小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第18話 『らんぶる・かたすとろふ』
・・・なのは。
「なにかな」
「いや、なにかなじゃなくて・・・なぜにそんなに睨んでる?」
現在、僕となのはは車・・・というか、トゥデイで移動中です。運転は僕。で、同乗者は他に三人。
「いやさ、まぁ・・・リインは仕方ないよ。IF・ENDの要望もあるし、元祖ヒロインだから」
「ですです〜♪」
はい、同乗者その1のリインさん。ちょっと黙ってようか? そして、なんの話ですかそれは。
「だけど・・・他はわけがわからないよっ!」
「何がっ!?」
それはこっちのせりふである。いきなりそんなこと言われて、状況が理解できるわけがない。
「なんでギンガフラグとかディードフラグとかセインフラグとかメガーヌさんフラグとか立ててるのっ!?
どうしておかしいって思わないのかなっ! あれだよねっ!! もうなんでもしていいと思ってるんでしょっ!?」
「やかましいっ! 僕だってわけがわからないんだよっ!! つか、前三つは覚えがないぞっ!?
それ以前の問題として、どうしてその話を今するっ!? どう考えても1話遅いでしょうがっ! あの衝撃の時間の十数分前に言ってくれっ!!」
そうだよっ! ギンガさんやディードや・・・あ、なんかわかる。でも、セインってなにっ!?
僕、まじめにあの人フラグ立てた覚えないからっ!!
「いや、真面目におかしいから・・・」
横から突っ込んできたのは、同乗者その2のシャーリー。どっか呆れてるのは気のせいじゃない。
だけど、そんなのはこちらの教導官には関係ないらしい。
「覚えがないって言えばなんでもすむと思ってるよねっ!?
そしてっ! もう忘れないようにもう一度って言えば、女の子になにしてもいいと思ってるんだよねっ!!」
「違うわぼけぇぇぇぇぇぇっ!!」
あほかぁぁぁぁぁっ! こっちは最終回で『Nice なんとか』とか言われたくないんだよっ!! んなん絶対やるかっ!!
≪そうなんですか? 私はてっきり某伊○さんを超えるつもりなのかと≫
「お願い、アルトはちょっと黙っててくれるかなっ!?」
「蒼凪、楽しそうだな」
いえ、そんな涼しい顔で言わないでください。同乗者その3のシグナムさん。
・・・さて、こんなカオスな会話をしながら僕達がどこに向かっているかというと、聖王教会である。
そこで、みなさまご存知シャッハ・ヌエラさんに会いに行くのだ。
そう、皆様ご想像の通り、今回は出張研修。ようするに出稽古なのだ。
なんだけど・・・ねぇ。
「・・・とにかく、最近おかしすぎるから。色々着くまでにお話、しようね?」
魔王の怒りがとっとと収まるのを祈ろう。
「魔王じゃないもんっ!!」
≪高町教導官、嘘っていけないんですよ?≫
「嘘じゃないもんっ!!」
魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝
とある魔導師と機動六課の日常
第18話 『らんぶる・かたすとろふ』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
それは、突然の来訪。
恭文やなのはさん達が、聖王教会に出稽古に行って、私やヴィータさんやフェイトさんにヴィータ副隊長が、午前の訓練を終えた時の事。
「・・・いやぁ、なんか悪いね。突然押しかけたのにご飯までごちそうになっちゃって」
「つか、やっさん居るかどうか確認しとけばよかったな。どーも、アイツに対してはその辺りを気にしなくていい感じがしてさ」
そう、恭文の友達という、技術開発局のお友達が、突然やってきたっ!!
なんでも、恭文が乗っている車・・・例のミニパトのメンテに来たとか。というか、無用心過ぎるよ。だって、恭文は歩きのときもあるのに・・・。
「いや、私の勘だと、今日は車って感じがしたんだよね」
「・・・いや、確かにその勘は正解ですよ?」
現に、乗ってきてるもんね。トゥデイ。
「だけどアイツ、誰に対してもそういう認識持たれてるんですね」
「だからこそのなぎさんなんですね」
・・・まぁ、私とティアも同じだけどさ。休みの最終日とか。
「というか、すみません。ヤスフミ、今日は朝から出かけてて・・・」
「いや、なんつーかすみませんでした」
「あぁ、いーよいーよ。連絡しなかったうちらもあれなんだし。・・・で、おたくがヴィータちゃん」
そう言って、お友達の一人・・・ヒロリスさんが見るのは、ヴィータ副隊長。あ、なんか照れてるのかな? じっと見られて、もじもじしてる。
「・・・はい」
「・・・いやぁ、噂では聞いてたし、やっさんからも話は聞いてたけど・・・会いたかった。うん、結構マジでね」
ヒロリスさんが、すごくまじまじとヴィータ副隊長を見る。かなり真剣に。え、えっと・・・これは・・・。
「いや、悪いねヴィータちゃん。こいつ、あのやっさんが師匠って呼んでる子がどんな感じか、気になってたのよ」
「あぁ、納得です。まぁ、アタシはこんな感じなんですが・・・」
「いや、納得したよ。まさにやっさんの師匠だ。うん、わかった」
なんかわからないけど、ヒロリスさんは納得したらしい。
「つかヒロリスさん」
「何?」
「いや、バカ弟子のデンバードやらトゥデイやら見て思ってはいたんですけど、アイツの趣味関連で知り合ったって・・・ことですよね」
「あぁ、そうだね。簡単に言っちゃうと・・・」
その話に、私とヴィータ副隊長は驚くほかなかった。というか・・・あれ? みんな普通っ!? どうしてっ!!
「あぁ、私はアイツから聞いてたから」
「私とエリオ君、フェイトさんも休み中にですね」
「私も、ヒロさんとは二回ほどお話したから」
嘘、私は知らなかったのにっ! というか、恭文は本当に聞き出さないと話さないなぁ・・・。
「そっか、なら納得だ」
ヴィータ副隊長、納得しちゃうんですかっ!? おかしいじゃないですかこれっ!!
「いや、普通ならな。だけど、アイツはまたそんな引きを・・・」
「・・・あの、ヴィータ副隊長。またってことは、よくあるんですか? こういうの」
「かなりな」
・・・恭文、なんなんだろう。すごいというか、ちょっと呆れる。
「やっさんはそういうやつだよ。いろんな意味でふざけたやつなの。ま、そのおかげで死に掛けたりしても、生き残れてるけどね」
「ヒロ、お前にやっさんを『ふざけた』とか言う資格はない。つか、似たもの同士だろうがっ!!」
「うっさいねぇ、私はアイツくらいの年はもうちょい落ち着いてたよっ! でも、話聞いてるとあいつは昔からあんな感じだったそうじゃないのさっ!!」
昔からあぁだったんだ。・・・おかしいよね。それって。
「そうだよね、フェイトちゃん、ヴィータちゃん」
「・・・まぁ、そうですね」
「基本ラインは、変わらないですね。あの感じです」
・・・なら、聞いてみようかな。
「あの、みなさん。少しお願いがあるんです」
「なんだ?」
「恭文の昔のこと、教えてもらえませんかっ!? その、魔導師になった頃のこととか」
「ダメ」
その言葉は、誰でもない、ヒロさんの言葉だった。
え、即答っ!? というか、どうしてっ!!
「まぁ、聞くってことはだ。やっさんは話してないんでしょ?」
「・・・はい」
「なら、うちらも細かいことは教えらんないよ。ほら、フェイトちゃんやヴィータちゃんも同じくって感じみたいだよ?」
見ると、二人も確かに苦い顔をしていた。話せない、いえないというニュアンスが、ありありと見て取れる。あの、でも・・・その・・・。
「私、仲間で友達ですから、大丈夫ですっ!!」
「・・・どんな根拠さそれは。つか、ダメ。仲間だからって、全部を知らなきゃいけないってルールはないよ?
ひぐら○でも、やっさんに声がよく似た部長さんが言ってるでしょうが。アンタ、なんか勘違いしてる」
「勘違いじゃ・・・かもしれないです。でも、あの・・・その・・・」
確かにその通りだ。でも、どうしても・・・。
「あー、すみません。この子には私から言って聞かせますから。スバル、この話は終わり。いいわね?」
「ティアっ!」
「あー、いいからいいから。・・・ね、スバルちゃん。どうしてやっさんの過去が気になるの?」
え? ・・・ヒロリスさんが、私の目を見る。さっきまでの少しフランクな感じとは違う。こう、真剣な色が見えた。
「いやさ、気になるからには、当然理由があるでしょ。一応、それは聞くよ。話すかどうかは別問題だけどね」
「・・・はい」
そして、私は話した。恭文の過激な行動。私達に隠し事が多いこと。すごく、不満があると。
もちろん、恭文の資質や、仕事の都合上のこともある。これらは仕方ないかもしれない。・・・ううん、きっと仕方ないことなんだ。
ティアの言うように、私達はずっと一緒じゃ・・・ないんだから。
だけど、どうしても納得が出来ないことがある。恭文は普通なのに、普通じゃないところ。絶対に、今のままなんて嫌なところ。
「・・・恭文、たまに言うんです。壊したいものを壊すために戦うって。それが、嫌なんです。
でも、恭文に聞いても、はぐらかされたり、ボカされたりして・・・」
「それで、やっさんの過去の話にヒントがあるのではないかと・・・」
私は、その言葉にうなづく。勝手なこと言ってるのはわかってるん。でも、仲間で友達で・・・。
「・・・スバルちゃん」
「ヒロリスさんの言ったこと、わかってます。そんなルール、どこにもありません。あっていいはずが無いです。
だけど、嫌なんです。今のままは・・・嫌なんです」
嫌だ。私は、恭文がそういうことに疑問がある。認めるのも、否定するのも、もっと恭文を知らなきゃいけない。
だけど、どうしたら恭文がそれをちゃんと話してくれるのかわからなくて、ぶつかってもダメな感じがして。それで・・・。
「・・・わかった。じゃあ、教えてあげるよ」
「・・・え?」
「だから、やっさんの昔のことだよ」
『えぇぇぇぇぇっ!?』
そのヒロさんの言葉に、全員が驚く。いや、だってさっきはあぁ言ったのにっ!!
「あ、あの・・・ヒロっ!?」
「いいよ。つか、本気で心配してくれてるみたいだしさ。まぁいいんじゃないの? こじれてもアウトだし」
「いや、そういう問題じゃないだろっ!!」
・・・いいんですか? 私、すごくわがまま言ってるのに。
「いーよ。ただ、話聞いてやっさんと付き合い方変えるってのをなしにするのが条件だけどね。約束、出来る?」
「・・・はい、約束します」
うん、約束出来る。だって、恭文は友達で仲間だから。・・・何があっても、絶対にそれで何かを変えたりなんて、しない。
「あの、ヒロさん? ヤスフミの居ないところでそれはないです。勝手に話を進めないでくださいっ!!」
「仕方ないでしょ。やっさんには私から謝っておくよ」
「そういうことじゃないですっ! というより、ヤスフミの事どれだけ知ってらっしゃるんですかっ!?」
「8年前の一件、最初から最後までの全部」
その瞬間、凍った。私達じゃない。フェイトさんと、ヴィータ副隊長が。理屈じゃない。二人が、一瞬凍った。
「・・・失礼ですが、それはどこで聞いたんですか」
なんだろう、フェイトさんの視線が厳しい。とても、怖いものを感じる。
「・・・二人ともなんか勘違いしてるみたいだけど、私らはやっさんから直接聞いた。もちろん、無理やりじゃないよ。
まぁ、あの一件でそういう子が居たっていうのは、噂話程度には聞いてたけどね」
「噂話っておっしゃりますけど、あの一件は・・・」
フェイトさん、いつもと違う。こう、厳しい視線はそのままだけど、どこかで困惑してる。
・・・待って、恭文の過去って、そこまでのことなのっ!?
「やめとけ。お前の言いたいことはわかるけど、アレだよ。人の口に戸は立てられない・・・つーことですよね?
アイツ、保護された当初から本局の医療施設で騒ぎ起こしてましたし」
「そうだね。俺らはその頃には、本局勤めだったし。もちろん、ヒロが言うように無理やり聞いても居ないし、興味本位で調べてもいない。
俺だって、やっさんがその当の本人だっていうのは、ダチになって初めて知ったくらいだ」
「そう・・・ですか」
・・・覚悟、決めよう。きっと、すごく重いことなんだ。だけど・・・ごめん。私のわがまま、通すね。嫌いになられても・・・しかたないよね。
ティアやエリオ達は、さっきから黙ってる。ティアにいたっては、睨んでる・・・ごめん。でも、やっぱりなの。
大好きな友達が、壊すために戦う必要があるのかどうか、ちゃんと、知りたいの。今のままじゃ、否定も、認めることも出来ないの。
「うし、つーわけだから、スバルちゃん、移動しようか。あ、フェイトちゃんもヴィータちゃんも、準備よろしく♪」
『・・・え?』
いや、あの・・・準備ってなにっ!? というか、移動ってどこへいくんですかっ!!
「・・・まぁ、アレだよスバルちゃん。何事も対価って必要だと思わない?」
「それは・・・まぁ」
「うちらは、本来ならやっさんの許可なく話す義理立てはない。だからさ、対価として、まずアンタ自身を見たいのよ」
私・・・自身。
「アンタが、やっさんのことを変えたい。傷に触れてでも、真意を・・・本当の気持ちを知りたい。そう思う気持ちの強さと、覚悟を見たい。なので・・・」
ヒロリスさんは、そこまで言うと右手の人指し指を一本立てた。
「私と模擬戦するよ。その中で、アンタ自身を見極めさせてもらう」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・準備はした。スバルもやる気十分。だけど・・・だけどこれはなにっ!? いきなりすぎてわけがわからないよっ!!
「あー、大丈夫大丈夫。怪我もしないしさせないから」
「・・・いや、ヒロ。たぶんそういうことを言ってるんじゃないから。
つか、俺もわけわかんないよっ! なんだよこれっ!? 頭おかしいだろお前っ!!」
「失礼な。やっさんよりマシだよっ!!」
それどういう意味ですかっ!?
「あの、とにかく模擬戦なんてやめてくださいっ! つい押されて準備しちゃいましたけど・・・許可できませんっ!!」
「どうして?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ヤスフミ、私の気のせいなのかな?
なんだかね、この人から無茶苦茶する時のヤスフミと同じオーラを感じるんだ。
「どうしてって・・・! ヒロさんは魔導師でもなんでもないじゃないですかっ!!」
「・・・いや、止めても無駄な感じがするのはわかるんですよ。でも、やめてもらえますか?
スバルも、最近は結構やるようになってきましたし」
私達がそう言うと、二人はぽかーんとした。え、どうしてっ!?
「・・・あぁ、やっさんから聞いてなかったのね。私ら、魔導師よ?」
『え?』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
まーさか向こうさまがそんな楽しい状況になっているとは露知らず、僕はある人とガチにやりあっていました。
そう、その人とは・・・。
「・・・それでは、この辺りにしましょうか」
「はい・・・。おつかれ・・・さま・・・でした。ありがとうございました」
≪シャッハさん、ありがとうございました≫
「いえいえ。こちらこそ、いい経験をさせていただきました」
そう、紫色のショートカットの髪に、手に持つのは二本のトンファー。
みなさまご存知、聖王教会の戦うシスター。シャッハ・ヌエラさんその人だ。
午前中いっぱい、必死こいて斬りあってたわけだけど・・・いや、楽しかったー!!
やっぱり、僕の中でのガチにやりあって楽しい人ランキングベスト5に入っているだけのことはあるわ。
「それは私もです。やはり、あなたと剣を交えるのは・・・心が躍ります。シスターとしては、少しだけ不謹慎ですけどね」
「にゃははは・・・」
「恭文さん、おつかれさまです〜」
互いに息を整えつつ話していると、後ろからリインが飛んできた。手にはタオルを持って。というか、二つ。
必死に持ってきたそれを、僕とシャッハさんに手渡す。
それで、僕たちは体を止めたことで噴出した汗をふき取る。いや、あぢー。楽しいけどあぢー。
「ありがとうございます。リインさん」
「はいです。というか、二人ともがんばってたですね〜」
「まぁ、聖王教会なんて滅多に来れないしね」
≪・・・いや、そういう意味じゃないですから≫
ほえ?
「お昼、もう過ぎてるですよ?」
この瞬間、シャッハさんと顔を見合わせて、すぐさま時間を確認する。・・・あ、もう午後1時だ。
えっと、ここに来たのが9時で、組み手始めたのが・・・10時。
「すみません、ついつい楽しくなってしまって・・・」
「・・・シャッハさん、それ・・・というか、僕たち、どうなんでしょ」
あ、なんかお昼なのに、カラスの声が聞こえる。あれだよ、『アホー!』って言ってる声が。
≪すさまじく楽しそうでしたね。二人して≫
「リインだけじゃなくて、なのはさん達も止めるのが忍びないって言ってたです・・・」
・・・まじめに思う。お昼ぶっちぎりで楽しく三時間斬り合いって、人生の楽しみ方間違えてる気がする。
もっと、平和的な楽しみを見つけてもいいんじゃなかろうか?
「あぁ、それならもちろんありますよ」
「そうなんですか。・・・例えば?」
「そうですね。魔法学院の子供たちと戯れる時や、信者の方々とたわいもない会話をしている時。
あとは、騎士カリムとの紅茶の時間・・・などでしょうか。こう言った時には、心が落ち着きます」
『なるほど・・・』
確かに、武闘派シスターっていうのは、シャッハさんの一面だしなぁ。
心を落ち着けて、静かに過ごす時間だって、当然ある。いや、無きゃいけない。それが無いと、戦えないもの。いろんな意味でね。
「あなたにもあるでしょう? そういう時間が」
シャッハさんが、僕を見てそう聞いてきた。・・・うん、ある。
今という時間そのものそうだし、みんなと馬鹿をやったり、騒いだり。そんな守りたい時間、ある。
「私もです。・・・それが守れるなら、どんな戦いであろうと身を投じ、剣を振るう。そんな覚悟が出来る時間が、あります」
「・・・そうですね。僕も、同じです」
「まぁ、あなたは誰よりも、フェイト執務官との時間を守りたいんでしょうけど」
そう言われた瞬間、思考が固まった。だって・・・シャッハさんにその話してないから。
まてまて、情報源は誰だっ!? シグナムさん? いや、あの人はそんなぺらぺらしゃべる人じゃない。
なら、はやてかっ!! あれならありえる。
「違います。というより、あなたとフェイト執務官の二人でいるところを見れば、誰であろうとわかりますよ」
≪・・・そうですよね。わかりますよね、普通は≫
うん、そうだよね。普通は分かるんだよね。
「・・・でも、それが当の本人には伝わらないんですよ。あの、アレはまじめにどうすればいいんですか?
最近、もう押し倒すしかないのかなって、本気で考え始めてるんですけど・・・」
「や、恭文さんっ!? お願いですからうずくまらないでくださいですー! 泣くのもだめですよー!!」
「あの、それはやめなさいっ! そんな真似をしてあの方の心を射止められるわけが・・・。
あぁ、本当にそうなのですね。騎士カリムから聞いたとおりですよ」
・・・カリムさん、意外とおしゃべりだな。まぁ、いいや。とりあえず・・・そこはいい。
「あとは、色々とシグナムや八神部隊長からも聞いていますよ。あなたが、フェイト執務官を守る騎士として、戦い続けていると」
結局話してるんじゃないのさっ! なんなのさ一体っ!?
「・・・僕は騎士なんてガラじゃありませんよ」
そう、僕は自分の勝手で戦ってる。局とか世界とか、そういうもんのためじゃない。
ぶっちゃけ、戦って命賭けるのも、嫌いじゃないしね。
「ガラなどは関係ありませんよ」
「え?」
シャッハさんが、微笑む。僕を見て、柔らかい表情で。だけど、瞳には、とても強い力がこもっていた。
それが、僕の心を射抜く。そして・・・続ける。
「守りたいものがある。そのために剣を振るい、業を背負う覚悟があるなら・・・ガラなどは関係ありません。
それが出来るものは、皆、等しく騎士です」
守りたいものがある。業を背負う覚悟・・・か。
「・・・なら、恭文さんは騎士・・・ですね。全部に当てはまりますから」
「・・・そうかな?」
「そうですよ。愛する女性を守りたいと、力になりたいと願い、進み続ける。それは、紛れも無く騎士の所業ですよ。
私としては、なぜあなたが騎士の称号を取らないのか、非常に疑問です」
・・・そういうガラじゃない。というのが理由だった。だけど・・・違う。そうじゃない。
僕の性格どうこうじゃなくて、僕がしてきたこと。それが・・・騎士の行動なんだ。それは、盲点だったな。
≪・・・シャッハさん。シグナムさんやはやてさんから、何か聞いてるんじゃないですか?≫
「さぁ、どうでしょう。まぁ、あなたはロッサと同じく自由過ぎる傾向が・・・」
「恭文君っ!!」
僕が少し考え込んでると、その思考はある声によって中断された。そこを見ると・・・なのはとシグナムさんとシャーリーが走ってきていた。
というか、なんか慌ててる?
そう、三人が三人とも、慌てた様子だった。そして・・・開口一句、とんでもない言葉が出てきた。
「恭文君の友達が模擬戦してるって・・・どういうことっ!?」
『・・・はぁっ!?』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ヒロさんとサリさんが六課に来て・・・」
≪話の流れでスバルさんとヒロさんが模擬戦・・・≫
「ヒロリス・・・。またそんな真似を」
「え? シスターシャッハ、恭文君の友達を知ってるんですかっ!?」
そりゃそうだよ。だって、ヒロさん・・・ヒロリス・クロスフォードは・・・。
「昔から、騎士カリムを妹のようにかわいがってくださっていたんです。私もその関係で」
「えぇっ!?」
・・・あー、細かい説明が必要だよね。うん。
ヒロさんの実家のクロスフォード家・・・クロスフォード財団は、以前も話したけどミッドでは有名な資産家。ヒロさんはそこの分家筋の出身。
で、その分家は、聖王教会の活動を支持し、そのスポンサーも勤めてる。二人はその関係で、子供時代に知り合ったそうだ。
なお、以前少しだけ話したカリムさんと縁を持つことになった護衛の仕事も、実はヒロさんからの推薦で、クロノさん経由で回ってきた話だったりする。
≪まぁ、そこはいいでしょう。・・・しかし、どうします?≫
みんなで遅いお昼を頂きながら、アルトが横でぷかぷか浮きながらなんか言ってるけど、正直どうしようもない。
だって、僕たち六課にいないんだもん。
とりあえず、サリさんから送ってきたメールを見るに・・・わけわからないよっ!
どうしてそれで模擬戦っ!? いや、言ってることはまともだけど、行動がおかしいからっ!!
「・・・とりあえず、ヒロさんとサリさんには戻ってから話そう。まぁ、フェイトと師匠が居るんだし、いつもみたいなことには・・・ならな・・・い・・・よね?」
「誰に対して聞いてるのっ!? というか、どういうことっ! いろんな要素が詰め込まれすぎててわけがわからないよっ!!」
「あぁ、お願いだから落ち着けっ!! ・・・ひとつずつ説明するから」
とにかく、説明だよね。うんうん。
「えっと、出会い方は・・・かくかくしかじか・・・というわけだったの」
「・・・なぎ君」
「そんな呆れた目で僕を見るなっ! つか、僕だって驚いたんだからっ!!」
そう、あの時の衝撃は、多分一生忘れられそうに無い。だって・・・思いっきり関係者だったんだもん。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・・・・・・・・・・・・・帰っていいかな?」
≪どんだけ引きこもり思考ですかあなた。まったく、オフ会くらいマトモにこなしましょうよ。せっかくエイミィさんやアルフさんが後押ししてくれたというのに≫
そうだったね。子育ての最中で、閉じこもりがちだし、外に出て新しい出会いに触れるのは、いい刺激になるって言って・・・。
なんか、申し訳ないな。手伝うために居るのに、逆に気を使わせちゃって。
「でもさ、いきなり知らない人と会うのって、やっぱり緊張するよ?」
≪・・・そうですね。あなたはそういう人でしたね≫
とにかく、僕はミッドのフェレット広場で待ち合わせをしていた。まぁ、体型なんかの特徴は話してるけどね。
なぜだか『(泣)』とか、慰める顔文字とかいっぱい使われたけど。・・・ムカつく。
≪仕方ないでしょう。年齢も言ったのなら、当然の反応です。・・・それで、相手方の特徴はわかっているのですか?≫
「うん。身長は女性が170以上。男性の方が180以上だっけな。で、女性が白髪のセミロングで、それを二つのおさげにしてるの。
男の人の方が、黒髪のざんばら髪って言ってたな」
年齢は・・・20代後半・・・というか、三十路突入したって言ってたな。どんな人たちだろ? 興味はあるよね。
≪・・・え?≫
「いや、そういう人たちなんだって。なんか、長い付き合いのある友達同士とか」
なんか、20年とか付き合いがあるって言ってたな。年齢を考えると、幼馴染でいいよね。
というか、そこまで付き合いが続くとは・・・すごいねぇ。・・・それまでには、フェイトとくっつけるといいなぁ。
「・・・あの、やっさんですか?」
僕がちょっとだけ鬱な思考に入りかけていると、声がした。そちらを見ると・・・そのものずばりな方々が居た。
「あ、はい。・・・ヒロさんとサリさんですか?」
「そうだよ。ども、初めまして。いや、まさかまさかとは思ってたけど・・・」
「またちっちゃいねー! 君、ちゃんと食べてる?」
グサっ!!
「・・・ヒロ、そこは触れちゃだめだって」
「・・・ごめん。あの、お願いだからうずくまって泣くのはやめてくれないかな。お姉さん、意外とそういうの気にするんだ」
≪あなた、そんなタマでしたか?≫
「うっさいねっ! あんたに言われ・・・・」
その瞬間、場が固まった。というか・・・え、なにこれっ!?
「・・・なぁ、俺はすさまじく聞き覚えのある声が聞こえたんだが」
「奇遇だね。私らにとってはいろんな意味で思い出深いやつの声が聞こえたよ」
すみません、意味がわからないですその会話。
だけど、そんな僕の思いはどこへやら。話はどんどん進んでいく。
≪ずいぶんな言い草ですね。というか・・・なにしてるんですかっ!?≫
「え、アルト知り合いなのっ!?」
『アルトっ!?』
二人が同時にハモって驚いた。
というか、僕の肩をつかんで、無理やり立ち上がらせる。そして・・・表情が驚きに満ち溢れたものに変わる。
「あぁぁぁっ! あ、アルトアイゼンっ!! アンタ、なんでこんなとこにっ!?」
「つか、まてまて。なんでお前、この子に『アルト』って呼ばれて平気にしてるんだよっ!
お前、マスター以外には呼ばれたくな・・・ま、まさかっ!!」
≪そうですよ。この人は、私の現マスターです≫
『えぇぇぇぇぇぇぇっ!?』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・というわけで、いろんな意味で置いてけぼりな僕はその場から、近くのご飯の美味しいカラオケ屋さんに連行されたの。で・・・」
「お二人があのお方の弟子だったという話と、その時にアルトアイゼンと知り合っていたという話を聞いたわけか」
「そうですね。それで、僕の現状とかを話したら、色々戦闘技能やらなんやらを見てくれるという話になって・・・」
そのまま、付き合いは今に至るというわけである。
そう、僕が何回か話に出した教導隊出身の友達とは、あの二人のことでもあったのだ。先生と会う少し前に、席を置いていたらしい。
なお、二人は先生から受けついた技能をさび付かせるのも嫌だと、訓練は仕事の合間を縫うようにして継続中。
実力的には一線級。ぶっちゃけ、なのはやシグナムさん達より強いと思う。だって、僕はまだ一回も勝ったことないし。
JS事件の時も、協力してもらって、一緒に暴れたりしたしねぇ・・・。
あはは、バレたら絶対怒られるな。対外的には引退してる人たち引っ張りだしてるんだから。
「・・・ねぇ、恭文君」
「なに?」
「なんでそうなのっ!? 訳分からないよそれっ!!」
「やかましいっ! 僕だって同じだよっ!! つか、なんで六課隊舎に来ているのかもイミフだしっ!!」
とにかく、二人のことは次回だ。もう僕たちにはどうしようもない。
「で、なんやかんやとまた修練場に来ましたけど、午後はなにするんですか?」
「・・・お前。まぁいいだろう。向こうは向こうで楽しくやっているだろうしな」
・・・うん、楽しくね。つか、スバルはそこまで僕のこと気にしてたのか・・・。やっぱ、真面目に話さないとだめか。
覚悟、決めてる。だけど、ちょっと躊躇ってた。多分、聞いたら・・・ショック受けるだろうし。でも、話さないのもアウトだ。
メールでサリさんに、僕がちゃんと話してないのが原因なんだから、自分で始末つけろと言われてしまった。
まぁ、しゃあないか。帰って、話せる状態なら、ちゃんと話そう。
・・・スバル、死なないでね?
「午後の修練は・・・私とシスターシャッハと、全力全開でやってもらう」
「・・・・・・・・・・・・・・・・マテ」
まぁ待ちましょうよ。落ち着いていきましょうよお二人さん。なんか楽しそうにしてますけど、僕は意外と必死ですよ?
アンタら二人を相手取れって・・・あれですか? 死ねと言っているのか貴様らっ!!
「問題は無い」
「いや、大有りですからっ! 一人ならともかく二人っ!? 間違いなく死亡コースでしょっ!!」
「問題は無い。それに言ったはずだ。全力全開だとな。それには、リインも一緒だ」
・・・あ、そういうことか。なら大丈夫だ。
≪それでリインさんを連れてきたのですね≫
「そういうことだ。六課でもいいとは思ったが、せっかくだしな」
だ、そうだけどリイン、どうするさ?
「問題ありません。かるーく捻ってみせましょうっ!!」
僕の隣に来て胸を張ってそう宣言するのは、祝福の風兼古き鉄。ま、そうだよね。
僕達二人・・・いや、『三人』が揃って、はいそうですかで負けるわけにはいかないでしょ。
「リイン曹長、ずいぶんと強気ですね」
「蒼凪と絡むとこうです。お気になさらず。とにかく・・・始めるぞ」
「はい」
そうして、二人は互いの相棒を出し、構える。
・・・さて、ちょこっと久しぶりだね。だけど、そんなのお構いなしで敵は強大だ。
楽しいねぇ。楽しすぎて笑いが出そうだ。
「ですね。でも・・・やれます」
≪そうですね。それではマスター、見せるとしましょうか≫
「りょーかい」
ま、毎度おなじみ電○ネタだけど、ノリよくいくとしようじゃないのさ。
「・・・行くよ、本邦初公開っ!!」
「リイン達の本当の変身とっ!!」
≪本当のクライマックスというものを・・・≫
「見せてっ! あげるよっ!!」
僕は、右手を目の前に伸ばす。手のひらは上に、誰かの手を取るようにして。
そして、リインは僕の右手の中指に、自分の右手を重ねて・・・叫ぶ。
「ユニゾン・インっ!!」
その瞬間、僕とリインの身体を青い魔力の光が包み込む。
そして、リインは僕の中へと入る。・・・そう、入るのだ。
それから、バリアジャケットが変化する。
青いジャンバーは消え去り、黒いインナーが、リインの甲冑と同型になる。ただし、白だった部分は青に変わる。
ジーンズ生地のパンツは、少しだけ色を明るいものへと変える。
腰元に、これまたリインと同型のフード、ブーツも、同じく同型を装着。フードの色は、青。ブーツは、黒色。
左手のジガンスクードも、それまでの鈍い銀色から白銀へと色を変える。鮮やかな、雪を思わせるような輝きを放つ。
そして、僕の髪と瞳は、色調を変えた空色へと変化する。
・・・力が溢れる。理屈じゃない。理論じゃない。ましてや、データ的なものでもない。
身体と心の奥から、力が溢れてくる。なんでも出来そうな気持ちになる。
そう、この力は・・・未来を掴む、僕達三人の想いの力だ。
光が散る。そしてそれらは、冷たい雪となって、僕達の周りを散る。これで、完了だ。
これが・・・本当の古き鉄の姿。僕とリインのユニゾン形態っ!!
【・・・やっぱり、暖かいです】
「そうだね。僕も、心が暖かい」
【恭文さんとのユニゾンは、安心するです】
うん、そうだ。リインとのユニゾンは、安心する。
どんな状況でも、どんな理不尽でも、覆せる。未来を、この手に掴めると、信じられる。
本当に不思議だ。うん、不思議。
【はい・・・】
≪まったく、相変わらずラブラブですね≫
【ヒロインですから♪】
「まだ言うのね、それ・・・」
・・・本来であれば、リインとのユニゾンは想定外。出来るわけがないもの。
だけど、僕達は出来る。こうして一つになって、理不尽を覆せる。
そうだ、僕達は・・・かーなーりっ! 強いっ!!
「・・・準備はいいですか?」
シャッハさんが、トンファー・・・ヴィンデルシャフトを構える。
「遠慮なくやらせてもらう。全力で来い」
シグナムさんが、レヴァンティンを構える。
・・・変だね。相手はオーバーSクラス二人。なのに、まったく負ける気がしないよ。
あ、言っておくけど、能力どうこうじゃないよ?
リインと一つになって、アルトが居る。三人で戦える。これだけで・・・誰が相手だろうが、負ける気がしないっ!!
「いくよ。リインっ! アルトっ!!」
【はいですっ!!】
≪さぁ、ここからが私達のクライマックスですよっ!!≫
「覆すよっ! 今をっ!!」
そして、僕達は飛び出した。さぁ、一気に行くよっ!!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「シャーリー、データはどう?」
「問題ありません。なぎ君とリイン曹長のユニゾン、すごく安定していますから」
まぁ、大丈夫とは分かってるけどね。あの二人のユニゾンは、本当にすごいから。
「でも・・・やっぱりすごいです。八神部隊長や副隊長達とユニゾンするより、適合率が高い」
「そうなんだよね。こういうのも、はやてちゃんのヤキモチの原因なんだよね・・・」
・・・ユニゾンというのは、ユニゾンデバイスを用いた一種のパワーアップ方法。
まぁ、こういう言い方をすると色々語弊があるんだけどね。
ユニゾンデバイスと魔導師か騎士(この場合はロードと言う)が一つになることを、ユニゾンという。
ただし、問題点がある。
ある一定以上の相性というか、適合率が両者の間に無い場合、ユニゾン出来ない。
というより、それで無理にユニゾンしたら、とんでもない大事故に発展する危険性がある。
そんな理由から、現在ではユニゾンデバイスを開発しているところはほとんどない。
生み出しても、適合者以外はその能力を発揮出来ないから、無理ないんだけどね。
そして、リインはそのユニゾンデバイス。
主であるはやてちゃん。その守護騎士であるシグナムさんやヴィータちゃん達とのユニゾンを前提に生み出されている。
だけど、二人が出会うきっかけになった事件の中で、二人はユニゾン出来た。
それも・・・恭文君は、はやてちゃんやヴィータちゃん達よりも高いユニゾン適合率と能力を、安定した形で叩き出した。
まぁ、魔力量自体は、恭文君が一般レベルだから、比べるまでもないんだけどね。でも、二人にとってはそんなのは問題にならないくらいに強い。
・・・これも、贈り物・・・なんだよね。うぅ、どうも私は信じられないなぁ。いや、もう決定事項としか言いようが無いんだけど。
とにかく、そんなユニゾンした二人が・・・戦い始めた。さぁ、どうなるかな? 結構きついと思うけど。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そうだね。普通にやったらきついね。
シャッハさんは、フェイトとはまた違った意味での高速戦闘が得意な人だ。すごくフットワークが軽い。
物質透過魔法なんてのも使えるしね。
そして、シグナムさん。空戦だから、その辺りの移動能力は脅威。
あと、連結刃やら、ボーゲンフォルムで弓とか撃たれても困る。シャッハさん? あの人のフットワークなら、ぎりぎりで回避は可能。
なら・・・まずはっ!!
僕は、シャッハさんへと突っ込む。そして、シャッハさんも同じくだ。さすがガチンコ好き。突っ込んできますか。
だから、こうする。
【アイスキューブっ!!】
シャッハさんの頭上に、ベルカ式の魔方陣。そこから、氷のキューブが大量投入っ!!
さて、当然シャッハさんはそれを・・・避ける。なので、僕はそこを狙って、一気に突っ込むっ!!
僕は、氷の中を突っ切って、シャッハさんの脇を通り過ぎた。あ、なんかしまったって顔してるね。だけど、遅い。もう駆け出してるし。
いやまさか、こんな単純明快な手にハマってくれるとは思わなかった。だってこれ・・・。
【アイス製作用の魔法ですから♪ しかも、今出したのは本当の氷ですっ!!】
とにかく、ここからだ。僕はシグナムさんに向かって駆け出しながら・・・リイン、お願い。
【はいですっ! フリジットダガーッ!!】
僕の周りに、20から30ほどの青い短剣。そして、その前段階として、ジガンからカートリッジが1発消費された。
これは、リインのオリジナル魔法。フリジットダガー。氷結属性持ちの魔力の短剣を飛ばす術。
これを、シグナムさんへレッツゴーっ!!
それをシグナムさんは・・・カートリッジを消費。レヴァンティンを連結刃・・・刃の鞭に変えて、打ち払う。
・・・訂正。打ち払っているそうだ。
だって、僕はシグナムさんに背を向けているから。対峙しているのは、先ほどやり過ごしたシャッハさん。
【一気に行くですっ!!】
「とーぜんっ!!」
この状況はよろしくない。早急に数を減らす必要がある。その場合やりやすいのはどっち?
・・・本当の意味で近接オンリーで、空を飛ばず、機動力・・・というか、突進力で僕が勝てる相手。そう、シャッハさんだっ!!
そして、シャッハさんは、やり過ごした僕の追撃をかけていた。もう、目前のところまで。
僕は、鞘に収めたままだったアルトを手にかけて、構える。
・・・集中しろ。斬ろうと思って斬れないものなんてない。
理屈じゃない。理論じゃない。ありったけの想いで、力で、覆すんだっ! 今をっ!!
「氷花・・・!」
勝負は一瞬で決める。じゃなきゃ、挟み撃ちでおしまいだ。ジガンから、カートリッジを3発消費。
鞘に収められたままのアルトの刀身に宿るのは、絶対零度の凍れる刃。
そして僕は飛び出し・・・それを、抜き放つっ!!
「一閃っ!!」
だけど、敵もさるもの。僕の攻撃を見切って、ぎりぎりで防御した。
鞘から抜き放ちながらの横一閃は、相手方の防御と体制を少しだけ崩しただけだった。
そして、シャッハさんはすぐに攻撃に移る。ヴィンデルシャフトからカートリッジが消費される。
「烈風・・・っ!?」
シャッハさん、人の話は最後まで聞いたほうがいいですよ?
居合いが一撃なんて・・・誰が決めましたかっ!!
防御されるのは分かってた。だから、一撃目はそれを崩すため。
シャッハさんの技量なら、その直後を狙ってくる。というか、狙える。
だから、その隙を突いて・・・手首を返し、もう一歩踏み込み、アルトを上段から・・・打ち込むっ!!
「チェストォォォォォォォッ!!」
凍れる刃は、一撃を入れてなお、その勢いを消してはいなかった。
そしてその一閃は、シャッハさんを真一文字に斬り、吹き飛ばした。
「・・・瞬(またたき)・二連」
【後から言うですね】
≪まぁ、グランド・マスターもそうでした≫
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・なに、これ?
全力でやった。ギア・エクセリオンも使った。ありったけをぶつけた。なのに・・・かすりもしてなかった。
攻撃は全て避けられ、向こうの攻撃は当たる。防御もする。防げる時もあるけど、基本的には防げずに受けてしまう。
くやしい・・・。
なのはさんや隊長達とやってる時でさえ、こんなこと感じない。自分の力が、全く届かない。こんなの・・・悔しい・・・!!
「・・・動かない方がいいよ」
「まだ・・・やれ・・・」
「だーめっ!!」
立ち上がろうとした私を、あの人は押さえつけた。
踏みつける感じじゃない。わがままを言う子どもを、少しだけ乱暴にたしなめる感じで。
「アンタ、私の斬撃何発食らった? 本来なら立てるはずじゃ・・・。そこまでして、やっさんを知りたいの?」
「はいっ!!」
「即答かい。・・・はぁ、しゃあないな。私の負けだよ」
「えっ!?」
だ、だって私負けてるし、攻撃なんて当てられてないし・・・。
「正直さ、私はアンタを動けないようにぶちのめすことは出来ない。・・・もしこれが実践なら、私はアンタを殺すって選択しかできないよ」
その言葉に、頭が冷めた。だってこの人、すごく簡単に・・・。
「まぁ、アンタや、高町教導官やハラオウン執務官みたいにさ。ここ10年の間に魔導師やるようになった子にはわからないかもしれないけど・・・。
それより前はね、本当にヒドかった。私らが全盛期の頃なんて、殺す殺されるなんて、日常茶飯事だったんだよ」
そう口にするヒロリスさんの顔が、どこか寂しげだった。そして、悲しい色を秘めて、どこかを見ていた。
「だから、ぶっちゃけちゃえば、私は殺すって選択を取れる。綺麗事抜かして、自分が死ぬのは嫌だから。
やらなきゃ、やられるんだよ。それが出来なかった仲間内は、何人か死んだりしてたしね」
・・・私も、魔導師だから知ってる。今がとても安定しているというのは。でも、そこまで昔はひどかったなんて。
「・・・って、ごめん。話それちゃったね。私がなんで負けを認めたか、言わないといけなかったのに」
「あ、いえ・・・」
「私は、アンタの力に負けたんじゃない。・・・アンタの心に負けたんだよ。まっすぐに、やっさんを知りたいと願う心にね」
私の・・・心。
「私の持ってる手札じゃ、それを覆すのは無理。殺す・・・ようするに、うちらがポーカーやってるテーブルをひっくり返すしか、手を思いつかない。
だけど、当然それはできない。だから、負けなの。・・・OK?」
「ヒロリスさん・・・」
なんだか、少しだけ納得が出来ない。でも・・・いいの、かな?
「いいよ。つか、自信持ちな〜? 私をそういう形で負かせたのは、アンタで三人目だ。ちなみに、やっさんは無理だった」
「そうなんですかっ!?」
「・・・いや、アイツとやると、私もどーもエンジンかかってさ。ついやりすぎちゃうのさ。気絶するまでぶっ飛ばしちゃうの」
あははは・・・。納得しました。というか、恭文、こんな強くて、凄い人と特訓してたんだよね。分かる。なのはさん達から見てもびっくりするくらいに、強くなった理由。
きっと、いろんな形で、力を貸してくれたんだ。なんだか、分かる。
「でさ、スバルちゃん。アンタ、いい勘してるよ」
「・・・というと?」
「やっさんが『壊したいものを壊すために戦う』っていうのはね、やっぱり過去のことが原因なんだよ」
・・・ほんとにそうだったんだ。私、結構なりふり構ってなかったのに。
「アンタねぇ・・・。まぁ、アンタの経歴は、ちょこっと聞いた。だから納得できないのも分かる。つか、それは当然だろうね。
でね、やっさんの昔の事なんだけど・・・」
「・・・あの、ヒロリスさん」
「なに?」
どうしよう、言いにくい。だけど、ちゃんと言わなきゃ。
「あの、なんていうか、わがまま言って申し訳ないんですけど・・・。やっぱり、聞かない・・・じゃ、ダメですか?」
「はぁっ!?」
あぁ、なんか怒ってるっ! やっぱり、ダメだよねっ!? ここまで私が騒ぎ起こしちゃったんだし・・・。
「とりあえず、理由を言いなよ。じゃないと、私は納得できない」
「・・・恭文に、ちゃんとぶつかって聞いてみたいんです。ヒロリスさんにしたみたいに。というか、私、卑怯でした。今ここで聞いても、後悔しそうで・・・」
「やっさん、話さないかもしれないよ?」
・・・うん、そうかもしれない。今までは、そうだった。だけど、その・・・でも、やっぱりなんだっ!!
「それでも、もう一度、ぶつかってみます。私の我儘で、勝手。だけど、ちゃんと知りたい。恭文と向き合いたい。だから・・・教えて。そう、言いたいんです」
「・・・スバルちゃん、アンタ・・・本当にバカだよね」
・・・はい、そう思います。心から思います。バカだなって、本当に。反論できません。
きっと、ティアもみんなも呆れると思います。KYです。自分勝手です。
「でもま、私の好みかな♪」
「えぇっ!?」
「・・・まぁ、あれだよ。実は、私もサリも、やっさんから相談されててさ。アンタに、ちゃんと話すべきかどうかってさ」
相談? えっと、私と恭文のことをっ!?
「そうなんだよ。つか、アイツからの六課での近況報告メール。フェイトちゃんとリインちゃんの次に出番多いの、アンタだよ?」
えぇっ! わ、私がっ!? どうしてっ!!
「アイツ、アンタのこと、一緒に馬鹿をやれて、喧嘩も出来て、心の許せる大事な友達だって、思ってるんだよ。そういう話ばっかり。
・・・ありがとね。あんなどうしようもない性悪相手に、ここまで向き合ってくれてさ」
「あ、いえ。というか、恭文は性悪じゃないですよっ!!」
意地悪で、ひねくれてて、全然まじめじゃなくて、ふざけてるように見える。だけど、それが全部じゃない。
本当は、すごく優しくて、まっすぐで・・・。私、だめだな。ちゃんと分かってるつもりだったのに・・・わかって、なかったんだ。
なんで、信じてあげられなかったんだろう。私が見てきた恭文のいい所、ちゃんと、もっと、信じればよかったんだ。
「そっか、そう言ってくれると嬉しいわ。弟弟子ってのは抜きにしても、友達だからね。心配ではあるんだ」
そう口にしたヒロリスさんは、今まで見た中で、一番優しい表情をしていた。・・・きっと、この人もすごく優しい。間違いない。
「でもさ、根が秘密主義の塊で、強がりが服着て歩いてるようなやつでしょ? ここじゃあ普通にしてたみたいだけど、どうしようか悩んでたんだよ。
アンタとの微妙な距離、なんとかしたいって、ずっとね」
知らなかった。恭文、ずっと私の話、スルーしてばかりだと思ってたのに・・・。そうじゃ、なかったんだ。
ちゃんと、考えててくれた。自分勝手な私の気持ちに、向き合おうとしてくれてたんだ。
「たださ、アイツの過去は、やっぱり重いんだよ。相手を選ぶ話題なのは間違いない。だから・・・話すのに、少しだけ勇気が必要だったんだ。
せっかく出来た大事な友達と・・・アンタと距離が出来るようなことになるの、嫌だったんだよ」
「恭文・・・。あの、私・・・全然知らなくて・・・!!」
「そりゃそうさ。やっさんは話してなかったんだから。わからなくて当然。たださ、覚悟、決めてきてるから、もう少しだけ待ってやってくれないかな?」
・・・え? あの、どうして頭を下げるんですかっ!? 私が迷惑かけまくっているのにっ!!
「ま、一応ね。大事なことさ。・・・アイツは、アンタをどうでもいい存在なんて思ってない。むしろ、その逆だ。友達で、仲間で・・・大事だから、向き合おうとしてる。
だから、絶対にぶつかってくる。結局、アンタと同じで、アイツもバカだからね。そうするしか選択肢ないんだよ」
「・・・はい」
・・・そうだよね。私も、覚悟を決めよう。
恭文だけじゃダメなんだ。私も、全力で、どんな話だろうと、受け入れる。最後まで聞く覚悟を、決めよう。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・なんだろ、二昔前の青春映画であんなのなかったか? 殴り合って関係が深まるって、どんな体育会系だよ。
「まぁ、いいんじゃねーですか? 当人同士が納得してるみたいだし」
「それもそうだね。ま、あとはやっさんとスバルちゃんの問題だ。あの様子なら、サクっと解決するでしょ」
アイツも、覚悟は決めてる。ただ、ちょっとだけ勇気が出せなかっただけだ。
まったく、バカなやつだよ。他ならいざ知らず、スバルちゃんみたいな子なら、きっと受け入れてくれるだろうにさ。
「あの、でも・・・」
「なに、フェイトちゃんは不満?」
「・・・やっぱり、重いことですから。ヤスフミに、無理をさせたくないんです」
・・・やっぱり白旗だよ。俺の出る領域じゃない。ただ・・・まぁ、楔は打っておくか。
やっさん、一つ貸しだからな?
「大丈夫だよ、アイツは強くなった。もうガキじゃない。この程度のこと、自分で解決出来るさ」
「この程度のこと・・・! どうしてそんな風に言うんですかっ!? ヤスフミ、あの時すごく大変で・・・!!」
「そういうの、もうやめときなよ」
やばいな、ちょっと怒ってるのかも。まぁいいか。ちゃんと言わないと、このおねーさんは理解出来ない。
「やっさんは、もうアンタが出会ったころのような子どもじゃない。大人の男だよ。自分の傷のしょい込み方くらい、ちゃんとわかってる。
・・・アンタ、やっさんの家族だよな?」
「そうです。私は、ヤスフミの・・・」
「悪いけど、俺にはそうは思えない」
なんかぎゃーぎゃー言い出したけど、無視。俺の言いたいことは一つだからだ。
「アンタ、今のやっさんを見てないだろ? つか、やっさんのことをまったく分かっていない」
「そんなことありませんっ! 私は、家族としてヤスフミのことを・・・」
「それがわかってないって言ってるんだよ。・・・今のアイツを見ていれば、さっきまでの子ども扱いな言葉は出てこない」
まぁ、心配するなとは言わないさ。
アイツの過去は、俺やヒロはともかくこの子の世代だと、やっぱり異常事態以外のなにものでもないと思うから。
・・・時代なのかねぇ。色々置き去りにしてる感じがプンプンだけど。
「それでもだ。アンタ、おかしいよ。ハッキリ言うと異常だ。
そういう、今のアイツの姿を、何一つ認識していない子ども扱いが、やっさんを傷つけているって、少しは自覚しとけ」
なんか睨んできてるね。・・・はぁ、俺も相方のことをどうこうは言えないわ。次は俺の番か?
「フェイト、落ち着け。・・・つか、この人の言う通りだ」
「ヴィータっ!?」
お、さすがにやっさんが師匠と仰ぐことはある。俺の言いたいことを察してくれたようだ。
うし、これでヒロにクレームつけられなくて済むな。(ここ大事)
「ま、お前がおかしいのはいつものことだからいいとして」
・・・ヴィータちゃん、意外とひどい子なんだね。いや、びっくりしたよ俺は。フェイトちゃん、なんか突き刺さったよ?
「アイツは、もう大人だ。お前がそんなに心配する必要はねぇよ。大丈夫だ、ちゃんと背負い方を考えながら生きてるよ」
その通りだ。俺やヒロもいろいろ話をさせてもらってるしな。なんつうかさ、関心したくらいだ。
俺らも同じ経験してるけど、あそこまできちんと考えていなかったと思う。背負えては、きっと居なかった。
もうその時には局に勤めてたから、局のためとか、正義のためとか、言い切ってたな。
・・・うん、目の前に居たら、ぶっ殺してやりたいよ。昔の自分を。
「つか、アタシの目から見ても、本当に強くなった。ここ1、2年は特にだ。それを間近で見てたサリエルさんが大丈夫って言うんだ、問題ねぇよ。
・・・もうちょっと、信用してやれ。家族って言うなら、余計にだ」
「ヴィータ・・・」
・・・どうやら、楔は打ち込めたみたいだな。
やっさん、お前・・・やっぱりすげーよ。このおねーさんにそこまで付き合えるんだからさ。悪手打ちというか、なんというか・・・だね。
『あー、みんなちょっといいかな?』
「どーしたよヒロ?」
『いや、悪いんだけどさ。ちょっと暴れ足りないのよ。というか、エンジンかかって』
「・・・よし、今すぐに戻って来い」
『というわけで』
「無視するなよっ!!」
『スバルちゃんはもう休ませないとだめだから、他の三人、今すぐ準備させて。いい機会だから、私が鍛えてあげようじゃないのさっ!!』
「・・・お前、やっぱり頭おかしいだろっ!!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・シャッハさん、大丈夫みたい。立ち上がる様子は・・・ない。撃墜扱いでいいかな?
そして、僕達はシグナムさんへと向き直る。当然、後ろは警戒しながら。
そしたら、居た。目前に。レヴァンティンを、打ち込もうとする寸前だった。というか、打ち込まれた。
アルトで、それを受け止める。・・・くそ、やっぱこの人の剣筋おも・・・ぐはっ!!
剣を受け止めている横から、回し蹴りかまされた。つか、騎士の戦い方じゃないだろこれっ!!
僕は、体制を立て直すと着地する。そのまま突っ込んできたので、再びカートリッジを使用。
数は3発。そして、刃に宿すのは、氷結の息吹。
「氷花・・・!」
「紫電・・・!」
互いの相棒の刀身に力が宿る。ただし、それは間逆の力。
シグナムさんは、炎。だけど、僕とリインは・・・氷。そして、その力を秘めた刃が、袈裟斬りに、全力で打ち込まれるっ!!
『一閃っ!!』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
”シスターシャッハ、大丈夫ですか?”
”えぇ、なんとか・・・。ですが、これでは撃墜扱いですね”
・・・うん、予想はしていたよ。だけど、まさか・・・いきなり全力で潰しにかかるなんて。
”すみません・・・”
”謝る必要などありませんよ。あの子、本当に強くなったみたいですもの”
”ユニゾンしてますけど?”
”そのようなことは関係ありません。・・・澄んだ、まっすぐないい太刀筋でした。まぁ、一撃で早々に墜とされたことは、悔しく思いますが”
あははは・・・。なんだろう、悔しくってところに、とても嫌な響きを感じる。大変なことにならなきゃ・・・いや、なってるか。
恭文君とシグナムさんが、本気で打ち合っている。氷の刃と、炎の刃が幾重もの線を生み出し、ぶつかりあう。
互いに、中距離戦闘はなし。あくまでも剣の勝負。だけど・・・炎と氷の魔力が触れ合う度に、相互反応を起こして、爆発が起きたりしてる。
いつものこととは言え、本気でぶつかりあってる時の二人の戦いは、被害がすごいことになるよ。
正直、恭文君には氷結系の使用をやめてほしい。いや、言っても無駄なんだけど。
「シャーリー、データは?」
「いい感じのが取れてますよ。これなら、調整もしっかりできそうです。でも・・・」
「でも?」
「修練場、とんでもないことになりそうですけどね」
そうだね。というか、現時点でもそうなってるよ。炎と氷が弾け飛んで、あちらこちらに飛び火して、妙な光景に・・・。
本来なら、炎と氷がぶつかりあってもこうはならない。だって、氷は炎に溶かされるだけだから。
だけど、魔力を源にして、変換された氷・・・というより、自然エネルギーは、それ自体に通常時とは比べ物にならない高い攻撃力を有している。
特性こそそのままだけど、突き詰めれば強力なエネルギー同士としてぶつかりあう。そうすると・・・このありさまだ。
フェイトちゃんの雷はまだいいんだよね。ぶつかっても、それほどじゃない。ただ、炎と氷の相性がよろしくないのだ。どちらにしても。
でも・・・恭文君達、どうしてずっと氷結系を使ってるんだろ?
いつもなら、通常の魔力攻撃・・・鉄輝一閃で決めていくのに。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・まだだ。もっと、もっと研ぎ澄ませ。今までとは、少しだけど違う。もっとだ。
「・・・何を狙っている?」
シグナムさん・・・やっぱり、気付かれてたのか。
≪当然と言えば当然でしょう。いつもとは行動が違いますし≫
【どうします?】
「バラしちゃおうか。言ったところで、やることに変わりはないし」
そんな会議で方針を決定すると、僕は構えを解かずに、話を始める。ま、熱が冷めても楽しくないしね。サクっといくのさ。
「大した理由じゃありませんよ。ただ・・・炎すらも真っ二つに出来る氷の刃ってのが出来たら、それを成せるだけの一撃を打ち込めたら、面白いと思いまして」
「・・・なるほど、そういうことか」
そう言って互いに、楽しそうに笑う。
そう、このユニゾンしている僕たちでもぎりぎりな状況で、この人は楽しそうに笑っていた。そして、僕も。
やっぱり、シグナムさんと戦うのは、楽しいから。
「・・・なら、来い。私も同じく、お前と剣を交えるのは、心が躍るからな」
「もちろんそのつもりです。・・・つか、いいんですか?」
間違いなくとんでもないことになるのに。
「いいさ。剣術の修行も込みなら、本来の目的からは外れていない」
「なるほど、確かに。それなら・・・」
【遠慮なく、いくですよ〜♪】
≪私も、問題はありません≫
いや、理解力の深いパートナーが居てくれて助かるよ。おかげで非常にやりやすい。
「なら・・・来い。お前たちの本気、受け止めてやろう」
≪【「はいっ!!」】≫
そして、僕たちはぶつかり合う。氷の刃と炎の刃が、何度も何度も・・・。
そして・・・当然、こうなるのです。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『ごめんなさいっ!!』
全員で謝っています。相手は、シャッハさん。原因は簡単。修練場、本当にすごいことになりました。
もうね、ひどい。形容出来ないくらいにひどい。とにかく・・・謝ってます。というか、もう一回…。
『ごめんなさいっ!!』
「・・・あぁ、謝らなくていいですから。というより・・・」
え、なぜに僕を見る?
「あなたと、ヒロリスとサリエルさんの修練を見ていましたから、この程度のことは予測済みでした。
騎士カリムからも、何か起こったとしても、多少のことは大目に見ろと言われていますし」
・・・あぁ、カリムさん、ありがとうございます。
というか、それを受け入れてくれたシャッハさんもありがとうございます。感謝するほかありませんよ私。
「・・・ただ、恭文さん」
「はい?」
「あなたは、このままお返しするわけにはいきません」
・・・なにやらされるんだろ。お説教かな? あ、修復魔法・・・うん、あれとかこれとか使えば、明日中には。
「そういうことではありませんっ! 全く、あなたは本当にロッサと同じで自由すぎる傾向がありますね」
・・・今回は反論できません。
「ただ、あなたに約束していただきたいことがあるだけです」
「約束?」
「はい」
シャッハさんはそう言うと、いったん呼吸を入れ替えた上で、真剣な瞳で僕を見つめて・・・話を始めた。
「まず、AAAランクの試験に、絶対に合格するということ。
そして、あなたの戦う意味、強くなる理由。背負いたいもの。戒めているもの。それらを・・・信じてください」
ふぇ?
「大丈夫、あなたの想いは、間違っていません。誰がなんと言おうと、信じ抜いてください。それだけ、約束していただけますか?」
・・・シャッハさん。
僕の返事は決まっていた。重いものをまた背負うのは決定済みだけど、それでもだ・・・ちゃんと、したい。
「・・・はい、約束します」
「・・・なら、大丈夫です。今日のことがあなたの糧になるのであれば、この後の修練場の補修工事がどれだけ大変だろうと、耐えられます」
グサッ!!
「あと、早々に雑魚敵同然に退場させられたことも・・・きっと、私の明日への糧になるでしょう」
グサグサッ!!
≪・・・シャッハさん、気にしていたんですね。というより、やはりいろいろ聞いてるんじゃありませんか?≫
「さぁ、どうでしょう? とにかく、約束しましたからね。破ったら、私が直々に修正を加えてさしあげましょう」
「・・・そうならないように、頑張ります」
とにかく、これで全員が全員、無罪放免で帰れることが決定した。
なので・・・僕たちはトゥデイに乗り込んで、六課隊舎を目指す。
そして、駐車場から出したトゥデイの横に、シャッハさんが来てくれた。僕は、運転席から、顔を出す。挨拶は、大事なのだ。
「・・・あの、シャッハさん。ありがとうございました」
「いえ。それでは、また来てくださいね。騎士カリムが寂しがっていますから」
・・・なのはの視線が厳しくなったけど、気にしてはいけない。というか、本当になんでもないって。
友達兼紅茶の淹れ方の先生2号ってだけだよ。
「そうですね。時間が出来次第、必ず」
「なら、安心です。・・・それでは、また。ごきげんよう」
「はい、また」
そうして、僕はトゥデイを発進させた。シャッハさんは、そのまま手を振って、ずっと見送っててくれた。なんか、ちょっとうれしい。
「・・・蒼凪」
助手席のシグナムさんが、話しかけてきた。視線は、前を向いたまま。
「お前は、お前だ」
「え?」
「・・・シスターシャッハの言われたこと、心に刻んでおけ」
「・・・はい」
やっぱり、いろいろ話してるみたいだね。間違いないわ。というか、心配・・・かけてるね。うん、すごくだ。
≪マスター≫
「なに?」
≪私も、同じです。あなたは、あなたですよ。他の人に合わせる必要なんて、ありません。大丈夫。私は、ずっと一緒ですから≫
「リインもですよっ! 大丈夫です。恭文さんは、いつものノリでぶっ飛ばしていけばいいですよっ!!」
アルト、リイン・・・。なんか、相棒達にまで心配をかけていたらしい。うん、もうちょっとだけ、頑張ろう。
視線の先に映るのは、ハイウェイと、緑の山々。このあたりは、自然が近いしね。
そういや、明日か。うん、明日だ。もう明日で、11月も終わる。たった一ヶ月で、ずいぶん状況が様変わりしたけど・・・でも、いいよね。
きっと、必要なことなんだ。これから、前に進むためには。きっと。
(第19話へ続く)
おまけ
「・・・あのバカ」
「・・・あの、サリエルさん」
なにも言わないでくれ。頼む、お願いだから。つか、アイツの関係者として扱われることが、今はつらい。
うちの馬鹿は、ティアナちゃん達三人を相手取った。
まぁ、ここはいい。あの子たちは強いけど、三人じゃあうちの相方は抑えられない。
ただ、俺がさっき余計な事を言ったせいか、若干ヒートアップしていたフェイトちゃんが、止めようと乱入してきたからさぁ大変。
・・・あのバカ、出てきて、フェイトちゃんと何回か交差したかと思ったら、もういいやと言わんばかりに一撃入れて、空気読まずに墜としやがった。
話し合い? そんなことをする知能が、戦ってる時のあいつにあるわけがないじゃないのさ。
邪魔だと思ったら、遠慮なく撃つよ。そういうやつだ。やっさんと同じでね。
いや、分かるよ? 確かにフェイトちゃんは強いけど、俺やヒロなら、あれくらいならなんとかなる。
噂通りに速いし、攻撃が鋭いけど、こちらはヘイハチ先生とガチにやりあってた身。相当厳しくしごかれたし。
エースって程度じゃ、俺達にはビビる理由にも、負ける理由にもならない。もっとヒドいのを知っているわけだし。
なによりだ、修羅モードに入ったやっさんを相手取るのとどっちが楽かって言われたら、間違いなくこっちだ。
だって、殺気はぶつけられないもん。あれは真面目に怖いもん。ヘイハチ先生の影を見るもん。
で、その弔い合戦とばかりに、三人がヒロに突撃していって・・・。今、いい感じに演習場は修羅場になっております。
「最初に言っておく。俺には止められない」
「・・いや、わかってました。つか、あの人、バカ弟子と似てませんか?」
「正解だよ。空気読まずに勝つとことか、バトルマニアで挑発大好きでお話し合いが全くできないとことか。
正直やっさんにはああはなって欲しくない・・・」
いや、無駄な願いだけど。
お願い。誰かアイツを何とかして。俺には無理だから。
あぁ、やっさんが居れば、生贄に放り出して、アイツ一人で戦わせるのにー!!
・・・演習場の修繕費用とか、払わされるかな?
(本当に続く)
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