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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第9話 『555の世界/ファイズ学園のススメ』



恭文「前回のディケイドクロスは」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・いやぁ、二人共遅かったねぇ。それで、どうだい?」

「あの、すっごく美味しいです。・・・・・・うぅ、もう留置場のお弁当はごめんかも」

「ギンガさん、アレだけお弁当平らげてよくそんな事言えますねっ!? というか、泣かないでくださいっ!!」





二人が今涙ながらに食べているのは、ローストチキンをほぐして栄次郎が作った洋風おじや。



僕達も頂いているのだけど、これが中々。ご飯にチキンの味が染み込んでいて美味しい。



あとはじゃがいもとかの野菜も入っているので、それにも味が染み込んでいてとっても幸せ。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



恭文「というわけで、そんなおじやの作り方を栄次郎さんから教えてもらうお話です」

もやし「・・・・・・よし、俺はツッコまないぞ。俺は絶対にツッコまないからな」

恭文「もやし、空気読もうよ。おのれは一体どこの横馬?」

もやし「むしろお前が読めよっ! そして俺は今激しくバカにされた気がするが気のせいかっ!?」

恭文「やだなぁ、むしろ僕は読んでるよ。読んだ上で死亡フラグやらなんやらを破壊するように行動してるんじゃないのさ」

もやし「そのためにアレかよっ! お前、前回のアレコレで相当だったのはそのためかっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



さてさて、僕達がやってきたのはファイズの世界。さすがに夜から行動開始は無理っぽい。

まぁ僕は夜のヴァイオリンの練習も頑張った上で、就寝した。・・・・・・え、ギンガさんへのフォロー?

ごめん、僕には無理。だっておじや食べて満たされてる感じだもの。今は触れたくない。





だって僕・・・・・・フェイトの事考えて、ドキドキしてる。練習してる時も、ずっと考えてたし。





まぁそんな痛みを抱えつつも、翌朝。食卓に豪勢な朝食が並んでいた。それを見て僕ともやしは感嘆とする。










「「・・・・・・なんじゃこれっ!? 朝から頑張り過ぎだってっ!!」」





中心にはお味噌汁。あとはおひたしに焼き魚に・・・・・・また豪勢な。

てゆうか、栄次郎さん? 僕は朝食の準備今日はお任せしちゃったから手を出してないし。

・・・・・・驚いていると、後ろから気配がする。その気配は、僕の知らないもの。



咄嗟に後ろを振り向くと、黒髪を首元まで伸ばして、二つに分けている男が居た。

目は優しげに僕ともやしの方を見ていた。・・・・・・服装は緑色のシャツに、無地のピンク色のエプロン。

そして下はロングのジーンズ。なお、当然ながら僕ともやしはこんな人知らない。





「君の好きなものばかりを作っておいた。・・・・・・というか」



アレ、なんか僕の方を怪訝そうな顔でジッと見てくる。



「・・・・・・あの」





僕がどうしたんだろうと思っていると、撮影室の入り口が開いた。

そこから栄次郎さんと夏みかんとユウスケとギンガさんが入ってくる。

当然だけど、知らない顔を見て驚いた顔をするわけだよ。



それでその人は、僕とギンガさんの方を見ながら何かを納得した顔になる。





やっぱり君は、自分のお宝に向き合えていないわけか

「・・・・・・えっと、はい?」

「初めまして、士がお世話になっています」



そう言いながら、その人は優しく微笑みつつもお辞儀。



「海東大樹です」

「お世話・・・・・・あなた、士くんのお知り合いですか?」

「そうなの、もやし?」



まぁさっきの怪訝そうな様子からそれは無いと思った。でも、一応聞いてみる。

なぜか髪が逆立った状態のもやしは、ため息を吐きつつあらぬ方向を見ていた。



「こんな奴」

「えぇ、知り合いですよ。それもずっとずっと昔から」



でも、そんな風な返しが来た。だから全員で海東と名乗ったあの人を見る。



「あの、まさかそれでその・・・・・・士さんと同じように8つの世界を」

「えぇ、旅しています。そもそも世界を救うのは僕の仕事だ」



海東という人は、そう言ってからもやしを横目で見る。



「士、君にはまだ早い。僕の後を追いかけてくるのはやめてくれないか」

「なんだと?」

「君は僕の足元にも及ばないという事さ。これ以上邪魔はしないでくれたまえ」



な、なんかいきなりケンカ吹っかけてきてるっ!? というかキャラ変わってるんじゃないかなっ!!



「それとそこの少年君もだね」



そして僕にも飛び火したっ!? おいおい、まさか悪魔扱いが浸透してるんかいっ!!



「こんなところに居ないで、とっととあの金色の髪の彼女とあんみつ子ちゃんのところに帰るべきだよ。
君には君で、ちゃんと彼女達と向かい合ってやるべき事があるんじゃないのかい?」





あの人はそう言いながら僕に左手を伸ばして、優しく撫でてくる。

表情は微笑んでいるけど、僕は・・・・・・ただただ呆然としていた。

ううん、それはギンガさんも同じ。瞳が揺れている。



とりあえず『あんみつ子』が誰かは分からない。でも、金色の髪が誰を言っているのか分かった。





「・・・・・・アンタ、フェイトの事」

「あぁ、知ってるよ。というか少年君、君はまたひどいね。
あんみつ子・・・・・・日奈森あむちゃんの事は聞かないのかい?」

≪いや、誰ですかそれは。少なくともこの人が落とした女の子だと言うのは分かりますが≫

「おのれは人をなんだと思ってるっ! てーか落としてないからっ!!」



アルトと僕がそう言うと、その人は少し怪訝そうな顔をして・・・・・・納得した顔になった。



「よし、日奈森あむちゃんの事は忘れたまえ。君には関係ない事のようだ」

「なんですか、それっ!? てーかアンタ、さっきから話おかしいからっ!!」

「とにかく少し前まで僕は、君じゃない君や彼女達と一緒に居たからね」



そして僕を無視して話進めるんかいっ! くそ、スバルや横馬やリンディさんとは違うベクトルで話出来ない人だなぁっ!!



「それで少し世話にもなった。だから君が士と居るのを見た時、本当にびっくりしたよ。
ま、君が君じゃないというのはすぐに分かったけど・・・・・・まさかこう来るとは」



それは謎かけのようなもの。だから余計に頭が混乱する。この人・・・・・・一体何の話をしてる?



「まぁそういうワケだから、早目に帰るように。じゃないと、フェイトさんが寂しがるよ? 君にベタ惚れなんだし」



そう言ってあの人は僕の頭から手を離して、エプロンを外して近くの椅子にかけた。

そしてその近くに置いてあった暖色系のジャケットを手に取る。その時、チラっとギンガさんの方を見た。



「なにより君だって気づいてるはずだよ? 今の彼女じゃ君のお宝には絶対になれないし、なっていない」



そう言われて、ギンガさんの目が見開く。それで口元を押さえて軽く震え出す。

でも、僕は何も言えない。なんでか反論する気も起きなかった。



「今の君は彼女を傷つけたくがないために、自分の本当のお宝の価値から逃げているだけだ。
早く思い出したまえ。君の守るべき、本当のお宝がなにかって事をさ。・・・・・・じゃあね」



そのまま軽やかな足取りで、撮影室を出て行った。でも僕は・・・・・・どうしよ、何言っていいか分かんない。



「アルト」

≪私に聞かないでくださいよ。今ひとつ電波的でさっぱりなんですから。というわけで、ユウスケさん≫

「あぁ・・・・・・って、俺に振るなよっ!!」



しゃあないでしょうがっ! 他に振れる奴居ないしっ!! てゆうか、マジでこの空気はなにっ!?



「なぁ恭文、あの海東って人の事は」

「知らない。ちなみに途中で名前の出た日奈森あむってのも、全く知らない」

「でも、向こうは士だけじゃなくてお前の事も知ってるっぽかったよな。
ついでにその子とお前が親しい感じっぽい話もしていた」



ユウスケはそう言いながら、あの人が出て行ったドアの方を見る。僕も自然と動かす。



「いいや、それだけじゃなくて・・・・・・金色の髪の彼女もか」

「うん。でも、知らない。僕は・・・・・・あんな人、知らない」










厄介な事は、そして謎はどんどん増えていくばかり。





そして僕は・・・・・・瞳に涙を浮かべ始めたギンガさんに、やっぱり何も言えなかった。




















世界の破壊者、ディケイド。8つの世界を巡り、その瞳は何を見る。










『とまとシリーズ』×『仮面ライダーディケイド』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄と破壊者の旅路


第9話 『555の世界/ファイズ学園のススメ』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



なぜか無言だった朝食を適度にいただいてから、僕ともやしは外に出た。





なお、ご飯はとっても美味しかったです。自然薯のとろろまであったしなぁ。










「・・・・・・蒼チビ、質問が二つある」

「なにさ」



灰色のブレザーの制服を着た高校生くらいの子達が沢山歩いている並木道の中、もやしが視線を僕に移さずに聞いてきた。

なお、僕達もその子達の流れに乗る形で歩いています。もやしは僕の左隣で、あいかわらずの仏頂面。



「一つ、ギンガマンはあのままでいいのかよ。朝食の時、ずっと沈みっ放しだったろ。
その上いつもならご飯のおかわりを最低でも7杯以上するアイツが、3杯しかおかわりしてない」



うん、知ってるよ。栄次郎さんが心配してたしね。それでギンガさん、僕と目を合わせようともしてなかった。

というか、僕も目を合わせ辛かった。・・・・・・もう予想はついてると思うけど、空気が暗くなった原因は僕達二人だったりします。



「僕にどうしろと? あの海東ってのがなんで僕達の事知ってるかも分からないのに。
まぁもしかしたら、あの予言者が僕の世界の事を知ってたのと同じかも知れないけど」

「・・・・・・なるほど、大体分かった。向こうさんはマジで色んな世界を旅出来る。
だからお前の事も知ってて当然。あのお前じゃないお前に会った事どうこうって話はただの嘘」

「その可能性はある。いわゆるハッタリだよ。例えば・・・・・・もやしと同じく『悪魔』らしい僕への揺さぶり?
やっぱり僕やギンガさんの存在は、向こうからするとイレギュラーだと思うんだよ。だから潰しにかかってる」



もうちょい言うと、あの予言者と繋がっている刺客って可能性がある。ようするに内側から攻めてるわけだよ。

ただ、不思議とその可能性はナシだと思ってしまう自分が居るのが悲しい。海東は予言者とはまた違う感じがするの。



「とにかくよ、僕の意見としてはアイツの発言にイチイチ動揺する方がおかしい。どっしり構えてるべきだね。
で、ギンガさんにも一応念話でそこの辺り言ったってのに・・・・・・あの調子だもの。ホント困っちゃうよ」

「なんだ、一応は話してたのか。・・・・・・だが当たり前だろ。誰も彼もお前みたいには出来ないんだよ」

「この場合はしてくれないと困るんですけど」



こっちは命かかってるし、某夏みかんみたいになられても困るのよ。

・・・・・・ギンガさんの事、何がなんでもゲンヤさんのところに送り返さなきゃいけないし。



「それでもだ。特にギンガマン夏みかん辺りと違って、繊細だしな」

「あー、それは確かにね。でも夏みかんみたいになって欲しいとは思わない」

「当然だろ。あの凶悪な女がもう一人なんて、俺は絶対にゴメンだ」



ギンガさん、普段は頼れるお姉さんキャラなのに・・・・・・結構脆いところあるしなぁ。

うーん、何かフォロー考えるべきなのかなぁ。でもなんだろ、ちょっと躊躇ってしまう。だから自然と表情が苦くなる。



「とにかくお前はアイツに会った覚えも、日奈森あむってのにもマジで心当たりがないんだったな」

「ない。金色の髪は・・・・・・多分フェイトだと思うけど」

「噂に名高い、お前の初恋の相手か」

「うん」





やっぱ分からない事だらけだ。というか、僕じゃない僕って一体どういう事よ。

マジで会った事があるってのが嘘じゃなかったら、どういう理屈になるのさ。

・・・・・・例えば10歳の頃までの記憶は、結構あやふやであんまり覚えてはいない。



だからその空白期間内で海東と僕が知り合ってるとかなら、まぁまぁ分かるんだよ。

でも、そうじゃない。あの人はあそこで『少し前』って言ってたんだよ?

それにフェイトの話も出した。つまり・・・・・・そこまで考えて、僕は右手で頭を抱える。



やばい、マジで頭痛い。具体的にはギンガさんのアレコレが頭痛い。

僕に一体どうしろって言うのよ。何言っても通じないっぽいのにさ。

・・・・・・僕一人だったら、まだ楽だったのに。それなら僕だけが悩めばすむ話。



偶発的にとは言え、ギンガさんだけでも早く帰したくなった。

ギンガさんをこれ以上旅に巻き込むのは忍びない。

というか、ギンガさん見てるとハラハラして旅楽しむどころじゃない。



もちろん夏みかんほどじゃないけどさ。それでもこう、色々考えたりするわけですよ。

だって逮捕されたりしてるし、基本ロクな事が何一つ起きてないのよ?

その上これで・・・・・・くそー! 本当に頭痛いしー!! もっと僕に旅を楽しませろー!!





「てゆうかもやし、おのれはどうなのよ。まぁさっき言った通り、それすらも嘘って可能性はあるけど」

「あいにく覚えはないな。無くしてる記憶の中でどうこうって話だったら分からないが。
つーかあのムカつく性格は記憶喪失でもしてない限り、忘れたくても忘れられないだろ」

「・・・・・・確かに」





現にたった5分足らずで、こっちの人間関係引っ掻き回してくれてるしね。



あの海東の性格のフリーダムさは、確かに忘れようがない。



もやしが記憶喪失じゃなかったら、『知らない』って言われても疑うところだよ。





「というかあの予言者のおっちゃんも、全く覚えないんでしょ?」

「だな。アレも忘れようがないし。てーか俺、夢に見ちまったよ。
夢の中まであの気持ち悪い顔で笑ってんだ。もう寒気が走って髪にまで影響が出たぞ」



え、だから髪逆立ってるのっ!? だからなんか今回はずっとそんな感じなんだっ!!



「で、もう一つの質問だ。・・・・・・お前、それコスプレか?」





失礼な事を言うもやしに、遠慮無く左の裏拳を叩き込んだ。顔面に命中したからなのか、なぜかもやしがへたり込む。

・・・・・・現在僕達、学ラン着てます。周りブレザーなのに、僕達だけ学ランです。すごい目立ってます。

なので外に出てこの格好になった時、すぐに持ち物を調べた。だって、普通に学生かばんまであったんだし。



もやしは片手で持つタイプだけど、僕はリュック式で背負うタイプ。それであるものを見つけた。

それは学生手帳。その中身を見るとそこには『SMART BRAIN High School』と書かれていた。

つまり、僕達が向かっているのはそのスマートブレインハイスクールなのよ。うん、怪しいよね。



それでカバンの中には、まだ妙なものが入っていた。それはA4サイズの一枚の用事。

そこには『連絡事項』と大きく書かれていて、オルフェノクの話が出ていた。

オルフェノク・・・・・・この世界では人が死ぬ時、極々たまにオルフェノクとして蘇る場合がある。



オルフェノクは、まるで石膏像のように灰色単色の怪物に変身する能力を持っている。そして人を遥かに超えた力を出せる。

ううん、その怪物の姿こそが本当の姿。オルフェノクのなった存在が人間に変身出来ると言った方が正解かも。

それでこの学校にも、オルフェノクが度々出没しているらしい。そこを注意するようにと言う趣旨の用紙だった。



普通に暮らしてる分なら問題はないんだろうけど、オルフェノクとなった存在の大半は力に溺れる。

力に溺れ、自分達より弱い人間を見下して次々と襲っていく。それがこの世界では社会問題になっているっぽい。

しかもオルフェノクに殺された人間も、たまにではあるんだけど同じオルフェノクとして覚醒するらしい。



つまり、オルフェノクが仲間を増やそうと思ったら、人間を殺していくのが一番手っ取り早い方法なのよ。

だから僕ともやしも、そこの辺りを調査するために学校に向かってるわけですよ。というか、学生服だしなぁ。

どういうワケか、僕のはダボダボで手が完全に出ないけど。なんかね、女の子の視線が突き刺さる。



通りすがる子に『なにあの子、なんか可愛いー』とか呟かれるのは辛い。





「てーか蒼チビ。今また気になったんだが」



もやしが鼻を左手で押さえながら、僕の方をなぜだか恨めし気に見ている。



「オルフェノクやらスマートブレインやらも、お前の知ってるファイズに出てた単語か?」

「・・・・・・うん。だからね、もうブッチギリで怪しく見えるのよ」

”やはり知り過ぎてるのも困り者ですね。というか、これだと本当に異世界来訪物なノリじゃないですか”

”確かにね”



なんて言っている間に、学校に到着。すると、そこに左手を三角巾で覆っている人が必死に声をあげていた。

その人は警察官らしき人達と話していて、服装は警備員の格好。似てはいるけど、拳銃の類がないので気づいた。



・・・・・・本当なんだっ! 昨日突然にオルフェノクが出てきて・・・・・・それにファイズもっ!!



その人達を横目で見ながら、僕は軽く目を細める。・・・・・・オルフェノクとファイズ?

察するにあの人、この学校の警備員だよね? じゃなきゃ、ここで服着てる理由が分からないし。



「もやし」

「間違いないな。マジであの用紙に書かれてた事、マジらしい」

「・・・・・・大事な事だから二回言ったんかい」

「まぁそんなところだ」










そんな話をしつつ、僕ともやしは校内に入っていく。でも、オルフェノク・・・・・・かぁ。





やっぱりギンガさんには、極力関わらせないようにしよう。もしかしたら辛い想いさせちゃうかも知れないし。





・・・・・・オルフェノクは、確かに人ならざる者。でも、やっぱり元は人なんだよ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



六課の部隊長室の中の空気が重いのは・・・・・・仕方ないのかな。





だって手がかりと言える手がかりが、全く無い状態だったんだから。





ただ、今日は少しだけ違った。だから私の前でソファーに座るはやてが、困った顔になる。










「・・・・・・ディケイド?」

「そや。あー、フェイトちゃんにも分かるように言うと、電王の次の次のライダーよ。
今地球でテレビやっとる。それでおそらくやけど、ディケイドも実在しとると見てえぇ」

「はやて、それがどうかしたのかな。確かに電王は実在してたから考えられなくはないけど」



でも、そう考えるとその・・・・・・今までテレビでやってた他のライダー全てが実在してても、おかしくはないんだよね。

私もアレは衝撃的だった。なんというか、私って狭い世界の中に居たのかなってカルチャーショック受けたもの。



「残念ながらどうかするんよ、それがな。・・・・・・フェイトちゃん、今から言う話はあくまでもうちの勝手な憶測や。
妄想の類言うてもえぇ。そやから、絶対になのはちゃんとかスバル達に言わんように。もちろんリンディさん達や局にもや」

「あの・・・・・・うん」



はやてがやたらと真剣な様子で念押ししてくるので、私はただ頷く事しか出来なかった。

とにかくはやては私が頷いたのを見てから、息を入れ替える。



「・・・・・・恭文とギンガ、そのディケイドと一緒に居るかも知れん」

「はぁっ!? あ、あのはやて・・・・・・それってどういう事かなっ!!」

「あぁ、ちょお落ち着いて。・・・・・・ヒロリスさんとサリエルさん経由で話されたんよ。
まずうちとスバルが見たあのオーロラ、ディケイドに出てきてるもんやった」

「ディケイドの・・・・・・そのお話の中でだよね」





・・・・・・はやては頷いてから、私に簡単にディケイドの話の内容を説明してくれた。

まずディケイドは、色んな仮面ライダーの世界を巡って旅をしている。

一種のクロスオーバー的な感じらしくて、過去に放映されたライダーが出てくるとか。



それはどういうワケか突然に崩壊し始めた世界を救うための旅で、あのオーロラはその予兆。

もうちょっと言うと劇中では、世界の境目の歪みとかそういうものとして描写されているらしい。

それを聞いて、寒気がしてきた。つ、つまりその・・・・・・あの、それってえっと。





「はやて、それって次元世界そのものが崩壊しようとしてるって事?」



そのオーロラが現実に出てきて、ディケイドが電王と同じように実在してたとしたら・・・・・・そうなっちゃう。

つまりヤスフミとギンガはそのオーロラにたまたま飲み込まれて、その異変に巻き込まれた? ・・・・・・だめ、寒気が止まらない。



「いや、そうとも言えん。てゆうかフェイトちゃん、うちこの話聞いて改めて考えたんよ。
・・・・・・良太郎さんやモモタロスさん達は、一体どこの世界から来たんや?」

「え? それは当然地球だよ」

「でも、うちらの世界ではイマジンなんて出てない。良太郎さんも居ないし、ミルクディッパーかてないはず。
てゆうか、有ったら今頃大騒ぎやで? 良太郎さんは今現在人気絶頂の有名俳優のそっくりさんでもあるし」

「あ、そっか。良太郎さんは私達の世界だとテレビの俳優さんがやった役だし・・・・・・そうなるんだよね」



でも、いきなりその話をし出す理由がよく分からなかった。つまりあの・・・・・・えっと、どういう事かな。

ごめん、そこが本当に分からない。そこの辺りの困惑が、表情に出ているかも。



「なら、私達が知らないだけでそういう別世界じゃないかな。だから来れたんだよ」





私達が知らないだけで、私達の住んでいた地球と同じような世界がある。

その管理外世界に電王は居て、良太郎さん達は暮らしているんだと思う。

実際ヴェートルと地球というよく似た文化の世界も、現実に存在しているもの。



そういう世界が別にあったとしても、特に問題はないんじゃないかな。





「つまり良太郎さん達の『地球』は管理外世界で、次元空間を移動してっちゅう事やな」

「うん・・・・・・アレ?」



アレ、ちょっと待って。私の話している事、何かおかしい。

だってあの時デカ長・・・・・・オーナーはなんて言った?



「そういう事や」



はやてはまるで、私が考えた事が分かったような感じでそう言って頷いた。



「あの時オーナーは、時の線路を活用してこっち来た言うた。
自分達の世界がうちらの知っている次元世界の一つで、そこから来たとは言うてないよ」



そうだ、確かにそんな話は・・・・・・まぁそれっぽい話はしてたけど、細かいところはボカしていた。



「ここからがうちの『妄想』なんやけど、『次元世界』に良太郎さん達が居る世界はどこにもないんやなかろうか。
つまりよ、今までうちらや管理局がそういう風に言うてた場所そのものがひとつの世界になっとるんやないか思うんよ」

「あの、えっと・・・・・・はやて、ちょっと待って」

「あのオーロラが次元世界が壊れる予兆と言うたら正解や。でも、それは半分だけ。
あのオーロラが出始めた事で、マジな『別世界』の住人である良太郎さん達の世界まで危なくなってる」





私は混乱する頭を押さえつつ、一旦整理。つまり・・・・・・つまりその、こういう事かな。

私達が今まで局員として管理してきた各世界は、本当に厳密な意味で別世界にはなっていない?

例えば次元空間が『次元の海』と称されるように、各世界は言うなれば大陸という扱い。



地球の海や大陸と成り立ちも色も形も違うけど、そういう風になっている。





「つまり次元世界そのものが、一つの巨大な世界・・・・・・『星』として形成されている」

「そういう事やとうちは思う。で、この『星』の外側にあるんよ。
マジもんの別世界が。それで良太郎さん達はおそらくそこの住人」

「じゃああの、私達は・・・・・・時空管理局が掲げていた世界の管理の根底って」





今まで『別世界』というのは、次元の海に浮かぶ世界の事だった。だから私も、良太郎さんは管理外世界から来たと思っていた。

でももしも・・・・・・もしも各世界が根源的な意味合いから言うと、実はそこまでのものじゃなかったとしたら?

世界という大きな枠組から見ると、次元の海に浮かぶ世界すらも大陸や宇宙にある惑星に数えられるとしたら?



もしも本当に・・・・・・私達が暮らす『星』の外に、同じようで違う文化を発展させた『星』があるとしたら?





「ぶっちゃけうちらの業務全て、勘違いの上でやってたっちゅう事になるな。そもそも『次元世界』なんて概念そのものが間違ってたんやろ。
・・・・・・うちがリンディさんとかに黙ってて欲しい言うた理由は、ここもあるんよ。コレ知ったら、局はどういう方針取ろうとする?」

「・・・・・・多分管理局は、別の世界に手を伸ばすと思う。世界の管理と平和維持が管理局の仕事だから」

「そやろ? でもそれが出来る規模も力も、管理局にはないよ。現に自分達の『星』だけで手一杯やし。
でも上はそうしようとするやろうな。それが管理局の存在意義と言い、無謀にも関わらずや」



・・・・・・なんだろ、話が大き過ぎてやっぱり理解が追いつかない。私、バカみたいな顔してると思う。

でもはやては、そんな私を責めるような事は全くせずに『自分も同じ』と言いたげに苦笑している。



「そう考えると、電王が実在してるのもこっちの世界に来れるんも、別段不思議な事ではないんよ。
ほら、デンライナーは時の中を走る列車やろ? それってつまり」

「そういう『星』達に流れている時間の、根っこの部分になってる?
だからデンライナー・・・・・・時の線路を通じてなら、世界間が移動出来る」

「そうや。そやからデンライナーだけでなく、他の時の列車もある言う描写になってるしな」



あ、そこは電王のDVDを見て知ってる。描写こそされてないけど、デンライナーとゼロライナー以外にも時の電車は複数あるみたい。

それでその電車に乗って、モモタロスさん達みたいに旅をしている人も大勢居るって話がされてた。



「ようするに向こうの世界とこっちの世界の線路の繋がるポイントを探して、それでこっち来てくれとるんよ。
ここは多分良太郎さん達が住んどる『星』とうちらが住んでる『星』が、割合近い位置にあるからやないかなーと思うとる」





非常に規模の大きい話だけど、そう考えるとあのチケットって・・・・・・相当スゴイものだと場違いにも思った。

だってそういう広大な世界達と私達の世界を繋げていく鍵になっているんだから。うん、本当に凄い。

なお、ヘイハチさんがなんでデンライナーに乗ったり出来たのかとか、そういう事はもうこの際考えない事にした。



だってそこまで考えていくと、本当に・・・・・・本当に凄まじい時間をかけて理論構築する必要があるもの。

それに今の話はそういう話じゃない。第一、はやてが言っている事が事実かどうかも分からない。

とにかく今重要なのは、私達が住む『星』の外側に・・・・・・そうだ、私達では絶対に手の届かない場所なんだ。





「で、話を戻すけど・・・・・・もしかしたら恭文とギンガは『星』の外側に居るかも知れん。
もちろんマジにディケイドが存在していて、そういう風になってもうてるならの話や」

「はやて、それは今更だよ。なにより電王のみなさんが居るのに」

「そうなんよなぁ。でな、ここからが話のキモや」

「もう言わなくていい。もう、分かってる」



だからそんなに申し訳なさそうな顔をしなくても、いい。私もさっき同じ事考えてた。

私は両手を膝の上で握り締めて、悔しさや痛みを隠せずに顔に出してしまう。



「そうなったら、私達がどれだけこの『星』の中を探しても・・・・・・何も見つかるはずがない。
ううん、そのディケイドってライダーとヤスフミ達が接触してるかも分からないし、ヘタをすればこのまま」

「そういう事に、なってまうな」





確かにこれは、他のみんなには話せない。話が突拍子もなさ過ぎるし、はやて自身も困惑しているせいかまとまりに欠ける。

なによりどう足掻いても確証が私達では掴めない。そこが一番の問題だよ。

私達はその手がかりを得る事も出来なければ、『ありえない』と断言する事も出来ない。



もしもここでデンライナーに・・・・・・良太郎さん達に、イマジンに会っていなければ、私はきっと笑い飛ばしていた。

そんな事はあるはずがない。テレビの中のヒーローが実在してるはずはないと笑っていた。

でも、私は知っている。だって一緒に戦ったんだよ? 戦って、みんなは別世界であるミッドの時間を守ってくれた。



だからそんな風に言えない。でも、そのために今の話が中途半端に信ぴょう性を増してしまっている。



両手の力が更に強まる。私は後でアザが残るんじゃないかって言うくらいに、手を強く握り締めていた。





「確かにそれは、なのは達には話せないね」

「そうなんよ。あー、でも失敗してもうたなぁ」



はやてはそう言いながら、蹲るように頭を落としてそれを両手で抱える。

その体勢だけで、はやても同じなんだと伝わって・・・・・・少し安心してしまった。



「恭文見習ってチケット買ってれば、オーナー達に相談出来たんに」

「・・・・・・でも、誰もそんな事はしてない」

「そうや。する必要もない思うてた。買ったら買ったで、きっと面倒になる思うてた。
アイツが・・・・・・アイツが旅に出るとか言い出しかねんとか思うて、怖がってた」





チケットを買ったのは、失踪してしまったヤスフミだけ。おそらくチケットはヤスフミの手元にあると思われる。

だってヤスフミ、あのチケット本当に大事にしてたんだよ? 肌身離さず持っていない理由が分からないの。

それで六課に戻ってきてからも暇さえあれば、一人で眺めてる感じだった。



たまにそこに突撃して、アプローチしてたから知ってる。ヤスフミがキラキラした目であのチケットを見てた事。

仕事中や六課に居る間は、辞める前と変わらないみんなと距離を置きがちな様子なのに・・・・・・チケットを見てる時だけは違う。

多分あのチケットの中に、自分なりの夢や願いを描いてたんだ。だからあんなにキラキラしてた。



・・・・・・デンライナーでの旅、私達のせいで出来なくなっちゃったしね。

ヤスフミが六課を辞めた事で、みんなに色々と悪影響が出たから。まず一番影響が出たのは、なのは。

なのは、ヤスフミに断絶されたのが本当にショックで、一時期仕事になってなかった。



あとはスバル達だよ。『友達にも仲間にもなれない』って断言されてから、やっぱり仕事や訓練の効率が落ちた。

事情の知っている私達からすると仕方のない事なんだけど、辛そうにしてた。

でもティアはなんだかんだでヤスフミの気持ちとかそういうの、理解してるようで距離感を合わせてくれてる。



だからまだいいんだけど、他の三人がやっぱりって感じなんだ。何気に私達も頭が痛かった。

・・・・・・イマジンの一件が解決してからヤスフミが六課に戻ったのは、そこが理由なの。

無理を承知で、クロノに母さんが二人でヤスフミに頼み込んだの。卒業まで居てくれるだけでいいって感じで。



訓練への参加も、AAA試験もなくていい。ただ居てくれるだけで充分だからと・・・・・・必死に頭を下げてだね。

もちろん理由はある。私に会いに来てくれるまでヤスフミは失踪状態だったもの。

あとは勝手に進めた一夫多妻制計画のせいで、ヤスフミの機嫌を相当に損ねてたから。



というか、そこは私もだよ。だって・・・・・・みんなで勝手に話を進めて、決めちゃってたんだよ? うん、本当に勝手にだね。

私達当人の意志とかそういうの、完全無視でだよ。確かにその、恋人になってもいいとか思ってたりはする。

例えなれなくても、それでも側に居て・・・・・・とは思ってたりした。でも、家族だからって他人に決められるのは嫌だよ。



あ、もちろん母さんもヤスフミを局員にしようという考えは、私とはやての説得で渋々ではあったけど無しにしてくれた。

そんな事よりもなによりも、運営に支障をきたしてしまっている事を何とかする方が重要だったから。

でも本当に不満そうだった。やっぱり母さんはヤスフミが自分や局の仲間の事を信じられないのが悲しいみたい。



なお、その話が決まった時のなのはやスバル達の喜びようは・・・・・・察して欲しい。

あとはギンガもなんだかんだで嬉しそうだった。ただ、ここは仕方ないの。ギンガはお試しとは言えヤスフミの彼女。

旅が好きなヤスフミの気持ちは認めてるとは言え、やっぱり寂しかったんだよ。そこは察してあげて欲しい。



私もね、内心では戻ってきてくれて嬉しかったんだ。一緒に居られるのは嬉しいから。

でも、それはあくまでもちょっとだけ。本当は・・・・・・本当はとても申し訳なかった。

それはあのチケットを見てる時にヤスフミが発していた『キラキラ』を見る度に強まった。



ヤスフミはきっと、旅に出たいんだなって・・・・・・デンライナーに乗りたかったんだなって分かったから。

でも今更謝っても意味なくて、私は側に居て気を紛らわせる事しか出来なかった。

だって結局私達、自分達の不手際でヤスフミの事を振り回してる。利用して、縛りつけてる。



以前ヤスフミがギンガのところで仕事をしていた時、通信越しに『いつまで助ければいいの?』と言われた事がある。

本当にそうなんだよ。なのはは本当に嬉しそうにしていた。『これで六課を好きになってくれる』と喜んでいた。

スバル達だってそうだよ。『あんな悲しい事、言わせないようにしたい』って・・・・・・意気込んでた。ティア以外だね。



でも、それは全部スバル達やなのはの都合。ヤスフミの都合じゃない。

ヤスフミはきっと、さっき言ったようにデンライナーに乗って時間の中を旅したかったと思うから。

あの楽しくて騒がしいけど、とっても強いみんなと一緒に旅がしてみたかった。



なのに私達は、結局縛りつけた。きっとそれは、はやても感じていた事。





「うち、最低や。部隊員のみんなを利用して、アイツの夢を追いかける邪魔して・・・・・・マジ最悪や」





だから今、はやての声は嗚咽に近くて・・・・・・それを見て私の胸が締めつけられる。



私・・・・・・ううん、私達ははやてにずっとこんな想いをさせていたんだ。



そう思うと苦しくて、自分が情けなくなってくる。それで謝り倒したい気持ちになる。





「なのはちゃんやスバルにガツンと言えばえぇだけやのに、それも出来んで結局これやし」

「はやて、仕方ないよ。はやては部隊長だし、今は部隊の事を一番に考えるべきだと思う」



はやて、目の前でヤスフミがギンガ共々消えてるのを見たせいか、相当辛そう。

だから少しでも緩和出来ればと思って・・・・・・私は優しく声をかける事にした。



「なにより決めたのはヤスフミだから。そしてこの失踪も事故に近いかも知れない。
そこをはやてが責任に思う必要は・・・・・・まぁその、あるとは思う。でもきっと全部じゃないよ」



はやてはきっと、全部を自分のせいにはしなくていい。あくまでも責任がある部分だけでいい。

それを言えば、私にだって罪はある。偉そうな事を言いながら、結局このザマなんだから。



「でもその部隊を構築するんは、部隊員や。みんなが笑わな、部隊は続いていかん。
それは事件中痛感した。アイツが六課の部隊員言うなら、考えるべきやった」



でも私の言葉は、はやてには慰めにもならないらしい。それはきっと、はやてだから感じている痛みのせい。

はやては本当の意味での隊長だから。私はその、部下が身内ばかりだしかなり気楽で・・・・・・はやての痛み、分かってあげられない。



「うちはフェイトちゃんやなのはちゃんにスバル達の幸せだけしか、優先出来んかった。ダメな・・・・・・ダメな部隊長や」

「・・・・・・はやて」



私ははやての隣まで擦り寄って、右側から優しくはやての事を抱きしめる。



「ズルいよ、はやて。むしろ泣きたいのは私の方なのに」

「・・・・・・ごめんなぁ。でも、さすがにキツいんよ。だって目の前で・・・・・・突然よ?」

「ん、分かってる。でもね、そういう話ならもしかしたらヤスフミ、大丈夫じゃないかなってちょっと思うんだ」

「・・・・・・え?」



もちろん状況的には全く喜べないし、楽観視も出来ない。でも、万が一にもだよ?

ディケイドって言うライダーが居て、その人とヤスフミとギンガが関わってるなら色々変わってくる。



「だってそのライダーは、色んな仮面ライダーの世界を旅していくんでしょ? だったらきっとヤスフミ、楽しんでるよ。
事件があったとしても、色んな人達に会って、冒険して・・・・・・瞳をキラキラさせながら、自分の夢を追いかけてる」

「・・・・・・そうなんかな。そうやとマジ、ありがたいんやけど」

「きっとそうだと私は・・・・・・うん、私は思うけどな。
だって旅の中には、ヤスフミの大事な夢が沢山詰まってるんだから」





・・・・・・絶望が、私の胸を締め付ける。それはただ単にヤスフミやディケイドの事じゃない。

だってもしこの話が事実なら、現在の時空管理局では手の届かない領域でとてつもない異変が起きてる事になる。

私達の世界にオーロラが出たという事は、やっぱりそういう事なんだよ。



私達の・・・・・・私とヤスフミの世界は、もうすぐ壊れてなくなってしまうかも知れないんだ。

私はこのままでいいの? ううん、いいわけない。そんな事したら、私はあの時気づいた自分を嘘にしちゃう。

もう間違えない。何があっても私にとって大事な男の子を守りたいと思った時の気持ちも、嘘にする。



嘘にしないためには、踏み出す事。局員としてどうこうじゃなくて、ただの・・・・・・ただのフェイトとして。



私ははやてを強く抱きしめながら、決意を新たにした。そうだ、私のやるべき事は一つしかない。





「はやて、私今からヤスフミの家に行ってくる」

「え?」





ヒロさんに頼めば、きっと合鍵くらいは貸してくれると思う。それで・・・・・・ヤスフミ、ごめん。

緊急時とは言え、気分良くないよね。そこは本当に申し訳なく思ってる。

あの、散らかした分は綺麗にしておくし、お仕置きにキスやバストタッチするならちゃんと受け入れるよ。



もうあの時とは違う。私達・・・・・・ただの男の子と女の子として、向かい合えるから。





「ヤスフミの家を家探しして、デンライナーのチケットが無いかどうか確かめてくる」

「はぁっ!?」



はやてが驚いたように顔を上げる。私は咄嗟に身体を離して、顔を打ち上げるように動いていた頭を避けた。

はやてはそのまま私を信じられないと言いたげな目で見出した。



「いやいや、それありえんやろっ! アイツきっと肌身離さず持ってたやろうしっ!!」



はやてもヤスフミにとってあのチケットが大事なものだと言うのは、よく知っている事らしい。

だから普通にこういう事が言える。・・・・・・それがなんだか、ちょっと嬉しくなった。



「私もそう思う。でも、居ても立ってもいられないの。それになにより、あの時私ヤスフミにタンカ切った」



私は丸く目を見開いているはやての目を真っ直ぐに見ながら・・・・・・決意を新たにした。



「手を伸ばして、掴んで抱き寄せるって。私にとっては仕事や地位よりヤスフミの方が大事だから、そうするって」





・・・・・・でも、縛るわけじゃない。抱き寄せて、そのまま追いかけてく。

私、あなたの事が好きみたいだから。離れるなんて、もう考えられない。

私はあの時、そう言った。そう言って今はやてを抱きしめる手を伸ばした。



結局は色々な事に流されて、縛って・・・・・・失敗続きで、自分がまた嫌いになりそうになった。

そうだ、このままでいい訳がない。私はまだ、『手を伸ばした』と言えるだけの事をしてないんだよ?

だから対価は・・・・・・対価は払う。私はなにも見失ってなんかない。



守りたいものを、見失ってなんかないんだから。





「だから手を伸ばしてくる。無駄かも知れないけど、そう決める前に手を伸ばして・・・・・・ヤスフミの腕、掴んでくる」

「・・・・・・こまめに連絡だけはするように。これでフェイトちゃんまで手がかりなしで失踪されたら、マジ困るわ。
それでチケットを購入出来るようやったら、うちの分も購入しといて。金はちゃんと渡しとくから・・・・・・頼むな」

「うん、分かった。はやて、ありがと」










決意は胸の中で身体を突き動かす炎になる。その炎が、私に力をくれる。

それで少し考えてしまった。手を伸ばして、届いたらどうするのかーとか。

ギンガも居るなら、邪魔しちゃ悪いかなとか・・・・・・ううん、そんなの関係ない。





私はただ、私の約束と決意を形にしていくだけ。それで・・・・・・やっぱりヤスフミとお話かな。

これからの新しい私達の事、やっぱりいっぱい話して少しずつ決めていきたいから。

じゃないと、立ち位置を考えちゃうんだよ。そのためにはヤスフミの力がどうしても必要になる。





だって新しい私達の関係は、私達自身で話しながら決めていかないと意味がないと思うんだ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



僕ともやしが校内に入ると・・・・・・なんか凄い甲高い悲鳴が聴こえた。

その中心に居たのは、白いガクランを着た男三人と女の子一人。なお、やたら自信満々。

一人は今時っぽい感じに髪を栗色に染めたの。それでもう一人は秀才的なメガネ。





女の子の方は・・・・・・派手とは言わないまでも、結構ファッション頑張ってる的な上品な子。なお、この子だけはブレザー。










「・・・・・・なんですか、あのいけ好かない感じのは」

「成績優秀スポーツ万能の、学園のアイドルってとこじゃないのか? そういうのはお決まりだろ」

「全く・・・・・・背の高い男がそんなにいいのかね。時代は僕のようなスイーツ系だって言うのに」





なお、自分で言っててちょっと泣きそうになったけど泣かない。・・・・・・あ、なんかあの三人が動いた。

渡り廊下みたいなとこから外れて、近くでインスタントカメラを使って写真を撮ってた男女二人に近づいてく。

女の子は暗めの栗色の髪をロングにしていて、前髪を左に全て流している。



男の子も同じ感じか。あ、髪の長さは首とかくらいまでだね。学生らしく、それなりに品よくって感じ。





「蒼チビ、残念ながらそれは勘違いだ。お前はスイーツって言うより・・・・・・猛毒だ。
もうお前を食べた人間は誰も彼も倒れてしまい、悶え苦しむからな」

「失礼な事抜かすな。僕はよく『フェイトには甘い』って言われるよ」

「そりゃ別の意味だろっ! そしてギンガマンが居るのに別の女の名前を出すなよっ!!
・・・・・・いや、悪い。アレだな、初恋の相手だから仕方ないんだろ。あぁ、そうだよな」

「なんで急に優しくなるっ!? そして背中を慰めるように撫でるなっ!!」





そんな話をしている間に、学園のアイドルの内男二人と女三人が、その子達に絡んだ。

苛立ち気味に、なにやら言い争ってる。それで男の一人が、女の子が持ってたインスタントカメラを取り上げた。

そしてそのまま、高くあらぬ方向に放り投げて・・・・・・一気にもやしが走り込んでキャッチ。



なお、ジャンピングキャッチ。もやしは転がりながら着地の衝撃を逃しつつ停止。起き上がってカメラを大事そうに撫でる。



・・・・・・僕が行こうと思ってたのに、動き早いし。相変わらず反応速度高いなぁ。





「可愛いカメラじゃないか。・・・・・・乱暴な事するなよ」

「そうそう。物は大事にしなきゃいけないでしょ」



なんて言いながら、僕もあの学園のアイドル達に近づいていく。で、当然ながら不満そうにソイツらは僕を見る。



「なんだ、お前。それに・・・・・・そこのチビ」



そんな事を言った茶髪は次の瞬間、左に向かって倒れて地面に叩きつけられる事になった。

え、なぜかって? 簡単だよ。僕が横から左足で全力で飛び蹴りしてやったから。



・・・・・・・・・・・・誰が成長の見込み0なミジンコ野郎だってっ!?

「待て待て蒼チビっ! 誰もそこまで言ってないだろっ!!」



・・・・・・アレ、なんでかみんなが僕を冷たい視線で見るなぁ。ま、いいか。気にしない気にしない。



「貴様・・・・・・いきなり何をするっ! 俺達はラッキークローバーだぞっ!!」



なんて言ってメガネが掴みかかってくるので、僕は後ろに下がって軽く回避。



「名誉毀損訴訟を起こしただけだけど、何か? ほら、僕弁護士だし。
ラッキークローバーだかラッキー池田だか知らないけど、失礼極まりないでしょ」

「蒼チビ、そりゃ違う。お前も俺ももう弁護士じゃない」

「はぁっ!? ふざけてるのかっ! このガキが」



次の瞬間、なぜかメガネは倒れて頭から地面に叩きつけられる事になった。え、なぜか?

そんなの僕の左フックが決まったからでしょうが。なぜそんな事を聞くのか。



・・・・・・誰が幼稚園児だってっ!? 僕は立派に18だっつーのっ!!

「だから誰もそこまで言ってないだろっ! なに普通に勘違いしてんだっ!!」



なんて言いながらも、もやしは茶髪の方に行って両手に持ったインスタントカメラで写真を1枚撮る。



「まぁアレだ、連れが失礼したからな。これはお詫びだ」



その写真は当然ながらすぐに出てくるので、それを左腕を痛そうに押さえる茶髪の顔に貼り付ける。

なお、顔面を押さえていたメガネや僕と倒れた二人を見比べる女の子も同様に。



「・・・・・・なによっ! この写真っ!!」

「何がお詫びだっ! てめぇ俺達の事ナメてるだろっ!!」



それでもやしは踵を返して、最後の一人の方へ行く。先程説明を省いた最後の一人は、髪を右側に流したおとなしい感じの奴。

でも、瞳の色は他の三人と同じ。明らかに他者を見下している印象が受け取れた。そしてもやしはそんなの奴の写真も撮る。



「・・・・・・うん、やっぱりよく撮れてる。下品な顔だが、それなりって感じだな」





もやしがそのままそいつの左脇を通り過ぎてどこかへ行こうとする。で、僕もそれに続く。

すると髪を左に流したのが、僕に向かって素早く右拳をボディに叩き込んできた。

僕は楽に見切って、身を僅かに左に逸らしてそれを回避。そのまま通り過ぎた。でも、攻撃はまだ続く。



もやしに撮影された写真を投擲してきた。その写真は僕の後頭部を狙ってのもの。僕は頭を右に逸らして難なく回避。

その射線上に居たもやしも、右に軽く移動して避けた。まぁここまでだったら、普通の嫌がらせだよ。

問題はその写真が結果どうなったかという事。・・・・・・写真は、渡り廊下の支柱の一本に鋭く突き刺さった。



その支柱はコンクリで出来ていて、当然インスタントカメラの写真では傷なんてつけられない。むしろ写真が折れる。

なのにそれだから、当然のようにもやしは驚いた顔をしつつあの右流しの方を見る。

なお、僕は振り返らない。というかさ、これくらい出来るかなーとはちょっと思っていたのよ。



・・・・・・ラッキークローバー。そして四人・・・・・・どうやら、色々とビンゴっぽい。



それでそのままもやしを引き連れて立ち去ろうとすると、そのもやしの背後に人影が現れる。





「士、少年君も一体なにをしている」



それは海東。てーか、普通に学校の中から出てきたので、軽く驚く。

その間に海東は、もやしの右腕を掴んで一気に引く。



「ちょっと来い。少年君もついて来たまえ」

「おいっ! 引っ張るなっ!!」










そのまま二人はどこかへと去っていく。本来なら見送りたいところだけど、そこはグッとこらえて追いかけた。





というか、なぜ海東はここに? ・・・・・・いや、考えるまでもないかも。ここにこの世界の鍵があるのは間違いないんだし。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



海東にもやしが引っ張られるままに来たのは、学校の屋上。

ここからは先程居た中庭や、学校のグラウンドが見渡せる。

こうして見てみると、中々に素敵な設備の学校だよね。うん、いい感じ。





この学校は建物のデザインは現代的な方なので、上から見ると結構綺麗で見ごたえがあるのよ。





そしてそんな景色に見とれている余裕は、当然のようにない。もやしはようやく海東から腕を振り払った。










「邪魔をするなと言ったはずだ。それに少年君も、早く元の世界へ帰りたまえ」

「帰れたらとっとと帰ってるんですけどっ!? てーか帰り方知ってるなら教えてよっ!!
いや、なにより朝の会話は何っ! お前、僕やフェイトの何を知っているって言うのさっ!!」



残念ながら、もやし以上に僕はこの男に聞きたい事がある。だから今度は僕が迫る。



「知っているとも。今の君は、君じゃない君と比べるまでもない。・・・・・・ここに居る君は弱い。そして逃げている。
命を賭けてでも本当に大事にすべきお宝があるはずなのに、それから目を無理矢理に背けている。残念だよ、少年君」



それでもソイツはマジで言葉通りに、僕を哀れむような顔でそう言ってきやがった。

それでイライラ・・・・・・は、募らない。イライラするのは、全く会話になっていない現状だよ。



「君はどんな君だろうと、ちゃんと自分のお宝の価値を知っている子だと思っていたのに。
彼女では、君のお宝の代わりにはならない。君は彼女の気持ちを考える余り、大事な事を忘れている」

「だから意味分からないんですけどっ! お願いだから『5W1H』守ってくれますっ!?
そしておのれはギンガさんの事まで知ってるんかいっ!!」

「もちろん。だって僕は君達と同じように旅をしていたんだから」



つまりその・・・・・・まさか、これまでの旅のアレコレを傍から見てたっ!? だからそこの辺りが分かるとかっ!!

じゃあじゃあ、もしかしてラウズカードで鎌田を封印したのもコイツとかっ!? でも、なんでっ!!



「でも君は僕の言葉の意味が分からない。それでも問題はないさ。
僕から伝えて分かってしまっては、お宝は君の手から簡単に逃げてしまうからね」

「お願いだからちゃんと僕と会話をしてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」



意味はぶっちゃけさっぱり。というか、ワケが分からない。ただ・・・・・・言葉が自然と胸を貫く。

それで実感する。コイツ、僕の『何か』を知ってる。そして見抜いた上でそう言ってる。



「蒼チビ、ちょっと交代だ。てかお前、弄ばれてるぞ」

「知ってるよっ!!」



なので、僕はもやしと交代。もやしは僕と入れ替わるようにして、もやしが海東に迫る。

というか・・・・・・ダメだ、頭痛い。もうこの男が何言ってるんだかさっぱりだし。電波過ぎるって。



「海東、とりあえず蒼チビや俺の事はどうでもいい。・・・・・・お前、狙いはファイズだな?」

「ご名答」



海東は軽く笑いながら、屋上の縁までゆっくりと歩く。それで学園内を見下ろした。



「ファイズはどういうワケか、この学園を守っているらしい」

「守っている?」

「多分だけどね。現に昨日もそうだったよ。本当に学園を守るヒーローのようだった」





コイツ、オルフェノクが出た時にここに居たのか。・・・・・・マジで狙いはなに?

もしかしてファイズの正体を知る事が、この世界でのやるべき事を見つける鍵になるとかかな。

現に朝の時コイツは、もやし達と目的が同じみたいな事を話していた。



なら僕達も、まずはファイズを見つける事が重要? まぁ、後追いするみたいでムカつくけどさ。





「少年君も見習いたまえ」

「何をっ!? ねぇ、もしかしておのれを電波とか思ってる僕は間違ってるのかなっ! そういう事なのかなっ!!」

「とにかくだ」



海東は僕の言葉を無視しながら、振り向いてもやしの方を見る。・・・・・・ごめん、なんか泣きたくなってきた。



「ファイズはこの学園の誰かである可能性が高い。僕はその正体を知りたい」

「何のためにだ」

「君達には関係ない。早くこの世界を去りたまえ」



だからどうやって帰れば・・・・・・あぁ、もういい。もうどうでもいいわ。

僕は両手で頬を一回強めに叩いて、海東を睨みつけながらタンカを切る。



「嫌だね」

「・・・・・・あぁ、君は別にいいよ。帰り方が分からないんだろう?
さすがに僕もそれで無茶振りはしないさ。というか、悪かったね」

「哀れみながらそういう事言うの、やめてもらえますっ!? そして優しく頭を撫でるなー!!」



くそー! なんかめっちゃ子ども扱いされてるのはどうしてっ!? マジでワケ分からないしっ!!



「てか、そういう事じゃない。なんか知らないけど、八つ当たりしたくなってきたわ。うん、それでおのれの邪魔をしてやる」



僕がそう言うと、二人が笑った。海東は感心したように。そしてもやしはなぜか楽しげに。

もやしはそのまま海東を指差した。そんな二人と僕の間で、強い風が一瞬だけ吹き抜ける。



「俺もだな。俺はアンタの邪魔をすると決めた。・・・・・・ファイズの正体、俺が暴くっ!!」

「・・・・・・・・・・・・あのぉ」










そしてもやしは不敵に笑いながら、その声の方を指差した。そこには、あの絡まれてた二人が居る。





当然だけど二人はビクつく。それを見てもやしは固まった。そしてその間に、海東は消えた。





その場にはただただ・・・・・・この状況をどう対処するべきか迷う四人だけが、残されてしまった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



まぁそんな四人は、屋上でずっと風に吹かれているのもアレなので移動した。





場所は学校の写真部。どうも女の子の方が写真部所属らしい。確かにカメラ持ってたしね。





それで写真部のデスクに僕ともやしと、その二人が向かい合う形で座った。










「・・・・・・さっきはありがと。私友田ゆり」

「尾上、タクミ」

「蒼凪恭文です。それでこっちはもやし」

「その紹介やめろっ!! ・・・・・・門矢士だ」



で、お礼と称してお茶菓子まで出していただいたので、僕はクッキーを早速かじる。ぞしてもやしはお茶を飲む。



「でも、そっちの君すごかったねー。ち・・・・・・こ、小柄なのにラッキークローバーの二人をのしちゃうんだから」



あれ、なんで途中で怯えた目をしながら僕をなだめるように言葉を言い直したんだろ。うーん、おかしいなぁ。

僕は特に威圧的な事は一切していないはずなのに。というか、もやしやタクミが・・・・・・タクミ? よし、ちょっと注意しておこう。



「このカメラどこのメーカー?」



そう言いながらゆりって子が、カメラを手にとってタクミをファインダーに納める。そしてシャッターを切った。



「可愛いよねー」



それで咄嗟にタクミは自分の顔を隠す。恥ずかしがってるというか・・・・・・ちょっと嫌そう?



「あの、僕はいいから」



そう小さめに呟くように言うと、ゆりはゆっくりとカメラをもやしの方に戻した。

どうやら人見知りの激しい子らしい。普通に僕やもやしとも目を合わせないで俯いてる。



「ね、なんで助けてくれたの? あ、もちろんそっちの君は分かるんだけど」



だからなぜなだめるように言う。この子、人を猛獣か何かだと勘違いしてない?



「別に? 俺はただ、あのラッキークローバーとか言う連中が気に食わないだけだ」

「そうだね、気に食わないよね。だってアイツら、初対面の僕をいきなりミジンコ扱いしたし」



まぁまぁ予測通りな可能性があるけど、それでも腹が立つ。奴ら、絶対に許せん。

アレだ、学校だから靴の中に画鋲入れてやる。もしくは砂詰めまくってやる。



・・・・・・あの、やっぱりこの子って体型の事言われると

あぁ、激しくキレる。だからお前も気をつけておいた方がいいぞ。
コイツは女でも遠慮無く殴る間違った男女平等主義者だからな


そ、そうしとく



なぜかもやしとゆりは意気投合してるけど、なぜそれでもなお僕を見てるんだろ。やっぱり謎だよ、謎。



「でも、確かにアイツら嫌な奴らだよね。もうね、オルフェノク並みに大っ嫌い」



不満そうにゆりがそう言うと、俯いていたタクミが視線を上げてゆりの方を見た。

まぁここは問題ないとしておこう。僕はちょっと気になったので、ツツいてみる事にする。



「ね、オルフェノクと何かあったの? 人襲ってるとこ見たとか」

「別に。誰だって嫌いでしょ?」



そう言う彼女は、隣に居るタクミの顔色がどんどん悪くなっていくのに気づかない。

それでまるで世間話でもするかのように、目の前のクッキーを右手で取ってかじる。



「人間の振りしてる怪物よ。・・・・・・もし周りに居たらと思うと、最悪」

「最悪・・・・・・かぁ。僕はそうは思わないけど。てゆうか、怪物かどうかは分からないでしょ」



僕もクッキーを右手で取って、そう言ってからかじる。あの子はそれで意外そうな顔をした。



「どうして? だってそういう話なのに」

「あくまでも話でしょ? というかさ、人間にだってラッキークローバーみたいな嫌な奴が居る。それで」



かじったクッキーを見せるように軽く掲げて、ゆりに僕は自信を持って笑いかける。



「こうやって美味しいお茶とお菓子をおごってくれる、ゆりやタクミみたいないい人も居る。それと同じじゃないかな。
大体、オルフェノク全部が怪物なんて、会った事もないんだったら言い切れないと思うけどな。その証明もゆりには出来ないでしょ」

「まぁそう言われると・・・・・・あなた、ちょっと変わってるね」

「そう?」

「うん、変わってる。うちのクラスや仲の良い子は、そんな風に言う子は一人も居ないもの。それが普通になってる。
オルフェノクは怪物で、人を襲って楽しんでるーって。だからいいオルフェノクが居るかもって言ったの、あなただけよ」





別に不満そうという事ではない。ただ、目の前の女の子はどうして僕がそういう事を言うのかを不思議がってるらしい。

僕はそれが今ひとつよく理解出来なくて・・・・・・黙ってクッキーをかじった。

・・・・・・変わってる、かぁ。まぁまぁ僕のアレコレが『普通』ってのから外れてるのは理解してるけど、これが普通なのか。



龍騎の世界でユウスケに言われた事、ちょっと思い出してしまった。・・・・・・やっぱり、ズレてるのかな。



というかさ、なんか納得出来ない。こんな考え方、きっと誰かを傷つけるだけなのに。





「・・・・・・この学園はファイズが守ってくれてるから、大丈夫じゃないかな」



タクミが思い出したように、必死な声でそう言った。ただし、それで押しが強くなったわけじゃない。

むしろそう言って、あの子のそういう感情をなだめようとしているように見えた。



「ファイズなんて居るわけないじゃない」



でも、当然だけどそこには気づかず・・・・・・あー、うん。よく分かった。この子ちょっと空気読めない子なんだ。

さすがのもやしも、タクミの様子がおかしいって気づいてるから黙ってるくらいなのに。でも、タクミはまだ動く。



「あの、これ見てよ」



それまで困ったように視線を泳がせていたのに、唐突にそう言って手元にあったスクラップブックを僕達に差し出す。



「これ、ゆりちゃんが撮った写真なんだ」





もやしはそれを受け取って、ページを捲っていく。僕も当然隣に座っているので見ていく。

・・・・・・その中にあるのは、あのインスタントカメラで撮ったと思われる写真の数々。

花や建物が多くて、人は・・・・・・ないね。でも、どれもこれもいい写真だと思う。なんかね、被写体が輝いてる。



今だったらデジカメとかさ、そういう風にいいものがたくさんあると思う。

だけどそれとはまた違う温かい色合いが、写真の中にあるの。

画質や色数だけでは表わせない何かが、その写真の中には確かにあった。





「・・・・・・うん、悪くないな」

「というか、どれもこれも良くない? 色合いが優しい感じだし」

「あ、分かる?」



ゆりはそう言いながら、近くにあったあのインスタントカメラを手に取る。それで嬉しそうに笑う。



「インスタントカメラ、なんか好きなんだよねー」

「それで写真集出すんだよね」

「そんなの夢よ。無理だって」





なんか楽しそうになってきた二人の邪魔をしてもアレなので、僕は温かく見守る事にした。

というか、分かった。この子は多少kYっぽいけど、写真が好きな事だけは確かだよ。

だってなんだか今、ちょっと照れた感じになってた。あとはインスタントカメラの事話す時、楽しそうだったし。



どうやらこの二人を繋いでいるのは、写真みたい。だから二人共、楽しそうに笑っている。

それでもやしはと言うと、僕の目の前に置いてあったあのラッキークローバーの写真を見ていた。

あの連中、人格だけじゃなくて写真のセンスまで最悪らしい。普通に捨てていったとか。



それをもったいないと思って、二人が回収してくれた。さすがに写真部だし、写真を粗末には扱えなかったらしい。





「いいじゃないか。・・・・・・僕も応援してる」










それで僕もその4枚の写真を見た。さすがに至近距離で撮ったために、ピンぼけしまくっている。





でも、あの四人の性根の悪さはそこににじみ出ているので、やっぱりいい写真だ。





・・・・・・とりあえず、次の狙いは決まったね。だからもやしがなんか、口元歪めて笑ってるし。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



場所は変わってテニスコート。もちろん学校の中である。しかも結構立派。

なぜか黒のスポーツトレーナーに着替えたもやしと、同じく蒼のスポーツトレーナーに着替えた僕はここに来た。

それである連中とケンカを開始するところ。なおその連中は、目の前に居る。





赤のスポーツトレーナーを着た茶髪と、白のそれを着たメガネ。そう、ラッキークローバーだ。





女の方も、隅っこに居る。なお、もやしの提案でこれから・・・・・・テニスです。










「・・・・・・俺達ラッキークローバーに挑むとは、愚かな奴め」



どうやらラッキークローバーは、テニスにも自信がおありのようだ。

なので僕は気合いを入れようと、右手で今かぶっている蒼と白の帽子(バリアジャケットの応用)を正した。



「テニスの経験は? 特にそっちの可愛いおチビちゃんとかは」



・・・・・・僕はラケットを左手に持って、右手でボールを取り出してから高く上げた。

そしてそのまま、右サイドに居るメガネの陣地にサーブ。なお、僕は左陣地です。



「あはははははっ! そりゃ確かになっ!!
むしろラケットの振り方から幼稚園で教わってきた方がいいんじゃないのかっ!?」



なんて言っている間にサーブは飛ぶ。そして、なぜかあらぬ方向に飛んでしまった。



「・・・・・・う」



それは僕から見て右側で偉そうに笑っていた女の居る方。そのボールは女の腹を鋭く穿つ。

女は腹を押さえながら、苦しげに崩れ落ちる。そして・・・・・・白メガネと赤茶髪は僕を驚いた表情で見た。



「あー、フォルトかぁ。いやぁ、失敗失敗」



場の空気が完全に固まったけど、僕は気にせずにまたまたどこからともなくボールを取り出す。

その上で・・・・・・先程と同じようにサーブ。今度は白メガネの方にちゃんと飛んでいった。



「よっとっ!!」





ボールは白メガネの足元でバウンド・・・・・・せずに鋭く回転。その回転音がコート内に響き渡る。

反撃しようとした白メガネはそれに目を見開く。そしてボールはそのままあらぬ方向に飛んだ。

それはあの失礼な口を聞いてくれた赤茶髪。ボールは鋭く飛んで、赤茶髪の顎を左から打ち抜いた。



赤茶髪はそのまま右側に倒れ、堅いテニスコートに身体を叩きつける。いや、痛そうだねぇ。





「うし、今度は入った。というわけで、15ー0ね。
えっと、次はサーブ交代? それとももやしのサーブだっけ」

「ス・・・・・・スピンサーブッ!?」





説明しよう、スピンサーブとはテニスにおけるサーブの一種。

サーブの際に回転をかける事で、ボールの軌道をコントロールするのだ。

まぁそんなお話は置いておくとして、僕は軽く微笑みながら声をあげる。



あくまでも優しく、スポーツマンシップに則ってである。





・・・・・・・・・・・・僕のどこがどういう風にナノミクロンだってっ!? てめぇ、女だからってこっちが遠慮してると思ったら大間違いだぞっ!!
そしてそっちの赤茶髪っ! テメェが保育園からやり直して礼儀ってもんを覚えろっ!! 三下が調子乗ってんじゃねぇよっ!!


「蒼チビ、落ち着けっ! お前、さすがにこれはだめだろっ!!
これは主人公のやる事じゃないぞっ! 全てにおいて明らかに悪役だろっ!!」

「何言ってるの、もやし。高町なのはって言うのが居てね」

「なるほど、大体分かったっ! だがソイツの名前は今後一切出すなっ!!
そして参考にもするなっ! ソイツは完全に鬼畜ヒーローなんだからなっ!!」



・・・・・・あ、あのバカが泣いてる声が聴こえる。でもまぁ、きっと気のせいか。

今重要なのは、なぜ僕が怒られなきゃいけないのかって事なんだから。



「てーかサーブをこんな事に使うなっ! スポーツマンシップはどうしたっ!!」

「え、でも熱血高校シリーズだったらこれくらいは」

「どこだよ、その無茶苦茶な高校っ! 俺達はテニスしに来てんだがっ!? 乱闘しに来てんじゃないぞっ!!」










なにやらもやしが不満そうだけど、僕は一切気にしない。だって、その前に・・・・・・ねぇ?





もやしは僕の事よりも、なぜか自業自得なのに僕を不満そうに見る連中をどうにかするべきだと思う。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・えー、なぎ君はキレて無茶苦茶してますけど、みなさんはテニスをする際にはこんな事はしないでくださいね?
テニス以外のスポーツでも、基本はルールを守って正々堂々です。スポーツマンシップに則って楽しんでください」

「あと、テニスの観戦の際には選手側の故意じゃなくても、危険なファンブルボールが飛んでくる事も多々ある。
あのお姉さんみたいに無防備に立ってたら危ないから、気をつけるんだぞ? お兄さんとお姉さんとの約束だ」

「あの、ギンガさんもユウスケもどこ見て話してるんですか? というか、無茶苦茶ってなんですか」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「テメェ・・・・・・とことん俺達をバカにしやがってっ!!」

「どうやら本当に痛い目に遭わないと分からないらしいな」

「やだ、逆ギレ? 全く、これだから最近の若いのは・・・・・・カルシウム足りてないでしょ」



そんな事を言っている間に、赤茶髪と白メガネは二人揃って懐からボールを・・・・・・アレレ?



「お前、頼むから自覚持てよっ! むしろアイツらはキレて当然なんだからなっ!? お前はキレられて当然なんだっ!!」

「なるほど、それじゃあ二人揃ってなんかボール取り出してサーブしようとしてるのも当然か。
・・・・・・そんなワケないでしょうがっ! コイツら、徹底的にルール無視かいっ!!」

「お前が言うなっ! このバカっ!!」










なんて言っている間に、サーブは放たれた。なお、サーブはどういうワケか炎と雷に包まれている。

赤茶髪の打ったサーブが炎で、白メガネの打ったサーブが雷。しかも球がそれぞれ三つずつ。

完全にテニヌな炎の球達は、僕の方に向かって打ち込まれた。もうルール無視だよね。





まぁいい。そっちがその気なら・・・・・・遠慮無くぶっ潰す。ジャンプ読者の底力、見せてやろうじゃないのさ。










(第10話へ続く)




















あとがき



恭文「というわけで、逆ギレって怖いと思った蒼凪恭文と」

あむ「・・・・・・名前の出た日奈森あむであとがきをお送りしたいと思います。てゆうかあの、恭文」

恭文「ん、なに?」

あむ「なんであたしの名前出てるっ!? てゆうか、あの人何者っ!!」

恭文「そこに関しては、今後のとまかのを見ていただければ分かるかと」

あむ「なんでっ!?」





(この辺りは以前出した設定準拠ですね。なお、それに伴い原作に比べると多少言動が変化します)





恭文「というか、ここで話してもネタバレになるからアウトなのよ。まぁまぁせっかくなので設定を色々弄ってる。
で、そんな海東も出てきたファイズ編だよ。でもなんというか・・・・・・若者って怖いよねー。すぐにキレちゃうんだから」

あむ「うん、そうだね。あたしにはなんでか平然とそういう事を言えるアンタの方が怖いけど」

恭文「いやぁ、それほどでも」

あむ「誉めてないからっ! むしろ嫌味なんですけどっ!!」

恭文「あむ、大丈夫。僕は分かってるから」

あむ「アンタそう言ってる時は絶対何も分かってない時じゃんっ! 普通になんにも分かってないよねっ!?」





(でも、蒼い古き鉄は当然ながらスルー。ここもいつもどおりだよ)





恭文「でもあむ、こう・・・・・・なんだかんだで10月なんだよね」

あむ「いきなり話変わったっ!? ・・・・・・あー、でもそうだよね。ひと月前はまだ35度台だったのに」

恭文「今じゃすっかり涼しくなったしねぇ。まぁまぁ関東地方だと雨が多めで、曇空だけど。
でも秋・・・・・・なんというか、トラウマがまた発現しそうだよ」

あむ「いや、なんでっ!?」

恭文「だって、六課に入れられたの秋だし」

あむ「・・・・・・あ、そっか」

恭文「その上旅にも行けず、さらば電王も見れず・・・・・・何気に憂鬱になるんだよ。そういう時はフェイトにハグして元気もらってるけど」

あむ「うん、それは分かる。でも恭文、この話的にはギンガさんだしさ。ほら、そこはギンガさんって言おうよ」

恭文「嫌だ」

あむ「なんか即行拒否してきたっ!?」





(どこかから、しくしくと泣く声が聴こえてきたと思いねぇ)





恭文「というか、ギンガさんルートの僕とここの僕はまた違うしさ。そこでそれを求められても困るのよ。
ほら、名前に『(IFルート)』って付いてるわけじゃないもの。僕はちゃんとギンガさんの告白はお断りして」

あむ「よし、言いたい事は分かったっ! アンタもうそれ以上言わなくていいからっ!!
てゆうかギンガさん大丈夫なのっ!? ほら、今回のお話ではまた沈んじゃったしっ!!」

恭文「さぁ」

あむ「だからなんでアンタなんでそんな適当っ!?」

恭文「簡単だよ。この後フラグっぽいのが立っている上に・・・・・・あのイベントがあるから」





(現・魔法少女、そこで蒼い古き鉄が別にめんどくさくてそんな話をしていない事に気づいた)





あむ「・・・・・・あぁ、つまりそういう事なんだ」

恭文「そういう事だよ。・・・・・・えー、ここで一つお知らせです。
今まで色々と出す機会のなかった超・電王での鬼退治編、この話の中でやる予定です」

あむ「はぁっ!?」





(ディケイドやるならそこも出来ると考えて、こういう形にする事にしました)





恭文「なので、超・電王編の時には一時的に主役が子どもになった僕とフェイトになるわけだよ。
オリジナルなシーンを追加して、出来うる限りディケイドや海東とかが空気にならないようにする感じ?」

あむ「じゃああの、もうちょっと扱い良くなるんだ」

恭文「うん、ちょっとだけね。というか、超・電王編に入ってる本編の僕とフェイトと絡むのは、一大転機でもあるのよ。
だからどうしてもディケイドのお話の中で描きたいというのがあったりとかなかったりとか。まぁまぁ予定って感じだけどね」





(あとは以前アイディアをもらった銅の鬼も出したいなーと思っています。
なお、外見イメージとしては内山信二さんで武器は宝蔵院槍。そして強い





あむ「・・・・・・そこ大事なんだ」

恭文「大事だね。まぁ僕もちっちゃくなって多少能力ダウンするけど、バランスを取るためには必要なのよ。
まぁここの辺りは『こうやるかもー』って予定なので、実際どうなるかはまだ決まっておりません。あしからずです」

あむ「あしからずです。それじゃあ、今日はここまで。本日のお相手は日奈森あむと」

恭文「ギンガさんはマジでどうしようと思っている、蒼凪恭文でした」

あむ「あ、やっぱ気にはしてたんだ」

恭文「・・・・・・うん。でもね、ここでは現実から逃げたかったの。もう、かなりね?」










(そして全てをIFの自分に丸投げにした、鬼畜な蒼い古き鉄であった。
本日のED:石原慎一『DEAD or ALIVE)




















夏みかん「・・・・・・ギンガさん、元気ないですね」

ユウスケ「そうだな。てーかあの人なんなんだ?」

夏みかん「士くんの事だけじゃなくて、あの人やフェイトさんって事まで知ってるのはおかしいですよ。
・・・・・・というか、ギンガさんが可哀想です。やっぱりあの人と居ても、ギンガさん幸せそうじゃない」

ユウスケ「夏海ちゃん」

夏みかん「だってそうじゃないですか。あの人はいっつも自分勝手で、ギンガさんにフォロー入れてる様子もない。
なにより私に対してばかり怒ったり殴ったりして・・・・・・私、あの人の事が嫌いです。なんでユウスケや士くんは仲良く出来るんですか」

ユウスケ「そうだな・・・・・・それはきっと、夏海ちゃんが自分で見てくしかないんじゃないのか?」

夏みかん「私が・・・・・・ですか」

ユウスケ「あぁ。俺や士の答えを教えても、俺達が『悪い奴じゃない』って言っても、きっと今の夏海ちゃんには伝わらない。
どうしてギンガちゃんがあんなにヘコんでも、恭文の彼女してるかってのもさ。まぁアレだ、もう少し視野を広く持てって事か?」

夏みかん「・・・・・・それじゃあ私の視野が狭いみたいです」

ユウスケ「そうかも知れないし、そうじゃないかも知れない。そこもやっぱ、夏海ちゃんが答えを見つけるしかないだろ」

ギンガ「・・・・・・・・・・・・なぎ君、フェイトさん」










(おしまい)






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あきゅろす。
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