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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第6話 『出会うC/出会いから激動?』



キメラモンとの出会いから約3ヶ月弱が経過。僕はどういうワケか荒野に居た。というか……まぁ、アレだね。

吊るされて巨大な三つ首な子に食べられそうになっている子ども達を発見したわけですよ。

で、当然ながら……ここに立っています。ここに僕は居ます。なお、キメラモンはデジヴァイスの中。





あの巨体から一切の変化が不可能だったから、D-3の収納機能を使って中に入ってもらってる。

中の方は特に不自由も無いみたいで、一安心……じゃなかった。

だってキメラモンが生まれ故郷であるはずのここでもD-3の中に入ってるのは、それだけが理由じゃないから。





とにもかくにも僕は、そこで土下座してたゴーグル頭の傍らに降り立ち軽く髪をなびかせる。

服装はいつもの黒のコート姿で、アルトもバッチリ装備。いやぁ、装備持ち込み出来てよかったなぁ。

だってここは完全に別世界……デジタルな要素多めな世界だもの。



そしてそんな場所の名はデスバレー。そのデスバレーで僕は、頭を抱えてしまった。





「…………着地地点間違えた」

≪あなた、何やってるんですか≫



おかしいなぁ。本当なら高台でさっきまで高笑いしてたあの仮面少年の背後だったはずなのに。

あー、やっぱ察知されないように高高度から突撃とか慣れない真似したのが失敗か。うぅ、弛んでたかなぁ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



デルタモン。成熟期。合成型のウィルス種。

三体のデジモンが融合し、頭部と右腕と左腕にそれぞれの頭を持っている。

尾も二本あり、それらを活かした連続攻撃が得意。



必殺技は三つの口からエネルギーを合わせて発射するトリプレックスフォース。



そして左腕のデジモン頭部が繰り出すスカルファングである。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「あの、おま……え?」

「だ、大輔っ! コイツ誰っ!!」

「オレだって分からねぇよっ! てーかなんだいきなりっ!?」

「そんなの決まってるでしょうが」



過去は振り返らずに、僕は前を見る事にした。そう、ただ振り返らないだけ。

具体的に言うと、立ち上がって暗めの青のマントとアーマーを着けた仮面少年を見る。



「僕もおのれと同じく、選ばれた子ども達ってだけの話だ」





傍らには、ゴーグル装着している軽い赤毛の男の子と青い身長が1メートルも無いデジモン。

……うん、デジモンって言うんだ。キメラモンもレナモンも、みんなデジモン。

それだけじゃなくて、あの夏の日に出た怪物達もそのデジモンの仲間だったらしい。



そしてオーロラで見えていた世界も、どうもここだったらしい。あとはあのネットでのウィルス騒ぎ。

この3年前後でこの世界は、デジタルワールドといろんな意味で急接近してたわけだよ。

光子郎さんから色々教えてもらって、そこの辺りはだいぶ理解出来た。だから多少余裕も出てる。





「選ばれし子ども達っ!? オレ達や先輩達以外にも居たのかよっ!!」



アレ、確か光子郎さんが話してくれるって……まぁいいや。今そんな話してる場合じゃないし。



「まぁね。で、大輔……だっけ? 土下座なんてする必要ないよ」

「はぁっ!? なんでだよっ! てーかこうしないとみんなが食われちまうだろうがっ!!」

「あは……あはははははははははははっ! そうだっ!! その通りだっ!!」



あ、仮面少年がなんか笑ってる。というか、見下してくれてるなぁ。



「というか、君だね? 僕が居ない時間に色々邪魔をしてくれてたのは」

「うん、そうだね。いわゆるオンな時間が違うゆえってやつ?」





そして今現在、この世界は危機に見舞われてる。全ては『デジモンカイザー』と名乗る奴の仕業。

あの日、レナモンが『世界』を救ってくれと言ったのは、ここが理由なのよ。

ソイツは善良なデジモン達を次々と捕まえて、『ダークタワー』なるものを建ててる。



ようするに強制的に労働させてるわけだよ。ちなみにこのダークタワー、とんでもないシロモノだったりする。

そこはあとで説明するけど、しかも力のあるデジモンを洗脳して操った上で自分の手駒にしている。

その目的は、デジタルワールドの力による支配。ダークタワーはそのための目印というか、支配地域に建ててるとも言える。



話を聞いた僕とフェイトは放置出来ずにキメラモンとレナモンと協力して、ソイツを止める事を決意。



それで学校が終わってからパソコンに向かってこの世界へのゲートを開いて、せっせと頑張ってたわけですよ。





「じゃ、じゃああの……オレ達がデジタルワールドに入る時に、なんでかダークタワーが減ってたりしたのとか。
あとあと、オレ達が見つけたカイザーの前線基地とかがなんでか破壊されてたり、デジモン達が解放されてたのって」

「……いや、大輔。おれその話聞いてたんだけど。なんで驚いてるのさ」

「えぇっ!? ブ、ブイモンっ! お前なんでオレに黙ってそういう事をっ!!」

「いやいや、光子郎から説明されたろっ!? 大輔達の他にD-3持ってる子どもが居るーってっ!!」



あー、やっぱり光子郎さんは説明してくれてたのね。うんうん、そこは非常にありがたいよ。というか嬉しいよ。



「おのれらより遅い時間にこっち来てたから、今まで会わなかったんだろうね」



なお、今は本局でバルディッシュのメンテナンス中なフェイトの名前は出さない。

上手くいけば不意打ちで挟み込めるかも知れないし、こっちが一人だと思わせたほうが楽でしょ。



「そうか、ようやく納得したよ。だが君が何者かは知らないが、余計な真似はしない方がいいよ?」



いや、だから選ばれし子ども……もういい。めんどくさいからツッコまない。



「仲間の選ばれし子ども達が食われるからね」



というかなんだろ、二階堂の影が見えた。というか趣味の悪いゴーグル式の仮面だし、きっとかぶってるんだね。



「助けたければお前も土下座する事だな。それでしっかりと僕に頼め。ソイツのようにな」



あー、さっきも土下座してたしねー。それでこの青いデジモンが頭踏みつけようとしてたし。



「いや、別に僕の仲間じゃないんだけど。ほら、初対面だし」

≪あいにくこの人、人質無視するタイプの人間ですから、そういうの意味ありませんよ?≫

「つーわけで、僕にその脅しは無意味だね。うん、食いたければ食えば?
でも、そんな事をした瞬間にお前を叩き潰す。二度と立てないようにしてやるよ」



……アレ、なんか場が固まった。おかしいなぁ、何もおかしい事言ってないのに。



「おいおい、ちょっと待てっ! というか、お前も謎の声も頼むっ!! ここは言う通りにしてくれっ!!」

「そうだよっ! というか、仲間じゃなくてもここで見殺しはひどいじゃないかっ!! 頼むから空気読めー!!」

「あぁもう、足に縋りつかないでっ! てーか鼻水拭いてっ!?
あと、僕は空気読んでるからっ!! ……大輔、青いの、頭を下げる必要はないよ。だって」



僕はそう言いながら、左手で吊られている奴らの一人を狙って……シュート。



≪Stinger Ray≫



放たれたスティンガーによってショートカットの女の子の腹部が撃ち抜かれた。

それで女の子が苦悶の表情を浮かべながら……姿を変えた。



「な……ヒカリちゃんっ!?」

「コイツらは、お前の仲間なんかじゃない」





白い布をかぶったような、典型的なお化けの格好になった。そしてその腹部には、黒いリング。



それが砕け散って、そのお化け……デジモンはゆっくりと地面に落下しようとする。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



バケモン。成熟期のゴースト型デジモン。



頭から布をかぶっているため、その正体は謎に包まれたままだ。



必殺技はヘルズハウンドとデスチャーム。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



≪Levitation≫



続けてレビテーションを発動して、あのデジモンを撃つ。さすがに高度が高めだったし、そこは配慮。

蒼い光に包まれたバケモンは、ゆっくりと落下して安全に地面に降り立った。



「な……貴様、なぜ分かったっ!!」

「僕の知り合いに、この手の能力使うの居るしね。見抜けない理由はないでしょ」



……ごめんなさい、嘘こきました。実際はアルトにサーチで調べてもらって分かりました。



「ちくしょお……! お前、騙してたのかっ!!」

「それでおれに大輔の頭を踏ませようとしたりさせたのかっ! なんて奴だっ!!」

「そうだねぇ。やり口がど三流だもの。でさ、一つ確認なんだけど……お前がデジモンカイザー?」

『なんか凄い基本的なとこを今更確認っ!? てーかそうだからっ! アイツがデジモンカイザーだからっ!!』



そうかそうかぁ……納得したわ。んじゃ、遠慮する必要も無いね。……僕は躊躇い無く、アルトを右手で抜いた。



「そりゃよかった。じゃあ潰すわ。こっちも生徒会の仕事が色々忙しくてさぁ。
お前の遊びに付き合ってる時間もないのよ。ここいらで退場してくれると助かるんだけど」



うん、大変よ? 歌唄がイースターの作戦にどう絡んでるのかとか、真面目にさっぱりだしさ。

こっちは夜を中心に暴れに暴れて、何気に一日フル稼働が続いてるっつーの。



「ついでに……お前があっちこっちで好き勝手してくれるおかげで、こっちは紋章探しが遅延しまくってんだよっ!!
ダークタワー倒すのも操られたデジモン達助け続けるのもキリ無さそうだから、お前ぶっ潰しに来たわっ!!」

『そうなのっ!?』

「そうなのっ! てーかお前いい加減空気読めっ!? そして僕に今すぐ即行で潰されろっ!!
デジモンカイザーになる前に空気が読めるカイザーになれっつーのっ! このバカがっ!!」





……そうだそうだ。コイツのバカの後始末のせいで、紋章探しが全然進んでないし。

紋章……デジモンが更なる力を発揮するためのアイテム。キメラモンを助けるのに必要なもの。

それはタグって言う紋章をハメ込むためのペンダントと対になっていて、そのタグはあるのよ。



というか、最初の時にもらった。でも、肝心のそこにハメ込む紋章が……ちくしょお。





「……さぁ」



そんな恨みは微塵も見せずに、左手をそのままデジモンカイザーに向けて奴を指差す。

その瞬間に風が柔らかく吹き抜け砂が軽めに舞い上がった。



「お前の罪を、数えろ」










魔法少女リリカルなのはA's・Remix


とある魔導師と閃光の女神のえ〜すな日常/あどべんちゃー


第6話 『出会うC/出会いから激動?』










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「罪? ふん、バカバカしい。ゲームを楽しむのに罪などあるものか」

「あいにくゲームは一日1時間までだ。とっとと15分休憩しろ」

「あははははははははははっ! 面白いっ!! 君は本当に冗談が上手いねっ!!
……バケモンっ! デルタモンっ!! この愚か者を粉砕しろっ!!」



あらま、ぞろぞろとこっちに威圧してきてるわ。数はバケモンが八体で、デルタモンが一体か。

……フェイト来るまで待ってた方が正解だったかなぁ。ま、しゃあないか。



「大輔、青いの、いける?」

「あぁ。とりあえずサンキューな。えぇっと」

「恭文。八神恭文だよ」



……アレ、なんでそんな驚愕の表情で固まるの?

それでなんで口をパクパクさせながら僕を指差すのかな。



「と、とにかく恭文。お前のパートナーデジモンは。てーかさっきの光線はなんだよ」



どうやら光子郎さんは魔法の事とかは教えてないらしい。本当に最低限な事だけだね。

でも、そこがちょっと嬉しかったりしつつも僕は左手を動かす。



「パートナーの子はこの中でお休み中」



言いながら僕は、左手で取り出したD-3を見せる。当然だけど、二人は驚いた顔をする。



「はぁっ!? お休み中ってなんだよっ!!」

「諸事情で表に出れないのよ」



それで大輔は怪訝そうな顔をするけど、説明してる時間ないわ。



「で、アレくらいの数なら一人で片せる。さっきの光線以外にも、空飛んだりも出来るし。
あと、イービルリングの事は知ってるから安心して。…………出来るだけ無傷で止める」

「いやいや、空飛べるってなにっ!? お前デジモンじゃないよなっ!!」

「そうか。なら安心だ」

「大輔、そこ納得しちゃダメだからっ! そこは納得しちゃだめだからっ!! 人としてっ!!」



いやぁ、バ……もとい、話が早くて嬉しいなぁ。おかげでシンプルにいけるし。



「んじゃ、ブイモンっ!!」

「あぁもう、分かったよっ!!」

デジメンタル……アァァァァァァァァァァァァァァップッ!!



青い子が赤い光に包まれて姿を変える。その姿は身長は2メートル弱で、赤い装甲を各所に纏っている。

炎をイメージしたような柄に、鋭い三つ爪に銀色の刃の角が鋭く光る。



……燃え上がる勇気っ! フレイドラモンっ!!

「……それがアーマー進化って言うのか。かっこいいー」



光子郎さんから聞いてたけど、コレいいなー。僕もやりたいー。



あ、ありがとう。だがお前、本気で戦うつもりなのか?

「うん、そのつもりだよ。てゆうか」





僕は即座に左手でダガーを取り出す。その切っ先をこちらに迫ってきていたデルタモンに向ける。

……よーく狙った上で、ダガーを超電磁砲レールガンで射出。その風圧が周辺に吹き荒れる。

レールガンは僕の狙い通りに、デルタモンの腹部のイービルリングへ……当たらない。



うん、当然だよね。さすがにこれやらかしたら死なせちゃうもの。掠らせても多分同じ。

だから今のはハッタリ。風圧によって周辺のバケモンとデルタモンの動きを一瞬止めるのが狙い。

その間に僕は踏み込んで、コートの裾をなびかせながらデルタモンの懐に潜り込んでた。





「……鉄輝」



非殺傷設定にした上で、僕は袈裟にアルトを叩き込み斬り抜ける。

デルタモンの腹部のイービルリングに、蒼い閃光が刻み込まれた。



「一閃っ!!」



斬り抜けて、背後に僕は素早く着地。滑りながらも回転して、連中の後ろを取る。

腹部のイービルリングが取れたデルタモンは右往左往してるけど、バケモンはこっちに向かってきてた。



「……ほら」





あ、もしかしたら言い忘れてたかも知れないから、一応解説。

カイザー所有のデジモンは全員あのイービルリングで操られてるのよ。

ようするにイービルリングは、デジモン洗脳装置ってわけですよ。



だからそれを破壊すれば洗脳されたデジモン達は、みんな元に戻るってわけ。





「もうとっくにクライマックスだし。全ては僕のペースで運んでいくのよ」

『嘘ぉっ!!』





なお、ショウタロスとシオン達もこっちに来てるけど不可思議空間に隠れてもらってる。

だけど……うーん、やっぱり不思議だ。この世界だと魔法の威力が倍ましで上がってる感じがする。

なんでだろ、魔力がたくさんあるとかでもないし、プログラムをいじってるわけでもない。



そこの辺りの疑問に胸をワクワクさせつつも僕は、僕に迫ってくる操られたバケモン達を見据える。

バケモン達はその身体のどこに収めてたんだと言いたくなるような大きさの拳を伸ばして突き出してくる。

それは僕を打ち抜こうとする攻撃。その青白い拳をスラロームしつつ回避して、一気に飛び上がる。



そして狙いを定めて、アルトの刃を右薙に叩き込んだ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



な、なんだアイツっ!? 今凄い速度で空飛んでたよなっ!!

いや、確かにノリというか勢いで『頼むー』とか言ったけど、ありゃなんだよっ!!

てーか刀持ってるしっ! ほら、銃刀法とかそういうのはどうしたんだよっ!!



と、とにかく……えぇいっ! もう細かい事は後でもいいっ!!





「フレイドラモン、お前は恭文と一緒にバケモンを止めてくれっ!!」

いや、だが……あぁもう分かったっ!! だが大輔は

「オレはオレでやる事があるっ!!」



その原因は、恭文に大挙して襲ってきてるバケモン達だ。というか、カイザーだな。



「バケモンっ! フォーメーションFだっ!!」



そう言うと斬りかかってきた恭文君から離れて、懐から青白い手を出して殴りかかってくる。

攻撃を避けられた恭文は着地してから振り返り、後ろにバク転しつつ避ける。でもその間に、背後にバケモン達が回りこむ。



「フォーメーションB!!」



素早く恭文を狙って、数本の拳が突き出される。それを恭文は、左に走って避けた。

てーかスゲェ。攻撃見ずに避けたし。まるで来るのが分かったみたい……アレ、なんか違和感が。



「そこっ! フォーメーションD!!」





そしてそんな恭文の周囲を取り囲むように、また拳が突き出された。

……カイザーが恭文の動きに合わせて、指示出ししてんだよ。

それがやたら正確だから、恭文も攻撃の隙が掴めずにいるっぽい。



だがその様子に妙な違和感が……いや、そこは後でもいい。



あそこはフレイドラモン行かせると目立っちまうし、だからオレだ。





「とにかく頼むぞ」

お、おいっ! 大輔っ!!





オレはそれだけフレイドラモンに言うと、全速力で疾走。……恭文が何者かとかは、とりあえずいい。

何にしても助けてはくれたんだ。今は信用したっていいだろ。とにかくオレはカイザーだ。

全速力でカイザーが立っていた崖の上を目指し、カイザーの死角から回り込むように移動。



今アイツの目は、バケモンと恭文と乱入して暴れてるであろうフレイドラモンの方に向いてる。



だからこそ、あっさりと背後が取れた。それほど高くない崖の上に立ったオレは……そのままカイザーに突撃。





「うぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「なっ!!」





カイザーの身体を掴んで、そのままオレは崖からカイザーもろとも転げ落ちた。



崖の傾斜そのものは緩めだから、ここは問題ない。……とにかく時間稼ぎだ。



恭文はともかく、フレイドラモンがバケモン達を止めるまでは持ちこたえる。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



大輔がなんか危ない突撃と落下をした途端に、バケモン達の動きが止まった。というか、戸惑ってるっぽい。

僕はフレイドラモン共々攻撃を回避しつつ、反撃の隙を伺っていたんだけど二人して同じように足を止めてしまう。

だってね、本当にオロオロしてる感じなの。さっきまで飛んでいたカイザーの指示が無くなっただけなのに。



…………あ、なるほど。うーん、なんというか結構やる子なのかぁ。





「フレイドラモン、おのれのパートナー凄いね。指揮官を潰して動き止めてきた」

大輔の得意技らしい。昨日のサッカーの試合でもやっていた

「へー、大輔サッカーやるんだ。そりゃ僕の友達と話合いそう。ま、そこは」



僕は再びアルトに魔力を込める。薄く……そして鋭く刃を研ぎ澄ます。

狙うは人の心を惑わす黒いリング。あれがデジモン達を洗脳している元……あ、この話さっきしたか。



「あとだね。フレイドラモン、一気にやるよ」

分かった



僕は言いながら、四体のバケモン達に向かって右足を踏み出して突撃。そのまま一気に飛び上がる。

コートと髪をなびかせながら最大速で距離を零まで詰め、そのままアルトを振るって斬り抜ける。



「鉄輝」



袈裟、逆袈裟、再び袈裟、最後に右切り上げと青い閃光と化した斬撃は打ち込まれた。

駆け抜けた後にバケモン達に、そして世界に刻み込まれるのは蒼い鉄輝。それが黒いリングを両断する。



「繚乱っ!!」



空中を滑るように下がりつつも振り返り、バケモン達を見る。……うし、リングはしっかり砕けてる。

その間にフレイドラモンも動いていた。身体を炎に包み、残りのバケモン達に向かって突撃。



ファイアロケットっ!!



バケモン達は、無謀にもその頭からの突撃を受け止めた。ううん、青い拳を出してカウンターを打ち込んだ。

でも炎に包まれた身体はそれでは止まらず、拳を燃やしながら弾いて、更に突撃。空中を一直線に飛ぶ。



うぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!



まさしくロケットと言うべき加速力で突進したフレイドラモンに跳ねられて、バケモン達が吹き飛ぶ。

普通にキルしちゃったような攻撃に見えるけど、多分大丈夫。そしてイービルリングは、全て砕けた。



「…………おー、凄い凄い」

≪中々やりますね。というか、真似しないでくださいよ?≫

「いきなり何のツッコミっ!?」





心の内を見抜かれた事に驚きつつも、僕は大輔の方を見る。

大輔は……アレ、なんか固まってる。というか、カイザーが仮面取って笑ってる。

よくは分からないけど、とりあえずあのバカ潰そうと思って、僕は踏み込む。



でもその瞬間、鋭く風が吹いてカイザーを連れ去った。……あ、訂正。

カイザーの左側から飛行系のデジモンが飛んできて、素早くカイザー抱えて逃げちゃったのよ。

踏み込んではいたから追いかけようと思ったけど、そこを狙っての罠の危険を考えてやめた。



僕はゆっくりと速度を落として大輔の隣で停止。カイザーが去った方向を見る。





≪中々に手堅いですね。まぁ逃げ方が三流ですけど≫

「だね」



周囲を警戒しつつアルトを一回振るって、鞘に納める。それで改めて大輔の方を見た。

大輔は呆然とした顔で崩れ落ちて、地面の土を強く握り締め……アレ、なんかおかしい。



「……大輔?」

「なんでだよ」



いや、何が? とりあえず僕どうこうじゃないと思うけど。



オレ、お前の事マジですげー奴だと思ってて……どうしてなんだよっ! 一乗寺っ!!

「いや、だから何がっ!? 大輔、お願いだから僕にも分かるように説明してっ! てーかいきなり過ぎて読者置いてけぼりだからっ!!」

一乗寺だったんだよっ! デジモンカイザーは一乗寺だったんだっ!! お前だって見たろっ!?

「だからまずそれは誰っ! 苗字だけ言われても僕の知り合いにはそんな人居ないから分からないしっ!!」

「…………ヤスフミっ!!」



アレ、なんか大輔の声に混じって良く知ってる声が……僕は7時の方向を見る。

するとそこには、白いマントに黒いスーツ姿の女の子が居た。というか、狐なデジモンと一緒に走ってきてた。



「フェイトっ!? それにレナモンもっ!!」

「ごめん、遅くなっちゃったっ! あの、カイザーは」

「お前が派手にドンパチしてたのは私達でも掴んだが」

「中々に去り際が素敵だったよ」

「そっか。それであの」



フェイト、レナモン、言いたい事は分かるけど何も言わないで。

うん、確かに分かるよ? 今の僕の周囲に明らかにおかしいのが居るから。



「ワケ分かんねぇ……ワケ分かんねぇよっ!!」

「大輔、落ち着けってっ! 恭文の言う通り話分からないからっ!!」

「この子達は誰? なんで泣いてるのかな」

「まぁその、僕とフェイトと同類だけど若干おかしい子とだけ言っておくよ」





その後、この子の仲間らしき四人がデジモンに乗った上でこっちに急スピードで飛んで来た。



その四人が崩れ落ちた大輔や僕とフェイトを見て困惑していたのは、気にしないで欲しい。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



とにかくデスバレーから離れて……というか、この子達にゲートを開いてもらってそこから現実世界に戻った。

その子達はもう戻る時間だったらしくて、僕とフェイトはそれに付き合う事にした。あ、それで簡単に自己紹介はしたのよ?

というかね、白い向こうの帽子かぶった男の子から『詳しく話を聞きたい』って言われたのよ。



ゲートを潜って現実世界に戻ると、そこはパソコンが沢山ある部屋……アレ、ここはなに?





「あ、ここはうちの学校のパソコン部。あたし達、ここからデジタルワールドに行ってるんだ」

「学校? じゃああの、ここって」

「お台場小学校です」

『お台場っ!?』



僕とフェイトは思わず夕焼けの光が入り込む窓の方を見た。

……あ、マジで遠目にフジテレビ見えるっ! あの球体が見えてるしっ!!



「あー、でも驚く必要はないのか。話に聞いてた通りだし」

「聞いてたって……あ、光子郎さんからかな」

「そうそう」



あぁ、やっぱり光子郎さんはいい人だ。ちゃんと話してくれてたんだ。

だからほら、帽子かぶった子はすぐに分かってくれたし。大輔はきっと、残念な子だったんだよ。



「ヤスフミ、どうしよう。私東京って来た事なくて」

「せっかくだし観光する? ほら、土日で学校お休みだし」

「あ、そうだね。でもその前にお話かな」



二人で現状に色々と納得したところで、改めてあの四人の方を見る。

え、大輔? なんかすっごいヘコんでるから数に入れてない。



「とにかく八神くんとテスタロッサさんも、選ばれし子ども達なんだよね?」

「うん。そこは光子郎さんからは」

「あ、聞いています。とにかく大輔くんを助けてくれてありがと。僕達カイザーの作戦で分断されてて」



どうもそうらしい。みんなは地中に引きずり込まれたと思ったら、適当なところで放り出された。

そこにカイザーに洗脳されたデジモン達が多数襲撃してきて……ようするに引き離しだよ。



「でもカイザー、真面目に悪の首領キャラよね。あたし達の偽物仕立て上げて大輔脅すなんて」

「卑劣です」

「正直怖いかも。もしもあなた達が居なかったらと思うと」

「あ、ううん。私は特に何もしてないし……ね、ポコモン」

「あぁ」



フェイトは自分の両腕をの中の見てそんな事を言う。そこには枕サイズの金色の丸っこい狐。

尻尾の先が白いこの子はポコモン。レナモンが退化した姿。



「私達もお前達と似たようなものだ。礼を言われるような事は残念ながらしていない」





……あ、デジモンは進化と退化が出来るの。進化は強大な力を得られるパワーアップ。

デジモンには、その進化の具合によってランクみたいなのもある。

種別で言うと幼年期・成長期・成熟期・完全体・究極体とある。究極体が最高ランクだね。



今のポコモンが幼年期で、普段のレナモンが成長期になるんだ。キメラモンは完全体。

さっきのデルタモンやバケモン達は全員成熟期……だったはず。

ただ、僕達みたいなパートナーが居るデジモンにとって進化と退化はまた意味合いが違うらしい。



とにかくレナモンがパワーの節約のために、一時的に退化した姿が今の状態。

というかレナモン、普通に姿消せるから別に退化しなくてもいいんだよね。いわゆるステルス迷彩が出来るのよ。

でもフェイトが『ポコモン可愛い』って気に入っちゃってるから……ごめん、嘘ついた。



パワー節約とかそういう意味合い抜きで、レナモンはフェイトのためにポコモンで居るのよ。

そこの辺りはイギリス激闘編でのアレコレを見てもらえれば納得してもらえると思う。

……このように、パートナーが居るデジモンは進化と退化を状況に応じて使い分ける事が出来る。



そこは目の前のみんなのデジモンも同じ。それがパートナーの特権とも言える。



例えば青い二足歩行の龍っぽかったブイモンも、なんか丸っこいぬいぐるみみたいになってるし。





「チビモンだよー。恭文ー」

「……チビモン、思考を読むのやめない? というか、地の文にツッコんじゃダメだから」

「えー、でも口に出てたよー?」

「嘘っ!!」

「嘘だよー♪ やーい、騙されてやんのー」



とりあえず僕は一歩踏み出した。それでしっかりチビモンを捕まえて……軽くハグして締め上げる。



「チビモン、嘘つく子には愛情いっぱいなハグだよハグ。てーかコチョコチョ攻撃しまくってやるから」

「わー、それ勘弁ー! というか、いじめカッコ悪いんだぞー!?」

「それを言うなら嘘つく子だって、基本的にはカッコ悪いんだぞー?」

「そうでしたー!!」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「なんだかチビモン、あの子とすっかり仲良くなっちゃってるね」

「本当ねー。精神年齢近いのかしら。ほら、あの子も可愛らしい感じだし」

「その、なんというか……すみません」

「え、どうしてテスタロッサさんが謝るんですか? 良い事なのに」

「まぁその、色々あって」



ショートカットの髪の子と、紫髪でロングなメガネの子が疑問の視線をぶつけてくるけど、ここは気にしないで欲しいな。

というか……まぁその、ミキちゃんとかの事を考えちゃうわけなの。私はただただ苦笑いだよ。



「あ、それで自己紹介遅れました。あたしは井ノ上京(みやこ)。
みやこは京都の京の字と書いて、みやこ。この学校の6年生です」



そう言ったのは、メガネの子。長い髪を前髪から二つ分けにして、明るい感じに見える。

というか、みんなの中でリーダー格なのかな。結構仕切ってた感じだったし。



「6年生? あ、それじゃあヤスフミと同い年だね」

「……え、あの子あたしと同い年なんですかっ!?」



それでみんなが驚いた顔で、他のデジモン達とも遊び出したヤスフミを……ごめんなさい。

で、でも大丈夫だよね? キャラなりやユニゾンとかとはまた違うんだし。うん、大丈夫だ。



「それは驚きです。僕と同い年か1つ上くらいかと思っていました」

「伊織くん、僕もだよ。だってあの子」

「あの、そこには触れないであげて? ヤスフミ相当気にしてるの。
……下手に触れたら暴れるから。それも凄い勢いで」

「あ、そうなんですか。ならそうします。……それで改めまして、高石タケルです。
お台場小学校の5年生で、大輔くんとヒカリちゃんとは同級生です」



白い帽子をかぶってにこやかな笑みを浮かべるこの子は……背が高い。

ヤスフミ、その……大丈夫だよ。ほら、将来的な問題もあるし。そうじゃなくても私は婚約者だし。



「火田伊織です。3年生です。よろしくお願いします」



おかっぱの子はそう言って、礼儀正しくおじぎをする。私もそれに倣う。



「うん、よろしく」

「なら、最後は私かな。……八神ヒカリ、タケル君が言ったように小学5年生です」

「よろし……八神っ!?」



私は咄嗟にヤスフミの方を見る。ヤスフミはデジモン達に乗っかられて身体の上で跳ねられた。

それから改めてその子に視線を移すと、ヒカリちゃんは苦笑していた。



「えぇ。私も『八神』なんです。どういうわけか苗字が同じで。
私もさっき自己紹介された時びっくりしちゃって」

「そ、そうだよね。というかあの、今私もびっくりしたよ」

「じゃあやっぱりフェイトさんも私達の事とかは」

「うん、詳しくは聞いてないんだ。あくまでもそういう子達が居るという事だけ」



あんまりべらべら喋るのもマナー違反だろうから、実際に会った時に……というお話だった。

でも初めて聞いた時はびっくりしたよ。私達の他にD-3を持ってる子が居るとは思わなかったから。



「多分ヤスフミが聞いたらもっとびっくりすると思うな」



だって自分と同じ名字だし。同じ名前よりはびっくりしないかも知れないけど、それでも驚きだよ。



「実は僕もです。ヒカリさん、親戚の方とかではないんですよね」

「あー、それあたしも考えた。だからあの子も選ばれし子どもになったのかなーって。
ほら、ヒカリちゃんのお兄さんの太一先輩もそうだし」





お兄さんの太一先輩? あ、1999年の異変の時に選ばれし子どもだった人かな。

話しぶりからするとあの光子郎君の他に、そういう味方が居たそうだから。

最初の時にあのオーロラやお台場での怪獣事件も、悪いデジモンの仕業によるものだと教えてはもらった。



それでその事件を、その当時私達と同じような選ばれし子ども達が対処した事もだよ。





「ううん、違うの。本当に今日初めて会ったんだ。
まぁ山田さんや田中さんよりは少ないけど、割とある苗字だし」



多分ヒカリちゃんの言うように、親戚の線はないと思う。はやては親戚って呼べるのはグレアムさん達だけだろうし。

そこの養子であるヤスフミに関しても、そこは同じく。なにより、ヤスフミの実のご両親……もう亡くなってるしね。



「あ、私もそこは断言出来るよ。ヤスフミの家、親戚がイギリスに居る叔父さんだけだから」

「そうなんですか。うーん、偶然ってあるもんだなぁ。……それで自己紹介も終わったところで」

「うん」

「まずテスタロッサさん達もD-3、持ってるんですよね。あ、ここは一応確認って感じで」



私は頷きつつ、羽織っていたサマージャケットの内ポケットに入れてあるD-3を左手で取り出す。

服装は相変わらず変わっちゃうけど、中に入れてるものの位置が変わらないのはありがたいかな。



「金色と黒のD-3……形状は僕達のと同じだね。
テスタロッサさん、選ばれし子ども達になったのって今年の3月くらいでしたよね?」

「うん。ポコモンと」



私は視線をまたヤスフミに向ける。……あ、D-3をヤスフミがみんなに見せてる。

という事はもしかしてその、あの子の事も紹介しちゃってるのかな。



「キメラモンが私達の住んでる街に直接来てね。まぁその、諸事情あって『助けて欲しい』って頼まれて」

「それでそのまま選ばれし子どもに。でもあの、それなら八神……あー、紛らわしいな。
あの恭文君のデジモンは? なんか話聞いてると、あの刀振るって一人で戦ってたっぽいし」

「デジモン相手に戦ってた事はそれとして、本当に選ばれし子どもならパートナーデジモンが居るはずですよね。その子は」

「それがその……そこなの。さっき言った『諸事情』は」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



えっと、チビモンがブイモンになって、このピンク色の羽生やしてるポロモンがホークモン。

赤い翼と身体に白い毛並みの鳥型デジモンだったね。あー、やっぱ羽生えてるんだ。

丸っこい昔で言うところの肌色な色合いの子がウパモン。それがあのアルマジロなアルマジモン。



あとはオレンジと白の体色で耳の部分から羽が生えてる長っこいのがパタモン。



こっちのグローブに爪生やしてるねずみっぽいのが。





「恭文、引っかいていい?」

「いきなりなにっ!? てーか爪を輝かせないでっ!!」



とにかく、今僕に対して鋭い視線を向けたのがテイルモン。まぁ自己紹介されたので、僕も頑張った。

D-3の画面越しに相談した上で、僕はみんなにその画面を見せる。そこには、ドット絵なキメラモンの姿。



「この子が恭文さんのパートナーデジモンですか? ……あ、ポロモンです」

「なんというか、すっごく強そうなんだみゃあ。……あ、ウパモンだみゃあ」

「ねーねー、二人共どうして自己紹介してるのー?」

「パタモン、僕にもよく分からないよ。多分読者のためとは思うけど」

「読者ってなにー!?」



まぁ興味深そうに見てる幼年期三人はいいとしよう。

問題は、僕を引っかこうとしたテイルモンとパタモンだよ。



『……初めまして、だな。オレがキメラモンだ』

「わ、名前まで強そう。初めまして、おれチビモンー」

「ポロモンです」

「ウパモンだみゃあ」



あぁ、視線が厳しい。特にテイルモンの視線が辛いんですけど。僕まだ何もしてないはずなのに。



「それで恭文、キメラモンはあなたのD-3の中に居るの?」

「うん。というか、みんなはD-3の中に入ったりしないの?」

「そんな事私達は出来ない。というか、デジヴァイスにそんな機能は無かったはず」

「…………やっぱりか」



まぁまぁ予測はしてたけど……というか、色々気遣ってもらったのかな。

なんか説明受けた時に、僕とキメラモン用に機能をいくつか付けてあるとか言ってたから。



「やっぱりってどういう事?」

「そうだよー。恭文、何かあるならボク達力になるよ?
ほら、大輔達を助けてくれたお礼もしたいし、光子郎からお話は聞いてたし」

「まー、ちょい事情込みでね。……みんなは例えば幼年期や成長期になれるじゃない?」



この辺りはエネルギー節約という意味合いもあるし、こっちの世界で過ごしやすいようにするためとも言える。



「そうね。私は成熟期だからまた違うけど……それがどうかしたの?」

「……キメラモン、体長が15メートル近くあるの」



もう軽いモビルスーツサイズだよ。F91とかと同じくらいだよ。それで空もかなり速く飛べるしさ。



「それはまた大きいわね。でも、それなら退化して成長期か幼年期になれば」

「戻れないの」

『戻れないんだ』

『え?』



テイルモン達だけじゃなくて、チビモン達も驚いた顔をした。というか、ちょうどキメラモンもその話してたんだ。



『オレは、お前達とは違う。完全体のまま……パートナーを得られても退化など出来ない』

「……そうなの。そのために、僕のD-3にはキメラモンが中に入れるようにしてあるっぽい。だから『やっぱり』なんだよ」

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』





みんなが驚く様子を見て、どうもそういうのが常識外れなのはよーく分かった。



でもそうなると……フィアッセさんのとこのマリンエンジェモンの事話したら、もっとびっくりするだろうなぁ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……フェイトさん、マジですか? 完全体のまま戻れないって」



小声で京ちゃんが、ヤスフミ達の方を見ながら聞いてくる。

私達はパソコンの画面に全員向かい合う形で、こそこそ会議です。



「うん。ただ、そこはまだいいんだ。問題は……その、暗黒進化って言うのがあるんだよね?
悪いデジモンに進化しちゃって、大暴れして色んなものを壊しちゃう状態になる事」



私の言葉になぜかタケル君とヒカリちゃんが、表情を暗くする。……この二人は知ってるっぽい。



「暗黒進化? なんですか、それ。というかそれって」

「京さん、そういうのがあるんですよ。僕も見た事がある。……それで、テスタロッサさん」

「……キメラモンは、その暗黒進化をしてずっと止まらなくなる可能性があるらしいんだ。
キメラモンには色んなデジモンの因子が組み込まれていて、その中に暗黒デジモンのものもある」



それがキメラモンの四つの手の上二つ。でも、それだけが原因じゃない。それだけじゃ、ないの。



「それと色んな因子が混ざり合う事で相互反応を起こして、強烈な破壊衝動を呼び起こす」

「破壊衝動……つまり、周りのもの全てを壊したくなる?」

「うん。その結果が……ミレニアモンって言ってたかな」





キメラモンが一番気にしてる問題はここなんだよ。ミレニアモンは究極体デジモン。



デジモンの進化ランクの中でも最上位の究極体は、それ相応の力を持っているらしい。



フィアッセさんのところのマリンエンジェモンを見ると信じられないけど、そうらしいの。





「そう呼ばれる相当力のある究極体デジモンに進化して、世界を破壊衝動のままに壊し尽くすとかなんとか」



少なくとも今のキメラモンに暴れ回る可能性はない。ただ、進化した段階でそうなるかも知れない。

進化すると口調や性格が変わっちゃうデジモンも居るようだし、ありえない可能性じゃないんだよ。



「キメラモンは昔のデジタルワールドの先住民が作ったらしいんだけど、それが今こうして目覚めてるんだ」

「そんな危険極まりないデジモンをパートナーにしてるんですかっ!? バカげてるっ!!
なにより暗黒の力を内包しているのに、どうして倒さないで放置して」



表情を険しくして、声をあげかけたタケル君の言葉が止まった。私は軽くため息を吐いて、ある方向を見る。



「……ヤスフミ、落ち着いて?」



それはヤスフミ。ヤスフミはタケル君に、今すぐ殺すと言わんばかりの殺気を向けていた。

視線も何も向いてないけど、ただ気配だけがタケル君に突き刺さってる。ヤスフミは、デジヴァイスを持って俯いてた。



「私達二人での捜索も、カイザー相手も、さすがに限界だよ。
ここはみんなに協力を仰ごう? なによりヤスフミにはもう一つ仕事がある」



正直今のヤスフミはオーバーワーク寸前だと思う。ほしな歌唄の事もあるから、疲労と心配が二重で襲ってきてる。

シャマルさんが体調を見てくれてるからまだ安心は出来るけど、それでもこのままはだめ。



「大丈夫だよ。きっとみんな、話せば分かってくれるから。
そのために光子郎君とも何度も相談してたわけだし……ね?」

「…………分かった。そっちは任せていい? 僕はチビモン達に話すから」

「ん、任せて」



それでようやく殺気が収まった。私は軽く安堵の溜息を吐く。それでタケル君の方を見る。

タケル君は……顔が青冷めてた。というか、脂汗が出まくってみんなが心配そうに見ている。



「ごめんね。ヤスフミ、今学校の中での仕事とかがそうとう大荒れで……ちょっと疲れ気味で」

「あ、いえ。僕もその」

「タケルにしちゃあ珍しく無神経だったわね。いきなり倒す倒さないって話されたら、そりゃあ不愉快に思うわよ」

「……その通りです。無神経でした」



タケル君は帽子を下ろして、両手で胸元の辺りで持って反省したように顔を下げた。



「とにかくテスタロッサさん、恭文くんは……というか、光子郎さんもその話は」

「うん、知ってる。知った上でキメラモンを預かったんだ。
あと光子郎君も話を聞いた上で、力になるって約束してくれてる」

「だからあんなに怒ったんですね」



そう言いながらも顔を上げて、申し訳なさそうにヤスフミをタケル君は見る。



「本当に悪い事しちゃったなぁ」

「なら、後で二人に謝らないとね」

「そうだね。ただ、そうさせてくれるかどうかだけど。だってほら、相当怒ってたっぽいし」



まぁ、ヤスフミの本気の殺気だしなぁ。でも……やっぱりヤスフミ、疲れてるのかも。

よし、ここは少し余裕を入れていかなきゃ。そうじゃなきゃヤスフミが持たないよ。



「そこは大丈夫じゃないかな。アレだけ怒れるなら、逆に安心だと思う」



一人決意を固めている間に、ヒカリちゃんがヤスフミの事をなんだか嬉しそうな顔で見出した。



「きっとそれだけパートナーデジモンを大切に思ってるって事だもの。だから、きっと」

「だと嬉しいよ。さすがにこのままは僕も嫌だし」



そんな話を反省し気味にタケル君がヒカリちゃんとしているのに、私は少し安心してしまった。

この子は、きっと大丈夫だよね。多分頷いている他のみんなもだよ。



「とにかくね、キメラモンがD-3の中から出て来ないのはそれもあるんだ。
……キメラモン、本当に優しい穏やかな子なの。それで自分に怯えてる」

「怯えてる? でも、さっき破壊衝動がどうとかって」

「少なくともヤスフミのパートナーになってるキメラモンにそんな衝動はないよ。
だからこそ怯えてるんだ。いつか自分もそうなるんじゃないかって」



その感情は私にも覚えがあって、だから自然と拳を握り締めてしまう。

だから私もヤスフミに協力しようって決めた。あの子の心、なんとか開いてあげたかった。



「そういう身体を持ってる自分に、可能性を持ってる自分に怯えてるの。自分の姿を人に見られるのも辛いみたい。
私達と初めて会った時も、本当に自虐的で……何時死んでもいいって顔してた。どうせ、どうせ……って感じで」

「……そんな」

「事実だ。とはいえ、恭文の奴と接する事である程度は緩和された。
恭文はキメラモンの事を、当初から全部受け入れくれたからな。その上で旅をする事を決めた」



多分ヤスフミにとっては、カイザーの事とかは二の次なんだと思う。それはきっと今も同じ。

ただ今手の中に居る大事なパートナーを助けたくて、でもその邪魔をするからカイザーを潰すって感じ?



「だがそれとて、本当にある程度だ。やはり自分の姿を他のデジモン達に見られるのは、辛いらしい」



だから夜に行動する事が多いんだよね。あとは人里離れたところとか。そこならまだ大丈夫だから。

出来れば他の子ども達のデジモンと接して、もっと状態が良くなればいいんだけど。



「そんな具合だが、恭文もそうだしフェイトも少々特殊な能力持ちでな。
二人ならばやり方次第だが、完全体相手でも難なく戦う事が出来る。そこは救いだった」

「だからパートナーデジモンが居るのにあの小さな身体でその能力使って、デジモン相手に戦っちゃってると。
それはまた……アレ? 二人共ちょっと待って。あたし気になったんだけど、『預かった』ってなんですか」

「うん、預かったの。……話は3ヶ月前になるんだけどね」





振り返り思い出すのは、3ヶ月前のあの砂漠での10分足らずの移動。その到着地点だったピラミッドの中。



キメラモンがD-3の中に入った上で、レナモンに案内されて会ったある人が……この旅の始まりの、本当のきっかけだった。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ヤスフミがキメラモンをD-3に入れた上で、ピラミッドの中に入った。レナモンの案内で少し進むと、広間に出た。

その広間はちょうど部屋の奥に水場があって、絶え間なく水が流れる音が聴こえる。

そしてその水場の上に、巨大な女性の石像があった。その女性は甲冑を着込んでいて羽が生えている。



背中から生えている羽は六枚……かな。結構装飾が多くて分かりにくい。

右手には鋭いランス、左手にはラウンドシールド。鼻の辺りまで覆う兜をかぶったその女性は、石像だけど綺麗に見えた。

それでレナモンがその像の前で立ち止まり、静かに跪く。あんまりに突然且つ自然なので、固まってしまった。



そのままレナモンは下ろしていた顔を上げて、像を見上げる。





「……オファニモン様、我々のパートナーとなる人間を連れて来ました。これで、よろしいのでしょうか」



オファニモンと呼ばれた石像の方を、レナモンはどこか悲しげな目で見ていた。

それで私達は自然と、石像を見る。すると石像が淡い緑色に輝いた。



えぇ。レナモン、ありがとう。八神恭文、フェイト・テスタロッサ、よく来てくれました

『……石像が喋ったっ!?』



いや、デバイスも喋ったりするし、しゅごキャラも居るくらいだから不思議はないかも。

うん、ないかも知れないんだけどこれはどういう事かなっ!!



「これはまた」

「驚くですねぇ」



あ、ショウタロス達がいつの間にか出てきてる。それで二人で驚きながら石像を見上げていた。



「お前達、失礼だぞ。……まぁしょうがないのか。お前達は私達の世界の事は全く知らないのだしな」

そうですね。みなさん、突然驚かせてしまってごめんなさい。私はの名はオファニモン。
私も二人と同じデジモンであり、このデジタルワールドを守護する者です






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



オファニモン。究極体の座天使型デジモン。ワクチン種。女性型天使デジモンの最終形態であるデジモン。

セラフィモン、ケルビモンと言うデジモンと共にデジタルワールドの中心部・カーネル(神の領域)を守護している。

この三体は一般的には三大天使と呼ばれており、オファニモンはそのデジモンの一体である。



神の側面でもある慈愛と慈悲を伝えるデジタルワールドの聖母的存在。

なお、三大天使にはそれぞれに神としての役割が存在している。

セラフィモンは徹底した神の法の執行者。ケルビモンは神と智の守護者となっている。



必殺技は『エデンズジャベリン』と『セフィロートクリスタル』。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……え、じゃあデジタルワールドの神様なのっ!? だから石像なんだっ!!」

「ヤスフミ、解説覗き見るってどうなのっ!? それはちょっとメタだと思うんだけどっ!!
あと、そこに石像である事を納得する要因は多分無いと思うんだけどっ!!」

「いや、だからお前達なんの話を……というか八神恭文、お前はどこに乗りあげている。どこを見ている」

ふふふ、ヘイハチ・トウゴウから聞いた通りに本当に面白い子達ね。ただ、神様という解釈は少し違うわ



解説から一旦視線を外して、私達は石像の方を改めて見た。



この世界で言うところの『神様』は、私達とはまた別の存在ですから。つまり……そうね。
私達はその神様に直接的に仕えているデジモンと言えば納得してもらえるかしら


「つまり普通の会社で言うところの、重役とかそういう感じですか?
副社長とかそういうので……もしくは神様の側近」

そういう感じね。それで私の事が分かってもらったところで本題に入りたいのだけど……いいかしら



石像がまた光って、この空間に声が響く。なのでヤスフミも私も改めて姿勢を正した。



「それじゃあオファニモン、僕から一つ質問。ここがデジタルワールドっていう異世界なのは道中で聞いた。
……で、それに先生がどう絡むの? 僕が先生の弟子だって事は知ってるんだよね」

「だからヤスフミとフェイトの携帯にあのじいさんのアドレス使って連絡した。そういう事でいいんだよな?」

えぇ。なんというか……本当にあの時は驚きました。というより、度肝を抜かれました。
ある日突然にこの『神の領域』に乗り込んで来て『腹減った』などと言うんですもの




ヘ、ヘイハチさん……また自由な。というか、異世界に来てそこの神様……アレレ? なんだか話がおかしいなぁ。



「あの、オファニモン。今話に出た『神の領域』というのは。解説で大体の事は分かるんですけど、それでも確認を」

簡単に言えば、デジタルワールドの中心部の事です。デジタルワールドは東西南北の四つのエリアに分かれています。
その中心に居るのが、ここ……『神の領域』。と言っても、実際には不可侵な別空間となっているのですが




じゃあ私達、聖夜小の中からその『神の領域』に来てる? ……な、なんだか凄いかも。

というか、そういう異世界の神様の側近にいきなり会ってるのも凄い話だよね。私、ドキドキしてきたかも。



「じゃあレナモンは」

ここで側近な私達に仕えてくれているデジモンの一人と考えてもらえればいいわ。
キメラモンの事もあるし、あなたならレナモンのパートナーとして相応しいと思ったから


「な、なんというかその……恐縮です」

それで八神恭文、あなたにキメラモンのパートナーになる事をお願いしたのは、あなたの師の勧めがあったからです。
もしかするとあなたならば、キメラモンに別の進化の可能性を示す事が出来るかも知れないと




恭文はそれで改めて自分のD-3を……その中に居るキメラモンを見た。私も自然とその手に視線が動いていた。



そんなあなたと彼女が選ばれし子どもの候補者に上がっていたのは、本当に幸いでした。
キメラモンの事もそうですが、今デジタルワールドで起こっている問題も対処して欲しいのです


「いや、だからどうして? そもそも僕達が選ばれし子どもとか、この世界を救って欲しいとか」

「あ、それも私は疑問です。オファニモン、教えてもらえますか?」

もちろんです。まず……キメラモンはこのままでは、世界を殺す『毒』になる可能性があります

『……え?』





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……それでその、オファニモンってデジモンからさっきの暗黒進化の話を聞いて」

「あとはカイザーの話とか選ばれし子どもの役割もテスタロッサさん達は聞いた」

「うん」



パソコン部の椅子を借りて、腰を下ろして少しだけ長いお話を終えた。まだ途中ではあるけど、重要な所は全部かな。



「今カイザーは東のエリアで暴れてるから、そこで侵攻を止めて欲しいってお願いされたんだ。
あと、どうして私達なのかも。実は私達……ほら、核ミサイルがお台場に落ちた事件」



それで全員の表情が驚くものに変わった。その中で一番驚いていたのは、京ちゃん。



「……あ、もしかして二人もメールを送ったんですかっ!? あのネットの中の戦い見てて、それでっ!!」

「うん。というか……あの、京ちゃんも」

「えぇ。あたしも送ったんです。どうもそのためにコレっぽくて」

「お二人も京さんと同じ要因で選ばれし子どもになったんですね。あぁ、でもありえない事じゃないんですよね」





そこは同感。あの戦いは本当に世界中で見られていたそうだから。

というか、フィアッセさんも確認したらメールを送ってたらしいんだ。

でもフィアッセさんは子どもじゃないよね? なのに……うーん、なんでだろう。



もしかして子どもだけがデジモンと接触出来るという考えが、『選ばれし子ども』という認識そのものが間違ってるのかな?





「選ばれし子どもとなる子は、以前何かしらの形でデジモンに関わった子達の中から選ばれるしね」

「私とタケル君も前回はそうだったしね」



二人はそう言いながら顔を見合わせて頷き合う。その様子を見て、私は軽く首を傾げてしまった。



「前回も?」

「……あ、実は私達、1999年の時も選ばれし子どもだったんです。
その前にこっちに来たデジモンを目撃した事があって」

「というか、以前の選ばれし子ども達は全員その事件の目撃者なんです。
光が丘テロ事件で調べてもらえれば、すぐに分かると思います」

「そうだったんだ」





あれ、そう言えばその事件ってヤスフミから聞いたような……あ、聞いてるよ。

怪獣騒ぎを調べていく中で、そういう証言があった事件が起こってたみたいだって教えてくれた。

確か爆発物が使われた事件だっけ? でも目撃者は『二体の巨大な怪獣が暴れた』と話している。



ただこの証言は信じてもらえなかった。その理由は、目撃者全員が子どもだった事。

事件は深夜の事で、大人達は全員その光景を見ていなかった。見ていたのは子ども達だけ。

それで大人達はそれに聞く耳を持たず、この事件は犯人不明なテロ事件として処理した。



確か概要としてはこんな感じだったはず。でも……まさかそんなに前からデジモンがこっちの世界に来てたなんて。

だってアレ、私となのはが初めて会ったり闇の書事件が起こった年の事件のはずだもの。

本当にデジタルワールドは私達の世界と近いところにあるんだね。それこそ表裏一体と言わんばかりのレベルで。





「でも、なぜですか?」



伊織君が私を見上げながら、真っ直ぐに疑問の視線をぶつけてくる。

……その瞳の中に、海里君と似た輝きを見つけた。



「神の側近になれるくらいに強大な力のあるデジモンなら、一気に介入してカイザーを止める事も出来るはずです。それなのに」

「それなんだけど……神様だからこそ、不用意な介入を避けたいみたい」

「どういう事でしょうか」

「そうだな。そういう強い力がある人がいちいち出ていっちゃうと、みんなその人を頼るようになっちゃうって事かも。
何かあっても『神様が助けてくれる』って期待しちゃって、自分の手で何かをなんとかしようとする心をなくしちゃう」



うまく言えている自信はないけど、伊織君には伝わったらしい。

疑問の色が消えて、どこか納得したような表情になった。



「……それは、堕落ですよね」

「そうとも言えるかも知れないね。しかも規模は個人ではなく、種全体」

「だからこそ、手を伸ばせず突き放す事も必要……なんだか、難しいですね」



ヒカリちゃんが神妙な顔でそう呟くと、他のみんなも同じくという顔をする。きっと、私も同じ表情をしている。



「あと、単純にそういう理念を抜きにしたとしても介入が出来ないというのもあるみたい。
カイザーがダークタワーを建てる度に、デジタルワールドのバランスが崩れつつあるって言ってた」

「オファニモン様とその同志であるお二人も、バランスを保つので精一杯だそうだ。
とは言え、そのままでは崩れつつバランスに流されてキメラモンが暗黒進化する可能性もある」

「それで恭文くんにキメラモンを預けて、カイザーの事も対処……でもやっぱり疑問だなぁ。あ、キメラモンの事じゃないんです。
今までの話しぶりだと、その恭文くんの先生は大人ですよね? どうしてデジタルワールドに来れたんだろう」



全員が首を傾げるのは、無理もない事。現に私達はかなり驚いた。

ううん、私と違って疑問をもう持ってないのがただ一人居る。



「まぁ先生だからね」



それは横からそう言って来たヤスフミ。みんなへの説明は一段落したらしい。



「……しゅごキャラかぁ。デジモンである私が言うのもアレだけど、不思議なものね」

「そうだみゃあ。シオン、ショウタロスとエルもよろしくみゃあ」

「よろしくなんですっ!!」

「あぁ、よろしく……って、ショウタロスって言うなよっ! オレはショウタロウだからなっ!?」



ヤスフミ、なんの説明してるのっ!? そこじゃないよねっ! というか、みんなもしゅごキャラ見えてるんだっ!!

それでヤスフミは苦笑し気味にタケル君の方を見た。二人の間は……うん、特に変な空気はない。



「先生は常識関係一切無視で色々すっとばすから。仮に今宇宙遊泳してるって言われても驚かないよ」

「そ、そうなんだ。でも僕達的にはかなりびっくりなんだけど。ほら、常識とかあるじゃない?」

「何言ってるのよ。デジモンとか居る時点で常識に縛られる意味はないって」



言いながらヤスフミは近くに居たチビモンを抱えて、タケル君に見せる。



「これからはともかく、少なくとも今は一般的な常識からは外れてるわけだし」

「あ、それは確かに。これは一本取られたかも。あと恭文くん、その……さっき」

「別にいいよ」

「え?」

「僕もちょっと短気過ぎたし、おあいこって事でいいでしょ。むしろそうしてくれるなら嬉しい。
それに、何か暗黒の力とやら絡みでキレちゃう要因でもあるんじゃないの?」



どうやらその通りらしい。タケル君の表情が一気に固まったから。でも、それはタケル君だけじゃない。

どういうわけかヒカリちゃんも固まって、そのままの表情でタケル君の事をジッと見ていた。



「だから別にいいよ。うん、別にいい。そういうの込みでもちゃんと謝ろうとしてくれただけで……僕は充分」

「……ズルいなぁ。そういうの分かった上で謝らせてくれないなんて」

「あら、僕はズルいのよ? 知らなかったっけ」



初対面だから無理もないとはツッコまない。うん、きっとそう言いながら苦笑し合う二人には無粋なんだよ。

それは他のみんなも同意見らしく、ただそんな二人を温かく見守っていた。



「でも恭文くん、具体的にはどうしようとしてたの? ほら、キメラモンを助けるのはいいけど方法とか」

「うーん、実は紋章を探してたんだよ」

「紋章を?」

「うん、僕とキメラモン用の紋章。キメラモンの進化の別の可能性を探すためには、絶対に必要だって教えてくれたの。
僕もそうだしフェイト用の紋章もあるから、カイザーの事はともかくそれを探す事を念頭に置いて欲しいーって言われてさ」



どうやらタケル君とヒカリちゃんは紋章の効力については知っているらしい。

だからヤスフミの言葉に納得したように頷いた。でも他の二人は今ひとつらしくて首を傾げている。



「あ、それおれと大輔と会った時にも言ってたよなー。でもでも、全然見つからなくてカイザーぶっ潰すーって」

「うん。だってアイツがめちゃくちゃするせいで洗脳デジモンに襲われるわ、偶然捕まったデジモン達見つけるわで全然捜索が

「あぁもう、泣くなよー」



チビモンがヤスフミの頭に右手を乗せて、よしよしとする。というか、他のデジモン達も肩を叩いたりして慰めてる。

その様子を苦笑しながら見ていると、他のみんなが私の方に視線を向ける。



「タケルさん、紋章と言うとデジメンタルに刻まれているアレですよね?」

「そうだよ。ただ紋章自体は僕やヒカリちゃん、太一さん達が持っていたもの以外にも存在していると思う。
アレは選ばれし子ども達の心の特質……簡単に言えばその人の一番良いところを形にしたものだから。だから」

「だからヤスフミや私が選ばれし子どもになった時点で、世界のどこかに現れている」

「だと思います。僕達の時もそうでしたから」



でもタケル君はそこで更に困った顔をしてしまう。



「だけど今はデジタルワールド全体が荒れてるからなぁ。あ、紋章を入れるタグは」

「うん、それは私達二人とも持ってる」



タグが紋章のありかを見つけるためのレーダーみたいになっているのも聞いている。

だからここでその話になったのもすぐ納得出来た。



「タグがあっても紋章見つけるのって大変だからなぁ。それこそデジタルワールド中を旅する勢いじゃないと」

「じゃああたし達でカイザーをなんとかしないと、その紋章って探すのは更に難しいのかな」

「難しいと思います。カイザーの支配エリアの中にそれがあったら、余計にですよ」

「そうなんだよね。やっぱり、そこは考えないとダメかぁ」



一応あっちこっち探してはみたんだけど、デジタルワールドは何気に広いから大変。

テントモンやアグモン達にも手伝ってもらってはいるけど、ここは時間かかるかも。



「だから泣くなよ恭文ー。そんなんじゃ大輔みたい……あ」

「……あ、それで一つ忘れてた。てーかすっかり忘れてた」

「ヤスフミ、どうしたの?」

「いや、みんなと合流する前に大輔が大変だったでしょ?」



私もそこを完全に忘れていた。だから隅っこで落ち込んでいる大輔君を見る。

大輔君はヘコみ気味に膝を抱えていて、私も気になってたのに。



「まぁ大輔があの調子だから聞いても無駄だろうし……チビモン」

「うん」

「一つ質問。一乗寺って誰よ。チビモンは知ってるんだよね?」

「あー、そう言えばさっきも大輔そう叫んで……アレ、一乗寺?」



ヤスフミの両手の中のチビモンは首を傾げて、少し考え込む。それで全員の視線がチビモンに集まった。



「そうだそうだ、思い出したっ! てゆうかなんでおれ忘れてたんだろっ!!」

「大丈夫、僕も大輔の存在そのものから忘れてたから」

「あ、それもそっか……って、おいっ!!」



それでチビモンの右手でのノリツッコミを受け入れて、二人は大笑い。

その様子を見て私は……というか、京ちゃん達も嫌なものを感じたのか、頬を引きつらせる。



「大輔ー!? アンタ早く復活しないとチビモン取られちゃうわよっ! なんかすごい仲良くなってきてるしっ!!」

「大輔くん、これは急いだ方がいいっ! 僕なんでさっきテスタロッサさんが謝ったのかようやく分かったよっ!!」

「ヤスフミ、さすがに自重しよっ! ほら、ミキちゃんとかで大変だしっ!!」





(第6話へ続く)




















あとがき



恭文(A's・Remix)「さてさて、最近ライフライナーという言葉を知って」



(どがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!)



恭文(A's・Remix)「――すげーなーと思った八神恭文です」

フェイト(A's・Remix)「ヤスフミ、それダメっ! なんかもう色々ダメだからっ!!
……えっと、フェイト・テスタロッサです。それでは今回のお話は」

恭文(A's・Remix)「以前のパイロット版でもやったとこだね。まぁ大半かぶってるから次の話も同時アップだけど」

フェイト(A's・Remix)「でもあとがき書いてないんだね」

恭文(A's・Remix)「うん」



(あとがきは基本アップ直前に書くしなぁー)



恭文(A's・Remix)「さてさて、作者は最近同人誌を出すようになったけど校正が今ひとつヘタです」

フェイト(A's・Remix)「……うん、知ってる」

恭文(A's・Remix)「なので、『下読みさん』というアプリケーションを導入しました」



(やふった結果です)



フェイト(A's・Remix)「下読みさん? ヤスフミ、これなにかな」

恭文(A's・Remix)「簡単に言えば校正の手助けソフト? それもフリーで無料。
世間にもそういうソフト出てるらしいけど、下読みさんは小説の校正に特化してるの」



(例えば『僕・私・俺』などの一人称や形容詞などの文面内容を加味した上で、機械的に小説全体を判断するのです。
あと全体的な表現やどの極が多く使われているかも数として算出出来ます。それと一般的な小説表現から作品評価もしてくれたり)



フェイト(A's・Remix)「へぇ……結構便利ソフトなんだね」

恭文(A's・Remix)「うん。ワードパットとにらめっこだと限界があるしさ。こういうソフトをこれからバシバシ導入してくとか」



(有料なものも視野に入れて、出来るだけ活用した方がいいかなーと。てーかそうしないと限界だって気づいた)



恭文(A's・Remix)「というわけで、良い校正ソフトがあったら教えてもらえるとありがたいです」



(よろしくお願いします)



フェイト(A's・Remix)「え、そういう話っ!?」

恭文(A's・Remix)「うん、そういう話。まぁそんな事は置いておくとして……今回のお話だとオファニモンだね」

フェイト(A's・Remix)「ここはデジモン02には出てない要素だよね。この話オリジナル。あとは読者さんからのアイディアも加味」

恭文(A's・Remix)「やっぱりとまとは読者に支えられてるよねー。作者一人じゃここまで発展出来なかったって」



(全てはみなさまのおかげです)



恭文(A's・Remix)「まぁオファニモンに関してはあんま気にしなくていいけどね。中間管理職で手出し出来ないし」

フェイト(A's・Remix)「あ、そう言えばそういう話だったよね」



(これもインフレ防止のためです)



フェイト(A's・Remix)「え、そこっ!? それはまた違うんじゃないかなっ!!」

恭文(A's・Remix)「しょうがないよ。作者はちょっと油断したらすぐに地球が割れるようになると思ってるから。
それで殴られただけでキロ単位で吹き飛んで山が砕けるんだけど、ほとんど無傷なのよ。つまりはドラゴンボールなのよ」



(でもねぇ、小説であのパワーバランス表現は無理だって。ただ『殴り合っていく』とかYum cha視点の表現しか出来ないって)



恭文(A's・Remix)「あとA's・Remixの場合、一応StS編までやる予定だから気をつけないとあっという間にそうなっちゃうもの」

フェイト(A's・Remix)「あ、そっか。続編的に積み重ねる形になってくから、過剰になるとダメなんだね」

恭文(A's・Remix)「そうそう。少なくともジャンプレベルではダメだし。……というわけで、そこの辺りの話も加わる次回ですけど」

フェイト(A's・Remix)「テレビのデジモン02の前半の山場のお話だよね」

恭文(A's・Remix)「うん。そこの辺りにもぜひ期待で。それでは本日のお相手は八神恭文と」

フェイト(A's・Remix)「フェイト・テスタロッサでした。それではまたー」





(……花澤香菜さんとトシくんって、いいですよねぇ。例え台本有りきだったとしても僕は好きだ。
本日のED:上木彩矢 w TAKUYA『W-B-X ~W-Boiled Extreme』)










大輔「いやー、ついにオレ達も本格的にとまとデビューだなー」

ブイモン「だよなー。これからおれ、めちゃくちゃ活躍するぞー」

タケル「でも大輔くん、ブイモン、僕達が活躍する余裕ないんじゃ」

大輔「は、なんでだ?」

タケル「ほら、キメラモンが居るから。表に出にくい部分はあっても、前々回みたいに頑張る時もあるし」

大輔「……あぁっ! そ、そうだよなっ!! それじゃあオレ達別にいらなくないかっ!? だってキメラモン完全体だしよっ!!」

恭文(A's・Remix)「それはそうもならないかも知れないんだよねぇ」

大輔「え?」

恭文(A's・Remix)「詳しくは次回を見てください。そうしたら作者がどんだけパワーバランスインフレするのかが怖いのかが分かります」





(おしまい)





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あきゅろす。
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