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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第37話 『また会う日まで』(加筆修正版)



・・・・・・季節は、新暦76年の1月の末。先日、私達に大事件が起きた。

それはヤスフミにとっても一つの大きな転機であり運命の出会い。そして夢のようでもあり、だけど確かに存在していた時間。

その中で私も私なりに色々気づく事があって、そんな時間を経た上で私達は元の日常へと戻った。





ほんの少しの変化と一緒に、また頑張ろうと思っていたのに・・・・・・中々そうはうまくいかないらしい。





突然だけど、ヤスフミはたまに途轍もなくわがままになる時がある。普段の5倍以上な勢いで、わがままになる。










「・・・・・・というわけで、修行は2月の後半まで行ってくるから」



そして、今がそれ。そんな超絶わがままモードに入ったヤスフミが、平然とこんな事を言い出した。



「却下や。つーか、普通にやったら2週間前後で戻れるやろ」

「戻れないんだって」

「なんでやっ!? 恭也さんからは上手くいけばそれくらいでいけるって返事もらったんやろうがっ!!」





現在、部隊長室ではヤスフミとはやてが揉めている。原因は、明日出発の修行の事。

ドイツに一人・・・・・・不安だな。やっぱり、誰か付いていかないといけないんじゃないかと思う。

とりあえずそこは置いておくとして、ヤスフミが突然に予定を変更したいと言い出した。



予定を延ばして2月の後半まで隊舎を空ける・・・・・・とか。



とにかくそう言い出す理由が分からないので、私は聞いてみる事にした。





「ヤスフミ、どうして2月の後半まで隊舎を空けるの?
そんなに長く留守にしたら、きっとみんな寂しがると思うな」

「あ、どうでもいい」

「それ言い切るのってちょっとひどいよっ!?」

「フェイト、忘れた? 僕は六課なんて基本的に嫌いだって設定じゃないのさ。何を今さら」

「うん、そうだったねっ! でも、設定って言うのやめないっ!? もう色々台なしだよっ!!」



とにかく、それじゃあ納得が出来ない。なのではやてと一緒に少し厳しめにヤスフミを見ると、ヤスフミはため息を吐いて首を横に振った。



「いや、実は・・・・・・大事な用事があるのよ」

「大事な用事?」

「なんや、それやったらそうとはよ言わんかい。で、その用事ってなんや?」

「大阪にゆかなさんのライブ見に行くの」

『・・・・・・は、はい?』



ゆかな・・・・・・ゆかな・・・・・・ゆかなさんっ!?



「アンタ、ゆかなさんのライブ見に行くために予定を延ばす言うんかっ!!」

「それがヤスフミの目的っ!?」

「うん」





ゆかなさんというのは、地球で活動している声優さん。そして、ヤスフミは昔からの大ファン。

地球に居た頃はよく『ゆかなさんのライブ見に、ちょっと東京行ってくる』とか言って仕事をキャンセルしてたくらいなの。

クロノからの休み中に来た緊急の依頼(無茶振りとも言う)も、全部ぶった切っりしてたくらいなんだ。



それで揉めて、結局クロノが『生まれてきてごめんなさい』状態になったから、よく覚えてる。



それで、フィアッセさんの歌の次くらいに聴いてて・・・・・・ちょっと待ってっ!? なにかおかしいと思うんだけどっ!!





「待てや待てやっ! それおかしいでっ!! なんでそこでゆかなさんっ!?
アンタ、うちらをほっぽいて大阪でペンライト振ってゆかなさんの応援する言ってるんかっ!!」



はやてがそう叫び気味で言うと、当然と言わんばかりの顔でまた頷いた。私は、頭が軽く痛くなってくるのを感じた。



「だって、試験があったからバースデーライブには行けなかったし」



ヤスフミ曰く、ゆかなさんの誕生日は1月6日。・・・・・・あ、そうだね。試験日間近だもの。うん、無理だよね。



「これは絶対行きたいのっ! ね、いいでしょー!? ライブ会場に売ってるグッズお土産にするからー!!」

「うちは別にゆかなさんの特別ファンとかちゃうもん。
そんなんえぇよ。そんなんえぇから、予定通り帰ってこんかい」

「そうだよっ! ヤスフミはもう六課の一員なんだよっ!?
気持ちは分かるけど、こっちの方を優先してっ!!」

「嫌だ。だから、僕は六課なんざどうでもいいと何度言ったら分かってくれるの? そういう設定なんだから」



即答で言い切ったっ!? それも力いっぱいっ!!

というか、私達呆れられてるっておかしいよねっ! あと、設定って言うの禁止っ!!



「それ言い切るってひどいやろっ! アンタ、うちらとゆかなさんのライブ、どっちが大事なんやっ!?」

「ゆかなさんのライブが大事に決まってるじゃないのさ。全く、何言ってるんだか」



また即答っ!? そして呆れてるのが強くなったしっ!!



「てゆうか、それくらいはいいじゃん。デンライナーで旅するのも、結局ダメなんだしさ」





そう言われて、私とはやては少し固まってしまう。・・・・・・うん、旅したがってたよね。

せっかくチケットも入手出来たから、あの人達と一緒にーって。

でも、ヤスフミのお仕事はまだ終わってない。六課が解散するまでという約束なんだから。



だから旅に憧れのあるヤスフミは、もうしばらくここで・・・・・・そこはその、本当に申し訳なかったり。



で、でもそれでもこれはダメだよっ! それならそれでちゃんとするべきだと思うしっ!!





「とにかくダメやから。えぇやんか、その分フェイトちゃんとここ居られるし」

「またどこぞのバカ提督が調子コクかと思うと、呑気にしてられないんだけど。
あのバカ、半殺しにしてもまだ懲りないだろうし」

「ヤスフミ、そこは大丈夫だからっ! ちゃんとクロノ達も話してくれてるし、大丈夫だから落ち着いてっ!?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・とりあえず、休みに関しては却下という事で纏まった・・・・・・はず。

ごめん、自信が持てない。もう今すぐにでもチケット予約するような勢いだったよ?

そうじゃなくても、当日席狙いで大阪行きそうな雰囲気だったよ?





うぅ、もしも帰る直前で連絡無しでそれをやられたら、絶対止められないよ。





私、フェイト・T・ハラオウン。現在ソファーに座りながら、ちょこっと頭を抱えています。










「・・・・・・まずいなぁ。これはまずいなぁ。アイツの事やから、下手したらこっちの声とか無視で大阪行くで?」

「うん、行くよね」

「ペンライト振って幸せそうな顔でゆかなさんの歌聴くで?」

「うん、聴くよね」





もうね、言われるまでもなく分かってる。ああなったヤスフミは、多分止められないもの。

というか、今の段階からチケット取得のために動いてそうで非常に怖い・・・・・・おかしいな。

確か事件中に色々あって使えるようになった神速を、コントロールするために行くんだよね?



なんだかゆかなさんメインになってないかなっ! 本当にこれはおかしいよっ!!





「あ、スバル達に説得して・・・・・・だめだね。きっと遠慮なくライブを優先するよ」

「するやろうなぁ。あの状態になったら、なのはちゃん以上にワガママやし」





そんなに好きなのかな、ゆかなさん。・・・・・・なんだろう、ちょっと面白くない。

確かにさっきネット検索で改めてお写真見たら、すごく美人で優しそうな人だったよ?

あと、バストアップ写真を見つけたので見てみたらその、大きかった。



ヤスフミ、ゆかなさんみたいな感じの年上の人がタイプなのかな。

そう言えば、フィアッセさんもそんな感じだし・・・・・・うぅ、結構危ないのかも。というか、私はヤキモチ焼いてる。

だって、隊舎に居る私達・・・・・・ううん、私よりゆかなさんを優先なんだもの。



それは確かにフィアッセさんみたいに友達とかではないみたいだから・・・・・・アレ?





「はやて、ゆかなさんってヤスフミと友達じゃなかったよね」

「そうやな、うちの知る限りではちゃうな。てか、そうなってたら怖・・・・・・なんでそんな事聞くん?」

「えっとね、お友達ならなんとか収められるかなぁーと」

「あ、なるほどなぁ。でも無理やろ。あの勢いは完全ファンやし」





まぁそうだよね。だから直接見られるライブとかに熱心に通うわけだし。

だからライブがあるとなると絶対行きたいというのは分かるけど、それでも、ちょっと嫉妬してる。

うん、嫉妬してるんだよね。やっぱり私、ヤスフミの事・・・・・・もう確定あよね。



だから余所見なんて、絶対されたくないって思ってる。だから今、ちょっとモヤモヤしてる。





「うーん、なんかえぇ手ないかなぁ。アイツがそないに留守するとどうなる?
隊舎内の空気にも関わりそうやしなぁ。・・・・・・いっそミッドにゆかなさん呼ぶか?」

「さすがにそれは無理だって。なにより、どうやって説明するの?」

「うん、うちもそう思う」

「でもヤスフミって、やっぱりその辺りの自覚がないよね。
自分がそんな理由で長くここを留守にしたら、みんながどう思う・・・・・・とか」





まぁ、仕方ないのかも知れない。ヤスフミにとって六課は、やっぱり嫌いな場所なんだから。

ここはヤスフミにとってはただ生贄を集めるための場所に過ぎなくて、大切になんて絶対に思えない。

もちろんね、多少は変化が出てきてるみたいなんだ。でも、それはあくまでも多少。



そして場所に対してではなく、多分中に居るみんなに対してのもの。・・・・・・今なら、少し分かるんだ。



ヤスフミがどうして最初にあんなに『友達じゃない・仲間じゃない』って公言していたのか。





「もっと言うと、この場所やこの場所に居るみんなとちゃんと関わろうとしていない? ううん、したくない」

「まぁなぁ。でも、しゃあないんよ」



だからはやてだって、半分諦めたような顔でこんな風に言う。



「アイツ多分、自分もうちらと同罪やからみんなと仲良くしたらアカンって思うてたとこあるんやろうし」

「・・・・・・はやて」



私が驚きながら向かい側で座っているはやての方を見ると、軽く苦笑し気味に私に視線を向けていた。

というかあの、びっくりした。私が思っていた事がそのままだったから。



「まぁ、そやからうちもあんま強い事が言えんかったんよ。
『友達じゃない・仲間じゃない』は、言い換えれば『友達になれない・仲間になれない』やから」

「それだと、かなり前から気付いてたんだね」



私は最近気づいた感じなのに。ヤスフミの事を知りたいと思って、ようやくだよ。



「うん、気付いとったよ。アイツが最初にエリキャロに厳しい態度取った言う辺りからな」





・・・・・・前にも話したけど、ヤスフミは六課設立の裏事情のあれこれを知ってた。

だからこそ、六課という場所や局に母さんやクロノ達に対して強い怒りを持っていた。

でもそれはきっと、自分に対しても向けていたんじゃないかなと思ったの。



どういう理由があるにしても、ヤスフミもそこを知っていて未だにみんなに黙っているのは事実。

つまりそれは、傍観していたという事。みんなが傷つこうと、何がどうなろうとだよ。

本当に、本当に今更だけど気づいて泣きたくなった。私、真面目に分かった振りをしていただけだった。



それがあの強固過ぎるお仕事モードの維持や、スバル達への態度に繋がる。

きっと、どこかで思ってたんだ。傍観者で、見過ごした自分はスバル達と繋がる権利なんて無いって。

だったらヤスフミ、ここに居る間どれだけ辛かったのかなと思ったの。思って、軽く泣いた。





「だったら、私やなのはにも教えて欲しかったんだけど」

「教えとったらどないした? またゴチャゴチャしたやないか。
『そんな事ない、そんなの気にする必要ない』って二人して恭文に言うてな」



そう呆れたように言われて、私は軽く息を飲む。そこはその・・・・・・否定出来ない。



「リンディさんが上からちょっかいもかなり出してたし、正直そういうんは避けたかったんよ。
それでストレス溜めてもうたら、うちらは完全に見限られてそのままさようならや」

「・・・・・・うん、そうだね」



分かった振りをしていただけだったから、きっとそうしてた。それでヤスフミから見限られて、そこでようやく気づくの。

私は分かった振りをしていただけで、本当に何も分かってなかったんだーって。それで、自業自得で泣くんだ。



「それであとはアレよ。ヤスフミも言うてたけど、デンライナーのみんなの事があるから」

「旅に出たい気持ち、強くなったんだね。もう抑えられないくらいになってる」

「やろうな。うー、正直そのまま旅させてやりたくはあるんよなぁ。ほら、休みあげるとも最初に言うてるし」



はやてに頷きながら、そこの辺りを思い出す。・・・・・・うん、確かに言ってる。

定期的な休みは、ヤスフミが出した条件の一つ。それを考えると、そのまま大阪というのも無くはない。



「というか、ここまで散々うちらの都合で振り回しに振り回しまくっとるんよ? なのはちゃんの怪我の事かてそうやん」

「なのはの?」

「そや。なのはちゃんがおとなしく治療に専念するって言えば、恭文かて多少は楽出来るよ」



はやてが困ったように言ったのを聞いて、少し胸が痛くなる。それは・・・・・・うん、一つの事実。

今のなのはは周囲の人間に色々な迷惑をかけた上で、夢を追いかけているという現実。



「普通ならともかく、恭文かて最近まで相当大荒れやったろ? それでなのはちゃんがあんな調子やから」

「・・・・・・耳が痛いよ。その『あんな調子』に乗っかってた身としては、こう・・・・・・色々と」

「そやろ? まぁさっきはあまりの事についあんな風に言ったけど、ここでアイツにもちゃーんと自分の時間を持たせてあげたいなぁと」

「六課では・・・・・・やっぱり無理だったしね」





そこは悲しいけど、事実。もちろん全部の時間がダメとかそういうわけじゃない。

でも、それでも無理だったと思う。だからこそ、今こうやってはやてと振り返りながら色々話してるわけだし。

やっぱり私達は、六課を『夢の部隊』と盲信して、人に押しつけていたらしい。



だから平然とヤスフミの心情を無視して、ここまで振り回して来た。・・・・・・本当に、私は今の私が嫌いだよ。





「そうや。そやから、旅行に関してはOKや。修行はどうせ修行できっちりやらなアカンやろうし」



とにかく、はやての言いたい事は分かった。ヤスフミのガスを完全に抜くためにも、長期のお休みをあげたいって事だね。

修行は修行で集中しちゃうだろうから、ゆかなさんのライブに行ってそれが出来るなら行かせてあげたいと。



「それでとんぼ返りも、ちょお可哀想やろ。ただ」

「ただ?」

「・・・・・・アイツ、あのまま『旅の方がいいやー』って言って、失踪しそうなのが怖いんよ」





はやてが頭を抱えながら、掠れた声でそう言う。そして私は、その予測を否定出来なかった。

確かにやりそう。いや、さすがに・・・・・・ううん、普通ならともかく六課絡みだとヤスフミは本当にやりそう。

特に旅の中には、ヤスフミの夢や願いが沢山詰まってるから。誘惑に負けて、そのまま失踪はありえる。



ヤスフミ、前に言ってたんだ。いつかヘイハチさんみたいに色んな世界を旅していく。

そうやって色んなものを沢山見て、ワクワクドキドキな冒険を沢山していきたいって。そして、それがヤスフミの夢の一つ。

フィアッセさんのコンサートの時に香港やイギリスに行って、旅が好きになって・・・・・・それでだね。



私、それを聞いた時ヤスフミには言わなかったけど、やめて欲しいと思った。

その夢だけは捨てて欲しかった。ううん、そんなの夢じゃないと思った。

だってヘイハチさんは全く連絡が取れない状態になってるし、ヤスフミも同じ事になりそうだったから。



なによりその夢の中には誰かと繋がる・・・・・・共有するものが感じられなくて、なんだか嫌だった。

今思うと、本当に勝手だよね。それまで夢とかそういう事を言わなかった子が、一つやってみたい事を見つけたのに。

私は自分の感情ばかり優先して、喜びもしなかった。本当に、本当に最低だよ。






「うーん、ここだけは怖いんよなぁ。こりゃ、しっかり手綱とらんと・・・・・・手綱?」



はやては右手を口元に当てて、少し考えこむように俯く。

それを見て私が首を傾げているほんの少しの間に、はやては答えを出したらしい。



「あ、そっか。手綱取ればえぇんや。なぁ、フェイトちゃん」

「なに?」



視線を上げて、私の方を見てにこにこし出したから。



「恭文と同じ期間、フェイトちゃんもお休み取ってくれんかな」

「えぇっ!? あの、はやて待ってっ! どうしてそうなるのかなっ!!」

「なるんよ。ようするに引率者・・・・・・同行者が居れば、アイツかてそのままエスケープとかはせんやろ。
で、フェイトちゃんやったら最適や。ある種婚前旅行やし、色々話も出来るから一石二鳥」

「それは・・・・・・そうだけど。でも、仕事は?」

「仕事の方はうちらが責任持って処理するから、頼まれてくれんかな。・・・・・・な?」










・・・・・・それで私はその言葉に頷いた。頷いて・・・・・・思った。

婚前旅行・・・・・・あれ、なんだろう。嫌な気がしない。むしろ、嬉しい。

そう言えば、ヤスフミと二人だけで旅行なんてした事ないんだ。





大体なのはとかが一緒だったし、この間はエリオとキャロが一緒だった。なら、チャンスだよね。





これを機会に審査・・・・・・ううん、違うな。もう、終わらせなきゃいけないんだ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



自分達の時間の中へと帰っていったみんなとの別れから、少しだけ時間が経った。

僕は自宅で荷物整理。というより、旅行の準備。表情は当然笑顔。

僕はしばらくミッドを離れる。なので着替えを用意したり、家にある生ものを整理したりしてる最中。





着替えをしっかり畳んでリュックに詰め込んで・・・・・・うし、あとはあれだね。





僕は、ホルスターと銀色に光る刃達を取り出した。ゆかなさんのライブ、行ける喜びを噛み締めながら。










≪・・・・・・いきなり暗器整理っておかしいでしょ≫

「しゃあないでしょ。絶対に使う事になるんだから。・・・・・・ゆーかなさんはー僕の嫁ー♪」

≪そしてうたわないでください。あなた、どんだけあの人が好きなんですか≫





僕がミッドを離れる理由は二つ。・・・・・・事件中、僕は図らずとも踏み込んだ。

それは神の速度の領域。でも、そこに踏み込む事は、やっぱり危険な事だった。

とにもかくにも、それを自分のコントロール下に置く事が今回の旅行の目的。



というか、修行だね。そうじゃないと、意図せず踏み込んで大怪我する可能性がある。

現に、今回はしかけたから。だけど、僕はワクワク。そしてドキドキしまくり。

それはもう一つの理由。・・・・・・ゆかなさんのライブー♪ 久しぶりだから本当に楽しみなのよ。





「・・・・・・神速かぁ。まさか使えるようになるとは、思ってなかったな」





言いながらもホルスターに飛針を、一つずつはめていく。

これはうちで常備している分。あの人の所にもあるだろうけど、それでもですよ。

えっと、鋼糸はさっき確認したから大丈夫。一揃えしっかりあるからOKと。



で、小刀もバッチリ。あとはこれを整理すれば・・・・・・OKと。





≪詳しい解説はセカンドシーズン1話でするとして、それは私だって思ってませんでしたよ。
・・・・・・そう言えば、貫はどうなんですか? ほら、その段階は途中だったでしょ≫

「一応は出来てるっぽい。元々相手の動きを先読みして反応出来なきゃ、攻撃なんて対処出来ないし」

≪いや、それとはまた違うでしょ≫





貫とは、美由希さん達が使う御神流の基本技法の一つで、相手の攻撃パターンを読み切る技の事。

そうやって、相手の防御や回避行動をすり抜けるようにして攻撃する技術なの。

刀の反りを活用して引き斬る斬と、対象に内部浸透系の振動破砕攻撃を加える徹。



そして貫が御神流の基本技法になる。あ、鋼糸や飛針の扱いはここでは抜いてる。

とにかくその基本技法をしっかりと修めたものだけが辿りつける領域が・・・・・・神速。

この辺りは16話で説明した通りだね。移動に攻撃に見切りにも使える万能技法。



そして、チート技能だよ。うん、14歳の病気の匂いがするよね?





≪普通の魔導師は出来ませんけどね。大体は見てから反応ってパターンが多いですし。
もしくはそういうのはデバイスの仕事です。だからこそ、あなたはスバルさん達をあしらえる≫

「連中、動き読みやすいしね。特にスバエリだよ」





スバルは基本技能こそしっかりしてるけど、基本的に一撃必倒狙いで最短距離でしか攻撃を打ち込んで来ない。

ボクシングで言うと、ジャブでワンツーとかしないで全部ストレート打ってくるようなもんなのよ。

しかもほとんどが、マッハキャリバーで突撃した上での攻撃。言うなら全部の攻撃がジョルトだよ、ジョルト。



ここに関してはエリオも同じくだね。ストラーダとソニックムーブによる突撃に頼り過ぎてて、思考が読みやすい。

その上速さがある分、周りへの視野が行き届きにくい。つまり、突撃中ないし突撃終了後の真横か背後からの攻撃に弱い。

どっちにも言える事は、速さと鋭さは驚異だけど見極めようと思えばかなり楽って事。



ぶっちゃけ、二人の攻撃を避けるのとアサルトライフルの銃撃を避けるのどっちが楽かと言われたら、僕は前者と言う。

ちなみにこの話、つい先日二人にもしたの。あ、ヒロさん達の共同の手伝いって名目でね。

それでティアナとキャロは・・・・・・ノーコメントで。だって二人共、どっちかっていうと僕よりなタイプだもの。





「そういう意味では僕の貫はもう出来上がってるとも言えるとか」

≪士郎さん達の談ですか?≫

「そうそう。もちろん、まだまだ3流止まりだけど」



なんて話している間に、ホルスターに全部の飛針を入れ終わった。うし、これでオーケー。



「・・・・・・あぁ、でも怖いなぁ。フィリスさん、絶対無茶したの見抜いてくるだろうし」



まず、僕が向かう先は海鳴。当然だけどハラオウン家には寄らない。だってもう実家じゃないし。



≪あなたはまだいい患者じゃないですか。士郎さんや美由希さん達に比べたらまだまだ≫





そこには僕が数年前からお世話になっているフィリス・矢沢先生という人が居る。

それでこの人が、専門外なのにも関わらず整体のスペシャリストなの。

なので、僕も定期的にマッサージやテーピングの撒き方なんかを教えてもらってるの。



けど・・・・・・非常におっかない人でもある。あ、訂正。



言う事を聞かない患者にはだね。普段はとても優しくて温厚な人だから。





「でも、頑張ろう。具体的には、怒られるのは覚悟しよう」

≪その方がいいですね≫





まぁ、とにかくこれで荷物整理は終わり・・・・・・と。時計を見ると、時刻はもう夜の9時。

明日早いんだし、もう寝る事にした。というわけで、布団を敷いて、枕を置いて寝る。

でもその前に・・・・・・そうだ、ホットミルクでも飲んで心を落ち着けよう。明日は絶対大変な事になるだろうし。



布団を敷いてからそう思った僕は、さっそく台所へ行こうとした時、インターホンの音が響いた。





「・・・・・・へ?」

≪こんな時間に来客ですか。誰でしょ≫










いや、誰でしょって・・・・・・まぁ、知り合いなのは間違いないはず。

とにかく僕は、部屋に備え付けてあるパネルを操作。玄関前の様子を見ると、やっぱり知り合いが居た。

金色の長い髪に紅い瞳。そして優しげな顔に僕より高い身長の女の子・・・・・・フェイトが。





服装は私服。茶色の長めのコートを着て、足からジーンズ生地のロングスカートが見える。

あ、パンツルックだ。珍しい。あとは僕が前にプレゼントしたマフラー。

そして、手にはなぜか大き目のボストンバック。えっと、アレはなんで?





そういうのも含めて、なんでフェイトがこんな時間に来たのか分からないけど、とりあえず玄関に行きドアを開ける。





すると、当然のようにフェイトの姿が視界に入った。僕の大好きで、大切な女の子が。フェイトは僕の顔を見て、優しく笑う。















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



旅行中の着替え良し。歯ブラシやタオル、生理用品よし。

一応周期的にはもうすぐだから、多分旅行中に来るよね。準備はちゃんとしておかないと。

あと、お風呂はさっき入ったからよし。下着・・・・・・うん、これもよし。





その、いつもよりちょっとおしゃれな黒の下着。これはやっぱりは、派手かな?

でも、せっかくだから頑張りたい。それで歯磨きよし、香水よし。ネイルとお化粧もよし。

うん、うっすらナチュラルメイクだ。ちゃんと上手く出来た。あと、今日は大丈夫な日。





もしもその、避妊とか無しになっても問題ないよね。というか、男の子って初めての時はそういうのしたくないらしいし。

それとはやてから教わったアレとかコレ・・・・・・大丈夫、はやてだって言ってたもの。

確かに恥ずかしい事なのは確かだけど、相手に喜んで欲しいと思うから頑張るんだって。





ス、スクール水着や猫耳は持ってないからダメだけど、他のならいける。

あらかたの準備を終えてから、私は皆に気づかれないように隊舎を出る。

荷物を入れたボストンバックを持って、あらかじめ呼んおいたタクシーに乗る。





運転手さんに行き先を告げて、しばし移動時間。あの子と旅行って考えた時、行きたいって思った。





その時、ここ数日考えていた事に対しての答えが出た。










「ちゃんと、言えるかな」





ふと、タクシーの中で小さく呟いてみる。ううん、ちゃんと言わなくちゃいけない。

だって、ずっと待たせてた。ずっと気づかなくて、ずっと傷つけてた。

それでも私が好きで、私の隣に居たいと言ってくれた。私の今と笑顔を絶対に守りたいと言ってくれた。



嬉しかった。こんなにダメで、どうしようもないくらいに弱い私を求めてくれている事が本当に嬉しかった。

告白されたのは自慢するわけじゃないけど、結構ある。でも、全部断ってきた。

どうしても付き合うとかそういう事になる気が起きなくて、お見合いとかもしたくなくて断った。



もっと言うと、ときめかなかった。ドキっとか、そういうのもなかった。でも、あの子は違った。

8年間、何度も告白されていたんだって気づいた時、申し訳なさと一緒に嬉しさもあった。

もっと言うと、ときめいてドキっとして・・・・・・だからそれに応えてちゃんと答えを出したいと思った。



でも、もう終わり。だって、私はもう気づいている。なくした記憶が戻ってきた時に、私・・・・・・怖かった。

あの子の事を忘れてしまっていた事が、凄く怖かった。それでね、気づいたんだ。というか、再認識した。

私にとってあの子は、もう離れられないくらいに大きな荷物になってるんだって。うん、離れられない。



それでその気持ちが示す方向は、なりかけで気づいたばかりで本当に弱くて淡い気持ち。

だけど、本当の私。ズルも逃げも無い、ありのままの私の気持ち。だから、ちゃんと伝えよう。

正直怖い。心のどこかで『逃げてしまえ』と言い続けてる。でも、そんな声さえ私は振り切る。



・・・・・・色々考えている間に、タクシーが目的地に到着。私は料金を払って、バックと共に降りる。

風は冷たく、吐く息も白い。それでも足を一歩一歩進めて階段を上がる。

上がりながら心臓の鼓動も跳ね上がる。私は一応・・・・・・いわゆるバージンというものになる。



キスも、した事がない。デートも・・・・・・あ、あの子とだけはあるね。

男の人に誘われても、全部断ってたから。それで、これでも今年で20歳なんだ。

あ、生まれがちょっと特殊だから、実際はあの子より年下になるのかも。



とにかく男の子の家で一晩を、それも二人きりで過ごすというのがどういう事になるのかは、知っている。

あの子とは3年近く一緒に暮らしてはいたけど、それとは状況が違う。

もう私は大人の女性で、あの子も大人の男。出会った頃のような子どもじゃない。



その上気持ちは・・・・・・一応、通じ合ってる。というより、これは夜這いだよね。

わ、私・・・・・・男の子に夜這いかけようとしてるんだ。そう考えると、心臓の鼓動が更に跳ね上がる。跳ね上がるけど、足は止まらない。

だって、私はもう決めたから。あの子に今の私の気持ちを。あの子は沢山伝えてくれた。



だから、私は何も無くさずに済んだ。ズルしてた自分と向き合う事が出来た。

ずっと、ずっと守ってくれた。だから今度は・・・・・・私の番なんだ。

はやてに感謝する。チャンスをもらえたんだから。いつ言おう、どう言おうって沢山考えてた。



けど、どうにもならなかったから。あと、教えてくれたアレとかソレ、頑張ってみようと、決意を新たにする。

そして玄関の前に来た。私は右の人差し指で、震ええながらインターホンを押す。

しばらくすると、あの子は出てきた。そして、驚いた表情を浮かべる。だから私は、笑う。



不安は隠して、安心させるようにあの子に笑いかける。





「あの、こんばんは」

「うん、こんばんは。というか・・・・・・どうしたの?」



口の中が乾く。心臓の鼓動が頭の中で響く。手が、震えてる。

それでも、止めない。だって、私は・・・・・・もう答えを出してるんだから。



「えっと・・・・・・ね、ちょっとだけヤスフミと話がしたくて。というか、あの」



この子にちゃんと自分の気持ちを言わないといけないから。ううん、違う。

今持っているありったけの勇気を使って、伝えたいんだ。



「今日、ここに泊まってもいいかな」

「・・・・・・え?」




















魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝


とある魔導師と機動六課の日常


第37話 『また会う日まで』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



とりあえず、フェイトを家の中に入れた。フェイトはコートを抜いて、マフラーを外す。

それからバックを床に置いて、思いっきりくつろぐ体勢。

なので、僕はホットミルクを出した。フェイトはそれを美味しそうに飲んでる。うん、そこはいい。





現在、僕達は部屋のソファーに隣同士で座って、ゆっくりミルク飲んでる。

なんかフェイトがそうしたいって言うからそうしてるけど、そこもいい。

問題は・・・・・・さっきの発言だよっ! と、泊まりたいってなんですかっ!!





あの、いきなりなんでそうなるのっ!? ホント分からないしっ!!










「フェイト、お泊りってどうして? ほら、意味分からないから」

「あの・・・・・・えっと、ヤスフミともっと仲良くなりたいからじゃ、ダメかな」

「・・・・・・フェイト、それじゃあ要領を得ないから。こう、もうちょっと分かりやすく」



なんというか、それじゃあダメに決まってる。フェイトとは・・・・・・審査中で、まだ恋人とかそういうのじゃない。

だからあの、ダメなのっ! いや、前にお泊りデートとかしちゃったからあまり言えないけど、それでもあの・・・・・・ダメっ!!



「そっか。なら、恋人になれば・・・・・・いいの?」

「え?」

「私達が、恋人同士なら・・・・・・私、ここに泊まれる?」



あぁぁぁぁぁぁっ! こんなのどう答えりゃいいのさっ!?

つーか、いきなりこんな話になるのさっ! マジでワケ分からないしっ!!



「ヤスフミ、ハッキリ言うね。私、ヤスフミの事夜這いしに来たんだ」

「はぁっ!?」

「というか・・・・・・答え、ちゃんと伝えに来たの」



フェイトが一旦テーブルの上にカップを置く。それで、僕の両手を握る。僕の両手にも、同じようにホットミルク入りのカップ。

それを優しく僕の手から奪って、同じようにテーブルの上に置く。



「・・・・・・私、記憶が無くなったでしょ?」

「うん」

「あれからね、また色々と考えたんだ。というか、再認識したの」



それからフェイトは、僕の両手をそっと握って、それを胸元に抱き寄せる。



「私にとってヤスフミとの時間は、記憶は・・・・・・本当に大切なものなんだって。
私、ヤスフミと離れたくないし離れられない。ずっと、ずっと心の中にヤスフミが居るの」

「・・・・・・フェイト」

「だから思い出せた。私にとってはこの手の温もりは、もう私の一部になってるみたいだから」



それから僕の目を見ながら、少しだけ顔を近づけた。



「好き。ヤスフミの事が・・・・・・好き」



囁くように、手を震わせながらフェイトはそう言った。それを聞いて僕は、胸が一気に苦しくなった。



「弟としてじゃない。友達や仲間としてじゃない。私は、男の子のあなたが好き。
・・・・・・まだ気づいたばかりの気持ちで、リインや他の子には負けちゃうけど、本当の事なの」

「うん」



掠れた声でそれしか言えなかった。というか、あの・・・・・・他にどう言っていいのか分からない。

頭の中が完全に真っ白になってる。僕、多分バカみたいに驚いた顔してる。



「だからヤスフミ、私は・・・・・・私は本当にダメな女の子です。自分を認めてくれる誰かに甘えて、すぐにズルしちゃいます」



フェイトが、僕の右手をそっと開いて・・・・・・自分の胸元に当てる。それでフェイトの胸が、僕のものになった。



「あの、フェイトっ!?」

「いいから。・・・・・・でも、それでもあなたの事が好きです。だから私、今もこんなにドキドキしてる。
そんなあなたの隣に居られるように、あなたにずっと好きになり続けてもらえるように・・・・・・ううん、違う」



フェイトはそう言いかけて、首を横に振った。それから、苦笑しながらまた唇を動かす。



「大好きなあなたの前で、いっぱい笑って胸を張れるように。そんな自分になれるように頑張る。
ズルで弱くて甘えた自分じゃあ、そんなの無理だから。・・・・・・お願いします」



手から伝わるフェイトのドキドキが、更に強くなる。強くなって、フェイトは瞳の中も震えて・・・・・・それでも、言葉は続く。



「私と、お付き合いしてください。ううん、側に居るだけでもいい。私も、守りたい。
あなたの笑顔や今を、ありったけで守りたい。だから・・・・・・お願い、します」



そう言って、フェイトが懇願するように頭を下げた。それで僕は・・・・・・少しだけ考えて、フェイトの右肩に頭を下ろした。

おでこを乗せるようにして、そのままフェイトの耳元に囁きかける。



「・・・・・・そんな風にかしこまって言わなくていいのに」

「だって・・・・・・分からなかったの。告白なんて、ヤスフミにしたのが生まれて初めてだったんだから」



うん、だと思う。だってフェイト、凄くドキドキしてるもの。胸から心臓の鼓動、強く伝わってきてる。



「フェイト」

「うん」

「僕の答えは、この間言った通り。フェイトが・・・・・・いいの。だから、フェイトの事全部欲しい。
フェイトも、僕でいいの? 僕だって、色んな意味でダメな男の子なのに」

「いいの。ヤスフミが・・・・・・いい。私もヤスフミの事、全部欲しい」



僕は、いつの間にか自由になっていた左手を動かして、フェイトの背中を安心させるように撫でる。



「それなら・・・・・・うん、今からは恋人同士だね」



やばい、泣きたい。でもあの・・・・・・うん、我慢。こういう時、男の子はちゃんとリードしなきゃいけないんだから。



「僕はフェイトの彼氏だし、フェイトは僕の彼女。それでいいよね?」

「・・・・・・うん」



僕はそっと身体を起こして、フェイトを見上げる。フェイト、顔を赤くしながら軽く涙ぐんでた。



「ヤスフミ、その・・・・・・よろしく、お願いします」

「うん。こっちこそ、よろしくお願いします」



それで瞳から涙が零れた。それを見て、フェイトは何も言わずに右手の親指でそっと拭ってくれる。

フェイトは・・・・・・それほどじゃない。うぅ、悔しい。こういうところはやっぱりお姉さんなのかな。



「それで、その・・・・・・さっきも言ったけど私、今日は夜這いしに来たんだ」



フェイトがそう言うと、感動モードが吹き飛ぶレベルで顔が真っ赤になった。というか、身体が熱くなった。

そ、そういえば僕・・・・・・フェイトの胸、まだ触っちゃってるし。というか、離せない。だってフェイトの手が上から重なってるから。



「・・・・・・そ、そう言えばそうだったよね」

「うん。ヤスフミの事、もっと・・・・・・好きになりたいの」



右手から伝わる感触は、大きくてフニフニしていてずっと触ってたいくらい。

女の子の胸の柔らかさ、一応知ってはいる。でも、フェイトの胸は本当に柔らかい。



「もう私達友達じゃなくて恋人同士で付き合ってるから・・・・・・大丈夫、だよね?」



フェイトは言いながら、そっと僕の左頬を右手で撫でる。それがくすぐったくて、気持ち良い。



「・・・・・・一応は。じゃあ、二人で夜通し話でもする?」



そう言うと、フェイトがなんかつまんなそうというか、膨れたような顔になった。

・・・・・・あの、なぜそんな顔に? 可愛い顔が台無しだからやめて欲しい。



「ヤスフミ、分かってて言ってるよね」

「うーん、僕はよく分かんないなぁ。・・・・・・ね、フェイトはどうしたいの?」

「あの、それは・・・・・・その」



もちろん、分かってる。だって、胸も触っちゃってるもの。でも、意地悪してる。

ワタワタし出したフェイトが可愛くて、なんだか耳が生える。ついでに羽と尻尾も。



「泊まって・・・・・・僕とどうしたいの? どう、なりたいのかな」

「言わなきゃ、ダメ?」

「ダメ。夜這いってだけじゃ、僕は分からないから」



ニコリと僕が笑うと、なぜかフェイトがため息を吐く。・・・・・・なんか失礼だな。



「ヤスフミ、本当にいじめっ子だよ。私、今だって凄く恥ずかしいんだよ?
お、男の子に胸を触らせるのなんて、初めてなんだから」

「だって、フェイトいじめるの楽しいもの」

「そんな事言い切らないでっ!! ・・・・・・分かった、それならいいよ」





次の瞬間、フェイトが僕の左肩を掴んで・・・・・・そのまま身体を寄せてきた。というより、体重を乗せてきた。

僕の体格はフェイトより小さい。その上いきなりだったのでそのまま、抱きつかれるような感じでソファーの上に押し倒された。

服越しにフェイトの身体の柔らかさと体重が伝わる。というか、右手の中の胸の感触が強くなった。



それを感じてるだけで、理性が飛びそうになる。フェイトが身体を起こして真っ直ぐに・・・・・・だけど、恥ずかしげに僕を見る。





「・・・・・・こうすれば、分かるよね」

「分かん・・・・・・ない」

「まだそういう事言うんだ。なら・・・・・・いいよ。あの、恥ずかしいけど、本当に・・・・・・恥ずかしいけど」



そのまま、フェイトは顔を近づけて・・・・・・瞳を閉じた。



「これから朝まで・・・・・・いっぱい、ヤスフミは私とエッチな事・・・・・・するんだから」










フェイトの金色の髪が頬にかかる。そして鼻先が当たるか当たらないかくらいに顔が近づいた。





でも、まだ近づく。だから僕は・・・・・・フェイトと同じように、目を閉じた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・目を閉じた。うん、閉じたのよ。でもあの、一向に変化がない。ほら、あるでしょ?

唇に柔らかくて暖かい感触が伝わったとか、レモンの味とかミントの味とかにんにくラーメンの味がしたとかさ。

でも、何もない。変に思って目を開ける。すると、当然だけどフェイトの顔がとても近くにあった。





顔が赤く染まって、金色の髪が僕の顔にかかってた。それがなんというかくすぐったくて、なんか恥ずかしい。










「・・・・・・あの」

「うん?」

「ごめんっ!!」



フェイトがそう言っていきなり身体を上げて立ち上がり、どこかへと走り去った。もっと言うと、それはトイレ。

とりあえず僕も身体を起こす。そして一人リビングに残されて、僕は呟く。



「これ、なに?」



それから数分、なんとも言えない心地で待っていると、フェイトがトイレから出てきた。



「あ、あの・・・・・・えっと」

「フェイト、どうしたの?」

「ごめん、出来なく・・・・・・なっちゃった」



・・・・・・はい? というかフェイトさん、あなたはまたなんでその申し訳なさそうな顔で僕を見るの。



「あの、えっと・・・・・・ダメな日が来ちゃったの」










・・・・・・とりあえず僕は、ソファーに突っ伏した。





なんだろ。残念なんだけど、安心してる部分もあるの。アレ、なんだかおかしいな。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



それから二人でソファーに座り直して、残ってたミルクを飲む。・・・・・・中途半端に冷めてる。





あはは・・・・・・気まずい。気まず過ぎるよ、コレ。





ねぇ、どうすりゃいいのよ、この状況。僕はともかく、フェイトの落ち込み具合が酷いのよ。










「・・・・・・ごめん」

「・・・・・・大丈夫だよ。というか、そういう日なんだから、仕方ないじゃないのさ」



確かに色々とモヤモヤしてる。だってあの、胸触ったんだよ? すっごい柔らかかったんだよ?

それなのにおあずけで、しかもフェイトはまだ泊まる気満々で・・・・・・やばい、今すぐ僕もトイレに駆け込みたい。



「でも、まだのはずなのに・・・・・・いや、結構近くはあったんだけど。うぅ、どうしてこんな時に」





神様、どうやってこれフォローしろと? 確かに恋人っていうのは、問題を二人で何とかクリアしてくものだと思うよ?

でも、いきなりこれは無いんじゃないのっ!? 即行でエッチしようとした僕もアレだけどさっ!!

付き合い始めて1時間経ってないカップルに吹っかける問題にしては、ありえないくらいに難易度高いでしょうがっ!!



せめて最初はディズニーランドの行列待ちをどう過ごすか・・・・・・とか、そういうところから始めるのが常識じゃないかなっ!!





「よ、よし。私頑張る」

「へ?」



僕が頭を抱えている間に、フェイトがガッツポーズで覚悟を決めてた。それで真っ赤な顔のままこちらに向く。

ソファーの上に正座して、身体ごと自分の左側に居た僕の方に向き直った。



「えっと、本当にヤスフミと繋がるのはダメなんだ。生理中だし、衛生上の問題もあるし」

「まぁ、それはね?」



だって、血がどばぁっと出てくるわけでしょ? そんな中でエッチ? ・・・・・・だめ、想像したら怖くなってきた。



「だけど、それ以外なら大丈夫だよ」

「・・・・・・はい?」

「前にはやてが見せてくれたエッチな漫画であったんだけど、男の子は自分の性器を手で撫でると気持ちよくなれるんだよね」



・・・・・・瞬間、顔が真っ赤になりました。いや、確かに言ってる意味は分かる。



「それで、前戯の中にそういうのがあるんだよね。この場合、私がヤスフミのを手でしてあげるの」



うん、それは分かる。でも、だからこそ顔が真っ赤になった。



「もちろんそんな事した事ないけど、ヤスフミが手伝ってくれるならきっと出来ると思うんだ」

「いや、だから何をっ!?」

「だから、エッチな事だよ」



そんなちょっと呆れたような顔するなー! 大体、それ僕だからっ!! 僕が呆れたいんだからねっ!?



「あとはあの、私の胸で挟んだりとか・・・・・・口で咥えて舐めたりとか?
あとはえっと・・・・・・アブノーマルだけど、後ろの方で・・・・・・とか」



というより、スチームが。だって、フェイトが言ったのって・・・・・・いや、待て。気のせいだ。そうだ、幻聴だ幻聴。

やばいなぁ。いくらエッチ出来ないからってそんな事をフェイトが言うわけないし。



「あの、読んでて衝撃的だったからよく覚えてるんだ。
つまり女性器ではなくこ(うったわれるーものー♪)でセックスをするの」

「・・・・・・はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」





幻聴じゃなかったー! というか、ありえないからっ!! ありえんくらいにぶっ飛んでるしっ!!



つーか、無理っ! 絶対に無理っ!! そういうのはある程度経験がある人とかならともかく、初めて同士は無理ー!!



あぁもうっ! なんであのタヌキはこうロクな事しないのっ!? やっぱアイツ地獄へ落ちろっ!!





「だ、大丈夫だよ。順番が色々変わるだけだよ? 私達、両想いなんだから。
私とヤスフミと繋がって結ばれるのには変わりないと思うしっ! むしろ・・・・・・安全だよっ!!」

「なにがどう結びついたらそういう発言が出てくるっ!? というか、お願いだから落ち着いてっ!!
その据わった目はやめてー! なにより安全じゃないからっ!! 別の意味で危険だからっ!!」



あぁ、ヤバいっ! 真面目にフェイトが壊れてるしっ!!

と、とにかく・・・・・・どうすりゃいいのこれっ!? あぁ、真面目に難易度が高いからー!!



「い、一応知識だけははやてから見せてもらったエッチな漫画とかであるし、最近はそういう話もよく聞かせてもらってるし」



あのタヌキ、マジでろくな事しねぇしっ! なんでアレで出世出来るのかがたまに本気で疑問なんですけどっ!!



「そもそも私は今日は夜這いするつもりで来たから、覚悟・・・・・・決めてる。
そうじゃなかったら、胸なんて触らせないよ。うん、大丈夫」

「だからダメだってー! それはブッチギリでアウトじゃないのさっ!!
セカンドシーズン始まる前にこの話終わらせるつもりっ!?」

「そこは『なんやかんやあって』・・・・・・ってすれば大丈夫だからっ!!
だから、エッチしよっ!? 私、本当に頑張っていきたいしっ!!」

「そういう問題じゃないからぁぁぁぁぁぁぁっ! お願いだから落ち着けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

「・・・・・・遠慮、しないで欲しい」



僕が頭抱えながら半泣き状態で叫ぶと、フェイトが呟くように言った。それでその言葉が・・・・・・胸を貫いた。



「ヤスフミ、凄く・・・・・・優しいよね。私が不安にならないように、怖がらないように沢山守ってくれてる。
お泊りデートした時もそうだし、観覧車の時も。でもね、たまに思うの。優し過ぎて、むしろ遠慮してるって」

「そんな事ないけど」

「あの、私がそう感じる時があるって話だから。もちろん、私だって恥ずかしいよ? それは本当に。
今こうやって話してても、恥ずかしいの。だって私、ヤスフミの事誘ってるわけだし」



それで気づいた。膝の上に置いてあったフェイトの両手が、とても震えてる。



「セックス、一緒にしようって誘って・・・・・・るんだから。というかあの、ヤスフミのを触るって言ってるんだよ?
胸で挟んだり、口に咥えて舐めたり、後ろの方でその・・・・・・セックスしたいって言ってるんだよ? 凄く、恥ずかしい」

「・・・・・・フェイト」

「でもね、ここ数日色々考えて決めて、私ここに来てる。心だけじゃなくて、身体の結びつきもしっかりしたいの。
そういうのも頑張っていきたいなって、そう思ってる。だからヤスフミの恋人として、お願いしたいんだ」



それでもその両手をフェイトは動かす。動かして僕の頭の上にあった両の手を握る。



「こういうの、ヤスフミだけでも私だけでもだめなの。いつするのかとか、そういう大事な事も話せない。
だから恥ずかしがらずに、こういう事も含めて沢山お話して・・・・・・二人で決めていきたいんだ」



それでフェイトは、震えながらも安心させるように笑いかけてくれる。



「本当に二人っきりの時は遠慮なんて、しないで? それでヤスフミがしたいなって思う事、私にして欲しい。
私、ヒドい事じゃない限りは全部受け入れるから。ヤスフミのそういう部分も受け入れて、本当の恋人になっていきたい」

「あの、そう言ってくれるのは嬉しいよ? でも、それで例えば身体目当て・・・・・・とか、思わない?」

「そんな事思わないよ。もしそうなら私、とっくにそういう事されてるよ? なによりヤスフミの事、信じてるもの。
・・・・・・女の子として、それなりの信頼を寄せている事はちゃんと分かって欲しいな。うん、そこだけは本当に」





そりゃあ責任重大だね。・・・・・・こうなったら、覚悟決めよう。

ここで下手に跳ね除けたら、それはきっとフェイトの気持ちを傷つける事にもなるから。

だから僕も、勇気を出そう。本当にもう少しだけ勇気を出して、前に進む。



もちろん、先ほどのフェイトの提案は却下します。ぼ、僕だってもちろん興味が無いわけじゃない。

フェイトとあの・・・・・・そういう大人なコミュニケーションしたくないわけがない。

というより、もう戦闘態勢が整ってるわけですよ。やろうと思えばいつでも出来る。



で、でもダメっ! あの・・・・・・色々とダメっ!! なので、ここは代案を出していこうと思いますっ!!





「分かった。僕がしたいと思う事・・・・・・するね」



・・・・・・だから、そんな嬉しそうにしないで。色々謝りたくなるから。

とりあえず、僕はフェイトの手を外してから、逆に僕の方から掴んで、ギュッと握る。



「一緒に、ギューってしながら寝たい。エッチな事なんて無くていいから、フェイトは僕に抱きしめられて僕だけのフェイトになるの。
それでエッチな事はさ、フェイトの体調がよくなってからで・・・・・・いいじゃん。今ここで無理にする必要ないよ」

「・・・・・・でも」



ま、まぁ・・・・・・さっきも言ったけど興味ないわけじゃない。それは本当。

ただなぁ。やっぱりムードとかって色々あるわけですよ。



「『でも』じゃない。その、嬉しいよ? フェイトがそういうの気遣ってくれるの。
ただ、フェイトが言ったのはアブノーマルなので、いきなりそれでって言うのは色々戸惑うのよ」



いや、でも手・・・・・・いやいや、ダメだから。落ち着け、僕。冷静に・・・・・・冷静になるんだ。



「な、なにより僕だって初めてなんだよっ!? フェイトと同じく色々理想があるんだからっ!!
いきなりそんなの難易度高過ぎだしっ! 言ってくれるのは嬉しいけど、それでも辛いのー!!」



僕だって初めてなのよ。色々夢とかああしたいこうしたいとかあるのよ。それでいきなり・・・・・・出来るわけがない。

こ、こういうのは気持ちだって大事なんだから。うん、だからダメ。



「・・・・・・そうなの? はやてが『こういうのは普通』とかって言ってたんだけど。
相手に愛情があるから、そういう部分でも受け入れられるんだって話してて」



よし、あのタヌキは後で本気で叩き潰す事にする。もっと言うと、使えるようになった神速で。



「よし、一緒に寝ながらちょっとお話しようか。主にフェイトがはやてからどういう性知識を教えられたかについて」

「あ、うん。・・・・・・あのヤスフミ、もしかして私がはやてに教えてもらった事って、相当ダメなの?」

「多分ね。今聞く限りでは、初めて同士でしていいような事は一つも無いよ」

「そうなのっ!?」

「そうなのっ! 手でどうこうだって、ギリギリアウトなラインだよっ!?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そんなわけで、フェイトはパジャマに着替えて、今は一緒に同じ布団に入ってる。

なお、その間に色々あったけど・・・・・・そこはご想像にお任せしましょう。

でもさ、これだけでも凄くドキドキする。ただ一緒の布団に入って、手を繋いで寝てるだけなのにね。





でも、今はもう以前とは違う。だって僕達、彼氏彼女の関係なんだから。

だから心臓が破裂しそう。フェイトも同じなのか、瞳が潤んでそれで頬を染めてる。

な、なんつうか無茶苦茶可愛い。でも、本当に恋人同士になったんだよね。





夢とかじゃないかな? ほら、いつぞやみたいに私立ミッドチルダ学園ーとかさ。










「・・・・・・だから、スクール水着着たりするのはアブノーマルだって。あと、後ろも基本アウトだから」

「そ、そうだよね。私もそう思ったんだけど・・・・・・あの、そういう世界では普通だって」

「その理屈だと何でも普通になるでしょっ!? 縛られるのも鞭で叩かれるのも猿轡かまされるのもローソク垂らされるのも普通になるよっ!!」

「それは普通じゃないよっ!! というよりあれ・・・・・・嫌」



・・・・・・そう言えば、プレシアさんの所に居た時にそういう経験したって聞いた事がある。

なので、フェイトはそういうのに関しては嫌悪感を示す。例えば今みたいに、本当に嫌そうな表情を浮かべる。



「うーん、それじゃあ僕がフェイトの事、縛りたいとか言ったらどうする?」

「・・・・・・え?」

「あー、そんな怖がった顔しないで。別にぐるぐる巻きとか、何かの本に載ってるようなSMな縛り方とかしないから。というより、縄なんて使わないの」

「そうなの? あの、それって」



前に某雑誌でそういうイラストが載ってて、これ実際にやったらどうなるんだろうなと思った物がある。そう、それは。



「手首、ないし首にだけ、リボンを使って緩めのちょうちょ結びにするの。その上で、エッチするんだ」



いわゆるプレゼントプレイッ! やっぱり興味が無いわけじゃないから、してみたかったりはするっ!!



「あの、それは叩いたりとかしない?」

「うん、普通に優しくするよ。違うのは、手首か首のどっちかだけを緩めに結んでる事。
だから、フェイトがなにかのプレゼントみたいになるってだけ」

「そうなんだ。うん、それなら、いいよ。でも、叩いたりとかそういうのは・・・・・・ダメだから」

「うん。絶対にそんな事しないから、安心して欲しいな」



そう言うと、フェイトが安心したように微笑む。・・・・・・それを見て思った。絶対にそういうのはダメだと。

きっと、身体だけの話じゃない。心も・・・・・・傷つけるんだ。



「でもね、フェイト。お願いだからもうちょっとしっかりして。普通に今話してくれた事はアウトだから」

「・・・・・・うん、気をつける。あ、だったら」



なに? というか、あなたはまたなんでそんなに顔赤くするのさ。



「ヤスフミがどれが普通で、どれがそうじゃないかをちゃんと教えてくれると嬉しいな。もちろん実地で」

「フェイトの体調がいい時だったら、いいよ? 急に『ごめん』と言ってトイレに行ったりしなければ」

「うぅ、そういう意地悪禁止。ね、それじゃあさっきのリボンでちょうちょ結びって言うのは・・・・・・普通?」

「・・・・・・ちょっと普通じゃないかも」





はやてから教えられていた性知識の数々は、非常にひどいものだった。

というより、オタクの願望? もうまさしくそうとしか言えないようなのがどっさり。おかげで僕は頭が痛かったよ。

なんですか、あのスクール水着やらローションやら猫耳やらメイド服って。



一応、あのバカ提督やエイミィさんからそういうのは教わってないのかと聞いてもみた。

でも二人はどうやら、倫理的な話しかしてなかったらしい。

まぁ、経験無しな人にどういうプレイがいいとかこうすると男は悦ぶとか、そんな話は出来ないわな。





「とりあえず、神速の実験台はあのタヌキで決定だね。シバかないとどうしようもない」

「それもどうなのかな。・・・・・・あ、それで一つ言い忘れてた事があるの」

「なに?」

「私もヤスフミの修行に同行するから」

「はぁっ!?」



え、なんでなんでっ! フェイトは執務官の仕事があるじゃないのさっ!!



「うん、当然だよね。だってヤスフミは・・・・・・私の騎士だもの」



そう言いながら、フェイトが右手で僕の頬を撫でてくれる。その感触がなんというか・・・・・・うぅ、幸せー。



「それに私の補佐官になるなら、ヤスフミの状態についてちゃんと知っておく必要があるから。
私もね、恭也さん達にその辺りの事も、私も一緒に教わろうと思ってるんだ」

「・・・・・・なるほど。あのボストンバックはそのためと」

「うん」



ここへのお泊りのためだけじゃなくて、道中の荷物も入ってたんだね。納得したわ。



「でも」

「なに?」

「出来るなら、使って欲しくないとは思ってる」

「大丈夫、僕も出来るなら使いたくないと思ってるから。さすがにあれは負担デカ過ぎだもの」



僕が加減出来ずに長時間使用とかしたからだけどさ。その辺りも相談しないと、どうにもなんないな。

こりゃ、しばらくは暇な時には恭也さんなり美由希の所に通う必要あるかも。うぅ、大変だなぁ。



「そう言いながら、なんだか楽しそうだよ?」

「実は、少し。やっぱり、一つの目標ではあったから」





恭也さんや美由希さんと同じ領域・・・・・・その凄さに触れる度に、実はかなり悔しかった。



なにかこう、埋められない溝みたいなのが見えてる感じがしてたの。



だから、とんでもない爆弾を抱えたと思うと同時に、やっぱり嬉しかったりもする。





「でも、無理はしないよ? フェイトの隣にずっと居たいもの。うん、今を使い潰すような真似はしない。
だってフェイトの手や口の中に、胸に挟まれた感触もまだどんな感じか知らないし」

「そ、そういうセクハラは禁止っ!! ・・・・・・もう、真剣に話してるのに・・・・・・恥ずかしいよ」

「フェイトの事、いじめたいんだから仕方ないよね?」

「なくないよ。うん、それならいいよ。今から押し倒して、実際にしてみるから。
触って、お口で咥えて・・・・・・それで胸で挟むよ。どんな感じか教えてあげる」

「・・・・・・ごめんなさい」



それはダメなの。もう色んな意味で理性飛んじゃうから、ダメなの。

そしてそんな僕を見ながら、フェイトは優しく笑ってそっと両手で抱きしめてくれる。



「私は本当にいいんだよ? というか、キスも無しは寂しいよ。私、それなりに覚悟してたのに」

「・・・・・・ごめん。それやったら多分、本当に理性飛んじゃうから」

「ん、分かってる。なら・・・・・・私の体調が良くなったら、いっぱいキスしていいよ? それで、我慢しないでいい」

「だからそういう発言も禁止ー! 理性がー理性が飛ぶのー!!」










それから一つの布団の中で、手を繋ぐ。繋ぎながら、二人で色んな話をずっとしてた。眠くなるまで、ずっと。





眠くなって、ウトウトし始めたら自然と二人で抱き合って、そのまま眠った。以前までと違って、恋人同士として。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



まず最初に聴こえたのは鳥の声。そして、朝日が部屋に差し込んでて・・・・・・それが目を覚ましてくれた。

なんというか、目が覚めてすぐに気づいた。あの、フェイトの顔や身体がすごく近い。

大きな胸の谷間とか見えるし、その・・・・・・抱きついてる感じだから感触も伝わる。





そっか。昨日フェイトを家に泊めて、それで告白されて、恋人同士になったんだ。

な、なんか・・・・・・夢じゃなかったんだ。あれ、また泣きそうになってるし。僕、ホントダメだな。

色々としみじみしながら感動していると、フェイトの瞼が気だるそうに動いた。





それから少しして、ゆっくりと目が開く。そして僕を見て、顔が真っ赤になる。










「あ、あの・・・・・・おはよう」

「うん、おはよ」



そのまま見つめ合って、互いに顔がどんどん赤くなっていく。



「「・・・・・・あの」」



それでまた言葉に詰まる。と、とにかく・・・・・・あの、そろそろ起きないとダメだよね。



「じゅ、準備して出かけて、外で朝ご飯にしようか」

「そ、そうだね。うん、そうしようね」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして、二人ともパジャマを着替えてから、施錠した上で外に出る。

あ、その前にお風呂を二人で・・・・・・別々にね? 別々に入って、髪もしっかり乾かした。

ご飯は本局の方のレストランで頂く事にした。なお、モーニングランチのセット。





とりあえずトゥデイやデンバードは使えないので、二人でレールウェイに乗って、本局・・・・・・中央本部の方まで移動。





そこから転送ポートで本局に移動。改めて地球まで跳ばしてくれる転送ポートに移動開始。










「なんだか、ちょっと照れちゃうね」

「うん」



手を繋ぎながら、フェイトに話しかける。その・・・・・・なんでこんなに気恥ずかしいんだろ。



「フェイト、ほんとに・・・・・・僕でいいの?」

「うん」

「あの、ほんとに? だって僕・・・・・・色々あるよ。いいとこだけじゃない、嫌なとこだってある」



身長、フェイトより10センチ近く小さいし、性格だって悪いと思う。

ドSで基本いじめっ子だし、あと・・・・・・色々あったりするし。



「そういうの全部含めて・・・ヤスフミがいいって思ってるから。あの、本当に大丈夫だよ。
そういうヤスフミは、私で本当にいい? 私、ワガママで鈍感で、生まれとかも普通じゃないし」

「僕も・・・・・・大丈夫。フェイトがいいの」



気持ちを互いに伝え合うために、繋いだ手を強く握り締める。握り締めながら、僕達は足を進める。



「フェイトと居たい。僕も、フェイトと同じ。フェイトと離れるなんて、さよならなんて出来ない。
ずっと、ずーっと一緒に居たい。だから、大丈夫。というか、もう離さないから」

「なら、よかった。それで・・・・・・うん、離さないでいいよ。私も、離さない」





フェイトがそう言って、安心したように笑う。その表情が可愛くありつつも綺麗で、少し見とれてしまう。

彼女とか恋人とかそういう関係になったから、余計にそう思えてくるらしい。

うぅ、やっぱりまだ慣れないや。よし、頑張ろう。考えようによってはこれは婚前旅行も同じなんだ。



これでその・・・・・・進展するんだっ! 色々とっ!!





「とにかく、まずは海鳴だね」

「うん。それからドイツに。私達、頑張らないといけないね」

「うん」



そうして、そのまま二人で転送ポートに。



「あ、二人とも遅かったですねー」



・・・・・・あれ? おかしいな。なんかこう、見覚えのある青い妖精が居る。

すっごく見覚えのあるフルサイズになった姿が、僕達の進行方向上に居る。



「「リ、リインっ!?」」

≪あなた何してるんですか≫

「当然、恭文さんの修行に同行するためですよ」

「ちょっと待ってっ!! あの、確かヤスフミに同行するのは私だけで」

「あ、はやてちゃん達には休暇届けを渡してあるので、大丈夫ですよ?」



シ、シレっと言い切ったっ!?そして、そのまま僕の左手を取って・・・・・・あの、何しますかっ!!



「リインは、恭文さんの側に居るって決めてるです。だから・・・・・・一緒ですよ?」

「・・・・・・フェイトー」

「今ね、シグナムからメール届いた」



あらま、なんてタイムリーな。というか、タイミングを見計らったとしか思えない。



「悪いが連れてってくれ・・・・・・だって。リイン、はやてとちょっとやり合ったんだって? みんな心配してるって、メールに書いてたよ」

「うぅ、はやてちゃん頑固でした。中々納得してくれなくて」





なるほど、距離を取る意味合いも含めてか。



あぁ、なんでいきなりこんなトラブルめいた匂いがする状況になるの?



あはは・・・・・・セカンドシーズン、マジでどうなるんだろ。





≪まぁとにかく、修行と大阪でのライブ鑑賞はこのメンバーで行きますか≫

「そうだね、行こう。ヤスフミ」

「行くですよー!!」



なんにしても、もう行くしかないしやるしかないのね。

うん、分かってた。ま、いいか。楽しくはなりそうだしさ。



「あぁもう、分かったよっ! それじゃあ・・・・・・アルト」

≪はい≫



まぁまぁここまではいつもの固定メンバー。そして、ここからが違う。

きっと、これからさきずっと・・・・・・離れないし、離れられない二人の名前を呼ぶ。



「フェイト」

「うん」

「リイン」

「はいです♪」



同じくらい大切で、同じくらい大好き。だから、絶対に振り切れないくらいに重い。

大切だから、大好きだからこそ重いの。それは当然の事で、だから僕は二人の手を握る。



「全員揃って僕の修行に付き合ってもらうよっ! いいねっ!?」

≪「「おー!!」」≫





こうして、再び時間は動き出す。一つの戦いが終わり、僕達の時間はなんて事のない日常へと、その姿を戻す。



そして、踏み出す。ここから始まり、その先へ続いていく新しい時間に。



そう、僕達の日常は、まだ終わらない。終わるわけがない。まだまだ続いていくのだ。





≪なんか、そう言うと最終回っぽいですよね。それも人気が無くて打ち切りのパターン≫

「不吉な事言うなっ! そして地の文を読むなー!!」

「恭文さん、アルトアイゼン、なにしてるですかー!?」

「早くしないと、置いてっちゃうよ?」

「あぁ、二人とも待ってー!!」



・・・・・・いや、『待って』じゃないっ! これは『待って』じゃないっ!!



「なんか僕引きずられてるっ!? いやー! こんな扱いは色々間違ってるー!!」

≪いいじゃないですか、あなたらしい実に小物な扱いですよ≫

「ちょっとそれどういう意味っ!? てーか誰がミジンコだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」




















(『とある魔導師と機動六課の日常 Second Season』へ続く)




















あとがき



恭文「・・・・・・というわけで、ついにFS改訂版が終了しましたー!!」

あむ「いやぁ、長かったよねー。なんだかんだで37話だよ」





(改定前から数えて、7話分プラスされました)





恭文「というわけで、本日のお相手は蒼凪恭文と」

あむ「日奈森あむです。それで恭文、今の気分は?」

恭文「フェイトがエロくて大変だった」

あむ「・・・・・・あぁ、アレかぁ。うん、あたしも聞いてて顔真っ赤になったから、よく分かるよ」





(『わ、私のせいじゃないよっ! アレははやてが』)





あむ「てゆうか恭文、アレはいいわけ? ほら、規制コード的に」

恭文「そう思うでしょ? でも、実は問題ないのよ。改定前の30話の感想の返事でツッコまれてたから。
『フェイトは何を言ったんですかー』って。で、劇中で出た要素はもう全て満たしていた」

あむ「・・・・・・じゃあ、アレである意味原典通りと」

恭文「そうなるね。・・・・・・というわけで、せっかくなのでここで改訂版と改定前の違いを簡単にリストアップしてみましょー」





・話数は改定版の方が多い。

・恭文のツンデレ具合やトンガリ具合は、改訂版の方が強い。

・戦闘シーンのクオリティーは、改訂版の方が高い・・・・・・はず。

・改訂版は、メルとまなどのあれこれも含めた上で書いている。

・誤字や改行関係を直しているので、改訂版の方が読みやすいはず。





あむ「・・・・・・まぁ当然と言えば当然の違いだよね。でも恭文、そろそろ同人誌計画も本格的に進めないと」

恭文「そうだね。とりあえず作者の夏バテが治ってから頑張ってもらう事にするよ」

あむ「作者さん、夏バテなのっ!?」





(連日半端じゃなく暑かったですから)





恭文「ただ、一応同人誌化した時の書き下ろし話は、もう考えてるんだ」

あむ「あ、そうなんだ。例えば?」

恭文「まず、とまカノ4話ベースのお話だね。あの賭けの話も、元々FSで構想はあったものだから」





(もちろん、FS準拠で内容を直した上で再構築しますけど)





恭文「次はフェイトメインで、タイトルはもう決めてるの」

あむ「ん、何?」

恭文「『真・ソニックを着させないで』」

あむ「・・・・・・タイトルから話があらかた読み取れるのが凄いよね」





(なお、某80年代のアイドルの曲からタイトルモロパクリだったりします)





恭文「とりあえずFSの一巻目はこの二つ? ほら、とまカノベースの方は、再構築するとは言え元をもう出してるしさ」

あむ「だから書き下ろし話が2話って事か」

恭文「そうだね。でも、その前に夏バテだよ。みんなー、猛暑が続いてるから本当に気をつけてねー?」

あむ「気をつけてくださいねー。・・・・・・それでは、本日はここまで。お相手は日奈森あむと」

恭文「蒼凪恭文でした。それじゃあ、みんな。今まで応援ありがとー」

あむ「ばいばーいっ!!」










(そして二人手を振って、改訂版FSはこれにてお開きである。
本日のED:アンティック-珈琲店-『覚醒ヒロイズム』)




















フェイト「・・・・・・ついに終わったね」

恭文「そうだね。あくまでも一区切りではあるんだけど、これで改訂版FSはおしまい。フェイト、お疲れ様」

フェイト「ううん。ヤスフミこそお疲れ様。でも、本当に色々あったよね」

恭文「だけど、その分楽しかった。うん、フェイトともいっぱい新しい思い出出来たし」

フェイト「それは私もだよ。・・・・・・また、いっぱいラブラブしようね。それで、一緒に頑張る」

恭文「うん」

古鉄≪・・・・・・普通にイチャイチャですか。というか、私達の事忘れてますね≫

リイン「ですです。うー、二人共イチャイチャするなですー。リインを混ぜろなのですよー?」










(おしまい)




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