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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第71話 『StarsVSFlame/空の中に描く『私』という夢』



ラン・ミキ・スゥ『しゅごしゅごー♪』

ラン「今日もドキッとスタートドキたまタイムー。さて、本日のお話は」

ミキ「空を『とぶ』事の意味・・・・・・それは人それぞれ。だから今、自分の意味を信じてここから新しい一歩を踏み出す」

スゥ「新しい決意の元で、自分なりの意味を通すために戦うなのはさんのお話ですよぉ」

キバットバットV世「いぇ〜い、みんな久しぶりー。
ところで二次小説とかでよくある『クロスオーバー』って大体は知っているよな?」

ラン・ミキ・スゥ『・・・・・・え?』





(StS・Remixですっごい見慣れたコウモリが登場した。てーか、沸いてきた)





キバットバットV世「そもそも『クロスオーバー』とは、複数の独立したシリーズが一時的に一つのストーリーを共有、進行させる事をいう手法のことだ。
語源は、並立して進むストーリーラインを、新たなストーリーラインが横断して行く、と言われている」

ラン「いや、あの・・・・・・ちょっとっ!?」

スゥ「あなた誰ですかぁっ!? いや、スゥ達も知ってはいますけどいきなり過ぎですぅっ!!」

キバットバットV世「ここの古き鉄でのクロス作品は「電王」と「しゅごキャラ」と「メルティランサー」だな。あとはゲスト的にディケイドやWに俺達キバだな。
ちなみに、平成仮面ライダーにおいて初のクロスオーバー作品は『仮面ライダー電王&キバ・クライマックス刑事』とされている」

ミキ「そしてボク達の事は完全無視っ!?」

キバットバットV世「しかし劇場作品以外を入れれば『ハイパーバトルビデオ・仮面ライダー龍騎VS仮面ライダーアギト』。
またパラレルではあるが、クウガと世界観を共有するアギトが、初のクロスオーバー作品とする話もある」




(アギトはクウガの後日談的な立ち位置で話が進みます。
ただ、そこのこうもりが言うようにパラレル的ではありますが)





キバットバットV世「そしてそんなクロスオーバーだからこそ生まれた、なのはとなぎひこの繋がり。どうなるか楽しみだな」





(立ち上がる画面に映るのは、空を舞う不屈の心とそれを客席から見守るあの子)





キバットバットV世「目覚めろ、その魂っ!!」

ラン「目覚めないよー! というかというか、君どうしてここに居るのっ!? ここはStS・Remixじゃなくてドキたま/だっしゅなのー!!」

キバットバットV世「いや、拍手でウンチクもらったから喋りに来た。
俺もStS・Remix終わってから寂しくて寂しくて仕方なかったんだけど、これなら毎回来れるな」

ラン・ミキ・スゥ『既に居座る気満々っ!?』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『・・・・・・決着っ! レイオ・ガーランド教導官、蒼凪氏の猛烈な追い込みの前についに倒れたー!!』



司会の声に、会場全体が湧き立つ。そして・・・・・・あ、拍手してくれてる。



『壮絶且つ単純な力と力の闘争を制したのは、蒼凪恭文氏っ!!
試合時間にすると12分47秒と短いものですが、その中身はただただ濃密でしたっ!!』

≪・・・・・・確かに中々に濃い内容でしたね。相手も濃かったですし≫

≪主様、飛車角落ち状態で良く頑張ったの。感動したの≫

「あはは・・・・・・そうでもないって。普通に手札切りまくったしさ」



でも・・・・・・よし、僕はもう出ないぞ。こんなマゾゲーム、絶対にもうやりたくない。

てーか、このシチュは今更だけど何か陰謀を感じるんだよね。うん、かなりね。



「でも、とりあえず・・・・・・勝ち、かぁ。・・・・・・うし」





僕は嬉しさを噛みしめるように、静かに左手で軽くガッツポーズを取った。



一応さ、マスター級に勝ったんだもの。それで嬉しくないわけがない。



静かに勝利の喜びを噛みしめつつ、最後の最後まで油断なく・・・・・・僕は響く歓声を聴いていた。





『・・・・・・ヤスフミ』



そんな事を考えていると、声がかかった。その方向・・・・・・右側を見ると、フェイトが居た。

というか、空間モニターが立ち上がっていて、それで僕の事嬉しそうに見てた。あとはリインと歌唄もだね。



『おめでと。というか・・・・・・大丈夫?』

『ですです。ジャケットボロボロですよ』



あー、最後の砲撃でマントも大半吹き飛んだしね。魔力ダメージも実は結構受けてる。



「うん、大丈夫。もう1戦行けるくらいにはね。というか、ありがとね。おかげでなんとかなったわ」

『ううん、私達は大した事はしてないし・・・・・・ね?』

『そうよ。基本見てるだけだったんだから。てゆうかアンタもう1戦は元気過ぎよ』



歌唄の言葉に、左手でお手上げポーズで返す。・・・・・・まぁ、強がりだけどね。

ただ、戦って勝った直後は油断しやすいからさ。そう言って気持ちを固めておきたいだけ。



『・・・・・・というかさ、恭文』

「なに?」

『フェイトさんに先越されたけど・・・・・・おめでと。それで、よく頑張ったわね』



歌唄が嬉しそうに微笑みながら、そう言ってきた。いつもの歌唄より優しい笑顔に、少しドキっとしてしまう。

・・・・・・フェイトも好きで、リインも好きで・・・・・・歌唄も好き、かぁ。な、なんかこれは色々ダメな気がしてしまう。



『まぁアレよ、ヘタレなアンタにしてはまぁまぁ良くやった方じゃないの? 一応誉めておいてあげるわ』



腕を組んで、右にそっぽを向いてそう言う歌唄の頬が、僅かに赤くなっていた。

それを見て、僕も画面の中のフェイトとリインもくすりと笑う。



「・・・・・・ん、ありがと。ね、歌唄」

『なによ』

「歌唄の事、好きだよ。多分、友達って言葉よりずっと深くて・・・・・・強い意味合いで」



なんというか、ちょっと吹っ切れたし少し話す。フェイトとリインは軽く驚いた顔するけど、すぐに笑ってくれる。

歌唄は目を見開いて、すぐにいつもの不敵な表情になる。というか、口元が軽く笑ってる。



「ただ、第三夫人とかそういうのかどうかは・・・・・・ごめん。まだそういうのじゃないと思う。
やっぱ、フェイトとリインが大好きだから。そこだけは、絶対変わらないから」

『別に謝らなくてもいいわよ。無茶言ってるのは分かってるから。今は、それだけでいい。
私の歌、アンタにちゃんと届いてるって分かったから。だから今は、それだけでいい。・・・・・・ありがと』

「・・・・・・うん」










まず僕の試合は無事に勝ちを収めた上で決着した。ただ、まだ試合は終わらない。






だって、まだメインイベントがあるんだもの。・・・・・・そう、なのはとシグナムさんの試合である。





ただそれでもまぁ・・・・・・僕はセブンモードを解除しつつ、油断なく勝利を噛みしめていた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「やったー! 恭文が勝ったー!! バンザーイ、バンザーイッ!!」

「やったのだー! ややちゃん、良かったねー!!」

「うんうんっ!!」



ややちゃんとアンジェラが抱き合って、涙目でボロボロの恭文を笑顔で見てる。

それは他のみんなも同じね。もうしゅごキャラの子達も凄い大騒ぎだもの。



「・・・・・・ま、アイツもそれなりに努力してたって事ね。そこだけは認めてあげるわ。
確かに私達と仕事してた時より、強くなってはいるみたいだし」

「もう・・・・・・ナナちゃん、素直に『良かった』って言えばいいのに」

「うっさい」

「・・・・・・良かった。マジ良かった」





私とナナちゃんは、人一倍嬉しそうにしている子の方を見る。それはあむちゃん。

応援してる最中も、真剣にヤスフミの動きを目で追って・・・・・・うーん、これはどういう事かしら。

ヤスフミ、フェイト執務官と婚約したのよね? なのにあむちゃん、フラグ立った子みたいだし。



あとあと、あのセコンドの金髪の子も同じくよ。・・・・・・色々気になるわね。





「あむちゃん、大丈夫?」

「え?」



あむちゃんがそう声をかけた私の方を、驚いた顔をしながら振り向いて見る。

私は安心させるように笑いかけて、あむちゃんの顔をもう一度見る。・・・・・・あぁ、やっぱりだ。



「あ、えっと・・・・・・はい。大丈夫です」



あむちゃん、ヤスフミが怪我しないかどうかとか、凄く心配してた。確かに凄い攻撃ばかりだったからなぁ。



「そっか。でも・・・・・・あむちゃん」

「なんでしょ」

「ヤスフミ、今は本当に良い仲間に恵まれてるのね。というか、みんながそれ」



私は視線を右に移して、勝利に喜ぶあの子達を見る。反応はそれぞれで、見てて結構楽しい。

思いっきり嬉しそうにしてる子や、落ち着いてるように見えてもライバル心を燃やしてる子とか、本当にそれぞれ。



「・・・・・・はい。年はちょっと離れてるけど、それでもあたし達・・・・・・恭文の友達で、仲間ですから」

「そっか。なら、凄く嬉しいな。私達もタイミングは違うけど、ヤスフミの仲間で友達だから」










ヤスフミ、ヤスフミのキラキラ・・・・・・凄く強くなってるのね。遠目からでもね、見てて伝わった。

というか、本当に来れて良かったなぁ。同窓会はしたりしてるけど、それだってしゅごキャラが生まれる前だもの。

よし、後で直接会ってまたお話しようっと。アバンチュールを一緒にした友達としては、やっぱり気になるんだ。





・・・・・・・・・・・・その三人目のセコンドが誰なのかとかねっ! というか、第三夫人ってアリなわけっ!?





それならいいわよっ! 今までは遠慮してたけど、私だって第四夫人くらい頑張るんだからっ!!




















『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/だっしゅっ!!


第71話 『StarsVSFlame/空の中に描く『私』という夢』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



恭文とあのおじさんの試合は無事に終了して、その後感想戦って言うのが行われた。

簡単に言えば『戦ってみてどうでしたかー?』って言うお話だよね。

そこの辺りは実に円満で、あのおじさんは『またやるぞ』と凄い勢いが強かった。





恭文はひたすらに苦笑いだったけど、本心では同じだと思うのでここはいい。

とにかく、そこからいくつかの試合を見て、お昼もシルビィさんを交えて食べたりした。

恭文とフェイトさん達はまだやる事があるらしくて、合流出来なかったんだけどね。





なんでもエリートクラスはエースクラス以上の激戦が予想されるから、色々体勢を整えるべきとか。

そこの辺りをあのシャマルさんから頼まれていて、医療班ベースへそのまま向かった。

あとは恭文の状態を見たりだね。一応主治医だから、気になっているらしい。・・・・・・でも、大丈夫かな。





歌唄居るのにそんな事したら、間違いなく地獄絵図じゃ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・で、こちらが噂に聞く月詠歌唄ちゃんね」



医療スタッフの待機所に向かうと、制服の上から白衣を羽織ったシャマルさんとワンコモードなザフィーラさんが居た。

そしてシャマルさんはニコニコしながら、歌唄に対して相当な威圧をしている。なお、僕達引いてます。



「初めまして、恭文くんの主治医で現地妻1号のシャマルよ。
恭文くんとはとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっても仲良くしてるの」



アンタ初対面の子に対してなに言ってるっ!? そしてお願いだから現地妻はやめてー!!



「現地妻? ・・・・・・あぁ、アンタのファンクラブだっけ」



後ろを振り返りつつ、歌唄が呆れたようにそう言ってきた。それに僕とフェイトとリインは軽く驚く。



「え? あの・・・・・・歌唄ちゃん?」

「ま、私には関係ないけど。だって私、ついさっき恭文から『好きだ』って言われたし」

「えぇっ!?」



こらこらっ! 意味違うよねっ!? そういう事言うと告白したみたいに聞こえるからやめてー!!



「とにかく初めまして。恭文の第三夫人候補の月詠歌唄です。よろしく、シャマルさん」



歌唄がそう言いながら、身長が同じくらいのシャマルさんに右手を差し出す。



「あ、えっと、あの・・・・・・よ、よろしく」



シャマルさんはその堂々とした態度に、圧されるようにしつつも右手を出して握手を交わした。

・・・・・・というか、凄い。シャマルさんが勢い殺されてるし。芸能人オーラで・・・・・・って、第三夫人候補って言うなー!!



「・・・・・・うーん」

「フェイト、違うよ? 第三夫人とかそういうのじゃなくて」

「あ、そこじゃないよ? ・・・・・・というか、慌てなくていいよ。
私はヤスフミの気持ちを尊重していきたいと思ってるし」



慌てるよっ! 普通にハーレムとかマジ無理なんだからー!!



「なら、そこじゃないってなに?」



相変わらず歌唄の芸能人オーラというか、キラキラオーラに圧されているシャマルさんを見ながら、フェイトが疑問を口にする。



「ほら、現地妻ズの事どうして知ってるのかなーって」

「・・・・・・あ」



というかあの・・・・・・そうだよ。え、なんで知ってる? いやいや、おかしいでしょうが。

確かそこの辺りについては詳しくは話してなかったような。・・・・・・僕が忘れてるだけとか?



「あ、エルがスゥから聞いたのです。そういう紛らわしい名称のファンクラブがあるって」



僕達の疑問を察して、エルが補足を入れる。それで僕達は一応納得。

確かにエルがうちに居候してた時期と、スゥが現地妻7号名乗り出した時期は同じだからなぁ。それでか。



「アタシと歌唄はエル経由でな。それでお前がマジ苦労してるってのも・・・・・・お前、やっぱアレだな。もっとフェイトさん好きって言った方がいいって」

「・・・・・・いや、だから婚約したんだけど。そうなるとあれかな。
僕達は人前で常にイチャイチャしてキスしてないといけないのかな」

「それくらいしなきゃだめかもな」










そっか、フェイトとのラブラブが足りないのか。だからみんなから隙があるように見えるんだ。

僕は右隣に居るフェイトとそっと手を繋いで、互いの顔を見合わせて頷き合う。・・・・・・よし、決めた。

僕達は今まで標準的なカップルだったけど、甘さがそれじゃあ足りなかったんだ。だから、進化しよう。





超絶的なあまあまカップルになれば、きっと現地妻ズも解散に追い込める。





今の僕達に必要なのはこれまでのような良識的な付き合い方じゃなくて、濃厚な甘さだったんだね。分かります。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



恭文と歌唄・・・・・・マジで大丈夫かなぁ。修羅場ってないといいんだけど。

でも恭文達はこっち来れないみたいだし、一人で行動させるわけにも行かないでしょ? 仕方ないのかなぁ。

まぁそこの辺りも気にしつつお昼を食べて、また元の席に戻って観戦。





恭文以外の人達の試合内容も凄くて、唯世くんといいんちょは食い入るように見てた。

でも・・・・・・ホントだね。恭文の言うように、試合を見てる人達の目、みんなキラキラしてる。

憧れで輝いていて、沢山の夢がこの場に集まってるんだよね。





なんか、すごいな。恭文やなのはさんだけじゃなくて、戦技披露会に出ている魔導師の人達みんなすごいよ。

そういうキラキラ、沢山の人の中から生み出してるんだもん。・・・・・・そうだな、あたしもここは好きかも。

それで嬉しい気持ちになりつつも、いよいよ戦技披露会の最終戦。空戦の部・エリートクラスのファイナルマッチ。





なのはさんとシグナムさんの二人が、空の上で激突する時がやってきた。










『・・・・・・こちら、ミッドチルダ地上本部・航空隊所属シグナム一等空尉。
真正古代エンシャントベルカの騎士が、航空剣技の真髄を見せてくれます』

『セコンドもやる気充分ですねー』



シグナムさんは紫のインナーの上から白のジャンパーみたいなのを羽織って、スカート装着。それで両手ガントレットなんて装備してる。

というか、デザインがリインちゃんが着ているジャケットにちょっと似てる。もしかして、家族だから同じ感じに作ってるのかな。



「というかシグナムさんのセコンドはアギトさんなんだね」

「そうだね。あたし、準備ってシグナムさんの練習の付き添いかと思ってたんだけど」

「どうやら違うみたいだね。セコンドとしても色々考えてたってところかな。というより、楽しそう」



なぎひこが言うように、青い本局用の制服を着たアギトさんはなんか楽しそう。

それをシグナムさんは苦笑いしながら、話を聞いてるって感じかな。



『そして対するは本局教導隊・高町なのは一等空尉。
ミッド式の正統派空戦魔導師にして、威風堂々のエース・オブ・エースッ!!』



なのはさんのセコンドは・・・・・・あ、シャーリーさんだ。ここは話に聞いていたからまぁいいの。

ただ、問題が一つ。7歳位でピエロみたいな仮面装着した子が居るんだ。



『それでセコンドが』

『親友の副官をやっとるシャリオ執務官補ですね』

『いえ、そこは分かるんですがあの・・・・・・もう一人が』

『あぁ、DTBちゅうアニメの主役が装着しとる仮面ですね。まぁアレですよ。
ガーランド教導官のセコンドと同じく、顔隠さなあかんのでしょ』

『そ、そうですか』



いやいや、おかしいじゃんアレっ! もっとツッコんでいいと思うんだけどっ!!

てゆうかヴィヴィオちゃん何やってるのっ!? もう凄い怪しいしっ!!



「ヴィヴィオ、可哀想に。恭文に毒されちゃってるのね。
分かってはいたけど、現実を目の当たりにすると辛いわね」

「まだ小さいってのに・・・・・・アイツ、これから先絶対苦労するぞ」

「だ、大丈夫だよ。ヴィヴィオちゃんにはフェイトさんや高町さんも居るんだから」

「こらこらっ! りまも空海も唯世くんまで何の話してるっ!? 確かに心配だけど、そこ違うからっ!!」



よし、やっぱ恭文と話をしよう。主にヴィヴィオちゃんにどういう教育をしているのかとか?



「・・・・・・うー、アンジェラあのお姉さんちょっと苦手なのだ。というか、怖いのだー」

「アンジェラ、き・・・・・・奇遇ね。私もよ」



・・・・・・なんて気持ちを固めていると、後ろのアンジェラちゃんとナナちゃんがそんな事を呟いた。

あたし達が振り返ってそっちを見ると・・・・・・二人とも、軽く顔が青冷めていた。



「アンジェラちゃん、ナナちゃんもだけど・・・・・・なのはさんが怖いってどういう事?」

「そうだぜ。なのははオレから見てもかなりキュートだぞ? ・・・・・・あ、もちろん二人もシルビィもなのはに負けてないぞ」

「リズム、そこどうして口説いちゃうの? てゆうか、きっとそういう事じゃないから」



なぎひこが疑問顔でそう聞くと、二人は顔を見合わせて・・・・・・ただただ困った顔をする事にし出した。

その意味が分からなくて、あたし達も首を傾げてしまう。



「あぁ、ごめんねみんな。別に悪口とかじゃないの。ただその・・・・・・あぁ、どう言えばいいのかしら」



というか、シルビィさんまでどうして困り顔? え、あたし達変な事聞いたかな。



「・・・・・・恭文と私達が仕事してた時にその・・・・・・まぁ、かなり大変な事があってね?」



ナナちゃんが、軽くしゃがんで小声で話してきた。なので、あたし達も振り返りつつその声に耳を傾ける。



「その時にこう、恭文やハラオウン執務官と一緒にあの女と軽くやり合ったのよ」

「えぇっ!? それってなのはさんと戦」

「バカっ! やや、アンタ声が大きいわよっ!!」



ナナちゃんが慌ててややの口を塞ぐ。それで周囲を警戒しつつ・・・・・・言葉を続けた。



「この事、基本的に口外したらダメな事になってるから、絶対言わないでよね?
とにかくそれがまた大変で大変で、あの女も一種の洗脳状態だったからお話全く出来ないわけよ」

「というか、アンジェラ達みんな管理局どころか世界中を敵に回して、犯罪者にされかけたのだ」

『はぁっ!?』

「みんなだめなのだ。声大きいからシーってしなきゃだめだよー」



いやいや、それ無理だってっ! 『世界中敵に回して犯罪者にされかけた』なんて言われたら、普通驚くからっ!!



「とにかくそれでアンジェラ達、危うく元のお仕事場ごとあのお姉ちゃんの砲撃で潰される所だったのだ」

「まぁそういうわけで・・・・・・アンジェラやナナちゃんにその時その場に居たGPOメンバーは、ちょっとトラウマが残ってるのよ」

「あの女、一種のスラング的な感じで『魔王』って言われてるんだけどね、まさしくそのキャラよ」



ま、魔王って・・・・・・恭文だけが言ってるわけじゃないの? え、ナナちゃんがそう言うって事は、かなり広まってるんだ。



「アンタ達が出来るキャラチェンジで魔王キャラになったとしか思えない勢いで、砲撃撃たれたんだから」

「というか、私もちょっとダメなの。あの時は本当に大変で、なおかつ高町教導官は異常な程覇気に溢れてたから」

『な、なるほど。それはその・・・・・・大変、でしたね』



唯世くんを筆頭に、そう言う事しか出来ない。でも、かなり大変な事って・・・・・・まぁ、事件だよね?

てゆうか恭文、アンタマジでこの人達と居る時に何があった? あたし、そこは非常に疑問なんですけど。



『・・・・・・地形条件は『海上・浮遊岩礁』。開始位置は有視界範囲200メートルです。
魔導師も騎士も一撃必勝がやりづらい距離ですから、初手の攻防に注目です』



なんて話している間に、戦闘空間の準備が出来たみたい。あたし達がそこに視線を向けると、まさしく異世界空間だった。

人が軽く乗れる岩が中にあっちこっち浮いていて、下は海。その中で二人が空中で停止している。



『そしてカートリッジは使用制限無しとなっています』

『派手な撃ち合いになりそうですねぇ』

「・・・・・・シルビィ、アンジェラ、私、ちょっと寒気してきたんだけど。
あのレベルの砲撃が撃たれまくるとか考えたら、私」

「ナ、ナナちゃん落ち着いて? 大丈夫よ、あの時は・・・・・・・ほら、大変だっただけなんですし」

「あの、どうして三人とも顔青くしてるんですかっ!?
あたし、マジその時何があったのか疑問なんですけどっ!!」










言っている間に、試合準備は完了。今回の試合は25分間の一本勝負。





最終戦で『エース・オブ・エース』が出てるせいか、自然と会場の注目度も上がっている。





そんな中、試合の火蓋は切って落とされた。・・・・・・マジで、どうなんだろ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



”・・・・・・じゃあシグナムさん、よろしくお願いします”

”あぁ。20分間は互いの戦技を披露するとしよう。・・・・・・前回のような事はもう懲り懲りだからな”

”にゃはは、そうですね”





実は私とシグナムさん、以前にも戦技披露会に出た事がある。そして、同じような場面で戦った。

ただ・・・・・・互いにあんまりに本気になり過ぎて、『血戦』と呼ぶに相応しい内容になってしまった。

決着もつかなかったし、そのために試合映像が局の教導の教本代わりに使われる予定もパーになった。



というか、リンディさんやレティさんといった提督メンバーからかなり叱られた。なお、そこに私は教導隊の先輩がプラスされる。

戦技披露会は後進の育成を促す場でもあるから、あんなケンカ紛いの戦闘などもっての外だと。

局の威信やモラルが問われるから、次に出る事があったら絶対にやめろと・・・・・・それはもう口を酸っぱくだよ。



だから今年はシグナムさんと戦うと決まった時に、二人で事前に相談した事がある。うん、また叱られるの嫌だもの。

それが今話したあれこれに繋がってるんだよね。・・・・・・これでまた叱られるような事にはならないはず。

ちなみに恭文君もリンディさんに去年同じような事を言われたけど、『だったら僕を出すな』の一言で一蹴した。



ただ、恭文君は上には受けは非常に良くないけど、現場サイドでは相当好評だったんだよね。

『マニュアル通りの戦い方しか出来ない量産品より実践的』・・・・・・とかなんとか言われて、相当数のスカウトを受けた。

つまり、現場サイドが欲している人材は提督クラスが言う『ケンカ紛いの戦い方』が出来る子だったの。



そこは恭文君だけじゃない。去年戦技披露会に出た嘱託の人達も同じ。

局のマニュアルには当てはまらない人達を、『現実』は求めていた。

今年の試合だって、注目度で言えばそういう『ケンカ』を出来る人の方が高い。



ここの辺り、リンディさんはかなり苦い顔してたなぁ。あとは他の上層部の人達も同じくらしい。

現場と自分達上との温度差、求めている人材の違いが、思いっきり浮き彫りになったもの。

上が望んで作り出そうとしているのは、『局の威信や規律を守る正しい魔導師』。ここは間違いない。



だけど現場サイドは、それを全く望んでいないという事になる。今望んでるのは『ケンカ』が出来る子。

上層部の方々は『現場に組織維持の大切さについて、今以上の理解を求める』と言っているけど、その結果は察して欲しい。

とは言え、さすがに私達は『だったら私を出すななの』とは言えない。仮にも局員だもの。



その上私は教導官で、シグナムさんは航空隊の分隊長でもあるから。

それぞれの立場は違っても、『後進の育成』という目的を蔑ろには出来ないんだ。

ただ、今年は少し違う。局や局のためどうこうとか、仕事っていう感じはしない。



ちょっと偉そうだけど私達や他の人達の戦技を見て、みんなが何かを感じ取ってくれればいいなと。

才能や特性、得意な事苦手な事・・・・・・色々あるけど、それでも高く空を飛ぶ事は出来るんだって伝えたいの。

自分が描く、自分なりの空を目指していく事は出来るんだって、みんなのこころのたまごに伝えられたらいいなって。



・・・・・・いや、これはなんか建前だな。私はそこまで思って、苦笑した。

これは私自身との『ケンカ』だ。私なりの新しい一歩を、ここから踏み出したい。

私と同じように空を『とぶ』事が好きなあの子に・・・・・・いっぱい伝えたい。



あなたに出会えて、お話して仲良くなれて・・・・・・私、また空を『とぶ』事が好きになったんだよって。

それで今の私を見て欲しい。誰でもない、あの青い髪の男の子とそのパートナーに。

私が戦う中でしか、その姿を見せる事でしか伝えられない事もある。だからそれをここで伝える。



言葉じゃ上手く伝えられなくて、抱きしめて伝えるのも・・・・・・私は、シャマルさんやフィアッセさんみたいには無理。

だって私は大人で、あの子は子どもだもの。それで男の子と女の子。

そういう性別とか年齢差とか、そういうのが障害になる。そのせいで今の私の気持ち・・・・・・ちゃんと伝えられる自信がない。



ただ一言、目を見て言えばいいだけなのにね。私、あなたの事が好きになったんだよーって。

そういう特別な意味とかじゃないけど、だからもっとあなたと繋がっていきたいんだって。

子どもの頃なら素直に言えたのに、今はこんな御託を並べて言えなくなってしまっている。



そのための勇気を絞り出せなくなってる。だけど、伝えたい。今の私と、私の想いを。・・・・・・だから。





「だから、飛ぶよ。どこまでだって・・・・・・どこからだって、私は私のなりたい私になれるんだ。
君と出会って、お話して、仲良くなって、私はここから変わる勇気を沢山もらったから」



呟きながら、私は笑って前を見る。瞳の奥に浮かぶのは、あの男の子の顔。・・・・・・にゃはは、なんかおかしいなぁ。

私、まるであの子に恋してるみたいだよ。まだそういうのじゃ、ないんだけどな。



『それでは1ラウンドマッチ、時間いっぱいっ! 試合・・・・・・開始ですっ!!』



私はその声に即座に反応。足元に展開したミッド式魔法陣を踏みしめ、エクシード状態のレイジングハートの切っ先をかざす。

踏み込むシグナムさんに狙いを定めて、5つの魔力スフィアを形成。もちろん、撃つのは砲撃。



「いくよ、レイジングハートっ!!」

≪Yes My Master≫





中心のスフィアはバレーボール大の大きさで、他はソフトボールくらい。

中心の砲撃の周囲を四つの自動プログラムの魔力弾が螺旋を描いて放たれる。

誘導弾は近くに敵が入ればオートで追尾するから、スレスレの回避がしにくい。



つまり、避けるなら大きく回避。まともに当たるとは思ってないから、これは捨札。

大きく回避した所を一気に狙え・・・・・・れば、いいなぁ。

とにかく私はレヴァンティンを鞘に収めたまま突撃するシグナムさんに狙いを定めてトリガーを引く。





≪Crooss Fire≫

「シュートッ!!」





放たれた砲撃のサイズは、およそ5メートル。私の身体よりもずっと大きな桜色の奔流と魔力弾がシグナムさんに迫る。

それを見てシグナムさんは、僅かに右に移動。砲撃をスレスレで避けるつもりだ。

でも、そう簡単にはいかない。恭文君みたいに魔力無しで砲撃を真っ二つとか出来るならともかく、そうじゃないなら・・・・・・え?



シグナムさんは、周囲の弾丸の軌道を読んだ上で、砲撃と螺旋の合間に滑り込むように突撃。

鞘と左肩のジャケットを僅かにかすりつつ、直進を続けて砲撃をやり過ごした。

私の今の砲撃は長時間放ち続けるものじゃないから、もう終了。シグナムさんは、私の目の前にまで迫っていた。



さすがに手堅い。というか、当然だよね。シグナムさんは私やフェイトちゃん達が生まれるずっと前から戦ってきた。



個人の戦技では、この人はトップクラス。既にマスター級の域に居ると言ってもいい。





「・・・・・・紫電」





だからこそ瞬間的な変化球も出来る。左側面に紫色のベルカ式魔法陣を展開。それを足場にして右に一気に跳ぶ。

魔法陣は物理的な力場としても使う事が出来る。それを活用して、私の視界外に飛び出た。

・・・・・・後ろに妙な気配を感じる。私は時計回りに振り向きつつ、右手を開いて術式を詠唱。その気配に即座に対処。



視界に入ったのは、右切上に炎に包まれたレヴァンティンを抜き放つシグナムさんの姿だった。





「一閃っ!!」

≪Round Shield≫





右手をシグナムさんの方に伸ばして、前面に桜色の魔法陣型障壁を発生。形状は円形のミッド式。

それが炎に包まれた斬撃をなんとか防いだ。目の前が障壁と炎との衝突によって少し明るくなる。

炎の剣はシールドの前面をこすりながらも振り抜かれて、今度は両手で柄を持って袈裟に一撃。



レヴァンティンは業火を纏いながら私を叩き斬るために障壁を攻め続ける。でも、遅い。

頭上から合計7発の桜色の弾丸が打ち下ろされる。なお、私が詠唱した誘導弾。

頭上に遠隔発生させたそれを、シグナムさんに向かって叩き込む。でも、シグナムさんはそれを回避した。



一気に後ろに下がって、自分に向かって打ち下ろされてきた弾丸達を回避。



かざした右手はそのままに、私はシールドを解除。まずは軽くいやがらせ。





「アクセル」



私のコントロールによって、それぞれの弾丸が軌道を変える。下から上へ打ち上げるように動いて、シグナムさんに迫る。

一方向ではなく、それぞれをばらけさせて全方位から時間差も込みで弾丸を操作。



「シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥトッ!!」





弾丸は青い空に桜色の軌道を刻みながら、一気に後ろに下がるシグナムさんに迫る。

・・・・・・その時、レヴァンティンのカートリッジが1発ロードされた。

レヴァンティンの刃が一定間隔で分割されて、それをワイヤーが繋ぐ。



シグナムさんは身を翻して、時計回りに連結刃となったレヴァンティンを振るった。





「陣風」



連結刃はシグナムさんの周囲に展開されながらうねり、シグナムさんを守る盾となる。

あらゆる方向から時間差をつけて撃った私のシューターは、その刃達に切り裂かれた。



「烈火っ!!」





・・・・・・そこを狙って、もう一発。私は残していたシューター1発をシグナムさんに向かって発射。

さっき頭上に遠隔生成したシューターの合計数は8発。1発だけ、攻撃直後の狙い撃ちのために残していた。

余計な軌道は描かずに、一直線に突き抜ける弾丸はシグナムさんの胸元を狙って空間を切り裂く。



シグナムさんは軽く舌打ちしながら、左手で逆手に持っていた鞘を胸元に咄嗟にかざす。

私の弾丸はその鞘に直撃。中程を軽くヘコませて止められてしまった。つまり、ダメージはなし。

・・・・・・まぁ、当然だよね。ここでやられちゃったら事前の打ち合わせがパーだもの。





『い・・・・・・一瞬っ! 閃光っ!! 今の攻防、ご覧いただけましたでしょうかっ!!』



私は軽く息を吐く。シグナムさんは今使ったカートリッジを補充してて・・・・・・二人眼を見合わせて、肩をすくめる。

よし、この調子でOKだね。これで前回のあれこれの二の舞だけは避けられる。



『かたや先天資質に大きく依存するが故に、時代の波に消えていった古代ベルカ式魔法っ!!』



これはシグナムさんだね。シグナムさんは今や数少ない、古代ベルカ式の使い手だから。

そして今セレナが言ったみたいな背景もあるんだ。・・・・・・あ、私司会の子とは顔見知りなの。取材関係で色々とね。



『かたや『傷つける事なく制圧する力』の代名詞となったものの』



あ、こっちは私だね。ミッドチルダ式はそういう言い方をされる事が多いんだ。



『1対1の決戦能力においては同格の真正騎士には叶わぬとされてきたミッドチルダ魔法っ!!』



確かにその通りだよ。でも、それだってやり方次第。知恵と勇気と戦略で、どんな形にも覆していける。

・・・・・・そう考えると、私はちょっと力押し過ぎるよね。もっと恭文君(ベルカ式だけど)やティアを見習わないと。



『このお二人の戦いは、真正騎士と正統派魔導師・・・・・・それぞれの魔法の歴史と威信を賭けた戦いとも言えますっ!!』

「・・・・・・もー、大げさだなぁ。セレナは」



改めてレイジングハートを構えながら、私は苦笑する。・・・・・・別にそんな大層な事してるつもりないのになぁ。

というか、魔導の歴史は私やシグナムさん一人に集約される程大きいものじゃないもの。それは傲慢だと思うな。



『ですねー』

『でもでも、司会としてはこれくらいやらないとだめなんじゃないかな。ほら、盛り上げなくちゃいけないし』



楽しげに笑うシャーリーはいいんだけど・・・・・・どうしよう、ヴィヴィオが恭文君化してる。現にあの仮面装着してるし。

ま、まぁ大丈夫だよね。今装着してる仮面はいつぞや大騒ぎになった、呪いの仮面の改良型だって言うし。



『あー、確かにね。・・・・・・それでなのはさん、オープニングアタックはまぁまぁ予定通りですけど』

「もちろん、怒られないために・・・・・・ここからは予定通りに追いかけっこだよ」

『だよねー。・・・・・・ところでママ』

「なにかな」



・・・・・・アレ、ヴィヴィオ。どうしてちょっと固まるのかな。ママ、すっごい不安になってきたんだけど。



『この仮面、外れないんだけど』

『「・・・・・・・・・・・・ヴィヴィオっ!?」』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



血の戦いと書いて血戦となるかと思いきや、もう教本に使えそうなくらいに綺麗な戦い方が始まった。

オープニングアタックを終えた二人は、現在フィールドの中で追跡戦。逃げるなのはをシグナムさんが追いかけてる。

僕とフェイトとリインと歌唄は、医療ベースのテントから少し抜けだして空を見上げながら観戦。





会場中が試合の様子を興奮気味に見ていて、もう歓声が凄い凄い。










「・・・・・・恭文」

「なによ」

「つまらないわ」



なのに唐突にそんな事を言ってきたのは、歌唄。両腕を組みながら、ハッキリそう言い切った。



「何言ってるのよ。航空機動は難しいのよ? ちゃーんと周りの状況を踏まえた上で飛ばないと、簡単に怪我するし」

「まぁ、それは分かるのよ。でも・・・・・・さっきのアンタの試合とか観てたら、どうもこう・・・・・・ねぇ?」

「派手さがないと」

「まぁ、平たく言えばそうね。真正面からのぶつかり合いを想像してたから、ちょっと拍子抜けなの。
それにこれが1番の理由かしら。・・・・・・なんて言うか、二人共本気出してないわよね」



む、さすがに鋭い。そこまで分かるんだ。うーん、やっぱ歌唄は恐ろしい。



「だから見てて惹かれないのよ。アンタや他の人が戦ってるのを見た時と比べると、衝撃が少ないわ」

「エルも歌唄ちゃんに同意見なのです。恭文さんやフェイトさんが戦ってる時と、全然違うのです」

「だよなー。こう・・・・・・お決まり通りというか、なんかおかしくね?」





なんて言っている間に、なのはが飛行スピードを上げて急速旋回。

そうしてシグナムさんの後ろをあっという間に取った。

それからすぐに魔力弾を生成。それを掃射して、シグナムさんを狙い撃つ。



シグナムさんは錐揉み飛行しつつもそれを回避。外れた魔力弾が、浮遊している岩場を砕いていく。





「でも歌唄、エルもイルも・・・・・・これは仕方がないのよ。事前の取り決めがあるから」

「取り決め?」



掃射の回避が続く中、歌唄が一旦試合から視線を外して僕を見る。なので、僕・・・・・・というか、フェイトとリインも頷く。



「実はね、この組み合わせで前に戦技披露会で試合をした事があるんだ。
でも、なのはもシグナムも人の目を気にせずに暴れに暴れまくって・・・・・・かなり怒られたの」

「戦技披露会は、みんなに魔法戦技の奥深さを見せる場だしね。
それでケンカ紛いな事をするのは、その趣旨から完全に外れてるって上がうるさいのよ」

「いや、それならアンタとあのマッチョはどうなるのよ」

「そうだぞ。アタシ達から見てもあれはガチなケンカレベルじゃねぇかよ」

「大丈夫だよ。僕は局員でもなんでもないし、あの人バカだし。てーか、文句あるなら出すなっつーの。
僕達は強い奴とケンカしたくて出たんだから、ケンカしなくちゃ意味ないの」





そういう意味では去年は散々・・・・・・なんて言っている間に、シグナムさんが動く。

浮遊岩礁を足場にして、一気になのはに飛び込んだ。

その衝撃で4メートルほどの大きさの岩礁に亀裂が入って、いくつかに別れるようにして砕ける。



なのはは迎撃・・・・・・いや、間に合わないから前面にラウンドシールドを展開。シグナムさんの突撃を受け止める。



その衝撃で、周囲に浮遊していた雲が吹き飛び、円形の形に変わってしまった。・・・・・・ドラゴンボールだし。





「納得したわ。で、それとこの茶番と何の関係があるのよ」

「つまり、本気出してケンカやると・・・・・・怒られるのよ。色んな人からどっさりね。
何より局員として披露会の趣旨は守らないといけない。だから、開始から20分はその『茶番』を披露」

≪正確には、基本に添った魔導戦技の披露タイムですね。
デモンストレーションというか、お手本なんですよ。これ≫



『だったら僕を出すな』とは言えないのが、良識的な局員の辛さ。さすがに趣旨完全無視は出来ないらしい。

そういう意味では、僕とレイオさんの試合が相当に例外的だったのは、留意してもらいたいかな。



「なるほど、局の趣旨通りにってわけね。でもそれってこう言ったらあれだけど、やらせと同じじゃないのよ。
外見だけが凄くても、二人共が本気じゃないんじゃ・・・・・・何も響かない。私にはあの人達の歌が聴こえないもの」



また視線を空に戻しつつそう言った歌唄の言葉を聞いて、フェイトが苦笑してた。



「なら、最後の5分間に注目だね」

「え?」



空の上で衝撃撒き散らしながらドラゴンボールしている二人をまた見ていた歌唄が、もう一度僕とフェイトの方に視線を向けた。



「歌唄、なのはとシグナムの取り決め、まだ続きがあるんだ。
・・・・・・その『茶番』が終わったら、全力戦闘を開始するって決めてるの」

「・・・・・・全力?」

「うん。だから二人の友達として言わせてもらうと、その評価を確定させるのはもうちょっとだけ待って欲しいな。
多分、最後はちゃんと聴こえると思う。なのはとシグナムの・・・・・・本気の歌が」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『さぁ、カウント20分を超えましたっ! 残り時間僅かですっ!!』



・・・・・・私達は数度目の激突を終えて、また互いに距離を取る。その距離は、約200メートル前後。

長かった。本当に長かった。だから私もシグナムさんも、軽くイライラしてきてた。



「・・・・・・そろそろですかね」



少し声を大きめにして、私はシグナムさんにそう声をかける。



「あぁ。隠し玉も遠慮も無しと行こう」



互いに本気だけど本気を出してないのに、バリアジャケットだけは軽くボロボロ。あっちこっち破けてる。

きっと、色々と押えきれなかった部分のせいだね。でも、もうそんなくだらない戒めは捨てられる。



『おぉっと、二人共何か会話を・・・・・・八神司令、これは』

『えー、手元の資料によりますと』



・・・・・・嘘ばっかり。資料なんてなくても、どうしてこうなるのかすぐ分かる立場に居るよね?



『二人は相談の上で開始20分は基本に沿った戦技の披露を。
そしてそれが終わったらラストまで・・・・・・双方の『全力戦闘』をお見せしたいと』



本当だったら、最初からクライマックスで行きたかった。でもそれが出来ないのが、立場を持った人間の悲しいところ。

うぅ、いっそ嘱託に戻っちゃおうかなぁ。なんかこういうの、必要だと思っててもめんどくさいよ。



『なのはさん、分かっているとは思いますけど、ブラスターは1までですからね?』

『でもでも、ママの初めてのボーイフレンドに伝わるように。いっぱいいっぱい頑張ってね』

「はぁーい。・・・・・・てゆうかヴィヴィオ、その仮面」

『あとで私が見ておきます。だから、心配せずに集中してください』

「うん、お願いね。シャーリー」





さて、ここからだよね。でも・・・・・・ブラスター、使うのやめちゃおうかなぁ。

なんだかね、ちょっとデバイスの機能とか自分の資質とかに頼り過ぎてる感じがしちゃったんだ。

私は魔法がなくても、私自身を諦めないだけであんなに高く『とべる』って分かったからかな。



・・・・・・よし、これが終わったらブラスター封印しちゃおうっと。それでそれで、新しい私を続けていくの。





≪Blaster Bit≫




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『シグナム、フェイトさんからの伝言だ。『・・・・・・アギトが一緒じゃないんですから、余り無茶しないように』だってさ』

「そうか。なら『この心配性めが。私の心配をしてる暇があるなら、とっとと蒼凪と夜伽を頑張って子を産め』と言っておいてくれ。
そして『夜伽を頑張れるように後で精力剤を送ってやる。二人で飲んでしっかり励め』ともな。今すぐにだ」

『了解』










全く、いくら試合中に通信がアレとは言えアギトに伝言を頼むか? 本当に心配性な奴だ。

・・・・・・まぁしかし、テスタロッサの心配性には、私達みんなかなり救われたがな。

ついでにあのブラスタービットをいきなり三つ出してきたチートの権化の負けん気にも、同じく随分救われてきた。





だが私は・・・・・・これでも夜天の騎士の将なのでな。こと個人の戦技に関しては、そうそう抜かれるわけにもいかんのだ。





そうだ、抜かれてなるものか。ここで抜かれてしまったら、本当にアギトは恭文をマイスターと認識してしまう。それは非常に怖い。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・フェイトちゃんと初めて戦ったあの日から、気づけばもう随分色んな人達とぶつかってきた。

色んな事件や機動六課での日々に、デンライナーのみんなとの冒険。それから今の毎日。

そして・・・・・・私に自分の夢の根っこを思い出させてくれた、あの強くて優しい穏やかな男の子との事。





今までの私と、これからの私・・・・・・全部必要で、全部が幸せな私の時間。










「・・・・・・せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇのっ!!」



それを乗せた一撃を、素直な気持ちで、今ここで見せつけるっ! そして証明するっ!!

私は・・・・・・私の空を、どこまでだって『とんで』いけるんだってっ! そんな自分になれるんだってっ!!



「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」



私は三つのビットを引き連れた上で前に突撃。そして、魔力スフィアを6つ形成。それを前方に掃射。

レイジングハートの切っ先を前方にかざして、ただひたすら直進。小細工は無しの、全力勝負。



「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



シグナムさんは業火に包まれたレヴァンティンを左に引いて、私と同じように突撃してくる。なお、考えも私と全く同じ。



『これは・・・・・・双方最大火力っ! 熱気と衝撃が実況席にまで・・・・・・!!』



そしてシグナムさんは、突っ込みながらも刃を右切上に叩き込む。巨大な炎の斬撃が空間を斬り裂き焼き尽くす。

でも、それは私に対しての攻撃じゃない。ううん、これは迎撃。そうやって私の掃射した弾丸を全て焼き尽くした。



『あーっとっ! シグナム一尉、弾幕を斬り伏せたっ!!』



言っている間に、シグナムさんは私との距離を10メートルにまで縮める。私は突撃を中止して、その場で急停止。



≪Round Shield≫



レイジングハートを横にして身体の前にかざして、シールドを展開。そうしている間に、シグナムさんはもう目の前。

シグナムさんは右に振り抜かれていたレヴァンティンの柄を両手で持って、唐竹に私に叩き込んだ。



『そして、一撃ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!』










巨大な業火という刃が、私やシールドを砕き焼き尽くそうとするように燃え盛り、シールド越しにその熱が伝わる。

普通なら、砕ける。このままシールドを斬り裂かれて、レイジングハートでガードしても炎に巻かれてダメージを受ける。

騎士の一撃の重さ、私はそれなりに知ってる。でも、だからこそ使える手がある。





だってシグナムさんはあの子と違って、アンチェインなんかじゃないから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「な、なんだよアレっ! なんかなのはさんの周りのビットから縄がビューってっ!!」

「バインドですね。・・・・・・なるほど、突撃も捕まえるのも戦術の内というわけですか」

「なのはさん、最初からこれが狙いだったんですね」



ディードさんとリースが納得したように呟きながら、桜色の魔力の縄で戒められたシグナムさんを見る。

あの金色のビットの先からそれが射出されて、斬りかかっていたシグナムさんを一瞬で縛り上げた。



『狙いは、零距離バインドッ!!』





業火を上げて叩き込まれていた刃は、引かれた縄によってあっという間にシールドから引きはがされた。

両手と腰を戒められ、シグナムさんは動けなくなってる。・・・・・・えっと、ピクリともしないって事はあれかな。

訓練の最中に教えてもらった、空間固定型のバインドに仕上げてるのかも。あ、バインドってそういう種類があるらしいの。



恭文が前にりまとかに使ったストラグルバインドは、単純に縛って動きを戒めるもの。

空間固定型は、バインドがその空間にがっちりと固定されてしまうの。当然戒められている対象も同じく。

恭文は『縛るというよりは、拘束具に張り付けにされてる感じ』と、首を傾げるあたしに教えてくれた。





「相手は動けない。そしておそらくシグナムさんは蒼凪さんのようにバインドの瞬間解除などは不可能です」

「なによりあの蛇腹剣も、腕の動きを操作の一つに加えてるみたいだし・・・・・・ううん、反撃の心配はいらないよね」



唯世くんがそう言っている間に、なのはさんは一気に100メートル以上離れた。そしてその周囲に約30の魔力弾。



「高町さんは砲撃魔導師なんだから。わざわざ相手に飛び込む必要なんて」



レイジングハートの先に虹色の魔力の杭が生まれる。その周囲には桜色の四枚の翼が展開。

なのはさんは・・・・・・一気に突っ込んだ。正面からではなく、シグナムさんの上70度の方向から一気に飛び込む。



「・・・・・・飛び込んだっ!?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「マニューバ・・・・・・シューティング・スター・アサルトS-S-Aッ!!」





私の得意技であるA.C.S・・・・・・瞬間突撃からの零距離砲撃。その新しいバリエーションがS-S-A。

零距離砲撃のみならず、周囲に展開した多数の魔力弾が自動追尾で追撃をかけるオーバーキル攻撃。

これはいわゆる必殺技の一つでもある。スターライトはチャージ時間があるからほいほいは使えない。



私には恭文君みたいに自由落下中にチャージして隙をなくすなんて真似、出来ないもの。だからコレ。

私は桜色の羽を羽ばたかせながら一気に距離を詰めて、楽しげににやりと笑うシグナムさんに突撃。

シグナムさんは、防御のために目の前にシールド魔法を展開。紫色の障壁が私の行く手を遮る。



だけど、そんなものじゃこれは止められない。極限まで圧縮された魔力の杭は、そのシールドをたやすく貫く。





「ストライク・スターズッ!!」



私は躊躇わずにシグナムさんに向かってトリガーを引いた。



「ファイアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」










放たれたのは、10メートル以上もある巨大な桜色の奔流。

それがシグナムさんを、その動きを戒めるバインドごと飲み込んで吹き飛ばす。

そして追撃の誘導弾がシグナムさんに向かって一気に叩き込まれる。





シグナムさんは、ちょうど射線軸上にあった巨大な浮遊岩礁にその身を叩きつけられて・・・・・・爆発に飲まれた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『直撃ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!』

「・・・・・・な、なんですかあの非常識な爆発はっ! こらー!! エル達を殺すつもりですかー!!」

「てゆうか、マジで死ぬんじゃね? いや、真面目にだって」



響く轟音と軽く亀裂が入った岩礁にその上で燃え上がる爆炎を見て、エルとイルがそう言うのも無理はない。

不満そうだった歌唄も、この一瞬のやり取りで目を見開いてしまっている。どうやら、色々気に入ってもらえたらしい。



「・・・・・・フェイト、フェイトはなのはの方お願いね。僕、シグナムさんの方行くから」



言っている間になのははその爆発からまた距離を取って、右手でレイジングハートを持ち上げた。

そして、その切っ先に桜色の粒子が集まって・・・・・・って、スターライト使ってるし。



「了解」

「ほえ? フェイトさんも恭文さんも何を言ってるのですか。あのピンク髪の人の負けに決まって」



エルが呆れ気味に言った瞬間、また岩礁の上で爆発が起きた。いや、衝撃が生まれた。



「きゃー! 今度はなんですかっ!? なんなのですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「エル、落ち着けってっ! ・・・・・・って、おいアレっ!!」



衝撃波によって、渦巻いていた爆炎が吹き飛び一人の女性の姿が浮かぶ。

上に羽織っていた白いジャケットも両手のガントレットも吹き飛んでるけど、二本の足でしっかり立ってる。



「・・・・・・お兄様、怖いです。というかなんですか、あのサイヤ人達は」

「シオン、気にしちゃ負けだよ。あのサイヤ人達は4まで変身出来るだけだから」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・やっぱり生きて・・・・・・じゃなかった、無事だった。というか、マズい。

シグナムさん、あの爆発の中でレヴァンティンをボーゲンフォルム・・・・・・弓形態に変えている。

というか、もう発射直前。小さく唇が『駆けろ、隼』って動いてるもの。





そしてシグナムさんが紫色の弦から指を離した時、白と紫が混じり合ったような極光が私に向かって放たれた。





近距離戦が主のシグナムさんの手札の中で唯一の長距離攻撃。それがあれ・・・・・・シュツルムファルケン。










「・・・・・・っとっ!!」





私は魔力の集束を中止して、咄嗟に左に避ける。だけど、すぐにバランスを崩して頭から落下してしまう。

・・・・・・右の肩から二の腕が極光に触れて、ダメージを受けてしまったから。くそ、反応が遅れた。

右肩と二の腕のジャケットが吹き飛んで、私の肌がそのまま晒される。そしてそこを見逃すシグナムさんじゃない。



シグナムさんは左手で炎に包まれるレヴァンティンを左肩で抱えるようにして、落下する私の目の前に現れた。





「・・・・・・煌牙」



私は左手に砲撃用魔力スフィアを形成。チャージタイムなしの速射用のものだけど、それでも迎撃には充分。



「ディバイン」



左手首には桜色の環状魔法陣が生まれて、砲撃の軌道を安定させてくれる。私はそのまま、左手を前にかざしてトリガーを引いた。

そしてほぼ同時に、シグナムさんは逆袈裟に炎の刃を私に叩き込んだ。



「一閃っ!!」

「バスター!!」










零距離での砲撃と斬撃の衝撃により、その場で大爆発が起こる。





私達はそれに飲まれて、吹き飛ばされるようにフィールド下の海に落下した。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『・・・・・・直撃ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!』



・・・・・・いや、言ってる場合じゃないでしょ。アレ死ぬわよ? 普通に死ぬわよ。

なお、あの斬撃と砲撃がぶつかる直前に恭文とフェイトさんは飛行魔法で一気に飛び出した。



『そしてちょうど試合終了っ! その結果は・・・・・・!?』





とりあえず空の上はもう見る必要はない。私はサイドに展開されている空間モニターに目をやる。

まずはあのシグナムって人よね。ポニーテールの髪がストレートになって、胸元がはだけてる。

攻撃の衝撃で、ジャケットや髪を結わえてる紐・・・・・・あ、それもバリアジャケットだって言ってたわね。



とにかくそのせいで露出が凄い事になってる。というか・・・・・・大きい。谷間くっきりだし。



アレ、サイズで言うと93とか5とかいってるんじゃ。





『・・・・・・おぉ、シグナム一尉は無事で意識もあるようですが』



それでアギトさんが駆け寄って様子を見てるわね。あとは恭文が肩貸してる。

当然だけどリーゼフォームに変身し直してるから、あの戦いでボロボロになった部分は治ってる。



『ん? 高町一尉はちょっと怪しいか?』





あの栗色の髪の人はフェイトさんに肩を貸してもらって、なんとか立って・・・・・・ないわね。

もう面白いくらいに目を回してるもの。というか、この人のジャケットもボロボロになってる。

あの白い上のジャケットが吹き飛んで、ビスチェの胸元がはだけて谷間が見えちゃってる。



それでリボンも吹き飛んでストレートになってるわね。そんな調子だけど、左手を軽く上げた。





『へ、へ〜きれ〜す・・・・・・ぅ』

『・・・・・・だそうです』

「・・・・・・いや、全然平気じゃないだろ。アレ」

「むしろ満身創痍ですねぇ」

「てゆうか、ノックアウトされてるでよくない?」



ほら、目を回してるし。でも谷間・・・・・・アイツ、やっぱり胸の大きな女の子が好きなのかしら。

いや、大丈夫よね。だってリインがあんな感じだもの。それに私、これでも着痩せする方だし。



『・・・・・・という事は』

『ファイナルマッチの結果は・・・・・・引き分けですっ! 素晴らしい試合でしたっ!!』



司会者がそう宣言すると、会場内に拍手が沸き起こる。私もそうしようとして、気づいた。

手・・・・・・軽く汗ばんでる。そんなに長い時間じゃなかったのに、2〜3撃のやり取りだったのにそうなっていた。



『・・・・・・この後、休憩を挟んでお二人を交えての感想戦に移りたいと思います。
八神司令、引き続き最後までよろしくお願いします』

『はい』



私はその汗ばんでいた手を見て・・・・・・・自嘲気味に軽く笑った。そしてまた、青く広がる空を見上げる。



「・・・・・・あの人達のうたう『歌』。認めるしか・・・・・・ないわよね」










その後、つつがなく感想戦は終了。そのあと閉会式なんてしてから、戦技披露会は終了した。





でもなんて言うか、マジでヒロリスさんに感謝かな。ここに来て、本当によかった。





素敵な歌も聴けたし、ミッドで初めてうたえた。なにより・・・・・・アイツに、告白されたしね。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



さて、時空管理局の良いところと言えば何か? それは身内贔屓や高官のバカさ加減である。

それらが六課内でもあった為に、ティアナにパワハラしたり僕がほぼ嘘っぱちな理由で六課に入れられたりした。

あとは絶縁宣言かましたアホ総務統括官に1ヶ月以上も自宅が占領されたりとか?





まぁだからこそ、戦技披露会の打ち上げ会場の一角であむ達や他のメンバーと合流して、はやてはこんな事を言うのだ。










「・・・・・・それでは、スターズ01とライトニング02のちょっと過激な健闘と、ナハト01のいつも通りの大暴れに」



あ、ナハト01は僕の六課に居た時に割り当てられたコールサインだね。全く使わなかったけど。

大体みんな僕の事は名前で呼ぶのよ。僕、六課在籍時一度も呼ばれた事ないし。



「元機動六課+アルファの同窓会と、GPOのみなさんと聖夜小ガーディアンのみんなとの出会いを祝して」



はやてが右手に持ったウーロン茶(当然お酒は全面的に禁止)を上げると、全員がカップを上げた。



「かんぱーいっ!!」



それで僕は軽く右手でウーロン茶を。



「・・・・・・ヤスフミ」



飲もうとしたところに声をかけてきたのは、シルビィ。右から微笑みながら、軽く右手に持ったカップを僕に差し出す。

だから僕は、シルビィにカップを合わせて『乾杯』ってする。それで、二人共嬉しそうに笑ってしまう。



「お疲れ様。というか、さっきも言ったけど・・・・・・ホント久しぶりよね」

「うん。てゆうか、ビックリしたよ。あむ達と仲良さげにシルビィ達居るんだもん」



一応応援メール的なものはもらったけど、それだけだしさ。観戦するとは全く聞いてなかった。



「ふふ、ごめんね。でも、急に決まった事だったから連絡するタイミング逃しちゃって。・・・・・・でも、安心した」

「なにが?」

「あむちゃん達からね、ヤスフミの事色々聞いたんだ。特に・・・・・・ミキちゃんかな」



シルビィが言いながら、アンジェラと楽しそうに談笑しているあむ達を見る。

そしてその輪の中に居るミキを優しい瞳で見ていた。



「ミキちゃん、ヤスフミの事いっぱい背中押してくれてるのよね」

「うん。あの時のシルビィと同じように・・・・・・『夢を信じていい。大事に育てていい』って、沢山言ってくれる。
というか、一緒に戦ってくれてる。あむのしゅごキャラなのに、いつも・・・・・・どんな時でも」



そう考えると、僕はあの子に世話になりっ放しだよなぁ。夢と本気で向き合う勇気を絞り出す手伝い、してもらったから。

思いながら、僕は一口ウーロン茶を飲む。・・・・・・というか、ちょっと照れくさいな。アバンチュールしたからかな。



「ん、それは感じた。それにヤスフミの夢も、ホントに外に出てきちゃったしね」



シルビィはテーブルの上で、サラダをパリパリかじっているシオンを振り返りながら見る。



「うん、ナナの言ってた通りだった。夢は生きてて・・・・・・ちゃんと、僕の中にあった」

「・・・・・・うん」



シオンはそれに気づいて、一旦レタスから口を離して軽く微笑む。シルビィもそれに合わせるように笑った。



「というか、今は小学生なのよね」

「あはは・・・・・・まぁね」

「何か厄介事?」

「・・・・・・かなりね。下手したら、世界中の『夢』が壊れちゃうかも」



そういう、事なんだよね。何が起こるか分からないけど、止められなかったら・・・・・・よし、決めた。

やっぱもっと強くなる。力どうこうだけじゃなくて、それに負けないくらいに心も強くしてく。僕はまだまだだもの。



「それはまた・・・・・・大変ね。大丈夫?」

「大丈夫、だと思う。みんな居るから」



軽く笑いながら、僕はまたあむ達を見る。あむが気づいて、僕に軽く右手を振る。

僕は左手を上げて、振り返す。それからシルビィの方を見上げて、不敵に笑う。



「百戦錬磨のエースやストライカーにも負けない、強い心を持った守護者ガーディアンが力を貸してくれてるから。
だから、守るよ。今この瞬間だけは魔法使いを・・・・・・1番の味方を通す。それで夢も願いも、そこから生まれる時間も、全部守る」

「そっか。・・・・・・あー、でも何か困ったら相談して欲しいな。私達GPOはみんなで絶対に力になる。
特にナナちゃんはやる気出すわよー? ヤスフミから報告もらって、本当に嬉しそうだったから」

「うん、いざという時は頼らせてもらう。シルビィ・・・・・・ありがと」

「ううん、どういたしまして。・・・・・・さて、話は変わるけど」



そう言って、シルビィの微笑みが深くなる。でも、それに寒気が走った。

だってあの・・・・・・シルビィの背中からどす黒いオーラが飛び出てて怖いの。



「あの月詠歌唄ちゃん・・・・・・だっけ? あの子もキャラ持ちみたいだけど、どうしてあの子がセコンド?
というより、おかしいわね。なんでヤスフミはあの子とあんなに仲良さげなのかしら」

「え、えっと・・・・・・そうだシルビィ。他のみんなはどう? ほら、パティとランディさんの結婚生活とか」



うん、なんか押しに押してランディさんのハートをゲットしたのよ。ちょうど去年の6月くらいの話。

僕とフェイトにリインも結婚式に出席して、そこでも同窓会やって・・・・・・いやぁ、楽しかったなぁ。



「話、逸らさないでもらえる?」



言いながらシルビィが、右手でそっと僕の左肩を掴む。というか、握り込む。



「シ、シルビィっ!? 痛い・・・・・・マジで痛いからっ! というか落ち着いてー!!
あの子は僕とあむやフェイトの共通の友達なんだよっ!? ただそれだけなんだからっ!!」

「嘘よね」



なんでそこ決めつけちゃうっ!? ほら、人の言葉を信じるって大事なんだから信じてよー!!



「ヤスフミ、私決めたわ。第三夫人・・・・・・ううん、第四夫人目指すわ」

「いや、新しい恋はっ!? ほら、なんかしてるーとかって言ってたしっ!!」

「・・・・・・・・・・・・つい1週間前に振られたけど何かっ!? えぇ、またまた報われぬ恋だったわよっ!!
だからアバンチュールを過ごした相手と劇的に再開した今のシチュに運命を感じたいのっ! いいわよねっ!!」

「いいわけあるかボケっ! 僕はもうすぐフェイトと結婚するんだからー!!
第四夫人なんて絶対・・・・・・って、第三夫人誰っ!?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・フェイトちゃん、シルビィさんも嫁にもらう言い出したらさすがに止めた方がえぇって。さすがに許容量パンクやて」

「そ、そうだね。というか・・・・・・婚約者の目の前でアレって」

「まぁ察してあげようか。ほら、失恋したって叫んでたし、恭文に愚痴りたいだけやと思うな」



・・・・・・みたいだね。ちょこちょこ聞こえる話の内容が『如何にして振られたか』という方向にもうシフトしてるもの。

でもまぁ・・・・・・・あの、ヤスフミがちゃんと自分の答えを出して娶るなら、私は認める。うん、それが第一夫人の器量だもの。



「・・・・・・全く、怪獣め。殺されるかと思ったぞ」



そして向こうの修羅場には触れないようにして、シグナムがそう言った。というか、背中向けてるし背中。

その真向かいにはなのは。なのははうんざりという顔でこう返した。



「それはこっちのセリフです。なんですか、あの加減無しのシュツルムファルケンは。
シグナムさん、すぐに熱くなるんですから。大体最初の時も予定より攻撃精度厳しめで」

「なんだと貴様、生意気な」



言いながら、シグナムがなのはの頭頂部を掴んで軽く振り回す。それでなのはが目を回す。



「あややや・・・・・・やめてくださいぃ〜〜〜〜〜」

「・・・・・・ま、たまにはこういうゆうのも悪くないよな」



教導官制服のヴィータがそんな事を言って二人を見る。・・・・・・うん、ヴィータも来てたんだ。

というか、スバルとティアにエリオとキャロにヴァイスさんとアルトも居る。ヴィータは四人と一緒に試合を見てたの。



「・・・・・・本当にタマにならね。ヤスフミの超・てんこ盛りじゃないけど、なのは本当に無茶するし」

「あー、特にお前は今離れてるしな。だから余計にか」

「うん」



まぁ、約束通りにブラスターも1までだったし・・・・・・ここはいいか。でも、本当に気をつけておこうっと。

・・・・・・私がじゃれている二人を見ながらそう決意を固めていると、二人に近づく影が生まれた。



「・・・・・・なのはさん」



それはなぎひこ君。なぎひこ君を見て、シグナムは手を引いた。

そしてなぎひこ君がおじぎすると、シグナムも頷きで返した。



「あ、なぎひこ君。どうしたのかな」

「えっと、まだ言ってなかったので。・・・・・・お疲れ様でした」

「もう凄かったぜー。なのは、お疲れ様。最高のビート・・・・・・オレもナギーもビンビン感じてたぜ」



なぎひこ君だけじゃなくて、右肩で浮いているリズムも右手でサムズアップしてそう言った。

というか、ちょっと興奮してるみたい。小さな身体中からウキウキなオーラが出まくってるもの。



「うん。お疲れ様。そう言ってもらえると・・・・・・アレ?」



なのはが首を傾げながら、少しだけしゃがんでなぎひこ君の右肩を見る。というか、リズムを見る。



「・・・・・・なのはさん?」

「・・・・・・聞こえる」

「え?」

「私、リズムの声聞こえるっ! というかというか、ちゃんとリズムの事見えるっ!!」

「「えぇっ!?」」










なのははそう言いながら、ビックリしているリズムの両手を取って嬉しそうに笑う。





と、というかホントだっ! ちゃんとなのはの目、リズムの事見てるし・・・・・・あの、どうしてっ!?




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



白いニット帽に青い長い髪に瞳。あとあと服装も・・・・・・あぁ、今は仮面が外れてるヴィヴィオから聞いてた通りだよ。

私はリズムから手を離して、ある方向を見てみる。それはあむさん達の居る方向。

・・・・・・あむさん達の周りの小さな子達、ちゃんと見える。恭文君の近くにはシオンも居る。





間違いない。私・・・・・・しゅごキャラが、リズムの事が見えてるんだ。










「なのは、ホントにオレの事が見えるのか?」



私は視線をリズムの方に戻して、頷いて答える。



「うん、見えるよ。あなたの声も、姿も、ちゃんと分かる」



そしてまたさっきと同じように腰を落として、リズムと視線を合わせる。

私はずっとしたかった『初めまして』を、ここでする事にした。



「・・・・・・初めまして、リズム。私、高町なのは。よろしくね」

「・・・・・・あぁ、よろしくな。オレはリズム、なぎひこのしゅごキャラだ」



嬉しそうに笑いながら、リズムがそっと右手を差し出す。私は優しく右の人差し指をさし出す。

リズムはそれを掴んで、一応でも握手。・・・・・・とても小さいけど、強い温もりが指先からまた伝わった。



「そういや、なのはのデバイスの・・・・・・えっと、レタスクラブネートだっけか?」

≪・・・・・・レイジングハートです。あなたはどういう耳をしてるんですか≫

「お、オレの事ちゃんと分かるみたいだな」

≪えぇ。マスターが分かるようになった影響でしょうか。一応は初めましてですね。よろしくお願いします≫

「あぁ。よろしくな」



ホ、ホントにレイジングハートも見えるようになってる。これはちょっとビックリかも。

バルディッシュやクロスミラージュも、マスターであるフェイトちゃんとティアが見えるようになったら同じくって言うし・・・・・・不思議。



「でもあの・・・・・・どうして? だって、朝まで見えてなかったのに」



なぎひこ君が戸惑いの声をあげるのも分かる。私だって、ちょっと戸惑ってるもの。

・・・・・・私なりのこれからや決意を、あの一戦に込めたからなのかな。



「そうだね、どうしてだろうね。でも・・・・・・これだけは言える」





だから見えるようになった。私自身が、これからの『なりたい自分』を描いたから。

あぁ、私の中にもちゃんとあるんだ。こころのたまごが、未来への可能性が。

大人になって、立場が固まったから終わりじゃないんだ。夢は、私が望めばもっと先に続いていく。



私はリズムとの握手を終えて、身体を起こしながらなぎひこ君に笑いかける。今胸に湧き上がってる、いっぱいの嬉しさを込めて。





「なぎひこ君が、私に空を『とぶ』事の楽しさを思い出させてくれたからだよ。・・・・・・ありがと」

「いえ、あの・・・・・・恐縮です」

「・・・・・・・・・・・・はーい、じゃあせっかくですから写真撮りますよー」



その声は、スバルのもの。スバル、手のひらサイズのデジカメを持ってこっちを向いていた。



「まずは昔馴染みな隊長陣と・・・・・・恭文ー! 恭文もこっち来てー!?
てゆうか、婚約者のフェイトさんとリインさん放ったらかしはどうなのっ!?」

「うっさいバカっ! こっちは臨時で失恋レストラン開いてたんですけどっ!?
・・・・・・というわけでシルビィ、ごめん。写真撮ってきたらすぐに戻るから。ね?」

「あぁ、ヤスフミ待ってよっ! まだまだ話の途中なのにー!!」



渡りに船と言わんばかりに、恭文君が嬉しそうにこちらに来た。・・・・・・失恋話聞いてるの、大変だったんだろうなぁ。

そしてシャマルさんや人間形態のザフィーラさんに、アギトとヴィヴィオもこちらに来る。だから私は、なぎひこ君の手を取る。



「なのはさん?」

「せっかくだし、一緒に写真撮ろうよ」

「えぇっ!? で、でも僕は六課の関係者でも隊長でも」

「いいからいいから。私がリズムとお友達になれた記念・・・・・・付き合って欲しいんだ。さ、いくよー」

「いや、だからあの・・・・・・ちょっと待ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」



背の小さい子は前に出て、同じく前に出る事になる恭文君を、フェイトちゃんは後ろから抱きしめてにっこりと笑う。

恭文君、まるでフェイトちゃんの子ども・・・・・・いえ、なんでもありません。だからなのはをそんな目で睨まないでください。



「みなさん、こっち向いてー」



私はなぎひこ君と肩を組んで、リズムが私達の前に出る。というか、ヴィヴィオの頭の上に乗る。

そして・・・・・・沢山、沢山笑った。今の嬉しさを、新しい一歩を踏みしめられた事への実感を、写真に刻み込むようにしながら。



「スマイルッ!!」










あとは・・・・・・私と触れ合っている、まだ12歳の小さな男の子への『ありがとう』と『大好き』の気持ちを込めて。

うん、大好きだよ。恭文君やユーノ君、他のみんなとは違う・・・・・・今まで感じた事のない好きの気持ちがある。

ちょっとだけ特別で、優しい好きの気持ち、確かに胸の中にあるから。その気持ちも、新しい私なんだよね。





だったら、大事に育ててみよう。ヴィヴィオや仕事の事は言い訳にしないで・・・・・・全力全開で。





私は私が以前言った通りに、何度でもこの子と向き合って、『とんで』いくんだ。




















(第72話へ続く)






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