小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第12話 『555の世界/555の顔とたったひとつのお宝』
恭文「前回のディケイドクロスは」
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「君達に四葉のクローバーは、あまりに似合わない」
それだけではなく、右手から銃のようなものを取り出した。銃身は長方形で、銀色の銃口が二つ付いてる。
黒のボディカラーに銀色と金のラインが入って、その中央に青の図形みたいなのが見えた。
海東は続けて左手でカードを取り出す。そのカードを、銃身の左側中央からそのまま差し込んだ。
続けて銃身下の銀色の長い棒状のグリップを保持して、銃身を動かす。銃身はその動きに応じて伸びた。
≪KAMEN RIDE≫
女オルフェノクがその行動に危険なものを感じたのか、右手でレイピアを持って突撃していく。
海東は女オルフェノクに銃口を向けて、不敵に笑いつつも引き金を引いた。
「変身っ!!」
≪DIEND!!≫
銃口から何かのマークみたいなのが飛び出る。それが一瞬で青い13枚の半透明の板に変わった。
それは突撃していた女オルフェノクに衝突。女オルフェノクは吹き飛ばされて地面を転がる。
射出された板達はある一定距離から、まるで横並びで整列でもしているかのように動きを止めた。
その間に海東の身体にスーツが装着される。続けて、あの板達が海東の顔に・・・・・・装着した仮面にはめ込まれる。
縦にそのままはめ込まれた板が、独特な雰囲気を出した顔になる。
・・・・・・顔と同じような板が縦にはめ込まれたようなアーマーに、外側が青になって真ん中黒のスーツ。
それにあの妙な形のマークに、左腰のバックル。なにより・・・・・・カメンライド、だと?
「お、おい士っ! あれまさかっ!!」
「海東、お前・・・・・・仮面ライダーだったのか」
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恭文「というわけで、ついにディエンド登場です。・・・・・・もやし、これでまた影が薄くなるね」
もやし「いきなり何の話だよっ! てーかアイツマジで何しに来たっ!?」
恭文「お宝目的って感じだね。つまりよ、ファイズを探してたのも全部ベルト狙い。
・・・・・・トレジャーハンティングの楽しさも分かるけど、状況をひっちゃかめっちゃかにされると困るのよ」
もやし「そしてお前は楽しさ分かるのかよっ! どんだけ理解の守備範囲広いんだっ!!」
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前回のあらすじ。ラッキークローバーの三人を撃破しました。海東がライダーだったそうです。
まぁそんな事は置いておくとして・・・・・・僕達は写真館の近くに来ていた友田ゆりを引っ張って連れてきた。
それで撮影室で栄次郎さんの素敵なコーヒーを頂いて、みんな揃ってほっと一息。
まぁまぁ夏みかんはまた不満そうだったけど、ぶっちゃけこのバカの事などどうでもいい。
重要なのは・・・・・・ゆりがコーヒーを飲みながら話してくれた内容だよ。ゆりはずっと泣きそうな顔をしていた。
好きだと言ってたポラロイドカメラも今はその手にはなく、その手はただただ自分のスカートを握る。
あの部室でのKY振りからは想像がつかない程に目の前の女の子は、憔悴し切っていた。
「じゃあ君は、あのタクミって子がオルフェノクだった事は」
ユウスケが心配そうにゆりを見ながらそう聞くと、ゆりは俯きながらも頷いた。
「さっき言った通りです。私、本当に知らなかった。タクミ、何も言ってくれなくて」
いや、そりゃ当然でしょ。あんだけこき下ろしな風潮が流れてる中で『僕オルフェノクでーす♪』って軽く言える子は中々居ないと思う。
現にゆり自身がその風潮に感化されて、会った事のないオルフェノクを怪物扱いだもの。そりゃ言えないって。
「でもどうしてその子はオルフェノクなのに、ファイズになって人助けしてるんでしょう」
確かに夏みかんの言うように、そこは疑問である。いや、オルフェノクどうこうは抜きにしてもよ?
特に話だとずっと学園を守ってたわけだから、何か目的があるとは思うんだけど。
「オルフェノクは人を襲う怪物なんですから、そうするのがこの世界では普通のはずです」
・・・・・・マジでコイツはKYだ。てーか今の状況でそこを言い出すのはバカのする事でしょうが。
ほら、ギンガさんももやしもユウスケでさえ呆れた顔して見てるのに。
「話によると人間とオルフェノクは共存してるわけでもなんでもないですよね。オルフェノクが人を襲わないのは」
「・・・・・・夏みかん、喋るな。お前邪魔だわ」
「あなたいきなりなんですかっ!? 私は思って当然の事を」
僕は左手でバカみかんの頭部を掴んで、強く・・・・・・強く握り締める。
「いいから黙ってろ。お前にオルフェノクを『怪物』呼ばわりする権利はないんだよ。喋るなら頭握り潰すぞ」
「分かり・・・・・・ました」
夏みかんは不満そうではあったけど、口を閉ざしてくれたのでまぁまぁよし。
で、僕は左手を離した上でゆりの方を見る。ゆりは・・・・・・泣いてた。
「私、本当に・・・・・・知らなかった。タクミの本当の顔、知らなかった」
「ゆり、少しキツい事言うようだけど」
「分かってる」
僕の言葉を遮るように、ゆりは少し強めにそう言い切った。それで僕達は全員動きが止まってしまう。
ゆりは制服のスカートを両手で握り締めて、悔やむような表情で涙をボロボロと流していた。
「『大っ嫌い・最悪・怪物』・・・・・・私、タクミの前で何度もそんな事を言った。
そんな私に対して、本当の顔なんて見せられるわけがない。なにより」
両手の力が強まったのか、スカートがくしゃくしゃになる。それでもロングだからエロい事にはならない。
ただそれでもゆりは肩を震わせながら、嗚咽混じりに声をあげる。
「私の言ってる事、あの虎のオルフェノクと同じだった。違うから見下して、それを当然と思ってた。オルフェノクだけじゃない。
私も・・・・・・オルフェノクは怪物扱いされても問題ないと思ってた。私もアイツらと何も変わらない、怪物だった」
「そんな事ありません。あなたは怪物なんかじゃない。というか、それは意味が分かりません」
またKYみかんは・・・・・・なぜそこで空気を読まん。そして早速黙らないんかい。
まぁまぁフォローしたい気持ちは分かるしそこは買うけど、ゆりが言ってるのはそういう意味じゃないから。
「現に殺されかけて、怖い思いをさせられたじゃないですか。そんな事する人達とあなたが同じなわけが」
「同じだよっ!!」
ゆりが叫んで、KYみかんの不快な言葉を止めた。KYみかんは信じられない顔でゆりを見る。
「同じ・・・・・・なんだ。私も見下して、タクミの事傷つけてた。
今のあなたみたいに見下して侮蔑して楽しんでた。あなたも怪物なんだね」
「ちょっと待ってくださいっ! 私は見下してなんていませんし、オルフェノクでもありませんっ!!
事実を言ってるだけじゃないですかっ! それでどうして怪物扱いされなきゃいけないんですかっ!!」
「見下してたよっ! 見下して、嘲笑って、いらないもの扱いしたっ!! あなたも私やオルフェノクと同じだよっ!!
誰かを見下して否定して、傷つける事しか出来ない怪物じゃないっ!!」
KYみかんが呆然とした顔でゆりを見るけど、僕達は一切フォローしない。
だってこれは自業自得だもの。八つ当たりに近くはあるけど、でもこの場でそこを言うのは頭足りてないし。
「そうだ・・・・・・タクミが本当の顔を見せられないようにして、それで私は笑ってた。
それを当然だと思ってた。傷つけてたはずなのに、気づこうともしなかった」
「そうだね。そこは間違いない。話の種にして、笑って楽しんでた。
写真部の部室で話してる時、タクミが辛そうな顔してたのにも全く気づかなかった」
「恭文」
「いいから」
不安そうに止めて来たユウスケは視線で制して、僕は軽く息を吐いてからもう一度ゆりを見た。
「・・・・・・だから今、辛いんでしょ?」
僕は最初から、こう続けるつもりだった。というか、そう思わなきゃ今の自虐的な話には繋がらない。
だからユウスケももやしも、黙って悲しそうな顔で話を聞いていたギンガさんも納得してくれた。
「タクミがオルフェノクでも、タクミとの繋がりが大事だから。タクミを奴らと同じとは思えないから。
オルフェノクである事も全部含めて、タクミと一緒に居る時間が好きなのは変わらなかったから」
「うん」
「だから、許せないんでしょ? そんな時間の中でずっと暴力を振るい続けてた自分が」
悲しいかな、それは事実だよ。近くに居ながらもそう言い続けて、図らずも暴力を振るった。
もちろんそれならタクミが最初から言えばいいという話もあるだろうけど、さっき言った通りそれも難しい。
昼間の会話みたいなのが繰り返されたとすると、やっぱりタクミは傷ついてる。
見た感じ結構内向的な子っぽいし、そういうの溜め込むタイプなんだろうしね。
なによりゆりがそれを悔いてる。だったらそれは、罪として数えるべきなんだよ。
仕方のない部分は、さっきも言ったようにある。でもそれじゃあ済まない部分もある。
少なくとも人の心を傷つけてた罪は、事実ではあると思うから。
「だからタクミの手、払いのけたんだよね。自分という『怪物』がタクミの側に居ていいか迷っちゃったから。
怖かったのはオルフェノクでもタクミでもない。自分の手が、怖かった。また傷つけるんじゃないかって、怖かった」
「・・・・・・うん。私、タクミの本当の顔を見ようともしないで、何度も・・・・・・何度も」
そこまで呟くように言って、ゆりの嗚咽と涙が更に激しくなる。試しに全員が怪物2号を見る。
怪物2号はバツが悪そうに頬を膨らませて、もやしを見てるだけだった。
でも、もやしはゆりのフォトブックをずっと見てた。正確にはその中のタクミの写真。
やはり写真家だからなのか、その中に何か感じるものがあるらしい。だからだろうか。
「本当の顔なんて、誰にも写せないだろ」
フォトブックを見ながら、もやしがこんな事を言い出したのは。
「何百回何千回・・・・・・何万回写真を撮ったって、別の顔が写る。同じ顔なんて、二度と撮れない」
もやしは開いていたフォトブックから視線を移して、ただ泣きじゃくるゆりの方を見た。
その視線がどことなく優しいものに感じたのは、気のせいじゃないと思う。
「だから俺達は、写真を撮るんじゃないのか? ちなみに俺は撮りたくなった。アイツの顔をな」
もやしはそこまで言って、またフォトブックを見出した。ゆりはまだ俯いてたけど、涙は止まりかけていた。
だから僕はゆりの隣まで移動して、震えてた両手を掴んで・・・・・・そっと握り締める。
「ゆりが今したい事は、こうやって手を繋ぐ事にも似てるんだと思う。
ゆりは払いのけた手を、もう一度繋ぎたいんじゃないかな」
「繋げ・・・・・・られるのかな。私、タクミの事傷つけたのに」
「その答えを出すためにも、今までとこれからと向き合うためにも、きっと・・・・・・手は開かなきゃいけないよ。
手を開く事で、人はその手を繋ぐ事が出来る。拳では戦うだけで、繋がりは作れない。だからきっと必要なんだ」
でもきっと・・・・・・きっと一押しが必要だよね。ゆりは後悔に圧し潰されそうになってる。たださ、安心もしてる。
ここでタクミを一方的に責めるような子なら、正直助ける義理立てもないけどそうじゃないもの。
「だから僕は手を伸ばす。ゆりが本気でタクミと向き合いたいなら、僕が力を貸す。
・・・・・・二人の一番の味方になって助けるから。まぁ、ハッピーエンドは約束出来ないけど」
同じじゃなくても、違っていてもいい。ただ誰かを守りたいと思ったら、その誰かの一番の味方になればいい。
それだけでその子は強くなれるし、とっても頑張れる。僕が相手と同じである必要なんて、どこにもない。
アンジェラ、やっぱりマジで感謝だわ。アンジェラのあの時の言葉・・・・・・ずっと僕の背中を押してくれてるの。
だから今も、迷いなく踏み込んでいける。ゆりの手を握り締めて、『こうすればいい』って伝えられる。
大丈夫、この子はまだ『怪物』にはなっていない。ラッキークローバーと違ってね。
世界の破壊者、ディケイド。8つの世界を巡り、その瞳は何を見る。
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第12話 『555の世界/555の顔とたったひとつのお宝』
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さて、そうは言ったもののどうしたものかと思っていた。というか、街の中を必死に捜索しようとしたわけですよ。
もちろん二人のバイクを回収した上で。そうしたら、捜索開始早々にとんでもないものを見つけてしまった。
「・・・・・・間違いない。ファイズギアだ。もう何度目かの確認だけど、間違いない」
≪またもったいないですね≫
場所はこの街に流れる川の近く。そこで見るのは『SMART BRAIN』のロゴが入ったアタッシュケース。
それをコンクリの地面に置いた上で中を開くと、そこにはファイズ変身セット一式(モノホン)があった。
でも・・・・・・うーん、どういう事? さっき確認ついでにある事をやってみて、ちと疑問が出てきちゃったのよ。
まぁここは良しとしておこうか。大事なのは、目の前にファイズギアがある事だよ。
「というか蒼チビ、マジで川の中にぼちゃんか?」
「うん」
バイクを回収していた二人とは別行動で先行していた僕は本当に偶然に川の上に浮かぶコレを見つけた。
で、拾いあげて中身を確認してたところに、少し遅れて出てきたもやし達が来たってわけ。
「ファイズギアはもやしがタクミにパスしたんだから、当然捨てたのはタクミだよね」
「だろうな。というか、ラッキークローバーのアイツが捨てたとはやっぱ考え辛いだろ。
オルフェノクが無条件にファイズに変身出来るなら、捨てる理由がない」
≪さて、もやしさんの言う通りとすると・・・・・・捨てたのはどうしてでしょうね。普通なら非効率です≫
確かに。ファイズギア使ってたのは、自分がオルフェノクだって同族以外にはバレないようにするためだろうし。
少なくとも学校内では、ファイズとオルフェノクは別個の扱いだった。そこはさっきゆりにも改めて確認したところ。
つまり、生徒もそうだし誰も『ファイズに変身できる存在=オルフェノク』とは思っていない。
逆を言えば、ファイズとして戦う事は正体を隠すのに一役買っている部分もあると思うの。
でもそうするとさっきのは・・・・・・うーん、やっぱ謎だ。
「細かいところは分からないが、やっぱりあのゆりちゃんに正体がバレたからじゃないのか?」
「やっぱりそこ・・・・・・だよね」
「ま、俺達だとそれ以外しか分からないと言った方が正解だがな」
ゆりに手を跳ね除けられて怖がられたから、捨てた・・・・・・かな。
僕は両手に持ったファイズギアを、もう一度ジッと見てみる。
あの時、タクミは『この学校はファイズが居るから大丈夫』って言ってた。
それってもしかして・・・・・・年頃だしなぁ。うん、なんかそういうの分かる。
「このベルト、早くタクミに返してあげないとね」
≪えぇ。きっとあの人にはこのベルトが必要ですよ≫
改めてアタッシュケースにベルトを詰めた上で、僕はケースを閉じる。
その瞬間に、もやしの携帯が鳴った。・・・・・・世界が変わっても、携帯通じるんだよね。
とにかくもやしは携帯を学生服の懐から取り出して、通話ボタンを押して繋ぐ。
「もしもし? なんだ、夏みかんか。・・・・・・・・・・・はぁっ!? 友田が居なくなっただとっ!!」
アタッシュケースを持って立ち上がりかけた僕の動きは、それで止まった。
当然のように僕とユウスケは驚きながらもやしの方を見ていた。
「目を離した隙に居なくなったって・・・・・・お前もギンガマンも揃ってなにやってんだっ!!
・・・・・・あぁもういいっ! 友田は俺達で探すっ!! お前らはそこで待ってろっ!!」
そのままもやしは乱暴に通話ボタンを押して電話を切る。
もやしは続けて右手を伸ばして、僕からアタッシュケースを引ったくる。
「ちょっ! なにすんの、アンタっ!!」
「蒼チビ、お前は尾上と友田の味方するんだろうが」
いきなりの行動に声をあげたけど、そんな僕をもやしは真剣な顔で見てた。
「尾上は俺で探すから、お前はユウスケと一緒に友田探してろ」
「・・・・・・分かった」
ここで『どうして』と聞くほど、僕は空気が読めないわけじゃない。
まぁアレだ、もやしももやしなりに気を使ってくれてるんでしょ。
そんなもやしは足早に近くに停めてあったバイクに跨って、僕とユウスケを残して走り出した。
というわけで、早速ユウスケとバイクの方に戻りながら緊急会議開始。
「だがどうやってだ? あの子まで居なくなる理由が分からないぞ」
「そこなんだよね。僕達も出る時に『事態解決するまでここに居て』って念押ししたじゃない?」
あの子はラッキークローバーの正体を知っている。それだけでファイズじゃなくても、狙われる理由には充分。
あの写真館の中なら、身を隠すだけなら安全だからそう言った。だからそこが分かってないとは思えない。
「したな。なのに出て行ったわけだろ? つまり、それだけこう・・・・・・何か重要な理由があった」
ユウスケが焦ったようにそう言って、口元に手を当てて考え込む。
僕も腕を組んで少し考えて、考えて・・・・・・一つ気づいてしまった。
「・・・・・・ユウスケ、まさかとは思うけど」
「自分でタクミって子を探しに行ったのかっ!?」
「ありえるかも。なんだかんだで相当思い詰めてたし。もしくは、アレだよ。ポラロイドカメラ」
「カメラ?」
ユウスケは僕が言った事が分かったのは、ハッとした顔で僕を見る。なので僕は頷いた。
あの子、カメラをどこにも持ってなかった。もしかしたらどこかで無くして、それを拾いに行ったとか。
ただ、ここは可能性として低いと思う。だって今この状況だもの。だけど・・・・・・だよなぁ。
「でもちょっと待てよ。命かかってる状況でカメラ拾いに行くか?」
「世界崩壊しかけてる状況で、カメラ取りに行ったもやしの事を忘れた?」
「あぁそうだよなっ! うん、俺も全く同じ事考えてたわっ!!」
僕達は今言ったように、もやしという前例を知ってるから無いとは言い切れない。
ちなみにもやしのカメラは、あの子が大事に首から下げていたために既に返却されました。
「それに・・・・・・何が大事かそうじゃないかは、やっぱり自分が決める事だよ。
他人から見たらどんなにちっぽけでも、それがすごく大切な事もあるしさ」
「・・・・・・そうだな。あの子にとってそのカメラが本当に大事なものなら、ありえない話じゃない」
「でしょ?」
なら、捜索範囲は決まった。さっきもバイクの回収のために立ち寄ったけど、もう一度あの近辺を捜索だ。
もしかしたら行き違いになった可能性もあるし、探すだけ探してみる価値はある。
「よし、それじゃあとっとと見つけて対策考えるか。オルフェノクも、あの二人の事もな」
「うん」
僕達は先程のもやしと同じように、急ぎ足でバイクに乗って走り出した。
・・・・・・この時、ハイスクールが地獄絵図になっているとは知らずに。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
黙って抜けだしたのは、本当に悪かったと思う。でも、居ても立ってもいられなかった。
あのカメラ・・・・・・それにタクミの事が、やっぱり心配だった。
私は急ぎ足で、少し前にタクミと一緒にラッキークローバーに絡まれた場所へ来た。
そこは学校の通学路。学校からさほど離れてないところで絡まれて、カメラを落とした。
焦りながらも必死にカメラを探して、私は植え込みの中を必死に見ていく。そして手を伸ばす。
「・・・・・・あった」
安堵の息混じりな言葉を出しながら、私は左手を伸ばす。伸ばして掴むのは、私のポラロイドカメラ。
・・・・・・それを両手で抱きしめるようにしながら、私はあの写真館に戻ろうとした。
「ずいぶんと嬉しそうね」
でも、その足は止まった。というより、震えが走る。
「友田ゆり?」
「ラッキー・・・・・・クローバー!!」
いつの間にか私の側まで来て行く手を塞ぐのは、ラッキークローバーの女。
ソイツは両腕を組みながら、一歩一歩微笑みながら私に近づいて来る。
「ほんと、あなたって間抜けよねぇ。私達に狙われてるのが分かっていながら、のこのこ出てくるんですもの」
「近づかないでっ!! ・・・・・・それ以上近づいたら、あなた達の正体バラすから」
私がそう言うと、女の足が止まった。・・・・・・私だって、バカじゃない。
ラッキークローバーの正体を学校のみんなが知ればどう思う? 当然、恐れおののく。
今までずっと学校に居たけどそんな素振りはなかったし、きっと正体がバレるのは怖いはず。
叫ぶ前に殺されるよりも、叫んで学校のみんなに正体がバレる方が早いと思う。
現にこうしている間にも、私達の側を何人も生徒が通り過ぎているんだよ?
ここで私に何かすれば、当然のように・・・・・・だから動きを押さえられた。でも怖い。
いつ攻撃されかと考えるだけで、足に震えが走る。だから思考もまとまりがなくなる。
でも、大丈夫。そうだ、大丈夫なんだ。今私は、このオルフェノクに勝ってる。
「・・・・・・どうぞ?」
女は私を見ながら、嘲笑いながらそう言った。それでなんと言っていいか分からなくて、言葉を無くしてしまう。
「というか、鈍い子ねぇ。ほら、聴こえて来ない?」
楽しげにそう言って、右手で耳を澄ますポーズを取る。その耳は、学校の方に向いている。
私は自然と振り向いて、学校の方を見てしまう。・・・・・・聴こえた。
「楽しいわね。ほんと、楽しいわ」
学校からある方から聴こえて来たのは、悲鳴。それも一人や二人じゃない。
ううん、それだけじゃなくて必死な形相で生徒のみんながこちらに走って来る。
それも、まるでそうしないと死ぬと言わんばかりの表情で。
私は多分ものすごく青冷めてると思う。それでも・・・・・・それでも女の方を見た。
女は笑いながら、私の服の襟元を掴んで簡単に私の身体を持ち上げた。
「本当は今すぐ殺してやりたいけど、それじゃあ足りないわ。
あなたには特等席で絶望を見せてあげる。ふふふ、きっと良い思い出になるわよ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ただ殴り、蹴り、突き飛ばすだけでコイツらは死ぬ。そして灰となって崩れ落ちる。
弱く脆弱で、俺達を立場も弁えずに蔑む事しか出来ない愚かな存在。その名は人間だ。
選ばれなかったために我らを妬み、理不尽に迫害する害虫。それが人間。
もういい。お前達は全員今から死滅させてやる。ファイズはもうこの学園には居ない。
いいや、現れたとしても問題はないだろう。なぜならコイツらもファイズの事を蔑む。
化物だと誹謗中傷をぶつけ妬み、恨み、そして見下す。それは既に答えとして出ている。
殺してやる・・・・・・そうしてこの世界を、我らオルフェノクの楽園に変えてやる。
「お前らのようなちっぽけで脆弱な生き物に・・・・・・生きている資格などないっ!!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
なにやら騒がしくなってるけどそこは気にせずに、僕は捜し物を継続中だった。
当然標的は赤い閃光。あのベルトはこの世界で一番のお宝だろうしね。
とにかく街中をひっくり返す勢いで走り回って・・・・・・川原沿いの遊歩道でそれを見つけた。
灰色のブレザーの制服を着たあの子は、ただ悲しげに川の煌きを見ていた。
「・・・・・・やぁ。やっと見つけたよ」
これからベルトが手に入ると思うと、ついついワクワクしてしまう。それが足取りにも現れる。
彼はそんな僕を怪訝そうに見ながら、警戒したように身をすくませる。
「確か・・・・・・おみおつけタクアン君だっけ?」
「・・・・・・尾上、タクミです。というか僕はお味噌汁や漬け物じゃ」
「ごめんごめん。でも、さすがにいきなりオルフェノク呼ばわりもアレだったからさ。それじゃあおみおつけ君」
「あの、だから尾上です」
「君が持っているファイズのベルト、渡してくれないかな」
他愛もない会話を繰り返している間に、僕達は5メートルほどの距離まで近づいた。
だがあの子は僕から目を背けるように視線を落として、ただ首を横に振るだけだった。
「持ってない。捨てた」
「捨てた? 嘘を言っちゃあいけないね。アレほどのお宝、捨てるわけがない」
それでもあの子は、首を横に振る。振ってお宝を隠し続ける。
僕は軽くため息を吐いて、ゆっくりと右手を上げた。
「分かった」
なお、右手にはディエンドライバー。・・・・・・あ、ディエンド変身用のツールだね。
これは変身前でも銃として使える優れもの。つまり、これから攻撃するってわけさ。
「それなら、出したくなるようにしてあげよう」
あの子は咄嗟に身構えて、その姿を変えようとする。僕は躊躇い無く引き金を。
「待てっ! 海東っ!!」
だけど、その僕の前に学生服姿の士が割り込んだ。僕は呆れたように息を吐き、銃口を一旦彼らから外す。
おみおつけ君も士の乱入に驚いたような様子を見せながら、変身を中断した。
「士、やっぱり僕の邪魔を」
言いかけて僕は気づいた。士の左手には、アタッシュケースが握られている。
そのアタッシュケースには、『SMART BRAIN』の文字。おみおつけ君もそれを見て、また驚いてる。
「あの、それ・・・・・・どうして」
「拾ったんだ。それで一応返しに来た。
ま、捨てたしどうしてもいらないって言うなら仕方ないけどな」
「そうだね。というわけで士、そのベルトを僕に渡したまえ」
「なにが『というわけで』だよ。お前、見境無しか」
色々プライドが無いように見えるのが辛いところだが、それよりもお宝だ。
僕は左手を伸ばして、『早く渡すように』とジェスチャーする。士はなぜだか僕を見て、呆れたような視線を向けてきた。
「残念ながら、見境よりもお宝さ。なによりそれは、この世界で一番のお宝。決して失われてはいけない」
「いいや、違うな。・・・・・・コイツはきっと、こんなものよりずっと大事なものがあるはずだ」
僕は少し表情を険しくして士を見る。だが士は・・・・・・揺らがないか。やっぱり色々と変わったらしい。
おみおつけ君はと言うと、士の言葉にただ戸惑って視線を泳がせているだけだった。何気に気弱な子らしい。
「そのためにファイズとして戦ってきた。だからこれは捨てられても、それだけは捨てられないはずだ」
「ファイズギアより大事? 士、なぜそう言い切れる」
「コイツが本気で守ろうとしたものを、見てるからだ。海東、お前だって見てたはずだ」
・・・・・・やっぱりコイツは変わったと思ってしまっても、それは許されると思う。
ただまぁ、言いたい事は分かった。どうしておみおつけ君がファイズギアを捨てたのかもだ。
多分ファイズは、おみおつけ君にとって本当に仮面だったんだろうね。
でも、もうそんな仮面を着ける必要はなくなった。だから捨てた・・・・・・と言ったところかな?
必要なくなった理由は簡単さ。もう仮面の中に隠していたものを、おみおつけ君は大事なものに晒してしまったから。
だがそうなると・・・・・・これはちょっと困ってしまった。もしそんなお宝があるなら、ぜひ見てみたい。
だから僕はまぁ、ちょっと意地悪をさせてもらう事にした。いいや、もう結果的にしてしまったのかな。
「なるほど、だったらこんなとこに居ない方がいいと思うけどね。
じゃないと、強制的にそのお宝を捨てる事になる」
「なんだと?」
「おみおつけ君」
怪訝そうな顔をする士は無視して、僕は少し声を大きく出してその背中に隠れている彼の名前を呼ぶ。
「あの、ですから尾上ですっ! 僕はお味噌汁じゃ」
「そんな事はどうでもいい。・・・・・・君は今、学校がラッキークローバーに襲撃されてるのは知っているかい?」
おみおつけ君は何も言わない。だが、それでも彼の顔が真っ青になっているのは見えた気がした。
「おい海東、それどういう意味だ」
「言った通りさ。君の学校は今、ラッキークローバーの『二人』によって襲撃を受けている。
ここに来るまでにたまたま見かけてね。まぁ助ける義理立てもなかったから放置したけど・・・・・・そうそう」
思い出したように僕は言うけど、内心ではちょっと失敗したかとも思った。
だってもしかしたら、お宝が消える事になるかも知れないんだから。
「襲われる生徒達の中に君と一緒に居た彼女の姿を見たよ。
彼女、どういうワケかラッキークローバーに捕まってたね」
次の瞬間、おみおつけ君は脱兎の如く走り出した。方向は・・・・・・あぁ、学校のある方だね。
というか、足早いねー。もう見えなくなっちゃったよ。
「おいっ!! ・・・・・・くそ、マジかよ」
「残念ながらマジだよ。というわけで」
僕は銃口を士に向けて、素早く引き金を引く。狙うは士の手元。
死なない程度に威力は加減した上で、僕はアタッシュケースを撃った。
アタッシュケースが士の手から落ちた瞬間に僕は走り込む。
それで素早くスライディングするように士に接近して、アタッシュケースを左手で抱き抱えてゲット。
「動かないでくれたまえ」
そのまま士の後ろで立ち上がって、身を翻して僕に迫ろうとしていた士のに再び銃口を向ける。
「これは駄賃代わりだ。頂いていく」
そのまま士から距離を取っていく。士は・・・・・・また悔しそうな顔をしている。
「そこまでお宝とやらが大事かよ」
「あぁ、大事だね。お宝は・・・・・・決して失われてはいけない」
今度は引き金を引かずに、ただ撃つ真似だけをして僕は笑う。笑いつつもどんどん下がる。
僕はそのまま士に背を向けて走り出した。・・・・・・・・・・・・さて、行きますか。
お宝は、決して失われてはいけない。もしもファイズギアより価値のあるお宝があるとする。
なら、それがどんなものであろうと失われていいわけがない。例え僕にとっては価値が無くともだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
残った数十人の生徒達は、全員逃げ惑って中庭に集められた。ううん、追い込まれた。
私も学校の中に引っ張って行かれて、そこで解放された上で追いかけられた。
その合間に、いくつもの灰塗れの制服を見つけて・・・・・・悔しい。逃げられない。
相手はたった二人なのに、私達は『出ようとしたら殺される』という感情に支配されてる。ううん、それは事実。
だって追い回してるのは、ラッキークローバーのリーダー格一人だけ。残り一人は入り口を見張ってる。
出ようとしたらあのレイピアで串刺しにされて、灰になってしまう。だから私達はずっと・・・・・・ずっと校内で逃げ場のない鬼ごっこ。
本来なら楽しいはずの放課後は、涙と叫びと恐怖が入り交じった時間になってしまった。
それで私はまた、大事なものを落としてしまった。だけど怯えるみんなの中に押し込まれて、手を伸ばす事も出来ない。
「さて、そろそろ虫けらを追い回すのも疲れた事だし」
あの虎に変身する男が右手を上げる。すると人差し指が灰色の触手になって、数人を背中から貫く。
その数人の身体はそのまま灰になってスポーツコートも兼ねてる中庭に落ちた。それでまた悲鳴と嗚咽が広がる。
「殺すか」
まるでそれが普通の事とでも言いたげな顔で、そして口調で私達の命は握られる。
私は怯える生徒達の中に紛れるように居て、ただ震え続けるしかなかった。
「そうねぇ」
入り口を守っていたレイピア持ちも、その灰色の体躯の下で哂いながらこちらに来る。
右手で持ったレイピアの刀身を、そっと左で撫で上げてこちらに来た。
「私達、これから外の虫けら共も掃除しなくちゃいけないもの。
あまりかまってもいられないわね。・・・・・・あぁ、大丈夫よ?」
それで哂いは続く。恐怖に駆られてその脇を逃げようとした無謀な男の子を、レイピアで一閃。
右薙の斬撃によってその男の子のちょっとポッチャリな身体は両断されて、灰に変わった上でばら蒔かれる。
「上手くいけば、オルフェノクとして覚醒するかも知れないから。まぁ、ここまで一人も居なかったけど」
歩きながら、本当に楽しげにレイピア持ちはそんな事を言う。私達はまた恐怖に震えて、その場に立ち尽くすしかなかった。
このままきっと、殺される。私は怪物のままで・・・・・・このまま、死ぬんだ。
あの子はそんな私の一番の味方になってくれるとまで言ってくれたのに。まだタクミに謝ってないのに。
二人とも、ごめん。でも、当然だよね? だって私は。
「・・・・・・・・・・・・やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
覚悟を決めて瞳を閉じた私の耳に入って来たのは、一つの叫び。そちらを見ると・・・・・・嘘。
「裏切り者が・・・・・・何しに来た」
タクミが居た。タクミは両手を広げて、そのままこちらに向かって突撃した。ただし、その姿を狼に変えて。
『いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
「おい、アイツ尾上じゃないかっ!?」
「嫌だっ! あの子も怪物だったんだっ!! もう信じられないっ!!」
学校のみんなも居るのに、タクミは躊躇い無く変身してしまった。そのままタクミは叫びながらレイピア持ちに突撃。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
左手を開いて、まるで爪のようにその腕を振るいレイピア持ちを引っかく。
レイピア持ちはそれを食らって、後ずさった。タクミは更に踏み込んで、そこに組み付く。
組み付いた上で押し込んだけど、レイピア持ちは身を反時計回りにひねる。
そのままタクミの突撃の勢いを活かして、自分も転げながらもタクミを放り投げた。
タクミは転がりながらすぐに起き上がって、レイピア持ちの方を向く。
「目障りだ」
でも、そんなタクミの背中をいくつもの光弾が撃ち抜いた。それは男が発生させた攻撃によるもの。
タクミが起き上がろうとしている間に素早く光弾を生成して、それをタクミに向かって容赦なく全て叩きつけた。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
背を逸らし、それをマトモに受けてしまったタクミに向かってレイピア持ちが突っ込む。
そのまま鋭く、タクミに向かってレイピアを突き出した。タクミは咄嗟に身を右に逸らす。
でもその切っ先はタクミの腹を斬り裂いて吹き飛ばした。タクミは転がって、そのまま倒れる。
怯えたみんなは後ずさり、咄嗟に近くに散乱していた物を投げつける。
「来るなっ! 化物っ!!」
「人殺しっ! 悪魔っ!!」
「みんなを・・・・・・みんなを返してっ!!」
自分勝手な事を言っていると思った。タクミは明らかに自分達を助けようとしてくれていたのに。
なのにオルフェノクというだけで、まるでタクミがみんなを襲ったみたいな言い方をしている。
「みんな・・・・・・だめっ!!」
・・・・・・同じ、なんだ。みんなも、同じなんだ。被害者というだけで、同じである事は変わらないんだ。
その事実に、元の優しい顔立ちの男の子の姿に戻ったタクミを見て、絶望してしまった。
人はオルフェノクになってもならなくても、怪物なんだ。私は両手で頭を抱えて、また涙を零す。
震えるタクミに手も伸ばせず、怪物に成り下がっていくみんなを止める事も出来ない。
「本当に愚かね。こんな虫けら共を守るためにのこのこ出てくるなんて」
「分かったか、裏切り者。人間に守る価値などない。コイツらは正真正銘のクズだ。
・・・・・・分かったかと聞いているっ! 答えろっ!! 裏切り者っ!!」
そう言いながら、奴らはまたこちらに迫ってくる。散乱した色々なものを踏みつけて、砕きながら来る。
その中には、私がまた落としてしまったポラロイドカメラもある。レイピア持ちは、足を動かしてそれを。
「・・・・・・・・・・・・やめろっ!!」
倒れて身を震わせていたタクミが、変身もしていないのにそのまま突撃した。
それでレイピア持ちの足に抱きついて・・・・・・私のカメラ、守ってくれてる。
「コレは・・・・・・ゆりちゃんの夢なんだっ!!」
声をあげながら、タクミはレイピア持ちに抵抗する。また変身すればいいのにと思って、気づいてしまった。
タクミ、もしかしてもうそれが出来ないくらいに傷ついて・・・・・・そうだよ、傷ついてるんだ。
あの人達が、私達が、タクミの身体も心も傷つけた。傷つけて追い詰めて、立ち上がれないようにした。
だからタクミは今、足に絡んでその動きを止める事しか出来ないんだ。
「僕が綺麗なものを、ゆりちゃんも綺麗と思ってくれたっ! それだけの事が泣きたくなるくらいに大切だったっ!!」
それでもタクミはそんな事を叫ぶ。それを聞いて、私は・・・・・・あぁ、そうだよ。
私、分かる。今タクミが何を言っているのか、分かるよ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
1年以上も前。学校の中で、一人の男の子を見つけた。
男の子は優しい顔で、学校のコンクリの間から生えている黄色の花を見ていた。
その子は学校の中でも一人で居る事が多くて、気弱な子だと知ってた。
でも、私は躊躇い無く近づいてあの子の左隣にしゃがみ込んで、カメラで一枚写真を取る。
当然被写体はあの花。私は出来た写真を、そのまま戸惑った顔のあの子にあげる。
「あげる」
あの子は何も言わないけど、少しおどおどした感じで頷いて受け取ってくれた。
それがなんだか可愛くて、つい笑ってしまう。私はまた、あの花を見る。
「なんかいいよね。うん、好きだな。こういうの」
そこから、その男の子の名前を知った。互いに名前呼びをするようになって、一緒に綺麗なものを写真に撮っていった。
男の子の名前は、尾上タクミ。気弱でいつもオドオドしていてたまにイライラするけど、だけど・・・・・・嫌いになれない男の子。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
私が綺麗なだと思うものを、タクミに手伝ってもらって写真を撮る。逆にタクミがいいと思ったものを撮ったりもする。
私達二人とも性格的に違うところはあるけど、互いに『いい』と思うものは似ている様子だった。
タクミは気弱な性格だから私に合わせてたところがあると思う。でも、私はそうじゃない。私、怪物になるくらい無神経だから。
だけど、それでも・・・・・・タクミが『いい』と思うものは、自然と私も『いい』と思えた。
あぁ、そうだよね。だから後悔したんだ。だから今私、泣きたくなるくらいに嬉しいんだ。
「だから守ろうって決めたんだっ!!」
でも、嬉しさと同時に申し訳なさも出る。私はやっぱり、最低だ。だって、それなら・・・・・・それならだよ?
「これは、これだけは壊させやしないっ!! ゆりちゃんの夢だけは、絶対に守るっ!!」
タクミはずっと、私の夢を守るために、応援するために戦ってた。昼間に言ってた通り、応援してくれてた。
そのために傷つけて、勝手に手を振り払って・・・・・・みんなの前で正体を晒させた。これじゃあ私、本当に最低だよ。
「タクミ・・・・・・もういいっ! もういいから逃げてっ!!」
「よくないっ!!」
「もういいのっ! お願いだから逃げてっ!!」
私はきっと、このまま死んでもしょうがない。こんな私のために、私の夢のために命を賭ける必要なんてない。
学校内に出たオルフェノクをファイズとして倒してたのも、きっと・・・・・・そこだよね? でも、もういいの。
「よくないっ! 絶対に・・・・・・絶対に守るんだっ!!」
だってレイピア持ちが、右手に持ったレイピアでタクミを狙ってる。
いつまで経っても振り払えないから、身体を貫こうとしてる。タクミだってきっと気づいてる。
でもタクミは離れない。だからレイピア持ちは嘲笑いながら、その刃を突き下ろした。
「タクミィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!」
・・・・・・刃がタクミの身体を貫くと思ったその瞬間、レイピア持ちの身体から火花が走った。
何かが叩きつけられたような音が響くけど、殴られたとかじゃない。
「なぁ・・・・・・!!」
≪Stinger Ray≫
続けて蒼い光弾が数発レイピアを射抜く。それでレイピアはまた怯んで、たたらを踏む。
タクミは相手が下がったのが分かったから、両手を離した。でも、攻撃は止まない。
どこからか射撃されているのか、続けて攻撃が飛んできてどんどんレイピア持ちは下がった。
私達の視線は・・・・・・そうだ、本当に自然にこちらへ来ていた二人に向けられていた。
「悪いけど、その『お宝』を壊させるわけにはいかないね」
「ゆりー、タクミー、ごめんね遅くなってー。・・・・・・一番の味方、やりに来たよ」
そこに居たのは、分厚いブロードソードを持ったあの子に右手に銃を持った男。
それであの子は、人ごみに居る私を見て呆れたような視線を向けてから・・・・・・安心させるように、笑いかけてくれた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
セブンモードもしっかり装着した上で、海東共々決戦の場に乗り込んでどんどん足を進めていく。
海東とは途中で合流したのよ。なんか目的は一緒っぽかったしさ。戦力は多い方がいい。
それでレイピア持ちが正式呼称になったロブスターオルフェノクも、虎の男も僕達をバカにするような目で見ている。
「人間が、裏切り者のオルフェノクを助けるか」
「もの好きね。そんな事をする意味があるの?」
レイピア持ちは、そう言いながら身を必死に起こしているタクミを見る。
ううん、それだけじゃなくてさっきタクミを詰ってたバカ共もだよ。
「別にそこでたむろして騒ぐ事しか出来ないバカ共はいいよ。殺したいなら殺せ。
ここで死のうがオルフェノクになろうが、それは自業自得でしょ」
≪被害者でも結局やってる事はあなた達と同じでしたしね。そこまでは面倒見切れません。
ですが、その二人とカメラはやらせるわけにはいきませんね。すみませんが、倒されてください≫
海東は左手で持っていたアタッシュケースを、乱暴にタクミに向かって放り投げた。
タクミは咄嗟に気づいて、それを両手でなんとか受け止める。
ファイズギア、どういうわけか海東が持ってたのには驚きだけどね。でも、ここはいいか。
「あの、これ」
「なに、礼はいらない。ファイズギアより大事なお宝、見せてもらったからね。
だが、そのお宝を守るためにはそれは必要なはずだ。君が使いたまえ」
・・・・・・おのれがもやしからぶん盗った事を棚に上げて何を言ってるっ!? 当然って顔するなボケがっ!!
「人間、失せろ。余計な邪魔さえしなければ命だけは助けてやる」
「助けるつもりもないくせに、なに言っているんだね。
なによりそんなとてつもないお宝の価値が分からない君達は、万死に値する」
「とてつもないお宝? ・・・・・・ふん、そんなカメラやそこの二人がか。
バカバカしい。これから殺される恐怖で、頭がイカれたか」
『怪物』達は、ベルトを装着した上でしっかりとカメラを保持するタクミを見てまた哂う。
それでも僕達は足を止めない。いいや、止める理由もない。怒りを・・・・・・そして自らの矜持を燃やし、歩を進める。
「確かに君達からするとそのカメラも彼女の夢も、特別な価値はないだろうね。そこは僕も同じくさ。
カメラはただの鉄くずだし、夢なんてあやふや過ぎていつ消えるかも分からない。そう思うのはしょうがない事だ」
海東はそう言いながら、左手でカードを取り出してそのまま銃身に挿入する。
「だがおみおつけ君にとっては、そして彼女にとっては違う。
それらは何ものにも変えられない、この世界で一番のお宝だ」
左手で銃身下のグリップを握りながら、銃口の方へ押し込む。
≪KAMEN RIDE≫
「正直君達のような輩は見ているだけで不愉快極まりない。
・・・・・・全てのお宝は、決して失われてはいけない。例えそれがどんなものであろうとだ」
「こんなちっぽけな物のために命を捨てるというのか。全く・・・・・・愚かだな。お前ら、何者だ」
「通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておきたまえ」
いや、それ士のセリフ・・・・・・いや、いいか。あのバカまだ来ないし。とにかく、僕も続けていこう。
「てーか、愚かなのはテメェらだ。テメェら、そんな事も分からないくらいに堕ちたか。
・・・・・・ちっぽけだから、壊れやすいからっ! ありったけで守りたいと思うんだろうがっ!!」
≪その心を忘れてしまったあなた達の罪は、余りに重い。だからこそ≫
「さぁ」
僕は左手を伸ばし、そのままあのバカ共を指差す。
「お前達の罪を、数えろっ!!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
海東を追って必死にバイクを走らせて学校に向かっていると、突然カードが目の前に出てきた。
俺は左手を動かしてカードをキャッチしつつ、一旦脇に停車。そのカードを見て驚く事になった。
「フォームライド・ファイズにファイナルアタックライド・ファイズ・・・・・・おいおい、またこのパターンかよっ!!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
僕は伸ばした左手でどこからともなくサウンドベルトを取り出し、腰に巻きつける。
それからすぐにケータロスのエンターボタンを押す。
海東は銃口を上に向け、その引き金を引く。タクミもフラフラしながら立ち上がって、ファイズフォンを高く掲げて声を上げる。
「「変身っ!!」」
≪DIEND!!≫
≪Complete≫
僕の左右で青と赤のライダーが生まれる。そのまま僕達は足を進めて、あのバカ共に近づく。
生徒達はその隙に、校舎の方へ逃げていった。そこはゆりも同じく。
僕も左手でパスを取り出して、そのままセタッチ。それを好機と見たのか、レイピア持ちが突っ込んで来る。
≪The song today is ”Justiφ's”≫
流れる曲は、ファイズの主題歌。もちろん大好き。そして・・・・・・少し悲しい。
激しいテンポの曲が大音量で響き出してから、レイピア持ちの侵攻はすぐに止まる事になった。
・・・・・・空気を斬り裂きながら飛んできた鋭い光の矢に背中から貫かれてしまったから。
レイピア持ちは崩れ落ちて、その身体から青い死を暗示する炎が噴き上がる。
「な・・・・・・そんな、また・・・・・・いや、いやよっ! 私はまた死にたくなんて・・・・・・・死にたくなんて」
レイピア持ちは、そのまま灰になってコートにぶちまけられた。さて、これで残り一人だよ。
・・・・・・さてさて、みなさんお気づきだと思うけど、ユウスケが居ない。
ユウスケが居ないのは、不意打ち要員として遠距離待機してもらったから。
ようするに緑のクウガになってもらったんだよ。いや、でも3000円程度のモデルガンでもモーフィング出来るんだね。
もしかしたらと思って、途中でおもちゃ屋寄って購入しといたのが役に立つとは思ってなかったよ。
ここでサウンドベルトを使ったのもお説教したのも、全部意識をこっちに引きつけるための作戦だったりする。
だからそれに気づいた虎の男が光弾発生させて、矢の飛んできた方向・・・・・・学校の屋上にそれを放つ。
ううん、放とうとした。でもその全ては、周囲に発生した壁によって防がれる。
もちろんアレは僕の魔法。壁こそ粉砕されるけど、光弾もそれによって相殺された。
さて、それではこちらのターンだよ。僕は左手で四鉄を逆手で抜いて、タクミにそのまま手渡しする。
「タクミ」
タクミは頷いて、足を進めながら右手でそれを受け取る。その間に海東が突っ込んだ。
・・・・・・ユウスケは緑のクウガになったせいで、戦闘はちとキツいはず。もやしもまだ来ない。
だからこの三人で徹底フルボッコだ。僕は続けて二鉄を引き抜き、一鉄アルトの前面に合体。
その間に引き金を引きながら虎オルフェノクを撃ち抜きつつ接近。反撃のために発生させた光弾達も全て貫く。
距離を詰められて左の爪を打ち込まれるけどそれを左に動いて避けた上で、カウンターで左フックを腹に突き入れる。
それを払うように虎オルフェノクが裏拳を叩き込んで来ても、すぐに離れて余裕で回避。というか、速い。
続けて光の弾丸が生成されて乱射されても、今度また左に走って余裕で・・・・・・常時ブリッツラッシュですか?
その間に僕は合体アルトを持ち替えた上で、三鉄を引き抜く。そのまま合体アルトの後方に装着。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
タクミは声をあげながらがら空きな背中を狙って、一気に接近。四鉄を袈裟に振るって斬りつける。
忌々しげに爪で裏拳が飛んで来ても、タクミは刃を返してそれを斬り払った。・・・・・・刀身に破損箇所は全く見られない。
その間に続けて五鉄を取り出して、合体アルトの右側面を装着。すぐに合体アルトを右手に持ち替える。
タクミはそのまま虎オルフェノクの胴体を何度も斬りつけて、怯ませていく。というか、かなりがむしゃらに振るっていた。
「調子に」
虎オルフェノクは左手の爪で唐竹に振るわれた四鉄を受け止め、その斬撃を側面に流す。
そこから右の爪が、鋭くファイズのベルト目がけて振るわれる。僕は合体アルトを両手で持って踏み込んだ。
「乗るなっ!!」
でも、その斬撃は止められた。唐竹に叩き込まれた斬撃により、腕が下に落ちてしまったから。
タクミと虎オルフェノクの間に入り込むように、僕はそこに居た。虎オルフェノクは踏み込み、タクミは一気に下がる。
虎オルフェノクは爪を動かす。でも、その前に胴体から触手が数本出てきた。それで僕を貫くつもりらしい。
僕は当然のように、蒼い魔力を合体アルトに込めながら右薙に刃を叩き込む。
身を伏せながら、下から斬り上げる要領で鉄輝は振るわれる。
でも、虎オルフェノクはすぐさま右手を上げた。それで僕の斬撃を受け止めようという腹らしい。
「・・・・・・鉄輝」
でも残念ながら・・・・・・そんなんじゃ止まるわけねぇんだよっ!!
「一閃っ!!」
斬撃はその爪を、手を、そして迫っていた触手の全てを斬り裂き、傷口から灰を吹き出させる。
・・・・・・身長差ゆえに、身を伏せながらの攻撃ゆえに、下から上に責められる方向にはならなかった。
そのまま素早く刃を返して、袈裟にもう一撃叩き込む。虎オルフェノクは咄嗟に左腕を盾にした。
斬撃はそれによって防がれる・・・・・・否、それすらも打ち抜きその巨体を吹き飛ばす。
灰が、蒼い閃光の粒子が、斬撃によって震えた空気によって弾けたように周囲に撒き散らされる。
それでも虎オルフェノクは左足を踏みしめ、コートの路面を砕きながら突撃してくる。
僕はその突撃を左にかわしつつも、左手で逆手に抜いた六鉄で腹部を斬り抜ける。
立ち上がる火花には目もくれず、僕は六鉄を順手に持ち替えつつ合体させる。残りは。
「これっ!!」
タクミが何か気づいたのか、四鉄を僕に向かって投擲。その柄を左手で掴んで、即座に合体アルトの刀身後部に装着。
七鉄になったところで、即座に魔法を詠唱・発動。カートリッジも『エクレール1発』につき一つずつ・・・・・・計7回使用。
≪Eclair Shot≫
その対象は、七鉄アルト。そして止めにもう一撃。
≪Eclair Shot≫
それはこちらに振り返り、踏み込みかけていた虎オルフェノクに向かって。・・・・・・これで準備完了。
「・・・・・・いくよ、必殺」
僕は踏み込みつつ、僕と同じように振り返っていた虎オルフェノクに向かって右斬上に刃を打ち込む。
コートの路面を深く斬り裂きながらも蒼い魔力に包まれた七鉄アルトは、その巨体を捉えた。
ただ、虎オルフェノクは下がりつつも身を翻し、襲い来る刃を両腕をクロスさせる形で防いできた。
・・・・・・僕の狙い通りに。僕はそれでも刃を振り切って、その巨体を弾き飛ばした。
「僕の・・・・・・必殺技っ!!」
巨体は、本当に3メートル程度しか浮かなかった。距離にすると30メートル程度。
多分虎オルフェノクがダメージ軽減のために、自分で跳んで下がったのもあると思う。でも、それも狙いに入ってる。
合体していた七鉄アルト達は衝撃により弾け、僕の手元には一鉄アルトのみ。僕は迷いなくそれを投擲。
着地しようとしていた虎オルフェノクの顔面に向けてぶん投げて、その邪魔をする。そして切っ先が顔を捉えた。
そこからまた灰が吹き出し、刃は弾かれて上に飛んだ。でも、すぐに落ちてくる。
二鉄から六鉄までは、空中に浮かされた虎オルフェノクの前面に、不規則だけど線が描けるように浮かぶ。
そこに、空間固定型のバインドが発生。虎オルフェノクの動きを固定した。
そのまま僕は即座に後ろに飛びながら、次の呪文を詠唱開始。・・・・・・連鎖のラインは、既に整っている。
≪Blaze Cannon≫
エクレールショットには、金色のガッシュのザグルゼムを参考にした事で同様の特性が備わっている。
一つは魔力の相互干渉による威力の爆発的向上。そしてもう一つは・・・・・・連鎖能力。
エクレールショットで威力が倍増した魔法は、別の場所に撃ち込んだエクレールに引き寄せられる。
そして今撃ち込んだエクレールショットは、炎熱魔力に反応するようにしてある。・・・・・・というわけで、いくか。
「チェーンバーストバージョンっ!!」
≪ファイア≫
左手で撃ち出した燃え上がる炎熱魔力の奔流は、まず一番手前にあった六鉄に命中。
でも、六鉄を吹き飛ばすわけでもなくただ通過する。まぁ、セブンモード頑丈なのもあるけど。
そしてそこからまるで引き寄せられるかのように、10時方向に飛んでいた五鉄に向かう。
次はそこから2時方向の四鉄、9時半方向の三鉄と、ジグザグに奔流は移動を続ける。
本来なら砲撃でこんな動きをする事はない。これもエクレールショットの効果ゆえだよ。
そしてエクレールで作った通過ポイントを通る度に、奔流は一回りずつ大きくなる。今はもう直径4メートルだよ。
・・・・・・この旅ではバシバシ使ってはいるけど、禁術にしてしまう理由を分かってもらえると思う。
三鉄から11時方向の二鉄まで進み・・・・・・その正面に一鉄アルトが落ちてくる。当然のように一鉄アルトも通過。
最後は虎オルフェノクに撃ち込んだエクレールショットと巨大ブレイズキャノンが反応。一気に接近する。
虎オルフェノクは腹部から触手を数本出して、それで即席の盾を作って防ごうとする。
でも、それすらもブレイズキャノンに触れた途端に燃え上がって灰になる。
そしてそのまま虎オルフェノクの身体に着弾。奔流の力全てがその一点に叩き込まれた。
そこから、蒼い炎の大爆発が起きる。8発分のエクレールの力が、轟音にもなって世界に響き渡る。
撒き散らされる蒼い火の粉や、鈍い音立てて落ちてくる虎オルフェノクは気にしない。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
今気にするべきは、僕の目の前に次々落ちてコートに突き刺さるアルト達。
どういうわけか僕の周囲を囲むように落ちてくる。僕は・・・・・・そっと右手を上げた。
「おかえり」
そこにすっぽりと収まるのは、一鉄アルトの柄。
それを逆袈裟振るって、刃に残っていた蒼い粒子を振り払う。
≪ただいま戻りました。なお、私も二鉄達も問題ありませんので≫
「ならよかった」
その動作で、同じように二鉄から六鉄達の刃に残っていた粒子も空に昇っていく。
・・・・・・うーん、以前実験したとは言えこれは凄い。これなら超究武神覇斬出来るんじゃ。
エクレールの連鎖の勢いのままに僕が空を飛んで、敵を斬りまくるんだよ。
あ、なんかそれ面白そうかも。よし、今度やってみよーっと。
でもその前に・・・・・・まだフラフラと立ち上がる虎オルフェノクの相手だね。
「少年君、確かに中々の攻撃ではあったけど、全然必殺じゃないようだね」
海東とタクミが、僕の両脇に走り寄ってきた。で、海東はそんな余計な事を言ってくる。
でも僕がそれに返事をする前に、虎オルフェノクはまた触手を出した。
「認めるものか・・・・・・!!」
その触手は、鋭く動き・・・・・・なっ!!
「この俺がっ! オルフェノクが人間如きに敗れるなど、認めるものかっ!!」
自分の事を自分で突き刺したっ!? てーかそれで身体が・・・・・・・な、なんか四足の虎になったっ!!
『グルァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!』
てーかこれ、激情態じゃないのさっ! オルフェノクのパワーアップ版っ!!
あれだよっ! ホースオルフェノクとかがケンタウロスになったりするアレっ!!
≪なるほど。自分で自分を再生しましたか≫
「うわ、それまずいじゃないのさ」
≪まずいですね。アレ以上の火力と衝撃を出さないと倒せませんよ≫
触手で再生した結果こうなったって事は、強力な自己治癒能力があるって事だよ?
あのフォン・レイメイ・・・・・・いや、それ以上のレベルで、コイツは死ににくいって事になる。
ううん、もしかしたら再生する度に今みたいに姿を変えて強くなる可能性もある。
でもさっきの以上の火力って、僕にはちょっと無理だよ。さすがにスターライトもこんなところでは使えないし。
なによりもだよ。こっちが手を考えるよりも早く、向こうが動きそうなのが辛い。
「あの、なんか身を伏せてるんですけど。飛び込む準備万端って顔してるんですけど」
「一気に飛び込むつもり・・・・・・だよね」
僕達は何も言わずに、散開した。海東は左に。そして僕とタクミは右に。
『ブルァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!』
次の瞬間、鋭い風が突き抜け校舎に激突した。その破砕音が辺りに響き渡り、僕達は固まる。
ううん、そこからなんか爆発が起きて、校舎の1階部分の一部が崩壊してしまった。
・・・・・・って、何あれっ!? 全く見えなかったしっ! キュベレイ思い出しちゃったよっ!!
てーか虎っていうより猛牛じゃないのさっ! それで・・・・・・あぁもうっ!! また足動かしてっ!!
≪ATTACK RIDE・・・・・・BLAST!!≫
でも、虎オルフェノクが再び突撃しようとしたところに、どこからともなく弾丸が飛んできた。
それで虎オルフェノクの動きが少しだけ止まる。そちらを見ると、変身したもやしが走って来た。
「・・・・・・・・・・・・おいおい、一体何があったんだよ。あんなの見た事ないぞ」
≪あなたが居ない間に色々あったんですよ。・・・・・・で、なんですかそれ?≫
驚きながらももやしは、即座に対処を考えていたらしい。左手には、ファイズの絵柄のカードが握られていた。
もやしはそれをバックルに挿入しながら、タクミにどんどん近づいていく。
≪FINAL FORM RIDE≫
「新しい力だ。とにかく」
「痛みは一瞬だ」
≪FA・FA・FA・FA・・・・・・FAIZ!!≫
『え?』
僕達がなんかカッコつけた事を言った海東の方を見ると、海東はタクミに銃口を向けていた。
それでタクミが宙に浮いて・・・・・・なんかまた気色悪い変形始まったっ!?
「おいお前っ! なにやってんだっ!?」
「早い者勝ちさ。少年君、君が決めたまえ」
「いや、決めたまえって・・・・・・えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
ほぼ2メートルの巨大なキャノンとなったタクミが、僕の前に降りてくる。・・・・・・うわ、マジで変形しちゃったし。
腕がなんかこう・・・・・・それで足のすね裏から妙なパーツが出て、靴底に巨大な砲門が出来てる。
それで胸元から降りたメイングリップと、腰に付けてあったファイズポインターのサイドグリップがある。
てーかこれはなんてバスターライフル? いや、ガンダムWでこんなの見た覚えあるのよ。
「蒼チビ、もうどうでもいいから早くしろっ!!」
≪ATTACK RIDE・・・・・・BLAST!!≫
僕が困惑している間にもやしと海東は、射撃で虎オルフェノクを怯ませて足止めしてくれてる。
僕は迷っている暇はないと思って、一鉄アルトをホルダーに納めた上でメイングリップとサイドグリップを握る。
・・・・・・あ、結構軽い。それはもう羽のように軽いんですけど。でも、逆にそれが気持ち悪い。
両足を踏ん張った上で、二人の射撃に耐えてこちらに突撃してこようとしてた虎を狙い引き金を引く。
すると砲門から赤い閃光が飛び出して、虎オルフェノクをあっさり撃ち抜いた。
虎オルフェノクは頭部や肩口にそれを受けて怯んで・・・・・・おぉおぉ、効果あるある。
「では、続けていこうか」
≪FINAL ATTACK RIDE≫
海東はその間にカードを入れて、銃身を操作。
≪FA・FA・FA・FA・・・・・・FAIZ!!≫
僕は改めてバスターライフル・タクミを構えながら、両足を改めて踏ん張る。
前を見ると、虎オルフェノクは蒼い炎に身を包んだ上で突撃してきた。その瞬間に神速発動。
僅かに身体の前が下がったところを見た上で、予感に従って脳内のリミッターを切る。
蒼い炎に纏われた虎オルフェノクは、灰色の視界の中でジグザグに動いていた。それもスローペースで。
僕はそれよりも少し早い世界の中で、相手の動きを予測しつつ引き金を引いた。
赤い閃光は、今度は砲門からではなく砲身の上部から発射された。それはゆっくりと前進。
その閃光は虎オルフェノクの頭部に着弾し、ゆっくりと・・・・・・ゆっくりと巨大な円錐状のスフィアを展開する。
それと同時に、虎オルフェノクの動きが徐々にではあるけど遅くなり、完全に止まった。
・・・・・・・そうか、これはアレだね。僕は限界時間の来た神速を解除しつつ、バスターライフル・タクミを上に放り投げる。
そのまま色が戻ってくる視界の中で敵を見定めつつ、僕も飛ぶ。
タクミは右足を突き出し、僕は左足を突き出して一緒にスフィアの中に飛び込んだ。
「うぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ぶち」
僕とタクミがそのスフィアに飛び込むと、スフィアは鋭く回転して虎オルフェノクを貫こうとする。
それは蒼い炎に阻まれ、接触点から赤い光が渦を巻いて撒き散らされ始める。
それでも力を込め・・・・・・決意を突き出した足に込める。その気持ちに答えてか、スフィアの回転が早くなった。
「抜けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
そして僕達の姿が掻き消える。それと同時にスフィアは青い炎ごと虎オルフェノクを打ち抜いた。
僕達は後方に着地。後ろで何かが大量にこぼれ落ちるような・・・・・・そんな音が聴こえた。
振り返ると、そこには大量の砂。その砂は青い炎に燃やし尽くされ、徐々に少なくなっていっていた。
虎オルフェノクが居た位置に刻まれるのは、赤い『Φ』のマーク。一応は、これで終わりらしい。
というか、音楽もちょうどキリ良く終了。色々と空気を読んでいるなと、ちょっと思ってしまった。
でも、これはやっぱり負け戦ではあるよね。うん、そこだけは・・・・・・そこだけは間違いないわ。
それでも僕は軽く息を吐いて、タクミの方を見る。タクミはベルトをそのまま乱暴に外した。
ファイズの変身はそこで解除されるけど、タクミの姿は人間ではなくオルフェノクのままだった
「・・・・・・タクミ」
タクミは何も言わずにそのまま歩き出した。ベルトを一旦地面に置いて、どこからともなく取り出したのはポラロイドカメラ。
それを両手で大事そうに持ちながら、タクミは生徒達が隠れた方に・・・・・・ゆりの方に近づいていく。
「・・・・・・・・・・・・おいおい、やばいってっ!!」
「殺される・・・・・・逃げないと私達、殺されるっ!!」
そう言って、恐怖の声をあげながら生徒達は逃げていく。タクミは、それでも足を止めない。
足を止めずにゆりに近づく。それでゆりも、近くの柱に寄り添うようにはしてるけど絶対に逃げない。
僕は空気を読んで、ただ見ている事にした。なんというか、割り込んじゃいけない気がした。
『言った事はどうした?』とは言う事なかれ。今はそれでも、空気を読むべきだと思ったの。
ゆりの目の前まで来たタクミは何も言わずに、両手のカメラを優しく・・・・・・そっとゆりに差し出す。
ゆりはそのカメラを差し出したタクミと同じように優しく受け取った。
タクミはそれを見て、ゆっくりと何も言わずに振り返って去ろうとする。
「・・・・・・どこ行くの?」
その言葉に、2メートルほど足を進めていたタクミが動きを止めた。
タクミは振り返ろうとするけど、その動きさえも止まってしまって・・・・・・本当に固まってしまう。
「僕は」
そして今度は言葉まで止まってしまった。そんなタクミにゆりは、また涙を流しかけながらも必死に声をかける。
「私の夢・・・・・・守るんならっ! 写真集出すまで付き合いなさいよっ!!」
それでもタクミは何も言わない。ただ俯いて、その場で立ち尽くすだけ。
でも、去ろうともしない。だからゆりは自分から踏み出した。
踏み出して、右手でカメラを大事に持ったまま左手を伸ばしてタクミの手を掴む。
ゆりは躊躇った様子もなく、灰色で自分とは違う硬質的な手をゆりは恐れずに掴んだ。
それに驚いたようにタクミは顔を上げる。上げて、振り返りながらゆりの方を見る。
そして変身を解除して、元の男の子の姿になった。ゆりはそんなタクミを見て、嬉しそうに笑う。
タクミも釣られたように・・・・・・ううん、違う。きっとゆりの気持ち、伝わったんだ。
だから同じように笑って、二人はその手を強く・・・・・・強く握り締め合った。
そう思ったら、ゆりが僕の方を見て笑いかけてきた。僕は頷きつつ、右手を軽く上げて応えた。
「・・・・・・色々余計なお世話だったかも知れないね。僕、結局あんま大した事は出来てないや」
≪そうですね。あなたが味方にならなくても、きっとあの二人は手を繋げましたよ≫
「だね」
なんかさ、見てるとそう思うわけですよ。なんだかんだで相思相愛だったのかなーってさ。
うん、思うよ? 誰も居ない中庭で、手を強く繋ぎ合っている二人を見てたらさ。
「ま、蒼チビのやる事だしな。ちょっと抜けてるのがお似合いって感じか?」
なんて言いながら、もやしはいつの間にか変身解除して写真を撮ってる。もちろん被写体はあの二人。
同じ顔なんて、本当の顔なんて誰にも写せないから、今この一瞬の顔を写真に撮っているわけだよ。
でもコイツ、自分が今回特に活躍してない事を完全に棚に上げてるな。というか、忘れたいんでしょ。
まぁ僕はもやしよりは大人なので、変身解除しつつ・・・・・・アレ、なんか忘れてるような。
えっと、オルフェノクは止めたでしょ? タクミとゆりもなんか笑ってるし問題なし。
一鉄アルトも二鉄達も、変身解除で元の待機状態に戻ったから、こっちも大丈夫っと。
あの怪物呼ばわりされてヘコんでいた夏みかんの事はどうでもいいから、良しとしておこう。
≪あなた、どうしました?≫
「いや、なんか忘れ・・・・・・あ、海東どこっ!!」
≪あぁ、それならあなたのすぐ近くですよ。というか、後ろですね≫
「え?」
僕は改めて後ろを振り返ると、そこは虎オルフェノクの突進によって半壊した校舎1階部分。
・・・・・・あ、確かに気配がする。というか、なんかゴソゴソしてるな。
僕はそこの辺りを確認するために、気をつけつつも半壊した校舎へ突入した。
もやしも写真をあらかた撮り終えたのか、僕の方を追いかけるようについて来る。
そこで見たのは、瓦礫の中で子どもみたいな顔して喜んでる海東だった。
「すっげー! 宝の山だっ!!」
「・・・・・・あー、そこのお兄さん。どうした?」
「海東、お前何してんだ」
お兄さんはその嬉しそうな顔を、何の躊躇いもなく僕達に向ける。それでなんか両手に黄金のベルト持ってる。
ファイズギアと形状が似ていて、同種の・・・・・・・同種っ!? ちょ、ちょっと待ってっ!!
「海東、それもしかしてオーガギアッ!?」
「お、さすがは少年君っ! このお宝の価値を即座に見抜くとはやるねっ!!
・・・・・・そうっ! これはオーガギア・・・・・・帝王のベルトさっ!!」
さて、説明しましょう。オーガギアとは、ファイズに出てきたライダー変身用のベルト。
ただしTV本編ではなく、テレビのIFストーリーとして公開された『パラダイス・ロスト』という映画に出てくる。
その中である人物がこのオーガギアを使い、仮面ライダーオーガというライダーに変身する。
ちなみにその能力は、ファイズの数倍というまさしくチート性能なライダーである。
≪というか、ちょっと待ってくださいよ。そこの瓦礫の中≫
僕は改めて海東が前にしている瓦礫の中を見てみる。それで・・・・・・驚愕した。
そこにあったのは、数々のベルト。しかもそれらは全部、僕達の見覚えのあるのばかり。
≪サイガギアにデルタギアにカイザギア・・・・・・それにライオトルーパー用のもありますね≫
「ちょっと待ってっ! それらがなんであるのさっ!!」
なお、全て仮面ライダーファイズに出てきたライダーのベルトなのであしからず。詳細はヤフってください。
「・・・・・・なんだ、知らなかったのかい? このベルトは全てここの地下施設で作られたものだよ」
「はぁっ!?」
「これらはかつてこの世界でオルフェノクと戦うために作られたものなんだよ。
いやぁ、施設が散々な有様だったから既に失われているものとばかり思っていたけど、まさか残っていたとは」
いや、ちょっと待ってっ! 確かファイズに出てくるベルトって、オルフェノクの王を守るための戦闘強化服だったハズじゃっ!!
・・・・・・あ、そっか。ここは僕の知ってるファイズとは違う世界なんだし、そこが食い違っても問題はないか。
「いや、だから待てよ。まずそのベルトはなんだ。あとなんで蒼チビと青豆はそれを知ってる」
「簡単さ、士。彼らの知っている『仮面ライダーファイズ』にも、このベルト達は出ていた。そうだろう、少年君」
「・・・・・・そうだよ。でも、それがなんでかこんなところに揃ってるんだよ。それも全種」
僕は瓦礫に近づいてしゃがんで、ベルト達を見てみる。試しにその中の一つを手に取ってみた。
埃こそかぶってるけど、変身用のフォンにムーバーやミッションメモリも破損は無い様子。
そこは他のベルトも同じくっぽい。さすがに頑丈というかなんと・・・・・・あ、ちょっと待てよ。
僕は意識せずにたまたま手に取ったベルトを見る。それで一つ思いついた。
「あぁ、少年君はそのベルトに目をつけたか。中々に目があるね。
・・・・・・安心して使うといい。それには君が知っているような危険はない」
それを実行しようかどうか迷っている時に、海東が楽しそうな声でそう言ってきた。
驚きつつも海東の方を見ると、海東は当然と言わんばかりの顔で・・・・・・やっぱり子どもみたいに笑ってた。
「だが僕の手にしている帝王のベルトに比べたら、それやファイズのベルトなんてまだまだだけどねっ!!」
「いや、なに自慢してるっ!? てーかまた嬉しそうな顔はやめんかいっ!!」
「まだまだだけどねっ!!」
「だからキャラ変わってるからっ! そして二回も言うなっ!!」
まぁまぁ会って一日目だからアレだけど・・・・・・やっぱりコイツはよく分からない。いや、真面目にそう思うのよ。
「そう言えば士、ファイズギアよりも価値のあるお宝・・・・・・君が言ってたのはこういう事だったんだね」
「だからお前なんでそんな話出来ないんだっ!? てーかアレは違う・・・・・・っておいっ!!
俺達を無視してとっととどっか行こうとするなっ! なによりそれそのまま持ってていいのかよっ!!」
こうして、この世界の危機は・・・・・・全部が全部ハッピーエンドではないけど、一応は去った。後に残ったのは、二人の笑顔だけ。
それで海東はファイズギアを諦めて、帝王のベルトをゲットしてひゃっほい。もやしは先行き不安でブルー。
僕は手にしたベルト達でちょっと実験して、その結果がハテナマークつきつつも良好だったのでやっぱりひゃっほい。
うし、これで勝つる。これで例えラスボス来ようが、遠慮無く勝ちにいけるぞ。
(第13話へ続く)
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