小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説) 第102話 『Singer Bad Dream/響け歌声っ! あの日のあたしにっ!!』 ラン・ミキ・スゥ『しゅごしゅごー♪』 セシル「今回も優亜ちゃんと私のお話・・・・・・でもでも、優亜ちゃんがピンチですー!!」 ラン「ステージ上で動けなくなっちゃうって、本当にマズいよねっ!?」 セシル『それではうたいますっ! 絶体絶命っ!!』 ミキ「でも優亜ちゃん、どうしてうたえなくなっちゃったんだろう。僕達が聞いた時は凄く上手だったのに」 セシル『それではうたいます・・・・・・あの日の傷』 スゥ「やっぱり昔何かあったんでしょうかぁ」 セシル『それではうたいます。明かされる真実』 (立ち上がる画面に映るのは、空を埋め尽くさんばかりの黒い音符達。そしてあの日の二人の姿) セシル『それではうたいます。今日も』 ラン・ミキ・スゥ『とにかく今日もスタートッ! ・・・・・・じゃんぷっ!!』 セシル『それではうたいますっ! 私も言いたかったー!!』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「・・・・・・優亜ちゃんっ! 私とキャラチェンジをっ!!」 「無理・・・・・・無理無理無理無理っ!!」 「優亜ちゃんっ!!」 ごめん、先輩。ごめん、みんな。優亜・・・・・・ダメだった。プロとしてちゃんとお仕事する事すら出来なかった。 ほんとに優亜は・・・・・・そう思いながらステージの上で頭を抱えていると、いきなり照明が落ちた。 優亜がうたうはずだった音楽も無くなった。優亜は目を強く瞑っていたけど、それでもいきなり周囲が暗くなったのは分かった。 だから自然と目を開けて頭を上げる。辺りもざわざわしてて・・・・・・そんな中、静かに音楽が流れ始めた。 優しいギターの音に、ゆったり目だけどテンポのいい曲・・・・・・あの、コレ。 それでいきなり知らない声が・・・・・・ううん、知ってはいるけどあの、これは何? というか、優亜の目の前から気配がする。それで声の発生源もやっぱり優亜の目の前から。 次の瞬間、再びライトアップがされてステージ上に人影が現れた。 金色のツインテールに白い衣装に・・・・・・この子、ほしな歌唄? ライトはほしな歌唄にだけ集まるように照らされて、そのままあの子は目の前に歩いて行く。 ファッションステージな関係で、奥行きはかなり広いから優亜にはライトはもう当たっていない。 「・・・・・・よぉ」 「突然失礼しちゃうのです」 それで目の前に突然、セシルと同じような子達が二人出てきた。白と赤の・・・・・・え、コレはなに? 「エル達は歌唄ちゃんのしゅごキャラなのです」 「え、歌唄のしゅごキャラって・・・・・・あの子もキャラ持ちって言うのなの?」 あ、でもこの子達の事・・・・・・そうだよ。さっきどういうわけか先輩達と一緒に居たほしな歌唄の側にそれっぽいのが居た。 「あぁ。とにかくお前はもう下がれ。あとは歌唄がなんとかするからよ」 「でも」 どうしよ、悔しい。優亜はお仕事引き受けたのに・・・・・・ちゃんと出来なかった。それが悔しくて、悔しくて。 「いいから行けって。今ならそういう演出って事で納得させられるかも知れないしよ」 「そうなのです。ささ、どうぞどうぞ」 優亜は・・・・・・お仕事してる。そういう意識だけはいつも持ってた。だからこの子達が言う事の方が正しいのも分かった。 納得出来ない。本当は納得なんて一欠片も出来ないけど・・・・・・それでも優亜は立ち上がって、静かに舞台を後にした。 ・・・・・・悔しい。本当に悔しいよ。そもそも先輩が居なきゃうたえないって時点でダメってどうして気づかなかったのかな。 もう、いいよね。こんなんじゃ優亜は絶対に歌手になんてなれない。もう・・・・・・いいよね。 All kids have an egg in my soul Heart Egg・・・・・・The invisible I want my 『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説 とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/じゃんぷっ!!! 第102話 『Singer Bad Dream/響け歌声っ! あの日のあたしにっ!!』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ その後、平穏無事にガルフェスは終了した。全ては歌唄の機転のおかげだと言ってもいいのかも知れない。 確かに歌唄のプログラム無視な突然の登場と新曲発表は効果的で、優亜のポカは見事に取り返した。 パンフレットによると、歌唄の出番は本来もっと後のはずだったのよ。でもあの場で出てきたのは、完全に現場判断。 あと歌唄がうたったあの曲は・・・・・・うん、新曲なの。僕も今日の今日まで知らなかった。 それで正直どうしたものかとは考えたけど、やっぱり全員でまた優亜の楽屋にやって来た。 優亜は入ってきた僕達を見て・・・・・・違う。優亜はあむだけを見た。 優亜は鏡の前の丸椅子に座って半身で立ち上がってあむを見て、寂しげに表情を崩した。 「・・・・・・やっと先輩に会えた」 「え?」 「よし、やーめた。もううたわない」 そのままあむの返事も聞かずに、また鏡の方を見る。今度は完全に俯いていて、表情は見えない。 「優亜?」 「え、優亜たんうたうのやめちゃうのっ!?」 「うん」 「歌手になる夢はどうしたのよ」 「優亜、気にする事ないよ。あの、また次のチャンスがあるだろうし」 僕は咄嗟にあむを左肘でつついた。あむは僕の方を焦った顔で見たので・・・・・・首を横に振った。 ・・・・・・まぁ多分なんだけど、優亜って先日のアレも考えると相当プロ意識高いと思うのよ。 「先輩、それは無理だよ。だって・・・・・・誰も優亜がうたえるなんて思ってないから。 優亜だって思ってない。それになにより舞台の上であんな大ポカだもの。マジありえないし」 やっぱりそういう方向か。声は明るいけど、うたえなかった自分自身に対してもショック受けてるんだわ。 仕事を引き受けて、やれると言っておいて・・・・・・それを通せなかった自分が嫌いになりかけてるのかも。 「・・・・・・優亜」 優亜は立ち上がって、そのまま笑って楽屋を出た。僕は・・・・・・なんとなしにマネージャーさんを見てみる。 マネージャーさんもさっきからこの部屋に居たんだけど、本当に困り果てた顔をしてた。 というか、セシルもどうしていいか分からない様子でずっとここに残ってて・・・・・・はぁ、しょうがないか。 ”ヤスフミ” ”あー、フェイト。僕ちょっと” ”私、あの子と少し話してくる” ”うん、フェイトが話してくるから僕は離れて・・・・・・えぇっ!?” ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 一人で行動は危ないと言うヤスフミの意見で・・・・・・うぅ、心配性だなぁ。 でも私も似たような事してたし・・・・・・それにその、積極的に頑張ってくれようとしてくれるのは嬉しいかも。 とにかく私はお腹に負担をかけないようにゆっくり目にヤスフミと二人で歩いて、あの子を探す。 それで舞台裏の機材置き場で・・・・・・やっと見つけた。あの子はどういうわけか長椅子の上に座ってた。 「・・・・・・あの、ちょっと良いかな」 「なんですか? 今は一人でブルーに浸りたいんですけど」 「ごめんね。でも、どうしても伝えておきたい事があるから」 私は少しだけあの子から距離を取る形で長椅子に座る。ヤスフミには近くで待機してもらってるの。 まぁその、今は一人になりたいというあの子の気持ちに合わせる形で・・・・・・私は距離を取る。 「本当に歌手になる夢、諦めちゃうのかな。あ、私もあむと一緒にセシルちゃんから聞いてたんだ」 「・・・・・・アイツ、マジおじゃま虫だし」 「そう言わないであげて? しゅごキャラは宿主のために一生懸命なだけだから。 まぁその、そのせいで暴走をしやすかったりする部分は・・・・・・かなり有ったり」 具体的にはランちゃんとか? あとはシオンもそうだし・・・・・・いや、しゅごキャラ全般に言える事なのかな。 「そう言えるって事は、もしかしてお姉さん」 「あ、私はキャラ持ちじゃないんだ。というか、8ヶ月前までしゅごキャラの存在も知らなくて疑ってたくらい。 それで・・・・・・優亜ちゃん、本当にうたう事をやめちゃうの? 人前でうたえなくても、好きで居る自由はあると思うけど」 「・・・・・・うたわない」 「でもセシルちゃん、優亜ちゃんの事本当に心配してる」 「関係ない」 コレは強情な・・・・・・いや、プロ意識が高いんだね。そこだけはヤスフミ達の話やさっきの様子を見てて分かった。 意識が高い分、今の自分を客観的に見てしまってそれで×を付ける感じ? なんだろ、少し負けてる感じがする。 少し前の自分のアレコレを考えると、私にはプロ意識というのが非常に欠けていたなぁと反省しちゃう訳なのですよ。 よし、少し方向転換。一瞬そのまま引いてしまいそうになった自分を叱咤して、一番伝えたい事だけを伝える事にした。 「そっか。じゃああなたよりしゅごキャラの事を先に知ったお姉さんから一つだけ忠告。 ・・・・・・そのまま諦めたら、セシルちゃんが消えちゃうかも知れないんだ」 優亜ちゃんは不機嫌そうな表情を一旦止めて、信じられないと言いたげに私の方を見る。 私はそのまま静かに頷いて、改めて優亜ちゃんの青い瞳を見つめた。 「ヤスフミ達から聞いてるかも知れないけど、しゅごキャラは『なりたい自分』。 セシルちゃんは優亜ちゃんが『変わりたい』って気持ちから生まれた子」 もしかしたらこの子は、そういううたえない自分からうたえる自分にキャラチェンジしたかったのかも。 だからあの子はうたえない優亜ちゃんの分まで、いっぱいうたって・・・・・・それで笑ってるんじゃないかと思ってるの。 「もちろん優亜ちゃんの『なりたい自分』が本当に歌手かどうかは、私には分からない。 今日初対面だしね。それで分かったらさすがに怖いよ。私優亜ちゃんのストーカーみたいだし」 そんな風に言って冗談気味に笑うと、優亜ちゃんは表情を崩してくれた。 それで・・・・・・そうだな、あと伝えたい事はそんなに多くないかも。 「だけど諦める前に、考えてみて? 今自分が、本当にどうしたいかを。 きっと優亜ちゃんの中にはちゃんと、『変わりたい・こうなりたい』って形があると思う」 私は立ち上がって、天井を見上げる。天井はパイプや通風口も剥き出しで、表の華やかさなんてちっとも感じられない。 「少なくともしゅごキャラが生まれるくらいに強い形で・・・・・・というか、無かったらセシルちゃんはここに居ない。 うん、きっと優亜ちゃんにはそういう気持ちがちゃんとあるよ。それってね、凄く幸せで素敵な事だって思うんだ」 「・・・・・・どうして、そう言い切れるんですか? そういうのがあるから苦しいのに」 「簡単だよ。私は自分から見つけたはずの『なりたい自分』を壊した事があるから。私、自分のたまごを壊したんだ」 この話したの、本当に何度目だと。なんかこう・・・・・・やっぱり辛いな。 でもいいや。負け犬である私が自嘲気味に傷を晒す事が何かに繋がるなら、いくらでも晒すよ。 「優亜ちゃんみたいにしゅごキャラってわけじゃないけど、壊したんだ。 壊して、描いた夢に嘘をついて、現実に負けた。それに気づいた時、本気で死にたくなった」 だから私はまた優亜ちゃんの方を見て、笑いかける。傷を晒して・・・・・・それでも笑う。 「そのせいで私の大切な人達を何人も傷つけて、苦しめてしまってたから・・・・・・最低だったんだ、私。 だから言える。もうちょっと考えてみた方がいいよ。じゃないと、どういう形に転んでもきっと後悔する」 「お姉さん、みたいに?」 「うん。私みたいに」 優亜ちゃんは視線を落として、少し考え込むように黙った。だけど私の言葉を拒絶したとかそういう感じじゃない。 ・・・・・・あとはこの子の問題なのかな。でも、そうだよね。答えを出すのは結局自分なんだ。 私が後悔して、それでも手を伸ばすと決めたのと同じように優亜ちゃんも・・・・・・優亜ちゃんで決めていかないといけない。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ あの後色々思うところはありながらも無事に帰り着いて、フェイトとも添い寝しつつお話しして・・・・・・翌日の事。 ガーディアン宛てに次号のプリティが雑誌社から届いた。いわゆるパイロット版的な感じだけどね。 僕達に実際の雑誌とほぼ同じものを見てもらって、不具合がないかどうか確かめて欲しいそうなの。 確かめて、問題点を修正した上で正式発行って感じなんだよね。さすがに仕事が丁寧だ。 それで放課後の会議でその雑誌を見ながら僕は、泣きたくなりました。 「・・・・・・僕の写真全部NG出していいかな」 「ダメですよっ! リインとの思い出をパーにするなんてアウトなのですっ!!」 「うっさいボケっ! 何気に僕こっちのアングラでも顔売れてるかも知れないんだから、こういうの避けたかったんですけどっ!!」 まぁ大丈夫だとは思うけど。少なくとも警防で今も頑張ってる美沙斗さん達よりは遙かに売れてないよ。 「大丈夫ですよ。リインを信じてください」 「そのトラウマを呼び起こさせる言い方やめてっ!? てーか僕の逃げ道を閉ざすために一緒に撮ったんでしょっ!!」 「はいです♪」 「楽しげに言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 とにかく、もうNGは出せないっぽい。覚悟・・・・・・決めるしかないのかなぁ。ごめん、やっぱ泣きたい。 ≪ところでりまちゃん、何そんなに必死な顔で雑誌を見てるの?≫ ジガンが言うように、りまが必死にプリティ次号のパイロット版を見ている。 それで人差し指で紙面を指して、必死になにか数えているような・・・・・・数えてる? 「・・・・・・多いのよ」 ≪真城嬢、何がですか≫ 「なぎひこの写真が私の写真より一枚多いのよっ!!」 りまの背中から炎が吹き出す。そしてキレまくった瞳でなぎひこを凝視する。 当然なぎひこは・・・・・・さすがに今回は軽く返せない。それほどにりまの勢いが強い。 「き、気のせいじゃないかな」 「気のせいじゃないわ。なぎひこ、あなたなぎひこのくせに何を考えているの?」 「いや、そんな噛みつかれ方されても困るんだけどっ! りまちゃん、ホントに落ち着いてっ!!」 ・・・・・・僕達はそんな二人は一切気にしない事にした。 というかアレだよ、二人の問題だからどうしようもないって。 そうだね、言うならアレは『りま×なぎひこ』なんだよ。 僕達は空気が読めるので、なぎひこが『助けて・・・・・・!!』って視線を送っても距離を取るの。 なぎひこ、大丈夫。それがなぎひこの照れ隠しだって言うのは僕達はすぐに気づいたよ。 だからこそ言えるんだ。なぎひこ、頑張ってね。それで魔王・・・・・・おのれはどうやら失恋コースだよ。 「ね、恭文」 「なに? おのれまで写真の枚数が気になるんかい。てーか誰と比べてるの」 「いやいや、違うよ。ほら、優亜の事」 「それこそ僕に言われても困るよ。あとは優亜次第な部分があるわけだし。なにより」 悲しいかな僕は優亜のアレコレに口出せる立場には居ないのよ。もちろんこのまま放置するつもりもないけど。 だからこそ僕は目の前の現・魔法少女の方をジーッと見るわけですよ。 「この場合はやっぱあむでしょ。てーか僕とか唯世達がアレコレ言っても通じなくない?」 「まぁ、そこは分かる。あたし達一応でも幼馴染っぽい感じだし・・・・・・でもあたしだけに振られても困るってー」 「大丈夫。僕はあむを信じてるから」 「信頼盾にして逃げるなんてズルくないっ!? メインで出ろとは言わないけど、せめてサポートして欲しいんですけどっ!!」 『・・・・・・それではうたいます』 唐突に声が響いた。というか、まーた聞き覚えのある登場を・・・・・・僕とあむは自然と左の方に視線を向けた。 そこにはロイヤルガーデン内の植え込みの影に隠れてこちらを見ているセシルが居た。 『あなたは冷たい』 「うっさいわボケっ!! ・・・・・・よし、そういう事言うならいいよ。 おのれは今すぐロイヤルガーデンから叩き出して二度と入れないようにしてやるから」 『それではうたいますっ! あなたは心の優しい温かい人ですっ!! だからそんな事は出来ませんっ!!』 「セシル、残念ながら僕は優しくもあり厳しいのよ。だから心を鬼にする事も出来るの」 『それではうたいますっ! そんなあなたも魅力的・・・・・・だけど今はやめてー!!』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「それではうたいます。セシル、なんで来たの?」 『それではうたいます。優亜ちゃんの状態が余り良くなくて』 「それではうたいます。へぇ、そうなんだ。でもそこでどうして僕達?」 『それではうたいます。力を・・・・・・貸して欲しいんです』 「いやいや、もう歌関係なくないっ!? あと、恭文もマジなにしてるっ! お願いだからまず二人とも普通に話してっ!!」 荒ぶる鷹のポーズ取り始めてたりまを落ち着かせて、全員で着席。 テーブルの中心に居るセシルはマイクを口元から離しつつ、落ち込んだ表情を僕達に見せる。 「やっぱり昨日ステージで大ポカやったの、優亜ちゃんショックだったですか」 「・・・・・・うん。優亜ちゃん、ああ見えて責任感強い方だから」 「確かに撮影の時の様子を見てると、そういうタイプっぽいわね。 軽いキャラはあの子の外キャラなんでしょ。内キャラは職人なところがあるのよ」 りまもそこの辺りは気づいていたのか、納得という様子。でも・・・・・・うーん、でも真面目にどうしよう。 フェイトのフォローだけで足りてないのは事実っぽい。でも大ポカやらかしたのも事実・・・・・・だけど放置も違うかぁ。 「それに・・・・・・その、実は優亜ちゃん」 「人前でうたったりする事が出来ない?」 セシルは落としていた視線を上げて、驚いた顔でこちらを見る。 「お兄ちゃん・・・・・・あの、どうして」 「おのれまでお兄ちゃんって呼ぶなっ!? ホントお願いだからやめてっ!!」 セシルは僕の方を見ながら、素早く口元にマイクを設置。 『それではうたいます。逃れられない宿命』 「そっかそっか。うん、よーく分かったわ。・・・・・・それではうたいます、口は災いの元。だからあなたとさようなら」 『それではうたいますっ! 迷い子に優しさをー!!』 「だから話進まないからマジそれやめてっ! てーかもうお兄ちゃんでよくないっ!? アンタらもう普通に仲良いじゃんっ!!」 あむは分かっていない。赤の他人からお兄ちゃんとかお父さんとかパパとかそういう風に呼ばれて困る事がある事を。 具体的には双子とかルーとか・・・・・・うぅ、これも何気にトラウマだなぁ。 「とにかく優亜がうたえない事くらいは分かるよ。てーか分からない理由こそ分からない。 あのステージが最初口パクだったのも、優亜が人前でうたえない事が原因でしょ」 「・・・・・・うん。優亜ちゃん、一人の時にしかうたわないの。というか、うたえない」 やっぱりか。あんまりに予測通りなんで、驚きもしないよ。 「でもスタッフもまた無茶するよなぁ。この事を知らないとは思えないし、それで歌のステージやらせようなんて」 「しょうがなかったの。優亜ちゃんのボーカルデータが全部消えちゃって」 「・・・・・・マジかい」 「うん、マジ」 ・・・・・・スタッフ側の事情とかを聞いても優亜やマネージャーさんを困らせちゃう。 だから僕達みんな、あの場では『どうしてこうなった』とかは深くは聞かなかったんだ。 でもそんな事が・・・・・・いや、それはまた別の意味でありえないでしょ。 確実にクビレベルだって。あー、だから優亜のポカに対して責めるような空気が無かったのか。 何気にあの場に居たマネージャーさんも、本当に困った様子で優亜の事見てたわけだ。やっと納得出来た。 だけど優亜があの場でうたえずに舞台に穴を開けかけた事も事実だったりはする。 これはフォローの材料に使えないよなぁ。だってそれが言い訳にならない事を、優亜は知ってるわけだし。 ・・・・・・あ、でもこう考えていくとお話の方針が掴めてきたかも。あむのフォローならなんとか出来るかも。 「それで優亜ちゃん」 「うん」 「スタッフさんはもちろん私の前でもうたわないから、いつも影から見てたの。それでうたってる時の優亜ちゃんは楽しそう。 私はそんな優亜ちゃんを見ているのが好きなの。だけど優亜ちゃん、無理してる。自分から歌を嫌いになろうとしている」 こりゃ・・・・・・昨日のフェイトの話、やっぱり効果が薄い感じかな。 僕も軽くは聞いたけど、これじゃあまだ決定打になってないのかも。 「あむちー、なんとかならない? ほら、幼稚園の頃からの幼馴染なんだし」 「そうよ。あの子が人前だとうたえなくなった原因とか・・・・・・そういうの分かるんじゃないの? こればかりはあなたにメインに出てもらった方が話が早いみたいだし」 「いやいや、無理だってっ! りまもややもそんな目で見ないでくれるっ!?」 あむが慌ててるけど、それは正解。だって二人の接点は優亜の話通りなら一度しかないわけだしさ。 なによりうたえない事に原因があるとしても、それが幼稚園の時に起こったとは決まってないし。 「セシル、セシルもそこの辺りは分からない?」 「うん、実を言うと・・・・・お兄ちゃん、ごめん」 「いや、謝らなくてもいいから。・・・・・・どうする?」 「どうするですかね。だけど・・・・・・うーん、リイン一つ思ったですけど」 リインは腕を組んで首を傾げながら、慌てた様子だったあむの方を見る。 「ほら、優亜さんはその一度だけでもあむさんへの印象が相当強かった感じじゃないですか。 だから恭文さんだって話術サイド展開したーって思ったくらいですし」 「あ、それ実は私も気になってた。当のあむ達でさえその出来事を忘れてたりすぐには思い出せなくなってたのよ? 普通それで覚えてるものかしら。何にしても印象は強く残ってるのよ。・・・・・・あとは、アレよね。優亜の今までの様子よ」 「ですです。りまさんも気づいてました?」 「えぇ。あの子、あむの言葉や存在でうたう事を決めた・・・・・・ようするに自分はうたえるという自信を持ったように見えた」 ・・・・・・そこは実は僕も気づいてたとこ。多分ややとりまもだからこそあむに聞いたんだよ。 優亜は最初歌が好きだという事を僕達に知られると本気で喋ったセシルを怒ってたのに、あむが『問題ない』って言うとあっさり引いた。 あとは僕達が居る時にガルフェスのステージの話が出た時も、優亜はあむの方を気にしてた。 それで・・・・・・ステージの上でだね。優亜は遠目からだけど、誰かを探してるようにキョロキョロしてたのにも気づいた。 そう考えていくと、歌が嫌いだと言っていた優亜が『うたう』と決めたのにはあむの存在が絡んでいるように見える。 「やっぱなんかあったのかも知れないね。優亜とあむの間に・・・・・・こう、優亜がうたう事に前向きになれる何かが」 「でも肝心要のあむさんはそれを覚えてないのですよね。 アレですよ。今まで食べたパンの枚数覚えてないのと同じなのです」 「うぅ、面目ありません。あー、だけどどうしよう。 あたしもアレから何度か考えてるけど、マジさっぱりで」 「・・・・・・だけど、日奈森さんは信じてるんだよね」 ちょうどあむの向かい側に座っていた唯世は、そう言いながらあむの方を見て・・・・・・微笑んでいた。 「桜井さんは、うたえるって」 「・・・・・・うん」 「だったらきっと大丈夫だよ。その気持ちがあるなら、きっと。 それでまずは行動あるのみじゃないかな。ホントのところは桜井さんにしか分からないわけだし」 あむは唯世の方を少し見つめてから視線を落とす。 右手を伸ばして、セシルを優しく自分の手の平の上に乗せる。 「セシル、行こ?」 「え」 「優亜のところだよ。どうもあたし達だけで考えてても意味分かんないしさ。 話してみて、時間がかかってもいいから・・・・・・優亜とセシルにとって一番良い答えを探そうよ」 「・・・・・・うん」 その後、僕とあむとリインとややの四人は、唯世達に仕事を任せた上で優亜に会いに行く事になった。 でも・・・・・・うーん、やっぱ気になるな。優亜の状態は抜きにしても気になる。二人ともホントに何があったんだろ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「・・・・・・やっぱり、最後は辺里君かぁ」 「え?」 「ムカつくわね」 「何がっ!? あの、二人ともどうしてそんなに僕を睨むのかなっ! それはおかしいよっ!!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「・・・・・・ルル、あん子とかどうみゃあ?」 「ダメね」 「じゃああん子とか」 「却下よ」 商店街の近くを歩きながら、本日のターゲットを物色中。だけど・・・・・・成果は出ない。 ダメ、どれもだめ。確かに迷いは感じられる。きっと今までと同じだけの効果が得られる。だからダメ。 「ルル、この際手当たり次第でえぇやろ。これじゃあキリないって」 「しょうがないでしょ? 前にも言ったけど」 「あぁ、分かっとるって。もっとパワーのある迷いやないとダメっちゅう事やろ? あー、それならこういうのはどうやろ」 ナナがニヤニヤしながら私の前に回って来た。 「一つで足りないんなら、一気に何人ものたまごをなぞたまにすりゃあえぇでらぁ」 「・・・・・・それしか無いか。でも出来ればやりたくないんだけど」 「なんでだみゃあ? もうどーんとやってまえばえぇやろ」 「なぞたまキャラなりのパワーを考えると、何人も抜き出したらどんな事になるか読めないじゃない。 下手したら暴走するにしまくって、エンブリオを呼び出しても余波でそれを破壊・・・・・・とか」 「な、なんか・・・・・・ありえそうで怖いなぁ」 だから今までだって一つずつ出してた。ここは本当にどうなるか分からないから、兄さんにも止められてたし。 だけど、場合によっては考えないとダメなのかも知れない。ううん、そこももう選択に入れないとマズいかも。 迷っているヒマはないと私が気持ちを入れ変えていると・・・・・・目の前を茶髪でウェーブの髪をした女の子が通り過ぎた。 その子は視線を落とし気味に髪をなびかせながら足を動かしていて、その様子に強く惹かれてしまった。 「・・・・・・ナナ、今の」 「ありゃ、アレはモデルの桜井優亜じゃないかみゃあ? 今めっちゃ人気なんよ」 「追うわよ」 「はぁ? なんで・・・・・・あ、ルルも実はファンとか」 「バカ、違うわよっ! 感じなかったのっ!? あの子・・・・・・途轍もなく迷ってるっ!!」 チャンスが来た。ついに・・・・・・ついにチャンスがやって来た。そうよ、必要だったのはあのパワーよ。 とにかく全力疾走よ。とっとと捕まえてなぞたまにして・・・・・・それで今度こそ夢を叶えるのっ!! ママ、待っててっ! 今日こそ、今日こそママのあの頃の輝きを取り戻すからっ!! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 僕達桜井優亜捜索隊は歩いていた。だけど優亜はスタジオにも居ない。メールや電話にも反応は無し。 サーチ関係で探すしかないかと思っていた僕達の目の前で、セシルが急に苦しみ出した。 「く・・・・・・ぅ・・・・・・!!」 「セシルさん、どうしたんですか」 「顔色悪いでちよ」 「優亜・・・・・・ちゃ」 返事をする前に、その言葉を言い切る前にセシルはたまごに包まれてしまった。 一瞬、優亜が夢を諦めたのかとも思った。でもそうじゃなかった。もっと事態は悪い方向に動いてた。 セシルの白色のたまごは見慣れた紫色になり、楽譜の絵柄の上に白いハテナが浮かぶ。 それを見て僕達が感じたのは寒気。それだけで優亜の身に何が起こったのかが分かった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「や・・・・・・やりたいように、やったら・・・・・・ナナ、これ何回目だっけ?」 「か、かれこれ14回目だみゃあ。なんでたまご抜けんのやろ」 「知らないわよ。でももう・・・・・・あぁもういいっ! やめよやめっ!!」 やってられないわ。『うたえないから、歌なんて無くなってしまえばいい』とまで思っていた様子だったのに・・・・・・ホント期待外れ。 もう知らない。こんな子の相手してないで、他のターゲットを探した方が賢明よ。 「ナナ、行くわよ」 「えぇっ!? でもルル」 「いいから行くわよっ! こんな役に立たない子なんて知らないっ!!」 「あ、ルルー!!」 あぁもうイラつくっ! 今日こそ、今日こそママの輝きを取り戻せると思ったのにっ!! なんでこんなにうまくいけないわけっ!? なんかおかしくないかしらっ!! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「恭文さん、これ」 「なんでセシルちゃんがなぞたまにっ!?」 「・・・・・・やられたからに決まってるでしょっ! 優亜の『うたえない』迷いに突け込んだんだよっ!!」 言っている間にそのたまごは割れて、セシルが中から出てくる。でも、その服装が変わっていた。 白かった服装はたまごと同じ色になり、マフラーも赤く髪の長さも変わって左目が隠れてしまっている。 帽子も悪魔を思わせるような角っぽい装飾付きで、額には白いハテナ。 それでハンドサイズのマイクも両手持ちで・・・・・・セシルは目を見開いて、僕達を不敵に笑う。 『・・・・・・それじゃあうたうよっ!!』 「みんな、散開してっ!!」 言いながら一番運動出来ないあむの手を掴んだ上で右に跳ぶ。そして次の瞬間、セシルの声が響いた。 『黒い砂漠ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!』 音が紫色の光となり、僕達の居た場所を通過する。その光がコンクリにぶつかると、コンクリは派手に削れていく。 ややとリインも逆方向に逃げられたようで、その影響は受けなかった。 だけど、僕達の目の前には派手に削れた道路が残って・・・・・・な、なんつう威力ですか。 「あはははははははっ! あははははははははははははっ!!」 セシルは僕達が風を避けている間に、空高く跳んで・・・・・・見えなくなった。 その間に立ち上がって、他の三人の方を見る。リインもややも、あむも頷いてくれた。 「ラン、みんなもセシルの気配追える?」 「・・・・・・うん、大丈夫だよー」 「なら案内お願い。あと、全員油断しないように。さっきのアレを見るに、パワーは相当あるっぽいから」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 僕達が追跡を開始してからさほど経たずに、優亜とセシルは見つかった。 場所はいつもの公園。その中で優亜は虚ろな目で立ち尽くしていた。 その胸元にはやっぱりいつもの宝石。分かってはいたけど、さすがにイラつく。 くそ、本気で現場を押さえられなかったら意味ないぞ。こうなったらあの二人の日中の行動調査するか? 「歌なんか・・・・・・優亜がうたえないんなら、歌なんか」 『オーケイッ! アタシに任せなっ!!』 セシルはまたなぞたまに包まれて、優亜の頭上に浮かぶ。そして巨大化した。 その瞬間、紫色の粒子がたまごから放出されて舞い散っていく。 「な、なんですかこれ」 念の為に口元を押さえてあむ達も見るけど、特に変化はない。 みんなもワケが分からないという顔をしている。だけどそれでもなぞたまは口を開いた。 「歌なんか・・・・・・なくなればいいっ!!」 セシルの入ったなぞたまは口を開けて、そのまま優亜を飲み込んだ。 それで・・・・・・アレ、電話? 懐から携帯を取り出して画面を見ると、着信がフェイトからだったのですぐに出る。 「はい、もしもし。フェイト、何かあった? でもこっちも今立て込み中で」 『ごめん、多分それと関係してると思うっ! あの、うたってたディードとリースがおかしくなったのっ!!』 「・・・・・・は?」 『よく分かんないんだけど、鼻歌うたいながらお掃除してた二人が急に動きを止めて立ち尽くして全く反応がないのっ!! ・・・・・・それで紫色の音符が胸元から出てきて・・・・・・ヤスフミ、そっちの方でまたなぞたまとか出てないっ!?』 紫色の音符が胸元から・・・・・・紫色の音符っ!? ま、まさか・・・・・・!! 『いきなりだったし、反応がよく知ってる感じなの。だから気になって通信かけたんだけど』 「・・・・・・フェイト、正解。優亜がやられた」 『あの子がっ!?』 状況を整理しよう。今現在フェイトが慌てた様子で通信をかけて来た。という事は、シャーリーは知らないけどフェイトは無事。 でも鼻歌をうたっていたディードとリースはやられた。それってつまりその・・・・・・そういう事か。 「それで」 『それで?』 「優亜の奴・・・・・・多分街中の人達から歌を奪った」 優亜を飲み込んだたまごに降り注ぐように現れるのは、数えるのも馬鹿らしいくらいの数の『紫色の音符』。 多分あの光が放出された瞬間に、この街でうたっていた人達全てのうたいたいと思う気持ち。 それらがたまごに降り注ぎ、たまごは音符達を吸収してどんどんどんどん大きくなって・・・・・・弾けた。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「・・・・・・ルル、これ何事だみゃあっ!?」 「知らないわよっ!!」 普通の人には見えてないっぽいけど、大量の紫色の音符がどっかへ飛んで行く。 その行き先は、どういうわけか私達がさっきまで居た方。えっと、つまりこれは・・・・・・あれ? 「ルル、もしかして」 「・・・・・・・いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 私とした事がこの程度の事を読み切れないなんてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「・・・・・・キャラなり」 外見はあのハテナの付いたセシルそのもの。胸元が大きく開いて、髪も真っ白でキツ目な化粧をしていた。 「バッドシンガー・ドリームッ!!」 「・・・・・・ミキ、いくよ」 「うん」 「ぺぺちゃんも行くよー!!」 「でちっ!!」 それで僕の隣にはリインが来る。リインは僕を見て頷いた。 「ダメ、リインはあむとややのサポート」 「えぇっ!? ど、どうしてですかっ!!」 「あのキャラなり、多分相当パワーがある。だから手数は多い方がいい」 視線をあむの隣に居るスゥの方に向けた。スゥはすぐに僕の視線に気づいて頷いてくれた。 「それにスゥと実戦の中で試したい事もあってさ。悪いけどサポートお願い」 「・・・・・・分かったです。うぅ、出番が少ないのですー」 「大丈夫、リインは充分影濃いから」 リインを納得させたところで、次は通信の向こうのフェイト。 音声オンリーだけど、多分状況は伝わってるから・・・・・・まぁ、一応。 「フェイト、悪いんだけど一旦切るね」 『うん、こっちは大丈夫だよ。大体の事は分かったから。じゃあ、気をつけてね』 「うん」 それで通信を終えてから、僕は携帯端末を懐に入れ直す。 「というわけでスゥ」 「はいですぅ」 僕達三人は改めて優亜の方を見た。優亜は宙に浮いてこちらを不敵に見て笑っている。 すぐに叩き落としてやろうと決めつつ、僕達三人は鍵を開ける。 「あたしのこころ」 「ややのこころ」 「僕のこころ」 胸元に両手を持っていって、素早く動かす。すると鍵は開き、僕達の身体が光に包まれた。 『アン』 『解錠』 『ロックッ!!』 それぞれのパートナーがたまごの殻に包まれて、胸元に吸い込まれる。 それから足元から星の形をした光が線上に並びながら発生して、それが急速回転。 その回転速度は一気に上昇して、僕達の身体を包んでいた光が弾けた。 光の中で鍵を開けた僕達は姿を変え、その場に降り立つ。 『・・・・・・キャラなり』 ややはもうすっかり見慣れて違和感すら感じなくなったいつもの赤ちゃん服。 【「ディアベイビー!!」】 あむはミキとのキャラなりだから、槍サイズな筆を持った青い服装。 【「アミュレットスペードッ!!」】 それで僕は全体にクローバーの意匠がある聖職者のような格好。 杖を右薙に振るって、左手で早速カードを取り出す。 【「レンゲルシロップッ!!」】 優亜は僕達を見下しながら不敵に笑って、左手を頭上にかざす。 するとそれに応えるかのように、なぞたまと同じ色の巨大な音符マークが出てきた。 それは不敵に笑って、口を・・・・・・なぞたまと同じように口が出来た。 その口を開いて、細かい音符達を僕達に向かって吐き出してきた。 「うっしゃ、早速」 「任せてっ!!」 「え?」 あむは右手にタクトを出して、それを振るってからその穂先を音符に向ける。 「・・・・・・プリズム」 次の瞬間、穂先から虹色の音符達が放出された。 「ミュージックッ!!」 その音符は向こうのなぞ音符(今命名)に的割ついて、なぞ音符が空中でそれを振り払うようにちょこまかと動く。 でもまた口を開けて、その音符全てを吸い込んだ。というか、なんか噛み砕いてる音がする。 「プリズムミュージックが・・・・・・効かないっ!?」 【てゆうか、そんなのアリなのっ!? あむちゃん、なら】 「うん」 あむはタクトを消して、両手持ちの筆を出してそれを瞬時に右薙に振るう。 「カラフル」 「いや、あむちょっと待ってっ! もうちょい冷静に」 「キャンバスッ!!」 虹色の絵の具が奔流となって音符に向かう。その絵の具は確かに音符に直撃した。 でも・・・・・・次の瞬間、ざっと100以上はある複数の音符に分裂してしまった。 『・・・・・・・そんなのアリですかっ!?』 それらはすぐにまたなぞ音符になって、口を開く。 『ナゾナゾミュージック・・・・・・♪』 次の瞬間、僕達に向かって音符が吐き出された。僕は咄嗟に後ろに下がって回避。あむ達も同じく。 だけどその着地点を狙って、優亜が動いていた。 『邪魔を』 優亜の声に合わせるように、マイクの脚が紫色に光る。 僕は感じた嫌な予感に従って、さっきから持っていたカードを杖にスラッシュ。 ≪Miller≫ スラッシュしたカードは、鏡に向かって突進しようとしているサイの絵柄の4のカード。これの効果は、とっくに立証済み。 『するなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』 カードをスラッシュした瞬間、紫色の人の胴体程はある砲撃がマイクの脚から放たれた。 僕はそれに向かって前進しながら杖をかざす。 「あむ、やや、僕の後ろに隠れてっ!!」 「「え?」」 「いいから早くっ!!」 言っている間に杖の先が虹色に輝く。その光は射出されて、僕達の前で円形に広がった。 「スゥ」 【大丈夫ですぅっ!!】 それが砲撃を全て受け止めて・・・・・・瞬間的に跳ね返す。砲撃はそのまま優亜に向かって迫っていく。 「・・・・・・え?」 優亜はまさかそんな真似をされるとは思っていなかったのか、避ける事も防ぐ事もせずにマトモに砲撃を食らう。 喰らったその瞬間に爆発が起こり、衝撃と爆炎が辺りに撒き散らされる。 「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 その間に僕は次のカードを取り出して、リーダーにスラッシュ。 優亜は爆発の影響で地面に落下したけど、まだあのなぞ音符がある。ここからが本領発揮だ。 ≪Elemental≫ まずリーダーに通したのは6のカード。絵柄は一度に炎や雷や吹雪や風っぽいエフェクトを口から吐き出している熊。 ≪Bubbles≫ そして今度7のあのカード。地面に倒れて立ち上がろうとしている優亜は一旦後回し。 空中でニタニタと笑っているなぞ音符に向かって、ロッドを左薙に振るう。 「少し」 ≪Colorful Bubbles≫ 「おとなしくしてろっ!!」 杖を振るうと、杖の先から人一人くらいなら飲み込める虹色の泡が大量に出てきてなぞ音符に向かう。 なぞ音符は咄嗟に口から音符を吐き出して、僕達が出した泡を全て破ろうとする。 僕達となぞ音符の距離は、約50メートル程度。その中間距離で音符と泡達は正面衝突。 だけど泡は音符を全て包み込みながらも直進し、本体であるなぞ音符に衝突。 なぞ音符は再び分裂してそれを回避しようとするけど、泡達はその全てを中に飲み込んだ。 そして泡の中で炎や電撃、木枯らしに氷の息吹が発生して音符達がそれに晒される。 音符はそのせいもあって抵抗も出来ずに、浮かび上がっていく泡と共に空へ消えていく。 「・・・・・・えっと、恭文」 「なに?」 「もしかしなくてもやや達、いらない子かなぁ」 「アンタ一人でほぼ片づけてるし・・・・・・てゆうか、強過ぎない?」 「そんな事ないよ。レンゲルシロップ、素のスペックはいつもより低くなるくらいだし」 僕なら先読みでそこはなんとか補えるけど、近接能力も低いし動き自体もそれほど速くない。 カードコンボが出来なかったら、多分素の僕よりずっと弱いくらいだ。 もしこれでそういう単独戦闘やれって言われたら、泣いてキャラなり解除する。 だけど・・・・・・実感出来た。実験だけじゃなくて、実際の戦闘で試したい事がようやく試せた。 このキャラなりは使いようによってはあの月夜やダークシュライヤ、なぞシグナムさんも楽々抑え込める。 「あむ達がそうなってもフォローしてくれるって思ってるから使えるの。そうじゃなかったら怖いって」 【みんなとお料理出来るから、スゥ達も頑張れるキャラなりなんですよねぇ。 レンゲルシロップはまさしく『お料理』なキャラなりなんですぅ】 「そうそう。てーかあむ、あむはそこは気にしなくていい」 「え?」 後ろに視線を向けてはいないけど、あむが呆けた顔をしたのが分かった。だからまぁ、軽く笑ったりする。 「露払いは僕達がするって言ってるの。・・・・・・元々の目的、達成しなよ」 僕の視線は、立ち上がってふらふらとしている優亜の方をずっと向いていた。 優亜は苛立ち気味に・・・・・・ううん、どこか悲しそうな目をしている。 でも抵抗する事は出来ない。だって優亜の攻撃手段は僕が尽く防ぐつもりだから。 例えばさっきの砲撃を撃ってきても、ミラーで反射してカウンターを入れる。 そしてあの音符攻撃も、カラフルバブルスで相殺は出来る。つまり相手からすると、今のところ打つ手は無し。 まぁさすがに近接攻撃仕掛けられたら、さっき言ったような能力だからヤバいけどね。 だけどそこもキャラなり解除という奥の手がある。もちろんスゥとも相談で納得してもらってる。 このキャラなりは相手に近づかれさえしなければ、まさしく最強。 言うなら後方支援に特化したキャラなり・・・・・・我ながらこんなキャラもあるとは。 そこはともかく、あむは僕が言いたい事が分かったのか左横から前に出て、優亜に歩み寄り始めた。 「恭文、マジで後ろ任せちゃっていい?」 「ん、いいよ。レンゲルシロップは後ろに居る限りは最強だから」 「あははは、そりゃ心強い。というか、普段のアンタと逆だね。でも・・・・・・お願い」 「了解」 あむは右手で筆を持ったまま、ゆっくりと優亜に近づく。 優亜はあむが近づいた分だけ下がろうと足を動かす。 やっぱりあの砲撃直撃がキツかったのか、足取りが重い。 ・・・・・・よし、今良心がまた傷んだけど気にしない事にする。 「先輩・・・・・・お兄ちゃんも、どうして優亜の邪魔するの」 あの、だからお兄ちゃん呼びは・・・・・・いえ、なんでもないです。僕は空気を読ませていただきます。 「優亜、もうやめて。歌が好きな優亜が、どうして歌でみんなを困らせるの?」 「違うっ! 優亜は歌が嫌いなのっ! だから優亜は歌が・・・・・・歌なんて無くなってしまえばいいと思ってるっ!!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「嘘だよっ! てゆうか、自分がうたえないから人から歌を奪うなんて、絶対間違ってるっ!! 大切なのはうたえるかうたえないかじゃなくて・・・・・・うたいたいって優亜の気持ちだよっ!!」 優亜は後ずさりするけど、あたしはそれでも近づく。優亜はあの砲撃直撃が効いているせいか、動きが鈍い。 だからそれもあってあたしたちの距離はちょっとずつ・・・・・・ちょっとずつ近づいていく。 「そんなの無駄だよっ! 誰も優亜の歌になんて期待していないっ!! そんな気持ちがあったって・・・・・・誰も優亜の歌なんて、聴いてくれないっ!!」 優亜はまたマイクを構えて・・・・・・マズい。 「恭文、さっきのミラーってのは無しっ!!」 咄嗟に後ろに声をかけて、反応しようとしている恭文を止めた。 アイツの事だからまたあの反射する壁とか作りそうだもん。 いや、絶対作ってる。でもこれ以上は優亜の身体がどうなるか分からないし、ストップ。 あたしにはあれを優亜に当てないように出来るかも分からないし、これでいい。 「優亜っ!!」 「誰も・・・・・・誰も優亜のお歌なんて聴いてくれないっ! ・・・・・・聴いてくれないんだっ!!」 その間にまたマイクの脚に生成された砲撃スフィアは大きさを増していく。 ・・・・・・あたしはそのスフィアを声で張り飛ばす勢いで、思いっきり叫んだ。 「だったらあたしが聴くっ!!」 左手で胸元を押さえて、優亜の悲しそうな目を見て声を大きくあげた。 「優亜の歌、あたしが聴くからっ!!」 それでちゃんと伝える。あたしはここに居るし嘘にはしないって・・・・・・伝える。 でもそう叫んだ瞬間、優亜の動きが止まった。砲撃スフィアはすごい勢いで小さくなって消えた。 【あむちゃん?】 それであたしの動きも止まった。きっとあたし、今の驚いたような顔してる優亜と同じだ。 あたし達は同じ顔をして、さっきまでのドタバタなんて完全無視で見つめ合ってしまっていた。 「思い、出した」 【え?】 そうだ、思い出した。あたしなんでずっと忘れてたんだろ。本当に鍵は簡単な事だったんだ。 あたし・・・・・・あの時恭文が言ってたみたいに難しい事はなんにもしてなかったのに。 でもそれはきっと優亜にとっては大きい事で・・・・・・だからりまとかが言ってたみたいになった。 答えはシンプルでありながらとても大きくて大切。きっと伝えたい言葉は、一つだけでよかったんだ。 「あたし、あの時も同じ事を言ってる」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「すみれ組、桜井優亜・・・・・・それではうたいます」 幼稚園のお部屋の中、一人の女の子がみんなの前で歌ってた。でもよく聴こえない。 その子は少し内気そうに視線を落としていて、両手にマイクを持っていて・・・・・・だけど必死にうたっていた。 「・・・・・・よく聴こえないんだけどー」 「どうしたのー?」 「ねーねー、外で遊ぼうよー」 『さんせーい』 みんなはそう言って、教室から出て行った。あの子がうたい続けていたのに、みんな笑って外に出て行った。 残されたあの子はうたう事を辞めて、瞳に涙を溜めていく。 「・・・・・・優亜、お歌が好きなのに。優亜のお歌なんか、誰も聴いてくれないんだ」 綺麗な茶色の髪の子は、右手にマイクを持って立ち尽くしていた。 寂しそうで、悲しそうで・・・・・・だからあたしは声をかけた。 「あたしが聴くよ」 その子は驚きながら視線を上げて、自分の正面に居るあたしの事にようやく気づいてくれた。 ・・・・・・あたし、さっきからここに居たんだけどなぁ。うーん、存在感無いのかなぁ。 「あたしが聴くから」 「・・・・・・うたっていいの?」 「うんっ!!」 目の前の子に笑いかけると、その子は溜めていた涙を零していく。 だけど嬉しそうにしながら・・・・・・また教室の中で綺麗な優しい歌声が響く。 その歌声は小さくて弱くて、少し聴こえにくいかも知れない。 だけど確かにここにある。あたしはそんな綺麗な歌が大好きになった。 二人だけの教室の中に響く歌声をずっと覚えておきたいなーって、あたしは思った。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ・・・・・・そうだ、あの時もこう言った。誰も優亜の歌なんて聴いてくれなくて・・・・・・だけどあたしはそんなの嫌で。 だって優亜の歌はちゃんとここにある。ここにあるのに知らんぷりなんてなんか嫌じゃん。 うん、もう思い出せる。なんで今まで忘れてたのかって言いたくなるくらいに鮮明に優亜の歌声、思い出せる。 そうだね、本当に難しく考える事なんて本当になかった。なんかダメだな、あたし。 「優亜」 あの子の名前を呼びながらまた一歩踏み出す。優亜はもう、後ずさりなんてしない。 「また優亜のお歌、聴かせて欲しいな。あたしは優亜の歌が・・・・・・大好きなんだ」 ただ視線を落として、その場に立ち尽くしていた。それで優亜の額のハテナが、×に変わった。 「・・・・・・あたし」 すると優亜の周囲を囲むように半透明の×たまが現れた。あたしはそのまま、右手を優亜に向ける。 「・・・・・・ネガティブハートに、ロックオンッ!!」 すぐに両手でハートマークを作って、それもさっきと同じように優亜に向ける。 ハンプティ・ロックから出てくる光がそこを通って、ハート型の青い奔流に変わった。 「オープン・・・・・・ハートッ!!」 その奔流は優亜と×たまを飲み込む。その中で黒いたまごは弾けて粒子になった。 優亜の服装が変わって、胸元のあの宝石が砕けて消える。そんな優亜の胸元に黒い粒子が集まる。 粒子は×たまになるけど、すぐに元のセシルのたまごに変わった。 そのたまごにヒビが入って、真ん中から開いて中からセシルが出てくる。当然姿は元のあの子のまま。 髪を下ろして、青いジャンパーにミニスカ姿な優亜はそのまま崩れ落ちるように倒れた。 【・・・・・・あむちゃん、やったね】 「うん。ホント、ギリギリだけど・・・・・・てゆうか、後ろに誰か居るっていいよね」 あたしが後ろを振り返ると、三人とも安心したように笑っていた。 ・・・・・・なんていうか、みんなが居てくれたおかげじゃん? あたし一人だったら絶対テンパってたし。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ なんか素敵に感動話になって浄化して、全員笑顔でハッピーエンドかぁ。 本当に素晴らしいわね。でもね、私は・・・・・・私はまた夢が砕けてバッドエンドよ。 憎たらしい。日奈森あむに蒼凪恭文を筆頭とした聖夜小ガーディアンが憎い。 おかげで私は何時まで経っても夢を叶えられない。ママの輝きを取り戻せない。 脚を乱暴に進めながらイライラがどんどん募っていく。だからついつい、口に出して漏らしてしまった。 「・・・・・・くっだらない」 「ルル」 「くだらないったらくだらないっ! てゆうか、アレでなんでエンブリオが出ないのっ!?」 やっぱり出現条件がちゃんと特定出来ないとダメなの? もしくはなぞたまはその水準を満たす精度が著しく低いとか。 夕方の住宅街の歩道を・・・・・・というか、家路を進みつつ私の堪忍袋の緒は限界寸前だった。 「うーん、また萬田と千々丸達に相談してみた方がえぇんやないか? ほれ、出現条件特定は向こうの領域やろ。うちらじゃ限界あるしなぁ」 「・・・・・・その方がえぇか。どーもうちらだけやとでらぁ進まんしなぁ。使えるもんはちゃんと使ってやっとかんと」 「ルル、名古屋弁出とるよ」 「あ、いけない」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「・・・・・・BY、どこ行ったんだよー。なんで戻って来ないんだよー」 イースター本社にある研究室の椅子の一つに座って主任は・・・・・・激しく落ち込んでいた。 まぁアレだ。時間が経って凄まじく冷静になって、自分のバカさ加減を自覚したと思ってくれればいい。 俺も萬田も謝られたし、BYも必死に捜索したけど反応そのものが消えてるから回収も不可能。 なんというか・・・・・・バカだよなぁ。まぁいつもの主任に戻った感じで俺達的には安心だが。 「・・・・・・主任、それは主任が癇癪起こしてBYを放置するからじゃありませんか」 「そうですよ。その間にBYの発信装置は電池切れ。最終反応のあった地点にも手がかりなしで」 「分かってるよっ! それで自分が相当バカだったって反省しまくってるよっ!! うぅ・・・・・・タイムマシンがあるならあの頃の自分をぶん殴ってやりたいー!!」 それで主任はまた崩れ落ちて泣き始める。俺と萬田は顔を見合わせてお手上げポーズ。 ・・・・・・・まぁ主任は放置でいいか。元々浮き沈みの激しい人だし、すぐに元に戻るだろ。 それより重要なのは、俺達が二人揃って視線を向けがモニターの中のデータだ。 これはBYの初出動・・・・・・最初になぞたまを使った作戦を行った時に取れたデータ。 「でもこう考えると、私達がBYのためにあの場に居たのは本当に運が良かったわよね」 「そうだな。おかげでエンブリオが出現した時のデータがちゃんと手に入った」 これはなぞキャラなりした人間が発するマイナスパワーの波形だ。そしてこれが我がイースターの切り札。 あの時・・・・・・ティアナ・ランスターが発していたこのパワーによって、エンブリオは呼び寄せられた。 後にも先にもなぞたま作戦でエンブリオが出たのは現時点でこの一回のみだが、逆を言えばだからこそこのデータは貴重。 この波形はルルちゃんやヘイ君が計測したどのデータとも違う。 もしかしたらこれは、エンブリオが惹きつけられるパワーの形の正解である可能性がある。 つまりこの波形通りのパワーを再現すれば、エンブリオを呼び寄せられるんだ。 まぁここはまた別に実験が必要だが・・・・・・出来ればこれで確定であって欲しい。 いや、だって最近ダウンロードしたMHP3の体験版が楽しいから、これ絡みで残業とか実はちょっと嫌なんだよ。 「千々丸、専務には報告したのよね?」 「あぁ。専務は大層お喜びだったよ。それで・・・・・・まぁしょうがないよなぁ。 エンブリオを呼び出す鍵が手元に入った以上、もう二人は用無しも同然だ」 「そうね」 おそらくだが、なぞたまであの時エンブリオを呼び出せたのは本当に偶然の産物だ。 なぞたまではパワーは出ても、この波形を出すための精度が圧倒的に足りない。 現に今までのデータと比べると、波形に決して無視出来ないレベルで幅が出来ている。 このままなぞたま作戦を続けても意味がないのは、俺や萬田だけでなく専務も同意見の話だったりする。 「あー、ヘイ君カッコ良いしタイプだったんだけどなぁ。仲良くなれそうもなくて残念」 「実は俺もルルちゃんは好み・・・・・・そんな目で見るなっ! 別にいいだろうがっ!! ・・・・・・とにかくこのデータを取れただけでも、なぞたま作戦を実施した意味はあったさ」 「そこは二人に本当に感謝よね。それであとは」 萬田は視線を少し上に上げて、今まで見ていたモニターの向こう側にあるアレを見る。 それはポッドの中に入れられたヴァイオリン。そのボディは、どこか妖しく紫色の光を放っている。 「アレでこの波形を出せるように調整・・・・・・よね」 「そうだ。それが済めば、予定以上にDL・・・・・・デスレーベル作戦は上手くいくぞ」 妖しく輝く紫色の光は、そのヴァイオリンのパワーゆえ。これが起死回生の切り札だ。 さて、モンハンは悲しいけど一旦中断でまた残業かな。主任が復活するまでは俺達が頑張らないと。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 優亜はその後すぐ目覚めて、体調なども特に問題はなかった。そこはセシルも同じく。 フェイトに改めて連絡して、ディードとリースの様子が元に戻った事を確認している間に・・・・・・時刻は夕方になった。 「・・・・・・じゃあ優亜、本当に何も覚えてないの?」 「うん」 優亜は近くのベンチに座ったまま、立っていた僕の方を見て申し訳無さげにそう言った。 ・・・・・・まぁ、ここはしょうがないか。しかしこうなると、マジで放置出来ないな。 「あの・・・・・・ごめん、お兄ちゃん。優亜達がどうしておかしくなったのかとか、覚えてた方が助かったんだよね?」 「まぁそれはね? でも大丈夫だから気にしなくていいよ」 優亜を安心させるように笑うと、優亜もセシルも頷いてくれた。まぁここはしょうがないからよしとする。 でも問題は・・・・・・まぁまぁ賢明な読者様なら気づいていると思うけど、また優亜は・・・・・・うぅ。 「でもね優亜、お願いだからお兄ちゃんはやめない? セシルも真似し始めてるし」 「いや。優亜的にもう定着しちゃってるし」 『それではうたいます。やっぱり抗えない宿命』 「お願いだからやめてー! なんか誰かに妙な誤解をされそうで怖いのー!!」 僕が頭を抱えているというのに、優亜とセシルは楽しげに笑って・・・・・・笑い事じゃないとツッコミたくなったのは、許されると思う。 それでベンチに座った優亜は突然立って、僕だけじゃなくてあむとややの方も見た。 「あのさ、優亜」 「はい?」 「ごめん。あたし・・・・・・優亜の事、ずっと忘れてた」 優亜は申し訳無さげなあむの方を見て、首を横に振った。 「そんな事ないよ。それ言ったら優亜だって忘れてた。ううん、ずっと見ないふりしてた」 それから優亜は優しい瞳で、隣に居るセシルの事を見つめる。 「優亜の中の・・・・・・うたいたいって気持ちの事、ずーっと置いてけぼりにしてたから。 まぁその、なんか迷惑かけちゃったみたいだし・・・・・・先輩にもお兄ちゃんにもお詫び、したいな」 「お詫び?」 なんか一瞬嫌な予感がして、つい優亜から距離を取ってしまう。 すると優亜が少し呆れたように僕を見て、両手を腰に添える。 「・・・・・・お兄ちゃん、なんで身構えるの? 優亜何気に傷つくんだけど。 というか、なにか妹キャラにトラウマでもあるのかな」 「う、うん。それはその・・・・・・かなりね? ほら、うちの妹は押しが強いし」 「恭文さんヒドいですー! リインはいつでも恭文さんLOVEなだけですよっ!?」 「その勢いが歳相応じゃないからトラウマなのよっ!? お願いだからもうちょっと落ち着いてー!!」 特にこの間の撮影? あれはね、もう・・・・・・地獄だった。いや、悪夢と言っていいかも知れない。 「とにかく大丈夫だよ。優亜はお兄ちゃんを困らせない良い子な妹キャラだから。・・・・・・セシル」 こっちが頬を引きつらせて半笑いしている間に、優亜はまた隣に居たセシルの方を見た。 「優亜・・・・・・うたいたい」 優亜が笑いながらそう言うと、セシルは目を見開いて嬉しそうに頷いた。 「うん。優亜ちゃん、うたおう? 二人で・・・・・・一緒に」 ・・・・・・夕方の風景の中で流れる歌は、もしかしたらこの広い世界の中ではとても小さな歌声なのかも知れない。 だけどその中には優亜とセシルの想いが沢山詰まっていて、とても綺麗だった。 その後、優亜は少しずつだけど人前でもうたえるようになって遠くない内にデビューという運びになる。 本当に少しだけだけど・・・・・・優亜の世界は、優亜の歌は、より強い形で響く事になった。 そして優亜とセシルのお兄ちゃん呼びの改善は、とても困難な道のりとなってしまった。 (第103話へ続く) あとがき 恭文「というわけで、なぞたま編最終章とイースターとの最終決戦編の布石が打たれ初めているドキたま/じゃんぷ102話です。 今回のお話はTVアニメの第86話『響け歌声! あの日のあたしに!!』を元にしています」 あむ「ここは前回の続き話なんだよね。前後編で二話構成も同じ」 恭文「うん。で、次回も次回でぶっ飛ばしてるんだよなぁ。それも相当」 (うん、色んな意味で濃いしね。何にしてもなぞたま編もあと3〜4話でラストなのです) あむ「アレ、でもなんかやりたいって言ってた話は」 恭文「・・・・・・まぁそこは拍手関係のアイディアを使ってなんとかね。 でもなぞたま編・・・・・・長かったなぁ。なんだかんだで2クール分くらい使ってるのよ?」 あむ「もうちょっとでミッドチルダ・X編迫るよね。あー、でもなんかいよいよ最終決戦って感じだよね。 ほら、ラストでエンブリオ呼び出すための力の波形みたいなの掴んでるーって情報出たし」 (実はBYの存在はここで波形のデータを掴むためのフラグみたいになっています) 恭文「実は次回の強烈なお話はもう書きあがってたりするんだよね。拍手ほったらかしで」 あむ「よし、最後余計だからっ! まぁまぁ一日使って書いてたのも分かるけどっ!!」 (お話のストックを作って楽がしたいお年頃) 恭文「でもアレだよね、優亜とセシルも何気にいいキャラだよね」 あむ「そうだね。特にアンタはお兄ちゃんだし」 恭文「それはやめてー! いや、なんかこう・・・・・・引っかかるのー!!」 あむ「この調子で準レギュとかなるといいよねー。超・電王編とかも絡んだりさ」 恭文「絡んでどうするっ!? 僕が困るだけのような気がするんですけどっ!!」 (『お兄ちゃん、優亜の事嫌い?』 『それではうたいます。あなたの困る顔が大好き』) 恭文「てゆうか、あむ的にはそれでOKなわけですか。ほら、後輩キャラだし」 あむ「いや、あたし的にはああいう後輩キャラ出てないしさ。何気に優亜と絡むの楽しくて」 恭文「・・・・・・それで焼きそばパン買ってこいって要求するわけですか」 あむ「いやいや、アンタと違うからっ! あたしそんな事しないしっ!! ・・・・・・それでは、本日はここまで。お相手は日奈森あむと」 恭文「あむは焼きそばパンを買わせる事で有名だと思う蒼凪恭文でした」 あむ「違うからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 (現・魔法少女の先輩キャラに今後も期待です。 本日のED:桜井優亜(CV:釘宮理恵)『シークレットプリンセス』) ルルパパ「・・・・・・マイスイートハニー、本当にいいのかい?」 ルルママ「えぇ。引き受けちゃうと、ここに来た意味がなくなっちゃうもの」 ルルパパ「それはそうだけど、あの子は映画に出ている君が好きだからね」 ルルママ「そう・・・・・・なのよね。なんだか上手くいかないわ」 (おしまい) [*前へ][次へ#] [戻る] |