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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第29話 『こころが輝いている人は、何をしても美しい』(加筆修正版)



前回のあらすじ。最強の敵であり最愛の人、高町なのはとの決戦を控えたユーノは修行を開始した。

その修行を手伝うためにやってきた恭文とアルトアイゼンによって、一つの進化の道筋が示された。

それはユーノが1000年に一度現れるという、あの伝説のスーパーユーノ人になるというものだった。





静かなる怒り目覚めし時、内から現れる巨大なパワー。その力こそ、高町なのはを打ち破る切り札であった。

しかし、覚醒のための修行は困難を極め・・・・・・・膝をつき倒れるユーノ。スーパーユーノ人への進化を諦めかけてしまう。

だがその時、ユーノの脳裏に仲間のピンチの様子が浮かんだ。そしてユーノはまた立ち上がる。





果たしてユーノは、今なおなのはの驚異によって危険に晒され続ける仲間とミッドの危機を救う事が出来るのか?





頑張れユーノ。全てはお前がスーパーユーノ人になれるかどうかにかかっているんだー。





















とまとんぼ〜るZ


第29話 『超絶パワー覚醒っ! これが最強スーパーユーノ人だっ!!』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・って、ちょっと待ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

「ユーノ先生、どうしたんですか?」



お昼を食べ終わって、お仕事もあとちょっとという段階。そこで突然ユーノ先生が叫んだ。

当然だけど無重力の無限書庫内は軽く騒然となる。・・・・・・マジでどうしたんだろ。



「今のナレーションとタイトルコールなにっ!? もうタイトルから丸々間違ってるしっ!!
そしてどうしてまだスーパーユーノ人のネタを引っ張るのさっ!!」

「・・・・・・いや、間違ってないですよね?」

≪そうですよ。どこがどう間違ってるんですか? この話はずっと前から『とまとんぼ〜るZ』だったんですし≫

「違うからっ! 全てのくだりが丸々間違ってるよっ!!
内容自体は間違ってないけど、説明が間違ってるからっ!!」



無重力な無限書庫の中、普通に僕とアルトは困ってしまう。いや・・・・・・これ、普通だよね?

ほら、正しい形じゃないのさ。どこがどう間違ってるのか、よく分からないし。



「というかこれ、ドラゴンボールのOPだしっ! OPのナレーションだよねっ!?
そしてタイトルまでそれ風味ってどういう事かなっ! これリリカルなのはの話だよっ!?」

「ユーノ先生、大丈夫ですよ。世の中には、ドラゴンボールとクロスした話もありますし」

「そういう問題じゃないからっ! そして他はともかくここではクロスしてないよねっ!?」



本当にユーノ先生は前回から色々と文句が多いなぁ。さすがにちょっとイラってくるよ?

何がそんなに不満なのさ。てーか、それならそれでひとりでなんとかしろってーの。



≪仕方有りませんね。だったら今後は全て一人でなんとかしてください。
言うなら『20歳から始めるひとりでできるもん』ですよ。一人で高町教導官を落としてください≫

「うん、そうだね。それで一人でこの後の調べ物とかもやってください。僕達はもう帰るんで」



それで振り返って、入り口目指して帰ろうとする。すると、ユーノ先生が両手で僕の左足を掴んだ。



「それはやめてー! 今ここで帰られたら、僕達また定時越えにー!!」

「いや、よくよく考えたら僕達無関係だなって気づいたんで。ほら、いいじゃないですか別に」

「分かったよっ! 僕が悪かったから本当にそれだけは・・・・・・それだけはー!!」

≪じゃあ土下座してくださいよ。それで読者に謝ってくださいよ。出演者なのにゴネてすみませんでしたって≫

「謝るよっ! 土下座でもジャンピング土下座でもなんでもするから、帰るのだけはやめてー!!」










まぁ僕達も鬼ではないし、そこまで言うのであれば納得した。途中で仕事放棄するのもアレだしさ。





鬼ではないので土下座は無しにしたけど、とりあえずユーノ先生にはスーパーユーノ人に覚醒してもらう事にした。





この辺りでまた色々とゴタゴタするけど・・・・・・ここは気にせずに行こう。




















魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝


とある魔導師と機動六課の日常


第29話 『こころが輝いている人は、何をしても美しい』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・いやぁ、疲れたね」

「いや、そう言いながら楽しそうだったじゃないのさ」



時刻は夕方。美由希ちゃんのミッド観光ツアーも滞りなく終了。

それで美由希ちゃんを隊舎まで送る途中。なお、レンタカー借りました。



「いや、でも楽しかったなぁ。独身時代に戻ったみたいだよ〜」

「戻りたいの?」

「・・・・・・まさか」



今回はちとやりあっちゃったけど、これくらいは昔からだしね。いや、昔よりはマシかな。

出会ったころは本当に凄かったしね。全然笑わないし話そうともしてくれないし。



「うん、なら安心だ」

「あー、ごめんね」



もしかして、私の事も込みで来てくれたのかな? だとしたら、悪いことしたなぁ。



「てゆうか美由希ちゃん、心配してくれてこれ?」

「別にそれだけってわけじゃないよ。可愛い妹の様子も、ちょっと見ておきたかったしね。・・・・・・ね、エイミィ」

「うん?」

「なのはのケガ、相当ヒドイの?」

「・・・・・・え?」



いや、お母さんやフェイトちゃんから聞いて知ってはいたよ。

でもなんですか、その聞き方は。だって、まるで知らなかったみたいに。



「昨日のなのはを見るまでは確証が持てなかったんだ。
まー、この間帰って来た時にも、変だなとは思ったけどね」



なのはちゃん・・・・・・! 家族に言ってないってどういうことっ!?



「なのはは私達に心配をかけたくなかったとかだと思うから、そこはいいよ。・・・・・・それで、どう?」

「・・・・・・私も伝え聞いたくらいなんだけどね。なのはちゃんの身体に後遺症みたいな感じで、ダメージが残ってるんだって。
ただ無茶しなければ完治はするものだし、今すぐどうこうって話じゃない。本人も治す気満々なんだって」

「・・・・・・そっか」

「そうなのよ」



そのまま美由希ちゃんは黙った。なに考えてるかなんて・・・・・・推測するのは、野暮だよね。

私は静かに小型の車を運転。その間にも夕日が、さっきより少しだけ落ちている。



「それならまぁ、大丈夫かな。フェイトちゃんやヴィヴィオも居るし、恭文がなんだかんだ言いながら面倒見てくれるし」

「・・・・・・あれは見てるって言うのかなぁ」

「見てるんだよ。なのはだってそれが分かるから、どんなにいじめられても友達だって言えるんだし」

「そっかぁ」



そっか、そうなのか。じゃあ私が昔から思ってたあの仮説は間違いなんだね。うん、良かったよ。

私、普通になのはちゃんはすっごいマゾで、いじめられるの好きなのかなーって思ってたから。



「あー、私も質問」

「うん?」



とりあえず私も心配事があるので、軽く触れてみる事にした。



「恭文くん・・・・・・大丈夫だった?」



・・・・・・色々あったしなぁ。そしてとどめはお母さんのKYだもの。



「うん、大丈夫。というかエイミィ」

「ごめん。美由希ちゃんのアドバイス通りにはしてたのよ。・・・・・・私とアルフは」



アルフも事件後のアレコレに口出ししたこと、相当反省してたからここは楽だった。

自分でその相手の概要を調べたりもして、それで結論を出したというのも大きいね。



「でもリンディさんはそれじゃあ不満だったと」

「みたい」



というか、美由希ちゃんの声が呆れてるような感じがする。もう怒りを通り越してなんとやらってやつ?



「とりあえず恭文の状態は大丈夫だよ? フェイトちゃんやリインちゃんにアルトアイゼンも居るし。
・・・・・・でもエイミィ、普通にしばらくは距離を取らせた方がいいと思うな」



そしてその声のまま、そんな事を言う。・・・・・・とりあえず私は運転しながら頷いた。

いやさ、普通にそれしかないって。とりあえずはお母さんの考えが変わるまではさ。



「恭文、普通にリンディさんと関わるのに嫌気が差してる。というかそこは私もだね。
フェイトちゃんから軽く話は聞いたけど、悪手打ち過ぎるよ」

「そうなんだけどね。ただ、恭文くんが将来的なアレコレを考えてるように見えないって言うお母さんの話も分かるの。
例えば夢とかさ、そういうのもこう・・・・・・明確な形では教えてくれた事ないんだよ? どんな職業に就きたいとか」





もっと言うと『どんな大人になりたいか』という事だね。恭文くん、その辺りを話してくれた事がない。

ヘイハチさんみたいに強くなりたいというだけじゃだめなんだろうね。

もっと明確な形をお母さんやアルフは欲してるから。まぁ、かく言う私もそこはちょっと思うの。



別に局に入れとは言わないよ。でも・・・・・・それだったらどうしたいのかなーとは。





「・・・・・・エイミィ、それ本気で言ってる?」



え、今度は私が呆れられてるのっ!? ・・・・・・いや、私を含めた家族全員かな。



「えっと・・・・・・もしかして美由希ちゃんはそういうの聞いてたりする?」

「聞いてないけど、恭文を見てるとどんな風になりたいかくらいは普通に分かるよ?」

「え?」

「そこは恭ちゃんにうちのお父さんとお母さんもだね。もちろん警防のみんなも同じく。
フィアッセやスクールのみんなも普通に分かってると思うよ?」

「えぇぇぇっ!?」



とりあえず私は車を停める。だって、前赤信号だし。停めて、左側の助手席に座る美由希ちゃんを見る。



「そ、そうなのっ!?」

「そうだよ。恭文の今までの行動とか在り方を見てると、自然と分かるのになぁ」



え、そうなのっ!? じゃああの・・・・・・え、もしかして気付かなかった私達ってダメなんじゃっ!!



「ならあの、それって・・・・・・って、ダメだよね」

「うん、だめ。恭文にとっては本当に大事な夢だと思うから、いくらエイミィでも話せない」



私は前に視線を戻しながら、そこは・・・・・・うん、納得。普通はそうだよね。

だって美由希ちゃんは気づいた事が正解かどうかは分からないし、それを抜きにしてもマナー違反だよ。



「でも美由希ちゃん、それはお母さんには言わないでね? 私もちょっと黙っておくから」

「知られると私達、詰め寄られそう?」

「詰め寄るね。お母さん、恭文くんに『いらない』って言われた事が相当ショックだから」



その上、家族以外の人間は見ていて気づいてコレでしょ? 絶対に納得しないでまた荒れるって。



「でも、どうして話してくれなかったんだろ。私達も何回か聞いたりもしてるんだよ?」

「うーん、多分話しにくい事だからだね。・・・・・・うん、話しにくい事なんだと思う。
エイミィがさっき言ったみたいに『どんな仕事に就きたいか』という事だけでは括れないから」

「えっと、そういう系統?」

「そういう系統だね。もちろん私の予想通りになら・・・・・・だけど」










そういう系統かぁ。だったら余計にお母さんに今の段階で話すのは躊躇われるな。

まぁアレだよ。あの子の今までを振り返って、今までの美由希ちゃんの話を鑑みて、ちょっと分かった。

分かったからこそ、自信を持って言えてしまう。多分お母さんは恭文くんの夢を否定する。





それが今以上に自分の言葉や選択、持っている価値観や常識を否定するものだから。





というか、それだとマジで失敗だな。だって恭文くんは最初から・・・・・・私達に夢を話してくれていたんだから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



とりあえずアレだ。いつ頃突入OKとかその辺りのタイミングを図る必要が僕にはある。

正直、恭文には六課入りから面倒をかけまくっているんだ。これ以上は被害を被らせたくはない。

そのために僕は、色々と手を講じた上でうちの使い魔と秘密の通信だ。





もちろん自分の執務室で、こっそりと・・・・・・今回は音声オンリーだ。










『クロノ、とりあえず・・・・・・アレだ。アンタはいい感じで理由にされたのかも』

「恭文の局入りを説得するためのダシにされたわけか。
もっと言えば、恭文の無茶を止めるための理由作り」

『それで一緒に暮らしてる時と同じようにして、距離感を縮めて・・・・・・って計画だったんだろうね』



現在、我が子達はお昼寝だ。話したくはあるが、通信していた事がバレるとマズイ。

当然だが母さんも居ない。普通に買いものに出てるとか。



『よくよく考えたらさ、確かにおかしいんだよね。なーんでわざわざ恭文の家に行く必要があるんだろ』



つまりだ、僕にアレコレ言われたことは実は・・・・・・いや、それ相応に気にしていた。僕は母さんを傷つけたんだ。

僕はそう思う事にする。それにほら、僕が失言をかましたのもまた事実だからな。



『でもクロノ・・・・・・アンタは恭文の事見てて、不安とかない?
ほら、アイツってじじいみたいに強くなるーって事以外は』

「まぁ職業の中に夢を描くのとはまた違うな」

『そうなんだよ。ほら、アイツ最初が最初だったじゃん? 母さんもアタシもその時の様子見てたから・・・・・・うん、分かるんだよ。
でももしかしたらそれを気にする余り、力や強さがあればなんとかなるとか思ってるんじゃないかって、不安だったんだよ』



それが母さんの言うところの『過去に引きずられている』だ。それにより、恭文が夢や将来を描けなくなっていると考えた。

だから自分の誘いどころか、周りの色々な誘いにも頷かずにずっと嘱託で居ると考えたのだろう。



『もちろんアイツが色々頑張ってるのも分かる。それは・・・・・・分かってるんだ。
でもさ、フェイトやなのは・・・・・・ううん、他の子みたいにして欲しかったんだ』

「局に入れ・・・・・・か?」

『少し違う。母さんはともかくアタシはさ、なんだってよかったんだ。特に最近はそう思い始めてた。
例えばケーキ屋になりたいでも、探偵になりたいでも、お嫁さん・・・・・・あ、これは違うな』



そうだな。アルフ、それだと恭文が女性になるぞ。むしろそこはお婿さんだろう。



『カレルやリエラがさ、最近そういう事言うんだよ。こうなりたいとかあんな仕事したいーとか。沢山夢が出来てキラキラしてる。
それ見てるとこう・・・・・・恭文にも強くなる事以外で、なにかこう・・・・・・あぁごめん。なんかうまく言えない』

「いや、言いたいことは分かる。それは僕も少し思っていたところだからな」



ようするにだ、『強くなる』というのは単一的な目的に見えるわけだ。それが一番の不安要素と言える。

恭文を見ていて母さんやアルフ、フェイトなどは『強くなって何がしたいか』というのが見えなくて不安なんだ。



「だからこそ母さんやアルフも局入りを勧めていたわけだしな」



戦う事から離れるのが難しいなら、それに沿う形の仕事から始める。その場合確かに管理局は最適なんだ。

恭文は魔法資質も能力もあるから充分に出世も見込めるし、福利厚生もバッチリだ。・・・・・・色々な問題に目を瞑れば。



『まぁね。・・・・・・あんまうまく伝わらなかったけど。なんかダメだね。
言葉や持ってる想いって、なんでストレートに伝えるのが難しいんだろ』

「なんでだろうな。本当に思ったままの感情をそのまま伝えられれば楽なんだろうが」



例えばエイミィに対してなどだ。あぁ、真面目に早くなんとかしたい。



「とにかくそこはフェイトが恭文と話しているらしいし、フェイトに任せた方がいいだろう。
・・・・・・僕達は揃ってアイツに迷惑をかけまくっているからな。今口出しするとまたこじれるぞ」

『うん、そこはフェイトからメールで聞いてる。あと・・・・・・アイツがJS事件で何を感じたかとかもさ。
全部じゃないけど軽くは。まぁアタシはいいよ。うん、ちょっと納得出来ない部分はあるけどさ』

「心配か?」

『そりゃあね。・・・・・・うん、納得は出来ないかな。アイツ見てて感じる不透明な部分、やっぱ消えないから。
あとは局の良さも分かって欲しいとはちょっとは思う。あ、ここは入るかどうかとは別だよ? やっぱフェイト達が気にするし』



まぁここは仕方ないのだろう。というより、ちゃんと話していない恭文もまた悪いと思う。

・・・・・・相当に自分の事を棚に上げた発言なのは承知しているので、留意して欲しい。



『で、それはお母さんもアタシと同じく。だから手を払いのけられて絶縁言い渡されたのが、本当に納得出来ないんだよ。
空気読まなかった事は認めてるけど、それでも。なんとか話そう話そうとしてるけど、それはアタシとエイミィで止めてる』

「そうだな。今話しても結局は同じことの繰り返しになるぞ。・・・・・・母さんはお前とはまた違うんだろうな」

『違うよ。下手するとアタシやフェイト以上に局に入って欲しがってたしねぇ。
ね、クロノ。変な事聞くようだけど・・・・・・局って今、相当微妙な目で見られてるの?』



アルフが少し声を潜めてそう聞いてきた。僕は質問の意図が分からなくて・・・・・・少し考える。



「・・・・・・なるほど。『古き鉄』が局に恭順し、その思想に理解を示したという事実が欲しかったと」

『そうそうそれ。いや、まさか・・・・・・だよね?』

「正直ここはなんとも言えないな。だが、実際母さんがそうするだけの理由は出来ている」



つまりだ、『古き鉄』が局に入り、組織の理念や規律に恭順したという事実を欲した。

もちろんここがメインではないだろうが、母さんが事を急いだ要因の一つには成り得るんだ。



「アルフ、さっきのお前の質問の答えは・・・・・・イエスだ。JS事件もそうだが、1年前のあれこれもある」



1年前、僕達・・・・・・違うな。恭文がある人達と一緒に主立って解決した事件がある。それはとても大きな事件でな。

その事件の色々な余波で、元々局への支持率や信頼は下がっていたんだ。つまり、JS事件がダメ押しになっている。



『あぁ、アレかぁ。つまり連続で来ちゃったから、余計にと』

「そういう事だ」





総務統括官という立場上、母さんはここ1年でがた落ちになった現状を、非常に嘆いていた。ただ、ここも無理はない。

局・・・・・・警備組織は、市民から理解を得られなければ有事の際の活動に支障が出てしまう。

だからこそ、市民からある一定の信頼と理解を得らなければならない。そしてそのための努力をしなければならない。



そして今、何気に管理局という警備組織は、その最低ラインの信頼を保てるか否かの瀬戸際に立たされている。

それを局内に居る誰もが感じているから、必死に組織改革の動きが組織全体で起きているんだ。

この場合、有効な手は何か? それを考えた上層部は、優秀な魔導師のスカウトに乗り出している。



なのはやフェイト、はやてのような二つ名を持つ優秀で知名度の高い魔導師だ。

そういう人間は嘱託だったり、局以外に何人も居る。そんな人間を局員にして、どうするつもりか。

・・・・・・一種のプロパガンダ戦略に利用するんだ。あとは全体の士気向上だな。



組織が変わろうとしている。そんな組織を認めて、彼らは力を貸してくれた。上は上手い形でそういう風に噂を流す。

そうやって市民の印象を良くして、さっきも言ったように局員全体の士気も上げようとしているらしい。

つまり、母さんがこの段階で恭文を局に入れようとしたのは、もしかしたら同じ事を狙った可能性があるという事なんだ。



もちろん実際には分からないぞ? こればかりは母さんの胸の内の話だし、僕とアルフの勝手な妄想なのかも知れない。

ちなみにこの改革案、相当に難航して話にならないそうだ。まぁ当然だろうな。

どんなに上手い話をされても、そういう考えが目に見えてしまっている。誰もそれで乗るわけがない。



なにより今僕達が市民からの信頼を損ねているなら、聖王教会なども含めた関係各所とて同じ事だろ。

恭文と同じように、組織が嫌いで嘱託をやっている人間も多い。そういう方達も納得はしない。

以前には最高評議会の差金としか思えないような手で、外部組織の手柄を奪い取ったりもしてるからな。



ある意味ではこの現状は、今までの局の強引なやり方のしっぺ返しが来ただけとも取れるな。

・・・・・・やはり、地道に頑張っていくしかないという事なのだろう。

人の名声を利用したようなやり口では、結局は同じことの繰り返しになってしまうだけ。





「もちろん母さんが実際にどう考えていたかというのは分からないぞ? こればかりは聞いてみな」



僕は言いかけて止まった。そして今感じた嫌な予感に従って、自分の言葉を訂正した。



「・・・・・・アルフ、ここには触れないでおくか。世の中には開けてはいけない箱というのもある。
この話は僕とお前だけの間で終わらせておこう。少なくとも僕達からは触れない」

『そうだな。これでもしその箱に爆弾が入ってたら、一気にハラオウン家は瓦解しちまうよ。よし、アタシはそれに乗った』

「助かる」



色々物分りのいい使い魔で本当に助かるぞ。まぁ、その・・・・・・なんだ。触れるにしても今はまずい。

恭文の家を占拠した状態でそんな爆弾を起爆させたら、どうなるか分かったもんじゃないんだ。



『まぁでも・・・・・・例えそうじゃなかったとしても、恭文を局に入れるのはもう無理だと思うな。
だって派手に断絶だし、話がいくらなんでも強引過ぎたからさ。誰の話でもきっと嫌がるよ』



そうだろうなぁ。あぁ、やはり恭文には申し訳ない。僕がこの事態のきっかけを作ったも同然だからな。



『あー、そうなるとさっき言ったのもダメだなぁ』

「局の良さを少しでも分かって欲しい・・・・・・いや、みんなの居場所に理解を示して欲しいか。
入らないにしてもフェイト達が心を痛めない程度には、好きになって欲しかった」

『それそれ。でももしかしたら恭文があそこまで拒絶したの、今話したアレコレに感づいたからかも知れないだろ?
もしそうなら、それだけで普通に無理だよねぇ。・・・・・・うん、アタシだったら無理だな。さすがにこれはキレる』



あとは母さんだが・・・・・・もう納得してもらうしかないだろう。これ以上やれば、ホントに嵐が来てしまう。



「そういえばアルフ」

『なんだい?』

「これは僕の不甲斐なさもある。責めてくれるならいくらでも責めてくれていい。
僕は甘んじて受け入れるから、お前の正直な気持ちを聞かせてくれ」



アルフはフェイトの使い魔だ。充分にその権利はあるし、咎められるべき部分が僕にはある。

ちょうどそれ関連の話も出たし、いい機会だから僕はアルフに聞いてみることにした。



「・・・・・・フェイトが局のそういう都合に利用されている部分があるんだ。
フェイトの『閃光の女神』という二つ名もそのためにある。それについてはどう思う」

『んー、難しい質問だな。正直に言えば、気分は悪い。フェイトは局の道具なんかじゃないんだから』



腕を組んで難しい顔で、耳と尻尾が軽く揺れている図が見える。楽しいからではなく、悩んでいるからだ。

アルフ、何気にこういう難しい話が苦手なところは変わらないな。逆に安心してしまうぞ。



『でも・・・・・・執務官や局員の仕事の中には、ちゃんとフェイトなりの夢があるんだ。だからアタシは認めてる。
その夢がフェイトにとって大事なものだって分かるから。ただし、それが無いのに無理矢理続けさせようとかしたら、マジでキレるけど』

「そうか。それはさっきの話の恭文へのあれこれとかぶる部分があるな」

『まぁね。つか・・・・・・アタシが恭文に対して不満だったのって、さっき言ったみたいな感じだからさ。
だからフェイトもそうだし、恭文も場所はどこでもいいんだ。ただ』

「ただ恭文の場合さっき聞いたあれこれもそうだが、周囲の環境の良さもあるから局を強く勧めていただけ・・・・・・と」

『そういう事だね。なんかさ、アイツ見てるとあの時のフェイトとどっかかぶってる感じがして嫌だった』



あの時・・・・・・ジュエルシード事件の時のフェイトか。というよりこの話は初めて聞くぞ。



『アイツ、アタシから見ててもカレルやリエラみたいにキラキラしてる時があるんだ。でもそういうキラキラを押し殺してる感じがしてた。
向き合ってないって言えばいいのかな。もしかしたら過去を理由に、そういうキラキラを諦めてるのかなって、かなり心配だった』



・・・・・・今、頭の中でアルフの尻尾が動きを止めた。そして視線が下向きになったのが見えた。



『自分の中の気持ちや想いを誰にも見せないように押し隠して、いつも無理してる感じがしてさ。うん、本当にそれだけだったんだ。
最近色々考えて、やっと分かった。アタシはアイツに・・・・・・キラキラな夢を見つけて欲しかっただけだった』

「・・・・・・そうか。それこそなんでもいいんだったな」

『あぁ。例えアイツが『仮面ライダー』になりたいって言っても、そん時は認めるさ。今こうして言った以上はさ。
あー、でもフェイトを泣かせないってのが絶対条件だけどな。関係進展したみたいだし、それなら余計にだよ』



明るく、少しおどけてそう言うアルフの声を聞いて・・・・・・少し胸の中がすっきりした。

色々ゴタゴタはしてるが、それがアルフにとってはいい形で作用したらしい。だから知らず知らずの内に問題が解決した。



『でもクロノ、話は変わるけどお母さんがあんな感じなのって・・・・・・・やっぱさ、アレなのかね。
アンタのお父さんの事とか今まで関わってきた事とかがあるから、余計になのかな。余計に局有りきで考える』

「恐らくはな。母さんは何も言わないが、だからこそ余計に現状をなんとかしようという想いが強いんだ」





強いからこそ、恭文のような人材を欲する。なお、恭文だけの話じゃない。

フェイトやはやても状況的な問題もあるがそれになるし、あとはなのはだな。

僕は当時9歳のなのはを相当に誘いまくった時には、さすがに呆れたぞ。



そうだな、母さんは色々な事を見てきて・・・・・・恐らく僕達の中で一番強いんだ。

局や世界の現状を良くして、次の世代へより良い形へバトンタッチしようという想いが。

もしかしたら母さんは、余りにも重い荷物を背負っているのかも知れない。



その重さは・・・・・・そうだな。僕達には測り知ることも出来ない。





『何にしても管理局が次元世界全体を運営してるのも事実だろ? だからこそ今みたいに管理局が荒れてると』

「あぁ。次元世界全体にも多大な影響が及ぶ。ただ、管理局がいい方向で動けば」

『世界全体が良い方向に動く・・・・・・と。そりゃあ全部が全部じゃないだろうけど、それでも影響力は無視出来ないレベルだよね』



管理局という一つの組織が次元世界の平和と安全、そして政治・経済・文化を守っていく事は、利点もあるが欠点もある。

国同士による外交問題などが基本的には無いのが強みではあるが、一つ問題が起こるとどこまでも波及していく怖さもあるんだ。



『だから今だって、上の方では組織改革相当頑張ってるくらいだしなぁ。
・・・・・・こう考えると、母さんも間違ってはないんだよな』

「まぁな。だが冷たいことを言えば・・・・・・それは母さん個人の想いだ。
恭文やフェイトになのは、他の人間には一切関係無いとも言える」



もうちょっと言えば、母さんがいくら組織の現状を良くしたいと思っても、周囲には関係ないとも言える。

付き合う義理もないし関わる義理もない。・・・・・・まぁ、実際にはそこまでドライではないと思うが。



『まぁそれはね。つーことはアレかな、アイツは管理局が嫌いで、それがどうなろうがどうでもいいって言うだろ?』



というか、言っているな。アイツは元々組織やら世界のためとかそういうのを嫌う奴だから。



『フェイト達の居場所だけど、色々あり過ぎて信用出来ないから。
でも母さんは管理局が好きだし、今までの積み重ねもあるから良くしていきたい』

「だからこそ、身近で強い力を持つ恭文にその手伝いをして欲しいと思う。
今更だが、これでは行き違って当然だろ。水と油どころの騒ぎじゃないぞ」

『こりゃあやっぱしばらく・・・・・・いや、下手するとこのままかなぁ。
・・・・・・あー、そういうわけなので美白効果たっぷりとかいらないので』



急に会話が変な方向に変わった。これは通信の最初の時に決めた合図だ。

もしも母さんが帰ってきたら、押し売りの相手をしているのを装うというもの。



『いや、だから必要ないですって。アンタもしつこいねぇ。ほら、もう切るよ?』



そしてそのまま通信は切れる。普通なら失礼だがここは問題ない。

むしろ喜ばしいくらいだ。アルフ、家事手伝いなのにこういう真似は上手になってないか?



「・・・・・・さて、どうしたものか」










通信が切れた後、一人呟いた。だが、呟いても現状は変わらない。そうだ、変わるわけがない。

とりあえず母さんを恭文の家から撤退させる方向で動くか。まずはそれが一つ目だ。

そうじゃないと、さすがに申し訳がなさ過ぎる。ヒロリスさん達にも相当言われてるんだ。





そしてそのためには・・・・・・・あぁ、やっぱりエイミィと話だな。こう.なると直接会ってと言ってる場合じゃない。





一刻も早い解決が必要だ。・・・・・・よし、母さんにバレないように接触してみよう。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・時刻は午後の5時。僕のお手伝い時間の終了タイムが来た。





書庫が現在早急に片付けなければならない案件は、見事に片付いた。





なお、その瞬間に本局が震えるほどかと思うような歓声が上がったのは気にしないで欲しい。










「・・・・・・いや、助かったよ。冒頭ではさすがに怖かったんだけど」

「いえいえ、無事に終わってよかったです。・・・・・・そだ、ユーノ先生」

「なに」



ま、せっかくだしね。尊敬する先生のために、一肌脱ごうじゃないのさ。



「よかったら、一緒に夕飯食べませんか?」

「夕飯? ・・・・・・あ、ごめん。僕はもうちょっと残って資料の整理を」

≪高町教導官が来ますが≫

「みんな、お疲れ様っ! 明日からもよろしくねー!!」





速っ! つーか一瞬で身支度整えて入り口に移動してるしっ!!

・・・・・・とにかく僕は、司書さん達にしっかり挨拶をした上で、ユーノ先生と一緒に外に出た。

実はお昼の終わりに、アルトにメールを送ってもらった。文面はこうだ。



『書庫の手伝いは時間通りに終わりそう。なので、一緒に夕飯を食べてから帰ろう』・・・・・・と。

そして、OKのメールが帰ってきた。・・・なぜか(苦笑)なんて末尾に入れた上で。

あ、もちろんユーノ先生も同席していいかどうかを確認した上で。うん、OK出してたけど。



で、若干色気は無いけど、またもや本局の食堂です。





「それでユーノ先生、昼間の話の続きですけど」

「え、まだ続くのっ!?」

「当然です」



なのはが少し遅れる感じなので、その間に色々話しておこう。



「あれですよ、話の立ち位置的にもキャラ的にもユーノ先生は影が薄いので、キャラを変えましょう」

「すっごい唐突にとんでもない事言ってきたっ!? ・・・・・・えっと、それはイメチェンってことかな」

「その一種ですね。ようするにですよ、話というのは往々にしてキャラの濃いのが目立ちやすいんです。
もうちょっと言えば、良識的なのは薄くなる傾向が強いんです。ほら、だからアルトは影が濃いでしょ?」

≪そうですね。だからあなたは主人公なのに影が薄いんですよね≫

「・・・・・・いや、あの・・・・・・君達? 普通に火花散らすのはやめない? ほら、僕置いてけぼりだから」



気にしてはいけない。たったこれしきの事で置いてけぼりになるからこそ、テコ入れが必要なのだ。



「やっぱりこの場合はなのはに負けない濃さが必要ですね。
もっと言うと、砲撃と魔王属性に打ち勝つものが必要です」

「いや、なのはは魔王じゃないからっ!!」

≪ユーノ先生、認めたくない気持ちは分かりますが・・・・・・事実ですよ≫

「事実じゃないよねっ!!」



というわけで、ユーノ先生のキャラに付いて本局の食堂の一角で少し考えてみよう。

今のユーノ先生は良識派で穏やかで人当たりが良くて、なおかつ頭のいいインテリタイプ。



「・・・・・・全部ダメですね」

「何がっ!?」

≪当然あなたのキャラですよ≫

「僕、知らない内に全てを否定されたのっ!?」

「いや、だってこれじゃあ目立てませんって」



悲しいかな、リリカルなのははスカリエッティやらナンバーズやらアギトやらルーテシアやら・・・・・・StSで相当な数のキャラが参戦した。

この中で今のユーノ先生が勝つのは非常に難しい。ユーノ先生は言うなれば潤滑油タイプのキャラなんだから。



「いいですか? ユーノ先生が無限書庫に上の都合で強制的に引きこもらされている間に、事態は大きく動いています」

「・・・・・・うん、そうだね。そこ大事だよね。僕の意志で残業とか完徹とかしてるわけじゃないから。でも、大きく動いたって何が?」

「単純に前に出るキャラも後ろに居るキャラも、相当数増えてるんですよ。そしてキャラが濃いのも居ます。
例えばルーテシアやメガーヌさん、アギトにチンクさん達元ナンバーズ。あぁ、何気にスカリエッティも三流だけど影あるんですよね」

≪でも、私はどうも印象薄いんですよね。データとか見ましたけど、あの人って結局最高評議会が居なかったら三流のような≫

「いや、君達何の話してるのっ!?」



とりあえずスカリエッティが三流かどうかはともかくとして・・・・・・あぁ、一発ぶん殴ってやりたいな。色々借りもあるし。

とにかくそこは置いておこう。そんな中で今のユーノ先生のキャラで、新規参入キャラに対抗出来るかが僕は疑問だ。



「ユーノ先生は言うなれば潤滑油です。アクの強いメンバーの仲介役というか、間に入るキャラ」

「ま、まぁ・・・・・・そこは否定出来ないかな。結構そういう立ち回り方が多いし」

「でも、得てしてそういうキャラは目立ちにくいんです。
もっというと、なにか起きて潤滑油が必要な状況じゃないと注目されない」

≪そしてその内モブその1に格下げです。・・・・・・あなた、スーパーユーノ人にならなかったら、このコースですよ?≫

「それは嫌だけど、スーパーユーノ人ももっと嫌だってっ! それは色々と危ないコースを突き進んでるよねっ!?」



・・・・・・とまぁ、机をドンと叩いてそんな事を言うので、僕は少し考えてみました。

スーパーユーノ人になるのが嫌なら・・・・・・内面を変えるしかないでしょと。



「なら中身ですよ。外見でも効果があるのはフェイトとの話で証明済みですけど、それだけじゃ足りません。
そもそも『なのはから見て』ユーノ先生に男性としての魅力が感じられないというのも、原因の一つなんですから」

「がーんっ!!」





ユーノ先生はショックを受けて落ち込むけど、批難はしないでね? まず『なのはから見て』って最初に言ったじゃん。

あの女は基本人間関係以外は砲撃と魔王の道と教導の事にしか興味ないようなバカだから、普通の魅力じゃ足りないのよ。

もうちょっと言うと、恋愛関係に関して凄まじく鈍い? 局でも学校でも、告白関係は基本天然スルーだしさ。



フェイトだってなんかそこは(僕以外)しっかり気づいて、丁寧に後腐れなくお断りしてるって言うのに。





「あの鈍感という概念が人の皮を被ってるような女を意識させるためには、外見だけじゃなくて中身も磨く必要があります。
・・・・・・ユーノ先生。ストレートに言いますけど、付き合いが長いからってそこの辺りを普通に手抜きしてませんでしたか?」

「う」



痛いところを突かれたらしく、ユーノ先生が軽く後退りする。というか、右手で胸を抑える。



≪そもそも男女の関係というのは、起源を辿れば優秀な遺伝子を後世に残すための本能です。
雌はより強い雄と交尾し、その雄の子どもを産んでそれを成します。逆を言えば≫

「弱かったり無能な雄は雌からもそうだし、その種の群れからも必要とされません」





まぁこれはまだ人間が進化途中の段階での話だね。現代社会ではそこまで本能的じゃない。

色々な社会的な立場もそうだし、やっぱり本人同士の気持ちからそういう繋がりを持つものだから。

ただ、こういう図式が無くなったわけではないのよ。形を変えて現代にも残っている。



いわゆる恋愛面での勝ち組負け組ってのがあるでしょ? それはこの図式そのものだよ。

社会的にだったり、人間的にだったり・・・・・・理由はどうあれ、魅力的な異性に人は惹かれて恋をする。

この話の作者みたいに『好きになった人は全員もう彼氏が居た』という悲しい状況も、実は普通なの。



自分がそう感じるという事は、当然他の人間から見ても大抵は同じように魅力的に見られているという事だもの。

もちろんここは個人差があるよ? あるけど、それでもそこが成り立ってしまう。

だからこそ太古の昔、まだ進化の過程の中で通った図式が、現代社会で生きる人間にも当てはまってしまうのよ。





「それは今だって同じですよ。ユーノ先生、自分の元々の仕事や研究以外で、そういう努力ってしました?
仕事を頑張ってるだけじゃなくて、ちょっとした事でもいいから自分自身を伸ばそうとする意識を持った事はありますか?」

「・・・・・・そ、それは」



どうやら無いらしい。ちなみに僕はある。いや、だってフェイトのスルーが真面目にヒドかったからさ。頑張ったのよ。

色々とやってみて、その中でもっともっと自分を鍛え上げたいなと考えたの。料理や家事とかだって、その一環だもの。



≪そういう意識を持って仕事にあたるだけでも、大分違ってくるんですよ?
意識のない人間は、結局現状で満足してしまって停滞しがちですから≫

「そうそう」





もうちょっと言うと、一辺倒になりがち? 出世すればOKとか、お金稼げばOKとか。

うーん、どう言えばいいんだろうな。ようするに・・・・・・何をしていても一種の向上心を持てという事かな。

もちろんさっき言ったように、仕事が出来るとかそういう部分で魅力を感じる事は間違ってはいない。



でも、悲しいかな女性というのは厳しいのよ。ただ出来るだけじゃだめなの。

もう一歩先の何かが見えてるとか、そこを目指してる意識の持ってないのは普通に切り捨てる。

まぁフェイトやなのは辺りはそういうの無いけど、一般的にはそういうもんらしいよ。



そう考えると、僕達の周りは恵まれてるよなぁ。普通にそこの辺りが寛容な人間ばかりだよ。





「気づく人はそういうところをちゃんと気づくんですから。そしてなのははその気づく人間です」



ただ、ティアナとのアレコレを聞くとそこも疑わしくなるけど・・・・・・まぁここはいいか。



≪もしもそれすらないというなら、高町教導官を振り向かせる事は無理ですよ≫

「先生が前に言ってました。『心の輝いている人は、何をしていても美しい』って」





なんか昔馴染みの日舞の家元さんから教えてもらったらしい。

外見的なものも大事だけど、内面も大事という事だね。

だからこそ、その輝きや内面の強さが色々な行動からにじみ出るのよ。



でも、その逆もまた然り。基準は難しいところだけど、そういう部分は僕はあると思う。





「そういう人はきっと日ごろから、色々な何かで自分を磨き上げているんですよ。
ユーノ先生、別に今のユーノ先生がダメと言いたいわけじゃありません」



ここは念押ししておく。・・・・・・ユーノ先生は、十二分に男性として魅力的だと思う。

穏やかで人を安心させる物腰や、優しい心根。何気に女性司書や局員の人気も高いらしい。



「ただ、今のままでは足りないんです」



もっと言えば対横馬では届かない。昼間はそのために外見のイメージチェンジを提案した。

つまり今回は、それと同時並行で内面のバージョンアップも必要だと言っている。



≪こればかりは私達がアドバイスしただけでどうにかなる問題ではありませんから≫

「それは・・・・・・確かにそうだね。僕が男性として魅力に欠けてるから、なのはが振り向いてくれないわけだし」



うん、ようやく納得してくれたか。そうじゃなかったら、ここまで長ったらしく話していた意味がないよ。



≪あなた自身ももっとレベルアップしていく気概が必要になります。なのになんですか、さっきから文句ばかり≫

「ホントですよ。自分を磨く努力もしないで結果だけ求めてどうするんですか?
そんなんじゃ横馬だけじゃなくて、他の女性もドン引きレベルですよ」

「そうなのっ!?」

≪「そうなんです」≫



シャーリー曰く、そういうのは色々シビアらしい。つまり、僕達の周りが非常に稀なのが揃ってるだけだよ。



「というわけで、努力してくださいね? 休みの事だって同じ事ですよ。
仕事だけで人間生きていけるわけじゃないんですから」

「・・・・・・まぁ、そうだよね。というか僕・・・・・・かなり甘かったのかな」

「甘いですね。一般女性相手なら問題ないですけど、相手はあのバカですから。
別に一般レベルなら余裕なんですよ。でも相手はあの魔王ですから」



いくらなんでも鈍過ぎるしアホ過ぎるぞ。だってユーノ先生、普通にかっこいいよ?

僕みたいに性格アレとか身長・・・・・・ちょ、ちょっと小柄・・・・・・わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!



「や、恭文君っ!? どうしたのっ! どうしていきなりテーブルに頭ガンガン叩きつけるのっ!!」

≪気にしなくていいですよ。多分自分で自分のコンプレックスに触れたんでしょ≫

「気になるよっ!!」



とりあえず、10数度叩きつけてようやく落ち着いた。・・・・・・うん、大丈夫。

僕が小柄なんて気のせいだよ。ほら、僕の身長189センチだったしさ。



「とにかく、横馬相手では一般レベルはナデポなユーノ先生でもダメなんです。
もうちょっとパワーアップしていかないと、絶対ダメですって」



なんて言いながらも、ユーノ先生の前に画面を出す。そこに映るのは、スーパーユーノ人4なユーノ先生。

赤い体毛とクマどりと黒くてふさふさな長い尻尾がとってもチャームである。でも、体型は普通にひょろひょろ。



「・・・・・・これ中身パワーアップじゃないよねっ!? てゆうかなんかまた進化してるしっ!!」

≪いいじゃないですか、やっちゃえば≫

「よくないよっ!!」

≪・・・・・・しかし、あの人、そう考えるとどれほどなんですかね。
別にこれはユーノ先生だけの話じゃないんですよ?≫

「そう言えば・・・・・・あぁ、そうだよね。僕もフェイトやはやてからなのはが何回か告白されたって聞いてるし。
でも・・・・・・・僕と同じように、でしょ? なんだろ、よくよく考えたら色々とそれはそれですごいダメな気がしてきた」










さて、先程も少し触れたけど・・・・・・なのはは相当に人気がある。というわけで、ちょっかい出してくるのも居る。

場合によっては高官だったりが男らしく裸一貫で突っ込んでいったりするけど、それでも玉砕だよ。

そういえば普通にパワハラでどうこうって無いよね? うーん、さすがにエース・オブ・エースにそんな事するバカはいないか。





まずそれで下手になのはを潰すと、一気に局員全員が敵に回る可能性があるしなぁ。

上も下も敵に回って、針のむしろ状態だよ。そうすると、やっぱその身一つで突撃しか無いと。

あとはなのはが提督一家なハラオウン家の人間や、はやて達と繋がりがあるからとか?





つまり、なのはにそんな手を使って例え一般ピーポーにバレなかったとしても・・・・・・普通に身内から制裁が来る。

まぁさすがにコレはないか。今のは僕の勝手なもうそ・・・・・・あれ、おかしいな。

事実かどうかは別として、外から見た場合は普通にこういうのありえそうなんですけど。それが怖いんですけど。





でもでも、もうちょっと待てよ? もしかしてそれって外から見た場合に何かしらのプレッシャーを与えてるんじゃ。

つーことはもしかして僕達の周り、知らず知らずのうちに余計な真似してる?

フェイトはまぁ、あの・・・・・・僕の方を見てくれていると嬉しいよ? でもそのためにそういう機会が減るのはアウトだと思う。





なのはは・・・・・・あぁ、フェイト以上にそうなってそうだよなぁ。特に本人の風評があるから。

『管理局の白い悪魔or魔王or冥王』とか、星をも砕く砲撃が撃てるとか言われまくってるし。

つーか、なのはの評判は僕・・・・・・『古き鉄』より遙かにひどいよ? もう魔王キャラだし。





えっと、僕の知ってるある人達はなんて言ってたっけな。そうそう、こんな感じだった。





色々諸事情込みでなのはがその人達とその人達と一緒に居た僕やフェイトの前に現れて、名乗った途端にコレだった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『ま、まさか・・・・・・管理局の白い魔王っ!? おいおいマジかよっ!!』

『私、聞いた事ありますっ! 管理局を影で牛耳っている、古き鉄以上の恐怖の代名詞っ!!』

『星をも砕く魔法が使えるっていう、あの噂の・・・・・・最強最悪の悪魔が、この女っ!?
あぁ、でも感じるわっ! 私、この女から悪の気配を凄まじく感じているわっ!!』

『あ、(ぴー)知ってるよー。それでロストロギアをちゅーちゅーなんでも吸っちゃう、すごく悪い子なのだ』





















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




なお、今の映像にはプライバシー保護のため、かなり強めのモザイクや音声加工や規制音などを入れましたのであしからず。

ちなみにこの時、顔を真っ青にしてこの世の終わりかと言わんばかりの表情でガタガタ震えていた人も居た。

つーか、普通に『高町なのは』って名乗っただけで相当威圧感与えたしなぁ。ある意味リナ・インバースの領域だよね?





・・・・・・とにかく、エース・オブ・エースという局のプロパガンダのための称号や噂よりもこっちの方が根強いくらいだよ。

でも『魔王』って言われ始めたのっていつくらいの頃からだっけかな。確か、結構前のはずだけど。

えっと・・・・・・僕が初めて聞いたのは、海鳴で暮らし始めるちょっと前かな。最初の一件が解決する直前の話。





しかし、誰が噂の出所なの? さすがに僕もあの映像の当時には相当ビビりまくったつーのに。

まずいな。今はまだいいけど、年を経る毎にIKIOKUREの要因になりそうで怖いよ。

・・・・・・ぶっちゃけさ、なのはやはやて、フェイトは局という組織のイメージアップに使われてる部分があるの。





エース・オブ・エースや閃光の女神、夜天の王・・・・・・そういう二つ名を持つ優秀で将来有望な魔導師。

そんな人間が自分の意志で局という組織の思想に共感し、自分を預けその一員として日夜戦っている。

三人は・・・・・・ううん、現在局で同じように注目されている若手は、そういうプロパガンダ戦略の駒なの。





ぶっちゃけさ、六課の『奇跡の部隊』って言うのも同じ理屈なのよ。

JS事件もそうだし、1年前もちょっとゴタゴタがあってね。

そのせいで市民の局への信頼度や印象は相当に悪くなってる。





だから余計に、みんなや他の人達を今言ったような理由で持ち上げる。

・・・・・・正直、ここは相当複雑だよ。うん、かなり嫌だね。

でも、フェイトもそうだしなのはや他のみんなもそれぞれの仕事の中に夢がある。





それも事実だから・・・・・・うーん、やっぱ難しいなぁ。










「・・・・・・恭文君、どうしたの?」

「え?」

「いや、なんか考え込んでたから」

「いえいえ、大丈夫です。・・・・・・ユーノ先生の中身のバージョンアップはどうしたもんかと考えてまして」

「そっか」



とりあえず、そんな事を言って軽く誤魔化す。・・・・・・なんか見抜かれてる感じがするのが嫌だけど。



「とりあえずは、もうちょっと自分の時間を持つところからじゃないですか?
別に休み取れとかじゃなくて、自分を磨くという意識を持つところからでもいいんですし」

「あー、そうだね。あとは方向性かぁ。とりあえずスーパーユーノ人はダメとして」

「え、なんでですか? かっこいいのに」

「だからダメだよっ! 普通にこの話にあのマークの人が怒って押し寄せてくるからっ!!」

「・・・・・・・・・・・・ごめんっ! 二人ともお待たせっ!!」



声は左側から。そしてそちらを見ると、僕達の方に向かって小走りで走って来る高町・W・なのはが居た。



「私は若本ボイスじゃないよっ!!」

「心を読むなっ! つか、『W』って言っただけで若本ボイスなんて言ってないしっ!!」

≪まぁ、正解ですが≫

「やっぱりー! うぅ、恭文君はやっぱり意地悪だよっ!!」



気にしないで。てゆうか、いつもの事じゃないのさ。何をいまさら。



「それでなのは、仕事はOK?」

「うん。後は帰るだけだよ」



そう言いながら、僕達が座るテーブルに着く。なお、僕の右隣に座った。

で、当然だけど僕の向かい側のお兄さんとも挨拶。



「ユーノ君、久しぶり」

「うん、久しぶり。なのは」



お、意外と反応が普通だ。もっとしどろもどろかと思ったのに。

つか・・・・・・あれ? なんでなのはは顔を赤らめてるのさ。え、もしかして脈あり?



「あの、お仕事大丈夫? 相当忙しかったんだよね」

「うん、恭文君が頑張ってくれたしね。いや、はやてには感謝だよ。
急な頼みだったのに、引き受けてくれてさ」



そのまま楽しそうに話し出した。うん、ユーノ先生はさっきと別人だね。年相応に見えるよ。



”というかさ、アルト”

”はい?”

”僕、いらない子だね”

”仕方ないでしょう。むしろこの状況ではそれが空気を読んでますよ”



まぁ確かに。・・・・・・なら、ここは黒子に徹しますか。あー、なのは?



”なに?”

”食事、僕が取ってくるね”



うん、この横馬は自分の分の食事を取らずに直行してきたのだ。全く、抜けてるというかなんというか。



”あ、ごめん”

”いいよ。で、リクエストはある?”

”じゃあ、Bランチで”

”りょーかい”










僕は楽しそうに話をしている二人の邪魔をしないように、席を立った。





もちろん、本日の一番人気のランチを取ってくるためにである。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・そっか。なのはとユーノ、楽しそうだったんだ」

「もうね、居心地悪かった。僕はほとんど喋ってないし」

「でも、安心した?」

「まぁね」



さて、あの居心地の悪い食事が終わってから、僕となのはは隊舎に戻った。

で・・・・・・恒例のフェイトとのコミュニケーションです。二人でお茶を飲みながら、のんびりとお話です。



「でもごめんね。いきなり留守にしちゃって」

「大丈夫だよ。ヤスフミ、デスクワーク優秀だしね。問題なかった」



ユーノ先生の手伝い、本当に急だったからなぁ。フェイトとエリオ達に押し付ける結果になったし。

そんなことを考えていたのが伝わったのか、フェイトが笑顔を向けてきた。『大丈夫』だと言っているように感じる。



「言ってるんだよ?」



いや、だからどうして心を読むのさ。てゆうか地の文にツッコむな。



「それでヤスフミ」

「うん?」

「ヒロさん達が『また打ち合わせするから、時間空けておいて』・・・・・だって」

「あ、そうだね。アレも進めないと」



書庫の手伝いの報酬として、参考資料は色々調達してきたしね。

ま、ちと照れ臭くはあるけど・・・・・・せっかくだし、いいの作るぞ〜。



「あとは・・・・・・あぁそうだ、チェックリスト作らないと」

「チェックリスト? 何のかな」

「試験で使える手札をリストアップして、使えるものと使えないものを決めていくの」



普通に誰にどう見られるか分からないし、出来るならあんまり晒したくはない。

ある意味では縛りプレイだよ。・・・・・・で、フェイトが苦い顔で半笑いしてたりする。



「えっと・・・・・・ヤスフミ? AAA試験ってかなり難しい部類だし、多分そういう縛り有りだと」

「それでも公式の場だもの。いくらなんでも公式の場で雷徹とか殺る気満々のブレイクハウトとか使えないよ」

「そ、それは確かに。対人戦になる場合もあるし・・・・・・あぁ、やっぱりダメかも。
ヤスフミの場合、局員や武装隊として考えるとNGな魔法もあるしね。結構制限かかっちゃうか」

「・・・・・・やっぱ僕、局のアレコレとはとことん相性が悪いみたい」



言いながら、僕は両手で持っていた湯のみの中のお茶をすする。

・・・・・・軽く表情が苦くなってるのは気のせいにしておこう。



「よし。それじゃあ私も手伝うから、今からやってみようよ」

「え?」

「ほら、ヒロさん達と練習して色々手札増えてるんだよね? 私もちょっと見てみたいし」

「えっと・・・・・・なら、手伝ってくれる?」

「うん」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして、それから約1時間後。ヤスフミの魔法やそれに依存しない技を一旦整理。





私が知っているより、ずっと手札が多くなっていてビックリした。










「・・・・・・ヤスフミ、このダークミストやホワイトミストは・・・・・・まぁ分かるの」



前に見せてもらった事がある、一定範囲に色つきの濃霧を発生させる術。

スモークグレネードみたいなものと考えればいいのかな。他にも色々応用があって、結構面白い術なの。



「このフレアアローやフリーズアローにフレアランスにアイシクルランスって何?
あとは雷系統の魔法でも結構手札揃ってるよね。これは・・・・・・え、何かな」



電撃変換や凍結変換が使えるのは知ってたの。電撃変換はこの間見せてもらったし、凍結変換は元々。

でも、炎熱系の魔力変換は知らない。少なくとも私の知る限りでは一度だって使っていない。



「え、スレイヤーズの魔法だよ。いや、ヒロさん達も好きだから、協力してもらって色々実験を」

「・・・・・・そっか。うん、知ってたよ。私もスレイヤーズ読んでるから」





ヤスフミが使う魔力変換は、私やエリオやシグナムのような先天的なものじゃない。

変換用の魔力プログラムを構築して、その上で魔力運用してその属性へと変換する。

例えば先天資質だと、プログラムを介さずに普通に電撃などに変換が出来る。



ここが先天資質の有利な点だね。でも、だからと言ってプログラム変換がダメなわけじゃない。

というか、有利な点もある。例えば私とかだと・・・・・・凍結属性や炎熱属性への変換が難しいの。

ようするに、元々の変換資質以外の属性の魔力を使う事が出来ないんだ。



だからこそ私達のような先天資質持ちの魔導師が使える魔力変換は、一人につき一つが原則となっている。

でもプログラムの場合だと、魔力自体の適性のアレコレを抜くと基本的に誰でも全種類使えるの。

もちろん変換のためには的確な魔力の運用が必要。ただプログラムを走らせるだけでは魔法は使えないから。



ヤスフミだけの話じゃなくて、クロノもそうなんだよ? クロノも炎熱系と凍結系の変換技術を習得してる。

例えば砲撃魔法のブレイズキャノンは、炎熱系の操作技術を応用して熱量ダメージも与える仕様になってる。

完全に炎になるわけじゃないんだけど、それにより砲撃の威力を増しているんだ。



あとは凍結系。クロノが使っているデュランダルに入っているエターナル・コフィン。

広範囲に及ぶ一定空間の凍結攻撃。これは元々クロノが凍結系への変換技術を勉強していたから使える魔法。

デュランダルが氷結魔法に特化していて、サポートしてくれるというのももちろんあるよ?



でも、さっき言った通り魔法はプログラムを発動させるだけで使えるものじゃない。



プログラムで魔法を詠唱・処理して、的確な魔力運用を行った上で初めて使えるから。





「でも、やっぱ少し威力が低くなるみたい。魔力光とかの適性の問題もあるしさ」

「あとはヤスフミ自身の魔力量の問題だね。炎熱系は出力が物を言うから」

「うん」



炎熱系には一つ特徴があって、出力を上げれば上げる程熱量・・・・・・火力が増加するの。

でも魔力量が平均的なヤスフミだと、それとは相性が悪い。魔力がバカ食いになっちゃうから。



「じゃあ電撃は・・・・・・あぁ、大丈夫そうだね」

「うん。青い雷撃とかって元々あるしさ。というか、二人に言われたよ。
『お前の性格の悪さと電撃変換は相性が良過ぎる』・・・・・・よし、ちょっと殴ってくる」

「だめだよっ! というかあの・・・・・・大丈夫だよっ!?
ヤスフミはちょっといじめっ子なだけで、性格は悪くないからっ!!」





私は立ち上がろうとした隣のヤスフミを必死で止める。・・・・・・うん、隣なんだ。

椅子を移動させて、ヤスフミの右隣に座り直したの。その、もっと近くに居たかったから。

でも性格の悪さ・・・・・・あぁ、確かになぁ。あ、ヤスフミの性格が悪いとかじゃないよ?



ヤスフミの魔導に関する探究心と発想と運用技術は、とても高いから。そこで言ってるの。

漫画とか小説とかアニメとか・・・・・・そういうサブカルチャーからヒントを貰って組み立ててる術が大半。

それは一般的な魔導師の発想とは違っていて、だからこそ見ていて面白い。



そうだな、ヤスフミの魔法は本当に『魔法』っぽく見えるのかも。なんかこう、不思議なんだけどね。

あー、それで電撃なんだけど、結構色々な用途に使える属性変換なんだ。

攻撃に防御に捕縛。電撃による感電という特性を鑑みると、とても幅が広い。



例えば私も、殴りかかっちゃうと感電しちゃうっていう防御魔法を構築してたりするから。

あとは・・・・・・それほど魔力を使わなくても効力を発揮するところとか?

ただし、凍結変換とは別の意味でコントロールがピーキーだから、扱いには注意が必要。





「でもヤスフミ、これいつぐらいから勉強してたの?」

「んー、嘱託の資格取ってからすぐ? 一人で自主的に」

「・・・・・・え?」



えっと、という事は・・・・・・7年前っ!? そんな前からなんだっ!!



「・・・・・・あの、私何か嫌な思いさせちゃったかな」

「え?」

「だって7年前から・・・・・・でしょ? 炎熱系や電撃系は私やシグナムも居たのに、相談してくれなかった。
それで習得に7年もかかって・・・・・・だからその・・・・・・こう、知らない内にヤスフミの事傷つけてたかなと」

「あぁ違う違うっ! そうじゃないからっ!!」



言いながら、そっとヤスフミが右手で俯いていた私の左の頬を撫でてくれる。それで・・・・・・気持ちが落ち着く。

視線を上げると、ヤスフミが少し困った顔をしてた。それを見てこう、また胸が痛くなる。



「・・・・・・まず変換自体は、フィアッセさんと会うちょっと前くらいから完成してたのよ」

「えぇっ!? か、完成してたって・・・・・・どういう事かなっ!!」



それなら余計にワケが分からないよっ! だって今までずっと使ってなかったよねっ!?



「・・・・・・その、理由はある。でも・・・・・・笑わないでよ?」

「え?」



ヤスフミがほんの少しだけ視線を落として、左にそれを逸らす。その意味が分からなくて、私はヤスフミの顔をのぞき込む。

・・・・・・えっと、何にしてもヤスフミはその理由を笑われたくないんだよね。だったら・・・・・・うん、どうするかは決まってるよ。



「笑わないよ。ヤスフミがそういうのが嫌だって言うなら、絶対に笑わない」

「・・・・・・ホントに?」



逸らしていた視線を、私の方に戻してくれる。それですごく距離が近くて・・・・・・なんだか、ドキドキする。

それは今までだったら感じなかったドキドキ。そのドキドキが・・・・・・とても苦しい。だけど、同じくらいに心地いい。



「うん、ホントにだよ」



そんなドキドキを私は胸の中に隠して、安心させるようにヤスフミに笑いかける。

それで・・・・・・ヤスフミは少し不安げだった表情を柔らかくしてくれた。



「なら、話す。・・・・・・・あのね」

「うん?」

「チートって言われたくなかった」



・・・・・・・・・・・・え?



「いや、だから・・・・・・チートとかって言われたくなくて。
ほら、炎とか雷とかってまさしくそれっぽい能力だし」



えっと、チートってあれだよね。ズルみたいな能力とか強い人の事を言うんだよね。

はやてが『ヘイハチさんはチートやろ』って言ってたから、良く覚えてるよ。



「あとは・・・・・・ほら、1年前にチート連中と一緒にやり合ったじゃない?」

「あ、うん」





ヤスフミと一緒に関わった事件の一つで・・・・・・もうすごい大騒ぎになった。

ナンバーズやスカリエッティなんてメじゃないくらいの強い相手が揃ってたの。

もっと言うと、『魔導師』や『局員』では相手にならないような強敵。



・・・・・・なんだろ、私本当に成長してないよね。あの時痛感した事、今に全く活かせてないよ。

私、やっぱり六課という居場所や自分の元々の力に甘えて、停滞していたんだ。

『なのはやはやて、六課のみんなが居るから、きっと大丈夫』なんて思ってて・・・・・・ダメだな。



単純な意味合いでも、私・・・・・・負けたくないよ。うん、私は何気に負けず嫌いなんだよ?



ヤスフミには負けたくない。だって私の目の前の男の子は、大好きな子であると同時にライバルでもあるもの。





「それでよくよく考えたら『・・・・・・あれ、もしかして僕チートじゃなくね? 連中の方がもっとチートじゃね?』という結論に達して」

「・・・・・・それで使うことにしたの?」

「うん。まぁその、今まではこう・・・・・・なんか話し辛かったんだけど」



とりあえず私は・・・・・・少しだけ、クスリと笑った。

馬鹿にするとかじゃなくて、なんだかヤスフミがその・・・・・・可愛いなって。



「うー、笑わないって言ったのにー」

「あ、これは違うよ? バカにしたとかじゃないの。なんだかこう、ヤスフミ・・・・・・可愛いなって」



そう言うと、ヤスフミの顔が赤くなった。というか、私もかな。

あの、その・・・・・・・色々とドキドキし過ぎてて・・・・・・だめ。



「でも、そっか。嫌だったんだね」

「うん」

「それならどうして今・・・・・・って、聞くまでもないか」



だってその、ヤスフミはちゃんと私に教えてくれたんだから。

私の騎士になるために・・・・・・頑張ってくれようとしてたんだよね。



「ヤスフミはもう、私に教えてくれてる。・・・・・・ありがと」



言いながら、そっとヤスフミを抱きしめる。・・・・・・ヤスフミ、やっぱり温かいなぁ。こうしてると幸せ。

耳元でヤスフミが吐息を漏らす。それが耳をくすぐって・・・・・・なんだか身体が熱くなる。



「う、ううん。あの・・・・・・フェイト」

「大丈夫、迷惑なんかじゃないよ。私ね、本当に嬉しかったんだ」



ドキドキがヤスフミに伝わらない内に、私は少し身体を離す。・・・・・・・まただ。

また私、あの時みたいに身体が火照ってる。というかあの・・・・・・ヤスフミの事、独り占めにしたくなる。



「と、というかアレだよね。よくよく考えたらその・・・・・・チェックシート途中だったね」

「あ、そうだね」



わ、私落ち着いて? その、しどろもどろはおかしいよ。冷静に冷製に・・・・・・・よし。



「というか、他にも・・・・・・色々あるよね」

「うん。・・・・・・あ、これなんか自慢なんだよ? 元々使いたかった術で」










ヤスフミにとって、魔法は未知の力であり自分の専門である分野。その認識はずっと変わらない。

私達ミッド・・・・・・管理局の人間にとって『魔導師』という称号は、一般的には戦闘者の総称としての意味合いが強い。

でもヤスフミは少し違う。その、スレイヤーズとかそういう小説や漫画、アニメからの影響なんだけどね。





ヤスフミにとって『魔導師』という称号は、科学者なんだ。魔導という学問を通じて色々な事を追求する学者なの。

そういえば、こういう根底的な部分の認識から違ってるんだよね。ヤスフミの魔法と私達の魔法は本当に違う。

色んなものを見聞きして、漫画や小説というところからもヒントを得て、それを自分の特性に合わせた形にする。





それは局という組織や局員という立場では出来ない事の方が多いと思う。

現にチェックシート、普通にNGの項目の方が多くなってるもの。でも、ヤスフミは変わらない。

それでも魔法や不思議な事、未知な事に触れている時はいつも楽しそうなの。





今、私の隣で楽しそうに魔法の事を話すヤスフミは・・・・・・とってもキラキラしていて、眩しいくらい。

もうね、瞳の色から違うの。私はその話を驚きもあったり、『なるほど』と思う事もあったりしながら楽しく聞いている。

本当に魔導が好きで、そういうので色々考えるのが好きで・・・・・・ヤスフミの内にある純粋な想い。





そこから輝きが生まれている。その輝きが人を惹きつけたりする。今の私みたいに。

・・・・・・守りたいな。今までみたいな中途半端で嘘な形じゃない。そんなのはもう嫌だ。

もう一度チャンスがもらえるなら・・・・・・今度こそ絶対に間違えないし忘れない。





私はこの子が『好き』だから。この子との繋がりが、思い出が、交わした言葉や想いが大切だから。

もちろん今やこれからも同じ。もっと、もっとこの子と繋がりたい。この子の事を深く知りたい。

それで強くなりたい。いつだって胸を張っていられるくらいに強くなって・・・・・・この時間を守りたい。





だって私・・・・・・この子の中にある沢山の『キラキラ』に強く惹かれてるから。この子の事が『大好き』だから。




















(第30話へ続く)




















あとがき



恭文「というわけで、改訂版29話、如何がだったでしょうか。結構追加シーンが増えていたりします。
というわけで、あとがきは別空間なのでどこだろうとフェイトとラブラブしたいと思う蒼凪恭文と」

なぎひこ「ど、どうも。しゅごキャラクロスから来ました藤崎なぎひこです」





(蒼い古き鉄、そこで固まる。というか、普通に不憫なあの子を見る)





恭文「ちょっと待ってっ!? 普通こういう振り方したらフェイト出てくるんじゃないかなっ!?
なんでなぎひこ来るのさっ! おのれはなのはとショタな感じでエロしてればいいじゃんっ!!」

なぎひこ「しないからっ! てゆうか、改訂版のあとがきでそれってどうなのっ!? ここだとまだ付き合ってないよねっ!!」

恭文「・・・・・・なぎひこ、あむや自分が出ている時点でもう色々だいなしだってなぜ気づかない?」

なぎひこ「・・・・・・そう言えばっ!!」





(今明かされる驚愕の真実に、不憫な子はビックリ)





恭文「てゆうかアレだよ、同人誌にするならこのあとがきは一切掲載しないからいいのよ」

なぎひこ「え、そうなのっ!?」

恭文「そうだよ。同人誌は同人誌用で普通にあとがき作るから」





(ちなみに、あとがきの最後のミニドラマで使えそうなのは、追加シーンとして描写込みで書くつもりです)





恭文「あと、一話ごとにこれ挟んでたら本としてテンポ悪いでしょ」

なぎひこ「あー、確かにそうだね。大体小説の場合だと、最後にあとがきって感じだし。というか、計画は進んでるの?」

恭文「一応ね、最近ピクシブに入ってイラスト関係を見て回ってるのよ」





(もちろん作者、絵心なんて0を通り越してマイナスなので『見てるだけー♪』だったりします)





恭文「それで、リリカルなのはとかもそうだし、しゅごキャラのイラストとかも見ててさ。
歌唄のイラストですっごいカワイイのがあったのよ。それに一目惚れ」

なぎひこ「あ、それを描いてた人に頼むんだ。ちなみに誰?」





(すみません、まだオファーもしてないので、普通にここで紹介とか無理です)





恭文「一応『イラスト依頼可』って書いてたから、できればそうしたい。
ただ・・・・・・その前に拍手追いつきたいんだよね。とりあえず当日のを書き始めた分まではさ」





(あとはどういう風にするかとかももうちょっと煮詰めてからなので、ほんのちょこっと進んだだけです)





恭文「あとは改訂版? なんだかんだですごい倍加しそうだし」

なぎひこ「確かに・・・・・・本来だったら次で終了だもんね。というか、追加シーン多くない?」

恭文「この時はまだまだ技量もアレで、描ききれなかった事があるからさ。
あとは・・・・・・いや、やめておこう。あむと黒歴史については話さないって約束してるし」

なぎひこ「黒歴史なのっ!?」

恭文「そうだね。・・・・・・で、実は何気になぎひこがここに居るのって、理由があるんですよ」





(そう、ただ蒼い古き鉄の発言をボケにするためじゃなかった)





なぎひこ「あー、そうだね。実は今日のサブタイトル、僕のお母様がアニメのしゅごキャラで言ってた事なんですよ」

恭文「しゅごキャラ第9話であむがなぎひこの双子の妹であるなでしこに誘われて、藤咲家にお泊りする話だね。
その時にあむが日本舞踊を踊るシーンがあるんだけど、それを見て二人のお母さんがそう言ってあむを誉めたのよ」

なぎひこ「今回の話を書いてみて、この言葉に合う感じで話が進んだから使ったんだよね。
でも・・・・・・まぁ恭文君はフェイトさんとうまくいってるから良しとして、ユーノさんは大丈夫なの?」

恭文「大丈夫じゃないだろうね。ちなみにこの後どうなってしゅごキャラクロスにつながるかと言うと」





・自分を磨くために色々模索して試している内にしゅごキャラクロスに突入した。

・なお、それに集中する余りになのはとの距離感があんま変わらなかった。





恭文「・・・・・・以上です。いや、僕とアルトのアイディア通りに上手くいってよかったね」

なぎひこ「良くないよねっ! これ、完全に失敗してるじゃないのさっ!!
というより本末転倒っ!? 普通に一番大事なとこを抜かしてるしっ!!」

恭文「なぎひこ、大丈夫。なぎひこが頑張ればなのはとも愛を築けるから」

なぎひこ「そんな事誰も聞いてないからっ!! ・・・・・・あぁ、とりあえずここはいいよ。
とにかく次で30話。でも恭文君、普通に話数増えてるよね?」

恭文「そうなんだよね。別に同人誌化した時の巻数を増やすためとかじゃないのに」

なぎひこ「やっぱり黒歴史のせい?」

恭文「うん、それ。・・・・・・というわけで、本日はここまで。次回は・・・・・・多分あの話です。お相手は蒼凪恭文と」

なぎひこ「藤咲なぎひこでした。えっと・・・・・・ユーノさん、頑張ってくださいね」

恭文「なぎひこ、勝者の余裕?」

なぎひこ「違うからっ!!」










(不憫な子、これからきっと大変だろうけど頑張れ。読者はみんな応援している。
本日のED:西城秀樹『ターンAターン』)




















フェイト「・・・・・・でもユーノ、本当に大丈夫かなぁ」

恭文「横馬が難攻不落過ぎるのも問題だけどね。あとは天然スルー?」

フェイト「あ、それ分かるよ。普通にその・・・・・・ごめん」

恭文「なんで謝るのっ!?」

フェイト「そ、その・・・・・・色々傷つけてたかなって」

恭文「・・・・・・大丈夫だよ。それでもフェイトと一緒に居たいなって思ってるから。ほら、だから騎士なんだし」

フェイト「・・・・・・うん、ありがと」

恭文「それで話を戻すけどユーノ先生・・・・・・難しいなぁ。一応さ、『もっと自分の時間を持て』みたいな事は言ったんだよ?
でも仕事の中にやりたい事があるという部分はなのはやフェイトと同じだからなぁ。うーん、難しいなぁ」

フェイト「でも仕事を頑張ったから成長するというのは違うんじゃないかな。それだけじゃ無理だよ。これは能力的なことじゃなくて、心。
私は・・・・・・うん、そこをアレコレで本当に痛感したから。何かこう、それが出来るにしても鍵が必要なんだよ」

恭文「なるほど。なら、あとはユーノ先生がその鍵を見つけるのを期待するしかないか。・・・・・・フェイトは、どう?」

フェイト「私? ・・・・・・そうだな、鍵というか・・・・・・私が向き合わなきゃいけない想いには気づけたかな。うん、それだけは間違いない」










(おしまい)






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あきゅろす。
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