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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第31話 『ゆっくりと静かに過ごす時も、過去を思い出す時も、たまには必要 後編』(加筆修正版)



そして、あっという間にクリスマスイブ。朝一番で隊舎を出て、海鳴にまたやってきた。

二人・・・・・・いや、三人だけでだね。ゆっくりと雪に包まれた街を歩いていく。

吐く息は白く、空気の冷たさを視覚に直接伝えていた。というか、実際に寒いので視覚で伝えてもらう必要がない。





今年は六課の尻拭いという素晴らしいお仕事のために、例年と違って一日早い来訪になった。

もうちょっと言うと、局の上の方のバカの悪巧みのせいでこれだよ。全く、やってられないね。

その上、例年通りの翠屋の手伝いもちょっと無理っぽいしなぁ。部隊常駐なんて、やっぱするもんじゃないよ。





ちなみに、美由希さんも僕と一緒にこっちに戻ってきてる。というか、そのまま高町家に戻りだね。





そのために昨日は送迎会があって・・・・・・なんていうかさ、六課って絶対弛んだ部隊だと思う。










「リイン、大丈夫?」

「大丈夫ですよ。手・・・・・・繋いでますし」

「そうだね。凄く温かい」





繋いだ手の温かさが、心まで温めてくれる。リインの手は小さいけど、手袋越しだけど、柔らかくて温かい。

その温かさに二人ちょっとニコニコしつつ、どこか足早に雪の街を歩いていく。

歩く度に僕達の周囲の景色が変化する。足を進める度に市街地のそれから、木々が多い風景になっていく。



歩く道も、平坦な道から少しだけ坂になる。そうして二人で少しだけ息を荒くしながら、目的地に到着した。





「・・・・・・真っ白です」

「うん、真っ白だ」





そこは、海鳴の街並みが一望出来る高台。商店街から住宅街、山間から海の方まで綺麗に見える。

街にゆっくりと雪が降っていく風景は、なんというか凄く綺麗で・・・・・・少し切ない。

木のフェンスのすぐ側に備え付けられている、白いベンチに二人で積もった雪を払って、ちょこんと座る。



だって急ぎ足で来たから、ちょっと疲れたし。それで僕達は、自分達が歩いてきた方を見てみる。

自分達の足跡が、ゆっくりと降りしきる雪で消えかけていくのが分かる。

・・・・・・情緒的な説明だから、ツッコまないでね? ま、さすがに分かりませんよ。





「というか、リイン」

「はい?」

「なんで腕に組み付いてるの?」



座りながら僕の右側に座ったリインによって、腕が占領されていた。



「こうすると、温かくて幸せだからですよ」

「・・・・・・そっか」

「でも、ちょこっとお別れですね」



そう言ってリインは腕を離した。そして、背筋をピンと立てる。



「きちんとしないと、いけませんから」

「・・・・・・そうだね」



僕もそれに倣う。そして、息を吐いて呼吸を整える。



「んじゃ」

「はい」










僕達はゆっくりと立ち上がって、瞳を閉じる。そして語りかける。

ううん、届くように願いながら胸の内で言葉を紡ぐ。

それは口から言葉にはならない。思念通話のようなものにもならない。





それは心からそのまま送るものだから。これでいいの。きっと、届いてるから。





・・・・・・今年も来ました。というか、すみません。一日早いですよね。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・じゃあ、皆さんもアイツとリイン曹長が何してるか分からないんですか?」

「あぁ。バカ弟子もリインもぜってー教えてくれないんだよ。・・・・・・あ、これ頼む」



目の前の端末を操作して、部下の端末にサインが必要な書類データを送る。



「はい」



ティアナの方を見ると・・・・・お、受け取ったな。頷いてきたし。



「どこへ行くかとかもですよね?」



大事な部下と書類を片しながら、世間話だ。・・・・・・ま、実を言うと予想は付いてるけどな。



「まぁアレだよアレ。お前も知っての通り、無茶苦茶仲いいからよ。色々あるんだよ」

「そうですね。色々ある感じがします」





付き合いは浅いけど深くもあるティアナが、苦笑い気味にそう言った。・・・・・・やっぱ、仲良いよなぁ。

資質とか背景的なもんで通じ合うのかね。なんだかんだで似たもの同士だし、そういうところが影響してるんだろうか。

アタシ、スバル以外でティアナがあんな素でぶつかる所は見た事ないしなぁ。ティアナも何気に人見知りっぽいし。



・・・・・・そう考えると、アタシ達隊長陣は全然ダメだよな。そういうところもちゃんとしてないから失敗したわけだし。





「あ、これ仕上がったんで、チェックお願いします」

「おう、ありがとな」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



少しばかり時間をかけて、この1年の報告は終了。しっかり恨み言も言ったりした。





主に僕の家でクリスマスを過ごそうとしてる、あのバカ共についてとか?










「・・・・・・リイン」

「はいです?」

「僕、ハラオウン家と縁切るわ」



伝えながらまた怒りが再燃して来たので、絶対に縁を切ってやると心に強く誓ったりした。



「・・・・・・というか、リンディさんとですよね」

「うん」



自宅から仕事に通い出したとかいうあのバカ提督と、絶対に縁を切る。僕はそう心に決めたよ。



「クリスマス・・・・・・クリスマスなのに・・・・・・!!」



軽く右拳を強く握り締めて、雪の中で紫のオーラなんで出しつつも決意を固める。

もういい。僕は本気でキレた。てーかクロノさんも忙しいのか全然だし・・・・・・マジでどうなってる。



「てゆうか、クロノさんどうしたっ!? とっとと迎えにいけっつーのっ!!」

「あー、それリインもアルフさんから聞いたですけど」

「え?」



あ、連絡取ってたのね。普通にびっくりだわ。

とにかく、リインは僕の左手を再び取りながら僕の事を見上げる。



「下手に手出しし辛い状況になったそうなんですよ」

「・・・・・・僕との事までこじれるから?」

「ですね」

「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! やっぱり今年最悪ゾーンだしっ!! どうしてこうなったっ!?」



雪の中、右手で頭を抱えて叫ぶのはきっと許される。

さっきまでのセンチメンタルな空気が台なしだけど、それでもだよ。



「うし、こうなったら裁判だ。裁判起こして叩き潰してやる」

「恭文さん、普通に加減・・・・・・って、する必要ないですよね」

「でしょ? ・・・・・・まぁ、クリスマスプレゼントは送ってるから、それで憂さは少し晴れるけど」



まぁ、アレだよね。やっぱり関係改善のためには、こういうところかなと思ったのよ。

なので、昨日の内に準備した特製クリスマスプレゼントをリンディさん宛てに送っている。



「あぁ、アレですか?」

「アレだね。きっとリンディさんは地獄を見てくれるよ」

「・・・・・・こらこら、雪ん中で何物騒な話しとるんよ」





更に放出しかけた紫のオーラを引っ込めたのは、呆れたような声。

というか、僕とリインは普通にビックリした。だって・・・・・・その声は、僕達の知ってるものだったから。

僕達はその声のした方を見る。そこに居たのは、暖色系のロングコートを羽織ったはやて。



首元は赤のマフラーを巻いて、息が乱れているのか白い息を断続的に吐いている。





「はやて?」

「はやてちゃん、どうしたですかっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ここ最近ゴタゴタしたしな。気持ちの整理をつけるために、一日早いけどここへ来た。





あの子・・・・・・リインフォースが空へ還っていった場所に。





なんやかんやでここには久々に来たんやけど、まさか恭文達が居るとは。










「『どうした』はこっちのセリフやて。・・・・・・なんや、もしかして毎年これか?」

「あー、まぁね」

「クリスマスは、いっつもこれでラブラブなのです♪」

「全く、アンタらは」



ま、えぇか。薄々勘づいてはいたしな。だって、毎年毎年ここだけは二人して絶対外さんのよ?

どんなに忙しくてもリインも恭文も仕事にNG入れるし、緊急のもんが来ても全部スルーするし・・・・・・あれ、なんかおかしいな。



「んじゃはやて、僕達もう行くから」

「え?」

「一人の方がいいんじゃないの?」



・・・・・・うち、たまに恭文が苦手やなぁと思う時がある。コイツはこう・・・・・・めっちゃ察しがいい時があるんよ。

例えば今みたいに、唐突にこういう事を言う時やな。そやからうちは、苦笑気味に頷く事しか出来ん。



「そうやな。ホンマ悪いけど、それで頼めるか?」



うちがそう言うと、二人はそのまま頷いてこっちに来た。うちの後ろにしか降りる道ないからなぁ。




「僕達はこのまま適当にしてるから、何かあったら連絡してね」

「それじゃあはやてちゃん、また後でです〜」





すれ違いながらそう言うた二人に軽く手を振って、うちはそのまま見送る。

この場に残されたのは、うちだけ。うちは軽くため息を吐く。

その吐いた息の白さを見て、改めて寒さを実感する。もう、12月なんよなぁ。



なんや今年は色々あり過ぎて、マジでクリスマスが来てるって事を信じられんなぁ。





「・・・・・・さて、久しぶりやな。リインフォース」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



”・・・・・・ちょっといいですか?”



はやてと別れて山道を降りている時に、僕の思考に直接声が届いた。

というか、思念通話だね。その声の主は、アルト。



”どうしたの? あ、出番少ないから不満とか”

”今回はそこじゃありませんよ。はやてさん、様子が”

”あー、そうだね。なんか思いつめた顔してた”





隠そうとはしてたけど、無駄だよ。僕は戦闘者よ?

相手の仕草や視線の動きに表情、そういうものだけでも、動きは読み取れるの。

それに空気だっておかしかった。今言ったみたいに、思いつめてる感じ。



だからリインだって僕に同調する形ではやてを一人にしたんだから。



まさか身投げするためにあそこに来たとも思えないし・・・・・・まぁ、大丈夫だよね。





”実は、原因が一つ思い当たります”

”奇遇だね、僕もだよ。その『原因』が有ってから、はやての様子・・・・・・ちょっとずつ変になってた”





思い出すのは、フェイトとのお泊りデートの時の事。ホテルを出る時に見た、あの微妙なカップル。

というか、はやてとヴェロッサさん。アレからそれとなくシャーリーとかに確認したら、色々分かった事がある。

はやて、あの日唐突に休みを取ったらしいのよ。お世話になった人のお見舞いとかなんとか言ってさ。



・・・・・・娯楽施設しかない人工島に、ヴェロッサさんと一緒にお見舞い? それはちょっとありえないでしょ。

それなら、もっと素直に考えた方がまだいいよ。例えば・・・・・・はやてはヴェロッサさんとそうなってる。

だけどこう、男女の中ってのは難しいものなのよ。だからその辺りで非常にゴチャゴチャして、あの微妙な空気とか。



なお、ここで僕とフェイトの尾行をしていたといういつも通りなギャグ展開も予測出来るけど・・・・・・ここは無しにした。

だって、それだと尾行してる内に何か火が点いてそうなったって感じよ?

そんなの僕にはどう収拾していいか分からないので、そこはもう考えたくないの。





”・・・・・・あとで答え合わせしようか”

”そうですね。恐らくそれで正解でしょ”



あー、もしかしなくてもまた問題発生? てゆうか、どうしてこうなるのさ。

やっとリンディさんの事は縁を切るで片付いたというのに、なんでまたこれなのさ。



「・・・・・・恭文さん」

「うん?」



痛くなりかけた思考や事態は一旦置いておくとして、僕と右手を繋いでいるリインの方を歩きながら見る。



「なにお話したですか?」

「うーん、色々」



恨み言もそうだし、これからの事とかも色々とさ。僕は・・・・・・やっぱ捨てられないし拭えない。

前にある女の子に言われたみたいに、自分の中で生きている『夢』を持ったまま進むって、宣言してきた。



「というか、リインは?」

「色々なのです。恭文さんと如何に肉体的にラブラブしたかとか、恭文さんとエッチに愛し合ったとか」

「ちょっと待ってっ! 故人に嘘つくのやめてっ!? てゆうか、僕達そんな事してないからっ!!」

「あ、大丈夫ですよ」



リインは僕を見上げながら、嬉しそうに頬を染めつつもにっこりと笑う。それに失礼ながらも寒気が走った。



「これから・・・・・・リインの全部を、恭文さんにあげるです。
だから、恭文さんはリインを受け止めるだけでいいのです♪」

「ダメだからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! そんな事したら、僕犯罪者だからねっ!?」










・・・・・・僕とリインは毎年、クリスマスにはあそこへ行く。

あそこで空に還っていった初代リインフォースさんに顔を見せて、近況を報告するために。

いや、仕方ないのよ。お墓があるわけでもなんでもないしさ。





報告やらなんやらしようと思うと、これしか思いつかない。

故人への語りかけなんてセンチメンタルかも知れないけど・・・・・・こういうのが必要な時もあるんだよ。きっとね。

で、名前を受け継いだリインだけじゃなくて僕もそうしてるのには、一つ理由がある。





まー、あれだよ。間違いなく引く話ではあるから、今まで言いにくかったんだけど・・・・・・実はね。





僕、そのお姉さんに会ったかもしれないのよ。




















魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝


とある魔導師と機動六課の日常


第31話 『ゆっくりと静かに過ごす時も、過去を思い出す時も、たまには必要 後編』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



話は8年前。僕が事件に巻き込まれて、魔導師になってすぐの頃。

僕はその事件中に遭遇したオーバーSの違法魔導師との戦闘で、生死の境をさ迷った。

以前、六課に来てすぐの頃に予定もなかったのに話すハメになったあの一件だよ。





実は、アレにはスバル達には話してない部分がある。そしてそこが、今回のあれこれに関係している部分なの。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「それでヤスフミ」

「うん」



目が覚めてやっと落ち着いた時、フェイトが来た。それで殴られて・・・・・・というか、フェイトの出自話の前だね。

時間軸的にはそんな感じなので、みんな納得・・・・・・って、僕なんの話してるの?



「ちょっと聞きたい事があるの」

「聞きたい事?」

「ヤスフミ、あの時魔法使ったよね?」



フェイトの言ってる事がさっぱりだった。だって、魔法戦闘で魔法使うのは当たり前だったから。



「あ、ゴメン。分かりにくかったよね」



僕の様子からそこの辺りを察したのか、フェイトが少し表情を崩した。安心させるように、僕に笑いかけてくれる。



「最後に使った魔法、覚えてる?」

「うん。うっすらとだけど」



ボロボロで、意識もうろうとしてたから。全部反射というか、感覚で動いてた。

アレ、最初の時にも感じてたのだ。相手の思考や感覚が読み取れるというか・・・・・・なんだろ、アレ。



「あの魔法、どうしたの?」

「え?」

「どうやって覚えたのかな。というか、どうして・・・・・・どうして集束系なんて使えるのっ!?」



・・・・・・・・・・・・はい? 集束・・・・・・なんですかそれ。



「あー、待って。お願いだから待ってっ! てゆうか、顔近いからっ!!」

「・・・・・・あ、ごめん」



フェイトが乗り出していた身体を、一旦引いてくれた。それで僕は、少し落ち着いて話せるようになった。



「えっと・・・・・・フェイト、まず僕から質問。いいね?」

「あ、うん」

「・・・・・・・・・・・・集束系ってなに?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・えっと、纏めると集束系・・・・・・スターライトというのは、魔法技術の一つ。
周囲の魔力を一点にかき集めて・・・・・・というか利用して、それを攻撃に転用する術と」

「そうだよ。だから、ボロボロのヤスフミでも使えたの。
発動のトリガー分の魔力さえあれば、この魔法は使えるから」



納得した。だからこそ反撃出来たわけだ。そう言えば、こう・・・・・・蒼い星の光が拳に集まってたのは覚えてる。

それで殴ったり、それで零距離でクレイモア撃って、とどめに顔面掴んでクレイモアしたりしたっけ。



「それでヤスフミのダメージがひどいのは、集束魔法を使った事も原因の一つなんだよ?」

「え?」

「まぁうっすらとしか覚えてないみたいだから改めて言うね。
ヤスフミ・・・・・・相当回数集束魔法を使ってる。集束魔法ってね、負担が大きいんだ」



その負担が大きい魔法を無意識に使っちゃってたから、僕の身体はこの状態らしい。

てゆうか、もしかしたら怪我よりもそっちの方がひどいかも知れない・・・・・・とは、フェイトの談。



「でもヤスフミ、本当に知らなかったの?」

「うん」



ちなみに僕はそんな術があるなんて、知らなかった。先生や師匠にも、誰にも教わってない。

大体、知ってたら最初から使ってどうにかしてる。フェイトみたいな砲撃撃ってるって。



「あのね、ヤスフミ」

「なに?」

「正直に言って欲しい。隠れて練習してたよね?」

「・・・・・・はい?」

「スターライトは、制御難易度はSクラス以上。習得するのも大変だし、習得してからも訓練が必要。
練習もしてなくて、その上知識も何も無い人間がポンと使えるものじゃないの」



そこまでだったんだ。ん、ちょっと待って。

そんなトンデモ魔法を・・・・・・僕は使ったって言うのっ!? それも何度もっ!!



「あの、怒られるとか考えてる? ・・・・・・大丈夫だよ、そうなっても私も一緒に謝るから」

「フェイト、ごめん」

「やっぱり隠れて練習してたんだね」



うん、残念ながら・・・・・・って、違うからっ! なんでその『しょうがないなぁ』って顔で僕を見るのっ!?



「してないから」

「・・・・・・え?」



なので、僕は改めて言う事にした。じゃないと、フェイトにはきっと伝わらない。



「僕の現状がありえないのは、よく分かった。でも、本当に知らなかったし、練習もしてないの」





てゆうか、僕も混乱してる。なんでこんなわけの分からない事に?

フェイトが本気で訳の分からないと言わんばかりの顔してるし。いや、僕も同じだよ?

でも困った。あの時、意識もうろうだったし、どういう形で使おうと思って・・・・・・あれ?



思い出せない。そう言おうとした。でも、言えなかった。だって、思い出したから。

いや、そんなはずは・・・・・・でも、星の光・・・・・・スターライト。

答えに気づいた瞬間、寒気が走った。身体の震えが抑えきれない。





「ヤスフミ、どうしたの? というか、顔色悪いよ」

「いや・・・・・・なんでもない」

「なんでもない事ない。・・・・・・もしかして、なにかあるの?」



何もないとは言えなかった。だって、怖過ぎて、一人で抱えきれないと思ったから。



「あの、凄まじくドン引きする話なんだ」

「え?」

「ただ、それしか思い付かなくて」

「ヤスフミ、まずちゃんと話して? じゃないと、分からないよ」



フェイトが心配そうに僕を見つめる。だから僕は、目の前のパンドラの箱に手にかけた。



「スターライトを使う前、一回意識が切れたの」

「うん」

「その時に夢を見て・・・・・・女の人が出てきた」



そうだ、思い出せる。なんで今まで忘れてたんだと言うくらいに、ハッキリ思い出せる。

そこだけはもうろうとしていたあの時間の中で、おかしいくらいに鮮明に思い出せる。



「その女の人は二つのものを、ボロボロで這いつくばっている僕に手渡してきたの」

「なにを渡されたの?」

「星の光と、鉄と風を結び付ける力。そう言ってた」



瞬間、フェイトの表情が驚きに満ちた。そりゃそうだよ。

いくらなんでも、あり得ないもの。だって、もしそうなら・・・・・・だよ?



「この二つの力は、僕がずっと望んでいたもの。今を覆す切り札。・・・・・・そう言ってた」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして言われた。力を渡す。その代わりに約束しろと。そうして対価を払えと。

リインを僕が居なくなるなんて理由で、決して泣かせない。ただそれだけを約束して欲しいと。

もう、僕の時間は僕だけのものじゃない。僕の時間は、リインと繋がった。





だから勝手に永遠に居なくなる事など認められない。僕が居なくなれば少なくとも、リインは悲しむ。

そして苦しみ・・・・・・泣く事になる。共に居た時間は、出会った記憶は、後悔に繋がる。

そんな思いをリインに絶対にさせない。それが払うべき対価。それで僕は・・・・・・そうだ。その言葉に頷いた。





絶対にそんな理由では泣かせない。そう口にした。あの子は僕に沢山の笑顔と、『幸せな今』をくれた。

大事で大好きなあの小さな女の子との時間を、記憶を、後悔なんかにさせたくなかったから。

そう言ったらあの人、本当に幸せと言い切れるのかって、聞いてきた。だから、言い切れると答えた。






リインが僕の目の前に突然現れて、そこから始まった時間の全部が幸せだって言い切った。

リインと出会えた事は、絶対に間違いなんかじゃない。誰がなんと言おうと絶対に。

それだけじゃない。リインを守ると約束した。力になると、自分に誓った。凄く簡単で、難しい約束をした。





それを通すと言い切ったら、その女の人は満足そうに笑って、もう一度僕に手を伸ばして言ってくれた。

『ならば立ち上がって・・・・・・お前の許せない今を覆せ。この力は、そのための力だ』。

そう、言ってくれたんだ。とても優しく、温かい静かな声で・・・・・・僕の手を取って、立ち上がらせてくれた。





それで・・・・・・だめ、ここからは意識がまたうっすらとしてて・・・・・・よく思い出せない。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・ヤスフミ」

「分かってる。こんなの、ありえない。・・・・・・でも、他に思い当たらないの」



うん、ドン引きだよね。でも、僕はもっと引いてるのよ? 僕より引いてるのはいないでしょ。

だってもしそうなら、色んなものをぶっちぎってるから。出来るなら、僕の咄嗟の思いつきであって欲しい。



「そうだ。アレは実際は僕のアドリブ。上手くいったのは、僕の魔力コントロール能力のおかげなんだよ」

「・・・・・・そ、そうだよねっ! ヤスフミ、魔力運用は私と同じくらい上手だしねっ!! まさか・・・・・・そんなねっ!!」

「そうだよねっ! うん、きっと僕の能力のおかげだよねっ!! そうに違いないよねっ!?」



二人で無理矢理テンションをあげようとする。だって、背筋が寒いもの。つーか空気が寒い。



「あ、でもその女の人って、どんな人だったの?」

「え、なんでそこ聞くっ!?」

「だって、その状況で出てきたって事は、もしかしたらヤスフミの理想像かも知れないでしょ?」



あ、そういう考え方もあるか。えっとね。



「まず、目は髪で見えなかったんだけど」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



覚えている限りの特徴を口にした瞬間、フェイトの顔が真っ青になったのは、言うまでもない。

そして、なぜそうなるのかを僕が知った時・・・・・・フェイト以上に顔が青くなったのは、もっと言うまでもないと思う。

・・・・・・ところが、アウトコースはまだあった。この後に判明した、僕とリインのユニゾン能力。





本来は想定されていないリインとのユニゾン。だけど、それでもはやてや師匠達より高い相性値と能力を叩き出した。

それも非常に安定した形で・・・・・・なんだよ。確かに、僕の中には風と鉄を結びつける力があった。

ただ、僕の見た夢が原因かどうかは分からない。スターライトも、本当に思いつきだったかも知れない。





本気で痛みと出血で意識もうろうで、覚えてないんだけど。

実際僕がその時使ったのは、なのはのスターライトと比べられないようなもんだったしね。

リインとのユニゾンだって、元々の可能性がある。それまで試した事は一度もないし。





夢の中のあの人も・・・・・・その時一番仲の良かったリインの姿から、構築(妄想とも言う)したのかも知れない。

話を聞いてると、本当にリインの大人Verって感じだしね。まぁ、はやてがそういう形でリインを産み出したからだけど。

つまり今話した事は、本当に色んな偶然が積み重なった結果かも知れないの。





ううん、むしろその公算は非常に大きい。というか、現実的に考えるならこっちが正解でしょ。

ただ、僕とリインは素直にもらった力だと思う事にした。

僕がそう思えるようになったのは、初めてユニゾンした時かな。その後、リインと話をした。





リインはそう思いたいと言った。この力は初代リインフォースさんが、今も自分達を見守ってくれている証拠。

そう思いたいし、そう信じてたい。理屈じゃなくて、自分の感情でそういう事にする。

真相が分からないなら、自分にとっての真実はそれにしたいと、真っ直ぐに言い切った。





で、僕もそこに乗っかる事にした。これも理屈じゃないな。

あの夢がどうしてもただの幻覚に思えなかったから。・・・・・・怖くはあったよ?

だけどあの時のリインを見ていたら、それでいいと思えるようになった。





初めてユニゾンした時に、感じたんだ。・・・・・・ううん、ユニゾンする度にいつも感じる。とても温かいものを。

リインと、心も身体も命も、そこから生まれる思いも一つになる。それにアルトも居る。

一人じゃない、三人で戦う。それだけで怖いものがなくなる。どこまでだって、僕達は強くなれる。





そして自分達の中から、そのための力が溢れてくる。

魔力とかそういうのじゃない。もっと強くて、温かい力が。・・・・・・そうだ、それを感じた時に変わった。

僕にとってこの力が大事な物になったから、そう言い切れたんだ。きっとリインも同じ。





まぁ、なのはやフェイト達は未だに信じられないって顔だけど。確かに常識的に考えるとありえないしね。

だけど僕は、元々そういう『常識的』っていうのが嫌いなタイプ。固定概念にハメ込まれて思考が狭くなるのは、嫌なのよ。

そして、だからこそ僕達は毎年ここに来る。もらった力・・・・・・それと引き換えに交わした、大事な約束。





それをなんとか守れていると、三人で報告するために。本当だったら・・・・・・必要かなと。










「リイン」

「はい?」

「また、来年も来ようね」



何があっても、笑顔で乗りきって、元気な姿を見せに行く。・・・・・・やっぱ変な話かな。



「はい、必ず来ましょう。その時には、勝利報告出来るといいですね」

「そうだね。うん、頑張るよ」

≪その前に、やらなければいけない事がありますよ。色々と≫



・・・・・・うん、ちゃんと話さないとね。



「リインはこれからどうする?」

「えっと、翠屋に顔を出してきます。恭文さんは?」

「すずかさんに会ってくる」

「ですよねー」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・クリスマスを『不法占拠』先で過ごしている時に、荷物が届いた。

それは恭文くんから。なんでもお母さん宛てにクリスマスプレゼントらしい。

お母さんはどこか嬉しそうにしていた。まぁ、アレだよ。仲直りのきっかけを掴んだと思ったんでしょ。





さすがに強引過ぎたと反省してる様子だし、これならまぁ安心かなと・・・・・・油断していた。





そう、私とアルフは失念していた。恭文くんがケンカを売られたら徹底的に買って暴れる子だと言うのを。










「・・・・・・こ、これは」



だからこそ私とアルフは、後悔していた。せめて事前に確認するくらいの事はしておくべきだったと。



「仮面・・・・・・だよな」



お母さんは、あの恐怖を思い出して軽く怯えた表情で箱の中身を見る。それは、あの時と同じ仮面。もう全く同じ。



「エイミィ、これ」

「手紙?」



アルフが仮面の傍らに置いてあった手紙を見つけて、私に手渡してきた。私はそれを右手で受け取って・・・・・・開く。



「『リンディさんへ、仲直りの印のクリスマスプレゼントです。仮装用の仮面なので、パーティーの際には盛り上がると思います。
・・・・・・もちろん着けてくれますよね? まさかアレだけ言っておいて、自分は僕を信じられないなんて事はないですよね?
』・・・・・・だって」

「・・・・・・アイツ、徹底抗戦するつもりかよ。てゆうかそれ・・・・・・アレだ。
地球でキリシタン弾圧に使ってた、踏み絵とかそういう類か?」

「アルフ、よく分かってるね。間違いなくそうだよ」





ようするに、ここでこれを例の呪いの仮面と思って装着しない事は、恭文くんの気持ちを『信用しない』事になるの。

でも、装着したらお母さんはあのトラウマの日々に逆戻り。クリスマスなのに、飲食が出来なくなる。

先日本局のロストロギア保管庫に送ったあの仮面。アレによって引き起こされた悲劇の数々を、ここでまた繰り返す事になる。



もちろん、この仮面がただのレプリカで全然別物な可能性もあるけど・・・・・・いや、それはないな。

恭文くんの性格からして、この間のアレに対しての報復をしないはずがない。

これは間違いなく、呪いの仮面第2号だよ。まずい、本気でお母さん悩んでるし。



お母さんだって、そこが分からないはずがない。だから今、蒼冷めた顔で仮面を見つめている。





「・・・・・・分かったわ」



そう掠れた声で呟くと、お母さんは両手で仮面を掴み、一気に顔に装着した。

なお、あっという間だったので私とアルフは止める間がなかった。



「「お母さんっ!?」」

「いいの。そうよ、まず私からだわ。私から姿勢を示せば、きっとあの子だって・・・・・・それに、大丈夫。
これは踏み絵だもの。あの子は根っこは優しい子なんですし、きっとこれはすぐに外せるわ」



お母さん、説得力ありませんよっ!? もう身体中震えてるじゃないですかっ!!



「ほら、あっという間に」



そして、お母さんは両手に力を込めて仮面を剥がそうとした。でも・・・・・・私とアルフの予想通りに、外れなかった。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「お、お母さんっ!? あの、落ち着いてっ! 油油・・・・・・そうだ、油ですぐ外せるからっ!!」

「アルフ、私油持ってくるから、お母さんお願いっ!!」

「了解っ!!」










そして、私達のクリスマスイブは自業自得ながらも地獄になった。





今回の仮面が、前回のよりずっと外すのに苦労した・・・・・・というか、全然外せないんですけどっ!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



≪・・・・・・しかし姉御、ボーイの頼み通りに仮面作ってよかったのかよ。また外れなくなったりしたら≫

「大丈夫だって前回の欠陥部分はしっかり見直した上で改良して、そんな事のないようにしているし。
当然やっさんにもそこはちゃんと説明してる。だから、リンディさんが着けたとしてもすぐに外せるよ」

≪あ、そうなんだな。なら安心だな。これでまた大騒ぎになってたら、さすがに廃業だしなぁ≫

「だよねー。だから相当気を使って手直ししたもん。だから、そんなバカな事になってるわけないって」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



リインと別れてから、僕は月村邸に向かった。というか、約束してた。

ここ最近の進展具合、話さないわけにはいかないよね。

その、何度も言ってはいる。でも、何度も言ってくれる。だからその・・・・・・ね。





嬉しくないわけがない。でも、話さないといけない。

イブに言う必要があるのかとか、色々考えてしまうけど。

でも、言わないわけにはいかないよね。





僕はいつものように正門から入る。で、コートや頭に積もった雪を払ってから玄関を開けると。










「なぎ君っ! 久しぶりっ!!」



・・・・・・抱き締められました。やばい、心が折れそう。というか、ちょっと待って?



「うん、久しぶり。・・・・・・あのね、すずかさん」

「うん」



気にしてはいけない。伝わる大きくて柔らかい感触とか。だって、もっと気にしなきゃいけないとこがある。



「・・・・・・・・・・・・なんでメイド服っ!?」



すずかさんはメイドさんだった。もっと言うと、ノエルさんやファリンさんと同じ服着てた。

それで飛び込んできたから、反応が遅れた。くそ、油断してた。



「えっと、クリスマスプレゼントに、今日からなぎ君のメイドさんに」

「どういう思考っ!? というか今日『から』って言わないでっ!!
・・・・・・あの、そのプレゼントは嬉しいの。ほんとにありがと。でも、とりあえず離して」

「分かりました、ご主人様。寂しいですけど、すずかはご主人様のメイドとして」

「お願いだから入り込まないでっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして現在、すずかさんの部屋で近況報告なんてし合ってる。





メールでもやり取りはしてるけど、それでもこういうのは大事なの。










「・・・・・・試験、もうすぐだよね」

「うん。来月の10日」



ヒロさん達のおかげで武術関係もOKだし、みんなも・・・・・・一部妨害してくる奴らが居るね。

まぁ誰とは言わないさ。僕は大人だから、ガキ共の所業など笑って許すのさ。



「あの、すずかさん」

「なにかな?」

「あの、メールとかでも言ったけど・・・・・・ありがとう。この間、助けてくれて」



すずかさんが力、貸してくれたしね。うん、絶対に合格しよう。それしか気持ちに応えられない。



「いいよ。その、あんな事でなぎ君の力になれたなら、嬉しいから」

「あんな事じゃないよ。・・・・・・うん、本当に嬉しかったし、助かった」

「・・・・・・ありがと。そう言ってもらえると、やっぱり嬉しい」



・・・・・・どうしよう、ここからどう話せば・・・・・・って、直球しかないよね。



「あの、すずかさん。大事な話が」

「なぎ君、今日はイブだよ?」

「え?」

「とっても特別な日。特に恋をしている女の子にとっては・・・・・・特別な日。
・・・・・・特別な事なんて、なにもなくていいの。今日は、なぎ君と少しだけでも、静かに過ごしたい」



それは分かる。でも、それでもきっと、言わなきゃいけなかった。でも、言えなかった。



「ごめんね、私今、なぎ君が言おうとしてる事本当に聞きたくないの。
お願い、今日は・・・・・・そういうの、無しにして欲しい」



すずかさんの表情がそれだけは嫌だと、やめて欲しいと、訴えかけていたから。

それを押し切る事は・・・・・・出来なかった。



「ごめん」

「ううん、私の方こそ・・・・・・ごめん。仕方ないって分かってる。でも、今日は・・・・・・お願い。
今日は、ちょっとだけ彼女の位置に居させて欲しいんだ。それだけで・・・・・・いいから」

「・・・・・・分かった」

「ありがと。・・・・・・あ、そうだ」



すずかさんが思い出したように、部屋の中の木造りの机の前へと向かう。



「なぎ君、これ」



机の上に置いてあった小さな小箱を持ってきて、渡してくれた。



「えっと」

「クリスマスプレゼントだよ。・・・・・・あ、変なものじゃないの。カップサイズのクリスマスケーキ」



確かに・・・・・・サイズがそれくらいだ。それで慎重に開けてみると・・・・・・うん、確かにクリスマスケーキだ。

というか、これはタルトだね。ベリー類が乗ってて、彩りもとても可愛い。



「・・・・・・同じ事考えてたんだね」

「え?」



僕もかけていたコートのポケットをまさぐる。そうして取り出したのは、すずかさんの箱と同じサイズのもの。

それをすずかさんに手渡す。すずかさんは、さっきの僕と同じ要領でその箱を開ける。



「・・・・・・ホントだ。私達、同じ事考えてたね」





僕はすずかさんの表情がほころぶのを、直視出来なかった。

・・・・・・うん、僕もすずかさんへのクリスマスプレゼントを用意してた。

あの、一応必要になるかなと。僕のケーキは、本当に縮小版って感じだね。



上に一個だけちょこんと乗ったイチゴに、粉砂糖を程よく振りかけてるのがポイントです。





「・・・・・・私ね、なんだか嬉しい」

「・・・・・・うん、そうだね」

「じゃあ今から紅茶入れるから、それを飲みながらもっとお話しようよ」

「・・・・・・ここで?」

「うん、ここで。・・・・・・たまには、いいかなと。だって私、今だけはなぎ君の彼女だもの」










その後は互いのケーキを食べつつ、すずかさんの部屋で二人で他愛のない話をして過ごした。





なお、すずかさんお手製のタルトはとても美味しかった。ただ・・・・・・なんだよなぁ。





ベリー類があったからなのかな。タルトはとても甘酸っぱくて、食べていて切ない気持ちになる味だった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あっという間に楽しくて、静かな時間は終わった。

というか、終わりを告げられた。いきなりはやてとリインが襲来してきたから。

そして明日は明日で色々あるので、早々に帰る事になった。





てゆうか、はやては本気でどうする? なんかテンションおかしいし。





すずかさんもちょっと気づいたから、『少し気をつけてあげて』って小声で僕にお願いしてきたし。










「・・・・・・それじゃあ、すずかさん」

「うん。あ、クリスマスプレゼントありがとう。本当に嬉しかった」



リインとはやての視線が痛いけど、気にしない。



「ううん。あの・・・・・・僕もありがとう、だから」

「うん。あ、それと」

「それと?」

「試験、頑張ってね」

「・・・・・・うん」



そして、僕達の足元に転送ポートが浮かぶ。うん、戻る時間だしね。



「・・・・・・・・・・・・なぎ君っ!!」

「・・・・・・なに?」



すずかさんはメイド服のまま、優しく微笑みながら右手を振って・・・・・・唇を動かした。



「良いクリスマスを」

「・・・・・・すずかさんも、良いクリスマスを」










僕がそう返した途端に景色が歪んだ。そして僕達はミッドチルダへと跳んだ。





色々と反省しなきゃいけないなと思いつつ、僕とアルトとリインのクリスマスは・・・・・・ここから本番となった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



現在、俺は六課のキッチンでローストチキンを仕込んでいた。いや、理由があるんだよ。理由が。

ヴィヴィオちゃんが本を読んで、食べてみたいって言い出したんだよ。

で、話を聞いた俺がサンタとして提供する事にした。さすがに隊舎の食事でそれは支給されないしなぁ。





ただ、普通にやったんじゃ面白くない。せっかくだから、自分で作ったという思い出もサービスで提供だよ。










「よーし、ヴィヴィオちゃん。鳥さんのお腹に、野菜を詰め込んでいこうか」

「はいっ!! ・・・・・・んしょ」



・・・・・・むむ、意外と手際がいいな。これは料理上手ないい子になるぞ。

ヴィヴィオちゃん、そのまま育ってくれよ? 決してヒロみたいな感じにはならないでくれ。



「サリエルさん、なんというか・・・・・・すみません」

「あぁ、いいっていいって。半分は俺の趣味だしな。・・・・・・ヴィヴィオちゃん、どうだ。楽しいか?」

「・・・・・・はいっ!!」

「うん、いい返事だ」



あぁ、なんて癒される笑顔なんだ。この子は色々あると思うが、是非ともこのまま純粋に育って欲しいものだ。



「サリエルさん、料理上手なんですね。手際が凄く自然で」

「少年、分かってないな。男の美味い料理ってのはな、モテ要素だぞ?
やっさんだって魔導師としてだけじゃなく、そういう所を頑張ったから現状に結びついたんだ」

「・・・・・・なるほど。というか」

「なぎさんの話を持ち出すと、説得力がありますね」





そりゃそうだ。アイツは俺の中で生ける伝説だしな。

なお、ヴィヴィオちゃんの隣のフェイトちゃんが真っ赤だけど、気にしてはいけない。

つか、やっさんも罪作りな。なーんでイブにフェイトちゃんとラブラブしないんだ?



なんでそこでリインちゃんいっちゃうんだ? まぁ、いいか。その辺りは。





≪主≫



俺の思考を止めたのは、相棒の声。・・・・・・あれ、なーんか嫌な予感が。

なんだろうか、今までのあれこれで培われた勘が叫んでいる。『今すぐ逃げろ』と。



≪アルトアイゼンからの緊急メッセージが届いています≫

「内容は?」

≪『ヒロリス女史も連れた上ですぐに来い』・・・・・・だそうです≫

「地獄へ落ちろと返しといてくれ」



全くやっさんのパートナーになってから、ふてぶてしさが倍増してないか?

いや、やっさんがあんな感じだからそうなるのか。分かります。



≪ですが主。断った場合はトウゴウ氏とナンパ合戦した時の結果をバラすと≫

「どこ行けばいいってっ!? つーか転送魔法使うから、座標送って来いって返事してくれっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして、ローストチキンの仕上げは高町教導官とフェイトちゃんに頼んだ。





それからヴィヴィオちゃんに平謝りしつつ全速力で向かった先は、首都のファミリーレストラン。










「おいおい、なんでここ? つか、騒がしいな」

≪姉御、入らない方がいいと思うぜ? 音感センサーに、とんでもないのを捉えちまった≫

「でも逃げたらあの性悪デバイス、なにやるかわかんないんだよ」



なお、ヒロも居る。当然のようにヒロも居る。自室で一人ネットゲームのクリスマスイベントしてたけど、引っ張り出して来た。



「そうだな、アイツはやる。そういうやつだよ」

≪姉御もサリも、ねーちゃんに色々ネタ握られてるしな≫



悲しい事に俺達とアルトアイゼンには、上下関係が無いようであるんだよ。

修行時代にヘイハチ先生と散々バカやってたおかげでな。



「くそ、やっさんと組んでから本気でエゲツ無さがパワーアップしてないか?」

「奇遇だね。私も同じ事考えてた」

≪相乗効果というものでしょう≫

≪ボーイとねーちゃん、似た者同士だしな≫



金剛とアメイジアの素晴らしい補足はそれとして、俺達は店内に入る。

だが、その瞬間に凄まじいものを聴いてしまった。



・・・・・・もうやってまえばえぇやろっ!!

「はやて、声大きいからっ!!」



・・・・・・さて、ちょっとだけ作戦会議だ。



「このまま回れ右した方がいいと思う人」

≪サリ、そりゃ愚問だろ。アレ聞いたら、全員手を挙げるぜ?≫

「そりゃそうだな」



結局逃げられない俺達は頭を抱えつつ、その声の発生源へと向かった。それで・・・・・・予想通りだ。



なんでアンタはそうなんやっ! このヘタレがっ!! いつまでそうやって純情ぶるつもりやっ!!
普通にフェイトちゃんの胸や口や手や(うったわれるーものー♪)でバナナジュース搾り取られてればいいやろうがっ!!




おいおい、なんかとんでもない事言い出したぞっ! 普通にセクハラで訴えられるだろっ!!



「はやて、声大きいからっ! てゆうかほらっ!! 規制音かかちゃってるしっ!!」

えぇやんかっ! てゆうか、うちなんてもう(俺達うったわれるーものー♪)くらいしてもうたしっ!!
・・・・・・てゆうか、知っとるか? 意外と(へへいへーい♪)なんよ? もう(らんらららーん♪)なんやから


「だから黙れー! てゆうか、マジでやめてー!!」



とにかくアレだ、現実を認めていくとこから始めようか。きっと俺らに足りないのは、そのための勇気だ。

・・・・・・目の前に居るのは、もう出来上がってるとしか思えない部隊長。つか、酒瓶抱えるのはやめて欲しい。



「恭文さん、なに話してるですかー? というか、はやてちゃん真っ赤ですー!!」

「リインは聞かなくていいんだよっ!? うん、まだ早いからっ!!」

≪8歳ですしね≫










そして色んなものに配慮するために、リインちゃんの耳を両手で押さえているのが一人。





それは部隊長の話を必死で聞いていたやっさんだった。なお、軽く涙目なのは・・・・・・察してあげてください。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして現在、朝までやってる居酒屋に場所を移して、俺とやっさんは部隊長の酒の相手をしている。





リインちゃんは、ヒロに送ってもらった。当然、これは内緒にする事が決定している。





つーか話せるわけがない。バナナジュースが何かとか(キンキンキンッ!!)とかは。










「・・・・・・あの、八神部隊長。飲み過ぎですから」

「いーんですっ! 飲みたいんですからっ!!」

「あー、はやて。飲むのは勝手だけど、吐かないでよ?」



しかし・・・・・・ローストチキン、ちゃんと出来てるよな?

てゆうか、俺も食べたかったんですけどっ! あとは俺のおみやげ用っ!!



「大丈夫大丈夫っ! うち、SSランクやしっ!!」





全く関係無いとはツッコむ事なかれ。ツッコんだ瞬間に酒を飲まされる。俺はそろそろ限界なんだ。

・・・・・・いくらやっさんがザルでどんだけ飲んでもOKな奴とは言え、これを一人で相手は精神的に無理。

またバナナジュースの話をされても困るし、俺も付き合う事にした。



まぁここは馴染みだし、なにかやらかしても多少なら問題には。





「なぁ、うち・・・・・・ダメやな。ホンマにダメや」

「・・・・・・いや、ダメじゃないからね?」

≪その通りです。だから突っ伏して泣くのはやめてください≫





なるかも知れない。てゆうかこの人、どんだけテンションのアップダウンが激しいんだよ。

しかしアコース査察官はヒロ絡みで何回か会ってるが、そういう事をするタイプとは思えなかったんだが。

・・・・・・死ななきゃいいけどな。騎士カリムとシスターシャッハに知られたら、アウトだろ。



ヒロも同じくだな。こういうのに耐性あるようでないし。ついでに関係者だし・・・・・・関係者?

俺は余りの状況に、一つ失念をしていた。そうだ、部隊長の関係者である守護騎士のみんなは、どうすんだよ。

そのためにリインちゃんは帰したんだぞ? もし、もしもこの事を知られたら・・・・・・ヤバい。



よし、絶対内緒だ。俺は知り合いの葬儀になんて、極力出たくないんだ。



そういうのは、現役時代にやんなるくらい味わってる。





「ごめん、うち」

「なに?」

「京都行ってくるわ」

≪どうしてですか≫

「吐きそうやから」



あぁ、そりゃ納・・・・・・・・・・・・待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!



「京都まで持つかバカっ! ほら、早くトイレにっ!!」

「・・・・・・うち、もうゴールして」

「あと3分我慢してっ! いや、お願いだからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



・・・・・・・・・・・・よし、部隊長はやっさんに任せよう。俺は俺で、やる事が出来た。



「金剛」

≪もうかけています。・・・・・・繋がりました≫

「助かる」



というわけで、お店の中だが音声オンリーで通信だ。ちなみに相手は、俺の同棲相手。

俺はとっくに取り出していた折りたたみ式の端末を右耳に当て、会話スタート。



「・・・・・・・・・・・・あ、俺だ。ごめん、今日やっぱそっち戻れそうにない。
ただ・・・・・・朝一番で、頭抱えながら帰るわ。なお、事情説明は帰り着いてからで」

『そう。で、『こんな事もあろうかと』な勢いで用意したご馳走はどうなるのかしら』

「もちろんちゃんと全部食べるさ。あと、お仕置きだよな。
あぁ、分かってる。分かってるから・・・・・・殺気を収めてください。お願いします」










こうして、俺のクリスマスイブは見事に潰された。





翌日、角を生やした真性ドSな同棲相手にも色んな意味で潰される事が決定した。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・不幸だ。俺、やっさんじゃないのに。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



結局飲み屋でクリスマスイブをオールで過ごしました。なんだろ、この地獄。





・・・・・・僕、なんで飲み屋でイブ過ごしてんだろ。くそ、はやての飲酒を防げなかったのは、失敗だった。





てゆうか、僕とリインが揃ってトイレ行ってる間に注文して飲んでたんだもん。どうしろっていうのさ。










「ほら、はやて。隊舎付いたよ?」

「うにゅ」



とりあえず、僕は、はやてを背中に背負う。というか、手伝ってもらう。

・・・・・・手配したタクシーの運転手さんに。あ、ここは六課隊舎の近くなので、あしからず。



「しかし、手のかかる彼女だねぇ。・・・・・・よっと」

「そうですね。ホントに」



運転手さんの言葉には軽く返した。・・・・・・居酒屋でサリさんを見送ってから、僕はタクシーでここまでに来た。

まだ誰も目を覚ましてないような時間。風紀的には問題は・・・・・・ないはず。やばい、自信ない。だってこれ、朝帰りだし。



「えっと・・・・・・料金は払いましたよね?」

「えぇ、いただきましたよ。後は大丈夫ですか?」

「大丈夫です。あの、ありがとうございました」



はやてを背負い、手荷物を持ちながらタクシーを見送った。

・・・・・・さて、どうするこれ? いや、八神家に引き渡すしか選択肢がないわけだけど。



≪それで、どうします? これは下手すると大事になりますよ≫

「・・・・・・うーん」



僕はそのまま隊舎を目指して、歩きながら考えていく。

話を聞いた限りの印象だけど、キツいよね。



「はやては振り切ったみたいな事言ってたけど、全くだよね?」



なお、アルトとの答え合わせはもうドンピシャだった。ホントなんていうか・・・・・・この女、何やってる?

僕とフェイトのデート尾行したところまでは、まぁいいさ。でも、だからってヴェロッサさんとそうなるってなんなの。



≪全くですよ。ただ、あなたが下手な発言も出来ませんしね≫

「僕、我慢した人間だしね。最悪、嫌みか皮肉にしか取られないよ」

≪そうですね。そうなると・・・・・・やはりサリさんですか≫

「というかさ、巻き込める人間が他に居ないしね。あと、ヴェロッサさんにも話を聞かないと」





この話を知らせていい人間は、かなり限られる。てゆうか、例えば八神家やカリムさんやシャッハさんには知られちゃいけない。

絶対に今の段階で教える訳にはいかない。そんな事したら、血の雨が降る。

あ、ヒロさんも同じく。そんな事したら、どうなるか分かったもんじゃない。そういう意味では、昨日はギリギリだった。



はやてが早まってヴェロッサさんの名前を出さなかったから、なんとか避けられただけだもの。

その上早々にリインと帰ってもらったから、詳しいとこまで知らないのが救いなのよ。

ここはリインも同じく。僕が耳を塞いだから、はやても色々あったとしか認識出来てないはず。



ここからバレる心配は・・・・・・あれ、おかしいな。



どうして現状で敵しか居ないのっ!? どんだけ四面楚歌な恋路なのさっ!!





「・・・・・・アルト」

≪はい?≫

「試験に・・・・・・集中したいな」

≪それでいいですよ。どっちにしても、即座に解決は無理でしょう。というか≫

「うん。そんな暇、あるかどうかわかんないし」










・・・・・・この決断が、非常に甘いものだと思い知らされる事になるのは・・・・・・お約束だよね? でもさ、しゃあないって。





確かに僕は天下無敵の主人公キャラだけど、それでもここにソレスタルなんちゃらみたいに軍事介入は無理だって。



















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・つまり、昨日帰って来れなかったのは、あのおチビちゃんの恒例の不幸に巻き込まれたからだと」

「そ、そうです。いや、やっさんもはた迷惑な」

「で、それに乗じて私とは似てもにつかないあのミニマム体型な部隊長と、楽しくお酒を飲んでたと」



あー、やっぱ怒ってるよな。というか、そういう言い方はやめて欲しい。

そう言うと、俺がひどいやつみたいに聞こえる。でも、そうじゃないからな? 俺は被害者だから。



「恋人放り出して美女と飲むお酒は、さぞかし楽しかったし、美味しかったでしょうね」

「いや、楽しくは」



無かったぞ? うん、むしろ大変だった。そして、美味しくもなかった。そんな余裕なかったし。



「楽しかったのよね? そして、美味しかった」

「・・・・・・・・・・・・・ハイ、タノシカッタデス。ソシテ、オイシカッタデス」



知ってるか? 真実ってのは、恐怖の前では容易くねじ曲がるんだ。もっと言うと、視線とか。



「そう。・・・・・・サリエル、別に私は放ったらかしにされた事を怒ってるんじゃないの。
ただ、あなたが恋愛より友情を取るような人だった事を怒っているだけなの。それだけよ?」



いや、同じ事だよなっ!? てーか、そう言いながら鋭い爪を一本ずつ右手に装着してくのはやめろよっ!!



「というわけで、これからもっと楽しい事、しましょうか」

「いや、マジでやめ・・・・・・いえ、やめてくださいっ! それは本気で危ないですからっ!!」

「さぁ、ショータイムね♪」

「へ、へるぷみぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」










ちくしょー! なんで俺だけがこんな目にっ!? やっさんっ! 本気で恨むからなっ!!





てーか八神部隊長とアコース査察官だよっ! お前らマジでこれ以上面倒起こしたら、ただじゃおかないぞっ!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「誰が不幸を感じさせるほどに哀れなチビだってっ!?」

「誰もそんな事言ってないよっ! というか、いきなりどうしたのっ!?」

「いや、今誰かが・・・・・・・・・ねぇ?」

「ヤスフミ、話逸らさないで。とにかく昨日、なにしてたのかな」



現在、取調室で詰問を受けています。というか、受け始めました。あのね、自室に戻って着替えたの。

そうしたら、どこぞのホラー張りに入り口でフェイトが待ち構えてて・・・・・・捕まった。



「えっと・・・・・・リインとヒロさんから聞いてない?」

「途中、どうしてもやる事が出来たんだよね。だからサリさんも呼んで、付き合ってもらった」

「うんうん。こう、僕達にしか出来ない事がね」

「・・・・・・はやてと一晩明かす事が?」



・・・・・・・・・・・・え?



「私、今日たまたま早起きしてね。見たんだ。ヤスフミが、はやてをおぶってここに帰ってくるところ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・マジですか。気をつけてたのに。くそ、視線の類は気をつけてたのに。

もしかしたら六課に出入するようになってから、僕弛んでるのかも。よし、ここも試験までに改善しようっと。



「どうしてはぐらかそうとしたの? どうして・・・・・・話してくれなかったのかな」



フェイトの表情に、悲しみの色が差す。なんでそこまでと言わんばかりに、フェイトは悲しげにしている。



「ごめん」

「謝る前に、話して欲しい。皆にも内緒にしてるよね。・・・・・・そういう事なの?」

「そういう・・・・・・はぁっ!? 違うよっ! どうしてそうなるのっ!!」

「イブの夜を女の子と一晩過ごした。それだけで充分だよ」



あ、納得・・・・・・って、んなわけあるかっ! つーかフェイトは大事な事忘れてるしっ!!



「待って待ってっ! 僕だけじゃなくてサリさんも一緒だったんだよっ!?」

「つまり、サリさんも一緒に・・・・・・だよね」

「はぁっ!?」

「ヤスフミ、私子どもじゃないからその・・・・・・知識上は知ってるんだよ?
エッチな事を複数の相手とする場合もあって、一種の背徳感的な」

「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」



とりあえず、僕は立ち上がってフェイトをげんこつで殴る。



「痛っ!!」



フェイトがそれから涙目で僕を恨めし気に見るけど、それ以上は言わない。さすがにアウトだと気づいたらしい。



「じゃ、じゃあどうして二人だけで帰ってきたの? おかしいよね」



・・・・・・だけど、疑いは消えないらしい。その言葉で、僕は覚悟を決めた。

フェイトは誤解しかけている。このままだと・・・・・・なのだ。もう、隠しておけない。



「ヤスフミ、お願い。ちゃんと・・・・・・話して?」

「・・・・・・分かった。ちゃんと説明する」



全部は話せないけど・・・・・・このまま誤解されるってのは、嫌だしね。



「えっと、はやてからプライベートな相談事を受けたの。でも、それが相当重い話でさ。
リインに聞かせられるような話じゃなかったんだよ。その上、はやてが酔っぱらちゃって」

≪そこは本当です。リインさんにも確かめてもらえば分かりますから≫



あ、珍しく助け舟出してくれた。あー、アルトありがとう。持つべきものは友達だよ。



≪それで私が二人を呼び出して、話の流れでリインさんだけを回収してもらったんです≫



それで僕とサリさんは、居酒屋でそれ関連で一晩話をしていた・・・・・・と、説明。



「・・・・・・サリさんは?」

「えっと、そのまま自宅。ほら、今日は一日休み取ってたでしょ?」

「あ、そうだよね。その、同棲されてる方とクリスマスを過ごすって」

「そうそう」



しかし・・・・・・なーんとなく思った。まさかとは思うけど。



「フェイト、サリさんの休みの事・・・・・・忘れてた?」

「ごめん。朝のアレを見たら、こう、そうなって」

「いや、その重要な案件を忘れないでっ!?」



なおサリさんは、本当は深夜に戻るつもりだったらしい。でもそのまま・・・・・・ですよ。うぅ、申し訳ない事したなぁ。

一応帰ってもいいですよとは言った。だけど・・・・・・である。我が兄弟子は、非常に出来た人だ。



「それで多分今頃・・・・・・潰れてる」

「潰れてる? ・・・・・・あ」

「うん、カンカンらしい」



同棲相手とのイブ、潰したしね。しかも綺麗だけど相当おっかないって言うし。

サリさん、生きてこっちに戻ってこれるかな。



「あの、ごめん。ただ、黙っていたのは、別にやましい事があるとかじゃなくて」

「大丈夫だよ」



さっきまでの表情を変えて、フェイトは優しく微笑んでくれた。



「もう分かったから。はやてからの相談事が知られるような事になるの、嫌だったんだよね」

「・・・・・・うん、結構内容が重くてね。はやてにも内緒にしてて欲しいって頼まれたから」



だって、間違いなく魔女裁判が始まるし。そうなったら誰にも止められない。

最低でも、オーバーSのエースクラスが六人だよ? もうそんなの絶対無理。



「あの、私の方こそごめん。いきなり問い詰めるような事して。それに・・・・・・疑うような事も」



・・・・・・あ、うん。確かに・・・・・・ごめんなさい。

よし、次にすずかさんに会う時は、はっきり言おう。このままはダメだ。その、辛かった。



「ホントにごめん。ビックリしたよね?」

「あの、少しだけ。でも、僕も大丈夫。というか、信じて・・・・・・くれるの?」



僕、まだ嘘ついてるかもしれないのに。



「信じるよ」



だけど、フェイトは迷い無くそう言ってくれた。きっとそういうのは分かった上で、言ってくれてる。



「今のヤスフミは、隠し事はしてても、嘘を言ってるように感じなかったから」

「そう言ってもらえると、非常に助かる」

「ただ・・・・・・ヤスフミやサリさんに、はやてだけで抱えきれないようなら、私の事、頼って欲しい。それだけは約束して」

「・・・・・・うん、約束する。あと、フェイト」

「大丈夫」



僕が言葉の続きを言う前に、フェイトは頷いて答えてくれた。微笑みは、全く変わってない。



「みんなには黙っておく。私も相談されるまでは、知らなかった事にする。今されているのは、ヤスフミとサリさんだしね」

「ありがと。あの、本当に助かるよ」



ヴェロッサさんがね。主に命的な問題で。・・・・・・よし。



「ただあの」

「何かな」

「・・・・・・ヤスフミは、私の騎士なんだよ? そうなるって、言ってくれたよね」



言いながら、フェイトがいきなり抱きついてくる。それで・・・・・・優しく、優しく抱きしめてくれる。



「お姫様としては、こういうのはやっぱり気分が良くない。ヤスフミの気持ち、分からなくなっちゃうよ。
・・・・・・余所見、禁止だから。私をあの時と同じように・・・・・・ずっと見てる事。分かった?」

「・・・・・・ん、分かった」



僕はそう言いながら、フェイトを両腕で抱き返す。それでフェイトの抱擁が、またキツくなった。

でも、このキツさが・・・・・・心地いい。なんかね、いっぱい求められてる気がして、とても嬉しい。



「フェイト、不安にさせちゃって・・・・・・ごめん」

「ううん、もう大丈夫だから。でも、そうだなぁ。なら一つお願い」

「何?」

「今日、クリスマス本番でしょ?」



一応ミッドにもクリスマスという文化はある。まぁ地球の文化入りまくりだし、その辺りで色々とねね。



「だから、その・・・・・・今日は仕事が終わってから、私とクリスマスを過ごす事」

「ん、大丈夫。約束通り予定は開けてるし」



今日、仕事が終わってからフェイトとデートする予定だった。

それでプレゼント交換したりして・・・・・・楽しく過ごすの。



「でも、約束通りじゃないよ? もうちょっとステップアップして・・・・・・私と、朝帰りする事」

「・・・・・・・・・・・・え?」

「この間とは違うの。今度は私達、クリスマスを一晩二人っきりで過ごして、朝帰りするんだ。
はやてに負けないように、私もそうしたいの。・・・・・・答えは、イエスしか聞いてないから」










フェイトは声を震わせながら、そこまで言い切った。というか、手まで軽く震えてる。





だから僕は、フェイトを優しく抱きしめつつ・・・・・・フェイトの腕の中で、頷いて答えた。もちろん、『いいよ』という意味で。




















(第32話へ続く)




















あとがき



恭文「というわけで、改定前では25話な改訂版FS第31話です。本日のあとがきのお相手は蒼凪恭文と」

あむ「・・・・・・マジアンタのやり方がエグいと思った日奈森あむです。てゆうか、踏み絵って」

恭文「いや、僕は『人に言うなら自分でも出来ないとだめ』と想いは込めたけど、後の事は責任外だし。
言うならアレだよ、ローマの真実の口に手を入れて、手首を食いちぎられるかどうかは自己責任なのと同じだって」





(そう、信じても報われる事ばかりじゃない。裏切られる事だってあるんです)





あむ「いや、だから理論武装するのマジやめないっ!?
・・・・・・とにかく、アンタのスターライトとユニゾン誕生秘話だよね」

恭文「そうだねー。この時はホントに」





(子どものこーろの夢ーはー♪)





あむ「・・・・・・過去を振り返るのはやめない?」

恭文「いいのよ。だって今日はそういうタイトルなんだもん。で、基本ラインは変わらずなんだよね。
ちょっと追加シーンも付け加えて、改行とかあっちこっち手直しして・・・・・・で、もうすぐだね」

あむ「あー、例のアレだね?」

恭文「そうそう。・・・・・・あれもまた」





(子どもののこーろの夢ーはー♪)





あむ「・・・・・・でも、なんで相手が(色褪せないー落書きでー♪)になったの?」

恭文「作者は、元々飽き性なのよ。だから新しい可能性や新しい展開を追求していきたいわけですよ」





(もうちょっと言うと、自分で試行錯誤してる時間が好きです。答えを出す事が目的じゃなくて、考えるのが好きです)





恭文「もうちょっと言うと、同じような話書いてると自分で飽きちゃうの。
そこの辺りが、IFでのキャラの立ち位置変化とかに繋がってる」

あむ「つまり、考えた結果がアレ?」

恭文「うん。てゆうかさ、テンプレ的な事やお約束的な事を、考えてる時に横から言われると冷めるんだって。
・・・・・・こういうところで、横の繋がりを作りにくい偏屈な性格が出てるのよ。作者、人付き合いと自分の臭味とどっちが大事?」





(自分の趣味。人は嘘もつくし容易く裏切るけど、趣味は自分が放棄しない限りは永久有効)





あむ「いやいや、それもどうなわけっ!?」

恭文「しかたないのよ。作者には色んなトラウマがあるから。
・・・・・・しかし、改訂版も何気に久々なんだよねー」





(ここは仕方ないの。だって・・・・・・だって、拍手がたくさん)





恭文「・・・・・・そうだよね。返事しないと、すぐに溜まっちゃうもんね。一日で平均90とか来るから、余裕ないもんね」

あむ「恭文、そんな時間かかるの?」

恭文「一言二言とかなら、まぁ大丈夫。ただ、一つの拍手に何個も質問が詰まってるようなのだと、結構文面は考えるらしい。
ようするに『どこを拾っていいのか分からない』という問題が出てくるわけだよ。感想とかをまとめてるのは、まぁダイジェスト的に出来るけどさ」

あむ「・・・・・・あ、それ分かる。ほら、あたしもラジオをエリオ君とやってるじゃん?」





(中の人がね)





あむ「それでラジオでメールとかはがき読む時に、そういうのはどうしようかって困る時があるわ。それだけ長く読んでもアウトだしさ。
てゆうか、小山力也さんと広橋涼さんがやってるラジオで、そういうネタがあった。どういうはがきが採用されやすいかーって」

恭文「あ、それ僕も聞いた。・・・・・・ようするに、話題が一つにまとまってて何個も『○○ですか?』みたいなのじゃないといいんだよね」

あむ「そうそう。えっと、短冊に願い事を書く要領でやるといいって言ってたな。
・・・・・・でもさ、なんだかんだで作者さん。結構長めに返事したりしてない?」

恭文「うん。・・・・・・バカだよねー。もう一言一言で済ませちゃえばいいのに、ネタ的なのも全部拾うんだもの。
ただ、改訂版もあともうちょっとだし・・・・・・ここは勢いに乗って頑張って欲しいな。ほら、続き続き」





(・・・・・・頑張ります)





恭文「というわけで、作者が頑張る事に期待しつつ本日はここまで。
お相手は最近ONE OK ROCKさんにハマっている蒼凪恭文と」

あむ「恭文の影響で同じくな日奈森あむでした。・・・・・・でも、マジかっこいいよね」

恭文「ライブでの歌も凄いしねー。ロックとかあんま聴いた事なかったんだけど、これはいいって」










(というか、作者は今も聴きながらあとがきを書いていたりする。
本日のED:ONE OK ROCK『皆無』)




















フェイト「・・・・・・そう言えば」

恭文「何?」

フェイト「(時をー超え刻まれたー♪)の戦闘シーンってどうなるの?」

恭文「そこね、多分全編書き直し」

フェイト「やっぱり?」

恭文「やっぱりだね。まぁアレだよ、相手とかは変えないの。うん、そこは絶対変えるか。だって」

フェイト「ヤスフミ、落ち着いてっ!? もういいっ! もういいんだからっ!!」

恭文「・・・・・・とにかく、去年1年戦闘シーン頑張ったせいでこう・・・・・・書き方がだいぶ変わってるしね。
今のに備えて、全編に渡って手直しですよ。というか、決め手はもう考えてるの」





(そこは見てのお楽しみで。テンポよくシェイプアップした空間戦闘をお見せ出来る・・・・・・はず)





恭文「てゆうか、とまコン見てて思ったのよ」

フェイト「あ、モリビト28号さんのお話とのクロスだね」

恭文「うん。マジで以前と書き方が変わってきてるから、改訂版の改訂版書きたいって本気で思っちゃったのよ」

フェイト「ヤスフミ、多分それは色んな意味でイタチごっこだからやめた方がいいと思うな」

恭文「やっぱり?」

フェイト「やっぱりだよ」










(おしまい)






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あきゅろす。
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