[携帯モード] [URL送信]

小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第11話 『555の世界/トレジャー・オブ・ディエンド』



もやし「前回のディケイドクロスは」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



フェイトは何も言わずに、そっと僕をまた強く抱きしめてくれた。それがなんというか、とっても幸せ。

こういう時は恋人同士みたいで、日常の中で抱えて引きずっている重さと立ち向かう勇気をもらってるみたい。

・・・・・・でも、やっぱり答えは見つからない。だから僕は、その答えを求めてまた旅をする。





そして数ヵ月後。世界を揺るがす動乱の中で僕は、ようやくその答えをある女の子の言葉から見い出す事が出来た。

同じじゃなくていい。ただ『一番の味方』として頑張ればいい。それだけでいいと・・・・・・その子は僕を救ってくれた。

僕に必要な答えは、同じになろうとする事じゃなかった。『普通』の自分を重荷に感じて、立ち止まる事でもなかった。





僕に必要だったのは、やっぱり勇気。守りたいと思ったら、壊したいと思ったら迷いも躊躇いも含めてそれでも手を伸ばす勇気。





ありのままの自分で手を伸ばして、未来を掴む事。それが僕の見い出した答えだった。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



もやし「というわけで、今回も蒼チビが金髪姉ちゃんに・・・・・・蒼チビ、俺は応援してるぞ」

恭文「なんでそんな優しくするっ!? もうキャラ崩壊なくらいに気持ち悪いんですけどっ!!」

もやし「まぁアレだ、初恋は忘れられないものだって言うしな。安心しろ、いくら俺でもそこは空気を読む」

恭文「だから気持ち悪いって言ってるよねっ! お願いだから元の性悪のもやしに戻ってっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「というわけで夏海さん、開幕から真剣なお話し合いです。いいですね?」

「開幕って一体なんですかっ!? というか、おじいちゃんに話すのもダメなんて言うつもりじゃないでしょうねっ!!」

「えぇ、ダメですよ。そんな不満そうな顔しててもダメですよ」



この人、本当にこれまでどうやって生きてたんだろ。・・・・・・いや、問題ないのかも知れない。

だってこの人は、きっと私達の誰も知らない情報を知っている可能性があるんだから。



「でも、そこは今はいいです。・・・・・・夏海さん、あなたの隠してる事を全部話してください」

「・・・・・・え?」

「何か知っていますよね。この旅の目的や、予言者の事について。でも、あなたは隠してる。
それを知っていながら隠した上で士さん達の行動に口出ししている。違いますか?」

「あの、ギンガさん。言っている意味がよく」

「予言者と私と一緒に遭遇した時に言っていた『あの夢』って一体なんですか」



困惑した表情の夏海さんの目を真剣に見ながらそう言うと、夏海さんが固まった。それで私から視線を逸らそうとする。



「目を逸らさないでください」



鋭くそう言うと、その動きが止まって恐る恐る私の方にまた瞳を向ける。



「それにあの予言者は、あなたに対しては私や士さん、なぎ君とはまた違う態度で接していた。
まるで・・・・・・そうだ。あなたが自分と同類・・・・・・仲間であるかのような態度だった」

「違いますっ! 私、何も隠してませんっ!! あんな人知りませんからっ!!」

「夏海さんっ!!」



首を横に振ってまだ否定する夏海さんの動きを、怒鳴りつけて止める。・・・・・・あぁもう、落ち着いて。

色々イラついてる部分もあるけど、今はここはいい。ちゃんと話をしなきゃいけないんだから。



「・・・・・・話してください。あなたの知っている事を、全部。じゃなきゃ、非常手段に出ます」

「非常、手段?」

「なぎ君にこの事を話して、尋問を頼みます。一応言っておきますけど、なぎ君の尋問は私の数十倍は厳しいですから。
夏海さんの知っての通り、なぎ君は目的のためには基本的に手段を全く選ばない子です。今度は一発では済まないかと」





鋭く低い声でそう言うと、夏海さんの顔が青冷めていく。多分殴られた事を思い出したんだと思う。

なお、ここの辺りは事実。・・・・・・なぎ君、口も上手いから精神的にネチネチ責めてくもの。

一度口の堅い犯人が居て、尋問を任せたらそれはもう口にするのも恐ろしい状況になってしまった。



私はあの時、リアルで人が一人『生まれて来てごめんなさい』と連呼するほどに追い詰められる様を見たと思う。





「というか、なぎ君をやたらと嫌うのは隠し事が原因じゃないですか? それでそこにあの人も何かしらの形で絡んでる。
・・・・・・どう考えてもおかしいじゃないですか。私達はあの人の名前すら知らないのに、あなただけがその言う事を鵜呑みにしてる」

「それはその、みんなが分かってないだけです。ギンガさんだって同じです。
あの人に振り回されて、今朝だってあんなに落ち込んで・・・・・・それでどうしてかばうんですか」

「夏海さん」



もう一度鋭く名前を呼ぶと、夏海さんは震えた瞳を・・・・・・顔を下に向けた。



「・・・・・・私の方が、ずっと振り回してます」

「嘘です」

「嘘じゃありません。振り回して、横取りして、独り占めして・・・・・・きっと負担をかけてます。
私が苦しいのは、自業自得なんです。そういうのを承知で、向き合ってもらってる」





その度に感じるのは、拭えない積み重ねの数々。それは今でも変わらない。

ただそれでも、私なりの意地の張り方を・・・・・・私なりの歌を伝える覚悟が決められた。

だから繋がっていられるだけ。もうね、そこを考えるとやっぱり苦笑いだよ。



お試しというか、綱渡りな関係なんだなって再認識しちゃうもの。





「とにかく夏海さん、ちゃんと話してください。正直これ以上あんな態度を取られるのは、相当迷惑です。
今までは『一般人だからしょうがない』で許されてましたけど、今後はそうはいきません」

「脅すんですか? またあの人に尋問させるとか言って、そうやって私を脅して言う事聞かせるんですか」

「えぇ、脅しますよ。私はあなたと違って、世界を移動してもちゃんと帰れる家があるわけじゃないですから」



私がそう言うと、ハッとしたかのように夏海さんの視線が上がった。それで驚いた様子で、私を見る。



「あんなに優しい家族も今は居ないし、友達や職場だってここにはどこにもない。そこはなぎ君も同じ。
・・・・・・だから、必死にもなります。私は早くなぎ君を、今一番会いたい人に会わせてあげたいから」



それはきっと、フェイトさんだと思う。まぁ色んな意味でここで私という選択は出ないんだよね。

だって私、今なぎ君と一緒に居るもの。それに『必ず帰す』って言われちゃったら、これくらいはやらないと。



「あなた、なぎ君の言った通り卑怯ですよ。そして甘えてもいる。家族に、士さん達に甘えてる。
甘えた上で現状に対して安全なところから口出してる。そんな人に優しくする義理立てなんてない」

「・・・・・・ギンガ、さん」

「夏海さん、あなたにNOなんて選択は与えません。知ってる事を・・・・・・全部話してください。
じゃなきゃ、私だって手段を選びません。私はあなたとは違う。私達は・・・・・・必死なんだ」



そこまで言って、夏海さんはまた視線を落としてしまった。・・・・・・ううん、違う。コレは深く頷いた。



「分かり、ました。話します」

「ありがとうございます。それであの人とは面識は」

「ありません。ただ知っては、います。あの人がどうして士くんを『悪魔』と呼ぶのかを。
ううん、もしかしたらあの人が、蒼凪恭文が士くんを悪魔にしてしまうかも知れないんです」

「なぎ君が・・・・・・どうしてっ!?」




















世界の破壊者、ディケイド。8つの世界を巡り、その瞳は何を見る。










『とまとシリーズ』×『仮面ライダーディケイド』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄と破壊者の旅路


第11話 『555の世界/トレジャー・オブ・ディエンド』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



蒼チビに後を任せて、ユウスケと二人で周辺を探しまくって・・・・・・さほど経たずに俺達は連中を見つけた。

灰色のオルフェノクが二体。てーか、あのリーダー格のは姿が見えなかった。

ただ、それよりもその二体から集中攻撃を受けて、吹き飛び転がっていくライダーの方に意識が向いた。





黄色の目に銀色の装甲、身体を走る赤いライン・・・・・・間違いない。あれがファイズだ。

ただ、ファイズが吹き飛ぶと同時にそのベルトが外れた。それによりファイズの変身が解ける。

噴水の水音が響く公園の地面に倒れ込んだのは、タクミ。マジで蒼チビの予想通りだった。





タクミは苦悶の表情を浮かべて立ち上がろうとするが、すぐに崩れ落ちる。相当フルボッコにされたらしい。





辺りを見回すと、ゆりの姿も見えた。察するに、二人で居るところを襲われたって感じか。










「・・・・・・士っ!!」

「あぁっ!!」





俺とユウスケはバイクを降りる。ユウスケはすかさずバイクのアクセル部分を引き抜いた。

どうもそこはバイクの起動キーも兼ねているらしく、根元から抜けるようになってたんだよ。

抜いたアクセル部分の先から、銀色の棒が出てくる。というか収納型の警棒だな。



当然だがユウスケがそれを持っているのにも理由がある。とにかく俺達は急ぎ足でタクミの方に近づいていく。



メガネのが変身した鞭を持ったオルフェノクと、女が変身したレイピアを持ったオルフェノクはこちらに気づき、なぜか辺りを見回した。





「アイツは一体どうした」





それでも地面に落ちているファイズのベルトを、メガネオルフェノクはしっかり回収しやがった。

・・・・・・あぁ、なるほど。あのベルトが無いとファイズに変身出来ないわけか。俺と同じだな。

で、アイツってのは当然あの茶髪の奴が変身したオルフェノクだ。普通にここに居ないのが疑問なんだろ。



だってアイツは、俺達を足止めしようと出てきてたんだからな。





「あのデカブツなら来ないぞっ!!」

「今頃恭文にぎったんぎったんにされてるからなっ! 残念だったなっ!!
今の恭文は・・・・・・俺や士じゃ止められないくらいに機嫌悪いんだよっ!!」










俺はバックルを腰に装着し、一瞬でいつものベルトにする。ユウスケは警棒を腰の後ろに差す。





ベルトとジーンズの間に挟めた上で、右手を前にかざし左手を引いて腰に添えた。その瞬間に、身体の中からベルトが浮き上がる。





俺達はあの蒼チビの事など微塵も心配せずに、そのまま意識を集中させ戦闘態勢を取る。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



≪Eclair Shot≫





数度このバカの左右の爪での突きを、一鉄アルトと二鉄で払いつつも下がっていく。

ううん。相手の身体の外側に回るようにしつつ、攻撃を流していってると言った方が正解かも知れない。

力では、真正面から受け止めるだけでは押し潰される。だから流すのよ。



相手の力の勢いも利用して、逃げるような感じ。大事なのは自分の力だけで対処しようとしない事。

そうして後ろに回りこんだ僕を狙って、右足でドラゴンオルフェノクが乱暴に背後を蹴りつける。

僕は咄嗟に宙返りして、数度バク転しつつ距離を取った。その間に相手は間合いを詰め、左の爪を斜め上から振り下ろす。



右に避けつつ、コンクリの地面を粉砕する爪を回避。そのまま二鉄を右薙に振るい斬り抜ける。

狙うは装甲が比較的薄い二の腕部分。ただ、それでも致命傷にはならずただ火花が散るだけ。

斬り抜けながらも左足を軸にUターン。一鉄アルトと刃を返した二鉄の二振りで背後を斬りつける。


ドラゴンオルフェノクは忌々しげに右の爪を裏拳の要領で叩き込むけど、僕は後ろに飛んでそれを回避。

追撃で左の爪が僕の胸元に向かって突き出される。冷静に一鉄アルトを左薙に振るいつつも右に移動。

その途端にドラゴンオルフェノクの左足が強く踏みしめられ、コンクリの地面が派手に砕け散る。





「ふんっ!!」





左に流れるように移動・・・・・・いや、距離を取って間合いを数メートル開ける。・・・・・・うし、やっぱ動きは僕の方が速い。

ドラゴンオルフェノクは苛立ち気味に僕の方を見て、再び接近。左右でただがむしゃらに殴りかかってくる。

僕はその全てを見切り、一鉄アルトと二鉄で流しつつもステップで回避。火花が数度弾け、ジャケットを焼く。



相手の周囲をちょこまかと・・・・・・右足で再び至近距離での蹴りが来た。いわゆるケンカ蹴りなミドルキック。



左に移動しつつ僕は、一鉄アルトで逆風に斬撃を打ち込む。その狙いは、相手の膝関節の裏。





「うぉりゃっ!!」



鋭い銀色の閃光は狙い通りに打ち込まれ、火花がはじけ飛ぶ。

そしてドラゴンオルフェノクはバランスを崩して後ろのめりにコケた。



「どうしたの。全く・・・・・・全然ダメだね」

≪Eclair Shot≫





起き上がるまでに、エクレールを4発連射。その全てがドラゴンオルフェノクにまとわりつき、蒼い魔力がその巨体に宿る。

ドラゴンオルフェノクは起きがりながらも飛び込むように・・・・・・というか、飛び込んで来た。

僕は咄嗟に大きく上に跳んで、その跳躍で突進攻撃を回避。ドラゴンオルフェノクはすぐさま足を止める。



僕は相手の背後に着地しつつも、再び打ち込まれた裏拳気味の爪での攻撃をしゃがんで回避。

続けてきた左足での回し蹴りも、そのまま軽く後ろに跳んですれすれで避けた。

その上で再び踏み込んで、がら空きになった背後に一鉄アルトと二鉄を袈裟に叩き込む。



次は逆袈裟、二鉄での左薙と一鉄アルトでの唐竹。それから二刀を交差して挟み込むように横薙ぎに一撃。

あがる火花は気にせずに詠唱開始。後ろに跳びつつ至近距離で術式乱射。

・・・・・・勝てる札ではなく、勝つための札を切っていく。それが僕の本来の戦い方だ。



いつ邪魔が入るとも限らないし、もやし達の様子も気になる。早めに手早く勝負をつける。





≪Eclair Shot≫



再び10メートル前後の間合いを取った上で、僕は軽く跳躍しつつ息を吐く。

やっぱりドラゴンオルフェノクは忌々しげに僕を見ていて・・・・・・右足で地団駄を踏む。



「おいお前っ! 今の内に心入れ直して人間見下すのやめるって言うなら、見逃してあげてもいいよっ!?」

「ふんっ! バカがっ!!」





ドラゴンオルフェノクが突撃しつつ、その右の爪が再び鋭く動かす。どうやら相当のバカらしい。



身に纏われ重なっていく蒼い魔力は気にも止めず、爪は鋭く斜め上から突き出すんだから。



すぐさま左に動きつつも後ろに跳ぶ。下がって追撃で来た振り払いを、そうする事で回避。





「人間など、俺達に踏みつけられて当然の下等生物だろうがっ!!」

≪Eclair Shot≫





退避しつつも再び3発連射。それは全て命中した。でも、やっぱり気にはしていない様子。



まぁ、当然だよね。ダメージが無いからって油断して、回避も防御もなんにもしてないわけだしさ。



というか、また突撃してくるし。それを僕は右に走って回避して、また魔法発動。





≪Eclair Shot≫





突撃によって、近くの電柱に衝突して足が止まったところを狙ってまた3発連射。

電柱はへし折れて道路にそのまま倒れる。電線がコンクリの地面に触れて、軽く火花が走った。

とにかく撃ち込んだエクレールは、これで合計13発。これはかなり多い方だったりする。



ぶっちゃけオーバーキルな威力が出るはずだよ。でも、これで倒せるかもまた分からなかったり。

・・・・・・数度打ち合って斬った感触から、通常攻撃で装甲を抜くのは難しいと判断した。

あの時一撃で倒されたのは、おそらく軽装状態で・・・・・・言うなら真・ソニックと同じだと思う。



だから鉄輝一閃で倒せたんだよ。さすがにあっさり過ぎてちょっと自分でもびっくりしちゃったけどさ。

というか、よく考えたらあの状態って原作ファイズでも高速移動して一発も攻撃を食らってなかった。

それでファイズを圧倒したんだけど、もし攻撃を食らっていたら一瞬で形勢逆転されてたかも。やっぱ真・ソニックは怖い。



でも、今はそんな戦い方が全く出来る自信がない。今は言うなら分厚い甲冑着込んだ闘士だ。

その上特殊な攻撃こそしてこないけど、ボス級の強さはある。だってコイツの強さはその体格だもの。

力と巨大な体躯で相手を叩き潰すシンプルなスタイル。それこそがコイツの真骨頂だ。



僕の反応と全体の速度、それに戦闘経験がコイツより上だからなんとかなってるだけ。



てーか、動きが素人臭いのよ。まぁオルフェノクになる前はただの人間だったろうし、しゃあないか。





「お前だってその人間だったろうが。結局は同じだ。
オルフェノクも、人間も、身体が違うだけで・・・・・・同じなんだ」

「違うっ! 俺は・・・・・・俺達は、選ばれた存在だっ!! なのに人間どもは俺達を縛ろうとするっ!!
化物と蔑み、忌み嫌い、俺達が生きる権利を奪おうとするっ! そんな奴らと同じなわけがないっ!!」

「いいや、違わない。なによりそう言って道を縛っているのは、お前ら自身だ。
そう言って、他者を見下すという道しか選ぼうとしない。・・・・・・いい加減目を覚ませっ!!」



つい声を張り上げるのは、やっぱり躊躇いがあるから。迷いがあるから。だから言葉で止めようとする。

ただそれと同時に・・・・・・覚悟も決める。決めて、それでも僕はこの手を伸ばす。



「誰もお前を化物なんて言ってないっ! そう言って道を決めてるのはお前自身だっ!!
オルフェノクだから化物なんじゃないっ! 違うから、他人から決めつけられるから化物になるんじゃないっ!!」

「黙れ、クズ」

「お前の心が・・・・・・今のお前の内面そのものが化物だから、そうなるんだよっ!!
お前が自分の力に負けてしまったから、お前が自分で化物になる事を選んだからそうなるんだっ!!」

「黙れっ! ・・・・・・見下すのは当然だろうっ!? それは俺達に許された権利だっ! だから支配するのさっ!!
だからお前らを殺すのさっ! 俺達は・・・・・・オルフェノクはそのために生まれたっ!! 俺達は、お前らクズ共と違うっ!!」



そう言いながらドラゴンオルフェノクは振り返り、両腕を広げて僕に突撃してくる。



「だから死ねっ! 人間っ!! 貴様らに生きている資格などないっ! 貴様らは選ばれなかったんだっ!!」



・・・・・・救いようがない。言葉の端々から感じてはいたけど、やっぱダメか。

僕は一鉄アルトと二鉄の柄を握り締めながら、覚悟を決めた。これは、また負け戦だわ。



「さぁ」

≪Charge and Up≫





僕は一鉄アルトと二鉄に魔力を込めて、蒼い蓮華の刃を二振り打ち上げる。それから軽く息を吐いた。

目の前のバカはコンクリートをイチイチ派手に踏み砕きながら突進し、両手の爪を突き出してくる。

単純だけど、巨体とパワーを活かすための最良の攻撃。ただ残念なのは、やっぱり胴体ががら空きだって事。



胸の奥に感じる痛みは表情にも出さずに、僕は僕なりのハードボイルドを貫く事にした。





「お前の罪を・・・・・・数えろ」





僕は踏み込んで、ドラゴンオルフェノクと交差。



二条の蒼い斬撃が交差の瞬間に生まれて世界に刻み込まれる。



斬撃はがら空きだった胴体に叩き込まれて、爆発を生む。





「蓮華、双閃」





斬撃に込められた炎熱系魔力は、先程から重ね重ね打ち込んでいたエクレールと相互反応を起こす。

エクレールに設定してあった魔力は、炎熱系変換。そしてドラゴンオルフェノクは、そんなエクレールを13発食らっていた。

斬撃を叩き込まれた瞬間に蓄積された魔力が爆発して、ドラゴンオルフェノクの身体を炎に包む。



僕が振り返りつつも二鉄の切っ先をあの愚か者に向けると、人間形態に戻ってしまったアイツが炎に焼かれていた。





「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! 熱・・・・・・熱いっ!!」



なんて叫びながらも転げ回っていく。でも、蒼い炎は燃え上がり身体や制服に皮膚を焼いていく。

ううん。炎は身体の内側からも上がった。アレはオルフェノクが死ぬ時に出す炎だ。・・・・・・もう、おしまいだよ。



「なぜだっ! なぜ俺が・・・・・・オルフェノクがたかだか人間如きに二度もっ!!」



頬や頭、腕から灰が噴き出すようかのように現れ地面に落ちていく。アレも死ぬ時特有の現象。

そのまま灰となり、あのチートタイガーが出てこない限りはそのままお亡くなりだ。



「そりゃ簡単だ。お前が人間より弱いからだよ。てーか、勝てる道理なんざないだろ」



僕は二鉄をホルダーに納める。その代わりにダガーを取り出す。

それを逆手に持った上で、狙いを定めた。その狙いは、歪んだ元人間。



「ふざけるなっ! そんなはずは・・・・・・そんなはずはないっ!!
俺はオルフェノクっ! 人類を支配するべき選ばれた存」



最後の言葉を言う前に、ダガーの刀身が深々とアイツの顔面に突き刺さる。

ドラゴンオルフェノクの男は、瞳を開いたまま崩れ落ちて・・・・・・更に燃え上がる。



「・・・・・・弱いよ、お前は。だから負けて、クズに成り下がったんだ」





ドラゴンオルフェノクの男の身体は全て灰になって、コンクリの地面に落ちた。

でもその灰も、エクレールの炎であっさりと燃え尽きていく。・・・・・・これでもう再生はないでしょ。

僕は軽く息を吐きつつも、周囲を警戒。辺りに敵意や殺気に気配の類がないのを確認。



地面に落ちたままのダガーは刀身を改めた上で、しっかりと回収。



その上で後ずさりするようにバイクに近づき、戦いの場に背中を向けた。





「アルト」

≪はい?≫

「やっぱギンガさん関わらせたくない」



ギンガさんには重過ぎるわ。直接的に関わっちゃったら、きっとまた泣きそうな顔をする。

てーか、そこはどの世界でも・・・・・・ううん、ここは後だ。今は、目の前の事。



≪えぇ、私も同感です≫

「なら良かった。んじゃ、そういう方向で」

≪頑張りましょうか≫










一鉄アルトと二鉄をホルダーに収納した上で、デンバードに乗車。僕はそのままアクセルを開けた。





後に残ったのは、へし折れた電柱とアイツが踏み砕いたコンクリの痕だけ。そう、たったそれだけだった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「あのデカブツなら来ないぞっ!!」

「今頃恭文にぎったんぎったんにされてるからなっ! 残念だったなっ!!
今の恭文は・・・・・・俺や士じゃ止められないくらいに機嫌悪いんだよっ!!」

「バカな。ただの人間がオルフェノクに勝てるものか」

残念ながら、彼はそのただの人間じゃない



その楽しげな声に、俺達四人の動きが完全に止まった。それで揃ってアホみたいに辺りを見回す。



「あの茶髪君はもうこの世に居ないものと思った方がいいな。それにやっぱり少年君は少年君だった。
いや、安心したよ。彼のお宝は、どんな彼であったとしても失うには余りに惜しい」



そんな俺達の注目を引くように、どこからともなく拍手の音が聴こえた。



「・・・・・・おめでとうございます。これで僕も、ラッキークローバーの一員ですね」

「海東・・・・・・お前」

「海東さんっ!?」



アイツは微笑みながら、近くの階段を降りながら楽しそうに笑ってラッキークローバーの二人を見てる。

てーかなんだコレ? なんでアイツがコレでラッキークローバーの一員なんだ。意味分からないぞ。



「えぇ、そうね。本当によくやってくれたわ」



女オルフェノクは、自分達に近づいてくる海東に向けていた視線を、タクミの方に改めて移した。



「あなたのおかげでファイズが誰かが分かったもの」

「ようやく・・・・・・ようやく裏切り者を始末出来る。本当にありがたい事にな。なにより」





・・・・・・なるほど、大体分かった。海東はファイズがタクミだって証拠を何かしら掴んでた。

それをラッキクローバーに売り渡して、自分がラッキクローバー・・・・・・いや、何のためにだよ。

アイツは学校の生徒ってわけでもなさそうだったんだぞ? てーか入って何の得がある。



俺がそこを考えている間に、メガネオルフェノクが右手に持ったベルトを軽く掲げるように動かす。





「伝説のファイズのベルトが、実在するとは思ってなかった。これは有効に使わせてもらう」

「そうですか。それは良かったですね。・・・・・・しかし」



海東の声が鋭いものに変わった。というか、表情からも微笑みが消える。



「君達に四葉のクローバーは、あまりに似合わない」





それだけではなく、右手から銃のようなものを取り出した。銃身は長方形で、銀色の銃口が二つ付いてる。

黒のボディカラーに銀色と金のラインが入って、その中央に青の図形みたいなのが見えた。

海東は続けて左手でカードを取り出す。そのカードを、銃身の左側中央からそのまま差し込んだ。



続けて銃身下の銀色の長い棒状のグリップを保持して、銃身を動かす。銃身はその動きに応じて伸びた。





≪KAMEN RIDE≫



女オルフェノクがその行動に危険なものを感じたのか、右手でレイピアを持って突撃していく。

海東は女オルフェノクに銃口を向けて、不敵に笑いつつも引き金を引いた。



「変身っ!!」

≪DIEND!!≫





銃口から何かのマークみたいなのが飛び出る。それが一瞬で青い13枚の半透明の板に変わった。

それは突撃していた女オルフェノクに衝突。女オルフェノクは吹き飛ばされて地面を転がる。

射出された板達はある一定距離から、まるで横並びで整列でもしているかのように動きを止めた。



その間に海東の身体にスーツが装着される。続けて、あの板達が海東の顔に・・・・・・装着した仮面にはめ込まれる。

縦にそのままはめ込まれた板が、独特な雰囲気を出した顔になる。

・・・・・・顔と同じような板が縦にはめ込まれたようなアーマーに、外側が青になって真ん中黒のスーツ。



それにあの妙な形のマークに、左腰のバックル。なにより・・・・・・カメンライド、だと?





「お、おい士っ! あれまさかっ!!」

「海東、お前・・・・・・仮面ライダーだったのか」





しかも察するに、蒼チビの知らない仮面ライダー・・・・・・俺と同系統のやつだ。

あの変身用のカード、今も銃にはめ込まれているんだがその背の絵柄が俺のカードとほぼ同じなんだよ。

あと、蒼チビが知らないってこの場で言い切れるのにも理由がある。



コイツの事知ってたら、海東知ってたっておかしくないだろ。そこで嘘つく理由もないしよ。





「士、見ていたまえ。これが僕の戦い方だ」





海東は素早く踏み込み、50メートル以上離れていたファイズベルトを持ったままのメガネオルフェノクに肉薄。

そのまま右拳で顔面を殴りつつ、脇をすり抜けて足を止めた。そしてまた接近。

メガネオルフェノクが左手で鞭のようなものをどこかから取り出して、右薙に打ち込む。



だが海東はそれをしゃがみながら下をすり抜けて、素早く身を捻って回転。

回転しつつ右手の中で狙いをつけて、引き金を引いた。赤い光弾が数発発射されて、それがメガネオルフェノクを撃ち抜く。

命中した事で火花が上がり、メガネが怯んだところでまた接近。素早く右拳を連打で打ち込んでいく。



・・・・・・俺は右手でカードと取り出して、そのままバックルに挿入。





≪KAMEN RIDE≫

「ユウスケ、行くぞ」

「あ、あぁっ!!」



そのまま俺達二人は、このワケの分かんない状況を一旦置いた上で動く事にした。




「「変身っ!!」」

≪DECADE!!≫




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



なぎ君達が大変だった頃、ようやく・・・・・・ようやく夏海さんが口を開いてくれた。





・・・・・・アレ、なんか言い方悪いな。まぁここはいいか。うん、大丈夫大丈夫。










「・・・・・・もしかしたらあの人が、蒼凪恭文が士くんを悪魔にしてしまうかも知れないんです」

「なぎ君が・・・・・・どうしてっ!?」

「夢を、見たんです。私の居た世界が滅びる前に、夢を。その中にはディケイドが出てました。
それでディケイドは全てのライダーと戦って、破壊して・・・・・・最終的には世界そのものも壊した」





俯きながらそう言った夏海さんの話を聞いて、私は一瞬意味が分からなかった。

多分『あの夢』というのは、今の話で間違いないと思う。でもどうして・・・・・・あ、そうか。

もしかして夏海さんが見たのは、予知夢? それをあの予言者も見ていた。



だからディケイドを『世界を滅ぼす悪魔』として、各世界にその警告をして回っているとか。

でも、そうすると疑問が残る。ここだけは絶対に拭えない。

それはなぎ君の存在。だってなぎ君はライダーでもなんでもないんだよ?



それでどうしてなぎ君まで悪魔呼ばわりされなきゃいけないのかな。話がおかしいよ。

確かにディケイドと同調しているとは言ってたけど、世界崩壊に直接絡んでるとは思えないよ。

色々と疑問は残るけど、あの予言者がこちらの邪魔をしてくる理由は大体読めてきたね。



士さんが本当に世界を滅ぼすかどうかは別として、原因は夏海さんが見た予知夢なんだよ。





「ギンガさん、あの人と士さんを・・・・・・ううん、あの人に関わっちゃもうだめです。
私にはあの人が悪魔にしか、人の気持ちが分からない破壊者にしか見えません」

「夏海さん、だからですか?」

「だからです。現に私やギンガさんも見捨てられそうになって、士くんも同調してる。
あの人が本当の悪魔に違いありません。そうとしか考えられません」



それで夏海さんは、士さんと同じく『悪魔』認定を受けたなぎ君を排除しようと・・・・・・バカらしい。



「・・・・・・夏海さん、本気で殴っていいですか? というか、あなた正真正銘のバカですよね」

「いきなりなんですかっ!? ギンガさん、私は真剣に話してるんですっ!!
士くんが悪魔なわけないし、もうあの人しか居ないじゃないですかっ!!」

「言いたくもなります。というか、あなたの言ってる事はあのおかしい裁判に私達をかけた人達となんら変わらない」

「違いますっ! あの人は私を殴って、見殺しにしようとしたじゃないですかっ!!」



よし、なぎ君が殴りたくなった気持ちがよーく分かった。ただまぁ、そこは抑えておこうと思う。なんというか、逆恨みだよ。

士さん、あそこでなぎ君のお説教を止めたのは失敗です。この人全く反省してないし。



「・・・・・・まずあの人がどうしてディケイドを『悪魔』と呼んだのかが分からない。
あなたの言ってる事は、全部人の言った事を鵜呑みにしたまま。結局甘えて流されてる」

「私は甘えてなんていませんっ! なによりそれは、あの夢の通りの事を士くんが引き起こすからに決まってるじゃないですかっ!!」

「その夢自体が予言者に見せられたものだという可能性は?」



夏海さんがワケが分からないと言いたげな顔で私を見る。・・・・・・あぁ、でもそうか。

私は魔法文化に触れているわけだし、ここの辺りは理解が深いけどこの人はそうじゃないよね。



「まず私達の世界の魔法には、色々な種類があります。攻撃するものや、傷を治すもの。
その中で今は使用者がほとんど居ませんけど、誰かに夢を見せる魔法というのもあったそうです」

「夢・・・・・・ですか?」

「えぇ」



今はもう廃れている、暗示系に属する魔法だね。ここは記憶操作と言ってもいいのかも知れない。

そういう魔法は悪用されると非常に大問題だから、かなり大幅な運動を経て消し去られたらしい。



「もちろんあの人が魔導師かどうかなんて分かりません。でも、世界を移動出来る能力はある。
そういう特殊能力の中に、あなたに暗示に近い形で夢を見せられる能力があっても不思議じゃない」

「そんなのありえません。だってあなた達の世界はともかく、私達の世界で見たんですよ?
異変が起こる前でしたし、それであの人が絡んでるわけがないじゃないですか」

「士さんがもうその時に写真館に居たのにも関わらずですか?」



士さんは記憶喪失になって、そのままここに住み着いたらしい。つまり、ここは『悪魔』が暮らす家。

もしあの人が私の予想通りの人なら、それを知らないはずはないもの。



「というか夏海さん、それナンセンスです。ここはあなたの世界じゃありませんよね?
なにより暗示による催眠や思考の誘導は、魔法を使わなくても出来るもののはずです」

「それは・・・・・・そうなんですか?」

「えぇ。私も実際その・・・・・・洗脳されて身内と戦った経験があるので」



夏海さんが驚いたように目を見開いた。私はその、恥ずかしくなりながらも頷く。



「そう言う事をされる場合、操る側の都合のいい認識を埋め込むんです。薬品や暗示、そういう専用の装置を使って。
私の場合眠っている間に催眠学習的にやられてたらしくて、目が覚めた時は身内が敵だと完全に認識させられていて」

「そう・・・・・・だったんですか」





もちろんここはあくまでも可能性の一つ。でも、考えて欲しい。

当然ながら私達は夏海さんの見た夢が本当に予知夢かなんて、確証が全く持てないんだよ?

なにより・・・・・・なによりなんだ。私もディケイドを世界を破壊する悪魔と聞いている。



そこで引っかかる部分が一つあるんだ。



それは、夏海さん達を旅に誘ったという男の人の事。一応士さんから詳しく確認はしてたんだ。





「それになにより・・・・・・夏海さん、よく思い出して。それで考えてください。
士さんに旅に出るように言った人の話、あなたも詳しく聞いてますよね? その人はあの人になんと言ったか」

「それは、聞いてます。その人は士くん曰く創造は破壊の中からしか生まれない・・・・・・あ」



夏海さんが驚いた様子で目を見開いた。それで私は、また改めて頷く。



「私も今気づいたんです。もしかしたら士さんの旅は、何かを破壊しながらでなければ成せない事を成すためじゃないかなと」

「そんな事ありません。破壊はダメです。それでライダー達と戦ったりしたら、夢の通りじゃないですか。
だから士くんはライダーと戦っちゃいけないんです。それで正解のはずです」

「戦う事だけが破壊じゃないとしたらどうです? ・・・・・・例えばユウスケさん。
ユウスケさんはあの刑事さんありきなところがあったのに、今は何か吹っ切れた感じが出てきた」



例えばキバの世界のワタル王子、例えば龍騎の世界のシンジさん。もしも、もしもだよ?

その人が言った破壊が戦う事以外・・・・・・変わるきっかけを生み出す事としたらどうかな。



「とにかく私達は、何も知らない。でも、共通している事がある。それは・・・・・・破壊」





ここだけは共通項だと思うんだ。意味合いは違うけど、その人もあの予言者も士さんを破壊者として見てる。

一方は破壊を成した上で世界を救えると言い、もう一方はそれを成す事が世界崩壊に繋がると言う。

何にしても、この旅と『破壊』は切っても切れないワード同士。私達はきっと、その破壊の中身を考える必要がある。



何を成す事で・・・・・・何を破壊する事で世界が救えるのかを考えなきゃ、旅をする意味がないんだよ。

でも、それが今はまだよく分からない。だから夏海さんも簡単に人の言う事を鵜呑みにする。

誰が本当の事を言っているのかも、はたまた嘘を言っているのかも分からないのに。私達には分からない事だらけ。



8つの世界を回る旅はもう半分に差しかかったのに、この状況はあんまり喜ばしくないよ。





「ディケイドが一体何を壊した上で世界を守るのか、はたまた何を壊した上で崩壊するのか。
私達は全て人から与えられた情報だけで、自分の目で事実を確かめてません。それじゃあ意味がない」

「じゃああの、あの帽子の人が言ってた事は・・・・・・なんなんですかっ!?
ライダーと戦う事が破壊にならないって、私にはやっぱり意味が分かりませんっ!!」

「もしも私の予測通りなら、確実な答えがいくつか出てきます。
あの人にとって今の士さんやなぎ君が行ってる『破壊』は、とっても都合の悪いもの」





今は全ての状況があやふやで、誰が敵で誰が味方かも分からない。正直、これで正解かも自信が持てない。

ただあの自分を盲信し切って、酔いしれている目は信用しちゃいけない。あれと同じ目を私は知ってる。

ジェイル・スカリエッティやナンバーズ・・・・・・以前のみんなが、同じような目をしていた。まぁ拘置所組は変わってないけど。



だから言い切れる。これだけは、今の段階でも言い切れる。あの人は・・・・・・私達の敵だ。





「あの予言者は警告者なんかじゃないかも知れない。ただ士さんをつけ狙って消そうとしている。
士さんに世界を破壊・・・・・・そこから生まれる再生を行われると困る。だから狙っているんです。つまり」

「あの人こそが、世界崩壊の原因?」

「そういう事になるかも知れません。まだ確証はありませんけど」










なぎ君を悪魔扱いしたのも、間違いなくそれが理由だよ。多分あの人から見て、なぎ君の存在は都合が悪い。





なら・・・・・・もしもあの人が敵なら、このままの方向性でいいのかも知れない。





なぎ君が士さんと今まで行って来た破壊が、私達の成すべき事になっていると思うから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・ギンガ・ナカジマ、結構厄介な子よねぇ。言ってる事あながち外れじゃないし。

うーん、これはやっぱり報告かしらぁ。これだとまた『悪魔』が増える事になっちゃうわぁ。

ギンガちゃん・・・・・・出来ればおとなしくしてて欲しいかな。私、あなたの事嫌いじゃないの。





そこは恭文ちゃんも同じ。まぁどうしてか私の事を『沢城みゆき』って呼ぶけどさぁ。

でもこれ以上悪魔になっちゃった恭文ちゃんに、関わらない方がいいと思うの。

あなただって死にたくはないでしょお? だったらお姉さんの言う通りにして欲しいわぁ。





えぇ、悪魔とそれに連なるものこそが破壊されるべきなの。そうじゃなくちゃ話おかしくなっちゃうもの。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・士と恭文と出発する前に、恭文の提案で軽く作戦会議をした。

恭文の世界では仮面ライダーはテレビのヒーローらしくて、普通に詳しいんだよ。

で、今回のラッキークローバー相手も同じく。相手方の能力を詳しく知ってた。





ただ、全く同じじゃない可能性もあるから参考程度に留めておいた方がいいという話にはなったが。





不満そうな夏海ちゃんはともかくとして、そこの辺りを色々話した関係で・・・・・・俺は早速紫のクウガになった。










「超変身っ!!」



身に纏うのは銀色で裾に紫のラインが入った鎧に包まれたクウガ。

それで右手に持ったアクセル部分は、一瞬で分厚いブロードソードに変わる。



「君っ! その子を連れて早く逃げてっ!!」



俺は木の影に隠れていた、制服姿の女の子に声をかける。その子は戸惑った様子で士の方に視線を移した。



「いいからコイツの言う通りにしろっ! お前は尾上と一緒に逃げろっ!!」

「わ・・・・・・分かったっ!!」





その子は倒れていた男の子に肩を貸して、そのまま俺達の方に来ようとする。

当然二人は気づいて追撃をかけようとするので、士が前に出て盾になろうとする。

俺もそのまま、ゆっくりとレイピアを持ったオルフェノクの方に近づいていく。



海東さんが変身したライダーは、ベルトを持ってる奴に狙いを定めて素早く殴りまくって撃ちまくってる。

あの制服二人が動いてるのは、ベルトと鞭を持ってる奴も気づいてた。でも、海東さんが邪魔でこちらには来れなかった。

それは目の前のレイピア持ちも同じく。士と俺を抜いて行くのは無理と思ったんだろ。



海東さんは二人には目もくれず、なにやらカードを2枚挿入した上で変身した時と同じように銃を操作した。





≪KAMEN RIDE・・・・・・KABUUKI! Ray!!≫





引き金を引いた海東さんの前に出てきたのは、緑色を基調としているけばけばしい色の刀を持ったライダー。



あとはこう・・・・・・白で毛並みなんかあって、両手に太い爪を装備したライダー。



その光景を見て、俺ももやしもレイピア持ちに近づきつつも驚きを隠せずについ足を止めてしまった。





「ライダーを呼び出しただとっ!?」

「おいおい、なんだよアレっ!!」





その間にレイピア持ちのオルフェノクは接近して、袈裟に斬撃を叩き込んでくる。だが、痛みは感じない。

装甲のおかげで、怯む事もなく攻撃を受け止められた。続けてレイピアでの斬撃が幾度も飛ぶ。

逆袈裟、袈裟、右薙、左薙、左切上にまた袈裟。右切り上げに左の肩口への唐竹とただただ叩き込まれ続ける。



だが、俺はそれでも怯まない。一歩ずつ・・・・・・ゆっくりと地面を踏みしめるようにして、どんどん近づいていく。

レイピア持ちは刃を振るいながら、近づいてくる俺から逃げるように下がっていく。でも、俺はそれでもただ前へ進む。

レイピア持ちは一旦下がって距離を取り、視線を士の方に向けた。そちらならやれると思ったんだろう。



・・・・・・残念ながら甘い。悪いが、こっちには戦闘経験豊富な魔導師がアドバイザーについてるんだ。





≪FORM RIDE・・・・・・KUUGA TITAN!!≫





士は別のライダーに変身出来る能力がある。当然のように、俺が変身しているクウガに変身する事も可能。

ベルトこそディケイド準拠だが、今の士は俺と同じ紫のクウガの姿をしていた。剣も変化して俺と同じ。

士は俺より早く動けるらしく、一気に踏み込んで剣を袈裟に振るう。レイピアはそれを下がって避けてから踏み込む。



士の胸元を狙って、レイピアで突きを叩き込んだ。

横から見ている俺がつい綺麗なフォームだと思ってしまうくらいに、綺麗な突き。

だがその突きは装甲を貫けない。火花こそ走るけど、弾かれてしまった。





「・・・・・・な」

「悪いな」





がら空きになった身体前面を狙って、士がレイピア持ちを滅多斬りにする。

踏み込みつつ、先程のレイピア持ちのように片手で剣を持って幾度も叩き込んでいく。

その度に火花が走り、レイピア持ちは怯んだように後ろに下がる。



・・・・・・てーか恭文の作戦、凄いな。ここまで効果的だとは思ってなかったぞ。





「もうお前の弱点は見切ったっ!!」





声をあげながら、士は剣の切っ先を突き出す。それはレイピア持ちの胸元を捉える。

レイピア持ちも咄嗟に刺突を打ち込むけど、やっぱりそれは装甲によって阻まれた。

・・・・・・いや、無理な刺突のせいかレイピアがたわんで、中程から派手にへし折れた。



折れた先のレイピアは、重力に従って甲高い音を立てながら落ちた。

それと同時に、武器を失ったレイピア持ちは刺突によって弾き飛ばされて地面を転がった。

だが、俺と士は止まらない。ゆっくりと身を震わせて起き上がろうとするアイツに近づく。



海東さんと海東さんの呼び出したライダーのおかげで、かなり安心して前進出来る。

緑のライダーは刀で滅多斬りにし、白のライダーは爪で乱暴に引っかき、海東さんは銃を撃つ。

それを見て俺は、内心で数の暴力に恐怖した。だって、トラウマあるし。



とにかく俺は、右の手に握ったままのブロードソードの柄を両手で握り締める。



士は左手でバックル両横のスイッチを引いてからカードをどこからともなく取り出してバックルに装填。





≪FINAL ATTACK RIDE≫



それから何も言わずに再びスイッチを押し込む。



≪Calamity Titan≫



その間に俺達はレイピア持ちの前に立つ。

そのまま両手で持った剣で、レイピア持ちの腹に刺突を叩き込んだ。



「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」



士が胸元寄り、俺が腰寄りな位置で刃は深々と突き刺さった。その衝撃のために、レイピア持ちが背を仰け反らせる。

それでも俺達は力を込めて、刃を更に深く・・・・・・中程まで突き刺した。



「いや・・・・・・・いやいやいやっ! いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





次の瞬間、レイピア持ちの身体が蒼い炎に包まれてその全てが灰になる。

それらは地面に落ちて、降り積もった。俺達は、ゆっくりと剣を下ろす。

風がゆっくりとだけど右側から吹いてきて、灰がその風に乗ってどこかへ飛ぶ。



決して強い風じゃないのに、それでも灰は・・・・・・オルフェノクだったものは消えていく





「なんとか、なったな」

「あぁ。ま、準備勝ちってとこか?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



きっかけは士のちょっとした一言だった。恭文に『お前、仮面ライダーの事詳しいなら弱点とか知らないのか』と言った。





それで恭文は少し考えて、あくまでも参考程度に留める事を条件にマジで考えてくれた。










「まずセンチ・・・・・・あー、これじゃあ分からないか。レイピア持ちと鞭振るってるのは、紫のクウガがいいかも」

「紫か?」

「うん。実際攻撃受けてみないと分からないとこ多いけど、上手くいけばほとんどの攻撃が無効化出来るかも。
無効化した上で距離を詰めて、一気に仕留める。もしダメっぽいなら、青のクウガにすぐ超変身して回避優先だね」



まぁ恭文の見立てでは、その二人の攻撃力は低めと判断したのは分かった。だから受けてどうこうって話をするんだよ。

ここの辺りは俺達も納得だったが・・・・・・ここからが恭文の本領だった。



「で、もやし。おのれはクウガに変身出来るんだから、有効なフォームが出たらユウスケに合わせてそれに変わって」

「はぁ? なんでだよ」

「挟み撃ちにして一気に仕留めるからだよ。相性がいいのでダブルで行けば、かなり楽に出来るはず」

「あ、なるほどな。こっちは三人居るんだし、そういう手も俺達は使えるのか」



俺が納得しながらそう言うと、恭文が頷いた。それで少し視線を落として口元に手を当てる。



「・・・・・・多分乱戦になるだろうから、紫のクウガは使い方次第で有効だと思う。
逆に両手に爪を持ったデカいのは、攻撃受け切れないかも。あれは相当パワータイプのはずだから」

「なら・・・・・・緑や青か?」

「ううん。緑だと攻撃避けながらは難しいでしょ。・・・・・・装甲を貫けるかどうかという問題があるけど、回避優先かな。
とにかく絶対に捕まったり足を止めたりしちゃだめ。乱戦だと、そんな真似したのから普通に狙われて潰されるから」



なんというか、聞いていて筋が通っているというか説得力があると思った。コイツ、マジでこういうの慣れてるんだよなぁ。

魔導師始めたのが8年で、その間ずっと戦ってたわけだろ? そりゃ経験では負けるって。俺、クウガになって1年未満だし。



「最悪あの気持ち悪い変形攻撃で蹴散らすしかないね。それでどこまで通じるかだけど」

「ま、なんとかなるだろ。最悪の場合は恭文、頼らせてもらっていいか?」

「ん、そこは大丈夫。というか、そのつもりだったし」



恭文の魔法なら、一瞬で逃げる事も可能だ。まぁ状況にもよるだろうが、そこは安心でもある。

とにかく無茶はせずに、慎重にだ。というか士が『ヤバい』って言うくらいのが居る以上はかなり本気で。



「あと恭文、お前あんま無茶するなよ? 危なくなったら例のライダーもどきに変身だ」

「分かってるよ。ただ、回数制限があるからあんま使いたくないんだよね」



あー、そう言えばカードを一回の変身で1枚ずつ消耗って言ってたっけか。それで残りが、あと7枚。

カードを使い切ったら、恭文とギンガちゃんの世界に戻らない限りはもうアレには変身出来なくなる。



「今更ながら、こっち関係の設備がないから補給と整備が出来ないのが痛いなぁ。アルト、大丈夫?」

≪あいにく、頑丈さには自信がありますから。それにセブンモードなら充分太刀打ち出来ます≫

「それはまぁね?」



困った顔の恭文・・・・・・というか、魔導師組には色々と苦労があるようだ。

なんとかしてやりたいけど、俺そこは専門外だし。なんというか、ごめんなさい。



「とにかく参考程度にってとこだな。そこは最初に蒼チビが言ってた通りでいいよな」

「あぁ。知ったかで足元救われたら意味がない。ま、それでもある程度は気が楽だけどな」

「まぁ対処が決まったところで・・・・・・行きますか」










俺達は気合充分対策充分で出発した。というか、夏海ちゃんが凄まじく不満そうだった。

しかしどうしたものか・・・・・・完全に恭文の事を敵視するようになってるんだよな。

というか、アレだよ。恭文と俺達が関わってる事自体も相当嫌らしい。全然隠そうとしてない。





恭文、俺はあの時お前が全て計算でキレたとは思えないわ。というか、実際マジギレだろ。

俺はそこまで行かないが、かなり頭が痛い。というより、なんで夏海ちゃんは平然と恭文を悪魔呼ばわりするんだ?

士に対してのそれは、『そんな事はない』と言っているのにだ。それなら普通別の誰かをそう呼ばないだろ。





そこの辺りが気になりつつも、俺達はバイクをスマートブレイン・ハイスクールに走らせた。その後の経緯は、ご覧の通り。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「うし、あとは残りの鞭持ちを」

≪FINAL ATTACK RIDE・・・・・・DIEND!!≫



後ろの方から強い風が吹き荒れる。俺と士は慌ててその風が吹いた方を見た。

・・・・・・海東さんの銃から、青いエネルギー状の砲撃が放たれた。



「やめろ・・・・・・やめ」





そんな言葉を残して、鞭持ちのオルフェノクはその砲撃に飲み込まれて粉砕された。

砲撃の余波で灰や青い炎が舞い散り、周囲に撒かれる。・・・・・・あれじゃあ再生は無理だな。

俺達は両腕で風圧をガードしつつ、海東さんを見る。そんな時、視界に入るものがあった。



それはあの鞭持ちが持っていたファイズのベルト。ベルトがちょうど俺達の前に落ちて来た。



士はゆっくりとベルトの方に歩いて、身体を倒して左手でそのベルトを抱えた。





「士、それを渡したまえ」



そんな士を見て、銃口を下げた海東さんがそんな事を言ってきた。



「いや、あの・・・・・海東さんちょっと待ってっ! これ確かあのタクミって子の」



そうなるよな? このベルト使って変身してたんなら、間違いなくあの子のものだと思うんだけど。



「そうだね。だからいただくのさ」

「はぁっ!?」

「世界にはそのファイズのベルト同様に、沢山のお宝がある。僕はその全てが欲しい」

「なるほど、大体分かった。つまるところお前」



士はベルトを抱えながらも器用にまたどこからともなくカードを取り出す。そこは海東さんも同じ。



「泥棒か」



カードを握りながらこれまた器用にバックルのスイッチを引くと、士はクウガから元のディケイドの姿に戻った。

それから剣に手をかけて、素早く銃形態に以降。その上で士はカードをバックルに挿入。



「どうとでも言いたまえ」

≪ATTACK RIDE≫



海東さんも士同様にカードをあの銃に挿入。あとは互いにその効果を発動させるだけ。

どのカードを入れたのかは俺には分からないが、ひとつだけ分かる事がある。



「さぁ、早くそれを渡すんだ」

「嫌だね。・・・・・・俺はお前の邪魔をすると決めた。そう言っただろうが」





それは、二人が互いに相容れないという事。邪魔をするなら戦うと意思表示している事。

本当に少しだけ沈黙が訪れる。二人の間に風がゆっくりと吹き抜ける。

だけどその風が止まった瞬間、二人の左手が素早く動いた。士はバックルのスイッチを操作。



海東さんは銃身のグリップを握って押し込み、互いのカードの効果を発動。





≪BLAST!!≫

≪BLAST!!≫










それから二人は素早く互いの武器の銃口と、分身したように現れた銃口の幻影達を相手に向ける。





何の躊躇いも、迷いも無いかのように引き金を引いた。そうして乱射された弾丸達は、二人の中ほどで衝突して爆散する。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



よくは分からないけど、助けてくれたのはありがたかった。

私はタクミに肩を貸しながら、必死にあの場から離れようとする。

というか、知らなかった。タクミがファイズだったなんて。





あ、だから『ファイズが居るから大丈夫』なんて言えたのかな。





でも、今は後。私は噴水の横を通り過ぎつつも、必死に・・・・・・必死に足を動かす。










「タクミ、しっかりして。あとちょっと・・・・・・じゃないけど、急がないと」

「う・・・・・・ん。ゆりちゃん、ごめん」

「どうして謝るの? タクミ、私の事助けようとしてくれたのに」



そんな風に話しながら、噴水の横を通り過ぎようとした。なんとか逃げ切れるって思ったりもした。

だってオルフェノク達は追っかけて来ないし、なんかファイズじゃないけど強そうなの三人も居たし。



「そこまでだ」



でも私の希望は、あっさりと・・・・・・本当にあっさりと砕かれた。私は目の前に視線を向ける。

そこにはラッキークローバーの一人が居た。それもリーダー格でいっつも威張ってる奴。



「ファイズ・・・・・・我々の同胞を何人も殺した裏切り者が」



それでソイツは、恐ろしい灰色の怪物に姿を変える。そしてその太い足を踏み出し、私達に迫る。

タクミは私を下ろして、そのまま・・・・・・って、だめっ! そんな事したら。



「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「邪魔だ」



タクミの身体は、あの怪物の右腕の払いのけで簡単に吹っ飛ぶ。

そのまま公園のコンクリ式の地面に叩きつけられて、タクミは呻き始めた。



「タクミっ!!」

「お前はあとでじっくりと料理してやる。・・・・・・まずはお前だ、友田ゆり」



怪物は起き上がれないタクミを一瞥すると、私に近づく。私は尻餅をついて、必死に後ずさりする。

・・・・・・だめ、足が震えて立てない。そんな私を見て、怪物は哂うように声を出した。



「お前のせいで余計な手間をかけさせられた。その責任を取って・・・・・・死ね」

「な、なにそれっ!? 意味・・・・・・意味分かんないっ!!」

「問題ない。下等生物が俺達の考えを理解出来るとは思っていない」



その声を隠そうともせず、怪物は自分の爪を私に見せつける。だめ、怖い。



「ただお前達人間は、オルフェノクに殺され続ければいい。・・・・・・そうだ、殺されろっ!!
殺され殺され殺され殺され殺され殺され殺され殺され殺され殺され殺され殺されっ!!



コイツ・・・・・・オルフェノクは、本当に怪物なんだ。だからそんな事を簡単に言う。

怖い。私、オルフェノクが怖い。コイツらは・・・・・・コイツらが怖い。



そして死滅しろっ! 貴様らに生きる価値などないっ!!





右手の爪が振りかぶられる。それが私を叩き潰すように突き出された。

私は震えて、涙が溢れて、動く事も出来ない。私は、そのまま・・・・・・殺されるのを待つだけだった。

でも、そんな時に風が吹いた。その風は私と怪物の間に入り込んで、振りかぶられた腕を受け止めた。



左腕一つで腕を止めた制服を着た男の子は、苦悶の表情を浮かべながら叫んだ。





「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





それは攻撃を受け止めた事による痛みを表現するためのものじゃない。反射的にそう感じた。

それはまるで・・・・・・そうだ、威嚇。テレビで狼や犬が敵に対して唸ってるのを見た事がある。

私は自然とその時の事を思い出していた。タクミはあの怪物に対して威嚇してる。



そう思ってからまた別の事に気づいた。タクミは、今はファイズじゃない。

なのにこの怪物の攻撃を、左腕一本で捌いて受け止めた。それが強烈な寒気を感じさせる。

頭の中で『違う』と何度も声がする。その声を振り払おうとするけど、全く振り払えない。



そして私の寒気は、悪寒・・・・・・嫌悪感に変わった。タクミの姿が灰色の身体に変わった。

尻尾にカギ爪、そして犬系の顔立ち。それは言うなれば狼。殴りかかった怪物が虎なら、これは狼。

狼の怪物は私を助けてくれた。でも、私にはそう見えなかった。私は怪物にとって獲物。



殺されて当然の存在。ただ私という獲物を取り合っているように見えて・・・・・・私は、一気に糸が切れた。





「いや・・・・・・いやいやいやいやいやっ! いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「・・・・・・やはりかっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



士と海東さんが撃ち合いを続けていた横から、叫び声が聴こえた。





俺は自然とそちらの方を見て・・・・・・愕然とした。ファイズに変身してた男の子が、オルフェノクに変わった。





そしてまた叫び声が重なる。それは拒絶と、恐怖に溢れた声。俺の身体は自然とそちらへ動く。










「・・・・・・やはりかっ!!」



アレは・・・・・・士と恭文から聞いていた虎のオルフェノクか。ソイツが狼のオルフェノクの腹を左の爪で殴りつける。

それで怯んだところを逃がさずに、右腕で身体を抱え込むようにしながらも爪を何度も叩きつけていく。



「ぐぅ・・・・・・!!」

「聞いた事があるっ! ファイズのベルトはオルフェノクにしか使えないとなっ!!
やはり同族殺しだったかっ! この裏切り者がっ!! 死んで罪を」



まるで怒りをぶつけるかのようにソイツは何度も爪を叩きつける。

その爪を大きく振りかぶり、狼オルフェノクの右頬を狙ってフック。



「償えっ!!」





その爪での攻撃をマトモに食らって、狼オルフェノクは吹き飛ばされる。

コンクリの地面を転がり、元の男の子の姿に戻った。・・・・・・てーかマジかよ。

いや、その前にまずはコイツだ。紫のクウガだった俺は、そのまま突進。



あの女の子に迫ろうとしていた虎オルフェノクに向かって、刃を突き出す。



狙うは左脇腹。手にしたブロードソードは、確かにその肉体を捉えた。





「うぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



だがその刃は、先程のレイピア持ちの時と違って通らない。防御もせずにあっさりと止められた。



「なっ!!」

「邪魔だっ!!」



俺は振り払うような左爪での攻撃を胸元にマトモに受ける。女の子の横に転がりながら、ダメージから赤のクウガに戻った。

起き上がろうとするが・・・・・・た、立てない。膝立ちがやっとかよ。てーかなんだコイツ。いくらなんでも強過ぎだろ。



「立てるか?」

「あ・・・・・・え」

「逃げるぞ」





俺は女の子の手を引いて、そのまま距離を取ろうとする。だがアイツは、ゆっくりと近づいてくる。

女の子はなんとか立てるようだけど、フラフラしてて・・・・・・ダメだ。詰められる。

嘲笑うような空気を出しているオルフェノクがこちらに迫ろうとした時、何かが派手に着弾した。



そちらを見ると・・・・・・士が銃口を向けていた。そのまま何も言わずに左手であの子に向かってベルトを投げる。

あの子はベルトを受け取って、そこに付けられたままの携帯をベルトから取り出し、素早く必死な形相で操作した。

すると何か機械が動くような音が聴こえてきた。そちらを見ると、そこには絵に描かれていたあのロボットが居た。



ロボットはホバリングしながら、手に持った盾みたいなのを回転させ何かを発射する。

それは全てオルフェノクに命中して、オルフェノクが立ち上がるスゴイ量の火花と衝撃で僅かに怯んだ。

そのロボットは男の子の傍らに着地して、一台のオフロードのバイクに変形。



その子は素早くベルトを腰に装着した上でバイクに乗り込む。・・・・・・俺のバイクからは遠い。



俺は咄嗟にあの子をお姫様抱っこして、素早く駈け出した。





「え、あの」



あの子が戸惑うのにも構わず、すぐにロボットバイクの方に近づいてあの子を下ろす。



「乗るんだ」



あの子は戸惑った顔をして、男の子の方を見る。それでも俺は背中を押した。



「アレは俺達で足止めする。・・・・・・いいから乗るんだっ!!」





戸惑いながらもあの子はバイクに乗った。それを確かめてから、男の子は急速スピードで走り出した。

・・・・・・大丈夫なはずだ。あの子は女の子を助けようとしてたし、きっと大丈夫。

ただ、俺達は・・・・・・大丈夫じゃ無さそうなんだけどなぁ。俺は視線をあのオルフェノクに向けた。



オルフェノクは俺達を忌々しげに見ながら、一歩ずつ近づきながら周囲に光の弾丸を10数発発生させる。

それを俺達に向かって撃ち出した。だが俺の前に、突然に壁が生まれた。その壁は地面が突然にせり上がったもの。

その壁によって放たれた弾丸は全て防がれた。当然士達の方に向かっていたのもだ。



オルフェノクの後ろの噴水の水を突き破りながら、何かが飛び出してくる。俺は壁から顔を出しながらそこを見た。





「士っ! ユウスケっ!!」





それはバイクに乗った恭文だった。そして恭文は水しぶきを飛ばしながら、そのまま虎オルフェノクの頭を踏んづける。

オルフェノクでも、さすがにそう言った不意打ちには弱いらしい。ソイツは前のめりに倒れた。

バイクは難なく着地し、揺れながらも俺の近くに着地。次の瞬間にせり上がった壁達から散弾が発射された。



それが起き上がろうとしていたオルフェノクを撃ち抜き、倒さないまでもその動きを封じた。





「状況は大体分かってるっ! 一度撤退・・・・・・あ、もやしの事名前で呼んじゃった」

≪あなた、何してるんですか。それは人生最大の失敗ですよ。
ほら、もう一度飛び込むところからやり直さないと≫

「よし、俺はツッコまないぞっ! とにかく分かったっ!!」



全員で叩きたいところだが、まだ仲間のオルフェノクが居る可能性だってある。

それにやっぱりあのファイズの男の子の事が気になる。ここは引いて、事情を聞かないと。



「士っ!!」



士は既にこちらに走り込んでいた。だが・・・・・・アレ、海東さんの姿が見えない。



「士、海東さんは」

「勝手に逃げたっ! 蒼チビ、やれっ!!」

「了解っ!!」










オルフェノクが発射され続ける散弾に耐えながら、反撃のために突撃してきた。





だがそれに圧し潰される前に俺達は、全員揃って光写真館の前に瞬間転送された。





・・・・・・あ、しまった。バイク起き・・・・・・よし、あとで見に行こう。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



バイクは私を乗せて走る。走って走って・・・・・・公園からキロ単位で相当な距離を取った。





これなら追いかけられる心配もないと安堵する一方で、私は寒気が止まらない。










「止めて」



でも、寒気だけじゃない。それだけじゃない。だから止まらないバイクにイラついて、私はもう一度声を上げる。



「止めてっ!!」



バイクはその声で、ようやく止まった。安全に・・・・・・私に対して気遣っている運転。

それが余計に辛くて、私はバイクから降りてそのままタクミに背中を向けるように歩道の方に歩いた。



「・・・・・・ゆりちゃん」



私は歩道と隣接している敷地の敷居になっている金網のフェンスを掴んで、強く握り締める。

だめ、見れない。タクミの顔・・・・・・どうしても見れない。



「知らなかった」

「・・・・・・ごめん。あの、ゆりちゃん」



私の右の手を掴んでくる手がある。私はバカな事にそれを振り払ってしまった。



嫌っ!!



そうだ、振り払ってしまった。タクミは私の顔を驚いた・・・・・・ううん、違う。悲しそうな顔で見る。

私はそれでまた胸が痛くなる。私は、怖い。怖いんだ・・・・・・怖くて、怖くて仕方ない。



「・・・・・・ごめん。そう、だよね」

「タクミ」

「ごめんね」










それだけを言ってタクミは素早くバイクに乗って、そのまま走り去った。

私は手を伸ばす事も出来ず、声をかける事も出来ず・・・・・・その場で崩れ落ちて泣く事しか出来なかった。

タクミ、違うの。違う・・・・・・違うんだよ。私、確かにオルフェノクが怖い。でもそれだけじゃない。





私が怖いのは・・・・・・私が、怖かったのは・・・・・・私自身なの。




















(第12話へ続く)




















ファイズのネタバレが含まれるので、知りたくない人は読まない方がいいあとがき



恭文「というわけで、驚愕の事実が発覚したディケイドクロス第11話です。
みなさん、いかがだったでしょうか。本日のお相手は蒼凪恭文と」

あむ「日奈森あむです。いや、いかがだったって・・・・・・恭文、これってマジ? なんでファイズがオルフェノクなのかな」

恭文「いや、これは原典通りだから。そもそもファイズのベルトって言うのは」





※初心者でも分かるファイズのベルト講座・原典編。


・そもそもファイズのベルトというのは、オルフェノクの王様を守護するために作られたベルト。
ファイズのベルト自体は最新型で、その前段階としてカイザ・デルタとあるが実はその二つの方が能力が高い。


・ファイズのベルトの特徴は、変身しても副作用が無い事とオルフェノク『しか』変身出来ない事。
例えばデルタのベルトは通常の人間でも変身出来るけど、闘争本能が強化され凶暴になりやすい。

例えばカイザのベルトは、人間も変身出来るけど適正が無い場合は使用後に灰になって死亡する。
ファイズのベルトはオルフェノクにしか使用適正がないけど、そう言った副作用がない安全ベルトである。


・ファイズのベルトは他二つや劇場版で出てくるベルトと違って、オプションユニットでのパワーアップが可能である。
劇中でも超高速移動形態のアクセルフォームと純粋スペックアップ形態であるブラスターフォームを使っていた。





恭文「・・・・・・で、これが原典だと色々な話の流れで主人公の乾巧が手に入れて、ファイズとして戦っていくわけよ」

あむ「え、それじゃあ原典のファイズだった人も」

恭文「うん。最大級のネタバレだけど、オルフェノクだったの。だからこそファイズに変身出来た」





(ただ、ここの辺りの話は後半いきなりではなく、原典の第1〜4話までの序盤の流れでネタふりはされています。
後はバレが出るまでの話の中でですね。ファイズのベルトの変身条件を、話の流れの中で散りばめているわけです)





恭文「具体的には、普通の人間には使えないけどオルフェノクは変身ーとかね。
ファイズだとベルトを取られて敵方がファイズに変身ってのも多かったから」





(ただ、ここのバレのミスリードで草加雅人ってのが色々やらかしてくれてましたけど)





恭文「ただ、原典だと主人公はオルフェノクだけど、敵側の味方とかじゃないんだよ。
小さい頃に事故で一度死んで、自然にオルフェノクに覚醒しちゃったそうだから」

あむ「敵方はそうじゃないってわけ?」

恭文「そうなった人も居るし、オルフェノクに殺されて覚醒しちゃった人も居る感じだね。
ただ、共通してるのが全員が人間を見下していてオルフェノクの世界を作りたがってるって事」

あむ「まぁその・・・・・・それは今日の話の中見てればまぁまぁ分かるけどさ。
でもさ、何気にラッキークローバーもあと一人ではあるんだよね」

恭文「そうなるね。・・・・・・復活しなきゃ」

あむ「あ、そっか」





(というか、あの能力はチートだ。アレこそがチートだ)





恭文「とにもかくにも、走り去ったタクミや一人遺された虎さんの事なども含めて次回をお楽しみに」

あむ「あー、でもどうなんだろ。だってあの、タクミって人ちょっとかわいそうだし・・・・・・あ、それにアレだよ。
なんでファイズになって戦ってたのかも、ここまでさっぱりじゃん? 同族から裏切り者扱い受けるっぽいし」

恭文「確かにねー。何気に描写少なめだから、どうなるかは気になっちゃうと思う」

あむ「まぁそこの辺りも期待しつつ、本日はここまでだね。
お相手はしゅごキャラ12巻付属のドラマCDで歌唄がデレまくってびっくりな日奈森あむと」

恭文「30分置きにメールはおかしいと思う蒼凪恭文でした」

あむ「恭文、アンタ大変だよ?」

恭文「そうだね、そう思うよ。真面目に思うよ」










(アレだとドキたま内での扱いがマジで色々変わりそうです。
本日のED:ほしな歌唄(CV:水樹奈々)『BLACK DIAMOND』)




















もやし(玄関先で変身解除)「・・・・・・蒼チビ、お前ファイズがオルフェノクだって知ってただろ」

ユウスケ「おい士」

もやし「別に責めてるわけじゃない。ただ知ってたかどうかだけ聞いてるんだ。それで、どうなんだ」

恭文「原典ではってのが付くけどね。そもそもファイズのベルトは、オルフェノクじゃないと変身不可能なのよ」

ユウスケ「恭文、そうなのか?」

恭文「うん。例えばオルフェノクじゃない人間・・・・・・僕やユウスケには使えない」

古鉄≪なのでこちらの世界でも同じならもしやとは思っていましたが、ドンピシャですか≫

もやし「なるほど、納得した。だがそうなると解せないな。なんで尾上は同族と戦ってるんだ?
まさかその理由までテレビのファイズと同じじゃないだろ」

ユウスケ「まぁ、そりゃあそうだろうな。とにかくあの子達を探して・・・・・・アレ? おい士、恭文。あそこ歩いてるのって」

恭文「・・・・・・・・・・・・あ、ゆりだ。え、なんで一人で居るのさ」

もやし「さぁな。そこんとこも話聞いてみればいいだろ。ちょうどここは、コーヒーも出せるしな」










(おしまい)





[*前へ][次へ#]

15/34ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!