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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第5話 『龍騎の世界/バトル裁判・Dead or Alive』



恭文「これまでのディケイドクロスは」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……頼む、俺が悪かったと思うからマジやめてくれっ! 死ぬっ! 本当に死ぬからっ!」

「そう。だったら今すぐ僕達の目の前から消えろ。ほら、出来るでしょユウスケ?
大丈夫、ユウスケは出来る子だよ。きっと引田天功みたいにイリュージョン出来るから」

「そうだな。ユウスケ、俺も信じてる。大丈夫、お前ならきっと出来る。
引田天功を超えるようなスーパーダイナミックイリュージョンを期待してるぞ」

「え、やっぱりお前ら俺を追い出す気満々っ!? あと、それは絶対無理だから要求するのはやめてくれっ!
俺にはそんなの無理だってっ! 俺は出来ない子だから、引田天功超えるどころかそれみたいには無理だっ!」






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



恭文「というわけで、ユウスケがポスト引田天功さんになるまでを描くこのお話ですが」

ユウスケ「いや、違うだろっ! というかそろそろマトモにあらすじ紹介しないかっ!?」

恭文「やかましいっ! 文句言うなら原作に言ってくれるっ!? そのまんまなあらすじ紹介しにくい構成にした原作にっ!
僕達みたいな二次キャラがどんだけ苦労してるとっ!? いくらなんでも配慮なさ過ぎでしょうがっ!」

ユウスケ「そこ配慮有ってもおかしいと思うのは俺だけかっ!? ……とにかく、今日から龍騎の世界だ」

恭文「そうだね。てーかバカスケ、ギンガさんは? ほら、おのれが出ても読者は誰も喜ばないしさ。
だからギンガさん呼んで来てよ。おのれに花があるならともかく、花ないんだから」

ユウスケ「よし、お前俺の事が嫌いかっ!? そうなのかっ! そうなんだなっ!」

恭文「どうしてそうなるのさ。全く、これだからバカスケは嫌だよ。ワケ分かんないし」

ユウスケ「それは俺のセリフだっ! あとギンガちゃんは居ないから無理だぞっ!
夏海ちゃんと一緒に龍騎の世界の事調べに行ってるんだよっ!」

恭文「……夏みかんとかぁ。うーん、不安だなぁ。夏みかんのKYが感染しなきゃいいんだけど」

ユウスケ「……恭文、多分それ心配するとこ違う。めっちゃ間違えてるから」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



前回、なぎ君にKYとか散々言われた私はここで一念発起した。具体的には夏海さんと一緒に一念発起した。

男性陣は、私達の存在をちょっと軽視し過ぎている。というか、調子に乗り過ぎてる。

そこで私達だってやる事を、ここできっちりアピールしてやろうと言う話になった。とは言え、戦闘は出来ない。



だって私は怪我してて、多分やらかしたらなぎ君にお仕置きされてしばらく立てなくなってしまう。

これがエッチなお仕置きとかなら、彼女としてはとても嬉しい。だって未だに……な、わけだし。

なぎ君、お試し期間な私に対してなにもしない。あの、お泊りデートでキスやバストタッチまでは進行した。



でもなぎ君のEDは現在も変わらない様子。そして今は世界を移動しても消えなかったヴァイオリンを練習中。

当然だけど、キスもバストタッチも何もしてくれない。私に触れる前にヴァイオリンを結界を張った上で弾いている。

私もさすがにお世話になっている家の中で夜這いをかける度胸はない。なので進展はなし。



私、なぎ君のEDを治す『お手伝い』するって言ったんだけど……あれ、話変わってるな。

と、とにかくお試し期間でもそういうお仕置きならいいなぁとは思ったりはしてる。でも、きっとそれはない。

なぎ君がお仕置きするとしたら、それは私にとってはきっととても苦痛で反省を促すものに違いない。



例えば食事量をみんなと同じにするとか……いや、そんなの恐ろし過ぎる。

なによりなぎ君、やっぱり私に遠慮してる感じがする。私は、そういう扱い方をしていい女の子なのに。

なぎ君のそういう部分を受け入れられるのは、凄く嬉しいのに……とにかくこれは無し。



そして夏海さんも、変身も出来なければ魔法も使えない一般人。やっぱり私同様に戦闘はなし。

でも、戦闘以外なら出来る事は実はかなりたくさんある。だから私達はここに来ている。

ここはなぎ君の言う『仮面ライダー龍騎』の世界にある、『ATASHI JOURNAL』という週刊誌の社屋。



その社屋の中の一室で、ここの編集長の桃井玲子さんに案内されたのは編集長用の個室オフィス。

革張りの椅子がいくつかあって、その中の一つに私が。もう一つに夏海さんが言われるままに腰を落とす。

もう予想していると思うけど、私達はここにこの世界の仮面ライダーについて調べに来た。



というかね、おかしいの。たまたまここの雑誌を見たんだけど、そこに仮面ライダーが載ってたんだ。

それも全員揃った感じのショットで『一番人気の仮面ライダーはっ!?』って記事だった。

それを見て、ここの編集部に連絡したら快く編集長がお話を聞いてくれる事になって……うん、頑張るんだから。



私、やっぱりなぎ君だけに任せるなんて出来ないよ。後ろからでもやれる事、きっちりやってくんだから。





「ギンガ・ナカジマさんと、光夏海さん……だったわよね?」

「「はい」」



私達の前にありがたい事にショートケーキまで出してくれた女性が、その桃井編集長さん。

黒髪を頭の後ろでお団子状に纏めて、灰色のパンツルックのスーツを着ている30代後半の女性。



「あ、すみません。ケーキや紅茶まで……あぁ、夏海さんどうしよう。私達手ぶらで」

「そうですよね。えっと……うぅ」

「あぁ、気にしなくていいのよ? 実は貰い物が余っちゃってて……食べてくれると助かるの」



私達が顔を見合わせて困っていると、桃井編集長は優しく声をかけてくれた。

それだけじゃなく、私達を安心させるように笑ってもくれる。



「うちの編集部の子達にも分けたんだけど、それでも余りそうでちょっと困ってたから」

「「そうですか……あの、ありがとうございます」」

「いいえ」



だったら食べないのも失礼だと思い、私達はフォークを手に取る。



「それで早速用件なんだけど……あなた達は仮面ライダーについて」





突然、編集長の言葉が止まった。そして顔をしかめながら、右手で喉の前を押さえる。

それでその手から、あふれるように血が流れだした。編集長はそのままケーキの置いてある机の上に倒れこむ。

そこからまた床にずり落ちて、編集長は動かなくなった。



瞳を半開きにしながら、首元からはやっぱり血が流れて……床に溜まる。





「……な」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」





夏海さんが叫び声をあげると、この部屋のドアが開いた。

入って来たのは、黒髪をオールバック気味に二つに分けて、髪と同じ色のロングコートを羽織った男性。

私は自然にそちらの方を見てみると、男性は慌てた顔で挨拶も無しに室内に入る。



多少慌てた顔になってるのは、夏海さんの叫び声を聞いたから。



そしてその人はすぐに編集長に駆け寄って、顔に手を当てて脈を見つつ声をかける。





「編集長っ! ……桃井さんっ!」



だけど、返事がない。私と夏海さんはあまりの事態に呆然と立ち尽くすだけで、行動が遅かった。



「誰か救急車っ!」





そう叫ぶとその人は私達の方を睨み気味に見る。というか、私達の持っているフォークを見る。

そこまで来てようやくこの状況がマズい事に気づくけど、申し開きをする前にあの男の人が近づく。

近づいて自分の一番近くに居た夏海さんの右手を掴む。そして私達を睨みつける。



その瞳の中には、明確な怒り。きっとこの人は編集長の近しい人なんだと思った。





「お前らがやったのか」





首を横に振るけど、それでなんとかなるワケがなかった。……こうして、事件は始まる。



私達は結果的だけど、またまたなぎ君達に頼るしかない状況に追い込まれてしまった。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



さてさて、今日から龍騎の世界。なので未だ包帯だらけのユウスケも無駄にテンションが高い。

でも僕ともやしは、今ひとつ微妙な感じだった。その原因の一つは、『ATASHI JOURNAL』。

ギンガさんと夏みかんが入手した、この世界でトップを取り続けてるらしい週刊誌。



その雑誌曰く、この世界では仮面ライダー……龍騎達はミラーワールドで法のために戦う戦士って事になってるらしい。



つまり、みんなに認知された上で平和的に過ごしてるのよ。それで何をしろと?





「てゆうかさ、ユウスケ」

「なんだよ、恭文」

「あの沢城みゆきボイスな白いコウモリは、マジでこのまま? どう考えても怪しいでしょ」



街……地球で言うところの新宿駅近辺に街並みが似ているところを歩きながら、僕はユウスケにそう聞いてみた。



「まぁまぁ、いいじゃないの。ほら、旅は道連れ世は情けって、栄次郎さんも言ってたし」



でもユウスケは、やっぱりこんな風に答える。それもめっちゃいい笑顔でだよ。



「なによりその栄次郎さんだって、にわとり捕まえてくれたからコウモリの事気に入ったみたいだし」

「……それでなんとかなるとは思えないけど」

「ま、そこはどうでもいいだろ。問題は……俺とお前の格好だ。なんだよ、これ」



そして僕達の右隣を歩いているもやしが、歩きつつも改めて自分の格好を見る。

なお、僕達は黒のスーツにひまわり型の金色のバッジを襟元に付けて、四角い黒縁メガネなんてかけている。



「しかも勝手に髪型までセッティングされてるし……てーかこれ、弁護士?」



弁護士が付ける金色のバッジは、ひまわりを模した形の中に公平さを表す天秤が小さく描かれている。



先程、『ATASHI JOURNAL』の桃井玲子編集長が編集部内で殺害され



僕ともやしがそれを付けているという事は、僕達はこの世界では弁護士という事になる。



「じゃあアレだ。誰かの弁護して、それで世界を救うんだよ。リアル逆転裁判だな。『異議ありっ!』ってやるんだよ」

「あ、ユウスケの世界にも逆転裁判あるんだ」

「あぁ。……あ、もしかして」

「ん、僕の世界にもあるよ? 一時期ハマったなー」

その場に居た住所不定無職の光夏海、ギンガ・ナカジマ両容疑者がその場で現行犯逮捕されました



さっきから聴こえてる声は、近くにある街頭テレビのもの。しかし、殺人事件とはまた物騒な。

ビルの壁に備え付けられている巨大なモニターだから、街の雑踏にも負けないくらいの音量で……え?



「バカ、そんな事あるわけないだろ。大体誰の弁護するってんだ」



僕は視線を上げて街頭テレビを見る。それを見て、また一瞬思考が固まった。

それでもどうするべきか考えた。なので、とりあえず声を絞り出してこう言う事にする。



「もやし、その心配いらないわ」

「なんだと?」

「アレ」





僕は呆然としながらも、右手で街頭テレビを指差す。もやしとユウスケも僕が指で差す方を見て、愕然とする。

だって……そこには凶悪犯な空気丸出しな夏みかんと、泣きそうな顔のギンガさんの写真が出てたから。

なお、写真だけでなく二人の名前と年齢まで出てる。てゆうか夏みかん、20歳って……僕より年上だったんだ。



あのKYっぷりからは想像出来ない驚愕の事実が、画面の中に存在していた。



あれだ。今年の成人式もやっぱり大荒れだったのは、夏みかんのせいなんだ。





両容疑者は硬くなに容疑を否認しており、警視庁では被害者との関係性を調べると共に、動機などを現在調査中との事です

「夏海ちゃんとギンガちゃんが……殺人容疑っ!?」



こうして事件は始まった。というか、この世界で僕達がまずやらなきゃいけない事はここらしい。

冤罪にかけられてしまったギンガさんを、何がなんでも助け出す事。……うん、ギンガさんがこんな事するはずないし。



「……あのバカ、とうとうやったか。それもギンガマンにまでど派手に迷惑かけやがって」

「いつかやるんじゃないかと思ってたけど……それでもギンガさんに迷惑かけるなよ、あのバカみかんが」

「あぁ。……って、おいっ!」










世界の破壊者、ディケイド。8つの世界を巡り、その瞳は何を見る。



『とまとシリーズ』×『仮面ライダーディケイド』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄と破壊者の旅路


第5話 『龍騎の世界/バトル裁判・Dead or Alive』










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さてさて、ギンガさんが冤罪なのは僕ともやしで既に決定済み。うん、当然だよね。

では冤罪にかけられたギンガさんはどうなるのか? 当然だけど、裁判にかけられる。

まずこの世界での裁判は、裁判員制度によって決まる。ここは今の日本と同じ。



ただし……この裁判員がマトモじゃない。裁判員全員が、この世界の仮面ライダーなのよ。

まず事件を立件した検事に弁護士に被害者の関係者数人が、該当事件の裁判員に選ばれる。

そしてそれぞれに、龍騎に出てきたライダーに変身するためのデッキが支給される。



ようするにこの世界でのライダーは、決まった人間がずっと変身して戦うというものじゃないの。

事件の裁判が終わるまでの間、支給されたデッキで戦うというだけの話。ただそれだけ。

とにかくその仮面ライダーに変身するデッキを渡されて、裁判員はミラーワールド内に突入。



そこで互いの事件への主義主張をぶつけ合いつつ、最後の一人になるまでライダーバトルを行う。

ちなみに、ミラーワールドで他のライダーに倒されても死亡扱いにはならないらしい。

単純に弾き飛ばされてデッキを消失し、参加権利をなくすだけ。この世界のWikipediaに書いてた。



そして最後の一人が、その事件の判決を被告人に下す。なお、下す判決には一切制限は無いらしい。

相手が例え冤罪でも死刑にしてもいいし、確実に有罪だとしても無罪にしてもいい。

なんていうか……色々ととち狂ってるよね。僕達の常識では思いつかないレベルだよ。



しかも事件の関係者からも裁判員を選出するという事は、その中に犯人が居る可能性もある。

過去にもそういう事例が何件かあったっぽいのよ。なのにこれなんだから、ちょっと司法の神経を疑ってしまう。

しかも僕達が見たみたいに雑誌で特集されているところを見ると、これはもう一つの側面もある。



ようするに、一種のショー的な扱いも受けてると僕は思う。……まぁここをとやかく言うのはやめておこうか。

ここは僕達の世界じゃないし、この世界にはこの世界のルールがある。

ただ、有罪確定な夏みかんはともかく、そのルールのせいでギンガさんが死刑になってもマズい。



ちなみに、『いくらなんでも態度ひどくない?』とは言う事なれ。だって僕、夏みかんとは会ったばかりだし。

ギンガさんと違って、信用出来る要因が0なのよ。『カッとしてついやってしまった』ってのもあるかも知れない。

ギンガさん辺りは、性格的に人を殺すなんて出来なさそうだし……うん、出来ないと思う。



僕とは違うから。なので、夏みかんに関しては『実際はどうか分からない』と言った方が正解かも。

でもそんな僕ともやしが全くの同意見って言うのが、色々とびっくりではあるけど。

という事で、僕達は二人が勾留されている警視庁にやって来た。理由? 弁護士だからですけど何か。



どうやら服装が変わると、マジでこの世界でそういう立ち位置になれるらしい。

クウガの世界でも僕達、警官って扱いだったしね。こういうところは本当に便利だわ。

なのでそんな便利な立ち位置を徹底利用するために、僕達は勾留室に入る。



部屋の中には、俯きながら灰色で長袖の一張羅を纏ったギンガさんと凶悪犯が居た。





「弁護士を呼んだか?」

「二人揃ってやって来たよー」



それで二人が僕達を見て、ギンガさんが表情を明るくする。なお、手錠はしっかりと付いてる。



「あの、すみません。関係者以外は」

「門矢士。この凶悪犯の」



もやしは自分を追いだそうとした警官に向かって、バッジを見せつける。

襟元を掴んで見えるのは、司法の公平さの象徴であるひまわりと天秤のバッジ。



「弁護人だ」

「失礼しましたっ!」

「なんですってっ!? 士くん、誰が凶悪犯ですかっ!」



夏みかんが立ち上がって、もやしに両手に親指を立てて襲いかかる。

もやしは右手をかざし、人差し指で手錠の間の鎖を押さえて、その手を止めた。



「……すみません、この凶悪犯の手錠は後ろ手にかけてもらえます?」



だめだ、バカ過ぎる。だからギンガさんも若干呆れた目で見てるくらいだし。

KYみかんがこれ以上暴走すると、事態が悪い方向にしか動かない。なので、権利を徹底行使だよ。



「じゃないと、今みたいに平然と襲いかかってくるんで」

「はい。分かり……あの、君は」



……なんだろう。たったこれだけで子どもだと思われてるのがすごく伝わるのはなんで?

変だなぁ、色々とおかしくなってる感じがするんですけど。



「蒼凪恭文。そこの凶悪犯と違って冤罪の罪で囚われたギンガ・ナカジマの」



そして僕も同様にして見せつける。まぁまぁこのバッジの公平さがこの世界にあるかとかは、とりあえず置いておいた上でだよ。



「弁護人だよ」

「し、失礼しましたっ!」

「とにかく、手錠の方はよろしくお願いします。
ギンガ・ナカジマはともかく、こっちの光夏海容疑者は前科もたっぷりありますし」

「はっ!」



いやぁ、階級ってやっぱりあると便利なんだねぇ。人を顎で使うこの感覚はたまらないよ。……そっか。

だからなのはもフェイトもあのバカ提督も、あんなに僕に局入りを勧めてたんだ。うん、ようやく納得したよ。



「こらー! あなたなんですかっ!? 人を凶悪犯って言わないでくださいっ!
私はなにも……って、痛いですっ! 本当に後ろ手にしないでっ!」

「こら、おとなしくしろっ!」



色々大変そうな夏みかんは置いておくとして、僕達は口を開けてポカンとしてるギンガさんの向かい側に座る。

なお、ポカンとしていたのは一人だけじゃない。大体20代前半の男の人も居た。



「……あの、弁護士さん?」

「えぇ」



髪の色は茶髪で、目はくりくりとして可愛らしい感じ。

青のフード付きのトレーナーにジーンズというスタイルで、結構ラフ。



「というか、あなたは」

「なぎ君、こちらは辰巳シンジさん。……殺された桃井編集長の下で働いてたそうなの」



こんな状況でも、ギンガさんはしっかりそこの辺りの説明を入れてくれる。

なんだろう、聞いててちょっと悲しくて涙ぐんでしまった。



「あぁ、左様で。で、ギンガさん……なにやってるの?」

「……ごめん。でもあの、なぎ君が弁護人ってどういう事?」

「さぁ、どうなんだろうね。お試し彼女でもしっかり助けろって言う、神様の思し召しじゃないの?」



実際はまたまた服が変わっただけだけどね。でも、ギンガさんもそこの辺りを察したらしい。

僕がお手上げポーズでそう言うと、少し苦笑し気味に『そっか』と言ってくれた。



「で……まぁまぁそこの凶悪犯は本能むき出しで襲って、無慈悲に命を奪ったとして」

「うん」



ギンガさんは俯き気味にそう返してから、すぐに顔を上げて首を横に振った。



「違うよっ!? なぎ君、容赦なく夏海さんを犯人と決めつけないでっ!」

「いや、他に犯人居ないでしょ。あ、もちろんギンガさんは冤罪だって信じてるよ?
ギンガさんはそんな事する人じゃないし。うん、大丈夫。分かってるから」

「そこは嬉しいけど、今はそういう話じゃないよっ! というか、他に犯人は居るよねっ!
私も夏みかんさんも、桃井編集長には直接手も触れてないんだからっ!」



いや、でも……夏みかんだからなぁ。夏みかんなら殺気でどうにか出来そうだし、やっぱり疑いは消えないよ。



「ギンガマン、お前は優しいから夏みかんの事を考えて一緒に捕まってしまったのかも知れない。だがな、それは間違いだ」

「だから違いますよっ! 士さんも平然と犯人扱いはやめてくださいっ!
むしろそれは私にやりませんっ!? ほら、士さんとは会ったばかりですしっ!」

「そうかもな。だが、コイツの凶悪さを知っているとそれが出来なくなる。……で、アンタ」



ようやく後ろ手に拘束が終わった夏みかんが椅子に座ったところで、もやしが被害者の部下の人を見る。



「はい」

「見たのか? この凶悪犯が」

「おいっ!? ホントあなた達いい加減にしてくださいよっ!」

「いたいけな女性を、残酷に手にかけるところを」

「いえ、見てません。というより」



シンジさんが、ギンガさんの方を見る。ギンガさんはその視線を受け止めながら頷いた。



「あのね、なぎ君。まず私達……本当になにもしてないの。
突然桃井編集長が倒れて、首から血が流れて……だし」

「じゃあなんで犯人と決めつけられたのよ。それだけなら」

「フォーク持ってたせいなの。桃井編集長からケーキを出されて」

「ショートケーキです。苺の乗った……ショートケーキ」



思い出して場違いに嬉しそうにする夏みかんを見て、もやしが鼻で笑った。



「ケーキ? やっぱりお前、死刑だな」

「士くんっ!」

「それでね、その場には私と夏海さんと桃井編集長だけしか居なかった。
その部屋は結構高い階層に有って、出入口も一つしかない」



つまり、擬似的な密室空間だったわけか。施錠どうこうじゃなくて、人の出入りなどが限られていた。



「もちろん、私達以外の第三者が部屋の中に侵入した感じもない。つまり」

「つまり状況証拠だけで犯人と決めつけられて、遠慮無く勾留されちゃったと」

「うん。確かに私達が怪しいのは分かるんだ。あの状況なら、私達がやったと思われても仕方ない」



さすがにギンガさんは捜査官だから、ここの辺り冷静だよ。そこで唸って叫ぶ事しか出来ないバカと違って。



「ギンガさんも無視しないでくださいっ! というか、仕方なくないですよねっ! こんなの言いがかりですっ!」



でも、そんな言葉もギンガさんは無視ですよ。……それはまた、なんというかアレだね。なんかひどくない? 

もしかしてここの警察、ライダーバトル起こすためにそれっぽい奴らは適当に逮捕しまくってるんじゃ。



「死因は、首の刺し傷だそうなんです。前と後ろからほぼ同時に刺されて、即死だったとか」



補足を入れるように言ってきたのは、シンジさん。それを聞いて、また改めて考える。で、結論を出した。



「あぁ、だからフォーク持ってて怪しまれたんだ」



ようするに前後から襲ってザク……だよ。まぁまぁそりゃあ疑わない方がどうかしてるって言うくらいだね。



「そうなの。あ、編集長は私達が出されたようなケーキや紅茶には手をつけてないから、毒殺というのもない。
というか、あの死に方はそういう感じじゃなかった。首を押さえながら、そのまま……だったし」



ギンガさんがそれなりに冷静で助かった事がある。それは現場の状況をある程度話だけで把握出来たから。

確かに毒殺で刺し傷が死亡原因はおかしいよなぁ。うーん、遅効性の毒かとも思ってたんだけど、違うか。



「なら傷口の照合とかは? あとは血痕とか、ルミノール反応とか」

「というかギンガマン、それだと返り血とかモロに浴びるんじゃないか? フォークが凶器なら至近距離だろ」

「あ、そうだな。それを喉に突き立てたなら……ギンガちゃん、そこの辺りはどうだ?」





まず本当に凶器としてフォークを使ったなら、血を拭き取ってもルミノール反応が出てくるはず。

……あ、これは血の付いたところに特殊な液をかけてから、これまた特殊なライトに当てる検査の事なの。

血が付いてるなら、ライトに反応して付着部分が発光するんだ。それがルミノール反応。



あと、その手に持ってたフォークと被害者の傷口の科学的鑑定も、今の技術なら可能だよ。



もちろん傷口の程度にもよるけど、それが照合しなかったなら疑いなんて楽に張れるはずなのに。





「私もその話はしたんです。返り血も当然ないし、もし疑うなら他の証拠をちゃんと提示して欲しいって。
でも、検事も警察も全然取り合ってくれない。『全部は裁判で決まる事だ』って言うだけで」



首を横に振りながら、ギンガさんがここで初めて困惑するような表情を見せた。



「なにより、こんなの予想外過ぎる。逮捕されてからまだ一日も経ってないのに、もう裁判が始まるなんて」

「……確かにね」





いくらなんでも、捜査方法がズサン過ぎるでしょうが。いや、被疑者に対して情報を公開しないだけ?

よし、ここの辺りはあとで口八丁手八丁で聞き出しておこう。大丈夫、僕は今弁護士なんだから。

でも単純に被疑者に対して情報を出してないだけで、実際に証拠固めとしてやってる可能性はある。



というか、やらなきゃおかしい。そうしないと立件しても裁判で罪に問えないもの。

あとは今言ったみたいな、立件のスピード? こんなの、ミッドでも考えられない。

基本的には逮捕して勾留。それから証拠固めと尋問を行って被疑者の様子を見るのが常識。



その上で被疑者の様子等から立件する必要がないと判断されれば、釈放される。

もし継続捜査の必要があるなら、そこは拘留期間を延ばして調査と尋問を続ける。

それで裁判にかける必要があると判断されれば、立件して裁判所で裁判にかけられる。



そこで弁護人と裁判官が争って、今の日本だと裁判員がそのやり取りを聞いた上で判決を下す。

これが基本的な正しい裁判のやり方だよ。ミッドチルダも差異はあるけど、基本的には同じ。

あのね、普通に24時間以内に立件なんてありえないから。例えば日本でも逮捕後は最低でも48時間は勾留だよ?



それから検事によって、立件するか否かを決めるんだから。だから、最低でも取調べも込みで48時間はかかるものなの。

そこから考えれば、この世界の司法制度がどんだけ僕達の世界からかけ離れているかは理解してもらえると思う。

……ヤバい、なんかリアルに頭痛くなってきた。そんな世界で二人を弁護して取り戻せ? どうやれって言うのさ。





「とにかく、私もギンガさんも何もしてないんですっ! 信じてくださいっ!」

「あ、俺は信じるよ? な、士」

「どうだかな。というか、これじゃあ無駄だろ」

「おいっ! ……なぁ恭文、お前は違うよな? だって俺達はチームなんだしよ」



今まで空気だったユウスケが、結構必死気味に僕を見る。なので僕は、当然首を横に振った。



「ユウスケ、悪いけど僕も同じ。僕達が二人を信じたところで無意味だね。
このまんまじゃ、無罪を勝ちとるのは不可能。下手したら二人はこのまま死刑だ」

「なんでだよっ! だって二人は何もしてないんだぞっ!? そこは明白じゃないかっ!」

「ユウスケさん、実は私も同意見なんです。正直、みんなが私達を信じてくれても……それだけじゃあだめです」



驚きながらギンガさんの方を夏みかんとユウスケが見る。二人の視線に返すように、ギンガさんは頷いた。



「このままじゃ私達、どんな手を使ってもここから出られない。
……なぎ君、ごめん。私、やっぱりなぎ君に迷惑かけまくりだよね」

「あぁもう、そんな泣きそうな顔しない。とにかく手を考えてみるから、ギンガさんはしばらく待ってて」

「……うん」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



それでこの後に担当の刑事や検事のところに出向いて話を聞いた。証拠はあるのかと。疑うなら証拠を見せろと。



ただ、無駄だった事は言うまでもない。みんな口癖のように『ライダーバトルで全部決まる事』と言うだけ。




だから帰り道……街の一角をあのシンジさんと一緒に歩きつつも、僕は内心頭を抱えるのよ。





”どうするんですか、これ”



アルト、何も言わないで。てゆうか、それを聞きたいのは僕とギンガさんも同じなんだから。



”今のままじゃさっき結論が出た通り、間違いなく私達の手で二人を助けるのは不可能ですよ。
二人を無罪にしてくれる奇特な人がこのバトルに勝つのを、祈る事しか出来ませんよ”

”うん、分かってる。それでその理由は……やっぱりライダーバトルだよ”

”えぇ。この世界の司法と警察機構はどうも、ライダーバトルが大好きなようですし”





僕達の現時点の結論としては、もうここしかなかった。この世界はライダーバトルが大好きなのよ。

もっと言うとこの世界では警察や司法そのものが、ライダーバトルに依存し切ってるんだよ。

だから僕達の世界では行われて当然の事が、全くされている気配がない。もちろんここにも理由がある。



僕がさっき言ったような事をしてもしも立件出来ないと、バトルが成立しない。

もしくは成り立った後で妙な事が分かってバトルが中止になっても、司法的には困るらしい。

刑事や検事と話しててそこは強く感じたよ。僕達、完全にKY扱いだし。



だから何もしないし教えられない。僕とギンガさんが疑問に思った事くらい、すぐに調べられるはずなのに。

ようするに、無罪にしたかったらライダーバトルで何とかするしかないって事だね。

その上雑誌であんな特集組まれてるくらいだし、このシステムは一般市民からも受けがいいのはもう明白。



多分警察と司法は市民の人気取りのために、冤罪気味の奴でも容赦なくとっ捕まえてライダー裁判にかけてる。



これはきっと裁判じゃない。犯罪者の将来を対価にして市民に提供している、最高の娯楽だ。





”それになにより、もう既に裁判が始まってしまっているのも問題です”

”うん、これだと僕達はライダーの一人にはなれない。スタートダッシュが遅過ぎた”

”今更言ってもしかたない事とは言え、今回は致命的ですね”





マズい、もう夏みかんを凶悪犯扱いして遊んでる場合じゃない。このままじゃ僕達は何も出来ない。

今の現状では、せいぜい証拠を集めて無罪を主張する事くらいしか出来ないよ。

一応法律的な制度で『問題アリ』とされる場合には、バトルの中止申請も出来るらしい。でも、多分無駄だ。



理由? 簡単だよ。……そんな事したら、せっかくの『娯楽』がパーになっちゃうから。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



拘置所というのは、基本的に一人部屋になる事はない。数人纏めて押し込むものらしい。

ミッドだとこういうのは考えられないのにな。犯罪者同士の共謀を防ぐために、基本全員個室扱いだから。

なので、私は夏海さんと同じ部屋に勾留される形になった。ただ、今回はこのシステムに感謝してる。



おかげで迂闊な行動の多い夏海さんに、しっかりと話をする事が出来るんだから。





「じゃあ、士くん達が弁護人でも」

「えぇ。あの話通りに裁判が始まってるなら、もうライダーの席は埋まっている。
普通ならバトルに参加は無理です。なぎ君達は、もはやギャラリーの位置に居るしかない」



もしかしたら士さん……本物の仮面ライダーならいけるかも知れないけど、なぎ君は無理だよ。

だってなぎ君は、仮面ライダーなんかじゃない。魔導師という事を除けば、普通の人間なんだから。



「だから夏海さん、これまでみたいに警官や司法関係者に反抗的な態度を取るのは絶対にやめてください。
……さっきなぎ君が夏海さんを後ろ手に捕縛するように言ったのだって、これ以上私達の立場を悪くしないためですよ?」

「なんでですかっ! 大体、こんな裁判そのものがおかしいですっ!」





うん、夏海さんの言う事は間違ってない。裁判は、本来はもっと公平に行われるべきだもの。

この場合の『公平』は、徹底した調査と検証の上でという意味。それが公平さの一つ。

それはどんな犯罪者にも与えられるべき権利とも言える。でも、この世界のシステムにはそれがない。



全ての結果をライダーバトルに勝ち残った人間に任せて、その公平さを守る事を放棄してしまっているもの。





「おかしい事はおかしいって言わなきゃ伝わりませんっ! 違いますかっ!?
なにより、どうしてアレが私達のためになるんですかっ!」

「じゃあもしもライダーバトルに勝ち上がった人が夏海さんの行動や発言を知ったら、どう思います?」



それでも、私は少し厳しめに言う。この人は、きっと分かってない。私達がこの世界にとって異物だと。



「勝ち上がった人もそうだし、周りの人達はそれを当然のものだと思っている人達ばかり。
それを『おかしい』って言っても、そんなの無意味です。むしろ反感を持たれても仕方ない」



私達にとっては非常識でも、この世界の人達にとってはそれが常識であり当然の事。

この差を生み出す理由は、もう言うまでもないと思うけど……たった一つしかない。



「だってこの世界は、私達の世界じゃない。夏海さんは、そこの辺りの自覚が全く足りてません」



うん、問題はたったこれだけなんだ。この世界は私達の世界じゃない。だから声が届かない。それだけなんだよ。

それは異文化ゆえとも言えるし、私達がこれから旅を続けるなら絶対に気持ちを固めておかなきゃいけない事だよ。



「例えば前の世界の時だってそうです。下手をすれば最初の段階で親衛隊に目をつけられて、戦うハメになってた。
あなたの行動は、全体的に短慮過ぎます。だからなぎ君だって、あなたに対してはあれだけ厳しく言ってるんですから」





なぎ君が夏海さんに対して厳しい態度を取り続けるのは、多分そういう事なんだと思う。

……まぁ、本人に言ったらきっと『そんな事ないし。あのKYみかんがムカつくだけだし』って言うと思うけど。

手錠を後ろ手に拘束し直してもらったのだって、周りに居る警官の目を気にしての事だ。



当然どういう話をしたかも調書が取られてるだろうし、それであの暴力行動を継続はマズい。





「でも」

「でもじゃありません。……とにかく私はあんな真似をしても、ただ心象を悪くするだけだと思います。
拘留中なのに自分の弁護士にも暴力を振るうような人を、無罪だと思う人はどこにも居ません」



むしろ思う人が居たら会ってみたいよ。ちなみに、私には無理。

さっきの夏海さんの一連の行動や発言を見て、疑いを強めない人なんて居ない。



「当然バトルの勝者には、改めて事件資料を見る機会も与えられるでしょう。
その時にこんな事がバレたらどうするんですか。あなたは法の裁きの重さをナメてる」



なお、資料を見る機会が与えられる理由は当然、ちゃんとした判決を出すため。

でも正直、ここも自信を持って言えない。被害者の関係者も居るなら、私怨混じりで判決というのもありえる。



「無罪になりそうだったのが、心象を悪くして有罪になってもおかしくない。
あなたがさっき取った行動は、そういう結果を招く愚かで幼稚なものです」



だから表情がどうしても険しくなってしまう。夏海さんを威圧するだけだって分かってても、それでも。

それでも、言わないわけにはいかない。なぎ君達が私達を無理矢理に救出するという手は使えないんだから。



「私も……一応ミッドでは警官みたいなものですから。そこだけは自信を持って何度でも言えます。
あなたの行動は、状況を悪くするばかりで何も良くなんてしない。だから夏海さん、いいですね?」





そもそも救出しても、写真館の場所を掴まれてたらおしまいだもの。そこで運良く次の世界に行けるとも限らない。



だから私は、視線を厳しくして戸惑い気味の夏海さんを見る。一応、こういうのは私の方が先輩だもの。



私だって次元世界に関わってる人間。別の世界へのあれこれに関しては、ちゃんと認識の中に入ってる。





「この世界では、私達の方が非常識なんです。ううん、これから行くどの世界でも同じ。そこは忘れないように」

「……分かり、ました。納得は出来ませんけど……我慢します」

「えぇ、それでいいです。……本当にお願いしますね」





一応でも分かってくれてよかった。まぁ、かなり不満そうなのがちょっと気になるけど。

ただ、ここは仕方ない。拗ねたように膝を抱えていても、ここは仕方ないんだよ。

少なくとも私には夏海さんをこれ以上は責められない。だってこの人、本当に普通の人なんだし。



でも、本当にどうしよう。私このままだと……やっぱり、旅は怖いかも。

私、もっとなぎ君とお話すればよかった。『旅の中でこういう事があった時、怖くない?』とかね。

なぎ君だって、旅の中で危険な目に遭った事はあるはず。



それを聞いておけば、不安にならなかったのかな。……ううん、違う。

多分この不安は、旅の事やこれからどうなるかという事に関してじゃない。

私も局員。それで犯罪者を逮捕した事は、結構ある。



これでも戦闘魔導師だから。だからこそ、不安が消えない。なんだかね、考えちゃった。

もしも私が今まで逮捕した犯罪者の中に、今の私達みたいな人が居たのかなってどうしても考えちゃうの。

私は今まで、法や組織のルールにあぐらをかいたりせず、ちゃんと捜査してたのかなと。



この立場になって、ようやくそんな事を真剣に突きつけられたせいだね。なんというか、皮肉だよ。





”ギンガさん、聴こえる? ギンガさん”



そんな不安に駆られてる時に、頭の中で声が響く。これ、思念……あ、そっか。

私は本当にバカだ。私となぎ君には、魔導師だからこその繋がり方がある。



”うん、聴こえる。なぎ君、なぎ君……なぎ君”

”そんな何回も名前呼ばなくていいから”



思念通話なら、面会の必要はない。距離の問題はあるけど、デバイスの力を借りればキロ単位は楽にやれる。

そうだよ、これでなぎ君と情報交換し合えばいいんだ。よし、ちょっとだけ希望が見えてきた。



”それでね、一応検事や担当の刑事にも弁護士バッジの権力振りかざして話聞いたけど”

”うん”

”権力振りかざすのって、楽しいよね。僕……ようやくみんなが『局員になれ』って言った意味が分かったよ”



……はい? えっとなぎ君、君は一体何を言っているのかな。あの、ちょっと理解出来ないんだけど。



”いや、権力は最高の武器だね。それで人に強制的に言う事聞かせるのは、背徳感的な悦びだわ。
僕、これなら局員になっていいかも。下の連中を顎でこき使いまくって、自分は好き勝手しまくるの”

”なぎ君、違うよっ!? それは権力者として凄くダメな方向に走ってるからっ!
あと、多分みんなはそういう意味合いでは言ってないよっ! もちろん私もっ!”

”それで結果から言うと、さっぱりだったわ”

”無視しないでっ! お願いだからいきなり話を戻さないでっ!”





あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! フェイトさん、みんなもごめんなさいっ! 全部は私の不始末ですっ!

なぎ君が、なぎ君が何かいけない悦びに目覚めちゃったかもっ! 色んな意味でなぎ君はやらかしそうで怖いよっ!

よし、これで戻った後に『局員になる』って言い出したら、絶対に絶対に私止めるよっ!



もうね、本当にそうした方がいい気がするんだっ! うん、今の発言聞いてたらそうなるよっ!

なぎ君は局員になんてならなくていいっ! 私はそのまんまのなぎ君が一番なんだからっ!

……そこまで心の中でツッコミ続けて、私は自然と笑った。夏海さんが怪訝そうな顔をするけど、ここはいいの。





”なぎ君、ありがと”

”……なんでいきなりお礼?”

”いいの。私が言いたかったんだから”



なぎ君、きっと私が不安がってると思ってこういう話をしてくれた。

いつもの調子でボケれば、私がいつもの調子でツッコむって思って……そうだよね?



”それでなぎ君、反応としては私がさっき話した通りな感じ?”



元気の出てきた私は、そのまま現実にまた立ち向かう事にする。だって、今はやっぱり落ち込んでる場合じゃないから。

今は、きっと戦う時。なぎ君だけじゃなくて、私だってその姿勢じゃないときっとこのまま終わっちゃうもの。



”うん。ギンガさんとそこのバカみかんが言われた通りの返事しか返ってこなかった”

”……やっぱりかぁ。一応私の方も夏海さんに行動に注意するようには言った。
でも……納得し切れてないみたい。今も膝を抱えて膨れた感じだし”





私達は一応でも、彼氏彼女な繋がりではある。



お試し期間でも、いつ私が捨てられるか分からなくても、そこは変わらない。



だからなぎ君が今、念話しながら困った顔になってるのが目に浮かぶ。





”……あのバカは本当に”

”でもね、なぎ君”

”何?”

”私は夏海さんの反応は仕方ない事だと思う。私達は『別の世界』という概念との付き合いが長いわけじゃない?
なぎ君に至っては管理外世界出身で、私と違ってルールや文化も違う世界にあっちこっち行ったりもしてる”





ようするに、夏海さんは私達にあるようなそういう異文化などに対して付き合う体勢が無いって事かな。

なによりいきなり自分の世界が壊れかけて、知らない世界を旅する事になったんだもの。

それで多少焦りみたいなものがあって、だから余計に過剰反応しちゃうとしても、そこは仕方ない。誰も責められない。



それは私だって同じ。正直、こういう形での旅は初めてだから……かなり不安もある。

そこもさっき言った不安と相乗されている感じかな。不安に不安がミックスされて、エラい事になってるの。

だから楽しそうななぎ君や士さんを見てると、疑問に思う時がある。



二人はそういう不安とかに駆られないのかなと、かなりね。夏海さんだってきっと同じだよ。

夏海さんが色々口うるさくなっちゃうのは、きっと元の世界へ帰りたいと思う気持ちが空回りしちゃうからじゃないかな。

本当は自分でなんとかしたいけど、なんとも出来ない。結局士さん達に頼るしかない。



でも二人はいつもあんな感じで……だからつい口うるさくなる。私もね、そこは凄く分かるんだ。

私だって、同じだから。どんなに一緒に戦いたくても、今は絶対に無理。そんなの、だめ。

なんかね、JS事件で大怪我したのを今更ながら後悔してるの。こんな怪我、したくなかったって思ってる。



してなかったらきっと、サポートくらいはちゃんと出来てたはずだから。私、本当にダメだ。



私は大事な時をいつも逃す。逃して、結局なぎ君一人に泥をかぶらせてしまう。





”ここでいきなり夏海さんにそういうのに慣れろって言っても、それは無茶振りだよ。
なぎ君みたいに旅の中に居場所や自分の時間がある人ばかりじゃないんだから”



少なくとも私は違う。多分私の1番の居場所は、私の仕事場や家族の中だから。

……やっぱり道が違う事に気づいて、胸が締めつけられる。それが凄く、苦しい。



”まぁ、それはね。でも、そこを要求させてもらわないと困る。別に今回だけの話じゃない。
キバの世界の時だって、初っ端で暴力沙汰起こしかけて大変だったじゃないのさ”

”……確かに。あ、それでね……なぎ君”

”何?”

”実はブリッツキャリバーが、ちょっと気になる事を言ってたの。
でもここの人達じゃ取り合ってくれそうもないし……もしかしたら、何かの役に立つかも”





まぁキバの世界やこの世界が特殊だったとも言えるけど、行動に気をつけるべきというのは分かる。

こういう時……フェイトさんだったら、どうしてたかな。フェイトさんは、もうなぎ君の全部を受け入れて支えようとしてる。

私とお試し的に付き合ってても遠慮無くアプローチしてるっぽくて、それで前よりずっと綺麗になった。



それでね、ちょっとだけ電王の一件の時にお話したんだ。それで……宣言された。遠慮無く追いかけていくからと。

『ギンガや周りの事なんて気にしないで、自分のために大好きな子を支えていく』と、自信を持って言い切ってた。

だからどうしても思ってしまう。もしもここに居るのが私じゃなくてフェイトさんだったらと考えると、また胸が痛くなる。



私……なんでだろう。なぎ君が旅に出るのは、まぁ分かるの。

いつもの運の悪さかも知れないし、士さんに『世界を救え』と言った人の差し金かも知れない。

なぎ君は電王とも友達だし、仮面ライダーの関係者として関わるのも分かる。



でも、だからこそ分からない。分からないのは、私の事。

私はどうしてここに居るの? 私は、どうして旅に出る事になったんだろう。

もしもアレが偶然じゃなかったとしたら、私がここに居るのはどうして?



もしかしたら私にも旅の中で何かやるべき事が……あるのかも知れない。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ギンガさんと念話で情報交換をして、一旦会話を終了。でも、念話が通じるのはかなり安心出来る。



もし向こうの警官が妙な事してきたら、ギンガさん経由で報告してもらえるし。





「……しかし、本気でサッパリだったよな。アイツらてんで話にならないし」

「全くだよな。てゆうか、どうしてなんだ? ギンガちゃんも夏海ちゃんも、明らかに無罪だって言うのに」



それでもやしとユウスケはうんざりというかワケ分からないというか、そういう顔をしながら僕の隣で歩いてる。



「ユウスケ、簡単だよ。無罪放免にしちゃったら、バトルが起こらないじゃない。
バトルを起こすためには、立件して裁判をする必要があるからだよ」

「なるほどな。だからアイツらはこぞって俺達を『空気が読めないバカ』って言いたげな目で見てたわけか」

「正解。ライダーバトルは、市民にとっても娯楽になってるっぽいね。
それを提供しないと、司法や警察は市民から信じてもらえないんだよ」

「いやいや、それはないだろ。さすがにそんな理由が成り立つわけが」

「いえ、成り立ちます」



ありえないと言いたげだったユウスケは、そう言った人を見る。それは、シンジさん。



「……マジ?」

「マジです。ライダーバトルは人気がある反面、反対意見もかなり多いんです。ここ数年は特に。
即刻廃止すべきだと言う専門家も居ますし、全く問題が無いわけじゃありません」



だから僕ともやしも、シンジさんの方を見る。シンジさんは複雑そうな表情をしていた。



「今話が出たように、市民からすると娯楽になっている部分もあります。社会的に重大な事件の時とかには、特にですね。
そういう場合はバトルの様子がネット上で中継されて、それを見た視聴者は犯人への判決を想像しながら興奮するわけです」





そう言えばシンジさん、あの週刊誌の編集者さんって……あぁ、そっか。



もしかしたら実際にライダーバトルに参加した元裁判員の人達や、関係者の人達に会ったりしてるのかも。



だから今、ちょっと辛そうな感じで話すとか? それならまぁ、一応は納得出来る。





「ただ、そのために政府や警察はロクに捜査もしないでバトルを起こす事に終始してしまってる部分がある」

「だから恭文や士が話を聞いても、ナシのつぶてだったと」

「えぇ」

「それで僕が思うに、だからこそ逮捕して即日でバトル開催……ですよね?」

「そうです。時間が経つと、事件の話題性もやっぱり薄れちゃいますから」





ギンガさんや夏みかんの話を聞く限り、どう考えてもテレビで言ってたような動機云々の取調べはない。

まぁ当然だよね。早目早目にライダーバトルを起こしていかないと、ネタとしての新鮮度が無くなるし。

逮捕してから開催するまでにモタついてたら、市民は次の事件に興味が移っちゃう。



だから逮捕してロクに捜査もしないで、即でデッド・オア・アライブな状況に突入なんだよ。うん、そういうものよ?

もしも『人が死んだのにそんなワケあるか』と思っている人が居るなら、おのれは甘い。

今日テレビでやってたニュースを、翌日以降覚えてる人は余り居ないでしょうが。



そりゃあ連日報道してるとかならともかく、そうじゃないなら人は昨日やったニュースなんて、『今日のニュース』に流されて忘れちゃう。

話題や情報は、生物なの。鮮魚や生肉と同じで、早目に調理しないと腐って価値をなくす。

司法の人気取りのためにやってる部分があるとしたら、これはよろしくない。



だからこそバトルは迅速に開催される。事件という『情報』が世間の関心を引いている内に。

多分これ、開催の際に何かしらの金銭なり権利関係的な利益が発生しちゃってるね。

例えばネットで放送するなら、その映像の配信先のサイトとかさ。他にも考えられるものは沢山ある。



とにかく関わってるの全員が、バトルの開催に旨みを覚えても仕方ないだけの利益が生まれてるんだよ。

……なるほど、このバトルは下手をすると裏金の流れまで生んでる可能性があるわけですか。

くそ、もしそうだとしたらマジで腐ってるし。本気でこのバトルを潰したくなってきたぞ。





「ただ、これを導入する前と比べると犯罪発生率は明らかに低くなってるんです。そこは数年前からの統計でハッキリと分かるくらいに。
ようするにみんなが『捕まる=ロクに捜査もされないでバトル開始』というのを知っているので、犯罪を起こそうとしない」





でも、利益はまだあるらしい。そういうズサンさが、逆に抑止力になってる部分があるのよ。

だからこそこの世界の政府や司法も、ライダーバトルのシステムを維持し続けるんだよ。

というか、やめる理由そのものが無いでしょ。司法や警察には得しか無いんだし。



まず捜査のための人件費や時間を節約出来るし、バトルを市民が楽しめるようにするならクレームもつかない。

金銭的流れも発生してるなら、上の人間やそれなりに重要な立ち位置の奴らの懐はぽかぽか。

その上統計的にも犯罪が減少する。もし僕がその上の人間だったら、これを廃止にしたいとは思わない。



だって面倒かぶるのは、結局そんなシステムがある中で捕まったドジな犯罪者だけなんだから。





「うちの編集部でもライダーバトルの明るい部分だけでなく、マイナス部分も伝えていくべきだと……まぁ、桃井編集長が」



そう言いながら、表情が落ち込むのは当然だよ。だってその編集長はもうお亡くなりになってるわけだし。



「というか……門矢さんも、写真撮るんですね」



シンジさんは、もやしが首からかけている二眼のトイカメラを見る。

そして肩にかけていたショルダーバッグを開けて、またごっつい一眼レフのカメラを両手に持つ。



「僕も編集部では、カメラ担当なんです」

「あー、そうなんっすか。でも、コイツの写真はもうヒドくて」

「ユウスケ、見る目ないね。もやしの写真は一流なのに」

「全くだ。……というわけで、見ろ」



もやしは右手を懐に入れて、あるものを取り出す。それは今朝撮った写真の一枚。



「これは……また、個性的な写真ですね」



そしてシンジさんはそんな写真を見て、なぜだか困った顔をする。

……あぁ、そっか。もやしの写真が素晴らしくて、どう表現していいか困ってるんだ。



「そうだろそうだろ、俺の天才さが現れてるような写真だろ」

「うーん、もやしは写真だけは才能あるよね。この街並みの風景がまたなんとも」

シンジさん、ホントすみません。士は少々自信過剰なところがありまして。
あと恭文はセンスが個性的だそうなんです。
……割と致命的な方向で

……納得しました。まぁでも小学生くらいで弁護士の資格取るくらいですし、天才ってそういう個性的な感じが多いんじゃ」



あはははははははは、なんか僕すっごい天才少年って思われてる?

ねぇ、泣いていいかな。すっごい泣いていいかな。そしてもやし、笑うな。



「あ、それならせっかくですし」





シンジさんはそう言って、一眼レフを構える。それを見てもやしは僕を右腕で、ユウスケを左腕で引き寄せる。

なぜか肩を組む形に……いや、肩を組んでるのはユウスケだけ。僕は頭の上に肘を乗せられた。

それからすぐにシャッター音が響く。響いた後に、シンジさんはカメラのファインダーから目を離した。



離した時のシンジさんの顔は、どこか楽しげだった。それを見てまぁ、なんとなくだけど写真撮るのが好きなのかなぁーと思った。





「それでシンジさん」

「なにかな」

「察するにシンジさんもその……ライダーバトルに」

「……えぇ、選ばれました」



やっぱりか。だって『シンジ』だしなぁ。そりゃあそうなるよなぁ。だからこそ、今懐から取り出したデッキもアレなの。

黒字に金色の龍を思わせるレリーフが刻まれているデッキ。これは龍騎に変身するためのデッキだ。



「ただ」



でも、シンジさんは少し困った顔でそのデッキを懐に入れつつもまた歩を進めする。

それで僕達の方を見る。困った顔なのは、歩き出してからも何も変わらなかった。



「そのためにギンガさんや夏海さんからもお話を聞かせてもらったんですけど、どうも犯人とは思えないし……バトルへの参加を迷ってます。あと」

「さっき話してくれた色々な事情から、ライダーバトル自体にも疑念がある?」

「えぇ」





なるほど。だったらシンジさんにバトルに参加してもら……いや、だめだな。

それじゃあシンジさんに全部押しつけるのと同じだし。それで負けたら、マジで手の打ちようがなくなる。

そんな全賭けな手を使って、にっちもさっちも行かなくなるのは本当にマズい。



だったらもうちょっと僕達主導で動ける方向で話を進めるしかない。でも、僕はライダーじゃないでしょ?

……ライダーじゃない? でもでも、弁護士ではあるからバトルの参加資格はある。

つまりどういう形でもライダーであるなら、バトルに参加は出来るんじゃ。なお、人数関係はおそらく大丈夫。



既にバトルは始まってるけど、見た限りその辺りで制限っぽいのは見当たらなかった。

ただ、そのために総合的な参加人数が読み取れないのが怖いけど。あぁ、でもそうだよね。

元の龍騎をやたらと知ってるから、自然と『参加人数は12人』とかって勝手に決めてしまっていた。



でも、もし『弁護士・検事も含めた事件関係者が変身したライダー』が参加資格で、人数制限もないなら話が変わる。

……よし、この際ダメで元々だ。何もしないでギンガさんが死刑になったら、さすがにゲンヤさんに合わせる顔がないし。

スバル? 僕は六課にこそ戻ったけど、あのバカと仲間のつもりはないから問題なし。





「……もやし」

「なんだ、蒼チビ」

「もしかしたらもやしと僕なら、二人共助けられるかも」



歩きつつも僕がそう言うと、もやしだけでなくユウスケまで表情を変えて僕の方を見る。



「恭文、それ本当かっ!?」

「まだ確証はないし、可能性は低いだろうけど……僕の考え通りなら確実にもやしだけは動ける。
もやし、悪いけどここはメインで動いてもらうよ。僕はもやしより無理っぽい可能性が高いし」



まさかアレが、こんなところで使えるかも知れない状況が来るとは思わなかった。

でも、出来れば使わない方向で行きたい。使えるのは……残り8回だけなんだから。



「なによりちょっと準備もあるし、僕はユウスケと一緒に事件について調べてみる。
というか、証拠を揃えてライダーバトル自体を無しにする方向で考えてみる」

「だから待て。お前、何思いついたんだ。ちゃんと俺達に分かるように話せ」

「簡単だよ」



僕は左手を上げて、その人差し指を立てる。そして、ニヤリと笑う。



「もやし……仮面ライダーディケイドは、今は光夏海の弁護士でしょ?
そしてライダーバトルは、弁護士にも参加資格が与えられる」

「……なるほど、そういう事か。大体分かった。ディケイドとして、俺もライダーバトルに参加するんだな?
なによりもしコレがどっかの通り魔的な第三者の犯行じゃなければ、ライダーの中に犯人が居るかも知れない」



正解なので、僕はもやしの言葉に頷いて答えた。



「なら、上手くいけばライダーバトルを通して犯人が捕まえられるかも知れないって事かっ!?
少なくとも夏海ちゃん達は何もしてないんだから、それが出来れば二人の無罪が証明されるっ!」

「多分ね」





……まずライダーバトルは弁護士と検事の他に、シンジさんみたいな被害者の身辺の人も参加する。

なら、もし犯人がその身辺の人達の中に居て、ライダーバトルに参加してるとしたら?

もし裁判員に選ばれたとしたら、その人間は確実にバトルで勝ち残ろうとするに決まっている。



だってバトルに勝てば、胸を張ってギンガさんに有罪を言い渡せるんだから。

なら、犯人はバトルでハッスルしまくってる人間? 罪をなすりつけるために必死になってるとか。

まぁここはいい。犯人が参加していない可能性だってあるんだし、出来ればって感じだよ。



でも、ユウスケはそれでも嬉しいらしい。笑いながら僕の背中をバシバシ叩くし。





「恭文、お前天才だよっ! それなら俺達で二人を解放してあげられるっ!」

「ユウスケ、痛いっ! 痛いからっ! ……てゆうか、まだディケイドがミラーワールド行けるかどうか分からないのよ?」



もうここが1番大事なんだから。ここがダメだったら、僕の計画は完全におジャン。新しい方法を探すしか無くなる。



「いや、絶対に行けるっ! だって士は夏海ちゃんの弁護士で、仮面ライダーだぞっ!? 行けない理由がないだろっ!」

「お前……その自信はどこから来るんだよ。俺には理解出来ないんだが」

「もやし、不本意ではあるけど僕も同意見だよ。なんでこんな自信たっぷりで生きられるんだろ」

「そうだな。俺も非常に不本意ではあるが、同感だ」





まぁ色々と置いてけぼりなシンジさんを適度に放置しつつ、マジでミラーワールド行けるかどうかも実験しつつ、僕達は足を進める。



行き先は当然『ATASHI JOURNAL』。捜査の基本は現場百遍。



こっちの警察がザルなら、余計に僕達が自分で動いて調べるしかないのよ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



なお、ミラーワールドへはマジでいけました。それでもやしがゾルダとナイトに遭遇したりした。



まぁそんな事は置いておきつつ、僕達はシンジさんと副編集長の鎌田さんに案内される形で犯行現場にやってきた。



現状保持も頭に入れつつ、僕は丹念に現場を調べる。しゃがんで床の様子も見たりする。





「そちらの助手の少年はまた、頑張りますね。あらかたの事は警察がやっていたというのに」



なんて僕を見ながら言うのは、副編集長の鎌田さん。

大体40代後半くらいで、白髪の混じった髪を二つ分けにした人。



「副編、だめですよ。この子は小学生くらいに見えますけど、正式な弁護士資格が取れるくらいの天才なんですから」

「ほうほうそれは……ぜひ今度うちの雑誌で特集させて欲しいですね」



……ユウスケが何も言わずに、床を両膝をつきながら部屋を見て回る僕の肩にぽんと手を当てる。

なお、もやしは口元を押さえて笑っている。よし、コイツは後でぶん殴ってやる。



「すみませんねぇ。僕、自分の目で色々調べないと満足出来ないタチなんで。
……それで再確認なんですけど、さっき名前の出た『羽黒レン』って誰ですか?」



その人が一応の第一発見者になるらしい。もっと言うと、夏みかんの犯行現場を目撃した人。

で、その人はシンジさんにとってはあまりいい思い出の無い人らしい。だって名前を出す度に表情が苦くなるから。



「……うちの編集部で3年前まで働いていた記者ですよ。
ただ、突然他所に引きぬかれて辞めちゃいましたけど」

「元々は辰巳とコンビ扱いで働いてたんですよ」

「よしてください。昔の話です」



なるほど、やっぱり『シンジ』と『レン』だからそうなるのか。

……ならもしかして士がミラーワールドで見たナイトは、その人?



「あぁ、そう言えば」

「副編、何か」

「彼も確か、ライダーバトルに参加していたような」

「……レンさんがライダーバトルに?」



とりあえず机の下も見てーっと。うーん、やっぱり何もないな。

パッと見であるのは、首から流れた血の痕くらいだよ。



”第一発見者として考えるなら、アリですね。でも、3年前に辞めたならどうしてここに?”

”何か事情があるのかも。あとでちょっと事情聴取した方が”

”いいですね。警察がアテにならない以上、あなたが自分で動かないと……って、いつもの事ですか”

”うん、いつもの事だね。まぁこんな逆転裁判や相棒みたいなのは、基本少なめだけど”



いつもは管理局が全くアテにならないから、結局自主的に動く事が多いしなぁ。

例えばヴェートルのアレコレとか? リアルにアイツら役立たず過ぎるし。



「そう言えば鎌田さん、犯行時刻の時あなたはどちらに。
……あー、形式上の質問なので、深い意味はありませんから」

「そうですか、それはよかった。てっきり天才弁護士さんに疑われてるものだと思ってしまいましたよ」

「まさか。大体、疑う要素が0じゃないですか。この場に居てケーキ食べてたって言うならともかく」

「それもそうですね。それで私は……ほら、あそこのカフェです」



鎌田さんが窓際に寄って、視線である方向を示す。なので僕は一旦立ち上がって、その視線の先を見る。

そこは、この社屋のすぐ近くにあるオープンカフェ。今も何人かのお客さんが見える。



「あそこで出社前に毎朝コーヒーを飲むのが、私のスタイルです」





そう言いながら窓の外を見ている鎌田さんから視線を外して、僕はシンジさんを見る。



シンジさんは僕の視線の意図に気づいて、何も言わずに頷いてくれた。



つまり、毎朝本当にあそこでコーヒーを飲むのは本当の事と。まぁ、普通なら不可能だよね。





「あんな事が起きているとも知らずに」



言いながら鎌田さんは振り向いて、悔恨の表情を浮かべる。まぁ、ここはいい。

僕達は別にしんみり話をするために来たんじゃない。真実を確かめに来たんだから。



「あぁ、ちなみにケーキは食べていませんので」

「そうですか。なら0どころかマイナスですね」



僕は士とユウスケと顔を見合わせる。なお、士はただお手上げポーズを返すだけだったけど、ユウスケは違った。



「なら、次はその羽黒レンって人にも話を聞いた方がいいな。
第一発見者でもあるし、夏海ちゃん達以外の視点から現場の事を知る必要もあるだろ」

「そうだね。……鎌田さん、お忙しいのにありがとうございました」

「お役に立てましたか?」

「えぇ、それはもうバッチリ」

「なによりです。では……始めましょうか」



そうそう始め……僕が一体何をと聞く前に、鎌田さんはニヤリと笑いながら右手を懐に入れる。

そうして取り出したのは、青いカードケース。それを見て、僕とユウスケとシンジさんは驚きを表情に浮かべる。



「それ……ライダーのデッキっ!」

「えぇ」

「その言葉、待ってたぜ」





もやしはそう言いつつ、部屋の中の本棚の前に行く。なお、本棚の前なのは簡単。

そこにはガラス張りの棚もあるから。そこからでもミラーワールドには行ける。

それでもやしは本棚の前に到達する前に僕の方を真剣な顔で見た。それを見て、僕は首を横に振った。



もやしの視線の意図は、なんとなく掴めた。僕がこのデッキの事を知ってるかどうか確認したのよ。



でも、僕は知らない。僕の知ってる龍騎に青いデッキのライダーなんて……一人も居なかったはずだから。





「この裁判は、私が判決を下します」

「鎌田さん、なんというかそれは……水で攻撃する能力とか使えそうですね」

「おや、さすがは天才。そこまでお見通しですか」

「いや、だって魚っぽいですし」

「……確かに」





鎌田さんがデッキを本棚のガラスにかざすと、腰に銀色のベルトが装着される。

それはまるで鏡の中から出てきたかのように現れた。当然ながら、もやしも同様。

こちらは鏡から出てきてはいないけど、右手でもったバックルを腰前面装着。



それから変身ようのカードを取り出す。そして二人は同時にあの言葉を言った。





≪KAMEN RIDE≫

「「変身」」

≪DECADE!≫





それから二人の姿が変わった。もやしは当然ディケイド。それで鎌田さんは、青いサメのようなデザインのライダー。

各所にある丸い銀色のハードポイントは、カードで召喚した武器を装着するためのもの。

これが龍騎のライダーの特徴なんだけど……でも、やっぱりおかしい。僕はこんなライダーは知らない。



やっぱりこの世界は、僕の知っている龍騎とは違うみたいだ。まさか怪人だけでなく、マジで新ライダーが居るとは。





「じゃ、行ってくる」

「あぁ。……勝てよ、士」



もやしは左手を軽く振り、鎌田ライダーと一緒に本棚のガラスに吸い込まれた。

それで、残されたのは僕達二人。だから僕は険しい表情のシンジさんを見る。



「シンジさん」

「はい、なにか」

「大丈夫ですか? ちょっと顔色悪いような」

「いえ、大丈夫です。ほんとに……・大丈夫ですから」



いや、大丈夫じゃないでしょ。どんだけ羽黒レンってのと……よし、ここはいい。



「ならいいんですけど……それじゃあシンジさん、すみません。ちょっと席を外しててもらえますか?」

「え?」

「ちょっと弁護士助手と内密な相談がありまして……あの、本当に申し訳ないんですけど」



両手を合わせて拝むように頭を下げると、途端に申し訳なさそうな声が聞こえてきた。



「あの、大丈夫ですから。それじゃあ僕お邪魔みたいですし……編集部の方に居るので、なにかあったら声をかけてください」

「はい。あ、それとここまでの案内、ありがとうございました。おかげで助かりました」

「いえいえ、それじゃあ」



そうしてシンジさんはドアから退出。そこでようやく、僕はユウスケと二人っきり。

……さて、これで思いっきり話せるね。いやぁ、よかったよかった。



「恭文、なんだよ。弁護士助手と内密な相談って」

「ん、シンジさんに聞かれるとちょっとマズいしね。……ユウスケ、この事件の犯人鎌田さんだから」

「あ、そうな……はぁっ!? なんだよそれっ!」



驚くユウスケは気にせずに、僕はもう一度窓の縁へ行く。



「大体、おかしいだろっ! あの人はちゃんとしたアリバイが」

「あいにく、魔導師からするとあの程度じゃアリバイなんて言わない。
魔法使えば、キロ単位の精密射撃だって可能なんだから」

「……マジ?」

「マジだよ。もちろん、技量次第だけど」



もちろんあとでオープンカフェの人達に聞き込みする必要はあるだろうけどさ。

それで僕はちょうど被害者の背後の辺りでしゃがむ。



「ユウスケ、こっち来てみて」



ユウスケは僕とは逆方向に回りこみつつ、僕の左隣に来て同じようにしゃがんだ。



「ほらここ。黒い点みたいなのあるじゃない?」



僕が左の指で示すのは、直径にすると5ミリ程度の小さな黒い点。というか……穴。



「あぁ、あるな。これがどうしたんだよ」

「触ってみると分かると思うけど、これは穴なの。というわけで、ほい」



懐からさっきから僕が着けているのと同じタイプの白い手袋をユウスケに渡す。

するとユウスケはそれを両手に着けた上で、その穴を触ってみる。すると、表情が変わった。



「あ、ホントだ。小さいから分かりにくいけど、確かに穴だ。でも、これがどうしたんだよ」

「これ、ビルの外側まで貫通してる。間の鉄骨もコンクリも全部突き抜けた上でだよ」



僕の言葉に、ユウスケの表情が変わった。だから僕は、もう一押ししてあげる。

僕は左手でその穴を指差し、穴の角度に沿うように人差し指を動かす。



「で、この穴の角度は……ちょうど被害者の首の後ろ辺りに到達する」



一応ね、座ってた位置とかも白いテープで示されてるんだ。だから、大体でも被害者がライン上に居たのは分かる。



≪それだけじゃありません。あの壁の奥の方に、同じような穴があります。
つまり、角度的に被害者をを貫通した上で向こう側の穴も空いているんです≫

「いや、なんでそこまで分かるんだよ」

≪あなた、説明しませんでした? 私達デバイスには、元々そういうサーチと解析機能があるんです。
ちなみにこの辺り、留置場で荷物になってるブリッツキャリバーにも確認しました≫



そこがギンガさんが聞いた『気になる事』。そしてデバイスであるブリッツキャリバーだからこそ、察知出来た事。

事件当時にブリッツキャリバーの警告が間に合わないようなスピードで、何かがビルの外から迫っていたらしい。



≪まぁそれでどうして首が吹き飛ばなかったのかなどは、相当疑問ですけどね。
貫通力重視で攻撃したからとか、色々推測は出来ますけど≫

「じゃあ桃井編集長は、外からのこう……貫通力の高い狙撃に近い攻撃を受けて殺されたって事か。
あ、もしかして刺し傷が二つってのも、もしかしなくても捜査関係者の勘違い?」

「そうだよ」



どうやらここの警察は、本当にズサンな捜査しかしてないらしい。なんでこんな基本的な事が分からないのか。



「傷口は二つあるんじゃなくて、首元から入ったのが喉を突き抜けただけなんだよ。
そしてこの穴の角度から、その弾丸が一体どこからとんできたかを計算すると」



立ち上がって、僕はある箇所を見る。ユウスケも同様にして僕の視線を追いかけるようにしてその箇所を見る。



「ちょうどあそこになる」

「……なるほど。だから鎌田副編集長ってわけか」

「そうだよ」



そこには、鎌田さんがコーヒーを飲むというお決まりなオープンカフェがあった。

この穴が出来たのもかなり新しい感じっぽいし、狙撃場所は誘導弾でもない限りはあそこで決定だと思う。



「でも恭文、それだって全部状況証拠だけだ。大体、狙撃したとしてどうやってだ?」

「水を使ってとか? 僕もそういう操作魔法使ってキメラの類をみじん切りにした事あるし、これくらいは出来るよ」



高圧水流……ダイヤモンドカッターみたいな感じで撃ち出したものなら、これくらいは出来てもおかしくない。



≪でも、それでも弱いですね。確かに水を使うとは言ってましたけど≫

「そうだぞ。大体、それだと裁判が起こる前にライダーに変身出来てた事になる。おかしいじゃないか」

「起こる前から変身出来てたとしたら? 現にあのライダーは、ギンガさんが見つけてきたここの雑誌の特集には載ってなかった」



僕の記憶に無いというだけじゃないのよ。僕が覚えてるライダー勢揃いな写真には、あんなライダーは居なかった。

あのライダーの存在自体が、この世界では僕達と同じようにイレギュラーな可能性もある。



「確かに士もそんな感じだし、その可能性は否定出来ないか。でも……やっぱりまだ証拠が足りない」

≪ユウスケさんの言うように、状況証拠だけでは現状は覆せませんよ。
なにより他に疑わしい人間もいますし、ここで断定するのはちょっと早計でしょ≫

「……確かにね」



射程や威力に貫通力が人間離れしてるという問題もあるし、正直ユウスケの言うように、疑わしいってだけだもの。

これじゃあ決め手にはならない。追求するなら、もっと決定打になるような証拠を掴む必要がある。



「あ、でも待てよ。疑わしい……そうか」

「ユウスケ、どうした?」

「もし鎌田副編集長が犯人だとしたら……このタイミングで羽黒レンがライダーバトルに参加した事を言い出したのは、怪しくないか?」



閃いたようにそう言ったユウスケの言葉に、僕は軽く目を見開く。

それで、そこから導き出される可能性を考えて……そこに活路を見出した。



「……ユウスケ、それだよ。もしマジでその通りなら」

「あぁ。鎌田編集長はとりあえず容疑者候補の一人って事にしておいて……まずは羽黒レンだ」

「うん」





ギンガさん、ブリッツキャリバーもありがと。二人のおかげで、真実に近づけたかも。



ただ、アルトやユウスケの言うように決めてかかるにはまだ早いと思う。なのでもうちょっと調査だ。



なお調査対象は、どちらに転んでもキーになると思われる人物。その名は……羽黒レン。





(第6話へ続く)





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あきゅろす。
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