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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第64話 『Hades and dolls/その手に触れた真実の形は』



クスクス・リズム・ダイチ『しゅごしゅごー♪』

リズム「ドキッとスタートドキたまタイムッ! さぁ、今日もぶっ飛ばしていくぜー!!」

ダイチ「まだまだ続く俺達のマリアージュへの反撃。てゆうか犯人も分かってここから快進撃は続くぜ」

リズム「そうして辿り着いたのは・・・・・・え、変態ドクターってなんだ?」

クスクス「恭文やフェイトさんは知ってるみたいだけど、うーん誰なんだろう」





(画面に映るのは、素晴らしい体勢の変態ドクター)





クスクス「でもでも、誰が相手だってみんなで頑張って事件解決しちゃうんだからー!!」

ダイチ「そうだな。俺らに出来る事なんてちょっとだけだろうけど」

リズム「でも、そのちょっとでナギナギやリイン、フェイトの背中を押していこうぜ。俺達全員でだ」

クスクス「うんうんっ! というわけで、今日も早速いっちゃうよー!!」





(それではみなさんご一緒に)





クスクス・リズム・ダイチ『だっしゅっ!!』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



前回のあらすじ。マリアージュの詳細が分かりました。容疑者候補が浮かび上がりました。

普通にここまですんなり行くとは思ってなくて、ビビるの同時に手伝ってくれたサリさんやルー達には感謝です。

ただ、疑問がないわけじゃない。スバルの証言や僕があむ達と聞いた話から考えると少しおかしい。





マリアージュを操っているのがトレディア・グラーゼだとして、なぜそれをマリアージュが探しているの?

探しているのはイクスだけじゃなくてトレディアも一緒にだった。普通ならそんな必要ないと思うのに。

なお、そこの辺りは現場に一緒に居たなぎひこやりま、それにフェイトとリインも疑問だった。うーん、まだ裏があるのかな。





とにかく僕達は、現時点でそこの辺りに一番詳しい人間に通信を繋ぐ。





それは隔離施設・・・・・・じゃなかった。ホームの年長者組。










『・・・・・・やはり巻き込まれたか。蒼凪恭文、お前・・・・・・フェイトお嬢様と婚約したのだから、少しは腰を落ち着けろ』

『恭文、大丈夫だ。姉達でいつかお前の運を改善する方法を見つけてみせる。だから・・・・・・うぅ』

『無限書庫に1年ほどこもれば見つかるだろうか。
まぁお前はいいが、フェイトお嬢様に心労がかかってもまずいし』

「二人揃って泣くなっ! てゆうか、普通に僕から目を逸らすのやめてもらえますっ!?」



そう、チンクさんとトーレである。二人は元ナンバーズの年長者組でリーダーに近い位置だし、知ってると思った。



「ねーねーフェイトさん、この人達誰ー?」

「なんか俺らの知らないキャラがどんどん増えるんっすけど」

「えっと、ディードとオットーのお姉さん達だよ。銀色の髪の子がチンクで、青髪がトーレ」

≪少し事情があって別々に暮らしているのですが、基本はいい方達です。Sirや彼とも親交が深い≫



・・・・・・と、後ろが説明している間に、僕は話を進めよう。まぁ多少小声でね。

そしてサリさんも気になるのか、前に出て僕と通信画面を見ている。



「とにかく俺らの用件はそういう事だ。色々危険要素が絡んでるんでな、知ってる事があるなら教えてくれ」

『分かっている。・・・・・・まずトレディア・グラーゼに関してだが、アギトとルーテシアお嬢様の記憶に間違いはない。
彼はドクターの計画・・・・・・私とチンクも参加していた管理局へのテロ活動に、マリアージュを使って助力予定だった』



やっぱりか。まぁある意味スカリエッティも三流だけど活動家だからなぁ。

てゆうか、こういうのはもうちょっと早く分かってよかっただろうに。



『確かそれが・・・・・・チンク、何時からの話だった?』

『初接触は新暦63年だ。ドクターが起こそうとしたテロの趣旨に賛同する形でな。
その手土産はマリアージュだ。アレを使って次元世界の各主要都市のいくつかを襲撃する予定だった』



マリアージュを見つけてから4年後か。あー、やっぱりそういう方向なんだ。

まぁ悪党が二人揃ってのんきにお茶会はないと思ってたけどさ。



『だがすまない。姉とトーレもさほど詳しく知っているわけではないんだ』

「チンクさん、それってどうしてですか? だって助力予定だったら普通に顔合わせてそうなのに」

『理由ならある。主にトレディアと会っていたのはドクターやウーノ・・・・・・今拘置所に居るメンバーだけだからだ』



トーレの言っている意味を、サリさん共々考える。・・・・・・って、考えるまでもないか。

つまり今教えてくれたことは、その三人から聞いていた事ってわけですよ。



『そしてもう一つはお前も予測がついているだろうが、トレディア・グラーゼは実際にはドクターや姉達とは一緒には居なかった』

『我々に協力した本当に外部からの人間は、フォン・レイメイと彼女・・・・・・シャナ・クロスフォードくらいだな』



つまり、そのためにチンクさんやトーレでさえも詳細を知らない? でもなんでそんな風になっちゃったんだろ。

JS事件は『痛み』を世界に教えるチャンスでもあったんだよ? マリアージュなんて持ち出されたら、更に大混乱だったのに。



「じゃあチンク、地上に居る更生組は全員トレディアの行方なんかも」

『更にすまない。姉にもさっぱりなんだ。突然に助力予定と都市襲撃計画が白紙になったとだけ言われて』

『なぜ参加しなかったのか。イクスと呼ばれるものがいったい何なのか。今ではそれすらも分からない。
・・・・・・悪いが私達ではあまり力になれそうもない。頼ってくれたのはありがたいが、こんな感じだ』

「ううん、大丈夫。てゆうか、ちゃんと次に繋がるカードはくれたじゃないのさ。トーレ、チンクさんもありがと」



トーレが申し訳なさそうな顔をするので、首を振って『大丈夫』と答える。



「軌道拘置所に居るメンバー・・・・・・スカリエッティ本人をツツけばOKって教えてくれて」

『それはそうだが・・・・・・だがドクター達が素直に話すかどうかが問題だ。
依然黙秘は続けているし、この件に関しても同じだ。私達が頼んでも捜査協力するかどうか』

「あー、大丈夫。そこに関しては一つカードがあるから。・・・・・・フェイト」



僕は後ろに控えていたフェイトを見る。まぁ、さすがにこれ以上は僕達だけでどうこうはアウトだよね。

かなり有益なカードが出てきてるんだ。そろそろグラースさん達に連絡する必要がある。



「うん。まずはウエバー執務官達に連絡だね。それで軌道拘置所のスカリエッティに会いに行く」

「そういう事。あ、それと」



僕は改めて、みんなに頭を下げる。感謝を込めて・・・・・・深く。



「・・・・・・みんな協力してくれてホントにありがと。おかげで借りが返せそうだわ」

「問題ないよ。だって僕達が勝手に関わったんだし。ね、みんな」

『そうだよ。というか、お父さん今更だよ。そういうのはもう大丈夫だから』

「それでも『ありがとう』だよ。何はなくとも、言葉と想いはしっかり伝えなくちゃ」

『・・・・・・そっか。でも確かに・・・・・・うん、そういうのは大事だよね』



そうそう。そういうのは大事なのよ。つーわけで、次のアクション開始だ。



「それじゃあフェイト、グラースさんに」

「うん、早速だね」




















『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/だっしゅっ!!


第64話 『Hades and dolls/その手に触れた真実の形は』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



朝一番で、早速今日も今日とて追跡開始・・・・・・と、俺とウエバー執務官は張り切ってた。





ティアナの奴をフェイトさんから借りれたのも大きい。だけど、そこに連絡が来た。





俺宛てに来た連絡は、ヤスフミの奴から。そして三人で話の概要やデータを見て・・・・・・頭を抱えた。










「・・・・・・ハラオウン執務官、それに蒼凪さん、確か私は昨日『任せて欲しい』と言ったような気がするのですが」

『いや、事件はお任せしてますよ? ただ僕達も『マリアージュってなんだろなー』と思って調べただけですって』

『そうですよ。あくまでも私とヤスフミとみんなの興味本位であって、捜査とかではありません。
というか、『マリアージュ』自体は古代ベルカの歴史の一つですし、みんなでそこを勉強しただけです』



あぁぁぁぁぁぁぁっ! フェイトさんがすっげー理論武装してるっ!! ヤスフミみたいな理論武装してるっ!?

アレ、フェイトさんってこんなキャラだったっけっ! 普通に俺はビックリなんだけどっ!!



『そうしたらたまたま事件に関係ありそうな情報が出てきただけですから。
それで色々考えて、ヤスフミとも相談して、こうやってご連絡をしているだけですので』



あ、あっさり言い切りやがった。『何が悪いの?』って言わんばかりの顔で言い切りやがった。

そりゃあ現場に飛び込んだりしてるわけじゃないし、普通に調べ物してただけならそれも成り立つけどよ。



≪・・・・・・ティアナ、フェイトさんは強くなったな≫

「アイツと年がら年中糖分振りまいてれば、そりゃあそうなるわよ」



ティアナ、それ多分違う。言ってる意味が全く違う。俺達の求めてる答えはそういう事じゃないから。



「なるほど。そう言われると私としては何も反論出来ませんね。
・・・・・・そのために色々と横の繋がりを使いまくった事以外は」

『『気のせいですよ。えぇ、気のせいです』』



だからフェイトさん戻ってきてー! アンタそっち側じゃないからっ!!

今の俺やウエバー執務官やティアナみたいに頭抱える側だろっ!? なんでそっち行くっ!!



『とにかく、軌道拘置所のジェイル・スカリエッティとウーノとクアットロなら詳細を知っていると思われます。
チンクとトーレの話では、その三人がトレディア・グラーゼと連絡を取り合っていたのだけは間違いないですし』

「そのようですね。しかしまさかJS事件に繋がるとは・・・・・・本当に奇縁が絡むヤマですね。
ではこちらで軌道拘置所のスカリエッティ達に事情聴取を行います。ハラオウン執務官は」

『あの、私もそれに同行させてください。・・・・・・あ、もちろん理由があります』

「あなたがジェイル・スカリエッティを捕縛した執務官だからでしょうか。
ハラオウン執務官、お分かりでしょうがさすがにそれは完全に越権行為ですよ?」



俺もティアナもそう思っていた。でも・・・・・・違った。フェイトさんは、画面の中で首を横に振ったから。



『違います。まずウエバー執務官もご存知でしょうけど、軌道拘置所のメンバーは全員未だに黙秘を続けています。
JS事件もそうですけど、それ以前のアレコレについても。だから彼らの犯罪には不透明な部分が未だに拭えない』

「えぇ。それは私も小耳には・・・・・・あぁ、そういう事ですか。
普通に事情聴取を行っても、彼らは黙秘するに決まっている」

『はい。そして彼らは司法取引等は通用しない』



黙秘・・・・・・あぁ、そういや六課に入る前にちょこちょこ聞いてるが、今でもその状態なのかよ。

まぁ考えてみれば当然だよな。もしそうなら、マリアージュの件についてももうとっくにバレてるだろうしよ。



『そこで私です。・・・・・・実は私・・・・・・というかヤスフミ、元ナンバーズの子を預かっているんです』



あー、ディードだっけか。・・・・・・アレ、ティアナがなんか困った顔になったぞ。



「ティアナ、どうした?」

「いや、あのね。こう・・・・・・アイツのシスコン具合を思い出しちゃって。
アイツ、ディードどの事相当溺愛してるのよ。妹出来たのが嬉しいらしくて」

「・・・・・・アイツ、そんなキャラ・・・・・・だよなぁ。フェイトさんにもそれだしなぁ」

≪資質はあったな。ただ、出来れば目覚めて欲しくはない資質だった≫



なんで俺らがヤスフミやディードの将来について心配している間に、二人の話は進む。



『その関係で、僕とディード・・・・・・スカリエッティとやり取りみたいなのがあるんですよ。
違法なのじゃなくて、簡単な現状報告ですね。それでどうもスカリエッティ、心境の変化があったらしくて』



言いかけて、ヤスフミが言葉を止める。そして慌てたように付け足す。



『・・・・・・あ、ここだけの話にしておいてくださいよ?』

「えぇ。それで、なんですかそれは?」

『いや、地上に残ったディードや他のみんなの変化を伝えてもらう中で、それが『面白い』と感じてるようなんです』



その言葉に、ウエバー執務官が眉を潜める。というか、俺はティアナを見るけどティアナも同じくだった。

つまりこの話は、マジでヤスフミとディート・・・・・・あとはフェイトさんとかしか知らない話。



『元々生命に関する研究者ですから、自分の予想外の外部要因でみんなが変化する様に色々心惹かれているらしくて。
で、ディードに対してもそこは同じです。ようするに、スカリエッティはもうテロ関係とかに興味が無くなってるんです』

「JS事件のようなテロをもう一度起こして世界を自分の思うがままにすると、彼としては非常に座りが悪い。
それぞれに影響を与えているその『予想外の外部要因』が消えてしまうかも知れないから。だから興味が無くなった?」

『軌道拘置所の職員の話も含めると、そういう事だと思います』



つまりあれか。そういう変化を軌道拘置所の上からのんきに観察してると。



『色々な処置で感情そのものが出せないようにしてた子も居ますから。言うならガチにスカリエッティの人形です。
でも、そういう子も自分が不満に思った世界に触れて、それによりどんどん変わってきていて・・・・・・だからこそ興味が移った』

「その原因の一つは産みの親である彼にとってその変化が、余りに予想外で可能性に満ちているものだからでしょうか。
そうなると・・・・・・彼は本当に生粋の科学者なんですね。だからこそ言葉や道理ではなく、そこに心惹かれた」

『まぁ私や局としては余り喜べない部分はあるんですけど・・・・・・どうもそうみたいです』



フェイトさんは苦笑いするのには理由がある。逮捕されたナンバーズの連中に更生の話をした一人だからだ。

その時フェイトさん達は一般的な『言葉』や『道理』を使ったんだろうけど、それだけじゃあ心が動かない奴も居るってことだな。



『言うならアレは子どもなんですよ。子どもだから自分の興味のあるものにしか動かない。
悪い意味でも良い意味でも、幼稚であり純粋。それがジェイル・スカリエッティです』



・・・・・・どんだけ自由なんだよ。広域次元犯罪者。てーか、それなら更生していけよ。

なんで未だに黙秘続けてんだ? 無茶苦茶理解に苦しむし。



『それで話を戻しますけど、その中でスカリエッティは最近、娘達の『恋愛』に興味があるらしいんですよ。
もっと言うと、人と違う部分を乗り越えて誰かと愛しあう事が出来るか。それを観察してみたい』

「・・・・・・趣味の悪い男ですね。というか、気持ち悪いですよ」

『会うようなら言ってあげてください。きっと泣いて崩れ落ちますから。そうやって喜びますよ』



いや、それ違うだろっ! それ喜んでないよなっ!!



「そうですか。では威力を5割り増しで言っておく事にしましょう。・・・・・・それで?」



そしてアンタも言うのかよっ! なんか色々疑問持とうぜっ!?



『いや、その中で冗談交じりで僕から『ディードが結婚式を上げても写真は送ってやらない』っていうのを通達したんですよ。
そうしたら凄い勢いで『それだけはやめてくれっ! 私の研究に支障が出るんだっ!!』と素敵なお返事が』

『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』



つい全員揃って叫んでしまった。てゆうか・・・・・・あれだよあれ。もうあれとしか言えないよ。

・・・・・・気持ち悪っ! もうなんというか気持ち悪いしっ!! なんだコイツっ!? ただの気持ち悪いヘタレだろうがっ!!



『なので、私が実際に顔を見せる。私もヤスフミと同じく見せるつもりがないと言う。
でももしも協力してくれるなら、報告もするし写真も届けるかも知れないと通達するんです』



それ完全な脅迫だろっ!? アンタそんなウキウキ顔で言うことじゃないだろっ! もしかしなくてもスカリエッティ嫌いかっ!!

いや、法的なあれこれじゃないから犯罪とか違法手段にはならないだろうけど・・・・・・それでいいのかよっ!!



「・・・・・・普通なら適当に流す所ですが、実際に近い位置にいるあなた方が言うと説得力がありますね。よし、それでいきましょう」

「ウエバー執務官、いいんですかっ!?」

「そうですよっ! てゆうか普通にこれ、無茶苦茶ですよっ!?」

「構いませんよ。これでダメなら普通の交渉に切り替えればいいんですし。
言い方は多少悪いですが、連中と距離の近いハラオウン執務官や蒼凪さんを利用したくはあるんです」



いや、多少じゃないでしょ。もうぶっちぎりで悪い人じゃないですか。



「なにより私達は早急にトレディア・グラーゼやマリアージュについて知る必要があります。
なぜマリアージュが今までの被害者を襲ったのか。今はそれすらも分かってないんですよ?」

「「・・・・・・あ」」



確かにそうだ。これだけ事件が起きてるのに、動機一つ掴めてない。

例えトレディア・グラーゼっておっちゃんが捜査線上に浮上していても、基本そこは変わらない。



「現時点でのマリアージュの正式な稼働数や生産方法も現時点では不明です。
今までの犯行を見るに、14体くらい自爆しても平気なくらいはいると思われますが」

≪つまりアレだな。そこについてもスカリエッティに聞いて、対策を整える必要があると。
トレディア・グラーゼが今なお活動家なら、大規模テロを企んでいる可能性もかなりある≫

「そういう事です。それがミッドか、はたまた別の世界でかは分かりませんが、それでもですよ。
そして恐らく、そう遠くない内に動くと思われます。もう一度言いますが、我々には時間がありません」



・・・・・・この人もなんだかんだでぶっとんでるよなぁ。

だからって普通に横槍入れてきた人間を利用しようとは思わないって。



「こちらが何かしらの対価を払う事なくすぐに情報が引き出せるなら、それが一番でしょう。
ではハラオウン執務官、すぐに・・・・・・そうですね。108のギンガ・ナカジマ陸曹長はご存知で?」

『はい、知っています。何度か一緒に仕事もしていますし、プライベートでの付き合いも』

「それは良かった。ではギンガ陸曹長をすぐに本局に向かわせますので、合流した上で手続きをして軌道拘置所に。
それですみませんがどんな手を使ってもいいので・・・・・・早急にマリアージュとイクスヴェリアについて吐かせてください」

『了解しました。・・・・・・すみません。普通に割り込んでしまって』



あ、やっぱりこの人はヤスフミと違って良識的だった。普通に申し訳なさそうな顔で頭下げてきたし。



「はて、私には何の事か分かりませんね。あなた方は、ただ異世界の文化を知りたいと思った子ども達を引率しただけですよね。
それでたまたまアレコレについて詳しく知った。そして私がそれを横からかっさらった。つまりはそういう事なんですよ」

『・・・・・・ウエバー執務官』



あっさりそう言い切ったウエバー執務官の顔は・・・・・・何かを思い出すような苦笑いだった。



「いえね、私の知っているバカ二人も大体こんな感じだったんですよ。
こちらが困っているといつの間にか首をツッコんで来て、情報をくれるなり戦力になってくれる」



そして画面の中・・・・・・ハラオウン執務官の後ろ側を見る。でも、そこには誰も居ない。



「それで功績とかにも興味がない無欲な連中でして、普通に連中の手柄は私のものになるんですよ。
最初は良くてもこれが何度も続くと、さすがに感謝を通り越して腹立たしくもなる」



とか言いながら、苦笑いは変わらない。そこに今言ったような腹立たしさは感じられなかった。



「もうちょっと欲を持って生きろと何度説教してやったことか。でも変わらないんですよ。
功績や局や世界平和のためじゃない。見過ごせなかったから飛び込んだだけだって言ってね」



だけど、俺もティアナもバルゴラも、そして画面の中のヤスフミとフェイトさんも誰の事を言ってるのか分かった。



「・・・・・・まぁ、あなたのフィアンセはそのバカと同類ですし、予測はしてました。
とにかくご協力には心から感謝します。あぁ、それと」

『はい』

「画面の外で隠れてるバカその2に言っておいてください。『このバカが。とっとくたばれ』と」



そう言うと、フェイトさんとヤスフミが画面の外に居るであろう『バカその2』に軽く視線を向けた。

そして二人揃って苦笑して、ウエバー執務官を見ながら頷いた。



『・・・・・・はい。伝えておきます。では、結果はギンガと一緒に報告しますので』

「えぇ、お願いします」



そうして通信が切れ。



『あー、ちょっと待って。・・・・・・ティアナ』



切る前に、思い出したようにヤスフミが割り込んできた。



「何よ」

『いやね、戦技披露会用に新しい魔法を構築してさ。
それをマジックカードに数枚入れてるから、後で届けるよ』

「いや、いいわよ。てゆうかどうして今そんな話を」

『いいから。鉄火場になるなら場合によっては役に立つだろうから。
詳細はクロスミラージュに送っておくから、チェックしておいてね。それじゃ』



そしてそのまま通信は切れ・・・・・・アイツ、たまに空気読めてない時があるよな。



≪・・・・・・Sir、普通に詳細データが届きました≫

「あのバカ・・・・・・! この忙しい時になんなのよっ!!」

≪ですが、一応チェックするべきかと≫

「いいわよ後で」



なんて言いながらもメールを立ち上げるところがティアナの優しいところだと思う。

だけど、表情が変わった。メールを見た時は呆れ気味だったのに、読み進める毎に納得した顔になる。



「・・・・・・なるほど。これは盲点だったかも。てゆうか、私に発動出来るの?」

≪そのように調整しておくそうです。使う機会があるかどうかは分かりませんが、受け取っておくだけ受け取っておくべきかと≫

「そうね、そうするわ。まぁ・・・・・・アレよね、一応お礼くらいは言っておくべきかしら」





とりあえず、ティアナに届けられる魔法が何かは置いておくとして・・・・・・あとは情報待ちか?



フェイトさんとギンガさんなり、ウエバー執務官が出した捜査指示で何が掴めるかだよ。



うし、じゃあこの間にマリアージュ対策でフィールド関係の調整しとくか。バルゴラ主導でちょこちょことな。





「あー、ランスター執務官補とフレイホーク君・・・・・・実は少し頼みがあるんですよ」

「「はい?」」

「私の権限をフルに使っていいので、今すぐに調べて欲しい事があるんです。
とりあえずはナカジマ防災士長との合流後でかまいませんから。内容は」










・・・・・・・・・・・・俺とティアナはその内容を、すぐには受け入れる事が出来なかった。





なぜそういう方向になるかが分からなかったというのもあるんだが、話を聞いてまぁ・・・・・・納得した。





やっぱり・・・・・・色々奇縁が絡む事件らしい。てゆうか、普通に後味悪いのは確定か。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・あのバカは」

「サリエルさん、あのおじさんとすっごく仲良しなんだねー」

「クスクスちゃん、それは違うぞ。俺はアイツとは腐れ縁なだけで、友達でも仲良しでもねぇし」

「サリエルさん、説得力ないわよ? 苦笑気味だけどなんだか嬉しそうじゃないのよ」

「気のせいだ」



そんなサリさんはともかくとして・・・・・・さて、ここからはそれぞれ別行動だね。

事件が起きる可能性を考えるなら、僕まで軌道拘置所に行くわけにはいかないもの。



「フェイト」

「大丈夫だよ」



フェイトが右手を伸ばして、そっと頭を撫でてくれる。それで・・・・・・僕を安心させるように笑いかけてくれる。



「もうあの時の私じゃない。何を言われても、何があっても・・・・・・もう忘れたりしないから。
だからヤスフミはリインと一緒に自分のケンカを通して。私も同じように自分のケンカ、通すから」

「・・・・・・分かった。じゃあ」



右拳を軽く握って、フェイトに向ける。フェイトは微笑みながら僕と同じようにして・・・・・・軽くぶつけた。



「また後でね」

「うん。・・・・・・それじゃあヴィヴィオとなぎひこ君達は」

「あー、俺らはヴィヴィオの手伝いしてるっす。
トレディアやマリアージュやイクスヴェリアの事、まだ資料必要っすよね」



空海がそう言いながらヴィヴィオの方を見る。ヴィヴィオは首を二回縦に振って頷いた。



「今ある資料は概要に近いですし、そこからもうちょっと絞り込みたいんです」

「それで資料が見つかり次第、随時あの執務官さんに報告・・・・・・だよね?」

「はい。だからみんなが手伝ってくれると色々と助かったりします」

「んじゃ、俺もその手伝いだな。やっさん、フェイトちゃんにリインちゃん、空海君達は俺が預かっとくから・・・・・・しっかりやってこい」



僕はみんなを見る。というか、みんな僕とフェイトを見てる。画面の中のルーやアギトも。

だから僕は・・・・・・僕達は、頭を下げてこう言うのだ。何はなくとも、こういうのは大事なの。



「「「ありがとうございます」」」

「みなさん、感謝します。それでは・・・・・・お兄様、ミキさん」

「うん。恭文、行こう? まずはティアナさん達と合流だよ」










というわけで、僕は無限書庫を後にしてケンカの下準備を始める事になった。





何にしてもこのペースだと・・・・・・すぐに事態が動くかな。マリアージュにしても、こっち側にしてもだ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



アイツとフェイトさんとの通信を終えてから、私達は市内の駐屯所の一つに入る・・・・・・前に、少し通信。





それはマグナス執務官補に。108の方で色々調べてくれていて、その辺りの情報交換も兼ねて。










『・・・・・・トレディアやイクスにマリアージュに関しては、聖王教会の担当から連絡は。
それでトレディアの行方に関しては、捜査班が居場所を絞り込んでいます』

≪さすが108だな。昨日の今日だと言うのに、動きが早い≫

「確かにそうね」

『中央再開発地区。K-267の地下街付近かと。確定ではありませんが、それらしい人物が目撃されています』





地下街・・・・・・あぁ、確かにあそこならいくらでも隠れるところはあるわよね。

再開発地区という名ではあるけど、まだ手付かずのところもある。

ただ、そこまで治安が悪いわけじゃないの。5歩歩けば強盗に遭うなんて事もない。



こう・・・・・・いわゆる下町とか昔の街とでも言えばいいのかしら。今のミッドの水準からすると、多少時代遅れな街。

それ故に警備関係も含めた色々な施設や設備の老朽化が進んでいるから、局から『再開発指定地区』とされているだけ。

けど、そういう所に突け込んで一時的な逃げ場所として使う犯罪者も意外と多かったりはする。



ミッド首都では平均的な監視カメラやサーチャーの類も、ここだと完全には配備されてないしね。



だからそうなるのよ。もちろん管轄の部隊もそこは分かっているから、かなり念入りにここの警らは行っている。





「私達は別件がありますし・・・・・・マグナス執務官補、お願い出来ますか?」

『了解しました。108のヘリパイさんに応援の方を連れてきていただきましたし、こちらはなんとか』



ヘリパイ・・・・・・アルトさんかな? 普通に考えれば、えっと・・・・・・誰だろ。

いや、考えるまでもない。多分あの人だ。あの人くらいしか居ないと思う。



「それは良かった。ただ、気をつけてくださいね? 何分相手が相手です」



そこはウエバー執務官だけじゃなくて、私やジンも思った所。

だってそれなら、マリアージュと鉢合わせの可能性もあるんだから。



『はい。それでは急ぎ向かいます』

「お願いします」



マグナス執務官補との通信はそこで切れる。そしてすぐにウエバー執務官は次の通信をかけた。



「ナカジマ捜査官」

『はい、話の方は聞いています。すぐに本局の方で手続きをして、軌道拘置所へ』

「えぇ。よろしくお願いします」

『・・・・・・でも、なぎ君とフェイトさんにあの子達・・・・・・普通に首を突っ込んだんですね。
なぎ君はともかく、フェイトさんやあの子達までそうするとは思っていませんでした』



少し困ったような顔で画面の中のギンガさんが言う。で、後ろに居た私の方を見て苦笑いしたりする。

というか視線で聞かれたわ。『あの子達って、なぎ君と同じ感じなの?』と。なので私は頷いた。



「そのようですね。まぁアレですよ、どこの世界にでも自分の自由意志に基づいて突き進むバカは居るという事でしょう。
そしてそのバカは往々にして、大人が作る社会の狭い道理や理屈など跳ね除けられるパワーを持っているんです」



ウエバー執務官が仕方無しと言った感じでそう言っった言葉に、まぁ・・・・・・私も一応納得。

普通にあの子達も大人や社会って視点から見ると『バカ』なのよね。でもそんな『バカ』だから、とっても強い。



「そんなバカが居る事は、別段不思議な事じゃありませんよ。
私の周りにも大人にも関わらず、あの子達よりレベルの高いバカが二人居ましたから」

『・・・・・・なるほど、なんというか・・・・・・・納得です。とにかく、何か分かり次第連絡しますので』

「お願いします」





その他色々な必要である業務的連絡をしてから、私達は駐在所に入った。そしてそのままそこの会議室に入室。

目的はスバルとの合流のため。スバル、ギンガさんの手配で戦力として借りられる事になったから。

ウエバー執務官の車は実用性重視の小型のワゴン車なので、例えスバルが寝そべったとしても充分乗れる。



まぁ、そこは冗談だけど・・・・・・リアルに寝そべるのは無理になった。





「・・・・・・ティアさん、ジンさん、ウエバー執務官もお疲れ様です」

「お、お前ら・・・・・・何やってんだっ!?」



普通に陸士制服を来たエリキャロが居たから。当然だけど、私達はビックリするしかなかった。

ジンが驚きと同時に呆れも少しばかり含んだ声をあげるのは、仕方の無い事なの。



「・・・・・・確か君達は・・・・・・えぇっと、昨日の火災でランスター執務官補や蒼凪さん達と一緒に対処に協力してくれた」

「はい。自然保護隊所属のエリオ・モンディアル一等陸士と」

「キャロ・ル・ルシエ二等陸士です。今回の事件の捜査協力のためにこちらへ来ました」

「・・・・・・スバル、どういう事よ」



確かこの子達はアンタの家で泊まってたはず。それなのになぜこうなるかが疑問だけど。

とりあえず私とジンとウエバー執務官はスバルの方を見る。スバルは軽く苦笑いだった。



「あはは・・・・・・あの、なんていうかこういう話になっちゃって。
一応ね、私も止めたんだ。でも結局これで。ほら・・・・・・二人の頑固さはあの二人譲りだから」



あー、確かにね。特にキャロは・・・・・・いえ、なんでもないわ。女の子は強いものだとだけ言っておくことにする。



「あ、私もエリオ君も自然保護隊の許可は頂いているので、そこは大丈夫です」

「あとはウエバー執務官の許可さえいただければ、いつでも動けます」

「・・・・・・本当に奇縁が絡みに絡みまくりますね。元機動六課のフォワード陣が勢揃いですか」



困ったような呆れたような、でもどこか楽しげにウエバー執務官はそう言った。

そう言って、改めて二人を見る。二人はその少し厳しめな視線を真っ直ぐに受け止める。



「ではモンディアル一等陸士とルシエ二等陸士、私達に力を貸していただけますか?」

「「了解ですっ!!」」

「もちろんスバル防災士長も。話はスターレン司令官から聞いていると思いますが」

「はい、大丈夫です。そこは昨日の内に」



そしてウエバー執務官が私とジンを見る。そして視線で『これでいいでしょうか』と聞いてきた。

私とジンは顔を軽く見合わせて・・・・・・ウエバー執務官の方をもう一度見て、頷いて答えた。



「いや、しかし予想外ではありますが、手が増えて助かりましたよ。
何分私が不甲斐ないばかりに、後手に後手に回りっ放しですしね」



正直、それは謙遜に近いと思う。そんな不甲斐ない人なら、あんな指示を私とジンにしたりしないわよ。

でも、これがヒロリスさん達と同期の執務官の実力。・・・・・・執務官志望としては、なんかこう・・・・・・燃えてくる。



「とにかくみなさんに頼みたいのは、現場での対処です。
そして『マリアージュ』への攻撃は非殺傷設定を解除で」

≪そうだな。中途半端な対処をすれば、途端にお亡くなりコースだ。全員、一切加減はするなよ≫

「ちょ、ちょっと待ってください。あの、非殺傷設定を解除って・・・・・・ウエバー執務官、どういう事ですか?」

「それはマリアージュ・・・・・・被疑者を殺害しろという事でしょうか」





・・・・・・あれ、もしかしてエリオもキャロも詳しく聞いてない? 私はスバルの方を見る。

スバルは軽く右手を上げて『ごめん』とサインを返してくれた。あぁ、でも納得した。

スバルも昨日の夜で分かった段階の話は詳しく聞いてるけど、それでも説明しなかったんだ。



だってウエバー執務官が許可しない限り、二人は部外者も同然だもの。重要な項目については話せないわよ。

なにより二人は私やアイツみたいにマリアージュに遭遇してない。単に原因と結果だけを知ってる。

二人がアイツやフェイトさん達みたいに勝手に調べたとかならともかく、そうじゃないならこうなるのは当然よ。





「あー、スバルの奴が珍しく空気読んで話してなかったのか」



ジンがそう言うと、スバルが不満げにジンの方に向き直る。



「ちょ、ジンっ!? 珍しくってなにかなっ! 私ちゃんと空気読めるよっ!!」

≪幻覚と錯覚の二重コンボか。不憫な≫

「バルゴラまでひどいよー! ねーティア、これどう思うっ!?」

「あのね、二人とも。実は昨日の一件でかなり詳しい事が分かったの。
スバルも知ってたんだけど・・・・・・二人は執務官の許可がないと事件捜査に加われないから」

「ティアも無視しないでー!!」



失礼な。私はただ話がこれ以上逸れないように、空気を読んだだけよ。



「だから僕達『部外者』には話せなかった・・・・・・でしょうか」

「そうよ。それでウエバー執務官の非殺傷設定解除命令は、そこが理由なの」



というわけで、更に空気を読んで説明役を買って出ようと思う。だって私は空気の読める女だもの。



「・・・・・・まず、察しは付いてるでしょうけどマリアージュは単独犯じゃない。そして人間じゃないわ」

「マリアージュってのは古代ベルカ語で『人形』を意味する、人型量産兵器の総称だったんだよ。
それも火炎・爆破系に特化した能力を持つ、自爆も視野に入れた特攻兵器だ」

≪あとはそれを操ってると思しき被疑者候補も判明した。ここに関しては本当についさっきだな。
その人物は、ミッドでマリアージュを使った大規模なテロを企んでる可能性がある≫

「・・・・・・え?」

「あの、それってどういう事ですか」










そして私とジン、ウエバー執務官で詳細を説明して・・・・・・二人は納得してくれた。

その直後にアイツとリインさんが到着。私はアイツの新魔法入りのカードを受け取った。

でも・・・・・・あぁ、マジでそうなのよね。私とアイツとスバルとエリオとキャロとおまけのジンで勢揃いよ。





今ここに、元機動六課のフォワードチームの六人が再集結した。





・・・・・・なんだろ。アイツじゃないけど、誰が相手でも全く負ける気がしないわ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『・・・・・・見えましたっ! 再開発地区、K-267ですっ!!』

「へったくそな操縦ご苦労さん。・・・・・・つーかいちいち揺れがデケェんだよっ! チビアルトっ!!」



お前、いきなり呼び出されてヘリに投げ込まれるように『載せられた』と思ったらこれかっ!?

ありえねぇだろっ! 俺の三半規管はデンプシーロールの如き揺れでダメージ受けまくりなんだよっ!!



『はーい、荷物がパイロットに文句つけるのはご遠慮願いまーす』

「言われたくなきゃ操縦変わるかっ!?」



俺ならもっとうまく出来るな。もうそこだけは自身に自信を持って言えるぜ。

つーか、チビアルトに負けたらショックで鼻からパスタ食うぜ。



「もしくは坊主のアルトアイゼンだなっ! お前よりはずっと楽しい操縦が出来るぜっ!?」

『だめー! この子は私のー!! そしてそれどういう意味ですかっ!?
アルトアイゼンにも負けるのはさすがに嫌なんですけどっ!!』

「安心しろ、もう負けてんよっ!!」



いや、マジでな? あのフリーダムデバイスは普通にヘリの過負荷限界ギリギリのアクロバティック飛行とかやりそうだし。



「・・・・・・・ヴァイス・グランセニック陸曹長、すみません。自分は」

「あぁ、アルトから聞いてるよ」



ヘリの貨物室の中、俺の右隣に座っているのは、オレンジと呼ぶには淡過ぎる髪の女。

ショートカットにして分けたその髪がヘッタクソなヘリの振動で揺れまくってる。



「ジン坊の補佐官仲間だってな」

「ジン坊・・・・・・あ、フレイホークさん」

「そうだ」



現在は少しぶ厚めの耐火服装備。色々不釣合いではあるが、賊が賊だしな。

かく言う俺も、それより多少薄手だが一応装備してる。爆破に巻き込まれてウェルダンはごめんだからよ。



『すみませんねルネッサさん、ガラの悪い先輩で』

「誰のガラが悪いってっ!?」

『この人も、六課の隊員だったんです。ティアナやスバルの先輩で、ジン君やなぎ君の悪友』

「そして悪友ってなんだよっ!!」

『なぎ君と散々模擬戦を対象とした部隊非公認の賭けをやらかしてたじゃないですか。
あぁ、それでジン君が入ってからは同じようにつるんで更にやり方が狡猾に』



変な事バラしてんじゃねぇよっ! つーか・・・・・・あれはあれだっ!! 必要悪だったんだよっ!!

とにかく、チビアルト改めバカアルトは放置だ。いや、むしろ無いものとして扱っていく。



「ま、よろしくな」

「えっと・・・・・・・こ、こちらこそ」



アルト、てめぇのせいで若干引いてんじゃないかよっ! なんでちょっと疑問形付きそうになってんだっ!?

・・・・・とりあえず、そこの辺りはおくびにも出さずに話をしよう。そうだ、こんな微妙な対応はさすがに嫌なんだ。



「そういやギンガ陸曹長から聞いたが・・・・・・・射撃型なんだってな」

「はい。一応は」



言いながら取り出したのは、少し大ぶりの銀色のリボルバー。



「おいおい、今時実弾銃かよ。しかもリボルバー」



なお、別にバカにしてるわけじゃねぇ。むしろ賞賛してるくらいだ。

ちょっとした動作からも扱いには相当慣れてると見ていいし、チョイスが渋いのが◯だ。



「携帯と使用の許可は頂いています」

『確か、デバイス扱いで可愛い名前にしてるんだったよね』



一種の抜け道ではあるが、実弾兵器の使用の許可を取る際にはデバイス扱いにする事も出来るんだよ。

確か・・・・・・あれだ、局だけの話じゃなかったな。聖王教会やGPOみたいな外部組織の装備も、そういう感じにしてんだよ。



「・・・・・・シルバーダガー。芸の無い名前なんですが」

『そんな事ないよ。いい名前だと思うな。というか、シンプルだけど渋くてセンスがあると思う』

「ありがとうございます。ですがその・・・・・・・センス、あるのでしょうか」



どうも執務官補はそこの辺りが疑問らしい。だが、俺やアルトから見れば充分ハイセンスだ。



『・・・・・・ルネッサ、世の中にはセンスの無い人って居るんだよ?』

「は?」

「あぁ、居るな。あれだ、例えばお前がシルバーダガーって名前を付けたソイツを別の奴が見たとする」



具体的には身長154センチで近接戦闘型で、某執務官とほぼ毎日のように無自覚にイチャイチャしてるのだ。



「アルト、坊主だったらなんて名前にすると思う?」

『そうですね。うーん・・・・・・『シルタロス』とか『ギンタロス』とかかな。いや、リボルバーだから『リボタロス』かも』



執務官補が驚愕の表情を浮かべている。・・・・・・そりゃそうだろ。こんな名前付ける奴はそんなに居ねぇよ。

俺も坊主か野上の旦那くらいしか知らねぇし。てーか、どんだけアレなセンスしてんだよ。



『もしくは『銀ちゃん』とか『りっちゃん』とか? フェイトさんの話だと、ジガンも最初『たっちゃん』ってつけたみたいですし』

「・・・・・・とまぁこのように、世の中にはセンスがとことんねぇ奴も居るんだ。
お前さん、ソイツに比べたらずっとマシだって。いや、むしろ自分を誇っていいだろ」

「そ、それはその・・・・・・そうですね。私もさすがにそれはその・・・・・・・いかがな物かと。
というよりあの、私は誉められているんですか? もしかして慰められているのでは」

『「全然そんな事はないから大丈夫」』



執務官補が色々疑問そうだが、そこは気にせずに話を進めよう。少し逸れちまったしな。



「しかしそのシルバーダガーのサイズだと・・・・・・レンジはショートからミドルか? 陸戦ポジは、ガードかセンターってとこか」

「すみません。自分は武装隊の経験がないので」

「あー、こりゃ失礼」



・・・・・・にしちゃあ、扱いが随分と手馴れてるんだが、どういう事だ?

手元を見ても特に緊張してるとかもない。この執務官補、相当場慣れしてんぞ。



「それなら捜査官一筋?」





つーか、それだと緊張を解そうとして話しかけた俺はバカみたいじゃねぇかよ。

さっきから基本静かだったから、緊張してんのかと思ったしよ。

やばいな俺。もしかしたら『・・・・・・この人、私を口説いているのかしら』とか思われてんの?



くそ、全部チビアルトのせいだ。あの野郎、戻ったらデコピンしてやる(八つ当たりという意見はスルーだ)。





「専門は検死と鑑識です」

「へぇ」

「・・・・・・生きている人間より、死んでいる人間相手の方が合うようです」

「いいねぇ・・・・・・渋いな」



中々面白い逸材ではあるよな。てーか、謎が多いミステリアスな匂いがぷんぷんする。

こういう女は趣味ではあるな。だが、中々に難攻不・・・・・・って、口説きモードに入ってんじゃねぇよ俺っ!!



『JF706・1番機へ。こちら地上警ら』



自分の馬鹿さ加減に内心頭を抱えていると、通信がかかった。

それで今までのゆるゆるな空気が一気に引きしまる。



『手配中の容疑者を発見。三名を確認』

「・・・・・・執務官補、三人相手。前衛やれっか?」



言いながら俺はストームレイダーをセットアップ。なお、形状は相変わらずのスナイパーライフル型。

セットアップしつつも立ち上がって、執務官補を見る。執務官補も同様にしつつ、シルバーダガーを構える。



「陸曹長殿は地下でも狙撃弾丸を届けられると伺っています。フォローをしていただければ」

「おうよ」



ヘリが着陸態勢に入ってる。執務官補は魔法使えないらしいしな。いつも通りに飛び込んでゴーはアウトだ。



「アルト、お前が空の眼だっ! ポジション作れよっ!!」

『了解っ!!』

「んじゃ、行くぜ。ストームレイダー」

「行こう、シルバーダガー」



ヘリが着地した。そしてその後部ハッチがゆっくりと開く。そして俺達は・・・・・・戦場へと一歩踏み出した。



「「GO!!」」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『・・・・・・旧式の、テープレコーダー』



目の前にあるそれのスイッチを、私は押す。そして・・・・・・音声が流れた。



『詩篇の九。時が訪れれば、王は帰還する。操手の姿はなくとも、冥府は再び開かれる。
舞い上がる炎と時の声は、そこに正しく、平和の価値を知らしめる』



流れるのは、少し掠れた声。だが探し求めていたものでないことはすぐに分かった。



『この声に引かれたのは、マリアージュか、捜査官か。いずれにせよ、時は来た。
何があろうと、私の悲願は・・・・・・止まらない』



声はそこで途切れた。というより、テープはそこで終わった。なので私は、右手の刀を振るう。

数度振るって、テープレコーダーをバラバラに切り刻む。もちろん中のテープと共に。



『トレディア・グラーゼは、ここには・・・・・・もう居ない』



振り返り、私は足を動かす。もうここには用はなくなった。



『トレディア・グラーゼは、もう居ない。僚機達、ここには操手トレディアはもう居ない。
探し出して・・・・・・我らをイクスの元へ。海に回った僚機達が居る。どうか・・・・・・イクスを』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



私はヤスフミやみんなと一旦別れて、ギンガと合流。うん、ここからが私のケンカなんだから。




というか、びっくりした。普通に制服姿のチンクとトーレまで居るんだから。










「あの・・・・・・えっと、二人はどうして?」

「ギンガに頼んで連れてきてもらった。地上で事件が起こるなら、姉達も無関係ではいられない」

「なによりこれはJS事件の事後処理になる可能性もあります。
色々立場を弁えていないと思いますが・・・・・・フェイトお嬢様、お願いします」

「・・・・・・うん。あの、ありがと。じゃあ四人でだね」





本局でギンガが手続きを取って、そのままお昼を過ぎた辺りで軌道拘置所へ転送。彼らはそれぞれ別々の拘置所に居る。

だけど今回は、全員から話を聞く必要がある。そのために通信も認めた。

こういうのは拘置所内の違反を阻止するために基本はやっちゃだめなんだけど、事態が事態だから。



薄暗い黒い壁が支配する世界。そんな狭い世界で彼らは生きている。恐らく、死ぬまで解放される事はない。

局に恭順・・・・・・ううん、最悪事情聴取のあれこれに協力してくれれば、まだいい。

更生の意志があるならそれでいい。でも、その三人はそこを持ち合わせてはいなかった。



一人は未だに再犯の危険があり、一人は父親に付き従い、一人は・・・・・・よく分からない。

でも分かった事がある。最後の一人に私は以前負けかけた。嘘を振りかざされ、壊されかけた。

その時の私が目の前に居たら、私は容赦なく右フックで殴っていると思う。



だって、余りにも情けないもの。その一人は・・・・・・今私達の目の前で必死に懇願しているから。





「頼むっ! 娘達の状態観察を禁止だけはやめてくれっ!!
何気にみんなからもらう手紙が楽しみなんだっ! そこから色々考察するのが楽しいんだっ!!」





彼の名はジェイル・スカリエッティ。稀代の天才科学者であり、JS事件の主犯。でも、それだけじゃなかった。

事件後のチンクや他の子達からの話で判明したんだけど、彼は非常に娘達に弱いらしい。

もっと言うと立場が弱い。えっと、前にヤスフミが教えてくれた『へたれ』とか『ダメダメ』ってタイプなの。



つまり、私はそんなのに負けて実験台にされかけ・・・・・・あぁっ! 本気であの時の私のバカっ!!



こんなのに負けるってありえなくないかなっ!? というか普通にありえないからー!!





「・・・・・・ドクター、それなら我々と一緒に捜査協力すればいいだけでしょう。
そうすれば今よりももっと自由に妹達と接する事が出来ます」

「その通りです。それにチンクやトーレだけじゃなくて、ノーヴェにウェンディ達もあなたの事心配してますよ?
みんなが送ってる手紙にも書いてるでしょうけど、本当はみんなで一緒に新しい生き方を探したいとずっと思ってるんですから」

「もちろん姉もだ。ドクター、そろそろ意地を張るのはやめないか?」

「・・・・・・そうはいかん。私は敗者だからな。敗者には敗者なりの責の負い方がある。
今ここで安易に恭順するくらいなら、最初からゆりかごを動かして祭りなど起こしはしない」



だからトーレやチンクだけじゃなくて、母親を殺されて、自分も攫われて身体を改造されたギンガでさえこの調子で説得するの。

もう私、自分が情けないやらなんやらだよ。あれかな、もしかしてこれがスカリエッティの内キャラなのかな。



『そうそう。そういう事だからとっとと帰ってくれるぅ?
フェイトお嬢様もサーティーンもチンクちゃんもトーレ姉様もよ』

『お話は分かりますが、地上の事件など我々には関係の無い事です』



そう言うのは、メガネでツインテールな4女のクアットロ。再犯の危険性が一番高いとされている人物。

そしてロングヘアーで私から見ても綺麗だと思う長女のウーノ。スカリエッティに付き従う形で軌道拘置所に居る人物。



「分かりました。じゃあ今後ヤスフミやディートからの経過報告は無しで」

「姉もノーヴェ達にそう言っておく。そんな意地を張っているドクターは・・・・・・嫌いだ」

「他のみんなには・・・・・・そうですね、お父さんが意地っ張りだからお仕置きって言っておきます。
私やスバルもそうだし、チンクとトーレも手伝ってくれるならきっとみんな納得を」

「分かったっ! 全力で協力しようっ!! マリアージュやイクスヴェリアについても君達の気が済むまで何度でも答えようっ!!」



あぁ、やっぱり私外キャラのあれこれに騙されて負けかけたんだっ! すごいショックだよー!!

・・・・・・とにかく、動揺している間にスカリエッティが展開されている通信画面の方を見る。



「というか・・・・・・クアットロ、ウーノっ! 君達はなんだっ!?
地上で進化を続ける娘達というテーマを私から取り上げるつもりかっ! ふざけるのも大概にしろっ!!」

『・・・・・・申し訳ありません、ドクター。考えが足りませんでした』

『ちょ、ウーノ姉様っ!? 納得したらだめですからっ! というかドクター何やってるんですかぁっ!!
無限の欲望として地上の屑共を浄化しようとしたあの気高きドクターはどこへ』

「そんなものとうに忘れたっ!!」

『忘れるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』



全員の声がハモったのは気のせいじゃない。というか、私も叫んだもの。

というか、そこは絶対忘れちゃいけないよねっ!? 事件起こした犯人なんだしっ!!



「それで本題に入るが・・・・・・イクスとマリアージュについてだったな。あとはトレディア・グラーゼの事」



勝手に入らないでもらえるかなっ! あぁ、やっぱり私ダメダメだー!!

よし、もっと強くなろうっ! うん、頑張ってあの時の自分に右フックかましてやるんだからっ!!



「まず確認なんだが、君達はどこまで知っている」

「そこについては私とチンクから軽く説明は。トレディアが我々の賛同者だった事。
そのためにマリアージュを使おうとした事。あと・・・・・・冥王イクスヴェリアの一般的な概要」

「なるほど。ではフェイト・テスタロッサやギンガ・ナカジマの知識量も君達二人と変わらずと言ったところか。・・・・・・ウーノ」

『はい。・・・・・・まずトレディア・グラーゼはドクターの賛同者としてJS事件に参加予定でした』



とりあえずウーノが説明を引き継いでくれたらしい。私達の方を見て言葉を続ける。



『ここはトーレ姉様やチンクちゃんも知っているところねぇ。で、ここからが驚愕の真実よぉ』

『そのためドクター・・・・・・というより、元を正せば我々のスポンサーからですね。
資金など諸々の支援を受けて、マリアージュの量産体制を確立するために研究開始』

「・・・・・・やっぱり、なんだね」

「でもフェイトさん、そうなるとその・・・・・・管理局は。というより、最高評議会は」

『そういう事よぉ。ふふ、本当に面白い図式よねぇ』



つまりトレディアは結果的に最高評議会からの援助も、スカリエッティ経由で受けていた? なんというか皮肉だよ。

今の次元世界に不満を持つ活動家の支援を、管理局のトップがしちゃってたんだから。



「そこまでは姉とトーレも聞いている。ちなみにその件については当然」

「彼らに話すわけがないだろう? というより話す意味がない」

「まぁ、そうでしょうね」





それでトレディアは確か新暦の63年にスカリエッティと遭遇して、そこから協力関係が発生したんだよね。



・・・・・・それだけの時間とスカリエッティの技術的支援があれば出来るよ。



作成技術そのものがロストロギア級とされるマリアージュの量産体制も、きっと作れる。





「それでドクター、マリアージュの現在の稼働数やその量産体制・・・・・・いや、トレディアは今どうなっている?」

「・・・・・・ふむ。どうやらまずは君達の勘違いを正すところからだな」

「勘違い?」

『そうよぉ、トーレ姉様。マリアージュの詳細を知っているのなら、もう大体の想像が付いていいはずでしょ?
・・・・・・最終生産数は私達にも不明よ。だってアレは、人の死体を元に現地で作るインスタント兵器だもの』



あ、そっか。一種の現地生産兵器だから、元々細かい数の把握が難しい兵器なんだ。

じゃあ、大量にマリアージュがミッドに入り込んでる可能性もある? それも数百・数千というレベルで。



『ですがマリアージュには問題もあります。マリアージュは自律行動型で戦闘能力の高い人型兵器。
人語を解する事も可能ですが、作戦行動能力や思考能力に関しては極めて低いんです』

『もっと言えば単純。簡単な命令しか聞けないお人形さんなのよぉ。本当に変な兵器』



私はギンガが二人の言葉を聞いて、少し考え込むような顔をしているのに気づいた。とりあえず念話を繋いで聞いてみる。



”ギンガ、どうしたの?”

”いえ・・・・・・実はマリアージュ、フェイトさん達が居たビルやあの火災があったホテルに侵入するために、服飾強盗をしてるんです”

”服飾強盗?”

”えぇ。ただそのやり口があまりに乱暴で、どうしてこんな目立つ手を使ったのかなってウエバー執務官共々疑問でした”



・・・・・・あぁ、言いたいことは分かったよ。多分それで間違いないと思う。



”つまりマリアージュの作戦行動能力が低いから、単純で分かりやすい手を取っていた”

”多分そうだと思います。そう考えていくと、色々な事にも納得が出来るんです。
どうして犯行がいちいち派手になるのかとか、そういう部分も”



マリアージュは本当に単純な命令しか聞けないんだ。だから行動が大雑把になりがち。

でも、それが逆に怖い。周りの状況を見ないで平然と自爆とかやりそうだもの。



「そして冥王イクスヴェリアだ。ここも君達が勘違いしている部分だが・・・・・・『冥王イクスヴェリア』は人ではない」



何を言っているかが分からなくて、私達四人は顔を見合わせる。・・・・・・どういう事だろ。

昔の王様は自分の身体を改造とかしていたらしいし、そういう意味合いでなのかな。



『アレはマリアージュを量産するためのコントロールコア母体・・・・・・生体ユニットです。
適切な量のエネルギーを供給すれば、体内から無限にコアを生み出す』

『それが残虐非道なんて言われている冥王・イクスヴェリアの真の正体よぉ。
『ロストロギア』イクスヴェリアを所有し、マリアージュを製造・操作していた人間こそが真の冥王だった』

「細かい姿形は私達にも分からないが・・・・・・そうだな、年若い女性の格好らしい」



つまり、その生体ユニットであるイクスヴェリアとマリアージュは一揃えの兵器。

・・・・・・アレ? でもちょっと待って。ヤスフミやなぎひこ君達にティアの話だと。



「・・・・・・じゃあもしかして、トレディア・グラーゼが見つけた『マリアージュ』って。ううん、イクスヴェリアの所在は」

『フェイトお嬢様、正解〜♪ イクスヴェリアはトレディアの手の中にはなかったの。もちろん私達もそんなものは持って無かったわ。
あのおじさまが見つけたのはマリアージュの生成方法を記したものの断片と、それに必要な現存していたコントロールコアだけ』

「ではマリアージュの生成方法がロストロギアクラスの技術とされていたのは、そのコアが既存の技術では生産が不可能だからか」

「そしてその生成方法は、そのコアを用いた上でのアレコレという事か」



チンクとトーレが納得したという顔で、クアットロが映るモニターを見ながらそう言う。

それを聞きながら、私は先程の自分の考えを少し修正していた。



「つまりドクター達がトレディア・グラーゼと協力して整えた『量産体制』はそれか。
現存していたコアを使用した上でのマリアージュの生産技術の復元作業」



ここが修正部分。でも、一応は天才科学者なのにそれでも無理だったんだよね。

もしそうなら、イクスヴェリアが手元になくてもあの時にマリアージュは出てるはずだから。



『そうよ。私達も協力して色々試したんだけど、コアの再現と量産は不可能だったのよぉ』

「ゆりかごのオーバーテクノロジーなども参考にしたんだが、どうにもダメでね。
まぁ、既存の技術だけでオーバーテクノロジーを1から復元しようというのも、矛盾している話だが」



じゃあ逆を言えば、そのコア以上の数のマリアージュは作れない?

でも現存している数は・・・・・・私はいつの間にか落ちていた視線を上げて、ウーノとクアットロの方を見る。



『そしてトレディア氏が行っていた実験や追加調査の中で、手持ちのコアの数も増えたり減ったりしていたようです。
フェイトお嬢様、先程私達が正確な稼働数が分からないと言った理由の一つがそこです。この辺りはトレディア氏の独壇場でしたから』

「ウーノ、協力体制を取っていたにも関わらずそれなの? 例えば監視とか」

『それもありませんでした。私達と居ない間の事に関してはあまり』



マリアージュという兵器の特性上、トレディアは研究施設を内戦地域に置いていたらしい。理由は死体の確保がしやすくなるから。

でもスカリエッティや他の人間がそんな所に寄り付くわけにはいかなかったから、基本別行動だったとか。



『なにより・・・・・・トレディア氏が我々を裏切るとは考え難かったですから』

「・・・・・・それほどに今の世界に不満を持っていたんだね」

『そういう事よぉ。あのおじ様も私達と同様という事ねぇ。
というより、裏切って得する理由が無いわよぉ。基本目的が同じなのに』



スカリエッティや元ナンバーズの子達の一部も、現状の世界やそのありかたに疑問を持っていた。

だからこそテロを起こしたり、その前の色々な犯罪行為に手を染めていたわけだから。



「そうだな。以前の私と同様・・・・・・・いや、もしかするとそれ以上か? 彼は世界を憎んでいた。
どうも彼は各地に未だに残る紛争地域と、ミッドを含む主要な都市との落差に絶望したらしい」

『私もあの話は良く覚えています。それでトレディア氏は嘆いていました。なぜ自分が戦っていた場所とこんなにも違うのか。
なぜ今この瞬間にも無意味なものとして消される命や時間があるのに、この世界の連中はそれを無いものとして扱うのか』





その言葉を聞いて・・・・・・胸が痛くなったのを感じた。それはある意味では当然とも言える矛盾。そしてエゴ。

私達は『平和な世界』で生きている。でも、そうじゃない人達も居る。それは知識では知っている。

まぁ私はその・・・・・・戦う道を選んでるから、そういう現場を見る事もある。だから一般的な人達よりは知ってる。



でも、ただそれだけ。普段の私はやっぱり平和な世界で生きていて・・・・・・その『普段』が戦いだと言う人達が居る。

もっと言えば、戦いが日常で平和が極々稀・・・・・・異常とも言える時間を生きている人達が居るの。

でも私達はどこかでそれをゲームやアニメ、漫画やドラマの世界の中の事と捉えている部分がある。だからその差を受け入れる。



・・・・・・うん、最低だよ。最低なエゴだと思う。私もたまにこういうのは良く分からなくなってくるから。

どっちも『現実』で、どっちも一つの『世界』で・・・・・・同じ時間に存在しているもののはずなのに。

なのになぜか私達は、メディアを通すと、それが身近で起きていないと・・・・・・リアルに感じる事が出来ない。



世界に確実にあるもう一つの『現実』の痛みを、そこにある沢山の悲しみや苦しみを。





「トレディア・グラーゼはある意味では『仕方ない』と言われても当然な格差に納得が出来なかった。
だからこそ我々の同志になったし、マリアージュに手をつけた。そして革命が必要だと常々言っていたよ」

「革命?」



ギンガがスカリエッティの言った言葉に嫌なものを感じて、そう聞き返した。

それは私も同じ。無限書庫でのみんなとの考察のアレコレが一気に頭によぎる。



「世界は痛みを知らない。人々は夢の中で生きているも同然。だからこそ自分が痛みを教える。
そのためのマリアージュであり、そのためのイクスヴェリアだ・・・・・・とね。そして」

「そのための各主要都市の襲撃計画・・・・・・なんだね」

「そういう事だ」





なるほど、そういうことなんだ。でもこれではっきりしたよ。トレディアの目的はイクスヴェリアだ。

イクスヴェリアとマリアージュ、この二つが一揃えの兵器生産・運用システムであることは、もう疑いようのない事実。

マリアージュを的確に運用するためには、材料である死体を除けばどうしてもイクスヴェリアが必要になる。



そう考えるとロストロギア関連のブローカーや研究者を襲っていた理由も分かってくる。多分情報を欲した。

マリアージュを使って、古代ベルカの研究者やブローカーにイクスの事を聞いていたんだ。

そしてそれを知られないために、聞くことを聞いたらその結果を問わず、自爆なり肉体操作や洗脳なりで殺害していた。



マリアージュが絡んだ一連の事件は、単なる連続殺人なんかじゃなかった。



これは次元世界・・・・・・『痛み』を知らない人達を対象とした、大規模テロの準備だったんだ。





「・・・・・・そしてトレディアの調査でイクスヴェリアの所在地は判明したらしい。
とても嬉しそうに語っていたよ。だが・・・・・・問題があってね」

「問題?」

「あぁ。彼はその直後・・・・・・3年前に死亡してるんだよ。
あの祭りの1年前、施設内部の事故でマリアージュに喰われてね」



・・・・・・言っている意味が分からなかった。それは私もそうだしギンガやチンク、それにトーレも。



「待って。スカリエッティ、それは・・・・・・・それは本当なの?」

「本当だ。だからこそ我々も彼の参加やマリアージュの運用を諦めた。
というより、イクスヴェリアの所在が分からなければどうしようもないだろう」



確かに・・・・・・単純な特攻兵器としてしか使えない。

少なくともイクスヴェリアと組み合わせた時の驚異は無い。



「ちょっと待てドクター、姉は納得出来んぞ。それならそれで現存してるマリアージュだけでも押さえれば」

『それがおかしいのよぉ。そこに気づいてから私達も当然チンクちゃんと同じことを考えて、マリアージュやコアを回収しようと思ったのよね?』

「そこの辺りをドゥーエに頼んだんだよ。彼女もここの辺りの事情を知っていてね」



ドゥーエ・・・・・・現在も消息不明のナンバーズの次女だね。単独行動していたその人に調査を頼んだらしい。

ただ、マリアージュの特性を考えると危険度が大きいので、あくまでも調査に留めるようにと相当強く言ったとか。



『それでドゥーエ姉様の報告を受けたら、ドクターもそうだし私達もうビックリしっちゃったのよぉ。
研究施設から生産したマリアージュやコアにトレディアの研究資料、その全てがごっそり消えてたの』

『当然ですが、イクスヴェリアの所在を確かめられるようなものもなかったそうです。
ここはクアットロを向かわせて再調査もしたので・・・・・・間違いありません』

「はぁっ!? ちょ、ちょっと待てっ! それはどういう事だっ!!」

『あぁもう、チンクちゃん落ち着いて? それは私達もすっごい疑問だったんだから』



私は画面の中のクアットロやウーノ、目の前のスカリエッティを見る。でも・・・・・・嘘をついている感じはしない。

というか、ここまで話して嘘をつく理由がない。だって私、隠すようなら遠慮なくまた強硬手段に出るし。



『内戦地域ですし、外部の人間が持ち出したとも考えたのよ?
けど、そういう無理矢理な侵入や強奪・戦闘の痕跡はなかったのよねぇ』



・・・・・・あ、そっか。実験中の事故でトレディアが亡くなってそれなら、その外部の人間はイレギュラーな存在だよね。

だったらマリアージュ達と戦闘になってもおかしくない。でもその痕跡はなかった。だったら、考えられる事は一つだけ。



『少なくとも外部の人間がどうこうじゃないわ。誰か別におじさまの協力者が居たのね。
でもあのおじ様に私達以外の協力者が居たとかは聞いてないし・・・・・・謎よねぇ』

「じゃあ・・・・・・え、どういうことですか。それ」





ギンガが顔を青くして、狼狽している。ううん、そこは私もそうだしチンクとトーレもだよ。・・・・・・まずトレディアは死亡。

現存しているはずの生産したマリアージュやコアや資料は3年前から完全にその行方が分からなくなった。

でも今現実に、実際にマリアージュを使った事件は起きてる。私はヤスフミ達と一緒にそこに遭遇したんだから。



つまり、誰かがマリアージュを使っているのは間違いない。でも・・・・・・誰なの?

トレディアはオルセアで活躍した活動家らしいし、オルセア関連で誰か協力者が居るのはまぁ予想出来る。

それもスカリエッティ達も知らないような人間。だけど・・・・・・まずい、これまずいよ。



それは現段階では、私達にはどう足掻いたって分からないかも知れない。

それをやるにはあんまりに情報が少なすぎる。お手上げだって言われたらその通りだよ。

そこを知っているトレディアが死亡してるなら、彼をツツいて調査という点は当然だめ。



どうしよう、真実が分かるどころか・・・・・・完全に行き詰まりパターンだ。



このままじゃ後手に回り続けて、いずれJS事件レベルで大きな事に発展する可能性だって・・・・・・!!





「じゃあ一体誰がマリアージュを使って、今までの犯行を重ねてるんですかっ!?」



ギンガの叫びと疑問に答える声は・・・・・・どこからもなかった。

でも、それはある意味当然かもしれない。だってこれは私達全員の疑問でもあるから。



『サーティーン、そんなの私達も知らないわよぉ。てゆうか、私達が聞きたいくらいなのよ?
あー、でもちょっと待って。ドクター、確かイクスヴェリアってミッドに無かったですっけ?』

「そうだったか?」

『ほら、そんなような話をすごい嬉しそうにしてたじゃないですか。それで海のあれこれがどうのこうのとか』



クアットロにそう聞かれて・・・・・・スカリエッティが思い出したように頷いた。



「あぁ、そう言えばそうだった。子どもの頃に読んだ冒険譚のように、海の底に宝はあったとか言っていたな」

「・・・・・・海の底?」

「単純に聞くなら、海の底にイクスヴェリアが居たという事か。だが生体ユニットで海底・・・・・・溺死するよな?」

「いやチンク、そうとも言えなかろう。例えば何かの保護シェルターの中に入れられて・・・・・・いや、ないか。
それなら普通に発見されてもおかしくなさそうだ。ではどこだ? いや、それ以前に海底ではマリアージュがいけるかどうか」



四人でそこの辺りについて唸っていると・・・・・・あれ、何か聴こえる。



『見ーつめーないで♪ 捕まえーないでー♪ 迷い込んだーバタフラーイーーー♪』

「・・・・・・なんだ、この歌は。フェイト・テスタロッサ、君か」

「違います。確かに声が似てますけど・・・・・・というかこれ、迷宮バタフライだ」

『迷宮バタフライ? またロマンチックなタイトルねぇ。でも本当に声がそっくりだけど、フェイトお嬢様じゃないのぉ?』

「うん、本当に違うよ。地球に居るほしな歌唄という歌手の代表曲なんだ」



でも誰の着信? 私は違うし、ギンガもキョロキョロしてるから違う。

トーレも・・・・・・アレ、トーレが顔赤くしてる。というか懐から端末取り出して、素早く隅に踞った。



「・・・・・・もしもし、私だ」



トーレッ! え、どうしてトーレが・・・・・・というか、普通になんでコレっ!?



『え、今のアイドルチックな着メロ、トーレ姉様だったのっ!?
あはははは、いがーいっ! というか、地上に降りたせいでキャラ変わり過ぎっ!!』

『クアットロ、笑うものでは・・・・・・ぷぷぷ』



ウーノ、あなたも笑ってるよねっ!? 確かに色々キャラ違うけど、普通にビックリだけどそれでもダメだよっ!!



「クアットロ、ウーノもあまり言わないでくれ。姉もどうしてああなのか分からないんだ」



・・・・・・チンクはそう言ったけど、私は理解出来た。多分ヤスフミの影響だ。もしくはディードだね。

それ以外にトーレ・・・・・・隔離施設メンバーに歌唄の歌が伝わる理由が分からないもの。



「・・・・・・なんだってっ!!」



蹲っていたトーレが立ち上がった。当然だけど全員がそちらを見る。そしてチンクがすぐにトーレに声をかけた。



「トーレ、どうした」

「・・・・・・話すより見てもらう方が早いな。全員これを」



言いながら振り向いたトーレが空間モニターを開く。そこには・・・・・・嘘。

何これ? 雨が降ってるはずなのに海が赤く燃えてて、鉛色の空の色さえも変わってる。これは、火災?



『あら、綺麗〜♪』



そうのんきに言い切ったクアットロに苛立ちを感じたけど、ここはいい。

・・・・・・うん、こういう時こそ冷静にだよ。私だってハードボイルド、通すんだから。



「ミッド海上のマリンガーデンでリアルタイムで起きている火災だそうだ。そうだな、ディエチ」

『うん。陸士隊も防災隊も総出の大騒ぎになってる。それで災害特例として、私達も出動命令がかかって現場に来てるんだ。
トーレ姉もチンク姉も、すぐに戻ってきて。・・・・・・あぁ、それとまだあったんだった。あの、そっちにフェイトお嬢様居るよね』



音声だけだけど、ディエチが私に話を振ってきた。私は首を傾げつつもそれに答える。



「うん、居るよ。ディエチ、どうしたの?」

『まず連絡事項が一つ。マリンガーデンにマリアージュが出てきています。あっちこっちで姿が確認されてるから間違いない』





じゃあこの火災は・・・・・・ちょっと待って。確かマリンガーデンって、海底遺跡が無かった?

建設途中に見つかったもので、そのまま残して施設の一部にしてるとか。

そうだよ、つい昨日ヤスフミとミキちゃんとそういう話をしたばっかりだよね。うん、してるよ。



じゃあもしかして、マリアージュ・・・・・・ううん、犯人の目的は・・・・・・!!





『あ、初期段階の避難誘導は奇跡的にうまくいって、今のところ死者は0だから安心してください。というか・・・・・・ほら』

『・・・・・・フェイトお嬢様』



あれ、ディード? どうしてそんな泣きそうな声・・・・・・ちょっと待って。

確か今、ディエチ達は現場に居るんだよね。なのになんでディードが居るの?



『ハラオウンさん、俺も居ます』

「海里君までっ!! ・・・・・・なにか、あったの?」

『はい。実は・・・・・・私達、あむさん達の気晴らしになればと思って、マリンガーデンに来てたんです』



血の気が引いた。それだけで今までのあれこれが納得出来て・・・・・・マズイ、震えが来てる。



『それで爆発が起きて、その混乱で・・・・・・・ジョーカーとキング、エースとはぐれてしまったんです。
すごいパニックで、三人とも人の波の中に飲まれる形で・・・・・・それで戻る事も出来無くて』

「じゃあ、もしかして」



・・・・・・私はもう一度あの炎に包まれた中を見る。そして、怖くもあるけどそれでも聞いた。



「あの中にまだあむ達が残ってるの?」

『・・・・・・そうです』










・・・・・・もしも本当に神様が居るなら、本当に性悪で意地悪だと思った。というか、ちょっとキレてる。

あむ達にはこころの中に強い力があるけど、それでもまだ子ども。

だから今回だって、ヤスフミの背中を押すという形で留まってるけど戦う事を選んだ。





なのに、それなのに・・・・・・流れはあむ達にも『現実』を無理矢理に知らしめようとしている。





それが私は腹立たしかった。だってそれは、あむ達の命が無理矢理に対価として支払われるかも知れないんだから。




















(第65話へ続く)





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あきゅろす。
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