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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第33話 『それぞれの新年の風景』(加筆修正版)



恭文「前回のあらすじ。フェイトがぶち切れました。でも、ラブラブしまくりました。
うぅ、幸せだなぁ。楽しいなぁ。フェイトー、ハグハグー」(なんて言いながら、抱きつく)

フェイト「あの、えっと・・・・・・その、ありがと。私も、幸せだし楽しいよ?」(なんて言いながら、抱き返す)

恭文「なら良かった。・・・・・・それでそれで、年越しを一緒に過ごしてるよね。
一緒にお鍋作って・・・・・・な、なんかラブラブしまくってるよね」

フェイト「そうだね。やっぱり恋人同士じゃないからおかしいかも知れないけど・・・・・・でも、私はこれでいい。
だって私達、もう姉弟じゃないんだもの。同年代の男の子と女の子で、そういう関係になってもいいんだから」

恭文「えっと、それはその」

フェイト「嫌?」

恭文「いや、そうじゃなくて・・・・・・そう直で言われると、色々恥ずかしい」(とても赤面)

フェイト「確かにそうだね。あの、ごめん。私色々こう・・・・・・加減出来ないみたいで」(すっごく赤面)

はやて「・・・・・・付き合ってもないのにイチャイチャイチャイチャ。もう甘いし」

師匠「てゆうか、アイツら自覚してんのか? ・・・・・・いや、自覚無いよな。分かってたわ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



さて、今回のお鍋はチゲ鍋である。今日みたいに具がフリーダムだと、結構やりやすい。





スープも若干手抜きして、市販のものを使ってる。ま、旨みは具材からってことで。





・・・・・・いや、四人と一匹だしね。ひとりはビックバンだし、量を考えるとどうしてもこうなるの。










≪・・・・・・もうそろそろじゃないですか?≫

「そうだね」





下ごしらえが終了し、それを持ち寄ってコタツに集合。で、ばかでかい鍋に火をかけた。



そこからなんやかんやで具材投入からの時間を考えると、そろそろである。



なので僕が蓋を取ると・・・・・・湯気と一緒に辛味を含んだ匂いが、部屋を支配した。





「恭文」

「言いたいことは分かるから、よだれを拭きなさい。少年」



言いながらも僕が手を合わせると、フェイトもエリオもキャロも手を合わせる。



「く・・・・・・くきゅぅ・・・・・・!!」



・・・・・・フリード、無理して翼を合わせなくていいから。

そこまでのスペックを、僕達は求めてないから。だから、そんな苦しそうに唸らなくていいのよ?



「それでは、みなさんご一緒に。・・・・・・せーの」

『いただきまーすっ!!』

「きゅくー!!」





赤いスープで満たされた鍋の中は、フリーダムだった。



豚肉に鳥のつくねにカキに鰤に鱈。白菜、椎茸にしめじなどのキノコ類・・・・・・ま、普通だね。



そこに餅巾着がプラスされると、ちょっと自由を感じさせるのは、気のせいかな?





「美味しい・・・・・・はふ」

「エリオ、そんなに慌てないで? お鍋は逃げないから」

「は、はひ」



ま、気に入ってもらえたようでありがたい。でも、僕も気に入ってる。

あぁ、お餅のとろーんがいいなぁ。絹さやと椎茸で、食感と味が単一的にならないのが素晴らしい。



「フェイト、キャロ。このつくね・・・・・・ふわふわで美味しいよー」



程よく火の通ったつくねは、固すぎず柔らかすぎずの程よい食感。

あ、軟骨も入ってるのが○。コリコリとふわふわのコラボがまた楽しいよ〜。



「きゅくきゅくっ!!」

「なに、フリードも気に入ったの?」

「きゅくー!!」



僕とフリードがはふはふ言いながら感想を言うと、二人とも嬉しそうに笑った。もちろん、美味しいのはそれだけじゃない。



「・・・・・・私、思うんだ。チゲにカキって、凶悪だって。すごく・・・・・・美味しいの」

「うん、それは分かったけど、カキばっかり取るのはやめてね? 数には限りがあるから」

「ヤスフミ、大丈夫だよ。私は閃光。速さなら誰にも負けないし」

「うっさいバカっ! そういう事言ってるんじゃないんだよっ!?
てゆうか、緊縛プレイかまされた閃光が速さを謳い文句にするなー!!」

「そこにはもう触れないでっ!? あれはその・・・・・・すごい反省してるんだからっ!!」



などと話つつも、フェイトと二人でカキを取り合う。

ちなみにフェイト、カキに関してはエリキャロに譲ろうとしませんでした。



「・・・・・・なぎさん、フェイトさんのこと言えないよ。カキはともかく」



うん、そうだよね。だって僕、そこの保護責任者の代わりに二人に分けてるもの。



「白菜やお魚やしめじばかり取ってる」

「だって、チゲだと淡白な食材がまた・・・・・・って、僕はバランス取れてるからいいじゃないのさっ!!」



とにかくそんな感じで鍋を堪能。大量に買い込んだ具材が、見事に僕達の胃袋へと消えた。



「・・・・・・やっぱり、締めはおじやでしょ」



炊いておいたご飯を投入。それをかき混ぜて、鍋の残りスープに混ぜる。

で、いい感じでほぐれたところに、上から溶き卵を、全体的にかける。



「これでよしっと」



あとは蓋をして、弱火でちょっと煮ればOKである。



「・・・・・・楽しみだね。今日は一杯具材使ったから」



フェイトが普段と違って興奮気味に言うのも無理はない。・・・・・・そうとう美味くなる予感がする。



「でも、こういうのいいな」



ふと、感慨深そうに呟いたのはキャロだった。その表情は・・・・・・なんか笑顔。



「そうだね。こう・・・・・・『家族』、だよね。一緒にご飯を作って、一緒に食べて」



それにエリオも続いた。なお、二人共一息ついているせいか、表情が凄い緩んでる。



「二人がそう思ってくれるなら、私は嬉しいな。
私・・・・・・二人の保護者で隊長なのに、あまり一緒に居られないから」

「いえ、そんなことないですっ!!」

「私もエリオ君も、大丈夫ですからっ!!」

「でも・・・・・・ヤスフミにお持ち」



横から右手でフェイトの頭を掴んで、軽く電撃発生・・・・・・のポーズ。



「フェイト、それ以上言うとビリビリーっていくよ?」

「どうしてっ!?」

「そこは子どもには早いのっ! てゆうか、説明しなくていいからっ!!」

「・・・・・・なぎさん、エリオ君はともかく私は大丈夫だよ? 自然保護隊で保健体育は習ってたし」

「そんな妙な気の使い方、やめてくれますっ!? てゆうか、エリオ居る時点でどっちにしろアウトでしょうがっ!!」










・・・・・・そう言えば、アウトなのがまだ居たよなぁ。もっと言うと、隊舎でボーッと過ごしているであろうタヌキ。

一応さ、おせっかいとは思いつつも何度か話したのよ。『何かあるなら力になるー』って程度にさ。

話を聞く限り、ヴェロッサさんに無理矢理迫られたとかじゃない。むしろ、迫ったのははやての方らしいし。





・・・・・・流れで言うとそうなるとかって、アホな事言ってたなぁ。まぁここは安心だった。





もしもヴェロッサさんの方から理性リミットブレイクしてそうなったとかだったら、さすがに止めてたもの。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「まぁ、アレだよ。ヴェロッサさんがどういうつもりだったか、確認しといた方がいいよ」

「いや、それはえぇよ。うち、気にしてへんから」

「思い切りしてるでしょうが。・・・・・・ここだけの話、師匠達も気付き始めてる」



それとなく聞かれたさ。トボけるしか無かったけど。原因は、イブの後の二日酔い。

その前後のはやての様子がおかしかったから。・・・・・・つまり、今もおかしいのよ。



「はやて、しつこいようだけど確認。本当に合意だったんだよね?
・・・・・・はやてが酔ったのを見計らって、ヴェロッサさんが覆いかぶさってきたとかじゃない」

「うん、ちゃうよ。てゆうか、アレよ」

「なにさ」

「前にも話したけど、それやったらうちが終始上にはなっとらんやろ」



・・・・・・まぁ、確かに。話通りなら・・・・・・むしろ押し倒したの、はやての方だもんね。



「でな、ロッサには・・・・・・もう気にするなって言うてるし」

「あのね、ヴェロッサさんは関係ないよ。ま、重要要素ではあるけどさ」



はやての瞳の中にさっきからずっと、不安の色が映っているのは気のせいじゃない。

てゆうかこれが気のせいだったら、僕は真面目に世界の常識を疑うよ。



「今重要なのは、はやてがどう思ってるかじゃないかな。
後悔、してる? 勢いでエッチしちゃってさ」

「・・・・・・分からんのよ。そないなストレートに言われると、マジで分からんの」

「なら、まずはそこでしょ」



一番アウトなことしてるし。分かんないのに『気にするな』とか言っちゃだめでしょうが。全く、この意地っ張りは。



「はやては今回の一件を、自分がどう思ってるか分からない。後悔してるとも、受け入れられるとも」

「・・・・・・そうや」

「まずそこをハッキリさせよう? じゃないとずっと引きずるよ。きっと、逃げられないよ?」

「アンタ・・・・・・詳しいなぁ」



そんなの決まっている。あれこれ本を読んできた経験だよ。あとはサリさんとかとする猥談?



「あれか、やっぱフェイトちゃんとエッチしたんか」

「うーん、心で交流してるアレを『エッチ』って言うならしてるけど・・・・・・身体ではしてないかな。
うん、つまり僕とフェイトは心だけはエッチしてるわけよ。そうに違いない」



フェイト本人には聞かせられないけど。てゆうか、さすがに本気じゃないし。



「・・・・・・アンタ、自分で言ってて恥ずかしくないか?」

「そこは触れないでもらえると、非常に助かります」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・一応は頷いてくれたけど、微妙だなぁ。というか、時間がかかりそうだ。

ま、しゃあないか。答えを出すのは、はやてとヴェロッサさんだしね。

僕が出来るのは、あくまでも出来うる限りちゃんとした形で、その答えが出るようにする事。





うん、じれったくもあるけどそこはね。あとはヴェロッサさんだけど・・・・・・どうしよう。





はやてから聞いたけど、しばらく連絡取ってないって言うし。いきなり僕から話してもなぁ。










≪・・・・・・そろそろフェイトさんの頭から手を離した方がいいですよ?≫

「あ、もう?」

≪はい≫





料理はタイミングが大事。期を逃してはいけないのだ。とにかく火を止め、鍋の蓋を開ける。

その中を見て、僕の口から漏れたのはため息。だってそこにあるのは・・・・・・芸術だから。

スープの赤,卵の金色、そしてお米の白。それがグツグツと煮詰まり、一つの形になっている。



その効果により、僕達の満腹に近い腹に空腹感を戻してくれる。

なので、僕も小ばちにおじやをよそっていく。もちろんフリードの分も。

そして全員ふーふーしながらも、同時に口に入れる。





『・・・・・・ふわぁ』

「・・・・・・きゅく」



もう、ため息しか出なかった。お肉にお魚、貝にキノコに野菜の旨みが残ったスープ。

それで作ったおじやだ。美味しくないわけが無かった。そうして、全員揃ってほぼ無言で、おじやを完食した。



『・・・・・・ごちそうさまでした』

「・・・・・きゅくきゅく」



そしてだからこそ、この一言が出てくるわけである。



≪お粗末さまでした≫

「・・・・・・アルト、どうしてそれをおのれが言ってる?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「なんか、グダーっとしてるの・・・・・・いいね」

『そうだね』

≪いやいや、あなた達この人に感化されてますよ?≫

「きゅくー」



全員で後片付けを済ませた後、揃ってコタツの中でゆったりしてた。



「てゆうかさ、フリードが頭の上に居ても気にならないから、不思議だよね」

「きゅく・・・・・・♪」

「フリード、なぎさんの頭の上が本当に気に入ったみたい。すごく安心するって言ってるよ」

≪・・・・・・帰巣本能でしょうか≫



ま、いいか。今、それを気にしてもつまんない。あと、帰巣本能は違うと思う。



「来年も、こうして過ごせたら・・・・・・いいですよね」

「うん、そうだね。こういう時間、絶対に持ちたい」

「出来るでしょ。1年に1回のことって考えればさ。・・・・・・でも」



全員の視線が僕に集まる。ちとそれにビビったりしつつ、言葉を続ける。



「・・・・・・家を占拠するのだけは、マジ勘弁してください」



軽いジョークのつもりだった。でも、笑えなかったらしい。全員が涙目で、僕の頭を撫でてきたから。



「・・・・・・なぎさん、大丈夫だよ。リンディさんには、私からもしっかり言っておくし」

「そうだね、さすがにこれはひどいよ。僕もちょっと見てて泣きそうだったし」

「ヤスフミ、あの・・・・・・私、ヤスフミの味方だから。だから、大丈夫」



それでフェイトに至っては、両手を伸ばして抱きしめ・・・・・・って、ちょっと待ってー!!

今はだめー! 今はエリオとキャロも居るんだからだめー!!



『・・・・・・みなさん、明けましておめでとうございますっ!!』



そんな事を言うのは、付けっぱだったテレビの中に映るアナウンサーさん。

そしてこの場に居る、全員の視線がテレビに釘付けになる。



『まさしく激動の年となった新暦75年は終わりを告げ、今は新暦76年っ!!
政治経済的にも変革を迎えるわけですし、再び激動の年になると思われますが』



・・・・・・あぁ、そうだよねー。管理局、改革の真っ最中だもんね。でも、楽じゃないだろうなぁ。

なんにしても・・・・・・ほら、組織改革なんて10年単位の仕事だもの。すぐには無理だって。



「・・・・・・ヤスフミ」



フェイトが、抱きしめていた僕を離す。そして・・・・・・僕を見下ろしながら、嬉しそうに微笑む。



「今年もよろしくね」

「・・・・・・うん、よろしく」



ズルい。いきなりニッコリ微笑んで言うんだもん。僕、なにも言えないじゃないのさ。



「なぎさん」

「恭文」

「よし、黙れ。てゆうか空気を読め? おのれら、そろそろ自分達がおじゃま虫だって気づけ」

『新年でも相変わらず冷たいしっ!!』





ただ、『相変わらず』なので僕達はニコニコしていたりする。

あれだね、この二人もようやく僕に対して慣れてきたんでしょ。

それで僕とフェイトは身体を離して、二人と向かい合う。



そして、互いに正座に移行してゆっくりとお辞儀。ちなみにここの辺りは、フェイトが以前教えたらしい。





『今年も、よろしくお願いします』

「・・・・・・くきゅくきゅ」



次の瞬間、何かが『グキ』っと言った音が聴こえた。



「くきゅー!?」

「こらバカ竜っ! 骨格的に正座でお辞儀は無理なんだから、無理しないのっ!!」

「まぁ、フリードも私達と同じようにしたかったんだよね」

「フェイト、言ってる場合っ!? ・・・・・・あぁもう、大丈夫なんかいっ!!」



こうして、マジで激動の2008年(新暦75年)は終わりを告げ、2009年(新暦76年)が始まった。

あー、でもこれで厄年も終わりかぁ。去年は一昨年以上に色々あり過ぎたから、今年は楽に過ごしたい。



「さて、最初の挨拶も済みましたけど・・・・・・フェイトさん、これからどうします? やっぱり」

「うん。予定通り、ゲーム大会しちゃおうか。ヤスフミ、準備出来てるよね?」

「いや、出来てるには出来てるけどさ」



ご飯食べてから、ソフトやゲーム機の準備はしてるから、問題はないのよ。



「でもフェイト、知ってる? 桃鉄ってね・・・・・・信頼関係壊すよ?」

「うん、知ってる。だって・・・・・・ね?」



あぁ、そっかぁ。なのはやはやて、アリすずとの新年会で散々やってるしね。

だから苦笑気味になるのよ。アレでアリサとなのはが熾烈な争いをして、マジケンカしたのを見てるから。



「でもほら、これも新年の楽しみ方の一つだから」

「フェイト、多分その認識はかなり間違ってるわ。あんなのあの連中だけだから」

≪少なくとも、新年に限定したものじゃありませんよね≫




















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第33話 『それぞれの新年の風景』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



現在、時刻は午前5時前後。僕達は初日の出を見るために海が見える場所・・・・・・というか、マンションの屋上に移動した。





うちのベランダだと、見えるのはミッド地上の中央本部側。つまり、陸の方になるの。





つまり海沿いは死角。でも、ここなら水平線が一望出来る。実は何気に、穴場スポットなんだ。










「でも・・・・・・負債、億どころか兆って」

「ゴメン。僕、見てて面白かった」

「面白くないからね、アレっ! てゆうか、新年早々不吉過ぎだしっ!!」



もちろん原因は分かってる。それはさりげなく1位取りまくって、カードで妨害仕掛けてきた小さい悪魔だ。

そう、奴はコントローラーを持った途端に本性を出してきた。く、やっぱり腹黒い。



「なぎさん、勝負は非情なんだよ? あと、私は腹黒くないから」

「どうして思考を読めるっ!?」

「まぁまぁ。みんなで楽しめたんだし、いいんじゃないかな。それに・・・・・・私だって」



なお、僕がビリッケツでフェイトが3位。だけど、順位など関係ない。

ようは僕とフェイトの負債が、億なんて軽く超えた事にあるんだから。何気にフェイトもボンビーでやられたの。



「・・・・・・ぐす」

「フェイトさん、涙目やめてくれませんかっ!? 私が悪い事したみたいじゃないですかっ!!」

「あー、キャロがフェイト泣かせたー。・・・・・・いーけないんだーいけないんだー♪
フェーイトをー泣かせたー♪ いーけないんだーいけないんだー♪ なーのはさんにー言ってやろー♪


「なぎさん、新年早々そんな不吉なテンポの歌をうたうのやめてっ!!
あと、なのはさんに言うのは本当にストップー! 色んな意味で頭冷やされそうで怖いのー!!」

「だが断る。てーか、おのれは一度徹底的に・・・・・・あれ?」



僕は言葉を止めて、海の方を見る。言葉を止めたのは、水平線から昇ってくる光。



「・・・・・・来た来た。ほら、フェイト。涙ぐんでないで海を見て」

「う、うん。・・・・・・あ、ホントだ」





それは黄金色の光。今年初めての夜明けが、僕達の目の前で起こっていた。

それによって、辺りの闇が光によってその姿を消していく。

今日は天候がいいから、かなり遠くの方でもくっきり見える。それが嬉しかったり。



そして僕達四人と頭の上の一匹は、言葉無く静かに、しばらくの間・・・・・・それを見つめていた。





”・・・・・・ヤスフミ”

”何?”



ただ、念話でフェイトが声をかけてきたけど。



”もし旅に行くなら・・・・・・私も、行きたいな”

”えっ!? ど、どうしてまたっ!!”

”あ、もちろん理由はあるよ”



僕の左隣に居たフェイトは、右手でそっと僕の左手を掴んで、握り締める。

というか、繋いできた。手は・・・・・・指を絡ませた恋人繋ぎ。



”私も、ヤスフミと一緒にたくさん・・・・・・たくさんこんな風景を見たいから。だから、なんだ”

”・・・・・・そっか。それはその、かなり嬉しいかも”

”ん、そう言ってもらえると、私も嬉しい”










僕達の目の前で、少しずつ夜が明けていく。そして、それは時をそれほど必要とはせずに日の出になった。





本格的に水平線の向こうから姿を表した太陽は、まさしく黄金色の光で・・・・・・新しい年の訪れを祝っているようだった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



なのはさんや八神部隊長の出身世界の地球には、初日の出を見て1年の健康祈願をする風習があるらしい。

そこの辺り、ミッドでも言われている事だから・・・・・・まぁまぁ分かる。だからこそ、この状況なわけだし。

新年、部隊の仕事は基本休みで、帰郷出来る人は帰郷して家族に会いに行ったりしてる。例えばシャーリーさんね。





ヴァイス陸曹も妹さんに会いに行ってるし、スバルもナカジマ家に戻ってる。だけど、そうじゃないのも居る。

ここはお休みの長さどうこうじゃなくて、環境的に。例えば私みたいに家族・・・・・・帰る家が無い人だって居る。

あとは色々な都合で帰郷が無理な場合? そういう人達は、隊舎で新年を迎える。





だから私は、夜明け前からコートを着込んで、一人海をジッと眺めてた。というか、アレなのよね。





初日の出見ようと思ったら、六課は最高のロケーションなのよ。湾岸部にあるから、障害なく日の出は見れる。










≪・・・・・・しかし、Sirが初日の出を見るためにここまでするとは≫

「意外?」



アウトドア用の椅子に座って、私は白い息を吐きながらお茶を飲む。

なお、食堂で作ってもらったのをポットに入れて持ってきた。



≪いえ。ただ、日の出に願ったとしても1年無事に過ごせるかどうかなど分からないと思いまして≫

「まぁそれはね? でも、こういうのは気持ちの持ちようなのよ」



懐の中のクロスミラージュには、今ひとつここまでして見るべきなのかが分からないらしい。ただ、ここも当然と言える。

だってここ、海のすぐ近くなのよ? 冷え切った潮風に吹かれまくって、実は少し震えてたりする。



「なにより」

≪なにより?≫

「人間は、思い込む生き物だもの。体調が良いと思えば良くなるし、悪いと思えば悪くなる。
新しい年の始まりを祝い、心機一転新しい気持ちで頑張るという決意を固めるために、初日の出を見るの」



実は、私も小さい頃に今のクロスミラージュと全く同じ疑問を抱いた事がある。

日の出なんて、基本毎日見られるのによ? そんな時、当時はまだ生きていた兄さんがこんな風に教えてくれた。



≪気持ちの問題ですか≫

「そうよ。私にも、アンタの中にもあるもの。だけど、とても大きな影響を持つもの」

≪少々分かりかねますが・・・・・・Sirがそう言うのであれば、そうなのでしょう≫

「ん、ありがと」










ちなみに、一人なのには理由がある。・・・・・・年の初めくらい、静かに気持ちを正したい。

あー、スバルが帰ってくれてマジ良かったわ。おかげで一人を楽しむ事が出来る。

・・・・・・そこ、私を寂しい奴だとか言わないの? 私は一人で居る『のも』好きなだけ。





みんなと居るのもまぁまぁ嫌いじゃないけど、それでも一人も好きなのよ。





つまり、そういう楽しみ方が出来る大人の女なの。OK?




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



年の初めくらい、リインは大人の女性として恭文さんと離れて過ごすのです。

・・・・・・というか、リインが居るとエリオとキャロがお仕事モードに入っちゃうかもですしね。

リインは気にしないですけど、二人は上下関係のあれこれをかなり気にするです。





そのせいでスバルとティアにも最初は『ナカジマ・ランスター二士&ガチガチの上官に対しての態度』という素晴らしいコースでしたから。

リインも実は誘われてたですけど、それでも断ったのはここが理由です。

うーん、リインも最初のうちに『タメ口でいいですよ♪』とか言っておくべきでしたね。そこは失敗なのです。





とにかく、年の初めという事でリインは一人隊舎の屋上まで上がって、屋根の上にペタンと座っています。





目的は、もちろん初日の出。というか、もう夜が明け始めてるですから、日の出ももうすぐです。










「・・・・・・さて、これから大変なのです」










実はリイン、昨日のうちにはやてちゃんとちょっとお話をしたのです。





それはリインの進路についての、とっても大事なお話。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・ちょお待ってーなっ! リイン、それマジで言ってるんかっ!!」

「マジです。リイン、六課が解散したら、恭文さんの所で暮らしたいです」



はやてちゃんが完全に呆気に取られたような表情で私を見ます。まぁ、予想はしてました。

予定では、リインははやてちゃんの補佐としてまた頑張る事になってましたから。



「つまりアレか? 恭文のとこから仕事通うとか」

「いいえ。局員は辞めるです。これからずっと、恭文さんと一緒に仕事していくです」

「はぁっ!?」



はやてちゃんが、軽く身を起こします。ただ、それでもすぐにソファーに座り直しました。



「・・・・・・よし、理由を聞こうか。まずそこからや。そうやないと、うちは何の判断も出来ん。
リイン、なんで局員辞めるんや? ここまでめっちゃ頑張って勉強してたやんか」

「してたですね」



はやてちゃんやシグナム達の力になりたくて、祝福の風として家族を支えたくて。

それはリインに与えられた本来の役割。でも・・・・・・それよりもっと大事なものが出来た。



「恭文さんの傍に、居たいんです」

「いや、確かにアンタが恭文めっちゃ好きなのは知っとるよ? でもさすがに」

「傍に居て、手が届く距離に居て・・・・・・守りたいんです。恭文さん、言ってました。
JS事件の時、フェイトさんの傍に居て守れなかったのが悔しかったって」



リインがそう言うと、はやてちゃんの表情が僅かに歪みます。それは苦さを含んだ顔。



「・・・・・・原因は、アレか? フェイトちゃんが捕縛されかけた事」

「はい。それと・・・・・・恭文さんは何も言わないですけど、六課の裏事情に関してです」



結局フェイトさん、局のバカの尻拭いをしてアレなわけですし。それを言えばみんなの怪我だって同じです。

多分恭文さんの『守れなかった』は、こういう意味合いもあると思います。色んな意味で・・・・・・負けたと思ってる。



「あー、それはまた突き刺さるなぁ。てか、アイツやっぱり気にしてたんかい」

「はい。それが全部じゃないけど、傍に居て初めて出来る事や守れるものもあると痛感したって言ってたです。
リインも・・・・・・同じなんです。あの時、本当は六課の仕事を放り出してでも、恭文さんの傍に行きたかったんです」



あの時・・・・・・スカリエッティに恭文さんやヒロリスさん達が狙われていると分かった時ですね。

仕事なんて、家族なんてどうでもいいと思っている自分に気づいた。



「心と体温が感じ取れる距離で、私の小さな腕でも伸ばしたら触れられる位置に居たい。ありったけであの人を守りたい。
ずっとそう思ってました。でも、お仕事も大事で・・・・・・ずっと、ずっとそんなのに引きずられてる自分が嫌だった」



私は古き鉄の・・・・・・恭文さんの一部。恭文さんとは、心と心が繋がってる。絶対に離れたりなんて出来ない。

恭文さんの笑顔が私の幸せで、恭文さんが誰を好きでもそんなの関係ない。私は、恭文さんが好き。



「私の手はこんなに小さくて」



言いながら私は、視線を落として自分の両手を見る。今の私はミニサイズだから、本当に小さい。



「全部を同じ意味合いで大事になんて出来ない。嫌でも優先順位を決めるしかない」



それはエゴかも知れない。でも、それでも私は選んでいた。ずっと・・・・・・本当にずっと前に。



「なら私の一番大事で、大切で、何があっても守りたいもの何かと考えた時、答えは・・・・・・一つしかなかった」



だって私の今は、私の笑顔は、全部あの時恭文さんが守ってくれたからここにある。

好き。どうしようもないくらい、自分でもおかしいんじゃないかって思うくらい、恭文さんが好き。



「だから、そうしたいんです。傍に居るからこそ出来る事をしたいんです。
私の愛する人を、私のありったけで守り抜きたい。一緒に幸せになりたい」





それに、私はあの時言った。変わらないで、変わっていけばいいと。そのままのあなたでいいんだと。

そんなわがままを通していく私の・・・・・・私の愛する人の支えになりたい。

そうだ、あの時決まったんだ。これから私はどうすればいいのかが。どうしていきたいのかが。



なにより、もう離れる事なんて出来ない。私の身も心も、全部恭文さんのものだから。

私の小さな腕で抱きしめて恭文さんを守れるなら、ずっと抱きしめ続ける。

私の薄い子どもっぽい唇を重ねて恭文さんの涙が止められるなら、何度だって唇を重ねる。



私の子どもな身体でも、恭文さんが愛し合って幸せを感じられるなら・・・・・・どんなに痛くたって、全てを受け入れる。

もうリンディさんにもアルフさんにも、誰にも好き勝手なんてさせない。私は恭文さんの一番の味方で居る。

誰かが恭文さんの夢や想い、命さえも踏みにじろうとするなら、ありったけで抗って叩き潰す。罪を背負っても、守り抜く。



だから私は、どう言っていいか分からないと言いたげなはやてちゃんの目を真っ直ぐに見る。



もう、私は道を決めたと・・・・・・伝えるために。





「はやてちゃん、私はもう決めました。局員の立場も、資格も、そんなのどうだっていい。
そんなのが有ったって、何も守れなかった。私はなにも出来なかった」



だから道を決めた。後悔したのは、恭文さんだけじゃない。私だって同じ。

過去は変えられないから、全部持って行って・・・・・・その上で、私は今を変える。



「だから、行きます。私のありったけで、今度こそ守り抜くために」

「・・・・・・リイン、アンタ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「うーん、やっぱりいきなり過ぎましたかねぇ。でもでも、こういうのはハッタリが大事なのでいいのかもです」



回想している間に・・・・・・あ、水平線から太陽が出てきました。初日の出なのですー。

シグナム達は別のところから見てるですけど、さっき言った通りリインは一人。・・・・・・ここには、理由があるです。



「えっと、お願い事なのです」



リインは両手を合わせて、日の出に向かって拝みます。・・・・・・ここなら、大丈夫なのです。

小さな声で呟くようにすれば、リインのお願い事は声に出しても問題ないのです♪



「今年こそ、恭文さんと唇でちゅー出来ますように。それでそれで・・・・・・恭文さんがリインにエッチ、してくれますように」



前にはやてちゃん達が居る前でコレを言って、とんでもない騒ぎになったですから。しばらくの間は自重していたのです。

今までほっぺにちゅーはたくさんあるですけど、唇はないのです。だから、ここで頑張っていきたいのです。



「うふふー、リインの初めて・・・・・・恭文さんにいっぱいいっぱいあげるのですー♪
さー、今年も頑張るですよー。フェイトさんには負けないように、全力でいくのですー」










・・・・・・え、年齢的にアウト? それなら問題ないのです。ちゃんと抜け穴があるのです。

例えば、年齢的にリインより下なディードやオットーとかが居るですよね?

普通に年齢の話を持ち出すと、二人と付き合ってもそうなれるのは16年後なのです。





でもでも、そんなに待ってたら二人は熟女の領域に突入なのです。それはまずいのです。

なので、実は実年齢なんてあんまり意味がないのですよ。大事なのは、愛なのです。

それでー、リインと恭文さんの間には既に確固たる離れられないほどの強い愛があるのです。





だから『エッチしたいですー』って言ってるのに・・・・・・うー、恭文さんはいくじなしなのです。





でも、今年は違うですよー? 一緒に暮らすようになれば、チャンスも倍増ですから♪




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・出来たよ」

『うわぁ・・・・・・凄い』





全員で初日の出を見た後、私達は部屋に戻った。そして、新年最初の食事。



まぁヤスフミが初日の出を見ている時に、なぜか強烈な寒気を感じたりしてちょっと大変ではあった。



でも、体調も問題はないようだし・・・・・・とにかくご飯だね。それでそのメニューが何かというと。





「えっと・・・・・・これ、おせちでしたよね?」



それはおせち。私も地球に居た頃は毎年食べていた料理。



「そうだよ。日本のお正月に食べる料理」

「えっと、お正月で一家のお母さんが食事関係の家事もお休み出来るように・・・・・・だっけ? 私はそういう風に聞いてる」





以前なのはから教わったんだ。そのために冬場で常温でも三日くらいなら日持するものばかりを入れてるの。

それだけじゃなくて、メニュー毎に日本人が好きな語呂合わせがかけられているの。

私、それを初めて聞いた時、とても感動したのを覚えてる。ミッドではそういうの考えられなかったから。



私、地球・・・・・・日本の風習とかはあんまり詳しくなかったしね。そのせいもある。





「大体正解。だから生ものとかじゃなくて、二〜三日は日持ちするものばかりなんだ。で、こっちが」

「お雑煮・・・・・・だよね? 私、初めて見た」

「きゅくー!!」





ヤスフミはとっても念入りに、お雑煮まで用意しててくれた。

初日の出を見た後なら、身体が冷えてるはずだからと言ってね。

さっき運ばれてきたお椀の中には、紅葉の形に切られた人参。



それに白いかまぼこ。そしてお餅が三個入っている。





「桃子さん仕込みの白味噌仕立てだよ。数あるレパートリーの中でも、自信作」

「でもこれ、全部恭文だけで準備したの?」

「いや、おせちは買った物が多いけど・・・・・・ま、せっかくだしね」



うん、そう言ってたね。『せっかくだからエリオとキャロとフリードには、日本のお正月の楽しみを少しでも体験してもらおう』・・・・・・って。

だから、材料調達や調理を急ピッチで進めた。おせちも、物によっては一日仕事なメニューもあるから。



『あの、ありがと』



私も込みで、ヤスフミにお礼を言う。そうしたらヤスフミは軽くお手上げポーズでいつものすまし顔。



「いいよ。僕も本格おせちが作りたかったし」



ヤスフミはこういう時、あんまり素直じゃない。でも・・・・・・そういうところも、結構好きなの。

なんというか・・・・・・うーん、上手くいえないなぁ。とにかく、好きな部分なんだ。



「んじゃ、早く食べて? お雑煮冷めちゃう」

『うん』

「それじゃあ・・・・・・いただきます」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「うん、お雑煮美味しいよ。いい味」

「でしょ? いや、桃子さん様々だよー」



お餅も煮てるからすごく柔らかくて・・・・・・ふにーっとしてる。

でも、昨日のお鍋とはまた違う。お汁が違うからかな? 優しくて、安心する味。



「キャロ、フリードはこれで大丈夫そう? 喉詰まったりしないかな」

「うん、大丈夫。なぎさんがお餅、細かく切ってくれたから」

「きゅくー」



確かにヤスフミ、おもちをかなり細かく切ってる。賽の目状にして、フリードが喉を詰まらせない様にしてる。

キャロに『ひとつずつ』と言われたので、フリードも焦らずにキャロが差し出してくるお雑煮入りのスプーンを口に入れて食べてる。



≪美味しいと言ってますね≫

「ならよかった。でも、竜って意外となんでも食べられるんだよね。ネギ類食べて赤血球が壊れるとかもないし」

「なぎさん、それどこの犬? ・・・・・・でも、言いたい事は分かる」





実は私も、フリードって人間はOKな食べ物の中にNGなものがあるんじゃないかって、かなり考えてた時期がある。

もうちょっと言うと、食べるだけで命に関わるようなもの。だから、ヤスフミが言いたい事も実は理解出来る。

でもフリード、基本的にペットフードの類も人間の食べ物もかなりいけるんだよね。・・・・・・あ、でも人参は苦手かな。



キャロが人参嫌いだし、それが移っちゃったのかも知れないね。お雑煮の人参は大丈夫なんだけど。



それで食べているのは、もちろんお雑煮だけじゃない。ヤスフミが頑張ってくれたおせちも、しっかりといただく。





「・・・・・・あまーい。というか、これなに?」

「栗きんとんだよ。ふふ、これも作ってみたくてさ」



キャロが驚いているので、私も一口。・・・・・・甘いけど、これくらいならいける。

あー、でも美味しい。うーん、やっぱり料理の腕は完全に抜かれちゃったなぁ。



「こっちのは・・・・・・あ、これは甘くない」

「煮しめ・・・・・・煮物だしね。味はどう?」

「うん、美味しいよ。でも、少し味が濃いかも」

「うん、さっきも言ったけどおせちは、三が日の間の保存食も兼ねてるからね。
そのために味を濃い目にしたり、今フェイトが食べてるのみたいに酢を使った料理を入れてるの」



ちなみに、私が食べているのはなますです。・・・・・・うぅ、酸っぱいなぁ。

でも、エグイ酸っぱさじゃないから、これは好き。程良くあと引く味わいだね。



「なるほど。でもこれ、私でも作れるかな?」

「キャロの料理スキルなら、問題ないでしょ。保存を考えなければ、味付けも好きにしていいし」

「・・・・・・そっか。これ、具体的にはどうやって作るの?」

「ざっと言うと、材料をダシ汁と調味料で煮汁が残らないように、時間をかけてじっくり煮るの。それで」

「うんうん」





そのまま二人は煮しめを食べながら、料理談義に突入した。・・・・・・やっぱり、キャロはヤスフミと距離近いかも。

というより、共通の話題が多いのかな。料理好きだし、それ以外の事でもそれは言えるのかも。

ゲーム大会でもキャロ、ヤスフミ相手に大暴れしてたしなぁ。これは・・・・・・ホントに兄妹って感じかな。



うーん、私にもそうしてくれるとやっぱり嬉しいんだけどな。

でも、キャロの中の私の立ち位置がヤスフミとはまた違うから、難しいのかな。

距離を取られてる感じではないの。というか・・・・・・私、堅苦しいかな。



ヤスフミはなんだかんだ言いながら、本音でぶつかってるからこうなるのかも。



私も本音で・・・・・・ドガーンとぶつかればいいのかな。まぁ、それならいけるかも。





「・・・・・・恭文」

「どったの?」

「この黒いの・・・・・・食べ物?」



エリオが疑問の視線を向けるのは、黒く艶々に輝くもの。

それがお膳の一角に複数個犇めいている。それを見て、私はクスリと笑った。



「宝石じゃないよね? でも綺麗過ぎて食べ物には・・・・・・って、フェイトさんなんで笑うんですか?」

「あ、ごめんね。・・・・・・そっか。そう言えばエリオに『黒豆』を食べてもらった事はないよね」

「くろまめ?」

「うん。これもおせち料理の一つだよ。黒豆というのは・・・・・・あの、ヤスフミ?」



私は言いかけて気づいた。おそらくエリオの言葉で、ヤスフミがとっても嬉しそうな顔になっていたのに。



「エリオ、ありがとう」

「え、なんで泣くのっ!?」



というか、涙ぐみ始めたっ!? あの、これは予想外なんだけどっ!!



「だってその黒豆、本当に苦労して。一回、シワがよってやり直しになったりしたし」

≪相当苦労して作ってたんですよ。その成果を誉めてもらえて、嬉しいんです≫

「そ、そうなんだ」



黒豆・・・・・・綺麗に煮るの、難しいしね。私もリンディ母さんとアルフと一緒に挑戦した事があるんだ。

それで見事に失敗したことあるから、ヤスフミがほめられて嬉しいのも分かる。とりあえず・・・・・・よし。



「・・・・・・あ、これ美味しい」



私はこの流れに乗っかっていこうと思って、伊達巻きに箸を伸ばして一口で食べる。

・・・・・・あぁ、ふわふわして美味しい。ほどよいいいお味だよ。



「ヤスフミ、これ美味しいね」

≪ほらマスター、現ヒロインさんが呼んでますよ≫

「新年早々いきなりな事言うのは、やめてくれるかなっ!?」



心臓の鼓動が速くなってる。というか、最近こういうの・・・・・・多いな。でも、いい事なんだよね。

こういうドキドキが、私が出さなくちゃいけない答えに繋がっていくんだから。うん、これでいいんだ。



「フェイト、アルトは気にしなくていいから。えと、どれかな」

「この伊達巻き。すごくいい味付け。あと、この昆布巻きも。さっき食べてみたら、ほんとに美味しかった」

「・・・・・・・・・・・・えっと」



あれ? ヤスフミ、どうして固まるのかな。というか、なんでちょっと困った顔になるのかな。私、理由が分からないよ。



「あー、フェイト。その・・・・・・非常にいい笑顔で言っていただけたので、言いにくいのですが」



ヤスフミの言葉で、頭が自動的にフル回転し始める。

そして私は、ひとつの可能性に気づいた。・・・・・・ま、まさかっ!!



「それ二つとも、買ってきたやつ」



ヤスフミが非常に言いにくそうに答えを提示した瞬間、場の空気が固まった。

エリオやキャロ、フリードまでが私に『どうするんですか?』と視線を向ける。ほ、本当にどうしよう。



「あの、えっと・・・・・・ごめん」



数瞬の間に色々考えた結果、結局これしかなかった。人間って、本当に無力だと思う。



「あ、いいっていいって。というか、どれもかなり吟味して買ってきたんだ。
だから美味しいと言ってもらえるなら、嬉しいよ? うん、そこは本当に」










うぅ、そう言ってくれるとありがたいけど・・・・・・でも、恥ずかしいよー!!





あぁ、私空気読んでなかったのかなっ!? だからコレなのかなっ! もう新年一発目からこれなんて嫌だー!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・と、このようにおせちには色々な意味合いがあるんだ。
でも、どれもこれも1年の祈願を願うものばかりなのは、覚えておいて欲しいな」

『はーい』

「はーい、分かりましたー」





元旦早々、私と父さんは海上隔離施設に来た。ここはいつもの講習スペース。

それでチンク達に年始の挨拶も込みで、ちょっとだけ特別授業。

みんなに出されたおせちを題材に、それぞれの意味や地球の文化について説明した。



でも、頭が痛い。新年始まってそんなに経ってないのに・・・・・・あぁ、辛いなぁ。





「・・・・・・待て待て。スバル、お前・・・・・・ノーヴェ達はともかく、お前までそこで返事はおかしいだろ」



そして、ちょうどうちに帰郷していたスバルも参加。一緒に授業を聞いて、私にキラキラと視線を向けてくる。

『ギン姉凄いねー』と言わんばかりの表情を、私に向けてくるの。だから傍らで監督していた父さんだって、呆れたように突っ込むのよ。



「え、どうして? だって面白いお話だったし・・・・・・ね、みんな」

「あ、それは同感っス。食べ物一つに語呂合わせで験を担ぐなんて、私らにはなかった思考っスから」

「姉も実に興味深かった。・・・・・・恭文や高町教導官達の出身世界にも、強い興味が出てきたしな。ノーヴェ、お前もだろ」

「ま、まぁ・・・・・・それなりにな。地球の人間がそういうの好きだってのは、よく分かった」



まぁ、授業は成功なの。異世界・・・・・・外の世界の文化に対しての興味を引き出すことが出来たから。

でも、やっぱり納得出来ない。チンク達はともかく、スバルがコレに感心してるのは納得出来ない。



「スバル、お姉ちゃんの記憶が正しいなら」

「うん?」

「お姉ちゃんは確か、前に全く同じ事をスバルと一緒の時に説明された気がするんだけど」



私が呆れながらそう言うと、場の空気が変わった。さっきまでの和気あいあいとしたものから、微妙なものになる。

そしてノーヴェを筆頭に、全員がスバルを私や父さんと同じ目で見出した。



「あー、ギンガにナカジマ三佐・・・・・・それ、マジ? ようするにスバル、今私らが聞いた話を知ってたって事だよね」

「セイン、マジだ。前にも話したが、俺んとこのご先祖様は地球・・・・・・日本人でな」

「それはボクも前にギンガから聞いてる・・・・・・あ、そっか。その関係でスバルやギンガも」

「あぁ。俺が教えたんだよ。俺達のご先祖様は、中々に面白い事を考える連中だったってな」





昔のミッドにはね、向こうで言うところの神隠しによってこっちの世界に漂流してきた人がたくさん居るの。

それも、狙ったように日本人ばかり。だからミッドでは、昔から日本文化が積極的に取り入れられていた。

だから私や父さんだけじゃなくて、ミッド・・・・・・次元世界の基本的な公用語の一つは日本語だしね。



ちなみにとある学者の説では、昔の日本とミッドは次元の海の影響で異変が起きていたというのがある。

その異変のせいで、それぞれの世界を繋ぐ歪みや穴の類が出来やすかったのではないかとか。

それが地球・・・・・・それも日本という小さな島国の人間が、多くミッドに漂流してきた理由。もちろん根拠は無いんだけど。



とにかくそういう説が飛び出すくらいに、今もミッドと日本文化はとても縁が深いんだ。





「・・・・・・スバル、さすがにこれ忘れるってどうなんだよ。アタシだってこれは覚えて人に教えたくなるくらいなのに」

「私もだよ。スバルさん・・・・・・もしかして記憶力、ザルなの?」



最年少のルーテシアにそう言われて、スバルがずっこけてうつ伏せになる。でも、すぐに起き上がった。



「ルーテシアひどいよー! てゆうか、ザルってなにかなっ!!」

「お父さんが教えてくれた。深刻な病気や障害とかでもないのに記憶力がパーな人は、人の話を覚える気のないザルだって」

「・・・・・・恭文ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ! ルーテシアに何変な事教えてるのかなっ!!」

「スバル、これは仕方ないよ。お姉ちゃんも全く否定出来ないな」

「ギン姉までひどいよー!!」










・・・・・・私達の元旦は、こんな感じで楽しくも騒がしく過ぎていく。だから、みんな笑ってる。

去年は敵同士で、互いに殺し合ったりもしたけど・・・・・・それでも私達は、手を取り合える。

過去をなかった事にするんじゃない。過去も含めて、言い訳もしないで、私達がそれぞれに手を伸ばしたから。





来年も、再来年も、それからずっとずっと先まで・・・・・・この手を、ずっと繋げていられますように。





私は天窓から見える太陽を見ながら、少し遅いけど胸の内でそう願った。



















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



さて、時刻はすでに夜。というか、お休みの時間。なので僕達は全員パジャマ。

あの後、みんなで羽根突きしたりお汁粉食べたりで、楽しくお正月を満喫。

あとは書き初めもした。どういうわけか『糖分』って書いたら、みんなからブーイングだったけど。





だって、銀魂好きなんだもん。あれ欲しかったんだもん。なお、『チャーハン』もダメでした。










「・・・・・・あぁ、このまま旅に出たいなー。めんどくさい事なんて放り出したいー」



布団の上でゴロゴロしながらそう言った。すると、みんなが呆れた視線を向けてくる。



「恭文、さすがにそれは・・・・・・ほら、仕事も大事だよ?」

「そうだよ。なぎさん、このまま居なくなるとみんな寂しがるよ?」

「いやっ! 僕は十分仕事してるしっ!! だからこれ以上する必要はないっ!!」



布団の上でうつ伏せの状態で動きを止めて、顔を上げる。そして・・・・・・すぐに力を抜く。



「てゆうかさ、あんなはた迷惑な後見人見てたら、やる気なくすし。
家占拠されてたのよ? ぶっちゃけ僕六課なんて助ける義理立てもう無くない?」

「・・・・・・ヤスフミ、そこを言われると色々と反論し辛いからやめて?」

「うん、だから言ってる」

『自覚ありっ!?』



あー、でも旅はしたいなー。イギリスとか行って、フィアッセさんとラブラブしたいなー。

・・・・・・試験終わったら、休み取ろうっと。たとえ部隊がまた襲撃されても、僕は絶対助けないし。



「まぁなぎさん、やる気は出していこうよ。ほら、近い内にお礼参りに砲撃かましに行くんだし」

「あ、それもそうだね。だったらいいか」

「でしょ?」



いや、あのバカ提督に後悔の二文字を刻み込めると思うと、嬉しさが込み上げるね。うん、良かった良かった。



「よくないよっ!? ヤスフミもキャロもそんな事しちゃだめだからっ!!」

「「えー、どうしてー?」」

「どうしてもっ!! ・・・・・・それじゃあ、電気消すね」



黄色いパジャマ姿のフェイトが皆にそう言って、リビングの電気を消す。

そして僕達は川の字型に並べた布団に入る。なお、なぜか僕はフェイトの隣。



「じゃあ、みんなおやすみ」

『おやすみ』

「くきゅー」





・・・・・・なんか、いいな。ちびっ子二人のコブ付きなのに、この感覚は悪くない。

家族に嫌気が差していた僕の心を癒してくれるよ。うぅ、嬉しいなぁ。それで僕は、そっと左手を伸ばす。

布団の距離はかなり近いので、そのままフェイトの布団の中に入れる。



それでフェイトの手・・・・・・そっと繋いでみる。というか、フェイトも僕に向かって手を伸ばしていた。

そのまま恋人みたいに指を絡めて繋ぎ合う。相変わらず、温かくて柔らかい手。触ってるだけで安心する。

フェイトの方を見ると、頬を染めて嬉しそうに笑ってた。なんというか、ラブラブするの楽しい。



あの、色々と進行速度が凄くてちょっと怖くはあるよ? でも、やっぱり嬉しいの。





”・・・・・・やっぱり、旅に出たい?”



そんな気持ちを感じている時に届いた念話は、フェイトのもの。ちょっとだけ心配そうなものだった。



”うん、それは思うんだ。やっぱり、旅は夢の一つだから”

”ホントに好きだよね”

”そりゃあね。・・・・・・フィアッセさんと初めて会った時、色々あったけど楽しかったから”

”そう言えばそうだったね。それがヤスフミの中で旅が夢になったきっかけ”

”うん”





フェイトの言うように、それが僕が旅が好きになったきっかけ。実はその前段階で僕、実戦で大負けしてたの。

相手は魔法能力者でもなんでもなくて、魔法も使えなくてさ。魔法がなかったら弱い自分に気づいて、それがまた悔しくてさ。

というか、実感したの。魔法は・・・・・・科学は、絶対的なものじゃないんだって。



僕は『魔導師』としては強くなっていても、純粋な『戦闘者』としては三流以下だった。

それで恭也さん達と訓練しつつ、数ヶ月にわたって自分なりの答えを探した。

でも見つからなくて・・・・・・そんな時、色々な話の流れでイギリスに恭也さんと美由希さんと一緒に飛んだ。



そこで当時諸事情で身柄を狙われていたフィアッセさんと初めて会って、僕もフィアッセさんの護衛に参加する事になったの。

結局テロに近い形で事件が起きて、その中で見つけたんだ。『魔導師だから』で言い訳できない自分を。

魔導師だから、魔法が使えなかったら弱くても仕方ない。そうやって自分の可能性を狭めている事が、耐えられなかった。



だから何も諦めない、そのための言い訳をしない自分になりたくて・・・・・・本格的に魔法無しでの戦闘訓練を積んだ。

銃器相手でも戦う術と知識を。そしてそのために必要な感覚を、ちょっとずつちょっとずつ磨いていった。

ちなみにこれ、かなり役立ってくれてる。場合によっては、『魔法? なにそれ美味しいの?』状態な奴と戦う事もあるし。



だから旅は・・・・・・そうだな。そういう可能性を、ドキドキワクワクを探せるから好きなのかも。それで、僕の夢の一つ。





”私、あの時はどうしてそうなるのか・・・・・・本当に分からなかった。
ヤスフミが負けた事も知らなかったし、全然教えてくれなかったから”

”だって、話せないし。負けた事を話したら、必然的に全部だもの”



実は諸事情で敗戦に関してはフェイトやリンディさん達はずっと知らなかった。

ちなみに、リンディさんやアルフさんは今も知らない。知っているのは、フェイト・なのは・はやてにアリすずと他数人だけ。



”まぁ、それはね? でも・・・・・・旅かぁ。やっぱり私もしてみたいな”

”フェイトも朝に言ってた通り?”

”うん。あと、この間のアレ聞かれてたみたいだから正直に言うと・・・・・・今、かなり迷ってる。
それこそ局員を続けるかどうかってレベルまで。本当にね、もう嫌になったの”



・・・・・・アレだね。結局フェイトには盗み聞きしちゃったのバレちゃったんだよなぁ。

まぁ、それで怒ったりどうこうってのはなかったけど。



”私は本当に何がしたかったんだろうって、よく考えるんだ。まぁ、答えはある程度は出てるんだけど”

”それでももうちょっと考えていきたいって感じ?”

”うん、そんな感じ。・・・・・・ヤスフミは、あるんだよね? 自分なりの夢が。
旅もそうだけど、あともう一つ・・・・・・大事な夢”

”うん”



自然とフェイトの手を握る力が、強くなってしまう。それは・・・・・・その困難さを思い出したから。



”ずっと・・・・・・本当にずっと前から、テレビの中のヒーローに憧れてたんだ。魔導師になる前からずっとだね”

”・・・・・・うん”

”全部助けて、敵も味方もハッピーに出来るのなんて、本当に凄いと思ってさ。
なにかこう、上手く言えないけど・・・・・・キラキラしたものを感じてたの”



全部助けるからじゃない。ヒーローが正義の味方だからじゃない。それじゃあ答えには程遠い。

ずっと僕の心の中にあるものなのに、自分の中の答えがまだ見えなくて・・・・・・それがちょっと不思議で。



”別に全部助けて凄いからーとかじゃないんだ。それは違うの”



フェイトの目を見ながら、僕は寝返りを打つ。そうして身体の前をフェイトに向ける。

フェイトも同じようにしてるみたい。布団、もぞもぞって動いたから。



”それでね、そんな時にリインと会った。魔法の事とかもあったから、凄く嬉しかったの。
今更ながら言うけどさ、打算的なところもあったんだ。助ければ、近づけるかなって”

”憧れてる形に・・・・・・ヒーローにだよね”

”うん。でも・・・・・・実際は違った。僕はそんな立派な器じゃなかった。壊す事しか、出来なかった。
憧れていたものに近づくのは無理だって、自分で自分に烙印押してさ。それも悔しかった事の一つ”



分かってる。それしか・・・・・・それしかなかったって。でも、だからこそ逆に腹立たしさが増した。

そんな選択しか作れなかった自分が、嫌いになった。弱くて、無力な自分を殺したくなった。



”憧れてたものが、まるでホントに『魔法』みたいに感じてさ。もうめんどくさくなったりもした。
・・・・・・でも、諦め切れなかった。そんな『魔法』に、そんな事が出来る魔法使いに憧れてる気持ち、捨てられないの”

”それが・・・・・・ヤスフミの夢なんだね”

”うん、僕の夢。フェイトやなのはみたいに、立派な仕事するようなのじゃないけど・・・・・・夢。
戦う度に無理だって思うのに、同時にそうなりたいって気持ちも強くなるの”



戦ってきて、泣いてる人達を見て・・・・・・悲しみのために道を間違える人も見て、気持ちが強くなる部分がある。

出来ないと諦めて、最初から切り捨てるような真似していいのかって声がして、結局言い訳出来ずに突っ込むの。



”言い訳しない自分になりたいと思ったのも、きっとそこなんだ。
・・・・・・僕の憧れてる自分は、戦わなきゃいけない時には絶対に逃げたりしないから”



フェイトは、優しい目で僕を見てくれてる。だから話せる。それで・・・・・・うん、本当にそうなんだよね。

もう僕達、今までとは違う。男の子と女の子で、ちゃんと手を繋いでいけるんだ。



”局に入りたくないとずっと思ってた理由の一つも、実はそれなの。・・・・・・ずっと、ずっと考えてたんだ。
局に入ってフェイトやなのはみたいに立場や居場所を得て、それを続けていって、それで僕の願いは叶うのかなって”



別に簡単な事と言うつもりはない。でも、それだけで到達出来るのかなと。一応、何度も考えた。

局は嫌いだけど、めんどくさくなったら辞める方向もアリではあるしさ。



”私、前だったら『大丈夫』って言うところだけど・・・・・・きっと、無理だよね”

”ん、だと思う”



組織は歯車である事を望むもの。僕が夢を捨てなきゃ、きっと馴染む事なんて出来ない。

言い訳してでも歯車である事を選べなきゃ、組織の在り方を信じられなきゃ、組織人にはなれないの。



”ヤスフミ、そう思った決定打はJS事件だよね。私が、なのはやみんなが・・・・・・色々な都合に利用されて傷付いたから”

”・・・・・・そう、だね。”





六課のあれこれを聞いた時に思った。これはもうダメだと。なにより・・・・・・うん、なによりだ。

僕はみんなの命や夢を、自分達のこれまでの不手際の尻拭いのために利用したのが許せなかった。

実はあの時、平然とカリムさんの頼みを引き受けたフェイト達にも相当頭きてた。



だから、六課行きも断ったのよ。本局所属の部隊の一員になると動きにくくなるとは言ったけど、アレは全部嘘。

僕は・・・・・・あんな場所、夢の部隊だなんて思えなかったから。ただの生贄を集めるためだけに存在してる場だと思ってる。

まぁ、そこの辺りはもうフェイトにも見抜かれちゃってるけど・・・・・・あれ、なんかおかしいなぁ。



なんかここ最近で、本当に以前と比べてもフェイトとの距離が縮んでる気がする。うーん、なんで?





”それであの・・・・・・ごめん”

”なんでフェイトが謝るのよ”

”だって私達、それならずっとヤスフミの夢を知らない振りしてた。ヤスフミ、ずっと夢を話してくれてたもの。
『言い訳しない自分』が、ヤスフミの夢なんだよね。憧れてる形が・・・・・・そんな存在だから”

”ん、そうなるのかな”



他人というよりは、自分なのかも。色んな事が出来る自分を、諦めたくないんだ。



”捨てられないし拭えないんだ。強くなりたい気持ちも、憧れてる形に近づきたい想いも”

”うん”

”それはきっと、これからも変わらない。変わるなら・・・・・・とっくに捨てて、リンディさんの言う『大人』になってる”



頑張れば、諦めなければ、きっとなんだって出来るはずって・・・・・・そう思いたいの。



”分かった。あのね、諦めたりしないで欲しいな。私、もう分かったから。
ううん、これからもヤスフミの事知っていきたい。だから・・・・・・ね?”

”・・・・・・いいの?”

”うん、いいよ。私は素敵な夢だと思ったから。・・・・・・自分を諦めない事が、ヤスフミの夢かぁ。
うん、素敵だよ。私ね、今聞いてて凄くドキドキしてるんだ。直に伝えたいくらい”



そう言われて、顔が真っ赤になる。そ、それはその・・・・・・さすがに色々問題なんじゃ。



”フェイト・・・・・・・ありがと”

”ううん。・・・・・・エリオとキャロが居るの、ちょっと残念だね。二人っきりなら、直に伝えられたのに。
最悪抱きしめて、私の鼓動をヤスフミに伝わる距離まで近づいて届けられるのに”

”いや、あの・・・・・・直って何?”

”直はその・・・・・・つ、つまりヤスフミがこの手で私の胸を・・・・・・揉むの”



きゃー! なんかすごいストレートに言ってきたしー! 普通に色々ダメなパターンじゃないのさっ!!



”と、というかそれはダメっ! 恋人同士じゃないし、なによりそんな事したら理性が吹っ飛ぶー!!”

”でも、前にキスも一緒に要求してきたよね? もしも私の事心配してるなら・・・・・・大丈夫だよ? 今私は、OK出してるの。
さすがに私だってこんな事、冗談では言えないよ。つまりその、ヤスフミを男の子として見ていく一環で”

”それ絶対違うからっ! よしフェイト、今度は誰から何を教わったのかなっ!!
絶対なんか入れ知恵されたでしょっ! じゃなきゃ、この暴走っぷりは納得出来ないー!!”










それから、結構な時間フェイトと色んな事を話した。手を繋ぎながら、のんびりゆっくり。

まぁ若干フェイトが暴走気味なのは気になるけど・・・・・・別に問題ないよね? 僕も幸せだし。

しかし、今年はいい年になりそうだなぁ。例え例年のようにおみくじで『大凶』が出たとしても、きっとそうなるよ。





てゆうか、この調子なら大吉出ていいと思うんだけどなぁ。というか、僕ないんだよね。





一度も大凶以外のくじを引いた事ないんだ。でも・・・・・・よし、絶対神社に行こう。今年は大吉引けると思う。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして、今日は1月10日。あっという間だけど、僕の空戦AAA+の昇格試験当日。

本日の試験会場はここ、ミッドの首都から外れたところにある廃棄都市部。

JS事件では、ナンバーズと六課フォワード陣の決戦の部隊ともなったゴーストタウン。





そして僕とアルトは・・・・・・その上空で頭を抱えていた。いや、マジ頭痛いし。










「ちょっとちょっと、誰だよ。今年は大吉引けるとか言ったの。毎年のジンクスから脱却出来ると思ったのに」

≪それは間違いなくあなたでしょ。というか、まだ大吉引くの諦めてなかったんですか≫

「当たり前でしょっ!? この手で本物の大吉くじを引くまでは、死んでも死にきれないしっ!!」

≪というか、まずは末吉からいきましょうよ。あなた、おみくじでは大凶以外出ないじゃないですか≫





だけどそんなのはお構い無しで、いい感じで風が吹きすさぶ。

そうやってこれからの時間がタダで済まない事を、おせっかいにも教えてくれる。

というか、済まないだろうね。その上空で飛行魔法で佇みながら、強く思っていた。



今僕達が頭を抱えている原因は、当然あるの。・・・・・・試験内容だ。

試験内容は至って簡単。魔導師一人を撃墜せよ。もうたったこれだけなの。

なお、これは滅多に出ない課題。内容だけなら、あんまりにも簡単過ぎるから。



ただし、落とし穴がある。それもとてつもなくデッカイのが。それは相手の魔導師。

仮想敵を勤めるのが、教導隊所属のエース・・・・・・オーバーSランクの魔導師だと言う事。

ここまで言えば、賢明な方々は気付くだろう。この試験がどういう形で行われるのかを。



つまり実際に戦いながら、総合的な技能を見るそうだ。それも教導・・・・・・戦闘のプロが、本気を出した上で。あ、ここでおさらいね?

ランクって言うのは、簡単に言えば『この人はコレくらいのレベルの仕事が出来ますよ』という証明書。

だからこそ高ランクの魔導師は重宝されるし、六課みたいに何人も保有なんて事は本来だめなのよ。高ランク魔導師の占有行為に繋がっちゃうから。



そして試験に関しても、ある一定難易度のテストをクリアするという形が、極々一般的。

そのテストで見られるのは、主に戦闘技能。例えば、仮想的を殲滅してゴールに時間内に向かえというのもそれ。

今回僕が受けるガチなタイマンもそれ。ここで見られるのは、総合的な能力なのよ。



まぁシャマルさんやキャロみたいな、個人での戦闘能力がないのはまた違う形だけどさ。

とにかく今回のテスト、場合によっては勝っても厳しく採点される。

その結果、ピンハネされることも多いとか。まぁアレだよ。ここでしっかり結論を言おう。



この課題はその内容と反比例して、非常に難易度が高いの。だからこそ、滅多には出ないらしい。

ま、ここは別にいい。正直、僕の運の無さを考えると、来るかなと予想と覚悟はしてた。

うん、覚悟を決めてはいたよ? いたん・・・・・・だけどさ。



なんでよりにもよっておのれが居るっ!? 予想飛び越え過ぎて固まったわっ!!





「・・・・・・よし、帰れ。ほら、ビーフジャーキーあげるから、とっとと帰って。てーか、なんで出てきてる?」

「それは無理だよっ! あと、私はワンコさんじゃないもんっ!!
・・・・・・というかあの、端末でランダムに選定したら私が出てきたんだって」



いや、そういうことじゃない。普通顔見知りと知ってたら、こういう場に持ってこないでしょうが。

それ以前に、後遺症後遺症っ! どうなってんのよ、教導隊っ!!



「私もさすがに断ったんだけどね、先輩方に怒られちゃった。
『今ここでやらないのは、知り合いに手心を加える教導官と認めるのと同じだ』・・・・・・てね」





軽く舌打ちして、余計な事を抜かしてくれたバカ共を恨む。

てゆうか、まさかとは思うけど・・・・・・このバカ、ケガを教導隊に報告してないとか?

だからそんな『先輩としてはちょっとどうかと思うよ?』的な事言ったのかも。



・・・・・・いやいや、そんなわけないよね。てゆうか、気づかないわけないし。うん、考え過ぎ考え過ぎ。





「あと、身体も・・・・・・無茶苦茶しなければ問題ないよ。最近調子良いんだから」

「そう。だったら帰って? ほら、、後でペディグリーチャムあげるから」

「いや、だから私は猫でもないよっ! なんでそこでペディグリーチャムッ!?」



うー、どうしよう。でも、負ける訳にはいかな・・・・・・訂正。僕はコイツだけには、絶対に負けたくない。

場合によっては、出さないとダメか。でもまぁ、いつぞやの約束の機会と思えば悪くはないかな。



「恭文君」

「なに、ペディグリーチャム」

「なんで私の事をネコ缶の名前で呼ぶのかなっ!!
・・・・・・私、加減しない。教導官として・・・・・・ううん」



そう言って、あのバカは手にした不屈の心を構えた。



「そんなのは私達の間では邪魔だよね。・・・・・・私として、全力でぶつかるから。
もちろん、採点はキッチリした上でね。それで、誰にも文句は言わせない」

「当然しょうが。そうじゃなきゃ、潰し甲斐がない。・・・・・・あと」

「うん」

「ぶっちゃけさ、僕はこんなランクなんて何一つ興味がないのよ」



色々な方々にケンカを売ったような気がするけど、そんなの関係ない。

僕な口元を軽く歪めながら、ペディグリーチャムに言い放った。



「僕はここに楽しくケンカしに来たんだ。ここ最近の鬱憤を全て晴らすためにね。
やるなら・・・・・・潰されるの覚悟で来い。僕は一切加減しない」

「いいよ、私もそのつもりだから。・・・・・・それじゃあ、始めようか」

「うん。いくよ、ペディグリーチャム」

「むー、またそういう意地悪するー! ちゃんとなのはって呼んでってばー!!」










僕が合格する最低条件はただ一つ。高町なのはを倒す事。ただそれだけですよ。





というわけで、始めようか。・・・・・・ケンカを。




















(第34話へ続く)




















あとがき



恭文「・・・・・・というわけで、昨日は作者のテンションがダダ下がりだったので執筆ペースが遅れた33話です」

あむ「えっと、何があったか気になる日奈森あむと」

恭文「そこまで大した事じゃないけど、ダダ下がりだったらしいと聞いている蒼凪恭文です。・・・・・・あのね、某山の手線の駅に行ってきたのよ」

あむ「うん」

恭文「それでお昼にやよい軒でご飯食べようとしたら」





(説明しよう。やよい軒とはチェーン展開している定食屋さんである。なお、白飯食べ放題)





恭文「店内入った途端に様子がおかしかったのよ。この糞暑いのに冷房も入ってないし、照明も点いてないし」

あむ「え、冷房なしっ!? てゆうか、それお店としておかしいじゃんっ!!」

恭文「うん、おかしかったね。・・・・・・そうしたらさ、お店のブレーカーが落ちたらしくてご飯注文出来なかった」

あむ「・・・・・・あぁ、それでか。調理にも電気系統のを使ってるんだね」

恭文「そうそう。電磁調理器とかね」





(最近のは火力が高いのもあるでしょう。もしかしたらレンジ関係も多様してるのかも知れません)





恭文「でさ、仕方なくお店出て某ランチで食べ放題が出来る中華料理屋さんに入ったのよ。まだ行った事のないとこにね」

あむ「うん」

恭文「そうしたら、団体席に案内されたよ。もう20人くらい座れるとこに、一人ぼっち」

あむ「・・・・・・目立つよね」

恭文「目立ってたね。しかも他に席空いてたのにだよ。しかも店員が席に案内するだけで細かい説明無しでさ。
まぁまぁ接客が悪いなと思いつつも、バイキング食べてみたわけですよ。主立ったメニューを取ったわけですよ。そうしたら」

あむ「そうしたら?」

恭文「・・・・・・微妙にまずかった」





(・・・・・・アレで950円はぼったくりです。500円でいい。いや、むしろこっちが500円貰いたい)





あむ「えっと、接客悪くてご飯もまずい? いいとこないじゃん」

恭文「なかったね。もう早々に退出したよ。というか、そこから口直しにつけ麺食べたさ」





(あのまま帰る選択肢はなかった。口直しになんか食べたかった)





恭文「しかもさ、昨日は都心だと36度なんて言う亜熱帯レベルでしょ? それでそれだから、もう散々だったらしいの」

あむ「それはまた・・・・・・ご苦労様でした」

恭文「いえいえ。あ、でもいい事もあった」

あむ「何?」

恭文「リリカルなのはViVidと、DARKER THAN BLACK漆黒の花の第二巻を買ってきたのー」





(とらのあなで売ってました。なお、ViVidには限定のカバーも付属)





あむ「あー、DARKER THAN BLACKは漫画やってたんだっけ」

恭文「そうそう。キャラデザの人が直接描いてるあれですよ。それでヴィヴィットは、限定のメイドカバー付き」

あむ「えっと、単行本の表紙にかぶせるのだよね」

恭文「そうそう。まぁ、ここはどうでもいい」

あむ「え、なんでっ?! アンタメイド好きじゃんっ!!」

恭文「いや、僕はあんな狙ったような肩出しメイドになんて興味ないし」





(作者も同じく)





恭文「そもそもメイド服は仕事着よ? あんなんで仕事出来るわけがないでしょうが。
シックでありつつも慎ましい機能美に溢れたのが、メイド服の醍醐味なの」

あむ「なんかすっごいこだわってるっ!? てゆうか、それ普通にだめだしじゃんっ!!」

恭文「アレは・・・・・・アレだよ。フェイトとのコミュニケーション用に使うから」

あむ「変な発言するなー! もうそれ色んな意味で大問題じゃんっ!! ・・・・・で、肝心の中身は」

恭文「まぁまぁサービスショットどうこうは抜きにしようか。てゆうか、そこを話すとティアナを褒めちぎるしかない」

あむ「なんでっ!?」





(いや、だって・・・・・・ねぇ?)





恭文「とりあえず作者は、コロナのゴーレムクリエイトと僕のブレイクハウトを組み合わせて無双というのを考えた」

あむ「へ? ・・・・・・あ、分かった。アンタの事だからそれで物質変換して能力強化するんでしょ」

恭文「そうそう。そこにとまカノで出てるヘイのコートを数枚組み合わせてコーティングすれば、強度はバッチリだよ。
アレだよ? エリオの電撃攻撃とか全部無効化だから。だって、電撃くらってもコートの硬化にしか使われないし」

あむ「いや、それチート過ぎないっ!? さすがにそのまま採用はダメだってっ!!」





(・・・・・・うん、そうだよね。分かってた)





恭文「でもあむ、僕やクロノさんの手札にあるブレイクインパルスみたいなの使われたら、おしまいなのよ」

あむ「あ、そっか一応対抗策は・・・・・・ちょっと待って。向こうのメンバーどうなってる?」





※ここで突然だけど、ViVid編の休日内で行われた模擬戦のメンバー紹介。



赤組

・フェイト(ガードウィング)

・ティアナ(センターガード)

・ノーヴェ(フロントアタッカー)

・アインハルト(フロントアタッカー)

・コロナ(ウィングバック)

・キャロ(フルバック)



青組

・なのは(センターガード)

・エリオ(ガードウィング)

・スバル(フロントアタッカー)

・ルーテシア(フルバック)

・ヴィヴィオ(フロントアタッカー)

・リオ(ガードウィング)



ちなみに、恭文は赤組。あむは青組に参加予定。





あむ「アンタとあたしも参加するのっ!?」

恭文「うん、その予定。で・・・・・・どうしようか。なんか対抗手段なさそうなんだけど」

あむ「いやいや、スバルさんの振動拳・・・・・・あ、使用禁止か。大人組は制限付けるし」

恭文「そうだね。もちろん対人設定は出来るだろうけど、今回はきっと無しだよ。
・・・・・・特殊スキルやデバイスありきで強力な手札備えまくってるから、そうなるのよ。ちったぁ僕を見習え」

あむ「あぁ、そう言えばアンタの手札は基本そういう制限は受けにくいんだよね。ただやり方がエグイだけの話で」





(例:電撃に凍結攻撃。ワイヤーでの拘束からの感電コンボ。剣術による必倒にブレイクハウトを用いた攻撃の数々)





恭文「まぁ、ViVidも色々エンジンかかってきた感じだし・・・・・・どうなるのかねぇ」

あむ「その前に、ドキたまが進められないしね。マジで書く時間ないんだっけ」

恭文「そうなんだよねー。これ、やっぱり拍手に全部返事するって無理かも。
というかさ、常識的に考えてこれに全部返事しつつ小説書くなら、仕事やめる必要が」

あむ「それは怖いからやめないっ!? てゆうか、そこまでなんだっ!!」

恭文「そこまでだね。・・・・・・というわけで、本日はここまで。お相手はメガーヌさんが何気にとまとと変わらないと思った蒼凪恭文と」

あむ「色んな意味でルーテシアちゃんにびっくりな、日奈森あむでした。・・・・・・ハジけてるよね。あの親子」

恭文「うん、色んな意味で暴走特急ですよ」










(現にちょっとのんびりペースだったけど、結構な数が来ているのでそうなる。
本日のED:one ok rock『カラス』)




















フェイト「・・・・・・ついにやってきたね。あの模擬戦が」

恭文「これを掲載当時は本当にお」

フェイト「ヤスフミ、落ち着いてっ!? そのつや消しの目はダメだからー!!」

恭文「とにかく、作者の苦手分野である空戦だよ。そして相手はなのは」

フェイト「強敵だよね。なのはも本気で来るだろうし」

恭文「まぁぶっちゃければ、なのははとまと内では弱い部類だけどね」

フェイト「ううん、そんな事ないよ。心を決めたなのはは、凄く強いし」

恭文「弱いって。・・・・・・オーギュストやアイアンサイズやフォン・レイメイに比べたらチートじゃないし。
特にメルビナさんだね。もうメルビナさんはチートの集合体だから。チートオブチートだから」

フェイト「それはそうだけど、そのメンバーと比べたらだめだよっ! 誰だって霞んじゃうよっ!?」










(おしまい)








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あきゅろす。
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