれた槍を剣で受け止めて、そのまま不意打ち食らわしてくれた奴に踏み込んで右足を上げる。 まずはソイツの腹を蹴ってから少しだけ左に動いて後ろから打ち込まれた槍を避けて、ソイツの胸元を右に斬り裂く。 「匂いが多過ぎてどれがどれだかワケ分かんねぇっ!」 素早く振り返ってさっき俺が蹴飛ばした奴の方へ向き直り、右の肩に剣を打ち込んでまたまたぶった斬ってやった。 【じゃあどうやって見つけようか。あのイマジン、居なくなったっぽいし】 「へ、そんなの」 俺は砂に戻るソイツは気にせずに、また前を向いて俺の方へ槍を向けてくる連中ににじり寄る。 「片っ端からぶっ潰せば問題ねぇよっ!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ≪――がぁっ!≫ 打ち込まれる槍を払う度に砂が噴き出すのには構わず、僕は踏み込み目の前に居る兵隊の胸元を蹴り飛ばす。 それから背後から突き出された槍を反時計回りに身を捻って避けながら、今攻撃してきた奴の左肩口に刃を叩き込む。 ≪ごほっ!≫ また刃から砂が噴き出すけど、そこは気にせずに左足を上げて胸元へミドルキック。 兵隊がその後ろから迫ってた奴らの列にぶつかって、仲間達をなぎ倒していく中……僕は刀を放り投げた。 刀は回転しながら肌寒い空の中を舞う。でも、別にアイツを逃がしたわけでもなんでもない。 うん、逃がすわけないよね。まだアイツに罪を突きつけてる最中なんだから。 「なまくら過ぎて役に立たないなぁ」 そう言いながらも両腰に装着されているデンガッシャーのパーツを両手で取り、素早くガンモードに組み立てる。 出来るかどうか不安だったけど、それらはすんなり組み立てられて僕のよく知る銃形態になった。 その出来た銃を左手で持って一回転させてから、身体は動かさずに腕だけを動かして銃口を3時方向に向ける。 そうして引き金を一度引くと、横から着弾音が響いてきた。撃った弾丸が横から突撃してこようとした兵隊に命中したのよ。 同じ要領で4時・11時・9時方向に弾丸を撃つと、連続的な着弾音が周囲から響く。それから身体を反時計回りに180度回転して、0時方向に一発。 次は2時・11時・1時・9時とせわしなく腕を動かし射撃してから、銃を右腕と胴の間に通し5時方向に銃口を向ける。 もちろんすぐにトリガーを引いて――兵隊達を次々と撃ち抜く。いやぁ、警防で銃器の扱い練習してて正解だったよ。 最後は身体を軽く捻り、腕を伸ばして8時方向を射撃。それから右手を上げて、落ちてきた刀をしっかり掴み取る。 腕を降ろし胸元辺りまで下げ、僕は刃こぼれがひどくなってきた刀を見て……仮面の中から笑う。 「ねぇ、やる気出そうよ。アイツの事止めたいんでしょ? だったらもうちょっと力出してよ」 ≪も、もう許してくれ。身体を勝手に使った事なら謝る。お前の仲間を脅した事も謝る。だからもう≫ 「ダメだよ」 身体を捻りつつ横から突き出された槍を左薙にコイツを打ち込んで払うと、また砂が噴き出す。 ≪ぐぅっ!≫ そのまま身体を回転させながら引き金を引き、横から迫って来た兵隊の胸元を数体を連続発射した弾丸で全て撃ち抜く。 身体の動きを止め、なぜか僕を警戒するように後ずさり始めた兵隊達は気にせずにまた刀を胸元まで上げてジッと見る。 「別にさぁ、本気で命賭けてアイツ止めたかったならそれで良かったのよ? 話は分からなくもないし、僕も出来る限り協力したさ。長年の夢も叶えてもらったしね」 ≪え?≫ 「それなのに今のはなに? 命乞い? あはは、そんなわけないよね」 背後から唐竹に打ち込まれた槍を右へのスウェーでかわし、身体を反時計回りに捻る。 そうして左腕を伸ばして引き金を引いて弾丸を連射し、至近距離で兵隊の全身を撃ち抜く。 ――槍っていうのも、便利そうで中々に扱いが難しい武器なのよ。特にこの集団戦だとねぇ。 基本的にはレンジを活かすために刺突が基本で、あとは薙ぎ払い? でもこの状況だとそれが難しい。 だからこそさっきから刺突や唐竹という風に攻撃が単純化している。そのためにみんなにあっさり対処されまくってる。 この状況だと槍兵はこんなたくさんいらないのよ。僕だったら剣持ってる兵隊をぶち込みまくるのに。 まぁそんな解説はそれとして、砂に還っていく兵隊は無視でまたコイツを見る 「お前は自分が消えるの覚悟でこの場に来たんだから、命乞いなんてしないよね。 例え自分が消えてもどんなに痛くても道具扱いされても、目的を達成する覚悟はあるよね」 ≪な……なぁ≫ 「だからこそ手段を選んでなかったんだよね。本気でみんなを救いたかったから。 だからなりふりなんて選べなかった。つまりお前は、ちゃんと賭けるものの重さが分かってる。 みんなに対してなにをやっているかも分かってる。自分が最悪なのもちゃんと分かってる」 コイツは僕の手の中でなぜかまた震え出すけど、右手でしっかりと柄を掴んで離さない。 「そんな奴が……命乞いなんてしないよね。うん、今のは聞き間違いだね。 でもお前はもう限界っぽいから、さっき言った通り僕がお前を使って願いを叶えてやる。 僕はお前の覚悟に胸打たれたから、辛くはあるけど最後の最後までお前を使って戦う。 だから気合い入れろ。ここからが本番だよ。――相棒」 僕はそこまで言うと右足を踏み出し、地面を踏み砕く。その衝撃と音で周囲の兵隊達が身体を震わせ一歩後ずさった。 それに構わず僕はそこから走り出し、デンガッシャーの銃口を先に向けて引き金を引いて弾丸を連射する。 ≪あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!≫ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ エンジンブレードを右薙に打ち込み、俺に向かって突き出される槍を払いながらその場で高速回転。 周囲から打ち込まれた合計8本の槍での刺突をそれで全て打ち払い、回転しながらも周囲を移動。 頭上から見るとおそらく駒に似た動きをしている俺は、そのまま周囲に居た10数体のイマジンを斬り裂く。 同時に……今日は出し惜しみはなしだ。俺は足を止めて、エンジンブレードグリップ上の撃鉄を右の親指で引く。 それから軽く押し込むように腕を前に振と、エンジンブレードのグリップ上を支点にして剣の根本が折れ曲がるかのように回転する。 元々コレはこういう機構が備わっている。それから素早く左手で灰色のメモリを取り出す。 露出したブレード内部のメモリスロットに、そのメモリをセット。 ≪Engine≫ ギジメモリと呼ばれるこれは、俺――アクセルやエンジンブレードにガイアメモリとはまた別の力を与えてくれる。 それを挿入した上で腕を軽く引くと、折れ曲がる形になっていたブレードが動き、また元の形に戻る。 そしてまた俺に向かって突撃してくる兵隊達を見据えながらも、ブレードのトリガーを右の人差し指で引く。 ≪Steam≫ 身体を時計回りに捻り刃もその動きに合わせて横薙に振るうと、剣から勢い良く白い蒸気が噴き出す。 その厚さに圧されて連中が動きを止めたところを見計らって、もう一度ブレードのトリガーを引く。 「はぁっ!」 ≪Engine――Maximum Drive≫ 赤い光に包まれた刃を左薙に振るい、次は刃を返して右薙。 そのまま再び鋭く時計回りに回転して、背後に向かって右薙の刃を打ち込む。 そうして俺を包むように真っ直ぐな赤い閃光が空間に刻まれ、それが兵隊達を両断する。 次の瞬間には10数体の兵隊達が砂に還る。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 【翔太郎、前の方は電王と照井竜達に任せよう。僕達はティアナ・ランスターより前に出てみんなの援護だ】 「いや、でもアイツどうすんだっ!? なんかめちゃくちゃキレて暴れてんだがっ!」 【問題はない……といいねぇ】 「お前弱気だなっ!」 そう言いつつもこれ以上乱戦になってもアレなので俺は両手を動かして、ドライバーをU字型に戻す。 その上で右スロットに入れてたサイクロンのメモリを金色のルナのメモリに入れ替える。 同時に左スロットのジョーカーのメモリは青色のトリガーのメモリだ。しっかりメモリを入れ替えたら、またドライバーを展開。 ≪Luna……Trigger!≫ 緑と黒のWは、入れ替えたメモリの色に対応した体色になる。だから右が金で左が青だな。 それから俺が右手を胸元まで上げると、どこからともなく青い薄目の長方形という形状の銃が出てきた。 なお、銃身が途中で折れ曲がって、そこの辺りに小さい円筒形の銃身が出てる。 それから左手を胸元まで構えつつ銃口を一団に向け、引き金を連続的に引く。 すると銃口から金色に輝くエネルギー状態の銃弾が尾を引きながら発射され、一発は電王の背後を狙ってた奴の後頭部を撃ち抜く。 もう一発は照井の横の奴を背中から。残りは蒼凪恭文の周囲の奴らの頭頂部に命中して、一瞬で数体が砂に還った。 これがルナトリガーの能力だ。ルナは幻想を意味するメモリで、通常では使えないような特殊効果を与える。 そこに銃による遠距離攻撃が可能になるトリガーのメモリが加わると、絶対必中の誘導弾が出来上がるわけだ。 「しかしフィリップ」 距離を取りつつ引き金を引いて、前に出てる奴らの背後や死角を襲おうとしている奴らを次々と金色の弾丸で撃ち抜いていく。 すると2時方向から槍持ったのが突撃してきたんで、射撃を一旦中断して後ろに跳んでその突撃を回避。 ソイツは足を止めて槍を左薙に打ち込んで来たから、踏み込みつつ右足での回り蹴りでその槍を払いその場で一回転。 ≪Cyclone……Trigger!≫ 回転しつつ左手で右のメモリをサイクロンに入れ替えると、俺達の右半身が緑色になる。 奴が体勢を立て直す前に素早く銃を構え直し引き金を引くと、さっきとは違う小さな緑色の弾丸が数発連射される。 至近距離で放たれた弾丸達に兵隊は全身を撃ち抜かれ火花をあげながら、砂に還る。 それに構わず俺は左足を前に踏み出し、左手を銃のグリップを握る右手に添えて改めて銃を両手持ちで構える。 俺の前から扇状に並んで突っ込んでくる奴が八体居るので、左からソイツらの胸元に向かってトリガーを引く。 その場で右に動きつつ放たれた緑色の弾丸は、アイツらの接近を許す事なく連中を撃ち抜き砂に還した。 ――サイクロンとトリガーのメモリが組み合わさったWはサイクロントリガー。ルナトリガーとはまた違う性質が生まれる。 その性質は威力よりも速度――連射性能や弾速に特化している。だから早撃ちとかが得意なわけだ。 サイクロンのメモリが風の力で速度を強化したり出来るからな。その関係でこうなるらしい。 「コイツらどうすりゃ止まるんだ?」 首を横に振りながら周囲を見渡すが、結構な数倒してるのに減ってる感じが……あぁ、明治時代のトラウマが思い出されるぜ。 【まぁさっきも言ったかも知れないけど、やはりこれらの本体と思われる王様イマジンを止めるべきだね。 だから翔太郎、あまり飛ばし過ぎちゃだめだよ? コイツらはあくまでも兵隊。捨て駒と言っていい】 「兵隊に任せて王様は悠々自適ってか? 調子」 前の方の乱戦から抜け出して、俺や単独で魔法の弾丸撃ちまくってるティアナ・ランスターに接近してくる奴らがまた出てきた。 その数は13で……俺は再び銃を構えて、奴らに狙いを定めながら引き金を引く。 「こいてるなっ!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 再び右手親指でブレードの撃鉄を引き、排出されたメモリを左手で受け止める。 軽く右腕を引いてブレードを元の形に戻してから、頭上高く放り投げる。 それから右手でドライバーのアクセルメモリを取り出し、空いたスロットにエンジンメモリを挿入。 ≪Engine――Maximum Drive≫ 両手でドライバーのハンドルを握り締め前へ走り、上に飛び上がる。 「お前達、少し離れろっ!」 空中で身体を伸ばすと、背中に装着されている黒いパーツが俺の顔の前に降りてきてタイヤに変わる。 それは両足の外側に装着されている同様のパーツも同じだ。サイズにこそ違いがあるが、これらは全てタイヤ。 傍から見ると俺の身体がバイクの車体を形取っているように見えるだろう。同時に多少不恰好だとも思う。 だがそこは気にせずにその状態で身を捻り、地面に着地。それから素早く右ハンドルを捻ると俺の身体は一気に加速。 少々左に傾くと自然とバイク状態の俺は左カーブを描きながら大きく円を描き始め……その身体が炎に包まれる。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 【モモタロス、避けてっ!】 「へ?」 手近な奴を一人ぶった斬ると、なにやらうるせぇ音が辺りに響き出した。 それでその音の方を見ると……炎に包まれた赤い不恰好なバイクが大きくカーブしながら兵隊共を跳ね飛ばしてた。 そういやさっき避けろとかなんとかって言ってたと思い出している間に、回転を続けるソイツが俺の方に迫ってくる。 「うぉっ!」 俺は咄嗟に大きく右に跳んで、その突撃を避けた。つーか足をつけても止まらずにそのままバイク野郎から遠ざかる。 その間にもエンジン音が響いて、バイク野郎はどんどん兵隊達を跳ね飛ばして……なんだありゃっ! 「おいテメェっ! マジアブねぇだろうがっ!」 【というかバイクって……どこから出てきたんだろ】 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ふむ……兵隊では相手にならんか。仕方あるまいと思いつつ、我はそっと右手を上げる。 するとあの場に残っていた兵隊達の大半が全て砂に還り、その砂が移動を開始。 それは大きく分けて二つの山を形成し、それが変化してそれぞれ違う形の大きな影を作り出す。 まぁ奴らにはこの程度で充分であろう。さぁ、遊ぶがいい。そして潰れて痛感しろ。 もはやこの時間の全ては我のものだ。塵芥共が手を出せる余地などないわ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ そうして外に広がっていく螺旋を描きつつ、俺達を取り囲んでいた兵隊達を跳ね飛ばし燃やし……俺は更に螺旋を広げる。 俺が加速する度にコンクリの地面に炎の線が描かれ、その大きさが10メートルほどになったところで俺の身体は軽く跳躍。 そしてすぐに地面に着地して、反時計回りに回転してタイヤと地面との甲高い摩擦音を響かせる。 もう一度跳躍しつつ変形を解除し、ドライバーを腰の前面に戻して俺は両足で地面を踏み締めた。 加速の勢いをそのままに少しばかり回転しながら前に進むが、それでもなんとか停止。 俺に跳ね飛ばされた兵隊達が次々と頭上で砂に還る中、放り投げたブレードが俺の傍らに落ちて地面に鋭く突き刺さる。 エンジンブレードを右手で掴み、続けていこうとした時……背後から殺気が生まれた。 素早く振り返ると、こちらに向かってなぜかイガイガの鉄球が打ち込まれていたのが見えた。 咄嗟に傍らにブレードを引き抜き身体の前にかざし、盾にしてそれを受け止める。 だが衝撃に圧されてそのまま俺は後ろに吹き飛ばされて地面を転がり、素早く膝立ちに起き上がった。 「全く……だらしねぇなぁ」 そう言いながら俺の前――10メートル前後の距離を取った上で立っていたのは、先ほどの鉄球が付いた鎖を両手に持っている兵隊。 いや、違う。コイツは兵隊より一回り大きい。それにトランプの柄も違う。 これは……クローバーのJ? それによく見ると周囲の兵隊の数がかなり減っている。これは一体。 「まぁあれだ。とりあえずお前」 ソイツは右手を常に動かしつつ、鎖に繋がれた鉄球を自分の右側で鋭く回転させていた。 そしてその腕を高く上げると、鉄球もそれにつられるように奴の頭上へ振り上げられていた。 「死んどけやっ!」 奴は振り上げた腕を降ろしつつも振りかぶり、右薙に振るう。すると鉄球はその動きに合わせて俺に向かって投擲された。 俺は素早く左に転がりその鉄球を避けるが、鉄球は味方の一団へ突っ込み……仲間も関係なしか。 「おらよっ!」 奴は伸ばした右手でまた鎖を掴み、そのまま身体を反時計回りに素早く回転。 その鉄球は自身の周囲の敵を薙ぎ倒しつつ俺の方へ迫り、左肩と腕に命中。 「ぐぅ……!」 痛みに呻き、赤い装甲から激しく火花が走る中大きく吹き飛ばされ、再び地面を転がる。 それでもすぐに起き上がって奴を見据え、俺はエンジンブレードを振りかぶりながら突撃。 「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」 「せいやっ!」 奴は再び鉄球を投擲して来たが、それには構わず全力疾走。俺は鉄球に向かって袈裟にブレードを叩き込む。 だがその予想以上の重さに負けて俺の斬撃は弾かれ、今度は胸元に向かってまともに鉄球が命中した。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「照井っ!」 「W、よそ見してる場合じゃないわよっ!」 俺の両脇を数発のオレンジ色の弾丸が抜けて、2時方向から迫っていた奴に迫っていく。 俺が吹き飛ばされた照井から視線をそちらに向けると、そこには細身のイマジンが居た。 そのボディは兵隊とも違っていて、胸元には……ハートのQ? ソイツは右手で持った50センチほどのステッキの切っ先を襲ってくる弾丸に突き出し、自分の目の前に水色の青い障壁を発生させる。 それで弾丸を全て受け止めると、障壁を堺に弾丸が爆発して白い爆煙が生まれた。 そして奴と俺達を遮るようなその爆煙の向こうから、水色の小さな弾丸が一斉に10数発ほど飛び出して来た。 俺は咄嗟に両腕でガードするが、あっさりその弾丸達に撃ち抜かれ地面を転がる。 「ぐぅ……!」 それと同時に後ろから破裂音が響く。俺は咄嗟にそちらを――ティアナちゃんの方を見る。 だがティアナちゃんは両手のデカい銃を構えている状態で、怪我とかは……ないらしい。もしかして全て撃ち落としたのか? 「旦那様のところへは行かせないわよ」 その声の方を改めて見ると、未だに渦巻いてた白い爆煙の中から一つの影が……あのイマジンが出てきた。 身長180程のソイツは右手で持ったステッキを腹くらいの高さまで上げた左の手の平に軽く叩き続けている。 そうしながら俺達を値踏みするかのように視線を向けて、軽く鼻で笑ってきた。 「下品な小娘に気色の悪い半分こ怪人が相手なんて……私もついてないのかしら」 「下品な小娘で悪かったわねっ!」 後ろから甲高い発射音が聴こえたので、未だに地面に腰をつけている俺は咄嗟に頭を下げる。 すると頭上をオレンジ色の弾丸が数発通り抜けてあのイマジンに迫るが、イマジンは再びステッキをかざす。 そうしてさっきと同じバリアを展開して弾丸を受け止めるが、今度は弾丸は爆発しなかった。 爆発しない代わりにオレンジ色の弾丸全てが青いエネルギーに包まれて、こちらに向かって跳ね返って来た。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「な……!」 跳ね返った弾丸に冷静に狙いを定められたのは、日頃の訓練のたまもの。 それと同時に射線が私がさっき撃ったのとほぼ同じだったから、驚きで動きが一瞬止まってもすぐに見切れた。 反射的に引き金を引いて水色のエネルギーに包まれた弾丸を撃ち抜くと、それらは私の目の前で全て爆発。 私は続けて左に走り込むと、またあの小型の弾丸が乱射されてそれまで私が居た場所を突き抜けていった。 Wは咄嗟に身体を右に転がして弾丸の射線から逃げてる。私達はあの銀色ボディの女イマジンに改めて向き合った。 「ふふふ……どうしたのかしらぁ。もっと攻撃してきていいのよぉ?」 そんな事を言う女イマジンの周囲に兵隊達が15体ほどやってきて、私達に腰だめに構えた槍の切っ先を向けてくる。 ――攻撃反射型か。また厄介な。さて、こうなるといくつか考えておくべき事があるわね。 まず今のは前面に限定的に展開したけど、自分の周囲全部にあれを使えないという保証はない。 誘導弾使うなりしてそこの辺りを確認する必要があるわね。それで接近戦も考えなくちゃ。 多分そこが弱点だとも思うのよ。アイツが兵隊達を護衛につけた時点で、そこは確定だと思う。 ただ問題はそれを許してくれるかどうか。そしてあのバリアがどこまで攻撃を反射出来るかよ。 さっき考察したのが『範囲』なら、今考えているのは『威力』の方。ここの辺りが攻撃を仕掛ける上で厄介な所。 例えば反射出来るのが今撃ったような弾丸程度の火力のものに限られるならそれでいい。 もれ以上の火力をぶつけてやればいいだけなんだから。でも、そうじゃなかったとしたら? もしも高火力――SLBやディバインバスタークラスの火力の攻撃も防いで反射出来るとしたら? それ撃って反射されて一気に全滅って可能性もある。それにほら、反射出来る限界角度も分からないじゃない? 今のは真正面に居る私の方に撃ち返されたけど、これが全く別の方向に跳ね返される危険もある。 もしそんな事を高火力攻撃でされたら、前に居るメンバーに被害が……当然そこの辺りをいちいち確かめる余裕もない。 つまりコイツに攻撃を仕掛けるとしたら、それなりに本気になる必要があるって事よ。……マジどうしよ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 【マズいね。翔太郎、トリガーメモリはダメだ。ここはヒートメタルで】 「あぁ」 俺は右手の銃を消して……あぁ、消せるんだよ。原理はよく分からないけどな。 とにかく両手でまたドライバーを閉じて、ルナメモリとトリガーメモリを抜き出す。 それから右スロットに赤いヒートメモリを、左スロットに銀色のメタルメモリを挿入。 両手を広げるようにドライバーを展開すると、Wはまた姿を変える。 ≪Heat……Metal!≫ その瞬間、俺の姿は右が赤で左が銀のWになり、背中にロッドが現れる。 カラーリングは基本色が赤で、両端からある程度の部分がそこに収納されている形になる。 これはさっきの銃と同じくWの専用武器。なお、中央にはロッドに沿うように斜めになっているメモリスロットもある。 そのロッドを左手で掴んで取り出し柄を両手で持つと、両端部分が引き出され収納されていた部位が現れる。 その銀色に輝く切っ先の片方を奴らに向けつつ、俺は改めてあの女王様っぽいのと兵隊達を見据える。 すると兵隊達の一人が俺に向かって突撃してくるので、ロッドを槍に向かって右薙に打ち込んでその突撃をやり過ごす。 続けて来る奴が唐竹に打ち込んで来たのも左薙に柄尻を打ち込んで払い、俺は踏み込んでソイツの腹に柄尻で刺突を打ち込む。 なお、柄尻はメモリスロットが傾いてる方だ。俺が初めてこれ使った時に決めた。 すると打ち込んだロッドの恥に赤い炎が灯り、その炎は刺突によって吹き飛ばされた奴の身体に燃え移る。 吹き飛んだ兵隊は炎に燃やされながら砂に還る。続けて時計回りに振り返って、さっきやり過ごした奴の方へ向き直る。 奴は既に方向転換して再度突撃してきていて、これは避けられないので左腕で槍の切っ先を受け止める。 すると接触点から火花が走るが、ダメージはねぇ。メタルメモリの効果で左半身はやたら硬くなってるからな。 俺は左腕を左薙に振るって槍を払い、踏み込みつつ右手だけで保持してたロッドを袈裟に打ち込む。 ロッドはソイツの左肩口を捉え、俺が更に力を込めると地面に叩きつけられて燃えながら砂に還る。 【翔太郎、前に出るよ。ティアナ・ランスターはあれじゃあ攻撃しにくい】 「攻撃反射」 また来た奴の突撃も切っ先を右薙に振るって払い、そこから踏み込み腹へ刺突を打ち込んでぶっ飛ばす。 その後ろから続けて来たのは右に身を捻って避けて、柄尻をソイツの左側頭部に打ち込んで叩き伏せる。 「するからなっ!」 そのまま反時計回りに身体を捻って、更に来る奴の槍の切っ先に向かって、同じように右手片手持ちのロッドの切っ先を打ち込む。 槍の切っ先と燃えるロッドの切っ先が衝突して一瞬拮抗するが。 「おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」 右腕を一気に押し込むと、槍の穂先が砕けて衝撃に押されるように兵隊が吹き飛ぶ。 ソイツは後ろに居た仲間の一団に衝突して、そこから女王様のドミノ倒しだ。 女王様は自分の近くに倒れた兵隊に不快そうに視線を向け、右足を動かしてソイツの頭を踏みつける。 その様子を見つつ俺は素早く左手でドライバーを閉じて、左スロットのメタルメモリを取り出して再びジョーカーメモリを挿入。 女王様に向かって走り込みながらドライバーを展開して、俺は飛び上がる。 ≪Heat……Joker!≫ 跳躍しながら銀色の左半身が黒色に変わっていき、俺は右拳を振りかぶる。 ――今更だが補足だ。ヒートは灼熱――炎の力をWに与える。これを使用中はさっきみたいに炎を伴った攻撃が出来るって事だ。 そしてジョーカーはどうも運動能力を強化してくれるらしい。だからこそさっきよりも大きく跳躍出来る。 そうして一気に女王様に迫り、俺の右拳は炎に包まれる。そして距離は一気に零になった。 「おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」 俺は女王様の顔面目がけて右拳を叩き込むが、女王様は咄嗟にステッキをかざしてまたシールドを展開。 水色のシールドは俺の拳を受け止め……その拳が水色の光に包まれた。 【これは】 「無駄よ」 そして次の瞬間、水色のシールドから同じ色の拳が飛び出してきて、俺の左頬を殴りつけた。 「がはぁ」 俺はその炎を伴った衝撃に耐え切れず、大きく吹き飛ばされる。 ちょうど背後に居る形になった兵隊達を薙ぎ倒しながら地面を転がっていく。 「ぐ……ぐぅ」 【まさか……近接攻撃まで反射するというのかっ!?】 それでも起き上がろうとすると、俺に向かってあの水色の弾丸が放たれて……俺は咄嗟に両手でガード体勢と整える。 そんな俺にまるで雨のように弾丸が放たれ、俺の身体はそれに打ちつけられ火花を走らせていく。 「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」 【翔太郎っ!】 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ちょっとちょっと、あんなのアリっ!? あれじゃあ零距離取るのも無理じゃ……あぁ、そっか。 だから兵隊をはべらせたんだ。それで接近戦が弱点だって思わせるために。 向こうの狙いとしてはそれなりに火力のある攻撃をこっちが打ち込んで、カウンターで潰されるってパターンを狙ってた。 遠距離攻撃が通用しにくいのは既に証明済みだし、それなら……てゆうかマズいなぁ。 仮面ライダーって一応超人の類なのよ? パンチ力が○トンとかいっちゃうようなさ。 そんな奴の攻撃を防いで反射するって事は、アレが跳ね返せる火力の限度はそれなりにあるわよ。 しかも今の反応速度を見るに……あぁ、でもそうよね。反応が速くならない理由がないわ。 向こうはこっちを先制で攻撃する理由がないもの。取る手段はあくまでもカウンターに限る。 だから防御だけに専念してれば、そりゃあこっちの行動に対しての反応も上がる。 そうなるとかなりマズいわね。一度戦略を組み直さないと。 「アンタ、大丈夫っ!?」 思考は一旦中断して、私はWに声をかける。Wは少しよろめきながらも起き上がって、頭を横に振った。 「あぁ、なんとかな。だが……どうすりゃいいんだ、これ」 「ふふふふ……無駄よぉ、ケバいお嬢ちゃん」 女イマジンはまたステッキで右手の平を軽く叩き、私達を嘲笑う。 「私の絶対領域は完璧。あなた達じゃあ崩せないわ」 「……ナメてんじゃないわよ、おばさん」 軽く笑いながらそう言うと、おばさんの視線が厳しくなって私を睨みつけてきた。 「この世の中に完璧なものなんてないのよ。どんなものにでも穴がある。……ぶっ潰してあげるわよ」 「あまり偉そうに吠えない方がいいわよ? 塵芥。弾みで殺したくなっちゃうから」 「あんまり調子乗らない方がいいわよ? 三流。弾みで足元すくいたくなるから」 さて、どうするかしらね。絶対領域って言うくらいだから、『範囲』に関しても自信ありって感じっぽいし。 まず『範囲』は反射速度の高さゆえに潰された。あの兵隊達もこちらの動きを牽制するのに使う駒なんでしょ。 そして『威力』も潰され……ううん、リスクが高い。これ以上の高火力を打ち込んで跳ね返されたらヤバい。 しかも近距離攻撃まで跳ね返せるとなると……あぁもう、アイツが電王に変身してなきゃ任せるのに。 アイツのエクレールショット絡みの攻撃だったら、SLB以上の火力を出すのも簡単なハズだしさ。 とにかくこれらの方向で攻めるのは無し。残っているのはどう考えても現状の私達では不得手なものばかりよ。 これじゃあ――いや、でもちょっと待って。私達だとダメなのよね。残っているラインは今思いつく限り二つ。 そのうちの一つは私でも出来るのだけど、リスクがやっぱり大きいし……これがベターか。 私はあの女王様に向かってクロスミラージュの銃口を向け、Wの方に駆け寄っていく。 【さて、これはどうしたものか。ティアナ・ランスター、なにか考えでもあるかい?】 「とりあえずコイツら相手に全戦力つぎ込むのは無駄ってのは分かったわ。 それで私達じゃこの女王様を止めるのはちょっと危険過ぎるってのも。なので」 あの女王様に聴こえないように、小声でWに話しかける。 「アンタ達は隙を見てアイツ追いかけなさい。ここは私とディードに照井竜でなんとかする」 【「……はい?」】 それから私達の方を見て照井竜の方に走り込んでるディードにも念話をかける。 ”ディード、ちょい手伝って。少し危険が伴うけど、試したい事があるのよ” ”……プランは?” ”『範囲』を確かめて、その上で『速度』で圧す。それがダメなら……『数』よ” ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 残っている邪魔な兵隊の右側頭部に刀を叩きつけ地面に叩き伏せる。するとまた刀から砂が噴き出した。 それには構わず右足で兵隊の胸元を踏み砕き砂に還して……さて、これはどうしたものか。 竜さんは苦戦してるし、ティアナと翔太郎さん達もかなりヤバい。だから慌てた様子でシロタロスとモモタロスさんが僕に近づく。 「ちょっとちょっとー! これどう考えてもヤバいよー!」 シロタロスは僕の左腕を掴んでぴょんぴょん跳ねながら慌てた様子であのボスキャラっぽい二体を見据える。 「落ち着け、シロタロス」 「そんな事言って……え、なにその名前っ! ダサっ!」 「なに言ってるの。ハイセンス過ぎて泣けるでしょうが」 「いやだいやだー! というか、私の名前はフェイトちゃんがつけるからダメー!」 「そうなの? だったら……仕方ないから諦める」 なんかそういう約束してるっぽいので、とりあえず僕は引き下がった。ほら、フェイトがそうするっていうなら……ねぇ? 「青坊主、お前……やっぱセンスアレだな」 【……カッコ良いと思うけど】 「あー、無視だ無視っ! とにかくコイツらなんとか」 僕は竜さん達の方へ行こうとしたモモタロスさんの左手を掴んで止めた。 するとモモタロスさんがこちらへ振り向いて僕の方を見る。 「いや、僕達は王様探しますよ。モモタロスさん、それと白い子、ちょっと手伝って」 「はぁっ!? おいおい、アイツら助けないのかよっ!」 「そうだよー! みんなピンチなのにっ!」 「分かってるよ。でもさっきの様子を見るに、アイツらもあの王様の能力で出てきてる。 だったらやっぱりあの王様をなんとかしないと、どうしようもない」 改めてさっきの現象を思い出し――それは一旦中断で僕は後ろから迫ってた兵隊に向かって逆手に持った刀で刺突を打ち込む。 刃の切っ先は胸元を捉えるけど貫く事は出来ず、また砂が噴き出された。しょうがないので右足を上げて後ろ回し蹴り。 それで兵隊の頭を蹴り飛ばして地面にコカし、とどめにやっぱり右足で胸元を踏み砕いて砂に還ってもらう。 「ヘタしたら倒した途端に残りの兵隊を対価に同じのが出る可能性もある」 「……マジかよ」 【確かに兵隊イマジンが集まってあれが出来た感じだし……でも】 「大丈夫ですよ」 僕は改めて翔太郎さん達と並んでいるティアナの方を見る。 「ティアナもなんか考えてるっぽいし」 【え、そうなの?】 「えぇ。顔見れば分かりますよ」 あ、こっちに視線を向けてきた。それで遠目からだけど、言いたい事がなんとなく分かった。 何気に付き合いも3年目いきそうだから、それなりに読めるのよ。……だから僕は胸の中でティアナに感謝。 「だから僕達は急いで奴を探しますよ。アルト、ジガン、聴こえる?」 ≪えぇ、聴こえますよ≫ ≪なのなの≫ 僕が声をかけると、どこからともなくストフリノロウサなアルトが出てきた。 なお、どこからどう出てきたのかとかは気にしない方向で。きっとこれも東映マジックだ。 「サーチ最大で周囲を探って。それでなにかしらの変化があったら即報告」 ≪了解しました≫ ≪なのっ!≫ 「うし、それじゃあいくよっ!」 僕達はモモタロスさんと白い子を引き連れて、その場から離れて人気が無く破壊の痕が目立つセンター街を駆け抜ける。 電王に変身した喜びとかそういうのはやっぱり封印して、僕は……少しだけ走る速度を上げた。 「それで青坊主、どうすんだっ! 俺もイマジンの匂いがあちらこちらにあり過ぎてどれがどれだか分からねぇぞっ!」 「わたしも同じくー! もうこの辺りはイマジン居過ぎてサビ臭過ぎー!」 モモタロスさんだけじゃなくて、白い子も匂いでイマジンの気配を察知出来るっぽい。 そう言えばもう喋る気力もないこのバカ見つけた時もそれっぽい事言ってたし、ここは納得。 「方法ならありますっ! 白い子、お前めちゃくちゃ足速かったよねっ!」 「うんっ! 私の速さはフェイトちゃん譲りだからー!」 「だったら匂いが固まってるエリアから離れて、その外を走り回って捜索してっ! もしアイツが安全圏に逃げて兵隊操作してるなら、この近辺には確実に居ないっ!」 「でもでも、それで居なかったらー!? というか範囲広過ぎだよー!」 「だから走り回れつってるのっ! それで外に居なかったら逆に問題ないっ!」 ここでアイツの立場に立って考えてみたいと思う。アイツが有利な状況はなに? それは自分が見つからず兵隊達を出してこっちを一方的に攻撃出来る状況だよ。 出せる兵隊の数に制限がない――もしくはその制限数が高い場合、そういう状況を作った方が良い。 現に僕達は兵隊達とあの中ボスキャラ二人を止めるために王様なアイツを探してるわけだし。 では姿を消す時、どういう手があるか。考えられる手は二つ。――思いっきり離れるか、思いっきり近づくかのどっちかだよ。 「もしサビ臭いエリアの外に居なかったらアイツは、兵隊達の匂いで自分の匂いをごまかしてる事になるっ!」 【……あ、そっか。モモタロスやその子みたいに匂いで察知されると居場所がバレちゃうから】 「ワザとこの近くに居るってワケか」 全力で走りながら僕はモモタロスさんと良太郎さんに頷く。でも現段階ではどっちかはさっぱり。 ついでに時間もないし……なので一番時間のかかる匂いが固まっている『外』の捜索を、足が速いこの子に任せる。 もしこっちの探知範囲外に逃げてるなら、匂いで鼻がダメになるこの近辺から離れれば探知出来るかもだし。 逆にそうじゃなかったら、匂いが重なりまくっている範囲内――近辺にアイツが身を隠している事になる。 幸いな事に僕達にはその辺りの探知が得意なメンバーが二人も居る。その上白い子は足が速い。 おそらくはこれで時間をかけずに見つけられるはず。ただし……僕は自分の左側を走る白い子に視線を向ける。 「ジガン、白い子についていって。いけないなら抱きかかえられて」 ≪分かったの≫ ジガンは僕達に速度を合わせてくれてる白い子の胸元へ飛び込み、白い子の腕に僕のお願い通りに抱きかかえられる。 「それでなにかあったらすぐに連絡。……白い子、言うまでもないけどこれは単独での偵察だ。なので」 「それじゃあ行ってくるねー!」 「え、ちょっとっ!」 「せぇのっ!」 ジガンをしっかりと抱えながら白い子の身体が加速。一気に僕達を抜き去る。 「とっつげきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」 「話を聞けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」 加速によって巻き上がる粉塵とその向こうに見える白い子に叫んでも……意味はなかった。 「あ、あのバカ――単独偵察は危険だから無茶しないようにって言おうとしたのに……!」 偵察というのは戦術の中ではかなり重要なお仕事。現在の状況を確実に把握し、情報を収集するためには必要なんだ。 その情報――例えば敵の位置や部隊配置に戦力などのあれこれが確実だと、攻撃を加える際にも効率的な行動が取れる。 それは戦闘における主導権の確保にも繋がるんだ。ただし、その重要性に比例して偵察というのは危険度が大きい。 偵察――斥候とも言うけど、これらの任務を請け負う方々は敵の勢力圏やその境界でそのお仕事をする。 なので敵の伏撃を受ける事態や不意の遭遇戦が発生する可能性が極めて高い。簡単に言えばとっても危険。 すぐに連絡を取れるようにジガンもつけたけど、それでも危険度は変わらないから……なのにあのアホはっ! ≪猪突猛進で集中しちゃうと人の話を聞かないところとかはフェイトさんそっくりですね。カウンターでやられないといいんですけど≫ 【心配、だね。それで恭文君、僕達はこの近辺の捜索?】 「はい。モモタロスさん」 もう頭が痛くなりつつも、右側のソードフォーム電王なモモタロスさんを見上げる。……東映マジックが切れているのがちょっと悲しい。 「匂いの方、キツいのは分かるんですけど探知お願いします」 「分かった。やるだけやってみるぜ。それと……おい、そこの黙りこくってるバカ」 モモタロスさんが足を止めて周囲を見渡し始めたので、僕もそれに合わせて停止。 左手のデンガッシャー・ガンモードを肩まで上げつつ、モモタロスさんと背中を合わせて周囲を警戒。 ≪なんだ……よ。てーか、助けてくれよっ! コイツ、オレを殺すつもりなんだっ!≫ 「テメェだって同じだろうが。今更ガタガタ抜かすな。お前、なんか抜かしてねぇか」 ≪なにがだよっ! なぁ、そんな事より頼むよっ! 今まで偉そうにしてたのは謝るからよっ! このままじゃオレ、マジでコイツに消されるんだよっ!≫ 「それが抜かしてるつってんだよ。悪いが俺にはどうしようもねぇな」 横目で後ろを見ると、モモタロスさんも同じようにして僕の右手のバカを見ていた。 「助かりたいなら、抜けてるもん見つけて埋めろ。まずそこからだろ。なぁ、青坊主」 なんか見抜かれてるのが辛くなりつつ、僕はなにも答えずに視線を前に戻した。 さて、集中しろ。僕達がこういう手に出て相手がなにしてくるかを考え――僕は自然と周囲の気配を探る。 モモタロスさん達だけには任せてるのも悪い。僕もありったけの力を使って、奴を見つけ出すために一手打つ。 (第134話へ続く) あとがき 恭文「というわけで、次回に続きます。なお、女王様とジャックは王様と同じ元ネタですね」 フェイト「どっちもふしぎの国のアリスで出てくるんだよね。でも女王様のアレは」 恭文「ジャックがパワーファイターだから、今までなかった方向でやってみたんだって。 というかほら、Wに出てくる怪人自体がこういう特殊能力持ちが多いし。 そんなW陣営も居るなら、これくらいの事はしたかったとか」 (ビーストの再生能力やゾーンの転移能力、オールドの強制老化能力にテラーの精神干渉攻撃。 あとはイエスタディやライアー……何気にWの後半はチート能力持ちが大半) フェイト「あとは本編だとまだ名前の決まってないあの子だね。というか、武器化って」 恭文「ここはアイディアのあれこれを……ねぇ? そこは察して。そしてわくわくして欲しい。 とにかくここからはそれぞれ分かれつつ姿を消した王様の探索だよ。 ただし既に戦闘には突入しちゃってるから、現状に対処しつつ急がないといけない」 フェイト「王様を見つけて、逃がさないうちに……だよね」 恭文「そうなるね。……あ、それと最近とまと同人版FS第3巻の校正中です。今回は書き下ろし多いよー」 フェイト「分量にすると半分近くは新しく書いてる感じだよね。まぁ細かい手直しも含めるとだけど」 恭文「だね。収録話数自体は変わらないから、その分本編の中身が大きく変わってる感じ? HP阪では見られない展開やキャラなんかも出てきてかなり楽しい事になってます」 フェイト「目玉はやっぱり……ミッション話のあの人かな」 恭文「あの人だね。本編ではどの話にも出てないから」 (近日中に販売登録しますので、みなさんまたまたお手に取っていただければと思います。よろしくお願いします) 恭文「というわけで、宣伝もしたところで本日はここまで。次回は決着……するかなぁ。分量的に無理っぽいかも。 とにかく次回も大暴れな予感ビンビンな蒼凪恭文と」 フェイト「事後にヤスフミとはしっかり話したいと思うフェイト・T・蒼凪でした」 恭文「……え、やっぱり?」 フェイト「うん、やっぱりだよ。だって……夢が叶ったとか言ってたし」 (そう、既に蒼い古き鉄は死亡フラグが立っていた。 本日のED:いとうかなこ『acking to the gate』) キャス狐「むむむー。ご主人様ー、このシュタインズ・ゲートって面白いですねー」 恭文「あ、今アニメやってるしね。もうね、これは回を追う事に神化していると評判だから。特に9話はなー」 キャス狐「じわじわ来ますよね。徐々に徐々にーって。作者さんもゲームやってないから毎回楽しみとか」 ビルちゃん(イメージCV:花澤香菜)≪まぁアフレコは大変ですけどね。私参加してますけど≫ 恭文「あ、まゆしーだっけ」 ビルちゃん(イメージCV:花澤香菜)≪えぇ。エクシアリペアボディで台本持つのが中々難しくて≫ キャス狐「え、台本持つの? 普通に記憶とかすれば」 ビルちゃん(イメージCV:花澤香菜)「郷に入っては郷に従えですから」 恭文「そこ従っちゃうんだね」 (おしまい) [*前へ][次へ#] [戻る] |