小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説) 第7話 『ハンプティ・ダンプティ あなたのたまごは今どこに?』:2 「・・・・・・さて、問題だ。今の攻撃をもう1発お前の頭頂部に叩き込んで、頭を吹き飛ばすのが速いか。 お前がそのたまごを割るのが速いか。答えは・・・・・・どっち? 即座に答えろ。じゃなきゃ、殺す」 比喩無しでそう言い切ると、二階堂の目が見開く。なので僕は軽く笑ってあげる。 「なお、今のは見える速度で撃ったけど、今の五割増しで弾速を早く出来るから。さ、シンキングターイム♪」 「なにをするつもりだ。お前、よく見ろ。ヒマ森さんと君の仲間のたまごは僕の手の中に」 「知らないね」 ≪Stinger Ray≫ もう1発スティンガーを撃つ。ただし、弾丸は二階堂を大きく外れてしまう。それを見て、二階堂はニヤリと笑う。 「ふん、どこに撃ってるんだ。・・・・・・どうやら調子ついているようだね。 僕が本気だって言う証拠を見せてあげるよ。試しに一個潰して」 二階堂の言葉が止まった。そりゃそうだ。・・・・・・僕が撃ったスティンガーはアイツの後ろで旋回。 そのままたまごに手を伸ばそうとしたアイツの右肩を貫通したから。 そこから頬の傷と同じように血が流れ出す。それにより、二階堂が完全に固まる。 いや、痛みで叫び声を上げる。 「ぐ・・・・・・ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 スティンガーをそのまま僕の指先に戻してから、魔力を補充。そのまま、揺れた瞳で僕を見ている二階堂に向ける。 二階堂は蹲って動きを止める。ただ、それでもたまごは離さない。中々にしぶといね。 「・・・・・・とまぁ、このようにホーミング弾になるから、逃げても無駄だよ? さて、ここからクイズの簡単なルール説明だ。 いい? お前がたまごを潰したら僕はお前を殺す。お前がたまごに手を伸ばしてもお前を殺す。お前が逃げようとしても、やっぱり殺す」 二階堂の顔から血の気が引き、そして肩から流れる血がコートを赤く染め上げる。 うん、これでよく分かったでしょ。僕は・・・・・・お前を殺せるってさ。 「そんなやるせない柵の中で、お前が取れる選択は二つだけ。 たまごに手を出そうとして僕に殺されるか、たまごを返して僕に半殺しにされるか」 ≪皆さん、あと、ティアナさんのたまごの中に居る方もすみませんね 運が悪かったと思って覚悟を決めてください。このままこの小悪党を放置は出来ませんので≫ 「恭文、待ってっ! 一体なにしたのっ!? 今二階堂の叫び声がっ!!」 「というか殺すって・・・・・・そんなのダメっ!!」 「恭文さん、落ち着いてくださいっ! 今の恭文さん・・・・・・凄く、凄く怖いですぅっ!!」 うん、知ってるわ。でもね、だからってこのまま放置ってのも無理なのよ。それだけは絶対にだめ。 コイツはこちらがちょっとでも譲歩したら、おそらく際限なく要求を高める。そういうタイプの悪党だよ。 「ラン、ミキ、スゥ、ごめんね。でも、テロリストに譲歩しないのは国際条約で決まってる事なのよ。大丈夫、遺族への手紙は僕が書くから」 「私達が死ぬ事はもう決定っ!? というか待ってっ! お願いだから待ってっ!!」 「そしてテロリストってなんですかぁっ! 国際条約ってなんですかっ!?」 「まぁそういうわけだから・・・・・・ほら、答えなよ。・・・・・・答えろ」 「そしてボク達を無視しないでー!!」 僕は一歩ずつ歩み寄る。左の指先に・・・・・・青い光を宿しながらだ。 「ち、近づくなっ! お前正気かっ!? 殺すなんて・・・・・・そんな真似が許されるはずが」 「正気さ。あと、許される許されないの問題じゃない。 ・・・・・・これはな、僕達に喧嘩を売ってきたお前を潰せるか潰せないかの問題なんだよ」 僕は正義の味方じゃない。だから、ラン達はともかくお前の命や身の安全になんざ配慮する義理立ては基本的にはない。 ・・・・・・とか思わせるのが、この状況での脅しの基本なのよ。人質ってのは、相手の動きを止められるから使う手。 でも、それが無意味なら? 人質は意味を成さなくなる。でも、それだけじゃ足りない。それだけじゃあ、あちらの優位は覆らない。 ここは多少手札を見せても、二階堂の命を僕がしっかり握っているというのをしっかりと強調しなきゃいけない。 そうしなかったら、やけっぱち起こして本気でたまごを割ろうとする可能性がある。 もうちょっと近づければぶった斬るなり突き刺すなりしてもいいのに。二階堂との距離にして約50メートル前後。 ソニックムーブ・・・・・・いや、アレでも二階堂が手を出すスピードに追いつくにはちとギリギリ。 アクセルフォームはあるけど、出来る限り使いたくはない。だってアレ、ブッチギリの切り札なわけだし。 まぁ、躊躇う必要はもうないか。相手の片手を奪った。あとは適度に威圧してビビらせていく。 そしてタイミングを見て、アクセルフォームに変身して一気にダッシュだ。うん、完璧。 ・・・・・・二階堂は、痛みを堪えながらも僕が近づいた分だけ下がる。 だけど僕の方がほんの少しだけ足が速いから、差が少しずつ縮まっていく。 その様子に僕はニコリと笑う。下がりながら、二階堂が痛みを堪えながら必死に右手をかざす。 そこから黒い衝撃波が飛び出した。僕は瞬時にアルトをセットアップ。 アルトを抜いてから上から唐竹割りに打ち込んで、衝撃波を真っ二つにする。 「馬鹿な、×たまの力を借りてるのに・・・・・・! 前より威力が上がってるのにっ!!」 ・・・・・・なるほど、あれはおのれの仕業か。ぶちのめす理由がもう一つ増えてよかったよ。 「バカが。僕とアルトが斬ろうと思って斬れないものなんて、どこにもないんだよ。こんなもんが通用するか」 ≪あぁ、それとほしな歌唄がこちらにいる理由ですが・・・・・・簡単に言えばあなたと同じ人質です≫ アルトの言葉に二階堂の表情が驚きに染まる。多分理由は二つ。 あっさりと衝撃波をぶった斬ったのと、アルトの言葉。 「・・・・・・二階堂さん、助けてっ! 私・・・・・・殺されるっ!!」 涙声で歌唄が二階堂に必死に助けを求め・・・・・・いやいや、どんだけ演技派? 思いっきり気弱な美少女キャラじゃないのさ。 「いやいや、そこまではしないから」 「・・・・・・ま、まさかアンタ、私の身体を」 「それもしないからっ! そんなケダモノを見るような目で僕を見ないでっ!?」 「なに言ってるのっ! 嫌がる私を無理矢理さらってここまで連れてきたくせにっ!!」 嘘をつくなぁぁぁぁぁぁぁぁっ! おのれが遠慮なく飛び込んで、そしておのれが遠慮なく人質になったんでしょうがっ!! コイツ、ネタバレ出来ないからって思いっきり僕に対して攻撃してるしっ! もしかしなくても相当性格悪いっ!? 「ふ、ふん。だがそうだとしてもこちらは4つ。お前達は1つだ。これで駆け引きなど」 「ねぇ二階堂、ほしな歌唄ってイースターにとってはドル箱の一つだよね? ・・・・・・そんなドル箱を見殺しにした奴を、イースターが放置するのかなぁ」 華麗に微笑みを浮かべながらそう言うと、二階堂の頬が引きつった。どうやら、そこが分かってない程バカじゃないらしい。 だからこそ、歌唄という人質には価値がある。だって二階堂は、イースターの社員なんだから。 「言っておくけど、お前の行動次第では僕は歌唄を殺す。お前にさっきやったみたいに、遠慮無く撃つ。 で、僕は話がめんどくさいのは嫌いだからさ。手っ取り早く決めようか」 僕は言いながらもアルトを一旦鞘に収めて、カードを挿入してあるパスを取り出した。 そして二階堂にアピールするように、軽く振ってみる。 「このパスを今から放り投げて、地面に落ちるまでの間に決めろ。お前が一体、どうするかをだ。 言っておくけど、落ちた瞬間に僕はお前を斬る。そして・・・・・・どうなるかは、もう分かるよね?」 二階堂が躊躇っている間に、僕は右手でベルトの金色のボタンを押す。 それからパスを軽く上に放り投げる。そしてパスは僕の頭上へと回転しながら上がっていき。 「・・・・・・ダメっ!!」 上がっていったのに、後ろから走り込んで飛び上がりつつ、パスを左手でかっさらったのが居た。 パスはそのまま空中を移動し僕のベルトにセタッチされるはずだったのに、そのバカの手の中に収まる。 そしてそのバカはあろう事か、階段に何とか着地してから僕の前に走り込んで来た。 そしてクリクリとした金色の瞳に涙をいっぱいに溜めて、息を荒く吐きながら僕を睨む。 「こんなの・・・・・・こんなのダメっ! お願い、もうやめてっ!!」 それはあむ。僕の前に立ちはだかったのは・・・・・・あむだった。 僕は内心舌打ちしてた。こうやって出てきた意味、すぐに分かったから。 「・・・・・・どいて。てーか、パスを返して」 僕の計画、全部パーにしてくれやがって・・・・・・いや、まだ間に合う。 アクセルフォームになれれば、即座に潰せる。 「どかないよ。それに、返さない。これ落ちちゃったら、二階堂を攻撃するんでしょ?」 「そうだよ。それでたまごは取り戻すから」 「そう言う問題じゃないよっ! そのためにまたあんな怖い目をしながら、怖い空気を出しながら攻撃するのっ!? 今だってそれじゃんっ! ほしな歌唄を人質に取るような真似までして、そんなの・・・・・・そんなの絶対だめっ!!」 潰せるのに・・・・・・くそ、時間かけ過ぎてたか。てーかそうだよね、そうだよね。 さすがに止めに入らないわけ・・・・・・あぁもう、マジで色々ミスってたし。 「それじゃあ恭文、完全に悪者キャラじゃんっ!! どうしてそうなるのか、あたし分かんないよっ!!」 それはね、あのバカの動きを鈍くする必要があったからだよ? 完全に詰む必要があったからだよ? で、見事に裏目に出てるけど。あぁもう、結界張って僕と二階堂だけにしとけばよかった。 「・・・・・・確かに、ラン達は取り戻せるかも知れない。それでハッピーエンドってなるかも知れない。でも、あたしはそれじゃあ納得できない。 お願いだから今だけは他の方法を探そうよっ! 恭文だけじゃなくてあたし達も居るから、一人で突っ走ってこんな事しないでっ!!」 「・・・・・・どけ」 「嫌だ、どかない」 「どかないなら、あむごと撃つ。そう言っても?」 僕は改めてあむの頭に向かって、左手の人差し指を突き出す。 そのアクションに一瞬、あむが固まった。でも、すぐにいつもの強い瞳に戻って僕を見る。 「恭文は、撃たないよ」 「なんで言い切れるのさ、ティアナのたまごもあるってのに。 ついでに、僕はこういう邪魔をされるのが1番嫌いなのよ。うん、結構ムカついてるよ?」 特に今までのハッタリの数々がパーになりそうなところとかっ!? もうムカついてるって言うか、かなりヒヤヒヤしまくってるのよっ!! 「僕には、お前を撃つ理由がある。そしてお前には、撃たれる理由がある。 ・・・・・・人の戦いに、ケンカに首突っ込むって言うのは、そういう事なんだよ」 でも、そこの辺りはおくびにも出さずに、僕はあむを威圧する。あむは手足が震えてるけど、それでも引かない。 「それ以上僕の邪魔をするなら、命を賭けろ。中途半端な甘っちょろい馴れ合いなんざ、こっちはするつもりないんだよ」 「・・・・・・いいよ、なら撃てば? だけどあたしはそれでも、どかない。こんなやり方、納得出来ない。 だってラン達助けるためにこんな事させたら・・・・・・あたし、マジ最低じゃんっ!!」 「あむちゃん、その通りよ。・・・・・・恭文君」 その声は後ろの方からしたもの。というか、なでしこの声だね。 それで後ろを見なくても分かる。みんな・・・・・・あむと同じ顔をしてる。 「あなたからすると、確かに甘いかも知れない。でも、お願い。もう・・・・・・やめて。 私達はともかく、あむちゃんの気持ちを傷つけるから」 「蒼凪君、僕からもお願い。腕を、下げて」 なお、空海とややは何も言わない。言わないけど・・・・・・まぁ言いたい事は分かる。てーか、視線が背中に突き刺さってる。 そしてリインと咲耶はそれを止めない。てゆうか、止めてこれ以上場が混乱・・・・・・するね。 「あー、ごめん。やっぱ撃つわ」 「恭文・・・・・・!!」 僕はそのまま左手を上げて、頭上高くから感じた『殺気』を狙って引き金を引いた。 「スナイプショット」 放たれた閃光は夜の闇を切り裂き、頭上から迫り来る驚異に迫る。 うん、感じたの。上から何かが迫ってくるのを強く。 「リイン、咲耶っ! みんなは任せたっ!!」 「え?」 「おい、上見ろ上っ!!」 「・・・・・・あれはっ!!」 もちろん攻撃対象は、目の前に居る二階堂じゃない。あとこれは誘導式のスナイプでもない。 頭上のから迫り来る影の右手から光が煌くと、スティンガーは斬り裂かれて霧散する。 影は僕に対して、頭上を狙って爪を突きたてた。僕は僅かに後ろに下がってそれを回避する。 爪は階段に見事に鋭い穴・・・・・・いや、その切っ先の痕を残した。 そして影はそれを引き抜きながら、僕に対峙しようとする。でも、ぶっちゃけ遅いわ。 僕は軽く反時計回りに回転しつつ、右足で回し蹴りをかましているんだから。 影は左手で咄嗟にそれをガードするけど、僕は遠慮無く手応えを感じつつ足を振り抜いた。 そのまま体勢が整ってなかった影はあむの左側面へと吹き飛ばされて、宙返りしつつも器用に階段の上に着地した。 着地地点は、丁度二階堂の隣くらい。なお、そこは僕も同じ。問題なく階段の上に着地した。 「・・・・・・チビが」 言いながらもその影は、右手で左手を押さえる。うん、当然だよ。だって・・・・・・折るつもりで攻撃したし。 でも、折れなかった。中々丈夫だよね、デカい分防御力は高いってわけですか。 「歌唄を人質に取るわ、あむに攻撃しようとするたぁどういう了見だ。無茶苦茶し過ぎるにも程があるだろ」 僕を見る瞳には明らかな怒りの色。身体から溢れるのは先日とは違う怒気。 「黙れよ。てーかてめぇ、なんなら首の骨へし折ってやろうか?」 いきなり僕を上から攻撃してきたのは、月詠幾斗だった。つーか、ドンダケ神出鬼没なんだよ。 「「イクトっ!?」」 あむと歌唄の声が被った。そして顔を見合わせる。というか、歌唄がにらむ。 そしてあむは・・・・・・萎縮した。よ、弱いなぁ。 「二階堂さん、いきなり呼び出すのはいいけど、なんだよこれ。つか、なんでそんな血塗れ?」 なるほど、護衛のために呼び出したと。確かに戦闘能力皆無っぽいしなぁ。 「うるさいっ! なんでもいいからそのチビを・・・・・・潰せっ!!」 「言われなくてもやるさ。俺は・・・・・・凄まじく機嫌が悪い」 「無理だね」 僕は空いている右手の指をパチンと鳴らす。すると、猫男の爪が砂のように粒子化して下に落ちる。 なお、これはブレイクハウトで干渉したゆえの現象。うん、物質分解したの。そしてそれを見て、猫男の表情が驚きに染まる。 「野良猫、僕がお前の腕をねじり潰したくならないうちに消えろ。僕は、お前の10倍は機嫌が悪いんだよ」 ただ、それでも猫男は僕に向かって構えた。・・・・・・どいつもこいつも、バカ過ぎる。 「イクトっ! やめてっ!! 恭文はただたまごを二階堂から取り返そうとしただけだからっ! 歌唄も本当に人質じゃないよっ!!」 「アンタ、本気でバカじゃないのっ!? なんでそこバラしちゃうのよっ!! てゆうかコイツがカマシにカマシまくったハッタリ、全部パーじゃないのよっ!!」 「えっ!? ・・・・・・あの、ハッタリって」 ・・・・・・なに驚いた顔してるのかなぁっ! せっかくのハッタリが全部パーでしょうがっ!! コイツ、マジでなに考えてんのっ!? つーか、歌唄もバラすなぁぁぁぁぁぁぁっ!! あぁ、なんか二階堂がニヤリって顔してるしっ! くそ、こういう状況においてもグダグダってどういう事っ!? ただ、それでも変化は続いていく。二階堂の方を月詠幾斗が見る。 そしてアタッシュケースに入っているたまご達を、見つけた。 「二階堂さん、アンタなにしてる」 「なに、ヒマ森さんのたまごを調理したくてね。借りたんだよ、返す予定はないけど」 「・・・・・・なるほどな」 それから月詠幾斗が跳んで身を翻して、着地する。その位置は僕達と二階堂の間。 つまり・・・・・・敵として立ちふさがってる。 「あむ、パス返して」 「ダメ。これ使ったらアンタ」 「いいから返せつってんだろうがっ! この足手まといがっ!! これ以上ゴチャゴチャさせんじゃねぇよっ! いいから引っ込んでろっ!!」 「足手まといってなにっ!? 元々アンタがバカやるからこうなってんじゃんっ!!」 二階堂はそれを見て満足そうに振り向き、僕達に背を向ける。・・・・・・あぁもう、どうしろって言うのさ。 ここまで追い詰めておきながらコレって・・・・・・くそっ! 本気でミスしまくりだしっ! こうなったら結界で隔離して。 「それじゃあ、後は任せたよ? ・・・・・・チビが、覚えてろ」 二階堂が歩き出そうとした瞬間、アタッシュケースを持った右手に向かって、丸くて白いものが飛んだ。 それが当たって、アタッシュケースが開く。 「なっ!?」 で、それが開くとどうなるか。簡単だ。たまご達が・・・・・・宙に投げ出された。 そして、僕は見ていた。あの猫男の左手から取り出されたものが、アタッシュケース投げられたのを。 「・・・・・・悪い、手が滑った」 いやいや、手が滑ったとかそういうレベルの方向じゃあ。 というか、なんか白いボールから凄い勢いで煙が・・・・・・え、これ煙幕弾っ!? ≪あむさん、キャラチェンジを≫ 「え?」 ≪ランさん、解放されています≫ 僕とあむが煙の中に紛れ込もうとしているハートの絵が付いたたまごを見る。 それに張られていたバッテンシールが恐らく、放り出された時の衝撃で剥がれる。 その瞬間、中からランが出てきた。それを見たあむは飛び出した。 なお、ようやくパスを手放し・・・・・・というか、あらぬ方向に投げた。 パスはもう遠慮もなく近くの茂みの中には入ってしまった。 その間にも髪の両サイドにつけているバッテン型のアクセサリーが、ハートの形になる。 両手首と足首にピンク色のかわいらしいデザインの羽。 あむは手を伸ばしながら、煙の中に飛び込んだ。 僕も舌打ちしつつも飛び込もうとすると、光が煌めいた。 僕は軽く身を左に逸らしつつ、カウンターで右拳を叩きつける。 爪は僕の右頬を浅く斬り裂き、右拳は襲撃者の胸元をしっかりと捉えた。 そのまま拳を打ち抜くと、襲撃者は吹き飛んで階段の上を転がる。 なお、当然だけどそれは月詠幾斗。このバカまで、僕の邪魔をするつもりらしい。 階段を転がりながらも起き上がって、猫男は僕を睨みつける。 【イクトっ! ・・・・・・どうしてにゃっ!? この間は互角だったにゃっ!!】 「・・・・・・動きが読まれてる?」 「ご名答。中々にいい動きだけど、ワンパターン過ぎるね。それじゃあ鉄は砕けない」 あれから戦闘映像を検証して、コイツの動きは徹底研究した。だからこそ、今の攻撃もギリギリで避けられた。 これから何度やり合うか分からないのに、そういう研究をしないのはアウトでしょ。これ、戦闘者なら当然だから。 「引くぞ、ヨル」 【でもイクト】 「いいから、行くぞ」 やらせるわけないでしょうが。・・・・・・僕は高く飛び上がって、右足で猫男の居る場所を狙って飛び蹴りを打ち込む。 【・・・・・・分かったにゃ】 でも、それは寸前で外れた。僕の蹴りは階段を砕くだけで、猫男は左に大きく跳んでそれを回避。 そのまま近くの並木に身を隠すようにして、一気に夜の闇の中へ消えてしまった。 そうこうしている間に煙が晴れて、その中からあむが出てきた。ただし、出てきたのはあむだけ。 手にはピンクと青のたまご。二階堂の姿は・・・・・・消えてた。 ≪・・・・・・マスター≫ 「なに」 ≪ほしな歌唄も消えました≫ 視界をみんなの方向に向けると、歌唄が確かに居ない。さっきまで居たのに。 くそ、二人揃って逃げやがったのか。判断早いなぁ。 あ、でも歌唄・・・・・・警備大丈夫かな。まだストーカー連中居るかもしれないのに。 ・・・・・・すると、メールが来た。左手で携帯端末を取り出して、開いて見てみると知らないアドレスからのメール。 でも、大手の携帯会社のアドレスだというのは、ドメインで分かった。 なんとなく嫌な予感がしながらもそれを開くと、なんとそれは・・・・・・歌唄からのメールだった。 そう言えば、ライブの日程とか決まったら教えるからアドレス教えろって言われて、渡してたんだっけ。 ≪・・・・・・なんて書いてるんですか?≫ 「月詠幾斗に送ってもらうから、後は心配するな・・・・・・だってさ。なんですかあの子、真面目に変な子だし」 ≪あなたがフラグ立てたからでしょ≫ 「・・・・・・言うな。でもアルト」 ≪えぇ。私達、バカやりましたね。後ろのあむさん達の事を考慮に入れてなかった。 月詠幾斗が襲撃してきたとは言え、今回は私達の負けです≫ だから、それを言わないでよ。あぁもう、イライラするし。 というか、マジでアクセルフォーム使えばよかったっ! くそ、戒めと出し惜しみは絶対違うよねっ!? ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ あたしは煙の中、手を伸ばす。そうして掴みたいのは、残り三つのたまご。 一つは青。もう一つは緑。もう一つはバッテン印。 必死に伸ばして・・・・・・・着地しながら、青のたまごは掴む事が出来た。 でも、緑とバッテンは・・・・・・指が届きそうなところで、奪われてしまった。 「・・・・・・スゥ」 「ふぅ、ぎりぎりセーフ・・・・・・かな?」 二階堂先生が、緑のたまご・・・・・・スゥのたまご左手で掴んでた。あと、ティアナさんのたまごも。 届かなかった。必死で伸ばしたのに、触れる事さえ出来なかった。悔しい・・・・・・悔しくて、どうにかなりそう。 「二階堂・・・・・・!!」 「やだなぁ、ヒマ森さん。そんな怖い目しないでよ。僕が悪いみたいじゃないのさ。 僕、完全に被害者だよ? ほら、痛そうだしさ。というか、実際痛いし」 その一言に、頭の中がかーっとなった。というか、キレた。 「・・・・・・ふざけんな」 「はぁ?」 「そんな怪我がなにさっ! アンタ、やる事イチイチ暗いんだよっ!! こんな事して楽しいっ!? 性根歪んでるにも程があるっ!! ズルばっかで人のたまごに×つけて、奪ってっ! マジでバカみたいっ!! 自分がたまご持ってないからって」 瞬間、あたしの身体は二階堂に引き寄せられた。制服のネクタイを掴まれて・・・・・・ぐいっと。 二階堂が今まで見た事のないくらいに、怒った目をしていた。その目であたしの目を射抜くように見る。 「・・・・・・いいよ、そこまで言うならチャンスをあげる。明日の放課後、僕の研究室においで」 「研究室?」 「君一人で・・・・・・いや、あのチビも連れて来い。あれは僕が直々に料理してあげたいからね。 ただし、他のガーディアンの諸君には内緒だよ? それじゃあ」 そのまま、二階堂は手を放してあたしから離れて歩き出した。もちろん、あたしが居る方向とは逆の方向に。 「ショータイムに遅れたらだめだよ? 日奈森あむ」 二階堂は、そのまま煙の中に消えた。そして煙が晴れていく。そんな中、何かが踏み砕くような音が聴こえた。 あたしが身体を震わせながらそちらを見ると、恭文が今まで見た事ないくらいに苛立ち気味の顔をしてた。 「・・・・・・あの野郎、絶対地獄見せてやる」 今なら・・・・・・今なら少しだけ、分かる気がした。なんでアイツがあそこまでしたのか。 もしかしたら恭文、さっきのあたしみたいに手が届かない悔しさとか、凄い知ってるのかなって思ったから。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 『・・・・・・・・・・・・それで、月詠幾斗も逃げたし、ほしな歌唄もいつの間にか消えてたんだね』 「ごめん」 二階堂やあのネコが逃げてから、僕達も冴木のぶ子さんをかついでその場を離れた。 で、冴木のぶ子さんにはタクシーを捕まえて送ってもらった上で、僕はフェイトに通信。 みんなもタクシーに乗ってもらって、とっとと帰ってもらった。 『ううん、大丈夫。それに、ランちゃんにミキちゃんは取り戻せた。 偶発的で信憑性にも疑問は残るけど、イースターの内情も掴めた。大躍進だよ。ヤスフミ、ありがと』 ・・・・・・だといいんだけど。あぁもう、イライラする。 『ヤスフミ』 「なに?」 『・・・・・・あむさんを無視して撃たなくてよかった。そうは、思えない? 悪を潰すために自分が悪になろうとはしなくてよかったって。 みんなで協力して、それで事態に当たって・・・・・・ヤスフミ一人だけでどうにかする必要なんてきっと無いんだよ』 きっとフェイトは、色んな事を見抜いた上で言ってる。だから声がいつもより優しさに溢れてる。 『今日のヤスフミの行動は、間違ってないから。ヤスフミなら、あむさんが前に立った時点でもどうとにも出来たよね? でもそうしなかったのは』 「それで取り戻せなかったら、意味ないでしょうが。現に、ティアナのたまごもダメ。 スゥも捕まったまま。僕、今回は完全にカード捌きをミスりまくってる」 僕、温いな。全然だめだ。まぁ、だからってあむやみんなをどうこう言うつもりはないけどさ。 撃たなかったのは、あそこで一瞬でも躊躇ったのは、僕自身だ。 誘導弾のスナイプに変えて撃つ事も出来た。だけど、しなかった。 だからこのイライラは・・・・・・僕自身に対してのものだ。 『・・・・・・ハードボイルド通せなかったから、悔しいの?』 「みたい。てーか、ごめん」 『どうして謝るの?』 フェイトが何故謝るのか分からないと言うように、優しく声をかけてくれる。 音声だけの通信だけど、いつものおだやかな表情まで見えるような声に、申し訳なさが倍増する。 「せっかくフォローしてくれたのに、僕・・・・・・今フェイトに八つ当たりした」 『ううん、いいよ。確かにまだ終わってないから。・・・・・・ただね、きっとみんな今日はすごく驚いたし、それを嫌だとも思ってる。 その気持ちが仕方ないものだという事、理解だけはしてくれないかな。もちろん私はヤスフミの彼女だから、覚悟決めてるよ?』 「ホントに?」 『うん。今だけの話じゃ無くて、これからも先もずっと。 でもあの子達は、本当の意味で戦う人間じゃないから』 「分かってるよ。それくらいは・・・・・・うん、それくらいは、なんとか」 普通に生きて、平和な時間の中に・・・・・・あんな穏やかな時間の中にずっと居たら、そりゃあそう思うさ。そこは仕方ない。 『やっぱり、ヤスフミとリインだけに対処させた方がいいかも。 今日はともかくとして、必要な時にまたこういう事が起こる可能性もあるわけだし』 フェイトがずっと考えていた事。ただ、戦力的な要素もあってどうしても実行に踏み切れない事。 「言っても、無駄だと思うな。きっとフェイトが理屈を並べ立てても、首を突っ込んでくるに決まってるし。 なにより、あの子達は完全にイースターに目をつけられてる。蚊帳の外に置いておく方が危険だよ』 現に今、実際にあむのたまごが奪われて連中の計画に利用されかけてる。もう無関係では居られないでしょ。 『そうだね、そんな感じがするよ。とにかく、お疲れ様。それでこれから』 「ん、そっちに戻るよ。みんなはもう帰してるから」 みんな小学生だしね。ここは仕方ない。僕は、一人歩きながら頭冷ますか。どうにもこうにもイライラしてるし。 『分かった。それじゃあ、気をつけて帰ってきてね。あ、領収書だけ忘れないようにね』 「うん、そこは言ってあるから。・・・・・・それじゃあ、また後で」 『うん』 そのまま、端末の通話ボタンを押して、音声通信を切る。それから・・・・・・ため息を一つ。 あぁもう、あの猫男と暴れられればこのイライラも少しは解消できたかも知れないってのに。 「恭文」 声がした方を見ると、ランが真剣な表情で僕の側まで来ていた。 さっきまであむとミキとあれこれ話してたのに・・・・・・いや、その前になぜここに居る。 「・・・・・・ラン、どうしたの? てーか、はよ帰れ」 「いきなり邪険に扱わないでくれるっ!? ・・・・・・あのね、あむちゃんから伝言」 「伝言?」 ランは僕の耳元まで来てから小さく呟いて、その伝言を伝えた。 二階堂・・・・・・なにするつもり? まぁ、普通に考えたら罠だろうね。 「・・・・・・で、あむはバカ正直に僕と二人だけで行くつもりと」 「うん」 バカ過ぎて付き合う気がなくなりそうだわ。でもま、しゃあないか。 これがきっとあの子のいいところだ。それに、あの野郎はミスを犯した。 あむと一緒に僕を呼んだ事だ。今日のストレス解消に、派手に暴れてやる。 「了解。で、あむに伝えておいて。僕達だけで行くのはいいけど、もう今日みたいな真似するな。 もしやったら・・・・・・今度は絶対に加減しない。骨へし折ってでもどいてもらうって」 少し真剣な目で言うと、ランがやっぱり悲しそうな顔をする。・・・・・・うん、仕方ない。これは仕方ないのよ。 「どうしても、だめなの? 私もミキも、たまごの中から聞いてたけど・・・・・・あんな事、恭文にして欲しくないよ。きっと、スゥだって同じはずだよ。 それに恭文は魔法が使える・・・・・・とっても強い魔法使いだよね。あのね、だったら大丈夫だよ。私も応援するから」 「魔法なんかじゃないよ」 ランの言葉の尻を食うように、僕は言葉を発した。それに少し驚いたのか、ランが言葉を止める。 「僕の魔法はね、『魔法』なんかじゃないんだよ。 『魔法』じゃないから何か守ろうと思ったら、僕なりのハードボイルド・・・・・・通すしかないの」 「そっか、分かった」 「ごめん、ラン」 きっと、心配して言ってくれてる。なのに、こういう言い方しか出来ないのが・・・・・・ちょっと、悔しい。 「ううん、私は大丈夫。恭文の返事、あむちゃんには伝えておくね。あ、でも」 「分かってる、みんなには同じく黙ってるから。もちろん、フェイト達にも」 「うん、ありがと」 そのままランが夜の空へと消えていく。それを見送ってから、僕は家に向かって歩き出す。 日が沈んで夜になっても、空は街のネオンで昼間みたいに明るく見える。 星は・・・・・・・繁華街の近くだからなのか、見えない。それが少しだけ寂しく感じる。 とにかく、明日だ。スゥも、ティアナのたまごも、絶対に取り戻す。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「僕の魔法は『魔法』じゃない・・・・・・か」 「うん、恭文・・・・・・少し、悲しそうな顔でそう言ってた。私、それ以上何にも言えなかった」 ようやくうちに帰り着いて、遅いお風呂を貰って、ベッドにころり。 なお、パパとママには少し叱られた。・・・・・・あ、ちょっと違うな。 思いっきり怒られる所だったんだけど、フェイトさん達がフォローしてくれた。 うちで集中して勉強していて、遅くなったと連絡してくれたらしい。なんというか、感謝だよ。 あと・・・・・・あぁ、あれどうなるんだろ。バスは動かない感じだった。 その上思いっきり暴走しちゃったし・・・・・・よし、考えるのやめよう。うん、ここは絶対。 でも恭文、結局最後まであんま喋らなかった。 いつもと変わらないヘラヘラした顔してたけど、明らかにあたし達と距離取ってた。 やっぱり、止めたのまずかったのかな。相当イラつかれたみたいだし。 でもでも、あのままたまごを取り戻せてもそれはなんか違う気がして・・・・・・あぁもう、あたしはどうすればいいの? 「ね、あむちゃん」 「なに?」 「明日・・・・・・本当に恭文と二人だけで行くの?」 「・・・・・・そうするしか、ないよ。あの時の二階堂の目、マジだった」 言う事聞かなかったら、きっとスゥにティアナさんのたまごが危なくなる。 あぁもう、なんでこんな・・・・・・あ、なんかまたちょっと分かったかも。 「ね、ラン、ミキ」 「なに?」 「助けたいものを助けられないのって、凄く・・・・・・悔しいんだね」 「・・・・・・あむちゃん」 あたし、あの時は恭文がなんであそこまでするのか分からなかった。 だって非殺傷設定って言うのがあって、傷つけたりとかしなくてもいいって聞いてたの。 でも、今なら本当に少しだけ分かる。ううん、また理解出来た。 恭文、もしかして何度も、何度もこんなやり切れない、悔しい想いしてたのかなと、ちょっと思ったから。 魔法って言う凄い力を使っても、助けられない事があって、だからどう思われても、どうなっても助けようとして。 なんだろ、そこは分かる。あたしも手が届かなかった時の気持ち、今もずっと感じてるから分かる。 ・・・・・・だけど、納得出来ないよ。それでもあたし、あんなのは納得出来ない。 だってあの時の恭文、あたし達の事完全に置いてけぼりにしようとした。 それが悔しくて、悲しくて・・・・・・だから納得出来ない。なんか、ダメだな。 会って日も浅いんだし、いきなり仲良くなんて無理だって分かってるはずなのに。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ そして翌日の放課後、あむと二人二階堂が居るというイースターの研究室を目指す。 目指すのだけど、実はその道中でとんでもない事実が判明してしまった。 「・・・・・・あむ、場所はちゃんと聞いておこうよ」 「う、うっさいっ! そういう恭文はどうなのっ!?」 「研究室ってだけでどうやって調べろとっ!? そして僕はその話聞いてないしっ! てーか無理にもほどがあるよっ!!」 あぁぁぁぁぁぁっ! なんでこれっ!? いくらなんでもおかしいでしょうがっ!! ≪これは完全にあむさんのミスですね。ほら、謝ってくださいよ≫ 「なんでっ!?」 ≪主に私に≫ 「そうだよ、謝ってよ。あむがあんな邪魔さえしてこなきゃ、僕達はこんな苦労せずに済んだのに。だから謝れ、主に僕に」 「というか、逆ギレしないでっ!? アレはアンタが無茶苦茶やるから悪いんじゃんっ!!」 ・・・・・・よし、今のところ周りに人は居ない。大丈夫だ。具体的には騒いでも大丈夫だ。 でも、僕達は完全に街中で迷子になっていた。な、情けない。マジで情けない。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「あ、あのぉ・・・・・・せんせぇ」 「なに? 僕は今忙しいんだから、邪魔しないでよ」 確かに傷の治療とかしてくれたのも、ありがたい。ここの掃除をしてくれたのもありがたい。 けど、だからって邪魔される謂れはない。僕は今とっても忙しいんだから。 「そ、そうじゃなくてですねぇ。恭文さんやあむちゃん、来ないと思います」 「はぁ? 君、何言ってるの。そんなわけが」 ・・・・・・あれ、そう言えば僕・・・・・・ここの場所とか教えたっけ? いやいや、ちゃんと研究室って。 「でもせんせぇは『研究室』とだけ言っただけで、どこにあるとかどの辺りとかは教えてないですよ? スゥ、たまごの中から聞いてましたから、よーく覚えてますぅ」 「・・・・・・あぁっ!!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「・・・・・・アルト」 ≪こうなったら、ランさん、ミキさん。なんとなくレーダーお願いします≫ 「いや、ボク達そんなの使えないから。というか、なんとなくってなにさ」 ≪何言ってるんですか。あなた達の王様は出来ましたよ?≫ 「キセキ、ボク達が居ない間になにやってるのっ!?」 や、やばい。まさかこんなアホな状況になるとは思わなかった。どうしようかこれ。 「よし、もう一回冴木のぶ子をとっ捕まえて」 「あ、そうだね。あの人私達が見えるんだし、それで」 「いや、それは無理じゃないかな。いくらなんでもあんな事になったのに」 あぁ、そう言えばなったねぇ。今朝のテレビでロケバス謎の暴走って大きく出てたし。 ・・・・・・冴木のぶ子さん、逃がしてよかったな。指紋関係も消去して正解だった。そうじゃなかったらきっと逮捕されてたよ。 「また協力なんてしてくれるわけないし、なによりどこに居るか分からないしさ」 「うーん、ならどうするかな」 「あぁもうっ! 場所さえ分かれば、あんな奴、屁でもないのにー!!」 そう言った瞬間、あむの後頭部にチョップが入った。 「痛っ! ちょ、なにする・・・・・・え?」 「・・・・・・お前、昼間から屁とか言うな。明らかに変な小学生だろうが。 つーかお前ら騒ぎ過ぎ。人あんま居ないからいいけど、普通に目立つだろうが」 僕達の背後に居たのは・・・・・・KY男だった。 「月詠幾斗だ。お前、年上に向かって失礼なや」 言いかけて月詠幾斗はなぜか、腹を両手で押さえて蹲った。うーん、なぜだろう。 「地の文を読むな。てーかお前、よくもまぁ昨日あれだけやらかしておいて平然と僕達の前に姿表わせたな」 「イクトー!? ・・・・・・お前、マジで何するにゃっ!!」 あ、猫男と同じ髪で猫手で猫足で猫耳で外見がブラックリンクスのデフォルメ状態なのが出てきた。 体長はキセキ達と同じくらいだから、これが噂に聞くヨルか。 「恭文、だからそういう暴力的な事だめっ! なんでいきなりイクトの腹蹴るのかなっ!!」 「何言ってるのさ。あむ、忘れた? コイツはイースターで僕達の敵でしょうが」 「そ、それは・・・・・・そうだけど」 「・・・・・・おい、イクト、どうした?」 そして更に後ろから、蹲るKY男を呼びかける同じ服を着た男が二人・・・・・・あれ、もしかしてこれ、制服? 「おい、喧嘩か? またこんなちっこいのに喧嘩売られてるなぁ」 「誰がちっこいだ」 「恭文、抑えてっ! そんなに身長小さい事ツツかれるのが嫌なのっ!? というか、誰もそんな事言ってないからっ!!」 「いや、今度は言ってるぞ」 「あ、ホントだ」 あむの中の僕のイメージはどうなっているんだろ。不思議だなぁ。僕、至って平均的なキャラなのに。 とにかく、KY男が大丈夫だからと言うと、同級生らしき二人はいずこへと去っていった。 しかし、学生だったとは・・・・・・びっくりだ。失礼なのは承知で普通に野良猫やってると思ってた。 「で、お前ら・・・・・・二階堂のとこに行くんだろ?」 「え、イクト。なんでそれを?」 「さっきから叫びまくってただろうが」 「・・・・・・あぁ、そうだね。だってあのバカが場所をちゃんと教えないから。 そしてこの足手まといの大バカが、そこの辺りを確認しないから」 「バカって言うのやめてくれるっ!? てゆうか、あたしアレで何とかする手があるなんて聞いてなかったしっ!!」 あ、一応補足。ここに来るまでにあむにはアクセルフォームの事を教えておいた。で、しっかり話した。 アクセルフォームにさえなれれば、おのれがパスを植え込みに投げ込まなければ、あっさり事態は解決していたと。 その時のあむの表情や言動などは、ご想像にお任せする。しかし・・・・・・マジでやり辛い。 僕、やっぱり今回も単独戦闘かなぁ。あむ達一緒だと、やっぱやり辛いし。 「邪魔しに来たの? 言っておくけど、アンタになんか」 あ、なんか空を見てボーっとして・・・・・・って、聞いてないしこいつっ!! 「というか、あむちゃん。邪魔しに来たはないんじゃ」 「普通にボク達の会話を聞いただけみたいだし」 「正解だ。お前、自分のしゅごキャラよりニブいんだな」 「猫男、それは仕方ないんだよ。あむは正真正銘のバカだから」 「う、うるさいうるさーいっ!!」 あむがそっぽを向くと、猫男がどこかに向けて歩き出した。 「・・・・・・よし、やっと消えてくれるか。そのまま死滅して」 「お前、マジで失礼だな。せっかく案内してやろうと思ったのに」 「「・・・・・・はぁっ!?」」 「いいから、ついてこい。場所分からないんだろ?」 猫男は、またそのまま歩き出す。僕はあむと顔を見合わせて、頷き合ってからこの男についていく事にした。 まぁ他に手がかりもないし、仮に罠でもいい。全部叩き潰せればそれでオーケーだ。そしてその上で情報を引き出す。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「・・・・・・二階堂の言う研究室ってのは、イースターの社員寮だ」 「社員寮?」 「あぁ。ま、社員寮って言っても、上に『旧』が付くけどな。 今はもう使われていない町外れの社員寮を借り切って使ってるらしい」 うわ、やばかった。もしこの話が本当なら、普通に探してても見つからなかったって。 二階堂・・・・・・! この恨み、晴らさでおくべきかっ!! 「研究? ね、イクト。それってなんの」 「さぁ、そこまでは知らねー」 話を聞きながら少し思った。こいつ・・・・・・なぜこんな事を? 普通にイースターに協力してるなら、敵対関係である僕達にこんな情報を渡すメリットがないって。 ・・・・・・いや、そうも言えないか。ここの辺りには、いくつか考えられる理由がある。 まず一つ考えられるのは、この情報が全くの嘘という事。 つまり、こちらの混乱を狙った情報戦を仕掛けてる。 そしてもう一つは・・・・・・これは単純なメリットとかそういう話じゃないな。 昨日歌唄が言っていたように、イースター内部でエンブリオを探すチームが複数存在していたとする。 それでもしも、それらの仲が悪いとしたら? この可能性は結構高いと思う。 エンブリオを確保して、それを上層部に捧げる事が出世に繋がるなら、これは言うなれば出世争いだ。 そのためにチーム毎に派閥やらが出来ている可能性は十分にある。 つまり月詠幾斗が所属しているその『チーム』は、二階堂とは別もの。もしかすると歌唄と同じかも知れない。 ここで二階堂が失態を犯してエンブリオを手に出来なければ、その『チーム』には都合がいい。 もっと言うと失脚すれば、そのチームはエンブリオを手にするチャンスを今よりも多く得られる。 あとは・・・・・・その両方とか、単純に嫌がらせとか? まぁ、後者は無いか。 確かにこの猫男は敵である。ただ、昨日の僕の行動への怒り方や今の空気を見てると、ちょっとね。 そこまで悪逆非道で、二階堂みたいな小悪党な感じはしないのよ。嫌がらせのためにここまでするとは思えない。 「・・・・・・あ、そう言えばっ!!」 「ラン、どうしたの?」 「私、その『研究室』見たっ! たまごの隙間からだったからよく見えなかったけど、大きい機械と×たまがたくさんっ!!」 「ボクは・・・・・・電話で誰かを話しているのを聞いた。『エンブリオを作る』とか『ごぜん』とか」 ランとミキが思い出したように言ってきた。それに僕と顔を見合わせる。・・・・・・エンブリオを作る? 待て待て、そんな事が可能なんかい。つーか、『ごぜん』ってなにさ。 「御前ってのは、イースターの1番偉い奴だ」 月詠幾斗が両手を後ろからあむの頬に添えて、顔を上に向ける。そして、それを自分は見下ろす。 ・・・・・・って、なんだあのセクハラまがいな体勢はっ! 僕はフェイトにあんな事(体型的に)出来ないのにっ!! 「御前のために二階堂は、×たまを集めて何かを企んでる。お前ら呼んだのは、何かの罠だな」 そして平然と・・・・・・平然とあれで喋るって、おかしくない? あむも抵抗しないし。 「相手は学園ごと騙してたような奴で、お前らみたいなガキよりずっと上手の大人だ。 とって食われちゃうかも知れないぜ? それでも・・・・・・行くか?」 「行くよ」 その月詠幾斗の言葉に、あむは下から真っ直ぐにその目を見て答えた。 ただ、その前にそのエロい体勢を何とかしろと思った僕は、絶対に間違ってないと思う。 「どんな相手とだって、約束は約束だもん」 「・・・・・・ね、あむ。約束ってのはちゃんと待ち合わせ場所を教えた上で成り立つと思う僕は、間違ってるのかな?」 あむが困ったように小さく唸った。どうやらそこはちょっと疑問と思ったらしい。 「違いねぇな。で、お前はどうなんだ」 やっぱり体勢を直さないまま、月詠幾斗がこちらを見てきた。 「キャラ持ちでもないお前が行って、どうにかなるとは思えないんだがな」 「黙れ。てーかその前にそのエロい体勢をどうにかしろ。 そんな体勢取ってる奴にそんな事言われても、全然説得力ないし。てーか死滅しろ」 「・・・・・・チビ、大丈夫だ。お前もきっと10年後には出来るように・・・・・・泣くなよ」 「イクト、オレコイツの事がよく分からないにゃ」 「奇遇だな、ヨル。俺もだ。ま、そこはともかく」 右手をゆっくりと上げて、猫男は目の前を指した。僕とあむがそちらを見ると・・・・・・あった。 「着いたぞ」 古ぼけた、長年放置されたとしか思えないような入り口と建物が。 そして看板がある。そこには『イースター社員寮』としっかり書かれていた。 「いつの間に・・・・・・あのイクト、ここって」 あむが後ろを見る。そして、驚きに表情を染める。 「あれ、イクト居ないっ!!」 「行っちゃった。なんか、私達の事助けてくれたのかな」 「さぁね。・・・・・・ま、とにもかくにも目的地に着いた。あむ」 僕の言葉にあむがこちらを見る。一応言っておく。 「なに?」 「昨日みたいに割って入ったら、僕はお前を潰す。だから、僕の邪魔はするな」 鋭く睨みつけながらそう言うと、あむはその目を見返して強く頷いた。 「・・・・・・分かった」 ≪また素直ですね≫ 「別に素直とかじゃないよ? だって、納得できない時は止めるつもりだから。 恭文が悔しいの・・・・・・その、少しは分かった。でも、やっぱりあんな事して欲しくない」 「そう。でもそれは無駄な期待だわ」 周りの気配や人の目を慎重に確認してから、僕は錠付きの錆びた鉄格子のような門に狙いを定める。 そして徹も込めた上で、全力で門を蹴り飛ばした。すると門は、そのまま崩壊した。 僕が蹴った箇所は、真ん中の施錠している部分。そこが徹も込みの蹴りによって、蹴られた箇所が粉砕される。 そして衝撃によって脆くなっていた門の可動箇所がちぎれて、門はそのまま建物側へと倒れた。 その門は僕とあむの身長より大きいものなので、当然それなりに大きな音が響き渡る。 あむはその音に両手で耳を塞ぎつつ、僕と門を驚いた顔で何度も見比べていた。もう、僕達の行く手を阻むものはない。 「僕は、あんな糞に負けるのはもうごめんなのよ。・・・・・・聴こえるっ!? 二階堂っ!!」 足を下ろして、僕はそのまま中に入る。あむもそのまま後ろからついて来る。 「今の内に遺言状を書いておきなよっ! お前、今日が命日なんだからさっ!!」 大声で中に居るであろうバカにしっかりアピールしつつ、僕は足を進める。で、そんな僕の右隣にあむが来る。 「恭文、声大きいってっ! てゆうか、バレるからっ!!」 「いいのよ。てーか、あんな三流相手になぜビクビクしなきゃいけないのか分からないし。・・・・・・アルト」 ≪もうサーチは出来てます。二階堂・・・・・・それにスゥさんは中ですね。具体的には、一番上の階です。 そこに大きな広間と、ランさんが見たであろう機械の反応も見つけました≫ さすがは我が相棒、いい感じで動いてくれるよ。 ・・・・・・あれ、スゥの反応って掴めないんじゃ。というか、ジャミングは? 「アルト、サーチ出来るの?」 ついいつもの調子で聞いちゃったけど、マジで出来るとは思ってなかった。だから、ちょっとびっくりしてる。 ≪えぇ。ですから先ほど思いついた方法なんですが、スゥさんではなく今物理的に形になってるスゥさんのたまごで確認しました。 あと、どうやらここにジャミングはかかっていないようです。もう誰がどこに居るとか手に取るように分かります≫ 「あ、そうなんだ」 ≪はい。次こういう事が有った時はこれでいきましょうか。面倒が少なくてすみます≫ 「そうだね」 「二人ともそういう不吉な事言わないでよっ! なんかまた起こりそうで凄く怖いしっ!!」 細かい事を気にしてはいけない。何事にも備えと事後の学習というのは必要なのだ。 「とにかく、そう言う事なら目指すは」 「上・・・・・・って事だね」 そして僕は、またまたドアを蹴破りつつ社員寮の中に入る。・・・・・・そうしたら、わらわらと出てきた。 「簡単には、通してくれないって事だね」 「・・・・・・あむちゃん」 木造建ての寮の中から、大体1メートル前後のロボットの数々が出てきた。数・・・・・・パッと見で30以上。 まずは雑魚戦ですか? 全く、時間が無いってのに・・・・・・面倒な事だよ。 (第8話へ続く) あとがき 古鉄≪さて、色々な意味で負けを経験して、再び二階堂と対峙という感じで次回へ続きます。 今回のしゅごキャラクロス第7話、皆さんいかがだったでしょうか? 本日のお相手は古き鉄・アルトアイゼンと≫ 恭文「えー、イライラし通しの蒼凪恭文です。なお、中盤のバス暴走はオリジナルではなく、原作でちゃんとやっていたシーンですので」 (作者注:マジです) 古鉄≪いや、普通に読んでる時はただ面白いって感じに思っただけですけど、実際書いてみると非常にマズイシーンですよね。だって、ブッチギリで犯罪ですし≫ 恭文「小学生だからまだオーケーだけど、実際にはロケバス占拠して、近くの人間を扇動して暴走させてるのと同じだものね。 ・・・まぁ、やめようか。ここであれこれツッコんでもつまんないって」 古鉄≪そうですね。いや、多分8話とか24話とかにツッコむよりは楽しいでしょうけど。というより、それなら最初から抜けばよかったんですけどねぇ≫ 恭文「でも、これカットだと話の構築がまためんどいから抜けなかったり・・・」 古鉄≪これがあるから、原作だと勢い良く二階堂にたどり着けたという部分がありますしね。 リアルに置き換えると・・・という話は抜きにすると、いいシーンではあるんですよ≫ 恭文「で、二階堂・・・くそ、最初の一発で沈めとけばよかった」 (青い古き鉄、そうとう来てるらしい。まぁ、自分のせいだと言うのは理解してるけど) 古鉄≪まぁ、たまご持ってるからつい加減しちゃった部分はありますけどね。・・・まぁ、これで終わらせればいいでしょ≫ 恭文「それもそうだね。・・・という事で、次回です。次回・・・どうなるの?」 古鉄≪きっと楽しい事になりますよ。色々とね。では、今回はここまでっ! お相手は古き鉄・アルトアイゼンと≫ 恭文「蒼凪恭文でしたっ! それでは、また次回にー!!」 (というわけで、いつものようにカメラ・フェードアウト。 本日のED:DOES『曇天』) フェイト「・・・シャーリー、どう?」 シャーリー「ダメです。目・・・覚ましません。やっぱり、たまごを取り戻さないと」 フェイト「そっか。・・・悔しいな。部下も守れないし、一緒に戦う事も出来ないし」 シャーリー「フェイトさん・・・」 バルディッシュ≪Sir≫ フェイト「バルディッシュ、どうしたの?」 バルディッシュ≪どうやら、彼と日奈森あむ、我々に隠し事をしていたようですね。こちらをごらんください≫ フェイト「あ、うん。これは・・・・・・ヤスフミっ! シャーリー、すぐに出るから、咲耶とリインに連絡してっ!!」 シャーリー「は、はいっ!!」 (おしまい) [*前へ][次へ#] [戻る] |