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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
ケース03 『ギンガ・ナカジマとの場合 その3』(加筆修正版)



「・・・・・・お願い、出て」



私は通信を何度もかける。でも、繋がらない。結果は全部同じ。多分、電源から切られてる。



「あー、フェイトちゃん・・・・・・はともかく、なのはちゃんも納得しいや」

「出来るわけないよっ!! ・・・・・・私、納得出来ない。こんなの絶対にダメだよ。
どうしていつもこうなるのかな。フィアッセさんが大事なのは分かるけど、それでもダメだよ」



確かにいっぱい迷惑かけてるのは、自覚してる。凄く、凄く申し訳なくも思ってた。

でも、それでもこんなの嫌だよ。だってここは私達の・・・・・・恭文君の居場所なのに。



「なのは、もういいよ」

「よくないよっ! フェイトちゃんまでどうしてそんなに冷静なのかなっ!!
というか、さっきのは何っ!? なんであんな事言ったのっ!!」

「・・・・・・ヤスフミが怒ってる理由、もうちゃんと知ってるから」



少し悲しげに言われて、私は端末をいじっていた手が止まる。それで右隣に居るフェイトちゃんの方を見た。

フェイトちゃんはさっきの言葉そのままの顔をしていて・・・・・・そのまま、頷いた。



「それにやっぱり・・・・・・止められないよ。フィアッセさんはヤスフミにとって、本当に大事な人だよ?
なのはだって知ってるよね。だからヤスフミ、今だってフィアッセさんを頼ってここを飛び出してる」

「それ・・・・・・は」



そんなの、知ってる。恭文君はフィアッセさんとは元々昔馴染みの私なんかよりずっと仲良し。

それでラブラブで・・・・・・もう付き合っちゃえばいいのにって思った事、相当数ある。



「それにフィアッセさんだって、ヤスフミが今の私達と居る事を本当によく思ってない。・・・・・・連絡、来たんだ」

「フェイトちゃん、来たって・・・・・・フィアッセさんからか?」

「うん。一応アドレス交換はしてるから。それで叱られたよ。ヤスフミの私達を好きだと思う気持ちに甘えてる。
そうやって道具扱いして、助けてもらう事を当然のように思っているところがある」



その言葉が胸を貫いた。そして、あの人に対して強い怒りが湧き上がってくる。



「その代表格は・・・・・・私と母さん達ハラオウン家。特に私はそうだって言われた。
・・・・・・まさかフィアッセさんに、スカリエッティと同じ事を言われるとは思ってなかった」



そう言いながらフェイトちゃんが、悲しそうな顔をする。それはきっと、あの人のせいだ。

あの人が余計な事を言うから、だから恭文君も離れてフェイトちゃんも悲しそうな顔をする。



「・・・・・・それはまた、耳が痛い言葉やなぁ。アンタ、あのバカのアジトで全く同じ事言われてるんやろ?」

「うん。それで、また反論出来なかった。反論しようとしたけど、ヤスフミをここに呼んだ事を指摘されたの。
ヤスフミの状態、私達が思ってたよりもずっと悪かった。ゆっくり休んで、また大好きな旅や冒険に送り出してあげるべきだった」





それの何がいけないの? だってここは、私達の夢の部隊なんだから。私達の居場所なんだから。

恭文君だって好きになってくれる。それで局を・・・・・・私達の居場所を嫌う事をやめてくれるって、そう思った。

それはフェイトちゃんだって同じだ。ここにはみんなが居るから、大丈夫だって。



なのに、どうして責められなくちゃいけないのかな。私達、一生懸命頑張ってきたのに。

休むのだって同じだよ。ここなら、ここなら大丈夫って確信があった。

だって六課には私達が居る。海鳴でみんな一緒だった時と同じように、過ごしていける。



少なくとも私はそう思ってた。だから分からない、なぜ振り切られちゃうのかが全然分からない。





「なのに今はそれが出来ない。私達がヤスフミの夢を追いかける邪魔をしている。
どうして自分に分かる事が、私に分からないのかと・・・・・・うん、本当に叱られた」

「それ、マジリンディさんに言って欲しいわ。うちは呼びたくなかったっちゅうに」

「私から折を見て話すよ。多分今回の事でまた荒れるだろうし。それで分かってもらう。
私達がヤスフミを六課に呼んだのは、とても大きな間違いだったんだって」





意味が分からないよ。旅なんてする必要ない。だってここは私達が居る。

私達みんな、力になろうとした。仲良くなって、そうすれば大丈夫だって言ってきた。

努力はしてるよ? 上手くいかない事もあったけど、それでも大丈夫だって思った。



恭文君は、私達と同じ場所で一緒に頑張ってくれる。大事なお友達だから、それが出来るって信じてた。





「それでこれ以上こんな事が続くなら、もうヤスフミをこっちに戻したりは出来ないと・・・・・・かなりハッキリ。
ヤスフミにもその辺りの事、前々から相談されてたみたい。どうやら私達、本当に何も分かってなかったみたい」



違う・・・・・・違う違う違う違う違う違う違う違う。私、利用なんてしてない。そんな事してない。

そんなつもり、全然ない。むしろいつも申し訳なかった。私、甘えてなんてない。



「で、フェイトちゃんはなんて・・・・・・って、何も言えなかったんやな」

「うん。現にヤスフミがあの状態でしょ? 正直・・・・・・うん、だからだね。
だから私も、覚悟を決めるしかないかなと思ったんだ。・・・・・・今更だろうけど」

「それがあの『局員辞める』に繋がるわけか。しかし、また思い切ったなぁ」

「それが、あんまり。どうも私、局員の立場なんかよりヤスフミの方がずっと大事みたい。
大事だから、逆に縛って側に置こうとしてたんだって・・・・・・今更気づいた」





違う、そんなの間違ってる。私達は局員で分隊長なんだから、そっちの方を大事にしなくちゃいけない。

そうじゃなくちゃ、大人じゃない。そうじゃなくちゃ・・・・・・恭文君が私達の側からどんどん離れちゃう。

だから恭文君も、私達と同じ大人になってもらおうとしただけ。そうすればみんな一緒に笑って過ごせるんだよ?



それが私達みんなの幸せに繋がる。だからきっとリンディさんだって、ここに恭文君を呼んだんだ。

六課は夢の部隊で、私達の居場所で、ここならそれが出来ると思ったから。

全部事件中に傷を負った恭文君の将来の事とか、そういうところまで考えて出向させた。



少なくとも私はそうだって思った。なのに・・・・・・なのに、その気持ち達は裏切られ続ける。





「なによりここで本当にフィアッセさんに何かあったら、私達はヤスフミになんて言えばいいの?
何を言っても、納得なんてさせられないよ。そうなったらヤスフミ、もっと自分が嫌いになる」

「・・・・・・うー、そこがあるんよなぁ。『関わるな』言うの簡単やけど、今回の場合は大事な婚約者やろ?
自分に置き換えると、恭文があないに強引に話進めようとしたんも分かるんよ。アイツ、かなり焦っとるで?」





それは、分かってるつもり。私だって同じだから。フィアッセさんには、本当にお世話になってるから。

でも、私は助けになんて行けない。ううん、行かない事が正しい事だって知ってるから行かない。

私は教導官で、ここの分隊長。それになにより、フィアッセさんの事は局の業務とは一切関係がない。



それなのに私達次元世界の人間が関わってしまうのは、やっぱりアウトなんだよ。

それも助けるために戦うのはやっぱり、だめなんだ。だから、間違ってる。

恭文君は、間違ってるんだ。フェイトちゃんの言う事も分かるけど、それでもそんなの違うよ。



恭文君の居場所はここなんだから、ここのルールを守るべきなんだ。そうだ、絶対に間違ってる。

フィアッセさんがどうなろうと、それを通すのが恭文君の仕事だよ。そしてそれが私達の仲間である証だよ。

どうしてなんだろ、正しい事はこれなのにどうして恭文君は分かってくれないの?



嫌だ、嫌だよ。このままなんて嫌だよ。もう六課は恭文君も含めて六課なんだ。

居なくなるなんて、絶対に認めない。そんな事したら、私達の夢が壊れちゃう。

恭文君も一緒に見ていたはずの夢が壊れちゃう。それなのにどうして恭文君はあっち行っちゃうのかな。





「多分うちらに話した以上に、状況が切迫しとるんやろ。例えば、マジでエリスさん達の会社の救援が期待出来んとかな」

「だと思う。つまり現状で、ヤスフミが安心してあの場を離れられる要因が0に等しいんだよ。
恭也さん達や警防の人達の助力も無理だって言ってたものね」

「それやったら多少は安心出来るんやろうけど・・・・・・いつぞやのコンサートの事を考えるとなぁ。
フェイトちゃんもご存知の通り、魔法無しでも魔導師倒せるくらいの達人はゴロゴロしとるから」

「そういうのが来る事も考えると、どうしても躊躇っちゃうんだよ。それはその、分かるつもり」



分からなくていいよ。だって、私達の言葉がある。私達が『大丈夫、それで正しい』って言えばいいだけだよ。

私達がそう言ったら、恭文君は絶対に安心しなきゃいけない。そうじゃなくちゃ、私達と同じになれない。



「それなのに戻ってなんかあったら、結果的に今も持ってる怒りそのものを助長させる事になるよ?」

「やっぱり、無理・・・・・・だよね。正直、止めたくはあるんだ。きっとまた重いものを背負う事になるだろうし」



だったらなんで止めないの? 止めればいいよね、それで魔法使ってでも言う事を聞かせればいい。

それで納得するのが大人だって、私達が教えればいい。ちゃんと真摯にお話すれば、分かってくれる。



「殺し合い、やろうしな。・・・・・・まぁ、アレや。今回の件が無事に終わったら、マジでしばらく旅に出てもらお?」

「そうだね。というか、私追いかけて行っちゃおうかな。ほら、有言実行するの。
今更だけど、このままは嫌だ。ちゃんと、ちゃんと手を伸ばしていきたい」

「してもえぇけど、ちゃんと後先考えた上でよ? そやないと、逆に恭文が重荷感じてまう」

「ん、分かってる」



だから、意味が分からない。恭文君は旅になんて出なくていいの。ここで、私達と一緒に居ればいいの。

それで私、今度こそちゃんと力になる。今度こそ・・・・・・恭文君の力になる。それで、問題ないよね?



「あー、そういうわけやから・・・・・・なのはちゃん」



はやてちゃんが、困ったような顔で私は見る。私はなんでそんな表情になるのかが、よく分からない。



「なにかな」

「アンタの言いたい事もよう分かる。確かに恭文の行動はあり得んよ。でも」

「だったらどうしてはやてちゃんもフェイトちゃんも、もっと必死に止めなかったのっ!?」



色んなものがゴチャ混ぜになって、抑えられなくて声に出した。

出して叫んだ。私も、子どもみたいな真似しか出来なかった。



「こんなの間違ってるよねっ! フィアッセさんより、今は私達の方だよっ!! 恭文君は力尽くでも戻すべきだよっ!!
私達が恭文君の仲間で、友達で・・・・・・ここが恭文君の居場所なんだからっ! フィアッセさんなんか助けなくていいっ!!」

「いや、ちょお待とうや。なのはちゃん、アンタ自分で言うてる意味分かってるか?」

「分かってるよっ!? フィアッセさんが例え死んでも、私はここに残るよっ! それが私達部隊員だものっ!!
ここでフィアッセさん達の事を見て見ぬ振りする事が、私達部隊員の当然の行動だよねっ! ねぇ、何か間違ってるのかなっ!!」



どうして、こうなるのかな。ここはみんなの夢の部隊なのに。そうだよ、そこは絶対に変わらない。



「というか、それなら私達はどうなるのっ!? 私達だって、恭文君が必要だよっ!!
恭文君に側に居て欲しいし、恭文君に助けて欲しいよっ! そうじゃなくちゃ六課は続けられないよっ!!」



変わらないから、恭文君だってここを居場所に出来る。ここで色々変わるって、そう思ってたのに。



「大体それで後悔してたら、そんなの大人じゃないよっ! 結果的に一人ぼっちになるだけだよっ!!
だからそんなの間違ってるって・・・・・・間違ってるって言えばいいだけだよねっ! なのにどうして二人共、それが言えないのかなっ!!」










そのまま私は、顔を両手で押さえて涙を流した。・・・・・・私達はどうすればいいの?

私達だって、恭文君に夢や居場所を否定されて傷ついてるよ。それで私達は、ずっと放置されたままなのかな。

もう恭文君は助けてくれない。それどころか、私達は責められる。こんなのおかしい、おかしいよ。





なんで、こうなったんだろ。分からない、分からないよ。私達、誰も間違ってなんてないはずなのに。





ただ一緒に同じ夢を見て、一緒に大人として頑張りたいって言っただけだよ? それの何が、何が間違ってるのかな。




















魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝


とある魔導師と彼女のありえる繋がりとその先の事


ケース03 『ギンガ・ナカジマとの場合 その3』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



フィアッセさんと、夜の中庭を二人で歩く。静かに・・・・・・一歩ずつ。





夜空は星が出てて綺麗。それも見上げつつ、無言で歩く。










「結局」



でも、話は始まる。フィアッセさんがその口火を切った。



「私、また巻き込んじゃったね。恭文くん、ごめん」

「あー、問題無いですよ」

「あるよ」



そして、いつに無く厳しい口調。多分・・・・・・言いたい事はあの話だ。



「あのね、恭文くん。君は戻っていい。私、そんなつもりで恭文くんをここに呼んだんじゃない。
厄介事に巻き込んで、あなたを道具扱いするためにここに来て欲しかったんじゃない」



そんなの、知ってる。ううん、僕はとうに知ってた。でも、納得は出来ない。僕はその言葉に首を横に振った。

だからフィアッセさんだって、険しい表情をしながらも申し訳なさげに僕を見てるの。



「あいにく、その話ならもうさっき向こうとやり取りしました。一応暴れてよしという話になったので」

「そのために対価を払う必要はないのかな」



でも、そこを含めても視線も厳しい。どうやら、本気で僕にミッドに帰って欲しいらしい。

だから、いつもと違う。どこか棘というか、刺さるものを感じる。



「払いますね。僕、お仕事場から完全にさようならが決定しましたから」

「・・・・・・だったら、今からでも遅くない。恭文くん、戻ってもいいんだよ?
もしもう返事してどうにもならないと思っているんだったら、私も一緒に話すよ」

「それでも、戻れないんです」



フィアッセさんを見上げる。そうして真っ直ぐに、少しだけ怒ったような瞳を見る。



「・・・・・・フェイトを守れなくて、リインを守れなくて、本当に後悔した。だから今、逃げたくないと思ってる」



大切な人が・・・・・・本当に特別な人が危険に晒されるのに、守れないなんて嫌だ。

手が届かないとか、知らなかったとかなら分かる。でも、僕はここに居て手が届く。だから、逃げたくないの。



「あとは、例の六課から逃げたいからとかかな。・・・・・・だったら私、肯けないよ」

「違います。そうじゃ、ないんです。てか、それだとどっちにしたって逃げてるじゃないですか」

「なら、どうしてかな。恭文くん、お願い。ちゃんと・・・・・話して」

「・・・・・・六課に入って、分かったんです。何も知らないで、純粋に夢を追いかけるためにあそこに来た人間が沢山居るって」



例えばスバルにティアナがそれ。エリキャロだって、一応それに含まれる。だから、余計にショックだった。

はやてやクロノさん達は、そんなみんなを・・・・・・何も知らないみんなを利用したのかと。



「そんなみんなと仲良くなる度に、そうなりたいと言われる度に、心に突き刺さるんです。
僕には・・・・・・そんな資格無い。だってそんなみんなを傷つけたのは、僕の仲間や家族だから」



そして六課を居場所と思う事も出来なかった。正直、リンディさんの頼みを引き受ける前は、まぁまぁそこまで気にして無かった。

フェイト達も居るし、それなりにうまくやれるかなとも思ってた。でも、勘違いだった。



「僕だって知ってた。そんなみんなが、理不尽に命を賭けさせられる事になるって。
なのに何もしなかった。何も、出来なかった。それはきっと、今も変わらない。それが、僕の罪」



スバル達と会って、チンクさん達に会って、なのはのケガの事を知って・・・・・・そうだね、憎んでる。

僕は管理局を、六課という場所を作った人間を、その生贄によって笑えてる世界が憎いよ。



「その結果世界を救う・・・・・・そんな勝手な道理のために、笑えない人達が居る。今も痛みと戦って、苦しんでる人達が居る。
その人達はみんな、今本当に笑わなきゃいけない人達ばかりだ。そしてその中には、フェイトやなのはも含まれてます」

「待って。恭文くん、なのは達・・・・・・・そこまで危なかったの?」



僕は予想外と言わんばかりの顔をしているフィアッセさんに、頷いて答えた。



「なのは、下手したらもう魔法が使えない・・・・・・飛べなくなるってところまできてるんです。
師匠や、ギンガさんだって同じ。ギンガさん、事件中に怪我で死にかけて戦闘出来なくなってる」

「そう・・・・・・なんだ」





だから余計にだ。誰も彼も、もう終わったという顔をする。そして何かが薄れていく。

薄れて、忘れていく。まだ何も終わってない事を、そしてまだ笑えていない人達が居る事を。

そこを考える度に思い出すのは、ヴェロッサさんが隊舎に遊びに来た時の事。



色々な失態でダメージを受けて、それを必死に取り返そうとしているあのバカの顔がよぎる。

よぎって、他のみんなにその顔がダブる。ダブって、痛感する。まだ、まだ何も終わってないんだって。

なのはは痛みに耐えながら教導して、フェイトは自分の弱さを突きつけられてまだ戸惑ってる。



本当ならみんな、真っ先に笑っていいはずなのに・・・・・・それが出来ない。傷は、まだ癒えてないんだ。



だから憎い。みんなをそこまで追い込んだ管理局や上の人間が。なにより、自分が憎い。





「僕は・・・・・・そんな現状を変えられない自分が、憎くて憎くて堪らない。どんな手を使っても、変えられないんです。
例えばテロで管理局を壊しても、みんな局を辞めさせても、僕が局員になったって・・・・・・今を何も変えられない」





そんな事しても、何も変わらない。今も言ったけど、僕が局員になって組織改革したって変わらない。

ここは前に話した通りだね。僕は10数年後じゃなくて、今みんなに笑って欲しいんだから。

だけど、僕はやっぱり無力で・・・・・・フィアッセさんの方を見ながら、両手を握り締める事しか出来ない。



変えたい事があるのに、それが大き過ぎてなにも出来ない。

それが悔しくて、情けなくて・・・・・・こんな事しか出来ない。フェイトの言う事は、全部当たってた。

ホント、サイコメトリーされたんじゃないかって言うくらいにドンピシャだよ





「それで今、全く同じ事が起ころうとしてる」



それでも僕は、もう一つ頑張る。フィアッセさんの方を見上げて、真っ直ぐに見つめ合う。

フィアッセさんはさっきと比べると少しだけ優しい表情で、僕の事を見ていた。



「フィアッセさんも、スクールのみんなも勝手な理屈で泣くかも知れない。そんなの、見過ごせない。
今たくさん笑っていかなきゃいけない人達が笑えなくなるのなんて、絶対に嫌だ」





・・・・・・あぁ、そうだね。だからきっと僕、アギトの仇討ちを引き受けたんだ。でも、それだけじゃない。

例えば1年前のあれこれもそうだし、フィアッセさんやリインの時も・・・・・・そっか。

僕の根っこは、笑顔で居て欲しいという想いなんだ。だから今、本気でワケ分かんなくなってるんだ。



僕の目から見て、フェイト達はみんな笑ってなんてない。まだ事件は続いている。



さっきも言ったように、痛みの時間はまだまだ継続中。だから、だから納得出来ない。





「だから戦います。これは、誰のためでもない。僕のための、僕の勝手でするケンカだ。
誰も泣かせない。ここにある夢も、笑顔も・・・・・・ありったけで戦って、全部守る」

「だから、なのは達もそうだし私がどう言おうと止まらない?」

「止まりません。ここで逃げたら、僕は本当に何も出来ない奴になる。そんなの、絶対に嫌だ」



そこまで言うと、フィアッセさんは僕を見ながらため息を吐いた。それで右手を伸ばす。

その手で僕の頭を、優しく撫でてくれる。そしていつものように、笑ってくれる。



「・・・・・・分かった。なら、もう言わない。でもね、恭文くん」

「はい?」

「それを言わないのがあなたの悪いところだって言うのは・・・・・・知っておいて欲しいな」



それで左手を伸ばして、僕の頬を軽くつねって引っ張る。



「うん、言ってないよね。だから色々こじれちゃうんだよ。
フェイトちゃんやギンガちゃんからも少し聞いたけど、やり方が下手過ぎ」



痛い感じじゃなくて、優しくたしなめる感じ。



「いひゃ、へほ」

「もちろん事情があるのも分かる。でも、本当に伝えたい人には言わなきゃだめ。
きっとあなたの目指しているゴールには、その人の力が必要だよ。だから・・・・・・ね?」



それはついさっきフェイトにも言われた事。だから僕は、結局こう言うしかない。



「・・・・・・ひゃい」

「ん、よろしい」



それでフィアッセさんは、ようやく僕の頬から手を離してくれた。



「出来ればギンガちゃんにもそこの辺り、説明するべきだと思うんだけどな」

「あー、無理です。ギンガさんは・・・・・・知る権利そのものがありませんから」



てゆうか、知らない方がいいと思う。・・・・・・そう考えると、ゲンヤさんは大人だったよなぁ。

だって本局の都合でギンガさんアレなのにさ。なんというか、色々抑え込んでるのは見ていて分かった。



「それは立場的に?」

「立場的にですね。フィアッセさんはまだ外だからいいんですけど」

「そっか」



そう言ってからフィアッセさんはそのまま、僕を抱きしめてくれる。

それはいつものフィアッセさんの抱き方。子どもみたいに、いっぱいいっぱいギューってしてくれる。



「・・・・・・なら、婚約者として頼っていいかな。でも、嫌なら断ってくれていい。
その自由が、あなたにはあるから。途中で放り出したって、それでもいい。それだって自由だよ」



囁くようにそう言われて、僕はフィアッセさんを強く抱き返す。



「あなたは自由でいいの。あなたの気持ちのままに進んでいいから。
私は何時だってそんなあなたが好きで、そんなあなたの1番の味方だから。・・・・・・ね?」



それで、ちょっとだけ背伸びをして耳元で囁く。



「はい。なら、僕もそうします。フィアッセさんの歌が、フィアッセさんが大好きだから。
だから、フィアッセさんの1番の味方になりたいんです」

「ん・・・・・・恭文くん、ありがと」

「お礼なんていいです。だって僕、フィアッセさんの婚約者ですし」

「だからこそ必要なの。だからこそ・・・・・・絶対、必要なんだよ。
私は絶対にあなたを、道具になんてしたくないもの」










もっと早く気づいてれば、もっと上手くフェイトとも話せたのかも知れない。でも、今はそこはいいんだ。

今やらなきゃいけない事は、戦う事。ありったけで戦って、今を覆す事。

誰のためでもない、僕のためにだ。ここに居るみんなの笑顔を、夢や時間を守りたい。





そしてそれは、本当に難しい事。だから、ありったけでぶつかる。・・・・・・うし、やるぞ。





まずはここから一歩。今までウダウダやってた分、ぶっ飛ばして一気に流れを変える。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あれから私はヴィヴィオにも、一応の事情説明。いきなりだと、やっぱりビックリするだろうから。

なのはは・・・・・・やっぱり、納得し切れないみたい。色んな意味でここに賭ける想いが強いから。

だから余計にヤスフミの行動を認められないでいる。とりあえず、アレはそっとしておくしかない。





そしてヴィヴィオも納得出来ないという顔を、私に向けている。










「・・・・・・恭文とアルトアイゼン、六課辞めちゃうの? 居なくなっちゃうの?」

「なる・・・・・・の」

「嫌だよ」

「・・・・・・ヴィヴィオ」

「恭文、ただお友達を助けたいだけなんだよね。そのフィアッセさんを助けたいんだよね?
なのにどうして・・・・・・それなのにどうして、六課から居なくなっちゃうの?」



それは子どもだから・・・・・・ううん、違う。きっと抱いて当然の疑問。

私達が大人として認められる事の対価として失った、純粋な想い。そこから生まれてしかるべき疑問。



「ヤスフミは、六課を辞めないと部隊長や私達に一杯迷惑がかかっちゃうからって・・・・・・そう言ってた」



まぁ、分かりやすく言うとそういう事になる。実際はそれだけじゃないけど。



「ヴィヴィオも分かるよね? 地球みたいな管理外世界で勝手に戦闘は、いけないんだ。
ヤスフミもそれが分かってるから、辞めるんだ。もう、そうしないといけないの」

「おかしいよ、そんなの。大事な人なのに助けたらいけないなんて・・・・・・おかしいよ」





うん、そうだよね。おかしいよね。・・・・・・私だって、もしなのはやシグナムが同じことになっていたら、ヤスフミみたいにしたいよ。

それにヤスフミにとってフィアッセさんは、やっぱり大事な人なんだから。止める私達は・・・・・・間違ってる。

悔しい。私、本当に悔しい。私はいつだって遅い。だから伸ばした手から色んなものがすり抜けて、後悔していく。



私、ここまできて改めて気付いたよ。ヤスフミに甘えて、依存してたんだって。





「ね、ヴィヴィオ」

「うん」

「ヤスフミが六課を辞めるのは・・・・・・多分、避けられない。私達にも、止められないの」



私はしゃがんで、真っ直ぐにヴィヴィオを見る。不安で揺れている朱と翠の瞳を見つめる。



「ヤスフミがもう決めたから。フィアッセさんの事、絶対に守るって・・・・・・泣かせたりしないって、決めたから」





きっとヤスフミ、『もう嫌だ』って言った時に私達の事を思い出してた。表情からそこが分かったの。

だから、何も言えなくなった。ヤスフミがここで言い訳出来なくなった原因は、私達自身にもあるの。

私達はヤスフミの事を縛りつけてる。私達がヤスフミが自分らしくある事を邪魔をしてる。



もちろんフィアッセさんを守る事が強迫観念のためとは言わない。そんな事はないと思う。



でも、そういう側面がある事に気付いた。それがまた悔しくて・・・・・・泣きたい。





「決めたけど、友達である事は変えないという選択は取れる。
ヤスフミがどこに行ったって、それだけは絶対に変えないの。それだけは、出来るから」

「・・・・・・うん、変えないよ。お友達・・・・・・だもん」

「うん、ならいいんだ」



私は、ヴィヴィオを抱きしめる。結構力いっぱい。ギュって・・・・・・抱きしめる。



「フェイト・・・・・・ママ?」

「でも、私はちょっとだけ変えていきたいんだ。そこは認めてもらえると、嬉しい」

「え?」

「別に嫌いになるとかじゃないんだ。ただ・・・・・・変わっていかなきゃ、いけないの」










本当にバカだった。一緒の道を進む必要なんて、きっと無かった。大人になる事を求める必要なんてなかった

だって私が求めてたものは、たった一つだけだった。それなのに・・・・・・やっぱり、気づくのが遅いみたい。

だから今、手を伸ばしても何も届かない。だからこそ、私は足を踏み出す事にする。ここからまた、新しい私達を始めるために。





だって私の思っていた以上にあの子の存在、大きかったみたいだから。





私も、リインと同じなのかな。ヤスフミのヒロインとか、頑張っちゃっていいのかも。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



というわけで、フィアッセさんと別れてからギンガさんに話です。





その間に、外は雨が降り始めた。なんか通り雨らしいから、すぐ止むとは言ってたけど。





そして当然ここ・・・・・・ギンガさんの部屋の中も、どうにもこうにも雰囲気が重い。










「・・・・・・なぎ君」

「悪いけど、止まれない」

「どうしてっ!? 六課での居場所やみんなの信頼まで賭けて、どうしてそこまでするのっ!!」



・・・・・・そんなの決まってる。もう間違えないため。もう逃げないため。

なにより、フィアッセさんが大好きだから。だから、この手で守りたいだけ。



「僕のやらなきゃいけないと思う事だから。それ以外に理由なんてない。
なにより僕はフィアッセさんの婚約者だもの。見過ごしたりなんて出来ない」

「そのために・・・・・・無くしちゃうんだよ。本当にそれでいいの?」

「いいの。てーか、僕は元々六課なんてどうでもよかったし」



お手上げポーズでそう言うと、ギンガさんはやっぱり納得出来ないらしい。



「・・・・・・よく、無いよ」



だからこんな事を、悲しげな顔で言う。それが胸に突き刺さるけど、気にしてなんていられない。

てゆうか、そもそも僕にはそんな権利ないし。僕が選んだ選択は、そういうものなんだから。



「ね、帰ろうよ。事情を話せば、エリスさんもフィアッセさんもきっと分かってくれる」



だから僕は首を横に振って、必死な顔で僕の事を見るギンガさんの言葉を拒否する。



「だめ」

「大丈夫だよ。私からもお願いするから。なぎ君がどう言っても、六課はなぎ君とみんなの居場所なんだから」

「それで何かあったらどうするのさ。僕のせいじゃないとでも言うの?」

「それは・・・・・・その」



ギンガさんは一瞬視線を泳がせて、言葉を止めた。でも、またすぐに動き出した。



「そうだよ。なぎ君のせいじゃない。私には、そうとしか言えないよ。
それが私達管理局の仕事に携わる人間のルールだよ? 私達は、ここでは不用意な事は出来ない」



・・・・・・軽くイラついたのは、気のせいじゃない。どいつもこいつも、簡単にこういう事を言う。



「なぎ君がその選択を取って苦しいなら、もし後悔するなら寄りかかってくれてもいいから。
私達みんなで受け止めるし、一緒にその重さも背負っていく。・・・・・・だから、帰ろう?」

「じゃあ、お前一人で帰ってろ」



振り返って、僕は部屋の入口を目指す。すると、右手を掴む手がある。



「なぎ君、待ってっ!!」



僕は遠慮無くその手を振り払う。後ろを見ると、ギンガさんがビックリした顔をした。



「ギンガさん、僕がギンガさんに求めてる選択はひとつだけ。・・・・・・一人でとっとと帰れ。お前は邪魔だ。
それ以外のものは求めてないし、お前この場に居ても足手まといなだけだ。だから、帰れ」

「だから、それは無理だよっ! 帰るなら一緒に帰るのっ!!
それでエリスさん達に全部任せようよっ! それが正しい選択だからっ!!」

「嫌だ。僕はフィアッセさん達を守るって決めたの。だから、帰れない。
・・・・・・とにかく忠告はしたから。あとは死のうが生きようが全部自己責任。いいね?」



そのまま僕は部屋の入口のドアを開けて、一気に外に出る。

・・・・・・それで、ため息を吐きながらも廊下を早足で歩く。



「アルト」

≪はい?≫

「めんどくさい」

≪いつもの事でしょ≫

「それもそうだね」










コンサートまで、あと一日かぁ。明後日の今頃には、もう結果が出る。





そうすると、あんま時間がないな。早めに色々準備していかないと、どうしようもない。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



私はベッドの上に乱暴に腰を下ろして、頭を抱える。また、なぎ君に拒絶された。

こんなの、もう嫌だと思ってたのに・・・・・・私、またやっちゃった。

なぎ君がフィアッセさんやスクールの事を大切に思う気持ち、管理局のルールを出して踏みにじった。





というか、『寄りかかって』って何? なぎ君のための言葉じゃない。私、自分のために言ってた。

そうすれば、フェイトさんから引きはがせるチャンスが出来るからって・・・・・・本当に、最低だ。

こんな言葉じゃ、こんな自分じゃ、なぎ君に気持ちなんて通じるわけない。止められるわけがない。





もうだめ。私、自分が嫌いになりそう。というかなんでいつもこうなっちゃうんだろう。





何がいけないんだろう。近づこうとすればするだけなぎ君が離れていく。分からない・・・・・・やっぱり、分からないよ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



翌朝。早く目が覚めたので、中庭に出てアルトを持って素振り。

ギンガさんに言う事は言った。アレだけ手厳しく叩いたので、きっと帰ってくれるはず。

いや、真面目にそうだと嬉しい。・・・・・・さすがに巻き込めない。そんなの、無理。





でもこのままになりそうなら、かなりマズイ。本当にはやて辺りに説得してもらうしかなくなる。

もしくはゲンヤさんだよ。それで何がなんでもすぐにでも帰ってもらわなくちゃ。

とにかく絶対に甘い顔は出来ない。僕が本気で愛想尽かしてると思われるくらいじゃないと、無理だって。





その理由はいくつかある。まず、知っての通りギンガさんはあのバカ共のせいでリハビリ中の身。

戦闘訓練自体も緩めに再開はしてるけど、それでも実戦に出るのはまだ無理。

先日のアレだって、1分経たずに身体が悲鳴あげたらしい。だからギンガさんはここに置きたくない。





・・・・・・昨日は確かに局のルールを絶対としてるような発言をしてた。でも、僕はギンガさんを知ってる。

それでももしも目の前で誰かが傷ついて、殺されかけてたら絶対に助けようとする。そこだけは自信を持って言える。

これでも3年友達をやってきてるからさ。それくらいは言えて当然だよ。ただ、だからこそここで帰って欲しい。





当然ながらテロをかまそうとしてる連中にとっては、ギンガさんのような人も攻撃対象になる。

それで身体があんな状態で、魔法使用はNGなんだよ? 対処するのは絶対に無理。

それで次の理由。万が一にも今回の事が局にバレたら、ギンガさんの進退問題に発展する可能性がある。





僕は別にいいのよ? 元々地球出身で、嘱託で民間協力者なんだから。だけどギンガさんは違う。

局に理念とその身を預けた正式な局員な上に、階級的にもまだまだ平よりちょっと上ってレベル。

さて、そんな人間が僕のルール違反な事に関わったと知ったら、局はどういう判断を下すだろうか。





当然クビにする。ギンガさんは現場に居ながら僕を止める事が出来なかったと責められる立場になる。

特に今は事件の影響でよりクリーンな体制を管理局は求められてる。そんな時期でのルール違反だもの。厳しく罰せられる。

なお、ここにはギンガさんが地球出身者ではなく、ミッド出身者で局の教育を初期から受けている事も理由に入ってる。





だからはやても書類を弄って、僕がイギリス行く前の日付で退職したって扱いにしちゃってるはず。

僕はこれでギンガさんがプータローになっても、責任が取れない。フェイトなら嫁に貰えばいいけど、ギンガさんだし。

これで人が死のうと徹底した不干渉を貫けるならともかく、ギンガさんはさっき言った通りの人だもの。





つまりアレだよ。どういう言い方しようが、ギンガさんが『局員辞めてもいい』って覚悟が出来ない以上は帰らせる。

そして僕は、ギンガさんにそんな覚悟を強いる事が出来ない。だってコレ、完全に僕の私闘だし。

ただそれでも・・・・・・言葉で傷つける事は、申し訳なく思ってたり。でも、真正面から話すのも絶対アウト。





そうしたらギンガさんの性格上、ここに残って僕をフォローとか言い兼ねない。もうね、なんかそんな予感がするの。

だってギンガさんは、あの豆芝の姉なんだよ? スバルのアレコレを見てると、マジで言いそうで怖いの。

というか、真面目にあの人タチ悪くないっ!? 押しても引いても変わらないって、一体どういう事さっ!!





・・・・・・とにかくそこの辺りは一旦置いておきつつ素振りに集中していると、そんな空気を読まずに通信がかかった。





早朝だっていうのに失礼な奴だと思って、誰からか確認せずに繋いだのがまずかった。










『アンタ・・・・・・マジでなにやってんのよっ!!』



僕は現在、正座させられた上で通信画面と向き合う事を強制させられました。



『いつかこの手の事をやるんじゃないかやるんじゃないかとは思ってたけど』

「んじゃ、問題ないじゃん。予感がしてたなら当然受け入れる覚悟も」

『無いわよ馬鹿っ! よりにもよって管理外世界で魔法も無しにドンパチっ!?
ありえないわよ、そんなのっ! 私達にまで被害が及ぶじゃないのよっ!!』

「だから六課は辞めたって言ったでしょ? ティアナ、バカだねー。人の話を聞いてなかったの?」

『なんですってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!』



通信をかけて来たのは、ティアナ。なお、全部の事情を察していらっしゃいました。



『恭文・・・・・・本当に、戻ってこれないの?』



で、察したのは一人じゃない。スバルも居る。なお、残念ながらこれだけじゃない。



『なぎさん・・・・・・なのはさんね、とても心配してる。私達に相談してきたくらいだもの。本当に相当だよ。
あと、副隊長達は帰ってきた時のために、嬉しそうな顔でグラーフアイゼンとレヴァンティン磨いてるよ?』

「へ?」

『私、事件どうこうは抜きにしてすぐに戻って来て謝った方がいいと思うな。じゃないと・・・・・・ねぇ?』

「え、殺る気満々っ!?」



ちょっとちょっと、なんでそうなるっ!? てゆうか、嬉しそうな顔ってどうしてさっ!!



『当たり前だよ。いくらなんでもいきなり過ぎるもの。あと、それはギンガさんも同じ。
・・・・・・ギンガさんも涙目で僕達に恭文の説得、頼んできたから』



で、エリキャロも居ます。どうもなのはが涙目でバラして、説得を頼んだらしい。

くそ、あのバカ・・・・・・あれだけ叩いてもまだ関わろうとするのか。喜ぶべきかどうか迷うぞ。



『でも、どうして六課での居場所を放り出す覚悟をしてまでそっちに残るのかな。
警備人員が全く居ないわけじゃないよね? その人達の領分ではあるし、任せるのが正解だと思う』

『そうよ。てゆうかアンタ、そもそも魔法無しで銃器相手にやり合った事があるの?』

「あるけどなにか? てゆうか、そのための訓練ならどっさりしてたし」



軽くそう言うと、なぜだか全員が驚いた顔をした。・・・・・・あぁ、そこの辺りはなのはやギンガさんから聞いてないのか。



『・・・・・・なぎさん、ホントに?』

『と、というかどうしてっ! だってそんなの、局の訓練校でもやってないのにっ!!』

「全く・・・・・・これだからおのれらは揃いも揃って三流なんだよ。なんで今まで一度として疑問に思わなかったわけ?
『もしも魔法が使えなくなったら』ーとかさ。特にエリオとキャロ、僕は二人の年にはこの疑問を持って行動してたよ?」



まぁ、諸事情込みで負けたからだけどねっ! うん、でもそこは絶対言わないっ!!



「その結果が今話した訓練だよ。色々なツテや助けを借りて、地球の方でそういう訓練を積んだの。
そのために世界を旅し、答えを探して西へ東へ。それはもう苦難の旅路だったよ」



特に飛行機に乗る時に逐一僕の手を握り締める美由希さんとかっ!?

もうね、すっごい幸せそうな顔するのっ! だから、色んな意味で複雑だったさっ!!



「二人共、ただ『隊長達の教導受けてればOK♪』なんて心構えで居るからそうなるのよ。
なんでもっと自分から疑問を持って行動していかないのよ。お前ら、マジ弛んでるよ」

『『あの、それは・・・・・・はい。ごめんなさい』』

「僕に謝られても困る。僕に謝る前にそこを反省する事。で、その受身の姿勢は今すぐ変える事。
てーかもったいないでしょ。お前ら、自分達がどんだけ恵まれた環境に居るかを全然分かってない」



僕にとってはアレだけど、二人にとっては六課は天国に近いとこよ? 基本フェイトと一緒に居られるしさ。

その上中身はともかく技能は優秀な教導官と、中身も技能も神レベルな師匠が戦技を教えてくれるんだし。



「とにかくそういう事だから。二人共いいね?」

『うん、分かった。というかあの・・・・・・恭文、ありがと』

『私達、確かに弛んでたのかも。こんなんじゃ、ダメだよね』

「うん、ダメだね。まぁそこが分かっただけでもいいんじゃないの? ・・・・・・それじゃ」



そこまで言って、僕は通信を切った。それからさっきから右手でずっと握ってた端末の操作をまた続ける。



『・・・・・・だからちょっと待ちなさいよっ!!』



ただ、それが完了する前になんかまた通信かかってきたけど。そして全員がなぜか怒りの表情で僕を見る。



『何極々自然にエリキャロの説教にシフトして通信切ったっ!? まだ本題が何も片付いてないわよねっ!!』

『そうだよっ! というか恭文、僕達の事適当に煙に巻いたよねっ!!』

『私もついつい反省モードで誤魔化されちゃったけど、これはおかしいからっ!!』

『恭文、恭文の悪いところはそういうところだと思うなっ! 理論武装でなんとかしようとするの、ホントやめないっ!?』



失礼な。これが僕の素敵なチャームポイントだと、世の奥様方からは好評なのに。

特にフィアッセさんとか? まぁフィアッセさんは奥様じゃないけどさ。婚約者だけどさ。



「仕方ないなぁ。じゃあ本題に戻るけど」

『なんか私らがワガママ言ってるみたいな言い方するのやめてくれないっ!?
そのめんどくさそうな声とどっか呆れられてるような顔が激しくムカつくしっ!!』

「スバル、イギリスのご飯って美味しいのよ?
例えばローストビーフ。いやぁ、本場のローストビーフ美味しかったなぁ」

『え、アレってイギリスの料理なのっ!? という事はまさか昨日も・・・・・・って、違うからっ!!
恭文、ちゃんと答えてっ! どうして六課のみんなを振り切ってそっち残るのかなっ!!』

「そうだね。しいて言うなら」



僕は明後日の方向を見て、軽く爽やかに微笑みながら言い切った。



愛のため



そして、沈黙が訪れる。僕も画面の中の四人も黙る。なので、もう一発いく事にした。



愛の

『二回も言わなくていいわよっ! てゆうか、アンタなんでそこすっごい強調するわけっ!? そしてフェイトさんどうしたっ!!』

「いや、確かにフェイトは僕の永遠の嫁だけど、フィアッセさんは婚約者なのよ。
婚約者の危機に立ち上がらない男は、男じゃないの。だからエリオ」

『え、僕っ!?』

「そう。お前は男じゃない。・・・・・・ここで理解を示せないお前は、エリ子・モンディアルだよ」

『なにそれっ!? というか、ここでそうしないと僕は性別そのものから歪められちゃうっておかしくないかなっ!!』



おかしくない。だって僕がそう決めたから。そして僕は世界の基準であり王道なの。



「まぁそういうわけだと理解したね? とにかく僕は戻れないので、納得するように」

『出来るわけないでしょうがっ! とりあえずそれだけ聞くと、アンタが果てしなく女たらしでただのバカって事しか分からないしっ!!』



などと言っている間に、画面から見えないように右手を動かす。・・・・・・うし、設定OKと。



「あれ・・・・・・もしもーし、ティアナ聴こえるー!? もしもーしっ!!」



大きな声を出して、向こうに呼びかけてみる。すると、ティアナが怪訝そうな顔をして一言。



『・・・・・・アンタ、そのまま通信不良を装ってこの回線切るつもりじゃないでしょうね』

「えー、なんの事ー!? というか、よく聴こえないんだけどー! もしもーしっ!!」

『いや、聴こえてたわよねっ! 今聴こえてたわよねっ!?
だから明らかに返事してるじゃないのよっ!!』



うーん、ヤバい。声がほとんど聴こえない。うーん、どうしてなのかなー。



『あの、恭文待ってっ! 私達真剣な話してるのっ!! ・・・・・・確かに大切な人かも知れない。
でも、恭文の仕事場はここだよ? だったらまず、みんなにきちんとした形で理解を求めるべきだよ』



いや、理解求めたんだけど。そうしたら横暴で休み取り消されて、無理矢理にでも戻れって話になったから辞めただけだし。



『お話して、どうしても助けたいんだって気持ちを伝えて・・・・・・まずそこからじゃないかな。
恭文、そういう事ちゃんとしてる? 私はなのはさんやギン姉のお話を聞く限り、そう思えない』

「あれ、回線おかしいなぁ。うーん、不良かなぁ」

『え、私の話完全無視っ!?』



スバル、無視してるんじゃない。今僕の目の前は砂嵐になってしまっているんだから。

うん、だから見えるのよ? 砂嵐の画面が。あぁ、みんなの声もなぜかクリアに聴こえない。



『そうだよ。なのはさん達も話せばきっと分かってくれるし、無理矢理な形で飛び出さなくてもいいよ。
あの、僕は恭文に六課を辞めて欲しくない。確かに僕達、今は友達でも仲間でもないかも知れない』

『だけど、そうなっていける可能性が私達にはある。なぎさん、お願いだから落ち着いて。まずはちゃんとお話しようよ。
本当に危ない状況だから、焦っちゃうのかも知れない。だからみんなを振り切るような形になるのかも知れない』



そうだね、かなり危ないよ。だって、コンサートは明日なんだから。その上戦力増強は不可ときてる。

ぶっちゃけ僕一人が入ったところで、焼け石に水かも知れない。てーか、僕一人でなんでも変えられるなんて思ってないし。



『だけどこんな形、絶対にダメ。こんな事したら、なぎさん本当に一人ぼっちになっちゃう』



正直色々な準備がある事も考えると、僕は六課の連中をグダグダ説得してる余裕がない。

うん、言い訳だよね。知ってるわ。でも・・・・・・だからって不備を残すわけにもいかないのよ。



『あのね、私達も大切な人が永遠に居なくなるかも知れないって考えた時の辛さ、本当に少しだけは知ってる。
今のなぎさんの気持ちも分かる。でも、だから言える。こんなやり方、だめだよ。こんな風に自分をすり減らしても』

「・・・・・・キャロ、みんな」

『うん、何かな』

「ごめん。僕は・・・・・・おのれらと友達や仲間になる資格なんて、可能性なんて無いのよ。
そんなもの、どこにもない。最初から存在してない。だから、そんな言葉じゃ止まらない」



僕はそのまま通信を切った。それで・・・・・・真っ暗なモニターを見て、ため息を吐く。



≪・・・・・・砂嵐で声が届いてなかったんじゃないんですか?≫

「さぁね。最後の一瞬だけ届いたのよ」

≪また都合のいい≫

「アルト、知ってる? 世の中っていうのは、時としてそういう日もあるの。だから、都合がよくていいの」





なお、みんなのアドレスは基本着信拒否にしてある。

というか、六課に居る人間でアドレス教えたメンバーはほぼ全員かな。

ただ一人を除いて・・・・・・うん、この子は着信拒否に出来なかった。



なお、リインは遠慮無く拒否してる。絶対連中は頼ってくるだろうし、謝りメールも入れてるからOK。





「さて、準備続けるとしますか」

≪そうですね。シャレを抜きにして、私達には止まってる時間がありません≫

「うん」










日頃から練習はしてる。だから、扱いに関しては自信はある。でも、今回は意識をもう1レベル上げないといけない。

魔法には一切頼れない。ジガン装備も危ないだろうし、ジャケット関係も当然NG。

それで銃器関係に立ち向かうのは、何気に覚悟が必要なのよ。幸いな事に、今日一日は時間がある。





その間に覚悟を決める。そして意識を高める。これは間違いなく、殺し合いになるから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



昨日のあれこれを深く考えていたせいで、中々寝つけなかった。

結局眠るのが遅くなって、起きたのは朝の8時。仕事があるなら、間違いなく遅刻レベル。

それで起きた直後に、見計らったように通信がかかってきた。それは八神部隊長から。





それだけで用件は分かったので、髪だけ整えてから私はその通信に出た。





それで私は部隊長になぎ君を改めて説得してくれるように頼んだ。頼んだけど・・・・・・首を横に振られた。










「・・・・・・どうしても無理なんですね」

『無理やな。元々決めたら引かんし、アンタの知っての通り今なのがマズかった。
局のルールや道理に怒りマックスやしなぁ。もううちらじゃ止められんよ』

「でも・・・・・・実はスバル達にも説得をお願いしたんです。私はともかく、あの子達ならと」

『ん、聞いてる。てゆうか、スバル達はなのはちゃんにも頼まれとったみたいや』



なのはさん・・・・・・あぁ、やっぱりなんだ。やっぱりあそこには、なぎ君に居て欲しいと思っている人が居る。

理由はどうあれ、あそこはなぎ君の居場所なんだ。なのに、なぎ君はそれを振り切っていく。そんなの、嫌なのに。



『結果だけ言うと、だめやった。てーか、うちやなのはちゃんにスバル達のアドレス拒否扱いしとるんよ』

「そんな・・・・・・どうして」



淡い希望だった。きっとこれまで一緒に過ごしてきたみんななら、なんとかなると思った。

だけど、だけどそんな期待すら裏切られてしまう。その事実に目の前が一瞬だけ真っ白になる。



『振り切ってくからなぁ。ごちゃごちゃ抜かされてもめんどいんやろ』

「ならクロスフォードさん達です。なぎ君の姉弟子・兄弟子ですし、二人から話せば」



それにもうすぐ六課にも出向という段階だったはず。そうだ、お二人なら止めてくれる。

お二人は一応大人ではあるわけだし、なぎ君の行動が有り得ない事くらいは分かってるはずだよ。



『そこならなのはちゃんがもう聞いたらしい。で、説得する事そのものから断られた。てーか当然やろ。
元々あのお二人は恭文と同類なんよ? 今の状況で止められるかどうかくらいは分かるやろ』

「・・・・・・そんな」



スバル達もダメ。隊長陣もダメ。クロスフォードさん達もダメ。それじゃあ、誰がなぎ君を止めるの?

私が止めても、簡単に振り切られる。そもそもお話すら出来無くて・・・・・・だめ。こんなの、もう絶対にだめ。



「あの、私今すぐなぎ君と話します。それですぐに着信拒否を止めさせて、改めて話を」

『えぇよ、もう。そないな事しても、結局平行線やんか』



『大丈夫』と言いたげな部隊長の顔を見て、私はベッドの上でへたり込みながら首を横に振る。



「違います。話せば・・・・・・話せばきっと分かってくれます。
ここはエリスさん達に、現地住民に全て任せるのが正解だって。それで」

『それでフィアッセさん達が亡くなったりしたら、アイツマジで潰れるで?』



そう言い切られて、続きを言えなくなった。どうしよう、私・・・・・・本当にズレてる。

だからまたなぎ君に手を振り払われた。振り払われて、何も出来なかった。



『・・・・・・結局、そこに集約されるよ。もちろん知らんかったなら、まだえぇ。
でもアイツは知ってもうて、しかもなんとか出来る距離に居るんよ? 無理やて』

「だけど、管理局のルールでは干渉は出来ません」

『そやけど、それで人を見捨てる事になる可能性があるんは、否定出来ん。
なによりアイツは管理局員ちゃう。ただの外部協力者や』

「それは・・・・・・はい」





これはきっと、私が普段ミッドで仕事をしているから感じない事。だから今、色々と戸惑ってしまう事。

地球のような世界の事件に深く干渉する事は、基本的に禁じられてる。だから、なぎ君にも昨日そう言った。

それを当然のものと思う私の言葉は、結局否定され振り切られた。それがとても悲しい。



だってそれは、私やみんなの居場所である局のルールそのものの否定だもの。





『あと、フィアッセさんを責めるんは無しよ?』

「え?」

『今回の事はマジ突発的事態やし、なによりフィアッセさんも恭文止めたらしいんよ』



頭に浮かぶのは、あの金色の髪の女性。そして、思い出すと怒りがどうしてもこみ上げてくる。

もちろん分かってる、そんなの理不尽だって。最低だって。そしてその感情は、部隊長の言葉で強まった。



『仕事場戻る方が正解やってかなり強めに言ったらしいんやけど、無理やって連絡来たわ。
フェイトちゃんが元々アドレス交換しててな、連絡してきてくれたんよ』

「そう、ですか」

『そやからギンガ、アンタマジフィアッセさん責めるような真似だけはせんといてよ?
もしそんな真似したら、アンタ恭文に殺されてもおかしくないで』



・・・・・・気持ちが更に落ち込む。それは明らかな優先順位の差。私は、あの人よりランクが下らしい。

だからフィアッセさんを傷つけると、なぎ君は容赦なく私を敵と認識する。部隊長の言っているのは、そういう事だよ。



「でも私、このままは納得出来ません。どうしてなぎ君が助けなきゃいけないんですか?
なぎ君は機動六課の部隊員で、ミッドの住人です。なぎ君、きっとその事忘れてる」



大事な人を助けたい気持ちは、分かる。でも、それでもだめなの。だってそれがルールだから。

私達は現地住民の判断を信じて、引くべきなんだ。なぎ君はその原則を破ろうとしている、ダメな子なんだよ。



「なぎ君が助けなきゃいけないのは、傷ついた六課のみなさんとミッドの人達です。
そういう約束の元で六課出向を引き受けたはず。なのにこれはありません」

『忘れとるのはアンタの方やて』

「え?」

『恭文は地球人やろうが。そこは、恭文の生まれた世界なんよ?』



その言葉に、血の気が引いた。そうだ、確かに私は・・・・・・そこを忘れてた。

なぎ君は私達の仲間で、友達。でもその前に、この世界の人間だ。



「でも、今は私達と一緒に居ます。なぎ君はミッドで暮らしてます。だったら、ミッドのルールを守るべきです。
戻った結果どうなろうと、それはなぎ君のせいじゃない。そうなって仕方のなかった事として、受け入れるしかありません」



だめ、やっぱり納得出来ない。自分が間違った事を言ってるのは分かってる。でも、だめなの。

なぎ君に居なくなって欲しくない。側に居て欲しい。そうじゃなきゃ私、不安で悲しくなる。



「どんなに悔しくても、言い訳になっても、そうするべきです。
そうじゃなかったら・・・・・・なぎ君、ずっと一人で生きてく事になります」



こんな事する人と、誰が一緒に居たいと思う? 社会的な事を言えば、そんな人は居ないよ。

だから言ってる。なぎ君に孤独になって欲しくないから、だから言ってる。それなのに、伝わらない。



「部隊長、お願いします。無理なんて言わずに、なぎ君を止めるのを手伝ってください。
ここで止めて、ちゃんと知ってもらうべきです。なぎ君はもう、私達の仲間なんだって」

『・・・・・・アンタ、忘れとるだけやのうてまだ気づかんのか』

「気づかないって何がですか。というか、部隊長、話を逸らさないでください。私は真剣なんです」

『あいにく、うちも真剣や。ギンガ、ハッキリ言うとくけどこれは全部アンタのせい。アンタがこないな状況にした。
なのはちゃんが潰れて仕事ならんのも、恭文が六課辞める羽目になったのも、みーんなアンタのせいや』



そんな事はないと私は反論しようとした。でも、言えなかった。

だって部隊長、今まで見た事がない程に鋭い視線を私に向けていたから。



『ここ最近のゴタゴタは、アンタが中途半端でズルしとるせいや。ルールどうこう言っても、結局アンタは逃げてるだけ。
アンタは局員としての自分を通してしか、恭文に気持ちをぶつけようとしてないんやないのか? ようするに臆病なんよ』



少し呆れ気味に言われて、私は軽く混乱してしまう。どうしてそうなるのかが、よく分からないから。



『恭文好きなんも、側に居て欲しいのも全部アンタ個人の気持ちやんか。
なのになんでそこで局のルール持ち出すんや。よう分からんよ、それ』

「だけど、私は局員です。局員として、管理世界に関するルールを守るのは当然です」

『それが逃げや言うてるんよ。・・・・・・ハッキリ言えばえぇやんか。好きで、居なくなったりして欲しくないって。
だからちゃんと繋がりたいし、一緒に頑張っていきたい。だから自分を見てって伝えればえぇだけやないか』



それは告白しろという意味・・・・・・ううん、違う。それよりももっと深い意味に聴こえる。



『みんなを振り切るような真似をせずに、ちゃんと話し合って理解を求めて欲しい。向き合う選択をして欲しい。
その上でフィアッセさんの側に居る事を選んで欲しい。・・・・・・アンタの言いたい事は、全部それで済む』

「違います。私は、なぎ君にここに居て欲しくない。あんな人を守るためにルールを破って欲しくない。
私は、六課に戻って欲しいだけです。そうやってちゃんと正しい選択を選んで欲しいだけです」



でも、私は首を横に振りながら反論する。今はそういう話をしてるんじゃない。そんなの、関係ない。



『それが逃げや。そうやってグズグズしとるから、恭文かてワケ分からんなるよ。ギンガ、アンタはただの臆病なガキや。
そやからみんな振り回して傷つけて苦しめとる。一番苦しめてるんは、恭文や。そしてアンタ自身がこの状況を呼び込んだ』

「違うっ!!」

『違わんよ。アンタのせいでフェイトちゃんとのデートは潰れ、恭文は怒りが噴き出してる。
アンタがそこに居るせいで今回の事をうちらに言わん選択も潰れて、余計にゴチャゴチャしてもうた』

「違う・・・・・・違う、違う違う違うっ!!」

『鉄火場に恭文呼んだ事からして間違いや。ギンガ、アンタマジやり方汚いわ。
恭文の優しいところやお人好しなとこ利用して、自分に縛りつけようとしとる』



確かにそういう側面が無くもないかも知れない。でも、違う。私は・・・・・・そんなつもりはなかった。

ただなぎ君とあのままケンカ別れなんて嫌で、側に居て欲しくて、だから局に入って欲しかっただけ。



『そしてアンタはそのまんまの自分をぶつける勇気が出ないから、恭文をただモノ扱いして不幸にしとるだけや。
今かてそうやないか。大事な人を助けたい思う恭文の気持ちから目を背けて、ルールだけしか見ようとしてない』

「違いますっ!!」

『結局アンタは、恭文が好きなんやない。恭文が魔法使えて強いから好きなんよ。そうやなかったらいらないんやろ?
今ゴネてるんは、そんな恭文が自分の側から離れて、自分の部隊に入って働いてくれん道を行くからゴネとるだけや』

「違うって言ってますよねっ! 私は、そんな風になぎ君を見た事なんてないっ!!」





だって、局にはみんなが居る。みんなでなぎ君の事を守って支えてあげられる。なにより私の居場所なんだ。

それを嫌って欲しくない。ううん、好きになって欲しい。だって・・・・・・私自身まで嫌いって言われてるようで、凄く悲しいの。

それの何がいけないの? 誰だって好きな人に、自分の事や自分の仕事を嫌ってなんて欲しくない。



そんなの、ちゃんと理解して欲しいに決まっている。それを求める事の何がいけないのかな。



好きな人と一緒に頑張って、同じ道で一緒に生きていけたらいいなって夢を見て、何が悪いの?





「なにより私、グズグズなんてしてませんっ! ただ私は、ちゃんとして欲しいだけですっ!!
みんなと同じように、普通に・・・・・・無茶なんてして傷ついて欲しくないだけですっ!!」

『・・・・・・それが中途半端言うてるんが分からんのか』



そう反論しても、部隊長が呆れ気味に私を見るのは止まらない。ううん、哀れまれてるのかも。



『アンタ、局員としても女としても中途半端や。本気で惚れた男の全部を認める覚悟もない、ホンマもんの臆病もんや。
・・・・・・自分を局員言うなら、今ここで恭文を切り捨てるんや。それがアンタの選ぶべき道や。いや、アンタはそうせんとアカン』



そんな事、出来るわけない。今ここで私がそんな真似をしたら、本当にあの子は一人になる。

そんなの絶対だめ。だから・・・・・・そうだ、私は中途半端なんかじゃない。



『でもアンタは今目の前に居る恭文を認めようともせず、自分の頭の中で描いた予想図通りに動かんからゴネてる。
それで怖い。自分の予想図が・・・・・・恭文のためと思って考えたものが、実は自分の都合によるものやったと認めるのが怖い』

「違い・・・・・・ます」

『なんも違わんよ。もう一度言うけど、アンタは逃げとる。恭文と自分が違う人間言う基本的なとこから目を背けとる。
結局ただ自分のワガママが恭文には通らんから、喚いてるだけやんか。そんなん、ジェイル・スカリエッティと同じよ』

「違う・・・・・・私は、違う」



それが腹立たしくて・・・・・・だけど、反論する権利そのものもないって、どこかで思ってる自分が居る。

ううん、知ってる。私はこの言葉に反論なんて出来ない。それら全てが事実だって知ってる。



『ワガママが通らんから、今かてゴネてる。違うか? ・・・・・・もうな、マジでぶっちゃけるわ。てーか我慢が出来ん。
うちはアンタの存在が、不愉快以外の何ものでもない。アンタ、ホンマ恭文の友達やめてくれんか? もう消えてや』










だって私はここに来るまで、ずっと自分が中途半端だと思ってたんだから。

そうだ、私はなにも言えない。反論する権利そのものからない。

私の、せいだ。全部・・・・・・全部私が悪いんだ。私がなぎ君を苦しめてる。





私がもっとちゃんと出来てたら、私さえ居なければ、こんな事にはならなかったんだ。




















(その4へ続く)




















あとがき



空海「・・・・・・んにゅ、もう食べられ」

全員「おっめでとー!!」





(そこから一気に鳴り響くクラッカー×10以上。それにより幻想殺し、一気に飛び起きる。というか、ベッドから転げ落ちる)





空海「な、なんだっ!? ・・・・・・・てーかお前らなんでここに居るっ!!」

ダイチ「そうだぜっ! ここ、空海の部屋だよなっ!?」





(そこに居るのは、そんな幻想殺しの関係者達。なお、ぎゅうぎゅう詰めです)





恭文「空海と福沢鷹幸さん、おめでとー!!」

あむ「おめでとー!!」

フェイト「おめでとうー!!」

コロナ「おめでとうございます」

その他全員『おめでとうー!!』





(そこからまた、派手にクラッカーが鳴り響く。なおかなりうるさい)





空海「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! お前らうるせぇよっ!! てーか、なんだよコレっ!!
なんで深夜0時過ぎた直後にいきなりこれなんだよっ!!」

恭文「いや、だって今日(8月17日)は空海と福沢鷹幸さんの誕生日だし」

空海「はぁっ!?」

フェイト「あのね、空海君。実はこんな拍手をもらったんだ」





(※今日は8月17日。空海の誕生日でしたね、誕生日おめでとう!
そして、俺の誕生日でもあります。まあ、誰一人祝う人のいない寂しい誕生日ですが、カップ麺でも食べて過ごします(号泣)

by福沢鷹幸)





恭文「・・・・・・というわけで、ドキたま/だっしゅでは残り40分になるまで気づかなかったでしょ?
そのお詫びも込めて、17日になった直後を狙って襲撃かけちゃいました♪」

りま「せっかくだし福沢鷹幸さんもお祝いする事にしたの。まぁ、特別企画よね」

コロナ「それであの、誕生日プレゼントも用意しました。空海さん、お誕生日おめでとうございます」

空海「『かけちゃいました』じゃねぇっ! だからってこれは極端過ぎだろっ!!」

フェイト「あ、それでケーキも私とヤスフミとスゥちゃんで作ったんだ。ほら」





(部屋の一角のテーブルの上には、確かに白いショートケーキがある。というか、もうろうそくに火がつけられてる)





空海「いつの間にっ!?」

フェイト「さて、それじゃあまずはお誕生日の歌だよね」

空海「だから待てー! 特にフェイトさん、大人としてこれはいいんっすかっ!? コイツら止めましょうよっ!!」

全員『ハッピバースデートゥーユー♪ ハッピバースデートゥーユー♪
ハッピバースデー空海と福沢鷹幸様ー♪ ハッピバースデートゥーユー♪


空海「そして声デケェよっ! てーか兄貴達がうるさいから自重しろー!!
そしてまず主賓を無視するなっ! お前らだけで楽しそうなの、なんかムカつくんですけどっ!!」





(幻想殺し、実は男五人兄弟の末っ子です。そして家族の許可は取って部屋に防音結界を張っているのでもーまんたい)





全員「二人共、お誕生日おめでとー!!

空海「だから声がデカいんだよっ! あと、その人数で同時に跳ぶなっ!!
ホコリ立つしなにより床が抜けるからっ! 俺の部屋壊れるしっ!!」

りま「空海、大丈夫よ。そうなったら恭文がブレイクハウトで直してくれるわ」

空海「そんな事言ってねぇよっ! 俺が言いたいのは、そういう事にならないようにしろって事なんだけどっ!?」

ダイチ「みんな・・・・・・ありがとなー。てゆうか、アレだな。空海、もうなんか言葉ないな」

空海「あぁそうだなっ! でもな、それは感動って意味じゃねぇよっ!! てーか涙ぐむなっ!?」

やや「ささ、空海。ゴチャゴチャ言わずにろうそくの火を吹き消すー」

空海「そしてお前は何気に俺の言った事全て不満かっ!! ・・・・・ったく、分かったよ。
とにかくろうそく吹き消せばいいんだろ? やるよやるよ、それでとりあえずお前ら帰」





(幻想殺し、言いかけて言葉が止まる。だって・・・・・・いつの間にかろうそくが消えてる)





フェイト「・・・・・・えっと、なんで? あの、誰も吹き消したりしてないよね?」

古鉄≪あなた達が凄い勢いでうたったからじゃないですか? というか、私達は見てました≫

ジガン≪みんなの声でろうそくの火が震えて、そのままかき消されたの≫





(そして、数秒の沈黙。そこからまた時は動き出す)





全員「二人共、お誕生日おめでとー!!

空海「喜べるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! てゆうか、お前らまず帰れっ!!」










(・・・・・・熱い熱い夏の日の一幕だったとさ。とにもかくにも、誕生日おめでとー。
本日のED:AiM『My Tomorrow』)




















ギンガ「・・・・・・ちょっと待ってっ! 今回の話はっ!? ほら、重要なキーワード出てたしっ!!」

恭文「ギンガさん、お願いだから空気読んでくれる?」

ギンガ「私が空気を読めてないみたいな言い方はやめてー!!」

恭文「いや、『読めてないみたい』じゃなくて『読めてない』から。
ギンガさん、僕達はドキたま/だっしゅの悲劇を繰り返すわけにはいかないんだよ?」

ギンガ「それと私ルートでのあとがきと何か関係あるのかなっ!!
・・・・・・とにかく、このままだと私ルートなのに私なぎ君とそうなれないよね」

恭文「はやてが言ってた『逃げ』を払拭しない限りはね。つまり、ギンガさんは女の子としての自分に自信が持てないわけよ。
特に最近はゴチャゴチャさせて事態を悪化させたばかりだから、余計にどうにもならない。でも、逆にそれが事態を悪くさせる」

ギンガ「ここが単純にリンディさんとかとは違うところ・・・・・・だよね。うぅ、これどうなるの?」

恭文「ギンガさん、大丈夫。とりあえずフェイトとくっついて終わりって感じにはならないだろうし」

ギンガ「うん、そうだねっ! だってこれ私ルートだものっ!! そうなったら大問題じゃないかなっ!?」










(おしまい)





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あきゅろす。
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