[携帯モード] [URL送信]

小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
とまと ティアナ脱走&六課崩壊ルート・パイロット版



・・・・・・時は新暦75年の7月。はやてとフェイトから『六課に入って』と頼まれてから1週間後。

まぁあれだ、結局必死に断ったさ。僕は六課とかそういうの興味ないしさ。

ま、フェイトと色々話せたのは大きかったけど。うん、それだけで充分だよね。





リンディさん辺りがまた通信で煩かったので、着信拒否にして静かに余生を過ごす・・・・・・はずだった。





深夜、突然に降り出した大雨の中、24時間営業のスーパーから小走りで帰ろうとするまでは。










「・・・・・・じゃ、物の位置は覚えたよね? 雑炊の温め方も」










僕は家の中で、僕のパジャマを羽織った一人の女の子にそう言った。オレンジ色の髪をした名前も知らない女の子。

帰り際に、雨に打たれてずぶ濡れになっていたの。それもどういうわけか、管理局の陸制服を着て。

上着は脱いでたから分かりにくいけど、あの地味でセンスが欠片もない色のスカートは、間違いなく陸士部隊のもの。





というかね、白いYシャツ着てる上で雨に打たれてたから、下着が透けて谷間とかくっきり。

なお、下着の色は髪と同じオレンジ色だった。・・・・・・そうなると、当然だけど妙なのが絡んでくる。

というか、僕が見かけた時にはガラの悪そうな男三人に絡まれている最中だった。





ソイツらはにやにやと笑いながら、放送禁止用語に接触しかねない卑猥な事を言いながらその子を品定めしていた。





そしてあの子は、抵抗もせずにされるがままになろうとしている。なので・・・・・・僕は穏便に止める事にした。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



それは本当にあっという間の事だった。もうどうでもよくて・・・・・・本当にどうなってもいいと思ってた。

だから濡れて、下着も丸見えな私の身体をいやらしく見ているコイツらの事も、振り払う気になれなかった。

コイツらに連れ去られて、一晩付き合えば・・・・・・少しは、楽になるのかなとさえ思っていた。





痛みや情けなさで、今感じている虚しさをかき消せるんじゃないかって、そう思ってた。でも、そうはならなかった。





どうやら私には、そんな事をして自分を貶める権利すらないらしい。・・・・・・男の一人が突然に吹き飛んだ。










「ごべ」





そう言って、私が背中を当てていたコンクリの壁にそのまま叩きつけられて・・・・・・ズルズルと地面に落ちる。



男は叩きつけられた時に顔面を強打したのか、鼻が潰れてそこから大量に血が出ていた。



そして気を失いながらも、口から吐血。突然の出来事に、私も残り二人の男達も言葉をなくす。





「・・・・・・あぁ、ごめんね。足が滑った」



そう言いながら上げた右足を下ろすのは、赤いフードをかぶった一人の・・・・・・女の子?

左手に大きめのスーパーの袋とたたんだ傘を持って、こっちの方を見てる。



「てーかお前ら、相手見てナンパした方がいいよ? その子、局員なんだから。
局員への暴行は重罪だよ〜。特に公僕ってのは、身内やられるとキレ方凄いんだから」



身長はスバルくらいで、声は結構可愛らしい感じで・・・・・・顔、良く見えない。



「あぁっ!? 足が滑っただとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! おいそこのチビ、ふざけた事言うと」





そう言った男の一人の身体が、くの字に折れ曲がった。その原因は、雷光のような赤い影。

あの子、一気に踏み込みながら男の腹を右拳で打ち抜いてた。

そして右手を上げて、前のめりになった男の頭・・・・・・顎に向かって掌底を叩きつけた。



何かが砕けるような音が、雨の中でも響いた。そして男はそのまま後ろ向きに倒れて、意識を失う。





「・・・・・・誰がみじんこだって? あと、人がせっかく優しくアドバイスしてあげてんのに、無視はよくないね」



さっきよりも低い声でそう言って・・・・・・いやいや、誰もそこまで言ってないわよねっ!?



「てゆうか、確か・・・・・・あー、そうだ。思い出した。お前ら、逃亡犯でしょ」



その小さな子がそう言うと、残った一人の表情が一気に変わった。

そして、あの子に向かって明らかな敵意を向ける。



「ちょうど今日、お前らの手配書見たわ。確かこの子みたいな子をたぶらかして弄んで、薬漬けにして私腹を肥やしてたんだっけ。
それでかなりの重犯罪者。よかったね。お前ら、自分達が思ってるより価値があるよ。一人頭100万ってとこかな」

「こ・・・・・・・この野郎っ!!」





そう言って、最後の一人が懐からバタフライナイフを取り出す。そして右手に銀色の刃が生まれた。

ううん、アレ・・・・・・デバイスだ。それでシアンカラーの魔力が宿る。それも殺傷設定。

私は危ないと判断して、咄嗟に魔法を・・・・・・使えなかった。使おうとした瞬間に、今日のアレコレが脳裏に過ぎった。



だから反応が遅れた。ソイツは魔力を込めたナイフを持って素早くあの子に斬りかかる。

私は止めようとするけど、身体が動かない。だけど、あの子は違った。

いつの間にか傘を右手に持ち替えて、スーパーの袋を雨に濡れるアスファルトの上に置いていた。



そして傘の切っ先を前に向けて・・・・・・一気に突きを叩き込んだ。その突きは、男の右手に命中。





「ひ・・・・・・・ひぎぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





雨の中、赤い鮮血が舞い散る。指の大半がちぎれてるんじゃなかって言うくらいにへし折れて、手の甲もひしゃげて形が歪む。

当然ナイフなんて持っていられるわけがない。男はナイフを落とした。だからあの子はまた動く。

雨の中、手と同じようにひしゃげてしまった青色の傘を軽く放り投げて・・・・・・上に向かって大きく跳んだ。



そして身体を宙で一回転させて、蹲りかけた男の頭に向かってかかと落とし。男は顔からアスファルトに叩きつけられた。

身体を一回転させたせいで、あの子のかぶっていたフードがようやく外れる。そして栗色の髪が姿を表した。

栗色の髪に、丸みを帯びた柔らかな黒の瞳。それを見て、私はさっきまでの印象を変えていた。・・・・・・この子、男の子だ。



あの子は男の後ろに着地して、すぐに振り返る。男は・・・・・・雨に打たれたまま、動かなくなってる。





「全く、バカってのは死滅すればいいのに。おかげで傘がパーだよ」



なんて言いながら、その子は私の方を見る。雨で栗色の髪がどんどん濡れていた。

そしてまず一言、私に向かって優しい声で・・・・・・土砂降りの雨の中でも分かる声でこう言った。



「・・・・・・大丈夫?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



それがこの状況の始まり。そしてよく見ると、その子は泣いていた。

局員かと聞くと辛そうな顔をしたので、僕はそのまま何も言わず・・・・・・放っておく事も出来ずにうちに連れて来たの。

あ、男達はふん縛って匿名で緊急コールした上で、放置した。もちろん指名手配犯らしき人物とも伝えてる。





アルトにネットでチェックしてもらったら、以前見た通りそれなりの賞金がかかってたのになぁ。うー、もったいない。

でもここは仕方ないのよ。この子、『局』って単語に対して過剰に反応するっぽいし。

うん、なんか放っておけないなーって思ったんだ。だってこの子、迷子みたいな目をしてたから。





もうちょっと言うと、いつぞやのりまみたいな目をしてた。・・・・・・なんというか、僕も甘くなったよねぇ。

一人頭100万・・・・・・諸経費除いても、それなりの額。また貯金額が上がるというのに。

だけど手続きのためにはしばらく局の施設に居なきゃいけないし、あの子放置は出来なかった。





だからあれだよ、家の中に残るように言い渡しているパートナー二人が、ちょっと呆れたような目をするのよ。










「・・・・・・今丁寧に教えてもらったし、ご飯は問題ないわ」

「なら問題ないね。んじゃ、寝たい時に勝手に寝てていいから」



そう言って、僕は玄関に向かう。そこでさっきまで羽織っていたレインコート取る。

赤いレインコートをジャージ姿な寝間着の上からもう一度羽織って、左手に黒い傘を手に取って僕は振り返る。



「明日の朝9時くらいには戻るから。僕は鍵持ってるし、戸締りしちゃっても問題ないよ。というわけで、おやすみ」

「いや、あの・・・・・ちょっと待ちなさいよっ!!」



それでその子は手を伸ばして、僕の右手を掴んだ。・・・・・・柔らかくて、細い手がそこにあった。

そしてその子は今も迷子みたいに不安げな目をしていて、その目で僕を真っ直ぐに見ている。



「何?」

「いや、だから・・・・・・なんでそうなるの?」





少し頬が赤く染まっているのは、さっきまでお風呂に入らせていたから。だって、ずぶ濡れだったんだもの。

着ていた服も全部預かって、選択して乾燥機で乾かした。あとはご飯も作って食べさせた。

僕が元々夜食に作りたくなって買ってた材料を使って仕上げた、ポカポカになれる美味しい雑炊。



この子、一口食べたら表情が明るくなって、丸々平らげたっけ。





「なんでって?」

「・・・・・・ハッキリ言うと私、アンタにそういう事されると思ってた」

「だろうね」



ずっと瞳の中に投げやりな色もあったもの。『もうどうなったっていいー』って言いたげなさ。

じゃなきゃあの連中も振り払ってただろうし、僕にもついて来るわけないでしょ。



「でも、僕はそのつもりが全然ないの。とは言え、それで不安にもさせたくない。
だからこれからネカフェに走って、そのままオールでネットサーフィンだよ。OK?」

「・・・・・・私が『いい』って言っても? 助けてもらったお礼。ほら、よくあるじゃない。
それとも私・・・・・・魅力、ないかな。アンタの見ての通り、それなりに成長はしてる」

「それでもだめ。僕、片想いしてる子居るし。なにより、何にも知らない子とそんな事出来ない」



本当にちょっとだけ僕より背の高いその子は、僕を軽く見下ろしながらクスリと笑った。

バカにするとかじゃなくて、どこか感心してるようにも思える・・・・・・優しい笑い。



「へぇ、見かけに寄らず古風なんだ」

「時代遅れなアナログが趣味なんでね」

「みたいね。・・・・・・私、適当に金品漁ってバックレるかも知れないわよ?」

「好きにすれば? そうなったら遠慮無く取っ捕まえてボコるし」



ついでに言うと、シオン達が監視してるから変な事があれば教えてくれる。・・・・・・色んな意味でね。

自殺なんてされても困るし、本当は僕が居た方がいいんだろうけど、それもなぁ。



「全く・・・・・・なんか、敵わないなぁ。こっちの考えてる事、全部踏まえた上でこれだもの」

「まぁ、前に似たような事があって・・・・・・それでね。その子は家庭の事絡みだったけど」

「なるほど、常套手段?」

「違うよ。てゆうか、その子今年で13歳だよ? 妹みたいなもの」



僕は言いながら、一旦傘を置いて両手首をくっつけて胸元まで上げる。



「そんな事したら、あっという間にお縄だし」

「あら、アンタがそう思ってても向こうはどうか分からないわよ?」



・・・・・・りまが僕を? いやいや、それはさすがに無いから。てゆうか、あったらびっくりだし。



「それ、自分にも適応されるって分かって言ってる?」

「・・・・・・そうね。うん、確かにそうかも」



その子はまた笑った。というか、笑顔可愛いよね。なんか優しい感じがする。



「ね、それで話戻すけど」

「うん?」

「そういう事は抜きでマジで外に出るとか、やめて欲しいな。さすがに申し訳ないから。
というか、お願い。今一人になると・・・・・・また、雨に打たれたくなる」

「・・・・・・なるほど、そりゃ困る」





僕はレインコートを脱いで、また玄関の横にかける。・・・・・・やっぱり、ダメかぁ。

まぁ分かってはいたよ。それでもりまと違って大人の入りかけだし、気をつけた方がいいかなと思ったんだけど。

やっぱり放置は出来ない。本当に一人にしたら、この子はきっとまた雨に打たれる。



多分今のこの子は、自分の中のたまごに×が付きかけてる状態だと思うから。そんなの、ダメだ。





「んじゃ、僕ソファーで寝てるから。それならいい?」

「うん、それならいい。・・・・・・ありがと」

「いいよ、別に」










部屋の中から事態を見ていたシオンとヒカリが、軽く呆れ気味に両手を上げていた。あの、それやめて?

てゆうか、その『やっぱりハーフボイルド』って視線の中に感情込めるのもやめて。

・・・・・・それで雨の夜、中々眠れないあの子の話し相手になって、胸の内で色々ビックリする事になった。





だってこの子・・・・・・機動六課の前線メンバーの一人だったんだから。名前は、ティアナ・ランスター。





なんの偶然か必然か、僕はあの部隊に更に深く関わる事になってしまった。これ、なんて最悪ゾーン?




















とまと ティアナ脱走&六課崩壊ルート・パイロット版


仮タイトル 『体験版やβ版を出すのって、顧客の反応や改善点を見つけるために大事だと思うんだ。というか、誰のルートになるかさえ決まってないんだ』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・・・・・・・それでさ、逃げて来ちゃった。教導官、手を伸ばしてくれたのに振り払ったの」



あの子は布団の中で天井を見上げながら、静かに話を続けていた。

僕がなのは達と昔馴染みとは知らないのがいい方に左右しているのか、かなりね。多少ボカした上でね。



「謝ってくれたのに、素直に聞けなくて・・・・・・『見下してんじゃないわよっ! アンタ達みたいな天才に私の事なんて何も分かる訳ないっ!!』って」



ま、またそりゃキツいボールを。なのはにとってはむちゃくちゃキツいボールでしょうが。

何気に気にしてるのよ? 自分の資質ゆえに、相手にそういう壁を作られるのをさ。



「『分かった振りして馴れ馴れしく私の心に、大事な夢に触れないでっ!!』・・・・・・って、罵りまくった。
そう言ったらね、その人泣きそうな顔して何度も謝ってきたの。それがまたイラついて、また罵った」



ただ、話を聞く限りこれは当然とも言える。だって対処が下手くそ過ぎだもの。

それじゃあ人のこころを・・・・・・ティアナのこころをアンロックなんて出来るわけない。全く、あのバカ共は。



「でさ、その様子を覗いてた同僚とか先輩とかに止められて、それでも納得出来無くて・・・・・・またキレた」



・・・・・・その先輩とやらが『どうしてなのはさんの気持ちが、みんなの気持ちが分からないの?』って言ってきたらしい。

それに対してこの子は、『仲間でも友達でもなんでもない他人の気持ちなんて、簡単に分かるわけない』と返した。



「それでさ、その先輩とも口論みたいになって」



その場で相当やり合ったらしい。時間にするとかなり短いものの、中身は濃厚。

同僚も止めに入ったそうだけど、それでもこの子の憤りは収まらなかった。



「・・・・・・私、そのまま隊舎を飛び出したの」

「で、着の身着のままで行くアテもなくさ迷おうとした直前に雨が降り出して、あの有様と」

「えぇ。・・・・・・捜索されるかと思ったんだけど」



確かに・・・・・・なのはが経緯はどうあれちゃんと話そうとしてたなら、探そうとしてもおかしくないよね。

というか、普通に六課みたいな色々機密抱えてそうな部隊から脱走だよ? そうならない理由がない。



「でも、それこそが思い上がり。実際のところはそうでもないみたいね。ま、仕方ないわよね。
私、あそこでは『いらない子』なんだから。実力的にも、部隊員としてもさ」

「まぁ、確かにね」



そうなるとシグナムさんや師匠辺りが『子どものわがままだ。すぐに戻るに決まってる』とか言ってる?

それで探そうとするフェイトやなのはにスバル辺りを強引に止めて・・・・・・ありえそうだ。



「あー、実はさ」

「何?」

「・・・・・・僕、魔導師なんだ。嘱託の空戦魔導師」

「・・・・・・そうなの?」



ティアナが布団の中で寝返りを打って、体勢をうつ伏せにする。そして顔を上げて僕の方を見た。



「あー、でも当然か。アンタ、魔力込めたナイフ相手にも怯まずカウンターしてたし。
アレは間違いなく素人の動きじゃ・・・・・・ちょっと待って。まさかアンタ」

「うん。・・・・・・ティアナが居たその『部隊』についてもかなり知ってる。分隊長二人と部隊長とは幼馴染みなんだ。
もうね、話聞いてて誰が誰かも手に取るように分かる。というか、分かっちゃった。ティアナ、その教導官って高町なのはでしょ」



そしてティアナの目が見開いた。僕は申し訳なくて・・・・・・頷く事しか出来ない。



「・・・・・・ごめん。嘘つく形になっちゃったね」

「謝らなくていいわよ。てゆうか、話し出して気づいた感じでしょ?
・・・・・・私の名前も知らなかったみたいだし」

「そうだね、六課の中の事に関しては興味なかったし。万が一には協力する約束はしてたけどさ、それでもだよ」

「だったらいい。でも・・・・・・そっか。なら、色々ボカす必要はなかったわね。あーあ、無駄な労力使ったわ」

「ごめん」





さて、ここで話を纏めておこう。僕とシオン達が休日に遭遇した六課の任務でこの子、フレンドリファイアをしたらしい。

あ、ようするに誤射で味方を撃ったって事だね。ただ、ここは師匠が寸前で間に入って止めたから被害は無し。

まぁここはいいのよ。魔導師って誘導弾があるから少ないだけで、フレンドリファイア自体は戦場では割合高いしさ。



問題はこの後。ティアナ、それを反省して自己練習でその戦闘の時に感じた問題を解決しようとしたらしい。

ただ、それは教導官であるなのはや隊長達の方針に逆らうもの。ティアナは戦闘技能のバリエーションを広げようとした。

あ、ここは新しい技能を覚えた上でだね。それがティアナの考えた打開案。



でも隊長陣はどうも、今は元々持っている技能を固めていく事を優先していたらしい。

残念ながら、この二つは相反するものなのよ。選択肢を増やす事と選択肢の成功確率を上げる事はまた違うから。

で・・・・・・結果、それをお披露目した今日の模擬戦で、教導方針に逆らった制裁として撃墜。



ここで終わって、後日ちゃんと落ち着いた上で話す時間があれば、まだよかった。

でも今日の夜にガジェットが、海上に出てきたらしい。その時に出動待機から外されて、またここで一悶着。

その後に、なのはの怪我の事とかを聞いたらしい。それで・・・・・・まぁ、あれだね。



みんなから『なのはさんはこんなに頑張ってる。なのにどうしてそれが分からないの?』みたいな事を言われたとか。

あとは出動していたなのはが戻ってきた後に、色々話をされた。

でも、そこで今話してたようにキレた。・・・・・・あのバカ共は。何が『夢の部隊』だよ。視野狭いっつーの。



六課は自分達にとってだけ『夢の部隊』になってるって事、分かってないんじゃないの?

てゆうか、そんな話されてどうしろと? ティアナには関係ないじゃないのさ。

その辺りの話をフォワード陣全員に話したそうだけど、みんなの事置いてけぼりもいいとこだし。





「とりあえずあれだ、ティアナ・・・・・・キレて正解だよ。僕だったら逆に殴り返してる」



ティアナが、また驚いた顔をして僕を見る。だから、僕は頷いて今の言葉を肯定する。



「・・・・・・アンタ、なのはさん達の昔馴染みじゃないの?」

「昔馴染みだけど、僕はなのは達と違うし。むしろティアナ寄りなんだ。
僕も凡人なの。資質だけで言えば一般局員と変わらない」



そう言いながら僕は、軽く右手でお手上げポーズを取る。



「大体、なのは達の話は全部上から目線もいいとこじゃないのさ。というかティアナ、一つ確認」

「なに?」

「なのは、今日の夜話した教導方針に関して・・・・・・これより前に話した事ある?
デバイスに搭載してるモードとかもそうだけど、本当に細かい完成形についてとか」





そう僕に聞かれて、ティアナは首を横に振った。まぁ、ここは予測してたし当然だと思う。

もし事前に話してたら、ティアナだって一人で無茶するような事にはならないよ。

相手方・・・・・・教導官が描いている方向性とかが分かってたわけだしさ。そこは納得すると思う。



話を聞いてるとティアナの行動は、全部今の自分への焦りや不安から来てるんだよ。

誤射しちゃったから、それをなんとかしたい。もうちょっと言うと、ダメなところを改善したい。

でも、それだってそれまでの訓練で強くなってる実感が感じられなくて焦ったかららしい。



正直、隊長陣は逆ギレに近いよ。ティアナのそういう不安な気持ちを汲んで、考えてやれなかったんだから。

てーか何も言わずに『黙って自分達について来い』なんて、無理でしょ。

そもそも信頼関係が成り立つほど時間経ってなかったんだろうし、やっぱ連中はめちゃくちゃ調子こいてるわ。





「みんなの話は、そういう自分の罪から目を背けた上で進んでる。
自分達にも不手際があったのに、ティアナに『だけ』変わる事と反省する事を望んだ」



それで問題は全部解決? するわけがないし。それでしたら、それは和解でも説教でもない。

ただの洗脳であり押し付けだよ。言うならあれだよ、高町なのは教を広めたわけさ。



「無茶をしたくなるだけのティアナの気持ちと理由を、『子どものわがまま』だと踏みにじった。
悪いけど僕はそんな奴ら、絶対認めない。アイツらのやった事は、クズの所業だ」

「・・・・・・アンタ、マジで昔馴染み? 私は色々疑いが出てきたんだけど」

「マジで昔馴染み。ただ、僕も常々ティアナと同じ事を考えてたのよ。てゆうか、あれだよ?
天才ってやつは基本、凡人の気持ちが理解出来ないのよ。そういう風に出来てるの」



何でも出来る才能があるから、願いを叶える力が最初からあるから、だから分からないんだよ。

・・・・・・力が無い人間がどんな思いして手を伸ばしているか、分かろうともしない。



「うん、理解出来ないのよ。そういう神様から選ばれて夢を真っ直ぐに追いかけられる奴らはさ。
・・・・・・力の無さで大事な夢と向きあう事すら怖がる人だって、世の中には沢山居るのに」

「そっか。なんかアンタ、おかしな奴よね。・・・・・・いや、いい意味でよ?」

「どういう風にしたらそうなるか、僕はぜひ聞きたいんですけど?」



テーブルの上で、自分達サイズの布団で寝ているシオン達もこっち見て笑ってるし。

というか、普通に話聞いてたんかい。寝てたんじゃないんかい。



「でも、ティアナにも罪はある。そこは間違いないよ」

「・・・・・・分かってる。部隊員としては失格な事ばかりやらかしてるしね」

「そこじゃない」

「え?」



まぁ、あれだよね。バカ隊長共ではあるけど、一つだけ真実を捉えてる。そこだけは間違いない。



「ティアナの罪は、対話という手段を最初から放棄した事だよ。まぁ、あくまでも結果論だけどね」

「・・・・・・うん」

「なのはは話さなかっただけでティアナの将来の事をちゃんと考えてた。そこだけは確か。
多分それは、フェイトやヴィータ師匠にシグナムさん・・・・・・みんなも同じ。クズはクズなりにね」



もちろんそこを予めちゃんと話さなかった事が、一番の大問題なんだけど。

とりあえずここはさっき言ったので良しとしておく。



「さっき言ったように、隊長陣との対話という良策を真っ先に捨てた事は悪いとこだと思う。
話さなかったら、何も分からないもの。ティアナが向こうを分かんなかったみたいにさ」

「あー、そこ言われると弱いな。私から踏み出す勇気が・・・・・・ううん、違うな。
その考えそのものを最初から捨ててしまったのがダメって事かな」

「そうなるね。そう考えると、ティアナの悪かったところは全部そこに集約される。
他はどれもこれも全部その波状に過ぎないと、偉そうにも思うんだ」



だけど、ここで話が纏まればいいんだけど・・・・・・きっと纏まらない。

だって隊長達が『高町なのは教』の信者なんだから。まず連中に間違いを認めさせるところから始めないと。



「ただ、ここは本当に結果論からのお話だから微妙なんだよねー。僕が当事者じゃないってのもあるしさ。
だって、ティアナが話しても理解しようとしなかった可能性があるし。ティアナもそう考えてたでしょ?」

「うん。さっきのアンタの話じゃないけど・・・・・・あの人達みたいな天才に凡人の気持ちなんて、分かるわけないと思ってた。
最初から空を飛べて、局に入れば高いランクや確固たる地位が約束されていた人達に話しても無駄だって、思ってた」





まぁ、そこは事実ではあったよね。本気で分かるんだったら、こんなバカな事になるわけがないし。

つまりよ、なのは達はティアナ達に対して妙な距離感を自ら作ってしまっていたの。

連中は自分達の階級や資質という外キャラによって、それだけの壁が出来ているかを全く自覚してない。



そこに気づかないからこういうゴタゴタも起きたし、ティアナも僕の布団で暖を取ってるのよ。





「でも、今更よね。もう私・・・・・・あそこに戻れないもの」

「戻りたいの?」

「・・・・・・よく、分かんない。なんかもう、どうでもいいのかも。どっちにしろ遅いし」

「遅くないでしょ」



軽く自暴自棄になりかけていたティアナの言葉を、そう言って遮る。

僕は・・・・・・ティアナの方を改めて向いて、そのまま言葉を続ける。



「ティアナが諦めなければ、どんな自分にもなれる。自分が描く『なりたい自分』になれる。・・・・・・あるんだよね?
そういう描いてる夢とか、こんな自分になりたいって言うのが。だから、無茶しちゃった。だから・・・・・・キレちゃった」

「・・・・・・なんで、分かるのよ」

「去年1年、今のティアナみたいな子とかなりの回数関わってね。まぁ、それでね。
・・・・・・だったら、別に諦める必要なんてないよ。そんな必要、どこにもない」

「気楽に言わないでよ」



ティアナの声が少し強張る。というか・・・・・・少し涙ぐんでるのかな。声が震えてる。



「このままじゃ局も辞める事になるだろうし、もう無理よ。あんな事して夢になんて」

「でも、諦め切れないんでしょ? だから今、迷ってる」

「・・・・・・うん」



やっぱりかぁ。まぁ、それなら・・・・・・やるしかないよね。

元聖夜小ガーディアン・ジョーカーUとしては、×の付きかけてる夢を見過ごすわけにはいかないのよ。



「なら、力になる」

「え?」



ティアナがそう言いながら起き上がって、僕の方を振り返って見る。

その目は・・・・・・涙でいっぱいになっていて、今にも零れ落ちそうになってた。



「ティアナの夢が諦め切れないものなら、拭えないものなら、僕は力になる。その夢に近づけるように協力する。
偉そうな事を言った対価は払わなくちゃいけないし、。なにより僕がこんなの納得出来ないもの。アイツら、ちょっと殴ってくるわ」

「・・・・・・アンタ、なんでそこまでするのよ。私達、今日初対面なのよ」

「うっさい。その初対面の男連中に絡まれて、自暴自棄になってソイツらとエッチしようとしたティアナにそこを言われたくない」

「バカ。それとこれとは・・・・・・全然、違うじゃない」










ティアナの瞳から溢れる涙は、見えないものとした。それで僕はこうして、この子と深く関わる事になった。

まずやるべき事は・・・・・・やっぱ、対話だよね。ただ、当人同士が話をするとまた更にこじれる。

話を聞く限り、なのはよりも問題がある人間が居る。それはなのはの周囲、六課隊長陣や昔馴染みだよ。





フェイトに師匠にシグナムさん、それにシャマルさんもか。医務官ってワードが出てたしね。

最良の結果を現実に・・・・・・ティアナが六課に復帰するためには、まずここをなんとかしないと。

このまま戻っても、ティアナは除隊扱いを受ける可能性もある。それはよろしく無い。





今回の件、問題はティアナよりも仲良しこよししてる隊長陣に問題があるって、認識させないと。

てゆうか、パワハラだよパワハラ。裁判沙汰にしたら、間違いなくティアナが勝つレベルだと思う。てゆうか、僕が勝たせる。

それで隊長陣の方がずっと問題有りという事で、手打ちにしてもらう。・・・・・・うまく、いくといいなぁ。





なんだかんだで相手は相当頑固者達の集まりなんだよねぇ。だって、高町なのはの信仰者だし。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



というわけで、翌日から行動開始。なお、ここに関してはティアナには許可はもらってる。

どっちにしても、このままじゃ脱走兵扱いを受けかねない。僕が仲介になってそこをなんとかするからと話した。

ティアナは少し戸惑ってたけど、少し時間をかけて話して・・・・・・なんとか納得してくれた。





とは言え、どうしたものか。下手に話すと、罪を数えさせる前にティアナを即刻連れ戻すとか言う話になりかねない。

もうね、悲しい事に六課の中での権力持ちが全員揃ってなのはの養護に走っちゃってるのが問題なのよ。

こうなったらクロノさんに相談も考えた。ただ、それにしてもやっぱり現状をちゃんと把握してからにしたくはあったの。





そこで僕は、非常に頼れるいぶし銀に相談する事にした。隊舎の近くまで来て、その人に念話を繋ぐ。










”・・・・・・という事なんです”

”・・・・・・蒼凪、すまん。なんというか・・・・・・いや、本当にすまん。
我らのバカのせいで、まさか六課に居ないお前にまで迷惑をかけるとは”

”いえいえ。というか、そこで『バカ』と言ってくれる事そのものが嬉しいですから”



それはザフィーラさん。ザフィーラさんは、正式に局員だったりランク持ちというわけじゃない。

部隊で常時ワンコで居るのも、万が一の非常戦力として扱うためだもの。ワンコだと、人材制限には引っかからないしね。



”それでランスターの方はどうだ?”

”今は落ち着いてます。でも、その『バカ共』のせいでかなり深い手傷負ってますしね”

”自暴自棄になって、いかがわしい連中について行く直前・・・・・・だったな”

”えぇ。それで出来れば冷却期間とか欲しいかなーとか、ちょっと思ってたりは。
今話しても、きっと互いに冷静に話せないですよ。そうしたら、また行き違う”





昨日、ティアナが撃墜された後だったらまだ良かった。そこで話せたなら、まだ良かった。

その時点なら、ティアナの事は撃墜したなのはとの間の問題に収まっていたから。

でも、もうその段階は超えた。スカリエッティのKYが空気を読まないせいで、これは部隊全体の問題になった。



シグナムさんがティアナを殴り、フェイトが傍観者という形で逃げ、師匠もティアナをバカと断じて否定した。

そしてシャマルさんとシャーリーが涙ながらに昔のなのはの怪我の事を持ち出して、同情を誘った。

つまり部隊の隊長陣と昔馴染み全員で、ティアナが六課の教導や自分の現状に疑問を持った事そのものを否定した。



そうしなければ、自分達の夢の部隊の不手際を認める事になってしまうから。全員揃って、そこから逃げたのよ。

自分達に不手際などなかった。悪いのは、勝手に疑問を持ったティアナだと責任から逃げた。

そうしてティアナを自分達に洗脳しようとして、ティアナがそれを否定した。当然だけどそんな人間をフェイト達は認める?



もちろん・・・・・・認めるわけがないね。だってティアナは六課という場所を否定する悪魔そのものなんだから。



まぁ結論を言うと、これはティアナと隊長陣全員とそれに与する人間との問題になってしまったのよ。





”そこまでか。・・・・・・全く、連中は”





もうね、こじれにこじれまくってるのよ。正直ティアナに確実な解決を約束出来なかったのはここが原因。



まだ大丈夫かなぁとも思ったけど、ザフィーラさんの呆れ返っている声の様子から察するにそうもいかないらしい。



やっぱりティアナは、なのはの気持ちや自分達の期待を裏切った大罪人・・・・・・敵として認識されているかも。





”蒼凪、お前がここに居るという事は・・・・・・ランスターは今一人なのか?”

”いえ。ちょっと友達二人に見てもらってます。言い方は悪いですけど、監視役ですよ”

”そうか。その友達にも悪い事をしているな”

”そこは問題ありません。二人も事情を知ってなのは達に相当キレてますから。なにより時給も渡してる”



ティアナに関しては、引き続きシオン達に見張ってもらってる。うん、ちょうどいいのよ。

ティアナ、シオン達しゅごキャラは見えてないみたいだしさ。



”それでザフィーラさん、改めて確認させてください。現状はどうなってるんですか?
何にしてもティアナの所在だけはハッキリさせないといけないんですけど”





さすがに失踪状態を維持は、本当にマズい。それだと下手したら僕が誘拐犯みたいに思われる可能性がある。

何にしても信頼出来る局関係者に、ティアナの事を伝えないと。ただ、六課メンバーは全員アウトの可能性があるんだよなぁ。

それなら・・・・・・やっぱりクロノさんとか? 後見人でもあるから、バカ共もきっと止めてくれる。



あとはゲンヤさんやギンガさんだね。ティアナに聞いたら、訓練校時代からお世話になってたっぽいし。

事情を話せば、預かるのはアレとして防波堤にはなってくれるかも。二人共、しっかりしてるから。

もしくはヒロさんとサリさんだよ。こういう時に頼れる二人だったりする。まぁ弟弟子として申し訳なくはある。



もしくは局関係じゃないけど、フィアッセさんやゆうひさんにさざなみ寮・・・・・・あ、意外とアテはあるな。





”それなら、主はやてに直接相談した方がいいだろう。
それで安心しろ、主はやては連中と違って愚かではない”



色々と考えていたけど、意外にも僕の不安はその言葉で払拭された。

ザフィーラさんは僕の心情を見抜くように、優しく言ってくれたからそのせいもある。



”つまり、部隊長もザフィーラさんと同じくこれを『バカ』だと思ってる?”

”あぁ。というより、自分の知らない所でそんな事になっていた事に対して大層ご立腹でな。
明け方まで両分隊長と副隊長と医務官と通信主任はしぼられまくっていた”



通信主任・・・・・・あ、シャーリーか。そういやそんな役職になったとかって話は聞いてる。

てーかあのバカは一体なにしてるのさ。こういう時はしっかりバカ隊長共も叱るのがおのれの役目だろうが。



”・・・・・・そうなんですか。そりゃよかった。というか、『知らなかった』ってなんですか”

”全ての対処は、分隊長とその部下と医務官が行ったものだ。部隊長は報告の『ほ』の字すら受けていなかった”

”あぁ、ハブられたと”

”そういう事だな”



とにかくはやても僕と同じように、隊長陣の身内での馴れ合い要素が原因だと思ってるんだね。いや、それは話が早い。

これで部隊長であるはやてまで同じ感じだったらどうしようかと、真面目に思ってたし。うし、これで光明が見えたぞ。



”それでそれに対して各々の反応はどうですか”

”テスタロッサとシグナム辺りは不満そうだ。まぁ、二人は仕方あるまい。
テスタロッサは高町の心情を優先するだろうし、シグナムはそもそもあの手のが嫌いだ”

”正直、それを『仕方あるまい』で済ませる事そのものが今回の件の原因だと思いますけどね”



ぶっちゃけ馴れ合いだよ。両方に責任があるのに、昔馴染み優先にしちゃったからこうなるんだよ。



”隊長達、自分達が部隊の人間の色んなもんを預かって仕事してるって自覚が足りないんじゃないですか?
ティアナの話を聞いてると、ここが自分達にとってだけの夢の部隊だって事を忘れてるように感じます”

”確かにな。それで特にシグナムだ。アレではまさしく『劣化の将』だろ”



・・・・・・マジで何やってる。フェイトは分かるけど、烈火の将はマジでザフィーラさんの言うようになってるんじゃ。



"それでその『劣化の将』はともかく、他のメンバーは"

”まずヴィータは・・・・・・反省しているな。アレでもお前の師匠だ。
お前の事と照らし合わせたら、自然と自分の間違いに気づいたらしい”



あぁ、よかった。師匠はやっぱり師匠だった。うし、これでまた光明が大きくなったぞ。



”シャーリーやシャマルの方も大丈夫だ。いくらなんでもやり方があまりに一方的過ぎたと、二人揃って相当悔やんでいる。
ただ、シャーリーがこちらの力になれるかどうかは微妙だな。ランスターが飛び出す直前に、相当やり合ったらしい”

”でしょうね。そこも聞いてます。シャーリーはともかく、多分ティアナが拒否反応起こしますよ。
それでそんなシャーリーの上官のフェイトは、まだまだ納得し切れないと”

”高町の心情を第一に考えてるしな”



フェイトがそうする理由は、横馬の身体の事を相当心配していたから。そのために模擬戦関係も全くしなくなったらしいし。

確かに美徳だよ。素晴らしい友情だね。でも、ここでは悪だ。フェイトはそうやって弱い立場に居る人間を見捨てた。



”エリオとキャロにあのバカがランスターを殴った後始末を頼んだそうだが、そこも主に指摘されて不服そうにしていた”

”・・・・・・僕の方で連絡して、改めてフェイトに説教しておきますよ。さすがに見過ごせない”

”そうだな、そうしてくれると助かる。お前の言葉ならば、テスタロッサも止まるだろう”

”そうだと嬉しいんですけど”





フェイトもフェイトで相当頑固だもんなぁ。てーかアレだ、フェイトは隊長向いてない。

というかさ、いくら現場指示の権限持ちの執務官やってるからって、いきなり分隊長は無茶じゃないの?

例えば執務官の仕事は現場や事件への・・・・・・前での判断力が求められると思う。



でも、分隊長はそれの他に部下や周りの事も考える必要がある。現場だけの付き合いじゃないしさ。



求められる能力がまた違ってくるだろうに・・・・・・適当過ぎるぞ、オイ。資格持ってるからOKじゃないでしょ。





”・・・・・・身内での編成が仇になっているわけだ。
お前のように隊長達へのカウンターとなる人間が、現状では居ない”

”でしょうね。だからはやても僕を誘おうとした”

”知っていたのか”

”えぇ。断った後にはやてからメールが来たんです。で、そこの辺りに不安を持ってた”





ようするに今回みたいな事になる前に、バカやってるのを率先して止められる人員が欲しかったそうなんだよ。

実際に運営を初めて、やっぱりそういう役割を持ってる人間が必要だと感じた。

当初はシグナムさんやこっちに居るグリフィスさんで充分と考えたそうなんだけど、はやて的には足りない。



それでまぁ、万が一の時には助けてくれるとありがたいとか言われてたけど、マジでこうなるとは。




”それで当のなのはは・・・・・・あぁ、ここは問題ないですね”



昨日聞いた感じの話通りなら、なのはは自分の不手際もちゃんと分かってる。・・・・・・はず。

なんにしてもこれはティアナだけが悪いものじゃないって言うのは、理解してるはずだよ。



”そうだな。自身の不手際を認めて・・・・・・というより、突き付けられたな。
ランスターは高町の手を払いのけて、アイツを徹底否定したからな”

”そこも聞いてます。『天才』だから『凡人』の自分の気持ちが分からないーですよ。ま、当然ですよね”

”そうだな。王というのは得てして、人の気持ちが分からないものと相場が決まっている”



つまり、なのはという王様を祭りあげるフェイト達家臣一同って感じ? またバカだよねー。

そんなんだから、ティアナの心がどんどん離れてくんだよ。解決するにしても、そこを持ち出しちゃだめなのに。



”で、その凡人は・・・・・・さっき言った通りですね。だから今ザフィーラさんとお話してるわけですし”

”このまま我らにそのまま事情説明は、躊躇われたというわけか”

”えぇ”



ただ、それでも変革の兆しがあったのはよかったよ。そこだけは本当に救い。

これならあとは頑固なあのバトルマニア二人を陥落するだけで、問題はティアナ自身の気持ちだけになる。



”ならば、どちらにしても部隊長に相談が必要だろう。何分、分隊でも意見が分かれてる状況だ。
我も力にはなりたいが・・・・・・お前も知っての通りの立場だからな。中々に難しい”

”大丈夫です。こうやって今力になってくれてますし。・・・・・・まぁ、あれですよ。
ティアナがそっち戻る事になったら、話し相手になってもらえますか? それだけでもきっと救われます”

”そうだな。そうする事にしよう。この姿は、そういう事に使うにはとても有益だ”










僕はザフィーラさんに重ね重ねお礼を言って念話を終えた上で、隊舎に向かって歩き出した。





さて、ここからが正念場だ。はやてとの話し合い、出来る限りうまくやらないと。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



はやては明け方までお説教していたのにも関わらず、部隊長室で元気にリインと仕事をこなしていた。

それぞれの分隊長と副隊長は・・・・・・謹慎にしたとか。まぁ、二日程度なんだけどさ。

そこまでしっかりと英断を下したはやてに感心しつつも、僕は部隊長室に乗り込む。





そして事情説明をしたら・・・・・・はやては机の上に崩れ落ちた。










「・・・・・・やっぱアンタに六課来てもらわんで正解やったわ。だめや、もうだめや。
なんやコレ。うちこんなんじゃ未来の後藤隊長とかマクガーレン長官とか絶対無理やし」

「そこは否定出来ないのが悲しいね。でも、泣くのやめて? ほら、僕も辛いから」

≪そこはジガンもなの。はやてさん、お願いだから元気出すの。ほら、笑顔が一番なの≫



あー、はやては六課を僕みたいなアウトローでも居場所に出来る部隊にしたいって言ってたしねぇ。

それなのにこんなアホな事が起きて、軽くショック受けてるわけですか。



「恭文、もうマジごめん」



はやてが顔を上げて、僕の方を見ながら右手で両の眼から溢れる涙を拭う。

・・・・・・こりゃ、あんま責められないよね。話を聞く限り、はやては蚊帳の外も同じだったわけだし。



「というか、助かったわ。昨日あの雨やったろ?
マジで犯罪に巻き込まれてるんやないかと思うて困ってたんよ」

「危うくそうなりかけるとこだったよ。・・・・・・ティアナ、自暴自棄になっててさ。
僕の家について来たのも、お礼に身体要求される可能性を承知の上だったし」

「そ、それはまた・・・・・・あ、恭文さんまさか」

「するわけないでしょうがっ! 僕はフェイト本命だよっ!?」



・・・・・・二人共、その悲しそうな顔はやめて。いや、マジでやめて?

というか、僕の事はとりあえずどうでもいいのよ。今大事なのはティアナの事なんだから。



「でさ、はやて・・・・・・ティアナ、どうするつもり?」

「・・・・・・これが完全にティアナが悪い言うんやったら、もう除隊扱いやな。
ティアナだけの問題やのうて、他のフォワードまで巻き込んでるし」

「でも、当然そうはならない。六課ご自慢のエースな分隊長共がやらかしてくれてるから。
なにより後味が悪過ぎるし、フォワード陣への影響だって間違いなくあるでしょ」



もっと言うと『高町なのは教』の信者の方々だよ。・・・・・・よし、僕は気をつけよう。

マジで信者とか要らないし。友達とか仲間とかはともかく、信者は怖い。



「そうやな。うちとしては『互いに悪いとこがあった』いう形で、喧嘩両成敗にしたいんよ。
もちろん、ティアナにも減俸なり厳重注意なりをうちからした上でな」

「ぶっちゃけ、全員クビにしてもいいんじゃないの? これ、訴えたら絶対負けるし。
専門家だったら、パワーハラスメントとして裁判沙汰にするよ」

「それ、うちも思うた。で、しつこいくらいに説明した。でもな、納得せぇへんのよ。特にライトニングのバカ二人が。
シグナムに至っては『管理局は警察機構なのですから、あれくらいしなければ意味がありません』言うてるし」

「・・・・・・あの人、マジで劣化の将だし。騎士のやる事じゃないでしょうが」



あれだ、海里見習え? 同じクールキャラでも海里の方がまだ融通利くし。もしくは最近柔らかくなってきたひかるだよ。

なんていうか、組織に染まると誰も彼も人間的な意味合いで凡人になるんだね。分かります。



「あーもう、マジであのバカ共クビにしたいわ。ぶっちゃけティアナに処分下すのマジ理不尽やし」

「ケンカにもなってないしね。これ、一方的な暴力なんだしさ。てゆうか、マジでしない?」

「出来たらやっとる。でも、なのはちゃん達居なかったら事件に対処出来んのよ。
ティアナと同期のフォワード達への教導も、間違いなく滞ってまうし」

「・・・・・・独立性の高い自給自足が可能な部隊の弊害だね」





六課は新人への教導や装備開発等々を、自分達の隊舎内で行う事も想定している。

本来はこういうの、専門の部署に頼むものなんだよ。でも、六課はそれを自分達でやる。

装備関係はデバイスマイスターのシャーリー等が請け負って、教導はなのはと師匠。



あとはヘルプみたいな感じで、経験豊富だけど人間的にはクズな他の隊長陣も教えていく。

だから六課は単純にレリック絡みの事件を追うだけじゃなくて、こういう独立システムのテストケースでもあるんだ。

この辺り、前にはやてやクロノさんから聞いたところによると・・・・・・元々のモデルがいるの。



六課の在り方や動き方は、僕とシオン達が以前お世話になったGPOを参考にしているらしい。

GPOも局やEMPDとは違う独立的な動き方が出来る外部組織だったしね。あ、装備関係の開発も独自にやってるの。

シルビィが装備してるあの魔力バッテリー搭載式のハイテク銃も、GPOのご謹製らしいしね。





「てゆうか、バランス悪過ぎ。いくら独立性が売りだからって、欠員が出た時のフォローが出来ないのはダメだよ」

≪そうなの。それじゃあ自転車操業も同じなの。例えば大人数が怪我して動けなくなったら、途端に六課は壊滅なの≫





局の中でオーバーS魔導師とかって、相当重宝されてるのよ。

数自体も局に所属する魔導師の中で言うと5%とかそれくらい。

そしてその5%は、本来五人も四人も一つの部隊の中には居ない。



この戦力の厚さもまた六課の売りなんだけど、弊害がいくつもある。まず、全員がその能力を抑えられてしまっている。

部隊の人材制限ってのがあってね、一つの部隊が保有出来る戦力には上限があるの。そして六課はそれを超えている。

だから隊長達は全員、その能力の幅に収まるように魔力や術式にデバイスの形状変換にリミッターをかけてる。



・・・・・・バカバカしい。調子に乗って高ランク取りまくるからそうなるんだよ。僕くらいにAランクもあれば充分だっつーの。

そしてそんな人員は、さっきも言ったけどそれぞれに所属も決まっていて簡単には動かせない。

六課にみんなが来たのだって、そこの辺りで時間をかけてそれぞれの仕事を調整した上での事だもの。



つまり、もしも隊長陣の誰かが負傷などして前線に出られなくなった場合、六課の誰も隊長達の代わりが出来ない。

しかもその隊長ははやてを除くと、全員消耗度が激しい前線の前の方に出て戦うメンバーばかり。

もちろん能力の高さ故に簡単には潰れないだろうけど・・・・・・去年みたいなアイアンサイズとか出てきたらどうすんのよ。





「そこは言わんでもらえると助かるわ。うち、こんなアホな事態は全く想定してなかったし」

「そこは想定してなくても、戦闘関連では想定しとくべきだったよね。
ほら、もしかしたらオーギュストみたいなのが来るかもよ? そうなったらもう無理だって」

「確かになぁ。そういうのが出てくるかも知れんのよなぁ」



言いながらはやてが苦い顔になるのは今名前の出た奴相手だと、六課隊長陣はタイマンなら絶対に勝てないと知ってるから。

そういう魔導師殺しだったのよ。相手が『魔導師』や『局員』という枠に収まった行動を取り続けるなら、絶対に勝てない。



「そうだよ。てゆうかさ、昨日のガジェット襲撃だってもしかしたらこっちの動きを読んでたのかも知れないよ?」

「なるほど。こっちの動きを読んで、モメるタイミングでガジェット出したんか。
・・・・・・うわ、なんか有り得そうで怖いわ。てゆうか、それやと六課内部に内通者居るやん」

「うん、そうなるね。てゆうかさ、僕も適当に言っておいて今更怖くなった」



ぶっちゃけあれ、隊長陣誰も勝てないから。僕だってあの手の相手用の技持ってなかったら、アウトだったし。

でもそうなんだよなぁ。スカリエッティって稀代の天才科学者だから、あの手のがまた出てきてもおかしくないんだよなぁ。



「・・・・・・うち、マジで見通し甘かったわ。あぁもう、GPOに連絡して協力してもろうた方がえぇかなぁ。
というか恭文、隊長にならん? ほら、ナハト分隊の分隊長で副隊長で分隊員や。給料弾むよ?」

「なんか勝手に話進めてるっ!? そして分隊の名称まで勝手に決めるのやめてよっ!!
てゆうか、それないからっ! 僕はこんなバカやらかす連中の部隊になんて入りたくないしっ!!」

「それ言わんといてよー! うちかてあんなバカな部下率いる部隊長なんてもう嫌なんやからー!!」





・・・・・・はやて、そこまで? というか、すっごい涙目だけどそこまで?

あー、でもダメージ大きいよね。だって信頼してた友達や家族が揃いも揃って無能揃いなんだから。

とにかく、何にしてもはやては穏便解決を目指している様子。あー、ここは本当に救いだ。



これなら思惑通りにティアナ・・・・・・また夢を追いかけられ・・・・・・るかなぁ。

こうやって色々話あげてみたけど、六課って不安要素大き過ぎるし。

というかあれだね、オーギュスト・クロエやアイアンサイズみたいなのが来たら、全滅すると思う。





「でも安心したよ。下手したら後見人も巻き込んで大喧嘩かなとか思ってたし」

「ごめんな。とにかくうちはこんな感じやから。・・・・・・あー、実は問題が一つあるんよ」

「え?」

「いや、昨日の騒ぎがもう隊舎中に広まっててな。
ティアナやうちに対して不満持っとるのが相当数居るんよ」



・・・・・・あれ、快晴だったのがまた雲行き怪しくなってきたし。あれれ、なんかおかしいな。



「はやて、ちなみにそれは・・・・・・どうして?」

「簡単や。『エース・オブ・エース』や『閃光の女神』に刃向かった愚か者やからや」



さっきまで快晴だったはずなのに、急激に雲が空を覆った。そして当然ながら、ポツリポツリと何かが落ちてくる。

出来れば気のせいとしておきたかった。でも、そうならない。だって僕の頭がちょっと濡れてきてるし。



「ようするに、なのはさんを擁護しようとするのはなにもフェイトさん達だけじゃないという事なのです。
六課の人員の中でも、やっぱりこう・・・・・・分隊長達のファンはかなり居ますから」

≪・・・・・・つまりあれですか。そういうのがウザい事にあのバカ共の擁護をしていると。
そこの辺りを解消しないと、ティアナさんが戻っても結局辛いままと≫

「ですです」



あぁ、雨が・・・・・・晴れてるのに雨が降り出してる。お天気雨とかじゃない意味合いで降り出してる。

そう言えば、家出したりまとたまたま遭遇した時もコレだったよなぁ。あははは、これなんてデジャヴ?



≪おそらくあなたが即決で処分を下した事も、そこに拍車かけてるんでしょ。・・・・・・少し早りましたね≫

「そうやなぁ。まさかこんな形で飛び火するとは思わんかったからなぁ。うー、マジでどうしよ」

≪それならその飛び火が鎮火するまで、ティアナちゃんを戻すわけにはいかないの。
隊長陣との関係が良くなっても、今度はそこでエコひいきなんて話になるのは明白なの≫

「うん、そこは分かるんよ。でもなジガン、それやるとうち」



俯いていたはやてが、僕を申し訳なさげに見る。その原因は、言わずもがな。

その場合、そのいつ達成出来るかも分からない鎮火の時までティアナは僕が預かる事になるから。



「恭文に非常に迷惑をかける事になるんよ。別にティアナと恋人同士とかなら分かるけど、そうやないし」

≪・・・・・・確かにそうなの。これから恋人同士になるとかならともかく、それも無理なの≫

「てゆうか、僕ここでそのためにティアナを彼女にしたら、とんでもなく最低じゃない?」

「それはまぁな?」





だってティアナは家族も居ないらしくて、行くアテがマジで無いのよ。当然局関係もアウト。



ダメージが癒えないし、未だ納得してないバカ共がティアナに対して余計な真似してくるかも知れない。



しかも着の身着のままで飛び出しちゃってるから・・・・・・放り出す事も当然出来ない。





「はやて、ティアナから聞いたんだけど、ゲンヤさん達ってティアナの事良くしてくれてるんだよね」

「三佐か? ・・・・・・あぁ、そうやな。アンタも聞いてる思うけど、ギンガの妹が六課のフォワードでスバルのパートナーやから。
あ、でも三佐とギンガのとこはやめといた方がえぇな。実はな、先日捜査協力を申し込んで、了承してもろうとるんよ」

「ティアナが108近辺に居ると、なのはさん達にはち合わせする可能性もあるです。さすがにそれは」

「・・・・・・またなんつうタイミングの悪い」



でも僕の家にずっとは、色んな意味でアウト。うわ、これマジでどうしろ・・・・・・いや、やるしかないか。

だって僕はもう、関わる覚悟を決めちゃったんだし。今更引く事なんて出来ないよ。



「・・・・・・こうなったら仕方ない」

「恭文?」

「はやて、ティアナをしばらく謹慎処分にして。それも今すぐにだよ」

「はぁっ!? アンタいきなり何言い出しとるんよっ!!」

「いいから。・・・・・・部隊員のボンクラ共が空気読まずに不満なのはどうして?
『諸悪の根源』であるティアナに、現時点で何の処分もされてないからでもあると思うの」



僕は身を前に軽く倒して、右手をはやてが座っているデスクにつく。そして少し声を潜めて話を進める。

・・・・・・もちろん、処分してない理由も分かる。ティアナは僕が来るまで、六課からすると行方不明だったんだから。



「ティアナはたまたま局の警ら隊に保護された事にして、ここに戻るまでの間を謹慎期間にするのよ。
というか、再教育を受けてるとみんなには説明。そうすれば、外野の溜飲も下がるんじゃない?」

「・・・・・・なるほど、その手があったな。しかもその間に、あのバカ分隊長ズとの冷却期間も取れる。
うちもしっかり説教を継続出来て、納得させた上でティアナを迎えられるから一石二鳥と」

「うん」



さっきまで暗かったはやての表情が、やっと明るくなった。どうやらこの方法で問題はないみたい。



「うし、ならこっちはそれでいくわ。恭文、マジでありがとな」

「別にいいよ。僕はティアナ放り出したくないだけだし」

「いや、それがありがたいんよ。・・・・・・でも、アンタどうするんや? このままティアナと同棲生活もあかんやろ」

「そこなんだよね。それにほら、僕の家の合鍵をリンディさんが持ってるから」

「あー、その問題があるか。そうすると、なのはちゃん達にもここは説明出来んな。
下手に説明したらティアナにちょっかい出すために、リンディさん頼りかねんで」



そこまでいかなくても、もし何かの用事でリンディさんがこっちに来て、合鍵に入った所にティアナが居たら?

・・・・・・間違いなく大問題に発展するよ。後見人として、部隊員のあれこれを知らないわけがないし。



「そう考えると、恭文さんの家に居るのも安心出来ないですよ。恭文さん、どうするですか?」

「大丈夫。この辺りはアテが無いわけじゃないから。まず、うちの鍵は変更だね」



ここはさっき言ったのを防ぐためだよ。当然ながら、リンディさんには内緒にしておく。



「それで他は・・・・・・少し相談してみるよ。だからはやて」

「うん。こっちはこっちでうまくやってく。詳細は随時報告してくから」

「お願い。・・・・・・あー、それと悪いんだけど」



僕は身体をあげて、右側を見る。そしてそこに居る小さな女の子が、軽く首を傾げる。



「しばらくリイン、連れ回しちゃっても構わないかな。ほら、ティアナの再教育に付き添ってるとかそういう感じで」

「はぁっ!? なんでよっ!!」

「・・・・・・この調子でいくと、マジで最悪ゾーンに突入しそうだから。単独は不安なのよ。
悪いけどここは納得してもらう。これから先、ティアナと一緒に行動するのは確定だろうしさ」





それに六課は六課でスカリエッティなんてどでかいカード引いてるしなぁ。・・・・・・やばい、凄い嫌な予感がしまくってる。

今のティアナはデバイスもないわけだし、何かあってもこのままじゃ守り切る自信が全くない。

キャラなりを使うというのも手だけど、やっぱり×たま絡み以外で二人を戦わせたりしたくないんだよね。



だから最悪の場合に備えて、手札は過剰な程にしっかり揃えておく事にした。





「あー、そういう意味か。確かにアンタも・・・・・・巻き込んでもうてるしなぁ。
うし、分かった。リイン、恭文とティアナのフォロー頼むわ。仕事の方は心配せんでえぇから」

「分かったです。・・・・・・でも、大丈夫ですかね」

「大丈夫にしてくしかないやろ。このままティアナが夢諦めてもうたら、うちらマジ最低やし」



そりゃそうだろうね。自分達の都合のいい居場所を守るために、その中で疑問や不満を持ったティアナをパワハラしたわけだし。



「あぁもう、なんでこうなるんやろ。うち、別に身内贔屓だけで部隊員選んでないんやけど」

「簡単だよ。天才って言う王様には、人の気持ちが分からないんだよ。
もっと言えば生まれつき人より優れた才能を持った人間は、上に立っちゃいけないんだよ」



優れた才能があるが故に、人の気持ちが分からないのよ。なんというか、僕はそういう風に思う。

もちろん例外はあるよ? そうじゃない人も居る。でも・・・・・・今回のコレを見てると、どうしてもそう思えて仕方ない。



「はやての失敗はフェイトやなのは、シグナムさんみたいなエースな人間を隊長にした事だよ。
天才でエースな方々には、きっと今のティアナや僕の気持ちは簡単には理解出来ないよ」

「・・・・・・それはまた、色々と突き刺さる言葉やな。てーか、それフェイトちゃん達に言うてやろうっと」





言うんかい。このたぬきはまた・・・・・・ま、ここはいいか。さて、まずどうするかな。



ティアナの謹慎は少し長めに取るとして、その間ははやての言うようにこのままには出来ない。



だから僕は、あの人を頼る事にした。というか、他にアテが無いと言った方が正解だったりする。





「・・・・・・あ、そうや。忘れるとこやった」

「なに?」

「ティアナが使ってたデバイス、今デバイスルームで保管しとるんやけど・・・・・・引き取っていってくれるか?」

「・・・・・・いいの?」



ティアナは、六課にとっては裏切り者と言ってもいい扱いになってる。そういう風潮になりつつある。

そんな中でデバイスを没収せずに渡したりしたら、またモメるんじゃ。



「当然やろ。『再教育』するんやったら、デバイスもしっかりしとかな。・・・・・・という事にしておく。
てゆうかあれや、万が一なんかあった時に丸腰はヤバいやろ。恭文の負担かてある」



視線で呆れ気味に『どうせアンタはやるとなったら飛び込むやろ』と言っているのが伝わった。

なので、お手上げポーズで返しつつ・・・・・・心の中で、お礼を言った。



「それでリイン」

「はいです?」

「リミッター解除のためのキーも後でアンタに送っておくから、アンタの判断で解除してえぇよ。
ま、これに関しては設備が必要やし、必要はないとは思うけど・・・・・・一応な」

「分かったです。なら、恭文さんのうちに向かうついでにデバイスルームに行って、引き取ってくるですよ」

「ん、お願いな。バカ共とシャーリーにはうちから説明しとくから」










とにかく、誰も居ないデバイスルームに忍び込むようにしてティアナのデバイスを回収。そのままリインを連れて家に戻った。

ティアナはリインが来た事に色々びっくりしてたけど、細かい事情を話して納得してもらった。

というか、一応でも手打ちの手はずが整った事を話したらまた泣かれたっけ。やっぱり、雨はまだ降り続けてるらしい。





でも僕もはやてもリインもアルトもジガンも失念していた。僕の提案したプランには、一つ穴がある事を。

それは、外野は黙らす事が出来ても内野・・・・・・フォワード陣を黙らせる事は出来ないという事。

当然だけど、僕の事などは話せない。だって、話した瞬間に僕の家がきっと修羅場になってしまうから。





だからこそのカバーストーリーだけど、僕は残り三人のフォワードがこれを聞いてどう思うかを考えてなかった。

あちらを立てればこちらが立たず、その逆もまた然りで・・・・・・六課という組織が崩壊する事は、もはや止められない。

あとはただただ加速していくだけ。僕の提案は、結果的にそのための燃料にしかならなかった。





そして僕がこの事を知った時、事態は後悔しているヒマなど無いほどに切羽詰ったものになってしまっていた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



はやてとお話したその日の夕方。ティアナをリインに任せて、僕は本局に来ていた。

色々忙しいけど、ここも仕方ない。さすがに話が話だし、直接会ってお願いしたいのよ。

本局内の娯楽施設スペースの中にある水族館の中で、僕はその人とお話。





なお、なぜ水族館かというと・・・・・・その人の、ヒロさんの指定だから。










「なので、あの・・・・・・かなり無茶なお願いとは思うんですけど」

「いや、いいよ。そういう事情なら分かるから。やっさん、一日待ってくれる?
すぐにアンタの隣の部屋を使えるようにするから、そこをティアナちゃんの仮の住まいに」

「助かります」



二人で人気のない水族館でマンボウを見ながら、そんな話をしている。なんというか、色々台無しだ。



「しかし・・・・・・また六課の隊長陣はバカでしょ。なんでそうなるわけ?」

「・・・・・・はやての話だと、ティアナの過去とかどうして六課に来たのかとか、かなり詳しく知ってるそうなんです」



この辺り、僕はルール違反だから聞かない事にした。でも、隊長陣はそれでも知ってる。

多分ティアナがどうして無茶したかとか、何を根っこに持ってるかとか・・・・・・そういうとこも含めてだね。



「多分、そこが原因です」

「なるほど、情報だけで『知ったかぶり』しちゃったか。だから何にも話さずに全部分かったような顔したと。
・・・・・・やっさん。アンタの昔馴染み達、言っちゃあれだけど最低だわ。全員揃って隊長やる資格そのものが無いって」

「でしょうね。僕も全く同じ事を言いましたし、部隊長も同感らしくて頭抱えて泣いてました。
全員揃ってクビにしてやりたいけど、それも出来ないって更に泣いてましたよ」

「あら、そうなの。ま、トップがそれなら改善の余地はあるかもねぇ。てゆうか、かわいそ」



少しおかしそうにヒロさんは笑う。そうしながら、水槽の手前の腰くらいの高さの手すりに身体を預ける。



≪姉御、笑い事じゃねぇって。真面目にかわいそうじゃねぇか。
信用してた身内は、隊長職やらせたら三流だしよ。それでこれからどうしろって言うんだよ≫

「確かにね。その上部隊員はパッと見の状況だけで、そのバカ共を擁護だし・・・・・・マジで管理局、これから大丈夫かね」

≪再就職先、考えとくか? ほら、三条プロダクションでボディーガードとかよ≫

「あ、それいいね。ゆかりちゃんとこなら安心して生活出来そうだわ。
それに歌唄ちゃんの飛躍に一役買うのも楽しそうだしねー」



僕はまぁ・・・・・・昔馴染みなので、苦笑する事しか出来なかった。



「それでヒロさん、どうしてわざわざ水族館に? 普通に喫茶店とかでもよかったじゃないですか」

「ま、色々とね。・・・・・・ここってさ、密談には最適な場所なのよ」



言いながらヒロさんは、水槽の中の光だけが照らす薄暗い館内を見渡す。



「ここに平日来る人間は、絶対に人間に興味を持たない。
興味を持つのは水槽の中の不思議な世界だけさ」



時計回りに首を動かして、ヒロさんはその不思議な世界を見る。

僕もその視線を追いかけるようにして、また水槽の中を見た。



「水と、光と、生物が織り成す空間に癒しとかそういうのを求めて来る。
平日の水族館はね、そういうものなの。ここでは、世間のしがらみを忘れさせてくれる何かがある」

「なるほど。・・・・・・つまり?」

「つまり、密談だよ。やっさん、あとそのティアナちゃん・・・・・・だっけ?
それとリインちゃんも含めて三人共、六課に関わるのはやめた方がいいかも知れない」



その言葉に、僕は軽く眉を潜める。怒りというよりは話の内容がいきなり過ぎて、理解出来ないと言った方が正解かも知れない。



「どういう事ですか?」

「六課設立には、色々裏があるって事。・・・・・・サリが調べて分かったんだけどね」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



≪・・・・・・ミゼットさん達が非公式の後見人で、六課の立ち位置があまりに抜け道過ぎると。
確かに六課は、ミッド地上に干渉されないように作った部分がありますしね≫

≪だからもしかしたら六課は、何かとんでもない厄介事を押し付けるために作られた部隊かも知れない・・・・・・なの?≫

「そうなるね。レリックやスカリエッティってカードだけだと、そこの辺りがさっぱりなんだよ。
で、六課隊長陣やカリムにクロノさん辺りは、そこを知っていながら部隊員をスカウトして設立した」

「・・・・・・何が夢の部隊だよ。あのバカ野郎共は」





ティアナを踏みつけてまで守る価値があるかどうか、分かったもんじゃないし。あーもう、腹立つなぁ。

とにかく、話は分かった。確かにこの調子だと・・・・・・間違いなく厄介事フラグだ。

まさかはやての奴、そこの辺りが絡んでるからティアナにデバイスを渡したんじゃないだろうね。



うわ、有り得そうだし。むっちゃくちゃ有り得そうだし。なんですか、このバカフラグ。





「分かりました。まぁ、気をつけておきます。ただ・・・・・・かなり難しいかなと」

「ま、それもそっか。アンタは例によって例の如くだし、ティアナちゃんやリインちゃんは部隊員になっちゃってるしねー」

≪その上、そのガールは六課に戻ってまた頑張りたいと思ってんだろ? ・・・・・・あぁもう、面倒だよな。状況が悪過ぎるって。
てーかよ、マジでボーイの昔馴染みは何やってんだ? そのガールみたいに夢持ってる人間も大勢居るだろうによ≫

「そうだね、きっと大勢居る。そしてそんな人間に『濃い経験』や『出世・夢を掴むためのへの糸口』なんて餌をチラつかせてるわけだよ」



最低だよね。知っていながらそれなんて・・・・・・本気で最低だ。

組織の一員としては正解かも知れない。でも、それでも最悪極まりない。



「なんつうか、あれだよね。アンタは人の夢どうこうってのに関わる事、マジで多くない?」

「去年がまさしくそれでしたしね。なら・・・・・・準備、必要なのかな」



僕は懐からあるものを取り出す。それは、一枚のチケット。ある電車に無期限に乗れるというもの。

そして、僕の宝物。このチケットには、大切な絆と願いと夢がいっぱい詰まってるから。



「ヒロさん、ありがとうございました。とりあえず、準備だけは進めておきます」

「ん、分かった。あー、それとやっさん」

「ほい?」

「一つ頼まれ事引き受けて欲しいんだ。まぁ、出来ればって感じなんだけどね」










そこを聞いた上で、僕は早速行動開始。チケットを使って電車に乗って、久々に友達たちに会う。

それで預けてあった一つのパスケースとカード数枚を引き取る。というか、これらは元々僕のものなのよ。

マジで去年みたいな世界の危機の連発の可能性もあるし、ここはしっかりと・・・・・・あれ?





なんで僕、こんな涙出てくるんだろ。おかしいな、どうして僕は『世界の危機』ってのに、こんなに慣れてるんだろ。




















(その2へ続く)




















あとがき



恭文「というわけで、要望を受けてタイトル通りのパイロット版です。お相手は蒼凪恭文と」

あむ「日奈森あむです。これはアレだね、とまかの準拠のあたしが13歳なルート」

恭文「そうそう。言うならとまかので『StS・Remixやりました』って感じ?」





(とまかののように、本編と同じ轍を踏まないルートとも言えます。ただ、人間関係グダグダだけど)





恭文「さすがに管理局崩壊はやらないだろうけど・・・・・・てーか書き切れないって」

あむ「アンタがまた拍手みたいに一日総帥やったら?」

恭文「それでなんとかなったら奇跡だよ。というか、何気にパイロット版あるんだよね。
A's・Remixの二期と三期も練習がてら1話と2話だけ書いてるし」

あむ「・・・・・・え、二期と三期?」

恭文「うん。A's・Remixはしゅごキャラ開始当初から二階堂編終了までが二期。
そこから一旦終了で、『あどべんちゃー』なのが三期。ここからがデジモンクロスだね」

あむ「作者さん、ディケイドクロスとか書かないでなにしてるっ!?」





(いや、デジモンの戦闘って人間とは違うから、念密に練習して無いとダメという事に気づいて)





あむ「え、そうなの?」

恭文「もうちょっと言うと、巨大な身体を持ったのが戦うシーンだね。
例えばロボット戦闘とかも、やっぱり生身の人とはまた描き方が違うし」





(もちろん作品にもよりますが。例えばGMとまとなどを見てると、今までとはまた違う書き方が必要と感じてしまったのです)





あむ「あぁ、そこの辺りのテストも兼ねて、今のうちから練習と」

恭文「そうそう。ほら、今までとまとはライダーにしても怪人にしても、人型サイズ同士の戦闘が主軸だったから」




(あとは練習してみて、巨大生物戦とかそういうのを他の話にも導入出来たら面白いかなぁと。まぁそこも含めてです)




恭文「アレだね、作者。ここはウルトラマンとかも見た方が話早いって。あとはデジモンの映画? アレもまた凄い作画いいしなぁ」





(確かに。特に無印と02関係は、テレビが紙芝居だって思うくらいに作画が別物になる。特に僕らのウォーゲームは凄い)





恭文「で、話をこの脱走ルートに戻すけど・・・・・・てか、地上本部襲撃で止まってるけど」

あむ「なんか展開色々考えてるんだっけ。だって書くの三度目だから」

恭文「うん。まぁ大体の構想は決まってるらしいけど、それでもいつもの通りですよ。
ただその前に・・・・・・ディケイドクロスとドキたまだね。あとギンガさんルートの最終話」





(いや、その前にRed Dead Redemptionを)





あむ「その前に小説書けっ!? そこからだってっ!!」

恭文「まぁそんな作者の欲望はセルメダルにしてもらうとして、本日はここまで。
なお、最後となりましたがこれはパイロット版です。大幅に仕様を変える可能性もあります」

あむ「仕様言うなっ! これゲームか何かっ!?」

恭文「そんなとこだよ。それでは、本日はここまで。お相手は蒼凪恭文と」

あむ「日奈森あむでした。それじゃあみんな、またねー」










(・・・・・・マジでこのまま出すかどうかはお約束出来なかったり。
本日のED:Bump Of Chicken『才悩応援歌』)




















ティアナ「・・・・・・マジで要望来てたんだ」

恭文「来てるね。というかさ、これ掲載する前の段階では、ただの拍手のネタだったのよ?
なのに『六課崩壊ルートのSS』という事で、普通に理想郷で紹介されてた」

ティアナ「マジでっ!?」

恭文「マジだよ。もちろん拍手の返事のネタって事は明記してたけど。
というか、そこの辺りを拍手で話してるはずなのに『どこで読めますか』と拍手が」

ティアナ「それで急遽出したんだ。まだ未完結なのに」

恭文「しゅごキャラ最終巻まで待ってたところもあるしねー。そりゃ仕方ない」










(おしまい)



[*前へ][次へ#]

3/30ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!