[携帯モード] [URL送信]

小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第15話 『アギトの世界/覚醒・BELIEVE YOURSELF』



恭文「・・・・・・前回のディケイドクロスは、ユウスケが失恋しました。以上」

もやし「お前、ついに前回回想すらカットかよっ! だんだん手抜き入ってるだろっ!!」

恭文「いや、僕はただ準備があるから忙しいだけだよ」

もやし「準備ってなんだよ」

恭文「あのね、昨日歌唄の誕生日だったんだけど、作者のアホが記念小説忘れてたのよ。
だから急ピッチで仕上げる必要が出てきて、そのために僕まで歌唄のご機嫌取りに担ぎ出されて」

もやし「それディケイドと全く関係ない話だろっ! そのためにこの手抜き前説かよっ!!
・・・・・・てーか蒼チビ、お前マジでギンガマンはどうするんだよ。この後の展開とかよ」

恭文「そんな事より歌唄だって。歌唄めっちゃ殺し屋の目で僕を見てくるし」

もやし「だからドキたまの話をここでするなよっ! あの歌うしがどうろうと俺達は知らないんだがっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「まずアイツの名前は芦河ショウイチ。元警官で、G3システムの最初の装着員だった男だ」





・・・・・・やっぱりか。それがどういうワケかギルスやっていると。



なお、今の話を聞いてユウスケがどういう表情をしたかは・・・・・・察して欲しい。



とにかく中島さんはそう言ってから、僕の方に視線を向けた。





「坊主以上にG3システムを使いこなしていた優秀な奴だったんだが、1年以上も前に何も言わずに仕事を辞めたんだよ」





ここも改めて納得。僕以上って事は、本当に優秀な人だったんでしょ。

それなら八代さんの装着員への点数の辛さも納得出来る。

そりゃあそんなのと比べられちゃあなぁ。僕だって60点程度らしいしさ。



くそ、やっぱ僕はガチな天才には普通には敵わないのかなぁ。うぅ、なんか悔しい。





「俺も八代も当初はワケが分からなかったんだが・・・・・・八代、確かアンノウンに襲撃されたのはG3ーXへの改修前だったな」

「・・・・・・えぇ」

「その事をどうして俺達や上に報告してなかったのかとかは、とりあえずいいさ。
そこは今重要な話でもねぇ。だがコレで芦河の失踪の理由の見当がついたな」





つまり、アンノウンから逃げるためって事か。話を聞くとG3はその時コテンパンにされたそうだし。

じゃあ失踪当初からずーっとあの調子? うわ、そりゃあ精神に来るって。少なくとも僕は絶対に嫌だ。

それで八代さんにとって、芦河ショウイチの存在がとても大きいものなのはよく分かった。



だって八代さん、めっちゃ泣きそうな顔してるんだもの。見てて胸が痛むよ。





「あのバカ、なんにも言わずに・・・・・・水くさいだろうが。どんだけの付き合いだと思ってんだ」



それでそこは中島さんも同じらしい。困ったような呆れたような顔をしてる。

そんな中島さんと八代さんを見て、僕とギンガさんは顔を見合わせて強く頷き合った。



「なら、俺が連れて来ますっ!!」

「え? あの・・・・・・小野寺君」





僕達が言う前に、ユウスケが言っちゃったしっ!! ・・・・・・いや、まぁいいか。

どちらにしても芦河ショウイチは、僕達よりアンノウンの事を知っていると思われる。

情報確保のためにも、一度詳しく話を聞いてみる必要はあるのよ。



そのためには、やっぱ説得しかないんだよ。でも、普通に話聞いてくれるかどうかが問題だよなぁ。



もし失踪した理由がマジでアンノウンに狙われたためなら、そこにはまだ読み取れる事情が存在している。





”なぎ君、もしかしてその芦河さんが失踪したの・・・・・・周りの人を巻き込まないためとかかな”

”・・・・・・かも知れない”





これはあくまでも仮にだし、かなり強引な理論設定ではあるけど・・・・・・まぁこういうのもあるって事で。

仮にG3が無茶苦茶強くてアンノウンがコテンパンに出来たなら、あの人が逃げる必要はないと思う。

だって出てきたらG3ーXに変身して戦って叩き潰せばいいんだから。まぁ実際はそこまで簡単じゃないだろうけど。



あの人がアンノウンから逃げるという選択を取ったのは、今のままではアンノウンに対抗出来ないから。

もしもあの人が八代さんの事を、今の八代さんと同じくらいに考えていたら・・・・・・うん、理由が出来上がるね。

つまりあの人は、八代さんを危険に巻き込みたくなくて逃亡生活に入ったんだよ。





”G3が襲撃された時、八代さんも側に居て・・・・・・コテンパンだよね?
だから八代さんや中島さんを自分では守り切れないと判断して、あの人は逃げた”

”かも知れないね。後は・・・・・・変身能力を得た自分が、人と違う上に強い力を持ってしまった自分が怖いからとか?”

”あぁ、それなら分かるかも。うん、そこは・・・・・・私にも分かる”





まぁそこは派手にタンカ切ったもやしにも協力させて、頑張ってみますか。

僕達がここで勝手に『こうじゃないか・そうじゃないか』って話しても実はあんま意味ないもの。

知りたいなら、ぶつかって聞いてみるしか・・・・・・もちろん平和的にだよ。



人の心は拳や暴力、ましてや砲撃では開けないものなのよ。悲しいかなこれは決定。

それが出来たら、フェイトが自己欲のために叩きのめしたスカリエッティ達だって、とっくに更生してるよ。

でももしも・・・・・・どうしても戦う事が必要なら、負け戦なのは承知で戦う。



この拳で、想いで先に繋げる何かがあると信じて・・・・・・それはきっとユウスケだって同じ。





「大丈夫ですっ! 俺が何とかしますからっ!!」



だからユウスケは、声を上げて笑ってサムズアップする。・・・・・・ほんとにバカというかなんというか。

思いっ切りフラれてる形なのに、まだこっちの八代さんのために動きますか。ま、分からなくはないけど。



「だが小野寺君、そうなるとまたアンノウン達とやり合う事になる。
いや、下手をすれば芦河ショウイチともだ。少年君への負担が大きくなるよ?」

「あー、そこなら心配いらないわ。てーか・・・・・・たったそれだけ?」



海東の言葉を、僕は鼻で笑ってお手上げポーズしつつ軽く流す。



「足りないねぇ。僕はその程度じゃビクともしないし。それにG3ーXだって、まだまだ強くなる」



まだまだ僕はG3ーXをちゃんと使いこなせていないと思うわけですよ。現に傷つけちゃったしさぁ。

うーん、やっぱG3ーXでスプリガンの御神苗優さん張りに動きたいなぁ。出来たら素敵だろうなぁ。



「・・・・・・えぇ、そうよ。アンノウン用の対策は既に整えてあるわ。しかもとっておきのをね」

「へ?」

「蒼凪君、驚いたわ。まさかそこまで知ってたなんて・・・・・・それも噂ってわけじゃないわよね?」

「いや、あの・・・・・・なんの話ですか? 僕はただ、もうちょい装着員としてレベルアップすれば強くなるーって話をしただけで」



僕がそう言った瞬間、八代さんが固まった。それでにっこりと笑いながら拳をバキバキと・・・・・・え、なんでっ!?

いや、僕悪い事何も言ってないよねっ! なんでこんな怒り向けられなきゃいけないのさっ!!



「八代警視、アンノウン用の対策というと・・・・・・つまり、G3ーXの更なるバージョンアップですか?」



でもそんな僕の危機を救ったのは、意外にも海東だった。八代警視さんは拳を一旦収めて、真剣な顔で頷く。



「・・・・・・八代、お前本気か? ただでさえパワーが問題視されてるってのに」

「本気です。なにより今までの話が本当なら、一人の警察官としても放置出来ない。
ショウイチもそうですけど、アンノウンの勝手な理屈で被害者が大勢出ている可能性もあります」





まぁそうなるよね。この世界だと以前から数例目撃情報があったらしいから。

マジで原典と同じ理屈で動いてるなら、その情報があった分だけ・・・・・・誰かが殺されてる。

今までアンノウンの正体が公にバレなかったのは、グロンギの活動と同時進行だったから。



つまりアンノウンがありえない殺し方をしたら、必然的に既に名前が広がっていがグロンギのせいにされるのよ。

グロンギが暴れれば暴れた分だけ、アンノウンの存在が隠れがちになってバレにくくなると。

というかさ、傍目だとどっちも人外の怪人なのよ? 例え同時に出てきても見分けつきにくいって。



・・・・・・なんかグロンギ、ここの世界だと完全アウェイ極まりないよね。もちろんだからって同情するつもりないけど。





「少なくともあの牛型のアンノウンのパワーは、今まで出てきたグロンギ以上です。こっちも対抗策を練っていかないと。
・・・・・・あ、もちろん上にも正式に報告します。というかあの・・・・・・黙っていてごめんなさい」

「いや、いいさ。てーかさっき言っただろうが。そこは今重要な話じゃねぇってな」



中島さんは安心させるように、申し訳なさげな八代さんの方を見て表情を崩す。でも、すぐに真剣な顔に戻った。



「だが、八代。俺は出来るならそれ抜きでも戦える事を祈るよ。もうちょっと言うと安全確実にだ。
これ以上バッシングされたら、G3システムそのものの危機だ。そうなったら対策どころじゃねぇ」



そこまで言って、また表情が別のものに変わった。今度は不敵に笑い始めた。



「まぁいっその事マジで『じーすりーえっくすくん』を作って売り出すなら話は変わるだろうがな」

「あ、それいいですね? いっそやってみましょうか」

「だな。上に提案してみるか。意外と受けるかも知れねぇぞ。というわけで坊主」

「絶対協力しませんからねっ!? なんでそこで二人して僕に期待を寄せるんですかっ!!」










会議の結果、対策班の方針は決まった。まずアンノウンに襲われている人達の救出・保護が重要目標になる。

当然ながらそこは、その最も足る例と思われる芦河ショウイチに関しても同じだね。

どうやら僕がこの世界でやるべき事は、ここの辺りに答えがあるらしい。僕は改めてパーツ状態のG3ーXを見る。





右拳を強く握り締めて、僕は気持ちを固めた。・・・・・・一応の狙いは、芦河ショウイチだね。





しかし不安だよ。具体的にはエンジンかかってガッツポーズしまくってるユウスケが不安だよ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



前回のあらすじ。バックル取られた。そして逃げられて・・・・・・くそっ! これじゃあ変身出来ないだろっ!!




しかもあの髭面、フラフラしてたくせにやたらと足速いしよっ! 思いっ切り見失ったじゃねぇかっ!!










「・・・・・・士くんっ!!」



どうしたものかと頭を抱えていると、後ろから夏みかんの声がした。

後ろを見ると、夏みかんはぜーぜー言いながら俺の方に走り寄って来ていた。



「どうした、夏みかん」

「どうしたもこうしたもありませんっ! いきなりどうしたんですかっ!?
人を守るとか普段の士くんからは絶対考えられないような事を」

・・・・・・だからうるせぇよっ! お前まで俺を厨二病とか邪気眼とか言うつもりかっ!!

「なんですかそれっ!? というか怒鳴らないでくださいっ!! ・・・・・・私は、理由があるならちゃんと知りたいだけです。
言ったじゃないですか。一つずつ疑問を持って、ちゃんと考えていく事をしたいって」



・・・・・・あー、そういや3話前にそんな話してたような気がするな。今の今まで忘れてたや。



「だから聞いてるんです」

「なんのためにだ。お前が聞いたところで、どうにも出来ないだろ」

「それでもです。・・・・・・どうにも出来ないから、分からない事だらけだから知りたいんです。
せめて全部目を逸らさず見る事にしたんです。だから・・・・・・教えてください」



やけに真剣な顔でそう言うので、俺は・・・・・・少し迷ったが懐からあの手紙を出した。

右手で持った真っ二つに破かれた手紙を、俺はそのまま夏みかんに渡す。



「これ、あの手紙ですよね?」

「あぁ。封筒の裏、見てみろよ」

「裏?」



夏みかんは手紙の裏を見て・・・・・・あの時と俺と同じように驚きながら固まった。



「士くん、この手紙・・・・・・!!」

「そういう事だ。だから、俺はアイツを守る。アイツに死なれると、色々面倒だからな」










封筒の裏に書かれていたこの手紙の差出人は、ある女の名前。どうもただならぬ関係ってやつだったらしい。

しかもあのメカメカしいG3ーX絡みだ。そこの辺りにアンノウンも一枚噛んでた。

全部文面に載ってたおかげで、洒落じゃなく大体分かった。だからこんならしくもない事してんだ。





普通ならこんな事はしない。アイツに・・・・・・芦河ショウイチに手紙を出したのが、八代淘子じゃなければな。




















世界の破壊者、ディケイド。8つの世界を巡り、その瞳は何を見る。










『とまとシリーズ』×『仮面ライダーディケイド』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄と破壊者の旅路


第15話 『アギトの世界/覚醒・BELIEVE YOURSELF』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



方針も決まったところで、俺達は一旦解散。なので俺は、シャワーだよ。汗かいたし。

恭文はギンガちゃんと一緒にもうちょっとじーすりーえっくすくん・・・・・・あ、違った。

G3ーXの性能を引き出すにはどうすればいいか考えるそうだ。なんかめっちゃ本気出してるんだよ。





前任者の影に怯える日々を覚悟しつつ、俺は更衣室の方に入る。





・・・・・・いや、まぁその・・・・・・・なぁ? 荷物忘れたんだよ。それで改めて更衣室に。










・・・・・・ショウイチ





俺が更衣室を離れてから戻るまで、時間にすれば10分どころか5分もない。

なのにさっきまで誰も居なかった更衣室には、人の気配があった。

俺は思わずロッカーの影に身を隠す。それでそっとその気配の元の方を見た。



そこには、蹲って声を殺しながら泣いている姐さんが居た。だからつい姿を隠してしまった。





「ショウイチ・・・・・・!!」





姐さんは俺や恭文が使っているロッカーの近くで蹲りながら泣いていた。

というか、あのロッカーって確か・・・・・・アレ? 待て待て、ちょっと思い出せ。

確かあそこ、最初俺が使おうとしてたロッカーじゃなかったか?



それで姐さんに、俺だけじゃなくて恭文達もロッカーは今使っている方を使ってくれって言われたんだ。

とにかくそこに顔をくっつけて、声を押し殺しながら姐さんは泣いていた。

ただそんな姉さんの右側・・・・・・俺の居る方とは逆方向から、足音が聴こえた。





「・・・・・・どうやら、大切なものはそこにあるようですね」

「海東君? ・・・・・・え、きゃあっ!!」



この声、海東さん? というか今姐さんが悲鳴上げたような。



「探しましたよ、G4チップ。やはり完成していましたか」



俺は猛烈に嫌な予感がして、すぐに飛び出した。すると姐さんは更衣室の床に倒れて、上半身だけを起こしていた。

姐さんが縋りつくように身体をくっつけていたロッカーは開かれ、海東さんの右手には何かが握られている。



「海東さんっ! アンタ何を」










海東さんは何も言わずに、あのライダーに変身できる銃を俺達に向けた。俺は反射的に姐さんの方へ走る。

両腕で姐さんを抱きかかえて、身を伏せた。そして身体の上の方から激しい着弾音。

それが止んでから顔を起こすと、海東さんはどこにも居なかった。・・・・・・俺は反射的に海東さんの居た方へ走った。





そこで一旦止まって辺りを見渡すと、非常口が開いていた。俺は迷わずにそこに飛び込んだ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



対策班のオフィスでG3ーXとにらめっこしつつギンガさんと二人であーでもないこーでもないと話していた。

さすがに上位アンノウンとやり合うし、ちと対策はしっかりとしておきたかったのよ。

でもそんな時、オフィスに1階の受付の方から電話が入った。なんか僕達宛てにお客が来たらしい。





それでロビーの方に降りると・・・・・・KYみかんが必死な顔でそこに居た。










「夏海さん、どうしたんですか」



夏みかんはギンガさんが声をかけると、安心したように表情を崩してこちらに走り寄ってくる。



「あぁ、ギンガさん良かったですっ!! ・・・・・・あれ、ユウスケは」

「シャワー中だよ。そっちの方がお好みなら今すぐ案内するけど」

「いえ、結構です。とにかく・・・・・・あの、士くんを助けてくださいっ!!
あの人を守るって言って、バックルもないのに相当無茶してるんですっ!!」



・・・・・・もやし、何気に初志貫徹な男だったのね。僕はちょっとびっくりだよ。

まぁあのままバックルが芦河ショウイチ所持のままなら、どっちにしたって追わないとだめだけど。



「でも夏みかん、もやしは芦河ショウイチと何があったのよ」



僕がそう言うと、夏みかんは驚いた表情を僕に向けた。



「あなた、どうしてあの人の名前を」

「八代さんが教えてくれたのよ。僕達も一度遭遇してさ。
で、対策班の方で芦河ショウイチは保護対象になってる」

「ここの辺りは、芦河さんがアンノウンに狙われている可能性があるからなんです」

「そうだったんですか。あぁ、でも知ってても不思議はないんですよね。・・・・・・これを」



夏みかんは懐から、二枚に破かれた封筒を差し出してきた。僕はそれを右手に持ってまず外を確認。

中身の手紙も入ってるっぽいけど、まずは外。宛名は芦河ショウイチで・・・・・・差出人は八代さん。



「その人はG3ーXの以前の装着員で」

「そこも聞いてるからいい。夏みかん、この手紙預かっていい?」

「いいですけど・・・・・・中身見ないんですか?」

「うん、必要ないわ。てーか大体読めた」



なんというか、大体分かってしまった。だからもやしはアレなのか。でも、確定する前に一つ確認。



「夏みかん、もしかしてもやしは手紙の中身を見て『守る』とか言い出したの?」

「そうですけど」





じゃあ確定だ。あの性悪のひねくれ具合を考えれば、答えはおのずと出て来てしまう。

ではもやしの立場に立って、改めて考えてみよう。重要なところはまず何か。

重要なのはこの手紙が芦河ショウイチに向けて、八代さんが出した手紙って事だよ。



それでこの手紙の中身を読んで、八代さんと芦河ショウイチの繋がりを知った。

同時にもやしは、芦河ショウイチがアンノウンに狙われている事も知ったとしたらどうかな。

その場合、どうして芦河ショウイチを守ろうと思う? その理由足りえるものはなに?



こう考えて一つずつ可能性を潰していくと、答えはおのずと出てくるわけですよ。





「・・・・・・え、もしかして本当に分かってるんですか?」

「当たり前でしょ。八代さんから聞いた話と、この手紙の宛名と差出人を見ればそりゃあ大体の事はさ」



ギンガさんは・・・・・・うん、ギンガさんも同じらしい。ちょっと困ったような顔してるから。



「あのバカは・・・・・・ギンガさん」

「うん、士さんを探した方がいいね。あと、この手紙・・・・・・ユウスケさんにも見せた方がいいかな」

「必要ないんじゃないの? 多分手紙に書かれている事は、僕達が今まで感じ取った事とさほどズレてないはずだよ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



海東さんを追って、非常口に入って非常階段を降りていく。なお、そうする理由は簡単。

下の方に急ぎ気味な足音が響いていたから。俺はそれを海東さんと思って追っていく。

地下2階まで到達すると、ドアが乱暴に開かれたままだった。俺は非常口の外に出た。





するとそこは俺と姐さんが初めて会った駐車場だった。俺は全速力で出口の方へ走る。










「海東さんっ!!」



なぜならそこには・・・・・・楽しげに笑っている海東さんが居たから。

海東さんは俺が声をかけると、すぐに足を止めてこちらに完全に振り返った。



「・・・・・・見たまえ、凄いじゃないか」



右手で海東さんが自慢するように持ち上げたのは、さっきも持っていたあの小さい部品。



「このG4チップは、人間の脳神経とシステムをダイレクトリンクさせる素晴らしいお宝さ」

「お宝? ・・・・・・あなた、本当にそのためだけに」

「あぁ。コレほど貴重なお宝は中々無いからね」

「返せ・・・・・・それは姐さんのものだっ!!」



俺は一気に飛びかかって、右手をチップに伸ばす。だが海東さんは身体を左に動かして、俺の突撃をヒラリとかわした。



「なぁ小野寺君、彼女は君の言う『姐さん』じゃない。別の世界の住人だ」



海東さんはそう言いながら、自分の後ろに居る俺の方を見る。



「分かってるだろう?」





・・・・・・あぁ、分かってる。ギンガちゃんにも言われかけたし、恭文が気にしてるのもなんとなく気づいてたさ。

思わず生きていた事が嬉しくてここまで来たけど、気づいたさ。あの人は姐さんじゃないって。

あの人は姐さんに似ているだけで、全然違う別の人間で・・・・・・そう見る事は良い事じゃないさ。



だが俺は・・・・・・俺はそれでも右拳を強く握り締め、海東さんを睨みつける。それでも俺は引かない。





「それでも俺は・・・・・・姐さんの悲しむ顔を、二度と見たくない」



俺はそう言ってすぐに変身の構えを取る。だがそんな俺に海東さんは、躊躇い無く銃口を向けた。

その右手にはいつの間にかあの銃。チップは・・・・・・左手に持ち替えたらしい。



「僕の旅の行き先は、僕だけが決める」

「旅の、行き先?」

「あぁそうさ。君はここが終着点らしいが・・・・・・僕は違う」





そのまま睨み合っていると、俺と海東さんの間に何かが素早く通り過ぎた。

そして近くにあったコンクリの支柱にそれは命中。火花を走らせる。

俺達はどちらともなく構えを解いて互いに引いて、周囲を警戒しつつ見渡した。



すると右側に、小型の銃を両手持ちで構えた姐さんが・・・・・・え、今の普通に発砲したのかよっ! 危なっ!!





「危なっ!!」





海東さんも同じらしく、そのまま振り返って逃げようとする。俺はすぐに海東さんに飛びかかる。

今度はかわされる事なく海東さんを捕まえ、揉み合う形になった。だがすぐに振り払われる。

でもそれは無駄じゃなかった。その拍子で左手からG4チップが零れ落ちて、コンクリの地面に転がる。



すると姐さんは信じられない事に、落ちたチップに照準を向け・・・・・・引き金を引いた。

次の瞬間、チップは火花と共に派手に砕け散るはずだった。でも、そこに海東さんが走り込んだ。

海東さんはチップを庇うように身体を前に出す。そうしながらチップを海東さんは拾いあげる。



弾丸はそのまま何も無いコンクリに着弾。海東さんは転がってチップを守る。



俺と姐さんは思わず固まってしまう。固まって、起き上がって困ったような顔をする海東さんを見る。





「・・・・・・全く、乱暴だね。僕のお宝を壊そうとするなんて」

「いやいやっ! アンタのじゃないでしょうがっ!!」

「その通りよ。てゆうか、正気? 下手したらあなた死んでたわよ」



海東さんは俺と姐さんの方を見て、首を横に振りつつため息を吐いた。



「僕はお宝のためなら、命を賭けると決めているだけさ。お宝は決して失われてはいけないしね。
しかし参ってしまうなぁ。大切なものの価値が分からないとは」

それアンタにだけは言われたくないんだけどっ!!
このこそ泥がっ! 頭撃ち抜いてやるからジッとしてなさいよっ!!




きゃー! なんか普通に銃口向けてるー!! やっぱこっちの姐さん沸点低いってっ!!

そんな姐さんを見て、おかしそうに笑いながら海東さんは素早く出口の方に走って・・・・・・消えた。



「あ、こら待ちなさいっ! 今すぐ追いかけて」

「姐さ・・・・・・八代さんダメですってっ! てーか警官がこんな簡単に発砲していいんですかっ!? ほら、一発目空砲とかじゃないしっ!!」

「いいのよっ! 私はダーティーハリーとか大好きなんだからっ!!」

「え、そっち方向っ!? アレお手本はさすがにダメなんじゃっ!!」



だがそんな事を言っている間に、海東さんの姿は完全に見えなくなった。なのでもうここは良しとする。

俺は海東さんの消えた方を見て・・・・・・今から追跡とかって、無理だよな?



「すみません、G4チップが」

「いいのよ。・・・・・・アレは、本当に大切なものを守るために作ったの。でも・・・・・・ね」



また姐さんは悲しそうな顔をする。悲しそうな顔をして、視線を落とす。

俺はそれがたまらなく嫌だ。だから俺は、俺は・・・・・・俺だから出来る事は。



「・・・・・・やっぱ俺、連れて来ます。それも今すぐに」

「え?」

「あのチップはもうダメかも知れないけど、G3ユニットの正式な装着員、見つけて来ます」










確かにこの人は俺の知ってる姐さんじゃない。でも、やっぱり嫌なんだ。

この人が泣いて、悲しんで、過去の痛みに苦しんでる顔を見るのは嫌だし辛いんだ。

でも悔しいけど俺じゃあダメなんだ。他の誰も代わりなんて出来ないんだ。





姐さんの代わりなんてどこの世界にも居ないように、あの人の代わりなんてどこにも居ないんだ。





だったら・・・・・・だったら俺がやるべき事は、たった一つだけだ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あのワケの分からん奴から逃げて、アンノウンから逃げて・・・・・・くそ、今日は厄日だな。

だがもうそんな事は終わらせないといけない。逃げるんだ。逃げて逃げて逃げ続けるんだ。

アイツらには誰も勝てない。そんな事は無理なんだ。だから俺は逃げなければいけない。





そう思いながら街を歩く。アテなどない。無くていい。俺はただ、逃げていればいいだけなんだ。





だがそんな時、急に頭が痛み出した。・・・・・・呼ぶな。俺を呼ぶ・・・・・・なぁっ!!










「・・・・・・危ないっ!!」



俺は身体ごと押し倒される形で、左に倒れて転がる。そして俺の居た位置を、見慣れた十字架が粉砕した。

俺は痛む身体を起こしつつ、俺の近くにいつの間にか・・・・・・またお前か。



「お前・・・・・・なぜだっ!? なぜ俺に関わるっ! なぜ俺を守ろうとするっ!!」



俺は言いながら、コイツから奪ったバックルを左手で取り出して見せつける。



「コイツを取り戻すためかっ! だから追って」

「お前が死ぬと、八代が悲しむ」



俺はその言葉に、その名前に完全に固まってしまった。だがそんな俺の右手を引いて、ソイツは立ち上がる。



「いいから来い。一旦隠れるぞ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



近くの建物の影に隠れて、また出てきた黒い触覚持ち達をやり過ごす。





しかし・・・・・・連中は真面目にしつこいな。あれじゃあ女には絶対にモテないだろ。










「・・・・・・お前、なぜ八代の事を知っている」

「お前も見たあのちっこいG3の中身と男の警官とは顔見知りでな。その関係だ。
で・・・・・・その警官は八代の事が大層お気に入りでな。守ろうとしてんだよ」

「そうか」



それから少しだけ沈黙が訪れる。まぁ俺達は隠れてるわけだし、静かにするのは当然だろう。



「1年と少し前、俺と八代はあのG3ユニットの完成を目前にしていた」



だがそれでもコイツは辺りを警戒しつつも、口を開いた。



「だがそんな時、俺の身体に異変が起きた。不思議な力が現れ、それと同時に奴らも出てきた」





それでご自慢のG3でもボッコボコにやられて、結果今まで逃亡生活だったな。

手紙の文面と奴らの行動から、そこは本当に簡単に予測できた。

あの捻れたりんごも、おそらくはその力によるものなんだろうな。いわゆる超能力だ。



それで連中は、そういう強い力を持ったのから狙ってるってわけだ。





「怖くなったんだよ俺は。そして逃げ出した」





自分をあざ笑うような表情を浮かべるこの男の1年と少し前からの生活は、まさしく逃亡者だ。

住んでいた家を離れ、友人や知人からも離れ、たった一人で今じゃ髭面のホームレスだ。

出した手紙が当然届くわけもない。おそらく向こうはアンノウンの事なんてさっぱりだろうしな。



その間もずっと逃げ続け、人とは違う力に怯え・・・・・・蒼チビより運悪いんじゃないか? コイツ。

そんな事を考えていた時、右側から足音が聴こえた。あとは杖を地面に叩くような音。

俺とコイツはそちらに視線を向けると、そこには俺があの時見た黒色の猛牛みたいなアンノウンが居た。



ショウイチは俺を庇うように前に出ると、右手で俺のバックルを出してそのまま手渡してきた。





「早く逃げろ。それで・・・・・・もう俺に、絶対に関わるな。いいな?」



ショウイチは真剣な目で俺を見つつそう言うと、バックルから手を離した上で両腕を胸元の前で交差。



グル・・・・・・・グルアァァァァァァァァァァァァァッ!!





声をあげながらも両腕を広げると、一瞬であの緑色の姿になった。そのままソイツは突撃して、牛男に組み付く。

勢い任せに押し込んで、壁を砕きながらもあっという間に消えていった。

ショウイチと入れ替わる形で、どこからともなくサイレンが響き渡る。俺は建物の外の方に出た。



すると、俺の方に二台のバイクが走ってくる。一台はやたらとデカい白バイタイプ。

そこにはチビG3ーXが乗っている。あと後ろにはギンガマンだ。

それでもう一台はオフロードタイプのバイク。そこには・・・・・・あのバカスケが乗っていた。



バイクは俺の前に停車する。それでユウスケはヘルメットを外して、俺の方を見た。





「やっと見つけた居場所の居心地はどうだ?」



バイクのフロント部分に左肘を乗せて、前のめりにアイツを見る。だがアイツは、やっぱ真剣な顔のままだった。



「手紙の事、夏海ちゃんから教えてもらった。お前があの人とどういう風にして関わったのかも」



・・・・・・俺は思わず固まって、少し目線を外してしまった。あのバカ・・・・・・やっぱ後でお尻ペンペンだな。



「あとは八代さんから、芦河ショウイチの事も教えてもらった。
あの人が八代さんにとって、めちゃくちゃ大事な人だっていうのも分かった」

「・・・・・・そうか」

「でも、どうしてお前があの人を守る?」



いや、お前そこ真正面から・・・・・・あぁもういい。どうせモロバレしまくってんだ。俺は全部話す事にした。



「・・・・・・アイツが死ねば、八代が悲しむ」



俺はフロントから肘を外して、真っ直ぐに立ち上がる。もちろんユウスケから視線は外さない。



「八代の笑顔が、お前の望みじゃなかったのか?」



ユウスケの目が軽く見開く。それで・・・・・・蒼チビ、ギンガマン、微笑ましい視線を送るな。激しくムカつくぞ。



「俺の、ため?」



俺は真っ直ぐにそう聞いてきたバカの右の二の腕を軽めに左手でパンと叩いた。



「ボヤッとしてんな。アンノウンがアイツを追ってる」

「お、おう」










そのまま三人はバイクで俺の教えた方向へ走っていった。響いたエンジン音はすぐに消え去り、辺りは静かになる。





俺は取り戻したバックルを改めて取り出す。あとはブッカーも一緒にだな。





ブッカーを開いて、一枚のカードを取り出した。・・・・・・この世界のカードは、まだボヤけたままだった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あの牛男は、すぐに姿を消した。だが油断出来ない。早く・・・・・・早く逃げなくては。

俺は異形の姿のまま、戦闘の末に行き着いた湾岸部の工場地の近くで膝をついた。

いや、落ち着け・・・・・・逃げろ、逃げるんだ。俺にはもうそれしかないんだ。





そう心の中で言いながら立ち上がった瞬間に、サイレンが・・・・・・音のする方を見ると、二台のバイクが走って来た。










「・・・・・・変身っ!!」





一台のバイクは、俺も乗った事のあるガードチェイサー。だがもう一台は見慣れないバイクだ。

いや、バイクは見慣れないが、そのバイクに乗りながら今叫んだ奴の事は見覚えがある。

さっきG3と一緒に居た奴だ。それでソイツの姿が変わった。それは赤い・・・・・・赤い異形の戦士?



俺が驚いている間にバイク達は止まった。止まって、G3ーXと赤い戦士はバイクを降りた。



だが赤い戦士は、G3の前進を右手を上げて制した。





「恭文、俺に任せてくれ」

「出来るの?」

「やる。というか、後ろの方を頼む。どうせ邪魔が入るだろうしな」

「・・・・・・分かった」



G3は少しだけ下がって、ガードチェイサーの傍らで動きを止めた。



「安心して戦っていいよ? ユウスケは今から背中に傷なんて一つもつかない」

「そうか、ならお前もだ。俺も、そのつもりだ」

「ん、ありがと」



そう言って赤い異形の戦士は、G3の代わりと言わんばかりにこちらにゆっくりと歩み寄って来る。



「来い」

「どこへだ」

「G3ユニット・・・・・・そこがアンタの居場所のはずだ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『八代さんは、今この瞬間もアンタの帰りを待っている。中島さんだって同じだ。アンタの事本気で心配してる。
それで二人とも力になりたがってる。アンタはこれからどうするにしても、一度あそこに戻る必要がある』

『バカなっ! 俺は戻れないっ!! 絶対にっ!!』





画面に映る赤い異形の戦士に、私も傍らに居た中島さんも驚くだけだった。

ううん、なにより・・・・・・あぁ、やっぱりだ。やっぱりショウイチだったんだ。

姿が変わっていても、人とは違っていても、ショウイチである事には変わりはない。



画面越しだけどそれが分かる。私は嬉しさの余り、涙が零れそうになった。





『近づくな・・・・・・お前、俺が怖くないのかっ! 俺は化物だぞっ!? アイツらと同じ化物だっ!!』

『安心しろ。俺も見ての通りアンタと似たようなもんだ。アンタが化物なら、俺だって化物だ。
なにより、アンタの身体や姿が人間じゃなきゃいけない理由があるのか?』



小野寺君は、そのまま一歩ずつ歩いていく。それでその姿が大きく変わった。

紫色のラインが入った甲冑を着た後ろ姿が、画面越しに見えた。



『人とは違う力を持っていてはいけない理由があるのか? もし本当にアンタがそんな理由があると思ってるなら、そんなのは間違いだ』

『違う。俺は・・・・・・俺は、もう戻れないんだ。アイツらと同じなんだ』

『アンタがアイツらと同じだろうがなんだろうが、アンタが芦河ショウイチなのは変わらないだろうがっ!!
俺は・・・・・・アンタの事なんてちっとも怖くないっ! 誰もアンタを怖がってなんてないっ!!』



私と中島さんの声を代弁するかのような叫びを聞いて、私は自然と両手を強く握り締める。

画面の中のショウイチは、首を横に振りながら後ずさりを続ける。



『アンタを怖がってるのは、アンタだけじゃないかっ! アンタは自分の弱さが、醜さが怖いだけなんだろうがっ!!
でも怖がる必要なんてどこにもないっ! 力も、弱さも、醜さも・・・・・・全部アンタじゃないかっ!! 違うかっ!?』

『来るな・・・・・・来るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ユウスケは紫のクウガに超変身した上で、そのままエクシードギルスに組み付こうとする。





ギルスは咄嗟に両手の触手を出してユウスケを縛り上げようとする。でも、ユウスケはその触手を両手で掴んだ。










「うぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



掴んで、そのまま勢い良く引き寄せてギルスを前のめりに倒す。体勢が崩れたところで一気に突撃。

飛び込むようにしながら、ギルスに組みついた。組みついて、そのまま二人で転がっていく。



「なぎ君、あのままでいいの?」

「いいのよ。多分僕がやるより効果的だろうし」

≪ここは空気読むのが得策でしょ。なにより≫



そう、なによりなんだよねぇ。・・・・・・後ろにゾロゾロと気配がするのよ。

僕はまずG3ーXのヘルメットを両手で掴んで、そのまま外す。



「ユウスケとの約束、僕もきっちり守らないと。ギンガさん、これ持ってユウスケとあの人の事映してて」

「あ・・・・・・うん」



ギンガさんは両手でG3ーXのメットを持って、僕の言う通りにしてくれた。

それで僕はガードチェイサー後部に搭載しているトランクサイズに折りたたまれたケルベロスを手に取る。



「八代さん、ケルベロスの発砲許可お願いします。アンノウン出てきたんで」

『えっ!? でもあの、映像が』

「いいから、お願いします。それで」



まぁ、余計な事だとはちょっと思ってしまった。でも・・・・・・一言だけ言う事にしてあげた。



「それでユウスケの事、信じてあげてください。それだけお願いします」

『・・・・・・分かった』



あ、この声は中島さんだな。そっか、やっぱ八代さんの近くに居るんだ。



『坊主、実はそこのヘタレには俺からちと説教もしてやりたくてな。
これからどうするにしても、一度こっちにちゃんと連れて来てくれ。頼むぞ』

「もちろんです」

『八代、GXー05の発砲許可出してやれ。ここまで来たら任せるしかないだろ』

『・・・・・・分かりました。GXー05、アクティブ。発砲許可』

「ありがとうございます」





僕はケルベロスの中程に備え付けられているキーを右の人差し指で押していく。

ここをちゃんとしないと、ケルベロスは使用出来ないのよ。まず、キーは四つ。

横並びで左からエンターキーに1と2と3のキー。これでセーフティ解除用の番号を押す。



番号は・・・・・・『1・3・2』だよ。それでエンターボタンをポチっと。





≪カイジョシマス≫





電子音声と共に、まずトランクモードの持ち手部分の基部が僅かにスライド。それをそのまま思いっ切り押し込む。

すると四角のトランクが真ん中程から伸びて、ライフルのストック部分のような形状になった。

次はトランク下部に折りたたまれたガトリングの銃身を展開。それから僕は右手でグリップを握る。



左手でガトリング部分下の持ち手を握り、数歩前に踏み出す。その方向はユウスケ達とは真逆。





「・・・・・・悪いね、今日の僕達は始まる前からクライマックスまっしぐらなのよ」



しっかりと腰だめにケルベロスを構え、狙いを定める。

僕はノロノロとこちらに迫って来ていたアントタイプのアンノウン達に向かって、引き金を引いた。



「ここから一歩も通れると思うなっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「アンタはっ!! ・・・・・・自分がアンノウンに追われてると知って、八代さんを巻き込まないために姿を消した」



別に俺はこの人を倒したいわけじゃない。だから紫のクウガで押さえつけてマウントポジションを取る事にした。

それはうまくいったが・・・・・・くそ、無茶苦茶力強いし。こりゃ、長くは持たないかも。



「アイツを守るためには・・・・・・それしかっ!!」

「八代さんはとっくに気づいてたよっ!!」



そして俺達の居る空間に、爆発音が聴こえた。俺達は自然とそちらを見た。

そこにはケルベロスを乱射している恭文が居た。それで派手にアンノウン達を・・・・・・やっぱり来てたか。



オラオラオラオラオラオラオラオラァァァァァァァァァァァァァァァッ!!
弾薬はたっぷり目に持って来てるから、どんどん来いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!




恭文は・・・・・・よし、アイツがちょっと楽しそうなのは気にしない方向でいく。今重要なのはそこじゃない。

アイツがトリガーハッピーだったのかという点で驚きはあるが、そこは気にしないでいこう。



「・・・・・・なんだ、あの火力は。あんなの、俺は知らない」

「当然だ。G3ユニットは、アンタの居た頃よりずっと強くなってる。いや、強くなろうとしてる」



今重要なのは、この人が抵抗を止めた事。あの火力に驚いているらしい。

もしかしてこの人、失踪状態だったせいでそこの情報不足してたのか? テレビでも問題視されてたってのに。



「八代さんがもっと強くしようとしてる。ホント、行き過ぎなくらいにさ」





俺は力を抜いて、立ち上がった。そのまま変身を解く。それはあの人も同じ。

ゆっくりと立ち上がって、抵抗するワケもなく変身を解除した。

それを見て俺は、着ていた制服の内ポケットに右手を伸ばしてあるものを取り出す。



これは夏海ちゃんから恭文が預かってくれた手紙だ。俺はそれを、そのまま目の前の人に手渡す。




「それはなぜか? 簡単だ。アンノウンを倒すためだ。
・・・・・・八代さんは、俺やアンタよりずっと強い。守られようなんて考えてない」



俺は首を横に振りながらそう言う。あの人は俺の差し出した手紙を・・・・・・恐る恐るだが、右手を伸ばして受け取ってくれた。



「アンタを守りたいって思ってるんだ。自分に出来る事で、ありったけでだ」

「・・・・・・八代」










その手紙をあの人が懐に入れようとした瞬間、何かの影が俺達を覆った。それは十字架の形をしていた。

俺達は瞬間的にバイクのある方に跳んで、その落ちてきた十字架を避ける。そして当然のように次の瞬間に爆発だ。

俺達はその爆発に吹き飛ばされて、コンクリの地面を転がる。身体に衝撃によって痛みが走る。





とりあえず身体のどっかが吹き飛んでいるとかもないので、俺とあの人は身体をゆっくりと起こした。





そして爆発の向こうに・・・・・・やっぱ来たか。牛男のアンノウンだ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ケルベロスの弾丸を詰め込んだ弾倉を一つ撃ち終えて、腰の後ろに装着している予備の弾倉に付け替える。

それでまた弾丸を撃とうとすると、前方から巨大な水の玉が迫って来ていた。

僕は咄嗟にケルベロスの引き金を引いて、弾丸を連射。それに撃ち抜かれ水の玉は爆発した。





僕の前に水は派手にばらまかれるけど、ここは一切気にしない。大丈夫、G3ーXは完全防水だよ。










「きゃっ!! ・・・・・・つ、冷たい」





あ、しまった。ギンガさんは完全防水じゃなかった。でもそこを気にする暇はない。

だって前方から、アンノウンがまた来ているもの。ただし今度は一体だけだよ。

それはあの時牛男の傍らに居たアンノウン。シスターのような法衣に身を包む女のアンノウン。



右手には黒い三叉の長めの槍を持ち、その槍の切っ先を僕に向けていた。

僕は呼吸を入れ替えた上で、視線を向けずに水浸しのギンガさんに話しかける。

これ、水のエルだっけ? 最後に見たのしばらく前だから、結構記憶あやふやかも。





”アルト、今の水”

”スキャン完了。基本的には普通の水で、毒性は0ですね。というか、あなたの方が正確でしょ”

”それはまぁね?”



念のためにブレイクハウトを使って、成分解析だけはしたから。これは本当にただの水なのよ。

ただ、水も使いようになってはそうとう強力な武器だし・・・・・・うし。



「八代さん、ユニコーンの使用許可お願いします」



これとデストロイヤー同時所持はちょっと難しいしなぁ。念のために近接武器は使えた方がいい。



『分かったわ。GKー06、アクティブ。使用許可』

「ありがとうございます」



さて、準備も整ったし・・・・・・一応声だけはかけておこうっと。



「ギンガさん、大丈夫?」

「う、うん。ちょっと寒いけど・・・・・・なんとか」

「そう。じゃあ悪いけどもうちょっと我慢して。ハグして温めるにしても、これは状況がアレだしさ」



左側に居るギンガさんに視線を向けて軽くそう言うと、ギンガさんはおかしそうに笑った。



「無理しなくてもいいよ。うん、無理しなくていい。・・・・・・なぎ君」

「なに」

「負けないでね。私は止めないから、その代わり・・・・・・負けないで」

「もちろん」





僕は改めてケルベロスを持ち直して、そのまま槍持ちに突撃した。他にアンノウンは居ない。

後ろにも出てきたっぽいけど、あっちはユウスケに任せる。そういう約束でもあるしね。

僕は目の前の相手だ。これ以上は前に進ませるつもりはない。もちろん負けるつもりもない。



だからこそ僕は、濡れた髪をなびかせながら走る。





「どけ、人間。我らに・・・・・・神にこれ以上歯向かうな」

「残念ながら、僕の運勢をいつまで経っても良くしてくれない神様なんざ・・・・・・知るかっ!!」










再び撃ち出される水の砲弾をケルベロスで撃ち抜きつつ、僕は相手との距離を詰めた。

こちらは残弾数の制限がある分、遠距離での撃ち合いは長期的に見ると不利だと思う。

というか、撃ったらあの砲弾なり水を使った攻撃で防御されるんだよ? だめだって。





なら、一番確実な方法は接近してダメージを叩き込む事。・・・・・・いつものパターンだなぁ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・人は力を得れば、必ず間違った道を選ぶ。なぜなら」

「人は愚かだから・・・・・・か」



起き上がった俺達の前に、どこからともなく士の奴が来て・・・・・・お前どうやって来たっ!? バイクの音も気配もなかったんだがっ!!



「そうっ! 人は我々が守るっ!! 力など必要ないっ!!」





俺は警視庁を出る前に、改めて恭文からアンノウンの話を詳しく聞いてはいた。

原典での奴らが神の使いだってのもだ。どうやらそこはこの世界でも同じらしい。だから・・・・・・激しく腹立つわ。

コイツらの勝手な理屈のために、きっと罪もない人達が・・・・・・あの人と同じような人が何人も泣いた。



人とは違うというだけで、そういう力があるというだけで殺され、蹂躙され、笑顔を奪われた。



それが俺は、たまらなく許せない。それを行われて当然と言い切ったコイツの理屈が、絶対に許せない。





「あぁ、確かに愚かだよ。死んだ女の面影を追って全てを捨てようとしてみたり。
大切な人を巻き込まないために、自分ひとりで逃げ続けたり・・・・・・な?」

「友達のために、身体を張ったり」



俺がそう言うと、後ろの士が俺の方を驚きながら見た。



「・・・・・・な?」



そんな俺を不敵に笑いながら、士は再び前に視線を移す。



「愚かだから、転んで怪我してみないと分からない。時には道に迷う事もあるさ。
でも、間違えたとしてもそれでも旅を続ける。・・・・・・お前達に道案内してもらう必要はないっ!!」

「・・・・・・お前達のやり方を、俺は認められない」



俺は士の言葉に続くように、一歩その足を踏み出した。そして、あらん限りの声で叫ぶ。



「誰かの笑顔を、幸せを、時間を壊す事を当然と言い切るお前達を・・・・・・俺は、絶対に認めないっ!!」



そう叫んだ瞬間、士の懐からカードが飛び出すのが見えた。それだけじゃなく、あの人の腰にも変化が現れた。

金色と黒の楕円形のベルトが腰に装着された。だがそれは、先程のギルスというもののそれとは違う。



「・・・・・・・・・・・・アギトだとっ!?」



ショウイチさんはそのベルトを見て、驚いた顔をする。というか、俺も同じくだ。

ただ納得顔なのは、士だけ。士は飛び出したカードを右手で掴みつつ、ニヤリと笑う。



「ショウイチ、それがお前の本当の力だ」

「・・・・・・俺の」



あの人は驚きながらも、右手に握られたままの手紙を見る。それを羽織っていたコートの右ポケットに入れた。

それから視線を一気に上げ、俺達と同じように牛男を睨みつける。その姿に、もう先程のような怯えはどこにもない。



「貴様・・・・・・貴様ら、何者だっ!!」



そう牛男が動揺を隠さずに叫んだのを聞いて、俺は士と顔を見合わせ・・・・・・ニヤリと笑う。

その笑みを浮かべたまま、俺は士と一緒に再び叫んだ。



「「通りすがりの仮面ライダーだ。・・・・・・覚えておけっ!!」」





士はバックルを腰に装着し、変身用のカードをかざす。

あの人は開いた右手を突き出したかと思うとすぐに肩口くらいまで引いて、再びゆっくりと前に突き出す。

俺も腰にベルトを出現させ、右手を突き出し・・・・・・ゆっくりと右薙に引いていく。



左腕はベルト左側に腰だめに添える形に構え、俺は倒すべき敵を見据えた。





「変身」

≪KAMEN RIDE・・・・・・DECADE!!≫



まずは士。カードを挿入した上でバックルを操作して、一気にディケイドの姿に変わった。だから俺達も続く。



「「・・・・・・変身っ!!」」





俺は突き出した右手を引き、構えた左腕の上の方を押す。そしてベルトのスイッチを入れる。

そのまま両手を広げると、俺の姿は再び赤色のクウガに変わった。

あの人は腰に装着したベルトの両側を、両手の平で勢い良く押した。



突き出した右手は素早く引き、腰の近くに備えていた左手も同じくらいに素早く動く。

あの人のベルトの真ん中の黄色の丸い宝石が光り輝き、あの人の姿が変わった。

でもそれは、先程のような緑色の生物的なデザインではなかった。さながらその姿は龍。



金色の二本の角に赤い瞳、口元には牙を思わせるような銀色のマスク。

黒色のスーツの上に金と銀の混じったシックなデザインの装甲を身につける。

これ・・・・・・あぁ、そうだ。恭文に映像で見せてもらったアギトそのものだ。



ここはアギトの世界だから・・・・・・マジでこの人がこの世界のライダーだったのか。





「守ってみせるっ! 俺もっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



なるほどねぇ。あっさりG4チップを破壊しようとするから、もしやもっと大切なお宝があるかと思ったんだけどビンゴだったか。

確かにあれはお宝だ。それも特大級に素晴らしいお宝だね。でも、残念な事がいくつかある。

まずアレはさすがに持って帰れないし・・・・・・そうしたところで僕にはなんの価値もない。うーん、残念だ。





まぁ良いとしようか。素晴らしいお宝をこの目で見れたわけだし。なによりG4チップもゲット出来たし。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





僕に間合いを詰められた槍持ちは頭上で槍を勢い良く回転させて、迎撃に移る。

それを袈裟に叩き込んで来る。僕は伏せ気味に身を屈めてそれを回避。

でもすぐにその動きを止めて、踏み込みつつも僕に向かって右手だけで持った槍を突き出す。



右に走りつつ避けると、槍持ちはその槍を引きつつ左手を伸ばして僕を掴もうとする。

ケルベロスの銃身を左薙に叩きつけるようにしてそれを払いつつ、槍の射程外に逃げる。

腕を払いつつ照準を槍持ちに定めて、至近距離でケルベロスを連射。



ケルベロスの銃身は激しく回転して、その銃口からガトリング弾が槍持ちに向かって放たれた。

でも槍持ちの前面・・・・・・コンクリの地面から突如水が噴き出し、それは盾となった。

ケルベロスの弾丸は全てその水の盾に防がれる。盾はすぐに消えて、槍持ちは槍の切っ先を向けてきた。



その槍からタイムラグ無しで水の砲弾が放たれる。僕は右に身を翻して射撃を一旦中止した上で攻撃を回避。

槍持ちは再び僕に突撃していて、そのまま僕の顔に向かって槍を突き出す。

僕は咄嗟に身体をその場で反時計回りに捻って、その刺突を避けた。・・・・・・てーか速い。



ただし三叉の槍の切っ先の一つが左肩アーマーに打ち込まれ、衝撃で僕は地面を転がってしまう。

派手に火花が走る中、僕は転がって距離を取ると、槍持ちは唐竹に槍を構えて僕に踏み込んでいた。

次の瞬間、槍は鋭く打ち込まれる。起き上がりつつも咄嗟に左に跳んで、斬撃をなんとか避ける。



槍での斬撃はコンクリの地面を派手に砕き、僕達は数メートルの距離を置いてその場で睨み合う。





「許されない・・・・・・人間が神に近づくなど、許されない」





そんな事を言いながら、槍持ちは槍を右切上に打ち込む。ただし、動かずにその場でだ。

その斬撃から水が生まれ、それは鋭く圧縮されて全てを斬り裂く飛ぶ刃となった。

僕は左に動いてそれをスレスレで回避。でも右肩アーマーがその水の刃によって深く斬り裂かれる。



ギリギリで身体を守っている部分は斬られてはないけど、それ以外の部分が見事に斬り落とされている。

それだけでなく斬撃の裾がコンクリに触れていて、見事に真っ直ぐな亀裂が入った。

・・・・・・僕は左手でスコーピオンを右太ももから取り外して、ケルベロスの左側面に装着する。





「人は我々が守る。その中で人は生きていけばいい」





続けて槍が振るわれ、いくつもの刃が僕に向かって襲ってきた。

僕はそれらを身体を捻りつつ、ステップも交えて回避。

横薙ぎに来たものも、少し大きめに移動してその全てを避ける。



斬撃が放たれる度に、G3ーXの装甲に傷が入る。





「我々がお前達を愛そう」





でも装甲に傷が入っても、肉体には傷はつかない。全部スレスレだけど、確実に避けられてる。

装甲をあっさりと斬り裂いた事で、エンジンが入った。コイツの動き、全部読み取れる。

槍のブレ、腕の動き、足運びに呼吸・・・・・・それら全てが先読みするための要因になる。



でもそれだけじゃあ勝てない。だからここはジョーカーを切らせてもらう。

僕は攻撃を避けながらもケルベロスのストックを左手で叩くと、最後部の蓋が開く。

オレンジ色のあるものが飛び出す。それを僕は左手で取り出した。





「だから人間、その力を捨てよ」

「・・・・・・ざけるな、カスが」





僕はそれを素早く取り出して、ケルベロスの銃口のど真ん中に装着。・・・・・・コレ、前々回説明したGX弾だね。

僕はそれを装着して、一気に加速した。それを見て槍持ちは右薙に槍を大きく振るう。

その斬撃を、僕はしゃがんで滑り込みつつ回避。水の刃はそのまま僕の頭上を通り過ぎた。



それから軽く起き上がると、今度は左手での掴み攻撃。僕はそのまま跳び上がる。

跳び上がって槍持ちの頭上を超え、右足でその頭頂部を蹴り飛ばす。

槍持ちは体勢を崩して前のめりに倒れる。僕は身体を捻って、空中で逆さになりながら構える。



右手はケルベロスのグリップを握り、左手は側面に装着したスコーピオンを握る。

狙いを槍持ちの背中に定めた上でケルベロス引き金を引くと、GX弾は至近距離で勢い良く射出された。

GX弾は槍持ちの背中に着弾して、派手に爆発した。その爆風が辺りに吹きすさぶ。




今度は水の壁を出す余裕は無かったらしい。直撃したのはちゃんと見て取れた。

僕の身体は衝撃で後ろに吹き飛ぶけど、空中で身を翻してバランスを取った上で着地。

急いで前に踏み込みながら、僕はケルベロスを腰だめに構えて引き金を引く。



フルオートで今装着している弾丸が無くなるまで撃ち続ける。弾丸は炎を突き破り、その中の『水』にぶつかる。

炎の中に、どういうわけか水が生まれていた。それが爆炎の勢いを僅かに消す。

そうこうしている間にケルベロスは弾切れ。僕はケルベロスをそのまま地面に置いていく。



槍持ちはその爆発に巻き込まれながらも、後ろに下がるだけで耐えた。その上で追撃は水の壁で防いだ。

さすが上位のアンノウン。これ一発で倒せるとは思ってなかった。だからこその僕の突撃だ。

僕は弱くなった炎の脇を突っ切り、槍持ちの目の前に接近していた。槍持ちは咄嗟に片手で左薙に槍を振るう。



僕はそれをしゃがんで回避。即座に左の二の腕からユニコーンを右手で引き抜き、順手で構える。

近距離であれば、バリアを張る事は出来ない。その範囲は・・・・・・大体2メートル前後。

だからこそバリアは炎の中で生まれてしまったのよ。それで接近すればいけると確証が得られた。



そのまま懐に入り込みユニコーンの切っ先を槍持ちの胸元に叩き込んだ。

ダメージのせいか、刃は全て槍持ちの胸元に深々と突き刺さって埋まった。

僕はユニコーンの柄から手を離して、そのまま槍持ちと交差。





「ぐ・・・・・・がぁっ!!」





槍持ちは苦し紛れに槍を右薙に一閃。というか、その場で回転しての薙ぎ払い。

僕は前に跳んでその斬撃を回避。着地しながら振り返り、槍持ちを視界に収める。

そのまますぐに前に踏み出す。槍持ちは咄嗟に槍を突き出した。



僕はその槍を身を伏せつつギリギリで避ける。そんな槍持ちの攻撃直後の隙を狙ってトドメの一撃。

槍持ちはすぐに槍を返して反撃しようとするけど、動きが鈍い。当然バリアも間に合わない。

結果、僕の方が速かった。僕はそのまま飛び込んで、至近距離で槍持ちに向かって右足で蹴りを叩き込む。





「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



命中箇所には当然、僕が先程突き刺したユニコーン。ユニコーンは今度は柄ごと槍持ちの身体を貫いた。

槍持ちはその衝撃で吹き飛ばされ、炎の中にその身を叩きつけた。僕は安全確実に着地。



「・・・・・・人を愛するってのはな、そんな簡単じゃねぇんだよ。バカなとこも全部含めて愛するんだ。
例え相手が無茶苦茶天然な上に仕事に依存してるバカでも、そういうところも認めた上で愛するんだ」



ゆっくりと息を吐きながら、炎の中で身をよじらせもがく槍持ちを見下ろす。

水のせいで弱くなっていた炎でも、槍持ちの頭や腰についている法衣を焼くくらいの勢いはある。



「その上で、その人が笑って自分らしく生きていける道を」



言いながら左手を上げて、その手の平を槍持ちに見せつける。



「この手を繋ぎ合って一緒に探していくんだ。確かに僕達は簡単に間違えるし迷う。
だから旅を続けて、何度も何度も答えを探していくんだ。分かり合っていく事を選ぶんだ」





そう言って・・・・・・やっぱりフェイトの顔が浮かんだのは、ダメな事だと思う。

だって僕、ギンガさんとの事真剣に考えて答えを出すって約束したわけだしさ。

でも今は、そんな迷いも全部含める。だって、拭えない部分でもあるから。



事件後に色んな事に気づいて、傷ついているフェイトを見て・・・・・・改めて感じた事だから、僕はコイツらの寝言を否定出来る。





「でもお前らは違う。お前らは手を繋ぐ事もしようとせずに、ただ人間を体の良いペット扱いしてるだけだ。
その上自分達の都合に添わないものを排除していくのが愛? ・・・・・・傲慢振りかざしてんじゃねぇよっ!!」



僕は揺らめく炎の中に右手を指差して、胸の中に渦巻くやるせなさを抱えながらも・・・・・・この愚か者に罪を突きつける。

上げていた左腕を下げて、僕はゆっくりと右腕を上げる。そして愚か者を指差した。



「さぁ、お前達の罪を数えろ」

「罪・・・・・・違うっ! そんなわけがないっ!!」



槍持ちは炎の中フラフラと立ち上がり、一歩踏み出す。そして首を横に振る。



「我らが・・・・・・神が人を愛しているが故の行いがっ! 罪なわけがなかろうっ!!」

「なら、そう思っている事自体がお前達の・・・・・・罪だ」



僕がそう言った瞬間、槍持ちは炎の中で爆発した。その熱と風が僕の方にまで来るけど、僕は動かない。

炎まではこっちに来てないし、燃やされる危険もない。だから僕は、静かに炎を見つめ・・・・・・踵を返した。



「・・・・・・僕達から『旅』を取り上げるな。神様だろうが、そんな権利はどこにもねぇよ」










・・・・・・あ、このまま踵返してギンガさんのとこ戻っちゃだめだ。ちゃんとケルベロス回収しないと。





てーかよくよく考えたら、G3ーXズタボロだよねっ!? 僕はもう全くの無傷だけどさっ!!





ヤ、ヤバい・・・・・・! これ八代さんや中島さんにめっちゃ怒られたりするフラグかなっ!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・牛男は飛び込む俺達に向かって、槍を振るって斬りつけてくる。

まず士が前に出て、ブッカーを変形させた剣でその槍を受け止める。

右薙に振るわれた槍を受け止めながら、左手でその槍をしっかりと掴んだ。





するとあの人が走り込んで、胸元に右拳を叩きつける。牛男は槍を左に強引に振るって、二人を振り払った。

そこを狙って俺は飛び込む。すると牛男は、右側から迫る俺を狙って槍を右薙に打ち込んでくる。

それをしゃがみつつ回避して、顔面に右拳を叩きつける。もう一発叩き込んだ上で、今度は腹部に左でブロー。





牛男は左手を伸ばして俺の首を掴み、軽く持ち上げて・・・・・・く、苦しい。










「人間が・・・・・・! なぜ神の御心を理解しないっ!! 人が神に近づくなとあってはならないのだっ!!」

「知るかっ!!」



でも、そんな俺を助けるように牛男の左脇腹に蹴りが入った。それはあの人の右足でのミドルキック。

牛男はそのまま吹き飛ばされて、軽くたたらを踏む。俺は地面に落ちて軽く尻餅をつく。



「俺は・・・・・・俺だっ!!」





そんな俺達に向かって牛男は再び槍を叩き込もうとするが、そこに士が割り込んで来た。

剣で槍を受け止めつつ、俺達から距離を離すようにして押し込んでいく。俺はその間に起き上がった。

俺は右側に居たあの人を見た。あの人は何も言わずに静かに頷く。なので、俺も頷いた。



俺は両手を広げ、腰を落とす。膝立ち気味な体勢を取りながら、ゆっくりと息を吐いて集中していく。





「・・・・・・はぁぁぁぁぁぁぁ」



あの人は両手の平をお腹の辺りまで動かす。その手は合わせるわけではなく、ドッジボールくらいの間がある。



「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・・!!」





まるで何か・・・・・・昔テレビで見た太極拳をやってた人が、気を練っていた時と同じ印象を受けた。

そうかと思うと、頭部の二本の角が広がった。こう、それぞれにエリみたいなのが展開したんだよ。

それからあの人は左手を左の腰に添えて、右手の平もまるで居合いでもするかのように添えて腰を落とす。



そして足元に、黄色の角と同じ形状の紋様が浮かぶ。それは螺旋を描きながら、一気にあの人の右足に集束していく。

そこは俺も同じ。俺の右足に赤い光が集まり迸っていく。俺はそのまま、牛男に向かって踏み出した。

足音を響かせながら俺は走り、一気に跳躍。縦に膝を抱え回転しながら牛男に飛び込む。士はそれを察知して右に素早く移動した。





「うぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



俺は赤い光に包まれた右足を突き出した。

あの人もその場で跳躍して、牛男に向かって輝く右足を突き出した。



「はぁっ!!」





俺達の蹴りは牛男の胸元に叩き込まれ、牛男はそのまま吹き飛び地面を転がる。俺とあの人はすぐに着地。

牛男はふらつきながらも立ち上がり・・・・・・そのまま倒れる事もなく槍を突き出した。

ただし、動かずにその場でだよ。その瞬間槍の切っ先が輝いて、青い十字架が・・・・・・俺達は散開してそれを避けた。



俺達が今まで居た場所で爆発が起こり、見慣れたクレーターを作ってしまう。





「くそ、あとちょっとなんだけど」

「問題ない。任せろ」

≪FINAL FORM RIDE≫



あれ、この電子音声は・・・・・・あの、俺的には色々トラウマな感じが。



≪A・A・A・A・・・・・・AGITO!!≫



俺は寒気がしつつも士の方を見ると、士はいつの間にかあの人の後ろに居た。



「ちょっとくすぐったいぞ」

「いや、くすぐったいってな・・・・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!





士が両手を背中に突っ込むと、もう描写で説明するのも怖いくらいの事が起こった。

まぁアレだ、身体の中から赤いカウルみたいなパーツが出てきたと思ってくれればいい。

それから骨がありえない方向に曲がって・・・・・・あの人はボードみたいになった。



ただしサーフボードみたいにうすっぺらい感じじゃない。分厚くてジェットエンジンで飛んでて・・・・・・なんだこれっ!?





「ユウスケ、お前が決めろ。俺が援護する」

「いや、決めろって・・・・・・・お前マジでこれやめろよっ! 気色悪いだろうがっ!!」



あのセンスが著しく欠損している恭文でさえ、これは『気持ち悪い』って言うくらいなんだぞっ!?

頼むからやめてくれー! 展開どうこう抜きにBPOに怒られるだろうがっ!!



『な、なんだこれはっ! お前、俺になにをしたっ!! これじゃああの緑色より人外じゃないかっ!!』

「あぁもうホントごめんなさいごめんなさいっ! ・・・・・・士ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「いいからとっとと乗れっ! そして俺にそんな高等技術を求めるなっ!!」



高等技術ってなんだよっ! 俺達はそこまで高度な・・・・・・・えぇい、言ってる暇ないかっ!!



「あぁもう分かったっ!!」



俺は半泣きになりながらもそのアギトボードに乗っかって・・・・・・ゲットライド。

そのまま真っ直ぐにこちらと距離を取って槍をまた輝かせ始めた牛男に突撃した。



「もうやけっぱちだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

≪FINAL ATTACK RIDE A・A・A・A・・・・・・AGITO!!≫





あの爆弾十字架が再び撃ち出されようとするが、その輝きは発射された直後に爆散。

牛男はそれでたたらを踏んで後ろに下がる。構わずに牛男はまた十字架を撃ち出そうとする。

でもそんな牛男を、弾丸が10数発撃ち込まれた。その身体から派手に火花が走る。



・・・・・・そうか、士の奴か。なら、ここで一気に終わらせる。それでこの人を早めに開放だ。

前進する俺達の目の前にあの時見た角の紋様が浮かんだ。俺達はそのままその紋様を突っ切る。

その紋様は再び螺旋を描き、俺達の身体を包んで加速させた。俺達は・・・・・・光になる。





いけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!



その光は牛男の身体を貫き、斬り裂いた。そして俺は、そのままボードから飛び降りる。

てーかボードへの変形が解除されて、あの人が元に戻ったんだよ。なので俺達二人とも地面に着地だ。



「バカ・・・・・な」



後ろから聴こえたのは、掠れたような声。その声は、俺達という光に貫かれた牛男のもの。



「我々が・・・・・・神が、負けるというのかっ!?」










次の瞬間、後ろから盛大な爆発音が聴こえた。俺達は振り返って・・・・・・軽く息を吐く。





爆炎の向こうの士がいつも通りにふてぶてしい空気を出してたので、俺は士を見てサムズアップした。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



牛男と槍持ち、それに連なるアンノウンは一応は排除完了。僕達は揃って対策班のオフィスに戻ってきた。

ただ、アレがアンノウンの全勢力とは考えがたい。やっぱり今後も対策は必要。でも、心配はいらないと思う。

だって・・・・・・ねぇ? 僕の後ろで右手で頭頂部を押さえているおっちゃんが居るわけだから。





なお、なぜいい年こいた大人がげんこつ食らった子どもみたいにしているかというのは、触れないでおこう。










「・・・・・・このバカ野郎が。俺はともかく八代に散々心配かけやがって」

「・・・・・・すみません」

「謝るくらいなら最初からこんなマネしてんじゃねぇ。このタコが」





というか、説明する必要もなく察せるよね? だって中島さんカンカンだし。

いや、ここに来るまでに『会わせる顔が無い』とか言い出して非常に大変だったよ。

その上いざ入ろうとしてまたゴネたんで、鋼糸で縛って引きずり込んだくらいだし。



なお、鋼糸に関しては既に解除しているのであしからずです。・・・・・・子どもみたいな人だなぁ。





「で、お前らは揃ってまた旅に出るんだっけか」



中島さんが僕とユウスケに視線を移すので・・・・・・僕とユウスケは顔を見合わせて頷いた。



「僕は旅って言うか、ギンガさんが実家に戻らないといけなくなっちゃったんで」

「その、なぎ君に付き添ってもらってちょっとずつ戻る感じで・・・・・・はっくしゅんっ!!」



ギンガさんが大きなくしゃみをしながら、軽く鼻を押さえ・・・・・・水に濡れたからかな。

ギンガさん、さっきもくしゃみしてたんだよね。よし、今日の夕飯は温かいものだね。



「と、とにかくそんな感じで」

「せめて僕の後任が見つかるまでは頑張らないとだめかなと思ってたんですけど」



僕は言いながら、後ろで未だに右手押さえてるおっちゃんに視線を向ける。



「もう見つかっちゃいましたし。それもめっちゃ優秀な人が」

「・・・・・・ま、それはな。で、小野寺。お前まで実家戻りか?」

「あー、いえ。俺は少し違います」



ユウスケは首を横に振って、少し照れたように今まで黙りっ放しな八代さんを見る。



「俺、何か分からないんですけど、俺に出来る事を探す旅の途中でした。
ここで立ち止まってたら、怒られちゃうんですよ。それを・・・・・・約束した人に」

「・・・・・・それは、あなたにとって大事な約束?」

「はい。めちゃくちゃ、大事な約束です」



八代さんは納得したように頷きながら、ユウスケの方を見て・・・・・・笑った。



「分かった。頑張ってね」

「はい。じゃ、話もまとまったところで」

「だね」



ユウスケは八代さんの方に、僕はもやしの傍らにずっと居たあのアダルトチルドレンなおっちゃんの方に近づく。

僕達はそれぞれ相手の右手を取って、一気に引く。・・・・・・なんか抵抗するので僕はおっちゃんの方を見て笑いかけた。



「抵抗すると、また中島さんのげんこつが飛びますよ?」

「・・・・・・分かった」










おとなしくなったので、僕は改めてこの人の大きくて優しい手を引く。それはユウスケも同じ。

それで僕達は二人の手を繋がせて・・・・・・ゆっくりと、二人から手を離した。

二人は僕達の方に戸惑った視線を向けるけど、それでもちゃんと向き合っていく。





手を強く握り合って、それで不器用だけど静かに笑い合った。





そんな二人を見て僕達は笑顔を浮かべて・・・・・・もやしは静かに、シャッターを切った。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



俺達は荷物を纏めて、警視庁を出る事にした。なお、見送りは丁重にお断りした。

というか、アレだな。あの人と中島さん、昔から付き合いのある上司と部下って感じだったそうなんだよ。

だから中島さんからそれはもう濃厚なお説教を・・・・・・俺達は手を合わせる事しか出来なかった。





恭文と士とギンガちゃんはもう出たんだが、俺はなんかこう・・・・・・名残り惜しくなって準備が遅くなってしまった。





それでも俺は準備を終えて、地下の駐車場でトライチェイサーにまたがっていた。










「あの、待ってっ!!」



でも、発進しようとした時に後ろから声が聴こえた。俺がそちらを振り向くと、八代さんが小走りに走り寄ってきていた。



「八代さん、どうしたんですかっ!? というかお説教は」

「中島さんがやってくれてるから・・・・・・その、むしろ私が入り込む余地が0で」

「そ、それはまた」



まぁ1年以上失踪でコレだしなぁ。そりゃあ加熱して・・・・・・南無。



「それであの・・・・・・ありがと。またいつか、会えるわね?」

「・・・・・・はい。またいつか、どこかで」










俺は八代さんを見て笑いながら、ヘルメットをかぶる。トライチェイサーのエンジンをかけて・・・・・・そのままアクセルを開けた。





俺は外に飛び出して、俺の今居たい場所目指して走った。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



バイクに乗って走るユウスケを、横から一枚。・・・・・・あ、俺は駐車場の出入口で待機してたんだよ。





俺は、俺に気づかずに走りさったあのバカスケの去った方を見る。それから改めてカメラを見た。





もう帰るか。この世界でのやるべき事は全部終わった。あとは連中の物語だ。ま、きっとなんとかなってくだろうさ。




















(第16話へ続く)






[*前へ][次へ#]

20/34ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!