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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第67話 『Starlight&Blue Sky/全てのStoryを眺める『そら』の下で』



リズム・クスクス・ダイチ『しゅごしゅごー♪』

ダイチ「今日もドキッとスタートドキたまタイム。X編もいよいよラストだぜ」

クスクス「空の下、それを見上げるみんなの・・・・・・イクスのストーリーは、どうなっちゃうのかなぁ」

リズム「全部はオレ達の上に広がる空だけが知ってる。そして空は、何時だってそこにあるんだ」





(立ち上がる画面に映るのは、星の光。そして、青い空を見上げるあの子)





リズム「とにかく、最後までクライマックスでいくぜー!!」

クスクス「うんうんっ! クスクス達、頑張っちゃうんだからー!! ・・・・・・せーのっ!!」





(というわけで、例のポーズである)





リズム・クスクス・ダイチ『だっしゅっ!!』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「というわけで、やるわよ。クロスミラージュ」

≪Yes Sir≫



私は軽く浮かび上がって、クロスミラージュを両手で構える。なお、狙うは足元。



≪Blazer Mode≫





クロスミラージュの形状が変わる。銃身が大型化しつつも銃口に向かって鋭角的になり、全体的にシャープなイメージになる。

銃口は四角く、変形前よりも小さいように見えるけど、実はこっちも大きくなっている。

これはクロスミラージュの形状変換の三つ目のモード。その名もブレイザーモード。これは砲撃用のモードなの。



ただ、私の魔力資質的にあんま派手な砲撃は合わない。だからもっぱら・・・・・・これの発動に使ってる。





「・・・・・・え、これ・・・・・・まさかティアナ、壁抜きするつもりっスかっ!!」





浮かび上がった私の構えたクロスミラージュの銃口の先に、オレンジ色の星の光が集まっていく。

それは一つの弾丸・・・・・・いいえ、砲弾を形成する。そしてさっきばら撒いた魔力素も同じ。

蒼い粒子は一瞬でオレンジ色の光に変わって、やっぱりクロスミラージュの銃口の先に集まっていく。



スターライトは周辺の魔力素を集束・・・・・・一点に集めて撃ち出す魔法。ただ、弱点がないわけじゃない。

周辺の魔力素が少ないと、普通に威力が低くなっちゃうのよ。その問題を解決するのがあのカード。

発動させて、スターライトの威力を増強するの。カートリッジ使うって手もあるけど、それより効率は良くしてるみたい。



じゃなきゃ、普通にカードに入れないでしょ。でも・・・・・・これはあんま実用性ないんじゃないかな。ちょっとそう思った。





「魔力素の『補充』は済ませた。カートリッジもあるから、威力に関しては充分」



クロスミラージュからロード音がガシャガシャと聴こえる。合計四発のカートリッジをロード。

それも砲弾に注ぎこむと、手の平サイズだった砲弾が大きさを増した。今はもうソフトボールくらいにまで大きくなってる。



「これなら7フロア分くらい、軽く撃ち抜けるっ!!」










さぁ、悪いけどこっちはとっくにクライマックスよっ! 一気にぶっ飛ばしてくんだからっ!!





・・・・・・って、アイツの口癖がうつってるっ!? あぁダメよっ! 人としてここは踏みとどまりなさい、私っ!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「あの蒼凪君、これはなにっ!?」

「わわ、なんかお星様が・・・・・・上に昇ってくよっ!!」

「恭文、マジでどうなってんのよっ! また何かあるわけっ!? もうあたし達ワケ分かんないしっ!!」

「あーもう、お前ら落ち着けっ! 普通にティアナがスターライト使ってるだけだからっ!!」



マジで周辺一帯から魔力素を集めまくっているらしい。僕の周囲にまでオレンジ色の魔力が湧き上がってるから。

それは当然、上のティアナに向かって壁を突き抜けながらも昇っていく。だって魔力素に壁とか関係ないし。



「スターライト・・・・・・あぁ、思い出したっ! アンタが歌唄斬った時に使ったのっ!!」

【そうでちっ! 確か、空気中にある魔力を一点に集めて撃つっていうのでちよねっ!?】

【とゆうか、ティアナさんも使えたんですかぁっ!? はわわわ、びっくりですぅっ!!】

「そうだよ。なのはから教わってたから」

「魔力が・・・・・・これは、集束砲」



そう、スターライトは集束砲とも呼ばれている。僕のは変化形だし、基本は砲撃だからそうなるのよ。

そしてまるで床から湧き上がるような星の光達を見て、イクスが感嘆とした声で呟いていた。



「どうしてでしょう。この光達は攻撃のための光なのに」



イクスがそっと魔力素に手を伸ばす。いや、伸ばしかけたけど手を止めた。

多分集束の邪魔をしちゃ悪いとか思ったんでしょ。



「とても綺麗に感じてしまいます」

「・・・・・・はい。私もそう思います」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



砲弾はドッジボールサイズになった。とりあえずは・・・・・・これだけあればOK。

さぁここからだ。集中して狙いを定めろ。私が撃ち抜きたいのはなに? そんなの決まってる。

私が撃ち抜きたいのは・・・・・・あのバカ共のせいで始まった、こんな時間そのものだ。





アイツらどうこうを言うつもりはもうない。多分私にはそんな権利はない。でも、それでもこれは納得出来ない。










「全力・・・・・・全開っ!!」



だから全部ぶち壊して、アンタ達が夢と言った私達の時間を続けていくわ。

私達なりの意地と誇りと想いを持って、続けて・・・・・・繋げていくっ!!



「スタァァァァライトッ!」



そのまま私は撃ち抜くべき標的を見据えながら、クロスミラージュの引き金を引いた。



「ブレイカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」










引き金を引いた瞬間、形成していた砲弾から広がるようにして巨大な奔流が放たれた。





それは星の光の奔流。なのはさんから受け継いで、少しずつ磨き上げていた私の切り札。





今その輝きは、私なりの自分に対しての誇りと確信を込めた上で・・・・・・放たれた。




















『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/だっしゅっ!!


第67話 『Starlight&Blue Sky/全てのStoryを眺める『そら』の下で』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



放たれた砲撃はまず私達の居るフロアの床に衝突。そしてそれを撃ち抜く。

半径にして5メートル程のオレンジ色の奔流は続けてその下の床も破壊していく。

2枚目、3枚目、4枚目・・・・・・そうして、奔流が最後の床に衝突。





ほんの数瞬、その床が奔流をせき止める。でも、すぐに瓦解して星の光の奔流に撃ち抜かれた。





最後はスバル達が居るエリアに衝突。その床を軽く砕いて・・・・・・その奔流が細くなっていく。










「障害排除。進路、クリア。・・・・・・スバルっ!!」



徐々に細くなった奔流が消えて、後には巨大な穴達が残るのみ。

私は荒い息を吐きながらもそれを見据える。



「うんっ! ウィング・・・・・・ロォォォォォォォォォドッ!!」



声は通信越しではなく、下から直接的に聴こえてきた。そして青い道が螺旋を描きながらこちらに昇ってくる。

その先端には・・・・・・あ、スバルだ。というか、あの腕の中の子・・・・・・アレがイクスヴェリア?



「ティア、ジンにウェンディもありがとっ! スバル・ナカジマ防災士長、このまま要救助者一名を連れて一端下がりますっ!!」

「はいっスっ! 他のみんなはこっちで引き受けるっスから、気を付けるっスよー!!」

≪「了解っ!!」≫



なんて言いながらも、そのまま吹き抜けになっている部分から脱出した。なお、ウィングロードはそのまま。

当然みんなの脱出を迅速かつ簡単にするためよ。あ、でも奇襲もあるかもだから、気をつけないと。



≪・・・・・・ティアナ、一応知ってはいたが・・・・・・威力が増してないか?≫

「そうだぞ。お前、俺とバルゴラの記憶だと・・・・・・こう、もうちょっと可愛らしかったような」



右側の下の方、少し離れて様子を見ていたジンとバルゴラがそんな事を言う。なので、呆れ気味に答えてあげる。



「何言ってるのよ。女の子はいつだって成長していくものよ?
まぁまだまだ借り物レベルだけど、それでもこれくらいはね」

「いや、まぁ・・・・・・・アレだ。魔王って言われないように気をつけろよ?」

「アンタ、それどういう意味よ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「はわわわ、何これ何これっ! なんか青い道が・・・・・・すっごーいっ!!」

「・・・・・・蒼凪恭文、彼女は中々騒がしい子ですね」

「セッテ、気にしないで。結木ややってあんな感じの生物だから。
もうね、それだけで一つのカテゴリーが出来てんのよ」

「納得です」



いや、アンタ達なんの会話してるっ!? てゆうか普通にあたし達は魔法の事とかまだ良く分からないんだし、仕方ないじゃんっ!!

・・・・・・まぁ、あたしはまだ大丈夫だけどさ。明治時代のあれこれで、ちょっと見たりもしてるし。



「とにかくあむ、唯世とややも・・・・・・ここからはちょっと飛ぶよ。それでみんなは対策本部で保護と治療」

「分かった。でも蒼凪君とリインさん達は」

「僕達は唯世達送ったらすぐにこっち戻って、火災の消火とマリアージュの排除の続きかな」

「そっか。その・・・・・・気をつけてね。それでケガとかも無しで」

「分かってるよ。んじゃあむ」



リースとユニゾンしたままの恭文が、そっと右手をあたしの前に出してくる。



「いくよ。あ、それとキャラなりは解除で。見られるとちとやばいし」

「・・・・・・うん、分かった」



あたしはその手を取って、しっかりと握る。そのまま恭文に引き寄せられて、後ろから抱きかかえられる。

セッテさんは何も言わずに唯世くんを、リインちゃんはややを。



「・・・・・・えー、キャラなり解除嫌だ−! アルトちゃんともうちょっと遊ぶー!!」

「ややちゃん、わがまま言っちゃだめなのですよ。ほら、早くしないとまた怖い目に遭うですよ」

「うー、それでも嫌だよー。嫌だ嫌だ嫌だー」



・・・・・・とりあえず、ややは無視だ。そうだ、アレは気のせいなんだから。



「蒼凪恭文、結木ややという種別の生命体は実に興味深いですね」

「セッテ、それが分かるようになっただけでも成長だよ。ややはね、見ているだけで楽しいんだ」

「納得です」

「はいそこ黙れー! 普通になんかその会話嫌な感じだからやめないっ!?」





















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あー、まだ色々安心出来ないけど風が気持ちいい。というか・・・・・・あ、星が見える。空も晴れてる。

そっか、雨止んだんだ。それに火災も・・・・・・うん、雨のせいもあるのかな。外見だと思ってたより収まってる。

私はウィングロードで空を走る。イクスをお姫様抱っこ的に抱えて、救護班の待機所を目指している。





でも、あむちゃんとスゥちゃんにはまたしっかりお礼しないと。というか、唯世君達にもだね。

みんなのおかげで私、助けられちゃったのもの。・・・・・・恭文、私なんか納得したよ。

この間の明治時代のアレコレで、恭文があむちゃんの事好きだなーってのは気づいたんだ。





でも、それだけじゃない。恭文はあむちゃん以外のみんなの事も、結構信頼してる。

あとはガーディアンのみんなの中にも、ちゃんと恭文の居場所があるみたいだし。

まぁあんなに強い子達だもんね。あむちゃんやりまちゃんに歌唄ちゃんだけじゃなかった。





ほんとに大事にしてあげなよ? うん、あんな風に繋がれる友達は、中々居ないんだから。










「・・・・・・スバル、星が」

「え?」



腕の中のイクスを見ると、驚きの表情を浮かべて空を見上げていた。



「星が・・・・・・あんなに沢山。というか、空が晴れていて」



イクスが雨が降っていた事を知っているとは思えない。というか、さっきまでずっと寝てたんだから。

なら・・・・・・えっと、ちょっと待てよ。確か歴史の授業で私も勉強したよね。



「あ、そう言えば昔は空も星も見えなかったんですよね」

「少なくとも私が以前目覚めた時には。私の知っている空は、いつも軍船や自然破壊による暗雲に埋め尽くされていて」



古代ベルカ時代の戦争の影響で、一種の自然破壊が行われた。だからこそんな光景しか知らない。

だから今、目の前の空を見て驚いてるの。雨上がりの空は・・・・・・その中の星や月は、本当に綺麗だから。



「その、昔はそういう感じだったんですけど、今は色んな人達が頑張った影響でこんな感じです。
朝になれば太陽も昇るし、青空も思いっきり広がって・・・・・・すごく綺麗です」



ウィングロードで雨上がりの冷たい空気の中を走りながら、私はイクスに笑いかける。

イクスはどこか照れたように、私の笑いに返してくれた。



「そうなんですか。・・・・・・不思議です」

「なにがですか?」

「私もマリアージュも変わってなくて、人も変わりなく戦い続けていると思っていました。だからこそ私がまた目覚めた」



そのままイクスはまた空の星達を見る。私も前へと走りながら、同じように見る。



「でも、違っていた。スバルやセッテ、あむに唯世にやや、ランにスゥにぺぺにキセキ達しゅごキャラのみんな。
そして強い騎士とその融合騎二人。みんなは私の知らない可能性だった。世界は・・・・・・人は、進化していたんですね」

「・・・・・・はい。少しずつですけど、色んな問題もありますけど、変わっていったんです。
みんなでそれぞれの居場所から『なりたい自分』を探し続けていた。だから現状に繋がってます」

「そのようですね。でも・・・・・・それが不思議でもあり、嬉しいんです。私は、私も・・・・・・もしかしたら」










そのままイクスは黙った。ただ嬉しそうに、星空を見上げている。

私はそんなイクスを抱きしめながら、変わる事なく夜空の中を走り続けた。

なお、私がイクスを送り届けた直後、一つ変化が起きた。





火災の鎮火と要救助者の全員救助完了。そしてマリアージュの完全排除が各所に通達された。

私達が中で色々あった間に、フェイトさんとトーレやチンクにエリオとキャロ、防災隊のみんなが頑張ってくれたから。

あとは雨だね。かなり強めの本降りになったせいで、多少だけど外の火災消火と延焼阻止に繋がった。





何にしても私は・・・・・・今回はちゃんと手が届いたみたい。恭文やあむちゃん、みんなのおかげでね。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そしてそれから1週間。後にマリアージュ事件と呼ばれるテロはあらかたカタがついた。

だからこそ僕達は午前中恒例の宿題なんてしてたりするわけですよ。もう8月突入してんのによ。

なお、僕達は災害に巻き込まれたあむと唯世とややと海里以外は全員なのはに怒られた。





というか、フェイトも怒られた。そして泣かれた。なんでこんな無茶をするのかと泣かれた。

でもヴィヴィオに『なのはママ、仲間外れで寂しかったんだね』と言われて、今度はとんでもなく落ち込んだ。

まぁそこの辺りは良しとして・・・・・・なにやら後処理で色々荒れているらしい。





これ、考えようによっては局の不祥事の一つになりかねないしなぁ。だからだよ。

なお、ジンはその処理に付き合う形でまだ補佐官やってる。ティアナは・・・・・・似たような感じ。

グラースさんが大丈夫と言ったそうなんだけど、さすがに放り出せなかったらしい。





あ、それと指輪買いました。事件解決の翌日に二人で朝一番でデパート行って、婚約指輪買いました。

だから今近くで新聞を読んでるフェイトの左手の薬指には、ダイヤの指輪が輝いているわけですよ。

でも・・・・・・怖かった。普通にその日一日は怖かった。指輪を買いに行くのは死ぬほど死亡フラグなわけだからさ。





買った後は転送魔法・・・・・・は転送事故の可能性があるので、慎重に帰った。歩きで帰った。





そして警戒し過ぎな位に警戒して、車の通りとかも気を付けた。もちろん僕もフェイトも。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「あ、あの・・・・・・ヤスフミ、さすがに警戒し過ぎじゃないかな。ほら、もうお昼だよ?
そんな一歩ずつ慎重に踏みしめるように歩かなくてもいいんじゃ」

「何言ってるのっ!? 婚約指輪買った後にトラブルが起きて死亡って、よくあるパターンなんだからっ!!
突然に僕達の所にトラックが突っ込んできてもいいくらいだよっ! 警戒し過ぎなくらいで丁度いいんだからっ!!」

「ちょっと待ってっ!? え、そこまでなのかなっ! いくらなんでもそれは信じられないよっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして家に戻ってから翌日まで、部屋の中にフェイト共々引きこもった。それでフェイトをずっと独り占め♪

フェイトは呆れつつも、受け入れてくれて・・・・・・うふふ、嬉しかったなぁ。

それでまた『あなた』って呼んでくれたしー! あぁ、フェイトってなんであんな可愛いんだろー!!





あ、なおリインにもリインサイズのを元々注文していて、それも引き取ってきました。だからリインも装着してる。





ただ、指輪にすると色々問題なので・・・・・・首からネックレスみたいにチェーンを通して下げております。










「・・・・・・でもまさか、事件捜査していた捜査官の補佐官が主犯だったなんてな」

「灯台下暗しと言った所でしょうか。本当に身近なところに真相があったわけですね」



それで空海が宿題、海里が自習問題のあれこれに悩みつつもそんな事を言う。

なお今回の事件、基本的に市井な方々にも公開されていたりするので問題なし。



「というかそのウエバーさんは大丈夫なんですか? 蒼凪さんのご友人ですよね」

「僕というか、サリさんやヒロさんのね。・・・・・・あんま大丈夫じゃなかったらしいよ?
『事件の主犯を託っていた』って言う心ない輩もいるらしいしね」



もうちょっと早く気づいていればとご本人様も言ってたけど、それを言ってもなぁ。

海里じゃないけど灯台下暗し過ぎて、普通は目が行かないとこだって。



≪でも、今回の一連の事件を未然に防いだ事もあるから、処分にはならないらしいの≫

≪死者や被害が現実に出ている以上、失敗があったのは否めません。ですがそれでもという事ですね≫

「話通りならそのルネッサって人は、今回みたいな事をあっちこっちで起こそうとしていたものね。
それを阻止出来て、マリアージュの排除も完了したからプラマイゼロ・・・・・・という所かしら」

「真城さん、正解です。そこはエグザさんも安心してなさってましたね。というか、お兄様もです」

「・・・・・・まぁ、関わっちゃったしね。これでそれはあんまりに運悪過ぎでしょ」



主犯のルネッサ・マグナスは、取調べにも素直に応じているらしい。現在は本局の拘置所で裁判の開始待ち中。

一応元上官という事でグラースさんが何回か面会してるらしい。弁護を担当とかは無理だけど、それでもね。



「それでナギナギ、アレだろ? そのルネッサってのがイクスの居場所が分かってたのにわざわざこんなことしたのは、捜査を混乱させるため」

「えっと、トレディアって人のせいにするためだったんだよねー。クスクス、それだけは分かるのー」

「・・・・・・クスクス、さすがにこれだけってのは色々おかしくない?」



まずルネッサ・マグナスは、最初からイクスの居場所が分かってたのよ。

トレディア・グラーゼの遺品となった資料から絞り込めていたらしい。ただ問題が一つ。



「でも居場所が分かった3年前の時点で、既にマリンガーデンの建設準備が始まってた・・・・・・だったよね。
だからマグナス執務官補は、どうやっても内密にイクスヴェリア陛下を遺跡から連れ出す事が出来なかった」

「場所も海底で、工事中も当然だが開業してからも人の出入りは激しいしな。
イクス自体も普通の調査では分からないような場所に居たというし、簡単ではないか」





キセキが唯世の隣でプカプカ浮きながらも、腕を組みつつそう言う。

今キセキが言ったように、普通の場所にはなかったのよ。というか、サーチ関係でも気づけなかった。

以前も言ったけど、海底遺跡が発見された時点で局が調査してるのよ。



それでもアウトだったわけだし、内部の捜索にはある程度の時間・・・・・・場合によっては人材や設備が必要になる。

あ、言い忘れた。この人は『海底遺跡にイクスヴェリアあり』というだけで、細かい場所が分かってなかった。

その点があれだけ派手な火災を起こして、マリアージュのいぶり出し作戦に乗り出した理由の一つだったりする。



それで話を戻すけど、キセキが言ったみたいな状態で普通にそんな事をすれば、確実に見つかってしまう。





≪ですが、マリアージュという兵器運用システムを有効に使うためには、イクスさんは絶対に必須。
そのためにあの人は3年待った。検死官の立場を活かしてマリアージュの『材料』を集めつつ≫



検死官として働きつつ、身元不明の死体をうまい具合に盗んでいたらしい。当然マリアージュにするべくだよ。

そうして死体を確保。その上で現存していたコアを使って、マリアージュの数を少しずつ増やした。



「それでようやくマリアージュの数が揃って、マリアージュにトレディア・グラーゼと陛下を探す『振り』をさせた。
それが一連の連続殺人事件の真相。つまり殺された人達は・・・・・・トレディア・グラーゼが生きていると思わせるための材料」





現に僕もそうだし、マリアージュの詳細をスカリエッティから聞いたフェイト達も同じことを考えた。

僕さ、操手であるはずのトレディアの名前をどうしてマリアージュが出したのか疑問だったんだけど、これでスッキリしたよ。

多分ある程度は犯人像を特定してもらいたかったんだと思うのよ。そこでトレディアというワードを出した。



現にトレディアには疑わしい点がある。限りなく黒に近い要素がある。

当然だけど、捜査陣営はトレディアを被疑者の第一候補として調べようとする。

でも本人はお亡くなりになってるわけだから、当然だけど捜査は難航。



しかも中途半端に手がかりが残ってるのが余計に性質が悪い。これじゃあ捜査陣営は諦めないに決まってる。

ちなみにフェイトも『もしもアギトが思い出してくれなかったら、私だってそのままトレディアを捜査してたよ』と言っていた。

そこはグラースさんも同じく。偶然にもスカリエッティとトレディアの繋がりが分かった事が、真相を暴くきっかけになった。





「なんかムカつくよね。あたし達もそうだけど、この事件で危ない目に遭った人達・・・・・・沢山居るのに」



あむが苛立ち気味にそう呟いた。そしてそれは、関係者全員が思った事。

だってこれだとマジで最悪なやり口だし。なお、フェイトもちょっとイライラモード入りかけてた。



「そんな勝手な理由で殺されて、怖い目に遭って・・・・・・マジありえないし。
なんで、なんでそんな事が出来るのかな。あたし、分かんないよ」

「・・・・・・日奈森さん」





それでトレディア・グラーゼが死んだのは、ルネッサ・マグナスとスカさん達しか知らなかったみたいなの。

現に情報通のサリさんも行方がさっぱりだったんだもの。で、ルネッサ・マグナスはこの手でいけると踏んだ。

理由は二つ。一つは今言った通り、トレディアの死を知っている人間が非常に少なかった事。



この辺りはスカリエッティと組んだ影響だね。普通に表に出るような事はしたくなかったんでしょ。

そして二つ目は、拘置所に居るメンバー・・・・・・ようするにトレディアとマリアージュの関係を知っている人間だね。

そのメンバーが現在もなお、自供を拒んで一切の黙秘を続けている事。ここが結構重要。



それにはあの大騒ぎについてもそうだし、最高評議会やレジアス中将との色んなやり取り。

あとは過去に自分達が行った犯罪行為のアレコレも同じく。今回の事だって今までは全く喋っていなかった。

どうも普通に管理局組がツツいても、スカさん達がそこについて喋るとは思ってなかったらしい。



だから本人もそこを知っているのが分かって、非常に驚いたとか。





「ね、恭文。それでその・・・・・・イクスの事なんだけど」



あむが動かしていた腕を止めて、左隣の僕の方を見る。というか、唯世とややもだね。

もちろんラン達も僕とリインの方を見てる。でも・・・・・・ちょっと困った。



「あ、ややも気になる。あれからずっと眠ったままなの?」



イクスは現場での事態が終息した途端に、普通に眠ってしまった。現在は海上隔離施設の一つに居る。

そしてあれから1週間、全く目覚めないらしい。なお、マリエルさんが面倒を見てくれてる。



「うん。今イクスの事診てくれてるの、僕やフェイトにアルトの元々の顔見知りの人なのよ。
だからちょくちょく様子確認してるんだけど・・・・・・全くだって」

「昏睡状態は継続で、今のところ目覚める気配はないらしいです。というか、アレなのですよ。
マリアージュとルネッサ・マグナスによって無理矢理に起こされちゃってたですから」

「つまり陛下は完全に目覚めていなかった? だからまた眠りについた」

「そういう風に話は聞いてる。あとは・・・・・・あー、イクスの事だけど」



一応さ、イクスはロストロギアに位置するような子なわけですよ。で、そこの辺りも色々荒れてる。

ただ、イクス本人の意思で『マリアージュを産み出したくない』と思っているのは、僕達やスバルの方から報告した。



「恭文、正直に言ってくれ。僕も唯世達もそこが非常に気になっていた。
・・・・・・イクスはどうなるんだ? まさかこのまま処分などという事は」

「そ、そんなのだめだよっ! だってイクスちゃん・・・・・・イクスちゃん・・・・・・・!!」

「あー、だからややも泣くなっ! てーかおのれらも全員落ち着けっ!!
・・・・・・とりあえず性質が性質だしね。厳重な警護体勢は必要と判断されてる」



というか、監視とも言い換えられるね。イクス本人にその意思がなくても、一種の生体反応的にコアを産み出すわけだし。

イクス本人の意思もある以上、絶対に同じ事をさせてはいけないというのが大方の意見である。色々な思惑は抜きでね。



「でも自己の意思を持っていて、基本平和主義な思考だもの。いや、あむ達の証言があって助かったよ。
これなら無理矢理に殺すなんて事にはならない。うん、そこは大丈夫」



僕がそう言うと、直接関わっていないメンバー全員も含めて表情が明るくなった。

・・・・・・なんというか、これだからここに居るの、心地いいのかも。



「そっかぁ。・・・・・・うん、良かった。良かったよ」

「エース、良かったですね」

「うんっ!!」

「ややちゃん、イクスたんの事心配しまくってたでちもんね」



だよねぇ。なんか僕達が合流するまで、色々あったらしいし。



「でもでも、そのルネッサって人・・・・・・なんでこんな事したんだろうね。
やや、話を聞いたけど良く分かんないよ。しかもそれが夢だなんて・・・・・・絶対違うよ」

「まぁそれはね。ただ・・・・・・僕はね」



小さく呟いたけど、それでみんなが僕の方を見る。それでまぁ、軽くお手上げポーズなんてしたりする。



「まぁ、分かるのよ。少なくとも『絶望した』って辺りはさ」

「恭文君、そうなの?」

「うん。えっと、例えば・・・・・・すっごく悲しいことがあったとするじゃない?」



思い出すのは本当に最初の時。あの時も・・・・・・あぁ、同じ事を思ったなぁ。

うん、僕にもこの人と同じ部分がある。経験もあるからちょっと分かる。



「でもさ、半日もすればだいたいお腹が空くのよ。喉が乾けば水を飲みたくなる。
トイレにだって行きたくなるし、眠くだってなっちゃう。人間ってそういうものなのよ」

「それは・・・・・・そうだな。あぁそうだ、俺にもそういうのは分かるぞ。それで?」

「でさ、それで一晩寝たりご飯食べたりすると、まぁスッキリするじゃない?
ある程度は痛みが薄れて、なんとか立ち上がれるようになって・・・・・・また頑張る」





それがある意味では人としての当然のシステム。誰かが言った、人は忘れる生き物だと。

痛みを持続させ続けてたら、生きる事そのものが困難になる。

だから辛さや痛みを時間を置く事で薄れさせ・・・・・・忘れていくの。



僕だってそうだよ。うん、色々間違えた事とか失敗した事とか、徐々に忘れそうになってる時がある。





「きっとさ、NPOに保護されてからそういうのを繰り返して・・・・・・ある時気づいたんじゃないかな。
自分がトレディアと一緒に戦った事や、戦場という一つの現実があった事を忘れそうになってる事に」

≪・・・・・・あぁ、それはありますね。それで自分に愕然としたんでしょ。
他はともかく、トレディアは彼女にとって大事な同志で親代わりでもあるらしいですし≫

「・・・・・・蒼凪さんの仰りたいこと、俺は少し分かります。
その方は忘れて・・・・・・・感じた事実やその時関わった人間まで夢のように感じたんでしょう」



海里が少し俯きながらそう言ったので・・・・・・僕は頷いた。

うん、そういう事だと思う。僕は話を聞いて、そういう風に感じた。



「ボクも・・・・・・なんとなくだけど分かるよ」

「ミキ、アンタも?」

「うん。その人きっと、そうやって忘れる・・・・・・感じた事が薄れる事が凄く怖かったんじゃないかな。
大事なものが、自分の過去や時間が嘘になって、そのまま消えちゃうんじゃないかって」



ティアナがさ、言ってたのよ。ルネッサ・マグナスが今ある世界を嘘っぱちだと言ってたって。でもきっと・・・・・・本当は違う。

自分の元居た世界が、トレディア・グラーゼが嘘っぱちになりそうだったから、こっちをそう言って否定しようとしたんだよ。



「俺もこうやって過ごしていると、こころのたまごをCDにしてしまった事やその手伝いをした事、忘れそうになります。
俺がイースターのスパイで、みなさんを裏切り続けていたのはまるで夢のように感じてしまって・・・・・・怖くなる時があります」

「・・・・・・三条君」

「だが俺は何も忘れたくない。かと言ってそれに縛られて夢を、大事な願いを諦めたくなどない。
きっと忘れずに、全てを持って変わっていく事は・・・・・・本当に難しい事なんです」



海里が息と共に全ての言葉を吐き切ると・・・・・・全員が少し視線を落とした。



「だからこそ、彼女も道を誤ってしまったという事なのかな」

「恐らくは。痛みを、記憶を薄れさせる世界を・・・・・・憎んだんでしょう。
そしてそれに迎合しようとした自分自身を憎み、絶望した。だから壊そうとした」



そこまで言って、海里がハッとした顔になって僕達を見ながら両手をブンブンと振りつつも慌てる。



「・・・・・・あ、もちろん俺はみなさんのお心遣いに感謝していますし、憎むなどとんでもない」

「あぁ、三条君落ち着いて? 大丈夫、みんなちゃんと分かってるから。
でも・・・・・・そう考えると少し悲しいね。もちろんマグナス執務官補のやった事は、絶対に許されない」



唯世の言葉に、全員が頷く。そこだけは変わらないし変えちゃいけない事実だから。

何人も怪我して、場合によっては亡くなって・・・・・・怖い思いをして、泣いた人だって居る。



「だけど、きっとあの人にとっては過去は・・・・・・トレディア・グラーゼの存在はとても大事だったんだね。
だから忘れたくなくて・・・・・・そこだけは、きっと間違いないよ。なんだかね、僕はそういう風に感じた」

「でも・・・・・・やっぱりややは、良く分からないなぁ。痛いのが薄れちゃうのが悪いこととはどうしても思えないんだ。
辛い事や悲しい事、今まで経験した事、全部消えるわけがないもん。忘れるわけがないもん。こころの中に、ずーっとずーっと残ってると思う」

「ならきっとその人はそれが分からなかったんでちよ。そういう事だと・・・・・・ペペは思うでち。
本当にトレディアっていう人との繋がりが大事だったから、それが凄く嫌だったんでちよ」

「まぁそれなら・・・・・・うん、分かるかな。ややだってぺぺちゃんだったらーって考えたら・・・・・・少しだけ分かるから」



言いながらややが振り向きつつ窓の外を見る。僕もややの視線を追いかけるように外を見る。

・・・・・・窓から見える青い空を見る。空は青く澄んでいて、雲がゆっくりと流れて行く。



「まぁアレだよ。みんな・・・・・・ありがとね」



そう言うと、全員が僕の頭や顔に手を当てた。そして開いている片方の手で自分の額を触る。



「・・・・・・何をしているのかな?」

「いや、アンタがいきなりお礼言うから、風邪引いたのかなーって」

「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! てゆうか、今回は色々迷惑かけて助けてももらったからこういうの必要と思っただけだしっ!!」

「なんだ、そんな事だったの。心配して損したわ」

「真城の言う通りだ。恭文、お前もうちょっと空気読めよ」



うっさいよっ! むしろお前らが空気を読めっ!? 何を普通に明らかに呆れながらそれぞれの位置に戻ってるのさっ!!

てゆうか海里までなんか視線が冷たいんですけど、どういう事っ!? アレかっ! お前ら僕の事が嫌いかっ!!



「お前とは色々違いもあるけどよ、それでも仲間じゃねぇか。・・・・・・違うか?」



空海が座りながら、目を細めて僕にそんな事を言って来た。・・・・・・・つまりあれよ。

仲間だから大丈夫って言いたいのよ。他のメンバーを見ると、全員僕の視線に頷いた。



「・・・・・・いいや、違わない」

「だろ? だから問題ねぇよ。てーか、俺は無限書庫に行けて楽しかったしな」



でも、お礼くらいは言わせて・・・・・・いや、なんでもない。普通に空気を読む事にするわ。



「あー、りまたんから聞いたけど、無限書庫って無重力の図書館なんだよね? いいなー、ややも行きたいー」

「楽しかったぜ? 色々調べ物込みだが、オレは無重力で泳ぐ感覚ってやつにドキドキしちまった」

「む・・・・・・おい、リズムっ! 貴様はまたそうやって王である僕を差し置いて抜け駆けをー!!」










とにもかくにも、わいわい騒ぎつつも宿題を終わらせていくことにした。というか、今日は集中集中。





だってもうすぐ宿題終わりなんだよっ!? ここで頑張らないでいったいいつ頑張るってーのよっ!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



みんなで色々と難しい話をしながらも宿題を頑張っている様子を見て・・・・・・少しホッとしている。

あんな事件が起きたばかりなのに、みんな笑えてる。それがとても嬉しい。

あ、みんなにはカウンセリングを受けてもらってるんだ。シャマルさんとサリさんに協力してもらってね。




でも、みんな本当に強い子達だから、とりあえずは大丈夫って言われた。もちろんあむもだよ。










「・・・・・・フェイトさん」

「ん、なにかな。ディード」

「恭文さん、楽しそうですね」

「そうだね、本当に楽しそう。とってもいい仲間に恵まれたから」



ガーディアンという居場所では、ヤスフミはそのままのヤスフミを貫けるから。こういうのちょっと久しぶりかも。

GPOは・・・・・・うぅ、申し訳ないなぁ。私達の手伝いのために、ヤスフミが入る機会を潰しちゃったし。



「でも、もう今回みたいな無茶はやめて欲しいよ」



呆れ気味に言いながら、なのはがお昼を持ってキッチンから出てくる。

そしてその後ろからリース。私は・・・・・・うぅ、仕返しに仲間外れにされました。



「せっかくなんだし平穏無事に小学校生活を送って欲しいんだけどなぁ。
・・・・・・本当にいいお友達に恵まれたみたいなんだもの。事件絡みはやめて欲しい」



なお、なのはは『首を突っ込むな』という意味では言ってない。ヤスフミ達の事、すごく心配してる。

私とヤスフミがあの街に長期滞在してる理由、もうなのはは大体の事を察してるから。



「それは・・・・・・まぁあの、ごめん」

「もう、フェイトちゃんが謝る必要ないよ」



言いながら、なのはがお昼を乗せたお盆を一端テーブルの上に乗せ・・・・・・あれ、着信音?

それはヤスフミの携帯端末から。私達がそちらを見ると、ヤスフミが通信を繋いでいた。



「あれま、マリエルさん。どうしたんですか? てーかサリさんまで」

『恭文君、今大丈夫かな。あー、それと君の友達にも聞いて欲しいんだ』

『特にあむちゃんとややちゃん、あと唯世君には絶対にだ』



え、サリさんまで一緒? なんだろ、確かに先輩後輩ではあるけど・・・・・・どうして?



「あー、はい。みんな居ますけど・・・・・・それで」

『イクスヴェリアがね、今目を覚ましたんだ』

『イクス・・・・・・えぇっ!?』



その場に居る全員が叫んだ。そしてあむ達がヤスフミの前に開いた空間モニターの前に駆け寄る。



「あのあの、イクスちゃんが目覚めたって・・・・・・ホントですかっ!? あ、結木ややですっ!!」

『あぁ、あなたが・・・・・・えぇ、本当よ。それでね、みんなに会いたがってるの。
悪いんだけどすぐに来てくれる? それも早急に』

「あー、分かりました。それならお昼を食べてから・・・・・・え、早急?」

『あぁ、早急にだ。お昼は悪いんだが抜いてくれ。許可はマリーちゃんが取っておくから、転送魔法使ってでも来てくれ。
こっちは一分一秒でも早く来て欲しいんだ。下手すると・・・・・・もう間に合わないかも知れない』



どこか必死な様子に、ヤスフミとリインが首を傾げる。というか、あむ達も私も顔を見合わせる。

えっと、早急・・・・・・一分一秒でも早く? 間に合わないかも知れない? え、話がおかしいよ。



≪マリエルさん、サリさん、何があったんですか≫

≪そうなの、普通に話がおかしいの。マリエルさんもお父さんも、一体どうしたの?≫

『・・・・・・そうだね。うん、じゃあ簡潔に説明するね。みんな落ち着いて聞いて欲しいんだ』

『結論から言うがあの子・・・・・・イクスヴェリアは』










それでみんなはマリーさんの話を聞いて・・・・・・なのはも『お昼は取っておくから行ってきて』と快く送り出してくれた。





なお、私の転送魔法による超特急の移動で。でも、なんというか申し訳ないよ。





あの子達には辛い思い出が多く残るんじゃないかと思ってしまったから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして話を聞いたガーディアンメンバーとヴィヴィオちゃんは総出でフェイトさんの魔法で転送してもらった。

えっと、海上隔離施設・・・・・・だったっけ。とにかくそこへ来た。というか、スバルさんとセッテさんも来てくれていた。

スバルさんは話を聞いて、落ち込んでて・・・・・・でも、あの子が居る部屋に入る前に気合いを入れる。





両手で自分の頬をパンパンと叩いて、あたし達は自動ドアの中へ入る。そこは室内なのに外みたいだった。





芝生が生えてて、気があって小川みたいなのがあって・・・・・・そして窓の外からは青いそらと海が見えた。










「・・・・・・イクスちゃん」



その中に、薄いピンク色の入院着のような服を着てその子が足を崩しながら芝生に座っていた。

ずっと空を見上げていたけど、ややの呼び掛けであたし達の方に振り向いて・・・・・・笑った。



「あ、ややにあむ、唯世とスバルにセッテ・・・・・・それにあの時の騎士さんも」

「やっほー、イクス。気分はどうかな」

「はい、とっても良好です。それで・・・・・・知らない方々も居ますが」

「あ、この子達はあたし達と同じガーディアン。イクスに会いたがってたから、連れてきたの」



あたしもいつも通りに笑って、りまといいんちょと空海になぎひこの方に視線を向ける。

四人は微笑みながら、イクスに軽く会釈。なお、いいんちょはちょっと緊張気味。



「そうでしたか。・・・・・・初めまして、イクスヴェリアです」

「イクスヴェリア・・・・・・中々キュートだな。ぜひ仲良くなりたいぜ」

「リズム、だめだって。陛下に失礼だから」

「あぁ、大丈夫ですよ。・・・・・・しゅごキャラの方はみんな面白い方ばかりなんですね。私、びっくりです」










そう言って笑うイクスに対して、みんなそれぞれに自己紹介を始めていく。





あとは恭文も同じくだね。何気にあんま会話してなかったから。





それでその様子をあたしとやや、それに唯世くんとスバルさんは・・・・・・複雑な面持ちで見ていた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



思い出すのは出発前のあれこれ。あたし達はまずサリさんとマリエルさんから詳しく話を聞いた。

でも・・・・・・マジで信じられなかった。だって、やっと・・・・・・やっとなのに。

どこかで重なるものを感じて、月夜の時に感じた痛みがまたこころの中でぶり返した。





ややの言った通りだよ。記憶も痛みも傷も絶対に消えない。ずっと、ずっとあたしのこころの中にあるんだ。










『・・・・・・マリーちゃんに頼まれて、俺も色々資料を調べた上であの子の事を診たんだよ』



そこの辺り、イクスが普通にロストロギアレベルで複雑な作りをしているかららしい。

目を覚まさないのは、何かの異常ではないかと二人は思った。それでその予感は的中した。



『でな、さっきも言ったがイクスヴェリアは、身体に重大な機能不全を抱えている。
あの子の機能不全は・・・・・・現代の医学では治しようのない不治の病だった』

「不治の病って、あのあの、つまりイクスちゃんは病気なんですか? というか絶対治らない.」

『うん、そうだよ。ついさっき分かった事なんだ。・・・・・・ごめん、私達にはどうしようもなくて』

「そんな・・・・・・嘘、ですよね? だってイクスちゃん・・・・・・イクスちゃん、ようやくなんですよ?」



ややが信じられないという顔で、呆然としながらも呟く。でも、次の瞬間にその声が大きくなった。



「やっと・・・・・・やっと幸せになっていけるのにっ! 『いらない子』なんて自分で言わないようになれるのにっ!!」



ややがあたしの隣で涙を零しながら崩れ落ちる。あたしも・・・・・・・ごめん、なんか泣きそう。



「・・・・・・やや、落ち着きなさい」



言いながらもりまがややを優しく抱きしめる。それで頭を撫でてる。



「落ち着いて、ちゃんと涙を拭く。もうすぐにでも出発しなきゃ行けない勢いなんだから」

「でもでも、りまたん・・・・・・!!」

「バカね。それならイクスと会える機会はそんなにないのよ?
それなのにあなたが泣いてたら・・・・・・あの子は気にしちゃうじゃないのよ」

「・・・・・・ん」



ややはりまの小さな身体にしがみつくようにして思いっきり抱きつく。りまは、それを全身で受け止めていた。



『それであむちゃん』

「・・・・・・はい」

『実は俺の方で一つ可能性を考えた。リメイクハニーをイクスヴェリアに使うってのは無しか?』



そう言われて、ややと唯世君・・・・・・というか、『あの場』に居たメンバー以外があたしを見る。



「なるほど、ジョーカーのリメイクハニーで機能不全を『お直し』しようと」

『あぁ。現代医学で治療不可能である以上、もうこれくらいしか手が思いつかなくてな。・・・・・・どうだろうか』

「・・・・・・すみません、ダメです」



あたしは拳を握り締める。サリエルさんの目、どうしても見れない。



「理由もあります。リメイクハニー・・・・・・イクスに一度使ってるんです」



あの時私とスゥが使ったリメイクハニーは、スバルさんだけじゃなくて周囲の人間にもかけた。

唯世くんとややにも、そして歩けなかったイクスにもだよ。そしてイクスはそれで歩けるようになった。



「ナカジマさんが火災の時に負傷して、その治療のためにキャラなりして・・・・・・です。
僕と結木さんもその場に居ましたから、それは間違いないです。つまりリメイクハニーでは」

「イクスの病気は治せない。いや・・・・・・治せなかったという事になるな」



唯世くんとキセキの言葉にサリエルさんが低く困ったように唸る。あたしは恐る恐る視線を上げる。

サリエルさんは申し訳なさそうな顔であたしを見ていた。



『・・・・・・あむちゃん、悪かった。酷な事聞いちまったな』

「・・・・・・いえ」

「でも、どうしてですかぁ? リメイクハニーは、なんでもお直しするはずですぅ」

「・・・・・・もしかしたら」



恭文が口元に手を当てて、考え込むようにして呟く。だからあたし達みんな、恭文の方を見た。



「イクスの不治の病は普通の状態なのかも。
もうちょっと言うと、イクスは不治の病が有って当たり前なように作られてる」

「・・・・・・恭文、どういう事? やや・・・・・・よく分かんないよ。
病気なのが当たり前なんて、おかしいよっ!!」

『そうだな。普通におかしい事だ。だが、そう考えるとリメイクハニーが通用しなかった理由も分かるんだよ』

「え?」



視線を厳しくして、恭文を睨んでいたややがサリエルさんの方を見る。

というか、あたし達もだよ。二人はその間にも、互いの顔を見合わせて頷き合った。



『つまり、イクスヴェリアの作成者はイクスをマリアージュのコア生産ユニットとして作った。
それで色々調べたが、目覚めてなくてもコアの生産は可能らしい』

『あぁ、そういう事なんですね。・・・・・・特殊なコアを産み出すために、彼女を生体ユニットとして造りはした。
ただ、生体・・・・・・意志を持つ存在故に反抗の危険性を鑑みた。それで意図的に、最初から今の状態になるように彼女を造った』



確かにイクスには意志がある。ただの兵器なんかじゃなくて、優しい気持ちがイクスの中にはちゃんとあった。

だからラン達だって見えたし、あたし達とだって分かり合えて・・・・・・そして、マリアージュを産み出す事を本当に嫌がってた。



「つまりつまり、イクスちゃんの不治の病は、病気なんかじゃない?」

『・・・・・・今のアレコレが事実なら、そういう事になるな。
だからこそ機能不全は、元の形に戻そうとする『お直し』の対象外になったんだ』

「そんな・・・・・・そんなの、ないよぉ。病気なんかじゃないのに、それなのにこんなのって・・・・・・ないよ」



ややがまた泣き出して、りまに抱かれて・・・・・・声を殺さずに嗚咽を漏らし続ける。

そんな中であたしは・・・・・・そうだ。一つだけ・・・・・・一つだけ聞いておこう。



「あの、サリエルさん。イクス・・・・・・このまま死んじゃうんですか?」

『いや、ただ眠りにつくだけだ。あー、植物状態って言えば分かるか? 色々な原因で昏睡状態のまま過ごす事』

「それはあの、テレビとかで」

『なら話は早い。簡単に言えばその状態になる。現段階で今すぐ死ぬとかではないから、そこは安心してくれ』



つまりイクスは本当に死んじゃうわけじゃない? 植物状態だけど、もしかしたら目覚める可能性もあるんだ。

というか・・・・・・あぁ、そうだよね。そうじゃなかったら、さっきの話のアレコレが全然成り立たなくなっちゃうじゃん。



『・・・・・・ただな、次に眠りについたらいつ目覚めるかがさっぱり分からないんだよ。
次に目覚めるのは1年後か10年後か。はたまた1000年後か・・・・・・それは俺達にも分からない』

『それで正常な形での目覚めは・・・・・・多分私達が生きている間では、今日が最後になると思う。
だからこそみんなには早く来て欲しいの。イクス、特にあなた達三人と本当に会いたがってるから』

「・・・・・・そんな」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・目が覚めて、軽くではあるんですがこの世界の今の風景や文化、資料などを見せてもらいました。
恭文さん、あなたの兄弟子の・・・・・・えっと、サリエルさん。あの方は本当に物知りですね。私、助かりました」

「あーイクス、そこに苦労性ってのがプラスされるから。サリさんは苦労してるから物知りなの」

「そうなのですか? ・・・・・・確かに大変そうな顔をしていたような」



イクスは言いながらも空を見上げる。話してる最中、よくイクスは空を見る。

別にあたし達の話に飽きてるとかじゃない。ただただ、空を何度も見たいんだと思う。



「それと・・・・・・聖王陛下」

「あ、あの・・・・・・はい」



イクスを中心に輪になっている中で、イクスがヴィヴィオちゃんを見る。



「・・・・・・え、聖王陛下ってなにっ!? あたしちょっと驚きなんですけどっ!!」

「そうだよそうだよっ! ヴィヴィオちゃん、それって・・・・・・・え、なにかなっ!! やや分からないんだけどっ!!」

「・・・・・・あむ、ややも・・・・・・あと唯世と海里も知らなかったのですか?」



その四人とそのしゅごキャラは非常に驚いているので、イクスが普通に首を傾げる。

その反応の意味が分からないから、あたし達は当然更に混乱する。



「聖王陛下・・・・・・高町ヴィヴィオは、古代ベルカ聖王の正当な血筋の人間です」

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!』



古代ベルカの聖王って確か・・・・・・戦争終わらせたすごい人だよねっ!?

え、その聖王の血筋って、それって凄い事じゃんっ! いや、そうなるとなのはさん・・・・・・あぁ、ワケ分からないしー!!



「あぁ、イクスー。そこは言わないで良かったのにー。というかあの、あむさん達も落ち着いてー」

「あの、私の今の発言に何か問題でも」

「・・・・・・イクス、あむ達は気にしなくていいから話進めて。そこは僕が落ち着かせておくから」

「はい。では・・・・・・聖王陛下、あなたのビデオメール拝見しました」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あー、あむちゃん達混乱してるなぁ。僕と相馬君とりまちゃんはオットーさんから聞いてたからまだ大丈夫なんだけど。





あとはヴィヴィオちゃんがなのはさんの養子だって言うのも聞いてるしね。うん、そうじゃなかったら僕もあの輪の中に居た。










「あなたからのメールとお母様とのお話・・・・・・本当に勇気づけられました。本当にありがとう」

「ううん。というかイクス、出来れば『聖王陛下』はやめてくれないかな。その、色々問題が」



あるねぇ。主に恭文君になだめられてる四人とか。まぁ、これで態度とかが変わるわけではないと思うけど。

ヴィヴィオちゃんがそんな五人を横目でちょっと困ったように見て、イクスヴェリア陛下も同じようにあむちゃん達を見る。



「・・・・・・そのようですね。ではえっと」

「あ、ヴィヴィオでいいよー。ヴィヴィオもイクスの事、『イクス』って読んでるし」

「はい。では・・・・・・ヴィヴィオ」

「はい。イクス」



そう言って笑う二人を見て、僕達は・・・・・・だめだな。あむちゃん達の方がずっと辛いのに。



「・・・・・・あ、それと目覚めてからもう一つしていた事があるんです」



陛下は言いながら空を見上げる。僕達も釣られるように空を見上げた。

空は青くて、あの時みたいに雨が降っているわけでも、曇っているわけでもなかった。



「ずっと、空を見ていました。この時代の空は・・・・・・本当に綺麗です」

「イクス、お前がその・・・・・・色々あった時代は、そうじゃなかったのか?」



相馬君がそう聞くと、陛下が相馬君の方を見て頷いた。



「私の色々あった時代の空は、戦争の影響でずっと曇っていたんです。
多少切れ間があっても、軍船が空を覆い隠すように沢山あって」

「軍船?」

≪古代ベルカに実在していた巨大な空中に浮かぶ戦艦の事なの。
ロストロギア級のオーバーテクノロジーで、とっても危険なものなの≫

「戦艦・・・・・・おいおい、マジで俺の中の魔法の概念が崩れてくんだが。
プログラム式魔法だけでお腹いっぱいだってのに」

「私もよ。次元世界・・・・・・もうなんでもありね」



あははは、実を言うと僕も同意見だったりする。



「だからこんな青い空を見たのは、長い時間の中で生まれて初めてなんです」

「・・・・・・そっか。それならいっぱい見たいよな」

「えぇ。いっぱい・・・・・・いっぱい見ていたいです。
空海、あなたがいつも見ている空は・・・・・・地球の空は、どうですか?」

「そうだな、俺や日奈森達が見てる空は・・・・・・ここにも負けないくらいに綺麗だ。
ま、ミッドと違って月が二つもないし、魔法使える人間もほとんど居ないけどな」

「そうですか。それは見てみたいものです」





1000年・・・・・・だっけ。僕達が生まれるよりもずっと前の世界。

そんな時代から人は戦い続けて、空さえも見えない世界にしていた。

なんというか、話は軽く聞いたんだけどやっぱり想像しにくいな。



でも、陛下から見てこの空がとても輝いたものなのは分かる。





「それで私、その空を見ながら・・・・・・また少しだけ考えていました」

「イクスちゃん、考えてたって何かな」



ようやく復活したのか、ややちゃんが陛下に対してそう聞いてきた。

なお、復活したのは辺里君と三条君、あむちゃんも同じく。



「なぜ私にしゅごキャラが・・・・・・あなた達の可能性が見えるのか。やっぱり私、変わりたかったみたいです」



陛下が胸元に手を当てて、そっと瞳を閉じて俯く。

落ち込むとかそういうのじゃなくて、自分の内面を見ようとしているように見えた。



「さっきも少し話しましたが、私が色々あった時代は人は戦ってばかりで、傷つけて殺しあって・・・・・・それが普通だった。
空だって見えないのが普通で、私がマリアージュ達を生み出していくのも普通。でも、どこかでそれがずっと納得出来なかった」



納得出来るはずが・・・・・・ないよね。だって話によると陛下は『自分が生まれてきてはいけなかった』とまで言ったんだから。



「だけど諦めていた。私にはどうにかなるわけがないと。でも・・・・・・きっとそれは間違いだった」



そっと陛下は瞳を開けて、もう一度空を見る。きっとキラキラに輝いている青い空を。



「この世界に空の青さを取り戻せたのは、あなた達のように自分の可能性を信じて変わろうとしていた人達のおかげ。
それで・・・・・・私はきっと、そんな人になりたかった。私はそうやって、私自身や周囲の現実を少しずつでも変えていきたかった」

「・・・・・・イクス、アンタ」

「私はそうやって自分を、自分の世界を変えるための一歩を踏み出すべきだった。
でも踏み出せずに、それに気づくまでに1000年以上かかってしまいました」



陛下が視線を落として、僕達を見ながらも苦笑する。



「本当に・・・・・・遅過ぎますね」

「そんなこと、ないんじゃないかな。だってイクスは、今ここから変わりたいって思ってるんでしょ?」

「・・・・・・はい」



陛下はあむちゃんの言葉に、躊躇いもなく頷いた。それも笑顔で。

それが悲しくて、スバルさんとややちゃんが涙ぐむ。というか、リースさんとリインちゃんも。



「だったらそれでいいよ。そう思えるようになった事が・・・・・・大事なんじゃないかな。
あたしもね、ラン達が産まれた時にはイクスと同じだったんだ」



そして、あむちゃんが自分の右側に居るランちゃん達を見る。

三人は・・・・・・イクスを見ながらやっぱり涙ぐんでいた。



「あたし、ホントの自分が素直に出せなくて、そんなのが嫌で『変わりたい』って思ったんだ。
アンタに比べたら全然軽い理由だけど、それでも本気で。きっと、それでいいんだよ」

「変わりたいと思えば、どんな自分にも・・・・・・でしょうか」

「うん。あたしはそう思う」

「・・・・・・そうですか。それなら、よかった」



少しだけ、時間が止まったように静かになる。本当に少しだけ。

それで陛下は、少し困ったような顔で・・・・・・また話し始めた。



「それで」

「うん?」

「私、眠っちゃうみたいです」

「・・・・・・うん、聞いてる」



サリエルさん達・・・・・・だよね。さすがに本人に話さないわけにはいかなかったって所かな。



「次に目覚めるのは、1年後か、10年後か・・・・・・1000年後か」

「・・・・・・うん」



ややちゃんにあむちゃん、あとは二人のしゅごキャラが涙ぐむ。辺里君は・・・・・・必死に我慢してる。

王様だから、本当に必死に。キセキも同じくだけど、もう崩壊し始めてるから無駄だったりする。




「だから私・・・・・・その話を聞いてからずっと、ずっと願ってる事が」



言いながら、陛下の身体が僅かに揺れた。そして右に傾いて・・・・・・倒れる。



「イクスちゃんっ!!」



ちょうどそっちの方向に居たややちゃんが、陛下を抱きとめる。腕の中の陛下が、ややちゃんを見上げる。



「・・・・・・大丈夫です。少し・・・・・・眠くなってきました」

「だ・・・・・・だめだよっ! まだお昼寝のお時間じゃないよっ!? 赤ちゃんだってまだ起きてるんだからっ! もっと、もっと話そうよっ!!
綺麗な景色、お空だけじゃないんだよっ!? ミッドチルダにも、やや達の世界にもいっぱい、いっぱいあるんだからっ!!」

「そうですね。みなさんと一緒に見に行けたら・・・・・・本当に、本当に良かった」

「イクスちゃんっ!!」



あむちゃんとスバルさんに辺里君が駆け寄る。僕達も陛下を驚かせないように近づく。

・・・・・・うん、驚かせないようになんだ。もう・・・・・・眠る時間だから。



「・・・・・・やや、スバルにあむも、どうして泣いているのですか?」

「だって・・・・・・悲しいもんっ! もっともっと、イクスちゃんと遊んだりお話したかったのにっ!!」

「あたしだって・・・・・・あたしだって同じだよ。こんなの、こんなの」

「イクス、美味しいものだって沢山あるんですよ? 綺麗な景色だって、ややちゃんの言うように沢山」



その様子を見て、眠た気な陛下は右手を上げて・・・・・・まず自分のことを抱きかかえるややちゃんのおでこにデコピンをした。



「えい。・・・・・・えい、えい」



あとはあむちゃんとスバルさんにも。それに三人がおでこを押さえながら、呆けた顔をする。



「・・・・・・泣いてる子にはデコピンです」

「イクスちゃん・・・・・・それ、違うよぉ」

「違いません。・・・・・・もう、マリアージュは居ない。私もあなた達のおかげで安全な所で眠れる。
あなた達のおかげで、少しだけ変わる勇気を持てて、そのために現状が大きく変わった」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ややの腕の中のイクスちゃんが、そう言いながら笑う。笑って・・・・・・またお空を見る。

これからずっと眠ったままで、もうお話も出来ないかも知れないのに、それでも笑うの。

でも、ややは涙が止まらなくて、あむちーやスバルさんも同じで・・・・・・だからややは少し頑張る。





少しだけお姉ちゃんキャラになって、イクスちゃんの頭をそっと・・・・・・そっと右手で優しく撫でる。










「・・・・・・やや、これはなんですか?」

「ん、撫でてるんだよ。赤ちゃんが眠る時は、いつだって優しく撫でてあげるの。こうするとね、気持ちよく眠れるんだ」

「そうなのですか。・・・・・・あぁ、確かにそうですね。とても心地いいです」



本当はもっと起きていて欲しい。でも・・・・・・だめ、なんだよね。

だってイクスちゃんはお眠なんだから。ややは赤ちゃんキャラだから、分かるの。



「やや」

「何かな」

「私、あの時あなたにデコピンされた理由が・・・・・・ようやく分かりました。
もしもあなたやみんながあの時の私と同じことを言ったら、きっと・・・・・・凄く悲しい」

「・・・・・・そっか」





そういう時は起こしちゃだめ。もう、あんなのはダメなんだから。



そんな事したら、あの補佐官の人とマリアージュと同じだよ。



だから・・・・・・ややは泣いていても、笑顔でイクスちゃんを撫でるんだ。





「・・・・・・やや、ぺぺ」

「うん」

「はいでち」



イクスちゃんの声、ちょっと小さくなってる。というか、甘い感じになってる。

もう、眠ろうとしてるんだ。今・・・・・・きっとすごく心地いいよね。



「あむ、ランにミキにスゥ」

「・・・・・・うん」

「スゥ達、ここに居ますよぉ」



あむちーもランちゃん達も、すごい泣いてる。瞳に涙を一杯に溜めて、それでも笑おうとしてる。



「スバル、マッハキャリバー」

「・・・・・・はい」

「セッテ、唯世、キセキに空海にダイチ、なぎひこにリズム」



今この場に居る全員の名前を、必死に・・・・・・そうだ、必死に言おうとしてる。

一人の名前を出す度に少しずつ声が緩くなっていくけど、それでもイクスちゃんは止まらない。




「海里とムサシ、りまにクスクス。リインとリース。
ヴィヴィオと・・・・・・恭文さんにシオンにアルトアイゼンにジガン。みんな・・・・・・本当にありがとう」



イクスちゃんが、微笑みながら・・・・・・ややの腕の中に背中からもたれかかるような体勢になる。

ややは腕の力を少し緩めて、イクスちゃんの動きを邪魔しないようにする。それでまたイクスちゃんは、空を見る。



「あなた達のおかげで、空を・・・・・・空の青さを、知る事が出来た。だから」



ゆっくりと、イクスちゃんの目が細まっていく。それで・・・・・・完全に閉じた。



「次、目覚める時・・・・・・また、こんな・・・・・・空を・・・・・・見れる、ように」





そのまま、イクスちゃんの身体から力が抜けた。完全にややに体重を預けてもたれかかるようにしてる。

微笑みながらゆっくりと寝息を立てて、お空が見える透明な天井から差し込む温かい木漏れ日を受けながら、イクスちゃんが眠った。

うん、眠ったんの。優しい顔で・・・・・・身体も温かくて、心臓の鼓動も聴こえてるのに眠った。



このままやや達が生きている間には目覚めないなんて、信じられないくらいに・・・・・・気持ちよさそうに。





「イクスちゃん・・・・・・イクスちゃん」



ややはそんなイクスちゃんの身体を優しく抱きしめる。強く抱きしめたいけど、それだと起こしちゃうから。

あ、でもやっぱり起きていて欲しくて・・・・・・うぅ、だめだな。ワケ・・・・・・分かんないよ。



「イクスちゃん・・・・・・!!」










その日、イクスちゃんは長い眠りについた。イクスちゃんは聖王教会の人達がちゃんと守ってくれるらしい。

恭文とフェイトさんの知り合いの騎士カリムって人と、この間会ったシャッハさんが事情を聞いて、力を貸してくれる事になった。

もちろん寝ている間にイクスちゃんを使ってマリアージュが生産されないようにした上で。そこだけは絶対の絶対。





だってイクスちゃんはもう、あのお空が曇るような事は絶対にしたくないって言ったんだから。

状態もちゃんと見てくれて、イクスちゃんが静かに眠れるようにしてくれるって。このあとやや達にも約束してくれた。

そしてややは・・・・・・あむちーやスバルさんと一緒に、イクスちゃんを抱きながらしばらく静かに泣いた。





イクスちゃんを起こさないように、静かに・・・・・・温かい陽だまりの中でゆっくり。だけど、沢山泣いた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



こうして、マリアージュ事件は本当に全部終わった。イクスに関してはカリムさん達聖王教会に任せておけば安心。

カリムさんも忙しいのにわざわざ通信を繋いでくれて、ガーディアンメンバー全員にイクスの事は絶対に守ると約束してくれたから。

イクスが次に目覚めた時、今回の事で描いた『なりたい自分』に胸を張って向かっていけるように尽力するってさ。





ようするに、もうマリアージュを産み出す道具になんてしないしさせないって事だね。でも・・・・・・1000年かぁ。





長いよねぇ。幸太郎や恭太郎達もさすがにお亡くなりになってるくらいの時間だもの。










「・・・・・・俺も執務官経由でイクスヴェリアの事は聞いてる。でも・・・・・・そっか、今日眠ったんだよな」

「それでやや達、大丈夫?」

「ん、なんとかね。まぁ僕もフォローするつもりだから」

「あとは私もだね。ただ、みんな前向きには受け取ってくれてるみたいだから、多分大丈夫。
イクスヴェリア陛下は、赤ちゃんみたいにまた眠っただけだって・・・・・・ややがそう言ってた」



現在、僕はフェイトを連れてミッド市内の某飲み屋さんに居る。

なお、個室で左側にフェイト。その向かい側にジン。ジンから見て右側にはティアナである。



「まぁあれよね。アンタもフェイトさんもお疲れさまでした」

「僕達は大した事してないよ。イクスの事はスバルとあむ達の領域だったしさ。僕は背中を押されてばっかり」

「・・・・・・そっか。ま、ガーディアンだもんね。そうなるのも当然か」

「そうそう。てーかティアナ、そっちはそっちでまだ大変じゃないの?」



焼き鳥(タレで皮)を右手で軽くほうばりつつ、向かい側の二人を見て聞いてみる。

・・・・・・イクスの事はアレとしても、まだ局的には後処理残ってるしなぁ。



「あー、とりあえず私の夏休みは後処理の手伝いね。
執務官は大丈夫って言ってくれてるんだけど、さすがに放置は出来ないもの」

「俺も同じくだな。何気に横からごちゃごちゃ言うのが多くてな。結構大変なんだよ」

≪事件自体の注目度も高かったからな。それで犯人が捜査していた執務官の補佐官だ。
全く、普通に私達やウエバー執務官がどれだけ大変だったと思ってるんだ≫



などと言うバルゴラの愚痴に合わせるように、ジンがサワーなんて軽く飲んだりする。

なお、ティアナもそれに合わせるように同じく。飲んでいるのはカルーアミルクだったりします。



「あー、そういうわけなのでフェイトさん、私しばらくは」

「うん、こっちは大丈夫だよ。お休み中の事だし、そこはティアナの意思に任せるよ」

「ありがとうございます。・・・・・・でも、今回は何か考えちゃったなぁ」



ティアがカルーアミルクの入ったグラスを両手でもって、軽く視線を上げる。

頬が赤く染まっていて、着ている黒の薄いワンピースと合わせると何気に色っぽいのがちょっとミソだったりする。



「ほら。アンタ、昼間に執務官補のあれこれについてあむ達と話したって言ってたじゃない?」

「うん」

「私もさ、ジンやウエバー執務官とちょうどそういう話をしてたのよ。
なんかこう・・・・・・いちいちそれぞれの重さを比べたって、意味ないじゃない?」



僕とフェイトは、ウーロンハイのグラスを両手で持ちながら、ティアナの言葉に頷く。

・・・・・・うん、意味がないね。そんなの色々歪んでるでしょ。



「でも個人にとっての重さってやつは・・・・・・やっぱ、相当なんだなーって思ってさ。
私もね、まぁフェイトさんは良く知ってるでしょうけど、同じような事したので」

「え、えっと・・・・・・もしかしなくてもアレかな」

「えぇ、あれです。過去や重さで周りが見えなくなって視野が狭くなってたのは、同じかなぁと」





あぁ、噂に聞く六課が慣れ合い部隊だと証明した一件ね。だからフェイトが申し訳なさそうな顔になるのよ。

なんでもはやてを除け者に解決したせいで、その後はやてのご機嫌が相当斜めだったそうだから。

というか解決までの経緯を聞いて、はやてが頭抱えながら隊長陣全員に『バカちゃうかっ!?』と怒鳴りつけたとか。



で、どの辺りがまずかったかを逐一指摘されて・・・・・・全員反省しまくりでこの様子に繋がったらしい。



まぁ洗脳と同じだしなぁ。なのはが怪我してどうこうなってようが、そんなのティアナには基本関係ないんだしさ。





「あの人が感じてた事は、誰にでもある事なんだよな。俺もそうだし、お前にもだ。
辛い事があるなら、その記憶に大事なものがあるなら、誰にだってありえる」



ジンが言いながらもサワーを飲む。・・・・・・おーい、ペース早いぞー? 普通に顔赤いんですけどー。



「なんかこう、難しいよな。過去は過去だけど、やっぱり今だった時間。
大事じゃないわけ・・・・・・ないんだよな。全部必要で、幸せなら余計にだ」

「・・・・・・そうだね。うん、その通りだよ。だけどジン君、それでも私達は過去に引きずられちゃいけないんだよ。
辛い時間も楽しい時間も全部含めて、それでも幸せになれるように今を一生懸命生きる。自分や自分の世界を変えて、少しずつ・・・・・・だね」

「・・・・・・そうっすね。あぁそうだ、俺らは・・・・・・・そういう風に生きていきたいっすね」



なんて言いながら、ジンがサワーをグイッと・・・・・・いや、だから飲み過ぎだから。

てゆうか酒は普通程度なのに、そんなに飲んでどうする。アレですか、ルネッサ・マグナスに惚れてたとかですか。



「でもヤスフミ・・・・・・遅いね」

「あー、そうだね。うーん、仕事途中で抜けてきたらしいし、色々手間取ってるのかな」



なんてフェイトと顔を見合わせつつそう言うと・・・・・・あ、足音が聴こえてきた。

それで僕達の使っている部屋の麩が開く。そこには、銀色の制服姿の青い髪の女の子。



「ごめーんっ! ちょっと書類片付かなくてー!!」



そう、スバルである。まぁ大人組でのお疲れ様回というか反省会に、せっかくなのでスバルも招集をかけた。



「スバル、遅い。普通に私達全員待ちくたびれたし」



・・・・・・一応、スバルへのフォローも込みでね。僕達大人組の中では、1番イクスと繋がり深いから。

だからあむやなのは達も、このオールでの二次会のカラオケ込みな集まりを納得してくれたのよ。



「うぅ、ごめんね」



言いながら靴を抜いで・・・・・・いや、制服くらい着替えてきて欲しかったんですけど。

そう思っている間に、スバルは座敷に上がって、麩を閉じてからティアナの隣に座った。



「でさ、スバル」

「ん、何かな」

「・・・・・・大丈夫?」



ジン共々、自分に心配そうな視線を向けてくるティアナに対して・・・・・・スバルは笑って頷いた。

少しだけ赤くなっている瞳をティアナに向けながら、それでもスバルは笑っている。



「うん、大丈夫。イクスはただ赤ちゃんみたいに眠っただけだもの。
それに私よりあむちゃん達が心配。特にややちゃんだよ」

「・・・・・・うん、そうだね。でもね、スバル。やや、辛いはずなのに自分から率先して笑ってたんだ。
私やなのはにも『イクスちゃんは眠っただけなんだから大丈夫です』って・・・・・・沢山」



『思いっきり泣いたから大丈夫』とも言ってたっけな。なので、出てくる前に思いっきり頭を撫でてやった。

そうしたら・・・・・・泣かれたっけ。うぅ、やっぱりダメージ大きいよなぁ。フォローはしっかりしないと。



≪でも大丈夫でしょ。私達でそこはフォローしていきますし、サリさんとシャマルさんのカウンセリングもあります。
それに・・・・・・あの人、普段は赤ちゃんキャラそのものでダメダメですけど、それでもガーディアンの一人ですから≫

≪古鉄殿、やけにあの子達の事を買っているな。だが、ガーディアンメンバーはそんなに強者揃いなのか?≫

≪下僕、あむちゃん達はみんなとっても強い子なの。それくらい覚えておけなの≫

≪だからお前にまで下僕呼ばわりされる謂れはないのだがっ!? 普通に失礼な奴だなっ!!≫



ジガンはバルゴラ相手だとドMじゃなくてドSになるらしい。というか、ツンデレ?

まぁあれだ、もう僕は謝らない。だってそういうのは無しだってみんなに言われたしさ。



「うし、じゃあスバルも来た事だし・・・・・・ここからが本番だね。
スバル、食べた分だけ払いだからどんどん注文していいよ。ここのご飯は美味しいんだから」

「私もヤスフミと何回か来た事があるんだけど、本当に美味しいんだ。
スバル好みのものも沢山あるし、きっと気に入ってもらえると思うな」

「え、ほんとですかっ!? やったー!!」

「じゃあジン、私達もしっかり食べて、リフレッシュしちゃいましょうか」

「だな。気持ちを入れ替えて、だけど全部持っていって・・・・・・それで前に進むか」



こうして、大人組の宴会は本格的にスタートした。色々思う所や感じた所も含めつつ、時間は進む。

フェイトも今日だけは大人モードでお酒飲んでもいいって許してくれたし、美味しいお酒いっぱい飲むぞー。



「でも・・・・・・アレ? おかしいな、なんか忘れてるような」

「ヤスフミ、どうしたの? ほら、早く追加注文決めないと」

「いや、なんか忘れてる感じがしたんだ」

「忘れてるって・・・・・・何を?」

「いや、それが分からないのよ」



あむ達の事はなのはやディードとリース、リインにもお願いしてるでしょ?

イクスの事は聖王教会で、無事に移送が完了したって連絡もらったでしょ? じゃあ後はなんだろ。



「うーん、なんだろ。・・・・・・ま、いいかな」

「そうだね。思い出せないなら・・・・・・まぁ騒いでるうちに思い出せるかも知れないよ?
じゃあ久々に一緒にお酒、楽しく飲んじゃおうか」

「うん」










それぞれの世界で、それぞれのストーリー現実がある。それぞれに大事な想いがある。

それは同じ『世界』で起こっている物語のはずなのに、他の人のそれに対しては人がなぜだか現実感を持てないもの。

どこかで聞こえる争いも、すぐ側にある笑い声も、いつだって全ては聞こえない。





だって、自分という物語は一つだけだから。・・・・・・うん、そういうものなのよ。

他人の物語と自分の物語のアレコレを比べてあーだこーだ言っても、その実あんま意味がないんだよね。

少なくともルネッサ・マグナスがやろうとしていた形は、絶対に違う。





なら僕は・・・・・・やっぱ、自分なりの物語を自分という世界の中で、少しずつでも書いていくしかないよね。

隣で頬を染めながらお酒を飲む大事な女の子と、一心同体のパートナーと一緒に、少しずつ。

・・・・・・全てのストーリーを見ている空の下、僕達はそれぞれの世界で、それぞれの物語を今日も紡いでいく事にした。





誰かの物語と比べて自分を卑下したりせずに、自分に対しての誇りとちょっとだけの迷いや躊躇いも抱えて。





イクスが好きなこの空の下、僕はまた明日から頑張るために、隣に居るフェイトとラブラブするのである。




















(第68話へ続く)






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