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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第32話 『とある魔導師と金色の女神の年末の風景』(加筆修正版)



夜、お出かけ前に僕の部屋でその・・・・・・二人だけの時間。





部屋の真ん中で二人で座り込んで、クリスマス恒例のアレをする事にする。





ただ、まぁ・・・・・・アレなんだよね。実は前回から色々変化が起こったの。










「・・・・・・ごめん、お泊り出来なくなった」





さて、おさらいです。フェイトは六課の分隊長で捜査主任。一応お仕事もそれなりにある。

明日、朝早くに地上本部の方の会議に、はやてと一緒に出る事になった。

それで僕も、護衛役として会議に同席する事になった。まぁアレだ、きっとはやては気を使ってくれている。



まぁどっちにしても僕達は今日・・・・・・朝帰り出来ません。





「ううん、大丈夫だよ。てゆうか、仕事優先が基本でしょ。・・・・・・でも、ちょっと残念ではある」

「そうだね、私も。さすがに隊舎でその・・・・・・お泊りは、ダメだから」



フェイトが頬を赤らめてそう言った。そこは・・・・・・僕も同じ。

僕達二人共床の上に足を崩して、見つめ合いながら顔を真っ赤にしている。



「それでね、フェイト・・・・・・これ」



僕がフェイトに差し出したのは、青い包装紙に包まれた40センチ程度の四角い箱。

傍らに置いてあったそれを、フェイトが両手で丁寧に受けとる。



「クリスマスプレゼント」

「あの・・・・・・ありがと。というか、大きいね」

「そういう箱だったから」

「そうなんだ。あ、それじゃあ私も。・・・・・・はい」





フェイトが渡してきたのは、15センチほどの長方形のもの。

赤と緑の縞模様のデザインになっている包装紙に、赤いリボンがラッピングされていた。

ただ、箱というよりはそのまま中の物が包まれてる感じ。



僕はそれを、両手で慎重に受け取る。・・・・・・フェイトからの、クリスマスプレゼント。



うぅ、嬉しいよー。お泊り出来ないとしても、これは本当に嬉しいよー。





「ありがと。というか、準備してくれてたんだ。忙しかったのに」

「うん。だって、毎年の事だもの」



フェイトにクリスマスプレゼントを送るのは、恒例になっている。というか、プレゼント交換?

と言っても、互いにそんなド直球なものじゃない。日用品が主なの。



「毎年・・・・・・だよね。なのに、嬉しさとか変わらない」

「うん、私も。ね、開けてみていい?」



僕はフェイトに頷いて答える。というか、僕も開ける。僕達は慎重に包装紙を開いていく。

僕がもらったものの中から出てきたのは、紺色の手袋だった。毛糸のもので、すごく温かそう。



「・・・・・・私達、同じこと考えてたのかな?」

「・・・・・・そうかも」





フェイトが手にしてるのは、明るいクリーム色のマフラー。なお、お店で買ったやつです。

その、アレだよ。僕、男だしさ。もしフェイトにそういう相手が出来ても、使い続けられるものをと考えると、こうなるの。

そこは多分フェイトも同じ。大体いつもこういう感じで・・・・・・だけど、また苦笑してしまう。



こうさ、狙い過ぎてタンスの肥やしになるとかはちょっと嫌なの。



それなら実用品かなと・・・・・・きっと、互いに思ってる。僕はもうちょい頑張りたいんだけどね。





「これ、フカフカして柔らかいね」

「そこはこだわったから。それに僕も」



既にプレゼントを、ちゃっかり身に着けてたりする。僕もそうだし、フェイトも首にマフラーを巻く



「とても温かい」

「ん。私も・・・・・・温かいよ」



手を包む毛糸の手袋の感触が心地よくて、温かい。

とってもフカフカして・・・・・・心までそれに包まれてる感覚がする。



「あの、フェイト・・・・・・ありがと。これ、大事にするから」

「ううん。というか、それなら私もだよ。このマフラー、大事にする。ヤスフミ、ありがと」

「うん」



こんな時間が、フェイトと気持ちが繋がっている時間が、ずっと続けばいいな。

マフラーを身に着けてて、そう思った。だってあの・・・・・・温かいもの。



「・・・・・・ヤスフミ」

「うん?」

「やっぱり、おでかけしよ? 少しだけでも、クリスマスのデート・・・・・・したいな」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



冬のミッドの道を、私達は歩く。大事なクリスマスプレゼントを身に着けて、ニコニコしながら前に進む。

デートと言っても、ご飯を食べて、帰ってくるだけのもの。仕事はあるし、本当に少しだけの私達だけの時間。

それで歩きながらあの時の事、思い出した。ううん、思い出していた。何て言うか、やっぱりそうだよね。





今までの事、今までの言葉、この間・・・・・・顔を赤くしながら、真っ直ぐに届けてくれた想い。





打ち明けてくれた、これから居たい場所。その全てが結び付く。今日だって・・・・・・そうだよ。

ヤスフミ、私へのクリスマスプレゼントを欠かした事、一度もない。うん、ただの一度も。

だからね、嬉しくないわけない。私だって女の子だから。だからちゃんと考えて、応えたいなと。





というか、最近の私はちょっとおかしい。・・・・・・うん、おかしい。

ヤスフミが他の女の子と仲良くしてると、ちょっとイライラする。

あの、別にそういうものじゃない。ただ、この間の言葉は嘘だったのかなと思う。





そう考えると・・・・・・少し、胸が苦しい。まぁ、そこはいいよね。





今はこの時間を楽しむ事に集中しよう。私達だけのクリスマスを・・・・・・いっぱい。










「・・・・・・フェイト、寒くない?」

「うん、大丈夫だよ。温かいから」



首に巻いたマフラーが、心まで温かくさせてくれる。

きっと、プレゼントの中にヤスフミの気持ちが篭ってるからだ。



「ヤスフミは大丈夫?」

「うん、大丈夫。その・・・・・・同じくだから」



それにヤスフミの手には、紺色の手袋。というか、二人で手を繋ぎながら歩いている。

手を通じて、手袋越しでも何かが伝わってきて・・・・・・私の心は寒さを感じさせない程に温度を上げる。



「しかし、人多いね」

「もうすぐ今年も終わりだから。うん、どこでも年末はこうなんだよね」



今年はあんな大事件もあったのに、この光景を見るとそれが嘘のように感じる。それくらい、今は平穏。

人々は忙しそうで街を足早に歩く。だけど、そこから笑顔や幸せな表情を見つけることが多いのは、きっと気のせいじゃない。



「・・・・・・こういう事なのか」

「え?」



ヤスフミが納得したような顔で呟いた。その視線に映っているものは・・・・・・きっと、私と同じ。



「いやさ、前にギンガさんが言ってたのよ。『局員として、市民の平和と安全を守ることは仕事であると同時に、幸せにもなりえる』・・・・・・ってさ」

「それで勧誘?」

「うん。そういうもののために頑張るのは、理由にならないかってさ。
そのために組織の力を利用して、頑張っていくのはダメかなと」

「・・・・・・そうだね。そういう考え方はあるよ」



世界の平和・・・・・・というと大げさかも知れないけど、たくさんの人の普通の時間を守る手伝いが出来たなら、私は嬉しい。

多分局員のみんなは、どこかでそういうものを感じて頑張ってる。きっっと六課であれこれやっていたのも、そういう気持ちから。



「まぁ、そういうのもあるだろうね。うん、それは少しだけ分かった」

「でも、そのためには戦えないし、頑張れない?」

「当たり前じゃん」



ため息を吐きながら、ヤスフミは左手で軽くお手上げポーズ。



「別にここに居る人間全員が目の前で襲われたって、守る義理立て無いし。
例え死んだって、仇討ちする義理立てもない。僕はそんな優しくないの」

「・・・・・・ん」



それはきっと嘘。ヤスフミはそう言っても、きっと助ける。助けて・・・・・・守ろうとする。仇も討とうとする。

ギンガだってそういう部分が分かってたから、そう言ったんじゃないかと思う。



「なにより・・・・・・そのために生贄同然に利用されるのも居る。
利用されて、命や心を壊されかけたのも居る。傷ついて、夢が壊れかけたのも居る」



少し胸に突き刺さった。ヤスフミの瞳と言葉の中に、確かな怒りを感じたから。

隠してはいるけど、気づいた。それはきっと局という組織に対してのもの。あとは・・・・・・世界、かな。



「だから、僕には無理。そこは前に話した通りかな」

「・・・・・・そっか。うん、それは・・・・・・そうだよね」



だから私は、ちょっとだけ足を止める。



「・・・・・・フェイト?」



そのまま私はヤスフミの手を引いて、路地の裏に入り込む。

それから・・・・・・両腕に力をいっぱい込めて、抱きしめる。



「あの、えっと・・・・・・フェイトっ!?」

「・・・・・・怒ってるよね」

「え?」



小声で、ヤスフミの耳元で囁く。ヤスフミがくすぐったいのか身を捩るけど、私は絶対に離さない。



「局や母さん達の事、凄く怒ってるよね。でもお願い、それでも憎まないで。もう、いいの」



別に局を嫌いになって欲しくないとかじゃない。

母さんやみんなと、険悪になって欲しくないとかじゃない。



「私は、ヤスフミに何も憎んでなんて欲しくない」



私がいつだって欲していたのは、ヤスフミの笑顔。ヤスフミが笑えなくなるのなんて、絶対嫌だった。

そうだよ、だから『嫌いにならないで』って言ってたんだ。そんなものがあると、きっと笑えなくなる。



「何かを憎んで笑えなくなるのは、嫌なの」

「・・・・・・フェイト」





そうやって誰かを嫌って、憎んだりしたら笑えなくなる。

もしかしたらあの時の私みたいに、弱くなって壊されるかも知れない。

だから今までとは違う。違う言葉だから、ヤスフミにも届いた。



言葉だけじゃ不安だった私は、ヤスフミの事を強く抱きしめてた。温もりでも一緒に、想いを伝えるために。





「だから・・・・・・哀れむだけでいいよ。可哀想な人達だって、哀れむだけでいいから」

「意味、分かんない」

「いいの。いいから・・・・・・覚えてて欲しい。それだけでいいから」










・・・・・・強く、なる。それでもしも許されるなら・・・・・・ここから手を伸ばしたい。

今腕の中で私を抱きしめてくれるこの子に手を伸ばして、ずっと抱きしめていたい。離したくない。

それで今度こそ・・・・・・今度こそ間違えないで、私はこの子を守りたい。想いも、命も、全部。





街に雪が降りしきる中、私達はまるで恋人同士みたいに抱きしめ合って・・・・・・温もりを伝え合う。

鼓動を、吐息を、腕の力を、囁き合う言葉を互いに届け合って、私達は一つになっていく。

街がもう少しだけ温度を下げるまで、私達はずっとそうしてた。だって今日は、クリスマスだから。





今だけは恋人みたいにしたって・・・・・・いいんだから。それにもう私は、この距離が怖くなんてない。




















魔法少女リリカルなのはStrikerS  外伝


とある魔導師と機動六課の日常


第32話 『とある魔導師と金色の女神の年末の風景』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



フェイトとご飯を食べて寮に戻って・・・・・・お別れするはずだった。本当はそうしなきゃいけなかった。

でも、互いにどこかこう・・・・・・エンジンがかかって、離れられなくて。だから、僕はフェイトをそのままお持ち帰りした。

人目には気をつけつつ、またまた宛てがわれた部屋にフェイトを連れ込む。それでその、添い寝。





帰りに買って来た黒のトレーナーをフェイトは着込んで・・・・・・今、僕の隣に居る。





それでまた色々と話してた。さっきのハグのあれこれとか、夢・・・・・・旅の話とか。










「でもフェイト」

「なにかな」

「本当にこのままお泊り、いいの? ほら、今ならまだ間に合うし」

「いいよ。もちろん、夜が明ける前に部屋に戻るけど。というか、そういう事気にする必要ないよ。
・・・・・・私はヤスフミにお持ち帰り、されちゃったんだよ?」



右隣に居るフェイトは、そう言いながら微笑む。だけど顔が真っ赤で、少し声が掠れてる。



「ヤスフミはお持ち帰りしたんだから、もっと堂々と・・・・・・私を占領していいんだから。
例えばね、ここでヤスフミとエッチな事とかが有っても・・・・・・OKだとは思ってるの」



そうストレートに言われて、僕の顔の赤みが更に増す。・・・・・・だって、さっきから真っ赤だったし。



「だってその、お持ち帰りされた女の子はそうなって・・・・・・・あぅ」

「フェイト、無理しなくていいよっ!? というか、スチームっ! 頭からスチーム出てるからっ!!」



試しに左手でフェイトの頭を触ってみる。でも、すぐに離した。



「熱っ! どんだけ熱暴走してるのっ!?」

「は、はぅ・・・・・・ヤスフミ、私なんだか・・・・・・だめ」

「あぁ、落ち着いてっ!? あの、すぐに頭冷やしてあげるからっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



僕はいつぞやにスバルに使った魔法での熱冷ましをフェイトに実行。





左手で白いスチームを出しまくっていたフェイトの頭を撫でて・・・・・・落ち着かせる。










「・・・・・・大丈夫?」

「う、うん。ごめん、なんかこう・・・・・・私、暴走してたよね」

「してたね。だっていきなり『エッチOK』って言うんだもん。てか、姉弟じゃなかったの?」

「そういうのは外していくって言ったよね? つまりその、そういう事になる可能性も」

「だから想像しなくていいよっ!? ほら、またスチーム出始めたしっ!!」



ヤバい、氷結変換した魔力で覆ってるはずなのに・・・・・・手が熱くなって来たんですけど。



「それにその」

「それに?」

「・・・・・・骨、折ったりしたから。今更だけど、頑張った方がいいのかなとか。
あの時は姉弟でNG出したけど、今はもう違うから。だからあの・・・・・・うん」



・・・・・・あぁ、あったねぇ。いつぞやにボキボキーって。

で、対価としてキスやバストタッチをお願いしたら『姉弟だからだめ』とNGが出た。



「別にそんな事する必要ないよ。でも・・・・・・なら、こうしようか」

「なにかな」

「あのね、エッチな事は別にいいの。というか、彼氏彼女な関係じゃないのに、それはダメでしょ。
・・・・・・そんな事して、フェイトと距離が離れるのは嫌だ。だから、ここは本当にいいの」

「・・・・・・うん」



なにより・・・・・・昨日のはやての話を聞いた直後で、そこに踏み出す勇気はない。



「でも、ちょっとだけフェイトとステップアップしたいから・・・・・・ごっこ遊びしようか」

「ごっこ遊び?」

「うん。エッチな事にキスやバストタッチも抜きで、ちょっとだけ特別に今日を過ごす上でのお遊び」



さり気無く、AやBの類も抜く。だから、フェイトが少し安心したように息を吐く。・・・・・・うん、これでいいよね。

フェイトを不安がらせたくなんてないもの。だから、頭を撫でながら僕は安心させるように笑いかける。



「今日はクリスマスだもの。いいよね?」

「・・・・・・うん。あの、どうすればいいのかな」

「じゃあ・・・・・・姉弟な関係にこだわっていたフェイトも喜んでくれるようにしようか」



内心で、少し笑ってしまった。だって、これじゃあ僕達まるで・・・・・・だもの。

でも、いいか。なんというか、フェイトとは元々こういう距離だった気がするの。



「僕達、姉弟なの。僕はこれから、フェイトの事『お姉ちゃん』って呼ぶから」

「え? ・・・・・・あの、ダメ。それはダメ。もうあの、姉弟なんてフィルターはいらないし」

「だーめ。それで、僕達姉弟な関係なのに、互いに恋しちゃってるの。添い寝してるのだってそう。
いけない事だって分かってるのに、ラブラブしたいって思ってるからだよ?」



フェイトの目が軽く見開く。まさかそう来るとは思ってなかったらしい。だから、僕は頷く。



「お姉ちゃんとずっと一緒に居て、ダメだって分かってるのに・・・・・・好きになってた。
お姉ちゃんも同じ。ずっと一緒に居て、ダメだって思ってるのに僕の事ずっと見ててくれた」



フェイトは、真剣な目で僕の話を聞いてる。何気にこういうの、興味あるのかも。

・・・・・・まぁ、クロノさんは無いよなぁ。エイミィさん一筋なわけだし。



「それでさ、互いに抑え切れなくなってきわどい事したり・・・・・・でも、そういう中途半端なのはもうおしまい。
僕達、ここから恋人同士になるの。姉弟で、いけない事だけど・・・・・・恋人同士。だから、エッチな事だってしちゃう」



もちろん今日は無しだけど。だってそれやったら、さっきより最低だし。



「ねぇ、お姉ちゃん・・・・・・そうだよね? 僕だけの片想いなんかじゃないよね」

「え、えっとその・・・・・・あの」

「ほら、早くして。これはこういうごっこ遊びなんだから」

「・・・・・・うん」



フェイトは意を決したように軽く頷いて、布団の中の僕の右手を繋ぐ。

手は震えていて、唇も同じように震えてる。ただ、それでもフェイトはこの遊びに乗っかった。



「お姉ちゃんも・・・・・・好きだよ。ヤスフミの事、大好き」



掠れた声だったけど、フェイトは僕の目を見ながら・・・・・・真っ直ぐにそう言ってくれた。

な、なんだろ。こういうごっこ遊びだって分かってるのに、ホントに告白されてるみたいで・・・・・・涙出てくる。



「お姉ちゃんだけど、弟のヤスフミの事が好き。ずっと・・・・・・大好きだった」



フェイトは僕の手を離して、そっと布団の中で僕を抱きしめる。

優しく、安心させるようないつものフェイトの抱き方。そこだけは変わらない。



「あのね、お姉ちゃんとエッチしたいなら・・・・・・していいよ? お姉ちゃんも、同じ。
抑え、られないの。ヤスフミと・・・・・・弟のヤスフミと、エッチしてみたい」



お互いの心臓の鼓動や吐息がとても近くに感じられて、なんかこう・・・・・・抑えられなくなりそう。



「ありがと。僕も・・・・・・お姉ちゃんが好き」



フェイトの頭から左手を離して、両手でフェイトを抱きしめる。優しく抱きしめて、独り占めにする。

・・・・・・ダメ、エッチな事やキスはダメなんだから。これはその、ごっこ遊びなんだから。



「お姉ちゃんはお姉ちゃんなのに、お姉ちゃんの事好きになった。・・・・・・離さないから」



僕は軽く腕の力を緩めて、フェイトの胸元から顔を離す。

それで、布団の中でフェイトを見上げるようにしてその瞳を見つめる。



「お姉ちゃんを誰にも取られたくない。お姉ちゃんの事、全部僕だけのものにしたい。
その、今日はエッチもキスもだめだけど・・・・・・いつか、僕とするんだから」

「・・・・・・そこは、さっき言った通り?」



フェイトが少しだけ素に戻って、苦笑しながら僕に聞いてきた。だから、僕は頷く。



「当たり前じゃん。これは・・・・・・その、僕達が男の子と女の子で、そうなる可能性があるから出来るごっこ遊びだもの。
というか、アレだよね。ごっこ遊びで本当にそうなるなんて、さっきよりバッドENDフラグっぽいから・・・・・・だめ」



というか、バッドENDでしょ。現に昨日の今頃はその実例を間近で見てたし。



「・・・・・・うん、そうだね。そんなの、きっとだめだよ」



フェイトは納得してくれたらしい。また笑いながら、僕を抱きしめてくれた。



「お姉ちゃん」

「うん」

「大好き・・・・・・だよ。ずっと、ずーっと一緒に居ようね」

「うん、私も・・・・・・大好き」










キスも、バストタッチも、エッチも無しだけど・・・・・・とっても幸せ。





だって、ごっこ遊びだとしてもフェイトに男の子として『好き』って言われたんだから。





フェイト、ありがと。最高の・・・・・・本当に最高のクリスマスプレゼント、もらっちゃった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



翌朝・・・・・・というより、日の出前だね。私とヤスフミは起床。

その、起きた直後は顔を真っ赤にして互いに見つめ合ったりしたけど、それでもすぐに動く。

ヤスフミには壁を向いてもらった上で、服を昨日のお出かけ着に着替える。





予定とちょっと違うけど、それでも朝帰り。・・・・・・男の子に、初めてお持ち帰りされちゃったんだよね。

エッチな事は抜きだけど、それでもだよ。というかあの・・・・・・うぅ、恥ずかしいよ。

あのごっこ遊びの時・・・・・・だ、だめ。アレは勢いで言っちゃったも同じなんだから。





ちゃんと考えて、しっかりとした答えをヤスフミに返さなくちゃ。





私はそんな決意を込めてガッツポーズをしていると、ヤスフミが怪訝そうな顔でこちらを見ていた。










「フェイト、どうしたの?」

「う、ううん。なんでもないよ」



私は両手を胸元で振りつつ、ごまかすようにヤスフミに笑いかける。

・・・・・・まさか言えないよ。ごっこ遊びの時、本気でそうなってOKと思ってたなんて。



「ね、フェイト」

「うん、何かな」

「あの、ありがと。また添い寝出来て・・・・・・嬉しかった」



そう言って、ヤスフミが照れたように笑う。それに胸の奥が・・・・・・また、心臓の鼓動が高鳴ってくる。

・・・・・・私、ヤスフミの事を男の子として全く意識してないわけじゃないみたい。つまりその、一人の男性としては見れるんだ。



「ううん、私も同じだから。・・・・・・ありがと」



また、守ってくれたから。そのうれしさを込めて、私は微笑みを返しながらお礼を言う。

だからヤスフミは、首を傾げて疑問を顔に浮かべた。



「僕、お礼言われるような事してないよ? 分隊長をお持ち帰りして、独り占めにしたわけだし」

「いいの。私が言いたいんだから」





私、結構中途半端な事してる自覚は・・・・・・一応あるよ?

もう気づいてるわけだし、NGじゃないならそうなっちゃえばいいとも思う。

でもあの・・・・・・やっぱり、だめだよね。昨日話した通りだよ。



私、もうちょっとだけこの距離で居たい。それでヤスフミの事、ちゃんと見ていきたい。



だから・・・・・・あ、そうだ。なんかこう、お持ち帰りされちゃってたから忘れてたよ。





「ね、ヤスフミ」

「ん、なに?」

「年越しなんだけど・・・・・・よかったら、私とエリオとキャロで過ごさない?」

「え?」





まぁその、はやてから色々と気を使われて『今年は大変やったんやし、年末年始くらいは家族でゆっくりしい』と、前々から言われてた。

確かに六課のあれこれに巻き込んだ上に利用して怪我までさせちゃってたし、これくらいはしたいなと。

・・・・・・ヤスフミから、お泊りデートの時に色々話してからは特にだね。私達、本当に最低な事をしていたと思うから。



事情が話せるならともかく、それは無理。というより、『今更話してどうなるのか』という問題もある。



だからまぁ、自己満足なのは承知の上で・・・・・・年越しを過ごしたいなと。





「はやてからちょっとね。さすがに年末年始はお仕事も無いし・・・・・・どうかな」

「いや、それはいいんだけど、どこで? さすがに隊舎で水入らずは無理でしょ」

「まぁその・・・・・・それは確かに。だから」



言いかけて気づいた。私、さっきまでヤスフミの家だったらOKかなとか言おうとしてた。

本局にある私の寮も考えたけど、あそこは初日の出とか見えないもの。だけど・・・・・・ダメ、だよね。



「候補地、今のうちから探しておこうか」

「・・・・・・そうだね。僕の家は使えないしね」



私は咄嗟に続く言葉を変えたけど、ヤスフミにはお見通しだったらしい。

多分、私の反応とかを見て察したんだ。なんというか、こういうところは敵わないと思う。



「ねぇフェイト、奴らにスターライトをかましてやりたいんだけど、いいかな」

「だめだよっ! カレルやリエラも居るし、なによりヤスフミの家壊れちゃうよっ!?」

「大丈夫だよ、僕はもうハラオウン家とは縁切ってるんだし」



少し胸が痛い。というか、悲しくなった。でも・・・・・・・私は何も言わない事にした。

これはきっと、仕方ない。私達が色んな意味でヤスフミの怒りに油を注いじゃったから。



「・・・・・・てーか、だったらどうしろっていうのっ!? こうでも思わないとやってられないしー!!」

「あぁ、ヤスフミ落ち着いてっ!? あの、ごめんっ! 私からクロノと母さんにはしっかり話すからっ!!
もう即刻で出ていってもらうからっ! お願いだから頭抱えて泣かないでー!!」










・・・・・・そして、私は有言実行した。もたもたしてるクロノと母さんにこの日の夜に通信回線を同時に繋ぐ。





その上で『これ以上グダグダやるなら、家にプラズマザンバーブレイカーを叩き込む』と勧告した上で会議です。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・というわけなので、母さんはすぐにヤスフミの家から出てって。
それで、クロノも反省して。無神経な事言ったのは事実なんだから」





この場所は、隊舎の中の談話室の一つ。いつもヤスフミとお話するそこで、修羅場に突入です。

あのね、誤解の無いように言っておくとヤスフミは『自分で話す』って言ったの。

でも、私とバルディッシュで止めた。どっちにしても泥仕合になりそうで、そうせざるを得なかった。



基本は穏便解決なんだもの。こういう時は、比較的第三者に近い立ち位置の私が間に入った方がいい。





『そこならもうとっくに反省している。というより、1週間前にエイミィにも謝っている』

「あ、そうなんだ。・・・・・・って、それならどうしてここまでっ!?」

『・・・・・・いや、本当にすまんっ! 恭文にもメールしたんだが、年末進行で会議が続いてしまってるんだっ!!』



・・・・・・なんでも、クロノはここ数日本気で睡眠時間3時間という、ナポレオン並みの生活を送っているらしい。

本局や地上部隊の高官と、今後の組織運営の見直しに関して相当数会議しているとか。



「まぁ事情は私も局員だから、そこは分かるよ」



そのためにヤスフミとの朝帰り、隊舎の中でするハメになったんだから。



「さっきの話からすると、ヤスフミにもそこは説明してるんだよね。それでなんて?」

『・・・・・・しばらくして、悪夢を見そうな留守番電話を残されたよ。
おかげで現在三晩程完全徹夜だ。もうな、寝るとリアルに祟り殺されそうで怖いんだ』

「・・・・・・そっか。なら私からはもう何も言わない」



ヤスフミ、どんな留守番電話残したの? 今のクロノ見てたら、とても比喩とは思えないんだけど。



「それで・・・・・・母さん」

『何かしら』



いや、『何かしら』じゃなくて・・・・・・よし、どうして母さんの顔が全体的に赤く腫れているのかとかは、気にしない事にする。

どうしてガーゼをあっちこっちに貼っているのかとかも、私は気にしない事にした。



「とにかくそういうわけなので、すぐに出ていってください」

『・・・・・・ねぇフェイト、しばらくこのままでいいんじゃないかしら』

「はぁっ!?」

『母さん、この期に及んで何を言ってるんですかっ!!』



そうだよそうだよっ! 私の話聞いてなかったっ!? さすがにこれはありえないのにっ!!



『でも、今は六課隊舎の中にずっと居るのよ? これなら、問題だった人間関係も改善出来ると思うの。
ううん、もしかしたら今まで持っていた局や部隊への不信感も払拭出来るかも。だから・・・・・・ね?』

「・・・・・・ふざけないで」



まずい、本気でキレかけてる。私、母さんが半笑いでここまで言うとは思ってなかった。

・・・・・・そこまで言うならもういい。私は今の母さんに自分の姿も見つけたから、徹底抗戦を決めた。



『フェイト、私はふざけてなんていないわ。ただ、このままはもう見ていられないの。
それに私は別に、あの子に難しい事は望んでないわ。ただ、あなた達と同じように』

「局や世界の生贄になって、利用されろ・・・・・・とでも、言うつもりですか?
母さんやクロノ、はやてが六課を設立して、私達部隊員を利用したみたいに」

『・・・・・・フェイト、どうしてそうなるの? 違う、そうじゃないわ。六課の事は今は関係ない』

「あります。・・・・・・ヤスフミ、局や六課の事、憎み始めてます」



クロノと母さんが固まった。そして信じられないという顔で私を見出す。

だから私は・・・・・・頷いて、今の自分自身の言葉を肯定した。



『そんなわけないわよ。だって、局はあなた達の居場所でもあるのよ?
そして六課は、みんなで造り上げた夢の部隊。それを憎むわけが』

「憎んでます。・・・・・・ヤスフミ、確かにみんなとの距離が縮んだ。でも、だから余計に許せないでいる。
私達が何も知らない部隊員達を、あんな現場に送り込んだ事を。そのせいでたくさんの人が傷ついた事を」





ティアと仲良くなって、互いの事や夢の事とかも話すようになった。

スバルとはまぁまぁ距離が縮んで、意地悪の兄とそれを追いかける妹的な形になった。

エリオとキャロとも・・・・・・うん、心配してたけど仲良くなった。



それにヴァイス陸曹とかとも、色々話をしてるみたい。二人共バイクに乗るから、その関係でもだね。

あとは・・・・・・私やなのは、ヴィータの事だね。私達、みんなバカをやって潰されかけたから。

それでね、ちょっと思ったの。ヤスフミが私の騎士になるって言ってくれたの、多分ここも理由なんだよ。



組織の都合で『生贄』にされかけてたら、守ろう・・・・・・と、思ってるんだと思う。





『ここで出来た繋がりがあるが故に、アイツの中の怒りが強くなってるという事か。
だがそれなら・・・・・・言うわけがないか。アイツはそこの辺り、お前やなのはよりシビアだしな』

「そうだね。だから本当に何も言わない。自分には言う権利がないと思ってる。
でも、気付いちゃったの。それで問い詰めたら・・・・・・少しだけ、漏らしてくれた」





ヤスフミが優しいから、納得出来ない事を『納得出来ない』って言う勇気があるから、感じている怒り。

あの時、一緒に街を歩いてる時に改めて実感したの。やっぱりヤスフミの中で六課の裏のあれこれが、大きな荷物になってる。

みんなにそれをぶつけないのは、みんなの立場や状況が分からない程、子どもじゃないから。



でもそうすると怒りは行き場がなくて、だけど『仕方がなかった』なんて言い訳も出来ない。

だから時たま私達に漏らしてしまった事もあった。あの時の通信でのやり取りがそれ。

それで昨日笑顔で歩いている人達をどこか・・・・・・どこか冷たさを感じさせる目でずっと見ていた。



私はあの時、ヤスフミが持っている局や世界への強い怒りを凄く怖いものだと感じた。

ヤスフミが見ている私達という生贄によって世界が救われたという図式を、私は否定できない。

もちろん、私達だけであの事件を止めたなんて言うつもりない。でも、大きな要因の一つにはなった。



というより、後見人のみんなや本局はそのつもりで設立した。それがヤスフミの怒りの対象。

そして私は、同じ種の怒りを持っている人達を・・・・・・テロリストの類を、何度か見ている。

あの時、以前感じていた危うさやズレとはまた違う不安が、私の胸を襲った。だから足を止めて、抱きしめたの。



母さんは、私の言葉を呆然とした顔で聞いていた。まさかそこまでとは思ってなかったらしい。



その表情は『仕方のない事か』と言いたげで、どこか納得しているクロノのそれとは違う。





『・・・・・・あの子ね』

「はい?」

『私があの時、局に入って欲しいってお願いした時に・・・・・・六課の事を持ち出したの。
どうしても・・・・・・どうしても六課が、あなた達の力が必要だったと説明しても否定されたわ』



そこはアルフからも聞いてない部分。多分、アルフとエイミィが起きる前の話。

二人はヤスフミの怒鳴り声で飛び起きて、最後の最後の部分しか見てなかったから。



『でもそれは違う。コレが正しい大人のやり方なの。なにより、それが社会に属する人間のあるべき姿。
別に六課のあれこれは特別な事じゃない。ただ規模が大きいか小さいかの違いだけ』

「・・・・・・そうですね」

『なにより責められる謂れがないわ。本来ならエコひいきになる程に、私達は部隊員の将来を保証している。
対価は払っているわ。いいえ、払い続けている。なによりそこはあなた達の夢の部隊よ? 憎む理由なんてないわ』

「私もそう思ってました。ヤスフミはここを居場所にして、好きになってくれるとずっと勘違いしていた。
事件はもう終わったんだから、もう心配ないんだって・・・・・・ずっと、思ってた」





組織の都合で振り回されるのは、組織人の常だもの。だから私も、そう思ってた。うん、結構あるよ? 

詳細を知らされないで現場に投入されるという事は・・・・・・かなり。でも、それは当たり前の事。

私達は、それでも上司や組織の人間や理念を信頼して、仕事をしているから。誰でも、みんなそう。



だからここまでね、情けないけど疑問をあまり持たなかった。・・・・・・ううん、持とうとしなかった。

私はきっと怖がってた。疑問を持ってしまったら、六課や今の仕事は、『夢』でもなんでもなくなるから。

そうだ、私はきっと夢なんて何も叶えてなかったんだ。それを認める事を・・・・・・ずっと、ずっと怖がってた。





「でも、そうは思えない人も居ます。例えば事件での被害者遺族」





先日会いに来てくれたメガーヌさんがその代表格かな。あのね、話してる時にヤスフミとの話を思い出したの。



・・・・・・笑っているけど、この人にとって事件は終わっているのかなって。終わっているわけがなかった。



だって娘であるルーテシアの裁判の結果も芳しくなくて、まだ自分の足で歩く事すらままならないんだよ?





「そして被害者達・・・・・・ゼスト・グランガイツやレジアス中将の事」



そうだ、まだ何も終わってない。まだ・・・・・・本当に何も終わってないんだ。

私は身内部隊というぬるま湯に使って、そこをどこかで置いてけぼりにしてた。



「だからきっとこんな事を当然の事にしたらいけない。そんなの絶対にダメ。それじゃあ局がある意味なんてない。
六課のような部隊を、今回のような事を起こしてる時点で私達局員も、そんな私達が運営している局も、きっと間違ってるんです」

『・・・・・・フェイト』





前にとある先輩が『人間は、良く分からないものに平然と背中を預けられる無用心な生き物』と言ってた事がある。

例えば、水道の蛇口をひねると水が出るよね。その仕組み、1から10まで何の資料も見ずに、原理も含めて全部説明出来るかな?

他で言うと、例えば自販機。硬貨や紙幣を入れて、機械がその金額を判断して商品が出てくる仕組みは?



例えば、普段私達が使っているデバイスの仕組み。空間モニターに代表される機材の仕組みは?

ちなみに、私はどれもこれも全く説明出来ない。概要はともかく、1から10までなんて無理。

このように私達の周りには不透明な・・・・・・本来なら疑問を持って当然なものがゴロゴロしている。



でも、私達はそれでも蛇口をひねる。それでも自販機で飲み物を買うし、デバイスやモニターなどの設備を簡単に使う。

それは組織だって同じ。私達のような末端の人間もそうだけど、上の人間だって組織の全部を1から10まで理解なんてしてない。

どんな人がどんな部署でどんな働き方をしているか。それをリアルタイムで全員分知っている人なんて、居るわけがない。



それでもみんな自分を組織の理念や在り方に預けて、目の前に居る上司や仲間『だけ』を信じて、疑問を持たずに働く。

それは別に悪い事でもなんでもない。本来、人間が作る社会はそういうものなんだと・・・・・・まぁ、そんな話だね。

それを聞いた時はよく分からなかったけど、今ならそれが分かる気がする。私達はよく言えば献身的、悪く言えば盲目的。



だからこそ、何かをどこかへ置いてけぼりにしてる部分もあって・・・・・・だから、あっさり『生贄』になる事を選ぶ。

私、ヤスフミに『普通にして欲しい』なんて、もう言えないね。

だって、私が既に最大級なのをやらかしてるんだもの。こんなの、普通じゃないよ。



こんなの、本当に絶対に普通にしちゃあいけない。絶対に、ダメな事なんだ。





『あぁ、もういいわ。フェイト、お願い。あの子と話をさせて』

「嫌です。というより、ご自分で通信をかけてください」

『着信拒否にされちゃってるのよ。はやてさん達も、全く取り次いでくれない。だからあなたなの』

「ダメです。今の母さんとヤスフミを・・・・・・話なんてさせたくない。
私達を『大人』と呼んで、母さんがヤスフミを大人になって欲しいと望むなら、止めます」



なんだろ、悲しくなってくる。確かにそれは事実で・・・・・・あぁ、そっか。



『・・・・・・フェイト、あの子やあなたの言っている事は理想論なの。社会は、組織はそんな甘い事では成り立たないわ。
一見最低なように見えても私達はその一員として、常に最善を、正しい選択を選び取らなくてはいけない』



私、あれからずっとヤスフミにこんな思いをさせてたんだ。だから今、こんなに悲しいのかな。



『私は胸を張って言えるわ。六課を・・・・・・あなた達をそこに集めた事は、正しく最善な行動だったと。
なにより結果は出てるもの。世界は救われたし、みんな平和に暮らせる。コレ以上の証明がある?』

「そうですか。でも、私にはもう無理です」

『そう。でも、あなたにそんな権利はないわ。あなたはもう引き返せない。死ぬまで胸を張り続けるしかない。
そしてそんな自分に、私と同じように誇りを持ちなさい。フェイト、本当に分かってるの? あなたも同罪なの』



いつもの温厚な母さんとは違う、冷たく鋭い言葉。それが・・・・・・私の胸を抉った。



『事情を知った上で私達に協力して・・・・・・今も黙り続けている。そうするのはそれはどうして?』



それはさっきから私自身が感じている事。だから、余計に息が詰まる感じがした。



『組織人としてのあなたが、この選択必要な事と信じているからでしょう? あなたも結局私と他のみんなと同じ。
組織人として生きる道を、今も選び続けているの。それが今のあなたの選択よ。・・・・・・分かったら、恭文君を呼び出して』

『母さん、待ってください。それはいくらなんでも』

『いいえ、私も我慢ならないから言わせてもらう。フェイト、ゴネるのはやめなさい。
なによりあなた、ずるいわよ。今のあなたがそれを言っても、説得力がない』

「・・・・・・そうですね。だから今から部隊員に全部話します。それならいいですよね?」



あれ、私どうしてこんなケンカ・・・・・・あぁもう、いいか。うん、もういいよ。

私、今までの自分が嫌いになりかけてるんだから。だから、これでいいの。



「これからみんなに、全部話します。私達がみんなに対して何をしたかを、包み隠さず。母さん、それならいいですよね?」

『フェイト、バカな事はやめなさいっ! あなた、正気っ!?』

「正気です」

『いいえ、正気じゃないわっ! そんな事をしたら、あなたもう局員で居られなくなるわよっ!!
今まで頑張って来た事全てが泡に消えるっ! それになにより、それは私達への裏切りよっ!!』

「・・・・・・じゃあどうしろって言うのっ!?」



湧き上がる情けなさのままに叫ぶと、母さんの目が見開いた。



「私はもう、あなたみたいに思えないっ! 部隊のみんなは今も傷ついてて、私自身も壊されかけたっ!!
そのせいで優しいはずのあの子は、ずっと怒りを感じてるっ! 夢を追いかけたいはずのに、こんな場所に閉じ込められてるっ!!」



ヤスフミの事もある。みんなの事もある。でも、今感じている情けなさはそれとは違う。



「いつもみたいに瞳をキラキラさせながら冒険も出来ないで、ずっとここに居るっ!!
ずっとつまらない顔で仕事してるっ! それで胸を張れっ!? 張れるわけがないっ!!」



その理由をさっきからずっと考えていて・・・・・・私は、その意味がやっと分かった。



「確かに同罪だよっ! 私はスカリエッティの言うように、みんなを人形扱いにしたっ!!
私はあの男と同じだったっ! 私はあの最悪の犯罪者と、何一つ変わらないっ!!」

『フェイト、何を言っているのっ!? ・・・・・・あれは戯言よ? 単なる精神攻撃。全部根も葉もない嘘なの。
なによりあなたは、スカリエッティと同じなんかじゃないわ。そこは私が保証するから』

「違うっ! 私はこれが必要な事で、最善な事だと胸を張って・・・・・・胸を張って最低な自分を通したっ!!
六課を維持する事が、執務官を続ける事が夢だと誇って、みんなを傷つけて・・・・・・殺しかけたっ!!」



悔しいけど、私はあの男の言う通りの人間だった。しかも、自分からそれを選んだ。

選び続けて、今凄く後悔してる。どうして、どうしてそんな道を選んでしまったのかと・・・・・・後悔している。



「それに・・・・・・母さん、エリオとキャロがヤスフミと親しくなってまず最初に何をしたか知ってますかっ!?
・・・・・・自分達の生まれの事を、私の生まれの事を話に出して、ヤスフミが自分達の味方になるかどうか試したんですっ!!」



母さんとクロノが目を見開くけど、私は・・・・・・私は・・・・・・!!



『・・・・・・フェイト、それは・・・・・・いいえ、ありえないわ。あの子達がそうするとしたら、恭文君を信頼して』

「本当だよっ! 私の知らないところで勝手にそんな話をして、ヤスフミが自分達の敵になるかどうかを確かめたっ!!
私はあの子達の親になんてなれてなかったっ! 親になってたら、子どもだったら・・・・・・あの子達はそんな事するわけがなかったっ!!」



・・・・・・話して分かってくれたからいい。そんな事はいけない事なんだって伝えられたからまだ良かった。

ヤスフミが気づいてくれたから良かった。でも、もしそうじゃなかったら? それを考えるとまた悲しくなってくる。



「その上いつの間にか私自身が変えたかったはずの『現実』になってしまっていたっ!!」



だから頭の中がひっちゃかめっちゃかで、自分で何を言っているのかすら分からなくなる。



「でも私は、私はそんな事のために局員に・・・・・・執務官になったんじゃないっ!!
こんなバカげた事をするために、ここまで来たんじゃないっ!!」



でもこれだけは分かる。そうだ、私は・・・・・・今の自分が嫌いなんだ。本気で、本気で嫌いなんだ。

だから情けないんだ。どこかで夢を、自分の理想を現実という言い訳を使って蔑ろにしてたから。



「こんな自分に・・・・・・誇りなんて、持てるわけがないっ! 私は今の自分が嫌いなんだっ!!」





私は、自分と同じような人達を助けたくて・・・・・・悲しい気持ちで未来を閉ざして欲しくなくて、だからこの道を選んだ。

でも結果は? 私はこの事件で、誰を守って誰を助けた? 誰も・・・・・・誰も助けられてない。

私は負けたんだ。自分としても、組織人としても。だって母さんの言うように組織人であるなら、スカリエッティだって助けられた。



今みたいに監獄に閉じこもる道だけじゃなくて、色々な道を提示して・・・・・・自分の中の憎しみを変えて、手を伸ばせた。

あの人の手を取って、私が喝を入れてあそこから引っ張り出す事だって出来た。

それは他のメンバーに対してだって同じ。あの時・・・・・・私がなのはにそうしてもらったように。



ヤスフミが凝り固まった私に、何度もそうしてくれたように。でも、私はそうはしなかった。

しようとさえしなかった。憎しみに、嫌悪感に負けて心を閉ざして目を伏せた。

私はただ都合のいいものだけを見て、信じて・・・・・・『夢を叶えた』と悦に浸っていただけだった。



この事件で私は自分の理想や夢を・・・・・・何一つ通せてない。それなのにここが夢の部隊? 笑っちゃうよ。

誰がこの中で夢を叶えたのかな。少なくとも私は叶えてない。叶えようとすらしなかった。

だから言い切れる。だから声をあげる。私はそうやって、今までの自分を全部否定した。





「局員で執務官で、あなたの言う大人な自分なんて・・・・・・今すぐに殺したいんだっ!!」





ようやく分かった。なんで死にたくなるくらいに情けなくなったのか。

私はずっと気づいてた。私は、自分の夢を何一つ通す事が出来なかったんだって知ってた。

でもそれから逃げて、気づかない振りをして・・・・・・そうだ、それは同じだ。



目の前の人と同じように、私は逃げていたんだ。だから今、そのしっぺ返しが来ただけ。





「嫌だ・・・・・・私はあなたみたいになりたくないっ! あなたみたいな大人になんてなりたくないっ!!
そんな事をするくらいなら・・・・・・あなたのような人を『大人』と言うのなら、死んだ方がマシだっ!!」





部屋の外まで聴こえるような声をあげて、ありったけを吐き出した。

母さんは、悲しんでいるような、哀れんでいるような目で私を見ている。でも、いい。

そんなの、どうでもいい。だって私は・・・・・・もうありったけを叫んだ。



私はそのまま右手を伸ばして、通信画面のボタンの一つに触れようとする。それは、通話ボタン。

これを押せば、母さんとの通話は終わる。というか、もう終わらせたい。

もうだめ、この人とこのまま話してると・・・・・・今までの自分が、どんどん嫌いになってく。





「・・・・・・もう、嫌だ。あなたと話していると頭がおかしくなりそう。ううん、きっとずっとおかしかった。
おかしかった事に気づかず、私は・・・・・・本当に、バカみたい」

『フェイトっ! どうしてそうなるのっ!? 違う、そういう事じゃないのっ!! あなたは間違ってなんてないっ!!
誰も・・・・・・ここに居る誰も正しい事をしているのっ! お願い、信じてっ!! ただそれだけでいいとなぜ分かってくれないのっ!!』

「嘘だっ!!」



私はそのまま人差し指を押して、通信を叩き切った。それからすぐに着信拒否。

それから荒く息を吐いて・・・・・・ようやく気づいた。私、いつの間にか泣いてた。



「・・・・・・なんだろ、おかしいな」



自分からタンカ切っておいて、これはない。だから私は、右手の甲で両目から溢れる涙を拭う。

でも、拭っても拭っても・・・・・・まだ涙が溢れるので、更に拭う。というか、全然止まらない。



『・・・・・・また派手にやってくれたな』



そんな私に呆れたようにそう言うのは・・・・・・あ、クロノだ。



「そっか、クロノの通信は切ってなかったね」

『いや、僕のは切らなくていいだろっ!? というか、ナチュラルにやろうとするなっ!! ・・・・・・まぁ、アレだフェイト』

「うん」

『僕も組織人として言わせてもらうなら、母さんの発言は間違ってないと思っている。
それも何一つだ。間違っているのは君であり、恭文だ。君達は社会人として考えてもありえない』



クロノは、少し視線を厳しくしてそう言った。・・・・・・またケンカなのかなと、ちょっと思った。



『・・・・・・・というより、僕達には『もうそんな事を言う権利がない』と言った方が正解かも知れないがな』



だけど、クロノはすぐに表情を変えた。自嘲するような、そんな寂しい笑い。



『例えば10年前。ジュエルシード事件の時に、僕達親子は現場判断で揃って君を見捨てようともしている。
それだけじゃない。これまでにも六課の人員に対して行なってきた事を、形は違えど何度もやっている』

「・・・・・・うん、知ってる」





海鳴の海域にジュエルシードがあると踏んだ私は、その・・・・・・少しバカをしたの。

雷撃魔法で海域に魔力を送り込んで、複数のジュエルシードを一気に発動させた。

でも、当然複数のロストロギアを私一人で封印出来るわけもなくて、追い込まれた。



その様子をモニターしていた当時のアースラスタッフは、当然ながら傍観・・・・・・見殺しにしようとした。

私がそのまま自滅したら、即時介入で捕縛。無事に全部ジュエルシードを封印しても、消耗したところを狙ってやっぱり捕縛という作戦。

ただ、その時アースラに乗り込んでいたなのはとユーノが、それに納得出来ずに飛び出して助けてくれた。



そしてその判断を下したトップは・・・・・・当時のアースラ艦長であるリンディさんと、事件の捜査担当だったクロノ。





『そしてヤスフミがフォン・レイメイを殺したのだって、同じ事だ。
・・・・・・フェイト、母さんの自業自得ではあるが、少し理不尽だろ』



嗜めるような口調でそう言われて・・・・・・でも、いい。これが今の私の気持ちだもの。



『母さんが責められるのであれば、恭文だって責められて当然だ。君がアレをしては、本当に意味がない。
水掛け論になって、結局は双方引かずに絶縁だ。恭文がここに関してあまり触れないのも、そこが本当の理由だろう』



分かってる。ベクトルは違えど、最低な行為で何かを守ったという部分は同じだから。



『例え最低でも、常に世界や組織のために最善の道を模索し、邁進し続ける。そして、そんな自分に胸を張り続ける。
それは人々の平和と安全を預かる警察機構に属する人間ならば、誰でもやらなければならない事だ』





それは、私も局員研修や現場のあれこれで教わった事。



局員である私達だからこそ、そうしなければならない理由がある。



決して軽くないものを預っている私達だからこそ、本来なら母さんのようにしないといけない。





『まぁ、恭文は局員ではないがな。・・・・・・そういうわけで、僕は胸を張り続けていく事にする。
そこは母さんも同じだ。それは別に逃げているわけでもなんでもない』

「・・・・・・ん」

『僕達はこういう形で、世界と向き合っていくと決めた。だからこそ、六課設立にも尽力した。
最低なのも、最悪なのも分かっていても・・・・・・胸を張って、ハッタリを続けるためにな』



クロノの言っている事は、分かる。分かっているつもり。でも、ダメなの。



『だが、君はそれでは納得出来ない。一度引き受けた仕事を放棄すると分かっていても、無理と』

「うん、そうだよ。もう、納得出来ないの。・・・・・・私がしたかった事は、こんな事じゃない。
なによりそれは罪を数える事にはならないんじゃないかな。罪を数える事は・・・・・・過去と向き合う事」





ヤスフミが前に言ってた。間違えた痛みを、後悔を忘れないために罪はあるんだって。

数えて、向き合って・・・・・・そこから一歩踏み出すために、罪を数える。

だから私の罪は・・・・・・きっと夢を置き去りにした事。あの時描いた自分を捨ててしまった事。



捨てて、変えたかったはずの現実になって・・・・・・悦に浸っていた事。

それでエリオ達の親になる事が出来なかった事。私の悪癖をそのまま伝染させた事。

こう考えると、数えるのは大変だね。だけど・・・・・・まずはここから。





「だから無理だよ。私には局が・・・・・・母さんやクロノの理屈が、罪を数える事になるとは思えない」

『では、君の選択はそうなるのか?』

「分からない。だけど私は・・・・・・数えていきたい。そうじゃなくちゃ、本気で自分を殺したくなる」

『だろうな。だったら、管理局など辞めてしまえ』



言葉のストレートさとは裏腹に、響きはどこか嬉しそうなものだった。

私はクロノの表情を見てみると・・・・・・クロノは、優しい瞳で私を見ていた。



『それでこれからは、組織や世界のためなどではなく・・・・・・自分のために胸を張れる生き方をすればいい』

「・・・・・・自分の、ために?」

『あぁ。立場どうこうは抜きにして、自分の・・・・・・自分の心に誇れるようにな。
後悔しているんだろう? 六課の色々な事情を振り返って、自分が情けなくなった』



私は・・・・・・頷いた。というか、さっき叫んだからここを否定する理由がない。



『だったら余計にそうしろ。こちらは組織のために胸を張り続けられる人間しかいらないしな。
後悔するくらいなら、辞めてもらった方がせいせいするというものだ』

「またハッキリ言うね」

『当然だ。・・・・・・それでそこからまた、考えて歩けばいい。
君がなんのために、胸を張っていたいかをな。少なくとも局のためではないのだろう?』

「私が・・・・・・なんのために」



そこまで考えて、一つ気づいた。・・・・・・あぁ、そうだよ。私はもう答えを知ってる。



「そんなの決まってるよ」



私はこれからまた前に進んで行く気持ちを固めたあの子の前で、『えへん』って自分を誇りたいんだ。

そんな自分になって、胸を張っていられるようになりたい。つまり・・・・・・対等で居たい、かな?



「もう答えは出ているから。私の中にずっと、答えはあったんだ」

『そうか。なら、その通りにするといい。あと、母さんは早急に僕が引きずり出す。というか、今から行ってくる』

「いいの? だってそれだと四徹に」

『いいさ。今ならショックを受けてやりやすいだろうしな。
いや、君がキレてくれて助かったよ。おかげで口八丁で軽く騙せるだろう』

「いや、あの・・・・・・クロノ? それは色々と引っかかるんだけど」










ただ、私がキレたのがとっても効果的だったのは事実だった。母さん、相当ヘコんでたらしい。

そのままエイミィやアルフ、クロノに手を引かれる形で、ヤスフミの家をようやく明け渡した。

それにより、ヤスフミは翌日には家に戻って・・・・・・泣いてたね。というか、スバル達も泣いてたし。





さすがに1ヶ月以上占拠だしね。無理もないよね。まぁ・・・・・・その、だからね?





ヤスフミの許可を取り付けた上で、予定通りに年越しパーティー、開催しました。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



”・・・・・・アルト、どうしよう”

”突入タイミング、逃しましたね”

”いや、そもそも突入出来ないって。鍵かかってたし”



・・・・・・え、状況説明必要? うん、そうだよね。えっとね、さすがにフェイト任せもどうかなと思ったの。

それで僕の話し合いに参加しようと思ったら・・・・・・すっごいバトルが始まったの。それで僕、ドアの前で置いてけぼり。



”や、やばい。フェイトに凄い謝りたくなってきた”

”今更でしょ。でもま、私は逆に安心しましたけど”

”なんでっ!?”

”あれだけ色々あってまだあのバカは『六課が必要だった。だから今の状況は仕方ない』なんて言うんですよ?
それでフェイトさんはちゃんと怒りました。それってつまり、ここの人間を道具扱いはしてないって事でしょ”



それは・・・・・・まぁなぁ。てゆうか、昨日話してる時にも思ったけど・・・・・・見抜かれちゃってたんだ。

おかしいなぁ、前だったらそういうのスルーなのに。



”それは・・・・・・ね? 現に僕、前にリンディさんがそう言った時・・・・・・逆に悲しくなったし。
言う権利がないのはもちろん分かってるけど・・・・・・それでもさ”



みんなそれぞれに傷があって、苦しい思いをしてる。リンディさんだってそれは同じ。・・・・・・それだけは、間違いないのに。

でもそれをハッタリでも『必要だった・正しい事だった』なんて言うのは、やっぱり納得出来ないのよ。というか、したくない。



”でもでも、やっぱりフェイト任せになっちゃったのが・・・・・・うぅ、どうしよう”

”しばらくは距離を置くしかないでしょ。というか、あなただってリンディさんともう話したくないから、フェイトさんに任せたんでしょ?”

”まぁ、それはね? ・・・・・・何話していいか、もう分からないの”










新暦75年・・・・・・2008年って、厄年なのかな。もう次から次へとトラブル起こるし。





しかも、解決した後の方が非常にめんどくさいってどういう事よ。色々間違ってるって。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・キャロ、はい」



僕は調理場で30センチくらいの台に立って野菜を切っていた今日の相棒に、出来たものを渡す。

相棒・・・・・・キャロが、小皿に乗ったそれに箸をつけるのと同時に。



「ほい、フリードも」



後ろでパタパタと飛んでいたフリードにも、同じものを渡す。



「・・・・・・うん、美味しい」

「きゅくきゅくー♪」



今僕が渡したのは、うちで余ってた高菜を小麦粉で作った生地に包んで焼いたおやき。

メインデイッシュじゃないけど、小腹が空いているちびっ子用に用意していた。準備には、もう少しかかるしね。



「ならよかった。んじゃ、これはキャロとフリードで食べていいから。作りながら、さっとつまんじゃって」

「でも、これから食事だよ?」

「前もってなんか入れておくと胃が拡張されて、一杯食べられるのよ。・・・・・・もちろん限度はあるよ?」

「うん、分かってる。エリオ君みたいにはダメって事だよね」

「正解」



それで僕は、フライパンで丸く焼いて切り分けたそれの半分を皿に乗せた上で、キッチンの脇に置いておく。



「とにかく分かった。それじゃあ、いただきます」

「きゅくー」



作業を進めつつもおやきに食いつくお子様を横目で見つつ、残りの半分を入れた皿を持ってリビングに入る。



「フェイト、エリオ、これ食べて出来上がるまで我慢してー」



リビングではコタツに入って・・・・・・なんかくつろいでる二人が居た。なお、ちょっとぐったり目です。

コタツは普段はテレビの前にあるソファーをどかせて、そこに設置。いや、やっぱ冬はこれでしょ。



「あ、ありがとー」

「というか・・・・・・ごめんね。任せちゃって」

「いいよ。二人は食料調達という重要任務をこなしてもらったし」



うん、すごい量だけどね。でもこれ・・・・・・床、抜けないよね?



「よし、ちょっと強化しておこうっと」



僕はこたつの上におやきを置いてから、両手をパンと合わせる。それをそのままフローリング部分に当てる。

僕の手から蒼い火花が走って、床全体に同じ色に光が走っていく。・・・・・・これでよしっと。



「・・・・・・ヤスフミ、ブレイクハウトで強化したのは分かるけど・・・・・・いいの?」

「いいのよ。床抜けるよりはずっとマシだし」

「それもそうだね。実はその・・・・・・僕も、ミシミシって音がちょっと聴こえてて」

「でしょ? ・・・・・・って、エリオっ! 僕としてはそういう事は早く言って欲しかったんですけどっ!?」



や、やばかった。てゆうか、エリオはアレだ。『ほうれんそう』って覚えさせた方がいい気がする。



「とにかく、落ち着くまでは僕とキャロに任せといてよ。これ食べて、とっとと回復してて」

「なら、お言葉に甘えるね。・・・・・・というか、これは?」

≪余り物で作ったおやき・・・・・・地球の郷土料理ですよ≫



それで二人とも、まず手に取って一口。



「どう?」

「これ、美味しい。こう、複雑なんだけどピリッと辛くて」

「中に入ってるのは・・・・・・高菜?」

「フェイト、正解。適当だけど、結構いけるでしょ」

「うん。なんだか、食が進みそうな辛さだよ」



なんにしても、気にいってもらったようだ。うん、よかった。



「んじゃ、エリオ。フェイトの分まで食べないようにね」

「了か・・・・・・って、そんなことしないよっ!!」

「うん、説得力ないね。それでフェイトも、エリオに自分の分を渡したりしないように。半分こだよ?」





フェイトの頬に一筋の汗が流れるのを、僕は見逃さなかった。やっぱりやるんかい。

・・・・・・なんてやってると、時間が来た。僕はある方向を見る。そこにあるのは、デカイ業務用の炊飯器。

今回のあれこれや、家が解放された記念として、僕はこれを買ってた。いや、素晴らしいねぇ。



それで僕は炊飯器へと向かう。で、蓋を開けると・・・・・・あぁ、綺麗に炊けてる。

お釜の中にあるのは、一粒一粒が立って輝いているお米達。

いや、我ながら美味しそうに炊けたよ。見ているだけでお腹が空く。





≪あなた、楽しそうですね≫

「そう見える?」

≪はい≫

「そうだね、楽しいかな。・・・・・・うん、楽しいよ。すっごく。
だって、ようやく自宅で料理が出来るんだからー! これは幸せでしょー!!」

≪あぁ、そうでしたね。あなた普通に家締め出されてましたしね。幸せじゃないはずないですよね≫










・・・・・・今日は新暦75年・12月31日。ミッドチルダでも、今日は大晦日。





だから僕達も当然年越し。そして予定通りに・・・・・・のんびりと過ごすのである。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



きっかけは、5日ほど前のフェイトさんと恭文の言葉だった。

大晦日と元旦は恭文の家で一緒に過ごさないかと、誘われた。なお、最初は戸惑った。

だってフェイトさんと二人で居る時間・・・・・・多く作った方がいいと思ってたから。





でも、恭文から『年末年始くらいは空気を読まなくていい』と言われたので、僕達はOKした。





そんな訳で僕は今・・・・・・なんか作ってます。アレ、説明おかしいな。










「お餅に、絹さや」

「エリオ、椎茸忘れないでね」

「うん」



油揚げに、その三種類を入れる。それを・・・・・・なるほど、ああやるのか。



「恭文、上手だね」

「ま、先生が良かったしね」



カンピョウっていう細長い食べ物で、十字に縛る。



「これで・・・・・・いい?」

「うん、上出来上出来」

「でも、これなに?」

「・・・・・・知らなかったんかい。これは餅巾着って言ってね、これもお鍋の具だよ」



それを聞いて、僕は疑問だった。だって、入れたらお餅がとろけそうだもの。



「恭文、これ中の餅は大丈夫なの?」

「だからとろけない油揚げに入れるんだよ。そしてかんぴょうで口をしっかり縛れば、問題はない。
まぁおもちは新年からなんだけど・・・・・・これが中々美味しいのよ」



恭文曰く『お餅のとろとろと絹さやにしいたけとかんぴょうの食感がグー』・・・・・・らしい。



「そうなんだ」



それで僕も見よう見まねで調理を続ける。えっと、カンピョウはキツめに縛る・・・・・・っと。



「あ、エリオ」

「なに?」

「そんな力入れなくていいから。リラックスして」



苦笑し気味な恭文に言われて、思いっきり力が入っていたことに気付く。

なので深呼吸して、高ぶってた気持ちを落ち着かせる。



「あはは。なんか、こういうの慣れなくて」

「・・・・・・エリオ、真面目な話料理練習しない? ほら、春からサバイバルだし」

「それもそうだね。いきなり豚や羊の解体なんて任されても、出来ないもの」

「せいぜいストラーダ突き刺して、電気でローストするしか出来ないよね。
・・・・・・あ、でも待てよ。ストラーダ振り回して全解体とか素早く出来たら、凄くない?」

「ははは、それは確かに」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



現在、なぎさんとエリオ君はリビングのテーブルを使って仕込み中。





私とフェイトさんも同じく。私達の担当は、キッチンでお魚や貝類。





保護隊に居た時に教えてもらったから、こういうのはお手の物。










「キャロ、本当に上手だね。私、負けてる」

「あの、そんなこと無いです。フェイトさんだってすごく手際いいですし」



フェイトさんにさっきから感心されっぱなしで、被保護者としては色々と辛いです。



「ありがと。まぁ、昔から切るのは得意なんだ。・・・・・・貝類の処理は苦手だけど」



かなりの量だけど、飲食店勤務経験者のなぎさん曰く『クリスマスイブの翠屋より楽』とのこと。

というかなぎさん、あの時どこを見ていたの? 遠い目になってたし。



「でも、あっちは楽しそうですね。作業しながら、色々話してるみたいです」

「そうだね。男の子同士だし、やっぱり波長が合うんだよ。あと・・・・・・数の問題?」

「六課・・・・・・というより、このコミュニティだと、男の子は少ないですしね。
それになぎさん、私やエリオ君にも年上とかそういうことを抜きで接してくれますから」

「態度がキツい時があるのに?」

「でも、それは私達の事を子ども扱いしない証拠ですから。だから、いいかなと」



ほんの2ヶ月前は名前を聞いていただけなのに、今は違う。

うん、スバルさんやエリオ君じゃないけど、仲間で友達・・・・・・のはず。



「確かにそういう部分はあるかも。特にキャロは、そういう感情強いよね」

「え?」

「見てると、四人の中で一番遠慮が無いから」

「そ、そんなことないですよっ!!」



この2ヶ月間、メールのやり取りも含めて交流してるから、色々と分かるだけ。

なぎさんのヘタレな部分に、目がいくようになっただけ。だってなぎさん、ツッコミ所がイッパイなんだもん。



「でも、私は嬉しいかな。ヤスフミが六課でキャロと友達にならなかったら、キャロのそういうところ、見れなかったかも知れないから」

「・・・・・・フェイトさん」



うぅ、いいのかなぁ。フェイトさんは、なんだか嬉しそうだけど。



「私にも、そうしてくれても、いいんだけどなぁ」

「えぇっ!? だ、ダメですよっ!!」

「どうしてっ!? 私、結構期待してたのにっ!!」

「なんでですかっ!!」










・・・・・・鍋の材料は、魚の切り身や鳥のつくねにお肉そのままに・・・・・・とにかく、たくさん。





そして私達は、みんなにこにこしていた。普段お仕事場では、ツーンとした表情の多いなぎさんも同じく。





だって、今日のお鍋はとっても美味しいものが出来上がりそうで・・・・・・自然とそうなっちゃうんだ。




















(第33話へ続く)




















あとがき



フェイト「と、というわけで・・・・・・私がキレちゃった第32話。改定前で言うと26〜7話。
いかがだったでしょうか。お相手はフェイト・テスタロッサ・ハラオウンと」

恭文「蒼凪恭文です。・・・・・・てゆうか、ここの辺りはマジで水掛け論になるから、不毛だよね」





(恭文がフォン・レイメイを殺した事。リンディ達が六課を作った事。本質的にはとても似ています。
最低且つ最悪な手段ではあるけど、最善を模索した結果という意味合いで)





恭文「作者ー、こういうの止めようよー。ほら、これで『六課アンチー』とかって言われるしさー」

フェイト「でもヤスフミ、六課という部隊を語る上では外せないところだと思うな。
組織としては正しいところもあって、だけど間違ったところもある・・・・・・わけでしょ?」

恭文「それはまぁね? 実際の会社だって、何かの緊急事態があれば特別編成のチームくらい作るだろうし。
六課設立の裏事情を黙ってたのだって、組織の恥部を晒して士気を下げるのを避けるためと考えれば、まぁまぁ正しい」





※六課設立の裏事情のおさらい。

1・StSの数年前からカリムさんの能力で、JS事件によって局が崩壊するという類の予言詩が出始めていた。

2・当然のようにその話を知っている局首脳部は対策を取り始めてはいたが、話が突拍子も無さ過ぎて、警戒だけに留まった。
特にミッド地上本部のトップであるレジアス・ゲイズ中将はレアスキルの類を諸事情で嫌っており、一切の対策を取らなかった。

3・ただ、予言詩には『ミッド地上本部壊滅が、管理局崩壊のきっかけ』と読み取れる文章があったため、どうしても対策を取る必要があった。
そのために本局主導で、地上本部に横槍を入れにくい指揮系統の部隊をミッドチルダに設立する事にした。

4・そこに戦力を集中させ、万が一にも予言が本当のものになりつつあった場合、それを止める事。
最悪本局や聖王教会の主力が投入されるまでの時間稼ぎをする事。それがその部隊の目的。

5・そのために集められたのが、なのはやフェイトのような経験豊富で局に献身的なオーバーSの魔導師達。
そしてスバル達のような能力もあり、出世や環境という『餌』をチラつかせれば食いついてくる若い魔導師達。

7・結果出来上がったのが、海と陸がもっとちゃんとやってれば作る必要のなかった生贄部隊・機動六課である。

おまけ・ちなみに、隊長陣以外には事件後どころか解散以降も、この辺りの裏事情は全く知らされてないと思われる。





恭文「いやぁ、こうやって挙げてくと管理局は悪者にしか見えないのが不思議だね」

フェイト「そ、そうだね。というかあの・・・・・・ごめんなさい」





(閃光の女神、関係者としてさすがに辛くなったらしい。結構素直に謝った)





恭文「フェイト、大丈夫だよ。今更謝ってもみんなムカつくだけだから」

フェイト「それは全然大丈夫じゃないよねっ!? ・・・・・・それでね、ヤスフミ」

恭文「なに?」

フェイト「えっとその・・・・・・なんでもない」

恭文「なんですか、いきなりっ!!」

フェイト「これはその、本編で言うからいいの。うん、だから今はいい。
・・・・・・というわけで、そろそろ佳境に差し掛かってきた改訂版。次回はいよいよあの話です」

恭文「そうだねー。前半はこの続きで、あとはぶっ通しらしいし・・・・・・どうなるか期待しよう。
というわけで、本日はここまで。お相手は今回はいっぱいフェイトとラブラブ出来て嬉しい蒼凪恭文と」

フェイト「わ、私も同じなフェイト・T・ハラオウンでした。それでは・・・・・・また。
・・・・・・というかヤスフミ、改訂版昨日も出したけど、ドキたまとかはいいの?」

恭文「あ、いいの。拍手の返事頑張ってる間に、もう全然書く時間なくなっちゃったから。
というわけで、2010年7月19日からしばらくは改訂版中心だよ。これでもう完成させよう」

フェイト「その上で、ドキたま/だっしゅのストック・・・・・・だよね」

恭文「あとはA's・Remixだね」










(閃光の女神は、本当に嬉しいらしい。だってとってもニコニコしてるし。
本日のED:シド『モノクロのキス』)




















クロノ『それでエイミィ、母さんはどうだ?』

エイミィ「もうね、相当ヘコんでる。フェイトちゃんにキレられたのが相当ショックだったみたい。
・・・・・・フェイトちゃん、なんか諸事情込みで『今すぐ死にたい』みたいな事言ったんでしょ?」

クロノ『・・・・・・知ってるのか』

エイミィ「お母さんが漏らしてたんだよ。それで泣いてたよ。どうしてそうなるのか、全然分からないって」

クロノ『・・・・・・そこまでストレートではないが、そう取れる言葉は言ったな。というか、僕もショックだった。
六課のあれこれに関しては、はやてやヒロリスさん達経由でもかなり聞いて把握していると思っていたんだが』

エイミィ「足りなかったわけだ。・・・・・・これさ、隊長陣の方にはフォローかなり必要じゃないの?
まぁ私は事情は詳しくは分からないけど、局の厄介事みんなに押し付けたからこれなんだよね」

クロノ『そうだな。特に・・・・・・あぁ、本当に失敗だった。これでは後見人失格だろ』

エイミィ「お母さんが恭文くんの家占拠した時点で、そこは決定だよ。何を今さら」

クロノ『そうだったな。・・・・・・それと、エイミィ』

エイミィ「うん、何?」

クロノ『・・・・・・まぁこの間も言ったが、本当にすまなかった』

エイミィ「ん、いいよ。私はあなたが本心からそう言ってくれるだけで、それだけで十分だから」










(おしまい)





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あきゅろす。
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