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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
ケース06 『ギンガ・ナカジマとの場合 その6』(加筆修正版)



一人廊下を歩きながら、まずは計算。お風呂は、こっちに戻って来てから入らせてもらった。

傷に少し染みたけど、特に酷い部分はなかった。頬のガーゼも大事を取ってるだけで特にダメってわけじゃない。

あと確か今日って・・・・・・あ、ちょっと危ないかも。でも、一応持ち歩いている『明るい家族計画』もある。





そうなっても問題は・・・・・・って、私は本当になに考えてるのっ!?

あの、あくまでもお話っ! お、お話するだけなんだからっ!!

・・・・・・待って、もしもなぎ君がそんな感じだったら、どうしようかな。





私・・・・・・あ、でもさすがに直後だし、そうはならないかな。

でもせめて、気持ちを伝えるくらいのことは、してもいいよね。そう考えると、心臓の鼓動が跳ね上がった。

『告白』の二文字を思い浮かべるだけで身体が熱くなって、呼吸が苦しくなる。





自分の心臓の音が、凄まじい速度で打ち鳴らされる。それが耳の奥底から聴こえてくる。

今は付き合うとか、恋人になるとか、そういうのじゃなくていい。ただ・・・・・・ただ一つだけ欲しい。

私を女の子として見て欲しい。ただ、それだけ欲しい。そのためには、やっぱりうたう事が必要。





そんなことを考えながら歩いていると、部屋の前まで来た。だから私はコンコンと、震える左手でノックする。






すると、中から『はい』という声がした。だから、そのまま私は入った。ドアを開けると、目の前には一人の男の子。










「・・・・・・来ちゃった」



今日、また重いものを背負ったはずなのに、普段と変わらない様子を見せている男の子が、私の目の前に居る。



「うん」



私はそのまま案内されて、ベッドの上に腰掛ける。い、いいの。その・・・・・・これはいいの。

なぎ君も私の隣にちょこんと座る。・・・・・・ちょっと離れてるから、距離を詰めた。



「ギンガさん、くっついてる」

「くっつけてるから、いいの」



そのまま少し沈黙。触れている腕の温もりで心が温かくなって・・・・・・ドキドキする。



「終わった・・・・・・ね」

「一応ね。この後の処理とか捜査とか、まだ残ってるけど」

「あとは、エリスさん達にだよね」

「うん。というか、僕はそういうの専門外だからなぁ」





なぎ君は捜査とかそういうのが実は苦手だったりする。なんというか、イライラするとか。

目の前に相手が居て、それをぶっ飛ばせる状況の方が楽だし楽しい・・・・・・あれ、なんかおかしいな、この思考。

だけど戦闘時の咄嗟の判断とか、強敵相手の手札の切り方とかを見てると、適正はありそうなのに。



もしかしたらなぎ君がアウトコースな手に出る事が多いのは、そういうトリックスターとしての一面が大きいのかも。



なんとなくね、そう思ったんだ。戦術家としての一面が、正攻法だけに手段を縛られるのを嫌うのかなーって。





「なぎ君、もう荷物整理始めてるの?」



部屋の中は、綺麗に片されている途中だった。というか、なぎ君はもう荷物を纏めていた。



「うん。しばらくは失踪しておかないと、あの頭固い連中はうるさいから」

「・・・・・・やっぱり六課には戻らないんだ」

「なんで戻る必要があるのよ。僕は連中を完全に見限ってるんだから」





呆れ気味になぎ君はまた嘘をつく。・・・・・・うん、嘘だよ。私ね、冷静に考えて分かったんだ。

なぎ君は自分の無茶に、六課のみんなやスバル達を巻き込まないためにそうしたんだって。

なぎ君は嘱託だけど、やっぱり六課の一員である事は変わらない。そこだけは、変えられない。



なぎ君が内心でどう思おうと、それは変えられない。少なくとも局にとってはそうだよ。

そんななぎ君がこんな無茶をすれば、それは六課全体の評価に関わる。そういうものなんだよ、組織って。

特に六課はJS事件の影響で評価も高くなってるし、部隊員ももうすぐ卒業する身。



そこで問題を起こせばどうなるか・・・・・・もちろんそれなら、なぎ君は戻るのがやっぱり正解だったりする。

六課の仲間として、嘱託でも部隊員として・・・・・・自分のために、そして仲間のために。

そこに対してなぎ君がどういう答えを出したかは、もう言うまでもないと思う。もう、過ぎた事だから。



それでもなぎ君は、きっと嘘をつき続ける。『見限った』なんて言って、嘘をずっとつく。

私はそれが寂しくて、悲しくて・・・・・・もうちょっとだけなぎ君に強めにくっついた。だって、しばらく会えないわけだし。

私はマリーさんと一緒にミッドに戻る。戻って、ちゃんと精密検査して・・・・・・またお仕事に戻る。



私は局の仕事を、自分のやりたい事を放り出せない。上どうこうじゃなくて、私なりに描いたものがあるから。

なにより、信じたいのかも知れない。ちょっとずつでも・・・・・・ちょっとずつでも、私達は何かを変えられるんだって。

それが私の答え。信じられないという答えを出したなぎ君と同じで、だけど違う私の答えだから。



私は、過去も全て踏まえた上で変わっていくと信じたいと思った。



一緒に居る仲間達を信じたいという、私なりの答え。それできっとこれも、今の私の歌の一部。





「でもなぎ君。失踪って、どこに行くの?」





とりあえず私の事は置いておくとして、今は楽しそうな顔をしているなぎ君の事だよ。



あのね、旅をするのは分かるんだ。だってなぎ君の目、やっぱりキラキラし始めてる。



事情はどうあれ、旅の中になぎ君の夢が・・・・・・世界があるのは間違いないみたい。





「まずはカナダかな。ゆうひさんが学生時代に暮らしてた寮の人が、そこに居るんだ。
ちょっと前から『また遊びにおいでー♪』って言われててさ。急だけど行ってみる事にした」

「そうな・・・・・・カナダ?」

「うん。えっと」



なぎ君は楽しそうな顔で、空間モニターを展開して地図を広げる。



「まず、ここがイギリス。僕達が居る国」



なぎ君は右の人差し指で、地図の一角を差す。そこからすっと指を動かす。



「それでここがカナダ。ここからここまでがカナダだね」



どうやらカナダというのは、地球にある国の一つらしい。

なぎ君が人差し指と親指を地図に当てて、その範囲を示した。



「結構距離があるね。というか、とっても大きい」



なぎ君が指で示した範囲は、地図上だと数センチの距離。

でも、実際の広さを感じてしまって、私は軽くため息を吐く。



「ね、なぎ君やなのはさん達が住んでた日本は?」

「ここだよ」



なぎ君の指がまた動いて示すのは、そんな大きな国と違って本当な小さな島国。

ここが私や父さんのご先祖様が住んでいた場所。そこは想像以上に小さかった。



「・・・・・・小さいね」

「世界って言うのが広いんだよ。広くて、大きくて・・・・・・ワクワクが沢山ある。
それで強い人も沢山居る。面白い人も、心がキラキラしてて綺麗な人も沢山」



やっぱりなぎ君は楽しそう。・・・・・・私にはこの地図は、ただのデータにしか見えない。

でもなぎ君にとっては、まるで宝箱のようになってるんだと思う。夢やワクワクが沢山詰まった、宝箱。



「じゃあカナダではその人の家に?」

「うん。久々に会っていっぱい遊ぼうって話になったんだ。あ、仁村知佳さんって言うんだけどね」



なんだろ、ちょっと胸に突き刺さるものがあった。その名前の響きからして、間違いなく女性だと思うんだ。

というか、なぎ君はどうして嬉しそうなのかな。なんでそんなニコニコしてるのかな。ちょっとイラってするんだけど。



「ゆうひさんやフィアッセさんと同じくらいに大事で、大切な年の離れた友達。
カナダの方に本部がある国際救助隊っていうレスキュー部隊のお仕事してるんだ」

「レスキュー部隊?」

「うん。優しくて綺麗で、とっても温かい人。せっかくだし、仕事のせいでしばらく会えなかった人に顔出していこうと思うんだ」



ただ胸の中で感じたイライラは、やっぱりワクワクで楽しそうな顔のなぎ君を見ていて・・・・・・少し解けた。



「それでその後は・・・・・・考えてないかな。でも、世界中回ってみたい。次元世界も含めてさ。
もうね、止まらないんだ。旅に出て、冒険して・・・・・・いっぱい楽しみたい。旅と冒険はやっぱり、僕の夢だから」

「・・・・・・そっか」



不安が無いわけじゃない。離れて欲しくもないと思ってしまう。六課に戻って欲しいとも、ちょっと思う。

ただその言葉を飲み込んで、私は部屋に入る前の動揺なんて吹き飛ばすように沢山笑う。



「なぎ君」

「なに?」

「楽しんで来てね。旅や冒険は・・・・・・なぎ君の大切な夢なんだから」

「うん」










私は、なぎ君の笑顔が好きだ。なぎ君が笑ってくれるなら、それだけでいい。

私の側に居て笑ってくれれば、私達と同じようにして笑えるならそれでいいと思ってた。

でもそれが出来なくても、やっぱり笑っていて欲しい。好きな人には、幸せでいて欲しい。





それだって私の歌の中のメロディーや歌詞の一つ。そうだ、私の中にはちゃんと自分の歌がある。

ただそれは私の歌であって、なぎ君の歌ではないという事。そこに気づかなかったから、ずっと行き違ってた。

でも今は違う。今はなぎ君の歌を、その中の歌詞をもっと知って・・・・・・理解していきたいと思っている。





でも、それだけじゃ足りない。私はもっと・・・・・・もっと。




















魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝


とある魔導師と彼女のありえる繋がりとその先の事


ケース06 『ギンガ・ナカジマとの場合 その6』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・というわけで、お世話になりました」



翌日、なぎ君は朝一番でここを出ることになった。それでとっても楽しそう。

まぁそれが大事な女性の友達に会うからだと言うのが・・・・・・なんだろ、納得出来ない。



「ううん、お世話になったのはこっちの方だよ。・・・・・・本当に、ありがとう」

「いえいえ。僕、大した事出来てませんし」

「そんな事ないよ。うん、そんな事・・・・・・そんな事ない」



そう言いながらフィアッセさんは、優しくなぎ君の頭を撫でる。・・・・・・あ、これはイライラしない。

二人の間にこう、強い絆みたいなのがあるのはよく分かったからなのかな。アレから色々お話も聞かせてもらったし。



「あの、エリスさん」

「あぁ、後の事は全て任せてくれ。警防も捜査協力してくれると言ってくれているしな。君の仕事は終わりだ」

「はい、お願いします」



そう言って、なぎ君がエリスさんに頭をペコリと下げる。私は・・・・・・見送る側。

昨日も言った通り、行き先が違うから。私達はまたちょっとだけ距離を離す。



「・・・・・・恭文くん、やっぱり私達と一緒にミッドに戻ろう?」



みんながお見送りモードの中、不満そうなのはマリーさん。というか、心配してるんだと思う。

これで本当に縁が切れるんじゃないかって・・・・・・かなり心配しまくってる。



「私からもなのはちゃん達にお話するし、六課に戻れるようにも考えてみるよ。だから」

「嫌です」

「だけど」



私はマリーさんの左肩にそっと右手を当てた。マリーさんは私の方を見てくれる。

私は心配そうな目をしていたマリーさんを見ながら、静かに首を横に振った。



「あー、恭文君。知佳ちゃんや耕介君と愛さん達に、よろしく言っといてな。
特に耕介くん達や。また里帰りさせてもらうからーって」



一瞬悪くなりかけた空気を振り払うように、椎名さんは明るくそんな話をする。

でも・・・・・・アレ? 知佳さんはともかく、後の二人は誰かな。カナダのお仕事場の人とか。



「了解です。ゆうひさんが相変わらずバカだったと伝えておきます」

「そうそう、うちが変わらずバカやったと・・・・・・誰がバカやねんっ!!」

≪JACK POT!!≫

「大当たりちゃうわボケっ! こてっちゃんもなんで乗るんやっ!?」



な、なんというか・・・・・・このやりとりは普通なのかな。私には今ひとつ分からないんだけど。



「んじゃ、ギンガさん。またミッドでね」



なぎ君は私の方に視線を向けて、笑ってくれる。・・・・・・笑って、くれてるの。

私達、まだ繋がっていられるみたい。ちょっと行き違ったけど、それでも繋がっていられる。



「・・・・・・うん」



だから私も笑いながら、しっかりと頷いた。頷いて、なぎ君の気持ちに応える。

それで改めて決意を固める。この距離感も好きだけど、やっぱりって・・・・・・欲張っちゃう。



≪マリエルさん、ギンガさんの事はお願いしますね≫

「・・・・・・・・・・・・了解」



マリーさんはもう諦めたのか、軽くため息を吐いて苦笑い気味だけど、なぎ君の方を明るい顔で見た。



「二人も気をつけてね。またミッドで」

≪「はい」≫



そう言って・・・・・・なぎ君は歩き出す。こちらに手を振りながら、ゆっくりと。

私達は姿が見えなくなるまで、玄関の方で見送っていた。・・・・・・行っちゃったなぁ。



「フィアッセ、なんやギンガちゃんが寂しそうやで?」

「うーん、そういうのは私の役なのになぁ」

「か、からかわないでくださいっ!!」

「・・・・・・しかし、彼にはまた助けられたな。今度フォローしないと」



エリスさんがそう言うと、フィアッセさんとゆうひさんが少しだけ真剣な表情で頷いた。

・・・・・・やっぱり、思うところはあるらしい。特にフィアッセさんは。



「まぁ、そこはともかく・・・・・・えっと、マリエルさんでしたよね」

「あ、はい」



フィアッセさんはマリーさんの方に振り向いて、優しく笑う。

するとマリーさんはなぜか緊張気味に・・・・・・なんか凄いオーラ出てるんですけど。



「ギンガちゃん、予定通り二〜三日お借りしますんで」

「それは構いません。状態もそこまで悪いわけじゃなさそうですし。
でも・・・・・・あぁ、ギンガもついにエンジンかかったかぁ」



・・・・・・マリエルさん、お願いだからそう言いながら涙拭うのはやめてください。



「クイントさん、見てますか? ギンガも大きくなって・・・・・・うぅ、私は嬉しいです」



あと、母さんのスクリーンショットを出して報告するのもやめ・・・・・・ってっ! 父さんと全く同じじゃないですかソレっ!!



「ほな、フィアッセ」

「うん。・・・・・・ギンガちゃん」

「はい」



私はなぎ君のお見送りをする前・・・・・・というか、昨日のうちにフィアッセさんと椎名さんに相談していた事がある。

私はやっぱり、私の歌を伝えたい。不器用でも下手でもいいから、なぎ君に今の私という歌を聴いて欲しかった。



「私とゆうひも力を貸すから、頑張ってみようね。恭文くんにギンガちゃんの想い、ぶつけてみよう」

「はい」

「なら、私は・・・・・・ガードしよう。いや、それくらいしか出来ないんだが」

「うん、お願いね。エリス」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



さてさて、ここは恭文くんの家・・・・・・はい、ごめんなさい。私達はまだ占領しています。





それで現在、お母さんはテーブルの上で頭を抱えている。私とアルフはまぁまぁ大丈夫なんだけど。





なお、お母さんが頭抱えてる原因は、うちの双子達のお昼寝中に通信をかけてきたはやてちゃんだよ。










「・・・・・・・・・・・・それじゃあはやて、アイツの行方完全に分からないのか?」

『分からないですねぇ。まぁカナダ向かった言うんは間違いないっぽいですけど』

「カナダ? なんでまた」

『恭文が昔ようしてもらった人が居るんですよ。うちやフェイトちゃんは面識ないんですけど』



カナダ? それで恭文くんがよくして・・・・・・あ、もしかして仁村知佳さんっ!?

恭文くんとすごい勢いでアバンチュールしたあの人っ!!



『てーかその話したら、シャマルとリインが凄い熱入れて六課飛び出そうとしてるんやけど、うちはどうすれば』

「・・・・・・はやてちゃん、それは止めた方がいい。絶対カナダが修羅場に変わるから。
ラブレター・フロム・カナダじゃなくて、バトル・フロム・カナダになっちゃうから」

『そう言うって事は、エイミィさんはなんか知っとるんですか』

「うん、かなりね。とりあえずその二人だけは絶対に行かせちゃだめ。絶対にね」





私もさ、さざなみ寮にはアレからお世話にもなってて、ご近所付き合いとかもしてるわけですよ。

耕介さんや愛さん達に子育ての事を結構相談したりもしたし。だから知佳さんが今もカナダで働いてるのも知ってる。

だからすぐに気づいたんだけど、恭文くんあの人のところ行ったんだ。フィアッセさんの次は知佳さんって。



まさか恭文くん、またアバンチュール再開・・・・・・いや、それはないか。

なんかフィアッセさんも恭文くんの事、相当心配してたっぽいしなぁ。知佳さんも同じくとかかな。

だから元気な顔見せるためにカナダ・・・・・・うん、こっちの方が素直に信じられる。



でも、知佳さんのところなら安心かな。・・・・・・死亡フラグ関係は一切安心出来ないけど。





「・・・・・・愚かよ」



で、そことは関係なく私達を困らせてしまう人が居る。それはお母さん。



「どうしてなの? どうしてあの子はこういつも勝手な事ばかり・・・・・・なのはさん達の事まで傷つけて」

『そらアンタが無茶振りしまくるのが原因でしょうが』



はやてちゃんは呆れ気味にそう言い切った。というか、語気が若干強い。

お母さんは恨めし気に視線を上げて、画面の中のはやてちゃんを軽く睨む。



「はやてさん、それはどういう意味? 私はあの子に幸せになって欲しかっただけ。
過去に縛られずに、あなた達と同じようにしっかりと大人として生きて欲しかっただけよ。それを」

『それが無茶振り言うてるんです。なにより、今局員なれとか社会信じろ言うんは無茶でしょ。
うちら局は、ぶっちゃけ世界の裏切り者ですよ? 市民の信頼を裏切った最低最悪なクズや』



というか、はやてちゃんキレてる? もう視線がなんか厳しいし、明らかにお母さん責めてるし。



『例えば最高評議会やレジアス中将にスカリエッティが進めてた違法研究。
アレを行うための資金はどこから出てました? 局ですよね。で、局はどこからそれ取ったんですか。税金でしょ』





あ、一応補足。ミッドは地球と同じく税金を取って、公共事業を行っているんだ。

それで管理局は警備組織であると同時に政府機関でもあるから、そのお金は局に集まる。

あとは各企業などの有志からの寄付もある。ここは企業のイメージアップのためにだね。



それでそこまで考えて、はやてちゃんの言いたい事が分かった。だから私も表情が苦くなる。

・・・・・・そのお金を管理局の正常な運営のためでなく、違法研究や重犯罪者を匿うために使っていた。

それだけじゃなく組織で働いていた人員も平然と、消耗品や研究材料として扱っている。



ここは8年前に全滅したっていう部隊の話だね。あとはレジアス中将と一緒に死亡したっていう元局員の方。

これらがどれだけ大きな問題で、どれだけ最低な行為かはもう説明する必要もないと思う。

市民からしたら、そりゃあ溜まったもんじゃない。だって、税金って何気に大きいお金なんだよ?



日々のちょっとした買い物からも差し引かれ、計算だってめんどくさい。

車とかパソコンみたいな結構な価格がする高い買い物になれば、数%の額がバカにならない。

その上春先の収入申告に関しても税金の計算して・・・・・・そういう日常の手間もあるのよ。



なによりそのお金は、日々みんなが頑張って働いて稼いだ分からもらってる。

公的な政府機関は、そういうお金をもらった上で活動をしている事を絶対に忘れてはいけない。

ここは訓練校の頃、どんな局員でも口を酸っぱくされて言われる事だったりする。



まぁお金の話すると非常に渋い感じになるけどさ、そういうのは大事だよ。公僕の心構えの一つでもある。

だからこそ政府機関は、クリーンな運営と維持が求められるわけだよ。行動に関しても同じ。

私達は私達を信じてくれる人達の支援があって、初めて仕事が出来る事を絶対に忘れてはいけないの。



個人で動くとかなら、まだいい。でも組織・・・・・・人の集団が動く場合、ここは絶対に見逃せない。

そういう意味では恭文くんの今までのアレコレが不評なのも、しょうがないと言えばしょうがないんだよね。

嘱託と言えど局の関係者。そこでイメージが悪くなっちゃうのは、やっぱり問題なんだよ。



はやてちゃんがいきなりその話を持ち出した事で、お母さんの表情が途端に苦いものに変わる。





「・・・・・・その通りよ。市民から集めた税金に、スポンサーからの寄付が資金源」

『そうです。うちらは日々みんなの生活の中から出されてるお金をちょびっと借りた上で、組織を維持してるんが管理局です。
でも、組織のトップが主導でそれ使って違法研究してた。うちはもう今制服着てる事自体が恥ずかしくてしゃあないわ』

「あの、はやて。さすがにそこまで言う事ないだろ? 落ち着けって」

『いいや、言わせてもらいます。てーかアレや、アルフさん』

「なんだよ」



視線が厳しかったはやてちゃんの言葉に、ついアルフが身構える。

だけどすぐにはやてちゃんは、申し訳無さげな顔になった。だからアルフも面食らって構えを解く。



『うちはアンタに謝らんとアカンのです。うちがアホやったせいで、フェイトちゃんまでそのクズの仲間入りさせてもうた』

「いや、だからちょっと待てよ。クズクズって言うな。フェイトはちゃんと仕事」



言いかけて、アルフの言葉が止まった。それからアルフは戸惑ったような顔で、画面の中のはやてちゃんを改めて見た。



「・・・・・・はやて、フェイトもしかして局員で居る事が辛いのか?
というか、今局員への風当たりってそこまで強いのかよ。そこまで局はダメに見られてるのか」



お母さんの身体が軽く震えたけど、はやてちゃんはそこに構わずに頷く。



『そうです。・・・・・・フェイトちゃん、今はまだ大丈夫です。でも、遅かれ早かれ爆発するでしょうね。
事件中に反省点がどっさりあったし、恭文がこれですから。爆発した後の事までは責任持てません』

「そうか。それは・・・・・・仕方ないのかな」

『えぇ。あとはなにより、管理局はもう何時潰れてもおかしくないですよ?
他に管理局の代わり出来る組織が居ないから、維持出来てるだけです』



そこまで・・・・・・ですかぁ。まぁ私やアルフは地球常駐の、平和な一般人だしなぁ。

ただ、それでも元局員とその補佐。やっぱり困った顔になってしまうのは・・・・・・組織への愛着ゆえだよ。



「本当に、そこまでなんだな?」

『そこまでですねぇ。それで悲しいかな、うちらはこれを他人事には出来ん。自分がそれをやった言う意識を持たなあかん。
だってそこを抜いてもうたら、組織を変える事そのものが不可能になってまう。はっきり言ってそれは苦行ですよ』

「あぁ、そうだな。それは・・・・・・アタシもちょっとだけ分かる。でも、そうか。
なんだろ、ムカついてきた。管理局はフェイトやみんなの事・・・・・・そこまで裏切ってたのか」



アルフは少し視線を落とした。それで両手を強く・・・・・・強く握り締めている。

・・・・・・やっぱ、それなりにそこの辺りは考えてたんだね。そこはしっかりと伝わった。



『で、話戻しますけど・・・・・・リンディさん、アンタ行動おかし過ぎるわ。恭文を家から叩き出しといてそれはない』

「でもはやてさん、こうでもしなきゃあの子とは話せないじゃない。話して、変わって欲しかったの」

『アンタの都合のいいようにでしょ』

「・・・・・・何がいけないの? 家族に自分の居場所を、仲間達が守ってきた場所を否定される辛さがあなたに分かると言うの?」



お母さんの視線が厳しくなった。というか、立ち上がって画面の中のはやてちゃんを鋭く睨み出した。



「私は何があろうと歯を食いしばって、この組織であなたよりずっと長い間頑張ってきたわ。預かってきたものもそれなりにある。
それを否定されて、ヘラヘラと笑ってろと言うの? 理解して欲しいと思う事が罪なの? なによりあの子は不幸よ」

『不幸、ですか』

「そうよ。今回みたいな関わる必要もない事に巻き込まれて、助ける必要のない人のために傷つく」



はやてちゃんの目線が険しくなる。というか、そこは私もだよ。

確かに組織のルールとして考えると分かるけど・・・・・・それでも、今ここでそう言うのはありえない。



「そして賞賛もされない。過去に縛られ、罪の償いを続ける。今のあの子は不幸なの。
だから変わらなければ・・・・・・大人にならなければいけない。そうしなければ幸せになれない」

『不幸ちゃいますよ。今のアイツを理解して、受け止めてくれる人はぎょうさん居る。
なによりアイツは、罪の償いのために戦ってなんてない。そんな頭のえぇ奴ちゃう』



母さんの表情が更に険しくなるのは、それが事実だから。本当に、味方は多いからなぁ。



『なによりアイツは前に言うてました。何か妙な事に巻き込まれても、そのために泣いてる誰かに手を伸ばせる。
今一番に本当に助けなきゃいけない誰かの『不幸』に気づけるなら、自分は全然不幸なんかじゃない。むしろ幸せだって』

「・・・・・・はやてちゃん、それホントに?」

『らしいです。まぁ、うちはリイン経由から聞いたんですけど。
それでそこの分からず屋と同じ事言う奴に、思いっ切りタンカ切ったとか』



恭文くん・・・・・・なんだかんだで大人になってたんだなぁ。なんかこう、ちょっと涙出てきそうかも。

アルフも同じなのか、ちょっと視線逸らして肩震わせてるし。あのね、こう・・・・・・伝わったよ。



「・・・・・・嘘よ。それは嘘。償いを続けるためのいいわけよ。それこそあの子が過去に縛られてる証拠じゃない。
そんな事が幸せなわけがない。はやてさん、お願いだから分かって。最初にお願いしたわよね? あの子のために必要だと」

『されましたね。だからリンディさん、頭冷やしてください。アンタ何したかったんですか。
恭文に幸せになって欲しかっただけですよね? でも、それちゃう。そんなんだた恭文見下してるだけや』

「見下していないわ。現にあの子は不幸じゃない。社会を、組織を、人を信じられない可哀想な子じゃない。
家族の言葉を・・・・・・目の前に居る私達の事を何一つ信じてくれないじゃない。それを認めてはだめ、だめなの」

「・・・・・・お母さん」



私はそっと、お母さんの強く握り締められた手に自分の両手を重ねた。

お母さんが私の方を見る。私は・・・・・・苦笑いしか浮かべられなかった。



「そっちの方がずっとダメです」

「エイミィ・・・・・・どうしてなの。あなたまでそんな」

「それでもダメです。まぁ、私もその・・・・・・似たような事考えた事があるので、あまり言えないですけど」



お母さんがここまで言うのは、きっと組織の中なら・・・・・・自分達の側なら大丈夫という確信があったから。

だけど、やっぱダメだったりするんだよね。だってそれは恭文くんが不幸で可哀想な子という前提の上で進んでる。



「というか、さすがに無理ですって。管理局は・・・・・・局員は、本当に最低な事をしている。
きっと恭文くんは自分の事より、組織がフェイトちゃん達を、お母さんを裏切った事を本気で怒ってる」



そこまで言って、ようやく不満そうなお母さんの表情が少し解けた。

それで呆けた顔をして、私の事をジッと見始める。



「・・・・・・私を?」

「えぇ。組織を、仲間を信じていたみんなの事・・・・・・あの子はずっと見てた。だから本気で怒ってる」



そうじゃないかなと、私は思うんだ。きっとその一人には、お母さんも入っているはず。

ごめん、正直自信が持てない。でも、嘘も方便って言うしここはこういう事にしておいて。



「それで変わる可能性なんて信じられるわけがない。大事な仲間を、家族を裏切った組織なんて、信じられないですよ。
・・・・・・私もまぁ、あの子の性格はそれなりに知っている方ですから。きっとそんな風に考えてると思います」

「エイミィ、ならどうすればいいの? それではだめなの。それでは絶対にだめなの」



お母さんはそう言いながら、弱気に首を横に振る。必死に振って、私やはやてちゃんの言った事を頭から出そうとしている。

それでも私は手を離さない。強く・・・・・・強く握り締める。



「社会を信じられない人間は犯罪者と同じよ。信じて、その中の一員として生きなくてはいけない。
私はただ、あの子に人を信じて欲しいだけなの。そう言っているだけの私が・・・・・・なぜいけないの?」

「それでもまずは認めるところから始めませんか? 恭文くんは、不幸なんかじゃないって」









ここで信じる選択を恭文くんに強いたら、きっともっと離れて恭文くんは本当に全部捨ててしまう。

だからまずはそこからがスタートじゃないかなーと、私は偉そうにも思うわけだよ。

きっと、そこからかなと。だからこんな風に言った。というかさ、恭文くんも知らない間に成長してるっぽい。





でも、誰かの不幸に気づける事が幸せかぁ。お母さんが恭文くんの言葉に頷けないのも、分かるんだよね。

そのために自分をすり減らすとか考えたんだと思う。すり減らして、本当に不幸になる。

それはきっとアルフも同じ。だからみんなが居る居場所の一員になる事を望んだ。だけど・・・・・・うーん。





それはやっぱり見下してるのかな。心配してるのは事実だけど、あの子を不幸だと見下して否定してるのかな。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



さてさて、カナダというのは世界に数ある国の中でも、二番目に広い。

地理的には北アメリカ大陸の北半分を占めていて、南と西はアメリカ合衆国と隣接している。

つまりアメリカのお隣さんなんだね。その広さは北アメリカ大陸の約41%。





人もそれなりには住んでるんだけど、その国土の広さのためか人口密度自体はかなり少なめ。

だけど、その国土の多くが北極圏内にあるのよ。だから人の住める地域も実は結構少ない。

カナダ人の80%はアメリカとの国境から200Km以内に住んでいて、人口の40%はオンタリオ州に集中している。





大半のカナダ人は、国境線に渡って約500キロの細長い帯状に住んでいる。

このためカナダは東西に登る北米のチリなんて言われたりもする。で、そんな領土の54%は森林です。

まぁみなさんご想像の通り、カナダは非常に寒冷な気候だったりする。





ただ地域によって、そこの辺りは多少ばらつきがあるらしい。日本とあまり変わらないところもあるのよ。

ここの辺りは、余りに広い国土面積ゆえのばらつきだね。カナダの時差は国内で1〜2時間くらいズレがあるから。

ちなみにその時差は、イギリスだと約マイナス7時間前後。つまり、こっちは朝でも向こうは深夜だよ。





なにより向こうはとんでもなく寒いらしい。まぁ冬だしなぁ、寒冷地だしなぁ。

というわけで、早急に準備を整える。コートを買って、防寒具もしっかり揃えて・・・・・・その上で転送魔法。

・・・・・・は、知佳さんに迷惑をかけてしまうので、まず一度日本に戻った。そこからカナダにひとっ飛び。





それで現在、カナダの首都の一角にあるマンションの一室の中で、ガタガタ震えながらポトフ食べてます。





時刻は午後7時。なんだかんだで移動だけで丸一日使ったような。










「お、おいひい。おいひいでふ」





あぁ、この温かさが身に染みる。というか、お風呂もらったはずなのにまだ寒い。

てゆうか、なんですか。天気良かったと思ったから、地図片手に歩き出して数分後に大吹雪って。

でも、だからこそこの暖房ガンガンの部屋の温かさが心身ともに染み渡るわけですよ。



あぁ、生きてて良かった。途中でフィールド防御しなかったら、僕凍死してたんじゃ。





「なら良かった。・・・・・・ちょっと対策が甘かったね。今日は天気が崩れるって言ってたから」

「みたい、ですね」



木のテーブルを挟んで、向かい側に座るのは知佳さん。なんというか・・・・・・初めて会った時と外見的にあんまり変わってないような。

だってあの、フィアッセさんより年上だよね? なのにもう綺麗なんだよ。うーん、これはおかしい。



「でも、久しぶりだよねー。もう1年とかそれくらいぶり?」

「ですね。というか、いきなり来ちゃってすみません」

「ううん、大丈夫。・・・・・・私、恭文くんの事が忘れられないで独り身だからさぁ。来てくれて嬉しいよー」

「お願い、そういう重い話をしないでっ!? というか、そこ僕のせいにされても困るんですけどっ!!」



お願いだから涙を拭かないでっ!? まるで僕が悪い事しちゃったみたいだからっ!!

というか、寒さがまだ身体に残っててめっちゃ動きが鈍いのっ! ボケられても対応出来ないからっ!!



「まぁ、それは冗談だよ。でも、大丈夫。だってほら、私達はお友達だもの」

「・・・・・・・・・・・・そうですね」

「アレ、なんでそこ溜めちゃうのっ!?」

「いや、ここに来る前にゆうひさんが素晴らしいボケをかましてくれたので、つい頷けなくて」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「コンサート、友達と聴きに来たんですよ。フィアッセさんに誘われて」

「なるほどなぁ。なぁ、その子って女の子?」

「そうですけど・・・・・・なんで分かったんですか」

「いや、君の交友関係考えたらそれは分かって当然やて。
アレから知佳ちゃんともかなりマメに連絡取り合ってるみたいやしなぁ」



・・・・・・まぁ、ここは考えない。確かに女の子大半だけど、気にしない。

あと、知佳さんはいいの。年は離れてるけど、大事な友達なんだから。



「それでアレやろ? うちと同じくH友達しとるとか」

「してないですよっ!? てゆうか、そこに自分含めるんかいっ!!」

「恭文君、大丈夫。うち、年下は好みやから」

「そういう問題じゃないからー!!」





















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





「・・・・・・という事がありまして」

「・・・・・・それは大変だったね。というかゆうひさん、どうして私達がそういう関係だって分かったんだろ」



知佳さんはそう言いながら、不思議そうな顔をする。確かに・・・・・・僕もそこが不思議だ。



「ですよね。どうして・・・・・・おいっ!? なんでそこ知佳さんまで乗っちゃうんですかっ!!」

「ごめんごめん、冗談だよー」



言いながら知佳さんはにこやかに笑うけど・・・・・・まぁ、信用は出来るか。ゆうひさんとは違うわけだし。

そう、ゆうひさんとは違うんだ。知佳さんはゆうひさんとは、もうそれはもう・・・・・・全くもって違うんだ。



「それにほら、フェイトちゃんとはいい感じだったんでしょ? だったら邪魔しても悪いもの」

「・・・・・・うぅ、やっぱり知佳さんはいい人だ。よかった、ここに来て」

「だから内緒でだね」



すみません、スプーンを皿の上に落としました。それで笑顔の知佳さんを見てしまいます。



「・・・・・・さて、転送魔法の術式を」

「うー、私に不満があるのかなっ! それはそれで傷つくんだけどっ!!
・・・・・・そう、そうだよね。30代後半のおばさんになんて興味ないよね」

「そういう事じゃないですよっ!? ここで知佳さんとそうなったら最低だって言ってるんですっ!!
だってその・・・・・・ほら。そうなったらなったで、ちゃんと責任を取る事が必要かなと」



・・・・・・あれ、僕なんか言ってる事おかしくない? てゆうか、知佳さんがめっちゃ嬉しそうなんですけど。

アレ、なんかおかしいなぁ。僕はこう・・・・・・アレレ?



「そっかぁ。うん、やっぱり恭文くんは恭文くんだね。変わってなくて嬉しいなぁ」

「・・・・・・あの、僕はもしかして罠にハメられました?」

「気のせいじゃないかな。まぁ、私はそういうつもりはないから安心してくれていいよ?」



言いながら知佳さんは、また優しく・・・・・・安心させるように笑ってくれる。やっぱり、知佳さんは綺麗。



「色々、あったんだよね? 私もちょうど年末で長いお休みもらったし、一緒に遊ぼうよ。
だって私にとって恭文くんは・・・・・・やっぱり、大好きで大切な友達なんだから」

「・・・・・・ありがとうございます」

「ううん、いいの。だって私、頼ってくれてむしろ嬉しいくらいなんだから」



僕は落として皿の上に置きっ放しだったスプーンをもう一度持つ。

それで知佳さんの見守る中、ポトフを食べていく。



「もちろん、恭文くんがその気になっちゃったら分からないよね。でも、それならどうしよう。
多分私・・・・・・受け入れちゃう、かな。もう恭文くんは子どもじゃないし、そうなってもおかしくは」



すみません、行儀悪いと知りつつもまたスプーン落としました。それでゆっくりと立ち上がりました。



「よし、僕やっぱホテル探しますっ! なんかここに居るのは危険な気がしてきたっ!!」

「だからパジャマで外に出ようとしたらダメだよっ! 今度こそ本当に凍死だよっ!?
というか、そこは恭文くんの我慢次第じゃないかなっ! 私からは何もしないんだしっ!!」

「嘘だぁっ! だって今見えたものっ!! ゆうひさんの生霊見えたもんっ!!」

「大丈夫だよっ! 私はゆうひさんと違うからっ!!」










こうして、四日程知佳さんとお休みを堪能する事になった。カナダの名所とか、街並みとか案内してもらう予定。





なお、知佳さんは真面目にそういう事を迫らないはず。だって、ゆうひさんとは違うし。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あれから少し経って、私はフィアッセさん達にお礼を沢山言った上で、マリーさんと一緒にミッドに戻ってきた。

精密検査を受けた上で、しばらくお仕事はお休み。というか、年始まで休養してろと父から厳命を受けた。

とは言え、正直まぁその・・・・・・暇、なのよね。仕事してる時間に家でのんびりというのも、妙に落ち着かない。





なので、差し入れを作って108や隔離施設に顔を出したりして、日々を過ごしていた。

父さんやカルタスさんは呆れてたけど、仕方ない。これが私なりの休暇の過ごし方なんだから。

それで身体に残っていた僅かな傷が消えた頃、私は・・・・・・あの場所を訪れた。





まぁその、色々ご迷惑をおかけしたお詫びもあるので、おはぎでも作って部隊長室に乗り込んだの。










「ギンガ、こないな事でうちの機嫌が良くなる思うたら大間違いやで? うちをおはぎで釣れるとか思うとるやろ。
てーかアレや、まずこのあんこの作り方をうちに教えるところからやろ。アンタがやるべき事は、まずそこからのはずや」



そんな事を言うのは、デスクの上で私が作ったおはぎを幸せそうな顔で食べてる八神部隊長。

その様子を私も、隣の専用デスクに座っているリイン曹長も呆れたように見ている事しか出来なかった。



「・・・・・・八神部隊長、部隊長に非常に大きな迷惑をおかけした私が言うのもアレですけど、釣られてますよね?
あんこの作り方を私に聞いてる時点で、思いっきり釣られてますよね。というか、美味しそうに食べてますよね?」

「アホ、そんなわけあるかい。これはアレや、食材に対しての感謝の気持ちが出とるだけや。
うちの気持ちは変わらんけど、食べ物無駄にしたらアカンやろ? そやから」



そう言いながら部隊長は、左手で湯のみを取ってその中のお茶を音を立てながらすする。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ



お茶をすすり終わった部隊長は、本当に幸せそうに息を吐いた。



「つまりそういう事や。分かったか?」

「分かりませんよっ! というか、その幸せそうな息に一体何が込められていたんですかっ!!」

「はやてちゃん、やっぱり釣られてるです。もうご機嫌治ってるですよね」

「気のせいやろ。まぁアレや、おはぎに免じて大目に見てあげるわ。アンタはともかく、おはぎに罪はないからな」

「「・・・・・・やっぱり釣られてる」」



まぁここはいいか。ちょっとでもお詫びが出来たなら・・・・・・うん、それだけでいい。本当にちょっとだけだろうけど。



「それであの、八神部隊長」

「あー、分かっとるよ。六課の現状やろ。・・・・・・もうメタメタや」



やっぱり私が取り返せたのは、本当にちょっとだけらしい。部隊長とリイン曹長の顔、一気に曇ったから。



「まずなのはちゃんがなぁ。元々恭文の前やと末っ子モードになる事多かったけど、これひどいわ。
一応仕事はやろうとしとるんのやけど、やっぱダメージが大きかったみたいで」



困り顔でそう言った部隊長を見て、フィアッセさんが前に言った言葉が頭に浮かんだ。

フィアッセさん、なのはさんはなぎ君に依存しているとまで言っていた。どうやらそれは事実みたい。



「まぁヴィータちゃんやヒロリスさん達がフォローしてくれてるから、まだ大丈夫なんです。
お仕事の方には影響は出ないんですけど、最近めっきり暗くなっちゃって」

「スバル達・・・・・・あー、ティア以外も同じくやな。やっぱダメージが大きい。
特にスバルは、恭文とのアレコレで気合い入れ直した直後やしなぁ」

「それは、あの子からもメールで」





なぎ君とこれから繋がっていけるように、少しずつ頑張ってみるってそう言ってた。

スバルはなぎ君が冷たくても、嫌いになんてなれない。友達として繋がりたいんだって腹を決めた。

だから、なんだよね。私が六課に戻って欲しかったの。なぎ君の行動はスバルを・・・・・・違う。



同じように思っているみんなの気持ちを、裏切って欲しくなかった。それは、今も変わらなかったりする。





「あとはエリキャロやな。なんやかんやで距離感縮まってたとこで『仲間になんてなる資格がない』やろ?
手の平返しされたも同然やし、やっぱり気にはしてるんよ。うちらにも何回か打診してきたわ」

「打診・・・・・・というと、なぎ君を六課に戻せないかと」

「そや。でも、それはアカン。事件が向こうの方である程度片ついたならともかく、そうやないし。
それやったら、アイツの覚悟をぜーんぶパーにしてまうよ。そんなんえぇ事ちゃうわ。それになにより」



部隊長はそこで改めて私を見る。その視線の先に、申し訳無さげな色を見つけたのは気のせいじゃない。



「アイツはここに居ても、自分のために時間を使う事が出来ん。ここはもう檻と同じや。
なのはちゃんが、スバル達が、他の人間が『ここに居て欲しい』と望んでしまった時点でな」

「・・・・・・八神部隊長、もう一度だけお聞きしてもいいでしょうか」

「なんや?」

「本当になぎ君は、六課を居場所に出来ないんでしょうか。
檻になるかどうかは、なぎ君の心次第だと思うんです」



檻になるのは、なぎ君がここに何の価値も感じず、見出す事も出来ないないから。

私はそういう事だと思う。もちろん答えは分かっている。分かっているから、これはあくまでも最終確認。



「なぎ君がここでの繋がりを、時間を・・・・・・ちょっとでも大切なものと感じるなら、話は変わります」

「そやな。でもな、ギンガ」

「分かってます」



悲しげな笑いになるのは、やっぱり寂しいからなのかも知れない。寂しいから私は、こんな笑いしか浮かべられない。

でも、それはきっと弱さ。まだ自分の今の本当の歌から逃げようとする弱さ。だから私は、その弱さを振り切る。



「もう、分かっています。檻を楽園だと・・・・・・大切だと『思わせる』のは、きっと歪んでいる」

「・・・・・・うん、ならえぇ。ギンガ」

「はい」

「アンタ、えぇ顔するようになったな。数日前とは別人や」



私はまた・・・・・・やっぱり少し悲しく笑う。満面の笑みは、今は浮かべられそうもない。



「ありがとうございます。きっと、部隊長の誠意あるお説教のおかげです」

「当然やろ。うちは部隊長なんやし。まぁ、アレよ。せっかくやしスバルにも顔見せてあげたらどうや?」

「そうですね、そうします。それで・・・・・・少し話してみます」










もうすぐ卒業という状況で、この状況はよろしくないもの。なぎ君には・・・・・・頼れない。それは絶対にだめ。

なぎ君は今は自分の夢を追いかけてる最中だもの。フェイトさんだってそれを受け入れて、自分の仕事を頑張ってるそうだし。

でも、やっぱり寂しさは感じる。居たのは本当にほんの2ヶ月程度なのに、やっぱりここになぎ君の時間はあるんだ。





・・・・・・やっぱり、私のせいだよね。私があの場に居なければ、もしかしたら両方成り立つズルい道も行けたから。

ううん、もしあの時私がちゃんと覚悟を決めて、なぎ君の選択を認めて『バレなければいい』と言えば良かった。

どれもこれもなぎ君にとって都合の良い話ではある。でも、今のどこか覇気のない六課を見ていると、どうしてもね。





とにかく私は改めてお礼を言った上で部隊長室を退出。そのまま休憩時間中だというスバルに会いに行った。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



外回りの最中、私はそれとなくティアに秘密の通信。なお、車を運転しながらだね。

ハイウェイを走りながらだから、小さく展開した空間モニターの方はさすがに見ない。

本当はこういうのはいけないんだろうけど、さすがに心配だったから。というか、予想以上だった。





六課からヤスフミが居なくなった事による余波は、本当に予想以上だった。










『・・・・・・すみません、フェイトさん。あのバカもあの子達も相当アレで』

「ティアが謝る事ないよ。元はと言えば私達に責任があったわけだし」





そこはクロノやはやて、騎士カリムも相当反省しているところ。

あの場でヤスフミに予言の事を話したのは、止まらせて自分達の保護下に置くためだった。

六課の中ならある程度は安全と考えての事なんだけど、それは無駄に終わった。



それだけでなくある爆弾を生成して、ヤスフミを共犯者にしてしまった。それが私達の数えるべき罪。

そうだね、私達は全員ヤスフミに依存して甘えていたんだと思う。そういう部分がなくはない。

もしかしたら去年、ヴェートルでの事があったから余計にかな。ヤスフミは世界を救ったチームの一人。



だからって考えて・・・・・・ハンドルを握り締める手の力が強くなるのは、今更な後悔のせいだ。本当に、今更だ。





『というかフェイトさん、まぁ細かい事はいいんで一つだけ確認させてください』

「なにかな」

『アイツ、前にも話しましたけど最後に『仲間になる資格も権利もない』みたいな事言ってたんです』



自然と表情が苦くなるのは、ティアが言いたい事が分かったから。ただそれは・・・・・・だめ。

それは言い方は悪いけど、ティアが知っていい話じゃない。実際私やなのはだってギリギリなんだ。



『フェイトさん、お願いですからそう思う要因があったかどうかだけは教えてください』

「ティア、ごめん。それは無理なんだ。分かってくれないかな」

『無理ですよ。・・・・・・イエスかノーかだけでもいいんで、お願いします。教えてください。
じゃなきゃ私、これ以上スバル達になんて言っていいかマジで分からない』



視線は前に。運転中にティアの方は見れないから、ただ前に。そのまま数秒走り続けて、考えた。



「・・・・・・イエスだよ」



考えた結果、私はこれだけ言う事にした。これだけは、許されるはずだから。

ううん、これだけはちゃんとしなきゃいけない。私達のせいで、みんなに無用な痛みを背負わせてしまってるんだから。



「ただごめん、ティア。詳細は」

『あー、そこはもういいです。イエス・ノーでいいってさっき言ったじゃないですか。
でも、なんか納得しました。アイツが最初から壁作りまくってたの、それが原因なんですね』

「・・・・・・うん」



そこに気づくのに、本当に時間がかかった。そして遅かった。それも、やっぱり私の罪。

だからまぁ、変わりたいと思って心構えだけは持って・・・・・・ヤスフミとメールは毎日してたり。うぅ、ごめんなさい。



『んじゃ、そこの辺りも含めて私からまた話してみます。
あー、それとフェイトさんはもうあんま関わらないでください』

「ティア、どうしてかな。というか、それは無理だよ。だってエリオとキャロも居るのに」

『じゃあどうやって説得するんですか。秘密事項も絡んでるのに。私達には詳細話せないんですよね?』



呆れたような声で言われるのは、ちょっと心外だった。でも・・・・・・ティアの言う事は間違いじゃない。

六課の裏事情と予言の事は、局の中でもトップシークレット。それが絡む以上、やっぱり話せないんだ。



『私だからいいんです。私、アイツとの距離感に合わせた付き合いしてましたから。
それとなく『こうなんじゃないの?』って可能性を提示する形にするだけでも違います』

「私だとそれは無理って言いたいのかな」

『えぇ。フェイトさん達相手だと、あの子達は全員明確な『答え』を求めますから。そしてそれはあの子達には言えない。
でも、あの子達はフェイトさん達は答えを持っていると思って突っ込んでいく。だけどそれは・・・・・・これじゃあ堂々巡りですよ』



ティアの言っている事は、筋が通っている。多分私やはやて達のそれまでの話よりずっとだよ。

だって、ティアの言う通りなんだから。みんなは私達に答えを求めていた。うん、本当に堂々巡りだった。



「・・・・・・分かった。この話題に関しては、私達はもう自分からは関わらない事にする」

『納得してくれて嬉しいです。それじゃあ、早速そういう感じに進めていきますから』

「うん。ティア・・・・・・ありがと」

『いいえ。では、失礼します』



そのまま通信は途切れた。横目でモニターが閉じたのも確認した。

私はハイウェイを降りるためゆっくりとブレーキを踏み、減速しつつため息を吐いた。



「うーん、ティアはやっぱなぎ君の事、それなりに理解してるんですね」



・・・・・・なお、助手席にはシャーリー。外回り、付き合ってもらってたんだ。



「そうだね。私がはやてに言われなくちゃ分からなかった事、すぐに分かった」

「まぁフェイトさんの場合、油断も絡んでたから仕方ありませんよ。それでなぎ君は」

「もうカナダを発ったんだって。例の仁村知佳さんと一緒に、日本に戻ったとか」

「日本に?」

「うん」



カナダの風景、写真に撮って何枚も送ってくれた。沢山の雪に包まれた街並みや、綺麗な山脈風景。

それに美味しい食べ物に・・・・・・写真を撮りながらヤスフミがいっぱい笑ってるの、目に浮かんでつい笑っちゃった。



「その人、ヤスフミが海鳴でお世話になった人達の一人なんだ」



数年前にヤスフミがバイトしたさざなみ寮という寮生だった人。その時にヤスフミも知り合った。

私がエリオとアルフと一緒に旅行している間に・・・・・・ごめんなさい、やっぱりヤスフミに甘えてました。



「だから里帰りも兼ねていて、丁度いいから一緒にだって」



つまりヤスフミも、今は海鳴の近辺に居る。というか、年越しはその人達のところでお世話になるって言ってた。

もう海鳴に戻っている母さん達のところには、帰るつもりはないらしい。・・・・・・まぁ、失踪だしここはしかたないか。



「・・・・・・なぎ君、フェイトさんにはメールしまくってるんですね」

「うん」



みんなには内緒だけど、通信もしてる。それで仁村知佳さんにも挨拶させてもらった。

というか、綺麗な人で・・・・・・なんだろ、モヤモヤする。ヤスフミ、あの人と二人っきりだったわけだし。



「それで本当にいいんですか? 被保護者であるエリオ達だけでも話をさせるって手はありますけど」

「いいの。第一、それをやったら更に波紋を呼んじゃうよ。ティアの提案も無駄にしちゃう。
なにより・・・・・・私はヤスフミの夢を、旅や冒険をこれ以上邪魔したくない」










私には優先順位があった。私の一番は・・・・・・私の大事なものは、一つだけだった。

次会えたら、やっぱりいっぱいお話しよう。私は、あなたから離れられないみたい。

きっとあなたが誰を好きだったとしても、関係ない。誰と居ても、関係なかったりする。





私は側に居て、一緒に幸せになりたい。あなたの一番の味方で、居たいんだ。

だから、私も考えていこう。そうしていかなくちゃ、絶対にだめなんだ。

どうしたらその道が進めるのか、どうした私達が二人で笑えるのか・・・・・・あ、これもだめかも。





やっぱりそのためには、ヤスフミの力が必要だよ。二人でじゃないと、また行き違っちゃうから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



夕方、家に帰り着いた私は一人きりの夕飯。父さん、今日は隊舎に泊まりらしい。

あとで差し入れでも持って行こうかとも言ったんだけど、家で休んでろと言われた。なお、たった今。

夕飯を食べてる途中に父さんから通信がかかってきてね、今も繋げてるの。





それで自然と、今日私が六課隊舎に向かった時の話になった。










『・・・・・・スバルの奴、なにやってやがんだ。てーかそれは他の連中もだ。仕事ナメてるだろ』

「でも、しょうがなくはあるんだよ。スバルには、エリオ君達には分からないから。
ほら、私はこう・・・・・・事情を全部ではないけど聞いてるわけじゃない? 父さんは全部」

『あぁ』



父さんもスバルやエリオ君達の状態が、いたし方ない部分があるのは分かるみたい。

表情が険しくはあるけど、それでもまだ緩い方。本気で怒った時は・・・・・・察して?



「やっぱりその差は大きいよ。スバル達には情報が少な過ぎるんだから。さすがにそこを『察しろ』は難しいよ」

『まぁ、確かにな。てーかここまでダメージが行くってのがそれでも信じられないんだが』

「見てるとね、六課やなぎ君に思い入れがある人が相当って感じかな。特になのはさん」



八神部隊長曰く、そこの辺りの事情は知っているらしい。ただ、それでも受け入れようとしない。

何気にどうしようかと、隊長陣は頭抱えてるらしい。なんだかスバル達よりも大変そうだった。



「とにかくスバルとはもうちょっと話してみないとダメだね。出来ればエリオ君達もなんとかしたいけど」

『なんつうか、六課の連中はダメだな。アイツ有りきで考えてるのはおかしくねぇか?』

「それは確かに。現に108は私が居なくても回っていくのにね」

「当然だろうが。お前の部隊じゃないんだぞ? で、俺の部隊でもない」



父さんがいきなりそんな事を言い出した。なので、私は軽く首を傾げる。

それは前者はともかく、後者の意味が今ひとつ分からなかったせい。



「じゃあ、誰の部隊なのかな。管理局とか?」

『バカ、ちげーよ。部隊は、市民のためにあるんだ。
運営しているのは俺達でも、その意義は市民を守ためにある』



父さんは真剣な目で、私の事を見る。通信画面越しだけど、それは強く伝わる。



『それは部隊だけじゃなくて、管理局って組織全体でだな。世界を、そこに住む人間を守るってのはそういう事だ。
俺達が自分のプライベート犠牲にして働いてんのは、誰かがヘラヘラ笑ってる時間を守りたいと言う気持ちが根っこじゃないかと俺は思う』

「・・・・・・そうだね。きっとそこが私達のスタートライン」

『あぁ。だから部隊ってやつは、組織ってやつは一部のエースやストライカーが動かすんじゃない。お偉方が動かすんでもない』

「なら、誰が動かすの?」

『簡単だ。・・・・・・市民だよ。警備組織の理念は、その組織のものであるようで実はそうじゃねぇ。
俺達は市民達がどっかで持ってる『平和に暮らしたい』という願いを形にするためにここに居るんだ』



画面の中の父さんは当然と言わんばかりにニヤリと笑って、身体を前に乗り出した。



『そして、市民の願いが組織の理念じゃなきゃいけねぇ。
警備組織は平和を願う市民の声と心で出来てるし、それを基準に動くもんなんだ』

「そうじゃなくちゃ、その・・・・・・平和維持なんて出来ない?」

『そうだ。だから警備組織の局員なんてのは、ぶっちゃけそこまで偉い人間の集まりじゃねぇよ。
俺達はごく普通の人達が、ごく普通に暮らしてごく普通に笑っていける手伝いをしているだけだ』



それはまた・・・・・・部隊長の発言としては、いささか乱暴な。でも、父さんらしい言い回しだとも思った。

なによりそう考えると、今の管理局の不祥事がどれだけありえないかが悲しい事に分かってしまう。



『そんな俺達だからこそ、そこら辺にあるちっぽけな幸せの価値を忘れちゃいけない。俺達の王様市民にいつでも根ざしてなきゃいけない。
だが六課っつーか本局はアレだな。もうやる事ほとんど終わっちまってるから、逆にそういうのを見失いかけてんだろ』

「だからスバル達だけじゃなくて、ベテランのなのはさんまで崩れかけてる?」





確かに六課はレリック事件専任の部隊。それ絡みの一件が終息しつつある今、存在意義が無くなっているも同然。

だから出動もなく、解散後の準備や新人達への訓練に終始している。だから六課はミッド地上ここに根ざしていない?

いや、さすがにそれは・・・・・・アレ、なんか否定出来ない。あの様子を見てると私は全く否定出来ない。



特に『根ざしていない』という部分かな。去年のヴェートルの一件での対応を考えると、本局組は特になぁ。





『そういう事なんじゃねぇか? 事件終わってから、特に暴れたりもないんだしよ。
こういうのは俺も経験があるが、実際に外に出て市民に触れてないと分からないもんなんだよ』

「というか、それだと相当腑抜けてるよね」

『なるな。まぁ、結局は1年限定の部隊だ。それで根ざすなんてのは無理なんだよ。
信頼を得るには、普遍である事が必要だ。1年やそこらじゃあ普遍とは認められない』



そう考えると六課が事件に対処出来たのは、決してミッドに根ざしているからじゃないんだよね。

もっと別の要因が沢山あって、だから対処出来た。



「でも父さん、それは仕方ないかと。六課はうちとは性質が違う、有事の際の実働部隊なんですから」

『まぁ、それはな? だがその違いゆえに、連中はそういう基礎的な部分を忘れてるかも知れないって事だ。
・・・・・・うし、俺の方からスバルに改めて話すわ。まぁアイツの事情も鑑みつつ、多少柔らかめにな』

「お願いします」



そのまま『お休み』だけを言って、通信を終えた。私は改めて、少し覚めた夕飯をつまんでいく。

今日のお食事は、肉野菜炒め。なんかね、沢山作りたくなっちゃったんだ。それでもう一口。



『ギンガー、居るかー? 恭文の事考えてエロしとる場合ちゃうでー』

「・・・・・・あの、いきなりなんですかっ! それでそんな事してませんからっ!!」



というか、部隊長になんで通信がいきなり繋がるのかなっ! 絶対おかしいと思うんだけどっ!!



『まぁそないな事は気にせずに』

「地の文読み取るのやめてもらえますかっ!? というか、何の御用ですかっ!!」

『いや、おはぎのお礼したくてなぁ。・・・・・・恭文と会える場所、知りたくないか?』

「・・・・・・・・・・・・え」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



久々の日本は、そしてさざなみ寮はとっても素敵。あと、すずかさんには謝り倒しました。

まぁ事情を聞いて、納得してくれたけど。というか、デートを求められて大変でした。それで頑張りました。

耕介さん達も温かく迎えてくれて、色々お話させてもらって・・・・・・気持ちの整理、つき始めてるかも。





年始を過ぎたらどこに行こうかと考えながらも時は過ぎて、今日は特別な日。とっても・・・・・・特別な日。










「ホワイトクリスマスですね」

「そうだね」



そう言って、隣に居るリイン共々空を見上げる。・・・・・・ここは、海鳴の一角の高台。ゆっくりと雪が降っていてとても綺麗。

雪は昨日の夜から降っていて、もうあっちこっち積もって景色は一面白。なんというか、とっても素敵。



「恭文さん」

「なに?」



最近の事に関しての報告が終わって・・・・・・・二人でベンチに座ってボーっとしてた。



「リイン、恭文さんの側に居ますから」

「え?」

「いっぱい、いっぱい考えたです。それで、はやてちゃんと最近話してるです。
六課が解散したら、恭文さんのところで暮らしていいかって」

「・・・・・・・・・・・・はい? いやいや、待って待って。なんでいきなりそんな話になるのさ」



それでもリインは、僕を見上げながら必死な顔をする。必死に揺れている瞳を僕に向ける。



「最近、離れ離れなこと、多かったですよね。リイン、本当はすぐにでも恭文さんの側に行きたかったです。
それに、今回の事です。・・・・・・リイン、何の力にもなれませんでした。恭文さんのこと、大好きなのに、大切なのに」

「いや、でもそれだとはやてが」

「だから、お話してるです。・・・・・・私は、祝福の風であると同時に、古き鉄・・・・・・あなたの一部です」



リインは僕の胸元に飛び込むようにもたれかかってくる。僕はそれを、優しく受け止めた。

雪の降る中、服越しでもリインの小さくて優しいぬくもりが心地いい。



「だから、側に居ます。側に居たいんです。私、あなたから離れられないから。ダメ・・・・・・ですか?」

「いや、ダメとかダメじゃないとかじゃなくて・・・・・・ほら、僕失踪中だし」

「なら、リインも一緒に旅するです。それでそれで」



リインは少し身体を離して、僕の事を見上げて優しく笑いかけてくれる。



「いっぱい・・・・・・ラブラブするですよ? 知佳さんには負けないのです。絶対負けないのです

「ごめんっ! いきなり黒くなるのやめてっ!? もうめっちゃ怖いのっ!!
てーかそういうのないからっ! 僕と知佳さんは普通に観光してただけだからっ!!」



ツッコんでいると、右横・・・・・・高台に上がる道の方から気配がした。その気配は、足音も消さずに近づいてくる。

リインが黒いオーラ出したせいで、危機感が高まっていたせいで気づけた。僕は自然とそちらに視線を向ける。



「恭文さん、どうしたですか、よそ見せずにリインだけを見るですー」

「誰か来てる」

「え?」



さほど経たずに、紺色の長いコートを羽織った藍色の髪の女性がこちらに来た。

というか・・・・・・ギンガさんっ!? そうだよっ! めっちゃギンガさんだしっ!!



「ギンガっ! ど、どうしてギンガここに居るですかっ!?」

「そうだよっ! あの、えぇっ!?」

「あ、あの・・・・・・アレ、おかしいな。なんでなぎ君」



言いかけたギンガさんが、何かに気づいたように目を見開く。それからすぐに苦笑気味な表情を僕に向ける。



「私の気配で分かったの?」

「うん」

「そっか。なぎ君、私よりそういうの得意だからなぁ。参っちゃうな、不意打ちも出来ないなんて反則だよ」



そう言いながらもギンガさんは、ゆっくりと足を進めてうる。その足取りは、不思議な程力強かった。



「なぎ君に用事があったんだ。それで八神部隊長にもしかしたらここかも知れないって教えてもらって、それで」

「・・・・・・僕に?」

「うん」



てか、あの狸は・・・・・・いや、分かって当然なんだけどさ。だって僕よりずっと当事者だろうし。



「あの、リイン曹長。なぎ君と二人っきりにしてもらっても・・・・・・いいですか?」










やけに真剣にそう言ってきたギンガさんから何かを察したのか、リインはベンチから立ち上がってそのまま歩き出した。

そのまま僕に軽く左手を振りながらウィンクして、何も言わずにこの場を後にした。

そうしてこの場には僕とギンガさんの二人っきり。ギンガさんは、僕の隣まで来て、ちょこんと座る。





なぜか顔を真赤にしたギンガさんと僕を包み込むように、雪は・・・・・・ゆっくりと静かに振り続ける。




















(その7へ続く)




















あとがき・・・・・・という名の、緊急特別企画



恭文「さてさて、結局追加シーンでもう1話追加になってしまったギンガさんルートです。
だが・・・・・・そんな事はどうでもいいっ! ぶっちゃけどうでもいいっ!!」





『なぎ君、よくないよっ!? 私的には全然良くないんだけどっ!!』





恭文「どうでもいいのよっ! それよりも重要視すべき問題があるのっ!!」





(蒼い古き鉄、なんだか今日は荒ぶっている)





恭文「今回は特別企画として、『相馬空海がアリサ・バニングスにセクハラした事件』についてお話したいと思います」

すずか「友人代表の月村すずかです。・・・・・・今回の事件、非常にショックでした」

あむ「友人代表の日奈森あむです。・・・・・・あたしも、本当にショックでした」

恭文「さて、事件は空海が普段顔を出している学園都市付近で起きました」





(詳しくは『とある魔術の禁書目録U 第2話』をごらんください)





恭文「被疑者は夜8時に、被害者アリサ・バニングスをいきなり路上に押し倒しました。
それだけならまだしも、ミニスカート的な服装だった被害者の股間に被疑者は顔ごと突入」

あむ「しかもアレだよね、息が吹きかかるか吹きかからないかの距離で一旦止まったのに、そこからまた突撃だよね」

すずか「アリサちゃんが叫んで嫌がってたのに・・・・・・空海くん、最低だよ」





(『いや、だからちょっと待ってくださいっすよっ! それ俺じゃないっ!! 絶対俺じゃないからっ!!』)





恭文「まぁそれだけならまだよかったんです。いや、ぶっちぎりでアウトだけど。
それでも良かったという事にしておいて、次の事件。・・・・・・その後、悲劇は起きました」

あむ「アレだよね、アリサさんがシャワー浴びてるところに突入したんだよね」

すずか「それで裸のアリサちゃんに抱きついて・・・・・・空海くん、最低だよ」

恭文「その後、仮眠を取ると称して下着姿のアリサと添い寝。もうね、淫獣だよ。
空海、おのれが思春期真っ盛りなのは分かるけど、それでもこれはひどいよ。獣だよ獣」





(『だから落ち着けってっ! てーか恭文、お前にそこツツかれたくないんだがっ!!』)





あむ「てゆうか、それでアレでしょ? アリサさんデレるんでしょ? 空海、なにしたのかな」

すずか「アリサちゃん、空海くんのアニメ見ながらため息吐く事多いんだ。私、見てて不憫だよ」

恭文「それでなおかつ、原作だと歌唄とくっついてイチャラブするわけだよ。空海、女なら誰でもいいの?」





(『んなわけねぇからっ! てーかなんだよコレっ!! 明らかに俺に対しての集中攻撃だよなっ!?』)





恭文「しかも空海は、それを『不幸だ』と言い切っていたのよ。もうね、弁護のしようがないわ」

あむ「空海、マジアンタ最低だわ。読者のみんなだってそう言ってるよ」

すずか「空海くん・・・・・・アリサちゃんの事泣かせたら、どうなるか分かってるよね?」

空海(なんか出てきた)「だから待て待てっ! それ俺じゃねぇしっ!! そしてアリサさんでもないしっ!!
何よりテレビよく見ろっ! 俺はともかく女は声が同じだけで、アリサさんじゃないよなっ!? もう全然違うよなっ!!」

すずか「アリサちゃんかそうじゃないかを分かるくらいに、アリサちゃんの身体を・・・・・・変態っ!!」

空海「身体じゃないっすからっ! 顔と服装と髪の色っ!!」

あむ「空海、アレはアンタがアリサさんをアンタ色に染めたからじゃないの?」

空海「ちげーよっ! てーか俺はどこの染色剤っ!?」

恭文「空海・・・・・・お前の罪を、数えろ」

空海「その前にお前が数えろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」










(というわけで、とある魔術の禁書目録Uで空海が大活躍しているという話でした。
本日のED:川田まみ『No buts!!』)




















恭文「迷うー♪ その手を引く者など居ないー♪ 神が下すその答えはー『不幸』だったー♪
そーう♪ それこそ神からの贈り物ー乗り越えたら見えてくるさー♪ だから今すぐ・・・・・・No buts!!」(注:歌詞は暫定です)

ギンガ「だからちょっと待ってっ! どうしてここでまたうたうのかなっ!? というか、話の内容に触れてー!!」

恭文「まぁ改訂版ではスルーしてたところとかを、ちょこちょこーって感じだね。前のままだとちと描写不足だから。
まぁ次こそは終わるでしょ。一夫多妻制事件を書く予定もないし、逆に1話丸々僕とギンガさんのお話なんだから」

ギンガ「あ、そっか改定前だと後は・・・・・・だし、そうなるんだよね。じゃあ密度濃く?」

恭文「そうそう。というわけで、ギンガさんもうたおうか」

ギンガ「えぇっ!? わ、私もって」





(せーの)





恭文・ギンガ『叫べー♪ 今行くこの道しかないとー♪ 頼りない胸ーその心をを殴りつけてー♪
あー『不幸』に気付かされた幸せー♪ 乗り越えなきゃ見えてこないー♪ だから今すぐ・・・・・・No buts!!』










(おしまい)







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