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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第3話 『突然の襲来は火を噴く程にスパイシーでほんのりほろ苦い』



知佳さんと美由希さん、それにエイミィさんとお別れして、僕は一人お風呂場を散策。

というか、アリサ達と合流予定。だってね、エイミィさんがのぼせかけちゃったの。

それで大人三人と分かれて、子どもは子どもだけで楽しもうというわけなのですよ。





とにかく、知佳さん達に心配をかけちゃいけないから、まずは合流を最優先。





それで洗い場の方に辿り着くと・・・・・・信じられない光景を目にした。










「・・・・・・フェイトちゃんの髪、本当に綺麗だよねー。
艶々だし、痛んでるとこも全くないし・・・・・・凄いなぁ」

「あ、ありがと。でも、なのはの髪だって充分綺麗だと思うな」



・・・・・・フェイトの髪を、双馬(ふたうま)が洗っている。それもすごく楽しそうに。

もうちょっと言うと、『百合百合♪』な感じに見える。



「にゃはは、ありがとー。・・・・・・ね、フェイトちゃん」

「何かな」



とりあえず、僕は足音を消した上でそっと近づく。もちろん、あの二人・・・・・・訂正。

双馬の背後に。そうだ、僕は認めない。小学生のうちから『百合百合♪』なんて認めない。



「恭文君・・・・・・優しい? というか、好き?」

「ヤスフミ? ・・・・・・うん、優しいよ。ちょっと過激というか、ブレーキの利かないところはあるけど、それでも。
あと、好きかというのは・・・・・・その、婚約に関してどうこうは抜きにしたら、好きかな。だってその、私達まだ子ども」

「あぁ、そこは分かってるからいいよ? というか、ありえないよね」



崩れ落ちそうになったけど、その双馬の言葉で僕は遠慮なく踏ん張れた。



「でもあの、私はその・・・・・・実は恭文君とこう、距離を測りかねていて。
というかその、少し苦手なの。本当はもっと仲良くしたいんだけど」

「あぁ・・・・・・確かにヤスフミ、なのはに対してはいじわるだもんね。それでちょっと困っちゃってるんだ」

「うん。というかというか、なのははこう・・・・・・恭文君みたいなタイプは初めてなの。
だからこう、どういう接し方をしたらいいのかとかが分からなくて。うぅ、フェイトちゃんとは分かりやすかったのに」

「いや、私の時と比べるのもまた違うよ。ほら、色々特殊なんだし」

「でも、こう・・・・・・恭文君を見てるとイライラするんだ。もっとこう、ガツーンといきたいのになーって。
でもでも、それをやるとスルーされちゃうでしょ? だから私」



ありがとう、双馬。おかげで僕は頑張れる。というわけで、人差し指でちょんちょん。



「ふにゃ?」



右肩を軽くツツかれた双馬がこちらを見る。なので、にっこりと笑ってあげる。



「ひっ! や、や」



すぐに左手でなのはの口を塞いであげる。それで・・・・・・そっと右手である方向を指差す。

なお、そこは水風呂。にっこりと笑いながら、双馬に『入ってこい』と視線で言う。




「フェイト、ごめん。ちょっと交代ね」

「え、ヤスフミ?」



・・・・・・アレ、もしかして髪洗ってて・・・・・・あ、目を瞑ってる状態だ。

そっか、フェイトは一人だと髪洗えないんだ。そっかそっか、それは大変だ。



「双馬、確か入りたいお風呂があるって言ってたよね? 水風呂って言ってたよね?
もう身体洗った後は水風呂にずっと入っていたいって言ってたよね」

「え、なのは・・・・・・そうなの?」



双馬は首を横に振るので・・・・・・僕は仕方なく返事をする。



うん、そうだよ。あのねフェイトちゃん、水風呂は健康にいいから、入った方がいいんだ

「へぇ、そうなんだ。じゃああの、私も後で入ってみようかな」



なお、今の返事は僕。こういう事もあろうかと練習しておいた声帯模写の技術を使って双馬の声色を作った。

さて、そうしながらも僕はそっと双馬の耳に唇を近づけて、にっこりと笑いながら囁いてあげる。



「・・・・・・双馬、誰を見ててイライラするって? 誰が苦手だって? 全く、心外だなぁ。
まさか双馬が僕の居ないところで悪口を言う子だとは思ってなかったよ」



瞬間、双馬の身体が固まる。・・・・・・そっか、一応自覚はあったかぁ。

アレ、悪口だもんね。うん、間違いなくそうだよね。



「ね、双馬。そんな事言う子と友達になりたいと思える? 思えないよね。
というわけで・・・・・・水風呂入って反省しようか。ね?」



そこまで囁いて、笑いかけてあげると・・・・・・双馬は涙目になりつつも、水風呂の方に向かった。

・・・・・・許せ、双馬。でもね、さすがに僕だけの問題じゃなくて、美由希さんにアレ見せるのも躊躇われるのよ。



「というわけで、双馬はちょっと水風呂行っちゃったから、僕が引き継ぐね」



言いながら、僕はフェイトの後ろを取る。・・・・・・ふぁ、でも本当に綺麗な髪。

洗い始めたばかりなのか、まだ全体的に泡が行き渡ってないから・・・・・・普通にそう思うの。



「えっと、あの・・・・・・その」

「・・・・・・僕じゃ、だめ?」

「う、ううん。そんな事ないよ。ただあの、ヤスフミって・・・・・・髪洗えるの?」



なるほど、そこが疑問だったのか。目を閉じてるから、そのせいで怖がってるのもあるのかな。

だからいつもより弱気な感じで・・・・・・でも、なんかそこが可愛いなぁ。



「む、失礼な。これでもお姉ちゃんや家族の髪は僕が洗ってるんだよ?」

「そうなの?」

「うん。・・・・・・お姉ちゃん、足が不自由だからさ。だから、お風呂はいっつも一緒」



シグナムさん達が来てからはそうでもなくなったけど。あ、だから僕、お姉ちゃんくらいの重さならお姫様抱っこも出来るんだ。

みんなが来る前はそうして浴槽まで運んで、身体や髪を洗ったり、足をマッサージしたりしてたの。だから、意外と慣れてる。



「・・・・・・そうなんだ。あの、ごめん」

「どうして謝るの?」

「だってその、嫌な事・・・・・・聞いちゃったかなって」

「別に大丈夫だよ。というかあの、僕も無神経だったかな。
女の子の髪だし、いきなり触るのもダメだよね。双馬、呼び戻して来ようか?」



なお、これは作戦。引くと見せかけて相手に引き止めさせ同意させるというテクニック。

夜遅くにやっているバラエティ番組で、やってたんだー。ふふふ、勉強しておくもんだねー。



「あ、あの・・・・・・私は大丈夫だから。というかあの、今目も開けられなくて、だからその・・・・・・一人はちょっと困るの」

「そっか。・・・・・・なら、軽く触るね。嫌だったら、すぐにやめるから」

「・・・・・・うん」



それで僕は、フェイトの頭にそっと手を当てる。その瞬間、フェイトの身体が震えた。



「ごめん、痛かった?」

「ううん、大丈夫。ただあの・・・・・・ヤスフミ」

「何かな」

「ヤスフミ、手・・・・・・熱湯で温めたりとかはしてないよね? その、凄く熱いけど。
あの、私は冷たいのとか気にしないから、普通にしてくれていいんだよ?」



フェイトが心配そうにそう言ってきたので、少し緊張していた表情を緩めて、安心させるように僕は答えた。

そうしながらも、優しくフェイトの頭皮をマッサージするようにシャンプー開始。優しく、指の腹でするように・・・・・・と。



「あ、大丈夫だよ。僕の手、生まれつき他の人のよりずっと温かいんだ」

「生まれつき? そう言えば・・・・・・あの時手を握られた時も、凄く温かかった」



あぁ、あの・・・・・・初めての出会いの時ね。うん、僕達手を繋いだもんね。



「うん。なんかね、末端部分の血行が活発な人は、僕みたいになるんだって。
人間は本来手は身体の温度よりずっと下のはずなんだけど、たまにそういう人が居るとか」



それで末端部分の血行が良すぎると体温を奪われやすく、生物としての人間の生存には不利だとか。

ただね、握手とかすると『手の温かかい子』として、色々覚えてもらいやすいんだ。だから自分では結構気に入ってるの。



「じゃあ、ヤスフミがそれなんだ。・・・・・・でも、これはいいな。ヤスフミの手、まるで太陽みたい」

「太陽?」

「うん。温かくてぽかぽかして、人を温める事の出来る優しい手。・・・・・・太陽の手」



・・・・・・少し手の動きが止まってしまった。だってその・・・・・・あの、それはあの。



「ヤスフミ、どうしたの? あの、私何かダメな事言っちゃったかな」

「あ、ううん。違うの。・・・・・・それね、前に探偵のおじさんが言ってくれたんだ」

「え?」

「僕の手、太陽みたいだって。人を温める事の出来る強くて優しい手だから、大事にしろって。だからその、ビックリしちゃって」



誘拐されて、助け出される直後だね。手を掴まれた時にそう言ってくれた。

なんか、不思議。フェイトに同じ事言われるとは、思ってなかったから。



「そうなんだ。でも・・・・・・きっとヤスフミの手を触ったら、誰だってそう言いたくなると思うな」

「そうなの?」

「うん。ヤスフミの手、温かいでしょ? だから自然と思いつく。
・・・・・・あ、それに洗い方も本当に上手だから、すごく気持ちいいよ」

「なら良かった。えへへ、フェイトにそう言ってもらえると凄く嬉しい。ありがと」

「ううん。こっちこそありがと。その・・・・・・優しく洗ってくれて」










それでフェイトの髪を傷めない程度によく洗いつつ、色々お話した。

というかというか、またお風呂に入って髪を洗う約束・・・・・・しちゃったー♪

うし、この調子で頑張ろー。これも子どもの内の特権だもんねー。





・・・・・・さすがに大人になってからはダメだもの。うん、それはダメ。フェイトだってそこは嫌だろうし。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・さてすずか、あれはどういう事だと思う?」

「さ、さぁ。私もその・・・・・・ちょっとさっぱり」



いや、アタシもさっぱりなんだけど。だって、なんかヤスフミがフェイトの髪洗ってるのよ?

それもなのは以上にラブラブしまくって・・・・・・で、そのなのはも問題なのよ。



「なのは、なんで水風呂入ってるのかしら」

「・・・・・・ど、どうしてだろうね。やっぱり分からないよ。なのはちゃん、水風呂好きなのかな」



言いながら、すずかはもう一度あの子を見る。震えながらも水風呂にしがみつくバカな子を。



「いやいや、この12月に突入して冬真っ只中なのにそれは・・・・・・あ、有り得るかも。あの子バカだし」

「アリサちゃん、容赦ないね」




















魔法少女リリカルなのはA's・Remix


とある魔導師と夜天の主のえ〜すな日常


第3話 『突然の襲来は火を噴く程にスパイシーでほんのりほろ苦い』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



とにかく、楽しいお風呂タイムは終わりを告げた。結局年長者三人に占領されてたけど。

その間に・・・・・・くそ、やっぱり双馬は空気化してもらわないと。僕の計画に差し障るよ。

とにもかくにも、僕とアリサにすずかさんに・・・・・・あと、知佳さんも何故か参加になってしまった。





何に参加というと、当然お食事。ここは駅前の中華料理屋。





そこでいっぱいいっぱいエビチリを食べちゃうわけです。










「・・・・・・もう。恭文くん、口にソースついてるよ」



言いながら、エビチリのソースをティッシュでそっと知佳さんが拭いてくれる。・・・・・・あ、幸せかも。



「あの、ありがとうございます」

「ううん」

「えっと・・・・・・仁村知佳さん、でしたよね」

「はい。あ、すみません。突然お邪魔してしまって」

「いえいえ、大丈夫ですよ」





なお、ここにはリンディさんと・・・・・・僕より年上っぽい落ち着いた男の人が居る。

身長は低めだけど、黒髪で青い瞳の中々の美形。年は14歳。

名前はクロノ・ハラオウン。リンディさんの息子さんとか。・・・・・・普通にビックリした。



お姉さんかなにかと思ってたのに、こう来るとは・・・・・・リンディさん、いくつだろ。





「しかし端から見ると姉弟のように見えるが・・・・・・違うんですよね」

「うん、違うよ。恭文くんとはこう・・・・・・お友達的な要素が強いんだ。ね」



にこにこしながら知佳さんがこちらを見るので、僕は頷く。・・・・・・うぅ、やっぱり幸せ。

フェイトと仲良くも大事だけど、知佳さんと一緒も楽しいし・・・・・・うーん、どうしよう。



「あ、知佳さんは私が昔からお世話になってる人でもあるんだ」

「なのはの・・・・・・で、それがこの子とも関わりを持っていたと」

「うんうん。だから恭文くんとも仲良く」



そのクロノさんの言葉に、双馬が嬉しそうに頷く。で、僕を見るので・・・・・・睨んであげる。



「・・・・・・ぐす」

「なのは、どうした?」

「ううん、なんでもない。なのはは世間の冷たさを痛感したの」

「よく分からないが・・・・・・そうなのか」



クロノさんと話しながらも双馬が怯えた顔で目を逸らすけど、大丈夫。

知佳さんとフェイトには見えないような角度だから。



「さて、恭文・・・・・・と呼んで大丈夫かな」

「はい」

「まぁあれだ、プロポーズに関してはもうちょっと待ってもらえると嬉しいな。
フェイトも君もまだ子どもだ。将来どうなるかも分からないし、今のうちから婚約というのも」



トラウマスイッチ、ON。僕はテーブルに突っ伏して声を殺さずに泣き出した。



「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「突然泣き出しながら謝り出したっ!? 待て待て、君は一体どうしたんだっ!!」

「あぁ、クロノ君ダメだってばっ! 恭文くん、あの時の事がトラウマになっちゃってるみたいなんだからっ!!」



エイミィさんの声が遠く聴こえるけど、僕は気にせずに泣く。だって・・・・・・あまりにひど過ぎるから。



「そうだよクロノ、あの・・・・・・私は大丈夫だし、あんまり言わないであげて?」

「そ、そうか。それはその・・・・・・すまない事をしたな」





とりあえず、知佳さんが背中を撫でてくれるので、落ち着いて顔をあげる。

顔をあげると・・・・・・フェイトが笑いかけてくれていた。

安心させるように、視線でも『大丈夫だよ?』って言ってくれてるのが分かった。



それが嬉しくて、すぐに気持ちが切り替わる。うぅ、やっぱりこの子可愛いよ。





「さ、ご飯の続きだよ? ・・・・・・はい、今度はこれ」

「あ、知佳さんありがと・・・・・・あの、トマトがいっぱい」

「うん」



知佳さんが取ってくれたのは、きくらげなども入った冷製中華サラダ。

そして・・・・・・僕の苦手な生トマトがたっぷり入ってる。



「好き嫌いしちゃだめだよ? ちゃんと食べないと、大きくなれないもの」

「うぅ、誰かトマトと成長の因果関係の無さを立証してー! そうすれば僕はトマトを食べずに済むのにー!!」

「・・・・・・ヤスフミ、トマトダメなんだ」

「みたいね。全く、こういう所は子どもなのに・・・・・・ほんとアンバランスな奴」










とりあえず、僕はクロノさんとは仲良くしておく必要があると思った。





だって・・・・・・リンディさんとクロノさんとフェイトを見てると、家族みたいに見えるから。あ、それとエイミィさんもだね。





なんというかうちのお姉ちゃんとシグナムさんが一緒に居る時に似てるのかも。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そしてそのお食事会の翌朝、時刻は午前の5時。僕は高町家に来ていた。





そこには身長180近くある高校生か大学生くらいの男性。





黒髪で精悍な顔つきで、黒いジャージに黒いシャツを袖まくりにしていて・・・・・・僕を睨んでます。










「・・・・・・初めましてだな。高町恭也だ。美由希となのはの兄になる」





この人の名前は、高町恭也さん。なお、今本人が言った通りに美由希さんと双馬のお兄さん。



そして美由希さんは白のシャツで同じ感じの格好。そして恭也さんを見て苦笑い。



しかし双馬、何気に家庭環境恵まれてるよね。和風の家に、道場まで家にあるなんて。





「そして私は・・・・・・って、知っているよな。先日会ったばかりだし」

「あははは、そうですね」



同じく黒髪でこっちは温和な30代後半くらいの男性。なお、格好は恭也さんと同じ。



「まぁ改めまして・・・・・・高町士郎、恭也と美由希となのはの父だ」

「八神恭文です。あの、よろしくお願いします。
というかあの、ありがとうございます。見学を許可してくれて」

「見学? ・・・・・・バカを言うな。早速組み手に決まっているだろう」



言いながら、どこからともかく恭也さんが小太刀サイズの木刀を取り出して・・・・・・って、えぇっ!?

な、なんかいきなり過ぎて士郎さんと美由希さんもビックリしてるしっ!!



「お前、うちのなのはを随分可愛がってくれているそうだな。兄としては色々と礼がしたい。・・・・・・構えろ」

「待て待てっ! 恭也、お前7歳の子になぜそこまで怒ってるんだっ!!」

「そうだよ、お兄ちゃん落ち着いてっ!? まさかそのために恭文の見学を許可したわけじゃないよねっ!!」

「父さん、美由希も止めるな。元々俺はこのつもりだった」

「「バカかぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」



な、なぜこうなるのっ!? というかすごい殺気出してるしっ!!

僕はただ双馬を可愛がってるだけなのにー!!



「いいから構えろ。俺が世の中の厳しさと言うものを叩き込んで・・・・・・おい、どこへ行く」





何も言わずに、道場の隅に置いてあった大型のバックから、あるものを取り出す。

それは右手用の指先まで覆う形のガントレット。なお、手の首の付け根から刃が生まれている。

大体40センチ前後で、今回持ってきているのは刃を潰して切っ先も丸くしている。



手の外側・・・・・・・手首から肘までの外側の装甲をかなり厚めにしている。

なので、シグナムさんのレヴァンティンの打ち込みでも傷が一つ付くくらいで済む。

それを右手にしっかりと装着した上で、僕は立ち上がりながら刃を右薙に振るう。



これはブレイクハウトであっちこっちから仕入れた合金を再構築して造ったガントレット。

というか、甲剣。・・・・・・あのね、色々考えたの。普通の剣術とかも教わってるんだ。

ただ、僕の体格やパワーの関係でどうしても決定打になりにくい。リーチも無いしさ。



で、アレコレ資料を漁りに漁って思いついて構築したのが・・・・・・コレ。

普通の剣術と並行で訓練していて、僕の主武装の一つになっている。

というか、一番得意なのはこれかな。とにかく、そのまま僕は恭也さんに近づく。



恭也さんは・・・・・・不思議そうな顔をするけど、それでも一歩踏み出した。





「・・・・・・面白い武装を持ってきたな」

「すみません、丁度うちにある木刀とかが折れちゃってて」



うん、これ持ってきたのはそういう理由もあるの。ブレイクハウトで再構築も、材料がないとダメだしなぁ。



「まぁいい。・・・・・・年上への敬意というものを教えてやる」

「それは無理ですよ。僕、性格悪いんで・・・・・・常識に欠けた大人は、大嫌いなんです。
というかアレですね。そういう大人って、人間としての器の小ささが出まくってて醜いですよ」



笑顔で言うと、目の前の人の表情が鬼から修羅になった。つまり、もっと怖くなった。



「・・・・・・ほう、言ってくれるな。ならば、その性格ごと矯正してやる」

「なら、僕は今までの価値観ごとぶち壊してあげましょう」

「あぁ、恭ちゃんダメだからっ! 普通に恭文怪我しちゃうよっ!!」

「恭文君も落ち着けっ! 頼むから恭也を挑発しないでくれー!!」










そして、次の瞬間には激突音が響いた。なお・・・・・・結果は言わなくても分かるよね?





くそぉ、まさか三撃しか防げないなんて。うぅ、シグナムさん達、相当加減してくれてたんだな。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・驚いたな」

「あぁ」



現在、アイツは美由希の膝枕で伸びている。なお、勝負はすぐについた。

四撃目、後ろに回り込んで背中に右の小太刀(木刀)を加減した上で叩き込んだ。



「父さん、俺は正直に言えばあの一撃目で勝負がつくと思っていた」

「私もだ。だが、それを受け止めた上でお前に反撃を試みた」



当然食らわなかったが。だが、身のこなしから見て相当鍛えているのは分かった。

いや、恐らくセンスもいい。加減した上での斬撃と言えど、それを見切ってしっかり対処してきた。



「美由希がわざわざ見学させたいなどと言い出す理由が、よく分かった気がする。
だが、アイツがなのはに『双馬』などと言う理由は一切分からないが」

「・・・・・・恭也、そこを気にする必要はないだろ。子どもの頃にはよくある事だ」

「あるわけがないだろう。なのはにそんなセンスのないあだ名を付けるなど」

「あぁもう、殺気を出すのはやめろっ!!」



父さんが必死で止めるし、美由希も厳しい視線を送ってくるのでそこはやめた。



「・・・・・・とにかく、あれだな。お前・・・・・・徹やらなんやらは打ち込んでないだろうな?」

「そんな事するわけがないだろ? 相手はまだ子どもだ」

「その子どもに本気で怒りをぶつけていたお前に、そんな事を言う権利はないぞ。
とにかく、あの調子なら・・・・・・面倒を見てもいいかも知れないな」



美由希がなぜかやる気だったからな。俺はその辺りの理由が不明だったんだが、良く分かった。

あの資質や才能を見抜いたんだろう。で、出来る限り面倒を見たくなった。



「全くアイツは・・・・・・自分の修行もあると言うのに」

「まぁいいじゃないか。基礎を教えるだけでも充分だろうし、これも修行になると思うが?」

「・・・・・・確かにな」










こうして、しばらくの間俺達の訓練に付き合ってもらうことになった。もちろん基礎的なところからだが。





だが、そのあまりの吸収の早さとセンスの良さに、俺も父さんも美由希も驚かされる事になる。





心根の問題もあるのだろうが、つい思ってしまった。こいつ・・・・・・生まれてくる時代を間違えたのではないかと。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・レイジングハート、エクセリオンッ!!」

「バルディッシュ、アサルトッ!!」

「「セェェェェェェェェェトッ! アァァァァァァァップッ!!」」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・なんて言う風にフェイトが魔法少女を、双馬がドラゴンボールな事をしていた頃。

当然のように僕はその事を知らずに、普通にさざなみ寮を目指して歩いていた。

あ、お姉ちゃんはすずかさんの家。何やらお買い物中にシャマルさんに置いてけぼりにされたらしい。





僕はさざなみ寮の知佳さんの部屋でお泊り予定だった。だからその辺りはメールで聞いた。

でもみんな、何やってるんだろ。最近は特に帰りとかが遅いんだよね。それもかなりだよ。

それに・・・・・・お姉ちゃんには実は言ってないけど、一つみんなの行動について最近気づいた事がある。





みんな、お姉ちゃんや僕が寝静まるのを待って、夜に家を抜け出してるみたいなのよ。

それもさり気なくトラップを張ってチェックしてみると、ほぼ毎夜だよ。どう考えてもおかしい。

あ、トラップの内容はあれだよ。夜寝る前に玄関とかに小さく印をつけておくの。





それも僕しか気づかないような、本当に小さな印。そして玄関を開けたりすると、その印が壊れる。

図書館の『軍事サバイバルの基礎知識』って言う本にそういうトラップがあったから、ブレイクハウトで軽く作った。

玄関だけじゃなくて、庭へ続く勝手口とかそういうところにもつけてある。





で、朝になるとそのどれかが破壊されているってわけ。あとはたぬき寝入りして、みんなの様子を探ったり?

シグナムさんやザフィーラさん辺りに気付かれないようにするのが大変だけど。そうそう、まだあるの。

シャマルさん、どうも定期的にカートリッジを作ってるみたい。・・・・・・あ、カートリッジって言うのは魔法の道具。





シグナムさんのレヴァンティンやヴィータのグラーフアイゼンなんかに装填する魔力の弾丸。

儀式的に圧縮した魔力を弾丸に込めて、デバイスに予め装填しておく。

それを必要に応じて使用すると、その圧縮された魔力が解放されて魔力がブーストされるの。





例えば魔法の威力をこれで上昇させたり、形状変換のための魔力をその圧縮魔力で補ったりする。

つまり、普通に日々作るのが日課とかではない限りは・・・・・・そういうことなんだ。みんな、定期的にカートリッジを消費してる。

僕に稽古つけてくれる時は、そんなの一切使ってないんだよ? だからそんな気配今までなかった。





前に興味があってカートリッジの作り方をシャマルさんに教えてもらってなかったら、ここは気付かなかった。

・・・・・・とにかくここ最近、特に秋に入ってからのみんなの行動が明らかに怪し過ぎる。

何か僕の想像も及ばないような夜遊びを覚えたというのは、無いと思う。だってあのヴィータまでそれなんだよ?





例えば大人なシグナムさんやシャマルさん、普段は狼形態だけど大人なザフィーラさんなら分かる。

でも、ヴィータが夜の街に出てどっかで遊ぶ? 考えられないよ。変身魔法とかも苦手らしいし。

・・・・・・そこの辺りについて悩みつつも、僕はさざなみ寮を目指して海鳴の坂を登っていく。うー、遅くなったなぁ。





恭也さんと美由希さんが、丁寧に色々教えてくれるからつい頑張って・・・・・・知佳さん、心配してなきゃいいけど。

時刻は既に夜の8時になろうとしてる。さすがに遅くなり過ぎたと思って、全速力で走る。

走って・・・・・・気づいた。魔力の反応が僕の周囲を包んだ。そして、上から強烈な殺気を感じる。





まるで隕石が落ちるような蹴りが、僕に向かって飛んできた。僕は前に向かって大きく跳ぶ。

蹴りはコンクリの地面を砕いて・・・・・・僕は距離を取りながらもその対象を見据えた。

身長は180近くあって青い髪の・・・・・・男? でも、白にラインがいくつか入った仮面を着けてる。





そのせいで性別までは分からない。それで格好は白を基調とした上下ロングのスーツ。

白い手袋に黒いブーツ装備で、スーツの各所には青いラインがびっしり入ってる。

決して不規則なものじゃなくて、規則的で左右総対称。とにかく、跳びつつも魔法発動。





それはブレイクハウト。ケリを叩き込んでいたのがこちらに向かって、一気に飛んでくる。

だから着地しつつ、地面のコンクリを杭にして一気に打ち出す。白仮面は、それを上に跳んで避けた。

でも、甘い。そこからまたブレイクハウトを発動。杭は破裂して、コンクリ製の散弾と化す。





どんなに動きが速くても、大量に飛んでくる杭の破片からは避けられない。

白仮面は散弾を至近距離で食らう。そして同時に防御魔法を展開。

白のバリア系の防御魔法が展開するけど、それでもその速度は遅かった。





数発の散弾が肩や二の腕、脇腹に太ももを掠めて血が吹き出す。










「・・・・・・ぐぅ」





散弾は白仮面だけじゃなくて、周囲のコンクリの壁や道路も穴だらけにするけど、問題はない。

うん、大丈夫。怖いけど・・・・・・それでも、躊躇いたくない。だってこれ、明らかに僕狙いだし。

この反応、シャマルさんやヴィータの魔法で知ってる。魔法による閉鎖結界が張られちゃっている。



それを張った上で、僕に対して攻撃を仕掛けてきた。てゆうか・・・・・・普通にコレ、実戦だよね。

白仮面は着地して、忌々しげに僕を見る。仮面の中の表情は・・・・・・やっぱ読み取れない。

ヤバい、頭がかなり混乱してる。・・・・・・落ち着け。訓練はきっちりしてきた。今日だって頑張った。



理由はどうあれ、こいつが僕にケンカ売ってきてるのは事実だ。怖いのは怖いけど・・・・・・絶対躊躇うな。





「・・・・・・一体、何の用かな」

「・・・・・・お前のリンカーコア、貰い受ける」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・助けてくれたのは嬉しいけど、それは聞けないわ」

「何故だ」



何故? あなた・・・・・・よくもまぁそんな事が言えるわね。私、結構怒ってるんだけど。



「瞬間詠唱・処理能力は、レアスキル認定こそされていないもののとても有益なスキルだ。
それを保有するリンカーコア・・・・・・下手な魔導師よりもページが増えるだろう」

「それでも恭文くんから蒐集するなんて、出来るわけがない。あの子は」

「八神はやての弟・・・・・・だからか? だが、そんな関係は嘘だ。
あの子どもをお前達が主と同等に敬う理由がない。何を躊躇う必要がある」










そう言われて、息が詰まる。・・・・・・この男、どこまで知っているの? なんで、その事を知ってるのよ。





それは私・・・・・・ううん、恭文くんの秘密。それなのにこの人は・・・・・・どうしてなのよ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



リンカーコア? それって・・・・・・あ、そうだ。魔導師の魔力の源。

シャマルさん達に最初に会った時に教えてもらった奴だ。

それが身体の中に有って、空気中の魔力素を吸収するから僕やお姉ちゃんは魔法が使える。





それで・・・・・・え、ちょっと待って。










「安心しろ。抵抗しなければ殺しはしない」





そして、バインドがかかった。白い縄が僕を縛り上げる。白仮面がすぐに飛びかかるけど・・・・・・遅いよ。

僕は咄嗟にそのバインドを解析して解除した。白い魔力は一瞬にして粉々に砕ける。

・・・・・・瞬間詠唱・処理能力による、バインドの瞬間破壊。僕の能力は、こんな事も出来るって色々試して気づいた。



すぐに魔法による不可思議空間に収納していた甲剣を装備。装備しながらも、ブレイクハウト発動。

訓練用に潰していた刃を鋭く研ぎ上げる。突き出された右手に向かって、甲剣を踏み込みつつも右薙に叩き込む。

白仮面はまた上に跳んで僕の後ろに回った。そして、魔力弾丸を生成。数は8。でも、やっぱり遅い。



それを撃ち出す前にブレイクハウトを発動。瞬間的に地面から細めの杭を生み出して、その魔力弾を貫く。

僕の手でも片手で握れるくらいの太さの杭・・・・・・ううん、針が魔力弾を全てパーにする。

白仮面の周りに爆煙が起こるけど、まだ僕の攻撃は続く。白仮面の胴に向かって杭を打ち出した。



白仮面は後ろに下がりつつ身を逆時計回りに捻って回避。その間に僕は回り込むようにして、白仮面に跳びかかっている。

唐竹に甲剣を撃ち込むけど、あっさりと避けられて・・・・・・僕は拳を叩きつけられた。

魔力が込められた左拳に向かって、空中に居ながら甲剣を逆風に叩き込む。でも、ただ斬るんじゃない。



甲剣の刃に魔力を纏わせて、強化した上で斬る。そして白の拳と蒼の刃が衝突した。

そして僕は吹き飛ばされて、数十メートル地面を滑る。甲剣の刃は砕けて、破片も周囲にまき散らされる。

・・・・・・くそ、これじゃあダメなのか。正面衝突じゃあ・・・・・・って、また踏み込んでくる。



滑りながらも僕はブレイクハウトを発動。地面から杭が十数本発生して、白仮面に襲いかかる。

でも、白仮面の姿が消えた。白い光に包まれて、襲撃してくる杭を全て避ける。

避けて・・・・・・ようやく停止した僕の後ろに回り込んだ。身体に強烈な寒気が走る。



組み手で恭也さんや美由希さんにやられるのと同じ感覚が襲ってくる。

僕はすぐにそこから移動しようとする。でも、その前に相手の右手が迫ってきた。

それは僕の背中に突き刺さるようにして・・・・・・いや、その前に白仮面が動く。



白仮面は手を引きつつも咄嗟に後ろに跳ぶようにして、自分に襲ってきた不可視の衝撃波を避けた。

僕の真後ろに衝撃波が着弾して・・・・・・吹き飛ばされそうになるけど、何とか耐える。

そして白仮面には、追撃で衝撃波がいくつも放たれる。それを白仮面は後ろに跳んで避けていく。



というか、僕の周りに金色のシールドが張られた。ドーム状で、起き上がろうとしている僕を包み込んでいる。





「・・・・・・ふぅ、ギリギリセーフってとこだね」



そう言いながら、僕の前に飛んできたのは・・・・・・白くて大きな6枚の翼を生やした知佳さん。

・・・・・・あ、そっか。これ、知佳さんの超能力なんだ。知佳さん、色んな能力が使えるって言うし。



「知佳、さん」

「恭文くん、大丈夫?」



地面に降り立ちながら、白いスーツ姿の知佳さんが心配そうに僕を見ている。だから、僕は頷いて答える。

それを見て、知佳さんは満足そうに笑うと・・・・・・200メートル程遠くに居る白仮面の方を見据えた。



「あなた、誰なの。なんでこの子を・・・・・・私の大事な子を襲ったの?」

「・・・・・・現地の能力者か」



白仮面は知佳さんの言葉に答えない。答えずにただ、空から舞い降りた知佳さんを警戒する。



「結界を張る時に間違えて紛れ込ませてしまったのか。しかも躊躇い無く能力を使うとは」

「答えなさいっ! どうして恭文くんにこんな真似を」



瞬間、右手を白仮面が上げて・・・・・・強烈な光を放つ。それに知佳さんも僕も目を塞ぐ。

そしてその光が消えた時には、白仮面は姿を消していた。というか、結界が消え始めていく。



「逃げられちゃったか」

「みたい・・・・・・ですね」



とりあえず、地面に手を当ててブレイクハウトを解除。杭やら何やらを、全部元に戻す。

それで身体を起こすけど・・・・・・うぅ、痛い。咄嗟にフィールド魔法張ったけど、摩擦熱でやられたか。



「あぁ、動かないで? というか恭文くん、今の」



知佳さんが僕の周囲のバリアを解除して、僕の事を抱きとめる。

そして僕を見下ろしながら、疑問の表情を向けてきた。



「あの、えっと・・・・・・その」



とりあえず・・・・・・僕は、こう言うしかなかった。



「アレから色々ありまして、僕も・・・・・・知佳さんと同じくな感じなんです」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



とにかく、その場を急いで離れてさざなみ寮に到着。耕介さんや愛さんに驚かれつつも、僕は知佳さんの部屋へ。

傷の治療をしてもらって、知佳さんのベッドに寝かせてもらって・・・・・・側に居る知佳さんに、話した。

知佳さんの部屋は、知佳さんは居ないけどここは実家も同然なので、そのままの状態になっているの。





パソコンみたいな電子関係の物が多くあって、それで綺麗でこざっぱりとした・・・・・・知佳さんらしい綺麗な部屋。










「・・・・・・魔法かぁ。うーん、まさかそんなのがあるとは思わなかったなぁ。
それにそれだと、地球以外に沢山世界があるんだよね。それもビックリ」

「・・・・・・信じて、くれるんですか?」

「ん、信じるよ」



知佳さんがベッドの側でそっと右手を両手で握ってくれる。



「恭文くんだって、私の力の事とかちゃんと受け入れてくれたでしょ? それと同じだよ」



それで知佳さんは、そのまま優しく笑ってくれた。



「私は恭文くんの事を信じたいし、嘘言ってるなんて思えないから。
・・・・・・大好きなあなたの言葉なら、どんな言葉でも受け止めたいの」

「あの、ありがとう・・・・・・ございます」

「ううん。でも・・・・・・それならどうしてあの人は襲って来たんだろ」



両手を握ってくれながら、知佳さんが困った顔でそう口にした。



「その闇の書って言うアイテムの守護騎士さん達もそうだし、恭文くんも特に魔法で悪い事をしているわけじゃない。
はやてちゃんは言わずもがな。だから恨みを買うとかもないし、魔導師さんの知り合いも居ない。・・・・・・心当たり、本当に無いんだよね」

「とりあえず、僕の友達にあんな無礼なのは居ないです。双馬だってアレの10数倍は常識的ですよ」

「まぁ、それは確かに。第一、なのはちゃんやフェイトちゃん達は魔法とは関係の無い子だものね。なら、誰が?」





というか、リンカーコアをもらうどうこうって言っていたのもかなり気になる。もらって、どうするの?

・・・・・・リンカーコアっ!? え、ちょっと待ってっ! それってまさか・・・・・・蒐集行動っ!!

闇の書のページを増やすためには、リンカーコアを他の魔導師から蒐集する事が必要って言ってた。



なお、リンカーコアは蒐集行動によって奪われても無くなるわけじゃない。

極端に小さくなるだけで、しばらくすると復活するらしい。でも・・・・・・あぁ、ありえないか。

とりあえずアレがシグナムさん達だとは思えない。それに・・・・・・なによりだよ?



お姉ちゃんと蒐集行動は絶対にしないって、シグナムさん達は約束しているもの。

お姉ちゃん、闇の書の真のマスターになれば足が治るかもって言われても、それでもそうしなかった。

沢山の人に迷惑をかけるのは絶対に嫌だから、このままでもみんなと居る方がいいって。



ということは、蒐集行動と割合近い目的で僕を? でも・・・・・・うーん、やっぱ分からない。





「とりあえずシャマルさん達に相談してみます。僕には本当に覚えが無いですし」



もしかしたら僕の知らない間に個性的な友達作って、ケンカしてアレかも。



「うん、その方がいいね。・・・・・・ごめんね、魔法について私がもっと詳しければ、力になれるのに」

「そんな事ないです。あの・・・・・・助けてくれましたし。知佳さん、ありがとうございました」

「ううん。とにかく、恭文くんはしばらく行動には気を付けた方がいいよ。
一人で出歩くのも出来る限り控えた方がいい。また襲われないとも限らないし」

「・・・・・・はい」



つい思い出して、右手を強く握り締める。全然・・・・・・歯が立たなかったな。



「悔しい?」



知佳さんは、僕の手の力から見抜いたのか・・・・・・そう落ち着いた声で言ってきた。だから、素直に頷いた。



「悔しい、です。あんな理不尽なのが嫌で、はじき飛ばしたいって思ってたのに・・・・・・何も出来なかった。
罪を数えさせるどころか、止めることすらも・・・・・・悔しい。力だけでどうにかなるなんて思ってないけど、それでも、悔しい」

「・・・・・・そっか」










知佳さんは、そっと右手を伸ばして僕の頬を撫でてくれた。





ううん、ゆっくりと拭ってくれる。僕の目から零れ落ちている・・・・・・熱い雫を。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ヤスフミが襲われたっ!? あの、それってどういう事ですかっ!!」



生まれ変わったバルディッシュの事やあの守護騎士の人達の話を聞いた後、リンディ提督からそう告げられた。

その言葉に、私もなのはもただただ驚くしかなくて・・・・・・互いに顔を見合わせてしまう



「あなた達が闇の書の守護騎士と交戦しているのと同じ時刻に、海鳴の山間部近くで局所的な閉鎖結界が張られたわ。
そしてその中に閉じ込められた人物が二人。一人は八神恭文君。そしてもう一人は・・・・・・仁村知佳さん」



思い出すのは、ヤスフミと実の姉弟レベルで仲良しだったあの綺麗な女性。

え、ちょっと待って。知佳さんも閉じ込められたということは・・・・・・まさか、知佳さんも一緒に襲われた?



「私達がこっちに来る時に仕掛けたサーチャーで、中の様子・・・・・・ギリギリだけど見れたんだ。
それで襲ったのは、クロノ君を蹴り飛ばしたあの仮面の男」

「ちょっと待てエイミィ。それだと仮面の男は」

「二人居るね。じゃなきゃ説明が付かないよ」



そう、だよね。同時刻でヤスフミが襲われた場所とクロノがその仮面の男と遭遇した場所とは、距離も離れてる。

転送魔法を使うにしても、本当に全くの同時にらしいし・・・・・・うん、多分二人居るんだ。



「全く同じ格好をしているのは、こっちを混乱させるためかしら。単独犯だと思わせて、油断を誘う」

「だったら、危ないところでしたね。土壇場でそこを利用して隙を突かれたら、僕達は目も当てられない。
撮影出来たのは本当に偶然のようだが、それでも幸運だった。・・・・・・それでエイミィ」

「あ、恭文くんは無事だったよ。もちろん知佳さんも」



その言葉に、私は胸をなで下ろす。・・・・・・あの、襲われた事はあんまり良くないんだけど、良かった。



「それと知佳さんなんだけど、なんか不思議なんだよね。魔法以外の能力を使ってて」

「そうなのよねぇ。これ、何かのレアスキルかしら。・・・・・・あ、それなら管理局に誘っちゃおうかな。
こうなると当然魔法の事も話す必要があるし、これだけの能力は中々お目にかかれないし」

「・・・・・・・・・・・・違います」



そう小さく呟いたのは、なのはだった。だから全員の視線がなのはに向く。



「なのはさん、違うってどういう事? あなた、思い当たる節が」

「はい。あの、HGSって言う病気がこの世界にはありまして」



私を筆頭にミッド出身者のみんなは知らなかったけど、そういう略称の病気が地球にはある。

遺伝子性の突然変異の病気で、根源的な治療は不可能。ここ20年程で発見された新種の病気らしい。



「そしてその中でも稀なケースで、病気の影響でいわゆる超能力的な力を使える人が居るんです」

「超能力? というと・・・・・・なのは、アレかしら? 物を魔法を使わずに動かしたり、転送したりするっていう」

「そうです。遺伝子そのものの病気なので、そういう風になるケースもあるらしくて。
それでこの知佳さんの白い翼はリアーフィンと言って、その力がイメージ化したものなんです」

「・・・・・・あぁ、なるほど」



エイミィが言いながら知佳さんの綺麗で優しい翼を見ている。というか・・・・・・本当に綺麗。

羽が舞い散って、その一つが輝いて、まるでおとぎ話の天使のように見える。



「知佳さんはそのHGSの影響で、超能力的な力を使える人なんだね」

「はい。なので、管理局で言うところのレアスキルとはまた違うんです。
これは病気のせいでもあるので結構デリケートな問題で・・・・・・知佳さんも小さな頃色々あったとか」



そしてなのはは小さな時に知佳さんの能力を見せてもらった事があって・・・・・・それで知ってた。



「そうみたいね。なのはさん、ごめんなさいね。
私、知らなかった事とは言え、不謹慎な発言をしてしまったわ」

「あ、いえ」



さすがにダメだと思ったのか、リンディ提督が自嘲するように謝ってきた。

なのはは遠慮してか、首を横に振って大丈夫と伝える。



「・・・・・・なのは、こういう時は昔馴染み代表として、多少言っておいた方がいいぞ?
リンディ提督は人材発掘に余念が無さ過ぎて、またこういう事をやらかしそうだからな」

「クロノ、中々キツいわね」

「事実でしょ。まだ子どもななのはを管理局に誘ってる時点で、提督に反論する権利はありません。
とにかく、仁村知佳さんについては完全に巻き込まれただけとして」



それで間違いないと思う。もちろん、知佳さんが魔導師じゃなければ・・・・・・だけど。

ただ、ここは確定だと思う。魔力反応とかも感知はしてないらしいし。



「問題は恭文ですよ。そうなると仮面の男は」

「恭文くんを狙ってきた・・・・・・・ということになっちゃうね。で、そうなっちゃうと」

「そうなるな。エイミィ、この杭やらなんやらは仮面の男の魔法のせいか?」

「違うよ。・・・・・・ここからが問題なんだよ。あのね、映像を巻き戻すからみんな良く見ててね?」



エイミィが映像を巻き戻して、結界が張られて・・・・・・あ、最初は映ってないんだ。

でもすぐに見れるようになった。そしてその中でヤスフミが甲剣を装備して・・・・・・え?



「おいおい、あのチビ・・・・・・バインドを一瞬で解除した上で武器を瞬時に取り出して」

「魔力付与してるね。あ、弾き飛ばされた」



その上飛ばされながらも、コンクリの地面に干渉しながら反撃している。

でも、アレはなに? 私、あんな瞬間的に大量に物質に干渉・・・・・・そうだ、干渉している。



「あの、エイミィさんっ! あれって」

「そうだよ。恭文くん・・・・・・魔法を使って反撃してるの。まぁ、結果は見ての通りだけどね」

「じゃあ恭文君は、私達と同じ魔導師っ!?」



・・・・・・魔法能力だけじゃなくて、魔法を意識して使えるようになってたんだ。

私は画面の中のあの子を見る。ただただ驚きの視線をヤスフミにぶつけることしか出来なかった。



「実力はなのはさん達と比べるまでもないと思いますけどね。でも・・・・・・資質は高い」

「そうですね。動きを見るにそれなりの訓練は積んでいるようです」

「あ、多分それうちのお兄ちゃん達の影響です。ここ数日で一緒に訓練してますから」

「あぁ、美由希さんと恭也さんは実戦剣術の達人だったな」



そこは私もヤスフミから聞いてる。恭也さんや美由希さん、すごく強くて勉強になるって。



「そうなると・・・・・・相手の技量が高過ぎたのが原因か。あとは経験差だな」

「見ていると、仮面の男二号に手傷も負わせてるみたいだしね。クロノ君・・・・・・負けてるんじゃないの〜?」

「・・・・・・言うな」



確かに攻撃や身のこなしや反撃が、素人のレベルじゃない。私、初めての実戦であそこまで出来なかった。

頭の良い子だとは思っていたけど、そこがこういう所でもそれが活かされているのかな。見ていてそう感じた。



「うーん、でも分からないわ」



リンディ提督が疑問顔で、画面の中のヤスフミ・・・・・・ううん、違う。

映像を巻き戻して、ヤスフミがカウンターで杭を出したところを何度も見ている。



「なぜ魔法陣や言語による詠唱もデバイスの補助も無しで、ここまで高速でこれだけの魔法を発動出来るのかしら」



確かにそこは私も疑問だ。見ているとデバイスをセットアップしている様子もない。

待機状態でサポート? ううん、それにしてもちょっとおかしいよ。



「見ていると、ただ物質を変換して再構築しただけではないわ。恐らく魔力硬化も込み。
これ、本来であればもう儀式魔法のレベルよ? 即時発動なんて出来るわけがない」

「そう言えばそうだよね。それにバインドかけられたのにあっさり解除してるし。
アタシやフェイトでもこんなのは無理だしさ。なのは、アンタは出来るかい?」

「私も無理です。というか、物質操作とかそういう精密作業はその・・・・・・苦手でして。クロノ君は?」

「残念ながら、これだけの精度をタイムラグ無しでは無理だ。
・・・・・・これは魔法ではなく、さっき話に出たHGSとかではないのか?」



でも、魔力反応は確かに出てるみたい。クロノだってそこは分かってるから、普通に本気では言ってない。

でも・・・・・・うーん、どういう事かな。魔法だけど、普通の魔法とは全く違う感じだし。



「いや、一つだけこの条件でこれだけの事が出来る手があるよ」



そう声をあげたのは、なのはの左隣に座っているユーノ。それで目の前の空間キーボードを操作。

新しい画面を出して、そこに資料を・・・・・・え、これ何? 何かの文献みたいだけど。



「瞬間・・・・・・詠唱・処理能力? ユーノさん、これはなにかしら」

「簡単に言えば、どんな魔法プログラムでも瞬間的な詠唱とプログラム処理、そして発動を可能とする超々高速の演算能力です」

「・・・・・・どんな魔法プログラムでも?」

「えぇ。ただし、例えばなのはのスターライトのような魔法は、さすがに無理ですけど。
レアスキル認定こそ受けていないものの、それに準じる能力として一部の学者には知られています」



この辺り、スターライトが周囲の魔力を集束して使う魔法だかららしい。

さすがにそれを一瞬で必要量まで集束は無理だとか。



「あの子にその能力があるとするなら、この現象にも納得が出来るんです。
まず、バインドの解除は瞬間的な解析と破壊をしているだけ」

「つまり私達がバインドを解除するためにやっている手順を、一瞬で行っているということね」



え、ちょっと待って。バインドの構築プログラムの解析と破壊を一瞬で?

そんなの無理だよ。私やなのはだって、そういうのは時間がかかるのに。



「はい。あと・・・・・・この物質操作は、明らかに異常だ」



言いながらユーノが見ているのは、あの子のカウンター。



「多分能力を活かした上で相当に高度で重い・・・・・・普通の魔導師ならデバイス有りでも処理し切れない量のプログラムを使用しているはず。
そうやって使用する術の精度と効果を飛躍的に高めているんです。もちろん、魔力消費との兼ね合いも鑑みた上で」

「あの子はそうやって一瞬でこれだけの事が出来る・・・・・・と。でもユーノさん、本当に可能なの?
こんな能力があるにしても、ただプログラムを走らせるだけで魔法は使えないわ」

「可能です。この能力の持ち主は、生まれながらにしてオーバーSを超える魔力運用の能力を保持しています。
それは能力の副産物とでも言うべきもので、それがあるからこそ魔法の瞬間発動が可能になる」

「・・・・・・それはまた。こっちのツッコミどころを完全に打ち砕いてくれる副産物ね」



え、そんなのアリなのかなっ! そういうのは地道な訓練で少しずつ培っていくもののはずなのにっ!!



「なぁユーノ、そんなすっごい能力をこのチビが持ってるとしても、なんでそれがレアスキル認定されないんだ?
だってそれだと、他の術でもプログラムを徹底的に作りこんで異常に効果を高くしたりとかも出来るじゃないか」

「出来るよ。それで認定されないのにも理由がある。
これはあくまでも術式を、超々高速詠唱・処理をしているだけらしいんだ」

「つまり、詠唱破棄とかなんかこう・・・・・・特殊なやり方じゃない。
だから認定されない? はぁ、管理局や学者連中も随分ケチだねぇ」

「・・・・・・ちょっと待てっ! ユーノ、僕はそんな無茶苦茶な能力は聞いた事がないぞっ!!」



それは私やなのは、アルフにエイミィも同じ。だからみんな普通にビックリ顔。

そ、そうだ。普通に私も聞いた事がない。魔法の事は、リニスと一緒にかなり勉強してたはずなのに。



「それはそうだよ。一種の突然変異というか、突発的に発生するものだし、所有者も本当に少ない。
さっきも言ったけどレアスキル認定も受けていないから、一般的な研究者の注目度自体も低い」

「だから執務官で優勝な魔導師でもあるクロノ君や、経験豊富なリンディ提督が知らなくても当然と」



エイミィの言葉にユーノが頷く。頷いて・・・・・・もうみんな呆れるやら感心するやら。ため息しか吐けなかった。



「・・・・・・なんてチート能力だ。というより、この能力の保持者が使う魔法は、僕達の魔法とは明らかに違うだろ。
全く別の特性を持った、異質な物になっている。そしてだからこそ、ただの物質操作の魔法でもこの出来なのか」

「そうだね。まぁ、魔力消費やプログラム式魔法のお約束な事項が消えるわけじゃないから、そこで制限は付くけど。
・・・・・・それでリンディ提督、どうしましょう。僕が見る限りあの子は、自分の能力をちゃんと分かっています」



それは・・・・・・そうだよね。そうじゃなかったら、こんな形の魔法を組むはずがない。

つまりそれは、この子の周囲に魔法関係の知識について詳しい人が居るのかも知れないということ。



「そうね。本来であれば事情を話して、あの子からも事情を聞いた上で事件解決までこちらで保護。
また狙われる可能性もあるし、これが1番ベスト・・・・・・なんでしょうけど、うーん」

「え、なんで悩むんだい? それで問題ないじゃないか。襲われた以上、こっちの話は聞いてくれるだろうしさ」

「アルフ、そういう問題じゃないのよ。・・・・・・前にも話したけど、この子はこう・・・・・・頭の良い子でしょ?」



・・・・・・あぁ、私もリンディ提督の言いたい事が分かった。

だからなのはと顔を見合わせて、私達も困った顔をする。



「だからどうしても不安なのよ。話した途端に・・・・・・いえ、違うわね。
現段階で犯人にリベンジしようとかしてるんじゃないかと」

「はぁっ!? いやいや、そりゃないってっ! だって、これだけコテンパンに負けてんのにっ!!
大体、アタシらにだって襲撃者が誰かすらも分からないんだよっ!? 出来るわけが」

「そうね。だからこの子なりにそうするだけの準備を整えて、執拗に追撃をかけたとしたらどう?
様子を見るに、閉鎖結界や他の魔法技術についても知っていると見ていいわ」



確かに結界を張られて襲われた異常事態なのに、躊躇い無く魔法を使って対処してる。そう考えるのが妥当ではある。

それでリンディ提督が私を見る。困った顔なのは・・・・・・相変わらずだ。



「名前も知らなかったフェイトさんを、9ヶ月も自力で探すくらいだもの。それでアルフ、あなたの存在まで嗅ぎつけた。
もし今、この子が管理局や事件に関しての詳しい事情を知ったら・・・・・・どうなるか予測がつかないのが怖いの」

「うーん・・・・・・あ、それならアタシとエイミィで監視して、動けないようにする。それなら問題ないだろ?」

「ご家族が居らっしゃるのにそんな事出来るわけありません。それだと私達、立派な誘拐犯よ?」



アルフがそう言われて、耳を下げながら軽く俯き気味になる。というか、納得する。

うん、それはだめ。なによりそれは『保護』にならないもの。



「あぁ、そっか。でもそれなら家族に事情を・・・・・・話して、理解してくれるかなぁ。
なんかさ、良く良く考えたらあのチビと同類が大量に居そうじゃない?」

「それはあるわね。もしもご家族の中に本当に魔導師が居たら・・・・・・あぁ、だめね。
報復活動に出ようとして、そのためにこちらの方が混乱する可能性があるわ」

「確かに。何より、この件は極秘事項扱いです。おいそれと部外者には話せない。
もしもご家族が過去の事件の被害者なり、その関係者だったら・・・・・・・更に状況が混乱する」



なんでも闇の書がこれまで散々暴れてきたせいで、また目覚めたと分かるとマズいとか。

闇の書に『恨み』を持っている人達は沢山居るから、そういう人達の介入を防ぐためにこれらしい。



「あぁ、その問題があったわね。だから捜査関係者にも基本箝口令を敷いているわけですし」

「えぇ。ですがリンディ提督、話さなくてもその場合は介入してくるでしょう」



続けて出たクロノの一言で、リンディ提督の困った顔が・・・・・・更に困った顔になった。



「あの子は頭もいいし度胸もある。だからこそ、やるなら自分なりにやれると確証を得てからだ。
そしてその確証は、恐らく相当苛烈かつ過激なものになる。中途半端なものは絶対に持ち出さない」

「ちなみにクロノ君、具体的にはどういう手に出ると思う?」

「相手を殺すだろうな。いや、そうしなくてもそれに割合近い手を使う」

「そんな・・・・・・! クロノ、ヤスフミはそんな事する子じゃないよっ!!」

「あぁ、悪い悪い。あくまでも僕がこの子の立場ならという意味だ。
・・・・・・殴られたら、殴り返したくなるのが人間なんだ。フェイト、それだけは間違いない」





その言葉にそれで思い出す事がある。それは、ヤスフミが学校復帰初日で起こしたケンカ。

相手を相当辛辣に叩きのめしたらしい。結果、その子達・・・・・・というより、クラスの子達がその、ヤスフミを怖がっているとか。

相手の子、謝ろうとしたけど跳ね除けられたみたい。それを見て・・・・・・また印象が悪くなった。



アリサが気になって、下級生の子に聞き出したって言ってた。

そのせいでヤスフミはクラスで浮いてるとか。・・・・・・ヤスフミは、凄く優しい子だと思う。

それはここまで一緒に居て・・・・・・うん、すごく伝わった。



でも同時に、多分害悪に対しては凄く容赦がない。映像の中の攻撃だってそうだ。



人を傷つけて、場合によっては殺す攻撃なのに、躊躇ってる様子が一見すると見えない。





「そうなのよねぇ」





だからリンディ提督だって困った顔をする。でも、私は気づいた。あの子に興味があるせいかな。

見ていて、気づいた。ヤスフミ、見せていないだけで攻撃する事を怖がっている。

ううん、相手を傷つける事を・・・・・・かな。なんとなくだけど、分かった。そういう部分を根っこでちゃんと持ってる。



だから私は、今の映像を見ても余りヤスフミを怖いとは感じない。やっぱりあの子はあの子なんだと思えたから。



あの優しい太陽の手と、星の光と同じくらいに輝いている瞳・・・・・・うん、ヤスフミはヤスフミのままだよ。





「・・・・・・うぅ、本当にどうしようかしら。事件を早期に解決してしまうのが一番なんでしょうけど」

「もうその方向しか無いかと。というか、正直僕はあの子を巻き込みたくない。
・・・・・・あの瞳の中に、こんな血生臭い現実を焼き付けたくはないですから」

「クロノ・・・・・・そうね。なら、あの子の動きには注意しつつ、事件に対処。
それで早急に解決して、後始末はしっかりしておくという事で」

「了解です、提督」










・・・・・・早く解決、か。うん、それしかないよね。そうすればきっと大丈夫なはずだ。





例えヤスフミが悔しがってそんな行動に出ても、その相手が見つからなければ・・・・・・きっと。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・シグナム」



あの戦いの翌朝、今日のアレコレを思い出しつつ私はまたリビングのソファーで寝ていたシグナムに声をかける。

二人で電気も点けずに、お茶を飲みつつ・・・・・・私は、どう言ったものかと・・・・・・一人考えを張り巡らせる。



「あぁ。・・・・・・主はやてを悲しませてしまったな」

「そうね。でも、それだけじゃない。あの仮面の男・・・・・・何を考えているの?」

「分からん。弟君を襲うなどとは、一体何事だ」



昨日の戦闘で出てきた正体不明の人物が居る。それが仮面の男。

それは危ない所だった私を助けてくれた。でも同時に・・・・・・恭文くんを襲った。



「弟君の話通りなら、奴は蒐集行動のために弟君を襲った事になる」



シグナムが、お茶の入った湯のみを右手で強く握り締めていた。そして、苛立たしい表情を浮かべる。



「本当に何を考えている。闇の書のマスターと血縁関係にあるものは、蒐集の対象外だぞ」



そう、普通ならそうなっている。やるにしても主の・・・・・・はやてちゃんの許可が必要。

でも、残念だけど恭文くんはその対象に入らない。私はもう、そうなる答えを知っている。



「あのね、シグナム」

「なんだ」

「これ、はやてちゃんやヴィータちゃんには絶対内緒ね? 恭文くん、はやてちゃんの本当の弟じゃないらしいの」



シグナムが驚いたように私の方を見る。ただ・・・・・・私は困惑した表情を浮かべるしかなかった。



「シャマル、どういう事だ」

「・・・・・・前に恭文くんから聞いたの。添い寝してる時に・・・・・・秘密って事でね」





あの子は照れちゃうのか恥ずかしがってるけど、私は平気。

というか、あの子に甘えてもらえるのはすごく嬉しい。

それでね、ほぼ毎回胸を触られたりもするけど・・・・・・うん、いいの。



私、恭文くんの事好きだもの。触りたいなら、いっぱい触って欲しい。





「恭文くん、赤ちゃんの時に実の両親が事故で亡くなって・・・・・・はやてちゃんの親御さんに引き取られたんですって。
元々仕事の関係ではやてちゃんの親御さんはその人達と知り合いで、確か・・・・・・蒼凪。それが恭文くんの本当のご両親の苗字」

「つまり弟君の本当の名前は」

「うん。八神恭文じゃなくて・・・・・・蒼凪、恭文」


 


だけど、それからしばらくしてはやてちゃんのご両親も同じように亡くなって、天涯孤独になった。

たまたま家の中を探検していた時に、その辺りの書類というか手紙の写しを見て気づいちゃったらしい。

ただ、恭文くんはそれでもお姉ちゃんははやてちゃんだと思っている。それだけは絶対に間違いない。



だからいつでもはやてちゃんが笑っていられるように、いっぱい守るんだっていって・・・・・・笑うの。

それが溜まらなく悲しくて・・・・・・私は、恭文くんを一晩中強く抱きしめた。辛くないはず、ないのに。

実の家族がもう居ないのに、それでも笑って・・・・・・はやてちゃんを守ろうとするの。



こんなの見下してると言われたらそれまでだけど、それでも私のぬくもりで癒したくて、一杯抱きしめた。





「・・・・・・ちょっと待て」





シグナムが困惑した顔になる。多分あの時と同じように・・・・・・よね。

私も本当に驚いたもの。私に話してくれた事に関してもかなりよ。

ただ、恭文くんにそれなりに信頼されてるのかなと嬉しくはなったり・・・・・・なんか、ダメね。



だって私、そんな恭文くんを今なお裏切り続けているんですもの。私、本当に最低だわ。





「それを主はやては」

「正直分からないわ。はやてちゃんが物心付く前の話らしいし。
気づいているかも知れないし、気づいていないかも知れない」

「そうか。・・・・・・だが弟君が知ったのは偶然としても、そんな事実をなぜ奴が知っている」

「分からないわ。でもシグナム、気をつけて。何にしてもあの男は」

「あぁ。我々の事について相当調べ上げている。そして・・・・・・弟君を襲った敵だ」




















(第4話へ続く)




















あとがき



恭文「というわけで、ついに事件勃発。最悪ゾーンに突入したA's・Remix第3話はいかがだったでしょうか。本日のお相手は蒼凪恭文と」

あむ「日奈森あむです。・・・・・・てーかアンタ、また随分とぶっ飛ばすね。
てゆうかさ、これって本編のアンタと同一人物だったんだ」

恭文「うん。だから能力も資質も性格関係も似てるの。言ったでしょ? 『本質』は同じだって」





(なお、この辺りでまた1エピソード描く故の設定だったりします)





恭文「ぶっちゃけちゃえば、こっちの僕って本編以上に幸せだけど、同時に本編以上に歪んでる部分もあるのよ。
極端過ぎる思考だったり、自分の事を度外視しちゃう癖とか、人に見切りをつけるのが早かったり」

あむ「あぁ、それが前回の話のアレコレに繋がるわけか。・・・・・・てか、もしかしてそうなる原因ってここの辺り?」

恭文「うん、1番大きな原因はそこだったりする。ただ、この話に入ってからはそうでもなくなったけど」





(その辺りの1番の要因は、フェイトと魔法です)





恭文「まぁここの辺りの原因や話はまた劇中にするとして・・・・・・これでテレビで言うと6話辺りまでは過ぎた」

あむ「ちょうど半分・・・・・・でも、アンタは見事に空気だよね。普通に事件にガチに関わる感じじゃないし」





(今回のも、巻き込まれたに等しいしねー)





恭文「なのは達から見ると、僕は一般人だしね。これは仕方ない。
とにかく、ここからは僕も知佳さんの力を借りて事件に介入だよ」





(ただ、そこ・・・・・・ゲホゲホゲホゲホ)





あむ「でも、この場合アンタが知って取れる選択ってもう大体決まってない?」

恭文「まぁ、テンプレ的に言うなら決定してるね」





(当然、アレなのです)





恭文「まぁそこの辺りは次回お楽しみだね。それでは、本日はここまで。お相手は蒼凪恭文と」

あむ「日奈森あむでした。・・・・・・あ、もうすぐ超・電王のEPISODE YELLOW公開じゃん? 楽しみだよねー」

恭文「あー、確かにね。TRILOGYの最後だし、僕はしっかり見るぞ。というか、ディエンドのコンプリートフォームは楽しみなんだ」










(そこはガチにディケイドとかのノリだと誰もが思った。
本日のED:Buono!『みんなだいすき』)




















フェイト(翌朝)「・・・・・・ヤスフミ」

エイミィ「フェイトちゃん、やっぱり心配?」

フェイト「うん、かなり。本当にリベンジなんて考えているとしたら・・・・・・私」

クロノ「大丈夫だ。それまでに何とかして事態を終息させればいい。
なにより、あの子はまだ7歳だ。出来る事には自ずと限界が生まれる」

エイミィ「クロノ君、それ昨日と言ってる事違わない?」

クロノ「まぁな。ただ、子どもだから限界がある事もしっかり把握しておかなくては。
とりあえず、学校での彼の様子には気をつけておいてくれ。それで変化があれば報告を」

エイミィ「あの子がユーノ君の話通りのスキルを持ってるなら、また狙われる可能性は大きいしね」

クロノ「あぁ。有益なスキルを持っている人間のコアは、下手な魔導師10人を吸収するよりずっと効率がいい。フェイト、頼むぞ」

フェイト「うん、分かった。絶対に・・・・・・絶対に守るよ。
私、これ以上あの子が傷つくのとか、戦うのとか・・・・・・嫌なんだ」










(おしまい)






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