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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第10話 『555の世界/アン・ラッキークローバー』



恭文「前回のディケイドクロスは」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「邪魔をするなと言ったはずだ。それに少年君も、早く元の世界へ帰りたまえ」

「帰れたらとっとと帰ってるんですけどっ!? てーか帰り方知ってるなら教えてよっ!!
いや、なにより朝の会話は何っ! お前、僕やフェイトの何を知っているって言うのさっ!!」



残念ながら、もやし以上に僕はこの男に聞きたい事がある。だから今度は僕が迫る。



「知っているとも。今の君は、君じゃない君と比べるまでもない。・・・・・・ここに居る君は弱い。そして逃げている。
命を賭けてでも本当に大事にすべきお宝があるはずなのに、それから目を無理矢理に背けている。残念だよ、少年君」



それでもソイツはマジで言葉通りに、僕を哀れむような顔でそう言ってきやがった。

それでイライラ・・・・・・は、募らない。イライラするのは、全く会話になっていない現状だよ。



「君はどんな君だろうと、ちゃんと自分のお宝の価値を知っている子だと思っていたのに。
彼女では、君のお宝の代わりにはならない。君は彼女の気持ちを考える余り、大事な事を忘れている」

「だから意味分からないんですけどっ! お願いだから『5W1H』守ってくれますっ!?
そしておのれはギンガさんの事まで知ってるんかいっ!!」

「もちろん。だって僕は君達と同じように旅をしていたんだから」



つまりその・・・・・・まさか、これまでの旅のアレコレを傍から見てたっ!? だからそこの辺りが分かるとかっ!!

じゃあじゃあ、もしかしてラウズカードで鎌田を封印したのもコイツとかっ!? でも、なんでっ!!



「でも君は僕の言葉の意味が分からない。それでも問題はないさ。
僕から伝えて分かってしまっては、お宝は君の手から簡単に逃げてしまうからね」

「お願いだからちゃんと僕と会話をしてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」



意味はぶっちゃけさっぱり。というか、ワケが分からない。ただ・・・・・・言葉が自然と胸を貫く。

それで実感する。コイツ、僕の『何か』を知ってる。そして見抜いた上でそう言ってる。



「蒼チビ、ちょっと交代だ。てかお前、弄ばれてるぞ」

「知ってるよっ!!」






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



恭文「というわけで、電波系キャラも出つつもファイズの世界に来ました」

もやし「いや、電波系って・・・・・・まぁまぁ間違ってはないけどな。てーかあんまりに話出来なさ過ぎだろ」

恭文「もやし、僕達はアレだ。お話出来る主人公キャラ目指そうか。コイツはダメだ」

もやし「いや、お前もダメだろ。前回のアレコレを鑑みるとよ」

恭文「おのれよりマシだ」

もやし「それは俺のセリフなんだがっ!? いや、俺のセリフでしかありえないだろっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ミッドの公共のテニスコートでフェイトは黒のジャージを、僕は蒼のジャージを着込みながら動きに動き回って・・・・・・ちと休憩。





ベンチサイドから見上げるそらは空は青くて広くて・・・・・・とっても綺麗に見える。





現在、新暦の74年の3月。フェイトと恒例の週一なデートの中で、僕達は平和に休日を満喫してた。










「・・・・・・でもフェイト、やっぱテニスウェア買ったら? ほら、スカートに見せパン履いて」

「あの、それは考えるんだけど・・・・・・やっぱり恥ずかしくて」



僕の右隣に座るフェイトは、そう言いながらジャージ姿で軽くもじもじ。

なお、髪は中にゴムが仕込んであるタオル式なヘアバンドで、後ろに一つにまとめている。



「いや、アレ恥ずかしいっておかしくないっ!? バリアジャケットではミニスカだし、真・ソニックだってあるしっ!!」

「アレはスパッツ履いてるから普通だよ? それにニーソックスだってあるし。
なにより、戦闘用の服装だもの。恥ずかしいとかそういうのは感じないよ」



あっけらかんと言い放ったフェイトを見て、軽く頭痛がしてくるのは気のせいかな。いや、気のせいとしておこう。



「というかヤスフミ、またまた漫画持ち込んで・・・・・・というか、それだけじゃないね。なに見てるの?」

「え、テニスの王子様のアニメ。こっちの方も参考にしないと、動き分からなくて」



なお、空間モニターで映像流してます。流れているのは、専用のフォルダに入れてあるテニプリ。

ちょうど今はアレだよ。テレビでやった立海大付属との試合だね。序盤から熱いよねー。



「あの、前々から思ってたけどアニメや漫画から技をそのまま持ってくるのってどうなのっ!? 普通に無理だよっ!!」



うーん、そうなのかなぁ。ギンガさんとかリンディさんとか、その他もろもろな人からもよく言われるのよ。

そんな事する必要ないってさ。ちゃんと魔導教本やマニュアルがあるんだから、それ通りでいいって。



「でも僕、ツイストサーブもドライブBもつばめ返しもジャックナイフもスネークも、全部テニスの王子様からだけど。
てゆうか、フェイト知ってるじゃないのさ。テニスする度に僕が色々試してたの、見てたんだからさ」

「・・・・・・そうでした。うー、ヤスフミのそのコピー能力は正直未だに理解出来ないよ」

「別にコピーじゃないよ。これ見て、どうすれば出来るかをちょっとずつちょっとずつ煮詰めていった結果だし」



当初はどれも出来なかった。飛天御剣流もどきだって、本当に同じ。

それで考えて、実際にやってみて・・・・・・少しずつ少しずつだよ。それで出来るととっても嬉しい。



「それにほら、今は時間に余裕もあるしね。フェイト以外ともこうやってテニスしたり訓練したりしてるんだ」

「そうなの? ・・・・・・まぁ、確かにヤスフミの腕前がまた上がってたのはびっくりしたけど。
あ、でも前々から気になってたんだけど・・・・・・仕事のペースを減らしたの、どうしてかな」



フェイトは軽く身を倒して、僕の顔を覗き込みながらそう聞いてきた。その瞳の中に、少し心配そうな色が見える。



「私ね、こっちに来たのって何かやりたい事があったからだと思ってたんだ。
まぁその、ヤスフミは多分嫌がるだろうけど・・・・・・局員になりたいからとか?」



フェイトが少しだけ控え気味にそう言うのは、きっと休日の時間をケンカして潰したくないから。

だからあくまでも『例え話』として言った。でも・・・・・・この表情から見て、実際は期待してたと思える。



「それ以外でも何かミッドの中で何か目標を見つけて、だからーって考えてたんだ。
でも、実際には今までとは変わらなくて・・・・・・仕事のペースも落とし気味で」

「前に説明しなかった? その分余暇に時間使って、色々見てってるってさ。
この間も某管理世界の海で冒険したりして、楽しかったしさー」



それでヒロさん達と、またまた宝探しだよ。でも、アレも中々にハードだったなぁ。

現地の海賊とやり合うはめになって、三人で海賊船20隻ほど沈めたりしたし。



「やっぱり、旅や冒険が好き?」

「もちろん」

「例えばそれを趣味という形には出来ないかな。何かの役職に就いて、その仕事の合間とか」

「うーん、無理」



少しだけ表情が曇ったフェイトの方を見ながら、僕は自信を持って言い切った。

それでまた・・・・・・青い空を見上げる。見上げて、少しだけ息を吐く。



「旅や冒険は、僕の大事な夢の一つだもの。ワクワクやドキドキが沢山詰まってて、その時間の中に僕の居場所がある。
だから今までよりいっぱい、そんな時間の中に居たいなとは思ってるんだ。あとは・・・・・・答え、見つけたいからかな」

「・・・・・・答え?」

「うん」



多分それなりに心配はかけてる。だから僕は空を見上げながら、少しだけ・・・・・・少しだけ痛みを吐き出す事にした。



「フェイトは空、何色に見える?」

「え?」

「いいから、教えて」



少しだけ、沈黙が訪れる。それはきっと、僕の顔を見ていたフェイトが空を見たから。

そのために視線を上に上げて、青く広がる空を見ていると思う。



「今は青色だよ。優しくて爽やかな青・・・・・・ヤスフミの色」

「そっか。僕も同じ。でも、空を青く見えない人が居る。空の青さが分からない人が居る」





思い出すのは、数ヶ月前に僕に『殺してくれ』と懇願しながら死んだあの人の事。

空の青さが・・・・・・この世界の色が分からなくて、どこかで孤独を抱えていた人。

だからその孤独を生み出した元凶を前に冷静さを保てなくて、全てを壊され蹂躙された人。



まだ、答えが見えない。だから僕は空を見ながら、強く拳を握り締める。





「でも、僕には空の青さが分かる。僕は、『普通』だから。空の青さの分からない人の気持ちが、完全には分からない」

「あの、ヤスフミ。なんの話を」

「例えばフェイトって、生まれが特殊じゃない? 僕はそれがどれだけ重いのかとか、全然分からない。
フェイトがそれを知った時、それを重荷に感じる時、どれだけ辛くなるのかがさっぱり想像出来ない」



フェイトが隣で軽く息を飲む声が聴こえた。それは驚きを含んだ声。きっと、表情も同じ感じに染まってる。

でも僕は視線を向けずに・・・・・・ううん、向けられずに空を見る。空の青さが分かる事が、また悲しくなってしまった。



「僕は『普通』だから、そうじゃない人の気持ちや痛み・・・・・・全部はきっと分からない。
僕も普通って言うのから外れなくちゃ、その人と同じじゃなくちゃダメなのかなって考えるんだ」

「・・・・・・ヤスフミ、もういい。もういいから」

「例えば僕も誰かのクローンじゃなくちゃ、フェイトの気持ち全部分かって守れないんじゃないか。
『普通』な人間には、『普通じゃない』何かの気持ちなんて一生分からないんじゃないかって」

「もういいっ!!」



そう言いながら、フェイトが僕を右横から強く抱きしめる。それで僕の顔は、フェイトの胸元に埋まる形になった。

柔らかくて温かくて大きくて・・・・・・だけど、苦しい。フェイト、本当に力いっぱい僕の事抱きしめてくれてる。



「・・・・・・・・・・・・もういい。ごめん、嫌な事聞いた。あの、何かあったんだよね。
それで・・・・・・そんな事悲しい考えちゃう。だから仕事のペース、抑えめにして休んでる」

「なんで謝るの。別に平気なのに」

「平気じゃない。ヤスフミ、ずっと泣いてた。涙は流してないけど、ずっと泣いてたから。
・・・・・・あのね、無理には聞かない。ただ忘れないで欲しい。そんなの、違う。絶対に違うから」



そんなワケの分からない事を言いながら、フェイトが優しく頭を撫でてくる。その感触が温かくて、とても幸せ。



「ヤスフミ、例えばの・・・・・・本当に例えばの話で聞いて欲しいんだ」

「何かな」

「その悩みを、力をつける事で解決は出来ないかな。例えば局員になって、組織の中で出世する。
みんなに認められる行動を取れる大人になれば、そんな社会人になればきっと大丈夫」



別にフェイトは、ここで本当に『局員になれ』って言ってるわけじゃない。ただ、道を提示してくれるだけ。

そういうリンディさん辺りがいつも言っている大人になる事が、答えの一つだと信じる事もアリだと。



「組織の一員としての力は、社会人として認められている事実はやっぱり大きな力。
そんな力の後押しがあれば、きっと今のヤスフミの疑問は解決する・・・・・・とか? そういうのはダメかな」

「ダメ。それじゃあダメなんだ。それじゃあ、意味がない。話がズレまくってる。
知りたいの。その答えを。でも、まだ見つからない。だけど、見つけなきゃいけない。じゃなきゃ」



僕はそっと左手で、僕を抱きしめるフェイトの腕を撫でる。優しく・・・・・・優しくだよ。



「この温かさ、守れない。僕が守りたい時間を・・・・・・絶対に守れない。
その答えは他人の中じゃなくて、僕の中にある。だからそれを探して旅してる」

「どうしても必要なのかな」

「必要だよ。だってそれを答えにしたら、僕は局員なり『大人』じゃなきゃ誰かと繋がれなくなるかも知れないもの。
僕はそっちの方が嫌だ。・・・・・・大事な人と、大好きな人とそんな後押しに依存しなきゃ繋がれなくなるのは、嫌だ」



フェイトはただ静かに、優しく・・・・・・優しくジャージの上から僕の背中を撫でてくれる。それがとても安心する。



「・・・・・・・・・・・・そっか。なら仕方ないね。でもそれは・・・・・・私的には、やっぱり残念だな。
私はどうしてもね、そういう風に大きな何かに甘えてもいいって思うんだ。きっとみんな同じだから」

「なるほど、フェイトは局員じゃない僕は嫌いなんだ。というか、局員じゃないと仲良くなりたくないんだね」

「あの、違うよ。ただ寂しいだけ。そういう気持ちは、やっぱり理解して欲しい。
ヤスフミと一緒に、少しずつでも世界や組織を変えていく仕事が出来たらいいなって思ってるから」

「興味ないや。僕はその前に・・・・・・自分を変えたいの。『言い訳しない自分』は、まだまだ遠いもの」



僕はそっと、フェイトの胸元から少しだけ顔を離す。それでフェイトの顔を、至近距離で見上げる。



「だから変えたいの。ツイストサーブ打てない自分から、打てた自分になったみたいにさ」

「でも、それじゃあ何も変わらないよ。ツイストサーブが打てたって、世界は平和にはならない。
ヤスフミには力があるんだし、ツイストサーブの前にみんなに認められるように頑張るべきじゃないかな」

「リンディさんが言ってるみたいに?」

「うん。もちろん今までとは違うから、躊躇う部分もあると思うの。でも、きっとそれでいいよ。
私はそんなヤスフミも認めて背中を押していくよ? 苦しいなら、一緒に仲間として分け合っていくし」

「嫌。だって僕は局員嫌いだし。大体、局員になったら不自由ばかりだもの。まず犯人捕まえても賞金がもらえなくなる。
旅や冒険に自由気ままに出れなくなるし、時間の自由だって取れなくなる。友達を謀殺しようとした連中のために命賭けるし」



まぁ、そう言ってくれるのはありがたい。でもやっぱり、興味がない。なので僕は、いつも通りにこう言うの。



「確かにそれは・・・・・・うん、あると思う。でも一人の力には限界があるよ。だからヤスフミ、私と・・・・・・一緒に頑張れないかな。
みんなから認められる新しいヤスフミを。もう古き鉄は卒業して、社会人として少しずつでも世界をいい方向に変えていく」

「なるほど、やっぱりフェイトは局員じゃない僕は」

「違うよっ!? そういう事じゃなくて・・・・・・ううん、もうこの話はやめよっか。ごめん、私ちょっと空気読んでなかったね。
今はそういう話は全部禁止。だって私、ヤスフミを抱きしめてるんだから。今は・・・・・・これだけでいいよね」

「ん、これだけでいい。フェイト、ありがと。というかさ、辛くなったら・・・・・・甘えていいかな』



今より少しだけ体重をフェイトにかけてみる。胸元の感触が強くなるけど、フェイトはそれでも受け止めてくれる。



「やっぱり、怖いんだ。『普通』の僕は、フェイトとは絶対に分かり合えないのかなって考えたら・・・・・・怖い。
てゆうか、そんな事言われても困るし。そんな設定追加なんて、どっかの長編作品でもない限りは絶対無理だし」

「・・・・・・そうだね、私も怖い。私はやっぱり、『普通』じゃないから。でも、大丈夫じゃないかな。
私達今、方向が違うだけできっと同じ質の恐怖を感じてるんだから。もちろん誉められた事じゃないけど」



フェイトの声が、優しく囁くようなものに変わる。それは僕の好きな、優しいフェイトの声。

お仕事モードの時や、局員としての顔の時には絶対に触れられない僕の好きなフェイトがここに居る。



「私はヤスフミに。ヤスフミは私や、フィアッセさん達も込みかな。きっと、同じだよ」

「そっか。まぁ、それは確かにね。それで」

「もちろんOKだよ。こうやって抱き合って・・・・・・それで、伝え合っていこう?
私達は、互いに繋がりたいんだって。きっと局員じゃなくても、それは・・・・・・出来るんだよね」

「・・・・・・ありがと」










フェイトは何も言わずに、そっと僕をまた強く抱きしめてくれた。それがなんというか、とっても幸せ。

こういう時は恋人同士みたいで、日常の中で抱えて引きずっている重さと立ち向かう勇気をもらってるみたい。

・・・・・・でも、やっぱり答えは見つからない。だから僕は、その答えを求めてまた旅をする。





そして数ヵ月後。世界を揺るがす動乱の中で僕は、ようやくその答えをある女の子の言葉から見い出す事が出来た。

同じじゃなくていい。ただ『一番の味方』として頑張ればいい。それだけでいいと・・・・・・その子は僕を救ってくれた。

僕に必要な答えは、同じになろうとする事じゃなかった。『普通』の自分を重荷に感じて、立ち止まる事でもなかった。





僕に必要だったのは、やっぱり勇気。守りたいと思ったら、壊したいと思ったら迷いも躊躇いも含めてそれでも手を伸ばす勇気。





ありのままの自分で手を伸ばして、未来を掴む事。それが僕の見い出した答えだった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



車でヤスフミの家に向かう道すがら、ふと二人でテニスをしていた時の事を思い出した。

ちょうど・・・・・・もう2年も前の事。私は車を運転しながら、軽く自嘲の笑みを浮かべてしまう。

私、なんにも成長してなかったね。ヤスフミはあの時の答え、ちゃんと見つけたのに。





一番の味方の言葉の意味、あれからヤスフミと何度も話していく中で教えてもらったんだ。

GPOのアンジェラ捜査官とのお話の中で、そう言って背中を押してもらって・・・・・・救われたと。

なのに私は、その答えを持って私を叱ってくれたヤスフミをひどく傷つけた。





あの時私、ヤスフミの言っている事が悲しい事だって感じたのに。なのにその悲しい事、JS事件中に現実にしてしまった。

ヤスフミには私の事なんて何も分かるわけないって、拒絶した。もちろんあの時の事は何度も謝った。

でもそれでも足りない。思い出すと過去の私は、本当に図に乗っていた。そして何も知ろうせずに目を伏せ続けていた。





私はただあの子の事を利用してただけで、振り回してただけで・・・・・・情けない。

思わず路肩に車を寄せて、一時停止した上で私はハンドルに頭を乗せて俯く。

まずい、本気で泣きたくなって来た。泣いてる余裕も、今は何一つないって言うのに。





そうだね、私は間違えた。間違えて後悔して、自分で自分を殺したくなるくらいだよ。

こんな私に生きていく資格があるのかなんて、ちょっと疑問に思ってしまう。

だったらどうする? そんなの・・・・・・全部持っていくしかないよね。それしか、ないよね。





側に居る事が、繋がっている事が当たり前だった。いつだって私の側には、あの子の笑顔があった。

だから私、頑張れた。あの子との繋がりが、時間が、私に本当に強い力を与えてくれていたから。

世界より、組織の立場や仕事なんかよりずっと大事な人。それが私にとってのヤスフミ。





いつの間にか・・・・・・こんなに大きくなっていた。あの小さな男の子の存在は、こんなにも重い。

大事な分、大切な分重いんだ。悪い意味じゃなくて、いい意味で重さがある。

だけどその重さは、母さんやアルフ、お兄ちゃん達になのはとはまた違う重さでもあるんだ。





これが恋だと言われたら、そうだとしか言えない。私はヤスフミの事が好きなんだと思う。

これが愛だと言われたら、やっぱりそうだとしか言えない。私は・・・・・・ヤスフミの事を愛してる。

友達や家族としてじゃない。一人の男の子として、好きでもあるし強く愛してる。





だから会いたい。会って、何でもいいから話がしたい。やっぱり、最初の一言はアレかな。

はやてに見せてもらったエッチな本であった『・・・・・・夜這いに来たよ』かな。なんだか、ちょっとおかしいけど。

ううん、その前に色々お話しなくちゃ。それでもし、もしもヤスフミが旅を続けたいと言ったらどうしよう。





ディケイドと関わって、旅を続けて現状をなんとかしたいと思っていたら。その時は・・・・・・私は。





私は顔を上げて、ウィンドウに映り込む半透明な自分を見つめる。それで・・・・・・気合を入れ直す。










「・・・・・・よし」










私は合図を出した上で、再び車を走らせる。・・・・・・今必要なのは、自分で決めた道を嘘にはしない事。

ハンドルを両手で強く握り締めながら、私は法定速度に則った上でアクセルを踏み込む。

ギンガ、ごめん。やっぱり私は拭えない。下ろせないし、ずっと引きずっていくしかないみたい。うん、バカだよね。





ホント、私はバカだよね。いつだって手を伸ばすのが、気づくのが遅過ぎる。本当に・・・・・・バカだよ。





だから更にゴメン。私はバカだから、ギンガとケンカすると思う。やっぱり私、このままは納得出来ない。




















世界の破壊者、ディケイド。8つの世界を巡り、その瞳は何を見る。










『とまとシリーズ』×『仮面ライダーディケイド』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄と破壊者の旅路


第10話 『555の世界/アン・ラッキークローバー』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「テメェ・・・・・・とことん俺達をバカにしやがってっ!!」

「どうやら本当に痛い目に遭わないと分からないらしいな」

「やだ、逆ギレ? 全く、これだから最近の若いのは・・・・・・カルシウム足りてないでしょ」



そんな事を言っている間に、赤茶髪と白メガネは二人揃って懐からボールを・・・・・・アレレ?



「お前、頼むから自覚持てよっ! むしろアイツらはキレて当然なんだからなっ!? お前はキレられて当然なんだっ!!」

「なるほど、それじゃあ二人揃ってなんかボール取り出してサーブしようとしてるのも当然か。
・・・・・・そんなワケないでしょうがっ! コイツら、徹底的にルール無視かいっ!!」

「お前が言うなっ! このバカっ!!」





なんて言っている間に、サーブは放たれた。なお、サーブはどういうワケか炎と雷に包まれている。

赤茶髪の打ったサーブが炎で、白メガネの打ったサーブが雷。しかも球がそれぞれ三つずつ。

完全にテニヌな炎の球達は、僕の方に向かって打ち込まれた。もうルール無視だよね。



まぁいい。そっちがその気なら・・・・・・遠慮無くぶっ潰す。ジャンプ読者の底力、見せてやろうじゃないのさ。

なお赤茶髪は、本当ならもやし目がけてボールを打つべき。ついでに雷の球ももやしに向かってる。

僕は常識に欠けた連中に軽くため息を吐くと、ボールの軌道を見切った上で素早くラケットを左薙に振るった。



僕の顔や胸元・・・・・・上半身を狙ったボール達を全てガットに掠めてスピンをかける。

そのままラケットを振り抜いて180度回転。ボール達は急速にかけたスピンで上空高く飛ぶ。

その後はどうなるか。当然ながら、下に・・・・・・あの赤茶髪の顔面に向かって落下だよ。





「・・・・・・がふ」



右目、左目、そして鼻を打ち抜き赤茶髪はまたまたテニスコートに頭から叩きつけられる。



「秘技、羆落とし」



もやしはラケットを両手に持って三つの球全てをガットに捉える。そのまま振り抜き、白メガネの足元に着弾させた。

白メガネはそれに怯んだのか、その場で情けなく尻餅をつく。僕は振り向いて・・・・・・不敵に笑ってこう言い放つ。



お前達・・・・・・まだまだだね

「・・・・・・蒼チビ、それやめろ。なんかムカつく」

「てーか揃いも揃ってバッカじゃないのっ!? こっちはテニスの王子様を連載初期から見てんだよっ!!
そんな球が炎に包まれて三つに増えた程度でビビるわけがないだろうがっ! くたばれっ!! バカがっ!!」

「そして俺を無視かよっ!!」



フラフラと起き上がる赤茶髪と白メガネの方にそう言うと、普通に連中はまた僕を睨み出した。

・・・・・・全く、これだから最近の若いのは。逆ギレすればなんでも済むと思ってたら、大間違いだし。



「だから待てっ! お前普段もまぁまぁおかしいが、今日は特におかしいだろっ!!
アレかっ! 海東のせいかっ!? 海東が妙な事言うからイラついてんのかっ!!」

「そうだけど何か問題あるっ!? むしろ八つ当たりしなきゃやってられないんだよっ!!」

「認めやがったしっ!!」



つまり、僕の機嫌の悪さはクライマックスなのよ。だからこそこんなにも圧倒的・・・・・・火力って大事だよねぇ。

とは言え、ここまで無茶苦茶してるのにはもう一つ理由がある。というわけで、もうちょっといってみよー♪



「てーかもやし、普通にテニス上手じゃないのさ。さっきのスマッシュは中々」

「当然。俺に苦手なものなどない。・・・・・・写真を撮る事以外は



あれ、なんか顔背けて呟いた。まぁよく聞き取れなかったけど・・・・・・いっか。



「というか蒼チビ、お前こそテニス出来るんだな。どこで覚えたんだ」

「休日にフェイトと遊んだりしてる時にね。あとは僕の兄弟子姉弟子?」





なんだかんだで、フェイトが中学卒業して距離が出来てからも週一で会って遊ぶ関係だったりする。

そんな中で、普通のデートっぽいのだけでは足りないから一日スポーツしたりする事もある。

それでフェイトも元々興味があったらしくて、試しにテニスをしてみようと言う話になったんだよ。



で、僕はともかくフェイトは練習相手も居ないらしく・・・・・・結構な頻度で僕が相手してた。





「・・・・・・なるほど、大体分かった。てーかお前、ギンガマンとの思い出はないのかよ。
初恋の相手ばっかにこだわってたらギンガマンが可哀想だろ。もうちょっと思い出してやれ」

「いや、なんでいきなりそこっ!?」





とにかく、フェイトとはいつもこんな感じで楽しくテニスしたりデートしたりしてたわけですよ。

それで通信関係はほぼ毎日? なんかこう、互いに色々と話題が尽きないんだよね。

・・・・・・今更だけど、これを振り払うって無理なんじゃ。いや、出来ないと色々とマズいよね。



まぁそこの辺りはまた考えるとして・・・・・・僕は目の前の三下共を睨みつける事にする。





「ほらほらっ! まだゲームは終わってないよっ!?
6セットみっちり使ってボコボコにしてやるから、とっとと次いくよ次っ!!」

「テニスはそういうゲームじゃねぇよっ! お前、マジで熱血高校とやらのノリは今すぐ捨てろっ!!」

・・・・・・そうか、よく分かった。貴様らのどちらかがファイズなんだな

ようやく見つけたぞ・・・・・・ファイズっ!!

「「・・・・・・はい?」」





そんな事を言うので、僕ともやしは首を傾げながら改めてあのバカ二人を見る。

すると二人の顔に紋様のようなものが浮かび、その姿が一瞬で変わった。

白メガネは、身体全体にフィンのようなものがついていて・・・・・・アレ、センチビートオルフェノクだしっ!!



それで赤茶髪が変身したのは、もしかしてドラゴンオルフェノクの軽装形態っ!?





「・・・・・・アイツら、オルフェノクだったのか」

「あー、やっぱりかぁ」



予想通り過ぎて、軽く苦笑い気味になるのは許して欲しい。

てーか、知識があるってのも困り物だよなぁ。どこまで活用すべきか迷っちゃうよ。



「あぁ・・・・・・やっぱりだとっ!?」

「うん、やっぱり。だって僕の知ってるファイズだと、ラッキークローバーってオルフェノクの中でも強い奴らの集まりだし」

「マジかよっ!! ・・・・・・あ、大体分かった。お前、さっきからの無茶苦茶な行動の数々は」

「まぁそういう事だね。でも、マジでこう来るとはちょっと思ってなかったり」





というか、読者のみんなも『鬼畜』と言う前に大事な事を忘れている。僕達は別にテニヌするためにここに居るんじゃない。

ラッキークローバーが、オルフェノクないしファイズと関係があるかを調べるためにここに居るのよ?

で、さっきから無茶苦茶やってた理由はそこ。あのおとなしい奴は、インスタントカメラの写真を手裏剣にしたしさ。



だからもやしだって、さっき言ったようにファイズないしオルフェノクと関係があるんじゃないかと睨んだ。

いや、ラッキークローバーの中に実はファイズに変身している人間が居るんじゃないかと考えたっぽい。

それで僕の狙いをストレートに言うと・・・・・・今みたいにキレさせて、尻尾を出してもらう?



僕の経験上から言わせてもらうと、この手のエリート意識の塊のバカ共には一番有効な手だよ。

自分が優秀だと思ってる分、生意気なのを見ると叩き潰したくなるらしいからねぇ。

それで自分があぐらかいてる地位や、他の連中の認識がそちらに向くのが怖いのよ。



だから叩き潰そうとする。言うなら利益どうこうではなく・・・・・・メンツの問題ですよ。

でも、まさかマジでオルフェノクだったとは。万が一ってのを考えて、多少は加減したのは意味なかった?

いや、でも事前情報だけでこの世界で『怪物』とされてる存在だと決めつけるのもアレだったしなぁ。





「納得したぜ。だが蒼チビ、こうなると向こうが勝負を引き受けてきたのは」

「どうやら単純にメンツの問題ってわけじゃなかったっぽいね。互いに多少アテが外れたって感じ?」





つまりつまり・・・・・・アイツらが勝負に乗ったのは、僕達がファイズじゃないかと疑っていたからだよ。



さっきそれっぽい発言してたしね。ここは確定。・・・・・でも、こっちは当たりだよ。



こっちのターゲットはファイズだけってわけじゃないんだから。オルフェノクだって、立派な手がかりだ。





「もうそこはいいだろ。とりあえず」



もやしはそう言いながら、バックルを取り出して腰にセット。そして素早く変身用カードを入れる。



「アルト、行くよ」

≪えぇ≫



僕も同様に乗っかる。こちらは特にモーションはいらないけど、心構えの問題だよ。



≪KAMEN RIDE≫

「「変身」」

≪DECADE!!≫



もやしがバックルの両側を押し込むと、そのままあのピンク色ライダーに変身。

それで僕もセットアップして、ジャケット装着。当然腰にはアルトを装備。



「最初に言っておくっ!!」

「・・・・・・って、お前やっぱりかよっ!!」



両手を軽くはたいていたもやしは、それを中断してなぜか僕の方を見てくる。

でも僕はそこに構わずに、あの常識知らずの三人をそれぞれ指差していく。



「僕はかーなーり・・・・・・機嫌が悪いっ!!」

≪ついでに言っておきます。今のこの人にはケンカ売らない方がいいですよ? 秒殺されますから≫

「あー、それは俺もマジで思うわ。お前ら、情けないやられ方したくなかったら関わらない方がいいぞ?」

「「・・・・・・ぶち殺して後悔させてやるっ!!」」





そして、逆ギレでカルシウムが足りていない若者二人は愚かにも僕に飛びかかってくる。

テニスコートのネットが僕達を遮ってる感じだけど、きっと飛び越えられるでしょ。

僕は軽く日本の将来を憂いながら、そのバカ二人に向かってアルトを右手で抜き放ちつつ突撃。



もやしもそれに続くようについて来る。こうして、突然だけどラッキークローバーとの決戦は始まった。





「行くぜ行くぜ行くぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ドラゴンオルフェノクとセンチビートオルフェノクは、テニスコートのネットを飛び越えながらこちらに迫る。





でもその間に、僕は一気に踏み込んで距離を零に詰めている。そして軽く跳躍。





両手で蒼く刃を染め上げたアルトの柄を持って、そのまま左薙に刃を叩き込んでいく。










「・・・・・・鉄輝」



あの脱皮状態のドラゴンオルフェノクと交差する瞬間に、蒼い閃光は生まれる。

空間を、そしてドラゴンオルフェノクの腹を薙ぐ形で閃光はその全てを斬り裂く。



「一閃っ!!」





僕はそのまま斬り抜けて、無傷でネットを跳び越えた上でコートに着地。センチビートオルフェノクも同様。

でも、ドラゴンオルフェノクは胴体を両断され・・・・・・そのまま二つに分かたれて蒼い炎に包まれた。

その身体は呆気無くコートの上に落ち、まだ燃えていく。それを見てセンチビートオルフェノクは身を震わせる。



時計回りに身を翻して、僕はそのままあのバカその2を見据える。





「な・・・・・・貴様ぁっ!!」

「なに驚いてるのさ。・・・・・・言ったでしょうがっ! 僕の機嫌は最高に悪」



言いかけて、僕の言葉は止まる。それで身体に凄まじく嫌な予感が走り抜けた。



「もやし、避けてっ!!」





僕はそのまま予感に従って、右に大きく地面すれすれに飛ぶ。もやしは反応しかけたけど、遅かった。

上から白と黒が混じったような色合いの光弾が降り注ぎ、コートやもやしに打ち下ろされて穴を穿つ。

僕はなんとかその射程外に退避完了。範囲としては、コート一つ分だったからなんとか避けられた。



横のコートに着地して、もやしの方を見ると・・・・・・知らないオルフェノクがもやしに殴りかかっていた。

灰色で、リボンのようなものが這い回ったアーマーを装着している。というか、肩アーマーが上に突き出してる。

それで顔は・・・・・・虎かライオン? まぁ少なくとも猫とかには見えないけど、それっぽい顔になってる。



ソイツが左手で体勢の崩れたもやしの腹部に向かって大きな三本の爪を叩きつける。





「・・・・・・ぐぅ」



もやしは唸りながら吹き飛ぶ。爪の鋭さを表すかのように、派手に火花が上がりこちらに転がってくる。



「もやしっ!!」



僕はアルトを構えながら、もやしの方に近づく。当然前への警戒は怠らない。



「大・・・・・・丈夫だ」





もやしが起き上がって膝立ちになる中、ソイツは更に動く。そのオルフェノクは、未だに燃えている仲間に手をかざす。

そのかざした右手から数本の触手が生まれ、ドラゴンオルフェノクの身体に突き刺さった。

次の瞬間、ドラゴンオルフェノクの身体が白く光って・・・・・・うそ、復活した。それもなんか装甲装着バージョンで。



ドラゴンオルフェノクは、それまでの軽装なイメージの格好ではない形で復活した。

両手には大きく太い二本爪のクローを装備し、身体全体も分厚いアーマーで包まれている。

これ、ドラゴンオルフェノクの通常時の姿っ! てか、復活したっ!?





「オルフェノクに、命を吹き込んだだと?」

「おいおい、マジですか?」





そうして並び立つのは三体のオルフェノクと、一人の女。当然女もオルフェノクに変身する。

こっちは・・・・・・ロブスターオルフェノク。くそ、マジでラッキークローバーのオルフェノクばかりかい。

でも、あのオルフェノクは何? まぁまぁ残りの一人が変身したものだとは思うけどさ。



とりあえず2対4・・・・・・そしてもやしがダメージを受けた状態で、ここは学校内。僕は即座に判断を下した。





・・・・・・もやし、隙を見て逃げるよ

あぁ、それしかなさそうだな



数の上では不利。正直これなら、ユウスケを呼んで最大戦力でやり合った方がいい。

ここは相手の正体を知れたという事で、良しとしておく。さて、あとは・・・・・・情報を引き出す事だね。



「我々の正体を知られたからには、生かしてはおけない」



僕の知らないオルフェノクの影が、青白い人の姿を映したものに変わる。いや、それは他の三人の影も同様。

僕はもやしの傍らにしゃがんでアルトを突き出しつつも、警戒は怠らない。というか、座標軸をしっかりセット。



≪またお決まりなセリフを言いますね。で、そんなあなた達の目的はなんですか≫

「当然・・・・・・支配だ。オルフェノクは、人類を支配する」



そう言いながら、全員が踏み込んできた。まず僕は魔法を一つ発動。



≪Dark Mist≫



発生させた黒い霧で、10数メートル先に居た全員の視界を防ぐ。それからブレイクハウトも発動。

全員を囲む形でコートを隆起させて、一瞬でドームを作る。なお、魔力強化は込み。そこからもう一つ続けて魔法を使用。



「くそ、なんだこれはっ!!」

「邪魔よっ!!」






なんて言っている間に、僕ともやしはそこから姿を消した。なお、続けて使用したのは転送魔法。



その座標軸は、光写真館の撮影室。僕達はお昼時でのんきにご飯を食べていた四人の前に着地した。



・・・・・・一応はセーフだね。さすがに学校内に転送して、すぐに見つかってもアウトだったし。





「恭文っ!? それに士も・・・・・・どうしたんだよっ! 二人共変身したまんまじゃないかっ!!」

「そうですよっ! いきなりなんですかっ!? 世界探索はどうしたんですっ!!」



あ、なんか食卓に座ってた四人が驚いた顔でこっち見てるな。でもしゃあないか。

なおギンガさんは・・・・・・幸せそうにペペロンチーノすすって止まってた。あ、顔赤くなった。



「色々あったのよ。ユウスケ、お昼食べ終わったら僕達とちょっと付き合ってもらうよ」

「へ?」

「スマートブレイン・ハイスクールってところ、想像以上にやばかったんだよ。
そこに通ってたオルフェノクが、人類支配するとか抜かしてやがった」

『はぁっ!?』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



それで僕ともやしは変身を解除した上で、ペペロンチーノを食べつつ・・・・・・あ、これ美味しい。

和風の味付けにしてるせいか、とっても優しい味わい。僕は思わずキッチンに居る栄次郎さんの方を見る。

栄次郎さんはコーヒーを淹れつつも僕の視線に気づいて、誇らしげに笑った。





それで僕はまぁ、軽く頭を下げて『美味しいです』と視線で言うくらいの事しか出来なかった。










「・・・・・・それでアレなんですか? そのラッキークローバーって言うのが悪い人達で、二人だけだと勝てないと」

「そういう事だな。確かにあのリーダー格のはやばそうな感じだった。
てーか蒼チビ、なんでお前だけ攻撃避けてんだよ」

「もやし、それは僕は避けなきゃ死ぬからだよ? 前にも言ったでしょうが。
てーかおのれはライダーに変身出来る分、そういうところが弱くなってんのよ」



僕はそう言ってから、優しい味わいの和風ペペロンチーノをまた一口。・・・・・・あぁ、美味しいなぁ。



「あぁ、そういう事か。大体分かった。確かにそれならお前は避けないとダメだな」

「いや、分かりませんよっ! というか、避ける余裕があるなら士くんを助けてくださいっ!!
あなた、本当に私達の旅の目的が分かってないですよねっ! いい加減にしてくださいっ!!」



当然そんな事を言ってくるバカは無視。僕は楽しくペペロンチーノをいただいていく。



「大事な話をしてるんですから、無視しないでくださいっ! 大体士くんのどこが弱いんですかっ!!
ライダーだから強いに決まってますっ! あなたやっぱりワケが分からないですよっ!!」

「夏みかん、お前は黙ってろ。てーか説明しても分からないだろうが」

「だから私の扱いがひどくありませんかっ!? 分からないかどうかは聞かなきゃ判断出来ないじゃないですかっ!!」

「あー、はいはい。夏海ちゃん落ち着いて。ほら、ペペロンチーノが冷めちゃうだろ?」

「ユウスケもひどいですっ! ちゃんと私の話をみんな聞いてくださいっ!!」





・・・・・・そういう強い力や特殊な能力を『鎧』と例えると、僕達が戦うのはその鎧装備が前提になってる。

例えばもやしだったらディケイドへの変身。僕だったらバリアジャケットの装備と魔法の使用とアルトの力添え。

でも、その『鎧』ありきになってしまうと、どうしても弱くなってしまう部分がある。



例えばそういうのに守られているという安心感が、僅かな隙や驕りを呼び起こす。

さっきのシチュだってそうだよ。もしも僕が『一発でも当たったら死ぬ』って意識を持ってなかったら、もやしと同じになってた。

危険を、殺意を、驚異をその肌で感じ取る事。感じ取って行動を先読みして、反射速度を上げる事。



そのための技術は、これまでの積み重ねの中でしっかりと培ってる。だからこそ出来た。

そこは攻撃に関しても同じ。『鎧』のせいで『一撃で倒せなくてもいい』とか思ってしまう部分が出来る。

特に最近はそう感じるかな。もやしとかライダーの戦いを見てると、もう攻撃受ける事前提で進んでるし。



言うなら悪い意味でのプロレスだよ。避けられない攻撃なら、受けたままカウンターってさ。

あ、ちなみにプロレスが攻撃をほとんど避けないのは、そこに美しさや逞しさを見出す競技だからなのであしからず。

ようするに『これだけの攻撃を受けても立っていられる』というタフさを魅力とする競技だからだよ。



だからプロレスに魅了される人は、非常に多いの。そういう趣旨もあるから、必ず見せ場があるしね。





「・・・・・・なぎ君、言いたい事はまぁ分かるけど、多分なぎ君がその手の訓練相当してるのもあるんじゃないかな」

「気のせいでしょ。てーか僕はこれくらい出来なきゃ死ぬだけだし」

「それはまぁ・・・・・・そう、だね」



ギンガさんが一旦皿とフォークを置いて、僕の方に軽く前のめりに身を寄せてくる。

それでそのまま、心配そうな視線を僕に向けて・・・・・・あ、瞳が軽く潤んでる。



「ね、いっそ士さんやユウスケさんに任せるというのはどうかな。
やっぱりライダーじゃないなぎ君が戦うのは、危険が大きいよ」

「嫌。てーかこのままやられっ放しも傍観者もゴメンだし。
ただ『強い』だけの奴らに負けるのは、腹が立つのよ。なにより」

「その人達を放置出来ない?」

「・・・・・・まぁね」





・・・・・・強い力を持っている分、結局は気持ちの問題で油断しがちでかえって弱くなってしまう事は往々にしてあるの。

もし僕がライダーや怪人相手でつけ入る隙があるとしたら、多分そこだけ。というか、そこしかない。

だって相手はパンチ一発で○トンとか出せる超人よ? 同じような戦い方したらそりゃあ負けるでしょうが。



でも、いつだって勝負を決めるのはスペックでも使える能力でもない。それ自体は何の決め手にもなりえない。

決め手になってるとか思ってるとしたら、はっきり言ってソイツはバカだ。戦いにおいては『これを出せば勝てる札』なんて無いのよ。

ようするにアレだよ、例えばライダーと魔導師のスペックを逐一比べていくとするでしょ?



それをそのままぶつける形にしてシミュレートしたって、それは全くと言っていい程意味がないのよ。

そんなもの、何の役にも立たないね。実戦ではスペックなんて飾り同然なんだから。

さっきも言ったけど出せば常勝な札なんて、世界中探したってどこにもない。あるはずがない。



大事なのは自身のスペックや手持ちの札の能力を、戦いの場でどれだけフルに引き出せるかだよ。

言うなれば思考や発想、そして思い切りやノリというメンタルとインテリジェンスとセンス全般の問題。

手札にある内は、ただの札。その札を最大限に使う術を身に着けて、初めてその札は切り札になる。



常勝の札なんてないから、全ての札をフル活用して『勝つための札』を出し続けるしかない。

そのために必要なのが、メンタルとインテリジェンスとセンス。それがただの札をより強い形に昇華する。

でも、さっきも言ったようにこれらは強い力があると逆に育ちにくい部分だったりする。



その切り札を用いた上で相手の隙を狙って、ありったけを叩き込んで粉砕する。

だからこそ今までの戦いだって、なんとか勝利を収められたわけだし。てーか出来なかったら生きてない。

力が強い事があちらの弱みなら、こちらの強みは・・・・・・力が弱い事だね。



弱いからこそ、強くなれる。限界ギリギリまで感覚を研ぎ澄まし、強い連中が見逃す希望さえ僕は見い出せる。

そうだ、負けるつもりはない。ただ力があるだけの奴らに負けるほど、僕は緩くない。

そんな事を思い出しながら、あのオルフェノク達の姿を頭の中で描いていく。そして気持ちを固める。



それで心配そうな顔のギンガさんに、安心させるように笑いかける。





「大丈夫よ。危なくなったらさっきみたいに遠慮無く逃げる。死にたくないから、みっともなくても必死にね。
それで・・・・・・うん、必ず元の世界に帰すから。そのためにも、ちょっとは頑張りたいのよ」

「・・・・・・なぎ君」

「なによりせっかくの旅、僕は楽しみたいのよ。人任せなんてつまらないし。
知らない世界を自分の足で歩いて見ていくためには、やっぱ一歩踏み出さなきゃ」



ギンガさんはまだ何か言いたげだったけど、そこまで言って首を軽く横に振った。

それで僕の方を見ながら優しく微笑んでくれる。



「分かった。でも、今言った事だけは絶対守ってね? それだけは、お願い」

「ん、了解」



なんだろ、ご飯食べたらある程度落ち着いたのかな。朝よりは自然かも。

・・・・・・でもあのボケナスの話、やっぱり気になるんだよなぁ。うーん、どうなってんだろ。



「ところで士さん」

「おう、なんだ」

「さっきから気になってたんですけど・・・・・・カメラ、どうしたんですか?」



士がそう聞かれて、軽く目を見開く。そして右手で持っていたフォークを一旦離す。

その上で両手で自分の胸元をパンパンと叩いていく。それで顔が青冷めた。



「・・・・・・・・・・・・おい蒼チビ、俺のカメラどこだっ!?」

「いや、知らないってっ! だっておのれのカメラだしっ!! てーか・・・・・・アレっ!?」



えっと、テニスしてた時は当然身に着けてなかったでしょ? でも、学校来る前はあったよね。

それで写真撮って・・・・・・いや、アレはポラロイドカメラでか。・・・・・・・・・・・・あ。



≪写真部の部室ですよ。ほら、あの時はカメラを机に置きっぱなしでしたし≫

「「それだっ! ・・・・・・ちょっと待てっ!! だったらなんで早く言わないっ!?」」

≪いえ、いつ気づくかと思って楽しみにしてたんです≫

「「そんなんするなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」










こうして僕達はユウスケを引っ張った上で、改めてハイスクールに向かう事になった。





ただ、第一目標がラッキークローバー打破ではなくて、もやしのカメラ確保になってはいるけど。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・写真部の二人?」



学校に到着して、ラッキークローバーに気をつけつつも写真部の部室に向かった。

ただ、誰も居なかった。それでまぁ、軽く校内で聞き込みしたら・・・・・・こういう情報が出てきた。



「いや、見かけないけど・・・・・・普段なら毎日のように、あそこで写真撮ってるのに」



そう言って目の前の男子高生が指差すのは、学校の中庭。でも、そこには誰も居なかった。

それでその子はそのまま用事があるとかで、足早にこの場から去った。・・・・・・さて、どうするか。



「学校の外に出たって事かな。でも、まだお昼休みだしなぁ。・・・・・・もやしを探してるとか?」

「俺をって・・・・・・なんのためにだよ」

「カメラ返そうとしてるってのはどう? それなら学校の外に出たのも、まぁまぁ分からなくはない」

「なるほど、それはあり得るな。あの二人はお前と違って善良だから、そういう風に動くかも知れない」



このもやしは・・・・・・本当に一言多いね。僕、コイツみたいにだけはならないようにしよう。



「それなら学校の近辺を探してみるか。ラッキークローバー潰すにしても、カメラがないとどうしようもない」

「・・・・・・カメラがまるで秘密兵器みたいな扱いだよね。写真撮ったら魂抜けるーみたいなさ」

「蒼チビ、そりゃいつの時代の話だ。てーかよく知ってんな」










まぁそんな話をしつつも、僕ともやしは学校の外で待機してたユウスケと合流。





バイクで街を流しつつ、安全な速度であの二人を軽く探してみる事にした。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・・・・・・・なんなんですか、士くんまであの人の影響受けちゃってるみたいですし。
私の方が付き合いが長いはずなのに、無視されるなんておかしいです。やっぱりあの人、悪魔です」



あー、夏海さんがまた不機嫌だ。やっぱり龍騎の世界でなぎ君が殴ったりしたのがまずかったんだよね。

まぁまぁアレだけやったからこそ犯人を捕まえられたとも言えるけど・・・・・・困ったなぁ。



「ギンガさん、やっぱりお付き合いを考え直すべきです。あの人、良いところどころか悪いところばかりじゃないですか。
士くんが危なかったのに一人だけ逃げて助けないのは、あの人が冷たい人だからですよ。もう捨てるべきです」

「・・・・・・夏海さん」

「なんですか?」

「一度しか言いませんから、よーく聞いてくださいね? なお、二度目はご想像にお任せします。
私は彼氏を『悪魔』呼ばわりされたり悪口を愚痴られて平然としてるほど、人間は出来てませんから」



でもごめん。だからってそこで私に愚痴られても本当に困るの。だから私は、にっこりと笑って左拳を握る。

それで夏海さんは軽く視線を落として、私から離れてキッチンに居る栄次郎さんの方に行った。



”・・・・・・ブリッツキャリバー”

”はい”



ご飯をいただいて、多少は元気が出た。だからなぎ君とも、一応お話は出来た。そこは嬉しかった。

でも、夏海さんの愚痴のおかげでまた気分が落ち込んできたし。というか私、『お試し』彼女なんだけどなぁ。



”もうなんか疲れた”



私はいつものテーブルの上に突っ伏して、大きく息を吐く。



”Sir、心中お察しいたします。どうも彼女は妹君よりも空気が読めない方のようですね”

”まぁ仕方なくはあるんだよ。夏海さんは完全無欠に素人さんだから”





例えば以前言ったように私やなぎ君みたいに、この手の事に慣れてるわけじゃない。

フィアッセさんやゆうひさん達みたいに、腹が据わってるわけじゃない。まぁあの人達は色んな意味で凄いけど。

もうね、普通の人がこんな状況に巻き込まれたら、それは負担かかっちゃうよ。



家ごと世界を移動してるから、まだアレでもマシなんだよ? 私達みたいに身一つだったら、狂うかも知れない。

でも、今の発言は絶対にマズい。私の知る限りなぎ君は、あの手の発言を極端に嫌う。

ただなぎ君が多少は夏海さんに合わせてくれてるから、食事の時も同じような事言われても流してたけど。



だけど、表情を見てて気づいた。アレはそうとうムカついていたと思う。士さんやユウスケさんも気づいてた。

こうなると、夏海さんの事もなんとかしたい。じゃないと、間違いなく血の雨が降るよ。

現に士さんからもそれとなく教えられたけど、なぎ君は相当イライラが募ってるみたい。学校で大暴れだそうだから。



現にあの・・・・・・海東って人のアレコレもあったしなぁ。あとは夏海さんが釈放されてもあの状態でしょ?

喉元過ぎればなんとやらって言うのかな。もう色々と忘れちゃってるとしか思えないよ。

だけど私達のルールや常識押し付けるのも、きっと違うよね。そこをやったら、最低だと思う。



というかね、そこは以前なぎ君に散々やらかした反省もあるから、絶対にしたくなかったりはするんだよ。

だとすると・・・・・・どうにかして夏海さんに腹を括ってもらうしかないのかな。

やっぱり夏海さんは、ライダーに変身出来て怪人と戦える士さんやユウスケさんの存在に甘えてるフシがあるから。



もうちょっと言うと、二人なりなぎ君が居れば自分が何もしなくても結果を出せると勘違いしてる?

・・・・・・アレ、でもコレは違うな。上手く言えないけど、それならクウガの世界の時に士さんを怒った理由が分からない。

敵に対しての対応としては、アレは間違ってないもの。私だってそうするよ?



でも、夏海さんはライダー同士で戦う事に対して明らかな嫌悪感を表していた。そこは間違いない。

というかちょっと待って。お腹が空き過ぎて忘れかけてたけど、龍騎の世界でもそれっぽい話してなかった?

士さんがライダーと戦ったらだめーとか、そういう事を叫んでたような記憶がうっすらとだけどある。



なら、あの・・・・・・アレ、今までの私の夏海さんに対しての考察って、もしかしたら全部崩れるかも。



私はそこの辺りを思い直しながらも、もう一度夏海さんの方を見る。





「・・・・・・聞いてますか? おじいちゃん。とにかくあの人はおかしいです、私の事殴ったりもしましたし。
これ以上面倒見る必要なんてありませんよ。あんな悪魔は、即刻ここから追い出すべきです」

「あー、聞いてるよ。でもさぁ、それは夏海が悪い事したからじゃないのかね。
今時あんな芯の通った良い子は中々居ないよ? おじいちゃんは好きだけどなぁ」

「そんなの勘違いですっ! あの人はただ乱暴で自分勝手なだけですよっ!? おじいちゃんしっかりしてくださいっ!!」










・・・・・・夏海さんはなにやら愚痴りながらも、栄次郎さんの作業を手伝ってる。その様子を見て、考えがまとまった。

夏海さんがなぎ君を悪魔と言い出しているのはどうして? そのきっかけは・・・・・・あの予言者がそう言ってから。

でも、同じように言われた士さんに対しては? それまでの付き合いゆえか、その言葉を否定してる。





なんだろ、私にはあの温度差が単純な好き嫌いだけとはどうしても思えない。何かが引っかかってる。





なによりあの予言者、あの時なんて言った? よーく思い出してみて。お腹は空いてたけど、それくらいは出来る。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「あなたは」

「光夏海、この世界で君と会うのは初めてだったかな」

・・・・・・もしかして、あなたが

「そうだ、私が予言者だ」



予言者・・・・・・予言者っ!? ま、まさかユウスケさんやワタル王子に『ディケイドは悪魔』だと言った張本人っ!!

私は力の入らない身体を起こして、その人の方を見・・・・・・だめ。身体起こすのでやっと。立ち上がれない。



「それとギンガ・ナカジマ・・・・・・うるさい」

「いきなりなんですかっ!?」

「当たり前だろっ! 本来ならとても緊迫したシーンのはずなのに、君の腹の音がBGMなんだぞっ!?」 



・・・・・・ギンガ・ナカジマ。現在18歳。ファーストキスとバストタッチをしてから、まだ1週間も経ってない。

これでも恋する乙女。なのに私今、お腹の音がグーグー鳴りまくって辺りに響いてます。



「とにかく、私が予言者だ。ディケイドと・・・・・・あの少年が世界の破壊者だと言う、警鐘を鳴らすための」



そこの辺りの恥ずかしさで顔が赤くなってたけど、その言葉で一気に血の気が引いた。

この人の言う『あの少年』が、誰の事を指しているのかすぐに分かった。



「ディケイドは危険だ。そして残念な事に、あの少年もディケイドと同じように悪魔になりつつある。
だからこそディケイドに同調し、世界を破壊しようとしている。二人を一刻も早く止めなくてはならない」

「・・・・・・あなたの、あなたの目的はなんですか」

「そ、そうですっ! どうして士くんが悪魔なんですかっ!? それにあの夢はいったいっ!!



そう言いながら、力の入らない身体を必死に起こす。

立ち上がれないなんて思っていたのが嘘みたいに、身体はスッと起き上がった。



「・・・・・・君達を死なせるわけにはいかない」



どうやら、私達の質問に答えるつもりはないらしい。あの人は平然と話を進めた。



「特にギンガ・ナカジマ、君はあの少年に巻き込まれただけだ。
私に協力してくれるのであれば、今すぐに君達を自由にする。元の世界にも帰してあげよう」



夏海さんの表情がが嬉しそうなものに変わる。それで周りを歩く人達と、青くどこまでも広がる空を見上げる。

留置場の中だと、空は見えない。というより、空さえも格子越しでしか見られない。だから夏海さんは揺れる。



「そう、ですか。よく分かりました」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あの時の会話の中、いくつか気になる単語があった。そうだ、どうしてもっと早く気づかなかったの。

でもそれならなぎ君も知ってて・・・・・・あぁ、なぎ君はしかたないか。

神速の修行や旅してた関係で、ディケイドのテレビはチェックしてなかったらしいし。





というか、ライダー世界を旅するという設定を見て、ディケイドを見ると現状が悲しくなって来そうだから見なかったとか。

・・・・・・その話を聞いた時、やっぱりデンライナーで旅したかったんだなと思って申し訳なくなった。

そこの反省は後でする事にして、私は突っ伏していた机から一気に立ち上がって夏海さんの方へ早足で駆け寄っていく。





足音で私が近づいているのに気づいたのか、夏海さんが不満そうな顔のまま私に視線を向ける。










「夏海さん、ちょっと」

「え? あの」

「いいから」



私はそのまま左手で、夏海さんの右手を強く掴んで引っ張っていく。



「ギンガさん、離してくださいっ! というか、力強いですからっ!!」

「栄次郎さん、夏海さん少しお借りしますね。ちょっとお話があるんで」

「うん、大丈夫だよ。夏海、ギンガちゃんにしっかり謝るようにね」

「何をですかっ!? 私ギンガさんには何も言ってませんよねっ!!」










なにやら騒いでるけど、私はそのまま夏海さんを引っ張って撮影室を出る。それから玄関とは逆の方向に進む。

進んで入ったのは、現像室。そこに入ってから、夏海さんの手を離した。それからすぐにその両肩を掴む。

・・・・・・私が出来る事をひとつずつだよ。だってなぎ君、色々戸惑ってるはずなのに、まず私の心配をしてくれた。





早く帰すからって、言ってくれたもの。だったら、私もそれが出来るように頑張りたい。

それで会わせてあげたい。多分今なぎ君が、一番会いたい人に。・・・・・・それで、いいよね。

私はなぎ君の一番にはなれないけど、それでいいんだよね。だって、きっと笑ってくれる。





私は、なぎ君が笑ってくれるだけでいい。もちろんそれで私の事を見てくれるなら、とっても嬉しい。





でも、私が一緒に居る事でなぎ君が無理しちゃってる部分があるなら・・・・・・私は。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あー、バイク乗るの気持ちいいなぁ。というか、誰かと一緒に団体で走るのって、あんま経験ないのよ。

だから余計に楽しくて・・・・・・うぅ、これも旅の中での貴重な経験だよなぁ。

僕の周り、車の免許を持ってるのは多くてもバイクの免許はほとんど居ないからなぁ。





ヒロさんとサリさんと一緒に走った事はあるけど、あれはもうツーリングっていうか峠攻めだしね。

てーかサリさんが何気に凄い。サイドバッシャーのレプリカで峠攻めるし。あれは恐ろしい。

それで色々と問題を先送りにしてる感が否めないけど・・・・・・それでも僕達は軽めに走っていた。





流れる街の風景や風の感触を楽しみつつも二人を探していると、突然に人影が現れた。

距離にすると100メートル以上は離れていたし、速度もそれほど出していなかったので余裕で停止出来た。

ただ、道路に出てきた危ない奴の姿格好が問題だった。そいつは白の学ランを纏った男。





それは僕ともやしにはすっごく見覚えのある・・・・・・ドラゴンオルフェノクの男だった。










「・・・・・・ファイズを見つけた」



それでドラゴンオルフェノクの男は、本当に唐突にそう言った。それもこちらのへの敵意を隠さずにだよ。



「もうお前達に用はないっ!!」



ファイズを・・・・・・僕は咄嗟にもやしと顔を見合わせる。



「蒼チビ、お前の知ってるファイズに変身する奴の名前はっ!!」



もやしが慌てた様子で聞いてきたので、僕は苦くなっていく表情をフルフェイスのヘルメットに隠しながら応えた。



「乾・・・・・・たくみ

「なるほど、大体分かったっ! くそ、姿が見えないのはそういう事かよっ!!」





まぁまぁ今までのパターンからすると、そう来るかなとは思ってた。でも、違う可能性も否定出来なかった。

だから注意しておく程度に留めておこうと思ったけど、それが失敗って・・・・・・くそ、マジ困るぞ。

そもそも、こういうのって基本的には『極力原作情報出さないように』って言うのがデフォじゃないのかなっ!?



あぁもう、こうなったら次の世界からは原作情報全開で頑張ってやるっ! うし、今決めたわっ!!





「・・・・・・もやし、ユウスケ、ここは僕が。二人は先に行って」

「恭文っ!?」

「ナナタロス、セットアップ」



僕はそのままセットアップして、バリアジャケットとアルトを装着。

それから素早く自動で展開したナナタロスのカードホルダーに、右手で7つの剣のカードを挿入。



「蒼チビ、お前どうするつもりだ」

「ラッキークローバーを個別撃破するチャンスだ」



答えながらも、左手でナナタロスの方は見ずにホルダーを閉じる。・・・・・・これで準備よしっと。



「ここでまず一人・・・・・・潰す」





ここで三人揃って突破しても、結局コイツが乱入してきて乱戦になるのは確実。

現場の状況がどうなってるかってのが不安要素だけど、ぶっちゃけここで逃がす理由はない。

せっかく一人で出てきてくれてるんだ。この場でぶっ潰すのが正解でしょ。



ただし、今の話がハッタリで僕達の誰かがこういう行動に出るのを見越してるってのも考えられる。

その場合考えられるのは、周囲に伏兵を用意して四人でたこ殴りコースだよ。

いや、もしくはあの予言者? 一応そこの辺りを警戒しておくに越した事はないはず。



そうなったら転送魔法で素早く逃げる。ここはギンガさんと約束してる通りだよ。





「・・・・・・分かった。だが蒼チビ、ギンガマンはこれ以上泣かすなよ? 俺がめんどくさい」

「だな。恭文、危なくなったら遠慮なく逃げていいからな。絶対深追いはするな」

「分かってるよ」



僕はアクセルを吹かしながら、不敵に笑いつつ両手を広げたあのドラゴンオルフェノクの男を見据える。



ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!

「行ってっ!!」

『おうっ!!』




僕はそのまま突撃。そしてアクセルを開けながら叫んだ。



「コード・ドライブっ!!」

≪Z Mode Ignition≫





アルトとナナタロスが蒼い光になって、二つに分かたれる。それは加速する僕の周囲にそのまま展開。

光の内一つが六つに分かれて、そのままこちらへ走りよってくるドラゴンオルフェノクに掃射される。

1発ずつ光はドラゴンオルフェノクの分厚い鎧を貫き、弾かれたように後方に飛ばされる。でも、ダメージは与えていく。



1発当たる事にドラゴンオルフェノクの突撃の勢いは殺され、5発目には動きが完全に止まった。

残り二つの光のうち一つは、僕の背中にくっついて黒いホルダーへと変化する。

そして最後の一つは僕が右手を加速しながらも右に向けて差し出すと、その手の中に収まった。



光は両刃のロングソードへと変化し、蒼い粒子を撒き散らす。

刃に僅かに残っている粒子達を振り払いながらも、デンバードは僕を乗せて加速。そのまま飛び上がる。

そうして僕はドラゴンオルフェノクの顔目がけて、アルトの刃を左切上に打ち込む。



ううん、加速を活かしてそのまま斬り抜ける。ドラゴンオルフェノクの頭部に激しく火花が走り、奴は転げ落ちた。





「・・・・・・じゃ、また後でねっ!!」





僕は叫びながらもドラゴンオルフェノクの後方に着地。そのまま滑るように反転。

その周囲に、先程衝突した際にこちら側に来ていた光達が降りてくる。

光達は回転しながら、その姿を刃に変えてひとつずつホルダーに装着されていく。



まず一つ目は刃に柄を埋め込んだ形の片刃の剣・・・・・・二鉄。

二つ目と三つ目は片刃で細身の鍔のないロングソード二振り・・・・・・三鉄と四鉄。

四つ目と五つ目は、これまた片刃の短剣・・・・・・五鉄と六鉄。



僕はそのままバイクを降りて、数歩前に進む。その左横を最大速度でもやしとユウスケが走り抜ける。



・・・・・・セブンモード、装着完了。僕は左手で二鉄を順手で持った上で引き抜く。





「もう用が無いのはお前の方だよ、三流」



軽く微笑みながらそう言い切ってやると、顔を押さえながら起き上がった三流は激しく唸る。

まるで僕を威嚇するように。はたまた・・・・・・『殺してやる』と言わんばかりに。



「わざわざファイズが出てきてくれた事を教えてくれて、ありがと。
んじゃ、お礼にもう一回殺してやるよ。・・・・・・来な」

「調子に乗るな・・・・・・人間風情がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



そのまま両腕を広げて、ドラゴンオルフェノクは突進してくる。だけど、その足は遅い。

復活する前より重装甲だから、重量感は増してるけどその分・・・・・・って事だね。



「調子に乗ってんじゃねぇよっ! 三下がっ!!」










僕も当然ながら、一鉄アルトと二鉄を持った上で突撃。ただ、当然だけどいつ横槍が入ってくるかも分からない。





周囲の気配や変化には十二分に気をつけた上で、僕はこの三下と再び戦う事になった。




















(第11話へ続く)




















あとがき



恭文「というわけで、ディケイドクロスの10話です。ファイズの世界・・・・・・話進まないしっ!!」

あむ「いやいや、アンタがフェイトさんの事思い出してちょっとセンチになったりしたせいじゃんっ! そして回想で尺稼ぐのはダメだからっ!!」

恭文「いや、フェイトは僕の永遠の嫁だから当然」

あむ「こらー! ちゃんとここではギンガさん押しでいきなよっ!! てーかギンガさん可哀想じゃんっ!!」





(いや、賢者の贈り物みたいな感じと思えば、それはそれでアリかも)





あむ「というわけで、ちょくちょく入るフェイトさんとの思い出シーンの回想がなんとも嫌な予感しか感じさせない日奈森あむと」

恭文「おそらくその予感は的中だと思う蒼凪恭文です。で、今回はアレだね、お話的にはあまり進んでないんだけど」

あむ「ラッキークローバーがオルフェノクだって言うのと、ユウスケさんを戦力に加えた上での戦闘開始だよね。
というか、今回の範囲だと誰がファイズかって言うのは描写されてないんだよね。まぁ『やっぱりかー』って感じだけど」





(てゆうか、難しい。ある意味中途半端な原作知識ありで転生したーってお話と同ラインではあるから。
どこまで原作情報活用して話を進めるべきなのかとかが、未だによく分かってなかったりする)





あむ「でも恭文、あたしこれでちょっと興味あって、ファイズをTSUTAYAで借りてみたんだよ。
ほら、アンタやヴィータさんがやたら押してくるし、一応勉強はしとこうかなーと」

恭文「あ、そうなの?」

あむ「うん。まぁ序盤も序盤までしか見てないんだけど・・・・・・ファイズのベルトって、なんで主人公は使えるの?
ほら、園田真理とか健太郎って人は、ベルト装備して変身ーってやったらErrorになって弾き飛ばされちゃってたし」

恭文「・・・・・・あむ、そこをここで聞いちゃうの? そこをここで聞いちゃうのはネタバレと同じだって」

あむ「え、そうなのっ!? てゆうか、ため息吐かないでくれるかなっ! まるであたしKYみたいじゃんっ!!」





(いや、真面目にKYだ。しかもこの段階でそれは・・・・・・ねぇ?)





恭文「とりあえずあむ、そこをここで説明しても、続きが楽しめなくなるから最後までみなさい。そうすりゃ分かるから」

あむ「投げっぱな伏線にならない?」

恭文「ならないならない。てーかどこで覚えたのよ、そんな認識」





(現・魔法少女、それなりに色々と勉強しているようであります)





あむ「で、次回はついにアレの登場だよね」

恭文「そうだね。そして何故にこんな状況になったのかもきっと明かされる・・・・・・はず」

あむ「はずってなにっ!?」

恭文「まぁそこは置いておくとして、本日はここまで。次回はどうなるか楽しみな蒼凪恭文と」

あむ「フェイトさんはマジでどうなるのかと心配な日奈森あむでした。・・・・・・てか、ヒロインじゃない?」

恭文「あながち間違ってないね。このルートは超・ギンガさんルートに繋がるから」

あむ「つまり『ギンガ・ナカジマとフェイト・T・ハラオウンの場合』になるんだね」

はやて(通りがかった)「・・・・・・アンタ、エロ過ぎやろ。あのギンガとフェイトちゃんを二人同時にやなんて。
というか鬼畜やな。アレやろ、やっぱ巨乳好きやろ。巨乳好きやから、そうなってまうんやろ」

恭文「違うよっ!? てゆうか、それはないからっ! 大体フェイト好きになった頃はまだ12〜3歳時だっつーのっ!!」










(それでも蒼い古き鉄を疑わしく見てしまうのは、きっと色々な前歴のせいだと思う。
本日のED:水樹奈々『Trickster』)




















ギンガ(IFルート)「・・・・・・なぎ君とフェイトさんと三人で。あの、どうするんだろ」

フェイト(IFルート)「私もちょっと分からないかも。というかあの、AVとかは今ひとつ参考にならない感じだし」

恭文(IFルート)「いや、当たり前でしょ。アレはわざと派手めに・・・・・・って、そうじゃないからっ!!
あの、気にするとこ間違ってないっ!? もっと気にするべきところがあるよっ!!」

フェイト(IFルート)「あの、それもそうだね。ちゃんとヤスフミとお話した上で、これからの私達を決める必要があるし」

ギンガ(IFルート)「私もフェイトさんに負けないように、自分の歌を磨く必要があるんだよね」

恭文(IFルート)「そうそう。まずそこから・・・・・・アレ、なんか違うような」

古鉄(IFルート)≪そうですね、違いますね。おそらくもっと細かいところだと思いますから≫










(おしまい)






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あきゅろす。
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