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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第114話 『Death Label/悲しき宿命のバトル 前編』



※ ドキたま、前回起こった三つの出来事!!



一つ、イクトの存在があむの母や恭文たちにばれてしまった!

二つ、緊迫した中、唯世が訪れ、イクトはあむの前から逃げ出した!

三つ、恭文へブラックヤスフミから連絡が来た!!






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ラン・ミキ・スゥ『しゅ・・・・・・しゅごしゅご?』

ミキ「ドキッとスタートドキたまタイム・・・・・・なんだけど、あの・・・・・・コレはいったい」

ラン「もしかしてティアナさん脱走ルートの第10話と同じ? 読者からこういうのきちゃったの?」



(ざっつおーるらいと)



スゥ「あ、どうもそれっぽいですねぇ。と、とにかく・・・・・・今回はそんな感じだった前回からの続きですぅ」

ミキ「居なくなったイクトと唯世、崩れ落ちたあむちゃん、BYとの再対峙に動き出した恭文。
事態は混乱しまくりな感じではあるけどそれでも・・・・・・ううん、だからこそ止まる事は許されない」

ラン「あむちゃんが、そして私達が積み重ねてしまった『嘘』と向き合う時は・・・・・・きっと今」



(立ち上がる画面に映るのは、涙を流し続ける現・魔法少女。そして俯き瞳を細める王様)



ミキ「というわけで、今回からまたまたOPとEDも変わってお話は再加速」

スゥ「光編、最終決戦に向けて頑張っていきますよぉ」

ラン「それじゃあ今回もいつも通りに元気よく・・・・・・せーのっ!!」

ラン・ミキ・スゥ『じゃんぷっ!!』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



例えば、家で三人で遊んでいて廊下に置いてあった花瓶を僕や歌唄ちゃんが割ったとする。





というか、実際に割った。だってそれは昔本当にあった事だから。





割れた花瓶を見ながら三人でどうしたものかと思っていると、お母様にそこを見つかってしまった。










「まぁ・・・・・・これはどういう事ですかっ!? 誰、誰なのっ! こんな事をしたのはっ!!」



お母様は普段はとても優しい。ただ、たまにとても怖くなる時がある。小さい頃の僕はそれがどうしてか今ひとつ分からなかった。

でも今は・・・・・・今は分かる。お母様が怖くなる時はそこに必ず、イクト兄さんなり歌唄ちゃんが居た。



「そう、分かったわっ! あなたね、イクト君っ!!」



だからこんな風にお母様は何も聞かずにイクト兄さんを悪者扱いする。実際に割ったのは僕なのに。



「・・・・・・俺です。すみませんでした」

「呆れた・・・・・・なんてふてぶてしい子なのかしら。悪びれもしないで。
非常識な父親の血なのかしらね。唯世だけなら手のかからないいい子だったのに」

「お母様っ! あの、あの・・・・・・違いますっ!! これは僕が」

「あたしがっ!!」




それでイクト兄さんは何も言わない。何も言わずに無表情にそれを受け入れる。

それがどうしてなのかやっぱり分からなくて、本当に理解出来なくて・・・・・・僕は首を大きく横に振る。



「とにかくすぐに片づけなさいっ! こんなところお義母様に見られたら」

「私がなんです? 瑞恵さん」




お母様の危惧は全く無意味だった。だからお母様は驚きながら後ろを振り返る。

そこにはまだ元気で、凛とした佇まいでこちらに近づいてくるおばあ様が居た。



「お、お義母様っ!!」

「全く・・・・・・離れまで声が聴こえてましたよ?」

「構わないでくださいっ! コレは子どもへのしつけですっ!!」

「わめき散らすだけがしつけじゃありません」




お母様は不満そうだったけど、おばあ様のそんな一言で何も言えずに唇を噛み締める。

それでおばあ様は、割れた花瓶と僕達に向かって視線を向けた。



「唯世さん、イクトさん、バケツに水と古新聞を持ってきなさい。あと、掃除機も」

「「・・・・・・はい」」

「歌唄さん、いらなくなったタイツを探してきてちょうだい」

「・・・・・・うんっ!!」





















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



おばあ様は僕達が言われた通りのものを持ってくると、まずタイツを輪ゴムで掃除機の口に付けた。





それで掃除機をかけて割れた花瓶に近づけると、まるで魔法みたいに花瓶の破片が吸い込まれていく。










「・・・・・・タイツが破片に引っかかっていく。すごい」

「直接触ると怪我をしますからね。それにこうすると飛び散りません」




今考えると、タイツをフィルター替わりにしているのはすぐに理解出来る。

でも・・・・・・その時の僕達には、それがまるで魔法みたいに見えていた。しかも魔法はまだ続く。



「雑巾などで拭くと、布に破片が残って次に使った時に怪我をする可能性があります」



そう言いながらおばあ様は大まかな破片を回収した上で掃除機を離して、古新聞を手に取る。

佇まいは崩す事なく静かにしゃがんで、古新聞を水に付けて花瓶が落ちていた箇所にくっつける。



「だからこうして、濡らした新聞で拭き取るのです。あとはそのままゴミに出して」



そこまで言って、おばあ様の視線は古新聞からその様子を感心して見ていた僕達に移った。



「何をボーッと見ているんですかっ! みんなでやるっ!!」

『は、はいっ!!』




慌てて僕達三人は古新聞を手に取って、水をつけておばあ様と同様に動く。

その時、こっちを困ったようなイライラしているような顔で見ながら立ち去ろうとしていたお母様がみえた。



「形あるものは、必ず滅す・・・・・・壊れるものです」



でもあの時の僕は、お母様の事よりおばあ様の話と花瓶の後始末の方を優先した。だから視線をお母様からおばあ様に移す。



「だから物が壊れた事を怒っても、仕方のない事です。
けれど大切に使えば、それだけ人の役に立ってくれるものです」




おばあ様はそう言いながら、改めて僕と歌唄ちゃんとイクト兄さんに厳しいけどどこか優しい視線を向ける。



「分かりましたね?」

『・・・・・・はい』











イクト兄さんは誤解されてもいつもこの時みたいにただ黙って、僕らをかばってくれた。





大人達の事情はよく分からなかったけど・・・・・・それでも僕らはいつも一緒だった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・不幸を呼ぶヴァイオリン?」

「はい。その・・・・・・お母様が、そう言って」






そんな日々の中にも、悩みはある。それはやっぱりお母様とイクト兄さんの事。

イクト兄さんは、この時からヴァイオリンを弾くのが上手だった。

だから歌唄ちゃん共々時々イクト兄さんにおねだりして弾いてもらっていた。



演奏してる時のお兄さんはとても優しい顔をしていて、僕は大好きだった。





「おにーたんにヴァイオリンを弾いてもらってると、必ずお母様がすごい剣幕で」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「やめてちょうだいっ! この家ではヴァイオリンは禁止と言ったでしょうっ!?」

「お母様っ!?」

「その音、おかしくなりそうっ! あなたの弾くヴァイオリンは不吉なのっ!!
不幸を呼ぶのっ! 失踪した父親と同じようにねっ!!」






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・という感じで。僕やうたーたんがそんな事ないーって、やめてーって言っても全然やめてくれなくて」

「そうですか。本当に瑞恵さんは」




だから僕はおばあ様に相談する事にした。おばあ様はちょうど自室で華道の勉強中。

やっぱり凛とした佇まいは変わらなくて、緊張するのと同時におばあ様をカッコ良くも思っていた。



「唯世さん」

「はい」

「まずそんなものは迷信です。楽器という物は道具ですよ? 基本道具は人に使われるものです。
それなのにその道具に人の幸せやら不幸やらを左右されてはあべこべです」




おばあ様はそう言いながら、左手に持った百合の花の茎をもう片方の手で少しだけ切る。



「ただ、だからと言って道具を下に見るのも愚かなのですが」

「え?」

「道具は・・・・・・・そうですね、先日あなた達が花瓶を割った時の話を覚えていますか?」




当然覚えているので、僕は即で頷く。



「大事に扱う事でその道具に使用者の想いが、心が宿る事もあると言います。
日本に古来より伝わる八百万の神という考え方も、そこに由来します」

「えっと・・・・・・おばあ様が教えてくれたみたいに大事に使うと、物とお話出来るようになったりするって事ですか?」

「えぇ、あるかも知れませんね。神様が宿ると信じられているくらいですから。
瑞恵さんはだからこそ、過剰に反応して疲れてしまっているのかも知れませんね」




おばあ様は少し視線を落としてから、改めて僕を見る。そのまま何も言わずに数秒が過ぎる。



「・・・・・・だからこそ、あんな噂に惑わされる」

「噂?」

「イクトさんと歌唄さんの父親・・・・・・月詠或斗さんのヴァイオリンが不幸を呼ぶという噂です。
演奏を聴いた人が死んだとか、病気になったとか。だからこそ家族までバラバラになったとか」




続いた言葉に、胸が締めつけられた。だってその噂は・・・・・・でも同時に納得した。

だからお母様はあの時、『父親と同じ』とイクト兄さんを罵ったんだと。



「ですがそんなのはくだらない三面記事ですよ。根も葉もない。・・・・・・唯世さん」

「はい」

「イクトさんのヴァイオリンが、イクトさんが好きなら・・・・・・信じてあげなさい。
噂ではなく、あなたの目と心で見て感じたものを信じなさい。それが真実です」

「はいっ!!」











あんなに綺麗な音なのに不幸を呼ぶなんて、そんなの嘘に決まっている。

あの時の僕はそう思っておばあ様の言葉に即答で頷いていた。

・・・・・・でもそのすぐ後、イクト兄さんは僕達の前から姿を消してしまった。





それからあの決定的な事件が起きて、僕はこの時の言葉に嘘をついてしまった。





お母様と同じく、イクト兄さんを不幸を運ぶ黒猫として嫌うようになってしまった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・唯世」



ずっと隣に居てくれるキセキの声にも答える事が出来ず、僕はただブランコに揺られていた。

あれからどう歩いたのかもあんまり覚えてなくて、ただ情けなさと悲しさで胸が押し潰されそうになっていた。



「キセキ」

「なんだ。というより、ようやく話しかけてくれたな」

「ごめん。・・・・・・日奈森さん、どうしてこの事黙ってたと思う?」



視線を向けずにそう聞くと、キセキは数秒黙り込んだ。それでも僕は、ただ足元だけを見ていた。



「細かい事は分からんが、原因の一つはお前のこれまでの積み重ねだろうな」

「そう、だよね」



両手でブランコの鎖を強く握り締める。それでそれで・・・・・・やっぱり情けなくてすごく悲しい。



「何が、強くなる・・・・・・だよ。何が、毒を飲む・・・・・・なんだろうね」





そんな事の前に僕は、自分を変えられなかったのに。自分の感情がこんな結果を呼び起こすものだと知らなかった。

身勝手に日奈森さんや他のみんなにもこの感情を押しつけていた。あの時の、お母様と同じように。

あの時おばあ様はきっと僕の背中を押してくれた。信じたいなら信じていいんだって、そう教えてくれた。



それでお母様の事もそんな噂も嫌だって思って・・・・・・そうだ、あの時の僕は今の日奈森さんだ。

ワケの分からない事だらけだけど、一つだけ分かる事がある。日奈森さんはあの時の僕だ。

イクト兄さんの事が大好きで、ずっと・・・・・・ずっと信じたいって思っていた。それだけはよく分かった。





「そんな事の前に僕は、自分の事を全く省みようとしなかった。
僕のせいだ。僕が、日奈森さんにあんな嘘をつかせてしまった」

「・・・・・・そうだな」










そこからまた僕は静かに泣いてしまう。声を押し殺し、静かに・・・・・・静かに。





本当は泣いているヒマなんてなかったはずなのに、それでも動く事が出来なくて僕はそのままそうしていた。




















All kids have an egg in my soul



Heart Egg・・・・・・The invisible I want my






『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/じゃんぷっ!!!


第114話 『Death Label/悲しき宿命のバトル 前編』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



うちの家族とのジャンケンに負けて罰ゲームとして外に買出しに出た。その最中、恭文から突然連絡をもらった。





まぁまぁ遊びの誘いかと思ったら・・・・・・ぶったまげた。てーかアレは緊急招集に近かった。










「・・・・・・アイツ何やってんだっ!?」

『そこは話した通りだよ。そういうワケだから空海、約束守ってもらうよ?
僕はおのれが泣こうが喚こうが、遠慮無く引っ張って巻き込むから』

「おう、構わないぜ。てーか今か今かとずっと待ってたんだ。遠慮無く巻き込まれてやるよ」





実を言うと、内心かなり面白くなってきているとも思ったりした。てーか武者震いか?

こんなデカい事に関わるのなんざ、これからの人生で早々無いだろうしな。

もちろん遊びじゃないのも分かってる。だが胸を高ぶらせる事くらいは許してくれ。



俺だって男だしよ。男だったらこういう状況に飛び込んでドデカい花火を上げてやりたいって思うのが普通だろ。





「それで恭文、俺はどうすればいい?」

『唯世の方をお願いしたいのよ。BYの方は僕とシルビィとティアナでなんとかする。
猫男の方もあむが居るから問題はない。あとは』

「現在行方不明中の唯世って事か。そこはそのBYの事もあるからだよな」

『そうだよ。僕やフェイトも電話してるんだけど、電源から切ってるらしくて』



でも悲しいかな、唯世の方にまで手を回してる余裕がないって感じか。だから俺に頼ってきたと。うし、納得したぜ。



「なら少し遠回りして、唯世の事探してみる。あ、でも少しは手伝ってくれよ?」

『そこはフェイトにもお願いして、サーチで探してもらってる。何かあったら空海に連絡してもらうようにしとくから』

「頼む。だが・・・・・・日奈森はホントに大丈夫なのか? 自業自得とは言えこの状況だしよ」



アイツの性格からして、絶対唯世の事なんとかしようとすると思うんだよ。教えてくれた事を鑑みてもな。

唯世の事は自覚してるが、月詠幾斗の事は自覚してないんだしよ。どうしてもそうなるだろ。



『それでもケツは拭かせるのよ。それでこのまま何もしなきゃ・・・・・・そのまんまだ』

「おいおい、それいいのかよ。予言阻止はどうなんだ」

『意味あると思う? どっちにしたって今のあむは役立たずだよ。
なにより、僕やシルビィはともかくこのままじゃ他が納得しない』

「・・・・・・なるほど、だからこそ日奈森にしっかり対価を支払わせると」



ようするに日奈森に月詠幾斗の捜索を命じたのは、他への示しとケジメの意味もあると。

そうじゃなきゃ・・・・・・まぁ事情ありとは言えやっぱ納得しねぇよなぁ。



『そもそも力になるって言ったのはあむだし、当然でしょ。現にややとかが相当怒ってるのよ。
事情をちゃんと説明するまで怒りながらも泣いてて、なだめるの大変だったし』

「イクスの事とかもあるからな。アイツは余計そうなんだろ」



ややがこの件に乗ったのは、やっぱりイクスに綺麗な空を見せてやりたいってのがあるからなぁ。

それは日奈森も知ってたはずだから、正直キレない方がおかしいわ。



「・・・・・・そう考えるとアイツ、マジでやらかしてくれたよな」

『確かにね。てーか僕これ以上何かする必要なくない? もう充分過ぎると思うんだけど』

「同感だ。とにかく日奈森の方はそれでいいな。あ、でもお前も気をつけろよ? それ間違いなく罠だろ」

『おそらくはね。だから後ろとの連携は密にするつもり。じゃあ空海、お願い』

「おう、任せとけ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そんな恭文との電話の後、フェイトさんからメールでもらった情報を元に街を駆けずり回った。

てーかマジでフェイトさんが手伝ってくれてよかったぞ。今唯世が居る場所、うちと反対方向だしよ。

帰り道がてらなんて言ってたら、絶対見つからなかった。それで歩きながらも色々と考え中。





どうやって話したもんかとか、何言おうかとか無い知恵絞ってかなり考えた。





ただその考えが纏まる事なく、俺は目的地に到着してしまったわけだが。・・・・・・俺、バカだな。










「・・・・・・空海」

「なんだ、ダイチ」

「前々から思ってたけど・・・・・・恭文、普通に人使い荒いよな」

「だな。まぁ悪い気はしないけどな」



ちゃーんと俺に頼ってくれた事はマジで感謝だ。おかげでダチの危機に付き合えるんだしよ。

なにより、あんな強い奴に普通に信頼されて頼られるんだぞ? これは中々に悪くない。



「でもあむの奴、バカだよな。てーかそれは死亡フラグだろ」

「確実にそうだな。アレだ、唯世が包丁とかのこぎりとか持ち出さない内に」





言葉と足を止めて、俺は左の方を見る。・・・・・・そこは本当に小さな公園。



小さな砂場と滑り台とジャングルジム、それにブランコがある程度のところだった。



そこで一人、ブランコに座って俯いているうちの王様とそのしゅごキャラが居た。





「見つけられてよかったな」

「だな。で、どうする?」

「声をかけるしかないだろ」










しかしどうする? とりあえず・・・・・・うし、うちに連れていこう。どっちにしたって俺はずっと外には居られない。





どうするにしても、一度うちには戻らなきゃいけないんだよ。だって俺、買出しの途中だしよ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



恭文君達が出て行ってから数分・・・・・・この部屋の中は沈黙に満ち溢れていた。

あむちゃんは動こうとせず、ただ床の上にへたり込んで視線を落とすだけ。

というか、どうしよう。ザフィーラさんも目を閉じて壁に背を当てて立っているだけだしさ。





しゅごキャラのみんなも恭文君に『余計な事は言うな』って釘刺されちゃってるから当然何も言わない。





かく言う僕ももう言いたい事は全て恭文君やシルビィさんが言い切っちゃっててどうしようもないし。










「・・・・・・日奈森」

「分かってます」



それでもザフィーラさんが声をかけると、あむちゃんは力なくそう答えた。



「あたしが、悪いんだって分かってます。自分の都合で抱え込んで、同じように自分の都合で放り投げて」

「・・・・・・そうだ。誰のせいでもない。今の状況はお前の責任だ。相手を信じ、信頼を受けるという事には覚悟が居る。
それなりのリスクを背負う場合もあるし、正しい事を貫いても責められる場合もある。お前にはその覚悟がなかった」



それはさっき恭文君が言っていた事だった。だから少し意外で、僕は驚きながらザフィーラさんを見た。



「誰が押しつけたわけでもない。誰が頼ったわけでもない。全部お前の責任だ。
本来なら我や藤咲が付き合う道理もない。お前一人でなんとかするべき事だ」

「・・・・・・はい」

「だがそのために月詠幾斗に何かあっても問題だ。だから日奈森、我はお前に一つだけ言う事にする」



ザフィーラさんは壁に背を当てたまま、あむちゃんを見てる。

口調は厳しいけど・・・・・・それでも、視線はどこか優しかった。



「お前がこれからどうするかを決めろ。月詠幾斗を守ろうとした時と同じように、突き放した時と同じように」

「決めるのは、怖いです」

「だろうな。だがそれでもお前は決めなければいけない」

「逃げたいです。イクトの事なんてもうワケ分かんなくて、どうしようもない。
それに信じられない。あんな奴の事、信じられるわけがない」



あむちゃんの言っている事が嘘なのはすぐに分かった。というか・・・・・・さすがに気づくよ?

多分恭文君やシルビィさん、ザフィーラさんも気づいてる。だからここで怒ったりは誰もしない。



「唯世くんの事探しに行きたいのに、謝りたいのに・・・・・・イクトの事なんて構ってられないのに」

「ならそうすればいい。だがお前は今のまま辺里に会いに行って、何を言うつもりだ」

「そんなの分かんない。でも、そうしたい。なのに恭文もみんなも・・・・・・あたしにイクトの事を押しつけてくる」

「そうだな。だが最初にそれを望んだのはお前だ。違うか?」



違わないから今、あむちゃんはまた何も言えなくなってしまう。違わないから今、あむちゃんはまた嘘をつく。

きっとあむちゃんだけがそこに気づいていない。だから戸惑いは、嘘はまだ加速し続ける。



「だから逃げられん。お前はもうそれを知っているはずだ」

「知らない。あたし、そんなの知らない。あたしは唯世くんの事が好きで、もうあんな奴」

「いいや、知っているはずだ。・・・・・・ならお前はなぜ、我らを振り切って辺里を探しにいかない。
なぜ止まり続ける。もし本気でそうしたいのであれば、そうするといい。我は止めん」



それでもあむちゃんは動かない。その様子を見てザフィーラさんは、静かに言葉を続けた。



「・・・・・・日奈森、お前は今どうしたい。これ以上嘘を積み重ねるな。そして、迷って止まり続けるな」



二人はそこまで言って、完全に沈黙する。というか、僕が口挟めるような状況じゃなくなってきてる。

それでもあむちゃんは・・・・・・そっと両手を上げて、震えながら涙をその手の平に零した。



「謝りたい」

「誰にだ」

「イクトに・・・・・・謝りたい。あたしの勝手で振り回して、傷つけてゴメンって、謝りたい・・・・・・!!」



その言葉を聞いて、僕はザフィーラさんと顔を見合わせる。それで僕は立ち上がる。

ザフィーラさんも壁から背を離してあむちゃんに近づく。



「なら、すぐに行こう? ザフィーラさん」

「大丈夫だ。日奈森、月詠幾斗の持っていた物などは残っていないか?」

「え?」



あむちゃんがようやく顔を上げると、その顔は今まで見た事のないくらいにグシャグシャ。

・・・・・・それを見てつい僕達は苦笑してしまった。きっとこれも、答えの一つだから。



「幸いな事に我は鼻が利く。その手の探索魔法も組んでいるから、上手くいけばすぐに見つけられる」

「ホント、ですか?」

「本当だ。蒼凪もそのために我をお前につかせたし、我も最初からそのつもりだった。それで日奈森」

「あ、はいっ! 確かイクトが元々着てた服はそのままだったから・・・・・・ちょっと待っててくださいっ!!」



そのままあむちゃんは右手で涙を拭きつつ、慌ただしく部屋から出て行った。それで僕は左隣のザフィーラさんを見上げる。



「ザフィーラさん、お疲れ様でした」

「問題はない。だが・・・・・・こういう役回りは疲れるな」

「いえいえ、中々の先生振りでした」










ザフィーラさんは何も答えずに、少し困ったように目を閉じるだけだった。





でも僕はそれがなんだか嬉しくて、失礼だけど少し笑ってしまう。・・・・・・さて、これでこっちはOKだね。





あむちゃんもエンジンかかっただろうし、早めに月詠幾斗は助け出さないと。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



シルビィの車に乗って20分ちょっと。僕達は二階堂の住んでいるそこそこいい感じのアパートにやってきた。

とりあえず外観が鉄筋コンクリートな作りに見えるから、さほどボロって感じではない。

現地集合でティアナとも合流した上で、僕達は階段を上がる。えっと、二階堂の部屋は503だったよね。





え、エレベーター? あいにく僕達鍛えてるから5階くらいだったら一気に上がり切れるし。










「それで、なんでBYが二階堂先生のとこに居るのよ。よく考えたら私そこ聞いてなかったんだけど」

「あ、そう言えばそうだったね。・・・・・・なんでも僕と戦った後、路地裏に倒れてたらしいんだよ」



階段を上がり切って、次はそこから左に進む。一番手前にある部屋は513号室。

つまり503はここから見て奥の方。ご近所迷惑にならないように静かに歩く。



「そこをたまたま通りがかった二階堂が見つけて、放置出来ずに回収して修理して、普通に動けるようになった。
で、調べてみたらあの日の雨で電子回路がショートしたらしくて、マスターも命令も無しな状態になってたって事らしい」

「嘘くさいわね。ぶっちぎりで罠じゃないのよ」

「そうなんだよねぇ」

「てーかアレよ。話突然変わるけど・・・・・・例の月詠幾斗、見つけたら殴って良いかしら」

「いきなりどうしたっ!?」



僕が驚きながらも横を向くと、ティアナはめちゃくちゃ怒った顔してた。それで自然と僕は足を止める。



「本気で・・・・・・本気でバカでしょ。『自分さえ我慢すれば』とか思ってるのかも知れないけど、バカ過ぎよ。
残される側の気持ちとか、全然考えてない。自分勝手で甘ったれて・・・・・・単なるヘタレ野郎じゃないのよ」



軽く瞳に涙が溜まっているのを見て、ティアナが今なんで怒っているのかとか・・・・・・大体察した。

特に『残される側の気持ち』って辺りで? てーかそこは僕も言ったとこだからすっごい分かる。



「・・・・・・死なない程度にならいいよ。僕は止めない。てーか僕も殴る」

「助かるわ」



僕はまた前を見て歩き出す。当然のようにティアナとシルビィもそれについてきてくれる。

自然と足音を消す歩き方を三人揃ってしてしまうのは、やっぱりコレが罠だと思っているせいだと思う。



「ティアナ、シルビィ」





歩きつつ振り返ると、二人が頷いた。言いたい事は分かってるらしいので安心。

・・・・・・などと言っている間に、二階堂の部屋の前まで来た。というわけで、インターホンポチっと。

押しつつも既にドアの両脇に待機はしてたりする。当然正面からの攻撃を受けないため。



開けた途端にぐさりとかスティンガー掃射とかありえそうだもの。ここは本気で注意しないと。





「・・・・・・はいはーい。どちらさまですかー?」



うわ、すっごいのんきな声出してきたし。それで気配も・・・・・・玄関先には一人だけ。つまり二階堂だけって事だ。

部屋の中も色々探ってみるけど、妙な感じもしない。つまり・・・・・・いや、まだ判断するには早計だ。



「二階堂、早速だけどドアごと中を攻撃していい? 一斉掃射でさ」

「いきなりうち破壊するのやめてくれないかなっ! というか、どうしてそうなるのさっ!!」



言いながらもドアが開いた。それで二階堂が首を出してくるので、躊躇わずに右手で頭をアイアンクロー。



「やかましいわボケっ! いきなりあんな電話してこられたら普通警戒するでしょうがっ!!」



なによりこっちはマジで人質かと思ったら、なんか元気そうだしさっ! 色々おかしくないっ!?



「いやいや、そこはBYが説明した通りで・・・・・・てゆうか頭痛いからっ! 髪の毛抜けちゃうからっ!!」

「二階堂、大丈夫。僕の義理兄は将来的にはハゲるそうだし」

「その情報をもらって今この状況で僕に何をどう安心しろとっ!? 蒼凪君、君やっぱりめちゃくちゃだってっ!!」

「失礼な事を言うな。僕はただ常識に囚われずに自由に生きているだけだし」



言いながらもアイアンクローを解除。二階堂は両手を頭で押さえつつ僕をジト目で見る。でも僕は当然知らん顔。



「と、とにかく中に入って。大体の事は電話で話したけど、また詳しく説明するから」

『・・・・・・お茶でも淹れた方がいいだろうか。こういう場合はそうやってもてなすものと本に書いてあったが』










響いた声に僕達が警戒しつつドアから部屋を覗き込むと、フローリングの廊下の上にあの黒い僕が居た。





ただし格好が微妙におかしい。まぁその、具体的に言うと・・・・・・Yシャツにジーンズに白いエプロン姿だった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



リビングでテーブルにつきながら、私達は普通にヤキモキする事しか出来ずに居た。





ただそれでも事態は動くもので、あっちこっちから現状の報告が届いてる。










「あ、ヤスフミからメール来た」

「ホントですか? それでBYは」

「それがその・・・・・・紅茶出されて三人でのんびり満喫してるって」

『はぁっ!?』





とりあえずアルトアイゼンとクロスミラージュからの信号も途絶えてないし、本当に罠とかではないみたい。

出された紅茶も毒が入っている様子もないし・・・・・・ここはサーチで調べたし、万が一入っててもヤスフミが居るから大丈夫。

魔法の中にはそういう解毒関係のものもあるんだ。ヤスフミ、そこをシャマルさんから教わって習得してるから。



それも万が一に備えてかなり高度な術式も覚えてる。うぅ、私こういうところも負けちゃってるよね。



ヤスフミの魔導師としての優秀さはその手札の多さでもあるんだけど、私はこう・・・・・・一直線な感じだしなぁ。





「なら罠の心配は」

「今のところは無いみたい。BYと二階堂先生が接触した経緯も話の通りで、二階堂先生もピンピンしてるようだし」

「そうですか。ですが解せません。なぜBYは恭文さんと対話を?」

「そこはまだ分からないみたい。でも、正直この段階で仕掛けてこられたのは空気読んでないよ」





おかげでこれだけのメンツがフル動員だもの。本当に罠じゃないなら、骨折り損のくたびれ儲けもいいところ。

だけどちょっとずつ状況が良い方向に動いてるのは喜ばしいかも。あ、BYの事だけじゃないんだ。

空海君もさっきメールで唯世君の事見つけられたって報告してくれたしね。あとはザフィーラからも連絡が来た。



あむ、気持ちを入れ直して月詠幾斗の捜索を開始しているらしい。それで居場所も大体の目星がついてる。

ここの辺りはザフィーラが居てくれるおかげだね。ザフィーラ、何気に捜査関係のプロだから。

万が一に備えて、恭太郎達も向かわせた方がいいかな。ただBYの件がまだ確定じゃないからなぁ。



それで唯世君・・・・・・やっぱり状態が良くないみたい。告白が聞かれたショックも含めて二重で来てる。



唯世君、ようやく新しい一歩を踏み出しかけてたのに・・・・・・正直あむの罪は重いよ。





「でも分からないのはあむの方だよ。どうして相談してくれなかったんだろ」

「あの、それなんですけど・・・・・・実は私一つ思い当たるふしが」

「ディード?」

「あ、別にこの事を知ってたとか感づいていたとかじゃないんです。
・・・・・・あむさん、もしかしたら月詠幾斗さんの事が好きなのではないでしょうか」



あんまりの言葉に、私は完全に固まってしまった。というかリースも目を見開いて驚いている。



「ど、どうしてそうなるのかな? ほら、だって唯世くんが」

「フェイトお嬢様、世の中は恭文さんのような人ばかりではないという事です」



そう言われて軽く息が詰まった。というか、それだけでディードの言いたい事が全部分かってしまった。

私はその、ヤスフミが本当に味方で居てくれたからこうなった。でも唯世君は・・・・・・違うって事だよね。



「月詠幾斗さんとあむさんは親しいと聞いていますし、もしかしたら知らないうちに」

「つまりその、唯世君がスルーしている間にあむの心情が月詠幾斗君よりに引っ張られて、庇おうとしてコレ?」

「そうではないかと」





あぁ、でもそうか。そう考えるとある程度はあむの行動が納得出来る。

本当にそうだとしたら、やっぱり好きな人が誰かに嫌われたり責められたりするのは嫌だよ。

私もそういうのは覚えがあるから分かる。それでその直接の原因は、唯世君。



あむもやっぱり唯世君の月詠幾斗君への敵意は気になってたし、先日の一件を聞いた時に自然と考えちゃったんだよ。

『もしこのまま話したら、大好きなイクトがみんなから・・・・・・唯世くんから悪者扱いされちゃう』って。

だからあむの行動が元々の趣旨からズレてしまった? あれ、でもそれなら唯世君の告白に関してはどうなるんだろ。



ほら、あむはOKしたっぽいのに・・・・・・あれれ、そこがよく分からないな。





「もしそうならあむさん、唯世さんと月詠幾斗さんの間で揺れちゃってるのかも知れませんね」



・・・・・・そこに首を傾げてると、私の気持ちを読んでいたかのようなタイミングでリースが納得したようにそう言った。

そんなリースの言葉は、首を傾げていた私もそうだしディードも納得出来るものだった。



「だから唯世さんに嫌われたくなくて、同時に月詠幾斗さんが不幸な黒猫扱いされるのが嫌で・・・・・・嘘をついた」

「実際唯世さんの話し方がマズかった部分があるようですし、それで間違いないでしょう。
私達はもしかしたら、知らず知らずのうちにあむさんを追い詰めてしまっていたのかも知れませんね」

「もしそうだとしたら・・・・・・相当悪い事しちゃってるね」





好きな相手がそんな風に言われるのはよろしくないもの。ただ、今回はそれでもあむが悪いとは思うけど。

だってあむはそうなっちゃうとあむは二股かけてるのと同じだよ? それもヤスフミと違って自覚無しで。

私とリインと歌唄はいいの。ヤスフミがちゃんと自覚を持ってくれているし、三人と向き合おうとしてくれてるから。



だから遠慮無く三股な関係も楽しめちゃう。でも・・・・・・自覚無しで嘘つきまくりだと確実に死亡フラグだとは思ったり。





「でもマズい。今の唯世くんにはあんまりに酷な話だよ」



もちろんそうなったのは唯世君の自業自得とも言える。だって散々やらかしてるわけだもの。

実際あむと同じ経験しているヤスフミも『それは見込みないわ』って言い切ってたくらいだし。



「うぅ、やっぱりヤスフミが特殊例だったのかなぁ」

「だと思います。ただ、実際どちらに転ぶかはまだ分かりませんが」

「あとはあむさんの気持ち次第・・・・・・かぁ。これはこの件が片づいても予断を許さない状況かも」










もちろん私達は例えそれが事実でも、あむに気持ちを変えろなんて言えない。

そんな事言うのは最悪だもの。あむが本気で考えて出した答えだとしたら、それは認めなくちゃ。

だけどもしこの事を今の唯世くんが知ったら、唯世くんもう立ち上がれなくなるかも。





普段なら大丈夫だとは思うけど、今の状態があんまりだもの。これはその、本当に怖い事になった。

さっきも言ったけど張り切ってた分の落差があるでしょ? 正直ここは本当に心配。

胎教に悪いなと思いつつ私は外を見てみる。外はいつの間にか、雨が降り出していた。





朝にやっていた天気予報の通りに、通り雨が降って来たらしい。・・・・・・空気読み過ぎじゃないかな。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



というわけで、早速唯世をうちに連れてきた。どっちにしたって今の唯世を一人にはしておけない。

下手したら・・・・・・恭文から教えてもらったnice boatってのになっても困るしな。

唯世は戸惑いながらも玄関から家の中に入って、俺はそんな唯世を後ろに連れてリビングに入る。





・・・・・・そして唯世は、リビングで俺を出迎えた男四人を見て目を見開いて固まった。










「おう空海、遅か・・・・・・誰だ、ソイツ」

「俺の友達。ほら、前にも話したろ? ガーディアンの」

「あぁ、お前の世話してくれてるっていう後輩か」

「・・・・・・あながち間違ってないのがムカつくんだが」



そんな事をリビングのソファーに座りながら言うのは、ジーンズに白のTシャツ姿な俺の兄ちゃん。

髪は俺と同じ色で、あごひげなんて生やしてるガタイのいい体育会系な長男の海童だ。



「空海、お前どうせなら彼女連れて来いよ。例えば恭文君のとこに居る子とかさぁ」

「あー、そうだな。ほらほら、ティアナちゃんとかマジ可愛くない? あとはリースちゃんとか」

「連れてこねぇよっ! てーか二人はそういうのじゃねぇしっ!!
なにより二人揃ってまだ懲りてなかったのかよっ!!」





で、そんな事を言うのは長男とは対照的に細身で黒髪眼鏡な次男の集水。

そして白のタートルネックの服を来て金髪を後ろで纏めて結わえておでこ出してる三男の雲海。

ちなみに二人揃って見ての通りのバカだ。てーか写メとか見せたのマジ失敗だし。



アレから普通にティアナさんとかうちに連れて来いってうるさいんだよ。なお、フェイトさんは全力で却下した。

しょうがないんで年齢の事や魔法の事は伏せた上で恭文を連れて来て会わせた。

その結果は・・・・・・察してくれ。とりあえず二人が調子に乗ってフェイトさんに手を出すような事はしないとだけ言っておく。





「ねぇ君、可愛いよねー。頭撫でていい?」

「・・・・・・えっと」

「それでそっちも普通にコミュニケーション図ろうとするなよっ! 唯世が引いてるだろうがっ!!」



そして最後に肩くらいまで俺と同じ色の髪を伸ばしている優男風味なのが、四男のれんと。

ちなみに恭文は初めて会った時『保志総一朗ボイスだ』とワケの分からない事を呟いていた。



「あの、ちょっと待って。相馬君・・・・・・この方達は」

「あ、うちの兄貴。てーか見りゃ分かるだろ」

「分からないから聞いたんだけどっ!? てゆうかあの、相馬君五人兄弟だったんだっ!!」

「あぁ。てーか言ってなかったか?」



で、俺が五男の空海ってわけだ。でも・・・・・・そういや恭文以外には話してなかった気がするな。

まぁガーディアンの仕事やコイツらの付き合いの中に関係ある事でもなかったしなぁ。・・・・・・って、ここはいいか。



「とにかく兄ちゃん、コレ」



言いながら俺は右手のコンビニの袋を差し出す。海童兄ちゃんは立ち上がって俺の方まで来て、その袋を受け取った。



「つーわけで俺、ちょっとコイツと話あるから。んじゃ行こうぜ、唯世」

「う、うん。それじゃあの、お邪魔します」

「空海、今からその子シメるのか?」

「ヒドいねぇ。後輩いじめは嫌われるぞー」

「秀水兄ちゃんも雲海兄ちゃんもうるせぇよっ! てーかそんな事しねぇしっ!!」



ダメだダメだ。相手にしてたらいつまで経っても話が進まない。

こっちはマジ緊急事態なんだ。とにかく唯世の手を引いて2階にある俺の部屋へ。



待て



行こうとしたのに、海童兄ちゃんの声で足が止まる。てーかこの低い地が唸るような声は・・・・・・え、なんか怒ってる?



「テメェ・・・・・・雑誌間違えてんだろうがっ! なんでスーパージャンプ買って来いつったのにモーニング買うんだよっ!!
俺にクッキングパパや社長島耕作見てホンワカしたり社会の事を考えろとでも言いたいのかっ!!」



アレ、頼まれてたのってモーニングじゃ・・・・・・あぁもう、あの手の雑誌はデザインも似たり寄ったりでワケ分かんねぇしなぁ。



「・・・・・・あ、俺の肉まんもアンマンになってるっ!!」



それで間違えていたのは海童兄ちゃんのものだけじゃないらしい。秀水兄ちゃん達もそれに続く。



「おいおい、なんで単三電池頼んだのに単一電池買ってくるんだよっ! デカ過ぎるだろうがっ!!」

「空海、僕の頼んだファブリーズが普通の緑色のやつじゃなくて黄色なんだけどー!!」

「テメェ間違いだらけじゃねぇかっ! お使い一つマトモに出来ないってどういう事だっ!! ・・・・・・もう一回行って来いっ!!」

「・・・・・・ふざけんなっ! てーかメモする時間も無しでそんないっぺんに覚えられるかっ!!」

「あっ!? 兄ちゃんに文句あっかっ! 間違えたのはテメェだろうがっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



その後、必死に兄ちゃんズを振り払って部屋の中に駆け込んだ。きっと後がマジで大変な事になるだろう。

ただその前に、俺は唯世の事だ。なお、俺の部屋は意外とシンプル。タイル貼りの部屋に机とベッドが置いてある。

壁にはサッカーやバスケのポスターがあったり、ボールがネットに入れた状態でかけてあったりする。





あとはユニフォームや、大会での記念メダルや写真関係だな。それでもシンプルにはしてあるんだ。










「・・・・・・いや、悪いな。騒がしい兄ちゃん達で」

「ううん、そんな事ないよ」



そう言いながら、唯世は俺が出した座布団の上に座る。それで楽しげに笑っている。



「相馬君、ガーディアンでは一応お兄さんなのに・・・・・・家の中じゃ末っ子なんだね」

「まぁな。でも唯世、ようやく笑ったな」

「え?」



俺は唯世の前でしゃがんで、少し呆けたような顔をしているアイツの事をジッと見る。



「ヘコんでる時は無駄に賑やかなのも悪くねぇだろ」

「・・・・・・そうだね。僕にもあんなお兄さん達が居たらな」

「いやいや、普通に居るだろ。恭文とかさ」



立ち上がって、ちょうど唯世の右側にあるベッドの上に座る。唯世は俺の事を目で追いかける。



「あとは月詠幾斗」



その名前を出すと、唯世の表情が一気に曇った。・・・・・・それを見てやっぱ辛いよなぁと思った。



「唯世、まぁ正直にぶっちゃけるが・・・・・・恭文から連絡もらって、今日何があったか全部聞いてる」



唯世は落としていた視線を上げて、ベッドの上に座った俺の事を驚いた目で見た。だから俺は頷いてそこを肯定。



「あの、ちょっと待って。どうして蒼凪君が」

「お前が来る前に、恭文も藤咲と一緒に日奈森の家に来てたんだよ。で、お前と同じく月詠幾斗の事に気づいた。
二人ともタイミングというかその時居た場所的な問題でお前やキセキに会わなかっただけだ」

「・・・・・・そう。それで蒼凪君、相馬君に僕の事を」

「あっちはあっちで相当ゴタゴタしててな。てーか少しマズい事になってるらしい」



それで唯世に恭文やフェイトさんからのメールで教えてもらった現状について説明した。

ただ、ここは月詠幾斗の事はあえて伏せた。そこを言う前にもうちょい話した方がいいと思ってな。



「なら蒼凪君は」

「二階堂先生の家だ。BY以外にもここで一気に動く可能性があるから、全員フル稼働なんだとよ」

「空海のとこに連絡してきたの、俺達も気をつけるようにって言うのもあるけど、お前の事保護するためでもあるんだよ」

「そうなんだ。なんというか、心配かけまくちゃってるな。申し訳ないくらい」



そう言って唯世は視線を落とした。俺は静かにベッドから立ち上がって、左に動く。

それでそちら側にある窓の方に近づいて、窓を開いた上で外を見る。



「・・・・・・雨、小ぶりだけと降って来たな」

「・・・・・・うん」



朝にやってた天気予報だと、通り雨的にパラパラーって言ってたな。ならこれもすぐ止むだろ。

唯世も立ち上がって、俺の方に近づいて来た。そのまま俺の右隣に来る。



「ねぇ相馬君」

「なんだ?」



そう言いながら唯世の視線は、俺の家の庭の方に向かっている。



「あのお庭にあるのって、もしかしてサッカーゴール?」

「あぁ。昔使ってたやつでな。今は見ての通りだ」





あれは店で買ったやつじゃないんだよ。海童兄ちゃんの手作りだ。

今はボロボロの穴だらけだが、それでも俺がちょっとずつ手入れして大事に置いている。

てーか本格的に修理したいんだが、俺その手の技能がないから困っててな。



恭文の物質変換やフェイトさんとかが使える修理魔法ならすぐ直せるそうなんだが、それもまた違う気がしてな。



だから魔法無しでもその手の技能に詳しい恭文に相談しつつ、修理プランを練ってるとこだ。





「・・・・・・小さい頃、海童兄ちゃんが俺の大事にしてたサッカーボールを無くした事があってさ」

「うん?」

「当然すげー大げんか。兄ちゃんに聞いたら、俺がところかまわず蹴りまくるから捨てたって言うしよ。
頭に来てずーっと口聞かなかったんだよ。一生口聞いてやるもんかって思ってな」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



相馬君がどうしていきなりそんな話をし出したのか分からないけど、ただそれがあのゴールに関係がある事は分かった。





だから僕は相馬君の目を見ながら、黙ってその話を聞く事にした。その間にも雨は、静かに降り続けている。










「けど・・・・・・2週間後の俺の誕生日」



相馬君の視線が、僕からまたあのサッカーゴールに移った。



「あのサッカーゴールが庭に突然出来てたんだよ。それで驚いてたら、海童兄ちゃんが作ったって言うんだよ」

「え、じゃあアレ」

「あぁ、俺の誕生日プレゼント」



あぁ、そうなんだ。だから相馬君のあのゴールを見る目が、どこか優しくて温かいものに感じてたんだ。



「それで『ありもんで作ったからブサイクとか贅沢ぬかすな。もう二度と道路でボール蹴りなんかすんな』って言って、俺のボール返してくれた」

「それって、なくしたって言ってたボール?」

「あぁ。つまり俺が道路とかでところ構わずサッカーしてたから、危ないと思ってゴールを作った」

「でもその間に何かあっても困るから、ボールは一旦預かってた・・・・・・そういう事かな」

「今考えると、色々ツッコミどころはあるな。でも、当時はめちゃくちゃ嬉しくてなぁ。だから捨てられないんだよな」



相馬君はそう言って笑いながら、またゴールを優しい目で見ている。だけど、僕には一つ疑問が出てきた。

もしそうなら、どうして『捨てた』なんて言ったんだろう。ちゃんと話せば、それで良いはずなのに。



「普段おっかねぇけど下手なとこで口下手っつーか、誤解されても言い訳一つ出来ない不器用な奴も居るんだよ」



ただその疑問は、僕が口にする前に答えとして出された。そう言ってから相馬君は僕の方を見る。



「うちの兄ちゃんだったり、恭文みたいにな」

「蒼凪君も?」

「だってそうだろ? 俺らに最初魔法の事隠してたの、事情込みなのに『嘘』って言い切るような奴だしよ」

「・・・・・・確かにね」



蒼凪君も確かに世間一般で言えばそういう器用な方じゃないかも。

最初の時もそうだし、ブラックダイヤモンド事件の時とかもさ。うん、確かに不器用だ。



「というか、もしかして最初の時に相馬君が蒼凪君の事さほど警戒してなかったの、そのせい?」

「実はそうなんだよ。多少話した印象だが、うちの兄ちゃんと同じくな感じがしててな。
てーかそっくりじゃね? やたらと細かい事にこだわったりするとかよ。ほら、さっきとか」

「いや、アレは相馬君が悪いんじゃ」

「うっせー。てーかメモも無しで買い物しろとかいうバカ兄貴達が悪いんだよ」



そこまで言って、僕達は顔を見合わせて吹き出したように笑う。それで・・・・・・何か解けた感じがした。

だから視線をまたあのサッカーゴールに向ける。向けて、窓枠を強く握りしめる。



「なら、イクト兄さんもそうなのかな」



相馬君はもう全部知ってるから、自然とこんな言葉が出てきた。



「イクト兄さん、何も答えてくれないんだ。何も教えてくれないんだ。どんなに聞いても、何も。
今までもそうだし、一昨日もそうだった。それが悲しくて、腹立たしくて・・・・・・泣きたくて」

「だからお前は月詠幾斗を嫌ってた・・・・・・いや、必死に声を荒らげてたわけか。
お前はどうしていいのか分からなくて、声を大きくする事しか出来なくなった」

「・・・・・・うん。でもいつからか、声を大きくする事が主目的になってた。
知りたいって思ってたはずなのに、伝わらなくて沸き上がる感情が全部になってた」



それが僕の嫌悪感の正体。だから何も教えてくれないイクト兄さんを嫌っていた。

あの時何があったのか、何がどうなってあんな事になったのか知りたいのに・・・・・・それを教えてくれないから。



「僕、それが悔しいんだ。それで日奈森さんの事、傷つけた」

「・・・・・・アイツがお前やみんなに嘘ついてたんだろうが。それおかしくねぇか?」

「ううん、おかしくない。僕が日奈森さんに嘘をつかせてしまった。あの時、そんな風に感じたんだ」



日奈森さんだって月詠幾斗の現状は知っていた。もし本当に居候してたとしたら、僕達に話していないのはおかしい。

それにさっき相馬君は蒼凪君と藤咲君も『気づいた』と言っていた。つまりみんなに日奈森さんは隠し事をしている。



「僕が月詠幾斗を嫌っているから、だから話したらどうなるのか分からないと思わせた。
実はその、日奈森さんの家に行く前に少し色々あって・・・・・・日奈森さんの事追い詰めてもいて」

「・・・・・・そうか。なら唯世、お前今月詠幾斗や日奈森の事どう思ってる? まず大事なのはそこだろ」

「助けたい」



今更かも知れない。もう遅いかも知れない。でも・・・・・・そうやって諦める前に僕は手を伸ばしたい。

だって僕はそう決めた。自分の中の嫌悪感に、過去に負けないって・・・・・・それは今でも変わらない。



「イクト兄さんを助けたい」

「助けても何も言わないかも知れないぞ」

「そんなの関係ない。それで日奈森さんがイクト兄さんを助けたいと思うなら、それも助けたい」



窓枠を握る手の力が少し強まる。僕は瞳を一度閉じて・・・・・・ゆっきりと決意を固めつつ開いていく。



「僕の周りの人達、誰にも不幸になんてなって欲しくないんだ。
僕は、僕を取り巻く世界を守りたい。たとえ小さな世界でも、誰の世界でも」





それはキセキが産まれた時、あの花を見ていて思った事。それで・・・・・・あぁ、そうか。

ようやく分かった。僕に本当に足りなかったもの。力を手にする前に、毒を飲む前にやるべき事。

確かにここを抜いてしまっていたら、どっちを手にしても意味なんてなにもない。



マクガーレン長官、八神さん・・・・・ありがとうございます。僕、ようやく一歩踏み出せました。





「・・・・・偉いぜ王様」



一人その確信に胸を震わせていると、相馬君が僕の背中をポンと叩いてきた。

さすがに窓の近くだし、それで落ちたりしたら大変。だからあくまでも優しく。



「お前のそういうところが大好きなんだよ。けどな、王様は一人じゃなれねぇぜ?
信頼出来る家来がいつだって近くにいなくちゃな。それで俺らはお前の味方になる」

「・・・・・・うん。なら相馬君、王様として一つお願いがあるんだ」

「なんだ?」

「イクト兄さんの現状を教えて。まだあむちゃんの家かな」



そう言ってから、またひとつ気づいた。僕・・・・・・さっきまでまた『日奈森さん』って呼んでたよね?

あはは、動揺していたとは言えこれはダメだなぁ。やっぱりまだ呼び方慣れてないのかも。



「もしかしてそこは聞いてないとか・・・・・・あ、蒼凪君達が保護したとか」



だったらそこは安心出来る。話す機会もあるだろうし、僕達はイースターの事に集中も。



「・・・・・・実はかなりマズい事になってる」

「え?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



相馬君の言葉で覆された僕の希望的観測は、続く話で完全に砕かれた。

それで表情を険しくしてあの人に対してまた怒りが沸き上がる。・・・・・・本当に、なにやってるんだろう。

蒼凪君も話した。それに話通りならあむちゃんもヨルと一緒にずっと説得してくれていたはず。





なのにそれなんてホントにあり・・・・・・アレ、ちょっと待って。いくつか気になる事がある。










「相馬君、ちょっと待って。ならあのイクト兄さんのキャラなりは。
ううん、それ以前になんであむちゃんの家に居る状態でイースターの作戦に」

「・・・・・・まずその鎌持ち、どうもヨルとのキャラなりじゃないっぽいんだよ。
てーかヨルも月詠幾斗がそんなキャラなりした事を知らなかった」

「はぁっ!? じゃあアレはいったいなにっ!!」

「分かんね。俺もそうだし恭文もフェイトさんもどうしてそうなったのかがマジサッパリなんだよ。
イースターから逃げてきたのは確定なんだが、そこを調べる前にアイツ消えたしよ」



つまりイクト兄さんに何が起こっているかとかも、現状では分からない。

それと同時にイースターが何をしているかも・・・・・・最悪過ぎる。くそ、あの場で逃げなければこんな事には。



「・・・・・・なぁ空海、俺少し思ったんだけどよ」

「なんだ、ダイチ」

「イクトの奴、何か催眠関係かけられてるって事は考えられないか?
ほら、マリアージュがそういうのかけて被害者を自殺させてたみたいによ」



その言葉に、僕達は目を見開いて軽く息を吐いた。でも・・・・・・あぁそうか。

確かにあの時も様子がおかしかったし、やっぱりそう考えるのが妥当なんだ。



「いや、それだったら日奈森とかどうなんだよ。そういう手札使われてるなら、とっくにやられてるぞ」

「だからイクトやヨルが知らないうちにだよ。二人もそんな事されてるとは気づいてないし、普段はそんな催眠は表に出ない。
それなら話が全部説明出来ると思うんだよ。てーかそうじゃなきゃこのチグハグな状況の説明が出来ねぇよ」

「つまりイクト兄さんも自分がそんな事をしている意識が全くない?」

「そうなるな」



どうしてそうなるのかは現段階ではサッパリだよ。だけどダイチの言うように、これなら全部が説明出来る。



「例えばイースターから逃げたアイツらの行方が分からない。でもそれじゃあ向こうは困る」

「デスレーベル作戦が月詠幾斗を主軸に置いたものなのは、もはや明白の事だからな。
だから連中は月詠幾斗を見つけるために、その仕込んでいた催眠を使用した?」



でも行方が分からない人間にそんな催眠をかけられるの・・・・・・いや、ちょっと待って。それももしかしたら可能かも。



「その結果月詠幾斗は無自覚のままに正体不明のキャラなりをした。それが先日僕と唯世が遭遇した鎌持ち。
だが本人はその時の事を覚えてない。かつ家臣達も同様なので、混乱してしまっていた・・・・・・と言ったところか」

「でもどうやってだよ。だって向こうからすれば失踪してる相手だぞ?
そんなもん仕込んでたとしても、どうやってそれを発動させるんだよ」

「・・・・・・ヴァイオリン」





さっき相馬君から、イクト兄さんがあむちゃんの家に来る前何をしていたかも聞いた。

その結果取り戻したのが、あの時持っていた紫色のヴァイオリンらしい。

しかもヨルの話だと、そのヴァイオリンは奪われる前は普通のヴァイオリンだった。当然紫色でもない。



それでヨルだけがヴァイオリンに妙な気配を感じていた。・・・・・・そうだよ、もう答えは出ている。





「イクト兄さんがイースターから取り返したヴァイオリンに、なにか細工がされているのかも。
それを所持して・・・・・・というか、そのヴァイオリンの近くに居るから」

「おいおい、じゃあそれがその催眠発動のキーって事か? ・・・・・・あー、でもそうなるのか。
そのヴァイオリンが取り戻す前と後じゃ明らかに変わってたのは確かなんだしよ」

「その上であむ達に気づかれないように催眠を発動して・・・・・・って感じか。
てゆうか、ヴァイオリンの色以外の変化はヨル以外分からなかったって言うし気づくのが無理なのか」

「どうしてそういう理屈になるのかは今ひとつさっぱりだが・・・・・・ならこうしては居られんぞ」



キセキが僕の方を見るので、その視線に頷きで返した。



「相馬君、イクト兄さんはあむちゃん達が捜索してるんだよね」

「あぁ。なんかザフィーラさんはそういう追跡関係得意らしくてよ、居場所も掴めてるらしい。・・・・・・行くのか?」

「うん」



右手を軽く上げて、強く・・・・・・強くその手の中にさっき見つけたばかりの確信を握り締める。



「・・・・・・世界には争いや悲しい事がたくさんあって、一人の力なんてほんのちっぽけで。
でも、その一人の小さな世界を幸せにする事が始まりになるなら・・・・・・それで」



まだ終わりじゃない。・・・・・・これは今までの答え。ここに今日から、もう一つ答えが追加された。



「僕の中にも、その世界がある。ちっぽけで、小さくて、まだまだ発展途上の世界が。
僕は誰かの世界の前にまず、自分の世界の事を知っていかなくちゃいけない」





僕はきっと、今まで他の人の事ばかりでここを抜いていた。だから日奈森さんを不必要に傷つけて追い込んだ。

だからイクト兄さんに対して向けていた本当の気落ちを蔑ろにした。他人を変える前に、僕は自分を変えられなかった。

ただ時や状況に流され続けて、自分を省みる事をしない。そんな王様が、自分を取り巻く世界を守れるわけがない。



そんな王様にいくら力があったって、毒を飲む覚悟をしたって、意味なんてあるわけがない。

だから僕はもっと自分の世界を知りたい。その上で自分の中の弱さを、醜さを見つめて変えていきたい。

それだけじゃなくて僕という世界の幸せの形を探したい。そのために手を伸ばしたい。



・・・・・・これが、僕の答えだ。今の僕には力も毒も必要ない。



その前に僕には、乗り越えて変えていかなければならない事があるんだ。





「力を手にする前に、毒を飲む前に、僕は」



相馬君を見上げて、今までと今日の事を全部含めた上で僕は・・・・・・思いっきり笑う。



「僕の世界の王様になる」

「そうか。なら早く行こうぜ」

「うん。・・・・・・え、『行こうぜ』?」

「あぁ。てーか前に言ったろ? 暇なら手伝うってよ」



そう言いながら相馬君は不敵に笑って、僕の頭を右手でくしゃくしゃと撫で始める。



「それでついさっきこうも言ったよな。一人じゃ王様にはなれねぇって。
・・・・・・だから遠慮無く巻き込め。俺はとっくに覚悟決めてる」

「てーかこのままスルーしてたら俺達マジ怒ってたぞ? だから暴れさせろ」

「相馬君、ダイチ・・・・・・あの、ありがと。・・・・・・あ、でもお兄さん達の買い物は」

「「そこは別にいいからっ! てーかなんか覚醒してもやっぱ天然かよっ!!」」










降り続けていた雨は、もうとっくに止んでいた。本当にちょっとした通り雨。





そんな雨のせいで少し独特な空気になっている夜の街に、僕は信頼出来る家来と共に飛び出した。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あたしとなぎひこはキャラなりした上で家を飛び出し、ザフィーラさんの案内で夜の街を跳んでいく。





ザフィーラさん、本当にイクトの匂いを追った上で動いてるみたい。だから現在は狼形態。





というか、このタイミングでザフィーラさんが来てくれたのは本当にありがたい。あたし達だけだときっと時間かかってただろうし。










「あのザフィーラさん、大丈夫なんですか? だってさっきまで雨」



ほら、雨で匂いとかそういうの消えちゃうんじゃ。

だからビルの屋上をジャンプしながらも、ザフィーラさんにそう聞いてしまう。



「問題ない。テスタロッサに通常サーチも頼んでいるからな」

「えっと・・・・・・え?」

「あむちゃん、ようするに匂いで追うだけじゃなくて、そこから得られたデータで別の形でのサーチもしてるって事だよ」

「・・・・・・あたしそういうのはよく分かんないけど、それで大体のイクトの場所が分かる? だから匂いが消えても問題ない」

「そういう事だ」



な、なるほど。でもザフィーラさん、なんか凄い手慣れててあたしついていけないかも。



「でもザフィーラさん、本当に行動が素早いですよね。そこも同時進行でやってたなんて」

「何気に主やお前達も会ったギンガの手伝いで事件捜査を手伝う事が多くてな。
その関係だ。お前達よりはそこの辺りの経験に特化しているに過ぎん」

「納得です」



つまりそういう現場に立ち会った数が多いから、こういう魔法も使えるしすぐに状況に対応出来ると。

・・・・・・そっか、やっぱり経験って大事なんだ。空気読んでないのは承知の上で、そこは理解出来た。



「さて、二人ともそろそろ集中しろ。もうすぐ到着だ」



言いながらザフィーラさんが視線を向けるのは、真っ暗な四角い大きな敷地・・・・・・アレ、あそこって。

まさかと思いながらもあたしとなぎひこはザフィーラさんに続く形でその場に着地。それで周囲を見渡す。



「ここ、遊園地・・・・・・ですよね」

「そのようだな。だがなぜ照明もなにもない」

「・・・・・・・・・・・・もうここ、閉まってるから」



少し呆然としながらもあたしは、雨のせいで澄み切った空気の冷たさを感じつつも周囲を見渡す。



「取り壊しも決まっていて、だけど全体の電力供給のブレーカーを上げると少しだけ電力が通って」

「あむちゃん?」

「それでここ・・・・・・前にイクトと来た事があるんです」





春先、みんなとのお花見の後で遭遇したイクトと一緒に遊んだ遊園地。

それでイクトが潜伏先として選んでいた場所・・・・・・だったらしい。

でもまさか、ここにまた来るなんて。・・・・・・あ、でもちょっと待って?



もしそうならイクト、またイースターから逃げ出したんじゃ。





「そうか。なら」



ザフィーラさんはそう言って、青い光に包まれながら人間形態にチェンジ。

青い中華風な服と銀色のガントレットを装着した上で、周囲を見渡した。



「その閉まっている遊園地の中に大量の人間が居るのは、どういう事だろうな」

「え?」

『・・・・・・ムリィ』



あたしがザフィーラさんの方を見たのと同時に、周囲から小さな呟くような声が聴こえた。しかも一つじゃない。



『ムリ』

『ムリ』

『ムリ』

『ムリ』

『ムリ』



それで暗闇の中でよく目を凝らしてみると・・・・・・遊園地のあちらこちらに×たまが大量に居た。

その中に埋もれるように呆然と立ち尽くしている人達も居た。



「・・・・・・どうやら、月詠幾斗がまたイースターから逃げ出したっていうのは無いみたいですね」

「そのようだな。藤咲、我には見えんが・・・・・・居るのだな? ×たまが」

「えぇ。それも大量にです」



さすがにあたしもこれは分かる。イクトがまた、その正体不明なキャラなりしちゃってるんだ。



「でも、なんで」

「日奈森」

「いや、動揺とかじゃなくてマジで分からないんです。ヨルもキャラなりしてないのに」



現にヨルは今あたしの傍らに居る。それで空を・・・・・・空を呆然とした顔で見上げていた。

あたしはその視線を追いかけると、そこは近くにあったメリーゴーランドの天井の上。



「「・・・・・・・・・・・・イクトっ!!」」





反射的に、そこに立っていたアイツの名前を叫んでた。ザフィーラさんとなぎひこもそちらを見る。

いつそこに居たのかも分からないけど、イクトはあたし達を冷たい瞳で見下ろしていた。

それでその手には例の紫色のヴァイオリン。イクトはその弦の一つを、弓を持ったままの右手の人差し指で弾いた。



すると音が響き、紫色のヴァイオリンから黒い光が漏れ出す。それが一つのたまごの形を取った。





「・・・・・・なんだ、アレは。我にも見えるという事は」

「もしかして、しゅごたま?」





二人の呟き通りに、その光は一つのたまごになった。色は・・・・・・黒。

×たまみたいに×が付いているわけでもないし、ラン達のたまごみたいに柄や模様があるわけじゃない。

ただそのたまごは黒くて、ヴァイオリンと同じ色のオーラみたいなのを静かに発していた。



なんだろ、あれ。こう・・・・・・生きてる感じがしない。見ているだけで寒気が走る。

・・・・・・待って。しゅごたま? たまご? それがヴァイオリンの中から出てきたって変じゃん。

ううん、それ以前の問題がある。まさか・・・・・・まさかとは思うけど。





「まさか・・・・・・イクト、ダメっ!!」



あたしは反射的にイクトに向かって飛び込んでいた。あたしの身体は一直線にイクトに向かう。

相当なスピードで加速しつつ、右手をイクトに向かって必死で伸ばした。



「俺のこころ、アン」



『解錠』アンロック



「ロック」





もうちょっとで届くというところで、イクトは足元から立ち上った黒い光に瞬間的に包まれる。



そしてその光が弾け、周囲に光と同じ色の風が吹き荒れた。あたしはそれに吹き飛ばされてしまう。



そのまま身体を元居た場所に叩きつけて、転がりながら倒れてしまう。





「あむちゃんっ!!」



なぎひこが咄嗟にあたしに駆け寄って、身を起こしてくれる。それでザフィーラさんも前に出て拳を構える。

でもその間に、イクトはその姿を完全に変えてしまっていた。外見は前に唯世くんとキセキから聞いた通り。



・・・・・・キャラなり



それで右手で銀色の鎌を携え、やっぱりあたし達を冷たい瞳で見ていた。



デスレーベル



やっぱり・・・・・・そうだったんだ。あたし、マジでバカだ。

自分の都合で嘘つきまくって、こんな大事な事スルーしまくってたなんて。



【はわわわわわわっ! イクトキャラなりしちゃったよっ!? あのたまごいったいなにっ!!】

「ヴァイオリンから出てきましたよねぇっ! でもでも、あのたまご・・・・・・!!」

「すごく、嫌な感じがする。なにコレ、月夜のたまごや偽エンブリオの時とも違う。
もっと異質で・・・・・・ボク達と同じだけどボク達と全然違う感じがする」



あたしには霊感とかラン達みたいな感覚はない。でもあのたまごが異質だって言うのは分かる。

偽エンブリオよりは月夜のたまごに似てるのかな。でも・・・・・・あぁもう、やっぱりうまく言えない。



「・・・・・・コレで謎が一つ解けたな。問題のキャラなりとやらは、あのヴァイオリンが原因か」

「みたい・・・・・・ですね。でもあのたまごは」

「藤咲、キャラ持ちであるお前にも分からんのか」

「えぇ。そもそもヴァイオリン・・・・・・物からたまごが出てくるなんて、聞いた事がない」



なぎひこに支えられながらあたしは立ち上がり、もう一度冷たい瞳のイクトを見上げる。



「イクト、あたしの事分かるっ!? ・・・・・・お願い、答えてっ!!」

「イクト、オレも居るにゃっ! 頼むからなんか答えてくれにゃっ!!
どうして・・・・・・どうしてそんな冷たい目でオレ達を見るにゃっ!!」










叫んでもイクトは何も答えない。イクトはヨルの言う通りの冷たい目のまま、少し身を伏せる。

次の瞬間、イクトの身体は大きく跳び上がり、雨上がりの空に浮かぶ大きな満月を背にした。

でもすぐにその身体はあたし達の方に迫る。イクトは両手に持った銀色の大鎌を、躊躇い無く振りかぶる。





そしてイクトはそのまま、袈裟にその鎌を振るってあたし達に刃を叩きつけてきた。




















(第115話へ続く)




















あとがき



恭文「というわけで、2クール目のスタートは前後編に別れた最終決戦の前哨戦。
ヴァイオリンから出てきた正体不明のたまごとキャラなりした月詠幾斗」

シルビィ「新たに決意を固めた唯世君と空海君が夜の街を駆ける中、次回に続くのね。
というわけで、本日のあとがきのお相手はシルビア・ニムロッドと」

恭文「蒼凪恭文です」

シルビィ「でもヤスフミ、あのたまごは何っ!? ヴァイオリンから出てきたりして意味不明なんだけどっ!!」

恭文「そこも次回以降だよ。とりあえずアレが猫男とヴァイオリンが繋がってた要因なのは間違いないけどね」

シルビィ「・・・・・・まぁ、そうじゃなかったらキャラなりなんて出来ないわよね」



(実は今回のお話の中にあのたまごに関してのヒントがあったりします。それもかなり分かりやすい方向で)



シルビィ「あ、そうなんだ」

恭文「うん。ちなみにあのたまご、ほぼ原作通り。マジであんな感じで出てきてキャラなりしてた」

シルビィ「・・・・・・間違いなくホラーよね」

恭文「驚く事にね。さて、2クール目のイメージOPはUNISON SQUARE GARDENさんの」

シルビィ「それでやっぱりやるのね」

恭文「もう後には引けないのよ。とにかくユニスクさんで『カウンターアイデンティティ』。
EDはabingdon boys schoolで『STRENGTH.』です」

シルビィ「・・・・・・アレ、確かEDってミッション話の」

恭文「諸事情でもう一度だよ。いや、どっちも素敵なバンドさんですよ」



(ONE ON ROCKさんと同じく大好きです)



シルビィ「ヤスフミ、もういっそ全歌詞変えで替え歌作るとかは?」

恭文「モリビト28号様みたいに? てーか前に出た話だね」

シルビィ「そうそう」

恭文「それもありかも知れないねぇ。でもすっごく大変だろうけど」



(きっとすっごく大変)



恭文「それで今回のお話のポイントは、やっぱり唯世なんだよね。あむや僕はちょっとしか出てないし」

シルビィ「ここで今まで唯世君に出されてきた宿題の答えがまず一つ出たわけね」

恭文「そうなるね。というか、その宿題の答えを出す前にやるべき大前提な問題?
例えば唯世が『アミュレットハート好き』とか言っちゃったのもここが出来ないゆえだし」



(もうちょっと言うと自分の事・・・・・・行動などがよく分からないって感じでしょうか。
なのに省みようとしていない部分があるから、やっぱり無自覚にやらかすと)



シルビィ「そういうところはフェイトちゃんともかぶってるわよね」

恭文「かぶってるね。何気にフェイトと唯世は本気でどんがぶりキャラなわけだよ」



(実はとまとでのフェイトの立ち位置関係は唯世のあれこれを参考にしていたりはします。
例えば局に入るのを強く進めていたりとかですね。てゆうか、自然とかぶった)



恭文「だからこそ何気にフェイトも唯世の精神的師匠な立ち位置ではあったり。あんま目立ってはないけど」

シルビィ「あ、そう言えばドキたま/だっしゅの時にもそういう描写はあったわね。
だからこその最近のあれこれだし。でも唯世君・・・・・・これだとなんというかもう」

恭文「そこの辺りは正直どうしようもないよ。ただあむには『よく考えてハッキリ決めとけ』と言うしかないし。
猫男が好きでもいいし、唯世が好きでもいいし、二人ともでもいいし。大事なのはあむの正直な気持ちだよ」

シルビィ「確かにそうなのよね。まぁ劇中でも言ってたけど、これで私達があれこれ言うのも違うし。
・・・・・・というわけで次回は後編。ついにデスレーベルとあむちゃんチームとの戦いがスタートです」

恭文「まぁ前哨戦だから多少軽めに行くけどね。それで唯世の過去ももしかしたら残り全部明らかになったり」

シルビィ「するかも知れないという感じね。それでは本日はここまで。お相手はシルビア・ニムロッドと」

恭文「蒼凪恭文でした。それじゃあみんな、SEE YOU AGAIN♪」

シルビィ「ちょっとっ! それ私のセリフなんだけどー!!」










(というわけで、ここからジェットコースター的な展開になる光編、がんばらないと。
本日のED:『UNISON SQUARE GARDEN』)




















唯世(全力疾走開始)「でも相馬君、本当に気をつけて。あのキャラなり、下手をしたら蒼凪君やフェイトさん達より強い」

空海「お前がそう言うって事は、そこまでかよ」

キセキ「そこまでだな。唯世は訓練のために魔導師組の攻撃を受け続けてきた。だからこそ分かる」

ダイチ「それだけ聞くとドMだよな。でも、それなら具体的にはどうするんだよ」

唯世「まず不用意に接近しないで。向こうの攻撃は僕が防ぐから、相馬君達は援護をお願い。
向こうにはザフィーラさんと藤咲君も居るから・・・・・・うまくいけばかなり振り回される」

キセキ「あと、向こうの鎌が黒い光に包まれたら急いで退避だ。そこから斬撃を放たれると、僕達でも防ぎようがない」

空海「とにかく近づかずに慎重に・・・・・・だな。分かった、任せろ」










(おしまい)






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