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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第36話 『雨降って地固まった直後に大嵐で再び地は柔らかく崩れる』(加筆修正版)



恭文「前回のあらすじ、はやてとヴェロッサさんとの間に子どもが居るかも知れないという衝撃の事実が発覚」

フェイト「というか、どうしよう。見ている限りでは現状アコース査察官がどう思っているのかとか、さっぱりなんだよね」

恭文「単純にまず謝っただけとも取れるしね。それでさようならーですよ」

フェイト「それは困るよっ! もしそうなったら・・・・・・私が」

恭文「フェイト、そう言いながらザンバー持ち出すのやめてっ!? てゆうか、バルディッシュも止めろー!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・結局、俺は何も出来ずに事件発生からひと月が経とうとしていた。

その間にも八神部隊長は、見るからにどんどん悪化していく。

うん、結構ヤバイなアレ。どうもあの人、溜め込むタイプみたいだしよ。





このままはダメと判断した 俺は、ある人に相談する事にした。

あの人なら大丈夫だと思ったんで、アコース査察官と一緒に呼び出した。

それで俺が事態を知っている事も付け加えた上で、会議だよ。





男三人、ミッドの居酒屋のカウンターで飲みながらバカな話し合いのスタートだ。










「・・・・・・そりゃあ、お前さんが悪い」

「やっぱり・・・・・・ですか」





そしてその人は、険しい表情でそう言った。なお、この人はナカジマ三佐。

今はプライベートなので、蒼のストライブのシャツに紺のスラックスというスタイルだ。

あ、当然だがコートは脱いだ状態なのは、留意しておいて欲しい。



そして俺とアコース査察官も似たようなもんではある。さすがに制服着てここに来る勇気はねぇよ。





「まー、アレだよ。どういうつもりでそうなったのか、八神部隊長には言ってないんでしょ? そりゃアンタが悪いよ。
やっさんが言ってましたよ? 『男は、惚れた女の子を戸惑わせたり、泣かせたりしちゃあ絶対いけない』ってさ」

「そうですよね。というか僕は、恭文よりダメなんですよね」

「だがよ、サリエル。アイツはそれ言う権利あるのか?
アコース査察官とは別の意味で泣かせてるじゃねぇかよ」

「そこには触れないであげましょうか。触れても俺達が楽しくありません」





居酒屋で酒を飲み、焼き鳥をほうばりながら三佐も交えて、そんな話をしていた。



というかさ、頼れて直に相談出来る人間、これしかいなかった。



クロノ提督? だめだな。まず地上に降りて来られるかどうかって話になっちまう。





「・・・・・・まぁそんな落ち込まないでくださいよ。
今のやっさんと比べたら、誰だって下劣な奴に成り下がるから」





結果的にそうならなかった事で、開かずの門をこじ開けたしな。

うん、アレと比べたらダメだ。つか、普通は我慢出来ないって。

・・・・・・あのヘタレがっ! 男としてあの展開はマジで許されるのかっ!?



主人公補正のお陰で現状に繋がってるのと同じじゃねぇのかっ!? もうちょい展開考えろよ、作者っ!!





「それでサリエル、八神は」



あー、ダメだダメだ。思考を戻そう。とりあえずアレだ、問題はこの二人なんだしよ。



「やっさんが相手してるんで、まだなんとか」





うん、継続してるな。でも、それじゃあ応急処置にしかならない。

やっぱ、ちゃんとした薬が必要なんだよ。でも、どんな名医だろうと、それは処方出来ない。

それを処方出来るのは・・・・・・きっと、このお兄さんだけだ。



言うならアコース査察官は、今の八神部隊長の症状をなんとか出来る特効薬だ。



ただ、強力過ぎて毒になって、症状が悪化する可能性もなくはない。





「・・・・・・まぁ、アレだ。アコース査察官、アンタは大人だからよ。
そういう事が全く無いってのは、それはそれで問題かも知れねぇ」



・・・・・・ナカジマ三佐、それをやっさんとフェイトちゃんにも言ってやってください。

俺、見ててたまにあの中学生日記には本気でイライラするんですよ。



「だがよ、八神は確かに大人だが、アレもまた色気もないタヌキだしよ。
そういう遊びで割り切れるような奴でもねぇ。お前さんの遊びに付き合わせるには」

「・・・・・・遊びじゃありません」

「じゃあ、本気だったとでも言うつもりか?」





ナカジマ三佐に鋭く視線を向けられて、アコース査察官の身体が軽く震える。

・・・・・・あぁ、そうか。俺は人選ミスったなぁ。この人も怒ってるのかぁ。

ただアレだ、現状がマジでヤバいのを分かっているので、抑えてくれてるだけなんだよ。



そういう意味では、俺のチョイスは正解だった。ナカジマ三佐、マジありがとうございます。





「・・・・・・そうです。僕は」



アコース査察官が、酎ハイを一気に飲み干し、真っ赤な顔で・・・・・・言い切った。



本気でしたっ! 本気ではやてと・・・・・・りましたっ!!

「ちょっ! アコース査察官、声デカいからっ!!」

「だったらよ、なんでそれを八神に言わねぇんだ」

怖かったからですっ! 気にしないって言われた時、突き刺さりましたっ!!



それを聞いて、俺と三佐はアコース査察官を挟む形で視線を合わせる。

この時、何か互いに通じ合えるものを感じたのは、気のせいじゃない。



「そうか。まぁそりゃあ・・・・・・仕方ないよな。あぁ、そりゃ八神の奴も悪い」

「男心を全く分かってないですね。三佐、そこの辺りは教えなかったんですか?」

「バカ野郎、それ教えてたら俺と八神が付き合ってた事になるじゃねぇか。俺は今でもクイント一筋だよ」

「ですよねー」





とにかく、ここは俺達も分かる。アコース査察官が躊躇ったのも、正直仕方のない事なんだ。

女の『気にしない』は、結構グサってくるからな。うん、そりゃ勇気出ないわ。

ヘタレとは言う事なかれ。女の一言はな、男にとっては防御力無視の攻撃と同じ。



それを分かってないのは、女だけだよ。でもアコース査察官、やっぱ声デカイから。みんな見てるからね?





でも、僕は

「ちょ、それ俺の生っ! てか、また」



一気に飲み干しやがった。うわ、緑と赤白でイタリアンカラーだよ。つか、目に悪いなこれ。



チキンでしたっ! 男じゃありませんでしたっ!! ただの弱虫野郎でしたっ!!

「そうだな、その通りだ。で、お前さんはこれからどうする?」



だから待てー! 三佐もまず声の大きさをツッコめよっ!! これスルーはおかしいだろっ!?



ヴェロッサ・アコース、ここに宣言しますっ! 僕は八神はやて惚れた女にぶつかりますっ!!

「おし、よく言ったっ! ほら飲めっ!! 今日は俺の奢りだっ!!」

はいっ! ありがとうございますっ!!



いや、だからまずお前ら・・・・・・いや、もういい。俺はツッコむの疲れた。



”・・・・・・金剛、今の記録してるな?”

”当然でしょう”

”よし。それをアコース査察官のプライベート端末に送っといてくれ。記憶飛んでても、そうすりゃあこの一件は片付く”

”御意”




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・はやて、ごめん」



え、なんでいきなり頭下げるんやっ!?



「はやての事、戸惑わせた。僕は、男じゃなかった」

「あの、気にせんでええよ? うちが」

「気にするよ」



ロッサの声で、うちの言葉が遮られる。えっとあの・・・・・・どないしよ、これは予想外やし。



「気にするよ。気にするに決まってる。僕達・・・・・・もう、他人じゃない」

「せやけど、あの」

「はやて、僕はあの時・・・・・・はやての事が本当に愛おしくて、大切だと思ったからそうなったんだ」



・・・・・・・・・・・・え?



「ホンマ・・・・・・に?」

「本当だよ。多分に本能的なものが大きかったのは、認めるけどね。でも」



ロッサが右手でうちの頬を撫でる。優しく・・・・・・柔らかく。



「その中に、ちゃんとはやてへの気持ちもあった。間違いなくね。
じゃなきゃ、男は簡単に女の子を受け入れたりはしないよ。だから・・・・・・はやて」

「うん」

「順番が色々ごちゃごちゃになってしまったけど・・・・・・僕は、君が好きだ」



その言葉で、胸がいっぱいになる。せやけど、それだけやない。



「この1ヶ月ね、沢山考えたんだ。君に気にしないと言われた時、本当にショックだった。
でも、だからこそ分かった。僕は君を一人の女性として見ている」



言葉はまだ続く。それは、うちの予想の中にはなかった言葉や。

ロッサはうちより大人やから、そういうのも慣れてて・・・・・・だからやと思うてたから。



「だからあの時・・・・・・そう、なりたくなったという事に」

「ホンマに?」

「本当だよ」

「せやかて、うち」

「はやてがどう思おうと、僕の答えは変わらない。
あ、もちろん僕が嫌とかなら・・・・・・仕方ないとは思うけど」



アホ。なんで・・・・・・なんでそこで弱気になるんや。ちゃんと最後まで・・・・・・!!

アカン、涙が・・・・・・止まらん。うち・・・・・・うち・・・・・・!!



「あの、はやてっ!? えっと、あの・・・・・・ゴメンっ!!」

「謝らんでよアホ・・・・・・! うち・・・・・・ロッサっ!!」










うちは、そのまま吐き出した。溜めとった自分の気持ちを。





うちも、ロッサと同じいう事。そして・・・・・・不安を。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・それじゃ、ヴェロッサさん」

≪えぇ。決して遊びなどでは無かったという事です。八神御大将への想いは、本物でしょう≫

「いや、あのイタリアンカラーの告白は見せてやりたかったよ。うん、アコース査察官は男だ」



なんだか、嬉しそうに話すサリさんを見て、つい僕達も頬を緩めて、笑顔になってしまう。



「・・・・・・フェイト」

「うん、良かった。本当に」



でも、これなら、安心かな? 少なくとも最悪なシチュは避けられたし。



「あ、でも・・・・・・アコース査察官、はやての身体の事知らないよね?」

「・・・・・・あ」

「それなら心配無さそうだぞ。・・・・・・ほれ」



サリさんが、店内を指差す。すると・・・・・・うわ、アレなに?



「・・・・・・はやてのお腹さすってるね」

「というか、空気・・・・・・甘いみたいだよ?」

≪あの人達、自分達が騒動の原因という自覚、無いですよね≫



ちょっとムカついてくるのは、なんでだろ。・・・・・・ま、いいんだけどさ。



「んじゃ、早々に済ませるか」

「え?」

「八神部隊長の検査だよ。ダチがやってる産婦人科があってな。頼めば、すぐに検査してくれる」

≪女医の方で、腕も確かです。口も固いですから、守護騎士の方々に漏れる心配もありません。
八神御大将とアコース査察官も、安心出来るかと≫



お、それはいいかも。そこをどうするか、ちょっと悩んでたしね。



「・・・・・・助かります。サリさん、ありがとうございます」

「いいっていいって。我らが御大将が元気じゃないと、やり辛いしな。そうだろ、金剛」

≪その通りです。我らとて、既に機動六課の一員。フェイト執務官、どうぞお気になさらずに≫

「うん。あ、それでも・・・言わせて欲しいな。同じ部隊の仲間として、サリさんだけじゃなくて、金剛にもね」

≪・・・・・・いえ≫



・・・・・・金剛、ちょっと照れてる? いつもとちょっと違うし。



≪マスター、ヤキモチですか?≫

「違うわボケっ! そして思考を読むなー!!」










・・・・・・こうして、人知れず一つの事件は終わりを迎えた。





もうこの段階になれば、ここ1ヶ月のゴタゴタなど全て過去の遺産。なんの問題にもならない。





だって現在の二人は、あんなにも幸せそうなんだから。いやぁ、良かった良かった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



さて、ここは六課のミーティングルーム。フェイトさんとサリさんを除いた隊長陣全員に、私とスバルは呼び出された。





それでまぁ、なんの話かと思ってたら・・・・・・凄い深刻そうな顔で、とんでもない爆弾が投下されてしまった。










「・・・・・・は?」

「フェイトさんに・・・・・・赤ちゃんっ!?」

「そうだよ、その可能性は高い。ううん、もう確定じゃないかな」



てか、待って待ってっ! アイツ、フェイトさんとはなんにも無かったって。



「あの、ちょっと待ってくださいっ! 私とティアも聞きましたよっ!? 本当に何もなかったってっ!!」

「・・・・・・スバルちゃん、空気読もうか」

「なんですかそれっ!? というかヒロリスさんひどいですよー!!」



確かに意味が分からない。まぁ、そこの辺りはヘイハチ一門の共通項らしいので、気にしない事にする。



「ところがどっこい、やっさんも男だったって事だよ」

≪俺達にはああ言ってたけど、実は・・・・・・って事だな。
てゆうかよ、そう考えた方が、ここ最近の進展具合が納得出来るんだよ≫

「その進展具合が凄いせいで、部隊内のフェイトちゃんのファンややっさんアンチも完全に潰されちゃったしねー」





・・・・・・まぁアレよ。私もそうだけどスバルとの二度目の模擬戦をきっかけに、アイツの事を嫌う方々が出てきた。

で、常に大暴れするでしょ? 部隊員としては有り得ないから、そうなるのも当然。

それでフェイトさんは・・・・・・まぁ、察して? 閃光の女神と同じ職場って事で、狙ってるのもかなり居るの。



ただ、そんな二人がお泊りデートしたという事実によってそれらは全て粉砕される事になった。

というか、はっきり言えば親しい人間以外に『何もなかった』なんて言っても、意味ないわよ?

普通に考えれば年頃の男女が一つの部屋で一夜を過ごせば、そりゃあそうなったとか考えるわよ。



しかもフェイトさん、お泊りデートからアイツとほぼ一緒に居るって感じだったもの。

隊舎に居る間は二人で話してたりもしてたし、そういうのを見かけたから余計に噂は信ぴょう性を増した。

で、結果的に外野はそれで沈黙した。というか、最初から勝てるわけがなかったのよね。



私ね、フェイトさんとアイツを見てて気づいたんだ。スルーしてる時でも、フェイトさんはずーっとアイツの事見てた。

それでその視線は、エリキャロに向けるような親とか家族としての視線とは違うの。

どこがどう違うって言われたらちょっと困るんだけど・・・・・・最近の変化で、ようやく気づいたんだ。



アレは、女の子としての視線だったの。ちょうど前の部隊とかで、憧れの先輩を見る同僚の視線がアレだった。



つまり、自覚してないだけで元々両想いだったのかなぁ・・・・・・と。





「あの、それで」

「恭文、EDじゃなかったんだ。良かった〜」

「スバル、気にする所が違うよっ!? というか、そういう心配されるのって気持ち悪いからやめようよっ!!」

「どうしてですかっ!!」



でも、これどうするの? 糾弾・・・・・・は、違うわよね。だって、今現在空気が微妙とかじゃない。

ううん、むしろ二人とも幸せそうにしてるし。という事は、アメイジアの言うように、気持ちが通じ合った上で進展してるんだから。



「とにかく、これはめでたい事だと思うの。・・・・・・だから」

「いっちょ私らで、サプライズといかない?」

『サプライズ?』










なのはさんとヒロリスさんの提案に、私達は全員首を縦に振って頷いた。というわけで、早速行動開始。

まぁ、アレよね。大事な仲間が幸せになるんだもの。うん、しっかりいきましょ。

・・・・・・仲間、かぁ。私とアイツ、もう友達なのかな。今極々自然に出ちゃったけど。





ま、いいか。別に友達でも仲間でもなくてさ。私達はきっと、それでいいのよ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・全ては解決した。そう思っていたのは、僕達だけだった。





この瞬間にも隊舎では、あるとんでも事実で嵐に見舞われていた。





事件は・・・・・・ううん、僕とフェイトにとっては、ここからが本番だった。




















魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝


とある魔導師と機動六課の日常


第36話 『雨降って地固まった直後に大嵐で再び地は柔らかく崩れる』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



さてさて、ここはサリさんが紹介してくれた病院の中。ここではやては妊娠検査。

さすがに検査の場にヴェロッサさんや僕達が入るわけにも行かないので、外でしばらく待機。

そして結果が出たので、今はサリさん付き添いで二人で検査結果を聞きに行ってる。





ただ・・・・・・なぁ。ここに来るまでに二人が相当バカだったのは、かなりツッコミたい。










「・・・・・・名前、どうしようか」

「ロッサ、ちょお気が早いんとちゃう? まだ確定や無いんやし」

「でも、こういうのは時間がかかるものらしいし、今の内に」






・・・・・・なんて事をずーっと話してたのよ? もうずっとなんだから。

とりあえずあのバカップル、イラつくんですけど。なんであんな風になるの? 僕とフェイトが仮に付き合ったとしても、あぁはならないよ。

てーか、いきなりベタベタし過ぎなんだよっ! 祝福の気持ち通り過ぎて気持ち悪いしっ!!



どんだけ密度濃い時間過ごしてたのっ!? 何より何より、僕とフェイトが居る事忘れてるでしょっ!!





「・・・・・・あのバカップル、マジムカつく」

「ヤスフミ、抑えて抑えて。まぁ・・・・・・良い事なんじゃないかな」

≪ただ、サッカーチームが作れるくらい・・・・・・なんて話はどうなんでしょ。いきなり結婚モードですし≫



まぁ、お腹に赤ちゃんが居る事が確定すれば・・・・・・だよね。ただ、サッカーチームはおかしい。

サッカーって11人だよ? 管理局改革や部隊長という夢はどうしたんだろ、あの狸・・・・・・あ、そっか。



「ヤスフミ、どうしたの?」

「あーうん、いやね・・・・・・サッカーチーム作るのなら、部隊長になる夢とかどうするんだろうなーと。もうちょっと言うと、組織改革」

「あ、そう言えばそうだね。少しずつでも上を変えていくのは、はやての目標でもあるし」





はやての夢は事件が起きた時に、柵に縛られずに真っ直ぐに事件の現場に向かえる部隊を作る事。

ううん、もしかしたらそれはそういう土台を作りたいからなのかも。

管理局全体の事件に対しての対応の遅さ、はやては相当嘆いていたから。



だからこそ、六課のような少数精鋭のエキスパート部隊を作って成果を出す。それで上を変えようとした。





「・・・・・・もうどうでもよくなっちゃってるのかも」

「え?」

「JS事件ではやて・・・・・・本当に散々だったもの」



右隣に座るフェイトの方を見上げてそう言うと、フェイトがハッとした顔をした。



「私やなのは、みんなの事が原因かな」

「そうなるね。もしかしたらさ、ヴェロッサさんとそうなった時にその辺りの話しちゃってたのかも」



なお、ここでアルトに聞くような真似はしない。聞いても答えるわけがないって分かってるもの。



「それで・・・・・・なのかな。うん、有り得るかも」





以前も話したけど、六課はJS事件を解決するために設立された部隊。

もうちょっと言うと、海と陸の仲の悪さの問題ゆえに作らざるを得なかった部隊。

局の組織全体での怠慢を尻拭いするためだけに、あの部隊は存在してる。



で、確かに事件は解決してその意義は達成出来たけど・・・・・・問題点が非常に沢山出てきた。

まず事件への対応が甘くて隊舎破壊されて、負傷者を大量に出しちゃうでしょ?

108からの出向という形でゲンヤさんから借りていたギンガさんを攫われ、半年以上のリハビリ生活が必要な身体にする。



ゆりかご浮上してからは特に問題が露見しまくった。まず、フェイトが陰険ドクターに捕縛されかけた。

この辺り、シグナムさんなりを補佐として付かせればおそらく防げた。つまり、人員運用が甘かった。

特にフェイトの場合事情が絡んでるのは知ってたんだから、そこの辺りでのフォローが足りなかった。ここがまず一つのミス。



師匠がゆりかごの動力炉壊すために瀕死の重傷。なのはもブラスターの過剰使用で同じく。

その上、ゆりかごを止められるところまで来たのに、なのはとその時突入してきたはやてはゆりかごに閉じ込められる。

結果、スバルとティアナが助けてくれなかったら、完全アウト。ここも人員運用が甘かった。



・・・・・・と、はやては考えてると思われる。というか前にそれっぽい事言って謝ってきてるしね。

あとはティアナが暴走したって言うあの話? アレも色んな意味でお粗末だしなぁ。

アレだって結局部隊内での昔馴染みの馴れ合いが、事態を悪化させた原因だもの。



はやては予言の話を聞いた時、『みんなとだったら無事にクリア出来る』と思ってたのかも。

実際始動した六課は、中央本部が襲撃されるまでは本当に順風満帆。理想通りに進んでた。

でも、それは勘違いだった。だから決戦時に次々とボロが出まくって崩れていった。



未来を、夢を潰されかけて・・・・・・ううん、これから潰されてしまうかも知れない。

特になのはだよ。あのバカ、怪我してるのに教導官の使命感燃やして、今も頑張っちゃってるでしょ?

もしかしなくてもはやて、六課の事で本気で色々と嫌気が差してるのかも。



それでそこの辺りをヴェロッサさんにお酒の勢いで漏らしちゃったと考えると、まぁあの甘さも納得出来なくはない。





「ううん、有り得る。はやてが気にしてないわけがないんだよね。・・・・・・どうしよう」

「今更だよ。それ言うなら、最初からフェイトはスカリエッティに捕縛されないように頑張ればよかった」



まぁ、僕は外側の人間だし・・・・・・うん、だからこそ言える。

視線を前に向けて白い壁を見つつ、僕はもうそんな事言ったって遅いと、フェイトに宣告する。



「なのははブラスターなんて使わなければよかったし、師匠もあんな無茶しなきゃよかった。
ティアナが暴走した時も、はやて抜きで解決しようなんて真似、しなければよかった」



僕はもう一度フェイトに視線を向ける。フェイトは唇を噛み締めて・・・・・・悔しそうにしてた。

それはきっと、フェイトがはやての友達だから。友達だから、悔しさを感じる。



「最初から六課なんて・・・・・・生贄を集めるための場なんて、用意しなければよかった。
だから、今更なんだよ。もう過去は変えられないし、拭う事も出来ないんだから」

「・・・・・・そうだね、本当に今更だ。きっと私達・・・・・・本当に自分の事しか考えてなかった。なんだか、やっぱりキツいなぁ」

「言われて嫌だったなら謝るけど?」

「ううん、いい」



フェイトは背中の壁に身体を預けて、廊下の天井を見る。天井は・・・・・・やっぱり白かった。



「事実だもの。うん、きっと私は知ってた。知ってたけど・・・・・・見ないふり、してたんだ。
私はヤスフミみたいに強くなくて、やっぱりまだダメダメで・・・・・・だから、ズルしてた」





見ないふりしていたのは、それを知ってしまったら六課が自分達の『夢の部隊』だと言う理想が崩れるからだと思う。

確かに今までのなのはやフェイトの言動を見てみると、そういう部分が見え隠れしてる。

あとはリンディさん? もう煩かったもの。で、みんなして『六課なら大丈夫・六課ならちゃんと出来る』ってさ。



それはきっと、みんながこの部隊がただの生贄だという事実を見たくなかったからだと、僕は思う。

身内巻き込んで、その身内ばかりが重症患者多いしね。だから余計にそう思いたいのよ。

それはもはや盲信とも言えるのかも。六課という場所が本当に素晴らしいものだと、信仰している。



なんというか、どんな親和力? いくらなんでもこれはおかし過ぎるでしょ。





「というかフェイト」

「なにかな」

「話、変えようか。というか・・・・・・ごめん、話題悪かったね」

「ううん、大丈夫」



フェイトは視線を落として僕の方を見ながら、首を横に振る。そして、いつものように笑いかけてくれる。



「というか、やっぱり嬉しいんだ。・・・・・・もう私達、ズレてない。
ヤスフミの事、知っていきたいと思う自分を思い出したからなのかな」

「・・・・・・なら、良かった。あ、それで話変わるんだけど・・・・・・なんでさっきからキョロキョロしてたの?」



具体的には、この話を始める前だね。フェイト、落ち着かない様子でずーっとキョロキョロしてた。



「あの、えっと・・・・・・なんだか、慣れなくて。あの、初めてなの」

「・・・・・・あぁ、産婦人科来るの初めてなんだ」

「うん。でもヤスフミは、なんだか慣れてるね」

「エイミィさんの付き添いでよく来てたから」



あと、出産に立ち会ったりもしたからなぁ。うん、あんま緊張とかは無いかな。

海鳴もミッドも、あんま変わんない。院内全体が、暖かい空気で満たされているの。



「そう言えばそうだったね。・・・・・・うん、今はちょっと頼れるかも」

「ちょっとだけなの?」

「ちょっとだけだよ」

「うー、やっぱフェイトの採点、辛口だよね」

「厳しくいくって決めてるもの。それでヤスフミの事、ちゃんと見ていくの。
だって、私達は互いを審査中・・・・・・でしょ?」



はにかむようにそう言ったフェイトを見て・・・・・・まぁ、これでもいいかなと思った。



「・・・・・・フェイト」

「なに?」

「やっぱり、怖いんだよね」





僕がそう言うとフェイトは・・・・・・頷いた。言いたい事、察してくれたらしい。うん、はやてを見てて感じた。

なんの心の準備も無しにそうなって、子どもを授かるのって怖い事なんだ。今回は、大丈夫っぽいけど。

もし、あの時我慢出来ずに、フェイトを押し倒してたりしたら・・・・・・後悔、してただろうな。それでもし・・・・・・だよ?



そこまで考えて、身震いがした。そして思う。我慢してよかったと。



まだ成就するかなんて分からないけど、隣に居られて見ていてくれるから。うん、今はそれだけで充分。





「ね、ヤスフミ」

「なに?」

「やっぱり、エッチしたいよね。・・・・・・あ、照れないで欲しいんだ。
私、ヤスフミの彼女候補としてちゃんと知りたいの。お願い」



フェイトが軽く身を屈めて、真剣な目をしながらそう聞いてきた。だから僕はまぁ、恥ずかしかったけど頷いた。



「・・・・・・うん。こう、性欲と好きって気持ちが半々かな。うん、興味はあるし、実際・・・・・・ね」

「・・・・・・そっか」

「ただあの、フェイトが嫌とか、そんな風に思ってたら」

「大丈夫、ちゃんと分かってるよ」



・・・・・・ホントに? いや、真面目にそこは気になる。ほら、もしかしたらそういうトラップかも知れないし。



「あの時だって、我慢してくれた。私、無茶言ってたのに。
うん、分かってる。ただ、私もそれに甘えるだけじゃなくて・・・・・・その」

「だから顔真っ赤にしないでっ!? あと、またスチーム出てるからっ!!
・・・・・・フェイト、僕達言ってる事、よく分かんないね」

「・・・・・・そうだね」



うーん、こういう話、絶対必要だけど、今の段階でする話じゃないよね。

やっぱりこういう話は、付き合うようになってからかな。



「うん、そうだよね。ちょっと早かったのかも。・・・・・・ヤスフミ」

「うん?」

「私、ちゃんとお母さんになれるらしいの」



・・・・・・はい? いや、いきなりなにさ。ほら、文脈おかしいから。



「私、生まれが普通とは違うでしょ? でも、それでも、お母さんになれるそうなの」



確かにフェイトは、クローンとして生まれてきた。

だからその関係でアレコレ検査してたのは、僕も知ってる。



「つまり、ヤスフミの赤ちゃんもちゃんと産めるって事に・・・・・・はぅ」

「だから恥ずかしいなら言わなくていいからっ! ほら、スチームまた勢い強くなってるしっ!!」



僕は両手に氷結魔力を宿して、フェイトの頭を触って冷やす。フェイトは気持よさそうに息を吐いた。



「・・・・・・でも」

「やっぱり、不安?」

「うん」



そうだよね。ならないはず、ないか。・・・・・・よし。



「・・・・・・僕はさ」

「うん」

「大丈夫なんて軽々しく言えないけど、側に居る。フェイトが不安で押し潰されないように、側に居て守る。
僕はフェイトの1番の味方で、騎士だもの。・・・・・・ううん、そういうの関係無いかも知れない。だって」



・・・・・・ちょっとだけ、頑張る。もうちょっと頑張って、アプローチする。だから僕は、そっと右手でフェイトの頭を撫でる。

フェイトは顔を真っ赤にしながらも、甘い息を吐く。そして僕を見ながら、蕩けるように目を軽く細める。



「フェイトを・・・・・・好きな女の子を守れないなんて、もう嫌だよ。
全部、守りたいの。フェイトの命も、笑顔も幸せも・・・・・・全部」

「ヤスフミ」

「・・・・・・って、フェイトの相手が僕で決定みたいに言うのもアレだよね。まだ審査中なんだし」

「あの、大丈夫。うん・・・・・・ありがと。じゃあ、もし・・・・・・もしも本当に私達がそうなれたら」



フェイトはそのまま、少しだけ恥ずかしそうに微笑みながら言葉を続けた。



「それで不安になってたら、その時はまたこうして私に沢山優しく触って・・・・・・言葉をかけて欲しい。
あ、でも簡単には甘えないようにするよ? 私、もっと強くなっていきたいから」

「甘えてくれた方が僕は嬉しいんだけど」

「だめ。・・・・・・うん、だめなの。私、今までいっぱいヤスフミに甘えてたから。
ヤスフミの彼女になるなら、ちゃんと隣で胸を張って歩ける・・・・・・強い女の子になりたいの」

「・・・・・・そっか」










そのままはやて達が出てくるまでずっと手を繋ぎながら、ちょこっとだけ先の話をした。





・・・・・・うん、ちょっと早すぎな話をね。でも、いいの。だって僕達、彼氏・彼女候補なんだから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



検査結果を聞いた三人が戻ってきた。なので当然だけど、フェイトはこう聞くわけだよ。





もちろん、それなりの緊張感を持った上で。というか、僕も軽く緊張してきた。










「それで結果は?」

「あ、妊娠してなかったわ」



溜めもなにも無しで言い切ったっ!? 待て待てっ! なにそんな意外性ありな回答の出し方してるっ!?



「はやて、さすがにそれを即答っておかしくないかなっ!? しかも私達の予想以上にあっさりだしっ!!」

「いや、これで溜めてもしゃあないやんか」

「じゃああの・・・・・・生理っ! ほら、遅れてたんだよねっ!?」



あ、そう言えばそっちが残ってたよね。確かにアレはなんでだろ。

もしかして、他に何か病気があるとか? 一応そこもたった今思いついた。



「・・・・・・どーもな、精神的なもんで遅れてただけらしいんよ」

「それ以外は至って健康体。なんの問題も無いそうだ。つまり」

「なるほど、なんにしてもヴェロッサさんが原因と」

≪正解です≫

「め、面目無いです」



でも、どうしようかこれ。二人とも盛り上がってたから、おめでとうと言うのもアレだし。

かと言って、残念って言うのもちょっと違うし。



「なんというか、私達的にはどう言えばいいか迷っちゃうね」



フェイトも同感だったのか、僕の顔を見て苦笑してる。僕は・・・・・・お手上げするしかなかった。



「まぁアレやな、サッカーチームはしばらくお預け言うだけやて」

≪八神御大将、本気だったのですか≫

「アコース査察官、大変だな」

「・・・・・・頑張ります」



どうやら、ヴェロッサさんはこれから色んな意味で頑張っていかないといけないらしい。・・・・・・ファイト。



「ほな、なんやかんやで上手くいったお祝いにパーっとご飯食べ行こうかっ!!
迷惑かけたお詫びに、当然うちとロッサが奢るわっ!!」

『おー!!』












・・・・・・まぁ、ファミリーレストランで遅めの昼食という感じだったけど、五人で楽しく食事をした。





なお、サリさんが少し寂しそうだったのは、気にしない事にする。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



それから夕方。僕達は六課隊舎へと帰ってきた。なお、ヴェロッサさんも一緒に。





というか、いきなり挨拶って・・・・・・本気ですか? 衝撃的過ぎるし。










「あの、アコース査察官・・・・・・本気ですか?」

「うん、本気だよ。なんにしても必要だしね。きっちりしていかないと」

≪納得しました≫



ふむ、ヴェロッサさん吹っ切れたのかな? こう、頼れる感じが・・・・・・うん、吹っ切れたのね。



「僕も頑張んないと」

「・・・・・・あの、サッカーチームはその」



そう言ったのは、顔が真っ赤な閃光の・・・・・・待って待ってっ! またなんか暴走してるしっ!!



「違うからっ! そういう意味じゃないよっ!! フェイト、お願いだから顔を赤くしないでっ!?」

≪いいじゃないですか。きっと楽しいですよ?≫

「そういう問題じゃないからっ!!」

「と、とにかくそういうのはちゃんとお話し合いしてからだよ。
あの、私もさすがに11人は産めるかどうか自信ないし」

「だから落ち着けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」



とにかく、僕達は隊舎に入っていく。そう、これから決戦なのだ。

さー、大変だぞこれからっ! 主にヴェロッサさんだけがねっ!?



『おめでとー!!』

『・・・・・・え?』



僕達は全員揃って、そんな声を出す。つか・・・・・・エ?

なんでいきなりクラッカー(notザク)!? てゆうか、全員揃ってロビーでお出迎えって・・・・・・えぇっ!!



えー、というわけで



いや、ヒロさん。なにがというわけっ!? つか、なんでドレス姿っ! てか、みんなもおめかししてるっ!!



これから、やっさんとフェイトちゃんの祝賀会を開催しちゃうけど・・・・・・いいよねっ!?

『いいとも〜』

答えは聞いてないっ!!



・・・・・・・・・・・・え? いやいや、ちょっと待とうよ。この人達は一体何を話してるのかな。



「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」



しゅ、祝賀会っ!? なんですかそれっ!!



”ヤスフミ、なにかしたっ!?”

”なにもしてないよっ! それを言うならフェイトもだよっ!!
というか、試験合格祝いの宴会はもうやってるよねっ!?”

”えっと、二人ともおめでとう”

”アコース査察官っ! どうして普通に受け入れてるんですかっ!? まず疑問を持ってくださいっ!!”

”いや、そないな事言うたかて・・・・・・なぁ?”



待って待ってっ! 本気で意味が分からないしっ!! どうなってんの、これっ!!



「あー、ヒロ。これ・・・・・・なんだ?」

え? やっさんとフェイトちゃんの祝賀会

「・・・・・・よし、そこは分かった。で、二人の何を祝おうってんだよ」

そんなの、二人が晴れてお付き合いし出した事に決まってるじゃん



あれ、僕はもしかして、耳が悪くなったのかな? 今、とんでもないフレーズが聴こえたんですけど。



「・・・・・・恭文君、フェイトちゃん。水臭いよ」

「「はぁ?」」



あ、なんかバカな横馬がまたおめかししてこっち来てるし。てゆうか、どうした? いや、マジでどうした。



「その・・・・・・アレだ。ラトゥーアで・・・・・・なんだろ?」



それで続けてそんな事を言って来たのは、そのバカ馬の隣に居る師匠。



「てーか、それならそうとちゃんと言えよバカっ! アタシもなのはもスバル達も全員、ビックリしただろうがっ!!」

「「はぁっ!?」」

「・・・・・・フェイト、アタシにも内緒って、なのはじゃないけど水臭過ぎないか?」

「アルフさんっ!?」



いや、そこはいい。ここはいいんだ。なぜだか問題なのがひとり居る。



「・・・・・・それでこれだったのね。ようやく、ようやく納得出来たわ。でも恭文君、男としてこの状況は」



とりあえず僕は首を左手で引っ捕まえて、そのまま持ち上げた。



「おのれは・・・・・・また家を占領しに来たのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! もういい、ここで感電させて」

「ヤスフミ、落ち着いてっ!? 電撃はダメー! ダメだからー!!」

「そうだぞお前っ! 気持ちは分かるけど、さすがにお母さん死ぬからっ!!」



なのにフェイトがなぜだか、僕の右腕に抱きついて必死に止めようとする。

アルフさんも僕の左足に掴まって止めようとする。・・・・・・大人モードになればいいのに。



「止めるなフェイトー! コイツら、縁切ったってのにまた僕に迷惑をかけてきやがってー!!」

「あぁ、恭文くん真面目にストップストップっ! 今回は家を占領もしないからっ!!」



そう言ってきたのは・・・・・・え、嘘。



「エイミィさんっ!? てゆうか、クロノさんまで居るしっ!!」

「お兄ちゃんもエイミィもどうしたのっ!?」



とりあえず言いながら、僕は転送魔法詠唱。それによって、あのバカ提督は瞬時に姿を消した。



「・・・・・・恭文、お前お母さんをどこに転送したんだよ」

「とりあえず海中に。まぁ飛べる人ですし、溺れ死にはしないでしょ」

「真冬の海に送り込むなよっ! 溺れなくても心臓麻痺起こして死ぬぞっ!?」

「いやだなぁ。あの無神経が人の皮をかぶってるような人が、そんなので死ぬわけないでしょ」



僕が笑顔でそう言うと、みんな納得してくれた。うん、いい事だね。



「で、なんでクロノさんやエイミィさんやアルフさんがこっち来たんですか。てゆうか、とっと消えろ」

「だから、睨むのはやめてっ!? 本当に家をどうこうしに来たんじゃないからっ!!
でもあの・・・・・・うん、そっかぁ。恭文くん、よかったね。うん、私はあの時君とエッチしなくてよかったよ」



いや、あの・・・・・・皆さん? なんでちょっと涙ぐむのかな。

てーか、なにこれっ! いったいぜんたいどういう事っ!?



”・・・・・・フェイト、逃げよう”

”えっ!?”

”だってこれワケ分かんないしっ! ここは36計逃げるが勝ちだよっ!!”

”そ、そうだね。みんなちょっとおかしいもの。少し冷静になってから・・・・・・だよね”



よし、方針は決まった。あとは・・・・・・あ、一応報告だね。



”サリさん、あとそこのバカップルも・・・・・・僕達逃げますんで。あとよろしく”

”待て待てっ! 俺らにこれ押し付けるつもりかっ!? さすがにそれは困るんだがっ!!”

”そんな事言ったって仕方ないじゃないですかっ!!”



なんかヒロさんが音頭取って乾杯の準備をし出している今がチャンスなのよっ! お願いだから逃がしてっ!!



”ねぇ、君達・・・・・・本当に付き合って無いの?”

”なぁ、怒らんから正直に言うてみ?”

”そんなのあるわけないよっ!!”



・・・・・・・・・・・・ぐす。



”・・・・・・ヤスフミっ!? あの、ゴメンっ! そういう意味じゃないから泣かないでー!!"




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・さ、寒い」





なんとか飛行魔法で六課隊舎の端まで到着。当然だけど、私はずぶ濡れ。フィールド越しでもとても寒い。

危うく溺れて海中に沈むところだった。というか、足がつって泳げなかった。

飛行魔法を使えなかったら、私本気で・・・・・・そうだ、あの子は本気で私を殺そうとした。



その行動に、強い恐怖を覚えた。あの子はそこまでする子じゃなかった。

さっきの転送だって、かなり沖合いで・・・・・・この縁までたどり着くのにもかなりかかった。

ここまで、なの? 私がやった事は、ここまであの子を硬くなにするものなの?



フェイトも誰も探しに来ない。念話すらも来ない。私は完全にみんなから放置されてしまっている。

違うと思っていた。私は正しい事を・・・・・・社会と組織の一員として、正しい在り方を説いてきたつもりだった。

だから違うと確信していた。あの方のようになる事は、間違っている。



だからあの子にも社会と組織に・・・・・・何よりも人間を信じて、自分を預けて欲しかった。

フェイトの事だってそう。あの子は何も間違ってない。今までのあの子は正しいし、胸を張っていていいと思っている。

そう伝えてきた。でも、それらは全て否定された。フェイトは、自分を消してしまいたいと断言した。



あの子から否定され、フェイトから否定され・・・・・・私はどうやら本当に色々なものを失っているらしい。






「なら私の子育ては、私の教育は」










そう呟いた瞬間、あの子やフェイトの冷たい視線が頭に過ぎった。そうして私は、何かが砕け散るのを感じた。

そしてそのまま崩れ落ちて、膝立ちのまま向こうを見る。向こうにあるのは、あの楽しそうな会場。

そちらの方を見ながら、私は口を半開きでただ笑い続けた。もう、壊れてしまった。私にはもうなにも残っていない。





私の局員として、親として、大人として積み重ねた全ては・・・・・・無意味なものだと破壊されてしまった。





だったら私は、本当にどうすればいいんだろう。もう私には、私にはこれしかなかったのに。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



”あーあ、フェイトちゃん泣かせてもうた。ヒドい女やなぁ”

”でも、真面目にどうします? やっさんとフェイトちゃんは本気で覚えないみたいですし。それに、やっさん潰れたし”

”どうするもなにも、聞くしかないですよ”



とにかくアレや。なにかこう・・・・・・衝撃的なズレが発生したんは間違いないな。



”うし、うちが聞いてみます”

"お願いします"



さて、パパッと答えてくれそうなんは・・・・・・うん、アレやな。



”ヴィータ”

”ん、どうしたの。はやて”



やっぱり・・・・・・ヴィータやろ。とにかくアレや、泣いたりテンション上がってるんは話にならん。

ここはこの中で一番冷静なヴィータに聞くしかない。



”えっとな、うちもロッサもなんでこうなってるかよう分からんのよ”

”・・・・・・はやて、それ本気で言ってる?”



あれ、なんか返事が予想外やな。てゆうか、なんでちょっと語気強めなんよ。



”アタシら知ってるんだ。はやて達、今日産婦人科に行ったんだよね”

”はぁっ!?”



な、なんでそれをっ!? まさかうちとロッサ・・・・・・いや、それなら恭文とフェイトちゃんの話になるわけないか。



”それでフェイト、どうだったのさ”

”なにがや?”

”はやて、もうとぼけないでいいよ。・・・・・・バカ弟子との間に、子どもが出来たかも知れないんだろ?”

”はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?”




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



”・・・・・・じゃあなんですかっ! 僕とフェイトがそうなったって勘違いしてるのっ!?”

”・・・・・・どうもそうらしいわ。みんな、ロッサがラトゥーア居た事知らんみたいやしな。いや、ビックリや”

”『ビックリや』じゃないよっ! ヤスフミ、どうしようっ!!”

"あぁ、クロノさんに中途半端に相談したのが失敗だったー!!"





いや、今さらだけど。ヤバイよ。絶対にヤバイよこれっ!!



てか、どいつもこいつもどうして状況証拠だけで先走りしまくってるっ!?



1ヶ月前から、何一つ学習してないしっ! くそ、マジで六課なんて嫌いだー!!





”とりあえずアレだ、やっさん・・・・・・お前が悪い。そりゃあそんな言い方したら”

”勘違いしませんよねっ!? てゆうか、深読みし過ぎですよっ!!”

”あぁそうだなっ! うん、俺もそこは思うわっ!! くそ、コイツらマジでエリート部隊かっ!?
これじゃあただの出歯亀集団じゃねぇかよっ! こんなんじゃ管理局もお先真っ暗だぞっ!!”



よかった、サリさんは至ってマトモだった。でも、どうしよう。なんかOPの歌をヒロさんが・・・・・・ヒロさんっ!?



”やばい・・・・・・全員耳を両手で塞いでっ!!”



僕は素早く耳を両手で塞ぐ。というか、もう音楽かかり始めてるしー。



”え?”

”・・・・・・おいおい、マジかよっ! フェイトちゃんも部隊長も、早くしろっ!!”

”じゃないと、本気で寿命縮める事になるよっ!? ほら、早くっ!!”



僕だけじゃなくて、サリさんとヴェロッサさんも素早く耳を塞いだ。それにフェイトとはやても倣う。

ワケが分からないという顔だけど、大丈夫。もう、ヒロさんがうたい出したから。



キャンユーセレブレイトー♪ キャンユーキスミートゥナァァァァァァァァァァァァァイトーーーーー♪





ロビーに響くのは、ヒロさんの口から飛び出るとてつもない音波攻撃。それにより玄関のガラスはひび割れ、壁に亀裂が入る。

料理を載せたテーブルの足が粉砕され、そのまま上に載っていた料理ごとテーブルが床にぶちまけられる。

耳を塞いでいても足がガクガク震えて寒気が走りまくってしまう。



それをマトモに聴いてしまったなのはや師匠、スバル達に他の部隊員も、次々と身体を震わせながら倒れる。





ウィーウィルラブー♪ ロングーロングタイムー♪



くそ、会場広めだから音量も大きめかよ。てーか、ヤバい。普通に意識持ってかれそう。

あ、そう言えばリイン・・・・・・あー! やっぱり倒れてるー!! エリキャロの近くで魂抜けかけてるしー!!



永遠ていうー言葉なんてー知らなかったよねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!



絶叫するなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! これそういう歌じゃないでしょっ!? 安室奈美恵と小室哲哉に謝れっ!!

なんでさっきから聴いてたらちょっとJAMっぽく絶叫で拳利かせてるのさっ! この人、原曲マジで聴いてるんかいっ!!



”な、なんやコレっ!? 曲から察するに安室奈美恵なのは分かるけどっ! ジューンブライドなんは分かるけどっ!!”



あ、一応説明。この曲は安室奈美恵さんの『CAN YOU CELEBRATE?』という曲。

結構前の曲だけど、結婚式ソングとしてはかなり定番。月9ドラマの主題歌になった影響で、かなり売れてもいる。



”ヤスフミ・・・・・・本当になにっ!? というか、なのはやシグナム達が泡吹いてるんだけどっ!!”



あぁそうだねっ! 多分お祝いモードですっごい気合い入れてうたってるから、余計にそうなっちゃうんだろうねっ!!

くそ、普段はそこまでじゃないのに・・・・・・って、なんかすっごい気持ち良さそうなのが激しくムカつくんですけどっ!?



”ヒロさん、致命的に音痴なのよっ!!”

””はぁっ!?””



ヒロさんはこう・・・・・・あの、歌が致命的にアレなのよ。だからカラオケ行くと大変だよ?

うん、今に比べたら全然だけどねっ! てゆうか、六課メンバー大半潰しちゃってるしっ!!



”だから僕達関係者や親族の間では、カラオケはともかくこういう場では絶対にヒロリスにうたわせないようにって決まりがあるんだよっ!!
本人全く自覚がなくて、遠慮無く超音波出すから犠牲者が・・・・・・って、本当に誰っ!? ヒロリスにうたっていいって言ったのっ!!”

”くそ、俺ややっさんしか知らなかったから、みんな遠慮無くかましやがったのかっ!!
てーか、これは真面目に妊娠してたら胎教に悪過ぎだろっ! 本気で倒れそうだしっ!!”



くそ、どうすりゃいいのっ!? ヒロさんがあの状態に入っちゃったら、もう曲終わるまで止まらないしっ!!

一応僕とフェイトのためにうたってくれてるのは分かるけど、感謝の前に恐怖だよっ! 本気で気を抜いたら倒れそうだしっ!!



ふーたりきりだねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ! 今夜からはー少し照れるよねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!





だからJAM臭を持ち出すなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! なんでこの曲調で頭ぶんぶん振ってるのっ!?



この人、曲本当に聴いてるっ!? パンクロックのアレンジか何かと勘違いしてるんじゃないだろうねっ!!



てゆうか、照れる前に逝きそうなんですけどっ! なんか口から何かプラズマ的なものが飛び出そうとしてるんですけどっ!!





いぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいっ!!



だから盛り上がるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! そういう曲じゃないから、コレっ!!



”ちょっとそこの二人っ! 元はと言えば二人のせいでこれなんだよっ!? ちゃんと責任取ってよっ!!”

”なんやねんそれっ! 元はと言えばアンタらがエッチせぇへんかったからこうなったんやんかっ!!”



逆ギレしてんじゃないよっ! てゆうか、妊娠してるって誤解受けたのはおのれらのせいだろうがっ!!



”フェイトちゃん、なんでそのでっかい胸で恭文のバナナからバナナジュース搾り取らんかったんよっ!!
簡単やんかっ! 恭文のズボン脱がして恭文のバナナをそのおっぱいで挟んでこするだけでOKやろうがっ!!”

”そ、そんな事出来るわけないよっ! 私達まだお付き合いしてないんだよっ!?”



フェイト、それで意味分かるんだ。何気に耳年増?



”大丈夫やっ! アンタなら出来るっ!! むしろ恭文はずっとして欲しいと思うとるハズやっ!!”

”黙れこのエロ狸っ! フェイト、そんな事ないからねっ!? 僕全然そんな事ないからっ!!
フェイトの意志を無視してどうこうなんて、絶対に嫌なんだからー!!”



くそ、この曲何分あるんだっけっ!? 結構長かったような記憶があるんだけど・・・・・・てゆうか、まだ1コーラス終わってないしっ!!



”というかヴェロッサさん、マジで覚悟してるなら早くこの状況を・・・・・・ヴェロッサさん?”



あれ、そういやさっきからヴェロッサさんとサリさんの発言がないような。こういう時即座にツッコんでいくのに。

なので僕は恐る恐る周りを見渡してみると・・・・・・二人が息も絶え絶えに倒れてしまっていた。



”・・・・・・きゃー! 二人共いつの間にかお亡くなりになってるー!!”

”えぇっ!? ・・・・・・あ、ホントだっ! アコース査察官もサリさんも泡吹いてるっ!!”

”ヴェロッサ、マジで何やっとるんやっ!? てーかしっかりせんかいっ!!”

「・・・・・・川が、見える」

「ドゥ・・・・・・めん、俺帰れない・・・・・・かも」



きゃー! なんか二人共マジでヤバい方向に行き始めてるー!!

早く蘇生マッサージとかしたいけど、両手離したら僕達もお亡くなりコース走るし無理だよっ!!



”・・・・・・よし、逃げるんや。そうやないと、マジで死にかねん”

”はやて、それは無理じゃないかなっ!? だってみんな倒れて、立ってるの私達だけなのにっ!!”

”いや、大丈夫なはずや。ヒロリスさんの方を向きながら、こんな風に”



そう言いつつ、はやてはゆっくりと後ずさりした。でも、すぐに後ろ向きに倒れた。



「きゃっ! ・・・・・・・ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 頭が・・・・・・・頭が割れるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」



そしてコケた拍子に、両手を離してしまってその場で悶える。なお、倒れた原因は簡単。



はやて・・・・・・待ってぇ。たす・・・・・・たすけてぇ



師匠が泡吹きつつ意識朦朧としながらも、必死にはやてに助けを求めたから。ようするに、左足首掴んだ。



生きてる今ー♪ これでもまだー♪ 悪くはないよねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ! いぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいっ!!





・・・・・・あ、1コーラス目終わった。なんというか、長い1分半ちょっとだなぁ。

そしてはやてもお亡くなりになった。なお、この中で生きてる人間は僕とフェイトだけだよ。

今、六課は最大の危機を迎えた。そう、実はJS事件はまだ続いていた。



六課の精鋭達は全て崩れ落ち、今立っているのは僕達二人だけ。





なにか騒がしいわね。あなた達、仕事場であまり騒ぐのは後見人としては・・・・・・きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!



なんか後ろの方で誰かが倒れる気配がしたけど、僕は一切気にしない。それよりも自分の命の問題があるし。



”・・・・・・フェイト”

”う、うん”

”とりあえずこの歌が終わったら、ちゃんと事情説明・・・・・・しようね”

”そうだね。そのためには、なんとか生き残らないと”



言いながら僕達は、身体をくっつける。そして、互いに顔を見合わせてクスリと笑う。



”さすがに、逃げられないよね。だってあの・・・・・・ヒロさん、本気で祝福してくれてるし”

”まぁ、パワーの方向音痴過ぎるけど”










そしてその後、僕とフェイトはなんとか地獄の数分間を乗り越えた。そしてヒロさんが二曲目に行く前にそれを阻止。





もう憔悴し切ってて、後どうなるかとか関係なしに事情を全部ぶちまけた。結果は・・・・・・察してください。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・恭文さん、ヘタレですね」

「うっさいよバカっ! つーかいきなり過ぎだからっ!!」

「冗談なのですよ。てゆうか、リイン・・・・・・頭がガンガンするのです」

「僕も。カラオケで聴く数倍凄かった」



そして夜。二つの月を眺めながら中庭で、リインと寝転がってる。

リインは僕の右腕を抱き枕代わりにしてる。でも・・・疲れたー。



≪音響や空間設備がよかった分、破壊力が増してたんでしょうね。というかアレ、誰が直すんでしょ≫





なお、ロビーに関しては本当にひどい有様になっていた。・・・・・・訂正、隊舎全体がひどい事になっている。

横馬やスバルのバカが、『めでたい事だから』って言ってあの歌を通信設備を通じて隊舎内全体に送っていたのよ。

それこそ隊員寮や駐機場にトイレ・・・・・・いわゆる生中継的に歌を送っていた。



結果、あの場に居なかった人達や設備が色々と倒れたり壊れたりした。

・・・・・・魔法で修理しなきゃ、借金塗れは確実だよねぇ。

ただ、幸いな事に死亡者は出なかったし、破損も修理魔法を使えば直せるレベル。



でも、機動六課隊舎とその人員はこの日・・・・・・二度目の全滅という憂き目を見てしまった事は、変わらない。





「アコース査察官、大丈夫ですかね?」

「サリさんがいるから・・・・・・多分。てか、リインは参加しなくていいの?」

「リインは早く寝るようにと言われました。というか、朝まで生討論だそうです」

≪・・・・・・マジですか。全員泡吹いてたのに≫

「マジらしいですよ? 口元に泡付けながら言ってたです」





現在八神家一同はヴェロッサさんと姉代理でヒロさん。それに議長としてサリさんを交えて会議中です。



いや、どうなる事やら。結果的には人員はフェイトを除いて全滅だったでしょ?



・・・・・・あ、僕は違うもん。六課なんて大っきらいだし。数に入れられたくない。





「てかさ、リイン」

「はいです?」

「リインは・・・・・・いいの?」

「あぁ、そういう事ですか」

「そういう事ですよ」



リインは身体を少し起こして、僕の方を見ながらニコニコと笑い出した。



「リインははやてちゃんが幸せなら、それが一番だと思いますから」

「そっか」

「はい。・・・・・・あ、でもでもっ! はやてちゃんをこれ以上泣かせたら、許さないのですー!!」



宙に浮かんで、シャドーなんてやってその気持ちを表しているのをみて、つい笑みが溢れる。

・・・・・・ヴェロッサさん。本当にこれ以上はアウトですからね? てか何かあっても、僕にはもう解決は無理です。



「あー、それで恭文さん」

「なに?」

「ちょっとだけ・・・・・・真剣なお話です。起きてください」



なので、言われた通りに起き上がる。月明かりに照らされながらも、リインは凜とした表情で、僕を見る。



「リイン、六課が解散したら・・・・・・恭文さんの所で暮らしたいです」



・・・・・・え? 待て待て。どういう事さ、それ。



「恭文さんと、一緒に居たいです。パートナーとして、あなたの一部として。
私はあなたの側に居て、あなたを守りたいんです。もうJS事件の時みたいに、離れ離れは嫌です」

「・・・・・・リイン、気持ちは・・・・・・嬉しいよ? でも」

「もちろん、はやてちゃんとみんなには話します。納得してもらった上で・・・・・・そうしたいです。だから」

「僕にも、考えて欲しい?」



リインはゆっくりと・・・・・・だけど確かに頷いた。・・・・・・正直、難しいとこはある。

リインが居なかったら、はやては大変になるだろうし。でも、リインとずっと一緒に・・・・・・か。



「うん、考えるだけ考えてみる」

「・・・・・・ありがとうです。というか、即答してくれて嬉しいです」

「まぁ、リインと一緒は楽しいしね。でもまだ、イエスかノーかも分かんないよ?」

「それでもいいんです。新しい時間を考えてくれるだけでも、嬉しいんです」










・・・・・・季節は、新暦76年の1月・・・・・・冬。





もうすぐ終わる場所で、色んなものが始まろうとしてる。





それが良い事かどうかは、僕には・・・・・・分かんないや。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



どっと疲れた身体を引きずって、私は隊舎の中庭に来ていた。冬という事もあり、少し肌寒い。





でも、そんな中で月を見上げているあの子を見つけると、自然に体温が上がって温かくなる。










「・・・・・・ヤスフミ」

「フェイト?」



私はさっきまで、ずぶ濡れで震えている母さんを引きずりながら帰っていったお兄ちゃん達とお話。

というか、なのは達とも同時にお話。今回の事、誰に話しているのかとかそこの辺りをだね。



「・・・・・・どうだった?」

「危なかったよ。母さん達、レティ提督とかにも連絡しかけてた。それで・・・・・・ヤスフミは?」





あと、ヤスフミも実はリインと一緒にあっちこっちに確認してくれてた。

あの惨劇でなんとか生き残ったの、六課メンバーの中では私とヤスフミだけだしね。

守護騎士以外のみんなは、まだ半分うなされているような状態。



でも、なんというか・・・・・・あの歌は強烈だった。まだ寒気が残ってるもの。





「高町家には伝わってたよ。美由希さんからメール来てた」

「・・・・・・なのは?」



変だな、そこの辺りはかなり確認したはずなのに。あの憔悴し切った様子で、嘘ついたとは思えないし。



「違う。ほら、ヒロさんだよ」

「あぁ、なるほど」



そう言えば、アドレス交換してたよね。二刀流同士だからか、すごく意気投合してるのを思い出したよ。



「ただ、なんとかそこで止まってた。すずかさんとアリサには、連絡する直前だったけど」

「そっか、ならよかった」



本当にギリギリだったんだね。うん、広まらなくてよかった。



「でも・・・・・・みんなおかしいよっ! あれほど何もなかったって説明したのにっ!!」

「あー、フェイト。気持ちは分かるけど・・・・・・静かに」

「あ、ごめん。・・・・・・リイン、寝てるもんね」



ヤスフミの肩の上に座って、頬に寄りかかるようにして、寝息を立てている。

その微笑ましい光景に、自然と笑みが溢れる。



「うん、ちょっとお話してたんだけど、すぐに」

「・・・・・・ヤスフミ、なにかあった?」

「わかる?」

「うん。いつもとちょっと違う」



こう、嬉しそうというか、戸惑っているというか・・・・・・うん、そんな空気が見える。

前だったら分からなかったけど、私の気持ち一つで分かるようになった事。だから、ちょっと誇らしい。



「・・・・・・リインがね、六課が解散したら、僕のとこに来たい・・・・・・って」



だけどその誇らしさは、一瞬で吹き飛んだ。だってあの・・・・・・うん、言いそうだよね。

リインはヤスフミの事、ずっとずっと大好きだったから。奥さん的な立ち位置でもあるもの。



「・・・・・・ヤスフミ」

「分かってるよ。うん、考えるとは言ったけど、難しいよ」



リインが居なかったら、はやての仕事にも支障が出る。それはリインだって分かってるよね。



「リインさ」

「うん」

「JS事件の時みたいなのは嫌・・・・・・ってさ」



私はしゃがんで、ヤスフミの右隣に座る。それで肩の上で気持ち良さそうに寝てるリインを見る。

・・・・・・リインも、後悔を背負ってるんだね。本当にダメだな、これじゃあなんのために六課があるのか分からないよ。



「まぁ、また詳しく話は聞いてみるよ。なんにしても、はやてともしっかり相談しないとダメな事だし」

「そうだね、そうした方がいい。あ、私ももちろん相談に乗るよ? 私、彼女候補としてちゃんと力になりたい」

「・・・・・・ありがと、フェイト」

「ううん」










・・・・・・少しずつだけど、色んな事が変化していく。ヤスフミが来て、3ヶ月程度なのに。

それでヤスフミは・・・・・・今も待ってくれている。少しずつでも、自分のやり方で変わっていこうとしている。

だから私もそんなヤスフミや自分を見つめて、ちゃんと答えを出そう。





はやての事、何も言えないね。私も、よく分からないから。今の自分の気持ちが。





・・・・・・私の中の答えはきっと、ヤスフミの言うようにシンプルなはずなのに。やっぱり私、勇気が足りないのかな。




















(第37話へ続く)




















あとがき



恭文「というわけで、お待たせしましたー。改定前だと29話の後半。大幅に追加シーンを増やした上での後半戦です」

あむ「・・・・・・最後、壮絶だったね」

恭文「うん、勢いで書いちゃったからね。というわけで、本日のお相手は蒼凪恭文と」

あむ「長かった改訂版FSも残り1話と聞いて、ちょっと寂しくなった日奈森あむです」





(そう、残り1話なのです。当然ですけど、あのお話にいきます)





恭文「で、一応電王編もこれに合わせて改定予定なのですよ。
展開は変わらないけど、話数をちょっとシェイプアップしようとは思ってます」

あむ「でも、その前に30話?」

恭文「うん、その予定」





(ただ、よくよく考えたら神速ってあんま使わないなーとか思ったり)





あむ「まぁ、そこは奥の手だから仕方ないじゃん。そんなバンバン使える設定でもないし」

恭文「一日に3〜4回。平均で3秒程度が限度だしね」





(なおこの設定、とらハの恭也が使える回数を元にしてたりします)





あむ「それでその後はアレだね。Second Seasonの修正。これも改訂版に合わせるんでしょ?」

恭文「うん。こっちはFSの修正に取りかかってずっと放置だったし、未完でもあるからそのまま上書きだね。
FSみたいに別個にはしない。出来ればこの勢いで完成はさせたいなぁ。一応最後までのプロットは出来てるし」

あむ「というか、その勢いでNEWタイムも修正しちゃえば? もうギャグよりにさ」

恭文「うん、その予定。というか、アレなの。やっぱり筆が進む展開にしないと、書き辛いって。
・・・・・・あ、書き辛いと言えば、ドキたま/だっしゅの76話。半分まで書き上がりました」

あむ「え、マジ? てゆうか、ちょっと遅いね」





(すみません。何気に最終対決なので、かなり気合い入れてたりします。あとは、新しい事に挑戦もしてるので)





あむ「新しい事?」

恭文「最近アクション的にバチバチ撃ち合う戦いが多かったから、新しいパターンをね。
なので、ちょっと苦戦してたりもします。・・・・・・それであむ」

あむ「うん、分かってる。これからだよね」

恭文「そう、これからだよ。これから僕達、ちょっとお寿司食べに行ってきまーす♪」





(お金が入ったので、回転寿司へ行ってきまーす♪)





あむ「いやー、楽しみだなー。というか、ご馳走になっちゃっていいの?」

恭文「いいよ。というか、あむが来てくれないと家族割引のキャンペーンが適応出来ない」

あむ「いやいやk、あたしはアンタとフェイトさんの家族扱いっ!? ・・・・・・ま、お寿司奢ってくれるからいいか。
えっと、それでは本日はここまで。お寿司のお礼は後日きっちりしていこうと思う日奈森あむと」

恭文「そんな気を使わなくていいと思う蒼凪恭文でした」

あむ「いや、だめじゃん。友達だから、こういうところはちゃんとしたいの。もちろん、あたしに出来る範囲でね」

恭文「そっか。・・・・・・うん、それは感心だ」










(そしてみんな、現・魔法少女はこのまま真っ直ぐ育っていって欲しいと思うのであった。
本日のED:Acid Black Cherry『Re:birth』)




















恭文「さて、長かったFS改訂版もあと1話だよ」

フェイト「合計37話・・・・・・本当に長かったよね。というか、結局プラス7話?」

恭文「分量的にはそうなるね。つまり、7話分僕とフェイトの思い出が増えたんだよ」

フェイト「あ、そうだね。そう考えると・・・・・・ヤスフミ、あと1話だけど頑張ろうね」

恭文「うん、頑張ろうね。それでそれで、よろしくお願いします」(ぺこり)

フェイト「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」(ぺこり)










(おしまい)






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