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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第112話 『They disagree/嘘という現実への対価』



ラン・ミキ・スゥ『しゅごしゅごー♪』

ラン「ドキッとスタートドキたまタイムー♪ さてさて、本日のお話は?」

ミキ「・・・・・・イースターの作戦よりも重要なあのフラグの積み重ねのお話です」

スゥ「あむちゃん、本当にいつか刺されますぅ。それもいっぺんどころではなく何べんも死ぬ勢いで」





(そして立ち上がる画面に映るのは、お風呂と服を脱いでいる二人)





ラン「というか私今気づいたんだけど」

ミキ「何?」

ラン「あむちゃんが死んじゃったら必然的に私達も道連れじゃ」





(キャンディーズ、三人とも沈黙。それで場が完全に固まる。だけど元気よく)





ラン・ミキ・スゥ『じゃんぷっ!!』

シオン「現実から逃げましたね」

ヒカリ(しゅごキャラ)「しょうがないだろう。さすがにこれは向き合いたくない」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あれからすぐ、唯世くんからメールでお願いされた通りにあたし達は授業をサボタージュ。

恭文は諸事情で来れないらしくて、そのままロイヤルガーデンで会議はスタートした。

でも気になったのは、話す前に本当に唯世くんが『冷静に聞いて欲しい』と念押ししてきた事。





あたし達が頷いて紅茶を飲みつつ聞いたのは・・・・・・本当に信じられない話だった。





それでようやく納得した。唯世くんはみんなっていうかあたしに対して念押ししまくってたんだ。










「・・・・・・唯世さん、そこは恭文さんには」

「メールで伝えてある。本当は直接話せればよかったんだけど・・・・・・まぁその、しょうがないよね?」

「しょうがないですねぇ」



なんでちょっとリインちゃんがツーンとしているのかとか、唯世くんが苦笑気味なのかとかがさっぱり分からない。

恭文、アンタマジでなにしてる? いきなりちょっと空気柔らかくなるのはおかしいでしょ。



「でもそれは普通には信じがたいですね。まぁ月詠幾斗さんが見つかったのは理由はどうあれ良い事ですよ」

「やや達、本気で命の心配してたもんねー。でもでも、イースターの作戦の手伝いしてるっぽいのは喜べないよー。
それにその・・・・・・鎌を持ったキャラなりだよね。なんでそんなキャラなりに? ブラックリンクスはどうしちゃったのかな」

「分からん。だが本当の事だ。僕と唯世が遭遇出来たのは運が良かった。
いや、もしかしたら運が悪かったのかも知れんな」

「僕もさすがに一発で遭遇するとは思ってなかったしね。ちょっとした見回り程度のつもりだったんだ」



唯世くんが苦笑してから、視線を落として表情を険しくしていく。



「それでなんとか捕縛出来ればと思ったんだけど・・・・・・向こうの方が全然強くて」

「結果、その負傷というわけね」

「うん」



唯世くんの身体、あっちこっち包帯だらけだった。軽く見せてもらったけど見てるこっちが痛くなるくらい。

それの全部、妙なキャラなりをしたって言うイクトにやられた事らしい。



「でもただキャラなりしただけじゃない。さっきも言ったけど」

「月詠幾斗のヴァイオリンの音色に引きつけられて、確かに大量のたまごが集まっていた事だね」

「そうだよ。そのヴァイオリン自体も普通じゃないんだ。紫色に発光していて、湯気みたいに光が漏れてもいて」



紫色・・・・・・あ、ラン達が教えてくれたイクトのヴァイオリンの変化だ。ヨルだけが妙な気配を感じるってやつ。

でもラン達は何も感じてなくて、だから軽く頭抱えてたりしたんだよね。



「それで唯世さん、具体的にはどれくらい怪我したですか。
必要ならリインがすぐに回復魔法かけるですけど」

「どれも全部軽いものだが・・・・・・足と同じような切り傷が身体の正面に一つ。
そして各所に打ち身だ。情けない事だが、僕達は完全に弄ばれた」



キセキが悔しげに表情を歪める。それは今の唯世くんの表情とはまた違う色。

またあの色を出してる。唯世くんはイクトの事になるといつもこうなってしまう。



「恭文と訓練していたおかげでギリギリ逃げられたという感じだ。そうじゃなければ死んでいたぞ」

「多分・・・・・・今まで僕達が見てきたどのキャラなりより強い。単純な分、直で来るんだ」



そこまで言って、心配そうに自分を見ていたみんなの方に視線を向けて苦笑いしながら両手を振った。



「・・・・・・あ、傷自体はどれもこれも本当に軽いものだから安心して? もう治療もしてるから」

「なら回復魔法は」

「そこも大丈夫・・・・・・いや、一応お願い出来るかな? まだ少し痛いし、何時動くかも分からないし」

「分かったですよ。というか、そういう時はすぐに連絡するですよ。リイン飛んで行ったですよ?」

「あははは、ごめん」



笑いながらそう言ってから、唯世くんの表情がまた怖くなる。また、イクトの事嫌ってるのかな。

そんなイクトの事がこんな事したから、怒ってるのかな。それを見て胸が締めつけられてしまう。



「なら、本当に運が良かったよ。もちろんたまごが抜き出された事は問題だけど、辺里君の怪我がその程度で済んだんだから」

「うんうん、そうだよー。でもそれだとその・・・・・・予言通りって事だよね。
ほら、やや達が聞いたのそのままだよ? 『旋律』がどうのーって言うのだし」

「だけどこれで鍵がいくつか出てきたわね。まずデスレーベル作戦は月詠幾斗を主軸に置いた作戦。
それでその見た事のないキャラなりよ。もしかしたら普通の状態じゃあ出来ないキャラなりなのかも」



りまの言葉に、唯世くんがやっぱり怖い表情のままで頷いた。



「もしシュライヤ王子のアレが本当にこの作戦の実験になるのなら・・・・・・答えは一つ。
月詠幾斗は偽エンブリオかそれに近い物でパワーアップしたためにあの姿になった」

「そう考えるのが妥当ですね。もしかしたらその原因は大鎌に変化したって言うヴァイオリンかもですよ」



あのヴァイオリンが? いや、でもラン達は何も感じないって言ってたのに・・・・・・あぁもう、どうなってるのかな。

だけどこれだけは分かる。イクトは違う。だってイクトは普通に体調悪そうなんだよ? なによりそんな奴じゃない。



「でも疑問は残るね。ほら、騎士カリムの予言ではその旋律・・・・・・ヴァイオリンの演奏で×たまが抜き出された後がある」



あたしが頭の中で首を横に振っている間に、全員が腕組みしながら真剣な顔をしているなぎひこに視線を移した。



「ただたまごを抜き出すだけならブラックダイヤモンド事件の時もあったけど、今回はそれとは規模が段違い」

「次元世界中・・・・・・だもんね。それでイクスちゃんの見たいお空も消えちゃう。
うぅ、どういう事ー? あの時も大変だったけど、それだって地球だけのお話だったのにー」

「とにかく、月詠幾斗を止めよう」



唯世くんは怖い顔のままで静かにそう言った。それでまた・・・・・・なんだろ、悲しいのかな。



「昨日の事でデスレーベル作戦が実行段階に移ってるのはもう確定だ。
それで月詠幾斗がその実行犯なのも変わらない。クロノ提督達にも改めて話をして、僕達は」

「あ、あの」



あたしが軽く右手をあげながら声を出すと、全員があたしの方を見る。

それで唯世くんは・・・・・・やっぱりあの表情のまま。



「何かな、あむちゃん」





イクトの事を言おうとした。もう話しちゃおうとした。でも、言えなかった。

その瞬間にあの告白の場にイクトが居た事もバレちゃうんじゃないかって急に怖くなった。

なにより唯世くんに話したらとんでもない事になるんじゃないかって怯えてしまった。



だからあたしは咄嗟に言い訳をたくさん・・・・・・たくさん考えてしまう。





「いや、その・・・・・・唯世くん、イクトとはやっぱり昔何かあったの?」



その結果、こんな風に逃げてしまった。唯世くんに嫌われたくなくて、あたしはまた嘘を上塗りした。



「え?」

「だって、唯世くん・・・・・・イクトの事になると、いつも」










唯世くんがハッとしたように目を見開いて、沈んだ表情になる。それで場が一気に沈黙する。





・・・・・・・・・・・・その後、ややが場の空気に耐え切れずに号令をかけるまでそのままだった。




















All kids have an egg in my soul



Heart Egg・・・・・・The invisible I want my






『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/じゃんぷっ!!!


第112話 『They disagree/嘘という現実への対価』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



やってしまった。普通を装っていたはずなのに、またあむちゃんを傷つけてしまった。

僕、やっぱり冷静じゃないのかな。そういうのがもう癖みたいになってるのかな。

こんなのダメだって分かってるはずなのに・・・・・・僕は本当に。昨日だって普通に何度もキレかけたし。





本当にこんな事じゃダメだ。あむちゃんだけじゃなくて藤咲君達の事だって振り回しかねない。





僕はもう、正しい事は分かってる。・・・・・・ううん、違う。分かっていきたいと思っているんだ。だったら、その姿勢は崩すな。










「・・・・・・で、僕に相談と」

「うん」

≪でも唯世君、そこまで出来たならきっと十分なの。というか凄い頑張った方だと思うの≫

「だけど足りなかった。全然通じなくて・・・・・・その上派手に負けた」





お昼休み、中庭で遅れて学校に来た蒼凪君にお弁当を食べつつ相談させてもらう事にした。

困った時には人の力を頼る事。これは独りよがりというか、袋小路にはまらないための一つの解決策だから。

なお、蒼凪君はこっちに来る前に買ってきた焼きそばパンとコロッケパンと野菜ジュース。



僕は家から持ってきたお弁当。聖夜小、何気に給食とか出ない学校なんだ。





「まぁアレだ、唯世が猫男をあむみたいに信じられないのはしょうがないでしょ。
だって唯世はキッカケが何かは知らないけど、今までずっと月詠幾斗を毛嫌いしてたんだから」

「・・・・・・うん」

「それはつまり何も知ろうとしないという事。ただ相手を否定し続けるという事。
いくら『それは嫌だから変えたい』と言ったところで、今日明日中に変われるわけがない」

「・・・・・・・・・・・・うん」



あはは、蒼凪君は知ってはいたけど容赦ないなぁ。自業自得とは言え、凄まじく突き刺さる。

苦笑しつつ右隣の蒼凪君の方を見ると、蒼凪君は焼きそばパンにかじりついて咀嚼して・・・・・・飲み込んだ。



「なによりよ? 普通なら僕は『まず相手を知らないとどうしようもない』って言うところだけど今回はNG行動」

≪そうなりますね。月詠幾斗は今イースターのところに居るでしょうから、普通にその手は使えません≫



つまり僕はなんにしても遅過ぎたんだよ。手を伸ばして理解する事も・・・・・・あぁそうだよ。

どうして僕は誰かとそれが出来なくなる事がとても悲しい事なんだって、もっと早く気づかなかったんだろう。



「だからさ、ここはあむに話してみれば?」

「あむちゃんに? つまりその、過去の事とか」

「それは唯世の判断に任せるよ。今回はそっちの方じゃなくて・・・・・・どうしてあむは猫男に心を許せるのかってさ」



後悔に苛まれていたところに射した光に、僕は思わず目を見開いた。

蒼凪君は・・・・・・変わらない表情で野菜ジュースを飲んでた。



「というか、あむがそういう事聞いたのは今までの蓄積が大きいよ」



蒼凪君が言っているのは、会議で日奈森さんが僕とイクト兄さんの過去を聞いた事だね。そこは僕もすぐに分かった。



「つまり唯世が考え直し始めてるのを知らない。それで唯世もまだまだ迷いがある。
負けたのは能力的な事もあるだろうけど、そこの辺りで今ひとつ吹っ切れなかったからじゃない?」

「そうだね、それはあるかも。こう・・・・・・ジレンマって言うのかな。
相反する感情に挟まれて苛まれてる感じがずっとしてた」

「だろうね。それでその一番の原因は、猫男を信頼出来る人達の気持ちを今ひとつ理解出来ないからだよ。
例えば歌唄、例えばあむ・・・・・・だから何があったか知らないけど、過去の事を理由に感情を荒らげてしまう」



だからジレンマを感じてしまう。だから蒼凪君の言うように今ひとつ吹っ切れなくて・・・・・・って感じかな。

うん、そう言われると納得するしかない。あの状態でまた戦ったら、今度は本当に死んでもおかしくないと思うし。



「だったらまずはそこの解消が必要じゃない? あむだけの事じゃなくて、唯世にだってそこは必要だよ」

「それは・・・・・・確かに。でもそんな時間は」

「時間がないからこそだよ。このまま現場でごちゃごちゃされても、僕は非常に困る」



蒼凪君が左手を伸ばして、僕の頭をくしゃくしゃと撫で始めた。



「だからここで、一気に全部解決しちゃおうか。うん、それで・・・・・・多少は変わるでしょ。
多分あむは猫男の事、普通レベルには好きなんだろうしさ。今日みたいな事はなくなるって」

「だといいけど。・・・・・・蒼凪君、ありがと。僕、まずあむちゃんと話してみる」

「ん、頑張ってね。あ、なんなら僕も手伝うけど?」

「それはありがたいけど、遠慮しておく。これは僕がやらなきゃいけない事だから。
うん、絶対にやらなきゃいけない事なんだ。もう一度言葉を伝えるためには、絶対に」










昨日シャレ抜きで殺されかかった事実を考えれば、もうなにもしないで叩きのめすという手もある。

だけど僕はそれをしたくない。・・・・・・イクト兄さんを信じたいと思っている人が居るんだ。

だからあむちゃんだってああいう事を聞いたに違いない。だったら叩きのめすだけなのはダメなんだ。





それじゃあ何も変わらない。ただの自己満足であむちゃん達は笑えない。

なにより僕も昨日の様子はおかし過ぎると思うんだ。だっていつもなら挑発されまくってるのに。

もしかすると本当にシュライヤ王子のように洗脳されてしまっているのかも知れない。





その上で道具扱いされているとしたら? 次に接触した時にそこが分かると良いんだけど。





でももし本当にそうならマズいかも。説得という手が使えないわけだから・・・・・・拳を、握るしかないのかな。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



普通に歌唄の誕生日過ごしている間にこんな事になってるとは・・・・・・マジであのバカは。





当然ながら夜、戻って来てから緊急作戦会議がリビングで行われるわけですよ。










「でもナナちゃん、真面目にそういうの分からなかったのよね?」

「えぇ。分かるのは×たまの気配だけ。でもそれだってこの間みたいに素早く消えちゃうし・・・・・・どうしろって言うのよ」

「なんにしても問題は月詠幾斗君だよ。無事だったのは喜ばしいけど、このままは絶対マズい」



フェイトもさすがに焦っているらしく、表情が重い。・・・・・・胎教にも悪いのに。

だから隣に座る僕は右手で背中を軽く撫でる。それでフェイトは安心したように息を吐いて、表情を柔らかくした。



「そこもマズいけど、このタイミングで面倒が起きたのは僕的にも非常に困る」

「おじいさん、どうしてですか? というか、このタイミングって」

「そうよ。アンタ・・・・・・あ、まさかリーゼフォームの改修実はまだ出来てないとか」

「そこはもう完璧に出来てる。いやさ、実は明後日ゆかなさんのライブがあるんだよね



そう言うと、なぜかフェイト以外の全員がずっこけた。・・・・・・全く、食事中に騒々しいなぁ。



「な、なぎ君ちょっと待ってっ! まさかこの状況でライブ予約してたのっ!?」

「ねぇ、確かゆかなさんってヤスフミの好きな声優さんだったわよねっ! 私やリインちゃんと声がそっくりな人っ!!」

「ですですっ! 恭文さん、いくらなんでもやる気無さ過ぎですっ!! もうちょっと気合い入れるですよっ!!」

「おのれらはバカかっ! てーか予約したのまだなぞたま事件解決してない時なんですけどっ!?
それでこんなタイミングでこんな事起こるなんて予想出来るかボケっ! 僕だってビックリしてるしっ!!」





そもそもライブチケットなんて、二〜三日前から予約なんてありえない。

普通にお客さんの予定とかの問題もあるしさ。それはありえない準備期間なのよ。

だから開催のひと月とかふた月とか前からそういう予約は開催される。



僕が予約したのも、あのチョコ祭りの前後くらいで・・・・・・ね? 予測は無理でしょ。





「もうライブもそうだし東京に行くための飛行機のチケットも銀行振込みで予約してるから・・・・・・楽しみだなー」

「実はそうなんだよね。私も一昨日聞いてビックリしたんだけど」

「いや、ビックリしたって・・・・・・フェイトさん的にはコイツのコレありなんですか?
こっち来る前だってゆかなさんが出るイベントの時は普通に仕事すっ飛ばしてたのに」



あー、すっ飛ばしてたね。というか、フェイトも一緒に連れてってすっ飛ばしてた。さすがに今回は体調の問題もあるから無理だけど。



「まぁその、ヤスフミの趣味関係はあんまりに問題がない限りは認める事にしてるから。
それにほら、こういうのでワクワクするヤスフミもその・・・・・・素敵だなーって」

「あの、惚気けないでもらえます? てゆうか問題は大いにあるじゃないですか。
コイツめちゃくちゃ意気込み過ぎて、本気で恋してる勢いですし」

「アンタ・・・・・・一応聞くけどもしライブと最終決戦が重なったらどうするのよ。この状況だとそういうのもありえるのよ?」



ナナにジト目でそう言われて、僕は固まる。固まって・・・・・・当然という顔で言い切る。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もちろん、最終決戦だよ。だ、だって・・・・・・ゆかなさんのライブ潰れたら困るし」



そうだ、ゆかなさんのライブを守るために頑張るんだ。絶対に潰させたりしないんだ。それで・・・・・・ぐす。



「あの、涙目にならないでくれる? 私が泣かせたみたいじゃないのよ。
てゆうかその、悪かったわね。うん、もう代金振り込んでるからそうなっちゃうのよね」

「あはは・・・・・・そうなんだよね。あ、それでナナちゃん」

「何?」

「私実はもう一つ気になる事があるんだ」



フェイトが笑顔を浮かべつつも、少し真剣な色も視線に含めた上でナナの事を見出した。



「そろそろ私達にも教えてくれないかな。どうしてナナちゃんはたまごの事に詳しいの?
というか、なぞたまもそうだけどたまごの気配を追えたり・・・・・・私達にもそういうの出来ないのに」





あー、そこは僕も気になってた。もちろんティアナやシャーリー達もだよ。

だって僕ですら未だにしゅごキャラの気配って良く分からないしさ。

だからフェイトと同じように疑問の視線をぶつけていると、ナナが軽く息を吐いた。



それから僕達を見回し、右隣に居るシルビィの方を見る。



シルビィはその視線を受けて何も言わずに頷いた。





「・・・・・・分かったわ。今話しておかないと色々問題っぽいし・・・・・・ちゃんと話す。
結論から言えば、私は恭文やフェイトさん達とは違う。しゅごキャラ達に近い存在なのよ」

「しゅごキャラ達に? ナナ、それってどういう」

「私、次元世界どうこう抜きにしてマジな異世界人なのよ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・じゃあその、ナインハルテンさん。もしデスレーベル作戦が成功・・・・・・予言が現実のものになったら」

「ナナちゃんの世界も・・・・・・その、プロミスランドって言うところも丸々消えちゃうのっ!?」

「えぇ」



それで翌日、ナナにも学校に来てもらった上でみんなに事情説明。昨日聞いた話をそのまましてもらった。



「×たまから童心は生まれないもの。もし世界中の全ての人間のたまごに×が付いたら・・・・・・そうなるわね。
だからマジで最初に話を聞いた時はビビったのよ。まさかそんなアホなマネするような奴らが居るとは思わなかったから」

「まぁ話通りなら本末転倒だしね。ちなみに恭文君、リインちゃんもこの事は」

「いや、昨日聞いたばっかりだよ。ナナがマジで異世界人なのも、そういう世界があるのも」

「まぁ一緒にお仕事した時にナナさんの魔法はリイン達のと違うなーとは思ってたですけど」



ただそこで特に聞いたりするような事はしなかったんだよね。でも話を聞いて本当の意味で納得出来たよ。

あの時・・・・・・お別れする時のナナの言葉がやたら実感こもってたのは、自分が『童心』から生まれた存在だったからなんだよ。



≪ただGPOメンバー・・・・・・シルビィさん達は知ってたんですよ。
一番最初にこの人に接触したのはGPOですから当然なんですけど≫

≪だからみんながこっちに協力してくれるの、ナナちゃんの故郷を消させない意味もあったの≫

「それでやたらと積極的になってたのね。いきなりそんな話になったから少し疑問だったんだけど」

「そういう事情なら、ナインハルテンさんをこっちに向かわせたのも納得出来るね」





ようするに、ナナにこの事態に関わらせるためにこっちに出向させたのよ。

僕やリインを助けるって意味合いもあるけど、もしかしたらそこはついでなのかも。

さすがに自分の生まれた世界の存亡に関わる事だしなぁ。傍観は辛いよ。



でもプロミスランドかぁ。そんな世界があるなら・・・・・・行ってみたいかも。




「あの、ナインハルテンさん」

「あぁもう、なんか空気重くするのやめてくれる? これだからお子ちゃまは嫌いよ」



椅子に座りながら腕を組むナナは、呆れ気味にそんな事を言ってため息を吐く。



「別に私の世界のためにどうこうなんて考える必要はないわよ。てゆうか、そんな余裕ないわよ?
なによりそれは私の役目。だからアンタ達はいつも通りにしてくれればいいのよ」

「でもでも、ナナちゃん」

「いいの。それに・・・・・・プロミスランドだけが大事ってわけじゃないから」



ナナはそう言って、少し困ったように笑う。それで僕とリイン以外の全員が戸惑った表情でナナを見る。



「この世界も私にとっては大事なの。この世界に来てからもう7年・・・・・・色々荷物も増えちゃってね。
私はアンタ達より、少しだけ守りたいものが多いってだけの話よ。えぇ、たったそれだけ。・・・・・・それで恭文」

「なに?」

「ちょうどいい機会だし、もしも・・・・・・もしも予言が現実のものになった場合に想定される事、教えておくわ」



その言葉に驚いて目を見開く。ナナはそんな僕の方をただジッと見ていた。



「ただ可能性としては相当低い事は覚えておいて?
ううん、普通ならそんなのはどうやっても無理って言ってもいい」

「・・・・・・分かるの? てーかなんでまた今そこ」



昨日もその辺りの話はしてなかったのに。だから今みんなと同じようにビックリしてしまった。



「正直言うの迷ってたのよ。私自身もそうなるとは信じられなくてさ。
だけど最近のあれこれを考えると・・・・・・これはマズいかなと」

「そっか。で、具体的な展開は?」

「まず、本当にしゃれじゃないくらいの大きなマイナスエネルギーが必要になるわ。
それで世界中の人間のこころに響かせるの。・・・・・・人の悲しみを呼び起こす声を」





ナナから説明されたあれこれは、確かに普通なら実現不可能と言ってもいいレベルのものだった。

だけど実現される可能性がある以上・・・・・・ううん、そんなの無くてもイースターの行動は止めてやる。

今まで好き勝手してくれたお礼もしなきゃいけないし、なにより譲れない意地ってのがあるのよ。



だって僕、守るものがまた一つ増えたんだから。うん、お父さんは結構大変・・・・・・よし、やめよう。



戦いの場で家族の話をするのは死亡フラグだもの。これはダメだ、余りにダメ過ぎて笑ってしまうレベルだよ。





「・・・・・・しかしそうするとマズいな」

「蒼凪君、何かまだ気になる事でも?」

「いや、このままだとやっぱり明日東京でやるゆかなさんのライブはどうやっても行けそうにないかなって。
いや、むしろ放置したらライブが潰れるな。こうなったら覚悟を決めてライブを守るためにイースター潰すか?」



・・・・・・アレ、全員がまたずっこけた。おかしいなぁ、昨日の夜のシーンの焼き増しじゃない?



「え、えっと恭文? ゆかなさんって誰かなぁ」

「そこは僕も気になるんだけど・・・・・・恭文君、教えてくれる?」

「え、二人とも知らないの? 声優さんだよ。最近だと仮面ライダーOOOのメズール様とかやってる」

「あ、やや知ってるー。あの大人っぽい怪人さん・・・・・・え、その人歌うたってるの?」



あ、さすがにややは知ってたのか。もう目を見開いて楽しげにこっち見てきたよ。



「うんうん。それもすっごく上手なんだよー。もう僕昔から大ファンでー。
具体的には魔導師になる前からファンでー。むしろゆかなさんは僕の嫁でー」

「・・・・・・恭文、本当に大ファンらしいのよ。ブログもチェックしてるしCDも持ってるし。
その人が出てるゲームやアニメは全チェックで・・・・・・その上とても美人」

「ハッキリ言えばフェイトさんレベルなのです。それでとってもスタイルも良いのです」

「そう、だからゆかなさんは僕の嫁。だから・・・・・・頑張らなくちゃ」



右拳を強く握り締め、僕は決意の炎を燃やす。それによってロイヤルガーデンの温度は一気に5度くらい上昇。



「世界が滅びたら、当然ゆかなさんのライブもパー! そんな悲劇が許されるとっ!? いいや、許されるわけがないっ!!
だから絶対にイースターはここでぶっ潰すっ! それでゆかなさんのライブを守るっ!! うし、やるぞー!!」



そして更に炎を燃やし、周囲を赤く染め上げる。でもこう、二次元って凄いね。決意の炎すら具現化出来るんだから。

そのためにロイヤルガーデンの温度は更に3度上がり、みんなが軽く汗をかき始めたりする。



「そ、そっか。それはその・・・・・・すごいね。あの、三人とも」

「なぎひこ、もう放置するしかないわ。フェイトさんでもどうしようもないくらいに入れ込んでるみたいだから」

「ですです。まぁエンジンかかってるのは良い事だから問題ないのですよ」

「どうもそうらしいのよね。まぁ家族の事とかも含めてライブいっちゃうのがコイツらしいというかなんというか。
でもアンタ、血の涙を流すのはやめなさい。行けなくて悲しいのは分かるけど泣くのやめなさいよ。もう家庭の主でしょ?」










あれ、なんでみんなちょっと苦笑い? 僕なんか悪い事言ってるかな。あ、分かった。

ゆかなさんの素晴らしさをみんなよく分かってないんだね。そう言えば今まで話してなかったしなぁ。

うし、ゆかなさんの布教活動頑張ろうっと。最近だとアマガミとかもあるしかなり楽だよね。





しかし・・・・・・イースターはマジで空気読まないな。ここで本気で潰さないと、おちおちライブ行けないし。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



お昼休み、あたしは中庭でお昼も食べずに蹲って頭抱えてました。あたしマジ最低過ぎだし。

肝心な時にイクトの事話せないって、当初の予定というか必要事項を満たせないって事じゃん。ありえないし。

しかもナナちゃんの話だよ。まさかそんな重いもんが絡んでるとは思わなくて何も言えなくなった。





でもやっぱり信じられない。あんな・・・・・・あんなとんでもない事が起こる引き金をイクトが引いてるなんて信じられない。










「・・・・・・・・・・・・どうしよ」

「恭文達に話すしかないね。というか、あのヴァイオリンやっぱりおかしいんだよ」

「でもミキ、やっぱりアイツじゃないって。あたし今ひとつ信じられないよ。
だってアイツあの状態だし、なおかつ唯世くんを殺そうとするなんて」





唯世くんとイクトは元々幼なじみなんだよ? 唯世くんはともかくイクトは本気で攻撃したりはない。

それに今までだってなんだかんだ言いながらこっちの味方してたりした。だから・・・・・・その、そうだな。

あたしはイクトがそんなマネするなんて信じたくない。だってアイツ、マジで悪い奴なんかじゃない。



なによりやっぱり怖い。今の唯世くんにイクトの事を話してどうなるか・・・・・・本気で怖い。



ナナちゃんの話でみんなの勢いも上がってる分、イクトへの攻撃が激しくなりそうで怖いの。





「じゃあ一昨日唯世が会ったイクトはどう説明するの?」

「いやいや、イクト寝てたじゃん。寝てる奴にそんなマネ出来ないし。
なによりイクトはヨルとキャラなりしてもたまご抜き出したり出来ないし」



ほら、ここが最大の理由だって。イクトはそもそもたまごを抜き出す事が出来ないんだから。

歌唄もそこは間違いないって言ってたし、多分そのイクトは偽物かなにかだよ。うん、そうに違いない。



「そんなの意味がないね」

「はぁっ!? なんでっ!!」

「ボク達もあむちゃんも寝ちゃってたよね? つまりイクトにはちゃんとしたアリバイが無い」



そ、そう言われると弱い。しかもあの傷だって寝ちゃってる間に・・・・・・だしなぁ。

唯世くんの話通りだとイクトの傷は唯世くんがつけたものって事になるし、位置も同じ感じだし。



「というか実は・・・・・・ボク一昨日の夜寝ついてから途中で起きたんだ。その時イクト、居なかった」



一瞬で顔が青くなったのが分かった。というか、背筋が寒い。

だから信じられなくてミキを見るけど、ミキはただ頷くだけだった。



「それで能力に関しても同じ。もし偽エンブリオみたいなものを使ってるなら可能かも」

「シュライヤさんの時もそうでしたしねぇ。シュライヤさん、キャラなりとか出来ないのにたまご抜き出せてましたぁ」



確かにあの時も山吹さん達のたまご抜き出したりしてた。

そこを考えるとありえない事じゃ・・・・・・でもやっぱ信じられない。



「その時みたいにイースターに何かされてるなら、そうなっちゃうーって事なんだねー。
でもでも、イクトって普通にお話出来るよね? シュライヤの時みたいにおかしくなってないし」

「そこがボクも分からないんだよねぇ。話聞いてからアレコレ考えてるけどさっぱりなんだよ。
例えばイクトが本当におかしくなっていて、ヨル共々ボク達に嘘をついていたとする」



そのミキの言葉で胸がまた痛くなる。それに構わずミキは困ったように話を続けた。



「でもそうするメリットが無いんだよ。だってイースターの手元に居るなら、ずっとそこで働かせた方が特だもの」

「ならなら、あむちゃんを後ろから不意打ちしてやれーとかは?」

「だったらとっくにやられてる」



その言葉がとても嫌で、あたしは自然と視線を落としてしまう。



「なによりそれならヴァイオリンの事を話す必要がないよ。だから」

「やめてっ!!」



話を聴いているうちにどうしても表情が不満げになってしまって、つい鋭く三人の方を見ないで声を荒らげた。



「・・・・・・イクトは、そんな奴じゃない。絶対に違う。一昨日の事は何かの間違いに決まってるじゃん」



誰かがため息を吐いたのが聴こえた。改めて三人の方を見ると、ミキが腕を組みながら呆れたようにあたしを見てた。



「あむちゃん、当初の目的忘れてない?」

「はぁ? 何がかな」

「イクトがうちに居るのを内緒にしてるのは、イクトがこっちを信頼してくれる時間を作るためだよね?」



その通りなので、ミキを見上げながら頷いた。



「それで何か困った事があったらすぐに話すとも決めた。なのにあむちゃん、どうして黙ってるのかな」

「それは・・・・・・いや、だから唯世くんに話すとイクトがマズい事に」

「現時点でも十分マズいよ。というか、黙ってるのは本当にありえない。
イクトはボク達が知らない間にイースターの作戦を手伝ってる可能性があるんだから」

「そんな事ないっ! イクトは・・・・・・イクトはそんな奴じゃないよっ!!
だってアイツ、必死に逃げててボロボロで・・・・・・そんなワケないじゃんっ!!」





・・・・・・ミキ、呆れたようにため息吐かないで。てゆか二度目だし。

あの、分かってる。あたし言ってる事無茶苦茶だって分かってる。

だけどやっぱり怖い。いつものパターンを考えるとかなり怖い。



唯世くんが敵意剥き出し状態になって、イクトがまた消えるかも知れない。



消える? イクトが・・・・・・そうだ、それが怖いんだ。あたし、イクトに会えなくなるのが嫌なんだ。





「・・・・・・今日、戻ったらヨルに聞いてみようか」

「え、ミキ。ヨルもミキと同じく起きてたの? 私そこはちょっとびっくりかも」

「ううん、ヨルはぐっすり寝てた。でもヨルなら何か気づいてるかも知れないから」

「そうですねぇ。でもでも、何も分からなかったらどうするんですかぁ?」

「ボクから恭文に話す」



あたしは目を見開いてついミキを睨んでしまう。それでもミキは首を横に振った。



「あむちゃんがどう言おうとどう思おうと、これ以上は絶対に隠せない。・・・・・・いいね?」










あたしは何も答えずに、ただそっぽを向いて視線を落とすだけだった。それしか、出来なかった。





イクトの疑いを晴らす事も、唯世くんが怖くなるのも止められなくて・・・・・・これしか、出来なかった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ミキ、本当にいいの? ほら、あむちゃんご機嫌斜めだし」

「いいんだよ。どっちにしたってイクトの事はちゃんと調べないと。
下手をしたら手遅れになるんだから。それでボク達じゃあそれは出来ない」





管理局組の設備がだめでもナナも居るしね。ナナはボク達しゅごキャラに割合近い存在だから。

でもビックリだなぁ。プロミスランド・・・・・・いったいどんな世界なんだろ。

まぁそこは置いておくとして、もしかしたらナナならヴァイオリンの変化も何か分かるかも。



どっちにしてももう人と相談する段階だよ。これ以上ボク達で抱えてても意味がない。





「なにより」

「なになに?」

「絶対に自分から謝って話した方がいいよ。ほら、恭文が」

「「・・・・・・あー」」





二人もあの決意の炎を燃やしながらも泣いていた恭文を見てるから、自然と納得した。

・・・・・・ゆかなさんのライブ行けなくて、血の涙流してたしね。それでしきりに『イースター潰す』とかって言ってたし。

もし;ボク達がすぐにこの事を話してたとするよ? そうしたらもしかしたら行けてたかも知れない。



多分恭文の怒りは上乗せされるよ。嘘ついてるってバレるよりは今バラした方がいいかなーと。





「そう言えば恭文、誕生日もマリアージュ事件で潰されたりしたよね。それで婚約指輪買いに行けなかったり」

「でしょ? それもあるからその・・・・・・さすがに申し訳なくなってきて」

「納得しましたぁ。でもでも、お話するとイクトさんが告白を聞いた事もバレちゃいますねぇ」



あ、それはあったな。ボクはまたあむちゃんの方に視線を向けると・・・・・・あむちゃんは固まって震え出した。



「それでそれで、『今日と今まで会わなかった分まで嫌いって言い続けるから』ってフラグが立って」

「それは嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! いや、マジで嫌だからやめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!
やっぱ話したくないっ! 話したら死ぬっ!! あたしマジでお亡くなりになっちゃうっ!!」

「でもあむちゃん、話さなかったら恭文さんがぁ」

「それも嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! てゆうかそんなの知らなかったし言われても困るしっ!!」



そして頭を抱えてその場で叫んだ。その様子を見て、ボク達はただただ呆れるしかなかった。



『・・・・・・やっぱ目的見失ってる?』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



マジこれどうしよ。ヤバい、本当にヤバい。下手に唯世くんやみんなと会わせたらイクトが居なくなるかも。

いやいや、それ以前にあの時イクトが居た事がバレるのがマズい。だってめちゃくちゃいい雰囲気なのにさ。

もしもバレたら、マジでこれから好きの代わりに今までの分も含めて嫌いって言われ続けるのかも。





だけどもう黙ってるのも無理。だって恭文がマジギレする可能性がめちゃくちゃ高い。





もしあたし達が話してすぐに対処してたらライブ行けたかも知れなくて・・・・・・マジどうすればいいのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?










「あむちゃん」



後ろから突然声がかかって、あたしは身体を震わせながら振り向く。

そこには困った様子のなぎひことリズムが居た。



「・・・・・・あむ、お前なんでそんな怯えてんだ? ナギーは普通に声かけただけだよな」

「い、いや・・・・・・なんでもないっ! いや、マジなんでもないからっ!!」

「あははは、だったら身体を震わせながら後ずさりはやめて欲しいなぁ。結構傷つくんだけど」

「あ、ごめん」



というか、普通に距離取って・・・・・・ヤバい。あたし普通に怯え過ぎだから。

あれ、でも後ろから声かけてきて、ちょっと近くて・・・・・・まさか。



「あの、なぎひこ。リズムももしかして今の話」

「「話?」」

「いや、なんでもないっ! うん、本当になんでもないからっ!!
・・・・・・というか二人ともどうしたの? ご飯って感じじゃないけど」

「僕達はついさっき食べ終わったところ。いや、なんかあむちゃんが元気無い感じだったから」



あ、もしかして心配して・・・・・・って、これだめだし。そうなるとあたしが隠し事してるのとかバレバレじゃん。

改めてなぎひこの方を見たら、なぎひこはあたしを見ながら安心させるように笑ってくれた。



「僕でよければ、相談に乗るけど?」

「・・・・・・いいの?」

「うん」










結局あたしは、その言葉に甘える事にした。というかもうなんかワケ分かんないの。





そうだね、ミキの言う通り最初の目的忘れてるのかも。だけどあたし、やっぱり信じられないんだ。





イクトは、そんな事してない。そんな事してないって信じたい。それはダメな事なのかな。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・まぁさ、相談に乗るのはいいんだよ。困った様子だったし。

僕も色々心が痛いから、その埋め合わせじゃないけど力にはなりたいんだよ。

だけど・・・・・・やっぱり分からないなぁ。なんで僕、髪型変えてるんだろ。





具体的にはなんで僕は自分の髪をポニーテールにしてるんだろ。正直意味が全く分からない。





それでもっと意味が分からないのは、あむちゃんが僕を『なでしこ』と呼んでペラペラと喋り出した事かな。










「・・・・・・嘘?」

「うん。もしも大事な人に何か隠し事をしてて・・・・・・でもそれを知ったら大変な事になるの。
その相手を怒らせちゃったり嫌われたりするかも知れないような事になる」



聞いてるだけでブルーになる。特に今、あむちゃんは僕に『なでしこ』の姿を重ねてるから余計に。

だからあむちゃんに付き合うように膝を抱えて座っている僕は、どんどんヘコんでしまう。



「なぎひこならそういう時・・・・・・あれ、なんで落ち込むの?」

「・・・・・・実にタイムリーな質問かも」

「え、そうなの?」

「うん。今、まさにそれで絶賛後悔中って言うか」



ねぇ、これ下手な答え方したら僕の立場がマズくならない? ほら、僕だって嘘ついてるしさ。

まぁただアレだよね。それで色々と納得した。というか大体分かった。・・・・・・あむちゃん、ごめん。



「・・・・・・基本的に隠し事はよくないと思う。嘘はつく方もつかれる方も辛いから」



リズム、そこで涙目になるのやめて。うん、分かってる。一種の自己弁護っぽくて突き刺さるけどやめて。



「でも・・・・・・隠し通した方が良い事というのもあるんだよ。その方が相手を傷つけなくて済むならさ」

「・・・・・・そういうのも、あるのかな」

「うん。でもその代わり、その道を選ぶなら最後まで嘘を突き通す苦しさと向き合わなくちゃいけない。
もし途中でそれがバレてしまったら、相手を二重に傷つけてしまう事になる」





よくさ、最初は言えなかったけど後になって言った方が本人のためにーって言って嘘をバラすのあるじゃない?

それはそういう苦しさから逃げる選択だと思う。はっきり言ってしまえばそれは偽善だよ。

嘘は極端な話最後は自分のためにつくものなのに、『相手のために教える』なんて言うのがそもそもおかしい。



それは逃げなんだよ。そんな事を話されても相手は戸惑うだけ。なぜその時に話してくれなかったのかと戸惑うばかり。

『自分以外の何かのため』という綺麗事で、嘘を突き通せなかった事と相手を傷つけた事から逃げている。

それで非常に悲しいのは・・・・・・大人や社会ではそういう理屈が平然と成り立つって事かな。それが美徳とされている事。



なんだかおかしいよね。嘘は嘘で、誰かを傷つける行為のはずなのにね。

でもこの理論を持ち出すと嘘をついた方が良い事をしたように思われる。その理由は分かってる。

『誰かのため』という言葉が美しいから。その表面的な美しさにみんな惑わされてしまうから。



社会や大人の世界は、そういう形で出来ているところがある。パッと見の印象って言うの?

それが良ければ偽善でも嘘でも逃げでも肯定される。そういう汚さがこの社会には確かにあるんだよ。

まぁ僕が言っても全く意味が無いんだけどさ。だって僕も嘘・・・・・・あぁ、辛いなぁ。



感心したようなあむちゃんの視線が辛いなぁ。というか僕、もう泣きそうだよ。






「まぁアレだよ」



あむちゃんの視線から逃げるように顔を上げて、晴れ渡る秋の空を見上げた。

吹き抜けた風が少し肌寒いけど、この肌寒さが逆に心地いい。



「もし嘘をつくなら、それくらいの覚悟が必要って事さ」

「・・・・・・・・・・・・覚悟」





あむちゃんの方を見ると、あむちゃんは視線を落としてずっと考え込んでいた。

僕は何も言わずにその場からゆっくりと離れた。そうやってあむちゃんからしっかりと距離を取る。

あむちゃん、ごめん。僕は本当にあむちゃんに説教なんて出来る立場じゃないんだ。



だって僕は今、『なでしこ』の事だけじゃなくてまた一つあむちゃんに嘘をついたんだから。





「おいナギー、どうすんだよ」

「当然恭文君に話す。・・・・・・どうも本当に急を要するみたいだしね」



実はさっきのあむちゃん達の会話、少し聞いてたんだ。それで重要なワードもしっかりと把握出来た。

どういう事情でそうなったかは分からないけど、あむちゃんの家に月詠幾斗は居る。



「でもよ、大丈夫なのか? 唯世がこれ知ったら・・・・・・会議の時も相当だったろ」

「そこは僕も一緒に対処するよ。ただ、なんにしてもこのまま放置はだめだ。
あむちゃん、辺里君の事気にする余り完全に及び腰になってるっぽいし」



そうは言ったものの、これで僕もあむちゃんから嫌われるかなーと考えると憂鬱になる。

それでついため息を大きく吐いたりするけど、それでも僕は携帯を取り出して・・・・・・少し迷ってしまった。



「・・・・・・リズム」

「なんだ?」

「恭文君にはその、冷静になってもらおうか。いや、かなり真面目に」

「だな。あむ達が行けない原因作ってるのは事実だしよ」










もっと早く相談してくれてたら、月詠幾斗の事も作戦の事も止められたかも知れないしね。





まぁさすがにあむちゃんに八つ当たりみたいなマネするとは思わないけど、それでも冷静に話は進めようっと。





いや、するわけないよね? 普通にこの場合はイースターに八つ当たりした方が自然だし。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



今日は特に仕事もなかったので、早々に帰宅。唯世くんと二人で帰宅する事になった。

イクトの事本当にどうしようかって考えちゃって、頭痛めちゃって・・・・・・全然楽しくない。

嘘をつく覚悟かぁ。あたし、そういう覚悟してたかな。全部上手くいくと思って隠してただけかな。





だから今更こんな事ばかり考えて・・・・・・それで唯世くんが足を止めてあたしに断った上で花屋に飛び込んだ。





なお、飛び込んだ花屋はまなみちゃんの家。それで買ってきたのは、三輪の紫色のコスモス。










「ごめんね、待たせちゃって」

「ううん。でも唯世くん、それ」

「あ、おばあ様へのお見舞い用なんだ」

「・・・・・・おばあさん、具合悪いの? というかお見舞い必要なのは唯世くんじゃ」



唯世くんはあたしの言葉に苦笑しながら・・・・・・いつもの唯世くんの表情だ。

あ、そう言えば唯世くんの家族の話聞くのって初めてかも。結構新鮮。



「2年前に倒れちゃってね、自宅療養中。ただ基本的には元気なんだ。
あんまりに病人扱いしちゃうと、逆に叱られちゃうくらい。・・・・・・ただ」

「ただ?」

「それでも倒れる前に比べるとどうしてもね。元々元気な人が弱った姿を見る事しか出来なかったのは・・・・・・ちょっと辛かった」



唯世くんは少し悲しげな目で、左手で抱きかかえるようにして持っている花束を見る。



「なのに、花って凄いよね。こんな小さな花でも一生懸命に咲いていてる。
それでほんの少しずつでも誰かを笑顔に変えていけるんだから。僕も、こうなりたいな」





・・・・・・唯世くんは優しい。それでとっても強い。あたしはずっと・・・・・・ずっとそう思ってる。



その穏やかな顔を見ていると、胸の中で渦巻いてた不安が一気に消えた。



それで唯世くんが花からあたしの方に視線を移して、少し真剣な目をし出した。





「日奈森さん・・・・・・あ、ごめん。・・・・・・あむちゃん」

「う、うん。なにかな」

「悪いんだけど、今日4時くらいにいつもの公園の噴水に来てくれないかな。
・・・・・・月詠幾斗の事、ちゃんと話しておきたいんだ。とっても大事な事だから」

「・・・・・・・・・・・・唯世くん」



唯世くん、また表情が怖い感じになってる。なんだろ、不安がまたぶり返してきた。

さっきは話しても大丈夫だって思ってたのに、その考えが間違いみたいに思えてくる。



「それでその、不安にさせちゃってるみたいだから今のうちに重要な事だけは言っておくね」



唯世くんはその表情のまま視線を落とす。それで唯世くんの目が見えなくなってしまった。

それが不安を更に大きくしてしまう。いや、聞きたくない。これ以上は聞きたくない。



「月詠幾斗は・・・・・・僕に、そして僕達家族にとって不幸を運ぶ黒猫だったんだ」










その言葉を聞いた瞬間、何かが砕けた。それであたしはそのままその場から走り去ってしまう。





いや、聞きたくない。今それを聞きたくない。どうして・・・・・・どうしてなのかな、唯世くん。





あたし分からないよ。今の唯世くんといつもの唯世くん、どっちが本当の唯世くんなのか全然分かんないよ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・どうしてそうなるのかは後で話す。だからその・・・・・・そうだな。
あむちゃん、もし君が月詠幾斗の力になりたいのなら、それでいい」

「おい、唯世」

「でもどうしてそう思うのかを教えて欲しいんだ。きっと君は、僕の知らない月詠幾斗の・・・・・・イクト兄さんの事を知っている。
それでイクト兄さんの事を助けたいのなら、僕も力を貸したい。・・・・・・まず怖がらせてごめんって言うのが」

「唯世、顔を上げろっ! あむはもうとっくに居なくなってるぞっ!!」



キセキにそう言われてハっとしながら顔を上げる。確かに目の前に居たあむちゃんが居ない。

そこから改めて周囲を見渡すと・・・・・・居ない。本当にあむちゃんの姿が消えてる。



「あむちゃんっ!? あの、どこ行っちゃったのかなっ!!」

「・・・・・・バカ者。いきなり不幸を運ぶ黒猫などと言えば拒否反応を示すだろうが」



僕の右隣のキセキは、呆れたようにそう言うだけだった。

それで僕は・・・・・・ただ頬を引きつらせる事しか出来なかった。



「僕、話の仕方失敗しちゃった?」

「間違いなくな。まぁそういう姿勢を示そうとした事は評価するべきだろうが・・・・・・しっかり反省しろ」

「・・・・・・はい」










どうしよ、コレだとあむちゃん来てくれるかどうか微妙だなぁ。とりあえず謝りメールだけ入れておこう。





それでメールで事情説明・・・・・・いや、やっぱり直接話そう。それで妙な誤解されても困るもの。





うぅ、やっぱり僕はまだ過去に引っ張られてるのかな。こういう言い方しちゃうのってそのせいなんだろうなぁ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



どうしよどうしよ、唯世くんから逃げちゃった。てゆうかあたし、マジで何やってんだろ。

唯世くんはちゃんと話そうとしてくれて・・・・・・でもだめ。やっぱ聞きたくない。

とにかく家に戻って、諸悪の根源とも言うべきあのバカを見る。あのバカはのんきに漫画読んでた。





・・・・・・これが不幸を運ぶ黒猫? いやいや、唯世くん絶対勘違いしてると思うし。

てゆうか、やっぱありえないよ。イクトは普通じゃん。本当にいつものイクトじゃん。

洗脳とかされてる様子もないし。うん、いつも通りのイクトだ。だから・・・・・・コレでいい。





あたしはイクトの事を信じたい。イクトはそんな事しないって信じたい。だから、コレでいい。










「なぁ」

「なに」

「風呂入ってもいいか? 何気に匂い気になってきてよ」

「・・・・・・アンタ、この状況に段々慣れてきてるね」





まぁ今なら大丈夫か。ママもまだ帰って来てないし、パパもあみのお迎えで遅くなるし。



というわけで、イクトを1階のお風呂場に連れていく事にした。なお、うちのお風呂場は標準的なお風呂。



ユニットバスとかでもないし、脱衣所があってそこで服脱いでお風呂ーって感じだね。





「なぁ」

「なに?」

「覗くなよ?」

「誰が覗くかっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



まぁまぁ僕は今まであの魔法少女の事を何度か本気でバカだと思った事はかなりあった。

それでもそれを取り返すくらいにやる子だなとは思っていた。

もちろんだからってこれで裏切られたなんて言うつもりもない。そんなもん信頼の押しつけだもの。





結局は他人なんだし、そりゃあこういう事も長い付き合いの中であるだろうさ。てーかそんなのはめんどくさい。

なにより裏切りは裏切られた側にも問題があるのよ。相手が裏切る要因が確かにあるはずだもの。

それが理不尽なものかどうかは別として、確かに存在はしてるのよ。・・・・・・まぁ裏切りって言う時点でアレだけど。





ただそれでも住宅街をなぎひこと二人学校帰りのまま歩きながら、怒りが沸き上がったりする。





この状況で平然とそういう手に出てる事自体が信じられないし。てーか普通に連絡してこいっつーの。










「・・・・・・あのバカは。バカだバカだとは思ってきたけどここまでバカだとは思わなかった」

「日奈森さん、正真正銘の愚か者ですね。お姉様、救いようはあると思いますか?」

「ないな。むしろあったら奇跡なレベルだろう」

「ですよねー。それで二人とも、僕はあむを斬っていいと思う?」

「「待って待ってっ!!」」



なんか隣を歩くなぎひことリズムが止めに入って・・・・・・あ、二人も同行してくれてるのよ。

気づいた以上、放置も出来ないーって言ってさ。でもなんというか、なんでそんな怯えた表情を見せるのかな。



「ナギナギ、お前マジ落ち着けってっ! そんなにその声優さんのライブ行きたかったのかっ!?」

「うん。だから一発くらい殴るわ。ライブの事を抜いてもこれが事実なら黙ってた事はありえないわ」

「即答しないでっ! ほら、あむちゃんにだって何か事情があるかも知れないんだからっ!!」

「事情があってもアウトだろ。・・・・・・だが少し気にかかるな」



ヒカリが腕を組みながら、軽く唸ったりしてる。僕の左側に居るヒカリに、なぎひことリズムも視線を向けた。



「ヒカリ、気にかかるって何がだよ。てーか気にかけるべきはナギナギの顔だろ。また血の涙流してるしよ」

「そんなのはとりあえずどうでもいい。・・・・・・まずあむは家族にはどう説明しているんだ?
いや、むしろ居るなら先日唯世が家に上がった時はどうした」



・・・・・・その言葉で僕達は一気に顔を青冷めてしまった。た、確かにそれはかなり気になる。

仮に家族公認だったとしよう。それなら唯世と猫男は鉢合わせしてもおかしくないよ?



「ま、まさかとは思うけどあむちゃん」

「お父さんとかお母さんには内緒の上で猫男家に入れてるんかい」

「ありえますね。というより日奈森さん父のお兄様への噛みつき方を考えると言うとは思えません。
間違いないく発狂するレベルですよ? 事情があるにしても発狂してとんでもない騒ぎになるかと」

「あむ・・・・・・さすがにそれはバッドクールだぜ」



いや、それだと唯世の告白・・・・・・ヤバい。なんかもう死亡フラグ臭がプンプンしてきたし。



「それで次。唯世の話も鑑みると色々矛盾していないか?
なんでイースターの作戦に乗ったままあむの家に居るんだ」

「実はそこ、僕も不思議に思ってたんだ。あの様子だとそこはあむちゃん達もさっぱりっぽいし」





確かになぁ。もしあるとしたら・・・・・・あむを相手にこっちの動きを読むとかそういうの? つまりスパイ活動だよ。

でもそんな事する意味があるのかな。それやるくらいなら全力で働かせた方が特だと思うのに。

いや、でも考えられる可能性はあるか。猫男が洗脳されてるとして、おかしくなっているのを隠してあむに接近。



その上で隙を見てあむを誘拐するなりして、戦えないようにする。・・・・・・でもそれならなんで今までやらなかったんだろ。

仮に本当にここ二〜三日の間の話としても、その間にチャンスはいくらでもあったはずなのに。

あむの性格を考えると、間違いなく心許して油断しまくってたはず。むしろ出来ないと考えるのがおかしい。





「それで最後に・・・・・・なぜ今の今まで私達が気づかなかったという事だ。仮に偽エンブリオなどで洗脳されていたとする。
だったらその反応を私達が感じ取れてもおかしくはないんだ。お前達も知っているなぞたまなどと同じようにな」

「あー、確かにそれは疑問だわ」



昨日もみんなして首を捻ってたとこでもあるから、普通にその言葉に乗っかれる。



「だってヒカリやシオンだけじゃなく、ナナもかなりの頻度捜索してたのに」





例えば以前の偽エンブリオの場合、ある程度近づけばみんな自然とその気配に気づいた。

当然だけどみんなの捜索範囲はあむの家の近辺も含まれている。なのに今の今までコレ。

それで一昨日のゴタゴタも、ヒカリ達とシオンにエルとイルも気づいた様子は全くなかったんだよ。



そこはナナも同じく。唯世が本当に偶然に遭遇出来てそこで発覚した話だったりする。





「もしかしたら辺里君が見たそのキャラなりや能力、今までのキャラなりとはまた違うのかも知れないね。
そのせいでしゅごキャラ達やそこに詳しいナナちゃんでも、例のピチカート以外は反応を掴めないとか」

「一種のステルス持ちって事か。それはまたありえそうで怖いなぁ」





なお、ここでは薬物や催眠などによる×たま関係ではない洗脳は自然と除外している。

だからたまご関係では察知出来ないというのも分かるけど、多分コレはない。

それだとまず猫男が見た事もないキャラなりをしてたまごを抜き出せる理由が全く分からないのよ。



もう何度も説明してるけど、キャラなりは『なりたい自分』。たまごと人間が一体化して初めて出来る変身。

たまご関係な洗脳ならともかくそういう普通の洗脳を受けて、果たしてそれが出来るのかという疑問点が残る。

まぁイースターがそういう技術を開発したとも考えられるけど、それもなんか違う感じがするんだよね。



それで例えそうだとしても、やっぱりあむのところに居る意味が分からない。

仮に本当にスパイなりこっちを潰すためだったとしても、あむがいつもの調子で洗脳を解く可能性もある。

洗脳って、ようするに一種の思い込ませだしね。それを揺らがせれば解く事は可能なんだよ。



その場合、やっぱり他者との不必要な接触は避けると思うんだ。あとはやっぱりそこをやる必要が感じられない。

だって色々矛盾してるでしょ。こっちに動き掴ませないためにそういう手使ったのに、あむ達のところに居るなんてさ。

連中の目的はあくまでもエンブリオの確保。僕達とのケンカはその目的に進む際に発生する障害に過ぎない。



つまり僕達とのケンカは絶対に主目的じゃないの。BYとか色々ありはしたけど、それでもそこだけは絶対に変わらない。

なによりあむと一緒に居たらあむに不自然に思われないようにして、行動が自然と制限されてしまう。

やっぱりどう考えても色々おかしいし矛盾点が多過ぎるんだよ。僕だったら気づかれないようにどんどんたまご抜き出しちゃうよ。



もちろんいつもの調子で余裕こいてるって可能性も・・・・・・まぁ、ようするにアレだよ。



全部の疑問点は猫男にぶつけて聞くしかないって事だね。ぶっちゃけ議論しててもあまり意味がない。





「てゆうか、今思った。これでもっと怖いのは」



それでここは冗談のつもりだった。でも言い出そうとする前に一気に寒気が強くなって、つい表情が暗る。



あむがnice boatに乗ろうとしてる事だよ。これ、どう考えても死亡コースだし

「同感。あむちゃん、さすがにコレはマズいって。辺里君が知ったら絶対大荒れだよ。
・・・・・・辺里君にはここの辺りバレないようにしておこうか。上手く辻褄合わせてさ」

「そっちの方がいいかな。特に唯世は気合い入れてたし、これでこうなると・・・・・・相当ショックだろうしなぁ。
うし、やっぱ一発殴っておこうっと。そうなるとあむはかなり最低だよ? それも言葉に出来ないようなレベルで」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



イクトがお風呂に入っている間に、時間はどんどん過ぎていく。

あたしのスポンジとか洗剤とか使ってもらってるからパパ達にバレる心配はない。

でもその間に唯世くんとの待ち合わせの時間に迫っていた。





あたしはラン達に出かけるための私服を持って来てもらった上で、脱衣所で着替えを敢行した。










「ねぇ、イクト」

「なんだ? ・・・・・・あ、一緒に入りたいとかか。ただアレだ、二人だと相当くっつかないと」

「うるさい黙れっ! そうじゃなくてあたしちょっとここで着替えるから、入ってくるなって言いたいのっ!!」

「・・・・・・分かった」



あ、なんか素直だ。まだ凄いからかわれるのかと思ったのに。でも素直に反応出来なくて、つい続けて憎まれ口を叩く。



「ホントに? またいつもの調子で出てきたりするつもりじゃ」

「お前がマジで嫌だって思う事はしねぇよ」



すごく真剣なトーンだった。だからあたしは自然と・・・・・・制服の上着を脱いでいた。



「分かった」



それから下のシャツのボタンに手をかけて、まずは上から脱いでいく。その時にちらりと浴槽の方を見た。

アイツ、マジで見ないようにしてくれてるんだ。だってシルエットで後ろ向いてるのは分かったから。



「ねぇイクト」

「なんだ」

「アンタの事、マジで恭文達に話したいんだけどいいかな」



イクトの空気がまた硬くなるのが分かった。でも今はこれでいい。

だってイクトはきっとこっちに手を出したりはしないから。そう・・・・・・信じられるから。



「イースターの連中に捕まらないようにするためには、その方がいい。
何度か話してるけど、恭文とフェイトさん達はイースターでも手出し出来ないとこを知ってる」

「そりゃマジだったら助かるな。相手は世界有数の大企業でも手出し出来ないってなると・・・・・・国家権力か?」

「またそうやって茶化さないでよ。第一このまま逃げてどうするの?」



どうしよ、一昨日の事聞くのも手だけど・・・・・・やっぱ怖い。なにより信じたくない。

今軽くくしゃみをしてても、あたしに背を向けてこっち見ないようにしてるイクトがそんな事するわけないって信じたい。



「あたし、実は歌唄からアンタの両親の事とか聞いたんだ」

「・・・・・・そうか」

「うん」



上を肌着以外全部脱いで、次は下。靴下も含めて素早く脱いで、黒と紫の縞模様のシャツを羽織る。



「なら、ヴァイオリンの事とかも知ってたわけか」

「ううん、それは知らなかった。あくまでも聞いたのは両親の事とか、イースターに脅されてた事とか」



次は黒のスカートにハイソックスに・・・・・・まぁちょっと地味目だけど時間もないしコレでいいか。



「で、ヨルがここ最近お前を頼れってしつこかったのはそのせいって事か」

「・・・・・・うん、ごめん」

「別に謝らなくていいさ。でもま、心配ないさ。第一無理だろ。
お前はまだ子どもだから分からないだろうが、大人ってのは残酷なんだよ」



イクトの声が少し柔らかくなったのが分かった。あたしに心配かけないように、平気にしてるのも分かる。

それでまた胸が締めつけられる。今日、なんだかあたしの胸苦しい事ばっかりだな。



「自分達も子どもだったくせに、大人になった途端にそれをなかった事にして生きてる。
子どもに子どものルールや世界があるように、大人には大人のルールと世界がある」

「うん、それは分かる」



脱衣所に座って、脱いだ制服をきちんとたたむ事にした。まずは上着を・・・・・・と。



「だから無理なんだよ。俺もお前も、いずれそのルールに飲み込まれる。俺はそれがお前より早いだけの話だ。
・・・・・・それでそのルールの中では、イースターの力はハンパじゃなく強い。普通にやったって勝てっこないさ」

「そうかも知れないね。でも、納得出来ない」



少しだけでもイクトに言葉、通じてるのかも知れない。だから今までみたいにはぐらかせたりしない。

ちゃんとマジキャラで話してくれてる。それが嬉しくなりつつあたしは、脱いだ服を素早くたたんでいく。



「イクト、多分信じてなんて・・・・・・無意味なんだと思う。あたしはアンタの言うように無力な子ども。
その上恭文やフェイトさんにガーディアンのみんなとは散々ケンカしてたしさ」



次はシャツを上着と同じ要領でたたむ。ちゃんとやらないと普通にシワよっちゃうからなぁ。



「だから、そうだな。あたし達はちゃんとマジにイクトと話したいんだ。
それでイクトの疑問とか不安とか、解いていきたい。例えば今みたいにさ」



つまり・・・・・・そうだな、どう言えばいいんだろ。・・・・・・あ、あの話してみようっと。



「これ、前に恭文が言ってたんだけど、誰かを助けるって助けられる側にも覚悟が要る時があるんだ」

「覚悟?」

「問題に立ち向かう覚悟。それで誰か味方が居るなら、その人と向き合って繋がっていく覚悟。
凄い押しつけな考えなのは分かってるけど、あたしはアンタにその覚悟をして欲しいと思ってる」



次はスカート。それで靴下もたたんで・・・・・・これでよしっと。



「アンタ自身が立ち向かう事を選ばなきゃ、きっと・・・・・・何も解決しない。
そうするって決めなかったら、ずっと逃げ続ける事になる」



イクトの方は見てないけど、イクトがちゃんと話を聞いてくれてるのは分かる。



「あたし達だけがアンタに向かって手を伸ばしても意味がないの。
アンタも手を掴む覚悟をしてくれなきゃ、あたし達はアンタを助けられない」

「・・・・・・またずいぶんだな。どっかのヒーローみたいにパーッと助けてはくれないわけか」

「そんなの無理だよ。大体、それが出来るならこんな話アンタにする必要ないよ。
アンタがグーグー寝てる間に、イースターは倒産してエンブリオだってあたし達が見つけてる」

「あ、そりゃ確かにな」



それで二人でつい背中を向け合いながら、笑ってしまう。



「あむ」

「なにかな」

「ありがとな」

「・・・・・・ん」



少しは言いたい事が伝わったのかなと、優しい感じのイクトの声を聞きながら安心した。

やっぱり、話さないとだめなんだよね。うん、ウジウジしてたけど覚悟は決まったかも。



「あ、もう着替え終わったから大丈夫だよ?」

「分かった。んじゃ、次は俺だな。タオルと服、こっちにくれ」

「了解」





イクトに渡す服は、パパのもう使っていないYシャツとスラックス。サイズ的にちょうどいいんだ。

まずはバスタオルを手だけを浴槽のドアから出したイクトに手渡す。それでイクトは素早く身体を拭く。

次にそのタオルを持った手がさっきと同じように出されたら、タオルを受け取って服を渡す。



ただし靴下以外。靴下を浴槽の中で履いちゃうと濡れちゃうしね。・・・・・・それで少しして、浴槽のドアが開いた。

服を着た状態のイクトにまたタオルを渡して、足をしっかりと拭いてもらった上で脱衣所に上がる。

それから白の靴下を履いて、これで準備よしっと。あたしはゆっくりと廊下に続くドアの方に近づいた。



それでドアノブに手をかける。外の気配を探りつつ、身長にドアを開けてその隙間から周囲を伺う。



伺って、あたしは完全に固まった。というか、ドアを閉じようとした。でもドアは強引に開かれた。





「・・・・・・あむちゃん、これはどういう事? その子は本当に誰かしら」



ドアの前に仁王立ちして待っていた三人が居た。まずはいつの間にか帰って来ていたママ。

それでその左右に、どういうわけか制服姿の恭文となぎひこが居た。



「それは僕も聞きたいねぇ。おのれ、ソイツを僕達がかなり必死に探してるのは知ってたよね? ・・・・・・なんで黙ってたっ!!」



恭文の両手が伸ばされて、あたしはドアの外に引きずり出されて恭文に一気に持ち上げられる。

く、苦しい。それで恭文・・・・・・血の涙を流すなー! てゆうかそんなにその声優さんのライブ行きたかったんかいっ!!



「ソイツの現状はこれまで散々説明してたでしょうがっ! しかも昨日今日にやった事じゃないっ!!
あむ、今度という今度は本気で呆れたわっ! お前マジでなにやってるっ!!」

「な、なんで恭文まで・・・・・・というかママもいったい何時」

「玄関前で二人とばったり会ってね。それで事情を聞いてここで待ってたってわけ。お風呂に居たのはすぐに分かったから」



事情を? いやいや、それおかしいじゃん。だって二人には何も話して・・・・・・あ、まさか。

あたしは自然とずっと申し訳なさそうな表情のなぎひこに視線を向けた。それでなぎひこは、困ったように頷いた。



「あむちゃん、ごめん。実はあの時のあむちゃんの話・・・・・・少し聞いてたんだ」










・・・・・・あたしはイクトの方を見れなかった。というかヤバい、身体が震えてる。





さっき話すって決めたばかりなのに、まだ覚悟が決まってなかったのかな。ただ何も言えずに身体が震えてた。




















(第113話へ続く)




















あとがき



恭文「というわけで、僕がずっと泣きっぱなしだった第112話です。みなさん、おはこんばんちわ。蒼凪恭文です」

フェイト「フェ、フェイト・T・蒼凪です。・・・・・・ヤスフミ、あむに八つ当たりはやめようね?」

恭文「え、なんで?」

フェイト「そこ疑問持っちゃうのやめようよっ! ヤスフミ、それは本当にダメなんだからっ!!」

恭文「ごめん、冗談だよ。そんな事はさすがにしないって。でも、お説教はするから。
てーか普通にありえないでしょうが。別にあむが一人暮らししてるとかなら分かるけどさ。僕もやってたし」





(そう言えば古き鉄、普通にそういう事を過去にやった事があります)





フェイト「リインの時だっけ」

恭文「そうそう。でもこれは家族にも内緒でしょ? さすがにありえないって。
・・・・・・唯一の幸運は、この時あのお父さんが居なかった事だよ」

フェイト「居たらとんでもない事になってたよね」

恭文「なってたね。間違いなく発狂してたよ。だって一緒にお風呂場に居たわけだし」





(なお、原作通りです)





恭文「それで今回でゆかなさんのライブを守るために僕達ガーディアンが頑張るという話になったけど」

フェイト「ヤスフミ、それ違うよっ! それはヤスフミだけだよっ!?」

恭文「フェイト、大丈夫。ゆかなさんは僕の嫁だから。そしてフェイトは僕の永遠の嫁だから」

フェイト「何が大丈夫なのかなっ! というか落ち着かなきゃだめだよー!!」





(それでも蒼い古き鉄はうきうき。それでとっても楽しそう)





恭文「でもアレだよね。あむがホント面白いくらいに戸惑ってるよね。
てゆうかコレだけ見ると唯世本命だって絶対思えないんだけ・・・・・・がふっ!!」

フェイト「ヤスフミっ!?」





(蒼い古き鉄、自分にも突き刺さる部分があるせいか吐血した)





恭文「というかアレだよね、これだと猫男好きなんじゃないかって思うよね」

フェイト「・・・・・・うん、そこは同感。でもヤスフミ、まず口元拭かない? はい、ティッシュ」

恭文「あ、ありがと」





(拭き拭き)





恭文「何気に原作でもここの辺りは猫男庇う感じだったりしたしなぁ。あ、ハンカチ返すね」

フェイト「ん。・・・・・・あむ、もしかして色々揺れてるのかな」

恭文「かも知れないね。だってほら、唯世のスルーがヒドかったし。しかも望み薄いし」

フェイト「・・・・・・・ごめん、今度は私が吐血していい?」

恭文「それはだめっ! てゆうか普通に妊娠中でそれは危ないでしょっ!!」





(どうやら閃光の女神にも突き刺さる部分があるようです)





恭文「というわけで、ドキたま/じゃんぷ1クール目の最終話。そしてあむが・・・・・・nice boat」

フェイト「まぁここはしょうがないよね。というわけで本日はここまで。お相手はフェイト・T・蒼凪と」

恭文「蒼凪恭文でした。それじゃあみんな・・・・・・次回は泣こうか。きっと伊藤誠さんレベルであむが・・・・・・ぐす」










(『だからそんな事にならないしっ! どんだけあたし殺したいわけっ!?』
本日のED:いとうかなこ『悲しみの向こうへ』)




















シルビィ「・・・・・・あむちゃんはもう救えないわね」

ナナ「悲しいけどそうなってしまうわね。てゆうかマジアンタの本命は誰よ」

あむ「いや、だからそれは唯世くんで」

ナナ「でもその本命よりも月詠幾斗重視しちゃってるじゃないのよ。思いっきりかばってるしさ」

シルビィ「そうよあむちゃん、そこは二股かけてるのと同じよ?」

あむ「そんな事ないですからっ! 普通にあの状況はああなりますよねっ!?」

シルビィ・ナナ「「ならないならない。てーかしちゃだめだから」」

あむ「そんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」










(おしまい)




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あきゅろす。
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