小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説) 第125話 『Unlock your mind that future/戦いの後には、やっぱりアイスのように甘く優しい日常を』 ドキたま/じゃんぷ、前回の三つ出来事っ!! 一つ、恭文が欠けていた記憶を取り戻した事で、最後にして最初のしゅごキャラ・ショウタロウが生まれたっ!! 二つ、ガーディアンとイースターが追い求めた『エンブリオ』の正体は、ひかるのこころのたまごだったっ!! 三つ、長かった戦いが終わり、一緒に世界を守った仲間達はそれぞれの場所と日常へ帰って行ったっ!! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ラン・ミキ・スゥ『しゅごしゅごー!!』 ラン「ドキッとスタートドキたまタイムー♪ さて、本日のお話はー!?」 ミキ「激闘を終えて一息ついたみんな。だけど、やっぱりあれこれ考える事もあったりして」 スゥ「これから先の事、今の事、これまでの事・・・・・・たくさんたくさん考えつつ、平和な日常を満喫しますぅ」 (立ち上がる画面に映るのは、お目覚めなあの子や崩れ落ちているあんな人。そして・・・・・・光り輝くロックとキー) ラン「新しいスタートの前ののんびりとした平和な時間・・・・・・うん、ホント平和だよねー」 ミキ「でも、そんな中色んな秘密が明らかになったり」 ラン・スゥ「「えぇっ!?」」 ミキ「・・・・・・するかも知れないエピローグ、みんな楽しんでいってね。それじゃあ今日も」 ラン・ミキ・スゥ『じゃんぷっ!!』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 今日は休日・・・・・・という事で、リインちゃんとディードさんに頼んでまたまたミッドの方に来ちゃいましたー。 実はりまたんも一緒なんだー。みんなで今日来た場所は聖王教会。やや達はまずカリムさん達にご挨拶。 事前連絡はしてたからすんなり前に来たカリムさんの執務室に通してもらって、カリムさんとシャッハさんに対面。 それでやや達はいきなり、カリムさんとシャッハさんに頭を下げられた。 「ややさん、りまさん・・・・・・通信でもお話したけど、今回は本当にありがとう。 あなた達の勇気と輝きによって、この世界全ての人達が救われました」 「特に最終決戦は本当に辛い戦いの連続だったと聞いています。余り助力出来なくて申し訳ないとも」 「あぁもう、そういうの無し無しー! 前も言ったけどやや達別に世界のためになんて頑張ってないしー!!」 「そうよ。元々やってたケンカにたまたま難しい事情が絡んだだけだもの。別にお礼を言われる筋合いはないわ」 やや達が笑いながらそう言うと、どうしてかカリムさん達は苦笑気味。 うーん、どうしてだろう。リインちゃんやディードさんはニコニコ顔なのに。 「それで騎士カリム、イクスの容態は」 「・・・・・・実はその件で少しお話があったの。あ、もちろん悪いお話ではないの。あのね」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ・・・・・・また、こんな風に空を見れるとは思わなかった。次に見るのは1000年後だと思ってたのに。 でも世界の風景はさほど変わってもいないし、時間もさほど・・・・・・でも4ヶ月も寝ていたのはお寝坊です。 ベッドの近くの窓から見える青い空を見ながらやっぱり嬉しくてニコニコしてると、突然部屋のドアが開いた。 あんまりに勢い良く開いたのでビックリしながらそちらを見ると、荒く息を吐きながらあの可愛らしい子達が私を見ていた。 「イクスちゃんっ!!」 「イクスたん、あの・・・・・・ぺぺ達の事分かるでちかっ!!」 いきなりと言えばいきなりだけど、やっぱりビックリはするだろうと納得。だから安心させるように二人に笑いかけた。 「はい。やや、ぺぺ・・・・・・私、どうも1000年も寝てられなくなったみたいです」 「・・・・・・イクスちゃんっ!!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ おー、ややちゃん泣きながらイクスに抱きついてるですねぇ。というか、イクスちょっと困ってるですよ。 でも・・・・・・驚いたです。こっちはこっちで忙しかったから、あれからまたイクスが目覚めてたなんて知らなかったですよ。 「・・・・・・あの異変のすぐ後、バイタルに変化があったんです。それで全員涙を拭きながら慌ててたら」 「陛下の目が覚めたと」 「そうなの。それでまた慌てて緊急検査したんだけど、イクスはまたすぐに眠ってしまって。 そうしたらその1週間後に目が覚めて、今度は一日起きていられて」 「今日までその繰り返しですね。ただぬか喜びさせてもアレだと思い、確定情報が出せるまではみなさんには黙っていた方がいいと」 あぁ、だからですか。確かにあのややちゃんとぺぺの喜びようを見たら・・・・・・ぬか喜びはマズいですよ。 あとはあむさんとスバルもですか? スバルもちょくちょくお見舞いに来てるそうですし、ダメなのですよ。 「それで暫定ですが陛下が目覚めた理由、分かりました。・・・・・・というか、推測ですね。 あの時、その巨大×キャラの泣き声によって陛下の身体に多大な負荷がかかっていた」 「そのためにあの子の体調に何かしらの変化が出た・・・・・・という事くらいしか分からなかったわ。 とにかく今後の経過を見る必要はあるけど、ずっと眠ったままというのはないかも」 「じゃあ今くらいの周期で目を覚ますですか」 大体1週間に一回・・・・・・あぁ、でもダメですね。まだデータも少ないですし、またずーっと眠っちゃうかも分からないです。 だから騎士カリムもシスター・シャッハも苦い顔してるですよ。ただ、その中に確実な嬉しさもあるです。 「そこは今後の経過次第ね。だけど過去の文献も調べて、出来る限り今の状態を維持出来るようにはしていくつもり」 「もしかしたら日奈森さんのリメイクハニーが本当は効いていたと言う可能性もありますし、私達は希望は捨てていませんよ?」 「なら安心なのです。騎士カリム、シスター・シャッハ、今後ともイクスをよろしくなのです」 「よろしくお願いします。きっと・・・・・・きっとややもあむさん達も同じですから」 それでリイン達ははしゃぎまくりで笑いつつ泣いているややちゃん達を見るです。 イクスはそんなややちゃん達を見て嬉しそうに笑ってるです。・・・・・・ややちゃん、ぺぺ、良かったですね。 きっと二人があの時たくさんたくさん頑張ったから、神様がご褒美をくれたですよ。 1000年後じゃなくて、今のややちゃんやみんなで守った空をイクスと一緒に見れるようにって・・・・・・空気を読んだのです。 All kids have an egg in my soul Heart Egg・・・・・・The invisible I want my 『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説 とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/じゃんぷっ!!! 第125話 『Unlock your mind that future/戦いの後には、やっぱりアイスのように甘く優しい日常を』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「・・・・・・今まですまなかった」 そう言いながら広い家のリビングで星名は向かい側に座る猫男と歌唄、お母さんに僕の四人に頭を下げる。 「特に幾斗、それに蒼凪恭文・・・・・・君達にはいくら詫びても足りないくらいだ。 まさか私の進めていた計画が、世界そのものを滅ぼす事に繋がりかねなかったなんて」 そこまで言って、星名はこの間から比べると思いっきり老けこんだように背を丸めつつ首を横に振る。 「いや、私のこれまでの行動全てだな。・・・・・・償おうにも償い切れないが、私はイースターを退くつもりだ。 もちろん星名の家からも出る。だがそこに関しては幾斗、それに奏子さんや歌唄とも改めて相談をさせて欲しい」 「専務さん、それは跡継ぎ問題の事か?」 「そうだ。このまま月詠家・・・・・・幾斗にイースターの全てを渡したいと思う。 経営関係のアドバイザーも、信用出来る人間を就かせる事も出来る」 「あー、いらないわ。俺そういうの興味ねぇし」 ・・・・・・ですよねー。おのれ御曹司だけどそういうのに縛られないタイプだろうし。 だから歌唄と亜麻色の長い髪を二つに分けた優しそうなお母さんもうんうんって頷くわけよ。 「てゆうか、今更そんなの返されても困るわよ。私もイクトもそういうの無くても生きていけるし。 とりあえず・・・・・・あぁ、それならいい方法があるわ。恭文、アンタイースターを継ぎなさい」 「あ、そりゃいいな。お前歌唄ともう付き合ってんだろ? だったらやれ」 「お前らちょっと待て。まぁまぁシリアス空気読んでツッコむのやめとこうかなと思ったのよ。 でもやっぱ我慢出来ないから言わせてもらうわ。・・・・・・なんで僕この会議に参加してるのっ!?」 僕、蒼凪恭文。なんでか月詠家の重要な家族会議の場に出席しています。だからちょっと涙目だったりします。 「お兄様、そこは空気を読まなくて良いかと」 「そうだぞ。お前もっと思いっきり言ってやれって。もう明らかに状況おかしいじゃねぇかよ」 「まぁしょうがない。家に呼ばれて歌唄との事の挨拶のために覚悟を決めたらいきなりコレだしな」 「私としてはイースターの社員の事が守れれば問題はないと思うが・・・・・・彼は大丈夫なのか?」 「それでおのれも疑問持てよっ! てーか僕がイースター継ぐ方向で話進めるなー!!」 ちくしょー! なんで歌唄が僕呼んだのか意味分かんないしっ!! 僕の覚悟とフェイトの後押しを返せー!! とりあえず息を整える。素知らぬ顔してるバカ兄妹とかお母さんとかは無視して星名の方を見た。 「・・・・・・星名、跡継ぎの事がちゃんと決まるまで専務やってた方がいいんじゃないの? 関係者が揃ってやる気ない上にアテもないんじゃ返そうにも返せないでしょ」 「しかし」 「だからってヘタな奴に引き継がせたら、今言ったみたいに社員が守れないかも知れないでしょうが」 今更ですが説明。イースターは今まで御前だったひかると星名のワンマン経営だった。 そのために星名の家の人間が文句を言えない状況も作り上げた。政略結婚もその一つになる。 だからこそ今更星名がイースター辞めるとか言い出されても、それはそれで困るの。 困るのは・・・・・・僕達じゃなくて社員達。イースターは世界的企業だからマジでそれだけの人間が困る。 もしこれでヘタなのに継がせたり、専務が辞める事で理由はどうあれまとまってた内部の統率が崩れたらどうなる? ヘタをすればそのままイースターは評判を落としてぶっ潰れる可能性だってある。それはアウトだよ。 この企業に夢を持って入って来た人達だって居る。頑張って働いて家庭を支えている人達だって居る。 星名もそこが分かっているから、月詠親子とそこの辺りを相談したいってさっき言ったんだよ。 ここで星名が辞めてその人達に迷惑がかぶるなら・・・・・・僕はこのまま星名はイースターで働くべきだと思う。 それはないとは言う事なかれ。だからって自己満足でイースターを突き返されても誰も得をしない。 それこそ星名の自己満足だよ。やるなら、上の事になんて関係の無い人間の夢や希望も全部守らないと。 ・・・・・・上を信じていた下が裏切られまくるのが辛いのは、ここ2〜3年のフェイトを見てて痛感したしさ。 事情はどうあれ、今のイースターのトップはひかるであり星名だ。だったら、それを守る選択をした上で月詠家に返す道を選ぶべきだよ。 「跡継ぎは時間をかけて直接の血縁者である奏子さんもそうだし本人とも相談の上で決めて・・・・・・とか?」 僕は試しに奏子さんの方を見ると、奏子さんは穏やかな笑顔を浮かべつつ頷いた。 それを見て星名は・・・・・・覚悟を決めたように頷き返した。 「分かった。後を引き継げる人間が見つかるまでは・・・・・・私がイースターを守る。 だが今までとはやり方も変えていく。もう今までのようなやり方は絶対にしない」 その表情のまま星名は俯く。だけど次の瞬間には何かを振り払うように、また奏子さんを見た。 「どこまで出来るかは分からないが・・・・・・その上で、元のイースターの形にした上で奏子さん達にお返したい」 僕は星名の目を見るけど、嘘はないみたい。そこは猫男や歌唄も伝わったらしく、何も言わなかった。 「でも星名、それよりも気になるのはひかるの事だよ。あの子どうするのさ」 「イースターの会長職は退くつもりだ。本人もその気で居る。 それで今まで出来なかった分、普通に暮らしていきたい。学校に通って、友達を作って」 星名はまた僕達を弱気な瞳で見る。というか、月詠親子をだね。 「・・・・・・それを、許してくれるだろうか」 「許す許さないもないわよ。勝手にすればいいじゃない。でも、自分達のやった事を忘れたら許さない」 歌唄は吐き捨てるようにそう言って、厳しい視線を星名に送る。それで星名は、表情を曇らせながら俯く。 「アンタ達が幸せになる事を否定する権利は私達にはないわ。でも、忘れる事は許さない。 もちろん私もイクトも、これまでしてきた事を忘れない。その痛みに耐えて、怯えて」 そこまで言い切ってから歌唄は呼吸を入れ替えて、おもいっきり笑う。 「それでも私達は、笑って幸せになるの。間違えた事をなかった事にせずに、思いっきりね。 だから専務、アンタもそんな弱気な顔してないで逃げずに思いっきり幸せになりなさい」 「え?」 「私の知っている奴ならそれを罪の償い・・・・・・数え方と言い切るわ。そういうのが一番キツいの知ってるくせにね」 歌唄は僕を横目で見て、クスリと笑う。それからまた星名を見る。 「どんなに矛盾していてもそれに手を伸ばして、その痛みに苦しんで悶えて、それでも忘れずに笑える自分になりなさい。 そうじゃなきゃ私もイクトも、みんなも許さない。てゆうか、これでアンタが不幸になっても気分悪いじゃない。いいわね?」 「歌唄・・・・・・すまない。私は、私は・・・・・・!!」 それでまた星名は泣き出す。・・・・・・本当に憑き物が落ちたかのような状態で、少々面食らってるかも。 というか、歌唄があんだけやられてそこまで言えるのも・・・・・・何気に恐ろしい。僕、凄い子を彼女にしちゃったのかも。 「あぁ、それともう一つ」 星名は涙を右手で拭きながら、また顔を上げた。 「専務さん、まだあるのかよ」 「あるんだ。先ほど星名の家を出ると言ったが」 泣きながら星名がスーツの内ポケットから出してきたのは、一枚の折りたたんである書類。 綺麗にまとめてあったそれを開いて、僕達の向きに正した上で星名はテーブルの上に置いた。 「ただ住居的な事だけでは意味が無い。奏子さん、これに判を押してくれ。私はもう押してある。 イースターの事はそれとして、ここは時間をかけるわけにはいかないだろう。・・・・・・頼む」 それは・・・・・・離婚届だった。星名の字は、これまでの行いが嘘のように綺麗な字だった。 「・・・・・・母さん」 ”ねぇアルト、僕改めて思うんだけどどうしてここに居るの? ねぇ、本気でワケ分からないの” ”奇遇ですね、どうして歌唄さんがあなたをここに呼んだのかもさっぱりですよ。なんですかコレ” ”てゆうかすっごい居辛いっ! ねぇ、最終決戦の時より辛く感じるのってどうしてっ!?” 内心頭を抱えている間に、歌唄と猫男は奏子さんを見る。というか、星名も見る。それで奏子さんは、吹き出すように笑った。 「ぷ、くくく・・・・・・! あーもうだめっ!! 今まで笑っちゃダメ笑っちゃダメって思ってたけどもうダメっ!!」 「そ、奏子さん? あの」 「あー、ごめんね。・・・・・・一之宮さん、それはいらないから破いちゃってください」 『はぁっ!?』 なんか笑いながらとんでもない事言い出したっ! てーか星名が凄い面食らった顔してるしっ!! 「いやぁ、いつバレるかと思ってたんだけど意外とバレないものなのねぇ」 「母さん、ちょっと待て。いったいなんの話をしてるんだ」 「そうよ。というかいきなりキャラ変わり過ぎじゃないのよ。さっきまでの不幸な人妻の空気はどうしたのかしら」 「そう言えばイクトさんと歌唄さんには言ってなかったわね。ごめんなさいね、バレるとマズいから今までずっと黙ってて」 そう言いながらも奏子さんはいたずらっぽく笑って、軽くウィンクする。 「私と一之宮さん、結婚なんてしてないのよ。当然籍なんて入れてないから今この瞬間も赤の他人」 『・・・・・・えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!? ア、アリサそれどういう事かなっ!! 星名専務と月詠奏子さんが結婚してないって・・・・・・私知らなかったんだけどっ!!」 『あー、ごめんね。その話しようと思ってたとこにサリエルさん達そっちに飛び込んできたしさ。 言うタイミング逃してたのよ。アタシも今さっきまですっかり忘れちゃってた』 アリサに改めて色々手伝ってくれたお礼をするために通信をかけたら、とんでもない爆弾が投げられた。 というか、ヤスフミが月詠の家に挨拶に行った話をしたら思い出すように言われたの。もう本当にビックリ。 『多分コレ、婚姻届も含めて結婚に必要な書類を出してなかったのよ。星名専務の性格を考えると自分で出すとは思えないしね。 どこかのタイミングでその担当を買収でもして書類ごと奪ったんでしょ。それで首謀者はもう考えるまでもなく、月詠奏子よ』 「どうやってっ!? だって数年単位の事で・・・・・・絶対バレるよっ!!」 『アタシもそう思ったんだけど・・・・・・改めて考えるとそうでもないのよ。 ほら、夫婦だって言うのにいちいち戸籍謄本とか見せたりする人居ないじゃない?』 ・・・・・・そう言えばっ! そうだよそうだよ、基本戸籍なんて普段から持ち歩くものじゃないしごまかしようはあるよねっ!! でもイースターの外・・・・・・結婚式とか挙げて公式に『結婚しました』ってアピールすればもしかして問題ないっ!? 『それに話を聞く限り星名専務は釣った魚に餌をやるタイプでもないし、ひかる君の事もあった。 月詠の家自体には圧力かけるだけかけてノータッチだったはず。それなら出来なくはない』 「あ、そっか。欲しかったのは星名の家の人間になったという事実だものね。でもそれなら、歌唄や幾斗君のお母さん」 『相当な強者かも知れないわね。フェイト、アンタも見習った方がいいかもよ?』 「う、うん。そうするよ。というか凄い見習ってく」 どうしてこんな事したのかーなんて質問は無意味だよね? きっと月詠或斗さんと夫婦で居るためだ。 ならあの人・・・・・・本当に夫を愛しているんだ。そうじゃなくちゃこんな事出来ないよ。 休日の朝に私はなんというか、強烈に強者であるらしい奥さんの先輩にただただ感心していた。 それで自分の未熟さを痛感して、右手でお腹を撫でながらもっともっと強くなろうと決意を新たにした。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 現在、休日も終わりに近づいた夕方の辺里家は・・・・・・うん、すっごい修羅場です。その原因はイクト兄さん。 イクト兄さんはあれから蒼凪君とランスターさん、その他関係者に本当にボコられた。それも星名専務を上回る勢いで。 その結果見るも無残な程にズタボロになって、しばらく療養・・・・・・誰もおかしいって思わないってどうなんだろ。 というか、歌唄ちゃんも同じようにイクト兄さんの事蹴ってたし。あの時の歌唄ちゃんの目はとても怖かった。 あのね、蒼凪君もさすがにアレと思って傷を治療しようとしたの。というかリースさんもだね。 でもイクト兄さんがそれを断ったんだ。『お前ら、傷が治ったらまた俺をボコるだろっ!!』って言ってね。 そうしたら全員揃って・・・・・・いや、あの時のみんなの顔は思い出したくない。 とにかくイクト兄さんはしっかり療養して今はもう元気。学校にも通っている。 それでメールアドレスを教えてもらって僕とあむちゃんはちょくちょく連絡取ってる。 でも今日は休日だから白のYシャツとジーンズ姿で父さんと母さん、それに僕を前にして・・・・・・うちの和室の一つで正座中。 「・・・・・・イクト兄さん、それあむちゃんには」 「まだ話してない。てーかさすがに準備に時間がかかるからな。 母さんとも相談しなきゃいけないし、まだ本決まりじゃないんだよ」 「でも決まったら、ちゃんと話しますよね?」 そこだけが不安でつい視線を厳しくする。だってほら、この間アレだったしさ。でもイクト兄さんはすぐ頷いた。 「あぁ。じゃないと・・・・・・怖い鬼達がまた俺をボコりに来そうで」 「・・・・・・唯世、この様子なら心配なさそうだな」 「そ、そうだね」 イクト兄さん、あんなに怯えて・・・・・・さすがにあれは怖かったんだ。うん、分かるよ。僕も同じだから。 「それで、今更そんな話をしてどうしようというのかしら。とっとと消えてもらえる? あなたはうちに不幸を呼び込む不吉な黒猫。いらない存在」 「瑞江」 上座に座っているお父様が鋭くそう言うと、不満そうだったお母様が黙った。その様子を見てお父様は大きく息を吐く。 「それでイクト君、その話は分かったんだが・・・・・・それをなぜ私達に?」 「はい」 イクト兄さんは懐からあるものを取り出した。それはあの後、あむちゃんから返されたダンプティ・キーだった。 「このキーの事で」 「それは・・・・・・! どうしてまた持ってきたのっ!!」 お母様は声を張り上げて膝立ちになりつつ、忌々しげにイクト兄さんとキーを指差す。 「あの日あなたに叩き返したはずよっ! これ以上不幸を呼び込まれたらたまらないってっ!!」 「・・・・・・お母様、ちょっと待ってください」 マズい、ちょっと怒ってる。だって今のお母様の言葉、信じられない。 だから硬い声が出てしまって、お母様は少し固まりながら僕の事を見ていた。 「あの鍵は僕が小さい頃にお父様から預かって、大事にしていたものです。 それで大事に仕舞ってもいた。それを・・・・・・どうしてお母様が勝手に突き返したんですか」 「唯世さん、それは・・・・・・落ち着きなさい。これはしょうがない事なのよ」 「しょうがなくなんてないっ!!」 あまりの言い草に声を張り上げていた。お母様は怯えたように身体を震わせ僕に視線を送る。 でも僕は、お母様に厳しい視線を送り続ける。 「そのせいで僕はイクト兄さんに・・・・・・イクト兄さんに本当にヒドい事を」 「唯世、いいんだ。そういうの抜きでキーを返してもらいに来たのは確かだしな」 「けど・・・・・・え、ちょっと待ってください。『返して』?」 「なんだ、知らなかったのか。・・・・・・このキー、元々は父さんのものなんだよ。 正確には学生時代にお前の親父さんが外国の店で買ったアンティークだ」 アンティーク・・・・・・ちょっと待ってっ! 今さり気なくとんでもないネタバレがされたようなっ!! それで慌てながらお父様を見ると、お父様は苦々しく頷いた。 「その通りだ。というよりイクト君、その話をどこで」 「母さんからです。ちょろっとは聞いてたんですけど、改めて気になったんでついさっきまた詳しく」 「そうか。なら君はそのキーがなにかも」 「はい。あなたと父の友情の証だというのも知っています。 けど、父を探すためにはどうしてもこれが必要なんです」 イクト兄さんは正座をしながら、ゆっくりと頭を下げた。 「お願いします。もう少しだけ貸してください」 僕はお父様の方を見る。というか、お母様も同じく。お父様はイクト兄さんをただ見つめて・・・・・・大きく息を吐いた。 「そうか。或斗のように君も一人で出ていくのか。奏子は・・・・・・君の母さんはどうなる」 「そこもさっき言った通りこれから協議です。でも母は今も父・・・・・・月詠或斗と固い絆で結ばれています」 「どうして分かる。彼女はイースターの星名専務と」 「結婚なんてしていませんでした」 あんまりな発言に僕達全員の表情が固まる。でもイクト兄さんはそれに構わずに苦笑した。 「母さんはそうするしかなかった時、知り合いに頼んで必要な手続きの書類を全て出される前に止めていたんです。 当然専務さんの目を盗んで内密に。だから母さんは今でも父さんと夫婦だし、専務さんと同じ籍になんて入ってなかった」 「そんな・・・・・・いや、不可能だ。それで周囲の目がごまかせるわけが」 「でも戸籍なんて役所に行っていちいち取らなきゃ分からないようなものだから、ごまかしようはいくらでもある。 なにより結婚式も挙げてたし、専務さんはその周囲に有無を言わせる人じゃなかったから疑いようもなかった」 あ、なるほど。そもそもそういう疑いを持って星名専務を敵に回す事そのものを恐れていたという事かな。 まぁあの調子を考えると・・・・・・お父様もそこが分かるらしく、イクト兄さんの言葉に唸りながらも納得はしてるみたい。 「母さん、そう言って笑ってました。てゆうか俺も歌唄も知らされてなかったんですよ。みんな一緒に騙されてた」 「イクト兄さん、それ・・・・・・本当なの?」 「あぁ。実際に戸籍の方も見せてもらった。それもつい最近のものだ。 ・・・・・・父さんは法律の関係で死亡扱いになってたが、ちゃんと籍は入ってたよ」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「いやね、私も途中でバレるかなーっと思ってたのよ。そうしたらここまでずっとでしょ? 最近じゃあ暴君気取ってるあの人の姿見るだけで笑いがこみ上げてくるようになっちゃってさぁ」 そう言いながら母さんはその元暴君が凄い勢いでヘコんで床に崩れ落ちているのに笑って手を振る。 母さんが笑う度に専務さんの背中に何かがぶすぶす突き刺さっているが、もう気にしない事にした。 「もう我慢するのも大変。お願いだから私を笑い殺さないでーって何度心の中でお願いしたか。 しかも身体要求してくるとかもないし、結婚式の時でさえ誓いのキスは寸止めなのよ?」 そこで母さんはそれもまたおかしかったのか大笑い。専務さんの背中にまた何かが突き刺さった。 「それ以外でも釣った魚に餌はやらないダメ男で更に大笑い。ほんとおかしいわよねー」 「そ、そうですかぁ。それはまた・・・・・・あぁそっか、やっぱりか」 チビもそうだが、俺も自然と歌唄の方を見た。というか、俺達は多分同じ事を考えてる。 「やっぱりこの人歌唄の母親なんだ。ちゃんと遺伝子は受け継がれてるんだ」 ほらな、やっぱりそうだった。納得しつつ引きつった笑いを浮かべる俺達を見て、歌唄が不満そうに頬を軽く膨らませる。 「アンタ、それどういう意味よ。あとイクトもなんで恭文と同じ目してるのよ」 「「いや、もうそのままの意味としか言いようが・・・・・・ハモんなバカっ!!」」 「あはははははははっ! もう義兄弟の契は立てる必要ないわねー!! 息合ってるしっ!!」 「「笑うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」 まずちょっと待てっ! 母さんこんなキャラだったかっ!? 俺が知ってる母さんはもうちょっとお淑やかだったと思うんだがっ!! 「てゆうか母さん、本当にどうやったの?」 「私も不思議なのよねぇ。でもその弁護士さん曰く『大事なところを人任せにして達成したつもりになるバカが悪い』って事らしいわ」 あぁ、また専務さんに鋭い何かが・・・・・・てーか母さん、何気に怒ってるのか? まぁそうしない理由はないが。 「恭文君、別に私あなたと歌唄さんのお付き合いの事でどうこう言うつもりはないの」 「え、いきなり僕に矛先向くんですかっ!? てーか歌唄、おのれマジでいつ話したっ!! いや、それ以前にこの状況はなにっ! お願いだから僕に何がどうしてこうなったのか説明してー!!」 チビが頭を抱えて・・・・・・まぁその、すまん。俺も母さんもただ歌唄に『蒼凪恭文と付き合ってるから』とだけしか言われてないんだよ。 それで俺に対しては『イクトはイクトで勝手に生きて。私、もうイクトに執着するのやめるから』とか・・・・・・むしろそのセリフは俺が言いたい。 「でもちゃんと歌唄さんの事は愛してあげてね? それで婚姻届は二人で出しに行く事。 あと釣った魚にはちゃんと餌はあげて、誓いのキスはちゃんとしなさい。それは釣ったあなたの責任よ」 「えぇえぇ、そうします。まぁ当分先の事ですけど」 まぁそうだよな、だってコイツ小学生・・・・・・あれ、なら母さんはなんでこんな話をコイツにするんだ。早過ぎるだろ。 「あら、そうでもないわよね。既に三人のお嫁さん候補の一人とも結婚してるわけだし。 それで歌唄ももうすぐ16だし、お父さんにもなるそうだし。いやぁ、モテモテねー」 「はいっ!?」 信じられない言葉が飛び出して、俺はチビを慌てて見る。それでチビは顔を青くしながら歌唄を見た。 「ま・・・・・・まさか、歌唄っ!!」 「紹介するためには相手の事を話しておかないとだめでしょ? だから全部話したの。 で、認めさせたわ。私は三股かけるくらいに諦めの悪い男が好きだって」 「歌唄ー! お願いだからせめて僕にそこを話してー!! もうなんか辛いからー!!」 なんか今、俺が触れちゃいけない領域の話が飛び出た気がする。まぁあれだ、心の中で涙目なチビは応援する事にした。 俺の今後が非常に身軽になった事を喜びつつ、俺は母さんの方を見る。母さんは二人を見てまた笑っていた。 「なぁ母さん」 「何? あ、幾斗さんも彼女出来たとか」 「ちげーよ。・・・・・・なんでだ? あんないい加減な男の・・・・・・父さんのためになんでそこまで出来るんだ」 「うーん、そうねぇ。やっぱり・・・・・・いい加減でもあの人の事を愛してるからかしら」 そう言いながら母さんは何かを思い出すように瞳を閉じる。それで、さっきとはまた違う優しい微笑みを浮かべる。 「音楽は時に人を救う事があるわ。或斗さんの演奏は、そんな力を持っている。 あの人は自分のその力を使うために、役目を果たすために旅立ったの」 それから瞳を開いて、俺を見て本当に楽しそうに笑った。 「だから私にとって或斗さんは今でも最愛の人だし、誇りよ。世界で一番、大切な人なの」 臆面も無く恥ずかしげもなく笑顔でそう言い切った母さんを見て、俺は感心したように苦笑しながらお手上げポーズを取る。 「はいはい、ごちそうさまってか?」 「もう、親をからかうんじゃありません。からかうなら恭文君にしなさい。 あのね、あの子を見てるといじめたい気持ちに駆られるの。反応が面白いじゃない?」 「・・・・・・母さん、やっぱ歌唄のアレな部分が母さんから遺伝したんだな。 てーかそこは遺伝して欲しくなかったとさえ思う。おかげで俺は相当苦労してたんだが」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「奏子が、そんな事を」 「えぇ。ほんとに・・・・・・周りであくせくしてた俺達がバカみたいに思えましたよ」 「イ、イクト兄さん・・・・・・それで蒼凪君は今」 「なんかアイツの月詠の家への歓迎会って事で、俺が家出る時は専務さんと一緒にお昼用のじゃがいも剥きしてたな。 なお母さんと歌唄の命令だ。・・・・・・あの二人、専務さんをしばらくこき使うつもりらしい。笑ってたが目はマジだった」 ・・・・・・星名専務、自業自得とは言え可哀想に。というか蒼凪君と一緒にってどうして? そもそもそれで手伝わせてたら歓迎会にならないんじゃ。奏子さんって、そんなキャラだったっけ。 「おじさん、母さんって元からあんなキャラだったんですか? もう勢いが凄くて俺も歌唄も面食らってんですが。 チビ・・・・・・あー、唯世の同級生なんて特にそうですよ。今んとこ家族でもないのに呼ばれて混乱してましたから」 うん、想像出来る。きっと蒼凪君は涙目で『どうしてこうなったー!?』とか言ったと思う。 それで僕もイクト兄さんと同じくお父様を見たら・・・・・・お父様はとても困った顔をされていた。 「いや、まぁ・・・・・・或斗の影響で多少はっちゃけてるところはあったが、そこまでのはなかったような」 「誰かを想う時、人は何よりも強くなれるものです。その想いの強さ故にね」 その声と共に和室のふすまが開けられた。そこから部屋の中に入って来たのは、おばあ様だった。 「おばあさん・・・・・・お久しぶりです」 「えぇ。イクトさん、お久しぶりですね。そう言えば・・・・・・まだお礼を言っていませんでしたね」 おばあ様は部屋の中にゆっくりと進みつつ、イクト兄さんに優しく笑いかけた。 「ベティの最期を安らかなものにしてくれて、本当にありがとう」 「・・・・・・見てたんですか」 「それはもうハッキリとね」 「あの、待ってください」 おばあ様は身体の調子があまり良くないし、刺激しないように声を控えめにした上で話しかける。それでおばあ様は僕の方を見た。 「おばあ様、最期を安らかなものにって・・・・・・どういう事ですか。 あの日何があったのか、おばあ様はご存知なのですか?」 「えぇ、知ってますよ。忘れるほどモウロクはしていませんからね。・・・・・・その子は、ベティの恩人ですよ」 今日はもしかしたら本当に運が良い日なのかも知れない。ずっと知りたかったあの日の事がどんどん分かっていく。 まずイクト兄さんは鍵を盗んだわけじゃなかった。あれは、僕の完全な逆恨みだった。 それで次はあの日倒れたおばあ様とベティの事。あの時奔流の中で見た風景が一瞬頭をよぎる。 それで胸が締めつけられるけど、僕は恐れずに真実に手を伸ばした。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「・・・・・・あの日、ベティが庭で倒れていてね。まぁ老犬だし、覚悟はしていた。 それで獣医を呼ぼうとしたら、庭からヴァイオリンの音色が聴こえてきたんですよ」 そう言いながら座布団の上に正座で腰を落としたおばあ様は、懐かしそうに表情を優しくしながらイクト兄さんを見ていた。 「その音色に聴き覚えがあって、それに驚いて庭に言ってみたらイクトさんが居ました。 イクトさんはベティがもう長くないのが分かったのか、ベティのためにヴァイオリンを弾いてくれていてね」 ・・・・・・あ、あの時見た光景だ。そうだ、確かにあの時の音色は本当に優しいものだった。 「言うなれば鎮魂歌。優しい陽だまりの中で、その音色の中で眠っていくベティを見てたら、自然と電話を置いていました。 あの子は病院のベッドより、ここで・・・・・・慣れ親しんだこの家で静かに眠りたいんだと、自然と伝わってきたんですよ」 正直に言うと、ベティが本当にそう考えていたかどうかは分からない。 だけど、イクト兄さんがベティを殺したわけじゃないのは分かった。だってあの時、『おやすみ、ベティ』って・・・・・・!! その言葉でようやくあの日の疑問が全部解けた。全部、僕の勘違いだった。ただのすれ違いだった。 イクト兄さんは僕が疑っていたような事を・・・・・・それが嬉しくて、自然と涙が零れてしまう。 「それくらいに、そう思ってしまう程にベティの表情は優しげで安心し切ったものだった」 「う・・・・・・嘘ですっ!!」 お母様は不満げにおばあ様の事を見て、声を荒らげた。おばあ様は静かにお母様の方に視線を移す。 「この子のヴァイオリンは不幸を呼ぶヴァイオリンなんですっ!! そのためにベティも死んで、おばあ様だって倒れてっ!!」 「バカおっしゃいなさい。アレは元々の持病が悪化しただけの事。 医者にもそう言われたでしょう。ヴァイオリンは関係ありません。全部偶然ですよ」 「嘘です嘘ですっ! 私はそう聞きましたっ!! 現にあの日そうなったじゃないですかっ!! だから」 「瑞恵さん」 鋭く、お母様の言葉を全否定するようにおばあ様が声を出す。というか、視線も厳しい。 それでお母様は身体を震わせながら・・・・・・部屋から飛び出て行った。 「イクトさん、すみませんね。本当に不愉快な思いをさせてしまって」 「いえ。俺も誤解されるような事・・・・・・しまくってますから」 「そうですね、あなたはどうも人に素直になれないようで。それは今もですか」 そう言っておばあ様は笑う。それでイクト兄さんはバツが悪そうにそっぽを向いた。というか、僕もちょっと苦笑。 「イクトさん、まだ音楽は続けていますか?」 「はい。・・・・・・いいえ、ちょっと違うか。やめる事が、出来ませんでした。捨てられなかったんです」 「そうですか。ならもっとおやりなさい。どんな理由があっても捨てられないくらいに大事なものなら、抱えていきなさい。 そんなあなたの奏でる音だからこそ、温かくて不思議な力がある。私は、そう思いますよ」 イクト兄さんはその言葉にまたおばあ様の方を見る。それで・・・・・・少し戸惑いながらも、おばあ様の目を見て頷いた。 「えぇ、そのつもりです。父さんと同じように」 その時、イクト兄さんは誇らしげでどこか嬉しそうな顔をしていた。 それを見て、ずっと腕を組みながら黙っていたお父様が立ち上がった。 「すまん、私は瑞恵のところに行ってくる。お母様」 「構いませんよ」 「ありがとうございます。あー、それとイクト君。先程の話だが私は問題ない。・・・・・・或斗によろしくな」 「・・・・・・はい」 全ての疑問が解けたのと同時に、あの日の自分がどれだけ周りに影響されまくったのかも分かって、少し恥ずかしい。 だけど僕は・・・・・・そんな恥ずかしさを反省しつつも、イクト兄さんを見る。イクト兄さんは、嬉しそうに笑っていた。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ さすがに瑞恵の態度は放置出来ないと思い、瑞恵の姿を求めて家の中を歩く。 すると瑞恵は、私達の寝室で膝を崩して座りながら泣いていた。 「・・・・・・瑞恵」 「あなたまで、私をお叱りになるんですか。私が悪いと・・・・・・責めるんですか」 「本当ならそうするところだが、それでどうにかなるとも思えんしな。今は無しだ」 現にさっきもそうだし今までもどうにもならなかった。なのでまぁ、少し表情と態度を崩す事にする。 「瑞恵、なぜ幾斗君に辛く当たる。あの日の前からお前はいつもそうだった。なぜそうなるんだ」 「なぜ・・・・・・!? それを聞くんですかっ! 私、知っているんですよっ!! あなたが今も奏子さんの事を好いているのをっ! だからあの子達を預かった事もっ!!」 「・・・・・・はい?」 あんまりに唐突というか、バカな事を言い出したのに言葉を失ってしまった。 「あのキーは奏子さんとの思い出の品なんでしょうっ!? だからあんなに大事にして、唯世さんにまで預けてっ!!」 「いや、ちょっと待て瑞恵」 「だからあんなキーはいらなかったっ! あんな子達もうちにはいらなかったっ!! それなのに・・・・・・それなのにっ!!」 「だから落ち着けっ!!」 少し強めに一喝すると、瑞恵は身体を震わせて怯えた表情で私を見る。私をそれを見て、まず自分が落ち着く事にした。 「いいか、まず幾斗君が言っていたようにあのキーは元々或斗のものだ。 それであれは、私から或斗に友情の証としてプレゼントしたものだ」 「・・・・・・え? で、でも奏子さんは」 「確かにキーを贈った場に奏子は居たが、買ったのは元々私だし受け取ったのも或斗。 奏子はただの見届け人のようなものだ。そういう意味では奏子との思い出の品でもあるな」 もちろん関わりは・・・・・・まぁ表面的には薄いが。そこは瑞恵にも分かったらしく、呆けた顔をした。 とりあえずヒステリックな状態は脱せたようなので、私は内心でホッとする。 「お父様、その話」 だがそれが続く事はなかった。驚きながら後ろを振り返ると、ふすまの間から唯世がこちらを覗き込んでいた。 「僕も聞かせてもらってもよろしいでしょうか」 「居たのか、唯世っ!!」 「はい」 それでお前は普通に入ってくるのかっ! お前、ここ最近気にはなっていたが段々と強くなってるなっ!! 「ダンプティ・キーにはどんな秘密があるんでしょうか。それと・・・・・・ハンプティ・ロック。 あのロックは、今は僕の仲間の女の子が持っています。そしてあれらは対になるもの」 「・・・・・・あぁ」 ロックが唯世の・・・・・・あぁそうか。司の奴が一枚噛んでるんだな。アイツ、どこからそんなものを手に入れたんだ。 「教えてください、お父様。僕はどうも、あのロックとキーがただのアクセサリーの類とはどうしても思えなくて」 唯世の目がやたらと真剣だったので、私は・・・・・・軽く困りながら瑞恵を見る。 瑞恵は呆けた顔をしながらも唯世と同じらしく、瞳の中に疑問の色を浮かべていた。それを見て右手で軽く頭をかく。 「いや、秘密と言える程の事はないんだ。或斗に贈ったのもさっき言ったように友情の証だしな。それにそのロックの事も知らん。 私が手に入れたのはあくまでもキーだけ。おそらくそれは司なり天河家の人間がどこからか見つけたものだろう」 「そうですか。ならアレはどこで」 「アレは・・・・・・私と或斗と奏子が留学していた最中の事だ。もう17年以上も前の事だな」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ヨーロッパの大学に通っていた頃、私達はそれぞれに将来を模索しながらも友情を深めた。 いや、或斗と奏子に限っては愛情だろうか。それも幾斗君が話してくれた程に深く強い愛情だ。 私はまぁそれにあぶれるような形だったが、それでも二人の事を温かく見守っていた。 そんな時、たまたま寄った店でアンティークの鍵を見つけた。それを喜びいさんで二人に見せる。 「まぁ綺麗。アンティーク?」 奏子はいい。笑顔でキラキラと光るクリスタルが埋め込まれた四つ葉の鍵を楽しげに見ている。ただ問題は或斗だ。 「また変な物買わされたな、唯。鍵って」 「変な物とはなんだ。良い細工だろう」 「鍵なんて錠がなきゃ意味ないだろ。なんの鍵だって言うんだ」 「ちょっと或斗っ!?」 ・・・・・・あぁ知ってた。コイツはこういう奴だった。間違いなく幾斗君のぶっきらぼうなところはコイツからの遺伝だ。 奏子が頬を膨らませて或斗を嗜めるが当然意に介さない。マイペースなところも息子に遺伝していると思われる。 「甘いな或斗。錠ならもう私達はそれぞれに持っているぞ」 「は? 唯・・・・・・お前ついに頭が。だからもうちょっと力抜いて生きろって言ってるのに」 「すまんがそれは無理だっ! 始終力抜きまくってるお前だけは見習わない事にしてるんでなっ!! ・・・・・・それはな、普通の錠を開けるための鍵じゃない。こころをアンロックするための鍵だそうだ」 「「こころをアンロック?」」 私は頷きながら、右手の人差し指を立てつつ土産物屋の店主の話をそのままする事にした。 「心というものは本当はな、世界中のみんなの心が地続きに繋がっているんだ。 けれどほんの小さな誤解やすれ違い、ケンカや争い。そんなちょっとした事で扉が閉じて鍵がかかる」 奏子もそうだし、或斗も興味があるのか茶々を入れないで話を聞いてくれる。私はそのまま続けた。 「その錠を開けば本当は、誰だって相手の心が分かる事が出来る。 嬉しい事も痛みも分かち合い、本当の意味で分かり合える・・・・・・まぁ店主の受け売りだが」 「・・・・・・本当にそうなれるなら、いいわよね」 奏子はそう言って本当に感動したように笑う。物を売るための作り話かも知れないのに、真剣に受け止めている。 「だってそれは・・・・・・まるで愛する事そのもの」 それで私と同じ事を思っていた。私も・・・・・・そう思った。だからこの鍵を買ったんだ。 そんな小さな事がとても嬉しくて、同時に恥ずかしくて・・・・・・私は奏子の笑顔を見るのが少し辛くなる。 「んじゃ、その鍵は閉じちまってるこころの鍵を解錠・・・・・・アンロックするための鍵ってわけか?」 「どうもそういう事らしい。・・・・・・お前、興味持ってるだろ」 「そんなワケねーだろ」 「もう、或斗は素直じゃないんだから」 奏子は困ったようにそう言ってから瞳を閉じ、両手を合わせてまた笑う。俺達は揃って視線を奏子に移した。 「たくさんの人がその心の鍵を持つ事が出来たら、そして誰かの心をアンロック出来たら、どんなに素敵かしら」 ・・・・・・私は右手の中の鍵を見る。それから瞳を閉じて鍵を握り締める。 そこに気持ちを込めるようにしながら手を開けて、その鍵を隣に居る或斗に差し出した。 「よし或斗、この鍵はお前にやる」 「はぁ?」 「お前が一人でも多くの人のこころをアンロック出来るように。 そして奏子を幸せに出来るように・・・・・・僕達の友情の証だ。大切にするんだぞ」 「いや、お前いきなり過ぎ・・・・・・変な奴だな」 そう言いながらも、或斗はちゃんと鍵を受け取ってくれた。茶化したりせずに、しっかりとだ。 どうやら伝わっているらしいので安心しつつ、私は改めて或斗と奏子を見て笑った。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「・・・・・・そして二人は帰国してすぐに結婚した。昔の話だ」 ・・・・・・言いようのない衝撃で胸が震えている。僕ようやくだけど分かった。ロックとキーは・・・・・・そういう事だったんだ。 でもお父様達がナインハルテンさんのしていた話を知ってて、ロックとキーがそこに絡んでるとは思わなかった。 「それで或斗が失踪直後、その鍵は或斗から送り返されて来た。唯世、お前に預けたのはその時だ」 「あ、はい。よく・・・・・・覚えてます」 「私はずっとなぜ或斗は鍵を送り返したのだろうと考えていた。それでまぁ、私も奏子と同じく信じる事しか出来なかった」 お父様はそう言って苦笑して、また頭をかきながら僕とお母様を見る。 「もう或斗にあのキーはいらない。或斗は音楽・・・・・・ヴァイオリンという自分だけの鍵を見つけたんだと思う。 それでたくさんの人の心を開くために旅立っていったんだ。アイツも、幾斗君と同じだった。そのキーを捨てられなかった」 お父様の苦笑が続くのは、僕と同じようにさっきのイクト兄さんの言葉を思い出してるせいだと思う。 ・・・・・・もしイクト兄さんにとってのキーもヴァイオリンなら、捨てられるはずがない。 だってそれは、誰かと繋がる事の出来る可能性でもあるんだから。でも・・・・・・あぁ、そうだね。 あむちゃんからあれから詳しく話を聞くと、たまにイクト兄さんのヴァイオリンを聴かせてもらっていたらしい。 そうしている中でイクト兄さんとちょっとずつでも話す機会もあって、それで親しくもなっていった。 きっとヴァイオリンは他者だけじゃなく、イクト兄さん自身のこころもアンロックしていく鍵だったんだ。だから捨てられなかった。 それはきっと・・・・・・或斗さんも同じ。お父様は今、そう言っている。 「だから次にそれが必要な人間のために、私の元に残した」 「・・・・・・私」 お母様はお父様を見ながら恥ずかしげに俯いた。 「そんな事とは知らずに、子どもっぽい意地を張って・・・・・・その上あんなヒドい事を」 「そうだな。だが、私も悪かった。私もちゃんと伝える努力をしていなかった」 それでお父様はそんなお母様を、優しく抱き締める。お母様は軽く身体を震わせて、安心したように身をお父様に預けた。 「私には今、こんなに近くにこころをアンロックしていかなければいけない人が居たのに・・・・・・瑞恵、すまない。 今更だが許してくれるだろうか。私は、今お前だけを愛している。お前が私にとっての一番なんだ」 「あな・・・・・・あなた・・・・・・!!」 それでお母様は声を殺さずに泣き出す。僕はまぁ、空気を読んで何も言わずに部屋を出た。 話している間にもう夜になっていて、空には丸い月が出ている。僕は、そのまま部屋まで足を進める。 「唯世」 「なにかな、キセキ」 「僕は先程のお父様の話で、ようやく納得出来た。キーが人のこころを開ける鍵ならば」 「うん」 今日はやっぱり良い日らしいと思いつつ、つい笑いながら僕は頷いた。 「ロックは人のこころそのものを表してたんだ。もしかしたらロックやキー自体には、特別な力はないのかも知れないね」 でも僕達はみんな、込められた意味を自然と感じていた。そしてその中に形のない自分の鍵と錠を見ていたんだよ。 つまりその、投影って言うのかな? 僕達は形もなくてあやふやであいまいな自分のロックとキーを、そうやって開けていた。 「なら今までロックとキーが起こしたと思われる不思議な事は、僕達が自分自身の力で発生させていたのか」 「可能性としてはあるね。あれらは僕達の中の力を、想いを表に出す出入口みたいになっていたんだと思う」 それがあのロックとキーの本来の力と言えるのかも。まぁ僕とキセキの勝手な推測だし、間違ってもいるかも知れないけどね。 もしかしたらロストロギアなんて目じゃないくらいの凄いアイテムの可能性だってあるわけだし。 「ねぇキセキ」 「なんだ?」 「僕、なんだか分かったよ。お父様が或斗さんと奏子さんにキーを渡した時の気持ち。今の僕になら、凄く分かる」 こころをアンロックしていく事は・・・・・・誰かと本当の意味で分かり合う事は、愛する事そのもの。 その言葉の意味はとても重くて、だけど同時に優しい響きにも満ち溢れている。もしかしたらその優しさに胸打たれてるのかも。 だから僕も、常にそうでありたい。自分のこころの鍵を開いて、愛する人の鍵も開ける自分で・・・・・・うん。 月明かりが差し込み始めている空を見上げながら僕は・・・・・・やっぱり笑っていた。 その時あの日のあむちゃんとイクト兄さんの姿を思い出して少し胸が痛む。でも、それでも僕は笑っていた。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「・・・・・・なぁ萬田、千々丸」 「なんですか主任」 「僕達、すっかり忘れさられてないか? というか仕事押しつけられてないか?」 「しょうがないでしょ。俺達揃ってBY二体ロストした分働けーって厳命もらっちゃったんですし」 ここは主任の自宅・・・・・・それで俺達、思いっきり休日に仕事してます。てーかあれだ、最近は会社にも寝泊りしまくってる。 いや、専務と御前・・・・・・専務の孫が罪滅ぼしに子ども達の夢が育つような物を作りたいとか言い出してさ。 ただまぁ、そのためにいちいちBYの事を持ち出すのはやめて欲しい。あ、ここは専務じゃなくて御前の方だな。 『僕達も悪いところはあったし、手伝ってくれるならBYの損害はなかった事にする』って・・・・・・末恐ろしいよ。 「なにより蒼凪恭文とガーディアン達を敵に回すのはマズいものね。だって・・・・・・うぅ、怖かった。 これでまたこの間みたいな事しちゃったら、今度こそ命はないかも」 「そうそう。それに俺達世界滅ぼす手伝いしちゃったわけだし、罪滅ぼしは必要でしょ」 「いや、それ全部専務の命令・・・・・・って言っても、誰も納得しないよなぁ」 主任もコテンパンにのされた上に両手両足が少し前まで使えない生活を送っていたからか、顔を真っ青にする。 そこは萬田も同じくだな。それで二人とも髪をかきむしりながら部屋の中で雄叫びをあげた。 「あぁもうしょうがないっ! こうなったら心を入れ替えてみんなの夢が育つようなスーパーアイテムを作るぞっ!!」 「そうですね、今までの経験を逆の方向で活かせばきっとすぐに出来ますよ」 「それだとほんとに出来そうなのが怖いな。けど、やりましょう主任」 「おうよっ! この九十九とお前達の本気、世界に見せつけてやるぞっ!!」 『おー!!』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ・・・・・・歓迎会のはずなのにご飯作るの手伝った謎の時間は終わりを告げた。 それでまぁ、そこの辺りに疑問を持ちつつも奏子さんの料理を美味しそうに食べていた星名は家に戻った。 また別に一之宮の実家があるらしく、そこで暮らしてたらしい。でもやっぱり分からない。 なぜ僕があの場に居たのかというのが本当にさっぱり分からないのよ。まぁポトフは美味しかったけど。 とにかく現在、歌唄は歌唄でまた別に家があるので・・・・・・僕は夕焼けの中、歌唄を家まで送っている。 「・・・・・・歌唄、改めて聞くけどどうしてこうなったっ!?」 「もう、しつこいわよ? 私アンタのその妙に悪いセンスも受け入れる覚悟はあるけど、しつこい男は嫌いよ」 「だったらちゃんと説明してー! あと僕はセンス悪くないしっ!! 常にハイセンスだしっ!!」 「はぁっ!? アンタマジで自覚しなさいよっ! ホントセンスないからっ!!」 「そんな事ないしっ!!」 そう言いながらも二人足を進めて歩道歩いて行く。それで歌唄は僕の事をジッと見て・・・・・・静かに息を吐いた。 「まぁ、アレよ。私の家族も見て欲しいなと思って。それにほら、アンタだって一応月詠の人間になるのよ? 婿養子なんてしないけど、それでも・・・・・・だからそういう話し合いにも参加して欲しいなと。あとは」 「あとは?」 「私があの人の事罵倒して踏みつけようとしたら、殴ってでも止めて欲しかった」 そう言うと、歌唄は前に視線を向けて、少し視線を落とした。そうしながらも歩いているので、僕は・・・・・・ついて行く。 「昼間はアイツにあんな風に言ったけど、私はそこまで心が広くない。えぇ、許せないわよ。アイツもあの子どもも。 自分の事を棚に上げてあんな事言う奴なんて、許せるわけないじゃない。お前は不幸になれーって言ってやりたいわよ」 「だったら、なんでそう言わなかったのさ」 「簡単よ。一つは私も同じ穴のむじなだから。それでもう一つは」 歌唄はそう言ってから足を止めて、僕の方に向き直る。それで僕の事をジッと見る。 「アンタが突きつけた罪の数え方を、台無しにしたくなかったから」 「・・・・・・そう」 「えぇ」 それからまた歌唄と僕は前を見て歩き出す。そこから10数メートル歩くと、歌唄が吹き出したように笑った。 「でも、もうその必要はないかも知れないわね。だってアイツ・・・・・・あははははっ! もう母さん最高だったっ!!」 歌唄がそう言いながら笑って、何を思い出しているのか・・・・・・なんとなく分かった。 ただ、その瞳に涙が溜まっているのに気づいた。 「なんかもう、これじゃあ勘違いしてる私達が・・・・・・バカみたいじゃない」 歌唄はまた足を止める。それで僕は・・・・・・辺りの気配も気をつけつつ、歌唄の事を引き寄せ抱き締めた。 腕の中の歌唄はそのまま僕の肩に顔を埋め、僕の身体をキツく抱き締める。 「恭文」 「何?」 「ごめん、今日私・・・・・・テンション変よね」 「しょうがないよ、色々あったしさ。ただ、ここだと歌唄を受け止めるにはちょっと公過ぎるかなとは思う」 「確かにね。なら」 そこで言葉が止まる。そして歌唄は、更に僕を強く抱き締める。 「・・・・・・また落ち着いたら、その時はじっくり愛して欲しいな」 「今日じゃなくていいの?」 「いいわよ。てゆうか、早く家に戻ってあげなさい。奥さん妊娠中なんだし。 それに・・・・・・もう充分。今日一緒に居てくれただけで、本当に充分。ありがと」 「・・・・・・ううん」 歌唄はそのまま僕の腕の中で頷く。それでそっと頭を撫でてからハグを解除。 それで僕達は手を繋ぎながらゆっくりと、色々話しつつも歌唄の家に向かった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ さてさて、実は・・・・・・ミッドに来たのはややちゃんとりまちゃん達だけじゃない。実は僕も同じくなんだ。 あの四人は予定というか宿泊場所を変更して聖王教会にお泊り。イクスヴェリア陛下と一緒に寝るとか。 というかイクスヴェリア陛下、このままの感じで居て欲しいな。もちろん出来れば全快して欲しいけど。 それでややちゃん、凄い喜んでたなぁ。まぁ事件中凄い頑張ってたから当然なんだろうけど。 それで僕もお泊りなんだけど・・・・・・その場所は、実はなのはさんの家だったりする。 「うーん」 「ヴィヴィオちゃん、どうしたの?」 夕飯を食べ終わってからヴィヴィオちゃんとゲームで勝負してると、ヴィヴィオちゃんが軽く唸った。それに首を傾げてしまう。 「やっぱパパ欲しいなーと思って」 ・・・・・・なんだろう、さり気無く言いようのないプレッシャーを感じるのが辛い。 てゆうかあの、ヴィヴィオちゃんはなんで僕を見ながらそういう事を言っちゃうのかな。 「なぎひこさんとさっきご飯食べたりこうやって遊んでて思ったんですけど、いいなーって。 恭文とフェイトママも向こうで子育てするって決めちゃってるみたいだから寂しいし」 「あ、あぁ・・・・・・それでなんだ。でもヴィヴィオちゃん、それでパパはいきなりだって」 「でもでも、それくらいプレッシャーかけないとうちのママは今ひとつダメダメだし」 「ちょっとヴィヴィオ、人が洗い物してる最中に何好き勝手言ってるのかなっ!!」 それで洗い物が終わったらしいなのはさんがこっちに戻ってくる。 僕も手伝うって言ったんだけどヴィヴィオちゃんの事をお願いされてこっちに来たんだ。 「でもママはこう、IKIOKUREな匂いプンプンだし」 「またヴィヴィオがママをいじめるー! うぅ、絶対恭文君の影響だよねっ!!」 「えー、だってなぎひこさんから告白されたのに未だに返事してないしー」 「「はぁっ!?」」 思わず顔を真っ赤にしてなのはさんと声を揃えて叫んでしまった。それでもヴィヴィオちゃんは平然とした表情を見せる。 「だってアギトさんが言ってたよ? 最終決戦の時になでしこさんにキャラなりしたなぎひこさんに『好きだ』って言われてたって」 ・・・・・・アレかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! そ、そう言えばそうだよねっ!! てゆかその・・・・・・そうなるよねっ!! マズい、なのはさんの顔が見れない。特にそういうの意識してたわけじゃないのにどうしてこうなるんだろ。 「そ、それはその・・・・・・あの、ママだって色々考えてたんだよ? でもまだ年齢差もあるし、折を見てツッコもう・・・・・・そうだよっ!! 折を見て軽い感じで聞いてみようかなとか思ってたのに、どうしてそこヴィヴィオが言っちゃうのっ!? 絶対ダメだよねっ!!」 「いや、ママに任せたらまた殴るかなって」 「それは言わないでー! アレ以来何気に反省してて、ユーノ君にもどう連絡取ろうかって悩んでるんだからー!!」 涙目でなのはさんは頭を抱えて崩れ落ちる。というかあの・・・・・・上下関係がちゃんと決まってるのは絶対恭文君のせいだと思った。 僕がそんな二人の将来が心配になり苦笑いを浮かべていると、なのはさんが思い立ったように顔を上げて僕の右手を取って引いてくる。 「と、とにかくなぎひこ君。ちょっと外に出ようか。あのね、お話が必要だと思うんだ」 「えっ!? なのはさん、あの・・・・・・ちょっと落ち着きましょうよっ! てゆうかアレは」 「いいからっ! ヴィヴィオ、一人でお留守番出来るかなっ!! まぁ庭先に出るだけなんだけどっ!!」 「うん、いいよー。二人とも行ってらっしゃーい。パパ、ママの事よろしくね」 「勝手にパパ認定しないでくれるかなっ! 僕ヴィヴィオちゃんと同じ子どもなんだけどっ!!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ それでほんとに出てしまった。というかあの、夜空はとっても綺麗なのに今ひとつそれを堪能出来ない。 僕となのはさんは庭先に面している窓の近くの足場に腰を下ろして、そんな状態でも空を見上げていた。 「まぁその、ヴィヴィオが言うみたいに告白だったら本当に・・・・・・本当に考えなきゃだめだって思ってたんだ」 「あの、なのはさん」 「うん、分かってる。そういう意味合いじゃないとは思ってたんだけど」 なのはさんは右隣に居る僕の方を見ながら、軽く苦笑した。 「ほら、私・・・・・・ユーノ君スルーしまくっちゃったでしょ? だからそれでもちゃんと考えようって」 「・・・・・・納得です」 だからなのはさん、本気で慌てたり悩んでたりしてたんだ。なら悪い事をしたと思って、つい俯いてしまう。 「すみません、それならなのはさんに迷惑かけちゃいましたね」 「ううん、そんな事ないよ。もし本気なら嬉しかったし、そうじゃなくても同じように嬉しかった。 なぎひこ君の言葉もそうだし、てまりちゃんやリズムが目覚めるきっかけになれたなら、本当に」 「それを聞いて、ちょっと安心してます」 僕達はそのまま何も言わずにまた空を見る。空は・・・・・・やっぱり広かった。 「なぎひこ君、聖夜小卒業したらどうするの? ほら、留学中断しちゃったし」 「卒業したら・・・・・・また行くと思います。お母様達ともそういう風に話してて」 色々予定も変わってるし、実際どうなるかは分からない。だけど、やっぱり踊りは好き。 だからもっと・・・・・・って考えて、つい空を見ながら苦笑してしまう。 「でも、留学から戻ってきた時はこんな濃い経験した上でそうなるとは思ってませんでしたけど」 「あはは、確かにね。異世界に来たり、それで事件に巻き込まれてもみんなと一緒に戦ったり。 しかもなぎひこ君もみんなも、知らない人ばかりだけど世界救っちゃったんだもの」 「そこまで大した事したつもり、ないんですけどね。ただ必死で、無我夢中で・・・・・・それで」 そこまで言うと、落ち着きを取り戻していた心臓が再び高鳴る。それでも僕は、改めてなのはさんの方を見た。 なのはさんは何も言わなくても、僕の方を見ていた。それで・・・・・・青色の瞳を輝かせていた。 「それで、なのはさんとこうやって話したりする時間が消えるのは、嫌だなって。 僕はなのはさんの輝きに、なのはさんが好きな空が消えるのは、嫌だったから」 「それは、告白かな?」 「かも、知れません」 「そっか。なら・・・・・・本気で受け取っておく」 クスリと笑ってサイドポニーを揺らしながらも、なのはさんは真っ直ぐに僕を見る。 「私もね、あの時あっちに行ったのは・・・・・・うん、なぎひこ君と同じ理由かも」 「そうですよね、やっぱり空が消えるのは」 「ううん、違うよ」 なのはさんは首を振って、右手を伸ばして今座っている場に置いてあった僕の左手を取って・・・・・・握り締める。 「多分なぎひこ君が言っている意味じゃない。私はなぎひこ君がやっと見つけた輝きを、『リズム』を守りたかった。 一生懸命頑張ってようやく『なりたい自分』と出会えたのにもうお別れなんて、悲し過ぎるもの。だから、守りたかった」 「・・・・・・なのはさん」 「私おかしいんだけど、まだ子どもなあなたに・・・・・・うん、恋しちゃってるかも知れない。 例えそうじゃなくても、あなたの輝きに惹かれてる。これだけは、絶対嘘じゃない」 「なら、本気で受け取っておきます」 「ありがと」 なのはさんは瞳を閉じて顔を近づける。それでそのまま・・・・・・僕の額と自分の額を合わせた。 僕はそれが嬉しくなりつつも目を閉じて、なのはさんの重さと匂いを受け入れた。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ さてさて、次元世界はまぁまぁ平和で・・・・・・世界全体でちょっとだけ優しい形になったと思う。 やっぱりそれはあの時、喜べん原因やけどうちらのこころが一つになったからやと思う。 そんな空気を仕事中も肌で感じていて、帰宅してからも最近みんなでその話でよう盛り上がるんよ。 それはうちの中だけやのうて外・・・・・・例えばクロノ君とかともやな。 「・・・・・・レティ提督、やっぱ不満そうなんか」 『いや、そうでもない。最低な事を恭文と身重のフェイトに言ってしまったと自己嫌悪気味でな』 いや、そりゃそうやろ。リンディさんがバカやったの止めた一人でもあるし、それでそないな事言われても説得力ないって。 それ抜いてもフェイトちゃん達がはねのけたのも当然やろ。それはリンディさんが立ち上がるんやのうて、周りが合わせただけやし。 「で、その肝心要のリンディさんも崩れて泣き暮らしとると。また・・・・・・一番キツい罰が下ったなぁ。 てーかクロノ君、マジでうちらは気をつけとこうよ。過去に描いた理想を裏切る自分にならんようにな」 『あぁ。今の母さんの姿は僕達それぞれの未来の可能性の一つだからな』 人のふり見て我がふり直せやないけど・・・・・・マジ気をつけておこうっと。てーかそうせんと絶対危ないわ。 「それでクロノ君、恭文達はこのままエンブリオ捜索続けるんか?」 今まで見てたエンブリオがイースターのトップやってた子どものこころのたまごやったんは、うちももう聞いてる。 つまり当初あそこに居る理由やったエンブリオ捜索は振り出しに戻ったわけや。ちゅうか手がかりもなしやなぁ。 そやから一応クロノ君にも聞いたら、クロノ君は即で困ったような顔をしながら頷いた。・・・・・・やっぱりかぁ。 『そのつもりだ。まぁ一応でも仕事をしていると、実入りもあるしな』 「またあくどいなぁ」 『そんな事はない。エンブリオが危険なアイテムな場合、僕達ならアドバイザー程度にはなれるだろうしな』 「そやな。実際の対処はやっぱ恭文やあの子達かも知れんけど」 ここの辺りは危険なアイテムであって、なおかつエンブリオがこころのたまごの仲間やった時の話や。 それやとうちらみたいにキャラ持ちとちゃう人間は見てるだけしか出来ん。そやからそういう時はアドバイザーやろうな言う事よ。 『だがもしそうじゃなかった場合・・・・・・はやて、すまないが』 「分かっとる。そこはみんなも納得しとるんやったよな」 『あぁ。かなり最初の段階でその話はしてるしな。あくまでも正体が僕達の領域に近いものだった場合という限定条件はつくが』 「うん、当然やろ。だって向こうさんがずーっと探してたんやし。イースターみたいにあくどい事せんならうちらは問題ないしなぁ」 どっちにしても恭文とフェイトちゃん達はあの街で頑張ってくって感じかぁ。あ、今度みんなにお土産持って行こうかなぁ。 なんやかんやであむちゃん達には世話になりまくっとるやろ? シグナムの事もそうやし、うちらの中の可能性まで守ってもらった。 少しくらいはお礼せんとあかんって。それで唯世君の様子もちょっと見て・・・・・・なんや楽しくなってきたなぁ。 何気にうちもあの子達やあの街、好きなんよなぁ。そやからクロノ君が首傾げてるのに、ニコニコが止まらんのよ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「・・・・・・それで星名専務とジャガイモだけじゃなくて人参剥いてお肉の下ごしらえまでしちゃってたの?」 「うん。それで星名も料理ほとんどした事なかったらしくて、僕が教えたりして・・・・・・しかも目がやたら真剣なのよ。 もうそれがまたおかしいやらなんやらでさぁ。僕達この間まで命がけで殴り合ってたのに、すっかり仲良しだし」 夜、ヤスフミが歌唄の家から戻ってきて・・・・・・それで添い寝しながら今日の話を聞いてた。 というか、ビックリした。本当にアリサの言った通り月詠奏子さんって相当強い人だったんだ。 「というか、それは奏子さんのおかげかもね。そういうペースにすっかり巻き込まれた印象もあるし」 「確かにね。あー、でも奏子さんの作ったポトフはほんと美味しかった。 調理時間自体は短いはずなのにやたら手が込んでる感じがしててさぁ。ただ」 「ただ、何?」 「歌唄に料理教えようとして断念してた。それで僕が料理上手いのは調理を見てて分かったから、指南役を任された」 ・・・・・・そう言えば歌唄、ティアレベルで料理ヘタだったっけ。エルちゃんからそういう話聞いた事あるよ。 なんでも歌唄がカップラーメンを作ると鍋が炎上・爆発しかけ・・・・・・その様子を想像してみて、つい吹き出してしまう。 「うー、笑い事じゃないってー。あの人やたら強引で断る事も出来なかったし」 「だったら余計に納得。だって歌唄のお母さんだし」 「まぁそれはね。歌唄はどうもお母さん似らしい。それで・・・・・・猫男はお父さん似か。 写真、見せてもらったんだ。というかね、もうそのまま過ぎて見た瞬間にシオン達共々固まったし」 「そっか。・・・・・・ね、ヤスフミ」 少しだけヤスフミに顔を近づけて、ささやくような声で話しかけてみる。 「歌唄とはこれからその・・・・・・大人のお付き合いすると思うの。でも、私は大丈夫だから」 「・・・・・・うん。というか、大丈夫じゃなくても三人とも持っていく事にしたからもう逃がさないよ?」 「そっか。ただまぁ、何分私はまだまだ妊娠中だから多少は気遣ってくれると嬉しいかな」 そう言いながら私はヤスフミの胸に飛び込んで、優しくすりすりする。ヤスフミがくすぐったそうにするので。 「ダメ、逃がさない」 両腕を回してお腹を圧迫しないように抱きついてしまう。うーん、この温もりはやっぱり幸せだよ。だから自然と笑っちゃう。 「うん、『逃がさない』は私のセリフなんだから。私もね、ヤスフミと同じで欲張りなんだ。 ヤスフミが誰を好きでも、私の事捨てたくなってもずーっとくっついてるんだから」 「・・・・・・8年スルーした人間の言う事とは」 「それは言わないでっ!? というかその・・・・・・その分頑張りたいんだから。だから、逃がさないの」 私はそのまま顔を上げて、ヤスフミの方を見る。それで・・・・・・私の方がヤスフミを見上げる形のまま瞳を閉じる。 普段とは逆の体勢で、私達はそっと唇を重ねた。というか、こういうのかなり新鮮で幸せかも。 季節は12月。今年もあともう少しで終わりで、ヤスフミはMOVIE大戦COREがとっても楽しみな時期。 それは私も同じかな。だけどそういうのを含めつつ二人でちょっとずつ夫婦で、お父さんとお母さんの修行中でもある。 あと・・・・・・恥ずかしがらずに、愛してるって言う練習も継続中。今日もこの後、いっぱい練習しながらラブラブした。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ あー、やっと荷物整理終わったよー。というかもういつも寝る時間超えてるしー。 だけど・・・・・・ここは星が綺麗に見えるなぁ。あたしの部屋、空や街並みがよく見える位置だからすっごく嬉しい。 そう言えばパパとママが聖夜市は別名『星夜市』って異名があるって教えてくれたっけ。 結構発展してる街なのに、星が本当に綺麗に見えるからーって事みたい。改めて星を見ながらあたしはワクワク。 転校するのはちょっと寂しかったけど、だけど・・・・・・この街は好きになれそうかも。 『・・・・・・ムリィ』 『ムリムリ?』 『ムリー』 後ろからかかった声に振り向くと、うちの子達が軽く首を傾げてた。というか、何個か鼻ちょうちん出したりしてる。 ・・・・・・あー、そっか。いつも寝る時間超えてるから、『寝ないのー?』って思ってるんだ。 「あー、ごめんね。じゃあ大体終わったし、今日はもう寝ちゃおうか。残りは明日またやっちゃおー」 『ムリー』 というわけで、まずはパジャマに・・・・・・あれ、パジャマどこ仕舞ったっけ。とりあえずパジャマ探すとこから始めないと。 眠そうなみんなを待たせないようにと急いで動きつつ、やっぱりあたしはワクワクでずっと笑ってた。 新しい街、新しい学校・・・・・・うぅ、友達出来るかなぁ。ちょっと心配かも。でもでも、大丈夫だよねー。 (第126話へ続く) [*前へ][次へ#] [戻る] |