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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第6話 『龍騎の世界/追い求める真実はやっぱり鏡の中?』



恭文「前回のディケイドクロスは」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「夏海ちゃんとギンガちゃんが・・・・・・殺人容疑っ!?」



こうして、事件は始まった。というか、この世界で僕達がまずやらなきゃいけない事はここらしい。

冤罪にかけられてしまったギンガさんを、何がなんでも助け出す事。・・・・・・うん、ギンガさんがこんな事するはずないし。



「・・・・・・あのバカ、とうとうやったか。それもギンガマンにまでど派手に迷惑かけやがって」

「いつかやるんじゃないかと思ってたけど・・・・・・それでもギンガさんに迷惑かけるなよ、あのバカみかんが」

「あぁ。・・・・・・って、おいっ!!」






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



恭文「というわけで、主演女優が逮捕されてしまったので、ディケイドクロスはしばらく自重していました」

ユウスケ「それっ!? 5話から今回の話まで掲載に間が開いてたのはそのためなのかよっ!!」

恭文「そうだけど、何か問題あるのかな」

ユウスケ「大ありだろっ! てゆうか、逮捕ネタは今はやめろっ!? 色々危ないからさっ!!」

恭文「あー、そう言えば」





(子どものこーろの夢ーはー♪)





恭文「だしね」

ユウスケ「だから言うなぁぁぁぁぁぁぁぁっ! それでなんでちょっと涙目なんだよっ!!」

恭文「だって何気にファンだったしっ! アレもコレも見てたしっ!!」

ユウスケ「だったらまずこのネタやめろっ!? いや、どうしてもあらすじ説明するなら話す必要あるんだけどさっ!!」

恭文「では、めでたく無実なギンガさんと夏みかんに期待して・・・・・・ライダーバトルッ!!
レディィィィィィィィィゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」

ユウスケ「だからツッコミ切れないから落ち着けっ! 俺はこの状況でどうすればいいんだっ!?」

恭文「笑えばいいと思うよ?」

ユウスケ「笑えるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



前回のあらすじ。犯人っぽい人を見つけました。でも、確定的な証拠が何一つありません。

まぁまぁ鏡の中でもやしがその人とドンパチしてる中、僕達は改めて被害者の個室オフィスの調査。

そして僕達の捜索の手は、ついに被害者の机に手が伸びたのでした。





というわけで、そこの辺りを丁寧にユウスケと二人で調べつつも・・・・・・僕は色々と気になってた。










「・・・・・・ユウスケ」

「なんだ?」

「桃井編集長、どうして殺されたと思う?」



机の右側。いわゆる何段か重なっている引き出しを下から開けつつ、僕は右でその様子を見守ってるユウスケに聞く。



「いや、どうして殺されたって・・・・・・あぁ、動機か」

「うん」





この世界で行われているライダーバトルの異常さに関しては、前回のアレコレでもうみんな周知の事実だと思う。

で、前回も少し触れたと思うけど、当然ながら『なぜ殺したのか』という部分も完全スルーだったりするのよ。

まぁそんな動機の手がかりを探すために机を漁ってるわけだけど・・・・・・うーん、特に目立ったもんはないなぁ。



資料や過去の記事のスクラップっぽいのばっかり。あ、でも待てよ。



こういうのだと・・・・・・よし、右手でそこを軽く叩いてと。アルトにも改めてサーチしてもらおうっと。





「そう言えばそこの辺りも、完全無視なんだよな。
ギンガちゃんと夏海ちゃんがどうして殺したかーってとこもさ」

「まぁしゃあないんだろうけどね。そここだわってたら、バトル出来ないんだから」

「あー、早め早めにバトルに持っていかないと情報が腐るってアレか」

「それそれ」





なんというか、無茶苦茶なシステムだよね。何よりも問題なのは、このシステムが暴走した時の歯止めらしきものが見当たらない事?

例えば政治関係だって、一部が暴走して出来た無茶な制度がそのまま施行されないようなシステムがあるよ?

でも、このライダーシステムにはそういうシステムがない。少なくとも今までのアレコレを見る限りでは、それっぽいのがない。



遅かれ早かれ、ディケイドが来なくてもとんでもない歪みの爆発が起きて世界滅びそうで怖いよ。





「でも、俺達までそういうわけにはいかないだろ。というか、結構重要だと思うぞ?」

「もちろんそうだよ。じゃないと僕達は、いつまで経っても真犯人には辿り着けない。
もしかしたら犯人は鎌田じゃなくて、今までモブとして映ってた山田って人かも知れないし」

「現状だと、普通にそれがありえそうで怖いよな。推理ドラマとしては反則だけどさ」

「確かにね」



ユウスケに返事しながら二段目の引き出しの底を叩くと、音が少し違う。なにかこう、底の音が響いてる感じ。



”アルト、サーチ”

”もうやってますよ。で、正解です”

”そりゃよかった”



とりあえず二段目の引き出しの中に入ってる筆記用具関係を一端机の上に丁寧に出しつつ、ユウスケとの話も進める。



「まぁ仮にあの鎌田副編が犯人だとしたら・・・・・・自分が編集長になりたいからとか?」

「あぁ、そういう絡みもあるよね。でもさ、もっと納得出来る理由があるよ」



物を全部出してから、僕はそっとその底を調べて・・・・・・あ、隅の方に穴がある。

そこに人差し指を入れて、そこから底を引っ張るようにする。すると、軽く音を立てながら簡単に外れた。



「もっと納得出来る理由って、なんだよ」

「ユウスケ、よーく考えてみて。桃井編集長はベテランのジャーナリストだよ? 当然だけど色々なネタを持っていたと思う。
それこそ一般人では絶対知らないようなスキャンダルとか、そういうのが入ってくる独自の情報網があったとも考えられる」



もしかしたらそれはいわゆる子飼いの情報屋が居たかも知れないし、単純なネットワークかも知れない。

とにかくジャーナリストである以上、一般には出ない情報に触れる機会もそれなりにあったと思われる。



「確かにそういうのはありえそうだな。・・・・・・それで? 持ってるから殺されたーってだけじゃないんだろ」

「もちろん。で、そこも踏まえて考えると・・・・・・何かヤバいネタを調べてたという線が浮かぶ」



外れた底も、机の上に置いておく。というか、二重底仕込んでるとは・・・・・・間違いないね。

僕はその底の中を見て、色々と納得した。今結構適当に言った事、もしかしてかなりアリかも。



「・・・・・・そっか。そのネタを調べられるのが嫌で、それに絡んでる奴が桃井編集長を殺した」

「もしくは調べるどうこうの課程はとうに通り過ぎていて、確定的なネタを掴んだとも考えられる」

「どちらにしてもそのネタ関連で桃井編集長は、真犯人からすると生きてるとマズい奴になってしまったって事か?
だから殺した。この世界はライダーバトルに依存しているから、容疑者として捕まらなければ有罪の心配はないから」



真剣な顔で僕の方を覗き込むユウスケの方を見ながら、僕は頷く。



「もちろん現段階では全部推測だけどね。どっちにしたって今の桃井編集長の身辺を調べないと、話にならない」

「そうだな。じゃないと俺達だけの話だけじゃ何も確定にはならない」





多分鍵はそこにある。そこには編集長自身がどんな人間だったかというのも含まれる。

仮に恨みを買いやすい人間としてはちょっとって言うような人だったら、怨恨の線も浮かび上がる。

今回の件は状況と殺し方の異常性が目立ちがちだけど、意外と調べる事があるのよ。



本気で真実を掴もうと思ったら、ちゃんと調べないといけない。





「・・・・・・ん? でもそれなら副編が犯人としたら、どう絡んでくるんだよ」

≪例えばそのネタ絡みの相手のスパイ・・・・・・内通者とも考えられます。
もしくは桃井編集長が調べていた存在が鎌田自身という可能性もあります≫

「あ、なるほどな。それなら副編が犯人でもアリだよな。それで恭文、それは?」



僕がその底から取り出したのは、一冊の分厚い黒革の手帳。なお、入念な事に鍵がかかってる。

ユウスケも僕が持っているその本を見て、怪訝そうな顔をしている。



「多分秘密の手帳だね。まぁ、何が書かれてるかは分からないけどさ」



ここで読むのは色々危険と判断して、そのままアルトの中に収納する。手帳はまるで霞のように消えた。



「あ、手帳が消えた」

「アルトの中に収納した。貴重な手がかりかも知れないし、中身確認は安全なとこでやった方がいい」



身を起こしながら、軽く伸び。・・・・・・さて、まずは後片付けだね。で、それからの方向性も決まった。

僕はユウスケの方を見上げると、ユウスケも同じ事を思っていたのか僕を見ながら強く頷いてきた。



「なら恭文、手帳は後にするとしてまずは編集長の身辺も少し調べてみようぜ? そうしたら何か分かるかも知れない」

「うん。じゃあシンジさんにもそこを聞いて・・・・・・あ、ユウスケ。手帳の事は」

「分かってるって。警察にも関係者にも内緒だろ?」



そう言いながら、当然という顔で胸を張る。その様子を見て、僕は軽く安心したように表情を崩してしまった。



「よろしい。・・・・・・でもさ、ユウスケ。僕達マジで0から調べてるよね」

「まぁ仕方ないだろ。警察がほとんど役立たず状態なんだしさ」










軽くため息を吐く僕に、ユウスケがそっと右手を頭に乗せて撫でてくる。まぁ、心地はいいので放置。





こういうのってさ、普通初動捜査で分かる事なのに。愚痴っても仕方のない事とは言え、さすがにイラつくぞ。





うー、アレの調整はアルトに総任せかなぁ。この調子だと、僕はしばらくユウスケと相棒状態だしさ。




















世界の破壊者、ディケイド。8つの世界を巡り、その瞳は何を見る。










『とまとシリーズ』×『仮面ライダーディケイド』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄と破壊者の旅路


第6話 『龍騎の世界/追い求める真実はやっぱり鏡の中?』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



というわけで、シンジさんにも事情聴取をした上で僕達は移動開始。次は羽黒レンの家である。

なお、シンジさんも桃井編集長のアレコレに関してはサッパリだった。

とりあえずそういうのが動機としてありえるのは同意見だったけど、それだけ。





ただ、もしも調べてるとしたらライダー絡みである可能性は高いという証言が出た。





前回も少し触れたけど、編集部の方針としてライダー裁判の問題点に関しても提起していく方向だったらしい。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「つまりどちらにしても桃井編集長の現在の関心は、ライダーに向いていた?
シンジさん、もう一度お聞きますけどそこだけは間違いないんですよね」

「えぇ」



あんな事件があった後でも、編集部は止まるわけにはいかない。

みんな騒がしくそれぞれのデスクで仕事をする中、シンジさんは僕の言葉に頷いてくれた。



「編集部全体の方針でもありましたし、率先して動いていたのは桃井編集長でした。
なので、僕達が知らないだけでそういうネタがある可能性は考えられます」

「なるほど。じゃああの・・・・・・もしかしたら気分を害されるかも知れないんですけど、桃井編集長が誰かに恨まれていたとかは」



シンジさんは軽く眉を顰めた。でも、すぐに気づいて納得してくれたような顔になる。



「怨恨の線ですか?」

「えぇ。動機としてはありがちな線なので、調べないわけにはいかなくて」

「あぁ、そんな申し訳なさそうにしなくて大丈夫ですよ。ただ・・・・・・それは無いと思います」



シンジさんはキッパリと言い切って、僕の目を真っ直ぐに見てきた。

なので僕も、ユウスケもなぜそこまで言えるのかが分からなくて軽く戸惑ってしまう。



「まず桃井編集長は色々と顔が広い人なんです。
ライバル雑誌の編集者とも、気軽に飲みに行ったりして」

「いや、それいいのか? 色々と問題になるんじゃ」

「もちろん仕事の事は互いに抜きという前提の上でです。
まぁ、それくらいにフランクで人に慕われる人って事ですね」



言いながらシンジさんは、編集部を誇らしげな顔で見渡した。



「実際この会社で働いてる人達も、そんな編集長を慕って働いてる人が大半ですし」

「とても懐が広くて、いい人だったんですね。だからこそ、怨恨の線はそんな会社の社員であるシンジさんからすると、ありえない?」

「えぇ」



それでシンジさんは、また力強く頷いた。今度は・・・・・・うん、戸惑いはなかった。

少なくともシンジさんにとって桃井編集長が、理想の上司に映っていたのは分かったから。



「逆恨みとかはさすがに否定は出来ません。でもあの人自身のアレコレが原因で嫌う人なんて居ないって、断言出来るくらいに」





















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・そう言ったシンジさんの顔は自信満々だったけど悲しげで、少し悪い事をした気持ちになった。

それはユウスケも同じだったらしく、少し表情が曇っていたりした。

だから心の内で謝りつつ、その後でシンジさんにはしっかりとお礼を言った。





というか、いくつか分かった事もあるしね。まず会社内で怨恨関係で、編集長を殺そうという奴は居ない。

シンジさん以外にも一応聞き込みはしたの。そうしたらみんなシンジさんと同じ事を言ってた。

桃井編集長の評判は、本当に気持ちの良いくらいによかったのよ。だからみんな、悲しげだったりもする。





もちろん、逆恨みや『実は編集長は悪い人だった』というのを除く場合だけど。

だからこそシンジさんだって、会社の外にその要因があると踏んだ。

それがライダーバトル関連の事だよ。そこは結構誰でも知ってる話っぽかったから。





でもそれは、現状の国家や制度に対してファックユーしてるも同じ。ようするに弾圧の対象になる。

あとはそれでうまい汁知ってる企業関係? 何にしても敵が増えるのは確定っぽい。

そこの辺りでちょっとゴタゴタした部分があったっぽいけど、それでも編集長は全く折れなかったらしい。





でも世論の大多数が、ライダー裁判を支持もしてたりするのが現状。

それを理由に、雑誌の売り上げへの影響も危惧されてた。

つまりどちらにしても、ライダー裁判が全ての鍵を握っている感じらしい。





正直国家そのものが暗殺ーって流れとはちょっと思えない・・・・・・いや、ここならありえる?

もしくはライダー裁判のアレコレを追っている内に、何か妙な事実を掴んでしまってコレかも知れない。

そこの辺りも僕とユウスケは、羽黒レンから聞くだけ聞いてみる事にした。





まずあの場に来ていたのには、やっぱり何かしらの理由があると見ていい。

単純に『顔を見せに来た』とかでも『呼び出された』とかでもいい。

それって何にしても編集部を辞めてからも、それなりの付き合いというか繋がりがあるからだと思うし。





そんな羽黒レンのマンションは、結構広めの部屋で全体的にシックで落ち着いた感じ。

あと・・・・・・シンジさんと一緒に写って笑ってる写真がある。その隣には、全身を写す鏡。

そんな部屋の隅の方。木の机の上であの人はノートパソコンをカタカタと打っていた。





僕達の突然の来訪も、特に嫌がる素振りもなくあの人は受け入れてここまで入れてくれた。





というわけで、早速ツツいてみる事にした。まずは・・・・・・なんであの場に来ていたのかという点について。










「・・・・・・俺があの場に来たのは、桃井編集長に話があるからと呼ばれたからだ」



キーボードを打ちながら、あの人は僕達の方には視線を向けずにそう言った。

なお、僕達は立ったままで部屋の様子なんて軽く見回していたりします。



「それで第一発見者に? 編集部であなたは退社してからあそこには何年も来てないと聞いたんですが」

「そうだ」

「ちなみにどうして呼ばれたのかについて、心当たりは」



ユウスケがそんな事を聞いても、やっぱりあの人は視線をこちらに向けない。

ただただパソコンとにらめっこして、キーボードを打っていくだけ。



「さぁな。俺もそこが気になってはいるが、もう本人が死んでるんじゃ意味ないだろ」

「いや、一概にそうとも言えないんですよ」



でも、僕がこんな事を軽く言うと・・・・・・あの人の視線がこちらを向いた。



「どういう事だ?」

「まぁぶっちゃけますけど、今回の事件はギンガ・ナカジマと光夏海が犯人じゃない。
そのための証拠もいくつか上がってるし、実は犯人もそれなりに絞り込めてる」



レンさんの視線が僅かに険しくなった。これはある種の賭け。そしてハッタリ。

だから僕は、その視線も動揺してない素振りで軽くお手上げポーズをしながら言葉を続ける。



「でも、動機が分からない。そこが分からないと、今ひとつ真実を掴めない。そのためには些細な情報も欲しいとこなんです。
・・・・・・レンさん、あなた編集部辞めてからも、結構頻繁に桃井編集長と連絡取ってますよね」

「・・・・・・いいや」

「でも、それなりには取ってる。少なくとも突然呼び出されたのに、律儀に会いに来るくらいの付き合いはある。
察するに退社したのは・・・・・・なにかこう、特別な事情が絡んでいるとか。それでそこに桃井編集長も一枚噛んでる」



だからこそ桃井編集長も普通にこの人を職場に呼び出したし、この人も律儀に会いに来たとしたら?

そう考えるとあの場に居たのも、一応は頷ける。どっちにしても険悪な仲じゃないんだよ。



「多分呼び出したのは、仕事関係の事なんじゃないかなーと思ってるんです。
それでこういう言い方はアレだけど、それほど重要な話ではない」

「恭文、どういう事だ?」

「だって絶対に聞かれたくない事だったら、わざわざ会社で会おうとはしないでしょ?
電話なりメール・・・・・・直接会いたいにしても、あそこを選ぶ必要はない」

「あ、それは確かに。じゃあえっと」



ユウスケが少し考えこむように口元に手を当てる。それでハッとした顔で柏手を打った。



「そうか。直接会って話したい事ではあったけど、会社の人間に聞かれてもそれほど支障が無い話。
というか、レンさんが会社に来たとしても理由を知ればみんな納得するであろう話題とかか」



僕はユウスケの目を見て頷いてから、改めてあの人の方を見た。



「・・・・・・だと、僕は思ってます。多分ここの辺りはアレですね、やっぱり仕事関係の話なんじゃないかなと」

「天才弁護士さんはずいぶんと想像力が豊かなんだな」



あの人の視線は腕の動きを止めた上で更に厳しくしながら、不快感を隠さずにそう言った。

でも、僕は当然のようにかわす。あいにくその程度じゃ僕の行動までは止められない。



「まるで死んだ桃井編集長の生霊でも乗り移ったかのような推理だ」

「あ、バレました? 僕実は恐山のイタコの家系なんですよ。
だから昔から霊感が強くて、幽霊や妖刀と斬り合った事もあるくらいで」



更に視線が厳しくなるけど、僕は全く気にしない。だって本当の事だし。



「・・・・・・そうか。それなら今度取材させて欲しいものだな。だがそれと今回の事件とは関係ないと思うが」

「さぁ、どうでしょ。少なくとも『仕事』関係の話ですし、わざわざ仕事場にあなたを呼んだくらいですから。
・・・・・・あなた、ATASHI JOURNAL内だと相当評判悪いですよね。気になって当然だと思うんですよ」

「そこは俺も同感です。3年前の退職も突然で、当時は相当に大騒ぎになった。あなたを裏切り者とまで言う人も居た。
聞く人聞く人、あなたの名前を出す度に苦い顔をしてましたよ。『ATASHI JOURNALのトップ記者だったのに』って言って」

「いくつも凄いネタを掴んで、同じように賞も何個も受賞して・・・・・・なのに勝手に大手の雑誌社に移った裏切り者。
それが羽黒レンのATASHI JOURNALでの風評。そんな人をなぜ編集長が呼んだのか、そりゃあ気になるでしょ」



まぁまぁ不愉快なお話だよね。多分この人、そういうの気づいてるだろうしさ。でも、やめない。

多少は強引な手を使ってでも、僕とユウスケでしっかりとこの場の主導権を握る。だってこれ・・・・・・尋問だもの。



「あ、一応警告しておきますと隠すとためになりませんよ。何が関係あるかを判断するのは、僕達です。
それでこの後あなたの会社にも聞き込みに行く予定ですし。嘘ついても、すぐにバレますよ?」

「・・・・・・なるほど、疑われてるわけか。俺が桃井編集長を殺したと」

「えぇ、疑ってますね。というか、疑わない要因が無いとでも思ってるんですか?
例えばあなたの同僚だったシンジさんも副編の鎌田さんも、あなたに対していい感情を持ってない」



あの人は僕から視線を外して、再びパソコンとにらめっこ。でも、僕はここで追求の手を緩めるつもりはない。

僕だって急がなきゃいけないのよ。バトルがいつ終わるとも知れないんだしさ。



「何か聞いてませんか? 例えば妙な噂みたいなのが流れてるとか」



僕は少しだけ足を進めて、そう言いながらあの人の近くへ行く。



「それに桃井編集長が興味を持って、調べてるとか。どんな事でもいいんです。
何か思い当たるフシがあるなら、教えてください」

「またおかしな弁護士だな。現状に不満があるなら、裁判で全部決めればいいだろ」



言いながらレンさんは、視線で自分の部屋の全身鏡を指す。



「裁判に勝って、無罪判決を出せばいい。それがこの世界のルールだ。
正直俺は、裁判が始まってから証拠集めをしてる弁護士を見るのはお前が初めてだ」

「でしょうね。でも僕は、裁判になんて興味がない。
てーか、あの中に入れるかどうかも怪しい。デッキ、無いんですよ」

「・・・・・・なんだと」



なぜか僕を見て驚いた表情をするけど、ここは気にしない。というか、コレで話をズラしてる余裕はない。



「それになにより」



でも鏡を見ていた僕は、もう一度あの人を見る。あの人の切れ長の瞳の奥を見通そうとするように、ジッと見つめる。



「ただ、真実が知りたいだけ。真実を知って、その上で二人を助けたいだけ。
捕まってるのは僕のお試し彼女と、僕が衣食住世話になってる人の孫娘だ。放置なんて出来ない」

「・・・・・・真実か」

「えぇ。真実を知って、こんなふざけた時間は終わらせる。それが今の僕のやらなきゃいけない事だ。
私欲塗れで公平さのない判決になんて、興味はない。僕は揺るがぬ真実で・・・・・・二人を助ける」



あの人はしばらく僕の目を見て、軽くため息を吐く。それからノートパソコンを閉じる。



「まずこれは、あくまでも噂程度の話だ」



閉じてから、あの人はそう言った。どうやら・・・・・・話してくれるらしい。

思わずユウスケと顔を見合わせて、表情がほころんでしまった。



「桃井編集長が興味を持っていたのは確からしいが、事実かどうかも分からない。
そこだけは了承しておいてくれ。これを本気にされても、困る」

「構いません。それで」

「あぁ。・・・・・・この世界に、他の世界からそこの人間が入り込んでいるという話がある。
もうちょっと言うと、異世界の住人だな。例えば異世界のライダーが、この世界に来ているらしい」

「「ライダー?」」





というか、他の世界・・・・・・僕はまた隣のユウスケと顔を見合わせてしまう。

今度は戸惑いの表情でだけど。だって僕達に関係あるような単語が、出てきてるし。

いや、さっき僕・・・・・・おいおい、マジかい。それなら動機が成り立つ。



いや、落ち着け僕。まだ何の確証も無いんだ。ここで焦っても意味がない。





「その中にはライダーだけではなく、人間じゃないものまで居るらしい。
ソイツがこの世界を突拍子もない方向に動かそうと・・・・・・まぁ、そういう話だ」

「いわゆる都市伝説の類と」

「あぁ。だが桃井編集長はこの話に何か感じるものがあったらしくて、色々調べてはいたらしい。
編集部を辞めてる俺にまで、『何か知ってる事があったら教えて』なんて言うくらいでな」



苦笑しながら、あの人は鏡の隣の写真立ての置き場を見る。

その中には、編集長と一緒に写った写真もある。見ているのは、そんな写真の一枚。



「というか、俺はライバル社の人間なのにな。
知ってたら教えるわけが・・・・・・まぁ、うちの会社でこんなネタ出来ないが」

「・・・・・・なんというか、探究心の強い人だったんですね。知りたいと思った事に、一直線に向かう」

「そうだな。根っからのブン屋気質だった。
俺も編集部に居た頃は、そういうところにずいぶん振り回されたよ」

「でも、そんな人だからみんなに慕われていた。・・・・・・シンジさんがそう言ってました。
懐が広くて、会社のみんなは桃井編集長が居たから働いてた部分があるって」

「シンジがか」



そう言いながらあの人は、写真立ての方を見る。

その中の一枚・・・・・・シンジさんと肩を組んで笑っている写真を見る。



「シンジさんと、いいチームだったみたいですね」



ユウスケが写真の方を見ながらそう言うと、あの人は無言のまま立ち上がってそのまま歩き出す。

うん、そこも聞き込みで改めて分かった事。シンジさんカメラマンだから、自然とこの人とコンビ組んでたとか。



「・・・・・・シンジがカメラ。俺が記事」



あの人は歩いて、写真立ての方に行く。そしてさっきまで見ていたあの写真が入っているそれを、軽く撫でる。



「俺達は最高のチームだった」



それから僕達の方を見て、どこか寂しげな表情で僕とユウスケを見る。



「だが、俺が壊した」





そのどこか重い言葉に、僕とユウスケはどう言っていいのかと迷ってしまった。

迷っている間に、変化が起きた。なにかこう、甲高い響くような音が・・・・・・鏡から聴こえた。

それで僕達が鏡を見ると、鏡の中にはもやしと大量のミラーモンスターとライダーが一人。



こげ茶色のスーツに金色の角が生えた仮面。その周囲には似たような意匠のモンスターが10数体。

アレ、インペラーだ。獣人型のミラーモンスターと契約している、龍騎に出てくるライダーの一人。

いや、ちょっと待てっ! あのバカ鎌田と戦ってたのになんでインペラーと・・・・・・まさか普通に逃がしたっ!?



僕が内心舌打ちしていると、レンさんが動いた。左手でズボンの後ろポケットからあるものを取り出す。

レンさんは戦いの様子を険しい表情で、そのまま棒立ちで見ていた。

・・・・・・この人もライダーだったのか。という事で、そろそろ僕はツッコもうかな。



どうもこのまま無視ってのはアウトっぽい。さっきからもういやーな気配出しまくりだから、気づいちゃったし。





「・・・・・・不法侵入ですよ」



そう言いながら僕は今居るリビングから玄関に続く廊下に出るドアの方を見る。



「恭文?」

「少なくとも僕はあなたがここに入っていいと許可された場面は見てない。これ、立派な犯罪だし。
弁護士の前で犯罪行為とは、まぁまぁ大胆ですね。言っておきますけど、僕は弁護しませんから」



少しの間睨んでいると、ドアがゆっくり開いて・・・・・・険しい表情のあの人が出てきた。



「・・・・・・いつ気づいたんですか」

「あなたが玄関に立った辺りから。僕、半径500メートル以内の人の気配とかは余裕で察知出来るんです」



うん、相当集中してないとちょっと難しいけどね。でも集中してたらこれくらいは余裕。

でも、最大半径はそれくらいだって前に美由希さんに言われて・・・・・・ごめん、自分でも信じられない。



「それはまた・・・・・・凄い特技ですね」



それはシンジさんだった。でも、僕とそんな会話をしながらもシンジさんはレンさんを覚めた目で見ている。

いや、軽蔑した眼差しだ。レンさんは身じろぎもせずに、その視線を受け止めていた。




「ホントにライダーになったんだな、レンさん」



それでシンジさんは、ゆっくりとこちらに歩いてくる。その言葉もまた、嫌悪感で充ち溢れた言葉だった。



「・・・・・・3年前。うちのトップ記者だったアンタは大手の雑誌社に引き抜かれ、チームの俺になんにも言わずに消えた」



そして嫌悪は苛立ちに変わる。変わってシンジさんは、より強い目でレンさんを睨みつける。



「アンタは俺や桃井さんを裏切ったんだ」

「シンジ・・・・・・俺は」





シンジさんはどこか必死なレンさんの言葉も聞かずに、苛立ち気味に近くにあったスクラップ生地の一枚を掴み取る。

それをくしゃくしゃに握り潰して足元に叩きつけるように捨てると、鏡の前に立ちデッキをかざした。

レンさんもそれに続くようにする。そして銀色のベルトが鏡の中に浮かび、そのまま二人の腰に装着される。



それからシンジさんは右手を自分の左側真横の斜め上に突き出す。





「変身」



レンさんは、右手を左側に持っていく。ただし、強く拳を握り締めて、自分の肩や腕を魅せつけるようにする。



「変身」





それから二人はベルトのバックルにそれぞれのパスケースをはめる。すると、一瞬で姿が変わった。



シンジさんは赤いスーツの龍騎に。それでレンさんは・・・・・・やっぱり黒いスーツのナイトになった。



そのまま二人は鏡の中に飛び込もうとする。なので僕は声をあげてそれをしっかりきっちり止める。





「ちょっと待ったっ!!」

「・・・・・・蒼凪さん?」

「なんだ、いったい」

「行くのはいいですけど、戸締りはどうすれば。ほら、僕達残されますし」










僕が軽めにそう言った瞬間、場の空気が完全に固まった。そしてユウスケが後ろでため息を吐く。





その直後になぜか僕の後頭部にチョップが入ったけど、きっとそれに関してはユウスケを恨んでもいいと思う。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あのボケてるんだか真剣なんだか分からない天才弁護士に出鼻をくじかれたが、俺達はこの世界に来た。

まぁ来たのはいい。問題は・・・・・・シンジが問答無用で殴りかかってくる事だ。

俺はそれを身を翻しながら、なんとか避けていく。それでもシンジは飛び込みながら俺に拳を叩きつける。





場所はどこかの建物の入り口近く。3階建ての公民館のようにも見える。




なお、特定出来ない理由は簡単だ。・・・・・・文字が逆向きで、シンジの突撃を避けながらだと今ひとつ読みにくい。










「はぁぁぁぁぁぁっ!!」





シンジの突き出される右拳を、逆手に持った細身の剣で捌い避ける。

その剣はカードの効果発動機でもあるため、カード挿入部分が持ち手近くにあり、盾のようにもなっている。

いわゆるサーベルガードというやつか? それでシンジの右拳を殴りつける。、



そうする事で、シンジの拳の軌道を逸らして回避する。もちろんそうしつつ俺はシンジの右サイドを取る。

でも、続けて突き出した右拳を裏拳で叩き込んで来た。俺は後ろに跳ねるようにして跳んで避ける。

着地したところで今度は左拳。俺は右に避けつつ、また後ろに数度跳んで距離を取る。・・・・・・くそ、面倒な。



俺はシンジと・・・・・・いや、戦う必要があった。俺がやるべき事のためにそれが本当に必要なら、絶対にだ。





「やめろっ!!」



再び飛びかかってこようとしたシンジを、右手で制する。シンジはそれで反射的に動きを止めた。

・・・・・・ただ、それでもさっきから嫌な汗が止まらない。コイツ、まさかとは思うが・・・・・・いや、それも当然か。



「シンジ、お前に戦いは似合わない」

「うるさいっ! アンタあの夏海とギンガって子達を有罪にするために、バトルに参加してるんじゃないのかっ!!」

「なんのためにっ!!」



シンジは仮面の下で、きっと俺に対しての怒りに打ち震えている。顔は見えなくても、そこは分かる。

だから右手で俺を指差し、怒りのままに言葉を続けていく。



「アンタは現場のすぐ近くに居たっ! 彼女達の目を盗んで桃井さんを手にかけ、その罪を彼女達に着せたっ!!」



そのままシンジは俺の方に殴りかかって・・・・・・俺は避けずに、その右拳を受ける。



「うぉりゃっ!!」





まずは一発。そして二発、三発・・・・・・一発ごとに仮面越しでも痛みが走るが、そこには耐えた。

耐えて俺はただ立ってその拳を受けるだけ。そしてシンジは、四発目でその拳を止めた。

シンジは悔しげに拳を見つめる。力が入り過ぎているのか震えた拳は、俺の前で止まる。



だがシンジは躊躇いを振り切るかのように叫んで、もう一度拳を振りかぶった。





「・・・・・・はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





その拳が叩きつけられようとした瞬間、シンジの方が吹き飛んだ。なお、俺はなにもしていない。

シンジが吹き飛んだのは、向こうから何かが飛んできてそれに衝突したから。それは、インペラーだった。

俺も取材で知っている。コイツは仮面ライダーの一人だ。インペラーはそのまま俺の目の前を転がった。



距離にすると20メートル程。そしてそんなインペラーを追いかけて、ピンク色の何かが走る。





「どけどけっ!!」



俺の左脇を風のように通り過ぎて、そいつは高く跳ぶ。



「動くなよ・・・・・・動くんじゃないぞっ!!」

≪FINAL ATTACK RIDE・・・・・・DECADE!!≫





フラフラと立ち上がったインペラーとアイツの間に、10枚のエネルギー状のカードが生まれる。

何かのエンブレムを描いたようなカードの中を、アイツは右足を突き出しながら突っ切っていく。

そしてその足はインペラーの胸元を捉え、吹き飛ばし爆発させた。



いわゆる必殺攻撃だったらしい。これでインペラーのライダーは外に弾き出されただろ。

そしてその爆炎の中、着地の際にしゃがんだと思われるアイツはゆっくりと立ち上がり、両手の平を合わせて払うようにする。

というかアイツは・・・・・・さっき見た弁護士とか言う奴。さっきの天才弁護士とは違う弁護人。



まぁ被疑者が二人だし、いわゆる弁護団になってるわけか。とにかくソイツは振り返って、俺の方を見る。





「・・・・・・俺も混ぜてもらおうか。まずは」



そしてソイツは、平然と俺の方を指差した。



「お前との決着からだ」










・・・・・・桃井編集長、どうやらあなたが調べていた事は本当のようです。





俺はこんなライダー、取材で見た事なんてない。そうだ、俺はコイツの事を知らない。





本当にこの世界に・・・・・・別の世界の人間が入り込んでいるのか?




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



さてさて僕とユウスケは調査再開。レンさんの現在の勤め先にも事情を聞いた上で、写真館に戻ってきた。

三人がその後バトルしまくった結果、鎌田に全員揃って鏡の外に叩き出された事など知らないで光写真館に居た。

大事な事なので、二回言ったのには理由がある。なぜなら僕達のご飯は、ローストチキンだから。





両手をしっかり合わせた上で、チキンを少しだけ頂いてから僕達は捜査会議。





うん、二人で全部は食べてないんだ。だって・・・・・・ギンガさんの分、取っておきたいし。










「・・・・・・とりあえず、羽黒レンが容疑者って線はなくなったな」

「だね。ま、そこはユウスケの頑張りのおかげかな。ありがと」



ユウスケがレンさんの上司に必死に頭を下げて、情報を引き出してくれたのよ。

だからこそ、向かい側に座るユウスケが照れたように笑うわけだよ。



「いや、まぁ・・・・・・当然だろ?」



それでユウスケは両手を体の前で組みながら、胸を張る。



「俺は弁護士助手なんだしな」

「・・・・・・ん、それもそうだね」





もちろん羽黒レンが容疑者から外れたのには、理由がある。

まずシンジさんはさっき会社を辞めた事を『裏切った』と表現したけど、それは勘違いなのよ。

いや、そこはATASHI JOURNALに務めている全員が勘違いしちゃってる。



羽黒レンは、ATASHI JOURNALを裏切ってなんていない。むしろ被害者とも言える。





≪しかし普通にこういう転職がOKとは・・・・・・桃井編集長の顔の広さと人望には脱帽ですね≫

「そうだよな。まさか今の会社に移ったのが、編集長のツテだったってのは俺も驚きだわ」





もう一度言うけど羽黒レンという人は、あの会社を裏切ったわけじゃない。

桃井編集長の紹介で別の会社に移っただけだった。

そこの原因についても、レンさんの上司が困った顔をしながら教えてくれた。



レンさん、3年前まで強烈なスランプに陥ってたらしい。なおその原因は・・・・・・シンジさん。

一緒のチームであるシンジさんの写真は、レンさんから見るととても良いものだった。

でも逆にそれが重荷になった。シンジさんの写真の素晴らしさが、レンさんにプレッシャーを与えた。



自分の記事は、シンジさんの写真におぶさってるだけなんじゃないかと考えたらしい。

そこの辺りで色々悩んで行き詰まってた時、桃井編集長にアドバイスされてしばらく別の会社・・・・・・今の仕事先で働く事にした。

上司のお話だと、一種の期限付きの出向のようなものに近い感じだったらしい。



いずれはATASHI JOURNALに戻すつもりだったとか。ただまぁ、予定よりその時期は先になった。

原因は桃井編集長が初手をミスった事だよ。もう何度も言ってるけど、ATASHI JOURNAL内での羽黒レンの扱いは相当。

そこの辺りですぐにレンさんを戻すのはマズいという話になったらしい。



それで桃井編集長、レンさんやその上司の人にも相当謝りまくってたらしい。

ただレンさん的には自分を見つめ直す機会が出来たし、上司もレンさんが優秀だからホクホク顔。

なにより桃井編集長が当初の姿勢を絶対崩さなかったから、二人共納得はしたとか。



まぁここまで言えば分かると思うけど、羽黒レンには桃井編集長を殺す動機そのものがないのよ。

一応そこの辺りもツツいてみたんだ。納得したのは表面的な部分だけ。

内心では自分の帰る場所を奪った編集長を、強く恨んでいた。だから・・・・・・と。



けど、すごい剣幕で否定された。まずレンさん自身が人殺しが出来るような人間じゃないらしい。

それを聞いて、色々と突き刺さってしまった部分がある。僕はそれが出来る人間なので。

とにかくレンさんは編集長に感謝こそすれど、恨む理由が無いって断言しちゃってたのよ。



もちろんその上司の人も同じく。・・・・・・なんというか桃井編集長、恐るべし。



会社内外にまで強い影響を及ぼしていたというのが、この聞き込みでよく分かったよ。





「でもさ、そういうのってやっぱプレッシャーに感じるものなのか? 俺は今ひとつさっぱりで」

「そう? 僕はちょっと分かるけどな」

「そうなのか?」

「うん。・・・・・・まぁ他人事だし、あんま分かった顔も違うけどね。
ただ、そういうのがプレッシャーだと言うのは分かる」



きっとそれは最高のチームだからこそ、考える事。最高のチームだから、望む事。

それでそこの辺りを踏まえると、あのレンさんの反応も分かってくる。



「きっとレンさんは、シンジさんの写真に負けたくないって思ったんじゃないかな。
それでその写真が引き立つようないい記事が書けるようになりたいって思って、焦った」

≪パートナーを大事に思うがゆえに、そういう袋小路に迷い込んじゃったんですよ。
私は桃井編集長の判断は間違ってないと思いますね。一度離れないと、どんどん悪化しますし≫

「相手を思うがゆえに、自分を高めようとして・・・・・・か。なんか難しいなぁ」





ただ編集長とレンさんの意図はきっと、シンジさんには知らされていない。

そこの辺りの事情がどうしてかはさっぱりなんだけどさ。

本当に同じチームだって言うなら、話しても・・・・・・あぁ、だめか。



きっとレンさんの事気にして、潰れちゃうよ。あの人優しそうな人だしさ。

で、だからこそあんな風にシンジさんに恨まれて・・・・・・きっとレンさん、こう思ってるんじゃないかな。

『自分が最高のチームを壊した』ってさ。桃井編集長じゃなくて、自分の選択がそれを成した。



だからあんなに表情が悲しげになって、シンジさんに何も言い返せなかった。

なんというか、色々不器用な人なんだなと思って・・・・・・僕はゆっくりと、食後の紅茶を一口飲んだ。

多少疑っていたからとはいえ、やっぱ悪い事聞いたなと思って反省したりもする。



・・・・・・やっぱ僕はこういうの向いてないかも。いつもはなんか起きて即事件・戦闘だしなぁ。





「でもそうすると、やっぱり鎌田か?」

「モブの山田さんじゃなければ、そうなるね」





異世界のライダーの話と、あの龍騎には居なかった青いサメタイプの仮面ライダーに変身するデッキ。

それに水の能力・・・・・・それらを組み合わせると、一番疑わしいのはあの人にはなる。

でも残念ながら、証拠がない。『怪しい』とはいくらでも言えても、断定的なものが何一つないのよ。



僕とユウスケはもうそこが非常に分かっているので、二人して頭抱えつつ考えるわけですよ。





「・・・・・・あー、でも俺達だけで捜査してると、今ひとつ不安だよなぁ」

≪それは言えてますね。現代での事件捜査の基本は、人海戦術ですから≫



ようするに人手を活かしてしらみ潰しに証拠固めをして、逮捕に持っていくって事だね。

でも、当然ながら今回僕達はそれが出来ない。だから軽くユウスケと二人で唸っちゃうのよ。



「ただ、色々と怪しいって思う点は出てきたよな。ほら、例の異世界のライダーの事もあるしさ。
あとは証拠か。鎌田がそのライダーだって掴めるだけでも、だいぶ違うよな」



ユウスケが前かがみになって、僕の方を見ながら自信満々にそう言ってきた。

うん、確かに羽黒レンに対する事情聴取は無駄じゃなかった。確実に手がかりを掴めたもの。



「あー、それはあるね。でもさ、ユウスケ。それが鎌田じゃなくてもやしを示してる可能性だってあるよ?」

「士を? 恭文、それどういう事だよ」

「・・・・・・予言者だよ」



僕が言いたい事が分かったのか、ユウスケの表情が険しくなる。

僕はそんなユウスケの表情を見ながら、静かに頷いた。



「ユウスケやワタルに警告してきた『予言者』が、この噂を流したとも考えられる。
もやしがどうあがいてもライダーバトルに乗り込む事を予測して・・・・・・とかさ」

「それでこの世界のライダーじゃない士を、ライダーバトル中に集中攻撃させようとした?」

「そうだよ。もやしは龍騎の世界のライダーじゃないし、この世界のライダーは一般的に認知されてる」



だからこそATASHI JOURNALの雑誌に載るくらいだしね。一般人もライダーの種類くらいは知ってるのよ。



「裁判に参加した人間や裁判してる側から見れば、もやしの存在はかなり目立つよ?
噂のあれこれも異世界のライダーを敵視する感じだったしさ。そのままマークされてフルボッコかも」

「いや、さすがにそれは・・・・・・あー、でもありえない事じゃないんだよな」

≪さすがに一度言う事聞いて襲いかかってきた人は違いますね。飲み込みのスピードがダンチですよ≫



そんなアルトの言葉に、ユウスケの表情が固まった。それで半笑いで両手を合わせて頭を下げてくる。



「・・・・・・そこには触れないでもらえると、色々と助かる」

≪「だが断る。そして絶対に許さない・・・・・・絶対にだ」≫

「やっぱりかよっ! そしてやっぱ二人して息合ってるなっ!!
・・・・・・あ、でもそれなら士の奴がバトルに参加しても、なんでなんにも言われないんだ?」



ユウスケが少し真剣な顔で僕の方を見ながら、そんな事を言う。

うん、確かにそこは疑問だ。てゆうか、僕もさっきまで考えてたから。



≪簡単ですよ。その方がバトルが盛り上がるからです。
仮に鎌田が異世界のライダーでも、同じ事が言えます≫



ただ、答えはアルトから提示されたけど。それで僕は改めて考えて、納得した。



「あー、なるほど。だから傍観してると」

「えっと・・・・・・どういう事だ?」

「ユウスケ、さっきも言ったけどこの世界のライダーは一般人にも広く認知されてる。
つまりそれは、裁判にどのライダーが参加しているかを知っている事になる。ここまではいい?」

「あぁ」

「でも、そこにもしも『自分達の知らない未知のライダー』が居たら、見てる方はどう思う?
僕が思うに、みんなはその知らない未知のライダーを見て裁判の様子に釘付けになると思うな」





普通なら完全イレギュラーだし、排除しようとするでしょ。

でも残念ながら今行われているのは裁判であり、エンターテイメントなのよ。

知っているという事は、どうしてもマンネリ気味な部分を出してしまう。



人間っていうのは悲しいかな、知らない事にワクワクする生き物なわけですよ。

だから裁判をショーとして見ている一般人からすると、知らないライダーの参入はそれに繋がる。

制度が改変されて、突発的に新しいライダーが追加されたのかも知れない。



いや、もしかしたらそれ以上の・・・・・・そう考えて、市民は裁判に更に釘付けになる。

当然そんなワクワクを提供した政府の人気は、更に上がるわけですよ。

つまり今、少なくとももやしはそんな上の都合のアレコレに利用されてる可能性がある。



言うなら裁判という料理を引き立てるためのスパイス。ぶっちゃけちゃえば客寄せパンダだよ。

もちろんここは見てる側の反応が良いという事を前提としているのは、言うまでもないと思う。

万が一でももやしがなにかヘマしてそれが視聴者の反感を買えば、たちまちディケイドは追い出されるね。



いや、下手するとミラーワールドに居るライダー達にイレギュラーとして、執拗につけ狙われるかも知れない。

もちろんその決定を下すのは、裁判を運営してる連中。理由付けなんて、いくらでも出来る。

例えば単純にイレギュラーだから排除しろーでもいいし、倒した人間が自動的に勝者になるーでもいい。



・・・・・・やばい、こうやって考えるともやしをずっとこのままにさせておくのもかなりアウトだ。



くそ、気づくのが遅かった。こりゃマジで早目に真相究明しないと、ギンガさんだけじゃなくてもやしまでお亡くなりだ。





「・・・・・・なんだよ、それ。じゃあ士は体良く利用されてるも同じじゃないか」

「そうなるね。でも、そのおかげで僕達も介入出来てるのは事実。ここは我慢だよ。
でも、いつ今の体勢が崩れるかも分からないし、手早く動かないと」



というかさ、手早く動いて解決しないと嫌だって。だってこれ、僕のアイディアなんだし。



「あぁ、そうだな。けどそこまでするとなると、真面目にこの裁判おかしいぞ。完全にお遊びじゃないか」

「今更でしょ。というか、例えそうだとしても僕達は捜査して真実を掴むしかないのよ」



さて、そうすると・・・・・・僕は両腕を組んで、椅子の背もたれに体重を預ける。

それで右手だけを胸元の前に出す。すると、あるものが音もなく出てきた。



「・・・・・・やっぱ手がかりはこれか」



それは当然だけど、僕とユウスケが編集長の部屋で見つけた手帳。なお、まだ開封してない。

ユウスケが僕の手の上の手帳をふんだくって、色んな角度からその手帳を見てみる。



「でもさ、鍵かかってるんだぞ? これはどうするんだよ」

「そんなもん、僕が魔法で解錠するに決まってるじゃないのさ」

≪そういう魔法を組んでるんですよ。なお、成功率はほぼ100%です≫





実は魔法の中には、そういうのがあるのよ。電子ロック関係をプログラムを走らせる事で解錠する魔法とかさ。

こういうアナログなのも含めて、鍵開けとかそういうのは実は昔からある魔法。ただ、今は完全に廃れちゃってる。

それも当然なんだよ。この手の魔法は、訓練校や魔法学校では絶対に教わらない。



というか、教えるわけがない。でもプログラム式魔法の基礎と応用から3歩ほど進んだ辺りまで理解してると、組めない魔法じゃない。

なお僕が知っているのは、至極簡単。以前たまたま遭遇した空き巣を取っ捕まえた時に、吐かせたから。

で、その空き巣は容赦なく突き出して、その時さりげなくコピーした魔法プログラムを弄った上で使用しているってわけ。



・・・・・・え、犯罪? 何を言いますか。こういう非常時のために作った魔法だからいいのよ。





「・・・・・・こらこら少年、そういう犯罪レベルな魔法はやめろ。
今度何かあったら、真っ先にお前が疑われるぞ?」

「大丈夫だよ。僕は常に清廉潔白だから、夏みかんみたいに犯罪者オーラ出てないし」

「いや、それはちっとも大丈夫じゃないだろっ! あと、やっぱりお前の中では夏海ちゃんは犯罪者面なのかっ!!」










なお、僕がこの後即で頷いたら、なぜかユウスケは不満そうだった。





そんなユウスケに軽く首を傾げているところで、電話の着信音が鳴り響く。





・・・・・・どうやら手帳の中身を確認するのは、もうちょっと先らしい。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



お腹・・・・・・空いた。お腹の音、止まらない。追加のお弁当も、当然もらえない。





だから私はただただお腹を鳴らして、畳な床の上でうつ伏せに寝転がるだけだった。










「ライダーバトル・・・・・・最後の一人になるまで戦う。そんな戦いに士くんが参加したら」



夏海さんがそう呟いて立ち上がるけど、ごめん。私は無理。私、もう立ち上がれない。

というかね、目まいがするの。なんだろ、頭にかかってる髪がうっとお・・・・・・髪って食べられたかな?



「誰かー! 誰か居ませんかっ!? 私、こんな事してる場合じゃないんですっ!!」

・・・・・・夏海さん、静かにしてください。というか、私の話忘れたんですか?
いいえ、それよりもなによりも騒がないで。お腹に・・・・・・お腹に響いて辛いんですから


「主にあなたのお腹の心配ばっかりじゃないですかっ! というか、ダメなんですっ!!
士くんをライダーと戦わせたりしたらダメなんですからっ!!」

いや、だからどうして





夏海さんに対してそこの辺りを聞こうとした時、世界が変わった。もうね、そうとしか言えないの。

さっきまで三畳程の狭い部屋に居たのに、なぜか眼前に青空が広がる。というか、床が暑い。

それで下を見ると、畳だったはずなのに木張りになってる。ううん、それだけじゃなくてここ・・・・・・外?



私は一端お腹が空いたのは忘れて、身体を起こして周りを見る。木張りの床に手すりに、向こうには木のベンチもある。

上を見上げると、そこに広がるのは青い空と輝く太陽。というかここ、立体歩道橋の上?

それも普通のコンクリ作りじゃなくて、結構お金のかかってそうなおしゃれな感じ。ちょっと待って、これおかしいよ。



だから私は私と同じように周りを見渡す夏海さんと、ただただ困惑するだけだった。



それでそんな私達が見えていないかのように、ただひたすらに人が通り過ぎていく。





「・・・・・・夏海さん、あの・・・・・・これは」

「し、知りません。私こんなの・・・・・・知らない」

「光夏海・・・・・・それに、ギンガ・ナカジマだったね」





それでそんな私たちに声をかけてくる人が居た。

その人は明るめの茶色の帽子にコートを羽織った男性。

そして丸めなフレームのメガネをかけている。



年齢で言うと、40代位? 身長は私より10センチ近く高い。





「あなたは」

「光夏海、この世界で君と会うのは初めてだったかな」

「・・・・・・もしかして、あなたが」

「そうだ、私が予言者だ」



予言者・・・・・・予言者っ!? ま、まさかユウスケさんやワタル王子に『ディケイドは悪魔』だと言った張本人っ!!

私は力の入らない身体を起こして、その人の方を見・・・・・・だめ。身体起こすのでやっと。立ち上がれない。



「それとギンガ・ナカジマ・・・・・・うるさい」

「いきなりなんですかっ!?」

「当たり前だろっ! 本来ならとても緊迫したシーンのはずなのに、君の腹の音がBGMなんだぞっ!?」 



・・・・・・ギンガ・ナカジマ。現在18歳。ファーストキスとバストタッチをしてから、まだ1週間も経ってない。

これでも恋する乙女。なのに私今、お腹の音がグーグー鳴りまくって辺りに響いてます。



「とにかく、私が予言者だ。ディケイドと・・・・・・あの少年が世界の破壊者だと言う、警鐘を鳴らすための」



そこの辺りの恥ずかしさで顔が赤くなってたけど、その言葉で一気に血の気が引いた。

この人の言う『あの少年』が、誰の事を指しているのかすぐに分かった。



「ディケイドは危険だ。そして残念な事に、あの少年もディケイドと同じように悪魔になりつつある。
だからこそディケイドに同調し、世界を破壊しようとしている。二人を一刻も早く止めなくてはならない」

「・・・・・・あなたの、あなたの目的はなんですか」

「そ、そうですっ! どうして士くんが悪魔なんですかっ!? それにあの夢はいったいっ!!」



そう言いながら、力の入らない身体を必死に起こす。

立ち上がれないなんて思っていたのが嘘みたいに、身体はスッと起き上がった。



「・・・・・・君達を死なせるわけにはいかない」



どうやら、私達の質問に答えるつもりはないらしい。あの人は平然と話を進めた。



「特にギンガ・ナカジマ、君はあの少年に巻き込まれただけだ。
私に協力してくれるのであれば、今すぐに君達を自由にする。元の世界にも帰してあげよう」



夏海さんの表情がが嬉しそうなものに変わる。それで周りを歩く人達と、青くどこまでも広がる空を見上げる。

留置場の中だと、空は見えない。というより、空さえも格子越しでしか見られない。だから夏海さんは揺れる。



「そう、ですか。よく分かりました」



次の瞬間、私は踏み込んであの人の顔面に左拳を叩きつけていた。なお、全力で。

あの人は10数メートルほど吹き飛んで、それから床に思いっ切り叩きつけられて更に転がる。



「な・・・・・・なにを、する」



あの人のメガネは砕け、鼻から血を流しながらも私を信じられないと言わんばかりの目で睨みつける。

右手で鼻を押さえながら、それでもあの人は私を見る。なので私も、睨みつけてやった。



「悪いけど、あなたの話には乗れない。・・・・・・人の大事な彼氏をいきなり『悪魔』呼ばわりするような人なんて、信用出来ないっ!!
大体、あなたは勘違いしてるっ! 私がなぎ君に巻き込まれたんじゃないっ!! 私が・・・・・・私がなぎ君を巻き込んでいつも振り回してるっ!!」



あらん限りの力で叫ぶと、その人の目の色が変わった。それは失望や悲しみという場違いの感情を含んだ目。

その目のままその人は起き上がって、一歩ずつ下がっていく。



「まぁいい。君達にもいずれ分かる。ディケイドは・・・・・・悪魔だとな。
そうだ、奴は悪魔だ。何の罪もない少年も同じ悪魔に仕立て上げようとしているんだからな」





次の瞬間、あの人の姿が消えた。というか、私達の周りの風景が消えた。

外に居たはずだった私達は、また留置場の中に居た。

まるで夢みたいで・・・・・・思わず夏海さんと顔を見合わせる。



でも夢じゃないのは、私の左手が物語っていた。殴った感触、ちゃんと伝わってるから。





「・・・・・・すみません、夏海さん。せっかくのチャンスだったのに」



私、やっぱりお腹空いてるせいか判断力鈍ってるのかも。うぅ、失敗した。

だって私はともかく、夏海さんは帰りたかっただろうし。でも夏海さんは、首を横に振った。



「いえ、大丈夫です。私もちょっと腹立ちましたし。でも」

「でも?」

「ギンガさん、カッコ良かったです。『大事な彼氏』ーって言って」



どこか楽しげにそう言った夏海さんを見ながら、私は・・・・・・静かにさっきの夏海さんと同じように首を横に振った。



「カッコ良くなんて、ないです。私・・・・・・いつなぎ君に捨てられてもいいくらいですし」

「え?」

「なぎ君、ずっと好きだった人が居るんです。というか、今でも好き。私は、きっと2番目。
その上私、なぎ君の事これまでかなり振り回して、相当傷つけてもいて」



だから私達の関係はお試し的で・・・・・・いつ破局してもおかしくなくて。

私は夏海さんの方を見ながら、そのまま崩れ・・・・・・アレ、視界が歪む。



「だから私、本当はあんな意地・・・・・・張れるような彼女じゃ」

「ギンガさんっ!? あの、倒れながら喋らなくて・・・・・・というか、お腹の音がまた激しくなったっ!?」



あぁ、そっか。私倒れたんだ。だから今、夏海さんの足しか見えないんだ。というか、もうだめ。

私・・・・・・立てない。足にも手にも全く力が入らないの。アレ、なんだろ。身体がすごく寒い。



あ、母さんが見える。というかなんでだろ、母さんもう死んでるのに

「ギンガさん、それ危ないですっ! 絶対危ないもの見えてますからー!!」

「・・・・・・おい、面会だ」

「ギンガさん、しっかりしてっ! 目を閉じたら死んじゃいますからっ!! ギンガさん・・・・・・ギンガさんっ!!」

「おい、聞こえなかったのかっ!? 面会だっ!!
あと、このうるさいのはなんとかしろっ! 留置場中に響いてるだろっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



突然に光写真館に響いた電話は、シンジさんからのものだった。

それで現在僕達、再び警察に来てギンガさんと夏みかんも含めてお話し合いです。

で、鎌田も不遜な顔で・・・・・・やばい、疑おうと思うといくらでも疑って見える。





まぁそこはいい。問題は、今なお鳴り響いているこのBGMだよ。










「・・・・・・わざわざ呼び出してなにかと思えば、羽黒レンが真犯人? なるほど、ありそうな事だ」

「だから警察と相談して、一度ライダーバトルを中断する申請をします」



シンジさんの言葉で、夏みかんがとっても嬉しそうな顔をする。うん、そこはいい。

気にしなきゃいけないのは、もっと別にある。なのに誰もツッコまない。



「それで羽黒レンへの裁判を、もう一度開くんです」

「・・・・・・真犯人が見つかったって事は、私もギンガさんも帰れるんですねっ!!」

「あぁ。危険なお前が、再び世に放たれるわけだ。なんと恐ろしい」

「士くんっ!!」



なんか漫才してる二人も、やっぱりツッコまない。なので、僕はそろそろイライラしてきたので動く事にした。



「ちょっと待てぃ、お前ら」

「どうしました、天才弁護士さん」

「・・・・・・どうしましたぁっ!? アンタはバカかっ! このBGMの中でなぜ平然とお前ら話進められるんだよっ!!」



現在、凄い勢いでお腹の音が部屋に響いています。なお、原因は机に突っ伏してうなだれているあの人です。

なのにコイツら、ツッコミもせずにシリアスに話進めてやがるし。もうイライラしまくったっつーの。



「いえ、私は素敵なレディのお腹の音など聴こえていませんけど」

「聴こえてるよねっ!? アンタめっちゃ聴こえてるのに聴こえない振りしてるだけだよねっ!!
今お腹の音って言ったしっ! 音の発生源まで特定出来てるじゃないのさっ!!」

「蒼チビ、お前相変わらずデリカシーのない鬼畜野郎だな。
こういう時は知らない振りしてやるのが優しさだろ」

「そうですよ。ここはあの・・・・・・触れないであげましょ?
女性って、そういう事言われると傷つくらしいですし」



きゃー! なんか怪しい鎌田や元々アホなもやしだけじゃなく、シンジさんまで同意見っ!?

でもね、ここで納得するわけにはいかないのよっ! 僕は弁護人でお試し彼氏なんだからっ!!



「あいにくこんなガチに騒音レベルなお腹の音聴いて、知らない振り出来るのがマトモだとは思えないよっ!!」



てーかお前ら揃いも揃って僕を呆れた目で見るなよっ! ・・・・・・そしてユウスケも僕の右肩を優しく叩くなっ!!

と、とにかく僕はこの部屋の入口を守っている警官を睨みつけつつ、声をもう一度あげる。



「・・・・・・ちょっとっ!? なんかこの人餓死寸前っぽいんだけど、いったいなにしたのっ!!」

「いえ、あの・・・・・・『支給された弁当だけでは足りない』とか、妙な事を言い出しているだけで私どもは特に」



・・・・・・・・・・・・きゃー! ギンガさんがすっごい大食いだって事、今の今まで忘れてたー!?

ねぇ、もしかしてだからコレなのかなっ! 最初に面会して8時間も経ってないのにー!!



「バカっ! この人凄まじい大食いなのよっ!?
というか、体質の問題で大量にご飯食べないと調子崩しちゃうのっ!!」

「体質・・・・・・あの、病気かなにかでしょうか」

「そうそうっ!!」



という事にしておく。じゃないと、裁判終わる前に餓死しそうな勢いだし。



「身体のエネルギー消費が、通常の人の何倍もあるのっ! だからその分ご飯をいっぱい食べるっ!!
だから今すぐ20人分程弁当を用意してっ! じゃないと・・・・・・裁判終わる前に餓死するよっ!?」

「が、餓死っ!?」

「だから早くしてっ! 万が一にも拘留中に死なせたら大問題でしょうがっ!!
・・・・・・そうなったらお前ら、責任取れるの? さて、いったいどんな法的処置があるかなぁ」

「分かりましたっ! すぐに準備しますっ!!」



それでその人は慌しく手持ちの通信機で連絡を取り始め・・・・・・よしよし、いい感じ。

というか、権力で人に言う事聞かせるって楽しいかもー。もうスムーズな感じがばっちグー♪



な、なぎく・・・・・・な・・・・・・なぎ・・・・・・な

「そんな喋るのが辛いなら、喋らなくていいのよっ!? もうすぐ弁当来るから、それまで寝ててっ!!」





顔をあげようとしてプルプル震えてたギンガさんの背中を右手で優しく撫でつつ、僕は連中を見る。

・・・・・・だからお前ら、僕がKYって言いたげな目をやめろっ!!

あと鎌田はため息吐きながら『やれやれ』って首を横に振るなっ! なんか激しくムカつくんですけどっ!?



くそー! コイツらさっきまで鏡の中で戦ってたくせに、妙に一致団結しおってからにっ!!



この様子見てると、マジで犯人がモブの山田さんかって思うよっ!? この連帯感は主人公級だものっ!!





「まぁ女心の分からない天才弁護士さんはともかくとして、裁判は一度中止という方向に纏めると」

「そうです」

「ま、俺はこの凶悪犯が外に出されるのは不満だが・・・・・・他に犯人が居るなら仕方ないだろ」

「ちょっとっ!?」



だからお前らこそ空気の読み方間違えてると気づけっ!? なにまた普通に話戻るっ!!

アレかっ! 今回生放送かっ!? だから時間上の都合でここまで冷酷になってんのかっ!!



「ユウスケ、鬼畜野郎、お前らもそれでいいよな」

「だから鬼畜言うなっつーのっ!!」



てーかこのギンガさんの憔悴を見て平然と話進めるおのれらの方が鬼畜だっつーのっ!!

・・・・・・あぁもういい。このバカ共にいちいちツッコんでたら、キリがないし。僕は軽く息を吐いて、少し落ち着く事にした。



「もやし、シンジさん、僕達二人はそこ反対だから」

「そうか。なら・・・・・・はぁ?」

「蒼凪さん、反対ってどういう事ですかっ!!」

「士、シンジさん、俺達あれから色々調べて分かったんだ。
・・・・・・レンさんは犯人じゃない。いや、犯人に成り得るはずがない」










ユウスケの言葉に、シンジさんは愕然とした顔をする。でも、これは当然なんだよ。

だってさっきからギンガさんのお腹の音のBGMの中で、シンジさんはずっと嬉しそうだった。

まるでレンさんが犯人だと言う事が嬉しいと言わんばかりの顔をしてた。





それで僕は・・・・・・この顔に見覚えがある。もちろんシンジさんが前にしてたとかじゃない。

この表情は、相手を自分の正義や道理、理想で断罪する時に快感を感じていた顔。

シンジさんは今、その快感に飲まれかけている。・・・・・・あの時のフェイトと、同じように。





フェイトもあの時・・・・・・六課の事でカリムさんの依頼を受ける時、シンジさんと同じものを持ってた。

自分の大好きな局だけでなく、世界中に認められるのと同じ形で憎い宿敵を断罪出来るから。

シンジさんも同じだ。自分を裏切った相手を断罪出来るから、さっきからどこか嬉しそうに笑っていた。





だから分かった。今までのシンジさんの言動を見てて、あの時のフェイトの姿がダブった。

そうだ。フェイトはあの時確かに、誇らしげに笑っていた。口元が僅かに歪んでいたのが見えた。

あの時は単純に重要な任務を六課でこなせて嬉しいだけだと思ってた。でも、違う。





あれからフェイトと色々話したりして、二人で反省点考えたりして・・・・・・二人で気づいた事。だから今だって分かった。





どうやらこのバカな話の流れを止める理由がもう一つ増えたらしい。・・・・・・そんなのは、間違ってる。




















(第7話へ続く)




















あとがき



恭文「というわけで、お久しぶりなディケイドクロスの続きです。
結局前後編でまとめられずに、もう1話続きます。本日のお相手は蒼凪恭文と」

はやて「八神はやてです。てゆうか、今回は恭文とユウスケの捜査メインなんよな」

恭文「そうだね。多分次回は戦闘メインになるだろうから、まぁまぁそこがテンポよくなる感じにしてる」

はやて「しかしギンガ・・・・・・またひどいなぁ。ヒロインの輝き0やし。だって登場シーン全部お腹の音鳴りまくりやし」





(なんか書いてるうちにそうなりました。というか、いじると楽しい)





恭文「でさ、はやて。そこの辺りのお話は置いておくとして・・・・・・実はなのはがバカな勘違いしててさ」

はやて「なんやまたやぶからぼうに。てか、なのはちゃんが勘違いしまくってるのはいつもの事やし」

恭文「いや、今回はブッチギリなのよ。・・・・・・あむのオープンハートを、本気で砲撃だと思ってるらしくて」





(・・・・・・夜天の王がお茶吹き出しました)





恭文「・・・・・・はやて、僕は別にはやての口に含んだものを顔射される趣味はないんだけどな」





(言いながら蒼い古き鉄、自分の顔を拭き拭き)





はやて「そやな。顔は最低やな。目に入るとめっちゃ痛いし」

恭文「うん、その実体験っぽい上に生々しい発言はやめようねっ!? なんかもう怖いからっ!!
・・・・・・ほら、アニメのパンクだと両手のハートマークから光放射されてるじゃない?」

はやて「あー、されとるな。で、それ見て砲撃やと言うてるんか」

恭文「うん。で、僕とかが言っても全然納得してくれないのよ。
『自分はあむさんと同じで、あむさんは自分と同じ』としか言わないの」

はやて「で、結果『自分は魔法少女』になるんやろ」

恭文「なっちゃうねぇ。それも凄い勢いでさ」





(夜天の王、普通にため息です。それも相当呆れてる感じ)





はやて「そりゃもうあむちゃんに失礼なんにほんまあの子は・・・・・・もうダメやな」





(『どうしてー!? だってだって、アレ砲撃魔法だよねっ!!
どう見たってあむさんは私と同じ砲撃魔導師だよねっ!!』)





はやて「というか、なのはちゃんの砲撃はマジ浄化技とか出来んやんか。穴開けるだけやんか」

恭文「拍手でもそこツッコまれて『オープンホール』って言われてたしね。
というかなのははアレだよ、浄化技とか身につけようか」





(『だから身につけてるおっ!? ディバインバスターとか、SLBとかっ!!』)





恭文「というわけでみなさん、なのはの悲しい勘違いがなくなるように応援してあげてください」

はやて「具体的にはオープンハートは砲撃ちゃう言う事ですか? まぁまぁずっと勘違いしてそうやけど」

恭文「そこは気にしない事にしようよ。・・・・・・それでは本日はここまで。お相手は蒼凪恭文と」

はやて「八神はやてでした。それじゃあみんな、また次回にー」










(・・・・・・不満そうな叫び声があがるけど、二人は気にせずに手を振り続けた。
本日のED:日奈森あむ(CV:伊藤かな恵)『合言葉はオープンハート』)




















ヴィヴィオ「・・・・・・よし、ヴィヴィオは浄化技覚えるよ」

フェイト「そ、そうなんだ。でもヴィヴィオ、キャラなり出来ないとさすがに難しいんじゃ」

ヴィヴィオ「大丈夫だよー。ほら、恭文のヒーリング結界みたいなのもあるし」

フェイト「あぁ、そっち方面でって事だね。あとは唯世君のホワイトデコレーションみたいな」

ヴィヴィオ「そうそう。でもフェイトママ、ヴィヴィオ達全く出番ないね」

フェイト「まぁ仕方ないんだよね。私まで跳ばされて旅するーって言うならまた別だけど」

ヴィヴィオ「でもそうするとギンガさんがヒロインとして目立てなくなりそうなんだよね。というか、恭文の胃に穴が空きそう」

フェイト「・・・・・・そこは全く否定出来ないかも。よし、私は今回おとなしく帰りを待ってるよ。
どっちにしたってこっちのルートの私の腹は、もう決まってるもの。うん、最悪ヤスフミの愛人になるんだから」

ヴィヴィオ「フェイトママ、それもまた違う気が・・・・・・いえ、なんでもないです」










(おしまい)




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あきゅろす。
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