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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第2話 『消えないG/変える事の出来ない過去と、薄れる事のない痛みと』



前回のあらすじ。イギリスに来ました。お姉ちゃんが予想以上にバカになってました。

正直お姉ちゃんアンチにならないかどうか心配しつつも、バカなお姉ちゃんもキャラ的にはアリだと思いました。

だって・・・・・・ここから色々戸惑って翻弄されちゃうわけでしょ? そんなお姉ちゃんを見るのはきっと楽しいよ。



そんなわけでフィアッセさんと別れてから。





「こらこらちょお待とうやっ! アンタモノローグなんかおかしいでっ!!」

「お姉ちゃん、地の文を読まないでよ。どうしてそういう事するのかな」

「うっさいバカっ! アンタ声に出してたんやからしゃあないやろうがっ!!」

「気のせいだよ」

「気のせいとちゃうからっ!!」





フィアッセさんと別れてから、翻弄されて戸惑いまくるお姉ちゃんを観察するのは楽しいと考え直した。

だってこれから色々と壁にぶち当たるでしょ? その度に動揺し狼狽し情けない顔を晒すんだよ?

ほら、そういうのなんか良くない? そう考えると今のお姉ちゃんの状態を無理に直す必要もないと思うんだよ。



ただ僕は弟としてお姉ちゃんの事を優しく温かく見守っていけばいいなと・・・・・・よし。





「お姉ちゃん、やっぱお姉ちゃんの仕事手伝うわ。まぁガーディアンの仕事優先になるけど」

「お断りやっ! そんなヨダレたらしつつうちを猛禽類のような目で見てる奴になんて手伝って欲しくないしっ!!」

「何言ってるの? お姉ちゃんが現実という壁にぶち当たって狼狽する様を見て楽しもうって考えてるだけだよ」

「誰かー! 誰かマジコイツをなんとかしてー!! ここに変態居るからー!!
極めて特殊で趣味の悪い変態が居るからー! てーかうちだけに対処任せんでよっ!!」





とにかく・・・・・・アンチ物も良いかも知れない。つまりその人が程良くダメになっていくのを楽しむんだよ。

よし、考え直した。きっとA's・Remix三期は僕がお姉ちゃんのそういうさまを見て楽しむためにあるんだ。

それでそれで、ガチでダメになりそうならその時は助けるの。程良くダメな感じに戻して再びお姉ちゃんを観察。



・・・・・・え、変態? 失礼な事言わないで。僕はただお姉ちゃんが戸惑ったり翻弄される様を見るのが楽しいだけだよ。

というわけでA's・Remix三期の方向性も決まった僕達は現在、一軒の民家の前に居る。

この辺りは郊外らしく、街の喧騒から離れてとっても静か。空気も美味しいし、なんだか落ち着く。



近くには森まであるし。それでその民家のドアを、お姉ちゃんに代わって僕が叩く。

少ししてドアが開くと・・・・・・二人の女性と一人の壮健なおじいさんが嬉しそうな顔で出てきた。

えっと、大体2年とか振りだから・・・・・・外見的に全く変わってないなぁ。基本若々しいし。





「ご無沙汰しています。グレアムさん、それにリーゼさん達も」

「久しぶりだね、恭文君」

「「お久しぶりー」」



さて、何気に一期から数えると久々な登場のグレアムさん達。当然ながら罪の数え方は継続中。

そこは僕も同じかな。お姉ちゃんと家族・・・・・・やってくって決めてるし。



「守護騎士のみんなも久しぶりだ。それとはやて君・・・・・・また大きくなって」

「はい、お久しぶりです。グレアムおじさん」



こうして休日は始まった。というわけで、早速・・・・・・模擬戦だー!!

ロッテさんと再戦の約束してかなり経っちゃったけど、今こそ約束を守る時っ! さぁ頑張るぞー!!



「あー、それと恭文君」

「はい、アリアさんなんですか?」

「とりあえずヨダレ拭こうか。あと会話丸聞こえだったから。もうすっごい聞こえてたから」

「そうですか。では理解してください。お姉ちゃんが程良くダメな様を見るのは楽しいんですよ」

「ごめん、理解出来ないよっ! というかそれはいくらなんでも趣味悪くないかなっ!!」










魔法少女リリカルなのはA's・Remix


とある魔導師と閃光の女神のえ〜すな日常/あどべんちゃー


第2話 『消えないG/変える事の出来ない過去と、薄れる事のない痛みと』










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



なんつうかうちの子達は落ち着きに欠けてる思うんよ。だって到着早々模擬戦やし。

それでアイツは結局うちを見ながらヨダレ・・・・・・マジで将来が心配になってしまった。でもまぁ知ってた。

アイツこう、なのはちゃんとか見てると人を言葉でいじめたりするのが好きっぽいしなぁ。



とりあえず今のアイツを側に置くのは考え直したいと思う。てーかあの変態性癖は直さな嫌や。

まぁそんな恭文も含めてみんな早速模擬戦しとる。全員揃って血の気が多いんやないかとも思う。

ただまぁ滅多に会えんし、なんやリーゼさん達は教導隊で働いてたくらいに強いそうやから。



でも・・・・・・マジで魔導師さんなんは驚いたなぁ。もう現役引いてるそうやけど。

というか、以前謝られて大変やったなぁ。闇の書事件の事、気づいたり出来んでーって。

まぁとにかくうちは、そんなグレアムおじさんと二人っきりで今で紅茶飲みつつお話や。



とりあえずうちの弟の変態具合をとっとと忘れたかった。てーかアイツが主人公なんは絶対間違っとる。





「しかしはやて君、君は行かなくていいのか?」

「まぁ、結果は見えとりますし。恭文とリーゼさん達なら間違いなくリーゼさん達が勝つでしょ」





てーか教導隊の元スタッフ相手に勝てるわけないって。見るまでもないわ。

アイツ、基本的に今はガーディアン言う生徒会の仕事で魔導師の仕事も相当抑えてるんよ?

普通の小学生になりつつあるあの愚弟は、鼻っぱしらへし折られるやろ。



それでもうちょいあの無駄な自信家な態度が無くなってくれると嬉しいんやけど。





「そもそも勝てる理由がないじゃないですか。アイツ鍛えてるとは言え経験でも資質でも負けてるんですし」

「・・・・・・まぁ当然か。恭文君が言うとは思えないしな」

「何がですか?」

「恭文君は一度リーゼ二人と本気の勝負をして、圧勝しているんだが」



思わず紅茶を吹き出してしまった。それでムセながらグレアムおじさんを見ると、おじさんはめっちゃ呆れた顔してた。



「いや、嘘でしょっ!?」

「嘘ではないよ。それに君も恭文君の戦闘センスの高さは知ってるだろう?
特に実戦で格上相手でのあの子の爆発力は、目を見張るものがある」

「その・・・・・・一応は」





魔導師の勉強始めてから改めて知ったんやけど、アイツの戦闘センスは抜群に高いらしい。



少なくとも7歳時点でうちの初期の魔法訓練をつけてくれたクロノ君が、よく例に持ち出すくらいのレベルやった。



曰く『それだけならなのはやフェイトに僕は勝てない。当然今の君では足元にも及ばない』・・・・・・とか。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・いやいや、それおかしくないか? ほら、クロノ君めっちゃ強いし」



アレはリインフォースが無事に復活してすぐの頃にやった訓練の時。休憩時間にあの時治療の影響で入院してた恭文の話になった。

それでそういうセンスっちゅんがめっちゃ高いって聞いて、アースラのトレーニングルームの中で少しびっくりしてまう。



「それにアイツ魔法資質は平均的って聞いてるんやけど」

「そうだな、それも事実だ。だが魔法資質と戦闘に関してのセンスは別系統の才能だ。
恭文の場合、前者は確かに平均的だが後者はずば抜けている。例えば」




クロノ君が左手を上げて人差し指を立てて・・・・・・あ、これスティンガーや。



「この手の射撃魔法一つにしても、ただ撃てばいいというわけじゃない。
撃つタイミングや狙いや速度や効果を状況に応じた上で使いこなす知識と感性が必要だ」

「察するにそれがその・・・・・・センスか?」

「そうだ。君にも分かるように言うと『自分の攻撃が当たるように撃つ』という基本部分もそれが必要になる。
相手が闇の書の闇のようにジッとしている状況は稀だしな。当たるようにというのは単純なようで意外と難しい」




あー、それは分かるかも。さっきの模擬戦もうちの攻撃全然当たらんかったし。

戦闘スキル的に向いてないのは分かるけど、アレじゃああかんってダメ出しされてばっかやしなぁ。



「もちろんそれ以外にもある。例えば目眩まし、例えば囮、例えば牽制。回避と防御も当然やり方がある。
つまり戦闘センスが高いという事は、持っている技能をより的確な形で使う事が出来るという事だ」

「それはうちより上・・・・・・というか、クロノ君とかよりも上なんか」

「現状では経験の差で勝ちは譲らせないがな。だが、同じ頃の自分を振り返ると確実に恭文の方が上だ」




なんというか、驚きの連続やった。うちはマジでアホな弟な顔しか知らんかったのに・・・・・・でもなんでやろ。

色んな人からえぇ評価もらってる事が悔しかったり、ちょっとイラってしたりするんは。



「じゃあもしうちと恭文が模擬戦したら」

「仮に君の得意な遠距離での攻撃を仕掛けたとしても、あっさり返り討ちに遭うだろうな」

「うわ、なんかはっきり言うてくれるし。それはそれでめっちゃムカつくんやけど」

「しょうがないだろう。君はそもそも『攻撃を当てる』という基本的な部分から足りてないんだ。
・・・・・・さっきの模擬戦も根拠のない山勘に頼り切って攻撃していただろう。アレじゃあダメだ」




うぅ、そこを言われると弱い。でもクロノ君、お願いやからマジでその呆れた目はやめて?

てゆうか、しょうがないやんか。うちは基本普通の小学生でそういう訓練始めて間もないんやし。



「でも・・・・・・なんか今ひとつ納得出来んわ。だってアイツ基本普通の子どもよ?」

「そうだな。だが稀に居るんだ。そういう『答え』が見える天才が」

「答え?」




クロノ君は、うちを真っ直ぐに見ながら頷いた。



「どうすれば相手を倒せるか、どうすればこの状況を脱せるか・・・・・・そういう『答え』がだ。
僕も局の仕事の中でその領域に到達している人達を見た事があるから、ここまで言い切れる」

「クロノ君やなのはちゃんやフェイトちゃんは見えんのか」

「見えないな。少なくとも恭文が僕達とは違う『答え』を見ているのは確定だと思う。
それは何回か模擬戦をして痛感しているよ。恭文の『答え』は、僕達とはレベルが違う」




どこか悔しいというかそういう感情が見える言葉をクロノ君はそこで終わらせず、『ただ』と続けた。



「ただ、ここは経験で埋める事が可能だ。いや、むしろそっちの面積の方が大きい。
今やったみたいな模擬戦や実戦や勉学の積み重ねで、自分のレベルを上げる事が出来る」

「そうすると、うちでもクロノ君がべた褒めレベルにはなれる?」

「あぁ。あくまでもスタート地点が違うだけで、ゴールがどうなるかは分からないからな。上がるだけでなく下がる可能性もあるしな。
戦闘以外でもなんでもそうだろ? 出来るものと思ってサボっていたら、普通に身体や頭がその経験を忘れてしまう」




言いたい事は分かるので、うちは頷いた。というか、そこはかなり覚えがある。

それでクロノ君は視線を下に動かしてうちの足を見た。



「まぁ君の場合は魔法戦闘の前にやはりその足かも知れないな。
その足が動くのだって同じだ。そういう経験の蓄積で、未知なものがよく知るものに変わる」

「なんかそう言われると納得かも。足動かすのもセンスというか蓄積が大事なんか」




うちの足が動かないのは、闇の書の影響でずーっと麻痺していたから。動かし方が分からないと言ってもえぇ。

小さい頃からこれやったから、当然自分で歩いた事もなくて・・・・・・実を言うとリハビリ関係もサボりまくってて。



「・・・・・・うぅ、もうちょいリハビリ頑張ればよかったなぁ」

「ならここからちょっとずつだ。足のリハビリも、魔導師としての修行もちょっとずつやっていけばいい。千里の道も一歩からだ。
焦らずに身体を壊さないように、ちょっとずつレベルアップしていけばいいさ。続けている以上は下がる事はないしな」

「その結果、センスが磨かれるんやな。よう分からん事が分かるようになってくる。
足の動かし方もそうやし、魔法の使い方もそう。それが『答え』」

「そういう事だ。・・・・・・別に分からない事は恥ずかしい事じゃない。そこはみんな同じ。
僕も母さん達もだ。大事なのは、分からない事と向き合った時にどうしていくかだな」






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



なんやろ、思い出したらムカついてきた。いや、確かにあの時は言う権利そのものが無いくらいにダメやったけど。

とにかく恭文にはセンスがある一定ラインのレベルを超えてないと分からんもんが見えるとか。

ただ・・・・・・うちはこう、今の今までそれを認める事が出来んかった。なんやちょおそういうのは怖いんよ。



それって戦って誰かを傷つける事が上手って言ってるのと同じなんよ? そういう天才ってありえんって。

確かにアイツは強い。その後何回か模擬戦したりもして、それは痛感した。うちとはレベルが全然ちゃう。

だけどだからこそ・・・・・・やろうか。そこの辺りを思い出して、真面目に頭が痛くなってまう。



なんでなんやろ。なんでうち、こんな恭文に対して距離感を感じてまうんやろ。





「・・・・・・それに聖夜学園に転校してからも色々鍛えているそうだしね。
中々素敵な仲間も出来て充実しているそうだし、もしかしたら今頃」



グレアムおじさんはそこで言葉を止めたけど、うちはその続きが分かった。

もしかしたら今頃、ロッテさんが負けてるかも知れんと言いたいんや。それでうちは、大きくため息を吐いた。



「うちとしては派手に負けて鼻っぱしら折って欲しいんですけどね。
あのバカ、年々ハードボイルド気取りがひどくなってめっちゃ大変ですよ」



てーかグレアムおじさんはその辺り詳しい様子やけど・・・・・・まぁうちらの唯一の親戚やしなぁ。

それに学費もグレアムおじさんが管理してる遺産関係から出てるし、そりゃあ報告もするわ。



「でもアイツ、そないに充実した日々送ってるんですか? うちには普通に小学生やってるようにしか」

「送っていると私は感じている。自分のしゅごキャラ達やキャラ持ちの宿主である仲間達と一緒にね。
魔法とはまた違う冒険の日々を送っているようだ。それでエンブリオ・・・・・・あ、ここの辺りは」

「うちも一応聞いてます。なんやイースター社がそんな実際あるかどうかも分からんもん探してるとも」



でもなぁ、去年のお泊り会の時にはフェイトちゃんに『力になる』言うたけど、うちはもう信じてないんよ。

だって去年から数えても1年近く探してるんよ? それで手がかりもなしなんやし、もうここは必要ないやろ。



「そうか。・・・・・・とにかくそのイースター社との小競り合いも続いているようだし、一目見て分かったよ。
以前に会った時よりずっと大人になっている。自分なりの夢を見つけて、真っ直ぐに追いかけている」

「夢・・・・・・ですか」

「あぁ。だからあの子の瞳は輝いている。正直、そのキッカケとなったしゅごキャラ達が見えないのが残念だよ。
私ももう少し若ければ・・・・・・いや、これは今からでも夢や『なりたい自分』を持てという掲示かも知れないな」



グレアムさんはソファーに体重を預けながら、嬉しそうに笑う。・・・・・・なんやろ、それがちょっとイラっとした。

やっぱりうちは、恭文にヤキモチ焼いてたんかも知れん。だからつい漏らしてしまった。



「うちは別に見えへんでも問題ない思うんですけど。てーかしゅごキャラなんていらないですって」

「・・・・・・はやて君?」

「子どもの頃の夢なんて、ぜーんぶ妄想の類やないですか。それでなんでしゅごキャラなんて出てくるんです?」



だってアレやろ? うちは覚えないけどお嫁さんとかケーキ屋とか・・・・・・なんやそういうのアホらしいわ。

うちは今ちゃんと仕事してるから言える。そういうんは夢とちゃう。今言ったようにただの妄想に近いもんや。



「変わらないなんてダメです。みんな変わって・・・・・・社会に入って、社会性や現実の仕事の中に根ざした目標を持つ。
そういうんがホンマの夢のはずです。なのにアイツ、ずーっとやれしゅごキャラとかハードボイルドとか・・・・・・マジアホやし」

「それが不満かね」

「不満です。なんでうちやなのはちゃんや他のみんなみたいに出来んのか、分からんのです。
そうした方が楽やないですか。なんでわざわざ人の気持ちが分からん冷酷人間になろうとするのか」

「そうか」



グレアムさんは深くため息を吐いて・・・・・・うちをどこか悲しげな目で見出した。



「はやて君、君は一度局の仕事から引いた方が良い」

「はぁっ!? グレアムおじさん、いきなり何言い出しとるんですかっ!!」

「・・・・・・そうだな、これは言い方が悪かった。まぁあれだよ」



グレアムさんはうちが疑問顔なのには構わずに、表情を優しげなものに変えた。



「疑問があるのなら、知って認めていく事から始めてみてはどうかね。なぜあの子がその形に惹かれるかをだ」

「認めるって・・・・・・そんなんアカン。アイツマジで無茶苦茶する時ありますし」

「だが頭ごなしに否定しても距離が出来て、君の疑問は一向に変わらないだろう」



そう言われてさっきのあれを思い出してしまった。そやから自然と表情が苦くなって何も言えんくなる。



「人と人とが分かり合うという事はね、はやて君」



優しい表情のままグレアムさんは少し背を屈めて、うちの方を見る。



「まずは今のその人の有り様を知るところから、認めるところから始めなくてはいけない。
そのための姿勢を持つ事から始めなくてはいけない。ただ上から言い聞かせるだけではダメなんだ」

「それがどんなに・・・・・・正しい事でもですか」

「どんなに正しい事でもだ。いや、正しいと思うからこそ行き過ぎる場合もある。だからその姿勢は必要。
もちろん彼にも、私にもだ。だからこそ、まずは自分から踏み出してみてはどうかね?」



そこまで言ってまたグレアムさんは笑いながら少し顔を離して、右手を伸ばしてうちの頭を撫でてくる。



「まずは自分から知ろうとする姿勢を示す。その姿勢は時として悪にもなるが、とても大事なものだと思う。
・・・・・・何があったかは知らないが、このままはきっと良くない。気になるからこそ冷静にいかなくてはね」

「・・・・・・はい」

「なによりその事より前に、彼のその・・・・・・サディスティックな一面をなんとかした方が良いと思うんだが」

「それはまぁ、あの・・・・・・シャマルやクロノ君と相談しときます」

「うん、そうしたまえ」





グレアムさんの手の感触は嬉しかった。言うてる事も分かる。でも、何か納得が出来んかった。



だってそれって、うちが間違ってるって認めるのと同じで・・・・・・でもさっきのアレもあるからなぁ。



なんて言うてえぇか分からんうちはただ苦い表情を見せ続けるだけやった。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



向こうは向こうで楽しくやっていた頃、こっちはこっちで楽しく若人達について相談継続中。



やっぱり上司として見ても気になる要素がかなり多いから、ここは真剣に考えていきたいと思う。





『・・・・・・でもはやてさんの背伸びは、色んな意味で少しテコ入れというか考える必要はありそうね』

「やっぱりそう思う?」

『えぇ。オーバーワークぎりぎりだもの。仕事内容を見ていると、私を通さず緊急でという場合もかなり多い。
さっきも言ったけどそういう無茶振りをする方よりも、それを引き受けてしまうはやてさんもダメよ。特にあの子の場合はね』

「・・・・・・そうね」



レティがテコ入れしたくなった要因の一つは、はやてさんの魔導師としてのスキルもあると思う。

はやてさんは足を止めての超遠距離・広範囲砲撃が得意な固定砲台だから。



「はやてさんは戦ったり一人で動いたりは出来ない。必ずその無茶振りには守護騎士の誰かが付き合う」

『もちろんみんなは罪の贖罪期間中だから、少しでも印象を良くするために付き合う。
なにより主だもの。でもそれは結果的に、全員のオーバーワークにも繋がりかねない』






はやてさんは、ハッキリ言ってしまえば一人では戦えない子なの。恭文君とは正反対。

恭文君はどちらかと言えばスタンドアローンに特化している技能ばかりを揃えてるけど、はやてさんは違う。

はやてさんは強力な超遠距離・広範囲攻撃が使えるけど、そのどれもが発動がとても遅い。



術式を詠唱している間は無防備にならざるを得ないし、単独戦闘能力も実はかなり低い。

だから自分を守ってくれる味方が、足りない部分を埋め合う仲間達が居て初めて力を発揮出来るタイプ。

そういう意味でもあの子は指揮官向きなのよ。それは本当に大事な資質。



上に立つ人間は、一人の力の無力さを知っていなくちゃいけないから。それがなきゃ上に立ってはいけない。

誰かと手を繋ぎ合って初めて生み出せる力の大きさを知っている人間だけが、上に立てる。

でも同時に、その行動にはそれなりの責任が求められてしまう。その重さに耐える事も覚悟しなくちゃいけない。



だってはやてさんが判断ミスをすれば、それは必然的に仲間達にも迷惑をかける事になるから。

それで今、一人では戦えないはやてさんの行動に守護騎士達を付き合わせているのは間違いよ。

・・・・・・改めて考えると、大幅なテコ入れが必要ね。はやてさんの焦りは爆弾になりかねない。



ここははやてさんだけじゃなくて、守護騎士達もよ。そういうので歯止めを利かせられない部分はあるわけだし。



家臣というかはやてさんの騎士だからこそ、ビシっと言う事も必要だと・・・・・・分かってくれるといいんだけど。





「でもはやてさん達は、その積み重ねの末に結果を出している」

『だから、はやてさんに複雑な感情を抱いている人間以外も頼ろうとする。
やっぱり無茶振りにはそういうのもあるのかしら。ただ、私から見てると問題は恭文君の方よ』

「恭文君が? ・・・・・・レティ、まさかフォン・レイメイの事とかを持ち出すつもりじゃ」

『違うわよ』



レティは厳しくなった私の視線を受け止めながら、ゆっくりと首を横に降った。



『あの時の状況は聞いてるし、クロノを助けるためにも必要だったのも理解してる。
だからそこじゃないの。もちろんあの子が大暴れする事が多いという話でもない』

「なら、どういう事かしら」

『リンディ、これは恭文君が何かしたというわけじゃないの。ただ・・・・・・そうね。
恭文君の存在がはやてさんに対して、妙なプレッシャーを与えている部分があるように感じるって話』



今ひとつ言っている意味が分からなくて、私はまた目を細めてしまう。

だって恭文君がはやてさんにプレッシャーを与えているのよ? その理由が・・・・・・ううん、知ってる。



『私はこういう仕事だから分かるんだけど、恭文君ははやてさんの血縁者なのにこういう無茶振りが全くされないのよ。
特定の役職に居ないザフィーラやリインフォースもそうだし、他のメンバーにもそういう兆候は見られるのに』

「・・・・・・それで?」

『簡潔に言うと血縁者で家族のはずなのに、それとは全く別個の扱いをされているように感じるという事かしら。
別に特別扱いされているわけではなくて、はやてさん達に向けられている冷たい視線が恭文君にだけは向けられていない』





レティの話通りの事があるとしたら、それはどうして? 確かに恭文君自身が無茶振りされたなんて話は聞いた事がない。

もちろんクロノやエイミィ達と一緒に仕事をする事が多いからなのも分かる。

今はエンブリオ探しにガーディアンの仕事もあるからなのも分かる。どちらも局の仕事に負けないくらいに大事な事。



だけどそこを抜いても、事件終了直後から恭文君に対してはそういう視線は向けられてなかった。

もちろんそこは普通の平局員と呼ばれるような立場なら分からない事。私達クラスでぎりぎりな感じね。

局の理念があるとは言え、やっぱり闇の書の主というだけでそういう冷たい視線を送る輩は居る。



そういう視線を送られるのはどうして? それは闇の書事件が相当年数の間被害をもたらした事件だから。

局にはその被害者遺族や関係者が多数居るし、以前起きた事件を目撃した人も居る。

だからこそ主だった人間・・・・・・はやてさんにも、そして主な実行犯だった守護騎士達にもどうしても視線が厳しくなる。



でははやてさんがそういう視線を受けるのはどうして? はやてさんは蒐集活動をむしろ拒んでいたのに。

そうだ、私は知っている。だってクロノ共々恭文君にはその話をしたから。

だから・・・・・・はやてさんの家族で居るという『嘘』を通すのは、かなり覚悟が必要とも説いた。





『・・・・・・どうやら分かってはいたみたいね』



私の表情から考えていた事が分かったのか、レティが困った顔をしながら頷いてきた。



「一応ね。実はクロノと一緒に恭文君には事件の後にその話をしてるの。
はやてさんが指揮官候補として研修を受け始めて・・・・・・大体の評価が出始めた頃に」

『そうだったの。なら、今更だったかしら』

「そうでもないわ。安心し切って、ここで表面化するとは思ってなかったから」





・・・・・・はやてさんは自分の命惜しさにあの事件を引き起こしたなんて言われてる。

それまでの主と同じように、自分の欲望・・・・・・生きたいという願いを力で叶えようとした。

もちろんそんなのは嘘っぱち。勝手な風評であり憶測であり中傷なのよ。



でも、その風評が信ぴょう性を持ってしまっている部分はあるのも事実。

まずはやてさんはあの事件の時、蒐集活動を開始していたた守護騎士達の暴走を見過ごした。

主でありながら、家族でありながら、変化がありながらあの子は気づこうとしなかった。



それが・・・・・・それを知ろうとしなかったのが、はやてさんの罪。

それは事件後、はやてさんに恭文君や局が突きつけた事。

はやてさんが今までの守護騎士達が犯してきた罪を背負う必要はきっと無い。



だけど事件中、気づける可能性が0じゃなかったのは事実。

なのにそれを見過してしまっていたという話ね。でもここは何気に無茶振りじゃなかったりする。

実際がどうかなんて、私やクロノ、フェイトさん達のような事件関係者にしか分からない。



ただ情報だけ見れば何をどう受け取るかはその人次第。私達の干渉出来るところじゃない。



その場合、あの姉弟に対しての評価が残酷なまでに真っ二つに割れる可能性は少なくない。





『とにかく恭文君ははやてさんと違うわ。あの子は気づいた。
そして知らない振りを出来ずに、あの年で真実と向かい合った』

「レティ、あなたから見てもやっぱり・・・・・・なのね?」

『やっぱりよ。はやてさんも薄々気づいてる。局から見て、自分達は家族として扱われていない事実をね』





改めて考えると、やっぱり弛んでる部分があるのかなと考えてしまった。というか、力抜き過ぎた?

でももしそうなら・・・・・・どうしましょう。逆に今別々に暮らしている事が功を奏してるのかしら。

これはもしかしたらはやてさんが局員である限り、恭文君が魔導師である限り絶対に拭えないもの。



ううん、二人の始まりが闇の書事件である限り・・・・・・絶対に、かしら。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「さて、時刻は夕方。お兄様とロッテさんの模擬戦は苛烈でした」

「けど二人とも楽しそうだったよな。で、その結果は」

「・・・・・・ちくしょー! 結局負けたー!!」

「・・・・・・こんな感じだ」



右薙の一閃を打ち込んだら、柄を持っていた手を掌底で止められた。

それでそこから頭に回し蹴り食らって吹っ飛ばされ・・・・・・うぅ、あと0.5秒速く反応出来ればー!!



「にゃはははー! さすがにまだまだやすっちに負けたりはしないってー!!」

「・・・・・・4年前のクリスマス」

「そこは触れるなー! てゆうかアレは傷を負った上でだからカウントしないのっ!!」





現在、僕とロッテさんは派手に暴れた後始末やクールダウンを二人っきりでしてた。

みんなは先に戻っててもらって・・・・・・まぁゆっくりのんびりお話も込みでって感じ?

それも終わって、二人で夕方のイギリスの草原を歩く。ここは郊外だからやっぱり緑が多い。



白のYシャツにジーンズ姿に戻ったロッテさんは、左手で僕の頭を優しく撫でたりする。



・・・・・・あ、やすっちって言うのはアレから付けられた僕のあだ名です。





「まぁやすっち相手に模擬戦で勝ててもあんま自慢にはならないなーとは思ってるんだよね」

「へ?」

「多分やすっちは実戦で本領が発揮出来るタイプだからさ」



・・・・・・あ、ここは恭也さん達にも言われたところだ。訓練だと、どれだけ実戦に近くても動きが甘くなるって。



「命がけの状況の中で出す勝負強さがやすっちの持ち味。それにアタシもアリアも負けたわけだし」

「でも、腕が鈍ってるってだけかも知れませんよ?」

「いやいや、そりゃないでしょー。以前やった時よりずっと反応良くなってるし、単純に甘さが出ちゃうだけだよ」



言いながらロッテさんは僕の背中を左手で軽くポンポンと叩く。



「さっきのだって、その甘さが無かったらアタシがやられてたかも知れない。まぁそういう事だよ。・・・・・・でさ、やすっち」

「ほい?」

「アタシ達マジでメイドにならなくていいの?」



ロッテさんに真顔でそう言われて、僕は頭を抱えてしまう。・・・・・・あぁ、そう言えば今まで説明してなかったっけ。

実はね、闇の書事件の後にリーゼさん達は本気でメイドになりに来たの。だけど・・・・・・僕が全部ご破産にしました。



「・・・・・・やっぱリインフォースとフェイトちゃんが怖いか」

「・・・・・・はい」



その理由はいたって簡単。あのすぐ後にフェイトが婚約者になってリインフォースと仲良くなったりしたから。

結果、リーゼさん達をメイドにすると僕の胃が持たないと判断して・・・・・・泣いて謝り倒してイギリスに帰ってもらいました。



「特にフェイトがその、フォークを順手で」

「あー、震えなくていいからっ! てゆうか、アタシが悪かったから涙声禁止ー!!」



あ、ロッテさんがくっついて抱きしめてくれるのが・・・・・・結構大きいんだよね。ふかふかしてて幸せ。

それでそのまま歩いていると落ち着いて来たので、頭から両手を離した。



「でもやすっち。やっぱやすっちはもうちょいフラグ立て自重した方がいいって。
二人がそうなるのはやすっちが女の子に対してフラグ立てまくるのも原因だから」

「どうやってっ!? なんか普通にしてるだけでそういう風になるんですけどっ!!」

「いや、絶対普通じゃないからっ! てーかそういう自覚のないのは余計にタチ悪いってっ!!」



そう言ってからロッテさんが軽く顔を近づけて、僕の耳に息を吹きかける。それで僕の動きは止まって身を震わせる。



「うん、タチ悪いね。アタシもアリアもメイドになる覚悟決めてたのにさぁ。お父様とも相談したんだよ?
将来的には契約移行して、アンタの使い魔になった方がいいのかなーとかってさ。ほら、お父様もう高齢だし」



え、そんな話してたのっ!? てゆうか抱擁深くするのはやめてー! あと声が色っぽいのもおかしいからー!!



「ねぇやすっち・・・・・・ううん、ご主人様。アタシ達は今もそのつもりだけど、どうする?」

「いや、その・・・・・・えっと」

「アンタが望むならなんでもご奉仕するよ? だってアンタはアタシ達のご主人様なんだから。例えば」

「例えば?」

「・・・・・・こうしたりとかー!!」



そう楽し気に言って、ロッテさんは僕の身体をくすぐり・・・・・・だ、だめっ! 脇は弱いー!!



「ロ、ロッテさんやめてー! くすぐったいっ!! くすぐったいからー!!」

「うっさいっ! エッチな事想像して顔真っ赤にしてたくせにー!! このこのっ! 色気づきやがってー!!」

「想像してないからー!!」

「してたでしょー! てーかあと1年早いから我慢しろっつーのっ!!」

「え、なんであなたも13歳からOK設定持ち出すっ!? それは世界のグローバルなわけですかっ!!」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『クロノ、覚悟しときなよ? ロッテの復讐はキツイと思うなぁ』

「何の話だっ!? そもそも僕は君に通信をかけただけで何もしてないだろっ!!」



さて、アースラの艦長になってしまった僕は現在仕事中。実は今回の航海任務はフェイトも手伝ってくれている。

まぁその・・・・・・すまん、人手が足りなくてな。だからため息を吐いて『イギリス』と呟くのはやめて欲しい。



「それで、久々の家族の再会はどんな感じだ?」

『あー、そっち心配してくれてたか。うん、私達も父様も大丈夫。
・・・・・・あの時恭文君から突きつけられた罪の数え方は、忘れてないよ』

「ならいい」



まぁ別にそれだけではなかったんだが・・・・・・よし、せっかくだし後でグレアムさんにも少し挨拶をしておこう。



『でも恭文君、相当いい感じだね。ロッテとの模擬戦でもその成長具合を遺憾無く発揮してたし』





アリアはそう言いながら、嬉しそうに画面の中で笑う。おそらく本当に予想以上に恭文が伸びてるのを感じたんだろう。

・・・・・・アリアはあの一件で殺し合いを演じたからか、恭文の実力を非常に高く評価している一人だ。

そのために恭文は、アリアもそうだがロッテとも仲が良い。もちろんグレアムさん達が罪を数えている事が前提だが。



まぁそういうのを抜いても、アリアは基本的にお姉さんで面倒見が良い方だしな。恭文の好み・・・・・・この表現はおかしいな。





『一応聖夜学園でのアレコレも聞いてるんだ。そのせいで相当良い経験してるね。
それでちょっとハードボイルドな風格とかも出てきてさ。・・・・・・ただ、はやて共々ちょっとなぁ』

「どうかしたのか?」

『まず恭文君はその・・・・・・まぁまぁ知ってはいたけど少々サディスティックな部分がねぇ?
クロノ、アレはホントにフェイトちゃん共々矯正した方が良い。相当ドSだから』

「・・・・・・知っていた。アイツは相手に『靴を舐めろ』と言われたら『じゃあお前が手本で舐めろ』と言い出す奴だからな」





なお、これは比喩だが本当にそれっぽい事をした事がある。前に仕事で追っていた犯人に人質を取られた時だな。

アイツはこう、そういうので相手の下に屈する事を極端に嫌う。むしろその状況で相手を更に脅して屈服させようとする。

そういう時はその、とても楽しげな顔をするんだ。とりあえずその犯人と人質が顔を真っ青にして引くくらいにはな。



まぁその手の事で泥沼にハマる心配はなさそうなので安心はしたが、フェイト共々アイツの将来に不安を覚えた瞬間だった。





『そ、そっか。やっぱ気づいてはいたんだ。で、矯正は無理そうな感じ?』

「そもそもどうやって矯正すればいいかを聞きたい。とりあえずはアレだ。
アイツに『靴を舐めろ』と言わなければ問題はない。それで恭文はともかく、はやての方は」

『あー、うん。父様から少し聞いたんだけど、変にスレちゃってる感じなんだよね。
こう・・・・・・無意味に社会人やってるというかなんというか』



はやてとは仕事関係でよく会うし、アリアやグレアムさんが何を心配しているのかは今ひとつ分からない。

というのも、特におかしいという様子が見えなかったからだ。ただ、赤ん坊の頃から見てた家族からするとまた違うらしい。



『クロノ、そっち戻ってから少し気をつけておいてくれる?
あとでまた父様からお話があるかも知れないけど』

「まぁよくは分からないが・・・・・・話を聞く事だけは分かった。
それでアリア、実は用事がもう一件あってだな」



正直言いにくい部分はあるんだが・・・・・・言わないままというわけにはいかない。僕は今更だが、覚悟を決めた。



「まずこれは確定情報じゃない。だから慌てず落ち着いて対処してくれ」

『また大げさだね。なに、相当大事?』

「そうなるかも知れない。実はレティ提督から連絡をもらった。
局の武装局員が数名、数日前から無断欠勤をして連絡が一切つかない」

『・・・・・・は?』



通信の中のアリアが、ワケが分からないと言いたげな顔になるのは当然だ。

確かにこれだけで事件どうこうという話になるはずがない。だから、ここからが重要なんだ。



「それでその局員達には、一つ共通点がある」

『察するにそれがあるからレティ提督がクロノに連絡をして、私達にと。それってどんなのかな?』

「その局員は全員ある事件で親しい人を亡くし、その事件の主犯を・・・・・・その根源となったあるものを非常に恨んでいる。
行方が分からなくなってから判明した事だが、どうやらそれに関してここ数年に渡って詳しく調べ回っていたらしい」



しかもそれは、その事件自体が一応でも円満解決した今の話だ。

なんとなしに思い当たる部分があるのか、アリアの表情が険しくなった。



『なるほど、全員揃ってそれに対して復讐のために動き出した可能性があると。
まぁ聞く必要があるとは思えないけど一応確認。クロノ、それはなに』

「・・・・・・闇の書だ」

『・・・・・・やっぱりか』





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



それからまた色々と話して、しばらく連絡を密に取る事が決定した上で、通信を終えた。



それですぐに別の通信を繋ぐ。その画面の中に映るのは・・・・・・フェイト。





「フェイト」

『話は聞いてた。とにかくこっちの方でも調査だね。でも・・・・・・大丈夫、だよね』

「大丈夫だ。向こうにはリーゼ達にグレアムさんも居る。簡単にはやられまい」

『いや、それだけじゃなくて・・・・・・うぅ、どうしてこんな時に』





フェイトが何を悩んでいるかは分からないが、少し考えてしまった。

罪人はいつ許されるのだろうなと。・・・・・・・・・・・・あぁ、分かってるさ。

罪は償いも出来なければ許される事もない。だから数える必要がある。



数えて向き合い、その上で傲慢でも笑って生きる道を探す。

罪を犯したから終わりではなく、先に繋がる何かを見つけるために罪を数えるんだ。

僕は恭文からそれを教えてもらった。ならば、はやて達はどうだろうか。



今のはやて達は、本当に罪を数えているのだろうか。おそらく焦点はそこになる。

シグナム達もそうだが、恭文もはやても罪がある。それはあの事件の際に恭文が言及したところだ。

公的な部分から心情的や家族的や・・・・・・色んな意味で、みんなには罪がある。



もしも今のはやて達がその罪を数えていないのなら、この復讐は正当化されてしまうのだろう。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・ギル・グレアム提督の家に居るのか」

「元・・・・・・だな。しかし悠々自適に旅行とは腹立たしい。罪人風情が何様だ」



そうだ、奴らに幸せを願い堪能する権利などない。俺達の意志は・・・・・・正義は更に昂ぶる。



「まぁ今は堪能させてやればいい。後で地獄を見せてやるのだけの話だ」

「だが本当にやれるのか? ギル・グレアム提督は歴戦の勇士。それに使い魔も居る」

「なら・・・・・・八神はやての弟をさらっちまおうぜ。魔導師みたいだが、ガキだったら楽にやれるだろ」

「バカを言うな。そんなことをすれば我々もこの罪人共と同じレベルだ。
なにより八神恭文はオーバーSの犯罪者を次々と屠っている実力者と聞いている」

「あぁ、あのフォン・レイメイも止めたってやつか。あんなの嘘に決まってんだろ。何ビビってんだよ。
てーかそれで相手を止められるなら御の字だろ。相手は強敵なんだぜ? 手段選んでる場合じゃないって」



・・・・・・まぁ確かに。たかだか10歳前後の子どもに、そんな真似が出来るはずがない。

そもそもそれが出来るなら、とっくに局が捕まえているはずだ。そうだな、ここは気にする必要もないだろう。



「そうだな、そういう場合ではないかも知れんな。しかし悲しいなぁ」

「あぁ? 何がだよ。これからあのクズ共を血祭りにあげられるってのに」

「それでも悲しいんだ。なぜなら」



俺はデバイスを構え、今不埒な発言をした奴の足を撃ち抜いた。

ソイツの隣に居たために余裕で出来た。もちろん撃ち抜いたのは両足ともだ。



「がぁ・・・・・・!!」

「獅子身中の虫と成り得る存在がここに居たからだ」



ソイツは崩れ落ちて、信じられないような顔で俺を見る。だが反撃をされる前に俺はバインドでソイツをふんじばった。

両手に両足、そして口もバインドで縛り上げたために、ソイツは苦しそうにもがき始める。



「八神恭文を誘拐・・・・・・復讐の対象にするなど、言語道断だ。彼は我らの同志足りえる存在。
それに危害を加えようとする貴様の方がクズだ。だがお前を逃がして局にバラされても面倒」



俺は優しく・・・・・・優しく笑いかける。どういうワケか痛みに震えてもがき続ける男を安心させるように笑顔を浮かべる。

またデバイスを構え、魔力弾を生成。もちろんスタンタイプので意識を奪うだけのもの。死にはしない。



「それにお前もこの計画には乗りたいのだろう? だから『鏡の贄』となれ」

「ん・・・・・・んんー!!」

「そうかそうか、そんなに贄になりたかったのか。それはよかった。実は数が足りなくて困っていたんだ」



贄は真っ青な顔で首を横に振り続ける。だがそれでも俺は、トリガーを引いた。



「ありがとう、同志よ」



魔力弾は額を撃ち貫き、贄から意識を奪った。・・・・・・場が静かになり、俺はデバイスを持ったまま再び同志達に向き直る。



「とにかく人質関係は無しだ。・・・・・・いいか、これは粛清だ。そのためには正しくなければならない。
言うなれば世界を乱し不幸を撒き散らした挙句、のうのうと生きている害虫共を駆除するための聖戦」



左拳を上げて、強く握り締める。その手の中に仲間達の顔が浮かび・・・・・・怒りが再燃する。



「そしてこの見るも汚らわしい害虫共は我々に駆除される。もう、その定めを変えることなど出来ん。
そうだ・・・・・・我々は正しい事を成そうとしている。だから変えられるはずもない」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ルルルールルールルルー♪」

「・・・・・・フィアッセ、ご機嫌だな」



スクールに戻ってから校長室で色々と書類を片している最中、ずっと横についててくれたエリスが困った顔をする。



「うん、ご機嫌だよー。恭文くんにまた会えたから」



それで私は笑顔で頷いて・・・・・・やっぱりご機嫌なんだー。それについチュってしちゃったから、更にご機嫌。

ふふ、あの時の恭文くんのビックリした顔は今思い出してもなんだか楽しい。



「だがフィアッセ、私は前々から気になっていたんだが」

「なに?」

「いや、自分でもいきなり過ぎる質問だとは思うんだが・・・・・・彼は一体何者なんだ」



エリスが軽く首を傾げながら私の事を見ている。ついエリスの首の角度に合わせて、私も首を傾げてしまった。



「何者・・・・・・うーん、恭也と美由希のお友達で、すっごく強い子。それで私の婚約者だよね?」

「いや、そういう事ではない。彼はまだ小学校に通うような年齢だろう」

「うん」

「にも関わらず銃弾や刃物による攻撃が飛び交う実戦をこなす。
私やガードの人間でさえ遅れを取るような手練と対等に渡り合い、挙句追い詰めている」

「・・・・・・うん」



エリスが何を言いたいか分かった。どうしてそういう事が出来るのかが疑問なんだ。



「もちろん相応の訓練を積んで、そういう特殊能力者だというのは分かる。だが細かいところが分からないと思ってな」

「・・・・・・エリスは恭文くんの事、そういう部分があるから怖いとか嫌いとか思ってる?」

「あー、それはないな。というか、すまん。ただ本当に疑問に思った事なんだ。
私もキョウヤ達が信頼している様子だし、根掘り葉掘り聞くのもアレだから聞かなかったんだが」

「今さらだけど気になっちゃったと」

「そういう事だな。特にその」



エリスは私の頭に乗っている子を見る。白くてふわふわで妖精みたいなその子は私の頭の上で寝てたりする。



「最近はその子の事もあるからな。もしかして私は、周囲の不思議な事に無頓着過ぎるのではないかと」

「それでちょっと反省しちゃったとか?」

「まぁそんなところだ。・・・・・・しかし、本当に大丈夫なのか?」

「うん、大丈夫みたい。というか・・・・・・ほら、3年前のアレとかがあるから」



机の一番上の引き出しから、白い手の平サイズの端末を取り出す。それを見て・・・・・・少し強めに握り締める。



「もしかしたらこう、何か関係があるのかも。ほら、アレもいわゆるモンスター的なものが出てきたし」

「アレか。・・・・・・でもそれなら余計に誰かに相談した方が良いかも知れないな。
ほら、最近ネットで知ったって言う・・・・・・日本の中学生とか。彼はそこの辺り詳しそうなんだろう?」

「そのつもりだよ。改めて連絡を取ってみるつもり。でも、イリアからは止められてるんだよねー」

「まぁ君は世界的歌手だからな。不用意な接触は心配されてるんだろう。しかし・・・・・・不思議だなぁ」

「でも可愛らしいよね。それにすっごくいい子だし、私の言う事も全部分かってるみたいなんだ」





でも、恭文くんの・・・・・・まぁここはいいか。もしかしたら恭文くんには話し辛い事なのかも知れないから。

それに私だって恭文くんに話してない事がある。ただ単に話さなかった事や、話しにくかった事とか・・・・・・色々ね。

でももし・・・・・・もしも、話しにくかった事の一つを聞いたら、恭文君はどうするんだろう。



あの子は普通とは違うものに対して、どういう目を向けていくのかな。



恭文くんなら大丈夫だって思ってても、やっぱり怖い。こういうのは慣れないものなんだね。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ねー、お風呂一緒に入ろうよー! アタシが隅々まで洗ってあげるからさー!!」

「嫌です」



現在僕達は夕飯タイムです。それで付け合せのポテトサラダをパクリ。

膨れる顔した猫なあの人は気にしない方向で行く。



「むむ、やすっち素直じゃないなぁ。・・・・・・あ、私の身体も隅々まで洗っていいよ? それならいいでしょ」

「いいわけあるかボケっ! つーか、普通にそれセクハラですよねっ!? なんでいきなりそんな話になるんですかっ!!」

「大丈夫だって。それで胸とかいやらしく揉まれても、やすっちだから許してあげるし。
・・・・・・あ、それ以外でも触りたいとこあったらいくらでも」

「そういう話じゃないからぁぁぁぁぁぁぁぁっ! そして僕の話を聞けっ!!」



くそー! 僕のハードボイルドがまた崩れるー!! シオンもショウタロスも助けてくれないから辛いしー!!



「ロッテ、もうやめておきなさい。恭文君困ってるじゃないの」

「えー。だって、やすっちからかうの楽しいんだもん」

「からかわないで欲しいんですけどっ!?」





この人には多分勝てない。というか、視線が厳しい。

具体的に誰が厳しいかと言うと、シャマルさんとかリインフォースとか?

まぁそこは無視して、目の前のビーフシチュのお肉をパクリ。



これはイギリスのアンガス・ビーフがたっぷり入っているというボリューム満点のビーフシチュー。

・・・・・・あぁ、とろとろだよー。それでとっても美味しいよー。ごろごろ入っているお野菜も美味しいよー。

なお、アンガス・ビーフというのは高級牛肉の代名詞的存在なんだ。



アメリカなんかでも飼育されている品種だけど、スコットランドの南東部アンガス州が起源。

これ、アリアさんが主立って作ったと言うから・・・・・・凄いなぁ。

だってて10人近く居るのに。つーちゃんもいつもと違って、フルサイズで美味しそうに食べてるし。





「それで、はやて君達は春休みいっぱいはこっちに居る予定だったね」



グレアムさんがシチューを食べる手を止めて、お姉ちゃんを見ながら話しかけてきた。

お姉ちゃんは一瞬表情を曇らせるけど、それでもすぐに笑って頷く。



「あ、はい。なんや恭文的に見てみたいとこもあるらしくて、のんびりしようと」

「ほう、どこかね?」

「大英博物館です。思いっきり観光スポット的ではあるんですけど、もうすっごい楽しみでー」

「当然、私とショウタロスもです」

「前に来た時は余裕なかったしな。だから楽しみだよなー」





さて、大英博物館というのはイギリスの首都であるロンドンにある世界最高の博物館。

貴重な文化物が数多く展示されている広大な博物館なんだ。

僕達は前に来た時に見れたら見たかったんだけど・・・・・・フィアッセさんの警護があったから行けなかった。



でも、今回は違う。思いっきりプライベートなんだから。だから好きなだけ入り浸れる。





「あ、そこは僕だけじゃなくてシオンとショウタロスもなんです。二人ともワクワク顔で」



僕の前に居る二人を指差すと、グレアムさんもリーゼさん達も嬉しそうに笑った。



「そうか。あそこには私も何回も足を運んだが・・・・・・実に素晴らしいものが沢山ある。
行く度に新しい発見があってね、それで年甲斐もなく胸が震えるんだ。きっといい勉強になると思うよ」

「ホントですか? うー、なら余計に楽しみだなー。ね、二人とも」

「えぇ」

「てーかアレだ、もう行こうぜ? オレティラノサウルスの骨格標本とかマジ見たいんだよ」



あははは、ショウタロスのテンションが何時にも増して高いなぁ。ハードボイルドはどうしたんだろ。

でもいいやー。僕だって楽しみだし、今回の旅行が決まってからずっとワクワクだったしー。



「うーん、やすっちもしゅごキャラーズもあそこにあるようなものに興味あったんだ。ぶっちゃけアタシと同類だと思ったのに」

「あぁ、ロッテは退屈そうにしてたわよね。おかげで父様も私も恥ずかしかった」



アリアさんが意地悪く笑いながらロッテさんを見る。するとロッテさんは完全に固まっていた。



「というか、自分と一緒にしちゃ失礼だよ。恭文君はロッテと違って探究心旺盛なんだし。
当然そのしゅごキャラも然りって事じゃないの? まぁ私達には見えてないけどさ」

「にゃんだとー!? それじゃあアタシがやすっちやしゅごキャラよりダメみたいに聞こえるじゃんっ!!」

「いや、そりゃ当然だよ。私はそういうつもりで言ったんだから」

「むきー!!」





・・・・・・うん、分かってた。なんとなくこういう人だったんだなーって、分かってたよ。

僕はユーノ先生の発掘の手伝いに何回か付き合ったりしたせいかな。そういうのすごく興味あるの。

昔の文化とかその遺物とか・・・・・・戦うハードボイルドな考古学者って言うのも楽しそうだなぁ。



うーん、やっぱ色んな事やってみたいなぁ。もっともっと・・・・・・沢山のキラキラを見つけていきたい。





「あと弟君、あなたはもう一つあるでしょう」

「あー、そういやそうだったな。てーかアタシ達も改めて挨拶とかした方がよくないか?」

「その方が良いかも知れないな。弟君がお世話になっている様子だったわけだし」

「ほう、他になにかあるのかね?」

「クリステラ・ソング・スクールです。弟君とスクールの校長が親しいようでして」



シグナムさんがそう言うと・・・・・・グレアムさんやリーゼさん達が固まった。それで次の瞬間、驚きの表情を浮かべた。



「クリステラ・ソング・スクールッ!? え、やすっち親しいってどういう事さっ!!」

「というか、私達凄いファンだったんだけどっ! 恭文君・・・・・・君いったい何者っ!? あ、またフラグ立てたとかっ!!」

「アリアさん、なんでそうなるっ!? 僕に対してのイメージがすっごく気になるんですけどっ!!」

「恭文君、まぁ私は君の恋愛に口出しするつもりもないが・・・・・・全員に対して責任を取る覚悟を決めた方が良いかも知れないね」

「グレアムさんも黙ってっ!? ほら、シチュー冷めちゃうからっ!!
あとそういうんじゃ・・・・・・そこの二人も睨むなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



食事が終わった後、外に出させてもらってフィアッセさんに電話。



というか、電話がかかってきたからお話してた。イギリスはもう夜で・・・・・・星空が綺麗。



最近の事とか学校の事とか、二階堂変の事とかを話して楽しく過ごしてた。





『・・・・・・ね、恭文くん』

「はい?」



それでいきなりフィアッセさんが押し黙った。黙って・・・・・・困ったように軽く唸る。



『なんだか、本当にモテるんだね』

「はいっ!?」

『だってリインフォースさんんもそうだし、シャマルさんもそんな感じだった。
フェイトちゃんは当然として、ゆうひもアレで・・・・・・相当モテモテだよ』



泣かない。絶対に僕は泣かない。なんか突き刺さったけど、絶対に泣かないもん。

でも星空が滲んで見える。だけどこれは涙のせいじゃない。ちょっとホコリが目に入っただけだ。



『それで私も何気に恭文くんLOVEだし』

「自分でそういう事言うのやめてくれませんっ!? いや、僕が悪いんですけどっ!!」

『ごめん、ちょっといじめ過ぎちゃったね。えっと、それでね』



フィアッセさんがまた黙った。それで星空の下、僕はつい首を傾げてしまう。



『あのね、いきなりなんだけど一つ質問。普通と違うって・・・・・・どう思う?』

「はい?」

『例えば、普通と違う事ってあるよね。こういう言い方は差別的な言い方かも知れないけど、障害で知能が遅れていたり。
もしくは身体に不自由な部分を持っていたり、特殊な病気を持っていたり。あとは何かの漫画やアニメみたいな感じだけど』



フィアッセさんはそこで少し言いにくそうに、声のトーンを落とした。



『普通とは違う力やそういう部分を持っていたり。そういう部分を親しい人が持ってたら・・・・・・どうする?』

「・・・・・・うーん、特に気にしないです」



フィアッセさんがどうしてそういう事を聞くのか分からないけど、ここはちゃんと答えた方がいいみたい。

右手でD-3をまた取り出して、今は真っ暗な画面を見る。



「その普通じゃない方が、中身まで悪い意味で普通じゃない・・・・・・とかじゃなければ」

『本当?』

「本当です。てゆうか、それ言えば僕だって普通じゃないですし」



少なくとも地球の普通とは外れてるだろうしなぁ。あとは局的にも同じだと思う。



『そう言えば・・・・・・あの、ごめんね。変な事聞いちゃって』

「大丈夫です。だって、フィアッセさんだし」

『それは良い意味? それとも悪い意味でかな?』

「もちろん良い意味でです」



躊躇い無くそう言うと、フィアッセさんは電話の向こうでやっと笑ってくれた。それがとても嬉しかったりする。



『なら、イギリスに居る間に洗いっこだね。それでバストタッチもして欲しいなー』

「だからなんでそうなるっ!?」

『婚約者として当然だよ。それにライバル達に負けないようにするためにはこれしかないんだから』



いや、いったいどんな理屈っ!? あぁ、なんで僕の周りはこんな人ばかりなんだよっ! 絶対おかしいからっ!!



『とにかく・・・・・・ん、そうだな』

「はい」

『やっぱり一度会いたいんだ。どうしてもね、ちゃんと話して相談したい事があるんだ。というより、話したくなった』

「・・・・・・はい」





そのままおやすみを言い合った上で僕達は電話を終えた。でもフィアッセさん・・・・・・うーん。



まぁここはいいか。何が出ても大丈夫な覚悟は決めておこうっと。さて、次だ次。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『・・・・・・そっか、それは大変だったね』



次に通信をかけたのはフェイト。時差で考えると・・・・・・ぎりぎり大丈夫な時間帯。

うーん、でも報告じゃないかな。ほら、ラブコールは大事だし。フェイトは婚約者で大好きな女の子だから。



「うん、大変だった。特にグレアムさん達の熱の入れよう? もうね、キャラ変わってるし」

『スクールはイギリスが本拠地だし、そういうのもあるのかも知れないよ?
スクールの活動は世界的にも有名だから、地元住民としては誇らしいのかも』

「あ、なるほど。それは考えてなかったかも。フェイト、さすが」

『ありがと。でも、よかったね』



なにが? というか、なんでフェイトはそんなに嬉しそうな声を出すのさ。



『フィアッセさんにまた会えて』

「・・・・・・ごめんなさい」

『もう、謝らなくてもいいのに。フィアッセさんは本当に素敵な人だし、ヤスフミが憧れるのも一応理解してるつもりだよ?
というか、実は私も憧れてるんだ。もちろん形は違うだろうけど、あれくらいキラキラした大人になりたいなーって』



フェイトは優しい声でそう言ってくれるけど、今までの経験からどうしても・・・・・・うぅ、僕フェイトのお尻に敷かれてるなぁ。



「でもフォーク・・・・・・順手」

『それはヤスフミの心がけ次第かな? あんまり余所見しちゃうと、私いっぱいヤキモチ焼いちゃうかも。
フィアッセさんとは公認浮気だけど、同じくらい・・・・・・ううん、それよりもっと私の事を見て欲しいな?』

「き、気をつけます」

『ん、よろしい』



フェイトは通信の向こうで楽しげに笑っている。それでまぁ、フォークのトラウマがなんとか落ち着いてくる。



『あと、キメラモンの様子はどう?』

「とりあえずは大丈夫。やっぱリインフォースやシャマルさんに話してて正解だった」



二人がさり気なくフォローしてくれてるおかげで、僕もだいぶやりやすいもの。そこは本当に助かった。



「というか、フェイトもレナモンは」

『そこも大丈夫だよ。クロノ達にも気づかれてない。ただちょっと残念な事があって』

「なに?」

『レナモン、ステルス能力を使ってずっと側に居てくれるの。
それで特に問題はないんだけど、その・・・・・・ポコモンの方が可愛いなーって』



・・・・・・そう言えばフェイト、ポコモンを初めて見た時信じられないくらいに目を輝かせてたなぁ。

そっか、だからポコモンじゃないから不満なんだ。だからちょっと涙目なんだ。



「まぁその、レナモンによろしくね? 色々頑張れって」

『うん。・・・・・・あ、ごめん。ちょっと仕事の連絡入っちゃった』

「ううん、大丈夫。こっちこそ長話しちゃってごめんね」

『そんな事ないよ。その、ラブコールは長年関係を続けるために必要なんだから。
つまりその、私はヤスフミとずーっとラブラブするために頑張りたいな・・・・・・と』

「そ、そうなんだ。ならその、迷惑そうじゃなくて良かったかも」



二人で顔を真っ赤にして見つめ合って・・・・・・うぅ、嬉しいけど身体が熱いよ。

フェイトと知り合ってもうすぐ5年。婚約者になってからは丸4年で・・・・・・なんかどんどんフェイトとの事好きになってるような。



「それじゃあフェイト、お仕事頑張ってね」

『うん。ヤスフミ・・・・・・気をつけてね』

「・・・・・・うん」





そう言って、僕達は手を振りながら通信を終えた。でも、終えた途端に妙な違和感を感じた。

それが何だろうと考えて見る。それで思い当たった。さっきのフェイトのお別れの言葉だ。

あの時のフェイトの言葉に少し妙なものを感じた。海外でいつもと違うからという意味合いに受け取った。



だけどなんかこう、それだけじゃないような・・・・・・うーん、なんだろう。

その違和感が何かどうしても分からなくて、それについて考えながら草むらから立ち上がる。

それでグレアムさんの家の近くにある森をジッと見て固まってしまった。





≪・・・・・・どうしました?≫

「お兄様、何か気になる事でも」

「ん、ちょっとね」

「いや、ちょっとって・・・・・・お前マジどうした。なんか真顔だぞ」



うん、だと思うよ。だけどその・・・・・・なんかざわざわする感じがする。

それで僕はそれが気のせいだとは思えない。だってこういうの、何回か感じた事があるから。



「アルト、念のためにサーチで常時この近辺の状態探っておいて。あと、グレアムさん達やお姉ちゃんの行動や状態も。
それで妙だと思う所があったらすぐに教えて。ただし他のみんなには絶対に気づかれないように。あ、ショウタロス達もお願い」

≪いや、それは構いませんけど・・・・・・またいきなりなんでそんな話に?≫

「そうだぞ。しかもオレ達もっておかしいだろ。確かにオレ達はグレアムさんから見えないけど・・・・・・おい、まさか」

「お兄様、何か感じたのですか?」

「・・・・・・うん」



何か事件というか変化が起こる時、妙な胸騒ぎを感じる時がある。もしくは最悪ゾーンに入る直前?

そのせいかこういう感覚は結構慣れてる。それで分かるの。これは、無視しちゃダメだって。



「とにかく、お願い」

≪わかりました。まぁ何が気になってるかは知りませんけど・・・・・・杞憂で済む事を祈りますよ≫

「うん、そう思う。心から思うよ」



この胸の中に広がった小さな不安が、単なる気のせいでありますようにってさ。

それから僕達はしばらくの間、ざわめく森の中をジッと見ていた。



「・・・・・・あ、次は知佳さんにメールしないと。写メも色々取ってるし、喜んでくれると嬉しいなー♪」

「それでお前はそこから早速それかよっ! てーかマジで自重しろっ!? だからロッテとかにも言い寄られるんだよっ!!」

「うっさいバカっ! てーか僕は知佳さんとフェイトは覚悟決めてるからいいのよっ!!
他にもそう言ってるのにアイツら聞かないんだよっ!? 僕にそれでどうしろとっ!!」

「でもお兄様、メイドにすると言ったのはお兄様ですしリーゼさん達には責任を取る必要が」

「そこは言わないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」





とりあえずイギリスに居る間に、リーゼさん達とは改めてちゃんと話す必要があると思った。

ほら、契約移行したって僕の魔力資質じゃリーゼさん達これまで通りなんて無理だろうしさ。

なにより本気でそう考えてるなら、やっぱり僕も同じだけ真剣に考える必要は・・・・・・あるよね?



ただそんな話を改めてショウタロスとシオン達としている間も、やっぱりザワつきは消えなかった。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「フェイト、恭文にあの事を言わなくて良かったのか」



通信を終えた私の背中から声をかけてきたのは、当然レナモン。

レナモンは背中を壁に預けて両腕を組んだまま立っている。



「うん、まだ確定情報じゃないしね。もうちょっとちゃんと調べてからじゃないと、変に不安にさせちゃうから」

「そうか。だが解せないな。なぜ恭文や恭文の家族が復讐の対象にされる。そもそも闇の書とはなんだ」





・・・・・・あ、そう言えばレナモンにはそこをちゃんと説明してなかったかも。



ステルスでずっと後ろに居たから、大体の事は分かってるみたいだけど・・・・・・よし、話しておこうっと。



気にしてるのは、向こうに一緒にキメラモンが居るのもあるもの。もう無関係なんかじゃないよ。





「そこも事情があるんだ。あのね、闇の書って私とヤスフミやレナモン達が生まれてくるずっと前からあった物なの」

「というと?」

「数年から10数年周期で目覚めて大災害をもたらす最強最悪のロストロギア。
はやてが元々所有していて、向こうに居る八神家の大半が・・・・・・そのロストロギアの中に居たんだ」





あの事件からもう4年。私にとっては大事な、大好きな男の子と出会えて変わるキッカケをもらった重要な事件。

確かに私達にとってはもう終わった事だった。でもまだ、事件の痛みに震えている人達が居る。

だけど・・・・・・私は頭に浮かんだ言い訳の言葉を頭を振るって追い出す。うん、今考えた事はきっと言い訳だ。



なにより私はこれと全く同じ事を言ったスゥちゃんの言葉を否定した。それは違うと結論を出してる。



だから辛くなってしまうのは、自分でも情けない。どうやら私はまだまだ生卵みたい。ハードボイルドは遠いね。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



はやて君達がうちに来てから、早くも三日が経った。時間はまだ朝靄が消えない早朝。私は家の近くの森に来ていた。

いつもの散歩・・・・・・というより、ロードワークのコース。普段ならリーゼ達も付き添うのだが、今日は一人。

なぜならいつもより少しだけ早い時間に外を出たからだ。しかしこれは早朝というより・・・・・・夜明け前だな。



それでもここはいつも歩いている道。例え視界がさほど良くなくても、なにかに躓くような事もない。

そんなちょっとした事が嬉しかったりするが、それはもしかしたら老いた故の喜びかも知れんな。

まぁそこはいい。問題はそんな朝の心地よい空気を、見事にぶち壊しにしようとする輩が居る事。



局を引退してから早4年、こういう空気に触れるのは久々で・・・・・・掴むのに少々手間取ってしまった。





「・・・・・・そろそろ出てきてはどうかね」



足を止め、私は森の中で声をかける叫んでいるわけではないが、それでも森に声が響く。



「せっかく話が出来るようにと一人で来たんだ。・・・・・・早くしたまえ。私はさほど気が長い方ではない」





少し声のトーンを落とし気味にそう言って、それは木の影からようやく出てきた。



身長にして180ほどの男。その身には・・・・・・本局の制服?



なるほど、やはりクロノから聞いたとおりというわけか。またこんな時に。





「お初にお目にかかります、ギル・グレアム提督」



男は敬礼などつけてそう言ってきた。一応の礼儀は心得ているという事だろう。ただ・・・・・・一つ間違っている。



「・・・・・・元、だ」





日本には因果応報という言葉がある。自分の行いはどんな形であれ自分に帰ってくるという言葉だ。

どうやらこれもその類らしい。ただし神は、単純な不幸を下すよりもずっと残酷な形で罰を与えた。

それは過去の自分をまるで鏡に映したかのような存在との対峙。だからこそ年甲斐もなく胸が痛んでしまう。



私もリーゼ達もあの時、今目の前に居る男のように疲れ切った悲しい目をしていたのだろう。

そして罰は対峙しただけでは終わらない可能性がある事を、私はこの時予感していた。

いや、私達はまだ良いのかも知れない。おそらくそれは今のはやて君にとっては余りに残酷過ぎる罰だ。



なぜなら彼らの心そのものを変えられない場合、はやて君と守護騎士達の罪は更に増えるからだ。



それも決して拭えないほどに深い罪。・・・・・・出来れば、言葉が通じて欲しいと思いつつ私はまずは対話に踏み出す事にした。





(第3話へ続く)




















おまけ:※ とある八神ヤスフミと八神ヒカリのデジモン講座 今回は選ばれし子どもの象徴デジヴァイスです。

ゲストとして光子郎さんもいます(拍手の転載)





光子郎「デジヴァイスとは、僕達とパートナーデジモンを繋ぐ携帯端末。
まず代表的な機能が、選ばれし子どもの心の特質の力をデジモン達に伝える事」

恭文(A's・Remix)「簡単に言えば進化させる事が出来るわけだよ。
それでこの特質の力は、紋章とタグというアイテムでその力を増す事が出来る」

光子郎「その通りです。デジヴァイスがあるからこそ、僕達はパートナーデジモンと一緒に戦う事が出来ます。
普通のデジモンとパートナーの居るデジモンの一番の違いはここです。僕達は僕達自身の心の力で、みんなの後押しをする」

ヒカリ(デジモン02)「それで他の機能は、例えば開いている状態のデジタルゲートを通過する事が出来る事。
ようするにデジヴァイスがそのためのパスになるんだ。それで現実世界とデジタルワールドの行き来が出来る」

恭文(A's・Remix)「ただ行き来を出来るだけで、実際にゲートを開いたりは無理なんですよね?」

光子郎「えぇ。僕や太一さんが持っている初期型のデジヴァイスでは、あくまでも行き来するだけです。
ただ恭文くんや大輔君、ヒカリちゃんが現在所持しているD-3はゲートそのものを開く能力が付与されてします」

ヒカリ(デジモン02)「だから私達も学校が終わったらデジタルワールドに普通に行けるの。
それでデジヴァイスには闇の力を払う・・・・・・一種の聖なる道具としての機能もある」

恭文(A's・Remix)「聖なる道具?」

光子郎「ようするに暗黒デジモンの力に対して対抗する機能が入っているんです。02時代にはあまり必要な場面はありませんが。
ただ僕達1999年の選ばれし子ども達が冒険してた時には、その手の力を持ったデジモン達と戦う事が多かったですから」

ヒカリ(デジモン02)「そういう時に私達の事を守るために、デジヴァイスがその力を発動する事もあったんだ」

恭文(A's・Remix)「・・・・・・なるほど」





(おまけ:おしまい)




















あとがき



恭文(A's・Remix)「というわけで、マジでリーゼさん達とは協議しようと思った八神恭文と」

フェイト(A's・Remix)「そ、そうだね。向こうは本気で考えてくれてたし・・・・・・必要だと思うフェイト・テスタロッサです。
でもヤスフミ、実際問題としては難しいよね? ヤスフミの魔力資質だと使い魔を保持しても」

恭文(A's・Remix)「うん。リーゼさん達今みたいに戦えるかどうか分からないしなぁ。
でもマジでメイドになろうとしてくれてるなら、やっぱりそういう事しないとダメだなーと」



(そして嫁が増えるのですね、分かります)



恭文(A's・Remix)「黙れバカっ! てーか実際それでどうなるか分からないしっ!!
・・・・・・とにかく今回は2話目。元の幕間よりも若干ボリュームアップです」

フェイト(A's・Remix)「でもシリアスで重い感じはあるんだよね。だって・・・・・・はやてとの事もあるから」

恭文(A's・Remix)「僕的にはこれからお姉ちゃんが程良くダメになっていく姿を見るのは楽しいんだけど」

フェイト(A's・Remix)「だからそれは変態発言だよっ! というか、そこに楽しみ見い出しちゃだめだよー!!」

恭文(A's・Remix)「でもフェイト、高梨奈緒って人は」

フェイト(A's・Remix)「あの人は本当に高度な変態だから見習っちゃダメっ!!」



(お兄ちゃんの事なんて、全然好きじゃないんだからねっ!!)



恭文(A's・Remix)「でもフェイト、そう考えると黒リンディさんとかもバカナムさんも愛せるよ?
あのダメな感じを見てはぁはぁ出来るくらいに変態ならOKなんじゃないかな」

フェイト(A's・Remix)「変態そのものがNGだって気づいてー!!」

恭文(A's・Remix)「というわけでみんな、みんなも僕を見習おう」

フェイト(A's・Remix)「それを読者に推奨しないでー!!」



(蒼い古き鉄、ついに上級者への道へ入ったようです)



恭文(A's・Remix)「というわけで、何気にデジモン要素0なA's・Remix三期だけど次回はどうなるんだっけ」

フェイト(A's・Remix)「えっと、この続きだね。基本的な流れは幕間と変わらないみたい。問題はその後?」

恭文(A's・Remix)「でも大丈夫。これでとまと読者はまた1ランクパワーアップするから」

フェイト(A's・Remix)「しちゃだめー!!」

恭文(A's・Remix)「というわけで、本日はここまで。お相手は八神恭文と」

フェイト(A's・Remix)「ヤスフミが変態にならないようにいっぱいいっぱいコミュニケーションしていきたいと思うフェイト・テスタロッサでした」

恭文(A's・Remix)「いや、僕は変態じゃないよ。ただ人より楽しみが多いだけで」

フェイト(A's・Remix)「その楽しみはだめー!!」





(蒼い古き鉄がアンチ物への答えの一つを出した瞬間だった。そう、アンチ物が好きな人達はみんな高梨奈緒だったんだ。
本日のED:高梨奈緒(Cv.喜多村英梨)『Taste of Paradise』)




















恭文(A's・Remix)「煩悩だって美徳なのー♪」

フェイト(A's・Remix)「ヤスフミだめー! それだとヤスフミがはやての事好きみたいだからー!!」

恭文(A's・Remix)「いや、好きじゃないよ? 僕は知佳さんとフェイト大好きだし」

フェイト(A's・Remix)「あ、そこは譲らないんだね」

恭文(A's・Remix)「うん。ただ・・・・・・お姉ちゃんのダメ具合を明るく楽しむためにはこっちかなーと。高梨奈緒師匠を見習って」

フェイト(A's・Remix)「だから違うのー! それとあの人見習っちゃだめだからー!!」

???「ふふふ、恭文くんもついにこっちの道へ来たかー。でも甘いっ! それをやるならひとつ屋根の下で暮らさなきゃっ!!
それでお姉ちゃんの部屋を定期的に検閲して、一緒に暮らすからこそ出来るイベントを毎日起こしてお姉ちゃんを翻弄するのっ!!」

恭文(A's・Remix)「ふむふむ、なるほどー」

フェイト(A's・Remix)「それであなたも出てこないでー! なにより前提がおかしいのっ!!
あとヤスフミははやてに恋愛感情とか持ってないからっ! あなたと違うからっ!!」










(おしまい)






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