小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第73話 『Happy Birthday/青い空の下で過ごすこんな一日 後編』
ラン・ミキ・スゥ『しゅごしゅごー♪』
ミキ「ドキッとスタートドキたまタイム。さて、本日のお話は前回の続き」
ラン「悩めるユーノ先生の恋の行方は如何にっ!? でもでも・・・・・・えぇぇぇぇぇぇぇぇっ! なにこれっ!!」
スゥ「と、突然に大ピンチですぅっ!!」
(画面に映るのはたくさんの黒い結界と、その中に閉じ込められた現・魔法少女達)
スゥ「はわわ、これどうなるですかぁっ!? というかというか、恋の行方はどうなったですかぁっ!!」
ラン「そこの辺りも気にしつつ、今日も元気いっぱいでいくよー。せーの」
キバットバットU世「オオカミは、西洋では家畜を襲う害獣という見方をされることが一般的だ。
だが日本みたいな農業が盛んな地域では、怖れられながらも神として祀られてる場所も多い」
ラン・ミキ・スゥ『・・・・・・え?』
(なんかまたコウモリが現れた。でも、差異が色々違う)
キバットバットU世「だが、そんな日本に限ってオオカミが絶滅してしまうというのは、実に皮肉な話だな。
ふん・・・・・・やはり人間という種族は実に愚かだな。サガーク、貴様もそう思うだろう?」
サガーク「◎▲ΦΩ」(訳:そうですね)
(そして、白くてボタンいっぱいなのも出てきた。てーか何者?)
ラン「ちょ、ちょっと待ってっ! あなた達なにっ!? というか、コウモリさんのお友達かなにかかなっ!!」
キバットバットU世「父親だ」
ラン・ミキ・スゥ『お父さんっ!?』
(そう、キバットバットU世はV世のお父さん)
サガーク「◎▲ΦΩ」(訳:そうですね)
ミキ「そしてこっちは何喋ってるかさっぱり分からないしっ!!」
スゥ「あぁ、そうなんですかぁ。それはそれは」
ラン「スゥ、この白い子が何話してるか分かるのっ!?」
キバットバットU世「息子のV世の代わりに来てやった。
ありがたく思えっ! 思えない奴には、絶滅タイムだっ!!」
サガーク「▼◇ζΨЖ!!」(訳:絶滅タイムだっ!!)
ラン「絶滅しちゃだめだからー! もうもう、本当になんなのー!?」
ミキ「なんかもう、自由だよね。ボク、今更ながらちょっとついていけないかも」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
僕となのはさん、それにリズムは早速散策を開始。というか、散策しながら写真撮影だね。今日の主目的はこれなんだから。
自然の中をなのはさんが先導する形で歩いて、地球にもあるような小さめのデジカメで撮影していく。
撮影していく風景は、空や湖に草原、木々が生い茂る雑木林など。まずは湖畔を中心に一周するように歩いていく。
木々の合間を歩きながら、挿し込む木漏れ日を心地良く感じる。
歩きながら、都心に比べると美味しく感じる空気を味わっていく。
なのはさんとそんな景色を見渡しながら、一枚一枚厳選して写真を撮っていく。
陛下が夢の中で、色んな風景が見えるように。こんな場所もあるんだと伝わるように。
「そう言えば」
「はい?」
カメラを胸元の方で持ちながら、なのはさんが呟いた。だけど足は止めずに、二人で木漏れ日の中を歩いていく。
「なぎひこ君、随分りまさんには警戒されちゃってるよね」
「え、えっと・・・・・・あはは、そうですね」
りまちゃんとの距離感もどうにかしたいんだけど、僕もちょっとあの子は苦手・・・・・・なんだよねぇ。
うーん、女の子の扱いはかなり得意なはずなんだけどなぁ。いや、だから逆に警戒されてるのかな?
「結構苦労してるでしょ」
「えっと、その・・・・・・かなり」
少し振り向きながら、なのはさんがクスリと笑った。僕はそれに対して、苦笑いしか返せない。
だから呼び方も『真城さん』や『りまちゃん』が混じりまくってるしなぁ。距離を測りかねてるから、安定しないの。
「うんうん。私も同じ感じだったから、その苦労はよーく分かるよ」
「いや、そう言ってもらえると・・・・・・え、同じ?」
「うん。・・・・・・ほら、恭文君だよ。フェイトちゃんの事が好きだったから、余計になの。
それでね、私とフェイトちゃんが仲良くしてると殺気向けてくるし、引き剥がそうとするし」
・・・・・・りまちゃんの方が遥かにかわいいと思ったのは、気のせいじゃない。
てゆうか、恭文君そこまで? そこまで頑張らなかったら、全然ダメだったの?
「でも、最近はフェイトちゃんの方が・・・・・・うぅ、アレも怖いの」
「あぁ、アレですね」
ジガンのAIのあれこれのせいで、疑いを持ってると。もう色々な意味での疑いを。
でもフェイトさん・・・・・・こう言ったらアレだけど、鈍い人だよね。普通気づくって。
「というかなのはさん」
「何かな?」
「恭文君の事、好きなんですね」
とりあえず、僕は変な意味では言っていない。純粋に友達としてという意味で言った。
・・・・・・当たり前でしょ? これで深くツッコんでも、失礼なだけだもの。
「そう見える?」
「はい。だって恭文君の話、よくするから」
それでなのはさんは、どこか寂しげな顔で頷いた。
「そうだね、好きだったんだと思う。きっと、知らない間に恋してた」
でも、僕のこの質問そのものがアウトだったみたい。場の空気が少し変わったから。
・・・・・・なのはさんは前を見ながら、静かにそう言った。僕からでは、どんな表情をしてるか分からない。
「どこまでも自由に、真っ直ぐに、自分の夢や在り方を追いかけていく強いあの子が・・・・・・好きだったんだ。
でも私、今よりもずっと子どもだったから全然気づかなかった。気づいたの、二人がお付き合い始めてからなんだ」
「そう、ですか」
「うん。まぁ恭文君には話して、けじめはつけて・・・・・・って、ダメだな。
私、なんでなぎひこ君にこんな話してるんだろ」
「いえ、あの・・・・・・ごめんなさい」
足を止めてそう言うと、なのはさんが振り返った。そして僕を安心させるように優しく微笑む。
それでなのはさんはゆっくりと僕の方に近づいて、そっと両手で頬を触る。というか、しゃがんで目線を僕に合わせる。
「もう、謝るの禁止。私が勝手に話しちゃったんだから」
「でも」
「でもじゃないよ。というか・・・・・・あれだね、なぎひこ君だから話しちゃったんだよ。うん、きっとそうだ」
なのはさんは僕から両手を離して、笑いながらそう言った。それでまた振り返って歩き出す。
「まぁだからこそ、最近はちょっとだけ恋してるんだけどね」
「え?」
「ううん、なんでもない。女の子は上書き保存だって事だよ。うんうん」
「いや、それ意味分かりませんから」
言いながらも僕は、またなのはさんについて行く。ううん、今度は隣を歩く。
リズムはと言うと、僕達を見てニヤニヤしてる。なので放置。
「なぎひこ君」
「はい?」
「風、気持ちいいね」
「・・・・・・そうですね、気持ちいいです」
歩きながら、僕達は空を見上げた。生い茂る枝と緑色の葉達の合間から、光が溢れる。
その光の中に、空が見えた。木々の翠と光の合間に見える空は、そのまま見るのとはまた違う色合いだった。
『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説
とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/だっしゅっ!!
第73話 『Happy Birthday/青い空の下で過ごすこんな一日 後編』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「そしてお昼です。なお、今日のお昼はカレー。
夏バテ防止のためにお野菜たっぷりで・・・・・・うーん、美味しいです」
「そりゃよかった。てーかシオン、茄子にまるかじりはやめようか。ほら、口元汚れてるし」
なんて言っている間にも、みんなで勢い良くご飯は食べられ・・・・・・ない。
全員が庭先でまた蹲って考え事してるあの人の事を気にしていたりする。
「・・・・・・恭文さん、スクライア司書長はどうしましょう」
「というか、あの人がこのままだと私達お出かけも出来ませんよね」
ちょっと困ったような顔をしているディードとリースとそんな話をしながら、またカレーをパクリ。
「さすがにユーノ先生一人に留守任せるわけにもいかないしねぇ」
「それだと帰って来た時に、高町さん達が驚いてしまうでしょう。かと言って追い出すのも失礼ですし」
というか、あの人はまさかこの調子でなのはが帰って来るまで待つつもりじゃなかろうか。
「あ、いい手を思いついたのです」
「リイン?」
「恭文さん、例のヒーリング結界でユーノ先生を癒しちゃいましょう」
・・・・・・あ、なるほど。あの結界で癒しつくした上で、ユーノ先生にはお帰りいただくと。
「それでユーノ先生が動けなくなったところをふん縛るのです。
本局の無限書庫に着払いでお送りするのです。そうすれば万事解決なのです♪」
「解決するかボケっ! てゆうか、自主性に任せてっ!? そんな犯罪じみた真似出来るかー!!」
「何言ってるのよ。聞くところによると、今の今まで相当色々やらかしてるくせに」
りま、今はそういう余計な事を言わなくていいのよっ!?
あと、フェイトとヴィヴィオもうんうんって頷くなっ!!
「てゆうかリイン、最近黒いからっ! もう中身どす黒くなってるからっ!!」
「むー、そんな事ないですよっ! リインはいつだって恭文さん色に染め上げられてピンク色ですよっ!?
そうですそうです、ピンク色なのですっ! だって、リインは恭文さんのお嫁さん二号で」
「あー、はいはいっ! アンタ達ご飯食べながらケンカしないのっ!!
てゆうか、早く食べるっ! せっかくディードさん達が頑張って作ってくれたんだしっ!!」
・・・・・・まぁ、あむの言う事も分かるので、ディード特製のカレーをまた頂く。それで・・・・・・あぁ、美味しいなぁ。
この茄子がまた美味しいのよ。ディードの料理の腕がどんどん上がってくから、兄としては嬉しい。
「・・・・・・恭文さん」
「ん、ディードどうしたの?」
「私も、恭文さん色に染められたいです」
「とりあえず黙ってカレー食えっ!? あと、そういうのは僕じゃなくて彼氏に頼んでっ!!」
「そ、そうだよっ! ヤスフミはダメっ!! ヤスフミはその・・・・・・私のお婿さんなんだからっ!!」
フェイトがまた抱きついて・・・・・・あぁ、幸せー。フェイトはふにふにで柔らかいからふかふかで幸せー。
「フェイト、大丈夫だよ。あの・・・・・・浮気とかしないし」
「・・・・・・ん」
「ねーねー恭文、それならフィアッセさ」
「やや、ちょっと空気読もうよ。そんなんじゃスバルみたいになるよ?」
「なにそれっ! ややが空気読めてないみたいに言わないでよー!!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
少し庭先に出て、外の日差しを浴びつつ頭の中を入れ替える。というか、考える。
・・・・・・僕は見えてないんだけど、みんなのしゅごキャラが『手紙を書いたらどうか』って提案してくれたらしいんだよ。
あとはその・・・・・・『愛してる』とか? 好きだと逃げられやすいから、そういう風に言った方がいいってさ。
確かにその・・・・・・愛してるなんて言った事ないしなぁ。さすがのなのはも、これを友情愛とは捉えないでしょ。
とにかく恭文君経由でしゅごキャラのみんなにはお礼を言わせてもらって、あれこれ考えてるんだけど・・・・・・どうにもさっぱり。
試しに打ったりもしたんだけど、文面がどうしても長くなりがちなんだ。これじゃあダメだって僕でも分かる。
伝えたい想いが溢れて・・・・・・それを全部に言葉にしたくなる。でも、そんな事をしたらなのはは引いてしまう。
だから必死に考える。そして必死に考えれば考える度に、頭の中に『ムリ』という声がする。
どんなにやっても、結果は同じ。伝わらないし、スルーされ続ける。無駄、無駄無駄無駄無駄無駄・・・・・・煩い。
違う、そんな事ない。今までは僕のやり方が悪かっただけ。じゃあ、これからは?
これからずっと、なのはを追いかけて・・・・・・それでどうなるんだろう。だって、もう12年頑張った。
あの初めての出会いから12年。いつの間にか好きになっていて、近づきたくてここまで来た。
でも、なのはは他の男に惹かれている。僕がそのかけた年数の分だけしか生きていないような子どもに。
みんなの話しぶりからして、分かった。なのはきっと・・・・・・あははは、もうダメなんだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・・・・お兄様」
「ん、なにシオン?」
「幸せを満喫しているところ申し訳ありませんが・・・・・・嫌な気配を感じます」
「え?」
言いながら、シオンが辺りをキョロキョロし出す。・・・・・・ううん、シオンだけじゃない。
「そう言えば・・・・・・私も」
「スゥも感じるですぅ。この気配はこう、結構久々に感じますぅ」
ランとスゥもそう言いながらあちらこちらを見渡す。
「僕もだ。というか、近い・・・・・・かなり近いぞ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
もう、どうせダメなんだ。だったら・・・・・・だったらもういい。
もう、こんな苦しいのも悲しいのもいらない。なのはとなんて、出会わなければよかった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「僕もだ。というか、近い・・・・・・かなり近いぞ」
キセキがそう言った瞬間、リビングの窓ガラスが派手に粉砕した。
そしてどこからともなく吹いてきた黒い風と共に、部屋の中になだれ込む。
「・・・・・・ヤスフミっ!!」
フェイトが声をあげながら、右手をかざす。というか、僕も同じく。
そして金色と蒼色のドーム状の障壁が僕達の周囲に張られた。それでガラスの津波を防ぐ。
「うん、私達息ぴったりだね」
「場違いだけど、嬉しいね」
なお、さっきも言ったように窓からなだれ込んでいるのは、ガラスの破片だけじゃない。黒い風も部屋の中へ侵入してくる。
そして部屋の中のもの一切合切を切り刻み、風圧で圧し潰すかのように蹂躙していく。
「というか・・・・・・あぁっ! ソファーやカーペットにテーブルがー!!」
リースが悲鳴に近い声をあげながらそう言うように、本当に容赦なく蹂躙していく。
≪派手に粉砕されていきますね≫
風の勢いに圧されて、僕達が居る食事用のテーブル以外の家具が壊れていく。
テレビにDVDレコーダーに・・・・・・あぁっ! 僕のPS2とWiiまでー!! 僕のゲーム機までひしゃげてくー!!
「くそっ! どこのバカだっ!? ゲーム機の恨みは晴らして・・・・・・あれ?」
「お兄様、アレは」
ガラスを砕いたのは、かなり見慣れた黒い風。そしてその中心に居るのは、あの人。
「ユーノから風が・・・・・・というかこの風っ! ヤスフミ、まさかっ!!」
フェイトが驚きの声を上げている間に、変化は続く。
蹲るようにして崩れ落ちているあの人の背中から、あるものが出てくる。
「ちょっとちょっとっ! アレ×たまじゃんっ!!」
それは黒く白の×が付けられたたまご。というか、あむの言うように×たま。
「まさか、スクライア司書長のこころに×がっ!?」
「原因・・・・・・あぁ、考えるまでもないわよね」
「なのはさんの事考えてる間に、×が付いちゃったんだっ!!」
「おいおい、あの人どんだけ思い詰めてたんだよっ! てーかまたパワーが凄まじいしっ!!」
「司書長の想いの分だけ、×たまの力も上がっているのでしょう。これはまた・・・・・・厄介な」
海里が『厄介』と評したそんなたまごの真ん中に、ギザギザ模様の割れ目が入る。
そしてその中から、赤い×を額に付けたアレが出てきてしまった。
『アイタクナイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!』
くそ、あっという間に×キャラになっちゃったしっ! ・・・・・・って、上に飛んでったっ!!
×キャラは叫びを上げてからすぐに上昇。それを見て、僕とフェイトはすぐに動く。
「あ、待ってください〜」
僕達は防御障壁を解除して、立ち上がりつつ飛行魔法を使って軽く浮かび上がる。
『ムリムリムリィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!』
だって、そこら中ガラスの破片まみれなんだもの。踏んだら痛いって。
とにかく浮かび上がって、一気に窓の外へ。×キャラは・・・・・・くそ、もう居ない。
「ヤスフミ、ヤスフミはあむ達と一緒に×キャラを」
フェイトがユーノ先生の傍らに降りて、背中を右手で優しく撫でる。でも・・・・・・反応はない。
どうやら例によって例のごとく、放心状態に陥ってるみたい。×キャラを浄化しないと、ずっとこのままだよ。
「私達はユーノの方を見ておくから」
「ん、お願い。・・・・・・みんな」
僕は振り返ってあむ達の方を見る。あむ達はとっくに席から立ち上がって、頷いていた。
「分かってる。・・・・・・みんな、後始末もお昼も少し延期。
僕達でスクライア司書長の×キャラを即行で止めるよ。いいね」
『了』
『ムリー♪』
みんなが返事をしかけた瞬間、家が黒いマーブル状の模様が浮かぶ四角いものに包まれた。
僕とフェイトは庭に出てたために巻き込まれなかったけど、みんなは・・・・・・その中。
「「・・・・・・え?」」
僕とフェイトは慌てて上の方を見る。・・・・・・あ、いつの間にか×キャラ戻ってきてるしっ!!
戻っていた×キャラは、嘲笑うようにしながらどこともなく飛んでいった。
僕はすぐに地面に降り立って、そのドームに向かって手を伸ばす。・・・・・・いや、ストップ。
直接触るのはちょっと危険かも。なのでそれはやめて、魔法を一つ発動。
≪Stinger Ray≫
ノーモーションで放ったスティンガーは、壁に触れた瞬間にその中に沈んだ。
もうそうとしか表現出来ないの。まるで水面みたいに波紋が立って、軽く水音もしたもの。
「ヤスフミ、コレって」
「うん。・・・・・・くそ、やられたっ!!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「わわわ、なにこれー!? てゆうかあの、暗くて怖いよー!!」
「結木さん落ち着いてっ! あの、これはっ!?」
私は立ち上がりつつセットアップ。両手にツインブレイズを持って、一気に踏み込む。
「はぁっ!!」
そして両手の刃を唐竹に黒い障壁に叩き込んだ。だけど・・・・・・障壁は斬れなかった。
というより、刃がまるで水でも斬っているかのようにすり抜けてしまった。
「・・・・・・これは。もしかして空間そのものが歪められている? リインさん、リース」
「だめです。おじいさんやフェイトさんに念話が繋がりません」
「通信関係も転送魔法もアウトです。というか、これって」
「どうやら俺達は・・・・・・閉じ込められたようですね。
リインさん、ディードさん達もですが魔法での脱出は」
この場合、海里さんが転送の類以外の魔法も視野に入れた上で言っているのは、言うまでもないと思う。
「無理です。魔法ならともかく、それ以外でこんなタイプの結界を使われたら・・・・・・私達の手札ではどうしようも」
リースが苦い顔でそう言った事で、改めて事態の深刻さを全員で認識してしまう。
これはまずい。だって今外に居るのは、フェイトお嬢様と恭文さんだけ。
恭文さんのしゅごキャラのシオンも私達と一緒。これでは戦力が足りない可能性もある。
さっきのアレを見る限り、司書長の×キャラは相当強い力を持ってる。
恭文さんが万が一にも遅れを取るとは思えないけど・・・・・・あぁもう、まさかこんな手に出るなんて。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
即座にディードやリース、リインにヴィヴィオに念話・・・・・・ダメだ、繋がらない。
フェイトも同じなのか、相当困った顔しちゃってる。
≪主様、通信もかけてみたけどダメなの。中の誰とも繋がらないの≫
「これ、多分ユーノの×キャラを浄化しないとダメだよね。
でも・・・・・・どうしよう。アルトアイゼン、×キャラの場所とかは」
≪さっぱりですよ。こういう時は大体ランさん達に頼りっぱなしでしたし、私達だけで捜索は≫
「難しい・・・・・・か。ヤスフミ」
フェイトが困ったように僕の方を見上げる。うーん、どっちにしても追いかけるしかないんだよね。
でも、アテもなく探しても絶対に見つからない。でも、この結界は解除めんどそうだしなぁ。
反応から見て、結界の周囲の空間を歪めて誰にも触れられないようにしてんのよ。
そういうタイプの結界、無いわけじゃないからすぐに分かった。でも、その手のタイプは魔法でも解除が難しい。
まぁ僕だったら一瞬なんだけど、これは・・・・・・魔法じゃないしなぁ。ミキなりシオンが居ればなんとかなっただろうけど。
てゆうか、こうなるとユーノ先生の×キャラは結界や捕縛関係の能力に特化してると見ていいでしょ。
いつぞやのティアナの時と同じだよ。本人の持ってるスキルが、そのまま×キャラの特性になってる。
「・・・・・・あ、あのぉ・・・・・・恭文さん?」
後ろから声がした。というか、ちょうど真向かいのフェイトが僕の後ろを見てビックリした顔をしてる。
だから僕は振り向いてそちらを見ると・・・・・・そこには、金色の髪の小さな子が居た。
「「スゥ(ちゃん)っ!?」」
「はい。あぁ、よかったですぅ。やっと気づいてもらえましたぁ」
≪あなた、どうしたんですか≫
「えっとぉ、恭文さんとフェイトさんが飛び出した時に一緒に来たんですぅ」
「「・・・・・・え?」」
よし、よーく思い出してみよう。いつ? いつ飛び出してたのさ。
いや、待って。そう言えば・・・・・・確か。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「まさか、スクライア司書長のこころに×がっ!?」
「原因・・・・・・あぁ、考えるまでもないわよね」
「なのはさんの事考えてる間に、×が付いちゃったんだっ!!」
「司書長の想いの分だけ、×たまの力も上がっているのでしょう。これはまた・・・・・・厄介な」
海里が『厄介』と評したそんなたまごの真ん中に、ギザギザ模様の割れ目が入る。
そしてその中から、赤い×を額に付けたアレが出てきてしまった。
『アイタクナイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!』
くそ、あっという間に×キャラになっちゃったしっ! ・・・・・・って、上に飛んでったっ!!
×キャラは叫びを上げてからすぐに上昇。それを見て、僕とフェイトはすぐに動く。
「あ、待ってください〜」
僕達は防御障壁を解除して、立ち上がりつつ飛行魔法を使って軽く浮かび上がる。
『ムリムリムリィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!』
だって、そこら中ガラスの破片まみれなんだもの。踏んだら痛いって。
とにかく浮かび上がって、一気に窓の外へ。×キャラは・・・・・・くそ、もう居ない。
「ヤスフミ、ヤスフミはあむ達と一緒に×キャラを」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「「・・・・・・ホントに飛び出してるっ!!」」
「はい〜」
≪スゥちゃん、あむちゃんのしゅごキャラとしてそれはアリなの?≫
「恭文さんの現地妻7号としては、アリなのですよぉ?」
「スゥ、だからその名称やめ・・・・・・いや、今はいいやっ!!」
そうだよそうだよ。スゥが居るならキャラなりは無理でも、×キャラの追跡は可能。
僕はフェイトの方を見ると、フェイトは頷いてくれた。あとは任せちゃってOKみたい。
「スゥ、悪いんだけど」
「分かってますぅ。まだ×キャラさんは近くに居ますからぁ、きっとすぐに追いつけますよぉ」
「うし、なら早速お願い」
「了解ですぅ」
こうして、フェイトをその場に残して僕とスゥは外へ飛び出した。なお、靴はジャケットを構築して用意した。
そんな靴で足音を鳴らしつつ、僕はスゥに感謝しつつも走る。
それでスゥが案内してくれた場所は、よくフェイトとジョギングに出る公園だった。
そしてそこは・・・・・・×キャラのせいで、地獄絵図になっていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『ムリー♪』
「ねぇ、なにこれっ!? というかお願いっ! 誰か彼を助けてー!!」
公園の各所に、あの閉鎖結界がいくつもあった。形状は四角じゃなくて、ドーム状。
そして、誰も彼も『彼』やら『彼女』やらを叫びまくる。言うなら世界の中心で愛を叫んでいる。
「もしかして×キャラさん、デート中の人達を結界で引き裂いてるんでしょうかぁ」
公園の中を走る僕に並走・・・・・・じゃないか。並ぶように飛びながら、スゥがそう言った。
「あー、ありそうだ。自分がアレなのに人が幸せそうで、妬ましくなったんでしょ。分かる分かる」
うん、僕もそういう覚えあるよ? そりゃあまぁ『リア充爆ぜろ』って思った事もたくさんあるさ。
「局に、局に連絡だっ! 彼女が・・・・・・彼女が中にっ!!」
『ムリムリ♪』
なんて叫んでいる人達も、片っ端から結界に閉じ込められていく。それもかなり遠慮無くだよ。
≪主様、まずいの。早く止めないと、色々面倒な事になるの≫
「分かってる。アルト」
≪・・・・・・この周囲のサーチャー、動き止まっちゃってるみたいですね。大丈夫、暴れちゃってください≫
「了解」
返事をしながら、さっきから詠唱していた魔法を発動。
すると、僕の周囲の景色が薄暗いものに変わった。なお、僕が発生させた結界。
「まず逃げ道を防ぐ」
≪主様、いつの間にお姉様に周囲のサーチャーを調べさせていたの?≫
≪何を言ってるんですか。ここはほぼ毎日来てる公園ですよ?
何がどうなってるかなんて、把握してるに決まってるでしょ≫
「納得ですぅ」
展開した結界の中、前方500メートルほどのところに×キャラを発見。
『ムリムリ・・・・・・ムリッ!!』
×キャラはこっちを忌々しげに睨みながら、右手をかざした。
「スゥ、ついてきてっ!!」
「はいっ!!」
なんて言いながら、僕は右に走る。そして僕がそれまで居た位置に、あの結界が設置された。
「はわわ・・・・・・マズいですぅっ! 捕まったらおしまいですよぉっ!!」
『ムリッ! ムリムリムリっ!!』
僕を追いかけるようにしながら、一つ・・・・・・また一つとドーム状のそれが生まれる。
『アワセタクナイー!!』
僕は足を止めて、左に跳ぶようにダッシュ。というか、×キャラの方へ走る。
次の瞬間、僕とスゥのそれまでの進行方向を遮るように、結界がまた設置された。
『ムリッ!?』
・・・・・・てーか、見え見えだし。さっきは不意打ちも同然だったからアレだったけどさ。
×キャラの動きや仕草を見れば、どの位置に結界を設置しようとしてるのかはすぐ分かる。
それになにより、結界の設置が2秒くらいかかるのよ。つまり展開が遅い。
先読みが可能な時点で、僕にこれは通用しない。この辺り、ユーノ先生の×キャラだからなのかな。
能力は強力だけど、本人の使い方が全然なってない。戦闘経験の少なさがモロに出てるのかも。
確かにあの人の方が年上だけど、あの人10年以上戦闘絡みの現場に出てないしね。そりゃあこうなる。
「変身っ!!」
≪Riese Form≫
走りながらも、僕はリーゼフォームに変身。マントをたなびかせながら×キャラに迫る。
×キャラは右手を僕に向かってかざす。そしてその手の平に、黒いミッド式の魔法陣。
「スゥ、肩に掴まって」
「はいですぅ」
スゥが首近くに掴まったのと同時に、×キャラが攻撃を仕掛けてくる。
『ブラック・・・・・・チェェェェェェェェェェンッ!!』
黒色の鎖が3本、僕に向かって飛んで来た。これ、まさしくチェーンバインドそのものだし。
くそ、マジでティアナの時と同じパターンかい。ティアナの時も、セブンガンモード持ち出してきたりしたしなぁ。
これもユーノ先生の結界・捕縛魔導師としてのスキルが、そのまま出てるが故って事ですか。
だったら・・・・・・僕は予測される使用能力を改めて頭の中でリストアップしつつも、鎖を右に動いて避ける。
でも、ただ避けるだけじゃない。足だけは絶対に止めないで、攻撃直後の隙を狙って一気に踏み込んだ。
「・・・・・・鉄輝」
そして×キャラに向かってもうお馴染みとなった抜き打ちを、右薙に叩き込んだ。
「一閃っ!!」
抜き放たれた刃を包むのは、蒼い鉄輝。
でもその刃が叩き込まれようとした瞬間、×キャラがけたたましく叫んだ。
『ムリッ!!』
そして×キャラは右薙に襲い来る斬撃を、そのままもろに受けた。
防いだわけでも、避けたわけでもなく受けた。というか、僕の斬撃はすり抜けた。
だから僕は魔法を発動して、地面近くに設置。・・・・・・どういう事?
斬撃を受けた辺りに波紋が・・・・・・いや、考えるまでもない。
『ムリムリ・・・・・・ムリっ!!』
僕は×キャラと交差するように斬り抜ける。そうやって×キャラから距離を取った。
それからすぐに左に走る。・・・・・・×キャラがこちらに向かって右手をかざして、また鎖を飛ばしてきてた。
≪・・・・・・強敵ですね≫
それを走りながら回避しつつ、僕は魔法をコントロール。鎖は近くの木を縛り、アッサリへし折って消えた。
「そうだねっ!!」
≪Stinger Snipe≫
先程×キャラと交差する時に設置したのは、スティンガーのスフィア。
それを下からすくい上げるように操作して、×キャラを撃ち抜く。
『ムリッ!!』
でも×キャラの身体の表面に着弾すると、そのまま突き抜けた。・・・・・・おいおい、マジかい。
着弾点を中心に波紋が立ってまるで・・・・・・そうだ。まるでさっきの結界と同じようにしてる。
「な、なんですかアレはぁっ! というかというか、さっきの恭文さんの攻撃も・・・・・・えぇっ!!」
スゥが驚いている間に×キャラは、叫び声を上げる。
『ムリィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!』
僕はすぐさま上に大きく跳んで・・・・・・地面を割るように生まれた黒い縄達を回避。
そして80メートル近く下がり、林の中に逃げこんで木の影に隠れる。・・・・・・ちょこっとだけ作戦会議。
≪自分の身体の周囲の空間、歪めてるっぽいの。あれじゃあ攻撃が直撃しても、射撃も斬撃も通用しないの≫
≪さっきの結界でやってた事の応用ですね。それで攻撃を受け流してるんですよ。
相手が魔法能力者なら魔法経由で干渉も可能でしょうけど、今回はそれは無理でしょ≫
「そんなぁっ! じゃあじゃあ、浄化も無理ですよねぇっ!!」
「普通ならそうだね」
まぁあむのリメイクハニーや唯世のホワイトデコレーション、歌唄のエンジェルクレイドルみたいなのなら、多分いける。
アレが無効にするのは、多分点や線での攻撃。さすがに空間そのものに対しての攻撃までは、無効化出来ないでしょ。
てーか、出来たらチートだって。特にエンジェルクレイドルは歌・・・・・・音だもの。音はあれじゃあ防げない。
つまり直接的な攻撃じゃなくて・・・・・・あ、そっか。僕はその可能性に気づいて、考えを即座に纏める。
まぁかなり賭けにはなるし、成功するかどうかは分からない。だけど選択の権利はない。やるだけやってみようっと。
どっちにしたって、あむ達は閉じ込められて僕とスゥはキャラなり出来ない。出来る事は試していくしかない。
でも、もしもコレがだめだったら? ・・・・・・そんなの、決まってる。
今の自分の手持ちスキルで、なんとか対応してくだけ。
それが無理なら、僕の隣で慌てた顔してるこの子の力を借りる。
大丈夫、この子は・・・・・・僕なんかよりずっと強い子なんだから。
そんな子が力を貸してくれるなら、絶対に負けない。でも、その前にまずは一手打つ。
だってさ、悔しいじゃない。あんなチートに『はい、そうですか』で負けるのはさ。
僕は魔導師だもの。魔導師だったら、これくらいは思考と経験で覆していくのよ。
「でも・・・・・・残念」
僕は軽く口元を歪めて、笑う。笑いながら上に羽織っているマントをパージ。それを左手に持つ。
「打開策なら、もう思いついた」
「ホントですかぁっ!?」
「うん」
まぁアレだよね、DTBの二期を見ていてよかったよ。もっと言うと第2話。ちょうどあんな敵出てたから。
ふ、サブカルチャーの申し子をナメるなよ。こういう状況は面白そうだから、アニメ参考に何回かシミュレーションしたし。
「だからスゥ、しっかり掴まっててね。ちょっとぶっ飛ばすから」
「はいですぅっ!!」
僕は一気に左に走った。僕が走り出した瞬間に、背にしていた木が結界に包まれた。・・・・・・やっぱり遅い。
僕はそのまま林から飛び出して、×キャラに向かって直進しつつ左手に持ったマントを放り投げる。
(・・・・・・会わなければよかった)
マントは放物線を描きながら上に飛んだ。・・・・・・これ、ユーノ先生の声?
(そうだ、こんな苦しい思いするなら会わなければよかった。そうすれば幸せだった。
あの時放置されたままでよかった。それなら幸せになれた)
色々矛盾しまくった事を言うユーノ先生の声を聞きながらも、僕は突撃し続ける。
距離にすると、50メートル程にまで接近。僕なら一足飛びで走れる距離。
『ムリムリ・・・・・・アイタクナイィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!』
×キャラは笑いながら、両手をかざす。そうしてまた両手から先ほどと同じように鎖を出す。
僕はしゃがみながら、アルトを左切上に叩き込む。そうして全ての鎖を軽く避けつつも斬り払った。
(もうこんなの嫌だ。好きにならなければよかった。僕が・・・・・・僕がなのはと会ったのは、無駄な事だったんだ)
エネルギー所の鎖が斬り裂かれ粒子に戻っていく中、僕は再びあの魔法を発動。
「・・・・・・がたがたと」
アルトを素早く納刀しつつ、再び生まれた蒼い光弾は上に動く。
ううん、急上昇してどさくさに紛れて×キャラの視界から外れる。
「抜かしてんじゃねぇよっ!!」
≪Stinger Snipe≫
すぐにスティンガーは急速落下。10数メートルという高度を切り裂きながら、僕達の目の前に再び姿を現す。
さて、ここで問題。『放物線』を描いたマントの落下地点はどこ? それは当然・・・・・・×キャラの前面。
うん、真上ではないの。だから今、×キャラと僕達との間を白いマントが遮った。そしてそんなマントと僕との間に蒼い弾丸。
それは一気に落下してきたスティンガー。それはすぐに方向転換。その狙いを×キャラに変える。
軌道変更によりスティンガーはマントを捉える。弾丸に圧されてマントが持ち上がり、スティンガーに押される。
それから数メートルマントを押した上で、スティンガーは破裂して消えた。
さっきも言ったけど、マントを押しただけ。つまり、スティンガーはマントを貫通はしていない。
マントは弾丸が破裂した勢いも加えた上で、マントはそのまま×キャラに接近。
覆いかぶさるようにして、×キャラに予測通りに『触れた』。それもちょうど、マントの真ん中に。
スティンガーの軌道は、マントが×キャラに覆いかぶさるように予めセッティングしてあった。
そしてこの距離は、マントを投げる前から僕の距離だった。だから僕はもう、×キャラの目の前に居る。
僕は再びアルトを抜き放ち、下から上に×キャラをその身を包むマントごと斬り裂いた。
その刃は、さっきと同じように薄く研ぎ澄まされた蒼い魔力の刃に覆われていた。
次は刃を返して袈裟。そして最後は右薙にアルトを叩き込み、そのまま斬り抜ける。
「・・・・・・鉄輝一閃」
マントは×キャラと共に幾つかに両断され、そのまま宙を舞う。
「瞬・極(またたき・きわみ)」
数メートル地面を滑りつつも、身体を時計回りに回転させて停止。
斬り裂かれたマントの間から現れた×キャラの身体には、確かに三つの斬撃の痕が刻まれた。
『ム・・・・・・ムリ? ムリムリ・・・・・・ムリ?』
「ムリじゃないよ。・・・・・・否定、してんじゃねぇ」
僕も同じだったから分かる。でも・・・・・・でもだからこそ、僕は許せない。
アンタが言った事が、絶対に許せない。認めるつもりもない。
「気持ちが通じないからって、出会った事まで、これまでの時間まで・・・・・・簡単に否定してんじゃねぇよっ!!」
『ムリィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!』
ユーノ先生の×キャラが、両手を広げて声を上げる。そして、頭の赤い×が砕けた。
黒いボディは頭頂部から黒い粒子に変わって、それが×たまに変化。
でもその×たまは、すぐに羽の装飾がある白いこころのたまごに戻った。
そのたまごも音すら立てずに飛び上がって、空の中へ消えていった。・・・・・・僕は即座に結界を解除。
周りを見渡すと、あの×キャラが発生させた黒い結界も次々と消えていく。たまごは、青い空の中に消えていった。
僕は構えを解いてアルトを一振りしてから、そのまま鞘に収めた。そしてすぐに変身を解除。
元のTシャツにジーパン姿に戻って・・・・・・軽く息を吐いた。
「恭文さん」
右隣を見ると、スゥが優しく笑いかけてくれていた。
「お疲れ様でしたぁ」
「・・・・・・うん、お疲れ様」
そして僕とスゥは、未だ混乱する公園から即座に脱出。というか、逃げました。
ちなみに後日、この件はちょっとした騒ぎになるけど結局うやむやに終わった事だけは、付け加えておきます。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ヤスフミがスゥちゃんと飛び出してから、大体40分弱。空から白く輝くものが舞い降りて来た。
それは白いたまご。そのたまごは、ユーノの背中に吸い込まれるようにして消えた。
「・・・・・・・・・・・・ん」
呻くような、呟くような声を上げて・・・・・・ずっと虚ろな目で崩れていたユーノが身体を起こした。
「アレ、僕は・・・・・・フェイト?」
「ユーノ、よかった。気分、大丈夫?」
「うん。てゆうか・・・・・・おかしいな、なんだかすっきりしてきた」
そう言いながらユーノがガッツポーズなんてしてる間に、家を包んでいた結界が消えた。
そしてその中から姿を現すのは、あの惨状と・・・・・・暗い顔をしていたみんな。
「・・・・・・あ、結界解けたですよっ!! 恭文さん・・・・・・あれ、居ないです」
「状況から察するに、ハラオウンさんは待機で蒼凪さんが浄化・・・・・・でしょうか」
「多分そうね。というか、それしかないわよ」
あはは・・・・・・私、×たまの浄化なんて出来ないしね。うん、ここは仕方ない。
私がみんなの方を見ながら苦笑いを浮かべている間に、ユーノが振り返って家の方を見た。
「・・・・・・あぁぁぁぁぁぁっ! な、なんだこれっ!? てゆうか誰がこんな事をっ!!」
『・・・・・・・・・・・・あなたなんですけどっ!?』
ついついみんなと一緒にツッコんでしまったけど、きっとこれは許されると思う。
うん、許されるよね。だって、さすがに怖くなってきてたし。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
とりあえず、浄化は完了した。でも・・・・・・家、どうしよう。
まぁユーノ先生も居るし、修復魔法で直させるか。うん、これで問題なしなし。
そんな事を思いつつも、僕はスゥと一緒にのんびりと帰宅していた。
あ、フェイトにはさっき連絡して、ユーノ先生が元に戻った事も確認したのであしからず。
「そういえば恭文さん」
「ん、なに?」
「ユーノさんの×キャラさん、斬ったり撃ったりがだめだったんですよねぇ。
なのにどうして、恭文さんの瞬・極(またたき・きわみ)は大丈夫だったんですかぁ?」
僕の右隣を飛びながら、スゥが疑問顔で聞いてきた。なので・・・・・・まぁ、しっかり説明する事にした。
てゆうか、きっと読者のみんなも意味分からないだろうしね。うん、解説って大事だもの。
「簡単だよ。マントに触れている時は、×キャラは空間を歪めてなんていなかったから」
まぁぶっちゃけ賭けではあったけどね。まず賭けたところの一つとして、能力の詳細。
もしもこれが常時発動しているようなものだったら、僕の手札では多分どうしようもなかった。
≪スゥちゃん、ようするにあの×キャラは常時周囲の空間を歪めてるわけじゃなかったの。
こっちの攻撃に合わせて『ムリッ!!』って叫んで、そういう能力を使ってたの≫
そしてここがもう一つ賭け。あの×キャラは、鎖を出すのも結界を出すのも、全部叫んだ上で使ってた。
もしかしたらそういうトリガーを引かないと、能力が発動出来ない子なのかなとも考えたの。
まぁこの辺りは、今まで見てきた×キャラの大半がそれだけどね。例外は×ロットくらいだって。
「もしもこれが常時・・・・・・つまり、ずーっと空間を歪めてたなら、マントもすり抜けてたの。
でも、すり抜けなかったよね? マントは×キャラに覆いかぶさって、動きを止めた」
「えっとぉ」
スゥが右の人差し指を唇の近くに当てて、軽く上を見る。
そうしながら考えて・・・・・・結論が出たらしい。僕の方を見て、表情を明るくして頷いたから。
「あ、そう言えばそうでしたぁ。×キャラさん、マントをかぶってましたぁ」
「でしょ? つまりその状態の時だけは、『物質干渉を受ける状態』だったのよ。
スゥに分かるように言うと、殴ったり斬ったりしたらダメージを与えられる状態」
「触ったりしても、すり抜けたりしない状態という事ですかぁ?」
「うん、正解」
この手の奴を相手にする場合、如何にして自分の手持ちスキルの攻撃を当てられるかが勝負の決めどころ。
でも、普通にしていては当たらない。ならどうすればいいか。方法を大まかに挙げると二つ。
相手の防御の穴を突ける別系統の攻撃をするか、こちらの攻撃が通用する状況をどうにか作り出すか。
個人で対処するなら、このどっちかだね。例えば今回みたいなチートっぽいのじゃなくても、AMFでもそうだよ?
アレだって、普通の魔法経由では同じ事だから。フェイト達も僕も、基本このどっちかでガジェットとかには対処してた。
それで今回試したのは僕が後者の方だね。てゆうか、これしか出来なかったとも言える。
僕、魔法でもない空間の歪みに直接対処するようなチート能力は持ち合わせてないし。
≪そこを狙って、この人が魔力込みで×キャラを斬って浄化したというワケです≫
「まぁ、かなり賭けだったけどね」
≪あの×キャラ、そんなに強くなくてよかったの。そうじゃなかったら、もうちょっと苦戦してたの≫
確かに強力なスキルだけど、使うのが三流じゃあ威力も半減だって。
うーん、やっぱり戦闘技能の低さまで宿主そっくりになってたのかな。かなり分かりやすかったし。
「え、強くないんですかぁ? スゥから見るととっても強かったですけどぉ」
「強くないね。・・・・・・能力だけが強いのよ。使う奴は三流もいいところ。
もうちょっと言うと、強い力を持ってるから油断してた部分がある。そこを突いたってわけ」
「そういうものなんですかぁ?」
「そういうものなんだよ。強い力を持った人は、その力に依存して油断しがちなの。
力が強いのは、逆に人を弱くしちゃう部分が多いって事だね」
以前、美由希さんが六課の訓練に参加した時に話した『鎧』の話だね。今日のアレだって、確かに強力な鎧だよ。
でもそれに依存しちゃうとあっさり負けちゃうって事。・・・・・・僕も気をつけておかないと。他人事じゃないもの。
「でもぉ、本当にずーっとあの状態だったらどうしようもなかったですよねぇ」
「まぁね。でも、実はそうなっても勝算はあったんだ」
「え?」
僕は丸い目を見開いたスゥの方を見ながら、笑いかける。
「だって、スゥが居るもの」
スゥは僕が言いたい事を分かってくれたらしい。僕の方を見ながら、嬉しそうな顔で笑ってくれた。
「・・・・・・はいですぅ。というか恭文さん、ありがとうですぅ」
「ううん。お礼言うのは僕の方だよ。スゥ、本当に一緒に飛び込んでくれたから」
「もちろんですよぉ。だってスゥは、恭文さんの事大好きですからぁ」
「ありがと」
歩きながら、右手でスゥを撫でる。スゥは心地良さそうに目を閉じて・・・・・・僕の手の中で嬉しそうにしてた。
「あ」
「どうしたの?」
「お家の修理、リメイクハニーでやってもいいですかぁ? アレならすぐにお直し出来るですぅ」
「あ、そう言えばそれがあった。んじゃスゥ、お願い出来る?」
「はい。頑張るですよぉ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「そして夕方ー。あむちゃんとスゥがキャラなりして、リメイクハニーを使ったから家の修理はもう完璧」
「ボク達はまた大変だったけどね。事情説明したら、ユーノさんすごい落ち込んじゃったもの」
「だが、なのはさん達が戻る前にお直しが出来てよかったな。
そうじゃなかったら、また僕達はあの魔王モードを見る事になってたぞ」
「拙者もキセキ殿に同感だ。アレは・・・・・・とても怖いしな」
「うむ。あれはとても怖かった」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・・・・ごめんなさい。今日は本当にご迷惑をおかけしました」
リビングで正座で反省しきりなユーノ先生を見て、僕達は非常に困っていた。
それに関しては、後ろで様子を伺っているあむ達もだよ。
「あの、ユーノ。大丈夫だよ? 家もなのは達が戻って来る前にお直し出来たし」
「そうですよ。で、僕達もこの事は黙っておきますから」
「フェイト、恭文君・・・・・・うぅ、ごめん。本当にごめん」
・・・・・・というか、黙っている事しか出来ないでしょ。これ話してどうなるの?
原因も含めて話して、なのはにユーノ先生と付き合うように迫れと? そういうわけにもいかないでしょ。
「ねーねー」
で、そんな感じでようやく話が纏まりそうなところに、ややが後ろからひょこひょこと歩いてやってきた。
「ん、ややどうした?」
「まぁうちも直ったし、×キャラも浄化出来たからいいけど・・・・・・告白、どうしようか」
そう言われて、場が固まった。そしてユーノ先生が軽く固まって頭を抱えて唸り始めた。
≪そう言えば、そこの問題をすっかり忘れてたの。というか、どうするの?
確かもうそろそろお母さんとなぎひこ君、帰って来る頃なの≫
「そう言えば『暗くなる前に戻る』って言ってたし・・・・・・ヤスフミ」
「これ、普通にまずいわよね。というかこのままユーノさんがうちに居たら」
「・・・・・・ただいまー。みんな、今日はごめんねー」
りまが続きを言う前に、玄関から人の気配。なお、もう誰が誰かとか言うまでもないよね。
「・・・・・・鉢合わせするわよ? 20秒以内に」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! ど、どうしよっ!? 僕なんにも考えてないのにー!!」
ユーノ先生が頭を抱えて、今日何度目かの混乱状態に陥った。
それを見て・・・・・・僕はしゃがんで、ユーノ先生の両手を掴んだ。
「ユーノ先生、こうなったらもう覚悟を決めるしかありません」
「覚悟を決めるって、どうやってっ!?」
「ストレートに『愛してる・嫁にしたい』って言うんですよ。もうそれしかないですから」
「そうだね。ユーノ、もう逃げられないよ。決着、ここでつけるべきじゃないかな」
「今日これだけごちゃごちゃしたのも、もしかしたらそのためかも知れないものね。
ユーノさん、男だったら・・・・・・一発ガツンと、ドでかい爆弾かますしかないわ」
なお、この時僕もフェイトもみんなも軽く疲れていて『後日に出直す』とぃう思考が全くなかった事は、留意してもらいたい。
「・・・・・・そうだね。決着、つけなくちゃいけないよね」
ユーノ先生は言いながらも立ち上がって、瞳を燃やす。
それからゆっくりと歩き出した。なお、僕は手を離した。
「・・・・・・ユーノ?」
「決着、つけてくるよ」
そのままユーノ先生は早足で玄関に消えていった。ただ、それに僕もフェイトも顔を見合わせてしまう。
なんだろ。今のユーノ先生は確かにカッコ良かったけど、とてつもなく嫌な予感を感じる。
「・・・・・・え、ユーノ君っ!? あの、どうしたのかなっ! というかどうしてうちにっ!!」
止めた方がいいよね。うん、止めよう。
「・・・・・・・・・・・・なのは、愛してるっ!!」
でも、止める前に爆弾は投下されてしまった。ここからじゃ見えないけど、それだけは間違いない。
「友達としてとか家族的とか仲間としてじゃないっ! 一人の女性として、ずっと君を愛していたっ!!」
あ、あの人・・・・・・マジで爆弾投下しやがったしっ! もう僕達全員口大きく開けて止まったよっ!?
てゆうか、ちょっと待ってっ! さすがにここでとは言ってないからっ!! せめて二人っきりの時に言ってー!!
「だから・・・・・・僕と結婚してくれっ! 結婚して僕と夫婦として、ずっと一緒に居てくれっ!!」
「「・・・・・・えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」
それに対しての驚きの声が、二つ聴こえた。
つまりなぎひこも一緒・・・・・・え、なぎひこの前で告白したんかいっ!!
「なのは、今すぐ答えてくれっ! 僕と結婚するか否かっ!!
僕は・・・・・・君と、君やヴィヴィオと本当の家族になりたいっ!!」
で、でもよくやったっ! これならいくらなのはがバカで魔王だからって言っても、スルーなんてするわけが。
「ユーノ君のバカっ!!」
その瞬間、家の中に甲高い音が聴こえた。それは人を引っ叩いた時に聴こえる音。
「・・・・・・・・・・・・え?」
「いきなり何言ってるのっ!? というかというか、それもなぎひこ君の前で・・・・・・本当に信じられないっ!!」
ユーノ先生の呆けた声の後に続いたのは、なのはの怒号。
戸惑いも含めたそれは、ユーノ先生に向けたもの。
「というかあの、ユーノ君とは無理だからっ! 私、別に気になってる男の子が居るのっ!!」
気になってるって・・・・・・おいおい、マジかいっ! え、ややが教えてくれた事って本気なんだっ!!
うわ、やばい。今更ながら罪悪感出てきたし。これじゃあ僕達、とんでもない悪党だし。
「それになにより、いきなりそんな事言う人と結婚なんて出来ないよっ! もう帰ってっ!? ほらっ!!」
横馬が玄関で至極当然な事を言って、家の中が怖いくらいに静まり返った。・・・・・・あ、玄関が開く音が聴こえるな。
ヤ、ヤバい。さすがにこれで『ユーノ先生が勝手に暴走しました』とは言えないよね? フォロー必要だよね?
でもそうなると、今日のあれこれ(×キャラ出現以外)を説明する必要があるかも。うぅ、また嵐が来そうなんですけど。
僕はまたフェイトと顔を見合わせる。フェイトは若干顔を青くしていた。
”ヤスフミ、逃げようか”
”そうしたいけど、だめだって”
”・・・・・・うん、そうだよね。やっぱりだよね”
その後、色々な意味で微妙且つ恐怖な時間が相当な時間に渡って僕達を襲った。
内容に関しては・・・・・・お願いだから、触れないでね? ぷりぃず。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
現在、夜の午前11時。・・・・・・あ、間違えた。夜の午後11時。
僕達はなんかこう、なのはとヴィヴィオとなぎひこ以外は全員疲れ果ててバラエティーとか見てた。
なお、空海はダメージが深いのか、リビングの窓の近くで海里と一緒に空を眺めてる。
あれからなのは、相当だったしねぇ。そのフォローのために、今は僕達が相当だよ。
でも、なんとか落ち着いて現在ヴィヴィオと一緒に就寝してます。・・・・・・マジで疲れた。
「・・・・・・恭文君、大丈夫? というか、フェイトさんとリインちゃんも」
「まぁ、それはナギナギ達だけじゃなくて、あむ達もだけどな。
そんなにあのメガネの人の対処、大変だったのかよ」
「もうね、大変っていうかなんというか・・・・・・嵐が来た感じ? あたし、さすがにもうだめ」
なお、現在僕とフェイトとリインの三人は、ソファーに座っている。で、僕を中心にぼーっとしてます。
右側にはフェイト、左側にはリインが居て、二人が僕に身体をくっつけて甘えてきてる。
「僕もさすがにこれは・・・・・・やっぱり恋愛って、良く分からないかも」
「そりゃそうだろうね。唯世、唯世に恋愛が分かってるとは僕には思えないよ」
「蒼凪君っ!? というか、今日はフェイトさんも含めて僕にキツくないかなっ!!」
「唯世君、それは仕方のない事なんだよ。身に覚えがあるよね?」
「何の覚えですかっ!!」
とりあえずアレだ、月詠幾斗の事の前に『アミュレットハートが好き』って認識をなんとかしなきゃいけないと思った。
・・・・・・10年後に。ごめん、今はそんな気力ない。今はそんなの絶対無理。
「フェイト・・・・・・なんかね、凄い疲れた。なんですか、これ」
「私も。ヤスフミとラブラブしないと・・・・・・ちょっと無理」
「リインもです。恭文さん分が著しく欠如してるですよ」
「うん、欠如してるよね。だから、もっとくっつかないと」
「ですです」
やばい、ツッコミたいけどそんな気力すらない。『だったら早く寝ろ』とか思うだろうけど、それも無理。
だから全員揃って、軽く夜更かしコースに走りつつあるのよ。バラエティーとか流し見してるのよ。
「りまたん、恋愛って難しいね」
「そうね。でも、アレは極端だから気にする必要ないと思うわ。・・・・・・まぁ」
そしてりまが空海の隣で、同じように星を見ている一人を見る。
「海里はきっと気にした方がいいわね」
「りまたん、それ意味分からないよ。・・・・・・うー、もう寝ちゃおうかなー。でもでも、なんだか眠れそうもないし」
「でもさ、僕達が揃ってここでこうしててもダメな気がするし・・・・・・うし、もう寝ちゃおうか」
「・・・・・・すまん、皆の衆。寝るのはまだ無しにしてくれるか?」
そんな事を言って来たのは、ムサシ。僕の前にまで来て、珍しく困った顔を向けてくる。
ううん、来たのはキセキだけじゃない。ダイチも同じく。そして表情はムサシと同じ。
「ムサシ、それどういう事? ほら、僕達見ての通りもうHP0なんだけど」
「蒼凪殿、そう言わんでくれ。実はその・・・・・・少し問題が発覚してな」
「問題?」
「あの、なんつうか・・・・・・実はさ、俺もついさっき思い出したんだけどよ」
ダイチが空海の方を気にしながら、またまた爆弾を投げてくれた。
どうやら僕達は、今日は最後の最後まで休めないらしい。
「今日、空海の誕生日なんだよ」
全員、一瞬言っている事が分からなかった。ダイチが一体何を言ったのか認識出来なかった。
でも、その一言のために僕達の空気がまた動き出したのは事実だった。だから僕は、軽く右手を上げた。
「全員、集合」
僕がフェイト達と座ってたソファーを中心に、素早く僕達は集合。たった今発覚した問題について、討議する事にする。
なお、ここからの会話は全て小声なのは留意してもらいたい。
「ダイチ、どういう事っ!? 今日が空海の誕生日ってどういう事さっ!!」
なお、今日は8月の17日です。
「いや、どういう事ってそのまんまだってっ! 空海が今日朝からやたらと張り切ってたの、そのせいなんだよっ!!」
「確かに私達のロードワークに付き合ったりで頑張ってたけど・・・・・・で、でもどうしてっ!? 私達知らなかったしっ!!」
「相馬殿の性格を考えれば、自分から言うのは照れくさかったのだろうな。
ただ、蒼凪殿達は仕方なかろう。拙者も海里も知らなかったしな」
それはりまとクスクスも同様だよ。もう目を見開いて唖然とした顔してるし。
もちろん僕達魔導師組も同じ。空海の誕生日が今日なんて、本当に聞いた事ないし。
「だがそうなると問題は」
ムサシが腕を組みながら、あるメンバーを見る。それは相当前から空海と付き合いのある組。
「あむ殿達だな。これで『おめでとう』の一言でもあればいいのだろうが、それすらなかった」
まぁ、それすら言えるような状況じゃなかったのは、もう言うまでもないけどさ。
「そうだぜっ! あむ、唯世もややも、お前らなんで覚えてなかったんだよっ!!
もう空海マジヘコみしちまって、海里も相手すんの大変なんだぞっ!?」
「いや、それは今日色々あり過ぎて・・・・・・って、ちょっと待ってっ! それおかしくないっ!?
そもそも空海のしゅごキャラのアンタが覚えてないのってどうなのかなっ!!」
「それはその・・・・・・気にするなっ!!」
「そんな事出来るわけないじゃんっ!!」
とりあえず僕は空海の方を・・・・・・うわ、なんか暗い。凄い暗い。
珍しくマジヘコみしてるらしくて、見ているだけで悲しくなってくるし。
「とにかく、どうするでちか? なんにしても、全員揃って空海の誕生日を忘れてたのは事実でち」
口論になりかけていたダイチとあむを止めたのは、ペペのそんな言葉。・・・・・・そうだ、これまずいよね。
僕は壁にかけてある四角い時計を見る。現在、時刻11時14分。今日という日が終了するまで、あと46分。
さすがにこのままスルーとかダメだよね? 絶対ダメだよね? だって空海、本気でヘコんでるし。
あぁもうっ! 今日はどうなってんのっ!? いくらなんでもおかしいからっ!!
「よし、それじゃあ私とヤスフミでちょっとケーキの材料買ってくるよ」
「ケーキって・・・・・・でもフェイトさん、こんな時間じゃあ」
「大丈夫。24時間営業のスーパーあるし、間を繋ぐためにコンビニのケーキも買ってくるよ」
とりあえず今日中に『ハッピーバースデー』をうたうくらいの事はしたい。それでギリギリのラインだよ。
「それでディード、なのはとヴィヴィオを叩き起こして。それで事情説明して、あるものでササッとご馳走作って」
「分かりました。なら、あむさん達は」
「なんとかして空海を盛り上げて。別に無理しなくていいから。前向きにさせてくれるだけでいいから」
「恭文、それかなりの無茶振りよ? ほら、見なさいよ。空海相当ヘコんでるし」
うん、知ってるよっ!? でもやるしかないでしょっ! このまま放置出来ない以上、やるしかないんだよっ!!
僕達に逃げ場はないのよっ! 人類に逃げ場がないように、僕達ガーディアンにも逃げ場はないのっ!!
「それでリインは、パーティーに使えそうなグッズとか持ち出して率先して場を盛り上げて。
やや、リインと協力してその辺り頑張ってくれる? もう思いっきりやっていいから」
「分かった。こっちはあむちー達と一緒になんとかするから、恭文もフェイトさんもケーキ早めにお願いね」
「誕生日でちゅち、ケーキがないと盛り上がらないでちよ」
「もちろんそこはなんとかする。・・・・・・ヤスフミ、全速力でいくよ」
「うん」
というわけで、僕とフェイトは車を飛ばして材料の買出しに出た。
あー、ケーキの材料だけじゃなくて、食料品も買い込まないと。
こういう時に24時間のスーパーって便利だよね。うん、SEIYOU最高。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
今日の衝撃を忘れるように、私はヴィヴィオと眠りを貪っていた。だって、あんまりなんだもの。
なのに・・・・・・突然に大音量で目覚ましを鳴らされて、私とヴィヴィオは飛び起きた。
「ふにゃっ!? な、何っ!!」
「何事っ!? ・・・・・・って、ディードっ!!」
寝ぼけ眼なヴィヴィオが私の後ろを指差しながらそう言ったので振り向くと・・・・・・目覚ましを持ったディードが仁王立ちしていた。
「ダメですね。恭文さんなら私がドアの前に立った時点で気づくのに」
「なんかいきなりダメ出ししてるっ!? というかディード、いきなり過ぎだよっ! これは一体なにかなっ!!」
「そうだよー。どうしてなのはママはともかくヴィヴィオまで?」
「そうそう、私は・・・・・・ヴィヴィオっ! 最近ママの事ぞんざいに扱い過ぎじゃないかなっ!!」
うぅ、絶対恭文君の影響だよっ! センスとか言動とかも似てきてるしっ!!
よし、ここから再教育して、元の純粋なヴィヴィオに戻ってもらうんだからっ!!
「すみませんが、二人共今日はオールでお願いします」
「「はぁっ!? どうしてっ!!」」
「実は・・・・・・かくかくしかじか・・・・・・というわけなんです」
私とヴィヴィオはその『かくかくしかじか』というのを聞いて、軽く顔が青冷めた。
そう言えば寝る前に空海君を見たら、特にちょっと元気なかったけど・・・・・・え、それが原因っ!?
「えっと、今」
現在、時刻は午後の11時20分。・・・・・・って、あと40分しかないっ!?
あと40分で誕生日のイベントの準備してお祝いして終了っ!? どんな無茶振りかなっ!!
「ディード、どうしてそういう事をもっと早く言わないのかなっ!!」
「私も恭文さんも知らなかったんです。それになにより、あむさん達も忘れていたんですよ? どうしようもありません」
「それはそうだけど・・・・・・あぁぁぁぁぁぁっ! どうすればいいのっ!? 食料、明日の朝ご飯の分しかないよっ!!」
・・・・・・ただ、そこはフェイトちゃんと恭文君が調達してくれるそうだから大丈夫らしい。
と、とにかく空海君を盛り上げればいいんだよね。それでなんとかすると。よし、頑張ろうっと。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「というわけで、ツイスターゲームやるですよー!!」
『おー!!』
「いや、あの・・・・・・もう無理しなくていいぞ? ほら、俺は『おめでとう』ってだけで充分だしさ。
もうマジそれだけでいいしさ。みんな思い出してくれただけで俺は無茶苦茶嬉しいし」
空海、それ重いっ! 逆にあたし達プレッシャー感じるからっ!!
というか、そんな悲しげに笑わないでっ!? 大丈夫、今は無理して笑わなくていいからっ!!
「まぁまぁっ! 空海さん、遠慮しなくていいんですよっ!?
ほら、ツイスターゲーム楽しいですよー! 私良く分かりませんけどっ!!」
なんか凄く気になる事を言いながら、リースが率先してツイスターゲームのシートの上に乗る。
「リイン姉様、ルーレットを」
「あ、はいです」
ルーレットには赤・青・黄色・緑の四色が円状に書かれて、その四隅には手と足のマーク。
このルーレットの指示通りに乗っていくみたい。うん、ここまではあたしでも分かる。
「あ、リース。それ違うですよ。青色を右足に乗せるです。それだと緑ですから」
「あ、すみません。・・・・・・ほら、空海さんも」
「じゃ、じゃあ・・・・・・リイン、俺はどれ乗ればいいんだ?」
空海がシートに近づきつつそう言うと、リインちゃんがルーレットを回す。
「えっと、空海さんは赤ですね。右手を置いてください」
「了解。・・・・・・よっと」
なんだかんだで、こういうのに乗っていくのが空海だね。
ただあの・・・・・・数分後、ちょっととんでもない事になった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ひぁっ!! ・・・・・・く、空海さん。そこダメです」
「いや、あの・・・・・・マジ悪い。てゆうかリイン、次はどこだ?」
「次は右足を青色ですね」
「おいおい、マジかよっ!! ・・・・・・リース、ちょっと悪いな」
「くぅ・・・・・・だ、だからだめですっ! うぅ、なんでこんな事にー!?」
二人の身体の距離がむちゃくちゃ近い。ゲームの性質上仕方ないのかも知れないけど、近い。
それでその、結構際どい触れ方してて・・・・・・見てる方が恥ずかしいんですけどっ!?
「ちょっとリインちゃん、これいいわけっ!?」
「そうだよっ! 相馬君もなんだか恥ずかしそうだし、なによりリースさんはリインさんの妹だよねっ!!」
「え、ツイスターゲームってこういうゲームですよ?」
『はぁっ!?』
あっさり答えたリインちゃんに、あたし達みんなが驚きの声をあげる。
「接待的に、女の子と男の子がやってくんずほぐれつとなるのです。
前にフェイトさんも恭文さんとやって、相当仲良しさんになったそうですから」
「あのバカップルは一体なにしてるっ!? あたし、マジ信じられないんですけどっ!!」
あぁもう、今度問い詰めてやろうかなっ! マジでどういうお付き合いしてるとかさっ!!
「ちょ・・・・・・リイン姉様っ! 私そこは聞いてないんですけどっ!!
私、本気でそこは・・・・・・ふぇっ! だ、だからこするのだめー!!」
「あぁぁぁぁぁぁぁっ! 変な声出すなー!! てーかリイン、お前それいいのかっ!?
リース何も知らなかったっぽいし、それでこれはアウトだろっ!!」
「何言ってるですか? リースが言う前に乗っちゃったから、言われても困るのですよ。
リインもさすがに自重して、なぎひこさん辺りに相手をお願いしようと思ってたのに」
「「そう言えばそうでしたー!!」」
・・・・・・あぁ、そう言えば相手決める前にリースが乗っちゃったんだっけ。つまり、自業自得なんだ。
「でもこれは・・・・・・ねぇ?」
「空海、不幸だか幸運だか分からないよね」
「リースさんもかなり困ってますしぃ・・・・・・うぅ、判断に悩むところですぅ」
ラン達がそう言っている間にも、ルーレットは回る。
「まぁ、こうなったら最後の最後までやるしかないですよ。・・・・・・よし、目が出たです」
それに二人が軽く怯え始めたのも、きっと無理はないと思った。
「次、リースは黄色。空海さんは緑ですね。さ、キリキリやるですよー」
「・・・・・・不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「あの、それはどういう意味ですかっ!? 女の子的には色々・・・・・・だ、だからそこはだめですってばぁっ!!」
・・・・・・こうして空海の13歳の誕生日は、一生忘れられない日となった。
なお、このあと少しして戻ってきた恭文とフェイトさんが、空海とリースの状態を見て絶句したのは言うまでもないと思う。
二人がどういう体勢だったかは・・・・・・そ、そんな事言えるわけないじゃんっ! さすがにあんなの、エロ過ぎだしっ!!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・・・・お客さん、ちょっと飲み過ぎじゃないですかね?」
「いいんだっ!! ・・・・・・いいから・・・・・・飲ませて、くれ。
なのは・・・・・・なのは、なのはなのはなのは・・・・・・なのはぁ」
(第74話へ続く)
あとがき
恭文「というわけで、振られる時なんてきっとアッサリですよ。なお、作者はそうでした。
そんな実体験も込めた今回のお話、いかがだったでしょうか。本日のお相手は蒼凪恭文と」
あむ「日奈森あむです。でも・・・・・・ユーノさん、不憫な」
恭文「そうだねー。さすがに悪い事しちゃった気がするよ。
でも、あの人も僕のゲーム機壊したしおあいこだと思うんだ」
あむ「いやいやっ! 普通にゲーム機は直ったじゃんっ!!」
(『スゥはお直し得意ですからぁ』)
恭文「でさ、何気にドキたま/だっしゅもこれで24話目。あと2話で2クール終わりなんだよ」
あむ「あ、もうそんなに? いや、時の流れは早いねー」
恭文「そうだねー。本来の予定ではもう終わってる頃なのに、まだまだ書かなきゃいけないネタがあるんだもの」
・恭文と海里の三度目の本気の決闘
・聖王教会訪問+イクスのお見舞い
・ストライクアーツ修練場の見学
恭文「まぁ主立ったものだけ挙げたけど、まだまだイベント盛りだくさんですよ」
あむ「恭文、これガチで80話近くまで行くんじゃない? ほら、テレビのなぞたま編みたいにさ」
恭文「いきそうだよね。現段階でそういうノリだもの。
・・・・・・あ、ちなみになのはとユーノ先生の話は、もう1エピソード考えてますので」
(いうなら完結編という感じですね。1エピソードというよりは、1シーンで完全決着という形ですけど)
あむ「あ、そうなんだ。このままじゃないんだね」
恭文「うん。このままさようならは、さすがに問題かなと。
すっきりと決着つけるためにはあとほんの一匙必要と判断した」
あむ「そっかぁ。でもさ、恋愛ってマジ難しいよね。こう、あたしもユーノ先生の立場だからさ」
恭文「あー、そういやそうだったね」
(最近忘れがちですが、現・魔法少女はキングに恋をしています)
恭文「しかし、唯世のあの鈍さもなんとかしたいなぁ。でも・・・・・・僕達が介入すると、余計こじれるじゃない?」
あむ「まぁ、それはね? そう考えるとサリエルさんはうまい形なんだよね」
恭文「特に改訂版は、元々のフェイトの悩みと符号する形にしてるしね。そこの辺りのおかげだよ。
・・・・・・というわけで、本日はここまで。次回のお話は・・・・・・聖王教会のはず」
あむ「なるほど、まだ予定決めてないわけね」
恭文「そんなところだね。もしかしたら、ストライクアーツいくかも。まぁそこの辺りはどうなるか楽しみにして欲しい蒼凪恭文と」
あむ「日奈森あむでした。みんな、また次回にねー」
(恋の難しさを考えつつも、二人は楽しく手を振ってお別れ。
本日のEDステレオポニー『泪のムコウ』)
キャロ「・・・・・・ね、私達明日戻るんだけど、なんか引っかからない? こう・・・・・・忘れ去られてないかな」
エリオ「まぁ、確かにね。フェイトさんとも結局あまり話せなかったしさ」
キャロ「というか、全くだね。打ち上げ会場でも、フェイトさんは私達と別行動だったし」
エリオ「まぁそれでいいんだろうけどね。僕達ももう子どもじゃないし、一人でなんとかやっていけるから。それで・・・・・・キャロ」
キャロ「なにかな」
エリオ「昨日の打ち上げ会場で会ったニムロッド捜査官・・・・・・はともかく、あの月詠歌唄って人は誰?
恭文のセコンド務めてたり、はやてさん達も結構話しかけてたりしたし、ずっとフェイトさんと恭文の隣居たし」
キャロ「なぎさんがまた性懲りも無くフラグを立てたのは明白だけど・・・・・・本当に誰だろ。
話を聞く限り、特に局員でも魔導師でもないようだし・・・・・・うーん、気になるよね」
エリオ「恭文、本当にフェイトさん達と地球でなにやってるんだろ。
今更ながらちょっと疑問かも。あむさん達もそこに関係してるとは思うけど」
キャロ「そうだね。そしてそのせいで私達、保護者のフェイトさんからも完全に忘れられちゃってるしね。
・・・・・・まさか、私達の出番をことごとく奪っているのはあむさん達なのかな。だったら」
エリオ「キャ、キャロっ!? ちょっと落ち着こうよっ! あの、目が怖いからっ!!」
(おしまい)
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