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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第4話 『キバの世界/かみつきフォルティッシモ? 本当の王の資格』



ギンガ「前回のディケイドクロスは」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……うめぇっ!」

「ホント、美味しいですね。あー、私このチョコフォンデュは好きかも」

「だろ? バレンタインに貰ったチョコの再利用だ」



へぇ、これ栄次郎さんがもらったチョコ……え、ちょっと待ってっ!



「おま……いつチョコもらったんだよっ!」

「そうですよっ! てゆうか僕が思うに、フォンデュに出来る量って……かなり多いですよねっ!」

「まぁ、そこは色々とね」






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



恭文「というわけで、栄次郎さんがいかにしてフォンデュが作れる量のチョコを貰ったのか、その謎を追求したいと思います」

ギンガ「……もうコレ、恒例になってきたよね」

恭文「原作通りには無理だと判断しちゃったしね。……あー、でもどうしようー。
真面目に王子様一人に全部押し付けたら、僕達最低じゃないかな?」

ギンガ「うん、最低だと思う。だからまずは、ワタル王子ときちんとお話するところからだよ。
それでもしもどうしても『王になりたくない』って言うなら、無理強いはだめだと思う」

恭文「そうだね。とにかくそんな感じで進めていくディケイドクロス第4話、始まります」






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



キャッスルドランが遠方に見える波止場の一角。そこを歩く一人の少年が居る。

てゆうか、ようやく見つけた。もう俺はアレから真面目に大変だったんだぞ?

あの王様のカブトムシみたいなファンガイアは無茶苦茶強いし、城の連中全員敵になるし。



もちろん、狼男のガルルや角付きだけじゃない。他の二人の側近……バッシャーとドッカも同じくだ。

とにかくそんな中から命からがら逃げ出して、服があっちこっち破けてるのにも構わずあの子を探した。

それで、ようやく見つけた。俺はアクセルを吹かしてあの子を抜き去り、すぐさま停車。



戸惑う顔をするあの子の目を見て、恭文君とギンガちゃんの助言を思い出しながらもヘルメットを脱いだ。





「ワタル」



俺を見てワタルは、数歩後ずさりしてから振り向いて逃げようとする。

だから俺はバイクから降りて、小走りにワタルの方へ向かってその左腕を掴む。



「離して」

「いいから待て。てゆうか、どこに行くつもりだ」



でも、俺の手は簡単に振り払われる。それからワタルは、バイクのある方へ小走りに走る。



「どこでもいい。僕はもう……王子じゃない」



……とりあえず落ち着け。無理強いしても、それはワタルにとっていい事にはならない。

さっきのだって『王はワタルだ』って言ったからこれなのかも知れない。もう少し慎重にいかないと。



「ワタル、王になるならないどうこうはこの際抜きだ。お前、このままでいいのか?」



俺が立ち去ろうとするワタルにそう言うと、ワタルが足を止めた。



「もしもどうしても王になりたくないって言うなら、それでもいい。そんなの、お前が決める事だ。
でも、アイツだけはダメだ。このままじゃ人間もファンガイアも、見境なく殺すぞ」





ファンガイアも対象なのは、簡単だ。アイツが『逆らう者全てを滅ぼす』と言う趣旨の事を言っていたから。

そして、それは相当数居る。掟を守り、人間と平和に暮らして子どもまで居るファンガイアだって多い。

そんなファンガイアも、おそらくはその『逆らう者』の中に入る。そして、強制的に人間との絆を引き裂かれる。



俺は、認められない。いくら王が必要だからって、あんな王だけは認められない。





「あんな王を、お前は認めるのかっ!?」

「……だから城に戻って戦えとっ!? そんなの無理だっ!」



ワタルは振り返りながら、俺の方を見る。その目が泣きそうなものに見えたのは、気のせいじゃない。

ワタルは荒く息を吐きながら、俺のバイクのところまでかけよって左手で左ハンドルを逆手に持つ。



「僕の行きたいところへ連れて行ってくれるんだろっ!? 城以外ならどこでもいいっ! 連れてけっ!」



ワタルは俺の方を見ながらそう言った。それから俺の方へ一気に近寄って、右手で左手を掴む。



「連れてってよっ!」



言いながらもワタルは俺をバイクの近くまで引きずった。そしてまた左手で先ほどと同じ箇所を握る。

……俺はそっとその手を右手で解いて、ワタルのもう片方の手も合わせて両手で握る。それから目線を合わせるようにしゃがみ込む。



「……連れてってやる」



俺は確かにそう言った。でも、だからと言って今のワタルを連れて行くわけにはいかない。



「お前が本当に行きたいところなら、どこへだって連れてってやる」



真剣にワタルの目を見ながら言った言葉に、ワタルの顔からさっきまでの焦ったような表情が消えた。



「『どこでもいい』じゃダメだ。それじゃあ俺は、お前をどこへも連れていけない。
俺は、お前が本当に行きたいところに連れていきたい。……ワタル、それはどこだ?」



ワタルは俺がそう聞くと視線を落として、左側に逸らした。



「分からない」

「分かっている、はずだ。もし本当に分からないなら……考えてくれ」



少しだけ沈黙が訪れる。ただ、それでもワタルはまた俺の方を見てくれた。

落ちていた視線を上げて、逸らしていた顔を俺の方に向けてくれる。



「どうして僕を助ける。僕はもう……王にはなれない」



俺はゆっくりとワタルの手を離して、身体を起こす。



「俺は、お前が王子だから助けて来たわけじゃない。一人じゃ戦えないって……知ってるからだ」



一歩だけ近づいて、ワタルの左肩にまた静かに左手を乗せる。



「お前には、友達が必要なんだ」





よくよく考えたらワタルは、王子ではあるから側近には恵まれているけど、友達は居ないのかも知れない。

唯一そう言えるキバットも居るが、それでも少ない方だと思う。だからまぁ……な?

そのまま俺はグローブ付きではあるが、ワタルの頭と髪をそっと撫でる。もちろん優しくだ。



ワタルは俺の方からまた視線を考えこむように落とした。でも、すぐに動き出す。





「やめろっ!」



右手で俺の手を払いながら、ワタルは数歩後ずさりして距離を取る。そして、表情が変わった。



「……やめてくれ」



どうしてそんなに苦しくて悲しげな顔をするのか理解出来無くて、俺は困惑してしまう。

その間にワタルは俺に背中を向けた。そして僅かに見える頬に、ステンドグラスの模様が浮かぶ。



「……ワタル?」

「もう、無理だ」





ワタルがそう呟いた次の瞬間、俺の両肩に真上から何かが突き刺さる。

……てーか、これ……ファンガイアが人間からライフエナジーを吸う時に出る、吸引器。

身体からどんどん力が抜けていく。というか、力と一緒に痛みまで抜けてく感じだ。



そしてワタルはそんな俺を、まるで生肉を前にした虎のような顔で見ていた。

まさかこれ……ワタルに、ライフエナジーを吸われてる? ど、どうして。

疑問を浮かべつつもワタルの方を見ると、ワタルが驚くような表情をした。



それからすぐにステンドグラスの模様は消える。そして俺の肩口に刺さっていた注入器も無くなった。

俺はそのまま、コンクリの地面にうつ伏せに倒れそうになる。だけど、なんとか必死でこらえた。

ワタルは顔を青くしながら、そんな俺に向かって近づいてくる。俺は左手を前に出して、ワタルに笑いかける。





「大丈夫だ」



そう言うと、ワタルの足が止まった。……うん、大丈夫。死んではいない。



「あぁ、なんでもない」



なんでこうなったのかは分からないが、とにかくここはいい。……まずはあの黒いファンガイアだ。

ワタルがこの状態なのに、城に無理矢理戻しても本当に意味が無い。だったら、俺がやるしかない。



「ワタル、俺がキバットを取り戻してくる」





俺の言葉に、ワタルが驚いたように目を見開く。そして次には疑問の視線を俺に向けてくる。



いや、それは困惑なのかも知れない。だからワタルは、俺が元来た方向へそのまま走り去った。



そして俺はバイクにもたれかかるようにしながら、その場に崩れ落ちて……意識を失った。










世界の破壊者、ディケイド。8つの世界を巡り、その瞳は何を見る。



『とまとシリーズ』×『仮面ライダーディケイド』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄と破壊者の旅路


第4話 『キバの世界/かみつきフォルティッシモ? 本当の王の資格』





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「――で、そこから直でここに来たと」

「そうだ。ユウスケからお前達の事も聞いていて……それで」

「ワタル王子、それはどうしてですか? あの、もしもそのファンガイアを止めるなら私達も力になります」

「違う。お前達に……僕を殺してもらおうと思った」





写真館の一角に腰を下ろして、事情を聞いた。で、色々分かった事がある。

まずユウスケと連絡が取れなかったのは、この子にライフエナジーを吸われて意識が途切れていたせい。

タイトルコール前のあれから意識がなくなって、そこでタイミング悪く僕達が電話をした。



それを目覚ましがわりになんとか起きて、電話に出たところで王子様出現という流れだったのよ。

……それでこの子、なんでも友達として好きになった相手のライフエナジーを吸いたくなるらしい。

これはユウスケと会う前から目覚めていた本能……うん、ファンガイアとしての本能なんだよ。





「悪魔なら、悪魔の仲間であるあなた達なら、僕を殺してくれると思った。
僕がまた醜い怪物になってもう戻れなくなる前に、殺してもらおうと思った。
こんな醜い僕は、王になんてなれない。なっちゃいけない」





それでどうも、この子が『王様にならない』と言い続けたのはここが理由らしいのよ。

この子は今、ファンガイアの本能に負けて掟を破りそうになっている自分が、王になんてなってはいけないと言った。

ううん、そんな掟そのものが嘘。ファンガイアは本能に従う事こそが真実。



この子は俯きながら、両手を足の上に乗せて……スーツを強く握り締めながら教えてくれた。



だからクーデターで玉座を乗っ取ったカブトムシファンガイアの言う事は正解であり、それが行くべき道筋だと。





「そんな……あの、待ってくださいっ! そんなの絶対にだめですっ!
……自分を、嫌わないでください。あなたは絶対に怪物なんかじゃない。あなたは」

「どうして? 僕は次の瞬間にあなたのライフエナジーを吸うかも知れないのに」



ギンガさんが自嘲するような顔つきのこの子の視線を受けて、言葉を止める。

それでギンガさんは僕の方を見る。僕は首を横に振って、『言う権利ない』と伝えた。



「……いいよ、殺してあげる」

「なぎ君っ!」

「ただし王子様、それは……もうちょっとだけ後だよ」



僕は立ち上がって、タキシードの襟を両手で正す。そうしながらも覚悟を決める。



”なぎ君、待ってっ! そんなのダメだよっ! 王子を殺してどうなるのっ!?
怪物になるのが怖いなら、そうならない可能性を諭すべきだよっ! こんなの、悲し過ぎるっ!”

”……じゃあギンガさん、この子がマジで怪物になったらどうするのよ”



責めるように僕を見ていたギンガさんは、僕の言葉でその視線を収める。



”僕達には止められないよ? 僕達は通りすがりで、ずっとこの世界に居るわけじゃない。
責任を何一つ持てない。それともギンガさんはずっとこの世界に残って、そうするつもりかな”

”それは……無理、だよ”

”そう、無理だよ。もしも僕達がこの世界から離れた後にこの子が怪物になっても、僕達には止められない。
この子が誰かを殺したら、それは僕達が殺したのと同じだ。ギンガさん、その事ちゃんと分かって言ってる?”

”……でも、私はそれでも納得出来ないよ。人は、変われるよ? 変わっていける……はずなのに”



正直、僕もギンガさんのように言いたくはある。でも、だめだ。薄っぺらい表面上の言葉だけじゃダメなんだ。

だから拳を握り締めて、悔しそうにしてるギンガさんを諌める事しかしない。まぁ、ここは後なんだよね。



”問題ないでしょ。てーか僕としては、ここまで言い切れる子で逆に安心してるし”

”え?”



この子の中には、ちゃんと王の資格がある。ただこの子がそれに気づいていないだけ。

僕はそう思う。だから……もうちょっとだけ待ってもらう。その話は、今してる時間がないから。



「僕、ちょっとやらなきゃいけない事が出来たからさ。それが終わってからでいいかな?」

「構わない。殺してくれるなら、それでもいい」

「ありがと。じゃあ、パパっと片付けてくるから少し待っててね。……あぁ、それと」

「なんだ」

「さっき王子様は自分に『王になっちゃいけない』って言ってたけど、それはきっと違うと思う」



あの子は僕の方を見上げながら、少し困惑したような表情と視線を向けてくる。

僕はそれを受け止めつつ、近くにかけてあったコートを羽織る。



「だって王子様は、強い人と弱い人の両方の気持ちを分かってあげられるじゃないのさ」

「……なんだと?」

「掟を守る事の出来る強い人と、王子様みたいに本能に負けてしまう弱い人。
この世界にはきっと両方居る。ううん、もっと色んな人が居る」



右腕、そして左腕を袖に通して、両手でまた全体の着こなしを整える。



「本当の王様ってさ、きっとみんなの気持ちを分かってあげられなきゃいけないんだよ。
それで、みんな笑顔で生きられる世界を作ろうとする人の事を言うんじゃないかな」

≪どちらかだけではダメなんですよ。それでは、一方を踏みつけるだけになってしまう。
私もあなたのような人が王様なら……信頼に値すると思いますけど≫

「何を馬鹿な事を……そんなのは無理だ」

「誰がそれを決めたの?」



そして、これまた近くに置いてあったヴァイオリンを右手に持つ。うし、これでお出かけルックは完了っと。



「誰がそれを『無理』なんて、決めたの? きっと……きっと誰も決めてないよ。絶対に。
そう決めて自分の世界を狭くしてるのは誰でもない、お前自身だ。少なくとも僕は決めてない」

≪大体あなたは、まだ本能と戦う心を持ってるじゃないですか。
誘惑に負けない気高い心が。負けるくらいなら死を選ぶと言える強い覚悟を持てる心が。
それに流されかけた自分を『怪物』だと罵り間違いとする……そんな強い心があるじゃないですか≫

「その気持ちこそ、『掟』なんじゃないかな。『掟』はただのルールじゃない。この世界の志そのものだと思う。
自らを律し、本能に従うだけでは得られない可能性を求めて手を伸ばし、その手で新しい世界を作るためのものだよ」



それから少しだけ身を伏せて、戸惑うあの子の目線に合わせる。



「僕が戻るまでに、もう一度だけそこを考えて。本当にこれでいいのかを。本当にここで死を選んでいいのかを。
真実をそれに決めてしまっていいのかどうかを真剣に。それは王子様にしか決められないから、僕はこれ以上は何も言わない」



それでもあの子は何も言わない。けど、僕から目を逸らすような事はしなかった。



「ちゃんと考えて決めて。王子様は……いったいどこに行きたいのかを」



でも、僕がそう言った途端に王子様の目が見開いた。それを見て、僕は表情を崩して右手でその頭を撫でる。



「僕だってお前の命預かるんだ。半端に未練残されたら溜まったもんじゃない。いい?」

「……分かった」

「ん、いい返事だ」



そこまで言って僕は、外に飛び出した。……目指すは、キャッスルドラン。

どっちにしたってこのままじゃ、沢山の人が泣く。例えばあのスパイダーファンガイアの……アレ?



「……アレ」

「あー、どうもー。いやぁ、今日もいい天気だねー」



外に出てデンバードに乗ろうとした途端に、あのスパイダーファンガイアの人が通りがかかった。

……丁度いい。街で聞き込みする手間が省けた。



「こんにちは。ホントですね。もう洗濯物もよく乾いて……あ、そうだ。実は一つ質問が」



僕はあの人に近づきつつ、声を潜めながら顔を近づける。



「実は僕達、昨日も話しましたけどこっちに来たばかりで。
それで実は一つ疑問があるんです。よければお知恵を借りたいなーと」

「あぁ、それはそれは……確かに来たばかりで不安ですよねぇ。うんうん、僕でよければーお答えしましょう」

「ありがとうございます。……それで、実は」





僕達は確かに通りすがり。でも、だからって目の前の事に目を伏せていい道理はどこにもない。

昨日街を走っていて見たあの子達の、あの人達の笑顔が消えるのは……ちょっと納得出来ないしさ。

だから無粋なクーデター犯には、早々にご退場願う。王子様の今後については、その後だ。



快く教えてくれたあの人にお礼を言ってから、僕はデンバードに乗って街に飛び出す。

それでユウスケや王子様から聞いた情報も頭で纏めて、一つの疑念を抱いた。

それにより導き出された答えに胸を締めつけられつつも、僕はデンバードのアクセルを吹かせた。



どうやらこれ、思ってたよりもずっと難しい問題に発展するかも。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



玉座の間から下の世界を見渡す。その世界には、沢山の笑顔が溢れている。



人とファンガイアの両方が混じり合い、幸せそうに暮らしている。いや、実際幸せなのだろう。



だが、足りない。あの場には足りないものがある。それを埋めなくてはいけない。





「ワタル」





そう呟いてからさほど経たずに、ヴァイオリンの音色が響いた。お世辞にも上手とは言えない音色。

ただ、あの時聴いた時よりはいくぶんか上達している。さほど時間が無かったはずなのに、それでもだ。

どうやら私のアドバイスでこれらしい。まだまだではあるが、改善すべき点をきっちり直そうとしている。



察するに、こういう事に関して才能を持った子なのだろう。時々そういう天才に近い子は現れる事がある。



毎日しっかりと練習すれば、さほど経たずにかなりのレベルで弾けるようになると思う。





「……あの子か」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



乗り込んだ城の中でセットアップした上で、ヴァイオリンを弾きながら歩く。というか、練習しつつ歩く。



その成果は徐々に出始めている。あの人のアドバイスを思い出しながら、優しく丁寧に弾く。





「アルト、コードドライブ」



なお、曲はキバでお馴染みのアレ。とりあえずミッドに戻るまでに頑張ってこれだけは弾けるようになりたいと思った。



≪Z Mode――Ignition≫





アルトはとっくにセットアップ済みのナナタロスと共に、青い光に包まれる。

次の瞬間、その光は二つに分かれる。そのうちの一つは黒い大型のホルダーへと姿を変える。

それは蒼いジャケットの上から、僕の背中に装着。



もう一つの青い光は更に六つに分かれ、それらは形状の違う堅き剣へと姿を変えていく。

そしてその六降りの剣がホルダーに全て収められていく。二本の片刃の短剣。これは……六鉄に五鉄。

同じく二本で、峰の方に大きめのギザギザが刻まれた片刃の直剣。これは……四鉄に三鉄。



片刃で、持ち手が刃に埋め込まれている形の直刀。これは……二鉄。

そして最後に、両刃で二股のようになっている剣。それが挿入される。

四角い唾の部分には、大きめの青い宝石が埋め込まれている。……一鉄。つーか、アルト本体。



ヴァイオリンを引きつつも、極々自然な形で洋風な内装の階段を上がり……あー、ようやく到着だよ。



ここが玉座の間のある階層。いやぁ、ここの事を聞き出すのに時間かかったなぁ。





「……人間め、もはや容赦はせぬ。王の命令だ」



などと威圧的に言いながら出てきたのは……あぁ、昨日の角付きか。

掟を破ったファンガイアを処刑した奴だよ。にも関わらず遠慮無く方向転換してるし。



「どけ。出来ればその王様以外は殺したくない」



僕はヴァイオリンをジガンに収納。ヴァイオリンは音もなく姿を消した。

フリーになった両手を下ろしつつも、そのままそのファンガイアの方へ歩く。



≪というか、昨日までファンガイアと人間との共存を謳ってましたよね?
いきなり180度方向転換はおかしいでしょ。ほら、どいてください≫

「黙れっ! ゴチャゴチャ言わずに」





……アレ、言葉が止まったや。まぁ、当然だよね。胴の真ん中から左薙の斬撃で真っ二つにされたんだし。

なお、それは僕の斬撃。踏み込みつつ逆手で一鉄アルトを抜いて、一気に両断した。

斬撃によって人二人が並んで通るのがやっとな感じの通路の両端に、綺麗な亀裂が入る。



僕はそこには構わずに一鉄アルトを順手に持ち替えた上で、振りかぶる。





「な……馬鹿な。速、過ぎ」



二の句を言い切らせる前に、唐竹に斬撃を叩き込んで角付きを再び両断する。

そして角付きは、僕の目の前でステンドグラスの色合いの破片となって砕け散った。



「てめぇが遅いんだよ、タコが」

≪……やはり城のファンガイアは王に従う姿勢のようですね。外にはまだ影響してないみたいですけど≫

「でも早く止めないとマズい。急ぐよ、アルト」

≪えぇ≫



それから再び足を進めて、片っ端から部屋を開けていく。鍵がかかってるものは、蹴り飛ばして確認。

それを数度繰り返して、ようやくそれっぽい部屋に入った。というか、その部屋の中に居た。



「やっほー。ピザの配達に来ましたー♪」

≪なお、代金は要りませんので≫





部屋の中には、ユウスケや王子様から確認した通りの、黒いカブトムシっぽいファンガイア。

というか……アレ? 話に聞いてたのとちょっと違う。なんかステンドグラスな装飾が多くなってるし。

というか、胸元と両肩の楕円形のアーマーだよ。それにその装飾が集まっている感じ。



いや、その前にあの胸元の装甲に描かれた蒼狼はなによ。なんか『GRR』って名前っぽいのも書いて……あ。



アレ、もしかしなくてもガルルっ!? あー! よく見たら左右の装甲がバッシャーとドッガになってるっ!





”そう言えばユウスケさんが言ってましたね。バッシャーとかガルルとかも居ると。ならアイツは”

”それを全員吸収? うわ、事実だとしたらエグいし”



そしてそんなエグい奴は、僕を見ながら鼻で笑いつつ一歩ずつ近寄ってくる。



「人間一匹……何しに来た」

「お前を玉座から引きずり下ろしに来た。じゃないと、笑顔が消えちゃうんでね」

「そうか。だが玉座などに興味はない」

「へぇ、そうなんだ。だったら自分から降りてくれない? 正直、今更出てこられると非常に迷惑だわ」



そんな僕の挑発も軽く流しつつカブトムシは、不敵に仁王立ちしている。



「そうはいかん。掟を忘れさせるためには、玉座が必要だ」



僕は話を聞きながらも二鉄に手を伸ばして、順手でホルダーから引き抜く。



「人とファンガイアは共に生きる事など出来ない。ファンガイアは人の命を奪い、人はファンガイアを恐れる」



それから右足を引いて、二鉄の切っ先を向けつつ半身の構えを取る。

そしてカブトムシは右手を胸元まで上げ、強く握り締めながら僕に向かって踏み込んできた。



「そこには殺し合いしかないっ!」





そしてカブトムシは前に出した右拳を引きつつ、強く握りしめた左拳を僕の顔に向かって突き出す。

僕は身を伏せてそれを避けつつも、二鉄をカブトムシの腹の辺りに右薙に叩き込み斬り抜ける。

その接触点から、派手に火花が飛び散った。そこは例のガルルアーマーによって守られていないところ。



……真正面からぶつかるのは馬鹿のする事。斬り抜けつつ振り返り数歩下がって、相手との間合いを測る。



それで改めてカブトムシの身体を観察する。狙うはあの分厚そうな装甲の隙間。そこをツツいて、一気に勝負を決める。





「勘違いだろ」



というかこの声……なんだろ、無関係とは思えない。ううん、そう考えると色々辻褄は合う。

目的は復讐? 動機としては充分ではあるから。でも、疑問点が残る。



「アンタは人間も、他のファンガイアも怖がってるとは思えない。
僕には、アンタが自分自身を怖がってるようにしか見えない」





なぜコイツはキバの鎧を――それを纏うために必要なキバットに命令出来たの?

王子様からキバットが奪われた時の状況も確認したけど、コイツは確かにキバットに『命令』したらしい。

それにキバットは従って、自らその手中に収まった。ここから導き出される結論は、一つだけ。



ここの辺りは、王子様もそうだし電話でユウスケも疑問に思ってたらしい。でも、答えは一つだけある。





「アンタの息子と、同じようにだ」





飛びかかろうとしていたカブトムシが、動きを止めた。……そして僕を黙らせるように、一気に飛びかかる。

その巨体を高く浮き上がらせて、僕に向かって右足で蹴りを叩き込んで来た。僕は左に数メートル飛んで回避。

その足は玉座の床を砕き、轟音を立てていく。そしてカブトムシは、ゆっくりと振り返りつつ僕を見る。



その瞳が、僅かに動揺で揺れていたのは気のせいじゃない。
 




「なぜ、気づいた」

「気づかない要因があると思う? てーか、気づかれたくなければキバットに『命令』なんてするんじゃなかったね」

≪キバット――王の鎧が、ファンガイアの王の証。それを纏うために必要なキバットに命令出来るあなたは、王の血族≫

「話を聞いた感じだと、弟や親戚ってのはなさそうだったしね」





まぁ、9割くらいはカマかけてたけどね。まさかあっさり肯定してくれるとは思わなかった。

さて、もう言う必要もないと思うけど……コイツは王子様と同じく、『王の資格』を有してる。

それで城の家臣達がコイツを見て何もしなかったって話も、ユウスケと王子様から聞いてる。



むしろこの城の家臣達は『あなた』と言って、驚く素振りしか見せていないと。ここも謎を解くピースになってる。

つまりコイツは王の資格を有していて、城の家臣達がそれなりに礼儀を持って接する相手という事になる。

しかも家臣達ともそれなりに付き合いがある。そう考えると、さっきのファンガイアの方向転換っぷりもアリではある。





「なら……アンタは先代の王って事になる」

「……そうだ」



ようするにコイツは……あの王子様の父親なんだよ。

このクーデターは、先代の王がただその玉座に返り咲いただけとも言える。



「今までの話から考えるに、王子様の生まれた直後に母親と一緒に追放処分」



ここの辺りは、あの人から聞いて確認した。先代の王様、僕の予想通りに失踪したらしい。だからこそ玉座ががら空きになった。



「でもそうすると王族が居なくなってしまうから、当時の家臣に引き離される形で王子様だけがここに残ったってとこかな」

「……当たらずも遠からずと言ったところだな。そして私の正体にも気づいているか」

「声が全く同じだもの。声紋鑑定にかけるまでもないね。だからボロが出まくるのよ。
あと、空気全く同じだ。アンタからはあの時と全く同じ悲しさを感じる」



それでファンガイアが光に包まれ、一瞬で変わった。そうして洋館でヴァイオリンを弾いていたあのおじさんの姿になった。



「まさか、家臣達はともかくよそ者に気づかれるとは思わなかった。ワタルも私の事を知らないというのに」

≪この人、異常に勘がいい時があるんですよ。残念でしたね≫

「そうか。確かに……それは本当に残念だ」



でも、すぐに姿が変わる。それはあの黒いカブトムシの姿。そして殺気を僕に突きつけてくる。



「すまないが、もう生かしておくわけにはいかん」

「お前、何が目的?」

「言ったはずだ」



あの人は両手を大袈裟に広げて、僕をあざ笑うようにしながらこちらに近づいてくる。



「掟を忘れさせるためだと」

「違うでしょ。……だったら、なんでずっと泣いてる」



だから言い切れる。というか、この人の空気自体もおかしい。どこか悲しげで、寂しい空気をずっと出してる。

殺気の中に僅かに混じっている湿り気に近いものが、僕にこのまま殺すのは無しだと語りかけてくる。



「アンタの拳からは、そういうものしか感じない。自分自身を否定して欲しがってる。壊して欲しがってる」



前にそういう人が……壊されたのに死ぬ事すら許されないものにされてしまった知り合いが居た。

この人を見てると、同じものを感じさせる。どこかで『殺してくれ』とお願いされてるうように思えてしかたない。



「黙れっ! 俺は……俺は泣いてなどいないっ!」



言いながらあの人は、また僕に向かって駈け出してくる。



「それが……!」



だから僕も前へ。予定を変更しつつ、アルトと二鉄を振りかぶった。



「泣いてるっつってんだよっ!」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



なぎ君が飛び出してから、本当にすぐの事。光写真館に電話がかかってきた。



私は王子とどう話したらいいかとかを考えつつ、二人でなんとも言えない空気を過ごしていたところにそれ。





「はい、もしもし。光写真館です」



つい反射的に動いて、電話に駆け寄るようにして近づく。私は左手を伸ばして、すぐに受話器を取る。



『あ、もしもし。ギンガさんですかっ!? あの、夏海ですっ! 今ちょっと大変な事になっててっ!』

「……大変な事?」



それでその大変な事を聞いて、私はついそこを大きな声で出してしまった。



「えぇっ! ユウスケさんが居ないっ!?」



後ろで聴いている人間が、栄次郎さんを除くともう一人居る事も忘れてだよ。



「あの、それどういう事ですかっ!」

『どうもこうもありません。あなた達に連絡をもらって、教えてくれた場所に士くんと二人で向かったんです。
そうしたらその、その場に誰も居なくて……ユウスケ、そっちには戻ってるんじゃないかと思って、それで電話したんです』

「いいえ。こっちにはお話した通り王子が来ただけで。じゃあ、まだ見つかってないんですか?」

『士くんが探してはくれてますけど、まだです』





私はその場の状態を聞いていたし、そのために電話に集中していたから気づかなかった。



私の言葉を聞いてからすぐ、王子が誰にも気づかれないように写真館から飛び出していた事を。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



交差した瞬間、あの人の胴体から火花が走る。そして僕のジャケットの二の腕部分が吹き飛んだ。

拳を掠っただけだから、ダメージはない。ただ、それでもジャケットを引き裂いた。……やばい、またこのパターンか。

一撃食らったら、多分お亡くなりになる。当然だけど、セブンモードでの防御もアウト。



アルトや二鉄達は平気でも、僕の身体が持たないよ。つまり、攻撃を受ける事なく……キッツいなぁ。

そんな事を思いつつも、僕はすぐに足を止めて振り返りつつ高く跳んだ。

あの人も同じようにして、僕に左拳で裏拳を打ち込んでいたので、回避のための跳躍。



跳びつつも身体を縦に回転させて、一鉄アルトと二鉄で斬りつける。狙うはがら空きな両肩。

斬撃によって生まれた火花を確認しつつ、僕はあの人の背後に着地。それから一気に前に跳んだ。

あの人が左足で、後ろに居る僕に蹴りをかましてたから。それをどうにか回避。



回避してから足を止めて、また右に移動しつつ振り返る。あの人は僕を見つつ、すり足で左へと移動していた。

そこから床を踏み砕くようにして僕へと突撃。咄嗟に左に回避。まず二鉄を一鉄アルトに合体させる。

突撃をすれすれで避けながら、左手でベルトに装着してるワイヤーに手をかける。……ヒロさんが作ってくれたワイヤー、普段から常備しててよかった。



なお、本当は二鉄を持ったままでも投擲は可能。だって御神流は、武器を保持したままでの暗器の使用を前提としてる技法だもの。

というわけで、ワイヤーを投擲。僕に向かって突き出された右腕に向かってワイヤーを結んだカラビナは飛ぶ。

それは見事に手首辺りにしっかりと巻きついた。でも、あの人はそこに気にも止めずに更に動く。



身体を回転させつつ、僕に向かって左手を開いて伸ばしてくる。……うん、そういう戦法に出るって分かってたわ。

向こうは一撃当てれば勝ちだもの。だったら、こちらへ踏み込みつつも捕まえようとするのは正解。

僕は後ろに向かってバク転をしつつ、その突き出された腕を避ける。ううん、その腕を狙って右足で蹴りを叩き込む。



いわゆるサマーソルトキックの形で打ち込まれた足は、かなり簡単にあの人の腕を跳ね上げた。



それは本当にちょっとだけではあるけど、それでもそこからの打ち下ろしという追撃を防ぐには最適な手段。





≪Eclair Shot≫





でも、これでは終わらない。相手の腕を跳ね上げつつも、魔法を発動。

サマーソルトキックしながらあの人の足元に生成したのは、蒼い魔力スフィア。それを一気に連続生成しつつも3発掃射。

それを喰らってあの人の黒い身体に、蒼い光が纏わりつく。とりあえず、これで準備は良しっと。



着地してから、ジガンのカートリッジをフルロード。カートリッジ8発分の魔力が、僕の身体に注ぎ込まれる。

あとでカートリッジを作る事を決意しつつ、反撃開始。ワイヤーを伝って最大出力の電撃が、あの人を襲う。

それはエクレールショットによって、その威力を倍増させる。身体の表面から蒼い火花が爆発したように迸る。





「ぐぅ……・ぐぬぅっ!」





うし、通じた。てーかこれがだめだと、色々自信なくしちゃうって。

……守りが硬い相手への対処は、手持ちスキルどうこうを抜きにして限られてる。

一つはその隙間を縫って攻撃。でも、これは多分アウト。



さっき打ち込んだ斬撃、全部鎧で防がれてる。つまりこの人、僕の攻撃を見切ってるのよ。

ただ、スピードでは僕が上だから避けられないだけ。だから僅かに身をズラしてあのアーマーで受ける事にした。

でも、それで正解。僕の斬撃じゃあ、多分七鉄アルトでも斬れるかどうか分からない。それくらいにアレは硬い。



もう一つは、相手の防御を真正面から抜いた上での攻撃。なお、これにはやり方が色々ある。

電撃だってその一つに過ぎない。師匠みたいに力技で防御ごと潰すのだって、その一つだ。

出来ればこれで止まって欲しい。それで止まらないと、本当に禁じ手を使う必要が出てくる。



そのための布石はもう打ってる。データも取れてる。だけど、出来れば使いたくない。





「小賢しいっ!」





言いながらあの人は電撃で焼かれている身体を無理矢理に動かして、右手首に巻かれているワイヤーを左手で掴んだ。

当然、引っ張ってワイヤーを引きちぎる。それからすぐにワイヤーを離すと、あの人の身体から白い煙が上がった。

当然だけど、電撃は止まった。僕はすぐさまワイヤーを引き戻して回収。合体アルトを両手で持って前に踏み込む。



唐竹に斬撃を叩き込むと、あの人はそれを両腕を交差させて受け止めた。それからすぐに右手を引く。

引いて更に踏み込む。摩擦によって左腕に刃が深く食い込もうと気にせずに、僕の胸元に向かって拳を叩き込んできた。

僕の斬撃を見切っているという事は、動きそのものも見切れるという事。



だからこそその拳は僕の真芯を捉えて、そのまま打ち上げるように突き出された。



咄嗟に後ろに飛んで避けようとしたけど……だめ、ほんのタッチの差で避けられない。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



とりあえずアレだ。ユウスケのバカがキャッスルドランに向かったのは、まぁ大体分かった。

てーか怪我した状態で失踪したんだ。それなら他に行くとこないだろ。

だから俺はキャッスルドランに乗り込んだら……城の中は散々な有様だった。



何かが粉砕したような跡や、斬られたような痕が壁や廊下の至るところに残ってる。



とにかくその後を追いつつディケイドに変身した上で、俺は玉座の間に突入した。





「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」



すると目に入ったのは、カブトムシのファンガイアに右拳を叩き込まれて吹き飛ぶ蒼チビの姿だった。

腹にマトモに食らって、身をくの字に折りながら天井に向かって斜め45度の角度で飛んでいく。



「おいおい、蒼チビが……マジかよ」

「今日は騒がしいな」



言いながらソイツは拳を引いて、俺の方に向き直る。

その途端に、何か……壁みたいに分厚いものが砕ける音が聴こえた。



「アンタが噂に聞く新しい王か。悪いが……とりあえず左を見ろ」

「何?」



次の瞬間、蒼い閃光が粒子を撒き散らしながらカブトムシに突撃。

その閃光から生まれた銀色の閃光が、左側頭部に右薙に叩き込まれた。



「がぁ……!」





そしてその閃光はボロボロの床に滑るように着地して、動きを止めた。

当然だがその閃光は蒼チビ。その蒼チビの斬撃を食らって、カブトムシは右に傾いて音を立てながら倒れた。

なお、さっきの砕けた音は蒼チビが宙返りして天井を踏み砕いた音だ。てーか着地した音。



察するに飛行魔法ってのを使ったんだろ。なんていうか、相変わらず無茶苦茶な奴だ。





「もやし、なにしてる。ユウスケは」

「こっちに来てるらしい。アイツが勝手に自主的にな」



蒼チビのバリアジャケットってのが、二の腕の部分が破けて素肌が見えてる。

ただ、血が出ていたり骨が折れたりとかはない。どうやらスレスレで掠ったものらしい。



「なら、ユウスケを早目に保護して。僕は……この分からず屋ともうちょい話しなきゃいけないから」



蒼チビの右手に持ってる片刃の剣が分離した。そして今まで刃だったそれが剣に変わって、それを蒼チビは左手で持つ。



「話って……お前」



俺はもう一度あのカブトムシを見る。カブトムシは左手で頭を抑えながらも立ち上がる。

そしてもう一度蒼チビの方を見る。蒼チビは二刀を構えて、次の攻撃の準備中ってとこだ。



「なるほど、大体分かった」

「なら、とっとと行けっつーの。全く、相変わらず使えないもやしだよ」

「……そうか。ならもし『助けてくれ』って言っても、お前は絶対に助けない。覚えとけ、このバカが」

「そんなもんいるか、ボケ」





あいかわらず態度の悪い蒼チビはともかく、俺は玉座を後にしてユウスケを探す事にした。



あのバカ、間違いなくこっちに来てる。そこだけは自信を持って言えるぞ。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



しかし、さっきはマジで危なかった。もうね、死兆星見えちゃったもの。この人マジで強いって。

咄嗟にラウンドシールドを展開した上で一気に下がらなかったら、胴体千切れてたって。

さて、やっぱ先代の王だけあって凄いよね。さっき言ったように隙間を狙うような攻撃は、全部潰される。



僅かに身体をズラす事で、分厚い装甲の方で攻撃を受けていく。で、さっきみたいなカウンターだよ。

僕の方がスピードがあるのはもう分かってるから、『肉を切らせて骨を断つ』のでなんとかしようという腹だね。

なら、僕も作戦を変える必要がある。正直斬撃での攻撃でダメージを与えていくのは、もう危険過ぎる。



かと言って電撃もそうだし下手な魔法も通用しない。なら、それ以外の方法で装甲そのものを砕いていくしかない。

さっきは相手が油断してくれたからOKだったけど、ここからはそうはいかない。

だからあの人は頭を振りながらも右拳を引いて、しっかりと腰を落として構えるんだ。



もう言うまでもないと思うけど、口封じのために。自分が先代の王だと知られると、よっぽどまずいらしい。

なお、それは城の人間じゃない。多分あの王子様に対してだ。……こうなったら仕方ない。

これだとクレイモアでもどこまで効果があるか分からない。スターライトも当然だけどここでは使えない。



だからさっきから布石だけは打っていた禁じ手を、一つ開放する。

それは僕だから使える能力。そして、チートと呼ばれたくないから普段は無しにしてる事。

斬撃を数々打ち込む間にデータを取って、準備だけはしていた事。



ユウスケもこっち来てる以上は時間かけられないし、早期鎮圧は絶対必要。僕は……気持ちを固めた。





「王子様は、僕に『自分を殺してくれ』ってお願いしてきたよ」

「なんの話だ」

「いいから聞け。あの子、親しくなって好きになった相手のライフエナジーが欲しくなるらしい。
それで自分に怯えてた。自分は化け物で、王になんてなっちゃいけないって……ずっとだ」





なんとも言えない緊張感は、一発でも食らったら死んでしまうが故のもの。



普段は頼れる防御魔法も、こういう時はアテにならない。さすがにボス級怪人相手では無茶だって。



さっき展開した防御魔法も、本当に一瞬だけしか拳を防がなかった。こりゃ、本当にキツいって。





「僕は、正直なんて言っていいか分からなかった。だって僕は……ずっとこの世界には居ないから。
あの子が本当の化け物になった時、止める事なんて出来ないから。言葉に、責任が持てない」





言いながらも、僕は飛び込んで袈裟に一鉄アルトを叩き込んだ。刃はあの人の左腕でガードされ、火花が迸る。

代わりにあの人は、ずっと引いていた右拳を突き出す。僕はそれを身を伏せるようにして避けつつ、二鉄の切っ先を突き出した。

その切っ先は、しっかりと胸元のガルルの装甲を捉えた。ただ、やっぱり貫く事は出来ない。



いくらセブンモードでも、この鎧を普通に砕くのは無理。だから……ごめん。





「でも、そんなのはもう止めだっ!」

≪Break Impulse≫



使った魔法はブレイクインパルス、もう説明不要の振動系破砕魔法。そしてこの魔法は、こういう外装が硬い相手にこそ威力を発揮する。

だから僕はガルルが吸収されてしまっている装甲を、そのまま砕いた。舞い散るのは蒼を基調とした破片。それは粒子化して薄暗い部屋の中へ消えていく。



「な……・ぐぅっ!」





青色のステンドグラスの装甲は粉々に砕け、その衝撃であの人が後ろに数メートル下がる。

そうして左足を踏ん張って足を止めてから、左手で胸元をかばうようにしつつ僕を見る。

でも、視界内に僕は居ない。それは当然の事。だって僕は既に、この人と同じ時間軸の中には居ないから。



……視界はモノクロに。世界がゼリー状の何かに包まれているように動きが遅くなる。

僕が居るのは、神の速度の領域。だから今あの人は、的外れな方向を見ている。僕は既に右側面に居るのに。

脳内のリミッターを解除した上で僕は走り込みつつ一鉄アルトを逆手に持ち替える。



一鉄アルトを左薙に振るう。そうしてまたまた魔法を発動。





≪Break Impulse≫



切っ先で引っかくような感じでも、振動を送る事は出来る。だから右肩のバッシャーの装甲が粉砕された。

僕は足を止めて右時計回りに回転しつつ、二鉄を右薙に振るう。そうして左肩の装甲を捉えた。



≪Break Impulse≫





三度装甲は砕ける。今度はドッカの装甲。それでこの人の鎧をの大半を砕いた。

……モノクロの世界に、色が戻り始める。でも、完全に戻る前に僕は動く。

瞬間的に鎧を剥がされて体勢を崩しているあの人に向かって一鉄アルトと二鉄の切っ先を突き出した。



今なら、装甲の隙間を狙う事なんて容易い。その隙間を捉えた事で、あの人は前のめりに吹き飛ぶ。

あの人は呻きながらも転がって、太陽の光を背にする。だってあそこは……窓のある方向なんだから。

僕は荒く息を吐きつつ、頭や身体の痛みに顔をしかめる。うぅ、やっぱキツい。



よし、あんま神速使うのはやめとこ。てーかアレだ、ボス級怪人相手にいつもの調子なんて絶対無理。





「貴様……何を、した」

「だから言わせてもらう。アンタもあの子と同じ。アンタも……王だ」



僕が何をしたかなんて、教えてやる義理立てはない。だから僕は勝手に話を進めた。

例えばファンガイアを破砕出来るかどうか分からなくて、今まで躊躇ってた事とかさ。



≪あなた、もしかして自分を殺して欲しかったんじゃないんですか? それも最悪の大罪人として≫



呻いていたあの人の声が止まった。そして、僕の方を驚いた様子で見てくる。



≪そうやって掟の大切さをあの子に……いいえ、世界そのものに叩き込もうとした≫

「だからさっきから喚いてる。殺して欲しい、殺してくれって……喚いてる。アンタは、自分が否定される事を望んでる。
王の椅子に興味はない死にたがりの先代王様がクーデター起こす理由なんて……これくらいしか思いつかなかったわ」



言いながら一歩前に進む。王は、やっぱり下がったりなんてしない。



「アンタの中の叫びが、僕には聴こえる。前にアンタと同じ叫びをあげながら死んだ人を見たから。
あの子と同じ叫びがアンタの中から聴こえるから、だから言い切れる。でも……そんなの、違う」



足を止めて、いつの間にか俯いていた視線を上げる。



「そんなの、絶対に違う。死んで、どうなるのさ」



なお、これは10割ハッタリ。でも踏み絵にはなる。これで僕の言葉を笑い飛ばせば、ガチでとち狂った奴なのは決定。

でも笑い飛ばせなければ……ううん、笑い飛ばせても変化が起きれば、この件に何かしらの裏があるのは決定だよ。



「……新しい王が、その掟をより強固なものにしてくれる」



そしてあの人は僕の出した踏み絵を踏んだ。こちらの意図に気づいていないとは思えないのに、それでもだ。



「そして古き王は、本能に負けた愚か者として……人々の記憶に永遠に残る」

「そうやってあの子に全部押し付けていいと思ってんの?」



確かにこの人は王だ。子のため、世界のために命を賭けた。

というか、今の言葉でそれを肯定した。でも、それは間違ってる。



「それは結局……結局あの小さな子を生贄にするのと同じだ。アンタは、あの子が本当にやりたい事を知ってるの?
それをあの子から聞いた事があるの? 僕は知らない。だって、あの子の口からは自分を否定する言葉しか聞いてないから。
自分に――ファンガイアという種に怯えた言葉しか聞いてないから。アンタだって同じはずだ」



とりあえず、戻って話すべき事は決まった。やっぱり……問いかけなんだよね。

本当にそれで、自分の中の可能性を諦めていいのかと言う事にする。



「それは、全部アンタや世界の都合だ。あの子の都合じゃない。あの子の願った事じゃない」



そこだけは間違いない。あの子が話してくれた通りなら、あの子はそんな事は望んでないんだから。



「アンタの勝手な押し付けで、そんなもので……あの子の世界と未来を縛るな」

≪もしあの子が王の他にやりたい事があったら、どうするんですか。あなたはその夢を潰す事になりますよ?≫

「それでも、それが民のためだ。それが世界のためだ。王は民のためにある。
王は国の平和を守るためにある。それが運命さだめだ」



その言葉で、頭の中の糸が切れた。そして瞬間的に僕は鎖を噛み砕く。

身体から溢れ出るのは殺気の嵐。そして、胸の内で目覚めるのは牙を持つ獣。



「…………ざけてんじゃねぇぞ、おっさんっ!」



その獣を開放して、僕はこのバカ野郎に牙を突き立てる。予定、やっぱり変更。殺すのは無しだ。

そんな事しても、全く意味がない。このバカは生かした上で生き地獄を見せてやる。



「自分の夢一つ守れない王様が、民を守れるわけがねぇだろうがっ! そもそも守るってなんだっ!? 
命も、願いも、幸せも、夢も、未来も……全部含めて先に繋いでいくって事だろうがっ!
なのに自分という世界一つ大事に出来ない奴が、王様張れるわけがねぇだろうがっ!」





思い出すのは、そこを抜いて世界を守った王様とその部下数人。僕が見たのは、あくせくと失敗を取り返そうとする王様。

そしてそれに気づかずに、『夢の部隊』なんて寝言に拘り続ける馬鹿な部下達。あれが正しい形なわけがない。

世界を守れても、人を守れても、あのバカ共は自分を守れなかった。自分の未来を壊しかけた。



だから否定した。あんなのは違うと否定して……一度は徹底的に振り切ったはずなのになぁ。

そうだ、コイツは局の上の連中と同じだ。はやてやフェイト達に自分達の不始末を全部押しつけた奴らと同じ。

王ではあっても、『世界やそこに住む人達のため』と謳い、僕の世界を土足で踏みにじってきたクズ共と同類だ。



結局逃げてやがる。逃げて、あの子の今の気持ちや都合なんて無視で全部押し付けようとしてやがる。



それどころか自分からも逃げてやがる。死んで楽になって、自分の手で何かを変える事から逃げた。





「勘違いしてんじゃねぇっ! 民や国の前に、まずてめぇのもんを守らなくちゃいけないんだよっ!
……民の前に、国の前に、人は誰だって……自分って奴の王様にならなくちゃいけないんだ。
本気で誰かを幸せにしたいと思うなら、その誰かと同じくらいに自分も幸せにならなくちゃいけない。
だから『王様』、悪いがその計画……ぶち壊すわ。アンタには、死よりもずっと辛い道を歩んでもらう」



僕はズカズカと歩きながら、どんどん距離を詰めていく。あの人は腰を落として、また右拳を引く。



「無駄」





僕はブレイクハウトを発動。次の瞬間、あの人の右腕が手首の部分から捻れてひしゃげた。

……物質変換魔法をあの人の右腕にかけて、それで腕を強制的に根っこの構造から造り直して捻ったのよ。

なお、射程距離外からでも変換出来るように触媒はとっくにくっつけてある。



それは、手首に残ってたワイヤー。言ったでしょ? 布石はとうに打ってるって。





「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」





これが僕の禁じ手の一つ。相手の身体への、直接的な物質変換魔法の使用。

もちろん人間相手にも使えるけど、ダメコンが一切出来ない上に身体的に再生不可能にする技だもの。

だから禁じ手にしてる。というか、それやるくらいなら鉄輝一閃で斬った方が面倒が少ない。



だから使いたくはなかったけど、もうしゃあない。さすがにボス級怪人相手に、本気の戒めアリには出来ない。

うん、これは本気の戒めなの。ブレイクハウトの……戦闘における本当の使い方。

物質の理解・分解・再構築という性質を持った魔法を使えるからこそ、僕だからこそ出来る戦い方。



この場には面倒な局の人間も、ギンガさんも居ない。ついでにもやしも下がらせた。

奥の手中の奥の手だから、使ってるところを人に見られたくなかったのよ。だって……チートだし。

しかも半端に厨二病入ってないから、余計にチートだし。邪気眼とか無いから更にチートだし。





「悪いね。……そこに物質として『在る』のなら、僕に干渉出来ない物はない」



という事にしておく。いや、さすがに全部の物質に干渉したわけじゃないから、あんま言えなくて。

現にアイアンサイズの時は、この奥の手そのものが使えなかったしなぁ。限界はあるんだよ。



「例えそれが、ファンガイアでもだ」





だからファンガイアの身体用にプログラム調整するの、少しばかり時間かかったけどさ。

全く、僕が単純に殴り合いしてただけだと思ってたの? 魔導師ナメてんじゃねぇよ。

魔導師は戦闘者じゃない。科学者だ。そして科学者は、自分の科学を持って困難を打破する。



力ずくがダメならそれ以外の方法を模索し、実行する。それが科学者のやり方ってもんだよ。

なお、この人の身体の構造は今長々と話してる間にしっかりと解析してたの。

さっきのブレイクインパルスのデータも含めて、きっちりやった。別に意味無く長台詞喋ってるわけじゃないのよ。






「王様……アンタが本気で世界を、あの子を憂うなら、生きて自分の背中であの子に示せ。人は誰だって自分という世界の王になれると。
その先に未来があると自らの生き方で伝えろ。世界に生きる全ての人間が、自分という世界の王になれる事。
その上で違う何かを理解し、共存していく可能性を探す事。それこそが『掟』だってさ」



それはファンガイアだって、人間だって同じ。同じ心を持った存在なんだから。だから……そうだ。



「あの掟は、アンタがあの子に伝えたい事は――自分の弱さから逃げない、強く気高き王になれって事だろうがっ!
なのに死んで安易に逃げてんじゃねぇっ! 自己満足に浸って、言ってるアンタ自身が自分に負けてんじゃねぇよっ!
アンタに死ぬなんて逃げ道は与えないっ! この件で殺した『人』達の分まで生きて……傲慢でも笑ってろっ!」





だから僕は、この世界が好きだ。来て二日目だけど、あの人とあの子達の笑ってる世界が好きになった。



……大丈夫、罪は僕にもある。僕もここに来るまでに正当防衛とは言え、襲ってきたのを数体殺した。



僕もお前と同類っちゃあ同類だ。だから……だからこそ僕も、自分の罪を数える。その上で、お前を止める。





「貴様……何者だ」



当然僕は答えない。答える義理立てもない。だって、答えたらもやしのパクリだし。

僕はその言葉に何も答えずに、このバカな一人ぼっちの王様に罪を突きつける。



「……さぁ」



僕は一気に前に踏み込み、迎撃のために突き出された左拳を左に避ける。

そうしつつも、身体を反時計回りに急速回転。一鉄アルトに再び二鉄を合体させる。



「お前の罪を」





合体アルトの刃を、蒼い魔力が包みこむ。みなさまお馴染みな鉄輝一閃。

僕は柄を両手でしっかりと保持する。そのまま死角になっているあの人の背中に、蒼く染まった合体アルトを叩き込んだ。

あの人は立ち上がりつつも踏み込んでいたところに、後ろからの攻撃を喰らった。



あの人は踏ん張れずに、僕の斬撃に圧される。





「数えろっ!」





僕が打ち込んだ斬撃はあの人の身体を持ち上げる。当然だけど、僕はそのまま回転維持。



あの人は一回転したアルトの刃で引き斬られつつも吹き飛び、玉座の窓を叩き割りながら空へと吹き飛んだ。



そうして薄暗い空間に、挿し込む光に、円のような蒼が刻まれた。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



恭文とギンガちゃん……てーか、あのばかもやしはともかく夏海ちゃんもきっと、怒るよなぁ。

だって俺、言いつけ破って城に乗り込んだし。まぁまぁ、そこまでならまだいい。

真正面からは無理だと判断して、キャッスルドランのあるビルの地下から乗り込もうとしたのもいい。



ただ失敗したのは、それを側近達に先読みされててフルボッコにされて動けなくなった事。

俺、小野寺ユウスケ。現在その地下で倒れてます。……ごめん、ワタル。俺どうやらここまでみたいだ。

てーかマズいよなぁ。側近達も俺の目の前であの黒いのに吸収……アレ、おかしいな。



それなら俺は、どうして生きてんだ? 俺みたいなのは即行で殺してもいいはずだろ。





「ユウスケっ!」





俺が元来た道の方から、声がかかった。そちらを痛む身体に鞭を打ちつつ首を動かして見てみる。

するとそこには、ワタルが荒い息を吐きながら立っていた。それと同時に、轟音が響き渡る。

そちらを俺達が見ると、天井……ようするに地上の道路を砕いて、何かが落ちてきた。



つまり音は道路が砕けたせい。そして落ちて来たのは、あの黒いファンガイアだった。でも、様子がおかしい。

黒いファンガイアの右腕がなんかエラい事になってるし、側近達が吸収して出来たアーマーも無くなってる。

それでもアイツはふらつきながらも立ち上がり、俺を……ワタルを見つけた。



奴は一歩ずつ踏み出し、俺達の方へ歩いてくる。俺はワタルの方を見て、首を横に振る。





「ワタ……ル。だめだ、来るな」

「でも、ユウスケっ!」



ワタルは俺の方へ走り寄って、近づいてきていた。俺は……それだけで充分だった。

コイツが俺を助けようとしてくれた事だけで、本当に充分だった。



「俺は、もう動けない。だから……逃げろ」



ワタルは俺と近づいてくるファンガイアを見比べて、迷っている。

だから俺は、身体の痛みなど気にせずに叫んだ。



「いいから逃げろっ!」

「……ちょうどいい。王子、この男のライフエナジーを吸え」



ワタルが迷っている間に、とんでもない事を言い出した。

当然だが俺とワタルは、ファンガイアを驚いた顔で見る。



「そうすれば命だけは助けてやる。お前が逃げれば、コイツを殺す。そしてその後にお前を見つけ出して殺す。
お前が生きる道はたった一つ。この男のライフエナジーを本能の赴くままに貪り、吸い尽くす事だけだ。さぁ、やれ」



俺はワタルの方を見る。コイツは……本気だ。俺はワタルの方を見ながら、頷いた。



「ワタル……やれ」



そうじゃなければ、ワタルが死ぬ。俺は、俺はもう……いいから。

俺はそのまま戸惑う顔のワタルを見る。だけどワタルは視線を落として、俺に近づいていく。



「そうだ、それでいい。それこそがファンガイアの本能。それこそが我らの真の姿。
貪れ、食らい尽くせ。人などただの餌に過ぎん。我らより脆弱な虫に過ぎん」





俺もそう思っていた。それでいいと……そう思っていた。もう俺に、戦う力は残っていない。

でも、大丈夫。恭文や士が居る。コイツは負傷しているし、きっとアイツらが……止めてくれる。

そしてワタルは、俺の前に来た。ただ、そのまま足を進める。進めて、あのファンガイアの前に立つ。



ワタルの表情がここからでは見えないが、見上げてあのファンガイアを見ている。





「……この人を、解放してあげて」



そう言ったワタルを、ソイツは左手の甲で叩いた。ワタルはそれで体勢を崩して、俺の側に転がってくる。



「もう一度言う。ソイツを喰え」

「嫌だ」



ワタルは起き上がりながら、丸で俺を守るかのようにアイツの前に立ちはだかる。

俺は仰向けだった身体をうつ伏せにして、這うようにしてワタルに近づく。



「ワタル……やめろっ! もういい、もういいんだよっ!」



お前は今はキバにも変身出来ないし、それでどうしろとっ!? 無理だろ、そんなのっ!



「よくないっ!」



俺の声を遮るように、ワタルが叫んだ。その叫びは、この空間の中に響いて余計に大きく聴こえた。



「……まだ、分からないんだ」

「え?」

「本当にどこに行きたいのか、まだ分からない。明確に見えてない。だから、あなたに死なれたら困る。
そうしたら僕が本当に行きたいところに、連れていってもらえなくなる。そんなの嫌だ」



ワタルの足が震えている。それでもアイツは俺を守るために、戦おうとしてくれている。

そしてあのファンガイアは、そんなアイツを見て動きを止めていた。



「僕は、まだあなたの友達……ですか?」

「……あぁ、当然だろ」

「ならよかった。それに」

「それに?」

「この人も、助けなくちゃいけない」



…………え? この人って、まさかこのファンガイアの事じゃ。



「俺を、助けるだと? 貴様、何を」

「ある人が教えてくれた。王は、強い人と弱い人の気持ちを分かって、両方の人が笑える道を探せる人だと。
それこそが王の資格だと。だから、僕はあなたを……助けます。殺すなんて、やっぱり納得が出来ない」



言いながらワタルは、一歩踏み出す。俺は止めようと手を……だめだ、動かない。



「掟を破った人達だって、やっぱり僕達と同じ『人』だ。それを倒して止めるのが、凄く悲しかった。
僕も……その弱い人だから。世界から否定されてるような感じがして、辛かった」



弱いって……あぁ、そうか。俺のライフエナジー、吸おうとしたもんな。

きっと俺が『気にするな』って言っても、ショックだったんだよな。本能に負けて、掟を破ろうとしたんだから。



「人間だって、道を間違えた誰かを殺して処分したりしない。その間違いを説いて、やり直せるようにしている。
なのに人と共存していく僕達が処分する事を当然とするのは、絶対に間違ってる。ようやくそこに気づいた。だから」

「馬鹿なっ! まさか貴様は……本能に溺れたファンガイアも含めて全て守ろうと言うのかっ!?
ふざけるなっ! そんな事は不可能だっ! 人を貪り、食い尽くす事こそがファンガイアだっ!」

「誰がそれを決めたの?」



静かにワタルがそう言うと、黒いファンガイアが僅かに震えたように感じた。

そして、ワタルはまた一歩踏み出す。震えた足を動かして、逃げずに戦う道を進む。



「僕はそんな事、まだ決めてない。今この場でそう決めたのは、あなただけだ。その答えは、僕のものじゃない。
難しいのは分かってる。無理な可能性の方が大きい。でも僕は、まだそれが無理だと決めたくない。ううん、決めたくなくなった」



そこまで言って、ワタルが俺を見て笑う。それからまたファンガイアの方を見る。



「だって僕は……この人の友達で居られる可能性を、ここから探したいから」

「だから俺を助けると? 俺は、お前の側近を殺した。それをも許すというのか」

「許します。けど、それは殺した事じゃない。ガルル達を、みんなを殺した事は……一生許せない」



そう言いながらもワタルは、それでも右手を伸ばす。伸ばしてあのファンガイアに手を差し伸べる。



「あなたがここから変わる事を、その可能性を探す事を、許します。ううん、認めます。
あなただけじゃない。その権利は誰にでもあるって、僕は認める」

「それでも変わらぬ場合は、人を襲うならどうするつもりだ」

「その時は僕が殺します。あなたが、そして仲間が『人』ではなく、怪物になってしまう前に」





……そこから沈黙が訪れた。二人は動きを止めて、何も喋らない。というか、俺も喋れない。

そしてそんな沈黙を破ったのは、あのファンガイアだった。左手であるものを取り出して、ワタルに渡す。

それも優しく……今までの発言や行動の荒々しさを感じさせないほどに、優しくだ。



そしてワタルの右手には、キバットが居た。それを見て、俺は目を見開いてアイツを見る。





「キバット……!」

「安心しろ、寝ているだけだ」



おそらくそこはワタルも同じ。当然だが、コイツがそうする理由が分からないんだよ。



「お前は、王だ」



そこまで言って、アイツはひしゃげた右手を左手で押さえながらワタルの左横を通り過ぎた。

そしてそのまま……去っていった。俺とワタルは、困惑した表情のままに顔を見合わせてしまう。



「……ワタル、追わなくていいのか?」

「いい。その理由は、さっき言った通りで。きっと分かってくれたから」

「お前、甘過ぎだろ。同族が何人もやられてるってのに」

「そうかも。ただそれでも、やっぱり『間違えたから殺す』なんて、納得出来ない。
もしそれが本当の事だったら、僕はもうあなたの友達なんかじゃないから」

「そっか。それはまぁ、確かにな」



俺は両手を使って、とりあえず身体だけは起こす。起こして……ワタルを見上げる。



「ワタル」

「はい」

「もしもお前の中の答えが分かったら、いつでも呼んでくれ。
どこへ居たって駆けつけて、どこまででも走ってやる。約束だ」

「……はい」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



空気読んで様子を見てりゃあ、万事解決ってコースかよ。全く、変身した意味ないだろ。

なにより、今俺の手元にある三枚のカードだよ。あの王子様がタンカ切った辺りで、ブッカーからいきなり飛び出してきた。

出てきたカードは、クウガの世界の時と同じ。ただし、全部がキバ関連になってる。



カメンライド・キバに、ファイナルフォームライド・キバ。そしてファイナルアタックライド・キバだ。





「お前達の出番は無いってよ。残念だったな」





さて、こうなるとこの世界での俺達の役目は終わったって事か。



てゆうかあのチビ、やっぱムカつくし。俺の出番総取りしやがって。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



一応でも無事に片付いた後、僕は一人あの洋館に来ていた。中に入ると……やっぱり居た。



ただし、右腕は包帯でしっかりと固定されている。アレでそれだけの治療で済ませるって、また凄い。





「やはり、私を倒さないのか」



その人は窓の方に座っていて、そこから立ち上がりつつそう言った。そして僕を苦い顔で見るので、お手上げポーズで答えた。



「当然でしょ。言わなかった? 『罪を数えろ』って」

「どういう意味だ、それは」

「罪を……過去を数えて、向き合って、そこから一歩踏み出すの。そして、頑張って生きてく。
毎日笑って、泣いて、怒って……だけど楽しく、笑顔で生きていくの」

「そうか。ではワタルは、それが出来る未来を選んだわけだな」



あの人の口元が歪む。それは嬉しさによるもの。だから、あの人の目は優しく微笑んでいた。



「人間だけでなく、ファンガイアも『罪を数える』事が出来る世界を作れる未来を」

「かもね。それはきっと、強いだけの人間が選べる道じゃない。
弱さを――罪を犯す人の気持ちを知ってるあの子だから、選べる道だ」



でも、きっとそれは本当に難しい。人の心を変えるのは、ただ叩き飲めすだけではダメなんだから。

僕も出来ない事の方が多くて、ヘコむ事もあって……うん、楽な道じゃないよ。



「それでその中には、アンタも含まれてる」

「あぁ、それは伝わった。だが、本当に驚いた。あれならきっと大丈夫だろう」



やっぱりあの人は、嬉しそうに笑う。笑って、僕の方を見る。



「私が今更出てくる必要など、なかった。ワタルはもう……ワタル自身の王だった」



あの人は僕の方へ近づく。その視線の先は僕から離れて、洋館の一階に降りる階段の方へ向いている。



「行くの?」

「あぁ。予定とは違うが、用は済んだ。もうお前と会う事もないだろう」



ここで『会わなくていいのか』とか聞くのは、やっぱり無粋なんだろうね。うん、やめとこ。



「……それと」

「なにかな」

「やはり指のタッチが雑過ぎる。ただ、ここは毎日の練習で改善出来るところ。ようは積み重ねだな」



そして僕は身を反時計回りに捻って、あの人に道を譲る。



「たった一度のアドバイスであそこまでになったところを見ると、才能はある。あとは努力次第だ」

「分かった。ありがと」



あの人は言いながらも足を進めて、僕とすれ違った。



「礼を言われる筋合いはない。じゃあな」

「うん」





そのままあの人は、階段を降りた。それで洋館には僕一人だけが残る。

僕はしばらく一人で部屋の中で窓の外を見る。なんとなく、今すぐこの場を離れる気分にならなかった。

そうして数分後、唐突に右手に持っていたバイオリンケースをテーブルの上に置く。



置いた上で箱を開いて、ヴァイオリンを左手で。そして弦を右手で持つ。



しっかりと構えてから……また弾き出した。やっぱりこれから毎日練習しようと思いつつ。





”……どう聴いてもやっぱり酷い音ですね。下手したらヒロさんの歌とタメ張れるんじゃ”

”うっさい”





それでも僕はヴァイオリンを弾く。弾いている曲は、当然キバのアレ。てゆうか、コレしか弾けない。

やっぱり毎日しっかりと練習しようと心に決めた上で、僕は曲を弾き終えた。それと同時に、家の中に気配が生まれる。

階段を上がってきたのは、一人の男の子と性格が悪い事で有名な国産もやし。



そしてもやしは失礼にも、僕の顔を見て耳を右手でトントンし始めた。





「蒼チビ……お前その演奏はないだろ。お前のヴァイオリンで、家の入り口からゴキブリや蝿がバーって逃げ出してたぞ」

「だったらいいでしょうが。害虫駆除出来て……いや、もやしっていう一番の害虫が駆除出来てないか」

「誰が害虫だっ! 誰がっ!」

「……二人共、仲が良いんですね」

「「どこがっ!? つーか仲良くなれるわけがないしっ!」」



あの、王子様が普通にニコニコしてるのが、とっても気になるんですけど。僕ともやしはかなり真剣なのに。



「てゆうか王子様、なんでここに? ほら、写真館で待ってろって言ったのに」

「すみません。でも……どうしてもここに来たくて」

「ま、俺は付き添いだな。ユウスケの馬鹿は無理して動けないしよ」



あー、なるほど。その上側近は壊滅だしなぁ。一人は危ないって判断されたのか。

それで王子様はそんな僕達を気にせずに、階段を上がって僕の居る窓際の方へ来る。



「僕、ここで生まれたんです。暮らしてたのは、本当に赤ん坊の頃なんですけど。……あの」



王子様は僕の方を見ながら、困ったような視線を向けてくる。それでまぁ、言いたい事は大体分かった。



「なにかな」

「あれから考えました。あのお願い……無しでいいでしょうか」

「それでどうするの」



てゆうか、どうしていきなり敬語なのさ。普通に僕はびっくりなんですけど。



「探してみます。本当の意味で人とファンガイアが共存出来る道を……まずここから」

「でも、王子様一人が世界を背負う必要なんてない。王様になんて、なる必要もないよ?
選ぶのは全部王子様なんだから。……それでもそうするのかな」

「それでもです。僕が本当に行きたい場所は」



王子様は僕の言葉に答えながら、窓際に置いてあるヴァイオリンを手に取る。それは、あの人が砕いたヴァイオリン。



「きっと、そんな世界の中にあるから。だから僕は僕の世界の王として、まず自分の世界をそんな形に変えていきます」



砕けてるのは変わらないけど、それでもヴァイオリンと弦を手に取って、王子様は構えた。でも、構えてからすぐに僕の方を見る。



「あと、その『王子様』というのはやめてください。僕は、ワタルです」

「いいの?」

「はい」

「分かった。ワタル……頑張ってね。ワタルならきっと、王様になれるから」

「ありがとうございます」





どこか吹っ切れたような、大人になったような顔のワタルを狙う人間が居た。

それはもやし。なお、狙うというのは被写体という意味合いです。

もやしは首から変わらずに下げていたピンクのトイカメラのファインダーを、ゆっくりと覗き込む。



そしてそれからすぐに、もやしは指を動かしてシャッターを切った。





(第5話へ続く)





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