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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
ケース01 『ギンガ・ナカジマとの場合 その1』(加筆修正版)



・・・・・・雨が降っている。それも、かなりのザーザー降り。

ちょっとだけ薄暗い部屋で、同じタオルケットにくるまって・・・・・・見つめ合う。その相手は、女の子。

長くて青い髪と、翡翠色の瞳。白い肌には赤い紅が差している。その色が、こうしていても分かる。





そっと右手で、その頬に触れてみる。・・・・・・熱い。凄く熱い。










「ギンガさん」

「うん」

「ごめん」

「謝らないで、欲しいな」



それは、怒りや否定じゃない。むしろ優しさ。安心させようとしてくれている。



「あの、私の方こそ、ごめん」

「なんで謝るのさ」

「私が・・・・・・わがまま言ったから。迷惑、沢山かけたから」

「いいよ、そんなの。てか、ギンガさんのせいじゃないでしょうが」





その・・・・・・あれだよ。うん、僕が悪かった。



ギンガさんの気持ち、考えて・・・・・・みようとも、してなかったね。



フェイトにされてた事、ギンガさんにも、してた。





「私は、大丈夫。・・・・・・8年だもの。簡単には、見れないよね。あの、それでね・・・・・・なぎ君」

「うん」

「私・・・・・・ね」




















魔法少女リリカルなのはStrikerS  外伝


とある魔導師と彼女のありえる繋がりとその先の事


ケース01 『ギンガ・ナカジマとの場合 その1』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



それは、新暦75年の12月の頭の事だった。というか、朝。





思えばこの呼び出しが無ければ・・・・・・まぁ、言っても仕方ないでしょ。とにかく、話はここから始まる。










「・・・・・・ギンガさん、大丈夫?」

「あの、ありがと。すぐに駆けつけてくれて」

「礼ならシャマルさんに言いなよ。転送魔法で僕を跳ばしてくれたの、シャマルさんだし」

「うん」

≪ギンガさん、気にしてはいけません。この人はツンデレ入ってますから≫





・・・・・・僕を緊急でここに呼び出したのは、ギンガさんだった。

なんか、AMF・・・・・・ガジェットの技術を悪用しようとしてた連中のアジトを108でガサ入れしたらしい。

いや、いきなりだから僕も背後関係がこれくらいしか分からないのよ。そこは許して?



で、連中の戦力が思ったよりも多くて、エース級まで出てきて大変な事になった。

いや、エースっつっても昨日の騎士二人に比べれば、まだまだ。

うん、一瞬自分の人生の歩みについてあれこれ思ったけど、気にしないでいく。



で、ギンガさんの判断で僕を緊急召集というわけです。うん、休みの予定も全キャンセルでね。



なお、現在は事後。現場で事後処理中だったりします。





「しかし、それならそうと前もって言ってくれればよかったのに。いきなりだもん。
びっくりしたさ。おかげでフェイトとのお出かけの予定もパーで延期だし」

「そ、そうだったんだ。あの・・・・・・ごめん。私、今度埋め合わせするし」

「ギンガさんに埋め合わせしてもらったってどうしようもないからいいよ。僕はフェイトとお出かけしたかったんだから」

「それはその・・・・・・うん」



言いながらも僕は地面にバリアジャケット姿で座り込むギンガさんに、先ほどもらったドリンクを渡す。



「ほい」

「あ、ありがと」



・・・・・・うん、このおねーさんはリハビリ途中にも関わらず、戦闘に参加した。本気で間一髪だったし。

シャマルさんに一気に跳ばしてもらわなかったら、どうなってた事か。



「とにかく、見積りはうちの方でしっかりしてたの。でも、ダメだった」

「・・・・・・そっか」

「やっぱり戦力が足りないみたい。それに一般局員の、対AMF戦の練度もだよ」



・・・・・・やばい。そういや、ラッドさんの顔見てなかったな。うし、行くか。



「なぎ君」



振り返り、逃げようとする僕の左手を掴むものがあった。うん、考えるまでもないね。



「逃げないで、ちゃんと私の話を聞いて」

「い、嫌だな。逃げようなんて」



・・・・・・すみません、しました。なのでそんなに問い詰めるような目で、僕を見ないで。



「お願い。108に入ってくれないかな」



来た。うぅ、迷惑とかではないけど、困ってしまう。だって、僕の返事は決まっているから。

てゆうか、これはカチンと来た。だって話の流れからして、そこを何とかするために僕って事だもの。



「嫌だ。僕、管理局嫌いなの。てゆうか、ギンガさん汚いよ」

「え?」

「一部のエースやストライカーに頼り切って、それでなんとかしようとしてる。
・・・・・・ホント、汚い。そんな思考してる奴の誘いなんて、誰も受けるわけがない」



僕がはっきりそう言い切るのを見て、ギンガさんが戸惑うような表情になる。



「それで押し付けて、後はどうするの? 押し付けておしまい? そうやって使い捨てにするの?
使い捨てにして、使えなくなったらポイ捨て。それで新しいのを招き入れてずっと場つなぎしてく」



思い出したのは、きっとあの子の事。あとはみんなの事。だから、僕は言葉を続けた。



「これから組織改革してこうって局員が、そんな情けない事でどうするのよ。結局何も変わってないし」





腹立たしい。正直僕は、こういう思考が凄まじく腹立たしい。どいつもこいつも・・・・・・ふざけんな。

ううん、一番『ふざけんな』なのは、きっと僕自身だ。僕は何も変えられない。

こんなのダメだって分かってるのに、僕は・・・・・・なにも出来ないで居る。今のままじゃ、ダメなのに。



ただ六課に居て、みんなと仲良くするだけじゃ、それだけじゃあ何も守れないのに。

だったらいっそ局員・・・・・・ううん、それだけじゃ駄目だ。局員になれば何でも解決するわけじゃない。

それは違う。僕の求めてる答えとはきっと違う。だから・・・・・・だめ、まだ答えが出ない。





「違う、そうじゃないの。その、そういう側面もあるけど、それだけじゃないの。
・・・・・・私も父さんも、なぎ君の事使い捨てにするつもりなんてない。だから」

「とにかく嫌だから。局員になって、局の都合や命令のためには戦えないし戦いたくない。
世界やらそこに住む人間のためにも同じ。僕にはそんなのどうだっていい」



まぁ・・・・・・アレだよね、僕には。



「自分にはそういう事を言う資格も、やる権利もない」

「・・・・・・え?」

「なぎ君、もう・・・・・・いいんだよ?」

「なにがよ」

「忘れても、いいんだよ」



どうやら、今日はとことん腹立たしい事が起こる日らしい。なんか糸が切れる音がした。



「そんな風に戒めなくたって、きっといい」

「ギンガさん」

「もう、許されるよ。なぎ君、たくさん苦しんできた。だから」



ギンガさんはまだ言葉を続ける。手を振り払えないのは、きっとこれまでの繋がりがあるから。

だから僕は・・・・・・甘いんだ。振り払って、全部パーにしちゃえば楽なのに。



「そうやって、自分を縛ったってなんにもならないよ。下ろしていい。ううん、そうしよ? それで」

「うるさい」



静かにその言葉を発したのは・・・・・・僕。僕のその一言で、僕達二人だけの空気が凍る。

周りは変わらない。だから、他の局員のやり取りが、凄くうるさく聞こえる。でも・・・・・・なんだ。



「・・・・・・なぎ、君」



分かってる。きっと、そういう風に見える部分があるって分かってた。でも、違う。絶対に違う。



「・・・・・・誰に許されるっての?」



ギンガさんは今、僕が人を殺した事を忘れていいと言った。それを許すと言った。

だから僕は手を振り払った。もう、それに躊躇いなんて欠片もなかったから。



「神様にでもなったつもり? ふざけんな。・・・・・・後処理の続きしてくる」










そう言って、振り返らずに他の局員さんの方へと歩いていく。





ギンガさんとは結局・・・・・・全部の事が終わるまで、話せなかった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・あれから三日。さすがにこのまま放置はヤバいと、隊舎に住居を移しつつも考えた。





なので、僕は仕事が終わってから通信をかけた。・・・・・・冷静に話そう。うん、絶対だ。










『もしもし・・・・・・あの、どうしたの?』

「ギンガさん、今いいかな」

『・・・・・・うん』



まずは・・・・・・だね。こういう場合、男が先に折れるのはお約束だもの。



「ギンガさん、ゴメン。・・・・・・言い過ぎた。というか、無神経で、短気だった」

『・・・・・・ううん。私の方こそ、ごめん。なぎ君にとっては、すごく大事な事だったのに。
無神経なの、私の方だよ。自分の都合、押し付けてた』



僕もだけどね。うん、ギンガさんにどうこう言う資格無いな。



「・・・・・・あの、僕は気にしてないから。それに・・・・・・悪いのは僕だもん。ギンガさんが謝る事、無い」

『・・・・・・なぎ君』

「うん、それだけだから。じゃあ」



僕がそう言うと、ギンガさんの表情が硬くなる。あー、落ち着け僕。冷静にいかなきゃ。

とにかくだ、ここをパパっと解決しなきゃあのんびり生活も出来ない。だから、ここは絶対条件だ。



『あの、ちょっと待って。・・・・・・あのね、私は・・・・・・もう忘れていいと思う』

「どうして?」

『私、なぎ君見てて・・・・・・思ってた。忘れない事で心の奥でずっと苦しんでて、どこかで自分を縛ってる。どこかで思ってるよね?
『自分は奪った人間だ』って。だから誰かを助けたり人のために動いたり・・・・・・そういうのに蓋をしてる』

「そうだね。うん、事実だから」





僕は奪った。命だけの事じゃない。その先の時間、得られたかも知れない幸せ。

僕が殺した連中が居れば生まれたはずのものを、全てだ。

もしかしたら変われたかも知れない。でも、信じられなくて・・・・・・殺したの。それは敗北とも言える。



だから、許せないの。それを無かった事にするのも、置き去りにするのも、絶対。





『でも、もう充分だよ。もう、そういうの・・・・・・やめよう?』

「だから・・・・・・どうして」

『そんな事しても、なぎ君、幸せになれない。
そのために色んなものが信じられなくて・・・・・・そんなの、寂しいよ』

「そうやって、事実から逃げてろって言うの? ・・・・・・そんなの、ごめんだよ」



ギンガさんはその言葉に、首を横に振る。というか、マズい。僕はやっぱり冷静じゃないっぽい。



『違う、そうじゃないの。ただ私・・・・・・私』

「・・・・・・ごめん、ギンガさん。やっぱ無理だわ。しばらく、距離取ろうか」

『え? あの、待って。なぎく』










僕はそのまま通信を切った。それで・・・・・・部屋の中で、ため息を吐く。

あぐらを解いて、床に寝転がって天井を見上げる。・・・・・・そんなつもり、ないんだけどなぁ。

むしろずっと・・・・・・うん、ずっとだよ。ずっと逃げたくないって思ってる。だから、拭えない。





というか、ゴール地点がやっぱり『局に入って欲しい』でしょ? だからやる気なくすって。





ギンガさんに全部話せないのが、非常に辛い。そうすればきっと、楽に解決するはずなのに。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



私はベッドにうつ伏せに倒れ込む。倒れ込んで、瞳から涙が一筋零れ落ちる。





なぎ君に、拒絶された。違うのに、私・・・・・・私、そうじゃないのに。こんなの、嫌なのに。










「どうすれば、いいの」





私、ずっとなぎ君から凄く危うくて、消えそうな所を感じていた。

その原因はきっと、自らの手で人を殺めた事実。それが、なぎ君の心に枷を付けてる。

その枷が、なぎ君を私達とは違う場所に置いている。だから忘れて欲しかった。



そうすれば、それが外せる。下ろせば、私の目の前から消えたりなんてしない。そう思ってた。

でも・・・・・・分からない。なぎ君にとって記憶と時間が、凄く大事なのは分かる。

でも、どうしていつも忘れていい事なんて無いなんて・・・・・・言い切れるの? どうして、なのかな。



私、そんなに難しい事を要求してるのかな。私はただ、なぎ君に一つの居場所を作って、その中で一緒に頑張りたいだけなのに。





「『誰に許されるの?』・・・・・・かぁ」



・・・・・・よし、悩んでいても始まらない。私はなぎ君の危うい所をなんとかしたい。

あのままなんて、絶対に嫌。なぎ君が居なくなるのなんて、絶対嫌なの。



「まずは行動あるのみよ。ギンガ・ナカジマ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・というわけで、少しの間、なぎ君をお借りしたいんです」

『・・・・・・いや、それは構わんのやけど・・・・・・アイツ、絶対嫌がるよ?
柔らかい言い方はしてる思うけど、局の事嫌いやから』



分かってる。でも、こうするしか思い付かなかった。これしか、思いつかなかった。



『なによりな』

「はい?」

『・・・・・・恭文が局に入りたい思う事は、もうないよ。というか、もう局の業務に関わりたくないと思うてる』



私は部隊長がどうしてそう言うのか、さっぱりだった。ただ、それは発言どうこうじゃないの。

私に対して、どうしてそんなに申し訳なさそうな顔をしながら言うのかが、分からないの。



「確かにその・・・・・・局は今まで本当にダメな部分も多かったです」



私、あれから考えたの。どうしてなぎ君の言葉に簡単に肯けないのかって。

それは・・・・・・なぎ君が組織を、人が変わっていく事を信じていないのが悲しいからだって気づいた。



「でも、きっとこれから変わっていきます。今まで通りは無理でも、なぎ君が居場所に出来る組織になっていきます」



もっと言うと、その中に居る私や父さんまで信じられないと言われてるみたいで、悲しかった。

だから・・・・・・だから知って欲しいなと。人は、それが作る組織は変わっていくんだって。



『ギンガ、違う。うちがこう言うてるんは、組織どうこうだけやない。そういう事ちゃうんよ』



それは部隊長だって同じだと思う。だから今の地位に居る。でも、それでも部隊長は首を横に振った。



『もっと身近で、もっと残酷な事なんや。・・・・・・うちや後見人のみんなして、恭文やアンタを裏切ってるんよ』

「え?」

『はっきり言うてうちらは六課の業務絡みで、ナカジマ三佐やアンタにスバルに、殺されても仕方ないくらいの事をしとる。
いや、そこはうちの隊長陣や部隊員にその関係者全員にもやな。それがうちらがアンタ達にかました裏切りの重さや』



申し訳なさそうな表情のまま、部隊長はそう言った。でもあの・・・・・・そう言う理由が、やっぱり分からない。

私達が部隊長を殺す? そうされても仕方ないくらいの事? それを考えて、余計に頭がこんがらかった。



『でな、恭文はその事知ってるんよ。そやから・・・・・・今のアイツ、身内だろうと局員は信用せんよ』

「・・・・・・どうしても、ですか? だって、みなさんは昔馴染みで、仲間なのに」

『それでもや。てか、それすらぶっちぎるくらいの事かましててなぁ。うん、正直いつ見限られてもおかしくない。
・・・・・・過去はなかった事にしたらアカン。過去は、全部含めていかなアカンのよ。無かった事にしたら、忘れたら意味がない』



部隊長にそう言われて、胸の奥に何かが突き刺さった。

そしてそこから・・・・・・じわじわと痛みが産まれる。



『抱えてその上で変わっていく事をせんかったら、うちら管理局かてまたJS事件と同じ間違いをする。
ギンガ、アンタなら分かるやろ? いいや、組織変えよう思うてたら分かってないとアカン』

「それはあの・・・・・・はい」





そう答えるしか無くて、私は俯いて膝の上に置いてある量の拳を握り締める事しか出来なかった。

というか、部隊長が何を言いたいか分かった。だから余計に辛い。

なぎ君に過去を忘れて、全て水に流して局に入ったり普通にして欲しいと言うのは無意味だと言っている。



確かにそこを突かれると、私は頷くしかない。局員・・・・・・組織の一員であるなら、そうするしかない。

あの事件を無かった事になんて、してはいけないのは分かるから。

それで通信画面越しに、何か・・・・・・ため息のようなものが聴こえた。





『まぁ・・・・・・三日だけな?』

「え?」



顔を上げると、部隊長はやっぱりあの表情のままで・・・・・・だけど、頷いてくれた。



『どっちにしても、仲直りする機会は必要やろ。ただ、うちの言うた事は踏まえておく事。
ホント、そこは頼むな? 今のアイツにそこツツいたら、簡単に爆発するわ』

「ありがとうございますっ!!」



私は、モニターの中の八神部隊長に深々と頭を下げる。一つは無茶を言った事への謝罪を込めて。

あとは・・・・・・さっきの事、教えてくれた事に対してだね。きっと、私なんかでは知れない事だっただろうから。



『でもな、ギンガ』

「はい」

『なんでそこまでするん?』



八神部隊長からの突然の問いかけに、私の思考はストップした。



「あの、お話した通りなんですけど」

『うん、それは分かっとる。でも、それをどうしてそこまで気にするんかな』

「・・・・・・部隊長は、気にならないんですか?」



部隊長は頷いた。それも・・・・・・すぐに。



『生き方なんて、結局個人の自由やからな。本人が納得してるならええやろ。
なによりうちは・・・・・・今のまんまの、バカなアイツと一生友達やってく覚悟を決めとる』



申し訳なさそうな表情は、そこで切り替わった。どこか自信を持っているような・・・・・・そんな顔。



『うん、うちはあのバカが好きなんよ。自分っちゅうもんを持って、前に進むバカがな』



でもその表情は、すぐに切り替わった。そして自嘲するように笑う。



『ま、アイツの方から縁切られてもしゃあないくらいの事しとるし、言う権利ないけどな。
あと・・・・・・アレは、組織に入っても幸せになれるやつちゃうよ? 少なくも管理局はだめや』

「そんな事ありませんっ! なぎ君だって、しっかりとやっていけますっ!! それに」



そこで、言葉が止まった。続きが出てこない。・・・・・・あれ? 私、何を言おうとしたのかな。



『・・・・・・ま、ここはえぇわ。でもな、アンタが干渉してくれば絶対にそこが鍵になるよ。
答えは、ちゃんと出しとき? 局の事絡みでツツいたら、即爆発なんやから』

「・・・・・・はい」










・・・・・・答え、か。私、どうしてなぎ君にここまでしようとするんだろ。

局の事を信じて欲しいから? 108に入って欲しいから?

助けてくれた事への恩返しがしたいから? 心に付いている枷を、外したいから?





友達・・・・・・だから? 違う。どれも、完全な答えじゃない。なら、私はどうして・・・・・・なのかな。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・帰っていい?」

「ダメっ! というか、術式展開させてホントに帰ろうとしないでっ!!
なによりその転送魔法、許可取ってないよねっ!?」

≪許可なんて必要ないでしょ≫

「あるからっ!!」



いきなり108の仕事を手伝えと言われた。というか、通常業務を三日体験してこいと。

妙な感じがして、タヌキをシバき上げた結果・・・・・・くそ、マジで六課は身内人事しまくるし。



「・・・・・・なぎ君、お願い。あの、ちゃんとお話したいの」

「嫌」



・・・・・・そんな泣きそうな顔してもだめっ! しばらく距離は取るって決めたんだからっ!!



「・・・・・・まぁ、そう言ってやるなよ」



後ろから声がかかった。それに嫌ーな予感をしてそちらを見ると・・・・・・そこにはゲンヤさんが居た。

うん、当然だよね。だってここ、108の隊舎なんだから。



「というか恭文、ちょっとこっちへ」

「へ?」

「いいから来い」



なんか来た方がいいらしいので、僕はそのままゲンヤさんに連れられる形で曲がり角に入った。

で、申し訳なさそうに両手を合わせてお辞儀された。



「ゲンヤさんっ!? 何してるんですかっ!!」

「頼むっ! 三日だけでいいからギンガの相手をしてやってくれっ!!
・・・・・・アイツ、お前さんとやり合ったのが相当堪えててな。仕事でポカしまくりなんだよ」

「そうですか。ではさようなら」



振り返って、そのまま僕は立ち去ろうとする。だって、ちょうどそっち側は出口だから。

いや、さすがゲンヤさんだよ。わざわざ出口側に案内してくれ・・・・・・って、また手掴まれたっ!?



「だから待てっ!! ・・・・・・八神から、お前さんや六課の人間が何かまされたのかは聞いてる」



僕が首だけ振り返ると、ゲンヤさんが頷いた。・・・・・・てーかいいんかい。アレって機密事項なのに。



「それでギンガも、全部じゃないんだがそれとなく聞いていてな。・・・・・・だからマジで頼む。
せめてアイツの調子が戻るまでは相手してやってくれ。それ以上の無理は一切言わねえよ」

「そうですか。なら一生調子崩してればいいんじゃないですか?
ほら、僕はフェイトフラグ立てるのに忙しいですから」

「てめぇふざけんなっ! 俺の娘をなんだと思ってんだっ!?」

「友達ですけどなにかっ!? でもね、友達よりもフェイトのフラグ立てる方が大事なんですっ!!
それとも僕の代わりにゲンヤさんが立ててくれるとでもっ!? 立てて僕に還元してくれるわけですかっ!!」



そうだよそうだよ、緊急呼び出しのせいで約束してたデートもパーで、しばらくお休みも取れなくて・・・・・・うぅ、なんでこうなるのー!?



「あぁもう、埋め合わせは必ずするから泣くなよっ! 泣きたいのは俺達の方なんだしよっ!!」

「だったら泣けばっ!? でも僕はそれを振り切ってフェイトの元へ走るよっ!!」

「だから今回はそこは抑えてくれよっ! 俺の顔を立てると思って・・・・・・なっ!?」

「よし、だったらその首へし折っていいですかっ!? それで横にしてあげますよっ!!」

「お前、そこまで嫌かっ!!」



冗談じゃないっ! そのパターンで何度僕が貧乏くじ引かされたとっ!?

くそ、やっぱり今年は最悪ゾーンだしっ! いくらなんでもこれは有り得ないよっ!!



「それならあれだっ! ギンガを嫁にしていいぞっ!? それでハラオウンの嬢ちゃんとハーレムだっ!!」

「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 僕はハーレムなんて無理なのー!!
というか、ギンガさん友達だしっ! お付き合いなんて絶対に絶対に出来ないからっ!!」










結局、その場に通りがかったラットさんにも泣きつかれて・・・・・・ぶん殴った上で僕は引き受けた。





ただ、その後ギンガさんがすっごい機嫌悪そうになったのはどうして? 僕、特に悪い事言ってないのに。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・というわけで、近隣部隊との打ち合わせと外回りです。
こういうのをマメにしておくと、いざと言う時に円滑に動けるとか」

≪ま、大体は愚かにも無駄に終わるんですよね。
ただ108の場合、ゲンヤさんの普段の尽力のおかげで効果が上がっているそうです≫

「なお、これは地上だけではなく、本局と各世界の地上本部ともこういう形で連携強化を図っていくとか。
てーか、今までしてなかったんかい。どんだけバカなんだよ管理局」

≪今さらですね。本局と各地上部隊は、大きな溝がありますし。
おそらく、これも効果を発揮し出すのに10数年かかりますよ?≫





だねぇ。うん、やっぱ局員不自由だわ。というか、そのために六課で尻拭いですよ。

・・・・・・真面目に僕、この組織が嫌いみたい。それで・・・・・・あぁもう、甘いなぁ。

なんでそこでスバルやティアナ、エリキャロの顔がよぎるんだろ。あと、もちろんフェイトも。



とりあえずアレだね、局員になっても僕の願いが叶わない事はよく分かった。



だって僕は・・・・・・僕は、今すぐ笑って欲しいんだから。10数年後なんて、意味がない。





「なぎ君、アルトアイゼンも・・・・・・誰に話してるの?」

「気にしないで。こういうのやってみたかったの」

≪アニメ的な手法・・・・・・憧れていたんです≫





それで僕達は、ゲンヤさん自らポンコツ認定しているギンガさんにくっつく形であっちこっち回る。



でも・・・・・・普段の行いのせいか、他の部隊との関係は良好らしい。



これがうわべだけと思えないのが、108の恐ろしい所である。





「でも、予想以上に連携取れてるよね。もう相手方も『いつもの事』って感じだったし」

「そうでしょ? うちの部隊の自慢のひと・・・・・・って、なぎ君は知ってるか」

「何回も来てるしね。うん、ゲンヤさんやラッドさん達がどんだけ頑張ってるかは、知ってるつもりよ?」





ミッドに限らず、地上部隊は、やたらと縄張りやら管轄意識が強い傾向にある。



それを考えると、108と近隣部隊との連携や繋がりは、すごい部類に入る。



こういうのが、あっちこっちで普通になってくれると、楽なんだけどね。まぁ、無理か。





「でもこれはうちだけじゃない。これが局の普通の事になっていくよ。ううん、なってきてる」



どこか誇らしげにギンガさんがそう言う。でも僕の考えてる事、分かってるって顔がどうにも解せない。



「本当に少しずつで、なぎ君から見たらイライラするかも知れないけど、それは事実」

「うん、そうなるといいよね」

「・・・・・・・・・・・・うん、そうだね」










一応、空気を読んだつもり。でも、ギンガさんはそれでも悲しそうな顔をした。

やっぱり、僕は甘い。だからまた、一緒に居るだけでギンガさんを傷つけてしまうの。

とにかく、それからさほど経たずに僕達はご飯を食べて、また外回り再開。





でも、ゲンヤさん・・・・・・これのどこがポンコツなの? もう無茶苦茶普通じゃないのさ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



二人で静かにご飯を食べて、また外回り。でも・・・・・・隙、無いな。なぎ君、強い分頑なだ。

あのね、事情があるのは分かるの。無理を言えないのも、分かった。そこは父さんにも念押しされたから。

組織の人間だから、仕方のない事で済ませられる事。でも、なぎ君は優しいから納得出来ない事。





無理に誘ったら、本当に関係が断絶する可能性があるって・・・・・・うん、言い切ってた。










「・・・・・・あのね、なぎ君」

「何?」

「例えばの話だけど、今街を歩いてる人達の幸せとか、そういうのを守るために局員になるとか・・・・・・考えられない?」

「・・・・・・なるほど、それで生贄になれと」



これで私は確信を持った。なぎ君、本当にこの手の話をされると不快感を隠そうとしない。



「ううん、生贄じゃないよ」



私はなぎ君と二人で首都を歩きながら、その街並みを見渡す。



「誰かが笑って暮らせる時間とかを、守るの。そういうの、一つの喜びにはなると思うんだ」

「で、そのために緊縛プレイや瀕死の重傷とか負ってしまえと」

「だから、違・・・・・・なぎ君」

「何」



なぎ君は、私に視線を向けてくれない。でも、それでも分かった。



「六課のみなさんの状態、そんなに良くないの?」



一応ね、フェイトさんが危なかった事とか、ヴィータ副隊長やなのは隊長が怪我した事も知ってる。

だから緊縛プレイや瀕死の重症が誰の事を言っているのか、何をそんなに怒ってるのか・・・・・・気づいた。



「・・・・・・バカだよ、アイツら。正直、見捨ててしまいたい」



吐き捨てるように、なぎ君はそう言った。どこか自嘲するような感じも見えたのは、気のせいじゃないと思う。



「怪我して、壊されかけて、上に裏切られて・・・・・・それでも平然と仕事してんの。
なのはの怪我ね、下手したらもう飛べなくなるかも知れないってレベルなの」

「え?」

「師匠だって、本気で死にかけた。フェイトだって、ギンガさんと同じ目に・・・・・・ううん、もっとひどい目に遭ってたかも。
全部の原因は、局なんだよ? なのに、その局のために今も仕事してて・・・・・・僕、本気で面倒見切れないわ」



そう言い切ってから、なぎ君はため息を吐いた。ため息を吐いて、軽く首を横に振る。



「この街の連中が笑ってても、まだみんなが笑ってない。まだみんな、痛みと戦ってる。後悔や失敗で苦しんで、泣いてる。
一番笑って幸せや平和を満喫しなきゃいけないはずなのに、誰も笑えない。全部・・・・・・全部アイツらのせいだ」

「・・・・・・なぎ君」



なぎ君の言うアイツらは、きっとスカリエッティや最高評議会・・・・・・ううん、違う。それだけじゃない。

きっと六課の後見人のみなさんや、今街を歩いている人達全員も含まれている。大事な人を傷つけ、利用して笑ってる人達全てだ。



「アイツら、みんなの事を裏切った。夢や願いの詰まった場所を貶めて、道具扱いした。・・・・・・なのに」

「なぎ君っ!!」



私は後ろからなぎ君の事を抱きしめる。それでようやく、なぎ君の言葉が止まった。

・・・・・・なぎ君、凄く悲しい目をしてた。怒りとやるせなさで、いっぱいになってて・・・・・・ダメ。



「・・・・・・ごめん、もう言わないから離して」

「いや。なぎ君、私・・・・・・なぎ君にそんな事言って欲しくない。だから私、この間もあんな事言った。
でもね、それは局の事を嫌いになって欲しくないからじゃない。そんなの違うの」



だからまずは私の・・・・・・私の本当の気持ちを伝える。分からない事もあるけど、分かる事を伝える。

なぎ君の中にある色んな感情を、少しだけでも解消出来るように。まずは、少しずつだよ。



「なぎ君に何かを憎んで欲しくない。みんなや世界の事、嫌いにならないで欲しいの。
なぎ君をずっと局に誘っていたのも同じ。そうやって『嫌い』って言葉を使って欲しくなかった」



なぎ君はJS事件の時・・・・・・人を殺した。私、その現場に居たの。私、その時必死に止めようとした。

でも、それだって同じ理由だよ。なぎ君がその相手を、本気で『許せない』と思っているのが伝わったから。



「だってそんなの、きっと悲しい事だから。・・・・・・確かに、なぎ君はその手で奪った」



ここは、変わらない。どんなに変えたくても、変えられない・・・・・・事実。



「命を、心を、時間を、幸せを。許されて、忘れていい事じゃないかも知れない。でも」



私は自分の両手を、そっとなぎ君の両手に重ねる。なぎ君が驚いてるけど、構わずに言葉を続ける。



「それよりもずっと、忘れて欲しくなかった事があった。
私、この間はそう言いたかった。そう伝えたかったの」



でも、事実はもう一つある。なぎ君の手に詰まっているのは、そんなものばかりじゃない。



「・・・・・・私は、同じ手で守られたの」





あの時、命だけを守ってくれたんじゃない。なぎ君は、私の全てを守ってくれた。

恐怖と絶望で壊れそうになっていた私の心を。大切な記憶と時間を。全部を守って、助けてくれた。

この手が無かったら、私・・・・・・ここに居ない。この手には、私の時間が詰まってるの。



だから私、この手が好き。誰より優しい温かさに溢れた手が・・・・・・大好きなの。





「あなたが、私に今をくれた。守ってくれた。だから・・・・・・私はここに居るって、伝えたかったの。
だから、過去に縛られないで欲しい。そのために何かを嫌ったりしないで欲しいって、伝えたかった」





私にとってなぎ君の手は、奪った手じゃない。

私にとってなぎ君は、奪った人間なんかじゃない。

なぎ君は・・・・・・なぎ君の手は・・・・・・なんだろ。



だめ、上手く言えない。私、なんでこんなに。





「・・・・・・あの」

「おとなしく聞いてて」

「はい」



だからその・・・・・・えっと・・・・・・!!



「なぎ君、この間言ってたよね? 『一体、誰に許されるの?』・・・・・・って」

「うん、言った」

「そうだね、きっとその通りだ。なぎ君を許す事なんて、きっと誰にも出来ない。
私、きっと凄くズレた事言ってた。だから・・・・・・その、そうだな」



私は抱擁を深くして、なぎ君の肩に顔を埋める。埋めて、軽く息を吐く。なぎ君・・・・・・いい匂い。



「ごめん、上手く言えない。でも」

「なに」

「私、なぎ君とあのままなんて嫌だったの。そんなの、絶対嫌だった。
だからやっぱり、今のままは納得出来ない。そんなんじゃなぎ君、笑えないよ」



だけど、今までの私のやり方では絶対だめで・・・・・・どうしよう。私、どうしたらいいのか分からなくなった。



「・・・・・・でもギンガさん、僕・・・・・・マジで局には入れないから。好きにもならない」



本当は、そんな事言って欲しくない。でも、きっと優しい子だから仕方のない事。

でも、本当に何があったのか疑問に思ってしまう。ここまでになるなんて、相当だよ。



「許せないんだ。みんなの夢や命を・・・・・・大事なものを消耗品扱いした組織なんて、世界なんて、絶対に許さない」

「ん、分かった。そこは、納得したから。でも、やっぱり嫌。
・・・・・・やっぱり、そんな風に憎まないで欲しい」










過去をなかった事にしてはいけない。過去を・・・・・・過去を含めて、前に進まなくちゃいけない。

八神部隊長が言った事は、きっと事実。だから世界は今、変わろうとしている。

でも、なぎ君は・・・・・・そうだね。きっとなぎ君も痛みと戦ってる最中なんだ。だから、まだ笑えない。





どうすればいいんだろう。どうしたら私、この腕の中に居る温もりを守れるんだろ。





そうだ、私は守りたいんだ。きっと・・・・・・なぎ君に守ってもらったように、私もなぎ君を守りたいんだ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



僕達はその後、1日目の仕事を終了。僕は、ナカジマ家でお泊まりする事になった。

まぁ、アレだよ。一応は約束だし・・・・・・最後まで付き合う事にはした。

でもさ、ギンガさんは全然ポンコツじゃないよね? 極々普通だよね? 付き合う必要なくない?





一応ゲンヤさんにそんな話をしてみたんだけど、また泣きつかれてしまったので逃げられなかったのは付け加えておく。





それでお風呂を頂いてから、僕はお夕飯。ギンガさんが作ってくれていたので、即行で頂きます。










「・・・・・・ギンガさん」

「あの、なにかなっ!?」

「いや・・・・・・どうしてそんなに挙動不審? というか、動きがぎこちないのさ」





ナカジマ家サイズのご飯を食べつつ、僕は疑問に思う事がある。

お風呂から上がった僕を出迎えたギンガさんは、すごくぎこちなかった。

まるで油の切れ・・・・・・やめよう。ギンガさんの身体の事を考えると、この例えはアウトだ。



でも、そうとしか言い様の無い動きだし。マジでどうしたのかな。





「あの、大丈夫っ! なんでも無いよっ!? うんうんっ!!」





いや、なんでもあるでしょそれ。本当になにがあった?



カボチャの煮物を食べつつ、心から思う。うん、心からホクホクと・・・・・・あ、これ美味しい。



ホクホクして、凄い甘くて。さすがギンガさん。いい味出してる。





「あー、でもごめんね。先にお風呂もらっちゃって。これだとギンガさんは男の残り湯だし」



次の瞬間、ギンガさんの顔がマグマのように赤くなって、頭から蒸気が吹き出した。

頭頂部から吹き出した蒸気により、部屋の湿度が一気に15%程プラスされた感じがする。



「・・・・・・・・・・・・もしもし?」

「あ、あんの」

「大丈夫じゃないから、それ。そして『あんの』ってなに? エヴァの監督さんですか」



てゆうか、スチームが出てるし。一体どうしたんだろ。・・・・・・まさか、あの事実に気付いたっ!?

そうだそうだ、それなら考えられるしっ! それならこうなっても無理はないってっ!!



「あの、ギンガさん・・・・・・大丈夫?」

「だ、だから大丈夫だよ。ほら、アタシこんなに元気で」

「一人称変わってるくらいに狼狽してるじゃないのさっ! てゆうか、ダメージ受け過ぎっ!!」





えー、実は今日という日には、一つ落とし穴があります。

まず家長のゲンヤさんは、今日は会議で帰って来ません。

そしてスバルは当然だけど六課隊舎暮らし。



つまり、今日僕とギンガさんはこの家に二人っきり。でも・・・・・・いや、まさかね。



ギンガさんがそんな事を気にするとは・・・・・・してたらどうしよう。





「あ、ギンガさん。このカボチャの煮物とっても美味しいよねっ! どうやって作ったのっ!?」



方針を決めた。僕は気にしてない事にする。あくまでも普通にだ。そうすれば。



「あ、うん。特別な事はしてないよ? 母さんから教わったレシピも、料理本と大差無いし」



うし、予想通りにギンガさんも乗ってきた。この調子で、とりあえずNGワードは決めておくか。

『お風呂・ベッド・寝る』ってとこかな。・・・・・・これから一番使う単語じゃないのさっ! どうやって避けろとっ!?



「でも、美味しいのよ。うん」

「・・・・・・ありがと」










そんな美味しいカボチャの煮物を食べながら思った。

明日からは、108の隊舎で泊まろうと。ここはゲンヤさんが居ないと、あまりに危険過ぎる。

ギンガさんは、大事な友達。僕の暗い部分も見せられる、本当に大事な友達。





だから・・・・・・そういう事で不安になんて、させたくない。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・ご飯を食べた後、洗い物をなぎ君に任せて私もお風呂。

というか・・・・・・どうしよう。私、本当におかしい。だって、なぎ君とは友達なのに。

確かにこれが恋人同士とかだったら、そうなるよ? うん、確実にそうなる。





でもそうじゃない。私は湯船に肩まで浸かって、そんな事をずっと考えていた。

あ、お湯はそのまま。だ、だって別段汚ないとかじゃ無かったもの。

なぎ君は本当に綺麗に使ってくれてたし、私は・・・・・・うん、なぎ君の後のお風呂は嫌じゃない。





でもやっぱり私、おかしいのかな。そうしてついつい湯船の中でじっくり・・・・・・じっくり、考えてしまった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ギンガさんがお風呂に入っている間に、僕は洗い物を引き受けた。

それが終わってから少し電話をして、それからリビングでボーっとしながらも考え事。これから先の事とか、色々。

やりたい事・・・・・・やっぱり、旅に出たいなぁ。それで、色んなところに行くの。





やっぱり旅は、僕の夢だもの。うん、大事な大きな夢。

もっと言うと、僕はもう管理局なんてどうでもいい。あんな連中、どうだっていいの。

ほんと、見捨ててしまっていいかと思うくらいだもの。正直付き合い切れない。





でも・・・・・・うん、旅したいな。それでまた夢の日々だよ。





だからさっきのお誘いも、実は受けるつもりなんだ。元々『こっちにおいでー♪』とも言われてたし。










≪マスター≫

「なに?」

≪ギンガさん、遅くないですか?≫



そう言えば・・・・・・入浴開始から既に1時間以上。いや、女の人は長風呂だとやんなるくらい知っては居る。

でも、そう言えばギンガさんのお風呂タイムってどれくらいか知らないなぁ。あれ、なんか気になってきた。



「よし、ちょっと見てくる」

≪襲わないでくださいよ?≫

「んな事するかっ! ボケがっ!!」










リビングでお笑い番組をプカプカ浮きながら見ているアルトは気にせず、お風呂場へと急ぐ。





・・・・・・ギンガさんは、大事な友達。だからあの、昼間だって受け入れられた。それに、凄く嬉しかった。





だから、絶対に嫌なの。そんな事して大事な友達を・・・・・・戸惑わせたくない。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



とにかく・・・・・・アレだ。お風呂場に着た・・・・・・もとい、来た。現在、脱衣場です。

ギンガさんの服とかは気にしない方向で。見えてしまった白の下着も同じく。

いや、一応ノックしたよ? 反応なかったから、突入しちゃったけどさぁ。でも、大丈夫かな。





外からノックしても、一応音とか聴こえるはずなのに。特にギンガさんは耳も良いしさ。





とにかく、もういっちょだ。今度はお風呂場の仕切りをノックする。ここをいきなり開けたら、本当に犯罪だしね。










「ギンガさーん」



・・・・・・返事がない。よし、もういっちょ。



「・・・・・・ギンガさーん、まだお風呂中?」



・・・・・・・・・・・・返事、なし。よし、もう一回。



「・・・・・・・・・・・・ギンガさん、ねぇ・・・・・・大丈夫?」



・・・・・・やっぱり返事なし。なので、僕は・・・・・・覚悟を決めた。



「ギンガさん」



左拳で殴られる事を覚悟しつつ、右手をお風呂場の敷居にかける。



「ゴメンっ!!」



お風呂場へ突入。そして、僕が見たのは・・・・・・やっぱりかいっ!!



「ギンガさんっ!?」










お風呂に浸かって、顔や身体を真っ赤に・・・・・・ようするに、のぼせた状態のギンガさんだった。





あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! よりにもよってゲンヤさんの居ない時にー!! こんなの有り得ないからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・あ、気持ちいい。おでこがひんやりして、それだけで身体の熱さが沈んでいくみたい。





目をゆっくりと開ける。そして見えたのは部屋の天井。というか、私の部屋。ベッドの上で横になってる。





あれ? 私・・・・・・あれっ!?










「お風呂でのぼせてたんだよ」



右横から声がした。そこを見ると・・・・・・なぎ君が居た。少し、心配そうな顔で私を見ている。

あ、そうだ。ゆっくり・・・・・・ゆっくり考えてたら、つい長湯しちゃってたんだ。それで、のぼせちゃった。



「なぎ君が、運んでくれたの?」

「まぁ、一応」





顔、すごく赤くなった。その意味を、ボンヤリとした頭で考える。

今の私・・・・・・バスタオル一枚。一応、タオルケットが肩までかけられている。

髪や身体が、どこか濡れたままという事も・・・・・・ない。



・・・・・・そっか。見られたんだ。なぎ君に、私の裸。





「ありがと」

「え?」

「だって、また助けてくれた」





でも、いいよね。他の人なら嫌だけど・・・・・・なぎ君なら。私、嫌じゃない。

それに、想像出来るもの。必死に私を浴槽から出して顔を真っ赤にしながら、私が風邪引かないように一生懸命にフォローしてくれた。

現に、よくなぎ君の身体や服を見ると、あっちこっち濡れてるから。



その、なぎ君も男の子だから、多少はやましい気持ち、あったかも知れない。

でも私の知ってるなぎ君は、それよりも私を助ける事を優先してくれたはずだから。

なぎ君、ちゃんと男の子なんだ。外見よりもずっと男らしいの。



私を戸惑った表情で見てるけど、それでも私はお礼を言って微笑む事が出来る。



そんな男の子のなぎ君の事、私はとても信頼してるもの。これくらいは当然。





「怒らないの?」

「助けてくれたのに、怒る必要なんてないよ」



その、少しは・・・・・・照れも出てきてるよ? 恥ずかしくて恥ずかしくて、おかしくなりそう。

でも、さっき言った通りだからそこは抑える。それでなぎ君を戸惑わせたくない。



「ありがと」

「うん。あの、僕は部屋に戻るから」

「・・・・・・嫌」



口を突いた言葉は、そんなものだった。自分でも驚く。でも、止まらない。



「もう少し、側に居てくれないかな。その・・・・・・なぎ君が居ると、安心するから」

「あの、でも」

「お願い」

「・・・・・・分かった。なら、もう少しだけね」










私は、やっぱりおかしい。うん、おかしいよね。きっと。





だって生まれて初めて、父さん(子どもの時のお風呂)以外の人に裸を見られたのに。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そんな事がありつつも、それでもきっちりと朝はやってくるのです。本当にきっちりと。

なーんとなく、こう・・・・・・一緒に朝ご飯の仕度をしながら思う。

もっと言うと、大量のだし巻き卵を生成しながら思う。空気が微妙だと。





いや、僕の心情だけが微妙なんだけどさ。

だってギンガさんは制服に青いエプロンを着けて、お味噌汁の味見してるし。

様子は、至っていつも通り。昨日の事を気にする様子もない。





こっちは大変だったというのに。・・・・・・うん、見た。すごいしっかりと。

エリオじゃないけど、上から下までクッキリと。

なんというか、理性が吹き飛びかけた。だって、凄く・・・・・・綺麗だった。





なんというか、女の子って・・・・・・よく分からない。










「なぎ君、味見お願い」



ギンガさんが、小皿を差し出してくる。その中には、白味噌仕立てのお味噌汁。

僕はそれを受け取り、口をつける。・・・・・・うん、さすがギンガさん。いいお味だよ〜。



「どうかな?」

「バッチリ」

「よかった」



そう言って、ギンガさんは笑う。優しく、明るいいつもの笑顔を、僕に向けてくれる。

・・・・・・本当に気にしてないのかな。笑顔、いつもと変わんないし。



「ギンガさん」

「うん?」



僕は、すでに焼き終えて切り分けていた卵焼きをつまむ。



「あーん」

「・・・・・・あ、あーん」



そのまま、ギンガさんの口の中に放り込んだ。

というか、なぜこれで赤くなるのかが分からない。アレはセーフでこれがアウトの理由を教えて欲しい。



「どう?」

「バッチリ」

「なら、良かった」



さて、これで卵焼きは大丈夫。あとはメインディッシュだね。



「魚ももうそろそろかな?」





ナカジマ家のキッチンは、どこのレストランの厨房かと思うくらいに設備が整っている。

もうね、一気に十数人分のご飯が作れるの。

なお、なぜそんな立派な設備かという理由は、言わなくても分かるよね?



そして、そんなキッチンにある大型グリルで焼かれているのは、シャケ。

卵焼きに焼きシャケに、ジャガイモと玉ねぎがたくさん入ったお味噌汁。

あと、ほうれん草のおひたしに、炊きたての白いご飯。



そこにそこに、卵と納豆とノリがついてくる。なおかつ、量はナカジマ家サイズ。



・・・・・・改めて考えると、スゴすぎる。料理好きとしては、夢のような贅沢空間だ。





「あ、そうだ。ギンガさん」

「ん、なにかな」

「朝ご飯食べながらでいいんだけど、実はその・・・・・・一つ相談が」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



昨日の夜、ギンガさんをお風呂から救出する前に・・・・・・実はちょっと事態が動いた。





たまたまフィアッセさんから電話がかかってきて、それで幸せいっぱいになりながら現状を話してたの。










『そっか。・・・・・・で、今はその子に振り回されてるんだ。うー、恭文くんがまた浮気するー』

「浮気って何っ!? というか、僕フェイトが本命なんですからっ!!」

『浮気だよー。だって婚約者は私だよね?』



電話の向こうのフィアッセさんにそう言われて、軽く息が詰まる。・・・・・・確かに、そうだ。

というか、もう婚約した時の約束は満たしてる。やばい、いつ結婚に持ってかれてもおかしくない。



『私はもういつでも恭文くんのお嫁さんになってもいいんだけどなぁ。
それなのに・・・・・・うぅ、こんなに浮気ばっかりされるとは思ってなかったよ』

「あぁ、ごめんなさいごめんなさいっ! 真面目に僕が悪かったと思うので泣くのやめてー!!
そうですよね、僕浮気してますもんねっ! 完全無欠に悪い子ですよねっ!!」





・・・・・・えー、改めて説明を。この電話の向こうのお姉さんはフィアッセ・クリステラさん。僕の大好きで大切な人。

地球の方では相当に有名な歌手で、クリステラ・ソング・スクールという音楽学校の校長さんでもある。

それで、僕とは7年前に婚約してるの。『僕が18になった時に、互いに相手が居なかったら結婚しよう』というもの。



それからずーっとメールのやり取りしてて、実際に何度も会ってお話してて・・・・・・うん、大好きなんだ。

金色の髪に青い瞳、優しい声にそこから産まれる歌声。フィアッセさんの全部が大好きだって、自信を持って言える。

フィアッセさんと一緒に居る時は、いっつも幸せなの。だから昼間のあれこれも、全部吹き飛んでる。



僕にとっては、フェイトやリインとはまた意味合いが違うけど、凄く特別な人。だから、同時に頭も上がらない。





『・・・・・・そうだ。恭文くん、こっち来れないかな』

「・・・・・・え? こっちって・・・・・・イギリスですよね」

『そうだよー。もうすぐ、スクールの子達が出るコンサートがあるんだ。
せっかくだから聴きに来ない? 良ければ、その子も連れて』

「はいっ!?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・イギリスっ!? それって、地球の国の一つだよねっ!!」

「うん」



ギンガさんの言葉に頷きつつ、僕は卵焼きをパクリ。・・・・・・あー、いいお味だー。



「なぎ君、それはダメだよ」

「いきなり否定っ!? ・・・・・・あー、分かってる。フィアッセさんには僕から断っておくから」

「違うよ。旅行自体がダメだって言ってるの」



うん、そうだよねっ! すっごい分かってたわっ!! 僕、部隊に常駐だしっ!!



「ヒロリスさん達が六課に来て、AAA試験も間近なんだよ? 今はダメだよ」

「いや、どうでもいいわ」



僕はご飯をかき込みながらそう言うと、ギンガさんが表情を険しくした。



「・・・・・・なぎ君、それは失礼だよ? 試験を受けたくても受けられない人だって居るのに」

「あー、違う違う。そういう事じゃない。もうみんなにはギンガさんがお風呂入ってた間に連絡して、許可もらってるの」

「えぇっ!? い、いつの間にっ!!」

「だから、お風呂の間だって。だから、そこの問題はとうに解決してるの」



はっきり言い切ると、ギンガさんが困った顔をする。僕が本気でそう思ってるのは、伝わったみたい。

てーか、そんな他人の事なんて僕はどうでもいいし。それよりもー旅だよ旅ー♪



「とにかく、ギンガさんがどう言おうと僕はコンサート行くから。
で、お断りも僕の方からしておくので心配しないで」



大体、何故にギンガさんを誘ったのかも分からないしなぁ。フェイトやなのはなら分かるけど、ギンガさんだよ?

ギンガさんの事話して、それでいきなりだから・・・・・・うーん、なんでだろ。



「うー、楽しみだなー。久々にフィアッセさんとラブラブだし・・・・・・楽しみだなー。
スクールに行くのも久しぶりだし、お土産持っていって楽しく観覧してー」



次はそう言ってからお味噌汁をすする。それで、その美味しさを堪能していたからすぐに気付かなかった。

ギンガさんの表情が、とても真剣なものに変わっていたのを。僕が気づいたのは、お味噌汁を飲んでからの事。



「・・・・・・行く」

「へ?」

「だから、行く。その・・・・・・私は大丈夫。仕事も都合つけるよ。
せっかく誘っていただいたわけだし、断るのも失礼だと思うから」

「あの、ギンガさん? ちょっとまって。さすがにそれは」



僕の言葉を止めるように、向かい側に座るギンガさんが身を乗り出す。



「いいの。私もどうして誘ってもらったのか気になるし・・・・・・うん、行く」



頬を赤く染めて、何かを決意したような瞳で僕を見つめていた。

その瞳に射抜かれた瞬間、僕はもうなにも言えなくなった。



「なぎ君、いいよね?」

「・・・・・・うん、分かった、フィアッセさんにはそう伝えておく」










こうして、無事に二人で異国の地を旅する事が決まった。





・・・・・・僕、フェイトのフラグ立てずになにやってんだろ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



時間はそんな二人の朝食風景から、10時間程遡る。時刻は夜。

部隊長室でちょうどフェイトちゃんとなのはちゃんとお話してた時に、チビスケから通信がかかってきた。

そして、またあのバカはとんでもない爆弾を投げた。てーか・・・・・・ギンガなにしてるっ!?





うちはアンタのポンコツ直すのも込みで、恭文送ったんよっ!? それがなんでいきなりイギリス旅行に発展するんよっ!!





くそ、相変わらず常識無視の話の流れやなぁっ! てーかコイツの運勢はマジでどうなっとるっ!!










「とにかく恭文君、今回はだめ。試験はどうするの? AAAともなると、簡単じゃないんだから」

「そうだよ。せっかくすずかも応援してくれてるんだし・・・・・・ね、頑張ろうよ。
フィアッセさんにはまたヒマな時に会いに行けばいいよ。だから」

『それはいつ?』



そう鋭く言われて、二人が黙る。なお、うちはもう諦めた。というか、コイツの目を見たら分かる。

コイツ、うちら見てないよ。もう心がイギリスまで飛んでもうてるし。



『どこぞの教導官はどうせまた無茶して怪我するだろうし、どこぞの執務官はどうせまたまた足元すくわれて緊縛プレイだしさ。
それで僕はいつまでそんなボンクラ共の尻を拭い続ければいいわけ? ね、いつまで? どうせ六課終わってからも面倒見なくちゃいけないんでしょ?』

「ちょ、ちょっと待ってっ! 恭文君、話おかしいよっ!?」

『おかしくないでしょうが。・・・・・・なのは、おのれはスバル達のためにも休職出来ないって言ったよね』

「・・・・・・うん、言ったよ」

『で、そのために僕の逃げ道が閉ざされたという事実があるのをご存知かな?
おのれが休職すれば、僕はもうちょっと楽に日々の生活が送れてるんだけど』





そう言われて、なのはちゃんが押し黙る。というかコイツ、マジかい。いくらなんでもこの展開は・・・・・・いや、そうか。

いくらバカ言うても、そこでなのはちゃんだけ責めるんが最低な事くらいは、恭文だって分かっとるよ。

だって結局恭文の自由意志でここに残っとるんよ? それやのにうちらだけ悪いみたいに言われたら、そりゃあ腹も立つよ。



それやのにここまで言うって事は・・・・・・あぁ、ギンガとのあれこれがあんま上手くいってないんかなぁ。



一応三佐にも裏事情全部説明して、マジ今はソッとしておいて欲しいって頼んだんやけど、もしかして無駄やった?





「あの、ヤスフミ落ち着いて? 確かに・・・・・・うん、迷惑かけてる事は、私達全員本当に申し訳ないと思うの。
でも、少し冷静になろうよ。別にこれはずっとじゃない。私達、もうこうならないようにこれからもっと頑張っていくし」

『だったら局員を辞めてよ』



あぁ、これはもう確定や。コイツマジでうちらに対してキレとる。てゆうか、なんでこうなった?

ギンガのとこ行く前・・・・・・・ギンガ、マジでなにしたっ! うちは気をつけるように言うたやんかっ!!



『フェイト、そう言うなら今すぐ局員を辞めて。それでまたJS事件の時みたいに組織の都合に利用されないようにして。
そうしたら今の言葉、信じてあげるよ。でも、そうじゃないなら僕は絶対にそんな言葉は信じない。だから局員を辞めて』

「そんな・・・・・・ヤスフミ、あの・・・・・・違う。それは違うよ。私達は利用されてなんてないよ。
事件に関しては、私達の意志で関わったの。命令どうこうもあったけど、それだけじゃない」

『嘘だよ。そんなの、嘘だ。管理局なんて無ければ、六課なんて無ければ・・・・・・こんな事にならなかった』



そしてうちはこれを聞いて、その疑問が更に強くなる。

フェイトちゃんはどないしてこうなるのか分からんから、余計に混乱する。



『もういいからフェイトちょっと黙ってて。ねぇ、バカ馬聞いてる?
人にケツを拭き続けてもらわなきゃ自分の夢さえ追いかけられない、バカ馬・・・・・・聞いてるかな』





そうはっきり言われて、なのはちゃんが涙ぐんで・・・・・・うわ、これ相当溜まってるなぁ。

我慢しとったもんが、フィアッセさんのお誘いで一気に解放されてるんやろうか。

さっきも言うたけど、心がもうイギリスに居るもん。ミッドには全然影も形もない。



まぁ、元々こういう休養が必要やったからなぁ。アレよ、一種の禁断症状出てるんよ。





『ホント、一回死ねばいいのに。自分が教導出来てるのが、僕だけじゃなくフェイトやみんなに迷惑かけた上だって自覚が無いでしょ。
自覚が無いから平然と六課を『夢の部隊』って言うんだよね。でも、それは勘違い。お前はここで夢なんて何一つ叶えられてないよ』

「ヤスフミ、待ってっ! あの、そんな事ないっ!! というか、お願いだから」

「・・・・・・分かった」

「はやてっ!!」



うちはフェイトちゃんに視線を向けて、首を横に振る。なお、泣いてるなのはちゃんは放置や。

言ってる事は間違いない。ただ、言った事は最低やとも思うけど・・・・・・でも、そこ言う権利ないんよなぁ。



「休みは許可する。ただな・・・・・・恭文、アンタ今はめっちゃ最低やで?
なんにしても、居る事選んだのはアンタやんか」

『うん、知ってるけど何か? てゆうか、もう僕はこのバカ共の面倒なんて見切れないし。
だから今現時点を持って『居ない』事を選んだんじゃないのさ。それの何が悪いのかな』



うちはそう言われて、もう一度なのはちゃんを見る。それで・・・・・・ため息を吐いた。



「あぁ、そうやな。ホンマ、そうかも知れんな」



それで通信は終了。なのはちゃんはまだ泣いて、フェイトちゃんは困った顔でこちらを見てる。



「はやて、ヤスフミどうしちゃったの? 絶対変だよ」

「ギンガのとこでなんかあったに決まってるやろ。それも、今まで抑えてた怒りが噴き出すような事がや」

「怒り?」

「・・・・・・恭文、うちやクロノ君にリンディさん・・・・・・いいや、世界全体に対して強く怒ってるんよ」



なのはちゃんの背中を左手で撫でてたフェイトちゃんが、驚いた顔をしてこちらを見る。

そやからうちはまぁ、頷いて答えた。うん、驚くのも無理ないわ。だってそれ、テロリストの思考やし。



「でも、どうしてっ!? 無事に事件は解決したのにっ!!」

「なのはちゃんが、怪我して無理したら飛べんようになるかも知れんと言われた」



そう言われて、フェイトちゃんの顔がハッとしたものになる。でも、うちは構わずに言葉を続ける。



「ヴィータやギンガは言わずもがな。なにより・・・・・・アンタの事よ。
足元すくわれて、スカリエッティに身も心も壊されかけた」



まぁアレよ、多分これで正解やと思う。口には出さんけど、これで正解やろ。



「それに」

「・・・・・・局のトップが、事件の黒幕だった・・・・・・からかな」

「ちゃうよ。・・・・・・スバルやティアみたいに、なんも知らない子達を理不尽に巻き込んで傷つけた。
うちも、アンタも、なのはちゃんもヴィータもシグナムも・・・・・・みーんな揃ってや」



まずい、フェイトちゃんまで泣きそうな顔しとるし。というか、気づいてなかったんか? うちはさすがに自覚あったのに。

・・・・・・いや、気づいてなかったんやな。そやからフェイトちゃんとなのはちゃんは、ここに到るまであの調子やったんやろ。



「いやな、うちはぶっちゃけギンガやナカジマ三佐、みんなの家族から処刑されてもえぇくらいなんよ。
そやから、恭文もそう思ってるんは・・・・・・うん、かなり前から気づいてた。あの8月の会談の時からな」

「8月の会談って、騎士カリムの?」

「そや」



恭文にも諸事情込みで、六課の裏事情を説明した。で、それが今こんな形で響いとるんよ。

もしかしたらあの場で説明したんは、ホンマに失敗やったかも。



「あ、それじゃあヤスフミがあの時六課入りを断ったのって」

「もう管理局いう組織を信用してないからよ。で、六課に関しても同様や。
それがさっきの『局員を辞めろ』発言に繋がるわけや。そうやないと」

「・・・・・・私達、完全に見限られる直前なんだね。局員だから、私達は信じてもらえない」



うちはフェイトちゃんの言葉に、頷くしかなかった。というか、それしか出来ん。

その上・・・・・・恭文の家をなんや知らんけど、家族が占領しとるやろ? そりゃあ嫌気も差すって。



「フェイトちゃん」

「うん、大丈夫。ただ・・・・・・私、自分が情けないの」

「え?」

「私、ちゃんと気づいてあげられなかった。そう思える兆候は沢山あったのに・・・・・・ダメだったの。
はやて、私遅かったみたい。今のヤスフミの事、知りたいと思ってた。・・・・・・なのに」










なのはちゃんは、うちらの話を聞いて更に泣き続ける。・・・・・・こりゃ、アカン。

なんにしても、恭文をこのまま六課には戻されても困る。もうアイツも何気に限界近いんよ。

このまま戻しても、恭文にとっても他のみんなにとっても良くない。





あぁもう、マジで後でギンガに確認せんと。アイツがここまで爆発したんは絶対あの子のせいやし。

というかもしかしたらフィアッセさん・・・・・・恭文と話してそこが分かったから、誘ってくれたんか?

気分転換必要やと感じて、そやから声をかけた。あ、でもなんでギンガ誘ったかという謎が残るな。





というか、それやとまるで・・・・・・え、いやいや。そんなまさかなぁ。

まぁ、一応確認はしてみるか。それとなくツツいて、自覚無しやったら自覚させとこう。

多分恭文爆発させてもうたのも、自覚が無かったが故やと思うし。





うん、絶対アカンよ。このままやとあの子まで、恭文と縁が切れるかも知れん。





恭文かて同じや。下手したらこのまま転がりに転がって、どこぞのルルーシュ張りに世界に反逆かます可能性もある。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



スクールの校長室から、私は空を見上げる。窓から見える空は、もう満天の星空。

だけど・・・・・・私はその星空の綺麗さを、どうしても満喫したり出来なかった。

だって、私の大好きなあの星達みたいにキラキラしてる輝きが、消えかけてる。





電話越しだけど、話してて感じた。恭文くん、本当に疲れてる。疲れ切って、イライラしてる。





あとは・・・・・・うん、恭文くんから話を聞いたあの子だね。私、あの子にもちょっと言いたい事があるの。










「・・・・・・なのはもフェイトちゃんも、本当になにしてるんだろ」










管理局のお仕事が大事なのも分かる。大変な事なのも分かる。でも、やっぱり腹が立つ。

恭文くん、この間お話した時よりも状態が悪くなってた。うん、分かるよ? 私は分かりたいと思ってるから。

いつだって恭文くんの・・・・・・あの子の1番の味方になるためには、そこが大事なの。





恭文くん、本当に心配だよ。早く、早く会いたい。会っていっぱい抱きしめたい。




















(その2へ続く)




















あとがき



恭文「というわけで、ドキたま/だっしゅ書かずに作者は何をしているのか。
ギンガルートの改訂版、いかがだったでしょうか。本日のお相手は蒼凪恭文と」

やや「おひさしぶりな結木ややとー」

ウェンディ「ウェンディっスよー」

古鉄≪そして私です。・・・・・・しかし、どうしたんですか。なんでいきなりこれですか≫





(いや、ディケイドクロス進めるのには、やっぱ必要かなと)





恭文「まぁアレだよ、テンション的にIFルート書く波長になったから、手を出しちゃったんだよね」





(・・・・・・そうとも言う)





やや「それでそれで、だいぶ話が変わってるよねー。ねね、これってゴール地点とかどうなるのかな」

恭文「一応は同じ。で、当然ディケイドクロスに繋がるようにもする。ただ、経過やテーマが違うの」





(改訂版に合わせた改訂版ですし、そちらで展開した話を元にしたら自然とそうなりました)





古鉄≪以前は罪を背負う上での柵でしたが、今回は違います。今回のテーマは・・・・・・なんですか?≫

やや「こてつちゃん、分からないのっ!?」

ウェンディ「それは作者代理としてどうなんっスかっ!!」

恭文「まぁ簡単に言うと、夢の再確認?」





(もっと言えば、絶対に許せないものに関わってしまった人間が、それに違う形で関わる人間とどう接していくかというお話でもあります)





恭文「だからテーマの一つとしては『拭えない怒りとの付き合い方』だね。
結局管理局はフェイト達を裏切ってたのに、フェイト達はそれでも組織の変革を信じて働くわけでしょ?」

ウェンディ「あー、なるほど。そこで最後みたいな行き違いがあるわけですね。
改訂版の本編では、そこの辺りをフェイトお嬢様に漏らして受け止めてもらえてなんとかなったけど」

やや「こっちではまず、そのためのデートそのものが潰されちゃったんだよねー。
その上ギンガさんが珍しくKYで暴走しちゃったから、恭文の抑えがもう利かなくなった」

古鉄≪そうですね。ただ、ぶっちゃけ後半のこの人の行動は、色んな意味でダメじゃないですか。
だからってフェイトさんや高町教導官の夢を否定して、止める権利はありませんから≫





(当然ですけど、そうなるように書きましたのであしからず)





ウェンディ「作者、なんで念押しするっスか?」

恭文「それはね、ウェンディ。こう言わないと『主人公マンセー』とか『ご都合主義』とか『萎える』とか言い出すゆとりが居るからだよ?」

ウェンディ「なるほど、納得したっス。てゆうか、すごいとんがってるからある意味しょうがなくはあるんっスよね」

恭文「でも、この辺りは作者が元々のFSとかで相当反省してるとこだから、これでいいのよ。元のFSには、トンガリが足りなかった。
前に拍手でも書いたけど、しゅごキャラ読んでからある程度キャラがとんがったりダメな事していいって思えるようになったらしいから」





(アレが色んな意味で転機でした)





やや「それで話戻すけど、管理局にそのままっていうのはややも疑問だよー。
夢があるからって、それって絶対に管理局じゃなきゃいけないのかな?」

ウェンディ「まぁ教導官とか言うのはともかくとしても、執務官だったら他にもやりようあるっスよね。
例えばGPOみたいな外部組織に入って、そこで頑張るーってのも手ですし」

古鉄≪あとは嘱託に戻るというのもありますね。つまり、そこの辺りでの相互理解もテーマです。
拭えず、忘れる事も出来ない。でも、それでも手を取り合えるかどうかですよ≫

恭文「それが出来なかったら、ぶっちゃけなのは達とはここで断絶コースだよね。
この改訂版だと、僕はもう付き合い切れないって答えを出しかけちゃってるから」

古鉄≪そこを納得させる作者の神展開がきっと見せられるでしょう。えぇ、そこは間違いありません≫





(だからハードルを上げるなー! 普通に改定前よりダメになる可能性もあるんだからー!!)





古鉄≪なお、改定前をご覧の方々はお気づきでしょうけど・・・・・・実はお話がかなりシェイプアップされています≫

恭文「だから改定前だと3話の冒頭くらいまで話が進んでるの。なお、この勢いでやるから」

やや「あ、お話が改定前より短くなるんだね」

恭文「うん。関係性が変わったから、改定前では必要だったシーンとかがかなり削れるのよ」





(まぁ、結果的に戦闘シーン書き込むかも知れませんけど)





やや「あー、それで恭文」

恭文「何? ややのIFならまだやらないけど」

やや「どうしてー!?」

ウェンディ「あ、それなら私っスね」

恭文「おのれもない」

ウェンディ「なんでっスかっ! 私ならややちゃんと違って、即でエッチしてもOKっスよっ!?」

恭文「だからまずエッチありきで考えるんじゃないよっ! そうじゃなくて、他に書く人居るでしょっ!?」





(そう、だから蒼い古き鉄は心を鬼にして、こう言い切るのだ)





恭文「まずはなによりゆかなさんIFだよ」

古鉄≪・・・・・・作者、お仕置きを≫





(了解。・・・・・・蒼い古き鉄の背後に、突如として異次元空間への扉が開いた。蒼い古き鉄はそこに吸い込まれる)





恭文「ちょ、なにこれっ!? てゆうか作者ー! どっからこういうネタを仕入れたのさっ!!
というか、やり口が・・・・・・・ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉっ! ゆかなさんIFの何がいけないんだー!!」





(蒼い古き鉄、そのまま消えた。なお、転送先は閃光の女神(本編)のすぐ前なので、とっても安心)





ウェンディ「・・・・・・作者さん、躊躇いないっスね」

やや「そ、そうだね。ややちょっと怖くなってきたかも」

古鉄≪大丈夫ですよ。あの人レベルでバカ言わなきゃ問題ありません≫

ウェンディ「あ、それもそうっスね。なら安心という事で・・・・・・今回はここまでと」

古鉄≪はい。それでは、ちょっと集中してギンガさんIFの改訂版ですよ。みなさん、多分4話くらいだと思いますけど、お付き合いください≫

ウェンディ「それでは本日はここまで。お相手はウェンディと」

やや「結木ややと」

古鉄≪古き鉄、アルトアイゼンでした。それでは、またー≫










(なお、跳ばされた蒼い古き鉄はお風呂中の閃光の女神の前に飛び出て、とんでも無い事になったとか。
本日のED・・・・・・というか、この改訂版のテーマソング:ONE OK ROCK『カラス』)










ギンガ「・・・・・・私ルートも、同人誌化するのかな」

恭文「する予定らしいよ? まぁ、FS出してからだけど。
ただこの改訂版は、ディケイドクロスの前話譚でもあるでしょ?」

ギンガ「あ、そっか。これを見ないとどうしてディケイドクロスに繋がるかも分からないんだよね。
だからどっちにしても、同人誌化のためにも改定は必要と」

恭文「そうなるね。でも、まためんどくさいテーマを・・・・・・改行だけ直せばいいのに」

ギンガ「自然とそうなったみたいだし、仕方ないよ。でもあの、私的にはその・・・・・・ごめんなさい」

恭文「あー、そういやギンガさんもちょっと行動が変わってるんだよね。というか、墓穴掘ってる。
でも、大丈夫だって。ほら、ヒロインだからここから上がり調子だよ」

ギンガ「なら嬉しいけど・・・・・・うぅ、やっぱり不安だよ」










(おしまい)






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