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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第8話 『龍騎の世界/逆転裁判 ドラゴンレヴォリューション』



恭文「前回のディケイドクロスは」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・えー、やはり桃井編集長は腕利きのジャーナリストだったようです。
もしかしたら彼女はこういう時に備えて、この手帳に日々向かい合っていたのかも知れません




いや、あの・・・・・・恭文? お前何してんだ。てーかほら、なんで俺達真っ暗なところに居る?

なんでお前だけ照明当たってるんだよ。てゆうかそこ、照明設備のない場所だよな。おかしいだろ。



そうです。この料理レシピこそ、彼女が残した真実への道しるべです。これで真犯人にも辿りつける事でしょう。
そしてその真犯人は、おそらく鎌田です。ミラーワールドでの行動も合わせて考えると、彼はいくらなんでも怪し過ぎる




いや、だからなんでちょっと前のめりなんだよ。なんで右手あっちいったりこっちいったりしてんだよ。

あとなんか声色違わないか? 俺、その声すっげー聞き覚えあるんだけど。



ただ、今回は時間がないのでもう一手間。僕は彼に罠を張ろうと思います。
そのための布石は、既に打たれています。おそらく、『彼ら』はすぐに動き出すかと




いや、だから誰に話してんだよ。怖いよ、俺マジで怖いよ。

具体的にはなんか照明の関係? なんなんだよ、この写真館。



解決の鍵は四つ。季節外れな上に穴だらけなレシピばかりが書かれた手帳。異世界からの来訪者。
そして被疑者最有力候補である、羽黒レン。その羽黒レンを過去の事件から執拗に恨んでいる辰巳シンジ






あの、恭文っ!? 頼むから俺達にも分かるように説明してくれよっ!!

ほら、士共々俺ら置いてけぼりじゃないかよっ! なんなんだ、この状況はっ!!

というかさ、なんか俺ら声出ないんだけどっ! もうちっとも出ないんだけどっ!!



なんなんだよコレっ! 頼むから誰でもいいから説明してくれー!!





解決編はこの後すぐ。・・・・・・蒼凪恭文でした





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



恭文「というわけで、解決編の後半です。さー、暴れるぞー」

ユウスケ「ま、まぁその・・・・・・穏便にな? シンジさんも騙されてるだけだし」

恭文「ユウスケ、大丈夫。僕は常に男女平等主義者だから」

ユウスケ「いや、その返しは意味分かんないぞっ! てーか不敵に笑うなよっ!! 普通に怖いんだがっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



降り立った場所は・・・・・・アレ、河原の近くだ。でも、さっき居た場所とは違う。





もしかしてバトル起こってるとこにオートで移動ってやつ? あー、でも問題はないのか。










「せっかくミラーワールドに来たし、観光くらいはしてきたいのに・・・・・・そうはいかないか」

≪何言ってるんですか。そのつもりなんて無いくせに≫

「まぁね」



だって龍騎と殴り合いしてるもやしと、それで脇から水流撃ち出してる鎌田が居るから。

僕はまず・・・・・・龍騎の方に走る。それでバスターを構えた。その狙う先は、もやしに組み付いてる龍騎。



「辰巳シンジっ! 残念ながら不吉を届けに」



もやしに当たらないように・・・・・・僕は引き金を引く。次の瞬間、10の砲門から朱色の弾丸が飛び出た。



「来てやったよっ!!」



それは一発残らず龍騎に命中。龍騎はたたらを踏みながらもやしから離れた。

なので、また一気に距離を詰める。詰めながら僕は解放されたもやしに向かって声を上げる。



「もやしっ! 鎌田を逃がさないでっ!!」

「分かってるよっ!!」





もやしは声をあげながら、鎌田に踏み込んでいく。うん、あいかわらず反応だけは早い奴。

もやしは鎌田の左手に装着している鮫の頭を模したようなガントレットから放たれる水流を、右に走りながら避けた。

避けて飛び蹴り。鎌田はそれをガントレットで防ぐ。もやしはそこから後ろに飛んで着地。



鎌田も蹴りにふらつきながらも距離を取る。それで再びガントレットで水流を撃とうとする。

もやしはその前に相手の懐に踏み込んで、両手で蒲田の腕を掴み組み付いた。あっちの方は、とりあえずアレでよし。

それで龍騎の方は、僕を忌々しげに見ながら右拳を振りかぶる。僕は僕で、やる事があるのよ。





「お前は・・・・・・お前はまた俺の邪魔をするのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



踏み込んできた拳をひらりと左に避ける。避けながら僕は、装甲の無い腹部に向かってバスターの砲門を押し当てた。

そのまま押し込みながら・・・・・・僕は引き金を引く。ほぼ零距離によるガトリングの掃射を、龍騎は受けた。



「ぐ・・・・・・ぐぅ・・・・・・!!」



腹部から火花が散り、龍騎が離れようとする。でも僕は前に踏み込み、砲門を上に上げて突き出す。

狙うは龍騎の顔面。当然零距離でバスターを掃射。顔面を覆う仮面に弾丸が着弾して、派手に火花が上がる。



「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



龍騎は乱暴に左手で殴りつけてくる。僕は後ろに下がって回避。それからすぐに飛んで来るのは、右拳。

それも数度飛んで回避。距離を取ると、龍騎は右手で苛立ち気味にカードを取り出す。それを左手のガントレットに挿入。



≪Sword Vent≫



龍騎の右手には、どこからともなく現れた60センチほどのシミターが握られる。そのまま龍騎は突っ込んできた。

僕は逃げる事なくそれを迎え撃つ。まずは右薙に一閃。それをしゃがんで避ける。次は袈裟。身を左に逸らして回避。



「いや、予想通りに動いてくれて助かったよ」

「予想通り・・・・・・だとっ!!」





刃を返し、龍騎はもう一度右薙に斬撃を打ち込もうとする。それを僕はバスターで止める。

バスターの砲門を突き出して、シミターを握る右手の指に打ち付けた。当然・・・・・・そのまま引き金を引く。

指から火花を上げながら龍騎はたまらずに下がって、僕の方を見る。でも、反応が遅過ぎる。



僕はそのまま龍騎に向かって引き金を引き、バスターから弾丸をばらまく。その全てが龍騎の身体を撃ち抜く。





「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



僕が引き金を離すと、龍騎は崩れ落ちる。そして荒く息を吐きながら僕を見上げる。



「お前、僕の予想通りに動いたんだよ。あれだけ言えば、お前は当然羽黒レンを犯人にしようとする。
で、そんなお前を餌にサメライダーが釣れるって寸法だ。いや、よく動いてくれたよ。・・・・・・ありがと♪」

「・・・・・・お前、俺を利用したのかっ!? そのために夏海さんやギンガさんにあんな事をっ!!」

≪そうですけど、何か問題がありますか? 大体、傲慢に人を裁こうとしたあなたにこの人を責める権利はありませんよ≫

「辰巳シンジ、言ったよね? こんなバカな事を続けるなら、罪を数えさせると。・・・・・・今がその時だ」




僕とアルトが軽くそう言うけど、どうやらこの目の腐った龍騎はご不満らしい。立ち上がりながら右手が僅かにブレる。

僕はそこを逃がす事無く、一気に踏み込んだ。そして軽く跳躍して、左足でベルトからカードを掴もうとした右手を踏み抜く。



「なっ!!」

「遅いっ!!」



それを足場にした上でまた跳躍。そうしながら僕は右足で龍騎の顎を蹴り上げた。

龍騎は再び後ろに転がりながら倒れる。なので、バスターをしっかりと連射。



「さぁ、お前の罪を・・・・・・数えろ。お前の罪は、目を閉じて自分の都合のいいものしか見なかった事だ。
過去に、憎しみに、自分を認める甘い言葉に負けて、愉悦のために人を一人殺そうとした。・・・・・・その罪は、僕には許せない」





うん、当然だよね。罪を許す権利なんて、きっと僕にはない。僕は神様じゃないんだから。



もしもそんな事が出来るとしたら、それはレンさんだけだよ。僕は間違った事は言ってない。



僕がそんな事を言うと、火花が上がる中で龍騎の身体が震える。





「何が・・・・・・悪いっ! 俺は間違った事なんてしてないっ!!」



それでも立ち上がって、僕に向かって一気に飛びかかってきた。そして右手にはちゃっかりカード。

そのカードの絵柄はストライクベント。どうやら至近距離で決めるつもりらしい。



「人はしょせん一人だっ! 信じても裏切られて・・・・・・だから、戦うしかないんだっ!!
お前だってそうじゃないかっ! ギンガさんを、夏海さんを裏切ったっ!! 罪人はお前の方だっ!!」



僕が放つ弾丸の猛攻に耐えながら、左手の龍の顔のガントレットにカードを挿入。



「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

≪Strike Vent≫



シンジの右手に、龍の頭そのままのガントレットが装着される。それを振りかぶり僕を狙う。

僕はそれに軽くため息を吐きつつ、親指でバックル上部のチャージボタンを押そうした。



「バカじゃないの?」





でもその手を止めて、目の前の攻撃に集中する事にした。・・・・・・弱さを受け入れる事も、強さか。



全く、面倒な事言ってくれちゃって。これでダメだったら、マジでこのバカは粉砕してやる。



僕がそんな事を思っている間に、シンジはガントレットを装着した右腕をストレートで突き出した。





「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





その突き出された拳の先から、真っ赤に燃える炎で形成された砲弾が発射される。

龍の顎が開き、まるで火炎放射するかの如くバレーボル大のサイズの灼熱の砲弾が放たれる。

でも、僕はそれを見切って伏せ気味になりつつ避ける。てゆうか、避けられないわけがない。



動きを見ててよーく分かった。コイツは戦闘関係は素人だ。まぁカメラマンだし、当然か。

それで僕にケンカ売るんだから、ちゃんちゃらおかしい。僕はスレスレに攻撃を回避しつつ、バスターを動かす。

今一度腹目がけて砲門を突き出し、捉えた上で零距離掃射。龍騎の身体が弾丸に撃ち抜かれて震えた。





「・・・・・・・・・・・・がは」

「真実から、現実から・・・・・・いや」



僕は引き金から指を外してから、バスターの砲門を龍騎の身体に押し込みつつ頭上高く掲げた。



「そんなものの前に自分自身から逃げた奴は・・・・・・他人からも自分からも裏切られて当然なんだよ。
全部てめぇの自業自得だろうが。人のせいにしてんじゃねぇよ。お前は、裏切られて当然の人間だ」



当然ながら龍騎も、僕にその身体を持ち上げられるようにしつつ宙に浮かした。



「お前は・・・・・・羽黒レンからも鎌田からも僕からも、誰からも裏切られて」



僕は苛立ち気味に言葉を吐きつつも、そのまま龍騎を自分の背中側に向かって全力で放り投げた。



「当然なんだよっ!!」





龍騎の身体は投げ出され、近くに落ちてあった割れたガラスの破片の中に吸い込まれた。



・・・・・・うし、これで邪魔者は排除。てーかぬるいわ。あんな素人丸出しな戦い方で、人は倒せない。



あとはあっちにレンさんの護衛目的で残したユウスケが、上手くやってくれるでしょ。





≪・・・・・・裏切られて当然ですか≫

「そうだよ」

≪それ、フェイトさんにも言える事だって気づいてます?≫

「当たり前じゃん」



軽くそう返しながら、僕は再びバスターを構え直す。それで踵を返して本命を見定める。



「それが今のフェイトの状態だ。そしてそれが・・・・・・六課という夢の結果だ」

≪分かってるならいいです。というか、分からないはずがありませんよね。
なのになんで優しくするんですか。普通に見捨てちゃってもいいでしょうに≫

「・・・・・・そうだね。うん、それは当然だわ」





そんな話をしながらも僕は改めて、鎌田の方に向き直る。鎌田はもやしの斬撃を避けながら、右手をこちらに向けていた。

そして水流が僕に向けて発射される。僕は左に走ってそれを難なく回避。・・・・・・やっぱ水系統の攻撃か。

その攻撃を避けた直後に、左右から殺気。僕は鎌田に迫っていた足を早めて、僕はその左右からの襲撃を回避。



ただし、そのまま鎌田の方には行かないで一旦足を止める。止めた上で左に跳びつつ振り返る。

そこに居たのは、緑色のミラーモンスター二体。というかこれ、もやしから聞いてた鎌田の契約してるモンスターか。

それでその人形のモンスター二体は、僕の方に迫ってくる。僕はその足を止めるように、再びバスターを撃つ。





「お前達、よくも俺の邪魔してくれたな」

「へぇっ!? という事は」



それでも突っ込んできた鮫頭の一体の右フックを、しゃがんで交差しつつ回避。

続けて突進してきたもう一体は、飛び越えつつ頭を蹴り飛ばしていなす。



「自分の犯行だって認めるわけだっ!!」



その上で後ろに着地して、すぐさま振り返ってバスターを乱射。掃射された弾丸で連中を撃ち抜く。

連中の身体から火花が上がり、怯んだように数歩下がる。その間にも鎌田はもやしの斬撃をガントレットで弾き続ける。



「あぁその通りだっ! 俺が桃井を殺したっ!! 俺が人間でない事まで知られそうになったから、殺したっ!!」





後ろに下がりつつ、こちらの様子を気にしながらも攻撃に対処。そして、逆袈裟に打ち込まれた斬撃を避けた。

ううん、ただ避けただけじゃない。ガントレットで胸元を殴りつけるようにして、そこから水流を発射。

僕がさっきやったのと同じ、零距離からの射撃だね。もやしは避ける事が出来ずに、そのまま攻撃をマトモに喰らう。



そうしてもやしを吹き飛ばした。というか、近くの鏡にもやしは叩きつけられて吸い込まれる。

そこを驚く暇もなく鎌田の左手が動いた。そうして放ち続けている水流を右薙に動かして、僕の背後を狙う。

なお、モンスターは後ろに下がった。安全圏まで退避したみたいだ。



僕は咄嗟に身体を伏せて転がり、空間を薙ぐ水流の下を潜るようにして回避。

僕の真上から、高速で吐き出される水流のしぶきが降り注ぐ。

その水しぶきがジャケットの装甲を叩くけど、それだけならダメージにはならない。



僕は難なく攻撃を避けて、膝立ち体勢で起き上がりつつ鎌田を狙う。

攻撃直後の隙を狙って、鎌田に弾丸が迫る。でも、鎌田は後ずさりしつつガントレットを構えた。

次の瞬間、まるで刃のように鋭く研ぎ澄まされた水が何十発もその先から発射された。



それはバスターから放たれた弾丸と衝突して、次々と爆散していく。

朱色の粒子と水が相殺される形で僕達の中程で撒き散らされていく。でも、互いの攻撃の数発がその合間をすり抜ける。

僕の弾丸は鎌田のアーマーの肩や太もも、脇を掠める。なお、鎌田の水の刃も同様。



僕の身体に装着されているジャケットのアーマーを掠めて、元の水に変える。

アーマーは僅かに傷がつくだけで、それで斬り裂かれたりはなかった。・・・・・・僕はゆっくりと立ち上がる。

鎌田も構えを解いて、まるで感嘆するかのように息を吐いた。





「やるな。天才弁護士さんは、戦闘にかけても天才とは。
これは予想外だ。シンジ如きでは相手にならないのは当然か」

「僕は天才なんかじゃないよ。ただ、死ぬのが怖い臆病者なだけだ。
だから攻撃だって必死に避けるし、早く戦いなんて終わらせたくて必死に攻撃する」

「そうか。なら、俺の邪魔をするな。そうしなければ、貴様も桃井のように殺す」



む、地が出たか。なんというか、典型的な負けフラグを踏みまくるなぁ。



「嫌だね。昼間も言っただろうが。僕は、お前に罪を数えさせる」

「あいにく、それは無理だ」










鎌田はそう言いながら、一気にダッシュ。僕から見て右の方向に走り込んだ。

僕はその進行方向目指して動く。そうして逃がさないようにしようとする。

けど、そこに安全圏まで下がったはずのモンスターが、唸り声を上げながら突撃してきた。





僕はその二体の突撃を、咄嗟に後ろに下がってなんとかかわす。

そうこうしている間に、鎌田はもやしが吸い込まれたのと同じ鏡に吸い込まれた。

僕は舌打ちしつつ、方向転換して迫ってきたモンスター達の足元にバスターを掃射。





そうして足を止めたところで、僕は一気に上に跳ぶ。跳んでモンスター達を跳び越えた。





ちょっとだけ飛行魔法も活用した上で、そのまま飛び込むように僕も同じ鏡の中に入った。




















世界の破壊者、ディケイド。8つの世界を巡り、その瞳は何を見る。










『とまとシリーズ』×『仮面ライダーディケイド』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄と破壊者の旅路


第8話 『龍騎の世界/逆転裁判 ドラゴンレヴォリューション』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



俺は何気にフラフラなレンさんの側についていた。まぁ、ここの辺りは恭文との相談の上でだな。

もしかしたら他に協力者が居て、ソイツがレンさんを狙う可能性もある。だから俺が一応の護衛ってわけだ。

そうすると、鏡の中から恭文に投げ飛ばされるような形でシンジさんが出てきた。





鏡の前に転がり、変身が解けたシンジさんは俺達を忌々しげに睨みながら迫ってくる。

ただ、俺達の前に来ると苦しげに崩れ落ちた。それでシンジさんは・・・・・・蹲りながらレンさんを睨みつける。

その表情は、昼間の時と同じ。何かを強く憎んでいる、とても悲しい顔だった。





・・・・・・昼間恭文が話していた『初恋の人』もこんな顔をしてたのかと思うと、胸が痛くなった。





もしそうなら・・・・・・アイツ、シンジさん見てた時めちゃくちゃ辛かったんじゃないかって考えてしまった。










「どうして・・・・・・どうしてだよっ! 副編が犯人っ!? 俺が裏切られて当然ってなんだよっ!!
ワケ分かんない・・・・・・ワケ分かんないだろっ! こんなの俺は知らないっ!!」

「シンジさん、レンさんは」

「分からないんだっ! アンタが犯人じゃないなら、なんでアンタはライダーバトルに参加してたっ!?
なんでアンタは、自分から戦いを求めるような真似をしてたんだよっ!!」



その叫びで、ただその憎しみの視線を受け止めるだけだったレンさんの目が見開く。

いや、俺も驚いた。だってあの・・・・・・あぁ、そうか。



「おかしいじゃないかっ! 俺の知ってるアンタは、こんな戦いするような人じゃないっ!!
どんなに考えても、他に理由が・・・・・・アンタが桃井さんを殺したって思うしかないじゃないかっ!!」

「シンジ・・・・・・お前」

「最初は信じられなかったさっ! でも・・・・・・でもあの時、門矢士が鏡の中に入った時」



あの時? ・・・・・・あ、そう言えばレンさんが変身するナイトってライダーも、あの時居た。

結局士がレンさんと戦おうとしたら横槍を入れられて、外に弾き出されたんだったよな。



「俺は仮面越しだけど見えたんだっ! アンタが戦いを・・・・・・このバトルを望んでいる感情がっ!!
それともアレは俺の身間違いかっ!? いいや、そんなハズないっ! 俺達はチームだったっ!!」





もしかして、レンさんがどうしてライダーバトルに参加してたか・・・・・・その理由が分からなくて、疑ってた?

どんなに考えても、桃井編集長を手にかけた事が原因にしか思えなかった。

だとしたらこの人、相当単・・・・・・はい、すみません。俺が言う権利ありませんよね。えぇ、分かってます。



とにかくレンさんはただただ取り乱して叫ぶだけのシンジさんを、呆然とした顔で見ている事しか出来なかった。





「それとも3年の間に変わったのかっ!? そうなのかっ!!」

「・・・・・・違う」

「だったらどうしてっ! さっきだって戦いを求めるかのような目で、デッキをかざそうとしてたじゃないかっ!!
鏡の中から見てたんだぞっ! アンタは戦いを・・・・・・戦いがある事を自分から望んでいたじゃないかっ!!」

「そうだな、俺は戦いを求めていた。シンジ、お前の言う通りだ」



静かにそう言ったレンさんを見て、シンジさんが目を見開く。それで、少しだけ表情を柔らかくする。



「ただ少しだけ違う。戦いというより、タイムベントのカードを求めていたと言った方が正解だがな」

「タイム、ベント?」

「レンさん、あの・・・・・・それは」

「簡単に言えば、過去へと戻る力を持ったカードだ。昔取材で、そういうカードがあると教えてもらった事がある。
全ライダーの中でランダムに持たされるカードだが、特にオーディンと呼ばれる特殊個体が持っている確率が高いらしい」



そう言ったレンさんの言葉を受けて、シンジさんが何かに気づいたように目を見開いた。

というか、俺もだ。なんでそんなカードが理由で『戦いを求めた』のは、すぐに分かった。



「レンさん、あなたまさか・・・・・・そのカードで過去に跳んで、真実を確かめようと?
だからその、タイムベントってカードを持ったライダーを探していた」

「・・・・・・あぁ。オーディン以外のライダーが持っている可能性もあったからな。結局しらみ潰しにいくしかなかった」



俺の言葉に、レンさんは頷いた。それでシンジさんは信じられないように首を横に振る。



「そんな・・・・・・そんなバカなっ! ライダーのカードは、バトル以外の使用は禁止されてるっ!!
そんな事をしたら、即座にバトルから除外・・・・・・いや、それ以前にちゃんと跳べるかどうかもっ!!」

「知ってるさ。だが、それでも・・・・・・それでも俺は、桃井編集長の最後の言葉が知りたかった。
・・・・・・どうして殺されなきゃいけなかったのかが、殺した奴が誰なのかが知りたかった」



レンさんの言葉に、シンジさんが固まる。それは、昼間恭文がシンジさんに言った言葉。

だから俺も驚いて、何かを悔やんでいるような表情のレンさんを見る事しか出来なかった。



「それを知って、記事にして・・・・・・犯人に罪を償わせたかった。
デッキを見ながら何度も考えたが、俺にはそれしか出来そうもなかった」

「・・・・・・レンさん」



そこまで言って、悔やんでいるような表情が笑った。笑顔ではなく、苦笑。

まるで自分を戒めているような、そんな悲しい笑いをあの人は浮かべた。



「あの人には本当に、ずいぶんと迷惑をかけてたしな。
せめてジャーナリストとして、真実を追求して手向けにする事しか思いつかなかった」



それでレンさんは、身体をふらつかせながら立ち上がる。立ち上がって、その細い瞳に決意を宿す。



「シンジ、理由はどうあれ俺は戦いを欲していた。だからそんな俺が疑われたのは、当然なんだろう。
・・・・・・あの弁護士達には、感謝しないとな。おかげで・・・・・・おかげで仇が目の前に出てくれ」

「危ないっ!!」



それであの人は前に崩れ落ちた。俺は咄嗟にレンさんの身体を受け止める。



「すまない・・・・・・だが、大丈夫だ」

「いや、大丈夫じゃないでしょっ! 立ってるのもやっとじゃないですかっ!!」





俺がそう声をあげたの次の瞬間、士があの鏡から飛び出てきた。

それに続くように、鎌田もだ。俺達は鏡から離れていたから、いきなり襲われる心配もない。

次は恭文だ。そして鎌田は二人に挟まれる形になって・・・・・・高く跳んだ。



着地地点は、河原の中。二人は鎌田を追いかけるようにして、膝下くらいまでの水の中に降り立つ。

俺の腕の中のレンさんは、そこに向かって足を踏み出した。でも、俺はしっかりと抱きかかえてそれを止める。

だめだ、この人本当にダメージが大きい。このまま戦わせたら、結果は問わず大怪我するぞ。





「・・・・・・レンさん、その傷じゃあユウスケさんの言うように本当に無理だ」



静かな・・・・・・優しい声でそう言いながら、シンジさんは立ち上がった。

そして右手にはデッキ。腰には何もしていないのに、ベルトが装着された。



「だから、俺が行きます。・・・・・・俺が、レンさんの代わりに真実を見て、捉えてきます。俺が決めた真実じゃない。
今度こそ、嘘偽りのない・・・・・・あるがままの真実を。そして俺が犯した罪としっかりと向き合う。だから、俺が行く」

「シンジ、だが」

「だがじゃない。・・・・・・俺がカメラで、レンさんが記事を書く。
俺達は・・・・・・そういうチームでしたよね。今まで何度もこうしてきた」



苦笑し気味にそう言うシンジさんを見て、レンさんの身体の力が抜ける。

そのまま俺に抱えられながら、コンクリの地面の上にまた崩れ落ちた。



「あぁ、そうだったな。俺達は・・・・・・チームだ。シンジ」

「はい」

「俺は全力で記事を書く。カメラはお前に任せた」

「・・・・・・はい」





そう言いながら、笑顔を浮かべるレンさんを見て、シンジさんは嬉しそうに笑う。

でもその表情を一気に真剣なものに変えた。それから踵を返し、戦いの場を見据える。

見据えたまま、昼間レンさんの部屋で見たままのポーズを取る。



そこからシンジさんは躊躇いも迷いもなく、鋭くデッキをベルトに差し込んだ。





「・・・・・・変身っ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・ここはミラーワールドではない」



夕焼けは沈みかけて、夜の闇が世界を覆いかけている。

それでも茜色の光にその青い装甲を染めながら、目の前の男は自信満々にこんな事を言う。



「ここで負ければ、お前達は死ぬ。そんな戦いで、俺に勝てるものか」



なるほど、こういう状況に出れば僕達が怖じ気づくとか思ってこれですか。

つまりもう逃げも隠れもしない。僕達を叩き潰して、口封じするつもりだ。



「あいにく、そういう潰し合いならやんなるくらいやってるんでね。てかお前、それ死亡フラグよ?」

「ふん、関係ないな。・・・・・・もっとも力の強いものが判決を下す。それがお前達の定めた事だ。
この場で私が・・・・・・お前達全員に死刑を申し渡すっ!!」

「そうはさせないっ!!」



そう叫んで僕の左側に派手に着水して来たのは・・・・・・龍騎。

それで僕の方を一瞬だけ見て、すぐに蒲田の方を見た。



「アンタに真実を捻じ曲げさせはしないっ!!」

「ふ、滑稽だな。自分にとって都合のいい真実を、力で決めようとしていたお前の言うセリフではない」



あー、そりゃ同意見だわ。てゆうか、ここでこの人にそれ言われたらそりゃあムカつくでしょ。



「・・・・・・シンジ、お前とあの光夏海という女は私に教えてくれたよ。この世界では、いつだって人はたった一人なのだとな。
人間は自分の為に・・・・・・自分の都合のいい欲望のために戦い、他者を踏みつける生き物。自分のためなら、他者はどうなったっていい」



両腕を広げながら、鎌田はゆっくりとこちらに歩いてくる。そしてシンジさんは威圧されたように、半歩下がる。



「お前達の姿は、まさしくその人間そのものだった。本当に面白いものを見せてくれたよ。
特にそこの天才弁護士さんを睨みつけている時のお前は最高だった。まさに道化だ」



そして鎌田は、左手を高く上げてシンジさんを嘲るように鼻で笑う。

シンジさんは悔しげに視線を下げて、首を横に振る。



「あの彼女も本当に素晴らしかった。『自由になる』という欲望を叶えるために、平然と羽黒レンを生贄にしようとした。
その上彼女は最もらしい事を言って、そこのチビを糾弾した。そうそう、周りの全てを不幸にする悪魔とか言ったな」

「・・・・・・え」



あー、この人は退席したから知らなくて当然だよね。あの夏みかんの最低な発言の数々、是非とも聞かせてやりたかった。

てーかあの時笑ってたのは、マジで楽しかったからですか。うん、薄々気づいていたわ。



「本当に・・・・・・殺すのが惜しいくらいだ。お前も彼女も、『人間』だった。
あとは君の初恋の人か? 彼女の愚かさも、是非ともお目にかかりたかったものだ」

「・・・・・・そうだね、お前の言う通りだ。人間は、確かに昼間のこのボンクラやあのバカみたいにバカやるさ。
自分の都合で、自分の欲望で、本当に見失っちゃいけないものを歪めて自分の手で壊す。そんな事ばかり繰り返す」



僕は前に一歩踏み出す。一歩ずつ、一歩ずつゆっくりと歩きながら仮面越しに歪みを見据える。



「壊して、死ぬほど後悔して、『死にたい』と言いたくなるくらいに崩れる。
・・・・・・僕の大好きな人も、そうだった。自分を『自分』にするために、大事な夢に嘘をついた」



こんな時でも思い出すのは、あの女の子の顔。やっぱり僕は、まだ振り切れないらしい。

僕はもうギンガさんを選んで、将来を考えていくと決めた。なのに僕は・・・・・・こんなの、ダメなのに。



「そうして後悔する様を見ているから、あのバカみかんやこの人の醜態を見たから、言える。
僕はお前の言ってる事が間違いじゃない。・・・・・・真実だって、言い切れる」

≪でも、それだけではありません。あなたの見ている『真実』は、あくまでも一つの側面に過ぎない≫

「・・・・・・欲望に負けず、大事なものを見失わず、ただ真実を見定める。
それが出来る人間も居るって事だ。それを全部と思うのは、勘違いだろ」



そしてそれになぜだかもやしも、自信満々に足を進めながら続く。

僕達が足を踏み出す度に足元の水が揺れ、その音が響き渡る。



「そして人は手を取り合える。取り合って、その手を握り締める事が出来る。
・・・・・・その時俺達は一人なんかじゃないっ! 俺達は、チームになれるっ!!」



そう叫ぶもやしを見て、鎌田はゆっくりと右手を上げて人差し指でもやしを指差した。



「貴様、何者だ」

「通りすがりの仮面ライダーだ。・・・・・・覚えておけっ!!」










僕は後ろを振り返り、左手を伸ばす。その相手は・・・・・・『人間』。





その『人間』は驚いたように僕の手を見る。僕は静かに頷く。





でもすぐにこちらに来て、左手を伸ばして僕の手を強く握り締めた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



蒼チビとシンジが握手した瞬間、鎌田が複数の水の刃を撃ち出した。





蒼チビはそちらを見ずにデカい銃を片手でかざして引き金を引く。





放たれた数十という数の弾丸が、手の平サイズの刃達を全て撃ち抜いた。










「なに?」

「・・・・・・お前の攻撃はもう見切ってる。そんなんじゃ当たらないね。なにより・・・・・・誰がミジンコだ」

「お前、やっぱそこかよっ!!」





俺がツッコんだ次の瞬間、俺の左腰のブッカーからカードが3枚飛び出てきた。

それを素早く右手で掴む。その絵柄は・・・・・・あぁ、やっぱりお決まりのパターンか。

ファイナルフォームライドにファイナルアタックライド。それにカメンライドのカード。



もちろん龍騎のバージョンだ。なら、やる事は決まったな。





≪Final Vent≫





前を見ると、鎌田がカードをガントレットに挿入していた。そしてあの二体のモンスターが両脇に出る。

そのモンスターは水の中に吸い込まれる。それから鎌田の後ろに水しぶきを高く上げながら、何かが出てきた。

それは体長にすると4メートルほどの青い鮫。というか・・・・・・あぁ、大体分かった。



ようするに、これが本来の姿なんだよ。で、カード使って合体したら元に戻ったって事だな。

俺はシンジの後ろに回って、ファイナルフォームライドのカードを右手に持つ。

バックルの両側を引いて、カードの挿入体勢を整える。その上でシンジに声をかける。





「シンジ、ちょっとくすぐったいぞ」

「「え?」」



俺はそのままカードをバックルに挿入。バックルの両脇を押して、カードの効果を発動させる。



≪FINAL FORM RIDE Ry・Ry・Ry・Ry・・・・・・Ryuki!!≫



カードの効果が発動した途端に、シンジの両肩に赤い流線型の盾が装着された。

それだけではなく、右手にはシミターのような刀剣も装備。



「あの、これはその」

「ほいっと」



何も答えずに俺は、その背中を押す。するとシンジは空中に浮かび上がって、身体を変形させていく。

首は胴体に埋まり、その身体も奇妙な形で折れ曲がっていく。



「な、なんじゃコレっ! シンジさんの関節が・・・・・・首とかがなんか凄い事にー!!」

≪・・・・・・気色悪いですね≫



そしてシンジは瞬く間に、蒼チビで言うところの『ドラグレッダー』に変わった。

そう、写真館で今かかっているあの絵に描かれていた赤い龍だ。



『な・・・・・・なんだ、コレ』



戸惑うように、龍の首が動く。というか、俺達の頭上で一回転した。

どうやら自分の身体を見ているらしい。というか、尻尾追いかけてるようにしか見えないぞ。



「シンジさん、アンタ生きてますっ!? 首とか腕とかが凄い形で変形しましたけどっ!!
てーか首に胴体埋まってたしっ! 明らかに複雑骨折なコースじゃないですかっ!!」

『えぇっ!? ちょ、おいアンタっ! 俺に一体なにしたんだよっ!!
さっき『ちょっとくすぐったい』とか言ってたけど、それそういうレベルじゃないだろっ!!』

「細かい事は気にするな。シンジ、向こうのデカブツは任せたからな」

『「気にするに決まってるでしょうがっ! そして勝手に話を進めるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・あぁもういいっ! とりあえず変形プロセスは今後絶対見なければいい事だしっ!!」

≪それが正解ですね。アレは生理的に気持ち悪いですって≫



それから僕は、改めて鎌田を見る。そして今度は両手でバスターを構えて、その砲門を向けた。



「アルト、サウンド機能は大丈夫?」

≪問題ありません。では、クライマックス行きましょうか≫





アルトの言葉に合わせるように、静かに音楽が流れ始めた。なお、ベルトの超小型スピーカーからです。

このZERONOSベルトは、実はちょっとした仕掛けが施されている。それは・・・・・・サウンド機能。

僕が六課を一度辞めてから、最近お友達のイルドさんに頂いたサウンドベルトの機能をこれにも搭載してるの。



というわけで、当然流れてるのは楽しい楽しいノリをアップさせてくれる音楽。そして、流れてるのはコレ。





≪The song today is ”Revolution”≫



そう、龍騎の最後の挿入歌ー! そういうわけで、僕のテンションも最高潮っ!!



『いや、あの・・・・・・それなんですかっ!?』

「え、音楽。やっぱ戦闘に挿入歌はつきものでしょ」

「そういう事聞いてるんじゃないだろっ! てーかお前バカだろっ!!」

「お前達・・・・・・この俺をバカにしているのかっ!?」



僕達に向かって、あの鮫がツッコんで来る。ドラグレッダー・シンジさんはすかさず頭から飛び込む。

下から打ち上げるようにして突撃して、そのまま鮫を腹から押しこんで上空に持ち上げた。



「あぁ、悪いねぇ。お前みたいな雑魚相手だと、これくらいしないと楽しくなくてさぁ」

≪最強は常に私達と共にあるんですよ。残念ながら、あなたじゃ役者不足もいいとこです≫

「というわけで・・・・・・最初に言っておくっ!!」



僕はバスターを右肩で担いで、左手で鎌田を指差す。

そしてこの時間に・・・・・・今を覆す決意と強さを刻み込むために、最初に言っておく。



「僕はかーなーり・・・・・・強いっ!!」

≪ついでに言っておきましょう。あなたの命も残り4分です。懺悔は今のうちに≫

「・・・・・・ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



鎌田は叫びながらガントレットをかざして、水流を撃ってくる。僕ともやしは左右に別れてそれを回避。



「ふざけてねぇよっ!!」



僕は回避しつつ、鎌田に突撃。壁を走りこみながら水流を放った鎌田に向かってバスターを乱射。

鎌田は攻撃を食らいつつも、左手を右薙に動かす。そうして先ほどと同じように水流で薙ぎに来た。



「こっちは最初から最後まで」



すぐさま壁から跳躍してその水流を回避。水流は腕の動きに合わせて、コンクリの壁を砕き削り取っていく。

僕は回避しつつ鎌田に飛び込んでいた。そのまま続けてバスターを連射。



「クライマックスなのよっ!!」





昼と夜との境目の昏き世界を切り裂かんばかりに、朱色の弾丸は掃射される。

その全てを青いボディで受けながら、鎌田は後ずさりしていく。僕は火花が散る鎌田の眼前で着地。

鎌田は水流を撃ち終えたガントレットで、僕の側頭部目がけて殴りつける。



僕はそれをバスターの砲門で受け止め、すぐさま引き金を引く。

バスターの弾丸で火花を激しく散らしながら、ガントレットは撃ち抜かれて弾かれる。

鎌田の体勢が崩れたところで追撃・・・・・・いや、その前に反撃が来た。



鎌田は左腕が弾き飛ばされた衝撃を活かしたまま、右拳で僕を殴りつける。

ようするに引いた分だけ右腕を突き出した。僕は身を反時計回りに回転させて、その突きを回避。

蒲田の右側面に移動しつつ、バスターの引き金を引く。というか、少ししゃがむ。



鎌田は一気に右腕を動かして、僕に向かって裏拳を叩き込んできた。それをしゃがんで回避。

回避しつつ引き金を引いていたので、至近距離でバスターの砲門から弾丸が掃射される。

鎌田の身体は、また吐き出されるように撃ち出された弾丸達によって、激しく火花を上げる。



たまらず鎌田は射線から離れるように左に跳ぶ。そしてその着地点にはもやし。

もやしは停止した鎌田に向かって左フックと叩き込む。鎌田はそれを右手を盾にしてなんとか止める。

反撃とばかりに鎌田の左腕が上がる。でも、すかさずもやしはそれを掌底で払いのけた。



さすがにさっきの零距離攻撃を食らうと、学習するらしい。そうやってガントレットでの攻撃を防いだ。

鎌田は即座に右足をもやしの腹に叩き込む。もやしはそれを下がりつつ左手の掌底で払いのける。

次は右足を素早く引きつつも踏み込んで左足。こちらも同様に左手で止めた。



もやしは止めてからすぐに右手でジャブ。鎌田はそれをガントレットで払って、もやしの身体の外側に移動する。

もやしはそのままタックルに移行して、体重を全部かけた上で鎌田を押し倒す。

その間に、空の上でも鮫と龍の戦いは継続中。鮫は鼻からのこぎりのような刃を出して、突撃。



ドラグレッダー・シンジさんの腹に斬りつけ、火花を散らせる。

そのまま両断しようとするけど、シンジさんは身体を回転させてその刃を力づくで払った。

払いつつも10数メートル下がって、鮫に向かって炎の砲弾を数発撃ち出す。



鮫は両横腹からなにやらミサイル・ガトリングポッドらしきものを出して掃射。

砲弾と放たれた弾丸とミサイル達は正面衝突して、暗くなりつつある空を赤く染め上げる。

そんな中、水の中で揉み合っていた鎌田ともやしが動く。



もやしは鎌田から巴投げで投げ飛ばされた。僕はすかさず鎌田に向かって数発だけ射撃。

鎌田は苛立ち気味に振り向いて、右手を僕に向けて水の刃を掃射する。

弾丸は放たれた数発分だけ、水の刃を撃ち抜く。でも、残りは僕に殺到する。



僕は右側に移動し、鎌田に踏み込みつつ避ける。もやしも同じように踏み込んだ。





「えぇい、うっとおしいっ!!」





鎌田はそこから水流を掃射。今度は身体ごと反時計回りに回転した。

そうやって、左右を挟む形で迫ってきた僕ともやしを攻撃する。いわゆるローリングバスターライフル体勢だね。

でも、僕達は滑りこむようにしてその水流による砲撃を避けた。水流はやっぱり周辺の壁を削り取る。



鎌田はそんな僕達の進行を止めるように、腕を下げた。僕達の機動を遮るように、水流が横から襲う。

僕は鎌田の腕が僅かに下がったのを見てから、一瞬だけ停止して一気に跳び上がる。

水流は僕を圧し潰す事なく、ただ水面と下の地面を削り取る。僕のそれまで居た位置に、盛大に水しぶきが上がる。



飛び上がった僕は身を空中で一回転させて、そのまま鎌田の胸元に向かって右足を突き出した。





「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



舞い上がる水しぶきを突っ切るようにして、僕の右足が鎌田の胸元を捉え吹き飛ばす。



「ぐぅ・・・・・・!!」



僕はそのまま水面に着地。鎌田は未だ立ち上るしぶきの中を突っ切るようにしながら前方に吹き飛ぶ。



≪ATTACK RIDE ・・・・・・BLAST!!≫



そしてそんな鎌田を背中からエネルギー弾が撃ち抜く。それは当然ながらもやしの攻撃。

どうやら僕と違って、足を止めて攻撃を避けたみたい。それで獲物が飛んで来たので、狙い撃つ。



「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」





鎌田は背中から火花を散らしながらもやしの右横を通り過ぎ、そのまま水面に落下。

またまた水しぶきを上げながら、滑るように転がっていく。・・・・・・僕はその間に少しだけ上を見る。

上では、身を翻したドラグレッダーが尾のシミターで腹から鮫を一刀両断にしてた。



そのまま鮫は爆散。一刀両断にされたため、二つの炎が燃え上がり僕達の後ろに墜ちる。



僕は前へとゆっくりと歩きながら、左の親指でバックル上部のチャージボタンを押す。





≪Full Charge≫

「コレで決まりだ」

≪懺悔タイムは終了です。残念でしたね≫



そのままバックルに挿入したカードを引き抜き、バスター上部の差込口に挿入。

カードから赤い火花が走り、上部のデネブさんの瞳が輝く。火花は銃身を辿るように走り、砲門に蓄積されていく。



「シンジ、行くぞ」

≪FINAL ATTACK RIDE Ry・Ry・Ry・Ry・・・・・・Ryuki!!≫



起き上がろうとした鎌田を狙って、ドラグレッダー・シンジさん鳴き声を上げながら急降下。

水面をその衝撃で揺らしながら、周囲の壁を斬り裂きながらも、また尾で起き上がろうとしていた鎌田を斬りつけた。



「うぉっ!!」





鎌田は再び衝撃によって火花を散らしながら吹き飛ばされる。

その合間にもやしの周囲に、ドラグレッダー・シンジさんが寄り添いその周りを渦巻く。

僕はその横を通り過ぎて、そのまま腰だめにバスターを構える。



狙いは当然・・・・・・僕達の眼前でふらつきながら起き上がろうとする鎌田。

10の砲門に赤いエネルギーは既に宿っている。準備は出来た。

あとは引き金を引くだけ。僕は軽く息を吐きながら、気持ちを固めた。





「さぁ、お前の罪を」

≪Buster Nova≫

「数えろっ!!」





引き金を引くと、バスターから今までのような小型弾とは違う攻撃が放たれた。

それは赤いエネルギーの奔流。ベルトによって変換されたため、色さえも変わっている僕の魔力。

カードにやバスターに元々込められている魔力とも合わさる事で放たれるのは、強力な砲撃。



僕は腰を落として両足を踏ん張るけど、それでも衝撃に完全に耐える事は出来ない。

踏ん張る足が水面の中の砂利や土を削り、衝撃で50センチほど下がる事でまたもや水面を立ち上げる。

それでも砲撃の反動に耐える事で、砲撃は軌道を安定させて直進。眼前に居る鎌田を捉えた。



そして鎌田をその奔流の中に飲み込もうとする。でも、鎌田は両腕を盾にして必死に耐えている。

そこを狙って、既に飛び上がっているもやしだよ。もやしの周囲をドラグレッダー・シンジさんが回り続ける。

その中でもやしは身を翻して、鎌田に狙いを定めてその右足を突き出す。



ちょうどその背後に居たドラグレッダー・シンジさんが、もやしに向かって炎を吐き出した。

吐き出した炎はもやしを包んでも焼いたりはしない。むしろその飛び蹴りの勢いを強くした。

もやしはまるで射出されるように鎌田に向かって突撃し・・・・・・その右足で、その身体で鎌田を貫いた。



それにより僕に対するガードも解けた。結果、鎌田は僕とアルトの攻撃にも貫かれ・・・・・・いや、飲み込まれた。





ぐ・・・・・・ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?





鎌田はそのまま叫び声をあげながら爆発。もやしはその後ろに着地。

シンジさんはその右横に来て、一瞬で元の龍騎の姿に戻った。

水面には、ただただ爆炎が静かに燃えるだけ。その色が水面に映り込む。



でも、そんな中で僕は気になる事がある。だから僕はまぁ、シンジさんの方を見ながら聞くわけですよ。





「・・・・・・シンジさん、アンタ生きてます? あの、今立ってるのは成れの果てとか」

「えっと・・・・・・どうにか。な、なんかちょっと痛いだけで、一応は大丈夫みたい。
いや、むしろ肩こりが治ってちょっとすっきり? あ、結構気分いいかも」



そう言いながら、右手でシミターを持ちながら身体を捻っている。

まぁそういう事ならと思うけど、僕は一応もやしの方を見る。



「もやし、普通にアレは死ぬよ。せめて光の中に包んでパーンにしてあげない?」

≪そうですよ、あなたの方がよっぽど鬼畜じゃないですか。
というか、ヒーロー殺しですよ。ヒーロー殺し≫

「俺のせいじゃないだろっ!? てーか、俺にそこ求められても困るんだがっ!!」

「でもこっちは見てて怖いのよっ! あの折れ具合とか埋まり具合とか見てたら寒気が」



『寒気が走る』・・・・・・僕はそう言おうとした。でも、その言葉はマジで走った寒気によって止められた。

僕は自然と、解いていた構えを再び再開。砲門を未だ燃え盛る爆炎へと向ける。



「・・・・・・蒼凪さん?」

「もやし、シンジさん、油断しないで」

「おい何言って・・・・・・おいおい」





炎の中に、気配がする。ううん、もう気配じゃない。炎の中に人影が見える。

炎は少しずつ、少しずつ収まっていく。それでも炎は、その中に居る『誰か』の姿を照らす。

身に着けていたノーネクタイの灰色の背広は、火のせいかところどころ焦げている。



あの不敵な表情は、ただ無表情に虚空を見つめる。そしてその腰に、見慣れないベルトとバックルが見える。

でもそれは龍騎のベルトじゃない。サイズ的には普通のベルトだよ。変身用のデカいそれじゃない。

バックルはおそらく元は楕円形。黒くて錆び付いているかのような表面のそれは、ぱっくりと真ん中から開いている。



そして口元や身体中に、緑色の液体が付着している。その液体とバックルを見て、僕は寒気をまた覚えた。



あのバックル、あの真ん中が直角になっている開き方・・・・・・ま、まさか。





「鎌田・・・・・・副編。そんな、どうして」

「鎌田、お前・・・・・・お前まさか」



鎌田があそこまで自信を持って現実世界に出てきた理由を、僕はようやく思い知った。単純な力の問題じゃなかった。

鎌田は、僕達に絶対に『負けない』自信が・・・・・・確証があった。そしてその答えは、目の前に提示された。



「そうだ、少年」



その声その場に響いた途端に、立ち上がっていた炎が消えた。

そして鎌田の左隣にいつの間にか、明るい暖色系のコートと帽子を羽織ったメガネの男が居る。



「君の世界では、仮面ライダー達はテレビのヒーローとして活躍しているんだったな。
そして君は、そんなライダー達に憧れている。だったら分かるはずだ。君達ではこれは倒せない」

「・・・・・・鎌田がアンデットだからか」

「そうだ。彼はハートのカテゴリーK。またの名を・・・・・・パラドキサアンデット」

≪なるほど、最初から答えは提示されていたわけですか。またナメてくれますね≫





アンデット・・・・・・仮面ライダー剣に出てくる怪人の名前。なお、アンデットは普通には倒せない。

アンデットというのは、不死の生命体なんだよ。だから通常攻撃では絶対に死なない。

だからラウズカードと呼ばれる特殊なカードを使って、そのカードの中に封印してしまうしかない。



そして封印出来るのは、今の鎌田のようにあのバックルが開いている状態の時だけ。

つまり、カードさえあれば鎌田を封印する事が出来る。でも、当然ながらそんなものはどこにもない。

だからこのメガネのおっちゃんは、勝ち誇るように僕を見ているんだよ。



僕が、もやしが、そしてシンジさんが・・・・・・これ以上なにも出来ないと知っているから。





「少年、本当に残念だよ。これで私は君をディケイドと同じ悪魔と認定しなければならない。
・・・・・・そう、君は悪魔だっ! この世界もディケイドと君によって破壊されてしまったっ!!」



『残念』と言いながらも、そのおっちゃんは本当に嬉しそうに歪んだ笑いを浮かべて両手を広げる。

それは昼間見たシンジさんの顔と、あの時のフェイトとかぶりまくってる。つまり、気持ち悪い。



「勝手な事抜かしてんじゃねぇぞ、おっちゃん。
・・・・・・おとなしく僕達について来てもらおうか。てーか鎌田は置いてけ」

「残念だがそれは出来ない。彼にはまだ役割が」



おっちゃんがそこまで言いかけた時、何かが風を切る音が聴こえた。僕がそちらを見ると、そこには1枚のカード。

それが鎌田の腰・・・・・・あのバックルに突き刺さる。赤い裏表紙のそれは・・・・・・ラウズカードっ!?



「ぐ・・・・・・ぐぅ」

「パラドキサアンデットっ!?」





鎌田の身体が緑色の光に包まれる。そしてそのままカードに吸い込まれてしまった。

そしてカードはそのまま飛んできた方向に戻ろうとする。

おっちゃんは左手を伸ばしてカードを捕まえようとするけど、タッチの差で届かない。



そのままカードは夜の闇に消えた。余りの事に、僕達は唖然としてしまった。

でも、すぐに思い出したように僕は行動を再開。すぐさまバスターを構えて、おっちゃんを狙い撃つ。

でもおっちゃんの目の前に、あの銀色のオーロラが現れる。弾丸は全て防がれてしまった。





・・・・・・まぁいい。この世界での実験は終わった。少年、ディケイド・・・・・・覚悟するがいい。
お前達に居場所など存在しないっ! 貴様らは、世界を破壊しつくす悪魔だっ!!






それだけ言い残して、おっちゃんはオーロラの中に消えた。そしてオーロラも即座に消える。

後に残るのは、妙に張り詰めた空気だけ。そして・・・・・・そんな事をしている間に、世界は夜に変わった。

僕はバスターを下ろし、バックルからカードを引き抜く。なお、『いつ戻った?』とかは気にしない方向で。



左手で引き抜いたカードに、亀裂が入る。カードはそのまま砕け散って粒子化した。

その瞬間に、ZERONOSジャケットは解除。僕は元の背広姿に戻った。

・・・・・・このカード、高出力の魔力バッテリーでもあるのよ。それを使って砲撃関係も撃ってるの。



でも、使用は一回こっきり。色んなバランスの問題もあるし、再現の問題も込みでソレ。



残りのカードは・・・・・・・7枚。カードを作るのはブレイクハウトでも難しいから、使い切ったらそれまで。





「・・・・・・アルト」

≪ユウスケさんの証言通りの格好ですね。というかあなた、完全に目をつけられましたね≫

「そうだね。全く、はた迷惑な事だよ。というか」



僕はカードが消えていった方向を見る。そこには当然のように誰も居ない。

でも、確かに誰かが居た。そしてそのためにラウズカードを投擲して、カテゴリーKを封印した。



「・・・・・・どうやら予想以上に色々絡んできてるみたいだね」

≪そうですね。これから先、どんどん厄介になる可能性がありますよ≫










・・・・・・その後、僕やもやしにシンジさんやレンさんの証言。

そして桃井編集長の手帳のおかげで、鎌田が犯人だと言う事で話は決着した。

それももうすぐにだよ。実際自供しちゃってるしね。





当然だけど裁判は中止。あのバカとギンガさんは無事に釈放される事になった。





でも、そっちはちょっとだけ後回し。僕とユウスケ、それにもやしは・・・・・・まだ仕事があった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



場所はつい数時間前にシンジさんとやり合ったあのお部屋。

そこに僕ともやしとユウスケ、それにレンさんとシンジさんが居る。

二人は保釈手続きの最中で、もうちょっとしたらここに来る。





でも、その前に・・・・・・その前に僕は、ちょっとだけネタばらしをする事にした。










「・・・・・・桃井編集長の遺言っ!? 蒼凪さん、それって」

「ホントです。答えは、この手帳の中にありました」



そう言いながら僕は、向かい側に座る二人に手帳を改めて見せる。



「確かにここひと月はずっと鎌田関連の事が書かれていた。でも、最後のページだけは違うんです」

「その日付は、桃井編集長が殺される前日のもの。・・・・・・恭文」

「うん」



僕は手帳を開きつつ、そのページを見せる。そのページに書かれているのは・・・・・・サラダ。

なお、レタスとセロリとベーコンのサラダだよ。炒めたベーコンをあえたボリュームたっぷりなサラダ。



「多分桃井編集長は、万が一の事を考えてこの手帳に色々なネタを暗号として書き込んでました。
その最後の文面が、コレです。なお、この手帳の中だとサラダは・・・・・・人間関係の事」

「人間関係? つまりその、社内のそれ絡みのアレコレを手帳にって事ですよね」

「えぇ。本当に数が少ないんですけど、人事関係とかで重要な決定とかがある時には書いてたみたいです。
ちょうど3年前・・・・・・レンさんが会社を辞めた直後にも、同じ内容の暗号文を書いていたりします」



多分このカテゴリーは、他者に読み聞かせるというよりは自分の心情を纏めるための吐き出し口に近いと思う。

だから暗号文を紐解くと、結構まとまりが無かったり感情的だったり・・・・・・桃井編集長の普段の姿が垣間見える。



「それで弁護士、この暗号文はなんと」

「まぁ簡単に言っちゃうと・・・・・・レンさん、あなたに会社に戻ってきて欲しいという内容でした」

「「・・・・・・え?」」

「それでレンさんとシンジさんの『チーム』に協力してもらって、異世界の人間・・・・・・鎌田の事を調べようとした。
もうちょっと言うと、やたらとレンさんに対して辛辣な感情を持っていたシンジさんに、本当の事を話そうと考えた」



シンジさんの目が見開き、驚いたような顔をする。それで僕とレンさんを見比べる。



「それでレンさん、3年前に会社を辞めた事情、実はあなたの上司から詳しく聞いています」



僕がそう言うと、レンさんは驚いたように目を見開く。なので僕は、静かに頷いた。



「僕やユウスケがレンさんを犯人じゃないと言い切れたのも、そこが原因なんです。
そうじゃなかったら、正直シンジさんの言う通りにしてた。あ、もちろんそこはまだシンジさんには話してません」

「やっぱりこれは、あなたからシンジさんに伝えるべきだと思って・・・・・・黙っていたんです」

「・・・・・・そうだったのか。妙に俺の事を信じてくれるもんだと思ったら、そういう理由か。
全く、これだから編集長は・・・・・・ブン屋が口が軽くてどうするって言うんだ」



呆れ気味に言いながらも、レンさんは笑っていた。それで右隣に居るシンジさんの方を見ようとする。

でも、結局それは出来ないで・・・・・・レンさんは静かに身体を前のめりに倒して、白い机の上に両手を置く。



「あの頃俺は、お前の写真に嫉妬しててな」

「嫉妬? 何言ってんだよ、レンさん」



信じられないように、シンジさんが呟き気味にそう言う。

それでもレンさんは、どこか遠いものを見ながら言葉を続ける。



「俺がどんな記事を書いても、お前の写真1枚に負けてる気がしてな。なんにも見えなくなってたよ。
そんな時桃井編集長が、しばらく別の会社に移る事を勧めてくれた。今の会社も、編集長の紹介なんだ」

「・・・・・・じゃあ、あの。突然退社したとか裏切ったとか・・・・・・あぁ、そうか」



シンジさんは、なぜ自分にそこが伝えられていないのか・・・・・・その理由を察したらしい。

もし自分がそこを知っていたら、どうなったかを考えたんだと思う。それでも動揺は消えないのか、視線は左右に泳ぐ。



「それで外に出て分かったよ。・・・・・・勝ち負けなんかじゃない」



そう言いながらレンさんは、ようやくシンジさんの方を見る。その顔は、どこか嬉しそうに笑っていた。



「二人で、一つだったんだって」



そしてその笑顔は、その言葉と一緒にきっとシンジさんの心に届いた。

だからシンジさんも目を見開いて、一緒に笑う。



「・・・・・・そう、なんだ」



まるで抑え込んでいた何かを吐き出すように、シンジさんは少し早口で喋る。

でも、それでも・・・・・・レンさんと目だけは絶対に離さない。



「俺の写真だけじゃダメなんだ。レンさんの書いてくれる記事で、俺・・・・・・もっと飛べるんだ」



その言葉で、レンさんは更に嬉しそうに笑う。そんな二人を見ていると、なぜか横で無粋なシャッター音が聴こえた。

とりあえず空気読まないバカもやしはそれとして、僕は開いたままの手帳を改めて二人に差し出した。



「きっとそれは、亡くなった桃井編集長も同じ気持ちでした。この暗号文には、そこの辺りまで記載されてる。
ちょっと乱雑で、まとまりがないけど・・・・・・だからレンさんに戻ってきて欲しいと思ってる気持ちが詰まってる」



二人はその手帳を、両手を伸ばして二人で受け取る。僕は・・・・・・ゆっくりとその手を離す。

それで手帳は、完全に二人のものになった。それでまたシャッター音が聴こえるけど、気にしない方向で。



「・・・・・・蒼凪さん」

「ほい?」

「すみません。俺・・・・・・あなたに本当に失礼な事ばかり。
あなたは会って間もない俺の事をマジで心配して、真剣に叱ってくれただけなのに」

「別にいいですよ。てか、僕達はもう手を繋いでるんですから、問題ないでしょ?
なにより僕だって、シンジさんのそういう感情を利用した。だから僕の方がずっと罪が重い」



申し訳なさそうな顔をするので、安心させるように力強くそう答えた。



「むしろもっと責め立ててもらっていいくらいですよ? 『この悪魔』ーとか。
もう夏みかん辺りはすごかったんですから。凄まじい罵詈雑言の嵐でしたし」

「いや、やめときます。・・・・・・そんな事したら、『人間』そのものになった俺を正当化する事になる。なにより忘れたくない。
俺のカメラは誰かを勝手な感情で裁くためにあるんじゃない。真実を歪める事なく映すためにあるんだって事を、絶対に」



それでシンジさんは・・・・・・あれ、なんかハッとしたような顔した。それでなんか足元探ってる。



「シンジ、どうした」

「いや、ちょっと思い出して・・・・・・あの、良ければコレを」



そう言って差し出してきたのは、1枚の写真。その写真は、シンジさんと会ってからすぐに撮影されたもの。

僕と、ユウスケと、僕の頭に偉そうに肘を乗せてるもやしとで三人で映っている写真だった。



「蒼凪さんとユウスケさんが編集長のオフィスを調べてる間に、現像したんです」

「へぇ・・・・・・シンジ、中々いい写真じゃないか。お前、腕上げたか?」

「よしてくださいよ。というか、コレは被写体のおかげですよ。・・・・・・三人とも、いいチームだから」



僕はユウスケともやしの方を見る。ユウスケは微笑みながら頷いて、もやしは興味なさげにそっぽ向いた。

つまり、これは僕が預かるしかないのよ。だから僕は・・・・・・両手を伸ばして、その写真を受け取った。



「シンジさん、ありがとうございます。この写真、一生の宝にします」

「いいえ。こっちこそありがとうございました。おかげで俺、大事なものを壊さずに済んだから」










こうして、この世界での僕達のやるべき事は終わった。

不満そうで僕と目も合わせない夏みかんと、ギンガさんはこのすぐ後に部屋に到着。

なお、ギンガさんはなぜかお肌つやつやで元気いっぱいだった。





それとなく引き連れてきた看守さんに確認してみると・・・・・・まぁその、察してください。





とりあえず僕は、看守さんや関係者さんにひたすらに謝り倒す事しか出来なかった。なんというか、ごめんなさい。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・いやぁ、二人共遅かったねぇ。それで、どうだい?」

「あの、すっごく美味しいです。・・・・・・うぅ、もう留置場のお弁当はごめんかも」

「ギンガさん、アレだけお弁当平らげてよくそんな事言えますねっ!? というか、泣かないでくださいっ!!」





二人が今涙ながらに食べているのは、ローストチキンをほぐして栄次郎が作った洋風おじや。

僕達も頂いているのだけど、これが中々。ご飯にチキンの味が染み込んでいて美味しい。

あとはじゃがいもとかの野菜も入っているので、それにも味が染み込んでいてとっても幸せ。



それで僕は、おじやをフーフーしながら机の上に置いてある写真を見る。なお、シンジさんからもらったのじゃない。



それは、あの時もやしが撮ったシンジさんとレンさんの笑っている姿を映した写真。





「士、俺今回だけは誉められるわ。お前やっぱ写真の才能あるかも」

「お前、今頃気づいたか? 全く、相変わらず鈍い奴だ」

「そうだよ、ユウスケ。もやしは写真の才能に他の資質が全部吸い取られてるんだから。
逆を言えば写真の才能『だけは』天才的にあるんだよ。気づくの遅いよ」

「よし、お前表に出ろっ! お前の性格が悪いのは今回の事で痛感したが、いくらなんでもヒド過ぎだろっ!!」

「・・・・・・恭文、それ誉めてない。俺が思うに全然誉めてないから」





その写真の上半分は、二人が笑ってる。でも、下半分は全く違う写真。

どういうワケかレンさんが撮った僕達の写真が、そこに収まってるのよ。

うーん、やっぱりもやしは写真の才能だけはあるんだよね。なのにどうして性格がアレなのか。



善良な一市民の僕としては、そこの辺りが色々疑問だよ。



こんな素晴らしい写真撮れるんだし、性格良くてもOKなのに。





「でもなぎ君」

「ん、何?」

「その桃井編集長の最後の遺言・・・・・・なんかこう、凄いよね。
虫の知らせじゃないけど、そういうの感じたからそれなのかな」

「あー、それは俺も感じたな。てゆうかさ、中々そこまで出来ないよ。
桃井編集長って、マジで凄い人だったんだな。もう記者魂ーってやつ?」

「それに部下であるシンジさんやレンさんの事も大切に思ってて・・・・・・中々出来る事じゃないよね」



ギンガさんとユウスケが、なにやら感心した顔で言ってきた。それを見て、僕はついきょとんとしてしまう。



「二人共何言ってるの? 遺言かどうかなんて分からないって」

「え? ・・・・・・いやあの、だってそれでシンジさん達和解したってさっき」

「アレ、半分は僕の口からでまかせなんだけど」



一瞬、なぜか場が沈黙した。それで僕はとりあえずおじやを一口。・・・・・・あー、いいおダシ出てるわー。



『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』



なんでか僕と目を合わせようとしなかった夏みかんまで、こっちを見た。うーん、なんでだろう。そんな驚く必要ある?



「あなた、それどういう事ですかっ! というかあの・・・・・・えぇっ!? もう全然ありえないですからっ!!」

「蒼チビ、お前マジでなにやってんだっ!? じゃああの感動シーンは一体なんだったんだよっ!!」

「いや、仕方ないじゃないのさ。まずあの手帳の解読自体が全くだったんだし」



鎌田を自供に持っていくために、ハッタリかまして上手くいっただけなのよ。

細かくツッコまれてたら、正直に言うとボロが出てた。



「もちろん全部デタラメってわけじゃない。多少は読み取れてたものを組み合わせて解釈しただけ。
というか、桃井編集長がレンさんを編集部に戻したがってたのは事実だし、問題ないでしょ」

「・・・・・・恭文、お前やっぱ頭のネジ飛んでるわ。だからってあそこで半分口からでまかせはないだろ」

「大丈夫、半分は本当なんだから。だったら、真実が何かを決めるのは自分じゃない?」

「最もらしい事言っても何も変わらないぞっ!? よし、後でちょっとお兄さんと話そうかっ!!
まぁまぁギンガちゃんと積もる話もあるだろうが、それでもまず俺と話そうっ! なっ!!」










なぜか必死にそう言ってくるユウスケと、ただただ首を横に振るもやし、そしてやっぱり不満そうな夏みかん。

それで・・・・・・苦笑気味だけど、僕の方を優しい瞳で見てくれるギンガさん。

・・・・・・これでチームねぇ。なんというか僕はまだそういう風には実感持てないわ。





ただまぁ、ここで食べるご飯が中々に美味しいってのは、自信を持って言えるかな。うん、それだけはね。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・ギンガさん」

「はい?」



おじやの入ったお椀を持ちながら、夏海さんが小声で怪訝そうに聞いてきた。

それで視線をなぎ君に向けて・・・・・・まぁ言いたい事は分かった。



「どうしてあんないい加減で何考えてるか分からない人と付き合ってるんですか? それもあんなタンカを切ってまで。
私達、実際見捨てられそうになったのに。正直私には理解出来ません。ギンガさんなら、もっといい人が居るはずです」



やっぱりかぁ。あんまりに予想通りなんで、苦笑してしまう。それで・・・・・・うーん、どうしてかな。

色々理由はあるけど、その中で一つを挙げるとすると色々辛い部分があるのかも。



「夏海さん、なぎ君はいい加減なんかじゃありませんよ?
むしろとっても優しい。しいて言うなら、そういうところに惹かれたのかな」

「優しくありませんよ。私の事も殴ったし・・・・・・私から見たらあの人は悪魔同然です。
ギンガさんなら、さっきも言いましたけどもっといい人が居ます。絶対絶対そうです」

「それでも優しいんです。大体、アレは夏海さんが悪いんじゃないですか。
事実羽黒レンさんは犯人じゃなかった。夏海さんの言う通りにしてたらどうなってました?」



そう言うと、目の前の人は不満そうに頬を膨らませる。・・・・・・まぁ、仕方ないんだよね。

私とも、なぎ君とも、士さんやユウスケさんとも違うんだから。とにかく、私はユウスケさんと話すなぎ君を見る。



「優しいから、強いんです。そういう優しさに、強さに惹かれたんです。
それで、この子の側に居てもっと・・・・・・もっと仲良くなりたいなって、今でも思ってます」

「・・・・・・今でも?」

「えぇ、今でも」










きっと私は、良くてまだ二番目。なぎ君の一番にはなれてない。なんだかね、今日の事で痛感したの。

なぎ君は、フェイトさんの事が好きだ。私には入り込めない何かが、なぎ君とフェイトさんの絆を強くしている。

断ち切るのは、無理だよね。そんな事しても意味がないって、年末のアレコレで痛感してる。





でもそれなら私・・・・・・まずい、私迷ってる。このままで本当にいいのかなって、考えてる。





私は今なぎ君を縛りつけてるだけで、本当はフェイトさんとの事を応援すべきなのかな。もう、身を引くべきなのかな。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・こぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉらっ! 待て待てー!!」



写真を見ながらユウスケの必死な訴えを軽くスルーしていると、こちらに三毛な鶏が走ってきた。

なお、雌鳥です。それを栄次郎さんが、声をあげながら追いかける。



「せっかく手に入れた地鶏ー! 明日の卵のためにおとなしくしなさいっ!!」

「え、地鶏のたまごっ!? あのあの、それなら私玉子焼き作りますっ! あぁ、でも卵かけご飯もいいかもっ!!」

「ギンガさん、落ち着いてくださいっ! いくらなんでも食欲暴走し過ぎですからっ!!」



ギンガさんはそれでも目を輝かせて、雌鳥を見る。雌鳥は撮影室の中を縦横無尽に走り回って逃げていく。



「・・・・・・ねぇねぇ、恭文ちゃん」

「なによ、沢城みゆき」

「誰それっ!?」



なお、僕の方に声をかけて来たのはあの白いコウモリ。うん、なんか久しぶりだよね。



「いやさぁ、ギンガちゃん何か飢えてない? やっぱり恭文ちゃんの愛情不足とか。
やっぱりこういう時はぁ、朝まで激しく濃厚にチューとかしちゃって愛情補給は必要だと思うわぁ」

「沢城みゆき、それは違うよ?」



あぁ、胸が痛い。確かに僕、フェイトの事とかでギンガさん戸惑わせてるしなぁ。

愛情不足って言われたら、確かにその通りだよ。でもさ、ここでイチャイチャも絶対アウトでしょ?



「ギンガさんは愛情じゃなくて食が不足してるの。
だからこそ明日の卵かけご飯の美味しさに、期待しまくっているのよ」

「・・・・・・納得したわぁ。あと、沢城みゆきって誰よ」

「ググれカス」

「誰がカスですってっ!? もう失礼しちゃうわぁっ!!」



などと軽く漫才をやっていると、雌鳥が飛び上がった。栄次郎さんがそれを捕まえようと両腕を広げる。

でも、それによって捕まえたのは・・・・・・別のものだった。それは、例の鎖。栄次郎はそのまま鎖を引く。



「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっとっ!!」



栄次郎さんが鎖を引くと、新しい絵が輝きながら降りてきた。なお、雌鳥はその前に着地。

その絵は・・・・・・青い蝶がいくつも飛び交う暗い世界に、一体の人型機械が立ってる。



あー、やっぱり抜かされちゃったわねぇ



隣の沢城みゆきが、なにやら気になる事を言い出した。だから僕は当然のように視線を向ける。



まぁ仕方ないかぁ。存在しない場所に行くなんて、不可能だもの

「沢城みゆき、それどういう事?」

「ググれカ・・・・・・ぐぐぐぐぐ、暴力はんたーいっ! 握り締めて潰そうとするのはダメー!!」



気のせいだよ。僕はただ、僕以外でそういう答え方をする奴が許せないだけだ。

でもあの蝶にあの人型機械・・・・・・そうだ、もう間違えようがない。



「なぎ君」



ギンガさんが声をかけてくるのでそちらを見ると、どこか不安げな顔で僕を見ていた。

・・・・・・なんだろ、その顔を見ていると胸が痛む。というか、チクチクしてくる。



「なぎ君はやっぱり、あの絵が何か分かるんだよね」

「うん。・・・・・・今度はあの蝶に、オートバジン。これは全部仮面ライダーファイズって言うのに出てたものだよ」

「なら・・・・・・ファイズの、世界」










もしかしたら夜にこの世界に移動したのは、何かの巡り合わせなのかも知れない。

ファイズ・・・・・・闇を斬り裂き、光をもたらす赤き閃光。そしてその姿は、皮肉にも夜にこそ映える。

僕達の旅は、こうして四つめの世界に突入する事になった。





それでやっぱり僕の胸は、ワクワクしまくっている。色々な不安要素はあっても、それでもだよ。





やっぱり旅や冒険は楽しい。だから僕は今、1分1秒でも早く外に飛び出したいとか考えてる。




















(第9話へ続く)






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