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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
アフター&プロローグ 『お久しぶりな日常は、なんだかんだでほろ苦い 前編』



人は何かの対価無しには、何も得る事が出来ない。それは・・・・・・等価交換の法則。





例えば時間と努力を対価に、人は成長し変わる事が出来る。うん、ここは基本だね。





そしてだからこそ、僕は自宅で軽く頭抱えてたりするわけですよ。なんというか、色々おかしいから。










≪・・・・・・まぁ、一応でもマスターと認めたわけですから、へぼな事ばかりやらかしてたら承知しませんよ?≫



そんな事を言うのは、両手で握りしめた日本刀。柄尻に青い宝石を収めたこの子はデバイス。

名前はアルトアイゼン。通称アルト・・・・・・と、呼ぶ事をつい先日許可された、僕のパートナーデバイス。



「そうですよ、お兄様。ここはしっかりと頑張っていかないと」

「だな。・・・・・・ま、このオレが居る以上は問題ないだろ。ヤスフミ、楽に構えていいぞ」





そしてそんな事を言うのは、翠髪の長い髪の女の子と、灰色のソフト帽に黒のコートを羽織った男の子。

この子達は、あのたまごから生まれた存在・・・・・・しゅごキャラ。僕の『なりたい自分』が形になった存在。

翠髪のシスター服の子がシオン。それでソフト帽で栗色の髪を流すように整えたの子がショウタロス。



・・・・・・いや、僕が名付けたんじゃないよ? そういう風に名乗ったんだから仕方ない。





「何を言ってるんですか。ショウタロスのようにハーフボイルドでは、アテになりません」

≪そうですよ。宿主のこの人に似てヘタレですし・・・・・・あなた、どんだけですか≫

「うっせぇーよっ! てーかお前らそのタロスってやめろっ!!
オレはショウタロウだって何度言ったら分かってくれるんだっ!?」



まぁ初対面で僕が色々間違えた気がするけど、きっと気のせいだ。



「一生分かりません」

≪その通りですよ≫

「お前らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





・・・・・・さて、みなさんお久しぶりです。どうも、八神恭文です。みんな、久しぶりー。

あのバルディオスの最終回より衝撃的な引きから、1年半が立ちました。

僕は9歳になって、あのおじいさん・・・・・・ヘイハチ先生から一応の皆伝をもらった。



いやぁ、大変だった。唐突に引っ張り出され、無人島でサバイバルとかやらされたりするしさ。

その上夏頃は最悪だった。クロノさんが追ってた凶悪なオーバーS魔導師とタイマンするハメになったし。

名前は・・・・・・フォン・レイメイ。しかも僕と同じ能力持ちで、クロノさんもかなり危なかった。



そこで同じ能力を持った僕が前に出てタイマンで・・・・・・殺した。

説得も、会話も、倒してどうこうも何も出来なかった。でもアレなの。

別にどうこう言うつもりはない。だって、殺すのは初めてじゃないから。



動物も虫も、生体兵器や防衛プログラムにリインフォースだって殺した事がある。

人を殺した時だけショック受けるのは違うよ。うん、僕はとっくに・・・・・・人殺しだった。

双馬辺りはまたうるさいけどさ。それは絶対に間違ってる、考え直して欲しいって何度も言う。



でも、フェイトや知佳さんにリインフォースは変わってないから一安心。

それにほら、僕の根っこも・・・・・・変わってないから。

今口ケンカしてる三人が居てくれたおかげで、見失わずに済んだ。



人殺しでも、間違えても、僕は夢を捨てられないという真実に。僕の中の夢が、絶対に拭えないものだって知った。

だから、ヘラヘラ笑ってやる事にした。というか、潰れられないよ。僕はもう、一人じゃないもの。

フェイトに知佳さんにリインフォースが居て、シオン達も居て・・・・・・それに、両手の中にはアルトも居る。



アルトね、その直後に僕に言ってくれたの。『僕は幸せにならなくちゃいけない』って。

僕を始点に繋がっている気持ちや命がたくさんあるから、罪を背負ってでもヘラヘラ笑って生きなくちゃいけない。

それでそのすぐ後に、マスターって呼んでくれるようになった。どうやら、一緒に戦ってくれるつもりみたい。



そう言ってくれたんだ。重いなら、肩くらい貸すから・・・・・・笑って生きる事を、絶対に諦めるなって。



そうして、僕はアルトというパートナーデバイスと組む事でまた一つ大人になった。





「てーかヤスフミっ! 元はと言えばお前が間違えるからコイツらにまで浸透したんだぞっ!? どうしてくれんだよっ!!」

「・・・・・・そうだね。でも、その前にさ。僕は一つ言いたい」

「なんだよ」



ほう、おのれはそこ聞くか。そこを聞いてしまいますか。よろしい、だったらハッキリ言ってあげよう。



「そろそろ素振りしてもいいですかねっ!? てゆうか、さっきから1時間近くくっちゃべってるしっ!!
おかげでちっとも集中出来ないしっ! お願いだから訓練させてー!!」

「いや、それはお前の集中力がないせいだろ」

「お兄様、人のせいにしてはいけません。もっとご自身を高めていかないと」

≪そうですよ。あなた、私のマスターなんですからもうちょっとしっかりしてくださいよ≫

「お前らはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」










八神恭文、今年で9歳。あの突然の出会いから、僕の世界は変わって・・・・・・ここまで来た。





でも、ここから更に更に大きく変化して楽しい事になるとは、この時の僕は思ってもいなかった。





というわけで、今回の話はそこまでダイジェスト的にやっちゃおうと思う。さー、早速行ってみよー。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・なんやねんアイツ、また例の妖精とくっちゃべっとるんかい」

「みたいだなー。てーかはやて、信じてないの?」

「いや、うち見えてへんもん。そやからこう・・・・・・どうにもなぁ。でも」



主はやてが、どこか恨めしそうに私を見る。ソファーの上でお茶を飲んでいる私は、どうしても苦笑いを浮かべてしまう。



「リインフォースは見えとるんよなぁ。それにフェイトちゃんとすずかちゃんに士郎さんも」

「えぇ。まぁ、私は最初は見えませんでしたけど」





しゅごキャラ・・・・・・恭文のこころの中から産まれたもう一人の自分。

まぁ恭文の場合は二人居るんだが、それでもだ。なんでも、人の中にはこころのたまごがあるらしい。

それは誰にでもあるもので、そのたまごの中には人の未来への可能性や夢が詰まっている。



本来はこころの中にずっと眠っているもので、大人になると消えてしまうらしい。

ただ、その前に突然変異的にこころの中から飛び出して、一つの姿を持ってしまうものもある。

それがあの二つのたまご・・・・・・しゅごたまであり、シオンとショウタロス達しゅごキャラだ。



ここの辺りは恭文からもそうだし、見えるようになってからシオン達に聞いた事の受け売りだったりする。

だから私はそんなシオン達と元気に話している恭文を見ると、とても安心する。

しゅごキャラは宿主が夢を諦めてしまうと、簡単に消えてしまうらしい。だが、シオン達はここに居る。



それはつまり、恭文が自身の夢や未来への可能性を歪ませる事なく、信じ続けているという事だ。

あれだけの事があってもシオン達は恭文を信じているし、恭文もシオン達を信じている。

それにアルトアイゼンもだな。アルトアイゼンとパートナーを組むようになってさほど日は経ってないが、関係は良好。



トウゴウ氏を非常に好いていたわけだし、どうなるかとも思ったが・・・・・・一応安心している。

あ、言い忘れていたな。アルトアイゼンは元々ヘイハチ・トウゴウ氏のデバイスだ。

それを恭文が受け継ぐ形でマスターとなったわけだな。ちなみにトウゴウ氏はまた旅に出た。



・・・・・・あぁ、またなんだ。クロノ執務官曰く、昔から相当自由気ままな人だったらしい。

恭文に『皆伝』と言ったのも、恭文の成長や覚悟を見極めたというのもあるが、単純にまた旅がしたくなったとか。

まぁそんな人物だから、人によって好き嫌いは分かれるようだ。特にリンディ提督はその嫌っている一人。



ただ、恭文を弟子にした時も少し表情を苦くはしていたが、すぐに良い事として受け入れた。

この辺り、恭文の志望ややりたい事がハッキリしていたのも大きいな。元から提督は恭文の志望を認めてもいた。

だからこそ、色んな意味でお似合いの師弟と判断したんだろう。そこは私が見ていてもそう感じる。



波長が合う二人だからこそ、1年半に及ぶ修行もかなりいい感じで進んだわけだ。

というか、結果がアレだから何も言えないが・・・・・・フォン・レイメイを倒した事は戦果としては誉めていいくらいだと思う。

あの主はやてを遥かに超える莫大な魔力量に、瞬間的な肉体再生能力と恭文と同じ能力。



なお、前者二つは自身の身体を改造した効果ゆえらしいのが、検死の結果判明している。

そんな相手にあの年で勝てたんだ。これは本当に凄い事だと思う。

もちろん、それを『負け』だと言い切る恭文に対して直接言う事は出来ないのだが。



あとはアフターケアだな。カウンセリング関係も継続中だし、やはりもう少し気をつけておく必要がある。





「うー、なんでや? 話聞く限り、基本的に夢持っとる子は見えるんやろ?
なーんでうち見えんのよ。それになのはちゃんもや。なのはちゃんも見えん様子やし」





とりあえず今名前の出たメンバーを除くと、身内でしゅごキャラが見えている人間は非常に少ない。

そもそもしゅごキャラは普通の人間には見えないらしい。宿主自身や他のしゅごキャラの宿主は当然除かれるが。

だが私のように、しゅごキャラが『そこに居る』という認識が出来た人間は見えるようだ。



あとはすずかや士郎さんのように、霊感が強い人間も見える。というか、見えていた。

・・・・・・さざなみ寮の管理人である耕介さんは、バッチリ見えていたしな。

あとは知佳さんもナチュラルに見えていた。アレには非常にビックリしたものだ。



それと・・・・・・まぁ、しゅごキャラは少し特殊な能力があってな。その関係であまり口外してないんだ。

我が家の家族や今名前の出た見えるメンバーを除くと、ほとんどの人間が知らない。

ここの辺り、恭文が自分の『夢』をレアスキルや道具扱いされたくないという願いが大きいのは、留意して欲しい。





「・・・・・・あー、やっぱよう分からん」

「それでいいのではないですか? 分からないからこそ考える余地があり・・・・・・進化の可能性が広がると考えれば」



主はやてが、私を見上げてくる。なので、私はその視線を受け止めつつ頷く。



「まぁシオンの受け売りですが。分からないこそ、どこまでも進めるしなんでも知る事が出来る。
分からないこそ、どのような自分にもなれる。分からない事は、決してダメな事ばかりではないようです」

「なるほど、そういうのはあるな。いや、うちは目からウロコ落ちたわ。リインフォース、ありがと」

「恐縮です」










あの時、恭文や主はやてと出会ってから繋がった私達の時間は、今も変わらずに進み続けている。





いいや、少しずつだが色々な変化は訪れている。例えば・・・・・・もうすぐ、私の妹が産まれたり・・・・・・とかな。




















魔法少女リリカルなのはA's・Remix


とある魔導師と夜天の主のえ〜すな日常


アフター&プロローグ 『お久しぶりな日常は、なんだかんだでほろ苦い 前編』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



さて、僕は週3な勢いで良くハラオウン家にお泊りをする。当然、あの子とのコミュニケーションのため。





1年半もこう・・・・・・頑張ってるとね、色々慣れてくるの。僕の色んなおかしい状況とかにさ。










「・・・・・・フェイト、大きくなったよね」

「ヤスフミだって同じだよ? うん、大人になった」



フェイトと二人、バスタオルも無しでお風呂タイム。そ、その・・・・・・最近結構恥ずかしい。

だってフェイト、この1年半で身長20センチ近く伸びて、身体つきも大人っぽくなってるから。



「でも、背は越されてるしー」

「大丈夫だよ。将来的には私の方が見上げる形になると思うし」





フェイト、本当に変わらない。前に『僕に触られるの、怖くない?』って聞いた事がある。

そうしたらフェイト、少し怒って頬を引っ張ってきた。それで・・・・・・あの、内緒。

とりあえずいっぱいフェイトの事を触って、フェイトの気持ちが嘘じゃないって事は分かったから。



一緒にバスタブの中に浸かりながら、手を繋ぎ合って・・・・・・うぅ、お風呂はやっぱ気持ちいいなぁ。





「それでヤスフミ、アルトアイゼンとはどう?」

「・・・・・・シオンとショウタロスとトリオ漫才してる。それでよく僕の自主練の邪魔をする。
それでアイツら、よく僕を邪険に扱うの。うぅ、一応宿主でマスターなのに扱いが悪いの」

「いや、あの・・・・・・そういう事じゃないんだけど」



まぁ、暗に『うまくやってる』と言っているのはフェイトに伝わったみたい。

口元を軽く歪めて、嬉しそうに笑ってくれるから。



「というか、あの・・・・・・フェイト」

「ん、何かな」

「そろそろお風呂や添い寝って、自重した方がよくない?」



・・・・・・首を傾げないでっ!? そして悲しそうな顔もやめてー!!

だってあの・・・・・・フェイトだってその、大きくなってるんだからっ!!



「私と添い寝、やっぱり嫌かな。あ、もしかしてまだあの事気にしてるとか。
だったら怒るよ? ヤスフミはヤスフミのままだもの。なら、もう一回・・・・・・する?」

「違う違うっ! 特に後者は違うからっ!!」



自分なりの背負い方と向き合い方は、とうに決めてたもの。だから、大丈夫なんだよね。

シオン達も居るし、色々と楽しくて興味深い事とも出会えて・・・・・・うん、かなり楽しいの。



「いや、あのね? ほら・・・・・・僕、妙な癖もあるし」



具体的には、女の子と寝ると胸を揉む癖。あのね、最近は色々考えるの。

フェイトも中学生間近ではあるし、こういうのは控えた方がいいのかなーと。



「あ、胸触られるのは大丈夫だよ? 揉まれるのもその・・・・・・け、結構好きかも」



頬を赤く染めたフェイトを見て・・・・・・とりあえず、僕はどうすればいいのっ!?



「というかあの、ヤスフミのおかげで私の胸が成長しているという考え方もあるから。
あの、私もリインフォースみたいに大きくなる可能性が出てきたし、むしろ揉んで欲しいかなと」

「フェイト、落ち着いてっ!? その発言は小学5年生としては色々問題あり過ぎだからっ!!」



フェイトの天然具合は、今も相変わらず。ただ、大分慣れてきたように感じるのは・・・・・・なんでだろ。



「とにかく、私は大丈夫だから。うん、だから・・・・・・添い寝もお風呂も、もっと頑張りたいな」

「頑張るってなにっ! フェイト、言い方おかしいよっ!!」



だめだ。やっぱ慣れない。あのね、こう・・・・・・色んな意味でびっくりしちゃうから。



「そう言えばヤスフミ」

「ん、なに?」

「あの計画・・・・・・もうすぐだよね」

「あ、うん。もうリンカーコアのコピーとボディの調整は済んでるから。あとは起動させるだけだね」



フェイトが今言った『あの計画』というのは、この1年半で八神家に起こったとても大きな変化の一つ。

それは・・・・・・リインフォースにとっても僕にとっても、とっても嬉しい事。



「リインフォース、様子どう?」

「ちょっと照れくさそうにしてる。まぁ、当然だよね。もうすぐお姉ちゃんになるんだから」





・・・・・・あ、細かい事情説明必要? うん、必要だよね。あのね、リインフォースに妹が出来るの。

今のリインフォースと同じ、みんなとのユニゾンを可能にする新型のユニゾデバイスがね。

リインフォースとしては、その子に自分の魔導をしっかり教えて・・・・・・将来的な後継者にしたいみたい。



それで僕が先生の弟子になるちょっと前から、計画を少しずつ進めてたんだ。

お姉ちゃん単独で使えるデバイスを作ったりする中で、同時進行でね。

新しく生まれる妹は、お姉ちゃんだけじゃなくてみんなとユニゾン出来るように調整。



そのためにみんなと深く繋がっているお姉ちゃんのコアを特殊な技術を使って、コピーしたの。

お姉ちゃんの体内で少しずつ、時間をかけてコピーしたコアを摘出して、それを核にしてボディを生成。

もうその調整自体は済んでるから、あとは起動させるだけ。それも本当にもうすぐだよ。



ちなみにリインフォースが『遅かれ早かれ私は恭文の第三夫人になり、主はやての元を離れますし』と言ったのは、気にしない事にする





「そっか。楽しみだね」

「うん。・・・・・・でも」

「でも?」

「いやね、ちょっと思ったんだよ。例えばシグナムさん達も、同じような感じで守護騎士のプログラムとして作られたのかなーって」



例えば・・・・・・そうだなぁ。誰かモデルが居て、その人ないしその人に近い性質を持った人のコアをコピーして、それを核にだよ。



「例えば今度生まれる妹だって、リインフォースがモデルになってるしさ。
そういう風に、ずっと昔にシグナムさん達が生まれた時にもモデルが居るのかなーと」

「・・・・・・なるほど、そういうのあるかも知れないね。シグナム達は単純な戦闘兵器として生まれたわけじゃないもの。
確固たる意志を持って、私達と同じようにリンカーコアがあって魔法が使える。もちろん身体的な成長こそないけど、そこは変わらない」

「うん。それででコアは闇の書が吸収してページを増やす事の出来るちゃんとしたものでしょ?
だからちょっと考えたの。そのオリジナルのコアが今回みたいにコピーされて」

「闇の書の中に保存。そこから防衛プログラムとコアを直結させて、シグナム達が生まれた・・・・・・だね」

「うん、正解」



ちょっと疑問に思ったので、そこの辺りをユーノさんやマリエルさんに聞いた事がある。そして二人はその可能性を肯定した。

おそらくは古代ベルカに存在していた優秀な魔導師・・・・・・騎士の誰かしらがモデルになってるのではないかと。



「興味、出てきたの?」

「うん。でも・・・・・・深くはツッコまない事にする」

「どうして? いつもだったら色々調べるのに」

「いや、もちろん理由はあるよ」



僕だってここの辺り、非常に興味がある。守護騎士のルーツなんて、研究テーマとしては壮大で面白いもの。

一つは、やっぱりみんなとしてはいい気分がしないだろうというのがある。それでもう一つ・・・・・・ここが重要。



「あ、もしかしてシグナム達が気にすると思ってるのかな」

「ううん、そこもあるけど違う。・・・・・・・・・・・・他の二次創作で同じような事、きっとやってるから。
ここでこの話でもそれをやると、色々とどんがぶりに」

「何それっ!?」

「『何それ』じゃないよっ! もうもうすっごく大事な事なんだからっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そんな会話をしてから数日後。本局のマリエルさんのラボでその起動実験が行われた。

そうして目覚めたのは、空色の髪と瞳を持つ30センチ程度の小さな女の子。

なお、外見がリインフォースと違ってお子様な感じなのには理由がある。・・・・・・ヴィータのリクエストなの。





ユニゾンデバイスを造るなら、自分より幼い妹キャラにして欲しいと・・・・・・ごめん、僕は聞いた時ちょっと泣いた。





とにかくその子はリインフォースとは色違いになる白いジャケットを着て、僕達の前でご挨拶。










「・・・・・・あの、初めまして。リインフォースUです」



少し緊張し気味に、その子はそう言ってお辞儀した。なお、最低限の知識や言語は入れてるらしい。

だからいきなり喋ったりも出来るそうなんだけど・・・・・・か、可愛い。



「・・・・・・ゆかなさんボイスだー。ゆかなさんの可愛らしい声だー」



な、なんて事だよ。僕はここの辺りは全く予想してなかった。リインフォースと同じ感じかなと思ってた。

でも、リインフォースUはゆかなさんボイスだった。ゆかなさんの声で喋ってる。これは・・・・・・凄い。



「お兄様、気にするところが違います」

「お前、そんなにあの声優さんが好きなのかよ。さすがにオレはびっくりだぞ」



だってだってー、ゆかなさんは素敵だものー。ゆかなさんは美しいものー。

僕、ゆかなさんだったら第二でも第三でも第四でも頑張れると思う。



「ゆかにゃんゆかにゃんー♪」

「あ、あの・・・・・・私、リイン」

「ゆかにゃんー♪」

「えぇい、アンタ落ち着けっ!? てゆうか、アンタあの人のファン過ぎやからっ! どんだけはしゃげば気が済むんよ」

「無論・・・・・・死ぬまで」

「アホかボケっ!!」



僕にとんでもない暴言を吐いたお姉ちゃんは、右手を握って口元に当てて、軽く咳払い。

それから視線を落として、リインに目線を合わせるようにして微笑みかける。



「初めましてー。うちが八神はやて・・・・・・まぁ、家主やな」



・・・・・・それからみんなとあれこれ自己紹介していくあの子を見て、僕の胸は高鳴りまくり。

だってだって、ゆかなさんボイスなんだよ? うぅ、幸せだよ。とっても幸せだよ。



「・・・・・・あの、それでマイスターはやて」

「ん、なんや?」

「恭文さんが連れているあの子達も・・・・・・リインやリインフォースと同じユニゾンデバイスですか?」

『え?』



チビリインが、僕の方を見て怪訝な顔をしている。というか、首を傾げる仕草がまた可愛い。



「ちょ、ちょお待ってーな。リイン、もしかしてアンタ」

「恭文のしゅごキャラが・・・・・・シオンとショウタロスが見えてるのか?」

「だぁぁぁぁぁぁぁっ! こらリインフォースっ!! オレはショウタロウだって言ってるだろっ!!」

「ひぁっ! あ、あのごめんなさいっ!!」

「いや、お前じゃないしっ!! ・・・・・・あー、名前が同じだからややこしくなるのか」



というか、ショウタロスの声が聞こえてるんだ。そうだよ、間違いない。

チビリイン、しゅごキャラが見えてるんだ。



”ちょっとちょっとっ! なんでこの子にはアンタのしゅごキャラとやらが見えとるんよっ!! おかしいやんかっ!!”



あ、お姉ちゃんから念話だ。いや、そうは言われても・・・・・・仕方ないと思うんだよね。



”いや、主はやて。これは当たり前の事なのでは?”

”ザフィーラ?”



お姉ちゃん、またまた念話のチャンネル絞ってなかったな。シグナムさん達もきっと聞いちゃってるよ。

なんというか、捜査官志望で今の段階でもそれなりの事件解決してるのに・・・・・・これでいいんかい。



”以前恭文殿とリインフォースから聞いたしゅごキャラが見える条件、私は覚えています。
その中に『こころのたまごがまだ生まれていない幼児』というのがありました”

”・・・・・・あ、そっか。リインフォースは生まれたばっかやから、赤ちゃん・・・・・・幼児と同じ。
あぁ、そやそや。普通にうちらと現時点でお話出来るからアレやけど、この子0歳児なんよな”

”だからシオン達が見えてるんだね。うーん、ザフィーラさんナイスです。僕も軽く混乱してたのに”

”恐縮です”



とにかく、それならリインフォースにも色々事情説明しておく必要があるよね。

じゃないと、しゅごキャラの事とか色々めんどくさくなっちゃうし。



”それでさ、お姉ちゃん”

”ん、なんや。・・・・・・あぁ、ちっこい方のリインにもしゅごキャラの秘密は守らせるし”

”違う、そっちじゃない。あのさ、ちょっと思ったんだけど・・・・・・呼び名考えない?”



ショウタロスじゃないけど、このままはややこしいって。もうね、リアルに想像出来る。

『リイン』って呼んだ時に、多分二人共『はい』って言うよ。もう間違いなくね。



”僕達はともかく、チビリインの方は生まれたばかりだしさ。ちゃんとしとかないと混乱しちゃうよ”

”あー、それもそうやな。なら、この子と家戻ってから”

”うん、そこの辺りを相談だね。みんなもそれでいいですか?”

”””””了解”””””










・・・・・・こうして、新しい家族が増えた。なんか、闇の書が覚醒した時の事を思い出してウキウキした。





ちなみに二人が一緒に居る時の呼び名は『アイン』と『ツヴァイ』と分ける事になった。ドイツ語で1と2だね。





僕が提案した『あーちゃん』と『つーちゃん』は却下したくせに・・・・・・うちの家族は、スルースキルが上昇してる。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



つーちゃんが生まれた翌日も、僕は訓練。というか、フェイトと一緒に訓練。

フェイトもザンバーフォームなんて使うようになった関係で、僕と一緒に恭也さん達と武術訓練するようになった。

それで夜の非常に大変な訓練を終えて・・・・・・僕達はクールダウン中。





でも、恭也さんがどんどん加減がなくなっていくのが、非常に強い。それはそれは大変だよ。










「お兄様、お疲れ様でした」

「てゆうか、お前マジで大変だよな。毎回恭也さんや美由希さんと死闘だしよ」



二人がこう言うのも、無理はない。僕・・・・・・今かなりぜーぜー言ってるもの。



「でも恭文、この1年半の間にだいぶ体力ついたよねー。というか、二人もそこは分かるでしょ」

「えぇ。お兄様がどれだけ大変だったかは、修行中からよーく見てましたから」

「てゆうか、オレ達も大変だったよな。あのじいさん、オレ達にまで『修行じゃー』って言ってコイツと一緒に行動させるし」

「・・・・・・そうだったな。お前達も一緒に恐竜じみたのに追いかけられていたんだったな」

「それだけではなく、ウルトラマンレオの修行の大半はやらされました。
今のお兄様はナチュラルにレオキックが撃てますし・・・・・・あの方、本当に恐ろしいですね」



ちなみに美由希さんと恭也さん、普通にしゅごキャラ見えます。というか、見えるようになりました。

あとはなのはのお母さんである桃子さんもだね。ただ一人、双馬を除いて高町家は全員見えてる。



「フェイト、大丈夫?」

「う、うん。大丈夫・・・・・・・な、はず」

「言い切れないくらいに消耗してるっ!?」



よし、フェイトはもっと休ませよう。じゃないと、呼吸困難になっちゃうよ。それで美由希さんが、さり気無く側に行ってくれてる。

だから僕は安心して、呼吸を整える事に集中出来る。でも・・・・・・うん、この1年半で大分慣れたよね。色々とさ。



「じゃあ明日は飛針と鋼糸の扱いのおさらいだな。恭文、気合いを入れろよ」

「はい。もうすぐ及第点にはいきますし」



御神流で使う暗器・・・・・・袖とかに隠しておける武器に、鋼糸(ワイヤー)と飛針(小型の手裏剣のようなもの)がある。

それの扱い、今年に入ってから教わってるんだ。それでもうすぐ及第点というところ。そこからもうちょっと詰めれば、実戦に投入出来る。



「馬鹿者。まだまだ及第点すらも遠い。あと1年はかかると思え」

「はーい。まぁ、じっくりいきます」

「あぁ、そうしろ。・・・・・・ところで恭文」

「はい?」

「なのは、相変わらずシオン達が見えていないようだな」



・・・・・・あぁ、双馬の事か。だめだね、名前忘れかけてたよ。

僕の中ではもう『高町双馬』って名前に定着してるからさ。



「そうみたいですね。まぁ、仕方ないんですよ。誰でも見えるわけじゃないですし」

「あとはしゅごキャラの事もお前が教えてないしな。俺達も口止めされてしまっている」



恭也さんの言葉が、ちょっと突き刺さった。それはもうグサリとだよ。



「・・・・・・そこに関しては申し訳なく思ってますって」

「すまん、少し意地悪が過ぎたな。まぁ事情は俺達全員納得してるし、お前が自分から教える事が出来ない理由も分かる」

「そう言ってもらえるとありがたいです」





普通にさ、僕にしか見えない無害な妖精とかなら・・・・・・別に双馬に教えてもいいのよ。

ただ、そうじゃない。僕はシオンとショウタロスの力を借りる事で、ちょっと特殊な能力が使えるようになってる。

それは魔法などには依存しないで、魔導師のそれと変わらない能力を出せるもので・・・・・・だからなの。



シオン達は、お姉ちゃんとかが持ってるようなレアスキルじゃない。先生はそう断言してくれた。

僕の中の夢や願いが、本当に強い形になったから会えた存在・・・・・・僕の夢そのものだって。

シオン達の力を借りる事で使える能力だってそうだよ。全部、僕のまだ形になっていない可能性の力。



それが一時的に姿を表したもので・・・・・・だから、違う。レアスキルや魔力とは違う、僕の中の未来の力なんだ。

つーちゃんや知佳さんみたいに予め見えているならともかく、そうじゃないなら僕からは教えたくないの。

ちなみにうちの家族は例外。というか、フェイトが天然ボケでお姉ちゃん達が居る前でシオン達と長々と会話しちゃったの。



そのせいでまぁ・・・・・・ねぇ? フェイトの頭が疑われる心配より、理解を求める方を選んじゃったの。





「ただな、兄としては思うんだ」



僕の右隣に座っている恭也さんが、秋の星空を見ながら・・・・・・少し寂しそうな目で呟くように言葉を続ける。



「出来るなら、なのはの夢や可能性がお前のように・・・・・・しゅごキャラのような一つの形になるくらいに強くなって欲しいとな」

「それは・・・・・・なのは次第じゃないですか? てゆうか、今みたいに一直線過ぎるとダメかも知れないですね」

「お前、相変わらずなのはには手厳しいな」

「あー、そんな睨まないでください。ちゃんと理由がありますから。・・・・・・僕もですね」

「あぁ」



シオン達と一緒に居るようになって・・・・・・さっき話した特殊能力が使えるようになって、感じた事。

だから、人を殺したという重さを背負ってもふんばる事が出来た・・・・・・一つの理由だったりする。



「シオン達と居て、『特殊能力』が使えるようになって・・・・・・色々考えちゃったんです。
僕は・・・・・・ううん、人間は・・・・・・僕達自身が思ってるより、ずっと色んな事が出来るんだって」



それは本当に無限大って言うくらいに大きくて・・・・・・でも、信じなかったら簡単に消えちゃうあやふやなもの。



「例えば、恭也さん達が神速とか使って銃器類とタメ張れるのだって、それじゃないですか?
恭也さん達が、自分の中のそれが出来る可能性を諦めずに追求したから・・・・・・現実のものになってる」

「・・・・・・なるほど、確かにな。最初は鋼糸で自分を縛っていたお前がそれなりに形になったのも、そのおかげというわけか」

「・・・・・・えぇ、そうですよ。でも、そこには触れないでもらえると嬉しいです」



それが可能性だと思う。そしてその可能性は、こころのたまごという形で誰の中にもある。

まだ形になっていないあやふやであいまいなものがほとんどで、でもだからこそ・・・・・・どんな形にも変わる。



「僕の可能性のたまごはあやふやで、あいまいで・・・・・・どんな形になるかなんて、今は全然分からなくて。
でも、だから思えたんです。分からないから、あやふやであいまいだから、僕はどんな自分にもなっていけるんだって」

「・・・・・・分からないからか」

「はい。分からないからどんな自分にもなれる。分からないから、自分の想像を超えた可能性が生まれる」



そこは前にシオンから言われた事。僕は将来の事なんて分からないし、それでどうしてシオン達が出てきたのかさっぱりだった。

そうしたら、シオンが教えてくれた。あいまいであやふやで分からないからこそ、そこには無限という言葉が真に実在すると。



「シオン達が産まれて、そういう可能性の力が使えるようになって・・・・・・それは本当に強く感じました。
僕だけじゃない。みんな、みんなきっと同じ。誰の中にもみんな、沢山のキラキラが詰まってる」



それは別に特別な事じゃない。知佳さんやフェイト、恭也さん達にも言える事。

きっと世界中の誰もがその可能性を持ってるんだ。だから・・・・・・うん、だから余計に殺した事が悔しかったり。



「でも・・・・・・逆に一つに絞ったりあやふやなものを形にしていこうとするのは、可能性を狭めることにも繋がると思うんです」



恭也さんの目が、少し細まった。それは別に威圧する意味合いとかじゃなくて、どこか思い当たるふしがあるからだと思う。



「例えば・・・・・・最高速で走ってると、視野がどうしても狭くなるじゃないですか。例えるとしたら、そういう事なのかも」



僕は右手を貫手にして、真っ直ぐ前にその先を突き出す。



「分からないから、あやふやな部分があるからこそどんな自分にもなれる。
なら、逆に明確に分かっていた場合は? きっと他の可能性が目に入りにくい」



そんな僕のジェスチャーを見て、恭也さんが納得したように頷いた。



「分かっているから、その分かっている事しか見えない。ただ一点だけしか見えなくて、周りにあるものが見えない。
見えないから、他にある色んな可能性を切り捨ててる部分が出来てしまう。別にそれが悪いってわけじゃないですけど」

「時として、悪手に繋がる事もある・・・・・・か」

「そうです。・・・・・・うーん、すみません。なんか分かりにくいですよね」

「いや、大丈夫だ。お前が言おうとしてる事は多少だが分かった」

「あ、そりゃよか・・・・・・ちょっと待ってっ!? 多少ってなんですかっ!!」










多分この時、恭也さんは双馬の事を相当に心配してたんだと思う。だからこんな事を聞いた。

それは、双馬が早い段階で道を決めちゃったから。色んな事を探す前に、自分が分かっちゃったから。

それがなんとなしに分かったから・・・・・・まぁ、僕は何も言わずに頬を膨らませる事しかしなかった。





もしかしたら、それだけしかしなかったのが僕の罪なのかも知れない。





だってこの会話から本当にしばらく後、恭也さんがどこかで危惧していた事が現実になっちゃったから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



さて、修行をしつつも僕はちゃんと学校にも通ってる。なんだかんだで来年で4年生。

そして、フェイト達は現在5年生。色んな意味で僕達のお昼タイムは、色々と有名だったりする。

まぁこれも恒例だしねー。それで現在は、フェイトとお姉ちゃんとアリサとすずかさんとお昼。





あ、双馬は武装隊の研修で今日はお休み。別に仲間外れにしてるとかではないので、あしからず。










「・・・・・・そういやヤスフミ」

「ん、なに?」

「アンタ、まだ例のお台場やオーロラの事件調べてたりするわけ?」



少し身長が伸びたアリサが、サンドイッチを食べながらそんな事を言う。なので、僕は頷いた。



「アンタ、相変わらずよねぇ」

「どういう意味だよ。てゆうか、気になるでしょ?」





今年の夏から秋にかけて、お台場・・・・・・東京近辺で一つの事件が起きた。

それはお台場が突如謎の霧に包まれて一切の交通が不可能になり、その中で巨大な怪物が出現してテロに近い行動をしたというもの。

実際にその霧のせいで墜落しかけた飛行機が、別種の怪物に助けられたという情報もある。



その霧、近くに行くと精密機械の類を狂わせる性質があったらしくて、そのせいでだね。





「僕の誕生日にそんな事が起こったのよ? でも僕、アリサも知っての通りちょっと大変だったし」

「あー、そうよね。アンタは一連のアレコレを全部見逃してるんだっけ」





というか、それだけじゃないの。その怪物絡みと思われる事件は、実はもう一つあるんだ。

僕とフェイトやお姉ちゃんに双馬はその時仕事で居なかったんだけど、その時に異変は起こった。

そのお台場事件のちょっと後に、世界中に一斉にオーロラが発生したの。



そこから断片的に、いわゆる異世界みたいなものが見えてたらしい。

しかもその中に例の怪物と同種のものと思しきものが映っていたとか。・・・・・・ね、気になるでしょ?

でも、実際には一種の集団幻覚の類と報道されて、事件はもう下火になりつつある。



あんなに世界中を騒がせた事件のはずなのに、新しい事件やスキャンダルで人々はそれを忘れていく。



ううん、そういうのを抜きにしても世界中のみんなが忘れようとしているように感じる。・・・・・・なんでだろ。





「もうな、めっちゃ凄い調べてるんよ。書庫にそれらしい情報が無いかも漁っとるし」

「というか、私も一緒にだね。その時地球を中心に次元空間にも乱れが出てたようだし、一応参考程度に」

「フェイトちゃんもなんだ。でもそれって・・・・・・やっぱりお仕事絡みで?」

「一応はね。あとは私の単純な興味」



ただ、それでも全く手がかりが見つからない。なので、軽くどうしたものかと頭を抱えてる。



「でもアレ、結局一種の集団幻覚か何かって事になったじゃないのよ。
テレビでやってるの見てたから、よく覚えてる。霧の方も同じくよ」



少し呆れ気味なアリサの言うように、世間ではそういう風に決着している。

だからこそ、忘れられているのかも。もう掘り起こす価値もない話題だと、誰もが決めつけてるみたい。



「犯人こそ捕まってないけど、新種の毒ガスの類のせいでーって。ほら、ちょっと前のオウム真理教みたいにさ。
オーロラに関しても同じよ。元々は蜃気楼の類なんだし、別に何が映ったって不思議じゃないって話になった」

「みたいだね。でも・・・・・・んー、それがおかしいんだよ」

「何がよ」

「あのね、実際にお台場に行って色々調べてきたの」

「はぁっ!?」



僕は、今日のお昼の栗ご飯をいただきつつもしっかりと咀嚼して・・・・・・言葉を続ける。



「探偵のおじさんはこう言ってた。捜査の基本は足だって。だから、現場に乗り込んで」

「色々調べまわったってわけね。ね、それっていつの話よ」

「先日の大ゲンカのすぐ後? ま、気分転換も兼ねてね」



ジッとしてると、色々押し潰されそうではあったから。だから、動いて調べ回ったんだ。



「なるほどね。それで、何がおかしいのよ」

「あのね、お台場のテレビ局やあった空港の職員さんに色々理由つけて事情聴取したのよ。
そうしたら、おかしいの。・・・・・・みんな、事件の事を何も話そうとしないで僕を追い返そうとするの」



話してみてちょっとおかしいと思ったのは、そこ。

話す人話す人みんなが事件の事を、まるで誰かから口止めされてるみたいな態度を取るの。



「・・・・・・なるほど、それは確かにおかしいわね。もう全く取り付く島もないって感じなんでしょ?」

「うん」

「あの、アリサちゃん。恭文くんもなんだけど、どこがおかしいの?」



そう言って疑問の表情を向けてくるのは、すずかさん。一気に通じ合ったアリサと僕の事が、よく分からないらしい。



「あー、ようするに」



だからアリサはすずかさんの方を見て、人差し指を立てつつ言葉を続ける。



「現地の人達はみんな『もう集団幻覚として結論つけられた事』に口を閉ざしてるの。
ヤスフミくらいの子どもがそこを聞きに来たら、もうちょっと対応柔らかくてもいいくらいよ?」

「だから恭文くんは納得出来ないんだね」

「うん。普通にね、霧の事も教えてくれないの。みんなつっけんどんに僕を邪魔者扱いする。
それでネット関係を調べたら、世界中で怪物が出たって証言もあるんだ」

「世界中でって・・・・・・でもテレビでは何も言ってないよ? 映像も残ってないし」



すずかさんの言うように、お台場の霧事件の時の映像関係は一切出まわってない。

ただ、ここはさっきの飛行機の話と照らし合わせるとまぁまぁ理解出来るの。



「映像、多分撮影出来なかったんじゃないかな。飛行機みたいに機械類はダメだから」

「というかね、すずか。私もヤスフミに付き合って調べて知ったんだけど、怪物を撮影した人が居るの。
でも、写真や映像関係もノイズばっかりで全然分からなくて、誰からも相手にされなかったとか」

「そう・・・・・・なんだ。それはその、なんというか・・・・・・不思議だよね」

「うん、不思議。ただ、私的にはちょっとありがたいかなと。
あの、事件が起きた事自体は全然喜ばしくないんだけど」





言いながらフェイトが僕を見る。というか、表情がどこか嬉しそう。・・・・・・うん、その意味は分かる。

僕、この事件を調べていくうちにどんどん元気が出てきたから。というかね、再認識したの。

自分の中のワクワクやドキドキを探したいと思う根っこの感情、なんにも変わってないんだって。



だから僕はフェイトに微笑みを返しながらもひじきさんも食べて・・・・・・と。うん、いいお味だねぇ。





「うーん、この調子だとこれ以上調べるのは難しいのかなぁ。
まさかテレビ局の人とっ捕まえて、無理矢理吐かせるわけにもいかないし」





このお話、最初は全く報道されなかった。ネットから火がついてそれでーって感じだね。

実際に怪物に助けられたり、事件に巻き込まれた人がネットか何かに書き込んだっぽい。

ただ、それも事件直後の数回だけ。今ではその話題はもうテレビでは全く触れられてない。



まるでこの3ヶ月程度で、都市伝説にでもなっちゃったみたいなんだよ。やっぱりおかしい。

特にあのフジテレビの人達だよ。それで1番は・・・・・・そうだ、あの石田って人かな。

僕が怪物の事を調べ回ってるってどっかから聞いたらしくて、いきなりやってきてお説教されたもの。



そんな事調べてないで、とっとと家に帰って勉強しろーってさ。

それが小うるさい上に力尽くで僕を連行しようとしたので、僕も軽くあいさつをした。

股間を全力で蹴り上げて、それから右足での後ろ回し蹴りで顎を打ち抜いたの。



いや、当然だよ? 腕を掴んで持ち上げて僕をどこかへ連れて行こうとしてたし。

言うなれば、アレは誘拐だよ。やばいね、フジテレビ。ナチュラルにスタッフの中にあんな人が居るなんてね。

それで泡を吹きながらダウンしたその人は放置した上でまた調査開始したけど・・・・・・ダメだった。



あの人、前もって僕の事を警備員や他の職員に教えていたのか、どいつもこいつも僕を社屋からた叩き出そうとしたし。

それで腹いせに、数人の顔面を踏み抜きつつも社屋を走り回って大混乱を起こした上で脱出したわけですよ。

あ、身元はバレないようにしてる。嘘の名前と住所と捨てアドレス教えてたし、ほっぺたの横に絆創膏を張って変装もしてる。



あのね、人間って誰かの顔に余りに特徴的な部分があると、そこに目が行っちゃって他の部分を覚えられないの。

例えばほっぺたに絆創膏を一つ貼るだけでも、全然変わってくる。そうすると相手は絆創膏の事しか覚える事が出来ない。

もちろんカメラ関係に映ると厄介だったから、そこの辺りに関しても前もってしっかりと処置してる。



普通にまた行ってもぼくだってバレる心配は0なんだ。うーん、一体何がいけなかったんだろ。

僕はあくまでもあの人に誘拐されるまでは、紳士的な態度で調査してたのに。

それで無理矢理に幼気な少年に暴力を振るおうとするから、サービスでノックダウンした後に腹を踏み抜いただけなのに。





「恭文くん、さすがにそれは」

「アンタ、それ犯罪やないか。普通にアウトやん」

「ヤスフミ、ホントにそれはだめだよ? 魔法を使っても使わなくても同じ」

「いや、さすがにやらないよっ!? というか、なんでみんなそんな必死に止めるのかなっ!!」



みんな酷いよー! どうして僕の事を信じてくれないのっ!? ほら、信頼って大事なんだからちゃんと行使してっ!!



「アンタなら間違いなくやらかしそうだからに決まってるじゃないのよ。そんな事も分からないの?
・・・・・・いや、やらかしてるでしょ。アンタならやりそうだもの。それも絶対にバレないように処置して」

「そんな事ないよ? うん、全然そんな事ないし」

「そう。だったら私の目を見なさい? アンタ、めっちゃあさっての方向見てるから」










みんなが僕の事を信じてくれてないという事が分かって、かなり悲しい。なので、僕はまた栗ご飯をパクリ。





なんだろ、甘い味付けのはずなのにちょっとしょっぱく感じちゃった。・・・・・・でも調査、どうしようかなぁ。





うし、ちょっとずつでも継続はしてくか。てゆうか、このまま諦めるのは色んな意味で腹が立つ。絶対証拠、掴んでやるんだから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



それから学校が終わり、高町家で訓練したりで楽しく過ごして・・・・・・今は夜。

僕はお風呂の時間。それで僕は、リインフォースと楽しくお風呂タイムを過ごした後、添い寝タイム。

リインフォース曰く、『第三夫人としてこういうのは大事だ』と言う事らしい。





とりあえずアレだ、家に居る時はお風呂も寝るのも一緒だからもう僕に言う権利はないよね。










「・・・・・・もう、すっかり慣れてしまったな」

「何が?」

「お前との夜伽だ」

「その言い方やめてくれないっ!? というか、エッチな事してないよねっ!!」

「今はな」



その言い方もやめてー! またまたフェイトがフォークを順手で持ってくるのー!!



「というか、僕は慣れないんですけど」

「なぜだ?」

「だってリインフォース・・・・・・その、ネグリジェだし」



黒でシースルーな仕様なので、何気に露出が凄い。だって今も胸の谷間、見えてるし。



「安心しろ、部屋に出る時はカーディガンを羽織っているだろ? 下もスパッツだしな」



いや、何も安心出来ないんですけど。僕的には、何も安心出来ないんですけど。



「というか、そうなのか。お前も女性の身体に興味が出る年頃になったのか。
確かに私とのお風呂も恥ずかしがるようにはなっていたが」

「だからその言い方やめんかいっ! エロいからっ!!」



というか、リインフォースがどんどん過激になってるのは誰のせいっ!? ・・・・・・いや、考えるまでもない。

絶対リンディさんやレティさんにエイミィさんの仕業だ。以前も面白がって、変な知識をリインフォースに植えつけてたし。



「まぁ、それはともかく・・・・・・恭文」

「ん、なに?」

「・・・・・・甘えてくれ」

「いや、だから」

「頼む。これでも一応・・・・・・恥ずかしくはあるんだ。私に、恥をかかせないでくれ」



少し頬を赤くしてリインフォースはそう言った。だから僕は・・・・・・そっと兩手を伸ばして、リインフォースの胸に触れる。

リインフォースの胸はとても大きくて、マシュマロみたいに柔らかくて・・・・・・だめ。なんか、触ってるとむずむずしてくる。



「ありがとう」



言いながら、リインフォースは両手を伸ばして僕を抱きしめてくれる。

むずむずしてくるけど・・・・・・でも、いいのかな。だってあの、リインフォースだし。



「それで実は相談なんだが」

「何?」

「小さい子の相手というのはどうすればいいんだ?」



・・・・・・なんか唐突に凄い事を言い出した。

だから僕はリインフォースの胸元から顔を離して、寝ながらだけど首を傾げる仕草をする。



「あ、別にお前との夜伽を今からしたいというわけではなくて」

「だから黙れっ!? 分かってるからっ! それだけは無いって分かってるからっ!!」

「そうか。・・・・・・まぁその、ツヴァイの事なんだ」

「つーちゃん?」

「お前、その呼び方はもう決定か」



とにかく、呆れたようなリインフォースはともかくとして・・・・・・僕はリインフォースの相談の内容がようやく分かった。

というか、リインフォースとつーちゃんとの関係を考えると、自然に答えが出てきた。



「なるほど、つーちゃんとどう接したらいいか分からないんでしょ」



僕に聞いてきたのは多分、僕が小さい子・・・・・・シオンやショウタロスとまぁまぁ上手くやってるからだよ。

冒頭で見た通り、奴らは自由極まりないしね。僕も何気に最初は本当に苦労した。特にシオンだよ、シオン。



「・・・・・・実を言うとそうなんだ。ツヴァイは生まれたばかりで、主はやてやヴィータや高町達と接するのとはまた違うだろ?」



僕はその言葉に頷きながら、リインフォースの方を見る。リインフォースは・・・・・・珍しく困ったような顔をしていた。



「確かにお姉ちゃんも双馬もフェイトも、子どもらしさ足りないしねー。ヴィータに至ってはまた違うし」

「そうだろ?」



つーちゃんは、見る限り本当に生まれたてで何も知らない純真無垢な子。

オタクなお姉ちゃんや大人ぶってる双馬、本当に大人なヴィータや年相応なフェイトとは違う。



「・・・・・・だが、おそらくそのメンバーはお前にだけはそこを言われたくないだろうな」

「ほっといて」



僕は十分子どもらしいよ? うん、まだまだ未熟なお子ちゃまですよ。



「だからこう、私はツヴァイから見て怖い印象を持たせるのではないかと色々考えてしまってな」

「・・・・・・そこは否定出来ないかも」

「やはりか?」

「うん。あ、もちろん今のリインフォースが怖いって事じゃないよ? そこは本当に。
リインフォースのパッと見のクールなイメージが、相手に距離を取らせちゃうの」



リインフォースって、僕の前だとエロいお姉さんだけど、基本はクールビューティーだからなぁ。

そしてそういうキャラは、往々にして敬遠されがちな部分があったりはする。言うならパッと見の印象でそれなのよ。



「ほら、この辺りはシグナムさんも同じだと思うんだ」

「・・・・・・確かにそうだな。シグナムもツヴァイとの関係をどうしたものかと思案しているのが見て取れる」

「まぁ、性格があるしここから180度方向転換も無理だよね。逆につーちゃんが戸惑っちゃうよ」



だから瞳を閉じて少し考える。まぁ、僕がその場しのぎでアドバイスするのは簡単。でも、あいにく僕は子ども。

なので思いつく手もそれほどあるわけじゃない。なので少し考えて・・・・・・目を開いた。



「うーん、ここは」

「ここは?」

「別の人にも相談してみようよ。お姉ちゃん達だと、ちょっとそこの辺り弱そうだし。手探りなのはみんな同じだもの」



幸いな事に、末っ子とかそういうものの扱いに長けてる人達は僕の知る限り結構多い。

なのでそういう人達に相談してみて、その上で考える。多分これが一番いい。



「よし、リインフォース。明日お休みだから、ちょっとデートしようか」

「・・・・・・あぁ。よろしく頼む」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして翌日。僕となぜかおめかしして軽めにお化粧までしてるリインフォースは、さざなみ寮に来た。

あのね、高町家も考えたの。ただ、双馬の今までの言動や行動から見るに、参考にならなそうだったのでやめた。

なので、耕介さんと愛さんに相談する事にした。二人はここの寮生のお世話で、そういうの長けてるだろうし。





ちなみにあのクリスマスの一件からしばらくして、ここのみんなには魔法の事は話した。

というか、話さないわけにはいかなかった。散々心配かけてるしさ。なので、つーちゃんのことも知ってる。

それでお馴染みなさざなみ寮のリビングでお茶を頂きつつ、二人にリインフォースの悩みを相談。





二人とも僕とリインフォースの話に相槌を打ちつつ、一応お話は納得してくれたみたい。










「・・・・・・それはまた、難しいな。そのツヴァイちゃんは、赤ちゃんだけどもう言葉とか話せるんだろ?」

「はい」

「うーん、それだと・・・・・・赤ちゃんというよりは、小さな子を相手する場合の対処法を考えた方がいいのかしら」



腕を組んで軽く考え込むような仕草をする耕介さんを見ながら、愛さんがそう言う。



「そうだな」



そんな視線を向けられた耕介さんは愛さんの方を見返して、頷いた。



「まぁそこの辺りだと、俺や愛さんでも力になれる事は多い」

「うちの寮生、恭文君やリインフォースさんも知っての通り、色々個性的ですから。
知佳ちゃんだって昔はかなりやんちゃしちゃったんですよ?」

「あぁ、聞いてます。屋根吹き飛ばしたんですよね」





知佳さんがここに住むようになった当初、家庭的な事情から知佳さんは能力のコントロールが上手く出来なかった。

それでたまたま能力を暴走させちゃって、二階の屋根と部屋の大半を丸々吹き飛ばしたらしい。

知佳さんがHGS発症者だと言うのは、その時はお姉さんしか知らなかったから当時は大騒ぎだったらしい。



ただ、それで知佳さんを責めるような事はしなかったとか。というかね、アレなの。

なんでも保険会社に相当強引な交渉して、『いい機会だから』と言って増築したらしいのよ。

その結果が部屋の増加と、以前探偵のおじさんと電話した物干し場だよ。



なんというか、さざなみ寮ってやっぱ凄い。たくましいというか、バイタリティ溢れるというか。





「なんだ、知ってたのか。さすがは知佳の旦那様だな」

「あはは・・・・・・まぁ、それなりに信頼はされているので」



右手で後頭部をかきながら苦笑いしか返せないのは、二階で現在お仕事中のお姉様の事が気になるから。

だって真雪さん、たまに僕に本気の殺気ぶつけてくるもの。あれは命の危険を覚えるのに十分。



「それで本題の方だが・・・・・・まぁ、それほど無理せずに普段通りで接していった方がいいんじゃないのかな?」

「ですが、それだとツヴァイを威圧してるようでして」

「でも、そこで無理していい顔しても、今度はそれをずっと続ける必要が出てくる。それは余りいい事じゃないでしょ」



耕介さんの言葉に、僕とリインフォースは納得。うん、確かにそれは正論だ。

180度方向転換しても、それが完璧無理ならいずれ破綻する。で、そこから培ってきたものも一緒に破綻する。



「ツヴァイちゃんがリインフォースさんの良いところとかを、ちゃんと分かってくれるならまぁいいと思うんですよ。
でも、それが難しい場合はやっぱり恭文君達家族のフォローが必要になると思うな。別にここは、難しい事じゃなくていい」

「例えばあなたやはやてちゃんが『リインフォースは元々こういう性格なんだ』と言うだけでも、だいぶ違うと思うの。
口下手とか、物静かとか、そこの辺りは人それぞれ。そういう情報がある分、誤解に伴なう衝突は少なくなるわ」

「ではその・・・・・・私がうちのシャマルや主はやてのようにフレンドリーな感じにしなくても」

「無理してそうする必要はないですよ。そこは俺達二人の総合意見と思ってくれていいです。
あくまでも自然な形で歩み寄る姿勢は崩さない。というか、普段通りでいいですから」





耕介さんに力強く背中を押されるようにそう言われて、リインフォースの表情が明るくなる。

それで耕介さんの視線が僕に向く。それだけで『ちゃんとフォローは考えるように』と言ってるのが分かった。

なので僕は頷いて、同じように『分かりました』と返す。耕介さんはそれを見て、満足そうに笑う。



そこは愛さんも同じ。僕は右隣に座ってるリインフォースの方へ視線を戻す。



リインフォースは、やっぱり表情が明るくなってる。きっとなんとか出来るという手応え・・・・・・得られてるんだろうね。





「ただ、これだけというのもアレなので・・・・・・ここからは管理人として培ってきた処世術をいくつか伝授させてもらっても」

「えぇ、お願いします。というかお二人とも、本当にありがとうございます」

「いえいえ」

「お気になさらずに」










それからぴったり2時間。リインフォースと僕は耕介さん達から処世術を直伝された。





僕もリインフォースも二人してただただ『なるほど』と納得し続ける時間だった事は、付け加えておく。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



それからさざなみ寮を二人にお礼を言いつつ出て、リインフォースと手を繋ぎながらのんびり歩く。

というか、ウィンドウショッピング? それでデートだよ、デート。まぁここの辺りも結構恒例。

リインフォース、本気で僕のお嫁さんになる気らしくて『必要だ』と言って聞かないんだよね。





あ、ちなみにシオンとショウタロス達は今日は高町家に遊びに行ってる。何気に美由希さんや桃子さんと仲良しだから。










「・・・・・・恭文」

「何?」

「なんというか、お前が居てくれて本当に良かった」



夕方の商店街、家までの道筋をリインフォースと二人で歩く。それでリインフォースは前を見ながら、嬉しそうに笑う。



「お前が居なければ私は、どういう形にしても消滅していた。お前が私に、この時間をくれた。
楽しい時間も、悲しい時間も、今日みたいに悩み考える時間も・・・・・・全部だ」

「別に僕だけがやったわけじゃないよ。みんなのおかげだし」



僕だけなら、リインフォースを助けるなんて無理だった。そこは決定的な事実。

だから、そう言われると・・・・・・なんか照れくさくて、ちょっとそっぽ向いてしまう。



「そうだな。だが、キーマンがお前である事に変わりはない。恭文、本当にありがとう。
今日改めて、この時間の尊さに気づけた。私はもっともっと生きてみたい自分に、気づく事が出来た」

「・・・・・・ん」










落ちていく夕日をリインフォースと見ながら、僕達は歩く。ゆっくりと、無言のままに。





なぜか漂っている甘い余韻がどうしてかは分からないけど、僕達はそれを楽しむ事にした。





繋いだ手は離さずに、僕達は夕日の海鳴の街の中でそんな時間を過ごした。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



家に戻って夕飯を先に帰って来てたシオン達とも一緒に食べてから、僕は部屋に戻る。

僕は自分のベッドの上に座り込んでから、懐に入れっぱだった携帯を右手で取り出す。

それを使って、あの人にお電話・・・・・・はやめて、メールにした。だって、カナダ宛てだよ?





カナダと日本の時差は、12〜17時間もある。あ、サマータイム導入時には、1時間程短くなるの。

なお、時差に差があるのはカナダの国土の広さのせい。そのせいで差が出ちゃうらしいの。

つまり、今からだとあの人の居るところは午前の2時近く。さすがにお電話のお時間じゃないって。





まぁ携帯ならともかく、パソコンのメールボックス宛てだから迷惑にはならないと思っていた。





でも、ちょっと考えが足らなかった。メールを送ってからすぐに、電話がかかってきたから。










「・・・・・・はい、もしもし。というかごめんなさい」

『もう、出た早々そんなに謝らなくていいのに。ちゃんと迷惑にならないように配慮してくれたよね?』



少し笑いながらそう言うのは、当然知佳さん。知佳さんは現在、カナダに本部を置く国際救助隊の隊員として頑張ってる。

HGSの能力を使ったレスキュー活動を専門に行う部門の室長さんだそうなの。つまり、偉い人。・・・・・・改めて考えると凄い。



『私明日お休みで、今日はちょっと夜更かししてたんだ。だからかけちゃった』

「そうだったんですか。というかあの、それなら僕の方からかけ直します。こっちは通話料とか大丈夫ですし」

『そう? じゃあ・・・・・・お言葉に甘えちゃおうかな。あのね、私も恭文くんの声聞きたかったから、いっぱいお話したい』

「はい」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



それから僕の方から改めてかけ直して、知佳さんと楽しくお電話。リインフォースの事とか、つーちゃんの事とかを話す。





すると電話口から、またまた知佳さんの膨れたような声が聴こえてきた。










『うー、恭文くんが浮気してる。また本妻の私を蔑ろにして、リインフォースさんと仲良くしてる』

「いや、浮気じゃないですよねっ!!」

『浮気だよっ! やっぱり胸の大きな女の人が好きなんだねっ!? いいよいいよ、それならいいよっ!!
私、ちょっと整形外科行ってくるからっ! それで今度そっちに戻る時には、大きな胸になってるからっ!!』

「それはやめてっ! それで本当に手術させちゃったら、僕最低じゃないですかっ!!
・・・・・・そ、その・・・・・・知佳さんの胸、綺麗ですよ? それに柔らかいですし」



恥ずかしいけど、それでも必死にフォローを入れる。というか、これは僕だから入れられる。

だって知佳さんの胸、お風呂で何度も見てる。それに触って揉んだりも・・・・・・寝てる時だけど。



『でも、大きい胸が好きなんでしょ?』

「そんな事ないですっ!!」

『そっか。じゃあ・・・・・・『知佳さんの胸が好きです』って言って欲しいな。そうしたら安心出来るよ』



知佳さんの声が、急に弱々しい不安げなものに変わった。だからこそ僕は躊躇い無く、声を張り上げる。



「それ9歳児に要求っておかしくありませんっ!? というか、それ言うと僕変態みたいだから嫌っ!!」

『やっぱり浮気者だよっ! あの二年参りの時に私とフェイトちゃんにプロポーズしたの、嘘だったんだねっ!!』

「・・・・・・それは、嘘じゃないです」



あの、将来の事は分からないけど・・・・・・そういうのもありなのかなって思ったり。

ただ、未だに頭抱えてのた打ち回る時があるけど。こう、僕だって9歳だから倫理観とか色々あるんです。



『・・・・・・そっか。ん、ならいいんだ。というかあの、ごめんね。私ちょっとテンション変だよね』

「その、少し」



うん、最初からなんか変だなーと思ってたの。だって大体お電話する時は、メール送って来てからだし。

時差が12時間以上開いてるしね。どうしてもそうなっちゃうんだよ。じゃないと、互いに負担かけちゃうから。



『まぁその・・・・・・今日、現場でね』



この現場が『災害救助の現場』だと言うのは、トーンが落ちた声から察しがついた。あと、何があったのかもだよ。



『助けられなかった人が、居たんだ。それも本当にまだ・・・・・・まだ小さい子達。
今日は特にキツくて、そんな時に恭文くんからメールが来たの。ね、恭文くん』

「はい」

『ちょっとだけ、泣いていいかな。お願い、このままでいいから』

「ダメです」



知佳さんがなにやら甘えて来たので、僕は即座に一刀両断。それですぐに言葉を続ける。



「僕、今からそっち行きますから、ちょっとだけ待っててください」

『え?』

「シャマルさんに頼んで、転送魔法でそっち行きます」



まぁ不法入国になるけど、外に出なければ大丈夫でしょ。

最悪、知佳さんに迷惑がかからないようなら逃げていいんだし。



「だって知佳さんは僕のお嫁さんなんですよね? だったら、こういう時は抱き締めたい。だから」

『泣くなら、恭文くんの腕の中で?』

「はい」

『・・・・・・もう、マセてるんだから。でも、ありがと。なら私、待ってる。それでいっぱい、抱き締めて欲しい』

「・・・・・・はい」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



僕はすぐにカナダの知佳さんの家に転送。知佳さんは白のパジャマ姿で、今にも泣きそうな顔をしてた。





それから僕に体重を預けるようにしつつ静かに泣き出した知佳さんの事を、精一杯抱き締める。










「・・・・・・ごめんね。結構久しぶりなのに、泣き顔見せちゃって」

「いいです。というか、知佳さん」

「ん、何かな」

「会いたかったです。だってその、知佳さんの事が好きだから」

「ありがと。でも、私の方がずっと会いたかったよ。特に夏は大変だったでしょ?
だから本当に会いたかった。恭文くん、ありがと。それで・・・・・・私も大好きだよ」










世界はいつだってこんなはずじゃなかった事ばかり。それはいい意味でも、悪い意味でも言える事。

でも、それでも・・・・・・僕達はなんとか今日という日を、頑張って生きてます。

今日は泣いていても、躓いていても、明日は笑えるように。そのために『生きる』という事を諦めない。





ううん、諦めたくない。僕は何も、何も諦めたくなんてないんだ。それが僕の『なりたい自分』の形の一つだから。




















(後編へ続く)




















あとがき



恭文「というわけで、お久しぶりなA's・Remixです。今回のお話は二期目に向けた中繋ぎだね」

あむ「というか、ショウタロスって・・・・・・アレだよね。前に拍手でアイディアが来てたの」

恭文「うん。せっかくなので採用しました。なお、キャラなりは当然アレです。そしてアレになります」





(ちなみに今回のお話は、前後編で2話で終了です。そして後編はもう書きあがってたり)





あむ「結構飛ばし飛ばしでダイジェスト的だったけど、アレでいいの?」

恭文「いいの。というか、続けてやるとそれはもう大変な事になるから」





(誰かさんのリハビリの話なんてすると、きっと4話くらいは使う予感)





恭文「さて、そんなわけで今回のお相手は蒼凪恭文と」

あむ「普通にこの段階でフォン・レイメイが退場しててびっくりな日奈森あむです」





(何気に重要キャラなのですが、またStSで出しても本編orStS・Remixの焼き増しになるので、ダイジェスト的に退場させました)





恭文「出さないってのも考えたんだけど、この後のアレコレを考えるとやっぱ必要かなと思ってこれらしい」

あむ「でもさ、恭文。StSの事件はどうするの? ほら、マダマは完全に役者不足だし」

恭文「あぁ、それなら大丈夫。エリキャロがスカリエッティ陣営に付くから」

あむ「はぁっ!?」





(以前あとがきで出したお話ですね)





恭文「というか、このA's・Remixではフェイトは保護責任者とか局員としての責務とか、そういう本編やIFで語られた問題点を全てぶっ飛ばすのよ」

あむ「・・・・・・あぁ、そう言えばあったよね。そういうのに依存しちゃって、素の自分が薄っぺらくなるってお話が」

恭文「そうそう。まぁここも本編で語られた辺りだし、フォン・レイメイと同じなんだよ。
なお、戦力の層に関しても大丈夫。そのためにこのお話の段階から伏線張ってるし」





(まぁ、回収は相当後になるでしょうけど。具体的には二期始まって20話以上後とか?)





あむ「えっと、もしかしてお台場の霧事件とかオーロラとかってやつ?
てゆうか、デジモンアドベンチャー? いや、もうそれしかないよね」

恭文「うん、それ。最近拍手で盛り上がってるあのお話とのクロスのためだよ。
時期的にはこのお話の僕とあむが6年生になった直後くらいから、ちょこちょこって感じ?」





(ただしゅごキャラの方はドキたまやあむルートでRemixしてやってる部分なので、同時進行というよりはこちらの話メインになると思います)





あむ「あ、やらないんだ」

恭文「重要エピソードはやるけど、細々としたのは抜かすって感じだね。というか、ここでクロスさせないと本編じゃ無理だし」

あむ「あー、それもそっか。本編だと凄い飽和状態になっちゃうし」

恭文「なるね。だからここまでクロスを悩んでたのよ。でも、こっちなら如何様にも出来る」





(元々新しい土台として始めたものですし、本編で無理な部分はこちらで導入という手が使えるのは魅力です)





恭文「それでパートナーデジモンも拍手準拠のつもりなんだって。僕はキメラもん(ヒメラモン)で、フェイトはレナモン。
はやてはテントモンで、リインはララモン。シルビィはコマンドラモン(CV:関智一)。そして敵方に回る二人はアレ」





(キャロはギルモン、エリオはオファニモンに進化する02のとは別個体のテイルモンですな)





恭文「そしてあむはオリジナルなしゅごタマモン」

あむ「え、あたしっ!? あたしまでそれやるんだっ!!」





(『しゅごしゅごー♪』)





恭文「というかね、ズィーガーオメガモンのイラストをDarkMoonNIght様から頂いたりもしたし、アイディアも沢山もらったでしょ?
だからA's・Remixのゴール地点としては、マジで次元世界全体でデジモンと共存する形にしたいなーと」

あむ「・・・・・・でも恭文、それってどこまで時間かければ出来るの?」

恭文「とりあえず、ディケイドクロス終わってから計算するよ」

あむ「うん、そうだね。まぁまぁ年単位だと思うけど」





(一応頭の中では、大体のプロットは出来てたりします。ただ、それを形にするのはやっぱり大変)





あむ「というか、パワーバランスは? ほら、アンタの事だからどうせデジモン相手でも戦うんだろうし」

恭文「えっとね、前に拍手でも言ったと思うけど、完全体クラスでオーバーS魔導師とタメって感じかな。
もちろん戦い方次第だけど。そこまでデジモンが圧倒的ってわけじゃないよ」

あむ「なら、究極体は?」

恭文「それはマジでフォン・レイメイとかオーギュスト・クロエとか相手にしてるレベル?
つまり、劇中最強レベル。もちろんピンキリレベルあるし、多少は前後するだろうけど」





(身体能力どうこうというより、魔法を用いての攻撃能力の辺りでバランスが取れればなと思っています。まぁ予定は未定ですけど)





恭文「あ、それとまだ重要な事がある」

あむ「なに?」

恭文「いやね、A's・Remix二期目の1話を半分くらい書いてるんだけど」





(まぁストレス解消に)





恭文「作者は唯世が僕を呼ぶ時の名称を『蒼凪君』で打っちゃうらしい」

あむ「いや、それで・・・・・・合ってないよねっ!? アンタ、この話だと八神恭文なんだしっ!!」

恭文「うん。だからここは注意だね。まぁその前にディケイドクロス書けって話なんだけど。あはははははは」

あむ「・・・・・・確かにそこはなぁ。じゃああくまでも本格始動は結構後になるんだよね」

恭文「そのはずだよ。というか、そうしないと無理だって。拍手の返事もあるし。・・・・・・さて、本日はここまで。
とりあえずA's・Remixで知佳さんENDの需要解決は果たせると確信した蒼凪恭文と」

あむ「そんな事のためのA's・Remixじゃないと思う、日奈森あむでした。それじゃあみんな、またねー」










(そう言いながらも現・魔法少女、とっても嬉しそうに手を振る。やっぱり仲良しらしい。
本日のED:下川みくに『それが愛でしょう』)




















コマンドラモン(CV:関智一)「ついに俺達もA's・Remixへ出演決定か。ならば、やるべき事は一つ。
大佐殿を蒼凪恭文の第四夫人にする事。そのために俺はどこまでも尽力しよう」

ヒメラモン「・・・・・・いや、待て。とりあえずお前は待て。普通にオレ達が出る話は相当後だと思うんだが」

コマンドラモン(CV:関智一)「問題ない。作者にはリアルを犠牲にしてA's・Remixに全てを賭けてもらう。
仕事も辞め、寝ずに一日2話のペースで話を書き上げれば計算では半年程で大佐殿は蒼凪恭文の嫁になれる」

ヒメラモン「いや、だから待て。お前それは正気の沙汰じゃないだろ」

サーベルレオモン「というか人間ではなく、作者本人になんとかさせるつもりかっ!!」

コマンドラモン(CV:関智一)「肯定だ。作者と蒼凪恭文の行動は密接な関係にあると最近の調査で判明したからな。
具体的には作者を拘束し、大佐殿と結ばれる話を書いてもらうように誠意を持って説得しようと考えていた」

サーベルレオモン「はぁっ!?」

コマンドラモン(CV:関智一)「何を驚く。俺がデジタルワールドで居た部隊の『D-ブリガード』では、この程度の事は日常茶飯事だ」

ヒメラモン「いや、人間界では普通じゃないだろ。というか、早く解放してやれ。作者が話を書けないだろ」

サーベルレオモン「なによりお前の大事な大佐殿に迷惑だから今すぐにやめろっ! それでは犯罪だろうがっ!!」

コマンドラモン(CV:関智一)「・・・・・・お前達までそれか。実は大佐殿にも涙目で止められてしまってな。
計画は頓挫してしまった。一体何がいけなかったのか」

サーベルレオモン「全てだ全てっ! いくらなんでもやる事がエゲツないだろっ!!」










(おしまい)





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あきゅろす。
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