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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第25話 『ゆっくりと、静かに過ごす時も、思い出す時も、たまには必要』



「やっさん、お待たせ〜♪」





・・・フェイトとお茶を飲んでムセてたら、いきなり飛び込んできた人影が二つ。



いきなりだよね、うん。





「あー、悪いな二人とも、ちょち失礼するぞ」

「あの、えっと・・・なにか?」

「うん、あったの。やっさん、お待たせっ!」

「いや、何がっ!?」

「ヤスフミ、何かあったの?」



残念ながら、さっぱり覚えがない。なんでヒロさんがウキウキ顔なのかも分からない。



「やっさん、アンタほんとに覚えてないの?」

「・・・え?」

「ほら、トゥデイとモトコンボ送った時に・・・送った時のアレだよアレっ!!」










・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あぁっ!!










「そーだよ。アンタへの三つ目の誕生日プレゼントっ! アレが出来上がったんだよっ!!」




















魔法少女リリカルなのはStrikerS  外伝


とある魔導師と機動六課の日常


第25話 『ゆっくりと、静かに過ごす時も、思い出す時も、たまには必要』




















・・・さて、話がさっぱりな人もいると思うので、まずは回想です。ま、復習は必要ってことで。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・それは、なのはとスバル達と一緒に取った休みが明けてから、数日後のこと。六課隊舎に僕宛てに、あるものが送られて来た。









「・・・で、なんやこれ?」

「いや、なんやこれと言われましても、僕には分からないし」

「分からんちゃうやろっ!? 自分宛てやでこれっ! どないするんやこれはっ!!」





はやてが、テンション高めにあるものを指差す。その先にあるものに、僕も呆然としている。

つーか、ありえませんぜ旦那。これはないから。



・・・そんな僕達の目の前にあるのは、一台の車。その名は・・・トゥデイ。



そう、さっきも言ったけど車である。なお、中身・・・エンジンやフレーム、各種部品は、ミッド基準に当てはめた最新式である。

これが、突然僕宛てに送られて来た。というか、リボンまでかけられていた。





「・・・で、誰なの。こんなことしたの?」



呆然な顔をしていうのは、皆様ご存知高町なのは。

まぁ、ビックリするのは当然だよね。突然こんなの送られて来たんだし。



「僕の友達。開発局に勤めてるんだけど、またテスターしろって」



よーするに、ヒロさんとサリさんだね。うん、また二人の仕業なんだ。つか、これはぶっ飛び過ぎてて僕もどーしたらいいのか。



「また? ・・・あぁ、あのデンバード作った人たちと同じってこと?」










なのはの言葉に頷く。そう、この車もヒロさん達の試作品なのだ。





そして、これに付いていた手紙にはこのように書かれていた。




















『やっさんへ。3ヶ月ほど遅くなったけど、誕生日おめでとう。

ということで、またうちで作った試作品のテスターをお願いするね。メンテや維持なんかは、思いっきりうちを頼ってくれていいから。



で、モノなんだけど、全部で三つ。



やっさんは今年はJS事件で頑張ったし、六課へ不幸にも出向になり、死出の旅路をいっちゃったし。それの祝いやら慰労やらも含めて大サービスだよ。



一つは、そのトゥデイ。やっさんの好きな逮○しちゃうぞ仕様だよ。

中身も最新式の車両に負けないくらいの性能だけど、外見もこだわったから、バッチリでしょー!

あ、ニトロシステム(モドキね?)も搭載してるから。ただ、運転に慣れないうちは使わないように。絶対パワー持て余すから。

それと、運転席側のドアのポケットには、改造モデルガン仕込んでるから。弾は自宅に送ってる。大量のペイント弾をね。

使う機会があったら、有効に使って。(ま、必要ないよね)



で、もう一つは、後ろに搭載してるモトコンポ。これも○捕しちゃうぞ仕様ね。

どっちもみかけによらずパワーあるから、気をつけてね。

あ、デンバードと同じく、両方ともアルトアイゼンのコントロールで動かすことも可能だから。



あと一つは・・・ごめん。現在マリーちゃんと相談の上で作ってる最中。

ただ、やっさんなら、いきなり渡されても間違いなく使いこなせるシロモノだから、期待してて。近日中に送るから。



じゃ、その子達大事にしてあげてね〜♪』










・・・あの、なに考えてるんですかあなたがた?

つーか死出の旅路ってなにっ!? あ、相変わらずわけのわからない・・・!!





まぁいいや。ツッコむと疲れるのは目に見えてる。それに・・・誕生日プレゼントだしね。やっぱりありがたく思わないと。

ありがとうございます。この子達、大事にしますね。










「アンタ、免許持ってるよな?」

「うん」



バイクの免許と一緒に取った。結構大変だったなぁ。

つか、学科のテストが難しくてさ・・・。本番以外で合格点取ったことなかったもの。



「なら、今日は仕事はえぇから、このまま帰り? あー、でも車の置き場ないか」

「問題ない。そのあたりは解消済みらしいから」



追記で、マンションの駐車場を使っていいと書いてあった。さすがメゾン・ド・クロスフォードのオーナーだよ。



「・・・ねぇ恭文君、その友達ってなにもの? 手際よすぎるよ」

「そういう人達なんだよ」

≪そうですね。そういう人達ですよ≫

「ワケわかんないよそれっ!!」










疑問いっぱいな顔をしているはやてとなのははさておき、僕は帰ることになった。





ただし・・・どういうわけかお客さんも連れて。





「うわー、かっこいいねこれっ!」

「そーね、ミッドじゃなかなか見ないデザインだし。でも、白と黒のツートンがいい感じね」

「ほんとうですね。こう、アニメのみたい」



・・・・・・ギク。



「えっと、恭文、これ・・・なんて読むの?」

≪『けいしちょう』ですよ。エリオさん≫

「でも、ランプがついてるなんて・・・珍しいね。こういうタイプの車なの、なぎさん?」

「うん、こういうタイプなんだよ」





うん、珍しいと思うよ。普通の車にはついてないし。

つーか・・・ミニパトだし。警備車両だし。これを乗れってのは結構辛いんだけど、みんなの反応を見るに、ミッドでは大丈夫なのかな?

奇異な目で見られる可能性が低いのは、嬉しい。意外と地球の文化って、知られているようで知られてないんだよね。



みんなが知らないだけという可能性もあるけど。もしくは・・・知らないふり? みんな優しいから、触れないようにしてくれてるのかも。





「でもアンタ、またいきなり車貰うっておかしいわよ」

「・・・そう思うよ。でも、一応テスターなんだよ? 完全に僕のじゃないし」

「あの、僕達もホントに乗せてもらっていいの?」

≪構いません。時間も少し空いてますし、ドライブでもしようかと思いましたから≫

「なら、お言葉に甘えようかな。あ、なぎさんの家に行ってもいい?」





ふむ・・・。早めに帰せば大丈夫か。エリオとキャロはまだ家に上げてないし、いい機会か。





「なら、少しだけドライブして、家でご飯食べようか」

『おー!』

「きゅくるー♪」



・・・みんな、そんなに来たかったの? なんか瞳ランランだし。というかスバル、尻尾を振るな。いや、無いんだけど、見えるから。



「・・・アンタ、今から作る気?」

「・・・デリバリーでいいかな? 家の兵糧が尽きちゃうし」

「それが正解ね。もちろん、食べた分だけ払いでいいから」

「ありがと」





そう、ステエキフである。





「その説明やめなさいよっ!」





・・・スバル、ティアナ、エリオ、キャロと、フリードである。

みんな、車の話を聞いて乗りたいと言い出したのだ。なお、部隊長やらなのはの許可は取得済み。





「というわけで、ホラホラ。はやく乗って」





スバル、エリオ、キャロ、フリードはバックシート。助手席のシートを前に動かして、そこに入るようにして乗る。(トゥデイは2ドア)

で、ティアナが助手席。僕も乗り込んで、シートを調整して・・・。



うん、いい感じかな?





≪マスター、すぐにでも動けます。まぁ、慣れるまでは私がサポートしますから≫

「・・・アンタ、免許取ってから運転してないの?」

「いや、仕事で何回かはある。でも久し振りだし、始めて乗る車だしね」

「納得した。まぁ、慌てなくていいから。最悪アルトアイゼンに任せられるんでしょ?」



確かに、事故ったら意味無いしな。ダメな場合はアルトに任せることにしよう。



「そうだね。無理しなくていいから、安全運転でお願い」

「きゅくー」

「うん、そのつもり。じゃあアルト、お願いね」

≪了解です≫










そんな話をしながらも、僕達は出発した。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



外回りを終えて、隊舎に帰って来た直後の私は、その光景に目を奪われていた。





だって、エリオとキャロが・・・ミニパトに乗っていたんだから。





それだけで、私の頭は思考は止まる。そして数秒のときを経て、沸騰する。フル回転する。





ミニパトに乗る→エリオとキャロがミニパトに乗る→どうしてミニパトに乗る?→なにかしたから→何をした?→悪い事→犯罪→犯罪をしたらどうして乗る?→犯罪だから=連行される。





私は走り出した。だって、訳がわからないからっ! どうしてミッドにミニパトがっ!! ・・・ひょっとして、広域次元犯罪っ!?





だけど、ミニパトは無情にも走っていく。

お願い、止まってー! 必死に叫ぶ・・・いや、そうしようとしたけど、声が出ない。

こうしている間にも、ミニパトが隊舎の外へと進んでいく。





どうして? 今朝出かけるときは、みんな普通だったのにっ! なんで、どうしてっ!?





・・・こうなったら、無理にでも止めるっ!!

私は、全速力で走り出した。さすがに攻撃魔法は使えない。だけど私には、この足があるっ!!





私はなにっ!? ・・・私はフェイト・T・ハラオウンっ! 速さなら・・・誰にも負けないっ!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ギアチェンジよしっと。

うん、久々だけど問題ない。というか、乗りやすいなコレ。気に入っちゃったよ〜。





「ふーん、意外と普通なのね」

「まぁ、僕一人じゃないしね」





どこか関心関心という顔のティアナに、いつになく真面目に返事する。

・・・事故とかに巻き込みたくないし。



なんて言いながらも、車は隊舎の外へでて、公道を走る。制限速度はきっちり守りつつ、楽しくドライブである。





≪・・・なんですかあれ≫

「どったのアルト?」

≪後ろを見てください≫



その言葉に、バックシートのエリオとキャロ、フリードにスバルが振り向く。そして、固まる。



「・・・なにあれ?」

「なんで・・・しょう」

「というか、すごいスピードです」



は? いや、意味わからないし。

僕と同じ事を思ったのか、ティアナが、窓を開けて後ろを見る。そして、固まった。



「・・・なにしてるのよ、あの人」

「あー、ティアナ。僕は止まったほうがいいのかな?」

「アンタ、なにかした?」

「意味分からないしっ!」

≪なにもしてませんけどね。とにかく、止まる前に、見たほうがいいと思います≫










そこまで言うと、僕の前に小さなモニターが現れた。そして・・・固まった。



映ったのは、車の後ろの光景。その中になぜか存在する一人の女性。

必死な形相で、煙なんて上げながら、僕達を追いかけている姿が見えたから。 というか・・・フェイトっ!?



そう、フェイトだった。よくもまぁあのパンプスで走れるものだと思うくらいの速度でこちらに迫って・・・というか、追いついてきてるっ!?

車の後ろを映しているモニターからフェイトの姿が消えた。そして・・・横に殺気。





やばい、オーバーSに背後取られたのと同じくらい嫌な感じがする。つーか速度上げたいっ!!





ちなみに、現在時速は50前後出してます。僕が、恐怖におののきながら・・・いや、みんな、僕の窓の方を見ておののいてるんだけど・・・。





とにかく、横を見ると・・・金色の夜叉が居た。




















「・・・ヤスフミ、これは、どういうことなの」

「いや、さっき説明した通りだから・・・」

「作り話ならもうちょっと上手くしてっ! いくらなんでも、いきなり車が送られて来たなんて、信じられないよっ!!」



いや、それが真実だし。それ以外に言いようがないから。



「どうして・・・どうしてっ! エリオとキャロを連行しようとしたのっ!? 正直に答えてっ!!」

「だーかーらっ! 違うって言ってるじゃないのさっ!!」

「エリオとキャロが何かしたのっ!? もしそうだとしてもこれは酷いよっ!!
ヤスフミ、エリオ達と仲良くなっていきたいって言ったの、嘘だったのっ!? ねぇ、そうなのっ!!」

「お願いだから・・・僕の話を聞けぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」










そして、街へ出る一本道の道路の上で、口論すること一時間。





スバル達が、なのはとはやてを呼んでくれたので、一緒になだめつつ説得して、やっと納得してもらった。

そして、ドライブはここで終了となったのは言うまでもないだろう。

つーか、出来る空気じゃないし。もう真っ暗になってたし。










「うぅ・・・。ごめん、エリオ、キャロ」

「あ、いえ。その・・・」

「私達は大丈夫ですから」



うん、微笑ましい光景だね。・・・でっ!!



「フェイト、僕にはないの?」

「・・・ヤスフミもごめん」



うん、まぁいいけどさ。



「というか、紛らわしいよっ!!」

「どこがっ!?」

≪まぁ、仕方ないですね≫










本日の教訓:プライベートでミニパトに乗るのはやめましょう。こうなります。





なお、この話をヒロさん達にしたところ・・・。










『『あーはははははははははっ! もうダメっ!! アレかっ! うちらを笑い殺したいのっ!?』』

「・・・もしもし? そんなに楽しいですかこんちくしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」




















大笑いされました。










なんなんだよこれっ!? 僕がなにかしたかおいっ!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・回想はおわ・・・り・・・です。あぁっ! 恥ずかしいよっ!! 私いったいなにやってるのっ!?










「大丈夫だよフェイトちゃん」



ヒロさんが優しく私の肩をポンと叩いてくれた。



「そうだよ。気にする必要はないぞ?」



サリさんも同じく。・・・なんだろう、この優しさがすごく



「「うちらは面白かったからっ!!」」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





突き刺さったっ! なにかが私の心に突き刺さったよっ!!





「フェ、フェイト落ち着いてっ! ヒロさん達も余計なこと言わないでっ!! つーかなんでトドメ刺してるっ!?」



は、恥ずかしい・・・。穴があったら入りたいよ。



「やっさん、ブレイクハウトで作ってやりなよ」

「そーだよ、こういうので男の器量は決まってくるんだ」

「そういう話じゃないからっ! つか、それで・・・なんですか?」

≪ようするに、最後のプレゼントが出来たと言う話ですよね≫



うん、そうだよね。マリーさんと協力して作ってた・・・デバイスだったよね。



「うん。で・・・それがこれっ!!」



そうしてヒロさんが出したのは、長方形のケース。ヤスフミがそれを大事に受け取って、開けると・・・え?



「・・・これ」

「マジックカード・・・だよね?」



マジックカード。ヤスフミが数年前に開発した個人装備。あれ、でもこれ・・・ちょっと違う。

ヤスフミのカードは全部銀色だけど、これは銀に青の縁取りがされてて、カードの装飾も・・・。



「ふふふ、気付いた? そうっ! これはやっさんのマジックカードの改良型なんだよっ!!」

「「改良型っ!?」」

「まぁ、『一枚につき、一つの形の魔法を一度だけ』って特性は変わってないけどな。でも、今までより貯蔵出来るデータと魔力容量が上がってる。あくまでも、多少だけどね。
・・・改良型っていうより、バージョンアップ版だな、これ。『Ver1.2』って感じ?」

≪でも、よく改良出来ましたね。マスターもマリエルさんも、相当苦労して形にしたのに≫



うん、覚えてる。ヤスフミ、凄く苦労してたから。どうしても安定した形にならないって言って。



「まぁ、これからのアンタには必要だと思ってね。・・・どう、気に入った?」

「あの・・・気に入ったっていうか、ビックリしたっていうか、驚いたっていうか・・・」



ヤスフミ、戸惑ってる。うん、これは予想してなかったしね。・・・よし。



"ヤスフミ"



念話を繋げる。相手は当然、ヤスフミ。



"そんなにビックリしなくていいんだよ? ・・・嬉しいんだよね"

"・・・うん"

"なら、それをちゃんと言わないと"

"・・・そーだね。うん、言わなきゃ"



そして、ヤスフミは真っ直ぐに二人を見て、ペコリとお辞儀した。



「ヒロさん、サリさん、ありがとうございました」

「あー、いいっていいって。でも、マリーちゃんにも言っておいてね? 反応、期待してたから」

「はは・・・。了解です」



・・・ヤスフミ、本当にいい友達を持ったよね。うん、感謝しないとダメだよ。

でも、新型マジックカードか。どんな感じか気になる。ヤスフミの新しい力になるわけだし。



「うし。それじゃあ、早速明日から試していくぞ。大丈夫だとは思うけど、一応練習しとかないとな」

「はいっ!!」

「ヤスフミ、私も付き合うね。どんな感じか気になるし」

「うん、よろしくね。フェイト」










・・・うん、がんばっていこう。私も、負けてられないよね。





その・・・しっかりしないと、ダメかなと。私、今よりも強くなりたいから。





本当の意味で、速く、鋭く、折れない刃になるために。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして翌日。僕達が早速アレコレ試したり、ヒロさんと美由希さんが楽しく組み手をやったりした午前と午後を過ごしたところで・・・隊舎にお客様が来た。




















「・・・というわけで、お世話になりました」

「・・・早速なんですね」

「まー、いつまでも占拠してるわけにはいかないしね。あ、家は綺麗にしてるから、大丈夫だよ?」



・・・そう、家を占拠してた家族達です。これから海鳴へ戻るとか。



"クロノさん、良かったですね"

"・・・あぁ。お前にも、苦労をかけてすまなかったな"

"別にいーですよ。それを言えば僕の方が色々とやらかして・・・。そだ"

"なんだ"



うん、ちゃんと言っておかないと。



"伝言の返事、してませんでした。・・・すみません、忘れることも、下ろすことも出来ません。僕達の答えは"

"とうに出ている・・・わかってたさ。君達はそういう奴らだ。ただな、恭文"

"はい"

"そのために、諦めたりはするなよ?"

"・・・はい、約束します"



・・・一人じゃないしね。心を一つに出来る相棒達が居る。だから・・・いける。



「ごめーんっ! おまたせー!!」



そう言いながら、こちらへ走ってきたのは・・・美由希さん。その周りには、フェイトとなのはとヒロさん達。そう、美由希さんも帰還なのだ。



「あー、大丈夫だよ。楽しく話してるとこだったし」

「パパ、それじゃあ・・・またね」

「今度は、お家に帰ってきてね? 私達、パパのこと待ってるからっ!!」



・・・あの、もしもし? アダルトな皆さん、どうして僕から目を逸らすの?



「・・・ゴメン、頑張ったんだけど、アタシらじゃ無理だった」



アルフさんの一言で、全てを察した。そ、そうですか・・・。あぁ、クロノさんと目を合わせられない。



「やっさん・・・アンタなんでもありだね」

「もうアレだろ。実はハーレム作る気満々だろっ!?」

「そんなわけないからっ!!」

『あははは・・・』




















とにかく、仲睦まじくハラオウン家の面々と、美由希さんは・・・。




















「それじゃあ、みんなまたねー!! あ、ヒロリスさんとサリエルさんも、地球に来る時は寄ってくださいっ!! 歓迎しますからっ!!」

「うん、必ずよるーっ!!」

「今度は勝ちますからー!!」



・・・負けたの、悔しかったんですね。



「「パパー! またねー!!」」

「うん、またねー!!」










その言葉に、皆で手を振りつつ見送る。・・・笑顔で、それに返してくれながら、海鳴の家族達は帰っていった。





・・・そこでようやく実感する。一つの事件が解決したと。




















「・・・ヤスフミ、お疲れ様」

「・・・別に疲れてないよ。でもま、これでようやく自宅勤務に戻れる〜」

「そうだね。結局一ヶ月近く・・・でしょ?」



隊舎の中へ全員で入りながら、そんな話をする。・・・うん、それくらいだわ。



「そだ、やっさん。ヴィータちゃんから聞いたけど、アンタとリインちゃん、クリスマスに休み取るんだって?」



その言葉に、僕は頷く。・・・うん、取ります。ちょっと二人でヤボ用なのだ。



「・・・デートか?」

「ま、そんなとこです」



大事なパートナーとの大事な時間。うん、必要なことなのです。



「・・・フェイトちゃん、これ放っておいていいの?」

「そうだよ。元祖ヒロインは強敵だぞ? 確かに共存共栄は出来るけど、油断してたらアウトだろ」

「なんで私に話を振るんですかっ!? というか、意味が分かりませんからっ!!
え、えっと・・・問題ありません。というか・・・」

「恭文君とリインがクリスマスにお休みを取るの、いつもの事ですから」





そう、毎年僕達は、この日だけは休みを取る。本当なら2、3日前から戻って、翠屋の手伝いもするんだけど、今回は日帰り。



さすがに試験前ってのもあるし、仕事やら訓練のレポート作成で時間が・・・。

しかも、イブだし。クリスマス本番じゃないし。いや、仕方ないんだけどね。





「なに、あの異常なまでのラブラブっぷりはそこが原因?」

「そんなとこです」

「・・・フェイトちゃん、これは負けてらんないな。もっと頑張らないと」

「そうだよ。色々気付いた時には手遅れの可能性があるよ?」

「だから何で私なんですかっ!?」










・・・フェイトとヒロさん達が楽しく話してるのを横で聞きながら・・・考えていた。





今年は、報告することが多そうだなと。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・そして、あっという間にイブ。・・・というか、その前日の夜。僕とフルサイズなリインは、本局の転送ポートから、ハラオウン家の方に向かった。





で、簡単なクリスマスパーティーをやった。・・・というか、本気でパパは修正しよう。そんな事を思う一夜を過ごして、朝一番で出かける。

うぅ、また双子コンビに泣かれてしまった。本当にちょっとだけだったしな。





二人・・・いや、三人だけで、ゆっくりと雪に包まれた街を歩いていく。





吐く息は白く、空気の冷たさを間接的に伝えていた。










「リイン、大丈夫?」

「大丈夫ですよ。手を・・・繋いでますし」

「そうだね。すごく・・・暖かい」





繋いだ手の暖かさが心まで暖めてくれる。・・・それに二人で心を委ねつつ、どこか足早に雪の街を歩いていく。



景色が変化する。市街地のそれから、木々が多くなる。歩く道も、少しだけ坂になる。

そうして、二人で少しだけ息を荒くしながら、目的地に到着した。





「・・・真っ白です」

「うん、真っ白だ」





そこは、海鳴の街が一望出来る高台。木のフェンスのすぐ側に備え付けられている木のベンチに、二人で積もった雪を払って、ちょこんと座る。

だって、急ぎ足で来たから、ちょっと疲れたし。



そうして見る。海鳴の景色じゃなくて、高台の方を。自分達の足跡が、ゆっくりと降りしきる雪で消えかけていくのが分かる。

・・・情緒的な説明だから、ツッコまないでね? ま、さすがに分かりませんよ。



「というか、リイン」

「はい?」

「なんで腕に組み付いてるの?」



座りながら、僕の右側に座ったリインによって、腕が占領されていた。



「こうすると、暖かくて幸せだからですよ」

「・・・そっか」

「でも、ちょこっとお別れですね」





そう言って、腕を話した。そして、背筋をピンと立てる。





「きちんとしないと、行けませんから」

「・・・そうだね」



僕もそれに習う。そして、息を吐いて呼吸を整える。



「んじゃ・・・」

「はい」










僕達は、ゆっくりと立ち上がって、瞳を閉じる。そして、語りかける。ううん、届くように願いながら、言葉をつむぐ。





それは、口から言葉にはならない。思念通話のようなものにもならない。





それは心からそのまま送るものだから。・・・これでいいの。きっと、届いてるから。





・・・今年も来ました。というか、すみません。一日早いですよね。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・じゃあ、皆さんも、アイツとリイン曹長が何してるか分からないんですか?」

「あぁ。バカ弟子もリインも、ぜってー教えてくれないんだよ。・・・これ頼む」

「はい。・・・どこへ行くかとかもですよね?」



大事な部下と書類を片しながら、世間話だ。・・・ま、実を言うと予想は付いてるけどな。



「まぁ、アレだよアレ。お前も知っての通り、無茶苦茶仲いいからよ。色々あるんだよ」

「・・・そうですね。あ、これ仕上がったんで、チェックお願いします」

「おう、ありがとな」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・そして、しばらくの時をかけて、その語りかけは終わった。





やっぱ、センチメンタルかな。でも・・・いいか。決して無意味じゃない。





そして、ゆっくりと目を・・・。










「アンタらなにしてるんや?」










・・・・・・・・・・・・・・・え?





ゆっくりと目を開けかけていた所に、声がかかった。それに驚きつつ、目を開けると・・・えぇっ!?










「はやて・・・?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・ここ最近ゴタゴタしたしな。気持ちの整理をつけるために、一日早いけど、ここへ来た。





あの子・・・リインフォースが空へ帰っていった場所に。





久々に・・・来たんやけど、まさか恭文達が居るとは。










「なんや、もしかして毎年これか?」

「あー、まーね」

「秘密にしてたかったんですけど・・・」

「全く、アンタらは・・・」





ま、えぇか。薄々勘づいてはいたしな。





「・・・んじゃはやて、僕達もう行くから」

「え?」

「一人の方がいいんじゃないの?」

「そうやな・・・。ホンマ悪いけど、それで頼めるか?」





うちがそう言うと、二人はそのまま立って、歩き出した。





「僕達はこのまま適当にしてるから、何かあったら連絡してね」

「それじゃあはやてちゃん、また後でです〜」










そう言うた二人に手を振って、そのまま見送る。残されたのは、うちだけ。吐く息の白さを見て、改めて寒さを実感する。





さて・・・。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



≪・・・マスター≫





それは、僕の思考に直接届いた声。というか、なに?





≪はやてさん、少し様子が・・・≫





おかしかったね。うん、いつもと違う空気出してた。





≪・・・実は、原因が一つ思い当たります≫





奇遇だね、僕もだよ。・・・あとで答え合わせしようか。





≪了解しました≫









あー、また問題発生? つか、なんでまた・・・。










「・・・恭文さん」

「うん?」

「なにお話したですか?」

「うーん、色々」



痛くなりかけた思考を一旦外して、リインとの会話に集中する。



「というか、リインは?」

「・・・色々ですよ」

≪マスターと同じですね≫

「元祖ヒロインですから♪」

「いや、それ関係なくないっ!?」










・・・僕とリインは毎年、クリスマスにはあそこへ行く。あそこで空に帰っていった・・・初代リインフォースさんに顔を見せて、近況を報告するために。





いや、仕方ないのよ。お墓があるわけでもなんでもないし、報告やらなんやらしようと思うと、これしか思いつかない。

故人への語りかけなんてセンチメンタルかも知れないけど・・・必要なんだよ。きっとね。





で、名前を受け継ぎ、妹とも言えるリインだけじゃなくて僕もそうしてるのには・・・理由がある。





まー、あれだよ。間違いなく引く話ではあるから、今まで言いにくかったんだけど・・・。





僕、そのお姉さんに会ったかもしれないのよ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



話は8年前。僕が事件に巻き込まれて、魔導師になってすぐの頃。

その事件中に遭遇したオーバーSの違法魔導師との戦闘で、生死の境をさ迷った。

以前、六課に来てすぐの頃に話したあの一件だ。





・・・実は、アレにはスバル達には話してない部分がある。




















「・・・それでヤスフミ」

「うん」



目が覚めて、やっと落ち着いた時、フェイトが来た。というか、フェイトの出自話の前だね。



「ちょっと聞きたいことがあるの」

「聞きたいこと?」

「・・・ヤスフミ、あの時、魔法使ったよね?」



・・・フェイトの言ってることがさっぱりだった。だって、魔法戦闘で魔法使うのは当たり前だったから。



「あ、ゴメン。分かりにくかったよね。・・・最後に使った魔法、覚えてる?」

「・・・うん」



うっすらとだけどね。ボロボロで、意識もうろうとしてたから。



「あの魔法、どうしたの?」

「え?」

「どうやって覚えたの? というか、どうして・・・集束系なんて使えるのっ!?」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい? 集束・・・なんですかそれ。



「あー、待って。お願いだから待ってっ! つーか顔近いからっ!!」

「あ、ごめん・・・」

「えっと・・・フェイト、まず僕から質問。いいね?」

「あ、うん」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・集束系ってなに?」




















「・・・えっと、まとめると・・・集束系、スターライトってのは、周囲の魔力を一点にかき集めて・・・というか利用して、それを攻撃に転用する術と・・・」

「そうだよ。だから、ボロボロのヤスフミでも使えたの。発動のトリガー分の魔力さえあれば、この魔法は使えるから」



・・・納得した。



「でもヤスフミ・・・。本当に知らなかったの?」

「・・・うん」



そう、そんな術があるなんて、知らなかった。先生や師匠にも、教わってない。



「あのね、ヤスフミ」

「なに?」

「正直に言って欲しい。隠れて練習してたよね?」



・・・はい?



「スターライトは、制御難易度はSクラス以上。習得するのも大変だし、習得してからも、地道な訓練が必要。
練習もしてなくて、知識も無い人間が、ポンっと使えるものじゃないの」



そこまでだったんだ・・・。ん、ちょっとまってっ! そんなトンデモ魔法を・・・僕は使ったって言うのっ!?



「あの、怒られるとか考えてる? ・・・大丈夫だよ、そうなっても私も一緒に謝るから」

「・・・フェイト、ごめん」

「やっぱり隠れて練習してたんだね・・・」



うん、残念ながら・・・。



「してないから」

「・・・え?」

「僕の現状がありえないのは、よくわかった。でも、本当に知らなかったし、練習もしてないの」





つか、僕も混乱してる。なんでこんなわけの分からないことにっ!?

フェイトが本気で訳の分からないと言わんばかりの顔してるし。いや、僕も同じだよ?



でも困った。あの時、意識もうろうだったし、どういう形で使おうと思って・・・の・・・か・・・。

思い出せない。そう言おうとした。でも、言えなかった。だって、思い出したから。



でも・・・いや、そんなはずは・・・。でも、星の光・・・。スターライト・・・。

それに行き着いた瞬間、寒気が走った。身体の震えが抑えきれない。いや・・・まさか、そんなはず・・・。





「・・・ヤスフミ、どうしたの? というか、顔色悪いよ」

「いや・・・なんでもない」

「なんでもないことない。・・・もしかして、なにかあるの?」



何もないとは言えなかった。だって、怖過ぎて、一人で抱えきれないと思ったから。



「・・・あの、凄まじくドン引きする話なんだ」

「え?」

「ただ・・・それしか思い付かなくて・・・」

「ヤスフミ、まずちゃんと話して? じゃないと、分からないよ」





・・・僕は手にかけた。パンドラの箱に。





「・・・スターライトを使う前、一回倒れて、意識が切れたの」

「うん」

「その時に夢を見て・・・女の人が出てきた」



思い出せる。なんで今まで忘れてたんだと言うくらいに。そこだけは、もうろうとしていた意識の中でハッキリと思い出せる。

その女の人は、ある二つのものを、ボロボロで、這いつくばっている僕に手渡してきた。



「・・・なにを渡されたの?」

「・・・星の光と、鉄と風を結び付ける力。そう言ってた」



瞬間、フェイトの表情が驚きに満ちた。そりゃそうだよ。いくらなんでも、あり得ないもの。

だって、もしそうなら・・・だよ?



「・・・この二つの・・・力は、僕がずっと望んでいた、理不尽で、許すことも、認めることも出来ない、そんな今を覆す切り札。・・・そう言ってた」










そして、言われた。力を渡す。その代わりに約束しろと。

小さき風・・・リインを、僕が居なくなるなんて理由で決して泣かせない。ただそれだけを約束して欲しいと。





もう、僕の時間は僕だけのものじゃない。僕の時間は、リインと繋がった。だから、勝手に、永遠に居なくなる事など認められない。

僕が居なくなれば、少なくとも、リインは悲しむ。そして苦しみ・・・泣くことになる。

共に居た時間は、出会った記憶は、後悔に繋がる。そんな思いを、リインに絶対にさせるなと・・・。





それで、僕は・・・そうだ。その言葉にうなづいた。そして、絶対にそんな理由では泣かせない。そう口にした。





僕に沢山の笑顔と、『幸せな今』をくれた、大事で、大好きな、あの小さな女の子との時間を、記憶を、後悔なんかにさせたくなかったから。





・・・そう言ったらあの人、本当に幸せと言い切れるのかって、聞いてきた。





だから、言い切れると答えた。






リインが僕の目の前に突然現れて、そこから始まった時間の全てが、苦しいことも、辛いことも、そういうのを全部含めて、幸せだと。

リインと出会えた事は、絶対に間違いなんかじゃない。誰がなんと言おうと、絶対に。





それだけじゃない。リインを守ると約束した。力になると、自分に誓った。まだ、それを守り抜いてない。まだ、なにも終わってない。





だから・・・戦う。そして、勝つ。





・・・あの時、なに一つ守れなかった約束を、破ってしまった誓いを、今度こそ守り抜きたい。僕が、そうしたいから。





そこまで話したら、その女性は満足そうに笑って・・・言ってくれた。





・・・ならば、立ち上がって・・・お前の許せない、理不尽な今を覆せ。この力は、そのための力だ。





そう、言ってくれたんだ・・・。とても優しく、暖かな声で。










「・・・ヤスフミ」

「わかってる。こんなの、ありえない。・・・でも、他に思い当たらないの」



うん、ドン引きだよね。でも、僕はもっと引いてるのよ? 僕より引いてるやつはいないでしょ。

だって、もしそうなら・・・色んなものをぶっちぎってるから。出来るなら、僕の咄嗟の思いつきであって欲しい。

そうだ。アレは、それが形になっただけで、実際は僕のアドリブ。上手くいったのは、僕の魔力コントロール能力のおかげで・・・。



「そ、そうだよねっ! ヤスフミ、魔力運用は私と同じくらい上手だしねっ!! まさか・・・そんなねっ!!」

「そうだよねっ! うん、きっと僕の能力のおかげだよねっ!! そうに違いないよねっ!?」



二人で無理矢理テンションをあげようとする。だって、背筋が寒いもの。つーか空気が寒い。



「あ、でもその女の人って、どんな人だったの?」

「え、なんでそこ聞くっ!?」

「だって、その状況で出てきたってことは、もしかしたらヤスフミの理想像かも知れないでしょ?」



あ、そういう考え方もあるか。えっとね・・・・。



「まず・・・目は髪で見えなかったんだけど・・・」










・・・覚えている限りの特徴を口にした瞬間、フェイトの顔が真っ青になったのは、言うまでもないだろう。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・何度も言うけど、この話で一番引いたのは僕だからね? つーか僕以外の人間に引いたやら萎えたやら言われたくないし、言う権利はない。





だって・・・下手すればそのままだよっ!? この時は本気で怖かったんだよっ!!





・・・ところが、アウトコースはまだあった。この後に判明した、僕とリインのユニゾン能力だ。





本来は想定されていないリインとのユニゾン。だけど、それでもはやてや師匠、シグナムさんより高い相性値と能力を叩き出した。

それも、非常に安定した形で・・・なんだよ。・・・そう、たしかに僕の中にはあった。風と鉄を結び付ける力が。





ただ、僕の見た夢が原因かどうかはわからない。





スターライトも、本当に思いつきだったかも知れない。・・・本気で痛みと出血で意識もうろうで、覚えてないんだけど。

実際、僕がその時使ったのは、なのはのスターライトと、比べられないようなもんだったしね。





リインとのユニゾンだって、元々の可能性がある。それまで試したこと、一度もないし。

で、夢の中のあの人も・・・その時一番仲の良かったリインの姿から、構築(妄想とも言う)したのかも知れない。

話を聞いてると、本当にリインの大人Verって感じだしね。まぁ、はやてがそういう形でリインを産み出したからだけど。





そう、今話したことは、本当に色んな偶然が積み重なった結果かも知れないのだ。いや、むしろその公算は非常に大きい。

・・・というか、現実的に考えるならこっちが正解でしょ。





ただ、僕とリインは素直にもらった力だと、思うことにした。

僕がそう思えるようになったのは、初めてユニゾンした時かな。その後、リインと話をした。





リインは、そう思いたいと言った。理屈じゃない。この力は、初代リインフォースさんが、今も自分達を見守ってくれていて・・・だから、くれたんだと。

そう思いたいし、そう信じてたい。真相が分からないなら、自分にとっての真実はそれにしたい。・・・そう真っ直ぐに言い切った。





で、僕もそこに乗っかることにした。これも、理屈じゃないな。あの夢が、どうしてもただの幻覚に思えなかったから。・・・怖くはあったよ?

それでも、疑い半分だったんだけど、その時のリインを見ていたら、それでいいんじゃないかと思えるようになった。





・・・うん、理由があるのよ? 怖いのを吹き飛ばすようなのが。





初めてユニゾンした時に、感じた。・・・ううん、ユニゾンする度にいつも感じる。とても暖かいものを。





リインと、身体も、命も、心も、そこから生まれる思いも一つになる。

それに、アルトが居る。一人じゃない。三人で戦う。それだけで怖いものがなくなる。どんな理不尽も覆せる。どんな状況でも、今を、未来を信じられる。

そして、自分達の中から、そのための力が溢れてくる。

魔力とか、そういうのじゃない。もっと強くて、暖かい力が。





・・・そうだ、それを感じた時、僕にとってこの力が大事な物になったからだ。リインも同じだしね。





だから、それでいいんじゃないかと思えるようになった。・・・なのはやフェイト達は、未だに信じられないって顔だけど。










「・・・まぁ、普通はそうですよ」

≪私も同じくですけどね≫

「でも・・・なんだよね」



それでも、毎年ここに来る。もらった力・・・それと引き換えに交わした、大事な約束を守れていると、三人で報告するために。

本当だったら・・・必要かなと。



「リイン」

「はい?」

「また、来年も来ようね」



何があっても、笑顔で乗りきって、元気な姿を見せに行く。・・・やっぱ変な話かな。



「はい、必ず来ましょう。・・・その時には、勝利報告出来るといいですね」

「そーだね。うん、頑張るよ」

≪その前に、やらなければいけない事がありますよ。色々と≫



・・・うん、ちゃんと話さないとね。



「リインはこれからどうする?」

「えっと、翠屋に顔を出してきます。恭文さんは?」

「・・・すずかさんに会ってくる」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



リインと別れてから、僕は月村邸に向かった。というか、約束してた。





・・・ここ最近の進展具合、話さないわけにはいかないよね。





その、何度も言ってはいる。でも、何度も言ってくれる。その・・・ね。





嬉しくないわけがない。でも、話さないといけない。イブに言う必要があるのかとか、色々考えてしまうけど。





でも、言わないわけには・・・いかないよね。





いつものように正門から入る。で、コートや頭に積もった雪を払ってから玄関を開けると・・・。










「なぎ君っ! 久しぶりっ!!」





・・・抱き締められました。やばい、心が折れそう。というか、ちょっと待って?





「うん、久しぶり。・・・あのね、すずかさん」

「うん・・・」



気にしてはいけない。伝わる大きくて柔らかい感触とか。だって、もっと気にしなきゃいけないとこがある。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんでメイド服っ!?」



うん、すずかさんメイドさんだった。もっと言うと、ノエルさんやファリンさんと同じ服着てた。それで飛び込んできたから、反応が遅れた。



「えっと・・・クリスマスプレゼントに、今日からなぎ君のメイドさんに・・・」

「どういう思考っ!? というか今日『から』って言わないでっ!!
えっと、ありがと。でも、とりあえず離して・・・」

「分かりました、ご主人様。寂しいですけど、すずかはご主人様様のメイドとして・・・」

「お願いだから入り込まないでっ!!」




















・・・で、現在はすずかさんの部屋で近況報告なんてしあってます。メールでもやり取りしてるんだけどね。










「・・・そっか、なんだか楽しそうだね。美由希さんから、かいご・・・聞いてたんだけど」

「すずかさん、今何を言いかけた?」

「気にしないでいいよ。あ、試験もうすぐだよね」

「うん。来月の10日」



・・・ヒロさん達のおかげで、武術関係もOKだし、みんなも力を貸してくれてる。



「あの、すずかさん」

「なにかな?」



それにですよ・・・。



「あの、メールとかでも言ったけど・・・ありがとう。この間、助けてくれて」



すずかさんが、力を貸してくれたしね。うん、絶対に合格しよう。それしか、気持ちに応えられない。



「いいよ。その、あんなことでなぎ君の力になれたなら、嬉しいから」

「あんなことじゃないよ。・・・うん、本当に嬉しかったし、助かった」

「うん・・・。ありがとう」



・・・どうしよう、ここからどう話せば。



「あの、すずかさん。大事な話が・・・」



・・・結局突っ込みました。上手いやり方が出来ないって、どういうことだろ。



「・・・なぎ君、今日は・・・イブだよ? 一年でも、特別な日。特に、恋をしている女の子にとっては」

「え?」

「特別な事なんて、なにもなくていいの。今日は、なぎ君と少しだけでも、静かに過ごしたい」



すずか・・・さん・・・。



「・・・ごめんね、私・・・今、なぎ君が言おうとしてること、本当に聞きたくないの。お願い、今日は・・・そういうの、無しにして欲しい」



・・・きっと、それでも言わなきゃいけなかった。でも、言えなかった。

すずかさんの表情が、それだけは嫌だと、やめて欲しいと、訴えかけていたから。それを、押し切ることは・・・出来なかった。



「・・・ごめん」

「ううん、私の方こそ・・・ごめん。仕方ないって分かってる。でも、今日は・・・お願い」

「うん・・・」



ダメだな、ホントに・・・。



「・・・そうだ、これ」



すずかさんが、思い出したように、自分の机の前へと向かう。そうして、そこに置いてあった小さな小箱を持ってきて、渡してくれた。



「・・・えっと」

「クリスマスプレゼントだよ。・・・あ、変なものじゃないの。カップサイズのクリスマスケーキ」



そう言われると・・・サイズがそれくらいだ。それで、慎重に開けてみると・・・うん、確かにクリスマスケーキだ。

というか、タルトだね。ベリー類が乗ってて、可愛い。でも・・・。



「同じこと考えてたんだね」

「え?」



僕も、かけていたコートのポケットをまさぐる。そして、取り出したのは、すずかさんの箱と同じサイズのもの。

それをすずかさんに手渡す。すずかさんは、さっきの僕と同じ要領でその箱を開けると・・・。



「・・・ホントだ。私達、同じこと考えてたね」



すずかさんの表情がほころぶのを、直視出来なかった。・・・そう、僕もすずかさんへのクリスマスプレゼントを用意してた。

あの、一応必要になるかなと。というより、用意だけはしておけとハラオウン家の女帝二人に命じられました。

僕のケーキは、本当に縮小版って感じだね。上に一個だけ、ちょこんと乗ったイチゴに、粉砂糖を程よく振りかけてるのが、ポイントです。



「・・・私ね、なんだか嬉しい」

「・・・うん」

「じゃあ、今から紅茶入れて、それを飲みながら、もっとお話しちゃおうか」

「・・・ここで?」

「うん、ここで。・・・たまには、いいかなと」










そして、そのあとは互いのケーキを食べつつ、すずかさんの部屋で、二人で他愛のない話をして、過ごした。





なお、すずかさんお手製のタルトはとても美味しかった。ただ・・・。





ベリー類があったからなのか、とても甘酸っぱくて、食べていて切ない気持ちになる味だった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・そして、あっという間に楽しくて、静かな時間は終わった。





というか、終わりを告げられた。いきなりはやてとリインが襲来してきたから。





そして、明日は明日で色々あるので、早々に帰ることになった。





つか、はやては本気でどうする? なんかテンションおかしいし。










「・・・それじゃあ、すずかさん」

「うん。あ、クリスマスプレゼントありがとう。本当に嬉しかった」



・・・リインとはやての視線が痛いけど、気にしない。



「ううん、あの・・・僕もありがとう」

「それと・・・」

「それと?」

「試験、頑張ってね」

「・・・うん」





そして、足元に転送ポートが浮かぶ。うん、戻る時間だしね。





「なぎ君っ!」

「なに?」

「・・・良いクリスマスを」

「・・・すずかさんも、良いクリスマスを」










そこまで言うと、景色が歪んだ。そして僕達は・・・ミッドチルダへと飛んだ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・それで、君は向こうに戻らないのかい?」

『戻れればいいんだがな、そうもいかない。・・・・これで、恭文にまた差を』



・・・あぁ、彼は君の子ども達のパパだったよね。



『昨日もなにやら凄かったらしい。アイツがサクッとケーキを作ったら、子ども達はまるでヒーローでも見るような眼差しを向けていたとか』



へ、へぇ・・・。



『それの出来映えが素晴らしかったのか、また株が急上昇したらしい・・・』



あの、クロノ? 歯軋りしてる音が聞こえてるんだけど。



『焼きそばではダメなのか? 子どもにはケーキなのかっ!? 糖分かっ! 糖分がそんなに良いのかっ!!
なぜ・・・なぜ僕は「おじさん」扱いなんだ・・・!!』

「そ、そんなに悔しかったのかい?」

『一晩居る間に一度も「パパ」とも「お父さん」とも呼ばれない。これを実の父親として、悔しく思わないでどうする』

「・・・うん、そうだよね。その通りだと思うよ」





・・・これ、相談し辛いな。というか、妙な殺気が怖いよ。



とは言え、カリムやシャッハはアウトだ。僕はまだ死にたくない。



『自分は気にしない。だから、僕も気にするな。年頃の男女がそうなってしまっただけ』・・・か。



はやて、それ・・・痛かったよ。凄くね。あんな風にさっぱりと割り切られたら、僕は何も言えないじゃないのさ。



いっそ、責任を取れとか言われた方が、楽だったよ。





『・・・ロッサ、僕はアイツが嫌いなわけじゃ無いんだ。ただ・・・ただ・・・!!』

「あぁ、分かってるから落ち着いて。というか、泣かないでよ」










・・・泣きたいのは、僕の方なんだよ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・よーし、ヴィヴィオちゃん。鳥さんのお腹に、さっき野菜を詰め込んでいこうか」

「はいっ! ・・・んしょ」





むむ、意外と手際がいいな。これは料理上手ないい子になるぞ〜。





「サリエルさん、なんというか・・・すみません」

「あぁ、いいっていいって。料理は好きだし、子どもの笑顔のためなら、ちょっとは頑張らないとね。それが大人の仕事ってやつだよ。
・・・ヴィヴィオちゃん、どう? 楽しいかな」

「はいっ!!」

「うん、いい返事だ」



・・・現在、俺は六課のキッチンでローストチキンを仕込んでいた。

ヴィヴィオちゃんが食べてみたいって、言い出してね。俺がサンタとして、提供することにした。

ただ、普通にやったんじゃ面白くない。せっかくだから、自分で作ったという想い出を提供することにした。



「サリエルさん・・・恭文と同じで料理上手なんですね。手際が凄く自然で・・・」

「男の美味い料理ってのは、モテ要素だぞ少年。やっさんだって、魔導師としてだけじゃなく、そういう所を頑張ったから、現状に結びついたんだ」

「なるほど・・・。というか」

「・・・なぎさんの話を持ち出すと、説得力がありますね」





そりゃそうだ。アイツは俺の中で生ける伝説だしな。・・・ヴィヴィオちゃんの隣のフェイトちゃんが真っ赤だけど、気にしてはいけない。



つか、やっさんも罪作りな。なーんでイブにフェイトちゃんとラブラブしないで、リインちゃんいっちゃうんだ? ま、いいか。その辺りは・・・。





≪主≫



俺の思考を止めたのは、相棒の声。・・・あれ、なーんか嫌な予感が。



≪アルトアイゼンからの緊急メッセージが届いています≫

「・・・内容は」

≪ヒロリス女史も連れた上ですぐに来い≫

「地獄へ落ちろと伝えてくれ」



全く、やっさんのパートナーになってから、ふてぶてしさが倍増してないか? いや、やっさんがああいうふざけた奴だし、分かるけど



≪ですが主。断った場合はヘイハチ殿とナンパ合戦した時の結果をバラすとPSがついていましたが≫

「どこ行けばいいってっ!? つーか転送魔法使うから座標送ってこいって返事してくれっ!!」




















・・・そして、ローストチキンを高町教導官とフェイトちゃんに頼み、ヴィヴィオちゃんに平謝りしつつ全速力で向かった先は、首都のファミリーレストラン。





おいおい、なんでここ? つか、騒がしいな。










≪・・・姉御、入らない方がいいと思うぜ? 音感センサーに、とんでもないのを捉えちまった≫

「でも、逃げたらあの性悪デバイス、なにやるかわかんないんだよ」

「そうだな、アイツはやる。・・・そういうやつだよ」

≪姉御もサリも、ねーちゃんに色々ネタ握られてるしな・・・≫



悲しいことに、俺達とアルトアイゼンには、上下関係が無いようであるんだよ。修行時代にヘイハチ先生と散々バカやってたおかげでな。



「くそ、本気でやっさんと組んでから、エゲツ無さがパワーアップしてないか?」

「奇遇だね。私も同じこと考えてた」

≪相乗効果というものでしょう≫

≪ボーイとねーちゃん、似た者同士だしな≫





金剛とアメイジアの素晴らしい補足はそれとして、店内に入った俺達は、その瞬間に凄まじいものを聞いてしまった。





「・・・もうやってまえばえぇやろっ!!」

「はやて、声大きいからっ!!」



・・・俺達が頭を抱えつつ、その声の発生源へと向かう。すると、居た。



「なんでアンタはそうなんやっ! うちは・・・うちは・・・!!」



・・・出来上がってるとしか思えない部隊長が一人。つか、酒瓶抱えるのはやめて欲しい。



「恭文さん、なに話してるですかー? というか、はやてちゃん真っ赤ですー!!」

「リインは聞かなくていいんだよっ!?」

≪・・・8歳ですしね≫










色んなものに配慮するために、リインちゃんの耳を両手で押さえながら、部隊長の話を必死で聞いていたやっさんの姿があった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・あの、八神部隊長。飲み過ぎですから」

「いーんですっ! 飲みたいんですからっ!!」

「あー、はやて。飲むのは勝手だけど、吐かないでよ?」





現在、朝までやってる居酒屋に場所を移して、やっさんは部隊長の酒の相手をしている。

リインちゃんは、ヒロに送ってもらった。当然、これは内緒にすることが決定している。つーか話せるわけがない。



・・・ローストチキン、ちゃんと出来てるよな? つか、俺も食べたかったんですけどっ!!





「大丈夫大丈夫っ! うち、SSランクやしっ!!」



全く関係無いとはツッコむことなかれ。ツッコんだ瞬間に酒を飲まされる。俺はそろそろ限界なんだ。

・・・いくらやっさんがザルでどんだけ飲んでもOKな奴とは言え、これを一人で相手は精神的に無理。俺も付き合うことにした。

まぁ、ここは馴染みだし、なにかやらかしても多少なら問題は・・・。



「・・・なぁ、うち・・・ダメやな。ホンマにダメや」

「・・・いや、ダメじゃないからね?」

≪その通りです。だから突っ伏して泣くのはやめてください≫





・・・どんだけテンションのアップダウンが激しいんだよ。つか、この人本気でなにがあった? いや、話通りなら納得だが。



つか、アコース査察官は、ヒロ絡みで何回か会ってるが、そういうことをするタイプとは思えなかったんだが。



・・・死ななきゃいいけどな。騎士カリムとシスターシャッハに知られたら、アウトだろ。

ヒロも同じくだな。こういうのに耐性あるようでないし。ついでに関係者だし。



よし、絶対内緒だ。俺は知り合いの葬儀になんて、極力出たくないんだ。そういうのは、現役時代にやんなるくらい味わってる。





「・・・ごめん、うち」

「・・・なに?」

「京都行ってくるわ」

≪どうしてですか≫

「吐きそうやから」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!



「京都までもつかバカっ! ほら、早くトイレにっ!!」

「・・・うち、もうゴールして」

「あと3分我慢してっ! いや、お願いだからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





・・・よし。





「・・・金剛」

≪もうかけています。・・・繋がりました≫

「ありがと。・・・・・・・・・・・・・・あ、俺だよ。ごめん、今日やっぱそっち戻れそうにない。ただ・・・朝一番で、頭抱えながら帰るわ。
・・・うん、ちゃんと全部食べるよ。あと、お仕置きだよな。わかってた。あの、お手柔らかにお願いします。俺、多分死にかけなんで。
え、加減するわけがない? うん、分かってた」










こうして、俺のクリスマスイブは見事に潰された。翌日、角を生やした真性ドSな同棲相手にも、色んな意味で潰される事が決定した。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・不幸だ。俺、やっさんじゃないのに。




















(第26話へ続く)







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