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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
ケース05 『ギンガ・ナカジマとの場合 その5』(加筆修正版)



クロックムッシュを平らげて、僕はコンサート会場に出る。まずは会場内をチェックして、それから吹き抜けの出入口の方へ。

会場の関係者もちらほら出入りし始めてるし、あとちょっとで・・・・・・やばい、緊張してきた。

こういう時は、やっぱり独特な緊張感が漂う。何も起きて欲しくないとか、真剣に願ったりしてしまう。





でも、それはだめ。なぜならそれは、ブッチギリの死亡フラグだから。










”・・・・・・アルト”

”はい”

”やっぱりこういうの、慣れない”

”あなたは小心者なヘタレですしね。どうしてもそうなりますよ”

”誰がヘタレじゃボケっ!!”










ただ、それでも唯一の救いはある。それはギンガさんがこっちには来てないっぽい事。

とりあえず今のところ反応はないしさ。うん、まぁまぁ良かったと思うよ。

てゆうか、来られてもフォロー出来ないもの。それで怪我されても僕にはなんにも言えない。





当初の目的を色々蔑ろにしているとは、言う事なかれ。僕はギンガさんが怪我しても責任取ってお嫁にはもらえないの。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



身に纏うのは、白のスカートに私の髪より少しだけ明るい色の薄手の上着。

その下は黒のインナーで、胸元には紫の花をあしらったアクセサリーがあしらわれている。

これは今なぎ君が身に着けていると思われる服の、私バージョン。結局私、ここに来た。





会場入りしたフィアッセさんと椎名さんに付き従う形で、会場の中を歩く。










「あの、なんというかすみません。私の分まで」

「ううん、ギンガちゃんも側に付いててくれるんだし、これくらいは当然だよ。それで、サイズはどう?」

「はい、バッチリです。だた・・・・・・その」



・・・・・・胸が苦しい。うぅ、かなり大きめなサイズなのになぁ。なんかこう、やっぱり恥ずかしいよ。

胸が大きいって、色々苦労があるんだよ? 可愛い感じの服が似合わないとか。



「ギンガちゃん、胸のサイズがキツいらしいんよ。なんか苦しいんやて」

「し、椎名さんっ!!」

「あぁ、あかんよ。うちの事はゆうひって呼ぶようにと言うたやんか」



それで私は、恥ずかしいのでフィアッセさんを挟む形で歩く椎名さんに厳しい視線を向ける。

ただ、顔が真っ赤だからここの辺りは効果・・・・・・無いと思われる。



「しかし、うちも着替え手伝ったんやけど・・・・・・凄かったでー♪
もうはちきれんばかりのダイナマイトボディッ! うちやフィアッセ、めっちゃ負けてるもんっ!!」



だからやめてー! というか、それなら椎名さんだって相当スタイルいいですよねっ!? こう・・・・・・凄かったですしっ!!



「あの、とにかく少しだけなので大丈夫です。動く分には全く問題ないので」

「そっか。ならよかった。でもギンガちゃん、やっぱり大きいんだ。ね、どれくらいあるの?」



それでそんな興味津々に食いつかないでっ!? だってあの、その・・・・・・うぅ、恥ずかしいよっ!!



「え、えっと・・・・・・くらいです」

「あ、私負けてる。それも2サイズくらい」

「うちは1サイズやな。うーん、ギンガちゃんえぇなぁ。な、ちょっと触っても」

「ここではやめてくださいっ! というか、手を伸ばさないでもらえますかっ!?」




なぎ君は現在、会場を回りながら警戒を開始したらしい。

私はフィアッセさんとゆうひさんの側で、3階の通路を歩いている。

でも会場、思っていたよりもずっと大きいし立派なんだよね。



吹き抜けになっていて、天井に大きなシャンデリアが吊るされている。

コンサート前で、みんなとてもはしゃいで・・・・・・楽しそう。

でも、どうしてもその気持ちに乗っかっていけない。きっと二人にも相当気を使わせてるのに。



・・・・・・大丈夫、きっと大丈夫だから。何も起きなければ、問題ないよ。



なぎ君は私が来てる事は知らないけど、大丈夫だから。





「・・・・・・うちのコンサートってね」



会場を回って、関係者の方々に改めて挨拶をしているフィアッセさんの隣を、私は歩く。

すると、フィアッセさんが不意に話しかけてきた。



「こういう事、結構多いんだ」

「あぁ、多いなぁ。どういうわけかようあるんよ」

「そうなんですか?」

「まぁ、多いと言っても毎回あるわけじゃないんだけどね。前校長・・・・・・あ、私のママなんだけどね?
ママが初めてチャリティー・ツアー・コンサートを行った時もそうだし、恭文くんと初めて会った時も」



それでも、歌い続けているんだ。なにがあっても、絶対に歌う事をやめないで、ずっと。

そこは私にも話に聴いている。ただあの、やっぱり分からない。



「バカだって思うでしょ? たかだか歌を歌うためにここまでするんだから」

「あの、そんな事ないです。バカだなんて、そんな」

「本当にそう思ってくれる?」



少し真剣な目で射抜かれるようにそう言われて、私は少し視線を落として正直に言う事にした。



「・・・・・・その、バカなんて思ってはいないです。でも、どうしてかなとは」



今回の事のために、なぎ君は居場所を賭けた。それで私・・・・・・いっぱい迷惑かけてる。

だからね、『バカなんて思ってはいない』は本当なの。それを言うなら、むしろ私がバカだし。



「そっか、そうだよね。ギンガちゃんから見たら、それは仕方の無い事なのかも」

「恭文君にラブラブやもんなぁ。あぁ、若いってえぇわぁ」

「ら、ラブラブとかじゃないですっ!! ・・・・・・なにより私、女の子としても局員としても、最低ですから」



好きではあるし、もっと近くに居たいとは思うけど、でも私には無理なんだ。

だって私・・・・・・なんだろ、気持ちが凄い落ち込んでくる。なんかまた泣きたい。



「女の子としても・・・・・・かぁ。原因は、フェイトちゃんかな」



いつの間にか俯いてた視線を上げると、二人は私を見ていた。なので、正直に頷いてそこを肯定した。



「まぁキツい部分あるわなぁ。あん子はめっちゃフェイトちゃん好きオーラ出すし」

「ただ、それも仕方ないんだよね。恭文くんの事溺愛してる子が、あわよくば恋人の座を乗っ取ろうとしてるから」

「いや、フィアッセ。それアンタが言う資格ないから」

「気のせいじゃないかな」



どうやらなぎ君のアレコレに関して、二人は色々と知っているらしい。だから納得した顔でどんどん話が進む。



「でもギンガちゃん、ギンガちゃんが魅力が無いって言うのは、少しだけ違うんじゃないかな」

「あー、それはうちも思うなぁ。フェイトちゃんに負けてはないと思うんよ」

「違わ、ないです。私、魅力なんてない」



苛立ちが募っていく。それはきっと、変われない自分に対して。

そして嫉妬もしてる。例えば隣を歩くこの人達に対して。



「だからなぎ君にぶつかれないし、振り向いてもらえない。自分に、自信が持てない。
私はフィアッセさんや椎名さん達とは違います。そんな風に自信を持って歩けない」



私は、やっぱりダメなんだ。二人やフェイトさんみたいになれない。

前を向いて、自信を持って歩けない。私はきっと、ずっとこのままなんだ。



「なら、ここから変わっていくしかないんじゃないかな。というか、ギンガちゃんは大事な事を分かってない」



フィアッセさんは足を止めて、私を叱るような目で見る。私も同じように足を止めて、その視線を受け止める。

辛いけど、分かってる。もう分かってる。私はダメだから、こんな風に言われるんだ。



「私達やフェイトさんみたいになる必要、ないんだよ?」

「・・・・・・嘘です。嘘です、そんなの・・・・・・嘘です」

「嘘じゃない。ね、ギンガちゃん。私が最初に会った時の話、覚えてる?
人は誰でもその心で・・・・・・その魂で、歌をうたうんだって言ったよね」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「人はね、誰でもその心で・・・・・・魂で歌をうたっているの。
その歌は、その人そのもの。その人の全部が詰まってる」



言いながらフィアッセさんは、とても優しい顔で自分の右手を胸元に当てる。

歌・・・・・・あぁ、そっか。音楽関係者だから、こういう物の喩え方をしているのかも。



「その歌は誰かの心に響いて、何かを変えるきっかけを作るかも知れない。
その歌に惹かれて、その歌い手を慕って人が集まるかも知れない。それで」

「なぎ君も・・・・・・同じ、という事でしょうか」



なぎ君も、歌をうたっている。それが・・・・・・あぁ、そうだよ。それがあの私の嫌いななぎ君なんだ。

なんでかそう強く思ってしまった。アレがなぎ君の心でうたっている歌なんだ。



「そうだよ。恭文くんの歌は、強くて優しくて・・・・・・輝きに溢れた歌。誰かに希望を示す事の出来る歌。
とても真っ直ぐで一途で、優しいあの子の全部が詰まってる。私、あの歌にずっと惹かれてるんだ。なのに」



フィアッセさんの表情が変わる。ううん、さっきの厳しい表情に戻ったと言った方が正解かも。



「どうも局の仕事に携わってる人達は、そういうところがさっぱりみたいなんだよねー。
恭文くん自身の意思より、局やそれに関わる自分達の都合の方が大事みたい」





















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ギンガちゃんだって、同じなんだよ? 私にはギンガちゃんの歌がずっと聴こえてる」

「・・・・・・醜い、歌ですよね」

「ううん、違う。とても一途で・・・・・・戦っている気持ちが伝わる歌だよ」



フィアッセさんはそっと手を伸ばして、優しく私の左側頭部を撫でてくれる。それで強ばってた気持ちが、少しだけ解れる。

その間もフィアッセさんはずっと安心させるように笑っていてくれる。だから自然と、瞳から涙が零れる。



「大好きで、幸せになって欲しくて・・・・・・守りたくて。でも、そのためにどうしたらいいのか分からない。
分からないから、必死にそのための道を探してる・・・・・・戦う勇気に溢れた、強い歌だよ」

「違います。私、戦ってなんてない。元から負けて」

「じゃあ恭文くんの事、もう好きじゃなくなったのかな」



そう問われて、私は何も言えなかった。何も言えずにただ静かに、涙を零す事しか出来なかった。



「・・・・・・今苦しいのは、諦め切れないからだよね。即答出来ないのは、好きだからだよね。
間違いを繰り返したくないのに、それ以外の道が分からなくて、必死に足掻いてる」



まるで心情を全部見抜かれてる感じがして、辛い。でも、それはフィアッセさんだけじゃなかった。



「なぁ、ギンガちゃん。アンタはまず自分の歌を・・・・・・自分自身を知るとこから始めた方がえぇんやないか?」



だから優しい声で、私の背中側に回ってそっと抱きしめてくれる。その温もりが、とても心地良かった。

というか、おかしいよね。だってここ・・・・・・通路のど真ん中なのに。



「アンタが変われん思うんは、まず今の自分の根っこがよう分かってないからよ。そやから、それが変化した形を見い出せない。
見い出せないから、今見えてるもんだけで全部判断して・・・・・・結果行動がちぐはぐしてまう。うちは話聞いててそういう印象受けた」

「でも、私」

「ん、確かに怖いな。今の自分がめっちゃ醜くかったら、それは怖い。うちかてそういうんは経験あるよ。
でも逃げてもうたら、アンタはずーっとそのまんまよ? そやから、もうちょっとだけ踏ん張ってみんか?」



それで抱擁が強くなる。その温かさで震えてる気持ちが、少しずつ落ち着いてくるのが分かった。



「さすがになぁ、女の子としては今のアンタ見てられんのよ。そやからまぁ、おせっかい焼いてもうてる。
決めるんはアンタや。そやから、うちもフィアッセも無理は言わん。アンタの自由にしてえぇ」

「でも、これだけは覚えてて欲しいんだ。きっとまだギンガちゃんは、自分の歌を恭文くんに伝えてない。
・・・・・・スタートはまずそこからだよ。まだあなた達は、なんにも・・・・・・なんにも始まってないよ」

「フィアッセさん・・・・・・椎名さん」





私なりの歌。それは、今はまだ見えない領域。だからこそ触れる事が、手を伸ばす事が怖い。

でも、もしも本当に私となぎ君がまだ何も始まってないなら・・・・・・気持ちを固めようとしたその瞬間、ある音が耳に入った。

なにか細いものがひゅんと音を立てて飛んでくる音。私の身体、人より感覚が鋭いから。だから聴き取れた音。



私は瞬間的に、その音の発生源に向かって手を伸ばした。それはこちらに向かってきていたから。

掴んだのは、細くて長い針のようなもの。そしてその先は・・・・・・フィアッセさんに向かって。

でも、これなにっ!? この速度でこんなものが飛んだら、人の頭なんてきっと簡単に貫けるっ!!





「・・・・・・フィアッセっ!?」

「だ、大丈夫。あの、ギンガちゃん・・・・・・ありがと。というか、これは」

「・・・・・・已停止与思考」



声は前から。そして風が・・・・・・殺気が迫ってきた。私は反射的に抱きついていた椎名さんを左手で振り解く。



「然而,慢」





それが私達の前で大きく跳ぶと、銀の煌きが頭上から何本も飛んできた。

私はフィアッセさんとゆうひさんを後ろに突き飛ばして、私自身は前に転がってなんとか回避。

二人は尻餅をつくようにして、通路に倒れこむ。でも、そこに気遣っている余裕はない。



身体は意識せずに自然と動く。左拳を握り締めて、私は着地する対象にその拳を叩き込んだ。

狙うは腹。意識を奪うために打ち込んだ拳を、対象は右に身を捻りつつなんなく回避。

それだけでなく左手で私の突き出した左拳・・・・・・その手首を掴んで、右手を引く。



咄嗟に嫌な予感がして、その予感のままに肘を無理矢理に対象に向かって突き出す。というか、肘打ちする。

身体をフットワークで動かし、相手に腕を捻られそうになってそれを力ずくで耐え凌ぐ。

対象は予想通りに私の肘目がけて掌底を打ち込んでいた。もちろん、私の腕をへし折るため。



私の肘はそれを迎撃するように叩き込まれる。それで対象は私の反撃に驚いた顔をする。

なお、対象は女。黒髪ロングで赤いチャイナドレスを装着。その上からブラウンのコートを羽織って、身長は170前後。

私は即座に、その女に右拳を叩き込む。顔面狙いのそれをチャイナの女は右に動いて回避。



手首もその時にようやく解放された。私はすぐに拳を引いて、追撃しようとする。

でも、その前に女は羽織っていたコートを素早く脱いだ。その身を時計回りに翻して、本当に一瞬で脱ぐ。

こんな状況じゃなければ、見惚れてたかも。それを右手で持ちつつ、踏み込んだ私に向かって投擲。



私の視界は、一瞬そのコートによって遮られる。というか、コートがかぶさってきた。

また反射的に『マズい』と思ったけど、それじゃあ遅かった。そして次の瞬間、腹部に強烈な衝撃。

私はそのままコートと共に吹き飛ばされて、床を数メートル転がった。





「ギンガちゃんっ!!」



荒く息を吐きながら、胃液が逆流してくる感覚に耐えつつも女の方を見る。



「大丈夫・・・・・・です」





顔にかかっているコートは右手で掴んで、素早くそこら辺に放り投げた。

女の手首にはホルスター。そこには先ほど投げられた針が大量に付けられている。

至近距離で投げてこなかったのは、助かったかも。もしやられてたら、死んでた。



そこまで考えて、身体の奥から寒気が走ってくる。そうだ、私死んでたかも知れないんだ。



魔法が使えれば・・・・・・この身体がもっと動けば、こんなの問題ないのに。





中々に腕が立つ。さすがに護衛には金をかけてるか。
やれやれ、暗器で一気に暗殺・・・・・・というのは、無理な話か




なに、この人の言葉。分からない。日本語とは違うから・・・・・・こっちの世界の別の国の言語?



「中国語・・・・・・っぽいけど、ゆうひ」

「ちょお鈍りが独特やな。うちのヒアリングやと完全には無理や」



どうやらこの言葉、中国語って言うらしい。とりあえずあの、私には意味はサッパリ。

でも、それでも伝わる事がある。この人が悪意を持ってるって言う事は、凄く分かった。



「・・・・・・フィアッセさん、ゆうひさん、下がっててください」



後ろの方から、足音が聞こえる。そっちを横目で見ると、エリスさんと数人のボディーガードの人が走ってくる。

それは女の人の後ろ・・・・・・私から見ると前の方からも来ている。私は、二人を守るように立ち上がる。



邪魔だ





女性がその場でその身を回転させた。その瞬間、私は嫌な予感がして一気にしゃがむ。

しゃがんで跳ね上がった髪の先の方で、何かをかすめる感触がした。

すると後ろと前で人が倒れる音がする。後ろはともかく、前は見えた。あれは・・・・・・さっきと同じ針。



すぐにまた後ろを見るけど、フィアッセさん達はエリスさんがガードしてくれてなんとか無事。





さて、フィアッセ・クリステラ。死んでもらおう。
お前に生きてもらっていると、不都合な人間も居るんだ。悪く思うな




その人はゆっくりと、私達に向かってにじりよる。だから私は立ち上がり、また両の拳を構える。



どけ、無駄な殺しはしたくない

「ギンガ・ナカジマ、君は引けっ! ここは私が」

「いえ、エリスさんはフィアッセさん達をお願いします」



ポジション交代なんてしてる余裕、多分ない。そんな隙を見せたら、確実に詰まれる。

もうだめ、止まれない。いけない事だって分かってる。私が局員であるなら、こんなの間違いだって分かってる。



「だがそれでは君が」

「・・・・・・・・・・・・いいから行ってっ! 私の気が変わらないうちに・・・・・・早くっ!!」





私は自分でも驚くくらいに泣きそうな声で、必死に叫んだ。・・・・・・私は、管理局員で魔導師。

例え目の前で誰かが死にそうになっていても、管理外世界で起こった事なら私は見過ごさなきゃいけない。

魔法を使って助けられるとしても、絶対に使ってはいけない。それが管理局のルール。



だから私がフィアッセさん達を守ろうとしてるのは、間違いなんだ。うん、分かってるよ。そんなの、分かってる。





「・・・・・・分かった。すぐに戻るから、それまで持たせてくれ」

「お願いします」





そのままエリスさんと、フィアッセさん達二人の足音が後ろで聴こえる。女は動かない。例の針も投げて来ない。

・・・・・・私、管理局員失格だね。地球でのゴタゴタになんて、本来関わる事すら許されないのに。

でも、だめ。二人が殺されると思った瞬間に、勝手に身体が動いてた。今だって『助けたい』って思ってる。



だから引く気がしない。自分で自分を止められる気がしない。だから私は、拳を構えて両足をしっかり踏みしめる。

・・・・・・あぁ、そうだ。これが私なんだ。私、やっと思い出せた。私は・・・・・・これがしたかった。

泣いてる誰かの、苦しんでいる誰かの居場所や笑顔が守りたかった。母さんみたいな強い人になりたくて、局員になった。



それが私なりの理想で、世界やそこに居る人達のそういう時間を守りたいと思う理由。

だからなぎ君にもあの時、その話をした。私の夢で、私自身の一部だから、これならいけると思った。

でも、それは間違い。だけど同時に私にとっては正解。だってこれは、私自身でもあるから。



なんだろ、力が心の奥から湧き上がってくる感じがする。だから自然と荒れていた呼吸も整う。





残念だが、増援は期待しない方がいい。・・・・・・相方と奥の手もあるしな

「何言ってるか・・・・・・分かんないよっ!!」










胸の奥で渦巻く恐怖を振り払うように、私は踏み込む。女は、ゆっくりと腰を落として構えた。





私、バカだ。こんな事したら、局員クビに・・・・・・ううん、もういいや。





目の前でフィアッセさん達が殺されて『仕方なかった』なんて言い訳するより、ずっとマシだ。




















魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝


とある魔導師と彼女のありえる繋がりとその先の事


ケース05 『ギンガ・ナカジマとの場合 その5』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『・・・・・・という事だっ! 私は無事だったから今フィアッセ達についているが、そっちは大丈夫かっ!?』

「あー、すみませんっ! ダメかも知れないですっ!!」





現在僕は、ゴタゴタしながらも耳につけたイヤホンマイクでお話中。でも、正直頭抱えたいよ。

つーか、そんな物騒な奴相手にギンガさん一人って・・・・・・いや、それ以前になぜ来てしまったのさ。

なお、エリスさんには飛んで来る針を完全に見切るのは無理だったとか。



でもここはしゃあない。暗器の飛んでくるのを見切るなんて、やっぱ難しいもの。





はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!



僕の右側から飛んできたのは、分銅。つーか・・・・・・鎖の先?

しかも、その先に刃まで付いている。よく研がれているのか、照明の光を受けて銀色の刃が輝いている。



”あぁもう、なんつう前時代的なもん使ってるんだよっ! つーか、どうやって持ち込んだっ!?”



分銅は真っ直ぐに投擲されたわけじゃない。空間をその刃と鎖で薙ぐように振り回される。



”あの背負ってたバックでしょ”

”うん、知ってたっ! それ知ってたよっ!!”



そんな念話に相槌を打ちつつも後ろに跳んで、間合いから外れる。

だけど、そこから僕と同じくらいの身長の男の手がくんと動くと、分銅が回転しながら上に上がり・・・・・・また振り落とされる。



「エリスさん、ギンガさんお願いしますっ! 僕は今はダメっぽいですっ!!」





イヤホンマイクに話しかけながら、また後ろに跳ぶ。すると、刃が床に突き刺さる。それから男の腕がまた動く。

鎖を引いて、分銅を引き戻しながら僕の方に踏み込み、今度は真正面からの投擲。僕は左に走って回避。

でも、そこからまた腕が動いて分銅の軌道が変わる。男が腕を振り回すようにすると、僕の背中目がけて刃が飛んでくる。



振り返って、その軌道を読んだ上で僕は大きく近くの壁に向かって跳ぶ。

その壁を蹴って、軌道を無理矢理に変えた上で分銅を跳び越えた。

・・・・・・これは鎖分銅の亜種というか変化形。分銅の先の刃は実に厄介。



刀なんかで鎖を受け止めても、そこから分銅が勢い良く受け止めたものに巻きつこうとする。

すると分銅に付いた刃が、巻きつく勢いを活かしてその周囲のものを斬るのよ。

普通に受け止めたら多分、身体がずたずただ。いや、正直攻撃を掠るのも怖かったりする。



こういう場合、一撃で致命傷になるように刃に毒とか塗ってある場合が多いのよ。

つまり宮元武蔵がやったみたいに鞘かなにかで受け止めて、他ので攻撃なんてのは無理。

まぁよく考えた武器だよ。それにここならこういう武器も使える方だ。





ほらほらぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 逃げ回ってんじゃ



分銅はまた男の手の内にある程度引き戻されて、その頭の上で回転。

そこからまた投擲した。右に走って回避すると、今度は分銅は壁に激突。同時に男が走り込んでくる。



ねぇよっ!!





分銅を引き戻しつつ、跳び上がって身体を回転。その勢いに乗って分銅が僕の進行方向へと素早く回りこむ。

下に滑り込むようにそれを何とか回避。分銅の刃は壁を鋭く斬り裂き、直線を描く。

その間に僕は一気に後ろに跳んで、また距離を取った。男は手元でまた分銅を回転させる。



その時、銃声が響いた。それは遠くの方に居るガードの人達が撃った弾丸。

でも、回転している分銅を盾にして男はそれを防ぐ。数発の弾丸が防がれた証拠として、回転する銀の盾に火花が走る。

・・・・・・警戒中、こいつを見つけた。短髪で細身で、黒のスーツを見につけた男。



身長は僕と同じくらいで、やたらと猫背。年のころだと・・・・・・老けてるように見えるし40?



くそ、マジで厄介な獲物使いやがって。魔法使えれば瞬殺だろうけど、それがないとかなり面倒だぞ。





「・・・・・・エリスさん、アルトにメールで座標は送ってもらいました。対処お願いします」

『あぁ、もう確認して向かわせている。君が見たものも回収済みだ』





ここは会場1階にある吹き抜けの大ホール。ついさっき、パトロール中にアルトが妙な反応を見つけた。

その反応の元はコイツが置いて行った袋。それを改めてスキャンしてもらったら・・・・・・爆弾でしたよ。

とにかくその内の一つは氷結魔法で凍らせて止めた。でも、反応を見ると爆弾は会場内に複数個存在している。



エリスさんには連絡済みだからまだなんとかなると思う。





「エリスさん、スナイパーとか警護人員の中に居ないんですか? それで狙撃してもらえれば、楽なんですけど」



でも、こっちはなんとかなるか微妙。だって銃撃の気配を察知してアレだよ?

だからほら、ガードの人達がもう呆気に取られてるし。あんな防ぎ方、された事ないんでしょ。



『居ればとっくに手配している』

「ですよねー」





で、話を戻すけど僕はコイツを尾行しようとしたら勘がいい奴なのか、いきなり鎖分銅持ち出して暴れ始めやがった。

いや、違う。コイツはここを戦場に選んだんだ。あの獲物は、通路や狭いところじゃ活かせないから。

でも、まさかマジでフィアッセさんも狙ってくるとは。とりあえず僕はこの鎖分銅持ちを何とかしないとダメだな。



じゃないと、ギンガさんを助けに行くのも無理。・・・・・・さて、集中しろ。ギンガさんは二の次だ。

てーか、これで死んでも僕は一切責任取らない。テロが起きる危険性を知っていながら来たのはギンガさんだ。

単なるお客さんという立場で来たわけでもないし、そこをツツかれても困る。だから二の次。



今の僕の優先事項はなに? 仕事は一体なに? まずはコイツを即鎮圧する事。

そしてその上で、コンサート関係者の安全を確保する事だ。

ギンガさんも一応関係者だけど、絶対的な1番ではない。1番はフィアッセさんとスクールの生徒だよ。



自分に言い聞かせるように思考を研ぎ澄ませていく。場合によっては、ギンガさんは放置する覚悟も決める。



ギンガさんより先に助けなきゃいけない相手が居るなら、その相手優先。・・・・・・よし。





『フィアッセとゆうひさんは心配するな。ガードをしっかり固めたら、私はすぐに彼女の所に戻る。君は君の仕事をしろ』



そこが分かっているから、エリスさんだってこう言ってくれる。それでこの言葉にはちゃんと意味がある。

僕一人で全部守れるわけないんだから、自分達を頼れって・・・・・・だから、また気持ちが昂ぶる。



「了解ですっ!!」





そこまで言って、通信が終わる。身を支配するのは、久方感じてなかった心地のいい連帯感。

エリスさん達はプロのセキュリティで、そのために命を賭けてここに居る。うん、だから・・・・・・信頼に値する。

少なくとも局の連中よりはずっとね? だってアソコは上が腐り切ってるもの。



その上僕の勝手な介入、エリスさんの依頼込みとは言えちゃんと認めてくれてるもの。

だから僕も、僕の仕事を通す。改めて両手でアルトの柄をしっかりと握り締める。

それから息を吐いて、あの男を見据える。男は・・・・・・僕をあざ笑いながらジッと見ていた。





「Relieve reiterating, we'll not kill anyone」





そんな事を英語で言ってみたりする。それで男の表情が僅かに歪んだ。

どうやら英語は分かるらしい。うーん、さすが世界の共通言語に近い言葉だよ。

これがダメなら広東語があるけど、それだとちと不安だったから。



なお、今回は殺さないのはマジ。襲撃者が他に居ても同じ。

別に局の理想どうこうじゃない。んなの、どうでもいい。だって・・・・・・吐いてもらわなきゃいけない事、沢山あるし。

まぁ手違いで一人くらい無残に殺しちゃうかも知れないけど、それもアリか。



その覚悟は、とうにしてる。矛盾も、迷いも、自分なりに全部背負ってく覚悟は決めてる。

それが僕なりのハードボイルド。迷う自分も、躊躇う自分も全部持ったまま前に踏み込む。

殺す事は、奪う事は最悪手。どんな理由があったって、許されていい事じゃない。



それを割り切る事なんて出来ないから。戦う中でそれを当然の事になんて、しちゃあいけないから。

でも、それでも戦う事が本当にどうしても必要な時があるなら・・・・・・僕は戦う。

逃げたら、その最悪手の中で大事な時間が、笑顔や夢が壊れる。僕はそんなの、認められない。



新たに燃やす決意を刃に・・・・・・心に刻み込みながら、意識を高めていく。勝負は、手早くつける。





「But」



腰を落とし、僕は一気に踏み込んだ。



「Never again have to stand up now」





その突撃に合わせるように、分銅がまた僕目がけて飛んできた。僕は袈裟にアルトを叩き込む。

飛翔する刃と放たれた銀色の閃光が衝突し、火花を上げた。

魔力も何も込めてないのに、まるでバターのように分銅は両断された。



僕はそのまま斬り抜ける。その際に、髪の右側をほんの少しだけ持っていかれる。

真っ二つになった分銅は、そのままホールの隅の方に飛んでいった。

なお、鎖も斬った分は一緒に。隅の方で、それっぽいのが複数個落ちる音が後ろで聴こえた。





な・・・・・・!?





男の左手が鎖の残骸を離した上で、すばやく左薙に動く。すると、何かが複数個飛んできた。

でも、僕はその間に2時方向に走り込んでる。軽く横目で見ると、それは小刀のようなもの。

男は再び左手を右薙に動かす。今度は11時方向に走り込んでスレスレでそれを回避する。



ようするにギザギザに走って、相手の投擲を避けてるの。動き・・・・・・うん、読み取れる。

だから男はこちらへ走り込みながら右手を動かし、片刃の刀剣を逆手で保持して持ち出してくる。

サイズとしては40センチ程度の中国刀。てゆうか、あんなもんどこで持ってたんだよ。





きぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!





まず跳び込みながら袈裟に一撃。僕はアルトで同じように打ち込んで、その刃を払う。

払いつつ僕達は交差。刃と刃の衝突の際に発生した火花が消えない内に、逆時計回りに身を回転させる。

男は手の平で刃を回転させながら勢いをつけ、僕に刃を打ち込んでくる。



袈裟の斬撃を後ろに飛んでさけ、続く突きは左に動いて回避。でも、そこから更に続く。

時計回りに身体を回転させて右薙に踏み込みつつ数度叩き込んで来る。

後ろに大きく数度後ろに跳びつつ回避。最後の打ち込みの後に、男の左手が再び動く。



僕も同じように跳びつつも左手を動かし、飛針を数本投擲する。それらは全て相手の暗器に命中。

男はその間に一気に踏み込み、僕に向かって左薙に斬撃を叩き込んで来る。てーか、何気に速い。

僕もまた同様にアルトの刃を叩き込んで、それを払う。でも、男は斬り抜けずに僕の側面で足を止めた。



そこから柄尻での刺突。ただしその柄尻には・・・・・・鋭い杭のようなものが付けられていた。

僕は身を翻してアルト柄尻で刺突を打ち込む。というか、同様に返し技を叩き込んでそれを防ぐ。

杭とアルトの柄尻が衝突して、鈍い金属音が響く。そして男が刃を引きつつ反時計回りに身を捻る。



捻って僕の足元を狙いながら左薙に斬撃。僕は大きく上に跳んでそれを回避。

回避しつつも懐からダガーを取り出し、そのまま投擲した。

その標的は、しゃがんだ男の胸元辺り。男は僕の投擲を刃を盾にして防ぐ。



でも、まだ投擲は続く。続けて僕は腰のワイヤーを投擲。防御のために動きが止まった男の右手首に絡んだ。

空中に居る間に左手でワイヤーを弛ませて、それを首にも絡みつける。そしてようやく着地。

ワイヤーを強く引いて、一気に縛りあげる。男の表業が一気に苦悶の表情へと変わった。



右手首と首の喉の部分がくっつく形になり、右手が封じられる。刃はギリギリで喉に当てられなかった。

僕は一気に踏み込む。そして男はその右手に握りっ放しの刃を離した。刃は当然のように下に落ちる。

そしてその切っ先が地面に突き刺さり、男はがら空きの左手でそれを掴んで振り上げる。けど、遅い。



僕は既にアルトを右薙に叩き込んで、男の腹を斬り裂いていた。それから刃を返して更に追撃。

男が痛みで動きを止めてしまった隙を突いて、アルトを左切上に打ち込む。そして、二の腕からその左腕を両断した。

それぞれの傷口から血しぶきが上がり、男の顔が一気に真っ青になる。そして、後ろ向きに倒れた。



僕は斬撃を打ち込んでからすぐに距離を取った。そのまま50メートル程離れた距離で、男が倒れたのを見る。

・・・・・・斬られた腕は、男の後ろにまた切っ先から突き刺さった中国刀の柄を強く握り締めたままだった。

男はそのまま動かない。ゆっくりと赤い血が、床に広がっていく。何にしても、これでまずは一人・・・・・・だよ。





「・・・・・・そのままジッとしてろ。そうしてくれると非常に助かる」



横からこちらに近づく足音が聞こえる。そちらはもう見るまでも無い。ガードの人達だ。



「ご無事ですかっ!?」

「なんとか。・・・・・・コイツお願いします。で、遠慮しないでください」



速攻で潰したからアレだけど、もしかしたら切り札かなんか持ってる可能性もあるし。



「分かりました。では」



ワイヤーはもう手元近くで切って、そのままにしておく。

ブレイクハウトでワイヤーを対価に、見えないようにカラビナを再構築すればいいでしょ。



「もう一人の方、行ってきます」

「お気をつけて」



というわけで、そこからまた全力疾走。まずはホールの大階段を上がって2階に上がる。

そこから3階まで続く階段に向かおうとしたけど、ダメだった。



”・・・・・・まずはこちらですね”

”うん、分かってる”



2階の広い廊下を走り出すと・・・・・・ナイフやら拳銃やらなんやら持った奴らが10数人立ちはだかる。

どうやって紛れ込んできたんだよ、あれ。てゆうか、どうやって持ち込んだ。



行かせるかぁぁぁぁぁぁぁっ!!

やっちまえぇぇぇぇぇぇぇっ!!





まずこちらに走ってきたのは、ナイフを持った二人。僕はアルトを右薙に振るって一人の胴を斬り抜ける。

そこを狙って1時方向から飛び込んで来たのは、刺突を避けつつも左薙にアルトを打ち込んでやっぱり斬り抜ける。

その二人はそのまま倒れる。続くのは、僕を拳銃で狙っているバカ共三人。僕は躊躇い無く左手を動かす。



取り出すのは飛針。銃を持って狙ってきている連中三人に向かって、それを銃口を狙った上で投擲。

寸分たがわずそこに飛針は入る。そして、連中が引き金を引いた。次の瞬間、拳銃は全て暴発した。

当然両手はもう痛い事になっている。もう書けないくらいに。でも、そこが隙だ。



そこへ突撃して、左に居た奴のわき腹を薙ぎ、真ん中の奴を左からの袈裟で潰す。

そして右に居た奴は、そのまま返す刀で右からの袈裟を叩き込んで沈める。

そうして、三人は血を流しながら倒れた。とにかく、これで五人。時間にすると数秒。



それで五人がもう川の見える距離まで行ってる。その様子に他の連中が怯える。



・・・・・・結局1と2と3の全部かい。まぁ準備のいい事で。





「・・・・・・I'm sorry, I'm unfriendly? Prepared from the shoulder, you were prepared to die, can decide」










ギンガさんは、エリスさん任せかな。てーか間に合うかどうかが結構不安だし。





いや、今はここはいい。僕がやると決めた事、それを全力で通す。もちろん、ハードボイルドにだ。


















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



残念だが、増援は期待しない方がいい。・・・・・・相方と奥の手もあるしな

「何言ってるか・・・・・・分かんないよっ!!」





胸の奥で渦巻く恐怖を振り払うように、私は踏み込む。女は、ゆっくりと腰を落として構えた。

まずは距離を詰めて右手で2発程ジャブ。人中の辺りを狙ったそれを、女は余裕で避ける。

でも、その避けた直後に私は左拳を全力で叩き込んだ。でも、女はそれを右手で軽く払う。



右手首で私の拳を外側から押し込みつつ身を翻して、一気に踏み込む。まずは右手での裏拳。

私の突きを払ってから、すぐに顔面に向かって腕の上を滑るように打ち込んできた。慌てて私は下がりつつ防御体制を整える。

右手の平を使ってその裏拳を受け止めて、下がるために動かしていた右足を踏みしめる。



この間に弾いていた左拳を、打ち上げるようにして叩き込んだ。なお、狙いは女の右腕。

でも女は素早く右手を引いて、私の拳を回避した。反応の良さに、思わず舌打ちをしてしまう。

右拳を引きながら女は私から少しだけ距離を取る。それからすぐに踏み込んだ。



まずは顔面に向かって、私の上半身目がけて数発の拳での突き。私は両腕を盾にしてガードする。

続けて来た左拳は、そのガードによって空いた腹を狙ってのもの。私は咄嗟に左手の掌底でそれを払う。

下に打ち下ろすようにして、反射的にだったけどギリギリでガードは間に合った。でも、攻撃はまだ続く。



防いですぐに女が拳を引いた瞬間、左膝に痛みが走る。女は右足で蹴りを叩き込んでいた。

その足をあげつつも膝から下だけを引き、今度は私の頭を狙って蹴りが入る。

そこから一気に右の拳が飛ぶ。左膝の痛みに顔をしかめつつも下げていた左腕を上げて、なんとかそれを防ぐ。



でも、痛い。この人私より細い感じなのに、一発一発が妙に残る。

なにより身体が思うように・・・・・・早めに勝負をつけようと、私はそのまま踏み込んだ。

ガードはそのままに今度は私がこの人の足を滑るようにして前に動く。



その上で右拳を叩き込むけど、女はしゃがんだ。女が私の視界から消えた瞬間、強烈に嫌な予感がする。

後ろに一気に下がって、その嫌な予感を回避した。それは、しゃがんだ女が打ち上げた右手での掌底。

当然のようにそれは私の顎を狙っていたもので、受けていたら一瞬で意識を持っていかれてた。というか、危なかった。



右手を素早く引くと、続けて左手が襲ってくる。驚いている私の耳に向かって、平手が叩き込まれた。

ううん、おわん型にした手が叩き込まれた。その瞬間、頭の中に強烈な痛みが走る。

そのせいで蹲り気味に身体の動きが止まったところに、今度は右手。それは何とか左手でのガードで防ぐ。



これ、イヤーカップ・・・・・・マズい、鼓膜は破れてないみたいだけど、足が・・・・・・フラつく。

ふらついた私に向かって、女が拳を連打で叩き込む。何とかそれを両腕を盾にして防ぐ。

でも、次の瞬間に身体がフラついた。女に頭頂部を掴まれて、そのまま放り投げられた。



身体が軽く中に浮いて、私は何の抵抗も出来ずにそのまま通路を転がっていく。

停止してから起き上がろうとするけど、その途端に身体中に痛みが走った。

そしてそこに、女の右足での打ち上げる蹴りが腹に入る。私は呻きながら、またその場で蹲った。



それからすぐにまた視界が強引に移動していく。

私は首を右手で掴まれて、そのまま勢い任せに手すり側に叩きつけられた。

私の首は片手で他愛もなく締め上げられて、一気に視界がボヤけていく。





・・・・・・つまらんな



だから、なに言ってるか・・・・・・分からない、よ。



お前、なぜここに居る? お前の拳は、つまらない。何の覚悟もない拳だ



でも、なんだろ。凄く悔しい。バカにされてる感じだけは、伝わってくる。



奪う事どころか、救う覚悟もない空っぽの拳だ。ただ傷つけたくないと子どものように泣き続けてる



それで悔しさが増す。この人の言ってる事が正解だって、分かるから。



恨むならそんな身でここに出てきた自分を恨め。大丈夫だ、私はお前とは違う。
死人の恨みを引き受ける事なら、もう慣れている。あぁ、慣れているとも。・・・・・・では




押し込まれる力が強まる。このままじゃ私、窒息・・・・・・ううん、ここから落ちる方が早い。

でも、もうだめ。意識が途切れかけて、何も考えられない。もう、無理だよ。



死ね





私の首に、更に力が加わる。きっと私の首をへし折ろうとしてる。そして、それは可能だ。

だからこの言葉だけは、直球で意味が分かった。私にこの人は『死ね』と言っている。

私が死ぬ? こんなところで、死ぬの? なにも出来ないで、自分がなんなのかも分からないのに?



フィアッセさん達が言ったような自分の歌も、分からないのに? そのせいで私は、まだ何も始めていないのに?

そうだ、私はまだ何もしてない。まだ何も始まってないし、始めようともしてないんだ。

その事実に気づいた瞬間、私はもう動かないと思っていた左手を動かしていた。その手であの人の手首を掴む。



そしてそのまま、その手首を力ずくで握り潰す。私の首は、ようやく解放された。

次に右拳を握り締める。女性が何か叫んでるけど、よく聴こえない。

私は即座に握り締めた拳を、女性の胴に叩き込んだ。全力で、ありったけの力で。



手に伝わるのは、肉を打ち付け骨を砕き、内蔵を潰す感触。それでも私は、生きるために拳を打ち抜いた。





・・・・・・ごはぁ





女の端正な顔立ちが歪み、冷淡な瞳が驚きに染まる。口元から溢れた血が、私の服を汚す。



右手からは普段は感じないとても怖い感触が、リアルタイムに伝わる。



女はそこから吹き飛んで、壁に叩きつけられた。私はその場にヘタリ込む。





「げほ・・・・・・! げほげほっ!!」





咳をしながらもすぐに立ち上がって、私は向かい側の壁に叩きつけられた女を見る。

女も立ち上がって、やっぱり踏み込んでいた。そして左拳を強く握り締める。

私は左拳を強く・・・・・・強く握り締めた。私は女と同じように、ふらつきながらも駆け出す。



そして私達は互いに拳を叩き込む。その拳が・・・・・・腕が交差して、それでもなお直進する。





「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

はぁっ!!





私は左腕を這うように突き出されてくる拳を、スレスレで回避した。

拳は頬を、耳の下辺りを掠め、そこから鋭い痛みが走る。

それでも私は踏み込み、女に拳を叩き込んだ。そしてその拳は、的確に顎を打ち抜いた。



手に伝わるのは、確かに打ち抜いた・・・・・・ううん、砕いた手応え。

女の口元からまた血が溢れ出して、女はそのまま崩れ落ちた。その時に女の腕が外れる。

私は倒れて動かない女を見ながら、そっと右手でさっき痛みが走ったところを触る。



なんか、生温かい。切れて・・・・・・血が出てる。というか、腕も同じような痛みがある。

私はそのまま後ずさりするように下がりつつ、手すりの近くでへたり込む。その瞬間、身体中に痛みが走る。

もう、立てない。これはどう考えても、無理だよ。お願い、もう立たないで。もう・・・・・・立たないで。





・・・・・・く





でも、女はまだ意識を持っていた。閉じていたはずの目が、私の方を見据える。

それに思わず身体が震える。でも、その間に女は身体を動かし、左手であの針を取り出す。

私は仕方なく、追撃のために立ち上がろうとする。でも、その場でまた崩れ落ちた。



身体中が痛い。悲鳴を上げに上げまくってる。どうやら、私・・・・・・もう限界みたい。



女がそれを見て笑う。そしてそのまま暗器を。





「はーい、そこまでだよ?」





女が投擲しようした瞬間、聞こえてきたのはそんな間の抜けた声。

次の瞬間、女の腕に両刃のダガーが突き刺さる。女はその痛みのためか、針をあっさり落とした。

そして腕は動かない。ダガーは肘の辺りに突き刺さって、そこから血が溢れ出す。



女は腕を動かさない。ただ声を殺すようにしながら苦悶の表情を浮かべるだけだった。

それをやったのは、紺色のスーツを着た男の子。手には私も良く知っている刀。

それでちょっとだけ服がボロボロ。というより、血が・・・・・・沢山。



もう一人は金色の髪をポニーテールにして、白いスーツを着た女性。



ついさっきフィアッセさんと椎名さんを連れてここから離脱したのに、そこにいた。





「なぎくん、エリス・・・・・・さん」

「そうだよ。・・・・・・バカが。だから帰れって言ったのに」

「もうそこは言ってやるな。それでギンガ・ナカジマ、フィアッセとゆうひさんも無事だ。
他の襲撃者も彼が主導で鎮圧してくれた。安心してくれ。もう終わりだ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



結局、襲撃はこの二人と、僕がぶっ潰した連中だけだった。まぁそこそこ腕利きだったけど、なんとかなってよかった。

爆弾の方も問題なかった。完全な時限式でスイッチでドガンという事も無かったので、無事に処理は完了。

で、今回の襲撃事件の余波はとても大きかった。具体的には、スクールを疎ましく思っていた政財界の大物達が大変だった。





年が明けてから人生が終わるまでの間、ずっと臭い飯を食うハメになるわけですよ。

ただ、そこは今回の話と関係ないと思うので、割愛する。

この辺りにはエリスさんのみならず、警防の方々や月村家の方々も協力してくれた。





なお、美沙斗さんはこの一件について『大掃除出来たからよかったんじゃないのかな?』などと言ってたらしい。

・・・・・・なんかムカつくけど、自分で首を突っ込んだからここは気にしない事にする。

とにかく僕は現在、ギンガさんと一緒に舞台袖で無事に始まったコンサートを聴いていた。





生徒の方々が歌い、輝いている。それをなんか嬉しい気持ちで一杯になりながら見ている。

ギンガさんには僕が回復魔法をかけてなんとか動けるようにはなった。

顔とかもそんなに酷い傷じゃないから、もうバッチリ。で、僕達は新しい服を借りてそれを着ている。






いや、さすがにねぇ? だってなんだかんだで僕達血まみれだったからさ。それでこれはダメだって。

・・・・・・あ、一つ訂正。僕とギンガさんだけじゃない。実はもう一人居る。

なお、それはフィアッセさんとゆうひさんにエリスさんとかではなかったりする。





三人は現在、関係各所の挨拶も含めて関係者席に居る。では誰かと言うと・・・・・・この人です。










「・・・・・・どうしてああいう無茶するのかなっ! ギンガ、自分がリハビリ中だって忘れてたでしょっ!?」

「わ、忘れてはなかったんです。ただ・・・・・・その」

「あー、マリエルさん。その辺りで。ほら、客席に聞こえちゃいますから」





目の前に居るのは、今日は紺のワンピース姿で緑色のショートカットの髪にメガネをかけている女性。

本来は本局の技術開発局に居て、デバイマスター兼ギンガさんとスバルの主治医のマリエルさんだ。

ゲンヤさんからギンガさんが帰らないというのを聞いて、休みを申請してこっちに来たらしい。



で、あのすぐ後に到着して・・・・・・お冠ですよ。うん、当然だよね。





「・・・・・・今回は魔法どうこうじゃないから、身体に受けた傷はそんなでもない。
身体の方も恭文くんの回復魔法でなんとか大丈夫だし。でも、問題は中の方」



コンサート中だという事を思い出したのか、声を潜めながら話を続けてくれる。

まぁここは良かった。ただ・・・・・・出来ればその身から迸る怒りも、潜めて欲しかったりする。



「まだ身体が治りきってないのに本当にフルで動いちゃうから、相当負担かかってる。
完治は当分先になったよ。・・・・・・ギンガ、戻ったら定期健診だよ? これは、絶対に絶対」

「はい、すみません」



・・・・・・あと、なんというか居心地が悪い。だってほら、なんかマリエルさんの視線厳しいしさ。

でもね、僕のせいじゃないと思うのよ。僕が悪いって言うのは、絶対違うと思うの。



「あと恭文くんも」

「え、なんでそこで僕っ!?」



いや、視線が僕に移ったからまぁまぁ分かるけどねっ!? 来るんじゃないかって予測してたけどっ!!



「もう少しギンガの気持ち、考えてあげて欲しい」



だからなんでっ!? 何をどうこれ以上考慮しろって言うのさっ! どんだけ無茶振りだよっ!!



「恭文くんのギンガに対しての対応は、女の子としてはちょっと見過ごせないよ。
あとはスバル達にもだよ。スバル、相当ショック受けてるんだよ?」



ただ、ここでこう言ってくる理由も察しがついた。というか、今答えはマリエルさんから提示された。

スバルから話を聞いて、もしかしたら僕への説教も込みでここに来たのかも。



「仲間にも友達にもなれないってハッキリ言われて、辛そうだった」

「じゃあ僕にどうしろとっ!? 遠慮無く巻き込んで『一緒に戦え』と言えとかそういう話ですかっ!!」

「そうは言わないけど・・・・・・でも、もうちょっと六課のみんなの事も気遣ってあげて欲しい。恭文くんの言った事、絶対違う。
恭文くんがどう言おうと、あそこに恭文くんの居場所が・・・・・・繋がりたいと思ってる人達が居る。それを大事にしていこうよ」

「あぁ、絶対嫌です。僕はあんな連中知ったこっちゃないし。てか、もう面倒見切れないんですよ。
僕は別に連中と繋がるために生きてるわけじゃないんで、部外者が口出ししないでもらえます?」

「・・・・・・恭文くん」





一息に言い切って、僕はコンサートに視線を向ける。それで気持ちが和らぐのを感じた。

・・・・・・なんつうか、マリエルさんがこんな理不尽な事言い出すとは思わなかったぞ。

ただ、これも仕方ないんだよね。だってマリエルさん、絶対六課の裏事情の事とか知らないだろうし。



それでももう何も言わないでくれるのは、ありがたかった。だってやっとコンサートに集中出来るから。

・・・・・・あんな事があっても、スクールの面々は動揺せずに立派にステージに立っている。

そしてうたう。想いと夢と、未来への希望を込めて。光の中で優しくも力強い笑顔を浮かべながらうたう。



そんな歌に僕達も、観客も耳を傾ける。それで嬉しく思う。だって・・・・・・ね、ちゃんと守れたんだなと思うから。

まぁ、今回は基本殺し関係は無しだったから、余計になんだろうね。再起不能にはしたけど。

うん、だからそういうのは重く感じる。やっぱり戦いはその手を取った時点で最悪手で、ダメな事だから。



でも、やっぱり僕はこういう道かな。忘れず、下ろさず、背負って・・・・・・それでも護る。

これが僕のやりたい事なんだ。今が壊されるなんて、認められないから。

僕はやっぱり死ぬまで鉄でありたいんだ。間違えても、それだけは変わらないし変えられない。



どうやら僕の夢は、色んな意味で普遍らしい。でも、それならこれからどうしていこうかな。うーん、迷うなぁ。

・・・・・・あ、そうだ。せっかくフェイトから告白じみた事言われたんだし、チャレンジしてみようかな。

嘱託のままでも試験って受けられるし、資格も取れるらしいから。まぁその、資格関係も力になるのかなと思ってしまった。



局員になるのはやっぱり嫌だけど、そういうのを取って何かの足がかりになるんなら、それもアリかなって。



でも・・・・・・うーん、やっぱり色々考えていこう。今すぐには、全部一気には決められないや。





”・・・・・・なぎ君”

”なに?”

”私ね、本当に・・・・・・本当に少しだけかも知れないけど、分かった。
なぎ君が背負う覚悟までして、六課を振り切ってまで何を守りたかったのか”



するとギンガさんが、ゆっくり僕の隣に来て僕の羽織っているシャツを掴む。

右腕の部分を、まるですがるように・・・・・・甘えるように掴む。



”この歌声は、消しちゃいけないよね。知ってれば、消したくないって思うよね。
だって私、胸の中が温かいものでいっぱいになってるの。歌を聴いてこんな気持ちになったの、初めて”

”・・・・・・そっか”



というか・・・・・・あの、どうして寄りかかってくるの? ほら、シャンとしてよ。別に僕達恋人同士じゃないんだし。



”ギンガさん、もしかしてまだダメージ”

”うん、ちょっとふらつきが残ってる。あの、私友達なんかじゃないし迷惑なら離れるけど”

”・・・・・・いいよ、別に”



もう何にしても、色々遅いしさ。だから僕は不安気に僕を見るギンガさんを見て、苦笑気味な表情を浮かべつつ頷いた。



”まぁアレだよ、ギンガさんの胸の感触も堪能出来るし、役得ってやつ?”

”・・・・・・エッチ”



少しだけ頬を赤らめて、恨めし気に僕を見る。なので僕は・・・・・・なんか照れくさくて視線を会場に向ける。



”男ってエッチなものだよ? 嫌なら離れて”

”それは嫌。なら・・・・・・ん、いいよ。私の胸の感触、味わってくれていい。
それでもいいから、なぎ君にちょっとだけ甘えたい。いい・・・・・・かな”

”さっき言った通りだから、いい”

”ありがと”



歌はまだ続く。傍らのギンガさんの温もりを感じつつ、僕はその歌に身も心も委ねる。

その歌の中に僕が守りたかったもの全部が詰まっているから、それを確かめるように歌を聴いていく。



”それでね、なぎ君”

”うん?”

”あとで・・・・・・時間くれないかな。本当に少しだけでいいから、時間が欲しい”










僕はその言葉に視線を向けずに頷く。それからは僕達は言葉もなく、ただ静かに歌に耳を傾けるだけだった。

とても素敵で静かで、優しい歌に。この手で守れたはずの時間を、ゆっくりと噛み締めていた。

やっぱり僕が行く道は、重いものばかり。きっとあの時みたいに背負う事もある。ううん、今回だって背負ってる。





誰かを傷つけ、踏みつけたという業を。でも、それでも守れたものはあったんだと、その歌が教えてくれていた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『・・・・・・で、そこそこ怪我したけどなんとか超えたってわけか』

「うん」





コンサートは無事に終了。それで現在は夜の9時。



私は今はご覧の通りに、自室で父さんに生存報告。そしてその視線が心なしか痛い。



それはそうか。だって・・・・・・頬とかにガーゼ貼ったりしてるんだから。





『ま、よかったじゃねぇか。とりあえずこれで押し倒しても死亡フラグにはならねぇしな』

「・・・・・・通信切っていいかな?」

『冗談だ、頼むからそんな怖い顔するなよ』



そう言って笑うのはやめて欲しい。なんというか、本当に反省してるのかどうか非常に怪しい。

これで終わったんだよね。コンサートは無事に済んで、それでようやく一緒に帰れる。本当に、良かった。



『なぁ、ギンガ』

「なに?」

『・・・・・・俺の前では、遠慮するな』



それは先ほどまでとは違う意味合いの言葉。父さん何かを見抜いて、その上で言葉をかけてくれてる。

真剣で厳しい表情ではあるけど、どこかに優しさを感じさせる。だから私の気持ちも、少しだけ揺れる。



『お前、なに抑え込んでやがる。何かは知らねぇが、ここで全部吐き出しちまえ』



だから抑え込んでいたものが、揺れて崩れた部分から少しずつ・・・・・・そして一気に溢れ出した。



「・・・・・・私ね」

『あぁ』

「まぁ前にも話しただろうけど、なぎ君に・・・・・・忘れろって言った事があるんだ。人を、殺した事」



覚えてても、いい事が無いと思った。なぎ君、そのために止まれなくて局や私達の事、信じてくれないって思ってた。



「それが一番いい方法で、これからは局やみんなと一緒に重いもの背負っていこうって言ったの。
でも、今日分かった。それがどれだけなぎ君を苦しめていたか。私、魔法も無しで人を傷つけたの」





視線を落として私は、自分の両手を見る。反射的にとは言え人の手首を握り潰した左手を。

そして、今度は右手。こっちは、下手をすれば死なせるかも知れないような突きを打ち込んだ。

それからまた視線を移して、左手を見る。同じように顎に向かって打ち込んだ拳を。



あの人、肋骨が折れてた。折れた肋骨が肺に刺さって、顎も砕けて死にかけてた。





「まだね、手に感触が残ってるの。骨を握りつぶして、打ち抜いた感触が、しっかりと。
私はなぎ君みたいに殺したわけじゃない。なぎ君ほど重い荷物じゃない」



ううん、私が殺しかけた。一命は取り留めたそうだけど、下手をすれば殺してた。

こんな事、したくなかったのに。ずっと・・・・・・こんな力の使い方、したくないと思ってたのに。



「でもその感触が、傷つけたという事実が・・・・・・すごく重いの。こんなの忘れられない。ううん、忘れたくない。
そんな選択を取ってそうして前と同じように笑うのなんて、無理だよ。そんな事したら・・・・・・おかしくなりそう」





本当に少しかも知れないけど、分かった。なぎ君があんなに頑なだった気持ち。

私、ようやく理解した。なんであの時、なぎ君が私の手を振り払ったのか。

なぎ君もきっと、顔に出さないだけでこんな気持ち・・・・・・ずっと抱いてたんだ。



今だって、きっとそうだよ。この痛みが、なぎ君の笑顔の裏に隠れてる重さなんだ。





『・・・・・・どっちの荷物が重いかどうかは俺には分からねぇ。だがな、お前は今までだって同じ事をしてたはずだ。
お前はその拳で犯罪者をぶちのめし、逮捕した。ただ、魔法やら非殺傷設定っていうもんがあったから、自覚が無かっただけでな』

「うん、そうだね。・・・・・・ダメだね、私」



父さんはなんというか、相変わらず厳しい。こういう時は親として優しい言葉の一つでもかけるものだと思うのに。

でも、今はその厳しさが心地いい。ここで下手に優しくされると、泣きそうになるもの。



「自分の力の怖さを分かってるようで、きっと・・・・・・分かってなかった」

『で、お前はどうするつもりだ』

「背負うよ」



・・・・・・忘れられないなら、忘れたくないなら・・・・・・背負うしかないんだ。あの子と同じように、私も。

視線を上げて、私は笑う。今はカラ元気で、ちょっとだけ歪かも知れない。でも、それでも私は前を向いて笑う。



「父さんに話して、少し吹っ切れたよ。背負って、それでこれからどうすればいいのか考える。
私は知った。それでこれが罪だと感じている。だったら、これからどうするのか・・・・・・・って」

『恭文と同じように・・・・・・か?』

「うん」



結局、そうして進むしかないんだ。私の大好きなあの子のように。一歩ずつでも、前へ。



「それでね、ちょっとだけ分かったんだ」

『何がだ?』

「私は、私達はまだ始まってもいないし何もしていないんだって。
それなのに勝つ勝たないとか、フェイトさんになれないとかおかしいんだよ」

『・・・・・・おいギンガ、お前大丈夫か? なんつうか、俺には言ってる事がよく』

「父さんには分からなくていいんです」



それで私はまた笑う。今度は、さっきよりも自然に笑えた。忘れる事なんて出来ないから、その上で笑う。

笑って、今を生きる。傲慢でも、私はやっぱり・・・・・・いつだって笑顔でいたいから。・・・・・・よし、今ならいける。



「父さん、ごめん。私ちょっと出てくるから」

『出るってお前・・・・・・恭文を押し倒しにでも行くのか?』

「そうだよ。押し倒して、いっぱいエッチな事してくる」



なんというかいちいち否定するのもめんどくさかったから、そんな風に返した。

そうすると画面の中の父さんが、驚いたような顔になる。



『まぁ・・・・・・あれだ、避妊はちゃんとしてもらえよ? お前らはまだ若いんだしよ。
いや、初めて同士なら逆に無しってのもいいな。それで孫が出来れば御の字で』

「・・・・・・というか、やっぱり否定しますっ! 私はただ話に行くだけで、押し倒したりしませんっ!!
というか、それは最低じゃないかなっ!? 絶対私にとってもなぎ君にとってもよくないよっ!!」

『ギンガ、無理しなくていいんだぞ? 大丈夫、俺は認めるからよ』

「私が認められないのっ! というか、もう父さんは黙っててっ!!」










とにかく通信を切って私は、部屋の外に出た。それからゆっくりと、気持ちを整えながら廊下を歩く。

ドキドキしながら、一歩ずつゆっくりと足を進める。それで、薄暗い廊下の先を見ながら考える。

・・・・・・あの時、殺されかけて皮肉にも気づいた事がある。それは、私の中にもちゃんと歌があるという事。





私の歌は、まだとても小さくて誰にも聴こえない。私の唇から漏れて、私だけにしか聴こえない。

その歌は、なぎ君と新しい時間を始めていきたいというもの。別に、いきなりお付き合いなんて考えてない。

フェイトさんを忘れるなんて、きっと無理だよ。大事な繋がりで、初恋の人になるんだし。





でもそれでは諦め切れなくて、だから今までウジウジしてた。だからなぎ君の事、いっぱい振り回した。

だからもうそんな時間はおしまい。私がやるべき事は、もっと大きな声でうたう事。

私なりの・・・・・・私という歌を、どんなにダメでも全部なぎ君に聴いてもらう事。それがきっと始まり。





それはなんとなく、分かった。だけどその始まりをどうすれば踏み出せるのか分からなくて、私はまた二の足を踏む。





それでも私は気持ちを奮い立たせて、暗い廊下のその先を目指して足を進める。まずは・・・・・・まずはこの一歩からなんだ。




















(その6へ続く)




















あとがき



ウェンディ「はい、というわけで無事にコンサートも終わっていよいよラストっぽい感じのギンガルートっス。
本日のお相手は、やっぱり恭文が酷いからこうなったと思うウェンディと」

やや「全く同意見な結木ややと」

古鉄≪面白いからそういう事にして弄る事にした古き鉄・アルトアイゼンと≫

恭文「お前らふざけんなと言ってやりたい、蒼凪恭文です。
・・・・・・だーかーらー! 拍手でも『それ違わね?』って意見出てたでしょっ!?」

ウェンディ「いやいや、やっぱり女の子としては許せないんっスよ」

やや「そうだよー。てゆうか、これギンガさんルートなんだよ? 恭文、空気読もうよ」

ウェンディ「そうっスよ。そこはいつものチートじみた超感覚を駆使して『あ、ギンガさんルート入ったな』と察すればいいんっス」

古鉄≪まぁ面白そうなんで、あなたが酷いって事で結論にしましょうよ。はい、納得しましたね?≫

恭文「だからふざけんなっ! てーかそれをどうやって察しろとっ!? 無理でしょうが、そんなのっ!!
というかさ、その女の子主義なフルボッコやめてよっ! もうそれいじめに近いしっ!!」





(まぁ女の人って、基本群れてフルボッコとか平然とやるしね。というか、下手したら男よりエゲツない)





やや「それでそれで、お話は変わるけど今回の襲撃した人達って基本ラインは変わってないんだよね」

恭文「うん、変わってないよ。鎖分銅と中国拳法使い。ただ追加シーンはかなり多めだけど」





(というか、ギンガVSチャイナ女に関しては前編ほぼ書き直ししました。参考資料はカウボーイビバップの劇場版だったり)





恭文「あとね、最初の方で中国語喋ってるじゃない? で、そこから翻訳されたみたいなルビ付きの日本語」

やや「あー、うん。喋ってた喋ってた」

恭文「実は最初、もうずっと中国語で喋らせようと思ってたらしいの」

古鉄≪グーグル翻訳を使えば、それっぽいのが出来るんですよね≫





(現に今回の英文は、全部グーグル翻訳様のお力です。なお、内容間違ってても僕にはそれが分からない)





古鉄≪なので、最初はずっと中国語で喋らせようとしたんですよ。ただ・・・・・・問題が≫

ウェンディ「問題?」

恭文「あのね、文字化けして読めなくなっちゃうの」





(あくまでも一部の文字だけですけど、いわゆる機種依存文字になってしまって表示されなくなるようです)





恭文「なので、最初だけ中国語で喋らせて、あとは『喋ってますよー』という体のためのルビ振りだよ」

ウェンディ「・・・・・・あぁ、それでアレだったんっスか。というかそれなら恭文の英語・・・・・・問題ないっスよね」

やや「基本ローマ字なわけだもんね。表示関係は大丈夫だったんだ」

古鉄≪えぇ。ただ、全部中国語に出来なかったのは残念ですね。もう何言ってるか分からないという恐怖感が違うじゃないですか≫

ウェンディ「ギンガが殺されかけた時のアレっスよね」

古鉄≪そうです。なので、ここは非常に残念ではあります。まぁ、表示されないんじゃ意味ないですけど≫





(さすがに文字化けで『×』がついちゃうのもアレだし、ディケイドクロスでやったみたいな〇〇ってのも・・・・・・ねぇ?)





ウェンディ「まぁそんな苦労も超えつつ・・・・・・てゆうか、更新遅くなったのそれが原因っスか?」

恭文「うん。結構迷ってたのよ。で、今回はこんな感じ」

古鉄≪まぁあとは・・・・・・大変ですかね。なぜなら1番重要なアレが残ってますし≫

やや「あ、アレだよねー。うぅ、どうなるのかややも楽しみー」

恭文「さて、改訂版ギンガさんルートもあと1話で終わるはず。この調子でどんどんいきましょー。
それでは本日はここまで。お相手はマリエルさんとかはやてとかマジ理不尽だと思う、蒼凪恭文と」

古鉄≪女性同士って、そういうもんだと思う古き鉄・アルトアイゼンと≫

やや「恭文も大変なのかなと思う、結木ややと」

ウェンディ「次は私ルート改定だと思う、ウェンディっス」

恭文「アホっ! てゆうか、何を改定っ!? 改定するものがないじゃないのさっ!!」










(そんな風に叫ぶけど、アホの子は完全無視。だからクロスカウンターをカマシたくなった、蒼い古き鉄だった。
本日のED:大黒摩季『Anything Goes!」』)




















恭文「・・・・・・ギンガさん、迫真のスタントご苦労様」

ギンガ「う、うん。というかあの・・・・・・凄い疲れた」

恭文「そりゃあそうでしょ。あんだけキャットファイト張りにやってれば。
まぁそんなわけで・・・・・・あと1話でなんかこう、吹っ切れた感じ?」

ギンガ「そうだね。あくまでも多少だち、改定前と違って付き合う感じにはならないかも・・・・・・あれ、なんかおかしくない?
そうだよね、おかしいよねっ! 私ルートなのに付き合わないっておかしくないかなっ!! ねぇ、これどうなってるのっ!?」

恭文「いや、そこは大丈夫じゃない? あむルートみたいに、お試し期間じゃないけど一種の『先の事を考えましょう』みたいなのでもOKだし」

ギンガ「それは嫌っ! どうせならお付き合いして・・・・・・改訂版なんだし、改定前と違ってエッチアリにしたいよっ!!」

恭文「なんでそこ強調っ!? てゆうか、ちょっと必死過ぎだから落ち着けー!!」










(おしまい)







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あきゅろす。
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