小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第3話 『キバの世界/第二楽章♪キバの王子』
恭文「これまでのディケイドクロスは」
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「……美味しい」
「うめぇっ!」
「うめぇだろ? そのポトフはね、昨日の夜から仕込んどいたんだ」
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恭文「というわけで、究極のポトフを追い求める僕達の旅は、まだまだ続きます」
ギンガ「違うよねっ! 私達、残り7つの世界を巡って壊れそうな世界を救うところなんだからっ!」
恭文「あー、そういう話もあったよね」
ギンガ「なんで思い出すように言うのっ!? というか、今凄く大変な事になってるっぽいんだからっ!」
・全ての世界が一つに融合……結果、全てが消滅しようとしている。
・それを防ぐために、もやしは謎の人物から8つの世界を回って世界を救えと言われる。
・そのため、写真館ごと世界を移動しての壮大な旅が始まった。
恭文「でもさ、ギンガさん。ぶっちゃけ僕達は巻き込まれたも同然よ?」
ギンガ「それはその……うん」
恭文「僕達の一番の目的は、元の世界に戻る事。世界崩壊どうこうはその次だよ」
ギンガ「でも、戻っても世界全てが壊れるんじゃ」
恭文「そこの辺りの情報、何にもないじゃないのさ。何にしてもそこを集めてからだよ。
現段階で判断して鵜呑みにするのはダメって言ってるの。ギンガさんだって捜査官だから分かるでしょ?」
ギンガ「……確かにそうだね。それに……ほら、士さんを『悪魔』だってユウスケさんに吹き込んだ人とか」
恭文「あー、それもあったか。普通に考えたら、ユウスケの世界の住人……とは考え辛いよね」
ギンガ「別世界に居た士さんの存在について触れてるしね。うー、これ本当にどうなってるの?」
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前回のあらすじ、なんか知らないけどキバの世界に来ました。
なので、まぁまぁ面倒ではあったけど夏みかんのバインドを解除した上で僕達は外に出た。
そこの風景は……都心の一角? 大きな道路に面していたさっきまでの風景と違う。
小さめの路地で、標識タイプの看板がある。当然、そこには『光写真館』の文字。
「さっきまで風景が全然違う」
「……いや、なぎ君。それに士さんも」
「あなた達、その前に気にするべきとこがありますよ?」
≪夏みかんの言う通りですよ。ちゃんと自分達の格好を見てください≫
「「はぁ?」」
そう言われて、もやしと顔を見合わせて気づいた。もやし、さっきまでと着てる服が違う。
地味めな灰色のコートの下に、黒の蝶ネクタイにタキシード着てる。
「もやし、何その格好っ!」
「いや、お前こそなんだよっ! それっ! てーか色合い暗いなっ! センスないぞっ!」
「余計なお世話じゃボケっ!」
僕は改めて自分の格好を見てみる。……コートこそネイビーブルーだけど、他はもやしと同じ。
あれ、さっきまでGパンGジャン姿だったはずなのに。あの、これなに?
「なんですかこれっ! てーか、これはなにっ!」
そして僕達二人共、両手であるものを持っていた。それは……形状からすると、バイオリンケース。
手持ち型のそれは、もやしはピンク色で僕は蒼色。試しに中を開けてみると、本当にヴァイオリンが入ってた。
「あの、なぎ君……それは」
「見ての通りのヴァイオリンだよ。……アルト」
≪特に変なところはありませんね。極々一般的なヴァイオリンですよ≫
とりあえず、ケースは閉じて……と。でも、なんで僕までこれ? 僕はヴァイオリン弾けないのに。
「二人共、ホストですか?」
ギンガさんと夏みかんがそう言うのも無理はない。そりゃあいきなりこうなればびっくりする。
なお、僕は一切魔法関係は使ってない。……って、そんな事言ってる場合じゃなかった。
「夏みかん、お前バカか。これがホストって……他に良いようってものがあるだろ」
「もやし、仕方ないよ。だって夏みかんは所詮夏みかんなんだから」
「それもそうだな」
「なんですかあなた達っ! というか、あなたやっぱり失礼ですねっ!」
「夏みかんという一つの存在そのものよりは失礼じゃないよ。全く、またバカな事を」
そして夏みかんは、またまたなんか右手で親指立てながら、僕に向かってそれを突き出して来た。
なので僕はしゃがんで回避しつつ身体を逆時計回りに回転。そのまま左足を動かす。
「きゃっ!」
「夏海さんっ!?」
踏み込んで来ていた夏みかんの足を左足で蹴り倒してコカした。
1回転して立ち上がりつつ前を見ると、あるものが視界に入った。
「……もやし、アレ」
それは、数キロ先にあると思われる、とても高い高層ビル。そしてそのビルには、キャッスルドラン。
というか、あの絵と同じだった。今は夜じゃなくて昼間だけど、それでも光景は同じ。
「同じだな」
「うん。アレ、やっぱりキャッスルドランだよ」
≪私達の知ってるキバの居城……ですね≫
「そうか。なら、間違いないな」
言いながら、もやしは首からかけている二眼レフのトイカメラを構えて……まず1枚撮影。
これがもやしのカメラ。どういう状況であろうと、これだけはずーっと首から下げてるのよ。
「ここはマジでキバの世界ってわけか」
なんだろ。色々ワケ分かんない事が多くはあるけど、それでもドキドキしてきた。
あぁ、そうだよ。僕、ちょっと忘れかけてた。これが旅なんだ。それで、僕の……大事な夢。
世界の破壊者、ディケイド。8つの世界を巡り、その瞳は何を見る。
『とまとシリーズ』×『仮面ライダーディケイド』 クロス小説
とある魔導師と古き鉄と破壊者の旅路
第3話 『キバの世界/第二楽章♪キバの王子』
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さて、仮面ライダーキバというお話について軽く説明しておく。
ファンガイアと呼ばれる、身体にステンドグラス的な模様がある怪物が影で人を襲う世界。
ファンガイアは人間のライフエナジーを吸収して、それを糧にして生きている。
だけどファンガイアに家畜同然に襲われていく人間を守るために戦うライダーが居た。それが仮面ライダーキバ。
黄色い瞳に銀色と赤のアーマーに黒のスーツ。言うならそのデザインはさながら吸血鬼かコウモリか。
アームドモンスターと呼ばれる、ファンガイアとは別種族のモンスターの力も借りつつ、キバはファンガイアと戦う。
まぁそこにファンガイアに対抗するために結成された『素晴らしき青空の会』とか、イクサっていう別のライダーも話に絡んだりするけど。
「なるほど――大体分かった。で、ヴァイオリンもその話の中では重要なキーアイテムになってるってわけか」
≪そうですね。かなり重要なアイテムです≫
えー、現在。もやしにキバの概要をサクっと説明してたところです。本当に二言三言だけね。
「とりあえずアレだね、街を早速散策だよ。うん、レッツゴー」
「蒼チビ、お前やけに楽しそうだな」
「そんな事はないよ」
ううん、実際楽しくなってきてる。知らない世界に、本物のキャッスルドラン。うん、ワクワクだ。
沢山ワクワクがあって……やばい、ドキドキが全然止まらない。ジッとなんてしてられない。
「……あなた、その前に私に謝るという選択はないんですか?」
「あるわけないじゃん。先に手を出してきたのはそっちでしょうが。夏みかん、バカじゃないの?」
「何言ってるんですかっ! あなたの態度が横柄だからそうなるんですよねっ!?」
「……あのぉ」
後ろから声がかかったので振り返ると、そこに居たのは灰色のタキシードに白い靴を履いた男性。
髪は二つ分けでウェーブがかかってて、なんか軽くくねくねしながらこっちを見てた。
「はい、なんでしょ?」
「いや、ここって確か喫茶店だったような……あの、写真館って」
……あぁ、ここに突然写真館が現れたせいで、戸惑ってるのか。
というか、喫茶店ってクウガの世界でユウスケと八代さんもそう言ってたとかってギンガさんから聞いたよ?
まさかとは思うけどこの写真館、各世界の喫茶店を媒介にして跳び回ってるんじゃないだろうね。
「……あ、コーヒーならあるよ」
入り口の方のドアが開いて、栄次郎さんが少し声を大きめに出してそう言って来た。
「……ギンガさん、あの人って地獄耳なのかな?」
「その……かなりだね」
「あー、いえいえお構いなくー」
それで白タキシードの人は、栄次郎さんの方を向いて声をあげる。
「というか……それなら、1枚写真撮ってもらえますー!? 僕も」
言いながら、その人はタキシードの襟元を両手で正して、髪も撫で付け始めた。
「お見合い写真が必要な、お年頃なんで」
『……え?』
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「あの、写真なんて撮ってる場合じゃないですよね。私達はこの世界を救うために」
「夏みかん、お前分かってないな。お客様は神様だぞ? 大事にしなくてどうすんだよ」
「それは……そうですけど」
まぁまぁ不満げな夏みかんはともかくとして、僕は先導する形であの人を撮影室まで案内。
「でも、お見合い写真なら気合い入れないといけませんよね。というか、それ目的でその服を?」
「いやいや、僕は基本……いつもコレ♪」
「なるほど、おしゃれさんなんですね」
「そうそうっ! いや、ボクちゃん良く分かってるじゃないのさー!」
なんかそう言いながら頭撫でてくるけど、ここは抑えよう。さっきももやしが言ってたけど、お客様は神様だもの。
それに栄次郎さんに、食事に光熱費関係お世話になりっぱなしだもの。こういうところで還元しなくてどうするのさ。
「栄次郎さーん、お客さんがお見合い写真撮りたいそうなので、お願いしますー」
僕は撮影室のドアを開けて、そのままお客さんともやし達と一緒に撮影室の中に入る。
「えー、ダメだよ。今コーヒー入れてる途中なんだから」
「……ちょっと待ってっ!? さっきコーヒーはいいってこの人言ってたと思うんですけどっ!」
なんか可愛く困ったような素振りでこっち見るけど、ダメだからっ! てゆうか、この人マジでここを喫茶店と勘違いしてるっ!?
「あー! これいいじゃないっ!」
僕がツッコんでる間に、お客様はあのキャッスルドランの絵に足早に近づいていく。
……そっか。この世界の絵なわけだから、問題なく受け入れられるわけか。
「だったら僕もコレに合わせて着替えようっと。
グルァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ……・!」
あの人が絵を見ながら妙な唸り声を上げて……次の瞬間に身体が変わった。
各所にあるステンドグラスを思わせる色彩と配置の装飾に、禍々しいデザインの身体。
後ろに尖った金色の角とも表現できる頭部をしたソイツは、なんかポーズ決めてる。
ぶっちゃけ、これを小説で表現しろと言われたら僕はおとなしく『HPググれカス』と言いたくなる。それくらいにデザインが複雑。
「やっぱりコレかなっ! ねぇ君、これどう思うっ!?」
特徴的なのは、後ろの襟のような大きな扇形の羽と、四本の足。さながらそれは……蜘蛛。
それは、蜘蛛のファンガイアだった。というかあれだよ、もう見覚えありまくりだし。
≪……あぁ、思い出しました。この人、スパイダーファンガイアの役者さんにそっくりだったんですよ≫
「なんかいきなりな発言ありがとっ! でも、それはちょっと遅かったと思うなっ!」
「と、というかなぎ君……これが、ファンガイアっ!?」
ちょ、ちょっと待てっ! 落ち着け落ち着けっ! なんでいきなりファンガイアに変身っ!?
「……ずいぶん派手な着替えだな」
警戒心を隠さずに、もやしがスパイダーファンガイアに歩み寄る。
で、当然だけどあの暴力的な夏みかんも同じ。僕達が食事に使うテーブルに走って、椅子を持ち上げる。
「この世界にも怪物がっ!?」
で、当然僕も警戒しようとするけど……やめた。だってあの、様子がおかしいの。
「な、何っ! ファンガイアだからって、追い出すつもりっ!?」
スパイダーファンガイアは、夏みかんから逃げたの。それで僕達の態度に対して、戸惑っているように見える。
ううん、これは怯えてるのかも。だから怖くないはずの夏みかんの威嚇に対して、あっさり引いた。
「ごちゃごちゃうるせぇ」
「そうですよっ! 士くん、やっちゃってくださいっ!」
「もやし、夏みかん待ってっ! なんか様子が」
「待たなくていいですから早くっ!」
あぁもうこのKYはっ! どう考えてもコイツ僕達に対して攻撃する気配が無いってのに、どうしてこうなるっ!
……でも、そんな事を思っている間にももやしがバックルを取り出して、腰に装着しようとする。
「ちょっと待ったっ!」
でも、そんなもやしの顔の前にあるものが現れる。それは、栄次郎さんの持ってきた……板?
というか、アレだよ。長方形で紙とか挟むための固めのバインダーだよ。なお、色は黒。
「おじいちゃん?」
栄次郎さんは夏みかんの方を見て頷くと、もやしにそのバインダーを渡した。
で、僕とギンガさんももやしの近くまで来て中身を見る。……え?
≪なんですか、コレ。『人とファンガイアの集い』?≫
「ファンガイアの人達と九龍し、町内を盛り上げましょう……これ、回覧板か何かかな」
ギンガさんの言った事が気になって、僕はバインダーの表紙を見る。そこには、ドンピシャで回覧板と書かれていた。
「てゆうかこれ、ファンガイアと人間共存の手引きとかって書かれてるね」
「はぁっ!? なんなんですか、それっ!」
椅子を持ったまま、夏みかんがこちらに怪訝そうな顔で来る。まぁ、ここはどうでもいい。
こうなってくると……僕達が如何にアレな事をしたのかというのが、問題になるのよ。
「何も知らないファンガイアを差別するのは、禁止されてるんだぞっ!?」
もう心外という顔でそう言ったのは、スパイダーファンガイア。それでそのまま外に出て行こうとする。
「親衛隊に、言いつけてやるっ! プンッ!」
というか、出て行った。とりあえず、僕はすぐに外に出てあのファンガイアを追いかけた。
なお、もやしと夏みかんとギンガさんも一緒。で、僕は一番最初に外に飛び出た。
「……・アレは」
たまたまここの前を通りがかっていたと思われる幼稚園児二人に、全力で走り寄って行こうとするファンガイアを見つけた。
「いけません、子ども達がっ!」
それですぐにもやし達も追いついてくる。そしてKYみかんはまたこういう事を言う。
「士くん、レッツ変身っ!」
「だからおのれは学習せんかいっ!」
余計な事を抜かすKYみかんの頭を、左手で持ったハリセンでぶん殴る。
「何するんですかっ!?」
「やかましいっ! アレを見てからそういう事は言えっつーのっ!」
なお、ハリセンはアルトに収納していつでも取り出せるようにしてました。それでハリセンの先をファンガイア……ううん、あの人に向ける。
その先を不満げにKYみかんやもやしにギンガさんが見ると、三人とも愕然とした。
「いじめられたのー! ファンガイアは、人間の店には来るなってー!」
あの人はしゃがみ込んで、両手で目元と思われるところを拭いながら幼稚園児に泣きついていた。
で、そう言いながらKYみかんを指差す。僕達ではない、角度的にどうしてもKYみかんを指差しているとしか思えない。
「ち、違いますっ! 私達はその……あの」
「いけないんだー! ママが言ってたよっ!? ファンガイアさんとは、仲良くしなさいってっ!」
幼稚園児の二人組は、男の子と女の子の組み合わせ。黄色い帽子に、青い園児服という標準的なスタイル。
で、そんな子達のうち……女の子に人差し指を真っ直ぐ指されて、夏みかんの表情が固まる。
「ちょっと怖いけど、ねー」
そして男の子がそう言ってあの人の頭を優しく撫でる。そうすると、女の子も同じように撫で始める。
それを見て、もやしやKYみかんにギンガさんは非常に微妙な顔になる。
「ほんと、いけないよねー。夏みかん、反省しなさい。ファンガイアさんは全然怖くないじゃないのさ」
「……・って、あなたどうしてそっち側に居るんですかっ!」
現在、僕はあの人の隣に居る。あー、KYみかんの微妙な顔がよく見えるよー。
「なぎ君、いつの間に移動したのっ!?」
そんなの、『いけないんだー』の辺りから気配を消した上でさり気無くに決まっている。
「……いや、本当にごめんなさい。うちの新入りがご迷惑おかけしてしまって。
前もって説明していたはずなのに、こちらの話を全然聞いてなかったようで」
言いながら、僕はしっかりと頭を下げる。理由? お客様は神様だからに決まってるでしょうが。
ここに居る間また写真を撮りに来てくれる人が居るかも知れない以上、こういうとこはきっちりしたいのよ。
「ちょっとっ! 新入りはあなたの方じゃないですかっ!」
「もう僕の方から今後はこういう事が絶対に起こらないように言いつけておきますので」
「いや……あの、でも」
あー、やっぱり傷ついていたのか。だからKYみかんの方を気にするように見るのよ。
なるほど、この世界はマジでファンガイアと人間が共存出来る社会作りを目指してるのか。
そう思える一番の理由は、この子達だよ。こんな小さな子達が、常識としてこの事を知ってるのよ?
つまり、個人の考えってわけじゃないの。社会全体……教育そのものから、『こういう形にしていきましょう』って教えてる事になる。
「今回は出来れば穏便に……なんなら、クビにして今すぐ店から叩き出しますけど」
「いや、そこまでは……ねぇ?」
うし、食いついてきた。この人、ファンガイアだけど良識的で優しい人みたい。
なので、こういう厳しい処置をすると言えば……次に出てくる答えはこうだ。
「まぁ、また同じような事をしないって約束してくれるなら……別にいいかな。
ほら、僕と同じファンガイアの人達も、この近くには沢山居るから」
「そうですか。あの、本当にありがとうございます。寛大なご処置、感謝します。……ほら」
僕はKYみかんに視線を向けて、アイサインを送る。当然『すぐに謝れ、このバカが』という意味合いで。
KYみかんは少し渋ってたけど、すぐにこの人に向き合って頭を下げた。
「……あの、すみませんでした」
それにギンガさんはともかく、もやしも頭を下げたのにはちょっとびっくりだった。
とにかく、その人にはお詫びにコーヒーを飲んでもらった上で送り出した。当然、謝り倒した上で。
……当然でしょ。お客様は神様ってのもあるけど、僕達がやったのは立派な人種差別でもあるもの。
うー、知らなかった事とは言え失敗したなぁ。でも、情報は色々掴んだ。あの人からも少し話が聞けたしね。
まずこの世界は、ファンガイアと人間が共存出来る社会作りを目指している。でも、なかなか上手くはいかない。
ファンガイアの食料となるライフエナジーは、公的機関から人を傷つけない形で生成した上で支給されている。
つまりファンガイアが人間を襲う理由はない。でも……そうは思えないファンガイアも居る。
ファンガイアは人間を家畜同然の物と差別し、人間もまたファンガイアを害虫か何かと見なして差別する。
そういう各種族間の問題行動を取り締まるのが、さっきあの人が言ってた親衛隊だ。
ファンガイアも人間も、共存の邪魔をするなら容赦なく処罰対象になるらしい。僕達はかなり危なかった。
そこの辺りの情報も踏まえた上で、僕達は二手に分かれてこの世界を調査する事にした。
僕とギンガさんは、話が出てた親衛隊の方だね。なので、またまたタンデムで……ギンガさんが顔真っ赤。
それでもやしと夏みかんは、とりあえず街を回ってみる方向。それで僕達はそれぞれのバイクに乗って、走り出した。
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「……なぎ君」
「何?」
前の世界で栄次郎さんが持って来てくれたフルフェイスのヘルメットを被って走りつつ、僕達は街並みを見る。
時速は40キロ程度で、車道の端をのんびり目に走行。なお、ヘルメットの色は僕が蒼でギンガさんが青多めの紫。
「この世界では、本当に人間とファンガイアが……違う人達同士が、仲良く暮らしてるんだね」
「そうだね」
僕はまぁ運転してるわけだし、あくまでも前を向いている時に視界に入っている分だけなのよ。
でも、ギンガさんは後ろで僕に掴まってる状態だから、あっちこっち見えてるみたい。
「見てると、ファンガイアと人間のカップルや親子というのも珍しくない感じ」
「分かるの?」
「うん。頬にステンドグラスみたいな模様が見えるから」
……あぁ、変身前に出るアレね。そっか、ファンガイアが社会的にも認知されてるから、そんな事しててもいいわけか。
「でも、この世界で士さん達がやらなきゃいけない事ってなに?
あの人の話を聞く限り、問題っぽい事は起きてないみたいだし」
「まぁ、ユウスケの世界みたいに表立ってはないよね」
アレは分かりやすい形だったからなぁ。グロンギという人類にとって驚異の存在が居て、それを止めなくちゃいけないっていう図式だよ。
「でも、めんどくさい問題はあるわけじゃない?」
「人種差別だね」
「そうそう。……そこ絡みでどうこうなのかなぁ」
人と……自分と違うのって、僕は特に気にならないんだけど大問題らしい。
そのために自分を否定して、笑えなくなる人も居る。……フェイトの事、また思い出しちゃった。
「ね、なぎ君が見てたキバではどうだったのかな。ほら、参考になるかも知れないし」
「ならないと思う。劇中では、ファンガイアと人間はずーっと戦ってたもの。
それで最後、これから頑張ればこういう世界に繋がるかも知れないーってところで話が終わったから」
「そっか。これは中々上手く」
言葉を言いかけた時、ギンガさんの腕の力が強くなった。
「なぎ君、ちょっと止めてっ!」
「へ?」
「早くっ!」
僕はすぐにブレーキをかけてウィンカーを出した上で、周りに注意しながらデンバードを停車。
サイドスタンドを下ろすと、ギンガさんが地面に左足をついた上ですぐに降りて、ヘルメットを脱ぐ。
「ギンガさん、どうした?」
僕も同じように降りて、ヘルメットを脱いだ。それでギンガさんは周りを見渡して……ある方向を指差す。
「なぎ君、アレ」
その方向には、慌てたように細い路地からこちらに出てくる一人の男性。
灰色で無地のスーツを着て、歩道で立ち止まり辺りを見回す。
「あの人……ユウスケさんっ!?」
確かにユウスケだった。着てる服はともかく、外見は……いや、同じ顔した別人って可能性もあるよ。ほら、そういうのお約束だし。
「……え?」
それでその人は僕とギンガさんの方を向いた。今のギンガさんの声に気づいたみたい。
その人は僕達の方を見て、びっくりした顔でこちらに走り寄ってきた。
「恭文っ! というかギンガちゃんまでっ! あー、やっぱこの世界に来てたんだっ!」
「「……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」
ちょ、ちょっと待ってっ! 僕達の事知ってるって事は……まさかっ!
「まさか、クウガの世界のユウスケっ!?」
「そうそうっ! ……あー、それで悪い。二人にちょっと聞きたいんだけど」
「いきなりなんですかっ!? というか、私達が聞きたいんですけどっ! どうしてユウスケさんがここにっ!」
「そこは後で説明するよ。それで……王子、どこかで見なかったかな」
「「……はぁ?」」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そして色々お話を聞いた上で僕達は、捜索をお手伝いする事が決定しました。
というか、もうそうするしかなかった。だってどうも大変な事件らしいし。
まず、僕達と一緒に居るユウスケはクウガの世界のユウスケだった。ここはもう確定。
そしてそんなユウスケともう一度行動を共にする事は、僕とギンガさんの目的を達成する事にもなった。
だってユウスケはどうも親衛隊――この世界の政府機関に所属してるっぽいの。それで今はお仕事中です。
「――それでユウスケ、もう一度確認ね。王子は大体10歳くらいの男の子。ユウスケはその子を探してると」
「目つきは少し細めで髪は黒色。服装はノーネクタイの黒のスーツで、首元に青いスカーフ……でしたよね」
「あぁ、そうだ」
街を三人で歩きながら、あっちこっち見てみるけど……うーん、居ないなぁ。
「というかユウスケ、その王子様って『居なくなると必ずここへ行くー』みたいな場所ないの?」
「え?」
ユウスケが歩きながら、右側に居る僕の方に疑問の視線を向けてくる。
「ほら、そういうのよくあるじゃないのさ。秘密の隠れ場所というか、現実逃避場所」
「あぁ、なるほど。うん、私もそういうの覚えあるよ。友達と秘密基地みたいなの作ったりとか。
それで辛い事があった時とかにしばらく居るんだよね。子どもだと、一人で居るのって難しいから」
「そういう場所に頼る……か。確かにそういう方向も考えられるんだよな。でも悪い、俺はちょっとさっぱりだ」
「そう」
僕達が探している『王子』は、この世界を収める王様の子ども。名前は……ワタル。
これを聞いた時、もう大体分かってしまった。というか、これはこれで旅の面白さを消しているのかなとちょっと思ってしまった。
なんだろ、現実世界から自分の知ってるお話の中にトリップする二次の主人公って、こんな気持ちなのかな。
ここは僕の知ってるキバとはちょっと違ってるし、そこの違いは見ていて不思議というか……興味深いというか。
「んー、じゃあどこ探そうか。ユウスケが知らないだけでそういう場所に居るとしたら、簡単には見つからないよ?」
「そう言えば、親衛隊の人達も中々見つからないみたいな事言ってたな」
「いや、親衛隊おのれだから」
「まぁ俺は見習いみたいなもんだし……と、着信?」
確かに着信音みたいなのが鳴り響く。それでユウスケは懐から右手で携帯を出して、右耳に当てる。
「はい、小野寺……え、王子見つかったっ!?」
僕とギンガさんはその言葉に、顔を見合わせる。……あらま、見つかったんだ。
なら良かった。多分ユウスケ以外の親衛隊の人が、探し回ってたんだね。
「そうですか、それは……えぇっ! 王子が変身して、なんかピンク色したのと戦ってるっ!?」
ピンク色っ!? それが戦って……・やばい、一人しか該当者が見当たらないっ!
知ってる限りでは一人しか居ないしっ! てゆうかあのバカ、何してんのっ!?
「というか、そのピンク色が……はい、分かりましたっ! ここからなら近くですし、すぐに急行しますっ!」
それからすぐにユウスケは電話を切って、僕とギンガさんの方を見る。
「二人共、あのバカもやしは」
「見ての通りの別行動です。……なぎ君」
「カービィじゃなければ、決定だよね」
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とにかく、またまたユウスケに事情を聞きながらも全速力でダッシュ。
そうしたらマジでキバとピンク色が、広場のど真ん中で殴り合いしてました。だから僕達は当然止めに入る。
「待て待てっ! ちょっと待てっ!」
ユウスケはそう言いながら、王子の前に出てその両肩の銀の鎧に手をかける。
「バカもやし落ち着けっ! ちょっと待てっ!」
「士さん、落ち着いてくださいっ! 冷静になってっ!」
それで殴り合いを続行しようとした二人をなんとか止める。というか、引き剥がす。
「蒼チビにギンガマン……てーか、アイツ」
僕は変身してるもやしの方を見て頷く。それで向こうを見ると……あ、向こうも落ち着いてるみたい。
ファイティングポーズを解いて、両腕を下ろして変身を解除したから。
「……ユウスケか」
そうしたら、出てきたのはユウスケから聞いた通りの外見の男の子。
「はい。……我らが王子、キバ」
言いながらユウスケは右足を立てて膝まずき、頭を下げる。アレが王子に対しての礼儀らしい。
そしてその礼儀を通してる間に、もやしは変身をしっかり解除。なお、当然だけど納得いかないという顔をしている。
「この者は私の知り合いです。あ、そこの者達も同様に」
「そうだよ。で、確かにこのもやしは性格悪くて自信過剰で人間としては三流だけど」
「おいっ!?」
もやしが僕に不満そうな視線を向けるけど、僕はそこを無視する。
「でも……あなたが聞いたみたいな、悪魔じゃないよ」
僕が真剣な目でそう言うと、あの子が驚くように軽く目を見開いた。それはユウスケも同じ。
首だけを動かして後ろに居る僕に視線を向けてくる。だから、僕は頷いた。
”……やっぱり、みたいだね”
届いたのはギンガさんからの念話。うん、やっぱりなの。ギンガさんもここは予測してたみたい。
僕もそこは同じ。だからハッタリをかまして確認したの。
”なぎ君、この子がこの世界のライダー……というか、キバで間違いないんだよね”
”うん、間違いないよ。そしてだからだよ”
キバは、ユウスケにもやし……ディケイドという悪魔の事を教えた『預言者』と接触してる。
そして言った内容は、ユウスケに対してのそれとほぼ同じと見ていい。
”だからこの子も、士さんに対して本当に強い敵意を向けてた。
という事は、やっぱり『預言者』が私達と同じように世界を移動している?”
”つまりアレだよ、それぞれの世界のライダーがもやしに対していきなり攻撃仕掛けてくる可能性があると。……また厄介な”
言っている間に、ユウスケがこちらに来て右手でもやしの背中に当てる。
それで僕達は自然と下がって、もやしの左側に回る。
「アンタも謝れよ、士」
「はぁっ!? 何言ってんだお前っ!」
当然だけど、もやしはその手を振り払う。振り払って、自分の右側に居るユウスケに視線を向ける。
「いいか、ファンガイアが人間を襲って」
「もやし、それ人間じゃないんだって」
「……え?」
「その通りだ」
それは後ろの方から。そちらを見ると、二本の白色の角を生やしたファンガイアが居た。
「離せ……離せ……!」
というか、左腕で茶髪のロングのお姉さんの首根っこ掴んでいる。
「この者はファンガイアだ。掟に背き、何人もの人間のライフエナジーを吸収している」
「で、俺達親衛隊がそういう悪いファンガイアを退治してるってわけ」
「親衛隊って……ユウスケ、お前がか?」
「そうらしいよ? で、もやしが倒したファンガイア」
ユウスケの話だと、やらかしてくれたらしい。まぁ、仕方ないと言えば仕方なくはあるけど……笑い事じゃ済まされないって。
「そのファンガイア、親衛隊だから。ようするに、掟を破ったあのファンガイアを捕まえようとしてただけなの」
「……マジかよ」
もやしはあの女の人が悪いファンガイアだとは知らなかった。
だからその親衛隊のファンガイアとあの女の人の追っかけっこを見て、『襲われてる』と思った。
だから助けたんだけど、結果的にそれは犯罪者の逃亡を手助けする事になった。
そこをたまたま通りがかかったと思われる王子様が見てしまった。
おそらく王子なんだから、親衛隊の顔くらいは知ってるはずだよ。うん、間違いなくね。
それプラスもやしの事を聞いていたもんだから、キバに変身して戦闘開始。
それを市民が見て親衛隊に通報して、ユウスケに話が回ってきた……という図式みたい。
てゆうか、マジ頭痛いし。来て早々こんな大ポカやらかしてくれるとは思ってなかった。
異世界探索、もうちょっと気をつけた方がいいな。まずは常識関係の調査だよ。うん、そこからだって。
「何が悪いっ!」
両頬にステンドグラスの文様を浮かばせて、女が叫ぶ。
その目に、僕の良く知っている光を見つけた。それは、人が出せる者じゃない。
「これがファンガイアの本能だっ! それを抑えて生きていけるかっ!? あたしだけじゃないっ! 他にも沢山」
「黙れ」
歪んだ、何かを見下している部分のある存在にしか出せない歪んだ光……それは、化物の証明。
だから女を拘束していた二本角のファンガイアは、右手を女の胸に貫手で突き出した。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
その手は貫通し、その切っ先が僕達の居る方に向けられる。そして次の瞬間、女は破片になった。
女の体が砕け散り、ステンドグラスのような色合いの破片が撒き散らされる。つまり……殺した。
ギンガさんが、左拳を強く握り締める。多分、納得出来ないんだと思う。うん、理由はあるのよ。
でも、アレは無理だ。アレは……もう、壊す事しか出来ない。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
その後、王子は親衛隊によって保護された。それで僕達も写真館に戻った。
栄次郎さんが用意してくれたチョコフォンデュをいただきつつ、ユウスケからもうちょっと詳しく話を聞いた。
「うめぇっ!」
「ホント、美味しいですね。あー、私このチョコフォンデュは好きかも」
「だろ? バレンタインに貰ったチョコの再利用だ」
へぇ、これ栄次郎さんがもらったチョコ……え、ちょっと待ってっ!
「おま……いつチョコもらったんだよっ!」
「そうですよっ! てゆうか僕が思うに、フォンデュに出来る量って……かなり多いですよねっ!」
「まぁ、そこは色々とね」
とにかく、色々とあるらしい栄次郎さんに首を傾げつつも、僕達は話を進めた。
例えば、この世界に居る理由。そこは僕もそうだけど、ギンガさんも聞いてなかった。
そうしたら……なんというか、とっても不思議な話を聞いて頭を抱えた。
ユウスケ、八代さんのお墓参りをした後に旅に出ようとしたらしい。
そうしたら、妙な白い羽の小さな手の平サイズで人の言葉を喋るコウモリに遭遇したとか。
そのコウモリに『こっちよ〜♪ おいでおいで〜♪』と誘われたらしい。
で、そのままついて行ったら……そこはあのキャッスルドランの中。当然だけど、ユウスケは周りを見渡してびっくり。
当然だけど、向こうの親衛隊の人達はびっくりだしユウスケを相当警戒して包囲されたそうだ。
そこでユウスケは必死になって事情説明をして、王子であるあの子の理解を得て……今に至るらしい。
「ユウスケ、それ典型的な神隠しじゃないのさ。てゆうか、知らないのにほいほいついて行くな」
「お前、やっぱバカスケだな」
なお、これは僕ともやしだけの意見じゃない。ギンガさんや空気な夏みかんも、同じように呆れた視線をユウスケに向けてる。
……てゆうか、コウモリって。人の言葉を喋る……だめだ、よく分かんない。
「うるさい。てゆうか、別にいいんだよ。俺がこの世界に来たのには、ちゃんとした理由があったからな」
「理由?」
「あぁ。……俺は、あの王子を助けるためにこの世界に来たんだ」
『はぁ?』
チョコを付けたパイナップルを美味しくいただきつつも、ユウスケは自信満々にそう言った。
「あの王子……ワタルは、ファンガイアと人間の間に生まれた」
≪……やっぱりですか≫
「あぁ。……え、やっぱり? 恭文、その宝石今変な事言わなかったか?」
「いや、気のせいじゃない?」
とりあえず話を逸らしながら、僕もまたいちごを頂く。……あー、美味しいなー。
「ただの生意気なガキだろ?」
もやしが鼻で笑いながらそう言うと、ユウスケがフォンデュ用の串をテーブルに叩きつけた。
それから、無言でもやしを睨みつけた後にそそくさと立ち上がる。
”なぎ君、やっぱりって?”
”……僕の知ってるキバの『ワタル』も、やっぱり人間とファンガイアの間に生まれた子どもだったの”
”なるほど、だから予測出来たんだね”
そして脱いでいた灰色の上着を手に取って、そのまま羽織る。てゆうかユウスケ、もしかしなくてもあの王子に相当入れ込んでる?
「人間とファンガイアが、本当に共存出来る世界。アイツが王になれば、きっと実現出来る。だから俺は、親衛隊に」
「あのガキには無理だ」
またまたもやしがバナナ食べながらそう言うと、ユウスケが表情を険しくした。
そして不快感を隠さずに、もやしの隣まで来て上から睨みつける。
「……俺と同じだ。アイツにも誰か、助けが必要なんだ」
とりあえず、もやしがKYというのは分かった。そして、ユウスケの言っている意味も分かった。
失踪も結構頻繁にやっているらしいし、何か事情が絡んでるのは確かみたい。というか、絡んでる。
「……あの、夏海さん。士さんとあの子、何かあったんですか?」
「えぇ、ちょっと。あとはほら、ちょっと戦っちゃいましたし」
「納得しました」
捜索途中にどうしてあの子が失踪を続けるのか疑問になって、ギンガさん共々ユウスケに聞いてみた。
それでユウスケは、簡単に説明してくれた。あの子、ファンガイアの王様になろうとしないらしい。
現在、10年以上に渡ってファンガイアを治める王様が居ない。そして継承権を持つのはあの子一人。
なお、あの子は子どもだけど即位は可能な年齢らしい。だけど、それでも何度も即位しないと断っている。
そして現状のままではダメだと、親衛隊内部でも相当焦ってかなり頻繁にあの子を説得しているらしい。
もちろん理由はある。それは……今日みたいな事がここ最近、立て続けに起きているから。
ようするに、『人を襲わずに共存していく道を進む』という掟を忘れて、本能のままに人を襲うファンガイアが続出してるのよ。
王というトップが居ないせいで、下がしっかり締まっていかないらしい。そしてそれは当然だけど、人間側にも響く。
いくら親衛隊が取り締まっても、ファンガイアが掟を忘れてただの化物として人を襲った事実が残れば、それは恐怖を生む。
誰だって死にたくなんてない。でも、ファンガイアは平気で人を襲う。だから……という方程式が成り立つ。
だからこそ、空白のままの王の椅子にはあの子に座ってもらって欲しいと余計に思うわけだよ。
なんでもこの世界のキバになれるのは、その王様になる資格のある人間だけみたいだから。だからあの子なの。
でもまぁ……それも勝手と言えば勝手なんだよね。僕はとりあえずそう思った。
世界のためにあの子に意志を無視して、人身御供になれとは言ってるのと同じだしさぁ。
というかあの子、もしかして他にやりたい事があるとか? だから王様になりたくないとか。
まぁ、そこの辺りは後でユウスケに軽く言い含めておくとして……僕はバナナをチョコに付けて一口。
……うん、美味しい。でも、チョコかぁ。そう言えば……フェイトからもらったバレンタインチョコ、お返しどうしよう。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そして翌朝。恭文とギンガちゃんに言い含められた事を色々考えつつ、俺は外に飛び出した。
まだ夜が開けたばかりで、肌寒くて朝もやがかかっているような時間。
「……よ」
バイク……トライチェイサーで俺はある男の子の隣まで走って、バイクを降りる。
その子は俺から逃げるように、背中を向けてどこかへまた歩こうとする。
「昨日は、大変だったな」
それは王子。またまた姿を消そうとした。なお原因は、昨日戻った後の重鎮達との会議だ。
「あ、だけどあの士って奴、そんなに悪い奴じゃないんだぜ? まぁ、俺の友達みたいなもんなんだ」
「……友達?」
即位をまた断って、それで相当にゴタゴタした。だからまぁ、行動を読んで先回りって事だな。
「近づくな」
そうはっきり言われて……俺は方向転換。
「どこかに、行くのか?」
近づかれたくないって言うなら、近づく必要もないだろ。
俺はバイクのシートを右手で二回ほど軽く叩きつつ、王子の方を見る。
「乗りなよ、連れてくぜ?」
「……どこにも、行けやしない」
どこか諦めたように、疲れたようにあの子はそう呟いた。
それを聞いた瞬間、恭文君とギンガさんが言ってた事が頭に過ぎった。
もしかしたら、本当にやりたい事が王様以外であるんじゃないかと。
だから即位出来無くて……でも、現状を放り出す事も出来無くて悩んでいる。
二人は今の現状について、その可能性を提示してくれた。ありがたくて、何度もお礼言ったっけ。
「いや」
だから俺はシートから手を離して、あの子の方へ近づきつつ首を横に振る。
「行けるさ」
でも、すぐに足を止める。近づいたのは本当に2歩か3歩だけ。これ以上は、おそらく拒絶されるから。
「本当に、そこに行きたければ」
でも、言葉に真実味を持たせたくて、後2歩だけ足を進めた。それで右手の親指で自分を指差す。
俺から背中だけを見せているあの子には見えないが、それでも俺は自分を指差した。
「俺が必ず連れていく。どこにでも。どこまでも」
あの子はゆっくりと振り返る。そして俺の後ろにあるバイクのシートを見て、軽く緊張し気味にため息を吐く。
「なぜ……違う世界から来たという、あなたがそこまで」
「……さぁな」
ほんと、どうしてだろうな。だから俺はごまかすように、苦笑しか出来な方t。
「ただ、アンタが気に入ったんだよ。あ、また飯食ってねぇんだろ」
俺はそう言いながらゆっくりと近づいて、懐から緑色のぺろぺろキャンディーを出す。
それを右手で持って、左手であの子の手を優しく取ってしっかりと持たせる。
そのままバイクに乗って、俺は走りだした。……でも、どこに行こう。とりあえず俺も朝飯か?
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
右手の中に残るのは、ぺろぺろキャンディー。それは僕の口の中にすっぽりと収まるサイズのもの。
だけど、それだけじゃない。バイクに乗るために着けていたグローブ越しに、あの人の両手の温もりまで、しっかり残ってる。
それをどう表現したらいいか分からなくて、僕はただ……ぺろぺろキャンディーを両手で優しく持つ事しか出来なかった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ユウスケとあの子の事が心配になりつつも、僕達はまたまた別れて街を探索。
なお、昨日大ポカやらかした二人には厳重注意をしておいた。夏みかんは不満そうだったけど、ここは気にしない。
てゆうか、アレは自分にも言ってるんだから。うん、マジで注意しよう……なんて思ってた時がありました。
でも、そんなのもう今更無意味だった。だって事件は、確実に起きていたんだから。
「……なぎ君、これ」
都心……キャッスルドランに近い小さめな緑生い茂る公園の一角で、何人もの人が倒れていた。
そして、全員体が透明になって生き絶えている。もうピクリとも動かない。
≪ライフエナジーを吸われたようですね。これ、テレビと全く同じですよ≫
「……そうだね」
また掟を忘れたファンガイアの仕業だと思った時、僕達の耳にある音が聞こえた。
それは、ヴァイオリンの音。僕とギンガさんはその音を追いかけて、足を進める。
まぁまぁ何かの関連性があるんじゃないかと思った。とにかく足を進めて、ある洋館にたどり着いた。
いや、洋館と呼ぶには規模は小さめだけど……玄関は崩れて、外壁には蔦だらけ。
人の手がしばらく入っていないのは明白なその場所から、ヴァイオリンの音は広がり続けていた。
僕達はそのやたらと下手くそなヴァイオリンの音に導かれるように、中に入る。
家の二階……窓際の一角に座り込んでヴァイオリンを弾いていたのは、黒髪でヒゲを生やした男性。
ただ、不精にした感じじゃない。髪もヒゲも品よく整えられていて、不潔な感じは一切受けない。
灰色のコートに黒いインナーを身に着けたその人は、どこか真剣な顔でヴァイオリンを弾いていた。
というかこれ……腕のせいじゃないっぽい。ヴァイオリンの方が、全然手入れしてないから音がアレなのかも。
とりあえず僕はしっかり持ち歩いていたヴァイオリンケースからヴァイオリンを取り出して、構えて弾く。
すると……あの人より更に下手くそな音が響いた。うん、当然だよね。ヴァイオリン初めて一日目だし。
「な、なぎ君……ひどい。これはひどいよ」
≪というか、騒音ですよね≫
くそぉ、万が一に備えて昨日夜遅くまで結界張って、街で調達した練習本見ながら頑張ったのにー。
とにかくそのひどい音を聴いて、その人がこちらを見る。じゃっかん呆れた顔してるのは、無理はない。
その部屋は途中で段差があって、緩めで段数低めな階段によって昇り降りをする作りになっている。
その手すり付きの段差の上から、その人は僕を見る。なので演奏をやめて、僕は両手で軽くお手上げポーズ。
「……ひどいな」
「昨日始めたばかりなんで。というか、多分こっちのヴァイオリンの方がいい音出ますよ? 良ければお貸ししますけど」
「いや、いい。あぁ、それと……指や弦はもう少し柔らかめに動かした方がいいな。力が入り過ぎだ」
「あ、そうなんですか。なら、試してみます。ありがとうございました」
……さて、どうするかな。別に伊達や酔狂のためにヴァイオリン弾いたわけじゃないのよ。まずは真正面からツッコむ事にしますか。
「それで……向こうの方で、人が大勢襲われていました」
僕はギンガさんが持っててくれたケースにヴァイオリンを収めつつ、あの人に話しかける。
「アレがファンガイアの本性だ」
収めてから段差を上がるための階段を、僕とギンガさんは上がっていく。あの人はまた窓の方へ歩いていく。
「人間のライフエナジーを吸収し、命を奪う」
「でもそうならないように、ライフエナジーを配給していると私達は聞きました」
それは一つの反論でもあった。そう言ったギンガさんは、きっと昨日の事を思い出している。
でもギンガさんのそんな言葉を、あの人は鼻で笑った。
「そんなもん……猛獣と一緒に暮らしたい人間がどこに居る」
「ここに居ますけど」
で、僕は当然だけど自分を指差す。あの人は振り返って、信じられないという顔で僕を見た。
「僕は『ファンガイアだから』なんて理由で壁を作りたくない。
そんなの、くだらない事だって昨日改めて感じた。ファンガイアの本性は、そんなのじゃない」
思い出すのは、あの面白いお兄さん。そしてそんなお兄さんを怖がらないあの子達。
多分ユウスケや親衛隊の人が言っている共存は、あの光景に全て集約されるんだと思う。
「僕が昨日会ったファンガイアの人は、優しくて臆病で……人と一緒に生きていく世界を信じてた。だから、そんなの違う」
「ふん、何も分かってないな」
「じゃあアンタは何を分かってるって言うのさ。……アンタ、自分がファンガイアだからそういう事を言うの?」
はっきり言って、カマをかけた。確信に繋がる者なんて、何一つなかった。
これで怒れば、単なる差別的なおじさんなのは確定。でもあの人は……驚きの表情を見せるだけだった。
「……かつてここに、人間の女が住んでいた」
そしてファンガイアの男は、僕達に背中を向けてそんな事を話し出した。
「私の愛した女だ。夢見ていた。人とファンガイアは、共に幸せに暮らせると。
だが人もファンガイアも、私達を忌み嫌い……追放した」
そして振り向いて僕を見る。その目には、明らかな拒絶の色。
『お前に何が分かる』と言いたげに僕を……ううん、全てを否定して心を閉ざしている淀んだ光がそこにあった。
「夢は、夢に過ぎない」
あの人は振り返って、また窓際へ行く。そしてあのヴァイオリンを手に取る。
「じゃあ、なんでここに帰って来たの」
次の瞬間、苛立ち気味にあの人はそのヴァイオリンを、それまで自分が座っていた縁に叩きつけた。
ヴァイオリンは左側面が大きく砕け散り、圧し曲がり……二度と音を出せないようになってしまった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
とりあえず僕達はその場から出た。出て、川の近くを歩いていく。
都心などではよくある、5メートル程の段差の下に川が静かに流れている。
あの人を放置するべきかというのも迷ったけど、攻撃は止めにした。
昨日の一件もあるし、単純にタイミングが重なっただけという可能性もある。
確証もないのに攻撃してしまったら、昨日処刑されたファンガイアとやり口は変わらないよ。
「なぎ君、どうする? このまま私達だけでどうこうは絶対無理だよ」
「確かになぁ。僕達、完全に手詰まりだしね」
「うん。……あ、そうだ。ユウスケさんに連絡取ってみようか。ほら、携帯の番号も教えてもらったから」
……なるほど、それは名案かも。どっちにしたって、あの状況を親衛隊が知らないわけがない。
それでユウスケや親衛隊の人達と協力して事件を追えば、何か分かるかも知れないし。
「ギンガさん、それ名案だよ。うーん、やっぱ頼りになるなぁ」
「ありがと。でも」
「でも?」
「それがこの世界でのやるべき事かどうかは、やっぱり分からないんだよね」
「……確かに」
別に常に目標提示されてるわけじゃないしなぁ。僕達は、そういう事すらも手探りで対処だよ。
ただ、世界毎に起こる事件に対処して解決するーって方向性は間違ってないと思うんだ。クウガの世界もそれだったしさ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
あれから僕は、おとなしく城内に戻った。なんというか、気が削がれた。
そんな時、城内に悲鳴が響き渡った。そして僕が居た玉座のドアが蹴破られた。
蹴破ったのは、ファンガイア。でも、見た事のないタイプだった。
ファンガイアの特徴とも言える、ステンドグラス風味な装飾は少なめ。ソイツの身体は、ひたすらに黒かった。
黒い楕円形の分厚い両の肩当て、黒く丸い胸元の装甲。とても太い黒色の四肢。
そしてまるで虫を思わせるような細かい装飾のある顔も黒かった。そうだ、コイツはカブトムシに似てる。
金色の二つの目に、頭部には前に小さく一本、そして後ろに一本流れるように角が生えていた。
……いや、目らしきものはまだあった。側頭部に左右でそれぞれ二つずつ。計6つの目だ。
「王子、ワタル」
ソイツは身体中から僕に敵意を向けて、ゆっくりと歩み寄りながら右手を上げて僕を指差す。
「王の証……キバの鎧、貰い受ける」
平然とそんな事を言うファンガイアは、まだ僕に近づいてくる。僕はすぐに右手を伸ばした。
「ふざけるなっ! キバットっ!」
「おうよー! キバって」
キバットがどこからともなく、僕の右手に収まるように飛んできた。そしてすぐに左手をキバットに噛ませて。
「キバットバットV世、王に従え」
その間にそのファンガイアが右手を開いた。すると、その右手の平に黒い光が渦巻いた。
それと同じ光がキバットの周囲を包むように現れて、僕の手は弾かれてしまう。
「ぐ、ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」
「キバットっ!」
そして二つの光は引き合い、瞬間的にキバットはあのファンガイアの右手に収まった。
「……お前はまだ、即位していなかったな」
ファンガイアは、右手をかざして無抵抗にただ掴まれ続けているキバットを、僕に見せつけた。
「だから王の鎧、俺が頂く。……そして、俺が王になるっ!」
「王子っ!」
蹴破られたドアから入って来たのは、金色の角をした蒼い二本足で歩く狼男。
なお、僕の側近の一人でガルル。そして昨日あの場に僕を迎えに来た二本角。
「お前達……頼む、ソイツを取り押さえてくれ」
だけど、二人は動かない。動かずに自分達の方へ振り返るソイツを見て、後ずさりした。
「あ、あなたは」
「まさか……そんな、お戻りになられたのですかっ!?」
そんな二人を鼻で笑いながら、アイツは部屋の奥……玉座の方へとゆっくりと歩いていく。
アイツが目指す先にあるのは、金色の装飾に四足。背もたれが赤色になっている椅子。
その椅子が置かれている場所は、3段程の階段付きの段差の上。その周囲には、バラの花弁が敷き詰められている。
そこが王の椅子。僕がずっと敬遠していた場所。だけどソイツは、平然と足を踏み入れていた。
足を踏み入れ、当然と言わんばかりの態度を身体中から撒き散らし、ソイツは椅子に座った。
その衝撃で薔薇の花が辺りに舞い散る。舞い散って……その花びらの香りが、部屋に充満する。
「俺が……王だ」
その声を皮切りに、側近二人が王の前に跪く。
まるで僕など居ないもののように扱い、二人はあのファンガイアを王として認めた。
「キバの鎧は受け継がれた」
「この方が……王だ」
ガルルも、角付きも、平然とそう言った。僕はただ崩れ落ちて、その光景を呆然と見ている事しか出来なかった。
「……俺は掟など廃する」
そして王はその権限と資格を持って、唐突に新しい法を作る。
なぜなら王は、その権利を持っているからこそ……王だから。
「人間との共存など不要。ファンガイアは人間をむさぼり尽くす。逆らうものは……滅ぼす」
その言葉に、二人は顔を上げる。でも、王が二人に視線を向けると……すぐに顔を下げて従う。
これまでとは全く正反対の方向性。でも、逆らう事は許されない。なぜならアレが今の王だから。
「まず手始めに」
そして王は左手で僕を指差す。二人は僕の方を見て、ゆっくりと立ち上がった。
王の命令だから……だから、従うしかない。だから二人は、僕に向かって殺気を向ける。
「そんな事許すかっ!」
その声と同時に部屋に飛び込んで来たのは、ユウスケだった。
ユウスケは僕を庇うように、二人の前に立ち塞がる。
「……新たなファンガイアの王の御前であるっ! 控えよっ!」
「……王は」
言いながら、ユウスケは両手をお腹に当てる。すると、銀色のベルトがそこから浮き出るように姿を現す。
そして右手を突き出し、ゆっくりと左へ移動させていく。
「ワタルだ」
そう迷いなく言い切ったのを見て、胸が苦しくなる。そして同時に、頭がこんがらがってくる。
なぜそこまで出来るのか、本当に分からない。分からないから僕は、また後ずさりした。
「変身っ!」
ユウスケはそう言って、腰に添えるように弾いていた左腕を右手で上から押す。それから赤い戦士に変わった。
それはユウスケ達が止める前、ディケイドが変身していたあの戦士に似ている。
「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」
そのまま二人に向かって飛び込んで、組み合うユウスケを見て……そして、玉座を見る。
僕は立ち上がり、首を横に振りながら振り返って部屋から全速力で駈け出した。ううん、逃げた。
「……ワタルっ!? おい、ワタルっ!」
「この、愚か者がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
後ろから聞こえる激しい音や悲鳴に耳を塞ぎながら、僕は外に飛び出した。もう、嫌だ。もう嫌だ……こんなの、もう嫌だ。
もう僕は王じゃない。もう王にはなれない。でも、もしかしたらそれでいいのかも知れない。
だってあの王の命令した事が、僕達ファンガイアの本性なんだから。きっと、こうなる運命だったんだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
とりあえず僕達は光写真館に戻って、ユウスケに電話。だけど……全然繋がらない。
おかしい。親衛隊って仕事柄なら、普通に電話は常に直通にしておくでしょ。
そうじゃないと、昨日みたいな事があった時に円滑に連絡が取れなくなっちゃうもの。
そこの辺りに首を傾げていると、何回目かの電話の時……ようやく、ようやく繋がった。
『……はい?』
「ユウスケ、僕だよ」
声を聴いて、一瞬で緊張感が高まった。だってユウスケの声、普通におかしいのよ。
いつものバカスケボイスではなく、もう虫の息と言わんばかりに掠れて喋るのも辛そうだし。
『あぁ、恭文……か。ちょうど、良かった』
「何がよ。てゆうか、一体何があった?」
『悪い、今から言う場所にちょっと迎えに来てくれないか?
というか、ちょっと手伝ってくれ。……このままだと、ヤバい事になる』
「いや、だから何が? ユウスケ、本当にどうしたってのよ」
僕の様子からただ事じゃない何かを察したのか、ギンガさんが軽く身体を近づけてくる。
胸が当たって柔らかいとか色々あるけど、そこを気にしてる余裕は……多分、無い。
『……王が即位した』
「王? え、あの子王になったんだ」
『違う。俺も知らないようなファンガイアだ。そしてソイツは……共存の掟を廃した』
共存の掟……ユウスケの言っている意味が最初分からなかったけど、すぐにその重要性が理解出来て息を飲む。
『ワタルに付き従ってた側近も……全員、ソイツに従って……マズいんだ。
このままだとファンガイアは人間を無差別に襲って、喰い尽くすまで止まらない』
「はぁっ!?」
そんな時、僕達が居る撮影室のドアが開いた。人の気配自体はさっきからしていたので、視線だけをそちらに向ける。
「ユウスケ、もしかして王子様もさっきから行方不明だったりする? 少なくとも城には居ない」
『あぁ。アイツ、やっぱ色々あるみたいで……って、ちょっと待て。なんで恭文がその事知ってるんだよ』
「そりゃ当然だよ。だって王子様、たった今ここに来たんだから」
入り口に居たのは、昨日見たまんまの王子様だった。視線を床に落として、僕達から目を背けるようにしている。
『なんだってっ! ……あ、痛ぅ』
「あぁもう無理しないのっ! すぐにもやし達に連絡取って向かわせるから、そこでジッとしてろっ!」
それで撮影室の入り口で立ち尽くす王子様に聴こえないように、僕は小声で話を進める。
「王子様は僕とギンガさんで相手しとくから。で、対策も練っておくから無理しないように」
『分かった。悪いけど、よろしく頼む』
どうやらこの世界でやるべき事は、これらしい。この『クーデター』を止めて、世界を救う事。
それが僕達がやるべき事。でも、どうしよう。対処に関しては昨日話した通りなんだよ?
正直これで無理矢理この子を王にしたって、意味がないよ。そんなやり方、絶対に良いわけがない。
でもそうすると……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! いくらなんでも僕達だけでこれって難易度高過ぎないっ!?
(第4話へ続く)
あとがき
恭文「というわけで、お待たせしましたキバの世界です。今回のお話は僕とギンガさん中心だね」
あむ「なら、あの士さん達はちょっと脇?」
恭文「うん。というかアレだよ、僕達が忙しくやってる間、二人はカイザとドンパチしてるから」
あむ「はぁっ!?」
(詳しくはテレビを御覧ください)
恭文「というわけで、本日のあとがきのお相手は蒼凪恭文と」
あむ「日奈森あむです。てか、またユウスケさん登場だね」
恭文「うん。だってこのままレギュラーだし」
(ほぼ原作通りです)
恭文「てゆうか、アレだよね。やってみて思ったけど、やっぱり難しいテーマが沢山あるよね」
あむ「人種差別とかそういう方向?」
恭文「うん。人と違うって、やっぱり難しいねー。色んな意味でさぁ。
そして作者的には、今回の話を書くのはかなり難しかったとか」
(結構あっちこっちにシーンが飛ぶので、分かりやすいように纏めるのが大変でした)
恭文「あ、それと誕生日おめでとうのメッセージ、ありがとうございましたー。作者も僕もホクホク顔ですー」
(ありがとうございましたー)
恭文「でもさ」
あむ「何?」
恭文「……僕宛てにDホイールもらったんだけど、どうすればいい?」
(※ 遊星「恭文、遅くなってしまったが誕生日プレゼントとしてDホイール(青&白カラー+スターライトのエンブレムが描かれた遊星号)を贈りたい。
恭文専用という事でエンジンとフレームを強化していたら手間取って遅れてしまった。
このDホイールはデュエルディスクだけでなく、セブンモードの剣も恭文が扱い易い場所に取り付けられる様にしておいた。
これでバイクアクションを行えるはずだ。恭文、このDホイールと共にこれからも自分の想いを貫き通して欲しい。誕生日おめでとう!」)
あむ「……本編に出してバイクアクションするしかないよ」
恭文「やっぱり?」
あむ「やっぱりだね。もしくはライディングデュエルだよ」
恭文「他にDホイール乗ってるのなんて居ないんですけどっ!?」
あむ「だからアレだよ? バイクで走りながら実際にモンスター召喚して戦闘を」
恭文「どこのお話っ!? てゆうか、まずバイクで走りながらってのが難しいからっ!」
(まぁ、いつか出そう。せっかくだしいつか出そう。ほら、セブンモードも搭載出来るし)
恭文「ま、まぁ後でちょっと走ってくるよ。ほら、せっかくもらったしね。あの、ありがとうございました」
(蒼い古き鉄、そう言いながらお辞儀。どうやら感謝の気持ちでいっぱいらしい)
あむ「でもさ、恭文……この調子でアンタ達いつ元の世界に帰れるの?」
恭文「分かんない」
あむ「なにそれっ!」
恭文「いや、マジで分からないんだから。でもあれだ、戻らないと確実に大問題だし」
あむ「まぁ、みんな心配してるだろうしね」
恭文「でも、六課に居るよりこっちの方がなんだかんだで楽しいんだよねー。ワクワクだしさ」
あむ「……あぁ、そうだよね。冒頭なんて凄い勢いだったしね。えー、とにかく次回だね。
掟はどうなるのかとか期待しつつ、本日はここまで。お相手は日奈森あむと」
恭文「きっともやしが一人で何とかしてくれるので、チョコフォンデュを食べようと思う蒼凪恭文でした」
あむ「それダメじゃんっ! ちゃんとアンタも働けー!」
(でも、原作だとそういう形なので問題なかったり。
本日のED:TETRA-FANG『Destiny`s play Re-Union』)
スバル「……あの、八神部隊長。恭文達」
はやて「消えて……いや、消えたよな? うちら、なんにも見間違えてないよな?
ドア潜ったらオーロラみたいなのが出て、それでぱーって……なんやアレっ!」
スバル「ギン姉っ!? 恭文もどこっ! ……って、叫んでも意味ないしっ!」
はやて「スバル、すぐに隊舎に連絡っ! それで二人の事、何がなんでも見つけ出すでっ!」
スバル「了解ですっ!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ヒロリス(本局にお出かけ中)『……やっさん達、見つからないんだって?』
サリエル「あぁ。今フェイトちゃんに確認してきたが……相当だった。いつ崩れてもおかしくないぞ。
というかアレだ。やっぱり六課に戻ってきてたのが苦痛だったのかって、相当落ち込んでるんだ」
ヒロリス『いや、今回のコレとは関係……確かに事実だけどさぁ。
やっさん、修行から戻ってきてからは相当つまらなそうだったしなぁ』
サリエル「スバルちゃん達や高町教導官にフェイトちゃんは、気づいてなかったけどな」
ヒロリス「そのメンバーは仕方ないよ。やっさんも一度飛び出した手前っていうのもあるし、中々ねぇ。
てゆうかさ、サリ。実はちょっと気になる事があるの』
サリエル「気になる事?」
ヒロリス『いやね、やっさんとサリとで一緒に作ったベルト……DEN-Oジャケット以外にもう一つあるじゃない』
サリエル「あぁ、あるな。お前の方で保管してたアレだな。それがどうしたんだよ」
ヒロリス『今保管場所見たら、無くなってた』
サリエル「……は?」
ヒロリス『だから、やっさんが失踪したって分かったその日に無くなってたんだよ。
なお、ドロボウに入られた形跡は全く無い。てか、DEN-Oジャケットだけ無事ってのはおかしいでしょ』
サリエル「それはまた……あー、そうだ。実は俺も一つ気になる事がある。これ、フェイトちゃんが言ってたんだが」
ヒロリス『なによ』
サリエル「やっさんの家から、デンバードが消えてた。それでな、気になるのはここからだ。
……デンバードもやっさん達が飛び込んだって言うオーロラに包まれて消えたらしいんだ」
ヒロリス『……マジ?』
サリエル「マジだ。フェイトちゃんが監視カメラで確認したらしいからな。
てゆうかよ、オーロラで消えるってなんか覚えないか?」
ヒロリス『うん、私もそこ考えてた。でも……いやいや、まさかね? いくらやっさんの運がアレだからと言って』
サリエル「電王が実在してたくらいだし、居てもおかしくはないが……マジだったら、ホントどうするかな」
(おしまい)
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