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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第22話 『かわらぬもの かわりゆくもの わすれたくないもの まもりたいもの』



「・・・じゃあ、本当になにもなかったのね」



えぇ、ありませんよ。そういういかがわしい事はひとかけらも。



「まぁ、そうだよね。・・・うん、予測はしてた」

「エイミィさん、なんでそんなに呆れ顔なんですかっ!?」

「・・・お祝いじゃないの?」

「パパ、おめでとうじゃないの?」





・・・みんなの期待とは違うし、お祝いじゃないね。つか、こんな大げさに祝う事じゃないし。



でも、なんで? いつものノリとは明らかに違うし・・・。





「・・・鶏肉野郎」



思考はその声で中断された。そちらを見ると・・・なんか不満そうな方々が居た。



「ヴィータちゃんの言う通りだ。俺達の期待を裏切りやがって・・・」

「なぎさんのヘタレ」

「・・・現状維持なんだね。恭文、それはどうなのかな?」

「泣けるです・・・」

「蒼凪、またあのおでん屋に行くか。シグナムと、近所の前原殿と一緒にな」

「恭文くん、精密検査しましょうか。大丈夫、E○は治るのよ?」

「・・・アホかぁぁぁぁぁっ!!」





そう、僕は現在吊し上げに遭ってます。みなさん・・・カレルとリエラ以外ね。不満そうです。



いいじゃん、何も無くたってっ! あって気まずくなるよりは数倍マシでしょうかっ!!





「まぁ・・・確かにな。つか、ようやくだな」

「えぇ、ようやくノーダメバリアは解除出来ました」

「長かったわね。うん、本当に・・・」

「シャマルさん、お願いだから泣くのはやめて」



僕も泣いたけどさ。

ある意味、そうなるより快挙じゃない? いや、自分で言うと説得力無いんだけど。



「・・・やっさん」



・・・サリさん、どーしたんですかそんな真剣に。



「高級レストランでピアノフォームを弾くなよ・・・」



あ、なんか崩れ落ちた。つーかまてまてっ!!



「『これでいいか』ってスタッフさんやらに確認は取りつつ弾きましたよっ!?」



当然である。前回も言ったけど、ちょこっと弾いてこういう感じで大丈夫かと念入りに確認した。それはもう念入りに。

フェイトもいるのに、無許可でそこまでチャレンジなことをするわけがない。全部の工程は全て前段階でキッチリしてるに決まっている。



「つか、そういうところでも大丈夫なアレンジ方法教えたの、サリさんですよねっ!? 実際やって彼女おとしたとか言ってたじゃないですかっ!!」

「あんなのホラに決まってるだろうがっ! 実際は引かれたわっ!!」




















・・・は?




















「ドウイウコトデスカ?」

「いや、やっさんのやる気を促すために事実の脚しょ」





その瞬間、サリさんが吹き飛んだ。というか、蹴って吹き飛ばした。





「・・・なにすんだお前っ!?」

「それはこっちのセリフだっ! なにとんでもないフカシ吹いてるっ!? 思わず鳥肌立ったし血の気が引いたでしょうがっ!!」





・・・怖っ! 真面目に怖っ!! 一歩間違ってたらBADじゃないかよっ!!



すさまじく奇跡的なバランスで昨日を越えた事を、今さらながら認識したよっ!!





「まさか本気でやるとは思わなかったんだよっ! お前『TPO』って知ってるっ!? 場を考えろよ場をっ!!」

「それは僕が言ったことでしょっ!? しっかりとした完成度で文句言わせなければOKって言ってたでしょうがっ!!」










そう。戸惑う僕にサリさんはそう言った。それだけじゃない。こうも言ってた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『お前は馬鹿かっ!? 音楽に国境無しっ! 素晴らしい演奏に、曲の出地は関係無いっ!!
いや、出地どうこうだけで判断する奴は二流以下だっ! ついでに判断させる弾き手も三流以下だっ!!』





・・・サリさんの言葉は、そんな色んなものに喧嘩を売った発言から始まった。





『そもそも音楽とはなんだっ!? そうっ! 「音を楽しむ」ことだっ!!
確かに場に合ったチョイスは必要だろう。しかしっ! それだけでは足りないっ!! 足りるはずがないっ!!』





・・・その時居たのは、カリムさんと僕。で、僕はなぜか殴られて倒れてた。





『なぜならっ! 場に合う曲を弾くだけでは音楽は完成しないからだっ!! ただ弾くだけならば、音源をスピーカーから流せばいいだけの話になるっ!!
お前はそれでいいのかっ!? いいや、よくないっ!! いいわけがないっ!!
お前がやることは場に合う曲を弾くことじゃない。曲にっ! ピアノを通じて魂を込める事なんだよっ!!』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・サリエル殿、やはりあの方の弟子なのですね」

「ですです・・・」

「そう言いながら、みんなで俺を呆れた目で見るのはやめてくれないかなっ!?」

「・・・まだあります」

「まだあるのっ!?」










そう、まだある。サリさんの固有結界は・・・凄かったのだ。



















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『この場合、楽しむという言葉は、気持ちを込めるという意味に変換してくれ。
そう、ディスクや音源を使用するならともかく、人間が生で弾く場合、音と言う情報に付与されるものがある。それは・・・心っ! 魂だっ!!
演奏者が自らの魂を込めるからこそ、音楽は人を魅了するんだ。それを・・・アニメ関係だからだめ? 場を考えろ? TPOだとっ!?
貴様っ! それでもピアニストかっ!? 歯を喰い縛れっ! 腐りきった性根を修正してやるっ!!』





・・・あの時、なんでぶっ飛ばされたんだろ。改めて考えるとわけわからないし。





『もう一度言うっ! 出地など関係ないっ!! そして勘違いするなっ! 好きな曲ばかりを弾けと言っているわけではないっ!!
必要最低限なチョイスはしなくてはいけない。ただ好きな曲を弾くだけでは、それは押し付けになる。それはプロの仕事ではないっ!!
その場合どうするか? ・・・答えは一つっ! そう、アレンジだっ!!』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・なんつうか、洗脳ですか?」

「なぎさんに精神操作の魔法を使ってたとか」

「そんなことしてないからなっ!?」

「・・・で、折り返して」

「これでようやく半分なのっ!?」










そう、折り返して、固有結界はまだ続く。



















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『一件激しい曲が、演奏する楽器やテンポを変えただけでとても雰囲気のいい曲になるだろう。そう、アレンジだっ!!
新しい可能性を、その手で作り出すっ! それこそがアレンジの理念っ!! 場に合わないなら、まず合う可能性を探すことが先決だろう。
・・・もちろん、版権をぶっちぎらない程度にっ!!』





この時、慌てて付け加えた時点で気付くべきだった。いや、もう遅いけど。





『何度も言うようだが、好き勝手をやれと言っているわけではない。ただっ! くだらない常識で自らの音楽の可能性を狭めるなと言っているんだっ!!
お前はそんな器じゃないだろっ!? 貴様っ! 電○のピアノマンの回を見ていないのかっ!!』





僕は首を横に振る。もはや主旨がさっぱりだけど、そんなの関係無い。言葉に込められた熱が、僕を、カリムさんを貫く。





『見ているなら話は早い。・・・あれこそがお前の目指すべき姿だ』





・・・いや、本気で振り返ると訳が分からない。僕、なんでこれで納得したっ!?

僕だけじゃなくて、カリムさんも説得されかけてるし。





『弾く曲がどうかなど関係ないっ! そんな戯言は聞き流せっ!! あれこそが真なる音楽っ! 真に弾き手の想いがこもった音は、万人を魅了するっ!!
そんな音楽をその指で、その心で奏でたいとは思わないかっ! 自らの魂の全てを叩きつけてだっ!!
そんな常識を飛び越える演奏がしたいとは思わないのかっ!?』





・・・なんで僕はちょこっと涙目なんだろう。どうしてカリムさんは『目から鱗が落ちました』的な顔してるんだろ。

改めて考えると本気で訳が分からないしっ!!





『お前なら出来るっ! いや、お前にしか出来ないっ!! 何ものにも捕らわれない本当の音楽というものを、世間様に教えてやれっ!!
やっさんっ! お前は今からピアノマンになるんだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・恭文」

「お願い、言わないで」

「なんでそれで説得されちゃうのっ!? おかしいよっ! 僕、今相当回数突っ込んだよっ!!」



・・・なんでだろうね。こう・・・サリさんの勢いがすごくてつい。



「・・・だって、こう言わなきゃやっさんは納得しないだろっ! 別に俺と同じ目に合えばいいとか考えてたりしたわけじゃないぞっ!? それは2割程度だっ!!」

「なにげに無視出来ない割合じゃないのさっ! どんだけ最低な思考してるんですかアンタっ!!」





いや、確かに文句は言わせませんでしたよ? えぇ、全く。あの言葉に感動して、必死に練習し続けた甲斐は確かにありましたよ。



でも怖いわっ! 振り返ると本気で怖いわっ!! つか、常識や規律ぶっちぎって目的達成する人がそんなホラ吹くなっ!!





「あぁ、どうして俺のまわりにはマトモじゃないのばかりがいるんだよ。本気でそれでなんとかするって、おかしすぎるだろ・・・」

「アンタが言うなっ!!」



なんか失礼なことを言い出したし。



「・・・って、違う。こんな話じゃなかった」

「じゃあ何が言いたかったんですか・・・」



そしていきなりテンションが変わった。というか戻った。



「ここまでだからな」

「はい?」

「俺達に出来るのはここまで。そう言ったんだ。あとは、フェイトちゃんとお前が決めていく事だ。
もうフェイトちゃんは『今』のお前を見ている。ここから導き出される結果は、全部お前次第だし、お前の責任だ」

「・・・はい」










他のみんなも、同じくらしい。表情がサリさんと同じだし。





つまり、これでダメならそれはフェイトどうこうじゃない。僕の問題ということ。

ここからは、皆は味方でも敵でもない。ある意味審判だ。レッドカードものなら、遠慮なく退場させられる。





・・・それで、いい。一番変えたくて、変えられなかったことは、覆せたんだから。





子ども扱いしないで、スルーしないで、ちゃんと見てくれる。ずっと・・・ずっと・・・そうして欲しかったから。

やっと、ちゃんとぶつかれるんだ。そしてそれはつまり、答えが出るということ。覚悟は、決めてた。





・・・まぁ、ダメだったら、多分泣く。でも、引きずりはしない。ううん、したくない。





もう、今までとは違うんだから。見てくれた上でダメなら、納得しなきゃね。










「ま、頑張れ。サリさんの言う通り、ここからはお前次第だからよ。
アタシらは本当にマズイって思わない限りは、フォローしねぇから」

「それで充分です。・・・一番の願いは、叶いましたから」





一応進展はあったから、いいのさ。





「・・・うん、なら硬い話はここまでにして、みんなで美味しくご飯にするか。せっかくのごちそうが冷めるしな」

「はい」










そして、その後は皆で楽しくご飯を食べた。それはもう楽しく騒ぎながら。





・・・とは言え・・・だよな。どうしたもんか。





フェイトのことじゃない。・・・新しい自分、どうやって始めればいいか、考えてる。





忘れたくないことがある。絶対に忘れたくくない事が。





僕が僕で居るために、絶対に必要な記憶と時間。





その記憶と時間があるから、僕は守りたいものを、壊したいものを、見失わないで済む。迷わないで戦える。





・・・それでも、時々間違えちゃうし、取りこぼしちゃうけどね。





例え持っていることで、誰かを傷つけても、遠ざけることになっても、消しちゃいけない記憶。





つか、それでどうこうなる覚悟なら、とうに決めている。





だって、僕は・・・弱い。だからきっと、組織やコミュニティにそれを預けたら、忘れる。





今の気持ちも、重さも、その存在さえも。それだけは、それだけは絶対に嫌で・・・。





だから今までは嘱託で居た。局員として戦ったら、きっと忘れる。今までは、そう思っていた。





でも・・・。





フェイトの言う通り、そうならない道、あるのかな?





局の中に居ても、自分として、大事な時間と記憶。何一つ忘れたり、捨てたりしない道が。





もし、もしも・・・そんな道があるなら、僕は・・・。




















魔法少女リリカルなのはStrikerS  外伝


とある魔導師と機動六課の日常


第22話 『かわらぬもの かわりゆくもの わすれたくないもの まもりたいもの』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



朝日が眩しい。黄色に見えるんは気のせいやない。・・・いや、もう太陽は昇りきってるんやけどな。





まー、あれや。あれなんよ。もうあれがあれしてあれでな。辛い辛い。





・・・コメントするとカットなんよ。悪いんやけど察してくれると助かるわ。





とにかくうちは首都に戻ってきた。ロッサとは途中で会話少なげに別れた。

現在は某ファーストフード店でマフィンかじっとる。

そして、胸元には、青い宝石。・・・よし。










「・・・なぁ、アルトアイゼン」

≪・・・≫





返事が無い。ただのしかばね・・・って、アホかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!





「なにを華麗に無視しとるんやっ!? ほら、起きてるやろっ! さっさと返事しいっ!!」

≪さっさ≫

「自分うちを舐めとるやろっ!!」

≪・・・あんなあり得ない状況を私に見せておいて、よくそんなことが言えますね≫










う・・・。





・・・そう、昨日の夜ありえへんことが起こった。





嵐で帰れなくなって、同じ部屋に泊まることになったロッサと祝杯上げたんや。理由は恭文×フェイト成立の前祝い。

いや、同じ部屋で泊まることになったっぽいし、これはもう恭文が男を見せて確定かなと。なお、うちの英断。





それで、なんやかんやとあって・・・。





気が付いたら朝で、うちら・・・その・・・。






何が原因やったっけなぁ。えっと・・・。










≪あなたが『男女が同じ部屋に泊まっていたら、当然エロい事をする』・・・と言い出したからですよ≫

「あぁ、そうやった。そしたらロッサがそんなことないって反論してきて・・」

≪そうして・・・アウトコースです。いや、これしか説明出来ないなんて、おかしいですけど≫

「そうやな・・・。どないしよ」





テーブルに突っ伏す。いや、真面目にどないしよ。



・・・いや、大丈夫か。恭文とフェイトちゃんだって・・・やろうし。





≪どうでしょ。マスターとフェイトさんですし≫

「いや、でもさすがに・・・」

≪それより、自分のことを考えたらどうですか?≫










・・・そうやな。どないしようか。





ハプニングでそうなるって、ラブコメではよくあるやん? ・・・キツいな。実際のところ。





やっぱここは誰かに相談した方がえぇかな。・・・ロッサには気にすることないなんて言うてしまったけど、ミスやった。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どないしようか、マジで。フェイトちゃんに相談する? 一応同じ境遇やし。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・どうしようか。まさかこうなるとは思わなかった。





いや、やめよう。こんな事を口にしても、最低なだけだ。





はやてとそうなったことを・・・僕自身は後悔は無い。うん、それはない。





ただ、はやては・・・違うよね。『気にしない』とハッキリ言われてしまったし。





確かに、その場の勢いでそうなる事は・・・ある。というか、なった。





だけど、今回は抑えるべきだった。僕は男だ。男として、女性であるはやてを守らなくてはいけない。





なのに、これだ。・・・本当に最低だな、僕は。





ただ・・・あの時。





僕は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「何も・・・無いですから・・・」

「・・・テスタロッサ、そこはもう分かった。だから安心してくれ」





・・・テスタロッサ、その涙目はやめてくれ。いや、我々が原因なんだが。

しかし蒼凪は・・・。いや、だからこそらしいのか。



現在は談話室でテスタロッサと茶を飲んでいる。私が蒼凪仕込みの淹れ方で淹れた。

茶葉を湯に通してから、揺らさずにじっくり待つ。飲んでくれる相手の笑顔を考えながら、ゆっくりとだ。

これだけで、随分と味が良くなるのだから不思議だな。まぁ、それはさておき・・・。





「それで、相談とはなんだ?」



恋愛事・・・ではないな。第一、そんな話をするなら私には相談しないだろう。




「はい。実は・・・」




















「・・・なるほど」

「はい・・・」



蒼凪を補佐官にか。また英断を・・・。



「だが、そこまで気を使う必要はないのではないか? 蒼凪ならば、一人でもなんとかなるだろう」



実際、現在もどうにかなっている。局員になり、部隊に正式に入ったとしても、問題は・・・。



「・・・怖いんです」

「怖い?」

「ヤスフミ、あの人に似ていますから」





それだけでテスタロッサが何を危惧しているのかを理解した。



・・・蒼凪の師、ヘイハチ・トウゴウという人間は局員ではあった。しかし・・・その枠に縛られる人間ではなかった。

自分がそうしたいと思えば、局の命令や常識など、無視して進む。今もそうだ。そして蒼凪も・・・。





「万が一を考えて、ヤスフミに来てはもらいました。・・・今の所は大丈夫ですけど」



私達が出動するような大きな事件がミッドで起きているわけでは無いしな。だが、有事となると話は別だ。



「でも、何かが起きて局や組織・・・私達の動きと自分の動きが大きく食い違えば、間違いなく飛び出します。アルトアイゼンと一緒に」

「・・・そうだな」

「それだけじゃなくて・・・その、昨日・・・というか、最近、改めて気付いたんです」





気付いた?





「ヤスフミ、凄く危ういんです」





表情は重く、何かを恐れた色が見えるのは気のせいではない。



しかし、ここまでになるとは。一体、何がそんなに気になる。





「どういうことだ?」

「守りたいものがあって、壊したいものがある。頑なでも、結果として自分の想いを押し付けることになっても、絶対に忘れたくない記憶と時間がある。
それは理解・・・出来ました。ヤスフミにとってそれが必要なものであることも」



理解『している』ではなく、『出来た』・・・か。やはり、変化はあったのだな。



「でも、ヤスフミ・・・それを一番に考え過ぎているんです。
こう、そう考えていることで、人から疎まれたり、自分の今の居場所を無くすことになることに、恐怖を感じていないようで・・・」





・・・アイツは迷わない。そして止まらない。心の中に通すべきものが、しっかりと存在しているからだ。



そして、それ故にアイツはそれを通すのに邪魔だと判断すれば、遠慮無くそれを振り切り、対価を差し出す。

その状況で一番対価にされやすく、雨風に晒されるのは・・・アイツに対する信頼や、アイツの立場だ。





「もっと言うと・・・『自分の気持ちを通したら、人に嫌われても、居場所を無くしても仕方ない』。そう考えている部分が見えました。
そういうのを覚悟していると言えばいいんでしょうか。もしかしたら、自分は殺して・・・奪った人間だから、仕方ないと考えているんじゃないかなと」

「・・・そうだな、あの方と同じく、アイツはそういった所がある」










そう、テスタロッサの言うように、アイツは自らの風評や自分の立ち位置を軽視する傾向が見られる。私も気付いてはいた。



ただ、今まではアイツがちゃんとその状況毎に判断して、覚悟を決めている様子だったからこそ、何も言わなかったのだがな。





それにだ、それは決して間違いではない。

自分を通す・・・行動するということは、自分を他者に押し付けていくこととも言える。他者のためと言おうと、それは変わらない。





そう、他者に何も押し付けない者など、存在しない。私とて同じだ。





もし、自分は何も押し付けてはいないと、その相手の事を思い行動していると言うなら、それは幻想であり錯覚であり、エゴだ。

他者に干渉するという事はそういう事だと・・・まぁ、今のは受け売りだがな。実際はそこまでドライでは無いと思う。





だが、蒼凪はそれ故に、テスタロッサの言うように考えている。

・・・例え、それ故に居場所を持てず、孤独になったとしてもだ。

アイツにとって、人を殺めた記憶はそれほどに重い。その中で見据えた戦う意義もだ。その覚悟をしてでも、背負わなければならない。

組織に預けて、楽になることなど、出来ないのだろう。その記憶とて、蒼凪にとっては必要なものなのだからな。





だが、蒼凪の現状が、テスタロッサは疑問なわけか。










「局員になる必要は・・・ないんです。ずっと嘱託でも構いません。ただ・・・」

「蒼凪に、今居る場所を捨てて当然のものとは、見て欲しくないと」

「・・・はい。立場や状況に固執しろとは言いません。ただ、もう少しだけ大事にして欲しいんです。
でも、どれだけ考えてもどうしたらいいのかわからなくて・・・」



納得した。とは言え・・・いや、答えなど一つしか無いんだがな。テスタロッサにとってはそうだ。



「それで、お前はそれを一緒に考えることにしたわけだ。側に居れば、最悪そうなりかけても力になることは出来ると」

「・・・約束しましたから。少しずつでいい、新しい私達を始めたいんです。なにより、私は・・・嫌です」

「例え、押し付けで現実を見ていないとしても、そう言いたいのか?」

「しても、です」


テスタロッサは、迷い無く言い切った。



「ヤスフミの今までが間違っているなんて、言うつもりはありません。ただ、それが全部で、絶対じゃない・・・という風に、出来れば・・・と・・・。
結局、また押し付けかもしれないんですけど」

「それは蒼凪とて同じだ。問題はなかろう」



若さゆえだと思ってしまう私は、きっとダメなのだろう。・・・若さが足りないのだろうか。



「・・・蒼凪には話したのか?」



テスタロッサは頷いた。・・・蒼凪は相当苦い顔をしていただろうな。



「してました。・・・『やっぱり局に入って欲しいからそう言う』。そんな表情をしてました。そして言われました。私の望むようには、きっとなれないと」

「・・・そうか」



確かにテスタロッサは何回か話していたしな。そう思うのは無理はない。



「でも、頷いてくれました。先のことを、一緒に考えていくことだけは、なんとか」

「・・・よかったな」

「はい。・・・あ、それと相談毎なんですけど」





そう言えばそうだったな。すっかり忘れていた。



しかし、話し出すとここまで止まらないとは。昨日の一件が、二人にとっていい傾向になっている証拠か?





「・・・あの、シグナム」

「どうした、改まって」

「また・・・話を聞いてもらっていいですか? 私一人だと、煮詰まっちゃいそうで。今も、ちょっとこんがらがってますし・・・」










コイツは・・・! まさかそれを言うためだけにわざわざここに連れてきたのかっ!?





そんな私の思考が伝わったのか、申し訳なさげに頷くテスタロッサの頭はくしゃくしゃにしてやった。




これからしばらくはコイツの話に付き合うことになるんだ。これくらいは許して欲しい。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・夜。来てくれた皆にお礼を言いつつ見送ってから数時間。





やけに肩を落とした感じのアルフさんが、双子と一緒に早々に眠ったあと・・・。僕は、お姉さんとお母さんに人生相談をしていた。




















「・・・局にっ!?」



やけに驚くエイミィさんの言葉に頷く。というか、リンディさんまでビックリ顔。



「それはまたどうして? いえ、フェイトと話をして、一つの可能性として、本気で考えようとしてるのは分かるわ。でも・・・いきなり過ぎない?」



・・・そう思います。



「今見ているものだけじゃ足りないんです」





僕が通したいものは、変わらなかった。

我がままで、身勝手で、傲慢だとも思う。でも、変わらなかった。



今を守りたい気持ちと、過去を忘れたくない気持ちは、何も変わらなかった。





「だけど、それでも迷っていたんです。それがどうしてか、自分でも分からなくて・・・。
でも、昨日フェイトと話して、分かったんです。まだ・・・足りないんだと」

「だから、今までは敬遠してた局員としての道も、見てみることにしたと・・・」

「そう、です」





・・・正直、合わないとは思う。きっと簡単じゃない。



だけど、このままじゃ前に進めない。嘱託をするにしても、ちゃんと考えなきゃいけないんだ。





「・・・正直、あなたが局員というのは・・・難しいと思うわよ?」



でしょうね。自分でも思います。



「あなたは、管理局を信じてはくれないでしょう? 人を信じているだけであって」

「・・・はい」

「まー、休業中の身だけど、それでも局員として言わせていただくとですよ。そういう子はどこに居ても厄介だろうね。
局員になるって、局の正義に背中預けるのと同じだからさ。そういうのを少しでも信じられないと、辛いと思うな」





ですよね。うん、分かってた。でも、そうすると・・・。






「あと・・・それ絡みで言いたいことがあります」



え?

リンディさんとエイミィさんの表情が厳しくなった。・・・なんだろ。



「・・・あなた、もういいのよ」

「・・・なにがですか?」

「過去に縛られなくても、いいの」



縛られてるつもり・・・はない。ただ、忘れたくないんだ。



「でも、恭文くんがそのために諦めているのは、見てられないかな」

「諦めては」

「いるよね。・・・今の居場所にずっと居ること、諦めてる。居場所を、大事にしてない」



反論出来なかった。その通りだから。きっと、エイミィさんや・・・フェイトの言う通りだ。



「・・・あのね、フェイトちゃんがずっと恭文くんを子ども扱いしてたの、それが原因じゃないかな」



・・・え?



「恭文くんの、いつの間にフラっと居なくなっちゃいそうな所を見て、ずっと不安だったんだよ。
自分と似ている所もあるし、ヘイハチさんがまさにそれだから、余計に」

「私もそう思うわ。もし、本気でフェイトとの時間が欲しいと思うなら、そこは直すべきよ。
でないと、きっと互いに不幸になるだけだわ」



そう、かな。ううん、きっと・・・そうなんだ。



「・・・もちろん、あなたがそう考えてしまう理由は分かるわ。ね、一つ聞かせて?」

「はい」

「命を奪ったという事実は、そんなに重いもの?」



僕は頷いた。重い、凄く。重くて重くて、キツい。



「なら、忘れてもいいんじゃないかしら」

「出来ません」

「それはなんで? ・・・やっぱり、忘れられないのかな」

「違います。・・・忘れたく、ないんです」



うん、そうだ。忘れたくない。無かったことにも出来ない。



「・・・どうして?」

「どうしてと言われましても・・・」

「正直ね、理解出来ないのよ。あなたは、そうするから失うものがある。信じられないものがある。それは、悲しいことなのよ?」



何も言えない。だって、間違いではないから。



「・・・忘れることが美徳だと言うつもりはないわ。でも、決して罪では無い。あなた・・・十分頑張ったと思う。だから、もういいのよ。
もう、下ろしましょう? それでもあなたはきっと・・・幸せになれるわ」










そう言われた瞬間、どう返事をしていいか分からなくて・・・うつむいた。

変わらなきゃいけない。本当に守りたいなら。





・・・僕のやることは。




















「・・・リンディさん、エイミィさん」

「なにかしら?」

「すみません、すぐには決められません。・・・一番話さなきゃいけない子達に、まだ話していないんです」

「・・・そうね。あなたが生き方を変えるなら、あの子達にちゃんと話さないとね。でも、きっとそれでいいと言ってくれると思うわ」

「前に進むためだもん。きっと・・・許してくれるよ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・そして翌朝、僕は再び隊舎へとむか・・・いや、仕事だしね。











「「パパ、行ってらっしゃーい」」

「うん、行ってきまーす」





・・・よし、気にしたら負けだ。笑顔で双子コンビと『お兄さんのお嫁さん』であるエイミィさんと、リンディさんにアルフさんに手を振る。



そういやアルフさん、妙に優しかった。・・・なんで?




















隊舎に着くと、気付く。僕を見る皆の目がおかしい。

・・・まさか予想通り? なにしてるの風紀委員っ! しっかり隊舎の空気を纏めてっ!!





とにかく、デバイスルームへ向かう。アルトには、お留守番してもらってたしね。





とにかく・・・入る。あ、ここは普通の空気だ。










「シャーリー、おはよ〜」

「あ、おはよ」

「おはようですー!」



・・・デバイスルームは一人じゃなかった。リインが居た。なんで?



「あぁ、リイン曹長のバイタルチェックしてたから」

「納得した。あ、僕は出てた方がいい?」

「もう終わったから大丈夫ですよ」



シャーリーもその言葉にうなづく。・・・そいやさ、シャーリー。



「なにかな?」

「いや、なにかなじゃなくて、なんでそんなにつっけんどん? つか、目をあわせて」

「・・・なぎ君のヘタレ」





お前もかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! つか、ヘタレじゃないからねっ!? 何言ってくれちゃってるの本当にっ!!





「仕方ないですよ・・・」

「なんでっ!?」

「昨日、こっちも大変だったですから」



・・・後でフェイトの様子見に行こう。うん、絶対だ。

あー、でもわかった。微妙な空気の正体が。まぁいいや。過ぎてるようなら、グリフィスさんやシグナムさんがシメていくでしょ。



「ま、そこはいいよ。フェイトさん的にそうなるのは、BADルートだったみたいだし」



いいんかいっ! だったらつっこまないでよっ!!



≪仕方ないでしょう。これでようやくと考えていたのに、肩すかしなんですから≫

「いーのよ、進展はしてるから。・・・ただいま、アルト」

≪おかえりなさい。マスター≫





その声は部屋の中央のデバイス用のメンテポッドから。そちらを見ると・・・居た。



心を一つに出来る大事な相棒が。





「なぎ君が居ない間にメンテはしておいたから、いつでもいけるよ?」

「お、シャーリー気が利くね。ありがと。・・・バッチリ?」

「バッチリ」

「もうすこぶる快調ですよ〜」



うん、ならよかった。まぁ、アルトは丈夫だしね。問題はないか。



≪それではマスター≫

「うん」










シャーリーがポッドからアルトを取り出して、僕に手渡してくる。





それを両手で受け取って、首にかける。・・・うん、やっといつも通りだ。どーもらしくなかったんだよね。ちょっとシリアスだったし。










「・・・シャーリー」

「なに?」

「どうして局員になろうと思ったの?」

「・・・え?」



あの、シャリオさん? どうしてそんなに面白い顔をする。いや、我ながらいきなり過ぎると思うけど。

だけど、我が悪友は、それでもちゃんと答えてくれた。



「・・・うーん、私は生活が安定してるからかな?」

「・・・そうなの?」

「まぁ、元々メカが好きで、局でデバイスマイスターの資格を取れば、そういうのに触れていけるしね。
・・・まぁ、こんな感じかな」



・・・こういうことなのかな。



「まぁ、アレだよなぎ君」

「うん?」

「誰も彼も、局のことを全部信じて仕事してるわけじゃないよ。少なくとも、私はそう」



シャーリーの僕を見る目が強くなる。いつもは見せない真剣な瞳。



「ただ・・・その中でやってみたいことが出来た。だから、ここに居る。きっと、皆同じだよ。それでいいんじゃないかな。
組織の全部を信じる必要は、きっと無い。むしろ利用してやるくらいの気持ちで、いいんだよ」

「・・・そうかな」

「そうだよ」










・・・我が悪友は、やっぱり鋭い。色々見抜かれたらしい。





とにかく、シャーリーにもう一度お礼を言って、僕とアルトとリインは、デバイスルームを後にした。




















あー、しかしさアルト、リイン。










≪はい?≫

「・・・僕が局員になるって言ったら、どう思う?」

「恭文さん、どうしたですか? さっきから、変ですよ」

「あの・・・実はね」




















全部ぶっちゃけました。昨日のことからなにまで。そして・・・。




















≪「バカじゃないんですか?」≫




















・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・よし。




















「即答っておかしくない!? つか、いきなり過ぎるからねそれっ! 僕、結構悩んでたんですけどっ!!」

「バカなんだから仕方ないですよ。ね、アルトアイゼン」

≪そうですよ。リインさんの言う通りです。・・・あなた、なんで忘れてるんですか≫



忘れてる?



≪まぁ、バカなマスターにも分かるように話すとしますか≫

「ですです。本当にバカな恭文さんにも、分かるように話すですよ」





こ、こひつらは・・・。





≪・・・私はそうなったとしても、いつも通りに行くだけですよ。いつものノリで、いつも通りです≫

「リインも同じくです。恭文さんと、アルトアイゼンと三人で、いつも通りです」



・・・そっか。



≪そうですよ。そして、あなたとて同じです≫

「そう思う?」

≪思います。どこに居ようと、あなたはあなたなんですから。
バカで、性悪で、我が儘で嘘つきでヘタレで天然フラグメイカーで・・・≫

「その上、いつも無茶して、みんなに心配かけまくって、運もなくて、こうと決めたらやたらと強情で・・・」



ちょっとっ!?



≪そして、私がマスターと認めた人です≫



その言葉に胸が震えた。・・・そうだ。僕はあの時・・・アルトに認められたんだ。



「私も同じですよ。・・・大事な、本当に大事な人です。恭文さんは、私に今をくれた人ですから」

「アルト・・・。リイン・・・」





バカ。それは・・・僕だって同じだよ。二人に・・・そっか。

僕、忘れてた。忘れちゃいけないと思う理由、忘れてた。



前にスバルに話したように、戒めている部分もある。でも、それだけじゃない。

あの時、僕は・・・リインやアルトと出会えて、始められたんだ。今に繋がる時間を。今を、守りたいと思うようになったんだ。

でも、あの時のことをどれか一つでも忘れるのは・・・大事なパートナー達との時間も、一緒に忘れることになるんだ。





≪・・・思い出しましたか?≫

「うん、思い出した。なんか・・・ダメだね」

≪その通りですよ≫

「恭文さん」



リインが、真っ直ぐに僕を見る。どこか優しくて、強い瞳で。



「恭文さんは、忘れたいのですか? あの時の事覚えてるのは、ずっと持っているのは、辛いですか?」



さっきまでは分からなかった。だけど、今なら分かる。だから、リインの言葉にこう返す。



「軽くは、ないね。でも、忘れたくない。絶対に」



・・・これなんだ。僕は・・・これが答えなんだ。



「戒めるだけじゃない。重いだけじゃないんだ。だって、あの時の時間の全ては、今に繋がっている。それを忘れる事も、置いていく事も、絶対にしたくない」

「私も、同じですよ」



『恭文さんと同じです』。そう言って、リインは更に言葉を続ける。



「リンディさん達の言うことは・・・きっと、本当です。でも、私もそのためにあの時のこと、忘れて、無かったことになんて、したくありません。
あの時の時間は、私の・・・恭文さんとの今に繋がっていますから。だから、わがまま通しちゃいましょう?」

「わがまま?」

「忘れないで、変わっていけばいいですよ。きっと出来ます」



リインのそう言いながら浮かべた笑顔に、心が・・・決まった。あんなに揺らいでいた心の動揺が、動きを止めた。



≪・・・それでも忘れそうになったら、私達が思い出させてあげます。重いのなら、共に背負います。私達は、そのためにあなたと一緒に居ますから≫

「恭文さん、本当に忘れん坊さんですね。恭文さんは、一人じゃないですよ?
アルトアイゼンも、私も居ます。だから、迷わないでください。恭文さんの答えはもう、出ているはずです」





・・・そうだね、きっと迷ってた。うん、ダメだ。





「そうだね。とっくに出てた。・・・でも、いいのかな」

≪いいんですよ。私達が選んで、私達が生きる時間です。私達のやり方で幸せにならないでどうするんですか。
それに、今日までの記憶は全て、必要であり、幸せなんです。クラジャ○の歌詞にもあるではありませんか≫

「私達の今と、今までの時間の全ては、誰がなんと言おうと、幸せだと思える未来に繋がっています。絶対に、絶対です。
忘れて繋がる未来なんて、私達には必要ありません。それをこれから、証明していきましょう。大丈夫、私達なら、きっと出来ます」



不思議だ。一人だったら、きっとリンディさんの言うようにしてた。でも・・・。



「きっと、すごく傲慢で、図々しいよ? 色んな人から大ブーイングだ」

≪そう言いたいやつには、言わせておけばいいんですよ≫

「ですです。私達は、私達のノリで行けばいいんです」





アルトが居る。リインが居る。それだけで、怖いものがなくなる。どんな状況も、変えていけると、心から信じられる。そのための力も溢れてくる。



リンディさん、エイミィさん、ごめん。忘れることは出来ません。わがまま、通します。

僕達にとって、今日までの記憶は全て必要で、幸せなんです。誰がなんと言おうと、絶対に。

その中で忘れていいことなんて、下ろしていいことなんて、なにも・・・ないんです。





「・・・僕、変わるかも知れないよ? それでも、忘れるくらいに」

≪言ったでしょう? 思い出させると。それに、そんな事が出来るほど、あなた器用じゃないでしょ≫

「言い切ったね」

「当然です。どれだけ一緒に居ると思っているですか?」



・・・そっか。なら、よかった。うん、よかった・・・のかな。



「アルト、リイン」

≪なんでしょう≫

「・・・これからも、僕と一緒に戦ってくれる?」

≪もちろんです。というか・・・私達は約束したはずですよ? 『決して一人では戦わせない』と。その約束に期限を決めた覚えはありません≫

「そうですよ。それに私は、蒼天を行く祝福の風であると同時に、古き鉄・・・あなたの、一部ですから。
だから、守ります。私の総てで、あなたの総てを。絶対に」



・・・うん、そうだね。一人じゃない。だから・・・いつも通りだ。



「分かった。んじゃ、こっからはいつものノリで行こうか。
めんどいのはもうおしまい。僕達は僕達のノリで、僕達の時間を生きる。楽しく、ヘラヘラと、傲慢にね」

≪「はいっ!!」≫



それが罪だって言うなら、背負うさ。それでも、やらなきゃいけない。

忘れたら、無かったことにしたら、諦めたら、ダメなんだ。それで得られる未来なんて、僕達にはいらない。



「それで・・・」

≪ここからが私達の時間であり、私達にしか出来ないクライマックスです。いいですね?≫

「もちろんっ!!」

「やるですよ〜♪」








少しだけ、足取りが軽くなったのは、気のせいじゃない。・・・そうだよね。





どこに居ようと、僕は僕なんだ。だったら、始めてみよう。





今までと違う道になっても、変わっても、変わらないものを持ち続けていられる。そして、なにも諦めないで、掴んでいける新しい僕を。





・・・あの人の言うような、守るべきものを守る騎士としての自分を。

僕の守りたいものも、背負う・・・いや、大事に持っていたいものも、なにも・・・変わらなかったから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・そうして、午前の業務を終えてご飯を頂いてから、訓練の時間になった。訓練場へと、トレーニングウェアに着替えてから、歩いていく。





・・・で、スバルっ!!










「なに?」

「なんで僕をそんな微妙な目で見ているっ!?」

≪いや、原因など一つでしょう≫



・・・あー、呼び出し食らうかな? でも、僕もフェイトもなんにも無かったとしか言い様がないし。



「恭文、E○って治るんだよ?」



ゴスっ!



「いたいよー!」

「違うわボケっ! ・・・あと、ティアナもエリオもキャロもフリードも他人の振りしないでっ!!」

「きゅくー!」

≪・・・仕方ないと言っていますが≫



仕方なくないからねっ!? あー、ヒドい。真面目にヒドイから。



「まぁ・・・あれだよ。エリオ達から聞いたけど・・・」

「うん?」

「よかったね。ちょっとだけでも進展して」



・・・ありがと。



「でも、これからだよ。後は恭文次第なんだからっ!!」

「もち。ハッピーエンド目指して頑張ろうじゃないのさ」









・・・うん、これからだ。気合いいれよう。





とにかく、五人+一匹で訓練場を目指す。すると・・・あれ?





なのはにフェイト、師匠にシグナムさんに・・・あれ?





僕達とは色違いの訓練着を着た人が、二人居る。

一人は170前後の白髪二つのおさげ。

もう一人は黒髪ざんばらで180前後。





なんか、六人で楽しげに・・・えぇっ!?



































◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「まー、アレだよフェイトちゃん。昨日も言ったけど、やっさんがアホやってダメだと思ったら見捨てていいから。
さすがにうちらもそこまでは面倒見切れないしさぁ」



いえ、あの・・・。



「そーそー。それくらいシビアじゃないと、いい男は捕まえられないし、育たないよ。あ、厳しすぎてもアウトかな。
現にヒロがそれでいき・・・なぁ、首筋にアメイジア突きつけるのはやめないか? ちょっと死の匂いを感じるからさ」

≪いやサリ、お前が悪いと思うぜ?≫

≪迂濶過ぎます、主≫





・・・あの、今一瞬過ぎてどうやってこの位置関係になるのか見えなかったんですけどっ!! やっぱり、凄い・・・。



でも・・・厳しくか。うん、しっかり見ていくんだから、必要だよね。





「・・・なにやってるんですか二人とも」



その声は私のよく知っているもの。そちらを見ると・・・ヤスフミが居た。訓練着姿でスバル達も。

うん、みんな来たんだ。それなら・・・。



「やっさん、悪いけど助けて。鬼が居る・・・」

「・・・すみません、その鬼は止められません。目が怖いし」





あはは・・・。




















「さて、それでは訓練に入る前に、皆さんに紹介する方達が居ます」





なのはがそう言うと、一歩前に出て来たのは・・・あの二人。





「あー、みんなおはよ〜。もう自己紹介するまでもないと思うけど、ヒロリス・クロスフォードです。で、サリね」

≪ホワイっ!? 待ってくれよ姉御っ! 俺のことを忘れてるぜっ!!≫



その声は、ヒロさんの両手の中指から聞こえる。そこには二つの指輪。

金のリングに丸いラベンダー色の宝石が付いている。そう、この子がヒロさんのデバイス。名前は・・・。



「もうちょっとちゃんと紹介しろよっ! ・・・あー、サリエル・エグザです。で、こっちが」



サリさんそこは流すんですかっ!?

とにかく、自分の胸元から下げていた十字架・・・いや、十字の槍の形をしたペンダントを皆に見せる。



≪皆さん初めまして。私はインテリジェントデバイスの金剛と申します。主共々、お見知りおきを≫

≪あ、俺はアームドデバイスのアメイジアだっ! ガール達、よろしくなっ!!≫

「あ、はい。よろしく・・・」

「お願い・・・します」



・・・皆、呆気に取られてるね。うん、分かるよ。私達も同じだったから。



「あー、皆どうしてそんなに驚いてるの? よく喋るデバイスなら、アルト見てるでしょ」

「・・・いや、同じようなのが存在してることに驚いてるのよ。それも2機も」

「私、ヒロさんと模擬戦した時、本当に驚いたし・・・」





とにかく、話は進んでいく。いや、二人となのはが進める。





「お二人は、今日から皆の訓練を手伝ってくれることになりました」

「この間ので分かったとは思うが、お二人とも相当な実力者だ。しっかりと学んでいけ」

『はいっ!!』



皆、元気よく返事を返す。・・・うん、いつも通りだ。



「それでは、お二人ともなにかあれば」

「あー、じゃあ一言だけ。・・・うちらがやるのは、あくまでも手伝いなんだ。
皆の教導担当は、なのはちゃんとヴィータちゃんだから。皆がやることも、進むべき方向も、変わったりしない。そこの所は忘れないように」

「俺も同じく。あと、俺はカウンセラーとかの医療スキル持ちだから、そっち方面からもサポートさせてもらう。とにかくみんな、これからよろしく」

『よろしくお願いしますっ!!』










・・・昨日のことは昨日として、日常は進んでいく。私も、ヤスフミも。皆も。





考えることは多いけど、しっかりしていこう。私は準備を始めた皆をみながら、そう心に決めた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・疲れました」

「な、なんか訓練が激しくなってる・・・」

「アンタ・・・なんで私らと一緒にヘバってるのよ・・・」

「だって・・・あれはキツい」

「私・・・限界です」

「きゅく・・・」





いや、覚悟はしてた。でも・・・アレはヒドい。なんで僕とやってた時より激しいのっ!?



現在、食堂目指して皆でフラフラしながら歩いています。あー、お空が暗い。あ、フリードは飛んでるね。





「恭文から話は聞いてたし、覚悟はしてたけど・・・」

「ごめん、予想より密度濃かった」

≪そうとう張り切ってましたね。ものすごく楽しそうでしたし≫



食堂へふらふらしながら到着。あー、でもよかったかも。



「どうしてよ?」

「一気にいつものノリに戻れた気がする」

「なるほど、納得だわ」





パスタ(ビックバン盛り)を受けとる。ティアナは小皿。エリオはサラダ。スバルはパン。キャロはフライドチキン。



そうして、フラフラしながらも食事だけは守ろうと必死にテーブルを目指す。





「あー、エリオ。悪いんだけどまた・・・」

「うん、それは大丈夫だよ。というか・・・まだなの?」

≪まだなんですよ。来週になっても来ないようなら、もう一度行かないといけませんね≫





・・・だね。しかし、どうしてこうも次々と問題が起こるのか。もう収拾つける自信、無いんだけど。





「そういやアンタ、姪っ子甥っ子に『パパ』って呼ばれてるんだって?」





テーブルに着いたので、各自大事な食料を慎重にテーブルに置く。というか、並べる。



そんな時、ティアナからこう言われた。ちょっと動揺してパスタの皿が揺れた。・・・エリオ、キャロ?






「あはは・・・。つい」

「話しちゃった」



いや、いいけどさ。知られた所でどうこうって話じゃないし。



「・・・恭文。なんて言うかさ、どうしてそうなの?」

「僕が聞きたい・・・」

≪アレに関しては、不幸な偶然の産物としか言い様が無いですしね≫





まーそこはいいじゃないのさ。今はご飯だ。



とにかく僕達は、席に座って両手を合わせる。





≪それでは皆さんご一緒に。せーのっ!!≫

『いただきますっ!!』

「きゅくー♪」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『・・・ホンマになにも無かったん?』

『うん、なにも。その、すごく気遣ってくれたから』




















・・・聞かなければよかった。うちはフェイトちゃんにこの間の一件を突っ込んだ。帰ってきた返事が・・・これや。





書類の処理をしつつ、思考はどこか虚ろなもんを辿ってる。らしくないと思ったりもする。つか、なーんで事件も起きてへんのにこないにシリアスなんやろ。

・・・ロッサは、なんでうちと・・・そうなったんやろうな。いや、本人に聞くしか無いんやけど。





ただ、怖い。





もし・・・一夜の関係っちゅうやつのつもりやったらと考えると、怖い。





別に、そういう風に思ってたわけでもないんやけどなぁ。

近い距離に居るお兄さん言う感じで、なんでも気楽に話せて・・・。





なんか、ダメやな。





なんで、こないに・・・!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



お食事が終わって、お風呂をいただいてから、またエリオの部屋に来た。そして・・・考えこんでいます。










「・・・恭文、本気で局員になるつもりなの?」

「結構真剣に考え中」

≪そういう年頃なんですよ≫





エリオがそう行ってきたのには、理由がある。



・・・僕が山のように局の仕事関係の書類を持ってきたからだ。



普通の入隊案内もあるし、実際の現場の声みたいなのまで。

職種も思いっきり視野を広げることにした。

武装局員のみならず、捜査官や執務官、果ては教導隊に災害担当に佐官以上推奨の上級職まで。





「でも・・・いいの?」

「なにが?」

「嘱託の仕事、好きなんだよね」



うん、好きだ。自分で戦うことを選びとっていけるから。色んな戦いが出来て、色んなものが見れるから。

でも・・・。



「一回、全部取っ払って考えることにしたの」

「フェイトさんのため?」

「自分のため」



迷いなく言い切ると、エリオは『そっか』とだけ言って、こちらへ来て資料を一つ手にした。



「・・・恭文なら、やっぱり武装局員かな」

「そう思う?」

「かなり。でも・・・」

「でも?」

「命令すっ飛ばして、突っ込んで行きそうだよね」





・・・僕もそう思う。





「なら、自由に動ける捜査官や執務官かな。資料読んでて、一番惹かれた」

「ネックは捜査スキルだよね。なるなら、この辺りはしっかりしないと、危ないよ。
・・・災害担当とかはどう? フェイトさんやなのはさんから聞いたけど、何回かあるんだよね」





・・・実は、ないかなと思ってた。確かにこういう現場に駆り出された事はある。ただ、慣れない。

正直、こういうことをやる資格が無いと思ってた。僕は、奪った側の人間だから。



だけど・・・だよね。見ていくと決めたし、過去を理由にすることは出来ない。というか、したくない。





「・・・スバルとティアナに話聞いてみようかな。実際の現場経験者なわけだし」



ダメかどうかは、考えてからでいいでしょ。



「そうだね。そうしてみるといいかも。・・・せっかくだし、ちゃんと考えていかないとね」

「そうだね」

≪まぁ、命令違反ばかりの問題局員になるのは決定でしょうが≫



・・・エリオが力いっぱい頷いたので、グリグリしてやった。軽めにだけどね。



「・・・やっぱ、そう見える?」

「うん」

「即答かい。・・・ま、正解だと思うけどさ。あー、なんかいっそ局のトップに立つしかないのかも」

≪暴れ○将軍でもやる気ですか≫



アルト、よくわかったね。あれだよ。立場を隠して動いて、不正を暴くわけさ。



「・・・本気?」

「いや、冗談」





さすがにこれはないしね。しかし・・・どうする? 資料だけじゃさっぱりだ。



いや、方法はあるけど。もっと知っていくなら、一番いい方法が。・・・そう。ここはエリート部隊なのだ。





「フェイトやなのは達に、色々聞いてみる」

「あ、そうだよね。上手い具合に色んな経歴の人が居るわけだし」





そういうことである。隣人とツテとご都合主義は上手く使えというのが持論だしね。

まぁ、局の中でやってみたいことがないなら・・・嘱託を続けるという選択肢もある。



でも、それは二つの事項を考えてからだ。

本当に局の中でやりたいことがないかどうか。そして、嘱託の仕事の中でやりたいことがあるかどうか。



嘱託の中でやりたいこと・・・あるんだよね。これは。

実を言うと局でやりたいことも。ただなぁ・・・色ボケな気がして、ちと躊躇う。



まぁ、他のも見た上で考慮していこう。うん。





「・・・あー、エリオ。僕ちょこっと出てくる」

「あ、フェイトさんのところ?」

「うん」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・フェイト、お待たせ」





談話室の一室に入ると、フェイトはそこに居た。制服の上着だけを脱いだ白いシャツ姿。



で、なぜここかと言うと・・・。





「ううん、大丈夫。でも、ありがと」

「いーよ。貸すって約束したしね。・・・はい」



そう言って渡すのは、一枚のディスク。そう、さらば電○の主題歌である。



「うん、確かに。あ、そういえば」

「なに?」

「・・・局の仕事や職種の資料を集めまくっているって聞いたよ」



フェイトがちょっと呆れ気味な顔をして言ってきた。・・・みんなのおしゃべり。



「その、ちゃんと考えていこうとしてるのは分かるけど、焦ることないよ」

「・・・焦ってはないけど」

「でも、どこかで勢いに任せていこうとしてる」



・・・そうだね。いつものノリでいこうとしてる。



「ゆっくりでいいよ。今すぐ決める必要はない」

「そうかな?」

「そうだよ。・・・あ、もちろん嘱託を続ける選択もいいよ? 一番合ってるわけなんだし」

「・・・念押ししなくていいから。でもさ、フェイト」



・・・どうしよ、言いにくい。でも、言わなきゃいけないね。



「・・・ごめん」

「どうして謝るの?」

「その・・・」

「ストップ」



言葉は遮られた。少し怒ったような顔で、フェイトは僕を見る。・・・なに言おうとしたのか、分かったのか。



「分かるよ。私の望む答えは出せない。またそう言おうとした」

「・・・うん」

「そんな答え、出す必要ないよ。ね、ヤスフミは何がしたい? 戦って、なにを変えたい?」



そんなの、決まってる。・・・変わらなかった。なにも。



「・・・今を守りたい。それを壊す理不尽があるなら、覆したい。身勝手で、我が儘だけど、自分のために、戦いたい。
それに・・・絶対に忘れたくない。あの時の時間は、重いだけじゃない。今に繋がっているから」





記憶は時間。それがあるから、ここに居られる。だから、忘れたくない。なにがあろうと、絶対に。

あぁ綺麗事だよ。周りの人間に押し付けてるとも思う。



でも、僕が・・・違う。僕達が僕達であるために、絶対に必要なんだ。不必要なものなんて、何一つ無い。





「なら、それでいいよ。きっと、ヤスフミにとっては、全部そこからだと思うから。あ、でもね」

「なに?」

「お願い、自分の居る場所を、もう少し大事にして欲しい。・・・きっと飛び込んでいくんだろうけど、それだって、大事なものであることは間違いないんだよ?」



・・・わかって・・・なかったね。本当に最低限なレベルが守られればいいとか思ってた。



「・・・うん、大事にする」



多分、基本は変わらない。それでも、もう少しだけ、大事にしよう。

立場や居場所だって、僕が得てきたものなんだしね。



「・・・なにかあった?」

「思い出したの。僕は、一人じゃないってね」



うん、一人じゃない。だから、今までだって背負えたし戦えたんだ。だから、大丈夫。



「・・・そっか。うん、ならいいんだ。あ、そういえば108部隊に入るのは考えてる?」

「うん、それはもちろん」



今まで何度断っても、誘ってくれていたわけだしね。考えないわけにはいかない。

・・・いや、もう僕はいいとか思ってるかも知れないけどね。その公算は大きい。



「なら、ギンガやナカジマ三佐に相談してみたらどうかな」

「うーん、でも実際にどうなるかわからないし、期待させてダメでしたじゃ申し訳ない・・・」

「そうかな? きっと、力になってくれると思うけど。そういうのもちゃんと含めた上で」

「・・・だから、余計にね」



特にギンガさん。散々心配かけてるし、確証無しで期待を持たせるようなことになるの、躊躇う。

・・・あ、それ絡みでちょっと考えてたんだ。



「なに?」

「改めて考えるとさ、局に入ると・・・分けられるんだなと思って」

「分けられる?」

「陸とか海とか、そういうのに」





何度も言っているけど、各世界の地上部隊・・・陸と、なのはやフェイトが席を置く本局・・・海は非常に仲が悪い。

レジアス中将が不正に手を染めたのだって、そこが遠因の一つであるしね。



つまり、何にしてもその辺りと付き合うのは覚悟しなければならないのだ。





「そうだね。改善はされてきてるそうだけど・・・」

「簡単には行かないよね。つか、そういうので見られるようになるのはめんどい」



レジアス中将のことで言うと、中将が局入りして・・・40年でしょ? そんな頃から続いてる問題だしね。そんな即解決にはならないか。



「・・・ね、フェイト。それ関連で一つ質問。局で働くことに、不安、無い?」



フェイトの表情が険しくなった。僕の言いたいこと、察してくれた。



「・・・不安?」

「不安だね」





局には、2年前のギンガさんの一件や、JS事件を例に挙げるまでもなく、不正を働く輩もいる。それも、往々にして上の人間がだ。



そういうのに背中を向けてるのは、どーにも辛い。





「・・・だったら、向けなければいいんだよ。信用しなくたっていい」

「フェイトっ!?」

「その、ちょっと悲しいよ? 私の居る場所ではあるしね。・・・あのね、不安が無いわけじゃない。
あの時も言ったけど、納得出来ないこともある。でも・・・それ以上にやりたいことがあるんだ」



やりたいこと・・・。シャーリーも同じことを言ってた。



「私がこの仕事を選んだのは、悲しい思いをして、そのせいで色んなことを諦める人達を助けたいと思ったから。
昔の自分と、同じような人達を、一人でも多く・・・」

「だから、局の体制どうこうは、フェイトにとってはあまり関係無い?」



フェイトは、真っ直ぐに僕を見て・・・頷いた。



「だから、ヤスフミも局の中で、体制どうこうじゃなくて、やってみたいことを探してみればいいんだよ。それでどうしても無いのなら、嘱託のままでもいいと思う」

「うん、そうするわ。・・・というかねフェイト」

「うん?」

「やってみたいこと、ある」

「そうなのっ!?」





・・・そう、ある。ただ・・・その・・・なんて言うか・・・!!



言いにくい。





「どうして?」

「・・・ダメだと思うから」

「なら、まずはそれを話して?」



えっと・・・その・・・。



「・・・笑わない?」

「ヤスフミは、真剣にそうしたいと考えてるんでしょ? 絶対に笑ったりしない」

「その、実はこれって嘱託のままでも出来ることだったりしまして・・・」

「でも、そのためなら局に入ってもいいと思ってる」

「・・・うん。そっちの方がやりやすいかなと」

「ね、話して? 私、ちゃんと聞くから」





・・・よし、言おう。覚悟、決めてだ。





「・・・分かった。あの・・・ね」




















そして数分後。僕もフェイトも茹で蛸になった。




















「・・・あの、ヤスフミ」

「な・・・に・・・?」

「えっと・・・その・・・。いきなり過ぎだよ・・・」

「だから聞いたじゃないのさ・・・」





・・・何を話したかは、ご想像にお任せする。答え合わせは後日ね。なお、愛の告白ではありません。





「ただ・・・その・・・。他の選択肢も考えた上での方がいいかなと・・・」

「そうだね。その方が・・・あの、迷惑とかじゃないよっ!? それは絶対っ!! むしろ・・・すごく、うれしい」



そんな力いっぱい言わなくていいから・・・。あー、身体が熱い。つか、なんで一週間やそこらでこんなわけのわからないことに・・・。



「・・・あの、フェイト」

「うん・・・」

「もし、その・・・色々考えた上で、それでもそうしたいと考えたら・・・」

「・・・条件があるよ」


はいっ!? なんでいきなりっ!!



「私より強くなること。具体的に言うと・・・模擬戦で勝率5割以上を越えて欲しいな」

「・・・それだけ?」

「うん、それだけ。その・・・そうなるってことは、ヤスフミは私より強くなくちゃ・・・ダメなんだよ? ・・・心は、私の方が弱いけど」



・・・納得しました。うん、それは正論だと思う。



「・・・うん、約束する。もっと、強くなる。心も、力も」

「・・・うん。でも、簡単には抜かせないよ? 私も、もっと強くなるから」










・・・うん、強くなろう。そして、変わっていこう。きっと出来る、うん。




















「・・・あ、それなら」

「・・・なに?」

「ちょっと思い付いたことがあるんだ。ヤスフミ、せっかくだからやってみない?」










・・・この時のフェイトの思い付きが、AAA試験での僕の窮地を救うことになるとは、この時、知るよしもなかった。




















(第23話へ続く)




















おまけ:今回の本編の話と、おまけは一切関係がありません? なので、深呼吸してからお読みください?




















・・・ぶったまげた。





朝一番にやっさんとフェイトちゃんがサリの部屋に乗り込んできたらしい。

そのあと、私にシャーリーちゃんにヴィータちゃんにシグナムさんにリインちゃんを引っ張ってきた。





で、その場で二人からお願いされたことは・・・実に衝撃的だった。




















「・・・マジ?」

≪・・・蒼凪氏、フェイト執務官、本気ですか?≫





サリと金剛がそう言うのも無理はない。それまでのやっさんの思考では、あり得ないことだからだ。



それは、他の皆も同じ。だけど・・・頷いた。





「・・・よし。やっさん、病院行こうか。大丈夫、いい医者が知り合いに居るから」

「なんでそうなりますっ!?」

≪主の昔からのご友人です。よくしてくれますので、きっとすぐに回復していくでしょう≫

「金剛もなに言ってるのっ! そんなに僕の言ってることがおかしいっ!?」

≪はい≫



いや、無理ないから。お願いだからやっさん、そんな頭を抱えるな。



「テスタロッサ」

「・・・あの、シグナム? どうしてそんな居心地悪そうな瞳で私とヤスフミを見るんですかっ!?」

「・・・やはりそうなのか?」

「違いますっ!!」



いや、フェイトちゃん。どう考えても無理ないから。



「・・・まぁ、確かにアタシはうれしーぞ? どういう心境の変化かは・・・分かるわ」

「・・・やっちゃったんですか?」

「恭文さんもフェイトさんも、大人の階段一緒に昇ったですか?」

「「やっちゃってないからっ! あと、昇ってないからっ!! 」」



いや、でもさ・・・。



「・・・いや、そうとしか思えないから」

≪男は女で変わるって言うしな。ボーイもブロンドガールのおかげで目覚めたんだよ≫

「ちょっとアメイジアっ!?」

≪JACK POT!!≫

「アルトっ! なに勝手に同意してるのっ!! つーかそれもしかして気にいったっ!?」





まぁ、わかるけどさ。さっきの話通りならよ。つか、マジでやり取りが中学生レベルってどういうこと?

やっさんやフェイトちゃんの年齢なら、もうちょい上手くやれるだろうに。私だってうま・・・く・・・デキテタヨ?(弱気)



ま、そこはいいか。





「まー、アレだよやっさん」

「はい」

「PS○で今度出るF○の同梱版、よろしくね」

≪・・・しゃあない。俺も協力するぜ。他ならぬボーイとねーちゃんのためだしな≫

「ヒロっ!?」





・・・しゃあないでしょうが。やっさんマジみたいだし。

それに、こういうのは形から入るのも大事なのよ。形にすれば、そこに込められた想いも、忘れにくいしね。



・・・なお、例として手編みのマフラーなんて言うのは、無粋だよね。





「ただし、アンタのノリは忘れちゃダメだよ? 誰も彼も関係ない。世間様や常識や理論も関係ない。んな下らないもんは、聞き流してゴミ箱に捨てな」

≪そーだな。そんなもんで行動して、自分を変えるなんて、ボーイとねーちゃんらしく無いぜ?≫

「アンタはアンタのノリで、アンタの相棒と一緒にぶっ飛ばしていけばいい。
最初から」

「最後まで、クライマックスで行きます。大丈夫です、一人じゃ・・・ありませんから」

≪大丈夫です。私達は、いつも通りにやるだけです≫





・・・フェイトちゃんやアルトアイゼンのことだけじゃない。皆を指して言っている。



うん、きっとそれでいいんだ。やっさんには、やっさんの道がある。



・・・もしかしたら、先生はそれが分かってたから、やっさんを置いて旅に出たのかも知れない。

自分の後を追うんじゃなくて、自分の道を、進んで・・・いや、自信ないけど。

あの人、思考がぶっ飛び過ぎてて理解出来ないしさ。





「・・・あの、いきなり無茶言ってるの・・・分かってます。だけど、お願いします。協力してくださいっ!!」



そう言って、思いっきり頭を下げる。・・・コイツ、ここ数日でホントに何があった? まぁ、色々考え始めたのは、いい傾向なんでしょ。



「あー、そんな頭下げるな。・・・さて、俺達はどーするよ、金剛」

≪主の御心のままに≫

「わかった。んじゃ、お前にもちょっと頑張ってもらうぞ」

≪御意≫



サリは、覚悟が決まったらしい。金剛も、それに付き従う。そして、それは私らだけじゃない。

・・・ヴィータちゃん、シグナムさん、シャーリーちゃん、リインちゃんもだ。



「バカ弟子、アタシはあのアイスだ。ギガ美味なのを作れよ?」

「リインも、お泊まりの時にそれで」

「私はブランド物のメガネね」

「私は・・・三○が斬るのディスクだな。ビデオでもかまわんが」

「俺は・・・ま、洗剤の詰め合わせを自宅に送っておいてくれ。連れ合いがそういうの欲しいってボヤいてるからさ」



みんな好き勝手なリクエストをやっさんにぶつける。いや、私もやったけど。

そして、やっさんの緊張した表情が崩れる。だから・・・次は笑顔だ。



「・・・はい。師匠、シグナムさん、リイン、シャーリー、ヒロさん、アメイジア、サリさん、金剛。・・・ありがとうございます」

「あの、本当にありがとうございます」





そう言って、二人はまた頭を下げる。今度の意味合いは感謝だけどね。

まったく、皆お人好しだね。断るって選択もあるだろうに。



つか、手助けしないんじゃなかったの?





≪姉御や俺が言えた義理じゃないぜ?≫



うっさいねえ。私は新型P○PとF○のためだからいいのよ。



「つか、それとこれとは話が違うだろ? これは、やっさんが男として前に進むためなんだからさ。それに・・・」

「みんな、ヒロリスさんと同じですよ。代価は、しっかりと受け取りますから」

「ギブアンドテイクというわけです」

「そーじゃなきゃ、アタシらの誰もやりませんよ」

「・・・納得した」



なんつうか・・・だね。ま、なんていうか、コイツ面白いでしょ?



「あ、でもリインはそれだけじゃないですよ? リインは元祖ヒロインで、古き鉄の一部ですから♪」

『うん、知ってた』



・・・本当に言うんだね。私、何かの冗談だと思ってたのに。



≪・・・ボーイ、やっぱりおかしいぜ≫

「いや、リインはしかたねーんだ」

≪話には聞いていましたがここまでとは・・・≫



ま、そこはともかくだよ。やっさんとフェイトちゃんだけでどうこうってのはちょい無理だしね。

・・・無茶なことやりそうだしさ。やっさんも大概だけど、フェイトちゃんもそうとうだよ。なにさ真・ソニックって。



「んじゃやっさん、早速打ち合わせしようか。思い立ったが吉日ってね」
「はいっ!!」

≪皆さん、よろしくお願いします≫

「あ、フェイトちゃんも協力してよね? 言い出しっぺなんだから」

「はい。頑張ります」










・・・なお、やっさんとフェイトちゃんの依頼は至極簡単。あるものを作るのに協力して欲しいというものだ。





私とサリが頼まれたのは、ここ2年ほどやっさんの訓練に付き合ってたから。





リインちゃんが頼まれたのは、やっさんにとって大事なソウルメイトだから。ユニゾンパートナーでもあるしね。





シグナムさんが頼まれたのは、これからは自分の先輩にもなる存在だから。あと、やっさんの修羅モードと楽しそうにやれる逸材だから。





ヴィータちゃんが頼まれたのは、シグナムさんと同じ理由に加えて、師匠だから。筋は通さないといけないのよ。










とにかく、私達にやっさんとフェイトちゃんを加えた皆の手によって産み出されたものは、これから一ヶ月の後、姿を表す。










そう。巨人の騎士は、こうして生まれることになった。




















(本当に続く)







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