小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説) 第108話 『Black cat wandering/冬には猫は布団で添い寝する?』 ラン・ミキ・スゥ『しゅごしゅごー♪』 ラン「ドキッとスタートドキたまたいむー♪ さてさて、今回からイースターとの最終決戦編っ!!」 ミキ「それであの、突然行方不明だったあのキャラが来ちゃったー!!」 スゥ「スゥ達も驚きの展開ですぅっ! というかというか、一体どうしたですかぁっ!?」 (立ち上がる画面に映るのは、縛られたネコや美味しそうなたい焼き。そしていくつもの輝き) ラン「ついに明かされる真実や巻き起こる戦いに、恭文やあむちゃん達はどう立ち向かうのかっ!!」 ミキ「激闘に次ぐ激闘が予想される『光編』、ついにスタートだよ」 スゥ「でもでもぉ、ここは普通にいつものご挨拶ですよぉ」 (せーの) ラン・ミキ・スゥ『じゃんぷっ!!』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ・・・・・・ある日、河原で石を探していた。輝く石は素晴らしい。見ているだけで何かが満たされる感じがする。 太陽の輝きに照りつけられ輝く水面など気にせずに僕は、一心不乱に石を探し続ける。 その捜索の甲斐あってか、まず一つ輝きを見つけた。まず両手で周りの輝かない無価値な石をどかす。 それで少しの格闘の陶、僕は右手でその輝きを手にする。 その輝きを手にして太陽にかざすと、太陽の光を石が受ける。それによって石の輝きが強くなった。 これは実際に輝きが強くなったわけじゃない。あくまでも太陽の輝きを背にしてるだけ。 だけど右手の中の石は太陽よりも輝いている。それを見て、胸の中が満たされていくのを感じた。 「・・・・・・おや、随分綺麗な石だね」 その輝きの向こうから声がかかった。その声の方を見ると、20代くらいの男が居た。 僕は石の輝きを一旦忘れて、優しげに笑うその男の方を凝視してしまった。 なぜだろう。石の方が輝いているはずなのに、その男が石より綺麗に見えてしまったのは。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 夕焼けが差し込む中、理事長室でふと思い出したかのように一冊の絵本を手に取る。 というか、僕が描いた絵本なんだけどね? 子どもの頃の経験を活かしてせっせと描いたわけだよ。 ただこの本に関しては、実は少し・・・・・・苦いというか困った思い出があってね。 あの夕焼けの赤さを見ていたら、自然とそれを思い出してしまった。僕はページを次々とめくっていく。 ただし、その本のページが続いていたのは途中まで。途中からページは全て破かれている。 まるで物語そのものを拒否するかのように破かれたページを見て、僕は軽くため息を吐いてしまった。 うーん、やっぱりアレはまずかったのかなぁ。でも色々考えていくとやっぱりなんだけどなぁ。 まぁアレだね、僕もやっぱりまだまだ駈け出しの作家という事で。でも・・・・・・そうだな。 「君があの時探していた輝きは・・・・・・見つかったのかな」 そう呟いた瞬間、軽く寒気が走った。悪寒とかではなく、普通に部屋の中が寒い。 僕は絵本を静かに仕事机の上に置いて、暖房のスイッチを入れるために窓際から離れた。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「・・・・・・まだ見つからんのかっ! 一体どうなっているっ!! たかだかガキ一人見つけられなくてどうするっ! お前らには高い金を払っているんだぞっ!!」 『すみませんっ! なに分逃げ足が早く』 「言い訳はいいっ! いいか、絶対に今日中に見つけろっ!! そして取り戻せっ!! 出来なければお前ら全員クビだっ! イースターに無価値な人間は必要ないっ!!」 『は、はいっ!!』 右手で持っていた電話を乱暴に切って、私はため息を吐いて椅子に深く体重をかける。 ・・・・・・本当にクビにしてやりたい。無価値な奴は私に、そしてイースターには必要ないのだからな。 特にあのバカ丸出しの三人組だ。その中でもダントツは・・・・・・九十九だ。 九十九の奴、私がBYの事に本気で気づいていないと思っているのか? 残念だがとっくに気づいている。私の許可無く作った二体目を平然とロストしてしまった事も含めてな。 それでもクビにもせず訴えもしないのは、デスレーベル計画にどうしても必要だからだ。 悲しいかな九十九はアレでイースターの技術部の中ではトップクラスの実力者。 奴が居なくては計画は完遂出来ん。全く、二階堂が役立たずでなければ九十九などにも頼らずに済むと言うのに。 私がこんなに頭が痛いのは、間違いなくあの男の失敗があるからだ。本当に忌々しい。 奴には罪がある。まずはガラクタの価値にもっと早く気づかなかった事。そして私と御前を失望させた事だ。 科学者である奴が×たまの利用価値に早く気づけば、色々な計画はもっと早く進行出来たというのに。 その代わりとして九十九を徴用したが、その奴と部下が技術研究以外でコレだとさすがに考えたくなるぞ。 よりにもよってアレを・・・・・・アレを奪われるなど言語道断だと言うのに。しかも幾斗に奪われたんだぞ? あの忌々しい月詠或斗の子どもが。よく親と同じくイースターの意向に背いてくれるな。 月詠或斗もそうだった。ヴァイオリンになどうつつを抜かさずに約束通りにイースターのために働いていれば良かった。 ただそれだけで良かったのだ。それは幾斗も同じ。ただ私と御前の意のままに動けばいい。 ただそれだけが奴の生きている意味。その中で罪の償いをしていくのが奴の存在理由。 なのにそれすらマトモに出来ない。私達がせっかく与えてやったチャンスを尽く不意にした。 それが腹立たしい。私と御前はまた・・・・・・また無能で無価値な人間に裏切られた。 「許さん、絶対に・・・・・・絶対に許さんぞ」 怒りの余り、らしくないとは知りつつも握り締めた両手を仕事机に叩きつける。 「絶対に許さんぞ、月詠幾斗っ! 父親と同じく愚かな道を進むつもりかっ!! イースターと御前と私のためにその生命尽きる時まで働くのがお前の使命のはずだぞっ!!」 私は御前に必ずエンブリオをお届けしなければならないんだ。その邪魔をするなら、もう容赦はせん。 奴がどうなろうと知った事ではない。その生命、御前のために使い尽くしてくれる。 All kids have an egg in my soul Heart Egg・・・・・・The invisible I want my 『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説 とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/じゃんぷっ!!! 第108話 『Black cat wandering/冬には猫は布団で添い寝する?』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ・・・・・・前回のあらすじ。なんでか部屋の中でイクトが寝てました。もうワケ分かんなくて叫びました。 でもイクトは起きません。相当疲れてるのか、ただただ寝続けて・・・・・・全然起きません。 なのでイクトの近くで寝てた猫なしゅごキャラをひっ捕まえて、ブンブン揺らした上で緊急会議です。 もちろんそのしゅごキャラはヨル。あたしと恭文達がイクト共々ずっと行方を探していた子。 「・・・・・・それでヨル、マジどういう事っ!? てゆうか、アンタ達一体なにしてたのかなっ!!」 「うぅ、聞いてくれにゃ。聞くも涙語るも涙のオレらの逃走劇を」 「よし、何してたかはどうでもいいわっ! まずアンタ達がなんでここに居るかを教えてよっ!!」 「自分から聞いといてひどいにゃー!!」 うっさいバカっ! てゆうか、話長くなりそうだからマジだめじゃんっ!! しかもイクト起きないからアンタしか居ないしっ!! ・・・・・・でもあたし、少し冷静になれ。せっかく身柄を確保してるんだし、逃げられないようにしないと。 「と、とにかくなんでここに居るかを話せば・・・・・・オレを解いてくれるにゃ?」 あ、言い忘れてたけど現在ヨルはリボンでぐるぐる巻にして拘束されてあたしの部屋の丸テーブルの上に置いています。 「まぁ考えなくはない。なお、話さなきゃずっとそのままだから」 「ひどいにゃー! てゆうかお前、性格変わってにゃいかっ!?」 「気のせいじゃん? とにかくヨル」 「あぁもう分かったにゃっ!! ・・・・・・実は」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ オレらはイースターの本社に乗り込んで、九十九達を徹底的に脅した上でヴァイオリンを奪い返したにゃ。 というか、イクト大胆にゃ。まさかヴァイオリンが入った金庫をキャラなりしてぶった斬るなんて。 イクトが口ではどう言っても、あのヴァイオリンの事を大事にしている証拠にゃ。オレには分かるにゃ。 それでケースに入った状態のヴァイオリンを担いで、二人で必死に逃げたんだにゃ。 イースターの連中がしつこかったけどなんとか撒いたんだけど、問題発生。 イクトが急に顔色を悪くして、路地裏で崩れ落ちたにゃ。キャラなりもそこで突然解除。 オレは慌ててイクトの方を見る。イクトは崩れ落ちたまま視線を上げようともしなかった。 「イクトっ!?」 イクトはオレが声をかけても動けない。息も荒げになって・・・・・・マズいにゃ。 イースターの連中もまだ近くに居るのに。このままじゃ捕まっちゃうにゃ。 「イクト、しっかりするにゃー!!」 「・・・・・・よ、る」 「目を閉じちゃダメにゃー!!」 や、やばいにゃ。このままだと・・・・・・あぁもう、こうなったら奥の手にゃっ!! 「イクト、オレともう一度キャラなりするにゃっ!!」 「はぁ・・・・・・?」 「キャラなりして、オレがサポートするから安全なとこまで一気に逃げるにゃっ! 気合い入れるにゃー!!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「それでお前の家に来たってわけにゃ。どうにゃ、分かっただろ」 「分かるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 それでなんであたしの家なのかがさっぱりなんですけどっ!? しかもコレ、ガチに不法侵入だしっ!! ただ・・・・・・あたしは全く起きないイクトを改めて見る。確かに具合が悪いというのも分かった。 「あぁもういいや。とにかく恭文達に連絡してイクト引きとってもらおうっと」 「それはだめにゃっ! というか、どうしてそうなるにゃっ!? アイツらはオレ達の敵にゃっ! それに引き渡すってありえないにゃっ!!」 「なるの。・・・・・・ヨル、あたし達みんなイクトと歌唄の両親の事とか聞いてるんだ」 縛られながらも必死にもがいていたヨルが動きを止めて、あたしを驚いた目で見る。だからあたしもラン達も頷いた。 「な、なんでにゃ? オレ達その話は」 「夏休み前に歌唄から聞いたんだ。あたし達にちゃんと話しておきたいって言ってくれてさ。 お父さんがイースターとの約束を破ったのを理由に、無理矢理協力させられてたんだよね」 ヨルは戸惑った様子を隠せないけど、それでもあたし達の方を見ながら頷いた。 「それで私達ずっと、ヨルもそうだしイクトの事も探してたんだよ? 恭文とフェイトさんのお仕事仲間兼お兄さんにも手伝ってもらって」 「イースターの新しい作戦も始まってるし、利用される可能性が高いから保護しようって言ってね。 保護して、ボク達で力になれる事があるならなっていこうって方針を決めたんだ」 「・・・・・・ソレ、ほんとか?」 「本当ですよぉ。だからだからぁ、逃げないでくださいですぅ。 少なくともガーディアンのみんなと恭文さん達は味方ですぅ」 ヨルは少し考えるように視線を落とした。どうやらまだ戸惑ってるみたい。 「ヨル、正直言うとこのままあたしの家にイクトは置けないよ。ママとパパや妹だって居るしさ。 なによりイクト、病気なんだよね? だったらちゃんと治療してもらった方が絶対いい」 「ダメにゃ。下手に病院なんて行ったらイースターの奴らに」 「イースターの手が届かないとこがあるって言ったらどうする? 恭文とフェイトさん達のツテを使えば、絶対にイースターには見つからない」 次元世界の事をイクトに話すというのが前提だけど、クロノさんやサリエルさんに頼るのもアリなんだよね。 特にほら、サリエルさんはイクスの治療とかしてたお医者さんじゃん? だったらなんとかなっちゃうかも。 「だからヨル、お願い。スゥの言うようにもう二人だけで逃げないで。あたし達全員で力になるから」 「あむ・・・・・・でもでも、やっぱりダメにゃ」 「どうして? あたし達に迷惑かけちゃうからとかかな」 「そうにゃ。オレはともかく」 それでまたヨルの視線が動く。その視線を追いかけると・・・・・・そこには当然のようにイクトが居た。 「イクトがダメにゃ。下手にこの事話したらイクト、また」 「また勝手にどっか行っちゃう可能性があるって事かな」 それもあたし達の知らない内に、そして見つからないように・・・・・・だよ。 「そうにゃ。あ、もちろんオレはお前達がそう言ってくれて嬉しいにゃ。 ほんとだったらもっと嬉しいにゃ。だってオレ達、×たま壊したりしてきたのに」 あぁ、ヨルが戸惑ってる理由はもう一つあったね。あたし達に敵対行動を取ってたからだよ。 あとはもしかしたらだけど、唯世くんの事も気にしてるとか? 唯世くん、イクトに敵意全開だから。 「でもイクトは・・・・・・歌唄や他のみんなに迷惑かけたくないって思ってるから、どうなるか分からないにゃ。 ホントのホントにイースターの連中から隠れられるとしても、イクトがそれを出来ると信じてくれなきゃ意味ないにゃ」 「・・・・・・あむちゃん、どうする?」 ミキが腕組みをしながら困ったようにあたしを見る。それはランとスゥも同じ。 「今までの行動を考えると、ボクもヨルの言う通りになる可能性は高いと思うんだ。 まずイクトはイースターの力とか怖さとか、多分ボク達以上に知ってる」 「そういうのがあたし達に遠慮しちゃう要因になるって事だよね」 「そうだよ。下手にここで逃したら今まで以上に見つけにくくなるし、なによりそのヴァイオリンの事だよ」 あたしもミキと同じように、自然とそのイースターから奪い返したっていうバイオリンを見る。 バイオリンは銀色のケースに入れられた状態で、床の上に置いてあった。 「イースターはあのヴァイオリンを持った二人を相当しつこく追いかけ回してたそうだし・・・・・・ううん、追いかけてるね。きっと今も」 「あ、そうだよね。今外に出ちゃうと見つかって、そのままかも知れないよ? あむちゃん、どうしよ。でもでもこのままなんて絶対だめだし・・・・・・うー」 なんにしても今はイクトは動かせないって事かな。ううん、それ以前に・・・・・・あ、ちょっと待って。 今は無理なのはどうして? それはまだイクトがあたし達に対して警戒というか遠慮があるせいだよ。 だったらそれを取り除いてからなら、なんとかなるんじゃないかな。具体的には信じてもらう。 あたし達がイクトの味方で、イースターが何して来たって絶対に引かないって姿勢を示すんだ。 言葉だけじゃ誰かに信じてもらう事なんて出来ない。あたしは今までのアレコレでそれをよく知ってる。 だから今回だって同じ。イクトがそういう遠慮しちゃうなら、その遠慮を壊すために頑張ればいい。 どこまで出来るかは分からないし、みんなにも軽く嘘ついちゃうけど・・・・・・よし。 「分かった。なら、イクトの事は黙っておくよ。それでしばらくここに居ていい」 「あむちゃん、それでいいんですかぁ?」 「もちろんよくない。だから、ヨルにも少し頑張って欲しいんだ」 両手を伸ばして、ヨルを縛っていたリボンをゆっくりとほどいていく。 リボンは小さめのちょうちょ結びにしたから、すぐに解ける。というか、もう結び目はほどけた。 「さっきも言ったけど、このままイクトとヨルだけで逃げてたって意味が無い。 だからヨルには、なんとかしてイクトを説得して欲しいの」 「説得?」 「そうだよ。恭文とフェイトさんならいい隠れ場所も知ってるし、二人やあたし達の力を借りるように・・・・・・かな。 もちろんあたしも話す。イクトが信じてくれるように出来るだけ頑張ってみる。でも、ヨルにも手伝って欲しいんだ」 リボンは全部ほどけて、ヨルは解放された。でもヨルは逃げずにあたしの事をジッと見ていた。 「お願い、出来るかな。ヨルの力が必要なんだ」 「分かったにゃ。というか、ごめんにゃ」 「いいよ、別に。あたしだってイクトの事は放っておけないし。ただ一つ認めて。 本当にどうしようもない場合は、恭文達の力を借りてどうにかする。いいかな?」 ヨルはまた戸惑ったように視線を落とすけど、すぐに上げてあたしの方を見返しながら頷いた。 「・・・・・・それも分かったにゃ。でもでも、その前にオレも頑張るにゃ。イクトは話せば分かる奴にゃ」 「ん、ありがと」 でもどうしよう、こうなるとみんなに話すのもアウトになっちゃうのかな。 ほら、それやるとイクトを内緒で匿うって言う『約束』を破る事になるわけじゃん? それって下手するとイクトを刺激してそのまま・・・・・・って事もありえる。 とにかく、イクトと少し話してみないとだめかな。それで刺激しないようにして、それとなくさ。 よし、あたし・・・・・・冷静になれ。場合によっては今言ったようにそういうの抜きで恭文達に相談する事も考えなきゃ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ さてさて、ヒカリの目が覚めてから僕はまぁ・・・・・・少し腹をくくったわけですよ。 具体的にはたぬき2号とV3の影響で兄と妹の愛に目覚めかけているディードの事。 さすがに付き合うとかそういう事じゃない。ただまぁ、話していく事は必要かなと。 家族としてのコミュニケーションも必要かと思って僕は、今現在ディードと添い寝してます。 「・・・・・・・・・・・・ごめんなさい」 「あのヤスフミ、大丈夫だよ? その、私ちゃんと理解はしたから。 あくまでもディードと向き合って、答えを探すためなんだよね? だったら大丈夫だから」 「あのね、そう言ってくれるのは嬉しいの。ただその・・・・・・色々傷が開いて」 涙目になりながら事情説明をした僕を、フェイトが優しく右手で頭を撫でてくれたりもした。 それに安心してお礼と謝罪を必死に言った時間を振り返りつつ僕は、左側に寝ているディードを見た。 「ね、ディード」 「はい」 「僕はその・・・・・・ディードの気持ちというかそういうの、結構弾いてたよね」 「そんな事はありません。私が・・・・・・無茶を言っている部分があるんだと思います」 つ、辛い。覚悟決めて向き合っていくと決めたのはいいけど・・・・・・ただあの、第四夫人とかそういう話じゃないの。 僕にとってもディードにとってもいい答えを探すには、やっぱり話し合っていく事かなーと。うん、そういう勇気を出したかったの。 「ね、ディードはその・・・・・・どうして僕とそうなりたいの?」 「・・・・・・好き、だからです」 ディードは布団の中で顔を真っ赤にしながら、震える声でそう言った。 「兄のようで、だけど一人の男性のようでもあって・・・・・・あなたの事が好きです。 もちろんフェイトお嬢様が居る事は分かっています。だけど、好きなんです」 「・・・・・・うん」 「ここに来たのも、そういう感情が無いと言えば嘘になります。側に居られたら・・・・・・と。 大好きなあなたの側に居られたらと思って、ワガママをたくさん言いました」 僕、最初はこの話断ったからなぁ。でもディードは『どうしても』って言って折れなくてさ。 「恭文さん、私からも一つ質問です」 「なにかな」 「なぜ、私ではダメなんでしょうか。一刻の思い出すら作れないんでしょうか。 ・・・・・・フェイトお嬢様を理由にしないで答えてください」 また難しい質問をしてくると思った。だけど、そう答えるのが大事な事なのは分かった。 だってフェイトが居るからってある種免罪符だよ? 僕にとってディードがどういう存在かを考えてないもの。 「そうだな。理由はね、いくつかある。まずリインとまだそうなれないって言うのと近いのかも知れない」 「というと?」 「一つはディードの事はその・・・・・・やっぱり妹みたいな感じなのかなって言うのが一つ。 ただここはほら、フェイトが好きでーって言うのも絡んでるから・・・・・・今回は除外かな」 フェイトを理由にしてはいけないんだから、今回に限ってはここは理由にならない。 なんとまぁ難しい質問だとは思いつつ、僕は少しずつ考えをまとめていく。 「もう一つは・・・・・・仮にたった一度だけだったとしても、ディードの事縛りつけるようで怖い」 「・・・・・・というと」 「例えばさ、そういうキスとかエッチみたいな身体での繋がりって・・・・・・すごく大きいんだ。 もちろんメンタル的な彼氏彼女の繋がりも同じ。比率が大きくて、人生の中でもやっぱり重い部類のもの」 それは僕自身がフェイトとそういう繋がり方をするようになって実感しているの。 というか、基本子作りなわけだから男女ともに大きくならないわけがない。 好きな人とそういう事するのは、幸せであると同時にとても比重が大きい出来事。 それこそしてる最中は相手の事だけしか考えられなくなる程に幸せ・・・・・・・なんだ。 「そういうので縛りつけてさ、ディードが恋愛も含めた新しい事とかを探す事が出来なくなるんじゃないかって。 そう思って今まで話せなかった。特にディードは、まだ生まれてから間もなくて・・・・・・これから色々変わっていく」 言いながら右手を伸ばして、そっとディードの頬を撫でる。ディードの頬は、本当に熱くなっていた。 「僕はディードが自分なりの幸せを探すのを手伝いたくて、お兄ちゃんになったんだもの。 それだけは、変えたくないの。だから・・・・・・そういう事するのは、戸惑っちゃう。今もかなり戸惑ってる」 そういうコミュニケーションもまだディードには必要なのかなと思ったりして、頑張ってはいるけどそれでもだよ。 ただ・・・・・・こんな状況でも反応しない僕の理性には感謝だよ。これでキャストオフしてたら説得力ないし。 「さっきも言ったけど、リインと今そうなれないのもそれ。僕だけになっちゃうのは、怖い感じがするんだ。 フェイトがそれで今でも局の良いとこだけを見ようとしてた自分を後悔してるから、余計に」 改めてディードの目を見ると、ディードの目は少しだけ悲しげになっていた。ただ・・・・・・強烈に否定してるわけじゃなかった。 「理由としては、そこなのかな。ただやっぱり一番大きいのはフェイトの事なんだけど」 「そう、ですか」 「うん」 少しだけ沈黙が流れる。でもディードは、そんな中でも僕の事をジッと見ていた。 「納得、出来ません」 「・・・・・・そっか」 「はい。だってそれでは」 そこまで言って、ディードは嬉しそうに笑う。 「今の私とそうなるのがダメであって、将来的にどうなるかは分からないと言ってるのと同じです」 「へ?」 ディードの言っている意味を考えて・・・・・・一気に顔が真っ赤になった。というか、その通りだった。 「だから今はだめなのは納得しました。将来的・・・・・・私がもっと世界の広さを知った上でなら、可能性は0じゃない」 「あの、ディードっ!? そういう事じゃなくて・・・・・・いや、確かにそういう風に言っちゃったんだけどっ!!」 「では、大丈夫だし問題はないですね」 「エルシャダってる場合じゃないからー!!」 あぁ、僕はなんか地雷を踏んだようなっ! というか僕のバカー!! ディードも笑わないでー! 違うのそういう事じゃないんだからー!! 「だから諦めません。それで・・・・・・知っていきます。 あなたへの気持ちが、本当にそういう男性への愛なのかも含めて色々な事を」 ディードはそう言ってから左手で僕の右手を触って、軽く握り締める。 「それでもしかしたら将来的には他の男性を見るかも知れませんけど、それでも今の一番は・・・・・・あなたですから」 笑顔の中にも真剣さが混じっていて、何も言えなくなって・・・・・・僕はついジト目でディードを見てしまった。 「それでもノーって言うかも知れないから、覚悟しておくように」 「はい」 何かこう、将来的にとんでもないフラグを立ててしまったような気がしなくもない。 ただそれでも、今までみたいに不毛な争いを続けるよりは・・・・・・良かったはず。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「・・・・・・どうしてこうなったんだろう」 結論から言おうと思う。あたしはとんでもない事を忘れた上で話を決めていた。 それは・・・・・・イクトが病気な上にベッドから動かせない以上、あたしがどこで寝るかという事。 まぁアレだよ。その・・・・・・昨日はイクトと二人同じ布団で寝たよっ!! てゆうか今隣にイクト居るしっ! それでコイツまだ寝てるしっ!! てゆうかマジですかっ!? 寝てる途中で抱きつかれたりして、かなりドキドキしまくって大変だったんですけどっ!! ・・・・・・でもイクト、マジで体調悪いのかな。これは相当早めに話まとめないとヤバいのかも。 よし、場合によっては・・・・・・だね。少し考えておこうっと。あたしは布団から上半身だけを起こした状態でガッツポーズを取る。 「・・・・・・あむー」 「あ、ヨルおはよう」 ヨルが目を左手で軽めにこすりながらこちらへ来た。それで心配そうにまだ寝ているイクトを見る。 「おう、おはようにゃ。というかイクト・・・・・・うぅ、一体どうしたにゃ」 「ねぇ、元々体調悪かったの? 」 「いんや、ヴァイオリン取り返した途端にコレにゃ。だからオレもワケ分かんなくて」 「そっか」 なら疲れてたのかな。それで一気に・・・・・・とか。それならこれも分からなくはないけど。 いや、でも追われてた途中でだよね? うーん、やっぱりよく分からない。 「・・・・・・あ、そう言えば昨日も思ったけど取り返したって何?」 「あ」 ヨルが両手で自分の口を塞いでそそくさとあたしから離れようとするので、右手を伸ばしてヨルの服を掴んで引き寄せる。 「逃げるな」 「あぅ・・・・・・あの、オレが言ったって内緒に」 「分かってる。で、あのヴァイオリンって何? 相当大切なものなのかな」 「おう。アレは・・・・・・イクトと歌唄のおやじさんのヴァイオリンにゃ」 あたしはそれに驚いて、改めて隅に丁寧に置いてあるヴァイオリンを見た。 「でもあのいけすかないのが、イクトが居ない隙を狙って持ち出して・・・・・・探すの大変だったにゃ」 「じゃあもしかして失踪してたのって」 「ヴァイオリンを探してたにゃ。イクトは『どうでもいい』って言ってたけど、オレには分かるにゃ」 ヨルはあたしから視線を移して、寝ているイクトの方を心配そうに見る。 イクトはまるで子どものように・・・・・・ずっと寝ていた。 「イクトはあのヴァイオリンが・・・・・・おやじさんの物が、すっごくすっごく大事だったんだにゃ」 「・・・・・・そっか」 なんにしてもジッとはしていられないので、あたしは着替えた上で学校に行く事にした。 ヨルにはイクトの事をお願いした上で、もし出るのを止められなくてもあたしに居場所を教える事は約束させた。 正直イクトを家に残すのはかなり不安だけど・・・・・・学校行かない方が大問題だしなぁ。 唯一の救いは、ママ達が仕事で昼間のほとんどは家に居ない事だよ。それだけは、本当に救い。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ あむが学校に行ってしばらくして・・・・・・イクトの目が開いたにゃ。 それで顔の上に居たオレを見た。オレは少し上昇してイクトから離れる。 「・・・・・・ん」 イクトはまだ眠たげに起き上がって、周囲を見渡す。 「イクト、大丈夫かっ!? オレはもう本当に心配で」 「俺の、部屋じゃ・・・・・・ぐぅ」 「寝るにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 コイツ相変わらずの低血圧にゃっ! いや、オレが言うのもマジでアレだけどっ!! 「イクト、しっかりするにゃっ! というか色々話があるから起きてるにゃー!!」 「あぁ、うるせぇな。てーかなんでどうして・・・・・・こうなった」 「それが話にゃっ! いいから聞くにゃっ!! ヴァイオリンを取り戻してからイクトは」 オレがそう言った瞬間、眠たげに細めていたイクトの目が一気に開いたにゃ。 「ヴァイオリンッ!!」 それでオレを突き飛ばすようにしてイクトは立ち上がった 「ふぎゃっ!!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 部屋の中を改めて見渡すと、俺のよく知っている匂いがする。それで俺は部屋の中の勉強机に視線を向けた。 そこにはその匂いの持ち主であるアイツの名前が描かれたノートや教科書がいくつもあった。 よく見ると部屋も女の子っぽいし・・・・・・あぁ、なるほど。やっぱここはあむの部屋なのか。 自然に納得しつつも俺は、部屋の隅にあったヴァイオリンケースの方に早足でベッドから降りつつ近寄る。 しゃがみ込んで、ケースに触れて・・・・・・安心したかのように息を吐く。その後で胸の中に苦々しい気持ちがこみ上げる。 「世話かけたみたいだな、ヨル」 「き、気にするにゃあ」 ふらふらとしながら俺の方へ来たヨルを右手で撫でる。するとヨルが表情を崩して笑顔になった。 「でもイクト」 「なんだ」 「このヴァイオリンなんか変にゃ。生きてるみたいなうねうねとした感じがして・・・・・・辛いにゃ」 「はぁ? 気のせいじゃないのか。お前も知っての通りこのヴァイオリンは」 言いながらケースを開けてヴァイオリンを見た。それで俺達は息を飲みつつ固まった。 ただ俺に関してはそれだけではなく、また急激に眠気が襲ってきた。そのまま俺は、また意識を手放してしまった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 今日の買い物当番は僕とリイン。なのでまたまた商店街に来たわけですよ。 なお、あむも一緒。あの美味しいたい焼き屋さんでたい焼き買って帰るとか。 正確にはもう買っていたりします。でもあむ一人にしては妙に量が多い。しかも夕飯前なのに。 食欲の秋は通り過ぎかけてるのに・・・・・・そこにリイン共々軽く首を傾げたりもした。 ただ、ここは普通に最近関係を改善してきているというお父さんを含めた家族と食べるかも知れないので、何も言わなかった。 「そういや恭文」 「何?」 「ティアナさんなんか急いでたけど、やっぱ例のアレ大変なの?」 「大変っぽいね」 ティアナは今日は授業が終わったら本局の方に向かった。その原因はクロスミラージュの新モード。 先日のアレでクロスミラージュ本体は完成したんだけど、追加システムがまだ未完成だから調整が必要なのよ。 「というか、僕もコンセプト聞いたけど相当無茶だもの。本来なら半年近くじっくりやる仕事だよ?」 「半年近くっ!? ・・・・・・ティアナさんもだけどヒロリスさん達、大変そうだなぁ」 「大変なのですよ。あ、あむさん、右に避けてくださいです」 「へ?」 あむが呆けた目でこちらを見たのが行けなかった。その間に前から来た男の子にぶつかった。 金色の程良くまとめられた長さの髪と青く丸っこい瞳をしたその子は、ポカーンとした顔であむを見る。 クリーム色のダッフルコートとロングパンツ姿のままで、地面に座り込んでしまっている。 「あぁ、ごめんねっ! ボク、大丈夫かなっ!?」 あむが慌ててしゃがみ込んで、その子を立ち上がらせた上で声をかける。 「あむさん、ダメなのですよ。だから避けろって言ったのに」 「そうだよ。あむ、ほんとダメだね」 「うっさいバカっ! てゆうか、あんなんでコレって分かるわけがないしっ!! ・・・・・大丈夫? どこか痛くないかな。というか、パパやママは一緒?」 でもその子は答えずにあむの方を・・・・・・ううん、違う。あむの隣に居るキャンディーズを見ていた。 あむもそれに気づいたのか、軽く首を傾げつつもその子の視線を追いかけ・・・・・・何か納得したような顔になった。 ”恭文さん、この子もしかして” ”しゅごキャラ見えてるのかな” ただあむはどうしてかそこで、脇にかばんと一緒に置いていたたい焼きの袋を取り出してその子に差し出した。 「はい」 男の子はあむの方を見て、軽く首を傾げる。それであむは申し訳無さげに苦笑した。 「おわび。まだ温かいからよければ食べて?」 その子は両手でたい焼きを受け取って、まじまじと見出した。そのまま食べようとはしない。 「焼いた、魚?」 それでついまじまじとその子を見ていると、なんかとんでもないボールが投げ出された。 「へっ!?」 「あー、ちょっと待って。もしかして・・・・・・たい焼き食べた事ないとか?」 「たい、焼き」 え、マジですか? マジで食べた事ないんですか? まぁここは驚く事もないか。ほら、家の方針かも知れないし。 「それはね」 実は僕とリインも腹ごなしついでに買っていたので、リインが持ってくれていた袋から一つ取り出す。 それはリインも同じく。僕達は笑いながらたい焼きに頭からかぶりついた。 「こういう風に食べるおやつなんだよ」 「ですです。うーん、美味しいのですー」 「おやつ」 僕とリインがたい焼きを食べながらも頷くと、その子も小さな口でたい焼きをパクリと食べた。 それで一気に表情が明るくなった。どうやら初めてのたい焼きの味は気に入ってもらえたらしい。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ あの男の子には平謝りでその場でお別れして、そのすぐ後に買い物に出る恭文達ともお別れした。 それで慌てて部屋の中に入ると・・・・・・そこには誰の影もなかった。うん、影はなかったね。 だって部屋の隅のヴァイオリンの前で、またグースカ寝ているイクトだけだから。 「・・・・・・コイツは、起きたのにまた寝てるって」 位置的にどう考えても寝相ではあそこにいかない。多分一度は起きたんだよ。 「違うにゃー!!」 目の前でいきなりヨルが出てきたので、あたしはとっさにドアを閉めた。 ・・・・・・しゅごキャラは、ママ達には見えないのに。いや、一人見えるのが居るか。 「ヨル、静かにー! うちの妹はヨル達の事見えるって話したじゃんっ!!」 「あ、ごめんにゃ。でもでも、寝てるんじゃないにゃ。イクト、ヴァイオリンを見たら急にまた・・・・・・どうなってるにゃ」 「・・・・・・やっぱり相当具合が悪いとかかな」 とにかく床に寝かせたままなのもアレなので、かばんを置いた上でイクトに近づく。 しゃがみ込んで左手でイクトの肩を掴んで、かなり強めに揺らす。するとイクトは、やっと目を開いてくれた。 「・・・・・・あむ」 「そうだよ」 眠たげなイクトは本当に無防備で、あたしの事をボーッとしながら見上げていた。 その表情が子どもみたいでちょっとかわいいって・・・・・・いや、あたし何考えてるんだろ。 「やっぱここ、お前の家だったのか。悪い、邪魔」 「あぁもう、いいから。具合悪いんでしょ? だったらしばらくここに居ていいよ」 「バカ、そういうワケにもいかないだろ」 「いいから」 起き上がろうとするイクトの邪魔をしないように、あたしは手を離した。 ただそれでも右手で持ったままだったたい焼きの袋を見せて笑う。 「出て行くにしても、まずはこれ食べてからだって」 「・・・・・・なんだ、それ」 「たい焼き。チョコ味とクリーム味とつぶあん、どれ食べる?」 「・・・・・・・・・・・・チョコ味」 あたし達の久々な会話は、こんな風に呆気無く始まって・・・・・・でもなんだろ。 この時間がとても心地がいい。あたし、なんで安心しきってるんだろ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ さて、このお話を初期から見てもらっている人にはお馴染みかも知れないけど、うちは居候の出入りが結構激しい。 りま然り咲耶然り恭太郎然り、リース然りあむ然りシルビィ達然り・・・・・・凄い盛りだくさんな家だよなぁ。 なのである日突然に家に誰か来るとか、そういうのは結構慣れてはいる。いや、本当に慣れてはいるのよ。 ただ、そのやって来たどなたか様にリースが土下座してる光景って言うのは衝撃的だった。 「・・・・・・リース、アンタ何ヶ月定期メンテサボったか分かるっ!? 2ヶ月よ2ヶ月っ!! まぁまぁ健康そうな様子だから良かったけど、ダメじゃないのっ!!」 「あの、本当にすみませんっ! でもコレには色々あって」 「黙らっしゃいっ!!」 「ひぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」 チリチリでショートカットな赤毛に栗色の瞳、赤のシャツとジーンズの上に白衣を着た僕くらいの身長の子は、リビングで声を荒らげてた。 それにただひたすらに・・・・・・リースはただひたすらに頭を下げるばかりだった。 「そもそもアンタ自分の立場分かってるっ!? ここはアタシ達からすると過去で、アンタはオーバーテクノロジーの固まりっ!! いくらおばあちゃんとかが気をつけてくれたとしても、完全に体調を見るのは無理なんだからっ! それなのにアンタは・・・・・・!!」 「ごめんなさいごめんなさいっ! でも私も色々と忙しくてですねっ!!」 「ほう、忙しい日々の中にはマイグローブやマイボールは必要なわけだ。 どうやって調達したかは知らないけど、中々いい生活送ってるみたいね」 リースはそう言われて固まり、ただ脂汗を流し続けるだけだった。 「・・・・・・私の血液はボウリングで出来ているからいいんですっ!!」 「いいワケがあるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!!」 ・・・・・・僕は当然ながら、僕とリインを出迎えてくれてここまで一緒に来たフェイトを見る。 フェイトは左隣で冷や汗を流しながら困ったように笑い続けていたけど、すぐに僕の視線に気づいた。 「フェイト、アレは誰」 いや、そんな困った顔しないでよ。ティアナもシャーリーも居ない以上はフェイトに聞くしかないし。 なお、シルビィとナナも居ない。二人は二人で地理を覚えるがてらパトロールしてるらしい。 「えっと、その・・・・・・誰なんだろうね。実は私もさっぱりで」 「はぁ? なんでよ」 「それがリースと二人でおやつ食べてたら、突然入ってきてリースにげんこつした上でこの有り様で」 フェイトは改めてあの赤毛の子に視線を向ける。というか、アレだね。顔が阿修羅みたいになってるよ。 「話しぶりからすると、未来の時間の誰かだとは思うんだ。そうじゃないと通じないところがたくさんあるし」 「まぁそれは僕も分かる」 「それでどうするですか? このままじゃ料理も作れないのです」 「・・・・・・うん、よし」 僕は一歩踏み出して、足音を消しつつその子の背後に接近。その子は変わらずにリースに怒鳴り続ける。 「そもそも忙しいのはアタシだって一緒なんだけどっ!? いわゆる貧乏ヒマ無しってやつでさっ!! かえでが派手にファルケン壊してくれたせいで、夏ごろから仕事溜まって溜まって」 「とりあえず黙れ」 言いながらも右足で背中を蹴飛ばした。その子は前のめりに倒れてカエルが潰れたみたいな悲鳴をあげる。 「・・・・・・ヤスフミなにしてるのっ!?」 「いや、フェイトの胎教にも悪いから黙ってもらった」 フェイトの方に視線を向けながらそう言うと、なんでかフェイトは不満顔。それについ首を傾げてしまう。 「そういう事じゃないよっ! 他にもっと手段が色々あったんじゃないかなっ!?」 「フェイト、大丈夫。いつだって僕は最善を尽くすから。だから僕を信じて?」 「そういう母さんみたいな事言うのやめてっ!? 気持ち悪いからっ!!」 うん、分かってる。僕も軽く吐き気したから。まぁそこは置いておくとして、改めてあの赤毛を見た。 「ふ、ふふ・・・・・・メガネが無ければ即死だったわ」 その子はメタな事言いながらも振り返って、四足状態で僕の方をまじまじと見る。 「そう、だったら今度はそのメガネを砕くわ。ほら、それが本体なんでしょ?」 「あなたメガネ人をなんだと思ってるのっ!? ・・・・・・というか、衝撃だわ。 まさか昔からこんなに鬼畜だったなんて。三つ子の魂百までとはよく言ったもの」 「そう、だったら斬るしかないかな。おのれが居ると妊婦への胎教に悪いのよ。 ほら、そういうのは粗大ごみだって法律で決まってるし」 「この時代の法律どうなってるのっ! それはありえ・・・・・・って、そうじゃないっ!!」 すぐに立ち上がって、赤毛は僕に向かって両手をぶんぶんと振り出した。なので僕は優しく笑いかけてあげる。 「いや、ちょっと待ってっ! その悪魔の笑みは一旦収めてっ!! というかほら、これには事情が」 「うるさい不審者」 「不審者ってなにっ!!」 「いやいや、完全不審者でしょっ! いきなりうちの中に現れて、それで同居人に説教しまくるんだからっ!!」 しかも名前すら名乗らないと来てるし、これで不審者と言えない要因があったら逆に聞いてみたい。 「いやいや、そんな事ないからっ! ほら、アタシ名乗ったしっ!!」 「・・・・・・あの」 そう言いながらどこか申し訳無さ気に右手を挙げたフェイトの方を赤毛が見る。 「私、あなたの名前もなにも聞いてないんだけど」 そして場が固まる。というか、赤毛が固まる。固まって・・・・・・にこやかに笑い出した。 「あはははははははははははははははっ!!」 「笑ってごまかすなボケがっ!!」 次の瞬間、右足が赤毛の顔面に直撃したのは言うまでもないだろう。 なお加減はしたので問題無しとして欲しい。いや、かなりマジでね? ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ そこから僕はその赤毛を正座させた上で、『自己紹介しろやボケ』と優しく諭した。 すると赤毛は心を開いて、目に涙まで浮かべた。・・・・・・やっぱり最後は誠意ってやつだよね。 「は、初めまして。私は三じ」 そこまで言いかけて、赤毛が固まった。固まって半笑いで僕とフェイトの方を見出した。 「キ・・・・・・キアラ・フィニーノと言います」 「キアラ・フィニーノ? ・・・・・・あ、もしかしてシャーリーの」 「はい」 なぜ自分の名前を言うのに凄い戸惑った感じだったのかは分からないけど、それでもそういう事らしい。 リースの方を見たらリースも僕とフェイトに向かって静かに頷いていた。 「シャーリー・・・・・・シャリオ・フィニーノは私のおばあちゃん。 もう言う必要もないでしょうけど、恭太郎達やリースと同じ未来の時間の住人です」 「キアラちゃんもシャーリーさんと同じくメカ関係が大好きで、フリーのエンジニアをやっているんです。 それで私だったり咲耶のメンテナンスもしてますし、あとはビルトビルガーやファルケンの生みの親でもあります」 僕とフェイトとリインは感心したように息を吐くしかなかった。というか・・・・・・よし、触れないでおこう。 フェイトとリインも同じくなのか、全員で顔を見合わせて頷き合った。まぁその、アレだよね。シャーリーのアレは真性なんだよ。 「で、そのキアラがどうしてこっちに来たのよ。・・・・・・あ、まさか増援とか」 「あー、いえ。アタシもアタシで仕事あるんで、それはないです」 それから右隣で正座体勢のままで居るリースの方に怒り混じりな視線を向けた。 「・・・・・・このバカが定期メンテをサボるから。今の時間の技術だと完全にメンテし切れない部分もあるって言うのに」 「そう言えば・・・・・・シャーリーが言ってたかな。二人は一種のオーバーテクノロジーだから、手が届かない所が出るって」 「えぇ。アタシ達の時間だと普通だけど、こっちだとまだ形すら出来てない技術も使われてますし」 あー、そう言えばそういう話してたっけ。うん、悔しげにいってたからよく覚えてるよ。 だからデンライナーの中でリースと初めて会った時、アルトが行ったスキャンも不明点が出てきたりしたし。 「まぁ持ってきた携帯装置で調べたところ異常は無い感じだから良かったけど・・・・・・ほんとにこの子は」 「うぅ、申し訳ありません」 「あと、実はもう一つ目的があって」 キアラは立ち上がって、メガネを正しながら僕の方に顔を近づけた。それで僕は軽く身を引く。 「恭文おじいちゃんが超・クライマックスフォーム使った時の事を聞きたいなーと」 『・・・・・・え?』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「うーん、やっぱりフリーエネルギーの応用でかぁ。 そりゃあ普通にやったら四体同時ユニゾンとか無茶苦茶だしなぁ」 机に座って、僕のパスとカード達をにらめっこしながら楽しげにキアラは笑う。 なお、僕もフェイトもみんな置いてけぼりです。だってなんで超・てんこ盛りの話になるかも分からないし。 「おじいちゃん、パスとカード達ちょっと借りてきますね」 「はぁっ!?」 「で、コレ」 懐からCDサイズの包袋を差し出してくるので、僕はそのまま左手で受け取る。 「これ、こっちに居るおばあちゃんに渡しといてください。必要な事はその中のメモに全部書いてますんで。 中身のシステムもう出来上がりつつあるんで、おばあちゃんにはフレームを作って欲しいんです。それも急ピッチで」 そのまま素早く僕のパスとカードをまとめて持った上でキアラは立ち上がって、軽く伸びをする。 それから胸元の白衣に入れてあった銀色の懐中時計を確認して、ニヤリと笑う。 「それじゃあそろそろ時間なんで、アタシはこれで。あ、お茶とたい焼きご馳走様でしたー」 「いやいや、だからちょっと待てっ! 一体なんの話っ!?」 「というかあの、シャーリーには会っていかないのかなっ! きっと喜ぶと思うんだけどっ!!」 「そうしたいのはやまやまなんですけど、アタシ仕事が立て込んでるんで。 あ、システムが上がったらまた来ます。おばあちゃんとはその時に」 そう言いながら素早く玄関へ続くドアを開けた。その中には砂漠と虹色の空とオーロラが広がる。 「それじゃあおじゃましましたー」 『だから待ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!』 そのまま素早くドアは閉じられ・・・・・・場が一気に静かになった。 自然と伸ばしていた右手の指先がひくひくと震えて、僕達は完全に固まってしまっていた。 「・・・・・・どういう事ですか、アレ」 「さ、さぁ。というかリース、キアラってああいう子?」 「えっと・・・・・・ああいう子です。基本研究関係以外には興味が無いので」 「没交渉的な子なのですね。なんだか納得です」 僕は右手を下ろしてから、自然と左手でさっき受け取ったアレを見る。感触から察するに、中身は本当にCDの類らしい。 それからフェイトの方を見るけど、フェイトは僕を見ながらただ困った顔をするだけだった。 「・・・・・・これ、シャーリーに見せておこうか」 「そうだね。あの子的にはそれで全部OKって感じっぽいし」 それから自然と、本当に自然と二人で同じタイミングでため息をしたのはどうしてなんだろう。 でもなんというか、シャーリーのメカオタク部分を凝縮したかのような子だったね。シャーリーはもうちょい世渡り上手だし。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「・・・・・・ねぇ、ナナちゃん」 「なに?」 もう暗くなってるので、急いで家に戻りながら少しだけ聞いてみる事にした。 風は冷たく、正直半袖は辛いような気温。地球の冬は何気に厳しいみたい。 「前にナナちゃんの生まれ故郷のプロミスランドは、こころのたまごと密接な関係があるって言ってたじゃない?」 「えぇ」 ナナちゃんは実は、次元世界どうこうは抜きにした本当の意味で異世界の人間。 この世界の人達の『童心』が、世界という一つの形を取った場所で生まれたの。 その世界の名は『プロミスランド』。私達の世界とはまた違うファンタジーな魔法文明を持った世界。 ナナちゃんが×たまの浄化やなぞたまに手加減した上で攻撃出来たりするのも、そういう世界出身だからなの。 それでしゅごキャラの事やこころのたまごも知っていたのは当然の事。 どうも『童心』はこころのたまごの中から生まれるものみたいだから。つまり世界の成り立ちそのものに関わってる。 それでプロミスランドの人達は私達が定義している『人間』とは厳密には違う存在。 ナナちゃん自身も一種の精神体というか、そういう世界に生まれた関係で私達とは成長過程すら違う。 私達は年齢を経る事で成長するけど、ナナちゃんは精神年齢の上昇に伴って外見が変わったりする。 ただこっちの世界で長く暮らしていた関係で、ヤスフミと会った辺りからそういう法則が崩れてるとは言ってたけど。 そんなナナちゃんとの出会いは、こっちの世界に来たプロミスランドの犯罪者を追ってヴェートルに来た時から始まった。 その『ノワール』と言う犯罪者はナナちゃんより前にヴェートルに来て、当然ながら私達もその犯罪者に遭遇。 ノワールはこちらの世界でも少し問題を起こしていてね、何気に頭が痛かったの。 私達はヴェートルの治安維持を目的にしていたから、ナナちゃんとは共闘する形になってそのままーって感じ。 それでナナちゃんが今回の一件に関わる気を出しているのは・・・・・・本当に簡単な理由。 「こころのたまごの中の夢や『なりたい自分』は、プロミスランドを構築している『童心』そのもの。 たまごから発せられているエネルギーが一つの形を取って、ナナちゃんの世界が出来てる」 「えぇ」 「だからもし、全ての人間のたまごに×が付くような事態になれば・・・・・・当然プロミスランドも崩壊する」 「・・・・・・えぇ」 ナナちゃんの表情が歩きながらも硬くなるのは、何気にこの話が私達の世界だけに留まらない話だから。 今言ったようにナナちゃんの世界そのものが崩壊する危険性もあるらしいんだ。 だから私達はここに来たし、補佐官やメルビナ長官にジュン達も事情を理解してくれた上で許可を出してくれた。 ヤスフミの事も当然あるけど、ナナちゃんの故郷が消えるのも避けたかったしね。 ほら、付き合いももう6年以上だし。みんなも何かあるようならすぐに飛んで来る姿勢を示してたりする。 「てゆうかシルビィ、それはこっち来る前に説明したじゃないのよ。 あ、恭文達にそこ話せって事? 確かにまだ説明してなかったしなぁ」 「ううん、違う。今回はそうじゃなくて・・・・・・本当にそういう事が可能なのかを聞きたいんだ」 少しだけ強めの風が吹く。私は左手で揺れるポニーテールを軽く押さえながらも足を進めていく。 「だってほら、地球だけの話じゃなくて次元世界全体なのよ? さすがにスケールが大き過ぎて」 「あー、そういう事ね。・・・・・・結論から言えば、可能よ」 ナナちゃんの声が重くなったから、少なくともナナちゃんはその可能性があると本気で思っていたのは伝わった。 「実を言うとどうしてそうなるのかとかも大体の事は読んでたりする。 ただ本当に桁外れなパワーが必要だけど・・・・・・それを満たしちゃえば可能」 「それは、どうして?」 「人と人は、本当は簡単に分かり合えるからよ」 ナナちゃんも吹き抜けた風に髪やワンピースのスカートをなびかせながらも歩く。 ただそう言った時その瞳が・・・・・・どこか嬉しそうなものに変化した。 「その理由は、全ての人間がある一つの物を通じて繋がり合っているから。 極端な話、私達が今まで会ってきた救いようのない犯罪者達もここに入る」 その輝きに少し魅入られながらも、怪訝な表情を浮かべてしまう。 「ナナちゃん、それって」 「本来は誰でもみんなと分かり合えるし仲良く出来るって事よ。それがデフォルトであり常識。 ただ色んな要因でそういう繋がりを・・・・・・そこに続く扉を開けなくなるだけ」 あれ、扉? しかも開くって・・・・・・何かこう、引っかかる感じがする。 「でも人は誰でも鍵を開けて、その扉を開く事が出来る。 だって扉を開くための鍵はいつだって自分の中にあるんだから」 あ、まただ。また何かが引っかかった。というか私、この話を知ってる。 でもどこで聞いたのかとかが今ひとつさっぱりで・・・・・・うーん、思い出せないわ。 「あの、ナナちゃん。多分私が悪いんでしょうけど・・・・・・言っている意味がよく」 だからナナちゃんの方を見てそう聞いた。ナナちゃんは苦笑しながら軽く息を吐く。 「でしょうね。でも、答えは全部そこにあるのよ。アンタの中にも、もちろん私の中にもね。 まぁまた後で詳しく話すわ。私ももう少し考えまとめた上でちゃんと話したいし」 「・・・・・・分かった」 話している間に、自宅はもう目の前。そして寒さと夜の暗さも深くなっていた。 ただ家の中が、私達の知らないカオスな残り香で満たされていたけど。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ あむちゃんはお風呂中、イクトがまた寝ついてしまってボク達がのんびりしてると、いきなりヨルが真剣な顔で話しかけてきた。 それで『見せたいものがある』と言ったヨルについていく。なお、到着地点はあのヴァイオリンの前。 「ヨルー、一体なにー?」 「そうですよぉ。お顔がとっても怖いですよぉ?」 「あぁ、ごめんにゃ。でもでも、お前達には世話になってるからちゃんと話しておきたかったにゃ。 というか、お前達は感じないのかにゃ。こう・・・・・・気持ち悪い妙な気配がするにゃ」 「妙な気配?」 そう言われてボクは目をこすりながらも集中。なぞたまや×たまの気配を掴む時のように感覚を研ぎ澄ます。 でも、何も感じない。ヨルが言うような気持ち悪い感じも無い。 「ボクは感じないけど」 「そうか。そうなると・・・・・・あぁもう、一体どうなってるにゃ」 「ヨル、本当にどうしたの? お願いだからボク達にも分かるように」 「・・・・・・コレ、見るにゃ」 ヨルが前に動いて、イクトのヴァイオリンのケースを開ける。 すると、ヴァイオリンの中から光が漏れた。それも部屋が明るい状態でも分かる異質な光。 その光に驚きながらもボク達はヨルに続く形でケースの方に更に近づいて中身を見た。 それで一気に疑問が解けた。ヨルが真剣な顔をしていた原因は、コレなんだ。 「ヨル、コレってっ!!」 「一体なんですかぁっ!?」 光の原因はヴァイオリン。ヴァイオリンがケースの中で妖しく紫色に光っていた。というか、発光かな。 何かの蛍光塗料みたいに柔らかくて小さい感じなんだけど、確かにヴァイオリンが光ってた。 「オレも分からないにゃ。今日の昼間に開けたらどういうワケかこんな風になってて、コレ見た途端にイクトがまた寝て」 「それでヨルがさっき言ってた気持ち悪い気配がするとか?」 言いながらボクは改めて光り輝くヴァイオリンを見た。 「例えば・・・・・・このヴァイオリンから」 「そうなんだにゃっ! でもでもお前達は感じないって言うし・・・・・・本当にどうなってるにゃー!!」 改めてヴァイオリンを見るけど、やっぱりボクには何も感じない。ただヴァイオリンが光ってるように見える。 もしかしてだけど、イースターがこのヴァイオリンに何かしたとか? そのためにイクトからヴァイオリンを取り上げたと考えるなら、納得出来るかも。 でもボク達は何も感じないから、×たま関係ではないっぽい。なら・・・・・・コレは一体、なに? ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「・・・・・・幾斗はまだ見つからんのかっ!!」 『申し訳ありません。ですがその、手が圧倒的に足りないんです。 専務が本当に捜索人員を全員解雇してしまうので、実行部隊は』 「そうか。ではお前も解雇だ。いいや、お前以外の残った人員も全て解雇だ。 ・・・・・・イースターに無価値な存在は必要ないっ! この役立たずがっ!!」 『待ってください専務っ! それでは我々実行部隊の人員は0に』 電話を荒く叩き切り、私は息を吐く。本当に・・・・・・本当に無能で無価値な存在が多過ぎる。 「しかしマズい。あのヴァイオリンには相当の時間をかけているんだ。このまま見つからないのはマズ過ぎる」 ・・・・・・あのヴァイオリンには、九十九達が見つけてきた大量の×たまのエネルギーが注ぎ込んである。 普通の人間には演奏しても意味のないものだが、幾斗が演奏する事によって力を発揮する。 そう言い切れる根拠は簡単だ。以前たまたま九十九が気づいたそうだが、あのヴァイオリンには特殊な力があるらしい。 ある特殊なエネルギーの波長が、幾斗が演奏している時にのみ微弱に発せられるそうだ。 もちろんここは実験済みだ。ヴァイオリンの心得があるスタッフに演奏させたがそのエネルギーは出なかった。 あくまでも幾斗があのヴァイオリンを使って演奏する事のみエネルギーが発せられる。 私はそれに目をつけた。そのエネルギーを×たまのエネルギーで強化し、それを幾斗に演奏させる。 すると微弱だったエネルギーが強力な形で発せられる。それだけではなく幾斗も・・・・・・だったんだが。 なのに奴は、月詠の人間は忌々しい事に無価値にも関わらずイースターの足を引っ張る。 それが腹立たしい。そうだ、奴には報いを与えなければならない。 もう我慢の限界だ。今回は命を賭けてその罪を支払ってもらう。そして今度こそ思い知らせる。 お前の命は、私達イースターのためだけに存在しているのだとな。 私は仕事机の左側にある受話器に手を伸ばし、ボタンを数個押した。 『はい、こちら技術開発部です』 「私だ。九十九、例の物はもう準備出来たか」 『えぇ、それはもう』 よし、それは良い事だ。人格はともかく、やはり九十九は仕事は出来る男のようだ。私は非常に嬉しい。 『ただ専務』 「なんだ」 『いえ、以前にも説明しましたがあのヴァイオリンと幾斗君に特殊な繋がりがあります。 そして僕達はそのヴァイオリンに×たまのエネルギーを大量に注ぎ込んだ』 だが、多少しつこいところがあると思った。だからこそ私の胸の中のイライラがまた吹き上げる。 『その結果、その繋がりを通して×たまのマイナスエネルギーが幾斗君を侵食。 僕達はそのエネルギーの流れを操作する事で・・・・・・というのが、デスレーベル作戦の骨です』 「それがどうした。その話なら耳にタコが出来るくらいに聞かされているが」 『ですから念押しです。・・・・・・幾斗君の身体に相当な負担がかかってしまいますが、よろしいですか? 繋がり・・・・・・つまりヴァイオリンと幾斗君を繋げる波長が強くなれば、当然幾斗君は』 「常時ヴァイオリンに込められたマイナスエネルギーに晒される・・・・・・だろう?」 その侵食によって幾斗は正真正銘私達の人形となる。だが同時にそれはデメリットでもある。 この計画を実行するなら、そこの辺りの塩梅を気をつける必要があると九十九から相当言われていた事だ。 「構わん」 だからこそ私はこう言い切る。なぜならそれで奴が苦しむとしても、しょうがない事だからだ。 「むしろ幾斗には喜んで欲しいくらいだ」 私はその場で笑う。笑って・・・・・・自らの行いに強い誇りを持つ。 「私のおかげでイースターに対する罪滅ぼしが出来るのだからな。九十九、遠慮なくやれ。 我々の手で罪人を更生させるための行いだ。胸を張っていこうじゃないか」 そう、これこそが誇りだ。私達のおかげであの愚か者の罪が少しばかり減るのだ。 むしろ幾斗は私に頭を下げ・・・・・・いや、地べたにこすりつけながら感謝するべきだろう。 私達のおかげで無価値で愚かな存在である自分から脱却出来るのだからな。 そうだ、迷う必要はない。これは御前のため。そして・・・・・・幾斗のためだ。 『分かりました。では、早速最終調整をしつつ少しずつ試してみます』 「最終調整? 少しずつ? 九十九、先ほどお前は問題ないように言っていたではないか」 『専務、先ほども言いましたがコレは幾斗君への身体の負担が大きいんです。 下手にパワーを全開にしてしまって、こちらが確保する前に幾斗君がダメになっては意味がありません』 なるほど、私とした事が失念してしまっていた。これはついさっき思い出していた事ではないか。 ようするに幾斗がヴァイオリンを弾けない状態になってしまったり、体調悪化による事故で何かあっても困るという事だ。 普通に幾斗が私達の手元に居る状態ならともかく、今はそうではない。事故の可能性は考えるべきだ。 なによりそれでは幾斗の罪の償いが出来ないではないか。それは幾斗のためにもならんさ。 『なので少しずつです。調整と同時に幾斗君の動きを鈍くして、捕まえやすくする。 ただこれも相当ハイペースでやるので・・・・・・結構ぎりぎりですね』 「・・・・・・まぁしょうがないだろう。幾斗が私に歯向かってまでやりたいヴァイオリンを出来なくなっては困るからな」 『ありがとうございます。あ、幾斗君の手元にヴァイオリンがあるなら必ず成功するでしょうからご安心を』 「当然だ、成功してもらわなければ困る。幾斗の罪が精算出来なくなってしまうからな」 そうだ、これは幾斗にとって必要な罪の精算。だからこそ成功させる必要がある。 ただこの作戦が成功したとしても償える罪はごく一部。幾斗には死ぬまでイースターに尽くしてもらわねば。 大丈夫、尽くし方が分からないのであれば私達が教えていけばいい。私達があの愚か者を導こう。 それが正しい大人の所業というものだ。ふふふ、それで私も御前も幾斗も幸せになれるのだから素晴らしいじゃないか。 (第109話へ続く) あとがき 恭文「というわけで、年跨ぎな感じの更新一発目は原作では『DL編』と呼ばれているお話の第1話。 原作だと7巻から始まるこの展開は、色んな意味であむが危ない目に遭うお話です」 フェイト「普通に死亡フラグが立つ勢いだよね。今後の展開を鑑みると特にだよ。 というかもう、現時点で・・・・・・とにかく本日のあとがきのお相手はフェイト・T・ハラオウンと」 恭文「蒼凪恭文です。まぁアレですよ、光編1話目にして凄いネタバレが最後に出されたわけですけど」 (なお、原作通りです) フェイト「幾斗君のヴァイオリンが盗まれたのは、全部デスレーベル作戦のためだったんだね」 恭文「そうなるね。ここで予言の『旋律』の意味がマジであのヴァイオリンだと言うのは確定になったわけだよ。 それで予想のついている読者さんも居るでしょうけど、猫男が体調崩してるのも全部ヴァイオリンが原因です」 フェイト「ヴァイオリンに込められたマイナスエネルギーが、繋がりを通じて幾斗君に逆流してる・・・・・・だよね。 だから幾斗君とヴァイオリンの距離が縮んだ事でその影響が強くなって、体調が一気に悪化してしまった」 (なお、原作通りです) フェイト「でもどうして月詠或斗さんのヴァイオリンと幾斗君にそんな繋がりが?」 恭文「そこの辺りは今後のお話でだね。もちろん当然のように理由がある。あ、原作通りです」 フェイト「そこ強調しなくていいんじゃないかなっ!! ・・・・・・あとは要望の多かったキアラが登場だね」 恭文「うん。ちなみにイメージCVは豊口めぐみさん。そして暴走キャラ」 (未来の時間のメンバーは暴走キャラが多くなってきてるなぁ) フェイト「でも基本ラインはシャーリーそのままだったよね」 恭文「孫ってのもあるしね。とにかくこのお話の最初はこんな具合にじわじわと始まるわけですよ。 それで次回は・・・・・・みんなー、お待たせー。原作を知っているみんなはお待たせー。ついにあの話だよー」 フェイト「あ、アレだね。作者さんも私の告白シーンの参考にしたっていう」 (そう、あの話です。そしてこれによって・・・・・・お察し下さい) 恭文「というわけで本日はここまで。お相手は蒼凪恭文と」 フェイト「フェイト・T・ハラオウンでした。それではまた次回に」 (それではみなさん、よいお年を&今年もよろしくお願いしますー。 本日のED:UNISON SQUARE GARDEN『マスターボリューム』) ナナ(メルティランサー)「あ、私の設定とかも基本原作のメルティランサー準拠なのであしからず」 恭文「それで僕はここまでそこの辺りの話を聞いてなかったりするんだよね。 ・・・・・・それでナナ、どんどんあむが深みにハマってる事について一言」 ナナ(メルティランサー)「死亡フラグよね。あと数話でお亡くなりコースだと思うわ」 恭文「ですよねー」 ナナ(メルティランサー)「てゆうか猫拾うのと勘違いしてないかしら」 恭文「まぁ猫キャラだから間違ってはないんだけどさ。さて、僕達は比較的平和だけど次回以降あむは・・・・・・とりあえず、合掌」 ナナ(メルティランサー)「あむ、アンタの事は忘れないわ。大丈夫、しゅごキャラの主役はこの真性魔法少女なナナ様がちゃーんと引き継いであげるから」 あむ「そう言いながらナナちゃんも合掌しないでくれるっ!? いや、確かにされても仕方ないとは思うけどやめてー!!」 (おしまい) [*前へ][次へ#] [戻る] |