小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第2話 『クウガの世界/超越』
ギンガ「これまでのディケイドクロスは」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「あなた……何者?」
「見ての通りの国産もやしです」
「そうそう……って、おいっ!?」
「まぁ、確かに外国産には見えないけど」
「そしてアンタも乗るなよっ!」
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恭文「というわけで、いきます」
ギンガ「……またなのっ!? また諦めちゃったのかなっ!
あと、大事なところを何一つ語ってないよねっ! これじゃあワケ分かんないよっ!」
恭文「大丈夫。1話から読み返してもらえれば」
ギンガ「それじゃあ意味が無いよー!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
とりあえず、もやしはもやしでキックホッパーと戦い始めた。叩き込まれる蹴りを手で弾きつつ下がる。
何気にもやしは正統派というか、きっちりとした戦い方をする。防御も攻撃も、かなりオーソドックス。
でも、それが凄い。感情に左右されてやたらと攻撃的になって、隙を作ったりは多分しないタイプだと思う。
ここはアレだ。フェイトも見習って欲しい。そうじゃないと、マジで僕は色々安心出来ないし。
かく言う僕も……打ち込まれた右拳に向かって、袈裟にアルトを叩き込む。……クロックアップ使われる前に勝負つけてやる。
「はぁっ!」
その瞬間、パンチホッパーの拳とアルトの刃が交差して、僕達もすれ違う。
そこからすぐに振り向きつつ右切上にアルトを叩き込む。パンチホッパーは、遠慮無く左拳を僕に叩きつけてきていた。
それを打ち込んだ刃で弾いて、刃を返して唐竹にアルトを踏み込みつつも叩き込む。
刃は浅くだけど、パンチホッパーの右の肩口を捉えて、火花がまた発生する。
パンチホッパーはそれに圧されるように数歩自分から下がって、一度跳躍してから拳を構え直す。
構えはオーソドックスなボクシングスタイル? ううん、結構投げやりな感じになってるな。
でもその金属質な身体から溢れるのは、明確な敵意。さて、冷静になれよ。
単純に考えて、一発でも食らったら大ダメージは確定だ。ここは……相手の動きを読んで全避け。
”アルト、大丈夫?”
”問題ありません。もう遠慮無くやっちゃいましょう”
”了解”
間合いを取りつつも、もやしの方を見る。もやしは二連撃で来た回し蹴りをしゃがみつつ避け……うん、安心出来るわ。
どこで練習したかは知らないけど、やっぱり戦闘技能はしっかりしてる。これなら、このままでOKでしょ。
「……で、お前達どっから来たわけ?」
まぁまぁ答えは予測出来るけど。
「地獄からだ」
パンチホッパーは、平然とそう答えた。……コイツ、僕の知ってるパンチホッパー? とりあえず声は似てる。
とにかくパンチホッパーは一旦その緩めな構えを解いて、僕に左手を向けて指差してきた。
「お前も地獄へ来い」
「嫌だね。兄弟仲良くしたいって言うなら、お前らだけでやってろ」
横目でもやしを見ると、首根っこ掴まれてそのまま左足で蹴られてた。それで、僕は即座に左に移動。
理由は当然、パンチホッパーの叩き込んできた右拳での攻撃を回避するため。でも、すぐに肘鉄が来た。
僕の方へ向き直りながら、頭に向かって叩き込まれた肘鉄……ううん、裏拳を少ししゃがんで避ける。
避けつつも反撃……いや、そこから後ろに下がった。左足で蹴り上げてきた。
それをすれすれで回避しつつ距離を取って軽く身体を起こすと、パンチホッパーは右手を振って殴りかかって来た。
「ちょこまかと」
パンチホッパーは走り込みながら、左手でベルトを操作。
バックル部分に居る、ボディと同じ色のバッタ型のレバーを動かす。
なお、アレはパンチ・キックホッパー変身用のアイテム。
それがあのベルトの上に装着されると、あの地獄兄弟のお仲間入りってわけだね。
≪Rider Jump≫
それから右拳を地面に叩きつける。すると、右手のジャッキが射出されて……パンチホッパーの身体が浮き上がった。
そうやって僕に向かって大きく跳躍。跳躍しつつ、またベルトを操作。今度はさっきとは逆の動作。
≪Rider Punch≫
パンチホッパーの右手に赤い光が宿る。それを見て、一気に寒気が強くなる。ヤバい、アレ食らったら……死ぬ。
「潰れろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
だってアレ、必殺技だもの。まさか自分が食らう立場になるとは思ってなかった。
とにかくパンチホッパーは右拳を振りかざして、僕にそのまま叩き込んで来た。
世界の破壊者、ディケイド。8つの世界を巡り、その瞳は何を見る。
『とまとシリーズ』×『仮面ライダーディケイド』 クロス小説
とある魔導師と古き鉄と破壊者の旅路
第2話 『クウガの世界/超越』
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「潰れろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
だって、アレ、必殺技だもの。まさか自分が食らう立場になるとは思ってなかった。
とにかくパンチホッパーは右拳を振りかざして、僕にそのまま叩き込んで来た。
「……甘いわボケっ!」
僕は飛び込みつつ、左薙にアルトを叩き込んだ。そうしつつパンチホッパーと空中で交差。
地面に着地してからすぐに時計回りに振り返ると、パンチホッパーは地面に叩きつけられて倒れていた。
「……お前、分かってないでしょ。ジャンプしつつ『死ね・潰れろ』などと言いながらの攻撃は」
拳は僕に掠りもせず、ただ地面を貫いて爆発を起こすだけ。……本当に甘い。
ザコ敵ならともかく、この状況であんなフラグ発生しまくりな攻撃をするとは思わなかった。
「完全無欠にブッチギリの死亡フラグだよ」
≪能力がどれだけあろうと、そんなフラグを踏むような奴に負けるわけがありません≫
パンチホッパーが起き上がっているところに、緑色のが転がり込んできた。それはパンチホッパーの右側で起き上がる。
左を見ると……な、なんか腰のカード出すアイテムを、銃に変形させているもやしが居た。なお、銃は左手で保持。
「……お前ら、マジでどっから来た」
「地獄から来たんだってさ」
「お前に聞いてねぇよ」
などと言いながら、もやしが右手で何かのカードをバックルに挿入。
≪ATTACK RIDE≫
そして銃を持った手も上手く使って、バックルの両側を押し込んだ。
≪BLAST!≫
もやしがそのまま即座に左手の銃を向けると、手の周り……銃も含めて約5つの幻影が見えた。
それはまるで銃そのものがコピーされたようにも見える。そしてその幻影も含めた全ての銃口から、赤い弾丸が掃射された。
ガトリングかマシンガンかと言うような勢いで掃射された弾丸は、あの地獄兄弟へと真っ直ぐに向かう。
でも、あのオーロラが突然に発生。僕達と地獄兄弟との間を遮った。それが障壁となって弾丸を防ぐ。
それを見てあの二人は、舌打ちするような素振りを見せて、その障壁を見据えた。
「……行こうよ、兄貴」
さっきまで戦っていた僕達ではなく、障壁を。
「あぁ。また、別の地獄が待っている」
キックホッパーの言葉を合図に二人が目の前の障壁に飛び込むと、二人はそのまま消えた。
突然に現れて突然に消える。そしてオーロラ障壁も消えて……僕達は取り残された。
「……もやし、なにこれ?」
「さぁな」
とりあえず、セットアップは解除する。もやしも変身を解除。なお、周囲の警戒……ん?
僕は後ろを振り返ってそちらを見ると、なんか怒った顔の女性とよく知っている顔があった。
「ギンガさんっ!? てゆうか、それに夏みかんまでっ!」
「夏海ですっ!」
≪あなた達、いったいなにしてるんですか≫
「えっと、あの……ごめん、なぎ君。夏海さんがいきなりここに向かって走りだして」
困った顔をしているのは、僕が絶対に戦闘に関わらないようにって言ってたせい。
それを見て……まぁ、一応は安心した。ちゃんと分かってくれてるみたい。
「……あなた達、いったい何やってるんですかっ!? ライダーと戦うなんてっ!」
「いや、だって向こうが襲ってきて……ねぇ?」
「そんな事聞いてませんっ! とにかく早くクウガを離してっ! ほら、早くっ!」
「それ聞かないって人として最低でしょっ!」
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なぜか凄まじい剣幕の夏みかんにもやしは鼻を引っ張られ、僕は夏みかんのもう片方の手から逃げながら移動。
なお、あのバカに関しては途中空気だった八代さんに全部任せてある。というか、後ろに居る。
それで八代さんが車を止めた位置まで来て、夏みかんは鼻を引きちぎらんとする勢いで腕を動かした。
「痛ぁっ!」
「……あなたの使命はっ!」
何度も言うけど、僕は何故に夏みかんがここまで怒ってるかが分からない。とりあえず夏みかん呼ばわりは原因じゃない。
ちなみにギンガさん達は、僕ともやしがあの地獄兄弟と交戦し始めた辺りから見始めたとか。つまり、原因はそこか。
「8つの世界を巡って……お前の世界を救う事」
もやしが指先で慎重に自分の鼻がモゲていないかを確かめる。というか、ちょっと怯えてる。
それはそうだろう。今や夏みかんは何かの怪獣張りに、僕達に恐怖をまき散らしているんだから。
「あなたの世界でもあるでしょっ! あと、あなたもっ!」
言いながら、もやしの後ろに隠れていた僕に厳しい視線を向ける。なので、僕は後ろを振り向く。
「どこ向いてるんですかっ!? 私は今後ろを振り向いているあなたにだけ言ってるんですっ!」
ち、何気にツッコミがキツいな。てゆうか、なんでここまでキレてるの?
「さっきも言いましたけど、他のライダーと戦う必要なんて無いんですっ! なんでいきなりあんな事になるんですかっ!」
「……夏みかん、バカじゃないの?」
「バカはあなたでしょっ!?」
≪いいえ、バカはあなたですよ。あなた、いきなり殴りかかってきた連中相手に無抵抗で殺されてろと言うわけですか?≫
アルトが低めの声でハッキリそう言うと、夏みかんが僅かにたじろいだ。
≪特にあのクウガのバカスケですよ。こっちの話完全無視なんですよ?
むしろもやしさんもこの人も、傷つけないように攻撃はほとんどしてないんですから≫
「そうだよそうだよ、殴りかかって来たのはあのバカスケ。そして地獄兄弟の二人だよ。
大体、呼んでもないのにいきなりしゃしゃり出てきて横からごちゃごちゃ抜かすなってーの」
さて、僕と付き合いの長い読者なら、もうお気づきであろう。僕は軽くお冠なのよ。
僕が嫌いな事の一つに、鉄火場での事を横からごちゃごちゃ抜かされる事というのがある。
そして、今まさしくこの脳みそが腐ってるとしか思えない夏みかんがそれをやってる。
なので、視線を険しくしてビシっと言ってやるわけですよ。てゆうか、マジでこんな事が続くとめんどいし。
「はっきり言うけど、お前が来ても迷惑だよ。もう写真館から一歩も出るな」
「な……なんですかそれっ! 人が真剣に話してるのにっ!」
「いや、だから僕だって真剣よ? 真剣におのれがただの足手まといだって言ってるんだから」
「ふざけないでくださいっ! あなたどうしてそういう事が」
「あぁ、夏海さん落ち着いてくださいっ! なぎ君ももうだめっ! ケンカしてる場合じゃないでしょっ!?」
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「姐さん、何怒ってるんだよ」
「……門矢士も、蒼凪恭文も人間だった」
そこだけは間違いない。それはユウスケだって見ていて分かったはず。
だから……なにやら荒れ模様な彼らはそれとして、私はユウスケにお説教。
「なぜいきなり戦いを仕掛けたの」
「聞いていたんだ。ディケイドって敵が来ると。それに……アイツだってその仲間だ」
「「仲間じゃないっ! 間違えるな、このバカスケっ!」」
いきなり横からこちらを指差して言って来たのは、たった今自分達は仲間じゃないと否定した二人。
とりあえず、敵かどうかは別として彼らの息が合っているのはよく分かった。
とにかく誰からそういう話を聞いていたかは、後で聞く事にする。なお、私は全くの初耳。
でも、そこについて考えている余裕は今はない。私はあの二人の方に歩いていく。
「門矢巡査」
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「門矢巡査、聖なるゲゲルとは本当なのですか?」
さて、ごちゃごちゃ抜かした足手まといの厳しい視線は無視して、話は進む。
八代さんがこちらに来ながら、もやしに対してそう聞いてきた。
「本当だ。あの山に」
言いながらもやしが反時計回りに左手を動かして指差すのは、例の灯溶山。
なお、それが夏みかんからすると位置的に自分に裏拳かまされたと同じになってしまった。
なので、『ひっ!』と言いながらそれを夏みかんはしゃがんで避ける。
当然だけど、もやしはそんな事は気にも止めない。……さすがもやし、やる事が違う。
「究極の闇とやらが眠っているらしい」
究極の闇……テレビだとダグバの事なんだけど、ここだとどうなんだろ。
なにせクウガがあの見境無し野郎で、一条さんポジションがこの人でしょ? 色々変わってるかも。
「その目覚めは阻止された……という事よね。……今なら警察で倒せるかも知れない」
「え、あの……ちょっと待ってっ! それなら僕達も一緒に」
さすがに究極の闇なんて単語を聞いたら、居ても立っても居られない。だけど、八代さんは首を横に振った。
「いいえ、あなた達はここに残って」
「でも」
「いいから。うちのバカスケが迷惑かけて、消耗もしてるでしょ? 少し休んだ方がいい。
……もちろん、あなたが私達を心配してくれているのは分かるわ」
八代さんはしゃがんで、僕に目線を会わせて……真っ直ぐに僕の事を見る。
優しく、どこか不器用に安心させるように僕に笑いかけるのは、僕の事を子どもかなにかだと思ってる可能性があったりする。
「まだ未確認生命体が居る可能性もあるし、あくまでも調査に留めるから。……ね?」
でも、瞳そのものは真剣なもので……僕は、何も言えなくなって頷いた。
「……分かりました。でも、何かあったらすぐに連絡してください」
「えぇ。ありがと」
そのまま八代さんは止めてあった黒の標準的な乗用車に乗り込んで、この場を後にした。
そして、この場には僕ともやしとギンガさんと夏みかんとバカスケの五人が……五人?
当然だけど、みんながバカスケを見る。それによりバカスケが居心地が悪そうに、視線を泳がせた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『いただきまーす』
結局、放置など出来なかった。というか、ギンガさんとKYみかんが許してくれなかった。
もやし共々甘い女性陣に頭を抱えつつも、僕達は光写真館に戻ってきていた。
なお、その間にギンガさんとのタンデムという楽しいイベントもあったりして……ギンガさん、顔真っ赤だった。
そして現在、撮影所のはずのここで僕はみんなと一緒にポトフを食べるところ。
このポトフ、ギンガさんが仕込みを手伝った栄次郎さんの自信作。
ちなみにポトフとは、フランスの家庭料理で『火にかけた鍋』という意味の煮込み料理。
牛肉や鶏肉、ソーセージなどの肉類と大きく荒く切ったニンジンにタマネギ、カブやセロリなどの野菜類。
それを、長時間かけてじっくり煮込んだ料理。スープは食塩、香辛料(コショウ、ハーブ等)などで味を調える。
ようするに素材から出てくる旨みがスープに染みこんで、それを整えるための調味料って事だね。
大体はマスタードを添えてから、食べやすい大きさに切った上で皿に盛って食べるのがオーソドックス。
そういう意味では、ある意味簡単だとも言える。野菜切って煮こむだけだしね。
だけど、本格的に作ろうと思ったら意外と手間をかけないと美味しくならないのが、ポトフの奥の深いところである。
それで栄次郎さんのポトフは、じゃがいもに小さめのウィンナー、キャベツに人参が入ったもの。
ウィンナー以外は結構具材も大きめで、食べ応えもかなりあると思われる。
というわけで、僕はカブを。バカスケはじゃがいもをスプーンで一口大に割った上でいただく。
それで……僕達は声を揃えて、思わず声に出してしまった。
「……美味しい」
「うめぇっ!」
な、なんですかこのレベルの高さっ! 普通にお店でお金取ってもいいレベルだってっ!
「うめぇだろ?」
僕は右を向くと、そこには栄次郎さん。ちなみに撮影室の隣はなぜかキッチンという不思議仕様。
というか、食卓もそこにあるんだよね。うーん、やっぱり不思議だ。
「そのポトフはね、昨日の夜から仕込んどいたんだ」
キッチン近くのテーブルでなにやら作業してる栄次郎さんが、誇らしげに笑う。
……なんというか、凄い人なのかも。いや、本当に色んな意味でさ。
「おじいちゃん、ありがと」
「うん」
でも、これから……だめだ。僕には今ひとつ想像出来ない。
「あー、ギンガちゃんもありがとね。昨日は仕込み、いっぱい手伝ってもらっちゃってさ」
「いえ、大丈夫です」
「というか、量足りてる? ギンガちゃん、いっぱい食べるからなぁ」
「はい、大丈夫です。もう美味しくいただいてます」
さて、みなさんお忘れだろうから一応おさらい。ギンガさんは、通常の何倍もの量を一度の食事でいただく。
なので、ギンガさんの皿だけ僕達の皿と三回りほど大きくて、ポトフの具材もビックバン盛りになってる。
「……いや、待て待てっ! ギンガマン、それはどう考えてもおかしいだろっ!
てゆうかアレかっ! 蒼チビがあんまりに無茶苦茶やり過ぎるんで、ストレスのせいで食べ過ぎるとかかっ!」
もやし、失礼な事を言うな。僕がギンガさんにいつストレス……かけてるよね。うん、ごめんなさい。
「というか、昨日も一緒に居て思いましたけど食べ過ぎですよっ!? そんなんじゃ太りますってっ!
……確かにこの子は士くんに負けず劣らず失礼極まりないですから、苦労してるのは」
右手でハリセンを即座に出して、失礼な事を抜かすKYみかんの頭を叩く。
それによりとてもいい音が響いた。そして、KYみかんが頭を上げて僕を睨みつける。
「何するんですかっ!? ……もういいです。それなら」
隣に居る僕を睨みつけて、左手の親指を立てて胸元で構える。
「光家、秘伝っ! 笑いのツボっ!」
とか言いながらなんか出して来ようとするので、右手で持っていたハリセンをそこら辺に放り投げる。
あとでしっかり回収するから問題はない。その上で、左手を掴んで捻り上げる。
「痛い痛いっ! というか……何するんですかっ!?」
「食事中にバタバタ暴れるからでしょうが。全く、これだからKYみかんは使えない」
「なんですか、それっ!? 私KYじゃありませんっ!」
「とにかく……もやし」
なんかまた右手で僕の首元を狙ってくるので、それは左手で取ってまた同じように捻り上げる。
なーんか『痛い痛いっ!』って叫んでるけど、僕は気にしない。これは自己防衛のためだし。
「信じられないのも無理はない。でもね、ギンガさんの食事の量はこれが基本だから」
「嘘だろっ!?」
「えっと……本当です。ちなみに私の妹も同じ感じで」
「マジかよ。……世の中には、まだまだ不思議ってやつが沢山残ってるんだな」
「士くんっ! 平然と話を進めないでこの横暴な人を止めてくださいっ!」
なんか色々ムカついたので、僕はKYみかんの両手を大きく上げる。その上で魔法発動。
空間固定型のバインドを両手両足に発生させて、それでKYみかんを縛った。
「というか、ギンガさんまで同じって……え、なにこれっ!?
足も両手も動かないっ! あなた、いったいなにしたんですかっ!」
「もやしー、KYみかんはダイエット中だからもう食べないってさー。ほら、ポトフどうぞ」
僕はKYみかんの皿を引ったくって、そのままもやしに差し出す。
「あなた、なにしてるんですかっ!」
「お、悪いな。……夏みかん、過度なダイエットはやめておけよ? 男はガリガリだと逆に引くからな」
「士くんもそう言いながらポトフ食べないでくださいっ! それ私のですよっ!?」
「バカ。俺のものは俺のもの、お前のものは俺のものって言うだろ」
「そんなの聞いた事ありませんよっ!」
ちなみに、ギンガさんがこの状況を無視なのには理由がある。……目が軽く怒ってたもの。
その怒りの対象が誰かとか、どうしてそうなるのかとかについてはご想像にお任せする。
「……そういやさ、これもやしの写真なんだって?」
そんな食卓の隅に置いてあったのは、数枚の写真。僕はそれを右手で取る。
僕の後を追いかけるように、バカスケもポトフを食べる手を一旦止めて写真を取った。
「士さんの? どれどれ……え」
「なんだこれ、ピンボケばっかりじゃないかよ」
ギンガさんが驚きの表情を浮かべて、バカスケがおかしいと言わんばかりの言葉を放つ。
原因は、標準的な基準で言えばピンボケしていて全くよく映っていない写真。これがもやしの撮った写真。
「……お前達が、俺にふさわしくないだけだ」
その写真の中には、いつ撮ったのか僕とギンガさんの写真まであった。もちろんバカスケ……というか、ユウスケのもだ。
ユウスケが左手で写真を持って、またポトフを食べ始める。僕もまぁ、同じ感じ。
「ふさわしくない? どういう意味だよ」
「お前達の物語がつまらないって事だ」
もやしがそんな事を言いながら、ユウスケの皿に人参を入れていく。
それを見て、入れられた分プラス自分の分の人参をユウスケはもやしの皿に移していく。
「俺の物語だとっ!?」
そしてもやしは左手でユウスケの持っていた写真を取り上げた。
「惚れた女に褒めて欲しいから戦う」
その写真を放り投げるようにして、元あった場所に置く。
その上でもやしは、自分の皿とユウスケの皿を入れ替えた。
「それじゃあ俺は感動しないっ!」
「なんだとっ!?」
「あの、二人共そういう会話しながら嫌いな物押し付けあうのやめませんっ!?
というか、好き嫌いはダメですよっ! このポトフの人参だってすごく美味しいのにっ!」
ギンガさんにそう言われて、二人が顔を見合わせる。そしてユウスケは開口一句、こう言い放った。
「……お前、やっぱり悪魔だ」
「俺のせいじゃないだろ。てーか、それはなんの話だよ」
「あ、私も気になります。士さんが悪魔って……その、どういう事ですか」
「あぁ……言われたんだよ。初めてベルトを手にした時に」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「いつか君の前に悪魔が立ち塞がる」
「悪魔?」
「全てを破壊する存在……ディケイド。それが君の本当の敵だ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
≪――で、あなたはその誰とも知らない人の言う事を律儀に信じて律儀に守ったと≫
「そうそう、そういう事……って、今の誰の声?」
「バカスケには一生分からないよ。てーか、バカ過ぎて救いようないし。
万が一にもディケイドがこんな性悪じゃなくて、凄まじく良い子だったらどうするつもりだったのさ」
食べる手はやっぱり止まっていて……僕はもやしの写真をただ見ていた。
両手で数枚の写真をしっかり見ていると、これが中々に面白い。
「こらこら、年上をバカスケって言うもんじゃないよ? おチビ」
「あ?」
写真から視線を外してバカスケを睨みつける。すると、バカスケが震えながら椅子ごと少し後ずさった。
「……ごめんなさい」
「よろしい」
「それでその、話戻すけど……てゆうか、それなら分かるだろ」
「説得力ないな。お前、俺の話も聞かずにいきなり殴りかかってきただろうが。
大体、人間なんて見ただけで分かるわけないだろ。だからお前はバカスケなんだよ」
「……う」
自分でもそこは分かっていたのか、軽く唸りつつバカスケは人参と格闘を始めた。
ギンガさんに怒られるのは嫌なのか、もやしと仲良く半分こしつつ人参をいただいている状況である。
「……なぎ君、どうしたの?」
「へ?」
「さっきから士さんの写真、ずっと見てる」
ギンガさんにそう言われて、まぁ……もやしを調子づかせるのは嫌だけど、正直に言う事にした。
「いや、これ全部いい写真だなと思って。もやし、写真の才能あるんじゃないの?」
そう言うと、空気が一瞬で固まった。そしてギンガさんとユウスケと夏みかんが同時に叫ぶ。
『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』
≪……あぁ、確かにいい写真ですよね≫
「でしょ?」
「……蒼チビ、お前マジか?」
「うん」
まぁ、確かにピンボケしまくりで一般的な視点から見るとちょっとアレだと思う。
でも、僕はこう……この写真に何かを感じている。だからさっきから目が離せなかった。
「ほら、この写真を見てると何かこう……感じない? 世界の広がりとか、真実ってやつがさ。
ただピンボケしてるというだけが、この写真の価値じゃないよ。うん、これはいい写真だ」
「あの、あなた大丈夫ですかっ!? 特に頭がっ!」
「そうだぞ君っ! 多分あれだ、さっきのは俺が悪かったんだよなっ!?
だから頼む、落ち着いてくれっ! 大丈夫、まだ引き返せるっ!」
「なぎ君、あの……確かになぎ君のセンスが独特なのは知ってたけど、さすがにこれは……あの」
なぜだろう、みんながとっても微妙な顔をしている。……いや、一人違う。
もやしはまるで勝ち誇るかのように、動揺している三人を見る。
「ふん、お前ら凡人には分からないだろうな。言うなら俺の写真はもはや神の領域なんだよ。
蒼チビ、お前はやっぱりそこが分かる奴だったな。いや、俺は信じてたぞ。というわけで」
「……そう言いながら人参を渡そうとするな。好き嫌いせずに食べてくれません?」
僕が呆れたように未だに逃げ道を探していたもやしを見ていると、外からサイレンの音が聴こえた。
『灯溶山中腹より、黒い煙が発生しているのが確認されました。この黒い煙は、山火事などとは違う現象で』
そしてそれだけではなく、キッチンの方からこんな声も聴こえた。
僕達は全員立ち上がって、声の発生源……栄次郎さんが見ていたテレビの方へ向かう。
『……黒い煙の発生源が特定されたとの情報が入りました。
警視庁の未確認生命体対策本部が、1時間程前に現地入りしたとの情報も入っています』
テレビに映っていたのは、確かに山から黒い煙が発生している映像。
そしてそれを見て、顔色を変えた人間が居る。それはユウスケ。それに僕もだ。
「……姐さん」
「ユウスケ、行くよ」
「え?」
僕はユウスケを見上げて頷く。ユウスケは僕の目を見返してから、すぐに頷き返してくれた。
僕達はそのまま全速力で外に飛び出して、バイクに乗って灯溶山に向かった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
私と士さんは飛び出したなぎ君達を追いかけるように、写真館の外に出た。
それで……ほ、本当に黒い煙が出てる。それにオーロラみたいなのも見える。
「……士さん、私夏海さんから士さん達の世界が壊れそうになった時、あのオーロラが出たって聞いたんですけど」
「俺の世界じゃない。夏みかんの世界だ」
「え?」
「俺はいわゆる記憶喪失ってやつでな。自分がどこの誰なのかさえ、ちゃんと覚えてない」
……迂闊な事を聞いてしまった。そう思って軽く俯く。でも、あの人はそんな私を気にせずに山の方を見る。
それからすぐに懐からカードを数枚取り出して、慌てたように全て見る。そのカードの絵柄は全て、白くモヤがかかっていた。
「これ、私の勝手な推測なんですけど」
「なんだ」
「士さんとなぎ君はゲゲルを止めた。究極の闇は目覚めなかった」
ゲームのルールそのものが根底から崩れたらしいから、そのはず。
「でも……今、何か別の外部的要因で目覚めたとしたら? 例えば、あのオーロラ」
士さんが私の方を見た。だから私は頷く。……どうしよう、これまずいよね。
あぁもう、こんな時に身体が動かないなんて辛いよ。私も一緒に戦えたら……本当に楽なのに。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
山の斜面を、同僚達と必死に降りていく。だけど、降りる度に何人も、何人も倒れていく。
その度に断末魔が響き、次に恐ろしい獣の声が響く。人の声が消える度に、獣の声が増えていく。
「八代ぉ……逃げろ」
そう言って、先輩が倒れた。私が駆け寄ろうとすると、私に向かって伸ばした腕が力なく落ちた。
その瞬間に禍々しい色合いのモヤに先輩や周囲の捜査官達の身体が包まれて、変化を起こす。
それは……グロンギ。形状に差異はあるけど、浅黒い肌をした獣達にみんなは変わり果てていく。
口元を押さえながら、私は立ち上がる先輩や同僚達だったものをただ呆然と見る事しか出来なかった。
そんな時、二つの影が飛び込んでくる。一つの小さな影は私に迫っていた先輩だったものを、左横から蹴り飛ばした。
そしてもう一つの影は、口元を布で押さえつつ同じ方向からやって来た。
「……ユウスケ。それに、蒼凪君も」
「話は後。ユウスケ、八代さんを。露払いは僕がする」
口元を押さえていたのは、蒼凪君も同じだった。白いマフラーを覆面のように口元に巻いていた。
「あぁ。……姐さん、こっちだ」
「あ、うん」
襲い来るグロンギ達を蒼凪君が蹴散らし、ユウスケが咳き込む私の肩を支えて引っ張ってくれる。
山を降りるまでの間に私はずっと咳き込んでいて、まともに呼吸すら出来なくなっていた。
それは、グロンギに変わったみんなと同じ症状。それで私は……自分の末路を悟った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『――新しい情報が入りました。灯溶山から発生した黒い煙は特殊な有害ガスと特定されました。
この黒いガスの中では、大量の未確認生命体が生息しているとの事です』
なんとか近くの病院に八代さんは運んだ。ギンガさんにも、ブリッツキャリバー宛てに連絡を入れた。
それでユウスケは……ロビーのソファーに座って、蹲って両手を握りしめて震えてる。
八代さん、かなり危ない状態になってる。なお、僕の回復魔法でも治療は無理とアルトに断言された。
”……アルト、さっき『無理』って言い切れたのは”
”えぇ、ガスの成分はなんとか解析出来ました。アレ、特殊なウィルスなんですよ”
”ウィルス?”
”多量に吸い込んだ上で死亡した場合、ガスの中の特殊ウィルスが活動を開始。
人間の細胞をグロンギに作り替えてしまうわけです。科学的というよりは、魔術的ですね”
”呪いの類って事? また厄介な”
そうすると……マズいな。そのまままともに吸い込んだら、さすがに内部では戦えない。
どっちにしたって、あの煙の中に『究極の闇』ってのが陣取ってるのは確かだろうしさ。
”フィールド魔法で防御は可能?”
”出来る加工は、おそらくガスをフィルターで多少除去する程度ですね。
ですから長くは持ちませんよ? おそらくは15分程度が限度です”
”それだけあれば十分だよ”
即行勝負しかないか。まぁ、最悪やばくなったら逃げる事にしよう。僕はさすがにグロンギになりたくない。
「なぎ君っ!」
病院の入り口の方から、僕を呼ぶ声が聴こえた。そちらを見ると……あ、ギンガさんともやしが来た。
ギンガさんの声に気づいたのはユウスケも同じ。立ち上がって、もやしの方へ走り寄る。
「蒼チビ、八代刑事は」
「……重症だよ」
「しかも姐さん、大量にガスを吸っちまってる。このままじゃグロンギに」
「ガスを吸った人間は、グロンギになる……だったな」
言いながらもやしが、外の方を見る。表情が今までの中で一番険しいのは、僕と同じだ。
「このままは、放置出来ないね。グロンギは戦闘種族だもの。世界中の人間がそんなのになったら」
「最悪誰か一人生き残るまで、殺し合っていくって事か」
「なぁ、どういう事だよっ!」
ユウスケが右手で僕のジャケットの左のニの腕を。右手でもやしのジャケットの右の二の腕を掴む。
それで僕達二人を見て、今にも泣きそうな声で叫ぶ。
「ゲゲルは失敗させたんだろっ!? なのにどうしてこうなんだよっ!」
「……究極の闇が『自分は目覚めるはずがなかった』って言ってた」
「究極の闇? もやし、それって」
「ついさっき、俺も山の方に行っててな。それで聞いた」
聞いたって……コイツ、一人で乗り込んでたんかい。どんだけ大胆不敵な奴だよ。
「この世界にも俺が居た世界と同じ、滅びの現象が起き始めている」
「どうも究極の闇が目覚めたの、そのせいみたいなんだ」
えっと、つまり……ゲゲルは止めたところに運悪くその現象が起きた。
それにより、目覚めるはずのなかった究極の闇が目覚めた? なんだよ、それ。
「……俺の世界? なんだよ、それ」
「俺と夏みかん、それにこの二人もこの世界とは違う、別の世界から来た。……一応、世界を救うって名目でな」
「別の……世界?」
でも、その前に生命の危険だよ。あっちこっち大騒ぎで、病院は死亡寸前の患者の受入れを拒否するありさま。
なお、その理由は察して欲しい。そしてテレビでは、襲われて傷ついていく人達がそのまま映ってる。
ううん、リポーターやカメラマンさえ襲われて、そのまま映像が途切れてお亡くなりって言った方が正解かな。
「俺は……戦えない」
あっちこっちで悲鳴や鳴き声が聴こえて、この中では笑顔なんて一つも無い。
そしてそんな状況で、ユウスケはそう言って首を横に振る。だから僕は、踵を返す。
「ユウスケ」
「だめだ、俺は」
「戦う必要なんてない」
顔は見えないけど、きっと首を横に振りながら涙目で僕の言葉に返した。
だって、さっきからそんな顔しまくっていたから。
「……別に戦わなくていい。お前が命賭けて何かを守る義務なんて、どこにもない。
だからお前が本当に誰を笑顔にしたいのか考えて……その上で、道を決めろ」
僕はそれだけ言って、そのまま足を進める。すると極々自然に黒いコートをなびかせながら、もやしも隣に来た。
「なぎ君っ! 士さんも待ってっ! このままだと二人までグロンギに」
ギンガさんの声が後ろから聞こえる。だけど、僕達は振り向かずに前を見据える。
「対策は整えてる。ギンガさんは二人の事お願い」
「まぁ、俺も元々はグロンギと同じようなもんの可能性もあるしな。どうとにでもなるだろ」
「あの、ちょっと待ってっ! ……二人共っ!」
そのままデンバードに乗って、士と一緒にあの黒い煙の中に突っ込んだ。
僕も、ユウスケと同じだよ。この世界の人間を助ける義務や義理立てなんてない。
そんなもの、どこにもない。でも、だからって……だからって見過ごせるか。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「リントもグロンギも一つに。全ては闇に包まれる」
「悪いけど……そうはいかないよっ!」
声を上げながら、僕ともやしはデンバードとピンクバイクでグロンギの大群に突撃。
軽い接触により火花を散らせながらもアクセルは緩めず、市街の一角にて止まった。
しかし、うじゃうじゃいるな。もう外見を一体一体説明していったら、それだけで小説1話分になるくらいだよ。
そして僕達の目の前にある高層ビルの上で両手を広げて偉そうにしてるのは……アレが究極の闇か。
禍々しい鬼のような顔に、赤黒い肌。金色の民族風味が漂うくすんだ色合いの装飾防具を身につけている。
「蒼チビ、アレはお前が知ってるクウガの究極の闇か?」
もやしはバイクから右足を上げて前面に向かって回しつつ降りて……って、器用な事するな。
なお、僕は普通に右足を後ろから回して降りた。バイクから降りてヘルメットを脱ぎつつ、僕はもやしの疑問に答える。
「全然違う。ベルトは似てるけど、僕の知ってる究極の闇は白かった。ちなみに人間体は、細身の美青年だった」
「なるほど、確かに違いまくりだな。ありゃ筋肉隆々のおっさんだしよ」
あ、一応説明ね。現在、霧の中に突入してケンカやりに来ました。
「……お前は、クウガでもリントでもない」
それはもやしに向けた言葉。もやしはヘルメットを脱ぎつつ、それに軽く返した。
「知るか」
「お互いこの世界に居てはならない者のようだな。それにそっちのリント……お前も変わった臭いがする」
今度は僕の事らしい。というか、一応僕は人間ってカテゴリーに入ってるのね。うん、そうなのか。
「あら、おかしいなぁ。昨日もお風呂でしっかり綺麗にしたのに。……もやし、臭う」
「あぁ、臭うぞ。バイオレンスな危険人物な臭いがな」
「そう。もやし、アレだ。耳鼻咽喉科行った方がいいよ」
デンバードから離れて前に進みつつ、近寄ってきたクモ型のグロンギを蹴り飛ばしてどかせる。
「もうね、絶対病気だから。僕は清廉潔白な天使だって前に言ったじゃないのさ」
「そうか。だったらお前の方こそ一度精神科に行ってみるべきだな」
なんて言いながらもやしは、前に歩きつつ前に出てきたバッタタイプのグロンギを左の裏拳をかましてどかせた。
「その自信過剰は、もはや手遅れだろうが」
「うっさい。それおのれに言われたくないし」
「消えよ」
なんて言っている間に、もやしはベルトを装着済み。なお、僕もいつでもセットアップ出来る。
「リントは全て殺し合うグロンギになる。……それが宿命だったのだ」
「ざけんなよ、クソ野郎が」
鋭い声で言い放つと、究極の闇が僕の方を見る。……ヤバい、もうなんか抑えられないわ。
「お前達のせいで、たくさんの人が泣いて……傷ついて、笑顔が消えてく。
……これが宿命っ!? 最もらしい事言って、てめぇを正当化してんじゃねぇよっ!」
だから鎖を噛み砕く。心の内に眠っている獣を解放して、戦うための研ぎ澄まされた一振りの刃と化す。
「そんな宿命なら、今この場で僕とアルトがぶち壊してっ! お前らごと全て塗り替えてやるっ!」
「ふん、ただのリントに出来るものか。身の程を弁えよ」
≪ただの? ……全く、あなたは全然分かってませんね。
この人はただの人間だから、強いんですよ。さ、いきますよ≫
「うん。……変身」
そう口にした瞬間に、僕の身体が蒼い光に包まれる。そしてなぜか隣のもやしも続く。
≪KAMEN RIDE≫
「変身」
≪DECADE!≫
そして、僕達は変身を完了。でも……やっぱピンクのライダーって、色んな意味で衝撃的だわ。
「……さぁ」
僕はまぁ代表として……あのバカを指差す。
「お前達の罪を数えろ」
「んじゃま」
もやしが両手を二回パンパンと払うように合わせて、一気に飛び上がった。僕も同じ……いや、だめだ。
右薙に刃を叩き込んで、襲ってきたサイ型のグロンギを斬り裂いた。そして、もう分かってるだろうけど囲まれました。
「……えぇっと、これはもしかしなくても」
≪分断されましたね。ほら、究極の闇居なくなりましたし≫
続けてきたヒョウ型のパンチを避けつつ、先日使った顔面への斬撃で一気に仕留める。
それは他に襲ってきたのも同じ。間をかい潜るようにしながら、アルトを振るって四体を蹴散らす。
「確かにね。てーかあのバカ、普通に単独先行しやがって」
左右から襲ってきたグロンギを、下がりつつも右薙にアルトを振るい二体同時に斬りつける。
そこから刃を返して、時計回りに一回転。
「鉄輝……!」
そこを隙と判断して殺到してきた連中全てを、左薙の斬撃で斬り裂く。
「一閃っ!」
蒼い円によって斬り裂かれた数体のグロンギが、そのまま爆発する。
しかし弱い。普通にどいつもこいつも一撃で仕留められる。……いや、これは当然なのかも。
だってコイツらの中に、僕がこっちに来て早々倒したグロンギも混じってる。
つまりコイツらは、いわゆる再生怪人軍団なのよ。だから動きもなんかのろのろしてる。
つまり、オリジナルよりは能力が低め……というのが、お約束ではあるよねぇ。
≪というか、あなたは考えてなかったんですか≫
「さすがに究極の闇相手にタイマン張りたくないよ。セブンモード使うならともかくさ」
≪それもそうですね≫
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
一番乗りでビルの屋上に飛び上がって、あの究極の闇に向かって走りこみつつ右拳を叩きつけた。
だけど……無茶苦茶硬いし。そして、すぐに反撃として左拳での突き。俺は顔面にそれをまともに食らった。
そしてそのまま、ビルの下に吹き飛ばされて落下。なお、今蒼チビが居ると思われる位置の真向かいだ。
俺が起き上がると、周囲には大量のグロンギ。そしてのんきに浮遊しながら俺の方へ来る、究極の闇。
……もしかしなくても俺、色んな意味でピンチだったりする?
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
とにかく究極の闇はもやしがドンパチしてる間にどっか飛んで、それをもやしが追っかけてったって感じかな。
それなら分かる。さて、この場合は……うん、やっぱここをある程度片すしかない。
そのまま追いかけててもいいんだけど、さすがにバイクを潰されるわけにはいかないもの。
≪あの人なら大丈夫でしょ。あなたと同類で殺したって死ぬような人じゃありませんし≫
「うっさい。あんな性悪と一緒にするな。……とにかく、ここをちょっと片してから合流するよ」
≪了解です≫
僕はアルトをしっかりと握りしめて……息を吐いた。そして、周りでうろちょろしてる奴らを睨みつける。
「来るなら来いよ」
それにより、全員の動きが一瞬だけだけど止まった。もちろん、すぐに動きを再開したけど。
てゆうか……修羅モードの威圧、グロンギにちょっとだけだけど通じちゃったよ。
「ただしてめぇら、全員僕に殺される覚悟をしろ。……ぶっ潰してやる」
ここに居るグロンギは、全員元々は人間。そんな事は分かってる。
ただ、それでも……ここで何もしなかったら、絶対に後悔する。だから、戦う。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
なぎ君が止めても聞かないのは、もうとっくに分かってた。だからここはいい。
ただ……今の自分では一緒に戦えないのが、ひたすらに辛い。
そんな辛さも抱えて、私はユウスケさんと一緒に八代さんの病室に来た。
八代さんはピンクの入院着を着て、ベッドに横たわって……マスク型の呼吸器をつけている。
写真館に来た時のような凛々しい印象は薄れていて、どこか弱々しい。
ただベッドに横たわっているだけでも、何かが零れ落ちていっているのが分かる。
私も仕事の中で人の死には触れた事があるから、だから分かった。
今、ユウスケさんが優しく手を取っているあの人は……もうすぐ、死ぬ。アレこそが人の死なんだ。
「ゆう、すけ」
「八代さん」
「ここで、何してるの?」
私は二人の邪魔をしないように、病室の入り口の方まで下がって離れてる。
だけど、八代さんの声が本当に弱々しい。分かってはいるけど、胸が痛くなってくる。
「俺は、アンタに誉めてもらえると嬉しかった。アンタに、笑ってもらいたくて。
だから戦ってきただけだ。……アンタが居なかったら、戦えないっ!」
八代さんの胸元までユウスケさんが身を近づけて、そう言い切った。その姿が、あの子と被った。
……場違いにあの子が本当に今一番誰を笑顔にしたいのかと考えて、さらに胸が苦しくなった。
「……私は、もうすぐ死ぬ。そしたら」
八代さんは空いている左手で、クリアーグリーンの呼吸器を外す。外して、もう一度ユウスケさんの方を見る。
「この身体もグロンギに変わるわ。その時あなたは……私を殺せる?」
そう言われてユウスケさんは……首を横に振った。
「……出来ない」
きっと、それは八代さんの願い。そんな存在になるくらいなら、この場で殺して欲しいと思ってる。
弱々しい言葉だけど、それだけは強く伝わった。
「……私の笑顔のために戦って、あんなに強いなら……世界中の人の笑顔のためだったら、あなたはもっと強くなれる」
その言葉にユウスケさんは俯いて、少し早めに首を振る。そんなの、無理だと思ってる。
「私に見せて……ユウスケ」
「……命令かよ、八代刑事」
「えぇ。命令よ」
本当に……本当に少しの間、ユウスケさんは震えて動きを止めていた。でも、それでも頷いた。
そのままユウスケさんは立ち上がって、一気に私の方へ……入り口の方へ走ってくる。
私は身を右にずらして道を譲った。そのまま、あの人は廊下を走って消えていった。
そして、八代さんの強く握られて上がったままになっていた手が、ゆっくりと落ちる。
だけど、ある角度を超えた辺りから力が抜けたように一気にベッドに落ちた。
「いいんですか?」
私がそう聞くと、あの人は頷いた。少し悲しげな顔で、私の方を見ながらしっかりと頷いて答えた。
「ずーっと……ユウスケが心配だった」
そしてあの人は、落ちた手をもう一度上げる。胸元まで上げた手をそっと、優しく左手で撫でる。
「弟みたいで、あの子の心を利用してた」
「…………そうかも知れないですね」
「否定、してくれないんだ」
「出来ません。私の……私の大事な人も、同じように利用されてたから」
もっと言うと、フェイトさんにかな。私、いつかフェイトさんの事を見てイラついた理由がよく分かった。
私はなぎ君の気持ちを、フェイトさんが利用してると思ったから。
どこかでなぎ君の気持ちに気づいてるものだと、ずっと感じていたんだ。だから、私には出来ない。
これから死にゆく人に対して、最低なのは分かってる。だけど……それでも、無理なの。
「そう。なら……これは罰ね」
「違います。人が死ぬのが罰なんて、間違ってる。あなたは、もっと別の形で罰を受けるべきです」
「え?」
もう鞭を打ってる。だから私は、ここから更にこの人に対して鞭を打った。
「笑っていて……ください。最期の時まで、笑っていてください。
……ユウスケさんの望み、叶えてください。私が見届けます。それで、伝えますから」
「……ありがとう」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
まぁアレだ。ぶっちゃけちゃえば数の暴力ってのは、最強だという事が分かった。
攻撃に晒され続けて、殴られ続けて、変身は解除。俺は現在グロンギの一体から首締めを受けてる。
「この世界が……俺の、死に場所か」
そこまで言って俺は、考えを改めた。というか、具体的には右拳を数度叩きつけてグロンギを怯ませた。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
怯ませて、そいつの手が緩む。俺は両足を上げて、思いっきり胸元を蹴り飛ばしてやった。
ようやくそいつの手が、俺の首から離れた。俺は地面に落ちたが、その痛さより息苦しさから解放された方が俺は嬉しい。
すぐに立ち上がって拳を構えようとしたところに、グロンギの一体が右ストレートを叩き込んでくる。
俺はそれを避けきれずにまともに食らう。そうしてまた少し吹き飛ばされて、地面を転がる。
そんな俺に群がるようにグロンギ達が押し寄せて、俺の服や頭を掴んで引き上げる。
それで……あぁ、押し潰そうとしてるんだ。なんか、あっちこっちミシミシ言ってるしよ。
マジで、ここで終わりか。くそ、あのポトフ……最後まで食べてねぇってのに。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
そう思った俺の前後を、二つの鋭い風が通り過ぎる。前に通った風は、銀色。
後ろを通った風は、蒼と白色。というより、そういうカラーリングのバイク。
前者は左から。後者は右からウィリーしながら突撃してきて、俺に群がっていたグロンギを弾き飛ばす。
そして俺は解放されて、圧迫感から解放されて息を吐いた。右を見ると、赤い仮面の戦士。
というか、クウガだな。それで左を見ると、蒼チビが居た。
「一人で突出するからだよ。ばーか」
≪ほんとですよ。アレ、死亡フラグですよ?≫
よし、蒼チビは無視だ。全く、こ憎たらしいったらありゃあしない。
てーかアレはアレだ。一人で頑張って生きられるだろ。俺は、それよりクウガの方を見る。
「来たか」
「……あぁ」
赤いボディのクウガは、バイクから降りるとこちらに歩み寄ってくる。
その間にもグロンギが殴りかかってくるが、その攻撃をかわし、拳で反撃を加えつつ足を進める。
「俺は……戦うっ!」
前に立ち塞がろうとした一体を、右足でいわゆるケンカキック的に蹴り飛ばして更にこちらに来る。
そして、後ろからはなんかバチバチといい音がする。蒼チビも同じくなんだろ。
「あの人のためか」
「そうだっ! アンタ一人で戦わせたら」
白いバンダナを巻いた、蒼チビが最初に倒したグロンギと同タイプの奴がクウガを羽交い締めにしようとする。
それを右手で裏拳を叩き込むようにして、強引に振り払う。
「あの人が笑ってくれないっ!」
「ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」
アイツの言葉に反応する前に、妙な唸り声が聞こえた。そして、続けて蒼チビの声。
「……もやし、ユウスケ、避けてっ!」
「てやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
蒼チビの声に反応する間も無く、上から真っ赤な火柱が襲ってきた。それを放ったのは、究極の闇だ。
それは俺とクウガの近くに着弾。それにより、俺達は派手に吹き飛ばされた。
だが……そんな俺達と爆炎との間を遮る壁が生まれた。それが、俺達を炎から守ってくれた。
少なくとも周りに居たグロンギ達みたいに、ウェルダンで焼かれる心配はなかった。
壁は俺達を守った上で、砕けて役割を終えた。ただ、また地面に叩きつけられたから、身体がもうズキズキしてる。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
”……なんつう火力ですか”
”あなた、大丈夫ですか?”
”なんとかね”
これでも魔導師、あれくらいの攻撃を受けた事は相当数ある。僕はブレイクハウトで壁を生成して、爆風から逃れてる。
距離もちょっと離れてたから、これだけでOKだった。あ、もやし達の方にも壁を生成して盾にしてる。
しかし、直撃じゃなくて本当に良かったよ。直撃してたら、多分あんな壁粉砕されちゃってるのは間違いない。
あくまでも二人に襲って来たのが、爆発による炎と衝撃波のダメージだったから、なんとか防げただけだ。
「もやし、ユウスケっ!」
「大声……出すな」
「大……丈夫」
もやしはまぁまぁボロボロとして、ユウスケ……うわ、変身解除されちゃってる。
僕は忌々しげに空中で浮いて笑ってるようにも見える究極の闇を見据える。
「ナナタロス、セットアップ」
究極の闇にも聞こえないように小さく口の中で呟くと、ナナタロスは本来の形に変化する。
青と白のラインの入った金属の鞘は、より太く、分厚い形に形を変える。
そして鞘の側面……・鯉口近くにナックルガードのような形のカードスロットが出来上がる。
デンバードに乗る時にアルトは鞘に収めてたから、ここはこのままでいい。僕はナナタロスを腰から外す。
「……見たか」
そして、鯉口近くのカードスロットが展開。僕は右手でカードをどこからともなく取り出した。
それはトランプサイズで、大剣を掲げる巨人の絵が描かれているカード。
「人間は強さを求め、戦いを求める」
それをカードスロットに挿入。そのまま右手で展開していたスロットを閉じる。
「グロンギになるのも……宿命だ」
まだ抜かしやがるか、この勘違い野郎は。僕は……いい加減ブチ切れていた。
でも、それはどうやら僕だけじゃないらしい。倒れて呻いていたもやしが、立ち上がりながらも究極の闇を見据える。
「……違うな」
その声は小さい声だったけど、確かに究極の闇に届いた。だから視線がもやしに向く。
「この男が戦うのは、誰も戦わなくていいようにするためだっ!」
「何?」
「例え自分一人が闇に落ちたとしても、誰かを笑顔にしたい……そう信じてるっ! コイツが人の笑顔を守るなら」
そしてもやしは、左手で究極の闇を見据えたままユウスケを指差す。
「俺は、コイツの笑顔を守るっ!」
それに対しユウスケは、ただただ驚いたという顔をするだけ。僕はまぁ……苦笑だよ。
「……知ってるか?」
言いながらもやしは、究極の闇からそんな顔をしているユウスケに視線を向ける。
「コイツの笑顔、悪くない」
「……貴様は何者だ」
「通りすがりの仮面ライダーだ」
もやしは右手でどこからともなくバックルを取り出すと、再び腰に装着してそれをベルトとする。
それだけじゃなくて、あの変身に必要なカードも取り出して、前に突き出す。
ユウスケもそれに続くように、変身のポーズを取る.左手を引いて腰に添えて、右手を前に突き出す。
身体の左側に突き出された手が、ゆっくりと右に向かって動いていく。その視線は、究極の闇を見据えたまま。
「覚えておけっ! ……変身っ!」
「変身っ!」
なので、僕も続く。さぁ……派手にいくよ。
「コード・ドライブ」
≪Z Mode――Ignition≫
アルトはナナタロスと共に青い光に包まれる。その瞬間、姿を変えた。
その光は二つに分かれる。そのうちの一つは黒い大型のホルダーへと姿を変える。
それは蒼いジャケットの上から、僕の背中に装着。
もう一つの青い光は更に六つに分かれ、それらは形状の違う堅き剣へと姿を変えていく。
そしてその六降りの剣がホルダーに全て収められていく。二本の片刃の短剣。これは……六鉄に五鉄。
同じく二本で、峰の方に大きめのギザギザが刻まれた片刃の直剣。これは……四鉄に三鉄。
片刃で、持ち手が刃に埋め込まれている形の直刀。これは……二鉄。
そして最後に、両刃で二股のようになっている剣。それが挿入される。
四角い唾の部分には、大きめの青い宝石が埋め込まれている。……一鉄。つーか、アルト本体。
これは当然、みなさまお馴染みのセブンモードッ! 僕とアルトの切り札の一つっ!
それで、その間にもやしもユウスケも変身完了。もやしはまた両手をパンパンと払うように合わせる。
そんなもやしの腰のブッカーから、突然にカードが三枚飛び出した。もやしは即座にそれを右手で掴む。
「ユウスケ、ついでに蒼チビ……行くぞ」
「あぁ」
≪FINAL FORM RIDE≫
「あいよ」
僕は右手で一鉄アルトを、左手で二鉄を抜きつつ魔法発動。
≪KU・KU・KU・KUUGA!≫
「ちょっとくすぐったいぞ」
≪Axel Fin≫
ジガンのカートリッジを1発ロードしつつ使った魔法により、足首に蒼い翼が生まれる。
……ん、ファイナルフォームライド? え、なんか今変な電子音混ざってなかったかな?
「え? あの……うわぁぁぁぁぁっ!」
なんかもう色々気になって右を見てみると……ユウスケが居なくなってゴウラムが居ました。
なお、ゴウラムというのはクウガに出てくるクワガタ型のサポートアイテム。全長は大体2メートル程だね。
「な、なんじゃそれっ!」
『そうだぞっ! お前、これなんだっ!?』
あ、ユウスケの声がする。てゆうか、ゴウラムがプルプル震えるとユウスケの声も聞こえる。
ま、まさか……これがユウスケっ!? おいおい、僕が見てない間に一体何があったっ!?
「これが、俺とお前の力だ」
『いや、意味分からないからっ!』
ユウスケが戸惑っている間にも、究極の闇が動いてる。右手に緑色の火花が走っていた。
……さっきと同じタイプの砲撃か。でも、残念。僕達は今更ながら本気出したのよ。
「……遅いよ」
下ばかりを向いていた究極の闇が、視線を上げた。うん、当然だよ。僕が目の前に居るんだから。
当然だけど究極の闇は、右手を突き出して僕に向かって砲撃を打ち込もうとした。
だけど僕はそこからもう少しだけ飛び上がって、放たれた赤い炎の奔流を全て避けてる。
奔流は向かい側のビルに着弾し、大きな穴を開けた。
「……御神流奥義」
言いながらも、僕は唐竹に一鉄アルトと二鉄を叩き込んだ。究極の闇は、それを両手で受け止める。
そうしながら刃を握り潰そうとするけど、無駄。セブンモードのアルトは……凄まじく頑丈なのよ。
そしてそこからまた炎を放とうとしても無駄。僕はそれすらも真っ二つに斬り裂いた。だから、爆炎が広がる。
銀色の二条の閃光は、究極の闇の手と炎を斬り裂くのと同時に……その身に破砕の力を加える。
「雷徹っ!」
両手は炎に包まれながらも弾かれ、叩き込まれた衝撃によって究極の闇はバランスを崩す。
そこから刃を返しつつも時計回りに旋回。そうして究極の闇の後ろを取る。
「二撃っ!」
回転しつつも僕は右薙に二刀で一撃。背中に斬撃は通り、火花が走る。
後ろに倒れかけていた究極の闇がまた前のめりになる。もちろん、これも雷徹込み。
究極の闇は空中で踏ん張って、僕に向かって振り返りつつも右拳を叩き込もうとする。
でも、遅い。その拳を左に動いて避け、アクセルを羽ばたかせて一気に斬り抜ける。
「鉄輝……!」
一鉄アルトと二鉄は左薙に……目と鼻を狙って叩き込んだ。
相手が強いなら、分かりやすい急所を狙うべきでしょ。
「双閃っ!」
蒼い二鉄に包まれた閃光が、比較的柔らかいと思われる目を斬り裂く。
一鉄アルトも顔に傷を刻み込む。さて、もう言うまでもないけどこれも雷徹込み。
「これで三撃っ!」
人間だったらミンチになるような雷徹を三連で叩き込んだ。これで倒れな……倒れるわけ無いよね。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
究極の闇が右手を裏拳の要領で振り回してくるけど、僕はもうその場から退避してる。
それも、アクセルの加速力で数十メートルという距離をだ。当たるわけがない。……一撃でももらったら、死ぬ。
だから、攻撃は全回避。防御魔法も一瞬防ぐ程度が限界だろうから、察知能力を最大限に活かす。
とにかく拳を回避して、僕は距離を取った。そこに当然ながら飛び込んでくる影がある。
それは僕じゃない。あのユウスケが変化したと思われるゴウラムにゲットライドした、もやし。
そのまま高速で突っ込みつつ、後ろから究極の闇を跳ね飛ばす。
その間に僕は二鉄を一鉄アルトの前面に合体。すぐに左手で四鉄を逆手で引き抜く。
引き抜きつつも、弾き飛ばされた究極の闇の前面に回る。
逆手に持った四鉄を右薙に打ち込んで、そのまま究極の闇と交差。ようするに斬り抜ける。
「ぐぅ……!」
ちなみに今の、腹を狙いました。それにより、また究極の闇が飛ばされながらも回転して体勢を崩す。
そこを狙って、再びゴウラムでサーフィンしてるもやしが突撃して、究極の闇の頭を狙って激突。
その衝撃で、究極の闇はようやく地面に叩きつけられた。でも、まだまだ続く。僕は魔法を一つ詠唱。
四鉄の切っ先を究極の闇に向けると、蒼い魔力スフィアが形成される。それをそのまま発射。
≪Eclair Shot≫
そのまま魔力スフィアを連続で5発撃ち込む。そして、究極の闇の身体に蒼い火花が走る。これはエクレールショット。
うん、ぶっちゃけるとザグルゼムだね。……魔力は魔力に干渉し合うもの。
その性質を利用して組み立てたのが、この魔法。これは一種のウィルス……というか、魔力付与かな。
射撃した対象に張り付き、その対象に向かって属性攻撃をかますと、ショットの構築魔力と連鎖反応を起こす。
それによりダメージを倍増させるって魔法だね。で、相手の砲撃・防御魔法などにも干渉出来る魔法なの。
そしてこれは、もやし達の攻撃では反応しない。反応するのは……あくまでも僕が行う魔力攻撃だけだ。
僕達は、それぞれしっかりと地面に着地。でも、究極の闇は一瞬で上に飛び上がった。
そして屋上に上がったのか、姿を消した。それで追いかけようとすると……あれ?
な、なんかでっかい四角いコンクリ製の何かが落ちてきてるんですけど、アレはなんですか。
「な、なんだよアレっ!」
≪アレ、ヘリポートみたいですね≫
「はぁっ!? じゃあまさか……なんつう無茶苦茶なっ!」
てゆうか、ヘリポートってあんな風に落とせるものだったのっ!? 僕全然知らなかったんですけどっ!
「今更だろ。ユウスケ、一気に仕留めるぞ。蒼チビ、とどめは任せた」
「へ?」
「お前、なんかしてるだろうが。俺達で隙を作るから、タイミングを見計らってやれ。いいな?」
「……分かった」
どんどんこちらに迫ってくるヘリポートを前に、冷静に話しつつもユウスケが動く。
前に走りつつも再びゴウラムに変形。なお、変身ではなくて変形。それも関節が折れるんじゃないかってレベルで。
とにかく、そのままヘリポートに突っ込んで……結論から言おう。突撃によってヘリポート真っ二つにしました。
なんかもう色々無茶苦茶だと思っている間に、僕は上にまた飛び上がる。
マジでヘリポート無くなってる屋上を見つつも、辺りを見渡して……あ、あった。
ゴウラムユウスケが、頭頂部のハサミで究極の闇の胴を挟んで捕まえてる。
≪FINAL ATTACK RIDE――KU・KU・KU・KUUGA!≫
捕まえたまま、ゴウラムは一気に急降下。そして、そんなゴウラムを狙って飛ぶ影が一つ。
それはもやし。もやしはビルに立てかけられる形で動きを止めたヘリポートを走っていた。
ゴウラムはハサミでヘリポートを真っ二つにしたので、一応縦……上に行く分には無傷になっていた。
そして、物理法則なんて完全無視で、飛行魔法なんて使えないはずのもやしはそのまま上に跳んだ。
右足を高く上に突き出して、急降下してくるゴウラムに一直線。
もやしのキックは、ゴウラムによって捕らえられている究極の闇に右足を叩きつける。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
もやしのキックは確かに究極の闇を捉え、そのままゴウラムともやしは交差した。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
そして究極の闇は炎に包まれて、勢い良く地面に落下する。おそらく、ゴウラムが究極の闇を離したんだ。
でも、まだ立ち上がる。ふらふらと立ち上がって、まだ抵抗しようとする。だから僕は、急降下しながら魔法を発動。
「ぐ……なんだ、これは」
立ち上がった究極の闇を掴むのは、コンクリの手。一瞬……一瞬動きが制限出来ればいい。
その間に僕は四鉄を合体アルトの後部に合体させた上で、魔力を込める。刀身を包むのは、蒼い凍結魔力。
「フルドライブ」
≪Charge and Up≫
刀身に宿るのは、蒼い凍結魔力。いや、ちょうどこれで良かったよ。アイツも熱がらなくて済むよね。
「これで決まりだ。……凍華っ!」
僕は唐竹に、合体アルトを叩き込んだ。その衝撃でコンクリの手は砕け、究極の闇に蒼い斬撃が刻み込まれる。
「一閃っ!」
その斬撃に込められた魔力と、先程のエクレールショットの魔力が相互干渉……連鎖を引き起こす。
本来同じはずの二つの魔力は、意図的に歪められた性質により反応し合い、一気に爆発する。
「ぐぅ」
究極の闇の身体に刻まれた蒼い閃光が、爆発するかのように大きく広がる。
それは冷たい白い息吹となり、究極の闇を包み込んでその身を焦がしていた炎を吹き飛ばす。
さながら、その息吹は巨大な氷の花。そしてそれは次の瞬間に弾けて、霧散した。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
究極の闇は、その身のあちらこちらを氷に包まれながら……後ろ向きに、倒れた。
「お前もかつて、人だったのかも知れないな」
そんな事を言うのは、僕の後ろに居るもやし。いつの間にか着地してたらしい。
「ならば、お前は……どこから来た」
「……悪い、忘れた」
……なんじゃそりゃっ! なんていうか、締まらない奴だねっ!
「ふ……リント」
倒れた究極の闇が顔を上げて、僕達の居る側に顔を向ける。
その顔には確かに二つの傷跡。僕は合体アルトを握り締めて……一応警戒。
「なにさ」
「お前の望みどおり……闇が、壊れる……ぞ」
僅かに、究極の闇の口元が笑っているように歪んだのが見えた。
でも、それが本当の事かどうか確かめる間もなく、究極の闇は爆発してその生命を散らした。
その爆発と同時に、周囲を包んでいた霧やグロンギ達は、本当に跡形もなく消えていった。
それから僕ともやしとユウスケは、急いで病院に戻った。だってもう、闇は壊れたから。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ユウスケが一番乗りで病室に乗り込むと、そこにはベッドの隣で椅子に座って八代さんを見るギンガさんが居た。
そして、鳴り響くのはアラームに似た同じようなリズムの音。それは、心音を測定するための機械から出ていた。
当然だけど、その機械は八代さんに繋がれている。それでその機械の表示を僕ともやしは見て、唇を噛み締めた。
その機械の表示は、0。八代さんの心音や血圧……生命活動の全てが止まっている事を示していた。
「……八代さん」
こちらを見ずに、ギンガさんが呟くように言うと、ユウスケがギンガさんの方を見る。
「最期まで、笑ってました」
ユウスケが、ゆっくりと八代さんに近づく。ギンガさんはそれを察して、入れ替わるように席を立って僕の方に来る。
ユウスケは八代さんの左手を取りながら、前のめりになって……そのまま、ギンガさんが座っていた椅子に座る。
「……行くぞ」
その様子を見ていたもやしが、そう呟く。
「もう、用はない」
「……そうだね」
ギンガさんの方を見ると、同じくという感じらしくてすぐに頷いてくれた。
僕達は、ユウスケの邪魔をしないように……そっと、病室を後にした。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
グロンギも、あの究極の闇が封印されていた祠も、全てが破壊された。
そう、破壊されたんだ。あの悪魔によって……この世界は壊されてしまった。
許さない。私は、私はあの悪魔を絶対に許さない。いいや、許されてはならない。
また奴は破壊を続ける。そうして全ての世界を壊す。
「……私は許さない。ディケイド」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
光写真館に言葉も少なめに戻ってきて、入り口のドアを潜った。それで、僕は軽く息を吐く。
とりあえず、グロンギも消滅してこの世界は平和になったわけでしょ? ……これから、どうしよ。
「そういや、お前らこれからどうすんだ?」
「……どうしようか。いやさ、僕的には世界救ったから不可思議パワーであっという間に戻れるーってのを予想してたんだけど」
「なるほど、蒼チビらしい凄まじいご都合主義だな」
「うっさい。これがお約束なんだから仕方ないでしょうが」
左隣を歩くギンガさんの方を見るけど、ギンガさんも困った顔しかしてない。それは、僕と同じ顔。
≪とは言え、このままこの世界に残っていても意味ないでしょ。もうやる事やっちゃったわけですし≫
「だったら……このままもやし達と同行?」
「やめてくれ。俺はお前みたいな暴力的な人間とずっと一緒に居られる程、図太い神経はしてないんだ」
「それはこっちのセリフだよ。全く、これだからもやしは使えない。一体どこの横馬?」
「だから待てっ! 俺は今あの究極の闇レベルの存在だと貶された気がするんだが、気のせいかっ!?」
なんて話をしながらも、僕達は撮影室に入る。するとそこには……あ、しまった。
「おじいちゃんっ! 早くこれ外してくださいっ!」
「いや、そうは言っても……これ、ノミとかでも全然削れないし。うーん、恭文君が帰ってくるまで無理だと思うなぁ」
「そんなー! ……あ」
夏みかんにバインドかけたまま飛び出してたんだっけ。あー、うん。すっかり忘れてた。
「ちょっとあなたっ! これ早く外してくださいよっ!
というか、置いてけぼりなんてひどいじゃないですかっ!」
「自業自得でしょ。あー、夏みかんはこれだから嫌だよ。逆ギレすればなんでも通ると思ってるし」
「その通りだな。夏みかん、ちょっとは反省してギンガマンを見習っておしとやかになれ。
てゆうか、もうずっとそのまんまの方が良くないか? それだと美人に見えるぞ」
「士くんっ!」
なんて二人で笑いながらも、部屋の中に入っていく。
「あー、栄次郎さん。これは夏みかんがしっかり自分の過ちを反省したら外しますんで、大丈夫です」
「あ、そう? じゃあ……夏海、何したかは知らないけど、しっかり反省するんだよ?」
「おじいちゃんっ! まず何したか分からないのにそう言うのって、おかしいんじゃありませんかっ!?」
「あぁぁぁぁっ! 夏海さんごめんなさいっ! バインドは今すぐになぎ君が……なぎ君っ!?」
僕は机の上に置いてあった数枚の写真を手に取る。……あ、これあの時のか。
多少ピンボケはしてるけど……ううん、これはピンボケじゃない。なんか分かるの。
「もやし、やっぱもやしは写真の才能あるわ」
「だろ? いや、お前はやっぱ人を見る目があるな」
「なぎ君も士さんも、無視しないでー! お願いだから夏海さんを解放してっ!?」
その写真は、ユウスケと八代さんの写真。二人共……素敵な笑顔。
「あ、その写真いいだろ? あー、そう言えば額縁探すところだった。えーっと」
「おじいちゃんっ! 平然と奥に行かないでー! ……ギンガさん、まだですかっ!?」
「あの、ごめんなさいっ! 私こう……バインド解除って苦手でっ!」
ギンガさんは大変そうだけど、僕ともやしは写真を見ながら笑う。
うん、笑うのよ。笑顔って大事だからさ、だから……笑うの。
「あー、あったあった」
栄次郎さんがそう言って、額を右手に持って振り返る。その時に、ある場所に当たった。
それは入り口から見て奥の方。白い丸い柱にかかっている金色の鎖。
入り口から見て奥の方は、撮影用の背景になっている。あの鎖は、背景の入れ変えのためだね。
ようするに断幕というか、絵柄が書かれた絵が降りるようになってるのよ。
そして、鎖の接触のためにその絵が降りた。それが今まで描かれていた絵を覆い隠す。
ちなみに今まで書かれていた絵は、灯溶山を中心とした街並みだった。
それで今降りた絵は……僕は、写真を持ちながら固まってしまった。
「…………これ」
絵は降り切ると少し揺れて、一瞬だけ強い輝きを放つ。
その輝きに全員の視線が向いて、その絵に目を見張る。
≪どうやら、相乗りは決定のようですね≫
夜の高層ビル群に、金色に輝く満月。そして、ビル群の上の方に龍。
ただし、ビルからそのまま首や翼、手足が生えている形で、結構奇抜。
「蒼チビ、お前が見てるテレビの仮面ライダーの中に……こういうの、あったか?」
「あるよ」
というか、もうそのまま過ぎて僕はびっくりだよ。
「これは……仮面ライダーキバだよ」
「……キバの世界、か」
(第3話へ続く)
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