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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第72話 『Happy Birthday/青い空の下で過ごすこんな一日 前編』



エル・イル『しゅごしゅごー♪』

エル「ドキッとスタートドキたまタイムなんですっ! さぁ、今回の話はなんなのですかっ!?
こんちくしょー! ほらほら、とっとと出てきやがれなのですー!!」

イル「・・・・・・お前、いきなりキレキャラっておかしいだろうが。今回の話は、最近仲良くなったあの二人の話だ。
戦技披露会も終わって、事前の約束通り二人だけでのんびりデート。いやいや、どうなるか楽しみだよなー」

エル「でも、なにやらそれだけじゃないっぽいですねぇ。
おまけもプラスされて、前後編で構成されるっぽいのです」





(立ち上がる画面に映るのは、広がる草原と湖と空が広がる世界を楽しげに見ている二人と、部屋の中で果てしなく落ち込むあのお兄さん)





イル「てーかよ、ミッドチルダ・X編っていつまで続くんだ? もうそろそろ2クール目終わるってーのに」

エル「あー、確かにそうなのですね。なんだかんだでもう23話目ですから。まぁ、いずれ終わるでしょう」

イル「いや、いずれって・・・・・・とにかく、今日もバリバリでいくぜー。せーの」

クロノ・ハーヴェイ「ここは、いったいどこだ?」

エル「・・・・・・え?」





(なんかまた乱入してきたのが居る。ただし、今回はコウモリじゃない)





クロノ・ハーヴェイ「急に光に包まれたと思ったらこんな場所いるのだが・・・・・・・大丈夫か? なのは」

なのは(とらハ)「うん、大丈夫だよクロノ君。けど、本当にここは何処だろうね。ちょっと、怖い」

クロノ「大丈夫だよ、なのは、どんなことがあっても必ず君を守ってみせるよ。」

なのは「ありがとう、クロノ君。だけど、クロノ君、あの時みたいに何でも一人で背負い込まないでね?
クロノ君がいなくなるなんて絶対に嫌だからね」(涙目)

クロノ「わかっているよなのは、僕だってずっと君と一緒にいたいから君を悲しませることは絶対にしないよ。」

なのは「・・・・・・クロノ君」

クロノ「・・・・・・なのは」





(そして周囲に広がるなんか甘ったるいの。当然ながら、こんなの納得出来るわけがない)





エル「コラー! そこの二人何をしてるのですかっ!! てゆうか、拍手でそれっぽいの来たからって毎度毎度突っ込んでくるなー!!」

イル「あ、拍手でネタくれてありがとなー。・・・・・・って、そうじゃねぇよっ! お前らマジでアレっ!?」

なのは「・・・・・・ほえ、クロノ君。今何か聞こえなかった?」

クロノ「いや、何も聞こえなかったが・・・・・・なのは、どうした」

エル「あー、どうやらエル達の事が見えないみたいですねぇ」

イル「マジかよっ! おいおい、頼むから見える奴来てくれよっ!!
これじゃあずっとこのままじゃないかよっ! そしてお前ら甘ったるいんだよっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



今日という日、朝目覚めてから俺は、恭文に付き合ってもらう形でロードランニングだ。

というか、フェイトさんも一緒だな。なんというか色々邪魔しちゃってる感はあるが、そこは気にしないでして欲しい。

しかし・・・・・・ミッドの街並みもだいぶ慣れてきたよなぁ。てーかアレだ、あっちこっち行ってみたいな。





てゆうか、ちょうど恭文とフェイトさんと朝もやのかかってる公園の中走りながら、そういう話してんだよ。





イクスが眠ってる聖王教会も当然行ってみたいが・・・・・・あとはアレだな。










「・・・・・・ストライクアーツの訓練場とかってあったら、ぜひ見てみたいんっすよ」

「空海君も興味あるの?」

「そりゃあまぁ、俺体育会系っすから。てーか、日奈森がヴィヴィオと一緒に練習してるの見たら興味も沸きますって」

「確かにそうだね。てゆうか、僕はあむがあそこまで真剣にやるとは思わなかった」



恭文がそう言うのも分かる。いや、俺もそうだし、唯世や三条達も同じくだしよ。

特に日奈森、そういう武術関係に興味持つとは思えなかったしな。



「まぁアレだ、アイツもアイツなりに色々考えてんだろ。イクスの事もあったしな。
でも、唯世辺りはちょっと心配してるな。特に日奈森、女子だから」

「あ、それはダメだなぁ。私やティアナだって女の子だけど、戦うんだから」



前方を走るフェイトさんが、金色の髪を揺らしながら俺の方に振り返りつつそう言った。

てーか・・・・・・かなりのハイペースで、ついてくのがやっとなんですけど。くそ、仕方ないとはいえ悔しいな。



「いや、フェイトさんやティアナさんはちゃんと訓練してるじゃないっすか。言うなら下地がしっかりとある。
でも、日奈森はそうじゃないっすよね。それでいきなりコレだから、怪我しないかって心配してるんっすよ」



日奈森、そもそも運動もあまり得意じゃないしな。気持ちが空回りして、怪我するんじゃないかって意味で心配なんだよ。

イクスの事だけじゃなくて、俺とダイチが凄まじい置いてけぼりくらったあの一件の事もあるだろ? だから俺は余計に心配だ。



「それで身体とかに一生もんの傷が残っても大変だーとかって言ってるんっすよ」

「・・・・・・納得した。でも、止める感じではないよね」

「えぇ。きっと自分も似たような事してるから、あんま言えないんでしょ」

「確かにね。それなら唯世と僕とのアレコレの方がずっと危ないし」



だろうな。お前、マジで遠慮なしで攻撃しかけてきてるもんな。俺、ちょっと見せてもらった時びっくりしたぞ。

しかし唯世の奴もそう考えると心配だよな。まぁ原因は月詠幾斗の事だろうが・・・・・・ここは恭文に任せておくとするか。



「それでよ、恭文」

「何?」

「お前、唯世からなんか聞いてないわけ? 月詠幾斗のアレコレとかさ」

「んー、全く」



少し困ったように返ってきた返事は、俺の予想の中にあったもの。てーか、コイツも測りかねてんのか。



「前にさ、一応聞いた事はあるのよ。ただ、キセキから『唯世が話せる時まで待ってくれ』って言われちゃって」

「で、お前はバカ正直にそこを守ってると。それで大丈夫なのか?
その上、なにやら妙な隠し事までしてくれちゃってるしよ」

「・・・・・・あんま大丈夫じゃないかも。ここは継続して気をつけておかないと」

「そうしてくれ。で、まぁアレだ」



コイツやフェイトさんに唯世が何隠してるかは知らないが、ちゃんと話す気はあるらしい。

・・・・・・あ、日奈森から聞いたんだよ。まだ確証が得られないから話せないだけらしいってな。



「なんかドでかい事が起こってるなら、遠慮無く巻き込んでくれていいからな」

「・・・・・何言ってるのよ。中等部はどうしたの。あ、友達居ないとか?」

「空海君・・・・・・そうなの? だからやたらとロイヤルガーデンに来たりしてるんだ」

「違うっすよっ!? 恭文はともかく、フェイトさんもそういう事言うのやめてくださいよっ!!」



なお、俺は普通に友達も居る。元々同級生だった奴とかも含めてな?

別にガチに中等部で孤立してるとかではないので、そこはあしからずだ。



「全く、そっちはそっちでうまくやってるっつーの。
・・・・・・イースターみたいな連中相手なら、フェイトさん達はダメだろうが」

「あはは、そこを言われるとその・・・・・・反論出来ないから、やめて欲しかったり」



木々が生い茂る中に伸びる遊歩道の中、フェイトさんの苦笑いの声が響く。

恭文はまぁ、前を向いたままだが、表情はフェイトさんと同じと見ていい。



「だから言ってんだ。安心しろ、予定が開いた時に限り参上してやるから」

「そっか。なら・・・・・・アテにさせてもらう。空海、ありがと」

「おうよ」










そんな話をしつつも、俺は走る。二人も走る。・・・・・・今日の俺は、気合いの入り方が違う。





なぜなら今日は俺にとって、なにやら特別な日になりそうな予感がしているからだ。てーか、絶対になるな。




















『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/だっしゅっ!!


第72話 『Happy Birthday/青い空の下で過ごすこんな一日 前編』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・戦技披露会の翌日。僕となのはさんは二人でお出かけしていた。

ま、まぁりまちゃんとかにはちょっとからかわれたりしたんだけど、約束は約束だしね。

空の綺麗に見えるところで、陛下のお土産用の空の写真を撮る。





それが僕達の今日の予定。なのはさんは昨日の激戦を感じさせないくらいに、とっても元気。

昨日の打ち上げ、なんだかんだで僕達も参加で三次会くらいまであったのに・・・・・・タフだよなぁ。

そんな事を助手席に座りながら思いつつ、僕はなのはさんの方を見る。





なのはさんは楽しそうに車を運転しながら鼻歌なんてうたってるけど、僕は一つ疑問がある。










「・・・・・・あの、なのはさん」



現在はミッドのハイウェイ。高速道路のようなものらしくて、信号もない道路をノンストップで走ってる。

朝一番に出たせいか、特に渋滞もなくてかなりすいすい進んでる。もちろん、安全運転した上で。



「うん、なにかな。・・・・・・あ、気分が悪いとかならちょっと休むけど」

「いえ、そうじゃなくて・・・・・・この車は、一体」

「てゆうか、ミニパトだよな」





いやね、お世話になるようになってから気にはなっていたんだよ。

車庫を見て、首を傾げてはいたんだよ。恭文君が嬉しそうに洗車してるのを見て、頭捻ってたんだよ。

でも、触れちゃいけないのかなーと思って、僕は今まで聞かなかった。でも、もう限界。



僕、なんで軽なミニパトに乗っているのかがさっぱり分からない。





「あ、恭文君から聞いてなかったんだね。これ、恭文君の車なんだ」

「「はぁっ!?」」



あぁ、だから嬉しそうに洗ってたんだねっ! うん、そこは予測出来てたよっ!!

でも、ミニパトって何っ!? 恭文君、どれだけセンスないのかなっ!!



「まぁ、正確には借り物なんだけどね。あのね、ヒロリスさん達の職場って特殊車両開発部って言うの。
局が使う指揮車や装甲車、みんながマリアージュ事件の時に見た消防車なんかを開発する部署なんだ」

「えぇ、それはあの・・・・・・以前お会いした時に軽くは」

「あ、そう言えばそうだったね。『なでしこ』さんとして会ってた時に、確かにその話してた」



なのはさんが思い出して、視線を前に向けながら少しおかしそうに笑う。僕は苦笑いしか返せなくて、ちょっと困ってしまう。

あはは・・・・・・なんというか、バレるとは思わなかったなぁ。この人、本当に凄い人なんだよね。



「とにかくね、恭文君のデンバードもこのトゥデイも、全部そこの試作品なんだ。
それで形状は・・・・・・まぁ、ヒロリスさん達の性格から大体の事は察して?」

「・・・・・・そうですね、大体の事は察していけます。だって、ともだちの覆面ですし」

「そうだね、ともだちの覆面だったしね」

「ナギナギの友達は、みんな個性的だよな。オレは見ていて面白いぜ」










なんて話をしながら、僕達はドライブを堪能。朝も早いせいか、ハイウェイから見える海がとても綺麗に見える。





というかあの・・・・・・あはは、本当に僕はなのはさんと距離感縮んでるよね。うーん、なんでだろう。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



さて、戦技披露会も終わって今日一日はのんびり過ごせる・・・・・・はずだった。

そう、過ごせるはずだった。シルビィ達は分署に戻ったし、歌唄も昨日の内にゆかりさんと地球に戻った。

なのはとなぎひこはデートに行ったけど、僕やフェイトにあむ達は基本普通に過ごすつもりだった。





朝ご飯を食べて、リビングで今日一日どう過ごそうか話し始めていた時に・・・・・・ある変化が起こるまでは。





きっかけは、一旦二階に着替えに戻ったややとりまのこんな一言からだった。










「・・・・・・恭文、家の前に変な人が居るんだけど」

「変な人? ・・・・・・鏡に映ったやや自身とかじゃなくて?」

「違うよっ!? というか、それどういう意味かなっ!!」

「それもありだろうけど、今回は違うわ」

「りまたんもひどいよー!!」



そんなひどいりまたんは、涙目なややを放置して窓の外を怪訝そうな顔をしながら見ている。



「その人、男の人なのよ。こう・・・・・・髪が長くて、メガネをかけて緑色の背広を着た男の人」

「あ、そうそう。結構真面目そうな感じだったよー? でもでも、出してるオーラが黒くて気持ち悪くてー」

「植え込みの辺りにしゃがみ込んで頭抱えてるのよ。
てゆうか恭文、あなた気配読むの得意なんだから、気づかない?」



りまにそう言われて、僕は改めて家の周囲の気配を・・・・・・あぁ、確かに居るわ。

それもりまの視線の先にドンピシャで。ここからでは見えてないけど、二階からだと丸見えだったのか。



「確かに居るわ。それもなんか妙な負のオーラ出してるし」



殺気とは少し違うけど・・・・・・でも、おかしいなぁ。この気配は・・・・・・うーん。



「・・・・・・蒼凪君、知ってはいたけど君の察知能力、凄いね」

「大丈夫、唯世も鍛えればそのうち出来るようになるよ。今からでも充分間に合う」

「あ、そりゃ言えるな。お前が魔導師になって訓練始めたのも10歳くらいからだしな」



そうそう。日々これ精進ってね。日々の積み重ねによって、力ってのは蓄えられるのよ。

別に武術以外の事でもそう。唯世の成績の良さだって、そういう日々の頑張りが実を結んだ証拠なんだし。



「・・・・・・で、どうすんだ? 空き巣や強盗の類なら、シバキ上げるのも手だが」

「幸いな事に俺達・・・・・・はともかく、ハラオウンさん達も居ます。
相手が一人ならば苦戦する心配もないかと」



当然ながら海里は『俺達は邪魔にならないように下がっています』とも言っているのであしからず。

さすがはガーディアンの参謀役。こういう状況での判断力は中々に筋が通ってる。



≪まぁその相手が超絶的なオーバーSや、魔法を使う前にそれを察知して全回避するようなのじゃないかぎりは出来ますね≫

「ですね」

「・・・・・・アルトアイゼン、リインさん、前者はともかく後者のようなのが居るのですか?」



海里が疑問の声を上げるのも当然だよね。そんなチートの権化、普通に居るとは思えない。僕も実際そうだった。



「居るですよ? 前に恭文さんとリインでなんとか倒したですけど・・・・・・大変だったです。
それだけじゃなくて、人体改造で反応速度を劇的に上げてこっちの行動全部先回りしますし」

「いや、なんだよそのチートッ! さすがにそれはありえないだろっ!!」

≪まぁ私達が相手したからなんとかだったんですよ。フェイトさんとかだったら瞬殺ですよ、瞬殺≫

「あはは・・・・・・そこは否定出来ないかな」



あれだね、今なお牢屋に篭ってガタガタ抜かしてるオーギュスト・クロエだよ。

・・・・・・思い出すと中々に恐怖の時間だったと、今更ながら寒気がしたりする。



「その相手、まさしく魔導師殺しの典型例だったから。魔導師ってね、絶対的に強いというわけじゃないんだ。
以前話したAMFのようなものもあるし、やっぱり弱点があるの。魔法がなければ戦えない人が大半でもあるから」

「だから、そんな能力出されたら普通は対処出来ないと・・・・・・俺、今更ながら世界の広さを実感したっす」

「相馬君、僕もだよ。なんというか・・・・・・すごいね」



・・・・・・なんて話しているみんなの様子も視野に入れつつ、僕は表の気配をもうちょっと探っていた。



「てゆうか恭文、アンタさっきから何黙ってんの?」

「気配ずっと探ってたのよ。・・・・・・うーん、やっぱりおかしい」



気配は、微動だともしてない。多分りまとややが見た直後から移動してないんでしょ。



「いや、おかしいって何が?」

「いやさ、この気配・・・・・・僕、覚えがあるんだよ」

『えぇっ!?』



というか・・・・・・よし、ちょっと確認してみよう。



「りま、やや。そこに居る不審人物って、髪が長くてメガネをかけて緑色の背広を着た人だよね?」

「そうよ」

「え、ちょっと待って」



あ、フェイトも気づいたか。だから口元を右手で押さえて考えこむんだよ。

それはリインとヴィヴィオも同じく。三人とも軽く頭を捻る。



「・・・・・・髪が長くて」

「メガネをかけて」

「背広を着た男の人ですか? それって・・・・・・恭文さん、まさかっ!!」



僕は気づいたリインを見て、頷いて答える。それならこの気配に覚えがあるのも分かる。

てゆうか、しばらく会ってないからナチュラルに存在や気配を忘れてたよ。いやいや、ダメだねぇ。



「間違いないね。というわけで」



僕はリビングの窓を開けて、右手でゴルフボール大の魔力スフィアを形成。それをアンダースローで放り投げた。

スフィアは放物線を描いてちょうどその人物の目の前に落下。僕はすかさず右手を上げて指を鳴らす。



「ブレイク」



その瞬間、まるで爆竹のような爆発音がやや抑えめに発生した。・・・・・・あ、こういう魔法ね?



「うひゃっ!? な、なにこれ・・・・・・熱っ! いや、これ・・・・・・熱っ!!」

「・・・・・・恭文、面白い魔法ね」

「りま、誉めてくれてありがと。気に入ってもらえたなら嬉しいよ」





熱がって楽しくダンスを踊るのも当然。炎熱変換も込みで、爆発音と共に火花も撒き散らすビックリ魔法だから。

なお、スレイヤーズのバーストロンドを参考にした。そしてそれに驚いたために、その人は立ち上がった。

確かに緑色の背広に髪が長くてメガネかけてる。というか、特徴がそのまま過ぎてツッコむ気すら無くす。



あの人は・・・・・・ユーノ・スクライア。無限書庫司書長であり、なのはとフェイトとはやての幼馴染だよ。





「でも・・・・・・やっぱりかぁ」

「ユーノ、どうしてまた・・・・・・ストーカーとかじゃないよね?」

「蒼凪さん、ハラオウンさんもお知り合いですか?」

「あ、うん。・・・・・・私となのは、はやての幼馴染なんだ」

『あぁ、なるほ・・・・・・えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



しばらく運転してたどり着いたのは・・・・・・ミッド南部の一角。前にヴィヴィオとピクニックに来た場所。





公共の公園なんだけど、規模がとても大きい。見渡す限りの草原と、湖の煌きが印象的な世界。










「・・・・・・これはまた、凄いですね」



なぎひこ君は、そんな世界を見て瞳を見開いてる。それはリズムも同じ。



「空気も美味いし・・・・・・あー、なんかのんびり出来そうだぜ」



両腕を上に伸ばして、宙に浮きながら背伸びをする。その様子を見て、私はなんだか嬉しくなってクスリと笑う。



「ミッドは自然保護区画・・・・・・あ、『自然をそのまま残していきましょう』って言う区画があっちこっちあるんだ」

「ここもその一つなんですね」

「そうだよ。それで」



私は空を見上げる。なぎひこ君もそれに倣うように見上げた。私達の視界いっぱいに広がるのは、青い空。

私達やこの世界を照らす燦々と輝く太陽と、二つの月がその青の中に確かにあって・・・・・・とても綺麗に見える。



「前にヴィヴィオとピクニックに来た時にね」



ちょうど春先だね。春休みにお休みが取れたから、軽く旅行したんだ。その時にここにも足を伸ばした。



「二人でずーっと空を見てたんだ。ここは凄く綺麗に空が見えるから」



山の中腹に近い位置まで登ってるせいかな。夏なのに、ここは首都ほど暑くない。

むしろ涼しいくらい。もちろん水分補給は大事だけど、それでも絶え間なく吹き抜ける風が心地いい。



「昨日お話してからどこ行こうかなって考えて・・・・・・ここがいいかなって」

「そうですね。本当に・・・・・・本当に綺麗です」

「うん」










そんな世界で、僕達は予定通りに写真を撮っていく事にした。でも・・・・・・今更だけど気づいた。





それなら、ヴィヴィオちゃんやあむちゃん達も連れてくればよかったんじゃ。でもま、いいか。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



さて、背広が軽く焦げている犯罪者予備軍な司書長は、即刻捕縛して自宅に上げた。





そしてガーディアンのみんなに事情説明などもした上で、僕とフェイトがリビングで事情聴取である。










「それでユーノ、どうしたの? あんなところに隠れるようにして」



なお、ユーノ先生は正座である。・・・・・・うん、当然でしょ。ブッチギリで怪しかったからさぁ。



「いや、あの・・・・・・その。たまたま通りがかって」

「なるほど。あなたはたまたま通りがかって5分近く友人の家の前で蹲って負のオーラを出すわけね」

「ぐ」



りまの容赦のないツッコミによって、ユーノ先生は軽く頬を引きつらせる。

まぁ、ツッコミたくなる気持ちも分かる。普通にそれはありえないもの。



「・・・・・・あの、なのは居るかな?」

「なのは? ・・・・・・あぁ、それなら今朝からなぎひこ君とおでかけ・・・・・・あ」



フェイトは気づいたらしい。ユーノ先生が『なぎひこ』と聞いた途端に死んだ魚のような目になったのを。

そのまま外に放置しておいたら、腐臭がさほど時間が経たずに漂ってきそうなくらいな目をしている。



「というか、なのはさんとなぎひこめちゃくちゃ仲良くなってるよな」



でも、それに気づかない人間も居る。それは空海。だから普通にこんな話をする。

それにより、ユーノ先生の肩が軽く震えた。そして瞳の中の淀んだ感情が強くなる。



「今朝もバスケの練習一緒にしてただろ? それで帰ってきたらもう楽しそうに談笑しててよ」

仲良く談笑?

「お互いに同じような夢を持っているおかげ・・・・・・とは言っていましたか」



海里もそこに気づかずに、そんな事を言う。しかも『同じ夢』という単語までつけて。



なのはと同じ夢?



そしてまた肩が震え・・・・・・いや、もう震え続ける。そして瞳の中が怖い。

怒りや戸惑いに恐れに絶望、思いつく限りの負の感情が入り交じってマーブル色になっている。



「俺も見ていて微笑ましい印象を受けます」

「微笑ましくないよっ!!」



ユーノ先生がそんな感情を剥き出しに叫ぶと・・・・・・床に伏せて泣き出した。

それにガーディアンは、全員戸惑いを隠し切れない。



「どうして・・・・・・どうしてなんだっ!? どうして僕の気持ちが伝わらないで・・・・・・・なのは・・・・・・なのはぁっ!!
なのはなのはなのはなのはなのはなのはなのはなのはなのはなのはなのはなのはなのはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「・・・・・・ねね、恭文。この人どうしちゃったの? なんで泣き出してるの?
なんでなのはさんの名前を連呼してるの?」



ややが小声で僕に聞いてきた。多分それは、ガーディアン全員の疑問。

あとはディードとリースもかな。疑問を浮かべた表情で、泣き出しているユーノを見る。



「やや、人間は辛い時や悲しい時は泣きたくなるものなの。
ややだってイクスがお休みした時は泣いたでしょ? それと同じだよ」

「それはまぁ分かるけど・・・・・・でも、やや達にはこの人が泣いてる原因がさっぱりだし、ちょっと怖いよ」

「確かにそうだね。フェイトさん達の幼馴染に対して失礼ではあるけど、僕も・・・・・・ちょっと」

「行動が怪し過ぎだしな。というより、大の男が情けない」



キセキが呆れたようにそう言うのもまぁまぁ分かる。でも唯世、多分それ唯世が言う権利ないって。

だって唯世はヤンデレコンビの一人じゃないのさ。ぶっちぎりで行動・・・・・・アレ?



「・・・・・・・・・・・・ごめんなさい」

「海里、お主・・・・・・まぁ、仕方なかろう」

「そうですね、仕方ありません。あなたも同類と言えば同類ですから」

「三条、お前マジでどうした? てゆうか、お前まで落ち込むなよ。俺マジ意味分からねぇし」



隅で海里が落ち込んで、ディードとムサシに慰められてる。アレ、どうしたんだろ。

僕達特に海里に対しては何も言ってないよね? だから空海だって疑問を顔に浮かべてるし。



「ヤスフミ、これどうしよう。というか、原因って分からない? ちなみに私はさっぱり」

「いや、それは僕も同・・・・・・あ」



・・・・・・脳内検索を始めよう。キーワードは『高町なのは・藤咲なぎひこ・レイオさんから聞いた噂』。

それによって、すぐに答えは出てきた。だから僕は少し背筋が寒くなった感じがした。



「恭文?」

「・・・・・・やや、原因分かったわ」



そしてそれは、空海とあむも同じらしい。だから顔を見合わせて、困った表情になるのよ。

前にユーノ先生の事を話したしねぇ。改めて考えて『まさか』となったんでしょ。



「ホントに?」

「うん」



分かったので、早速僕は困惑顔のフェイトに念話を繋ぐ。



”フェイト、原因は多分・・・・・・あの噂じゃないかな”

”噂? ・・・・・・あ、なのはが同棲してるって言うアレっ!?”

”うん、アレ”





つい昨日の事、レイオさんから『高町なのはは藤咲なぎひこという男と同棲を始めた』という噂が流れていると教えられた。

もしもユーノ先生がその噂を知っていたとしたら? そしてそれは、決してありえないことじゃない。

まずユーノ先生の勤務地は、なのはと同じ本局。部署こそ違えど、そこは変わりない。だから伝わっても変ではないのよ。



いや、広まらない要素が無いように感じる。まずなのはは有名なエース・オブ・エース。

そんなのの彼氏なのよ? そんなのが同棲よ? スキャンダルとまでいかなくても、噂するなら充分過ぎるネタでしょ。

特にユーノ先生はなのはに12年片想いだし、そんな時にこの話を知ったらどうなる?



まぁ、結論は言う必要ないよね。ぶっちゃけ・・・・・・こうなっても不思議はない。



僕だってさすがに泣くと思う。というか、むしろ『泣かせてください、お願いします』って土下座すると思うよ。





「あぁ、ユーノ君落ち着いて? 仕方ないよ。なぎひこさんはママと共通項も多いから、距離が縮みやすかったし」

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「こらー! ヴィヴィオもとどめを刺すなー!! この場で自害しそうな材料は与えなくていいのよっ!?」

「それで生まれ変わったつもりでママにアタックすれば、勝てるんじゃないかな」

「むしろ殺す気満々っ!? おいおい、誰ですかっ! この子をこんな外道に仕立て上げたのっ!!」



なお、僕ではないのであしからず。



「あー、恭文ひどいよー。・・・・・・ヴィヴィオをリインさんと同じように恭文色に染めたくせに、言い逃れするんだ」

「恐ろしい事言うのやめてっ!? 僕そんな事した覚えないしっ! てゆうか、とりあえず黙れっ!!
・・・・・・ユーノ先生落ち着いてくださいっ! 説明しますっ!! ちゃんと全部説明しますからー!!」

「やめてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ! 僕は、僕はもう何も知りたくなんてないっ!!
何も知りたくないんだっ! 検索なんてしたくないんだっ!! 僕はこのまま消え去りたいんだー!!」



なんか自分の職業そのものから否定をかまそうとしてきてるっ!? ちょっとちょっと、そこまでですかっ!!



「でもユーノ君、そんな事してる間になのはママはなぎひこさんと」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「だからヴィヴィオはちょっと黙っててっ!? もう全然話進まないからっ!!
ユーノ、お願いだから落ち着いてっ! ちゃんと説明するからっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



僕とフェイトは、ユーン先生は多分決定的な事を知らないと考えた。なので、そこについて僕とフェイトでじっくり説明した。





なお、証言者はあむ達だね。そしてユーノ先生はようやく理解してくれた。





ユーノ先生が気にしている『藤咲なぎひこ』という人物が、現在12歳の男の子だという事を。










「・・・・・・いやぁ、そうだったんだ。そっかそっか、恭文君と君達の同級生だったんだね。
ごめんごめん、僕は知らなかったからすっかり取り乱しちゃったよ。あはははははは」

「そ、そうですかぁ。それはなんというか・・・・・・よかったですねぇ」



さっきまでの表情とは打って変わって、明るい笑顔を浮かべているユーノ先生を見て、あむが軽く引いている。

そりゃそうでしょ。死んだ魚の目が、いきなり活き活きとした鮮魚の目になったんだから。いくらなんでも落差が激し過ぎる。




「でも、それなら問題ないよね。うんうん、相手はまだ子どもなんだし大丈夫だよね。あははははははははは」

「でもユーノ君、なぎひこさんとなのはママは仲良しだよ?」

「こらこらヴィヴィオ、大人をからかっちゃいけないよ? 全く、悪い子だなぁ。
12歳の子に僕達くらいの年齢の大人が本気になるわけがないじゃないか」



うわ、もう調子ぶっこいてるし。すっごい調子こいて鼻が天狗になってるし。大人ってバカだね。



「あの、ユーノ? 一概にはそうも言えないんじゃないかな。だってあの・・・・・・ヤスフミ」





フェイトが、どこか申し訳なさげに僕を見る。なお、僕は苦笑いしか返せない。

僕・・・・・・なぎひこと同い年くらいに、大人の女の人と仲良くもなってるしね。

フィアッセさんとか、知佳さんとかゆうひさんとか、美由希さんもそれに入るんだよね。



あとはロッテさんに那美さんに弓華さんに・・・・・・とまぁ、我ならアレだと思うけどさ。



とにかく、12歳でも婚約者作れるくらいにはフラグ立てる力はあると思うの。





「フェイト、何を言ってるのさ。恭文君みたいな常識無視のフラグメイカーがこれ以上居るわけがないって」

「アンタうっさいよっ!? てゆうか、僕の事をなんだと思ってたのさっ!!」

「とにかく、これで安心だね。みんな、お騒がせしちゃってごめんね。
いや、よかったよかった。あははははははははは」



そしてユーノ先生は立ち上がって、笑顔のまま帰ろうとする。・・・・・・よっぽど嬉しかったらしい。

まぁいいや。よくよく考えたら引き止める理由が無いような気もするし、これでいいか。あー、やっと静かに。



「・・・・・・甘いわね」



なるかと思ったら、そうは問屋が卸さなかった。どうやら今日は、とことんユーノ先生に関わる日らしい。



「そうだね、甘々だよ」



ユーノ先生を一刀両断したのは、りまとやや。それによりユーノ先生の笑いが止まった。



「あなた、なのはさんの事が好きなんでしょうけど」

「ど、どうしてそれをっ!? あ、まさか・・・・・・恭文君、フェイトっ!!」

「ちょっと待ってっ! 私達は喋ってないよっ!!」



あむと空海以外にはね。



「そうですよっ! てゆうか、ややだって気づいたしっ!!」



二人以外には喋ってないよ? だから、嘘は言ってない。



「というかバレバレですよっ!? もうめっちゃバレバレですからっ!!」

「あの、あむちゃん? 大人をからかうもんじゃ」

「だから、からかってないですってっ! てゆうか、さっきも見てて気づかないのなんて居ないしっ!!」

「・・・・・・嘘ぉっ!!」

「嘘じゃないですからっ!!」



今までのやり取りを見てて、そこに行き当たらないのが居るとしたら、ソイツは相当に鈍い奴だと思う。



「え、そうなのっ!? スクライア司書長が高町さんを・・・・・・えぇっ!!」

「唯世くんっ!?」

「唯世、お前気づいてなかったのかっ! ・・・・・・嘆かわしいっ!! 僕はとても嘆かわしいぞっ!!」



おいおい、うちの王様気づいてなかったよっ! すっごい『驚きました』って顔で叫んじゃったよっ!!



「コレは・・・・・・驚きです。いや、幼馴染から恋愛感情に発展するケースはかなりのものですが」

「海里・・・・・・あなたまで気づいてなかったの?」

「あぁ、拙者はどうツッコめば。いや、むしろ関わりたくないのだが」



アレなのかな、男の子って恋愛関係に鈍い傾向があるのかな。もしくはヤンデレだからコレ?

まぁいいや。二人の事はキセキとムサシに任せよう。とにかく僕はユーノ先生だよ。



「ねぇ、君。あの子達は気づいてなかったみたいだけど」

「唯世といいんちょは例外だから気にしなくていいです。
とにかく、ハッキリ言えば今なのはさんの気持ちはなぎーに向いてます」

「え? いやいや、そんなわけないよね。だってその子は12歳で」

「・・・・・・実は昨日、ややがなのはさんとお風呂に入ってた時に・・・・・・なのはさんはこんな事を言ってたんだ」

「はい?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・なのはさん」

「ん、なにかな」



ややは少し気になっていた事があるので、一緒にお風呂タイムを狙ってちょっと聞いてみる事にした。それは、なぎーの事。



「なのはさんって、なぎーの事好きなんですか?」

「え? えっと・・・・・・どうしたの?」



なのはさんは、身体を洗いながらも浴槽に入ったややの方を見る。

なのはさんはママよりもスタイルがよくて・・・・・・すっごく綺麗な身体。うーん、ややもこうなりたい。



「だって、すっごく仲良しになったから。今日も一緒に写真撮ってたし、明日もおでかけだって言うし」

「あ、それでか。うーん、そうだなぁ」



なのはさんは、スポンジで二の腕を洗いながら少し考えこむような顔になった。でも、どこか嬉しそうにも見える。



「うん、そうだね。私はなぎひこ君の事、好きなんだと思う」

「あ、やっぱりー。えっとえっと、それって・・・・・・恋、ですか?」

「うーん、ちょっと分からないかな。ほら、年齢差もあるしね」



まぁ、そうだよねー。10歳差・・・・・・いや、油断は出来ないなぁ。



「でもでも、恭文と仲良しなフィアッセさんとかはどうなるんですか?」

「・・・・・・あー、聞いてるんだ」

「はい。前にコンサートで会わせてもらった事があって」



まだやや達が魔法の事とか、次元世界の事を知らなかった時だね。それで、またあれからちょっと教えてもらったんだー。

恭文とフィアッセさんは本当に仲良しらしくて、フェイトさんもエッチな事やキスなんかは除く事を条件に公認浮気を認めてるーって。



「あれはその・・・・・・ほら、恭文くんマジック? 普通はそこまで出来ないよ」

「まぁそうですよねー。なら、なのはさんも同じですか?」

「うーん、どうなんだろう。だけど、友達や家族に向ける好きとは違う形だと思ってるんだ。
・・・・・・でも、もし今感じてる気持ちが『恋』なら・・・・・・そうだね、私はなぎひこ君に恋してるんだね」



少し冗談めいた風に笑いながらもややの方を見て、なのはさんはそう言った。



「ラブラブですか?」

「うーん、ラブラブになるかも知れないね。もちろんなぎひこ君の気持ち次第だけど」



それを見てややはこう、ゴシップ好きが騒ぐわけですよー。ちょっとツツきたくなるのー。



「おー、それはそれは・・・・・・大胆発言ですねー。ひゅーひゅー」

「こら、大人をからかわないの。・・・・・・なーんてね。まぁ、これからじっくりかな。
もし例えなぎひこ君への気持ちが『恋』じゃなかったとしても、ずっと仲良しでいたいかなとは思うんだ」

「なのはさん、それ・・・・・・やっぱり好きって事じゃ」

「うん、だからじっくり。じっくり私なりにこの気持ちと向き合って、いつかちゃんと答えを出したいなって」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・・・・・・・というワケなの。少なくともちょっといいなぁーって言う風には思ってるのは確定だよ。
それになにより、なぎーは女の子の扱い上手だもん。だからそんな風に油断してると・・・・・・アレ?」



ややが言葉を止めて、部屋の隅っこを見る。さっきまで笑っていたユーノ先生は・・・・・・そこで崩れ落ちていた。

もう腐臭が漂って来そうな疲れ切った顔と目をして、アレを死体だと言われたらその通りだと認めるしかない程だった。



「12歳の子に・・・・・・負け、負け・・・・・・あはははは。
・・・・・・あはははははははははははははははははっ!!」

「ひ・・・・・・や、恭文っ! フェイトさんもなんとかしてっ!?
いや、仕方ないとは言えこの人マジ怖いしっ! 普通にあたし怖いからー!!」

「なんとかしろって言われても・・・・・・ヤスフミ、どうしよ」

「とりあえず、クレイモアで黙らせちゃおうか」

「それは絶対だめだよっ!!」










だったらもうお帰り願うしかないと思ったのは、決して罪じゃない。





だって、僕達にはどうしようもないよ? でも・・・・・・うーん、放置も違うよなぁ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



さて、俺らは戦技披露会も終わってようやく解放された。ただ、仕事からは解放されない。

当然の事ながら、俺らの仕事はちゃーんとあるわけだよ。なので、今日ものんきに勤務。

・・・・・・そのはずだったんだが、少し事情が変わった。それは、マリーちゃんからの呼び出し。





やっさんから預かった金属の事で、少し相談があると言われた。





だからこそ俺とヒロは、本局のマリーちゃんのラボでその金属を見ているわけだ。










「・・・・・・で、これがヘイハチ先生がどっかから入手して送ってきたものと」

「はい」



ヒロが画面に広がるデータと、検査ポッドの中に入れられているあのクリアカラーの金属を見比べる。

なお、表情はとても楽しげだ。今の俺と同様にな。ただ、マリーちゃんは少し困惑気味。



「まぁ精製方法とサンプルを寄越してきたという事は、当然ですけどこれを作れという事だと思うんです」

「そうだろうね。じゃなきゃ、送ってくる理由が分からないだろ。・・・・・・難しそうか?」

「私だけだとかなり。既存の金属とはかなり性質が違いますから、設備から用意しないと。
・・・・・・これ、もしかしたら恭文くんのブレイクハウトで構築した方が早いかも知れません」





やっさんのブレイクハウトという魔法は、物質変換というどこぞの鋼の張りの事が出来る。



もちろんやっさんの魔力という限界地点はあるが、逆を言えばそれや術式的なルールさえ守れば大抵の事は出来る。



だからマリーちゃんも、少し困った顔でこんな事を言うわけだよ。





≪いや、それ無理だろ。ボーイの魔力だけでこんなの精製出来ねぇよ≫

≪やるなら魔力ジェネレーターからのサポート供給を受けるかしないと、だめではないかと思いますが≫

「うん、それはね」





魔導師のスキルの中には、強力なエネルギー源の外部供給を受けて魔法を行使するものもある。

例えば局が保有する次元航行艦、例えば強力なジェネレーター、そういうものから一人の魔導師に向かって見えないパイプを繋ぐ。

そのパイプを通して、対象の魔力を一時的にだが上昇させようという技術だ。これは結構昔からある技術でな。



JS事件でスカリエッティが持ち出したゆりかご。アレにもそういう機能があるんだよ。

その内部で高町教導官と戦わせられたヴィヴィオちゃんにも、同じ事がされている。

精製の際に例えやっさんの魔力が足りなかったとしても、同じ方式なら出来る可能性はあるんだよ。



いや、もしかしたら先生の事だ。やっさんにそれをやれって言ってるのかも知れない。

そのために金属の開発元に関しては一切記入せずに、ヒントと正解のものだけを送ってきたとしたら?

つまり、これはやっさんに対しての試練だ。やっさんが自分でこれを手にしなきゃいけない。



・・・・・・はず。ごめん、俺今かなり適当にもの言ったわ。正直自信が持てない。





「でも、これはアレだね。アメイジア、アンタもパワーアップ出来るよ」

「確かにな。金剛、喜べ。お前は更に上に行けるぞ」

「えぇ、確かに・・・・・・えっ!? ま、まさかお二人ともこの金属使うつもりなんですかっ!!」

「「そうだけど、何か問題ある?」」

「大ありですよっ! これ、恭文くんへの誕生日プレゼントなのにっ!!」



もちろんやっさんの許可をもらった上でなのは、言うまでもない。ただ、きっとやっさんは許可をくれるだろう。

ほら、弟子仲間としてな? 色々と幸せを分かち合う事は必要じゃないか。



「大丈夫だって。ちゃんとやっさんに話して許可をもらった上でやるから」

「・・・・・・まぁ、それならいいんですけど」



これで納得してくれるマリーちゃんが、そうとうお人好しなように思えてしまうのはどうしてだろうか。

きっと俺らのあれこれに散々付き合ってるせいで、感覚が多少鈍ってるせいだと思おうか。



「でさ、実は名前も考えてるのよ」

「あ、俺もだな」

≪・・・・・・姉御、サリ、取らぬ狸の皮算用って知ってるか?≫

「「知ってるけど何か?」」



でも、時としてそういうのが大事なんだよ。モチベーションがそれで上がったりもするしな。

というわけで、俺とヒロは顔を見合わせて・・・・・・それぞれの考えている名前を言うわけだよ。



「アメイジア、アンタはパワーアップしたら『アメイジア・ドラゴニックシャイニング』だよ」

「金剛、お前は改修したら『超神・金剛』だ」



俺とヒロがそう言った瞬間、場の空気が固まった。そして数秒押し黙る。

押し黙って・・・・・・俺らは互いの顔を見合わせながら、叫んだ。



「ヒロ、なんだそのネーミングっ! お前どんだけ厨二病なんだよっ!!」

「うっさいよっ! アンタこそそのあからさまな主人公願望はいい加減直さないっ!?
てゆうか、厨二病はアンタでしょうがっ! この万年厨二がっ!!」

「やかましいっ! てーかふざけんなっ!! いいか、男は永遠の厨二病なんだよっ!!
生まれて産声上げてから最期の時まで厨二病患者なんだよっ! だから俺はいいんだよっ!!」



ほら、やっさんとか見てみろって。あのハーレムこそ厨二病の証だよ。



「いいわけあるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



そして俺らは次の瞬間、互いの両手を掴んで軽く取っ組み合いを始めた。

・・・・・・え、女をいじめたらだめ? 何をおっしゃるうさぎさん、俺はコイツを女として意識した事は一度もない。



「あ、あの・・・・・・ラボの中で取っ組み合いするのはやめてくださいっ! 機材壊れますからっ!!」

≪・・・・・・なぁ、名前は俺らで考えねぇか? もしくはマジックガールのしゅごキャラの青いのとかによ≫

≪そうだな。ミキ女史はとてもいいセンスをしているようだし、その方が早いか≫

「金剛もアメイジアも何の話してるのっ!? というか、二人を止めてー!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「と、言うわけでー」

「恭文とフェイトさんは結局放置出来ず、現在絶賛ユーノさんと会議中」

「そこにあむちゃん達も加わっているのは・・・・・・どうしてでしょうねぇ」

「同情してると見ていいですね。みなさん、お兄様のお話を聞いて涙ぐんでいましたから」

「そうでちよね。ペペも話聞いてて涙ボロボロだったでち」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・まぁ、アレっすよ。ユーノさん、それならどっちにしろ告白ですって」

「でも空海、前にその・・・・・・ほら。フェイトさん達が。あたし達ちょっと聞いてるじゃん」

「あぁ、そういやそうだったな。これまでに色々手助けしてるんだよな」



で、その結果が12年スルーだしなぁ。その結果が、この項垂れたお兄さんだからなぁ。



≪正直に言っていいですか? 私達ももうどうしようもないんですよ≫

「それはまぁ・・・・・・ボクも見てて分かるけど」

「ちょっと救いようがないよねー」

「ラン、ミキ、ダメですよぉ。いくらユーノさんに聞こえないからって、そんな事言ったら」



言うならユーノ先生(今年で22歳)は、これまでの半生をスルーという拷問の中で生きてるわけだよ。

それは僕ですら到達し得なかった、悪夢という名の絶対領域。それの打破は決して簡単じゃない。



「あー、はいはいっ! ややいい事思いついちゃったっ!!
もう綺麗な夜景の見えるレストランで、ムードたっぷりで告白っ!!」

「ありきたりね」



りまが一刀両断すると、ややが軽く固まった。まぁ・・・・・・確かにありきたりなんだよね。



「でも・・・・・・悪くはないんじゃないかしら。ありきたりだからこそ、伝わりやすいわ。
大体大人なんだし、そういうムードでも伝えればさすがに気づくでしょ」

「でしょでしょー? ということでユーノさん、早速やってみよー」



ややが笑顔でそう言うと、ユーノ先生は疲れたようにため息を吐いた。

というか、僕とフェイトもリインも『思い出して』目元を押さえてユーノ先生から目を逸らした。



「ごめん。それ、もうやった」

「「・・・・・・え?」」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「なのは・・・・・・好きだ」





僕はそっと、向かい側の席に座るなのはの左手を取って、そう言った。

大丈夫、シチュは完璧だ。はやてのアイディア通りにやってる。

綺麗な夜景におしゃれなお食事所。そして・・・・・・そっと傍らに置いてあるカードキー。



『これで気づかない女の子は居ない』って断言されたくらいだし、絶対なんとかなる。





「うん、私も好きだよ」



うっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!



「というか、ユーノ君どうしたの? 私達お友達なんだし、そんなの当たり前だよ」

「・・・・・・え?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・ここまであからさまにやっておいて分からないって、なのはさんどんだけよ」

「りまー、クスクスなんだか涙出てきたー。シクシクシクシクー」

「むしろ悪意が見えるでち。ペペにはなのはさんから悪意を感じたでちよ」



りまとクスクスとペペが回想を見て、呆れてしまうのも無理はない。

僕も話を聞いた当初は、本気であの女バカだと思ったし。



「ならなら、唐突にハグして告白っ! それで耳元で『・・・・・・好きだ』ってささやくのっ!」

「いやいや。ちょっとやや、さすがにそれは」

「ごめん。それも、もうやった」

「「はぁっ!?」」










あむとややが驚きの声を上げるけど、ここは事実。なお、エイミィさんのアドバイス。





あれだよ、逃げ場なくそうとしたんだね。分かりますよ、僕も同じ事したから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「なのは・・・・・・好きだ」





僕はそっと、腕の中のなのはの耳に息を吹きかけるようにしてささやく。

大丈夫、シチュは完璧だ。エイミィさんのアイディア通りにやってる。

雪の降る夜、人気のない場所。そしてこの日の為に練習した、完璧なウィスパーボイス。



『これで気づかない女の子は居ない』って断言されたくらいだし、絶対なんとかなる。





「うん、私も好きだよ」



うっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!



「でもあの、ユーノ君・・・・・・耳くすぐったいから、それだめ。というか、ちょっとおかしいよ?」

「え?」

「というか、風邪引いちゃったの? だからそんな鼻声になってるとか。あ、だったらすぐに戻らないと」

「・・・・・・え?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・・・・・・・恭文、なんか俺涙出てきたんだけど。てゆうか、泣いていいか?」

「なんだよこれ、なんの拷問だ? なぁ、俺達に対して拷問してるのか、これ」

「空海、ダイチ、泣いていいよ。大丈夫、僕もフェイトも話聞いて泣いたから」

「そっか、泣くよな。これで泣かない奴は居ないよな」



そして二人は号泣。ただ、泣き出したのは二人だけじゃない。

その隣の海里とムサシもメガネを外して、ハンカチで目元を拭ってる。・・・・・・ですよねー。



「な・・・・・・ならなら、巨大電光掲示板で告白っ! それで『好きですー』ってみんなの前で伝えるのっ!!」

「結木さん、もうそれは告白じゃなくて何か別のものになってないかなっ!?」

「そうですっ! エース、もしかしなくても少しヤケになっておられるのではっ!!」

「だってだって・・・・・・それじゃあどうすればいいのかなっ!!
夜景を見ながらお食事も、抱きついて『好き』もだめなんだよっ!?」



ややが涙目になってるのも分かるのよ。だって、告白の常套手段の大半がパーになってるのよ?

言うなら詰め手を全て封じられた上で、将棋してるのと同じよ? もうどうしようもないって。



「ごめん。それも・・・・・・・・・・・・やった」

『・・・・・・はぁっ!?』










なお、僕のアドバイス。もうそこまで来たら大々的に証人作るのも込みでやるしかないと。





冗談のつもりだったけど、本気でやったのよ。ちなみに決行日は、なのはの誕生日。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「なのは、アレを見てっ!!」

「え?」



駅前の電光掲示板・・・・・・まぁ、なのはは色々な意味で有名人だから、イニシャルにした。そこにはこう書かれている。



『N・Tさんへ。・・・・・・誕生日、おめでとう。それと・・・・・・ずっと好きでしたっ!!』





僕は横目で、ビックリしているなのはの方を見る。なのはは瞳を潤ませて僕の方を見た。

大丈夫、シチュは完璧だ。恭文君のアイディア通りにやってる。

電光掲示板に映るのは、文字以外にはピンク色の背景に描かれたI LOVE YOUの文字。



『これで気づかない女の子は居ない』って断言されたくらいだし、絶対なんとかなる。





「ユーノ君、ダメだよっ!!」



うっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! ・・・・・・え、ダメ?



「その、誕生日をお祝いしてくれるのは嬉しいよっ!? でも、こういうのはだめっ!!
だって電光掲示板って、レンタルするの凄いお金かかるんだよねっ! 無駄遣いしちゃだめだよっ!!」

「え?」

「あのね、私はただユーノ君に『おめでとう』って言ってくれるだけで嬉しいよ? うん、それだけで充分なんだから。
だってユーノ君は大事なお友達で、これまでもずっと支えてくれてた。だから、こんな事しなくても大丈夫だよ」

「・・・・・・え?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・ぐす」

「ユーノさん、泣かないでよ。まるで私達が悪いみたいじゃないの。・・・・・・でも、どうしよう。
恭文、フェイトさん、なのはさんってそこまで鈍いの? ありえない、これはありえないわよ」



もうガーディアンメンバーは、何も言えなくなってしまった。だから僕とフェイトの方を困ったように見る。

でも、そこは僕達も同じだって。もうここまで来ちゃったら、本気でどうしようもないんだから。



「恭文君・・・・・・フェイト、リイン」

「まぁその・・・・・・ねぇ? ユーノ先生、だから僕は前に言ったじゃないですか。
スーパーユーノ人になるしかないって。イメチェンするしかないって」

「そうだよ。それなのにずーっと仕事や発掘ばかりしてるから、こうなるんだよ? もうさすがに私達も打つ手がないよ」

「ユーノさん、ごめんなさいなのです。リインももう何も思いつかないのですよ」



別に意地悪のために言ってるわけじゃない。ご覧の通り、もう手は出し尽くしちゃってるのよ。

あとはリアルに押し倒して、はやてとヴェロッサさん方式でなし崩しーとかしかないのよ。



「というか、それはまぁ・・・・・・当然だけどやや達もだよ」

「だな。そこまでやってコレとなると・・・・・・あと考えられるのはアレだな」

「空海、アレってなにかな?」



あむの言葉には答えずに、空海が僕とフェイトの方を見る。なお、視線がさっきより更に困った感じになってた。

・・・・・・なるほど、言いたい事は分かった。まぁまぁ分かったよ。



「なのは・・・・・・もしかしたら意図的にスルーしてるかも知れないね」



その言葉に、ユーノ先生が崩れ落ちてまた泣き出してしまう。でも、ここは放置。

構ってると話が進まないし、なにより・・・・・・ねぇ?



「なのはが自分で意識してるかしてないかは別として、ここまで来るとそうとしか考えられないよ」

「あー、なるほど。そういう事ですか。・・・・・・てゆうか、普通気づきません?
特にウィスパーボイスの辺りで。あたしだったら遅くてもそこで気づきますって」

「そうだね。僕がもし高町さんの立場でも、ここまでされたらさすがに気づくよ」



その瞬間、ユーノ先生以外の全員の視線が厳しくなる。そしてそのまま唯世を見る。



「え、えっとあの・・・・・・どうしたのかなっ!? というかみんな、ちょっと怖いよっ!!」

「唯世、とりあえず反省した方がいいと思うな。うん、ややはその方がいいと思うよ」

「同感ね。唯世、とりあえず黙ってて。あなたになのはさんの事をどうこう言う資格はないわ」

「唯世君、あなたはなのはの事を言う前に、自分の事をしっかり鑑みた方がいいと思う。
じゃないと・・・・・・絶対後悔するよ? 私、あなたと同じ感じだったからこれだけは言い切れる」

「どうしてー!? というか、フェイトさんまでどうしたんですかっ! ちょっと怖いですからっ!!」



フェイトの言うように、この子は我が身を振り返る事から始めた方がいいと思う。てゆうか、アレだね。

キャラチェンジで告白断ったり、あむのアレコレに一切気づいてないとかはおかしいって。



「怖くもなるよ。私も・・・・・・そうだったんだ」

「え?」



フェイトが、左隣の僕の方を見て・・・・・・少し悲しげな瞳をする。



「私、ずっと前からヤスフミの気持ちに気づいてた。その上でスルーしてたの」

「気づいてたって・・・・・・あの、蒼凪君が好きだったというのにですよね」

「うん。それでその・・・・・・私も、ヤスフミの事が好きだった。きっと私達、ずっと両想いだった」

『えぇっ!?』



みんなはビックリしてるけど、僕はそうでもない。というか、ちょっと前からそういう話されてるの。



「でも一歩踏み出す勇気が出せなくて、今の関係が壊れるのが嫌で・・・・・・逃げてた」



『もしかしたらそうだったかも』と言うレベルだけど、フェイトはそう思ってるみたい。



「自分の意識しないところで、『家族で友達で仲間でいい。恋人じゃなくていい。ただ側に居られればいい』って逃げてたんだ。
変わる事が、自分から何かを変えちゃう事が怖くて、ずっとヤスフミの事傷つけて逃げてた。・・・・・・気づいた時、凄く後悔したよ」

「もしかしたら、なのはさんも同じと。ならあの・・・・・・フェイトさん」

「うん」

「それってなのはさんがユーノさんの事、好きって事ですか?」



あむがそう言った瞬間、泣いていたユーノの声が止まった。そして一気に顔を上げる。

瞳こそ赤くなってるけど、表情は子どもみたいに嬉しそうな顔になってた。



「それは分からないよ?」



そしてまた崩れ落ちて、泣き始めた。・・・・・・忙しい人だよ。



「重要なのは、一つだけ。なのはがユーノとの関係が壊れたりするのを、怖がってるかも知れないという事だね」

「だから無意識にスルーしてると。確かにこの場合、男女の関係って壊れやすいものね」

「うんうん、ややも分かるよ。こう、ぎこちなくなっちゃう事が多いんだよね。
それでもう、友達でも居られなくなっちゃったりするの」

「特に男の子の方がしつこい場合が多いって、はやてちゃんから聞いた事があるです。
えっと、女の子は恋愛を上書き保存だけど、男の子はフォルダ毎に分けて保存するせいとか」





つまりよ、女の子はダメなものはダメってドライに判断するわけですよ。

だから失恋しても、別に好きな人が出来たら昔の恋愛なんて基本『何それ? おいしいの?』状態になる。

でも、男はそうじゃない。何年何月何日に好きになって、告白して・・・・・・結果がどうなったかまで記録する。



あのね、そこは僕もよく分かる。僕も・・・・・・似たようなもんだしさぁ。あんまり言えないのよ。





「つまり、ユーノさんはなのはさんから暗に『ずっとお友達で居ましょうね』と言われ続けてるんだね。それも12年間」



あむが空気を読まずにそんな事を言った。だから、ユーノ先生の頭に強烈な何かが突き刺さる。



「あの、泣かないでもらえます? ここから重要なんだから。
普通なら『諦めましょう』と私も言うところだけど・・・・・・フェイトさんのような例もあるし」



りまがフェイトを見ながらそう言った。それでユーノ先生が、頭から血など流しつつも顔を上げる。



「どっちにしても、なのはさんにもう一度ちゃんと気持ちを伝えた方がいいわよ」

「ユーノ、私も同感。今のままは絶対によくないよ。ユーノの気持ちもあるけど、なのはの気持ちもある。
親友としては、もしもなのはが私と同じような感じだったらと思うと・・・・・・ちょっと見過ごせない」

「いい機会だし、この関係にケリをつけないと。お互いのためにもね。
じゃないと、このまま『なのはさん×なぎひこ』エンディングに突入するわ」



つまり、なのはがユーノ先生に恋愛感情を抱いていて、それによる関係悪化を避けるためにスルーしてる可能性もある。

それならなのはの逃げ道を塞いで自覚してもらえれば、一気に話が進む。あ、もちろんそうじゃない可能性もあるので、あしからず。



「まぁ、私的にはそっちの方がいいんだけど。・・・・・・あむにちょっかい出される心配がなくなるし」

「そうそうりま的には・・・・・・はぁっ!? ちょっと待ってっ! なんでそこであたしの名前出るのかなっ!!」

「そういうわけだからユーノさん、もうこのままでいいんじゃないかしら。
というか、何もしないで振られて。そして新しい恋を探して。主にあむと私の友情のために」

「・・・・・・・・・・・・いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「りま、ちょっと落ち着こうかっ! それは真面目に最低だよっ!?
てゆうか、なんでそんな怖い目してるのっ! 僕は本当にワケ分からないしっ!!」





いや、原因なら分かる。なぎひこがなのはと仲良くなってると、りまはあむを取られたりしないで済むからだよ。

まぁ確かに・・・・・・未だに距離感変わらずだしなぁ。ただ、りまもこの後すぐに苦笑いしながら『冗談』と言った。

ただ、あの時のりまの目がそうは思えないものだったのは、言うまでもないだろう。



とにかくユーノ先生は、一縷の望みをかけてもう一度なのはに告白するという事で話が纏まった。

纏まった・・・・・・ところまではよかった。でも、事件はここから起こってしまう。

というか、僕達はまだ気づいていなかった。この案件には、どうしても解決しなければならない問題があるのを。





≪・・・・・・いや、あなた達そうは言いますけど、どうやってあのボケ魔王にそこの辺り気づかせるんですか≫

≪そうなの。集団でお母さんに答えを迫るのは当然アウトだし、普通の告白も大半がダメ。これじゃあどうしようもないの≫

『・・・・・・・・・・・・あ』










どこか・・・・・・どこか遠くで、『アホーアホー』と鳴くカラスの声が聴こえた。





そして僕達は、全員声を揃えて非常に困った感情を叫びに乗せて吐き出す事しか出来なかった。・・・・・・真面目にどうしよう。




















(第73話へ続く)




















おまけ:本当だったら書くはずだったけど、カットしたあのシーン




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



戦技披露会の打ち上げ会場から、私は一人抜けだした。理由? まぁ・・・・・・化粧直しよ。

てゆうか、そんなの聞かないで欲しいわ。とりあえずトイレの場所は教えてもらってるので、大丈夫。

エルとイルも居るし、コレで何とか・・・・・・と思ったら、後ろに妙な気配を感じた。





私が振り返ると、そこには誰も居ない。そして正面を見て、びっくりした。





身長は170もある青い髪のガタイのいい女の人が目の前に居たんだから。










「・・・・・・何よ」



その人は何も言わない。なお、私も逃げるような事はしない。てゆうか、さっき会場の中で見かけたもの。

あむ達曰く、恭文やフェイトさんの顔見知りらしい。フェイトさんとも親しげに話してたから、悪い人でないことは分かる。



「そうだそうだー! お前、歌唄になんの用だー!?」

「・・・・・・ま、まさかいわゆる一つの果し合いなのですかっ!? こらー! いきなり過ぎにも程があるですよー!!」



イル、エル、言っても無駄だから。この人、アンタ達の事見えてないんだし。

しかし・・・・・・めんどいわね。視線がどこか泳いでるし、脂汗も出まくってるし。



「あの、用がないならどいてもらえる? 私これからお化粧直しなんだけど」

「・・・・・・サ」



その人の唇が動いた。だけど、震えに震えまくっていて、声も掠れて・・・・・・視線が更に激しく泳ぐ。

顔は真っ赤で脂汗は滝のように出まくってるし、これはどういう事? てゆうか、さすがに怖いんですけど。



「なによ、ハッキリ言いたい事があるなら言いなさい。
別に女同士なんだし、遠慮する必要もないわよ。・・・・・・ほらっ!!」



少しイライラして、強めに言う。するとその人は頭を下げて、あるものを私に差し出した。



「サインをくれっ! ・・・・・・じゃないっ!! くださいっ!!」

『・・・・・・・・・・・・え?』










とりあえず、話を聞いた。恭文の義妹のディードさん経由で私の歌を聴いて、すっかりハマっているという事。

ようするに、私のファンなの。その人、今までは歌とかそういうのバカにしてきたけど、私の歌はすごく心に響いたとか。

それで少し拍子抜けしつつもサインをして、その人はそのまま会場に戻った。私は・・・・・・クスリと笑った。





別にバカにしてるとかじゃなくて、私より身長の大きいあの人が凄く可愛い人に見えたから。

あとはまぁ・・・・・・嬉しかったからかな。色々ヘコむ事もあったから、余計に。

歌に世界も、国境なんて関係ない。私が本気でうたえば、それは誰の心にも響いて届けられる。





それを実感出来て・・・・・・私は、お化粧直しも力いっぱい頑張って、会場に戻ってフェイトさんと一緒に恭文の隣を占領した。





明日にはもう帰っちゃうもの。だから今の内に、私の温もりを、私という歌を・・・・・・アイツに刻むんだから。




















(本当に続く)




















あとがき



恭文「というわけで、戦技披露会も終わってここからはサザエさん空間突入です。
そんな時間の始まりである第72話、いかがだったでしょうか。本日のお相手は蒼凪恭文と」

りま「真城りまです。・・・・・・てゆうか、アレよね。この話ひどいわよね」

恭文「りま、いきなりなにさ」

りま「だって、アレは余りにも不憫よ。どうしてああなるわけ?」

恭文「僕より不憫にした結果、こうなってしまったの」





(ネタはすぐに上がりました。それはもう完璧に)





りま「まぁとにかく、今回は前後編に分かれてのサスペンスよ。最後にどんでん返しがあるとは聞いてるけど」

恭文「あるね。もうネタバレしちゃってる部分はあるけど、それでもどんでん返しだよ。
でさ、今回のお話は読者さん達からのリクエストに応える意味もあるのですよ」

りま「実は最近追いついてきた拍手にも書いてますけど『ユーノとなのはの関係に決着を』というご意見が来てたの。
さすがにこのままなぎひこになのはさん取られたら、ユーノさん立ち直れないもの。なので、このお話は決着編でもあるわ」

恭文「なんていうか・・・・・・アレだよね、僕のアドバイス通りにスーパーユーノ人になってれば」

りま「その通りよ。そうすれば今頃なのはさんはユーノさんの子ども産んでたわよ?
だからあの人はもうアウトゾーンの領域に踏み込んで・・・・・・戻って来れなくなった」





(『いやいや、それはありえないんじゃないかなっ!? てゆうか、それやると別の意味でアウトだからっ!!』)





りま「さて、次回はこの話の続きね。果たしてユーノさんはどうなるか。・・・・・・ダメじゃないかしら」

恭文「りま、そこには触れないであげようよ。いや、そんな感じがヒシヒシとするけどさ。
ほら、もしかしたらマジで大どんでん返し来るかも知れないよ? メイクドラマ起こるかもよ?」

りま「ま、期待だけはしておきましょうか。・・・・・・それじゃあ、本日はここまで。お相手は真城りまと」

恭文「蒼凪恭文でした。それじゃあみんな、またねー」










(そうして二人は楽しそうに手を振って、さようなり〜。
本日のED:surface『CHANGE』)










スゥ「でもぉ、恋愛って難しいんですねぇ」

ラン「そうだよねー。こう、もっとパーって分かりやすくいけないのかなー」

ミキ「ま、ランみたいにみんな単純だったら、それもありだろうけどね」

ラン「なんだとー!? 私そんな単純じゃないもんっ! 私だって色々考えてるんだからっ!!
・・・・・・って、ミキ。ちょっと気になってたんだけど、昨日から何お絵かきしてるの?」

ミキ「うん、これ」





(ハイセンススペードが見せてくれたのは、昨日の戦技披露会の試合の1シーン達)





ラン「わわ、凄い。てゆうかこれ・・・・・・恭文やなのはさん達以外の試合の様子も描いてる」

スゥ「ミキ、昨日戻って来てからずーっと、これ描いてたんですかぁ?」

ミキ「うん。どれもこれも凄い試合だったし、まぁ・・・・・・僕にとっての夏休みの宿題かな。
空に、魔法に憧れや想いを持っている人達の風景、いっぱい絵にしたいと思って」

スゥ「そうですかぁ。それはそれは・・・・・・かなり大変ですねぇ」

キセキ「・・・・・・それでどうする、皆の者? 僕から見てもかなり絶望的だが」

ペペ「ジガンの言うように、集団で答えを迫るのだけはアウトでちよ。
つまり、なんにしてもユーノさんとなのはさんのマンツーマンで決着でち」

ムサシ「しかし、そのための手段はあらかた試されて全て潰れてしまっている。普通には無理だ」

シオン「意外と手紙などいいかも知れませんよ? 口に出して言葉にするから、余計に逃げ道を与えるんです」

クスクス「でもでもー、お手紙もダメだったってさっき・・・・・・あ、やり方を変えるんだねー」

シオン「そうです。手紙などで自分の感情が恋愛感情だと、シンプル且つストレートに補足を加えれば・・・・・・もしかしたら」










(おしまい)





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あきゅろす。
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