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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第101話 『Dreams can not honestly/だっしゅからじゃんぷへっ! それでも騒がしい日々はあいも変わらずっ!?』



ラン・ミキ・スゥ『しゅごしゅごー♪』

ラン「ついに始まったドキたま/じゃんぷー♪ みんな、3年目もよろしくねー」

スゥ「3年目一発目は、あむちゃんのお知り合いっぽいある女の子のお話ですぅ。
キラキラに輝いているその子にも、やっぱり悩みがあるらしくて」

ミキ「結局いつものパターンで、巻き込まれてしまうワケだね」





(立ち上がるデジタル放送な画面に映るのは・・・・・・あ、画質Blue Ray並みに良くしました。
とにかく立ち上がる画面に映るのは、『ちぃぃぃぃぃぃぃぃぃっす』な女の子とうたうあの子)





ラン「さー! それじゃあ早速行くよー!!」

スゥ「みなさん、3年目もよろしくお願いしますぅ」

ミキ「だっしゅからは・・・・・・当然コレっ!!」





(せーの)






ラン・ミキ・スゥ『じゃんぷっ!!』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・というわけで、早速3年目始まったわけだけど・・・・・・みんなー! ドキたま3年目突入記念のビックニュースだよー!!」

「アンタいきなりなにっ!?」

「あむ、ややがいきなりなのはいつもの事でしょ。やや、お願いだから今日はのんびりしない?
僕は先日のBY戦でキモを冷やした分、もっと楽に生きたいわけだよ」

「むー! ダメダメっ!! のんびりしてる余裕なんてどこにもないよっ!?」





あのてんやわんやの大騒動の翌日。朝の会議でややがいきなり『はいはーいー! みんな注目ー!!』とか言い出した。

・・・・・・あ、ちなみに昨日は三人でラブラブは遠慮無く辞退しました。

いや、当然でしょ。まだ月詠幾斗も見つかっていないような状況でそれは躊躇われるって。



まぁその、フェイトとは歌唄が帰った後に・・・・・・コミュニケーションしたけど。

もちろんフェイトの身は気遣って繋がらない形で。うぅ、フェイトありがとー。

とにかくそんな幸せも噛み締めつつ学校に来て、ここから3年目一発目の事件がスタートらしい。



・・・・・・落ち着く暇もないってどういう事だろ。まぁこれもいつもの事か。





「とにかくコレ見てコレー」



言いながらややが取り出したのは、一冊の雑誌。サイズとしてはメガミマガジンか娘Typeくらいのサイズ。

おしゃれな小学生・中学生くらいの女の子が拍子に載っていて、なんかおしゃれ系っぽい雑誌。なお、僕も知ってる。



≪・・・・・・あぁ、プリティですか。結木嬢もコレをご愛読とは≫

「うんうんっ! ややも大好き・・・・・・え、バルディッシュどうして知ってるのっ!? あ、まさか」



それでなんでかややとあむ達は僕の方を怪訝そうに見る。なので、僕は軽くため息を吐いた。



「僕が読んでるわけじゃないよ。リインとシャーリーやディードが好きなんだよ。
ちなみにキッカケもある。・・・・・・ほら、りまはしばらく僕の家に居たから」

≪りまちゃんは元々読者だから、主様も一緒に暮らしてた時に知ったの。
シャーリーちゃんは元々おしゃれ関係に敏いし、リインちゃん達も勉強のために読んでるのー≫

「そういう事ね」

「なのです」

「あぁ、それでなんだね。納得したよ」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「さてさて、説明ですよぉ。プリティとは、少・中学生の女の子を対象にしたファッション雑誌ですぅ」

「もちろん結木さんだけではなく、今言ったように真城さんと日奈森さんも大好きだそうです」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「それでねそれでね・・・・・・ここっ!!」





ややがプリティを開いて、あるページを僕達に見せる。僕達は全員軽く身を乗り出してそのページに注目。

そこには緑色のノースリーブのワンピースを、白のおしゃれなシャツの上から着ている女の子が居た。

瞳は青で丸みを帯びていて、長い茶色のソバージュがかった髪を、頭頂部で緑色の髪留めでひとまとめにしている。



そこからまとめた髪が広がって、普通に髪を分けた時とはまた違う感じになっていた。



そして空いたおでこと髪留めの間がちょっと寂しくなりがちなので、そこに青いサングラスをかけているのが注目ポイント。





優亜とイケてるティーン達?」

「この子、カリスマ読者モデルの桜井優亜ちゃんだよね?」





あむも知っているこの子・・・・・・桜井優亜は、今人気急上昇中の子どもモデル。

僕も当然ながらこの雑誌はりま達に読ませてもらった事があるので、この子の事は知ってる。

それでこのコーナーは読者から情報を募って、この子がそこに実際に突撃取材するのよ。



まぁ取材って言っても『こんなおしゃれで素敵な子が居まーす』って言う感じで、一緒に写真を撮ったりするのがメインかな。





実は・・・・・・今度我らガーディアンがこのコーナーに出る事が決定しましたー!!

・・・・・・えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?



そして、この絶叫である。ちなみに約二名を除いた全員で叫びました。



「辺里君、ホントなのっ!?」

「いや、僕は何にもっ! ・・・・・・ゆ、結木さんどういう事っ!? 僕なんにも聞いてないんだけどっ!!」

「うん、それは当然だと思うな。ややも今初めて話したし」

「そういう事じゃなくてー!!」



・・・・・・僕とりまは自然とややの方を見て、視線を厳しくしていた。いや、僕はリインの方も見た。

リインはさっきの絶叫に参加しなかった。普通にニコニコしながらややの方を見てるだけだった。



「もしかしてややが」

「てゆうか、リインも」

「せいかーい♪ ややとリインちゃんが応募しちゃいましたー」

「なのですよー♪」

「「やっぱりかいっ!!」」



えぇい、ハイタッチするなバカ共がっ! てーか唯世にも話通してないってどういう事っ!?

・・・・・・あ、待て待て。落ち着け僕、まだやると決まっただけな・・・・・・アレレ、なんかめっちゃ寒気がするぞ?



「でもややちゃんもリインちゃんも、いったい何のために」



なぎひこが苦笑し気味にそう聞くと、二人はいきなりガッツポーズを取り出した。



そりゃ生優亜ちゃん見たいからに決まってるっしょー!!

リインもファンなので、一緒に写真撮ってもらいたいのですー♪

『そ、そうですかぁ』



ア、アレ・・・・・・なんかドンドン寒気が強くなってきてるなぁ。よし、僕はその・・・・・・多分これと向き合う必要がある。

だから僕は気持ち的な意味合いで足を踏み出して、ややとリインに特攻する必要があるんだ。



「えっと二人とも・・・・・・それって僕も出るの?」

「「もちろん(ですよ)っ!!」」

「僕、もう20歳なのに?」



すると、満面の笑みを浮かべる二人以外のメンバーが僕の方を『そう言えば』と言わんばかりの顔で見る。

僕、蒼凪恭文。現在20歳。職業、魔導師であり聖夜小ガーディアンのジョーカーVです。



「これ、全国誌だよ? 当然海鳴とかでも発売するよ? それ以外のところでも発売するのよ?
・・・・・・顔見知りに見られたらどうすんのっ!? 一発で僕が小学生やってるってバレるでしょうがっ!!」

「えー、でもそんなの今更じゃん。はやてさん達だってやや達と会う前にも知ってたしー」

「ですよ。恭文さん、覚悟決めるです」

「決められるかボケっ! てーかそれ以外っ!! それ以外でも僕は結構顔が広いのよっ!?
嫌だー! 絶対に嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! さすがにそれは辛過ぎるー!!」



僕は頭を抱え、その後訪れる数々の悪夢を想像してしまった。というか泣いてます。めっちゃ僕泣いてます。



「・・・・・・やや、リインちゃんもだけど恭文は除いてあげない? ほら、頭抱え出したし」

「ダメなのです。こういうところでリインと恭文さんとの固有の思い出を残さないと、あっさり忘れられちゃうのですよ」

「そういう女の情念持ち出さないでくれますっ!? いや、結構マジでお願いしたいんですけどっ!!」



それでも僕は顔を上げた。とにかく、アレだ。現実に立ち向かう勇気が僕には必要なんだ。

唯世やなぎひこが凄い心配そうな顔で見てるけど、大丈夫。うん、きっと大丈夫・・・・・・じゃないかも。



「でも二人とも、そこは恭文君だけじゃなくて僕や辺里君も同じだよ。いきなり取材って言われても」

「なにより取材日は何時なのかな」



唯世が困惑気味にそう聞くと、ややとリインはとっても素晴らしい笑顔を僕達に向けてくれた。



「「今日でーす♪」」



僕達がこの瞬間、固まってしまったのは言うまでもないだろう。



「「あははははははははははっ! あははははははははははははははははっ!!」」



リインとややは笑う。本当に楽しそうに明るい声で笑う。でもそれ以外のメンバーの想いは・・・・・・一つになった。



えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!










・・・・・・・・・・・・そして、この絶叫パートUである。こうして、ドキドキなたまごの物語は続いていく。





事件になってもならなくても、僕達の日常はやっぱり騒がしくてファンタジーなのは、変わらないみたい。




















All kids have an egg in my soul



Heart Egg・・・・・・The invisible I want my






『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/じゃんぷっ!!!


第101話 『Dreams can not honestly/だっしゅからじゃんぷへっ! それでも騒がしい日々はあいも変わらずっ!?』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



まず僕がやった事は、二人の頭頂部にげんこつ。いや、当然でしょ。

それでなんとか逃げようとしたけど、当然のように無理だった。・・・・・・どうしてこうなった。

でもそう言いたい事はまだ他にもある。それは現在の聖夜小の状況だよ。





どこからか取材の事を聞きつけた生徒達が、校舎の前で凄い数集まっちゃったのよ。










「・・・・・・恭文君、これはまた・・・・・・凄いね」

「みんな生桜井優亜が見たいんでしょ。ホントに人気っぽいから」

「それは分かるんだけど・・・・・・蒼凪君、大丈夫?
もう顔がいつぞやの授業参観レベルで暗いんだけど」

「しょうがないのよ。だって」



左の方に視線を向けると、そこには僕の手を強く握っているリインが居た。



「リインが離してくれないし」

「・・・・・・ごめん、酷な事聞いたね」

「うー、恭文さんも覚悟決めるですよ。それにそれに、恭文さんと一緒に思い出作りしたいのです」

「だったら他に良い方法があるんじゃないかなっ!? 主に僕の心に優しい感じでっ!!」





なんて言っていると、どこからとも無くエンジン音が響いてこちらに近づいてくる。

全員がそちらに視線を向けると、いつぞや佐伯のぶ子先生が暴走させたアレを思い出させるロケバスが到着。

それは校舎入り口から堂々と入ってきて、近くの駐車場に安全確実に停止。





その上でロケバスのドアが開いて、一人の女の子が出てきた。なお、その外見は雑誌で見た通り。



その子はこちらの方を見て、笑顔を浮かべながら人差し指と中指を立てた右手を額に当てる。





チーッス♪

チーッス♪



・・・・・・打ち合わせもしてないのに息が合ううちの学校の生徒は、真面目に凄いと思った。



「アレが桜井優亜さん・・・・・・確かにそれっぽい感じだよね。こう、オーラが出ているというか」

「それで僕達より一つ年下だって。ややちゃんとリインちゃんと同い年なんだよ」

「まぁまぁ良い感じよね。あと恭文、フラグは立てないように。
大体フェイトさんやリインに歌唄にシルビィさんと居るんだからもういいでしょ」

「りま、僕の事なんだと思ってるのかなっ! てーかシルビィを数に含めるなっ!! なんか買収でもされたっ!?」



あの子は少し周囲をキョロキョロして、僕達の方に早足で近づいてくる。



「チーッス♪ あたし桜井優亜。今日はよろしくねー」

「「チーッス」」



やや、リイン、なんでそれで返事? そこは必要なのかな。



「あ、よろし」



唯世が口を開いた瞬間、二人が瞬間移動でもしたかの如く唯世の方に近づいた。



「違う唯世っ! チーッスだからっ!!」

「ですですっ! 空気読むですよっ!!」

「あ、あははは・・・・・・はい」



なお、リインは僕の手を繋いだままなので、手があっちこっちに引っ張られて痛いです。

それで結局僕も含めて全員・・・・・・最大限に空気を読んで頑張る事にした。



『チーッスッ!!』










泣きたい。正直泣きたい。泣いて家に帰ってフェイトのお腹をさすって癒され・・・・・・アレ?





なんだろ、今あの子・・・・・・あむの方を見て軽く首を傾げたような。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「はーいっ! それじゃあ撮っていくねー!!」



そして地獄の撮影はついに始まってしまった。

まずはやや。学校の噴水を前に桜井優亜と二人並んで。



「「チーッス♪」」



例のポーズで数枚撮影。その中で一番良いのを雑誌に掲載という方式である。

それで次はなぎひこの番。場所を聖夜小の屋上に移して撮影である。



「・・・・・・髪長いし綺麗だよねー。女の子みたい」

「あ、あははは・・・・・・よく言われるよ」



苦笑い気味ななぎひこは、そんな髪を右手に乗せる。桜井優亜も自分のウェーブがかった髪を乗せる。

それで背中合わせにしつつカメラを見る二人をモデルにまたシャッター音が響く。それで次である。



「超可愛いー。あははー」

「・・・・・・むぅ」



場所は学校のグラウンド。体格的に桜井優亜に抱えられるような体型のりまは、後ろからハグされた状態で写真を撮られる。

本人的には不満らしくて頬を膨らませてるけど・・・・・・悲しいかな、それがまた可愛らしくて絵になっている。



『唯世様ー! 素敵ー!!』



・・・・・・それで今度は学校の中庭・・・・・・遠目に特別資料棟の屋根が映っているような場所。

今聴こえた声援から分かる通り、今回は唯世の出番である。



「・・・・・・へぇ、この学校の王子ってワケ?」

「王子?」



そして唯世の頭の上に、すっかり見慣れた金色の王冠が出てきた。僕は瞬間的に踏み込む。



「僕を王子と」



次の瞬間、僕は右手からはり線を出して唯世の顔面に向かって袈裟に叩きつけつつ斬り抜ける。

・・・・・・やるね、唯世。咄嗟に両腕を出してガードしたか。中々に腕を上げた。



「・・・・・・蒼凪君、いきなりなにするのっ!? かなりびっくりしたんだけどっ!!」

「いや、また悪い癖が出るとこだったから・・・・・・ほら、それに止まったから問題無し無し」

「そういう問題じゃないからー! お願いだからせめてバケツにしてっ!?」

「唯世くん、それ違うっ! なんかこう間違ってるからっ!!」



というわけで、そんな唯世にはバケツを渡した上で、写真を撮ってもらう。

ただそれでも面白い絵になるのは・・・・・・それで次は僕達。場所はやっぱり中庭。



「・・・・・・へー、兄妹なんだー。てゆうかもしかしてあなたかなりのお兄ちゃん子?」

「はいです♪」



うん、そう思うよね。だって・・・・・・リイン、僕に後ろから抱きついて乗っかってる状態だし。

ヤバい、ちゃんと笑えてる自信が全くと言っていい程ない。表情引きつってるかも。



「それでお兄ちゃんは何気に緊張しやすいと・・・・・・よーし」



次の瞬間、その子は僕の左腕に抱きついて甘えるように頭を肩に乗せた。



「お兄ちゃーん♪」

「恭文さーん♪」

「え、これなんのプレイっ!? さすがにこれは」



そして容赦なくシャッター音が響く。



「・・・・・・てーかここ撮るんですかっ! やめてー!!
僕本命が・・・・・・本命が居るのー! これはマズいのー!!」

「お兄ちゃん、優亜の事嫌い?」

「恭文さん、リイン達は・・・・・・邪魔ですか?」

「そういう問題じゃないからねっ!? てーかおのれも初対面なのにノリいいねっ!!」










それでそんな風にツッコミしている様は容赦なく撮られ、プリティの今月号に掲載。





その結果海鳴は元より、那美さんや薫さんの居る鹿児島まで衝撃を運ぶ事になった。





そんな未来予想図は一切気にしない事にして・・・・・・次はあむの番である。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



さて、今更だけど聖夜小の中庭にはバルコニーもいくつかあったりする。

その下にはベンチが備えつけられていて、休憩所にもなってる。

10月の程よい気候の中だと、そこは何気に休憩スポットとしては良好だったりする。





もうここまで言えば分かると思うけど、今回の撮影はそのバルコニーで行う。・・・・・・胃が痛い。










「蒼凪君、大丈夫? もう顔が真っ青だけど」

「唯世、僕は妹キャラにトラウマ出来たかも。てーかアレだ、妹は悪魔だ」

「ディードさん居るのにそれはアウトだよっ! あの、しっかりしてー!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・あの、よろしくね」

「うん」



・・・・・・ついにあたしの番。凄まじく緊張はしているけど、ここは冷静に冷静に・・・・・・だけどちょっと気になる。

優亜ちゃん、あたしの顔見て首を傾げてるんだ。うーん、どういう事だろ。



「はーい、目線くださーい」



とりあえずそこは後。あたしは優亜ちゃんと一緒にカメラの方を見た。



・・・・・・おーほほほほほほほほほほほっ!!



でも突然に後ろに人の気配と声。あたしと優亜ちゃんは軽く引きながらそちらを見た。

そうしたら中心で不敵に笑う山吹さんと、いつもの取り巻き四人が居た。



「山吹さんっ!?」

「モデルならこの山吹紗綾にお任せあれっ!!」

『紗綾様素敵ですー!!』

「さぁ、好きなだけ撮影なさって」



そして次の瞬間、山吹さんは唐竹に打ち込まれたハリセンによって言葉を止められた。

それだけでなく、制服の首の辺りを掴まれて無理矢理引きずられていく。



「がふっ! あなた何を・・・・・・蒼凪さんっ!?」

「はいはい、撮影の邪魔するのはやめようねー。プリティの人達だってスケジューリングってのがあるんだから」

「いや、あの・・・・・・離して下さいませんことっ! ここは私が出なくてはまとまらないと」

「はいはい、話は署でゆっくりと聞かせてもらうからこっち来ようねー」

「署ってなんですかっ!!」



・・・・・・とにかく恭文が山吹さんを引っ張ってくれた。取り巻き四人も山吹さんを追いかけていった。



「あむー、山吹紗綾は僕が止めとくからとっとと撮影済ませてねー」

「あ、うん。分かった。ありがとねー」

「ちょっとっ! あなた達この私を邪魔者扱い・・・・・・だから引きずらないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」



恭文のおかげであたし達は特に問題もなくその場で撮影再開出来る。

でもなんというか、あたしはちょっと苦笑い気味。



「・・・・・・あははは、あの子ウケるー。てゆうか、なんか大人っぽいし・・・・・・結構好みかもー」

「あぁ、まぁ恭文が大人っぽいのはとうぜ・・・・・・え、好みっ!? いきなりなんですかそれっ!!」



そんな驚きもありつつあたしの撮影は滞り無く終わって、最後に全員の集合写真を撮って撮影は全て終了。

・・・・・・でも気になる。やっぱりこの子あたしの事見てるんだよね。具体的には今も首を傾げてジッと見ている。



「あむ・・・・・・あむ・・・・・・あむ・・・・・・あ」



そうかと思うと表情を崩して、いきなりあたしの両手を取って来て嬉しそうに笑った。



「えっ!? あの・・・・・・えっと、なにかな」



あたしがそれに動揺している間に、次の爆弾は遠慮無く投下された。



「お久しぶりですっ! 日奈森先輩っ!!」

「・・・・・・え?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



場所をロイヤルガーデンに移して、ワケが分からないという顔のあむと嬉しそうな優亜を引っ張ってテーブルに着席させる。





それで紅茶を飲みつつ優亜の話を聞いて・・・・・・びっくりした。優亜、あむの後輩だったそうなのよ。










「えー! あむちんと優亜たん、同じ幼稚園だったのっ!?」

「はい。優亜がすみれ組だった時、先輩は一個上のくじら組でした」

「あむさん、そうなのですか?」



・・・・・・ただなんというか、問題があるのよ。あむがものすごーく困った顔をしている。それで優亜に目を合わせ辛そうにしている。



「・・・・・・あむ、覚えてないんだね?」

「薄情者ね」

「はぁっ!? 恭文もりまも何言ってくれちゃってるわけっ! もう全然そんな事ないしっ!!」



あむはやらなきゃいいのに外キャラを発動してそんな事を言ってしまった。それで優亜の方を必死な顔で見て。



「運動会の時、フォークダンスを一緒に踊ったっ!!」



こんな事を言い出すのである。



「いえ」



でも、満面の笑みでそれは無碍に否定されてしまう。だからすぐに次の弾丸を用意する。



「じゃあ遠足の時っ!!」

「違います」

「お昼寝」

「いえ」



だけどその全てが外れてしまって、あむは右手で頭を抱えて悩み出す。



「あむ・・・・・・別に気にする事ないと思うけど。僕だって10歳までの記憶は完全あやふやで覚えてる事の方が少ないし」

「いや、アンタの場合は特殊な事情絡みまくりじゃん。・・・・・・あぁぁぁぁぁぁぁっ! しっかりしろあたしっ!!」

「ひ、日奈森さん落ち着いて? ほら、無理もないよ。幼稚園の時の話だし」



唯世はやっぱり嬉しそうな優亜の方に視線を向ける。



「それに学年そのものも違ってたんだよね?」

「はい。それに先輩が覚えてないのも無理ないですよ。優亜、あの頃は今と違って地味系だったし。
優亜だって、先輩の事すぐには分からなかったしおあいこですよ。・・・・・・てゆうか」



優亜は瞳を閉じて、表情を変えずに少し声のトーンを落とす。



「大体同じ幼稚園でも、先輩とは遊んだ事もないし。軽く一回話しただけ」

「え?」



軽く一回話しただけ? それで・・・・・・アレレ、なんかおかしいぞ?



「それからすぐに先輩は別の幼稚園に引っ越したから、先輩とはそれっきり」



僕や唯世達の疑問はそれとして、優亜はあむの右手を両手で取って握り締めた。



「でも・・・・・・あの時の先輩の言葉、優亜のハートに超残ってる」

「えっ!? あ、あたし・・・・・・えぇっ!!」

「・・・・・・あぁ、なるほど。チビあむが話術サイド展開して落ち込むなりしてた優亜を助けたと」



優亜が驚くように僕の方を見るけど、僕は変わらずに紅茶を一口。



「あむ、僕の知る限りでもかなりの数そういう事しててね。それで察しがついたの」

「・・・・・・うん、そうなの。でも、そうなんだ。先輩・・・・・・変わってないんですね。優亜、なんか超感激ー」

「いや、あの・・・・・・だからちょっと待ってー! あたしはマジで何したっ!? ねぇ、何したのかなっ!!」

「うふふー、なんか嬉しいなー」



優亜は両手を広げて、頭上高くに万歳するように伸ばした。



「この再会ってやっぱり・・・・・・運命かもっ!!」

・・・・・・それではうたいます



それでそんな優亜の頭上に、白色に楽譜のような線や音符が描かれたたまごが出てきた。

そのたまごは割れて、中からピアノ柄のマフラーを巻いてオレンジのベレー帽をかぶる女の子が出てきた。



運命と書いて『さだめ』っ!!



ベレー帽には音符のアクセサリーが付けられて、髪は金色の肩くらいまであるショートカット。

白色のワンピースとシューズを身に纏い、左手にはマイク。大きさはシオン達と同じくらい。つまりこの子は。



『・・・・・・しゅごキャラっ!?』

初めまして、私セシル。優亜ちゃんのしゅごキャラ

「もう、アンタなんでいつも優亜についてくるの? ちょうウザいんですけど」

『え?』



優亜は本気でこの子の事を迷惑そうに見て、セシルはその青い瞳を悲しげな色に染めて優亜を見ている。

・・・・・・僕はシオンと顔を見合わせて、頷き合った上で一つ質問をしてみた。



「あー、優亜。一つ質問」

「ん、なにかな」

「・・・・・・しゅごキャラって分かる?」

「しゅごキャラ? あ、さっきもなんか先輩達叫んでたけど・・・・・・何それ」

「これは・・・・・・決定ですね。桜井さんはしゅごキャラの事がよく分かっていらっしゃらないようです」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



というわけで、僕達のしゅごキャラも見せた上で優亜に説明開始である。





ここの辺りはあむが居る関係で順調に話が進んだ。いや、ここは真面目に良かった。










「・・・・・・『なりたい自分』?」

「うん。こころのたまごにはそれだったり自分の夢だったり、未来への可能性が詰まっている。
そこから生まれるキャラ・・・・・・しゅごキャラは、宿主のそれらが形になったもの」

「つまり桜井さんのしゅごキャラであるセシルさんも同様という事。セシルさんは桜井さんの『なりたい自分』です」

「優亜の」



優亜は改めて自分の隣で不安そうな顔をしているセシルを見る。そして大笑いをし始めた。



「あはははははっ! このチッコイのがっ!? ムリムリー! ちょーウケるんですけどー!!」



・・・・・・新しい反応だなぁ。まぁ確かに普通にどうしてそうなるのかとか分からないのは納得出来るけど。

セシルはそんな反応に当然不満を隠せない。だからまた左手のマイクを口元に向けた。



それではうたいますっ! 壊れかけたプライドっ!!



その言葉で優亜の表情が一気に不愉快そうなものに変わった。そのままセシルを睨みつけ始める。



「やめて」

それではうたいますっ! 好きにさせてっ!!

「やめてって言ってるでしょっ!?」

セシルは歌が好きなのっ!!

「優亜は歌が嫌いなのっ!!」



セシルも優亜同様に視線を厳しくして睨み合って・・・・・・これはまた。



「しゅごキャラと仲が悪いなんて・・・・・・新しいパターンよね」

「確かにそうだな。ナギナギとシオンもキャラチェンジやキャラなりがアレなのに上手くやってるってのに」

「リズム、そこには触れないで。しかし・・・・・・歌かぁ」



どうやら優亜の『なりたい自分』は、歌が関係あるっぽいなぁ。だってセシルがあの調子だし。

それで先輩であるあむの方も見てみる。でもあむの表情は、僕達とさほど変わらなかった。



「・・・・・・居た居たっ! 優亜ちゃーんっ!!」



その声はロイヤルガーデンの入り口の方から。そこを見るとソフト帽をかぶってTシャツ姿のメガネのお兄さんが居た。

どうやら優亜のマネージャーっぽい。撮影の時も優亜の側で結構忙しく動いてたりしたから、多分間違いない。



「あ、どうしました?」

「そろそろ次の撮影の時間だよー」

「えー! 優亜ちゃんもう帰っちゃうのー!?」

「寂しいですー! もうちょっと居るのですよー!!」

「こらこら。そこの二人無茶言わないの。お仕事は大事なんだから。ね、優亜」



寂しそうな顔をした二人の頭を撫でながら優亜の方を見ると、優亜は表情を明るくして頷いた。

それで次に視線をあむの方に向けて、あむに近づいてまたその手であむの手を取る。



「先輩、今日は会えて本当に嬉しかったです。
・・・・・・あ、そうだっ! 先輩、今度スタジオに遊びに来てくださいっ!!」

「えっ!? スタジオってなにっ!!」

「はいはーいっ! ややも行きまーすっ!!」

「リインも行くですよー♪」

「あの、だからそこの二人落ち着いてくれますっ!?
何あむが誘われてるのに普通に乗っかろうとしてるのさっ!!」










結局話はトントン拍子でまとまり、明日の放課後になぜか僕とりまも巻き込んで行く事になった。





な、なぜにこんな事に。てゆうかリインがテンション高過ぎる。そんなに優亜に憧れてたんかい。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・それでアンタは疲れた顔してると。てゆうか、初等部が騒がしかったのはそのせいか」

「・・・・・・うん」



リインとりまとあむは先に家に戻った。僕はティアナと学校で合流してから、食材の買い出し。

夕方の住宅街を歩きながら、ティアナに軽く愚痴ってしまう僕はきっと悪くない。だって昨日の今日でコレだもの。



「まぁいいんじゃないの? リインさんも小学校生活楽しんでるって事だもの」

「そうなのかなぁ」

「きっとそうよ。私もね、リインさんの気持ちは分かるんだ」



両手いっぱいの買い物袋を持って歩きながらティアナは、ゆっくりと夕焼けの空を見上げて微笑む。



「ここに居ると局員してるだけじゃ分からない事とかにいっぱい触れられるしさ。
そういうので色々考えて楽しくなって・・・・・・うん、きっとそれは良い事よ」

「・・・・・・そうだね。うん、そう思う事にするわ」

それではうたいます



納得して二人で笑いつつこのままシーン転換とか思ってたのに、そうはいかないらしい。

僕達二人は足を止めて、少し前の曲がり角に隠れている小さな影に視線を向ける。



「・・・・・・ねぇアンタ、アレしゅごキャラよね? アンタの知り合いか何かですか」

「そうだね、正確には今日知り合ったよ。ほら、さっき話した」

「あー、その桜井優亜って子のしゅごキャラ?」

それではうたいます。・・・・・・ファイナルアンサー?

「いやいや、なんでクイズ形式っ!? てーかそんなとこ隠れてないでこっち来なさいよっ!!」



セシルはティアナの言葉通り、物影から出てきてこちらに近づく。でも・・・・・・なんか空気が暗い。



「セシルさん、こんなところでどうしたんですか。桜井さんのお仕事はこの近くですか?」

「ううん。優亜ちゃんはまだお仕事です」

「え、アンタその子と一緒じゃないの? しゅごキャラなのに」

「優亜ちゃん・・・・・・ウザがりますから」



ティアナ、困った顔で僕を見ないで。いや、確かにあの調子ならしょうがないとは思うけど。

でもセシルの背中が凄い寂しげで、今にも泣き出しそうな・・・・・・僕は一つ決断した。



「・・・・・・セシル、うち来る? ほら、寒いしなんなら明日優亜のとこ行くまで泊まってくれてもいいし」

「そ、そうよね。あの、私達のとこならアンタの知ってるあむとかも居るのよ。
しゅごキャラ見える人間ばかりだから問題ないわよ? ね、そうしましょう」

・・・・・・それではうたいますっ! あなた達の優しさに乾杯っ!!










セシル、嬉しそうだね。まるでさっきまで北風吹いてたのに急に温かくなったみたいな感じで嬉しそうだね。





もしかして優亜のとこで相当冷遇されてるのかな。だとしたら・・・・・・むむむ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・それではうたいますっ! ピカピカっ!!

『いぇーいっ!!』

太陽サンサンーピカピカー♪

『ピカピカー♪』



それでうちに連れて来たのはいい。フェイト達も納得してくれたのもいい。

ここは先に帰ってたリイン達が今日の事を話してたからだよ。



てらーす浜辺にピカピカー♪

『ピカピカー♪』

いつーも笑顔でピカピカー♪

『ピカピカー♪』



でも・・・・・・でも納得出来ない事がある。だからこそ僕とティアナは一旦『箸』を置いてセシルとうちのしゅごキャラーズを睨む。



「えぇい、やかましいわボケっ! 食事中に真横でうたうなパーティーするなっ!!」

「ホントよっ! ピカピカする前に私達の神経がピキピキなんだけどっ!?
大きな歌声で神経がピキピキよっ! このニュアンスの意味分かるかしらっ!!」

「あぁ、ヤスフミもティアも落ち着いて? あの、私はむしろ楽しくて嬉しいな」





フェイト、嬉しそうなのはどうしてっ!? もしかしてお腹に良いからかなっ! 胎教に素晴らしいからかなっ!!



でも周りを見てっ! 僕達だけじゃなくて、シャーリーもリースもリインもあむも困り顔だしっ!!



まぁりまとディードは平然とご飯食べてるけどさっ! でも僕は正直これでOKなのかちょっと考えちゃうよっ!!





「でもセシルちゃん、歌上手だね。というか、本当に歌が好きみたい」



だけどフェイトはセシルの歌が本当に気に入ったらしくて、優しくセシルの方に視線を向ける。

セシルは照れたようにはにかんで、少し視線を落とした。



「セシルは・・・・・・歌が好きな優亜ちゃんから生まれたしゅごキャラだから」



その言葉にあむとりま、それに僕とリインは少し驚いてセシルの方を見る。



「え? あのセシル、ちょっと待って。優亜確か昼間歌が嫌いって」

「優亜ちゃん無理してるの。優亜ちゃんのホントの夢は歌手になる事」

「歌手ですか。うーん、それは素敵なのです」

「あ・・・・・・言っちゃったっ!!」



セシルは慌てた様子でそれまで立っていたテーブルの上から飛び立ち、玄関のある方へと飛んでいく。



「セシルちゃん? あの、どうしたのかな」

それではうたいますっ! また会う日までー!!



それでそのまま玄関の方へと消えて・・・・・・場は一気に静かになった。



「おじいさん、今のもしかしてお別れの挨拶じゃ」

「・・・・・・多分ね。でもリース、よく分かったね」

「なぎ君、それはしょうがない。今までの会話を聞いてたら丸分かりだもの」

「そっかぁ。うん、僕分かってたわ」










その後、フェイトはセシルの歌が聴けなくなったのが本当に残念そうで、寂しげにしてた。





だから僕はそんなフェイトをいっぱい抱きしめて頭を撫でながら寝て・・・・・・ラブラブ、やっぱ幸せだなぁ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして翌日の放課後。僕達は優亜から教えてもらった撮影所に学校が終わって服を着替えた上で直行。

そこでは優亜を被写体に撮影・・・・・・って、この説明は当然か。ただ空気が違う。

フィアッセさんやゆうひさん、歌唄もそうだけど、誰かの前に立つ仕事をする人は立った瞬間からエンジンがかかるらしい。





今の優亜は例えリインとややと同い年だったとしても、ちゃんとプロのモデルとして仕事をしている。





僕達は邪魔にならないように後ろに下がってその様子を見て、優亜のプロ意識の高さに感心していた。










「あの子、中々やるわね」

「うん。優亜、昨日と雰囲気全然違う。あたし、フィアッセさんや歌唄の事思い出しちゃった」

「あむも? 実は僕も。僕も仕事人としては見習いたいなぁ」





ただそこに関しては別に優亜だけじゃない。カメラマンさんもアシスタントさんも、全員そういうスイッチが入ってる。

だから楽しく和気あいあいとしているように見えて、どこかピンと張り詰めたものもあって・・・・・・まさしくプロの現場だよ。

こういうのいいなぁ。ガーディアンの仕事でよく感じてはいるけど、やっぱりいい。



でもそれが普段の局の業務や機動六課でのアレコレでは全く感じられなかったのは・・・・・・どうしてだろうなぁ。





はいはーいっ! メイク入りまーすっ!!

やるですよー♪



でもそんなプロの現場にいきなり飛び込むバカ二人が居た。・・・・・・僕は足を進める。



「ややっ!? てゆうかリインちゃんもっ!!」

「姿が見えないと思ったら、いきなり・・・・・・あ」



でも悲しい事にバカは二人だけじゃなかった。バカは増殖してしまった。



あ、私は汗拭きますね

髪に崩れが・・・・・・少し失礼します

「シャーリーさんとディードさんっ!? なんでここにっ!!」

「こらこらっ! 入ってきちゃだめじゃないかっ!!」



当然のようにマネージャーさんが怒り心頭という様子でやや達を止めに入る。

でもややとリインはそんなマネージャーに笑顔を向けた。それでマネージャーさんが軽く怯む。



「・・・・・・空気、読むですよ?」

「そうだよ。ホントお兄さんは空気を読むべきだと思うな。今はやや達の時間なんだから」

その前におのれらが読まんかいボケっ!!



背後から近づいて、一気にアホかましまくった四人の頭頂部にハリセンを叩きつける。

それで全員がどういうわけか恨めしそうに僕の事を見出した。



「痛いー! 恭文いきなり何するのー!?」

「ですですっ! リインの事が好きだからいじめたくなるのは分かるですけど、いじめなくてもリインは恭文さんLOVEなのですよっ!?」

「ふざけんなボケっ! なんで僕が責められなくちゃいけないのっ!? それ勘違いだからっ!!
責められるべきはおのれらなのよっ! あとリイン、帰ったらしっかり情操教育施すから覚悟しとけっ!!」



で・・・・・・そこの大人と僕の可愛くて愛らしい世界一素敵な妹はなにやってるっ!?

なんでまたそこのバカコンビと同じように僕に不満そうな視線を向けるのよっ!!



「なぎ君、ホントにいい加減にしてっ!? 私達は撮影が上手くいくように尽力してるんだからっ!!」

「恭文さん・・・・・・お願いします。私は、ここで修行をしなくてはいけないんです」

「よし、おのれらちょっとこっち来いっ! おのれらには空気を読む修行ってのが必要だわっ!!
それとこれだけは言っておくわっ! お前らが手伝わなくてもこの撮影は上手くいくのよっ!!」

「あはははははっ! ウケるー超ウケるんですけどー!!」

「そしておのれも笑ってないで全力でコイツらにツッコめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」










優亜の頭頂部に思いっきりハリセンを打ち込んだ僕は、絶対に悪くないと思う。





その後、四人を隅まで引っ張ってスタッフの皆さんに謝り倒した上で四人には説教をしました。





・・・・・・でもそれ以前になんでシャーリーとディードが居るのっ!? 僕なんも聞いてないんですけどっ!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



結論から言おう。シャーリーとディードはリインとややが連れて来てた。てーか呼んだらしい。





撮影は一旦休憩で、ややの控え室に来た僕の第一声は・・・・・・これだった。










「・・・・・・ツッコミ疲れた」

「あははー、優亜も含めて五人分だもんねー。そりゃ疲れるってー」

「だったら乗っからないで欲しかったんですけどっ!? てゆうか怒っていいっ!!
優亜はそこのバカ共に対してスタンドライト投げつけるくらいの事はしていいからっ!!」

「ほらほら、怒らない怒らない。またツッコミ疲れちゃうよ?」





でも、疲れてるかどうかで言うとそう言って楽しそうに笑う優亜の方に軍杯が上がると思う。

だって優亜は顔と足にスキンケアのためのパックをしまくりだから。『肌はモデルの命』という事らしい。

特に足は一日立ってるとすぐにむくむとかで・・・・・・その様子に僕達全員感心する他なかった。



マジでプロの意識ってのが根っこにあるのよ。表面上は派手で華やかに見えても、根っこは大変なのよ。





「あははは、ごめん。なんかこうはしゃいじゃって」

「恭文さん、すみませんでした。その・・・・・・優亜さんが余りにも輝いてて」

「ううん、ディードはいいの。ちゃんと反省したもんね」



僕は泣きそうな顔のディードの頭をそっと撫でてあげる。ディードはそれだけで嬉しそうに笑ってくれる。



「でもシャーリー、リイン、やや・・・・・・おのれらは許さない。絶対にだ」

『なんでディード(さん)だけっ!?』

「恭文、アンタ落ち着きなってっ! ディードさん可愛いのは分かるけど、それは絶対よくないからっ!!」

「分かってるって。後でまたちゃんとお説教するから」



これでも保護責任者だしね。そこはきっちりとしておきたいのよ。そう、しておきたい。

例え血の涙を流しても、全てはディードの健全な教育のため・・・・・・僕は右の拳を胸元で強く握り締めた。



「いや、まぁ・・・・・・そんな涙目にならなくても。・・・・・・でも優亜」

「なんですか?」

「モデルって大変なんだね。改めて考えると理想的な被写体ってやつで居なきゃいけないわけだし、大変じゃないわけないんだけど」

「あはは、そんな事ないですよ。毎日の心がけ次第で・・・・・・あ、そうだ。先輩もやってみません?」

「え?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



というわけで、早速優亜があむを鏡の前に座らせて髪型をチェンジ。

いつもはストレートなあむの髪に軽くカールをつけて全体的にふわりとした感じにセッティング。

やった事はたったそれだけだけど、全体的に印象が柔らかくなって上品になった。





さながらその姿はどこかのお嬢様。あむは目を見開いてその変化に感嘆としていた。

どうやら何気にこういうセッティングはやった事がなかったらしい。新しい自分の発見に驚いてるようにも見えた。

ただ、話はここで終わらなかった。優亜の思いつきであむも撮影に参加する事になった。





優亜とコンビで撮影所に入って、一枚一枚丁寧に構図が決められ二人は撮られていく。





あむはこういうモデル関係では素人に近いはずなのに、優亜と並んでも遜色なく見えるのが不思議だった。










「・・・・・・恭文さん、あむさん綺麗ですね。優亜さんにも負けていない」

「そうだね。これ、前に先生が言ってたんだけどね」

「はい」

「心が輝いている人は、何をしていても美しいものなんだってさ。つまりはそういう事じゃないの?
あむはなんだかんんだで単純ヘタレな分、そういう汚れみたいなものが少ないのよ」



視線を向けずにとなりのディードにそう言うと、ディードはクスリと笑った。



「恭文さん、それはあむさんが怒りますよ?」

「いいのよ、褒めてるんだから」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



それで撮影は滞り無く終了。僕達は一足先に楽屋に戻っている優亜にまた会いに行く形で廊下を歩く。

ややとリインはあむを羨ましそうに見ていて、あむは新しい髪型のまま幸せそうにしてたりする。

それで楽屋の前に来ると、中から優しい歌声が聴こえた。それで僕達は邪魔しないようにゆっくりとドアを開ける。





そこでは優亜が鏡と向かい合いながら歌をうたっていた。

僕達には背中を向けている形だから、直接的に顔は見えない。

だけど、鏡に映っている優亜の表情は楽しそうだった。





それを聞いて昨日のセシルの話やロイヤルガーデンでの事を思い出す。





・・・・・・やっぱりこの子は、歌が好きらしい。










「やっぱり優亜、歌が好きなんだ」



あむが声をかけると、優亜が身体を震わせる。それで鏡越しに見える表情が愕然としたものになった。



「・・・・・・やだ、ありえない。なにうたってんだろ」



どうやら本当に無意識にうたっていたらしい。鏡から見える表情でそれが読み取れた。



「優亜の夢って、歌手になる事なんだよね?」

「えー! そうなのっ!? 優亜たん歌手になりたいんだー!!」



あむがまたバカな事にその話をするから、優亜は目を見開いて一気に立ち上がる。



「アンタ先輩に何言ったの」



優亜の声は硬く震えていた。その声は僕達の誰でもなく・・・・・・部屋の隅っこに隠れていたセシルに向けられたものだった。

僕はあむの右隣に居たので軽く左肘であむをツツいて、視線を送った。あむは困ったような顔で僕を見出す。



「マジでありえないんですけど」



多分角度的に鏡越しで顔が見えているのは、僕と真逆に居るディードとシャーリーだけだと思う。

優亜の表情がどんなものなのかは、察して欲しい。どうやらこの子はそこをツツかれるのが本当に嫌っぽい。



「・・・・・・別にいいじゃん」



でもそんな状況を覆すように、あむは優しく優亜に声をかけた。

優亜は驚きながらあむの方に振り向いて、震える瞳であむを見つめた。



「歌手・・・・・・良いと思うけどな」

「先輩・・・・・・本当に、そう思います?」

「うん」



あむが優しくそう言うと、優亜が軽く息を吐いた。それで張り詰めた場の空気が一気に和らいだ。

・・・・・・そんな時、後ろの入り口からノックの音。優亜が『はい』と言ってからドアは開いた。



「優亜ちゃん」



そこで部屋の中に入ってきたのは、あのマネージャーさん。・・・・・・ヤバい、また申し訳ない気持ちになってきた。



「今度出るガールズフェスティバルの事なんだけど」

『ガルフェスッ!? あの有名なファッションイベントのっ!!』





さてここで解説。あの四人が今声を揃えて名前を出したガールズフェスティバルとは、ティーンズ向けのファッションイベント。

ティーンズ向けのファッション雑誌だったり服を作っている会社達がスポンサーを務めて開催するイベント。

基本は他のファッションショーとかと同じかな。新作の服を出したり、今年流行の着こなしを紹介したりするんだ。



フェイトが僕と知り合った頃から続いている結構歴史のあるイベントで、年々規模を増しているの。



そう言えば今年はここ・・・・・・聖夜市で開催されるんだっけ。そこの三人が行きたがってたから僕もそうだしフェイト達も知ってる。





「え、ガルフェスに優亜たん出るのっ!?」

「・・・・・・うん」

「それはまた・・・・・・凄いじゃないのさ」

「ですですー」

「あはは、ありがと」



ガルフェスって基本的にはかなり大がかりなイベントだから、出演者も相当よりすぐられてるのよ。

そこに優亜が出られるというのは、優亜のモデルとしての実力がちゃんと評価されてるからと見ていい。



「実はそこで、優亜ちゃんにうたって欲しいってオファーが来てるんだけど」

「・・・・・・え」



優亜はまた息を軽く吐きながら驚きの声をあげる。セシルの方を見ると、優亜と同じように驚いた顔をしていた。



「え、優亜たんうたうのっ!? なら行く行くー!!」

「優亜、良かったじゃん」

「・・・・・・先輩も」



でも優亜は次に不安そうな顔をしながら、あむの方を横目で見る。



「来てくれますか?」

「もちろん」



か細い声で・・・・・・昨日やさっきまでとは違うキャラで優亜はそう言った。

だけどあむが即答した事で表情を崩して、思いっきり笑ってガッツポーズを取る。



「よしっ! じゃあ・・・・・・うたっちゃおうかなっ!!」

『おー!!』

「・・・・・・大丈夫?」



マネージャーさんは優亜の顔を覗き込むように腰を落とす。でも優亜はやっぱり笑顔。



「大丈夫大丈夫っ! 頑張るぞー!!」










・・・・・・どうやらガルフェスには僕も行かなきゃいけないらしい。もちろん保護者として。

だってうちの三人を放置は出来ないもの。てーかコイツら今日の事一切抜きで行く気満々だし。

だけど僕は・・・・・・一つ気になってた。マネージャーが優亜をやたらと心配そうに見てるのよ。





まぁリインとかから聞いてる限りでは優亜は歌を公の場でうたった事がないっぽいし、そのせいかとも思った。





デカい舞台のせいだしそのせいかなーとも思ったけど・・・・・・だけどやたらとその視線が気になってしまった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そしてガルフェス当日。場所は聖夜市内にあるコンベンションセンター。なお、来場者は千人単位。

そんな中で僕はフェイトの手を引きつつ・・・・・・うん、フェイトも来てるの。少しは動かないと身体に悪いから。

てゆうか、うちのメンバーは総出だったりする。あははは、なんなんだろ、この状況は。





それで僕達は全員それぞれにおめかし。なお、僕は無印第5話でフィアッセさんからもらったスーツ着てます。










「・・・・・・でもみんな、オシャレに気合い入ってるね」

「えー、でもそれはフェイトさんもじゃないですかー。大人っぽい感じで素敵ですー」

「ありがと、やや」

「なんというか、女子は何かと大変だな。恭文や唯世はいつもの調子だが」



王様がそう言いながら、気合いの入ってる女子達を感心したように見ている。

確かに・・・・・・全員が全員おしゃれしまくりなんだよね。リインもゴスロリチックに決めてるし。



「それでティアナさんもパンク風なのね」

「まぁね」

「ティアナさんカッコ良いー。それでそれで、とっても綺麗ー」





確かにクスクスが言うようにカッコ良いと言った方が正解なのかも知れない。

ダメージジーンズに英字が入れられているTシャツにジャケットを羽織るティアナはそういうイメージが似合う。

ただティアナのスタイルが元々かなり良い関係で、女性としての色っぽさもあったりするのよ。



特に胸だよ胸。胸の谷間も見えてるし、実は何気に露出が多い格好だったりする。





「ありがと。いや、実は最近女子力高めていきたいなーって考えてて・・・・・・まぁちょっと」



ティアナが女子力・・・・・・確かにチョコを作った時のあの調子じゃあ限りなく0に近いよなぁ。

なお、さすがにこのメンバーが勢揃いなせいで非常に目立っている。だけど僕は気にしない。



「でもなぎひこ遅いわね。確かもう待ち合わせ時間過ぎてるんじゃ」

「えぇ。もうすぐ着くとは連絡が来たんですけど」

「あー、唯世。それなら大丈夫だよ」



僕は言いながら5時の方向に視線を向けた。それで固まった。



「あ、もう来たんだね。さすがは蒼凪君、気配で・・・・・・え?」



次に唯世が固まった。同じように僕が見た方向に視線を向けた全員も固まった。



・・・・・・ごめん、待たせちゃって。服決めるのに少し時間がかかっちゃって





そんな風に声をあげながらこちらに走ってくるなぎひこは・・・・・・凄いエンジンかけてた。

白いソフト帽に黒の半袖シャツに薄い紫のスラックス。腰には白いベルトとチェーン。

両手には手の甲から先が出るような長めの手袋みたいなのを装着。



その上から白と黒のチェックの丈の短いポンチョを羽織って、頭の上には白いソフト帽。



どっからどう見てもこの中の誰よりもなぎひこは気合いを入れていた。





「・・・・・・負けた」



なぎひこを見て、何気に本日の女子力に自信を持っていたと思われるティアナは愕然としてその場で崩れ落ちる。

そんなティアナにリインとは色違いの黒のゴスロリルックで決めていたリースが慌てて駆け寄る。



「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? ティアナさんしっかりー! というか、そんなに自信持ってたんですかっ!!」

「あー、ティアも私と一緒に今日はかなり頑張ってたしねー。でも・・・・・・負けた」

「シャーリーさんも崩れ落ちないでくださいー!!」

「・・・・・・ナギナギ、どうしたんだ? なんか全員ナギーを見て困った顔してるんだが」

「まぁその・・・・・・女の子は色々あるって事だよ。うん」










僕は手を繋いでいるフェイトの方を見てみる。フェイトはみんなの様子を見てやっぱり苦笑してた。





まぁそりゃあなぁ。この中で一番女子力というか、そういうの高いのなぎひこなんだから。いや、ある意味当然なの?




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



その後、僕達は優亜の楽屋に挨拶に行く事にした。もちろん前もって優亜やスタッフさんの許可は取ってる。

一時的なパスを見せた上で裏口から入り、楽屋を目指す。裏では表の華やかさとは全く違う形で動いていた。

スタッフの誰もが忙しそうに走り回り、まさしく本番間近という雰囲気で満たされていた。





そんな中で僕達は軽く道に迷ったりしたけど、その・・・・・・心強い道案内を見つけたわけですよ。










「・・・・・・あの、もしもし?」

「なに? あ、さすがにキスはダメよ? 本当はいっぱいしたいけど・・・・・・でも仕事場だから」

「おのれ前々から思ってたけどやっぱバカじゃないのっ!?
てーか離れてっ!! 仕事場だと分かってるなら僕の手を握らないのっ!!」





現在僕は右手をフェイトに預け、左手を・・・・・・ピンクのワンピースの上から白いジャケットを羽織っている歌唄に取られてる。

胸元が開いて歌唄の胸の谷間とかも見えてたりするけど、それでも歌唄は楽しそう。

・・・・・・あのね、いきなりで意味分かんないと思う。でも大丈夫、僕が一番ワケ分かんないから。



僕もいきなり突撃されてまた抱きつかれた時にはびっくりしたから。





「でも歌唄がファッションイベントに出るなんて知らなかったよ」

「なによ、私が出ちゃいけないの? てゆうかあむ、アンタ相変わらず空気読めないわね」

「なにそれっ! てゆうか、アンタは相変わらずあたしを邪険に扱うよねっ! それどうにかなんないわけですかっ!!」

「キシシシシシシシシシシッ! 歌唄こんな事言ってるけど、本当は恭文だけじゃなくてあむ達とも会えて嬉しいんだぜー!?」

イルちょっと黙っててー!!



あぁ、辛い。具体的には後ろに居る方々が一切助けてくれなさそうな空気なのが辛い。

あとはその・・・・・・後ろに居るリイン? なんか笑顔なのが嫌なものを感じさせて辛い。



「てゆうか恭文、歌唄ちゃんが出るってホントに知らなかったのー?」

「うん」

「嘘ね」

「うん、嘘だね」



よし、そこのジャックとクイーンは黙れっ! なんで普段互いに牽制し合ってるのに、こういう時だけ仲良いのっ!?



「蒼凪君、僕はその・・・・・・認めてるよ? そういうのも一つの関係の形だろうし、無理に隠さなくても大丈夫だから」

「そうだよー。ややも認めてるよ? 浮気とかじゃなくて本気で三人ともーとかなら良いんじゃないかなぁ。
恭文はもっと堂々とするべきだよ。てゆうか、いちいち頭抱えて泣き過ぎー」

「だからおのれらはなんで僕が知ってて隠したみたいな事で話進めてるっ!? てーかマジで知らなかったからっ!!
なにより僕は基本三条プロダクションの部外者なのっ! 歌唄のスケジュールいちいち知ってたら怖いでしょっ!!」

『あ、それは確かに』



確かに歌唄とはほぼ毎日相当回数メールしてるから、まぁまぁ今日はデカい仕事だってのは知ってたのよ。

歌唄が嬉しそうだったのも知ってた。でもこことは思わなかった。まさかここで鉢合わせするなんて夢にも思ってなかった。



「でも歌唄は元々はモデル出身だから問題ないんだよね。その衣装もよく似合ってるし」

「フェイトさん、それは違うのです。今回は歌だけの出演なのですよ」

「そうなの?」

「はい。それでそれで、歌唄ちゃんは久々にこんな大勢の前でうたえるからワクワクなのです」

エルも黙ってー!!



あー、うん。メールで聞いてたから僕は知ってる。あくまでも概要だけだけどね。

ん、でもちょっと待って。歌唄・・・・・・メール・・・・・・携帯・・・・・・あ。



「・・・・・・あー、そう言えばすっかり忘れてた。シャーリー」



あれ、なんでシャーリーは頬を引きつらせてるのかな。僕視線向けてないけどそこは分かるわ。



「な、なにかな」

「歌唄の携帯を弄って僕の携帯端末をGPSで探せるようにしたの、おのれだってね。歌唄から聞いたよ」

「な・・・・・・! 歌唄ちゃん話しちゃったのっ!?」

「えぇ。特に隠す必要もないと思ったから・・・・・・いけなかったかしら。それに口止めもされてなかったし」

「いや、いけないいけなくないという問題じゃなくて」



あれ、シャーリーははんで怯えてるんだろ。視線は向けずに歩いてるけどそこだけは分かるわ。

てーかアレだ。ブラック僕出てきたりスゥとキャラなりしたり、フェイトと歌唄に同時に迫られたりしてホントに忘れてたわ。



「まぁ江戸の敵を長崎で討つという言葉もあるし・・・・・・あとでちょっと僕から話があるから」

「ヤスフミ、そのお話には私も絡ませて欲しいな。・・・・・・シャーリー、本当にどういう事かな。
話しぶりからするに歌唄の携帯はヤスフミの居場所を探す事に特化してる感じなんだけど」

「いや、それはその・・・・・・えっと・・・・・・あははははは」

「「笑って誤魔化すなっ!!」」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・みんな、来てくれてホントにありがと。あ、お花もありがと。というかそっちのお姉さん達は」

「あー、恭文の家族だったり友達だったり・・・・・・恭文って何気に顔が広いんだ」

「みんなも優亜たんの応援に来てくれたんだー」

「そうなんだ。あの・・・・・・ありがと、お兄ちゃん」



あ、なんかフェイトと歌唄の視線が厳しく・・・・・・って、どうしてそうなるっ!?



「優亜、撮影の時のアレコレはもう吹っ切っていいんじゃないかなっ!?」

「・・・・・・あ、そう言えば私聞いたっけ。ヤスフミの事撮影の時にお兄ちゃんって呼んでたって」

「はい。それでどう呼ぼうかなどう呼ぼうかなーって考えて、やっぱお兄ちゃんかなーって」

「「どうしてそうなるのっ!? そこは分からないんだけどっ!!」」



シャーリーに対してのお説教が決まってから少し歩いて、僕達は優亜の楽屋に到着した。

それで挨拶して、出演おめでとうという気持ちを込めた花束も渡して・・・・・・そこまでは良かった。



「ねね、それで優亜たん何うたうのー? やや気になるー」



ただ問題は優亜の歌の話になった時。優亜は困ったような情けないような顔で僕達を見た。

それで僕は自然と視線をマネージャーさんの方に向けた。マネージャーさんはあの時と同じように困った顔をしていた。



「・・・・・・実はその、口パクなんだ」

「えぇっ!?」



口パク・・・・・・ようするに事前に録音するなりミキシングした歌をステージで流すのよ。

で、優亜はうたっているような振りをしてステージ上に立つと・・・・・・それはまた。



「なんでっ!? どうしてどうしてー! 優亜たんあんなにやる気だったのにー!!」

「・・・・・・仕方、ないんだ」



やっぱり困ったように答えたのはマネージャーさん。僕はそれがやっぱり気になって優亜の方を見る。

優亜は鏡の前に座って、どこか諦めた顔をしていて・・・・・・その瞳の色がまた辛い。



「優亜、いいの?」



優亜はあむにも僕達にも目を向けず、ただ視線を落とすだけ。それを見て僕は・・・・・・踵を返す事にした。



「そろそろ時間だね」

「え?」

「みんな、客席に行くよ。歌唄の準備もあるんだし、あんまり長居もダメだよ」

「あの、でも」

「いいから」



僕はあむの目を真っ直ぐに見た。あむは言葉を止めて・・・・・・渋々ではあるけど納得してくれたらしい。静かに頷いてくれた。



「優亜、あの・・・・・・頑張ってね。あたし達応援してるから」

「うん。歌だけじゃなくてショーの方の出番もあるんでしょ? だったらきっちりいかないと」

「・・・・・・うん、先輩もお兄ちゃんもありがと」

「・・・・・・優亜、そのお兄ちゃん呼びはやめない? いや、マジでお願いしたいんですけど」

「えー、いいじゃん。優亜お兄ちゃん居ないから、実は何気に憧れてたしー」










そのまま僕達はお邪魔にならないように、静かに楽屋を後にした。





だけど・・・・・・どうしても全員の空気が微妙なものになったのは、しょうがないのかも知れない。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「あーあー、生優亜たんの歌聞きたかったのになー」

「ですですー」



やっぱり残念そうなのは、年少組なあのコンビ。あとは・・・・・・あむかな。やっぱり納得はし切れないみたい。

フェイトやティアナ達は今ひとつ分からないという顔だけど、僕達は優亜が楽しそうにうたってるのを聞いてるから余計にだよ。



「・・・・・・でも、何か事情があるのかもですね」

「事情って・・・・・・リインちゃん、例えば?」

「例えば優亜さんが体調を崩していて、ステージ上だと声が出せないとか。
あとは実は何気にあがり症なキャラとか・・・・・・考えられる要因はいくらでもあるのです」



今回は暴走しまくりだけど、やっぱりリインはそれなりにそういうとこには理解はあるらしい。

とにかく優亜がステージ上ではうたえない理由があるから、口パクになったのよ。



「でもどうして・・・・・・優亜、あの時はあんなに張り切ってたのに」

「とりあえず体調どうこうは無いと思う。多分元々そういう『病気』持ちだったんだろうね」

「恭文、病気って・・・・・・それどういう事かな」

「あのね、あむ・・・・・・マネージャーさんがこの話をした時僕達も居たじゃない?
それで僕少し気づいたんだけど、マネージャーは優亜がうたう事を本当に心配した様子だったんだよ」



で、この口パク問題と絡めて考えるとひとつの仮説が導き出せるわけですよ。ようするに。



「あの優亜ちゃん、前々からこういうステージでうたえるような状態じゃなかったんだね。
だからマネージャーが本当に心配した様子だったし、さっきも『仕方ない』って言ってた」

「フェイト正解。それで優亜本人がやる気出しても、そこを今日までに解決出来なかったんでしょ」

「・・・・・・そんな」



悲しいかな、お仕事はお遊びではない。特にこういう集団で作っていくステージではそう。

優亜のやる気と結果が伴わなければ、こういう処置も無いわけじゃないのよ。それが正しいかどうかは別としてね?



「・・・・・・私は」



あいもかわらず僕と手を繋いで歩いている歌唄は、ふと思いついたように視線を前に向けたまま呟いた。



「歌に気持ちを込めるのが仕事だから、口パクなんてって思う。でも・・・・・・歌は聴く人のためにあるもの」



それで足を止めて、後ろに居たあむ達の方に振り向く。みんなも歌唄と同じように足を止めていた。



「あの子はモデル。口パクでも聴く人を充分に楽しませる事が出来るなら・・・・・・それはそれで良いと思うけど」





・・・・・・きっとそれは、歌唄が本当にプロだから言える事。プロの歌手だからこそ、ステージに居るみんなの事を第一に考える。

今会場入りし始めている観客達をがっかりさせたり悲しませたりするよりはマシだと、そう言っている。

というかさ、こちらの都合なんてぶっちゃけ観客には何の関係もないんだよね。そうなると結果を出す事が全てになりがち。



まず重要なのはイベントを成功させる事。ここを抜かしちゃうと本当に意味がないのは間違いない。

それがプロってものなんだよ。ある意味ではハードボイルドな世界なんだよね。

どんな状況でも、どんなやり方・・・・・・もちろん合法的且つクリーンなのが望ましいけど、とにかく仕事を達成する事。



でもそれはただ達成すれば良いというわけじゃない。それを届ける誰かの笑顔のために頑張るのよ。

いつぞやのブラック歌唄のようにただ勝つ事だけを、ただトップに立つ事だけを主観に置いても意味なんて一つもない。

ステージに立つプロにとっての『勝ち』は、ライバルを蹴落とす事でもなんでもないのよ。



沢山のお客さんに楽しんでもらって、『来て良かった』と思えるステージにする事。それが歌唄や優亜にとっての勝ちなの。



そう躊躇い無く言い切れる歌唄の言葉は説得力があって・・・・・・だから全員が納得したように押し黙った。





「・・・・・・でも」

「なによ」

「あの、歌唄の言ってる事あたし分かるの。確かにその通りだと思う。
でも、でももしも・・・・・・もしも優亜が本当はうたいたいって思ってたら」

「それは本人の問題よ。そういう『病気』があるなら、努力次第で直していく事も出来るんだから。それならアンタが力になりなさい」



あむはいきなりそんな事を言ってきた歌唄の方を見て、驚きながら目を見開いて右手で胸元を押さえた。



「見たところアンタが一番親しそうだもの。気になるならいつもみたいに無神経に飛び込んで、話聞いて説教してやればいいじゃないの」

「・・・・・・歌唄」

「なによ」

「ありがと」

「いいわよ、礼なんて。てゆうか、意味分からないし」










僕達はまた歩き出して、さほど経たずに歌唄と別れた。・・・・・・抱きつかれたけど、僕は気にしない。

とりあえず後でゆかりさんに、『歌唄に自重する心というものを教えた方がいい』とメールで進言しておく事にする。

まぁなんにしても僕達が指定席で取ってもらった客席に座ったところで開演時刻は目前。





すぐにステージは綺羅びやかにライトアップされ、その上で夢の時間は始まる事になった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



先輩達、がっかりさせちゃったかな。なんかもう・・・・・・本当に落ち込んでた。

だけどステージには出なきゃいけないし、ちゃんとお仕事をやろうと思っていた。

だって、それがプロだもん。だから舞台袖でガッツポーズを取りつつ気合いを入れ直していた。





でもそんな時にスタッフさんの一人が走り込んで来た。










「・・・・・・大変ですっ! 優亜ちゃんのボーカルデータ、操作ミスで全て消えちゃいましたっ!!」

「なにっ!? おいおい何やってんだっ! 出番はもうすぐなんだぞっ!!」

「ホントにすみませんっ!!」



ボーカルデータは今日までに時間をかけて作ったもの。だから当然のようにすぐ代わりのものなんて出来ない。

でも優亜のステージはもうやるって決まってるし・・・・・・優亜はさっき入れた気合いの方向転換を決めた。



「・・・・・・うたうよ」

「「え?」」

「優亜、うたうよ」

「優亜ちゃん、それは無理だよっ! 君の人前だとうたえなくなる癖、治ってないんだぞっ!?」



・・・・・・優亜がこのステージを口パクでうたわなきゃいけない理由は、ここなの。

優亜・・・・・・その、人前でうたえない。うたえないから、無理だったの。



「でも、やるよ。お客さん居てくれてるし、それに・・・・・・先輩も居るから」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・あれ、メール?」



僕の隣に座ってたあむが、未だ続くファッションショーから視線を外して携帯を開く。



「えっと、優亜からで・・・・・・はぁっ!?」

「あむ、どうした?」

「いや、あの・・・・・・優亜、舞台裏のトラブルのせいで、生歌うたう事になったって」

「・・・・・・はぁっ!?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『みんなお待たせー! いよいよ桜井優亜ちゃんの登場でーすっ!!』



司会のお姉さんが紹介してくれてからステージに出る。中央に立つと優亜にライトが集まる。

・・・・・・緊張してきた。でもなんだろ、この緊張がまた楽しかったりワクワクしたり。



『それじゃあ行くよー! 曲はシークレットプリンセスッ!!』



音楽が始まって、優亜はマイクを口元に当てる。それでステージから客席を見た。

客席には本当に沢山の人達。みんなに届くように、優亜は歌を。



すみれ組、桜井優亜・・・・・・うたいます










あ、また・・・・・・またあの時の。だめ、負けないで。先輩が・・・・・・そうだ、先輩。

優亜はステージの上から先輩を探す。先輩が見てくれるなら、きっとうたえる。うたえるはずだから。

でもステージから見る客席は暗くて、その上人も本当に沢山居るから見つけられない。





ちゃんと先輩はこの中に居てくれるはずなのに、先輩が居ないように感じて・・・・・・だめ。





うたえない。もう無理だよ。優亜、うたえない・・・・・・!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・ね、ヤスフミ。もう歌始まってるよね?」

「うん、そのはずなんだけど」



優亜はステージ上で全く動かない。強張った顔のまま棒立ちしている。

さすがにおかしいと思い始めた客席がざわつき始めた。



「というかあの子、顔真っ青だよ? ・・・・・・あ」



フェイトが驚いた声を上げたのは、棒立ちだった優亜に変化が起きたから。

それはうたい始めたとかではなく・・・・・・優亜は頭を抱えてその場でしゃがみ込んだ。



「おいおい、マジですか」

「もしかしてヤスフミやリインの予測、当たってたんじゃ」

「みたい・・・・・・だね」










それでも音楽は流れ続ける。テンポ的には既にサビに入っていると見ていい。





ちょっとちょっと、3年目一発目からこれはないんじゃないのっ!? さすがにこれに僕達が介入は無理だしさっ!!




















(第102話へ続く)





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あきゅろす。
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