小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説) 第75話 『Death match/ボウリングは命を賭けた格闘技』 キバットV世「しゅごしゅご〜♪ そして、今回のゲストは・・・・・・この子だっ!!」 イクスヴェリア「ど、どうも」 (恥ずかしいのか頬を染めながらもあの子が、満を持して登場) キバットV世「そんじゃイクス、キバって頼むぜ」 イクス「は、はいっ!! ・・・・・・『Χ』とは、ギリシャ語の『χ』。つまりキィ又はカイに由来すると言われている、アルファベットです。 日本ではエックスという呼び方が一般的ですが、ラテン語やイタリア語ではイクスと呼ぶのが主流です」 (だからこの子もイクスだったりするようだ) イクス「また記号自体の意味としては、『正体不明の存在』を表すこともあります。 ・・・・・・・こんな感じでよいのでしょうか? キバットさん」 キバットV世「十分だぜ、イクス」 イクス「良かった。キバットさん、今回は呼んでいただき有難うございました」 キバットV世「なぁにいいってことさ、それに君の出番がアレで終わるのは勿体無かったしさ。 で、せっかく出番があるんだし、ややちゃんとかとも遊んで来たらどうだ?」 イクス「そうですね。なら・・・・・・私の足で、歩いて会いに行ってきます」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ラン「・・・・・・しゅ、しゅごしゅごー」 ミキ「ね、今の何? なんか電波そのものから乗っ取られたんだけど」 スゥ「乱入されてばっかりでしたから、意外と新しいですねぇ」 ミキ「と、とにかくドキッとスタートドキたまタイムー。さて、本日のお話は」 ラン「2クール目の最後という事で、常識もキャラ設定も完全無視なカオス回っ! そして・・・・・・ガーディアンのみんなが全滅っ!?」 (立ち上がる画面に映るのは、ただただ幾何学模様な色合いの何か) スゥ「ドキたま/だっしゅも、今日を持って折り返し地点に突入。思えばあっという間でしたねぇ」 ミキ「でも、もうちょっとだけあむちゃん達の夏休みは続くよ。だけど今回は一区切り」 ラン「ここまで応援してくれたみんなに、そんな感謝を込めてカオスをお届け・・・・・・って、間違ってないかなっ!!」 ミキ「カオス回だからいいんじゃないの? というわけで、早速いってみよー」 (それでは、みなさんご一緒に) イクス・キバットバットV世「「だっしゅっ!!」」 ラン・スゥ『あー! やっぱり乱入された(されました)ー!!』 ミキ「まぁ、僕は分かってた。うん、このままで終わるわけないもんね」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ さて、突然だけど今回僕達は・・・・・・ミッド首都にある大型のボウリング場に来ています。 きっかけは実に簡単。朝ご飯の最中にボウリングの話になって、リースが燃え上がってしまったから。 なんでもマイボールとマイグローブを持っているくらいに、ボウリングが好きだとか。 ガーディアンの面々も実はボウリングをやった事の無い人間も多くて・・・・・・だったらやってみようという事になった。 それで意気揚々とここまで来たのは良かった。まぁまぁ体育会系なノリで話が進んだもの良かった。 ガターしたら、スゥが作った特製スポーツドリンクを飲むという風に話がまとまったのも、まぁまぁ良かった。 ・・・・・・そう思っていた。いや、もしかしたら思いたかったのかも知れない。 これから先、一投する毎に地獄の審判が待ち受けているとは・・・・・・僕達は知るよしもなかった。 「・・・・・・私がこっちに来る前に練習に1ゲームやってて、みんな結構いける感じなんだよね」 「そうだよー」 そんな事を言うのは、今日もお仕事がお休みななのはママとヴィヴィオ。ママは職場に顔だけ出して、遅れてここに来た。 なお、ボウリングという事で全員ロングパンツなりスパッツという動きやすい格好で来ています。 「というかなのはママ」 「ん、なにかな」 「それでもヴィヴィオも含めてボウリング初めてなメンバーも多いし、罰ゲーム的なのはスゥが作ってくれたスポーツドリンクだけでいいよね」 「あ、それもそうだね。じゃあ、今日はみんなで楽しくって感じで」 なんて言いながら、なのはが先程レーンの後ろにあるボール置き場から持ってきたボウリングの球を取る。 なお、色はピンク。さて、ここでおさらい。ボウリングはアンダースローでボウリングの球をレーンの上に転がす。 そうやって、レーンの先にある10本のピンを倒す競技。多く倒せば倒す程、得点が高いというのはお約束。 僕達はそれぞれ三人〜四人で1レーンずつ占拠。僕のところには、フェイトとあむが居る。 一応チーム戦になった時に備えて、運動が得意なのと苦手なのをまぜこぜにしたのよ。 僕もボウリングはあんまやった事ないし、フェイトも初心者同然。ここも一応バランスは取れてるチーム。 まぁ、初心者の方が多いから、結局個人個人で楽しく遊ぶって方向で固まったけどね。 ・・・・・・そんな解説をしている間に、隣のレーンのなのはが球を持ってレーンの前に立つ。 「よし、いくよー」 「ママ、転げないようにねー」 「もう、そんな恭文君みたいな事しないよー」 なのはがそう言った瞬間、あむ達とディードとリースの視線が突き刺さった。 ・・・・・・あのバカ。前にやった時に僕が足滑らせてゴールに入りそうになったのをここでバラすか。 「とにかく・・・・・・いくよー」 なのははとてとてと前に進んで、左手で持った球を後ろに向かって振りかぶる。 それからすぐに勢い良く、左腕を前に向かって振り上げた。それにより、球が手から離れる。 ボウリングの球は、三つの穴に親指と中指と薬指を入れて保持する。 なので、投げる時には当然抜ける。じゃなきゃ、確実に指がイカれる。 なのはも当然ながら球が手元から離れた。でも、球は宙を舞う。 バックスピンがかかりつつ、なのはの後ろに結構大きめな音を立てて叩きつけられた。 そしてスピンによって、そのままなのはの足に床を転がりながら激突。 「・・・・・・痛ぁ」 それにより、なのはが表情を顰めて蹲る。 「・・・・・・・・・・・・このバカっ! いきなり何してんのっ!?」 「いきなりバカ呼ばわりされたっ!?」 「当たり前でしょうがっ! なんですかっ!? その曲芸投げはっ!! それなら足滑らせる方がずっと分かるしっ! そんなのどうしてそうなるのか分からないしっ!!」 なんか頬をふくらませてなのはが不満そうだけど、気にしてはいけない。今気にするべきは、この理不尽な現象なんだから。 ほら、あむ達だって同じだよ? 『ありえない』って視線ですっごい言いたげなんだもの。 「ではぁ、なのはさん・・・・・・どうぞぉ」 そしてスゥは容赦なく、そんななのはに近づいて笑顔でドリンクを差し出す。 なお、スゥが両手でなんとか持てるサイズの小さな紙コップ。 「え、私? 飲むの?」 「はい〜」 なのはが視線を泳がせてみんなを見るけど、みんなはただ頷くだけ。 「というかスゥちゃん、あの・・・・・・・カップの中身が幾何学模様なんだけど。 次元の海の色なんだけど。あの、私の予想してた青汁的なものと違うんだけど」 え、なにそれ? なんかあの・・・・・・僕はすごい覚えがあるんですけど。 「はい、スゥ特製のパワーアップルジュースですぅ」 『はぁっ!?』 今叫んだのは、以前そのジュースを飲んでひどい目に遭った僕とフェイトとあむとランとミキ。 それにみんなが怪訝そうな表情をするけど、気になどしていられない。 「これさえ飲めば、いつだって元気いっぱいなのですよぉ」 僕達は正直止めたい。でも、スゥが笑顔による脅迫を敢行しているので、逃げ道など0に等しい。 スゥ、何気に黒さがあるのよ。純粋な天然キャラだけじゃないのよ。 「じゃ、じゃああの・・・・・・飲みます」 「はい、飲んでくださいねぇ」 そしてなのはは、意を決して一気に飲む。・・・・・・まぁ、大丈夫だよね。 量も少なめだし、マズいのは確かだけど飲んで気絶するような事になんてならないし。 「・・・・・・きゅう」 そして、なのはが前のめりに身体を傾けて・・・・・・そのまま床に倒れた。 「・・・・・・なのはさんっ!? どうしたですかぁっ!!」 「だ、大丈・・・・・・大丈夫。ただあの、えっとその・・・・・・大丈夫だから」 『虫の息でなんか強がってるっ!?』 ま、待て待てっ! なんか以前よりパワーアップしてないっ!? パワーアップルしてないかなっ!! やばい、さすがにこのジュースを罰ゲーム代わりにするのはダメだってっ! なのは、本気で死にかけてるしっ!! 『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説 とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/だっしゅっ!! 第75話 『Death match/ボウリングは命を賭けた格闘技』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「なのはさん、大丈夫ですかっ!?」 「大丈夫・・・・・・・スゥちゃん、おいしか・・・・・・がう」 「あぁぁぁぁぁっ! 無理しなくていいですからー!!」 さて、なぎひこが色々大変そうだけど、気にしてはいけない。こっちの組は尋問である。 なお、なのはの第一投から全くゲームが進行していなかったりする。 「スゥ、アンタマジで何やってるっ!? なのはさんもう再起不能じゃんっ!!」 「スゥは変なもの入れてませんよぉっ! 以前作った通りですよぉっ!!」 「だからあんなもんをまた作るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 まぁ、あむが言いたくなるのも分かる。ただ・・・・・・ちょっと考えた。 「とにかく、このジュースは没収。廃棄するから」 「そんなぁー!!」 「あー、あむ。それいいわ。てゆうか、なのはが大げさ過ぎるだけだし。 このままゲームは続行。罰ゲームみたいでスゥには悪いけど、ジュースは使っちゃおう」 「恭文っ!? アンタ何言ってんのっ!!」 「いいから」 あむを視線で制して、僕はスゥの方を見る。 「スゥ、それでいい? ほんとに罰ゲームみたいにはなっちゃうけど」 「あ、大丈夫ですよぉ? スゥは気にしないので、どんどんやってくださいですぅ」 「ありがと」 というわけで、みんなにその趣旨を説明して納得させた上でゲーム再開。 なお、なのはは再起不能のためにそのままリタイアとなった。 ”・・・・・・ヤスフミ、いいの? だってあのジュースは” ”そうは言うけどさ、せっかく作ってくれたのに廃棄っていうのもスゥに悪いし” フェイトの念話に答えながら、僕はスゥを見る。スゥはジュース入りのポットを大事そうに撫でている。 ・・・・・・というか、よくよく考えたら誰かに手伝ってもらったんじゃなかろうか。スゥ一人であの量は難しいよね? ”なにより、あのジュースはマジで効力あるでしょ?” ”あ、それは確かに。私もあのジュース飲んでから、身体がかなり軽くなったりしたし” そうそう。それにアルカイックブレードにキャラなりしても、体力が消耗したりもなくなった。 ・・・・・・つまり、ここで罰ゲーム的にでも全員に飲ませておけば、結果的に戦力増強になるのよ。 ”というかヤスフミ” ”なに?” ”スゥちゃんには弱いよね” ”まぁね。もちろんいかがわしい意味じゃなくて・・・・・・応援、してもらってるせいかな” スゥが僕の方を見て、ニコリと微笑んでくる。だから僕も同じように返した。 ・・・・・・うん、やっぱり弱いよね。だからアレだよ、早くキャラなり出来るようになりたいなと。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「ややちゃん、頑張るでちよっ! ガターしたらあのジュースでちっ!!」 「お願いだから、プレッシャーかけないでー!? やや、さすがに怖いのー!!」 ・・・・・・大丈夫。恭文が見かねてルール緩和してくれたから。ガターを4回しちゃったら、ジュースを飲むの。 大丈夫、例え1本でも倒れちゃったらジュースは無しだもん。うん、だから大丈夫。 なにより、恭文とフェイトさんとあむちーも前にアレ飲んだんだよ? それで倒れなかったって言ってたもん。 そうだよ、最悪飲んだとしても倒れたりしないよ。なのはさんはちょっと大げさなだけなんだから。うん、そうそう。 「・・・・・・どりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 この時、ボウリング初心者のややは知らなかった。ボウリングには色々コツがあるのを。 そしてプロでもない子にとってはガター4回以内というのは、かなり厳しいという事も。 「ややちゃん、力み過ぎなのですっ! ほら、ボールが右に」 「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! ボールが・・・・・・ボールがガターにー!!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ・・・・・・どうしよう。なのはさんが未だに沈んでるのよね。 アレを見たら、嫌でもガターなんて絶対出来ないと力が入る。 あのジュース、間違いなく飲んだら潰れる危険物よ。 せめてもの救いは、ガターの回数に余裕がある事だけよ。 「おー、リースすげー! またストライクじゃないかっ!!」 「えへへ・・・・・・ありがとうございます。私、ボウリングだけは自信があるんです。 もう毎週のようにレーンに通って、自宅にも貯金をはたいて専用レーンを作って」 「・・・・・・いやいや、お前力入れ過ぎだろ。どんだけボウリング好きなんだよ」 「プロボウラーを目指そうかなと思って、かえでちゃんと何回か話した事があるくらいですよ?」 「本格的過ぎるだろうがっ! そしてお前はマジで楽しそうだなっ!!」 確かに、今日のリースはとっても楽しそう。というより、ボウリングそんなに好きなのね。 というか、それならこっちに来てから・・・・・・いや、ちょっと待って。 そう言えば、リースが唐突に姿を消す時があるってシャーリーさんが言ってたわよね。 まさかとは思うけどリース、さり気無くボウリング場に通ってたりしてたんじゃ。 「というより、それなら魔法戦や料理・・・・・・いえ、なんでもありません。私が悪かったですね」 「ディードさん、いきなりどうしたんですか?」 ・・・・・・とにかく、そんなリースを見つつ考えた。私は運動が得意ではないし、またまたストライク出したリースみたいには出来ない。 というか、さっきの1フレーム目で既に2回カウントされている。なので、私は球を持ってレーンの前に行く。 「お、次は真城か」 「りまさん、頑張ってー。さっき私が教えた通りにー」 リース、ごめん。あなたのアドバイスを無碍にするわ。私は、レーンの前にしゃがみ込む。 「・・・・・・りまー、なにしてるの?」 「こうするのよ。・・・・・・それ」 そのまま、球をレーンの向こう側に向かって転がした。 「りまさんなにやってるんですかっ!? それじゃあまた」 「・・・・・・いや、リース。よく見ろ」 「え?」 私の狙い通りに、球は真っ直ぐにレーンに進む。非常にゆっくりとしたスピードで転がるけど、それでもブレない。 ボウリングでの投擲の際に狙うところは、三角になるように置かれているピンの一番先端と、その下の左右のピンの間。 「う、うそっ! 色んな意味で全然なのに・・・・・・真っ直ぐ進んでるっ!!」 先端を狙っても、全部倒すのは難しいらしい。リースが楽しげに教えてくれた。 そして球は私の狙い通りの位置に命中。まず先の3本のピンを倒した。というか、そこから一気に全部倒した。 「・・・・・・リース、真城の奴が全部倒したぞ」 「そう・・・・・・ですね」 「というか、ストライクですね」 「当然よ」 私は起き上がって振り返りつつ、右の髪をかき上げた。 「私に不可能なんてないわ。そして古畑任三郎は神だわ」 再放送で見た時、古畑任三郎はこの投げ方でストライクを出してた。 それを思い出して、これなら私にも出来ると思ったの。そしてそれは正解だった。 「私、自分の才能が怖くなりそう」 「うんうんー。りまサイコー。クスクスクスクスー」 「りまさん、自信過剰過ぎませんっ!? というか、一回だけならまだまぐれって言えますからっ!!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「・・・・・・ムサシ」 「なんだ、海里」 「ボウリングは難しいな」 「そうだな」 現在、2ゲーム目終了。何気に僕なんかより運動が得意な三条君が・・・・・・スゥからカップを受け取ってしまった。 その理由は、ガター4回目を達成したから。そして非常に困った顔で、ジュースを見つめる。 「だ、大丈夫だ。スゥの作ったもので倒れるわけがない。アレだ、高町さんは演出なんだ」 「というわけで、海里・・・・・・いけ」 「あぁっ!!」 そのまま一気にジュースを飲み干した。そして・・・・・・三条君は前のめりに倒れた。 「三条君っ!? あの、しっかり・・・・・・って、完全に気絶してるっ!!」 「というか、三条君泡吹いてないっ!? あー、しっかりー!!」 と、というかマズい。僕も何気にボウリングは初めてで、もう折り返し地点に来てる。 このままだと僕も三条君や高町さんみたいに・・・・・・マズい、マズ過ぎる。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「・・・・・・む、1本だけか」 うーん、まだ慣れてないなぁ。まぁいいや。ガターは免れれば。 「ヤスフミ、どうしよう。私、さっきガターして」 僕の第3フレームは終わったので下がってると、次に投げるフェイトが顔を青くしていた。 それも当然だろう。・・・・・・ついさっき、唯世がプレッシャーに負けて二連発でガターして、倒れてしまったのだから。 なので、あっちのレーンに残ってるのはなぎひこだけ。後の三人はうなされまくってる。 なんていうか、全滅寸前だよね。あと一押しで終わるって。 「フェイト、大丈夫だって。フェイトはまだ1回だけだもの」 「そうですよっ! フェイトさんはまだいいですよっ!? あたしなんてもう折り返し地点だしっ!!」 「あむちゃん、頑張るですよぉ」 「うっさいっ! てゆうか、それアンタにだけは言われたくないしっ!!」 なのはに海里に唯世が倒れて、このボウリングはまさしくデスマッチの模様を見せてきた。 それで、ややとリインももうすぐ脱落するでしょ。だって第3フレームの第2投目でガター3回目出したし。 「てゆうか、僕だって第2フレームでガターしたよ? ・・・・・・二人共、いいから落ち着いて」 僕は二人の目を真っ直ぐに見て、なんとか落ち着かせようとする。 ・・・・・・現在までにガターしてないのは、リースだけだよ。 ディードや空海という運動得意な組でさえ、1〜2回はやらかしてる。 そもそも、このルールはある程度ボウリングに慣れてるなら、それほど厳しくないのよ? 確かにピンが倒し辛いようなシチュはあるけど、それのコントロールは不可能ではない。 ただ初心者が多いというのと、全員がプレッシャーに負けているからこうなる。 ただ・・・・・・ゲームとしては楽しいんだよね。ほら、色んな意味でスリリングだから。 とまぁ、言い訳はこの辺りにして・・・・・・ぶっちゃけようか。ごめん、僕は今回出されたあのジュースを見くびってた。 マジでなのは以外のが倒れるとは思ってなかったのよっ! てゆうか、ルール緩和しても意味なくないっ!? くそー! あの笑顔に騙されたのが運のつきだったー!! 「今までの傾向を見るに、プレッシャーに負けてしまったらその時点でアウトだよ。 もう一度言うけど、ピンを倒し続ける事は絶対に不可能じゃないの」 ≪それは言えますね。平常心を崩してしまったら、そこから一気にミス連発です≫ 現にあの海里でさえ、あっという間に崩れてしまった。てか・・・・・・やばいな。 さっきも言ったけど、なのはだけかとみんなきっと思ってた。大げさなだけだと、僕も思ってたからこういう形にした。 でも、海里が倒れて唯世も潰れた事で、あのドリンクによって動けなくなるのは決定だよ。 くそ、真面目に怖いぞ。なんですか、この妙な緊張感は。 ≪あむちゃんはともかく、フェイトさんはもっと落ち着くの。 こういう緊張感は、むしろ主様やフェイトさんの領域なの≫ 「それはその・・・・・・確かに」 「ねぇ、それじゃああたしはっ!? あたしはどうすればいいのかなっ!!」 「あむは・・・・・・アレだよ、ジュース飲んで耐え切るしかないね」 「そんなん出来るかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「が、頑張るです。リインはこれくらいの修羅場は幾度となく超えてきてるのです。 だから、だから・・・・・・えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいっ!!」 リインちゃんが気合いを入れて、右手で持った球を投げる。球はレーンに確かに乗った。 でも、リインちゃんの足もレーンに乗って・・・・・・そのまま滑ってこけた。 「ふにゃっ!?」 「リインちゃんっ!!」 さすがにリインちゃんがピンに突撃するような事にはならなかった。レーンの入り口辺りで動きを止めた。 でも球は・・・・・・あぁ、左に逸れてく。だけどだけど、球が一番左端のピンに掠った。 「リインちゃん、掠ったっ! ボール掠ったよっ!!」 「ホントですかっ!?」 リインちゃんが、レーンの上で身体を起こしながらややの方を見る。 それからすぐにピンのある方を見ると、左端のピンがグラグラしてた。 「よし、そのままいくですよー!!」 「いけいけー!!」 それから数秒、グラグラ揺れているピンを見ていた。でも、神様は無情だった。 「倒れるですー! コロンって行くですー!!」 「そうだそうだー! やや達のためにも倒れろー!!」 やや達の叫びもむなしく、揺れが止まる。そして・・・・・・スコア表に0が付いた。 ガターじゃなくても、一本も倒せない場合もボウリングではある。その場合もカウントされちゃうんだ。 「・・・・・・リインちゃん。やや、リインちゃんの事忘れないよ?」 「なんでいきなりお別れの言葉を言うですかっ!? ややちゃん、不吉過ぎるですよっ!! というか、ややちゃんだって危ないですよっ!? だって王手かかってるですからっ!!」 「そこは言わないでー! ややも恐怖で逃げたくなってるのー!!」 た、確かにゲームとしては面白いのは分かるよっ!? こういうのややだってバラエティで見てたもんっ!! でもあのジュースは危険過ぎるよー! うぅ、どうしてややは最初の段階で止めなかったのー!! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「・・・・・・空海さん」 何気にガターの折り返し地点に来てしまったディードさんが、投球ゾーンから戻りながら俺に声をかけてくる。 そして俺の隣に座って、真剣に俺の目を見てきた。てゆうか、なんか顔近い。 「な、なんっすか? てゆうか、どうしたんっすか」 「このまま規定回数に到達して」 「えぇ」 「その時に恭文さんの方に行って倒れるのは、アリだと思いますか?」 「はぁっ!?」 待て待てっ! この人何言ってるっ!? すっごい真剣な顔でバカ言い出したしっ!! 「そうすれば恭文さんなら私を介抱してくれて・・・・・・よし、アリね」 「アリじゃねぇよっ! アンタマジでバカだろっ!? てゆうか、これそういうゲームじゃねぇよっ!!」 「違うのですか? これは神がくれた一世一大のチャンスだと思ったのですが」 「全然違うからっ! てーか、アンタはマジで恭文をなんだと思ってるっ!!」 あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! なんかやばくないかっ!? あのジュースに対する恐怖で全員テンションおかしくなってるってっ!! 唯一冷静なのはプロボウラー志望のリースと、何気にストライク連発な真城だけだしよっ!! 「・・・・・・やったー! りままたストライクー!!」 「当然よ。私に不可能なんてないわ。どっかの誰かさんと違ってね」 そして段々と真城が調子乗って来てるしよっ! それでアレだよ、ギリギリな藤咲の方見て、鼻で笑ってんだよっ!! 「・・・・・・・・・・・・へぇ」 てーかそこで藤咲も睨み返すなよっ! 旧々ジャックとしては、めっちゃ不安になるだろっ!! あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 2学期からのガーディアン大丈夫かっ!? 1学期以上に荒れるんじゃないだろうなっ!! 「では、どうしましょう。さすがに高町教導官でさえ耐えられなかったジュースに、私が耐えられるとは思えませんし」 「いや、普通に飲んでここでダウンしててくれよっ! てゆうか、アンタ恭文を何だと思ってるっ!!」 「最愛の兄であり、最愛の男性です」 「言い切りやがったしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」 おいおい、アイツどんだけ女落としてんだよっ! この間会ったシルビィさんとナナもちょっと怪しい感じだったしよっ!! そりゃあ俺から見ても男としては中々いい線行ってるとは思うが、それでもこれはないだろっ!! 「というかですね」 「はい?」 「夏休みに入る前にややから借りた漫画で、地球では兄と妹はそうなってもいいのだと学習したんです」 「アイツの仕業かっ! ややの奴、何とんでもない漫画貸してやがるっ!!」 いや、もしかして少女漫画の類か? あぁ、それなら分かるぞ。 少女漫画にそういうのをネタにしてる話もあるってのは、俺でも知ってる話しだしな。 「てーかディードさん、それ間違いっすからっ! 地球ではそんな常識は無いんっすよっ!!」 「ですが、月詠幾斗と月詠歌唄は」 「アレはぶっちぎりの例外だから、見習っちゃだめっすよっ! それよりなによりアンタ、その話どこで知ったっ!?」 そしてこの後、ディードさんのマジな問題発言のせいで俺の調子は崩れ始めた。 というか、ツッコミ疲れて・・・・・・ま、まさかディードさんはコレを狙って俺に話しかけたんじゃっ!! おいおい、マジで『計画通り』かよっ! くそ、本気で油断ならないなっ!! 兄が兄なら、妹も妹かよっ!! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ・・・・・・まさか恭文達がそんな地獄絵図を演じているとは思っていなかった頃。 僕は当然ながら本局で仕事中。なお、夏休みに関しては一応9月の半ばにもらえる事になった。 まぁ、恭文達との約束もあるからな。ここで僕が休むというのも、実はアウトなんだ。 もちろん、航海任務もあるが故なのは留意して欲しい。ただし、今日は違う。 『・・・・・・じゃあ、例の月詠幾斗君の行方はさっぱりと』 「あぁ。やはり手数が全く足りないな」 僕が座っている仕事机の上に展開されるモニターの中に映っているのは、ヴェロッサ。 色々な事情から協力体制が出来上がったからな。その辺りの話をするのも込みだ。 「捜索してくれてる知り合いに目的もなにも教えないままでは、さすがにこれ以上の調査は無理だ」 『まぁそうだよね。基本地球は管理外世界なわけだし、ロストロギアでも絡んでないと』 「局員を動かすのは無理だ。だからと言って、またブラックダイヤモンドのようなのが出てこられても困るが」 『確かにね』 あんなめんどくさい状況は、本当にごめんこうむりたい。日奈森あむ達は局員でもなんでもないんだぞ? まぁ何度も言ってるが、それでもうあんな危険な橋は・・・・・・あー、僕には言う権利がないな。 『でも、あの子本当にどこに隠れてるんだろ。というか、何のために失踪?』 「さぁな。ただ、今までの経緯を聞く限り月詠幾斗は、イースターに強制的に協力させられてる状況だ」 『えっと、月詠或斗絡みだよね』 ヴェロッサやはやてには、そこの辺りを以前に説明している。問題もあるとは思ったが、それでも説明した。 月詠幾斗の現状。それがお世辞にも良いものとは言えないものだと納得させるには、ここしかなかった。 『イースター・・・・・・少なくとも星名専務や『御前』とやらからすると、彼や妹はその裏切り者の子どもだから』 「そういう事だ」 いつぞやのフェイトの事を少し思い出したのは、絶対に間違っていないと思う。 まぁ、彼や月詠歌唄などはフェイトと比べるとしたたかでしっかりしているがな。 『なら、単純に考えて逃走? ほら、歌唄ちゃんはもしかしたら人質同然の扱いだったのかも知れないし』 「なるほど、その考え方はあるな」 現に三条ゆかり女史も彼女の動きが鈍い時には、必ず兄の話を持ち出したそうだ。 そうやって、無理矢理にでも言う事を聞かせるわけだ。 『兄は妹を思って汚れ仕事を請け負い、妹は兄を思ってやっぱり汚れ仕事を手伝い・・・・・・典型的な不幸のコースじゃないのさ』 「同感だ。そしてそのコースは、誰か第三者が風穴を開けない限りは決して止まらない」 『そういう意味では、恭文とフェイトちゃんにガーディアンのみんながそれを成したんだよね。つまり』 「今の月詠幾斗には、妹という『足かせ』で動きを縛られる心配はない」 だから失踪した? それなら、まぁまぁ納得は出来るんだが・・・・・・いや、謎が残るな。 例えば、あむと彼は友人なのは確定だと思う。そんなあむや妹の前に姿を見せないのは・・・・・・あぁ、そうか。 「まずいな、やはり早めに保護・・・・・・いや、最悪接触して事情を聞く必要がある」 『クロノ?』 「今気づいたんだが、彼はあむや月詠歌唄と接触する事で迷惑をかけるのを避けているのではないのか?」 『・・・・・・なるほど、だから一人ぼっちで失踪と』 「あぁ」 今更だがイースターは、エンブリオを見つけるためなら基本的に手段を全く選ばない連中だ。 そのための作戦のあれこれだし、以前も恭文やフェイトが襲われたくらいだ。 そんなのとずっと関わっていた月詠幾斗が、そんなやり口を知らないとは思えない。 イースターが未だバリバリに暗躍している状況で、彼はあむや妹に会いに行けるだろうか。 答えはノーだ。僕があの立場だったら、フェイトやエイミィに会いに行くのはさすがに躊躇う。 まぁ、恭文みたいなのなら問題ないんだろうが。それはもう遠慮無く関わっていいと思ってしまう。 『そうするとマズいね。例えばあむちゃんや歌唄ちゃんが探しに行ったとするじゃない? そうしたら、彼の方が避けちゃって余計に見つからなくなるよ。そこは恭文達も同じ』 「そうなるな」 『だったら僕達って事になるけど・・・・・・これも無理だった。でも、本当にどこ行っちゃったんだろうね。 別にこっちの世界の事を知ってて、逃げ込んでるってわけでもないだろうし』 「それはないと思う。少なくとも妹である月詠歌唄本人は、次元世界の事を何も知らなかった」 だからこそブラックダイヤモンドの所持の一件も、お説教だけで終われたわけだ。 その時に彼女からも話を聞いたんだが、月詠幾斗も同様らしい。 『うん、そこは僕もはやても本人から聞いてるよ』 「なんだ、そうなのか。・・・・・・本人から?」 僕は画面を見ながら怪訝そうな顔を向けてしまう。そう言えばコイツ、さっきも『歌唄ちゃん』と言ってたな。 つまり、そう呼べるくらいには面識がある? 一体いつ月詠歌唄と接触・・・・・・あぁ、なるほど。 「戦技披露会の時か。君ははやて達と一緒に会場に行ったんだったな」 『そうそう。確かクロノは、カリムのところで見てたんだっけ』 「あぁ。そして騎士カリムやシャッハにセインとオットー共々、あの試合には度肝を抜かれたよ」 『だよねー。というか、教導隊でも度肝を抜かれたらしくて、凄い話題になってるっぽいよ?』 まぁ予言の事を相談というのもあったんだが、試合の時にたまたま地上の方に降りる事が出来ていたんだ。 それで騎士カリムの執務室で恭文となのはの試合を見ていてな。そうだそうだ、それで思い出した。 「騎士カリムが三人目のセコンドとして出てきた彼女を見て、非常にびっくりしていた」 騎士カリムは、彼女の事を名前程度しか知らなかったからな。だからそうなるんだ。 なお、予言関連の話をされた時に、今までのあれこれは簡単にだが僕の方から説明している。 そしてセインとオットーは別の意味で驚いていた。まぁそこの辺りは、察してくれ。 その時のそれぞれの驚きようを思い出して、僕はらしくもなく軽く口元を歪めて笑ってしまう。 『まぁそうだろうね。僕達も歌唄ちゃんが来てるなんて全く知らなかったから、本当にびっくりしたよ。でも』 「なんだ?」 『強い子だよね。兄は父親と同様に行方不明で、冷め切っているとは言え家族関係はほぼ断絶に近い』 ヴェロッサの声は、そんな不遇な状況を哀れむようなものではない。むしろ感嘆としたもの。 『それに仕事の方も芳しくはない様子なのに、本当に気丈に振る舞っててさ』 「・・・・・・なんだ、仕事の方まで前途多難なのか」 恭文やフェイトからは、イースターのプロダクションを離れて再起の最中と聞いていたのだが。 『多難っぽいね。この辺りがヒロリスがおせっかい焼いた理由みたい。 まぁ、しょうがないんだろうね。地球だとイースターという企業は相当幅を利かせてるし』 「なるほど、圧力がかかってるのか。・・・・・・ヴェロッサ」 『うん、僕も今同じ事を思った。これは本当に早めに彼を見つけないとまずいよ』 僕達は先程の人質どうこうの話の中で固めた認識を、少し変える必要があるらしい。 イースターの影響力は強い。ならば月詠歌唄への圧力を盾に、彼に協力を迫る可能性もある。 つまり、彼が協力しないと言う。そこで彼女の事を持ち出して、協力しなければ彼女を潰すと言う。 そうすると彼はどうする? 今までのあれこれを見るなら、彼はイースターの作戦に協力するだろう。 くそ、これでは彼にとってはにっちもさっちも行かない状況じゃないか。というより、性質が悪いぞ。 「それでロッサ、話は変わるが・・・・・・予言の事なんだが」 『あ、そっちもあったか。カリムとシャッハとも、戦技披露会を見てる時に話してたんだっけ』 「そうだ。あと、セインとオットーにもだな」 ディードも関わっているし、協力・・・・・・というより、フォローや連絡役などをお願いした。 特にオットーはディードと同じ条件を満たしているらしく、しゅごキャラが見える。その辺りは適任だった。 『二人共、びっくりしてたでしょ』 「あぁ。ただ、オットーはさほどではなかった。それとなくディードから話を聞いていたらしい」 あとは僕から話を聞く前に、実際にガーディアンのみんなとしゅごキャラにも会っているとか。 アレだ、例のマリアージュ事件の時にだな。ガーディアンの面々はイクスヴェリアの保護などにも力を貸してくれた。 ・・・・・・なんというか、あの子達が解決に尽力したと聞いてびっくりしたよ。 ただ、そんな接点があったおかげでオットーは本当に話が早かった。ここはありがたい。 『それで肝心要の予言の方は?』 「まだ解読作業中だ。ただ・・・・・・今のところは勘違いという事にはなっていない」 『つまり、変わりなしと。このままいけば』 「さほど時間はかからずに、確定してしまう」 そうなったら、日奈森あむ達にも話してその上で協力を求めて、事態に対処。 現場はガーディアンのみんなに総任せで、僕達大人は情けなく後ろでフォローだ。 『それはまた・・・・・・実に困ったね』 「あぁ。どうやら僕達は六課のあれこれを更に繰り返さなくてはいけないらしい」 六課の時、僕や母さん・・・・・・局ははやての夢を利用して、六課という寄せ場を作った。 そこに上手い餌をチラつかせて、部隊員を集めに集めて何も知らせないままにスカリエッティと戦わせた。 僕達は予め、レリック絡みの事件が管理局崩壊の危機に繋がる可能性を知っていたのにだ。 それ絡みで事件後、恭文は本当にキレていてな。あれで管理局を完全に嫌うようになった。 その上母さんが『どうしても必要だった。そして六課を作った事は正しい』と姿勢を崩さなかったために、絶縁だ。 そのせいで母さんは一時期恭文だけではなく、フェイトとも本当に険悪ムードになっていてな。 まぁまぁそれは多少は解消されたが。かく言う僕は・・・・・・そうだな、母さんと同じだ。 上に立つ人間として、理想論だけではやっていられない。 『何、今更後悔してるわけ?』 「しても仕方ないだろう。僕達は組織の色々な不手際の後始末を、六課の人間に押し付けた。 そうやって『奇跡の部隊』という生贄を差し出したんだ。それは絶対に変えられない」 『そうだね。きっと僕達には、そんな権利そのものが存在しない』 権利が無いから、『正しい』という意地を張る。どれだけ論理的に問題があろうと、胸を張り続けている。それは今もだ。 人々の安全を守るという仕事を預っている僕達は・・・・・・やっぱり意地を張らなくてはいけないんだ。 嘘っぱちのように見えても、公明正大を騙らなければならない。組織の正しさを根拠に胸を張り、誇らなくてはいけない。 それが警察機構にこの身や理想を預けた人間の、最低限なすべき仕事だ。 「ただ、あの子達は局員でもなんでもない。ただ自分の夢を、他者の夢を大事にしている子達だ。だから、どうしてもな」 『・・・・・・まぁ、六課の時みたいにみんなに内緒で対処って言うのはないんでしょ?』 「あぁ。恭文と唯世君にフェイトは必ず話した上で、残りのメンバーに対して協力を求めると言っている」 この辺りは以前話した通りの条件でだな。予言がもし現状から変わり無しで確定的になったら・・・・・・しっかりとだ。 『恭文や唯世君はともかくフェイトちゃんがそう言うのは・・・・・・やっぱり六課の事、相当気にしてるんだね』 「間違いなくそうだな。ロッサ、変な事を聞くがはやても同じくか?」 『気にしてないと思う?』 「・・・・・・いや」 フェイトは途中で六課設立の裏事情を聞いて、その上で協力してくれた。ただ・・・・・・アレなんだ。 事件解決後に色々あって、自分は六課の中で夢を叶える事も、誰を守る事も出来ていないと思ったらしくてな。 それが母さんと険悪になった原因なんだ。あの子自身も、事件中に反省する事が多数あったからな。 そのために『死んでしまいたい』と受け取れるような発言をかました程だ。そこははやても同じだろう。 はやては六課解散後に、部隊長を務めて欲しいというオファーがあっちこっちから本当にたくさん来た。 だがはやては、その全てを蹴って『また修行し直す』と笑っていって、一捜査官に戻った。 それで僕は彼女達と関わってから・・・・・・きっとはやては僕達の想像以上に辛かったんだと気づいた。 自分の夢を生け贄を集めるための場にしてしまって、その中で心身ともに傷付いた人間が本当に沢山出た。 もちろんここは、はやてや騎士カリムに母さんとも何度も協議を重ねた上での事だ。 冷たい事を言うなら、僕もそうだしはやてが六課を設立した事を後悔する権利など、既にない。 さっき言った通りに胸を張り続けるしかないのだが・・・・・・そう簡単に割り切れるなら、誰も夢など追いかけるわけがない。 もしかしたらはやてをあの悪巧みに巻き込んでしまったのは、とんでもない失敗だったのかと思ったんだ。 今夢があるはやてにしゅごキャラが見えないのは、そうやって僕達がはやてのこころのたまごを壊してしまったから。 僕達がしゅごキャラが見えないのは、自分や他者のこころのたまごを蔑ろにする選択を取ってしまったから。 恭文やフェイトがあの時キレて母さんを、そして六課という選択の結果を否定したのは・・・・・・それが間違いだから。 それなら僕達は他者の・・・・・・それも仲間の夢を本当に大事に出来ない。 そんな人間が居る組織に世界を守る権利があるのかと、少し疑問に思ってしまった。 もちろん、先程『僕達に今更後悔する権利など無い』と言ったのは本気だ。 だがどうしてもそんな事を考えてしまって、情けなくなる時がある。我ながら、色々ダメだな。 『でもさ、それであむちゃん達が『協力出来ない』って言ってきたら?』 「それも仕方ないという様子だったな。ロッサ、そこの辺りは君も聞いてるだろ」 休日になにやら一日過ごしたらしいしな。その時にもきっとあれこれやり取りはしてるだろ。 『まぁね。ま、ここは仕方ないよね。とりあえず・・・・・・リースや咲耶、恭太郎という協力者の力が得られただけでも』 「あぁ、良しとしよう。それもなかったら、本当にどうしようもない感じではあるが」 夏休みももうすぐ終わり。そうしたら、あの子達はまたそれぞれの家に戻る。 ただ、僕にはどうしてもそれが新たな事件の開始のように感じて仕方ない。 ・・・・・・まずいな。もしかすると恭文から以前聞いた、フラグ云々の話を何気に気にしてるのかも知れない。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「さー、現在7フレーム目っ! 何気にどんどん進行してるよー!!」 「ただ・・・・・・さぁ。ボク、さすがにもうやめた方がいいと思うんだけど」 「ミキ、今更だよ。というかアレだね、ガーディアンはみんな揃って意地っ張りだよね」 「引く事も勇気だと思うのですが・・・・・・・お兄様までこれなのは、先行き不安です」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 現在、ゲームは7フレーム目。そしてここに来るまでに本当に・・・・・・本当にたくさんの犠牲が払われた。 まず5フレーム目で大番狂わせ。最後まで生き残ると思われた恭文とフェイトさんが、一気に潰れてしまった。 きっかけはリインちゃんとややが同時に崩れ落ちた事。それでフェイトさんのテンパリがマックスになった。 そして恭文もその影響を受けて、仲良く二人で沈んだ。それであのジュースを飲んで・・・・・・お亡くなりだよ。 ただね、ここは仕方ないの。恭文とフェイトさん、スプリットって言う凄い難しいピン配置になったから。 えっと、残ったピン同士が離れていて、ボールをただ投げただけじゃ倒せない状態の事を言うんだって。 二人の場合だと、両端の3本だけが残った。ただし・・・・・・片側に1本あって、もう片側に2本あるの。 ミキ曰く、この場合は片方に球をぶつけてピンを飛ばして、その飛んだピンで残りの1本を倒すらしい。 でも、プロでもない限りは相当難しいピン配置であることは間違いなくて・・・・・・二人共失敗した。 フェイトさんはもうど真ん中に突き抜けて0点。それで恭文は、曲がりが鋭角過ぎてガター。 結果二人は涙目で笑顔のスゥからジュースを渡されて、顔を見合わせた。 『だ、大丈夫だよフェイト。ほら、僕達は一度飲んでるし』 『そうだよね。うん、一気に飲んでまたプレイ再開だよ』 当然だけど再開出来るはずがなかった。二人は気絶してまでハグをしながら崩れ落ちてる。 そして一度ジュースを飲んでいる二人が倒れた事は、あたし達にとんでもなく大きな衝撃をもたらした。 特にディードさんは兄が倒れてしまった事がショックだったのか、連鎖的に調子を崩した。 さっきの6フレーム目で、規定回数を満たしてジュースを飲んだ。それも、わざわざこっちに来た上で。 『恭文さん・・・・・・今、お側に行きます。・・・・・・計画通り』 そして恭文の背中にくっつくようにしながら、ディードさんは倒れた。それもとても幸せそうに。 なお、挟まれてる恭文が苦しそうなのとか、ディードさんが最後に呟いた言葉は気にしない。そして・・・・・・なぎひこだよ。 なぎひこもボウリングは何気に初めてで、ガターを3ゲーム目まで2回ほどやってた。 でも、恭文やフェイトさんにリースさんのやり方を見て、それを真似て追加ガターだけは避け続けていた。 言うなら堅実にやってたんだよ。そこに関しては、ヴィヴィオちゃんも同じくだね。 なぎひこはそのままいけば、なんとか生き残れた。でも・・・・・・そうはいかなかった。 そんななぎひこを見て、イライラを募らせていたのが一人居たから。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 『・・・・・・ナギー、何やってんだっ!? そんなちまちまやってても楽しくないだろっ!!』 『リズム?』 『もっとど派手に、楽しくクールに行こうぜっ! そういうわけで』 『ちょ、ちょっと待ってっ! 今はやめ』 『・・・・・・キャラチェンジッ!!』 そして、ボールを持っているなぎひこの首元に、青いヘッドフォンが装着された。 『イヤッホォォォォオウッ! さぁさぁ、派手に』 言いながら、なぎひこがまるでボウリングの珠を野球のボールみたいにオーバースローで投げようとした。 『見せてや』 『ウィンドアロー!!』 でも、次の瞬間紫色の数本の矢がなぎひこの右側から飛んできて、頭や肩、胴に右足を貫いた。 『がふっ!?』 『続けてエアリアルバインドッ!!』 そしてなぎひこの身体を紫色の風が包んで、なぎひこはそのまま後ろ向きに倒れた。 なぎひこは軽く目を回していて、動けないみたい。というかあれ、リースの魔法だ。 『・・・・・・何やってるんですかっ!? ボウリングの珠をそんな風に投げたら、大事故じゃないですかっ!! というか、キャラチェンジで何とかしようとするのは禁止ですっ! ボウリングナメてるんですかっ!?』 『・・・・・・な、なんで僕がこんな目に』 『リース、キャラ変わり過ぎだぜ。こんな攻撃・・・・・・がく』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 結果、なぎひこは魔力ダメージでノックアウト。風のバインドを保持されたまま、そこら辺に転がっている。 というかヤバい。恐怖で押し潰されそう。それは他のみんなも同じ。スゥは本当に容赦なくあのジュースを飲ませに来るから。 そして下手にボウリングをバカにするような事をすると、リースがいつまたウィンドアローとか撃ってくるか分からない。 現在、あたし(3回)とヴィヴィオちゃん(3回)と空海(3回)とりま(2回)とリース(0回)しか残っていない。 ちなみにカッコの中がガターの回数・・・・・・って、あたしもう王手かかっちゃってるしー!! 「あむちゃんー、頑張れ頑張れー!!」 「あと6回っ! 最後にストライクとか出さなければ、あと6回で生き残れるからっ!!」 いつもなら心強いはずのランとミキの声援も、今はただの攻撃にしか感じられない。 それほどにあたしの心は追い詰められて・・・・・・疲弊していた。 「無理ー! もう絶対にあたし無理だからー!! ラン、キャラチェンジしてー!?」 「・・・・・・ウィンド」 何気に結構必死な叫びだったからなのか、鬼が反応した。そしてあたしの身体に寒気が走る。 そちらを見ると、リースが凄い目であたしを睨んで左手をかざしていた。 「いや、しなくていいっ! というかあれだよねっ!! ズルはやっぱりダメだよねっ!?」 そう大きな声で言うと、リースは満足そうに笑ってくれた。うん、よかったよ。魔法で撃ち抜かれなくて済んだし。 ・・・・・・てゆうか、リース性格変わり過ぎじゃんっ! もう普段と全然違うしさっ!! 「うぅ、というかこれは何気に条件厳し過ぎだって。恭文バカだから、あんま細かく考えてなかったっぽいし」 ピンを倒すと、当然だけど残りのも倒す必要がある。でも、さっき話したスプリットみたいな配置もある。 もちろん、1本だけでも倒しちゃえばいいんだけど・・・・・・プレッシャーが重くて何気に難しい。 だから空海やヴィヴィオちゃんにいいんちょみたいな、運動が得意なメンバーもかなり苦戦しちゃった。 なによりスプリットなんて出してしまったら、そのせいで余計にカウントを増やしてしまう。 だから生き残るなら、二回目の投球を蔑ろにしたらだめ。そんな事したらすぐに潰れる。 最初は少なめに倒して、二回目で狙いやすいようにする。これなら、なんとかいけるって気づいた。 恭文やフェイトさんの投球を見てたら、そういう風にしてたんだ。それで今までギリギリって感じ。 ・・・・・・リース? リースはパーフェクト目指してストライクしか出してないから、参考になるわけないじゃん。 「・・・・・・よし」 あたしはそれでも気持ちを固めて、何度目かの投球。ちなみにフォームはリースのマネッコ。 そしてボールはへろへろとピンに向かって・・・・・・命中。ピンが8本倒れた。 「よしっ!! ・・・・・・あれ?」 さて、今さらだけど説明。ピンの配置は手前からピラミッド状に10本。 ピンには位置により番号が付けられていて、あたし達から見て一番手前が1番ピン。 あとはそれぞれの列で左から右へ行く毎に番号が進んでいくんだ。 2列目は2番と3番。3列目は4〜6番。そして最後の4列目は7〜10番。 そして今あたしが投げて倒したのは・・・・・・7番と10番以外。 つまりつまり、今残っているのは4列目の一番端と端にあるピンの2本だけ。 これは・・・・・・えっと、いわゆるアレですか? アレだったりしちゃうのかな? 「スプリットだね」 ミキが容赦なくそう宣告して、あたしは頭を抱えてその場で崩れ落ちる。 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 無理っ! あんなの絶対倒せないしー!!」 「あむちゃん、ファイトですよぉ。自分を信じれば、きっと出来ますぅ」 後ろから聴こえた声に、あたしは視線を向けて軽く睨みつける。 「だからスゥはもう黙っててっ!? てゆうか、今日アンタにそこ言われるとマジでムカつくしっ!! アンタ、マジで分かってないでしょっ! 今日の惨状はほぼアンタのせいなんだからっ!!」 「なんでですかぁっ! うぅ、あむちゃんひどいですぅっ!!」 「え、自覚ないのっ!?」 や、ヤバいっ! マジで・・・・・・マジでなんか大ピンチだよー!! 「・・・・・・・あ」 「スゥ、どうしたの?」 「えっとぉ、またジュースをご用意しなくちゃいけないのですぅ」 そう言われて、一気に血の気が引いた。そしてあたしは恐る恐るだけど・・・・・・右側を見た。 そしてそこには、苦虫を噛み潰したような顔の空海とヴィヴィオちゃんが居た。 「・・・・・・ダイチ、悪い。俺はここまでのようだ」 「空海、気にすんな。てーか、よく頑張ったって」 空海の視線・・・・・・というか、空海が居るレーンの先を見てみる。そこには、スプリットな配置のピン。 なお、あたしと全く同じで7番と10番のピンだけが残っていた。それに恐怖がまた強まる。 「うー、ヴィヴィオ悔しいー! せっかくここまで生き残ってたのにー!!」 聞こえてきたのは、もう『ジュースを飲む=死』と思ってるようにしか聞こえないヴィヴィオちゃんの発言。 「いや、ヴィヴィオ・・・・・・お前も頑張っただろ。僕はずっと見ていたぞ」 「キセキ、ありがとー。でも・・・・・・見てたってどうして? あ、まさかヴィヴィオの事を」 「ふざけるなっ! 唯世が沈んでしまって、あとはそれくらいしかやる事がないからに決まってるだろっ!!」 「そこはペペ達も同じでち。というかヴィヴィオちゃん、普通に図太いでちね」 「間違いなく蒼凪殿の影響だな。背後に生霊が見えるぞ、生霊が」 まぁ、そこはちょっと置いておこうと思う。あたしはやっぱりヴィヴィオちゃんが居るレーンの先を見て・・・・・・寒気が走った。 そこには、あたしや空海と同じ配置のピン。つまり、7番と10番だけが残ったスプリット。 それを凝視してしまい、身体が震え始める。胸の内を支配するのは、言いようのない強烈な悪寒。 あのジュースを前にあたしと一緒に飲んだフェイトさんと恭文でさえ、あの有様。 つまりつまり、次の投球でジュースを飲めなきゃ・・・・・・って、違うっ! 飲んでどうするっ!? 「あむちゃん、考えてる事全部口に出て・・・・・・って、聞いてないね」 「ミキ、仕方ないよ。だってもう犠牲者がこんなに」 「犠牲者ってなんですかぁっ!? ラン、失礼な事言わないでくださいですぅっ!! ・・・・・・というわけで、早速ヴィヴィオちゃんと空海さんにジュースをお届けですよぉ」 お、落ち着け。ようするに1本だけでも倒せばいいだけじゃん。そうだ、そうすれば先に繋げられる。 でも、どっちに狙う? あたしのボールは・・・・・・左に曲がりやすいんだよね。それがあたしの癖みたいなんだ。 だから恭文からアドバイスされて、ちょっと右寄りな位置からボールを投げてるの。それでちょうど真ん中。 つまり、真ん中ないし左側寄りなら・・・・・・10番のピンが狙える。よし、もうこれしかない。 というか、これしか出来ない。恭文、アドバイスしてくれてありがと。なんとか作戦立てられたよ。 これであたしは生き残れる。ううん、生き残る。さすがにあんなのは飲みたくないし。 「・・・・・・ぐはぁっ! なんじゃこりゃっ!!」 「ヴィヴィオ・・・・・・こんなの、初め・・・・・・・て」 右から、誰かが崩れ落ちる音が聴こえた。でも、そっちは見ない。見ちゃいけない。 見た瞬間に、また崩れ落ちる。崩れ落ちてダメになっちゃう。それでジュースを飲むのは確定だよ。 そうだ、KOOLになれ。KOOLになるんだ、日奈森あむ。恭文が教えてくれたじゃん。 こういう時にKOOLになれって言うと、頭が冷静になって回転が速くなるって。 「そうだ、KOOLになれ。KOOLになれ・・・・・・あたしっ!!」 「いや、あむちゃんっ!? KOOLはだめだってっ! ボクの記憶通りなら、それ死亡フラグ」 あたしはボールを持って走りこむようにして、狙いを定める。そうだ、KOOL・・・・・・KOOL。 KOOLKOOLKOOLKOOLKOOLKOOLKOOLKOOLKOOLKOOLKOOL!! 「うぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 「あむちゃん、それはだめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」 あたしが全力を込めたボールは、今まで投げた中で一番の速度を出しながら『直進』した。 そしてあたしが投げたのは、レーンのど真ん中。残っているのは、7番と10番のピンだけ。 ボールは凄い勢いで回転して、レーンを削るような勢いで『直進』して、ピンの間を突き抜けた。 あたしはその光景が信じられずに、数秒固まってしまった。振り上げた腕の先が、僅かにプルプル震えている。 それであたしは・・・・・・あたしは・・・・・・とりあえず、叫んだ。 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 「はい、あむちゃんもジュースですねぇ。これを飲んで、元気出すですよぉ」 「スゥ、それは無理だよっ! 絶対無理だからー!!」 「・・・・・・ボク、さすがに怖くなってきたかも」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「そういやさ、サリ」 「なんだ?」 またまたこいつとふたば軒で昼飯を食べてる時に、なぜかワクワク顔をし出した。てーか、携帯見出した。 「なんかさ、あむちゃん達ボウリングしてるそうなのよ」 「ボウリング?」 「うん、あむちゃんから仕事中にメール来ててさ」 おいおい、いつの間にメルアド交換してたんだよ。てーか、あむちゃんの携帯を通じるようにしてたんかい。 「いや、ボウリングは思い出すよねぇ。ほら、あのヘイハチ先生とやった」 「・・・・・・あぁ、あれか」 危機的状況が生み出すプレッシャーや恐怖に負けないための訓練として、ボウリングをやった。 ただし、ガターなり0点なりファールなりをすると、凄まじくまずい健康ドリンクを飲むハメになった。 「しかも、どこで組んだのかも分からないような重量リミッターの魔法をかけられてさ」 「あー、そうだったそうだった」 両手両足に、蒼い輪っかみたいなのを付けられるんだよ。で、それが凄まじく重いんだ。 それを装着しながらそれだろ? で、ドリンクも半端じゃなくまずいから・・・・・・地獄だったな。 「・・・・・・ヒロ」 「なにさ」 「俺ら、色々間違ってないか? ほら、ボウリングの思い出がコレとかさ」 「仕方ないじゃん。その修業頑張ったおかげで、普通にボウリングやったらパーフェクト余裕になっちゃったんだし」 「そうだな」 あむちゃん達はきっと、楽しくやってるんだろうなぁ。罰ゲームとかもなしで、わいわいとさ。 そうだよな、それが正しい楽しみ方なんだよな。俺らがなんか色々間違ってるだけなんだよな。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 空海が、ヴィヴィオが、そしてあむが倒れて・・・・・・ついに私とリースだけになった。 戦いとは虚しいもの。みんなはそれを自分の身を犠牲にして教えてくれたわ。 まぁそこはともかくとして・・・・・・私は最後の投球を開始。ボールはへろへろだけど、ピンを全て倒した。 それも今まで通りに、しっかりとよ。それを見て、私は唇を軽く歪めつつ立ち上がる。 「りまー! スゴイスゴイー!! これで・・・・・・えっと、えっと・・・・・・とにかくたくさんストライクー!!」 「当然よ。でも、『最初の二回以外全てストライク』という結果なんて、どうでもいいわ」 私は右拳を握り締めながら、投球ゾーンから離れる。 そして、右側で崩れ落ちているあの男を見る。 「大事なのは、なぎひこに勝てた事よっ! 勝てる・・・・・・私はボウリングならあの男に勝てるっ!!」 「あはは・・・・・・なんというか、これは認めるしかないかも」 なぜか半笑いのリースの投球は、さっき終わっている。なお、パーフェクトゲーム。 だからリースのスコア表には、『300』という数字が記載されている。 ボウリングは10フレームでストライクを出した時の三投目を含めて全部ストライクを出すと、この点数になるの。 そしてリースと私は、右手を差し出して強く握手よ。この死闘を、最後まで生き残ったもの同士で健闘を讃え合うの。 「リース、凄いわね。私、あなたの事を見直したわ」 「いいえ。というか、私も目からウロコが落ちました。・・・・・・私は常識に捕われていたみたいです。 ボウリングは楽しく誰でも遊べるスポーツ。だからこそ、自由があるんですよね」 「そうね。でも、それは当然だわ。だって今日の私は・・・・・・ボウリングの神様なんですもの」 「それはいくらなんでも調子に乗り過ぎじゃありませんかっ!?」 こうして、壮絶な死闘は私とリースの1・2フィニッシュで幕を閉じた。・・・・・・本当に、壮絶だったわ。 だから私達は手を離してから天井を見上げて、生き残った人間が得られる当然の権利を胸の内で行使した。 それは、生の実感。私達だけが・・・・・・私達しか、それを強く胸に刻み込む事が出来なかった。 喜びの中に交じる幾許かの悲しみは、きっとそれよ。あむ、みんな・・・・・・きっと忘れないわ。 みんなの事は、きっと忘れない。もちろんなぎひこ以外よ。あなたはなのはさんとラブラブしてればいいじゃないの。 「あ、あのー」 こっちがそろそろ話を締めようとしていたのに、なぜか無粋に声をかけてきたのが居た。 私とリースがその声の方を向くと、ラン達しゅごキャラのみんなが居た。 「ランちゃん、みんなもどうしました?」 「そうよ。私達がモノローグに入って2クール目最後の話はおしまいって展開なのに・・・・・・みんな、空気を読みなさい」 「僕達が空気を読めてないみたいに言うなっ! というよりお前達、頼むから生き残った人間としてコレをなんとかしてくれっ!!」 キセキがそう言って指差すのは、崩れ落ちてそのまま再起不能になっているみんな。 ゲームが終わったから、私たちは当然だけどここから出なくちゃいけない。でも、どうやって? みんな動けないのに。 「・・・・・・リース」 「はい」 「帰りましょうか。大丈夫、みんなは出来る子だから、きっとすぐに立ち上がれるわ」 「そうですね」 私達は立ち上がって、この死臭すら漂ってくる現場から早々に立ち去る事にした。 というか、逃げるわ。言うなればアレよ、戦略的撤退ってやつなのよ。 「待て待てっ! そんな事が許されるわけがなかろうっ!! 特にリース、お前は帰るなっ!! なぎひこが再起不能になったのは、お前のせいだろうがっ! ちゃんと責任を取れっ!!」 「無理ですっ! というかキセキ、あなたボウリングをバカにしてるんですかっ!?」 「そうよ。キセキ、ボウリングをバカにするとボウリングの神様足るこの私が天罰を下すわよ?」 「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「うーん、今日は楽しかったですねぇ。この調子で夏休みの残りも過ごしたいですぅ」 「・・・・・・スゥ」 「そう言ってどこへ行こうとしているのですか?」 まぁ逃げようとしているりまとリースは、キセキ達に任せる事にする。ボクとシオンはスゥだよ。 だからボク達は、笑顔で居るスゥの両肩をしっかりと掴むわけだよ。 「ミキっ!? それにシオンも離してくださいですぅっ! というか、ちょっと痛いですよぉっ!!」 「なにをおっしゃりますか。元はと言えば、あなたがあんな危険物を作るからこれですよ?」 「そうだよっ! これ本当にどうするのっ!? みんなしばらく動けないっぽいしっ!!」 一番最初に飲んだなのはさんでさえ、未だに唸されてるわけだし・・・・・・当然他のみんなもまだまだかかる。 というわけで、ボクとシオンで今日はちょっとやんちゃし過ぎたスゥにお仕置きを敢行します。 「というわけでスゥさん、これをどうぞ」 言いながら、シオンが僕達サイズの紙コップを左手から取り出す。なお、それは中身入り。 それをスゥの前に差し出すと、スゥが軽く表情を引きつらせた。 「そ、それはぁ」 「あなたの作ったジュースです。さっきの日奈森さんの大騒ぎの時に、軽く拝借しました」 「というわけでスゥ、せめてものお詫びにスゥもこのジュースを飲もうか」 「えぇっと、それはそのぉ」 「まさかあなた、自分が作ったものをいただけないとは言うつもりありませんよね?」 シオンに鋭くそう言われて、スゥの表情が固まる。なので、ここで一気に畳み掛けた。 「じゃあスゥ、これ飲んで」 「潔くいきましょう。大丈夫、骨は拾ってあげます」 「あぁぁぁぁぁぁぁっ! 飲むのはいいですけどぉ、無理矢理は嫌なのですぅー!!」 ・・・・・・こうして、壮絶な死闘はスゥの沈没によって本当に終わりを告げた。 そしてこの後が本気で大変だったのは、言うまでもないと思う。 だけどそこを思い出すと、ボクもあむちゃん達もみんな相当に疲れるので・・・・・・触れないでね? というかさ、2クール目最後のお話がこれっていいのっ!? もうちょっと色々やりようあったんじゃないかなっ!! ほら、総集編的に今までの場面を散りばめて楽に構築とかさっ! そういうのアニメではよくあるじゃんっ!! (第76話へ続く) あとがき 恭文「というわけで、ドキたま/だっしゅになってからは26話目。ちょうど2クール終了だよ」 あむ「何気に折り返し地点なんだよね。そんな今回の特別編、どうだったでしょうか。 お相手は・・・・・・色んな意味で地獄を見てしまった日奈森あむと」 恭文「みんなにごめんなさいと謝りたい蒼凪恭文です」 あむ「あー、そうだね。アンタはちょっと判断甘かったしね」 恭文「うん。でもアレだよね、きっとみんなテンション変になってたよね」 あむ「いいんちょが倒れた時点で、やめるべきではあったよね」 (でも、そんなの今更。だから軽く疲れた笑いを浮かべつつ、二人はため息を吐く) 恭文「あ、それといつも前説のミニドラマをくださる方、本当にありがとうございます」 (何度か言っていますが、前説でキバットバットV世とか出てくるのは頂いた拍手からです) あむ「でも、非常にカオスだよね」 恭文「いいのよ、好評なんだから。でも・・・・・・夏休みももうすぐ終わりかぁ」 あむ「そうだねー。とりあえず80話くらいには新章スタートでしょ?」 恭文「その予定。それがアレだよ、拍手で予告出したなぞたま編だね」 (なぞたま編はテレビアニメの二期でやっていたオリジナルストーリーです。なので、お話もそれになぞる形だったりします) 恭文「でもさ、なぞたま編もアニメだと何気に30話以上やってるんだよね」 あむ「あー、そうだね。というか、原作のアレと並行する形だったから、余計に多いんだよね」 恭文「うん。まぁブラックヤスフミも出るし、多少はシェイプアップするけど。というか」 あむ「というか?」 恭文「時期的にどうしても出来ない話が出てきてしまって・・・・・・クリスマスの話とか」 あむ「・・・・・・あぁ、そういやあったね」 (クリスマスパーティーの話などは、多少はやり方を変えないと出来なかったりします。だって、クリスマスまで時間軸進まないし) 恭文「というか、アレだしね。アニメ二期は2クール目行く前にホワイトデーまで行っちゃうから」 あむ「色々無理なんだよねー」 恭文「それやると、りっか達が出せないってのもあるしね」 (さすがにドラえもん時空でなんとかなるレベルを超えてたりします) 恭文「でも、実は2学期からはイベントが結構多いの」 あむ「へ?」 恭文「例えば、あむの誕生日」 (現・魔法少女、9月24日が誕生日だったりします) あむ「あ、そうそう。それであたしは12歳になるの」 恭文「でしょ? あと、歌唄の誕生日もある」 (ドS歌姫は11月9日。ちなみにりまの誕生日は、2月の6日です。 そしてりまの誕生日話も、アニメ二期では2クール目あたりでやっちゃいます) あむ「なるほど、それでアンタは誕生日に歌唄とも正式にお付き合い始めると」 恭文「そんな事しないからっ! 僕はフェイトとリインが居るのー!!」 あむ「いいじゃん、大丈夫だって」 恭文「何を根拠に言ってるっ!? ・・・・・・とにかく、本日はここまで。 次回からは3クール目。夏休みはもうちょっと続くけど、新章までもう少しです」 あむ「そこの辺りもお楽しみにー。それでは、本日のお相手は日奈森あむと」 恭文「蒼凪恭文でした。それじゃあみんな、またねー」 (・・・・・・そして、見ているみんなは気づいていた。ドリンクの影響なのか、二人が肌がすっごい艶々していた。 本日のED:真城りま(CV:矢作紗友里)『いつかはロマンス』) ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ・・・・・・あの非常にとんでもないボウリングの翌日。僕は車で聖王教会に来ていた。 なお、時刻は午前の5時。日の出までもうすぐという時間である。なお、僕だけじゃない。シオンも居る。 それに海里とムサシとディード、リインとミキも一緒に来ている。まぁ、ここの辺りは色々あってね。 海里達を先導する形でやって来たのは、聖王教会内にある演習場。 「・・・・・・しばらく前に、ヒロさん達とここで修行しててね」 シャッハさんに許可をもらって、こんな時間からだけど使わせてもらう事になった。 それでリインに結界を張ってもらえれば、試合内容を見られる心配もない。 「というか、ヒロリスさんが聖王教会のカリムと幼馴染なのですよ」 「それでここを使わせてもらっていたと。・・・・・・蒼凪さん、何気に顔が広くありませんか?」 「騎士カリムと言えば、聖王教会でも上の方と聞いている。今更だが、そんな方と知り合いなのは驚きだ」 「うーん、でも仕事上ではそれほど付き合いがあるとかでもないし・・・・・・基本友達だよ? そんな特別じゃないって」 演習場のシチュは、障害物一切無しの広範囲の丸いフィールド。500メートル以上はあるね。 真っ向勝負やるなら、かなり楽しくやれる。まぁ、レイオさんみたいなの相手は嫌だけど。 「それじゃあリイン、結界よろしくね」 「はいです。恭文さん、しっかりやるですよー」 「お兄様、ご武運を。それとミキさん・・・・・・お兄様の事、お願いしますね」 「分かった。恭文、行こう?」 「うん」 言いながら僕は、演習場の真ん中に向かって歩いていく。なお、ミキも一緒。 ちなみにミキが居るのは、海里のリクエストでもある。 「それではディードさん、見届人・・・・・・お願いします」 「えぇ。二人共、しっかり」 「ディード殿、本当に感謝する。・・・・・・では海里、行くぞ」 「あぁ」 それは海里も同じ。二人で少し歩いて、僕達は足を止めて対峙した。 距離にすると30メートル程。互いに一足で踏み込んでいける距離。 「・・・・・・じゃあ、海里」 ≪Riese Form≫ 言いながらも変身。まだ夜も開けていない世界に風が吹き、姿を表したばかりの白いマントがなびく。 「えぇ」 「・・・・・・キャラチェンジ」 海里の後頭部の上の方に、ちょんまげが現れる。そして二本の木刀を両手に持つ。 さっきから吹き続ける風が、海里のちょんまげや品良く分けられた髪も揺れる。 「始めるよ。それで」 今日は、海里との約束を果たすためにここに来た。三度目の・・・・・・本気の勝負。 だから僕達は視線を厳しくして、互いを睨みつける。地面を踏みしめる足の力を強める。 別に互いの事が嫌いなわけじゃない。だけど、これはやらなくちゃいけない事。 ただ白黒ハッキリさせるために。ただ・・・・・・意地をぶつけ合うために。 そのために僕達は今からありったけで、本気のケンカをやる。 「ぶっ潰すっ!!」 「両断するっ!!」 (おしまい) [*前へ] [戻る] |