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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第14話 『降り続くWの中で/雪山での休日』



・・・・・・季節は秋を飛び越え冬に突入。もうちょっとで今年も終わり。

相変わらず出続けている×たま達の対策に頭を痛めつつも、日々はゆっくりと過ぎる。

でも聖夜小での日々はやっぱりドキドキとワクワクが多くて、とても楽しい。





なのに・・・・・・普通に自室で夜に困った顔になるのは、通信画面の向こうの制服姿の姉が原因。










「・・・・・・いや、だから僕はお姉ちゃんのお仕事をずっと手伝うつもりはないから。
手伝って欲しいならいつも通り然るべき報酬をしっかりと払って」

『そやからまずそういうのはやめよう言うてるやんか。アンタの力が欲しいんよ』

「嫌」



最近の僕の悩みは、お姉ちゃんが自分の仕事を手伝えとよく頼みに来てる事。

それも自分の補佐として今後ずーっとだよ。でも僕はそれを断ってる。あ、理由もあるの。



「まず僕は知っての通りガーディアンの仕事が忙しいの」

『そこは今まで以上に他の人に任せておけばえぇやんか』

「そうもいかない。僕にしか出来ない仕事ってのもあるもの」



え、だったらフィアッセさんを助けに行くな? 残念ながら僕は先約優先しただけなので問題ないよ。



『それにこっちも忙しいんよ? 管理局は戦力不足で自転車操業が基本やもん。
そやからこそ今まで以上にこっちを手伝って欲しいんよ』

「こっちもあいにく自転車操業なのよ。相変わらずイースターの連中が好き勝手してくれるせいで×たま出てるし」

『そやからそれはもうえぇやんか。そもそもアンタらが何もせんでも基本問題ないやろ?』



・・・・・・ちょっとカチンと来た。特にお姉ちゃんが呆れ気味な表情になるのはそれを加速させる。



『前に言うてたやんか。別にこころのたまごが壊れても特に死んだりせぇへんって。壊しても基本問題ないって。
こっちはマジで死人が出たり傷ついたりしとる人が居る。そやからこっちを優先に考えてよ。なにより』

「なにかな」

『・・・・・・みんなの罪の償いの問題もある。うちはもっともっと成果を出さんとアカンのよ。そやから手伝って欲しい』



やっぱりそこか。だから僕がキレかかってるのも気にしないで当然って顔でそういう事を言うんだ。



『なぁ恭文、うちら家族やんか。そやから力を貸して欲しいんよ』

「・・・・・・お姉ちゃん、バカじゃないの?」

『はぁっ!? アンタいきなり』



お姉ちゃんの言葉が止まって、瞳が震え出した。どうやらやっと・・・・・・やっと僕がキレているのがご理解いただけたらしい。



「そうだね、たまごは壊れても死にはしないよ。それでまたいつか・・・・・・夢を描くようになるかも知れないから。
しかも時には自分から自分で×付けて、たまご壊すバカも居る。ぶっちゃけ助ける意味はないのかも知れない」



うん、そういうものなんだよ。無理に×を取る必要はなかったりする。

ないけど、それでも納得は出来ない。だからお姉ちゃんを軽く睨みつける。



「でも、今確かにそこにあるたまごの中の夢は壊れちゃう。大事な可能性が壊れてなくなっちゃう。
お姉ちゃん、たまごが壊れた人が・・・・・・自分で自分の夢を捨てちゃった人がどんな顔するか分かる?」

『・・・・・・いや』

「じゃあハッキリ言ってあげようか。今のお姉ちゃんみたいになる」



お姉ちゃんの目が見開いて、不満げに僕を睨み出す。でも何も言わない。僕がそれ以上の勢いで睨み返してるから。



「現実現実って言って、当たり前って顔で自分以外の誰かを否定してつまんない顔をする。
・・・・・・お姉ちゃん、本気でバカでしょ。局員ってそういう人達が少なくなるように頑張るものじゃないの?」

『ちゃうわ。うちらは世界や人の命を守って、悲しい事を無くすんが仕事や。それはちゃう、アンタ勘違いしとるわ』

「その言葉、そっくりそのまま返してあげるよ。悪いけど僕はお姉ちゃんみたいなヘボの下で働きたくない」



そこまで言って、僕は軽く息を吐く。・・・・・・我が姉ながら、ここまでバカとは思わなかった。

てゆうかどうしてこうなった? なんでここ最近でいきなりこうなってくるのかが分からないし。



「てゆうか前にも言ったでしょ? 僕、基本仕事に家族関係を持ち出してどうこうは嫌いなの。
いいや、家族だからこそある程度の線引きは必要でしょ。特にお姉ちゃんは指揮官だよね?」

『・・・・・・そや』

「それで普通に周囲を身内ばかりで固めるってどうなの? それじゃあ集団として歪になってくよ」



だってもう身内で常時居るのはリインフォースやつーちゃん、ザフィーラさんと揃ってるんだよ?

その上僕を入れる意味が全く分からない。それは正直いけないでしょ。



「今のお姉ちゃんのチームに必要なのは、外の目だよ。リインフォースやザフィーラさんやお姉ちゃんとは違う人間。
ぶっちゃけ僕が入って成果を上げても、身内人事で戦力を集める事しか出来ない無能って判断されるだけだよ」



そう言っても、お姉ちゃんの視線は厳しいまま。どうやら全くご理解いただけてないらしい。悲しいなぁ。



「お姉ちゃん、悪い事言わないから家族やクロノさん達のツテ以外で、自分の足で人員を探した方がいい。
出来る範囲で、一緒に仕事をして出会った人達に声をかけるとこからでもいい。そうじゃないとお姉ちゃんの評価にも関わるよ」

『・・・・・・普通にうちがそれやると難しいって分かってて言ってるんか?
うちら全員、未だに上から事件の事で睨まれとるんに』

「うん、言ってるよ? でもそれが出来て初めて自分の資質を認めさせられるんじゃ」

『あぁもうえぇ。これ以上は話しても無駄っぽいわ』



お姉ちゃんは画面の中で首を横に振って、僕の事を恨めし気に見出す。・・・・・・ねぇ、話おかしくない?

僕なんでそんな目で見られなくちゃいけないんだろ。言ってる事間違ってないよね。



『また、話するから。それまでに考え直しておいて欲しいわ。話に聞くガーディアンの活動はどっちにしたって無意味や。
消えても壊れても特に問題の無いもんを助けるために必死になるなんてバカげとる。うちはアンタにはもっと』

「ねぇ、今すぐそっちに行ってその口斬り裂いていいかな」



さすがに許せなくて殺気を出しながらお姉ちゃんを睨む。

それでお姉ちゃんが目を見開いて、身体を震わせていく。



「てーか勘違いしてる。夢が・・・・・・可能性や『なりたい自分』があるから人は生きていけるんだ。命だけじゃだめなんだ。
それじゃあ人は本当の意味で生きていけない。『キラキラ』になれない。なにより・・・・・・僕の仲間を侮辱するな。それ以上言ったら、殺す」



それだけ言って、通信を叩き切った。それで少し息を吐く。

ずっと座っていた椅子の背もたれに体重を全部預けて背を反らす。



「おいおい、なんなんだよアレっ! ヤスフミ、なんかお前の姉ちゃんおかしくないかっ!?」

「確か私達がイギリスに行くまでは聖夜小やガーディアンの活動にも理解を示してくれていましたよね? なのにコレは」

「いや、コレは当然だよ」



驚き動揺を隠せない二人と違って、僕は非常に冷静。・・・・・・うん、知ってる。

僕はお姉ちゃんがここまで言って僕を・・・・・・味方を作って成果を出す事にこだわる理由を知ってる。



「多分お姉ちゃん達への圧力というか厳しい視線、僕達が思ってる以上に重いんだよ」



そう言ってから、天井に向けていた視線を机の上に戻す。それで表情が自然と苦くなってしまう。



「・・・・・・闇の書事件のアレか」

「うん。だから早めに自分達への評価を覆そうと躍起になってるって感じ?」

「だからお兄様にもその手伝いを・・・・・・ですか」

「そういう事だろうね。てゆうか、そうとしか考えられないよ。もしかしたら内心焦ってるのかも」





さてさて、忘れがちだけどお姉ちゃんと守護騎士のみんなは罪人。

それも最強最悪のロストロギアを私的使用した・・・・・・という風に見られている。

まぁアレだよ、お姉ちゃんは最後まで何も知らなかったけどそれがマズかった。



局の中ではお姉ちゃんが命惜しさに守護騎士達の行動を傍観したと見ている人も居る。

・・・・・・クロノさんに無理を言って教えてもらったんだ。だからシグナムさん達だけじゃないの。

お姉ちゃんも罪人なんだよ。今までたくさんの人の時間を奪ってきた守護騎士達と同じ罪人。



もちろん厳密には違う。お姉ちゃんは本当に何も知らなかった。ただ、それこそがお姉ちゃんの罪とも言えるけど。



それでまぁ、アレなんだよね。僕もそうだしクロノさんもリンディさんも、一つ気づいてる事実がある。





「あの事件から4年・・・・・・やっと4年」



その事実をもしかしたらお姉ちゃんも気づいているのかも知れない。だから僕に言っているだけ。

自分達と同じように罪を背負い、罪人になれって言ってるだけ。僕にはそう聞こえた。まぁ当然ガン無視だけど。



「でも罪は消えないし変わらない。そういう事実に突き刺さるものがあるんだよ」

≪だから評価を求める。それが覆り、償いが出来ているという時間を求める・・・・・・間違ってはいませんね。
現に無茶振りも止んでませんし、なによりそれを引き受けるあの人の行動ですよ。それらは全部≫

「シグナムさん達を罪から解放したいから・・・・・・だね」



前に八神家への無茶振りの事は話したと思うけど、それの問題は実はもう一つあったりする。

それは結局全部お姉ちゃんが引き受けちゃうって事なんだよ。その理由は今言った通り。



「いや、そりゃ分かるぞ? 家族全員の進退問題に関わる事だしよ。でもなんでそれでアレなんだよ」

「そんなの簡単だよ。僕だけが仲間外れにされてるから」

「仲間外れ?」



そういや、この話した時は二人は高町家でクッキー食べてて居なかったんだっけ。

だからショウタロスはともかくシオンまで不思議そうに僕を見る。



「僕は、お姉ちゃんやシグナムさん達に・・・・・・もちろんリインフォースとも違うって見られてるから」



そこまで言って、視線だけじゃなくて顔も二人に向ける。

二人はやっぱり戸惑ったように僕を見ていて・・・・・・つい苦笑する。



「僕は、この事件の真相を知る人達にとってはお姉ちゃん達の家族としては見られてないんだよ」










罪は、そして痛みは消えない。だから償いも精算も出来なくて、だから罪は数える事しか出来ない。

数えて向き合って、その上で笑って生きる道を探すしかない。でも僕は違う。

僕にはどう足掻いても、お姉ちゃん達の仲間には・・・・・・同じ罪を背負う家族としては居られない。





それが事件後しばらくして、クロノさんとリンディさんから教えてもらった事。・・・・・・僕は、結局一人らしい。





あの時普通にバカやってたみんなを止めようとした僕は、お姉ちゃん達と同じ罪は背負えないんだよ。




















魔法少女リリカルなのはA's・Remix


とある魔導師と閃光の女神のえ〜すな日常/りた〜んず


第14話 『降り続くWの中で/雪山での休日』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



というわけで、めんどくさいお話はスルーして連休を利用して僕達は東北のとあるリゾート地に来ていた。

目に見えるのは見渡す限りの雪。そしてリゾートホテル。ここは空海のおじいちゃんが住んでいる所。

空海の提案で、連休を使ってガーディアン合宿をやろうという話になって僕達はここにやってきた。





というか、少しみんなに気を使われた。あの話以後、普通にしていたのにみんなからするとバレバレだったらしい。

だから僕の気晴らしも兼ねてという感じで・・・・・・まぁここまではいい。あとでいっぱい感謝するから。

ガーディアン合宿と言いながらも、普通にフェイトも参加しているのとかもまぁまぁいいのよ。問題はただ一つ。





なぜか僕達の目の前に、古めかしいお寺が存在している事だよ。しかも雪山の中に。










「・・・・・・空海、これはどういう事かな」

「そうだよっ! あたし達『雪山のリゾート地で合宿』って聞いてきたんだけどっ!!」



うん、僕もそう聞いていた。それは唯世もややもなでしこも同じく。だから全員して固まってしまう。

普通にリゾートホテル通り過ぎた辺りから嫌な予感はしてたけど、まさかコレとは。



「いや、だから俺のじいちゃんが住職やってるリゾート地の近くの寺で合宿なんだよ」

『一番大事なところが抜けてるからっ!!』










なんというか、普通に嫌な予感がしてしまうのはどうしてだろう。でも・・・・・・ここで寺って維持出来るものなの?





そんな疑問を感じつつも僕は寺の前でフェイト共々苦笑いを浮かべるしかなかった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



まぁ泣いても笑っても合宿は始まっている。当然ながら引き返す事など出来ない。

そう、人類に逃げ道がないようにガーディアンにも逃げ道などない。

だから僕達は、徹底的に楽しむ事にした。というわけで、空海のおじいさんにまずは挨拶。





法衣を纏い頭を剃り上げたおじいさんは厳しそうな印象だったけど、最低限の事が出来ればOKでしょ。





それで荷物を置いた上で僕達はスキー場に繰り出した。というわけで・・・・・・雪山を一気に滑り降りる。










「・・・・・・小学5年の時の特別学習以来だけど」



フェイトと二人ボードで疾走。スラロームしつつも、その加速感を楽しむ。

なお、ボードは僕がブレイクハウトで作ったお手製。こういう時には便利な能力だよねー。



「結構滑れるものだよねっ!!」

「みたいだねっ! でも」



なんて行っている間に段差。僕達はそのままジャンプ。

フェイトは普通に飛んでいるだけだけど、僕は空中で時計回りに回転。



「僕だって負けてないっ!!」



風を切り裂きながらもコマのように回り、最後に足をかがめる。

かがめて左手でボードを持った上で決めポーズ。それで無事に着地。また滑り出す。



「ヤスフミ、今のどうしたのっ!?」



加速しながらフェイトがゴーグル越しにこちらを見る。なので自慢するようにニヤリと笑ってあげた。



「こっち来る前に見たハーフパイプのトリックをなんちゃってで真似てみたっ!!」



当然魔法なんて無しだし、適当だから正式に技として見ると得点は低いはず。

でもいいのよ。なんちゃってなんだから問題ナッシング。



「うぅ、やっぱりヤスフミは凄い。でも・・・・・・私だってっ!!」

「簡単には負けないからっ!!」

「それはこっちのセリフだよっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・八神君もテスタロッサさんも飛ばしてるなぁ」

「だな」



というか、アレだな。二人の世界が形成されて入れないな。むしろ入ったらKYだな。

まぁ今くらいはいいだろ。さすがにずっとあの調子だとテコ入れが必要かも知れないが、フェイトさんが自重するはずだ。



「てーかアイツのコピー能力はスノボーにまで適応されるのかよ」

「ただ正式な技としての動きじゃないから、あくまでなんちゃってじゃないかな。得点としては低いよ」

「そうなのか?」

「うん。こっちに来る前に映像で勉強したんだ」





あー、唯世は勉強家だしなぁ。滑ったりする前に予習って感じか。でも・・・・・・大事だよなぁ。

例えば今ややが転げ回って雪だるまになりつつある現場を見ると、俺だって考えるわけだよ。

で、ちなみに唯世と藤咲とややがスキー。俺とあの二人とあと一人がスノボーだ。



それぞれにメインなカラーのスノーウェアを身につけて、なんだかんだ言いながらもみんな楽しんでる。良い事だ。



それでスノボ組の一人が段差を飛び越え、楽しげに笑いつつ俺達の目の前に颯爽と現れた。





「はーいっ! みんな、楽しんでるー!?」



ピンク色のウェアに身を包んでいる日奈森は、本当に楽しげに・・・・・・髪に付いているハートマークの髪飾りを揺らす。



「・・・・・・いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! こんなのあたしのキャラじゃないのにー!!」



まぁ飛びながらも叫んでいるのはご愛嬌だな。キャラチェンジしてるせいと捉えておいて欲しい。



「日奈森さん、飛ばして」



唯世が言いかけて固まった。それで慌てた様子で大きくジャンプしている日奈森の方を見る。

俺もそれが不思議で改めて周囲を見たら・・・・・・納得した。だから唯世と一緒に声をあげる。



「日奈森さん、危ないっ!!」

「お前、着地点見ろっ!!」





俺達よりやや下側のところで、雪玉作っている5〜6歳くらいの男の子が居た。

それで日奈森のジャンプの軌道から読み取るに、このままだとその子どもに激突する。

日奈森は俺達の方を見てから子どもに気づいて僅かに固まる。



でもすぐに口元で小さく何かを呟いた。次の瞬間、日奈森はピンク色の光に包まれる。

その光の中から突き出るように日奈森はすぐに出てきた。

その姿はピンク色のチアガール姿になっていた。なお、冬なのにへそ出しだ。





【「・・・・・・キャラなり」】



ピンク色の粒子が周囲に撒き散らされながらも、日奈森を乗せたボードは僅かにその軌道を上向きに変えた。



【「アミュレットハートッ!!」】



結果あの子どもの頭上を飛び越える形になり、日奈森は雪の上を少しだけ滑って着地。

その時に軽くUターンして、自分を唖然とした顔で見ていた男の子に向き直る。



「・・・・・・こら。こんなとこで遊んでたら危ないじゃん。もっと隅の方で遊びな?」



そう言いながら男の子に向かって軽くウィンクした。それで男の子は笑って頷く。



「うんー」



そのまま子どもは日奈森の指示通りに雪玉と一緒に済の方へ移動。俺達からは離れていった。

日奈森はさすがに寒いのか男の子を見送りながら軽くくしゃみ。俺達もまぁ、事故にならなくて一息吐いた。



「いや、ちょっと危なかったよな。キャラなりバンザイって感じか?」

「・・・・・・うん、そうだね」










唯世が生返事なんで左側を見ると、唯世の奴頬を赤らめて日奈森を嬉しそうに見てやがった。





まぁ俺もそんな鈍い方じゃあないんだよ。まさかとは思うが・・・・・・へぇ、そういう事か。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



楽しい時は過ぎるのが早いもの。それは子どもであればなおさらなのかも知れない。





だからまぁ、おじいさんに『暗くなる前に戻ってくるように』と言われたのに暗くなってから戻るわけですよ。










ばかもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんっ!!



だからこそ、お寺の本堂の中でおじいさんの叫び声が響くわけですよ。どうやら中々に厳しい人らしい。



「寺への道は暗くなると危ないから早く戻ってくるようにと言ったじゃろうがっ! 一体いつまで遊んどるんじゃっ!!」

「わ、悪いじいちゃん。いや、そこはマジ反省してるから」

「言い訳無用じゃっ! お前達全員、罰として境内の掃除を命ずるっ!!」

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』



そして廊下に出て、雑巾とバケツとホコリを払うアレなんて受け取りつつ改めて掃除を命じられた。

なお、このお寺立地条件と同時に疑問に思うくらいに広いです。まぁ基本廊下と手すりの掃除だけでOKらしいけど。



「えー、これ全部お掃除するのー!? そんなの無理ー!!」

「そうじゃんそうじゃんっ! てゆうか、モップとか掃除機とかないわけですかっ!?」

「ばかもんっ!!」



不満そうだったややと日奈森あむが、おじいさんの一喝で身を竦ませる。



「どうしてそう楽ばかりしようとするんじゃっ! 千里の道も一歩からっ!!
やってもみないで無理かどうか決めるんじゃないっ!!」

「なるほど、そりゃ真理ですね」

「そうじゃそうじゃ。というか、お前さんとそっちの金髪のお嬢さんはその子達と違って普通じゃの」

「いやぁ、こんなの・・・・・・無人島で野生生物に追いかけ回されるよりはずっと楽ですし」

「そうだね。なんの特殊能力もなしで瞬間移動レベルの移動が出来る人と組み手するよりは楽だよね」



そこまで言って、二人で抱き合って軽く泣いてしまう。うん、普通だ。こんなの普通なんだ。

僕達の人生の歩み方が間違ってるわけじゃないんだ。これは至って普通なんだ。



「・・・・・・じいちゃん、気にしないでやってくれ。恭文とフェイトさんはこう・・・・・・俺達より色々あってな」

「そ、そうか。ではそうする事にしよう。あ、それと」

「じいちゃん、まだ何かあるのか?」

「ある。それが終わったら夕飯の準備じゃ。材料はもう用意しとるから」

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』



その叫びに参加してなかった僕達も思わずおじいさんの方を見る。・・・・・・普通にご飯も自炊なんかいっ!!



「えー! それだと私達ご飯どうなるのかなっ!!」

「というかみなさん、お料理出来るんでしょうかぁ」



あ、そこはかなり疑問かも。なでしこはまぁまぁ知ってるけど・・・・・・他の四人がめちゃくちゃ心配だ。

後々の事がフェイト共々不安になっていると、おじいさんが急に辺りをキョロキョロし出した。



「おじいさん、どうしました?」

「あ、いや・・・・・・今誰かの声が聴こえたような」



その言葉に僕達は動揺を一旦引っ込めて別の現実に向かい合う事になった。

だって今喋ってたのは、叫び声を覗いたらランとスゥなんだから。つまりこのおじいさん・・・・・・えぇっ!?



”ヤ、ヤスフミ。空海さんのおじいさんってまさか”

”しゅごキャラの声聴こえるみたいだね。姿は見えてないっぽいけど”

”お坊さんだからかな”

”お坊さんだからかも知れないね”




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



とにかく掃除を早々に終えて・・・・・・何気に人数も七人だったからかなり手早く済んだ。

その後に調理場に入って手洗いをした上で作業開始・・・・・・なんだけど、相当だった。

まずおじいさんが用意してくれた材料は人参にたまねぎにじゃがいもにお肉にカレールー。





ようするにカレーを作れって事だね。なんだか本当に合宿みたいだなと思ったりした。










「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 米が、米が零れるっ!!」



それでまぁ、アレだよね。空海、お米洗って水流す時は、片方の手を添えてないとだめだって。これ基本なのに。



「・・・・・・アレ、たまねぎが無くなった」



唯世、それは当然だよ。たまねぎって剥き続けたらそうなる構造なんだから。なんで芯だけを持って不思議そうにしてるのさ。



「ぶぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ! この人参切れないよー!!」



やや、それも当然だよ。茎の部分を下にして先端から真っ二つにしようと思ったらさ。てーかまず寝かせろ。



「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 指が、指がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



それで日奈森あむ、お前はもう論外だ。とりあえずその血が出た指は舐めておけ。



「・・・・・・どうやら料理経験者は私達になでしこちゃんだけみたいだね」

「そうなりますね。というか、一体いつご飯が出来上がるのかしら」



あんまりと言えばあんまりの惨状に、フェイトもなでしこも固まってしまっている。僕も半笑い気味。



「なでしこ、そんなの分かり切ってるじゃないのさ。僕達が陣頭指揮を取らなきゃ、一生このままだよ」

「ですよねー。・・・・・・なら、ここはみんなで」

「はーい。ここはスゥにお任せですよぉ」



そう言いながらスゥがふわりとみんなの頭上に浮かび上がると、全員が希望を込めたまなざしでスゥを見出した。

・・・・・・なるほど、スゥのキャラチェンジに頼ればすぐに出来上がるのか。納得したよ。



「スゥ・・・・・・そうじゃんそうじゃんっ! アンタが居たじゃんっ!! 早速お願いっ!!」

「はい〜。それじゃあ・・・・・・ちっぷ」

「はーい、そこで終了ね」



言いながら左手でスゥの頭を軽く押さえて、キャラチェンジを中断させる。



「ふにゃ。・・・・・・恭文さん?」

「スゥ、キャラチェンジはしなくていい。このまま作業継続だよ。僕とフェイトとなでしこで陣頭指揮取るし」

「はぁっ!? アンタ何勝手に決めてくれてるわけっ! そもそもそれでなんとかなるなら別に問題ないじゃんっ!!」

「日奈森あむ、あいかわらずバカだね。全く成長していないよ」



日奈森あむは不満そうに僕を見るけど、大丈夫。次の一言で嫌でも納得するから。



「下手にキャラチェンジ使って、空海のおじいさんにしゅごキャラの事バレたらどうするのよ」



・・・・・・ほら、少し固まって表情が柔らかくなった。それで唯世達も同じくだよ。



「あー、それはあるな。だってあのじいちゃん、オレ達の声聴こえたんだぞ?」

「相馬さんのおじい様、徳の高い方のようですし・・・・・・不審に思われる行動は控えるべきかと」

「いや、でも・・・・・・普通にこれ作るの大変じゃん。みんな料理出来ないんだし」



そう言いながら、日奈森あむは改めて零れたお米や先だけが切れた人参に分解されたたまねぎを見る。

どうやらこのメンバーでそれが出来るかどうかが本気で疑問らしい。



「バレないようにすれば問題ないんじゃないかな。時間だってないし、早くしないと寝る時間になるし」

「だから僕達三人で陣頭指揮取るって言ってるの。てーか日奈森あむ、それでいいわけ?」

「何がかな」

「キャラチェンジもしなきゃスノボも料理もなんにも出来ない自分のままでさ」



ちなみに僕はそんなの嫌だ。だからキャラチェンジもキャラなりも、特殊な事情を含めても基本無しにしてるくらいだし。



「それに・・・・・・さっきおじいさんも言ってたでしょうが。『千里の道も一歩から』って。
なんですぐ楽しようとするのかって。僕は全く同じ事をおのれに聞きたいね」



日奈森あむは少し固まって、僕の事をジッと見始めた。

まぁ言いたい事は伝わったようなので、ここまでにしとこうっと。



「とにかくそういうわけだから・・・・・・フェイト、なでしこー」

「えぇ、頑張りましょうか」

「あむちゃん、私達も手伝うからちょっとやってみよ? 大丈夫、すぐに出来るよ」

「・・・・・・はい」










それで三人で料理未経験な四人に教えつつもぴったり1時間半後、カレーは完成。





おかわりも飛び出すような中々の大作で、おじいさんにも非常に好評だった。





ただそんな中日奈森あむは・・・・・・やっぱりどことなく不満そうな空気を出してたりした。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



さて、今回のお泊りではさすがにフェイトと一緒の部屋とかはない。

お風呂にも入った上で、僕達は男女に分かれて寝室に入った。

それで寝ついたんだけど、尿意を感じて起きて便所に駆け込み用を足す。





あー、でもヤバかった。海でフェイトの水着姿に見惚れる夢だったからヤバかった。





寺の庭に剥き出しな廊下を歩きながらもそこの恐怖に怯えていると・・・・・・小さな影を見つけた。










「・・・・・・こんな時間になにしてるの?」



その影に近づきながら声をかけると、その青い帽子をかけた子は自分の右側から来た僕に視線を向けた。



「うん、ちょっと目が覚めちゃって。というか、それはこっちのセリフ。そういう恭文は?」

「便所。同じく目が覚めてね」



僕は宙に浮かんでただ雪の景色を見ていたその子・・・・・・ミキの隣で足を止める。



「恭文、ありがと」



ミキは僕の方を見ずにいきなりそんな事を言って来た。



「なにがよ」

「スゥの事、止めてくれて」

「お礼言われるような事はしてないよ。現に日奈森あむは不満そうだったし」

「別にいいよ。ランやスゥはポンポンキャラチェンジしちゃうけど、ボクはちょっとね」



あははは、そりゃ僕には余計に偉そうな事言えないわ。だって僕も結構ポンポン魔法使ってるし。

だからつい表情が苦笑いにもなっちゃうわけなんですよ。でもミキが何を危惧してるかは分かる。



「確かになぁ。昼間もスノボしてる間中ずっとランとキャラチェンジでしょ?」

「うん。あむちゃんみんなみたいに自分の力で滑ろうとしてなくて・・・・・・少しアレって思ってた。ね、恭文」

「何?」

「恭文はどうしてショウタロウ達とキャラチェンジしないの? 魔法があるから?」

「まぁそれもあるけど・・・・・・やっぱり前にも言った通りなのかな」



雪はただ静かに、優しく降り続いている。吐く息も白くて、だけど不思議とここから離れる気がしない。



「キャラチェンジしなきゃ、魔法がなきゃ、なんにも出来ない自分になんてなりたくないもの。
・・・・・・諦めたくない。僕は『これしかない』を『これもある』に変えられる自分になる事を諦めたくない」



罪を、間違いを理由に出来なかった。人を殺めてもそれを理由に諦めてしまう事が出来ない自分に気づいた。

それがもしかしたら、あの時の一番の教訓かも知れないね。僕は、凄まじく欲張りなのよ。



「だから魔導師のお仕事したり、フィアッセさん達の事も助けてるわけだ」

「ん、そんな感じだね。だからまぁ、ただ欲張りなだけなんだよ。アレもしたい、コレもしたいーって言ってさ」

「そう。でも、それでいいんじゃないかな。・・・・・・あむちゃんももっと欲張りになってくれるといいんだけど」










それからしばらくの間、何も言わずにただ空を見続けていた。なんとなく・・・・・・なんとなく離れがたかった。





どうも僕、この子とは色々気が合うみたい。だから自然とこんな時間を過ごしてしまう。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



さてさて、本日も派手に遊ぶ・・・・・・予定だった。でも僕達はなぜか正方形な雪の塊の前に居た。





この状況を説明するためには、少し時間を遡らないといけない。










「・・・・・・雪像コンテスト?」

「そうそうっ! それで優勝商品があのホテルにお泊りだってー! やろうよやろうよー!!」

「「やるやるー! それで絶対優勝だー!!」」

「・・・・・・ややはともかく、空海も日奈森あむもやる気出てるなぁ」

「やっぱり豪華ホテルで合宿、楽しみにしてたのかな?」






というわけで僕達、優勝目指してお城を作る事になりました。・・・・・・え、なぜお城?

そんなのなでしこがミスって『王子とお姫様が住んでいるようなお城にする』と言ったからだよ。

なので各自役割分担。なぜかキャラチェンジした唯世が世界を見渡す展望台。



なでしこが屋根。空海がグラウンド。ややが可愛い飾り。それで僕が城壁。フェイトが門構えを作る事になった。

ちなみに日奈森あむが門に続くアーチの数々。なお、かなりハイセンスでびっくりしてる。

というか、普通にセンスあるなぁ。美術関係に関してはキャラチェンジする必要なくていいみたいだね。



だからミキもどことなく嬉しそうに、なぜか困った顔をしている日奈森あむを見守ってるわけだよ。





”でもさぁ、アルト”

”なんですか?”

”こういうのはブレイクハウトでやるのも楽しいけど、地道に作るのもいいよねぇ”

”そうですね、見てて分かりますよ。あなた楽しそうですし”



スコップを使って、周囲を取り囲むように雪を積み重ねてコツコツ削っていく。

唯世達の作業も確認しつつ、あくまでもアクセント的に低めに城壁を作って・・・・・・と。



「・・・・・・なぁヤスフミ、なんだよそれ」

「え、城壁。ショウタロス、見れば分かるじゃないのさ。なんでわざわざ聞くの?」

「分かんねぇよっ! なんで城壁が蛇みたいにうねうねしてんだよっ!! てーか鱗作るなよっ!!」

「あ、日奈森あむのアーチからインスパイアした」



やっぱり全体への調和が大事だと思うんだ。そうなるとまず最優先は日奈森あむのあの素敵なアーチかなーって。



「あれインスパイアするなよっ! てーかあむが失敗したーって頭抱えてるじゃねぇかよっ!!」

「お兄様、あいかわらず素敵なセンスです。私、感動の余り涙が出てきました」

「シオン、その涙は間違ってるだろっ! てーか感動じゃなくてお前らのセンスの無さで悲しくて泣きそうだぞっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



さてさて、まぁその・・・・・・この話を見ていただいているみんなにはもう周知の事実だろうけど、あたしは図画工作が苦手。





だから豪華ホテルの宿泊券に釣られたものの、実際に作業を初めてみて頭が痛くなってきた。










「・・・・・・あむちゃん、それなに?」



ランに後ろからそう聞かれて、あたしは固まってしまう。だから強がって・・・・・・声をあげる。



「み、見れば分かるじゃんっ!? 門へと続くアーチだよアーチっ!!」

「いや、なんというかまるで地獄の入口」

「いっぺんどころではなく死にそうですぅ」

「うっさいうっさいうっさいっ!! ・・・・・・あぁもう、マジコレどうしよう。こんなのあたしのキャラじゃ」



言いかけて、固まってしまった。昨日の空海のおじいちゃんや恭文の言葉、それにガーディアンになった時のあれこれがリピートされる。

そのまま地獄の入口をずーっと見たまま、あたしはさっきから黙っているあの子に声をかけた。



「ミキ、もしもキャラチェンジしたいって言ったら」

「ダメ」

「うん、分かってる」



まぁそういう返事が来るのは分かってた。それでつい苦笑しながらミキの方を見る。ミキは・・・・・・驚いた顔をしていた。



「まぁほら、ガーディアンになった時に『キャラじゃない』は極力言わないようにって言ったしね。
ここで『苦手でキャラじゃないからキャラチェンジ』なんて、また違うかなってさ」

「・・・・・・あむちゃん」



というか、少し忘れてたのかも。昨日のお料理だって、言わなかっただけで同じ事やってたんだろうし。

なら八神君が止めてくれてよかったのかも。もしやってたら・・・・・・自分の決めた事に、嘘つくとこだった。



「でもさ、一つ聞かせて欲しいんだ。ミキがダメって言うのはどうして? 今言った通りな感じかな」

「それもあるけど、それだけじゃない。まぁあむちゃんはもう分かってるみたいだから言う必要もないと思うけど」

「うん、なんとなくは分かる。でもキャラチェンジやキャラなりはあたしの力でもあるわけじゃない?」

「うん」



それで今までもかなりポンポン使っててさ。だからこう、疑問は残るわけなんだよ。



「だからね、どうしても思っちゃうんだ。あたしの中の力、どう使ってもあたしの自由なんじゃないかーって」



ミキはあたしの目をジッと見て・・・・・・一度瞳を閉じて、何かを決めたように目を見開いた。



「・・・・・・キャラチェンジやキャラなりは、あむちゃん自身に眠ってる可能性の力。まだあむちゃんの本当の力じゃない」

「・・・・・・うん」

「だからあむちゃん自身が少しずつでも形にしていかなかったら、可能性は簡単に消えちゃう。
『どうせ出来ない・向いてない』・・・・・・そんな事言う自分、あむちゃんは好きになれる?」



そう真っ直ぐに遠慮もなく突きつけられて、どう答えていいのか分からなくなった。

ここで『なれない』と言うのはなんだか薄っぺらい感じがして・・・・・・あたしは視線を地獄の入口に移した。



「・・・・・・コレ見て、それでもいいからうまく作りたいって感情が沸き上がるのは許して欲しいな」

「ま、それくらいはね。でも実行は許さないから」

「分かってるよ。うん、分かってる。ちょっとずつしか・・・・・・それしか、ないんだよね」










改めて軽く息を吐きつつ、地獄の入口と向き合う。今はヒドい有り様なそれをアーチにするためにスコップをちょっとずつ動かしていく。





本当にもどかしくて、イライラするくらいにうまくいかなくて・・・・・・でもあたしは、それでも絶対にやめなかった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



作業がひと通り終わった後はみんなで近くの温泉街に行って、足湯に浸かったりおみやげを買ったりして楽しく過ごす。





それで今日は暗くならないうちに帰路について・・・・・・その間、あたしはずっと頭が痛かった。










「ねぇミキ、やっぱりキャラチェンジ」

「ダメ」

「ですよねー。うん、分かってる。でもね、迷い続ける事は許して欲しいわけですよ」

「・・・・・・まぁ、散々な有り様だったしね」



結論から言おう。地獄の入口はパワーアップした。もうね、そうとしか言えなかった。

でも八神君も同じ感じなのはちょっと安心かも。あっちはあたしよりヒドいし。



「いやぁ、名作が出来たね。これはきっと優勝取れるな」

「そ、そうだね。あの・・・・・・うぅ、ヤスフミのセンスは相変わらずだよ」

「フェイトさん、心中察するに余りあるっす。確かにアレはヒドかったっすから」

「あむちーのが地獄の入口なら、恭文のは地獄の道だよね。しかも本人凄い気に入ってるし」








なお、八神君がアレにものすごく自信持ってるのは気のせいだ。うん、間違いなく気のせいなんだ。





てゆうか、作業中からあたしをやたらと『感動した』って目で見てるのが辛いんですけど。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・ややちゃん、恭文君」



日奈森あむのセンスにあやかりたいなと思っていると、なでしこが左目でウィンクしながら僕達に声をかける。

なでしこはそこから日奈森あむと唯世の方を気づかれないように視線で挿した。・・・・・・なるほど。



あ、ややおみやげの買い忘れしちゃったー



ややが唐突に棒読み気味にそんな事を言う。それで先頭を歩いてた日奈森あむと唯世に空海もこちらを見る。

それに呆れつつも、僕も右手でフェイトの手を取る。驚いた表情を浮かべるフェイトに、にっこりと笑いかける。



「あ、僕もフェイトと婚約者ならではのラブラブタイムをやってなかったなぁ」

「え、ヤスフミいきなり何言ってるのっ!? た、確かにその・・・・・・そういうのは必要だよ?
でもあの、今はみんなと居る時間なんだしそういうのを楽しもうよ。ラブラブは家に戻ってからで」

「フェイト?」



もじもじして嬉しそうなフェイトに、更に深めに笑いかける。そしてしっかりと威圧する。

お願いだから空気を読め』・・・・・・と。フェイトは頬を引きつらせながら頷いた。



「そ、そうだね。私達婚約者だから一日一回ラブラブしないとだめなんだよね。うん、ラブラブタイム必要なんだよね」

「よろしい。・・・・・・つーわけで唯世、日奈森あむと一緒に帰ってて」

「そうね。私もおみやげの買い忘れがあるから、ややちゃんと相馬君と温泉街に戻るから」

「え、俺もかよっ! てーかラブラブタイムもおみやげも明日で」



そんな事を言う空海に、軽く笑いかけてみる。それで空海は固まり。だらだらと汗を流し始めた。



「よし、思い立ったが吉日って言うしなっ! すぐに行こうぜっ!!」

そうそう。さー行こう行こうー



ややが空海の手を引いて、なでしこと一緒に来た道を引き返していく。

僕もフェイトの手を引いて、そのまま二人に背を向けつつ雪の道を歩き出した。



「フェイトー、ほっぺにチューしようねー? それでそれではぐして・・・・・・えへへー」

「あ、うん。その・・・・・・頑張る」

「いや、だからアンタ達ちょっと待ってっ! なんかいきなり過ぎないかなっ!!
特に八神君なんかおかしいからっ! それでフェイトさんも受け入れないでっ!!」

「みんな、早めに帰って来てね。もうすぐ暗くなっちゃうし」

「唯世くんも普通に見送っちゃだめだからー!!」










なお、当然ながらそんな言葉は聞かない。そしてある程度距離を離してから僕達は足を止めてUターン。





雪の道を二人で歩くというドキドキシチュエーションな二人を、温かく見守る事にした。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



結局、五人は普通にその場から去っていって・・・・・・あたしは唯世くんと二人で雪の道を歩いていく事になった。

でもまぁ、唯世くんと二人っきりってのはちょっと嬉しいかも。それにほら、シチュもよくない?

ただ問題はある。ここがお寺の近辺という事で、お墓が普通に通り道に点在している事。それが妙に怖い。





ついお墓を見ながら怯えた表情を浮かべていると、唯世くんが微笑みながらあたしを見る。










「日奈森さん、怖い?」

「え・・・・・・いや、別にっ!? 全然平気だしっ! てゆうか、お化けとか居るわけないしっ!!」

「居るよ?」



唯世くんは少しおかしそうに笑って、平然とそう言い切った。それで身体が軽く震える。



「しゅごキャラが居るくらいだもの。それに『霊障』っていうものもあるしね」

「霊障?」

「いわゆる心霊現象の類で、専門家・・・・・・退魔師と呼ばれる人達の間では霊障と呼ばれているんだ。
実際にあるんだよ? そういう不思議な事というか、目には見えない存在は確実に居る」



あ、あははは・・・・・・唯世くんもしかしてあたしの事嫌いとか? てゆうか、普通に寒気走るんですけど。



「それに八神君は幽霊や妖怪の類とも会った事があるそうだし」

「はぁっ!? いや、てゆうかなんでっ!! いやいや、それ以前に嘘だしっ! そんなのありえないしっ!!」

「それが嘘じゃないんだって。退魔師の人達と知り合いらしくて、そういう現場に立ち会った事もあるって言ってた」

「そ、そうなんだぁ。というかあの・・・・・・やっぱあたしアイツの事よく分かんないかも」



いや、そこはマジで思うんだけど。てゆうかこう、アイツの底知れなさが怖くなる時がある。

・・・・・・そういやあたし、アイツの事マジで何も知らないんだよな。本当に、なんにもだよ。



「だから大丈夫だよ。八神君の魔法はそういう幽霊に対抗する力もあるそうだし」

「既に出る事前提っ!?」

「それに」



唯世くんがそっとあたしの手を左手で握った。それで手の温かさが伝わる。



「僕も居るから。日奈森さん、足元気をつけてね?」

「う、うん」










そのまままた歩き出したけど・・・・・・どうしよ、ドキドキが手から伝わっちゃいそう。





なによりその、変な汗とかかいてないかな。ヤバい、あたしもうこのまま死んじゃいそうなくらいに嬉しい。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・いい雰囲気だね」

「だねぇ」





小声でフェイトと話しつつ、みんなとゆっくり二人を尾行。

とっても雰囲気が良いのには理由がある。・・・・・・またゆっくりとだけど、雪が降りだしたのよ。

それで陽が傾いてきてるからそれで辺りもいい感じの照明度。



これでロマンチックになれないわけがない。小学生レベルと言えど、そりゃあ空気も良くなるさ。





「あむちー、頑張れー」

「ここで頑張らなかったら、絶対実らないもの。しっかりね、あむちゃん」

「・・・・・・お前ら、なんか変だと思ったらこのためかよ。ただまぁ気持ちは分かる」

「実は私も。あむちゃん、ここで春先のアレを取り返せると・・・・・・ぐす」

「フェイトさん、泣かなくていいっすから。いや、泣きたい気持ち分かるっすけど」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「あ、あの」



何か話さなきゃいけないと思って、歩きながらも唯世くんに声をかける。な、何話・・・・・・これだっ!!



「ま、前に好きな人が居るって言ってたでしょっ!? それって」



・・・・・・あたしのバカァァァァァァァァァァァァァァァッ! 失恋の傷口広げてどうすんのよっ!!



「あ、それはね」





唯世くんは一旦足を止めて、懐から左手で着ている緑のダウンジャケットの内ポケットに手を伸ばす。

そこから取り出した茶色の定期入れを、あたしに渡してきた。

結構使い込んだ感じのそれは、唯世くんの手で既に開かれていた。



それを両手で丁寧に受け取ると・・・・・・中に写真が入れてあった。





「・・・・・・犬?」



芝生が張っている庭っぽいところで、座り込んでいる白くて長い毛の大型犬が写真に写ってた。

それでその背に小さい男の子・・・・・・というか、小さい頃の唯世くんが乗っかって笑っている。



「ベティって言うんだ。生まれた時から一緒だったんだけど、去年死んじゃって」

「・・・・・・ま、まさか好きな子って」

「一番好きだった女の子には違いないから」



え、じゃああたしはこのもうお亡くなりになった雌犬に負けたわけですかっ! それすっごいショックなんですけどっ!!

驚きながら写真から唯世くんに視線を移すと、唯世くんは右手で頭を軽く抱えて照れたように笑っていた。



「僕・・・・・・告白されるのとか苦手で。だからそういう時はキャラチェンジしてキセキに断ってもらっているんだ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・唯世君、最低だね」

「うん、最低だね。でもフェイト、お願いだから僕の両肩をギューッて掴まないで。痛い、痛いから」



あと殺気も出さないで。その不愉快そうな視線もやめて。ほら、二人に気づかれるから。



「でも空海、そこマジ?」



僕は自然と右隣に居る空海の方を見た。というか、空海以外の全員が見てた。



「そうだよー。てゆうか、ややもそこ初耳だったんですけどー」

「私もよ。相馬君、これが事実なら色々と問題だと思うんだけど」

「マジだ。唯世ってお前らも知っての通り極度のアガリ症だろ?
だからそうしないとちゃんと返事すら出来ないんだよ」



なるほど、じゃああの壇上もアレも僕が見えなかっただけでキャラチェンジしてたとか?

唯世、悪いけどそれは僕達擁護出来ないわ。だって唯世自覚ないみたいだけど最低な事してるし。



「これは、辺里君には色々とお話をしなくてはいけないみたいね」

「そうだね。うん、すっごくお話しないといけないよね」

「二人とも、私も参加させて欲しいな。唯世君には本気で色々言いたいから」



だからこそ今、女性陣は唯世に対してちょっと寒気が走るくらいの殺気を向けるのよ。

というかアレだね、フェイトの両手が肩に食い込んでマジで痛いのよ。うん、肩ちぎれるんじゃないかな。



「・・・・・・恭文、なんか女性陣がめちゃくちゃ怖いんだが」

「空海、それはしょうがないんだよ。女性って女性の味方だから」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「でも、今はすごく気になっている女の子が居る」

「え?」

「その子は突然僕の前に現れて、同じガーディアンなのにいけないかなって思ってた」



え、なんですかコレ? もしかしなくてもその・・・・・・ま、まさか。唯世は頭から手を離して、視線を落とした。



「でも、忘れられなくて」



ゆっくりと降り続けている雪の中、あたしの緊張は一気に高まる。というか顔、めちゃくちゃ熱い。



「思い切って言うよ、日奈森さん」

「は、はいっ!!」



あぁ、これはやっぱ告白じゃんっ! というか告白しかありえないじゃんっ!!

神様ありがとー! あたし、マジガーディアン入ってよかったしっ!!



「明るくて前向きで、力強くて・・・・・・あんな女の子、初めて見たんだっ!!
・・・・・・アミュレットハートみたいな子にっ!!



そうそう、アミュレットハートみたいな子が唯世くんは好きで・・・・・・アレ?



「・・・・・・え?」



いやいや、あの・・・・・・唯世くん。なんでそんな照れ気味なのかな。というかほら、なんかおかしいって。

唯世くんはほら、あたしの事が好きでしょ。つまりほら、アミュレットハートはあたし・・・・・・アレレ?



「えっとつまりその・・・・・・キャラなりしたあたしが好きって事かな」

「いや、好きというかその・・・・・・えっと」



あたしが現実を受け入れられないでいると、後ろからドサっと言うような音が響いた。

もう説明するまでもないけどここは空海のおじいちゃんのお寺にあるお墓の近く。だから・・・・・・当然あたしは怯えた。



「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



それで思わず唯世くんに抱きついてしまう。

でも、すぐにその異常事態に気づいてあたしは唯世くんから離れた。



「ご、ごごごごごごごごごごご・・・・・・ごめん唯世くんっ!!」

「ううん、大丈夫」










唯世くんの表情は至って普通。本当に落ち着いていつも通りで微笑んでて・・・・・・いやいや、ちょっと待って。

ほら、アミュレットハートはあたしなわけじゃない? なのにそのアミュレットハートが抱きついてコレっておかしいでしょ。

もっとこう、ときめきな感じとか空気とかが出ていいと思うんだよ。いや、でもその、まさか・・・・・・そうなの?





あたしは想像した結果が凄まじく怖くなって、震えが走る。

走りながらも普通の表情の唯世くんをガン見してしまう。

あぁ確定だ。これはどう考えてもそうとしか説明出来ない。





この胸の違和感に対しての答えはただ一つ。唯世くんはマジでアミュレットハートが好き。





でも好きなのはアミュレットハートであって、素のあたしにはなんの興味もないんだ・・・・・・!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「・・・・・・・・・・・・唯世君にはかなりお説教しないといけないね」

「うんうん、しっかりお説教しないといけないね」

「本当に・・・・・・本当に女の子の気持ちをなんだと思ってるのかしら」



女性陣の怒りの炎で、周辺の雪が完全に溶けてしまった。あのね、洒落じゃなく溶けてるのよ。

それで僕と空海はただただ身を震わせながら口を閉ざす事しか出来なかった。



「おい恭文、どうすんだコレ。すっげー出にくいんだが」

「てゆうか今の日奈森あむと唯世に関わりたくないかも。・・・・・・とりあえず、距離を取りつつ戻ろうか」



唯世の方も、呆然とした様子の日奈森あむの手を引いてまた歩き出した。それで日奈森あむは・・・・・・お察しください。



「ただ唯世は今後マジで気をつけた方がいいね。この調子だといつ死んでもおかしくないよ」

「だな。てーかその前に・・・・・・俺らの寿命が縮まないか?」

「縮むね。だって僕達の背後には修羅が居るもの」










その後、戻ってからまたまた自作した夕飯は唯世だけ妙に質素だった事を付け加えておきたいと思う。

その分あむがやたらと豪華になっていて二人もおじいさんも首を傾げていたけど、全員何も言わなかった。

というか、言えなかった。さすがにおじいさんが見かねて口を挟もうとしたら・・・・・・お察し下さい。





まぁアレだね、女性を敵に回すと怖いって事だね。うん、僕も気をつけておこうっと。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



なんか眠れなくて、あたしは毛布にくるまりながら廊下に座り込んで、降り続ける雪を見ていた。





時刻はもう午前に近づく感じで、一人で空を・・・・・・暗い空を見上げていた。










「アミュレットハートが好き・・・・・・かぁ」



それも凄い真剣に・・・・・・真剣にアミュレットハートを好きだって言われた。本当に、ショックだった。

確かにさ、アミュレットハートはあたしの一面だよ? キャラなりはあたしの中の力だから。



「アミュレットハートは、あたしじゃないのになぁ」





でもそれで納得しようとすると、ミキが昼間教えてくれた事がリピートする。

・・・・・・キャラチェンジやキャラなりは、あたしの可能性。それでまだあたしのものじゃない力。

つまり唯世くんが好きになったアミュレットハートは、あたしであってあたしじゃないんだよ。



あたしの一面だけど、まだ形になってない。形にしようと思わなかったら消えちゃう自分。

それを好きって言われて、どうしろって言うのかな。なんかもう、ヘコんでやる気なくなっちゃうよ。

涙目なのを見られたくなくて、あたしは膝の上に乗せている両手に顔を乗せる。



雪は降り続けて、毛布を羽織っていてもやっぱり寒い。本気であたし、どうすればいいんだろ。





「・・・・・・バカじゃないの?」



唐突に声がかかった。左側からかかってきた声の方を見ると、青いパジャマ姿の八神君が居た。



「そんなとこで寝たら凍死するでしょうが。とっとと部屋に戻れ」

「・・・・・・そういうい八神君はなにしてるわけ?」

「トイレだよ。なんなら付き合う?」

「バカじゃん? 付き合うわけないし」



なんでか八神君は軽くため息を吐きつつ、あたしの方に近づいて左隣に足を崩して座る。



「なに、唯世にアミュレットハートだけが好きって言われたの?」



その言葉に驚いて、あたしは目を見開きながら八神君の方を見る。

ま、まさかあの時の事盗み見てたんじゃ・・・・・・!!



「さっきおのれが呟いてたでしょうが。しかも僕が近づいてるのにも気づかず間抜けに呟いて」

「うっさい。どうしてそう・・・・・・いつも一言多いのかな」



ホント、腹立つくらいにホントの事しか言わなくて・・・・・・マジワケ分かんないし、コイツ。



「当然だよ。僕は常に真実を捉えてるんだから。・・・・・・だったら放り出しちゃえばいいじゃないのさ」



軽く睨み気味に八神君の方を見るのは許して欲しい。それでも八神君は、腹立つくらいにいつも通り。



「それだけ聞いても、唯世がどんだけ最低な事言ったかは分かるよ。そんな奴は放り出せばいいでしょ」

「・・・・・・それが出来たら、苦労しないし」

「だろうね。だったら、おのれはどうしたい?」



八神君は立ち上がって、両手を伸ばして大きく伸びをした。



「おのれだけじゃなくて、僕だって・・・・・・誰だっていきなり『なりたい自分』にはなれない。
それで唯世の事も諦め切れない。もちろん僕や空海達があれこれ言って変わっても全く意味が無い」



それからあたしの事を見下ろした。どことなくその瞳が、普段より優しく感じた。



「なら、おのれはどうする? ・・・・・・結局は全部そこに集約されるんだよ。
だから僕はなんにも言わない。どうせ他人事だし、勝手に迷ってればいいさ」



八神君はまた歩き出して、あたしの後ろを通り抜ける。それで去り際にあたしの頭を左手で優しく撫でてくれた。

それに驚いて八神君の方を見ると、八神君はそのまますたすたと歩き出していた。



「その梅干し程度の脳みそしか入ってない空っぽな頭を必死に使ってね」





そのまま八神君は奥の曲がり角に入った。・・・・・・ホント、ムカつく奴だし。

好き勝手言いまくって、遠慮無く放り出して・・・・・・マジワケ分かんない。

最初の時もそうだし、鳩羽ゆきちゃんの事もそうだし、あのコンサートの時だってそうだし。



あたしと同い年のくせに全然違うし、ムカつく事の方が多いし。それで・・・・・・それでだよ。





「・・・・・・ありがと」










ムカつく奴だけど、嫌いじゃない。あたしが決めろって・・・・・・背中押してくれた。





あたしが決めて、そこから自分や周りが何も言わなくても変えられるんだって教えてくれた。





なんかね、そんな感じがするんだ。全部はあたし次第なんだって、そう背中を押された感じがする。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



まだ世も明け切っていない早朝。あたしはコートを羽織って朝ご飯も食べてないのに雪の道を歩いてた。





まずはここから。洗濯場への道も一本ずつだよ。うん、一本ずつなんだから。










「あむちゃんー、こんな朝早くにどうしたのー?」

「そうだよ。というか、早いし」

「まだねむねむですぅ」

「・・・・・・昨日のアーチ、直したいの」





それだけ言って、早足で雪の道を歩く。お墓も今は怖くなんてない。

それでさほど経たずに雪像コンテストの会場に到着。あたしはアーチの前に座る。

なお用具関係も既に準備中。さて、まずはスコップで少しずつ削っていかないと。



せめてこう、丸い形にしたいわけですよ。なのでちょっとずつ・・・・・・真ん中が大きく抉れました。





「・・・・・・壊してどうするあたしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」

「あむちゃん、やっぱりキャラチェンジする?」



その声に左を向くと、ミキが困ったようにあたしの方を見てた。



「いやいや、昨日と言ってる事違うじゃん」

「いや、なんかもう見てられなくて悲しくなってきてるからいいんじゃないかなと」

アンタ前々から思ってたけどあたしに対してキツいよねっ!!
・・・・・・とにかく、昨日言った通りだからキャラチェンジはいい」



あたしはより地獄の入口に近づいたアーチに向き直る。・・・・・・これはマジでどうしたものか。

と、とにかく壊れたところの補修だね。だからまずは・・・・・・手元の雪を集める事にした。



「ない頭必死に絞って、バカなキャラ必死に使って・・・・・・頑張るって決めたから」

「そっか。なら、ボク達は見てるだけでOK?」

「いいよ、それで。で、勝手に悲しんでくれてればいいから」

「分かった。ならそうする」



集めて、アーチにくっつけて・・・・・・力加減間違えないようにしないと。



「・・・・・・あむちゃん?」



後ろから声がかかって、一旦作業の手を止めて振り向くと・・・・・・なでしことフェイトさん、それに八神君が居た。



「あれ、三人とも何してるの」

「私達、昨日うまくいかなかったとこ直したいなって思って・・・・・・ヤスフミとも途中で鉢合わせしちゃって」

「そういう事ね」



なるほど、つまり同じ事考えてて・・・・・・なんだか可笑しくなって、少し笑ってしまう。



「しかし日奈森あむ、おのれもやるとは意外だったよ。それもう手の直しのしようがないくらいに完璧だったのに」

「・・・・・・アンタ、それはあたしに対しての嫌味って取っていいのかな?」

「あむちゃん、残念ながら恭文君は本気よ? 恭文君のセンスの独特さは凄まじいものがあるから」

「ヤスフミから見てあむちゃんのソレ、奇跡の大芸術に見えるんだよ」



なでしことフェイトさんがやたらと真剣な目をしてあたしの方を見ながらそう言った。

試しに八神君を見ると、昨日と同じく瞳を輝かせながらこの地獄の入口を見ていた。



「恭文・・・・・・センスが残念な人だったんだね。ボクもさすがにコレはないと思ってるのに」

「他はすごく素敵なのに、ここだけは凄い事になってるんですねぇ」



ごめん、八神君。あたしもこれ失敗作にしか見えないんだ。てゆうかコレのどこが良いの?



「あれれー! あむちーになでしこに恭文も居るー!!」



それで今度は三人の後ろから空海とややと・・・・・・唯世くんが近づいてきた。

うん、大丈夫。あたし普通に笑える。普通に頑張っていける。



「あらま、三人ともどうした・・・・・・って、聞くまでもないか」

「あぁ。俺達揃って同じ事考えてたんだな」

「なら、みんなで一緒に頑張ろうか」

「そうだねー。それでそれで、優勝目指すんだー」










七人揃ってややの号令に頷きつつ、日が昇っていく中あたし達は必死に作業を続けていく。

・・・・・・今はまだ届かなくても、分からなくても、少しずつでもなりたい自分に近づけたら。

そう思いながら唯世くんの方を見る。まだ痛みは残っているけど、やっぱり気持ちは変わってない。





でも今は・・・・・・ちょっとずつでいいんだよね。出来る事から、少しずつだよ。





具体的にはこの地獄の入口を天国の入口にする事? よし、ここはマジ頑張ろうっと。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そしてそれから早くも4時間後。全ての作業は終了した。というか、結構楽しかったかな。

ただまぁその・・・・・・どうしてこうなったんだろうね。いや、原因なら分かってる。

各々が作りたいように作っているだけで、全体の調和とかそういうの完全無視だったせいだよ。





だからこそあたし達七人は、約一名を除いて完全に固まってしまっていた。










「なにこれっ!? てゆうかどうしてこうなるのかなっ!!」

「えっと、あむちゃん作のやっぱり地獄の入口」



ランうっさいっ!! ・・・・・・と、とにかくまずあたしが作ったアーチ3個が正面にある。



「それでフェイトさん作の、とっても可愛らしい門とワンちゃんですぅ」



そのアーチをくぐり抜けると、唐突にデカい門があった。そしてその両脇にはワンちゃんが二匹。

これはあれかな、狛犬とかそういう類ですか? 門番ですか?



「それでヤスフミのセンス爆発な蛇とライオンと虎の城壁だ」

「さすがはお兄様、ショウタロスと違って繊細なお仕事です」

「どこがだよっ! てーか周囲との調和が取れてないだろうがっ!!」



ま、まぁそこはいい。ちなみにその城壁はあたしの門とは確かに調和が取れていた。・・・・・・怖くなるくらいに。

それで円形の輪が二個重なったような土台の上に城本体がある。それがまた、カオスだった。



「次は空海作のサッカーボールだな。いや、これは苦労したぜー」



そうだね、右側にサッカーボールが数個くっついてるよね。で、問題はその左側だよ。



「そしてなでしこ作、和風の屋根と壁ですわ」



それで右側には今てまりが言ったようなのがずらーっとくっついている。普通にこの取り合わせがありえない。



「その上には、ややちゃん作のリボンの装飾でち」



うん、リボンが円形の土台にたくさんくっついてるね。

結んだのから帯状になったのを巻きつけた感じにもなってる。



「最後は唯世作っ! 世界を我が手にするための展望台だっ!!」





もうはっきり言おう。城っぽいのはそこだけなんだよ。高くそびえてる展望台三つだけなんだよ。

それでさ、余計なものが作られてるんだよね。具体的には・・・・・・地球儀。

それを右手で鷲掴みにしてる装飾があって、それがお城の正面に来ているわけですよ。



で、これらを今言った形で組み合わせるととんでもない事になるのは・・・・・・察して欲しい。





「ど、どうしてこんな事になっちゃったんだろ。それぞれのレベルはとても高いのに」



フェイトさん、そこからあたしの地獄の入口は抜かしてください。いや、マジでお願いします。



「まぁ俺達結構好き勝手に作ってたっすから」

「ある意味こうなって当然なのよね」

「あ、あははは・・・・・・もうちょっと全体像見るべきだったかなぁ」

「まぁ今更だよねー。もう作り直すのも無理だし」





それで約一名を除いて全員で顔を見合わせて、その場で大笑いしてしまった。

その笑い声が会場に響いて視線を集めたりするけど気になったりしない。

いや、なんというかこの個性の強さがいいなーとか思ったりもするんだよね。



ほら、なんかガーディアンっぽくない? みんなやりたいようにやってるーって感じでさ。





・・・・・・・・・・・・カッコ良い

『え?』



瞳をキラキラさせて、このカオスな集合体をそう言い切ったのは当然八神君。

思わず全員が一番右端に居た八神君を凝視してしまう。



「コレ・・・・・・コレだよコレだよっ! フェイト、みんな、これで優勝取れるよっ!!
この芸術性の高さならこのコンテストだけじゃなくて日本・・・・・・いや、世界が狙えるっ!!」

「いやいや、八神君落ち着きなってっ! それは無理っ!! 絶対無理だからっ!!」

「日奈森あむ、何言ってるのっ!? おのれのアーチがその大きな要因になってるんでしょうがっ!!
・・・・・・僕と一緒に世界狙うよ。それで色んな賞を総なめにして、世界の美術意識に革命を」

「だから落ち着けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」










・・・・・・その後、さほど経たずに結果発表が行われた。まぁその、アレだね。





八神君の感覚が独特だったのが確定したよ。ちなみにあたし達は『頑張ったで賞』に輝いた。





それで3位が名古屋城、2位がバッキンガム宮殿。1位が・・・・・・モアイ像だった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・なんでだろ。まぁ確かにモアイ像に負けてしまったのはしょうがないと思うんだよ。
でも芸術性と技術性ともに絶対僕達の方がいいと思うのに。というか、アレ仮面にしたいな」

「どうやってかなっ! ヤスフミ、お願いだから落ち着いてっ!!
というかモアイ像はヤスフミの中ではアレより上なのっ!?」

「うん、当然じゃない。だってモアイ像だよ?」

「よし、ちょっと話し合おうっ!? その線引きを私はちゃんと理解していきたいんだっ!!」



結果発表が終わって、帰り道を歩きながら八神君がとても不満そう。・・・・・・てゆうか、どんだけセンス独特なんだろ。

ただそれでも全員楽しかったから笑っていて、お寺の方に・・・・・・アレ?



「ねね、空海のおじいちゃんが居るよー?」

「だな」



おじいちゃんはまるであたし達の帰りを待っていたかのように、雪の境内の中一人立っていた。

あたし達が近づくと、おじいちゃんは少し表情を柔らかくした。



「・・・・・・結果は残念だったようじゃな」

「えぇ、そうなんです。確かにモアイ像には負けるけど絶対に2位は取れたと」

「いや、さすがにアレじゃと2位は難しいかと」

「じいちゃんその辺りでっ!! 恭文の奴は無茶苦茶センスが・・・・・・無いんだよ」



空海、またそんな言いにくい事をはっきりと言うかな。いや、分かるけど。確かにその通りだとも思うけど。



「てーかなんでその事知ってんだ?」

「まぁ色々となぁ。とにかく、自分達の力で何かをやり遂げた事は良い事じゃ」



言いながらおじいさんは、なんでかすごく嬉しそうに笑った。それを見て少しびっくりした。

だって一昨日昨日と厳しい表情の方が多かったのに・・・・・・こんな風に笑えるんだ。



「というわけで、今日のお昼はワシが作っといたぞい。じいちゃん特性精進料理のフルコースじゃ」

「お、マジでかっ!? じいちゃんの精進料理めちゃくちゃ美味いんだよっ!!」

「そうなの? ならなら、やや食べるー。おじいちゃんありがとー」

「なんのなんの」










空は青く、あたし達は小さい事かも知れないけどみんなで一緒に何かをやり遂げた。

結果は確かに残念なものかも知れないけど、それだけは絶対に間違いなくて・・・・・・それが嬉しい。

そうだな、今のあたしに必要なのはこの手応えなんだよね。ちょっとずつでも、何かをやり遂げた手応え。





その先にあたしの『なりたい自分』が・・・・・・アミュレットハートがあるのかな。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・こうして、短い雪山での休日は終わりを告げた。でも優勝逃したのが悔しかった。

僕とみんなとなら世界狙えると思ったのに・・・・・・いつの時代も天才は評価されにくいんだね。

それでまぁ、戻って来てからしばらく経ってようやく唯世への妙な圧力が収まりかけていたりする。





例えば今、図書室で冬休みの予定を相談している今この瞬間の間にもそれは感じる。











「・・・・・・八神君、アンタまたタイプライターって。今度は何打ち込んでるわけ?」

「ん? おのれとどうやって世界を狙うかの計画書」

「だから狙えないからっ! アンタマジそのダメダメなセンス矯正しないっ!?」

「失礼な事言うな。僕は人より繊細で儚い輝きを感じ取る事に長けているだけだ」










一時期フェイトが『武力介入ってアリだと思う?』って本気で聞いて来て怖かったしなぁ。ただここは止めた。

それに関してはなでしことややもだよ。さすがに他人が口出しするとロクな事にならないし。

とは言え、唯世のアレが継続するといつ三人の怒りが再燃してするかも分からない。正直それは怖い。





だってあのフェイトのアイアンクロー、内出血起こしてたんだよ? さすがに同じ事になるのは嫌だって。

なので空海経由で多少釘を刺してはいる。三人が落ち着いたのはその成果とも思って欲しい。

しかし・・・・・・今年もあとちょっとで終わりかぁ。なんというか、今年もやっぱり密度が濃かったなぁ。





願わくば、来年はもう少し落ち着いていきたいなぁ。ほら、僕も小学校最後の年になるし、平和に過ごしたいのよ。





あとはお姉ちゃんだね。こっちはクロノさんとリンディさんに改めてお願いしてるから問題ないはず。





















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



仕事をしてて、温度差をめっちゃ感じる時がある。例えば今みたいに捜査会議してる時や。

上の人は恭文に対してかなりえぇ評価をしてる時がある。よく無茶苦茶しててもそこは変わらないんよ。

あのおじいちゃんの弟子言うんもあるし、なんやかんやで成果出せてるんもある。





それで『力を借りられないか』なんて聞かれたりする事が多い。それが・・・・・・妙にイラっとする。

うちやシグナム達にかけられる疑いというか嫌悪にも似た視線は、アイツには全く向けられない。

いや、むしろアイツだけプラスからスタートしとるように感じる時がある。うちらとは明確に扱いが違う。





上手く言えんけど、うちらは家族なんに家族とちゃうようと言われてるように感じるんよ。

うちらは罪人やけどアイツはちゃう。そやから扱いも違って当然・・・・・・って、そういう風に思ってまう。

違う、それは違うんや。うちとアイツらは家族なんや。なのになんで同じような視線を向けんのよ。





あれからもう4年で、みんな必死に罪の償いをしてきたんになんでまだそれを認めてくれんのよ。

なのになんでアイツだけ認められてるような空気が出来るんよ。それめっちゃおかしいやんか。

だってアイツはうちらの家族やのに。うちらに罪があるならアイツにだって罪はあるのに、なんでそうなるんや。





やっぱりこのままじゃアカン。うちはもっと・・・・・・もっと成果を出すべきなんや。そのために頑張らなアカン。





でもどうすればえぇんよ。一体どこまで頑張れば・・・・・・うちらは認められるんやろうか。




















(第15話へ続く)




















あとがき



恭文(A's・Remix)「というわけで、A's・Remix二期の第14話。今回のお話は唯世の非道です」

フェイト(A's・Remix)「・・・・・・うん、非道だよね。でもヤスフミ、はやてのアレは」

恭文(A's・Remix)「ぶっちゃけるともう既に書き上げている三期最初のネタふり?
ここの辺りは一期のアフターも含めていたりするんだ。というか、そっちがメインかも」





(シチュ的な問題と幕間との差異のためにこうなりました。・・・・・・早めに出せるといいなぁ)





恭文(A's・Remix)「というわけで、本日のあとがきのお相手は八神恭文と」

フェイト(A's・Remix)「フェイト・テスタロッサです。それで今回のお話は、もう見て分かりますよね?
唯世君の非道の数々が暴露されたお話です。告白の事もそうだし、あの告白が・・・・・・斬っていい?」

恭文(A's・Remix)「斬っても直らないだろうからダメっ!! ・・・・・・でも正直フォローは出来ない。
あと、実は今回の描写は原作と少し相違があったりします。具体的には日奈森あむが少し大人」

フェイト(A's・Remix)「ここの辺りは5〜6話の影響だったよね」

恭文(A's・Remix)「うん。ここの話とも通じるところがあるから、そこは変えたの」





(具体的には地獄の入口作りの時、ミキとのキャラチェンジを遠慮無く使おうとする事ですね。
この話では『ダメ』と気づきましたけど、原作だとそのまま押し通そうとします)





恭文(A's・Remix)「それで唯世・・・・・・考えても見てよ。無神経にも程があるよ?
たださ、残念ながらこれも当然と言えば当然なんだよね」





(瞬間的に閃光の女神の視線が厳しくなるけど、蒼い古き鉄は素知らぬ顔)





恭文(A's・Remix)「だってあむ自身がまだまだそういう『なりたい自分』からは遠いんだから。
確かに一面ではあるけど、まだその形が定まってないから別人みたいに見えちゃう」

フェイト(A's・Remix)「・・・・・・あ、そういう事なんだ。それならその、まだ分かるかも。
唯世君の主観ではアミュレットハートとあむにはこう、天と地ほどの差があるんだね」

恭文(A's・Remix)「そうそう。どういう差があるかを話すと僕達が悲しくなるから割愛するけどさ。
つまりはそういう事なのよ。まぁそこを含めても唯世が悪い事してるのは否定出来ないけど」





(『どうしてー!? だってその、アレはしょうがなくないかなっ!!』)





恭文(A's・Remix)「唯世、ドキたまで上がった株が下がるからそういうのやめようね?
というわけで、本日はここまで。次回は冬休みに起こった一つの騒動のお話です」

フェイト(A's・Remix)「次回もやっぱりあむ中心の話になるんだけどね。本日のお相手はフェイト・テスタロッサと」

恭文(A's・Remix)「八神恭文でした。それじゃあみんな、またねー」










(というわけで、A's・Remixではもうすぐ年越しです。当然ながら普通には進まなかったり。
本日のED:UNISON SQUARE GARDEN『センチメンタルピリオド』)




















フェイト(A's・Remix)「冬休みかぁ。やっぱりこういう時は普段より気を引き締めてしっかりと過ごすのが定石かな」

恭文(A's・Remix)「だよねぇ。どうしても気が緩みがちだし。でもそろそろあのイベントが大勃発だね」

フェイト(A's・Remix)「そうなるんだよね。というか次回の話超えたら、いつやってもいい感じ?」

恭文(A's・Remix)「原作通りにやるならそうだけど、アニメの話やるならそこからあと2〜3話は必要になるかな。
まぁなんにしても次回も日奈森あむだよ。でも日奈森あむ、次回も大変だから頑張ってね?」

あむ「え、なんの宣言っ!? てゆうかやっぱりあたしそういうキャラなんだっ!!」










(おしまい)





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