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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第60話 『Singin 'in the Rain/降り続ける雨は何のため? 後編』



ラン・ミキ・スゥ『しゅごしゅごー』

スゥ「ドキッとスタートドキたまタイムの始まりですぅ。さて、今回も雨の風景の中でのお話ですぅ」

ミキ「少しずつ動き出していく事態の中、僕達ガーディアンメンバーは少しゆったりと楽しい時間を過ごす」

ラン「でもでも、やっぱり悩みもあったりして・・・・・・うーん、難しいなぁ」





(雨の中、車の中で深刻そうな表情で話す二代目栄光の流星と某執務官)





スゥ「ちょっぴし復習回な色も含めつつ、今回も頑張っていきましょお」

ラン「そうだね。雨の日でもいつも通りぶっ飛ばしていこー。せーの」





(というわけで、本日もお決まりなあのポーズである)





ラン・ミキ・スゥ『だっしゅっ!!』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



さて、あれから色々手を伸ばしてはいるのに、マリアージュはまだ見つかっていない。まぁアレだよアレ。

捜査ってのが砂浜からダイヤの粒を見つけるようなもんだと分かってはいる。

いてもさすがに焦りが募る。被害者をこれ以上出したくないという気持ち故なんだが・・・・・・落ち着け、俺。





何にしても、焦ってもしゃあないだろ。とにかく俺は雨のミッドの街を走る車の助手席に居る。

なお、運転するのはウエバー執務官だ。現在俺達はミッドのバイヤーへの警告活動中。

それと同時に、マリアージュの有益な情報も収集・・・・・・といきたいが、中々そうは上手くいかない。





それでもなお、この人は冷静さを保っている。まぁ上に立つ人間がそわそわしちゃあアレだしな。





こういう所はヒロさんサリさんと同キャリアを持つベテランだと感じさせる。










「・・・・・・フレイホーク君、少し考えをまとめたいので・・・・・・一つ話し相手になってもらえますか?」

「え?」

「お願いします。どうも色々と解せないんですよ」



対話によって、考えをまとめていきたいということらしい。まぁそういうのが効果的なのは俺にも分かる。



「はい、分かりました。まぁ、俺でいいなら」

≪私も居るぞ。もう遠慮なくドンと来い≫

「助かります」



だから俺は頷いて、こんな事を言うわけだ。バルゴラも乗って来たせいか、ウエバー執務官が軽く微笑む。

車はミッドの街を走る。突然に降り出した雨は、夏の熱を全て奪い去るような勢いで降り続いている。



「今回の議題は・・・・・・まず、マリアージュはなぜ連続して出ているのかという所です」

「それはまた・・・・・・根源的なとこですね」

≪というか、何に対して言うかで答えが変わってくるな≫



まず一つに、爆破に巻き込まれているのになぜ生還出来るか。二つ目はなぜ犯行を重ねるか。

普通に事件が12件近く起きてても、俺達がさっぱりな部分だ。ある意味では一番の謎だな。



「まず爆破に巻き込まれて無事なのは・・・・・・まぁ、分かるんですよ」

≪私もマスターと同意見だ。そこは理解出来ないわけではない≫



両腕を組みながら、俺は前を見据えて・・・・・・色々と考える。うん、ここは納得出来る範囲だな。



「本来であれば脱出も回避も不可能な状況でですよ? 状況的に見て通常の転送魔法もアウトです」

「それでも出来る奴を、俺は一人知ってます。火災だろうが爆弾だろうが問題無しでです」





思い出すのは俺の運の悪い親友。ここ2〜3年で世界の危機やら何やらにかなりの回数関わってる不幸の申し子。

ソイツ・・・・・・ヤスフミが使うブレイクハウトは、保持している特殊能力故に一般的な物質操作とは違う。

瞬間的な発動によるタイムラグ無しでの強固な物質変換を可能とするあの魔法は、ある意味レアスキルだ。



なお俺は、あの魔法で施設規模の爆破に巻き込まれた所を助けてもらった事がある。

その時ブレイクハウトで作ったドーム状の壁は、カートリッジのブーストも無しにヒビ一つ入ってなかった。

なお、今は『爆発に巻き込まれたので防御』という状況を例に挙げた。でも、これだけじゃない。



例えば何かの手段で瞬間的な転送を可能にして、それによって脱出しているとも考えられる。

もしくは爆破と火災がマジでマリアージュの能力なら、その無効化する手段を構築しているかも知れない。

自分の攻撃手段の無効化くらい、ある意味出来て当然だろ。しっぺ返しは痛いしな。



このように『爆破を防御ないし回避、または無効化』するのは、決して不可能じゃない。





≪攻撃の回避に無効化、そして防御は可能だと思う。ただし≫

「ただし、相当特殊な手段を使った上で・・・・・・ですね」

≪そうなるな。状況が状況だし、本当にやってるならそうなるだろう≫



一瞬、バルゴラの言葉にウエバー執務官の視線が鋭くなった。だが、すぐにいつもの飄々とした顔に戻る。



「ふむ、そうすると・・・・・・あぁなるほど。それもありますか」



前の信号が黄色になった。そしてウエバー執務官は慎重にブレーキを踏んで、車を停止させる。



「ではフレイホーク君にバルゴラ君、ここからの波状で一つ質問があります」

「なんでしょ」

「実はマリアージュは・・・・・・今君達が言ったよう爆破の防御や回避、無効化を今の今まで一度もしていないとしたらどうでしょう」

≪「・・・・・・は?」≫

「今まで起きた全ての事件、そこで起きた爆破と火災に巻き込まれたままになっている」



言っている間に信号が赤に変わった。そして俺達は言っている意味が分からなくて・・・・・・でも、気づいた。



「・・・・・・どうでしょう、こんな無茶苦茶な可能性はあると思いますか?」





本来であればそれだと人・・・・・・いや、巻き込まれた存在は死ぬ。死なない理由が俺には分からない。

魔法なり物理なりの防御も回避も無効化も無しで、温度にすると500度とかそんな熱量の中に巻き込まれるんだから。

・・・・・・おいおい、そうするってーと・・・・・・待て。今までの図式が色々と変わってくるぞ。



いや、もしこれが事実なら・・・・・・俺達は今まで一体『何』を追いかけてたんだっ!?





「どうでしょう。フレイホーク君、バルゴラ。・・・・・・やはり私の勝手な妄想でしょうか」

「いえ。俺は・・・・・・現段階でその可能性を否定出来ません」

≪私も同じだ。というよりウエバー執務官、元々ここを考えていたな?≫

「いえ、ついさっき思いついたんですよ。大体25年くらい前に起きた事件に、似たようなケースがあったんです」





なんでもその時の事件は一種の自爆テロだったらしい。ただ、当時の局はそれを全く防げなかった。

犯人達は全員ある一つの名前を使って、集団の犯罪ではなく個人の犯罪とミスリードした。

意外と小さな事のように思えるが、ここは大きい。例えば普通に犯人の一人を追いかけていたとしよう。



でもその間に別の犯人が犯行を行って、捜査状況を混乱させるなんて手も出来るしな。

『そんな単純な事で』と思う人間も居るだろうが、そんな単純な事だからこそ、誰もがそこを見過ごしていた。

結局最後の最後で残った一人をどうにか止めて、犯人を自供させてそこが判明したらしい。



当然だが、当時の捜査人員は相当に叩かれたとか。この辺り、『そんな小さな事』だからだな。





「もちろん私はこの頃はまだ子どもでした。事件に直接的には関わってはいません。
ですが当時の新聞を読んで、色々考えさせられた記憶がありまして・・・・・・それでもしかしたらと」



ちょうど四半世紀前の事件をちゃんと記憶してるんかい。俺、普通にびっくりなんですけど。

・・・・・・あぁ、やっぱりなんだ。現場でうっかりやらかしたとしても、この人もヒロさん達と同じく歴戦の勇士なんだ。



「ここまで事件が続いてようやく思い出しましたよ。
いやはや、情けないですね。年は取りたくないものです」

「思い出せるだけすごいと思いますけど。ならウエバー執務官」

「えぇ。聖王教会に依頼してある資料調査のワードの一つに加えておきます。
あと108・・・・・・伝えておきましょうか。その可能性もあるので注意しておいて欲しいという感じで」

「しかし、出来ればそうなって欲しくないですね」



それだと・・・・・・俺達はマリアージュという存在を全く理解してなかった事になる。

神出鬼没で不死身に近い連続殺人犯。そんな認識では足りなかったんだ。



「えぇ。大変な落ち度ですよ。さて・・・・・・あとは何が出てくるかですね。
網の目は相当広がっているはずですし、きっと動きが掴めます」










話している間に信号が青に変わった。そして俺達を乗せた車はまた走り出した。





雨は・・・・・・それでもまだ降り続けている。夏だっていうのに、雨のせいで車の中でも少し肌寒く感じた。




















『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/だっしゅっ!!


第60話 『Singin 'in the Rain/降り続ける雨は何のため? 後編』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・それで、電話が終わってもずーっと考え込んでたんだ」

「うん」

「恭文さん、歌唄さんの事好きになりかけてるんじゃないですか?」

「・・・・・・ごめん」



夕飯の時間になって、ヤスフミを呼びに行ったら・・・・・・軽く落ち込んでた。

それで右側に私、左側にリインの配置で座って軽くお話。



「謝る必要ないよ。歌唄、私から見ても本当に魅力的だと思うから」



特に事件が解決した後はそうだね。色々吹っ切れた感じがして・・・・・・うん、吹っ切れたね。

ヤスフミとのやり取りとか見てると、色々吹っ切れ過ぎてびっくりしたし。



「僕、ダメだよね。心変わりもしてないのに歌唄の事振り切れないなんて」



ヤスフミ、自分でショック受けてるみたい。私やリインへの気持ちが変わってないのに、しっかり断れない自分に。

その様子を見て、思わずリインと軽く顔を見合わせてしまう。



”フェイトさん、どうしましょう。この場合歌唄さんの押しが相当なのもありますけど”

”た、確かにそうなんだよね。でも・・・・・・なぁ”



いや、かなりしっかり断ってるんだよ? 私から見ててもそう思う。でも、最後の最後が甘くなるのはどうしてだろ。



「・・・・・・どうしてなんだろ。ギンガさんやすずかさんとかにはちゃんと出来たのに。
僕はフェイトもリインも居るし、好きだから・・・・・・ダメって言えないなんて」



・・・・・・私はその言葉を聞いて、そっとヤスフミを抱きしめる。ヤスフミがビックリしたように吐息を吐く。



「・・・・・・フェイト?」

「ヤスフミ、それは違うよ」

「え?」

「あの、すずかやギンガの事どうこうじゃないの。うーん、ある意味それだけど・・・・・・違う。
ヤスフミが歌唄を振り切れないのは、歌唄をヤスフミ自身が特別に思ってるからだよ?」



あの時の歌唄の歌、きっと本当にすごく素敵な歌だったんだ。だからヤスフミの心に届いた。

不安で胸が一杯になって、私はもっと強くヤスフミを抱きしめる。・・・・・・束縛しないって、言ったばかりなのに。



「ね、正直に答えて欲しいんだ。歌唄の事が気になり出した事で・・・・・・私の事、好きじゃなくなった?」

「そんな事ない」



迷うかと思ってた。迷っても当然だと思ってた。でもヤスフミは即答してくれた。

そのまま自分の身体の前にある私の腕を、両手でさすってくれる。



「さっきまで考えてたんだ。好きな気持ち・・・・・・変わらない。僕、フェイトが好き。
フェイトとずっと一緒に居たい。離れたくなんて・・・・・・そんなの、嫌だ」

「・・・・・・うん」



少し涙声になってるヤスフミを励ますように、私は強く抱きしめる。そして伝える。



「私も同じだよ。私もヤスフミが好き・・・・・・大好き。私だって離れたくなんてないよ。
ヤスフミの側に居たいし、もっともっと恋愛して好きになり続けて、私の知らないヤスフミを知りたい」



今の私の嘘偽りのない気持ちを伝える。少なくとも私は変わってないと伝えていく。



「でも、ヤスフミ、だから余計に分からないんだね?」

「・・・・・・うん。フェイトもリインも、歌唄も心の中に居るみたいで」

「だったら大丈夫だよ。ね、リイン」

「はいです。きっと恭文さんは、フェイトさんともリインとも違う意味合いで歌唄さんが好きになってるですよ」



ヤスフミは本当に一途というか直進的というか・・・・・・あんまり難しく考えなくていいんだけどな。

単純に歌唄に対して友達というくくりでは収まらない『好き』を感じてるだけだし。



「歌唄さんの事、大事で大切で・・・・・・ずっと繋がっていきたいと思ってるです。
恭文さん、フェイトさんやリインの事気にしなくていいですよ。その気持ちに嘘つかないでください」

「でも、さすがにこれは」

「だめ」





私は抱きしめる力を強める。・・・・・・うん、そんなの絶対にダメ。

そのまま嘘ついて歌唄を傷つけて遠ざけたら、きっと後悔する。

すずかやギンガはきっと、ヤスフミの中で友達という立ち位置だった。



でも歌唄はそれとは違う。私やリインとも違う。それだけの話だもの。





「やっぱり難しく考え過ぎてる。仮にこのまま歌唄と仲良くして・・・・・・まぁ、例えばだよ?
キスしたり、エッチな事をいっぱいして結ばれたとするじゃない? ・・・・・・将来的に」



うん、ここは大事だね。だって歌唄はまだ14歳だもの。今年で15歳だけど、それでもまだ子ども。

それでそんな事しちゃ絶対ダメ。まぁその・・・・・・・キスくらいならアリかも知れないけど。



「それは浮気でもなければ裏切りにもならないよ。うん、なるわけない。
少なくとも私とリインは絶対にそんな事思わない。まぁ、ちょっと寂しくてヤキモチは焼くけどね」



なんというか・・・・・・自分の事になるとちょっと色々おろそかになるのは、相変わらずかぁ。



「むしろヤスフミが私達との事を理由に今の自分の気落ちや歌唄を切り捨てたら、私は本気で怒るよ。ビンタだってしちゃう。
・・・・・・私が好きになったヤスフミは、絶対そんな事しない。自分の気持ちに向き合って、嘘なんてつかないで、全部持ってくから」



どんなに迷っても捨てられなくて、拭えなくて、忘れられなくて・・・・・・そんな自分も認めて、一歩踏み出す。

そんな一歩から色んな事を変えていく。その力強さから色んな可能性を生み出す。それが私の知ってるヤスフミだもの。



「ですです。大体、すずかさんやギンガとはまた違う好きになってるですよ?
二人と同じようにお断りしようとするのがおかしいと思うです」



リインがそう言うと、ヤスフミが小さく吐息をもらした。・・・・・・うん、そういう事だよ。

二人はその、ヤスフミにとって友達で・・・・・・でも歌唄はまた違うもの。同じじゃダメだよ。



「それは歌唄さんも同じくです。だからそこまで言うですよ?
恋人じゃなくてもいいなんて、相当の覚悟がなかったら何も言えないですよ」

「少なくとも私は言えないよ。歌唄・・・・・・本当にヤスフミの事を想ってくれてる」



私は恋人になりたかったから。もう姉や友達じゃダメだった。ヤスフミの気持ちに向き合いたくて、ここまで来た。

向き合って、繋がって・・・・・・抱きしめたくて恋人になったんだもの。だから私には言えない。



「そんな歌唄の言葉と想いだから、ヤスフミの心の中に歌唄の場所が出来たんじゃないかな。
・・・・・・いいんだよ。私とリインと歌唄の三人とも同じくらい好きでも。私は認めるから」



そっと吐息混じりの声をヤスフミの耳に届ける。ヤスフミはくすぐったそうに身を捩るけど・・・・・・だめ。

絶対逃がさないんだから。私の今の気持ち、ちゃんと伝えていきたいもの。



「歌唄の気持ちに、少しずつでも応えたいんだよね。ただ背中を押されるだけなんて、嫌なんだよね。
何にしても、一度歌唄ときちんと向き合っていかなきゃいけないと思ってる」

「・・・・・・それは」

「ヤスフミ、正直に言って。ヤスフミが今迷ってるのは、それでいいかどうか疑問に思ってるからだよね」

「恭文さん、お願いです。ちゃんと・・・・・・フェイトさんの言葉に答えてください」



リインのダメ押しで、ヤスフミは頷いた。それで感じるのは・・・・・・嬉しさ。

うん、なんだかおかしいよね。下手をすれば私、第一夫人取られちゃうかも知れないのに。



「うん、それならいいよ。少しずつ・・・・・・少しずつ考えていこうよ。
ヤスフミなりの歌唄への応え方、一緒に探そう? 私もリインも手伝うから」

「だから諦めちゃだめです。捨てちゃだめです。そんな事したら、絶対後悔するです。
捨てられないなら、振り切れないなら全部持ってくのが恭文さんですよ。違いますか?」

「・・・・・・違わない」



私は体重を預けるようにヤスフミを抱きしめる。リインも負けじと胴体に抱きつく。



「なら、考えてく。フェイト、リイン・・・・・・ありがと。それで、ごめん」

「ううん、大丈夫だよ。謝らなくても・・・・・・大丈夫」



二人でヤスフミを独り占め。ヤスフミは頬を赤くして・・・・・・嬉しそうにしてた。



”・・・・・・あなた、本当にいいんですか?”



聴こえたのはアルトアイゼンの声。だから私は即答する。



”うん、いいの。そこは言った通りだもの。それにね、もう言いたくないんだ。
ヤスフミに何かを捨てろとか忘れろとか・・・・・・もう、言いたくない”





それは『力』があると驕っていた私の罪。だからこの子を守れると勘違いしていた故の傲慢さから出た言葉。

でも、そんなのは嘘で勘違いで・・・・・・私はこの勘違いをしてる時、この子をちゃんと守った事なんてなかった。

むしろ逆だよ。私はずっとヤスフミに守られてた。知らない世界に触れるきっかけを作ってもらっていた。



それに気づくまで本当に長い時間がかかって・・・・・・でも、もう気づいたから言いたくない。

ここで私との事を理由に歌唄の事を切り捨てるような事をさせたら、私本当に最低だよ。

ヤスフミが歌唄を捨てられないなら、振り切れないならそれでいいの。私は彼女として、ちゃんと認める。



認めた上で、しっかりとアプローチしていくんだから。何時だってヤスフミの1番になれるように。





”というか、アルトアイゼンだって同じでしょ?”

”まぁそうですね。多分歌唄さんは振り切れませんよ。歌唄さんの歌、この人の心に届きましたし”

”そっか。ね、そんなに凄かったの?”

”凄かったですよ? あのプライドの高い人が他の人の曲をうたったんですから。
それで私とジガンも感じました。あの歌の中にある歌唄さんの想いを”



私はその時、Wと侑斗と幸太郎と戦ってたから・・・・・・それを聴けなかったのはちょっと残念だな。



”さすがにアレは『彼女居るのでごめんなさい』だけでは止められませんって”

”・・・・・・そっか”










雨は降り続けていて、家の中も廊下は少し肌寒い。でも、ヤスフミとくっついてるから私はぽかぽか。

というかヤスフミ・・・・・・その、おっきくなってる。うん、身体くっつけてるから気づいちゃったよ。

とりあえずここのところは今日の夜にちゃんと対処する事にして、私とリインとヤスフミは三人でラブラブを継続した。





なお、10分後にはやてとアギトが呼びに来て・・・・・・その様子を見て相当に呆れられた。





・・・・・・も、問題ないでしょっ!? その、私達はあの・・・・・・夫婦なんだからっ!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・だから、さっき局員が来たんだっ! どうやら、例の連続殺人鬼に狙われてんだよっ!!」

『落ち着け。まだそうと決まったわけではない』

「いいや、そうに違いねぇっ!! ・・・・・・こっちも命がかかってるからよ、調べたんだよ」

『どういう意味だ』



へ、そんなの決まってんじゃねぇかよ。これでも裏稼業、色々手札はあんだよ。



「あの事件で殺された連中、全員アンタに仕事の依頼を受けた奴らじゃねぇか」



そして、電話の向こうの爺さんは沈黙した。よく沈黙は無視とかかっこつけとか言うバカが居るが、それは違う。

いいか、沈黙は・・・・・・とても便利な返答だ。状況により答えの内容こそ変わるが、だからこそ的確に相手に意図を伝えられる。



「・・・・・・図星かよっ! おい、そうなのかっ!!」

『古代ベルカ産の品を裏で扱えるブローカーは、そう多くはない。単なる偶然の一致だ』

「そりゃそうかも知れないけどよ」

『私の依頼については、引き続き継続してもらいたい。
各地の同志達も動いている。今更降りたでは済まされない』



コイツ・・・・・・この状況で何抜かしてやがるっ! てーか、これは脅しかっ!?

いいや、脅しだっ! 俺に降りたら報復するとか言ってやがるっ!! でもな、そうはいかねぇっ!!



「断る。悪いが、俺はしばらく隠れるぜ。殺し屋風情じゃどう足掻いても入れない場所にな」

『そうか』

「犯人がとっつかまって、ソイツがアンタとは無関係と分かったら、頼まれ事は再開してやるよ」

『・・・・・・そうか』



あぁそうだよ。それが筋ってもんだろ? 命あってのなんとやらって言ってな、こんなのには関わりたくないんだよ。




「アンタには昔、世話になったからな。・・・・・・トレディアさんよ」

『また連絡する』










それだけ言うと、通信が切れた。俺は苛立ち気味に舌打ちしながらも雨の街を駆け出す。





急いであそこに避難だ。大丈夫、あそこなら・・・・・・・あそこなら絶対に大丈夫だ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・ママ、恭文とフェイトママ、あむさん達とお泊りだよね」

「うん、そうだよ。・・・・・・なんというか、静かだよね」



なんだかんだで合宿所みたいになってたからなぁ。まだみんなが来てから1週間経ってないのに、ちょっと寂しい。

あ、現在ママとヴィヴィオは夕飯の最中。雨で気温が下がってるから、主菜は温かくなれる白菜と豚バラ肉のシンプルポトフ。



「ホントだねー。・・・・・・ね、ヴィヴィオ」

「なーに?」

「なぎひこ君のしゅごキャラ・・・・・・リズムって、どんな子? ほら、ママはまだ見えてないから」



・・・・・・ママ、そんな身を乗り出さなくていいよ。というか、普通にそこまで気になってたの?



「うーんとね、外見がヒップホップ系というかそんな感じで、髪型や瞳の色がなぎひこさんそのままだよ。それで・・・・・・あとはノリがいいね」

「ノリ?」

「うん。大体なのはママ達が見た勢いでみんなとも仲良くなってたよ」

「・・・・・・納得したよ」



お箸で豚バラ肉をパクリと食べつつ、なのはママは思い出すような顔をしている。

多分キャラチェンジしたなぎひこさんに振り回された時の事、思い出したんだと思うの。



「うーん、やっぱり会いたいなぁ。うぅ、どうしたら見えるようになるんだろ」

「・・・・・・そこも前に聞いてなかった?」

「聞いてるけど、さっぱりなんだもの。うぅ、どうしよう」





フェイトママやシャーリーさんやティアナさんは、最初しゅごキャラが見えなかった。それは三人が大人だったから。

それと同時に、しゅごキャラという存在に対して見えてる恭文やあむさん達の話を聞いても疑いを持ってた。

でも、その疑いが色々な事を通じて少しずつ消えていって、しゅごキャラのみんなを見えなくても『そこに居る』と思うようになった。



そうしたらみんな自然に見えるようになったって言ってた。あ、そこはデバイスも適用されるみたい。

というか、マスターのそういう意識に左右されるのかな。バルディッシュとクロスミラージュも最初はフェイトママ達と同じくだった。

でも、今はもうみんなの事が見えるしお話も出来る。それにヒロリスさんとサリエルさん、スバルさんも同じくだね。



マスターがそうだから、アメイジアと金剛とマッハキャリバーもしゅごキャラのみんなとお話出来るもの。





「なら・・・・・・よし、夏休みの間に頑張ろう。それでちゃんとリズムと話せるようになって」

「ママ、気合い入れ過ぎじゃないかな。ほら、お箸がみしみし言ってるし」










うーん、普通にママがエンジンかかってるのは嬉しいけど・・・・・・どうしようか。





どう考えても今そうなっちゃったら犯罪だよね?




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



去年の今頃って私、何してたっけ。・・・・・・あぁそうだ。仕事してたなぁ。

やっぱり世の中には悲しい事件があって、その中でフェイトさんやアイツみたいな魔導師は重宝されて。

ただ、アイツはへそ曲がりだから無茶振りされた時ははっきり『無理』って言うわけよ。





で、お偉方に軽く嫌味とか言われても絶対引かないで、口撃して叩き潰して再起不能に・・・・・・うん、してたわね。

クロノさんがその度に大変そうだったけど、それでもなんとかしてくれた。あ、もちろんここには理由があるのよ。

アイツ、フェイトさんもだけどシャーリーさんや私の体調にまで、かなり気を使ってくれてるの。自分が死にかけた事もあるから余計に。





あ、リインさんは言わずもがなね。消耗度とか体力とか、テンションとか・・・・・・そういうのでも面倒見てくれてる。

だからアイツが『無理』って言う時はかなりの高確率でその通りなのよ。フェイトさんは大丈夫って言うけど、それでもよ。

あー、それで去年の年末くらいになるかな。一度そういうのをどうして分かるのかって、聞いた事がある。





その時アイツは『そんなの、食事の時や普段の様子で分かる』と言い切った。

確かにアイツ、ハラオウンチームの台所番になってるしなぁ。

つまりアレよ、私達の食事関係の世話をするでしょ? そうなると、当然私達の体調に気遣う必要がある。





栄養バランスが偏らないようにとか、食事関係でテンション下がらないようにとか・・・・・・それで自然とらしい。

確かになぁ。この1年半の間、私は食に恵まれてると思ったわ。それも何度もよ。

それになにより、私はアイツの料理のファンでもあるしね。おかげで身体もすくすく大きくなった。




特に・・・・・・あははは。私、まさか自分がギンガさんやスバルの領域に来られるとは思ってなかったわ。

この1年半で一気に・・・・・・だからなぁ。もしかしたらスバルのバストマッサージの効果が今頃出始めたとか?

で、そこに健康的な食事よ。そういうのが相乗効果を起こしまくって・・・・・・よし、このスタイルは維持ね。





とにかく私は本当にしばらく振りに兄さんの墓参りにやって来た。レンタカーを借りて、それでゆったり運転。

アイツが『デンバードやトゥデイを貸すけど』と言ってくれたけど、そこは辞退させてもらった。だってアレ、目立つし。

で、ようやく到着したんだけど・・・・・・ちょっと予定変更を余儀なくされた。今現在、ミッドチルダは雨模様。





それも土砂降り。さすがにこれでお墓参りしても、落ち着いて兄さんと話も出来ない。





だから私は近隣のホテルの窓越しに、降り続く雨をずっと見ていた。










「・・・・・・雨、かぁ」



雨はなんというか、あんまり好きじゃない。兄さんの葬式の時も雨だったから。

魔導師でもやっぱり人間だから雨には弱くて、出かける用事があっても中止になりがちだから。



「・・・・・・アレ」



一人っきりだから、らしくもなく黄昏ていると・・・・・・メールが届いた。



「誰から・・・・・・あ、スバル。クロスミラージュ」

≪Yes Sir≫



そして私の前に空間モニターが立ち上がる。そこにはスバルからのメールが表示される。



「えっと・・・・・・何々? 明明後日エリオとキャロがこっち来るから、予定を合わせて遊びに行こう?」





あぁ、アイツの戦技披露会の見学のためか。あと・・・・・・あぁ、地上部隊での研修もあるんだ。

そう言えば保護隊の上司の方針で、『都会での魔導師の仕事も経験させる』って言ってたわね。

自然保護隊はその性質上、どうしても辺境の奥地での仕事が多い。でも、あの子達はまだ子ども。



そこでの仕事に慣れ過ぎて、変化していく都会の環境について行けなくなると非常に困る。

将来的にあの子達が・・・・・・そうだな、例えばミッド地上とかで働く場合、それだと仕事に差し支えがある。

能力的には問題なくても、日々の生活や慌ただしさについて行けなかったら意味がない。



だから定期的にミッドの地上部隊とか本局の武装隊で研修という名目で一緒に訓練させてもらうとか。

一応元チームメンバーだもの。その辺りのやり取りはしっかりしてるの。それで来るメンバーは・・・・・・あぁ、結構多いのね。

アルトさんにスバルにエリキャロ、それにアイツとフェイトさん達にあむ達・・・・・・え、どこの修学旅行?



とにかくこれで予定は決まったかな。雨も明日には収まるそうだし、墓参りを済ませてみんなと合流。





「・・・・・・あー、なのはさんと会えるようなら、ちょっと相談しようかな」

≪進路の事でしょうか≫

「まぁね。ただ・・・・・・うん、答えは少しずつ決まってきたかな」










ミッドで一人旅みたいにここまで寄り道しつつ来て、雨を見ながらまた考えて・・・・・・うん、少し分かった。

どっちに行っても『諦めた』という側面は消えない。選択は捨てる事でもあるから、どうしてもそうなる。

でも・・・・・・でもさ、なんかダメなのよ。私はバカで弱虫だから、捨てる選択なんて怖くて中々に出来ないのよ。





だったら・・・・・・ってなると、選択は一つしかない。でも、それもまたいばらの道。





まぁ、すぐには決めないで時間ギリギリまでわがままに考えさせてもらおうかな。うん、そうしよう。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・夜、八神さんのお祝いが終わってみんなでゲーム・カラオケ大会なんてして・・・・・・就寝時間になった。

だけど僕はなんとなく寝付けなくて、客間をこっそり抜け出して二階のベランダの方に行く。

というか、物干し台だね。もちろん雨が降ってるから、外には出られない。ただ窓の所に座って、空を見る。





先程に比べると幾分落ち着いた雨の世界や音を受け止めながら・・・・・・一人で浸っていた。










「・・・・・・アレ、唯世」



すると、後ろから声。そっちを見ると青いストライブのパジャマ姿の蒼凪君が居た。

若干顔が赤い感じなのが気になるけど、それでも蒼凪君はこっちに来る。



「蒼凪君・・・・・・どうしたの?」

「ん、ちょっとトイレにね。で、唯世はどうしたのよ」

「僕は・・・・・・まぁ、少し」

「そっか」



なんて言いながらも蒼凪君が隣に来る。というか、足を崩して座る。

普通に来たのに軽く苦笑しつつ・・・・・・僕はそのまま言葉を続けた。



「異世界の雨も今度はいつ見れるか分からないでしょ?
そう考えると・・・・・・なんだか見ないのはもったいない感じがして」

「また乙女な事を」

「あはは、そうだね。自分でもちょっとロマンチスト過ぎるかなって思うよ」



でも、実際はまた少し違う。雨を見ながら・・・・・・ずっと、ずっと考えていたから。



「蒼凪君」

「ん、なに?」

「少し相談したいことがあるんだけど、いいかな」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



さてさて、みんな寝静まった後でうちら八神家は裏歓迎会の開催や。

いや、事情知ってる子と知らん子が混在しとったやろ? そやから今までは表立って出来んかったんよ。

念話であの子から色々話を聞いて、その上でまぁ開催っちゅうわけや。





なお、誰の歓迎会とかは・・・・・・言うまでもないやろ?










「・・・・・・しかしリインが姉様か。なんというか、色々と今はまだ納得し切れないな」

「確かに。身長だけを見ればリインよりリースの方が姉に見えるのは明白だ」

「あの、シグナムさんもザフィーラさんもそこには触れないであげてください。リイン姉様、ちょっと気にしてるので」

「あー、やっぱりそうか。あの子、お姉ちゃんなキャラが嬉しいんやろうしな。・・・・・・で、リース」



まぁここはアレや、一応聞いておこうか。何気にうちらも気になってはいたから。



「アンタも関係者として予言の事は聞いとるやろうけど・・・・・・そやから二つだけ確認や。
今回のコレ、未来からアンタなり恭太郎や咲耶に手伝ってもらわんとどうにも出来んほどヤバいんか?」

「・・・・・・まずその質問に答える前に、ひとつだけ。確かに私は未来の時間の人間です。
だけど事件の詳細を全く知らないという事は、留意しておいてください」

「うん、そこは分かっとるよ。で、どうや?」

「恐らくその通りだと思います」



あー、やっぱりかぁ。まぁここは聞くまでもないけど・・・・・・一応覚悟決めるためにな。



「まず、この件に注目しているのはあなた方だけではありません」

「確かデンライナーのオーナーとターミナルの駅長も・・・・・・よね?」

「はい。エンブリオとそれを捕獲するためのイースターの行動は、時の運行さえも揺らがせる可能性があるという事です」

「うん、そこはうちらもクロノ君とかから聞いて知ってはいる。で、もう一つ・・・・・・いや、一つ追加で残り二つ質問や」



まぁフェイトちゃんや恭文は一緒に暮らしてる分、ちょお聞きにくいやろうしなぁ。

そやから、うちから質問させてもらう。右手の人差し指をピンと立てて、リースを見ながら言葉を続ける。



「二つ目はアンタ、×たまの浄化用の魔法プログラムを持っとるんやないか?
そして最後に三つ目、それをうちらに期間限定で教える事は可能か?」



息継ぎ無しで言い切ったのうちの言葉に、リースが固まる。固まって・・・・・・少し視線を落とす。

そやけど、答えてはくれるらしい。それからすぐにうちやシグナム達に視線を向けたから。



「まず一つ目は・・・・・・イエスです」



・・・・・・やっぱりかぁ。まぁそうやなかったら戦力として数えられるわけがないしなぁ。



「恭太郎さんのお友達・・・・・・というか、あむおばあちゃんの孫が居るんですけど」

「あむちゃんの孫っ!?」

「ちょ、ちょっと待ってっ!? あの子まだ小学・・・・・・あ、そうよね。未来の時間のあむちゃんの孫なら」

「あむちゃんの時間が恭文やフェイトちゃんみたいに繋がるいうなら、存在しとるに決まっとるわな」



現にそのために恭太郎や咲耶いう可能性が生まれて、うちらの前に姿を表しとるわけやし。あとはうちとロッサかて同じよ。



「そん頃にはあむちゃんかて、うちらと同じでおばあちゃんやろうし」

「仮にそれが大体40年後としても・・・・・・あぁそうなるね。今は12歳でも、その時ならもう52歳なんだから」

「ヴェロッサ、お前は理解が早いな。私はどうも・・・・・・すぐには飲み込めん。
というより、私達が知ってるあの子の40年後が想像出来んぞ」





シグナムが困った顔でそう言うた。それでうちらの頭が高速回転する。

一瞬、うちら全員の頭の中で今のまんまなキャラでおばあちゃんやっとるあむちゃんが浮かんだ。

そしてなんだかおかしくなって、全員一斉に吹き出す。なお、リース以外や。



いやその・・・・・・大丈夫やろ。年取るにつれて、自分なりにえぇ変化してくって。





「その子もあむおばあちゃんと同じくキャラ持ちで、同時に魔法資質を持ってるんです。
それでこの時間よりも発達した魔法技術を活かして、×たま浄化用のプログラムを」

「で、そのあむの孫が作ったプログラムを、友達である恭太郎や咲耶、あとお前が持ってるってわけか?」

「はい。あ、私はこちらに残る事が決まった時に、ビルトビルガーから譲り受けたんです。
そうじゃないと、緊急時に浄化要因として動けなくなっちゃいますから。ここはオーナーも許可してます」



・・・・・・あぁ、そういやリースはハプニングからそのままこっち来たんやったなぁ。うん、それなら納得や。



「元々その子、恭太郎さんの事を本当に気に入ってて・・・・・・恭太郎さんとパートナーの咲耶にならと言って」

「・・・・・・互いの祖父と祖母が仲が良いのと同様に、孫同士もそういう関係なのか」

「というか恭文とあむちゃん・・・・・・どれだけ付き合い長くなるんだろうね。フェイトちゃんとかヤキモチ焼くんじゃ」



ザフィーラとロッサがみんなが寝とる二階を見ながらそう言ったのは、無理もないわ。

普通に恭文、あむちゃんと仲良しなんよ? マジでビックリやし。



「それで二つ目の質問ですが・・・・・・すみません、これはノーです。ここの辺りはみなさんがご想像している通りです」

「デンライナーのオーナーから言われとるんやな? 未来の時間の技術をこっちに流出させないようにって」

「はい。色々矛盾してるとは思いますが、本来であれば使用も厳禁なくらいなんです」



とりあえずうちはシグナム達と顔を見合わせる。・・・・・・まぁ、ここは無理言えんわな。



「恭太郎さんと咲耶もこちらに来る時に厳しく言われていたようですし、私にも同様な感じで」



本来であれば、未来の人間であるリース達の力借りる方がおかしいもん。

現時点でズルしとるも同然やし、懸念事項やった浄化要員が増えただけでもよしとしよう。



「あー、そないに申し訳なさそうにせんでえぇよ。・・・・・・ただな、リース」

「はい」

「場合によっては、そのルールを破ってもらうかも知れん。あ、もちろんうちらも条件をつけるよ。
教えてもらった術式は、今回の一件が全部終わったら綺麗さっぱり痕跡も残さずに消去する」



ここは絶対条件やろ。そうなると・・・・・・うぅ、やっぱり今回も身内戦力だけで対処か?

下手にここで武装隊とかの不特定多数の人間に術式を回してもうたら、マジで流出問題になりかねんもん。



「はい。そこは覚悟を決めています。状況が状況なら、オーナーもきっと許してくれると思いますし」

「うん、お願いな」



リース・・・・・・うーん、何気に腹括れる子なんやなぁ。今の目を見てるだけでそういうんのが分かるわ。

未来の時間の三代目祝福の風は、初代や二代目に負けず劣らず強い子なんやなぁ。うん、良かったわ。



「でもはやて、僕もクロノから詳しく話を聞いたけどそれだけじゃ」

「うん、まずうちら全員は戦力外も同然や。術式があっても、しゅごキャラや×キャラの知覚が出来ん。
そこはロッサかて同じやろ? ほら、さっきも隠し芸で『猟犬』出しとっても」



カラオケ大会の時に、ロッサはレアスキルの『猟犬』を出してガーディアンのみんなを驚かせた。

でもな、出した本当の理由は隠し芸ちゃうんよ。ロッサや『猟犬』でしゅごキャラが見えるかどうか試した。



「全くその通りだよ。僕の『猟犬』達もその子達を見れなかった。もちろん探知も無理」

「つまり・・・・・・我々がリースから術式を譲り受けても、まず活用そのものが出来ないという事ですね」



そういう事になるよなぁ。あははは、なんやろコレ。うちらこれでも経験豊富な魔導師なはずやのに。

それやのにまず戦う前の段階からアウトってどういう事や。それも規律関係どうこうやのうて根源的なとこから。



「だがザフィーラ、その×たまというものは普通の人間にも見えるのだろう? だったら私達でも」

「ダメよ」



そう言うたのはシャマル。緑の水玉のパジャマ姿で、グラスを両手に持ったままシグナムの言葉を止めた。



「×たま一つ一つのマイナスエネルギーが高まって×キャラになったら、途端に詰みよ?
×の付いたたまごは物質化しているからなんとか見えるそうだけど、×キャラはしゅごキャラのみんなと同じ」

「・・・・・・確かにそうだな。ならばもし術式を譲渡するとしたら、現時点で見えているテスタロッサとティアナだけか」

「ティアナはダメよ」

「お前またかっ! というより、今度は何がダメなんだっ!!」

「ほら、あの子はもうすぐ執務官試験があるもの」



それでシグナムは納得した顔に・・・・・・これは忘れとったな。元部下やのに。そこそこ距離近い位置に居る子やのに。



「それに合格したらそのまま本局執務官になるだろうし・・・・・・このまま捜査協力は難しいわよ」

「・・・・・・確かに。普通にいけば研修を受けた時点で事件捜査に割り当てられるだろうな。例えば今起きているマリアージュのような」



ここはクロノ君の力でもどうにもならんかも知れん。普通に有効な人間を局が遊ばせるわけない。

てゆうか、ここでティアを引っ張ってったら、普通に不審に思われるかも知れんしなぁ。



「まぁこればかりはティアの意志に任せるしかないわなぁ。
事情知っとる人間が居ると楽やけど、そのために本人の都合無視はなぁ」



六課で散々やらかしとるからあんま言えんけど・・・・・・そやから出来るなら同じことは繰り返したくない。

フェイトちゃんもそう思うとる。そやからここの辺りはティアの自由意志に完全に任せとるらしいし、うちらもそれに倣う。



「主はやて、何にしてもまずは我々もしゅごキャラが見えるようになる事からでしょうか」

「そうやな。でも、かなり難しいと思うわ。見える条件そのものを整えられんもん」

「確か・・・・・・えっと、そこもクロノから聞いたな。まず同じキャラ持ちである事。
産まれてなくてもこころの中にしゅごたまがあるか、こころのたまごが産まれる前である事」



なんや幼児みたいな小さな子・・・・・・まだ夢やなりたい自分が産まれてない子も、しゅごキャラが見えるらしい。

そやからディードも最初から見えとるんよ。あの子は年齢的にはややちゃんやリインより年下やし。



「もしくはしゅごキャラとある一定期間ずっと一緒に過ごして『そこに居る』という認識を持つか・・・・・・だったよね」



この認識が持てると、キャラ持ちでもなんでもない子もしゅごキャラが見えるようになるらしい。

フェイトちゃんとティアにシャーリーがそれやな。ただ、マジで突然に見えるようになるからちとビビったとか。



「ロッサ、あともう一つあるよ。これはなのはちゃんのお父さんやヒロリスさんサリエルさんがそうなんやけど・・・・・・霊的なものに強い事や」

「霊的・・・・・・え、幽霊みたいなもの?」

「そうらしいで? それで幽霊とかの類が見えるようになってたりすると、もうばっちりや」





士郎さんもやし、夜の一族であるがゆえにそういうもんが元から見えるすずかちゃんはコレや。

今言ったようにヒロリスさんやサリエルさんも見えてる。ただ、理由は相当アレや。

ヘイハチさんのバカに散々付き合った中で、そういう力が身についてしまったせいらしいしなぁ。



・・・・・・それやったらうちの子達も見れそうなんやけどなぁ。





「それならば我々も見えそうではあるな。考えてもみろ、闇の書のプログラムだった時に」

「あ、そういう事か。アタシらも長い時間の中で幽霊的なアレコレに触れて・・・・・・でも、見えないよな」

「そうだな。やはり長過ぎるがゆえに記憶の欠損があるのが原因か。シャマル、お前はどうだ?」



あー、シャマルは恭文とリインと妖刀退治とかしたもんなぁ。意外と見えてたり・・・・・・しないらしい。

普通に首横に振ってるもん。うぅ、やっぱり上手くいかんなぁ。



「ごめんシグナム、私もみんなと同じ。食事中もかなり注意深く見てたんだけど・・・・・・さっぱりなのー」

「いや、気にするな。そうなると・・・・・・主はやて、私達がミッドに居る以上はどれも満たせません」



シャマルを見てたシグナムがうちの方を見る。で、当然やけど困った顔だ。



「一日二日では何も変わらないでしょう。もし満たせるとしたら・・・・・・なのはでしょうか」

「でもシグナム、なのはちゃんはこの間の結婚式で見えてなかったよ? うちと同じく」

「ですが夏休みの間あの子達は高町家に居候していますし、なによりなのはにも夢があります。
きっかけさえあれば・・・・・・認識を持つ事自体は可能ではないでしょうか」

「あー、確かにそうかも。でもなのはちゃんは・・・・・・うーん、教導官やから簡単に動かせんしなぁ」





ただ方向性は一つ見えた。万が一にはなのはちゃんに・・・・・・あれ、なんかアウトっぽいんやけど。

仮に浄化プログラムをなのはちゃんに渡したとするやん。で、使ってもらって何やる? そら砲撃やろ。

砲撃ぶちかまして、誘導弾ぶちかましてたまごを撃ち抜く。・・・・・・アカン、これは完全アウトや。



なんかこう、あん子は『全力全開っ!!』でぶっ放して浄化プログラムどうこう抜きにたまご粉砕しそうや。



というか、普通にあの砲撃はそういうんに向いてない思うんよ。よし、なのはちゃんはとりあえず除外や。





「なら後はアタシだな。明治時代のアレコレのせいで、連中の事見えるようになったしよ」



アギト、普通にしゅごキャラ見えるようになってたんやったなぁ。食事中も話出来てたみたいやし。



「で、リースの浄化プログラムが無くても浄化は可能だ。恭文とユニゾンすればだけどな。
・・・・・・うふふー、これでまたブレイズフォームになれるぞー」

「・・・・・いや待て。アギト、ちょっと待て。それなら私も浄化出来るぞ?
まず私とお前がユニゾンする。見えるお前の指示通りに私が攻撃して」

「なんでそんなめんどいことしなくちゃいけないんだよ。
普通にやるなら、見える者同士で連携した方が効率いいだろ」



・・・・・・あ、なんかシグナムがヘコんだ。そしてアギトはそれに構わずに楽しそう。



「・・・・・・アギトちゃん、そんなに恭文くんとのユニゾンは楽しい?」

「お前、もう知ってはいたけど・・・・・・ホントに凄まじく楽しそうな顔するよな」

「もちろん。いやぁ、アイツとのユニゾン・・・・・・変身はこう、癖になるんだよなぁ。
ノリが良いしエンジンかかるし、まさしく最初から最後までクライマックスってやつか?」

「・・・・・・そっか。アタシは納得したわ」



あ、シグナムが泣き出した。とりあえず全員そこは放置なのが恐ろしいわ。



「でもね、アギトちゃん・・・・・・あとリースも」

「はい?」

「なんでしょうか」

「個別にユニゾンするのはいいの。でも・・・・・・てんこ盛りだけは絶対使わないで。
変身解除直後の恭文くんが大変というだけじゃないの。実を言うと・・・・・・あの形態はね」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・後遺症っ!? ちょ、ちょっと待ってよシャマ姉っ! アタシそんな話聞いてないんだけどっ!!」

「シャマル、それはうちもやでっ! なんでアンタ黙ってたんよっ!!
てーかそれ・・・・・・普通にマジ危険なパワーアップやないかっ!!」



うちは単純に使用直後にとんでもなく疲弊するだけやと思うとった。そういう風にも聞いとった。

そやからうち・・・・・・ううん、うちら全員、普通に驚いた。予想は出来てたかも知れんけど、それでもや。



「ごめんなさい。でも、してもどうにもならないと思ってたんです。
まずてんこ盛りの使用条件そのものが整わない。・・・・・・普通なら」

「・・・・・・あぁ、そういう事か。確かに咲耶がおらんと使えんフォームやしなぁ」

「ですが先日までは咲耶と恭太郎。そして今はリース・・・・・・未来の時間の人間も常駐しているのが現状です」



そしてそれを可能とするあのパスとユニゾンカードも手元にある。今までとは全然違うと。



「シャマル、お前が我や主達にその事を今話したのは、そこが理由だな?」

「そうよ。恭文くんももう使うつもりが無いと言ってるけど・・・・・・でも、ちょっと心配ではあるの。
予言の話も出てるし、もし本当にそれがどうしても必要ならあの子・・・・・・使っちゃうんじゃないかって」



うちら昔馴染みは全員『あり得る』と顔を見合わせながら思った。てゆうか、普通にアイツは・・・・・・なぁ。

もちろんそんな状況にチビスケを追い込まんようにするように頑張りはするけど、それでもやて。



「・・・・・・分かった。アイツがてんこ盛り使おうとしたら、アタシの方で止めるよ。
シャマ姉、この辺りリインやフェイトさんとかには」

「私からさっきしてる。多分・・・・・・色々とお話したんじゃないかしら」





言いながら、シャマルが天井を見る。そこは恭文とフェイトちゃんの部屋。



・・・・・・アイツ、休日満喫しに来たんかヘコみに来たんか分からんなぁ。



雨降るまでトラウマ発動して寝込んでたし。運が悪いというかなんというか。





「リース、お前も頼むぞ。アイツ無駄に強情っつーか突っ走るとこあるしよ。アタシら全員で止めねぇとダメだ」

「分かりました。というか・・・・・・うぅ、考えが足りませんでした。あれだけ疲弊したなら、それくらい予想出来たのに」

「それ言やアタシもだよ。あーもう、なんでアタシは今まで平然と受け入れてたんだよ。マジでバカ過ぎだし」





まぁ、救いは恭文がマジで使うつもりがないらしい言うことやな。

元々スペック勝負が大嫌いな奴やからなぁ。ここは納得や。

しかしアイツ・・・・・・それで大丈夫なんか? パワーアップする時間無いやろ。



なんやフェイトちゃんから聞いたけど、唯世君の訓練付き合ったりしてるらしいし。





「とにかく現状は・・・・・・不安要素が多過ぎるね。恭文の状態もそうだけど、あの子達の事もだよ。
あとはそのイースターの連中が一体何を企んでくるか。ここはカリム達解読チームに任せるしかないか」

「そやなぁ。ロッサ、悪いけどそこの辺りまたお願いな。で、うちらは今のままやと後方支援くらいしか出来ん」





つーか、前に出れる戦力が少ないなぁ。今のがフルメンバーちゃうもん。空海君は中等部でガーディアンちゃう。

海里君は新学期には転校してさよならやもん。それで単純なパワーアップも難しい。

そもそもキャラなりは戦闘形態でもなんでもないらしいしなぁ。その子の未来への可能性が形になったもの。



普通にうちらがやっとる訓練や強くなる方程式そのものを持ってくるんは、かえって悪影響の可能性がある。

でも・・・・・・あー、なんかフェイトちゃんが言うてたっけな。恭文とあむちゃんのキャラなりパワーアップしたって。

なぎひこ君も初キャラなりで同じようなエフェクト・・・・・・あれ、なんかうち言うてる事おかしいなぁ。





「そやからいつでも動けるように、恭文を含めたガーディアン全員が潰れたりせんように、これからありったけで尽力してくよ」





もちろん今回の件に本気で関わるかどうかはあの子達次第や。

途中で放り出してもうても、うちらは責められんよ。ただ、それでもしっかりやるしかない。

あの子達が本気で昼間言うたみたいに思うとるなら、うちらは背中を押していく。



だってうちらは・・・・・・守護者ガーディアンにはなれんのやから。





「出来ることは多くないやろうけど、それでもや。
みんな、いつもの仕事もあるし大変やろうけど・・・・・・ちょお頑張ろうか」

『・・・・・・・・・・・・了解』

「うん、お願いな」










雨はまだ降り続ける。少し雨足が収まってきた感じやけど、それでも雨粒が窓を叩く。





なお、ここからは硬い話は抜き。綺麗さっぱりそこは切り替えて、三次会なノリで盛り上がった。






盛り上がるけど、雨はやっぱり降る。まるで何か覆い隠そうとするように、思いっきりや。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



フェイトとリインから叱られた。ただ、普通に後に引く感じじゃないけど。

それでフェイトとその・・・・・・はやて達に部屋割りとか気遣いされたので、コミュニケーションを頑張った。

気持ちの再確認も含めていっぱい繋がって・・・・・・うん、確認出来た。





やっぱりフェイトの事、好き。そこは変わってなくて・・・・・・マジで答えを出さなくちゃ。

今のままじゃ中途半端で・・・・・・あははは、恭太郎の事は叱れないなぁ。

とにかくお手洗いに行って戻ってくる最中で、唯世が雨を見ながらセンチ入ってるのを見つけた。





フェイトに念話で事情説明した上で、『ごめん』と謝りつつも接触を試みた。

・・・・・・唯世の状態、気をつけておく必要があるしね。特に今は色々起き過ぎてるし。

それでとりあえず雨を見ながら唯世がなぜセンチになっていたかを聞いた。





というか、はやてから出された問いかけだね。でもはやて・・・・・・重いって。





今年小6の子に対しては相当重い話って。普通に胃もたれするじゃないのさ。










「・・・・・・最低だよね。本当ならもっと早く・・・・・・蒼凪君が三条君と戦って傷ついた時とかに気づくべきだった」

「今それを言ってもしゃあないでしょ。大事なのは、唯世がどうしたいかだよ」

「うん。でも・・・・・・どうしても分からなくて」

「そりゃあそうだよ。そんなの、一日二日で答えが出る事じゃない」



床に両手をついて、軽く体勢を崩して僕は唯世にそう言う。雨は今なお窓を叩き続ける。



「はやてもそんなような事言ってなかった?」

「うん、言ってた。自分も相当考えて・・・・・・自分の『王様になりたい』という夢の事も考えて・・・・・・それでって」

「やっぱりか。まぁあれだよ、まさにその通りなんだよ。それに」

「それに?」

「きっと答えを出してからも迷っていくよ。だからこそさ、根っこが大事なんじゃないかな」



そんな外の風景からは一旦目を話して、左隣に居る唯世に視線を向ける。唯世は・・・・・・迷子のような目をしていた。

あの時、プラネタリウムで自分は偽物の王様なんじゃないかと迷っていた唯世と同じ色を、僕は見つけた。



「唯世の中の描く『王様』をちゃんと持ってる事。迷っても躊躇っても、まずそこからだよ。
・・・・・・まぁこんな在り来たりなのは置いておくとして、僕の意見を一つ」

「何、かな」

「意見というよりは、僕の気持ちだね。まぁこれも参考にしておいて?
前にも言ったと思うけど・・・・・・僕は騎士として、唯世って王様に剣を預けてる」



何度か言ってる事だね。うん、僕は唯世の事認めてるよ。弱くて、情けなくて・・・・・・でも優しい心根を持ってる。

だからこそ唯世はガーディアンのキングなのよ。その優しさがあるから、みんなだって唯世を信頼出来る。



「そして騎士は、相当バカをやらない限りは決して王を裏切らない」



なお、この辺りはシグナムさんとかの受け売り。あとはシャッハさんとか?



「・・・・・・こそこそ隠し事はしてもね」

「・・・・・・うん、そうだったね。確かに蒼凪君は隠し事が多かった」



唯世が少し表情を崩す。崩して笑う。それにより、瞳を支配していた暗い色が少し薄れた。



「だから騎士として王に願う事は一つ。・・・・・・僕は最後までついてく。
だから王様、僕を騎士として最後まで巻き込んで。置いていくような真似だけはしないで」



まぁらしくないのも承知の上で言う事にする。きっと今は、こういうのが必要だから。



「そして状況的に許されるのなら、何度迷ってもいい。躊躇ったっていい。
ただそれでも、王様のこころの中にある譲れない根っこは・・・・・・夢だけは忘れないで」

「僕の・・・・・・夢」

「そうだよ。そして夢は道しるべだ」



ここは経験から言ってる。迷っても躊躇っても、矛盾を感じても・・・・・・根っこは変わらなかった。

シオンやスターライトのたまごの子がずっと居てくれた僕のこころは、変わってなかったの。



「唯世なりの答えは、唯世が唯世だから出せる答えだよ? 夢だってその一つだ。
そういうのをおざなりに答えを出しても、きっと意味がない。・・・・・・うん、意味がないんだ」



自分に対しても言ってる。そんなの意味がないって。このまま歌唄を切り捨てても、意味がないって。



「・・・・・・蒼凪君」



唯世が、右手で自分の胸元に手を当てる。そして・・・・・・パジャマごとゆっくり握り締める。



「ありがと。僕、頼りない・・・・・・本当にダメな王様だけど、それでもそう言ってくれてるんだよね」

「当たり前じゃん。まぁあれだよ、確かに僕達は半人前の騎士と半人前の王様かも知れない。
でもさ、二人手を重なれば・・・・・・目の前の事くらい変えられると思わない?」

「そうだね。うん・・・・・・そうだ。僕は、僕達は今までそうしてきたんだ。
一人だったら、きっとどうにもならなかった。だったら僕は・・・・・・僕の答えは」



少し俯いて、瞳を閉じる。閉じて・・・・・・目を見開く。それから僕の方を見て、軽く苦笑い。



「・・・・・・まだ出ないや」

「それでいいでしょ。大丈夫、沢山考えて出せばいいよ。今はそのための時間なんだから」

「うん、そうだね。ゆっくりでも出していくよ。・・・・・・騎士の剣を預かる王として、胸を張って誇れる答えを」

「うん」










そのまま僕達は解散。唯世の悩みはまだ解消されてない感じだけど・・・・・・でも、すっきりとした顔をしてた。





しかし、マジでシリアスな状況に追いつめられていってるな。色々空気変わりすぎでしょ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



とにかく部屋に戻って、フェイトと添い寝。フェイトは起きて待ってくれていた。





パジャマ姿で身体を軽くくっつけて・・・・・・うぅ、幸せだよ。色々ダメなのが気になるけど、今は気にしない。










「うー、ごめんね。その、仲良くしてからすぐに放置しちゃって」

「ううん、大丈夫だよ」



言いながら、フェイトが抱きついてくる。それで・・・・・・とっても温かい。

この温もりの中に僕の守りたいものがある。それだけは絶対間違いない。



「今からいっぱい甘えちゃうから。それでヤスフミ、唯世君・・・・・・大丈夫そう?」

「多分。・・・・・・今回は自信ないわ。あんまりに展開がシビアになってきてるし」

「確かにそうだね。本当ならこういうのは私達の領域なのに」



まぁそこはもう言っても仕方ないと覚悟を決めてる。周りがどうなろうと、僕のやることは変わらないから。



「・・・・・・僕も答え、探していかなきゃな」

「歌唄の事?」

「それだけじゃない。ほら、スターライトのたまご・・・・・・まだかえってないから」



僕もフェイトに抱きつく。少しだけ・・・・・・勇気を分けてもらいたくて。フェイトはそのまま、右手で頭を撫でてくれる。



「僕も何気になぎひこと同じなんだよ。答え・・・・・・まだ見つかってない。何か、何か足りてないんだ。
だからあの子は目覚めてくれないし、フェイトとリインにその・・・・・・嫌な思いさせちゃってる」

「・・・・・・大丈夫だよ。というか、そういうの禁止。別に私、嫌な思いなんてしてないよ?」

「それでもやっぱり申し訳ないの」



少しだけ頭をフェイトの身体から離して、フェイトの顔を見る。フェイト・・・・・・頬が赤く染まっていて、すごく可愛い。



「だって好きだから。うん、だから・・・・・・申し訳ないの」

「・・・・・・そう言ってもらえるとその、嬉しいかな。それだけで充分だよ。でも」

「でも?」

「ヤスフミは固定概念を壊す事が必要かも知れないね。具体的には・・・・・・一夫多妻制はダメとか」



少しからかうようにそう言ってきて・・・・・・僕は苦笑いしか返せない。でもさ、その固定概念は必要じゃないかな。



「歌唄ね、多分ヤスフミに認めて欲しいんじゃないかな」

「・・・・・・第三夫人?」

「そうじゃないよ。・・・・・・ヤスフミの背中を押す位置に居ていいって、認めて欲しいんだよ。
恋人じゃなくてもいいから、友達とかそういうのよりもずっと近い距離に。私もね、そういうの分かる」



フェイトの言葉、そっと心の中に入って・・・・・・あれ、なんかほぐれてく。

僕・・・・・・あれ、何か壊れる感じがする。悪い意味じゃなくて、いい意味で。



「私も・・・・・・友達や家族よりももっと近い位置でヤスフミと向き合いたくなって、だから恋人になったから。
まぁ私の場合は恋愛感情が前面に押し出されてたから・・・・・・うん、あなたの恋人で婚約者で、奥さんだもの」

「・・・・・・ん」

「歌唄だって同じだよ。でも、私やリインとはまた求めてる立ち位置が違う。
ヤスフミだってもう気づいてるはずだよ? だからそんなに悩んでる」



言いながら、またフェイトが頭を撫でてくれる。僕は・・・・・・思いっきり甘えていく。



「・・・・・・大丈夫だよ。ヤスフミの今の気持ちは浮気なんかじゃない。いけないことでもなんでもない」



そうしてると、心の中でこんがらがってたものが解れてく感じがするから。



「ただ自分にとって友達より大切な人と向き合って繋がっていきたいと思ってるだけだもの。
というか・・・・・・ごめんね。私がヤキモチ焼き過ぎるから、ヤスフミの事戸惑わせた」

「ううん、大丈夫。ならフェイト、あの・・・・・・昼間話した感じで」

「うん、それでいいよ。でも、一人で悩まないで欲しいな。私もリインも、一緒にだから」

「・・・・・・うん」










雨はまだ降り続けて、世界を冷たく染め上げる。

でも、それでも僕達は・・・・・・見つめ合いながら、もう一度唇を重ねる。

それからゆっくりと身体を重ねて、ゆっくりと一つになっていく。





雨の日はセンチになって、みんな色々と考えたりしちゃうから、だから・・・・・・温もりや想いを分け合う。




分け合って、明日も雨だったとしても頑張っていく力を互いに掴んでいくの。・・・・・・それで、いいの。




















(第61話へ続く)




















あとがき



恭文「さて、軽く復習回になってしまった60話、如何がだったでしょうか。
なお、ドキたま/だっしゅとしては11話目だったりします。本日のあとがきのお相手は蒼凪恭文と」

シルビィ「超・電王TRILOGY公開記念だから、もう一本続くのでそっちも楽しみなシルビア・ニムロッドです。
・・・・・・でもヤスフミ、何気に時間関係も結構動いてきてるのよね。ちょこちょこだけど、フレイホーク君とかも出てるし」

恭文「そうだねー。とにかくミッドチルダ・X編も本番に入るわけですよ。
で、その中でもガーディアンメンバーは目立つ方向性でいこうかなと」





(ただ、一部だけになると思います。てゆうか全員揃ってあの規模の災害救助参加とか無理)





シルビィ「まぁ基本小学生だものね。特に火災現場は状況が特殊だもの」

恭文「もちろんそこについての対応策もあるんだけどね。まぁそこは今後を見ていただくとしようか。
しかし・・・・・・世界がリリカルなのは寄りになるだけで、ここまでしゅごキャラ要素が少なくなるとは」





(暗雲立ち込めてるが故ですが、これはちょっと予想外だったかも)





シルビィ「ただ、この調子でずっとではないからいいんじゃないの? あくまでも番外編だもの」

恭文「まぁね。・・・・・・あー、それでさ。作者は最近分かった事があるのよ」

シルビィ「何かしら」

恭文「某アニメでオリジナル話が1年とか続くのがあるのよ。原作話途中で切って」





(作品はご想像にお任せします)





恭文「視聴者の立場の時は普通に『どうしてこうなった』だけど、話書くようになって納得したよ。
確かに決められた容量の中でちょっとずつやってくと、普通にそうなる。それも週1だし」

シルビィ「もちろん話の規模にもよるけど、中編で登場人物が多いとそうなりがちよね。
現にこの八神家編がそれだもの。本当だったら前後編のお話だったんでしょ?」

恭文「うん。それが倍加だからなぁ。ただ、そんなこんなでPrologue的なあれこれは充分取れた。
ここからは加速だよ。加速して・・・・・・どうなるんだろ。一応ゴールは決まってるんだけどなぁ」





(普通にドラマCDが元なので、どうしてもそうなるのである)





恭文「とにもかくにも本日はここまで。さて、次回はいよいよ波乱の幕開けだよ」

シルビィ「現時点で色々幕開けてはいるけどね。とにかくお相手はシルビア・ニムロッドと」

恭文「蒼凪恭文でした。それじゃあみんな、梅雨に負けずに超・電王TRILOGY見にいこうねー」










(なお、作者は月曜の朝一番に見に行く予定です。
本日のED:『俺、参上』)





















フェイト「・・・・・・いっぱいいじめちゃったなぁ。ヤスフミに余所見して欲しくなかったから、独り占めにしちゃった」

恭文「い、いじめられました。でもあの・・・・・・うぅ、やっぱりフェイト好き」

フェイト「ありがと。私も大好きだよ。でもあの・・・・・・ヤスフミ」

恭文「何?」

フェイト「このままヤスフミに甘えたままで聞かせて欲しいんだ。歌唄の事、どうしてそんなに難しく考えちゃうの?
フィアッセさんみたいな人も居るし、同じ立ち位置でもいいと思うのに。こんがらがってるのは、そういうのも理由だと思う」

恭文「・・・・・・月詠幾斗の事もあるからさ。普通になんかこう、考えちゃって。
実の兄妹ではあるけど、それでも・・・・・・大事な人だろうしさ」

フェイト「そっか。まぁ、確かになぁ。行方不明状態はまだ継続だし」

恭文「なんだよね。歌唄自身も大変っぽいから。あー、それでさ。少し気になる事があってさ」

フェイト「気になる事?」

恭文「・・・・・・予言詩で言う『旋律』の部分、もしかしたら月詠幾斗が絡んでるかも知れないのよ。なお、唯世も同意見」

フェイト「ヤスフミ、それはどういう事かな」

恭文「僕も唯世や歌唄、あむから聞いて知ったんだけど、月詠幾斗ってヴァイオリン弾くのよ。
ほら、月詠或斗がヴァイオリニストだったから、その影響でだね。しかも相当な腕前」

フェイト「もしかしたらそこで月詠幾斗が絡んでくるかも知れない?
でも、月詠幾斗は×たまを抜き出したりする能力はないんだよね」

恭文「そうなんだけど・・・・・・うーん、やっぱりまだ分からないなぁ。情報が少なすぎるよ」

フェイト「どっちにしてもそこもまた調査だね。イースターに動きがあれば、それで情報が掴めるかも」

恭文「やっぱそれしかないか。でもなんというか・・・・・・色んな意味でじれったいかも」










(おしまい)





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